【5分で分かる】起業家が知っておきたい知的財産権の基礎

今回のテーマは知的財産権です。知的財産権とは、特許権や著作権をはじめとする無体的な権利の総称です(詳細は本文で解説いたします)。

知的財産権は、“物”に対する権利である所有権などとは異なり、目に見えない権利であるため、具体的にイメージしづらいと思われます。しかし、目に見えない一方で、知的財産権は、企業が扱う技術やコンテンツなどについて、他者の利用を排除し、時に企業の事業の存続をも左右し得る非常に強い権利です。今回は、知的財産権について、ごく基本的な知識をご紹介します。

1 知的財産とは

「知的財産権」は、「特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他知的財産に関して法令に定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう」と定義されており(知的財産基本法第2条2項)、一般的にもこのような意味で用いられることが多いかと思います。

この定義による「その他」以下については記載のしかたが抽象的ですが、一般的には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権(これら4つを合わせて「産業財産権」といわれます)、著作権、育成者権に、回路配信利用権、不正競争防止法上の、商品等表示、商品形態、営業秘密等の保護に関する権利を加えたものが「知的財産権」として捉えられています。

本稿では、多くの企業で共通して問題となる産業財産権と著作権を中心に取り扱うこととします。なお、不正競争防止法上の権利については、決して問題となることが少ないわけではありませんが、他の権利に比して独自性が強く、紙面の都合もあるため、本稿では取り扱いません。

また、特許権や実用新案権など、それぞれの知的財産権が何を保護しているのかを辞書的に確認されたい方は、別途ご用意している
「意外と知らない知的財産権の種類。特許権、商標権、著作権などは何を保護するの?」を参照ください(リンク先の記事は、本稿の執筆者とは異なります)。

2 方式主義と無方式主義

知的財産権には、方式主義と無方式主義という分類があります。

  • 方式主義:出願や登録のための手続きが法律で定められており、これに従った手続きを行わなければ取得することができないタイプの権利
  • 無方式主義:何らの手続きを要さずして創作等と同時に発生するタイプの権利

産業財産権である、特許権、実用新案権、意匠権、商標権は、方式主義を採るため、特許庁への出願・登録手続きを行わなければ権利を取得することができません。一方、著作権は、無方式主義を採るため、創作と同時に権利が発生します。

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3 人格権と財産権

知的財産権には、人格権と財産権という分類もあります。

  • 人格権:創作等を行った本人の人格に由来する権利
  • 財産権:発明や著作物等の財産的価値に着目した権利

2つの分類で、権利侵害が認められる場合の民事法上の効果が、差止請求権や損害賠償請求権であるという点は変わりませんが、個人の人格由来の権利であるか否かという点で、財産権は譲渡可能である一方、人格権は譲渡ができないものとされています。従って、契約書等において、財産権については譲渡を前提とする定め方が可能である一方、人格権についてはそのような定め方ができないため、契約の目的に適合する形で、人格権の行使の制限や不行使等を定めておく必要があります。
主な人格権としては、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望権)、発明者名誉権(特許証、願書、特許公報等に、発明者として記載される権利)などがあります。
なお、人格権に関連する権利として、判例上「パブリシティ権」という権利が認められています。最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決によると、「パブリシティ権」は、人の氏名、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利と定義され、人格権に由来する権利の一内容と位置付けられています。

パブリシティ権の譲渡性については、パブリシティ権が人格権と財産権の両方の性質を有しているため、現在、決着がついていません。もっとも、予防法務の観点からすると、パブリシティ権を財産権と位置付けて、譲渡可能である前提で契約書等を作成した場合、後の判例等によって譲渡性が否定され、パブリシティ権に関する譲渡の定めが無効となるというリスクがあるため、他の人格権と同様、使用許諾や行使制限、不行使等の定めによって対応するのが安全であると考えます

4 知的財産権の効果

人格権と財産権のいずれについても、侵害が認められる場合には、侵害者の行為について差止請求と、さらに損害が発生するときは、侵害者に対する損害賠償請求が可能となります。
損害の発生については、通常の損害賠償請求権とは異なり、各種法令上、権利者の損害の額の推定等の規定が存在し、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権のいずれについても、少なくともライセンスフィー相当額の損害が推定される旨が法律上定められています(特許法第102条第3項、実用新案法第29条第3項、意匠法第39条第3項、商標法第38条第3項、著作権法第114条第3項参照)。従って、通常の損害賠償請求権に比べて、裁判上損害が認められやすい権利であるといえ、他者の権利侵害の有無については十分に注意をする必要があります。

なお、著作物について網羅的なデータベース等は存在しないため、他者の著作権の侵害の有無を調査することは難しいところがありますが、産業財産権については、独立行政法人工業所有権情報・研修館が公開しているデータベース「J-PlatPat」にて特許庁に出願・登録された権利を調査することが可能であるため、ある程度、権利侵害の有無について事前に調査することが可能です。

今回は、起業家が知っておきたい知的財産権の基礎をご紹介しました。次回は、「権利の帰属にご用心。スタートアップが直面する知的財産権の論点」として、特許権の観点から見た「秘密保持契約(NDA)の締結」の意義や、プロダクトの開発の類型(社内開発や共同開発など)ごとに知的財産権の帰属に関する留意点をまとめていきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年8月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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意外と知らない知的財産権の種類。特許権、商標権、著作権などは何を保護するの?

アイデア(発明・考案)・デザイン・ロゴマーク・著作物・営業上のノウハウなど、企業には多くの知的財産があります。これらの知的財産を権利化する、つまり知的財産権とすることで、他者の利用を排除でき、大切な資産を守ることができます。
一口に知的財産権といっても、特許権、商標権、著作権など複数の種類があります。この記事では、特にビジネスに関連の深い知的財産権について、どのような種類があるのか、それぞれの権利の内容について解説します。なお、知的財産権については一通り知っており、その保護や契約について知りたい場合は、次の記事も参考になるので、ぜひご覧ください。

1 知的財産権の全体像

知的財産権は法律で次のように定められています(知的財産基本法第2条第2項)。

特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他知的財産に関して法令に定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう

その他知的財産を含めて、一般的には次のようなものが知的財産権に含まれます。

知的財産権の種類を示した画像です

「絶対的独占権」とは、権利者だけが独占できる権利です。模倣した場合だけではなく、偶然同じものを創作した場合でも、それをビジネスとして実施することは権利侵害となります。特許権などが該当します。
「相対的独占権」とは、依拠することなく、偶然に同じものを独自に創作した場合は、その効力が及ばない権利のことです。著作権などが該当します。

上表で取り上げた知的財産権の中でも、特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権の5つの権利は、業種を問わず多くの企業のビジネスに関連する知的財産権です。そのため、以降ではこれら5つの権利について見ていきます。

2 特許権とは

特許権は、発明について特許庁に特許出願をして、審査をクリアした後に登録することで取得することができます。
発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものを指します。この条件を満たさないため、例えば、次のものは発明には該当しません。

  • ビジネスモデル:人為的取り決めなどであり、自然法則を利用していない(ただし、コンピューター・ソフトウェア等を用いてビジネスモデルを実現するための仕組みは、発明に該当し得る)
  • 万有引力の法則:自然法則自体である
  • フォークボールの投球方法:技術的思想ではなく個人の技能である
  • 画像データ:情報の提示である
  • 絵画・彫刻:美的創作物であり、技術的思想の創作ではない
  • 天然物:創作を伴わない発見である

全ての発明が特許権を取得できるわけではなく、産業上の利用可能性、新規性、進歩性などが問われます。また、特許権の保護期間は、出願から原則として20年間で、発明の利用を独占することができます。

3 実用新案権とは

実用新案権は、考案について特許庁に実用新案出願して、審査をクリアした後に登録することで取得することができます。
実用新案権は特許権と似ていますが、保護の対象が発明ではなく考案(いわゆる小発明)であることと、形式的な審査であることが大きな違いです。考案とは、自然法則を利用した技術的思想の創作を指します。実用新案権を取得できるのは、産業上利用できる「物品の形状、構造または組合せに係る考案」に限定されています。この条件を満たさないため、例えば、化学物質の考案、コンピュータープログラムなどは実用新案権を取得できません。
実用新案権の保護期間は、出願から10年間です。形式的な審査でスピーディーに権利取得ができるのがメリットですが、注意点もあります。権利行使をする場合は、実用新案技術評価書(特許庁の審査官が出願された考案の新規性、進歩性などに関する評価を行った書類)を提示して、警告した後でなければなりません。特許権に比べて弱い権利といえます。

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4 意匠権とは

意匠権は、意匠について特許庁に意匠出願して、審査をクリアした後に登録することで取得することができます。
意匠とは、物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合、建築物の形状または画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものを指します。簡単にまとめると、1.物品・建築物・画像の、2.形状・模様(+色)という2つの要素からなるデザインのことです。
また、意匠権を取得するためには、その意匠が量産可能である必要があります。この条件を満たさないため、自然物を意匠の主たる要素とし量産できないものや、純粋美術の分野に属する著作物などは、意匠権を取得することはできません。
意匠権の保護期間は、出願から25年間(2020年3月31日以降の出願の場合)で、意匠の実施(製造・販売・使用など)を独占することができます。

5 商標権とは

商標権は、商標について特許庁に商標出願して、審査をクリアした後に登録することで取得することができます。
商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、1.業として商品を生産し、証明し、または譲渡する者がその商品について使用をするもの、2.業として役務を提供し、または証明する者がその役務について使用をするものを指します。簡単にまとめると、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)のことです。
商標は、他人(他社)と区別できることが重要です。この条件を満たさないため、例えば、次のような商標は商標権を取得することはできません。

  • 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
  • 公共の機関のマークと紛らわしい等公益性に反するもの
  • 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの

ただし、商標権の権利範囲は、マークと、そのマークを使用する商品・役務の2つの要素で定められています。仮に同じような商標が2つ以上あったとしても、商品・役務が異なれば、いずれも商標権を取得できる可能性もあります。
商標権の保護期間は、登録から10年間ですが、更新によって半永久的に商標の使用を独占することができます。

6 著作権とは

著作権は、著作物を創作した時点で、自動的に発生する権利です。特許権・実用新案権・意匠権・商標権などの産業財産権とは異なり、出願、審査、登録などは不要です。
著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものを指します。この条件を満たさないため、次のものは著作物には該当しません。

  • 単なるデータ:思想または感情ではないもの
  • 他人の作品の模倣や、単なる事実:創作的ではないもの
  • アイデア(アイデアを解説した文章は著作物になり得る):表現したものではないもの
  • 工業製品:文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものではないもの

また、著作権には、特許権・実用新案権・意匠権・商標権などの産業財産権などとは異なる、次のような権利が含まれています。

  • 著作者人格権:著作者の人格的な利益を保護する権利(勝手に著作物を公表されない権利など)
  • 著作財産権:著作者の財産的利益を保護する権利(複製されない権利など)

上記のうち、著作者人格権は譲渡や相続ができない権利です。そのため、例えば、外部のイラストレーターに著作物を発注する場合、イラストレーターの意向に関係なく、自由に著作物を利用したいのであれば、著作財産権を譲渡してもらうだけでなく、著作者人格権を行使しない旨の契約を交わしておくことなどが必要になります。
著作権の保護期間は、著作者の死後70年間、著作者が法人の場合は公表後70年間です。

以上

(監修 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)

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強い組織を作るための株式交換/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(3)

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を控えた複数の会社のオーナーである経営者
  • 課題:横並びの組織から中核会社を頂点とした組織を作りたい
  • 解決策:既存の会社のうち、いずれかを頂点とする「株式交換」の手法を解説

1人の経営者が中核となるA社の他、B社、C社のオーナーでもある「横並びの組織」の場合、事業承継が問題となりがちです。「後継者候補はいるものの、まだ会社の経営を担えるほどには成長できていない」などのケースがあるからです。このような場合、グループ経営の観点からA社を頂点とする持株会社体制に移行を提案する主なケースです。

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1 低コストで持株会社体制に移行する方法~株式交換~

持株会社体制に移行するには、経営者が持株会社に事業会社の株式を売買する方法があります。しかし、これは第2回(「持株会社を活用した事業承継/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(2)」)で説明した通り、多額の買い取り資金を調達する必要があります。また、経営者は株式の売買によって売却代金を手に入れることができる一方で、売却益が生じた場合、税コスト(売却益による納税額の増加)を負担することになります。

そこで、新たな資金や税のコストなどをかけずに持株会社体制に移行する方法として、「株式交換」があります。株式交換は、経営者が保有するB社株式をA社に現物出資し、その対価としてA社からA社株式の新株発行を受けるというものです。A社はB社の持株会社として、その株式の100%を保有することになります。また、B社の旧株主はA社株式を保有することになります。

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1)株式交換に必要な主な手続き

株式交換に必要な主な手続きは次の通りです。会社ごとの事情にもよりますが、最短で1カ月半程度で完了します。

  • 取締役会の承認決議
  • 株式交換契約の締結
  • 事前開示書類の作成および備置き
  • (一定の場合に)債権者保護手続(催告・公告)、株券・新株予約権証券の提出手続
  • (一定の場合に)反対株主の株式買取請求
  • 株主総会の招集通知、株主総会の承認決議
  • 登記の申請
  • 事後開示書類の作成および備置き

2)株式交換を実施する上で注意する点

株式交換に反対する株主は、会社法上、会社に対して株式の買い取りを請求することができます。この権利を、株式買取請求権といいます。

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株式買取請求権を行使された場合、その買い取り金額は高額になる傾向にあります。反対株主の保有する株式数が多い場合には、短期間に多くの資金が社外に流出することになります。そうなると、会社経営において大きなダメージとなることは必至でしょう。

このような事態を避けるため、反対することが想定される株主がいる場合には、その株主に対して丁寧な説明をして理解してもらう必要があります。他の株主と折り合いが悪く説得が難しい場合には、そもそも株式交換を事実上実施できないケースもあるため、既存株主の動向は常日ごろから確認しておきましょう。

2 株式承継の手続きが簡便になります

持株会社体制のメリットとして、まずは株式承継の手続きが簡便になることが挙げられます。「横並びの組織」で経営している場合、オーナー経営者は各会社の株式をそれぞれ保有しています。1人の後継者に株式を承継させる場合には、当然ながら会社ごとに株式譲渡の手続きを行う必要があるため負担が大きくなります。これに対して、持株会社体制の場合、経営者が保有する株式は持株会社に一本化されているため、持株会社の株式さえ後継者に承継させればよいので手続きが非常に簡便です。

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3 後継者など将来の幹部候補生の育成ができます

持株会社体制では、後継者や将来の幹部候補生への権限委譲をスムーズに行うことができます。すなわち、経営者は持株会社の代表としてグループ全体を監督しつつ、子会社の経営を後継者や将来の幹部候補生に任せることができます。そうすることで、後継者など将来のグループ経営を担う者に経営の経験を段階的に積ませることができるのです。持株会社の監督を機能させるために、定期的にオーナー経営者や持株会社に子会社の状況を報告させるような仕組みを入れておくことが望ましいでしょう。

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4 グループの一体的経営ができる

「横並びの組織」だと、各会社がバラバラに経営されていることもあります。これを持株会社体制にすることで、持株会社に経営企画室などの戦略機能を持たせて、子会社にはそれぞれの役割を与えた上で、グループ全体を統一的な方針のもとで経営することができます。

新規事業を行う場合は、持株会社が新たな子会社を設立したり、M&Aで取得したりするなど手段の幅が広がります。また、各会社にそれぞれ設けられていた経理、総務などの管理部門を持株会社に移転させて、持株会社にグループ全体を管理・監督する機能を持たせることもできます。

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5 株式評価額が下がる

持株会社体制に移行した場合の税務上のメリットとして、グループ法人税制(グループ会社間における資産の売買や寄附など一定の取引が課税されない税制)の適用などもありますが、事業承継における最大のメリットは株式評価額が下がることでしょう。

後継者が株式を承継する際に生じる贈与税や相続税をいかに抑えるかが、事業承継における大きなポイントの1つです。承継した株式の評価額が思いのほか大きく、後継者に過大な贈与税・相続税が課せられて、結果として会社の財務状況を悪化させてしまったケースもよく見られます。

贈与税・相続税は承継した株式の税務上の株価をベースに計算されます。複数の会社を横並びで保有していて、これらの会社の株式を1人の後継者に承継させようとした場合、各会社の税務上の株価を単純に合計した額をベースとして、贈与税・相続税が計算されます。

これに対し、持株会社体制では、持株会社の税務上の株価のみをベースに贈与税・相続税が計算されます。詳細な説明は省略しますが、持株会社の税務上の株価は子会社の株価を直接的に反映した価格にならないため、「横並びの組織」よりも大きく株価が下がるケースが多いのです。ただし、子会社の株価によっては、持株会社の株式を評価する上で不利になるケースもありますので注意が必要です。

また、株式評価額の引き下げのみを目的とした株式交換はやめておいたほうがよいでしょう。税務当局から「税の負担を不当に減少させた」と指摘されるリスクがあります。株式評価額の効果が大きい分、否認された場合のインパクトもそれだけ大きなものとなります。株式交換による持株会社への移行は、前述の次世代の育成やグループの一体的経営などの明確な事業上の理由をもって行うべきでしょう。

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6 株式交換をステップに、次なる組織再編へ

株式交換を実施した後に、株式移転によって持株会社を新たに設立し、次のように三層の組織にすることもできます。この場合、持株会社自体は事業を行わず、グループの戦略や管理・監督に特化する役割を担うことになります。

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また、持株会社体制に移行後に、当初の組織構造が事業の進展によりそぐわなくなる場合もあるかもしれません。例えば、当初中核会社であったA社を頂点として持株会社体制に移行したものの、B社の事業が急成長し、B社がグループの中核会社となったようなケースです。そのような場合でも、株式交換によって、A社とB社の親子関係を逆転させるなど柔軟に組織構造を変えることができます。

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なお、同じく持株会社体制へ移行する手段として「株式移転」があります。株式交換が既存の会社を持株会社とするのに対して、株式移転は新しく設立した会社を持株会社とします。

以上(2020年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

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画像:pixabay

オンラインコミュニケーションの【落とし穴】をChatwork山口副社長に教わる〜時間軸を縦から横へ、生産性向上にビジネスチャットの【今】を聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、山口 勝幸さん(
Chatwork株式会社
 取締役副社長COO)です。

●会社HP
https://corp.chatwork.com/ja/

●製品サイト
https://go.chatwork.com/ja/

新型コロナウィルス感染症の発生から半年が経過、まだまだ長続きと言いますか、後戻りのない世界へ新しいワークスタイルの創出へと世界が変化しています。そんな中、ビジネスにおける流儀もこの半年で様々なシーンが一気に変化してきました。多種多様なオンラインツールの導入も加速度的に増えたという話を聞きます。私自身もオンラインコミュニケーションが、場所と時間を超越する便利ツールとして日常化して利用、活用し恩恵を被っていることは間違いありません。しかしながら、先日、山口さんのインタビューで得た気付き、オンラインツールが万能ではないこと、加えて自社製品ツールである【Chatwork】をも至上主義ではないことを話されていました。このあたりにフォーカスし、【Chatwork】をどんな風に使うことに意味があるのか、山口さん流の表現である時間軸を縦から横にしていくこととはどういうことなのか?生産性向上にビジネスチャットがどの様に活用されているかについて話を聞きました。

1 Chatwork社のここ最近の現況について

1)半年前のインタビュー記事からも成長を続けるChatwork

私自身、Chatwork株式会社の前進である、EC studio社時代からお世話になって12、3年が経過しているのですが、ここ数年特に昨年の株式上場以後は目覚ましい成長を遂げていらっしゃいます。嬉しい限りです。その成長の軌跡、概要をまとめていますのが、私が不定期で書かせていいただいている新幹線の雑誌【Wedge】のweb版のコーナー(オモロイ社長、オモロイ会社)で今年の1月7日に同社について文字数多く書かせていただいています。その記事はこちらです。この時は社長の山本さんにインタビューをさせていただきました。今回は副社長の山口さんにインタビューの機会をいただきました。

現在、Chatworkの導入企業社数は27.7万社以上(2020年7月末日時点)となります。私が前回インタビューさせていただいた時で、24.6万社(2019年12月末日時点)、たった半年ちょっとで3.1万社の増加、単月ベースで4000社以上が毎月増加していることになります。登録ID数は327.9万人(2020年3月末日時点)(前回は308万人(2019年12月末日時点)で、これも約20万人近くが増加しています)この数字に、山口さんはまだまだ白地(ユーザー増加の可能性がある)の多い環境だと話します。

2)ビジネスチャット市場の推移について

ビジネスチャット市場の推移の画像です

※同社資料より

2018年出典の上記資料で、2020年には112億円を突破する見込みとなっています。コロナ禍の影響を加味していないことからして今年はさらに市場の拡大は必至だと感じます。山口さんから、ご自分の肌感覚という前置きがありながら、日本におけるビジネスチャット浸透度はまだ20%程度ではないか? と話されていました。私も同感、都心の一部の企業で当たり前化しているとは思いますが、全産業、全業態におけるビジネスチャットの常時利用はまだまだと感じます。いまだに、FAXが全盛の場面、電話マストの場面を見かけることもあります。たまに驚くこともあります。この状況からもまだ始まったばかり、特に中小企業、非ITにはビジネスチャットの市場は大きく控えているのが現況と感じます。

3)最近金融機関との取組で気付くことも

オンラインカンファレンス開催案内の画像です

今年の7月21日に朝9時45分スタート、19時15分終了のオンラインカンファレンスが開催されました。当日の概要はこちらです。主催はChatwork社。オープニングとクロージングのトークが山口さん。錚々(そうそう)たる企業が登壇されています。総務省の方まで【テレワークの最新状況と総務省の取組】というタイトルで話されています。
このカンファレンスの申し込み者数は1,000名以上だったそうで、テレワークに対する企業側の関心の高さ、その熱量の大きさをも表していると思います。
山口さんは、ここ最近、金融機関との取組、特に地方銀行さんと連携したテレワークに関したオンラインセミナーへの参加社数が、昨年とは違い、明らかに増えたと話します。この参加者数の増加が前述のマーケットはまだまだあるということにもつながると思います。

2 コロナ禍におけるトピックスも伺いました

1)Chatworkを活用し、非対面で注文住宅が販売できる

人生の中で一番高い買い物と言えば、【住宅】。その住宅、特に注文住宅といえば、理想のイメージは? 予算はどのくらい? 設計事務所は? どこで建てるか? 建物の具体的な概要はどうするか?等々最終的に入居するまで1年ほどはかかると言われています。その間に何度も何度も繰り広げられるのが、【打ち合わせ】。休日に時間を創って、お互い調整しての面談が繰り返されて入居まで打ち合わせの【継続開催】が続きます。それがある注文住宅の工務店で行われたのが、【打ち合わせ】は全てChatwork上で行い、リアル面談をすることなく、お互い時間調整も不要の中で数千万円の住宅が販売されているという事実。工務店側も休日に集中的に打ち合わせに出向いていたことからも解放され、施主側も訪問時間に家族一同が待ち受けることから解放され、聞きたいことがあればチャットで質問、回答もチャットで。コロナ禍で自宅にいる施主さんも多く、余計に自宅についての関心、考えることも増え、工務店側も販売環境は普段より改善し、売り上げもコロナ前よりもChatworkを活用することで増加しているそうです。既成概念を超えチャットで住宅が売れる、買える時代となったこと、大きな変化に感じます。

2)コロナ初期 リモートワークでChatworkが大活躍(GMOインターネット株式会社)

今年の1月27日にリモートワークの意思決定をされたのが、GMOインターネット株式会社さん。社員約4000名が一斉にリモートワークに移行、社員数の多さも含めて、これは簡単なことではないと思いますね。

GMOインターネット株式会社のリモートワーク対応をまとめた画像です

※同社HP掲載記事から抜粋。

この短期間での決断から運用についての詳細はこちらをご覧ください。

私がこの記事から大切に感じましたことを2点ほど抜粋しました。

  • 同僚への気軽な呼びかけ”の役割をChatworkが担う
    Chatworkを通してのコミュニケーション頻度は以前より上がっています。やはり、会社に出勤していたときとは環境が大きく違い、在宅勤務では隣にいる人に「ちょっと」と気軽に話しかけることはできません。そうした気軽な呼びかけの役割をChatworkが担ってくれるようになっているのです。
    機能でいうと、リアクション機能がメンバー間でとても好評です。文字だけでは伝わらないニュアンスが表現できて、よりリアルでの会話に近い雰囲気がチャットで再現できます。既読の確認にも使えるのが便利ですね。以前は読んだことを伝えるのに「了解です」という一言がずらっと並ぶようなこともあり、投稿に「了解は不要です」とつけたりしていました(笑)。リアクション機能でそれもなくなり、より会話がスムーズになったと思います。

→私もリアクション機能をよく使っています。これで既読、理解したのかどうかがスムーズに理解、伝わると思います。この気遣いがリモートワークで大切と感じますね。

  • 私自身は在宅勤務に移行してもそれほど仕事の環境が変わったと感じませんでした。その理由は、以前からChatworkを使っていたからだと思います。ただ、テキストコミュニケーションだけでは不十分で、オンラインビデオ会議もあわせて導入すると良いと思います。

→コロナ初期では、リアル面談もできないことがストレスでした、それを軽減できたのが、ビデオ会議、私自身も多用することでコミュニケーションを円滑化できたのもこの機能でした。スマートフォンでも快適に活用できたことが大きかったと思います。

上記のGMOインターネット株式会社さん以外にも多数の活用事例がChatwork社のサイトには掲載があります。こちらをご覧ください。

3)私(杉浦)の活用事例についても

現在56歳、リアル面談重視で日々の活動を行って来てドブ板系だと自認しておりますが、非常事態宣言以降は全く訪問をすることも無く約2ヶ月間、大阪にて借りたオンライン部屋(一人個室)から、オンラインツール、チャットツールもちろんChatworkを多用して、多数の方々とビジネスコミュニケーションを行って来ました。

杉浦氏のオンライン部屋の画像です

※今年の5月の私のオンライン部屋の写真です。ここからたくさんのオンラインコミュニケーションを行いました。

順応性は高い方だと思うのですが、その中でも私が多用していたのが、音声録音でした。Chatwork上ではスマホから音声録音ができる様になっていて、文字では硬い、厳しい、上から目線となりがちな用件伝達の場面で、私の生声で届けることで、受け取った側の皆さんから、『ボイスメッセージ良いですね!』『ニュアンスが分かりやすくて理解が早いです!』等々、好評をいただいています。ただ全てをボイスメッセージに代替できるのでは無く、詳細な数値、客観性が高い項目については文字のほうが伝わりやすいと感じます。使い分けでコミュニケーション力もアップすると思いますね。
この様に私だけでも自分流の活用方法がありますが、Chatwork社では利用者のレベルや利用シーンによって活用できる【お役立ち資料】も準備されています。

Chatwork社の【お役立ち資料】関連の画像です

上記のお役立ち資料についてはこちらをご覧ください。

この様なお役立ち資料への準備を行いつつ、導入支援、導入サポートにも注力をしている、Chatwork社、カスタマーサクセスの専門部門も増強し、顧客満足度はかなりのハイレベル、サービス導入者の離脱(解約率)は他のSaaS事業者よりも圧倒的に低いものとなっています。

3 オンラインコミュニケーションの落とし穴と時間軸を縦から横に ビジネスチャットの役割について

1)オンラインツールが便利!でも手放しで喜んではいけない→使い分けが大切です。

このお話となった時、まさに私は手放しで喜んでいる派でした。そこに山口さんは警鐘を鳴らします。オンラインツールで時間と場所を超越して、こんなに便利なもの、恩恵を被れたことはまさに画期的、コロナより社会全体が仕事のあり方に変化をもたらしたことと感じます。しかし、なんでもオンライン会議を開催すれば良いものではない。オンライン→同期であること、これはリッチコミュニケーションであることに理解が足りないと山口さんは話します。時間と場所は選ばないことは大きな変革でありますが、参加者一同が、同じ時刻(同期)に【拘束】されていることが、まさに、贅沢である。内容によっては、同期で無くとも十分意思疎通が図れる、そこに気付いて運用ルールを定めるべきと話します。

  • 同期コミュニケーション→意識の共有として、ビデオ会議などを用いて、重要なことの「目的&背景」を共有する際や、意思決定を伴う「提案」や「相談」、人間関係の構築段階において有効です。
  • 非同期コミュニケーション→情報の共有として、チャットを用いて、スペック&量などの「確認」「調整」を行う際や、実行したことの「報告」、予定しているイベント等の「連絡」などに有効です。

ビジネスシーンでよくある課題をまとめた資料の画像です

2)1日に会議に何回参加できますか? 時間軸を縦から横へ、ビジネスチャットで実現

山口さんにお聞きした質問に、

  • 1日Chatwork上で何回程度チャットに参加されていますか?
  • 全てのチャット(会話・会議体)はどれくらいありますか?

この2つがありました。山口さんから、

→1日に参加するチャット数は300を超えています。
→全てのチャット数は5000を超えています。

これが回答でした。
今日は会議にたくさん参加した!と言っても10件以上のリアル会議に毎日参加している人は何人でしょうか?
1つのチャットを1つの会話や会議と見なすと山口さんは300回の会話・会議体に毎日参加していることになります。
これが時間軸を縦から横にするという考え方に通じます。リアル(オンラインであっても)の会議は必ずその場に一同が介さないと成り立ちません、しかし、横にして並列、並走していろんなチャットに乗り移る、見に行く、巡回するそんなイメージで、会議室にあたかも自由に出入りする感覚でコメントが必要であれば、対応、頷く程度、内容を見たことを相手に伝える程度であれば、前述のGMO社の方のコメントにもあった、リアクション機能で十分。この様な活用、チャットへの運用ルールを決めておけば一日300回の会話・会議に参加可能となる。非同期によるコミュニケーション活用が生産性向上を生み出す、これが毎月数千社が導入しているChatworkの強さだと感じます。人間の限界を超えていく感覚がこのあたりに感じ入ります。

これだけご自身でも使い倒している状況のChatworkですが、山口さんはこのツール至上主義とは微塵も思っていないとも話されます。
『リッチコミュニケーションには、オフラインやオンラインをどんどんやるべき、そうでない部分を補うのがビジネスチャットの領域です、この使い分けが一番大切。そしてビジネスチャットを活用して生産性向上を中小企業、非IT企業でますますお役に立っていきたい』と笑顔で語っていただきました。これからの同社の快進撃がますます楽しみに感じます。

インタビュー時の画像です

【終始笑顔で楽しいインタビューでした! 感謝。】

以上(2020年8月作成)

事業の適法性が問題となる事例

ここまでのシリーズでは、起業家が知っておきたい「事業の適法性」事業の適法性を確保するための手段を紹介しました。最後となる今回は、事業の適法性というテーマが具体的にイメージできるよう、スタートアップのビジネスで問題となりやすい事例について、概要をご紹介します。

1 電気通信事業の届出

昨今、様々なアプリケーションで、クローズドのコミュニケーションツールが実装されているかと思います。このようなツールを提供することは、電気通信事業(電気通信事業法第2条4号)に該当し得、電気通信事業法上の電気通信事業の届出(同法第16条第1項)が必要となるケースが多いといえます。
さほど工数のかかる手続ではありませんが、こうした機能を実装したアプリケーションを開発・提供される企業のご相談を受ける際、見落とされがちな手続であり、違反すると「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という刑罰規定もあるため、注意が必要といえます。
なお、同法の許認可や届出の要否については、総務省が『電気通信事業参入マニュアル[追補版]』を公表しており、チェックリスト等も掲載されているため、非常に参考になります。

2 前払式支払手段の届出または登録等

オンライン上でサービスを提供する場合、例えばサービス上で使用できる通貨を事前購入させるプリペイド方式を採用するケースがあります。このような決済手段は、資金決済法上の「前払式支払手段」(資金決済法第3条第1項)に該当することが多く、これに該当する場合には原則として、その内容に応じて届出または登録の申請を行う必要がある他(同法第5条第1項、第8条第1項)、発行保証金の供託等の厳格な規制の対象となります。
上記で「原則として」と表現したのは、例外がいくつかあるためですが、代表的な例外として、前払式支払手段の有効期限がその発行日から6カ月以内となっているものについては、届出または登録を含む資金決済法上の前払式支払手段に関する規律の適用を受けないものとされています。従って、サービスにトラクションが出るかわからない段階では、試験的に有効期限を発行日から6カ月以内に設定し、サービスをリリースするケースが見受けられます。
なお、前払式支払手段については、金融庁が事務ガイドラインの一部で取り上げている他、資金決済法に基づく認定資金決済事業者協会である一般社団法人日本資金決済業協会がQ&Aを公表しており、こちらも非常に参考になります。

メールマガジンの登録ページです

3 職業紹介事業の許可

人材の流動化や人手不足もあり、昨今、インターネットを用いた採用に関する人材系のサービスがより増加しているように感じます。職業安定法上、許可が必要とされる「職業紹介」は、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と定義されていますが、求人者や求職者への情報提供等がどの程度に達すると雇用関係のあっせんに該当するのか、この定義のみからは判断が難しいところです。
「職業紹介」の該当性については、「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準」「職業紹介事業の業務運営要領」グレーゾーン解消制度の結果等((1)(2)(3))が参考になります。

なお、2018年1月1日施行の改正職業安定法により、上記の基準によって「職業紹介事業」に該当しなくとも、募集主から依頼を受け、募集に関する情報を求職者に提供すること、求職者から依頼を受け、求職者に関する情報を募集主に提供することのいずれかに該当する場合には、「募集情報等提供」として、募集内容が的確に表示されるために募集者に協力する努力義務等が新たに課されることになりました(関連資料)。
改正法により当該事業者に課される義務は基本的に努力義務ですが、行政庁から当該事業者に対し、法律の施行に必要な限度で報告を求めることが可能であり、これに応じずまたは虚偽の報告をした場合には、「三十万円以下の罰金」の刑罰が規定されているため、やはり注意が必要です。

4 おわりに

事業の適法性というテーマにおいて、リスクには濃淡があります。専門家に相談する場合にはコストがかかるため、スタートアップの限りある資源に目を向けるとき、全ての論点について、弁護士等の専門家に相談することは難しいかもしれません。
そこで、少しでも起業家の皆さんが事業の適法性について理解を深めて頂き、状況に応じて適切に制度や専門家の支援を活用できることを願い、今回のテーマを設定しました。起業家の皆さんにとって少しでも本稿がお役に立てれば幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年8月12日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

驚くほどいい人材に会える!を実現する人材のプール/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(3)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:採用活動のデジタル化では、いい人材をプールし、アプローチすることがより容易に。プールすべき人材は、いますぐに入社できない人材、退職者、内定辞退者などであり、関係を切らさないことが大切

前回(第2回)は、「タレントプール」という採用手法を紹介させていただきました。デジタルツールを駆使することで、有望な候補者人材(タレント)をデータベース化(プール)し、その人材に継続的にアプローチしていくことで採用につなげる最も新しい採用手法のひとつです。

連載3回目の本稿では、タレントプールにおいてデータベース化すべき採用候補者に焦点を当てて解説します。求人メディア経由の一般的応募者にはいない潜在的な候補者をどう集めるか。今まではあまり対象とされていなかった「意外なタレント」について、お伝えしていきます。

1 タレントプールとは

本稿の理解を深めるためにも、まずはタレントプールについて簡単におさらいしておきます。人材サービスに頼ることなく自ら欲しい人材を見つけて採用するダイレクト・リクルーティングが広がりを見せる中、その進化形ともいえる採用手法がタレントプールです。

欲しい人材を直接スカウトするーー。魅力的な手法ながら、優秀な個人を一企業が見つけてくることは、これまで困難だとされていました。それがデジタル技術の進化によって可能になってきたのです。

デジタルマーケティングの手法を導入し、まず人材データベースを構築。そのデータベースに対しAIを駆使しコミュニケーションを取りながら関係を温める。オートメーション技術で採用候補者をあぶりだして採用につなげる。まさにリクルーティングDXともいうべき最先端の採用手法です。

2 紹介からデータベース化

こうしたタレントプール採用を成功させるカギを握るのが「人材データベース」の質にあることは、いうまでもありません。

有望なターゲットとして、最初に挙げられるのが関係者からの「紹介」ではないでしょうか。自社の幹部社員や優秀な社員による紹介であれば、ある程度のスキルレベルやカルチャーフィット感に期待が持てます。社員とのつながりを利用することで質の高い人材と出会える、マッチングの精度向上が実現できるとなれば、紹介された人材をプールするのは極めて有効でしょう。

実は「リファーラル採用」という紹介ベースの採用手法そのものも、昨今広がりを見せています。リファーラル(referral)は、「委託・推薦・紹介」といった意味を持つ言葉で、先述のように既に自社で働いている社員から人材の紹介を受けたり、人材を推薦してもらったりという採用手法を指します。少し横道に逸れますが、まずリファーラル採用について解説していきましょう。

3 縁故紹介のデジタル化

ご存知のように、紹介による採用は古くから存在します。厚生労働省の雇用動向調査によると、「縁故紹介」は日本では1995年まで入職する際の経路として長年1位の座にあって、最もポピュラーなマッチング手法だったのです。求人広告メディアの発達によって、1位の座を明け渡したものの、この紹介ルートは2013年くらいから再び上昇傾向に転じています。

縁故紹介が再ブレイクしたのは、従来の「口コミ」というアナログベースの紹介が、「SNS」を使ったデジタルベースの紹介へと変化してきたからです。口コミでは、せいぜい「知人からの紹介」に留まるところですが、SNSであれば、「知人の知人からの紹介」まで紹介の輪が一気に広がります。ソーシャルメディアの発達が、紹介による人づての採用活動を飛躍的に進化させているのです。

また社員の紹介にブレーキをかけていた障壁=業務負荷を解消するデジタルサービスも登場。こうした流れの中、元来、最もアナログな「紹介」という採用手法は「リファーラル採用」というジャンルとして確立され、一気に伸張していきました。

4 驚くほど優秀な層に出会える

ビフォーコロナのここ数年、日本は空前の人手不足でした。新しい採用手法や人材発掘ルートを確立するのが急務であり、また従来型の有料求人サービスにかかる採用コストの抑制も喫緊の課題でした。こうした人事の事情がリファーラル採用を後押しした一端であることは間違いありません。

それでも最大のポイントは、やはり紹介という採用ルートが活躍人材の獲得において有効だったからです。そしてこの延長線上にタレントプールという手法を置いて考えると、さらにその有効性が発揮されるのです。

ちょっと遠回りしましたが、ここからリファーラル採用にタレントプールを掛け合わせる手法の意義について解説しましょう。

リファーラル採用プロセスの中で、紹介してもらった候補者にSNSなどでオファーを送るとします。しかしタイミングの問題で現時点ではオファーを受けにくい、あるいは気持ちの高まりが足りず逡巡している、といったケースは少なくありません。こうした候補者こそタレントプールに登録してもらえばいいのです。

この“いますぐでなくてもいい”という観点は、「紹介」において極めて重要なファクターです。なぜなら紹介する社員にとって、彼らの持ち駒の数を圧倒的に増やしてくれるからです。そもそも、“いま求職中の知人がいる”という状態はそんなに多くはないでしょう。むしろ「いまの会社をすぐには辞めないだろうけど、アイツは仕事がデキる」「いつか一緒に働いてみたい」「ウチの会社にフィットしそうなのに」といった知人は、少なからずいるはずです。こういった潜在層が、優秀であり活躍してくれそうな“最も得難い人材たち”であることは言うまでもないでしょう。

いま求職中でないにせよコイツは仕事がデキる。そんな知人を社員から募る。彼らにオファーを送りつつ、機が熟していないなら自社の候補者データベースにプールする。ここからはAIが定期的にコミュニケーションを取りながら気持ちを高めていく。そして興味を持ってもらえた時点でオファーを送る。まさにリクルーティングオートメーションのテクノロジーで採用にこぎつけるというタレントプールの王道シナリオです。もちろん結果がでるケースばかりではないでしょう。しかし優秀人材が獲得できる千載一遇のチャンスであることは間違いありません。

5 退職者もプールせよ

リファーラル採用以外にも、意外な採用ターゲットは身近に存在します。

その代表格が退職者です。一度辞めた社員が、他社での勤務や独立など別の経験を経て、また自社に戻ってきて入社することを受け入れる企業は確実に増えています。アルムナイ(卒業生)リクルーティングとも呼ばれ、ビフォーコロナの超人手不足時代には注目の採用手法でした。

もちろんこの退職者の採用に乗り気になれない企業は少なくないでしょう。終身雇用が当たり前だった日本では、一社で長く働くことが正義で、辞めることは裏切りでした。そういう価値観がはびこっている職場では、辞めた時点で「二度と顔を出すな」となりがちです。ただ、もうそんな時代ではありません。

しかも退職者は即戦力です。業務経験もあり、社内ルールも、社風もわかっています。会社のことを嫌いになったわけではないけれど、どうしても新しいチャレンジをしたいというような前向きな退職もあります。また引っ越しや出産など、やむを得ない事情で退職する社員もいます。そういった人が戻ってきてくれると考えれば、むしろ嬉しい誤算ともいえます。

そんな退職者に対して、「もしも状況が変わったらいつでも復帰していいよ」と門戸を開いておくのです。その上で退職者データベースを構築していけば、これも立派なタレントプールになります。現に退職者対象のタレントプールサービスも存在します。

6 内定辞退者や不採用者も

最後にお伝えするタレント候補は、さらに意外な存在かもしれません。それは選考を終了したのちに、なんらかの理由で入社しなかった人たちです。彼らでさえ次の候補者になり得ます。

まずは内定辞退者。入社には至らなかったものの、こちらが採用の意志を示しているわけですから、人材のクオリティとしては申し分ないはずです。だから諦めなければいいのです。本人に許可をとった上ですが、プールに登録していきましょう。

よく新卒社員が3年で3割も辞めてしまうという報道を耳にします。確かに社員の離職に頭を抱える人事は少なくありません。ということはですよ。辞退して他の企業に行ってしまった内定者が、その職場で充実した日々を送っているとは限らないということです。その職場で悶々としていた場合には、こちらからのアプローチが「救いの声」に聞こえる可能性が、十分にあるわけです。内定を辞退された人に対して、一定期間がたったあとにコンタクトを取っていく。これはこれでアリだと思います。

選考後、入社しなかったもう一方は不採用者です。えっ? と思われるかもしれませんが、この人たちもプールすることをお勧めします。もちろん選考試験の出来があまりにも悪いとか、面接で箸にも棒にも掛からないといった人材までをプールしようとは言っていません。他の候補者との比較でしぶしぶ落としたとか、その時点では条件が合わなかったとか、実は人物的に及第点ながら不採用にするケースは意外と多いのです。彼らは実にもったいない存在です。

タレントプールという採用手法の中で、プールされるべきタレントをどこまで広げていけるのか。ただ広げればよいのではなく、もちろん優秀であってほしい、あるいは自社にフィットする人材であってほしいという前提の上での話です。本稿では、その観点からお勧めできるターゲットについて解説してきました。

社員からの紹介ルートが極めて有効である。このリファーラルからのタレントプールには誰しも異論がないでしょう。しかしながら「退職者」「内定辞退者」「不採用者」といったカテゴリーは、やや意外だったのではないでしょうか。筆者は彼らをサードターゲットと呼んで、貴重な人材資源であると位置づけています。重要なのは、どのルートからでも優秀な人材を獲得しようという貪欲さ。その本気度こそが、タレントプールという採用手法を成功に導くラストピースなのです。

以上(2020年8月)
(執筆 平賀充記)

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画像:pixabay

これから中小企業に必要な非対面営業の方法と、ハイブリッドの考え方

書いてあること

  • 主な読者:非対面営業に取り組みたい経営者
  • 課題:非対面営業のノウハウがない、どう取り組むべきか分からない
  • 解決策:非対面営業のメリット・デメリットを認識し、事例を参考に自社に合うやり方を検討する

新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、営業活動の主戦場はオンラインによる「非対面営業」へと移りました。訪問、名刺交換、会食、展示会への出展など、当たり前のように行ってきた活動が少なくなる中、営業力を高める秘訣は、対面営業と非対面営業とのハイブリッド化を進めることです。

1 対面営業と非対面営業のハイブリッド化

非対面営業が注目されているからといって、対面営業がなくなるわけではありません。むしろ、「ここぞ!」というタイミングで対面営業を織り交ぜるハイブリッド化が重要となります。

対面営業には、「目の前で話をする安心感がある」「商品、サービスの説明がしやすい」「ディスカッションがしやすい」「その場の雰囲気を感じ取り、話の進め方や説明内容を最適化できる」といった、非対面では実現が難しい良い点、メリットがあります。このメリットを最大限に享受するためにも、対面営業の使いどころが大切なわけです。

ハイブリッド営業の基本は「非対面から対面へと結びつける」という流れにあります。BtoBにおけるマーケティングや営業活動が分かりやすいでしょう。BtoBのマーケティングでは、対面で行ういわゆる「フィールドセールス」だけではなく、次の流れで営業活動を行うケースが少なくありません。

  • コンテンツマーケティングを利用し、知ってもらう
  • 資料ダウンロードなどを通じて、今後関係性を構築するためのリード(メールアドレスなどをはじめとしたお客様情報)を獲得する
  • 電話やメール、オンライン会議などを利用し、ヒアリングする
  • 定期的な情報提供などを行い、関係性の構築・維持やセミナーなどに誘致する
  • 顧客が必要な状況で提案する

「1.コンテンツマーケティング」「2.~4.インサイドセールス」「5.フィールドセールス」にすみ分けることで、営業の効率化や再現性の向上を目指しています。また足元では、オープンセミナーを対面と非対面の両方で行ったり、遠方の顧客にはオンラインで、近隣の顧客には対面で商談したりと、必要に応じた使い分けがされています。

2 非対面営業で効果を上げる特徴的な事例

皆さんは、対面営業は慣れていると思いますので、ここでは非対面営業の効果的な事例を紹介します。こうした非対面営業を行って相手と信頼関係を築くことができれば、対面営業にも結びつけやすくなります。

1)コンテンツマーケティングと動画を組み合わせた事例

メールマガジンを使って顧客を囲い込んだり、資料をダウンロードしてもらってリード(見込み客)を獲得したりする手段に、記事を用いる「コンテンツマーケティング」に取り組む企業は少なくありません。最近は、動画を活用するケースが増えています。

動画のメリットである「情報の量」や「表現の幅」を増やせるのが特徴です。とりわけ非対面営業では、次のようなコミュニケーションが見込めます。

  • YouTubeなどのSNSを活用し、自社サイトやメディア、検索ユーザー以外にアプローチできる
  • 営業メールや定期的なメールマガジンなどに動画を掲載することで見込み客の興味を引ける。関係性も構築できる
  • 自社サイトに会社概要やサービス紹介、お客様事例の動画を掲載することで、詳細な情報をユーザーに伝えられる。営業活動時の説明を補足できる。営業活動の均質化を図れる

また、1つの動画コンテンツを複数の媒体で利用することで、コンテンツ制作の手間を軽減しながら、各媒体のユーザーにアプローチできるようになります。具体的には次の方法があります。

  • 動画を文章化することで、記事として利用できる
  • 動画を資料化することで、スライドシェアなどの資料共有サービスで利用できる
  • 動画を音声のみにすることで、Podcastなどの音声メディアで利用できる
  • 文章化、資料化、音声化した一部を切り出すことで、SNSでの発信に利用できる

・動画を活用したリード獲得事例

早期離職対策のための講演、研修を実施するA社では、以下のような施策を行い、動画コンテンツからリードを獲得、そしてオンラインでのオープンセミナーへの集客を実現しています。

  • 研修動画をYouTubeや人事系ポータルサイトに掲載
  • 研修用資料をダウンロードしてもらうことでリードを獲得
  • リードに対して、電話、オンライン会議を行い、ヒアリング
  • メールマガジンでの動画配信
  • 状況に応じた提案、またはライブ配信でのオープンセミナーへの誘致

こうした動画を使った施策を実施することで、主に次の効果を上げています。

  • 研修動画1本を公開したところ、数日でYouTube、人事系ポータルサイト合わせて50件余りのリードを獲得した。その後もYouTubeから継続してリードを獲得している
  • メールマガジンの開封率は20%をキープしつつ、動画掲載時にはクリック率が20%を超えることもある

2)オンラインセミナーやオンラインでの勉強会の活用事例

対面によるセミナーや勉強会の開催が難しくなる中、対面でのイベントをオンラインでの実施に切り替える企業もあります。オンラインでのセミナーや勉強会は対面でのイベントと比べ、次のようなメリットが挙げられます。単に対面の代替としてではなく、オンラインならではの効果を上げられるようになります。

  • 場所の制約がなくなる
  • オンラインだからこそ参加しやすい
  • 人数に制限がない

・知名度の高い方々での大規模コラボレーションセミナー

場所の制約がなくなることは、運営側にも大きなメリットがあります。著名な方に登壇を依頼する場合、これまでは開催場所への移動も含めてスケジュールを確保する必要がありましたが、オンラインであれば講演時間だけを確保すればよいので、引き受けてもらいやすくなります。

実際、ウェブマーケティング界隈では、著名な方々がコラボレーションしたイベントが幾つも開催されており、中には1000人以上が参加するイベントもありました。

3)小規模な勉強会を頻繁に開催する事例

逆に、小規模なセミナーを何度も繰り返す事例もあります。オンラインが対面よりもコミュニケ-ションが取りにくいのは事実なので、あえて3~5人程度の小規模セミナーや勉強会を複数回開催して関係性を構築し、個別商談につなげています。

・小規模勉強会を活用したアポイント獲得事例

ある商品の営業担当者の中には、次のような施策を行い、新規のアポイントの獲得、既存顧客へのフォローや追加契約を実現する人がいます。

  • 既存のお客様も新型コロナウイルス感染症の状況に不安を感じているため、既存顧客向けに3~5人の小規模の勉強会を開催する。また、同様の不安を抱えている人に勉強会を紹介する

このような勉強会を週2回、定期的に開催することで、次のような効果を得ています。

  • 既存顧客からの保証の見直し
  • 既存顧客へのフォロー
  • 新規顧客との接点の創出

3 非対面営業のデメリットを乗り越える

非対面営業のメリットを活かした事例は前述の通りですので、ここではデメリットを解消する施策について考えていきます。非対面営業の場合、サービス説明やクロージングにおいて、以下の要因により対面営業のようなクオリティーを出すことが難しくなります。また、対面での影響力(雰囲気としてなにかすごそう。話を聞いておいたほうがよさそう)が非対面では利かず、専門知識の高さやロジックが重視されます。

  • オンラインでのサービス説明が難しい(特に、資料とは別のメモ書きでの説明などが行いにくく、説明の難易度を上げてしまいます)
  • 非対面ではリアクションが分かりにくく、説明や内容を理解しているか判断できない
  • 自身や先方のITリテラシーの問題がある

しかし、次の内容を事前に行うことで、対面営業と同じとはならずとも、対面営業のクオリティーに近づけることができます。

  • ロールプレイングによる非対面営業の練習をする
  • 資料を作り込む。分かりやすさを重視する
  • 事前に論点、資料を共有し、オンラインの前に認識合わせをする
  • 面談中に細かな確認をする。「音声、途切れていませんか?」「ここまで質問ございませんか?」

この他、ツールによってはバーチャル背景という背景画像をあらかじめ用意しておいた画像に差し替える(合成する)機能があります。背景画像に会社のロゴやメインメッセージを入れて会社の情報などを伝えたり、名刺情報のQRコードを入れて名刺を交換したりすることもできます。非対面営業は“つかみ”が大事なので、バーチャル背景などを工夫するといった一手間が大事です。

4 非対面営業が進むことによる競合の変化

最後に補足をしておきます。非対面営業によって遠方の見込み客とも商談がしやすくなります。これは自社にとってメリットなわけですが、裏を返せば遠方にある競合他社も自社の顧客に商談をしやすくなるということです。

非対面営業は、オンラインツールを使うことなどもあり、とにかく攻めのイメージがあるかもしれません。しかし、新規開拓ではなく、既存深耕の守りもバランス良く行うことが必須です。既存顧客と「毎月第2水曜日」に定例オンラインミーティングの場を設けるなどといったことをするとよいでしょう。これまで以上に距離を縮めるチャンスとなります。

以上(2020年8月)

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「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:税務調査について知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:税務調査はどのように始まり、何をされ、どのように終わるのか
  • 解決策:調査対象の選定から更正・決定までの流れを解説

税務調査は、会社から提出された申告書などに記載されている金額が正確かどうかを税務署などの職員が判断するために行う一連の調査(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)です。また、税務調査の一環として、オフィスや工場などに職員が出向いて調査を行うことを実地調査といいます。

一般的に税務調査という場合、この実地調査を指すことが多いですが、この他にも電話や文書での問い合わせ形式による税務調査や反面調査など、納税者と接触しない形で行われる調査も含まれます(「反面調査」については後述)。

以降では、税務調査の全体の流れに沿って、それぞれの手続きを解説していきます。なお、本記事では国税庁、国税局または税務署を「課税当局」、課税当局の職員を「調査職員」、調査を受ける者を「納税者」としています。

2 税務調査の流れ

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1)調査対象法人の選定

課税当局は、国税庁のオンラインシステム(KSKシステム)を活用して、データベースに蓄積された法人税の申告内容や各種資料情報などを基に、調査対象の会社を選んでいます。その事務年度(その年の7月からの1年間)における重点調査業種に該当しているかどうかや、業種・業態・事業規模といった観点から分析されます。

これら資料情報には、税法などの法令により提出が義務付けられている給与所得の源泉徴収票や利子等の支払調書の他、税務調査などの際に把握した裏取引や偽装取引に関する情報など、さまざまなものが含まれています。

2)書面添付の有無

税理士が税務代理業務を行い、税理士法第33条の2において規定されている書面(税理士が申告書の作成に関して計算し、整理し、または相談に応じた事項などを記したもの)を添付している場合、納税者への事前通知をする前に、税務代理権限証書(税理士または税理士法人が税務代理する場合に、その権限を有することを証する書面)を提出した税理士にあらかじめ意見聴取が行われます。

この意見聴取によって、調査職員の疑問点が解消されたときは実地調査が省略され、税理士に対し、現時点では調査に移行しない旨、口頭(電話)で連絡されます。一方、実地調査の必要があると認められたときは、事前通知前に税理士に対して、意見聴取結果と実地調査に移行する旨の連絡が行われます。

3)事前通知

税務調査が入るときには、原則として、課税当局から納税者に対して次に掲げる事項の事前通知があります。なお、税務代理権限証書を提出している場合は、顧問税理士に対して通知があります。

実際に実地調査が行われる場合は、事前通知の前段階で日程調整が行われます。

  • 実地調査を行う旨
  • 調査開始日時
  • 調査を行う場所
  • 調査の目的
  • 調査の対象となる税目
  • 調査の対象となる期間
  • 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
  • 調査の相手方である納税者の氏名および住所または居所
  • 調査を行う調査職員の氏名および所属官署
  • 調査開始日時または調査開始場所の変更に関する事項
  • 上記4~7に掲げる事項以外について非違が疑われることとなった場合には、当該事項に関し調査を行うことができる旨

なお、事前通知を行うことを原則としていますが、事前通知なく税務調査が実施される場合もあります。これは、提出した申告書や過去の調査結果の内容、またはその営む事業内容などから、違法や不当な行為の疑いが強く、資料収集が難しい、また調査自体が適正に行えない恐れがあると認められる場合に限り行われるものです。

4)実地調査

1.実地調査とは

実地調査とは、調査職員が会社などで質問検査などを行うことをいいます。調査職員は「質問検査権」を与えられて実地調査が可能になります。ただし、「質問検査権」は、「調査について必要があるときは」と規定されており、納税者は明らかに必要のないとされる質問に対しては、これに応じる必要はありません。

しかし、必要に応じて帳簿書類等の提出が求められたときなど、質問検査権に基づく質問に対して答えない、または偽りの返答をした場合などには、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

2.実地調査に必要なもの

実地調査時に必要な帳簿書類や物品には、税法上で備え付け、記帳または保存しなければならない帳簿書類(詳細は後述)の他、調査のため必要と認められるものも含まれます。具体的には、取締役会などの会議の議事録や稟議(りんぎ)書など紙で保管されている証憑(しょうひょう)書類、給与データ、電子メールなどのデジタル記録、金庫や固定資産台帳に記載されている機械装置などの物品も対象となります。

帳簿書類には「仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿」「取引先から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類等」「棚卸表、貸借対照表および損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類」があります。

また、実際の物品なども対象であることから、必要に応じて工場、営業所、支店などで現物確認調査が行われることもあります。

これらの書類や物品はすぐに提出・案内しなければなりません。必要があるときは、調査職員は提出された物品を課税当局の庁舎に持ち帰ることができます。これを「留置き」といいます。留置きは、納税者の理解と協力の下、実施されるものであり、留置きが行われた場合、納税者は調査職員から預かり証を受け取ります。留置きされたものは、留め置く必要がなくなったときに返還されます。また、事業の遂行上の必要性のためなどの理由があるとき、納税者が返還の請求をすることもできます。

5)取引先等調査

取引先等調査とは、いわゆる反面調査のことをいいます。調査職員は、税務調査において必要であると合理的に判断される場合には、取引先や雇用主などに対し、質問や検査等を行うことができます。

6)調査結果説明

実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がある場合等には、調査職員が、納税者に対して調査結果の内容・金額・理由を説明します。なお、法令上は説明の方法が明示されているわけではなく、多くの場合、口頭で行われています。

7)修正申告等の勧奨

調査結果説明の後、調査職員は納税者に対し修正申告または期限後申告(以下「修正申告等」)を勧奨することとしています。課税当局が職権で訂正(更正・決定)することも可能ですが、納税者が自ら理解して是正することが、申告納税制度の趣旨にかなうものと考えられているからです。

8)更正または決定をすべきと認められない旨の通知

実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がない場合等は、課税当局は納税者に対し、その旨を「書面」により通知する必要があります。

9)修正申告等

納税者が自ら、修正申告書または期限後申告書(以下「修正申告書等」)を提出します。納税者は修正申告書等を提出した場合、再調査の請求や、審査請求といった不服申し立てはできません。

10)更正・決定

納税者が調査結果の内容説明に納得せず、修正申告等の勧奨に応じない場合、税務署長は職権で更正又は決定の処分を行います。これに対して納税者は、不服がある場合には、処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内に税務署長に対して再調査の請求をするか、国税不服審判所長に対して審査請求することが認められています。

なお、更正とは期限内に申告した申告書について、誤り・訂正があった場合に税務署の職権で税額等を計算する処分をいいます。一方、決定とは期限内に申告をしなかった者に対して、課税当局の職権で税額等を計算する処分をいいます。

3 実地調査の観点と対策のポイント

実地調査では、帳簿書類の確認などを通じて、法人税法などの法令にのっとって適切に税務処理されているかが調査されます。これは、税務申告書上の計算・転記誤り、記載漏れや故意によるものだけではありません。日常の経理処理のミスや決算手続きの際に漏れてしまった項目なども含まれます。例えば、請求書の発行の締め日が25日だった場合、決算手続きの際、決算月の26日から月末までの売り上げが集計から漏れていたとすると、いわゆる「期ズレ」として、売り上げの計上漏れの指摘を受けることになります。

また、法令上の適否以外に、要件事実の認定という観点からも調査されます。例えば、代表取締役1人で経営している青色申告法人の現金出納帳上の現金残高が200万円、実際の現金残高が10万円と大幅にズレていたとします。この場合、差額190万円について、未精算経費の存在など合理的な説明ができなければ、代表取締役による使い込みとして、いわゆる役員賞与(損金不算入。源泉所得税の納付漏れ)の認定・指摘をされる恐れがあります。

実地調査の対策としては、調査職員の質問に正確に回答できるよう、帳簿書類その他の物件を整理しておくことが肝要です。そのためには、帳簿の記帳や証憑書類の作成・保管、固定資産の管理などの整備を、日ごろから心掛けておく必要があります。また、正確な会計・経理処理の実践も不可欠です。

こうした取り組みは、基本的なことではあるものの、税務調査対策という観点からだけではなく、内部管理体制の充実という観点からも重要なポイントとなります。

以上(2020年8月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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決算書でよく見る“引当金”の性質と活用法

書いてあること

  • 主な読者:引当金の計上を検討している中小企業の経理担当者
  • 課題:中小企業の決算書に引当金の計上が必要なのかどうかの判断は難しい
  • 解決策:引当金の必要性や目的を認識した上で、「経営管理」「資金調達」の視点からビジネスにおける活用方法を解説

1 引当金の必要性

上場企業の有価証券報告書にある貸借対照表を見ると、なじみのある貸倒引当金から、何かしらイメージが湧きそうな退職給付引当金や、縁のある企業が少ないであろうポイント引当金まで、様々な名称の引当金が計上されています。(ポイント引当金は、早期適用が開始されている収益認識に関する会計基準の適用により、計上できる範囲が制限されます。)

一方で中小企業の計算書類にある貸借対照表を見ると、貸倒引当金と、この他には返品調整引当金あたりが計上されているくらいだと思います。この差は一体何なのでしょうか。中小企業にとって、引当金は必要なものなのでしょうか。

本稿では、引当金を税務と財務の視点から解説した上で、ビジネスにおいてどう生かすかを紹介します。

2 引当金とは

1)引当金の目的

引当金は、当期以前の事象に起因して将来発生する可能性が高い特定の費用または損失を、対応関係にある当期の収益に照らして見越し計上すること、つまり期間損益計算の適正化を目的とします。また保守主義の見地では、企業財政を健全にすることも目的として挙げられます。

例えば、売掛金に関する将来の貸し倒れが合理的に予測し見積もれるのであれば、回収見込みのない分を当期に費用計上することによって、次期の損益に影響を与えないことになり、期間損益計算が適正に行われることになります。また利用できる手持ち資金を保守的に考えることで、安全に経営を進めることができるようになります。

2)主な引当金の種類と分類

1.製品保証引当金

製品に欠陥があった場合に次期以降に保証しなければならない見積額を、当期の費用として計上する引当金です。

2.売上割戻引当金

将来において割戻しが発生すると見込まれる場合に、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

3.返品調整引当金

次期以降に商品が返品される可能性が高い場合に、その利益部分の見積額を当期の費用として計上する引当金です。

4.賞与引当金

従業員に支給する賞与をあらかじめ見積もった際に、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

5.工事補償引当金

製品保証引当金と同様の理由で、建設会社や工事会社が、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

6.退職給付引当金

労働協約や就業規則などに基づいて、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

7.修繕引当金

次期以降の修繕のための費用をあらかじめ見積もり計上し、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

8.特別修繕引当金

修繕引当金の中でも、大規模な修繕が行われる場合に設定される引当金です。

9.債務保証損失引当金

債務保証を行っており、次期以降に保証の履行の可能性が高い場合に、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

10.損害補償損失引当金

将来の訴訟や事故などによる補償に備えて、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

11.貸倒引当金

債権のうち回収不能が見込まれる見積額を、当期の費用として計上する引当金です。

引当金は大別して、評価性引当金負債性引当金の2つに分類されます。評価性引当金は、将来に特定の資産の滅失が認められる部分について引き当てるものであり、発現した際は支出を伴いません。一方で負債性引当金は将来に発現した際に支出を伴います。

上記引当金の中で評価性引当金に分類されるのは、売掛債権やその他の債権にまつわる貸倒引当金のみとなります。それ以外の引当金は負債性引当金に分類されます。

貸借対照表上における通常の表示箇所は、評価性引当金については資産の部にある特定の資産から控除する形式で表示され、負債性引当金については、その性質により流動負債または固定負債として表示されます。

3)引当金の計上要件

企業会計原則(注)注解18で次のように規定されており、これらは4つの要件に分かれます。

  • 将来の特定の費用又は損失であって、
  • その発生が当期以前の事象に起因し、
  • 発生の可能性が高く、かつ、
  • その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

貸倒引当金を例にすると、将来売り上げを回収できないリスクであるため1.を満たします。また、収益を認識し計上された売り上げに起因するため2.を満たします。さらに、過去の自社の実績や業界平均などの事例から、発生可能性を認めることができる部分について3.を満たし、同じく合理的に計算ができる部分について4.を満たすということになります。

(注)企業会計原則は1949年に企業会計制度対策調査会が公表した会計基準で、企業が従うべき会計規範としての役割を持っています。

4)税務の視点

税務では、実は税法にのっとり計上された貸倒引当金と返品調整引当金のみが引当金として認められ、それ以外の引当金については損金(税法上の費用に値するもの)として認められていません。

しかも、貸倒引当金の適用対象は中小企業に限られています。また、返品調整引当金は2018年度税制改正において、経過措置期間経過後に廃止されることになりました。

これは、税法が課税の公平や中立、簡素を基本の原則としており、会社ごとに判断や恣意性を持たせない公平的かつ共通のルールを策定する上で絞られた結果です。

3 引当金をビジネスに生かす

ここまで、引当金を制度の視点から解説してきました。では、ビジネスにおいてどのように活用するとよいのでしょうか。

1)経営管理

制度会計は過去・現在・未来や他企業との比較可能性の担保のために、期間を1年で区切り、ルールにのっとることを求めます。一方で、ビジネスで取り扱う投資やプロジェクトは、1年で区切るのは不自然なことのほうが通常であり、また経営方針によっては発生可能性が低いものも引当金として認めたり、独自の引当金を考慮すべきケースがあったりします。

例えば、新規事業を始めて開発に乗り出したが、システムの販売後にバグがどれくらい生じるか分からない場合に、経営の安全性のために合理的に見積もれなくてもルールを設定し、製品保証引当金を計上することで手持ち資金に余裕を持たせることができます。

また、現在のコロナ禍においては、少し先の未来でも不確実性が高く、見通しが難しい状況にあります。これを受け、売掛金や貸付金などの債権を個別管理し、独自に引当金を設定することで経営管理に資することもできます。

2)資金調達

中小企業においては、税務申告書を用いて銀行借り入れを実行するため、財務の視点が抜け落ちます。しかし、財務は必ずしも上場企業や大企業のような会社ばかりが必要になるものではありません。

銀行においても自社の税務申告書にある計算書類は、銀行のルールに基づく財務会計に引き直されています。

またM&Aという言葉がだいぶ浸透してきましたが、資本力のある会社とのコミュニケーションで、買収だけでなく出資などの資本提携や融資と併せた業務提携などの提案を受けたりする場合にも、やはり自社の計算書類は財務会計に引き直されます。

そこで先述の通り、税務と財務のギャップに引当金は大きく影響をしているため、この辺りについて共通言語で話せることが肝となります。つまり、このとき財務会計を意識して貸借対照表や損益計算書を作成できていたり説明ができたりすると、ビジネスモデルや実情の他に財務に関するリテラシーの高さを評価してもらえ、結果的に出資や融資の話がスムーズに進むことになります。

以上(2020年8月)
(執筆 合同会社gtra and company 代表執行役・公認会計士 朝倉厳太郎)

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人事考課による賃金決定の基本メカニズム

書いてあること

  • 主な読者:自社の人事考課制度を見直し、社員の働きぶりを適正に賃金に反映したい経営者
  • 課題:人事考課制度に関する情報がちまたにあふれており、どう自社の制度を見直すべきか決めあぐねている
  • 解決策:人事考課制度と賃金の関係性、世間一般に浸透している職能資格制度の特徴など、基本を押さえた上で、今の人事考課制度の問題点を整理する

1 人事考課制度の意味

会社は労働契約に基づき、労務を提供する社員に対して、必ず賃金を支払わなければなりません。しかし、会社が賃金の支払いに回せる金額には限りがあります。そのため、会社は、総額人件費の観点から収益や経営環境に応じた賃上げや賃下げを実施し、個別の社員の働きぶりに応じた昇給や降給を実施します。

社員の働きぶりを評価する上で欠かせないのが、人事考課制度です。人事考課とは、「上司と部下が、共に『課』題を『考』える」といった意味合いがあります。通常、直属の上司が考課者となり、部下である社員の能力、勤務態度、成果などを一定の合理的な要素によって測定し、客観的に評価します。

人事考課は、通常、年1~2回実施されます。その結果は、「賃金支給額の決定」「昇進や昇格」「適正配置や異動などによる能力の有効活用」「教育や自己啓発などの能力開発の方針」などの有力な判断材料になります。

2 人事考課の実施から賃金への反映までの流れ

1)考課基準を決める

人事考課は所定の「考課基準」に基づいて実施されます。例えば、サービス業の場合、次のような考課基準が考えられます。

1.業務処理

  • 正確に業務をこなすことができるか(正確性)
  • 迅速に業務をこなすことができるか(迅速性)
  • 自主的に業務改善に取り組んでいるか(工夫・応用)
  • 業務を的確に処理できるよう、整理整頓がなされているか(整理整頓)

2.顧客応対

  • 社内、社外の関係者に笑顔で挨拶ができるか(応対)
  • 顧客の属性、嗜好を把握しているか(顧客の把握)

3.連携

  • 必要な報告や連絡は的確にタイミング良くなされていたか(報告・連絡)
  • 社内、社外の関係者とうまく連携して仕事を処理できたか(連携プレー)

4.業務推進

  • 目標達成への意欲があり成果は十分であったか(目標達成度)
  • 顧客に自社のサービス、商品などを積極的に薦められたか(セールス)

5.その他

  • 計画的に後輩を指導し、その能力を著しく伸長させたか(指導)
  • 他社の動向など有益な情報を収集し、分析しているか(情報収集)

人事考課の人事考課には、社員を経営者が理想とする姿に近づけさせる意味合いもあります。例えば、経営者が社員に「一流ホテル並みの接客レベル」を求める場合、顧客応対の考課基準のウエートを他の基準よりも大きくし、現にそれができた社員の評価を高くします。こうすることで、社員は「一流ホテル並みの接客」を実践すれば高い評価を得られると理解し、日々の活動で接客態度を強く意識するようになります。

3)段階評価で人事考課を実施する

人事考課の結果は、「S・A・B・C・D」「5・4・3・2・1」などの基準で示されます。例えば、5段階の場合は次のような基準があります。

  • S(期待する水準を大きく上回った)
  • A(期待する水準を超えて申し分なかった)
  • B(期待水準通りであった)
  • C(期待水準を下回るが、さほど支障がなかった)
  • D(期待水準を下回り、業務に支障があった)

通常、各評価に該当する社員の割合(人数)はある程度決まっており、相対評価によって各社員の評価が決まります。上の場合、どうしても「普通」の評価であるB評価に偏る傾向が否めませんが、このB評価の基準が高ければ、全体的に人事考課のハードルが上がり、逆に低ければ、ハードルが下がります。「普通」の評価は、他の評価の基準を決める重要なものであることを認識しておく必要があります。

3)考課結果を等級制度に反映する

社員を能力・職務・役割などによって区分する制度のことを「等級制度」といいます。等級制度は考課結果を賃金に反映させるための基本で、一般的に知られているのは、社員が従事する仕事の価値の大きさと、それに対する職務遂行能力の程度を職能資格等級にまとめ、その等級に応じた職能給を支払う職能資格制度です。

職能資格制度のイメージは次の通りです。

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この場合、最も高い資格は8級第5号、最も低い資格は3級第1号です。各等級には「○○を遂行することができる」といった要件が定められており、これをクリアした社員は昇格することができます。

例えば、3級第1号の要件が「正しく電話応対をすることができる」であったとすると、これをクリアした社員は3級第2号に昇格することができます。さらに3級第2号の要件をクリアすると4級第1号に昇格します。

4)等級に基づき賃金を支払う

職能資格制度では、職能資格等級に基づく職能給が支払われます。職能給を中心に、その他の賃金要素も組み入れた賃金体系の例は次の通りです。

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勤続給など機能を「安定」に分類した基本給や諸手当は、社員の生活を保障するもので、勤続年数、年齢に比例して高くなります。一方、職能給など機能を「刺激」に分類したものは、社員の企業への貢献度合い、社員個人の能力、社員の権限と責任の範囲などを反映するもので、基本的に勤続年数とは関係なく支払われます。

3 人事考課制度が変わる?

ここまで、世間一般に浸透しているスタンダードな人事考課制度について紹介してきましたが、こうした人事考課制度を見直していこうという動きがあります。

例えば、考課基準については、「目標達成度」など成果に関連する項目のウエートを他の項目よりも大きくし、実際に目標を達成できた社員の評価を高くしていこうと考える会社が少なくありません。

昨今は新型コロナウイルス感染症の影響で、リモートワークの導入に踏み切る企業が増えつつあります。リモートワークはオフィスワークと違って、社員の働きぶりを直接確認するのが難しく、なおかつ上司などのフォローも受けにくいため、「1人でも業務をこなし、成果を出せること」が強く求められます。

「目標達成度」など成果に関連する項目のウエートを他の項目よりも大きくし、実際に目標を達成できた社員の評価を高くしていけば、社員は「成果を挙げられなければ、高い評価を得ることができない」と理解し、より真剣に業務に励むようになると期待できます。

また、等級制度については、職能資格制度の在り方を見直そうとしている会社が多くあります。職能資格制度は、能力主義(職務遂行能力、保有資格などを重視する考え方)に基づく等級制度であり、理屈上は社員の能力に応じた賃金の支払いが可能になります。しかし、実際は、「◯年勤務していれば、〇〇を遂行することができるレベルになっているだろう」といった、年功主義(勤続年数や年齢などを重視する考え方)的な運用をされるケースが少なくありません。

こうした年功主義的な運用に陥るのは、役職や職種の違いによって社員に求められる能力が異なるのに、こうした違いを超えて職能資格等級が設定されており、人事考課の基準が曖昧になりやすいからです。そのため、職能ではなく役割(職務とほぼ同義)によって等級を区分する「役割等級制度」など、他の等級制度に注目する会社もあります。

以上(2020年8月)

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