経営者たる風格をまとうための処方箋

書いてあること

  • 主な読者:経営者として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしたい経営者
  • 課題:心がけているつもりだが、本当に経営者として相応しいか疑問
  • ポイント:評価は周囲がしてくれるもの。日々、真摯に活動する

1 ビジネスにおいて重要な「印象」の効用

1)「見た目」が重要?

人は出会ってからわずか数分間の第一印象で、相手のイメージを固めているそうです。第一印象の決め手は人それぞれで、出会った状況にも影響を受けます。しかし、一説では「見た目」が大きな影響を与えるようです。

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表情やしぐさなど、見た目に関することが55%と高く、話の内容に関することが7%と低いのは意外です。これは、米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが行った非言語コミュニケーションに関する実験結果を応用した考え方だといわれています。

この考え方には、さまざまな説があったり、前提条件があったりするため、「『見た目』が一番」と単純に結論付けることはできません。しかし、日ごろ、自分が相手のどこを見ているのかという実体験からも、「見た目」の重要度が分かります。

2)「好印象」がもたらすメリット

第一印象は強烈に刷り込まれます。仮に、第一印象が「しっかりしていそうな人」であれば、わずか数分のうちに、ある程度、相手の信頼を得られます。逆に、第一印象が「頼りない人」であれば、それを覆すのには苦労します。

一方、深く話し込んでいくうちに、最初のイメージが変わってくるのはよくあります。ただし、これは相手との付き合いが長く続くことが前提であるため、やはり最初に「もう一度、この人に会いたい」と相手に思ってもらうことが重要です。

2 「好印象」は経営者にこそ必要

相手に与える印象の大切さは、経営者こそ認識しなければなりません。経営者は、その存在自体が企業のブランドであり、周囲の人は経営者自身が思っている以上に経営者のことをよく見ているからです。そして、周囲の人は、経営者の「見た目」「しぐさ」「話の内容」などから、経営者自身や企業の実力を推し量っています。加えて、経営者はその対外的な立場(役職)上、出会ったときから高いハードルを相手から課せられています。にもかかわらず経営者の印象が悪いと、相手はがっかりします。

そうならないために、経営者は印象と言動の一貫性を心掛けましょう。つまり、相手が抱いている「この経営者ならこんな言動をしてくれそうだ」といった期待を裏切らない言動を取るのです。印象と言動が一貫した経営者は、相手から見て頼もしく感じられます。その頼もしさは、経営者にふさわしい風格へとつながります。

風格のある経営者は、対内的にも対外的にも強い求心力を発揮します。人を引き付ける魅力を持つことは、ビジネスの可能性を広げる上でとても重要な要素です。以降では、風格のある経営者になっていくための心構えを紹介します。

3 ギャップを認識し、理想の自分像を固める

1)鏡の姿は本物ではない?

日ごろから大勢の人と接し、また皆の手本にならなければならない経営者は、自分が周囲にどのような印象を与えているのかを気にしています。そのため、例えば見た目については、髪形やひげの手入れをしっかりしていますし、身に着けるスーツや小物にもこだわります。

そして、毎朝、鏡に自分の姿を映し、清潔感があるかなどをチェックするわけですが、鏡に映っている自分の姿を見て、「これでよし!」と考えるのは早計かもしれません。なぜなら、鏡に映っているのは、自分を鏡に映す数十秒のためにポーズを決めた“よそ行き”の姿だからです。

鏡に映ったよそ行きの姿は、背筋がピンと伸び、引き締まった真剣な顔あるいは爽やかな笑顔のはずです。しかし、よほど意識していなければ、その姿を長時間キープすることはできません。ふと気を抜いたときの姿は、頼りないものかもしれません。

話し方やしぐさも同様です。気が緩むと、無意識のうちに経営者にふさわしくない言葉遣いになってしまったり、へらへらと軽い印象を与えるしぐさになっていることがあります。そして、そうした経営者の姿を周りの人たちは確実に見ています。経営者が考える自分の姿と、周りの人たちが見ている実際の姿にはギャップを認識しましょう。

2)理想のモデルを見つけ、徹底的にまねる

経営者は理想の姿を明確にイメージしましょう。例えば、「ビジネスに情熱を燃やす、熱い経営者」といった感じです。ただ、これでは漠然としているので、伝説の経営者、現役の経営者の他、ドラマの主人公など「あの人のようになりたい」という具体的なモデルを決めます。そして、話し方や声の大きさなどを徹底的にまねしてみましょう。それを継続していくと、役者が役作りをするように、自分自身に理想のモデルが刷り込まれていきます。

なお、手本とするモデルは、身近にいるメンターが理想です。ビジネスは刻々と変化し、1つとして同じ状況はありません。伝説の経営者の姿勢から学ぶのも大事ですが、経営者にとっては「今、そのとき、どのように行動すべきか」が重要です。その都度、相談できるメンターが手本であれば、実際に話をしながら学び、すぐに実践することができます。

4 見た目や話し方にこだわるが、型にははまらない

1)「見た目」に投資する

「自分は服装にこだわりがないし、それは仕事の質に関係ない」と考える経営者もいます。しかし、それはあくまでも経営者の個人的な考え方です。服装がだらしなければ、周囲はマイナスの印象を持ちます。

今では、夏場のクールビズやスーパークールビズが普及し、ノータイ、ノージャケットでも違和感がなくなりました。また、業種によって異なりますが、会談にジーンズ姿で現れる経営者もいます。しかし、いくら時代の流れとはいえ、大切な会談の場にジーンズ姿やよれよれのワイシャツで現れる経営者がいたら、違和感を覚える人が少なくないでしょう。

また、「服装など見た目に気を使えない人は、仕事も大ざっぱで、細かなことに気が付かないのでは?」と考えられてしまいます。華美な格好をする必要はありませんが、経営者にふさわしい格好を心掛けなければなりません。イメージコンサルタントに相談すれば、パーソナルカラーや似合う髪形などを診断してくれるので、そうしたサービスを利用するのも1つの方法です。

2)マナーにこだわり過ぎない

正しい言葉遣いや礼儀正しい立ち居振る舞いは、相手にプラスの印象を与えます。ただし、マナーを意識し過ぎるのも問題です。例えば、せっかく面白い話をしているのに、表情は真面目なまま、手は膝の上かテーブルの上で重ねられたままだと、相手はロボットと話をしているような感覚になってしまうかもしれません。

また、相手が「もう、かなり打ち解けたつもり。あるいは打ち解けていきたい」と考えて、少しラフな話し方を織り交ぜてきているのに、こちらが常に真面目なだけの一本調子だと、相手が「この経営者は、こちらと打ち解けるつもりがないかもしれない」と勘違いします。同様に、経営者が終始表情を変えずに真面目な顔をしていると、相手に「この経営者には余裕がないのではないか?」と思われることもあります。

マナーを重んじるのは大切です。しかし、しゃくし定規では面白みがなく、相手と深く打ち解ける機会をなくしてしまうことがあるので注意が必要です。難しいのは、どの辺りまでマナーを崩してよいかというレベル感ですが、基本的に基準は相手にあります。

つまり、相手が打ち解けてきたら、相手よりも少しだけ礼儀正しくしていればよいのです。これであれば、常に相手よりも礼儀正しいことになるため、相手から「失礼だ!」と思われることはないでしょう。

5 常に謙虚な姿勢で、物事に応じて力強く主張する

1)本業はしっかり突っ込む、それ以外も人より突っ込む

相手と話をする際は、話の内容や相手の立場(こちらとの力関係)に応じて、話す時間と聞く時間のバランスを考えましょう。中には、相手が話している話題を強引に自分の話題に置き換え、自分の話ばかりをする経営者もいるようですが、これでは相手に自分勝手な印象を与えてしまいます。

ただし、どのようなシーンであっても、経営者は「自分の会社の本業」(以下「本業」)については、時間をかけてしっかりと話さなければなりません。経営者たるもの、本業について誇りを持ち、誰にも負けないくらいに深く突っ込んで考えていて当然です。

逆にそこが不十分で、本業について質問を受けても「よく分からないのですが……」とか、「そこについては情報が不足しておりまして……」といったような回答しかできないようでは、相手に不信感を与えてしまいます。

加えて、本業に関係のないことについても、他の人よりも少しだけ深く突っ込んで情報収集し、自分なりの考えをまとめておく習慣をつけましょう。相手は、「経営者なのだから、自分なりの主張があって当たり前」と考えています。新聞の一面やテレビのニュースで報じられた内容をそのまま話すのではなく、そこに自分なりの考えを加えると発言に重みが出てきて、相手は「やはり、経営者は物事を深く考えているな」とプラスの印象を持ちます。

2)威張るのは論外、しかし主張を控え過ぎるのも影が薄い

経営者の社内での権限は大きなものであり、大抵のことについては自分が思うように社員に指示することができます。社員を導くことは経営者の役割であり、強いリーダーシップを発揮したいものです。社外の人に対しても同様です。企業を代表する経営者の影響力は社外でも強く、皆、経営者がどのような発言をするのか注意深く見ています。

しかし、これを「自分の力」と勘違いしてはいけません。社内と社外を問わず、経営者という役職に対して敬意を払っている人も多く、必ずしも経営者自身の人間性を認めているわけではありません。そのため、経営者は謙虚な姿勢を崩すことなく、どのような相手に対しても真摯に接することが基本です。

6 自信は周囲が与えてくれるもの

経営者は自分に自信を持ちたいと思っています。企業経営の根幹に関わる決断をしなければならない経営者にとって、自分の能力や決断をどれだけ信じられるかが勝負の分かれ道になることもあります。

しかし、経営者の実感としては、「よし、うまくいったぞ!!」という感情は一瞬にして過ぎ去ります。逆に「あのとき、こうしていれば違う結果になったかもしれない……」という感情に支配される時間が長くなりがちです。

このようなとき、もっと自分や社員を信じて頑張ろうと自分自身を奮い立たせます。ただし、無理やり自信を持とうとしてみても、なかなか自分の意識の中に定着していきません。そのような自信は、から元気のようなものだからです。

自信は周囲が与えてくれるものです。例えば、会社の業績が好調ならば、自分のやってきたことは間違いなかったと自信を持つことができます。あるいは、社外の人から「この前の商品は着眼点が素晴らしいですね。ぜひ、話を聞かせてください」などと言われると、素直にうれしい気持ちになり、そうした成功体験は大きな自信となります。

そして、周囲から与えられた自信を定着させていくために必要なのが、たゆまぬ努力です。自信が持てるような成功体験をしたら、それに慢心することなく成功の要因を探り、次にもっと素晴らしい成功を収めることができるように努力しなければなりません。

こうした取り組みを通じて、周囲から与えられた自信が自分の中に定着し、いざというときに「あのときも頑張れた。今回だって成功させてみせる!!」というポジティブな考え方につながっていきます。

そうしたポジティブで情熱的な経営者は、周囲に「元気」を与えます。相手に好印象を与える要素には、「見た目」「しぐさ」「話の内容」などがありますが、それ以上に、経営者の場合は「情熱」が求められるでしょう。

以上(2019年4月)

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タフな交渉だからこそ前に出る/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「経営者の英才教育が部下を潰すこともある」「縁の下の力持ちの生産性を高める」「タフな交渉だからこそ前に出る」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 経営者の英才教育が部下を潰すこともある

部下を平等に扱おうと考える上司は少なくありません。今どきは、パワーハラスメントなどの問題もあるので、日ごろの接し方はもちろん、処遇もあまり差をつけないほうが無難であるという考えが広まっているためかもしれません。

しかし、多くの経営者はこのようには考えません。部下の能力や就業姿勢、会社への貢献度には顕著な差があるため、そもそも平等に扱うこと自体が平等ではないのです。実際、経営者は「見込みがある!」と感じた社員に英才教育をします。

例えば、今のその社員の実力では対応が難しい仕事を任せてみたり、年上のメンバーがいるチームをマネジメントさせたりします。そして、壁にぶつかった社員がどのように対応するのかを観察し、必要に応じてサポートしながら、困難に向き合う考え方や、それを克服する手法を教えていきます。

ただし、経営者の英才教育を受けて成長できるのは、素養と熱意がある社員だけです。「困難を乗り越えて成長したい。足りないことは勉強する」と考える部下は、経営者の指導を意気に感じて仕事に打ち込むでしょう。

しかし、そうした気持ちがない、あるいは壁を突破できずに気持ちが後ろ向きになってしまった部下は、経営者の期待をプレッシャーに感じます。その部下はやがてやる気を失い、ボタンの掛け違いが起こるとパワーハラスメント問題に発展したり、会社を辞めてしまうこともあります。

良い意味でひいきをするのが経営者の考え方ですが、場合によっては優秀な社員を失ってしまう恐れがあることも忘れないようにしましょう。

3 縁の下の力持ちの生産性を高める

パレートの法則は、俗に「28の法則」や「262の法則」と呼ばれるもので、「収益の80%は、上位20%の顧客から生まれている」というのが基本的な考え方です。最も効果が大きいところに注力するのが経営の定石なので、収益を上げるには上位20%の顧客にアプローチすることになります。

また、パレートの法則は社員の働きぶりに当てはめて議論されることもあります。その内容は「社員は優秀な20%、普通の60%、いまひとつの20%に分かれる」というもので、定石通りなら、優秀な20%の社員を重視したマネジメントをすることになります。

しかし、多くの経営者はそうした組織運営ではうまくいかないことを知っていて、普通の60%やいまひとつの20%に配慮します。なぜなら、優秀な20%の社員が輝けるのは、その他80%の社員のサポートがあるからです。それに、優秀な20%は放っておいても成果を上げます。経営者はそうした社員に権限を与え、任せておけばよいのです。

手が掛かるのは残りの80%の社員です。優秀な20%が立ち上げたビジネスを、実務家としてこなすのは普通の60%の社員、さらに役割分担の隙間に生じる、単純だが面倒な仕事をしているのはいまひとつの20%の社員です。そうなると、普通の60%の社員といまひとつの20%の社員をマネジメントすれば、全体の生産性が高まりやすくなるのです。

ただし、20%、60%、20%の割合を意識し過ぎてはいけません。この割合は社員の能力を相対的に比較した結果です。仮にドリームチームであっても、20%、60%、20%が生じます。

また、上位20%にいる社員が常にそこに居続けられるわけではありません。とても優秀な社員が入ってくれば、それに押し出されて普通の社員になる優秀な社員が出てきます。この社員のフォローを怠ると、直前まで優秀な社員のグループにいた貴重な戦力がやる気を失ってしまいかねません。

経営者は、縁の下の力持ちになっている社員のマネジメントをすると同時に、相対的に生じる20%、60%、20%だけではなく、個々の社員の業務遂行力の総和を高める努力をしなければなりません。

4 タフな交渉だからこそ前に出る

大幅な減額要請やライセンス契約の打ち切りなど、ビジネスではタフな交渉に臨まなければならないことがあります。このようなとき、「今回は守勢に回らざるを得ない」と身構える人が多いでしょう。相手を怒らせないことが肝心だと思っているからです。

しかし、経営者はそのようなときこそ強気に出るという選択肢も持っています。日ごろ、相手の要求をできるだけ受け入れながら低姿勢でビジネスを進めるのは、こびへつらうわけではなく、いざというときにきちんと主張するためです。大幅な減額要請などを受けたとしたらそれは緊急事態です。

また、相手もそれなりに検討しての結果のはずなので、こちらが気を使ったところで要求が緩和されることはほぼないでしょう。また、相手の要求を簡単に受け入れて、「すんなりと減額できた」と軽い印象を残すのもよくありません。

そのため、社員から見て守るしかないというときに、経営者は前に出る選択をすることがあるのです。普段はおとなしいこちらが強く主張すると、相手の機嫌を損ねるかもしれません。結果的に大きな減額を受け入れざるを得なくなったとしても、そこに至るまでのプロセスは全く違ったものになります。その場は厳しい結果になっても、こちらの誠意と熱意を伝えることで、次につながる可能性があります。

ゼロサムの交渉で損失を食い止めることを重視するか、最悪の事態も覚悟した上でプラスサムを目指すのか。どちらが正しいかはケース・バイ・ケースですが、大事な局面でこそ、経営者ならではの発想で進むべき道を決断しなければなりません。

ただし、こうした交渉ができる前提は、日ごろからきちんとサービスを提供していることです。ミスが頻発しているなど、相手のこちらに対する評価が低い状態で強い交渉に臨めば、その場で契約解消の話が出てきても不思議ではありません。このようなときこそ、経営者は窓口になっている社員の言葉に真摯に耳を傾けなければなりません。

以上(2020年7月)

pj10027
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不確定な未来に何を夢見るかが勝負/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「誰かに相談されたら全力で答える」「“生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる」「不確定な未来に何を夢見るかが勝負」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 誰かに相談されたら全力で答える

ビジネスに関して、他人からアドバイスを求められることがあります。自分の得意分野や、かつて経験したことがある事柄ならば、自信を持って回答できるでしょう。しかし、そうではない場合、多くの人は「間違えたことを言ったら格好悪い」などと考え、いつものように話せなくなります。

この点、多くの経営者は、そうした態度を取ることは逆に相手に対して失礼であると考えています。相手と自分の立場を入れ替えて考えれば、その理由は明らかです。人は、本当に悩んでいて、「その人に相談したい!」と思うから、真剣にアドバイスを求めてくるのです。にもかかわらず、自信なさげだったり、“逃げを打って”当たり障りのないことしか言わなかったりするのは、相手の思いを軽んじることにつながります。

多くの経営者にはメンターがいます。そして、本気で悩んだときにメンターにアドバイスを求めます。日ごろ、こうした経験をしている経営者は、自分がアドバイスを求められれば、当たり前のように全力で答えるのです。

ただし、たとえ経営者に「相手に礼を尽くす」という思いがあっても、的を射ない話ばかりでは、相手の問題解決にはつながりません。少し見方を変えると、その相手は別の誰かに相談したほうが有意義なアドバイスを得られた可能性があり、この点において機会損失が発生していることになるのです。

大切なのは、相手の問題解決をサポートすることです。もし、有意義な回答ができそうもないときには、「私も少し考えてみるから、日を改めて話そう」と言って、経営者自身の考えをまとめる時間を確保したり、「その点については、私よりも○○さんのほうが、良いアドバイスをしてくれると思うよ」といったように、別の選択肢を示したりすることも大切です。

3 “生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる

多くの社員は、ビジネスプランは細部まで徹底的に練り込んだほうが成功の確率が高くなると考えています。同時に、社員は失敗を過度に恐れて弱気になり、その時点では見えるはずのないものまで見ようとしていることもあります。

経営者も、細部まで練り込んだビジネスプランのほうが好ましいことは分かっています。ただし、そこまで調査するには時間がかかり、他社に先を越されてしまうリスクがあることを懸念しています。また、そもそもその時点でどんなに考えてみたところで、「やってみなければ分からない」ことがビジネスには多いことも知っています。

そのため経営者は、“生煮え”の状態でビジネスのスタートを切ります。ここでいう“生煮え”とは、思いつきに近く、突っ込みどころ満載の状態のことではありません。もっと詰めなければならないところはあるものの、それは実際にビジネスを進めながら解決していけばカバーできると思えるレベルです。社員が「失敗したくない」と考えるのに対し、経営者は「やってみなければ、成功も失敗もない」と考えています。

このことを感覚的に理解している社員もいます。しかし、“生煮え”のレベルは分からないことが多々あり、多くはそこで思考停止となり、活動を前提とした準備をしません。そうした状態で、経営者がアクセルやブレーキを踏むことになるため、社員は驚いてしまいます。経営者にとっては当たり前のタイミングでも、社員にとっては急発進、急停止に感じられることがあります。これではトラブルが起こりかねません。

そこで経営者は、できるだけ明確にアクセルとブレーキを踏む根拠、つまり“生煮え”のレベル感を社員に示し、社員が態勢を整える時間を与えた上で、実際にアクセルとブレーキを踏むように心掛けなければなりません。経営のかじ取りは経営者の役割ですが、現場でオペレーションをするのは社員です。現場が混乱した状態では、ビジネスで良い成果を期待するのは難しいのです。

4 不確定な未来に何を夢見るかが勝負

ビジネスは不確定要素の連続です。これがビジネスの難しさであり、面白さでもあるのですが、このことを言い訳にする社員が少なくありません。「先のことなど分からないのだから、もう少し先が見えてきてから動こう」といった具合です。

確かに未来のことは誰にも分かりませんが、経営者がこのことを言い訳にすることはありません。むしろ、ビジネスチャンスであると前向きに捉えています。なぜなら、未来を誰も知らないということは、大企業も中小企業も平等な状態にあるということであり、発想と行動力次第では、大企業に先駆けて成功できるチャンスがあるということだからです。

そのため、経営者は寸暇を惜しんで情報収集をします。そして、自分なりに未来のイメージを固めていきます。例えば、将来人口推計のように、今の人口動態からある程度明らかになることがあります。また、特にテクノロジーの進化によって実現するだろうという仮説が立てられるものもあります。自動運転のようなものです。

こうした断片的な情報をつなぎ合わせて、例えば「未来の世界に、『あらかじめスマートフォンやカーナビゲーションに病院や介護施設を登録しておけば、高齢者が運転しなくても、自動運転で安全に目的地に行けるサービス』があれば、きっと市場に受け入れられるだろう」などと、具体的なビジネスプランに落とし込んでいくのです。

未来は分からなくて当然であり、やらないことの言い訳にはなりません。また、分からないといいつつも、既に実現することが明らかな未来があるのも事実です。経営者は、情報収集を通じて国内外の新旧のビジネスモデルを知ることに余念がなく、常に想像力を膨らませてリアルのビジネスに結び付けるヒントを探っています。これはとても大切なことなのです。

ただし、不確定要素を独り善がりにつなぎ合わせて、都合の良い未来像ばかりを思い描くのはいけません。自分の考えについて社内外の人から意見を求め、行きつ戻りつの“思考実験”を繰り返すことを忘れないようにしましょう。

以上(2020年7月)

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画像:unsplash

信頼される会社作りの第一歩

書いてあること

  • 主な読者:社外からの評価を高めたいと考える経営者
  • 課題:自社の評価をどう高めればいいのか分からない
  • 解決策:納得感のある経営・収支計画書を用意する他、金融機関や取引先に明確に業況説明できるようにする

1 自社の評価が気になる

経営者にとって、自社の評価はとても気になります。その評価が、ビジネスに少なからぬ影響を及ぼすからです。分かりやすいのは、金融機関からの借り入れです。金融機関の評価が高ければ、よい条件で資金調達ができます。

この他にも、SNSの評価によって人材が採用しやすくなったり、しにくくなったりすることがあります。これまで広報担当をおいていなかった中小企業が自社のブランディングに乗り出しているのはこのためです。

これまで以上に自社の評価が気になる時代。経営者はどのような取り組みをすればよいのでしょうか。ここでは、金融機関や取引先など、社外からの評価を高めることを想定し、そのポイントを紹介していきます。

2 経営・収支計画書に具体性はあるか?

社外の人は、会社の経営・収支計画書(以下「計画書」)に注目します。特に数字には「具体性」が求められます。例えば、今期の売上予測を、「政府の〇〇という政策の追い風に乗って、対前年度比30%増の見込み」といったように曖昧に記述している場合は、見直しが求められるでしょう。

この例では、売り上げが対前年度比30%増になる根拠を「○○という政策」という一言で表現していますが、これでは売上の増加につながる具体的な要因が分からないので、社外の人はその内容を信用してくれません。この場合、成長戦略が具体的にどのような追い風になっているのかを示す必要があります。例えば次の通りです。

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数字には必ず根拠があります。その根拠を明確に示すことで信頼性が高まります。図表1では「新規の受注先の獲得」とだけありますが、実際は件数や金額についても必要に応じて記述するようにします。

なお、数字はあくまでも予測です。そのため、販売価格下落や原価高騰などマイナス要因が発生する可能性を安易に排除せず、「販売価格は低めに、原材料価格は高めに」といったように、保守的に作成することが基本です。

とはいえ、数字の見せ方には工夫が必要です。真実の数字を記述しますが、「絶対額で示すか、比率で示すか」「前年度対比で示すか、計画比で示すか」「売り上げを強調するか、利益を強調するか」などに気を配ると、計画書の迫力が違ってきます。

最後に、ありがちなパターンとして、売上は伸びているのに、売上原価や販売費及び一般管理費(以下「販管費」)は変化しないといった計画書を見かけますが、これは問題です。

通常、売り上げの伸びに応じて売上原価や販管費も相応に増えていくため、この点も明確にしましょう。その際、売上原価や販管費が伸びている理由が、将来への投資なのか、現状維持のためなのか、計画外の支出なのかも明確にします。

3 各種指標の数値は良好か?

経営者はキャッシュフローの重要性は理解しているはずです。これは社外の人も同様です。社外の人は、さまざまな資料を見て自社を評価していますが、営業キャッシュフローは特に注目される指標です。

企業の成長ステージや経営者の考え方によって方針(投資するか、しないか)は変わるものですが、少なくとも「営業キャッシュフロー」はプラスを維持しなければならないでしょう(創業間もない企業などの場合は別です)。

仮に、営業キャッシュフローがマイナスになっている場合、その理由と今後の状況についてきちんと説明できなければなりません。特に金融機関との関係構築は経営者の重要な仕事です。「事実をきちんと説明する責任」が経営者にはありますし、そうした真摯な姿勢は少なからず評価されるでしょう。

営業キャッシュフローと同様に、正味資産も重要な指標です。正味資産とは、総資産から不良債権・在庫、償却不足や仮払金などを控除し、保有資産の時価と簿価の差額を加減した数字です。つまり、真水でどれだけの資産があるかを示したものであり、これが大きければ、一時的な経営悪化は乗り越えられる可能性が高くなります。

社外の人は自社の簿価ばかり見ているわけではなく、正味資産などから本当の力を探っています。経営者は自社の正味資産を把握し、その内容についてきちんと説明できるようにしておかなければなりません。

4 取引先の状況を管理しているか?

社外の人の自社に対する評価を高めようとする場合、自社の内部だけではなく、取引先など社外にも目を向けてみましょう。例えば、取引先は大切なパートナーですが、その経営状況に注意しておかないと、取引先に万一のことが起きた際、自社にも影響が及びます。

「急に取引先が破綻し、売掛金を回収できなくなった」といったことがないように、日ごろから「取引先チェックシート」(仮称)を用いて取引先の経営状況を把握しておきましょう。取引先の経営状況がある程度把握できることに加え、気付かないうちに反社会的勢力と取引してしまうリスクも低減できるでしょう。

取引先管理では相手の決算情報を把握することが基本です。これについてはIR情報や四季報、各種企業情報データベースはもちろん、同業他社に業況を尋ねるなどして、取引先の状況に関する情報を把握するとよいでしょう。金融機関の経営サポートサービスに調査サービスがある場合は、これを利用するのも一策です。

また、日々の経営においては「取引金額の推移」に着目しましょう。特段の理由がないにもかかわらず取引金額が大きく増減していたり、入金・支払いサイトが変更されていたりしないでしょうか。

もしそうならば、取引先に何か変化があったサインかもしれないので、きちんと確認しましょう。例えば、入金・支払いサイトに変更があったときであれば、取引先で焦げ付きや資金繰り上の問題が発生している可能性があるので注意が必要です。

自社がこのように取引先管理をしていることを、必要に応じて社外の人に説明するようにしましょう。社外の人は、自社のみならず関係する取引先なども含めて総合的に自社を評価するものだからです。

5 取引金融機関と良好な関係を築いているか?

取引金融機関と良好な関係を築くための基本は、「経営が安定しているときも、不安定なときも、経営者や経理担当者が取引金融機関に出向き、業況についてきちんと説明する」ことです。

また、金融機関の担当者が定期的に訪問してくれるならば、資金繰りや計画書に関するアドバイスを求めるとよいでしょう。その際、金融機関から明確な答えを得ることよりも、担当者とコミュニケーションを図ると同時に、自社の状況を理解してもらうことが大切です。

このようにコミュニケーションを深めつつ情報開示を行うことは、いざというときに効果を発揮します。資金繰りが苦しくなる見通しが生じても、それまで適宜伝えた情報を踏まえ、金融機関と対策を考えることができるからです。

なお、取引の規模にもよりますが、経営者や社員による個人名義取引も意味があります。金融機関側は総合的に採算性を検討することもあるので、法人借入に加え、個人の住宅ローンなどの状況も意識してくれるかもしれません。

6 経営者に求められる役割

1)主要な数字は暗記する

経営者が売り上げや利益、業界でのシェアなど主要な数字を暗記しているのは当然です。社外の人からみても、経営者が売り上げや利益などを知っているのは当たり前であり、そうでなければ信頼してもらえません。

同様のことが、他の取締役やある程度の役職の社員にもいえます。副社長、専務、常務などの取締役は当然のこと、執行役員、事業本部長、部長、課長クラスの社員が売り上げなどを把握していないと、社外の人は「経営者がワンマンで情報が開示されていないのではないか」「経営状況が悪く、数字を公表できないのではないか」「そもそも、この会社の取締役や執行役員は大丈夫か?」と不安になります。

ある上場企業の経営者は、売上目標を語呂合わせで覚えやすいフレーズにして、合同朝礼で全社員に伝えているそうです。こうした取り組みを通じて、「○億円」という明確な目標を共有していく努力が経営者には求められます。

2)金融機関や取引先への業況説明に際しての留意点

金融機関や取引先へ業況に関する説明をする際に、特に注意が必要なのは、過去2年にわたって業績が優れないときです。図表2では第3期~第5期までが該当します。

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金融機関や取引先は、相手の業績を評価する際には3年程度の財務諸表を基にするのが一般的です。そのため、それ以前の業績が良好であったり(第1期~第3期)、次の期が増収計画(第6期)であっても、厳しい評価を受けることがあります。

経営者の重要な仕事は、第6期のために借り入れの継続や増額を実現することであり、その条件は高いに越したことはありません。信頼性のある計画書の提出など、日ごろからの金融機関とのコミュニケーションの度合いが試されるといえるでしょう。

なお、業績が悪化している場合は、将来の増収計画だけではなく、業績悪化の原因を正しく分析・把握し、それに対する有効な対策を検討・実施していることを明確に伝えることが大切です。

3)数字と情熱のバランス

社外の人の評価を高める上で経営者がまず実践すべきことは、経営の状況を把握することです。トレンドを次のような矢印でイメージしつつ、売上高など重要な数字は暗記するようにします。

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経営者は常にビジネスの先を読んで決断していかなければなりません。矢印の延長線上にどのような未来をイメージするかは、日ごろの情報収集と経営者のセンスによって決まります。

経営者の言動には常に根拠が求められます。その根拠は、情報収集活動から導き出された明快なものであればあるほど好ましいのですが、経営の全てが数字で表せるわけではありません。どんなに調べても考えても、不確定な要素はゼロになりません。

それでも前に進み続けるのは経営者に情熱があるからであり、これが組織のエンジンになっているのです。社外の人は経営者の情熱にも注目しています。根拠ある数字と経営者の熱い言葉がセットになったとき、自社の信頼性は高まるといえるでしょう。

以上(2019年4月)

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プロに聞く! 進捗がひと目で分かる「スケジュール管理表」作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:主な読者:作業の進捗や工程を管理するプロジェクトリーダーなど
  • 課題:作業の進捗や遅延を把握できない、遅延が後工程にどう影響するのか分からない、スケジュール管理表が形骸化しているなど
  • 解決策:プロジェクトに関連する情報を集約したり、従業員の作業内容を“見せる化”したりするなどの取り組みが必要

1 グループウェア開発企業にスケジュール管理のコツを聞く

プロジェクトの進捗を管理するために、Googleカレンダーなどのスケジューラーやエクセルを使う企業は少なくありません。しかし、工程管理表などを作ったものの十分活用していないと頭を抱えるプロジェクトリーダーは少なくないはずです。

スケジュール管理を形骸化させないためには、管理表をどう使いこなすべきでしょうか。

カレンダーやプロジェクト管理などの機能を備えるグループウェア「desknet’s NEO」を開発するネオジャパンのマーケティング統括部 マネージャーの正木伸城氏に、スケジュール管理のコツを聞きました。

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Q.1-1 スケジュール管理が失敗しがちな理由は?

プロジェクトに携わる人にとって必要な情報が、管理表に載っていないことが理由の1つです。管理表に書き込めるスペースの問題だと思いますが、作業名だけが記載され、具体的な内容は分からないというケースが目立ちます。自分が直接関わらない作業でも、どんな作業があるのか、後工程でどれくらい時間が掛かるのかなどを推察できる程度の情報は必須でしょう。

古い情報が載っているケースもあります。週次や日次、時間単位で進捗を管理しなければならないプロジェクトでは情報の鮮度が大事です。更新が滞れば管理表の信頼は失われ、プロジェクトの成功さえ危ぶまれます。作業の進捗率はもとより、作業に必要なマニュアルや資料なども適宜更新すべきです。リアルタイムに更新するのが理想ですが、頻繁に更新するケースはまれです。無理のない範囲で、せめてお昼や夕方など、1日に数回は進捗率などを更新するルールを決めるとよいでしょう。

Q.1-2 スケジュールの変更を管理表に反映するときの注意点は?

スケジュールの変更は影響範囲を考慮することが不可欠です。そのため、プロジェクトリーダーにはスケジュール変更による影響を洗い出し、必要な人員や時間、コストを算出した上でスケジュールを引き直す“調整力”が求められます。

例えば前工程が大幅に遅れたものの納期を延ばせない場合、後工程の作業時間を圧縮しなければなりません。従業員の負荷がどの程度増すのか、増員や残業しなければならないのか、さらには同時並行で進む他プロジェクトにも遅延の影響が及ぶのかも考慮しなければなりません。

Q.1-3 管理表を賢く運用するには?

分かりやすさ、見やすさにこだわるべきです。必要最低限の情報は記載すべきですが、ごちゃごちゃと書かれた管理表は状況を理解しづらくするだけです。

こんなとき活用したいのがアイコンです。作業の進捗率を数字ではなく、アイコンを使って直感的に把握できるようにするのもお勧めです。当社の顧客の中には、作業の進捗率を月の満ち欠けを模したアイコンで表現する事例もあります。三日月形のアイコンなら進捗率30%、半月形なら50%といった具合です。

色分けするのも手です。例えば、作業が遅れそうなら黄色、遅れだしたら赤色で示すだけでも効果を見込めます。ホワイトボードに管理表を書いているなら、色付きのマグネットを使ってもよいでしょう。作業の状況ごとの色を会社で統一しておけば、プロジェクトの内容を問わず、色だけで作業の進捗や遅延をおよそ把握できるようになります。

プロジェクトに関わる情報を管理表にひもづけることも大切です。予定は管理表、作業の詳細はガントチャート、作業に必要な資料や申請書はファイルサーバーといった具合に、情報が散在しているケースは珍しくありませんが、これでは管理しにくくなります。ポイントは、管理表からガントチャートやファイルサーバーへ容易にアクセスできるようにすることです。管理表を見ながらガントチャートをすぐに開く、あるいは必要書類をすぐ呼び出すといった効率性を徹底することが何より重要です。

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2 プロジェクト管理ツール開発企業にスケジュール管理のコツを聞く 

計画と実績の乖離(かいり)を把握する予実管理を実施したいけれど、必要な情報が管理表に記載されていないと嘆くプロジェクトリーダーは多いのではないでしょうか。

では、予実管理を成功へと導くためには何を見直し、どんな工夫をすることが必要なのでしょうか。プロジェクト管理ツール「TimeKrei(タイムクレイ)」を開発するテンダのITソリューション事業部 執行役員事業部長の高木洋充氏と、同事業部 副事業部長兼仙台支店長の村山友樹氏に管理のコツを聞きました。

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Q.2-1 予実管理が失敗しがちな理由は?

村山氏
本来は事前に作業ごとの時間や原価を設定した上で実績と比較すべきですが、そこまで取り組めない事例が目立ちます。管理表に作業時間や進捗率の記載を徹底できたとしても、予定と比較するにはそれらを集計する手間も掛かります。エクセルで予実管理に取り組んだものの、集計に費やす時間と手間に見合わないと挫折した事例は少なくありません。

高木氏
カレンダーやエクセルでスケジュール管理はできても、予実管理を実践するのは難しいでしょう。予実の把握も含めたスケジュール管理に取り組むのなら、作業時間だけではなく原価も把握できる専用のITツールを検討すべきではないかと考えます。

特に経営者は、プロジェクトのスケジュールと併せて原価も把握したいはずです。こうしたニーズにカレンダーやエクセルでも応えられるものの、情報を収集、整理、分析する時間と手間は覚悟すべきでしょう。

もっとも予実管理を徹底できれば、作業時間を短縮できそうな作業を洗い出せます。短縮可能な作業を把握できることから、遅延による影響をどの作業で吸収すべきかを決める判断材料にもなります。予定変更によってスケジュールを調整する、プロジェクトのコストを見直すといったときに強みを発揮します。

Q.2-2 予実管理を根付かせるためには?

村山氏
進捗率の精度を高めるため、進捗率の考え方を統一すべきです。従業員が自身の作業の進捗率を管理表などに記載する場合、人によって「進捗率」の捉え方が異なることがあります。例えば、自分の中では作業し終えたので「100%」と記入する人がいる一方で、作業終了後、上司に確認してもらうので「90%」と記入する人もいます。こうしたわずかな揺らぎが予実の精度を下げ、予実管理の定着を妨げる要因になります。

製造業なら、作り終えた製造物の個数で進捗率を容易に示せますが、システムのように進捗率を示しにくい成果物は多々あります。会社として、どんなケースなら進捗率が何%になるのかをきちんと明示すべきでしょう。

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高木氏
予実管理を根付かせるにはトップダウンによる取り組みも必要です。現場にとって作業の進捗を管理表に記載するのは手間なもの。余計な仕事が増えたとつい受け止められがちです。そこで場合によっては、経営者やプロジェクトリーダーが先頭に立ち、作業時間や作業の進捗率を正しく記載することの必要性を訴求すべきです。

予実管理は現場にメリットがあることを理解してもらうのも手です。一番のメリットが「見せる化」です。プロジェクトに携わる従業員は、「自分の1日の作業内容はギッシリで、新たな作業を引き受ける余裕はありません」「自分はこれらの作業を1日で終わらせています。作業の効率化に努めています」などと、プロジェクトリーダーに作業状況を示すことで、自身の姿勢や取り組みを理解してもらえるようになります。作業状況を「見せる化」する取り組みが、結果として実績の記載を促進し、予実管理の定着に向けて作用します。

Q.2-3 予実を把握できるようにするスケジュール管理のコツは?<

村山氏
予実管理では、作業予定時間や原価と、実際の作業時間や進捗率を記載しなければなりませんが、最初から全てを記載する必要はありません。まずは誰がどの作業に何時間関わったのかという実績だけ記載すれば十分です。1カ月程度の実績を集めたら、プロジェクトに潜む無駄を探ってみましょう。次のステップで、作業予定時間や原価を設定し、予実を把握できるようにします。こうして段階的に取り組む事例は少なくありません。

また、複数のプロジェクトを同時に走らせる企業の場合、経営者向けに各プロジェクトの「進捗」と「遅延」だけでも横断的に確認できるようにすべきです。複数のプロジェクト全体を俯瞰(ふかん)するための管理表、各プロジェクトの詳細を把握するための管理表といった具合に、プロジェクトを見る人の立場に応じて粒度の異なる管理表を用意しておくのが望ましいでしょう。

以上(2020年1月)

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サービス業の「時短」で生産性を上げるには

書いてあること

  • 主な読者:時短を実現しながら、収益(売上や利益)も維持・向上したいサービス事業者
  • 課題:強引に60秒を50秒に短縮しても、手待ち時間が増えるだけだし、サービスも劣化する
  • 解決策:必要なサービスを必要なときに提供するためのマルチタスク化とプロット図などを使った人員投入量の調整。人事制度の見直しも必須

サービス業の「時短」で手っ取り早いのは残業削減です。しかし、強引に進めるとサービスが雑になるなどお客さまの満足度が下がり、結果として収益に影響しかねません。

時短を実現しながら、収益も維持・向上するにはどうしたらよいか?
フィールドワークを徹底的に積み重ね、サービス業の現場における時短の方法を体系的に分析した「時短の科学」(日経BP)の著者である内藤耕氏に話を聞きました。

1 「客離れ」のときこそ時短のチャンス

PEST

災害時など、客足が急速に遠のいたとき、人件費など固定費の重さを痛感します。そのようなときは、労働時間の時短によって固定費を下げるといった、普段できないことにチャレンジする機会です。そしてこの取り組みは、客足が戻ったときにさらなる成果として表れます。

単に労働時間を減らそうとすると、収益(売上や利益)の減少につながりかねません。そのため、少なくとも収益を維持したまま、同じ仕事量を今より短い労働時間でできるようにする「生産性向上」が重要です。

生産性向上をしっかりと実現している企業は、他よりも早く客足が回復します。例えば、2011年に発生した東日本大震災では、発生直後の計画停電の最中にもかかわらず、3月下旬から予約が入り始めた神奈川県の旅館があります。

客足の戻りが早かった企業に共通するのは、遠方ではなく、近隣の個人客が応援に来たことです。普段からサービスが良くなければ、近隣の個人客には支持されません。つまり、お客に支持されるものを、きちんと無駄なく提供できる生産性を実現することが重要なのです。ポイントは、時短によって生産性と品質の向上を同時に実現することです。

2 忙しい時間ではなく、ひまな時間を管理する

時短による生産性と品質の向上を両立させるポイントは、残業など「忙しく仕事をしている時間」をどうするかではなく、「お客がいない閑散時間・閑散日」でいかに時短をするかです。現場の手待ち時間を見つけ出し、シフトを修正するなどして従業員の労働時間や休日を柔軟にコントロールすれば、収益に影響を与えずに時短を実現できます。

現場の手待ち時間を見つける方法として、プロット分析があります。とても簡単な方法で、横軸に客数や売上などの作業量、縦軸はその日の出勤者数や労働時間でグラフに記入します。作業量に対して労働投入量が適正かどうかを見ることができます。

PEST

3 サービス業の生産性向上は製造業とは違う

次に、生産性向上の中身を考えていきましょう。とかく「作業時間をいかに短くするか」という点が注目されがちです。60秒かかる作業を50秒にすれば、作業時間を約20%削減できるという考え方ですが、これで生産性が向上するのは製造業だけです。

製造業は在庫できるため、作業のスピードを上げるほどたくさん作ることができます。しかし、サービスはお客が買うときにしか提供できず、在庫できません。今日の患者の診察を、医者が前もって昨日できないことと同じです。

だから、ラーメン1杯の調理時間を10分から5分に減らしても、お客が15分おきにしか来なければ、手待ち時間が増えるだけになり、労働時間の削減にはつながらないのです。サービス業の労働時間は営業時間によって決まるのであって、作業時間の合計ではありません。

4 時短と品質向上を両立させるには?

時短と品質向上を両立させるために重要なのは、作業時間の短縮よりも、「お客がいるときに、必要なサービスを、きちんと提供できるようにする」こと。つまり、作業のタイミングを合わせるということです。どういうことか、成功事例で見てみましょう。

例えば、福井県の温泉旅館Aでは、集中的な混雑を避けるために、夕食を2部制として宿泊客を振り分けていました。従業員は営業開始の2時間前に出勤し、1部と2部の座席レイアウト表を作り、事前にテーブルセッティングを行っていました。

しかし、急な予定変更や人数変更もあります。そのたびにお客を待たせて座席表を組み替えており、せっかくの準備が無駄になっていました。

そこで、2部制を廃止し、好きな時間に来てもらうことにしました。料理も作り置きではなく、お客の食べる時間に合わせて調理や盛り付けをして、できるだけ出来立ての料理を提供するようにしました。「前もってやる」という工程を極力カットしたのです。

準備がいらないので従業員は営業開始15分前に出勤すればよくなり、これだけで1日2時間近い時短です。こうした取り組みの積み重ねにより、同旅館は、年間休日をわずか72日から105日まで増やし、日々の出勤者数を減らして企業全体の時短を実現しました。

さらに、出来立てのおいしい料理を出せるようになったり、料理の好き嫌いなどの急な要望、細かい要望にも対応できるようになったりしたことで評判も上がり、経常利益率は10%まで改善しました。労働時間を減らしながら、品質・顧客満足を向上させ、収益も改善させた事例です。

「前もってまとめてやる」というのは一見すると効率的ですが、作り置きしたものを保管する場所が必要になったり、保管場所への出し入れや運搬といった付帯的な作業が追加で必要になったりします。

現在は、人口減少で市場はどこも供給過剰で、お客が企業を選ぶ時代です。今、お客が何を求めているのかを知らなければ、顧客満足にはつながりません。そのため、サービス業では、前もってやるというこれまでの在庫型のオペレーションが多くの無駄を生むのです。

5 品質向上を実現させるマルチタスク化

サービス業では目の前にお客がいます。そのお客が必要としているものを、その場で聞いて提供すれば一番効率的です。すると企業の経営者からは、「これを実現するのに、一体どのくらい人員を割かなければならないのか」とよく言われます。

多くの人員が必要になるのは、同時にたくさんのお客が来るからです。その場合、対応は2つです。

1つ目は、来客をばらつかせること。前述の福井県の温泉旅館Aの事例では、「午後6時ごろは混み合います」と事前に伝えることで、お客のほうから自然にその時間帯を避けるようになり、逆にその時間帯で多少待たされたとしてもクレームは出ません。

2つ目は、ピークに合わせて人員を集中投入することです。ただ、ピークの1時間のために従業員を出勤させたら、残りの時間は手待ち時間になるので、従業員が複数の仕事を掛け持ちする「マルチタスク化」で対応します。調理だけでなく、配膳や会計もやってくださいといったように、仕事もばらつかせるのです。

マルチタスク化を現場で導入すると、他の部署で手待ち時間になった従業員を忙しい部署に投入できます。これにより、部署ごとの一瞬の業務量の変動に無駄なく対応できるようになります。福井県の温泉旅館Aも、改革の切り札としてマルチタスク化を導入しました。

6 マルチタスク化の課題をクリアする

マルチタスク化では賃金制度が課題になります。例えば、時給850円のパートが、1000円のパートの仕事を快く手伝うでしょうか。また、別部署から手伝いに来た不慣れな人に、快く教えることができるのかも疑問です。

そのため、マルチタスク化を導入する場合は、賃金格差によって協力関係が阻害されてしまうことから、むしろ意図的に同一労働同一賃金にしていかなければなりません。

例えば、パートの時給と月給制の正社員の基本給を時給換算で同じ水準にし、現場のオペレーションの対価として基本給を位置付けることで同一労働同一賃金を確立します。その上で、正社員はパートには求められない管理責任に応じた役職手当を払う二階建ての賃金体系にします。

このように働き方が大きく変わることについて、従業員の中には反発する人も出てきます。しかし、「休日や年次有給休暇を確実に取れるようにするから、変則的な働き方を受け入れてほしい」と言うと、皆、受け入れてくれます。これを言って、拒否された事例を知りません。

変則的なシフトを組み、さらに状況によって臨機応変に修正するというのは、やったことのない企業からすれば、とても大変なことだと思われがちです。しかし、やっている企業はたくさんあります。「今日はお客さん多いからちょっと出てきてほしい」「今日は少ないから帰っていいよ」といったように、少しでもいいから実践してみるのが大事なのです。それが次の一歩につながります。

以上(2020年5月)

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画像:pixta

音や色彩も権利化! 新しいタイプの商標 取得のメリット

書いてあること

  • 主な読者:音や色彩などの新しいタイプの商標の活用を考える経営者
  • 課題:新しいタイプの商標については、商標権を取得するのが難しい?
  • 解決策:色彩のみからなる商標権を取得するのはハードルが高い。ただし、音商標や位置商標などは登録も進んでいる。これら新しい商標はマーケティングや海外進出時にも役立つため、権利化を検討したい

1 音や色彩も認められる 新しいタイプの商標とは

1)商標とは

商品のパッケージや店舗の看板など、自社の商品・役務(サービス)に付されているマークは、商標として登録できる可能性があります(他社(他人)の商品・役務と区別できる必要があります)。商標は、特許庁の審査を受けて登録し、料金を支払うことで商標権として保護されます。

商標は使用されることによって広く認知され、顧客は商標が付された商品・役務を提供する企業を把握することができます。その結果、商標には企業の信用が蓄積されるようになるだけでなく、顧客の利益を保護することも可能となるため、商標法では商標権を保護しています。

出願の際は商標を付する商品・役務を区分した分類を指定する必要があります。商標権が認められると、指定商品や指定役務の範囲内であれば、独占排他的な権利が認められます。また、商標権の保護期間は登録日から10年ですが、更新登録すれば半永久的に商標権の存続が可能です。

2)新しいタイプの商標とは

2015年4月に商標法が改正されたことにより、音や色彩といった従来は認められなかった、新しいタイプの商標を登録できるようになりました。従来から認められていた商標(伝統的商標)と新しい商標を整理すると、次のようになります。

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3)新しいタイプの商標の登録はハードルが高い!?

新しいタイプの商標の出願件数と登録件数は次の通りです。

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出願件数が多いのは音商標で、色彩のみからなる商標、位置商標などが続いています。ただし、色彩のみからなる商標の登録件数は2017年に初めて2件登録されており、登録が進んでいない状況です。

色彩のみからなる商標の場合、色彩だけで他社の商品・役務と識別するのが難しいものが多いため、拙速に審査し、登録を認めれば、他社がその色を使えないといった問題も起こるため、慎重に審査が行われているとされます。

2 商標権は他制度とどう違うのか

1)商標権と他制度との違い

商標権には「独占排他的に使用できる」「半永久的に使用できる」といったメリットがある一方、特に新しいタイプの商標については「登録のハードルが高そうだし、時間もコストも掛かる。ロゴ(商標)であれば、著作権などでも自社の権利は保護されるのでは?」と考える人がいるかもしれません。

しかし、商標権と他制度では次のような違いがあります。

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2)著作権との違い

著作権は登録が不要であり、著作物が生まれた瞬間から自然に発生する権利です。ただし、単純なフレーズや色彩といった、思想または感情を創作的に表現していないものは保護されません。一方、商標権は単純なフレーズや色彩なども保護される可能性があります(保護されるためには、さまざまな要件があります)。

また、偶然にも他社が自社と似た商標を製作した場合、著作権では他社がその商標を使用することを禁止できません。対して商標権では、商品や役務が同一または類似であれば、同一または類似の商標を排除し、独占排他的に使用できる可能性があります。

3)不正競争防止法との違い

不正競争防止法は著作権と同様に登録が不要です。他社が自社と同一または類似の商標を使用している場合、同法で禁じられている不正競争行為に当たる可能性があります。ただし、不正競争行為として認められるには、例えば、周知(一地域で知られているものでも可)、または著名(周知よりもさらに知られている)であることが要求されます。

一方、商標権の場合は、周知または著名である必要はありません。

4)商標権を取得し、他制度も活用しながら自社の商標を守る

著作権、不正競争防止法との違いについて紹介しましたが、商標権は取得さえしておけば、万全というものではありません。商標権を取得しつつ、場合によっては他制度も活用していくことが重要になります。

とはいえ、商標権の場合は、登録や権利維持のためのコストや手間が掛かります。特に、より広い範囲で商標を保護したいと考える場合、分類を増やして出願し、登録します。特許庁への出願料や登録料は分類が増えるほど高くなる仕組みです。それに加えて、弁護士や弁理士に調査や手続きを依頼するコストも掛かります。

自社が持つ全ての商標の登録を目指すのではなく、主力商品に限定するなど、戦略的に商標権を取得していくことが求められます。

3 中小企業は新しいタイプの商標をどう活用できるのか

1)マーケティング活動に役立つ新しいタイプの商標

実際に企業活動において、新しいタイプの商標はどのように活用できるのでしょうか。登録が認められた、新しいタイプの商標を見てみると、テレビCMなどで見かけるよく知られた動画(動き商標)やサウンドロゴ(音商標)などが多くなっています。そのため、「新しいタイプの商標はマーケティング活動に積極的な大企業のもの」というイメージがあるかもしれません。

しかし現在では、中小企業でも「YouTube」などの動画や、「Facebook」「Twitter」といったSNSを使ったマーケティング活動に取り組んでいます。動きや音といった、五感に訴えることができる新しいタイプの商標は、動画やSNSを使ったマーケティング活動にも役立てることができ、顧客に自社および商品・役務を効果的に印象付けることができるでしょう。

「他社に先手を打たれ、自社および商品・役務のブランドイメージを表現した動画やサウンドロゴが使えない」ということがないよう、自社の重要な(新しいタイプの)商標については早めに商標権を取得しておくと安心です。

2)海外進出にも役立つ新しいタイプの商標

新しいタイプの商標は、欧米などでは以前から制度が整備されており、欧米企業や欧米に進出している日本企業などが取得しています。

例えば、大阪府の工具メーカーであるエンジニア(従業員数30人)では、米国で工具のグリップに使用している緑色を補助登録(注)しています。同社が米国で商標登録するきっかけになったのは、米国の工具メーカーから工具のグリップの色が「色彩のみからなる商標を侵害している」という警告を受けたからでした。そのため、従来使用していた青色から新たに緑色に変更し、この緑色を他社が使用できないように補助登録しました。

原則として、商標権は権利を取得する国ごとに出願する必要があります。ただし、日本はマドリッド協定議定書を批准しており、特許庁を通じて国際出願することで、複数の加盟国へ出願するのと同等の効果を得ることができる制度があります。

新しいタイプの商標は、文字や言語を超えたグローバルなコミュニケーションツールとなり得るものでもあり、海外進出している企業は日本国内で制度がスタートしたのを機に、国際出願を検討してみるのもよいでしょう。

(注)補助登録とは、主登録(日本の商標制度における登録)に至らないものの、後願の企業の使用を排除することができる制度です。

4 侵害に注意! 商標権を取得していない企業が気を付けるべきこと

新しいタイプの商標が認められるようになったことで、商標権を取得していない企業にも影響が及ぶと考えられます。これまで以上に侵害に注意しなければなりません。

大半の企業では、商標権のような知的財産権を侵害してはならないことを認識していると思います。ただし、知的財産権に関する知識は社員によってばらつきがあるのではないでしょうか。中には、「新しいタイプの商標の話題を耳にしたことがない」ということがあるかもしれません。先に紹介したエンジニアも、米国の工具メーカーから侵害の警告を受けるまで、色彩のみからなる商標が権利として認められることを知らなかったといいます。

悪意がない場合でも、他社の商標権を侵害しているとなれば、自社の社会的な信用は失われ、権利者から莫大な損害賠償金を求められることもあります。

このようなリスクを招かないためにも、新しいタイプの商標をはじめ、知的財産権に関する動向に注意し、自社が他社の商標権を侵害していないかといった点に注意することが求められます。

以上(2019年4月)

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実践的な業務改善に使える5S活用法

書いてあること

  • 主な読者:効果的な業務改善策を打ち出せずにいる経営者
  • 課題:業務改善の取り組み方法が分からない
  • 解決策:「5S」の考え方を業務改善に転用する

1 言われるまでもない「業務改善」

現在、働き方改革の文脈で「業務改善」が叫ばれていますが、経営者に言わせれば、経営を始めた瞬間から意識している課題でしょう。しかし、これがなかなかうまくいきません。

業務の見える化や標準化などを進めるといっても抜本的な改革には至らず、局所的に改善されれば、別の場所で問題が出てきます。また、そもそも“削る”ことが前提の業務改善は、従業員にとっては楽しくないのです。

とはいえ、限られた人員で効率性や生産性を追求することが求められる経営に、業務改善は必須です。こうした問題意識を持つ経営者にご提案したいのが、職場環境の改善に使われる「5S」を応用した業務改善です。早速、見ていきましょう。

2 5Sの考えに基づく業務改善策

「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表す5Sは、考え方がシンプルで分かりやすいため、従業員は業務改善という漠然とした施策であっても、取り組むべき内容をイメージしやすくなります。

5Sによる職場改善活動を経験済みの企業ならなじみもあり、業務改善のハードルを下げる効果が見込めるでしょう。5Sの5つのキーワードを業務改善に置き換えると、次のようになります。

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以降では、業務改善の進め方に合わせ、「清掃」「整頓」「整理」「清潔」「しつけ」の順に並び替えて、企業が取り組むべき業務改善策と、成功に導くポイントを紹介していきます。

1)清掃(無駄な業務を取り除く)

今ある業務を「清掃」し、無駄な業務を取り除きます。そのためには業務の担当者以外でも業務の実態を把握できるよう、図表を使って表すことが大切です。

業務の全体像を俯瞰(ふかん)できるようにします。具体的には、業務を粒度に応じて3段階(大・中・小)程度に分類し、業務を構成する全ての「作業」を抽出します。例えば「受注業務」の場合、次のように業務を分類します。

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業務に関与しない従業員に図表を見せ、気になる点を指摘してもらいます。図表2の例で言えば、「『見積書の作成』は営業部で同様の作業をしているはず」「『次の納品日の確認』は受注業務には不要ではないか」などです。別の業務で同様の作業をしている従業員がいれば、「『電話による注文確認』は優良顧客に限り営業担当者の私が電話している。電話が重複しないか」などの指摘もあるでしょう。

こうして全社で業務(作業)内容や範囲を共有・修正し、何が必要で何が不要なのかを線引きします。業務の前後の工程を把握しておくと、重複する作業を見つけられるため、無駄な作業を絞り込みやすくなります。

特に、次の点に注意して業務の「清掃」を進めましょう。

  • 業務担当者以外でも業務内容を把握できるよう、可視化する
  • 作業内容を一番理解している現場の担当者主導で業務を分解する
  • 全社で業務(作業)内容や範囲の認識の違いを埋める

2)整頓(業務を標準化する)

次に、効率的な業務に「整頓」し、業務をきれいに直します。生産性の向上や属人的な作業の排除などといった、目的に照らした業務の理想型を目指します。

こうした業務像を描くときに欠かせないのが「業務マニュアル」です。何のための業務(作業)なのかを明示するとともに、どの手順で進めるのが効率的なのかを示します。担当者不在でも業務が停滞しないようにしたり、特定の従業員が持つ属人的かつ効率的な作業手法を、他の従業員に引き継いだりする上でも必要です。

業務マニュアルは、業務(作業)内容を事細かく説明するのが基本です。起こりがちなトラブルを例示したり、抜け漏れを防ぐチェックリストをつくったりしてもよいでしょう。例えば図表2の「該当商品の在庫状況確認」なら、「在庫システムと実際の在庫数が合っているか、物流センターに電話で現在の在庫数を確認する」「在庫を確保する際は、物流センターに確保数量と出荷日を報告する」などのチェックリスト例が考えられます。

特に、次の点に注意して業務の「整頓」を進めましょう。

  • 各業務の最も効率的な手順を示した業務マニュアルを作成する
  • 業務マニュアルが形骸化しないよう、手順を確認する機会を定期的に設ける
  • 作業が複雑すぎて効率化できなければ、外部委託による効率化を検討する

3)整理(業務に適した体制をつくる)

次に、標準化した業務を適切に運用できるよう、組織や部署を「整理」します。組織や部署の役割を明確にし、所属スタッフが、何のための業務なのかを理解して取り組めるようにします。

業務マニュアル同様、組織や部署ごとの役割を文書化します。部署をまたがる業務に備え、組織や部署ごとの役割分担や業務分掌を明確にすることも必要です。別々の部署が同じ作業をすることによる無駄の発生を防ぎます。

また、無駄を省いてシンプルになった業務は、これまでと同じ作業時間をかけずに済むかもしれません。経営者は業務改善によって生まれた空き時間をどう活かすのかを、事前に踏まえておくことも必要です。

特に、次の点に注意して組織や部署の「整理」を進めましょう。

  • 組織や部署ごとの役割を文書化する
  • 場合によっては、業務改善を推進する専門チームの設置を検討する
  • 新たな業務に最も適した組織や部署に再編する

4)清潔(従業員の不快感を取り除く)

次に、実際に業務改善に取り組む従業員の気持ちに目を向けます。不快感を抱いたまま取り組んでいる従業員の気持ちを、業務改善に「清潔(=真っすぐ)」に向き合うように意識を変えます。

これまでの業務内容や進め方を見直す業務改善は、少なからず現場からの抵抗を受けます。中には、やらされ感を抱いたり、面倒だと思ったりする従業員も少なくないでしょう。こうした従業員のモチベーションは施策の成否に影響します。

従業員の意識を変えるため、経営者が関与していることを表明するのが効果的です。経営者自ら、なぜ必要な取り組みなのかを、自社の置かれている危機的状況とともに説明します。こうした訴えにより、業務改善の必要性を従業員に感じ取ってもらいます。

特に、次の点に注意して従業員の気持ちを「清潔(=真っすぐ)」に変えましょう。

  • 経営者が従業員に対し、取り組みの重要性や意義を説明する
  • 従業員にアンケートを実施し、取り組みの満足度を調査する
  • 従業員に無理や負荷がかからないスケジュールを計画する

5)しつけ(改善を定着させるルールをつくる)

最後は、改善した業務内容や進め方が定着するための「しつけ」、つまりルールをつくります。業務を改善して終わりではなく、見直した業務の不備や改善点などを洗い出します。これらの課題を集約し、どのように修正するか、誰が主導して見直すかなどを決め、継続的な施策として取り組むようにします。こうしたPDCAを繰り返すことで、業務の質を徐々に高めていきます。

業務に費やす時間が、改善前後でどの程度短縮したのかを比較してもよいでしょう。思ったより短縮していない、かえって時間がかかるなどの事態を想定した対策も踏まえておくべきです。目標とする短縮時間を事前に定め、改善後の効果を検証するのも有効です。

特に、次の点に注意して改善定着に向けた「しつけ」を検討しましょう。

  • 一度の取り組みで終わらせず、継続的な施策として位置付ける
  • 改善による効果が十分でないことを前提に、対策や体制を準備する
  • 時間やコストなどの定量データによる分析・検証を実施する

3 業務の5Sを成功に導くポイント

1)高い効果を見込める業務から着手する

業務改善は、全ての業務を対象に取り組み始めると失敗します。業務の無駄を洗い出すだけで膨大な時間を要し、従業員が疲弊してしまうためです。

まずは、特に改善が必要な業務から手を加え、短期間に高い効果を見込めるようにするのが望ましいでしょう。スピード感を持って取り組むことで、従業員が業務改善の目的や効果を見失わないようにします。

その後、成功事例を他の業務や組織に横展開し、対象領域を徐々に拡大させます。期間や対象を絞った施策を複数回に分けて取り組めば、継続的な成果も見込めます。

2)業務改善の目的を明確にする

なぜ業務改善するのか、なぜその業務が必要なのかといった目的や狙い、目標を明確に示すことが重要です。目的が不明瞭なまま進めると、取り組み自体が目的化し、業務改善による十分な効果を見込みにくくなります。前述したように文書化し、全従業員が理解した上で進めることが大切です。

以上(2020年7月)

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食品スーパーの売場レイアウトの基本と差異化のポイント

書いてあること

  • 主な読者:食品スーパーの現場担当者
  • 課題:他店との差異化するために、売り場レイアウトを改善したい
  • 解決策:売り場レイアウトや陳列の基本をまとめる

1 売場レイアウトの基本

1)入口と出口の設定

店舗には入口と出口、店内を回遊するための通路が必要です。食品スーパーなどのように面積の広い店舗は、入口と出口、通路の在り方が重要になります。

入口と出口といっても、顧客を出口からは入れず、入口からは出さないということではありません。店の立地や人の流れから、メーンとなる入口を設けて、それに対して出口を設けるということです。

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入口と出口について考える必要があるのは、商品の陳列構成を考慮してのことです。商品は単に並べればよいというものではありません。顧客にどのような順序で商品を見てほしいかを考える必要があります。入口から入って出口まで、商品を見せる順序や見せ方を重視して、商品陳列に工夫を凝らすことが重要です。

顧客は、事前に買うものを決めているケースもありますが、どちらかといえば売場で決めるケースのほうが多いといわれています。例えば、特売品を求めて来店した顧客が特売品以外の商品を購入するケースなどがそうです。また、売場を見ながら夕飯のメニューを考えるケースもあります。A店とB店を見比べて購入するのも同様です。従って、いかに顧客に店内の商品を見てもらうかが重要であり、そのためには効果的な見せ方の工夫が必要です。見せ方の工夫の1つとして、見せる順序も重要な要素となってきています。

2)売場レイアウトの基本

入口を右側とした場合、食品スーパーの売場レイアウトの基本は(図表2)のようになります。店舗の規模によって、陳列棚の数などは異なりますが、全体の配列順序はほぼ同様になります。

(図表2)の売場レイアウトの場合、矢印のラインが主通路となり、主通路に沿った網掛け部分が主力商品の陳列スペースになります。

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入口を右側と左側のどちらにした場合も、入口からの売場順序は果物・野菜・魚・肉(生鮮食品)、総菜・パン・乳製品(デイリー食品)、菓子類 ・調味料・米・粉類・飲料・酒(その他食品)、消耗品・台所用品・その他雑貨というのが基本になります。

なお、生鮮食品の中でも、果物を入口に位置させるのは、季節感による変化を演出することができる点が大きいようです。

主通路に沿った陳列スペースには、顧客の注意を引きつけ購入に結びつきやすい主力商品を配置します。これは消費量が多い商品であり、購入頻度の高い商品である必要があります。より多く消費するということは、生活の中で不可欠な商品であり、また、購入頻度が高いということは、常に購入される確率の高い商品です。

食品でいえば、生鮮3品(青果、鮮魚、精肉)の他、パン、牛乳、納豆、豆腐、総菜などデイリー商品がこれに該当します。一方、米、味噌、しょうゆなどは毎日消費するものですが、購入頻度という点では当てはまりません。

食品スーパーの商品の陳列順序は一般化しており、大手量販店の食品売場や食品スーパーでは、この順序(生鮮3品→デイリー食品)に沿って売場が構成されているのが通常です。顧客は必ずしも、生鮮3品からデイリー商品へという順序通りには回りませんが、陳列の順序が決まっているので、迷わずに商品を探すことができます。

大手ディスカウントストアのドン・キホーテの商品陳列方法は、迷路を思わせるようにできており、どこに何があるのか店内を探検する楽しさを演出しています。しかし、この陳列方法は食品スーパーには向きません。食材などの買い物はルーティン(日常的な決まった仕事)の1つとして位置づけられます。食品スーパーでの買い物は比較的短時間で済ませたいものであるため、他店と大きく異なる独創的な売場レイアウトはマイナス面が大きくなることに留意する必要があります。

2 他店との差異化を図るための工夫

1)販売価格による差異化

同じ商品であれば他店よりも安く販売することで差異化が図れます。とはいえ、取扱商品すべてにおいて、他店より安くするというのは困難なので、日替わりで目玉商品を販売するとよいでしょう。何を目玉商品にするかで集客力に差異が生じます。

2)品ぞろえによる差異化

他店では扱っていない商品を扱うのが品ぞろえによる差異化です。例えば、調味料ならば世界各国のものを取りそろえている、野菜ならば京野菜を扱っているなどの他、他店にはないワンランク上の商品を扱っているなどです。

3)陳列方法による差異化

魚を切り身にしてパック詰めでラップをかけてしまうと、新鮮な魚かどうか分かりません。しかし、魚をそのまま陳列した場合はどうでしょう。眼の色、色つやなどを確認することができるため、新鮮な魚であれば、それを強調することができます。また、葉付き大根を葉が生き生きした状態で陳列できれば、新鮮さを強調することができます。

また、今夜の夕食の提案として、売場の一角にレシピ付き献立表と必要な食材一式を陳列することもあります。例えば、鮮魚売場の一角に、鍋料理の提案コーナーを設け、鮮魚売場に豆腐、白菜、水菜、たれなどの食材を一緒に陳列することで、野菜売場や調味料コーナーまで足を運ぶ必要がなくなります。

4)販売方法による差異化

販売方法の差異化については、特に量販店や食品スーパーでは、販売の効率化を求めるため、セルフ方式の販売が主流です。接客サービスを省く代わりに販売価格を安くすれば、顧客の利益につながります。過度なサービスを顧客は望んでいないものです。

1.容器・包装の工夫

最近では「環境」が重要なテーマとなっています。食品スーパーであれば、容器リサイクル法などが大きく関係してくるため、過剰包装を廃して、簡易包装にするなどの対応もとられています。従って、プラスチックや発泡スチロールの皿など過剰な包装をやめることがポイントとなります。

容器リサイクルに取り組む姿勢は、地域の生活者である顧客も同じです。プラスチックや発泡スチロールの容器は、値札のシールを剥がし、汚れを洗い流し、きれいにした上で容器をスーパー入口の回収ボックスに入れます。しかし、シールを剥がしたり、洗ったりするのは大変な労力です。できれば、このような労力は省きたいと多くの人が思っているはずです。そこで考えられるのが、昔ながらの販売方法である対面販売です。

2.販売機会損失に留意

しかし、全てを対面販売にすることはできません。そこで考えなければならないことは、最初からパックして陳列棚に並べておく商品と対面販売する商品のバランスです。

夕方の買い物のピーク時に、顧客の求めに応じて魚の刺身をつくっていたのでは、販売機会を失ってしまいます。そのため、事前に刺身をパックに詰めて用意しておく必要があります。これにより、急ぎのお客様はパック詰め商品を、また、作りたてにこだわる顧客には注文を受けてからという臨機応変な対応もできます。

3.量り売りによる対面販売

顧客の必要なものを必要なだけ販売する量り売りにします。商品を簡易包装にすることで、包装紙は焼却処分できる簡易なものとします。

量り売りは必然的に対面販売になります。店員と顧客との間にコミュニケーションが生まれます。コミュニケーションは声を出して行うことになります。これがにぎわいとなるのです。静かな店内に、店員の呼び込みの声だけが響き渡っているのでは活気がありません。しかし、店員と顧客のやりとりする声が店内に響き渡ると、にぎわいが生まれます。にぎわいが人を集め、人の集まっているところにはさらに人が集まり、活気のある売場が生まれます。

魚は顧客の求めに応じて、三枚におろしたり、ぶつ切りにしたり、お造りにしたりします。また、バックヤードの作業場の壁面の一部をガラス張りにするなどすると、作業過程を見ることができます。見せるからにはバックヤードの作業場の清潔さにも気を遣う必要があります。作業場を隠さずに見せるという店の姿勢は安心、信頼へとつながります。積極的に見せようとするのであれば、売場の中に見せるための作業場を設けるのも1つの方法です。もちろん、衛生管理面から作業場と売場とは間仕切りができていなければなりません。

3 さまざまな陳列方法

1)顧客を店の奥へと引き付けるマグネット

売場構成にメリハリをつけることで、顧客の注意を引くとともに、店の奥へと誘導し購入意欲を高めることができます。

そのためには、顧客を引き付け、店の奥へ奥へと誘導するマグネットの役割をする商品を適切な場所に配置しなければなりません。マグネットの役割をする商品は話題性のある商品、売れ筋商品、最先端の商品でなければなりません。

こうした商品を他の商品よりも目立たせるためには、商品の陳列方法にも工夫が求められます。段差を設けたり、スポットライトを当てたりして、目立つようにディスプレーする必要があります。なお、マグネット商品がいつも同じだと陳腐化してしまいます。マグネット商品は定期的に変更することで常に新鮮で活気のあふれる売場を実現することができるでしょう。

2)明るさ

人は暗い場所よりも明るい場所のほうが安心できます。店の入口は明るいほうが入店しやすいものです。また、顧客を店の奥に誘導するには店の奥をさらに明るくする必要があります。店全体を同じ明るさにするのではなく、入口と店の奥を明るく見せればよいのです。離れた所から明るさの違いを表現するには、床よりも壁面に光を当てることです。店の奥を明るく見せるには壁面にライトを当てるとよいでしょう。

3)エンド陳列売場

陳列台(じゅう器)の両端の部分をエンド陳列売場といいます。(図表3)の網掛け部分がエンド陳列売場です。エンド陳列売場は、主通路を歩く顧客を副通路に誘導する働きをします。

エンド部分は比較的目立つ場所なので注意を引きやすく、副通路に陳列してある商品の中で目玉商品といえるものを置くと、それに興味を持った顧客は副通路の奥へと進んでいきます。また、副通路の商品よりもエンドに陳列したほうが商品はよく売れます。そこで、多く売りたい商品を意図的にエンドに陳列すれば販売数量の増加につながります。

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4)見やすさ

人の視線は正面よりやや下方向を向いています。店内では顧客の視線は近くのものから店の奥に流れていくことになります。また視線は左から右へ流れやすくなっています。

右利きの人が多いことも影響しているのかもしれませんが、向かって左側よりも右側に商品を置いたほうがよく売れる傾向にあります。

腰から肩の、見やすく手で触れやすい高さを、ゴールデンゾーンと呼んでいます。前述の通り、人の視線は正面よりやや下方向を向いています。目の高さより下で、かつ手で触れやすい高さとなると肩までの高さとなります。また、腰より下の高さになると、下になり過ぎて見えにくくなります。

5)沈黙の販売員「POP」

POPとは「Point of Purchase Advertising」の略です。POPは商品内容・特徴・価値などを伝えることができます。店員の言葉以上にお客様に内容が伝わることもあります。「私が作った野菜です」と生産者の顔とコメントが付いていたら、それだけでその野菜の種まきから育成・出荷など生産段階の様子を想像することができます。

また、「私のお勧め品」として、店員の顔と名前、さらに勧める理由を付けてもよいでしょう。店舗(企業)としての売り言葉というよりも、店員個人としての意見のほうが、人間味という点でリアルに伝わるものです。

さらに、POPはポジティブな情報だけでなく、あえてネガティブな情報も追記することで、顧客との信頼関係の強化につながります。例えば、「このグレープフルーツ(○○産)は、□□産の糖度を100とすると70程度です。蜂蜜をかけてお召し上がりください」というようにです。ネガティブ情報を追記しなければならないような商品は販売しないというのも1つの方法ですが、天候不良などの影響で不作の場合、代替品の販売が必要な場合もあります。購入した顧客が不満を抱くかもしれない商品を販売する場合には、あえてネガティブ情報を追記することで、顧客との信頼関係の維持・向上を図ることができます。

POPには印刷と手書きが考えられますが、どちらがよいかは一概にいえません。印刷は美しさの点で手書きより優れています。一方、手書きは味や個性の点で印刷より優れています。

6)安心できる陳列

人はきれいに並んだものを美しいと感じ、好ましく思うものです。これはバランスが取れているということでもあります。人は色彩・素材・サイズ・形など似たものが一緒になっていると見やすく分かりやすく感じます。

商品陳列をする場合、商品分類をはじめとして、ブランド別・価格別・色別・素材別・目的別などで商品グループをまとめることになります。見た目を意識すれば、形と大きさでまとめることになります。しかし、定規で測ったようにあまりに美し過ぎるものは、それを乱すことを避けたいという意識が働きます。また、人は統一された中に秩序ある変化があると楽しい感じを受けます。従って、美しさの中にあえて不規則な陳列を行うことで、緊張感ではなく安心感を演出することができます。

商品を陳列するとき、平面的に並べる方法と立体的に並べる方法があります。一般に、人は平面的に並べられたものより立体的に並べられたものに注目しやすく、強い印象を受けます。従って、エンド陳列など注意を引きたい場所の陳列などは立体陳列にするなどします。

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7)安価なイメージの演出

青果店の販売方法に一山で○○円、1かご○○円という販売方法があります。投げ売りなどの安価なイメージを演出するためのオーソドックスな方法です。この場合、ボリューム感を持たせるために藤かごの中に物を詰めて商品がかごの上に大きく盛り上がるようにします。また、かごを斜めに傾けるなどして、かごの中がよく見えるようにします。

商品を台の上に立体的にきれいに並べるのではなく、台の上に放り込んだようなイメージで商品を盛り込み、○個で○○円などとすると安価なイメージを演出することができます。しかし、この方法は傷みやすい商品では避ける必要があります。食品の場合、缶詰など多少乱暴に扱っても傷まない商品が好適です。

菓子類など、こん包用のダンボール箱に入れたまま、カッターでダンボールの上部をカットして積み上げて陳列すると、手間をかけていない販売方法として安価なイメージを演出することができます。また、バックヤードから運んだ台車に入れたまま売場に陳列する方法も取られます。これも手間をかけていない印象から安価なイメージを演出することができます。

8)目立たせるための演出と安全な売場

エクステンド陳列(張り出し陳列)は、通常のじゅう器陳列ラインよりも前に張り出させることで、他の商品よりも目立たせることができます。また、アイランド陳列(島出し陳列)で、通路の真ん中に陳列台を置いて商品を陳列すると、目立ちます。エクステンド陳列もアイランド陳列も、売場が整然と整理されている場合に、有効な演出方法です。

なお、顧客がカートを利用する場合、通路幅はカートとカートが容易にすれ違うことのできる幅を確保しておく必要があります。また、ピーク時に顧客が集まる売場は、通路を広めに空けて、混雑を避ける必要があります。

以上(2018年10月)

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新商品を開発するに当たっての一般的なプロセス

書いてあること

  • 主な読者:製品開発の新任担当者
  • 課題:新製品を開発するためのアイデアの出し方やマーケティングの方法を知りたい
  • 解決策:新商品開発の一般的なプロセスと、それに伴うマーケティング分析や販路の確保について解説する

1 新商品開発のプロセス

1)アイデア

新商品は、開発を目的にアイデアを創出するケースと、思いついたアイデアを基に新商品を開発するケースがあります。

前者の場合、ある一定期間を設けてアイデアをスタッフから募ったり、ブレーンストーミングなどの手法でアイデアを集めるのが一般的です。後者の場合は、アイデアを出そうと思って考えたわけでなく、「こんな商品があったら売れるのでは?」という偶然のアイデアから商品を開発するものです。

しかし、いざアイデアを捻り出そうと思ってもなかなか良いアイデアは浮かばないものです。そのため、社内で「提案制度」などを設けて定期的にアイデアを募集する体制が求められます。

また、アイデアの創出という意味では、顧客のニーズを取り入れることも重要です。クレームなどをデータベース化して商品開発のアイデアとして利用したり、消費者調査などを通じて「消費者の生の声」を集めるようにするのもよいでしょう。また、近年では小売業とメーカーなどの異業種が情報やノウハウを共有して共同で商品開発を行うケースも見られます。

2)マーケット分析

新商品のアイデアが出そろい、どのアイデアを採用するのかという段階では、それぞれのアイデアのマーケット分析を行います。「市場・顧客の動向」「競合他社の商品」「自社の経営資源」などの分析を行い、一番良いアイデアを選定します。

その際、「消費者へのアンケート調査」などを実施して好評だったアイデアを選ぶのも一つの方法ですが、自社に市場分析を行うノウハウがない場合は、外部へのアウトソーシングを検討するとよいでしょう。

3)企画

この段階では、各種スケジュールや予算、製造方法などを企画します。具体的には「試作品」「消費者モニター」「販売代理店募集」「製造」「営業」「販売日」などのスケジュールを立てるとともに、「開発費」「材料費」「労務費」「経費」などのコスト算出や、「外注先の選定」などの製造方法を検討します。同時にそれぞれの項目ごとに、スケジュール、予算、品質などの管理責任者を決めます。

また、できれば企画の段階で、「販売数の見込み」とともに、開発費、材料費、人件費などを考慮に入れた「利益の見込み」も立てておきたいものです。その結果、どうしても利益の確保が望めないということが分かれば、商品化を見送ります。

4)開発

開発の段階では、まず仕様書を作成し、それを基に試作品を完成させます。試作品はなるべく完成品に近いものが望ましいのですが、ここで問題となるのは製造コストです。いくら良いものでも製造コストが多大にかかるのであれば大量生産ができません。大量生産を念頭において材料・素材の選定を行い、場合によっては外注を検討します。自社の技術レベルや機材の有無によっては外注の方が結果的に安く上がることも少なくありません。

いかに製造コストを下げることができるのかという点を踏まえながら開発することが重要です。

5)テストマーケティング

試作品が出来上がったら、その商品が本当に計画通りに売れるのかどうかを検証します。消費者モニターのほか、限られた地域での市場テストや営業テストなどを行い、予想通りの販売が見込めるのかを調べます。

その際、期待通りまたは期待以上の販売結果が得られれば、すぐにでも商品化し、全国に向けて販売することができます。逆に期待通りの結果を得られなかったときは、たとえ企画の段階で売れるという結果が出ても「実際は売れない」と割り切り、商品化は見送るべきでしょう。ここまでの開発費は無駄になりますが、売れない商品を市場に導入する意味はありません。再度アイデアまたは企画の段階からやり直します。

6)商品化

テストマーケティングが終了したら、いよいよ商品化となります。大量生産を踏まえた製造方法の確立、パッケージの選定、広告戦略の推進などを行い、販売を開始します。

その際、商品の種類にもよりますが、流通ルートの開拓も重要となります。企画の段階で定めていた営業方法のほかに、代理店の選定や特殊なルートでの販売方法など、さまざまな拡販方法を推進します。

また、顧客へのアフターフォローの仕方や、クレーム処理の対処方法などもこの段階で明確にしておきます。

7)販売後のフォロー

販売を開始した後は、ただ売ればよいというわけではありません。顧客からのクレームや意見を集め、商品の仕様やパッケージの見直しを図ります。

2 マーケティング分析と販路の確保

新商品の開発に当たっては、正確なマーケット分析とともに、販路の確保が重要です。

通常、新商品というと、次のような商品に分類できます。

  • 今までにない全く新しい商品
  • 他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品
  • 既存商品に何らかの改良を加えた商品

それぞれの分類ごとにマーケット分析や販路確保の手法は異なってきます。また、商品のライフサイクルによっても商品の仕様やコンセプトを変更する必要があります。

以降では、新商品を開発・販売する上で留意することをまとめます。

1)今までにない全く新しい商品

今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、その市場規模は未知数となります。商品を購入する消費者の「年齢層」「性別」「嗜好」のほか、「デザイン」「販路」「年間販売量」「将来性」などを考慮し、確実に売れることが見込めた段階で参入することが求められます。これらのノウハウを自社が持っている場合は問題ありませんが、そうでない場合は自社のノウハウだけに頼らず、次のような業種と協力することによって商品を企画していくことが近道になるかもしれません。

  • 商品企画会社(売れる商品の企画)
  • リサーチ会社(消費者へのアンケート調査やマーケット分析)

これらの中で最も頼りにすべきは、商品企画会社(企画デザインプロダクション)です。リサーチ会社の場合、それぞれの商品に対して調査や分析を行うのが仕事であり、売れるかどうかの見込みはあくまで予想となります。参考とはなるものの、実際の販路開拓は期待できません。

一方、商品企画会社の中には強力な販路を持ち、その販路での売り上げが期待できる商品を企画している会社もあります。そのような商品企画会社と提携し、将来的には自社で企画開発ができるようにノウハウを吸収することが大切です。なお、優れた商品企画会社を見つけるためには、今までの実績のほか、「具体的な販路を提示できるか」が重要なポイントとなります。

商品企画が決定した後は、販路を探すこととなります。販路はできれば企画の段階で見込みを立てておくことが望ましく、「このような商品があったら取り扱ってくれますか」といった問い合わせをするとともに、「○○円以下であれば○○個発注してもよい」というレベルの販路をいくつか開拓し、確実に採算が合うと判断できた段階で商品化することが求められます。

なお、今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、当初は、価格競争に巻き込まれることはなく、価格も強気に設定できます。しかし、競合商品が現れたときにはさらなる高付加価値化や生産コストの見直しによる低価格化が必要となります。競合商品の動向を見据え、常に売れる商品開発を行うことが大切です。

2)他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品

他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品の場合、既存市場への参入となるため、市場の把握はもとより、消費者へのアンケート調査が重要となります。「他社商品と比べてどう思うか」「いくらなら購入するのか」などという商品そのもののアンケートのほか、「パッケージのデザイン」「購買意欲をそそるキャッチコピー」など、十分な調査を重ねた上で商品化することとなります。できれば消費者アンケートの専門企業(リサーチ会社など)に依頼し、正確で客観的な情報を入手するとよいでしょう。

既存市場への新規参入は、通常「既存品よりも安くて良いもの」、「既存品よりも高いが付加価値が付いているもの」のいずれかを販売することになります。前者の場合は、商品1個当たりの利益は少なくなるので、大量に販売しなければ利益の確保が難しくなります。後者の場合は逆に高付加価値を前面に押し出し、なるべく商品1個当たりの利益が大きくなるようにすることが求められます。

販路に関しては、大手の販売店や問屋への営業のほか、通信販売やインターネット上での販売など、独自の販売ルートも検討したいものです。営業先の選定は、それぞれの業態や商品のカテゴリごとに業界団体を調べ、その業界団体から名簿を入手するのが早道となります。名簿を公表していない業界団体に関しては、大手企業を数社紹介してもらうなど、効率的な営業を心がけます。

3)既存商品に何らかの改良を加えた商品

既存商品に何らかの改良を加えたものを新商品として販売する場合は、従来のデザインやパッケージをそのまま踏襲するのではなく、何らかのリニューアルを加えたほうがよいでしょう。

もっとも、現在の売れ行き状況や、競合の度合いによってデザインやパッケージのリニューアル方法は異なってきます。

例えば、「市場でのシェアはナンバーワンだが、競合商品によって販売数が減少している」という商品の場合、何らかの改良を加えて商品の高付加価値化を図ることは非常に有効です。その際、商品が成長期にあるときは、機能強化や容量の増加、新材料の採用など、高付加価値化をアピールするにとどめ、大幅なリニューアルはしないほうが得策です。せっかく構築した認知度を下げてしまうことを避けるためです。

一方、商品が成熟期にあり、「買い換え需要を狙う」という状況の場合は、デザインやパッケージの大幅なリニューアルが効果的でしょう。商品の種類にもよりますが、新商品として販売すれば、競合商品よりも新鮮な商品であることをアピールできるからです。

以上(2018年10月)

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