PL法(製造物責任法)の概要と改正に伴い製造業者が留意すべきこと

書いてあること

  • 主な読者:製造業者や輸入業者の経営者
  • 課題:2020年のPL法改正の内容を理解し、製造業者や輸入業者がどのような対策を取らなければならないかを考える
  • 解決策:従来よりも消費者の権利を保護する方向で、PL法が運用されることとなるので、社内の製品安全管理体制と品質保証体制を再度見直し整備する。特に、書類の保存期間と製品の指示・警告表示の見直しは早急に行う

1 民法改正に伴い製造物責任法が改正されました

製造物責任法(Product Liability Act(以下「PL法」)は、製造物の欠陥が原因で、人の生命、身体、財産に被害が生じた場合、製造業者等に対して損害賠償を求められる法律です。

民法改正に伴いPL法が一部改正され、2020年4月1日から施行されました。本稿では、PL法の概要と改正のポイント、改正に伴い製造業者が留意すべきことなどをご提案します。

2 PL法の概要

1995年7月にPL法が施行されてから25年が経過しました。PL法施行以前は、欠陥商品による損害賠償の裁判において、民法の不法行為を根拠にせざるを得ませんでした。

不法行為では、加害事業者の「過失」の存在を被害者が主張立証しなければなりません。しかし、近代的な工場における製造工程のどこでどのような過失があったかということを、被害者である消費者に立証させることは、現実的には不可能を強いるに等しいことでした。

PL法の制定によって、被害者は「過失」に代わって、「通常有すべき安全性を欠いていること」という「欠陥」の存在を主張立証すればよいこととなり、被害者救済の道が開けていきました。裏を返せば、製造業に携わる方は、通常通り製造していただけであっても、「欠陥」の存在を主張立証された場合には、無過失であっても法的責任を負わなければなりません。

「欠陥」は、「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」と「指示・警告上の欠陥」の3つに分類されます。

3 どのような「製造物」がPL法の対象なのか

「製造物」とは、「製造又は加工された動産」のことです。家電製品、家具、食品や医薬品など幅広い製品を含みます。ただし、不動産やソフトウエアなどの無体物は、PL法の対象となりません。

また、「製造又は加工」されていない自然産物、例えば未加工の農林畜水産物はPL法の対象となりません。しかし、原材料に加熱、味付けなどをした場合はPL法の対象となります。

なお、「修理」などは、「動産」に本来存在する性質の回復や維持を行うことと考えられ、「製造又は加工」には当たらないと考えられています。

4 責任を負うのは「製造業者」だけではありません

PL法においては、製造業者だけではなく、輸入業者も責任を負います。なぜなら、輸入品の場合、消費者が直接海外の製造業者を訴えることは困難であるため、欠陥のある製造物を国内に持ち込んだ者が責任を負うことが合理的と考えられたからです。

また、自ら製造、加工又は輸入を行っていない場合であっても、「製造元〇〇」、「輸入元〇〇」などの肩書きで自己の氏名などを付している場合や、特に肩書きを付することなく自己の氏名・ブランドなどを付している場合なども、製造業者と同じ責任を負います。

5 民法改正に伴い消滅時効が改正されました

1)人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間の長期化

人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間は、被害者またはその法定代理人が損害および賠償義務者を「知った時から3年」でしたが、改正により「知った時から5年」に長期化されました。

人の生命又は身体という利益は、財産的な利益などと比べて保護すべき度合いが強いこと、被害が生じた後、通常の生活を送ることが困難な状況に陥るなど、被害者の速やかな権利行使が困難な場合が少なくないためです。

2)PL法に基づく損害賠償請求権に関する長期10年の権利消滅期間の意味の明記

PL法に基づく損害賠償請求権に関する権利消滅期間は「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したとき」とされています。この長期10年の権利消滅期間は、従前は「除斥期間」と考えられていましたが、「時効期間」であることが明記されました。

除斥期間の場合、時効期間と異なり原則として中断や停止が認められず、期間経過により権利は消滅してしまいます。そのため、長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情がある事案において、被害者の救済を図ることができないおそれがありました。「時効期間」と明記することで、そのような事案においても被害者の救済を図ることができるようになりました。

6 PL法改正に伴い製造業者が留意すること

今回の改正は、消費者側の権利をより強く保護するものです。加害者となり得る製造業者は、今回の改正を契機として、今まで以上に厳しい姿勢で、社内の体制や製品の表示を見直す必要があります。

1)製造業者におけるPL対策とは

製造業者におけるPL対策とは、「社内の製品安全活動が日常業務になっていれば、おのずからPLリスクの低い製品を市場に出せるという観点から、製品安全評価とISO9000シリーズ規格(注)による品質保証の方針を明らかにし、それを実施するための社内の製品安全管理体制と品質保証体制を整備・確立し、愚直に実践すること」でしょう。そして、具体的には、以下の多面的対策が必要と考えられます。

  • 製品事故の防止や安全性に関する法規や制度を、商品の企画担当者や研究者が熟知し、確実に遵守すること
  • 研究開発の段階で製品の安全性確保の検討を十分に行うとともに、必要な安全性試験を全項目行い、事前に危険を排除すること
  • 実際に使われる場における安全性評価を行い、問題点が見つかれば直ちに改善すること
  • 「指示・警告上の欠陥」は、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持つので、検討すること
  • 消費者教育や啓発活動で、必要な情報を提供するなど、消費者自身に危険回避の努力をしてもらう活動を行うこと
  • 販売後、消費者から寄せられるクレームや問い合わせは、実際に使われる場における使用テストであると考え、その意見を商品の改善に活かすこと

(注)ISO9000シリーズとは品質保証の国際規格、つまり「よりよい製品やサービスを提供するための仕組みを評価するガイドライン」のことです。認証の対象は製品自体ではなく、製品の生産に使われる品質システム(生産の仕組み、あるいはプロセス)であることが大きな特徴です。その認証取得・登録は海外貿易の前提条件となっています。

2)PL法が適用された判例

「製造物の特性」を考慮して「欠陥」を判断した裁判で、裁判所の判断が分かれた判例があります。判断を分けたのは、具体的対策4.の内容である「指示・警告上の表示」が十分であるか否かです。

1.給食食器の破片により女児の右眼視力が低下

国立小学校に在学していた3年生の女児が、給食食器片付けの際、落とした強化耐熱ガラス製ボウルの破片を右眼に受けて角膜裂傷などを負った事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(奈良地判平成15年10月8日)。

  • 商品カタログや取扱説明書等において、本件食器が陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として、強調して記載するのであれば、併せて、それと表裏一体をなす、割れた場合の具体的態様や危険性の大きさをも記載するなどして、消費者に対し、商品購入の是非についての的確な選択をなしたり、また、本件食器の破損による危険を防止するために必要な情報を積極的に提供するべきである。
  • 本件食器が破損した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことによりその表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法第3条にいう欠陥があるというべきである。

2.こんにゃく入りゼリーを喉に詰まらせ1歳児が死亡

1歳9カ月の幼児がこんにゃくゼリーを食べて喉に詰まらせて窒息し、その後に死亡した事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(大阪高判平成24年5月25日)。

  • 本件警告表示においては、子どもや高齢者がこれを食すると喉に詰まらせる危険性があることが、外袋のピクトグラフ等の記載や外袋裏側の警告文に明確に表示されており(これは赤枠で一見しても相当に目立つ警告文であることが分かる。)、しかも、通常のゼリー菓子ではなく、こんにゃく入りであることも、外袋の表にも裏にも記載され、特に、子どもや高齢者は食べないでくださいと明確に表示されていたもので、本件こんにゃくゼリーの食べ方についての留意事項については、警告文として特に不十分な点はない。
  • 本件こんにゃくゼリーは、通常有すべき安全性に欠けていたとまではいえない。

3)PL法改正に伴い製造業者が行うべきこと

  • 長期10年の権利消滅期間が「除斥期間」ではなく「時効期間」と明記されたため、書類の保存期間を今までより長くしなければならない可能性があります。この機会に、保存する書類の内容と保存期間を見直しましょう。
  • 「指示・警告上の欠陥」は、紹介した判例のように、裁判で主張されることが多い半面、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持ちます。検討しましょう。
  • 今後は、従来よりも消費者の権利を保護する方向でPL法が運用されます。社内の製品安全管理体制と品質保証体制を見直し、整備しましょう。必要ならば、PL法に詳しい弁護士などの専門家に協力してもらいましょう。

7 参考

1)民法改正に伴うPL法改正の説明を読みたい方に

■消費者庁「民法(債権関係)改正に伴う製造物責任(PL)法の一部改正」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_amendment/

消滅時効においては、以下のように経過措置にも注意してください。

  • 生命又は身体を侵害した場合のPL法に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間は、2020年4月1日の施行日の時点で消滅時効が完成していない場合には、改正後の新しいPL法が適用されます。
  • 施行日において長期の権利消滅期間(10年)が経過していないときも、改正後の新しいPL法が適用され、除斥期間ではなく時効期間とされます。

2)PL法の詳しい解説が読みたい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法の逐条解説」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_annotations/
■国民生活センター「製造物責任法(PL法)を学ぶ」■
https://warp.ndl.go.jp/

国立国会図書館 インターネット資料収集保存事業のウェブサイトで「製造物責任法(PL法)を学ぶ」でキーワード検索をかけると読めます。

3)PL法に基づく訴訟情報が見たい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法に基づく訴訟情報の収集」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act/

4)論考

『製造業におけるPL対策について』花王株式会社 小西一生
繊維製品消費科学 Vol.35 No.11(1994)584-589
https://doi.org/10.11419/senshoshi1960.35.584

以上(2020年11月)
(執筆 のぞみ総合法律事務所 弁護士 片岡由紀)

pj60218
画像:pixta

「自宅の階段から転倒」など。事例で考えるリモートワークの労災

書いてあること

  • 主な読者:自宅でのけがや病気が労災に当たるかを知りたい経営者
  • 課題:自宅は仕事とプライベートの境目が曖昧で、労災の判断基準が分かりにくい
  • 解決策:「業務遂行性」「業務起因性」の基本を知り、事例で労災のイメージをつかむ

1 会社は安全衛生に配慮しているつもりなのに……

リモートワークは、オフィスに比べ社員の働きぶりが見えにくいため、会社は安全衛生にとても気を使います。チャットツールで体調の悪そうな社員がいないか確認したり、社員が就業環境(PC、机など)を整えられるようリモートワーク手当を支給したりといった具合です。

しかし、そうした配慮をしても、社員がリモートワーク中にけがや病気をすることがあります。内容によっては、労災を主張し、会社に損害賠償を求めてくる社員もいるかもしれません。

もちろん本当に労災であれば、会社としてしかるべき対応をしなければなりませんが、リモートワークは仕事とプライベートの境目が曖昧になりやすく、労災に当たるのかの判断が難しいケースが多くあります。特に判断が難しいのは、生活空間でもある自宅で被災した場合です。

そこで、「飲み物を取りに行こうとして階段から転倒したら?」「PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?」など、自宅でのけがや病気が労災に当たるのかを検討していきます。

2 労災は「業務遂行性」「業務起因性」を基準に判断する

具体的な事例に入る前に、労災の基本を確認しておきましょう。労災には、業務上の事由により発生する「業務災害」と、通勤上の事由により発生する「通勤災害」とがあります。本稿で取り上げる、自宅でのリモートワーク中に発生する労災は、業務災害に当たります。

業務災害は、「業務遂行性」「業務起因性」という2つの条件を満たすと労災として認定されます。なお、病気の場合の「被災」とは、病気を発症する危険(有害因子)にさらされることをいいます。

  • 業務遂行性:社員が会社の支配下にあるときに被災したこと
  • 業務起因性:業務と被災との間に因果関係があること

業務遂行性は、業務に従事している場合、業務の準備や生理的行為(飲水、用便など)といった業務に付随する行為をしている場合に認められます。休憩やその他私用のために業務を中断している間に被災したときは、原則として対象外です(リモートワークの場合)。

ただし、業務遂行性が認められても、業務起因性が否定されれば、労災には当たりません。例えば、就業時間中なのにこっそり私用をしていてその行為が原因で被災した場合、故意に災害を発生させた場合などは、業務起因性が否定されます。

次章からはこの考え方を基に、自宅で発生し得るけがや病気が「労災に当たるのか」を検討していきます。なお、以降で紹介する内容は1つの考え方ですので、実務で同様の労災案件が発生した場合は、必ず所轄労働基準監督署などに判断を仰いでください。

3 飲み物を取りに行こうとして自宅の階段から転倒したら?

1)事例

Aさんは、自宅の2階にある自分の部屋でリモートワークをしています。ある日の就業時間中、喉が渇いたAさんは、自分の部屋を出て冷蔵庫のある1階に、飲み物を取りに行こうとしました。

しかし、1階に下りようとした際、誤って階段から転倒し、足首を捻挫してしまいました。

2)労災に当たる可能性:高い(業務遂行性:○、業務起因性:○)

喉が渇いたため飲み物を取りに行くことは生理的行為に該当し、業務に付随する行為ですので、業務遂行性が認められます。また、業務起因性が否定される事情もなく、本件が労災に当たる可能性は高いと考えられます。

なお、生理的行為の範囲については現状、明確な基準がありません。中央労働基準監督署へのヒアリング(2020年10月16日)によると、「例えば、喫煙するためにベランダに出ようとして転倒した場合、喫煙が生理的行為に該当するのかは現状明らかでない。実際に労災案件が発生した場合に個別に判断することになる」ということでした。

4 PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?

1)事例

Bさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。しかし、リモートワークで使用するPCが小さく、さらに机の高さがオフィスよりも低いこともあって、腰をかがめた姿勢で仕事をする癖が付いてしまいました。

腰に負担が蓄積されていたBさんは、ある日の就業時間中にふと椅子から立ち上がろうとした際、ぎっくり腰になってしまいました。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

不適切な姿勢を継続したことによって腰に負担が蓄積され、それが原因で就業時間中にぎっくり腰を起こしているので、業務遂行性は認められるでしょう。一方、業務起因性が否定される事情があるため、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

腰痛の業務起因性の考え方については、厚生労働省「業務上腰痛の認定基準」に定められています。同基準では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」(腰への外傷などによるもの)と「災害性の原因によらない腰痛」(蓄積された腰への負荷によるもの)とに区分しています。

災害性の原因による腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件をいずれも満たす必要があります。

  • 腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる、通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと明らかに認められるものであること
  • 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること)

本件は、椅子から立ち上がるという日常的な動作で生じたものなので、該当しません。

次に、災害性の原因によらない腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件のいずれかを満たす必要があります。

  • 次のような業務に約3カ月以上従事し、筋肉等の疲労を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)20キログラム上の物品または重量が異なる物品を中腰姿勢で、繰り返し取り扱う業務(港湾荷役など)
    ロ)毎日数時間、腰に負担がかかる不自然な姿勢のまま行う業務(配電工など)
    ハ)長時間座ったままの姿勢で行う業務(長距離トラック運転手など)
    ニ)腰に大きな振動を継続して受ける業務(車輌系建設用機械の運転業務など)
  • 次のような業務に約10年以上従事し、骨の変化を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)労働時間の約3分の1以上に及び、30キログラム以上の物品を取り扱う業務
    ロ)労働時間の半分以上に及んで、20キログラム以上の物品を取り扱う業務

リモートワークで行うデスク業務などの場合、一見、1.のハ)が該当するように思われますが、通常、業務の合間に立ち上がって腰を伸ばしたりできるケースがほとんどなので、業務起因性は否定される可能性が高いと考えられます。

5 リモートワークの孤独感からうつ病になってしまったら?

1)事例

Cさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。当初は、通勤せずに自宅で作業できる環境をありがたく思っていましたが、リモートワークが長引くにつれ、他のスタッフとのコミュニケーションが少ないことにストレスを感じるようになりました。

次第に疲労感や不眠などの症状が見られるようになっていたCさんは、医師の診断の結果、うつ病と診断されました。会社が念のためCさんの業務状況を調査したところ、発病の直前6カ月について毎月30時間の時間外労働が発生していることが分かりました。ただし、顧客や他の社員とのトラブルなど、他に業務上ストレスになりそうなことはありませんでした。

また、友人・家族関係など業務以外の人間関係でストレスになりそうなこともなく、精神障害の既往歴などもありませんでした。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

就業環境の変化によるストレスが原因でうつ病を発症しているため、業務遂行性は認められ得るでしょう。一方、業務起因性が否定される可能性が高く、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

うつ病などの精神障害の業務起因性の考え方については、厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」に定められています。同基準では、次の3つを全て満たす場合に精神障害の業務起因性が認められるとしています。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前約6カ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因(既往歴など)により発病したと認められないこと

うつ病は、1.の精神障害に該当します。また、本件では業務以外の事情による精神的負荷や、精神障害の既往歴などもないため、3.についても満たすことになります。

2.については、まず発病前約6カ月の間に同基準の「特別な出来事」に該当する出来事があるかを検討します。特別な出来事には、生死にかかわる業務上のけがをしたこと、発病直前の1カ月に160時間超の時間外労働を行ったことなどが該当します。本件では、これらの特別な出来事はないので、次に「特別な出来事以外の出来事」について検討します。

特別な出来事以外の出来事については、同基準の中に、労働者に心理的負荷を与えると思われる出来事の類型と、類型ごとの心理的負荷の評価基準(強・中・弱の3段階で判断)が設定されているので、それに実際に起きた出来事を当てはめて判断します。

例えば、「勤務形態に変化があった」という出来事の類型がありますが、この類型の心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、Cさんは就業環境の変化によりストレスを感じていますが、強い心理的負荷があるとは考えにくいということです。

また、時間外労働については、「1カ月に80時間以上の時間外労働を行った」という類型が設定されており、時間外労働が月80時間未満の場合、心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、発病の直前6カ月の時間外労働は月30時間なので、これについても強い心理的負荷があるとは考えにくいということになります。

以上(2020年11月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

pj00452
画像:pixabay

もし社員がユニオンに駆け込んだら?

書いてあること

  • 主な読者:「合同労働組合」(以下「ユニオン」)から団体交渉の申し入れがあった際、落ち着いて対応したい経営者
  • 課題:中小企業の多くは労働組合を持たないため、団体交渉に不慣れである
  • 解決策:専門家(弁護士や社会保険労務士)に交渉のポイントをヒアリングする

労働者が労働組合を結成し、労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉を行うことを「団体交渉」といいます。「ウチには労働組合がないから、団体交渉とは無縁だ」と思ったら大間違いです。「ユニオン」といって、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合があるのです。

解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルが発生すると、中小企業の社員がユニオンに駆け込み、そのユニオンが団体交渉という形で、企業に対し解雇の撤回などを求めてくることがあります。中小企業の経営者は、団体交渉に不慣れかもしれません。そこで、本稿ではユニオンから団体交渉の申し入れが来たときの対応のポイントを紹介します。

Q1 そもそもユニオンって何?

企業ごとに組織され、その企業の社員のみを組合員とする労働組合を「企業別労働組合」と呼びます。大企業で組織されることがほとんどで、中小企業で組織されることは少ないです。ユニオンは、こうした企業別労働組合を持たない中小企業の社員などが、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合です。

ユニオンの種類はさまざまで、全国規模で活動し、業種や雇用形態に関係なく加入できるものもあれば、特定の地域のみで活動し、特定の業種や雇用形態(パート、派遣社員など)の社員のみが加入できるものもあります。

ユニオンは、企業別労働組合と同様、労働組合法に基づき、団体交渉などの組合活動を行います。団体交渉の内容は、解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルに関するものが多く、賃上げなどの待遇改善に関するものは少ないようです。

Q2 なぜ今、ユニオンへの対応が必要なの?

新型コロナウイルス感染症の影響で解雇や雇止めをされた労働者は増え続けており、2020年9月11日現在で累計5万4817人(見込み数を含む)に上ります。社員も、万が一解雇や雇止めをされたときのために情報を集めており、その過程でユニオンに行き当たる可能性があります。特に昨今は、スマホから無料で相談できるオンライン形式のユニオンなどが登場しており、相談のハードルが下がってきています。

解雇や雇止めが現状発生していないという企業も油断はできません。例えば、感染対策としてリモートワークを実施している企業では、労働時間を把握しにくいために賃金未払いが発生することがあります。リモートワークの“過渡期”は我慢していた社員も、いつまでたっても状況が改善されないようであれば、ユニオンに駆け込むかもしれません。

Q3 どうして社員はユニオンに駆け込むの?

一般的には、企業の処分(解雇など)や対応(ハラスメントの相談に応じてくれないなど)に不満のある社員が、「企業と直接話し合ってもらちが明かない」と、ユニオンに駆け込みます。

ユニオンの中には、担当する団体交渉の内容や実際の活動報告を組合ウェブサイトなどに掲載しているところがあり、労働トラブルに悩む中小企業の社員などは、こうした媒体を通じてユニオンに相談に行き、加入しているようです。

また、ユニオンに加入するには、組合費(月額数百円から数千円程度)を定期的に支払う必要があります。弁護士に依頼するよりも廉価に労働トラブルを解決できる可能性があるため、収入面に不安のある社員などが、弁護士の代わりにユニオンを頼るケースがあります。

この他、経営者に近い地位にいる管理職などが経営者とトラブルになり、社内に相談できる人間がいないために、ユニオンに加入するケースもあります(管理職向けのユニオンも存在します)。

Q4 ユニオンから団体交渉の申し入れがあったら?

社員がユニオンに加入すると、社員から事情を聞いたユニオンから企業に対し、「団体交渉申入書」が送付されます。通常は郵送やFAXで送付されてきますが、企業の交渉窓口担当者宛てに「団体交渉申入書」を添付したメールが送られてくるケースもあるようです。

団体交渉申入書の書式はユニオンによって異なりますが、その内容はおおむね次の通りです。

  • 団体交渉の日時・場所(企業側で決定するよう求められることもあります)
  • 要求内容(解雇の撤回、ハラスメントへの補償、未払い賃金の支払いなど)
  • ユニオンの連絡先
  • 回答の期限

企業は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。例えば、「団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置する」ことは許されません。

団体交渉申入書が企業に届いたら、まず回答の期限を確認します。期限は「団体交渉申入書の到着から7〜10日程度」など、短いのが通常です。団体交渉に臨む前に、要求内容に関連する書類を集めるなどの事前準備が必要なため、次はユニオンに回答の期限の延長を依頼します。

具体的には、「回答書」という書面(書式は任意)で「期限までに回答することが難しい」ことをユニオンに伝えます。要求内容によって、団体交渉の事前準備にかかる時間が異なるため、「いつまでに回答するか」は具体的に記載せず、「めどが立ち次第、回答する」程度にとどめておくのが無難です。

回答の期限の延長を依頼したら、次のようにユニオンの要求内容に関連する書類を集めます。

  • 解雇:解雇理由証明書、就業規則(解雇事由に関する部分)のコピーなど
  • ハラスメント:ハラスメントの事実確認を行っている場合、記録のコピーなど
  • 賃金未払い:賃金台帳、タイムカードのコピーなど

上の書類は一例であり、労働トラブルの内容によって必要な書類が異なります。実務では、弁護士や社会保険労務士などの専門家に、必要な書類について相談するのが無難です。書類集めが終了し、団体交渉の準備が整ったら、再度回答書を作成し、団体交渉の日時・場所などをユニオンに連絡します。

Q5 団体交渉の日時・場所などはどうする?

団体交渉申入書には、団体交渉の日時・場所が記載されていることがありますが、企業には、団体交渉申入書の内容に従う義務まではありません。また最近は、日時・場所について、企業側で決定するよう求めてくるユニオンも多いようです。そこで、回答書に記載する団体交渉の日時・場所などのポイントを見ていきましょう。

1)日時

日時については、要求内容に関連する資料など団体交渉の準備が整っており、同席を求める場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家の都合のよい日程を選択するのがよいでしょう。

2)場所

場所については、外部の貸し会議室などを選択する企業が多いようです。企業のオフィスやユニオンの組合事務所を選択すると、いつまでも交渉が終わらないケースがありますが、外部の貸し会議室であれば、交渉の時間を区切ることができるからです。貸し会議室の利用料は、企業負担となることが多いようです。

なお、最近では、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、貸し会議室などを利用せず、チャットツールなどを使ってオンラインで団体交渉を行うケースも少なくありません。

3)出席者

出席者については、経営者のように、ユニオンの要求内容に関する決定権限を持つ人が出席しないようにします。団体交渉の場で、要求内容の即時決定を求められないようにするためです。交渉役として適任なのは、人事労務担当者など、事情を理解していて交渉を進める能力はあるが、要求内容に関する決定権限を持たない人です。

また、交渉は2人以上で臨み、1人が交渉役、1人が書記を担当し、交渉役が話し合いに集中できるようにします。交渉に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に同席してもらうのもよいでしょう。

ただし、弁護士以外の専門家が企業に代わって交渉を行うことは非弁行為に当たるため、社会保険労務士などがユニオンと交渉することはできません。社会保険労務士などが同席する場合、受けられるサポートは企業の担当者への指導・アドバイス、情報提供などに限定されます。

Q6 団体交渉の流れは?

団体交渉当日、交渉役は団体交渉申入書のコピー(またはユニオンの要求内容が分かるもの)、要求内容の関連書類を持参します。この他の書類として、ユニオンから事前に就業規則のコピーなどを持ってくるよう求められる場合がありますが、直ちに応じる義務はないため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して対応を決めましょう。

団体交渉には、企業とユニオンが事前に選出した人間が出席します。なお、ユニオン側はユニオンの交渉役と、社員本人が出席するのが通常です。

団体交渉は1回で終了することもありますが、企業もユニオンの要求全てに同意できるわけではないため、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけることになります。

例えばハラスメントの場合、ユニオンから企業に対して、社員に対する謝罪を求める傾向があります。しかし、ハラスメントに該当するかの法的判断は難しいものです。ここで安易に謝罪してしまうと、ユニオンは「企業がハラスメントを認めた」ことを活動報告などで発表するため、企業のイメージ失墜につながる恐れがあります。

一概には言えませんが、ハラスメントに当たるかが法的に明らかでない場合などは、「意図せず社員を傷つけた」という理由で、金銭を支払って決着させるのが妥当なケースもあります。

交渉のポイントは、企業がある程度ユニオンに歩み寄る姿勢です。例えば、交渉が何回目かに及んだ段階で、可能な範囲でユニオンの要求に応じる姿勢を見せると、ユニオンもある程度譲歩してくれることがあります。落としどころが見つかれば、団体交渉は終了し、企業は交渉結果の内容に基づく対応(上のハラスメントの例であれば、金銭の支払いなど)を取ります。

一方、何度交渉を重ねても、企業とユニオンの主張が相いれなければ団体交渉は打ち切りとなります。その後は労働審判や訴訟に移行することがあります。ただし、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるため、できる限り団体交渉を継続しようとするユニオンも少なくありません。

Q7 団体交渉などでのNG行動は?

団体交渉で注意すべきなのは、ユニオンが労働協約(労働条件などについて、労働組合と使用者との間で締結する書面の協定)への署名を求めてきた場合です。「労働協約」と書かれておらず、「協定書」「合意書」「議事録」などの名称でも、企業とユニオンの双方の署名があれば、労働協約として成立し得ます。

問題なのは、労働協約の内容が労働条件になってしまうことです。労働協約に定める労働条件などに違反する労働契約は、その部分について無効となり、労働協約の基準が適用されます。労働協約の基準が適用されるのは、そのユニオンに加入している社員のみですが、仮にユニオンに自社の他の社員が加入すれば、その社員も適用対象となるのです。

もちろん、労働協約の内容が、企業とユニオンが合意した内容であれば問題ありません。しかし、例えば団体交渉の途中などで安易に労働協約に署名してしまうと、労働条件などが企業の意図しないものになってしまう恐れがあります。

この他、ユニオンに駆け込んだ社員への接触にも注意しましょう。社員にユニオンからの脱退を促すことは、不当労働行為となります。直接脱退を促さなくても、ユニオンの目の届かないところで「会って話をしよう」などと持ちかけると、不当労働行為を疑われる恐れがあるので、業務上必要な場合などを除き、当該社員への接触は避けたほうが無難です。

以上(2020年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

pj60139
画像:unsplash

日本の水道崩壊、今そこにある危機を明らかに〜AI技術を活用したFractaの日本における取り組みについて〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、樋口 宣人さん(Fracta 日本法人代表)です。

道路上から突然水が吹き上がる、道路が陥没する、そんなニュースを毎年何度か見かけます。例えば今年の1月には横浜磯子区での水道管の破裂で、3万世帯で断水がありました。その記事はこちらです(読売新聞電子版から引用)。この破裂した水道管が敷設されたのは1973年、記事中にもある通り1973年から一度も交換していないそうです。
我々が最低限生きていくための大切な最後のインフラであるのが水道。世界トップレベルで誇らしい、日本の水道インフラ、安心安全、衛生的、その誇らしい水道に危機的状況が迫っている。そんな現状とこの社会課題と向き合い、日本のために、水道事業の未来のため、次世代に水道のツケをまわさないために、シリコンバレーが発端の日本人シリアルアントレプレナーが米国で起業、奮闘し導入が進んだAI技術を日本で展開中のFracta社、その日本法人の代表である樋口さんにお話を伺いました。

【Fracta 日本法人代表 樋口 宣人さん】

1 日本の水道の財務インパクトについて

1)日本の水道の年間予算について

危機だ、危機だと煽るつもりはありませんが、今の現状を把握しておくことは重要ですね。まずはアウトラインを。日本の水道における【2050年】と【水道崩壊】について。

◆マクロ要因としての人口減少

  • 2010年の1億2,800万人をピークに、2065年には8,800万人へ
  • 3兆2,450億円の水道料金収入は、2兆2,200億円へ
  • 水道資産をこのまま維持しようとすれば、水道料金は47%もの引き上げが必要

◆管路の老朽化

  • 水道関連資産の7割を占める水道管は老朽化が進む
  • 水道局の約4割で、水道管を中心とした台帳管理の整備がままならない状況に
  • 将来30年間の更新費は年平均約1兆6千億円、修繕費は同約2.3千億円との試算
    出所:令和元年度全国水道関係担当者会議資料 (2019)その1(会議資料)その2(パワーポイント資料編)

◆都会と地方の格差拡大

  • 人口密集度の違いが水道料金の総量の大小に直結
  • 一方で、配管の総延長は必ずしも地域の人口密集度に比例しない
  • 人口減は地方においてこそ顕著であり、半減すらあり得る (水道料金は2倍に)
  • 地方の水道局から経営は逼迫

上記のみならず、台風、地震などの自然災害、コロナウィルス等々への対処も今後増えていくことも考えれば危機が増大していることは明白ですね。

2)財務インパクトを解りやすく

こちらの動画をご覧ください。左右の違いをお解りいただけると思います。

【上記は3年前に行ったサンフランシスコのシミュレーション今後50年後】

街の有様が左と右でどう違うか一目瞭然だと思います。
 まだまだ健全な水道管を押し並べて交換していてしまうとコストは莫大に次代に掛かってしまいます。その財務インパクトを、Fracta社が2017年に試算しました。

サンフランシスコ(約270万人、約2,000km)にFractaを適用すれば、最大40%のコスト削減、すなわち年間20億円の削減を期待できます(※)。つまり50年で単純に計算すると最大20億円×50年で1,000億円のコストを下げていくこと、財務インパクトは莫大ですね。この長期間におけるインパクト、この理解が未来のために大切に感じ、対策を講じていくことが重要に思います。

  • ※試算方法

    ・サンフランシスコ(SFPUC)の給水収益は、500億円(2017年度)
    ・SFPUCの管路更新費30~50億と推測*
    →仮に管路更新費を40%**コスト削減できれば、最大20億円の削減となる。
    注1)*SFPUCからのヒアリングに基づいて、FRACTAが推計した。事業規模がほぼ同じ大阪市と対比しても、ほぼこの水準だと考えられる。

    注2)**SFでのタイムシフトスタディで得たFRACTA検証結果(2018)

3)日本の水道事業が抱える課題(行政とのジレンマ)

実際に同社を導入する際の予算感について、これがすごく簡単。

  • →1キロ10,000円程度(初期費用を除いて)
  • これに対して実際に道路を掘り起こして埋設された水道管を交換する費用は?
  • →1キロの水道管交換費用1億円
  • 市町村における水道管ってどのくらいの長さ?
  • →10万人都市の管路延長は約500~800キロ。FRACTAへ依頼した場合のコストは500〜800万円となります。これが毎年かかる費用となります。

米国でも相当の実績を引っ下げて、日本に持ち込んでいるこの技術、しかしながら、樋口さんは市町村の行政の壁もあると感じています。

行政側の方々と話していると、立場、立場で現状の認識が異なり、技術論に終始し、本来のあるべき姿に議論が及ばないことが見受けられます。技術的な優劣比較ではなく社会コストをいかに下げるか、全体最適の見地でもっとディスカッションができることを望んでいます。行政側の未来への財務戦略の根幹でもある水道インフラ、まさに茹でガエルにならないように早めの決断をしていくべきタイミングに感じます。

2 事業化までのスピード、Fracta社の米国での展開について

1)米国での展開、その当初から私は存じていました

私がなぜFracta社と懇意か? それは、創業者の加藤さんが仲良くしてくださっているからなんです。

【こちらは今年の1月に加藤さんが帰国された際の写真です。笑顔が爽やかですね。】

加藤さんとは、Google社に東大発ロボットベンチャーを売却後すぐにある方のご縁でお会いさせていただきました。かれこれ、6年ほど前になります。その後、私が独立する際、私を慮って連絡をいただきご自身の著書【未来を切り拓くための5ステップ―起業を目指す君たちへ―】を進呈くださり、応援、エールを贈ってくださいました。思い出すたびにアツいものが込み上がります。

それから、あらゆる管の中を自由に進んでいくロボットベンチャーに関わるようになった加藤さん、当初は日本発で活動されていましたが、海外で!ということから米国へ旅立つことに、その際にもお会いさせていただきました。米国の広い大地を縦横無尽に張り巡らされている【管】、その調査用にこの自律走行ロボットで事業化をしていこうと頑張っていたのですが、その自律走行するにも図面が必要だった、その図面データを作ること自体に【価値】があり大事だった。その図面データをアナログからデジタル化できれば大きなマーケットがある、大きな事業化が見えてくる、そこで自律走行ロボットからAIによる水道管調査へピボットしたことから快進撃がスタートとなります。そこから加藤さんの突進力、米国の水道事業者への突撃に次ぐ突撃で現在は全米27州63の水道事業者が採用、既に約12万kmの水道管データを学習済みだそうです。

2)AI技術を活用し水道管劣化を防ぐことはヘルスケアに似ている

 樋口さんのお話の中から、このAIによる水道管調査って、人の【ヘルスケア】に似ていると。私もそのとおりと思いました。私も受診している健康診断。3年に1度とかではなく毎年受診することで、経年のデータ状況がわかりやすくなっています。なにも過去データがなく、当てスッポのように年数ベース古い方から交換している現状は、米国、日本もほぼ同じ。ヘルスケア、健康診断と同様にAI調査を毎年受けることでどの部分から補修するのか、交換するのかを選択して工事計画を立てていく。まさに冒頭の動画シミュレーションの結果に繋がることだと思います。

樋口さんからもシミュレーションができることが大きい、手術するのか、しないのか、将来に向かって、今まさに健康診断をやるかやらないかで、水道での大切な部分の色分け、エリアによっては、優先的にまもるべき病院、工場、発電所、介護施設どこを優先するのかの判断軸もこの調査でえられることになります。

話を伺っていて、私は水道管のピンピンコロリを目指すものだと認識しました。

米国事例 ミシガン州における漏水リスクの予測診断の画像です

広大なエリアのミシガン州、同社の予測診断情報をサイト上でも開示しています。
 そのサイトはこちらです。

3 日本国内で進む事例

1)樋口さんはなぜ、Fracta社にジョインしたのか?

樋口さんとお会いしていて、米国にいる加藤さんと同じ様に、アツい感性をお持ちであることを感じます。その樋口さんのプロフィールについて。

Fracta 日本法人代表
東京大学工学部卒、スタンフォード大学院経営工学修士(MS)。
1990年三菱総合研究所入社。専門はオペレーションズリサーチ、意思決定分析。官公庁の政策立案並びに企業の戦略策定に関わる調査研究、コンサルティングに従事。その後、2000年ケンコーコム(株)を共同創業し常務取締役COO、2015年(株)ウォーターダイレクト代表取締役などベンチャー企業経営者を歴任。2019年9月よりFractaに参画。日本における事業開発責任者として事業統括にあたる。

樋口さんと以前にお話していて、官公庁向けの未来の街づくりに関するお仕事、スタートアップの立ち上げや中小規模の会社経営全般の切り盛り、水に関わること、そして最先端技術に関わること今までのご経験が今のお仕事の布石となり、巡り巡ってこれをやるべしって感じの縁が重なったものと仰っていました。

2)ファーストペンギンが出始めている日本の地方行政での実績について

2019年から日本では実証検証がスタートし、アメリカ同様日本においても有用性を確認しているそうです。実際の役務としての業務委託は今年から始まっていて10以上の自治体で何かしらの【実績】があります。インタビュー時点の9月初旬は2021年度の予算組が始まっているところにアプローチをしている状況だそうです。

実際の事例について。

・愛知県豊田市の事例。同市の発表サイトはこちら。こちらの事例については水道産業新聞記事【豊田市上下水道局の新展開ルポ】から抜粋いたします。豊田市は、愛知県のほぼ中央に位置する人口42万4000人の中核都市。水道は昭和31年に給水開始し、導・送・配水管の総延長は約3,656キロ。現在の年間整備・更新延長は約40キロで総延長に対する整備・更新率は1.1%となっている。豊田市担当者のFRACTA社導入へのコメントとして、『より具体的にどの路線から更新を行っていくのかの優先順位を決定するにあたって、前回の管網機能評価を実施してから5年が経過していることから、旧簡水地区も含めて再度行うことも検討しました。しかし、従来の手法で行う管網機能評価は、職員の経験によるところが大きいですが、旧簡水地区の漏水箇所を熟知している職員は少数であるため、十分な精査を行うことが不可能な状況です。加えて、今年度からストックマネジメント計画が開始し、整備路線の選定は市民などから注目される可能性が高く、優先順位付けの根拠を定めておく必要があるなかで、過去の漏水箇所と行った客観的な要因と土壌環境などの事実に基づいて破損確率を高精度に解析するAIを活用した水道管劣化予測に注目しました』さらに今回の取り組みが持続可能な水道経営につながることを期待し、『市民の皆さんに対して将来にわたって安全・安心な水道水を供給できるよう、今回の結果を上手く活用して効率的に管路の更新を進めていきたいと思います』と結んでいます。まさに決断をしたからこそ言えるコメントと感じますね。

・福島県会津若松市の事例。同市の資料はこちらです。会津若松市は上下水道局では、水道管更新計画の立案にあたり、工事台帳や竣工図面を基にして、布設年度や管種、管継手種類、漏水修理記録から導いた事故(漏水)率といった間接的な情報により、管路更新の優先度を決定してきた。優先度の高い管路は布設年度が古い管に偏っているが、古い管と位置づけられるものでも機能を維持している管路は多く、古い管は更新することにすぐに結び付けにくいのが現状となっている。そのため、有収率向上や管路更新の適正化を図るため、AIを用いた管路劣化度調査を行い、またその結果を基に新たな管路維持管理手法を策定することとした。同局担当者は、効率的な管路更新に向けて、『今回のAIによる診断法は、管路診断法のうち、市がこれまで実施困難だった直接診断法にとって代わる手法として位置づけられるもの。間接的な情報とAIによる診断の結果を組み合わせ、管路更新をの優先順位決定のための1つの要素とすることにより、管路劣化情報が加味された、より多角的な視点で捉える効率的な管路更新を目指したい』とコメントしています。(以上今年7月20日付水道産業新聞より)

福島民報の6月11日(論説)の最後には、市はスマートシティ会津若松の実現に向け、ICTオフィスを軸に事業を展開している。着実に成果を挙げているが、市民の隅々までスマートシティの恩恵が行き渡っているとは言えない状況にある。生活に身近な水道事業へのAIやICTの活用は、市民の理解に大きな役割を果たすだろう。と書かれています。

記事を拝見していて、スマートシティ構想にも合致し、まさに水道インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)を行うものであり、都市デザイン、都市開発への影響度も高いことを感じます。

3)Fracta社の日本における展開について

今年の8月に私のご縁で、樋口さんに登壇していただいたことがあります。そのイベントはこちらです。このイベントの企画開催者である平林さんに樋口さんのこと当日の感想をお聞きしました。『樋口さんは謙虚でクレイジーな方という印象でした。まず自分の話よりも人の話をよく聞いて、誰からでもなにかを学び取る姿勢が本当にステキな方だなと。一旦話し始めると淡々と話しているんですがよくよく聞いているとクレイジーな発想で現実にまで落とし込まれているのがとても印象的でした。例えば、いまの水道管診断のAI技術を他業界への展開のお話(この日本に導入しはじめのタイミングでそこまで描いているのか?)など』という平林さんも一瞬で樋口さんのファンになったのだと感じました。

    Fracta社の想いについて

  • 社会を支えるインフラが、社会の問題にならないために。
  • 多くの課題を解決し、社会益を創り出すために。
  • イノベーションで世界を変えていく

上記の想いを水道インフラからまず実現していく、日本国中で社会益を実現しながら。この挑戦を初めたばかりですが、8月の終わりにまた新たなリリースも有りました。【フラクタ、AIで水処理のコスト削減 栗田工業と:日本経済新聞】記事はこちら。このスピード感と展開力まさにワクワクドキドキの連続、楽しみが尽きない感じです。水道管ビジネスを基礎にこの先には、ガス管、下水道、さらにトンネル、橋梁、人がなかなか近づけないようなインフラにもこの技術は転用可能と感じます。

このようなフルスロットルで駆け抜ける米国発スタートアップ企業と日本の自治体が取り組みを加速すること、またここに地域金融機関とも連携強化することで地方の活性化が進むことを願いたいと思います。

以上(2020年9月作成)

この勘定科目が危ない?勘定科目ごとの税務調査対策

書いてあること

  • 主な読者:税務調査のポイントを勘定科目ごとに知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:どういった視点で調査するのかを知りたい
  • 解決策:勘定科目ごとの指摘の特徴を知る。とはいえ、日ごろから、しっかり運営することが最も重要

税務調査とは、申告内容に間違いがないかを確認する手続きです。日ごろから会計・税務を正しく認識した上で処理を継続していれば過度に心配する必要はありませんが、それでも経営者が気になるのは、「どの費用が危ないの?」といったところでしょう。本稿では、税務調査の際に指摘を受けやすい点を勘定科目ごとに整理します。

なお、新型コロナウィルスの影響により、今後の税務調査の方法が変わる可能性があります。2020年4月に緊急事態宣言が発出された際は、一時的な措置ではあるものの、会社の同意のもと、調査官と会社が双方にアクセスできるサーバーに必要書類を保存するといった形で資料の提示や質問のやり取りをする方法が取られた事例もありました。この辺りの動向についても注視しておきましょう。

1 勘定科目別 税務調査のポイント

1)売上・仕入・棚卸資産の主なポイント

1.期ずれ

物品の引渡しや役務の提供が完了しているものは、原則、その完了した時点で「売上」 として計上する必要があります。これに従わず、請求書が発行された日や売上代金が入金された日で売上計上している場合、税務調査で指摘される恐れがあります。税務職員は、売上計上のタイミングのずれを納品書や在庫表等で確認し、経理処理の誤りを指摘してきます。

また、原則として「仕入」は売上に対応して計上する必要があり、まだ計上されていない売上に対する「仕入」は、決算時には「棚卸資産」として経理処理しなければなりません。

2.売上の除外・仕入の架空計上

税負担は決して軽いものではありません。そういった中で税負担を回避しようと「売上」を意図的に除外、または架空の「仕入」を計上することをもくろむ経営者がまれにいます。税務職員は、反面調査や入金記録等さまざまな観点から調査を行い、巧みに売上除外や架空経費を検出することにたけています。税務調査でこれらが検出された場合、悪質であるとして、本来納める税金から当初納めた税金の差額(不足額)に加えて、重加算税が課されます。

2)人件費の主なポイント

1.役員給与

役員給与は、税務上のルールが厳格に定められています。役員への給与は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当しないと、税務上の費用(以下「損金」)として認められません。例えば「定期同額給与」は、原則として会計期間開始の日から3カ月を経過する日までに1回だけ改定することが認められています。この時期以外で役員に対して特別手当の支給や、報酬を改定した場合には、原則としてその改定した額等は、損金の額に算入されません。

2.その他の人件費

経営者の親族等に給料を払うケースはよくあることですが、実際に業務に携わっていない人に支給した給料や、業務に見合っていない高額な給与は損金の額に算入されません。税務調査時には、タイムカードの提示や業務内容の聴取等が行われます。

また、給与は経営者の親族等に限らず雇用している従業員等全てにおいて、一定額を超えて支払う場合、「源泉所得税」を徴収する必要があり、定期的に税務署に納めなければなりません。いくら徴収するかは、給与が支給される者の状況および支払額により決定されます。日雇い等、単発で支払う給与についても源泉所得税を徴収する必要があります。徴収していない場合、税務調査時において源泉徴収義務違反として指摘されます。

3)販売費及び一般管理費の主なポイント

1.交際費

交際費は損金として扱うことに対して、一定の制限が設けられています。会計上は交際費として経理処理していなくても、支出の内容が、接待・供応・慰安・金品贈与等に該当すると認められる場合には、税務上の交際費として取り扱われます。

また、交際費のうち、「社外の者との飲食その他これに類する行為のために要する費用」に該当する場合は、帳簿書類で次の事項を記録しておく必要があります。

  • その飲食があった年月日
  • その飲食に参加した取引先・得意先の氏名や名称と接待側との関係
  • その飲食の支払金額と支払先の名称および所在地
  • その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項

2.修繕費

保有する固定資産等を修理して多額の出費があった場合、費用ではなく、資産として計上しなければならないケースがあり、これを資本的支出といいます。具体的には、固定資産の価値を高め、または、耐久性が増すことになると認められる部分がある場合は、資本的支出として資産計上しなければなりません。資本的支出に該当する場合、減価償却資産として、適正な耐用年数に従って毎期償却します。

3.退職金

退職金を支給した場合には、退職金を受給した従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受領しておく必要があります。これを受領することにより、退職金に対する源泉徴収税額の優遇措置が適用されます。もし、受領していない場合は、一律20.42%(復興特別所得税含む)の税率による源泉徴収を行う必要があります。なお、受領した申告書は税務署への提出は不要で、会社で保管します。

4.役員の個人的支出

会社の事業に関係のない個人的な支出は、損金として認められません。また、役員の支出した経費が、税務調査により個人的な支出であると指摘された場合、その支出が損金として認められないだけでなく、その役員に対する給与(賞与)であると指摘される恐れもあります。この場合、会社において源泉所得税の徴収漏れを指摘される他、その役員の所得税・住民税について追徴課税が行われることになります。

4)固定資産の取得、売却に関連する主なポイント

固定資産を取得した場合、その取得代金の他、取付工事費用や運搬費等の付随費用も、資産の取得価額(資産に計上する価額)に含まれる点に留意しましょう。また、耐用年数が適正に定められているか、減価償却が事業の用に供した日から正しく実施されているかという点も、税務調査の対象とされます。

固定資産を売却する場合、売却価格は時価とする必要があります。第三者へ売却する場合には、明らかな寄附・受贈の意思がない限り、通常、取引当事者間で交渉して決定される価格が時価として認められます。一方、グループ法人や親族等の同族関係者間で行われる売買については、取引価格を決定する過程において恣意性が働きやすいことから、その売買価格の妥当性が税務調査の対象とされます。

5)ソフトウエア、研究開発に関連する主なポイント

支出した金額が税務上の研究開発費(試験研究費)に該当する場合は、その支出金額は支出した時点で損金として取扱われます。

ソフトウエアの制作に要した支出であっても、税務上の研究開発費に該当する場合は、支出した時点で損金として取扱われます。それ以外のソフトウエアの制作に要した支出は固定資産に該当し、自社で制作した場合は、原材料費だけでなく労務費や間接経費も取得原価を構成します。

実務上、税務調査で無用な疑義を持たれないよう、開発しているソフトウエアごとにプロジェクトコードを付し、プロジェクトごとに開発フェーズ(研究→開発→製造)を分け、支出したコストをプロジェクト別および開発フェーズ別に配分し、適正な原価計算が行われる管理体制を構築しておくことが重要と考えられます。

2 税務調査時の最近の傾向や、経営者の心構え

近年は問題点の所在をつかむためにヒアリングする時間が増えていると感じます。これは、2013年1月の国税通則法の改正により、税務職員は納税者から提出された資料を、必要に応じて預かることができるようになったことが影響していると考えられます(それまでの現場での調査は資料閲覧が中心だった)。加えて、税務署側も納税者側への説明責任が強化されたことから、反面調査の割合も増え、その分、調査終了までの期間が長くなってきているとも感じます。

また、国税通則法を理解しないまま、税務調査の対応をしている税務職員や税理士がいることも確かです。ルールにのっとっていない税務調査には、経営者として対応する必要はありません。財務・経理の担当者は、税務職員から誤解を受けることのないようにポイントを押さえた会計・税務処理を心掛け、健全な税務調査対応を意識する必要があると考えられます。

何よりも大切なのは、指摘される事項がないように心掛け、また、それをチェックする体制を構築しておくことです。

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30091
画像:igorstevanovic-shutterstock

クラウドファンディングや給付金 受け取ったお金の税務上の取り扱い

書いてあること

  • 主な読者:資金調達を実施した、または検討している中小企業等の経営者・税務担当者
  • 課題:資金調達方法ごとに、税務上の取り扱いが異なる
  • 解決策:基本的に返済義務がない場合には課税が発生し、返済義務がある場合には課税が発生しない

新型コロナウイルス感染症の拡大で経営の先行きが不透明ななか、中小企業および個人事業主(以下「中小企業等」)にとって資金調達が経営上の喫緊の課題となっています。近年、資金調達の方法は多様化していますが、税務上の取り扱いが気になるところです。クラウドファンディング、補助金・助成金、寄附金に注目し、それぞれの概要をおさらいした後、税務上の留意点を解説します。

1 クラウドファンディングの場合

1)クラウドファンディングの概要

クラウドファンディングとは、インターネット上で不特定多数の支援者から資金調達をする仕組みです。クラウドファンディングの類型はさまざまですが、例えば次の4つに区分することができます。

  • 購入型:起案者(中小企業等。以下、同様)は支援者へのリターンとして商品やサービスを提供。資金調達やPR、テストマーケティングのために実施される
  • 寄附型:起案者のプロジェクトを、支援者が寄附などの形で支援。基本的にリターンはなく、社会的意義のあるプロジェクトなどを直接、支援したい人を募る
  • 融資型:支援者から小口資金を集めて大口化し、中小企業等に融資。支援者へのリターンは元利金です。中小企業等は「デット」として資金調達
  • 投資型:中小企業等が未公開株を提供し、支援者から資金を募る。支援者へのリターンは配当や株主優待。中小企業等は「エクイティ」として資金調達

2)クラウドファンディングにより受け取った資金の税務上の取り扱い

1.購入型

購入型は、実質的に商品やサービスの予約販売であり、受け取った資金は商品・サービス提供に対する対価となります。そのため、法人税等の計算上、収益として計上(課税の対象となる)されます。

消費税に関しては、商品・サービス提供に対する対価は資産の譲渡等(消費税の課税対象となる取引。一定のものを除く)に該当するため、課税されます。

2.寄附型

寄附型で受け取った資金は、返済義務がないため、寄附金収入として法人税等の計算上、収益として計上されます。消費税に関しては、寄附金は資産の譲渡等に該当しないため、消費税は課税されません。詳細は後述の「3 寄附金の場合」と同じ取り扱いです。

3.融資型

融資型で受け取った資金は、支援者に対して返済義務があるため、債務(借入金として負債に計上)となります。そのため、法人税等および消費税共に課税関係は生じません。

4.投資型

投資型で受け取った資金は、株の発行により受け入れるお金であるため、資本金等(純資産に計上)となります。そのため、法人税等および消費税共に課税関係は生じません。

2 補助金・助成金の場合

1)補助金・助成金の概要

補助金・助成金は一定の要件を満たす場合に、国や地方自治体から支給されます。

補助金は、経済産業省が管轄しているものが多く、基本的に返済不要です。予算が決まっているため、支給を受けられる事業者や金額に上限があります。具体的には、設備投資などに対して支給されるものづくり補助金、持続化補助金などがあります。

助成金(給付金、奨励金も含む)は、厚生労働省が管轄しているものが多く、基本的に返済不要です。具体的には、雇用の維持、休業手当の補填などに対して支給される雇用調整助成金や、新型コロナウイルスの影響により売上が減少した事業者に支給される持続化給付金、家賃支援給付金があります。

2)補助金・助成金により受け取った資金の税務上の取り扱い

補助金・助成金は、基本的に給付が確定した時点で収益となり、法人税等の課税の対象となります。ただし、定額給付金など内容によっては非課税となるものもあります。

また、雇用調整助成金については、その収益の計上時期は、給付が確定した時点ではなく、給付の要因となった休業などの事実があった時点となります。仮に、雇用調整助成金の申請をした後、給付を受ける前に決算日を迎え申告を行う場合には、給付金額は確定していませんが、見積金額により収益を計上する必要があるため注意してください。

消費税に関しては、補助金・助成金の給付は資産の譲渡等に該当しないため、課税されません。

3 寄附金の場合

1)寄附金の概要

他者から中小企業等がお金またはその他の資産を無償で譲り受けるものをいいます。具体的には、災害などで被害を受けた際に、取引先から受ける寄附金収入などがあります。

2)寄附金により受け取った資金の税務上の取り扱い

寄附金により受け取った資金は、返済義務のないお金であるため、寄附金収入として法人税等の計算上、収益として計上されます。消費税に関しては、寄附金は資産の譲渡等に該当しないため、課税されません。

なお、相手先である支援者と寄附を受けた中小企業等の組み合わせにより、次の通り課税の内容が異なるため注意しましょう。

画像1

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

pj30094
画像:Tierney-Adobe Stock

【規程・文例集】「災害補償規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:法改正に対応した会社規程のひな型が欲しい経営者、人事労務担当者
  • 課題:どの情報が正しいか分からない。シンプルで分かりやすい情報が欲しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士など、専門家が監修したひな型を利用する

1 災害補償規程とは

企業は、従業員がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするという「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。具体的な取り組みはさまざまですが、基本的には労働安全衛生法に基づく職場の巡視、安全衛生教育や健康診断の実施、安全衛生管理体制の構築などがあります。

しかし、こうした取り組みを徹底しても労働災害を完全に防ぐことはできないため、労働災害への備えとして、企業は被災した従業員やその遺族のために、労働基準法(以下「労基法」)に基づく災害補償と、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)に基づく保険給付(政府管掌)に必要な手続きを行う義務を負っています。

労災法の保険給付を労働災害の「法定内補償」と呼びますが、製造業や建設業など労働災害が発生しやすい業種では、「法定内補償」に上乗せする形で、民間の損害保険会社の保険商品などを活用していることがあります。民間の損害保険会社の保険商品を、労働災害の「付加給付」や「法定外補償」などと呼びます。

以上で紹介した付加給付や法定外補償については、就業規則の相対的必要記載事項(定めるか否かは自由だが、定めをする場合には必ず就業規則に記載しなければならない事項)です。

2 災害補償規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【災害補償規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、就業規則第○条に基づき、従業員の業務上の災害(以下「業務災害」)および通勤による災害(以下「通勤災害」)による負傷、疾病、障害または死亡に対する補償(以下「災害補償」)について定めるものである。

第2条(労働者災害補償保険法に基づく災害補償)
1)従業員が業務災害または通勤災害により負傷、疾病、障害または死亡した場合、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)に基づく次の補償(以下「法定内補償」)が行われる。

画像1

2)第2条第1項の法定内補償が行われた場合、会社は労働基準法(以下「労基法」)に基づく災害補償の責を免れる。ただし、休業補償給付が支給されるまでの3日間(休業開始日から3日間)についてはこの限りではない。

第3条(付加給付)
会社は、従業員が業務災害または通勤災害により負傷、疾病、障害または死亡した場合であって、法定内補償を受ける場合には、法定内補償の他、次の付加給付を独自に行うものとする。なお、第三者行為災害の場合は支給しない。
 1.休業補償の付加給付。
 2.障害補償の付加給付。
 3.遺族補償の付加給付。

第4条(休業補償の付加給付)
会社は、従業員が業務災害により、療養のために休業したことで給与を受けられない場合、休業開始日から3日間については、労基法に基づく休業補償の他、次の通り付加給付を行う。
休業開始日から3日間:休業1日につき平均賃金の○○%

第5条(障害補償の付加給付)
会社は、従業員が業務災害または通勤災害により負傷し、または疾病にかかった場合において、治癒した後に身体に障害を残した場合、その障害の程度に応じて、平均賃金に別途定める「障害補償の付加給付支給日数表」(省略)の日数を乗じて算出した一時金を付加給付として支給する。

第6条(遺族補償の付加給付)
会社は、従業員が業務災害または通勤災害により死亡した場合、従業員の遺族の人数などに応じて、平均賃金に別途定める「遺族補償の付加給付支給日数表」(省略)の日数を乗じて算出した一時金を付加給付として支給する。なお、遺族の範囲と順位は労災法第16条の2によるものとする。

第7条(補償制限)
次の場合、会社は第3条に定める付加給付の全部または一部を行わないことがある。
 1.従業員が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により、負傷、疾病、傷害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせた場合。
 2.傷病を受けた従業員が正当な理由なく療養に関する指示に従わず、負傷、疾病または障害を増進させもしくは回復を妨げた場合。
 3.業務災害または通勤災害が、法令違反や就業規則などの社内規程・規則違反による場合。

第8条(民事上の損害賠償の免責)
会社は、第3条に定める付加給付を行った場合は、同一事由についてはその価額の限度において民事上の損害賠償の責を免れるものとする。

第9条(罰則)
従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第10条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)

pj00256
画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】「営業秘密管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 営業秘密とは

企業では、「発明」「顧客名簿」などのビジネス上有用な技術や情報を保有しています。これらの技術や情報の流出、他者の不正利用を防ぐための対策としては、特許を出願するなどの方法があります。しかし、特許として登録をすると、出願した発明内容などが一般に公開されてしまい、保護期間が満了すると、競合他社がその発明を利用した商品を販売することもできます。

そこで、発明の内容を知られたくないものや長期にわたって保護したいもの、特許などを取得することができない営業情報などについては、営業秘密として管理するのが得策です。

事業者間の公正な競争などについて定めた不正競争防止法によると、営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」を指します(第2条第6項)。

営業秘密の3要件は次の通りです。

1.秘密として管理されていること(秘密管理性)

その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等から見て、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされていること。

2.有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することに主眼を置いた要件であり、それ以外の情報であれば有用性が認められることが多い。現実に利用されていなくてもよく、失敗した実験データというようなネガティブ・インフォメーションにも有用性が認められ得る。

3.公然と知られていないこと(非公知性)

合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。
公知情報の組合せであっても、その組合せの容易性やコストに鑑み非公知性が認められ得る。

(経済産業省「不正競争防止法の概要(テキスト2019)」)

2 営業秘密の管理で注意すべきこと

近年では、企業同士のさまざまな形での連携が活発になっています。場合によっては、営業秘密に該当する重要な情報を連携先と共有したいこともあるでしょう。しかし、連携先と共有することで、前述した営業秘密の3要件を満たしていないことになる可能性があるため、注意が必要です。

なお、2019年7月から施行された改正不正競争防止法では、データ保護に関して新たに「限定提供データに係る不正競争行為」という概念が導入されました。

限定提供データとは、「業として特定の者に提供する情報(=限定的な外部提供)として電磁的方法により相当量蓄積され(=技術的管理性)、管理されている技術上又は営業上の情報(=有用性)であって、秘密として管理されているものを除くもの」(第2条第7項)のことです。当該データについて不正に取得、使用、開示等された場合においては、民事的救済措置を講じることができると規定されました。

従来は営業秘密として管理されていなければ、不正競争防止法による保護を受けられませんでしたが、限定提供データに係る不正競争行為が規定されたことにより、例えば、携帯電話会社が携帯電話の位置情報データを収集した人流データをイベント会社に提供する場合など、技術的管理性が認められれば、提供データは「限定提供データ」に該当し、不正競争防止法上の保護を受けることができるようになりました。

営業秘密ほどの強い保護は受けられませんが、重要な情報を他社と共有したいなどの場合、限定提供データとしての保護を念頭に管理することを検討してもよいでしょう。

3 営業秘密管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます(限定提供データについて営業秘密管理規程に盛り込むこともあります)。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、営業秘密管理規程を独立して策定せずに就業規則に盛り込む場合もあります。その場合でも、規定する内容は以下を参考にしていただくことで問題ありません。

【営業秘密管理規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、営業秘密の管理に関して必要な事項を定め、営業秘密の適正な管理および活用を図ることを目的とする。

第2条(適用範囲)
本規程は、役員および従業員(嘱託や契約社員、パートおよびアルバイト等一切の従業員を含む。以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第3条(用語の定義)
本規程における各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.営業秘密
 秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもののうち、第6条第1項により指定されたものをいう。
 2.営業秘密資料
 営業秘密を記載・記録した文書、図画、写真、図書、磁気テープ、CD-ROM、DVD、ハードディスクドライブ等、サンプルおよび開発中の製品、これに係る機械・装置・設備、その他これらに関する一切の資料並びにその複写物および複製物をいう。
 3.営業秘密等
 営業秘密および営業秘密資料を総称したものをいう。

第4条(営業秘密等管理責任者)
1)会社の営業秘密等を管理するため、営業秘密等の統括責任者(以下「統括責任者」)および管理責任者(以下「管理責任者」)を置く。
2)統括責任者は、役員の中から取締役会の指名により決定する。
3)管理責任者は、各部門長および各部門内の業務分掌単位の長とし、所管する部門および業務分掌単位における秘密情報の管理の任に当たる。

第5条(営業秘密資料の管理)
1)従業員等は、管理責任者の指示に従って、営業秘密資料を金庫または施錠可能な設備に保管するなどの適切な方法で管理するものとする。
2)従業員等は、管理責任者に事前の承認を得たときを除いては、営業秘密資料の複写および複製は行ってはならない。
3)従業員等は、管理責任者に事前の承認を得たときを除いては、営業秘密資料を持ち出してはならない。

第6条(指定)
1)管理責任者は、会社が保有する情報について、営業秘密として指定するとともに第7条に定める営業秘密等の等級を指定し、秘密保持期間およびアクセスすることができる従業員等(以下「アクセス権者」)の範囲を特定するものとする。なお、アクセス権者は従業員等のうち、特段の事情のない限り、パートおよびアルバイトを除いた者とする。
2)管理責任者は、営業秘密資料について、第7条に定める営業秘密等の等級を記載する、パスワードを設定するなどの適切な方法で、営業秘密等である旨を明示する。
3)管理責任者は、統括責任者の指示の下、営業秘密について、日時の経過等により秘密性が低くなり、または秘密性がなくなった場合においては、その都度、第7条に定める営業秘密等の等級の変更または指定の解除を行うものとする。

第7条(営業秘密等の等級)
営業秘密として管理するため、次の通り営業秘密等の等級を設ける。
 1.極秘
 これを他に漏らすことにより会社が極めて重大な損失もしくは不利益を受ける、またはその恐れがある営業秘密等であり、原則として指定された者以外には開示してはならないもの。
 2.秘
 極秘ではないが、これを他に漏らすことにより会社が重大な損失もしくは不利益を受ける、またはその恐れがある営業秘密等であり、原則として業務上の取り扱い部門の者以外には開示してはならないもの。
 3.社外秘
 極秘、秘以外の営業秘密等であり、原則として社内の者以外には開示してはならないもの。

第8条(申告)
1)従業員等は、業務遂行の過程で営業秘密等を取得した場合には、遅滞なくその内容を管理責任者に申告しなければならない。
2)従業員等は、業務遂行の過程で営業秘密等となると考えられる情報または資料を創出した場合には、遅滞なく管理責任者に申告するものとする。
3)管理責任者は、従業員等から前2項の申告があった場合には、その申告された内容が営業秘密等に該当するかを検討し、統括責任者の指示の下、本規程に定義する営業秘密等に該当する場合には、遅滞なくこれを営業秘密等として指定するものとする。

第9条(秘密保持義務)
1)従業員等は、管理責任者の許可なく、アクセス権者以外の者に営業秘密等を開示してはならない。
2)従業員等は、管理責任者の許可なく、業務遂行以外の目的で営業秘密等を使用してはならない。
3)従業員等は、管理責任者の許可なく、不正に営業秘密等にアクセスしてはならない。

第10条(誓約書)
従業員等には、業務遂行以外の目的で営業秘密等を使用しない旨などを記載した秘密保持の誓約書を提出させるものとする。

第11条(退職者等)
1)退職などによりその身分を失った後においても元従業員等は、在職中に知り得た営業秘密等を開示、使用してはならない。
2)管理責任者は、退職などにより身分を失った元従業員等が在職中に知り得た営業秘密等を特定し、当該元従業員等が負う秘密保持義務等の内容を確認するものとする。
3)退職などにより身分を失った元従業員等は、営業秘密資料を持ち出してはならず、また自己の保管する営業秘密資料を全て会社に返還しなければならない。

第12条(営業秘密等の開示を伴う契約等)
人材派遣会社、受託加工業者、請負業者等の第三者に対し、会社の業務に係る製造委託、業務委託等をする場合、実施許諾、共同開発その他の営業秘密等の開示を伴う取引等を行う場合、当該会社との契約等において相手方に秘密保持義務等を課す他、秘密保持に十分留意するものとする。

第13条(第三者の秘密情報の取り扱い)
1)従業員等は、業務を遂行するに当たって、他社の営業秘密等を取得しようとする場合には、事前に管理責任者に申告するものとする。
2)従業員等は、他社が正当な権限を有しないとき、または正当な権限を有するか否かにつき疑義のあるときには、当該情報の開示を受けず、疑義がある旨を管理責任者に申告するものとする。

第14条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2020年9月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj60145
画像:ESB Professional-shutterstock

税務調査で指摘されたら? 税務調査後の手続き

書いてあること

  • 主な読者:税務調査について知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:税務調査で指摘を受けた場合の税務署との手続きを詳しく知りたい
  • 解決策:指摘に納得する場合と、納得できない場合で手続きが異なる上、指摘内容によって附帯税が変わる

多くの企業は、数年に一度、税務申告の内容に誤りがないかどうかを調査するために、税務署などによる税務調査を受けます。税務調査において、もし税務署の調査官から申告の誤りを指摘された際、納税者がその指摘に納得する場合と、納得できない場合とで、その後の手続きが違ってきます。また、その誤りに対して課される税金(附帯税)も、誤りの種類によってさまざまです。具体的な手続きなどを紹介します。

1 申告の誤りを指摘され、納得する場合

税務調査により法人税の申告の誤りを指摘された場合の基本的な手続きの流れ(納得する場合)は、次の通りです。

画像1

税務調査が行われた場合、申告内容の誤りについて指摘を受けることがあります。その後の手続きの概要は、次の通りです。

1)「修正申告」

「修正申告」とは、納税者が税務当局に対して提出する、当初の申告税額より増額する内容の申告書をいいます。

2)「期限後申告」

「期限後申告」とは、当初の期限内申告書を提出していない納税者が、税務当局が決定するまでの間に提出する申告書をいいます。

3)「更正の請求」

納税者が税務当局に対して、税を減額するなど「更正」を行ってもらうことを請求する手続きをいいます。

税務調査が行われた場合、調査官からは、指摘を受けた点について「修正申告」または「期限後申告」(以下「修正申告等」)をするよう勧められます。また、「修正申告等」の申告書(以下「修正申告書等」)を提出した場合には、後述する再調査の請求や審査請求ができません。その代わりに、「更正の請求」を行い追徴税額の減額を求めることができることを説明してもらえることになっています。なお、調査官が「修正申告書等」を準備してくれる場合もあります。指摘を受けた点について納得できる場合には、「修正申告書等」を提出し、追加で納税をして税務調査は終了となります。

なお、消費税の申告の誤りについて指摘を受け、追徴課税が生じる場合(消費税の納税額増加分、損金が大きくなる)に、他の指摘事項がないときは、法人税が減少することとなります。この場合、消費税については「修正申告書等」を提出した上で、法人税については「更正の請求」を行う必要があるのかといった疑問が生じますが、実務上は、調査官が、法人税について減額する「更正」を行ってくれることが多いようです。

2 申告の誤りを指摘され、納得できない場合

税務調査により法人税の申告の誤りを指摘された場合の手続きの流れ(納得できない場合)は、次の通りです。

画像2

1)更正

指摘を受けた点について、「修正申告等」をすることに納得ができない場合には、調査官は「更正」を行い、納税者のもとに更正通知書が送られてきます。なお、追徴税額については、後日、追徴税額が確定してから納税すると、後述する延滞税等がかかるため、納得できない場合も納税をしておくことが望ましいです。

2)税務署に対する再調査の請求

納税者が、更正通知書の内容に納得できない場合には、通知を受けた日の翌日から3カ月以内に、所轄の税務署に対して「再調査の請求」をすることができます。税務当局は、更正の内容について再検討し、その結果(決定)を納税者に通知します。

3)国税不服審判所に対する「審査請求」

「決定」を受けても、まだ納得ができない場合には、「決定」の通知を受けた日の翌日から1カ月以内に、国税庁の機関である国税不服審判所に対し、「審査請求」をすることができます。また、「再調査の請求」を経ることなく、直接「審査請求」をすることもできます。国税不服審判所は内容について審査し、その結果(裁決)を納税者と税務署長に通知します。

4)税務訴訟

「裁決」を受けても、まだ納得ができない場合には、「裁決」の通知を受けた日の翌日から6カ月以内に、裁判所に訴訟を起こすことができます。判決によって、指摘を受けた内容の有無が確定することになります。

5)統計に見る指摘事項を覆せる可能性

国税庁が公表している「国税庁レポート2020」によると、2019年度における再調査の請求の処理件数は1513件で、このうち、納税者の主張の全部または一部が認められた割合は12.4%となっています。

また、2019年度における審査請求の処理件数は2846件で、このうち、納税者の請求の全部または一部が認められた割合は13.2%となっています。

さらに、2019年度における訴訟の終結件数は216件であり、このうち、納税者の請求の全部または一部が認められた割合は9.7%となっています。

3 「更正」の期限・「修正申告書」の提出期限

税務当局による「更正」の期限は次の通り定められているため、この期間を超えて「更正」をすることができません

  • 原則、法定申告期限から5年。
  • 法人税の欠損金に係るものは、法定申告期限から9年(2018年4月1日以後に開始する事業年度で生じた欠損金については10年)。
  • 偽りその他の不正の行為等によるものは、法定申告期限から7年。

一方、「修正申告書」の提出には期限がないため、税務当局による「更正」を受けるまでは、どの年度の「修正申告書」でも提出することができます。なお、税務当局による「更正」の期限は前述の通り定められているため、それより前の事業年度に遡って自ら「修正申告書」を提出する必要は実質的に無いということになります。

4 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯税(法人税等)

画像3

1)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、修正申告書等による税額と当初の申告税額との差額に対して課されるものです。過少申告加算税は、原則として追徴税額の10%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%)となります。

なお、税務当局による調査通知以後、その税務調査によって更正または決定(以下「更正等」)が行われることを認識していながら、修正申告書等を提出したもの(以下「予知したもの」)でないときは、追徴税額の5%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については10%)となります。また、税務当局による調査通知前で、かつ、更正等を予知したものでないときは、過少申告加算税は課されません。

2.無申告加算税

無申告加算税とは、「期限後申告」による税額に対して課されるものです。無申告加算税は、原則として追徴税額の15%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については20%)となります。また、更正等が行われることを予知したものでないときは、追徴税額の10%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については15%)に軽減されます。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追徴税額の25%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分の30%)となります。

3.不納付加算税

不納付加算税とは、源泉所得税の納付が遅れた場合に課されるものです。不納付加算税は、納期限後に納付した源泉所得税額の10%となります。ただし、告知があることを予知したものでないときは5%となります。

4.重加算税

重加算税とは、上記の「過少申告加算税」「無申告加算税」「不納付加算税」に代えて、仮装・隠蔽といったより悪質な申告の誤りに係る追徴税額に対して課されるものです。加算税は、過少申告加算税及び不納付加算税に代わるものは追徴税額の35%、無申告加算税に代わるものの場合には追徴税額の40%となります。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追徴税額の45%(無申告加算税の場合には追徴税額の50%)となります。

2)過怠税

過怠税とは、印紙税が課される文書(課税文書)につき、印紙の貼付がなかったことにより課されるものです。過怠税は原則として、本来の印紙税額の3倍に相当する額となります。

3)延滞税

延滞税とは、追徴税額に対して課される利息の性質を有するものです。延滞税は原則として、「年14.6%」と、「特例基準割合(銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基礎として計算した割合で、2020年は1.6%)+年7.3%」とのいずれか低い割合で計算されます。ただし、特例により、納期限の翌日から2カ月を経過する日までの間は、「年7.3%」と「特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合で計算されます。

従って、現在は、納期限の翌日から2カ月を経過するまでの間は2.6%、それ以降は年8.9%となります。

5 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯金(地方税)

地方税に係る附帯金は次の通りです。地方税についても、法人税等と同様に、「修正申告等」や「更正」の手続きがあります。ただし、住民税には、過少申告加算金・不申告加算金および重加算金は課されません

なお、各附帯税の意味合いは、法人税等と同じになるため、ここでは税額の算出方法のみを紹介します。

画像4

1)加算金

1.過少申告加算金

過少申告加算金は、法人事業税の追徴税額の10%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%)となります。ただし、更正等があることを予知したものでないときは課されません。

2.不申告加算金

不申告加算金は、法人事業税の追徴税額の15%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については20%)です。ただし、更正等があることを予知したものでないときは5%となります。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがあるときは、追徴税額の25%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分の30%)となります。

3.重加算金

法人事業税の追徴税額の35%です。ただし、無申告の場合には追徴税額の40%となります。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがあるときは、追徴税額の45%(無申告の場合には追徴税額の50%)となります。

2)延滞金

延滞金は原則として、「年14.6%」と「特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合です。ただし、特例により、納期限の翌日から1カ月を経過する日までの間は、「年7.3%」と「特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合で計算されます。

従って、現在は、納期限の翌日から1カ月を経過するまでの間は2.6%、それ以降は年8.9%となります。

6 いわゆる「所得隠し」があった場合

税務調査によって、事実の仮装・隠蔽の行為による申告漏れ(いわゆる「所得隠し」)の指摘を受けた場合には、追徴税額や上記の重加算税などの他、青色申告の取り消し処分も受けます。青色申告の取り消しは、過去の事業年度に遡って行われるため、税額控除などの青色申告の特典を受けていた場合には、適用を受けていない場合との差額について追徴税額が生じます。

また、法人の代表者等が刑事罰の対象ともなり、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が科されます。さらには、こうした事実を報道されることなどによって、法人の社会的信用が下落するなど経営に与える悪影響は計り知れません。

なお、税務調査の全体の流れや勘定科目ごとの税務調査対策のポイント、税理士に聞いた税務調査の舞台裏については、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30080 「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説
▶ 30091 この勘定科目が危ない? 勘定科目ごとの税務調査対策
▶ 30034 ウソかホントか? 税務調査の舞台裏
▶ 30051 続・ウソかホントか? 税務調査の舞台裏

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30092
画像:Elnur-shutterstock

【朝礼】まだ50歳か、もう50歳か?

先日、50歳で動物病院を起業した人と話す機会がありました。そのときの話があまりにも素晴らしかったので、皆さんにもお伝えします。テーマは、「捉え方次第で行動が変わる」です。

その起業家は、業界平均の数倍の件数をこなせるように、動物病院のオペレーションを改善したり、特殊なトリミング技術でファンを獲得したりしているとのことでした。素晴らしい経営努力ですが、私が強く引き込まれたのは、その起業家のあふれるバイタリティーでした。

どんな技術を持っていても、50歳という年齢で起業するのは簡単ではありません。しかし、その起業家は「自分はまだ50歳。これからだ!」と考えて起業を決断しました。その決断の土台となっているのは、20代の頃から持ち続けている「グローバルに通用する経営者になりたい!」という夢だそうです。私がさらに驚いたのは、海外展開を見据え、既に英語が話せる社員を雇っていることです。その起業家はその社員を、海外第1号拠点の院長にする予定だと言っていました。

私は、これからの事業展開を楽しそうに話す起業家の姿を見て、この人は必ず海外展開を成し遂げるだろうと確信すると同時に、ぜひ、応援したい気持ちでいっぱいになりました。

人はいつでも新しいチャレンジをすることができます。しかし実際に行動する人としない人がいて、その違いは「まだ」と「もう」のような物事の捉え方の違いなのだと、改めて気付きました。

もし皆さんが、「もうダメだ」「もういっぱいいっぱいだ」「もう十分だ」など、後ろ向きの言葉をよく使うようだったら注意してください。行動も後ろ向きになってしまいます。仮に先の起業家が、「もう自分は50歳になってしまった……」と考えていたら、起業などしなかったでしょう。

別の角度から話をしましょう。いまだによく聞くフレーズに、「コロナの影響なので、仕方がないです」というものがあります。しかし、私の周囲に限っていえば、このように言う人のほとんどは大してコロナの影響を受けていません。彼らは、「コロナのせいで、得意先とコミュニケーションが取れない」と言っておけば、周りは「仕方がないね」と許してくれると決め込んでいるのです。

緊急事態宣言が発令された頃は、本当に「仕方がない状況」でした。しかし、多くの人はすぐに努力と工夫でビジネスを動かし始めました。状況は大きく変わったのです。

わずか数カ月で差が広がります。何年も「もう」と言い訳をしていたら、どれだけの可能性を潰してしまうのか、恐ろしくなります。しかし大丈夫です。新しいチャレンジは、いつだって始めることができます。この朝礼をきっかけに、「まだ」マインドの人はますます熱く、「もう」マインドの人は「まだ」への切り替えを進めることを期待します。完璧を求める必要も、失敗を恐れる必要もありません。チャレンジし続ける限り失敗ではなく、応援してくれる人も現れます。

以上(2020年9月)

pj17021
画像:Mariko Mitsuda