実践的な業務改善に使える5S活用法

書いてあること

  • 主な読者:効果的な業務改善策を打ち出せずにいる経営者
  • 課題:業務改善の取り組み方法が分からない
  • 解決策:「5S」の考え方を業務改善に転用する

1 言われるまでもない「業務改善」

現在、働き方改革の文脈で「業務改善」が叫ばれていますが、経営者に言わせれば、経営を始めた瞬間から意識している課題でしょう。しかし、これがなかなかうまくいきません。

業務の見える化や標準化などを進めるといっても抜本的な改革には至らず、局所的に改善されれば、別の場所で問題が出てきます。また、そもそも“削る”ことが前提の業務改善は、従業員にとっては楽しくないのです。

とはいえ、限られた人員で効率性や生産性を追求することが求められる経営に、業務改善は必須です。こうした問題意識を持つ経営者にご提案したいのが、職場環境の改善に使われる「5S」を応用した業務改善です。早速、見ていきましょう。

2 5Sの考えに基づく業務改善策

「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表す5Sは、考え方がシンプルで分かりやすいため、従業員は業務改善という漠然とした施策であっても、取り組むべき内容をイメージしやすくなります。

5Sによる職場改善活動を経験済みの企業ならなじみもあり、業務改善のハードルを下げる効果が見込めるでしょう。5Sの5つのキーワードを業務改善に置き換えると、次のようになります。

画像1

以降では、業務改善の進め方に合わせ、「清掃」「整頓」「整理」「清潔」「しつけ」の順に並び替えて、企業が取り組むべき業務改善策と、成功に導くポイントを紹介していきます。

1)清掃(無駄な業務を取り除く)

今ある業務を「清掃」し、無駄な業務を取り除きます。そのためには業務の担当者以外でも業務の実態を把握できるよう、図表を使って表すことが大切です。

業務の全体像を俯瞰(ふかん)できるようにします。具体的には、業務を粒度に応じて3段階(大・中・小)程度に分類し、業務を構成する全ての「作業」を抽出します。例えば「受注業務」の場合、次のように業務を分類します。

画像2

業務に関与しない従業員に図表を見せ、気になる点を指摘してもらいます。図表2の例で言えば、「『見積書の作成』は営業部で同様の作業をしているはず」「『次の納品日の確認』は受注業務には不要ではないか」などです。別の業務で同様の作業をしている従業員がいれば、「『電話による注文確認』は優良顧客に限り営業担当者の私が電話している。電話が重複しないか」などの指摘もあるでしょう。

こうして全社で業務(作業)内容や範囲を共有・修正し、何が必要で何が不要なのかを線引きします。業務の前後の工程を把握しておくと、重複する作業を見つけられるため、無駄な作業を絞り込みやすくなります。

特に、次の点に注意して業務の「清掃」を進めましょう。

  • 業務担当者以外でも業務内容を把握できるよう、可視化する
  • 作業内容を一番理解している現場の担当者主導で業務を分解する
  • 全社で業務(作業)内容や範囲の認識の違いを埋める

2)整頓(業務を標準化する)

次に、効率的な業務に「整頓」し、業務をきれいに直します。生産性の向上や属人的な作業の排除などといった、目的に照らした業務の理想型を目指します。

こうした業務像を描くときに欠かせないのが「業務マニュアル」です。何のための業務(作業)なのかを明示するとともに、どの手順で進めるのが効率的なのかを示します。担当者不在でも業務が停滞しないようにしたり、特定の従業員が持つ属人的かつ効率的な作業手法を、他の従業員に引き継いだりする上でも必要です。

業務マニュアルは、業務(作業)内容を事細かく説明するのが基本です。起こりがちなトラブルを例示したり、抜け漏れを防ぐチェックリストをつくったりしてもよいでしょう。例えば図表2の「該当商品の在庫状況確認」なら、「在庫システムと実際の在庫数が合っているか、物流センターに電話で現在の在庫数を確認する」「在庫を確保する際は、物流センターに確保数量と出荷日を報告する」などのチェックリスト例が考えられます。

特に、次の点に注意して業務の「整頓」を進めましょう。

  • 各業務の最も効率的な手順を示した業務マニュアルを作成する
  • 業務マニュアルが形骸化しないよう、手順を確認する機会を定期的に設ける
  • 作業が複雑すぎて効率化できなければ、外部委託による効率化を検討する

3)整理(業務に適した体制をつくる)

次に、標準化した業務を適切に運用できるよう、組織や部署を「整理」します。組織や部署の役割を明確にし、所属スタッフが、何のための業務なのかを理解して取り組めるようにします。

業務マニュアル同様、組織や部署ごとの役割を文書化します。部署をまたがる業務に備え、組織や部署ごとの役割分担や業務分掌を明確にすることも必要です。別々の部署が同じ作業をすることによる無駄の発生を防ぎます。

また、無駄を省いてシンプルになった業務は、これまでと同じ作業時間をかけずに済むかもしれません。経営者は業務改善によって生まれた空き時間をどう活かすのかを、事前に踏まえておくことも必要です。

特に、次の点に注意して組織や部署の「整理」を進めましょう。

  • 組織や部署ごとの役割を文書化する
  • 場合によっては、業務改善を推進する専門チームの設置を検討する
  • 新たな業務に最も適した組織や部署に再編する

4)清潔(従業員の不快感を取り除く)

次に、実際に業務改善に取り組む従業員の気持ちに目を向けます。不快感を抱いたまま取り組んでいる従業員の気持ちを、業務改善に「清潔(=真っすぐ)」に向き合うように意識を変えます。

これまでの業務内容や進め方を見直す業務改善は、少なからず現場からの抵抗を受けます。中には、やらされ感を抱いたり、面倒だと思ったりする従業員も少なくないでしょう。こうした従業員のモチベーションは施策の成否に影響します。

従業員の意識を変えるため、経営者が関与していることを表明するのが効果的です。経営者自ら、なぜ必要な取り組みなのかを、自社の置かれている危機的状況とともに説明します。こうした訴えにより、業務改善の必要性を従業員に感じ取ってもらいます。

特に、次の点に注意して従業員の気持ちを「清潔(=真っすぐ)」に変えましょう。

  • 経営者が従業員に対し、取り組みの重要性や意義を説明する
  • 従業員にアンケートを実施し、取り組みの満足度を調査する
  • 従業員に無理や負荷がかからないスケジュールを計画する

5)しつけ(改善を定着させるルールをつくる)

最後は、改善した業務内容や進め方が定着するための「しつけ」、つまりルールをつくります。業務を改善して終わりではなく、見直した業務の不備や改善点などを洗い出します。これらの課題を集約し、どのように修正するか、誰が主導して見直すかなどを決め、継続的な施策として取り組むようにします。こうしたPDCAを繰り返すことで、業務の質を徐々に高めていきます。

業務に費やす時間が、改善前後でどの程度短縮したのかを比較してもよいでしょう。思ったより短縮していない、かえって時間がかかるなどの事態を想定した対策も踏まえておくべきです。目標とする短縮時間を事前に定め、改善後の効果を検証するのも有効です。

特に、次の点に注意して改善定着に向けた「しつけ」を検討しましょう。

  • 一度の取り組みで終わらせず、継続的な施策として位置付ける
  • 改善による効果が十分でないことを前提に、対策や体制を準備する
  • 時間やコストなどの定量データによる分析・検証を実施する

3 業務の5Sを成功に導くポイント

1)高い効果を見込める業務から着手する

業務改善は、全ての業務を対象に取り組み始めると失敗します。業務の無駄を洗い出すだけで膨大な時間を要し、従業員が疲弊してしまうためです。

まずは、特に改善が必要な業務から手を加え、短期間に高い効果を見込めるようにするのが望ましいでしょう。スピード感を持って取り組むことで、従業員が業務改善の目的や効果を見失わないようにします。

その後、成功事例を他の業務や組織に横展開し、対象領域を徐々に拡大させます。期間や対象を絞った施策を複数回に分けて取り組めば、継続的な成果も見込めます。

2)業務改善の目的を明確にする

なぜ業務改善するのか、なぜその業務が必要なのかといった目的や狙い、目標を明確に示すことが重要です。目的が不明瞭なまま進めると、取り組み自体が目的化し、業務改善による十分な効果を見込みにくくなります。前述したように文書化し、全従業員が理解した上で進めることが大切です。

以上(2020年7月)

pj40027
画像:pixabay

いまさら聞けない「のれん」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:「のれん」の実態や、財務上どのように影響するのか分からない
  • 解決策:のれんは超過収益力(買収価額と買収企業の純資産額の差額)をいい、財務上無形固定資産に計上する。税務上の取り扱いも要注意

1 「のれん」とは何か?

「のれん」とは、超過収益力を表したものとよくいわれます。会計的には、被取得企業または取得した事業の買収価額が、取得した資産および引き受けた負債の純額(以下、「純資産価額」)を超過する額と表現されます。図表1の通り、純資産価額を超過する買収価額のM&Aが成立するのは、そこに超過収益力の価値が含まれているためと考えられます。

なお、被取得企業または取得した事業の買収価額が純資産価額を下回ることもあり得ます。この場合の不足額は、「負ののれん」といわれ、マイナスの超過収益力として買収価額の算定に当たり減額要素となります。

画像1

2 「のれん」はなぜ発生するのか?

M&Aにおける買収価額は、被取得企業または取得した事業の純資産価額と一致するとは限りません。買収価額は、被取得企業または取得した事業の資産および負債の買収時の時価評価額(以下、「時価純資産価額」)のみで決定されるものではなく、被取得企業または取得した事業の収益性・成長性、仕入先・販売先ルート、優れた営業力・技術力・人員、ブランド等の無形の価値も反映して決められるためです。

時価純資産価額に無形の価値を反映したものが買収価額となるため、この無形の価値が「のれん」として認識されることになります。

「負ののれん」の発生原因には、M&A実施後に大規模なリストラクチャリングに関連する費用の発生が見込まれる等、被取得企業または取得した事業に関連して発生する費用負担額を、買収価額の算定に当たって減額した場合等が考えられます。

●設例1

  • 被取得企業の貸借対照表(以下、「BS」)の純資産価額は10でした。これを時価評価した結果、保有する土地の時価が10増加していたため、時価純資産価額は20となりました。
    被取得企業の得意先には大口顧客が多く、今後も高い収益性が見込める状況です。
    買収価額が20であれば、時価純資産価額20と同額のため「のれん」は発生しません。
    買収価額が50であれば、高い収益性という無形の価値が反映されていると考えられ、時価純資産価額20を超過する30が「のれん」として認識されます。

画像2

3 「のれん」の会計上の取扱い

「のれん」は無形固定資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。「のれん」の償却費は販売費及び一般管理費に計上します。実務上は、償却期間を5年とするケースが多く見受けられます。

償却期間を長く設定することで、1年当たりの償却負担額を少なくすることが可能ですが、「のれん」は減損会計の適用対象でもあるため、償却期間の途中に「のれん」の価値が損なわれた場合、一時に多額の減損損失を負担することもあります。

なお、「負ののれん」は発生した事業年度に全額を特別利益に計上することとなります。

●設例2

  • 設例1の「のれん」30を5年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は6となります(図表3、黒色の長い棒部分)。10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3となります(図表3、オレンジ色の短い棒部分)。
    償却する総額はいずれも30で同額ですが、5年間で償却した場合、前半の5年間は10年間で償却した場合より1年当たりの償却負担額は3多くなります。後半の5年間は1年当たりの償却負担額は3少なくなります。

画像3

「のれん」を10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3(図表4、オレンジ色の短い棒部分)となりますが、5年目に「のれん」の価値が全部損なわれ、未償却残高15が全て減損損失となった場合、償却負担額3に加え減損損失15(図表4、赤色の長い棒部分)を一時に負担するため、5年目の損益に大きな影響を及ぼす懸念があります。「のれん」自体を個別に売却するのは困難であることを考慮すると、合理的に説明ができる範囲内で、なるべく短期間で償却することが健全な対応と考えられます。

画像4

4 「のれん」の税務上の取扱い

純粋な第三者間による組織再編のような非適格組織再編において、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を超過する額を「資産調整勘定」として計上します。「資産調整勘定」は5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は損金の額に算入します。また、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を下回る額は「差額負債調整勘定」として計上します。「差額負債調整勘定」も5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は益金の額に算入します。

「資産調整勘定」は会計上の「のれん」に、「差額負債調整勘定」は会計上の「負ののれん」に対応する概念となります。ただし、会計および税務において、償却期間の考え方が異なっているため、同一の償却期間とならない場合、申告調整および税効果会計の適用が必要になります。

画像5

5 M&Aを考える中小企業経営者が知っておきたい「のれん」に関するリスクと対策

前述の通り「のれん」は、被取得企業または取得した事業の無形の価値であり、買収価額と時価純資産価額の差額として把握されます。被取得企業または取得した事業を過大に評価した場合、割高な買収価額となり、結果として「のれん」も多額となります。この場合、被取得企業または取得した事業の収益力は買収時の見込みを下回ることが多く、「のれん」償却額に比較し十分な売上が確保できないばかりか、「のれん」の価値の毀損による減損損失の計上で、業績が圧迫されるリスクがあります。

このリスクを低減するためには、被取得企業または取得した事業を適切に評価した買収価額を算定することが何よりも重要です。以下は、中小企業におけるM&Aの実務で広く普及している主な買収価額の算定式です。

画像6

算定式から分かる通り、時価純資産価額の算定に当たって資産および負債の時価評価を適切に実施する必要があります。また、「のれん」の算定に当たっては、適切な営業利益の算定および妥当な倍率を判断することが欠かせません。

ただし、いずれの算定に当たっても専門的な技能を要する局面が多いことから、金額的重要性が乏しいM&Aを除き、公認会計士や税理士等による財務的・税務的なリスクの詳細調査(デューデリジェンス)を実施した上で判断することが、中小企業のM&Aにおいて効果的な対策と考えられます。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

pj35030
画像:unsplash

経理担当者でも迷う社会保険の会計・税務処理を徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:社会・労働保険の会計上の取り扱いの整理がしたい経理担当者
  • 課題:社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑でわかりにくい
  • 解決策:社会・労働保険の基礎知識をまとめ、事例を用いながら会計処理を解説する

1 社会・労働保険と会計処理

多くの中小企業は、独立した経理部門や人事部門を設置していません。しかし、労務、会計、税務の業務は少しずつ重なるため、担当者は幅広い知識を持っていないとスムーズに業務を処理できません。

例えば、社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑になります。また、保険料を損金算入するタイミング、つまり税務上の注意が必要です。

ここでは、中小企業の担当者が迷いがちな社会・労働保険の会計処理についての流れを紹介します。

2 社会・労働保険の基礎知識

1)社会保険

社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険をいいます。社会保険は、被保険者の月額報酬(会社から受ける毎月の給与など)を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」を設定し、この標準報酬月額に基づいて保険料の額を計算します(注)。

標準報酬月額の算定方法には毎年1回行う「定時決定」、昇給などにより標準報酬月額が大幅に変動した場合に行う「随時改定」などがあります。

なお、社会保険料は、毎月、会社と従業員が半分ずつ負担します。従業員負担分については、会社が給与から徴収し、会社負担分と併せて発生月の翌月末に納付(10月保険料の場合は、11月末日)します。

(注)賞与が支給される場合、賞与分は「標準賞与額」に基づき保険料を計算します。

画像1

2)労働保険

労働保険とは、雇用保険、労災保険をいいます。労働保険は、一般的な事業の場合、毎年4月1日から翌年3月31日までに対象となる被保険者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて算出します。申告手続きの際は、労働保険に加えて石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金(確定分のみ)の申告も同時に行います。

保険料は算定期間の初めに賃金総額の見込額を基に「概算保険料」を算出して申告・納付します。その後、算定期間終了後における実際の賃金総額を基に確定保険料の申告を行い、概算保険料との差額分を精算します(以下「年度更新」)。

年度更新は、原則として年1回、6月1日から7月10日までの間に行われます。ただし、次のいずれかの場合には年3回の分割納付が認められています。

  • 概算保険料が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)以上の場合
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合

なお、雇用保険料は会社と従業員が一定の割合で双方負担しますが、労災保険料については全額会社が負担します。

画像2

3 会計上の取り扱い

1)社会保険料の取り扱い

社会保険料の会計処理の方法は、預り金(負債)として処理する方法と、従業員負担分を法定福利費(費用)のマイナスとして処理する方法とに大別されます。それぞれの方法で処理した場合の社会保険料の発生月、給与支給日、社会保険料の納付月の会計処理を紹介します。

なお、それぞれの事例の前提として、10月分の社会保険料を500万円(会社と従業員で折半)とします。また、社会保険料の取り扱い以外の項目については簡略して紹介します。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

画像3

画像4

2)労働保険料の取り扱い

労働保険は毎年7月に納付する概算保険料と確定保険料の差額の調整が必要です。なお、労働保険のうち、雇用保険の会計処理の方法は、概算保険料を納付時に資産で処理する方法と、納付時に法定福利費(費用)で処理する方法とに大別されます。

ここでは、概算保険料納付時、会社負担分の月次計上時、給与支給日、翌年の年度更新時の会計処理を紹介します。なお、概算保険料を納付時に資産計上する方法においては、翌年の年度更新時に確定保険料が概算保険料を上回った場合と、下回った場合(次期の概算保険料納付額に充当する方法と還付を受ける方法)において、処理が異なるため注意してください。

それぞれの事例は前提として、2019年7月に算定した概算保険料250万円(うち、従業員負担分の雇用保険料が60万円)とします。また、労働保険料の取り扱い以外の項目については、簡略して紹介しています。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

画像5

画像6

4 税務上の取り扱い

1)税務上の考え方

社会・労働保険料ともに、会社負担分の金額については損金(税務上の費用)に算入でき、従業員負担分については損金に算入することはできません。

税務上の取り扱いで注意すべきなのは、会社負担分を損金に算入するタイミングです。社会・労働保険料は、発生時期と納付時期が一致しなかったり、概算額を計上したりするため、会計上、未払費用勘定や前払費用勘定などを用いて処理しました。税務上、損金に算入するためには、原則、債務が法律的に確定していなければなりません。つまり、いつの時点で社会・労働保険料が税法上確定していると見なされるのかが重要なポイントとなります。

2)社会保険料の損金算入時期

社会保険料は、その算定の対象となった月の末日が属する事業年度に損金に算入することができます。つまり、10月の社会保険料であれば、10月31日が事業年度内にあるかどうかがポイントとなります。

注意が必要なのは、決算月の取り扱いです。例えば、3月末決算法人であった場合、3月の社会保険料の算定の対象となった月末は3月31日であるため、その事業年度の損金に算入することができます。ただし、決算日が月末ではなく、月の中途である場合(例えば3月20日など)には、3月の社会保険料はその事業年度の損金に算入することはできません。

3)労働保険料の損金算入時期

労働保険料は、概算保険料、概算保険料と確定保険料の差額について、それぞれ損金算入時期が決められています。

概算保険料については、申告書を提出した日または納付日の属する事業年度に損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。なお、一定の要件を満たし、分割納付の適用を受けている会社はそれぞれ納付した日となります。

概算保険料と確定保険料の差額については、申告書を提出した日、または不足額を納付した日の属する事業年度の損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。

以上(2019年10月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)
(監修 社会保険労務士コレド事務所 社会保険労務士 古田美奈子)

pj30067
画像:pixabay

オンラインセールスの落とし穴とは?〜社員5名でアクティブユーザー2000社をオンラインセールスで開拓したからこそ言えること〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、齋藤 正秋さん(株式会社meet in代表取締役)です。

新型肺炎の発生から半年が経過し、セールスのあり方も劇的に変わろうとしています。訪問型のセールスが全くできなくなっていた4月〜5月に、訪問→オンラインセールスへの置き換わりが全国で始まりました。そんな中、オンラインセールスツールmeet inのメーカーであり、このツールの販売手法をオンラインセールス主体で、今年の初めまでは社員数2名でアクティブユーザー1000社を開拓、そこからおおよそ6カ月弱でさらに1000社開拓された(現在社員数は5名)株式会社meet in齋藤社長にオンラインセールスのあり方について、特にオンラインセールスへの単純置き換わりでは上手く行かないこと、【落とし穴】についてお話を伺いました。

(インタビューも終始笑顔で楽しく。左上が齋藤さん)

1 オンラインセールスツールmeet inの良さはどこにあるのか?またどんなことが起きているのか、実際の利用されている方のコメントとご自身がSNSに投稿されていた内容が想いの部分として非常に解りやすく以下にまとめます。

1)セールスプロモーションのプロ集団であるSANGO株式会社 立花社長のコメント

■ミートイン導入を決めた二つの理由

弊社は営業会社という性質上、毎年数百件程度の商材の話を聞かせて頂きます。
その中でもミートインは今後爆発的な需要がありそうだと確信した事と、日本中の潜在労働力(ママ・障碍者)の最大化を実現するというコンセプトに大きな社会的意義を感じた事でした。

■爆発的な需要を感じた理由

これも二点ありまして、一つ目は、弊社ではコロナ以前の昨年2月よりオンライン商談ツールを導入し、導入後その部署の売上が急遽3倍となる経験をしていた事。
二つ目は、商品力の高さ、高品質・低価格・超簡単という3拍子そろった完成度に衝撃をうけました。しかも、こんな事が出来たら良いなと思う機能が、どんどん追加され進化していくスピード感もすごかったです。

2)セールスのみならず、学校の授業シーンでも活用、不登校がゼロに!

  • オンラインにすることで不登校の子が100%授業に参加するようになった
  • iPadを生徒全員に支給し数学の授業でホワイトボードを活用し授業
  • 通信の学校は不登校の子が多いのでオンライン導入はかなりいいと思うとのこと
  • 学校関係の方はIT苦手な方が多いのでシンプルで使いやすいのがいいからとにかく接続が簡単でいい!

上記は、つくば開成高等学校様のコメントです。

3)齋藤社長のFacebookでの投稿(7月9日)を下記に。想いと経営姿勢を物語っている内容です。

    『先月末に中小企業様向けのオンラインセールスツールmeet inがアクティブユーザー社数2000社を超えました!!
    エンドユーザーの皆様、関係者の皆様いつもご協力いただきありがとうございます。
    社員5名で成し遂げられたのは、リモートママ達のおかげなのと、4月から参画してくれたハンデを抱えたメンバー達のおかげです!!固定費(人件費・地代家賃・光熱費)をあまりかけず、採用費もほぼなし、広告費はゼロのため、金額を販売当初からずっと変えずに、新しい機能追加を実現できています
    このあたりの組織の仕組化を今後サービスとして提供して参りますので、ご興味ある方はぜひお気軽にコメントか、メッセージをくださいませm(__)m
    また、今後は多くの企業様と連携してコロナの時代を乗り切る施策をして提供して参ります。【★第1弾★】は株式会社ライトアップ様とです。全国の中小企業様の補助金・助成金の申請の負担を軽減できればと思います。
    引き続き世のため人のために事業展開をして参ります。どうぞ宜しくお願い致します。』

というコメントです。齋藤さんの経営への考え方も解りやすい素晴らしいものでした。また、同社の立ち上げから齋藤さんの想いを詳しく私のHPにて掲載しています。よろしければこちらも御覧ください。私のHP記事はこちら

杉浦氏と齋藤氏の画像です

2 オンラインセールスの【落とし穴】?自社で経験したからこそ解ること?

※『同社作成のオンラインセールスのはじめ方(オンラインセールス虎の巻)』から内容を抜粋いたしました。

1)オンラインセールスは万能ではない

訪問営業→オンラインセールスに全部移行できるものではないと話す齋藤さん。
加えて、【 オンラインセールスができる ≠ オンラインセールスで成約できる 】セールスの結果は、ツールが利用できることでもありません、結果、成果が出せるか否か。前述のSANGO社の立花さんが選定理由に、このツールで3倍の成果が出たと話していらっしゃいます。成約に至ることが必須ですね。
オンラインセールスに向く、向かない、商材、サービス、だれに販売するか、新規か継続か、オンラインだけか、オフラインも織り交ぜるのかによって大きく成果に差が出るそうです。そこも踏まえて、今回は、【新規開拓営業のオンライン化】に絞って記述してまいります。

2)オンラインセールス可否判断のポイント

■対面営業の商談を整理する

オンラインセールスを始めるにあたり、はじめに商談を整理します。商品・サービス別に以下の内容を確認しましょう。

  • 決裁キーマン(または決裁プロセス):誰が最終決定者なのか? 承認プロセスはどうなっているのか?
    ※誰が買っているのか? どの地域で売れているのか? などの顧客属性の整理は別途で必要
  • 平均商談期間:初期接点から成約までの平均期間はどのくらいか?
  • 商談の基本ステップ:初期接点から成約までには平均何ステップ必要か?
  • 成約の鍵:成約のための重要な鍵は何か?何をすれば成約率が引きあがるのか?
  • 成約率:成約率はどの程度なのか?

営業を単純にオンライン化しただけでは、“成約”という結果を安定して出すことはできません。例えば、最終決裁者が上場企業の役員だった場合、最後は訪問する必要はないでしょうか? 商談の基本ステップが5回だったとした場合、そのすべてのステップをオンラインだけで対応できるでしょうか? こうした観点で整理をし、そもそも自社にとってのオンラインセールスの役割を明確にする必要があります。
オンラインセールスの役割として、オンラインだけで成約をしたいのか。それともオンラインと対面営業を併用して、営業活動を効率化したいのか、を考えておく必要があります。例えば、初回接点における商談確度の見極めだけをオンラインで行いたいという場合であれば、オンラインにおける役割は非常に小さくなります。ところが、一度も会わずにオンラインだけで成約したいのであれば、実施のハードルは一気に高くなります。まずは自社にとっての“オンラインにおける基本的な役割”を決定します。
オンラインセールスにおける役割を決定した上で、以下の項目について整理をしてみましょう。

  • 決裁キーマン、または決裁プロセス
  • 平均商談期間
  • 商談の基本ステップ
  • 商談成功の鍵
  • 成約率

■【商談成約の鍵】がオンラインセールスの鍵

オンラインセールスの役割として“成約”をゴールとした場合、自社のオンラインセールスの可否判断をどうすれば良いでしょうか? ここでオンラインセールスでできること、できないことの整理をしてみます。

オンラインセールスでできること、できないことの比較表の画像です

対面営業でできることの多くは、オンラインでも同じように対応できます。注目して欲しいのは、“できないこと・難しいこと”に記載されている2つの項目です。“集中力を持続させる”については、後の章で解説をしますので、本章では“体験や体感を伴うデモ”について解説します。商談において成約率を左右するポイントの一つに“デモ(≒体験版・貸出し等)”があります。これは実際に商品・サービスを体験することで利用イメージが湧き、その効果や価値を実感できることにあります。試食や試飲、試供品の提供など、様々な形でのデモが世の中には溢れています。オンラインセールスではどうでしょうか?実は“できないデモ”があります。それは、実際に触れて貰う。大きさや重さを実感して貰う。味や匂いを感じて貰うなどの体験・体感を伴うデモです。貸出機を先に送り、それからデモを行うなどの対応ができない限り、解決はできません。つまり、“デモ”が重要な鍵となっているのであれば、最初からすべてのオンラインセールスでは完結できません。シンプルにオンラインだけで、対面営業で行ってきた事と同様の効果を再現できるかどうかの判断が必要になります。

■標準化とオンラインの壁

『商談シナリオを見ながらセールスができるため、経験値の低い営業マンでも対応できます』本当でしょうか?ここには大いなる誤解があります。オンラインセールスを支援するツールの中には、商談シナリオをカンニングペーパー的に表示する機能を有しているものもあります。ところが、カンペだけで安定的に“成約”という結果を獲得できる企業の前提には

  • 商談シナリオが定まっている
  • シナリオ通りに説明すれば成約率が高くなる
  • 顧客側がそのシナリオを受け入れてくれる

という3つの条件が整っている必要があります。これだけでも相当に営業が仕組み化されている必要があるのですが、その上で、オンラインという独特の環境要因が壁になります。画面を通した1対1の面談の場面で、お客様とカンペを交互に確認しながら商談を進め“成約”する必要があります。少しでも営業経験がある方なら、これは非常に難易度の高い営業だと気付かれると思います。多くの場合、営業はブラックボックス化しており属人的です。成約率の高い標準的な営業シナリオが決まっているというケースは稀です。仮にカンペを見ながら営業ができたとしても、経験の少ない営業マンが単なる商品・サービスの説明を行っているだけのオンラインセールスになってしまったら、オンラインセールスを実施すればするほど、顧客を失うという悲惨な結果となってしまいます。

■営業の本質

もしも商品のニーズが明確で、それが誰にとってもイメージができるものであれば、“営業”をしなくても勝手に売れてしまいます。それでは営業が必要な理由とは何でしょうか?【商品・サービスの価値を顧客の課題と結びつけ、その効果や効能を理解して貰うために“説明が必要”な商品】だからです。その存在を知って貰うために営業が必要というケースもありあすが、いずれにしても営業とは、顧客が購入に至るまでの“不足している何か”をアシストする役割となります。シンプルですが、自社の商品・サービスの購入者について

  • 決裁者が分かっている
  • 課題が分かっている
  • 効果・効能が分かっている

この3点が分かっていれば、それがオンラインに移行したとしても成約することは可能です。ちなみに、【競合比較】【顧客の声(事例)】【実績】【価格】【サポート体制】【導入障壁の低さ】なども大切だと言われますが、これは購入を決める上での後押しの要素でしかありません。シンプルな要素が整理できた後に、購入者にとっての安心感を訴求する、これらの項目を検討していきます。

◆まとめ オンラインセールスの可否判断のポイントをまとめます。

  • 【決裁者-課題-効果・効能】のシンプルな要素が整理できている
  • 読むだけで安定的な成約率が出せる商談シナリオが明文化されている
  • 体験を伴うデモなどが成約の鍵となっていない
  • オンラインセールスの役割が決まっている(部分的導入による効率化か。オンラインのみか)
  • 商談の整理ができている

【オンラインセールスができる】だけの状態であれば、これらの要素はすっ飛ばして、“やり方”だけを学べば、今からもオンラインセールスはスタートできます。オンラインセールスを今後の時流と捉えて、自社の新しい武器としたいと考えるのであれば、この要素を一つ一つ検証していきましょう。

3)オンラインセールス 成功のポイント

■はずさないオンラインセールスの肝

可否判断の結果、オンラインセールスを実施できると判断できたとします。いよいよオンラインセールスを始めていくことになりますが、成果を上げるために絶対に外してはいけないポイントがあります。

【売り込みの意識を“0”にすること】です。

オンラインセールスでは“売り込み”はNGです。驚かれるかもしれませんが、この事が分かっていなければ、オンラインセールスで成果を上げることはできません。“セールス”という言葉を使っているので、どう売るか?と考えてしまいます。オンラインセールスで大切なことは“どう売るか?”ではなく、“どう理解し合えるか?”という意識で臨むことです。感覚としては、自社の商品・サービスが解決できるテーマに関するコンシェルジュの様な立ち位置を意識すると良いかもしれません。

“いやいや、可否判断のポイントで“商談シナリオ”の明確化と話していたじゃないですか!“

とお叱りを受けそうですが、読むだけで安定した成約率を実現できる商談シナリオは必要です。それは、課題も含めて理想通りのお客様と出会うという可能性も十分にあるからです。この商談シナリオが安定していなければ、すべての商談が博打となってしまいます。

■オンラインのネガティブ要素

オンラインは手軽に始められそうなイメージがある一方で、特有のネガティブ要素が存在します。

  • 雰囲気が何よりも重要(訪問以上に細かな点に注意する)
  • 事前準備を徹底していることが最低条件
  • 焦りや緊張感が伝わり易く、相手のペースに巻き込まれやすい
  • 相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

1.雰囲気が何よりも重要

オンラインミーティングでは、身だしなみも含めた雰囲気が大切です。上半身の鎖骨辺りから上部しか映りません。また基本はアップで映るため、細かな点に目がいきます。襟が曲がっている。髭の剃り残しがある。洋服にシミがあるなど。対面では気付かない点にも自然と意識が向いてしまいます。資料を説明している際は、顔は映りませんが、商談中は相手の画面にこちら側の顔がアップとなっています。

マイクの精度や背景などにも、気を遣う必要があります。声が聞こえ難い。声が割れている。周囲の雑音を拾ってしまうなど、集中できない雑音をなるべく除去することが必要になります。さらには背景。最近ではバーチャル背景などが当たり前に利用できます。バーチャル背景が自然となる様に単一色の壁を背にする。背景にもこだわりを持って、それが商談の中で話題になる事も含めて考えるなど。全体の雰囲気に考慮する必要があります。また、照明やカメラ位置なども重要です。PC内臓のカメラの場合、どうしても目線が上からになってしまいます。PCの位置を上に上げる。またはタブレット等で目線の位置の外部カメラを利用して目線の位置を並行にするなどの配慮が必要になります。

2.事前準備を徹底していることが最低条件

『“商談のために移動する”という行為に価値があったんです!』そんな話しをすると「まさか、そんなこと」と感じるかもしれません。オンライン化が進んだことで、これまで以上にミーティングの回数が多くなって忙しくなった、と悲鳴を上げる人が続出しています。これは“移動”という物理的な負荷が無くなったことで、反対に“会う”という行為そのものの心理的負荷が軽くなったことに原因があります。

確かに【オンライン=気軽・手軽】というイメージがあります。対面と同じ長さのミーティングであっても、“移動”という負荷が無くなるだけで、お互いに感じる“相手に対する申し訳なさ”は小さくなります。それではオンラインセールスにおける“訪問=移動”と同じような効果をもたらすものは何でしょうか?それが事前準備です。ここで言う事前準備とは、【お客様のことを事前に知る準備】を指しています。

例えば、

  • 企業情報を知るためにHPを確認する(属性や商品・サービス等を知る)
  • 商品・サービスのレビューなどのサイトが無いかを確認する
  • メディアなどで取り上げられていないかを確認する
  • 社長がSNSなどを通じた発信をしていないかを確認する
  • 求人情報などから、その会社の特徴などを確認する

こうした事前準備をした上で、商談に臨むことで相手の印象が変わります。“移動”という負荷が無いため、心理的には“営業が楽をしている”という印象を与えてしまいます。ところが、商談の端々に事前に調べていると実感できる内容が含まれていると、『そこまで調べて貰っているのですか!?』と驚かれます。気軽だからこそ、手間を掛けていないという誤った印象があります。その反作用として、事前準備をしてくれているという事実が好印象を与える効果を発揮します。

3.焦りや緊張感が伝わり易い

オンラインセールスの場合、『台本を用意すれば新人でも対応できますよ』と言われる事があります。例えば、営業側の画面にのみカンニングペーパーが表示される機能や、上司がモニタリングできてチャットで指示を出す機能などがあり、新人営業マンをサポートします、と言われています。本当でしょうか?

オンラインでは営業マンの顔がアップとなります。また声もクリアに聞こえるため、焦りや緊張といった精神的な動揺が対面営業よりも伝わってしまいます。緊張で営業トーク中に頻繁に噛んだり、目線がうろうろしたりといった微妙な仕草も気付かれてしまいます。また、予想外のお客様からの質問に動揺し、詰まったり無関係な回答をした瞬間に信頼は崩れていきます。焦りや緊張感は顧客にとっての不信感を高める事になります。“新人でもできます”が、“新人には難易度が高い”営業と考える必要があります。

4.相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

営業マンの細かな仕草や動揺が相手に伝わってしまう一方で、お客様の本音や細かな仕草が掴み難いのもオンラインの特徴です。対面営業であれば、お客様の全身が見えているため、その行動の微細な変化に気付くことができます。時計を見る仕草が多くなった。資料から目を離し、下を向くケースが増えた。身体が揺れ始めて明らかに飽きが来ているなど。営業サイドの説明が受け入れられているかどうかを、お客様の雰囲気を感じながら対応することができます。オンラインの場合は、顧客側の顔のみ。またカメラ機能をオフにされてしまえば、音声のみが頼りとなります。そのため、こうした微妙な変化を感じ取ることができません。

【最大3分】

これはYoutubeなどの一方的な動画を集中して視聴できる時間も目安と言われています。決してオンラインでのセールスは3分以内で終わりましょうと無茶振りをしたい訳ではありません。認識をしておくべきことは【オンラインは遥かに聞き手の集中力が持続しない】という事実です。そうでなくとも新規開拓営業は、聞き手の姿勢が懐疑的です。オンラインの場合、お客様がPCで対応されるケースがほとんどです。“集中力を阻害する環境”という前提を理解して取り組む必要があります。
本音が見え難く、集中力を阻害する要因が多く、距離を縮め難いというデメリットがあると理解をすることがオンラインの前提となります。

■オンラインセールス成功の原則

ここからはオンラインセールスで成功するための原則をお伝えします。可否判断が終わり、オンラインの特性も理解した上で、どうすれば自社でもオンラインセールスができるのか。そのポイントを原則という観点から整理してみましょう。

  • まずはトップセールスから事例を作る
  • 30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問
  • 開始3分に集中する
  • クロージングパターンの明確化

1.まずはトップセールスから

オンラインセールスを成功させるためのキーポイントは、“誰が事例づくりをするか”に掛かっています。
事例づくりを行うのはトップセールスマンです。自社のトップセールスでも難易度が高いとなった場合、それを新人で対応するというのは無理があります。対面営業とはその作法が異なるため、対面営業で強い営業マンがオンラインでも成果を上げられるかどうかは分かりません。それでも一定の指標にはなります。

オンラインセールスでは、商談そのものを録画する事ができます。トップセールスと共にトライ&エラーを繰り返し、自社の型を作ることが重要です。商談を録画する事で、その雰囲気やトークの流れ、ポイントになるキラーワードなどを他の営業マンに伝え易くなります。社内での成功事例づくりは必須となりますが、その型はトップセールスマンと作る。商談を録画し、成功商談自体を教材として横展開をしていくというステップが大切です。

2.30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問

オンラインセールスの基本は30分。「え!?そんなに短いの?」と思いましたか?会議は1時間以内。セールスは30分前後というのが、オンラインの平均的な時間となりつつあります。商談が予想以上に盛り上がれば、1時間前後というケースもありますが、基本は30分です。その時間内で商品・サービスを理解して貰い、顧客の課題を把握し、温度感を高め、購入意思を固めて貰う必要があります。その為、商品・サービスの説明をいかにコンパクトにできるかどうかも重要になります。

【5~7分】

これはベンチャー企業が起業家向けにプレゼンするピッチコンテストの制限時間です。自社の説明、その事業を始めたきっかけ、サービス概要と顧客へのメリット。そして将来展望までをこの時間内で話します。オンラインセールスでは、こうした5分で理解できるサービスプレゼンのシナリオを精緻に設計する必要があります。

説明よりも対話を重視するオンラインセールスでは、説明の時間が長くなると、“ながら視聴モード”に入り、集中力が持続しません。短い説明と適切なタイミングでの質問や確認が、集中力を持続させる鍵です。
また顧客の状況、特に課題を把握する質問を準備しておくことも大切です。可能であれば商談前に簡易的なアンケートなどで必要事項は押さえておくなど工夫も必要になります。【診断・分析】などをセールスの前に行うステップに入れておくだけで、セールスのタイミングで確認すべき事項を減らすことができます。セールスを行う上で重要な事は、顧客の課題とその解決による効果です。課題の認識が明確で緊急性が高く、そしてその効果も明確であれば、セールスは容易です。ポイントは、“気付いていない課題を顕在化すること”です。状況把握は課題把握と同義です。ここについても、事前に準備をしておく必要があります。

3.開始3分に集中する

“3分で掴めば成約率は20倍になる!”

これは当社の実績です。オンラインセールスを始めた当初は2%程度だった受注率が今では40%と20倍になっています。商談シナリオもブラッシュアップしていますし、いくつもの改善を重ねた結果ではあります。
ただ、最も大きな要素は何かと聞かれたら“冒頭3分です”と答えます。
冒頭の3分はお互いの距離感を模索し、相手に営業マンとして信頼できるかどうかを見定めて貰う時間です。
この3分で掴めなければ商談はLOSSします。逆にこの3分で掴めたら、商談を有利に進める事ができます。
それでは3分のポイントは何でしょうか?

  • 人柄を宣言する
  • 事前準備で収集した情報で距離感を縮める

この3分という時間で、“自分という人間”を感覚的に理解して貰う必要があります。人柄を表現する言葉というのは幾つもあります。実際に自分はどんな人だと認識をして欲しいのか。自己紹介を兼ねた冒頭3分間では、そうした人柄に関するコメントもそれとなく入れておく必要があります。“少し早口ですが”“よく笑うと言われるので”“雑談が少し多めかもしれませんが”“固いですが緊張している訳ではありません”など。事前に自分という人間を相手に伝えておくことで、聞き手はパーソナリティを意識する事になります。

さらに事前準備で調べた顧客情報を活用して、“御社に興味があります”というメッセージを伝えます。『HPにあったんですが』『○○の記事に書かれていた』『求人サイトで見かけたんですが』など、それとなく調査した情報を、お客様との会話の架け橋に活用します。“ちゃんと調べてるんだね”という印象を与えることができれば、相手との距離は縮まっています。
この3分という時間は、営業マンの人柄を理解させ、お客様との距離感を縮めるために外すことのできない大切な時間です。成約率20倍の差がこの3分にあります。

4.クロージングパターン

セールスなのでクロージングは大切です。このクロージングのパターンを明確にしておく必要があります。1回のオンラインセールスで決着を付けるのか。複数回でクロージングまで持っていくのか。その商談の次のステップが何であり、どの様な反応が取れなければ失注と認識するのか。ここが曖昧なままであれば、グレイな案件が大量に発生することになります。
クロージングを最小ステップで設計するのであれば、初期接点者は決裁者に絞る必要があります。また初期接点者が決裁者であったとしても、実際の商品・サービスを利用する部門長の理解を得なければいけないというケースも多くあります。法人にはありがちな事ですが、決裁者が複数存在するパターンです。初回クロージングのパターンと最終クロージングに分ける等、パターンを事前に認識した商談設計が必要です。

4)まとめ

今回は新規開拓営業をオンラインセールスで成功するためのポイントを整理してきました。オンラインセールスで成果を上げるために、『最も大切なことを一つだけ教えてください』と聞かれたら、間違いなく【相談相手になること】と答えます。「3)オンラインセールス 成功のポイント」でもお伝えしましたが、【売り込みの意識を“0”】にできれば、半分以上は成功すると考えています。
その分野やテーマにおける相談者やコンシェルジュとは何でしょうか?そのポイントは次の3点です。

  • 説明ではなく聞き役だと意識する
  • 提案ではなくアドバイスだと考える
  • 相談者を思い、自社以外のサービスでも積極的に提案する

この3点を意識できれば、オンラインセールスで成果を出すことができる様になります。どうやって売ろうか。上手にクロージングする方法は無いか。そればかりを考えると、本質を見失ってしまいます。
今や情報過多の時代に入りました。お客様が求めているのは、新たな情報ではなく、この情報の渦の中から自社にとって適切な商品・サービスはどれかを導いてくれる先導者の存在です。説明や説得ではなく、自社を理解した上でのアドバイスや納得性の高い提案です。これは時代の変化であり、営業という仕事自体のマインドチェンジが必要なのかもしれません。【売る】のではなく【売れる】状態をつくること。それは顧客との関係性においても大切なポイントになります。

営業のオンライン化によって、営業自体の本質的価値の変化が顕在化されています。
根底から営業の仕組みを見直すことを前提に、取り組んで頂けたら幸いです。

3 齋藤社長からのコメントもいただきました。

正直、私はオンラインで何かをすることは今でも苦手です。人材系の会社に入社し、朝から晩まで電話営業・飛び込み営業を経験し、直接会って信頼関係を構築する大切さを学んだからです。しかし、meet inに限らずオンラインツールを活用すれば大きな可能性を広げられることも痛感しました。待機児童を抱えたママが働けるようになったり、コロナの影響で学校・塾が休校を余儀なくされているときに授業を継続できたり、訪問することができずに営業活動が全くできない企業が少なからず売上をあげられたり。と。オンラインツールは決して魔法の杖ではありませんが、活用することで雇用の創出・学習の継続・営業活動の再開が実現できることで、生活の可能性が大きく広がると思います。中にはオンラインツールを使用すれば売上が5倍にあがる! みたいな広告も見ますが、それは本当に極端な例で、あくまでもオンラインツールは道具であり、手段の一つです。現在この手段を「どのように活用して、目的を果たすか?」ということが肝心になっています。今後はこのあたりの活用方法の共有・ソリューション提供など、ソフト面の強化をはかり、コロナと共存する世界、労働人口減少が著しい日本に、少しでも貢献できれば幸いです。

とコメントくださった、齋藤さん。
コメントにもありましたが、齋藤さんのように、オンラインが苦手だからこそ、中小企業の苦手意識ある皆さんにこれだけのスピード感で受け入れられたこと、広がったことに納得感があります。そして事業の根底に働き手としてのママ支援、想いの大きさも在られるからこそと感じます。まだまだこれからと話される、齋藤さんの活動をこれからも注目し続けたいと思います。

以上(2020年7月作成)

旅費交通費における領収書の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:新任経理担当者
  • 課題:経費精算のチェックは時間がかかるため、少しでも作業を効率化したい
  • 解決策:旅費交通費の基本を押さえた上で、判断に迷う事例をQ&A形式で解説する

1 手間の掛かる旅費交通費の申請

「あぁ~、毎月の旅費交通費の精算が面倒だ……」。特に社外での活動が多い従業員はこう感じているかもしれません。旅費交通費の申請は、「移動ルート」も記載することが多く、とにかく面倒な作業です。それに、近場の電車やバスの移動では、そもそも領収書をもらわない場合が多いでしょう。そのため、過去の行動を思い出しながら経費精算するので、時間もかかります。

旅費交通費の申請を面倒に感じる人の気持ちはよく分かります。経営者としても、従業員が旅費交通費の申請に長い時間をかけているのは困ります。とはいえ、経費精算の最も重要な目的は、企業の利益を正しく計算することであり、少額だからといって適当にできるものではありません。

また、経理担当者側も、経費精算の漏れや、間違った金額での請求などのチェックに多くの時間を要します。経費精算の作業を少しでも効率的に行うためには、従業員の意識と経理担当者の正確な知識が必要です。

本稿では、旅費交通費の基本事項を押さえた上で、判断に迷いやすい旅費交通費の取り扱いを解説します。

2 旅費交通費の基本を押さえよう

1)旅費交通費とは

旅費交通費とは、業務に必要な移動や宿泊で生じる費用です(旅費交通費にならないケースは後述)。厳密には遠方への移動を旅費、近場の移動を交通費と考えますが、一般的には「旅費交通費」として取り扱います。ただし、出張旅費規程においては、いわゆる「出張手当」との兼ね合いから、移動距離に応じた取り扱いを自社で定めているケースが多いので、一度、自社の規程を確認してみてください。

旅費交通費に含まれる主な費用は次の通りです。

画像1

自宅から勤務先への通勤費も旅費交通費に含まれます。一般的に、通勤費は給与に含めて支給されるため、給与と勘違いしている人もいるかもしれません。ここで注意が必要なのは源泉所得税の問題です。

通勤費は、基本的に源泉所得税は課されません(非課税)。ただし、非課税になるには次のような要件を満たしている必要があります。

  • 電車、バスなど公共の移動手段を利用して通勤する場合は、1カ月当たり15万円以内であること
  • マイカー、自転車を利用して通勤する場合は、片道の通勤距離が2キロメートル以上であること(通勤距離ごとに1カ月当たりの限度額があります)

通勤費が上記の限度額を超えた場合、超えた部分は従業員の給与所得となり、源泉所得税の課税対象となります。

2)旅費交通費として処理されない費用

業務上の移動に掛かる全ての費用が、旅費交通費で処理されるわけではありません。重要なのは「移動の目的」であり、これによって旅費交通費ではなく、交際費や福利厚生費などとして処理される場合があります。企業によって処理方法は異なるため、自社の取り扱いについては、税理士などの専門家に相談しましょう。

1.交際費として処理する場合

自社の主催で取引先を接待する場合に、取引先を会場まで送迎した際のタクシー代などは、交際費として処理します。一方、取引先主催の接待に出席する際のタクシー代などは接待そのものに対する支出ではないため、旅費交通費として処理します。

2.福利厚生費として処理する場合

社員旅行や従業員の歓送迎会など、福利厚生を目的としたイベントを開催する場合に、目的地までの移動に掛かる費用は、福利厚生費として処理します。

3.研修費として処理する場合

社外の会場での社員研修や外部講師のセミナーを受講する場合に、会場までの移動に掛かる費用は、研修費として処理します。

3)旅費交通費の精算には必ず領収書が必要か?

近場の得意先に訪問するためなどに電車やバスを利用した場合、領収書が発行されないことがあります。原則としては、少額であっても領収書を添付しなければなりません。

ただし、鉄道会社やバス会社によって領収書の発行方法が異なり、その都度領収書をもらうのも手間がかかります。また、経路や運賃はインターネットなどでも確認することができます。

さらに、消費税法上、税込みの支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存は必要なく、法定事項(取引年月日、取引内容など)が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています(3万円以上で請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載することになっています)。

このような理由から、多くの企業は公共の移動手段を使った近場での移動に限って、領収書の添付は不要としています。ただしこうした場合、移動の根拠(適正な旅費交通費であることの証明)として、使用した路線や運賃などを「旅費交通費精算書」に記載することが大切です。

3 実費精算と出張旅費規程に基づく精算

1)実費精算

実費精算(従業員の請求)で支払う場合は、従業員が立て替えた費用を事後に精算する場合と、事前に仮払金を支払い、後日、実費との差額を精算する場合があります。

前者の場合、従業員が立て替える費用が高額になると負担が大きくなります。出張などに掛かる費用が高額になることが事前に分かるときは、仮払いを併用するのがよいでしょう。

また、経費精算には必ず期限が設けられています。仮に、経費精算が遅れてしまうと、一定期間内(月次決算の場合には月、四半期の場合には期間)に発生した費用が把握できず、正確な損益計算(決算処理)ができなくなります。そのため、従業員が出張などから戻った際には、期限に遅れないように経費精算を申請してもらうようにしましょう。

2)出張旅費規程に基づく精算

出張旅費規程に基づいて精算する場合は、交通費や宿泊代などの手当を定額で支給することができます。従業員によって経路や宿泊先が違う場合でも、支給する金額は定額なので、経費精算の事務処理を簡略化することができます。

出張旅費規程で定めるべき主な事項は次の通りです。

画像2

また、定額で出張旅費が支給されることで、実際に掛かる金額よりも多くの金額を受け取ることができる場合もあるため、実費精算の場合よりも、多くの旅費交通費を法人税の計算上、損金(税務上の費用)の額に計上することができます。損金が多いほど、所得(税務上の利益)が少なくなるため、所得に対して課税される法人税の負担を軽減することができます。

3)出張手当の取り扱い

宿泊費や旅費交通費以外で出張の際に発生する食事代や雑費などについても、出張旅費規程で定めることで、実費ではなく、あらかじめ決められた金額を支給することができます。遠距離出張旅費・出張手当・宿泊料の取り決め例は次の通りです。

画像3

この他、必要に応じて、時間外労働に掛かる手当(時間外の割増賃金とは別に企業が定めるもの)の有無を記載します。

また、定額で出張旅費が支給される場合でも領収書が必要です。領収書がないと、空出張や費用の架空計上を疑われることがあるためです。出張に使った新幹線代や航空券代、ホテル代などの領収書は必ず保存するようにしましょう。なお、保存期間は、7年間となります。

4 こんなときはどうする? 旅費交通費のQ&A

1)タクシーの相乗りで領収書がない場合

タクシーに相乗りし、運賃を割り勘で支払った場合、領収書がもらえないケースがあります。このような場合は、領収書の代わりとして、出金伝票を作成してもらう必要があります。

市販の出金伝票を使うこともできますが、自社でひな型を作成する場合には、支払日、支払先、支払内容、支払金額を記載する必要があります。出金伝票のひな型は次の通りです。

画像4

2)企業支給の交通系ICカードでチャージした場合

企業支給の交通系ICカードにチャージした場合の取り扱いには迷います。「交通系」といえども、コンビニなどさまざまな店舗で決済できるため、チャージした時点では、交通費として処理することはできません。

そのため、仮払金として一旦処理をし、実際に使った用途に応じて仮払金以外の科目に変更します。例えば、ボールペンやノートなどを購入したときは、旅費交通費ではなく消耗品費として処理をします。

また、交通系ICカードを、うっかりプライベートのシーンで使ってしまう場合もあると思います。このような私的な支出は費用にはならないので、経費精算に含めないよう注意しましょう。

3)電車事故などにより通勤経路を変更した場合

通常、通勤に利用している路線が電車事故などにより運休になっていた場合、別の路線を利用することになります。通常よりも交通費が高くなったときは、経路を変更した理由が合理的であれば、差額を交通費として支給することができます。

このような場合は、経路を変更して通勤したことが分かるように、遅延証明書や振替輸送票を申請書に添付してもらうようにします。また、電車事故などで通勤経路を変更する場合の取り扱いは、あらかじめ就業規則で支給額も含めて定めておくとよいでしょう。

4)週末の出張でプライベートの旅行をした場合

例えば、金曜日に東京から名古屋へ出張したので、少し足を延ばして土日に京都に行って観光をした従業員がいるとします。この場合、東京-名古屋間の交通費は、旅費交通費として往復の金額を支給します。

しかし、名古屋-京都間の交通費や観光のための宿泊費は自己負担になります。とはいえ、法律上で一律にこのような対応を取らなければならないという規定はないため、自社の旅費交通費規程に従うこととなります。

なお、プライベートの旅費を会社が負担した場合には給与として取り扱われますので注意が必要です。

5)過去の領収書が見つかった場合

旅費交通費の精算を忘れていた数カ月前の領収書が見つかる場合があります。原則、領収書の日付と旅費交通費を精算する日付が同じ年度内であれば、経費精算をすることができます。

例えば、3月末決算の企業の場合、4月1日から翌年の3月31日までの間であれば、その年度中に支払った費用については精算が可能です。会計処理は年度ごとに行われており、その会計処理に基づいて、法人税などの税金が計算されるからです。つまり、決算日を越えてしまうと、前年度の費用は、原則損金として処理することはできません。従業員には経費精算の目的を理解してもらい、期限を守って経費精算をするように呼び掛けましょう。

以上(2020年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj30039
画像:pixabay

プラモデル・フィギュア業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:プラモデル、フィギュア業界の動向を知りたい経営者
  • 課題:業界の具体的な構造、分類、参入する主なプレイヤーなどが分からない
  • 解決策:業界を俯瞰し、主要企業の具体的な動き、取り組みを知ることが大切

1 プラモデル・フィギュアの概要

1)プラモデル・フィギュアとは

プラモデルは、主な部品がプラスチックで成形された模型の一種です。材料・成型方法の自由度が高いことからさまざまなものを表現しやすく、多種多様なのが特徴です。流通は一般的に、紙箱に詰められた形態で行われます。

フィギュアは、プラスチック・樹脂・金属などを材料に成形されたものです。メーカー側で組み立て・彩色するなどして、購入した消費者が手を加えることなく、飾ったり遊んだりできるようにしています。

流通は一般的に、内容物が見える透明シート製の窓を紙箱や、プラスチック容器に密封した「ブリスターパック」を使った形態で行われます。なお、安価なフィギュアの中には、パッケージに表示された封入リストのいずれか1品を、プラモデル同様に紙箱に詰めて見えないようにして販売するものもあります。

2)プラモデル・フィギュアの分類:モチーフ別

1.スケールモデル

実在もしくは実際に計画されたもの(航空機・車両・艦船・建物など)を縮小サイズで再現したプラモデル・フィギュアです。

2.架空モデル(注)

アニメ・ゲーム・特撮などに登場する、架空のもの(人物・ロボット・航空機・車両・艦船・建物など)をモデルとするプラモデル・フィギュアです。

(注)本稿における便宜上の名称です。キャラクターモデルなどと呼称される場合があります。

3)プラモデル・フィギュアの分類:製造方法・規模別

1.インジェクションキット

鋼鉄製の金型を使った射出成形により製造されるタイプのプラモデルです。量販店や玩具店など販路が広いもの、玩具菓子、ゲームセンターの景品(プライズ)など、比較的安価なフィギュアの部品も同じように作られています。

金型や射出成形機への初期投資が高額になりがちな一方で、金型の耐久性が高く、製造工程の自動化がしやすいため、大量生産によるスケールメリットが得られるという特徴があります。

2.ガレージキット

製造規模が小さなプラモデルの総称です。シリコンゴムで原型を型取りし、溶かした材料(樹脂)を型に流し込むことで部品を製造する「レジンキャストキット」や、樹脂の代わりに融点が低い金属を材料とする「メタルキャストキット」など、少量生産に適した製造方法が採用されています。また、製造数量が少ないフィギュアの部品も同じように作られています。

ガレージキットは、大型の機械や金型などが不要で初期投資が安価な一方で、生産性や型の耐久性が低く生産コストが高くなりがちなため、高価でも買い手が付く希少性の高いものを作るのに適しています。初期投資が低いことに加え、大手メーカーが手掛けないニッチな分野を狙うことで市場開拓ができるため、新興プラモデル・フィギュアメーカーの多くはガレージキットの生産・販売を通じて市場に参入しています。

2 分類別に見たメーカーの特徴

1)総合玩具メーカー

プラモデルやフィギュアだけでなく、さまざまな玩具の生産から流通までを自社グループで手掛けています。幼児向け玩具など多品種展開を狙ってアニメや特撮番組などの版権を取得していることが多いため、プラモデル・フィギュアは架空モデルが主となっています。

資金・生産力・販売力といった経営資源が豊富なため、アニメや特撮番組などの企画段階から「製作委員」などとして参加し、迅速な版権取得や商品化を可能としています。総合玩具メーカーには、バンダイナムコホールディングスやタカラトミーなどがあります。

2)模型メーカー

プラモデル・フィギュアの専業メーカーで、もともと木製模型の製造業として創業している企業が多く見られます。専業メーカーとして一定の販路を確保していることからインジェクションモデルが主となっています。社内に蓄積されているノウハウ・資料などの面でスケールモデルを主に生産していますが、ハセガワやファインモールドのようにスケールモデルのノウハウを活かしたリアル性の高い架空モデルの生産を手掛けるケースもあります。模型メーカーには、タミヤ、ハセガワ、青島文化教材社などがあります。

3)模型店発祥のメーカー

模型店が、常連のプラモデル制作者(モデラー)が持ち込んだ原型や顧客の要望を基にガレージキットやフィギュアなどを製品化して市場に参入し、その後生産委託先を確保するなどして規模を拡大しているケースです。架空モデルに強みを持っていますが、ピットロードやボークス子会社の造形村のように、スケールモデルを手掛けているケースも見られます。模型店発祥のメーカーには、ウェーブ、海洋堂などがあります。

4)その他の企業

その他、フィギュアの企画・生産・販売を目的に設立された企業(アルター、マックスファクトリーなど)や、イベント企画など異業種の企業が参入した企業(グッドスマイルカンパニーなど)もあります。

また、出版社や編集プロダクションの中には、KADOKAWAのように自社が版権を所有する作品のプラモデル・フィギュアの企画・開発を手掛けるケースも見られます。

3 製造・販売などに関する主な差異化策

1)製品の鍵を握る質の高い「原型」

高価格帯を中心に、フィギュアの一大購買要因となっているのが、フィギュアの原型となる模型を作成する「原型師」です。原型師は、フィギュアメーカーに所属しているケースと、フリーの原型師がメーカーと原型製作契約を締結しているケースがあります。大手フィギュアメーカー、特にガレージキットの生産・販売を発祥とする企業は、有力な原型師を擁しているのが一般的です。

一方、3DCAD(3次元コンピューター製図)の高度化に伴って、従来は人の手で実際に造形する必要があった高度な原型製作がコンピューター上でできる「3Dモデリング」も一般的になっています。3Dモデリングの場合、「原型をゼロから製作する必要がない」「修正が速やかにできる」「ソフトウエアの機能によって原型を生産用のパーツ図面に分解するのが容易」といった、原型の設計スピードが速いという特徴があります。

2)交流空間

フィギュアのリピーター獲得に当たっては、消費者のロイヤルティーを高めることが重要です。プラモデル・フィギュアメーカーにおいては、その一環として、メーカーと消費者の交流空間の整備を進めています。

交流空間としては、従来からメーカー直営の模型店がありましたが、近年ではさまざまな形態の空間が登場しています。例えば、ボークスでは、京都府京都市の旧霞中庵竹内栖鳳記念館を改装した「天使の里・霞中庵」を運営しています。同施設では、同社製フィギュアの工房、ショップ、喫茶室、撮影スポットなどを設ける他、特定フィギュアの所有者のみ来館可能(予約制)にすることで、顧客満足度を高めるようにしています。

3)海外展開

1.生産拠点

プラモデルメーカーの生産拠点の多くが国内、特に大手メーカーの本社や工場が集中している静岡県に所在します。これは、主なマーケットが国内であることに加え、射出成型機など自動化が進んでおり人件費の割合が低い、下請企業のネットワークが構築されていることなどが背景にあります。ただし、総合玩具メーカーや一部の模型メーカー(タミヤなど)では、海外でも生産しているケースが見られます。

一方、フィギュアメーカーの多くは、人件費が安いアジア地域の国々に所在する自社工場や委託先工場で生産しています。これは、フィギュアの生産に当たっては組み立てや彩色など人手が必要で自動化が難しい工程が多く、生産コストに占める人件費の割合が高いためです。品質を維持するため、海外で生産を手掛ける各社においては、日本から技術者を派遣したり、定期的に生産現場のチェックを行ったりしています。

2.販売網

総合玩具メーカーは、自社で販売網を構築しています。これは、次に挙げるような背景があるためです。

  • キャラクターを前面に打ち出した玩具ビジネスを手掛けるに当たって、自社グループでキャラクターブランドのマネジメントを直接行う拠点を設ける必要がある
  • 海外の大手玩具メーカーを買収して販売網を自社グループに取り込んでいる

一方、模型メーカーやフィギュアメーカーの多くは、米国などの有力市場を除けば、各国の有力な模型流通業者や日本のアニメ・ゲームの取り扱いに強みを持つ専門店に販売代理店となってもらい、流通を肩代わりしてもらっています。これは、総合玩具メーカーほど流通網を構築する経営資源がないことや、自社で拠点を設けるほどの流通量が見込めないことが背景にあります。例えば、タミヤは、米国やドイツに営業・代理店支援を行う拠点を設ける一方で、流通については各国の代理店や合弁会社を通じて行っています。また、ボークスは米国の販売拠点としてショールームを設けています。

日本のプラモデル・フィギュアを巡っては、少子高齢化などによって国内市場の縮小が懸念されている一方で、クールジャパンを象徴するものとして海外で高く評価されています。この点を踏まえると、成長著しいアジアなど海外市場の開拓は急務といえます。プラモデル・フィギュアメーカー各社では、英語など外国語のウェブサイトを設けて海外の消費者やバイヤーにアピールするなどして、海外市場開拓に注力しています。

4 市場規模

プラスチックモデルキットの出荷金額および産出事業所数の推移は次の通りです。

画像1

2017年のプラスチックモデルの製造品出荷額は204億7400万円で、2016年と比べて7.8%増加しています。産出事業所数もわずかであるものの増加傾向が見られます。

以上(2020年7月)

pj50018
画像:photo-ac

【朝礼】変化のときは「渦中の人」であれ

新型コロナウイルス感染症により、私たちの生活環境は大きな変化を余儀なくされました。ビジネスにフォーカスした場合、こうした大きな変化と直面したときの選択肢は2つしかありません。

1つは変化によって生じる新たなスペースを積極的に狙う「攻め」、もう1つは変化が収束するのをじっと待つ「守り」です。

どちらを選択するか、意見は分かれます。実際、経営者仲間の話を聞いてみると、ある経営者は「新型コロナウイルス感染症の混乱が落ち着いても、ビジネスの在り方が元に戻ることはない。ますます変わっていく。そこにチャンスがある」と言っていました。一方、別の経営者は「新型コロナウイルス感染症の混乱が落ち着いたら、多くは元の状態に戻り、マネジメントが求められるだろう。そこにチャンスがある」と言っていました。

皆さんは、攻めと守り、どちらを選択するべきだと考えていますか?

攻めと守りのような正反対のいずれかを選択するのは、とても難しく、怖いものです。そのため、しばしば「どちらかが正解というわけではない。あくまでも『考え方』の違いである」という結論に落ち着きます。考え方次第と言えば、客観性があって聞こえがいいですし、攻めを主張する人とも、守りを主張する人とも衝突しなくてすみます。しかし、今、そのような曖昧な判断をしているような企業は、間違いなく勝ち残っていくことができません。

それは、私たちが変化を余儀なくされている状態にあるからです。通常なら、変化の激流を避けることもできるでしょう。何もせずに、じっとしていればいいのです。それは、守りとは違います。変化を受け入れられず、未来を想像することなく、激流が収まるまでやり過ごしているだけの状態です。これでも一時はしのげるでしょう。

しかし、そうしている間に周りの多くの人たちは、自ら渦中に飛び込んでいます。「渦中に飛び込む」とは、変化の当事者になることです。激流を避けるのではなく、むしろ激流に乗って進もうとするわけです。先ほど紹介した経営者たちは、100人を超える人から話を聞いて情報を集めています。その情報をもとに未来を【想像】し、針路を決め、自分たちを信じて進んでいるのです。

渦中に入ってしまえば、ある程度の開き直りが生まれ、外から見ているときほどの恐怖を感じなくなります。そこで改めて周囲を見渡すと、多くのチャンスとピンチがあることにも気付きます。また、厳しい環境に身を置くような苦行を組織で体験すれば、得られるものは非常に大きいです。渦中から抜け出した企業は強いものです。

私たちは渦中の人となります。やるか、やらないか、選択の余地はありません。大切なのは、変われるか、変われないかです。これまで培ってきた価値観を自ら覆すのは勇気がいります。しかし、その勇気を持てた企業だけが勝ち残ることができるのです。

以上(2020年7月)

pj17012
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「基準」になろう

皆さんは今、外出自粛など、これまでにない体験をしています。アフターコロナ、ウィズコロナといった言葉で語られているように、今の状況は、今後の私たちの生活や働き方を大きく変えていくでしょう。

先日、あるアパレル業界の経営者が、ウィズコロナの世界で業界における仕事の進め方がどう変わっていくかについて、オンラインセミナーをしていました。今日は、それを聞いて私が考えたことを皆さんにお伝えします。

その経営者は、まず大きく変わるのは接客の仕方だと言っていました。従来の実店舗での接客が、全てオンラインの接客にシフトしていくというのです。その会社では、今、ネット販売に注力し、スタッフの「チャットでの接客力」を磨いているということでした。特に難しい接客例として挙がっていた、お客様と衣料品のサイズについてチャットでやり取りする話が印象に残っています。

初めてのお客様でも、チャットで「このサイズは私に合いますか?」と聞いてくることが少なくないのだそうです。スタッフからすれば、お客様の身体のサイズやスタイルは全く分かりません。そこで、その店では、スタッフはチャットでお客様にこう尋ねます。「お客様がユニクロで選ぶサイズは何ですか?」。そうすれば、「このブランドはユニクロに比べると少しゆったりしていますので、このサイズで大丈夫だと思います」といったように回答できるからです。

要は、お客様とスタッフとの間で、共通認識となる「基準」を設定するということなのでしょう。会ったこともなく、チャットでのみやり取りしているお客様とスタッフ。その状態で共通認識にするのですから、「基準」は誰もが明確にイメージできるものでなければなりません。

そういう意味で、「基準」として登場したユニクロを、さすがだなと感じる一方で、私はこうも思ったのです。「私たちの会社も、私たちの業界の中での、基準になりたい」と。皆さん、想像してみてください。何か共通認識を設定するとき、「基準」として真っ先に当社の名前が挙がる。誰もが当社の商品を思い浮かべることができる。どれほど誇らしいことでしょう。

こうした「基準」になるには、幾つかの条件があります。私が最も重要な条件だと考えているのは「信頼される」ことです。私たちは、このような非常時だからこそ、「どういう状況でもしっかり対応してくれる」「きちんと商品を提供してくれる」「顧客のことを考えてくれる」とお客様に信頼してもらえるよう、一人ひとりが誠実に行動しなければなりません。

これからは、お客様との接し方も大きく変わっていくでしょう。状況がどうなろうとも、皆で工夫し合い、お客様から「信頼できる」と評価される会社であり続ける。これが、「業界の基準」となる第一歩です。皆さん、一緒に「基準」になることを目指しましょう!

以上(2020年7月)

pj17013
画像:Mariko Mitsuda

社長が語る あのとき、私が決断した理由

書いてあること

  • 主な読者:会社が岐路に立ち、大きな決断をしなければならない社長や経営幹部
  • 課題:他の社長の考えを聞いてみたい
  • 解決策:会社の命運を左右する重大局面で、実際に決断をした経営者の当時の心の動き、思いを参考にする。決断に一番重要なものは何か

1 事例1:「背水の陣」で製造小売りに事業転換

業績が下降していた折、追い打ちをかけるように東日本大震災が発生しました。取引先の相次ぐ廃業で売り上げの約3分の1を失う見通しにもかかわらず借り入れはできず、資金が枯渇している状態です。

約100年続くオーダースーツ製造卸会社「オーダースーツSADA」(以下「SADA」)の4代目社長である佐田展隆さんが、古巣への復帰を要請されたとき、SADAはそのような危機的状況にありました。

そこで下した「佐田さんの決断」は、従来の小売業者向けの製造卸から、製造小売り(SPA)に事業転換することでした。そのために、新たな小売店を日本最大の繁華街である東京・新宿に出店する「乾坤一擲(けんこんいってき)の戦い」に打って出ます。

1)4代目社長就任も5年で会社を去る

佐田さんが最初にSADAの社長に就任したのは、2003年12月のことでした。年商を上回る有利子負債を抱えて倒産の危機に瀕(ひん)し、当時の社長だった父の願いを聞き入れる形で、勤務先を退職して社長を引き継ぎました。佐田さんが29歳のときでした。

佐田さんは利益を重視した営業戦略を徹底し、半年で黒字転換を果たします。しかし、買掛金や給与の支払いまで先延ばししていた状況には焼け石に水でした。私的再生したSADAは2007年6月に投資ファンドに引き取られ、実家の資産も全て失いました。社長職から外され、もはや社員や工場を守ることができないと悟った佐田さんは、会社を去ることにしました。

2)震災で再び窮地に陥った中での復帰要請

東日本大震災の混乱も冷めやらぬ2011年6月、佐田さんはSADAに復帰します。投資ファンドから小売り流通大手の手に渡った後も下降線をたどり続けたSADAに、震災が追い打ちをかけました。自社工場の損壊に加え、取引先の多かった東北地方を中心とする小売り業者の相次ぐ廃業によって、売り上げの約3分の1を失う見通しに陥ったSADA。進退窮まった当時の社長が、佐田さんに復帰を要請したのです。

復帰要請とともに知らされたSADAの財政状態は、社長を離れた当時よりも悪化していました。周囲の知り合いの誰もが改善の見込みはないと口をそろえましたが、佐田さんは“火中の栗を拾う”決心をします。

復帰後の社員の反応は好意的でした。しかし、佐田さんは前回の経験も踏まえ、「社員の期待感がなくならないうちに、新たな方向に転換して成果を収める。そして、社内を『いける』という雰囲気に変えなければ、中期的には存続できない」ことを肝に銘じていました。しかも、佐田さんの復帰当初の肩書は、“社長含み”とはいえ一介の経営企画室長。部長待遇で、株式も保有しておらず、「金融機関などは『お手並み拝見』というスタンスだった」といいます。

3)製造小売りに軸足を転換

佐田さんがSADA存続の道として「これ以外にない」と示したのは、従来の製造卸から、製造小売りへの業態転換でした。

小売り事業は、前回の社長時代に、ECサイトと大都市を中心に7店舗の出店を試みていました。ただ、その目的は、小売業者に対して自社の中国工場の製品を売り込むことで、中国製品を若者に販売するパイロットケースの意味合いでしかありませんでした。

このため、佐田さんが復帰するまでの小売り事業自体は赤字が続いており、売り上げは全体の15%程度しかありませんでした。出店用の新たな借り入れが許される財務状態ではなく、既存の取引先である小売業者とは競合関係になります。

それでも佐田さんは、幹部たちを説得します。「他に策があるんですか? このまま何もせずに籠城戦をして、社員を餓死させるつもりですか? 打って出るなら今しかないじゃないですか!」

しかし、佐田さんの決断には幹部全員が猛反対。「もうオーダースーツの時代は終わったのです。持ちこたえるには節約しかない」と抵抗する幹部もいたといいます。結局、佐田さんは復帰後1年の間に、社内の主要ポストに就いていた5人の幹部全員の辞表を受理することになりました。

画像1

「背水の陣での乾坤一擲の戦い」を始めるべく、佐田さんは自らの足で店舗の物件探しから始めます。出店先は、駅の乗降客数が最も多い東京・新宿に絞りました。「震災後で空き店舗が増えており、安い条件で見つけられるはず」との見通しが当たり、ビルの4階ではありますが、新宿駅南口から徒歩3分の好物件を押さえられました。

新規出店に伴う資金繰りは、まさに薄氷を踏むような綱渡りの状態でした。注目したのは、卸と小売りの支払いサイトの違いです。卸では受注から入金までに平均75日程度掛かりますが、小売りであれば受注即日に入金されます。オープンセールでの売り上げを当て込み、店舗物件の敷金や礼金の3分の2と内装費、約100万円を掛けた山手線の窓上広告などの支払いを先延ばししてもらいました。必然的に新店舗の開店日は、冬物の注文が最も多い10月となりました。

4)今やれることを徹底してやる

新宿への出店について、幹部や社員に対しては不安のそぶりも見せなかった佐田さんですが、内心は「成功する可能性は、5割もないと思っていた」といいます。それでも決断が揺らがなかったのは、幼少の頃から祖父に何度も聞かされた「出足と手数」の教えがあったからでした。祖父は常々、「困ったときにすべきことは、今できることは何かを考えることだ。そして思いついたらすぐにやってみる。それでダメなら、また別の方法を考えればよい。それができなければ、戦場では生き残れなかった」と語っていました。祖父の言葉を胸に、佐田さんは「成功する確率が低いので意味がない、という理由をつけてやらなくなるのは、未来に翻弄されている中途半端に賢い社長がはまる落とし穴。どんなに可能性が低くても、他に道がなければ、徹底してやる」と決意を固めます。

佐田さんの決意を象徴するのが、宣伝用のティッシュ配りです。朝4時頃に起床して、新宿の店舗の看板を出し、ティッシュ配りをしてから、どの社員よりも早く出社する。新宿の店舗のオープン後の半年間、佐田さんはこのような毎日を過ごしました。「通行人に舌打ちされることもあるし、売り上げに対する効果はゼロかもしれない。でも、新宿の店舗の成功のために、他に早朝の時間にできることはなかった。私の本気を社内に示すためにも、続けることにした」といいます。

5)小売り事業は大成功

オープンセールでは、スペアのスラックス付きオーダースーツを1万9800円に設定した目玉商品が話題を呼び、約800万円の売り上げを記録。この成功で社内の雰囲気が一気に変わります。得られた利益を新規出店や店舗の移転費用に回し、さらに利益を得るという好循環も生まれ、SADAは増収増益基調に転じます。内外からその実力を認められた佐田さんは、社長復帰への道筋をつけました。

社長に復帰した佐田さんは、会社のために、自らが“広告塔”となることも厭(いと)いません。小売り事業で重要な知名度の向上と、社員に「メディアで取り上げられるほど、自分たちの会社の進む方向は正しい」と感じてもらうためだといいます。2013年からは動画マーケティングに着目し、年に1回程度、自社製のスーツ姿で富士登山やスキージャンプ、東京マラソンなどに挑戦する動画をYouTubeにアップしています。

こうした努力が実り、SADAは2017年、社員への賞与を20年ぶりに復活させることができました。そのとき工場のベテラン女性社員たちから掛けられた言葉は、佐田さんにとって今でも忘れられない一言になっています。それは、「社長を男にできた」でした。

2 事例2:「会社は社長のものにあらず」未練を残さず事業売却

皆と力を合わせて、会社はそれなりの規模にまで成長した。でも今後、社員やその家族にとって、より良い会社にしていくためにふさわしい社長は、自分ではないかもしれない――。

豆腐の移動販売フランチャイズ事業会社「豆吉郎」の創業者である宮嵜太郎さんは、10年以上掛けてグループ累計の売上高を100億円にまで成長させた後、そんな思いに至ります。

そのとき下した「宮嵜さんの決断」は、新聞社へ事業を譲渡することでした。そしてそう決断した宮嵜さんは、売却する際に自分自身に対して、「社員や金融機関に迷惑を掛けない」という条件を課していました。

1)当初のイメージの7割以下なら撤退

24歳のときから地元の福岡県でおよそ13年間にわたり、米の配達業、レンタカー事業、物干し竿(ざお)の移動販売業、造園業など約20の事業の起業と撤退を繰り返した宮嵜さん。2005年に起業した豆吉郎(当時は藤吉郎)も、開設した50事業所のうち25事業所を撤退しました。13年中、赤字だったのは8年でした。

その間、子供のための積立預金や、一人暮らしの母親が老後のために積み立ててきた生命保険を解約するなどして、資金をやり繰りしてきました。

「家族にも苦労を掛けた」という宮嵜さんですが、社員のリストラと給料の遅配、そして金融機関への返済の遅延だけは一度もしませんでした。宮嵜さんは、そうならないように「失敗したら会社そのものが潰れる、というチャレンジはしない」と自らを戒めていたためです。軽トラックによる豆腐の移動販売事業を、初期投資の回収リスクが軽減できるフランチャイズチェーン(以下「FC」)方式にした理由の1つも、その戒めがあるからでした。深手を負う前の早めの撤退も、自身の中のルールに定めていました。「売り上げを含めて、当初イメージしていた姿の7割以下だったら事業を撤退すると決めていた」といいます。

画像2

2)全国最大の移動販売組織を構築

過度なリスクを取らないとはいえ、宮嵜さんは、事業拡大のためのチャレンジには貪欲でした。客単価アップのため、豆腐以外の製品の販売を拡充していきます。また、ファン層拡大のため、月に1回、顧客が考えた豆腐を使ったオリジナルレシピなどを掲載したチラシの発行を始めました。FC事業の要である加盟店のオーナーとは頻繁に意思疎通を図り、パートナーとしての信頼関係を築くとともに、社員に対しては加盟店オーナーになることを奨励しました。

こうして広げていったFC網は、やがて西日本一帯をカバーする全国最大の移動販売組織にまで発展します。グループ累計の売上高は100億円に達しました。

3)社員とその家族の利益を考え、売却を決意

ようやく“収穫期”を迎えた豆吉郎ですが、宮嵜さんは2016年、M&A仲介会社を通じて会社そのものを売りに出します。

理由の1つは、売り上げ至上主義からの転換です。起業当初は、仕入れ面などでのスケールメリットを享受するために、売り上げの拡大に努めてきました。しかし、スケールメリットは限界に達し、「労働集約的な事業なので、これ以上売り上げが増えても、社員や加盟店の人たちの収入や休暇の増加にはつながらない。今後の売り上げ増は社長の自己満足でしかない」と考えるようになったそうです。

利益面でのネックになっていたのは採用コストでした。事業が軌道に乗り始めた頃は、リーマンショックの影響もあって1人当たりの採用コストが2万円程度でした。ところが景気が回復して人手不足となった結果、80万~90万円にまで上昇し、「利益の多くが求人のために使われ、起業当初のイメージと違ってきた」といいます。

その一方で、10年掛けて構築した事業の運営ノウハウに関しては、「すでに仕組みが出来上がっており、自分がいなくても会社が回るようになっている」と判断。このような状況を客観的に分析した宮嵜さんは、「200人の社員とその家族のことを考えると、豆吉郎が潰れない確率が高い、安心感や社会的に高い評価のある会社がオーナーになるほうがよい」との考えに至ったといいます。

4)売却先は西日本新聞社に

「そこまで黒字額が多いわけでなく、食品を移動販売で取り扱うというリスクもある。引き受けてくれるところが多くあるとは思っていなかった」という豆吉郎の売却先ですが、大手のコンビニエンスストアや飲食店チェーンを含む約100社が関心を示してくれました。

数ある選択肢の中から宮嵜さんが売却先に選んだ相手は、全くの異業種である西日本新聞社でした。決め手は、豆吉郎に対する評価額と、新聞社という社会性の高さからくる安心感でした。さらに、「西日本新聞社はなかなかリストラをしない会社だと知っていたので、雇用を守ってくれるだろうと思った」といいます。

5)情と数字のバランスを意識する

家族に苦労を掛けながら、社長・会長として13年を費やして育て上げた豆吉郎ですが、売却することに全く未練はなかったといいます。その背景には、宮嵜さんが「会社に対する愛着を50%しか持たないように心掛けてきた」ことがあります。

「起業した当初は社員を家族のように思い、社員から好かれようとしていた」宮嵜さんですが、社員の数が10人、15人と増えて“部下の部下”ができ、全社員に直接自分の思いを伝えられなくなった頃から、考えを改めるようになりました。「社員の生活を安定させ、良くしていくのが仕事」と割り切り、50%はドライなビジネス感覚で経営判断を行うようにしたといいます。起業時からいる社員や、自分の近くで働いている社員を特別に高く評価したり、頑張った出店者に同情して不振店の撤退を決められなかったりという、「正常な判断ができない」状態を避けるためでした。

ドライなビジネス感覚での経営判断は、自分自身の進退に関しても一貫していました。「ずっと未来永劫(えいごう)、(自分が)社長でいられるわけではなく、会社を渡すのが今なのか、30年後なのかという、時間の問題だけ。それならば、利益も出ており、売却するにはもったいないと言われている今のほうがよい。売却候補と有利な立場で話を進められ、社員の雇用の維持なども求められる」。それが宮嵜さんの出した結論でした。

宮嵜さんが豆吉郎の売却を終えて抱いた思いは、「誰にも迷惑を掛けず、ちゃんと辞められて、ほっとした」でした。

3 決断とは、何が一番大事なのかを選ぶこと

既存の取引先と競合関係になるリスクを負いながら、会社の危機的状況を打開するために小売り事業に参入した佐田さん。会社が大きく成長して収穫期を迎えた中で、社長やオーナーの座を譲ることにした宮嵜さん。2人の決断の内容は全く異なりますが、佐田さんは会社を存続させること、宮嵜さんは社員や金融機関に迷惑を掛けないことを一番に考えて、それぞれ決断しました。

そして、佐田さんはどの社員よりもがむしゃらに働き、宮嵜さんは会社を手放すという、ある意味で「自分が一番損な役回り」になることを厭いませんでした。

決断に迷ったとき、「何が一番大事なのか」「大事なもののためなら自分が不利になっても構わないと思えるか」を自問することが、迷いから抜け出すためのヒントになるのかもしれません。

【参考文献】

「迷ったら茨の道を行け:紳士服業界に旋風を巻き起こすオーダースーツSADAの挑戦」(佐田展隆、ダイヤモンド社、2018年12月)

「元手10万円で100億円の売上をつくった事業のコピペ術:フランチャイズ本部のつくり方」(宮嵜太郎、クロスメディア・パブリッシング、2019年11月)

以上(2020年5月)

pj10047
画像:インタビュー先より入手

福祉用具貸与・介護予防福祉用具貸与の概要と市場動向

書いてあること

  • 主な読者:福祉用具貸与の事業を手掛けたい経営者
  • 課題:需要や、参入に当たりハードルになること、規制が分からない
  • 解決策:課題の一つとして、å福祉用具貸与事業者は、福祉用具の手持ち在庫が必要なため、初期投資が比較的高額になる傾向がある。こうした場合、福祉用具レンタル卸を活用することで、手持ち在庫を持たず、管理や点検の手間も省くことができる

1 福祉用具貸与事業の概要

1)福祉用具貸与とは

福祉用具貸与とは、要介護の状態等になったときにも、その能力に応じて、できる限り居宅で自立した日常生活を行うことができるように、利用者の希望・状況・環境を踏まえて適切な福祉用具の選定の援助・取り付け・調整を行うサービスをいいます。

福祉用具貸与は「要支援」「要介護」によってそれぞれ次のように分類されます。事業者は同時に両方の指定を取得することも可能です。

  • 介護予防福祉用具貸与(要支援1~2)
  • 福祉用具貸与(要介護1~5)

介護保険制度を使って福祉用具のレンタルを検討する場合は、ケアマネジャーに相談することになります。福祉用具貸与の費用(レンタル料)は、福祉用具貸与事業者が自由に設定できます。ただし、介護保険の給付の対象になるためには、福祉用具の貸与がケアマネジャーの作成するケアプランに組み込まれていて、支給限度額の範囲内であることが必要です。

2)レンタル期間

福祉用具のレンタル期間は、利用者の状況や品目によって大きく異なります。例えば介護ベッドの場合、利用者の身体状況の変化により2~3カ月でレンタルを終了してしまうケースもあれば、2~3年という長い間レンタルが続くこともあります。

また、利用者の意向によってもレンタル期間は異なります。例えば、介護老人福祉施設などの施設に空きがないため、やむを得ず在宅介護を受けている状態にある利用者は、施設に空きが出たときにレンタルが終了します。一方、施設に空きがあるものの施設に入る意思がない利用者の場合、レンタル期間は長くなりがちといえます。

3)レンタル商品の仕入れ方法

福祉用具貸与事業者が介護ベッドなどのレンタル用品を調達する方法はさまざまです。介護ベッドなどの仕入れ先はメーカーあるいは卸売業者であり、比較的大規模な福祉用具貸与事業者はメーカーと取り引きしています。

また、介護ベッドなどの仕入れ方法には購入とレンタルの2つの方法がありますが、比較的大規模な福祉用具貸与事業者は購入によって調達することが多いようです。

4)福祉用具貸与の対象品目

福祉用具貸与の対象となる品目は、ベッド、車いす、つえなどさまざまです。福祉用具貸与の対象となる項目は次の通りです。

画像1

2 介護保険制度の改正

1)利用者負担割合について

2018年4月に施行された「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(以下「改正介護保険法」)により、2018年8月以降、介護保険の利用者負担割合や、福祉用具貸与価格などが見直されました。

介護保険の利用者負担割合は、年金収入等が単身世帯で280万円未満(2人以上世帯は346万円未満)の場合は1割、280万円以上(2人以上世帯は346万円以上)の場合は2割、340万円以上(2人以上世帯は463万円以上)の場合は3割となりました。

2)福祉用具貸与価格について

現在の福祉用具貸与価格は、仕入価格、搬出入、保守点検などの経費の違いから、同じ商品を取り扱っていても福祉用具貸与事業者ごとに価格差があります。改正介護保険法により、適切な貸与価格を確保する観点から、厚生労働省が全国平均貸与価格および貸与価格の上限を公表しています。

また、福祉用具貸与事業者が福祉用具を貸与する際には、福祉用具の全国平均貸与価格と自社の貸与価格の両方を利用者に説明する必要があります。併せて、機能や価格帯の異なる複数の商品を提示する必要があります。

■厚生労働省「福祉用具」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html

3 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具貸与の介護費の推移

国民健康保険中央会「介護費の推移」によると、福祉用具貸与事業者における介護費の推移は次の通りです。

画像2

高齢者の増加により、福祉用具貸与事業者における介護費は増加を続けています。

2)福祉用具貸与の事業者数

厚生労働省「介護給付費等実態統計」によると、福祉用具貸与と介護予防福祉用具貸与サービス事業所数の推移は次の通りです。

画像3

4 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具レンタル卸

福祉用具貸与事業者は、福祉用具の保管および消毒のための設備や器材が必要で、事業運営には相応の広さの区画を必要とします。ただし、福祉用具の保管または消毒を他の事業者に行わせる場合にあっては、福祉用具の保管または消毒のために必要な設備または器材を有しないことができます(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「基準」)第196条第1項)。

福祉用具貸与事業者は、福祉用具をメーカーから仕入れ、それを利用者に貸し出すことになるため、常にある程度の手持ち在庫を持たなければなりません。そのため、新規参入を図る事業者にとって、初期投資は比較的高額になる傾向があります。

そのような場合、福祉用具レンタル卸を活用すれば、利用者の利用期間終了後は福祉用具を返却すればよいため、手持ちの在庫を抱える必要はありません。福祉用具の在庫管理や使用後の消毒・点検などの手間も省くことができます。

福祉用具レンタル卸の大手としては、日本ケアサプライが挙げられます。同社のコア事業は、指定居宅介護事業者向けに福祉用具のレンタルおよび販売を行う「福祉用具サプライ事業」です。

■日本ケアサプライ■
https://www.caresupply.co.jp/

2)「福祉用具貸与計画」作成義務

福祉用具専門相談員は、利用者の希望、心身の状況およびその置かれている環境を踏まえ、指定福祉用具貸与の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した福祉用具貸与計画を作成しなければなりません(基準第199条の2第1項)。

以上(2020年6月)

pj50157
画像:pixabay