1 人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」
建設業では、労働力人口の減少に加え、長年にわたって業界を支えてきた熟練技術者の高齢化と引退が急速に進んでいます。そんな状況にあって企業が持続的に成長し、競争力を維持するには、新たな人材の確保と、既存社員のスキルアップが必須です。
国や地方自治体は、企業の人材投資を後押しするために、様々な助成金を実施していますが、
人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」
があるのをご存じでしょうか? 以降で、建設事業主を対象とする助成金を中心に、主な要件や支給額の目安を紹介します。
なお、制度によっては中小建設事業主に限定されるものや、建設事業主団体・職業訓練法人が対象となるものもあるため、申請前に最新の支給要領を確認しましょう。また、助成金の内容は、2026年4月30日時点のもので、将来変更される可能性があります。申請書の書き方や添付書類などについては、次のURLをご参照ください。
2 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)(最大1000万円)
1)助成金の概要は?
中小建設事業主が、建設関連の認定訓練を実施した場合に支給される助成金です。建設業界における技能水準の向上と、それを支える訓練体制の強化を目的としています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 訓練の実施:都道府県から支援(認定訓練助成事業費補助金または広域団体認定訓練助成金の交付)を受けて、認定訓練を実施する必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金助成または賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させる必要があります。また、賃金助成を受けるには、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受ける必要があります
- 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合):訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。
- 離職者の発生状況:訓練開始6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、訓練の実施した場合に助成が受けられ、さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。
- 経費助成:認定訓練を実施した場合、対象経費の1/6が助成されます。
- 賃金助成:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受け、2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。
- 賃金向上助成・資格等手当助成:賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、金額がさらにプラスされます。

要件を満たした場合、最大1000万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
認定訓練を実施する際、まず都道府県の担当窓口に「認定訓練助成事業費補助金」または「広域団体認定訓練助成金」の交付を受けられるかどうかを確認する必要があります。経費助成と賃金助成はそれぞれ別個に申請できますが、いずれも申請期限があります。申請漏れを防ぐためにも、訓練終了後は速やかに準備を進めることが大切です。
賃金助成は、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定が前提です。つまり、人材育成支援コースの「計画届提出(訓練開始日の1か月前まで)→訓練実施→支給決定→認定訓練コースの賃金助成申請」という手続きが必要になります。スケジュールを逆算して、6カ月以上前から準備を始めるのが安全です。
また、訓練の内容は一定の建設関連の訓練に限定されます。経理事務・営業販売的な要素を持つものは、助成の対象とはならないなどの制約があるため、支給要領を確認してください。
3 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)(最大500万円)
1)助成金の概要は?
中小建設事業主等が、若年者の育成や熟練技能の維持・向上を目的とし、キャリア段階に応じた技能実習を実施した場合に支給される助成金です(女性建設労働者に技能実習を行う場合は、中小建設事業主以外も経費助成の対象となります)。建設業界における技能の継承と向上を包括的に支援することを目的としています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 技能実習の実施:キャリアに応じた技能実習を実施することが必須です。「1日1時間以上であること」「期間を6カ月以内とすること」などの要件を満たす必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金助成・賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に支払う必要があります。
- 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合):訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。
- 離職者の発生状況:訓練開始6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、事業主の規模(雇用保険被保険者数)などに応じた助成が受けられます。さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。
- 経費助成:技能実習の実施に要した経費について、雇用保険被保険者数20人以下の中小建設事業主は対象経費の3/4、21人以上の中小建設事業主は対象経費の7/10(35歳未満)または9/20(35歳以上)が助成されます(1つの技能実習について1人当たり10万円が上限)。
- 賃金助成:2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。ただし、1つの技能実習について、1人当たり20日分が上限です。
- 賃金向上助成・資格等手当助成:経費助成または賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、助成率または金額がプラスされます。

要件を満たし、対象経費や対象労働者数などの条件がそろった場合、最大500万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースは経費助成・賃金助成・賃金向上助成と複数の助成が組み合わさるため、申請漏れや要件の取り違えが起きやすいコースです。特に賃金助成は1日3時間以上のコースのみが対象となる点に注意が必要です。
計画届は、技能実習の開始日の原則3カ月前から1週間前まで(必着)に提出する必要があります。提出遅れがあると不支給となるため、注意してください。
ただし、登録教習機関・登録基幹技能者講習実施機関・職業訓練法人・指定教育訓練実施者が実施する実習に全期間を通して委託する場合は、計画届の提出は不要です。
また、所定労働時間内に受講させ、通常の賃金以上を支払うことが要件です。休日や所定労働時間外に受講させる場合は、割増賃金以上の支払いが必要となります。「賃金を払わず自主参加扱いで休日に受けさせた」というケースでは助成対象とならない点に注意しましょう。
4 人材確保等支援助成金(作業員宿舎等設置助成コース(建設分野))(最大290万円)
1)助成金の概要は?
女性専用の作業員施設や、特定の地域(石川県)での作業員宿舎・施設・賃貸住宅の設置を支援する助成金です。女性の定着を妨げる要因の一つである女性専用施設を充足させること、特定の地域における労働者の住環境を整備することが目的です。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 助成対象施設の設置:女性専用の作業員施設を賃借により設置、または石川県内で作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設を賃借により設置する必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合):女性専用施設を設置する場合において、別途定められた賃金要件を満たす必要があります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、設置する施設の種類と所在地によって、支給額または助成率が異なります。

要件を満たす場合、女性専用作業員施設設置経費助成は1事業年度あたり90万円、石川県内の作業員宿舎等経費助成は1事業年度あたり200万円が上限です。両方の要件を満たす場合、最大290万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
女性専用の作業員施設の助成を受けるためには、設置する施設が更衣室・便所・浴室・シャワー室等の所定の基準(床面積、施錠機能付きドア、女性専用施設である旨の明示等)を満たしている必要があります。また、石川県内の作業員宿舎などについても、入居者数や居住費の負担限度額などについての基準が設けられているため、支給要領をよく確認してください。
女性専用作業員施設の助成については、「自ら施工管理する建設工事現場」が対象です。下請として入る現場ではなく、元請として施工管理する現場で女性専用施設を賃借することが要件であり、対象となる事業主は「中小元方建設事業主」に限られます。
下請専業の事業主は対象外となるため、自社の立ち位置の確認が必要です(石川県内の作業員宿舎等の助成については、中小建設事業主であれば元請・下請を問わず対象となります)。なお、賃借契約締結後の事後申請ではなく、契約前の計画届が原則となるため、物件選定の早い段階で労働局に相談することが重要です。
5 人材確保等支援助成金(若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野))(最大200万円)
1)助成金の概要は?
若年者や女性の入職・定着を促すための職場環境改善事業(例:現場見学会、入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)を実施した場合に受け取れる助成金です。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 事業計画の策定と実施:若年者や女性の入職・定着を図るための具体的な事業(例:入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)の計画を策定し、その計画に基づいた事業を実施することが求められます。
- 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に実際に支払う必要があります。
- 離職者の発生状況:事業の実施6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、企業規模と賃金要件の達成状況に応じて、対象経費に対する助成率が異なります。また、2026年度からは、
若年者や女性の入職・定着を図るための事業を実施し、経費等助成の支給決定を受けた後、対象となる新規入職者が6カ月間離職せずに定着した場合、「定着助成」が受けられる
ようになっています。

要件を満たした場合、最大200万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
このコースは、単に若年者や女性を「採用する」だけでなく、建設業界で長く働き続けられるような「魅力的な職場環境を創る」ことを目的としています。事業計画の内容と実施記録の整合性が審査のポイントになります。計画書に記載した事業を実際に行ったことを証明できる書類(実施写真、参加者名簿、領収書等)を漏れなく保存しておきましょう。
また、事業計画は「具体的かつ測定可能」に作ることが求められます。「現場見学会を年2回実施」「対象者は地元工業高校生20人」「終了後にアンケート回収」など、誰が・何を・いつ・どれだけ実施するのかを明確にしないと、計画段階で差し戻される可能性があります。労働局の審査では、計画書の記載と実施記録(写真、参加者名簿、アンケート、領収書等)の整合性が厳しく見られるためです。
2026年度新設の「定着助成」は、新規入職者1人当たり42万円(年度3人まで、上限126万円)が上乗せ支給されます。この助成を受けるには、経費等助成の支給決定を受けた事業の対象として採用された新規入職者が6カ月間離職せずに定着することが要件で、6カ月後に別途申請が必要です。採用と定着支援をセットで設計し、助成額を最大化しましょう。
6 人材確保等支援助成金(建設キャリアアップシステム等活用促進コース(雇用管理改善促進事業))(最大160万円)
1)助成金の概要は?
建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用して雇用管理を改善する事業主に対し、技能労働者数に応じて支給される助成金です。CCUSは、技能労働者の就業履歴や保有資格などを業界横断的に登録・蓄積する仕組みで、これにより技能の評価や処遇改善、適正な賃金水準の確保につながることが期待されています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、以下の基本要件を満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- CCUSの活用と雇用管理改善:CCUSを実際に活用し、雇用管理の改善促進事業を行うことが必須です。事業を行うに当たっては、「雇用する全ての技能者のCCUS技能者登録(詳細型登録)が完了している」「レベル判定で昇格評定を受けた技能者の賃金を5%以上増加させている」必要があります。
- 離職者の発生状況:事業の実施6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
対象となる建設技能者1人当たり16万円が支給されます。

要件を満たした場合、最大160万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースの最大の特徴は、全ての技能者のCCUS登録完了が助成の前提条件となる点です。「全ての技能者」の範囲は雇用する建設技能者で、事務員や営業職などの非技能者は含まれません。1人でも未登録の技能者がいると要件を満たせないため、まず自社の全技能者の登録状況を棚卸しすることから始めてください。CCUS登録には一定の時間とコストがかかるため、早めに準備を進めることが肝要です。
CCUS技能者登録は「詳細型登録」である必要があります。簡略型登録では本コースの要件を満たしません。すでに簡略型で登録済みの技能者がいる場合は、詳細型への切替えが必要です(追加料金が発生します)。
なお、賃金5%以上増加は「改定前後12カ月間の賃金比較」で判定します。一時金や手当の変動も含めて算定されるため、月例給だけでなく賞与等も含めた賃金設計を意識しましょう。
7 トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)(最大12万円)
1)助成金の概要は?
中小企業が、若年者(35歳未満)または女性を試行的に雇用する際に、通常のトライアル雇用助成金(一般トライアルコース、障害者トライアルコース)に加えて支給される助成金です。一般的なトライアル雇用助成金とは別に、建設業界における若年者・女性の労働者を対象として試行雇用する場合、追加の助成を受けられます。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 労働者の新規雇用:建設現場作業(左官、大工、鉄筋工、配管工など)または施工管理に主として従事する若年者(35歳未満)または女性をトライアル雇用として新規に雇用することが必須です。
- トライアル雇用助成金の要件充足:トライアル雇用助成金のうち、一般トライアルコースまたは障害者トライアルコースの支給決定を受ける必要があります(なお、障害者短時間トライアルコースは支給対象外)。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、トライアル雇用した対象労働者1人につき、月額最大4万円が通常のトライアル雇用助成金に加えて3カ月間支給されます。最大額(月額4万円)を受け取るには、実際の就労日数が、予定された就労日数の75%以上である必要があります。

要件を満たした場合、1人当たり最大12万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースでは、若年者(35歳未満)または女性を建設現場作業または施工管理に「主として」従事させる必要があります。設計・測量・経理・営業などに主として従事する場合は対象外となりますので、採用時の業務内容を明確に整理しておきましょう。
受給に際してはハローワーク等の紹介が必須要件で、自社の知人紹介や求人サイト経由の採用は対象外です。求人申込みの段階で「トライアル雇用求人」として申し込む必要があります。
また、「主として」現場作業または施工管理に従事することが要件で、「実労働時間の半分を超える時間」を当該業務に従事する必要があります。
トライアル雇用後、無期雇用に移行した場合はキャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象にもなり得ます。「有期で雇い入れ→トライアル雇用助成金」「無期雇用への転換→キャリアアップ助成金」という流れで複数の助成金を組み合わせれば、1人当たりの受給総額は100万円超となるケースもあります。支給額や併給可否は雇用形態、転換内容、対象労働者、申請時期によって異なるため、採用段階で各制度の支給要領を確認しておくことが重要です。
以上(2026年5月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)
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