【朝礼】「気が緩んでいるから風邪を引く」と言われてしまう理由

まだ20代だった頃の話です。私には大事な商談の前日に風邪を引いて高熱を出し、商談を欠席してしまったという苦い経験があります。そのとき、当時の上司から言われたのは、「気が緩んでいるから風邪を引くのだ!」という厳しい言葉でした。気の緩みと風邪を引くことに因果関係はありませんから、私は「精神論を言われても困る。私だって風邪を引きたくはない!」と、上司に腹を立てたことを覚えています。

しかし、今ではその上司の気持ちが分かる気がします。上司は、文字通り「気を引き締めれば風邪など引かない」ということを伝えたかったのではありません。商談に対する私の真剣さや準備が足りないことを不満に感じており、その感情がそのような言葉として表れたのだと思うのです。

実際、その商談に向けた私の準備は不十分でした。資料の仕上がりはスケジュールギリギリで、商談シナリオも練り込まれていませんでした。その結果、私の代わりに商談を託された同僚には、大変な迷惑を掛けてしまいました。「気が緩んでいるから風邪を引く」という上司の言葉は乱暴ですが、そもそもの問題は、私の仕事に対する姿勢にあったのです。

あることをきっかけに、本音が口をついて出ることがあります。心の中で2人の人物をイメージしてみてください。1人は仕事を頑張っていて、時間もきっちりと守る人。もう1人は仕事に対してやる気がなく、時間にもルーズな人です。

遅くまで続いた飲み会の翌日、この2人がそろって遅刻をしたら、皆さんはどのように感じますか? 前者のしっかりした人については、「昨日、飲み過ぎて体調を崩したのかな? それとも別の理由があったのかな?」などと心配するかもしれません。一方、後者のダメな人については、「飲み会の次の日に寝坊するなんて……。私だって眠いのに」などと腹を立てるかもしれません。2人とも遅刻をしているのに、日ごろの行い次第で、これほどまでに印象が違ってしまうのです。

ありがたいことに、私はビジネスのタフな交渉の場面で、相手から「○○さんがそこまで言うのだから信じます」と言ってもらえる経験を何度かしています。これは、日ごろから当社が真摯な姿勢で相手に接しているからだと思いますし、そうした対応をしてくれる皆さんには心から感謝しています。しかし、仮に、当社の姿勢が不誠実であれば、相手は決して「信じます」とは言ってくれないでしょう。逆に「もっとこちらに配慮してください」などと苦情を言われるかもしれません。

日ごろの行いの積み重ねが、いざというときに大きな差となります。そして、悪い行いを積み重ねてしまえば、後からマイナスを取り戻すことは本当に難しくなります。そうならないために心がけるべきは、謙虚な姿勢で、真摯に相手と向き合うことです。その姿勢が相手に伝われば、皆さんへの好感が生まれ、ビジネスが進めやすくなるのです。

以上(2020年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

戦国武将・偉人に学ぶ部下育成術

書いてあること

  • 主な読者:部下に「前向きに仕事に取り組んでほしい」「成長してほしい」と願う管理職
  • 課題:自分と考え方や性格が違う部下のやる気を、どうやって引き出せばよいか分からない
  • 解決策:「部下の本質を評価する」「まず自分が手本を示す」などの取り組みによって大業を成し遂げた戦国武将・偉人のエピソードから、部下育成のノウハウを学ぶ

1 武田信玄に学ぶ「部下を思いやり、その本質を見抜く」術

1)武田信玄のエピソード

武田信玄(たけだしんげん。本名は武田晴信(たけだはるのぶ))は、甲斐国(現山梨県)の武将です。

信玄が生まれた当時、甲斐国ではさまざまな勢力が乱立し、争いを続けていましたが、信玄の父・武田信虎(たけだのぶとら)が、これらの勢力を破り、甲斐国を統一しました。しかし、家臣の言葉に耳を貸さず専制的な政治を行う、戦費の調達のために領民に重税を課すなどの行動を問題視され、信虎は甲斐国を追放されてしまいます。

信虎の跡を継いだ信玄は、信虎とは対照的に、生涯を通じて家臣や領民を大切にしたといわれます。信玄が残した有名な言葉に、「人は城、人は石垣、人は堀、情は味方、あだは敵なり」というものがあります。

「合戦において、たとえどんなに城・石垣・堀などの守りを固めても、家臣や領民などの人心が離れてしまったら敗北は確実である。勝敗を決するのは、結局は人である。人は、用い方によっては城・石垣・堀など、合戦の際に重要なものにも成り得る」という意味です。

信玄は日ごろから家臣を大切にし、正しく評価することに努めました。そして、行政や軍事を効果的に運用するべく強固な組織をつくり上げ、合議制を採用して家臣の意見を積極的に取り入れました。

また、信玄は一軍の将でありながら、家臣たちとくつろいだ雰囲気で座談を行うことを好んだといいます。その際、信玄は自身がこれまでの経験から学んだ知恵などを家臣に説いたり、逆に家臣の意見に耳を傾けたりしました。このような場を通じて信玄の肉声に触れることで、家臣はさらに武田家に対する帰属意識を高めていったのです。

戦国時代、武田家の家臣は、その高い戦闘力と強い団結力から「武田軍団」として他国の武将たちから恐れられました。信玄の巧みな手腕が、武田家の家臣を強力にまとめ上げ、最強集団としての武田軍団をつくり上げたといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信玄は、家臣を見た目や表面上の言葉などではなく、本質をもって評価しました。例えば、万事において遠慮深い家臣は、合戦では「臆病者」と見られやすいものですが、信玄はこうした家臣を「思慮深い」と判断しました。「思慮深い者は常にあらゆることに対して慎重であるため、万全の態勢を整えて事に臨むだろう」と考えるのです。

このため、家臣は「信玄の下にいれば、外面ではなく本質を見抜いて判断してもらえる」と考えて発奮し、組織はより一層活性化することとなりました。後に、信玄は「人を使うのではなく、業(わざ:才能の意味)を使う」という内容の言葉を残しています。

部下の持つ長所を見抜いてそれを活用することで、部下の自発的なやる気を促し、組織のパフォーマンスを最大限に高めることができるのです。

2 織田信長に学ぶ「正当な評価によって部下のモチベーションを高める」術

1)織田信長のエピソード

織田信長(おだのぶなが)は、尾張国(現愛知県)の武将です。

織田家にはいくつかの流れがあり、信長が生まれた織田家は主流ではありませんでした。しかし、信長の父親である織田信秀(おだのぶひで)の代に大きく勢力を伸ばして織田家の主流となりました。

信秀の跡を継いだ信長は、尾張国を統一し、さらに強大な力を誇っていた駿河国・遠江国(ともに現静岡県)の今川義元(いまがわよしもと)を破り、東海道の勢力図を大きく塗り替えました。

信長が織田家を継いだ後、織田家は急速に勢力を拡大していったため、優れた人材の確保が急務となりました。信長は、家臣が優秀であると思った際には、家柄や過去の実績に関係なく登用しました。これは、家柄や過去の実績が重視されていた当時としては、画期的な人材登用でした。

特に代表的な存在は、豊臣秀吉(とよとみひでよし)でしょう。信長は、秀吉の「人心掌握に非常に長けている」という才能を見抜き、次々と重要な役職に抜てきしました。

秀吉は、その才能を遺憾なく発揮して織田家の勢力拡大に大きく貢献し、さらに信長亡き後は、天下統一を実現します。

元来は貧しい身分であったとされる秀吉が天下人にまで成長できたのには、信長の大胆かつ柔軟な人材登用が少なからず関係しているといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信長は、徹底した能力主義者であったといいます。このため、たとえ長年仕えてきた功臣であっても、能力がないと判断すれば、ためらわずにその任を解いたとされます。

例えば、若い頃から信長に仕え、数々の武勲を挙げてきた佐久間信盛(さくまのぶもり)は、後年、合戦における消極的な働きを叱責されて信長の下から追放されています。信長が「苛烈で家臣に対して厳しい」という印象を持たれやすいのは、こうしたエピソードがあるからかもしれません。

一方で、家柄や過去の実績などにとらわれず、家臣の能力を正しく評価しようとする信長の姿勢は見習うべきところがあります。家臣は信長の期待に応えようと努力し、努力が正しく評価されることで、さらにモチベーションが高まり、より一層仕事に励むことになるからです。

上司による正当な評価こそが、部下の、ひいては組織全体のモチベーションを高めるといえるでしょう。

3 黒田官兵衛に学ぶ「部下の意見を尊重する」術

1)黒田官兵衛のエピソード

黒田官兵衛(くろだかんべえ。本名は黒田孝高(くろだよしたか))は、播磨国(現兵庫県)の武将です。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を拡大してくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀(あけちみつひで)に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長のあだを討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、官兵衛自身もその知謀を誇ったことがありました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)から、官兵衛は鋭い頭脳を持つが故、独善的な決断を下してしまう恐れがあると忠告されました。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといいます。周囲の意見に耳を傾け、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残す功績を収めることができたのでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

官兵衛は、家臣の意見を尊重しただけでなく、各家臣の性格を把握し、それらをうまく組み合わせることで家中をまとめました。それは、官兵衛が「組織においては、各人が協力し合うことで、より大きな力が発揮できる」ということを理解していたからです。

このため、家臣の交遊関係を調べ「誰と誰とは性格的に合う」「誰と誰とは性格的に合わない」といったことまで勘案し、性格の合う家臣同士を組み合わせて仕事に当たらせたといいます。

このように、官兵衛は家臣に対しても細やかな配慮を欠かさず、それぞれの意見を尊重しました。自由な意見交換の場を設けることで、家臣は身分や役職に関係なく、活発に意見交換を行い、自身の頭で物事を考えるようになりました。

ただし、あくまでも最終的な決断は自身の責任の下に自身が行いました。官兵衛は、「決断はあくまでトップの仕事である」ということを認識しており、家臣の意見は尊重するものの、決断は自身が行い、決断に対する責任も自身が負う覚悟をしていました。

さまざまな意見を受け入れる柔軟性、そして決断の責任に対する上司の自覚が部下を大きく育てるのです。

4 上杉鷹山に学ぶ「自らが部下の手本となる」術

1)上杉鷹山のエピソード

上杉鷹山(うえすぎようざん。本名は上杉治憲(うえすぎはるのり))は、出羽国米沢(現山形県米沢市)の大名です。

上杉謙信(うえすぎけんしん)の活躍で有名な上杉家は、秀吉の時代には陸奥国会津(現福島県会津地方)を中心とする石高120万石を治める大大名でしたが、後に徳川家康(とくがわいえやす)と敵対して米沢藩に移され、その後、石高を15万石にまで減らされてしまいます。しかも大藩であった頃とほぼ同じ数の家臣を養っていたため、膨大な借金を抱えてしまいます。

こうした中、九州の高鍋藩(現宮崎県)から養子として米沢藩に迎えられた鷹山は、藩の財政を改革するべく自身の食事を質素なものとし、年間行事の中止や贈答の禁止を行うなど倹約に努めました。また自ら鍬(くわ)を取り、家臣にも田畑の開墾に当たらせました。鷹山は、自身が率先して取り組むことで、藩全体に改革の精神を広げようとしたのです。

しかし、保守的な家臣たちの反対や飢饉(ききん)による損害などにより改革は頓挫し、鷹山は藩主の座を退くことを余儀なくされました。その後も、米沢藩の財政は悪化の一途をたどり家臣が農民から不正に多くの年貢を徴収する、厳しい生活に耐えられなくなった農民が他国へ逃げ出すといった問題が起きました。

こうした状況を憂慮した鷹山は、隠居の身でありながら再び改革に着手することを決意します。そして、かつて性急に改革を進めようとして挫折した経緯を省みて、まずは家臣に藩の財政状況を公開し、危機を実感させることに努めました。

その後、武士だけでなく、農民や町人からも財政再建に関する意見を広く求め、集まった意見について検討を重ねた結果、産業の振興に力を入れるべく、藩全体で養蚕による生糸の生産に取り組むことを決定しました。さらに、藩内で以前から栽培されていた紅花で生糸を染めて織物を織り、藩外に販売することを考案しました。

これらの織物は「米沢織」と呼ばれ、米沢藩の名産品となって家臣の暮らしを支えることとなります。その後、米沢藩の財政は徐々に回復に向かい、鷹山の逝去後には、ついに借金のほとんどを返済することができたといいます。鷹山の現実を直視し、打開策を探り、自ら率先実行する姿勢が、家臣や領民を引き付けた結果といえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

厳しい状況に陥った藩の財政を立て直すに当たり、鷹山は、藩主の地位にありながら、自身が率先して質素な暮らしを心掛けました。家臣や領民に苦しい倹約を依頼するに当たり、まず自身が模範になろうとしたのです。

かつては120万石という大藩であった上杉家の家臣の中には、九州の小藩から養子に入った若い鷹山が進める改革を不満に思う者も少なくありませんでした。

こうした反発の中、鷹山は懸命に改革の必要性を説き、先頭に立って厳しい改革に取り組みました。このような鷹山の姿勢を目にし、当初は改革に協力的でなかった家臣の一部も次第に心を開き、その結果、藩の家臣や領民たち全員が一丸となって再建に取り組むようになりました。後に、鷹山は「してみせて、いってきかせて、させてみる」という言葉を残しています。

何かに取り組む際には、まず自身が身をもって部下に示し、指導した後に実際に挑戦させてみるという、上司の真摯かつ愛情に満ちた姿勢が、部下の心に火をともすといえるでしょう。

5 部下を1人の人間として尊重することの大切さ

戦国武将・偉人の家臣に対する姿勢にはいくつかの類型が見られます。しかし、そのいずれにも共通しているのは、「家臣を1人の人間として尊重していること」でしょう。

上司は、リーダーであると同時に、部下と同じ組織の一員でもあります。同じチームのメンバーとして、部下に対して真摯に向き合い、部下を導く姿勢こそが部下を大きく育て、強い組織づくりにつながるのです。

以上(2020年3月)

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画像:Gemini

自販機を使ったインバウンド向けの新たな商機

書いてあること

  • 主な読者:インバウンド需要の取り込む手法を探る経営者
  • 課題:都心や観光地で見かける外国人観光客向けの自動販売機は今後広がるのか
  • 解決策:外国人観光客向けの自動販売機が注目される背景や、導入の方法、課題などについてまとめる

1 自販機の隠れた魅力

全国に約300万台(日本自動販売システム機械工業会)。私たち日本人の生活にすっかり根付いている自動販売機(以下「自販機」)ですが、外国人旅行者にとっては、「“変”なもの」らしいです。

  • 「なぜ、日本には大量の自販機が無防備に設置されているのか?」

というのが、“変”の正体です。この点について、筆者が日本在住の外国人に聞いてみました。すると、次のように教えてくれました。

  • 「自販機は海外にもあるけど、日本ほど多くは見かけない。そして、何といっても、ほとんど盗難されないところがすごいよね。あとは、デザインが奇抜なところ、売っている商品が多種多様なところ、ハイテクなところもすごいと思うよ」

こうした背景から、もしかすると、自販機にビジネスチャンスがあるのではないか、と考える人が増え、インバウンド需要を狙う自販機が登場してきました。政府も条件付きではあるものの、自販機を「免税店」として扱う制度を開始する意向です。

「外国人旅行者×自販機」から生まれてきそうなビジネスチャンスを、事例とともに考えます。   

2 普及率は世界一!?

日本自動販売システム機械工業会によると、単純な設置台数は米国が世界一といわれていますが、人口や国土の面積などを勘案すると、普及率では日本が世界一と推測されるそうです。

同工業会へのヒアリングによると、「インバウンド需要を取り込むため、工業会として統一の施策などは取っていないものの、会員企業の中には、インバウンド需要を狙った自販機の製造に取り組んでいるところもある」とのことです。

実際、「近年は来日する外国人旅行者が増加しており、そうした人々がSNSなどに日本の街角と一緒に自販機の写真や商品をアップすることで、認知度が上がってきている。こうしたインバウンド需要を取り込むため、新しいタイプの自販機に対する需要・関心は高まっている」という自販機メーカーもあります。

3 自販機を店舗に設置するには

1)費用や期間

自販機を店舗に設置するにはどのような準備が必要なのでしょうか。飲料水などを販売する自販機の場合、一般的には自販機を販売する企業(自販機メーカー)や飲料水を製造・販売する企業(オペレーター)が設置費用などを負担し、リース費用などは掛からないようです。自販機を設置する側(ロケーションオーナー)の負担としては、電気代が1カ月当たり数千円となります。

お土産用やイベント用などのさまざまな用途に応じた自販機の販売および設置支援を行っているパルサー(宮城県)へのヒアリングによると、こうした自販機を設置する際に発生する費用としては、次のようなものがあるそうです。

  • 自販機の設置費用は1台当たり50万~60万円程度。販売する商品の形状やサイズによっては、梱包費用などが必要な場合もある。飲料水などを販売する自販機と同様、ランニング費用として電気代が1カ月当たり数千円程度掛かる
  • 自販機を設置するまでに、商品によって払い出しの試験運用をする場合もあるが、契約締結後1~2カ月程度で納入することができる

2)必要な許可または免許など

日本自動販売システム機械工業会のウェブサイトによると、缶・ビン・ペットボトルに入った飲料水を販売する場合には、許可は必要とされていません。しかし、以下のような商品を販売する場合は、関連する法令に基づき、許可または免許などが必要です。

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3)インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点

パルサーによると、インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点として、次のようなものが挙げられるそうです。

  • 外国人旅行者の目を引き付けるためには、ぱっと見た自販機のインパクトが重要。そのためには、有名キャラクターや忍者などのデザインや柄で自販機本体をラッピングし、「分かりやすい日本らしさ」を見せることが不可欠
  • 販売する商品の形状によって、飲料水などを販売する自販機と、自販機の正面部分がガラス製で、商品が視認できるスパイラル式に構造が大別できる。前者は耐久性・安全性が高く屋外に設置できるが、格納できる商品は缶やペットボトル状の円柱形にする必要がある。後者は、ガラス製なので耐久性や日光の遮光性が低いため屋内に設置されるが、雑貨などの形状が一定でない商品を格納することができる

4 インバウンド需要を狙った“変”な自販機の事例

1)SHIBUYA109エンタテイメント:渋谷のお土産需要を創出

SHIBUYA109エンタテイメント(東京都)は、渋谷のお土産需要を創出するために、2018年9月にクリエーターによるオリジナルTシャツを「スーベニア自動販売機」で販売しました。

渋谷はスクランブル交差点が有名な観光スポットとなっているなど、訪問者数は増加しています。ただ、渋谷には代表的なお土産がなく、外国人旅行者も渋谷周辺にあまり宿泊しません。ここにビジネスチャンスを見いだし、お土産需要の創出を狙っているようです。

2019年は同様のオリジナルTシャツを5~7月にかけて販売しました。今回は、デザインの数や参加するクリエーターの数も増え、パネル展示やフォトスポットの設置など、付随するイベントも行っています。

2)アイナス:ご当地限定の缶詰を3つの基準で選定

アイナス(兵庫県)は、その土地でしか入手できない商品が入った缶詰「ゴトカン」を販売する自販機を、兵庫県や香川県に設置し運営しています。

ゴトカンの内容は「ご当地愛」「ご当地貢献度」「ご当地チャレンジ精神」の3つのルールに沿って査定され、基準点以上のものがゴトカンの商品として認定されます。このルールでは、現地の材料を用いて現地で加工されていること、地域経済が潤うこと、外国人旅行者にもアピールできることなどが判断基準とされます。

同社へのヒアリングによると、外国人旅行者からの評判は良好で、その要因として、海外ではあまり見かけない自販機で、質の高いご当地の食品などが販売されていることが挙げられるそうです。

この自販機で外国人旅行者にアピールするため、同社は「タッチパネルの3言語(日本語、英語、中国語)対応」と、「設置場所」に注意したそうです。

自販機になじみのない外国人旅行者に、購入方法や商品を自国語などで説明することで、「珍しい自販機の写真を撮る」という行動から実際の購入へ促すことができます。

同社は自販機を設置する際に、飲料水などを販売する自販機の隣に設置するのではなく、実店舗に隣接して設置したり、商品を製造する工場の見学ルート上に設置したりすることで、効率的に販売しているそうです。

3)インバウンド十和田:観光地図やショップカード同封で地域を活性化

インバウンド十和田(青森県)は、十和田市の魅力を海外に発信し、地域経済の活性化を目的に活動しています。同社は2019年9月から、十和田市のピンバッジや観光地図、近隣の飲食店のショップカードなどを詰め込んだ「とわだばこ」を自販機で販売しています。

この自販機は、中古のタバコの自販機を一部改修して利用しています。新品の自販機の購入コストを抑えることができ、タバコの自販機に搭載済みの成人識別カード「タスポ」の機能を残したことで、アルコール類のドリンクサービス券を封入したり、タスポを店舗で借りるときに店舗内に誘導できたりするなどのメリットがあります。

同社へのヒアリングによると、この自販機の運営開始からまだ日が浅く、売り上げに劇的な伸びは見られないそうですが、新聞やテレビなどで何度も取り上げられたことで、全国の自治体などからの問い合わせが殺到しているそうです。

この自販機を設置するに当たって工夫したこととして、前述の中古のタバコの自販機を転用したことに加え、地元の商店街への集客を狙うために、観光地図や協賛した店舗のショップカードを封入したこと、観光地図の裏面を多言語表示にし、観光地や各店舗のQRコードを記載したことが挙げられます。

同社は、この自販機の設置台数を、販売する商品に変更を加えながら、2020年以降も増やしていく計画のようです。

5 外国人旅行者に直撃インタビュー

前述の通り、各地でインバウンド需要の取り込みを狙った自販機が出現しています。日本の空の玄関口、羽田空港にはこうした自販機が幾つか設置されています。空港内の外国人旅行者にインタビューした結果は次の通りです。

1)自販機の印象

  • さまざまな商品(キャラクターグッズ、伝統工芸品、お菓子、だしなど)が販売されており、他の国ではまず見かけない光景なので面白い。価格が1000円以上するような商品を自販機で販売できるのは、治安が良いことを表す証拠にも映る
  • 中華圏や東南アジア圏からの旅行者の中には、日本のアニメのキャラクターを知っている人もおり、キャラクターが描かれた自販機は目に入りやすい
  • 商品の表記が日本語のみの場合が多く、商品の説明もないため、何を売っているかイメージが湧きやすいように、多言語での商品説明を、自販機の目の付きやすい場所に表示することが望ましい

2)外国人旅行者からの提言

  • 自販機で外国人旅行者向けに商品を販売する場合には、飲料水などを販売する自販機に隣接して設置すると、その自販機に利用者の視線が奪われやすい。そのため、観光スポットや土産物店などに設置するほうが、効率的に集客できると推測する
  • 商品の価格を1つの自販機で統一する必要はないが、比較的高額な商品と一般的な価格の商品を同じ自販機で販売すると、価格差に違和感がある

なお、実際に羽田空港では、2000円以上のグッズと数百円のお菓子が同じ自販機で販売されていました。

6 自販機が免税店に?

冒頭の通り、増加する外国人旅行者向けのビジネスを促進するため、政府は条件付きで自販機を免税店扱いすることを検討しているようです。国土交通省は、「令和2年度 国土交通省税制改正要望事項」の中で、「外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充(消費税・地方消費税)」を政府に対して要望しています。

これは、従業員を介さずに免税手続きが可能な機器を設置した場合、この機器を通じて販売した商品を免税の対象とするものです。現行では、免税店の許可要件として、免税販売手続きに必要な人員を配置することなどがあります。

観光庁にヒアリングしたところ、一部の大手企業が、外国人旅行者向けに腕時計やオリンピック関連のTシャツなどを自販機で販売することを検討しており、これらの商品の免税を要望しているそうです。

また、新たに免税店として想定されている自販機として、顔認証システムを搭載し、個人やパスポートなどの認証機能を備えたものなどが挙げられるとのことです。

以上(2019年12月)

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画像:pixabay

できる経営者は「飲み会」でビジネスを成功させる

書いてあること

  • 主な読者:飲み会をうまく利用してビジネスの可能性を広げたい経営者
  • 課題:店選びや会話のペースがうまくつかめない
  • 解決策:飲み会といえども礼節をわきまえる。遊び心も忘れずに

1 一昔前のスタイルでは嫌われる

「上座に深々と座り、左右は“ごますり隊”で固める。誰かがお酌をしてきたら応じるが、自分からは動くことはない」。一昔前の飲み会で見かけたかもしれない社長の姿です。今、このような態度を取ったら、座がしらけるのは明白です。

その宴席が社外でも社内でも、社長は最高のエンターテイナーであり、セールスマンでなければなりません。相手を自分のファンとし、オフィシャルだと話しにくいことも酒のさかなにしてしまう。そんなすてきな宴会術を紹介します。

2 下見は決して手を抜かない

自分がホスト役の場合、なじみの店を使うのが基本です。そのため、和食・中華・イタリアン・バーなどでなじみの店を幾つか確保しておきたいものです。なじみになるためには定期的に訪れる必要がありますが、その飲食代は自分への投資です。

一方、新規の店を使う場合は、下見が必要です。店のこだわり、お酒の種類、おすすめの料理はもちろん、トイレの位置なども把握します。店長や料理長などにも挨拶をして、「○○日はよろしくお願いします」などと伝えるようにします。

そして当日は、相手に「大切な飲み会なので、最も良いお店を準備した」ことをさりげなく伝えます。例えば、「この街で飲むのなら、ぜひ、このお店にお連れしたくて」などと特別感をアピールするのです。

下見は物事に向き合う真摯な態度の表れです。きちんと下見をして、真剣に店を選んでいることは相手にも伝わります。特に、同じように人をもてなす立場にいる人は、こちらの真摯な姿勢に好感を抱いてくれるでしょう。

3 聞くことを基本にする

人は「自分の意見を聞いてほしい」という欲求を持っており、飲み会でも変わりません。そのため、社内の飲み会といえども社長の独演会は好ましくありません。また、やたらと自分の得意分野に話題を振りたがる人は、次に誘ってもらえないかもしれません。

飲み会では、自分がホスト役であっても、ゲストであっても、相手の話を聞くスタンスで臨みます。さらに、ホスト役の場合は周囲を気遣い、飲み会の雰囲気になじめない人がいたら率先して話しかけ、その人が主役になれる時間をつくりましょう。

「ちょっといいですか。この方の経歴、とても面白いですよ」など、ホスト役の権限で参加者の時間を少しだけもらうのです。ホスト役は、全ての参加者が主役になれる時間をつくり、置いてけぼりになる人をつくらないことが大切なのです。

お店の状況によりますが、カジュアルな居酒屋などの場合は、同じ席にとどまらずにいろいろな人の隣に座るのがよいでしょう。社長といえども、今どきはフットワークの軽さが大事です。

なお、相手との話が盛り上がらない場合は、お互いの共通項を探して話題を膨らませるようにします。仕事、地域、学校、家族構成、趣味など、共通項が多ければ多いほど、親近感が湧くものです。

4 真面目なだけでは目立たない

大勢が参加する飲み会では、皆の印象に残らなければなりません。どんなに礼儀正しく振る舞ったとしても、それだけでは特徴がありません。何か一つでも「この人は面白い」と印象付ける“ネタ”が必要です。

まず、ベタですが「自己紹介」は工夫したいものです。多くの人は自己紹介で自分の名前を覚えてもらおうと努力します。しかし、お酒の入っている状況で、そう何人もの名前を覚えることはできません。

名前は後で名刺を見れば分かります。大事なのは、顔と名前を一致させてもらうこと、つまり名刺の裏に書き込んでもらう内容のインパクトです。仕事内容を淡々と説明しても印象に残りにくいので、インパクトのあるフレーズが欲しいものです。

例えば、○○市場の10%を占める会社の代表を務めている場合、自分の名前よりも「『10%の男』と覚えてください」などと自己紹介します。自分の本名はその場では覚えてもらえないかもしれませんが、「10%の男」は印象に残るでしょう。

また、個別に話すときのために、“鉄板ネタ”を一つは持っておきたいものです。仕事でもプライべートでもよいのですが、真面目になりすぎず、“毒がある”ところをうまく見せると、人間の面白みを感じてもらえます。

ちなみに、経営者同士の飲み会でよくあるのは社員に関するネタです。ただし、相手に真に受けられると困るので、毒のある話をするときはタイミングに注意し、すぐに笑い話にすることが不可欠です。

仕事は真面目にするものですが、宴席で真面目な話ばかりをしていると、相手は退屈になります。それは「この人と仕事をしても面白くない。可能性を感じない」という印象に変わってしまうことがあるからです。

5 真剣トークの時間を設ける

社長の場合、人脈形成や商談のきっかけづくりとして飲み会に参加することが多いものです。とはいえ、その場で商談の話ばかりをしていたら嫌われてしまうでしょう。飲み会は、あくまでも相手を知る場であると割り切ります。

特に、誰かから紹介を受けた場合はなおさらです。行儀の悪いまねをすれば、紹介してくれた人のメンツを潰してしまいます。そうした場では、紹介してくれた人に進行を任せ、前述した通り、自分が何者であるかをうまくアピールします。

一方で、今後のために相手が話したことも覚えていなければなりません。とはいえ、目の前でスマートフォンやメモ帳にメモを取るわけにはいきません。そうした場合は、自分がトイレに行って(あるいは相手がトイレに行っているときに)メモを取ります。

また、ちょっとしたテクニックですが、相手の話を聞くときはうなずき、別れ際には「今日は楽しかったです」などと伝えるのがポイントです。ただし、相手に「楽しかった。また会いましょう!」と言ってもらうには、こちらに光るものがないといけません。

その光るものを示すために、飲み会の中に真剣トークの時間をつくります。長い飲み会の間にほんの数十分でいいのですが、自分がどのようなことに真剣に取り組んでいるのかを伝えます。これが相手に伝われば、そこから関係が深まります。

6 当日にお礼を。信頼は飲み会後に強まる

飲み会が終わったら、その日のうちにお礼をするのが基本です。FacebookやLINEなどでつながっている相手なら、「本日はありがとうございました」など、簡単なメッセージを送ります。

当日にお礼ができなかった場合は、翌朝、相手が出社してメールを確認したときに、こちらからのお礼のメールが確認できるようにします。礼儀正しく接しているうちに信頼関係が強まり、そこからビジネスの話につながっていきます。

飲み会の場で意気投合し、ビジネスの話で盛り上がることもありますが、その場の雰囲気と勢いによる約束は、後日、有名無実化することがよくあります。一緒に仕事ができるほどの信頼関係は少しずつ構築されるものです。

また、飲み会に誘われることもあるでしょうが、その際は「大いに飲み、食べ、笑う」ようにします。相手は、自分がホスト役を務める飲み会を楽しんでくれる人を好むものなのです。

飲み会では相手の本音が分かることがあります。ただし、飲み会だけで信頼を得ることはできず、その後の付き合い方が重要です。飲み会とそれ以外の場を上手に使って、相手との信頼関係を築くことが大切です。

以上(2018年6月)

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経営者が押さえておくべき収支シミュレーションの作り方

書いてあること

  • 主な読者:起業するときや既存の企業が新規事業への参入を検討している経営者
  • 課題:綿密な収支シミュレーションを作成する際のポイントを知りたい
  • 解決策:業種別のポイントや、事例を用い作成手順を解説する

1 収支シミュレーションとは

1)収支シミュレーションを作成する目的

収支シミュレーションは、起業するときや既存の企業が新規事業への参入を検討するときなど、新たに事業を開始する場面で必要なものです。コスト削減など、経営改善策を検討するときにも有効です。

完成した収支シミュレーションは、経営者が思い描く事業の将来像を数値で表現したものです。結果はもとより、その数値を導いた思考プロセスも大切です。まだ見えない収益や費用を数値化していく過程で、事業の実現性や難所を改めて整理・チェックし、事業計画をブラッシュアップすることができます。

なお、外部からの資金調達を必要とする際は、資金提供者を説得するために欠かせない資料の1つでもあります。

2)損益計画と収支計画の違い

ここで、「損益計画」と「収支計画」の違いを押さえておきましょう。

損益計画とは、売上、売上原価、経費、利益を見積もることで、決算書の「損益計算書」を予測するイメージです。

販売先との取引条件が「月末締め翌月末入金」の場合、売掛金の入金は翌月になりますが、売上は当月に計上します。また、店舗物件の取得資金など、設備投資に該当するものは、貸借対照表の固定資産に計上するので、損益計画には反映されません。

それに対して収支計画は、売上は入金される月に収入として計上し、設備投資の資金は支出として計上します。実際の資金の入出金と現預金残高を予測することで、資金ショートを防ぐ方策の必要性を把握できます。「資金繰り表」や「キャッシュフロー計算書」をイメージした計画だといえます。

新規事業を始める際などには、損益計画に加えて収支計画を作成することで、より綿密な検討が可能になります。

3)業種ごとのポイント

収支シミュレーションは、業種ごとの特徴を反映したものでなければなりません。ここでは、業種別に主なポイントを紹介します。

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2 事例で見る収支シミュレーションの作成手順

実際の作成手順を理解するために、ここではイタリアンレストランの新規開業を例にとって説明します。

A法人は事業多角化の一環として、飲食業への参入を決め、新たにイタリアンレストランを開業(20XX年10月1日)することにしました。

東京都台東区の▲▲駅徒歩7分の雑居ビルの1室、15坪程度の広さの物件で開業を検討中です。本ケースの開業計画における収支シミュレーション(1年目)について考えていきましょう。

1)前提となる投資計画を立てる

収支シミュレーションを作成する前提として、開業するには何にいくらの資金がかかるか(かけるべきか)、資金調達はどうするか、といった投資計画の検討が必要です。

投資計画は、開業当初にかかるイニシャルコストに加えて、開業後半年~1年の間に予想される資金不足を賄うためのランニングコストも含めて検討します。具体的には、店舗の敷金・保証金、内装工事費、厨房設備や備品などの設備資金と、当面の人件費、家賃、広告宣伝費、水道光熱費などの運転資金に分けて考えます。

さらに、これらの資金調達方法の計画も不可欠です。自己資金、融資、出資など、考えられる方法をピックアップして、投資総額の調達が可能かどうか検討します。

事業の成功確率を高めるための基本的な姿勢は、当初の投資金額が過大にならないようにすることです。投資金額が大きいと、元を取るために必要な売上が増えることになります。かといって投資を削りすぎると、顧客を確保できない原因になることがあります。投資金額は、実現可能な売上から逆算して見積もる必要があります。

そのために投資計画は、収支シミュレーションを検討しながら、適正と判断できる内容に修正することで、事業の成功確率を高めることができます。

本ケースでは、次のような計画を立てました。

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2)損益計画を作成する

先に損益計画を検討すれば、収支シミュレーションを作成しやすくなります。ここでは、損益計画の各項目の検討方法について解説します。

1.売上高

飲食店の場合の売上予測は、「お客様の平均単価×座席の数×回転数」で算出するのが一般的です。

  • (ランチタイム) 単価1,000円×36席×2回転/1日=7万2000円
  • (ディナータイム)単価3,000円×36席×1回転/1日=10万8000円

このように、1日の売上を算出して、月の売上を予測します。なお、ウイークデーと週末に分ける、2月や8月など一般的に飲食店の売上が低下する月は予測を下げるなど、事前調査や経験などに基づいた変動要因(季節指数など)を加味することで、より現実的な計画に近づきます。

なお、本ケースでは、12月は忘年会シーズン、3、4月は送歓迎会シーズンであることから、季節指数を高めに設定しています。

2.売上原価

飲食店の売上原価は、食材やドリンクの仕入れなどが該当します。本ケースでは、原価率を飲食店の平均的な水準である35%と想定しました。つまり、月商が300万円だとすると、原価は300万円×35%=105万円になります。

原価率など経営指標の業界平均は、中小企業庁「中小企業実態企業調査」や日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」などを参考にするとよいでしょう。

3.販売費および一般管理費

販売費および一般管理費(以下「販管費」)は、家賃、人件費、水道光熱費、減価償却費などの費用を想定していきます。販管費は、売上の増減にかかわらず一定の「固定費」と、売上の増減によって変動する「変動費」とに分けて検討すると、より精緻な計画になります。主な固定費には家賃、人件費、減価償却費などがあります。また、主な変動費には広告宣伝費、消耗品費や、前述の売上原価などがあります。

ただし、固定費と変動費の分類は会社ごとに異なるため、費用ごとに自社の売上の増減と連動する費用かどうかの判断が必要になります。

  • 給与・賃金:正社員2人 30万円と25万円、パート(1人当たり)10万円×2名=20万円
  • 家賃:42万円(木造2階建の物件。1階15坪、2階15坪)
  • 広告宣伝費:販促物製作費やポスティング費用で、初月に60万円、2カ月目に40万円を見込む。3カ月目以降も、継続的にチラシ配布や飲食店サイトへの広告出稿を行う費用として月に20万円を見込む
  • 水道光熱費:水道料は月5万円、光熱費を月10万円と見込む
  • リース費:一部備品のリース費用として月5万円を見込む
  • 通信費:電話料、Wi-Fi使用料などで月3万円を見込む
  • 備品・消耗品:布ナプキンや割り箸などの消耗品の他、備品の補修料として月に10万円を見込む
  • その他:諸会費や突発的な費用が掛かることを予想して月に5万円を計上

4.営業外損益

本業以外での収入が見込める場合は、営業外収入として計上します。例えば、受取配当金などがあります。また、営業外費用としては、主に借入金の利息が考えられます。本ケースでは、利息の支払いが2万円/月としています。

5.損益分岐点売上高

売上と費用項目が出そろったら、損益分岐点売上高を計算しましょう。損益分岐点売上高とは、事業が黒字になるか赤字になるかの境界、つまり採算が合うか合わないかの売上高をいいます。損益分岐点は次の計算式で算出されます。

  • 損益分岐点売上高=固定費/(1-(変動費/売上高))

3)収支シミュレーションの作成

損益計画ができたら、実際の資金の出入りを反映した収支計画を作成しましょう。融資金が入金されるタイミング、設備投資の支払いのタイミングなどを考慮し、表に落とし込んでいきます。

Excelなど表計算ソフトを活用すれば、「売上原価率が38%になった場合」など、数値が変動したときを想定したシミュレーションが簡単にできます。

損益計画と収支計画について、「何年くらい先まで作成すべきか」ということは、事業内容によって変わってきます。ベンチャー企業でプロダクト開発に数年を要する場合は、5年以上先までが必要となるでしょう。飲食店の場合は、開業後3年先まで作成すれば通常は十分と考えられます。

A法人の事例では、次のような収支シミュレーションを作成しました。

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3 収支シミュレーションにおいて留意すべきポイント

1)収支計画の根拠を明確に

収支シミュレーション作成時に陥りがちな過ちは、「数字の遊び」になってしまうことです。収支をプラスにすることだけを考えて、希望的観測で数字をいじっていても、「絵に描いた餅」の計画になってしまいます。

「事業はやってみなければ結果は分からない」のは事実ですが、根拠をより明確にすることで実現可能性は高まります。ディナータイムで1日1回転することを見込むとすれば、その根拠がどこにあるかがポイントです。

飲食店の場合に根拠となるのは、店舗の立地条件(人通り、顧客層の数、競合店の分布と繁盛ぶり)、自店のコンセプト、提供する料理、サービスの魅力や競合優位性などです。こうした分析と検討が、売上見込の算出根拠として説得力を持ちます。

売上見込の算出方法は、業種や事業内容によって異なります。法人向けのサービス業などBtoBの事業であれば、すでに見込取引先があるかどうか、これまでの人脈などからアプローチできる先がどれくらいあるか、といった点が根拠になり得ます。これまでにない斬新なビジネスでブルーオーシャンを狙うベンチャー企業は、市場規模を想定したうえで、市場占有率から予測する方法も考えられます。

事業内容に応じて、多面的な視点から収支の妥当性を検証することが、成否を左右するといえます。

2)3つのケースで予測する

収支シミュレーションは、環境変化や不測の事態も想定して、3つのケースで予測しましょう。

1つ目は「ベースケース」で、必ず達成したい水準の計画です。「これくらいはいかないとやる意味がない」といえる数字で策定するものです。多くの創業者や経営者は、ベースケースを甘く立てがちな傾向にあります。慎重に根拠を検証して、保守的な計画にすることが重要です。

2つ目は「ポジティブケース」で、予想以上にいい条件が重なったとした場合に想定できる希望的観測値です。これを策定するメリットは、チームが達成意欲を向上できることです。

3つ目は「ネガティブケース」で、ベースケースを下回ることを想定した計画です。悪条件が重なったとしても、最低でも達成できると思う水準です。ネガティブケースも想定したうえで、余裕ある資金を準備できることが望ましいといえます。

収支シミュレーションを運用するうえでは、それぞれのケース間で異なるポイントを整理し、一定期間(例えば、四半期・半期など)ごとに実績がいずれのケースで進んでいるのかをチェックすることが大切です。なぜポジティブケース、あるいはネガティブケースになっているのか、その原因を詳細に検証していくことで、収支シミュレーションは日々の経営判断を支える重要なツールとなります。

3)数字以外の計画との整合性

とかく「事業計画=数値計画」と認識されがちですが、数字以外の事業計画を練り上げてこそ、収支の実現可能性を高めることができます。

数値計画が「定量計画」といわれるのに対して、数字以外の事業計画とはビジネスモデル、コンセプト、マーケティング、アクションプランなど「定性計画」です。「定量計画」と「定性計画」の整合性を考えることが、事業の成功確率を高めることにつながります。

例えば、「売上を月300万円にするためには、どんなマーケティングを行うべきか」など、数値計画を達成するための定性計画をブラッシュアップすることです。事業を開始した後も、数字の動きを見ながらアクションを何回でも修正することで、事業の発展を図っていきましょう。

以上(2019年10月)
(執筆 株式会社MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士 上野光夫)

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働き方改革に適した組織再考~昭和、平成の組織から振り返る~

書いてあること

  • 主な読者:いまの時代にあった組織変革を考える経営者
  • 課題:働き方改革など、社会の状況が変化する中で、適切な組織形態を選択したい
  • 解決策:昭和から平成に起こった社会と組織形態の変化と、自社に合った組織形態を選択するためのポイントを解説する

1 令和時代の組織はどうあるべき?

30年以上続いた平成が終わりを迎え、いよいよ「令和」の時代が始まります。改元という節目に当たり、改めて企業の未来に思いを馳せている経営者も多いでしょう。振り返ってみると、昭和から平成にかけて企業を取り巻く環境は大きく変化しました。

“労働力を提供する大勢の中の1人”だった従業員が“個”としての性格を強め、終身雇用ではなく、転職や副業など自分で働き方を選ぶ時代になりました。インターネットの発展により、情報戦略の重要性がこれまで以上に増しています。

こうした変化は、時として組織の在り方にも影響を与えます。組織上の階層がなく、全従業員が自らの権限で資源分配や意思決定を行う「ティール組織」などは、その最たる例といえるかもしれません。

経営者は、企業を取り巻く環境の変化に合わせて、組織の在り方を見直さなければなりません。とはいえ、「世間で注目されているから、うちもティール組織にしよう」といった考えはあまりにも安直です。

どのような組織にも長所と短所があり、企業によって在るべき姿が異なります。令和時代の組織はどうあるべきか、昭和から平成にかけての環境の変化などを踏まえて考えてみましょう。

2 昭和から平成にかけての環境の変化

1)「企業主導の働き方」から「従業員主導の働き方」へ

昭和の時代は、多くの企業が終身雇用や年功主義といった「日本的雇用システム」を採用し、長期的に労働力を確保することで、高度経済成長期(1955年ごろから1973年ごろまでを指すといわれます)を乗り切ろうとしました。

従業員は、一度入社すれば企業にその生活を保障される代わりに、長時間労働や今であればハラスメントに該当しそうな上司のしごきなど、多少のつらいことには耐えながら働く時代でした。

しかし、平成に入り、バブル崩壊後の長期不況により、リストラなどに踏み切る企業が出てくると、企業の生活保障能力に不安を抱く従業員が出てきました。同時に、それまで企業から生活を保障される代わりにある程度我慢していた、長時間労働やハラスメントが社会問題化するなど、従業員の働き方についても見直しが始まりました。

こうした状況の中、「定年まで1社に勤め続ける」という働き方は一般的でなくなっていきました。今では、「企業が自分に合わないと思ったら転職する」「あえて労働時間の短い働き方を選び、空いた時間を自分の趣味・自己啓発・副業などのために使う」など、従業員が自分で働き方を選ぶことが当たり前になりつつあります。

2)「社内の労働力」から「社外の労働力」へ

昭和の時代は、もともと雇用している既存の従業員だけが企業の労働力でした。しかし、1986年の労働者派遣法施行に伴い、派遣社員という社外の労働力を活用することが正式に認められました。

さらに、バブル崩壊後は、社内のコスト削減や中核事業への注力などを目的として、社内の業務の一部を「アウトソーシング」する企業が出てきました。インターネットを通じて、不特定多数の個人に業務を委託する「クラウドソーシング」も登場しました。

また、派遣社員やアウトソーシングとは視点が異なりますが、オフィス外に労働力が出ていくという点では、テレワークなども注目すべき働き方です。昭和の時代は、外回りなどの業務を除き、オフィス内で仕事をするのが当たり前でしたが、インターネットの発展に伴い、在宅などでも仕事をすることができるようになりました。

3)「トップダウン」から「ボトムアップ」へ

昭和の高度経済成長期は、「三種の神器(冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビ)」や「3C(カラーテレビ・クーラー・自動車)」など、消費者の生活レベルを向上させる製品を大量生産して販売する時代でした。

うがった見方をすれば「モノを作れば売れた時代」であったため、企業の向かうべき方向性がある程度明らかであり、経営者に求められたのは、企業がその方向性に向かって進むことができるよう、従業員の足並みをそろえることでした。

しかし、高度経済成長期が終わりを迎えると、経済環境は徐々に複雑化します。平成に入ると、バブル崩壊後の消費減退に伴い、「モノを作るだけでは売れない時代」へと変わっていきます。

さらに、インターネットの普及に伴い、市場情報などがリアルタイムで入手できるようになると、「消費者のニーズや他社の動きを迅速にキャッチして、経営判断に回さなければならない」など、情報戦略が重要性を増してきます。

企業が生き残るのに必要な情報や意見を、スピーディーに集約するため、従業員から経営者へのボトムアップが昭和の時代以上に求められるようになってきたのです。

3 組織形態の選択肢

1)さまざまな組織形態

1.機能別組織

経営者の下に総務部門、経理部門、営業部門、製造部門といった機能・役割別の部門を置いたピラミッド型組織の典型例です。部門は機能・役割によって、部や課などに細分化され、それぞれに部長、課長などの長が置かれています。そして、経営者を筆頭に、上の階層の従業員(役員を含む)から下の階層の従業員に命令が与えられます。

中小企業の場合は、大企業ほど部門が明確に区分されていないところがありますが、総務担当者、営業担当者など、従業員個人が部や課の役割を果たし、実質的に機能別組織に近い運用をしていることがあります。

機能別組織は、指揮命令系統が明らかであるため、従業員を統率するのに適しています。一方、階層が多くなればなるほど、下の階層の従業員は自身の裁量で行える業務の幅が狭くなります。そのため、上の階層からの命令に従い、淡々と業務を行うだけの従業員も多く、情報や意見のボトムアップが行われにくい面があります。

2.マトリックス組織

1人の従業員が同時に2つ以上の部門に所属する組織形態です。1人の従業員が構造的に2人以上の上司を持ち、2つ以上の指揮命令系統によってコントロールされることになります。

例えば、多数の製品を担当する「営業部」の従業員が、特定の製品Aについて、製造部門や営業部門も併せた「製品A部」にも属するというようなイメージです。この場合、従業員は、営業部の上司と製品A部の上司の2人から命令を与えられることになります。

マトリックス組織は、複数の目的(上の例でいえば営業部の業績アップと、製品Aの販売促進など)を同時に進めるのに適しています。一方で、指揮命令系統が複雑になり、業務の責任者が曖昧になりやすい傾向があります。

3.アウトソーシング型組織

社内の業務の一部を、外部の専門業者などに切り出した組織形態です。アウトソーシングを行う場合は、外部の専門業者などと、業務委託契約・請負契約・委任契約などを締結することになります。

外部の専門業者などは、企業とは指揮命令関係にないため、基本的に依頼された仕事について企業から逐一指示を受けることはありません。ただし、例えば、ウェブサイトの制作などの場合、依頼元の企業と依頼先のITベンダーなどが、半ばパートナーのような形で仕事を進めることになります。

アウトソーシング型組織は、企業が社内のコスト削減を図ったり、中核事業に注力したり、自社では提供できないノウハウが必要だったりする場合などに適しています。一方で、外部の専門業者などに逐一具体的な指示を与えるなど、労働者に近い扱いをしてしまうと、法的なトラブルに発展する恐れがあります。

4.リモート型組織

従業員が必ずしもオフィスに出社せず、自宅やサテライトオフィスなどでテレワークの形態で仕事をする組織形態です。就業場所などの労働条件が一部変更されるだけなので、オフィス内で働く場合と指揮命令系統は変わりません。

ただし、オフィス内で働く場合に比べ、上司の目が届きにくいため、実質的には業務委託などに近い働き方になります。従業員には、上司に管理されなくても業務を遂行できるだけの自己管理能力が求められます。

リモート型組織は、従業員が就業場所をある程度自由に選択できるため、育児・介護と仕事を両立させたり、集中しやすい場所で働くことで、オフィス内で作業する場合よりも仕事がはかどったりといった効果が期待できます。一方で、オフィス外で行える業務が限定されやすい、働き方によっては上司が部下に具体的な命令を出すことが認められないことがある(事業場外みなし労働時間制など)といったデメリットもあります。

5.ティール組織

部長、課長などの組織上の階層がなく、指揮命令系統が存在しない次世代型の組織形態です。全従業員は、自らの権限と責任で資源分配や意思決定を行います。

例えば、プロジェクトを推進したり、物資を購買したりする場合、事前に他の従業員からの助言を受ける必要がありますが、反対する従業員がいたとしても、必ずしもコンセンサスを得る必要がありません。

組織内での役割分担から労働時間、賃金に至るまで、企業から一方的に決められることはほとんどなく、従業員自身の判断または他の従業員との話し合いで決めることになります。

ティール組織は、従業員が自身の裁量で行える業務の幅が広いため、経営上の意思決定を迅速に行うことができ、一般的な企業でありがちな「経営陣の承認を待っている間にビジネスチャンスを逃す」といった問題を回避できる可能性があります。一方で、従業員の業務習熟度や知識量が不足していると、正しい資源分配や意思決定が行われない危険性があります。

2)各組織形態の比較

ある企業の経営者、営業部、製造部、企画部を例にとって、各組織形態のイメージを比較すると、次の図表のようになります。なお、図表の色付きの箇所は、組織内の指揮命令系統に属しているもの、色付きでない箇所は指揮命令系統に属していないものです。

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機能別組織は、経営者を筆頭に上の階層から下の階層に命令が及ぶ組織形態です。マトリックス組織も、「従業員が営業部と製品A部に属し、同時に2人の上司を持つ」といった特徴はありますが、上の階層から下の階層に命令が及ぶシステム自体は機能別組織と変わりません。

アウトソーシング型組織では、例えば企画部の業務をアウトソーシングした場合、その業務に携わる外部の専門業者などは企業の指揮命令系統には属しません。また、リモート型組織で、企画部の従業員にテレワークを認めた場合、その従業員は依然として指揮命令系統には属するものの、オフィス内で作業している場合に比べ、指揮命令が及びにくくなり、業務委託などに近い形になります。

ティール組織では、指揮命令系統は完全に廃止され、各部門の従業員が自身の判断または他の従業員の助言を受けたりしながら業務を行うことになります。

4 組織形態を考える上での注意点

1)そもそも組織形態を変える必要があるのか?

企業が組織形態を変えると、第3章で紹介したように、組織内の指揮命令系統が少なからず変更される可能性があります。安易に組織形態を変えるとかえって従業員を混乱させることになりかねません。

組織形態を変える必要があるか否かの判断は、まず「自社が抱えている重要な課題があるか?」「その課題は、組織形態の変更以外の手段で解決することができないのか?」などを検討した上で行うのがよいでしょう。

例えば、「これまで機能別組織でやってきたが、従業員からの情報や意見のボトムアップがほとんどない。企業内にイノベーションを起こすために組織形態を変える必要がある」といった課題があれば、従業員自身の裁量で行える業務の幅を広げることから始めてもよいでしょう。幾つか対策を講じても効果がないときに、初めて組織形態の変更を検討するべきです。

2)従業員は組織形態の変更に対応できる?

企業の組織形態を変える必要性があったとしても、その変化に従業員が対応できるとは限りません。

例えば、リモート型組織やティール組織を導入する場合、従業員が自身の自己管理を行うことができることや、業務習熟度や知識量が高いレベルに達していることが求められます。また、機能別組織のようなトップダウン型の組織であっても、そもそも従業員の多くが経営者の強いリーダーシップに憧れて働いているような場合は、組織形態の変更が、かえって従業員の仕事へのモチベーションをそいでしまう恐れもあります。

組織形態を変更する場合は、「今の組織形態について感じていることは何か?」「〇〇の組織形態についてどのような意見を持つか?」といった内容について、事前に従業員にヒアリングやアンケートを実施するなどして、慎重に進める必要があるでしょう。

3)1つの組織形態にこだわりすぎていないか?

第3章では5つの組織形態を紹介しましたが、自社の在り方を5つの組織形態のいずれかに無理やり当てはめる必要はありません。

例えば、リモート型組織を導入する場合、従業員がオフィスに出社する日とテレワークを行う日を決めておき、オフィスに出社する日は、機能別組織の指揮命令系統に基づいて業務を進めるといった対応が可能です。ティール組織を導入する場合も、緊急時においてはトップダウン型で意思決定を行う必要があるかもしれません。

組織の在り方に正解はありません。経営者が自社の課題、従業員の希望や能力などを勘案し、自社に最も適合するであろう形に組織をカスタマイズしていくことを心掛けるとよいでしょう。

以上(2019年5月)

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経営者と音楽

書いてあること

  • 主な読者:余暇に音楽を楽しみたい、音楽をビジネスに活かしたい経営者
  • 課題:音楽とどう向き合い、ビジネスに活かせばいいのかが分からない
  • 解決策:クラシック音楽への理解を深める。音楽を使った事例を参考にする

1 音楽への参加の実態

1)音楽のもたらすさまざまな効果や楽しみ方

音楽は、人の心を動かし、喜びや感動、癒しを与え、そして時には聴く人の悲しみやせつなさを代弁してくれる。また、「ゆったりとした」「高揚した」「威厳に満ちた」「はかなげな」など、さまざまな雰囲気を演出する。

音楽が人の心に与えるさまざまな効果をビジネスに取り入れている例は少なくない。例えば、ホテルのラウンジではゆったりとくつろぐことができるよう、控えめで穏やかな音楽が流れている。また、エステティックサロンやリラクゼーション施設などでは美しい音色のクラシック音楽で高級感を演出している。

そして音楽は、自らが演奏者となって奏でるという楽しみ方もできる。ピアノ・バイオリン・ギター・トランペットといった楽器を独奏して楽しむ他、オーケストラに参加したりバンドを結成するなど複数人で音楽を演奏することもできる。複数人での演奏は、「共に1つの音楽を作り上げる」という一体感で心を満たしてくれるだろう。

団塊の世代などを対象とした音楽教室も多くなっており、こうした大人向けの音楽教室では、楽器のレンタルやサークル感覚で集えるグループレッスンなどが行われている。これまで楽器に触れたことのない初心者でも気軽に参加できるし、さまざまな人と交流することもできる。

本稿では、余暇活動として音楽を楽しむ人がどのくらいいるのかというデータを紹介するとともに、経営者が音楽をビジネスに生かす方法を考えていく。

2)音楽への参加人口

日本生産性本部「レジャー白書」によると、音楽関連の余暇活動参加人口の推移は次の通りである。

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音楽関連の余暇活動を楽しむ人は、減少傾向にある。スマートフォンやゲームなど余暇時間を楽しむための選択肢が増えているからかもしれない。ただし、2017年以降、作曲ができるウエアラブル端末なども登場しているため、上記の項目に当てはまらない“新しい音楽の楽しみ方”もこれから増えていくかもしれない。

2 音楽と心

1)心に影響を与えるさまざまな音楽

そもそも音楽は人の心に影響を与えるものだが、特に「ヒーリングミュージック」は人の心に癒しを与えてくれる。小川のせせらぎや小鳥のさえずりなど自然を連想させる穏やかなヒーリングミュージックは、医療機関や福祉施設などでも取り入れられている。

また、映画やテレビといった映像の世界では、多くの音楽が、観ている者に対してより効果的に喜び・悲しみ・せつなさといった心の機微を伝えたり、あるいは恐怖感や高揚感を高める手段として用いられている。

この他、格闘技の選手入場の際には、気分を奮い立たせるような、あるいは選手の特徴を表すようなテーマ曲が会場に響き渡る。観客は、テーマ曲が流れると大いに盛り上がり、気持ちを高めつつ、試合を観戦することができる。

2)心に影響を与えるクラシック音楽の例

音楽が人の心に喜びや悲しみをもたらし、心を動かす作用は古くから注目されてきた。音楽には、クラシック・ジャズ・ロック・パンク・ポップス・レゲエ・歌謡曲などのさまざまなジャンルがあるが、特にクラシック音楽は、時を越え場所を越えて人々の心に語りかけ、共通の音楽として全世界に広がっている。

例えば、18世紀、バッハやハイドンをしのぐ人気を博していたといわれるドイツの作曲家テレマンは、「ターフェルムジーク」すなわち「食卓の音楽」という宮廷音楽を作っている。「食事時が楽しくなるような音楽」「食が進む音楽」として宮廷で行われた祝宴のときなどに多く演奏された。

また、19世紀のドイツの作曲家ワーグナーによる歌劇「ニーベルングの指環」の第1夜「ワルキューレ」で演奏される「ワルキューレの騎行」が、闘争心をかきたて人々の心を高揚させる曲として、政治家の演説の際などに聴衆を引き付けるために用いられたのは有名な話である。

この他、クラシック音楽は戦時中に自らの主義主張を訴える手段としても用いられた。ロシアの作曲家ショスタコービッチによって第二次世界大戦時に作曲された交響曲第7番「レニングラード」は、ドイツ軍に包囲されたレニングラードを表している作品で、ショスタコービッチのドイツ軍への反発の気持ちを表現しているとされている。当時、ロシアではドイツ軍による侵略に対する不満が渦巻いていたことから、ドイツ軍への反発を表現した「レニングラード」は人気を集めたという。

このように、音楽は、古くから人の心に影響を与えるものとして認識されてきた。

3 経営者が音楽をビジネスに生かす

1)ビジネスに生かす考え方

これまで、音楽は少なからず人の心に影響を与えることを紹介してきた。ここでは、こうした音楽を経営者が実際にビジネスに生かすことを考えていく。

飲食店などのサービス業の多くは、集客策の一環として、顧客に対して「居心地のよい空間」「オリジナル性豊かな空間」の提供を心がけている。こうした空間を演出する際に、BGMとして流す音楽が大きな役割を担うことになる。

また、音楽は人の心にさまざまな影響を与えることが多いため、顧客に対してだけではなく、メンタルヘルスケアの観点から従業員に対しての活用も考えられる。従業員の心を癒しリラックスさせるというだけではなく、従業員に前向きな気持ちになってもらうために活用してもよいだろう。

ここでは、さまざまな音楽のジャンルの中から主にクラシック音楽を取り上げ、集客策やメンタルヘルスケアなどにつながる音楽を紹介しよう。

1.飲食店などのサービス業における集客策としての音楽

サービス業での効果的な音楽の活用方法は、2つのパターンが考えられる。1つ目は「一般的に軽やかでやわらかな、耳にして気持ちが良いとされる音楽を流す」というものである。多くの人が好む(あるいは不快感を抱かない)とされる音楽をBGMとして流すことで、顧客に対する居心地のよい空間の提供を試みるのである。例えば飲食店などの場合、先に紹介したテレマン作曲の「ターフェルムジーク」などは、多くの顧客が気持ち良く食事をする雰囲気を作り上げるだろう。

また、一般的に軽やかでやわらかな音楽として、モーツァルトの曲がBGMに広く活用されている。モーツァルトの場合、明るい、軽やかといったイメージの曲が多いため、葬送用の「レクイエム」などの一部の曲を除けば、どの曲を流しても和やかな雰囲気が生まれるだろう。モーツァルトの曲の中で紹介するとすれば、「フルートとハープのための協奏曲」などは、優雅で宮廷にいるような時間を演出してくれる。また、誰もがそのメロディを知っている「きらきら星変奏曲」は、軽快で楽しく、明るい雰囲気を演出してくれるだろう。

サービス業での効果的な音楽の活用方法の2つ目は、店舗のコンセプトや雰囲気に応じて「自店舗の特徴を表現する音楽を流す」というものである。例えば、スペイン料理店では情熱的なラテン系のギター演奏が行われていることが多い。こうした店舗では、料理を楽しみながらスペイン音楽に触れ、顧客は舌と耳の両方でスペインを堪能することができる。

この他、スーパーマーケットなどのタイムサービス時などに、フランスで活躍したドイツの作曲家オッフェンバッハの「天国と地獄」を流し、テンポよく顧客心理を盛り上げても面白いかもしれない。

2.従業員のメンタルヘルスケアや気分転換としての音楽

従業員に対するメンタルヘルスケアや気分転換には、「朝の出勤時間・業務終了時間などにその時間にふさわしい音楽を流す」ことが考えられる。朝であれば爽やかな気分になる音楽を流して従業員に気持ち良く1日をスタートしてもらい、業務終了時間には心に安らぎと癒しを与える音楽を流して従業員の心の疲れを癒す。

朝にふさわしい音楽としては、ノルウェーの作曲家グリーグによる「ペールギュント第一組曲」の中の「朝」が有名で、学校や職場で朝の音楽として広く活用されている。

業務終了時間には、心の疲れを癒すことを第一の目的として音楽を選択するとよいだろう。例えば、ドイツの作曲家パッヘルベルの「カノン」やバッハの「主よ人の望みの喜びよ」などは親しみやすく、心の疲れを洗い流してくれるような音楽である。

さらに、癒し効果のある音楽として取り上げられることが多いのが、モーツァルトである。モーツァルトは「胎教によい」「脳の活性化をサポートする」「ストレスをやわらげてくれる」などとされ、音楽療法などにも活用されている。業務終了時間には、モーツァルトの中でも心に染みる曲や優しい曲、あるいは充足感を感じるような曲などを流してもよいだろう。例えば「バイオリン協奏曲第3番第2楽章」などはバイオリンの旋律が心に染みる名曲である。また、「交響曲第40番」は優しいメロディと広がりのあるオーケストラの音色が、従業員の心をゆったりとやわらげてくれるだろう。

この他、音楽を流して「従業員の気持ちを盛り上げ会議などの活性化につなげる」といった例が考えられる。この場合、軽快なリズムと心が躍るような音楽がよいだろう。例えば、イタリアの作曲家ヴィヴァルディの「バイオリン協奏曲」や、「四季」の中の「春」などが挙げられる。会議の際、あるいは会議の休憩時間などに控えめに流しておいてもよいだろう。

2)経営者が自分自身のために聴く音楽

経営者は、1人部屋にこもり集中力を高めることもあるだろう。また、自分自身を鼓舞しなければならないときもある。このようなときも、音楽は効果的である。

人によって好みは異なるため、集中力を高める効果が得られる音楽のジャンルも人それぞれであろうが、ここではクラシック音楽の例を紹介する。

先に紹介したワーグナーの「ワルキューレの騎行」では、気分を奮い立たせることができるだろう。また、ドイツの作曲家ブラームスによる「交響曲第1番」も、1人で集中力を高めたいとき、あるいは自分を鼓舞したいときにお薦めの音楽とされている。オーケストラの荘厳な響きと打楽器(ティンパニ)の連打で重々しく幕を開けるこの交響曲は、完成までにブラームスが20年以上もの歳月を費やした曲である。20年以上という歳月がそのまま体現されているような重厚な曲で、特に第一楽章の始まりは、1歩1歩かみ締めながら運命を切り開いていくかのような雰囲気さえ漂っている。経営者が気持ちを集中し高めていくのにふさわしい曲といえるだろう。

以上(2019年5月)

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すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「人をつなげる人」になる

ビジネスにはレイヤーがあり、それによって付き合い方が異なります。経営者同士のつながりは深く、トップセールスと呼ばれるように、その場で商談がまとまることがあります。また、他では聞けない貴重な情報を入手できることもあります。

そのため経営者にとって、ビジネスのつながりを広げていくことはとても大切な仕事です。しかし、つながりを広げるためにセミナーや勉強会に参加したり、紹介を求めたりしても、“当たり外れ”が大きいというのが実感でしょう。

経営者は、自らいい人と出会うこと、自分が大事にしている人にいい人を紹介してネットワークを広げること、そして何らかのビジネスを起こすことを加速させなければなりませんが、そのためには人とのつながり方を工夫する必要がありそうです。

今回は、「何としても『いい人』のコミュニティーに交じる」「いい人とは『愛ある人』のことである」「すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑」という3つを取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 何としても「いい人」のコミュニティーに交じる

私の最近のアポイントは、ベンチャー界隈ではかなり有名な方(ここでは「Aさん」とします)からの紹介で多くが埋まります。紹介された人と1対1で会うこともあれば、会食で複数の人と会うこともあり、それなりの人数と会っています。

私が「すごいな!」と思うのは、Aさんから紹介される全ての人が「いい人」であることです。確率的には“よく分からない人”が交じっていてもおかしくないほどの人数を紹介されていますが、本当にいい人ばかりなのです。

Aさんは年間1000人もの経営者や学生などと会います。以前、「会う人はどのように決めているのですか」と聞いてみたことがあります。すると、「いい人から紹介された人とだけ会う。それだけです」と教えてくれました。

例えば、Aさんは、Zさんを紹介された場合、Zさんの人となりはもちろんですが、それ以上に誰からの紹介かを重視するというのです。Aさんが信頼するBさんの紹介ならZさんに会いますが、そうではないCさんの紹介では、Zさんには会わないということです。

また、いい人を集めるために重要なことは、「いかにして、いい人を集めるか」ではなく、「いかにして、良くない人を入れないか(排除するか)である」ということも教えてくれました。

いい人は、いい人とつながっています。そして、自分のネットワークがいい人だけであることを厳しく管理しているため、結果として、一人でもいい人と知り合うことが、人脈を広げる上でとても大切になるのです。

皆さんはいい人のコミュニティーに入っているでしょうか。セミナーや勉強会に参加することは大切ですが、実はいい人とつながることも大事なのです。となると、気になるのは、どのような人がいい人なのかということです。

3 いい人とは「愛ある人」のことである

お互いにプロフェッショナルのビジネスパーソンとして会う以上、その分野で“仕事ができる”のは当たり前のことです。そのため、仕事ができる人=いい人という図式は成り立ちません。

いい人のコミュニティーの中心になっている人がよく口にするいい人の特徴は、「愛がある」「『利他の心』を持っている」ことです。自分のことだけを考えず、世の中を良くしたいという信念を持って活動する人ともいえます。

そして、仕事ができるいい人(愛がある人)とつながると不思議なことが起きます。仕事ができるいい人は、相手の課題が分かります(この点は、次章で触れます)。そして、それを解決するのに役立ちそうな人を紹介してくれるのです。

実際、仕事ができるいい人や、その人から紹介された人と一緒にビジネスをすると、それまで取引先と行ってきたこまごまとしたやりとりがくだらないことに思えるほど、ビジネスをスムーズに進めることができます。

これは、相手が優秀だからという理由だけではありません。いい意味で、互いのことを信じて任せる部分が大きいので、細かく管理する必要がなく、進めやすいのです。相手を信頼しているため、相手の言動を受け入れやすいことも大きな理由です。

なお、愛や利他と聞いて「無償」をイメージする人が多いかもしれませんが、基本的にお金のやりとりはあります。ただし、仕事ができるいい人がお金をもらう目的は、通常のビジネスとは異なる面があります。

具体的には、「無理なく長く付き合うために、お金のことはきっちりしておく」、あるいは「お金をもらわない代わりに、自分が紹介する人ときちんと対話してほしい」といったことがお金をやりとりする主な目的であり、私欲のためではないのです。

4 すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑

ある大企業に“マッチングの神様”と呼ばれ、周囲から尊敬される人物がいます。私はご縁あってその方と出会い、何度か実際のマッチングの場に同席させていただく機会を得ました。

マッチングというと聞こえはいいですが、セッティングした人が「いい話になるから紹介するよ」と言いつつも、実は当人が気持ちいいだけで、その後のことはあまり考えられていないというケースが少なくありません。

そうした中、“マッチングの神様”は、とことん相手にヒアリングをします。同席していたとき、少し本題とそれているのではないかと感じたくらい、周辺情報も含めて本当に広い視点で相手のニーズを探ろうとします。

それも、2社のマッチングであれば交互に2社の立場に立って、「A社さんはこうすると好ましいわけですよね。それでB社さんはこの点を工夫したらニーズに合致しますか?」といった具合です。

こうして話をしていくと、場が次第に盛り上がってくるわけですが、“マッチングの神様”は途中、何度もクールダウンの時間を設けて、本当にA社とB社のためになるのか、また実現するために何が必要なのかを考えるのです。

マッチングの心構えを“マッチングの神様”に私が聞いてみたところ、「当事者にとって、マッチングというのは『すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑』の3つの段階がある。この段階を引き上げていくことが全て」と教えてくれました。

人と人とをつなぐことは、それを行う仲介者にとって、人から感謝される気持ちいい行為です。ただし、仲介者は、自分が人から感謝されるためや、自分の地位を高めることを目的に、相手のニーズについてよく調べずにつないではいけません。

こうした一人よがりな行為は、相手にとって「ありがた迷惑」なものです。「なぜ、自分が紹介されているのか分からない……」「ニーズは合っているが相手に全く権限がなく、世間話で終わってしまう」といったケースがこれに該当します。

人と人とをつなげる以上、相手にとって、最低でも「ちょっといい」、理想的には「すごくいい」マッチングを心掛けたいものです。「ちょっといい」マッチングとは、小さなビジネスにつながったり、その後も続く緩やかなご縁をいただいたりするものです。

これを超える「すごくいい」マッチングとは、大きなビジネスにつながることはもちろん、紹介された者同士が深い絆で結ばれることであり、そのきっかけとなるのが仲介者への信頼と感謝です。

仲介者のことを信頼し、また感謝しているのなら「あの仲介者を裏切ることはできないし、紹介してくれる人も大事にしなければならない」という思いになります。これが「すごくいい」マッチングに結び付くのです。

人と人を結び付けるためには、相手の課題を本当に分かっていなければなりません。もっとも、それは簡単に分かるものではありません。人間性を磨くことを含め、自分のビジネスのように真剣に取り組まなければ成し遂げられないでしょう。

以上(2019年6月)

pj10033
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怒らせずに相手を動かす/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 ピンチのときに前を向く強さはあるか?

ビジネスには順境もあれば、逆境もあります。何をやってもうまくいかないと、投げ出してしまいたくなるときが誰にでもあるものですが、経営者にはそれが許されません。経営者はつらくても前を向き、進み続けることが求められるからです。

つらさをこらえて前に進む経営者の姿は虚勢に見えるかもしれませんが、日々の経営で培った心の強さは本物です。内部と外部、人・物・金、あらゆるところで発生する大小の問題を自分の弱さと向き合いながら解決してきた経験は、経営者だからこそ持ち得る強さです。

経営者の力量はピンチのときほど試されます。つらくても今の事業を継続するのか、撤退して次の事業に懸けるのか。逆境において、自分をどれだけ信じてこの難しい判断を下せるかが大事です。経営者の決意が言動に表れ、組織を導く強い力になるからです。

今回は、「厄介なプライドを捨て、助けを求める」「小さな頼み事をする」「怒らせずに相手を動かす」という3つのテーマを取り上げます。経営者がピンチに直面したとき、それに立ち向かう上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 厄介なプライドを捨て、助けを求める

本シリーズの前作「事を成すには、狂であれ/成功する経営者に欠かせない思考習慣」の中で、守屋淳著『組織サバイバルの教科書 韓非子』より“性弱説”という考え方をご紹介しました。

人間は環境によって心の持ちようや言動が変わってしまう弱い生き物であるという“性弱説”。経営者に限らず、ピンチのときはぜひとも確認したい考え方ですが、“性弱説”を意識してもなお、プライドによって正しい言動が制約されることがあります。

本当にピンチなのに妙に冷静に振る舞ったり、自分に歯向かってくる人を受け入れるそぶりを見せたりする人がいます。本当に強く、心も広いのなら素晴らしいことですが、そうした人はごくわずかでしょう。

大半の人は、「ピンチのときだって自分は強い」とプライドを保つためのカラ元気を示したり、本当は余裕がないのに、「歯向かってくる人さえ受け入れられる」という器の大きさをアピールしたりしたいだけなのです。

しかし、ピンチの経営者がこんなことをしている時間はないはずです。田村耕太郎著『頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法』(*)の中で、「メンツより実利」との指摘があります。ピンチのときこそ戦力を冷静に分析し、現実的な目標を設定しなければなりません。

起死回生の策でV字回復を果たすことはまれで、多くの場合は1つのきっかけを得て緩やかに上向いていきます。経営者はそのきっかけを見つけなければならないのですが、多くの場合は1人では解決できず、他人の助けが必要となります。

ピンチのときは困っていることを他人に示して助けを求めますが、相手が「もはや救いようがない」と判断すれば見放されます。逆に、「大したピンチではない」と判断されても、助けてもらえないときがあります。このような事態を避けるためには、どうすればよいのか考えてみましょう。

3 小さな頼み事をする

多くのビジネスパーソンが愛読する名著の1つに、D・カーネギー著『人を動かす 完全版』(**)があります。この中で指摘されている、人を動かす方法の1つが、「小さな頼み事をする」ことです。

皆さんは、人によく頼み事をするタイプですか、それともめったにしないタイプですか。日本人の場合、「人に何かを頼むと迷惑を掛けてしまうので、控えめにする」という人が多いかもしれません。

しかし立場を変えて、皆さんが頼み事をされる側になったらどうでしょう。“一部の頼み事”を除き、基本的に頼りにされることに嫌な気分はしないはずです。相手は困っていて、頼る相手として自分を選んでくれたわけですから。

特に経営者は社会に貢献したい、人の役に立ちたいという志を持っていることが多いはずです。そうした経営者は、人の頼み事をかなえて感謝される快感を知っているので、自分が忙しくても頑張ってしまうのです。

なお、“一部の頼み事”とは、単なる営業目的の頼み事です。それも、付き合いが浅く、普段はこちらがお世話をしているような相手から営業の頼み事をされると、へきえきしてしまうのです。

話を戻します。ピンチを切り抜けるために頼み事をするのはよいのですが、“小さな”というところがポイントです。頼み事の大小の基準は相手の力量によって違いますが、大切なのは事の大小よりも、相手に「小さい」と感じてもらえる関係性です。

まずは、「本当に困ったことがあります。どうか、お力添えください」と丁寧に頼み、こちらがピンチを脱する強い意志を持っていることを示しましょう。そうしたこちらの態度を見た瞬間に、相手はほとんど助けるか否かを決めているでしょう。

相手が助けるつもりなら、こちらの頼み事が厄介でも、「あなたのためならなんてことはないですよ」と応えてくれます。逆に、助けないつもりならば、こちらの頼み事がささいなことでも動いてくれません。この違いがどこからくるのか考えてみましょう。

4 怒らせずに相手を動かす 

ビジネスはチャンスとピンチの連続です。チャンスとピンチの波は市場環境の変化によって交互に訪れますが、それ以外にも「人とどのような付き合い方をしているか」にも影響を受けます。

企業を切り盛りする経営者は、それなりの自信を持っています。しかし、その自信が間違えた方向に向かうと、「自分が正しい」と思い込み、人の意見を聞かなくなります。経営者の独裁が指摘されにくい社内では、さらに経営者の言動が助長されます。

人材不足の折、社員の退職が後を絶たずに経営の継続が難しくなる企業があります。社員が新しい可能性を求めて前向きに転職するケースがある一方、経営者の間違えた自信がパワーハラスメントになってしまっているケースもあります。

これは極端な例ですが、社内外を問わず関係者とどのような関係を築いているかによって、ビジネスの状況が大きく変わるのは事実です。人の恨みによってピンチは訪れますが、人の情けによってピンチを脱することもできるのです。

ビジネスでは互いの利害はなかなか一致しません。双方が何らかの我慢を受け入れていますが、それが度を越したり、我慢する価値のない相手と判断されたりすれば、相手は怒るかもしれないし、黙って去っていくかもしれません。

ビジネスを進める上で、人との付き合い方はとても大切なことです。つまり、あなたが少々厄介な頼み事をしても、「何をいきなり……失礼な人だ」と怒るのではなく、「あなたのために頑張ります」と言ってくれる仲間をたくさん持つことが重要なのです。

では、利害が一致しない相手を怒らせずに動かすにはどうすればよいのでしょうか。前述した『人を動かす 完全版』の中でさまざまな指摘がされていますが、基本は「相手を認め、称賛する」ことです。

人は、自分の取り組みを認めてくれる人に好意を抱きます。年齢や業界に関係なく幅広い経営者の人脈を持つ人物も、「経営者は自分の話を聞いてもらい、認めてもらいたいと考えている。そこを突くのが関係構築のポイントだ」と言います。

とはいえ、あからさまな“おべんちゃら”は逆効果です。そうならないためにも、ちょっとした食事会であっても、事前に相手の取り組みを正しく知り、相手が認めてほしいと考えるポイントを押さえることが大切です。

ピンチのとき、プライドに負けるのは論外です。格好悪いなどと思わず、周囲に助けを求める姿勢が経営者には必要です。そして、そのときに実際に助けてもらえるか否かは、日ごろの相手との接し方によって変わってくるのです。

  • 【参考文献】
  • (*)「頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法」(田村耕太郎、朝日新聞出版、2014年7月)
  • (**)「人を動かす 完全版」(D・カーネギー、新潮社、2016年11月)

以上(2019年3月)

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もどかしいけど、自分でやらない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。「9時に出社して18時に退社する」という働き方もその1つで、これまで疑問を持つ人はほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

実際、世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「訓練すれば“ボルトは外せる”」「もどかしいけど、自分でやらない」「バッドケースがグッドケースにつながる」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 訓練すれば“ボルトは外せる”

スティーブ・ジョブズの「Stay hungry,stay foolish」、吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」。経営者ならどこか共感できる言葉かもしれません。何かを成し遂げたいのなら、常識の枠から飛び出すことも必要です。

そして、何かを成し遂げようとする人の姿はいつの時代も大胆で、“ボルトが何本か外れている”ように見えます。ここでいうボルトが外れた状態とは、「歯止めを外して、限界を設けずに行動する」という前向きな意味です。

経営者の中にもボルトが外れた人がたくさんいます。有名な経営者でなくても、「このプロダクトで世の中を良くしてみせる!」と、周囲の反対を押し切り、熱い思いで突き進む経営者は、ボルトが何本か外れているように見えます。

もちろん、経営者にはさまざまなタイプがいて、ボルトを締めるほうが得意な人もいます。ただし、そうした経営者でさえ、新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しないことを進める中で、突き抜けたいと感じる機会が増えているでしょう。

そのようなとき、「自分はおとなしいタイプだから」と自分の枠を決めるのではなく、ボルトを外す訓練をしてみましょう。スタートアップの経営者の中にも、ボルトを外す訓練をすることで、新しいスタイルを手に入れた人がたくさんいます。

ボルトを外すには、ボルトの外れた人と積極的に交流するのが一番です。直接話をしたり、一緒に行動したりして異質なエネルギーに触れ続けるのです。そうすると、新しいエネルギーが自分に注入され、やがて定着していきます。

ボルトの外れた自分は、“出島”のようなものです。出島とは、本丸とは違う考え方を育み、行動するための心のよりどころです。本質を変える必要はありません。しかし、出島を幾つも持って多様性を確保することは、持続的な成長に寄与します。

3 もどかしいけど、自分でやらない

中小企業では、経営者であっても税務や労務の手続きなど、こまごまとしたバックオフィス業務を行わざるを得ません。営業に関してもそうで、ちょっとした顧客へのフォローなどがなかなか手から離れません。

また、今どきは新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しない取り組みが求められる中で、活動のスピードを上げ、しかも成功の確率を高めるために、これまで以上に経営者が手を動かす機会が増えています。

経営者が動くのは悪いことではありませんが、「自分が動けば必ずうまくいく」という思い込みは排除すべきです。現場から離れていれば感覚がズレますし、別の観点から見ても、企業の持続的な成長のために社員に任せることが大切だからです。

「2018 FIFAワールドカップ ロシア」の決勝トーナメントで、日本代表はベルギー代表に惜敗したのですが、その試合で、ベルギー代表のエースストライカーであるルカク選手が見せたプレーは、ビジネスにも通じる大事なことを示していました。

この試合、あまり活躍していなかったルカク選手。そこに決勝点を狙えるパスがきます。エースストライカーの意地もあり、自ら決めたいと考えて不思議はありません。しかし、ルカク選手はシュートを打たずにスルーし、背後のシャドリ選手に託したのです。

ルカク選手は、自分でシュートを打つと見せかけてマークを引きつけ、背後をノーマークで走ってくるシャドリ選手に託したほうが、得点できる可能性が高いと考えたのでしょう。そして、シャドリ選手は、見事に決勝点を挙げたのです。

全てを自分でやろうとするのは頑張り屋ですが、一方で自分勝手ともいえます。理想は、周りに注意を払い、そのプロジェクトを最も成功させる確率の高い人、あるいは将来のために学んでほしい人に託すことです。

新規事業の開発や働き方改革の推進などは、経営者にとって失敗したくない取り組みです。であるならば、「もどかしい、自分でやりたい」という気持ちを抑え、社員に任せてみることが大切です。

4 バッドケースがグッドケースにつながる

「日々の業務を細かく管理し、失敗を許さない」。こうしたマネジメントをしている企業は少なくないようです。失敗を許さない環境で働く社員は叱られることを嫌い、チャレンジをしなくなってしまいます。

一方、新規事業の開発などの新しい取り組みにおいて、ミスをしないというのは無理な話です。いわゆる「シリアルアントレプレナー」(連続起業家)と呼ばれる人たちも、「新規事業を全て成功させるなんてあり得ない」と言います。

幾つも取り組んだ結果、その中で成功するものがあればいい。経営者は、社内にこのような雰囲気を根付かせなければなりません。つまり、「バッドケースがグッドケースにつながる」という考え方を徹底するのです。

実際、私たちは失敗をして初めて、自分が気付かなかった課題に気付くことができます。早いタイミングで何度も何度も失敗することで、成功に一歩ずつ近づけるということなのです。

大切なのは、「失敗の原因をしっかりと分析し、改善策を講じた上で次に進む」ことです。ただし、こうした過程を踏む企業は多くないため、経営者がトップダウンで指示しつつも、現場の社員の意見を聞いて整備するのが理想です。

ここでも経営者はもどかしさを感じるでしょう。しかし、我慢して社員に任せなければなりません。それも、その時点の社員の能力で対応できるであろうことの2段階くらいレベルの高い取り組みを任せてみるのです。

こうした活動を続けることで社員は成長し、経営者が知らない情報を集めてきたり、気付かなかった視点を指摘してきたりします。これらが組織の成長と、組織力の底上げにつながります。

ビジネスの潮流が目まぐるしく変わる現在、経営者にはボルトを外すような大胆さ、もどかしくても社員に任せる忍耐力、組織全体で失敗から学ぶ謙虚な姿勢が求められます。これらがそろったとき、組織は次のステージへと進むことができるのでしょう。

以上(2018年9月)

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