サービス業の「時短」で生産性を上げるには

書いてあること

  • 主な読者:時短を実現しながら、収益(売上や利益)も維持・向上したいサービス事業者
  • 課題:強引に60秒を50秒に短縮しても、手待ち時間が増えるだけだし、サービスも劣化する
  • 解決策:必要なサービスを必要なときに提供するためのマルチタスク化とプロット図などを使った人員投入量の調整。人事制度の見直しも必須

サービス業の「時短」で手っ取り早いのは残業削減です。しかし、強引に進めるとサービスが雑になるなどお客さまの満足度が下がり、結果として収益に影響しかねません。

時短を実現しながら、収益も維持・向上するにはどうしたらよいか?
フィールドワークを徹底的に積み重ね、サービス業の現場における時短の方法を体系的に分析した「時短の科学」(日経BP)の著者である内藤耕氏に話を聞きました。

1 「客離れ」のときこそ時短のチャンス

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災害時など、客足が急速に遠のいたとき、人件費など固定費の重さを痛感します。そのようなときは、労働時間の時短によって固定費を下げるといった、普段できないことにチャレンジする機会です。そしてこの取り組みは、客足が戻ったときにさらなる成果として表れます。

単に労働時間を減らそうとすると、収益(売上や利益)の減少につながりかねません。そのため、少なくとも収益を維持したまま、同じ仕事量を今より短い労働時間でできるようにする「生産性向上」が重要です。

生産性向上をしっかりと実現している企業は、他よりも早く客足が回復します。例えば、2011年に発生した東日本大震災では、発生直後の計画停電の最中にもかかわらず、3月下旬から予約が入り始めた神奈川県の旅館があります。

客足の戻りが早かった企業に共通するのは、遠方ではなく、近隣の個人客が応援に来たことです。普段からサービスが良くなければ、近隣の個人客には支持されません。つまり、お客に支持されるものを、きちんと無駄なく提供できる生産性を実現することが重要なのです。ポイントは、時短によって生産性と品質の向上を同時に実現することです。

2 忙しい時間ではなく、ひまな時間を管理する

時短による生産性と品質の向上を両立させるポイントは、残業など「忙しく仕事をしている時間」をどうするかではなく、「お客がいない閑散時間・閑散日」でいかに時短をするかです。現場の手待ち時間を見つけ出し、シフトを修正するなどして従業員の労働時間や休日を柔軟にコントロールすれば、収益に影響を与えずに時短を実現できます。

現場の手待ち時間を見つける方法として、プロット分析があります。とても簡単な方法で、横軸に客数や売上などの作業量、縦軸はその日の出勤者数や労働時間でグラフに記入します。作業量に対して労働投入量が適正かどうかを見ることができます。

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3 サービス業の生産性向上は製造業とは違う

次に、生産性向上の中身を考えていきましょう。とかく「作業時間をいかに短くするか」という点が注目されがちです。60秒かかる作業を50秒にすれば、作業時間を約20%削減できるという考え方ですが、これで生産性が向上するのは製造業だけです。

製造業は在庫できるため、作業のスピードを上げるほどたくさん作ることができます。しかし、サービスはお客が買うときにしか提供できず、在庫できません。今日の患者の診察を、医者が前もって昨日できないことと同じです。

だから、ラーメン1杯の調理時間を10分から5分に減らしても、お客が15分おきにしか来なければ、手待ち時間が増えるだけになり、労働時間の削減にはつながらないのです。サービス業の労働時間は営業時間によって決まるのであって、作業時間の合計ではありません。

4 時短と品質向上を両立させるには?

時短と品質向上を両立させるために重要なのは、作業時間の短縮よりも、「お客がいるときに、必要なサービスを、きちんと提供できるようにする」こと。つまり、作業のタイミングを合わせるということです。どういうことか、成功事例で見てみましょう。

例えば、福井県の温泉旅館Aでは、集中的な混雑を避けるために、夕食を2部制として宿泊客を振り分けていました。従業員は営業開始の2時間前に出勤し、1部と2部の座席レイアウト表を作り、事前にテーブルセッティングを行っていました。

しかし、急な予定変更や人数変更もあります。そのたびにお客を待たせて座席表を組み替えており、せっかくの準備が無駄になっていました。

そこで、2部制を廃止し、好きな時間に来てもらうことにしました。料理も作り置きではなく、お客の食べる時間に合わせて調理や盛り付けをして、できるだけ出来立ての料理を提供するようにしました。「前もってやる」という工程を極力カットしたのです。

準備がいらないので従業員は営業開始15分前に出勤すればよくなり、これだけで1日2時間近い時短です。こうした取り組みの積み重ねにより、同旅館は、年間休日をわずか72日から105日まで増やし、日々の出勤者数を減らして企業全体の時短を実現しました。

さらに、出来立てのおいしい料理を出せるようになったり、料理の好き嫌いなどの急な要望、細かい要望にも対応できるようになったりしたことで評判も上がり、経常利益率は10%まで改善しました。労働時間を減らしながら、品質・顧客満足を向上させ、収益も改善させた事例です。

「前もってまとめてやる」というのは一見すると効率的ですが、作り置きしたものを保管する場所が必要になったり、保管場所への出し入れや運搬といった付帯的な作業が追加で必要になったりします。

現在は、人口減少で市場はどこも供給過剰で、お客が企業を選ぶ時代です。今、お客が何を求めているのかを知らなければ、顧客満足にはつながりません。そのため、サービス業では、前もってやるというこれまでの在庫型のオペレーションが多くの無駄を生むのです。

5 品質向上を実現させるマルチタスク化

サービス業では目の前にお客がいます。そのお客が必要としているものを、その場で聞いて提供すれば一番効率的です。すると企業の経営者からは、「これを実現するのに、一体どのくらい人員を割かなければならないのか」とよく言われます。

多くの人員が必要になるのは、同時にたくさんのお客が来るからです。その場合、対応は2つです。

1つ目は、来客をばらつかせること。前述の福井県の温泉旅館Aの事例では、「午後6時ごろは混み合います」と事前に伝えることで、お客のほうから自然にその時間帯を避けるようになり、逆にその時間帯で多少待たされたとしてもクレームは出ません。

2つ目は、ピークに合わせて人員を集中投入することです。ただ、ピークの1時間のために従業員を出勤させたら、残りの時間は手待ち時間になるので、従業員が複数の仕事を掛け持ちする「マルチタスク化」で対応します。調理だけでなく、配膳や会計もやってくださいといったように、仕事もばらつかせるのです。

マルチタスク化を現場で導入すると、他の部署で手待ち時間になった従業員を忙しい部署に投入できます。これにより、部署ごとの一瞬の業務量の変動に無駄なく対応できるようになります。福井県の温泉旅館Aも、改革の切り札としてマルチタスク化を導入しました。

6 マルチタスク化の課題をクリアする

マルチタスク化では賃金制度が課題になります。例えば、時給850円のパートが、1000円のパートの仕事を快く手伝うでしょうか。また、別部署から手伝いに来た不慣れな人に、快く教えることができるのかも疑問です。

そのため、マルチタスク化を導入する場合は、賃金格差によって協力関係が阻害されてしまうことから、むしろ意図的に同一労働同一賃金にしていかなければなりません。

例えば、パートの時給と月給制の正社員の基本給を時給換算で同じ水準にし、現場のオペレーションの対価として基本給を位置付けることで同一労働同一賃金を確立します。その上で、正社員はパートには求められない管理責任に応じた役職手当を払う二階建ての賃金体系にします。

このように働き方が大きく変わることについて、従業員の中には反発する人も出てきます。しかし、「休日や年次有給休暇を確実に取れるようにするから、変則的な働き方を受け入れてほしい」と言うと、皆、受け入れてくれます。これを言って、拒否された事例を知りません。

変則的なシフトを組み、さらに状況によって臨機応変に修正するというのは、やったことのない企業からすれば、とても大変なことだと思われがちです。しかし、やっている企業はたくさんあります。「今日はお客さん多いからちょっと出てきてほしい」「今日は少ないから帰っていいよ」といったように、少しでもいいから実践してみるのが大事なのです。それが次の一歩につながります。

以上(2020年5月)

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画像:pixta

音や色彩も権利化! 新しいタイプの商標 取得のメリット

書いてあること

  • 主な読者:音や色彩などの新しいタイプの商標の活用を考える経営者
  • 課題:新しいタイプの商標については、商標権を取得するのが難しい?
  • 解決策:色彩のみからなる商標権を取得するのはハードルが高い。ただし、音商標や位置商標などは登録も進んでいる。これら新しい商標はマーケティングや海外進出時にも役立つため、権利化を検討したい

1 音や色彩も認められる 新しいタイプの商標とは

1)商標とは

商品のパッケージや店舗の看板など、自社の商品・役務(サービス)に付されているマークは、商標として登録できる可能性があります(他社(他人)の商品・役務と区別できる必要があります)。商標は、特許庁の審査を受けて登録し、料金を支払うことで商標権として保護されます。

商標は使用されることによって広く認知され、顧客は商標が付された商品・役務を提供する企業を把握することができます。その結果、商標には企業の信用が蓄積されるようになるだけでなく、顧客の利益を保護することも可能となるため、商標法では商標権を保護しています。

出願の際は商標を付する商品・役務を区分した分類を指定する必要があります。商標権が認められると、指定商品や指定役務の範囲内であれば、独占排他的な権利が認められます。また、商標権の保護期間は登録日から10年ですが、更新登録すれば半永久的に商標権の存続が可能です。

2)新しいタイプの商標とは

2015年4月に商標法が改正されたことにより、音や色彩といった従来は認められなかった、新しいタイプの商標を登録できるようになりました。従来から認められていた商標(伝統的商標)と新しい商標を整理すると、次のようになります。

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3)新しいタイプの商標の登録はハードルが高い!?

新しいタイプの商標の出願件数と登録件数は次の通りです。

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出願件数が多いのは音商標で、色彩のみからなる商標、位置商標などが続いています。ただし、色彩のみからなる商標の登録件数は2017年に初めて2件登録されており、登録が進んでいない状況です。

色彩のみからなる商標の場合、色彩だけで他社の商品・役務と識別するのが難しいものが多いため、拙速に審査し、登録を認めれば、他社がその色を使えないといった問題も起こるため、慎重に審査が行われているとされます。

2 商標権は他制度とどう違うのか

1)商標権と他制度との違い

商標権には「独占排他的に使用できる」「半永久的に使用できる」といったメリットがある一方、特に新しいタイプの商標については「登録のハードルが高そうだし、時間もコストも掛かる。ロゴ(商標)であれば、著作権などでも自社の権利は保護されるのでは?」と考える人がいるかもしれません。

しかし、商標権と他制度では次のような違いがあります。

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2)著作権との違い

著作権は登録が不要であり、著作物が生まれた瞬間から自然に発生する権利です。ただし、単純なフレーズや色彩といった、思想または感情を創作的に表現していないものは保護されません。一方、商標権は単純なフレーズや色彩なども保護される可能性があります(保護されるためには、さまざまな要件があります)。

また、偶然にも他社が自社と似た商標を製作した場合、著作権では他社がその商標を使用することを禁止できません。対して商標権では、商品や役務が同一または類似であれば、同一または類似の商標を排除し、独占排他的に使用できる可能性があります。

3)不正競争防止法との違い

不正競争防止法は著作権と同様に登録が不要です。他社が自社と同一または類似の商標を使用している場合、同法で禁じられている不正競争行為に当たる可能性があります。ただし、不正競争行為として認められるには、例えば、周知(一地域で知られているものでも可)、または著名(周知よりもさらに知られている)であることが要求されます。

一方、商標権の場合は、周知または著名である必要はありません。

4)商標権を取得し、他制度も活用しながら自社の商標を守る

著作権、不正競争防止法との違いについて紹介しましたが、商標権は取得さえしておけば、万全というものではありません。商標権を取得しつつ、場合によっては他制度も活用していくことが重要になります。

とはいえ、商標権の場合は、登録や権利維持のためのコストや手間が掛かります。特に、より広い範囲で商標を保護したいと考える場合、分類を増やして出願し、登録します。特許庁への出願料や登録料は分類が増えるほど高くなる仕組みです。それに加えて、弁護士や弁理士に調査や手続きを依頼するコストも掛かります。

自社が持つ全ての商標の登録を目指すのではなく、主力商品に限定するなど、戦略的に商標権を取得していくことが求められます。

3 中小企業は新しいタイプの商標をどう活用できるのか

1)マーケティング活動に役立つ新しいタイプの商標

実際に企業活動において、新しいタイプの商標はどのように活用できるのでしょうか。登録が認められた、新しいタイプの商標を見てみると、テレビCMなどで見かけるよく知られた動画(動き商標)やサウンドロゴ(音商標)などが多くなっています。そのため、「新しいタイプの商標はマーケティング活動に積極的な大企業のもの」というイメージがあるかもしれません。

しかし現在では、中小企業でも「YouTube」などの動画や、「Facebook」「Twitter」といったSNSを使ったマーケティング活動に取り組んでいます。動きや音といった、五感に訴えることができる新しいタイプの商標は、動画やSNSを使ったマーケティング活動にも役立てることができ、顧客に自社および商品・役務を効果的に印象付けることができるでしょう。

「他社に先手を打たれ、自社および商品・役務のブランドイメージを表現した動画やサウンドロゴが使えない」ということがないよう、自社の重要な(新しいタイプの)商標については早めに商標権を取得しておくと安心です。

2)海外進出にも役立つ新しいタイプの商標

新しいタイプの商標は、欧米などでは以前から制度が整備されており、欧米企業や欧米に進出している日本企業などが取得しています。

例えば、大阪府の工具メーカーであるエンジニア(従業員数30人)では、米国で工具のグリップに使用している緑色を補助登録(注)しています。同社が米国で商標登録するきっかけになったのは、米国の工具メーカーから工具のグリップの色が「色彩のみからなる商標を侵害している」という警告を受けたからでした。そのため、従来使用していた青色から新たに緑色に変更し、この緑色を他社が使用できないように補助登録しました。

原則として、商標権は権利を取得する国ごとに出願する必要があります。ただし、日本はマドリッド協定議定書を批准しており、特許庁を通じて国際出願することで、複数の加盟国へ出願するのと同等の効果を得ることができる制度があります。

新しいタイプの商標は、文字や言語を超えたグローバルなコミュニケーションツールとなり得るものでもあり、海外進出している企業は日本国内で制度がスタートしたのを機に、国際出願を検討してみるのもよいでしょう。

(注)補助登録とは、主登録(日本の商標制度における登録)に至らないものの、後願の企業の使用を排除することができる制度です。

4 侵害に注意! 商標権を取得していない企業が気を付けるべきこと

新しいタイプの商標が認められるようになったことで、商標権を取得していない企業にも影響が及ぶと考えられます。これまで以上に侵害に注意しなければなりません。

大半の企業では、商標権のような知的財産権を侵害してはならないことを認識していると思います。ただし、知的財産権に関する知識は社員によってばらつきがあるのではないでしょうか。中には、「新しいタイプの商標の話題を耳にしたことがない」ということがあるかもしれません。先に紹介したエンジニアも、米国の工具メーカーから侵害の警告を受けるまで、色彩のみからなる商標が権利として認められることを知らなかったといいます。

悪意がない場合でも、他社の商標権を侵害しているとなれば、自社の社会的な信用は失われ、権利者から莫大な損害賠償金を求められることもあります。

このようなリスクを招かないためにも、新しいタイプの商標をはじめ、知的財産権に関する動向に注意し、自社が他社の商標権を侵害していないかといった点に注意することが求められます。

以上(2019年4月)

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画像:unsplash

実践的な業務改善に使える5S活用法

書いてあること

  • 主な読者:効果的な業務改善策を打ち出せずにいる経営者
  • 課題:業務改善の取り組み方法が分からない
  • 解決策:「5S」の考え方を業務改善に転用する

1 言われるまでもない「業務改善」

現在、働き方改革の文脈で「業務改善」が叫ばれていますが、経営者に言わせれば、経営を始めた瞬間から意識している課題でしょう。しかし、これがなかなかうまくいきません。

業務の見える化や標準化などを進めるといっても抜本的な改革には至らず、局所的に改善されれば、別の場所で問題が出てきます。また、そもそも“削る”ことが前提の業務改善は、従業員にとっては楽しくないのです。

とはいえ、限られた人員で効率性や生産性を追求することが求められる経営に、業務改善は必須です。こうした問題意識を持つ経営者にご提案したいのが、職場環境の改善に使われる「5S」を応用した業務改善です。早速、見ていきましょう。

2 5Sの考えに基づく業務改善策

「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表す5Sは、考え方がシンプルで分かりやすいため、従業員は業務改善という漠然とした施策であっても、取り組むべき内容をイメージしやすくなります。

5Sによる職場改善活動を経験済みの企業ならなじみもあり、業務改善のハードルを下げる効果が見込めるでしょう。5Sの5つのキーワードを業務改善に置き換えると、次のようになります。

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以降では、業務改善の進め方に合わせ、「清掃」「整頓」「整理」「清潔」「しつけ」の順に並び替えて、企業が取り組むべき業務改善策と、成功に導くポイントを紹介していきます。

1)清掃(無駄な業務を取り除く)

今ある業務を「清掃」し、無駄な業務を取り除きます。そのためには業務の担当者以外でも業務の実態を把握できるよう、図表を使って表すことが大切です。

業務の全体像を俯瞰(ふかん)できるようにします。具体的には、業務を粒度に応じて3段階(大・中・小)程度に分類し、業務を構成する全ての「作業」を抽出します。例えば「受注業務」の場合、次のように業務を分類します。

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業務に関与しない従業員に図表を見せ、気になる点を指摘してもらいます。図表2の例で言えば、「『見積書の作成』は営業部で同様の作業をしているはず」「『次の納品日の確認』は受注業務には不要ではないか」などです。別の業務で同様の作業をしている従業員がいれば、「『電話による注文確認』は優良顧客に限り営業担当者の私が電話している。電話が重複しないか」などの指摘もあるでしょう。

こうして全社で業務(作業)内容や範囲を共有・修正し、何が必要で何が不要なのかを線引きします。業務の前後の工程を把握しておくと、重複する作業を見つけられるため、無駄な作業を絞り込みやすくなります。

特に、次の点に注意して業務の「清掃」を進めましょう。

  • 業務担当者以外でも業務内容を把握できるよう、可視化する
  • 作業内容を一番理解している現場の担当者主導で業務を分解する
  • 全社で業務(作業)内容や範囲の認識の違いを埋める

2)整頓(業務を標準化する)

次に、効率的な業務に「整頓」し、業務をきれいに直します。生産性の向上や属人的な作業の排除などといった、目的に照らした業務の理想型を目指します。

こうした業務像を描くときに欠かせないのが「業務マニュアル」です。何のための業務(作業)なのかを明示するとともに、どの手順で進めるのが効率的なのかを示します。担当者不在でも業務が停滞しないようにしたり、特定の従業員が持つ属人的かつ効率的な作業手法を、他の従業員に引き継いだりする上でも必要です。

業務マニュアルは、業務(作業)内容を事細かく説明するのが基本です。起こりがちなトラブルを例示したり、抜け漏れを防ぐチェックリストをつくったりしてもよいでしょう。例えば図表2の「該当商品の在庫状況確認」なら、「在庫システムと実際の在庫数が合っているか、物流センターに電話で現在の在庫数を確認する」「在庫を確保する際は、物流センターに確保数量と出荷日を報告する」などのチェックリスト例が考えられます。

特に、次の点に注意して業務の「整頓」を進めましょう。

  • 各業務の最も効率的な手順を示した業務マニュアルを作成する
  • 業務マニュアルが形骸化しないよう、手順を確認する機会を定期的に設ける
  • 作業が複雑すぎて効率化できなければ、外部委託による効率化を検討する

3)整理(業務に適した体制をつくる)

次に、標準化した業務を適切に運用できるよう、組織や部署を「整理」します。組織や部署の役割を明確にし、所属スタッフが、何のための業務なのかを理解して取り組めるようにします。

業務マニュアル同様、組織や部署ごとの役割を文書化します。部署をまたがる業務に備え、組織や部署ごとの役割分担や業務分掌を明確にすることも必要です。別々の部署が同じ作業をすることによる無駄の発生を防ぎます。

また、無駄を省いてシンプルになった業務は、これまでと同じ作業時間をかけずに済むかもしれません。経営者は業務改善によって生まれた空き時間をどう活かすのかを、事前に踏まえておくことも必要です。

特に、次の点に注意して組織や部署の「整理」を進めましょう。

  • 組織や部署ごとの役割を文書化する
  • 場合によっては、業務改善を推進する専門チームの設置を検討する
  • 新たな業務に最も適した組織や部署に再編する

4)清潔(従業員の不快感を取り除く)

次に、実際に業務改善に取り組む従業員の気持ちに目を向けます。不快感を抱いたまま取り組んでいる従業員の気持ちを、業務改善に「清潔(=真っすぐ)」に向き合うように意識を変えます。

これまでの業務内容や進め方を見直す業務改善は、少なからず現場からの抵抗を受けます。中には、やらされ感を抱いたり、面倒だと思ったりする従業員も少なくないでしょう。こうした従業員のモチベーションは施策の成否に影響します。

従業員の意識を変えるため、経営者が関与していることを表明するのが効果的です。経営者自ら、なぜ必要な取り組みなのかを、自社の置かれている危機的状況とともに説明します。こうした訴えにより、業務改善の必要性を従業員に感じ取ってもらいます。

特に、次の点に注意して従業員の気持ちを「清潔(=真っすぐ)」に変えましょう。

  • 経営者が従業員に対し、取り組みの重要性や意義を説明する
  • 従業員にアンケートを実施し、取り組みの満足度を調査する
  • 従業員に無理や負荷がかからないスケジュールを計画する

5)しつけ(改善を定着させるルールをつくる)

最後は、改善した業務内容や進め方が定着するための「しつけ」、つまりルールをつくります。業務を改善して終わりではなく、見直した業務の不備や改善点などを洗い出します。これらの課題を集約し、どのように修正するか、誰が主導して見直すかなどを決め、継続的な施策として取り組むようにします。こうしたPDCAを繰り返すことで、業務の質を徐々に高めていきます。

業務に費やす時間が、改善前後でどの程度短縮したのかを比較してもよいでしょう。思ったより短縮していない、かえって時間がかかるなどの事態を想定した対策も踏まえておくべきです。目標とする短縮時間を事前に定め、改善後の効果を検証するのも有効です。

特に、次の点に注意して改善定着に向けた「しつけ」を検討しましょう。

  • 一度の取り組みで終わらせず、継続的な施策として位置付ける
  • 改善による効果が十分でないことを前提に、対策や体制を準備する
  • 時間やコストなどの定量データによる分析・検証を実施する

3 業務の5Sを成功に導くポイント

1)高い効果を見込める業務から着手する

業務改善は、全ての業務を対象に取り組み始めると失敗します。業務の無駄を洗い出すだけで膨大な時間を要し、従業員が疲弊してしまうためです。

まずは、特に改善が必要な業務から手を加え、短期間に高い効果を見込めるようにするのが望ましいでしょう。スピード感を持って取り組むことで、従業員が業務改善の目的や効果を見失わないようにします。

その後、成功事例を他の業務や組織に横展開し、対象領域を徐々に拡大させます。期間や対象を絞った施策を複数回に分けて取り組めば、継続的な成果も見込めます。

2)業務改善の目的を明確にする

なぜ業務改善するのか、なぜその業務が必要なのかといった目的や狙い、目標を明確に示すことが重要です。目的が不明瞭なまま進めると、取り組み自体が目的化し、業務改善による十分な効果を見込みにくくなります。前述したように文書化し、全従業員が理解した上で進めることが大切です。

以上(2020年7月)

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画像:pixabay

食品スーパーの売場レイアウトの基本と差異化のポイント

書いてあること

  • 主な読者:食品スーパーの現場担当者
  • 課題:他店との差異化するために、売り場レイアウトを改善したい
  • 解決策:売り場レイアウトや陳列の基本をまとめる

1 売場レイアウトの基本

1)入口と出口の設定

店舗には入口と出口、店内を回遊するための通路が必要です。食品スーパーなどのように面積の広い店舗は、入口と出口、通路の在り方が重要になります。

入口と出口といっても、顧客を出口からは入れず、入口からは出さないということではありません。店の立地や人の流れから、メーンとなる入口を設けて、それに対して出口を設けるということです。

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入口と出口について考える必要があるのは、商品の陳列構成を考慮してのことです。商品は単に並べればよいというものではありません。顧客にどのような順序で商品を見てほしいかを考える必要があります。入口から入って出口まで、商品を見せる順序や見せ方を重視して、商品陳列に工夫を凝らすことが重要です。

顧客は、事前に買うものを決めているケースもありますが、どちらかといえば売場で決めるケースのほうが多いといわれています。例えば、特売品を求めて来店した顧客が特売品以外の商品を購入するケースなどがそうです。また、売場を見ながら夕飯のメニューを考えるケースもあります。A店とB店を見比べて購入するのも同様です。従って、いかに顧客に店内の商品を見てもらうかが重要であり、そのためには効果的な見せ方の工夫が必要です。見せ方の工夫の1つとして、見せる順序も重要な要素となってきています。

2)売場レイアウトの基本

入口を右側とした場合、食品スーパーの売場レイアウトの基本は(図表2)のようになります。店舗の規模によって、陳列棚の数などは異なりますが、全体の配列順序はほぼ同様になります。

(図表2)の売場レイアウトの場合、矢印のラインが主通路となり、主通路に沿った網掛け部分が主力商品の陳列スペースになります。

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入口を右側と左側のどちらにした場合も、入口からの売場順序は果物・野菜・魚・肉(生鮮食品)、総菜・パン・乳製品(デイリー食品)、菓子類 ・調味料・米・粉類・飲料・酒(その他食品)、消耗品・台所用品・その他雑貨というのが基本になります。

なお、生鮮食品の中でも、果物を入口に位置させるのは、季節感による変化を演出することができる点が大きいようです。

主通路に沿った陳列スペースには、顧客の注意を引きつけ購入に結びつきやすい主力商品を配置します。これは消費量が多い商品であり、購入頻度の高い商品である必要があります。より多く消費するということは、生活の中で不可欠な商品であり、また、購入頻度が高いということは、常に購入される確率の高い商品です。

食品でいえば、生鮮3品(青果、鮮魚、精肉)の他、パン、牛乳、納豆、豆腐、総菜などデイリー商品がこれに該当します。一方、米、味噌、しょうゆなどは毎日消費するものですが、購入頻度という点では当てはまりません。

食品スーパーの商品の陳列順序は一般化しており、大手量販店の食品売場や食品スーパーでは、この順序(生鮮3品→デイリー食品)に沿って売場が構成されているのが通常です。顧客は必ずしも、生鮮3品からデイリー商品へという順序通りには回りませんが、陳列の順序が決まっているので、迷わずに商品を探すことができます。

大手ディスカウントストアのドン・キホーテの商品陳列方法は、迷路を思わせるようにできており、どこに何があるのか店内を探検する楽しさを演出しています。しかし、この陳列方法は食品スーパーには向きません。食材などの買い物はルーティン(日常的な決まった仕事)の1つとして位置づけられます。食品スーパーでの買い物は比較的短時間で済ませたいものであるため、他店と大きく異なる独創的な売場レイアウトはマイナス面が大きくなることに留意する必要があります。

2 他店との差異化を図るための工夫

1)販売価格による差異化

同じ商品であれば他店よりも安く販売することで差異化が図れます。とはいえ、取扱商品すべてにおいて、他店より安くするというのは困難なので、日替わりで目玉商品を販売するとよいでしょう。何を目玉商品にするかで集客力に差異が生じます。

2)品ぞろえによる差異化

他店では扱っていない商品を扱うのが品ぞろえによる差異化です。例えば、調味料ならば世界各国のものを取りそろえている、野菜ならば京野菜を扱っているなどの他、他店にはないワンランク上の商品を扱っているなどです。

3)陳列方法による差異化

魚を切り身にしてパック詰めでラップをかけてしまうと、新鮮な魚かどうか分かりません。しかし、魚をそのまま陳列した場合はどうでしょう。眼の色、色つやなどを確認することができるため、新鮮な魚であれば、それを強調することができます。また、葉付き大根を葉が生き生きした状態で陳列できれば、新鮮さを強調することができます。

また、今夜の夕食の提案として、売場の一角にレシピ付き献立表と必要な食材一式を陳列することもあります。例えば、鮮魚売場の一角に、鍋料理の提案コーナーを設け、鮮魚売場に豆腐、白菜、水菜、たれなどの食材を一緒に陳列することで、野菜売場や調味料コーナーまで足を運ぶ必要がなくなります。

4)販売方法による差異化

販売方法の差異化については、特に量販店や食品スーパーでは、販売の効率化を求めるため、セルフ方式の販売が主流です。接客サービスを省く代わりに販売価格を安くすれば、顧客の利益につながります。過度なサービスを顧客は望んでいないものです。

1.容器・包装の工夫

最近では「環境」が重要なテーマとなっています。食品スーパーであれば、容器リサイクル法などが大きく関係してくるため、過剰包装を廃して、簡易包装にするなどの対応もとられています。従って、プラスチックや発泡スチロールの皿など過剰な包装をやめることがポイントとなります。

容器リサイクルに取り組む姿勢は、地域の生活者である顧客も同じです。プラスチックや発泡スチロールの容器は、値札のシールを剥がし、汚れを洗い流し、きれいにした上で容器をスーパー入口の回収ボックスに入れます。しかし、シールを剥がしたり、洗ったりするのは大変な労力です。できれば、このような労力は省きたいと多くの人が思っているはずです。そこで考えられるのが、昔ながらの販売方法である対面販売です。

2.販売機会損失に留意

しかし、全てを対面販売にすることはできません。そこで考えなければならないことは、最初からパックして陳列棚に並べておく商品と対面販売する商品のバランスです。

夕方の買い物のピーク時に、顧客の求めに応じて魚の刺身をつくっていたのでは、販売機会を失ってしまいます。そのため、事前に刺身をパックに詰めて用意しておく必要があります。これにより、急ぎのお客様はパック詰め商品を、また、作りたてにこだわる顧客には注文を受けてからという臨機応変な対応もできます。

3.量り売りによる対面販売

顧客の必要なものを必要なだけ販売する量り売りにします。商品を簡易包装にすることで、包装紙は焼却処分できる簡易なものとします。

量り売りは必然的に対面販売になります。店員と顧客との間にコミュニケーションが生まれます。コミュニケーションは声を出して行うことになります。これがにぎわいとなるのです。静かな店内に、店員の呼び込みの声だけが響き渡っているのでは活気がありません。しかし、店員と顧客のやりとりする声が店内に響き渡ると、にぎわいが生まれます。にぎわいが人を集め、人の集まっているところにはさらに人が集まり、活気のある売場が生まれます。

魚は顧客の求めに応じて、三枚におろしたり、ぶつ切りにしたり、お造りにしたりします。また、バックヤードの作業場の壁面の一部をガラス張りにするなどすると、作業過程を見ることができます。見せるからにはバックヤードの作業場の清潔さにも気を遣う必要があります。作業場を隠さずに見せるという店の姿勢は安心、信頼へとつながります。積極的に見せようとするのであれば、売場の中に見せるための作業場を設けるのも1つの方法です。もちろん、衛生管理面から作業場と売場とは間仕切りができていなければなりません。

3 さまざまな陳列方法

1)顧客を店の奥へと引き付けるマグネット

売場構成にメリハリをつけることで、顧客の注意を引くとともに、店の奥へと誘導し購入意欲を高めることができます。

そのためには、顧客を引き付け、店の奥へ奥へと誘導するマグネットの役割をする商品を適切な場所に配置しなければなりません。マグネットの役割をする商品は話題性のある商品、売れ筋商品、最先端の商品でなければなりません。

こうした商品を他の商品よりも目立たせるためには、商品の陳列方法にも工夫が求められます。段差を設けたり、スポットライトを当てたりして、目立つようにディスプレーする必要があります。なお、マグネット商品がいつも同じだと陳腐化してしまいます。マグネット商品は定期的に変更することで常に新鮮で活気のあふれる売場を実現することができるでしょう。

2)明るさ

人は暗い場所よりも明るい場所のほうが安心できます。店の入口は明るいほうが入店しやすいものです。また、顧客を店の奥に誘導するには店の奥をさらに明るくする必要があります。店全体を同じ明るさにするのではなく、入口と店の奥を明るく見せればよいのです。離れた所から明るさの違いを表現するには、床よりも壁面に光を当てることです。店の奥を明るく見せるには壁面にライトを当てるとよいでしょう。

3)エンド陳列売場

陳列台(じゅう器)の両端の部分をエンド陳列売場といいます。(図表3)の網掛け部分がエンド陳列売場です。エンド陳列売場は、主通路を歩く顧客を副通路に誘導する働きをします。

エンド部分は比較的目立つ場所なので注意を引きやすく、副通路に陳列してある商品の中で目玉商品といえるものを置くと、それに興味を持った顧客は副通路の奥へと進んでいきます。また、副通路の商品よりもエンドに陳列したほうが商品はよく売れます。そこで、多く売りたい商品を意図的にエンドに陳列すれば販売数量の増加につながります。

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4)見やすさ

人の視線は正面よりやや下方向を向いています。店内では顧客の視線は近くのものから店の奥に流れていくことになります。また視線は左から右へ流れやすくなっています。

右利きの人が多いことも影響しているのかもしれませんが、向かって左側よりも右側に商品を置いたほうがよく売れる傾向にあります。

腰から肩の、見やすく手で触れやすい高さを、ゴールデンゾーンと呼んでいます。前述の通り、人の視線は正面よりやや下方向を向いています。目の高さより下で、かつ手で触れやすい高さとなると肩までの高さとなります。また、腰より下の高さになると、下になり過ぎて見えにくくなります。

5)沈黙の販売員「POP」

POPとは「Point of Purchase Advertising」の略です。POPは商品内容・特徴・価値などを伝えることができます。店員の言葉以上にお客様に内容が伝わることもあります。「私が作った野菜です」と生産者の顔とコメントが付いていたら、それだけでその野菜の種まきから育成・出荷など生産段階の様子を想像することができます。

また、「私のお勧め品」として、店員の顔と名前、さらに勧める理由を付けてもよいでしょう。店舗(企業)としての売り言葉というよりも、店員個人としての意見のほうが、人間味という点でリアルに伝わるものです。

さらに、POPはポジティブな情報だけでなく、あえてネガティブな情報も追記することで、顧客との信頼関係の強化につながります。例えば、「このグレープフルーツ(○○産)は、□□産の糖度を100とすると70程度です。蜂蜜をかけてお召し上がりください」というようにです。ネガティブ情報を追記しなければならないような商品は販売しないというのも1つの方法ですが、天候不良などの影響で不作の場合、代替品の販売が必要な場合もあります。購入した顧客が不満を抱くかもしれない商品を販売する場合には、あえてネガティブ情報を追記することで、顧客との信頼関係の維持・向上を図ることができます。

POPには印刷と手書きが考えられますが、どちらがよいかは一概にいえません。印刷は美しさの点で手書きより優れています。一方、手書きは味や個性の点で印刷より優れています。

6)安心できる陳列

人はきれいに並んだものを美しいと感じ、好ましく思うものです。これはバランスが取れているということでもあります。人は色彩・素材・サイズ・形など似たものが一緒になっていると見やすく分かりやすく感じます。

商品陳列をする場合、商品分類をはじめとして、ブランド別・価格別・色別・素材別・目的別などで商品グループをまとめることになります。見た目を意識すれば、形と大きさでまとめることになります。しかし、定規で測ったようにあまりに美し過ぎるものは、それを乱すことを避けたいという意識が働きます。また、人は統一された中に秩序ある変化があると楽しい感じを受けます。従って、美しさの中にあえて不規則な陳列を行うことで、緊張感ではなく安心感を演出することができます。

商品を陳列するとき、平面的に並べる方法と立体的に並べる方法があります。一般に、人は平面的に並べられたものより立体的に並べられたものに注目しやすく、強い印象を受けます。従って、エンド陳列など注意を引きたい場所の陳列などは立体陳列にするなどします。

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7)安価なイメージの演出

青果店の販売方法に一山で○○円、1かご○○円という販売方法があります。投げ売りなどの安価なイメージを演出するためのオーソドックスな方法です。この場合、ボリューム感を持たせるために藤かごの中に物を詰めて商品がかごの上に大きく盛り上がるようにします。また、かごを斜めに傾けるなどして、かごの中がよく見えるようにします。

商品を台の上に立体的にきれいに並べるのではなく、台の上に放り込んだようなイメージで商品を盛り込み、○個で○○円などとすると安価なイメージを演出することができます。しかし、この方法は傷みやすい商品では避ける必要があります。食品の場合、缶詰など多少乱暴に扱っても傷まない商品が好適です。

菓子類など、こん包用のダンボール箱に入れたまま、カッターでダンボールの上部をカットして積み上げて陳列すると、手間をかけていない販売方法として安価なイメージを演出することができます。また、バックヤードから運んだ台車に入れたまま売場に陳列する方法も取られます。これも手間をかけていない印象から安価なイメージを演出することができます。

8)目立たせるための演出と安全な売場

エクステンド陳列(張り出し陳列)は、通常のじゅう器陳列ラインよりも前に張り出させることで、他の商品よりも目立たせることができます。また、アイランド陳列(島出し陳列)で、通路の真ん中に陳列台を置いて商品を陳列すると、目立ちます。エクステンド陳列もアイランド陳列も、売場が整然と整理されている場合に、有効な演出方法です。

なお、顧客がカートを利用する場合、通路幅はカートとカートが容易にすれ違うことのできる幅を確保しておく必要があります。また、ピーク時に顧客が集まる売場は、通路を広めに空けて、混雑を避ける必要があります。

以上(2018年10月)

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新商品を開発するに当たっての一般的なプロセス

書いてあること

  • 主な読者:製品開発の新任担当者
  • 課題:新製品を開発するためのアイデアの出し方やマーケティングの方法を知りたい
  • 解決策:新商品開発の一般的なプロセスと、それに伴うマーケティング分析や販路の確保について解説する

1 新商品開発のプロセス

1)アイデア

新商品は、開発を目的にアイデアを創出するケースと、思いついたアイデアを基に新商品を開発するケースがあります。

前者の場合、ある一定期間を設けてアイデアをスタッフから募ったり、ブレーンストーミングなどの手法でアイデアを集めるのが一般的です。後者の場合は、アイデアを出そうと思って考えたわけでなく、「こんな商品があったら売れるのでは?」という偶然のアイデアから商品を開発するものです。

しかし、いざアイデアを捻り出そうと思ってもなかなか良いアイデアは浮かばないものです。そのため、社内で「提案制度」などを設けて定期的にアイデアを募集する体制が求められます。

また、アイデアの創出という意味では、顧客のニーズを取り入れることも重要です。クレームなどをデータベース化して商品開発のアイデアとして利用したり、消費者調査などを通じて「消費者の生の声」を集めるようにするのもよいでしょう。また、近年では小売業とメーカーなどの異業種が情報やノウハウを共有して共同で商品開発を行うケースも見られます。

2)マーケット分析

新商品のアイデアが出そろい、どのアイデアを採用するのかという段階では、それぞれのアイデアのマーケット分析を行います。「市場・顧客の動向」「競合他社の商品」「自社の経営資源」などの分析を行い、一番良いアイデアを選定します。

その際、「消費者へのアンケート調査」などを実施して好評だったアイデアを選ぶのも一つの方法ですが、自社に市場分析を行うノウハウがない場合は、外部へのアウトソーシングを検討するとよいでしょう。

3)企画

この段階では、各種スケジュールや予算、製造方法などを企画します。具体的には「試作品」「消費者モニター」「販売代理店募集」「製造」「営業」「販売日」などのスケジュールを立てるとともに、「開発費」「材料費」「労務費」「経費」などのコスト算出や、「外注先の選定」などの製造方法を検討します。同時にそれぞれの項目ごとに、スケジュール、予算、品質などの管理責任者を決めます。

また、できれば企画の段階で、「販売数の見込み」とともに、開発費、材料費、人件費などを考慮に入れた「利益の見込み」も立てておきたいものです。その結果、どうしても利益の確保が望めないということが分かれば、商品化を見送ります。

4)開発

開発の段階では、まず仕様書を作成し、それを基に試作品を完成させます。試作品はなるべく完成品に近いものが望ましいのですが、ここで問題となるのは製造コストです。いくら良いものでも製造コストが多大にかかるのであれば大量生産ができません。大量生産を念頭において材料・素材の選定を行い、場合によっては外注を検討します。自社の技術レベルや機材の有無によっては外注の方が結果的に安く上がることも少なくありません。

いかに製造コストを下げることができるのかという点を踏まえながら開発することが重要です。

5)テストマーケティング

試作品が出来上がったら、その商品が本当に計画通りに売れるのかどうかを検証します。消費者モニターのほか、限られた地域での市場テストや営業テストなどを行い、予想通りの販売が見込めるのかを調べます。

その際、期待通りまたは期待以上の販売結果が得られれば、すぐにでも商品化し、全国に向けて販売することができます。逆に期待通りの結果を得られなかったときは、たとえ企画の段階で売れるという結果が出ても「実際は売れない」と割り切り、商品化は見送るべきでしょう。ここまでの開発費は無駄になりますが、売れない商品を市場に導入する意味はありません。再度アイデアまたは企画の段階からやり直します。

6)商品化

テストマーケティングが終了したら、いよいよ商品化となります。大量生産を踏まえた製造方法の確立、パッケージの選定、広告戦略の推進などを行い、販売を開始します。

その際、商品の種類にもよりますが、流通ルートの開拓も重要となります。企画の段階で定めていた営業方法のほかに、代理店の選定や特殊なルートでの販売方法など、さまざまな拡販方法を推進します。

また、顧客へのアフターフォローの仕方や、クレーム処理の対処方法などもこの段階で明確にしておきます。

7)販売後のフォロー

販売を開始した後は、ただ売ればよいというわけではありません。顧客からのクレームや意見を集め、商品の仕様やパッケージの見直しを図ります。

2 マーケティング分析と販路の確保

新商品の開発に当たっては、正確なマーケット分析とともに、販路の確保が重要です。

通常、新商品というと、次のような商品に分類できます。

  • 今までにない全く新しい商品
  • 他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品
  • 既存商品に何らかの改良を加えた商品

それぞれの分類ごとにマーケット分析や販路確保の手法は異なってきます。また、商品のライフサイクルによっても商品の仕様やコンセプトを変更する必要があります。

以降では、新商品を開発・販売する上で留意することをまとめます。

1)今までにない全く新しい商品

今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、その市場規模は未知数となります。商品を購入する消費者の「年齢層」「性別」「嗜好」のほか、「デザイン」「販路」「年間販売量」「将来性」などを考慮し、確実に売れることが見込めた段階で参入することが求められます。これらのノウハウを自社が持っている場合は問題ありませんが、そうでない場合は自社のノウハウだけに頼らず、次のような業種と協力することによって商品を企画していくことが近道になるかもしれません。

  • 商品企画会社(売れる商品の企画)
  • リサーチ会社(消費者へのアンケート調査やマーケット分析)

これらの中で最も頼りにすべきは、商品企画会社(企画デザインプロダクション)です。リサーチ会社の場合、それぞれの商品に対して調査や分析を行うのが仕事であり、売れるかどうかの見込みはあくまで予想となります。参考とはなるものの、実際の販路開拓は期待できません。

一方、商品企画会社の中には強力な販路を持ち、その販路での売り上げが期待できる商品を企画している会社もあります。そのような商品企画会社と提携し、将来的には自社で企画開発ができるようにノウハウを吸収することが大切です。なお、優れた商品企画会社を見つけるためには、今までの実績のほか、「具体的な販路を提示できるか」が重要なポイントとなります。

商品企画が決定した後は、販路を探すこととなります。販路はできれば企画の段階で見込みを立てておくことが望ましく、「このような商品があったら取り扱ってくれますか」といった問い合わせをするとともに、「○○円以下であれば○○個発注してもよい」というレベルの販路をいくつか開拓し、確実に採算が合うと判断できた段階で商品化することが求められます。

なお、今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、当初は、価格競争に巻き込まれることはなく、価格も強気に設定できます。しかし、競合商品が現れたときにはさらなる高付加価値化や生産コストの見直しによる低価格化が必要となります。競合商品の動向を見据え、常に売れる商品開発を行うことが大切です。

2)他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品

他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品の場合、既存市場への参入となるため、市場の把握はもとより、消費者へのアンケート調査が重要となります。「他社商品と比べてどう思うか」「いくらなら購入するのか」などという商品そのもののアンケートのほか、「パッケージのデザイン」「購買意欲をそそるキャッチコピー」など、十分な調査を重ねた上で商品化することとなります。できれば消費者アンケートの専門企業(リサーチ会社など)に依頼し、正確で客観的な情報を入手するとよいでしょう。

既存市場への新規参入は、通常「既存品よりも安くて良いもの」、「既存品よりも高いが付加価値が付いているもの」のいずれかを販売することになります。前者の場合は、商品1個当たりの利益は少なくなるので、大量に販売しなければ利益の確保が難しくなります。後者の場合は逆に高付加価値を前面に押し出し、なるべく商品1個当たりの利益が大きくなるようにすることが求められます。

販路に関しては、大手の販売店や問屋への営業のほか、通信販売やインターネット上での販売など、独自の販売ルートも検討したいものです。営業先の選定は、それぞれの業態や商品のカテゴリごとに業界団体を調べ、その業界団体から名簿を入手するのが早道となります。名簿を公表していない業界団体に関しては、大手企業を数社紹介してもらうなど、効率的な営業を心がけます。

3)既存商品に何らかの改良を加えた商品

既存商品に何らかの改良を加えたものを新商品として販売する場合は、従来のデザインやパッケージをそのまま踏襲するのではなく、何らかのリニューアルを加えたほうがよいでしょう。

もっとも、現在の売れ行き状況や、競合の度合いによってデザインやパッケージのリニューアル方法は異なってきます。

例えば、「市場でのシェアはナンバーワンだが、競合商品によって販売数が減少している」という商品の場合、何らかの改良を加えて商品の高付加価値化を図ることは非常に有効です。その際、商品が成長期にあるときは、機能強化や容量の増加、新材料の採用など、高付加価値化をアピールするにとどめ、大幅なリニューアルはしないほうが得策です。せっかく構築した認知度を下げてしまうことを避けるためです。

一方、商品が成熟期にあり、「買い換え需要を狙う」という状況の場合は、デザインやパッケージの大幅なリニューアルが効果的でしょう。商品の種類にもよりますが、新商品として販売すれば、競合商品よりも新鮮な商品であることをアピールできるからです。

以上(2018年10月)

pj70024
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「価格戦略」の基本

書いてあること

  • 主な読者:価格決定をしなければならない経営者や担当者
  • 課題:価格設定を担当者の勘に任せてしまっている
  • 解決策:従来の価格設定法に加え、顧客が価格を決めるPWYW方式を紹介。また、価格戦略のポイントを解説する

1 なぜ同じ“食べ物”でも、価格改定の影響度合いが違うのか

2019年10月から消費税率が10%に引き上げられる一方、酒と外食などを除く食品全般は税率を8%に据え置く対象になっています。税率を8%に据え置く際に、特に注目を集めたのが「どこまでを外食として認めるのか」という点です。外食の場合、価格弾力性が大きいため、増税が需要を大きく減少させる可能性が高いからです。

価格弾力性とは、価格が1%上昇したときに、需要が何%減るかを表したものです。価格弾力性が1を下回る場合、価格の増減の変化の影響を受けにくく、1を上回ると、価格の増減の変化の影響を受けやすいとされます。

基本的には、価格弾力性の大きい商品は、他の商品で代替が可能であり、所得と比べて支出割合が大きい傾向にあります。そのため、値上げが難しく、値下げが効果的だとされています。

一方、価格弾力性の小さい商品は、他の商品で代替することが難しく、所得に対する支出と比べて支出割合が小さい傾向にあります。そのため、比較的値上げが受け入れられやすく、値下げしてもそれほど大きな効果が無いとされます。

総務省「家計調査(2018年)」を見ると、「外食」は1.908と1を上回っています(注)。なお、同じ食べ物でも、生活必需品である「食料」は0.625であり、値上げをしても外食ほど大きな影響は受けない可能性があります。

価格設定は、単に「安ければよい」というわけではなく、商品の特性を踏まえ、自社の利益が確保できる、適正な価格を検討することが重要です。

なお、いずれの価格設定法も一長一短があるため、企業では商品特性や顧客のニーズ、自社の販売戦略などを勘案しつつ、複数の方法を用いながら、価格を検討するのが一般的です。

(注)総務省「家計調査(2018年)」より「支出弾力性」を紹介しています。「食料」には「外食」を含めて「穀類」「肉類」などが含まれます。

2 基本的な価格設定法

1)コスト志向の価格設定法

コストを基本に置き、企業が安定した利益を得ることを目的として価格を設定する方法です。

1.コストプラス法(原価加算法)

商品のコストに、一定の利益率または利益額を加えて価格を設定します。

2.マークアップ法

卸売業者・小売業者が売価を決めるために使う方法です。仕入れ原価にある一定の利益率または利益額を加えて価格を設定します。

3.目標収益法

損益分岐点分析を利用した方法です。企業の目標とする投資収益率(ROI:Return On Investment)を実現できるように価格を設定します。

2)競争志向的な価格設定法

市場に既に出回っている商品や競合企業の価格を基準とし、それを模倣したり、基準よりも少し下げたりして自社の価格を設定します。

3)需要志向的な価格設定法

顧客側の事情を勘案して、自社の価格を設定する方法です。

1.知覚価値型価格設定法

マーケティング調査などによって、「いくらなら購入するか」などを顧客に聞いて自社の価格を設定する方法です。原価が顧客の希望する価格よりも高い場合は、コストカットや仕様の見直しなどを行い、その価格帯に原価を近づけます。

2.需要価格設定法

市場セグメントごとに、価格を変化させる方法です。顧客層(学割など)、時間帯(早朝割引など)、場所(グリーン車など)によって、異なった価格を設定します。

3.心理的価格設定法

「498円」などの端数を用いたり、「ジュースは1本130円」といったよくある価格や、ある商品に対して持つ顧客の心理的反応・知覚に基づいて設定する方法です。

4)戦略的な価格設定法

商品単体の価格設定を考える際の基本的な方法は前述の通りですが、この他にも、戦略的な視点から価格を検討する方法もあります。代表的なものは、新商品の価格設定法である、スキミングプライスとペネトレーションプライスです。スキミングプライスは、高価格を設定し、早期に開発コストなどを回収する方法です。一方、ペネトレーションプライスは低価格を設定し、市場シェアの獲得を目指す方法です。

この他にも、「複数商品のセット価格を単品価格の合計よりも安くする」といったように、複数商品を考慮した価格設定法などがあります。

3 顧客に価格を決めてもらうPWYW方式

前述のような価格設定法は、以前から見られるものですが、売り上げや収益を最大化するために、多くの企業では最適な価格を求めてさまざまな工夫を行っています。

例えば、比較的新しい価格設定法の1つに「ペイ・ワット・ユー・ウォント(ペイ・アズ・ユー・ウィッシュともいわれます。以下「PWYW」)方式」があります。この方法は、「顧客が価格を決める=価値に見合うだけの価格を支払う」というものです。世界的に人気のあるロックバンドが、この方式を使って新作アルバムをiTunes上で発売したことから話題になりました。日本では愛知県のはづ別館が導入しています(前日までの予約客のみが対象です。あらかじめ料金が設定されている日があるなど例外もあります)。 最近では、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが、商品の配送時に掛かる送料を顧客が自由に設定できる「送料自由」を試験導入しました。その結果、送料として設定された金額の平均は、税込みで96円で、送料が0円で設定された割合は43%に達しました。この結果を受けて、同社は通常配送の送料を税込みで一律200円に改訂しました。

「PWYW方式では、利益が確保できないのでは?」と思いがちですが、一部の企業ではPWYW方式で成功を収め、同等の商品に比べて高い価格を支払う人も多数いるようです。PWYW方式で成功している企業は、顧客から商品の価値を認められているからこそ、適正な利益を確保することができます。

なお、「顧客が認めた価値に見合うだけの価格を支払う」というPWYW方式の価格設定は、基本的にBtoCが対象であり、「できるだけ安く」という経済合理性が特に強く働くBtoBには適していません。また、PWYW方式は、飲食や宿泊、音楽や書籍といった経験や満足度など、実体の無い価値を提供している商品が適していて、形のある商品の場合、他の商品と価格比較が容易なので、買いたたかれてしまう可能性が高く、導入には向いていません。

4 Pepperに学ぶ価格戦略

1)Pepperの価格

ここでは、ソフトバンクが手掛けるロボット「Pepper(ペッパー)」の事例を紹介します。

現在、Pepperは、個人・法人の双方が利用できる「Pepper(一般販売モデル)」と、法人のみの「Pepper for Biz(法人向けモデル)」がありますが、ここでは一般販売モデルを取り上げます。

【一般販売モデル(本体のみ購入可能・価格は全て税抜き)】

  • 本体:19万8000円
  • サービスなど(任意加入・クラウドサービスなど+保険・最低36カ月の契約が必要):2万4600円(月額)×36カ月=88万5600円
  • 合計:108万3600円

2)市場に浸透させるための戦略的な価格設定

発売当初のPepperは、ペネトレーションプライスを設定しています。孫正義社長がPepper発表の記者会見の際、19万8000円の販売価格は「製造台数が少ないこともあり、現状では製造コスト以下だ」と発言しているように、本体のみの販売では赤字になるような価格設定をしていました。

Pepperは2015年に発売され、クラウドサービスや保険などのプランの契約期間が3年で更新されます。Pepperを開発・販売するソフトバンク傘下のソフトバンクロボティックスによると、大半の利用者が契約の更新をしているそうです。

ソフトバンクは、コスト以下であっても価格を抑えて、まずは市場シェアを獲得することを最優先としたマーケティング目標にしているのでしょう。

5 BtoCとは異なるBtoBの価格戦略

1)BtoBの価格設定の特徴

本稿で紹介してきた内容は、BtoCの価格戦略を前提としています。一方、BtoBにおける価格設定は、BtoCとは異なり、価格を公表しないことが多くなります。これは取引金額が多額になること、取引関係が継続的になることなどから、次のような点を考慮しながら、購入先と個別に交渉して価格を決定するためです。

  • 商品の仕様
  • 販売数量
  • 取引条件(支払時期・方法、納期、納品方法、販売後の保証など)
  • 過去および現在の取引実績
  • 今後の取引数量・継続の可能性
  • 購入者との力関係や依存度
  • 販売先の予算
  • 競合する商品の価格

これらの点を考慮して価格を決定するため、同一の仕様・販売数量・取引条件であっても、実際の販売価格は販売先によって異なることがあります。また、今回、販売することによって、今後、多額の取引が見込める場合などは、商品を購入してもらうことを優先するために、大幅な赤字となる価格で販売することもあります。

交渉によって価格を決定する場合は、原価を把握しておく、BtoCと同様の方法で社内的な基準価格、取引数量と割引率などを明示した標準的な割引表、取引数量などを基にした最終決裁者を決めておくなど、実際の販売価格をスムーズに検討するための資料や規定を作成しておくとよいでしょう。

2)価格を公表するか否かの基準

BtoBの商品であっても、価格を公表したほうがよい商品もあります。具体的には、次のような商品は、個別交渉に掛かる手間やコストの削減などを勘案し、価格の公表を検討してもよいでしょう。

  • 取引金額が少額になる商品
  • 仕様や取引条件を標準化できる商品
  • 販売先が多数にわたる商品

ただし、価格を公表すると、前述したような柔軟な価格設定を行いにくくなるので、慎重に検討する必要があります。例えば、購入者の予算などを勘案し、標準的な価格よりも高い価格で販売できる場合もありますが、価格を公表していると、こうした価格設定は難しくなります。

なお、価格を公表する場合は、基本的にはBtoCと同様の方法で価格を決定することになります。

6 今こそ、価格戦略を見直そう!

価格決定は、企業の収益を左右する重要な事柄です。とはいえ、重要であることは理解していても、体系的な価格戦略を持っている企業は限られているようです。

裏を返せば、多くの企業が「競合企業が値上げした」「顧客から値下げ要請があった」といった場面で慌てふためき、場当たり的な対応に終始しているのではないでしょうか。

例えば、社内の基準となる価格は、先達がマーケティング調査や顧客の声を反映して決めたものでしょうが、その内容は現在のビジネス状況に合致しているでしょうか。何年も前から改定されていないものであれば、再度マーケティング調査や顧客アンケートなどを実施して、改めて価格戦略について見直してみましょう。

以上(2019年4月)

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小さな会社でもアピールできる会社案内のアイデア集

書いてあること

  • 主な読者:「会社の名刺」として会社案内を作成したい経営者・担当者
  • 課題:取引先や顧客向けに会社案内が必要
  • 解決策:自社が属する「業界イメージ」などを踏まえて、「冊子の形状や色」「載せる内容」などを決定する

1 会社案内のコンセプト

「会社案内」は自社の“顔”です。住所や連絡先などの基本情報の他に、事業内容などを簡潔に記載することで、ウェブサイトと並び自社のことを知ってもらうための有効なツールになります。

新たに会社案内を制作する際は、まずはコンセプトを明確にしましょう。その際、業界の特徴を考慮することが大切です。例えば、介護・福祉業界の場合は「温かさや清潔感」といったように、消費者が各業界に期待しているイメージがあり、それを無視するのは得策ではありません。洗練されているとはいえ、介護・福祉業界の会社がデザイン会社のような会社案内を作成すると、介護・福祉サービスの利用者である高齢者などから敬遠されてしまう恐れがあるのです。

そのため、会社案内を作成する際は、同業他社の会社案内を入手するなどして、必ず次のような業界特有の雰囲気を確認しておきましょう。

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会社案内を構成する代表的な要素は「形、素材、色、内容」です。コンセプトから大きく逸脱することなく、これらの要素をうまく組み合わせながらオリジナルの会社案内を制作しましょう。

会社案内の制作代行サービスを行う会社に相談してみるのも一策です。各社ともノウハウ、価格、デザイン性、スピードなどそれぞれの持ち味を売りにしているようです。近年は紙媒体だけでなく、ウェブサイトや動画による会社案内とコラボレーションしたプランも提案してくれます。

2 会社案内のアイデア:形

よく見られるA4サイズの会社案内の形状はさまざまで、表紙と裏表紙に挟まれた見開きの形のものから、表紙と裏表紙を含めて数十ページを超えるものまであります。レストランのメニュー表のように細長い形状の会社案内もあります。また、細長い三つ折りのものなどもあり、その形状の例は次の通りです。こうした会社案内は、「センス良く見える」「スマートに見える」などの理由で人気があるようです。

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さらに楕円形や、表紙をくりぬいたものなど、さまざまな形状の会社案内があります。従来の形にとらわれない形状の例は次の通りです。

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図表3以外にも、例えば楽器メーカーの会社案内であればピアノの形状、住宅メーカーであれば表紙に長方形のドアが貼ってあり、ドアを開けて会社案内に「入っていく」ような形状などさまざまな例が考えられます。ただし、斬新な形状で目を引くものであっても、自社の事業内容との関係性が感じられないようでは意味がありません。

3 会社案内のアイデア:素材

会社案内で使用される紙質は、表面に光沢がありツルツルしている「コート紙」が中心ですが、この他にもさまざまな種類があります。面白い素材としては、和紙・わら半紙・段ボールなどがあります。また、紙以外では麻布などが使用されることもあります。

和紙やアルミ箔など一般的に会社案内には使われない素材をそのまま会社案内に使用すると、印刷コストが高くなったり、「読みにくい」「ページがめくりにくい」などの問題が出てきたりします。この場合、和紙などはそのまま使用するのではなく、コート紙などに和紙などの模様を印刷して和紙風にするなどの工夫をするとよいでしょう。

この他、梱包材やジグソーパズルなどをコート紙に印刷して背景や模様にすると、デザイン性の高いユニークな会社案内になります。

4 会社案内のアイデア:色

1)基本の配色パターン

会社案内にたくさんの色を使用すると、読み手は「楽しそう」という印象を持ちます。一方、使う色を減らせば、「落ち着いている」という印象を持つでしょう。同様に、配色のコントラスト(対照)がはっきりしていれば、読み手は「メリハリがある」という印象を持ちますし、同系色でまとめていれば「統一感がある」という印象を持つでしょう。

実際に会社案内を制作する際は、コンセプトに基づいた色使いをします。例えば次のように、最初からある程度、使用する色の方向性を決めておくとよいでしょう。

  • 明るい元気な色を中心:オレンジ、黄色、赤系統などの色
  • 爽やかな自然を感じさせる色を中心:緑、黄緑、茶系統などの色
  • クールさを感じさせる色を中心:青、水色、白、グレーなどの色

また、色の系統は次のような配色で考えることもできます。

2)コントラスト配色

色の明るさ、暗さなどのバランスで配色をまとめる方法です。例えば、黒に対してオレンジなどの対照的な色を組み合わせることによって、人目を引く効果が期待できます。チラシや看板広告などによく用いられる配色です。

3)アクセント配色

コントラスト配色と類似したイメージですが、似たような色使いの中にアクセントとなる色を配色することで、目立たせる効果があります。例えば、薄い緑色と薄い黄緑色をベースに、目立たせたい部分にオレンジや黒などの強い色をアクセントカラーとして配色すると、見た目が引き締まります。

4)優しい配色

パステル調の淡い配色でまとめると、全体的に優しい雰囲気に仕上がります。例えば淡い黄色、淡いピンク色、淡い水色、白などを基調としてまとめる方法です。

5)鮮やかな配色

ビビッドカラー(他の色の混ざっていない純粋な赤、青、緑などの鮮やかな色)の配色でまとめる方法です。純粋な強い色はビビッドの名の通り鮮やかに目に飛び込んでくるため、イベントのチラシやショーウインドーなどによく見かけられます。ただし、ビビッドカラーを使用する際に注意したいのは、それだけでまとめてしまうと全てが鮮やかになってしまい、目立たせたい部分が埋もれてしまう恐れがあることです。ビビッドカラーを効果的に使用したい場合には、淡い色などと組み合わせるほうがよいかもしれません。

6)配色パターンの応用編

配色パターンによって読み手の感じ方は変わります。会社案内を制作する際に、配色について勉強してみてもよいでしょう。

また、変わった色使いとしては、印刷会社などで本刷りする前に、校正・確認用に青くプリントアウトする「青焼き」という状態の印刷物をそのまま使用したり、昔の写真のようなセピア調でシックにまとめたりするなどの方法が考えられます。例えば、社屋や社屋周辺の地域の写真を全てセピア調にして、昔懐かしい風景に仕上げると面白いかもしれません。

5 会社案内のアイデア:内容

内容にはキャッチコピーや文章、写真などがあります。写真であれば社屋や代表者、また従業員一同の写真、研究開発装置や機械の写真などの他に、次のような案も考えられます。従業員一人一人に自由な意見を求めると、より幅広い意見が集まってくるでしょう。

  • 読み手が会社の入り口から入って社内を散策しているかのように、道順に沿った社内風景を写真で順番に掲載する
  • 会社の窓から見える四季折々の風景を掲載する

また、掲載する文章としては、事業概要や会社の沿革の他に、次のような内容を盛り込んでみるのもよいでしょう。

  • 機械や品種などの研究開発に関する秘話
  • 商品にまつわる小話や歴史
  • 従業員の座右の銘や尊敬する人物

会社案内の中で新商品を開発する際のアイデア募集の告知を行ったり、クーポン券やクジなどを付けたりしても面白いかもしれません。この他、自社・商品のキャッチコピーを工夫するとより効果的でしょう。キャッチコピーは、伝えたいことを簡潔かつ的確に表現するものであることが重要です。

6 さまざまなアイデア例

これまでに紹介してきた4つのアイデアをベースに、営業や採用など目的に合わせて工夫を凝らした会社案内を制作している会社が多くあります。そうした事例のいくつかを以下に紹介します。なお、現在さらにリニューアルなどが加えられ、表にまとめた形態とは異なるものもあります。

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7 会社案内は「自社の名刺」

今どきはウェブサイト上で自社の会社案内を紹介するのが一般的です。また、ツイッターやフェイスブックなど手軽に情報発信できるツールを活用して、自社のウェブサイトへのアクセスを促したり、商品やサービスの情報を公開したりする会社も増えています。広い意味で捉えると、こうした方法も会社案内の1つといえるでしょう。

会社案内は自社の“顔”であり、自社のことを知ってもらう「名刺」のようなものです。会社案内を制作する際には、コンセプトを明確にした上で、従業員それぞれがアイデアを持ち寄りながら、世界でたった1つの「名刺」を目指してみましょう。

以上(2018年4月)

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いまさら聞けない「のれん」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:「のれん」の実態や、財務上どのように影響するのか分からない
  • 解決策:のれんは超過収益力(買収価額と買収企業の純資産額の差額)をいい、財務上無形固定資産に計上する。税務上の取り扱いも要注意

1 「のれん」とは何か?

「のれん」とは、超過収益力を表したものとよくいわれます。会計的には、被取得企業または取得した事業の買収価額が、取得した資産および引き受けた負債の純額(以下、「純資産価額」)を超過する額と表現されます。図表1の通り、純資産価額を超過する買収価額のM&Aが成立するのは、そこに超過収益力の価値が含まれているためと考えられます。

なお、被取得企業または取得した事業の買収価額が純資産価額を下回ることもあり得ます。この場合の不足額は、「負ののれん」といわれ、マイナスの超過収益力として買収価額の算定に当たり減額要素となります。

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2 「のれん」はなぜ発生するのか?

M&Aにおける買収価額は、被取得企業または取得した事業の純資産価額と一致するとは限りません。買収価額は、被取得企業または取得した事業の資産および負債の買収時の時価評価額(以下、「時価純資産価額」)のみで決定されるものではなく、被取得企業または取得した事業の収益性・成長性、仕入先・販売先ルート、優れた営業力・技術力・人員、ブランド等の無形の価値も反映して決められるためです。

時価純資産価額に無形の価値を反映したものが買収価額となるため、この無形の価値が「のれん」として認識されることになります。

「負ののれん」の発生原因には、M&A実施後に大規模なリストラクチャリングに関連する費用の発生が見込まれる等、被取得企業または取得した事業に関連して発生する費用負担額を、買収価額の算定に当たって減額した場合等が考えられます。

●設例1

  • 被取得企業の貸借対照表(以下、「BS」)の純資産価額は10でした。これを時価評価した結果、保有する土地の時価が10増加していたため、時価純資産価額は20となりました。
    被取得企業の得意先には大口顧客が多く、今後も高い収益性が見込める状況です。
    買収価額が20であれば、時価純資産価額20と同額のため「のれん」は発生しません。
    買収価額が50であれば、高い収益性という無形の価値が反映されていると考えられ、時価純資産価額20を超過する30が「のれん」として認識されます。

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3 「のれん」の会計上の取扱い

「のれん」は無形固定資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。「のれん」の償却費は販売費及び一般管理費に計上します。実務上は、償却期間を5年とするケースが多く見受けられます。

償却期間を長く設定することで、1年当たりの償却負担額を少なくすることが可能ですが、「のれん」は減損会計の適用対象でもあるため、償却期間の途中に「のれん」の価値が損なわれた場合、一時に多額の減損損失を負担することもあります。

なお、「負ののれん」は発生した事業年度に全額を特別利益に計上することとなります。

●設例2

  • 設例1の「のれん」30を5年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は6となります(図表3、黒色の長い棒部分)。10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3となります(図表3、オレンジ色の短い棒部分)。
    償却する総額はいずれも30で同額ですが、5年間で償却した場合、前半の5年間は10年間で償却した場合より1年当たりの償却負担額は3多くなります。後半の5年間は1年当たりの償却負担額は3少なくなります。

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「のれん」を10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3(図表4、オレンジ色の短い棒部分)となりますが、5年目に「のれん」の価値が全部損なわれ、未償却残高15が全て減損損失となった場合、償却負担額3に加え減損損失15(図表4、赤色の長い棒部分)を一時に負担するため、5年目の損益に大きな影響を及ぼす懸念があります。「のれん」自体を個別に売却するのは困難であることを考慮すると、合理的に説明ができる範囲内で、なるべく短期間で償却することが健全な対応と考えられます。

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4 「のれん」の税務上の取扱い

純粋な第三者間による組織再編のような非適格組織再編において、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を超過する額を「資産調整勘定」として計上します。「資産調整勘定」は5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は損金の額に算入します。また、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を下回る額は「差額負債調整勘定」として計上します。「差額負債調整勘定」も5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は益金の額に算入します。

「資産調整勘定」は会計上の「のれん」に、「差額負債調整勘定」は会計上の「負ののれん」に対応する概念となります。ただし、会計および税務において、償却期間の考え方が異なっているため、同一の償却期間とならない場合、申告調整および税効果会計の適用が必要になります。

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5 M&Aを考える中小企業経営者が知っておきたい「のれん」に関するリスクと対策

前述の通り「のれん」は、被取得企業または取得した事業の無形の価値であり、買収価額と時価純資産価額の差額として把握されます。被取得企業または取得した事業を過大に評価した場合、割高な買収価額となり、結果として「のれん」も多額となります。この場合、被取得企業または取得した事業の収益力は買収時の見込みを下回ることが多く、「のれん」償却額に比較し十分な売上が確保できないばかりか、「のれん」の価値の毀損による減損損失の計上で、業績が圧迫されるリスクがあります。

このリスクを低減するためには、被取得企業または取得した事業を適切に評価した買収価額を算定することが何よりも重要です。以下は、中小企業におけるM&Aの実務で広く普及している主な買収価額の算定式です。

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算定式から分かる通り、時価純資産価額の算定に当たって資産および負債の時価評価を適切に実施する必要があります。また、「のれん」の算定に当たっては、適切な営業利益の算定および妥当な倍率を判断することが欠かせません。

ただし、いずれの算定に当たっても専門的な技能を要する局面が多いことから、金額的重要性が乏しいM&Aを除き、公認会計士や税理士等による財務的・税務的なリスクの詳細調査(デューデリジェンス)を実施した上で判断することが、中小企業のM&Aにおいて効果的な対策と考えられます。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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経理担当者でも迷う社会保険の会計・税務処理を徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:社会・労働保険の会計上の取り扱いの整理がしたい経理担当者
  • 課題:社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑でわかりにくい
  • 解決策:社会・労働保険の基礎知識をまとめ、事例を用いながら会計処理を解説する

1 社会・労働保険と会計処理

多くの中小企業は、独立した経理部門や人事部門を設置していません。しかし、労務、会計、税務の業務は少しずつ重なるため、担当者は幅広い知識を持っていないとスムーズに業務を処理できません。

例えば、社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑になります。また、保険料を損金算入するタイミング、つまり税務上の注意が必要です。

ここでは、中小企業の担当者が迷いがちな社会・労働保険の会計処理についての流れを紹介します。

2 社会・労働保険の基礎知識

1)社会保険

社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険をいいます。社会保険は、被保険者の月額報酬(会社から受ける毎月の給与など)を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」を設定し、この標準報酬月額に基づいて保険料の額を計算します(注)。

標準報酬月額の算定方法には毎年1回行う「定時決定」、昇給などにより標準報酬月額が大幅に変動した場合に行う「随時改定」などがあります。

なお、社会保険料は、毎月、会社と従業員が半分ずつ負担します。従業員負担分については、会社が給与から徴収し、会社負担分と併せて発生月の翌月末に納付(10月保険料の場合は、11月末日)します。

(注)賞与が支給される場合、賞与分は「標準賞与額」に基づき保険料を計算します。

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2)労働保険

労働保険とは、雇用保険、労災保険をいいます。労働保険は、一般的な事業の場合、毎年4月1日から翌年3月31日までに対象となる被保険者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて算出します。申告手続きの際は、労働保険に加えて石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金(確定分のみ)の申告も同時に行います。

保険料は算定期間の初めに賃金総額の見込額を基に「概算保険料」を算出して申告・納付します。その後、算定期間終了後における実際の賃金総額を基に確定保険料の申告を行い、概算保険料との差額分を精算します(以下「年度更新」)。

年度更新は、原則として年1回、6月1日から7月10日までの間に行われます。ただし、次のいずれかの場合には年3回の分割納付が認められています。

  • 概算保険料が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)以上の場合
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合

なお、雇用保険料は会社と従業員が一定の割合で双方負担しますが、労災保険料については全額会社が負担します。

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3 会計上の取り扱い

1)社会保険料の取り扱い

社会保険料の会計処理の方法は、預り金(負債)として処理する方法と、従業員負担分を法定福利費(費用)のマイナスとして処理する方法とに大別されます。それぞれの方法で処理した場合の社会保険料の発生月、給与支給日、社会保険料の納付月の会計処理を紹介します。

なお、それぞれの事例の前提として、10月分の社会保険料を500万円(会社と従業員で折半)とします。また、社会保険料の取り扱い以外の項目については簡略して紹介します。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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2)労働保険料の取り扱い

労働保険は毎年7月に納付する概算保険料と確定保険料の差額の調整が必要です。なお、労働保険のうち、雇用保険の会計処理の方法は、概算保険料を納付時に資産で処理する方法と、納付時に法定福利費(費用)で処理する方法とに大別されます。

ここでは、概算保険料納付時、会社負担分の月次計上時、給与支給日、翌年の年度更新時の会計処理を紹介します。なお、概算保険料を納付時に資産計上する方法においては、翌年の年度更新時に確定保険料が概算保険料を上回った場合と、下回った場合(次期の概算保険料納付額に充当する方法と還付を受ける方法)において、処理が異なるため注意してください。

それぞれの事例は前提として、2019年7月に算定した概算保険料250万円(うち、従業員負担分の雇用保険料が60万円)とします。また、労働保険料の取り扱い以外の項目については、簡略して紹介しています。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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4 税務上の取り扱い

1)税務上の考え方

社会・労働保険料ともに、会社負担分の金額については損金(税務上の費用)に算入でき、従業員負担分については損金に算入することはできません。

税務上の取り扱いで注意すべきなのは、会社負担分を損金に算入するタイミングです。社会・労働保険料は、発生時期と納付時期が一致しなかったり、概算額を計上したりするため、会計上、未払費用勘定や前払費用勘定などを用いて処理しました。税務上、損金に算入するためには、原則、債務が法律的に確定していなければなりません。つまり、いつの時点で社会・労働保険料が税法上確定していると見なされるのかが重要なポイントとなります。

2)社会保険料の損金算入時期

社会保険料は、その算定の対象となった月の末日が属する事業年度に損金に算入することができます。つまり、10月の社会保険料であれば、10月31日が事業年度内にあるかどうかがポイントとなります。

注意が必要なのは、決算月の取り扱いです。例えば、3月末決算法人であった場合、3月の社会保険料の算定の対象となった月末は3月31日であるため、その事業年度の損金に算入することができます。ただし、決算日が月末ではなく、月の中途である場合(例えば3月20日など)には、3月の社会保険料はその事業年度の損金に算入することはできません。

3)労働保険料の損金算入時期

労働保険料は、概算保険料、概算保険料と確定保険料の差額について、それぞれ損金算入時期が決められています。

概算保険料については、申告書を提出した日または納付日の属する事業年度に損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。なお、一定の要件を満たし、分割納付の適用を受けている会社はそれぞれ納付した日となります。

概算保険料と確定保険料の差額については、申告書を提出した日、または不足額を納付した日の属する事業年度の損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。

以上(2019年10月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)
(監修 社会保険労務士コレド事務所 社会保険労務士 古田美奈子)

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これだけ押さえて! 「民法改正」の要点

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法。そのポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか掴んでいない。契約にどのような影響が出そうなのか? など自社に必要な対応の目星がつかない
  • 解決策:本稿で改正のあらましを押さえて、自社に必要な対応の検討材料とする

2020年4月に民法が改正されました。よく話題になるのが「瑕疵担保責任」の言葉が無くなった点です。既存の契約では、瑕疵担保責任の条項を盛り込んでいる場合も多いと思いますが、今後(改正後)の契約では、どのような内容にすればよいのでしょうか。

瑕疵担保責任を含めて改正民法では多岐にわたる点が改正され、中には旧民法と比べて要件・効果に変更が生じたものもあります。自社の契約のどの部分に見直しが必要? などの疑問を解消するためにも、まずは改正のあらましを押さえて、対応を検討しましょう。

1 個人保証人の保護が拡充された保証債務

保証に関する規定は、改正の主要なテーマの1つです。本稿では大枠のみをお伝えすることになりますが、大きく2つのポイントを挙げると、1.個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限、2.保証契約締結時の情報提供義務になります。

1)個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限

改正民法は、これまで規定されていた個人貸金等根保証契約に限らず、個人が行う根保証契約全て(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないもの)について極度額を付すことが求められ、極度額の定めがなければ根保証契約が無効になります。

そのため、これまで極度額が付されていないことも多かった次の契約では、注意が必要になります。

  • 不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務一切を保証する保証契約
  • 企業の代表者が保証人となり当該企業が負う債務等を保証する保証契約
  • 介護施設等への入居者が負う各種債務を保証する保証契約

その他、個人的な義理等から安易に保証人になった結果、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、保証人の生活が破綻するような事例が少なからず存在していました。かかる保証人を保護する必要性から、改正民法では、事業用融資(事業のために負担した貸金等債務)について、第三者が個人保証をする場合には、当該保証契約締結の日前1カ月以内に作成された公正証書において、保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思表示をしていなければ、保証契約の効力は生じないと定められました(ただし、主債務者が法人の場合における理事や取締役等、一定の場合は除かれます)。

2)保証契約締結時の情報提供義務

さらに、保証人に対して適切な情報を提供することで、保証人が履行義務を負う可能性をなるべく具体的に把握できるように、主たる債務者の財産状況やその他の債務の履行状況などについて情報提供を義務付ける規定が新設されました。主たる債務者がかかる情報提供義務に違反した場合には、保証人が保証契約を取消すことができる規定も設けられました(改正民法第465条の10第2項)。

2 新設された定型約款

さまざまな場面で使われる定型的な取引条項である約款のうち、次の要件を満たす約款は、「定型約款」として改正民法上の規定の適用を受けます。

  • 特定の者が、不特定多数を相手方とする取引で
  • 取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもので
  • 契約内容とすることを目的として上記特定の者により準備された条項の総体

例えば、鉄道・バスの運用約款、電気・ガス・水道の供給約款、インターネットサイトの利用規約などがこれに該当するといえるでしょう。

そして、定型約款であれば、次の要件のいずれかを満たす場合には、その内容を認識していなくても、定型約款の各条項に合意したものと見なされることになります。

  • 定型約款を契約内容とする旨の合意をした場合(改正民法第548条の2第1項第1号)
  • 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していた場合(同項第2号)

また、定型約款は次のいずれかに該当する場合には、一方的にその内容を変更することができます(改正民法第548条の4第1項)。なお、変更するにあたっては、効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期を、適切な方法により周知しなければいけません(同条第2項)。

  • 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
  • 変更が契約の目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更にかかる事情に照らして合理的なものである場合

このように「定型約款」に該当すると、改正民法ではさまざまな効力が認められます。そのため、対象となる約款が「定型約款」に該当するかどうかを判断する必要があります。

3 分かりやすくなった消滅時効

改正によって、時効期間はシンプルに統一され、次のように整理されました。また、時効に関する次の概念の意味が統一されました。

  • 時効の「更新」:一定の事由が発生することでそれまでの時効期間がリセットされ、新たな時効が進行する(時効期間のリセット)
  • 時効の「完成猶予」:一定の事由が発生した場合に一定期間時効の完成が猶予される

(注)改正民法では、新たに当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面合意があるときは、時効の完成が猶予される規定が新設されました。

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4 利率の引き下げと緩やかな変動制の導入、商事法定利率が廃止された法定利率

旧民法では、民事法定利率は年5%でしたが、それが年3%に引き下げられるとともに、3年ごとに法定利率を見直す緩やかな変動制が導入されました。また、商事法定利率が廃止され、商行為によって生じた債務についても民法の規定が適用されます。

5 柔軟性が高まった債権譲渡

近年、債権譲渡を利用した資金調達が、特に中小企業において期待されています。しかし、旧民法においては譲渡制限特約が付されていると、譲受人がその特約につき悪意または重過失がある場合には債権譲渡が無効となると解されていたため、譲渡制限特約が債権譲渡の有用な利用において大きな阻害要因となっていました。

そこで、改正民法においては、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある場合でも債権譲渡が有効とされました。もっとも、譲渡制限特約が付されていることで、自身の弁済先が転々と変更されてしまう債務者を保護するために、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある譲受人その他の第三者に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができ、かつ、元の債権者(譲渡人)に対する弁済等を行うことで免責される規定も設けられました。

また、これまで実務上争いがあった将来債権の譲渡について、明文で認められました。

これらの規定により、これまでよりも債権譲渡を容易に行うことができるようになりました。

6 全面改定された瑕疵担保責任(契約不適合責任)

旧民法の規定において、一般的に理解が難しい用語として「瑕疵担保責任」という言葉がありました。言葉の意味もさることながら、特定物か不特定物かによって適用が異なったり、瑕疵担保責任として追及できる責任の内容に実務上争いがあったりするなど、国民一般に分かりにくい内容であることは否定できませんでした。

そこで、ルールを分かりやすく明確にする観点から、特定物か不特定物かを区別することなく、「契約の内容に適合しない」目的物を引き渡した場合に責任を負う形に改正されました(これまでの裁判例における「瑕疵」の解釈を見てみると、「瑕疵」=「契約の内容に適合しないこと」と考えられていた傾向がありますので、実務上大きな影響はないと思われます)。

その他、旧民法では瑕疵担保責任に基づいて買主が請求できる権利は、損害賠償請求権と契約解除権に限られていました。改正民法ではこれに加えて、目的物の修補や代替物の引き渡しなどの履行の追完請求や代金減額請求ができることが明記されました。

なお、買主が上記のような請求権を行使するには、目的物が契約の内容に適合しないことを知ってから1年以内にその旨を売主に対し通知することが原則として必要です。

7 要件が変わった契約解除

旧民法においては、履行不能の場合における契約解除は、債務者に帰責性がない場合には認められないと定められており、履行遅滞などの債務不履行についても債務者の帰責性が必要だと解されていました。

しかし、契約解除は、債務不履行の場合において、債権者を契約の拘束から解放することを目的とする制度と捉える考えが有力だったこともあり、改正民法においては、債務者の帰責性がなくても契約解除ができるようになりました(ただし、債権者に帰責性がある場合、契約解除はできません)。

その他、債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときや債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなどには、無催告解除が可能であることが明文化されました。

以上(2020年7月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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