ESCO事業の概要

書いてあること

  • 主な読者:ESCO(Energy Service Company)事業者の活用を検討している経営者
  • 課題:ESCO事業者とどのように契約してよいか分からない
  • 解決策:2種類の契約形態を理解するとともに、政府の主な補助制度の内容を押さえる

1 ESCO事業とは

ESCO(Energy Service Company)事業は、工場やビルの省エネルギー診断、改修計画の立案、設計・施工管理といった直接工事に関わるサービスとともに、資金調達、改修後の運転管理、会計分析を含む包括的なサービスを提供することによって、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るサービス事業です。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会によると、ESCO事業者は、次のようなサービスを組み合わせて提供しています。

  • 省エネルギー診断に基づく省エネルギー提案
  • 提案実現のための省エネルギー設計および施工
  • 省エネルギー導入設備の保守・運転管理
  • エネルギー供給に関するサービス
  • 事業資金のアレンジ
  • 省エネルギー効果の保証
  • 省エネルギー効果の計測と検証
  • 計測と検証に基づく改善提案

ESCO事業では、全ての費用(建設費、金利、ESCO事業者の経費)を省エネルギー改修によって実現する光熱水費の削減分などで賄うことを基本としています。契約期間終了後の光熱水費の削減分は全て顧客の利益になります。

2 ESCO事業の契約形態

ESCO事業の最大の特徴は「省エネルギー効果の保証(パフォーマンス契約)」です。ESCO事業者は、パフォーマンス契約を締結することで保証リスクを負うことになるため、保証リスクを軽減するべく、顧客に最適な技術提案をすることになります。顧客は、パフォーマンス契約の締結によって、省エネルギー効果の達成が確実になります。

ESCO事業者と顧客が締結するパフォーマンス契約には、次の2つの形態があります。

1.ギャランティード・セイビングス契約

  • 顧客が事業資金を調達し、省エネルギー設備は顧客の自己資産となる。
  • 初年度に省エネルギー改修工事に掛かる費用の支払いが発生するため、顧客の初期投資負担が相対的に大きくなる。

2.シェアード・セイビングス契約

  • ESCO事業者が事業資金を調達し、省エネルギー設備はESCO事業者の資産となる。
  • 顧客は省エネルギー設備のオフバランス化(資産の外部化)が図れる。
  • 省エネルギー改修工事に掛かる費用はサービス料(償却費込み)として支払うため、顧客は初期投資を必要とせず、費用負担の平準化が図れる。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会ウェブサイト公表資料によると、パフォーマンス契約の2つの形態の比較イメージは次の通りです。

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3 国内のエネルギー供給の状況

2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、2030年に実現を目指すエネルギーミックス水準として、電源構成比率を、再生可能エネルギー22~24%、原子力発電20~22%、化石燃料56%とすることが掲げられています。また、省エネルギー化によって、実質エネルギー効率35%減の改善を目指すとしています。

足元では、東日本大震災を背景に一部を除く原子力発電所は稼働を停止しており、国内の電力はおおよそ8割を火力発電で賄っている状況です。火力発電の燃料(石油、石炭、天然ガス)は、そのほとんどを輸入に依存しています。原子力発電所については、再稼働の是非が議論されており、安全で安定的なエネルギー供給体制の確保については不透明な状況が続いています。

一方、2016年4月から、参入が規制されてきた低圧部門(家庭や商店など)の電力小売り自由化が始まり、2020年4月には、電力会社が独占してきた発送電の分離が義務付けられました。こうした状況は、省エネルギーを売りにするESCO事業の追い風になるものと考えられます。

4 ESCO事業に関する主な補助制度

ESCO事業に関する主な補助制度として次の2つが挙げられます。それぞれ公募期間や予算額があるため留意が必要です。

1)エコリース促進事業補助金(環境省補助事業)

エコリース促進事業は、一定の基準を満たす再生可能エネルギー設備や産業用機械、業務用設備等の幅広い分野の低炭素機器をリースで導入した際に、リース料総額の1~5%を補助する制度です。また、東北三県(岩手県、宮城県、福島県)における補助率は10%となっています。

補助金申請は環境省から指定を受けた指定リース事業者が行います。補助金は指定リース事業者に交付されますが、リース契約時に補助金全額をリース料低減のために充当するという内容の特約などを交わすことが条件となります。対象リース先は、家庭(個人)、個人事業主、中小企業(資本金3億円以下の企業)であることが要件です。

2)エネルギー使用合理化等事業者支援補助金(経済産業省補助事業)

エネルギー使用合理化等事業者支援事業は、既設の工場・事業場などにおける先端的な省エネルギー設備の導入について、「技術の先端性」「省エネルギー効果」「費用対効果」を踏まえて、政策的意義が高いと認められ、交付規程および公募要領の要件を満たす事業に対して補助対象経費の3分の1以内(エネルギーマネジメント事業者を活用する場合は補助対象経費の2分の1以内)を補助する制度です(中小企業者等の場合)。

以上(2020年7月)

pj50163
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結婚の形が多様化する時代の結婚式場業の動向

書いてあること

  • 主な読者:結婚式場業
  • 課題:足元では新型コロナウイルス感染症のまん延に加え、長期的に婚姻件数が減少しており、厳しい経営環境に置かれている
  • 解決策:オーダーメード型の結婚式の提案、ナシ婚に対応した写真撮影のみのプランの提供などにより、ナシ婚やおもてなし婚といった多様なニーズを取り込んでいく

1 結婚の多様化が結婚式場業に与える影響

現在、結婚の形は多様化しています。生涯未婚の人、パートナーがいても入籍しない人、婚姻届の提出はするものの結婚式を挙げない(ナシ婚)人などが増えています。また、初婚年齢が上昇し、再婚割合が増えていることも、近年の特徴といえます。

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婚姻件数が減少していたり、ナシ婚の人が増えていたりすることなどから、ホテル、寺社・教会、結婚式専門の施設(一般の結婚式場、欧米風のゲストハウスなどを含む。以下「結婚式場」)など多数の事業者が存在する結婚式場業は、利用者獲得をめぐる競争が激しくなっています。

また、2020年は新型コロナウイルス感染症のまん延から、挙式のキャンセルも増えています。東海地方を中心に結婚式場や貸衣装店を運営するラビアンローゼは2020年4月に民事再生手続の開始を申し立てました。利用者獲得をめぐる競争が激化する中で、新型コロナウイルス感染症のまん延によって、苦しい経営状況に置かれる結婚式場業は少なくないと考えられます。

2 結婚式場業に関連するデータ

1)結婚式場業の事業所数と従業者数の推移

結婚式場業の事業所数と従業者数の推移は次の通りです。

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2016年の事業所数の合計は1435事業所、従業者数は5万4人、1事業所当たりの従業者数は35人となっています。

2)1事業所当たりの年間売上高など

1事業所当たりの年間売上高などは次の通りです。

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売上高・取扱件数・従業者数合計などについては年によって増減があるものの、1件当たりの売上高は増加傾向にあります。

3 結婚式のニーズに関するデータ

1)結婚式の費用総額などの推移

結婚式の費用総額などの推移は次の通りです。

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費用総額は年によって増減があるものの、近年の招待客数は減少傾向、結婚式の招待客1人当たり費用は増加傾向にあります。これは晩婚化の影響で、金銭的に余裕があり、結婚式への列席経験が豊富な利用者(新郎・新婦)が増えているためとみられます。このような利用者は「画一化されたプランではなく、自分たちらしい結婚式を挙げたい」「親しい人たちに日ごろの感謝を伝えたい、おもてなしをしたい」といったこだわりがあるとされています。こうしたこだわりの結婚式はおもてなし婚などと呼ばれ、招待客1人当たり費用の増加などに影響していると考えられます。

2)披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移

披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移は次の通りです。

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結婚式場は装置産業といわれ、恵まれた立地、最新の設備、文化的な魅力などを兼ね備えた施設(ハード)を有する業者が有利です。この基本はいつの時代も変わりませんが、特に景気が好調だった時代は「派手婚」と呼ばれる豪華な結婚式が話題を集め、大規模な宴会場などを備えた一般の結婚式場、ホテルなどのニーズが高まりました。

一方、いわゆるバブル経済が崩壊した1990年代ごろから、「アットホームなオンリーワンの結婚式を挙げたい」という人が増え、ゲストハウスなども結婚式会場として選ばれるようになり、現在では一般の結婚式場、ホテル、ゲストハウスが結婚式会場の代表格です。

現在、結婚式場のスタイルが多様化する一方、結婚式場全体の市場は縮小しています。大手の結婚式場では、減少する利用者を全方位的に獲得するため、自らゲストハウスなどを新設したり、買収によって多様な施設を確保したりするなど、ハードの拡充を図っています。

しかし、最近ではハードを整備するだけでは個別化・多様化するニーズに応えることは難しく、プランニングなどソフト面での充実や、ナシ婚といった結婚式を挙げない人のニーズを喚起するような取り組みが求められています。

以降では、ハードの整備に頼ることなく、個別化・多様化するニーズへの対応や、ニーズ喚起といった課題に取り組む企業事例について紹介します。

4 個別化・多様化するニーズに対応する取り組み

1)オーダーメード型の結婚式の提案

個別化・多様化するニーズに対応する方法の1つとして、オーダーメードの結婚式の提案などがあります。従来は結婚式を挙げることが決まると、結婚式場を選び、結婚式場専属のウエディングプランナーと相談して、結婚式のプランを決定するのが一般的でした。

しかし、こうした方法では、衣装や演出の方法が限られ、画一的な結婚式となりがちです。そのため、結婚式に対してこだわりを持つ人を中心に、フリーのウエディングプランナーを雇って、会場や衣装などを個別に契約するオリジナルの結婚式を挙げる動きが少しずつ広がっています。

こうした動きに対応して、結婚式場においても、オーダーメード型の結婚式の提案に力を入れている企業があります。テイクアンドギヴ・ニーズでは、会場選びの段階から全てオーダーメードで企画する「オートクチュールデザイン」というプランを用意しています。このプランでは、ウエディングプランナーを中心に、プロのメーキャップアーティストなど、さまざまな分野の専門家がチームとなって、利用者のニーズを実現していきます。

また、このように完全なオーダーメード型でなくても、ウエディングプランナーが利用者のニーズを細かく聞き取りながら、希望の結婚式を実現する動きは活発になっています。

2)シニアを対象とした結婚式の提案

現在、晩婚化が進んでいるだけでなく、婚姻件数に占める再婚の割合も増加しており、シニア世代の結婚も増えています。従来は、年齢を気にして、結婚式を挙げることをためらっていたシニアが多かったものの、最近では「節目をきちんとお祝いしたい」というニーズも出てきています。しかし、シニアが求めるプランは少ないのが現状です。

全国で多数の結婚式場業を運営するレックでは、「小さな結婚式」のブランド名で、「大人の挙式プラン」といった少人数向けの結婚式プランを提供しています。晩婚や再婚であるため、若い人ほど華美な結婚式を挙げるのは気が引ける、年齢相応の衣装にしたいといったニーズに応えています。

3)ナシ婚に対応したプランの提案

老舗結婚式場の目黒雅叙園では、結婚式を挙げずに記念写真のみを撮影する「フォトウエディング」を提供しています。目黒雅叙園のウェブサイトによると、料金はドレスなどの衣装のレンタルや着付け・ヘアメーク、撮影などの料金を含めて平日限定で8万8000円(1カットのみ・税別)からとなっています。

また、キリフダが提供する「プライダル」も目黒雅叙園と同様の取り組みといえます。「プライダル」では老舗の結婚式場やホテルなどで写真撮影と身内だけの食事会をセットにしたサービスを提供しており、提携先の会場には八芳園や、ザ・プリンスパークタワー東京などが登録しています。

こうしたプランの提供は、従来型の結婚式を挙げる必要は無いと考える人や、再婚であるなどの理由から結婚式を挙げることをためらっていた層のニーズを獲得しています。

以上(2020年7月)

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発酵食品に関する基礎的な情報

書いてあること

  • 主な読者:発酵食品に関する情報収集をしたい経営者
  • 課題:どのような団体に情報収集、取材などをして良いのか分からない
  • 解決策:発酵食品は業界団体、大学等で研究している機関がある

1 発酵食品とは

1)「発酵」とは

発酵は、微生物(カビ、菌、細菌など)の作用により有機物(米、牛乳、野菜など)が分解され、新しい物質(酒、ヨーグルトなど)が生成される作用のうち、栄養が体内に吸収されやすくなるなど、人体に良い影響を与えるものをいいます。同様の作用として腐敗も挙げられますが、こちらは食中毒など、人体に悪影響を与えるものをいいます。

近年では、食品製造に限らず、医薬品や化学物質(燃料など)の生成などの工業分野でも用いられるようになっています。

2)発酵食品とは

発酵食品は、発酵によって原材料を変化させた食品のことをいいます。例えば、「米、水+コウジカビ=日本酒」「牛乳+乳酸菌=ヨーグルト、チーズ」などが挙げられます。

食品を発酵させることで、「長期間の保存が可能になる」「風味が増す」といった効果があります。これは、発酵によって、「有機物が変質し、腐りにくくなる」「アミノ酸など風味に影響する物質が生成される」などの作用が生じるためです。

なお、発酵食品の製造と食品の腐敗は紙一重であることが珍しくありません。例えば、日本酒の「火落ち」は、乳酸菌の一種である「火落ち菌」が繁殖して醸造中の酒を白濁させて風味を悪くするという、一種の「腐る(腐造)」現象です。また、一部の発酵食品にみられる独特の香りや風味が人によっては「腐っている」と感じさせるものであることも、発酵食品の製造と食品の腐敗が紙一重である象徴といえるでしょう。

3)主な発酵食品

発酵食品は、数千年前から製造されてきたほど歴史が古く、また微生物はさまざまな環境で生息していることもあり、米国アラスカ州のような厳寒の地から、東南アジア諸国のような熱帯の地に至る世界中でみられます。

主な発酵食品としては、次のようなものが挙げられます。

  • 酒類:日本酒、焼酎、ビール、ワインなど
  • 乳製品:ヨーグルト、チーズなど
  • 水産加工品:くさや、なれずし、かつお節など
  • 肉類加工品:ドライソーセージ(サラミなど)、火腿(かたい・中国のハムの一種)など
  • 調味料:味噌、しょうゆ、酢、みりん、塩麹など
  • その他:パン、一部の漬物(キムチ、らっきょう漬けなど)、納豆など

このように、発酵食品は多様であり、原材料も、「穀類(米、麦など)」「イモ(サツマイモなど)」「肉類(豚肉など)」「乳類(牛乳など)」「その他有機物」などさまざまです。また、発酵食品は、地域土着の微生物を使うことで差異化が図りやすいため、地元の特産品として売り出しやすい特徴を持っています。

以降では、発酵食品の関連団体や研究機関、参考文献について紹介していきます。

2 発酵食品に関連する機関

1)関連団体について

発酵食品の関連団体としては、「発酵食品の製造業者の団体」「業界の一部が発酵食品に関わっている団体」「発酵に関連する分野が含まれる学会」などがあります。ここでは、「関連学会・機関」「業界団体」に分けて紹介します。

2)関連学会・機関

関連学会・機関は次の通りです。

1.日本醸造学会(東京都北区)

https://www.jozo.or.jp/gakkai/

醸造に関する学会です。醸造に関するセミナーやウェブ講習をはじめ、毎月発行している学会誌などを通じて、醸造に関する研究成果を公表しています。

2.日本生物工学会(大阪府吹田市)

https://www.sbj.or.jp/

生物工学に関する研究の発表や支援などを行っている学会です。もともと醸造関係の学会として発足した経緯があるため、学会誌などを通じて、発酵食品に関する発表を行っています。

3.日本農芸化学会(東京都文京区)

https://www.jsbba.or.jp/

化学的な観点から生命現象や食品などについて考える「農芸化学」に関する学会です。ウェブサイト上の「年次大会講演発表データベース」では、キーワードや発表者名などで発表内容、発表者名や所属団体などを検索できます。また、農芸化学関連の研究室などもウェブサイトで検索できます。

4.日本食生活学会(東京都文京区)

https://www.jisdh.jp/

食生活に関する学会です。研究大会・集会や学会誌の発行を通じて、研究成果の発表を行っています。

5.日本家政学会(東京都文京区)

http://www.jshe.jp/

家事や育児など、家政学に関する学会で、発酵食品に関する発表もされています。

6.日本発酵文化協会(東京都目黒区)

http://hakkou.or.jp/

発酵食品の開発や普及を支援する団体です。同協会が開催する発酵教室では、さまざまな発酵食品の基本的な製造方法を学ぶことができます。

3)発酵食品に関連する業界団体

1.全国発酵乳乳酸菌飲料協会(東京都新宿区)

https://www.nyusankin.or.jp/

発酵乳・乳酸菌飲料の製造・販売に関する業界団体です。乳酸菌の働きや、食生活と健康に関する情報を発信しています。

2.日本乳業協会(東京都千代田区)

https://www.nyukyou.jp/

乳業の業界団体です。乳製品に関する情報発信などを行っています。

3.日本酒造組合中央会(東京都港区)

https://www.japansake.or.jp/

日本酒・焼酎の全国団体です。酒税の保全および酒類業の取り引きの安定を目的としており、酒類業界の振興や消費者向けの情報提供などを行っています。

4.全国醤油工業協同組合連合会(東京都中央区)

https://www.soysauce.or.jp/(注)

醤油業界の全国団体です。同じく業界団体である日本醤油協会などと共同で運営する「しょうゆ情報センター」のウェブサイトなどを通じ、業界内部や消費者に向けた情報発信などを行っています。

(注)URLは「しょうゆ情報センター」のものです。

5.全日本漬物協同組合連合会(東京都江東区)

https://www.tsukemono-japan.org/

漬物業界の全国団体です。漬物に関する情報発信を行っている他、各地の漬物協同組合の上位団体として、各種委員会の取りまとめや、製造従事者の技能レベルを認定する「漬物製造管理士制度」を運営しています。

6.全国味噌工業協同組合連合会(東京都中央区)

http://zenmi.jp/

味噌業界の全国団体です。味噌に関する情報発信を行っている他、原材料を安値で安定して確保できるシステムづくりを進めています。

7.チーズフェスタ

https://www.cheesefesta.com/

チーズ普及協議会と日本輸入チーズ普及協会が共同開催している、チーズに関する総合イベントです。同フェスタでは、チーズを使った料理のグランプリ「チー1」を開催しており、上位作品についてはレシピを公開しています。

4)大学

一般的に、発酵食品に関する研究を行っている大学の学部・専攻としては、農学部、工学部、理学部などに設けられた「応用生命学」「醸造学」「食品科学」「農芸化学」などが挙げられます。ただし、専攻名などに「醸造」「発酵」と付いていても、発酵食品の研究を行っていないケースは少なくありません。これは、微生物の研究が進んだ結果、発酵を食品以外の分野(医薬品製造、燃料生成など)に活用する研究にシフトし、以前は手掛けていた発酵食品の研究を行わなくなったためです。

発酵食品に関する研究を行っている主な大学は次の通りです。多くの大学では産学連携の窓口を設けています。共同研究や受託研究の依頼をする際は、まずこうした窓口に協力を打診して、自社が求めている分野の適切な研究者を紹介してもらうようにしましょう。

1.秋田県立大学 生物資源科学部応用生物科学科食品醸造グループ

http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/DBT/

秋田県産の豊富な農畜水産物を活用した発酵食品の研究・開発を行っています。

2.石川県立大学 生物資源環境学部食品科学科

https://www.ishikawa-pu.ac.jp/undergraduate/food_science/

分子レベルから、製造・加工・流通の技術や方法、栄養や衛生の問題など、食品に関する幅広い研究を行っています。

3.大阪大学 大学院工学研究科生物工学専攻

https://www-bio.eng.osaka-u.ac.jp/

戦前から醸造学の研究を行っており、今日では国内におけるバイオテクノロジー研究のトップランナーです。

4.鹿児島大学 農学部 焼酎・発酵学教育研究センター

http://shochu.agri.kagoshima-u.ac.jp/honkaku/

地場産業である焼酎などの発酵食品の製造や、微生物そのものに関する研究を行っています。

5.岐阜大学 応用生物科学部応用生命科学課程食品生命科学コース

http://www.abios.jpgu-u.ac.jp/lifescience/

素材から流通に至る食品に関する広範な研究を行っています。

6.京都大学大学院 農学研究科産業微生物学講座

http://www.sangyo.kais.kyoto-u.ac.jp/

微生物の有する潜在能力を活用したモノづくりに関する研究を行っています。

7.東京農業大学 応用生物科学部醸造科学科、大学院 農学研究科醸造学専攻

http://www.nodai.ac.jp/academics/app/fer/ (応用生物科学部醸造科学科)
http://www.nodai.ac.jp/nodaigs/major/agri/fermentation/ (農学研究科醸造学専攻)

醸造を専門とする学科・専攻で、多くの酒造関係者を輩出してきた名門です。

8.広島大学 工学部第三類生物工学プログラム発酵工学課程

https://home.hiroshima-u.ac.jp/hakko/

酒類総合研究所に隣接している地の利を活かし、酒造などさまざまな分野の発酵に強みを持っています。

9.別府大学 食物栄養科学部発酵食品学科

https://www.beppu-u.ac.jp/course/nutrition/ferment/

地場産業である酒類(日本酒、焼酎など)や調味料(味噌、醤油など)のメーカーとのつながりに強みを持っています。

10.三重大学 生物資源学部、大学院生物資源学研究科

http://www.bio.mie-u.ac.jp/

生物資源の持続的生産を目指した開発や利用に関する研究を行っています。

11.名城大学 農学部応用生物化学科応用微生物学研究室

http://www-agr.meijo-u.ac.jp/labs/nn008/

発酵や醸造、微生物の活用に関する研究を企業と連携しながら行っています。

12.山梨大学 ワイン科学研究センター

http://www.wine.yamanashi.ac.jp/

地場産業であるワインの醸造や、醸造・発酵に役立つ微生物の研究を行っています。

13.酪農学園大学 農食環境学群食と健康学類

https://www.rakuno.ac.jp/department/agriculture/food.html

地場産業である酪農に関連した発酵食品の研究・開発などを行っています。

5)研究機関

発酵食品に関する研究は、大学の他、国や地方自治体などが運営する技術支援機関でも行われています。こうした機関では、自ら研究を行う他、共同研究・受託研究の形で企業などに対する技術支援や、検査・試験機器の貸し出しや検査・試験の代行などをしています。

発酵食品に関する研究を行っている主な研究機関は次の通りです。

1.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 食品研究部門(茨城県つくば市)

http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/nfri/

食に関わる科学と技術に関するさまざまな研究を企業などと行っている機関です。同研究所では微生物の高度利用やパン酵母遺伝子などの研究成果をデータベースなどの形で公表しています。

2.酒類総合研究所(広島県東広島市)

https://www.nrib.go.jp/

酒に関する各種研究・調査や分析・鑑定などを行っている機関です。研究成果についてはデータベースなどの形で公表しています。

3.食品産業センター(東京都港区)

https://www.shokusan.or.jp/

食品産業に関する各種調査、研究・開発の支援などを行っている機関です。食品加工に関するガイドラインや、特産食品に関する情報提供、食品製造の衛生管理に関する研修会などを手掛けています。

4.日本醸造協会(東京都北区)

https://www.jozo.or.jp/

日本酒・醤油・味噌など醸造に関する調査・研究を行っている機関です。酵母など醸造に使用する資材の供与、分析・検査の代行、技術者・技能者の育成、技術指導などの形で醸造業者を支援しています。

以上(2020年7月)

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資材購買コストを削減するための処方箋

書いてあること

  • 主な読者:購買担当者、購買担当者を任命する経営者
  • 課題:資材に関する専門的な知識がより一層必要になっている
  • 解決策:「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要である

1 企業活動における購買の役割

企業活動における「購買」とは、事業に必要な資材・製品・設備を外部から調達することを指します。資材・製品・設備などの他に、外部のサービスを利用することも購買に含まれます。企業規模によって異なるものの、企業には購買担当者が存在し、営業担当者や製造担当者からの要望により、必要な資材を調達しています。

近年では、企業の社会的責任として環境問題への対応が求められる中で、大手企業が中心となって「グリーン調達」が一般的になっていますが、その中心となっているのは購買担当者です。 

また、経営環境の変化は激しさを増しており、これまでと同じ資材購買のやり方では、成果を上げることが難しくなっています。資材購買コスト削減の基本は、それまでと同品質の資材を低コストで調達することですが、これを実現するためには資材に関する専門的な知識や、豊富な調達先を持つ購買担当者の存在が重要になります。

本稿では、資材購買コストの削減に注目し、これを実現するためのポイントを簡単にまとめていきます。

2 資材購買計画の立案とコスト削減策の検討

資材購買コストの削減を図るためには、「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要です。そのためには、資材購買計画を立案し、自社の購買の実態を把握する必要があります。資材購買計画の立案方法は次の通りです。

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資材購買計画とは、購買に際して要する予算などを決定する計画であり、生産計画・資材購買方針を前提にして立案されます。生産計画は、自社製品の生産量などの他に、生産形態(見込み生産か受注生産か)などによってもその内容は異なります。

また、資材購買方針を立案する際は、購買条件などが記載されている資材購買の規定などのマニュアルを参考にするとよいでしょう。こうしたマニュアルは、社内の購買条件などが記載されており、資材購買方針を立案する際に役立ちます。

資材購買計画を整理することで、自社の資材購買の現状を客観的に把握することができるため、次の点を検討しやすくなります。

  • 購買先や購買方法を変更する余地があるか否か
  • 購買先を変更する場合、変更先にはどこがあるのか
  • 変更先との価格交渉のラインをどの程度に設定するか

3 資材購買コスト削減のポイント

1)購買担当者の意見を取り入れた資材購買

中小企業では、営業担当者や製造担当者などからの要望を購買担当者がまとめ、資材の仕様・規格・品質や在庫状況を確認した上で複数の購買先から相見積もりを取ります。その結果、自社にとって最も条件のよい購買先に発注します。最も条件のよい購買先を検討する際は、例えば次の基準を参考にします。

  • 企業信用力:財政状態だけではなく、災害時の事業継続性なども検討する
  • 資材の品質:業界標準と比べた品質水準などを検討する
  • 納期:業界標準および発注ロットに見合った納期であるかを検討する
  • 価格:業界標準および発注ロットに見合った価格であるかを検討する

基本的に、購買担当者は営業担当者や製造担当者の要望に従って資材を発注するため、「多品種少量の資材を使う」「単価の高い特殊な資材を使う」など設計段階で生じるコスト増大要因に対処することが難しくなります。この場合、購買担当者は、資材を可能な限り安く調達できる購買先を探すくらいしかできません。もちろん、これは非常に重要なことですが、この取り組みだけでは資材購買コスト削減の効果が限定的なものになってしまいます。

そこで、営業担当者や製造担当者が要望する資材を決定する場に購買担当者も参加し、主に次の点から、購買担当者の視点も踏まえて資材購買の方針を決定するようにします。

  • 資材点数の削減
  • 資材の材料、品質、形状などの標準化
  • 製造担当者が要求する資材より、安価で質の高い代替資材の採用

この場合、購買担当者の知識と経験が非常に重要になります。営業担当者や製造担当者は、「自分が製品を販売し、あるいは製造して売り上げを上げている」との自負があります。そのため、購買担当者もそれなりの準備をして説明しないと、資材点数の削減などに関する提案をなかなか受け入れてもらえません。

例えば、購買担当者は生産計画や資材購買方針を説明することで、営業担当者や製造担当者から理解を得られる場合があるでしょう。

とはいえ、資材購買計画とは異なる購買も時には必要であり、購買担当者は営業担当者や製造担当者の意見には十分に耳を傾け、柔軟に対応する姿勢が必要です。また、企業は購買担当者に日本能率協会が主催する「調達プロフェッショナル認定者」(詳細は後述します)の試験を受けさせるなどして、その育成に努めることが重要です。

2)購買先の絞り込みとその際の留意点

購買先の選定に当たっては、複数の購買先候補から見積もりや試作品を入手して、十分に比較検討します。

また、購買先を絞り込んで大量に発注することでスケールメリットを得ることもできます。

ただし、購買先を絞り込み過ぎると、その相手に何らかのトラブルが生じた場合の対処が難しくなります。信用調査を徹底するとともに、災害時の事業継続計画(いわゆる「BCP」)などにも注意する必要があります。東日本大震災では、自動車部品をはじめとして、多くの部品メーカーが被災したことによりサプライチェーンが分断され、大手自動車メーカーなどで生産ラインの停止に追い込まれるといった影響が出ました。こうした事態を防ぐためには、メーンの購買先と地理的に離れた場所に、サブの購買先を確保するなどの対策が必要となります。

3)一括購買を検討する

社内の情報共有は資材購買コスト削減において非常に重要です。例えば、各工場の在庫情報を本社が一元管理できるようになれば、工場間で資材の融通が可能になるため、無駄な発注がなくなります。

また、各工場の発注を一本化することでスケールメリットが得られる可能性があります。ただし、場合によっては遠方からの納品となって、従前よりも物流費が上昇する恐れがあるので注意が必要です。

4)購買先と交渉する際のポイント

資材購買コストに限らず、値下げ(コスト削減)交渉の窓口となった担当者は、上長に指示された通りにコスト削減をすることばかりに意識が向きがちです。そうした担当者は、値下げ交渉をせざるを得ない自社の状況や値下げ幅の設定根拠などを相手に十分に説明せず、繰り返し値下げ要請だけをしがちです。

しかし、理由はどうであれ、値下げを依頼される購買先は自社に対して少なからず不信感を抱くものです。過去にも値下げをしたことがある場合はなおさらです。

そのため、値下げ交渉の窓口となった担当者は、誠意ある姿勢で相手と交渉しなければなりません。その際、該当する資材の市況なども話題になるはずなので、そうした意味で、購買担当者には資材に関する専門的知識の他、コミュニケーション能力や交渉力も求められます。

4 情報を活用するための体制整備

1)社内イントラネットなどで情報を収集

購買は単に購買担当者だけで完結する業務ではなく、営業担当者や製造担当者などさまざまな部門とのやり取りが必要になります。そのため、社内イントラネットなどを使って社内の情報がしっかりと共有できる体制を整えることが不可欠です。こうした情報システムでは、資材に関する全ての情報を一元管理するのが望ましいでしょう。

2)社外のマーケットプレイスへの参加

現在、資材調達に関するさまざまなウェブサイトが開設されています。業界団体や複数の大手企業が合同で開設したマーケットプレイス(MP)は参加企業が多いことから、従来よりも低コストで資材が購買できる可能性があります。実際に売買取引をしなくても、地域やロットによる資材の相場観を知ることができます。

また、オフィス備品や消耗品を中心に扱うECサイトの「カウネット」では、複数の調達先から一括で見積もりを取ることができる商談機能や会計システムと連携できるシステムを提供しています。こうしたサービスの利用を検討することで、購買業務の手間を削減できるかもしれません。

このように、購買担当者は社外のMPにも精通し、必要に応じて参加することが重要です。また、MPの運営者が「資材購買コストの削減セミナー」などを開催することがあるので、購買担当者は積極的に参加するようにしましょう。参加者は、同じような課題を抱えた企業の購買担当者であり、お互いに情報を交換するなどしておけば、そこで形成した人脈は後々も役に立つでしょう。

5 最も重要な購買担当者の育成

資材購買コストの削減において購買担当者が果たす役割は非常に大きなものです。特に、限られた従業員が購買を担当している中小企業では、いかに購買担当者の知識レベルを向上させ、経験を積ませるかが重要になります。

そのため、企業は購買担当者に次に紹介するような資材購買関連の資格取得を奨励しましょう。次に挙げる資格取得を目指すのは、一部上場クラスの企業の購買担当者が中心ですが、中小企業の購買担当者が取得しても十分に役立つものです。

1)日本能率協会「調達プロフェッショナル認定者」

日本能率協会では、購買・調達業務のプロフェッショナルとして必要とされるスキルを習得した者を、調達プロフェッショナル認定者(Certified Procurement Professional、以下「CPP」)として認定する資格試験を実施しています(試験方法は、コンピューターを用いた、いわゆる「CBT」)。

「CPP資格 公式サイト」によると、CPP資格の種類などは次の通りです。

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2)日本資材管理協会「資材管理士」

日本資材管理協会では、資材・購買部門の実務担当者を対象に、資材管理士の資格認定を行っています。この資格を取得するには、日本資材管理協会が実施する資材管理士専門コースを受講し、受講後に、所定のリポート審査に合格することが必要です。日本資材管理協会ウェブサイトによると、資材管理士の試験概要は次の通りです。

  • 時期:毎年約3カ月間のうち、十数回にわたる講義が実施されます
  • 費用:会員は16万円(1名・税込み)
    非会員は19万5000円(1名・税込み)

以上(2020年7月)

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古物営業法の概要と古物商などの開業手続き

書いてあること

  • 主な読者:古物営業に関する事業への参入を検討している事業者
  • 課題:事業に参入するために必要な手続きや関連法が分からない
  • 解決策:古物営業法の概要を把握し、必要な手続きに関する知識を得る

1 古物営業法とは

古物営業法は、盗品等の売買の防止、被害品の早期発見により窃盗その他の犯罪を防止し、被害を迅速に回復することを目的として、古物の取引に係る営業について規制するものです。

古物とは、一度使用された物品、新品でも使用のために取引された物品、またはこれらのものに幾分手入れをした物品をいい、次の13品目に分類されています(古物営業法施行規則第2条)。

  • 美術品類(書画、彫刻、工芸品等)
  • 衣類(和服類、洋服類、その他の衣料品)
  • 時計・宝飾品類(時計、眼鏡、宝石類、装身具類、貴金属類等)
  • 自動車(その部分品を含む)
  • 自動二輪車および原動機付自転車(これらの部分品を含む)
  • 自転車類(その部分品を含む)
  • 写真機類(写真機、光学器等)
  • 事務機器類(レジスター、タイプライター、計算機、謄写機、ワードプロセッサー、ファクシミリ装置、事務用電子計算機等)
  • 機械工具類(電機類、工作機械、土木機械、化学機械、工具等)
  • 道具類(家具、じゅう器、運動用具、楽器、磁気記録媒体、蓄音機用レコード、磁気的方法または光学的方法により音、影像またはプログラムを記録した物等)
  • 皮革・ゴム製品類(カバン、靴等)
  • 書籍
  • 金券類(商品券、乗車券および郵便切手並びに古物営業法施行令第1条各号に規定する証票その他の物)(注)

(注)古物営業法施行令第1条各号に規定される航空券、興行場・美術館・遊園地・動物園・博覧会の会場等の入場券、収入印紙、プリペイドカード等をいいます。

なお、大型機械類(船舶、航空機、鉄道車両、工作機械その他これらに類する物)は、古物営業法の規制対象から除外されます(古物営業法施行令第2条)。

2 古物商・古物市場主の営業許可申請

1)古物商・古物市場主とは

古物商とは、古物の「売買」「交換」「委託を受けて売買」「委託を受けて交換」を行う営業のことをいいます。また、古物商間の古物の売買または交換のための市場を経営する営業のことを古物市場主(いちばぬし)といいます。

古物商、古物市場主の営業を行うためには、都道府県公安委員会の許可を受けなければなりません(古物営業法第3条)。

なお、複数の都道府県に展開しようとした場合、従前は、営業所もしくは古物市場が所在する都道府県ごとに許可を受けなければなりませんでした。しかし、2020年4月の古物営業法の改正法施行により、主たる営業所もしくは古物市場の所在地を管轄する公安委員会の許可を受ければ、その他の都道府県に営業所もしくは古物市場を設けるときに、所在地を管轄する公安委員会に届出書を提出すればよいことになりました。

2)許可申請書類

古物商、古物市場主の許可を受けようとする者は、その主たる営業所または古物市場の所在地を管轄する公安委員会に対して、次に掲げる事項を記載した許可申請書を提出しなければなりません(古物営業法第5条)。

  • 氏名または名称および住所または居所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
  • 主たる営業所または古物市場その他の営業所または古物市場の名称および所在地
  • 営業所または古物市場ごとに取り扱おうとする古物に係る国家公安委員会規則で定める区分
  • 管理者(注)の氏名および住所
  • 行商(露店を出すことを含む)をしようとする者であるかどうかの別
  • その営業の方法として、取り扱う古物に関する事項を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送または有線放送に該当するものを除く)により公衆の閲覧に供し、その取引の申込みを国家公安委員会規則で定める通信手段により受ける方法を用いるかどうかの別に応じ、当該古物に関する事項に係る自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号またはこれに該当しない旨
  • 法人にあっては、その役員の氏名および住所

(注)古物商または古物市場主は、営業所または古物市場ごとに、業務を適正に実施するための責任者として、管理者1人を選任しなければなりません(古物営業法第13条第1項)。

3)許可申請に必要な添付書類

古物営業の許可申請に必要な添付書類は次の通りです。

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住民票は、本籍地(外国人の場合国籍等)が記載されたものでなければなりません。

市区町村長の証明書は、「成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ないもの」に該当しないことを証明するためのもので、本籍地の市区町村長が発行します。各市区町村の戸籍課などで扱っています。

誓約書は、古物営業法第4条(許可の基準)に反しない旨を誓約する書面です。個人の場合で申請者本人が営業所の管理者を兼ねるとき、または、法人の場合で代表者や役員の中に営業所の管理者を兼ねる者がいるときは、管理者用の誓約書のみ添付すればよいとされています。

経歴書は、最近5年間の略歴を記載した書面で、本人の署名または記名押印のあるものです。

ウェブサイトを開設して古物の取引を行う場合やオークションサイトに出店する場合は当該ウェブサイトのURL(当該URLを使用する権限があることを証する書面)を届け出る必要があります。

これら以外に、営業所の賃貸借契約書の写し、駐車場等保管場所の賃貸借契約書の写し(自動車の買い取りを行う場合など)の添付が必要な場合があります。

4)許可申請窓口および手数料

古物商・古物市場主の営業許可申請窓口は、古物商の営業所もしくは古物市場の所在地を管轄する警察署(防犯課、生活安全課など)です。

手数料は、古物営業許可申請、古物市場主許可申請ともに1万9000円です。

実際に古物商・古物市場主の営業許可申請をしようとする際には、事前に管轄警察署に問い合わせて、必要書類などを確認しておくとよいでしょう。

3 古物競りあっせん業の届出

1)古物競りあっせん業とは

古物競りあっせん業とは、古物の売買をしようとする者のあっせんをインターネット上で競りの方法により行う営業(いわゆるオークションサイト運営者)のことをいいます。

ウェブサイトを開設し、出品者、入札者により、競り形式で落札するもので、利用者から何らかの対価を徴収するものについては届出が必要です。ただし、バナー広告等により収益を上げるなど、対価を徴収しないものは届出の必要はありません。

なお、古物競りあっせん業の届出手続きは、自ら古物の「売買を行わない」「売買に関与しない」「売買の場のみを提供する」という点で、古物商許可業者がウェブサイトを開設して古物の取引を行う場合やオークションサイトに出店する場合(URLの届出)とは手続きが異なります。

2)届出書類

古物競りあっせん業者は、営業開始の日から2週間以内に、営業の本拠となる事務所の所在地を管轄する都道府県公安委員会に対して、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければなりません(古物営業法第10条の2)。

  • 氏名または名称および住所または居所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
  • 営業の本拠となる事務所その他の事務所の名称および所在地
  • 法人にあっては、その役員の氏名および住所
  • 競りの方法その他業務の実施の方法に関する事項で国家公安委員会規則で定めるもの

3)古物競りあっせん業の届出に必要な添付書類

古物競りあっせん業の届出に必要な添付書類は次の通りです。

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これら以外に、「競りの中止命令」(古物営業法第21条の7)を受けた場合に対応するため、24時間、警察からの連絡が可能な部署、担当者名、連絡先を届け出る必要があります。

4)届出窓口

古物競りあっせん業の届出窓口は、営業の本拠となる事務所の所在地を管轄する警察署(防犯課、生活安全課など)です。手数料はかかりません。

実際に古物競りあっせん業の届出をしようとする際には、事前に管轄警察署に問い合わせて、必要書類などを確認しておくとよいでしょう。

以上(2020年7月)

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【朝礼】変化のときは「渦中の人」であれ

新型コロナウイルス感染症により、私たちの生活環境は大きな変化を余儀なくされました。ビジネスにフォーカスした場合、こうした大きな変化と直面したときの選択肢は2つしかありません。

1つは変化によって生じる新たなスペースを積極的に狙う「攻め」、もう1つは変化が収束するのをじっと待つ「守り」です。

どちらを選択するか、意見は分かれます。実際、経営者仲間の話を聞いてみると、ある経営者は「新型コロナウイルス感染症の混乱が落ち着いても、ビジネスの在り方が元に戻ることはない。ますます変わっていく。そこにチャンスがある」と言っていました。一方、別の経営者は「新型コロナウイルス感染症の混乱が落ち着いたら、多くは元の状態に戻り、マネジメントが求められるだろう。そこにチャンスがある」と言っていました。

皆さんは、攻めと守り、どちらを選択するべきだと考えていますか?

攻めと守りのような正反対のいずれかを選択するのは、とても難しく、怖いものです。そのため、しばしば「どちらかが正解というわけではない。あくまでも『考え方』の違いである」という結論に落ち着きます。考え方次第と言えば、客観性があって聞こえがいいですし、攻めを主張する人とも、守りを主張する人とも衝突しなくてすみます。しかし、今、そのような曖昧な判断をしているような企業は、間違いなく勝ち残っていくことができません。

それは、私たちが変化を余儀なくされている状態にあるからです。通常なら、変化の激流を避けることもできるでしょう。何もせずに、じっとしていればいいのです。それは、守りとは違います。変化を受け入れられず、未来を想像することなく、激流が収まるまでやり過ごしているだけの状態です。これでも一時はしのげるでしょう。

しかし、そうしている間に周りの多くの人たちは、自ら渦中に飛び込んでいます。「渦中に飛び込む」とは、変化の当事者になることです。激流を避けるのではなく、むしろ激流に乗って進もうとするわけです。先ほど紹介した経営者たちは、100人を超える人から話を聞いて情報を集めています。その情報をもとに未来を【想像】し、針路を決め、自分たちを信じて進んでいるのです。

渦中に入ってしまえば、ある程度の開き直りが生まれ、外から見ているときほどの恐怖を感じなくなります。そこで改めて周囲を見渡すと、多くのチャンスとピンチがあることにも気付きます。また、厳しい環境に身を置くような苦行を組織で体験すれば、得られるものは非常に大きいです。渦中から抜け出した企業は強いものです。

私たちは渦中の人となります。やるか、やらないか、選択の余地はありません。大切なのは、変われるか、変われないかです。これまで培ってきた価値観を自ら覆すのは勇気がいります。しかし、その勇気を持てた企業だけが勝ち残ることができるのです。

以上(2020年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「基準」になろう

皆さんは今、外出自粛など、これまでにない体験をしています。アフターコロナ、ウィズコロナといった言葉で語られているように、今の状況は、今後の私たちの生活や働き方を大きく変えていくでしょう。

先日、あるアパレル業界の経営者が、ウィズコロナの世界で業界における仕事の進め方がどう変わっていくかについて、オンラインセミナーをしていました。今日は、それを聞いて私が考えたことを皆さんにお伝えします。

その経営者は、まず大きく変わるのは接客の仕方だと言っていました。従来の実店舗での接客が、全てオンラインの接客にシフトしていくというのです。その会社では、今、ネット販売に注力し、スタッフの「チャットでの接客力」を磨いているということでした。特に難しい接客例として挙がっていた、お客様と衣料品のサイズについてチャットでやり取りする話が印象に残っています。

初めてのお客様でも、チャットで「このサイズは私に合いますか?」と聞いてくることが少なくないのだそうです。スタッフからすれば、お客様の身体のサイズやスタイルは全く分かりません。そこで、その店では、スタッフはチャットでお客様にこう尋ねます。「お客様がユニクロで選ぶサイズは何ですか?」。そうすれば、「このブランドはユニクロに比べると少しゆったりしていますので、このサイズで大丈夫だと思います」といったように回答できるからです。

要は、お客様とスタッフとの間で、共通認識となる「基準」を設定するということなのでしょう。会ったこともなく、チャットでのみやり取りしているお客様とスタッフ。その状態で共通認識にするのですから、「基準」は誰もが明確にイメージできるものでなければなりません。

そういう意味で、「基準」として登場したユニクロを、さすがだなと感じる一方で、私はこうも思ったのです。「私たちの会社も、私たちの業界の中での、基準になりたい」と。皆さん、想像してみてください。何か共通認識を設定するとき、「基準」として真っ先に当社の名前が挙がる。誰もが当社の商品を思い浮かべることができる。どれほど誇らしいことでしょう。

こうした「基準」になるには、幾つかの条件があります。私が最も重要な条件だと考えているのは「信頼される」ことです。私たちは、このような非常時だからこそ、「どういう状況でもしっかり対応してくれる」「きちんと商品を提供してくれる」「顧客のことを考えてくれる」とお客様に信頼してもらえるよう、一人ひとりが誠実に行動しなければなりません。

これからは、お客様との接し方も大きく変わっていくでしょう。状況がどうなろうとも、皆で工夫し合い、お客様から「信頼できる」と評価される会社であり続ける。これが、「業界の基準」となる第一歩です。皆さん、一緒に「基準」になることを目指しましょう!

以上(2020年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業における組織再編の活用法/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(1)

書いてあること

  • 主な読者:事業承継やM&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:実際に中小企業ではどのような組織再編が行われているのかを知りたい
  • 解決策:中小企業の組織再編実務に携わる弁護士が、実際の事例を交えながら解説

1 事業承継などの備えとしての組織再編

経営者の高齢化が進み、中小企業の事業承継は待ったなしの状態です。後継者がいないという理由で、他の企業とのM&A(合併や買収)を検討する経営者も少なくありません。しかし、事業承継やM&Aは、経営環境の大きな変化を伴います。そのため、経営環境の変化に合わせて、企業の組織形態を柔軟に変化させていくことが重要になります。

そこで必要なのが組織再編です。組織再編と聞くと難しい印象を受けられる方が多いと思いますので、本シリーズ(全5回)の第1回では、中小企業が事業承継やM&Aに備えて、どのような組織再編をしているのか、実際の事例をもとに概要を紹介したいと思います。

2 事業承継のための持株会社(ホールディングス)の設立

現在、中小企業が行う組織再編で最も多いケースが、持株会社(ホールディングス)の設立です。持株会社とは、事業会社(既存ビジネスを行っている会社)を所有・管理するためだけに存在する会社です。設立目的はさまざまですが、主な目的の1つに現経営者が後継者に事業会社の経営を任せた後も、親会社となる持株会社から、経営を管理・指導することがあります。これにより若い後継者や従業員などに事業会社の経営を任せられると同時に、様々なシーンで経営をサポートすることもでき、後継者難の問題を解決することができます。

この持株会社を設立するための手続きは、まず株主が事業会社の株式を持株会社に出資(現物出資という)し、その対価として新たに設立する持株会社の株式を引き受けます。このような手続きを「株式移転」と呼びます。中小企業には、株主=経営者ということも多く、その場合には経営者が個人として所有している株式が、事業会社のものから持株会社のものに変わるという手続きになります。

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この株式移転は株式を売買するのではなく、移転するというところがポイントです。従って、株式を売買することで発生する税コスト(売買益などによる納税額の増加)を負担することなく、持株会社を設立することができます。

株式移転後の組織の全体像は次のようになります。

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このように持株会社があれば、現経営者は事業会社の経営を後継者に任せても、親会社である持株会社の代表者になれますので、引き続き、後継者の経営を管理・指導できるのです。

3 1つの会社を複数の会社に分けるための会社分割

1)長男と次男のために会社を分ける会社分割

例えば、後継者が長男と次男の2人いる場合などに、会社を2つに分割することがあります(会社を2つに分けるための詳細な手続きの説明は、本稿では省略します)。このように会社を分ける手続きを「会社分割」と呼びます。また、税制上のルールを満たす形(税制適格という。本稿では詳細な説明は省略します)で行えば税負担を最小限に抑えた状態で会社を2つに分割することができます。

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会社を2つに分割できれば、次のように長男にはA社株式を、次男にはB社株式を譲り渡し、それぞれ完全に独立した形で事業承継させることができます。これにより将来、長男と次男が兄弟げんかなどを理由に経営が混乱するリスクを解消することができます。

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2)複数の事業を分ける会社分割

1.中心の事業と不動産事業を分ける会社分割

会社分割は、複数の事業を行っている場合にも活用できます。例えば、長年の経営によって得た利益を活用して事業(以下「中心事業」)に必要な不動産とは別に、収益不動産を取得している会社も多いと思います。このような会社が中心事業だけを従業員などの後継者に承継させたいという場合、中心事業と不動産事業を分離する会社分割を行います。なお、ここでは印刷事業を行っている会社をモデルに説明します。

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このように印刷事業と不動産事業を分離することによって、創業家はこれまでの利益で取得した収益不動産を失うことなく、中心事業である印刷事業だけを従業員などの後継者に承継させることもできます。

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2.不動産事業を子会社化する会社分割

収益不動産を保有している会社では、継続して一定の賃料収入が得られているため、会社の売上と利益が底上げされます。そのため、中心事業の業績が悪化しても、それが決算に表れにくく、組織に危機意識が生まれません。

そのような場合には、不動産事業を子会社として分割するケースもあります。このような会社分割をすることによって、中心事業の収益状況を正確に把握することができるようになります。

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4 強い組織をつくるための株式交換

事業を拡大していく過程で、複数の会社を設立するケースも少なくありません。一般的に複数の会社を経営する場合、経営者個人が複数の会社の株式を所有しています。しかし、このように複数の会社を経営者一人で所有していると、事業承継時の負担が増えることがあります。 

例えば、株式の承継時に贈与税・相続税(各会社の株価を合計した額をベースに計算)を負担しなければならず、税コストが高くなります。また、事業承継の手続きも複数回実施しなければならず、手続き的な負担が大きくなってしまいます。

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そこで、このような複数の会社を経営されているケースでは、「株式交換」という手続きを活用して強い組織をつくることが必要となります。例えば、上記の事例で、中核会社をA社にし、B社とC社を子会社にするため、次のような手続きを実施します。B社およびC社の株主が株式をA社に現物出資し、その対価としてA社の株式の新株発行を引き受けるのです。

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これによってB社とC社は、A社の子会社に整理され、事業承継はA社を中心に実施すれば手続きは1回で済むようになります。しかも、税務上のルール(税制適格)に従って手続きを実施することによって税コストを掛けることなく、次のような組織へと変更することができます。

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このようにA社を中核会社として組織を作ることによって、A社、B社、C社の3社は完全な親子会社となり、グループ法人税制が適用されることになります。グループ法人税制が適用される場合、A社、B社、C社間の取引に関しては損益が繰り延べられる(グループ外の会社との取引が行われたときに損益が計上される)ことになり、グループ間で自由な資産の移転や取引を行うことができるようになります。このように強い組織を形作った上で次世代の後継者に事業を承継していくことが求められています。

5 複数の会社を1社にするための合併

中小企業が合併を行う代表的なケースは2つあります。1つは、グループ内に繰越損失を抱えている会社(不採算事業)を収益性の高い会社が合併することによって繰越欠損金を引き継ぎ、法人税の負担を軽減することを狙うケースです。もう1つは、事業を複数の会社で営む理由がなくなった場合に管理コストを減らすなど、経営効率を高めるために複数の法人を合併させるケースです。

1)不採算事業を整理するための合併(繰越欠損金を引き継ぎ)

黒字体質の親会社が、不採算の子会社を抱えている場合、親会社は子会社で損失を出しているにもかかわらず、損益通算(親会社の利益から、子会社の損失を差し引くこと)されることなく、親会社の利益に対して法人税が課税されてしまいます。

そこで、子会社の業績の回復が見込めない場合には、その子会社を吸収合併することによって、それまでに蓄積された損失(税務上では繰越欠損金という)を親会社に引き継ぎ、親会社の法人税負担を軽減することを検討します。

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2)経営効率を高めるための合併

複数の法人を営んでいるケースでさらに経営効率を高めるために、複数の法人を合併させることもあります。例えば、これまで同業種の事業をA社、B社、C社の3社でそれぞれ別に営んでいるため、売上や利益が3社に分散するため高い評価を受けられないというケースもあります。そのような場合には、これらの会社を合併して統合することがあります。

事業規模に応じた正当な評価を受けられますし、間接部門(経理や総務など)の重複を解消することもでき、経営効率を高めることができます。また、一部の事業会社で損失が続いている場合には、上記同様、繰越欠損金を引き継ぐことができます。

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以上(2020年6月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)

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民法改正で見直し必要!? 賠償リスクへの備え

書いてあること

  • 主な読者:自社が顧客などに対して負う賠償リスクについて知りたい経営者など
  • 課題:さまざまなリスクがあり、リスクの種類や対処方法の把握が難しい
  • 解決策:2020年4月に施行された改正民法も踏まえて、起こり得るトラブルを網羅的に把握することで、対処方法などについても想定することができる

1 賠償リスクを知る必要性

企業がビジネス活動を行うに当たって、予期せぬトラブルに遭遇し、賠償義務を負うことは少なからず存在します。

そのようなトラブルを事前に全て予測して防ぐことは難しいですが、トラブルに遭遇してしまった場合の賠償リスクをあらかじめ認識し、対処方法を把握することは、持続的な会社経営を可能とするために、とても重要なことだといえるでしょう。

本稿では、民法改正も踏まえて、どの企業にも生じ得るトラブルを紹介するとともに、そのようなトラブルが生じた場合の賠償リスクを説明します。

2 企業の賠償リスクにはどのようなものがあるか

企業の賠償リスクの種類はさまざまですが、大きく分類すると次のようになるでしょう。

  • ビジネス活動に直接起因する賠償リスク
  • ビジネス活動を行う場所・施設で生じる賠償リスク
  • 委託された業務に基づき製造した商品運送時の賠償リスク

それぞれ具体的に説明をしていきます。

1)ビジネス活動に直接起因する賠償リスク~人的・物的事故関連

業種によって異なりますので、一概に例示することは難しいですが、例えば次のような場合が考えられます。

  • 従業員が顧客に接客中、飲み物をこぼしてやけどなどをさせてしまう(飲食業)、重機などの機械操作を誤って通行人にけがをさせてしまう(建設業)、販売した商品に故障が発生し、購入者にけがをさせてしまう(製造販売業)場合などの人的事故トラブル
  • 家電を設置する際に誤って設置場所の屋根や壁を損傷してしまう(製造販売業)、宿泊者から預かっていた荷物を紛失してしまう(宿泊業)場合などの物的事故トラブル

企業の賠償リスクを考えるに当たって、最も基本的なことは、ビジネス活動によって第三者の生命、身体、財産などに損失を与えてしまう場合といえるでしょう。

これらの賠償リスクは業種によって大きく異なるものですので、同業他社で生じたトラブルなどにも目を向けつつ、自社で生じ得るトラブルや賠償リスクを一度整理しておくとよいでしょう。

2)ビジネス活動に直接起因する賠償リスク~知的財産関連

ビジネス活動に直接起因する賠償リスクは、前述した人的・物的事故だけでなく、知らない間に第三者の知的財産権を侵害してしまうことなどによっても生じ得ます。その中でも特にトラブルになりやすい権利は、商標権と著作権といえるでしょう。例えば、次のような場合が考えられます。

  • インターネット上のフリー(無料)素材集を利用した際に、規約に「商用利用禁止」と定められていたにもかかわらず、自社商品の広告物に利用してしまった場合(著作権侵害)
  • 商品ブランドを考える際に、商標登録調査を行わなかった結果、知らない間に第三者が登録していた商標を使用していた場合(商標権侵害)

今般、知的財産をライセンスして販売するIP(Intellectual Property)ビジネスが、企業における成長分野と位置付けられていることからも分かる通り、知的財産権に対する意識が過去に比べて一段と高まっています。このような社会的背景もあり、自らが保有する知的財産権が侵害されているような場合に、権利保護のために賠償請求などを行うことも増えてきています。

著作権については、出所が分かっているものを使用するとともに、著作権フリーと記載がされているサイトであっても、利用規約を見て、利用目的に制限がないかなどを確認する必要があるでしょう。

また、商標についてはブランドの準備段階で、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用して、キーワードなどで第三者の商標として登録されていないかを調べることが必要といえるでしょう。

3)ビジネス活動に直接起因する賠償リスク~個人情報関連

最近では、家電量販店やアパレルメーカーの通販サイトがサイバー攻撃を受け、顧客情報が流出するなど、個人情報の漏洩に関するトラブルがニュースとならない日はないほど多く目にします。

このような大規模な情報漏洩とまではいかなくとも、個人情報をきちんと管理していないと、自社の評判は一気に低下してしまうことがあります。考えられる賠償リスクとしては、上記の他、次のような場合が考えられます。

  • 従業員が顧客名簿を勝手に持ち出して名簿業者に売却してしまった場合
  • 従業員が個人情報を含むデータを第三者に誤送信してしまった場合

企業は、個人情報の漏洩が分かった場合、情報収集、情報が漏洩してしまった被害者への謝罪、広報対応、(場合によっては)弁護士への相談、再発防止策の検討など、さまざまな対応を強いられます。

これらを事前に検討しておかないと、いざそのような事態が発生した場合に適切に対応できないことが多いことから、対策を早めに整理しておくことをお勧めします。

4)ビジネス活動を行う場所・施設で生じる賠償リスク

ビジネス活動を行っている場合の予期せぬリスクとして、工場や店舗で起きるリスクも想定しておく必要があります。例えば、次のような場合が考えられます。

  • 台風や大雨のときに、店舗の看板が落下し、通行人にけがをさせてしまった場合
  • 工場で起きた火災事故によって、隣接する他社工場の操業が停止せざるを得ない事態となり、損失を与えてしまった場合
  • 店舗内の商品棚の商品が崩れ落ちて、子供にけがをさせてしまった場合

企業には、施設を管理する責任がありますので、上記リスクが現実化した場合には、少なくとも一義的な責任を負う可能性が高いといえます。そのため、このような賠償リスクについても事前に想定しておく必要があるでしょう。

5)委託された業務に基づき製造した商品運送時の賠償リスク

特に、メーカーなどにおいては、商品の引き渡しまでの運送過程で生じるリスクについても把握しておく必要があるでしょう。例えば、次のような場合が考えられます。

  • 商品を運搬する車を客先の倉庫などにぶつけ、備品などを壊してしまった場合(自社で運送を行っている場合)

この他、運送契約を締結している業者が商品を破損したり、盗難被害に遭ったりするなどのリスクも考えておく必要があります。この点は、運送契約において、補償や免責条項がどのように記載されているかを確認し、必要に応じて弁護士などに相談をしつつ、契約条件を見直すなどが必要でしょう。

3 民法改正により賠償リスクは変わるか

前述した賠償リスクには、取引契約に基づく債務不履行を理由として負うことになる損害賠償義務が含まれます。このような債務不履行に基づく損害賠償義務については、2020年4月1日施行の改正民法によって、法律判断が変わる可能性があります。

債務不履行に基づく損害賠償義務が生じるためには、法律上、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)が必要になります。

ただし、2020年4月以降は、帰責事由に該当する場合の法律判断の枠組みが変わる可能性があります。これまでは、帰責事由を「債務者の故意・過失又はこれと信義則上同視すべき事由」がある場合とする考えが一般的でした。これに対し、改正民法においては、帰責事由を「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断することが明記されました。

そのため、これまではどちらかというと債務者の主観的な要素が重視されて法律判断がなされていましたが、今後は契約の性質や当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯などの契約の実質を判断要素とし、取引通念も勘案して決まるということになります。

この改正が、実務上の判断にどの程度の影響を及ぼすものであるかは判然としない点もあり、判例の蓄積を待つことになりますが、締結される契約の実質を見て個別具体的に判断する場合が多くなることが予想されます。

そのため、今後契約を締結するに当たって、契約の目的や契約締結に至った経緯を明確にすることによって、賠償リスクの低減が可能と考えられる場合には、その点を明確にしておく(例えば、契約書に契約締結に至った経緯を記載する、メールで契約の目的に関する認識を整理しておく)ことが重要になります。賠償リスクを最小限に抑えるためにも、対策を検討するとよいでしょう。

4 最後に

企業がビジネス活動を行っていると、さまざまなトラブルに遭遇することは避けて通れません。そのため、トラブルに巻き込まれないように予防策を講じておくだけでは必ずしも十分とはいえません。

本稿を参考にしていただきながら、自社で考えられる賠償リスクとしてはどのようなことが考えられるかを整理していただき、万一トラブルが発生したときには、社内で対応する部署を決めておく、顧問弁護士に相談する、企業賠償保険に加入して保険で処理するなどを決めておくとよいと思います。

以上(2020年6月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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社長が語る あのとき、私が決断した理由

書いてあること

  • 主な読者:会社が岐路に立ち、大きな決断をしなければならない社長や経営幹部
  • 課題:他の社長の考えを聞いてみたい
  • 解決策:会社の命運を左右する重大局面で、実際に決断をした経営者の当時の心の動き、思いを参考にする。決断に一番重要なものは何か

1 事例1:「背水の陣」で製造小売りに事業転換

業績が下降していた折、追い打ちをかけるように東日本大震災が発生しました。取引先の相次ぐ廃業で売り上げの約3分の1を失う見通しにもかかわらず借り入れはできず、資金が枯渇している状態です。

約100年続くオーダースーツ製造卸会社「オーダースーツSADA」(以下「SADA」)の4代目社長である佐田展隆さんが、古巣への復帰を要請されたとき、SADAはそのような危機的状況にありました。

そこで下した「佐田さんの決断」は、従来の小売業者向けの製造卸から、製造小売り(SPA)に事業転換することでした。そのために、新たな小売店を日本最大の繁華街である東京・新宿に出店する「乾坤一擲(けんこんいってき)の戦い」に打って出ます。

1)4代目社長就任も5年で会社を去る

佐田さんが最初にSADAの社長に就任したのは、2003年12月のことでした。年商を上回る有利子負債を抱えて倒産の危機に瀕(ひん)し、当時の社長だった父の願いを聞き入れる形で、勤務先を退職して社長を引き継ぎました。佐田さんが29歳のときでした。

佐田さんは利益を重視した営業戦略を徹底し、半年で黒字転換を果たします。しかし、買掛金や給与の支払いまで先延ばししていた状況には焼け石に水でした。私的再生したSADAは2007年6月に投資ファンドに引き取られ、実家の資産も全て失いました。社長職から外され、もはや社員や工場を守ることができないと悟った佐田さんは、会社を去ることにしました。

2)震災で再び窮地に陥った中での復帰要請

東日本大震災の混乱も冷めやらぬ2011年6月、佐田さんはSADAに復帰します。投資ファンドから小売り流通大手の手に渡った後も下降線をたどり続けたSADAに、震災が追い打ちをかけました。自社工場の損壊に加え、取引先の多かった東北地方を中心とする小売り業者の相次ぐ廃業によって、売り上げの約3分の1を失う見通しに陥ったSADA。進退窮まった当時の社長が、佐田さんに復帰を要請したのです。

復帰要請とともに知らされたSADAの財政状態は、社長を離れた当時よりも悪化していました。周囲の知り合いの誰もが改善の見込みはないと口をそろえましたが、佐田さんは“火中の栗を拾う”決心をします。

復帰後の社員の反応は好意的でした。しかし、佐田さんは前回の経験も踏まえ、「社員の期待感がなくならないうちに、新たな方向に転換して成果を収める。そして、社内を『いける』という雰囲気に変えなければ、中期的には存続できない」ことを肝に銘じていました。しかも、佐田さんの復帰当初の肩書は、“社長含み”とはいえ一介の経営企画室長。部長待遇で、株式も保有しておらず、「金融機関などは『お手並み拝見』というスタンスだった」といいます。

3)製造小売りに軸足を転換

佐田さんがSADA存続の道として「これ以外にない」と示したのは、従来の製造卸から、製造小売りへの業態転換でした。

小売り事業は、前回の社長時代に、ECサイトと大都市を中心に7店舗の出店を試みていました。ただ、その目的は、小売業者に対して自社の中国工場の製品を売り込むことで、中国製品を若者に販売するパイロットケースの意味合いでしかありませんでした。

このため、佐田さんが復帰するまでの小売り事業自体は赤字が続いており、売り上げは全体の15%程度しかありませんでした。出店用の新たな借り入れが許される財務状態ではなく、既存の取引先である小売業者とは競合関係になります。

それでも佐田さんは、幹部たちを説得します。「他に策があるんですか? このまま何もせずに籠城戦をして、社員を餓死させるつもりですか? 打って出るなら今しかないじゃないですか!」

しかし、佐田さんの決断には幹部全員が猛反対。「もうオーダースーツの時代は終わったのです。持ちこたえるには節約しかない」と抵抗する幹部もいたといいます。結局、佐田さんは復帰後1年の間に、社内の主要ポストに就いていた5人の幹部全員の辞表を受理することになりました。

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「背水の陣での乾坤一擲の戦い」を始めるべく、佐田さんは自らの足で店舗の物件探しから始めます。出店先は、駅の乗降客数が最も多い東京・新宿に絞りました。「震災後で空き店舗が増えており、安い条件で見つけられるはず」との見通しが当たり、ビルの4階ではありますが、新宿駅南口から徒歩3分の好物件を押さえられました。

新規出店に伴う資金繰りは、まさに薄氷を踏むような綱渡りの状態でした。注目したのは、卸と小売りの支払いサイトの違いです。卸では受注から入金までに平均75日程度掛かりますが、小売りであれば受注即日に入金されます。オープンセールでの売り上げを当て込み、店舗物件の敷金や礼金の3分の2と内装費、約100万円を掛けた山手線の窓上広告などの支払いを先延ばししてもらいました。必然的に新店舗の開店日は、冬物の注文が最も多い10月となりました。

4)今やれることを徹底してやる

新宿への出店について、幹部や社員に対しては不安のそぶりも見せなかった佐田さんですが、内心は「成功する可能性は、5割もないと思っていた」といいます。それでも決断が揺らがなかったのは、幼少の頃から祖父に何度も聞かされた「出足と手数」の教えがあったからでした。祖父は常々、「困ったときにすべきことは、今できることは何かを考えることだ。そして思いついたらすぐにやってみる。それでダメなら、また別の方法を考えればよい。それができなければ、戦場では生き残れなかった」と語っていました。祖父の言葉を胸に、佐田さんは「成功する確率が低いので意味がない、という理由をつけてやらなくなるのは、未来に翻弄されている中途半端に賢い社長がはまる落とし穴。どんなに可能性が低くても、他に道がなければ、徹底してやる」と決意を固めます。

佐田さんの決意を象徴するのが、宣伝用のティッシュ配りです。朝4時頃に起床して、新宿の店舗の看板を出し、ティッシュ配りをしてから、どの社員よりも早く出社する。新宿の店舗のオープン後の半年間、佐田さんはこのような毎日を過ごしました。「通行人に舌打ちされることもあるし、売り上げに対する効果はゼロかもしれない。でも、新宿の店舗の成功のために、他に早朝の時間にできることはなかった。私の本気を社内に示すためにも、続けることにした」といいます。

5)小売り事業は大成功

オープンセールでは、スペアのスラックス付きオーダースーツを1万9800円に設定した目玉商品が話題を呼び、約800万円の売り上げを記録。この成功で社内の雰囲気が一気に変わります。得られた利益を新規出店や店舗の移転費用に回し、さらに利益を得るという好循環も生まれ、SADAは増収増益基調に転じます。内外からその実力を認められた佐田さんは、社長復帰への道筋をつけました。

社長に復帰した佐田さんは、会社のために、自らが“広告塔”となることも厭(いと)いません。小売り事業で重要な知名度の向上と、社員に「メディアで取り上げられるほど、自分たちの会社の進む方向は正しい」と感じてもらうためだといいます。2013年からは動画マーケティングに着目し、年に1回程度、自社製のスーツ姿で富士登山やスキージャンプ、東京マラソンなどに挑戦する動画をYouTubeにアップしています。

こうした努力が実り、SADAは2017年、社員への賞与を20年ぶりに復活させることができました。そのとき工場のベテラン女性社員たちから掛けられた言葉は、佐田さんにとって今でも忘れられない一言になっています。それは、「社長を男にできた」でした。

2 事例2:「会社は社長のものにあらず」未練を残さず事業売却

皆と力を合わせて、会社はそれなりの規模にまで成長した。でも今後、社員やその家族にとって、より良い会社にしていくためにふさわしい社長は、自分ではないかもしれない――。

豆腐の移動販売フランチャイズ事業会社「豆吉郎」の創業者である宮嵜太郎さんは、10年以上掛けてグループ累計の売上高を100億円にまで成長させた後、そんな思いに至ります。

そのとき下した「宮嵜さんの決断」は、新聞社へ事業を譲渡することでした。そしてそう決断した宮嵜さんは、売却する際に自分自身に対して、「社員や金融機関に迷惑を掛けない」という条件を課していました。

1)当初のイメージの7割以下なら撤退

24歳のときから地元の福岡県でおよそ13年間にわたり、米の配達業、レンタカー事業、物干し竿(ざお)の移動販売業、造園業など約20の事業の起業と撤退を繰り返した宮嵜さん。2005年に起業した豆吉郎(当時は藤吉郎)も、開設した50事業所のうち25事業所を撤退しました。13年中、赤字だったのは8年でした。

その間、子供のための積立預金や、一人暮らしの母親が老後のために積み立ててきた生命保険を解約するなどして、資金をやり繰りしてきました。

「家族にも苦労を掛けた」という宮嵜さんですが、社員のリストラと給料の遅配、そして金融機関への返済の遅延だけは一度もしませんでした。宮嵜さんは、そうならないように「失敗したら会社そのものが潰れる、というチャレンジはしない」と自らを戒めていたためです。軽トラックによる豆腐の移動販売事業を、初期投資の回収リスクが軽減できるフランチャイズチェーン(以下「FC」)方式にした理由の1つも、その戒めがあるからでした。深手を負う前の早めの撤退も、自身の中のルールに定めていました。「売り上げを含めて、当初イメージしていた姿の7割以下だったら事業を撤退すると決めていた」といいます。

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2)全国最大の移動販売組織を構築

過度なリスクを取らないとはいえ、宮嵜さんは、事業拡大のためのチャレンジには貪欲でした。客単価アップのため、豆腐以外の製品の販売を拡充していきます。また、ファン層拡大のため、月に1回、顧客が考えた豆腐を使ったオリジナルレシピなどを掲載したチラシの発行を始めました。FC事業の要である加盟店のオーナーとは頻繁に意思疎通を図り、パートナーとしての信頼関係を築くとともに、社員に対しては加盟店オーナーになることを奨励しました。

こうして広げていったFC網は、やがて西日本一帯をカバーする全国最大の移動販売組織にまで発展します。グループ累計の売上高は100億円に達しました。

3)社員とその家族の利益を考え、売却を決意

ようやく“収穫期”を迎えた豆吉郎ですが、宮嵜さんは2016年、M&A仲介会社を通じて会社そのものを売りに出します。

理由の1つは、売り上げ至上主義からの転換です。起業当初は、仕入れ面などでのスケールメリットを享受するために、売り上げの拡大に努めてきました。しかし、スケールメリットは限界に達し、「労働集約的な事業なので、これ以上売り上げが増えても、社員や加盟店の人たちの収入や休暇の増加にはつながらない。今後の売り上げ増は社長の自己満足でしかない」と考えるようになったそうです。

利益面でのネックになっていたのは採用コストでした。事業が軌道に乗り始めた頃は、リーマンショックの影響もあって1人当たりの採用コストが2万円程度でした。ところが景気が回復して人手不足となった結果、80万~90万円にまで上昇し、「利益の多くが求人のために使われ、起業当初のイメージと違ってきた」といいます。

その一方で、10年掛けて構築した事業の運営ノウハウに関しては、「すでに仕組みが出来上がっており、自分がいなくても会社が回るようになっている」と判断。このような状況を客観的に分析した宮嵜さんは、「200人の社員とその家族のことを考えると、豆吉郎が潰れない確率が高い、安心感や社会的に高い評価のある会社がオーナーになるほうがよい」との考えに至ったといいます。

4)売却先は西日本新聞社に

「そこまで黒字額が多いわけでなく、食品を移動販売で取り扱うというリスクもある。引き受けてくれるところが多くあるとは思っていなかった」という豆吉郎の売却先ですが、大手のコンビニエンスストアや飲食店チェーンを含む約100社が関心を示してくれました。

数ある選択肢の中から宮嵜さんが売却先に選んだ相手は、全くの異業種である西日本新聞社でした。決め手は、豆吉郎に対する評価額と、新聞社という社会性の高さからくる安心感でした。さらに、「西日本新聞社はなかなかリストラをしない会社だと知っていたので、雇用を守ってくれるだろうと思った」といいます。

5)情と数字のバランスを意識する

家族に苦労を掛けながら、社長・会長として13年を費やして育て上げた豆吉郎ですが、売却することに全く未練はなかったといいます。その背景には、宮嵜さんが「会社に対する愛着を50%しか持たないように心掛けてきた」ことがあります。

「起業した当初は社員を家族のように思い、社員から好かれようとしていた」宮嵜さんですが、社員の数が10人、15人と増えて“部下の部下”ができ、全社員に直接自分の思いを伝えられなくなった頃から、考えを改めるようになりました。「社員の生活を安定させ、良くしていくのが仕事」と割り切り、50%はドライなビジネス感覚で経営判断を行うようにしたといいます。起業時からいる社員や、自分の近くで働いている社員を特別に高く評価したり、頑張った出店者に同情して不振店の撤退を決められなかったりという、「正常な判断ができない」状態を避けるためでした。

ドライなビジネス感覚での経営判断は、自分自身の進退に関しても一貫していました。「ずっと未来永劫(えいごう)、(自分が)社長でいられるわけではなく、会社を渡すのが今なのか、30年後なのかという、時間の問題だけ。それならば、利益も出ており、売却するにはもったいないと言われている今のほうがよい。売却候補と有利な立場で話を進められ、社員の雇用の維持なども求められる」。それが宮嵜さんの出した結論でした。

宮嵜さんが豆吉郎の売却を終えて抱いた思いは、「誰にも迷惑を掛けず、ちゃんと辞められて、ほっとした」でした。

3 決断とは、何が一番大事なのかを選ぶこと

既存の取引先と競合関係になるリスクを負いながら、会社の危機的状況を打開するために小売り事業に参入した佐田さん。会社が大きく成長して収穫期を迎えた中で、社長やオーナーの座を譲ることにした宮嵜さん。2人の決断の内容は全く異なりますが、佐田さんは会社を存続させること、宮嵜さんは社員や金融機関に迷惑を掛けないことを一番に考えて、それぞれ決断しました。

そして、佐田さんはどの社員よりもがむしゃらに働き、宮嵜さんは会社を手放すという、ある意味で「自分が一番損な役回り」になることを厭いませんでした。

決断に迷ったとき、「何が一番大事なのか」「大事なもののためなら自分が不利になっても構わないと思えるか」を自問することが、迷いから抜け出すためのヒントになるのかもしれません。

【参考文献】

「迷ったら茨の道を行け:紳士服業界に旋風を巻き起こすオーダースーツSADAの挑戦」(佐田展隆、ダイヤモンド社、2018年12月)

「元手10万円で100億円の売上をつくった事業のコピペ術:フランチャイズ本部のつくり方」(宮嵜太郎、クロスメディア・パブリッシング、2019年11月)

以上(2020年5月)

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画像:インタビュー先より入手