これだけ押さえて! 「民法改正」の要点

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法。そのポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか掴んでいない。契約にどのような影響が出そうなのか? など自社に必要な対応の目星がつかない
  • 解決策:本稿で改正のあらましを押さえて、自社に必要な対応の検討材料とする

2020年4月に民法が改正されました。よく話題になるのが「瑕疵担保責任」の言葉が無くなった点です。既存の契約では、瑕疵担保責任の条項を盛り込んでいる場合も多いと思いますが、今後(改正後)の契約では、どのような内容にすればよいのでしょうか。

瑕疵担保責任を含めて改正民法では多岐にわたる点が改正され、中には旧民法と比べて要件・効果に変更が生じたものもあります。自社の契約のどの部分に見直しが必要? などの疑問を解消するためにも、まずは改正のあらましを押さえて、対応を検討しましょう。

1 個人保証人の保護が拡充された保証債務

保証に関する規定は、改正の主要なテーマの1つです。本稿では大枠のみをお伝えすることになりますが、大きく2つのポイントを挙げると、1.個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限、2.保証契約締結時の情報提供義務になります。

1)個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限

改正民法は、これまで規定されていた個人貸金等根保証契約に限らず、個人が行う根保証契約全て(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないもの)について極度額を付すことが求められ、極度額の定めがなければ根保証契約が無効になります。

そのため、これまで極度額が付されていないことも多かった次の契約では、注意が必要になります。

  • 不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務一切を保証する保証契約
  • 企業の代表者が保証人となり当該企業が負う債務等を保証する保証契約
  • 介護施設等への入居者が負う各種債務を保証する保証契約

その他、個人的な義理等から安易に保証人になった結果、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、保証人の生活が破綻するような事例が少なからず存在していました。かかる保証人を保護する必要性から、改正民法では、事業用融資(事業のために負担した貸金等債務)について、第三者が個人保証をする場合には、当該保証契約締結の日前1カ月以内に作成された公正証書において、保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思表示をしていなければ、保証契約の効力は生じないと定められました(ただし、主債務者が法人の場合における理事や取締役等、一定の場合は除かれます)。

2)保証契約締結時の情報提供義務

さらに、保証人に対して適切な情報を提供することで、保証人が履行義務を負う可能性をなるべく具体的に把握できるように、主たる債務者の財産状況やその他の債務の履行状況などについて情報提供を義務付ける規定が新設されました。主たる債務者がかかる情報提供義務に違反した場合には、保証人が保証契約を取消すことができる規定も設けられました(改正民法第465条の10第2項)。

2 新設された定型約款

さまざまな場面で使われる定型的な取引条項である約款のうち、次の要件を満たす約款は、「定型約款」として改正民法上の規定の適用を受けます。

  • 特定の者が、不特定多数を相手方とする取引で
  • 取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもので
  • 契約内容とすることを目的として上記特定の者により準備された条項の総体

例えば、鉄道・バスの運用約款、電気・ガス・水道の供給約款、インターネットサイトの利用規約などがこれに該当するといえるでしょう。

そして、定型約款であれば、次の要件のいずれかを満たす場合には、その内容を認識していなくても、定型約款の各条項に合意したものと見なされることになります。

  • 定型約款を契約内容とする旨の合意をした場合(改正民法第548条の2第1項第1号)
  • 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していた場合(同項第2号)

また、定型約款は次のいずれかに該当する場合には、一方的にその内容を変更することができます(改正民法第548条の4第1項)。なお、変更するにあたっては、効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期を、適切な方法により周知しなければいけません(同条第2項)。

  • 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
  • 変更が契約の目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更にかかる事情に照らして合理的なものである場合

このように「定型約款」に該当すると、改正民法ではさまざまな効力が認められます。そのため、対象となる約款が「定型約款」に該当するかどうかを判断する必要があります。

3 分かりやすくなった消滅時効

改正によって、時効期間はシンプルに統一され、次のように整理されました。また、時効に関する次の概念の意味が統一されました。

  • 時効の「更新」:一定の事由が発生することでそれまでの時効期間がリセットされ、新たな時効が進行する(時効期間のリセット)
  • 時効の「完成猶予」:一定の事由が発生した場合に一定期間時効の完成が猶予される

(注)改正民法では、新たに当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面合意があるときは、時効の完成が猶予される規定が新設されました。

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4 利率の引き下げと緩やかな変動制の導入、商事法定利率が廃止された法定利率

旧民法では、民事法定利率は年5%でしたが、それが年3%に引き下げられるとともに、3年ごとに法定利率を見直す緩やかな変動制が導入されました。また、商事法定利率が廃止され、商行為によって生じた債務についても民法の規定が適用されます。

5 柔軟性が高まった債権譲渡

近年、債権譲渡を利用した資金調達が、特に中小企業において期待されています。しかし、旧民法においては譲渡制限特約が付されていると、譲受人がその特約につき悪意または重過失がある場合には債権譲渡が無効となると解されていたため、譲渡制限特約が債権譲渡の有用な利用において大きな阻害要因となっていました。

そこで、改正民法においては、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある場合でも債権譲渡が有効とされました。もっとも、譲渡制限特約が付されていることで、自身の弁済先が転々と変更されてしまう債務者を保護するために、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある譲受人その他の第三者に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができ、かつ、元の債権者(譲渡人)に対する弁済等を行うことで免責される規定も設けられました。

また、これまで実務上争いがあった将来債権の譲渡について、明文で認められました。

これらの規定により、これまでよりも債権譲渡を容易に行うことができるようになりました。

6 全面改定された瑕疵担保責任(契約不適合責任)

旧民法の規定において、一般的に理解が難しい用語として「瑕疵担保責任」という言葉がありました。言葉の意味もさることながら、特定物か不特定物かによって適用が異なったり、瑕疵担保責任として追及できる責任の内容に実務上争いがあったりするなど、国民一般に分かりにくい内容であることは否定できませんでした。

そこで、ルールを分かりやすく明確にする観点から、特定物か不特定物かを区別することなく、「契約の内容に適合しない」目的物を引き渡した場合に責任を負う形に改正されました(これまでの裁判例における「瑕疵」の解釈を見てみると、「瑕疵」=「契約の内容に適合しないこと」と考えられていた傾向がありますので、実務上大きな影響はないと思われます)。

その他、旧民法では瑕疵担保責任に基づいて買主が請求できる権利は、損害賠償請求権と契約解除権に限られていました。改正民法ではこれに加えて、目的物の修補や代替物の引き渡しなどの履行の追完請求や代金減額請求ができることが明記されました。

なお、買主が上記のような請求権を行使するには、目的物が契約の内容に適合しないことを知ってから1年以内にその旨を売主に対し通知することが原則として必要です。

7 要件が変わった契約解除

旧民法においては、履行不能の場合における契約解除は、債務者に帰責性がない場合には認められないと定められており、履行遅滞などの債務不履行についても債務者の帰責性が必要だと解されていました。

しかし、契約解除は、債務不履行の場合において、債権者を契約の拘束から解放することを目的とする制度と捉える考えが有力だったこともあり、改正民法においては、債務者の帰責性がなくても契約解除ができるようになりました(ただし、債権者に帰責性がある場合、契約解除はできません)。

その他、債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときや債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなどには、無催告解除が可能であることが明文化されました。

以上(2020年7月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:pexels

オンラインセールスの落とし穴とは?〜社員5名でアクティブユーザー2000社をオンラインセールスで開拓したからこそ言えること〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、齋藤 正秋さん(株式会社meet in代表取締役)です。

新型肺炎の発生から半年が経過し、セールスのあり方も劇的に変わろうとしています。訪問型のセールスが全くできなくなっていた4月〜5月に、訪問→オンラインセールスへの置き換わりが全国で始まりました。そんな中、オンラインセールスツールmeet inのメーカーであり、このツールの販売手法をオンラインセールス主体で、今年の初めまでは社員数2名でアクティブユーザー1000社を開拓、そこからおおよそ6カ月弱でさらに1000社開拓された(現在社員数は5名)株式会社meet in齋藤社長にオンラインセールスのあり方について、特にオンラインセールスへの単純置き換わりでは上手く行かないこと、【落とし穴】についてお話を伺いました。

(インタビューも終始笑顔で楽しく。左上が齋藤さん)

1 オンラインセールスツールmeet inの良さはどこにあるのか?またどんなことが起きているのか、実際の利用されている方のコメントとご自身がSNSに投稿されていた内容が想いの部分として非常に解りやすく以下にまとめます。

1)セールスプロモーションのプロ集団であるSANGO株式会社 立花社長のコメント

■ミートイン導入を決めた二つの理由

弊社は営業会社という性質上、毎年数百件程度の商材の話を聞かせて頂きます。
その中でもミートインは今後爆発的な需要がありそうだと確信した事と、日本中の潜在労働力(ママ・障碍者)の最大化を実現するというコンセプトに大きな社会的意義を感じた事でした。

■爆発的な需要を感じた理由

これも二点ありまして、一つ目は、弊社ではコロナ以前の昨年2月よりオンライン商談ツールを導入し、導入後その部署の売上が急遽3倍となる経験をしていた事。
二つ目は、商品力の高さ、高品質・低価格・超簡単という3拍子そろった完成度に衝撃をうけました。しかも、こんな事が出来たら良いなと思う機能が、どんどん追加され進化していくスピード感もすごかったです。

2)セールスのみならず、学校の授業シーンでも活用、不登校がゼロに!

  • オンラインにすることで不登校の子が100%授業に参加するようになった
  • iPadを生徒全員に支給し数学の授業でホワイトボードを活用し授業
  • 通信の学校は不登校の子が多いのでオンライン導入はかなりいいと思うとのこと
  • 学校関係の方はIT苦手な方が多いのでシンプルで使いやすいのがいいからとにかく接続が簡単でいい!

上記は、つくば開成高等学校様のコメントです。

3)齋藤社長のFacebookでの投稿(7月9日)を下記に。想いと経営姿勢を物語っている内容です。

    『先月末に中小企業様向けのオンラインセールスツールmeet inがアクティブユーザー社数2000社を超えました!!
    エンドユーザーの皆様、関係者の皆様いつもご協力いただきありがとうございます。
    社員5名で成し遂げられたのは、リモートママ達のおかげなのと、4月から参画してくれたハンデを抱えたメンバー達のおかげです!!固定費(人件費・地代家賃・光熱費)をあまりかけず、採用費もほぼなし、広告費はゼロのため、金額を販売当初からずっと変えずに、新しい機能追加を実現できています
    このあたりの組織の仕組化を今後サービスとして提供して参りますので、ご興味ある方はぜひお気軽にコメントか、メッセージをくださいませm(__)m
    また、今後は多くの企業様と連携してコロナの時代を乗り切る施策をして提供して参ります。【★第1弾★】は株式会社ライトアップ様とです。全国の中小企業様の補助金・助成金の申請の負担を軽減できればと思います。
    引き続き世のため人のために事業展開をして参ります。どうぞ宜しくお願い致します。』

というコメントです。齋藤さんの経営への考え方も解りやすい素晴らしいものでした。また、同社の立ち上げから齋藤さんの想いを詳しく私のHPにて掲載しています。よろしければこちらも御覧ください。私のHP記事はこちら

杉浦氏と齋藤氏の画像です

2 オンラインセールスの【落とし穴】?自社で経験したからこそ解ること?

※『同社作成のオンラインセールスのはじめ方(オンラインセールス虎の巻)』から内容を抜粋いたしました。

1)オンラインセールスは万能ではない

訪問営業→オンラインセールスに全部移行できるものではないと話す齋藤さん。
加えて、【 オンラインセールスができる ≠ オンラインセールスで成約できる 】セールスの結果は、ツールが利用できることでもありません、結果、成果が出せるか否か。前述のSANGO社の立花さんが選定理由に、このツールで3倍の成果が出たと話していらっしゃいます。成約に至ることが必須ですね。
オンラインセールスに向く、向かない、商材、サービス、だれに販売するか、新規か継続か、オンラインだけか、オフラインも織り交ぜるのかによって大きく成果に差が出るそうです。そこも踏まえて、今回は、【新規開拓営業のオンライン化】に絞って記述してまいります。

2)オンラインセールス可否判断のポイント

■対面営業の商談を整理する

オンラインセールスを始めるにあたり、はじめに商談を整理します。商品・サービス別に以下の内容を確認しましょう。

  • 決裁キーマン(または決裁プロセス):誰が最終決定者なのか? 承認プロセスはどうなっているのか?
    ※誰が買っているのか? どの地域で売れているのか? などの顧客属性の整理は別途で必要
  • 平均商談期間:初期接点から成約までの平均期間はどのくらいか?
  • 商談の基本ステップ:初期接点から成約までには平均何ステップ必要か?
  • 成約の鍵:成約のための重要な鍵は何か?何をすれば成約率が引きあがるのか?
  • 成約率:成約率はどの程度なのか?

営業を単純にオンライン化しただけでは、“成約”という結果を安定して出すことはできません。例えば、最終決裁者が上場企業の役員だった場合、最後は訪問する必要はないでしょうか? 商談の基本ステップが5回だったとした場合、そのすべてのステップをオンラインだけで対応できるでしょうか? こうした観点で整理をし、そもそも自社にとってのオンラインセールスの役割を明確にする必要があります。
オンラインセールスの役割として、オンラインだけで成約をしたいのか。それともオンラインと対面営業を併用して、営業活動を効率化したいのか、を考えておく必要があります。例えば、初回接点における商談確度の見極めだけをオンラインで行いたいという場合であれば、オンラインにおける役割は非常に小さくなります。ところが、一度も会わずにオンラインだけで成約したいのであれば、実施のハードルは一気に高くなります。まずは自社にとっての“オンラインにおける基本的な役割”を決定します。
オンラインセールスにおける役割を決定した上で、以下の項目について整理をしてみましょう。

  • 決裁キーマン、または決裁プロセス
  • 平均商談期間
  • 商談の基本ステップ
  • 商談成功の鍵
  • 成約率

■【商談成約の鍵】がオンラインセールスの鍵

オンラインセールスの役割として“成約”をゴールとした場合、自社のオンラインセールスの可否判断をどうすれば良いでしょうか? ここでオンラインセールスでできること、できないことの整理をしてみます。

オンラインセールスでできること、できないことの比較表の画像です

対面営業でできることの多くは、オンラインでも同じように対応できます。注目して欲しいのは、“できないこと・難しいこと”に記載されている2つの項目です。“集中力を持続させる”については、後の章で解説をしますので、本章では“体験や体感を伴うデモ”について解説します。商談において成約率を左右するポイントの一つに“デモ(≒体験版・貸出し等)”があります。これは実際に商品・サービスを体験することで利用イメージが湧き、その効果や価値を実感できることにあります。試食や試飲、試供品の提供など、様々な形でのデモが世の中には溢れています。オンラインセールスではどうでしょうか?実は“できないデモ”があります。それは、実際に触れて貰う。大きさや重さを実感して貰う。味や匂いを感じて貰うなどの体験・体感を伴うデモです。貸出機を先に送り、それからデモを行うなどの対応ができない限り、解決はできません。つまり、“デモ”が重要な鍵となっているのであれば、最初からすべてのオンラインセールスでは完結できません。シンプルにオンラインだけで、対面営業で行ってきた事と同様の効果を再現できるかどうかの判断が必要になります。

■標準化とオンラインの壁

『商談シナリオを見ながらセールスができるため、経験値の低い営業マンでも対応できます』本当でしょうか?ここには大いなる誤解があります。オンラインセールスを支援するツールの中には、商談シナリオをカンニングペーパー的に表示する機能を有しているものもあります。ところが、カンペだけで安定的に“成約”という結果を獲得できる企業の前提には

  • 商談シナリオが定まっている
  • シナリオ通りに説明すれば成約率が高くなる
  • 顧客側がそのシナリオを受け入れてくれる

という3つの条件が整っている必要があります。これだけでも相当に営業が仕組み化されている必要があるのですが、その上で、オンラインという独特の環境要因が壁になります。画面を通した1対1の面談の場面で、お客様とカンペを交互に確認しながら商談を進め“成約”する必要があります。少しでも営業経験がある方なら、これは非常に難易度の高い営業だと気付かれると思います。多くの場合、営業はブラックボックス化しており属人的です。成約率の高い標準的な営業シナリオが決まっているというケースは稀です。仮にカンペを見ながら営業ができたとしても、経験の少ない営業マンが単なる商品・サービスの説明を行っているだけのオンラインセールスになってしまったら、オンラインセールスを実施すればするほど、顧客を失うという悲惨な結果となってしまいます。

■営業の本質

もしも商品のニーズが明確で、それが誰にとってもイメージができるものであれば、“営業”をしなくても勝手に売れてしまいます。それでは営業が必要な理由とは何でしょうか?【商品・サービスの価値を顧客の課題と結びつけ、その効果や効能を理解して貰うために“説明が必要”な商品】だからです。その存在を知って貰うために営業が必要というケースもありあすが、いずれにしても営業とは、顧客が購入に至るまでの“不足している何か”をアシストする役割となります。シンプルですが、自社の商品・サービスの購入者について

  • 決裁者が分かっている
  • 課題が分かっている
  • 効果・効能が分かっている

この3点が分かっていれば、それがオンラインに移行したとしても成約することは可能です。ちなみに、【競合比較】【顧客の声(事例)】【実績】【価格】【サポート体制】【導入障壁の低さ】なども大切だと言われますが、これは購入を決める上での後押しの要素でしかありません。シンプルな要素が整理できた後に、購入者にとっての安心感を訴求する、これらの項目を検討していきます。

◆まとめ オンラインセールスの可否判断のポイントをまとめます。

  • 【決裁者-課題-効果・効能】のシンプルな要素が整理できている
  • 読むだけで安定的な成約率が出せる商談シナリオが明文化されている
  • 体験を伴うデモなどが成約の鍵となっていない
  • オンラインセールスの役割が決まっている(部分的導入による効率化か。オンラインのみか)
  • 商談の整理ができている

【オンラインセールスができる】だけの状態であれば、これらの要素はすっ飛ばして、“やり方”だけを学べば、今からもオンラインセールスはスタートできます。オンラインセールスを今後の時流と捉えて、自社の新しい武器としたいと考えるのであれば、この要素を一つ一つ検証していきましょう。

3)オンラインセールス 成功のポイント

■はずさないオンラインセールスの肝

可否判断の結果、オンラインセールスを実施できると判断できたとします。いよいよオンラインセールスを始めていくことになりますが、成果を上げるために絶対に外してはいけないポイントがあります。

【売り込みの意識を“0”にすること】です。

オンラインセールスでは“売り込み”はNGです。驚かれるかもしれませんが、この事が分かっていなければ、オンラインセールスで成果を上げることはできません。“セールス”という言葉を使っているので、どう売るか?と考えてしまいます。オンラインセールスで大切なことは“どう売るか?”ではなく、“どう理解し合えるか?”という意識で臨むことです。感覚としては、自社の商品・サービスが解決できるテーマに関するコンシェルジュの様な立ち位置を意識すると良いかもしれません。

“いやいや、可否判断のポイントで“商談シナリオ”の明確化と話していたじゃないですか!“

とお叱りを受けそうですが、読むだけで安定した成約率を実現できる商談シナリオは必要です。それは、課題も含めて理想通りのお客様と出会うという可能性も十分にあるからです。この商談シナリオが安定していなければ、すべての商談が博打となってしまいます。

■オンラインのネガティブ要素

オンラインは手軽に始められそうなイメージがある一方で、特有のネガティブ要素が存在します。

  • 雰囲気が何よりも重要(訪問以上に細かな点に注意する)
  • 事前準備を徹底していることが最低条件
  • 焦りや緊張感が伝わり易く、相手のペースに巻き込まれやすい
  • 相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

1.雰囲気が何よりも重要

オンラインミーティングでは、身だしなみも含めた雰囲気が大切です。上半身の鎖骨辺りから上部しか映りません。また基本はアップで映るため、細かな点に目がいきます。襟が曲がっている。髭の剃り残しがある。洋服にシミがあるなど。対面では気付かない点にも自然と意識が向いてしまいます。資料を説明している際は、顔は映りませんが、商談中は相手の画面にこちら側の顔がアップとなっています。

マイクの精度や背景などにも、気を遣う必要があります。声が聞こえ難い。声が割れている。周囲の雑音を拾ってしまうなど、集中できない雑音をなるべく除去することが必要になります。さらには背景。最近ではバーチャル背景などが当たり前に利用できます。バーチャル背景が自然となる様に単一色の壁を背にする。背景にもこだわりを持って、それが商談の中で話題になる事も含めて考えるなど。全体の雰囲気に考慮する必要があります。また、照明やカメラ位置なども重要です。PC内臓のカメラの場合、どうしても目線が上からになってしまいます。PCの位置を上に上げる。またはタブレット等で目線の位置の外部カメラを利用して目線の位置を並行にするなどの配慮が必要になります。

2.事前準備を徹底していることが最低条件

『“商談のために移動する”という行為に価値があったんです!』そんな話しをすると「まさか、そんなこと」と感じるかもしれません。オンライン化が進んだことで、これまで以上にミーティングの回数が多くなって忙しくなった、と悲鳴を上げる人が続出しています。これは“移動”という物理的な負荷が無くなったことで、反対に“会う”という行為そのものの心理的負荷が軽くなったことに原因があります。

確かに【オンライン=気軽・手軽】というイメージがあります。対面と同じ長さのミーティングであっても、“移動”という負荷が無くなるだけで、お互いに感じる“相手に対する申し訳なさ”は小さくなります。それではオンラインセールスにおける“訪問=移動”と同じような効果をもたらすものは何でしょうか?それが事前準備です。ここで言う事前準備とは、【お客様のことを事前に知る準備】を指しています。

例えば、

  • 企業情報を知るためにHPを確認する(属性や商品・サービス等を知る)
  • 商品・サービスのレビューなどのサイトが無いかを確認する
  • メディアなどで取り上げられていないかを確認する
  • 社長がSNSなどを通じた発信をしていないかを確認する
  • 求人情報などから、その会社の特徴などを確認する

こうした事前準備をした上で、商談に臨むことで相手の印象が変わります。“移動”という負荷が無いため、心理的には“営業が楽をしている”という印象を与えてしまいます。ところが、商談の端々に事前に調べていると実感できる内容が含まれていると、『そこまで調べて貰っているのですか!?』と驚かれます。気軽だからこそ、手間を掛けていないという誤った印象があります。その反作用として、事前準備をしてくれているという事実が好印象を与える効果を発揮します。

3.焦りや緊張感が伝わり易い

オンラインセールスの場合、『台本を用意すれば新人でも対応できますよ』と言われる事があります。例えば、営業側の画面にのみカンニングペーパーが表示される機能や、上司がモニタリングできてチャットで指示を出す機能などがあり、新人営業マンをサポートします、と言われています。本当でしょうか?

オンラインでは営業マンの顔がアップとなります。また声もクリアに聞こえるため、焦りや緊張といった精神的な動揺が対面営業よりも伝わってしまいます。緊張で営業トーク中に頻繁に噛んだり、目線がうろうろしたりといった微妙な仕草も気付かれてしまいます。また、予想外のお客様からの質問に動揺し、詰まったり無関係な回答をした瞬間に信頼は崩れていきます。焦りや緊張感は顧客にとっての不信感を高める事になります。“新人でもできます”が、“新人には難易度が高い”営業と考える必要があります。

4.相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

営業マンの細かな仕草や動揺が相手に伝わってしまう一方で、お客様の本音や細かな仕草が掴み難いのもオンラインの特徴です。対面営業であれば、お客様の全身が見えているため、その行動の微細な変化に気付くことができます。時計を見る仕草が多くなった。資料から目を離し、下を向くケースが増えた。身体が揺れ始めて明らかに飽きが来ているなど。営業サイドの説明が受け入れられているかどうかを、お客様の雰囲気を感じながら対応することができます。オンラインの場合は、顧客側の顔のみ。またカメラ機能をオフにされてしまえば、音声のみが頼りとなります。そのため、こうした微妙な変化を感じ取ることができません。

【最大3分】

これはYoutubeなどの一方的な動画を集中して視聴できる時間も目安と言われています。決してオンラインでのセールスは3分以内で終わりましょうと無茶振りをしたい訳ではありません。認識をしておくべきことは【オンラインは遥かに聞き手の集中力が持続しない】という事実です。そうでなくとも新規開拓営業は、聞き手の姿勢が懐疑的です。オンラインの場合、お客様がPCで対応されるケースがほとんどです。“集中力を阻害する環境”という前提を理解して取り組む必要があります。
本音が見え難く、集中力を阻害する要因が多く、距離を縮め難いというデメリットがあると理解をすることがオンラインの前提となります。

■オンラインセールス成功の原則

ここからはオンラインセールスで成功するための原則をお伝えします。可否判断が終わり、オンラインの特性も理解した上で、どうすれば自社でもオンラインセールスができるのか。そのポイントを原則という観点から整理してみましょう。

  • まずはトップセールスから事例を作る
  • 30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問
  • 開始3分に集中する
  • クロージングパターンの明確化

1.まずはトップセールスから

オンラインセールスを成功させるためのキーポイントは、“誰が事例づくりをするか”に掛かっています。
事例づくりを行うのはトップセールスマンです。自社のトップセールスでも難易度が高いとなった場合、それを新人で対応するというのは無理があります。対面営業とはその作法が異なるため、対面営業で強い営業マンがオンラインでも成果を上げられるかどうかは分かりません。それでも一定の指標にはなります。

オンラインセールスでは、商談そのものを録画する事ができます。トップセールスと共にトライ&エラーを繰り返し、自社の型を作ることが重要です。商談を録画する事で、その雰囲気やトークの流れ、ポイントになるキラーワードなどを他の営業マンに伝え易くなります。社内での成功事例づくりは必須となりますが、その型はトップセールスマンと作る。商談を録画し、成功商談自体を教材として横展開をしていくというステップが大切です。

2.30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問

オンラインセールスの基本は30分。「え!?そんなに短いの?」と思いましたか?会議は1時間以内。セールスは30分前後というのが、オンラインの平均的な時間となりつつあります。商談が予想以上に盛り上がれば、1時間前後というケースもありますが、基本は30分です。その時間内で商品・サービスを理解して貰い、顧客の課題を把握し、温度感を高め、購入意思を固めて貰う必要があります。その為、商品・サービスの説明をいかにコンパクトにできるかどうかも重要になります。

【5~7分】

これはベンチャー企業が起業家向けにプレゼンするピッチコンテストの制限時間です。自社の説明、その事業を始めたきっかけ、サービス概要と顧客へのメリット。そして将来展望までをこの時間内で話します。オンラインセールスでは、こうした5分で理解できるサービスプレゼンのシナリオを精緻に設計する必要があります。

説明よりも対話を重視するオンラインセールスでは、説明の時間が長くなると、“ながら視聴モード”に入り、集中力が持続しません。短い説明と適切なタイミングでの質問や確認が、集中力を持続させる鍵です。
また顧客の状況、特に課題を把握する質問を準備しておくことも大切です。可能であれば商談前に簡易的なアンケートなどで必要事項は押さえておくなど工夫も必要になります。【診断・分析】などをセールスの前に行うステップに入れておくだけで、セールスのタイミングで確認すべき事項を減らすことができます。セールスを行う上で重要な事は、顧客の課題とその解決による効果です。課題の認識が明確で緊急性が高く、そしてその効果も明確であれば、セールスは容易です。ポイントは、“気付いていない課題を顕在化すること”です。状況把握は課題把握と同義です。ここについても、事前に準備をしておく必要があります。

3.開始3分に集中する

“3分で掴めば成約率は20倍になる!”

これは当社の実績です。オンラインセールスを始めた当初は2%程度だった受注率が今では40%と20倍になっています。商談シナリオもブラッシュアップしていますし、いくつもの改善を重ねた結果ではあります。
ただ、最も大きな要素は何かと聞かれたら“冒頭3分です”と答えます。
冒頭の3分はお互いの距離感を模索し、相手に営業マンとして信頼できるかどうかを見定めて貰う時間です。
この3分で掴めなければ商談はLOSSします。逆にこの3分で掴めたら、商談を有利に進める事ができます。
それでは3分のポイントは何でしょうか?

  • 人柄を宣言する
  • 事前準備で収集した情報で距離感を縮める

この3分という時間で、“自分という人間”を感覚的に理解して貰う必要があります。人柄を表現する言葉というのは幾つもあります。実際に自分はどんな人だと認識をして欲しいのか。自己紹介を兼ねた冒頭3分間では、そうした人柄に関するコメントもそれとなく入れておく必要があります。“少し早口ですが”“よく笑うと言われるので”“雑談が少し多めかもしれませんが”“固いですが緊張している訳ではありません”など。事前に自分という人間を相手に伝えておくことで、聞き手はパーソナリティを意識する事になります。

さらに事前準備で調べた顧客情報を活用して、“御社に興味があります”というメッセージを伝えます。『HPにあったんですが』『○○の記事に書かれていた』『求人サイトで見かけたんですが』など、それとなく調査した情報を、お客様との会話の架け橋に活用します。“ちゃんと調べてるんだね”という印象を与えることができれば、相手との距離は縮まっています。
この3分という時間は、営業マンの人柄を理解させ、お客様との距離感を縮めるために外すことのできない大切な時間です。成約率20倍の差がこの3分にあります。

4.クロージングパターン

セールスなのでクロージングは大切です。このクロージングのパターンを明確にしておく必要があります。1回のオンラインセールスで決着を付けるのか。複数回でクロージングまで持っていくのか。その商談の次のステップが何であり、どの様な反応が取れなければ失注と認識するのか。ここが曖昧なままであれば、グレイな案件が大量に発生することになります。
クロージングを最小ステップで設計するのであれば、初期接点者は決裁者に絞る必要があります。また初期接点者が決裁者であったとしても、実際の商品・サービスを利用する部門長の理解を得なければいけないというケースも多くあります。法人にはありがちな事ですが、決裁者が複数存在するパターンです。初回クロージングのパターンと最終クロージングに分ける等、パターンを事前に認識した商談設計が必要です。

4)まとめ

今回は新規開拓営業をオンラインセールスで成功するためのポイントを整理してきました。オンラインセールスで成果を上げるために、『最も大切なことを一つだけ教えてください』と聞かれたら、間違いなく【相談相手になること】と答えます。「3)オンラインセールス 成功のポイント」でもお伝えしましたが、【売り込みの意識を“0”】にできれば、半分以上は成功すると考えています。
その分野やテーマにおける相談者やコンシェルジュとは何でしょうか?そのポイントは次の3点です。

  • 説明ではなく聞き役だと意識する
  • 提案ではなくアドバイスだと考える
  • 相談者を思い、自社以外のサービスでも積極的に提案する

この3点を意識できれば、オンラインセールスで成果を出すことができる様になります。どうやって売ろうか。上手にクロージングする方法は無いか。そればかりを考えると、本質を見失ってしまいます。
今や情報過多の時代に入りました。お客様が求めているのは、新たな情報ではなく、この情報の渦の中から自社にとって適切な商品・サービスはどれかを導いてくれる先導者の存在です。説明や説得ではなく、自社を理解した上でのアドバイスや納得性の高い提案です。これは時代の変化であり、営業という仕事自体のマインドチェンジが必要なのかもしれません。【売る】のではなく【売れる】状態をつくること。それは顧客との関係性においても大切なポイントになります。

営業のオンライン化によって、営業自体の本質的価値の変化が顕在化されています。
根底から営業の仕組みを見直すことを前提に、取り組んで頂けたら幸いです。

3 齋藤社長からのコメントもいただきました。

正直、私はオンラインで何かをすることは今でも苦手です。人材系の会社に入社し、朝から晩まで電話営業・飛び込み営業を経験し、直接会って信頼関係を構築する大切さを学んだからです。しかし、meet inに限らずオンラインツールを活用すれば大きな可能性を広げられることも痛感しました。待機児童を抱えたママが働けるようになったり、コロナの影響で学校・塾が休校を余儀なくされているときに授業を継続できたり、訪問することができずに営業活動が全くできない企業が少なからず売上をあげられたり。と。オンラインツールは決して魔法の杖ではありませんが、活用することで雇用の創出・学習の継続・営業活動の再開が実現できることで、生活の可能性が大きく広がると思います。中にはオンラインツールを使用すれば売上が5倍にあがる! みたいな広告も見ますが、それは本当に極端な例で、あくまでもオンラインツールは道具であり、手段の一つです。現在この手段を「どのように活用して、目的を果たすか?」ということが肝心になっています。今後はこのあたりの活用方法の共有・ソリューション提供など、ソフト面の強化をはかり、コロナと共存する世界、労働人口減少が著しい日本に、少しでも貢献できれば幸いです。

とコメントくださった、齋藤さん。
コメントにもありましたが、齋藤さんのように、オンラインが苦手だからこそ、中小企業の苦手意識ある皆さんにこれだけのスピード感で受け入れられたこと、広がったことに納得感があります。そして事業の根底に働き手としてのママ支援、想いの大きさも在られるからこそと感じます。まだまだこれからと話される、齋藤さんの活動をこれからも注目し続けたいと思います。

以上(2020年7月作成)

旅費交通費における領収書の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:新任経理担当者
  • 課題:経費精算のチェックは時間がかかるため、少しでも作業を効率化したい
  • 解決策:旅費交通費の基本を押さえた上で、判断に迷う事例をQ&A形式で解説する

1 手間の掛かる旅費交通費の申請

「あぁ~、毎月の旅費交通費の精算が面倒だ……」。特に社外での活動が多い従業員はこう感じているかもしれません。旅費交通費の申請は、「移動ルート」も記載することが多く、とにかく面倒な作業です。それに、近場の電車やバスの移動では、そもそも領収書をもらわない場合が多いでしょう。そのため、過去の行動を思い出しながら経費精算するので、時間もかかります。

旅費交通費の申請を面倒に感じる人の気持ちはよく分かります。経営者としても、従業員が旅費交通費の申請に長い時間をかけているのは困ります。とはいえ、経費精算の最も重要な目的は、企業の利益を正しく計算することであり、少額だからといって適当にできるものではありません。

また、経理担当者側も、経費精算の漏れや、間違った金額での請求などのチェックに多くの時間を要します。経費精算の作業を少しでも効率的に行うためには、従業員の意識と経理担当者の正確な知識が必要です。

本稿では、旅費交通費の基本事項を押さえた上で、判断に迷いやすい旅費交通費の取り扱いを解説します。

2 旅費交通費の基本を押さえよう

1)旅費交通費とは

旅費交通費とは、業務に必要な移動や宿泊で生じる費用です(旅費交通費にならないケースは後述)。厳密には遠方への移動を旅費、近場の移動を交通費と考えますが、一般的には「旅費交通費」として取り扱います。ただし、出張旅費規程においては、いわゆる「出張手当」との兼ね合いから、移動距離に応じた取り扱いを自社で定めているケースが多いので、一度、自社の規程を確認してみてください。

旅費交通費に含まれる主な費用は次の通りです。

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自宅から勤務先への通勤費も旅費交通費に含まれます。一般的に、通勤費は給与に含めて支給されるため、給与と勘違いしている人もいるかもしれません。ここで注意が必要なのは源泉所得税の問題です。

通勤費は、基本的に源泉所得税は課されません(非課税)。ただし、非課税になるには次のような要件を満たしている必要があります。

  • 電車、バスなど公共の移動手段を利用して通勤する場合は、1カ月当たり15万円以内であること
  • マイカー、自転車を利用して通勤する場合は、片道の通勤距離が2キロメートル以上であること(通勤距離ごとに1カ月当たりの限度額があります)

通勤費が上記の限度額を超えた場合、超えた部分は従業員の給与所得となり、源泉所得税の課税対象となります。

2)旅費交通費として処理されない費用

業務上の移動に掛かる全ての費用が、旅費交通費で処理されるわけではありません。重要なのは「移動の目的」であり、これによって旅費交通費ではなく、交際費や福利厚生費などとして処理される場合があります。企業によって処理方法は異なるため、自社の取り扱いについては、税理士などの専門家に相談しましょう。

1.交際費として処理する場合

自社の主催で取引先を接待する場合に、取引先を会場まで送迎した際のタクシー代などは、交際費として処理します。一方、取引先主催の接待に出席する際のタクシー代などは接待そのものに対する支出ではないため、旅費交通費として処理します。

2.福利厚生費として処理する場合

社員旅行や従業員の歓送迎会など、福利厚生を目的としたイベントを開催する場合に、目的地までの移動に掛かる費用は、福利厚生費として処理します。

3.研修費として処理する場合

社外の会場での社員研修や外部講師のセミナーを受講する場合に、会場までの移動に掛かる費用は、研修費として処理します。

3)旅費交通費の精算には必ず領収書が必要か?

近場の得意先に訪問するためなどに電車やバスを利用した場合、領収書が発行されないことがあります。原則としては、少額であっても領収書を添付しなければなりません。

ただし、鉄道会社やバス会社によって領収書の発行方法が異なり、その都度領収書をもらうのも手間がかかります。また、経路や運賃はインターネットなどでも確認することができます。

さらに、消費税法上、税込みの支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存は必要なく、法定事項(取引年月日、取引内容など)が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています(3万円以上で請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載することになっています)。

このような理由から、多くの企業は公共の移動手段を使った近場での移動に限って、領収書の添付は不要としています。ただしこうした場合、移動の根拠(適正な旅費交通費であることの証明)として、使用した路線や運賃などを「旅費交通費精算書」に記載することが大切です。

3 実費精算と出張旅費規程に基づく精算

1)実費精算

実費精算(従業員の請求)で支払う場合は、従業員が立て替えた費用を事後に精算する場合と、事前に仮払金を支払い、後日、実費との差額を精算する場合があります。

前者の場合、従業員が立て替える費用が高額になると負担が大きくなります。出張などに掛かる費用が高額になることが事前に分かるときは、仮払いを併用するのがよいでしょう。

また、経費精算には必ず期限が設けられています。仮に、経費精算が遅れてしまうと、一定期間内(月次決算の場合には月、四半期の場合には期間)に発生した費用が把握できず、正確な損益計算(決算処理)ができなくなります。そのため、従業員が出張などから戻った際には、期限に遅れないように経費精算を申請してもらうようにしましょう。

2)出張旅費規程に基づく精算

出張旅費規程に基づいて精算する場合は、交通費や宿泊代などの手当を定額で支給することができます。従業員によって経路や宿泊先が違う場合でも、支給する金額は定額なので、経費精算の事務処理を簡略化することができます。

出張旅費規程で定めるべき主な事項は次の通りです。

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また、定額で出張旅費が支給されることで、実際に掛かる金額よりも多くの金額を受け取ることができる場合もあるため、実費精算の場合よりも、多くの旅費交通費を法人税の計算上、損金(税務上の費用)の額に計上することができます。損金が多いほど、所得(税務上の利益)が少なくなるため、所得に対して課税される法人税の負担を軽減することができます。

3)出張手当の取り扱い

宿泊費や旅費交通費以外で出張の際に発生する食事代や雑費などについても、出張旅費規程で定めることで、実費ではなく、あらかじめ決められた金額を支給することができます。遠距離出張旅費・出張手当・宿泊料の取り決め例は次の通りです。

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この他、必要に応じて、時間外労働に掛かる手当(時間外の割増賃金とは別に企業が定めるもの)の有無を記載します。

また、定額で出張旅費が支給される場合でも領収書が必要です。領収書がないと、空出張や費用の架空計上を疑われることがあるためです。出張に使った新幹線代や航空券代、ホテル代などの領収書は必ず保存するようにしましょう。なお、保存期間は、7年間となります。

4 こんなときはどうする? 旅費交通費のQ&A

1)タクシーの相乗りで領収書がない場合

タクシーに相乗りし、運賃を割り勘で支払った場合、領収書がもらえないケースがあります。このような場合は、領収書の代わりとして、出金伝票を作成してもらう必要があります。

市販の出金伝票を使うこともできますが、自社でひな型を作成する場合には、支払日、支払先、支払内容、支払金額を記載する必要があります。出金伝票のひな型は次の通りです。

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2)企業支給の交通系ICカードでチャージした場合

企業支給の交通系ICカードにチャージした場合の取り扱いには迷います。「交通系」といえども、コンビニなどさまざまな店舗で決済できるため、チャージした時点では、交通費として処理することはできません。

そのため、仮払金として一旦処理をし、実際に使った用途に応じて仮払金以外の科目に変更します。例えば、ボールペンやノートなどを購入したときは、旅費交通費ではなく消耗品費として処理をします。

また、交通系ICカードを、うっかりプライベートのシーンで使ってしまう場合もあると思います。このような私的な支出は費用にはならないので、経費精算に含めないよう注意しましょう。

3)電車事故などにより通勤経路を変更した場合

通常、通勤に利用している路線が電車事故などにより運休になっていた場合、別の路線を利用することになります。通常よりも交通費が高くなったときは、経路を変更した理由が合理的であれば、差額を交通費として支給することができます。

このような場合は、経路を変更して通勤したことが分かるように、遅延証明書や振替輸送票を申請書に添付してもらうようにします。また、電車事故などで通勤経路を変更する場合の取り扱いは、あらかじめ就業規則で支給額も含めて定めておくとよいでしょう。

4)週末の出張でプライベートの旅行をした場合

例えば、金曜日に東京から名古屋へ出張したので、少し足を延ばして土日に京都に行って観光をした従業員がいるとします。この場合、東京-名古屋間の交通費は、旅費交通費として往復の金額を支給します。

しかし、名古屋-京都間の交通費や観光のための宿泊費は自己負担になります。とはいえ、法律上で一律にこのような対応を取らなければならないという規定はないため、自社の旅費交通費規程に従うこととなります。

なお、プライベートの旅費を会社が負担した場合には給与として取り扱われますので注意が必要です。

5)過去の領収書が見つかった場合

旅費交通費の精算を忘れていた数カ月前の領収書が見つかる場合があります。原則、領収書の日付と旅費交通費を精算する日付が同じ年度内であれば、経費精算をすることができます。

例えば、3月末決算の企業の場合、4月1日から翌年の3月31日までの間であれば、その年度中に支払った費用については精算が可能です。会計処理は年度ごとに行われており、その会計処理に基づいて、法人税などの税金が計算されるからです。つまり、決算日を越えてしまうと、前年度の費用は、原則損金として処理することはできません。従業員には経費精算の目的を理解してもらい、期限を守って経費精算をするように呼び掛けましょう。

以上(2020年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:pixabay

外出自粛、休業……緊急時の労務手続き

書いてあること

  • 主な読者:社員を休ませるか否かの基準や手続きを、正しく知りたい経営者
  • 課題:リモートワーク、出社、休業を実施するための手続きが分からない
  • 解決策:基本は命令の根拠を得るために就業規則を変更すること

新型コロナウイルス感染症により、会社は予期せず社員を休業させなければならない経験をしました。今回は突然のことであったため体制が整わないまま対応したかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の第2波も懸念される今、BCPの観点からも今後に向けた準備が必須です。

そこで本稿では、社員にリモートワークを命じる場合などに必要な主な労務手続きをまとめます。

1 リモートワークを命じるための主な労務手続き

1)就業場所の見直し

リモートワークの就業場所は、自宅、カフェ、サテライトオフィスなどさまざまです。感染症対策などとしてのリモートワークの場合、安全衛生などの観点から就業場所を「自宅、その他会社が指定した場所」などに限定する必要があります。

2)労働時間管理の方法の見直し

自社の労働時間管理がリモートワークでも適用できるかを確認します。タイムカードなど、オフィス備え付けの設備がないと労働時間を管理することが難しい場合、次のように労働時間管理の方法を変える必要があります。

  • 社員に始業・終業時刻を、電話、メール、業務日報などで報告させる
  • 社員が使用するノートパソコンの使用時間を記録する
  • ノートパソコンでも打刻可能な勤怠管理システムを導入する

3)通勤手当の見直し

オフィスに出勤しない社員に、定額の通勤手当を支払うことは合理的ではなく、実際にこれを見直す会社が増えています。就業規則や賃金規程の見直しが必要です。「月に所定労働日数の3分の1以下しか出勤予定のない社員には定額の通勤手当は支給せず、社員の請求に基づき実費を支給する」などの規定を置くことになるでしょう。

4)費用負担の見直し

リモートワークで発生する通信費などの費用を、会社と社員どちらが負担するのか決めておく必要があります。業務に要した通信費などは会社の負担とするのが望ましいでしょう。光熱費など、仕事とプライベートの境界線が分かりにくい費用は、社員とトラブルにならないよう、会社と社員どちらが負担するのか、定額で支給するのか明細を提出してもらい会社が認めた費用を支給するのかなど、明確にルールを定めます。

5)就業規則の変更・届け出

上の1)から4)については、就業規則の見直しが必要となる可能性があります。就業規則を変更する場合は、社員の過半数を代表する者の意見書を添えて所轄労働基準監督署に届け出ます。緊急時は就業規則の変更などが即座にできない場合がありますが、少なくとも個別の同意を取るようにしておきましょう。なお、リモートワークの規程例については、次のコンテンツが参考になります。

6)情報通信機器の見直し

労務管理ではありませんが、セキュリティーの観点で重要なので紹介します。

リモートワークに必要な機器は原則として会社が貸与することが望ましいです。台数の関係などで社員が私物のノートパソコンなどを使用する場合、会社指定のセキュリティーソフトをインストールしてもらう、フリーのWi-Fiには接続しないよう指導を徹底するなどの対策を講じます。こうしたルールは、「リモートワーク規程」などにまとめるとよいでしょう。

2 出社させる場合の主な労務手続き

1)労働時間制度の見直し

例えば、緊急事態宣言中などの非常時に社員を出社させる場合、感染リスクを減らすための取り組みが不十分だと、会社が安全配慮義務違反に問われる恐れがあります。

労働時間制度については、社員が混雑する時間帯の通勤を避けられるよう、時差出勤やフレックスタイム制などを導入することを検討します。すでにこれらの制度を導入している場合も、社員に混雑の状況をヒアリングし、必要があれば時差出勤の始業・終業時刻やフレックスタイム制のコアタイム(必ず出社しなければならない時間帯)を変更します。

2)社員へのマスク着用などの徹底周知

オフィス内で感染者が出ると、その社員だけでなく、他の社員や来客などにも感染が広がる恐れがあります。

そのため、業務中はマスク着用や手洗いを徹底するよう、社員に周知する必要があります。なお、就業規則に規定があれば、一定の強制力をもって社員に命じることができます(命令の妥当性はケース・バイ・ケースです)。会社が命じてマスクを着用させる場合、社員が義務を履行できるよう、マスクなどを会社側で用意するのが望ましいでしょう。

3)体調不良の社員への対応

例えば、新型コロナウイルス感染症の場合、症状として発熱やせきを伴うといわれています。業務上の必要性・緊急性があっても、原則としてこうした症状がある社員は出社を認めるべきではなく、他の社員が業務を代行できないか検討するなどの対応を取る必要があります。

4)就業規則の変更・届け出

上の1)から3)については、就業規則の見直しが必要となる可能性があります。就業規則の見直しについては、前述した通りです。緊急時は就業規則の変更などが即座にできない場合がありますが、少なくとも個別の同意を取るようにしておきましょう。

5)オフィス内の“3密”の解消

労務管理ではありませんが、感染防止の観点で重要なので紹介します。

密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)は、感染リスクを増大させる、いわゆる“3密”といわれています。

オフィスの場合、「30分に1回以上、数分間程度、窓を全開にする」「執務室や会議室の座席を、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が取れる間隔に配置する」などの取り組みが必要となります。

3 休業させる場合の主な労務手続き

1)休業手当の支払い

使用者の責に帰すべき事由により休業する場合、会社は休業期間中、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。使用者の責に帰すべき事由には、会社の故意・過失による場合はもちろん、不可抗力を主張し得ない全ての場合が含まれます。

新型コロナウイルス感染症を例にすると、緊急事態宣言が発出されたからといって、直ちに休業手当の支払いが不要と判断されるわけではありません。「社員を(リモートワークで実施できる)他の業務に就かせることができるのに休業させた」場合などは、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。

2)雇用調整助成金の申請

「雇用調整助成金」は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた会社が、社員に対して一時的に休業などを行った場合に支給される助成金です。事業を行えない状態で休業手当を支払うのは会社にとって負担ですが、これを利用することでその負担を軽減することができます。

2020年6月12日からは、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置として、支給上限額の引き上げ(1人日額8330円から1万5000円へ)なども行われています。詳細は、都道府県労働局やハローワークに問い合わせるとよいでしょう。

以上(2020年7月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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期待高まる「自転車関連ビジネス」 裾野を広げて顧客獲得

書いてあること

  • 主な読者:宿泊施設・住宅(不動産)・観光・健康関連サービス業界の経営者
  • 課題:人口減や高齢化の加速に備え、集客力の向上および集客方法の転換が求められている
  • 解決策:健康志向や環境問題など、将来的なテーマに合致したアイテムである自転車のユーザーの裾野を広げ、固定客として取り込む

1 自転車関連ビジネス、続々登場

健康志向、環境問題、人口減に伴うコンパクトシティ化、災害時の交通機能の維持、観光立国などなど。

「自転車」は、日本の将来を語る上で欠かせない、こうしたキーワードに合致するアイテムの1つです。国や地方自治体が自転車の活用の推進を図る中、潜在的な成長余地を見込む会社による、自転車ユーザーをターゲットにしたビジネスが続々と登場しています。

その中には、顧客として取り込める自転車ユーザーの裾野を自ら広げる動きもあります。ひとたび自転車ユーザーの取り込みに成功すると、自転車関連の他領域に進出したり、自転車メーカーとコラボレーションができたりと、波及効果や相乗効果が期待できます。

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2 裾野を広げる自転車関連ビジネスの事例

1)自転車ショップ×八百屋×コインランドリー

東京・五反田駅近くの東急池上線のガード下に自転車ショップと八百屋、コインランドリーを併設したショップ「STYLE-B」があります。運営するのは、駐輪場システムなどを手掛ける日本コンピュータ・ダイナミクスです。中核の自転車ショップでは、自転車を含むアウトドア関連のアパレル・雑貨を販売する他、メンテナンス用のピットや、レンタサイクルも展開しています。

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目指しているのは、裾野が広いライトユーザーの取り込みから始まる自転車関連事業の垂直展開です。米国発のおしゃれな自転車ブランド「Pure Cycles」を国内独占販売するなど、商品や店舗の内装はデザイン性にこだわりましたが、ライトユーザーは「自転車ショップだけでは気軽に入りにくい」(店舗開発を行ったマネジャー)という面もあります。

そこで、東京都内で多店舗展開している「旬八青果店」をテナントに呼び込んだり、スウェーデン製の洗濯乾燥機6台を導入して自社運営のコインランドリーを併設したりして、「入りやすさ」と「入りたい」を意識しました。

旬八青果店ではコーヒーも販売しており、来店者は10席ほどの多目的スペースでくつろぐことができます。自転車ショップを、来店頻度の高い八百屋とコインランドリーに挟まれた多目的スペースに面して配置することで、来店者が自転車を目にする機会を増やしました。

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「八百屋に来た母親に自転車ショップであることも認知してもらい、子供を送り迎えするようになったときに、電動アシスト自転車を購入してもらう」「コインランドリーに来た人が、待ち時間に多目的スペースでコーヒーを飲みながら自転車を眺めるうちに、サイクリングに興味を持ち始める」。STYLE-Bでは、このようなシーンを想定しています。

2)サイクリスト向けマンション

「愛する自転車を、屋外の共用駐輪場には置きたくない」。そんなサイクリストの思いを実現した賃貸ワンルームマンション「LUBRICANT ARAKAWA BASE」が、東京・江東区の荒川近くにあります。部屋に自転車を収納できるラックがあり、マンション入り口はカギを取り出さなくても開くシステムを採用。エレベーターは自転車を楽に載せられるように奥行きを広くしています。マンションを開発した長谷工不動産はこうした設備を、自転車雑誌の監修を受けながら整えました。

開発会社の狙いの1つは、新たな入居者募集ルートの開拓です。LUBRICANTの場合、入居者の募集は不動産業者経由ではなく、自転車関連イベントなどの場で独自に行っています。当初は手間が掛かるものの、「認知度の向上とともに入居者の募集コストが低下する」(マンションの企画担当者)ことが期待できます。

また、LUBRICANTで得られる、自転車ユーザーにとって便利な設備に関するノウハウを活用して、通常のマンションで自転車を利用する人たちへの利便性の向上につなげることも想定されています。

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さらに、共用スペースの貸し出しによる収益も大きな狙いの1つです。荒川沿いにサイクリングに訪れる非入居者も含め、共用スペースを「サイクリストが集まる場所」として定着させることで、自転車や関連用品の製造販売業者をはじめとする、自転車関連業者による臨時出店やイベント開催の機会が増えると見込んでいます。

自転車関連業者にとっても、サイクリストを対象としたターゲット・マーケティングをしやすいメリットがあります。自転車用のトレーニング機材の製造会社が、マンションの住民などをモニターとして活用したケースもあるそうです。

こうした狙いを実現させるため、開発会社は最も重要となるマンションの認知度向上に向けて、次のような取り組みを行っています。

  • 月に2~3回程度のペースで、サイクリストを対象にしたトレーニングやスキルアップの講習を開催する
  • 海外で活躍する現役の自転車競技の選手がオフシーズンに入居した際の感想をSNSに投稿してもらう
  • サイクリストとして影響力の強いYouTuberに共用スペースを体験してもらう

なお、マンションの賃料は「サイクリストに向けた設備・サービスなどのこれまでにない付加価値により、周辺相場に縛られない賃料設定をしている」(マンションの企画担当者)とのことですが、30~40代の独身者を中心に20戸程度(全38戸)の入居者があり、セカンドハウスとして週末に利用する人もいるそうです。

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共用スペースには、メンテナンス用のピットやトレーニング施設、洗車用の設備があります。また、交流スペースには自転車雑誌が並び、自転車競技が見られる大型テレビも備えます。この他、提携した近隣の自転車ショップが「サイクルコンシェルジュ」として週に1回マンションを訪問し、自転車のサポートやメンテナンスをするサービスも提供しています。

3)愛車で観光地を回れるサイクリングバスツアー(R)

旅行先でサイクリングを楽しむ「サイクルツーリズム」は、国内外の観光客を誘致し地域の活性化につなげる手法として注目を集めています(後述)。とはいえ、わざわざ遠方の観光地まで自転車をこいで行くほどの愛好家は限られます。

そこで生まれたのが、自転車を積んだバスで観光地まで移動し、好きなスポットだけを自転車で回れる「サイクリングバスツアー(R)(注)」です。

国際興業は、2012年4月から日帰りを中心としたサイクリングバスツアーを催行している草分け的な存在です。ターゲットは、サイクリングの初心者からサイクリングの面白さを感じてきた人までの、ビギナー層が中心です。このため当初は「顧客と自転車の輸送サービス」としてスタートしましたが、今では添乗員が同伴し、現地でサポートライダーが帯同することもあります。同社は、「適切なサイクリングルートの選定や、食事場所・観光場所の紹介が大切。各種のトラブルや、補給食の提供などのさまざまなニーズにも対応するようになった」(ツアーの担当者)といいます。ツアーによっては現地で自転車を借りられるようにアレンジし、手ぶらでの参加も可能としました。きめ細かなサービスにより、「価格面で改善の余地はあるが、一度ツアーに参加していただくと、ヘビーなリピーターになってもらっている」(同)とのことです。

長年の取り組みにより、ツアーの受け入れに関する引き合いも増えているそうです。同社は、「サイクリングイベントの開催者からの問い合わせはしばしばある。サイクリングを活用して観光振興につなげたい地方自治体からの問い合わせも、日を追うごとに増加している。お客様に良質なサービスを提供できるよう、受け入れ先の地方自治体の熱心さなども考慮しながら、タイアップ先を考えている」(同)といいます。

(注)「サイクリングバスツアー」は、国際興業の登録商標です。

4)“輪泊”ホテルも開業 官民一体でサイクルツーリズムの拠点に

東京から電車で1時間程度の距離にある茨城県土浦市。霞ヶ浦と筑波山の結節点として、湖と山を臨む自然豊かなエリアでもあります。その要衝となるJR土浦駅に直結した駅ビル「PLAYatre TSUCHIURA」内に、星野リゾートが手掛ける自転車ユーザー向けのホテル「星野リゾート BEB5土浦」が開業しました。

ホテルのテーマ「ハマる輪泊(りんぱく)」は、自転車に興味のない人もその魅力にはまり、あらゆる自転車ニーズにはまることを意味しています。部屋数は90室で、一部の部屋は自転車を持ち込める他、愛車と一緒にチェックイン・チェックアウトができます。

BEB5土浦が入居するPLAYatreは、霞ヶ浦の外周など全長約180キロメートルのサイクリングロード「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の利用者へのワンストップサービスを提供する拠点施設として、2018年3月にオープンしました。館内には自転車で乗り入れることができます。駐輪場や、自転車を持ち込めるサイクルカフェの他、自転車ショップ、レンタサイクル、シャワー室、コインロッカーなどを集約した茨城県の施設「りんりんスクエア土浦」も入居しています。

同県によると、りんりんロードの自転車利用者数は2015年度の約3万9000人から2018年度には約8万1000人に増加しました。2020年度は約10万人を目標に掲げており、BEB5土浦とりんりんスクエアとの融合により、東京方面を中心とした一般観光客などの集客力向上が期待されます。

3 自転車ユーザーの増加に寄与する要因

今後、自転車ユーザーの増加に寄与する要因について、ビジネスフレームワークのPEST分析を使って紹介します。

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特に注目すべき点は、社会的、経済的な流れを受けて、国や地方自治体が自転車の活用を積極的に推進していることです。国や地方自治体による取り組みは今後、自転車ユーザーの裾野の拡大や、自転車関連ビジネスの発展に、さまざまな影響を与えることも想定されます。そこで本章では、国および地方自治体による自転車の活用推進の動きをまとめました。

1)自転車活用推進法の施行

2017年5月に、「自転車の活用による環境への負荷の低減、災害時における交通の機能の維持、国民の健康の増進等を図る」ことを目的とした自転車活用推進法が施行されました。これに基づき政府は同月、国土交通大臣を本部長とする自転車活用推進本部を設置しました。

2018年6月に閣議決定された2020年度までの自転車活用推進計画では、自転車の活用の推進に向け、さまざまな指標を設定しています(図表3)。

同推進本部は2019年11月、サイクルツーリズムの推進を目的に、「第1次ナショナルサイクルルート」として3ルートを指定しました。前述の「つくば霞ヶ浦りんりんロード」もそのうちの1つに含まれています。

また、同推進本部と自転車協会など自転車関連の団体は2019年4月、自転車活用推進官民連携協議会を発足させています。

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2)自転車を活用したまちづくりを推進する全国市区町村長の会

2018年11月に、294の地方自治体が参加して「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市区町村長の会」が発足しました。発足1年後の2019年11月時点で参加する地方自治体は358まで増えています。同会について、ウェブサイトでは「我が国の自転車文化の向上、普及促進を図るとともに、各地域が取り組む地方創生推進の一助となること」を目的に掲げています。

4 参考データ

本章では、自転車の普及率や購入されている新車の車種など、自転車ユーザーに関する現在の傾向を示したデータを紹介します。

1)自転車の普及率の推移

自転車の普及率は上昇傾向にあります。

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2)車種別の1店舗当たり平均年間新車販売台数の推移

新車販売台数に占める車種別の構成比を見ると、日常の交通手段に主として使われる一般車が低下傾向にある一方で、一般道路での走行に適したスポーツ車であるクロスバイクや、電動アシスト車の比率が高まっています。

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自転車ユーザーの好みが、従来の「ママチャリ」のようなタイプから、ファッション性や機能性の高いタイプの自転車にシフトしているとみられます。

同じく自転車産業振興協会「自転車国内販売動向調査 年間総括(2018年)」では、一般車で最も多く購入された価格帯(価格帯別販売台数構成比が最も高い価格帯)は、2万3001円~2万7000円です。一方、クロスバイクは5万1円~8万円、電動アシスト車は10万1円~12万円の価格の自転車が最も購入されています。自転車が「単なる交通手段としてのツール」から、「こだわりを持った愛用品」「サイクリングを楽しむための娯楽用品」に変わってきているといえそうです。                              

以上(2020年4月)

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プラモデル・フィギュア業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:プラモデル、フィギュア業界の動向を知りたい経営者
  • 課題:業界の具体的な構造、分類、参入する主なプレイヤーなどが分からない
  • 解決策:業界を俯瞰し、主要企業の具体的な動き、取り組みを知ることが大切

1 プラモデル・フィギュアの概要

1)プラモデル・フィギュアとは

プラモデルは、主な部品がプラスチックで成形された模型の一種です。材料・成型方法の自由度が高いことからさまざまなものを表現しやすく、多種多様なのが特徴です。流通は一般的に、紙箱に詰められた形態で行われます。

フィギュアは、プラスチック・樹脂・金属などを材料に成形されたものです。メーカー側で組み立て・彩色するなどして、購入した消費者が手を加えることなく、飾ったり遊んだりできるようにしています。

流通は一般的に、内容物が見える透明シート製の窓を紙箱や、プラスチック容器に密封した「ブリスターパック」を使った形態で行われます。なお、安価なフィギュアの中には、パッケージに表示された封入リストのいずれか1品を、プラモデル同様に紙箱に詰めて見えないようにして販売するものもあります。

2)プラモデル・フィギュアの分類:モチーフ別

1.スケールモデル

実在もしくは実際に計画されたもの(航空機・車両・艦船・建物など)を縮小サイズで再現したプラモデル・フィギュアです。

2.架空モデル(注)

アニメ・ゲーム・特撮などに登場する、架空のもの(人物・ロボット・航空機・車両・艦船・建物など)をモデルとするプラモデル・フィギュアです。

(注)本稿における便宜上の名称です。キャラクターモデルなどと呼称される場合があります。

3)プラモデル・フィギュアの分類:製造方法・規模別

1.インジェクションキット

鋼鉄製の金型を使った射出成形により製造されるタイプのプラモデルです。量販店や玩具店など販路が広いもの、玩具菓子、ゲームセンターの景品(プライズ)など、比較的安価なフィギュアの部品も同じように作られています。

金型や射出成形機への初期投資が高額になりがちな一方で、金型の耐久性が高く、製造工程の自動化がしやすいため、大量生産によるスケールメリットが得られるという特徴があります。

2.ガレージキット

製造規模が小さなプラモデルの総称です。シリコンゴムで原型を型取りし、溶かした材料(樹脂)を型に流し込むことで部品を製造する「レジンキャストキット」や、樹脂の代わりに融点が低い金属を材料とする「メタルキャストキット」など、少量生産に適した製造方法が採用されています。また、製造数量が少ないフィギュアの部品も同じように作られています。

ガレージキットは、大型の機械や金型などが不要で初期投資が安価な一方で、生産性や型の耐久性が低く生産コストが高くなりがちなため、高価でも買い手が付く希少性の高いものを作るのに適しています。初期投資が低いことに加え、大手メーカーが手掛けないニッチな分野を狙うことで市場開拓ができるため、新興プラモデル・フィギュアメーカーの多くはガレージキットの生産・販売を通じて市場に参入しています。

2 分類別に見たメーカーの特徴

1)総合玩具メーカー

プラモデルやフィギュアだけでなく、さまざまな玩具の生産から流通までを自社グループで手掛けています。幼児向け玩具など多品種展開を狙ってアニメや特撮番組などの版権を取得していることが多いため、プラモデル・フィギュアは架空モデルが主となっています。

資金・生産力・販売力といった経営資源が豊富なため、アニメや特撮番組などの企画段階から「製作委員」などとして参加し、迅速な版権取得や商品化を可能としています。総合玩具メーカーには、バンダイナムコホールディングスやタカラトミーなどがあります。

2)模型メーカー

プラモデル・フィギュアの専業メーカーで、もともと木製模型の製造業として創業している企業が多く見られます。専業メーカーとして一定の販路を確保していることからインジェクションモデルが主となっています。社内に蓄積されているノウハウ・資料などの面でスケールモデルを主に生産していますが、ハセガワやファインモールドのようにスケールモデルのノウハウを活かしたリアル性の高い架空モデルの生産を手掛けるケースもあります。模型メーカーには、タミヤ、ハセガワ、青島文化教材社などがあります。

3)模型店発祥のメーカー

模型店が、常連のプラモデル制作者(モデラー)が持ち込んだ原型や顧客の要望を基にガレージキットやフィギュアなどを製品化して市場に参入し、その後生産委託先を確保するなどして規模を拡大しているケースです。架空モデルに強みを持っていますが、ピットロードやボークス子会社の造形村のように、スケールモデルを手掛けているケースも見られます。模型店発祥のメーカーには、ウェーブ、海洋堂などがあります。

4)その他の企業

その他、フィギュアの企画・生産・販売を目的に設立された企業(アルター、マックスファクトリーなど)や、イベント企画など異業種の企業が参入した企業(グッドスマイルカンパニーなど)もあります。

また、出版社や編集プロダクションの中には、KADOKAWAのように自社が版権を所有する作品のプラモデル・フィギュアの企画・開発を手掛けるケースも見られます。

3 製造・販売などに関する主な差異化策

1)製品の鍵を握る質の高い「原型」

高価格帯を中心に、フィギュアの一大購買要因となっているのが、フィギュアの原型となる模型を作成する「原型師」です。原型師は、フィギュアメーカーに所属しているケースと、フリーの原型師がメーカーと原型製作契約を締結しているケースがあります。大手フィギュアメーカー、特にガレージキットの生産・販売を発祥とする企業は、有力な原型師を擁しているのが一般的です。

一方、3DCAD(3次元コンピューター製図)の高度化に伴って、従来は人の手で実際に造形する必要があった高度な原型製作がコンピューター上でできる「3Dモデリング」も一般的になっています。3Dモデリングの場合、「原型をゼロから製作する必要がない」「修正が速やかにできる」「ソフトウエアの機能によって原型を生産用のパーツ図面に分解するのが容易」といった、原型の設計スピードが速いという特徴があります。

2)交流空間

フィギュアのリピーター獲得に当たっては、消費者のロイヤルティーを高めることが重要です。プラモデル・フィギュアメーカーにおいては、その一環として、メーカーと消費者の交流空間の整備を進めています。

交流空間としては、従来からメーカー直営の模型店がありましたが、近年ではさまざまな形態の空間が登場しています。例えば、ボークスでは、京都府京都市の旧霞中庵竹内栖鳳記念館を改装した「天使の里・霞中庵」を運営しています。同施設では、同社製フィギュアの工房、ショップ、喫茶室、撮影スポットなどを設ける他、特定フィギュアの所有者のみ来館可能(予約制)にすることで、顧客満足度を高めるようにしています。

3)海外展開

1.生産拠点

プラモデルメーカーの生産拠点の多くが国内、特に大手メーカーの本社や工場が集中している静岡県に所在します。これは、主なマーケットが国内であることに加え、射出成型機など自動化が進んでおり人件費の割合が低い、下請企業のネットワークが構築されていることなどが背景にあります。ただし、総合玩具メーカーや一部の模型メーカー(タミヤなど)では、海外でも生産しているケースが見られます。

一方、フィギュアメーカーの多くは、人件費が安いアジア地域の国々に所在する自社工場や委託先工場で生産しています。これは、フィギュアの生産に当たっては組み立てや彩色など人手が必要で自動化が難しい工程が多く、生産コストに占める人件費の割合が高いためです。品質を維持するため、海外で生産を手掛ける各社においては、日本から技術者を派遣したり、定期的に生産現場のチェックを行ったりしています。

2.販売網

総合玩具メーカーは、自社で販売網を構築しています。これは、次に挙げるような背景があるためです。

  • キャラクターを前面に打ち出した玩具ビジネスを手掛けるに当たって、自社グループでキャラクターブランドのマネジメントを直接行う拠点を設ける必要がある
  • 海外の大手玩具メーカーを買収して販売網を自社グループに取り込んでいる

一方、模型メーカーやフィギュアメーカーの多くは、米国などの有力市場を除けば、各国の有力な模型流通業者や日本のアニメ・ゲームの取り扱いに強みを持つ専門店に販売代理店となってもらい、流通を肩代わりしてもらっています。これは、総合玩具メーカーほど流通網を構築する経営資源がないことや、自社で拠点を設けるほどの流通量が見込めないことが背景にあります。例えば、タミヤは、米国やドイツに営業・代理店支援を行う拠点を設ける一方で、流通については各国の代理店や合弁会社を通じて行っています。また、ボークスは米国の販売拠点としてショールームを設けています。

日本のプラモデル・フィギュアを巡っては、少子高齢化などによって国内市場の縮小が懸念されている一方で、クールジャパンを象徴するものとして海外で高く評価されています。この点を踏まえると、成長著しいアジアなど海外市場の開拓は急務といえます。プラモデル・フィギュアメーカー各社では、英語など外国語のウェブサイトを設けて海外の消費者やバイヤーにアピールするなどして、海外市場開拓に注力しています。

4 市場規模

プラスチックモデルキットの出荷金額および産出事業所数の推移は次の通りです。

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2017年のプラスチックモデルの製造品出荷額は204億7400万円で、2016年と比べて7.8%増加しています。産出事業所数もわずかであるものの増加傾向が見られます。

以上(2020年7月)

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ESCO事業の概要

書いてあること

  • 主な読者:ESCO(Energy Service Company)事業者の活用を検討している経営者
  • 課題:ESCO事業者とどのように契約してよいか分からない
  • 解決策:2種類の契約形態を理解するとともに、政府の主な補助制度の内容を押さえる

1 ESCO事業とは

ESCO(Energy Service Company)事業は、工場やビルの省エネルギー診断、改修計画の立案、設計・施工管理といった直接工事に関わるサービスとともに、資金調達、改修後の運転管理、会計分析を含む包括的なサービスを提供することによって、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るサービス事業です。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会によると、ESCO事業者は、次のようなサービスを組み合わせて提供しています。

  • 省エネルギー診断に基づく省エネルギー提案
  • 提案実現のための省エネルギー設計および施工
  • 省エネルギー導入設備の保守・運転管理
  • エネルギー供給に関するサービス
  • 事業資金のアレンジ
  • 省エネルギー効果の保証
  • 省エネルギー効果の計測と検証
  • 計測と検証に基づく改善提案

ESCO事業では、全ての費用(建設費、金利、ESCO事業者の経費)を省エネルギー改修によって実現する光熱水費の削減分などで賄うことを基本としています。契約期間終了後の光熱水費の削減分は全て顧客の利益になります。

2 ESCO事業の契約形態

ESCO事業の最大の特徴は「省エネルギー効果の保証(パフォーマンス契約)」です。ESCO事業者は、パフォーマンス契約を締結することで保証リスクを負うことになるため、保証リスクを軽減するべく、顧客に最適な技術提案をすることになります。顧客は、パフォーマンス契約の締結によって、省エネルギー効果の達成が確実になります。

ESCO事業者と顧客が締結するパフォーマンス契約には、次の2つの形態があります。

1.ギャランティード・セイビングス契約

  • 顧客が事業資金を調達し、省エネルギー設備は顧客の自己資産となる。
  • 初年度に省エネルギー改修工事に掛かる費用の支払いが発生するため、顧客の初期投資負担が相対的に大きくなる。

2.シェアード・セイビングス契約

  • ESCO事業者が事業資金を調達し、省エネルギー設備はESCO事業者の資産となる。
  • 顧客は省エネルギー設備のオフバランス化(資産の外部化)が図れる。
  • 省エネルギー改修工事に掛かる費用はサービス料(償却費込み)として支払うため、顧客は初期投資を必要とせず、費用負担の平準化が図れる。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会ウェブサイト公表資料によると、パフォーマンス契約の2つの形態の比較イメージは次の通りです。

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3 国内のエネルギー供給の状況

2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、2030年に実現を目指すエネルギーミックス水準として、電源構成比率を、再生可能エネルギー22~24%、原子力発電20~22%、化石燃料56%とすることが掲げられています。また、省エネルギー化によって、実質エネルギー効率35%減の改善を目指すとしています。

足元では、東日本大震災を背景に一部を除く原子力発電所は稼働を停止しており、国内の電力はおおよそ8割を火力発電で賄っている状況です。火力発電の燃料(石油、石炭、天然ガス)は、そのほとんどを輸入に依存しています。原子力発電所については、再稼働の是非が議論されており、安全で安定的なエネルギー供給体制の確保については不透明な状況が続いています。

一方、2016年4月から、参入が規制されてきた低圧部門(家庭や商店など)の電力小売り自由化が始まり、2020年4月には、電力会社が独占してきた発送電の分離が義務付けられました。こうした状況は、省エネルギーを売りにするESCO事業の追い風になるものと考えられます。

4 ESCO事業に関する主な補助制度

ESCO事業に関する主な補助制度として次の2つが挙げられます。それぞれ公募期間や予算額があるため留意が必要です。

1)エコリース促進事業補助金(環境省補助事業)

エコリース促進事業は、一定の基準を満たす再生可能エネルギー設備や産業用機械、業務用設備等の幅広い分野の低炭素機器をリースで導入した際に、リース料総額の1~5%を補助する制度です。また、東北三県(岩手県、宮城県、福島県)における補助率は10%となっています。

補助金申請は環境省から指定を受けた指定リース事業者が行います。補助金は指定リース事業者に交付されますが、リース契約時に補助金全額をリース料低減のために充当するという内容の特約などを交わすことが条件となります。対象リース先は、家庭(個人)、個人事業主、中小企業(資本金3億円以下の企業)であることが要件です。

2)エネルギー使用合理化等事業者支援補助金(経済産業省補助事業)

エネルギー使用合理化等事業者支援事業は、既設の工場・事業場などにおける先端的な省エネルギー設備の導入について、「技術の先端性」「省エネルギー効果」「費用対効果」を踏まえて、政策的意義が高いと認められ、交付規程および公募要領の要件を満たす事業に対して補助対象経費の3分の1以内(エネルギーマネジメント事業者を活用する場合は補助対象経費の2分の1以内)を補助する制度です(中小企業者等の場合)。

以上(2020年7月)

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結婚の形が多様化する時代の結婚式場業の動向

書いてあること

  • 主な読者:結婚式場業
  • 課題:足元では新型コロナウイルス感染症のまん延に加え、長期的に婚姻件数が減少しており、厳しい経営環境に置かれている
  • 解決策:オーダーメード型の結婚式の提案、ナシ婚に対応した写真撮影のみのプランの提供などにより、ナシ婚やおもてなし婚といった多様なニーズを取り込んでいく

1 結婚の多様化が結婚式場業に与える影響

現在、結婚の形は多様化しています。生涯未婚の人、パートナーがいても入籍しない人、婚姻届の提出はするものの結婚式を挙げない(ナシ婚)人などが増えています。また、初婚年齢が上昇し、再婚割合が増えていることも、近年の特徴といえます。

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婚姻件数が減少していたり、ナシ婚の人が増えていたりすることなどから、ホテル、寺社・教会、結婚式専門の施設(一般の結婚式場、欧米風のゲストハウスなどを含む。以下「結婚式場」)など多数の事業者が存在する結婚式場業は、利用者獲得をめぐる競争が激しくなっています。

また、2020年は新型コロナウイルス感染症のまん延から、挙式のキャンセルも増えています。東海地方を中心に結婚式場や貸衣装店を運営するラビアンローゼは2020年4月に民事再生手続の開始を申し立てました。利用者獲得をめぐる競争が激化する中で、新型コロナウイルス感染症のまん延によって、苦しい経営状況に置かれる結婚式場業は少なくないと考えられます。

2 結婚式場業に関連するデータ

1)結婚式場業の事業所数と従業者数の推移

結婚式場業の事業所数と従業者数の推移は次の通りです。

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2016年の事業所数の合計は1435事業所、従業者数は5万4人、1事業所当たりの従業者数は35人となっています。

2)1事業所当たりの年間売上高など

1事業所当たりの年間売上高などは次の通りです。

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売上高・取扱件数・従業者数合計などについては年によって増減があるものの、1件当たりの売上高は増加傾向にあります。

3 結婚式のニーズに関するデータ

1)結婚式の費用総額などの推移

結婚式の費用総額などの推移は次の通りです。

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費用総額は年によって増減があるものの、近年の招待客数は減少傾向、結婚式の招待客1人当たり費用は増加傾向にあります。これは晩婚化の影響で、金銭的に余裕があり、結婚式への列席経験が豊富な利用者(新郎・新婦)が増えているためとみられます。このような利用者は「画一化されたプランではなく、自分たちらしい結婚式を挙げたい」「親しい人たちに日ごろの感謝を伝えたい、おもてなしをしたい」といったこだわりがあるとされています。こうしたこだわりの結婚式はおもてなし婚などと呼ばれ、招待客1人当たり費用の増加などに影響していると考えられます。

2)披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移

披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移は次の通りです。

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結婚式場は装置産業といわれ、恵まれた立地、最新の設備、文化的な魅力などを兼ね備えた施設(ハード)を有する業者が有利です。この基本はいつの時代も変わりませんが、特に景気が好調だった時代は「派手婚」と呼ばれる豪華な結婚式が話題を集め、大規模な宴会場などを備えた一般の結婚式場、ホテルなどのニーズが高まりました。

一方、いわゆるバブル経済が崩壊した1990年代ごろから、「アットホームなオンリーワンの結婚式を挙げたい」という人が増え、ゲストハウスなども結婚式会場として選ばれるようになり、現在では一般の結婚式場、ホテル、ゲストハウスが結婚式会場の代表格です。

現在、結婚式場のスタイルが多様化する一方、結婚式場全体の市場は縮小しています。大手の結婚式場では、減少する利用者を全方位的に獲得するため、自らゲストハウスなどを新設したり、買収によって多様な施設を確保したりするなど、ハードの拡充を図っています。

しかし、最近ではハードを整備するだけでは個別化・多様化するニーズに応えることは難しく、プランニングなどソフト面での充実や、ナシ婚といった結婚式を挙げない人のニーズを喚起するような取り組みが求められています。

以降では、ハードの整備に頼ることなく、個別化・多様化するニーズへの対応や、ニーズ喚起といった課題に取り組む企業事例について紹介します。

4 個別化・多様化するニーズに対応する取り組み

1)オーダーメード型の結婚式の提案

個別化・多様化するニーズに対応する方法の1つとして、オーダーメードの結婚式の提案などがあります。従来は結婚式を挙げることが決まると、結婚式場を選び、結婚式場専属のウエディングプランナーと相談して、結婚式のプランを決定するのが一般的でした。

しかし、こうした方法では、衣装や演出の方法が限られ、画一的な結婚式となりがちです。そのため、結婚式に対してこだわりを持つ人を中心に、フリーのウエディングプランナーを雇って、会場や衣装などを個別に契約するオリジナルの結婚式を挙げる動きが少しずつ広がっています。

こうした動きに対応して、結婚式場においても、オーダーメード型の結婚式の提案に力を入れている企業があります。テイクアンドギヴ・ニーズでは、会場選びの段階から全てオーダーメードで企画する「オートクチュールデザイン」というプランを用意しています。このプランでは、ウエディングプランナーを中心に、プロのメーキャップアーティストなど、さまざまな分野の専門家がチームとなって、利用者のニーズを実現していきます。

また、このように完全なオーダーメード型でなくても、ウエディングプランナーが利用者のニーズを細かく聞き取りながら、希望の結婚式を実現する動きは活発になっています。

2)シニアを対象とした結婚式の提案

現在、晩婚化が進んでいるだけでなく、婚姻件数に占める再婚の割合も増加しており、シニア世代の結婚も増えています。従来は、年齢を気にして、結婚式を挙げることをためらっていたシニアが多かったものの、最近では「節目をきちんとお祝いしたい」というニーズも出てきています。しかし、シニアが求めるプランは少ないのが現状です。

全国で多数の結婚式場業を運営するレックでは、「小さな結婚式」のブランド名で、「大人の挙式プラン」といった少人数向けの結婚式プランを提供しています。晩婚や再婚であるため、若い人ほど華美な結婚式を挙げるのは気が引ける、年齢相応の衣装にしたいといったニーズに応えています。

3)ナシ婚に対応したプランの提案

老舗結婚式場の目黒雅叙園では、結婚式を挙げずに記念写真のみを撮影する「フォトウエディング」を提供しています。目黒雅叙園のウェブサイトによると、料金はドレスなどの衣装のレンタルや着付け・ヘアメーク、撮影などの料金を含めて平日限定で8万8000円(1カットのみ・税別)からとなっています。

また、キリフダが提供する「プライダル」も目黒雅叙園と同様の取り組みといえます。「プライダル」では老舗の結婚式場やホテルなどで写真撮影と身内だけの食事会をセットにしたサービスを提供しており、提携先の会場には八芳園や、ザ・プリンスパークタワー東京などが登録しています。

こうしたプランの提供は、従来型の結婚式を挙げる必要は無いと考える人や、再婚であるなどの理由から結婚式を挙げることをためらっていた層のニーズを獲得しています。

以上(2020年7月)

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発酵食品に関する基礎的な情報

書いてあること

  • 主な読者:発酵食品に関する情報収集をしたい経営者
  • 課題:どのような団体に情報収集、取材などをして良いのか分からない
  • 解決策:発酵食品は業界団体、大学等で研究している機関がある

1 発酵食品とは

1)「発酵」とは

発酵は、微生物(カビ、菌、細菌など)の作用により有機物(米、牛乳、野菜など)が分解され、新しい物質(酒、ヨーグルトなど)が生成される作用のうち、栄養が体内に吸収されやすくなるなど、人体に良い影響を与えるものをいいます。同様の作用として腐敗も挙げられますが、こちらは食中毒など、人体に悪影響を与えるものをいいます。

近年では、食品製造に限らず、医薬品や化学物質(燃料など)の生成などの工業分野でも用いられるようになっています。

2)発酵食品とは

発酵食品は、発酵によって原材料を変化させた食品のことをいいます。例えば、「米、水+コウジカビ=日本酒」「牛乳+乳酸菌=ヨーグルト、チーズ」などが挙げられます。

食品を発酵させることで、「長期間の保存が可能になる」「風味が増す」といった効果があります。これは、発酵によって、「有機物が変質し、腐りにくくなる」「アミノ酸など風味に影響する物質が生成される」などの作用が生じるためです。

なお、発酵食品の製造と食品の腐敗は紙一重であることが珍しくありません。例えば、日本酒の「火落ち」は、乳酸菌の一種である「火落ち菌」が繁殖して醸造中の酒を白濁させて風味を悪くするという、一種の「腐る(腐造)」現象です。また、一部の発酵食品にみられる独特の香りや風味が人によっては「腐っている」と感じさせるものであることも、発酵食品の製造と食品の腐敗が紙一重である象徴といえるでしょう。

3)主な発酵食品

発酵食品は、数千年前から製造されてきたほど歴史が古く、また微生物はさまざまな環境で生息していることもあり、米国アラスカ州のような厳寒の地から、東南アジア諸国のような熱帯の地に至る世界中でみられます。

主な発酵食品としては、次のようなものが挙げられます。

  • 酒類:日本酒、焼酎、ビール、ワインなど
  • 乳製品:ヨーグルト、チーズなど
  • 水産加工品:くさや、なれずし、かつお節など
  • 肉類加工品:ドライソーセージ(サラミなど)、火腿(かたい・中国のハムの一種)など
  • 調味料:味噌、しょうゆ、酢、みりん、塩麹など
  • その他:パン、一部の漬物(キムチ、らっきょう漬けなど)、納豆など

このように、発酵食品は多様であり、原材料も、「穀類(米、麦など)」「イモ(サツマイモなど)」「肉類(豚肉など)」「乳類(牛乳など)」「その他有機物」などさまざまです。また、発酵食品は、地域土着の微生物を使うことで差異化が図りやすいため、地元の特産品として売り出しやすい特徴を持っています。

以降では、発酵食品の関連団体や研究機関、参考文献について紹介していきます。

2 発酵食品に関連する機関

1)関連団体について

発酵食品の関連団体としては、「発酵食品の製造業者の団体」「業界の一部が発酵食品に関わっている団体」「発酵に関連する分野が含まれる学会」などがあります。ここでは、「関連学会・機関」「業界団体」に分けて紹介します。

2)関連学会・機関

関連学会・機関は次の通りです。

1.日本醸造学会(東京都北区)

https://www.jozo.or.jp/gakkai/

醸造に関する学会です。醸造に関するセミナーやウェブ講習をはじめ、毎月発行している学会誌などを通じて、醸造に関する研究成果を公表しています。

2.日本生物工学会(大阪府吹田市)

https://www.sbj.or.jp/

生物工学に関する研究の発表や支援などを行っている学会です。もともと醸造関係の学会として発足した経緯があるため、学会誌などを通じて、発酵食品に関する発表を行っています。

3.日本農芸化学会(東京都文京区)

https://www.jsbba.or.jp/

化学的な観点から生命現象や食品などについて考える「農芸化学」に関する学会です。ウェブサイト上の「年次大会講演発表データベース」では、キーワードや発表者名などで発表内容、発表者名や所属団体などを検索できます。また、農芸化学関連の研究室などもウェブサイトで検索できます。

4.日本食生活学会(東京都文京区)

https://www.jisdh.jp/

食生活に関する学会です。研究大会・集会や学会誌の発行を通じて、研究成果の発表を行っています。

5.日本家政学会(東京都文京区)

http://www.jshe.jp/

家事や育児など、家政学に関する学会で、発酵食品に関する発表もされています。

6.日本発酵文化協会(東京都目黒区)

http://hakkou.or.jp/

発酵食品の開発や普及を支援する団体です。同協会が開催する発酵教室では、さまざまな発酵食品の基本的な製造方法を学ぶことができます。

3)発酵食品に関連する業界団体

1.全国発酵乳乳酸菌飲料協会(東京都新宿区)

https://www.nyusankin.or.jp/

発酵乳・乳酸菌飲料の製造・販売に関する業界団体です。乳酸菌の働きや、食生活と健康に関する情報を発信しています。

2.日本乳業協会(東京都千代田区)

https://www.nyukyou.jp/

乳業の業界団体です。乳製品に関する情報発信などを行っています。

3.日本酒造組合中央会(東京都港区)

https://www.japansake.or.jp/

日本酒・焼酎の全国団体です。酒税の保全および酒類業の取り引きの安定を目的としており、酒類業界の振興や消費者向けの情報提供などを行っています。

4.全国醤油工業協同組合連合会(東京都中央区)

https://www.soysauce.or.jp/(注)

醤油業界の全国団体です。同じく業界団体である日本醤油協会などと共同で運営する「しょうゆ情報センター」のウェブサイトなどを通じ、業界内部や消費者に向けた情報発信などを行っています。

(注)URLは「しょうゆ情報センター」のものです。

5.全日本漬物協同組合連合会(東京都江東区)

https://www.tsukemono-japan.org/

漬物業界の全国団体です。漬物に関する情報発信を行っている他、各地の漬物協同組合の上位団体として、各種委員会の取りまとめや、製造従事者の技能レベルを認定する「漬物製造管理士制度」を運営しています。

6.全国味噌工業協同組合連合会(東京都中央区)

http://zenmi.jp/

味噌業界の全国団体です。味噌に関する情報発信を行っている他、原材料を安値で安定して確保できるシステムづくりを進めています。

7.チーズフェスタ

https://www.cheesefesta.com/

チーズ普及協議会と日本輸入チーズ普及協会が共同開催している、チーズに関する総合イベントです。同フェスタでは、チーズを使った料理のグランプリ「チー1」を開催しており、上位作品についてはレシピを公開しています。

4)大学

一般的に、発酵食品に関する研究を行っている大学の学部・専攻としては、農学部、工学部、理学部などに設けられた「応用生命学」「醸造学」「食品科学」「農芸化学」などが挙げられます。ただし、専攻名などに「醸造」「発酵」と付いていても、発酵食品の研究を行っていないケースは少なくありません。これは、微生物の研究が進んだ結果、発酵を食品以外の分野(医薬品製造、燃料生成など)に活用する研究にシフトし、以前は手掛けていた発酵食品の研究を行わなくなったためです。

発酵食品に関する研究を行っている主な大学は次の通りです。多くの大学では産学連携の窓口を設けています。共同研究や受託研究の依頼をする際は、まずこうした窓口に協力を打診して、自社が求めている分野の適切な研究者を紹介してもらうようにしましょう。

1.秋田県立大学 生物資源科学部応用生物科学科食品醸造グループ

http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/DBT/

秋田県産の豊富な農畜水産物を活用した発酵食品の研究・開発を行っています。

2.石川県立大学 生物資源環境学部食品科学科

https://www.ishikawa-pu.ac.jp/undergraduate/food_science/

分子レベルから、製造・加工・流通の技術や方法、栄養や衛生の問題など、食品に関する幅広い研究を行っています。

3.大阪大学 大学院工学研究科生物工学専攻

https://www-bio.eng.osaka-u.ac.jp/

戦前から醸造学の研究を行っており、今日では国内におけるバイオテクノロジー研究のトップランナーです。

4.鹿児島大学 農学部 焼酎・発酵学教育研究センター

http://shochu.agri.kagoshima-u.ac.jp/honkaku/

地場産業である焼酎などの発酵食品の製造や、微生物そのものに関する研究を行っています。

5.岐阜大学 応用生物科学部応用生命科学課程食品生命科学コース

http://www.abios.jpgu-u.ac.jp/lifescience/

素材から流通に至る食品に関する広範な研究を行っています。

6.京都大学大学院 農学研究科産業微生物学講座

http://www.sangyo.kais.kyoto-u.ac.jp/

微生物の有する潜在能力を活用したモノづくりに関する研究を行っています。

7.東京農業大学 応用生物科学部醸造科学科、大学院 農学研究科醸造学専攻

http://www.nodai.ac.jp/academics/app/fer/ (応用生物科学部醸造科学科)
http://www.nodai.ac.jp/nodaigs/major/agri/fermentation/ (農学研究科醸造学専攻)

醸造を専門とする学科・専攻で、多くの酒造関係者を輩出してきた名門です。

8.広島大学 工学部第三類生物工学プログラム発酵工学課程

https://home.hiroshima-u.ac.jp/hakko/

酒類総合研究所に隣接している地の利を活かし、酒造などさまざまな分野の発酵に強みを持っています。

9.別府大学 食物栄養科学部発酵食品学科

https://www.beppu-u.ac.jp/course/nutrition/ferment/

地場産業である酒類(日本酒、焼酎など)や調味料(味噌、醤油など)のメーカーとのつながりに強みを持っています。

10.三重大学 生物資源学部、大学院生物資源学研究科

http://www.bio.mie-u.ac.jp/

生物資源の持続的生産を目指した開発や利用に関する研究を行っています。

11.名城大学 農学部応用生物化学科応用微生物学研究室

http://www-agr.meijo-u.ac.jp/labs/nn008/

発酵や醸造、微生物の活用に関する研究を企業と連携しながら行っています。

12.山梨大学 ワイン科学研究センター

http://www.wine.yamanashi.ac.jp/

地場産業であるワインの醸造や、醸造・発酵に役立つ微生物の研究を行っています。

13.酪農学園大学 農食環境学群食と健康学類

https://www.rakuno.ac.jp/department/agriculture/food.html

地場産業である酪農に関連した発酵食品の研究・開発などを行っています。

5)研究機関

発酵食品に関する研究は、大学の他、国や地方自治体などが運営する技術支援機関でも行われています。こうした機関では、自ら研究を行う他、共同研究・受託研究の形で企業などに対する技術支援や、検査・試験機器の貸し出しや検査・試験の代行などをしています。

発酵食品に関する研究を行っている主な研究機関は次の通りです。

1.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 食品研究部門(茨城県つくば市)

http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/nfri/

食に関わる科学と技術に関するさまざまな研究を企業などと行っている機関です。同研究所では微生物の高度利用やパン酵母遺伝子などの研究成果をデータベースなどの形で公表しています。

2.酒類総合研究所(広島県東広島市)

https://www.nrib.go.jp/

酒に関する各種研究・調査や分析・鑑定などを行っている機関です。研究成果についてはデータベースなどの形で公表しています。

3.食品産業センター(東京都港区)

https://www.shokusan.or.jp/

食品産業に関する各種調査、研究・開発の支援などを行っている機関です。食品加工に関するガイドラインや、特産食品に関する情報提供、食品製造の衛生管理に関する研修会などを手掛けています。

4.日本醸造協会(東京都北区)

https://www.jozo.or.jp/

日本酒・醤油・味噌など醸造に関する調査・研究を行っている機関です。酵母など醸造に使用する資材の供与、分析・検査の代行、技術者・技能者の育成、技術指導などの形で醸造業者を支援しています。

以上(2020年7月)

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資材購買コストを削減するための処方箋

書いてあること

  • 主な読者:購買担当者、購買担当者を任命する経営者
  • 課題:資材に関する専門的な知識がより一層必要になっている
  • 解決策:「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要である

1 企業活動における購買の役割

企業活動における「購買」とは、事業に必要な資材・製品・設備を外部から調達することを指します。資材・製品・設備などの他に、外部のサービスを利用することも購買に含まれます。企業規模によって異なるものの、企業には購買担当者が存在し、営業担当者や製造担当者からの要望により、必要な資材を調達しています。

近年では、企業の社会的責任として環境問題への対応が求められる中で、大手企業が中心となって「グリーン調達」が一般的になっていますが、その中心となっているのは購買担当者です。 

また、経営環境の変化は激しさを増しており、これまでと同じ資材購買のやり方では、成果を上げることが難しくなっています。資材購買コスト削減の基本は、それまでと同品質の資材を低コストで調達することですが、これを実現するためには資材に関する専門的な知識や、豊富な調達先を持つ購買担当者の存在が重要になります。

本稿では、資材購買コストの削減に注目し、これを実現するためのポイントを簡単にまとめていきます。

2 資材購買計画の立案とコスト削減策の検討

資材購買コストの削減を図るためには、「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要です。そのためには、資材購買計画を立案し、自社の購買の実態を把握する必要があります。資材購買計画の立案方法は次の通りです。

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資材購買計画とは、購買に際して要する予算などを決定する計画であり、生産計画・資材購買方針を前提にして立案されます。生産計画は、自社製品の生産量などの他に、生産形態(見込み生産か受注生産か)などによってもその内容は異なります。

また、資材購買方針を立案する際は、購買条件などが記載されている資材購買の規定などのマニュアルを参考にするとよいでしょう。こうしたマニュアルは、社内の購買条件などが記載されており、資材購買方針を立案する際に役立ちます。

資材購買計画を整理することで、自社の資材購買の現状を客観的に把握することができるため、次の点を検討しやすくなります。

  • 購買先や購買方法を変更する余地があるか否か
  • 購買先を変更する場合、変更先にはどこがあるのか
  • 変更先との価格交渉のラインをどの程度に設定するか

3 資材購買コスト削減のポイント

1)購買担当者の意見を取り入れた資材購買

中小企業では、営業担当者や製造担当者などからの要望を購買担当者がまとめ、資材の仕様・規格・品質や在庫状況を確認した上で複数の購買先から相見積もりを取ります。その結果、自社にとって最も条件のよい購買先に発注します。最も条件のよい購買先を検討する際は、例えば次の基準を参考にします。

  • 企業信用力:財政状態だけではなく、災害時の事業継続性なども検討する
  • 資材の品質:業界標準と比べた品質水準などを検討する
  • 納期:業界標準および発注ロットに見合った納期であるかを検討する
  • 価格:業界標準および発注ロットに見合った価格であるかを検討する

基本的に、購買担当者は営業担当者や製造担当者の要望に従って資材を発注するため、「多品種少量の資材を使う」「単価の高い特殊な資材を使う」など設計段階で生じるコスト増大要因に対処することが難しくなります。この場合、購買担当者は、資材を可能な限り安く調達できる購買先を探すくらいしかできません。もちろん、これは非常に重要なことですが、この取り組みだけでは資材購買コスト削減の効果が限定的なものになってしまいます。

そこで、営業担当者や製造担当者が要望する資材を決定する場に購買担当者も参加し、主に次の点から、購買担当者の視点も踏まえて資材購買の方針を決定するようにします。

  • 資材点数の削減
  • 資材の材料、品質、形状などの標準化
  • 製造担当者が要求する資材より、安価で質の高い代替資材の採用

この場合、購買担当者の知識と経験が非常に重要になります。営業担当者や製造担当者は、「自分が製品を販売し、あるいは製造して売り上げを上げている」との自負があります。そのため、購買担当者もそれなりの準備をして説明しないと、資材点数の削減などに関する提案をなかなか受け入れてもらえません。

例えば、購買担当者は生産計画や資材購買方針を説明することで、営業担当者や製造担当者から理解を得られる場合があるでしょう。

とはいえ、資材購買計画とは異なる購買も時には必要であり、購買担当者は営業担当者や製造担当者の意見には十分に耳を傾け、柔軟に対応する姿勢が必要です。また、企業は購買担当者に日本能率協会が主催する「調達プロフェッショナル認定者」(詳細は後述します)の試験を受けさせるなどして、その育成に努めることが重要です。

2)購買先の絞り込みとその際の留意点

購買先の選定に当たっては、複数の購買先候補から見積もりや試作品を入手して、十分に比較検討します。

また、購買先を絞り込んで大量に発注することでスケールメリットを得ることもできます。

ただし、購買先を絞り込み過ぎると、その相手に何らかのトラブルが生じた場合の対処が難しくなります。信用調査を徹底するとともに、災害時の事業継続計画(いわゆる「BCP」)などにも注意する必要があります。東日本大震災では、自動車部品をはじめとして、多くの部品メーカーが被災したことによりサプライチェーンが分断され、大手自動車メーカーなどで生産ラインの停止に追い込まれるといった影響が出ました。こうした事態を防ぐためには、メーンの購買先と地理的に離れた場所に、サブの購買先を確保するなどの対策が必要となります。

3)一括購買を検討する

社内の情報共有は資材購買コスト削減において非常に重要です。例えば、各工場の在庫情報を本社が一元管理できるようになれば、工場間で資材の融通が可能になるため、無駄な発注がなくなります。

また、各工場の発注を一本化することでスケールメリットが得られる可能性があります。ただし、場合によっては遠方からの納品となって、従前よりも物流費が上昇する恐れがあるので注意が必要です。

4)購買先と交渉する際のポイント

資材購買コストに限らず、値下げ(コスト削減)交渉の窓口となった担当者は、上長に指示された通りにコスト削減をすることばかりに意識が向きがちです。そうした担当者は、値下げ交渉をせざるを得ない自社の状況や値下げ幅の設定根拠などを相手に十分に説明せず、繰り返し値下げ要請だけをしがちです。

しかし、理由はどうであれ、値下げを依頼される購買先は自社に対して少なからず不信感を抱くものです。過去にも値下げをしたことがある場合はなおさらです。

そのため、値下げ交渉の窓口となった担当者は、誠意ある姿勢で相手と交渉しなければなりません。その際、該当する資材の市況なども話題になるはずなので、そうした意味で、購買担当者には資材に関する専門的知識の他、コミュニケーション能力や交渉力も求められます。

4 情報を活用するための体制整備

1)社内イントラネットなどで情報を収集

購買は単に購買担当者だけで完結する業務ではなく、営業担当者や製造担当者などさまざまな部門とのやり取りが必要になります。そのため、社内イントラネットなどを使って社内の情報がしっかりと共有できる体制を整えることが不可欠です。こうした情報システムでは、資材に関する全ての情報を一元管理するのが望ましいでしょう。

2)社外のマーケットプレイスへの参加

現在、資材調達に関するさまざまなウェブサイトが開設されています。業界団体や複数の大手企業が合同で開設したマーケットプレイス(MP)は参加企業が多いことから、従来よりも低コストで資材が購買できる可能性があります。実際に売買取引をしなくても、地域やロットによる資材の相場観を知ることができます。

また、オフィス備品や消耗品を中心に扱うECサイトの「カウネット」では、複数の調達先から一括で見積もりを取ることができる商談機能や会計システムと連携できるシステムを提供しています。こうしたサービスの利用を検討することで、購買業務の手間を削減できるかもしれません。

このように、購買担当者は社外のMPにも精通し、必要に応じて参加することが重要です。また、MPの運営者が「資材購買コストの削減セミナー」などを開催することがあるので、購買担当者は積極的に参加するようにしましょう。参加者は、同じような課題を抱えた企業の購買担当者であり、お互いに情報を交換するなどしておけば、そこで形成した人脈は後々も役に立つでしょう。

5 最も重要な購買担当者の育成

資材購買コストの削減において購買担当者が果たす役割は非常に大きなものです。特に、限られた従業員が購買を担当している中小企業では、いかに購買担当者の知識レベルを向上させ、経験を積ませるかが重要になります。

そのため、企業は購買担当者に次に紹介するような資材購買関連の資格取得を奨励しましょう。次に挙げる資格取得を目指すのは、一部上場クラスの企業の購買担当者が中心ですが、中小企業の購買担当者が取得しても十分に役立つものです。

1)日本能率協会「調達プロフェッショナル認定者」

日本能率協会では、購買・調達業務のプロフェッショナルとして必要とされるスキルを習得した者を、調達プロフェッショナル認定者(Certified Procurement Professional、以下「CPP」)として認定する資格試験を実施しています(試験方法は、コンピューターを用いた、いわゆる「CBT」)。

「CPP資格 公式サイト」によると、CPP資格の種類などは次の通りです。

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2)日本資材管理協会「資材管理士」

日本資材管理協会では、資材・購買部門の実務担当者を対象に、資材管理士の資格認定を行っています。この資格を取得するには、日本資材管理協会が実施する資材管理士専門コースを受講し、受講後に、所定のリポート審査に合格することが必要です。日本資材管理協会ウェブサイトによると、資材管理士の試験概要は次の通りです。

  • 時期:毎年約3カ月間のうち、十数回にわたる講義が実施されます
  • 費用:会員は16万円(1名・税込み)
    非会員は19万5000円(1名・税込み)

以上(2020年7月)

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