病気で身体障害が残った社員の賃金は引き下げられる?

書いてあること

  • 主な読者:病気で身体障害が残り、労働能力が下がった社員の賃金を引き下げたい経営者
  • 課題:社員とトラブルにならないために、どのような手続きが必要なのか分からない
  • 解決策:社員の合意を得た上で、「賃金支給額の引き下げに関する合意書」などに署名してもらう。なお、賃下げの前に配置転換、労働時間や就業場所の見直しなども検討することが必要

本稿では次のケースにおいて、企業が社員の賃下げを行う際に必要な手続きを紹介します。

  • 社員が脳梗塞で倒れ、回復後に身体障害が残った。社員の労働能力は従来の半分以下に落ちているが、賃金の引き下げは可能か。

1 社員の合意を得る

賃下げは、労働条件の変更に当たるため、労働契約法(以下「労契法」)に基づき、社員の合意を得なければなりません(労契法第8条)。また、合意を得ない一方的な賃下げは、本来支払うべき賃金の一部を支払わないことになるため、労働基準法(以下「労基法」)の賃金全額払いの原則(労基法第24条第1項)にも反します。

合意を得るために企業が取るべき手続きは次の通りです。

  • 「現在の働きぶりが身体障害を負う前と比べてどの程度低下しているのか」「他の社員と比べてどこが足りないのか」をできるだけ客観的に社員に伝え、納得を得る
  • その上で、賃下げ後の条件が記載された「賃金支給額の引き下げに関する合意書」や「労働条件変更通知書」に署名してもらう

過去の裁判例では、「賃金の減額・控除に対する社員の承諾の意思表示は、社員の自由な意思に基づくものと認められる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効である」という旨の判断がされています(更生会社三井埠頭事件 東京高裁平成12年12月27日判決)。

また、社員が一方的な賃金の引下げに同意したというためには、ただ異議を述べなかったというだけでは必ずしも十分でなく、積極的にこれを承認する行為が必要との判断をした裁判例があります(ゲートウェイ21事件 東京地裁平成20年9月30日判決)。

従って、賃下げの合意に当たっては、社員が自由な意思に基づいて、賃下げに合意したことを確認できる環境を整える必要があります。合意に瑕疵(かし)がある場合、事後的に錯誤(民法第95条)による無効や詐欺・強迫(同法第96条)による取消しを主張される恐れがあります。

実務で賃下げを伝える話し合いをする場合は、次の3つを心掛けましょう。

  • 決して高圧的な態度を取らない
  • 2人以上が同席する
  • 話し合いの記録を議事録などにして取っておく

なお、合意内容が法令(強行法規)、労働協約、就業規則に違反するような労働条件の切り下げは無効となります(労基法第13条、第93条、労契法第12条、労働組合法第16条、最低賃金法第4条)。また、企業の権利濫用に当たるような場合も無効となるので、注意が必要です。

2 企業が注意すべきポイント

1)配置転換の可能性

労働契約などで社員が従事する職務(事務担当など)を明確に定めていない場合、賃下げの前に配置転換を検討することも必要です。例えば、総合職で採用された社員は、人事異動を通じてさまざまな職務に就きます。仮に、社員が別の職務なら十分に対応できるとします。そうすると、社員は、「配置転換で別の職務を担当させてほしい」と主張してくるでしょう。

実際、「社員である原告が私傷病を理由に、従前とは別の職務に就くことを企業に申し出たが、逆に自宅療養を命じられ、企業に対し自宅療養中の賃金支払いを求めた」という判例もあります(片山組事件 最高裁第一小平成10年4月9日判決)。この判例では、最高裁が次のような観点から、社員の訴えを認容しています。

  • 労働契約において職種や業務内容が特定されておらず、
  • 病気や障害などにより、それまでの業務を完全に遂行できないときは、
  • 他に労務を提供できる業務が存在し、かつ労働者が労務の提供を申し出ている場合、
  • 労務の提供があったものとみなし、これを受領しなかった使用者に関する賃金請求権は失われない

社員から配置転換の申し出がなされる可能性は否めないため、企業は事前に配置転換の可能性を探っておくべきです。また、職務内容の変更を伴う配置転換は、労働契約で職務を限定していない限り、企業の人事権の範囲内であると考えられます。

そのため、社員が能力を十分に発揮できる職務があるのであれば、賃下げの前に配置転換を検討することは企業にとってメリットがあります。事前に配置転換して社員にチャンスを与えることは、労使トラブルを防止するための基本的な手段です。

2)労働時間や就業場所などの見直し

身体障害により、今まで通りに働くことが難しい社員に対しては、社員がパフォーマンスを発揮しやすいよう、労働時間や就業場所などの見直しを検討します。

例えば、雇用形態を正社員から短時間正社員やパートタイマーに変更することで、労働時間を短縮し、心身の負担を軽減できるかもしれません。また、通勤時の移動が苦痛ということであれば、時差出勤やテレワーク(在宅勤務など)を認めるのもよいでしょう。労働条件を見直すことで新たな雇用形態などに応じた賃金を設定し直すこともできます。

ただし、個別の労働契約によって労働条件を変更する場合は、社員の合意が必要となります。また、短時間正社員やテレワークなどを既存の制度として導入していない場合については、就業規則の見直しなどが必要となるため、慎重な対応が求められます。

3)家族手当などの取り扱い

賃金は基本給と諸手当で構成されるため、賃下げの対象となる賃金を確認する必要があります。例えば、家族手当や住宅手当は、社員の家族構成や住居の状況によって支給の有無が決まるため、労働能力が低下しても減額の対象にはならないと考えられます。

反対に、役職手当はその職位に就いていることによって支給の有無が決まるため、労働能力の低下に伴い人事異動や職務変更が行われた場合には、減額の対象になり得ると考えられます。

4)社員が賃下げを一切受け入れない場合の対応

社員が賃下げを一切受け入れない場合も考えられます。こうした場合、企業が強硬に賃下げを行うと、社員が都道府県労働局に相談する、外部の労働組合に駆け込むなどの行動を起こし、労務トラブルに発展する恐れがあります。

労務トラブルを避けるための基本は、まず就業規則に従って賃下げを行うことです。就業規則に賃下げ(降給)といった賃金改定の規定がない場合は、次のような規定を追記しましょう。なお、就業規則の変更が社員に不利益となる場合、変更内容が社員の受ける不利益の程度や変更の必要性などに照らして、合理的なものでなければなりません(労契法第9条、第10条)。

  • 賃金は定期に実施する人事考課によって決定し、その結果不良であると判断された場合は、考課表に基づき改定を行う

就業規則を整備したら、その上で、人事考課の際に社員の労働能力を客観的に評価し、その結果に基づいて降格・降級させます。これを客観的・平等的に行うためには、職能給制度などの考課制度の整備と考課者の訓練、社員に対する制度の周知が必要となります。

恣意的であるなど、人事権の濫用と認められる降格・降級に基づく賃下げで労使トラブルになった場合、降格・降級やそれに基づく賃下げも無効と判断される恐れがあります。そのため、稚拙な対応は避け、評価結果に対する降格・降級の範囲の中で賃下げを実施します。

いずれにしても、社員の性格や意向、これまでの企業との関係、就業規則の内容、変更の可否などによって取るべき対応は変わってきます。必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するとよいでしょう。

3 まとめ

賃下げは社員の合意があれば、比較的スムーズに行うことができます。賃下げ額も原則として企業と社員の話し合いで決まります(ただし、法令、労働協約、就業規則に違反しないことが条件)。その話し合いでは、企業はできるだけ客観的・定量的に現在の社員の労働能力を示す努力をしなければなりません。

また、事前に配置転換の可能性を探ることや、賃下げの対象を合理的に決めることも必要です。社員が賃下げに一切応じない場合は、就業規則などに定められている既存のルールを使って対応していくことになります。

以上が社員の賃下げを行う際のポイントですが、最も重要なことは社員の生活の安定であるといえるので、この点について十分に配慮することを忘れてはならないでしょう。

以上(2020年8月)
(監修 弁護士 田島直明)

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【朝礼】残業を命じる権利、する権利

皆さん、おはようございます。今朝は「権利と義務」についてお話しします。

我が家では、私が子供に宿題を教えていますが、言うことを聞かないときは、叱りつけて無理やり宿題をさせることもあります。子供に宿題を命じることは親の「権利」であるから、叱っても当然と思うわけですが、一方で教育は「義務」でもあります。例えば民法では、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と定められています。

つまり、権利として子供に宿題を命じ、実際に子供に宿題をさせる義務を負うということですが、問題は「義務を履行するレベル」です。

強制的に子供に宿題をさせれば、最低限の義務は果たしたことになるでしょう。しかし、そうした行為を続ければ、子供は勉強嫌いとなり、その後の成長にもマイナスとなりかねません。もっと高いレベルで義務を履行するためには、子供に勉強の楽しさを教え、集中して取り組める環境を与える必要があるでしょう。

そして、ここから私が考えたのは、上司の「残業を命じる権利と義務」についてです。上司には部下の残業を認める権利がありますが、それと対になる義務について考えたことがありますか。まず、労働基準法関連のガイドラインにおいて、企業は社員の労働時間を適正に管理する義務を負うとされていますから、社員の健康管理と違法な残業の撲滅は明確な義務となります。

また、これは法令に示されたものではありませんが、信義則として、企業は社員に成長の機会を与える義務があると考えています。

残業を命じる権利を持っている上司の皆さんは、こうしたことを考えて部下の残業を認めているでしょうか。慣れないリモートワークで、残業が増えることは仕方がありませんが、その残業を行う部下のモチベーションはどうですか。また、その残業を行うことで企業にどのような成果が上がりますか。さらには、部下の成長につながりますか。もちろん、心身の健康を損ねるような残業を認めてはいけません。リモートワークで対面する時間が減った今、残業を含め部下をマネジメントする上司の役割が重要になっているのです。

部下にも「残業をする権利と義務」があります。上司の承認を受ければ、ある意味、残業することは部下の権利となります。しかし、その残業によって、どのような成果が上がるのでしょうか。厳しい言い方ですが、単に効率が悪い、集中していないなどの理由で仕事が終わらずに残業を申請しているのなら、最低限の義務すら果たしていないことになります。

「上司だから仕事ができる」「長時間、働いているから頑張っている」。こうした価値観は変わりました。皆さんには権利と義務があります。義務は成果を上げること、権利はそのための権限です。高いレベルで義務を果たすほど、権利も大きくなります。これを認識してください。

以上(2020年8月)

pj17016
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】今だからこそ「自分たちっぽさ」を挙げてみよう

もうすぐ上期が終わります。今期はコロナ禍の影響で、思うように成果が上げられていない人も多いでしょう。例えば営業担当者は、見込み先となかなか会えず、苦戦したはずです。

そこで今日は、下期、皆さんが新たに取り組めるよう、ある業界のトップセールスの方から聞いたことを一つ、お話しします。

それは、「自分たちにキャッチフレーズをつける」というものです。短い時間しか会ってもらえない、対面に比べて距離感を覚えがちなオンライン商談になった。そういうときでも、自分たちにキャッチフレーズをつけることで、より興味を持ってもらえるようになるというのです。

ここで言うキャッチフレーズは、「エッジの効いたかっこいい言葉」ではありません。「自分たちは何を実現しているのか、何を解決しているのかを分かりやすく表す言葉」です。そういうキャッチフレーズをつけるには、「自分たちは、誰にどのような価値をお届けしているのか。あるいは、お届けしたいのか」といったことを突き詰めて考えなければなりません。

例えば、「低価格でさまざまなオフィス家具を扱っている◯◯社です」を、「在宅勤務に合ったデスクと椅子を提供し、社員の満足度アップに貢献する◯◯社です」に変えると、まるで印象が違います。後者のほうが、「経営者向けに、社員に喜ばれる環境を提供するオフィス家具の会社である」ことが分かりやすくなるでしょう。

トップセールスの方の「キャッチフレーズをつける」話を聞き、私は思いました。キャッチフレーズそのものよりも、そのために「自分たちは何者か」を考えること自体がとても重要で、今の当社に必要なのではないだろうか、と。

コロナ禍をきっかけに、ビジネスそのものも、業界全体も、私たち一人ひとりの働き方も変わってきています。こうした大きな転換点にあるときこそ、「自分たちは何者か」を一人ひとりが改めて意識しなければなりません。

そこで皆さん。下期に入る前に一度、「自分たちは何者か」について、全員で議論をしてみませんか。それこそ、オンラインでもよいでしょう。難しく考えなくて大丈夫です。まずは頭を柔らかくして、「どういうものが自分たちっぽいか」をどんどん挙げることから始めましょう。

自分たちっぽい言葉、立ち居振る舞い、お客さまへの接し方、提案の仕方、トラブル対応の仕方、社員同士のつながり方、働き方、挨拶の仕方。また、自分たちっぽい「喜び」や実現したいことは何か。「やってはいけないこと」は何か。そういう一つひとつの「自分たちっぽさ」から、自分たちは何を大切にしているのか、何者なのかを、皆で見つけて形にしていきたいと思います。

今年度の下期は、今までとは違う私たちです。皆さんは下期、自分たちを何者と考え、どのようなキャッチフレーズをつけるでしょうか。私はとても楽しみです。

以上(2020年8月)

pj17019
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「職務発明規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 職務発明制度とは

1)職務発明制度とは

原則として、従業員が職務の範囲内で行った発明(職務発明)についての特許を受ける権利は従業員に帰属します。しかし、特に研究開発に力を注いでいるなど技術系の企業にとっては、従業員が発明した知的財産は、競争力の源であり企業の重要な財産となるべきものです。

後述する通り、現在の特許法においては、職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ企業に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、企業に当初から特許を受ける権利を帰属させることが認められています。

このような職務発明の取り扱いなどについての取り決めを、一般的に「職務発明制度」といいます。

2)職務発明規程等を修正・整備するための注意点

2016年4月1日に施行された改正特許法では、従前に比べて職務発明制度が次のように変わりました。

  • 職務発明に関する特許を受ける権利を、あらかじめ企業(会社)の帰属とすることができるようになった。

  • 従業員等は、特許を受ける権利を会社に帰属させた場合には、「相当の金銭その他の経済上の利益」を受ける権利を有するものとされた。発明者である従業員に対して付与する相当の利益について、金銭に限らないインセンティブ(ストックオプション、留学機会の付与等)も認められるようになった。

  • 相当の利益を決定するための手続きなどの基準を示した、「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(以下「ガイドライン」)が経済産業省告示として公布された。

なお、上記の内容は全ての企業に対応を義務付けるものではありません。あくまで、個々の企業の裁量に委ねられています。

ただし、「職務発明は、あらかじめ法人帰属としたい」「相当の利益を巡るリスクを軽減したい」などの意向がある場合、あらかじめ職務発明規程等を整備または修正する必要があります。

また、職務発明規程等を整備・修正するとは、文言の調整にとどまらないものです。特許庁では、上記の「相当の利益」を決定するための手続きなどの基準を示した、ガイドラインを告示しています。このガイドラインに示された手続きを経ることで、企業は「相当の利益を追加的に支払うよう求められる」といったリスクを軽減することが期待できます。

このガイドラインに示された手続きのポイントは、「企業が一方的に職務発明規程等の内容を定めるのではなく、従業員の意見をしっかりと踏まえて、職務発明規程等を整備、修正する必要がある」という点です。

本稿では、特許庁が公表している「中小企業向け職務発明規程ひな形」を参考に、2015年の特許法の改正に対応した職務発明規程のひな型について紹介します。

なお、ひな型では、相当の利益に関する条項を盛り込んでいます。相当の利益は金銭に限らない「企業が負担する留学機会の付与」なども含まれます。ガイドラインに示された手続きを踏む過程で、従業員と話し合い、相当の利益に関する条項を規定していくことが求められます。

2 職務発明規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【職務発明規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、○○株式会社(以下「会社」という。)の役員および従業員(以下「従業者等」)が行った職務発明の取り扱いについて、必要な事項を定めるものとする。

第2条(適用範囲)
本規程は、従業者等に適用されるものとする。

第3条(定義)
本規程において「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在または過去の職務範囲に属する発明をいう。

第4条(届出)
1)会社の業務範囲に属する発明を行った従業者等は、速やかに発明届を作成し、所属長を経由して会社に届け出なければならない。
2)前項の発明が2人以上の者によって共同でなされたものであるときは、前項の発明届を連名で作成するとともに、各発明者が当該発明の完成に寄与した程度(寄与率)を記入するものとする。

第5条(権利帰属)
職務発明については、その発明が完成したときに、会社が特許を受ける権利を取得する。

第6条(権利の処分)
1)会社は、職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、当該職務発明について特許出願を行い、もしくは行わず、またはその他処分する方法を決定する。
2)出願の有無、取下げまたは放棄、形態および内容その他一切の職務発明の処分については、会社の判断するところによる。

第7条(協力義務)
職務発明に関与した従業者等は、会社の行う特許出願その他特許を受けるために必要な措置に協力しなければならない。

第8条(相当の利益)
会社は、第5条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。
  1.出願時支払金 ○円
  2.登録時支払金 ○円

(注)前述の通り、相当の利益は金銭に限らないため、1.企業が負担する留学機会の付与、2.ストックオプションの付与、3.金銭的処遇の向上を伴う昇進・昇格、4.法令または就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与、5.職務発明についての特許権に係る専用実施権の設定または通常実施権の許諾といった内容を規定することも考えられます。

第9条(支払手続)
1)第8条に定める相当の利益は、出願時支払金については出願後速やかに支払うものとし、登録時支払金については登録後速やかに支払うものとする。
2)発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益の内容の通知を受けた日から○日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

第10条(実用新案および意匠への準用)
本規程の規定は、従業者等のした考案または意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在または過去の職務範囲に属するものに準用する。

第11条(秘密保持)
1)職務発明に関与した従業者等は、職務発明に関して、その内容その他会社の利害に関係する事項について、当該事項が公知となるまでの間、厳に秘密を保持しなければならない。
2)前項の規定は、従業者等が会社を退職した後も適用する。

第12条(適用)
本規程は、○年○月○日以降に完成した発明に適用する。

以上(2020年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

pj60084
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【規程・文例集】「携帯電話の利用管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 携帯電話(スマートフォン)のルールを定めていますか?

現在、携帯電話は多くの人々の生活にとって不可欠なものとなっており、ビジネスシーンにおいても営業活動などに役立てられています。

従業員が業務上で利用する携帯電話の形態は「1.会社が所有する携帯電話を従業員に貸与する」「2.従業員個人が所有する携帯電話を業務用として利用し、業務に関する通話料を会社が負担する」の2つに大別されます。

「1.会社が所有する携帯電話を従業員に貸与する」場合、会社名義で契約するため、電話会社や契約プランによっては、基本利用料や、従業員間の通話料が割引される法人向けの特典などが受けられるメリットがあります。

また、「2.従業員個人が所有する携帯電話を業務用として利用し、業務に関する通話料を会社が負担する」場合、会社で携帯電話を用意する必要がなく、従業員は使い慣れた携帯電話を業務でも利用することができます。

いずれの形態にせよ、業務で利用する携帯電話について、利用・管理などのルールを定めておく必要があります。その根拠となるのが、携帯電話の利用管理規程です。

また、利用が拡大しているスマートフォンは、従来型の携帯電話に比べて、ウイルス感染などのリスクが高いなどの点に留意が必要です。スマートフォンのセキュリティー対策を講じる場合は、日本スマートフォンセキュリティ協会発行のガイドラインが参考になります。

以降では、携帯電話の利用管理規程のひな型について紹介します。

2 携帯電話の利用管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【携帯電話の利用管理規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、携帯電話およびスマートフォン(以下「携帯電話」)を効率的かつ安全に業務に利用するため、その適正な管理について定めることを目的とする。

第2条(適用)
本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第3条(用語の定義)
本規程における各用語の定義は、次に定めるところによる。
  1.携帯電話
   業務上の連絡に用いる携帯電話とし、第2号の社用携帯電話と第3号の私用携帯電話のことをいう。
  2.社用携帯電話
   会社が契約し、従業員等に貸与する携帯電話をいう。
  3.私用携帯電話
   従業員等が個人的に所有する携帯電話であって、業務に利用する通話料を会社が負担するものをいう。

第4条(管理者)
携帯電話の利用・管理に関する事項は総務部門が掌握する。

第5条(利用対象者)
携帯電話の利用対象者は、次に該当する者とする。
  1.顧客との電話連絡が業務上必要不可欠と会社が認めた従業員等。
  2.電話連絡が業務上の重要な位置を占めると会社が認めた従業員等。
  3.その他会社が特に認めた従業員等。

第6条(申請)
携帯電話の利用のために必要な申請は次の通りとする。
  1.申請内容
   新規利用、携帯電話の盗難・紛失、社用携帯電話の破損・返還。
  2.申請者
   携帯電話を利用する従業員等(以下「利用者」)が行うものとする。
  3.申請方法等
   所定の「申請用紙」(省略)に記入の上、部門長に提出する。部門長が申請内容を確認した後、部門長から総務部門に提出する。
  4.提出時期
   申請は、その事由が発生後、速やかに行うこととする。

第7条(審査)
1)総務部門は、利用者の部門長から提出された申請内容を審査する。
2)申請が妥当と認められる場合には、総務部門の長が携帯電話の利用を許可する。

第8条(遵守事項)
携帯電話の利用に当たっては、次の事項を遵守すること。
  1.社用携帯電話の私用は厳禁とする。
  2.自動車の運転中、病院内、航空機内での携帯電話の利用は厳禁とする。
  3.電車、バス等公共の場所においては、状況に配慮して携帯電話を利用すること。
  4.申請なく社用携帯電話の電話番号、機種、付加サービス等の変更をしないこと。
  5.社用携帯電話を無断で他人に貸与しないこと。

第9条(社用携帯電話の利用状況の確認)
1)会社は必要に応じて、貸与した社用携帯電話の利用状況および通話記録を、加入電話会社に照会する。
2)前項において明らかに私用であると会社が認めた場合は、当該私用通話料金部分を利用者から徴収する。

第10条(私用携帯電話の利用状況の確認)
1)私用携帯電話の利用者は、業務利用部分の通話状況、通話料金を明確にした請求書を作成し、部門長、総務部門を経由して経理部門に届け出るものとする。
2)請求書には、加入電話会社より送付された、通話記録の明細書を添付しなければならない。
3)請求分は毎賃金計算期間の末日に締め切り、別途「賃金規程」(省略)に定める賃金支払日に支給する。

第11条(返還)
社用携帯電話を利用すべき事由がなくなった場合は、直ちに会社に返還しなければならない。

第12条(利用の中止)
本規程に反する携帯電話の利用が認められる場合、その他会社が利用の中止を必要と認めた場合には、利用者は携帯電話の利用を中止しなければならない。

第13条(賠償)
第9条および第10条並びに第11条について、不正や重大な過失が認められる場合は、会社は利用者に対して相当分の賠償を求めることがある。

第14条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年10月)

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【規程・文例集】「リコール対応に関する規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 求められるリコールへの備え

安全な製品を供給することは企業の責務ですが、製品事故の発生を完全になくすことは難しいと言わざるを得ません。例えば、サプライチェーンが複雑化する中、完成品メーカーが気付かないうちに、サプライヤーが部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう、いわゆる「サイレントチェンジ」が発生しており、経済産業省などが注意を促しています。また、足元では、一部の素材メーカーによる製品の品質データ改ざんが相次いで発覚し、問題となっています。

企業は日ごろから製品事故の発生を想定してリコール対応のための準備を行い、製品事故の発生またはその兆候を発見した段階で、迅速かつ的確なリコールを自主的に実施できるようにしておく必要があります。

準備を怠ると、リコール対応に長い時間がかかる上、結果的に「製品事故の発生を隠そうとした」と受け止められかねません。

消費者への人的危害が発生・拡大する可能性があることに気付きながらリコールなどの対応を行わず、死亡事故や火災など重大な被害を引き起こしてしまった場合、行政処分の対象となるばかりか、損害賠償責任や刑事責任を問われることになります。

訴訟に備える意味でも、企業には、迅速かつ的確なリコールを実施できる体制の整備が求められます。

リコールに備えるためには、あらかじめルールを定め、「消費者の安全確保」を重視する企業としての姿勢を従業員などが全員で共有することが不可欠です。その根拠となるのがリコール対応に関する規程です。以降では、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2016」を基に、リコール対応に関する規程のひな型について紹介します。

2 リコール対応に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リコール対応に関する規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、製品の使用者の生命または身体への危害の拡大防止の観点から、事故発生に伴う使用者への危険や損害発生防止の際に、当該製品の点検・修理・回収等の事故対策を迅速、適切かつ効果的に行うための社内基準として定めるものである。

第2条(対象製品)
本規程の対象とする製品は、当社が取り扱う国内向けの製品とする。ただし、その他の製品についても、本規程に準じて適用するものとする。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.事故
  製品の使用に伴い、人的危害を生じた事故および人的危害を生じる蓋然性の高い物的事故をいう。また、これらの製品事故(人的事故や火災等)の発生に結びつく恐れがある製品欠陥や不具合を事故等という。
 2.拡大
  同様の事象が複数発生することをいう。
 3.リコール
  製品の使用による事故発生の拡大可能性を最小限にするための対応であって、具体的には流通および販売段階からの回収並びに顧客の保有する製品の交換、改修(部品の交換、修理、適切な者による直接訪問での修理または点検を含む)または引き取りを実施することをいう。
 4.事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報
  事故を発生させる蓋然性が高い欠陥に関する情報および欠陥か否かは明確に判別できないものの、同様の事故の発生を予見させる情報をいう。
 5.従業員等
  当社の役員および従業員をいう。

第4条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
 1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
 2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
 3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
 4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売会社、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、警告ラベル、取扱説明書にフィードバックするなど、継続的な製品安全の向上に努める。
 5.当社製品に関する不測の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
 6.製品安全に関する関係法令、各種基準等に関する社内研修を行い、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。

第5条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。

第6条(原因究明)
1)当社製品に事故の発生または事故の発生を予見させる欠陥等の兆候を発見した場合、可能な限り速やかに問題の製品を入手し、事実関係を確実に把握する。
2)必要に応じて再現実験等の調査を実施し、原因の究明を行う。
3)当社内での原因の究明が困難な場合、製品の種類や事故の状況に応じ、公共または民間の適切な原因究明機関を利用し、原因の究明に努める。

第7条(被害想定)
事実関係に基づき人的危害の発生および拡大の可能性を検討し、被害を想定する。

第8条(リコール実施の判断)
1)消費者の安全確保の観点から、全ての事故および事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報について、リコール実施の要否を検討する。
2)リコール実施の要否および方法は、製品安全管理室が原因究明や被害想定の結果を基に判定し、取締役会においてリコールを実施するか否かの判断と決定を行う。
3)リコール実施の判断は、消費者の利益を第一に考え、事故の拡大防止のため迅速かつ的確に対応するものとする。ただし、具体的な対応はリコールの他、使用方法等に関する注意喚起、原因が究明されるまでの製造、流通または販売の停止等の暫定的な対応の選択肢も考慮し、製品や事故状況に応じた最適な対応方法を決定する。
4)リコール実施を不要と判断した場合においては、事故が拡大する可能性がないか継続監視を行う。
5)継続監視の結果、リコール実施について再び審議が必要と判断した場合は、製品安全責任者による会合を招集し、事故情報の内容および分析結果を審議し、その内容および結果を取締役会に報告する。

第9条(リコール体制の確立)
1)リコール実施を決定した場合、直ちに製品安全管理室にリコール対策本部を設置する。
2)各関係部門の製品安全責任者をリコール対策本部のメンバーとして招集し、具体的なリコール計画の策定、実施を行う。
3)製品使用者等からの問い合わせに確実に対応するため、リコール対策本部の指揮下にリコール対応窓口を設置し、要員を配置する。

第10条(リコール計画の策定)
リコール実施を決定した場合、迅速かつ的確に事故の拡大を防止するため、リコール計画を策定する。リコール計画には次の事項を定める。
 1.目的
 2.リコールの種類
  ・製品の交換
  ・部品の交換
  ・修理
  ・点検
  ・引き取り(返金)
 3.具体的な目標
  ・リコール対象数
  ・リコール実施期間
 4.責任母体
  ・責任者
  ・対応組織と役割分担
 5.対象製品
  ・品名、型番、ロット番号、シリアル番号等
  ・稼働状況(販売台数、市場稼働台数、在庫台数等)
 6.情報提供方法
  ・記者発表実施の有無
  ・社告等の情報提供方法(媒体、時期、内容)
  ・社内外に対するリコール進捗状況の情報提供に関する透明性確保の方法
 7.製品使用者への対応
  ・既に被害が発生している場合、当該被害者の救済方法を含めた対応方針
  ・まだ被害が発生していない場合、被害を予測した被害者への対応方針
 8.官公庁・公的機関への報告
 9.社内への情報伝達
  ・関係部門への連絡と主旨の徹底方法
  ・従業員等への伝達方法
 10.原因究明
  ・原因究明の結果
  ・実施状況(実施機関、時間的目標等)
  ・原因が部品供給会社等の関連会社製品にある場合の原因追究の範囲および方法等
 11.関係者からの意見聴取
  ・法的な責任の有無の確認
  ・将来的な信用や風評への対応方法等
 12.対策および再発防止策
  ・リコール実施状況のモニタリング・評価および見直し方法

第11条(販売会社等への事故対策協力要請)
リコール実施に先立ち、対象製品を供給した販売会社、委託等により対象製品の設置・修理を行っている設置・修理業者等に対し、事故対策の実施に関する連絡を行うとともに、対策の実施について協力を依頼するものとする。

第12条(関係機関等へのリコールの報告)
リコール実施を決定した場合、次の関係機関等に情報提供を行う。
 1.無用な混乱、誤った情報の流出を避けるため、従業員等に対し必要な情報提供を行う。
 2.製品使用者への対応を適切に行うため、販売会社等に対し必要な情報提供を行い、協力を要請する。
 3.関係行政機関等に対し、リコール実施前にリコール計画等を報告する。その際、報告先、書式は関係行政機関等の通達に基づく。
 4.第3号の報告は、業界団体および、関連会社が加盟している関連団体等に対し、必要に応じ速やかに行う。
 5.対象製品について、使用者団体や、常日ごろ情報提供等を行っている関連団体がある場合、これらの団体に対し情報提供を行い、協力を要請する。
 6.法的責任判断のため、弁護士に速やかに事実関係を報告する。
 7.迅速な被害者救済のため、保険会社に速やかに事実関係を報告する。
 8.必要に応じ新聞・テレビ等に情報提供を行い、協力を要請する。

第13条(リコール実施の製品使用者への通知方法・手段)
製品使用者への通知方法は次の通りとする。
 1.保守点検契約等により顧客名簿が作成され、対象製品の所在が特定される場合、ダイレクトメール、電話、FAX、Eメール、直接訪問等により、速やかに製品使用者に対し直接連絡し、通知を図る。
 2.製品使用者を確実に特定できない場合、ウェブサイト、新聞社告、記者発表等、最適な情報提供媒体を決定し、事故の重大性や緊急性によって複数の通知方法から効果的な方法を選択し、または組み合わせて、適宜に通知を図る。
 3.製品使用者に対し通知を図る際には、次の点を考慮する。
  ・高齢者を考慮した文字の大きさや分かりやすい表現方法を用いる。
  ・広告、宣伝と誤解されない体裁とする。
  ・リコール目標の達成まで継続的に実施する。
  ・通知方法、手段は最適な方法を模索し続ける。
  ・情報提供に際して、必要に応じ関係行政機関等と相談をして対応する。

第14条(リコール実施の製品使用者への通知内容)
製品使用者への通知内容は次の通りとし、簡潔かつ正確に記載する。
 1.会社名、製品名、機種名、モデル名
 2.事故の内容(現象、原因、過去の事故の件数および概要)
 3.危険性の有無と発生が予想される危害等の内容
 4.リコールの内容
  ・リコールの種類
 製品の交換、部品の交換、修理、点検、引き取り(返金)
  ・使用の中止
  ・製品使用者への依頼内容(連絡要請や着払いでの返送依頼)
  ・簡潔な謝辞
 5.製品の識別方法:名称、型番、シリアル番号、製造場所等
 6.対象製品の情報
  ・製品の製造(輸入)期間、販売期間、該当商品の販売台数、対象台数
  ・製品の型番、シリアル番号(表示箇所の写真やイラストによる説明)
  ・その他、製品を限定する情報(販売地域、販路経路等)
 7.対策の開始時期と未対策品の注意事項
 8.連絡先
  ・連絡先名(返送を依頼する場合は送付先名、住所)
  ・電話番号(フリーダイヤル)
  ・連絡可能曜日および時間帯
  ・FAX番号
  ・Eメールアドレス
  ・自社ホームページのアドレス
  ・連絡可能な問い合わせ事項の明示等
 9.日付(社告公表日)
 10.住所(本社所在地または顧客対応窓口)
 11.会社名(クレーム送付先または顧客対応窓口)

第15条(事故対策の公表)
1)製品使用者を確実に特定できない場合、適切かつ効果的な事故対応を行うために、事故対策内容を原則として記者発表等により公表する。
2)公表の時期は、切迫した危害等の恐れがある場合は、直ちに公表を行うものとする。切迫した危害等の恐れが少ない場合には、対策措置の諸準備を速やかに実施し、準備が整い次第直ちに行うものとする。
3)公表内容は第14条と同等の内容とする。

第16条(進捗状況の評価および修正)
1)策定したリコール計画通りにリコールが履行されているか否か、リコール対策本部において進捗状況を評価する。
2)リコールの進捗状況によって、逐次最適な対応方法の検討および修正を行う。リコール計画通りにリコールが進まない場合、製品使用者への通知方法・手段を再度検討する等、対応策を講じる。

第17条(対策状況の報告)
1)対策状況について、リコール計画の報告を行った関係機関等に対し報告を行う。
2)対策状況の報告は、リコール計画の報告後1カ月経過するごとに行うことを基本とし、報告先が報告頻度について特別の指示を行った場合には、それに従う。

第18条(教育等)
1)日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
2)リコール完了後、リコール対策本部は、一連のリコール対応について記録をまとめ、関係機関等に報告を行う。また、一連のリコール対応で明らかになった問題点や課題を整理し、従業員等に周知する。
3)リコール対策本部は、前項の終了をもって解散できるものとする。

第19条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第20条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年11月)

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ヒューマンエラー対策の基本

書いてあること

  • 主な読者:「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故の防止を図りたい経営者
  • 課題:ヒューマンエラー防止策を講じても、事故が発生することもある
  • 解決策:防止策を着実に実行させるために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的

1 ヒューマンエラーの脅威

十分な対策を講じていても、事故発生のリスクは常にあります。その原因はさまざまで、「ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって引き起こされるミス)」もその1つです。

「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。これらの事故は、「信頼の失墜」「多額の賠償責任の発生」「顧客の安全性の損失」など、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。

IT化の進展でヒューマンエラーは起こりやすくなり、また想定される被害も大きなものになっています。企業は、日ごろからヒューマンエラーに対する適切な対応をしなければなりません。

2 ヒューマンエラーの類型と対策

1)情報処理のプロセスは3つ

人間による情報処理のプロセスは、「1.入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)」「2.媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)」「3.出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)」の3つです。

ヒューマンエラーは、この全てのプロセスで発生する可能性があります。また、各プロセスで生じた個々のエラーは軽微でも、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、より大きな事故を発生させる恐れがあります。

2)入力エラー

情報を入力するプロセスで発生するエラーです。集中力の欠如、見落とし、見間違い、聞き間違いなどにより、情報を正しく知覚・認知できないことをいいます。例としては、「数字の入力ミス」などがあります。

入力エラーを防止するために、指さし確認を行う、複数の担当者が読み合わせを行うなどの対策が効果的です。また、作業と作業の間に休憩時間を設けたり、集中力の高い朝に間違いやすい業務を行ったりします。

3)媒介エラー

情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。油断、誤った知識、経験への依存などにより、情報を正しく判断・決定できないことをいいます。例としては、「正しいはずだという思い込みにより、誤った数字のまま次工程に進める」ことなどがあります。

媒介エラーを防止するために、上司が定期的にチェックして間違いを修正したり、勉強会を行って正しい知識を習得できる機会を設けます。また、マニュアルを作成し、業務や確認事項の統一化を図るなどします。

4)出力エラー

行動を出力するプロセスで発生するエラーです。やり忘れ、やり間違い、勘違いなどにより、作業を計画通りに正しく実行できないことをいいます。例としては、「数字の最終チェックを忘れてしまう」ことなどがあります。

出力エラーを防止するには、「ToDoリスト」(やるべき事柄をまとめたリスト)を作成する、余裕のあるスケジュールを組んで抜け漏れをなくすなどします。また、1つの業務を複数の社員が担当できるようにして、互いに確認し合うのもよいでしょう。

5)ヒューマンエラーの検知

以上のような対策を講じてもヒューマンエラーは発生します。そうしたヒューマンエラーがどのような状況で起こったのか、対策に問題がなかったのかを確認し、改善していくことが大切です。

また、ヒューマンエラーが発生した場合を想定し、損害の拡大を防ぐための対応も検討しなければなりません。具体的には、報告経路を定めて周知したり、クレーム対応の訓練をしたりします。マニュアル化するのもよいでしょう。

3 防止対策の運用上の留意点

過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた通りに防止対策を実行しなかったためヒューマンエラーが発生し、しかもその検知が遅れたために損害が拡大してしまった」というケースが多く見られます。

決められた通りに防止対策が実行されないのは、次のような担当者の主観的な判断や、油断によります。「エラーが出ていたが、経験から問題ないと判断した」「自分が確認したので大丈夫と油断し、ダブルチェックをしなかった」。

この他、防止対策が実行されているものの形骸化していて、動作としての指さし確認はしているが、無意識に指を指しているだけで全く確認をしていないということもあります。

こうした問題を改善するために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的です。加えて、ヒューマンエラーが起きたときの被害をイメージが湧きやすいように数字などを交えて共有するとよいでしょう。

以上(2018年10月)

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【規程・文例集】苦情対応力を上げるマニュアル作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:自社の苦情対応力を上げたい経営者
  • 課題:苦情対応マニュアルなどを整備しておらず、自社として統一された対応ができていない
  • 解決策:マニュアルを作成することをゴールにしないように注意する。また、苦情対応責任者を明確化するなどして、マニュアルを整備する

1 苦情対応力を高めることの重要性

苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情に対して、消極的な姿勢をとってしまいがちです。しかし、苦情対応をおろそかにすると、企業イメージの低下、顧客喪失など企業経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。

また、苦情の背景には、企業経営を脅かすような重大な問題が潜んでいる可能性もあります。こうした類の苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。

このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが重要です。

苦情対応に組織全体で取り組むためには、従業員教育など、行うべきことは多々ありますが、本稿では、従業員が苦情対応を行う際の指針となる苦情対応マニュアル(以下「マニュアル」)作成に焦点を当てて見ていきます。

マニュアルを作成することで、期待できる効果は次の通りです。

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ただし、マニュアルは、それを作成するだけで適切な苦情対応に結び付くものではありません。マニュアルを従業員全員に周知させ、必要に応じて内容を見直しながら運用していくという一連の流れが企業の苦情対応力を高めていくのです。

そのため、「マニュアルを作成する際には、マニュアルを作成することそのものを目的としないこと」「マニュアルに頼りすぎた苦情対応をしないこと」に注意する必要があります。

こうした点も考慮しながら、以降では中堅・中小企業におけるマニュアルの基本的な作成手順とその留意点について見ていきます。

2 責任の明確化

1)苦情対応責任者の明確化

まずは、苦情対応の責任者は誰かということを明確にします。

責任者を明確にし、苦情が発生した場合には情報が全て苦情対応責任者の下へ集まるようにしておくことで、苦情対応の効率的な管理が行えるようになります。

なお、苦情対応責任者は、経営トップもしくはそれに近い階層の者が就くほうが望ましいでしょう。苦情対応への取り組みは、企業イメージを大きく左右することがあります。経営トップ自らが苦情対応責任者として率先して苦情対応に取り組むことで、苦情対応を「企業活動における重要な取り組みの1つ」と捉え、高い意識を持って苦情対応に取り組む姿勢を内外に示すことができます。

また、経営トップ自らが苦情対応責任者を務めることは、苦情処理の迅速化という点でも意味を持ちます。対応者が自身で判断できない苦情に対して、経営トップに直接指示を仰ぐことができる仕組みをつくっておくことで、社内手続きを簡素化し、迅速な対応が可能になるのです。仮に一般の従業員が苦情対応責任者を務める場合、苦情受領の報告を受けた苦情対応責任者がその上司に、上司がさらに経営トップに指示を仰ぐ、といった社内手続きが生じる可能性があります。その場合、苦情への対応に時間がかかり、顧客の気分を害してしまう恐れがあります。経営トップが自ら苦情対応責任者となり、苦情への対応方針を決定・指示することで迅速な対応が可能となります。

2)苦情対応責任部門の設置

苦情対応責任部門の主な役割はマニュアルの作成や運用、修正や見直しなど、苦情対応に関するプロセス全体の統括を行うことです。マニュアル作成に関しては、実際に苦情対応を行っている現場の従業員の意見をマニュアルに取り入れることで、現実に即した「生きたマニュアル」を作成することができます。苦情対応責任部門には、顧客からの苦情を受けることが多い従業員(営業、お客様センターなど)をメンバーとして組み入れるとよいでしょう。

3 マニュアル作成・運用の手順

苦情対応責任者および苦情対応責任部門が中心となってマニュアルの作成を進めます。マニュアルに盛り込む項目は業種によって多少の違いはありますが、基本的には次のような項目を盛り込みます。

1)マニュアルの目的

まず、苦情に対する組織の考え方を記載します。冒頭にこうした考え方を盛り込むことで、従業員の苦情対応に対する意識の統一を図ります。ここで記載する内容としては、例えば「苦情を受領した際には、お客様第一の立場で迅速かつ丁寧な対応を心掛ける」「お客様からの苦情には誠意をもって対応し、当社の商品・サービスをより適切にご利用いただけることを目指す」などとします。

この項目は単文でも構いませんし、複数行に分けても構いません。ただし、苦情対応に対する組織の考え方を示すものとなるため、「できるだけ分かりやすく、従業員全員が共有できる内容にすること」が大切です。

2)苦情対応の具体的な手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。この項目はマニュアルの中核となる部分なので、慎重に検討しましょう。具体的な項目としては「受領」「内容の調査」「対応の検討」「苦情対応の実施」などがあります。手順については、従業員が苦情対応の流れを理解しやすくなるような工夫が必要です。例えば、「苦情の受領から終了まで時系列に並べる」「実際の苦情対応例を併せて記載しておく」「『お客様への対応』と『社内の対応』に分けて手順を記載する」などがあります。

3)苦情対応報告書の作成手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。苦情対応報告書は、苦情対応に関する情報を管理するために必要となる重要な書類です。ただし、担当者によって報告書の記載内容・項目に大きな差があるようでは、情報を適切に管理することはできません。あらかじめ「苦情発生状況」「苦情内容」「苦情原因」「お客様のご要望」「対応」「対応結果」「備考」などの記載項目を盛り込んだ苦情対応報告書フォーマットを作成しておき、苦情が発生したら、直接苦情対応に当たった担当者に記載・報告をさせるようにします。

4)苦情情報のデータベース化の手順

最後に、苦情情報をデータベース化する際の手順を記載します。

データベース化の目的は、「苦情内容やその対応方法を全社で共有し、苦情の再発防止に役立てること」が挙げられます。そこで、苦情対応者から提出された苦情対応報告書を基に苦情内容と対応方法などを蓄積し、従業員が誰でもアクセスできるようにしておくことが必要です。そうすることで、従業員が以前の苦情対応情報を参考に、よりスムーズな苦情対応を行うことが期待できます。

5)マニュアルの周知・実施

マニュアルを作成したら、苦情対応の勉強会などを開催し、従業員全員にマニュアルの浸透を図ります。従業員の苦情対応のレベルアップを図るためには、こうした勉強会を定期的に開くことが理想的ですが、まとまった時間をとることが難しいという場合もあるでしょう。そうした場合には、朝礼などの時間を利用して通知するだけでも効果が期待できます。1回当たりの時間は少しずつでも、継続して取り組むことが重要です。

4 マニュアル作成・運用上の留意点

1)マニュアルは精密に作りすぎない

マニュアルは、精密に作りすぎないようにしましょう。マニュアルで多くを規定しようとすると、マニュアル作成に時間や手間がかかる上、従業員が覚えにくく、浸透しづらいなどの問題点が出る恐れがあります。

しかも、精密なマニュアルがあると、従業員は全てマニュアルに従って苦情対応を行うことになります。マニュアル通りの対応は、顧客に「機械的な対応」という印象を与えかねません。企業に対して苦情を申し出る顧客は、「自分の話を聞いてほしい」「自分が怒っている理由を理解してほしい」と考えています。そうした顧客に対して「機械的な対応」をしてしまうと、「本当に悪いと思っているのか」と、余計に顧客を興奮させてしまう可能性もあります。

また、従業員がマニュアル通りの対応に慣れてしまうと、マニュアルにない(想定していない)苦情に対して、対応できなくなる恐れもあります。

こうした問題を防ぐために、マニュアルには、「苦情に対する基本的な考え方」「苦情が発生したときにどういう手順で対応するのか」「苦情対応を終了した後の社内処理はどうするのか」など基本的な事項についてのみ記載するのがよいでしょう。

なお、実際の苦情対応に際しては、従業員にある程度の裁量を与え、柔軟に対応させ、もし、運用していて不足などがあれば、その都度見直していけばいいのです。もともと簡潔に作ってあるマニュアルであれば、見直しも簡単に行えます。

2)マニュアルは定期的に見直しをする

マニュアルは一度作成したら終わりというものではなく、苦情対応を常に質の高いものとするためにも、定期的に見直しを行うことが重要です。企業を取り巻く環境は、刻一刻と変化しています。作成時点では非の打ちどころのないマニュアルだったとしても、環境が変化すれば、不都合が出てくる可能性があります。作成したマニュアルを見直すことなく使い続けていては、顧客の要求に応え切れなくなる可能性があります。

そのため、データベース化された苦情対応の情報や、実際に苦情を受ける従業員の意見を定期的に集約して内容を見直すなど、常に鮮度の高いマニュアルにすることが大切です。また、「同業他社の苦情対応事例」などの身近な事例は、適切な苦情対応をするために大変参考となります。日ごろから苦情対応に対するアンテナを張っておきましょう。

3)従業員を評価する仕組みが必要

どんなに素晴らしいマニュアルを作ったとしても、実際の現場で顧客に対応する従業員が高い意識を持っていなければ意味がありません。経営トップは、朝礼や研修などあらゆる機会を使って、従業員に苦情対応の重要性や苦情対応に当たっての心構えなどを伝えていくことが大切です。

また、苦情対応に対する従業員の高い意識を保つためには、「苦情対応を行った従業員をしっかりと評価する」ことも忘れてはなりません。苦情対応は、対応する従業員にとって大きな負担となりますが、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みが整っている企業は多くはありません。

確かに、苦情対応は利益に直結するものではないため、評価の対象となりにくい面はあるのですが、これでは、従業員に「苦情対応は割に合わない」という意識が生まれても仕方ありません。従業員がそうした意識を持つと、苦情対応に対する意識が低下してしまう恐れがあります。

こうした事態を防ぐために、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みづくりが必要です。こうした仕組みとしては「半年間の苦情対応件数が最も多かった従業員を表彰する」「データベースに蓄積された苦情対応情報から、『参考となる対応』を従業員に選択させ、最も選択された数が多かった従業員に特別手当を支給する」などが考えられます。

4)JIS規格も参考に

苦情対応については、JIS規格「JIS Q 10002:2005 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」が制定されています。この規格は、組織内部における製品やサービスに関する苦情対応プロセスの指針について標準化を行い、生産および使用の合理化、品質の向上を図ることを目的として制定されたものです。

同規格には、苦情対応の「基本原則」「苦情対応の枠組み」「計画および設計」「苦情対応プロセスの実施」「維持および改善」などの規定事項の他に、苦情対応プロセスの構築や維持に大きく経営資源を投資することが難しい小規模企業のための指針、苦情の受け付けおよび苦情のフォローアップをする際のフォーマットなども添付されています。マニュアルの作成に当たっては、こうした規格を参考にするのもよいでしょう。

なお、同規格は日本工業標準調査会のウェブサイトで閲覧することができます。

■日本工業標準調査会■
http://www.jisc.go.jp/

5 マニュアル項目例

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6 苦情対応報告書例

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以上(2018年4月)

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金融機関担当者も注目 「事業性評価」で自社の強みと課題を分析する

書いてあること

  • 主な読者:金融機関との関係を強化し、成長につなげたい経営者
  • 課題:金融機関が自社をどう評価しているか知りたい。自社のさらなる成長につなげたい
  • 解決策:金融機関の営業担当者と一緒に、ローカルベンチマーク(ロカベン)を元に自社の強みと課題を把握するところからスタートする

1 金融機関による「事業性評価」とは

1)金融機関は“本気で”取引先企業のことを知ろうとしている

現在、金融機関は、金融庁の号令のもと、企業の事業内容や成長性などを分析・評価する「事業性評価」に基づく融資に取り組んでいます。その目的は、「金融機関が、財務データや担保・保証のみに依存する融資体制を見直し、本業支援を通じて企業の成長に貢献していく」ことにあります。

つまり、事業性評価とは、金融機関が企業のことをよく知り、“本当にその企業にとって必要なこと(課題)は何か”を本気で考え、それを解決し成長を支援するということに他なりません。こうした金融機関の姿勢は、経営者にとっても大きな意味があります。

2)経営者にとっての「事業性評価」の意味

事業性評価では、金融機関担当者はまず、事業内容をよく知るために経営者にヒアリングなどを行います。そのとき、金融機関担当者が特に重視するのは、企業の「強み」と「課題」です。これらを知ることが企業の今後の成長を促す第一歩だからです。

経営者にとっても、自社の強みと課題の把握・分析が欠かせないのは言うまでもありません。多くの金融機関では、企業の現状や事業内容などを整理する項目を立てています。経営者もそうした項目を活用して自社の現状を“見える化”すると、強みと課題を整理しやすくなるでしょう。

また、資金ニーズに対応する金融機関担当者と一緒に強みと課題を把握・分析することで、実効性のある具体策が実施できる可能性が高まります。

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この他、事業性評価に基づく支援として、企業の人材不足に対応する施策を打ち出している金融機関が増えています。これは、金融機関による人材紹介業務への参入が可能になったためです。今後も人材紹介業務を行う金融機関は増えるものと考えられます。

2 強みと課題を把握・分析するきっかけになる“ロカベン”

1)“ロカベン”で着目されている4つの視点

自社の強みと課題を把握・分析するには、まず現状をつかむことが必要です。その際、定量面(財務面)と定性面(非財務面)の両方からアプローチすることになりますが、特に難しいのは定性面の把握・分析です。

定量面は財務情報から明らかにしやすいといえますが、技術力や人材力、営業ノウハウ、ネットワークなど財務情報には表れない「知的資産」などは、改めて自社の現状をひもといてみなければ明らかにできないからです。

こうした定性面の把握に参考となるのが、経済産業省が提示している「ローカルベンチマーク(ロカベン)」という経営状態を把握するためのツールです。経営者と金融機関担当者の双方がロカベンを使って現状把握すれば、同じ目線に立って課題を話し合うことができるため、ロカベンは“事業性評価の入り口”になるといえるでしょう。

ロカベンでは、企業の定性面をチェックする項目として、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」「内部管理体制」という4つの視点を挙げています。

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企業には、「創業期→成長期→成熟期→転換期(事業承継期、衰退期)」といったライフサイクルがあり、それぞれのライフステージによって課題は変わってきます。例えば創業期には資金調達が大きな課題になり、成長期には販路や経営規模の拡大、安定した仕入れ先の確保などが主な課題になるでしょう。その他、業種や規模によっても課題は異なります。そこで、図表2で紹介した項目のうち、自社に当てはまるものを中心に現状把握してみるのが現実的かもしれません。

また、強みと課題を把握・分析する際には「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源について明らかにすることになりますが、それらは「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」にある項目を中心に明らかにすると整理しやすくなります。

自社の強みと課題を考える際に、特に重要なのは、「事業」に挙げられている「顧客から選んでもらっている理由は把握できているか」という点です。次項ではこの点を掘り下げる方法を見てみましょう。

2)バリューチェーンで自社の強みと課題を明らかに

強みと課題の把握・分析というと、多くの場合、企業の外部環境と内部環境から事業機会や課題を見つける「SWOT分析」を連想するかもしれません。しかしここでは、より自社の事業内容を掘り下げるために、事業を分解して分析する「バリューチェーン」を取り上げてみます。ロカベンでも、強みと課題を知るためにバリューチェーンの考え方を取り入れ、「業務フロー」や「商流」などを整理し、優位性を分析する方法を提示しています。

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業務フローや商流などを明らかにする際に重要なのは、「他社にない製造工程」「短納期なデリバリー」などのように、分解した業務のどの部分で付加価値を生み出しているかを挙げることです。それが「顧客提供価値=なぜ自社が選ばれているか」という自社の強みだからです。同時に「コスト負担が大きい」「ミスが発生しやすい」など、それぞれの業務の課題も明らかにしていきます。挙げられた課題については、その理由を掘り下げ、本質的な問題点を探し出す用にします。

また、課題の洗い出しには「比較」が必要です。自社の現状と、自社の理想型や業界上位企業のバリューチェーンなどを比較すれば、現状の課題が見えてくるでしょう。

3 強みと課題を把握・分析するために、経営者が忘れてはならない3つのポイント

1)全社的に実践する

自社の強みと課題を把握・分析するためには、経営者1人の視点では限界があります。経営者は、顧客からのリピートやクレームの状況について、リピート率やクレーム件数などの数字やおおよその内容は分かっているでしょう。

しかし、日々現場でやり取りされている顧客と社員の生の声までは把握できていないかもしれません。また、市場環境や顧客、競合についても、経営者は俯瞰(ふかん)的に捉えることはできているかもしれませんが、現場の状況を肌で感じている営業担当者は、経営者とは違った視点で捉えている場合もあるでしょう。そのため、自社の強みと課題の把握・分析は、全社員を巻き込んで現場の声も取り入れて行う必要があります。

企業規模にもよりますが、経営者が各部門長と各部門の社員数名にヒアリングを行ったり、各部門ごとに社員同士で話し合ってバリューチェーンや3C分析などを実践させてもよいでしょう。こうして全社員に自社の強みと課題を分析させれば、社員がどのように現状を認識しているかを知ることもできます。

また、社員に自社の強みと課題などについて考えさせることは、社員自身にとっても大きな意味があります。例えば、ある企業では、自社の強みと課題を明らかにしようと、経営者が経営幹部や社員と協力して知的資産報告書(目に見えない資産を明らかにする報告書)を作成したところ、社員一人一人が経営の視点を持って業務に取り組むようになったといいます。全社員を巻き込む強みと課題の分析は、社員教育にもつながり、それが企業の強みになっていくのかもしれません。

2)外部の視点を取り入れる

自社の強みと課題は、外部の視点を取り入れ客観的に捉えることも大切です。外部の視点は、経営者や社員が気付いていなかった強みや課題を提示してくれる可能性があるからです。そうした意味では、さまざまな業種、規模の企業について知っている金融機関担当者は、外部の頼れる情報源ともいえるでしょう。同業種、同規模、同じライフステージの企業がどのような強みと課題を持っているのか、どのようにして改善したかなどを金融機関担当者に聞いてみるとよいでしょう。

また、各都道府県にあり、無料で相談できる「よろず支援拠点」などの外部機関を活用するのも一策です。例えば、東京都よろず支援拠点では、相談しに来た経営者が思いもよらなかったアドバイスによって売り上げが向上した例があるといいます。ある居酒屋の経営者は自店舗の強みを「地酒と料理」と考えていましたが、東京都よろず支援拠点の専門家が強みとして注目したのは、「高齢者が多い高層マンションの1階にある」という立地でした。そこで、居酒屋の事業を継続しながら、店内のメニューを高層マンションに住む世帯向けにそのまま届ける宅配事業にチャレンジすることにしました。「出来立ての良さをそのままに……」というチラシ訴求のせいか、多くのマンション住民からの宅配注文が入り、結果的に宅配ユーザーが居酒屋利用客へ進化する好循環が生まれました。このように、外部の視点を取り入れれば、社内では見えない“新しい強み”が発見できるかもしれません。

3)財務面も必ずチェックする

本稿では、多くの金融機関担当者が注目している定性面からの強みと課題を明らかにする方法を紹介してきましたが、先にも述べた通り、定量面(財務面)からのアプローチも欠かせません。

特に、課題は、財務情報について他社比較や時系列比較をすることで明らかになる場合があります。分かりやすい例を挙げると、売り上げは右肩上がりにもかかわらず、利益が横ばいもしくは減少しているなどのケースです。この場合、仕入れ原価が年々膨れ上がっているなどの課題があるのかもしれません。

このように財務情報から明らかになった課題について、バリューチェーンなどで定性面から分析し、その要因を見つけるという流れで進めると、「顧客の要望に対して仕入れ先を変えることだけで対応していた。しかし、工夫すれば自社で対応できそうなので、まずそれを考えるべきだ」など、改善すべき本当の課題が発見しやすくなるでしょう。

4 企業の未来をつくろう!

ここまで、金融機関が行っている「事業性評価」を基に、自社の強みと課題を分析する方法について見てきました。繰り返しになりますが、事業性評価は金融機関が企業の将来のために、本気で、伸ばすべき強みと改善すべき課題を見つけ支援するというものです。これは、過去(財務情報による実績)だけではなく、企業の未来を見据えて行う取り組みといえます。

金融機関担当者は、これまで以上に企業のことをよく知ろうと、経営者に何度も会い、ヒアリングし、工場見学にも来るでしょう。経営者も企業の未来をつくるために、こうした事業性評価の取り組みを活用し、自社の強みと課題の分析に本気で取り組んでいくことが求められているのです。

以上(2019年4月)

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画像:pixabay

企業を困らせる悪質クレーム(カスタマーハラスメント)を退ける!

書いてあること

  • 主な読者:利用客からのクレームに悩む経営者
  • 課題:威圧的なクレームにどう対処すればいいのか分からない
  • 解決策:不用意に謝らない、即答しないなど、対応時のルールを徹底することが大事

1 強要や暴言といった脅威が企業のリスクに

「おいっ! どうなってんだ? 責任者を呼べっ!」。威圧的な態度で理不尽な要求を突き付ける利用客。ひたすら頭を下げる店員。店内には怒号が鳴り響き、周囲にいた他の利用客はその場を離れ始める……。

誰もが遭遇したことがあるかもしれないシーンです。第三者であれば「あぁ~、やだやだ」で終わりますが、もし皆さんの会社が当事者になったら、そして従業員が店員だったら、どのような指示を出しますか?

「クレームはありがたい」とは言うものの、強要や暴言などの悪質クレーム、いわゆる「カスタマーハラスメント」は脅威です。対応を誤ればイメージ低下や顧客離れを招きかねません。企業はカスタマーハラスメント対策を真剣に講じる必要があります。

2 カスタマーハラスメントが生まれる要因

1)増加するも抜本的な解決策を見いだせず

社会問題化しつつあるカスタマーハラスメントは、自社の商品開発や業務改善に役立つクレームとは異なり、「店員への土下座の強要」などのように、常識的に許される範囲を超えているのが特徴です。

カスタマーハラスメントを受けたことのある人は少なくありません。流通業などの労働組合であるUAゼンセンが2017年に実施したアンケート調査によると、「ある」と答えた人の割合は73.9%を占めます。「増えている」と答えた人の割合は49.9%で、「減っている」(3.3%)を大きく上回っています。

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中でも「暴言」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」「権威的(説教)態度」の割合が高くなっています。「辞めろ」「死ね」と怒鳴られたり、同じ問い合わせを何回もされたり、「お前は私の会社なら首だ」と叱られたりするなどの例があるようです。

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こうしたカスタマーハラスメントへの対応は、「謝り続けた」と答えた人の割合が37.8%で最も高く、抜本的な解決策を見いだせずにいる企業は少なくないようです。

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2)利用客が企業や店員より強い立場に

「お客様は神様」といった考えが接客業を中心に根強く残っていることが、カスタマーハラスメントを生む要因の1つと考えられます。「利用客の要望に応えるのがサービス」という考えが根底にあるため、店員は多少理不尽でも要望を聞き入れたり、利用客の発言を否定しなくなったりします。その結果、「多少の無理を聞いて当たり前」「客の要望を満たすのが店員の仕事」と解釈した利用客を増長させてしまうのです。

SNSやブログサイトの影響力が拡大したことも要因です。「食べ物に異物が混入していた」「店員が失礼な態度を取った」などの失態は、SNSなどを介して容易に拡散される時代です。たった一度の失態も、企業の信用を大きく失墜しかねません。そのため企業は、拡散による信用低下を恐れるあまり、利用客の要望に常に応えようとします。こうした取り組みが利用客をかえって増長させ、さらなる悪質クレームを誘発させるのです。

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その他、UAゼンセンへのヒアリングによると、格差社会による歪みが一部の人のストレスを増加させ、反抗できない店員に強い態度を取らせてしまうことも要因になり得るそうです。消費者庁に代表される消費者偏重の保護体制も要因といえます。

消費者の立場が企業や店員より強い一方、企業や店員は消費者に言い返せず恐れているという構図が、カスタマーハラスメントを生む素地になっていると考えられます。

3 カスタマーハラスメントがもたらす弊害

1)企業のイメージ低下

言いがかりをつける利用客が店舗に頻出したり、SNSやブログサイトで自社商品やサービスの評価を下げられたりすると、自社や自社ブランドのイメージが損なわれかねません。イメージ低下は売り上げに影響し、企業の業績低迷にも直結します。一度低下したイメージを回復するのは難しいことから、長期的なダメージを被ります。

社会的な責任を負う可能性もあります。もし経営者による謝罪要求を受け入れれば、企業としての信頼が大きく失墜します。顧客離れはもとより、取引先や商談先と築き上げてきた関係も崩れかねません。

2)従業員の心的負担増加

暴言や暴力、威嚇などの行為は、対応する店員などにとって大きなストレスです。悪質な嫌がらせなどが続けば、心の病を患って長期離脱する店員も現れるでしょう。ストレスを強く受ける職場で働きたくないと考える店員が、離職する恐れもあります。

利用客による過度な要求は店員を疲弊させる他、働くモチベーションを低下させます。こうした職場環境を抱える企業は、従業員の離職率増加と定着率減少に悩まされる他、人材獲得が難しくなるといった課題に直面することになります。

3)利用客への影響拡大

自社商品やサービスのファンだった優良な利用客が、一部の言いがかりを発端とした風評被害で離れてしまう可能性があります。中でもSNSやブログサイトに投稿された口コミの影響力は甚大で、たとえ誤った情報でも真実と受け止められかねません。誤った情報を信じる利用客の中には、少なからず不信感を芽生えさせてしまう人もいるでしょう。

悪質なクレーム対応に時間を割かれると、他の利用客の満足度も低下します。店舗を訪れる利用客に商品などを十分に説明できなくなるため、利用客の商品知識やブランドへの理解が定着しにくくなることが懸念されます。

4 カスタマーハラスメントの傾向

1)クレームの悪質性の有無を見極める

利用客のクレームが悪質かどうか判別しにくいことが、店員や企業の対応を難しくしています。利用客が一方的に謝罪を要求したとしても、店員や企業に落ち度があれば一概に悪質とは言えません。10分で済む接客に1時間以上かかっても、利用客の主張に正当性があれば、それは必要な時間といえるでしょう。

「このクレームは悪質である」と断言しにくいことに加え、クレームは状況に応じた個別性が高いため、多くの企業が具体的な対策を講じるのに苦慮しています。

とはいえ、カスタマーハラスメントの対応を場当たり的にしのぐのは好ましくありません。そこで次の言動が見られる場合、カスタマーハラスメントを疑い、注意深く対応することが望まれます。

  • 大声で怒鳴る、威嚇する
  • 一般的には無理な要求を突き付ける
  • 店員の人格を否定する、名誉を毀損する
  • 責任者や経営者による対応を執拗に迫る
  • 危害を加える、器物を破損する

その他、店員や企業側の落ち度を理由に高額な賠償を請求したり、理不尽な要求を何回も何時間もし続けたりするケースも、状況によっては悪質性が疑われます。悪質性の有無を早期に見極め、不当な強要や暴言が続くようなら、毅然とした態度で拒否することが大切です。

2)カスタマーハラスメントの主な例

カスタマーハラスメントに該当する行為を分類すると、「暴言」「説教」「威嚇・脅迫」「拘束」「セクハラ行為」「暴力」などがあります。次の具体的な悪質クレーム例を参考に、自社でどのような対策を講じるのかを分類ごとに検討してみましょう。

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5 カスタマーハラスメントを退ける具体策

1)不用意に謝らない

「申し訳ございません」「すみません」などの発言に注意します。言いがかりをつける利用客の中には、「謝罪=非を認めた」と受け止める人がいるからです。不用意な謝罪は利用客をさらに増長させ、経営者の謝罪や高額な賠償などを要求する事態につながりかねません。

とはいえ、店員や企業に落ち度があれば謝罪は必要です。全ての言いがかりに対して「謝罪しない」という姿勢ではなく、利用客の気持ちをくみ取った配慮を示すことが大切です。謝罪する場合、漠然ではなく何について謝るのかを明確に示すことも必要です。

2)即答しない

利用客からの要求に対し、「分かりました」「そのようにします」などの即答は避けるべきです。事態を早急に収拾しようと、要求を安易に受け入れるのは禁物です。利用客の主張を正しく認識し、店員個人としての判断ではなく、事実確認や原因を踏まえた上で、企業として判断するのが望ましいでしょう。

曖昧な返事にも注意します。「結構です」「検討します」といった発言は肯定と受け取られます。拒否する場合、「即答できません」「約束しかねます」などときっぱり否定します。

3)トップを出さない

「店長を出せ」「社長を呼んでこい」などの要求は原則、のむべきではありません。意思決定者が対応すると即答を迫られるからです。再び言いがかりをつけに現れたとき、「前回は店長が対応した。今回も店員ではなく店長に代われ」などと、責任者の対応が常態化する懸念もあります。

もっとも、判断の難しい要求は店長やエリア統括マネジャーなどに代わるケースがあります。責任者としての見解を求められたり、解決まで長期化しそうだったりする場合、責任者に対応を引き継ぐことも必要です。

4)対応時間を短くする

言いがかりをつける利用客の中には店員を何時間も拘束し、理不尽な要求をし続けるケースがあります。店舗の営業時間終了後も店員を拘束し続けることは珍しくありません。長時間の拘束によって業務が停滞しないよう、できるだけ短い時間で対応を打ち切ります。

「○時○分までお話をうかがいます」などと、対応可能な時間を事前に伝えても構いません。対応時間を過ぎても帰らない場合、警察に通報するなどの措置を検討します。対応時間は長くても30分程度を目安にするとよいでしょう。

6 企業としての対策を講じる

1)全社で情報を共有する

過去に対応したカスタマーハラスメントの事案は、全社で共有することが大切です。利用客の具体的な要求、態度、行為などを記録し、どんなケースが多いのかを把握できるようにします。加えて、過去の事案に応じた対策も周知します。

店員が「クレームは接客対応した自身のミス」と受け止めて、報告をためらうことがないようにします。具体的には、クレームに関する相談窓口を用意するとよいでしょう。どう対処すべきかアドバイスを受けられるようにするとともに、店員の心をケアするために有効です。女性店員が相談しやすいよう女性の窓口担当者を配置するのも一案です。

2)マニュアルを作成する

接客や電話応対に不慣れな若手社員の場合、カスタマーハラスメントに対して誤った対応をする恐れがあります。企業としてどう臨むのかをマニュアルで標準化し、経験の浅い社員でも適切に対応できるようにします。

特に、利用客の要求に応えるか否かを明確に定めることが必要です。企業によっては「お客様の要求には徹底的に応える」といった方針を打ち出すケースが見られるものの、悪質で理不尽と思われる要求は断る方針も示すべきです。

店員の中には「たとえ悪質であっても要求に応えないと会社に迷惑をかける」と思う人がいます。カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨むという企業方針を打ち出すことが、従業員を保護するためには必要です。

3)2人以上で対応する

言いがかりをつける利用客の対応は、担当者1人を孤立させず2人以上を配置できるようにします。できるだけ多人数で対応し、利用客が威圧的な態度や恫喝(どうかつ)しにくい雰囲気をつくります。

状況に応じて利用客の要求をメモします。利用客の要求を正しく把握するとともに、訴訟になったときの証拠とします。会話の録音やカメラによる録画も有効です。「録音/録画する」という行為自体が、暴言や威嚇の抑止力にもなります。

4)外部と連携する

利用客の暴力やセクハラ行為などを想定し、警察との支援体制を確立します。近隣の警察署の担当部署や問い合わせ窓口などを事前に確認し、非常時にはすぐ通報できるようにします。

弁護士への相談体制も検討します。顧客や消費者とのクレーム対応や、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般に精通する法律事務所は少なくありません。こうした専門家のアドバイスを受けられる体制づくりも視野に入れましょう。悪質クレームを続ける利用客に対し、法的措置に踏み切るなどの強い姿勢を示せるようにします。

なお、カスタマーハラスメントに関する弁護士への電話相談が無料になる保険も登場しています。体制や対策を自社で講じられない場合、こうしたサービスの活用を検討してもよいでしょう。

以上(2018年12月)

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