福祉用具貸与・介護予防福祉用具貸与の概要と市場動向

書いてあること

  • 主な読者:福祉用具貸与の事業を手掛けたい経営者
  • 課題:需要や、参入に当たりハードルになること、規制が分からない
  • 解決策:課題の一つとして、å福祉用具貸与事業者は、福祉用具の手持ち在庫が必要なため、初期投資が比較的高額になる傾向がある。こうした場合、福祉用具レンタル卸を活用することで、手持ち在庫を持たず、管理や点検の手間も省くことができる

1 福祉用具貸与事業の概要

1)福祉用具貸与とは

福祉用具貸与とは、要介護の状態等になったときにも、その能力に応じて、できる限り居宅で自立した日常生活を行うことができるように、利用者の希望・状況・環境を踏まえて適切な福祉用具の選定の援助・取り付け・調整を行うサービスをいいます。

福祉用具貸与は「要支援」「要介護」によってそれぞれ次のように分類されます。事業者は同時に両方の指定を取得することも可能です。

  • 介護予防福祉用具貸与(要支援1~2)
  • 福祉用具貸与(要介護1~5)

介護保険制度を使って福祉用具のレンタルを検討する場合は、ケアマネジャーに相談することになります。福祉用具貸与の費用(レンタル料)は、福祉用具貸与事業者が自由に設定できます。ただし、介護保険の給付の対象になるためには、福祉用具の貸与がケアマネジャーの作成するケアプランに組み込まれていて、支給限度額の範囲内であることが必要です。

2)レンタル期間

福祉用具のレンタル期間は、利用者の状況や品目によって大きく異なります。例えば介護ベッドの場合、利用者の身体状況の変化により2~3カ月でレンタルを終了してしまうケースもあれば、2~3年という長い間レンタルが続くこともあります。

また、利用者の意向によってもレンタル期間は異なります。例えば、介護老人福祉施設などの施設に空きがないため、やむを得ず在宅介護を受けている状態にある利用者は、施設に空きが出たときにレンタルが終了します。一方、施設に空きがあるものの施設に入る意思がない利用者の場合、レンタル期間は長くなりがちといえます。

3)レンタル商品の仕入れ方法

福祉用具貸与事業者が介護ベッドなどのレンタル用品を調達する方法はさまざまです。介護ベッドなどの仕入れ先はメーカーあるいは卸売業者であり、比較的大規模な福祉用具貸与事業者はメーカーと取り引きしています。

また、介護ベッドなどの仕入れ方法には購入とレンタルの2つの方法がありますが、比較的大規模な福祉用具貸与事業者は購入によって調達することが多いようです。

4)福祉用具貸与の対象品目

福祉用具貸与の対象となる品目は、ベッド、車いす、つえなどさまざまです。福祉用具貸与の対象となる項目は次の通りです。

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2 介護保険制度の改正

1)利用者負担割合について

2018年4月に施行された「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(以下「改正介護保険法」)により、2018年8月以降、介護保険の利用者負担割合や、福祉用具貸与価格などが見直されました。

介護保険の利用者負担割合は、年金収入等が単身世帯で280万円未満(2人以上世帯は346万円未満)の場合は1割、280万円以上(2人以上世帯は346万円以上)の場合は2割、340万円以上(2人以上世帯は463万円以上)の場合は3割となりました。

2)福祉用具貸与価格について

現在の福祉用具貸与価格は、仕入価格、搬出入、保守点検などの経費の違いから、同じ商品を取り扱っていても福祉用具貸与事業者ごとに価格差があります。改正介護保険法により、適切な貸与価格を確保する観点から、厚生労働省が全国平均貸与価格および貸与価格の上限を公表しています。

また、福祉用具貸与事業者が福祉用具を貸与する際には、福祉用具の全国平均貸与価格と自社の貸与価格の両方を利用者に説明する必要があります。併せて、機能や価格帯の異なる複数の商品を提示する必要があります。

■厚生労働省「福祉用具」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html

3 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具貸与の介護費の推移

国民健康保険中央会「介護費の推移」によると、福祉用具貸与事業者における介護費の推移は次の通りです。

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高齢者の増加により、福祉用具貸与事業者における介護費は増加を続けています。

2)福祉用具貸与の事業者数

厚生労働省「介護給付費等実態統計」によると、福祉用具貸与と介護予防福祉用具貸与サービス事業所数の推移は次の通りです。

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4 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具レンタル卸

福祉用具貸与事業者は、福祉用具の保管および消毒のための設備や器材が必要で、事業運営には相応の広さの区画を必要とします。ただし、福祉用具の保管または消毒を他の事業者に行わせる場合にあっては、福祉用具の保管または消毒のために必要な設備または器材を有しないことができます(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「基準」)第196条第1項)。

福祉用具貸与事業者は、福祉用具をメーカーから仕入れ、それを利用者に貸し出すことになるため、常にある程度の手持ち在庫を持たなければなりません。そのため、新規参入を図る事業者にとって、初期投資は比較的高額になる傾向があります。

そのような場合、福祉用具レンタル卸を活用すれば、利用者の利用期間終了後は福祉用具を返却すればよいため、手持ちの在庫を抱える必要はありません。福祉用具の在庫管理や使用後の消毒・点検などの手間も省くことができます。

福祉用具レンタル卸の大手としては、日本ケアサプライが挙げられます。同社のコア事業は、指定居宅介護事業者向けに福祉用具のレンタルおよび販売を行う「福祉用具サプライ事業」です。

■日本ケアサプライ■
https://www.caresupply.co.jp/

2)「福祉用具貸与計画」作成義務

福祉用具専門相談員は、利用者の希望、心身の状況およびその置かれている環境を踏まえ、指定福祉用具貸与の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した福祉用具貸与計画を作成しなければなりません(基準第199条の2第1項)。

以上(2020年6月)

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画像:pixabay

採用におけるデジタルトランスフォーメーションとは/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(1)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:DXという字面にひっぱられない。重要なのは、経営者の採用に対する本気の姿勢

新型コロナウイルス問題は採用市場を激変させました。空前の人手不足から一転、急激に冷え込んでいます。しかし不況期は、他社の採用活動が慎重になることで、逆にいい人材を獲得できるビッグチャンスでもあります。勇気は必要なものの、今こそ「攻めの採用活動」に転じるべきなのです。

そのカギを握るキーワードが「デジタル」です。今回、シューカツでWEB面接が一気に進んだように、IoTやAIを駆使した採用活動へシフトしていくのは明白。そもそも第4次産業革命といわれる時代を迎え、企業のDX=デジタルトランスフォーメーションへの対応が、今後の競争力を大きく左右されると指摘されていました。進みが遅かった人事の領域においても例外ではありません。これがウィズコロナ、アフターコロナの採用における明暗を分けていくでしょう。

本連載では、こんな時期だからこそ「攻めの採用活動」に転じ、「リクルーティングDX」と呼ぶべきデジタル採用を確立するためのノウハウを解説してきます。第1回目の本稿では、DX=デジタルトランスフォーメーションについて解説しつつ、本連載で取り上げる「採用におけるDX」の第一歩となる取り組みについて論じていきます。

1 デジタルアレルギーに別れを告げて

昨今、「DX」であるとか「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉を耳にする機会が増えています。むしろ語感的なインパクトも手伝ってか、デジタル関連の話にはとりあえず「DX」という言葉さえつけておけばOK!的な風潮さえ感じられます。 

筆者は、そういった“猫も杓子もDX”の流れを否定しているわけではありません。その正確な定義や本質的な意義をきちんと理解することは、もちろん有意義なのですが、たとえきちんと理解できなくても、“猫も杓子もDX”の流れに乗っかってDXに取り組んでいくほうがいいと思っています。

  • 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

これが、経済産業省が2018年12月にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」における定義です。こうした解説を読んだだけだと、スッとは頭に入ってきません。ただでさえ、デジタル関連の言葉を聞くだけで、小難しくてよくわからないと苦手意識を感じる人は少なくないはずです。特に経営陣をはじめ事業の意志決定に携わる上位層においては、その傾向が顕著でしょう。本連載では、DX自体はざっくりの理解でよしとして、採用にもたらすDXの効能に焦点を当てていこうと思います。

2 デジタル化三段活用

経産省の定義を待つまでもなく、トランスフォーメーションという仰々しい言葉がついていることからも、DXが単なるデジタルへの置き換えを指すのではないことは、イメージできます。そして、DXがデジタル化によって目指す最終形態だということが、下記のように類似する言葉と対比することで理解できます。

  • デジタイゼーション→デジタル化のこと。今まで紙とハンコで進めてきた業務をペーパーレス化するなどアナログなものをデジタル情報として扱えるようにすること
  • デジタライゼーション→デジタイゼーションでデジタルに置き換えたデータを利用し、ビジネスにイノベーションを起こすこと
  • DX:デジタルトランスフォーメーション→デジタイゼーション、デジタライゼーションを前提として、企業そのものを変革していくこと

デジタル化はゴールではなく、その先にある「果実」を手にするためのプロセス。デジタイゼーションとデジタライゼーションの間にある違いは、こう理解できます。そしてデジタライゼーションとDXの違いは、「果実」を手にするための本気度の差。筆者はこう解釈しています。

3 リクルーティングDXのスコープ

そういった意味で、トランスフォーメーションという言葉には、「デジタルによって本気で変えていくぞ」という圧倒的な熱量への要求が込められていると思うのです。熱量こそが到達する高み~既成概念を根底から覆し創造されるイノベーションという果実~のレベルを決すると思うからです。結局のところ、この本気度が肝なんです。

難解なDXについて、できるだけ肩の力を抜いて向き合ってほしい。本気で挑んでほしい。そんな老婆心から前置きが長くなってしまいました。

さて、ここからが本題です。リクルーティングDXについて具体的なノウハウを論じていきましょう。

  • 第一段階…新しいテクノロジーを積極的に活用することで
  • 第二段階…これまでは実現しなかった採用や人材の活躍を生み出し
  • 最終段階…組織生産性を向上させ企業変革に寄与する

本連載における「リクルーティングDX」は、こうした三段活用的な一連の取り組みをイメージしながら、母集団形成フェーズ、選考フェーズ、入社フェーズという3つの採用プロセスに分けて、そのノウハウを語っていきます。

4 オウンドメディアを主軸に

さて本稿では、母集団形成におけるDXの前半について解説します。まず取り組むべきは、従来型の求人マスメディアへの依存から脱却することです。またも遠回りになりますが、トリプルメディア戦略というマーケティング概念を用いて説明していきます。

採用シーンにおけるトリプルメディアとは、

  • ペイドメディア:Paid Media
    有料求人広告メディア(求人ポータルサイトや求人フリーペーパー)
  • オウンドメディア:Owned Media
    WEBサイトにおける採用ホームページ、採用パンフレットなど
  • アーンドメディア:Earned Media
    フェイスブックやインスタグラムなどSNSを中心としたクチコミメディア

といった整理になります。

日本は、リクルートに代表されるように、世界に類を見ないほど有料求人広告メディアが発達した国でした。これまで採用シーンにおいては、有料求人広告メディアのパワーが圧倒的だったのです。しかし昨今、求職者の志向の変化、あるいはSNSの普及など情報取得手段の多様化をうけ、その影響力が低下しています。Paidという名称からも、“お金はかかるものの瞬時に応募を集めるチカラ”が持ち味だったのが、相対的にパワーダウン。

しかも不況期の今は比較的応募が集めやすい。PaidからOwnedへのメディアシフトは、時代の流れから見ても、今まさにすすめるべきです。

5 今さら聞けないindeed

今、採用ホームページを主軸にしていく背景には、実はindeedというモンスター集客ツールの台頭があります。indeedは求人サイト、ハローワークをはじめ、あらゆる求人情報をAIが数千のウェブサイトを巡回することで収集し掲載。求人業界のGoogleと言ってしまえば分かりやすいかもしれません。収集する情報の中には、もちろん企業の採用ホームページも含まれています。

その強みは、検索した時に上位表示されるSEOの卓越したチカラ。そしてSEOパワーを支えるのが、AIによって収集された圧倒的な情報量。この原稿を書いている5月20日現在252万件の情報が掲載されています。国内有数の求人メディアであるタウンワークネットが45万件であることと比較すると、いかにモンスターかが分かります。

求職者の多くは仕事を探す際、まずGoogleやYahooなどの検索エンジンを開きます。検索エンジンで「アルバイト 求人 東京」「正社員 求人 新宿」などのように、自分の探したい仕事に応じたキーワードを入力し、検索ボタンをクリックします。検索してみると検索結果の上位にはindeedの求人が多く表示されます。検索画面の上位にあるサイトほどクリックされやすい傾向にあるため、求職者は意識しないうちにindeedで応募する、というわけです。日本の5~10年先を走るアメリカでは、なんと求職者の65%もの人がindeed経由で仕事を選んでいます。

6 ダイレクト・リクルーティングへの布石

indeedを駆使した採用ホームページシフトは、コストパフォーマンスが高い母集団形成を実現してくれます。しかしそれだけではありません。メディアスイッチ自体は、先述のデジタイゼーション(紙とハンコの文化をペーパーレスやデジタル認証へ切り替える)的な取り組みですが、実はその先にあるデジタライゼーションを見据えた布石なのです。

それが「ダイレクト・リクルーティング」です。indeedをはじめとする「求人検索エンジン」から“直接”自社の採用ホームページに誘導するファスト・リクルーティングも、日本においてはダイレクト・リクルーティングのひとつとされます。

しかし、ここでいうのはダイレクト・ソーシングと言われる手法です。企業側が、求めている人材を “直接”探し出してアプローチする「攻めの採用」です。ここは次回詳しく解説します。

7 過保護な人材サービス業界からの自立

従来型の求人マスメディアへの依存から脱却すること。これが母集団形成におけるDXの第一歩です。しかし、これが意外と難しいであろうこともお伝えしておきます。

先述のように、世界に類を見ないほど求人広告メディアが発達した日本には、採用担当者の多岐にわたる要望(時にむちゃぶりも)に応える求人広告営業マンが多数存在しています。大袈裟に例えると、サザエさんに登場する「三河屋のサブちゃん」のような存在がたくさんいるということです。彼は醤油やビールを届けてくれるだけではありません。もうすぐ味噌が切れそうだと察知して、頼んでもいない味噌を先回りして持ってきてくれたりします。

求人マスメディアへの依存から脱却することは、ホスピタリティ満載の求人広告営業マンと決別することと同義です。自ら採用に本気でコミットする意識の変革が、リクルーティングDXの一丁目一番地なのです。

以上(2020年6月)
(執筆 平賀充記)

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画像:mast3r-Adobe Stock

パン製造業などが注意すべき認証制度や安全規格の概要

書いてあること

  • 主な読者:安全性をアピールできる認証制度の取得を検討する食品製造業の経営者
  • 課題:認証取得に向けて何をすべきか、どのくらい費用が掛かるのかが分からない
  • 解決策:安全・安心認証制度の概要を把握し、自社で取り組める内容なのかを検討する

1 食の安全・安心を求める動きに対応

消費者の「食の安全・安心」に対するニーズが高まる中、パン製造業を含む食品事業者には食の安全・安心の確保に向けた取り組みが一層求められるようになっています。食品事業者の中には自社の製造工程などの安全性を示すため、自治体や第三者機関による認証制度などを取得する動きも見られます。

では、食品の安全性を示す認証制度や安全規格にはどのようなものがあるのでしょうか。パン製造業などが導入を検討したい認証制度と安全規格を以降で紹介します。

2 HACCPの概要

1)HACCPとは

HACCP(ハサップ)とは食品製造時の安全を確保するための管理手法です。「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、食中毒菌による汚染や異物混入などの危害要因を除去、または低減させるために重要な工程を管理します。これまでの一般的な抜き取り検査による管理に比べ、問題のある製品の出荷を効果的に防げるようになる他、原因を追究しやすくなるのが特徴です。

なお、食品を扱う事業者はHACCPによる衛生管理が義務付けられることになっています。2020年6月から義務化されますが、1年間の猶予期間があるため、完全に義務化されるのは2021年6月からです。ただし義務化に当たり、HACCPの認証を必ず取得しなければならないわけではなく、HACCPを使った衛生管理を実施すれば問題ありません。

2)HACCPの構成とメリット

HACCPは7つの原則と12の手順で構成されています。

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各原則・手順の詳細は割愛しますが、製造工程を可視化する一覧図を作成し、各工程に問題はないのかを記録、確認できるようにするのが基本です。例えば、冷却工程で使用する水質や水温、材料を調合する工程での調合比率などを記録するといった具合です。

また、特に危害要因が多く含まれそうな工程を「重要管理点」と定め、連続して監視するなどの措置を講じられるようにするのも特徴です。

こうした衛生管理体制を構築することにより、製造する食品の安全を高められるようにします。なお農林水産省「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査」によると、HACCP導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 品質・安全性の向上
  • 従業員の意識の向上
  • 企業の信用度やイメージの向上
  • 製品イメージの向上
  • 事故対策コストの削減
  • 製品ロスの削減
  • 取引の増加
  • 製品の輸出が可能(有利)
  • 製品価格の上昇

3)HACCPを導入するに当たって

自社がHACCPを導入する場合、認証取得を支援するコンサルティング会社を利用したり、具体的な取り組み内容を学べる研修会に参加したりするのが一般的です。

コンサルティング費用は会社の規模や対象となる食品などにより異なります。費用について、HACCP認証協会へのヒアリングによると「会社の規模などにより異なる。当協会の場合、認証審査費用の30万円に加え、HACCP認証コンサルタントを派遣する費用などが加わる」(*)とのことです。

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(*)HACCP認証協会(2020年4月21日時点)

3 ISO22000の概要

1)ISO22000とは

ISO22000とは、「食品安全マネジメントシステム(FSMS)」を構築するための事項を定めた国際規格です。HACCPの概念と品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001」の概念を取り入れる一方、経営者の関与や責任が不明確だったり、製造工程のみが対象だったりするHACCPの欠点を補っているのが特徴です。食品の生産から消費者に届くまでの全ての工程(フードチェーン)を管理対象にします。

日本では、日本適合性認定協会(JAB)が認定したマネジメントシステム認証機関がISO22000を認証しています。

2)ISO22000の構成とメリット

ISO22000は、10の要素で構成されています。

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HACCP同様、食の安全・安心に関わる工程を監視、測定し、評価できるようにしますが、運用するための組織体制、役割、権限、リーダーリップなども構成要素として定義しているのが特徴です。なおJABによると、ISO22000導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 安全な食品を提供することによるリスクの低減
  • 業務効率の改善や組織体制の強化
  • 各業務の見える化による業務継承の円滑化
  • 安全管理体制の継続的な改善による企業価値の向上
  • 法令遵守(コンプライアンス)の推進
  • 海外企業を含む取引要件の達成

3)ISO22000を導入するに当たって

認証を取得するのに掛かる費用はHACCP同様、取り扱う食品などにより異なります。一例ですが、日本能率協会 審査登録センターのウェブサイトでは目安として「20~30人規模の食品工場の場合、はじめて認証登録する年に120万円、2年目と3年目にはそれぞれ50万円、4年目は70万円が目安」としています。

4 FSSC22000の概要

1)FSSC22000とは

FSSC22000とは、ISO22000を補強した食品安全マネジメントの国際規格です。ISO22000の場合、確認事項の1つである「前提条件プログラム(PRP)」の取り組むべき内容の選択が組織に任されています。そのため、衛生管理のレベルにばらつきが出てしまうという欠点をFSSC22000は補っています。

FSSC22000はオランダに本部を置くFFSC(Foundation for Food Safety Certification)が開発した規格です。FSSCの認証は、マネジメントシステム認証機関などの国際的組織である国際認定フォーラム(IAF)における国際相互承認協定(MLA)に調印したIAF/MLAメンバーの認定機関から認定を受けたFSSC認証機関が行うことになっています。

2)FSSC22000の構成とメリット

FSSC22000は、ISO22000、ISO22000で確認すべき事項の一部を補強した「ISO/TS22002-1」、追加要求事項の3つで構成されています。

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製造工程などを管理する以前に、製造機器や食品などを加工する施設内の清掃や洗浄は適切に管理されているかといった「前提条件プログラム」を、ISO/TS22002-1を使って示しているのが特徴です。

なお、FSSC認証機関である日本ガス機器検査協会によると、FSSC22000導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 顧客による2社監査の円滑化
  • GFSI認証スキームの適用により、新規市場への参入機会の拡大
  • 消費者や取引先に安全・安心な製品・サービスの提供をアピール
  • 工程トラブルや製品回収リスクの提言
  • フードディフェンス(食品防御)への対応強化
  • 製造工程の可視化などで作業効率、業務改善の促進

また、FSSC22000の認証取得により、「グローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ(GFSI)」という業界団体の承認を受けられるようになるのがメリットです。GFSIとは、ウォルマート(米国)、テスコ(英国)、イオン(日本)などの食品流通業や食品製造業の大手企業で構成する団体で、認証取得によりグローバルに食品安全マネジメントシステムの有効性をアピールできるようになります。

3)FSSC22000を導入するに当たって

認証の取得に掛かる費用は、HACCPやISO22000同様、取り扱う製品などにより異なります。ISO22000やFSCC22000などの認証取得を支援するコンサルタント会社へのヒアリングによると、「審査費用、コンサルティング料金、審査員の交通費、宿泊費などを含めると、企業規模などにより異なるが、100万~120万円以上が目安になる。コンサルティング会社ごとに料金に幅があるので、複数社から見積もりを取るのが望ましい」(*)とのことです。

________________________________________
(*)ISOなどの認証取得を支援するコンサルティング会社(2020年4月21日時点)

なお、FSSC認証機関である日本品質保証機構(JQA)のウェブサイトでは、認証取得に当たっての質問などが掲載されています。検討開始から登録証発行までのおよその期間、認証取得対象となる組織や設備、JQAによる認証取得に向けたサポート体制などに触れているので、参考にするとよいでしょう。

■日本品質保証機構(JQA)■
https://www.jqa.jp/

6 AIBフードセーフティ指導・監査システムの概要

1)AIBフードセーフティ指導・監査システムは

AIBフードセーフティ指導・監査システムとは、安全な食品を製造するためのガイドラインである適正製造規範(GMP)を重視した食品安全管理システムです。

AIBフードセーフティ指導・監査システムは認証制度ではありません。世界のさまざまな法規を基に米国製パン研究所(AIB)が独自に作成した「AIB国際検査統合基準」にのっとって指導・監査するもので、日本では日本パン技術研究所がその活動を担っています。なお、パン製造業以外にも多様な食品関連企業(精米、乳製品、菓子、加工肉などの食品製造業)に導入されています。

2)AIBフードセーフティ指導・監査システムの構成とメリット

AIBフードセーフティ指導・監査システムは5つのカテゴリで構成されています。

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現場での審査に重点を置くのが特徴で、カテゴリごとに評点し、合計スコアに応じて達成認定証が発行されます。なお日本パン技術研究所によると、AIBフードセーフティ指導・監査システム導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 製造現場内を徹底的に検査して問題を見つけ出すことで、改善を進められる
  • 危害を排除するサイクルを繰り返すことで、食品安全レベルを維持・向上できる

3)AIBフードセーフティ指導・監査システムを導入するに当たって

日本パン技術研究所の場合、導入に掛かる費用は次の通りです。

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以上(2020年6月)

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プライバシーマーク制度の概要

書いてあること

  • 主な読者:プライバシーマークの新規取得を考えている経営者
  • 課題:個人情報の適切な取り扱いを実施する体制を構築したい
  • 解決策:プライバシーマーク制度や「JIS Q 15001:2017」について理解し、規程、様式などの策定や教育の実施など社内体制を整える

1 プライバシーマーク制度の目的

プライバシーマーク制度は、日本産業規格「JIS Q 15001:2017 個人情報保護マネジメントシステム―要求事項」(以下「JIS Q 15001:2017」)に適合して、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者などを認定して、その旨を示すプライバシーマークを付与し、事業活動に関してプライバシーマークの使用を認める制度です。

プライバシーマーク制度の目的は次の通りです。

  • 消費者の目に見えるプライバシーマークで示すことによって、個人情報の保護に関する消費者の意識の向上を図ること
  • 適切な個人情報の取り扱いを推進することによって、消費者の個人情報の保護意識の高まりに応え、社会的な信用を得るためのインセンティブを事業者に与えること

2 プライバシーマーク制度の実施体制

1)プライバシーマーク付与機関(付与機関)

付与機関は、審査機関(後述)を指定すること、事業者からのプライバシーマーク付与の申請を審査することをはじめとし、プライバシーマーク制度を適正に運用する役割を担っています。付与機関は日本情報経済社会推進協会(以下「JIPDEC」)です。

付与機関の下には、学識者、有識者、事業者団体の代表、消費者代表、法曹関係者などで構成される「プライバシーマーク制度委員会」と、消費者などからの個人情報の保護に関する問い合わせ、プライバシーマーク制度に関する苦情などを受け付けて対応する「消費者相談窓口」が設置されています。

■日本情報経済社会推進協会■
https://www.jipdec.or.jp/

2)プライバシーマーク指定審査機関(審査機関)

個人情報を取り扱う民間事業者を会員とする事業者団体で、付与機関から指定を受けた団体です。

■JIPDEC「プライバシーマーク指定審査機関一覧」■
https://privacymark.jp/system/about/agency/member_list.html

3)プライバシーマーク指定研修機関(研修機関)

付与機関に申請してプライバシーマーク制度委員会の審議を経て研修機関として指定を受けた団体です。研修機関は、審査員補を養成するための研修、並びに主任審査員、審査員および審査員補が資格を維持するためのフォローアップ研修を実施します。

3 プライバシーマーク付与の対象と単位

プライバシーマーク付与の対象は、日本国内に活動拠点を持つ事業者で、「JIS Q 15001:2017」に準拠した個人情報保護マネジメントシステムを定め、それに基づき実施可能な体制を整備し、個人情報の適切な取り扱いを実施している事業者です。

付与は、法人単位です。ただし、医療法人、学校法人等については一部例外があります。

4 プライバシーマークを表示できる場所

プライバシーマークを表示できる場所は、店頭、契約約款、説明書、宣伝・広告資料、封筒、便箋、名刺、ウェブサイトなどです。

5 プライバシーマーク付与の有効期間

1回の認定による有効期間は2年間です。ただし、以降は、2年ごとに更新を行うことができます。なお、更新申請は、有効期間の終了する8カ月前から4カ月前の日までの間に行わなければなりません。

6 プライバシーマーク付与事業者

プライバシーマーク付与事業者は、次のウェブサイトで確認できます。2020年4月21日時点で1万6459事業者がプライバシーマークの付与認定を受けています。

■JIPDEC「プライバシーマーク付与事業者検索」■
https://entity-search.jipdec.or.jp/pmark

7 プライバシーマーク付与登録までの流れ

プライバシーマーク付与の認定を受けようとする事業者は、申請書類を審査機関または付与機関の受付窓口に提出します。申請方法は次のウェブサイトを参照してください。

■JIPDEC「プライバシーマーク制度 申請手続き」■
https://privacymark.jp/p-application/

なお、個人情報保護マネジメントシステムの運用に際して、「JIS Q 15001:2017」では、個人情報保護管理者と個人情報保護監査責任者が1名ずつ必要と定められています(兼任不可)。法人であっても一人会社の場合は付与の対象となりませんし、組織体としての実態があれば、個人事業主も付与の対象となります。

新規申請の場合、プライバシーマーク付与登録までの流れは次のようになります。

  • 個人情報保護方針(プライバシーポリシー)の策定と公表
  • 個人情報保護のための組織化
  • 個人情報の特定とリスクの認識
  • 個人情報保護のための規程・規則・手順書・様式などの策定
  • 策定した規程類に基づく全従業者に対する教育の実施
  • 個人情報保護マネジメントシステムの運用(1カ月以上)
  • 全拠点・部門での内部監査の実施
  • 内部監査結果の代表者への報告と是正
  • 申請準備と申請(申請書類を審査機関あるいは付与機関に提出)
  • 審査機関あるいは付与機関によるプライバシーマーク付与適格性の審査(受審)
  • 審査機関あるいは付与機関からの指摘事項の是正
  • プライバシーマーク付与の認定
  • プライバシーマーク付与契約、登録証の交付

8 プライバシーマーク付与に係る費用

プライバシーマーク付与に係る費用は次の通りです。ただし、この費用は、付与機関であるJIPDECまたは審査を申請した審査機関に支払う金額です。規程、様式などの策定や教育の実施など、社内体制整備のためにコンサルタントなどを利用した場合、別途費用が必要です。

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なお、事業者規模の区分(小規模、中規模、大規模)は、「登記された資本金の額または出資の総額」「従業者数」「業種」を基準として一律に判定します。資本金の額または出資の総額が登記されていない無限責任の事業者(合名会社、合資会社等)の場合は、従業者数と業種のみで判定します。同様に、資本金の額または出資の総額が登記されていない社団法人や財団法人等も、従業者数と業種のみで判定します。

■JIPDEC「プライバシーマーク制度 費用」■
https://privacymark.jp/p-application/cost/
■JIPDEC「プライバシーマーク制度 事業者規模の区分」■
https://privacymark.jp/p-application/cost/segment.html

以上(2020年6月)

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画像:photo-ac

【朝礼】私は新しい時代の「裸の王様」になる!

おはようございます。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、私たちの働き方は急激な変化を余儀なくされています。当社でも在宅勤務を取り入れたことで、コミュニケーションの在り方や仕事の進め方が大きく変わりました。

ところで、働く場所や連絡方法、仕事で使うツールなどは変わりましたが、肝心の私たち自身は変わったのでしょうか?

この1カ月余り、私は、自分の存在意義について考えていました。私は、皆さんにたくさん小言を言ってきました。仕事のレベルを上げる、スムーズに進める。そのために私の小言が必要であると信じてきたからです。

ところが、在宅勤務になり、私がそれほど小言を言わなくなっても、それなりに仕事は進んでいきます。

そのときに思い出したのは、アンデルセン童話の「裸の王様」です。周囲をイエスマンの家臣で固めて他人の意見を聞かない。揚げ句に詐欺師にだまされて、ありもしない洋服を着て町を練り歩く滑稽な王様。私の小言に実際の効果はないのに、皆さんは権力を恐れて何も言えない。だとしたら、私はまさに裸の王様だと思ったのです。

かつては、裸の王様のような存在が必要だった時代もあります。仕事はできないけれど、偉そうに椅子にふんぞり返って、周囲ににらみを利かせる存在が、「組織の重し」としての役割を担っていました。

しかし、時代は変わりました。もはや単なる「組織の重し」に存在意義はなくなりました。童話に出てくる裸の王様で例えるならば、家臣がノーと言える雰囲気になり、詐欺師にだまされない知識を養わなければなりません。そして何より、自らが率先垂範することで、町民から恐れられるのでなく、尊敬されるようにならなければなりません。

現実の世界で、私がこうしたことを実践してこなかったわけではありません。自由な雰囲気を目指し、プライベートの時間を削って勉強し、自分を律してきました。しかし、それは十分ではなかったのです。不謹慎かもしれませんが、私は今回のコロナ禍の非常事態を、自分を変える良いきっかけであると捉えています。

私は、裸の王様の定義を変えます。裸であるとは、「どこから見られても恥ずかしくないような、隠し事や後ろめたいことがない状態」とします。

そして私は、あえて裸でいる、新しい時代の裸の王様になります。ありのままの姿を見てもらった上で、家臣や町民から敬意を抱かれる、そんな王様に私はなります。

皆さんも変わってください。「指示されることが当たり前」の状態から脱却してください。仕事のレベルを上げるために何をすべきかを、自ら考え、提案し、行動するようになってほしいのです。

今、この瞬間が、成長する会社と沈む会社との分かれ道となります。変化する会社こそが、成長できるのです。

以上(2020年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】新・次工程はお客様

今日は、皆さんに考えてほしい言葉があります。それは、「次工程はお客様」。お客様に対して行うのと同じような丁寧さで、次の工程の担当者が仕事を進めやすいようにするという趣旨の言葉です。皆さんも、一度は聞いたことがあるでしょう。

次の工程の担当者が仕事を進めやすいようにするというのはビジネスの基本ですし、私自身も、実践すべき大切なことだと思っています。それを分かった上で、私はこの言葉の「次工程」という部分について、皆さんに問いたいことがあります。

皆さんが「次工程」と認識している仕事は、本当に次の工程の担当者、つまり自分以外の人間がやるべき仕事なのでしょうか。このように感じるようになったのは、最近、当社で在宅勤務を行うことが増えてきたからです。

在宅勤務の特徴は、「会わない、見えない、話さない」です。電話やオンラインツールがあるとはいえ、会社で一緒に仕事をしているときに比べ、「会って、見て、話す」機会は確実に減ります。それを補うため、在宅勤務では、チャットツールやグループウエア、メールなどを駆使して、文書形式でうまくコミュニケーションを取らなければなりません。在宅勤務体制が始まる前、私は皆さんが「うまく情報を発信できるだろうか」と心配でした。しかし、結果は逆で、「終わりました。確認をお願いします」「確認はまだでしょうか」「次の工程に進めてください」など、大量のメッセージが飛び交うようになりました。

在宅勤務では、質問にその場ですぐに答えられるわけではありません。文書形式のメッセージを読み、文書で返すという「手数」が発生します。大量のメッセージが管理職などに集中するようになった結果、一部の人は、会社で仲間と仕事をしていたときよりも仕事量が増えています。

そこで、皆さんにもう一度問います。今まで皆さんが「次工程」と思っていたことは、本当に皆さん自身が考え実践しなくてよいことですか。あるいは、本当に上司や先輩から了承をもらわないと、決めることも次に進めることもできないことですか。必ずしもそうではないはずです。

昔は、会社が社員一人ひとりに仕事と権限を割り当てることで、自然と「自分の工程」と「次工程」が決まっていました。しかし、環境が目まぐるしく変化する今の時代、従来通りの工程をなぞるだけでは、生き残っていくことはできません。

皆さん、今日から「一つ次の工程も自分で進める」ことを意識してください。今までの「次工程」は「次工程」ではなく、「自分のやるべきこと」なのです。私も、直属の上司や先輩も、皆さんの「自分の工程」を広げられるよう、仕事と権限の移譲について柔軟に対応することを約束します。

ですので、次々にメッセージを上司に送る必要はありません。自分の工程を広げることで、仕事は進み、全員が一段レベルアップします。皆さん一人ひとりが「新しい次工程」に挑めば、組織が新しく生まれ変わるでしょう。

以上(2020年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

働き方改革関連法 中小企業は何から取り組むべき?

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革関連法に適った労務管理に改めたい経営者、労務管理担当者
  • 課題:何から着手すればよいか分からない
  • 解決策:「時季を指定した年休の付与」など5項目から優先して取り組む

1 法律の区分けで見る働き方改革の優先順位

2019年4月1日より働き方改革関連法の施行が始まって、約1年がたちました。時季を指定した年休(年次有給休暇)の付与をはじめ、法改正の内容は多岐にわたりますが、中小企業が優先して注力すべきは、図表1における色付き部分の5項目です。

画像1

中小企業が優先して注力すべき5項目の内容は次の通りです。

画像2

以降では、この5項目に注力するに当たり、実際にどのような取り組みが考えられるのかを、「年休の取得促進」「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の実現」の3つの観点から各企業の事例を交えて紹介します。

事例については、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」「パート労働者活躍企業好事例バンク」などを参考にしています。

2 年休の取得促進のための取り組み例

1)半日単位年休の取得推進

「半日単位年休」とは、社員が希望し、使用者が同意した場合に、本来1日単位で付与する年休を半日単位で付与する制度です。

半日単位年休を取得した場合、0.5日が時季を指定した年休の付与となる日数(5日)から除かれます。1日単位では年休を取得しにくくても、半日単位なら取得できるという社員は多いかもしれません。

例えば、小売業を営むメディプラス(東京都渋谷区)では、年に4回(正月、盆、ゴールデンウイーク、10月)、1週間に限って1日の勤務時間を6時間とする制度を設けています。半日単位年休の場合、3時間だけ勤務すればよいことになるため、社員は休暇を取得しやすくなります。

また、同社では、正月と盆には「商品券1万円分」を社員に支給し、家族とのレジャーや外食などでの利用を促すことで、家族のために年休を取得したいという社員の気持ちを後押ししています。

2)年休の計画的付与の実施

「計画的付与」とは、企業が年休の取得日を計画的に割り振ることができる制度です。計画的付与の対象は、労働者に付与されている年休のうち5日を超える部分です。また、導入に当たっては、労使協定の締結が必要です。

計画的付与により年休を付与した場合、その日数は、時季を指定した年休の付与の対象となる日数(5日)から除かれます。社員が周囲に遠慮して年休の取得をためらっている場合でも、企業主導で年休を取得させられるというメリットがあります。

例えば、製造業を営む斎藤板金工業所(山形県鶴岡市)では、夏季と年末年始に計5日間の年休を、計画的付与制度を使って付与しています。企業が独自に設定している夏季休暇や年末年始の休日などに合わせて計画的付与を行うと、大型連休を実現することができます。社員はこの大型連休を1つのゴールとして頑張ることができるなど、モチベーションアップの効果が期待できます。

3 長時間労働の是正のための取り組み例

1)管理職の意識改革

中小企業に限らず、多くの管理職はプレイングマネジャーです。プレイングマネジャーは業務の幅が広く、経営者もその残業を大目に見がちです。

しかし、管理職の働き方は部下にも影響を与えます。管理職が「残業削減なんて関係ない」と言わんばかりに部下に残業を課したり、定時で帰りにくい雰囲気を醸し出したりしていれば、その職場の残業削減は一向に進みません。そこで考えたいのが、管理職が社内の残業削減に積極的に協力する仕組みをつくることです。

例えば、食料品製造業などを営むミートサプライ(大阪府高槻市)の草加工場では、管理職の人事考課の項目に、部下の時間外労働を組み入れています。また、それが管理職の評価のみならず、報奨(年2回の賞与と翌年度の給与)にも影響する仕組みとなっています。

同社ではこの取り組みと併せて、社員から管理職に対する残業の事前申請を義務付け、管理職が日々の生産計画と事前申請の申告表に基づいて残業が適正なものかを判断するという取り組みを実施しています。

2)業務の見える化

人手不足に陥りがちな中小企業では、社員1人当たりの抱える業務量が多く、残業が多くなりがちです。しかし、業務量だけが残業の多い理由なのかというと、必ずしもそうとは限りません。

「時間に対する意識が甘く、長い時間をかけて仕事をする癖がついている」「雑務などを部下や後輩に振らず、業務を抱え込んでいる」といった理由で、本来必要のないムダな残業が発生してしまっているケースは少なからずあります。では、どうやってムダな残業を見つけ出すのか、その1つの答えが業務の見える化です。

例えば、非破壊検査業などを営むテクノス三原(広島県三原市)では、各社員の業務を棚卸し・細分化した上で、その内容を業務管理ツールに登録しています。営業の業務であれば、「顧客打ち合わせ」「顧客用資料作成」「営業事後対応」といった具合に細分化し、 細分化したそれぞれの業務について、遂行にかかる予定時間と実績時間を登録します。

実績時間が予定時間より遅れていれば、そこには何らかのムダが発生している可能性があり、改善に取り組む必要があるということになります。

4 同一労働同一賃金の実現のための取り組み例

1)正社員と同じ等級制度の導入

同一労働同一賃金は、平たく言えば「正社員と同等の働き方をしているパート等には、正社員と同等の待遇(賃金、福利厚生など)を保障しなければならない」というルールです。

正社員とパート等の賃金格差を設けている企業は、その格差の根拠を明確にしておかなければなりません。根拠を明確にしたい場合、社員の「等級制度」の等級を判断基準とするのも一策でしょう。

例えば、介護事業などを営む日豊ケアサービス(大分県豊後高田市)では、パート等に対し、正社員と同一の職能資格等級制度を適用しています。人事評価も正社員と同じ基準を用いて賃金に反映している他、資格手当なども支給しており、パート等の定着につながっています。

2)パート等のキャリアアップ

賃金ではありませんが、正社員と同等の働き方をしているパート等に対しては、教育訓練についても正社員と同等の扱いをしなければなりません。

例えば、有料老人ホームの運営などを行っているサンリッチ三島(静岡県三島市)では、正社員・パート等の就業形態を問わず、社員のキャリアアップ支援に取り組んでいます。正社員・パート等ともに、採用後はオリエンテーションを行い、独自の研修マニュアルによるOff-JTを実施している他、看護師、介護支援専門員などの資格取得を支援するため、通信教育受講料などの援助を行っています。

以上(2020年6月)

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画像:pexels

パン&高級食パン市場 ”高級”には異業種からも参入アリか?

書いてあること

  • 主な読者:パン市場への参入を検討している事業者
  • 課題:人気の高い食パン市場に参入したい。とはいえ、異業種の場合、高級食パン市場の参入に際して、どのような準備が必要かが分からない
  • 解決策:本稿では、ノウハウがなくても、異業種から高級食パンのFCに加盟して参入している事例なども紹介しているので、参考にできる

1 パン製造小売業の業態について

1)パン製造小売業の分類

日本標準産業分類によると、主として食パン、コッペパン、菓子パンなどの各種のパン類を一般消費者に販売する事業所は、製造小売と製造小売でないものに分類されます。パン製造小売業は、インストアベーカリーとも呼ばれており、各種のパン類を製造し、パンの販売も製造と同じ場所で行う事業所をいいます。

高級食パンを手掛けている企業(4章で事例を紹介します)は、主にパン製造小売業に分類されるため、本稿では、パン製造小売業に関する業態やデータを見ていきます。

2)製造工程による分類

パン製造小売業は、主に次の2つの形態に分けられます。

1.オンプレミス型

原材料を仕入れて、パン生地の製造から焼き上げまでの全ての工程を同じ店舗内で行う方式です。スクラッチ方式やコンプリート方式とも呼ばれています。

生地の製造から手掛けるため、職人の確保やミキサー、生地加工機械などの設備が必要ですが、その店舗独自の製品開発が行いやすく、顧客の好みに合わせた商品が提供できます。

2.ベークオフ型

パン生地工場で作られた冷凍の生地を仕入れて、店舗で焼き上げて販売する方式です。

既に出来上がった生地を使うため、店舗で商品のアレンジがしにくい半面、オンプレミス型と比べて、ミキサー、生地加工機械などの設備が不要なので、コストを抑えられます。

3)パン製造小売業に関するデータ

総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」、経済産業省「工業統計調査」によると、パン製造小売業の事業所数、従業者数、年間商品販売額は次の通りです。

パン製造小売業の事業所数など

また、総務省「家計調査年報」によると、パンへの1世帯当たりの年間支出金額の推移(総世帯)は次の通りです。

パン年間支出金額の推移

パン製造小売業の事業所数、年間商品販売額が増加傾向にあります。パンを主食とするケースが増え、需要が拡大していることがうかがえます。

4)パン製造小売業で必要な許認可について

サンドイッチやハンバーガーなどの調理パンを作らず、焼いたパンの小売りのみを行う場合は、菓子製造業の許認可になります。一方で、調理パンを作る場合や、イートイン形式の店舗を開業する場合には、菓子製造業と飲食店営業の許認可が必要です。併せて、食品衛生責任者の選任も必要です。

2 パン製造小売業の業界分析

パン製造小売業の外部環境を、ビジネスフレームワークの「PEST分析」と「ファイブフォース分析」に沿って考えます。

PEST

ファイブフォース分析

パン製造小売業は薄利多売のビジネスモデルであることや、同業他社との競争が激化することで倒産を余儀なくされる事業者も増えています。こうした中で、他店舗との差異化や、パンを贈答用として購入する需要を取り込むため、原材料にこだわった高級食パンを手掛ける企業・店舗があります。

以降では、高級食パンを手掛ける企業や店舗について、販売している高級食パンの概要やFCの新規加盟について紹介します。

3 高級食パンを手掛ける企業・店舗の事例

1)高級食パンを手掛ける企業・店舗のポジショニング

ここでは、新聞記事やニュースリリースを基に、高級食パンを手掛ける企業や店舗を紹介します。なお、紹介する事例は、展開する地域や高級食パンの需要で、次のように分けることができます。

ポジショニング

2)T.H.S(埼玉県越谷市)

居酒屋やラーメン店などをFC展開しているT.H.Sでは、純生食パン工房「HARE/PAN(ハレパン)」を運営しています。

ハレパンが販売している純生食パンは、卵を使わず作られているため、アレルギーのある人でも安心して食べられるようになっています。

FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。

  • FCは、飲食店経営の有無を問わず加盟を受け付けており、飲食業以外の業種のFC加盟も多い。
  • 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて19坪程度は必要になる。
  • 物件の立地調査(周辺に既存店舗が無いかどうかなど)、物件の内装工事、店舗の開業までは3カ月程度を見込む必要がある。

3)銀座仁志川(東京都中央区)

高級食パン製造販売店「銀座に志かわ」を全国展開する同社では、商品を1種類、1サイズのみに絞り、「水にこだわる高級食パン」を販売しています。仕込みの際に、独自のアルカリイオン水を使うことで柔らかさを引きだしています。

同店舗で販売する食パンは、そのまま食べるだけでなく、お酒のおつまみや和食と合わせた食べ方をウェブサイト上で提案しています。また、贈り物や手土産用として食パンを購入する顧客の拡大を狙い、食パン専用の風呂敷も販売しています。

4)ジャパンベーカリーマーケティング(神奈川県横浜市)

ベーカリーの開業支援の中でも、特に製パン未経験者を対象としており、開業前準備から店舗デザイン、販促、開店後のサポートまでを一貫して手掛けています。

同社の代表取締役社長かつベーカリープロデューサーの岸本拓也氏は、全国で変わった店名の高級食パン専門店をプロデュースした実績があり、静岡県では、「夜にパオーン」(静岡県袋井市)や「すでに富士山超えてます」(静岡市葵区)などの店舗があります。

5)IFC(東京都新宿区)

IFCでは、焼きたて食パン「一本堂」を運営しています。一本堂では、日常的に食べる食パンを想定し、プレーンな食パンだけでなく、レーズンや小豆の入ったデザート系食パンや、食パンと相性の良いジャムも取り扱っています。

FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。

  • FCは、飲食店経営や製パン経験の有無を問わず加盟を受け付けている。一本堂は、飲食店経営や製パンのノウハウが無い人のFC加盟がほとんどとなっている。
  • 静岡県内では、磐田市、沼津市、浜松市内に既存店舗があるため、静岡市内であればFCの加盟が可能。
  • 開業費用は、加盟金や物件の内装工事、機材の導入などを含めて総額で1200万円程度を目安としている。
  • 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて10~12坪が必要になる。
  • 物件の審査や改修、機材の導入など、開業までの期間は2~3カ月程度を目安としている。

6)トルタロッソ製パン(東京都港区)

ホテル、レストラン向けの焼成冷凍パンを製造、販売しているトルタロッソ製パンでは、三重県の伊賀市にある直売所で「伊賀のおいしい水を使った高級食パン」を販売しています。

1日50本限定の予約販売で、価格は1本(2斤分)で800円(税別)となっています。

7)ドロキア・オラシイタ(大阪府大阪市)

洋菓子の製造、販売、カフェ、レストランなどの飲食店経営を手掛ける同社では、高級食パン「嵜本(サキモト)」を全国で展開しています。

食パンは卵を使わずに製造しています。曜日限定のメニューの他、2斤サイズに限らず、手土産にも最適な、4枚切り1枚入りの食べきりパッケージも販売しています。

現在、パンを製造する工房付きの店舗、販売のみを行うサテライトタイプの店舗、自社ブランドの「極美ナチュラル」専門店の法人FC加盟店を募集しています。工房付きの店舗の場合、保証金は200万円(カフェメニューを提供する場合は別途相談)、店舗面積は30坪以上(別途ストックヤードが必要)としています。

8)乃が美ホールディングス(大阪府大阪市)

高級「生」食パン専門店「乃が美」、「乃が美はなれ」を全国展開する乃が美ホールディングスでは、パン製造の原材料にバターとマーガリンを併用し、小麦粉や蜂蜜の風味を引き出すことで、おいしさを際立たせています。また、おいしさを保つため、冷凍保存を推奨しており、保存方法をウェブサイトで紹介しています。
FCは既にパートナーシップを結んでいる企業があるため、現在新規の加盟は受け付けていません。

9)パン工房 ル・カルフール-Le carrefour-(北海道帯広市)

帯広調理師専門学校直営のパン工房であるル・カルフールでは、店舗名がそのまま商品名になった高級食パン「Le carrefour(ル・カルフール)」を販売しています。通常の高級食パンが耳まで柔らかいのに対し、ル・カルフールはブリオッシュとデニッシュ生地を使うことで外はサクサク、中はしっとりとした食パンになっています。

以上(2020年5月)

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画像:unsplash

「ほめ下手」なリーダーは何から始める?/部下のやる気を引き出す「ほめ方」(2)

書いてあること

  • 主な読者:「ほめる」のが苦手、「ほめ下手」なリーダー(経営者・部下を持つ上司)
  • 課題:叱られた経験がほとんどない若手社員と良好な関係を築きたい
  • 解決策:今回は、「二言挨拶」「話の聞き方」などの「ほめる」達人に近づくファーストステップを解説

1 ほめずに「ほめる」!?

「ほめる」ことを一番狭く定義すると、「年下から年上に対して、言葉を使って良いことを言う」ことになります。ただ、この定義に縛られてしまうと、「ほめる」ことがすごく難しく感じられてしまうのではないでしょうか。私たち「ほめ達」協会では、「ほめる」ことを上記の定義に縛られず、
「ほめるとは、価値を発見して伝えること」
と定義しています。

言葉を使わずに「ほめる」ことも積極的に行っています。具体的にはどのようなことか、今回はその内容をお伝えしていきます。実は、もう既に皆さんが、無意識に実践されていることでもあるので、こんなことが「ほめる」ことになるのか!?と驚かれるかもしれません。

これからお伝えすることは、私が研修の中で、参加者の方に、まずはここからスタートしてくださいとお伝えしていることです。ほめずにほめる!「ほめ達!」の極意です。

一つ目は、「二言挨拶」(ふたことあいさつ)。すごくシンプルですが、挨拶に一言加えるということです。「おはよう!今日も元気そうだね」「おはよう、今日は寒いね!」あるいは挨拶の際に相手の名前を呼ぶ。「西村くん、おはよう!」「おはよう! 西村さん」のように。とっさに言葉が出てこない、名前が出てこないような場合には、「あっ! おはよう!」「おお! おはよう」というふうに「あっ!」とか「おお!」という一言を加えるだけでもOKです。その「あっ!」や「おお!」を言う際に、あなたと会えて嬉しい!という気持ちが込められていればいいのです。

あるいは言葉が出なくても、挨拶プラス笑みを加える。挨拶の際に立ち止まり、相手の方を向くというのも、立派な「二言挨拶」となります。パソコンを打っていた手を止めて、顔を上げ、相手の方を向いて「おはよう!」、さらにおへそまで向けて挨拶をする。すると、相手は自分がすごく受け入れられていると感じます。

挨拶とは、私はあなたの存在を認めていますよ、と伝えることです。この「二言挨拶」が実践されている職場や部署には、安心安全な雰囲気が醸成されていきます。「二言挨拶」は、相手の心の居場所を提供することでもあるのです。部署に机と椅子は用意されているけれど、心の居場所を提供しているだろうか。リーダーはこの点を自分自身に問い、ぜひ挨拶から意識して実践してみてください。

2 出会う人を味方につける話の聞き方

さらに、こんなことも「ほめる」ことになるのですよ、というのが「話の聞き方」です。話をしている方と、聞いている方、どちらが相手にメッセージを伝えているのか。話している方が、一方的に相手に伝えているようですが、実は話の聞き方で相手にメッセージを伝えることができるのです。

管理職研修で行うワークがあります。二人一組になっていただいて、片方がもう一人の方に、1分間お話をしていただきます。話し手は、自分が話をしやすい話題を自由に1分間、話し続ける。そして、聞き手は最初の30秒は、熱心にその話を聞いていただきます。

しかし、30秒経過した時点で、私の合図で残りの30秒は、相手(話し手)を完全に無視していただきます。すると、これまでスムーズに話していた人が、無視された瞬間、言葉がうまく出てこなくなります。聞き手の態度が、話し手のパフォーマンスを大きく変えてしまうのです。部下や後輩の報告に対して、要領を得ない話し方だなと思う時、自分の話の聞き方の態度はどうなのか、自分で確認してみてください。

それでは、どのような話の聞き方が良いのか。次に挙げる8つのポイントを心掛けてください。

  • 目を見る
  • うなずく
  • 相槌を打つ
  • 繰り返す
  • メモを取る
  • 要約する
  • 質問する
  • 感情を込める

実は、この8つのポイント、私たちは無意識で行っています。どんな時に行うかというと、大尊敬する人の話を聞く時、大好きな人の話を聞く時です。ただ、常に自分の部下や家族に対しても行っているかと聞かれると、どうでしょうか?

これらの話の聞き方を、ちょっと意識してみるだけで、相手との関係性が驚くほど変わっていきます。特に上記の8つのポイントのうち、「メモを取る」というのは一見すると静かなアクションですが、パワフルな「ほめ仕草」になります。「あっ、そのアイデア面白いね、ちょっとメモしていい?」と言って、実際にメモまで取ると、言われた方は、こんなことでメモを取られるのなら、さらにこんなアイデアや情報もありますよ!となります。

また最近は、年上の部下をお持ちの管理職の方も少なくないと思います。では、年上の人を「ほめる」時にはどうすれば良いのか。例えば、上記の話の聞き方のうち、「質問する」という行動で、相手を「ほめる」ことができるのです。「〇〇さん、どうやってその技術を身につけられたのですか?」「どのような勉強をされてこられたのですか?」「本もよく読まれてますよね、私にオススメの本ってないでしょうか?」「〇〇さんには、若い頃、仕事上の師匠がいらっしゃったのでしょうか? その方からどのようなことを学ばれたのですか?」。

このように質問することによって、「私はあなたのようになりたいと思っています。あなたのことをすごいと認めています、尊敬しています」と伝えることができます。イメージは、試合の後の「ヒーローインタビュー」です。

挨拶や、話の聞き方など、小さなことを少し意識してみる。実は、これが大切なこと。私たちは「微差の積み重ね」の大切さとお伝えしています。さっそく、意識して実践してみませんか。

3 手軽で貴重な心の報酬

第1回では、「心の報酬」の大切さについてお伝えしましたが、今回はさまざまある「心の報酬」のうち、もっとも手軽かつ、もっとも価値の高い「心の報酬」についてお伝えいたします。

それは何かというと「ねぎらい」です。「ほめる」というと何か水準を超えた、しかも、いいことをした時だけに行われるものというイメージだと思います。一方で「ねぎらい」は、して当たり前のことに対して、気づき、共感して、ときには感謝を伝えるもの。「ほめ達」協会は、「ねぎらい」も「ほめる」の中に含めて大いに推奨しています。仕事なのだから、給料もらっているのだから、行われて「当たり前」の行動に対して、気づき、共感して、感謝を伝える。これが「ねぎらう」ということです。部下の仕事をチェックして、間違いがなかった。そのことに対して、ミスがなくて当たり前だから何も言わない。ねぎらいなくミスを見つけた時だけ、注意をする。すると注意を受けた方は、「見張られている」と感じます。

ところが、普段から当たり前の仕事ぶりに対して、感謝や「ねぎらい」を届けていると、注意を受けた時に「見守られている」と感じるものなのです。「ほめる」や「ねぎらう」という行為は、部下に対して、しっかり注意を与えることができる関係性を作るための重要な下準備でもあるのです。

「ありがとう」の反対語は、「当たり前」です。ついつい、当たり前だと思ってしまって見過ごしてしまっていることに気づき、言葉掛けをしてみませんか?

以上(2020年3月)

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画像:unsplash

テレワーク環境でも新入社員研修を効率化する方法とは?〜集合研修→オンライン研修へ切り替え、習熟度を上げつつ研修時間を1/4へ!〜

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、庄司 啓太郎さん(株式会社スタディスト取締役COO)です。

新型コロナウイルス感染症の影響下、テレワーク!オンライン!とweb会議、クラウドツール導入に重い腰の大企業も、システム導入と距離感のあった中小企業もようやく当たり前化しだしました。しかし、このようなコミュニケーションツールをインフラ化しただけで、企業活動は大丈夫? そうお感じになっている経営者さんも多いと思います。その疑問、課題にお答えできるリリースが先日ありました。
それが、【スタディスト、テレワーク環境でも新入社員研修を効率化 ~集合研修からオンライン研修に切り替え、習熟度を上げつつ研修時間を4分の1に圧縮~】です。こちらがそのリリースです。

今回は、テレワーク環境下、完全オンライン化は難しいと思われがちな【社員研修】において、【習熟度向上】と【研修時間の圧縮】というこの両立し難いテーマを、同時に実現したスタディスト社の考え方~実践方法までをお伝えして参ります。

インタビューも終始笑顔で楽しく。右上が庄司さん

1 人材育成効率を向上させ、育成期間を短縮できる その理論、最適化モデルについて

1)スタディスト社 庄司取締役について

2010年3月に設立したスタディスト社、現在11期目がスタートしましたと庄司さん。同社創業メンバーであり、私とは6年ほどのお付き合いです。マニュアル(標準作業手順書:後ほど詳しく解説します)のクラウド化を提唱し、そのツールとしてTeachme Bizを2013年に展開し始めて7年。当初は、マニュアルのクラウド化に懐疑的だった世の中、マニュアルの存在意義は仕事の再現性を担保するためにとても重要という認識がありつつ、しかしながらそのイメージは、知りたいことがある時、書庫に行って、分厚い重い紙の束から、必要な部分を見つけ出す、それが当たり前の時代が長かった。【その場所に行かないと知ることが出来ない→非効率→場所の制約】、【知りたい部分、知りたいマニュアルを探し出す、誰かに聞く→管理→人の制約】、【いつ更新した?どれが最新?→不明確な更新→時間の制約】、この紙文化により知らず知らずに慣らされてきた【効率化を妨げる制約】を解消するためにもクラウド化したスタディスト社、現在は数千社を超えるユーザーから支持されています。現在は約100名の組織となっていらっしゃいます、私が出会った頃、まだ5~6名でした。。。感慨深いです。

2)ツールだけでは、効果は限定的なのです

web会議テレワークが常態化してきて、それはそれでインフラが整ってきたこと、歓迎すべきです。しかし、効果は限定的と庄司さんは話します。それは、テレワーク型に形式が変わっただけであり、会議の数や時間が従来と変わっていなければ、抜本的な業務変更となっているわけではない。業務プロセス・作業手順を見直す機会にしないと効果は限定的。まさにこの【業務プロセスの見直し】が骨格となります。

ツールだけでは、効果は限定的であることを説明した画像です

この見直しで【質】にフォーカスが移るとき、マニュアルの意味合いが大きくなるということだと思います。

3)人材育成効率を向上させ、育成期間を短縮できる その理論的背景について

ある経営者さんと打ち合わせの際、ご自身のお子さんに話題が及びました、『学校が始まってすぐに休校となっている子供が、与えられた教科書を1カ月で1年分終わったんですよ。好きな教科ってそんなものですね。』と話されていました。これって【予習】を自宅でやっていたことになります。学校の教室で授業を全員一緒に受けてインプットする前に、教材を事前に手にして目を通す、予習をインプットに。学校で今まで行っていたこと、サイクルを【反転】させた方が、知識定着率、スピードも向上するということなのだそうです。昨今You Tube動画を見て見様見真似で、自分でやってみたらうまく行った!ってことを耳にしますが。動画でインプット、実践してアウトプット、反転学習の方が結果も出やすい。この反転学習をスタディスト社では研修に活かしているそうです。

予習→実践のサイクルによる知識定着率向上を説明した画像です

反転学習の効果が実証されつつあるそうで、庄司さんから説明のあった資料には

  • 学習スピードが倍になった
  • 理解度確認では3倍程度の効果
  • 確認テストの合格率が大幅に上昇

このように良いことずくめという結果がでています。

反転学習の効果を説明した画像です

この反転学習の話をお聞きして、私自身のサラリーマン時代、集合研修で関東方面の研修所に集められ、ほとんどが眠い、眠い、研修を数日受けていたことを思い出しました。研修報告には、意義があった、ためになった、明日からの業務に活かしたいと書いていましたが、知っているレベル→すぐに忘れるレベルであったと思います。
ほとんどの企業研修が、知らないことを【知っている】レベルにすることで終わっていることが多い、【できる】【考えるとできる】そのレベルに達していない
スタディスト社では、【できる】が当たり前化しているので、無意識(考えなくても)に、自分でルールを決める、仕事を定義できるという、実践できる、そこから教えられる、改善できるレベルへと自然になっていると庄司さんは話します。

知ることを目的にしない。実践のための育成について説明した画像です

4)できるレベルをぐんぐん引き上げるための最適化とは?

前述の反転学習の理論を活かしながら、スタディスト社のTeachme Bizで全ての研修プログラムが完成できるか? そうではありません。スタディスト社における研修プログラムの【内容】と【手段】の最適化については以下のとおりです。すごく分かりやすいと感じました。

伝えたいことと伝達手段の最適化を説明した画像です

  • 経営理念や基本ポリシー、規則やルール、基本原理については講義、レクチャーの動画を製作準備し、受講者側が視聴する。その後にオンラインミーティングによる対話をして理解レベルを確認する。
  • 業務の手順、実技や実践能力についてはビジュアル型の手順書(Teachme Biz)で予習(インプット)し、実物により確認しながら実践していく(アウトプット)

5)業務の標準化(マニュアル化できる)割合はどのくらい?と思いますか

今までの集合研修において、ハイレベルかつ給与の高い人が準備や研修にはりつき、ものすごい時間を費やしており、それでもなかなか伝わらない、実践できないことで人材育成に苦慮している企業も実際多いと思います。前述で、【理論】と【伝えたいこと】、【伝達手段】について庄司さんに教えていただきました。最後に業務の標準化は業務割合のどの程度できるのか?業務のタイプは何タイプ?についても伺いました。

業務の3タイプを説明した画像です

いろんな業種があり、多様な業務がありますが、A:感覚型、B:選択型、C:単純型、この3つに分類されます。この業務の中でA、B、Cの割合ってどの程度ですか?と質問され、私から5:2:3ぐらいですか?と回答しましたら、全業種の平均でAが13%、BとCで87%を占めているとのこと。

業務のしくみ化を説明した画像です

この87%をしくみ化すべきであると庄司さんは話します。
スタディスト社では、現状社内で共有されているマニュアル(手順書)が4,200を超えているそうです。
【できる】が当たり前化するのも納得です。

2 スタディスト社のオンライン研修を構築した現場の声を聞きました

1)ビジネスイネーブルメント部長の坂野さんへのインタビュー

ビジネスイネーブルメント部長の坂野さんの画像です

【上記の写真が坂野さん】同社のリリースを今一度。
いくつかこの研修プログラム構築にあたって質問させていただきました。

・この研修プログラムを構築されるにあたって、注意した点、難しかった点をお教え下さい。

正直に言うと、Teachme Bizを使っての研修運営は従来から実施していたため、オフラインからオンラインへの切替はかなりスムーズに出来たと思います。ただ、運営の全てをオンラインで、というのは初だったので、オフライン時は設けていなかった終礼等の定期的なオンライン接続によるコミュニケーションは心掛けました。 反転学習を意識して、スムーズに自習ができるように教材を整備し、オンラインでの接続はアウトプットの場(プレゼン、ワーク、ディスカッション等)や、理解度チェックの場にして、習得が不十分な部分はそこでフォローするような形で運営していたので、教える・伝えるにかかる負荷はオフラインの時よりさらに少なくなったと思います。
また、Boot Camp(新人研修)に求められるのは【即戦力化】であり、オンライン、オフラインにかかわらず、「研修で学んだことをいかに現場で実践し、成果につなげてもらうか」ということを最重視して、研修構築しています。会社が求めるスピード感がとても早いので、そのスピードで戦力になってもらえるように研修すること。それが構築する上で注意している点です。

・研修を終えて、参加の方々から印象的な感想、予想外の反応はありましたでしょうか。

何をいつまでにどうすればよいのか明確で、とても初めてオンライン対応をしたとは思えないといわれました。

スタディスト社の実際の研修(トレーニング画面)の画像です

【スタディスト社の実際の研修(トレーニング画面)】

これ(Teachme Bizのトレーニング機能)はいろんな会社のお役に立てますね!とサービスの可能性を実体験として感じているとの話もありました。立ち上がり(各種検定合格までの期間)も通常より1/4へと短くなったことは嬉しい効果でした。

・その他 このトレーニング機能について特長的なこと、研修全般でのご感想についてお聞かせください。

環境の激変で教える内容も大きく変更しなくてはならない状況の中、教材となるSOP(下記に説明資料を添付しています)やコース内容をすぐに更新できるのは本当に楽でありがたかったです。オフラインだと、SOPを教材にしつつもついOJT的に教えていたこともありましたが、オンラインになると自習のための体制整備を優先するので結果、より反転学習も進み、効果的な研修を実施することが出来ました。 新人研修担当としては、急遽オンラインで運営となった時Teachme Bizがなかったらと思うとぞっとします。

SOPを説明した画像です

Teachme Bizのトレーニング機能の良さは学んで欲しいものを一覧化出来て、その出し入れがリアルタイムで行え、かつ、進捗確認もリアルタイムで出来ることなのでオンラインで寄り添いやすさ満点です!

と自社プロダクトの特長をしっかりお話しくださいました。

2)庄司さんからメッセージ

「業務手順の伝達」は、あらゆる企業の中で脈々と行われています。そしてその方法は、直接口頭で教える、マンツーマンで実践して見せる、研修を開催する、メモを渡す、紙のマニュアルにまとめる、動画に残す等々、多岐にわたっています。
今、企業のワークスタイルも大きな転換期を迎えています。Web会議システムやチャットツールの急激な普及が象徴的ですが、それらはこれまでの会話や会議を遠隔で行っていることと変わりありません。
遠隔にならざるを得ない状況だからこそ、企業の骨格とも言える「業務プロセス」をいかに可視化して共有することができるかが、企業の競争力を左右すると考えています。
企業や業務のあり方が大きく変わる中、当社としても少しでも皆様のお役に立てればと思います。

と語ってくださいました。

庄司さんは、2017年に【結果が出る仕事の「仕組み化」】という本を出版されています。まさに今の世の中を先取りされていたと感じ入ります。
後戻りは許されない、仕事環境の変化。この機会に、【業務プロセス】を見直し、新たな時代に適合する【手順書】への変更をオススメするものです。

以上(2020年5月作成)