すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「人をつなげる人」になる

ビジネスにはレイヤーがあり、それによって付き合い方が異なります。経営者同士のつながりは深く、トップセールスと呼ばれるように、その場で商談がまとまることがあります。また、他では聞けない貴重な情報を入手できることもあります。

そのため経営者にとって、ビジネスのつながりを広げていくことはとても大切な仕事です。しかし、つながりを広げるためにセミナーや勉強会に参加したり、紹介を求めたりしても、“当たり外れ”が大きいというのが実感でしょう。

経営者は、自らいい人と出会うこと、自分が大事にしている人にいい人を紹介してネットワークを広げること、そして何らかのビジネスを起こすことを加速させなければなりませんが、そのためには人とのつながり方を工夫する必要がありそうです。

今回は、「何としても『いい人』のコミュニティーに交じる」「いい人とは『愛ある人』のことである」「すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑」という3つを取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 何としても「いい人」のコミュニティーに交じる

私の最近のアポイントは、ベンチャー界隈ではかなり有名な方(ここでは「Aさん」とします)からの紹介で多くが埋まります。紹介された人と1対1で会うこともあれば、会食で複数の人と会うこともあり、それなりの人数と会っています。

私が「すごいな!」と思うのは、Aさんから紹介される全ての人が「いい人」であることです。確率的には“よく分からない人”が交じっていてもおかしくないほどの人数を紹介されていますが、本当にいい人ばかりなのです。

Aさんは年間1000人もの経営者や学生などと会います。以前、「会う人はどのように決めているのですか」と聞いてみたことがあります。すると、「いい人から紹介された人とだけ会う。それだけです」と教えてくれました。

例えば、Aさんは、Zさんを紹介された場合、Zさんの人となりはもちろんですが、それ以上に誰からの紹介かを重視するというのです。Aさんが信頼するBさんの紹介ならZさんに会いますが、そうではないCさんの紹介では、Zさんには会わないということです。

また、いい人を集めるために重要なことは、「いかにして、いい人を集めるか」ではなく、「いかにして、良くない人を入れないか(排除するか)である」ということも教えてくれました。

いい人は、いい人とつながっています。そして、自分のネットワークがいい人だけであることを厳しく管理しているため、結果として、一人でもいい人と知り合うことが、人脈を広げる上でとても大切になるのです。

皆さんはいい人のコミュニティーに入っているでしょうか。セミナーや勉強会に参加することは大切ですが、実はいい人とつながることも大事なのです。となると、気になるのは、どのような人がいい人なのかということです。

3 いい人とは「愛ある人」のことである

お互いにプロフェッショナルのビジネスパーソンとして会う以上、その分野で“仕事ができる”のは当たり前のことです。そのため、仕事ができる人=いい人という図式は成り立ちません。

いい人のコミュニティーの中心になっている人がよく口にするいい人の特徴は、「愛がある」「『利他の心』を持っている」ことです。自分のことだけを考えず、世の中を良くしたいという信念を持って活動する人ともいえます。

そして、仕事ができるいい人(愛がある人)とつながると不思議なことが起きます。仕事ができるいい人は、相手の課題が分かります(この点は、次章で触れます)。そして、それを解決するのに役立ちそうな人を紹介してくれるのです。

実際、仕事ができるいい人や、その人から紹介された人と一緒にビジネスをすると、それまで取引先と行ってきたこまごまとしたやりとりがくだらないことに思えるほど、ビジネスをスムーズに進めることができます。

これは、相手が優秀だからという理由だけではありません。いい意味で、互いのことを信じて任せる部分が大きいので、細かく管理する必要がなく、進めやすいのです。相手を信頼しているため、相手の言動を受け入れやすいことも大きな理由です。

なお、愛や利他と聞いて「無償」をイメージする人が多いかもしれませんが、基本的にお金のやりとりはあります。ただし、仕事ができるいい人がお金をもらう目的は、通常のビジネスとは異なる面があります。

具体的には、「無理なく長く付き合うために、お金のことはきっちりしておく」、あるいは「お金をもらわない代わりに、自分が紹介する人ときちんと対話してほしい」といったことがお金をやりとりする主な目的であり、私欲のためではないのです。

4 すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑

ある大企業に“マッチングの神様”と呼ばれ、周囲から尊敬される人物がいます。私はご縁あってその方と出会い、何度か実際のマッチングの場に同席させていただく機会を得ました。

マッチングというと聞こえはいいですが、セッティングした人が「いい話になるから紹介するよ」と言いつつも、実は当人が気持ちいいだけで、その後のことはあまり考えられていないというケースが少なくありません。

そうした中、“マッチングの神様”は、とことん相手にヒアリングをします。同席していたとき、少し本題とそれているのではないかと感じたくらい、周辺情報も含めて本当に広い視点で相手のニーズを探ろうとします。

それも、2社のマッチングであれば交互に2社の立場に立って、「A社さんはこうすると好ましいわけですよね。それでB社さんはこの点を工夫したらニーズに合致しますか?」といった具合です。

こうして話をしていくと、場が次第に盛り上がってくるわけですが、“マッチングの神様”は途中、何度もクールダウンの時間を設けて、本当にA社とB社のためになるのか、また実現するために何が必要なのかを考えるのです。

マッチングの心構えを“マッチングの神様”に私が聞いてみたところ、「当事者にとって、マッチングというのは『すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑』の3つの段階がある。この段階を引き上げていくことが全て」と教えてくれました。

人と人とをつなぐことは、それを行う仲介者にとって、人から感謝される気持ちいい行為です。ただし、仲介者は、自分が人から感謝されるためや、自分の地位を高めることを目的に、相手のニーズについてよく調べずにつないではいけません。

こうした一人よがりな行為は、相手にとって「ありがた迷惑」なものです。「なぜ、自分が紹介されているのか分からない……」「ニーズは合っているが相手に全く権限がなく、世間話で終わってしまう」といったケースがこれに該当します。

人と人とをつなげる以上、相手にとって、最低でも「ちょっといい」、理想的には「すごくいい」マッチングを心掛けたいものです。「ちょっといい」マッチングとは、小さなビジネスにつながったり、その後も続く緩やかなご縁をいただいたりするものです。

これを超える「すごくいい」マッチングとは、大きなビジネスにつながることはもちろん、紹介された者同士が深い絆で結ばれることであり、そのきっかけとなるのが仲介者への信頼と感謝です。

仲介者のことを信頼し、また感謝しているのなら「あの仲介者を裏切ることはできないし、紹介してくれる人も大事にしなければならない」という思いになります。これが「すごくいい」マッチングに結び付くのです。

人と人を結び付けるためには、相手の課題を本当に分かっていなければなりません。もっとも、それは簡単に分かるものではありません。人間性を磨くことを含め、自分のビジネスのように真剣に取り組まなければ成し遂げられないでしょう。

以上(2019年6月)

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怒らせずに相手を動かす/成功する経営者に欠かせない思考習慣

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1 ピンチのときに前を向く強さはあるか?

ビジネスには順境もあれば、逆境もあります。何をやってもうまくいかないと、投げ出してしまいたくなるときが誰にでもあるものですが、経営者にはそれが許されません。経営者はつらくても前を向き、進み続けることが求められるからです。

つらさをこらえて前に進む経営者の姿は虚勢に見えるかもしれませんが、日々の経営で培った心の強さは本物です。内部と外部、人・物・金、あらゆるところで発生する大小の問題を自分の弱さと向き合いながら解決してきた経験は、経営者だからこそ持ち得る強さです。

経営者の力量はピンチのときほど試されます。つらくても今の事業を継続するのか、撤退して次の事業に懸けるのか。逆境において、自分をどれだけ信じてこの難しい判断を下せるかが大事です。経営者の決意が言動に表れ、組織を導く強い力になるからです。

今回は、「厄介なプライドを捨て、助けを求める」「小さな頼み事をする」「怒らせずに相手を動かす」という3つのテーマを取り上げます。経営者がピンチに直面したとき、それに立ち向かう上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 厄介なプライドを捨て、助けを求める

本シリーズの前作「事を成すには、狂であれ/成功する経営者に欠かせない思考習慣」の中で、守屋淳著『組織サバイバルの教科書 韓非子』より“性弱説”という考え方をご紹介しました。

人間は環境によって心の持ちようや言動が変わってしまう弱い生き物であるという“性弱説”。経営者に限らず、ピンチのときはぜひとも確認したい考え方ですが、“性弱説”を意識してもなお、プライドによって正しい言動が制約されることがあります。

本当にピンチなのに妙に冷静に振る舞ったり、自分に歯向かってくる人を受け入れるそぶりを見せたりする人がいます。本当に強く、心も広いのなら素晴らしいことですが、そうした人はごくわずかでしょう。

大半の人は、「ピンチのときだって自分は強い」とプライドを保つためのカラ元気を示したり、本当は余裕がないのに、「歯向かってくる人さえ受け入れられる」という器の大きさをアピールしたりしたいだけなのです。

しかし、ピンチの経営者がこんなことをしている時間はないはずです。田村耕太郎著『頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法』(*)の中で、「メンツより実利」との指摘があります。ピンチのときこそ戦力を冷静に分析し、現実的な目標を設定しなければなりません。

起死回生の策でV字回復を果たすことはまれで、多くの場合は1つのきっかけを得て緩やかに上向いていきます。経営者はそのきっかけを見つけなければならないのですが、多くの場合は1人では解決できず、他人の助けが必要となります。

ピンチのときは困っていることを他人に示して助けを求めますが、相手が「もはや救いようがない」と判断すれば見放されます。逆に、「大したピンチではない」と判断されても、助けてもらえないときがあります。このような事態を避けるためには、どうすればよいのか考えてみましょう。

3 小さな頼み事をする

多くのビジネスパーソンが愛読する名著の1つに、D・カーネギー著『人を動かす 完全版』(**)があります。この中で指摘されている、人を動かす方法の1つが、「小さな頼み事をする」ことです。

皆さんは、人によく頼み事をするタイプですか、それともめったにしないタイプですか。日本人の場合、「人に何かを頼むと迷惑を掛けてしまうので、控えめにする」という人が多いかもしれません。

しかし立場を変えて、皆さんが頼み事をされる側になったらどうでしょう。“一部の頼み事”を除き、基本的に頼りにされることに嫌な気分はしないはずです。相手は困っていて、頼る相手として自分を選んでくれたわけですから。

特に経営者は社会に貢献したい、人の役に立ちたいという志を持っていることが多いはずです。そうした経営者は、人の頼み事をかなえて感謝される快感を知っているので、自分が忙しくても頑張ってしまうのです。

なお、“一部の頼み事”とは、単なる営業目的の頼み事です。それも、付き合いが浅く、普段はこちらがお世話をしているような相手から営業の頼み事をされると、へきえきしてしまうのです。

話を戻します。ピンチを切り抜けるために頼み事をするのはよいのですが、“小さな”というところがポイントです。頼み事の大小の基準は相手の力量によって違いますが、大切なのは事の大小よりも、相手に「小さい」と感じてもらえる関係性です。

まずは、「本当に困ったことがあります。どうか、お力添えください」と丁寧に頼み、こちらがピンチを脱する強い意志を持っていることを示しましょう。そうしたこちらの態度を見た瞬間に、相手はほとんど助けるか否かを決めているでしょう。

相手が助けるつもりなら、こちらの頼み事が厄介でも、「あなたのためならなんてことはないですよ」と応えてくれます。逆に、助けないつもりならば、こちらの頼み事がささいなことでも動いてくれません。この違いがどこからくるのか考えてみましょう。

4 怒らせずに相手を動かす 

ビジネスはチャンスとピンチの連続です。チャンスとピンチの波は市場環境の変化によって交互に訪れますが、それ以外にも「人とどのような付き合い方をしているか」にも影響を受けます。

企業を切り盛りする経営者は、それなりの自信を持っています。しかし、その自信が間違えた方向に向かうと、「自分が正しい」と思い込み、人の意見を聞かなくなります。経営者の独裁が指摘されにくい社内では、さらに経営者の言動が助長されます。

人材不足の折、社員の退職が後を絶たずに経営の継続が難しくなる企業があります。社員が新しい可能性を求めて前向きに転職するケースがある一方、経営者の間違えた自信がパワーハラスメントになってしまっているケースもあります。

これは極端な例ですが、社内外を問わず関係者とどのような関係を築いているかによって、ビジネスの状況が大きく変わるのは事実です。人の恨みによってピンチは訪れますが、人の情けによってピンチを脱することもできるのです。

ビジネスでは互いの利害はなかなか一致しません。双方が何らかの我慢を受け入れていますが、それが度を越したり、我慢する価値のない相手と判断されたりすれば、相手は怒るかもしれないし、黙って去っていくかもしれません。

ビジネスを進める上で、人との付き合い方はとても大切なことです。つまり、あなたが少々厄介な頼み事をしても、「何をいきなり……失礼な人だ」と怒るのではなく、「あなたのために頑張ります」と言ってくれる仲間をたくさん持つことが重要なのです。

では、利害が一致しない相手を怒らせずに動かすにはどうすればよいのでしょうか。前述した『人を動かす 完全版』の中でさまざまな指摘がされていますが、基本は「相手を認め、称賛する」ことです。

人は、自分の取り組みを認めてくれる人に好意を抱きます。年齢や業界に関係なく幅広い経営者の人脈を持つ人物も、「経営者は自分の話を聞いてもらい、認めてもらいたいと考えている。そこを突くのが関係構築のポイントだ」と言います。

とはいえ、あからさまな“おべんちゃら”は逆効果です。そうならないためにも、ちょっとした食事会であっても、事前に相手の取り組みを正しく知り、相手が認めてほしいと考えるポイントを押さえることが大切です。

ピンチのとき、プライドに負けるのは論外です。格好悪いなどと思わず、周囲に助けを求める姿勢が経営者には必要です。そして、そのときに実際に助けてもらえるか否かは、日ごろの相手との接し方によって変わってくるのです。

  • 【参考文献】
  • (*)「頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法」(田村耕太郎、朝日新聞出版、2014年7月)
  • (**)「人を動かす 完全版」(D・カーネギー、新潮社、2016年11月)

以上(2019年3月)

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もどかしいけど、自分でやらない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

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1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。「9時に出社して18時に退社する」という働き方もその1つで、これまで疑問を持つ人はほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

実際、世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「訓練すれば“ボルトは外せる”」「もどかしいけど、自分でやらない」「バッドケースがグッドケースにつながる」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 訓練すれば“ボルトは外せる”

スティーブ・ジョブズの「Stay hungry,stay foolish」、吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」。経営者ならどこか共感できる言葉かもしれません。何かを成し遂げたいのなら、常識の枠から飛び出すことも必要です。

そして、何かを成し遂げようとする人の姿はいつの時代も大胆で、“ボルトが何本か外れている”ように見えます。ここでいうボルトが外れた状態とは、「歯止めを外して、限界を設けずに行動する」という前向きな意味です。

経営者の中にもボルトが外れた人がたくさんいます。有名な経営者でなくても、「このプロダクトで世の中を良くしてみせる!」と、周囲の反対を押し切り、熱い思いで突き進む経営者は、ボルトが何本か外れているように見えます。

もちろん、経営者にはさまざまなタイプがいて、ボルトを締めるほうが得意な人もいます。ただし、そうした経営者でさえ、新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しないことを進める中で、突き抜けたいと感じる機会が増えているでしょう。

そのようなとき、「自分はおとなしいタイプだから」と自分の枠を決めるのではなく、ボルトを外す訓練をしてみましょう。スタートアップの経営者の中にも、ボルトを外す訓練をすることで、新しいスタイルを手に入れた人がたくさんいます。

ボルトを外すには、ボルトの外れた人と積極的に交流するのが一番です。直接話をしたり、一緒に行動したりして異質なエネルギーに触れ続けるのです。そうすると、新しいエネルギーが自分に注入され、やがて定着していきます。

ボルトの外れた自分は、“出島”のようなものです。出島とは、本丸とは違う考え方を育み、行動するための心のよりどころです。本質を変える必要はありません。しかし、出島を幾つも持って多様性を確保することは、持続的な成長に寄与します。

3 もどかしいけど、自分でやらない

中小企業では、経営者であっても税務や労務の手続きなど、こまごまとしたバックオフィス業務を行わざるを得ません。営業に関してもそうで、ちょっとした顧客へのフォローなどがなかなか手から離れません。

また、今どきは新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しない取り組みが求められる中で、活動のスピードを上げ、しかも成功の確率を高めるために、これまで以上に経営者が手を動かす機会が増えています。

経営者が動くのは悪いことではありませんが、「自分が動けば必ずうまくいく」という思い込みは排除すべきです。現場から離れていれば感覚がズレますし、別の観点から見ても、企業の持続的な成長のために社員に任せることが大切だからです。

「2018 FIFAワールドカップ ロシア」の決勝トーナメントで、日本代表はベルギー代表に惜敗したのですが、その試合で、ベルギー代表のエースストライカーであるルカク選手が見せたプレーは、ビジネスにも通じる大事なことを示していました。

この試合、あまり活躍していなかったルカク選手。そこに決勝点を狙えるパスがきます。エースストライカーの意地もあり、自ら決めたいと考えて不思議はありません。しかし、ルカク選手はシュートを打たずにスルーし、背後のシャドリ選手に託したのです。

ルカク選手は、自分でシュートを打つと見せかけてマークを引きつけ、背後をノーマークで走ってくるシャドリ選手に託したほうが、得点できる可能性が高いと考えたのでしょう。そして、シャドリ選手は、見事に決勝点を挙げたのです。

全てを自分でやろうとするのは頑張り屋ですが、一方で自分勝手ともいえます。理想は、周りに注意を払い、そのプロジェクトを最も成功させる確率の高い人、あるいは将来のために学んでほしい人に託すことです。

新規事業の開発や働き方改革の推進などは、経営者にとって失敗したくない取り組みです。であるならば、「もどかしい、自分でやりたい」という気持ちを抑え、社員に任せてみることが大切です。

4 バッドケースがグッドケースにつながる

「日々の業務を細かく管理し、失敗を許さない」。こうしたマネジメントをしている企業は少なくないようです。失敗を許さない環境で働く社員は叱られることを嫌い、チャレンジをしなくなってしまいます。

一方、新規事業の開発などの新しい取り組みにおいて、ミスをしないというのは無理な話です。いわゆる「シリアルアントレプレナー」(連続起業家)と呼ばれる人たちも、「新規事業を全て成功させるなんてあり得ない」と言います。

幾つも取り組んだ結果、その中で成功するものがあればいい。経営者は、社内にこのような雰囲気を根付かせなければなりません。つまり、「バッドケースがグッドケースにつながる」という考え方を徹底するのです。

実際、私たちは失敗をして初めて、自分が気付かなかった課題に気付くことができます。早いタイミングで何度も何度も失敗することで、成功に一歩ずつ近づけるということなのです。

大切なのは、「失敗の原因をしっかりと分析し、改善策を講じた上で次に進む」ことです。ただし、こうした過程を踏む企業は多くないため、経営者がトップダウンで指示しつつも、現場の社員の意見を聞いて整備するのが理想です。

ここでも経営者はもどかしさを感じるでしょう。しかし、我慢して社員に任せなければなりません。それも、その時点の社員の能力で対応できるであろうことの2段階くらいレベルの高い取り組みを任せてみるのです。

こうした活動を続けることで社員は成長し、経営者が知らない情報を集めてきたり、気付かなかった視点を指摘してきたりします。これらが組織の成長と、組織力の底上げにつながります。

ビジネスの潮流が目まぐるしく変わる現在、経営者にはボルトを外すような大胆さ、もどかしくても社員に任せる忍耐力、組織全体で失敗から学ぶ謙虚な姿勢が求められます。これらがそろったとき、組織は次のステージへと進むことができるのでしょう。

以上(2018年9月)

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鶏と卵の順番にこだわる/成功する経営者に欠かせない思考習慣

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1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。例えば、「9時に出社して18時に退社する」という働き方に疑問を持つ人は、これまでほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「鶏と卵の順番にこだわる」「『言霊(ことだま)』を信じる」「『本の世界』から飛び出す」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 鶏と卵の順番にこだわる

ミーティングの場では、「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズがよく使われます。これの意味するところは、「今、検討されている取り組みの順番は、どちらが先でもよい」といったものです。

特に新たなチャレンジをする際の検討事項は多いものですが、本当に優先順位が高い事項はわずかで、ほとんどは「目の前のものから片付ければよい」類いです。しかし、それでも経営者は“鶏と卵の順番”、つまり手順にこだわります。

まずは鶏が先の場合。例えば、新規事業の具体的な内容は決まっていないが、先に別会社や事業部を立ち上げて体制を整え、新しい環境で事業を検討するアプローチです。魅力的な卵を産み出す環境の整備を重視しています。

次は卵が先の場合。例えば、新規事業の内容を明確にした後に、その卵を素早くふ化させるために、既存組織とは別の組織運用ができる別会社や事業部を立ち上げるアプローチです。卵を確実にふ化させる手順を重視しています。

鶏が先か、卵が先か。好ましい順番は状況によって異なるもので、どちらかが絶対的な正解というわけではありません。前述した例の場合は、組織の雰囲気や規制の厳しさなどによって選択することになるでしょう。

大切なのは、一見すると後先は特に問題にならないような場合でも、手順を常に考え続けることです。「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズは、ともすれば組織が優先順位の判断を放棄して、思考停止の状態に陥るきっかけにもなり得るからです。

経営者は細部にまでこだわります。社員からすれば鶏と卵の問題に見える簡単そうな判断でも、経営者は事柄を細かく分類し、詰め将棋のような思考実験をして手順を決めているものなのです。

3 「言霊(ことだま)」を信じる

「言霊」という言葉を使う経営者が少なくありません。これは“霊的”な意味で用いているわけではなく、「一つのことを願い、言い続けていれば、いつか実現できると信じている」と考えているのです。

この一つのことを願うというのは意外と難しいものです。本で読んだり、人から聞いたりした話を表面的になぞって話す人がいますが、しばらくすると、全く違ったことを言い始めたりします。これでは、言霊が宿ることはないでしょう。

経営者が同じことを言い続けることで宿る言霊には、科学的な根拠があります。一つのことを願い続けるということはゴールが変わらない、つまり取り組みにぶれがないということです。そのゴールに向かって一歩一歩進めば、ビジネスは成功に近づきます。

また、一つのことを言い続けると、周囲に刷り込まれていきます。そして、「○○を目指す人」という“通り名”ができると、経営者仲間などが関連する情報をくれたり、人を紹介してくれたりします。

社内にも良い効果を与えます。経営者が常に同じことを言っていれば、社員は自分たちがどこに向かっているのかが分かります。それが具体的な行動につながれば、全体で共有しているゴールを目指して、効率的に仕事をすることができます。

このように、経営者が考える言霊の効果は、ある意味で科学的な根拠があります。特に経営者は、同じ悩みを抱える経営者仲間を応援したいと考えているものであり、その力を貸してもらえることは頼もしい限りです。

以上が、経営者が言霊に見いだしている意義ですが、その前提となる大切なポイントは、経営者がずっと言い続けることができる「何か」を見つけていることです。それは、経営者本人が本気でほれ込み、全力で打ち込めるものであるのが理想です。

4 「本の世界」から飛び出す

経営者は知識の吸収に貪欲で、本や雑誌、テレビなどから得ます。それも本業の関連分野から芸能分野まで幅広いジャンルです。なぜなら、「どのようなものでも、ビジネスに結び付く可能性がある」と考えているからです。

また、経営者が本を読むときなどは、フラットに構え、いわゆる「バイアス」を取り除く努力をします。特にビジネスの変化が急速な今どきは、過去から続く“当たり前”を排除しなければ時代にキャッチアップできません。

このような知識の吸収の仕方は経営者が実践しているものです。大切なのは、吸収した知識を使って行動することです。逆に言えば、知ることで満足し、吸収した知識を使わないでいるようでは意味がないのです。

また、経営者は知識の蓄積と活用について独自の感覚を持っています。例えば、集中して本を読めば、ある程度の知識が吸収されて「知らない」状態から、「知っている」状態に進むことができます。

しかし、たくさんの本を読むと1冊に対する印象が薄くなり、本に書いてあった内容がほとんど記憶に残らない状態になります。これを回避するために、多くの人は3回読むとか、線を引くなどのテクニックを使います。

一方、経営者は本の知識が蓄積されにくいことをあまり気にしません。大切なのは行動であり、本の知識を正確に蓄えることではないからです。行動のヒントが得られれば、本の途中でも読むのをやめることが珍しくありません。

経営者は、行動することで得られる「気付き」を大切にします。知識を得て行動し、リアルな課題に遭遇し、それを乗り越えることで、ようやく本質にたどり着くことができます。

そして、気付きを得た後に、もう一度、本を読み返してみると、最初は読み飛ばしていた文章の意味を見いだすことができ、それをまた行動に生かします。これこそが本の世界から飛び出さないと得られない価値です。

以上(2019年10月)

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光あるところに人は集まる/成功する経営者に欠かせない思考習慣

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1 「どうなりたいか」を常に考える

経営者は独自の視点と価値観を持って、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、経営者仲間の姿勢から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。

経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結び付いていくのでしょう。

経営者にとって、自身の考え方は経営哲学とイコールであり、大切にしなければなりません。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。

今回は、「『付き合わない』選択肢を持つ」「光あるところに人は集まる」「『信用』持ちにも慣れが必要」という3つを取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 「付き合わない」選択肢を持つ

「ビジネスで最も面倒なのは『人』である」。多くの人が日々感じていることでしょう。AI(人工知能)とは違い、人には感情があります。しかし、感情を正確に言語化して伝えることは至難であり、意図していないすれ違いが生じたりします。

時には、ちょっとしたすれ違いが大きなトラブルに発展してしまうこともあるため、経営者はこれを避けるべく、社内外の関係者との接し方に常に気を配っています。低姿勢な経営者が多いのはこのためでもあります。

ただ、全ての人とうまくコミュニケーションが取れるわけではありません。ここでいうコミュニケーションとは、ビジネスを進める上で重要な“感覚の共有”です。重視する部分が同じだったり、スピード感が同じだったりという相性のようなものです。

もし、感覚が共有できない相手だと分かったら、それ以上、コミュニケーションに時間を割くのは考えものです。経営者は人とつながりながらビジネスを広げていくため、関係を続ける相手は慎重に選択する必要があるのです。

特にベンチャー界隈(かいわい)では、比較的簡単に経営者と経営者とがつながっているように感じます。しかし実際は、お互いがシビアに品定めをし、合格した者同士のコミュニケーションが続いているのです。

経営者は、相手と関係を続けるか否かの基準を持ちましょう。ダラダラと実のない関係を続ける人もいますが、これにはほとんど意味がありません。経営者は自分が大切にする価値観を再確認した上で、「付き合わない」選択肢を持つことも大切です。

3 光あるところに人は集まる

最近のビジネス関連のイベントでは、最後の30~60分を「ネットワーキング」の時間に充てることが多くなっています。いわゆる「懇親会」のことですが、ネットワーキングと言ったほうが、参加者に“つながり”を強く意識させることができます。

ネットワーキングに参加する人は、最初から“つながるモード”で接してきます。名刺交換した後、Facebook(フェイスブック)などのSNSで友達になり、その後、何度か会って話をすることもあります。

こうした活動は大事である一方、「浅い人脈持ち」にならないための注意が必要です。浅い人脈持ちは、「○○さんを知っています。××と言っていました」などと言います。しかし、当の○○さんは、その人のことなどとっくに忘れていることが少なくありません。

人と人とのつながりが、ネットワーキングから生まれるのはよくあることです。しかし、比較的簡単につながれるようになったからこそ選別の目は厳しくなり、“光を放つ人”でなければ、人は集まらず、また定着しません。

経営者の仕事の一つはネットワーキングであり、そこからビジネスに発展することもあります。一方、経営者は多くの人との出会いの中で自分を磨き、光を放って周囲の人を引きつける魅力を持たなければなりません。

浅い人脈しかなければ失格、多少の深い人脈があれば普通。そして、放っておいても自分の周囲に人が集まるようであれば“本物”です。ネットワーキングはFacebookの友達探しの場ではなく、自分に磨きをかける場であると認識することが大切です。

経験やスキルが自分と同等以下の人が集まる会合は居心地が良いかもしれませんが、自分を磨くことにはつながりにくいものです。自分よりも格上の人が集まる場に率先して顔を出したいものです。

4 「信用」持ちにも慣れが必要

「自分は評価されている」。真摯にビジネスと向き合っていれば、そう感じることもあるでしょう。「年上の経営者が何度も食事に誘ってくれる」「年下の経営者から『いろいろ教えてください』と言われる」などのケースは、まさにそうです。

人手不足、後継者不足の現在は、食事の場で相手の社長から「うちの会社の役員は未熟だ。うちに来てくれないか」「あと3年で引退する予定だ。その後を任せたい」などの相談を持ちかけられることもあります。

こうした良い評価は、本人が努力して築いた「信用」であり、大切にしたいものです。しかし、相手から深く信用されることに慣れていないと、相手が自分のどこを評価しているのかが分からず、立ち居振る舞いに戸惑うことがあります。

そして、「信用を失いたくない」と意識し始めると、不自然で弱気な(妙に下手に出た)立ち居振る舞いになってしまうことがあります。信用されることに慣れていない経営者が直面しがちな問題です。

このようなときは、言動の一貫性を保ち、決して嘘をつかないことを心掛けましょう。相手はそれまでの自分を評価してくれたのであり、背伸びをする必要はないのです。もし、分からないこと、できないことがあれば正直に伝えましょう。

経営者同士の信用はすぐには生まれません。逆に、一度信用が生まれれば、そう簡単には揺らぎません。こちらが引き受けられない頼まれ事であっても、一緒に解決策を模索していく過程で、さらに大きな信用を得られるものなのです。

以上(2019年4月)

pj10031
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因果関係よりも相関関係を重視する/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 思考習慣のバージョンアップ

経営者は独自の視点と価値観をもって、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。

経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結び付いていくのでしょう。

経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。

今回は、「因果関係よりも相関関係を重視する」「『飽き』とうまく付き合う」「けんかの相手を間違えない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者としての考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。

2 因果関係よりも相関関係を重視する

因果関係と相関関係は混同しがちな考え方ですが、意味は全く異なります。因果関係は、「AをすればBになるという原因と結果の関係」であり、原因から結果の流れが一方通行なのが特徴です。

一方の相関関係は、「AとBに関連はありそうだが、原因と結果ではない関係」を指します。因果関係があると思えることでも、よくよく考えてみると相関関係しか見いだせないことは珍しくありません。

例えば、「優秀な営業担当者は、他の営業担当者よりも数多く訪問活動をしており、成約件数も多い」とします。この場合、訪問件数と成約件数に因果関係はあるのでしょうか。それとも、相関関係しかないのでしょうか。

営業には確率の問題という側面もあるため、訪問件数を増やせば成約件数も多少は伸びるでしょうが、成果は限定的です。それに、訪問件数を増やした割に成約件数が伸び悩み、かえって無駄になることもあり得ます。

この点、経営者は目に見えるものが全てではないことを知っています。訪問件数と成約件数に何らかの関係がありそうだと敏感に感じますが、それらが因果関係にあると短絡的に考えず、もっと詳しく状況を分析します。

その結果、「優秀な営業担当者は、有力な見込み客を見つけてアポイントを取る能力が高い」ことが分かります。有力な見込み客を数多く訪問すれば、成約件数も伸びるはずであり、単に訪問件数を増やすより成果を得やすくなります。

ビジネスに因果関係を求める人は大勢います。因果関係が分かれば、やるべきことを迷わないからです。「○○の法則」や「○○メソッド」などと称した書籍を、買ってみるのもこうした心理からです。

しかし、いきなり因果関係が見つかるほどビジネスは甘くありません。相関関係を敏感に察知し、無駄になるかもしれないリスクを覚悟して、本質を見極めるための行動を起こした結果、因果関係に近づけることがあるということです。

このように、ビジネスでは相関関係を突き詰めた先に因果関係があることが少なくありません。これを理解している経営者は、勝利の方程式といえる因果関係の“可能性”として、小さな相関関係であっても大事にするのです。

3 「飽き」とうまく付き合う

ある意味、仕事は同じことの繰り返しです。多少の変化はあっても、進んでいる方向や組織の雰囲気といった根本が変わらなければ、そのうち飽きてしまいます。そして、もっと刺激が欲しいと思うかもしれません。

仕事に飽きたとき、社員は転職することができます。しかし、経営者が転職するわけにはいきません。「経営者は逃げられない」というのは、厳しい経営環境から逃げられないことの他に、飽きから逃げられないことも意味します。

仕事に飽きたときの対応は2つです。1つ目は、やり過ごすことです。飽きたからといって、会社や仕事が嫌になったわけではないので、そこに居続けることはできます。そうして、飽きたことにしばらく耐えていると、飽きていることを忘れたりします。

ストレス対策として、ストレスをためないことばかり考えずに、ストレスとうまく付き合うことが大切だといわれます。経営者が抱える飽きの問題も、これと似たところがあるかもしれません。

2つ目は、自ら積極的に変化を起こすことです。新しい事業を始めたり、会いたい人と会って刺激を受けたりする。こうした大小の変化を起こすことで、飽きを和らげることができます。

とはいえ、特に創業者は「やりたいこと」や「信念」をもって創業したわけであり、それ自体に飽きてしまったのなら、小手先の刺激では満足できないはずです。この場合、事業承継やM&Aなど、自身の出口を考えざるを得ないかもしれません。

このように、経営はある意味で飽きとの闘いでもあります。スポーツではけがをしないことが一流選手の条件の一つですが、ビジネスでは飽きをうまくマネジメントできる経営者が一流だといえるのです。

また、飽きのマネジメントは社員に対しても必要です。優秀な社員ほど仕事の習得や環境への適用力が高く、「この会社はもう卒業してもよい」と考えます。優秀な社員に転職されては困るので、経営者は刺激を与えなければなりません。

そのために、経営者は新しいことにチャレンジして、組織に刺激を与え続ける必要があります。経営者自身についてはもちろん、組織全体の飽きをマネジメントするためにも、経営者の攻める姿勢が大切だということです。

4 けんかの相手を間違えない

ビジネスでは、衝突や対立を避けて通れないことがあります。経営者の立場になると、他社との取引解消のリスクがあったり、社内で深刻な対立が生じたりしても、守らなければならないことがあります。

こうした意味で、会社を背負って立つ経営者は相手と主張をぶつけ合うことに慣れています。逆に、相手に配慮するあまり、きちんと主張することができない社員に対して物足りなさを感じるくらいです。

とはいえ、衝突や対立が当たり前になり過ぎると、「けんかになってもいいから、とにかく主張することから始める」という姿勢になってしまうことがあります。時には、必要のない衝突や対立を生んでしまうこともあります。

経営者が主張を行うのは、自身の理想や志に真っすぐに経営するためです。しかし、その目的を忘れるほど感情的になると、経営者の態度は横柄になり、自分や会社の評価を落とします。正々堂々と主張しようとしているのに、もったいないことです。

このあたり、経営者は良い意味で、したたかになりましょう。相手に取り入るのではなく、相手を利用するということです。これは、経営者が冷静でなければできることではありません。

もし、自分で感情をコントロールするのが難しいと感じるときは、信頼できる部下を同行させます。経営者が感情的になったときに、そのことを指摘してくれるかもしれません。また、経営者としても、隣に部下が座っていれば冷静になれるでしょう。

相手に主張できるようになることは、経営者としての第一歩です。次はそこから進み、けんかする相手やけんかの仕方を心得ることです。感情的になりそうになったら、「なぜ、衝突や対立をするのか」を自分に問い掛けましょう。

最後に、「あれはあれ。これはこれ」といったように、素早く気持ちを切り替えられる柔軟さを持ちましょう。過去のけんかにこだわって未来の可能性を潰してしまうのは、会社のためになりません。

以上(2018年10月)

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営業担当者に求められる情報収集術

書いてあること

  • 主な読者:営業活動の効果を高めたいと考える経営者
  • 課題:営業活動に情報を十分活用できない、必要な情報を収集できない
  • 解決策:情報から課題を見つけたり、情報を聞き出す術を身につけたりする

1 顧客志向が求められる中での「ソリューション営業」

インターネットの普及など、誰もが手軽にさまざまな情報を収集できるようになった現在、顧客が営業担当者よりも質・量ともに充実した情報を持っていることも珍しくなくなりました。営業担当者が、商品の機能について通り一遍の営業トークをしても顧客の興味を引くことはできません。顧客は、「その商品を購入することによって自分の課題がどのように解決できるのかを、自分(顧客)が気付いていなかった視点で提案して欲しい」と望んでいます。そうした中で定着したのが「ソリューション営業」(提案型営業)です。

【ソリューション営業】

自社の売り上げ増加のみを最終目標とする自社本位の営業活動ではなく、徹底的な情報収集・分析を通じて顧客のビジネス上の課題を把握し、その解決策を全社的に提案することで顧客と自社の利益を同時に達成し、他社が介入する余地のない長期にわたるパートナーシップを確立するという顧客本位の営業スタイル。

2 ソリューション営業で重要な顧客の情報収集と分析

1)ソリューション営業の進め方

ソリューション営業は手間がかかります。なぜなら、ソリューション営業では、顧客に関するさまざまな情報を収集・分析した上で課題を発見し、それを解決に導く提案をしなければならないからです。ソリューション営業の進め方は業種、企業、営業担当者によって異なりますが、基本的には次のような流れで進めることになります。

1.ソリューション営業を行う顧客の決定

全ての顧客にソリューション営業を行うのはリソースの問題で困難です。また、関係が良好な顧客に、その時点でわざわざソリューション営業を展開し、波風を立てる必要もありません。ソリューション営業は、必要な時に、必要な相手に行うことが基本です。

2.対象となる顧客に関する情報の収集・分析

顧客に関する情報の収集・分析は、ソリューション営業の最も重要なステップです。社内外、インターネットとリアルを使い分け、必要な情報を効率的かつ迅速に収集し、分析しなければなりません。

3.課題の把握と提案の内容の組み立て

顧客に関する情報を分析した結果に基づいて仮説を立て、その顧客が抱えているであろう課題を導き出します。その仮説を顧客に伝え、実際にそうであるのかを確認し、提案内容を考えます。もし、仮説が間違っていたら、顧客にヒアリングしながら軌道修正していきます。

4.提案内容をプレゼンテーション

提案内容を顧客にプレゼンテーションします。提案内容によるものの、プレゼンテーションでは、できるだけ数字を交えて定量的に説明するようにします。下手に金額を隠すようなことをすると顧客と信頼関係が築けません。

5.フォローアップ(効果の確認)

ソリューション営業を行った顧客とは、中長期的な付き合いになります。サービスを導入した後は、想定した効果が表れているかなど、継続的にフォローをします。仮に効果が上がっていないようであれば、再度、情報の収集・分析から始めます。

2)情報収集の基本

前述した5つのステップはどれも重要ですが、ここでは「2.対象となる顧客に関する情報の収集・分析」に注目します。情報を収集する際は、どのような情報を、どのような手段で収集するかを明確にします。これができていないと、不適切な情報、不必要な情報を収集してしまうこともあり、効果的なソリューション営業を実践できません。

1.どのような情報を収集するか

必要となる情報はケースバイケースですが、少なくとも顧客の内部環境(資源)・外部環境は把握しておかなければなりません。一般的に、企業経営を取り巻く環境は次のように大別されます。これらの基本情報を整理することで、「顧客の強み、弱み」や「顧客が抱えている課題」などが見えてきます。

  • 内部環境(資源):経営戦略、経営理念、経営資源(ヒト、モノ、カネ)など
  • 外部環境:人口動態、経済動向、市場動向、競合状況など

2.どのような手段で収集するか

情報収集の手段は、次のように大別されます。情報収集の手段は多種多様です。状況に応じてこれらを使い分けることができれば、求める情報に素早くたどり着くことができます。

  • 読む情報:インターネット、新聞、雑誌など
  • 聞く情報:顧客、顧客の取引先、自社の前任の営業担当者、金融機関など
  • 見る情報:顧客訪問、顧客がサービスを提供する事業所の訪問など

3 情報収集・分析の具体的な手法

1)多くの情報源を確保する

情報収集の原則は、数多くの信頼できる情報源を確保することです。素早く情報を収集するには、「関連の記事や報告書を読む」「知っている人に聞く」「実際の現場に行く、相手と会う」ことが欠かせませんが、求める情報がどこにあるのか分からないと、情報収集の初手からつまずいてしまいます。

また、さまざまな情報があふれる時代にあって、中には不適切な情報、不正確な情報もあります。そのため、情報源を確保する際は、信頼できる情報源を見極める必要があります。特に、人と会って収集する情報は非常に貴重ですが、情報源となる頼れる人脈は自らの力で構築していかなければなりません。必要な情報を収集するための情報源の例は次の通りです。

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2)収集した情報を基に課題を把握する(仮説を立てる)

必要な情報が収集できたら、今度はそれを分析し、顧客が抱える課題を把握することが必要です。情報の分析方法はさまざまですが、代表的な方法にはSWOT分析があります。SWOTとは、「S:Strength(強み)」「W:Weakness(弱み)」「O:Opportunity(機会)」「T:Threat(脅威)」の頭文字をとったもので、企業が置かれている状況を客観的に判断する際に用いられる分析手法です。イタリア料理のレストランを例にした場合、SWOT分析の一例は次の通りです。

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SWOT分析の例で紹介したイタリア料理のレストランの場合、次のような仮説を立てることができます。このような仮説が立てられるのは、適切な情報を収集し、それを客観的に分析したからに他なりません。

  • オフィスビルができたことで、特にランチタイムの顧客が増える可能性があるものの、向かいのファミリーレストランと競合になる
  • 有名イタリア人シェフの料理や丁寧な接客は強みであるものの、人件費が高い

4 「聞く」テクニック

1)情報を聞き出す

情報を収集する方法として「読む」「聞く」「見る」の3つを紹介しました。これらの中で、情報の収集が最も難しいものの、成功すれば有益な情報を得られる可能性が高いのは「聞く」情報です。

通常、顧客が胸の内に秘めている思いは新聞などの記事にはなりませんし、観察してもなかなか察知できません。こうした情報を聞き出すには、聞き手となる営業担当者にそれなりのテクニックが求められます。これから紹介するテクニックは、既に多くの営業担当者が心得ていることと思いますが、確認のために紹介します。

2)顧客が受け入れやすい話題から始める

顧客と顔を合わせてすぐに商談の話をすることもありますが、これは、その顧客とある程度の信頼関係がある場合に限られます。新規の見込み客を訪問し、いきなり「いい商品ですから、ぜひとも購入してください」なととセールスをはじめたら、顧客が警戒心を強めることは間違いないでしょう。

そこで、まずは顧客にとって良いニュース、あるいは当たり障りのない話題から始め、全体の空気を和ませることから始めましょう。

3)自分ばかりが話しすぎない

自社のサービスを熟知している営業担当者は、ついついサービスの機能や利点ばかりを宣伝しがちです。自分が話すことに夢中になり、1時間の商談で営業担当者が45分以上話してしまっていることもあります。

目的はあくまでも情報収集ですから、できるだけ質問することを心掛け、顧客が話す時間を長くします。ただし、あれもこれも聞きすぎると、顧客が疲れてしまい、話す気をなくしてしまうことがあります。このような場合は、話のところどころで顧客が興味を持つ情報を提供し、「情報のギブアンドテイクの関係」を築くようにします。

4)あらかじめ質問内容を準備しておく

「聞く」情報収集は、顧客に質問し、それに対する回答から必要な情報を導き出すものです。従って、最低でも訪問前に質問したい事項をまとめておく必要があります。

ただし、用意した質問を全てしなければならないと考え、顧客の話の腰を折って質問をし続けてはいけません。あくまでも、話の流れを止めないように臨機応変に対応します。また、話しているうちに、事前に準備していた質問が的外れとなってしまうことがあります。こうした場合は、準備していた質問にとらわれることなく、新たに浮かんでくる疑問について、素直に質問してみましょう。

5)相づちは打つが、メモは取りすぎない

顧客との商談が1時間になっても、本当に重要な情報は会話の中のごく一部であるのが通常です。そして、大切なのは、重要な情報を聞き出すことですから、適度に相づちをうち、適度に笑います。また、必要に応じてメモを取り、真剣に話を聞いている姿勢を顧客に示します。

ただし、あまりに真剣にメモを取りすぎるのは問題となることがあります。メモは紙に残るものであるため、顧客が警戒して話をやめてしまうことがあるからです。メモを取るべきなのは、顧客が話した本当に重要な情報の部分だけで十分なのです。

6)確認をする

会話が一段落ついたところで、「今のお話は○○ということですね?」といったように確認をしましょう。この効果は2つあります。1つ目は、顧客が「自分の話を聞いてくれているんだな」と気分を良くすることです。もう1つは、営業担当者が確認のために話した内容に対して、顧客が補足説明をしてくれることがあるということです。補足説明を受けられれば、より幅広い情報を収集することができます。

営業担当者の中には、わざと間違えて確認をしたり、顧客の補足説明を導き出すテクニックを使う人がいます。ただし、このテクニックを使いすぎると、「理解の遅い営業担当者だ」と顧客に嫌われてしまう恐れがあるので、使う相手と場面を確実に見極めることが重要です。

7)予期せぬ事態になっても慌てない

商談の場では、全く予期せぬ質問を顧客にされることが多々あります。このような時、何も言えなくなってしまう営業担当者、意味不明な回答をしてしまう営業担当者、正しくない回答(嘘)をしてしまう営業担当者がいます。顧客から予期せぬ質問をされた場合も、決して慌てる必要はありません。自分の知らないことであれば、「一度社に戻ってから回答させていただきます」と素直に言えばよいのです。

逆に、何も言えなくなったり、意味不明な回答をしてしまったりすると、慌てていることを顧客に悟られてしまい、後の営業活動に支障をきたすおそれがあります。また、1回でも正しくない回答をすれば、一瞬にして信用を失ってしまいます。

5 営業活動で使えるヒアリングシートの一例

実際は訪問履歴のスペースを大きくして、多くのことを書き込めるようにしておきましょう。

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以上(2019年5月)

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シェアオフィスの市場動向

書いてあること

  • 主な読者:シェアオフィスの開業を検討する経営者
  • 課題:現在の市場規模、開業に当たって注意すべき点が分からない
  • 解決策:市場の推移や具体的な注意点を把握する

1 シェアオフィスとは

1)シェアオフィスの定義

シェアオフィスの定義は明確ではありませんが、一般的には、壁やパーテーションなどによって区切られたスペースや座席を、複数の利用者(主に小規模事業者や個人事業者など)がレンタルで利用するオフィスのことを指します。

通常のオフィス賃貸では、オーナーは業務に使用するスペースのみを利用者に貸し出します。しかし、シェアオフィスでは、オーナーが業務に必要なコピー機、固定電話やインターネット回線などを準備したり、オペレーターによる電話応対などのサービスを実施したりしているケースが多くあります。

2)シェアオフィスの分類

シェアオフィスの分類は、シェアオフィス自体の定義が明確でないため一概には言えませんが、各社ウェブサイトなどの情報から次のように大別することができます。

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図表1の分類の仕方は一例で、企業によっては、コワーキングスペースのようなフリーアドレス式のもののみをシェアオフィスとして扱い、レンタルオフィスなどは数に含めないケースもあります。ただし、いずれもオフィスのスペースや座席をレンタルするという点については共通しています。

2 シェアオフィスの市場動向

シェアオフィスに関する公的な統計はありませんが、レンタルオフィスやコワーキングスペースの開業支援などを行う日本レンタルオフィス協会のウェブサイト「レンタルオフィスNAVI」によると、2019年6月24日時点で、次の件数が掲載されています。

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シェアオフィスの分布を見ると、東京都が全国の半数近くを占めており、その後に大阪府、福岡県、神奈川県などが続きます。静岡県の掲載件数は13件で、都道府県別では第13位となっています。

シェアオフィスは、通常のオフィス物件の賃貸よりも初期投資を抑えやすく、主に小規模事業者や個人事業者などが利用します。加えて昨今は、シェアオフィスを利用する他企業と交流を図りたい企業や、働き方改革の一環で通勤時間を短縮したい企業の従業員などが利用することも多くなっています。

こうした状況の中、足元では不動産・運送・鉄道など、各業界の企業が自社所有のオフィスを改修し、シェアオフィス事業に参入しています。

3 開業の留意点

1)参入障壁

既存のオフィスビルを利用してシェアオフィスを開業する場合、大掛かりな改修工事などが不要となるため、開業費用は比較的低額で済みます。

シェアオフィスを開業するのに特別の許可などは必要なく、また既存のオフィスビルを利用する場合であれば、建築基準法上の申請手続きなども基本的には不要となるため、比較的短期間で開業することができます。

また、オフィスビルを区割りして複数の業者にレンタルするため、仮に退去者が出ても、オフィスビルの1棟を1業者に貸し出す通常のオフィス賃貸に比べ、利用者の退去による事業への影響は少なくなります。

このような特性から、シェアオフィスは比較的参入がしやすい事業であるということができます。

2)設備・サービスの内容

シェアオフィスは、レンタルに供するオフィスビルさえあれば一応は開業することはできますが、各業界の企業が次々にシェアオフィス事業に参入している昨今では、設備・サービスを充実させ、他社との差異化を図ることが重要となります。

シェアオフィスにおける設備・サービスの例としては次のようなものがあります。

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3)ターゲット分析

シェアオフィスは、サテライトオフィスのように遠方の大企業の従業員を誘致するケースもありますが、基本的なターゲットは、オフィス近隣の小規模事業者や個人事業者になります。

こうしたターゲットを早期から囲い込むためには、「オフィス近隣にどのような業者が多いのか」「従業員数はどの程度か」などを分析した上で、ターゲット層が求める設備やサービスの内容を検討します。

例えば、「近隣にIT企業が多い場合は、インターネット回線を個別に引くことを検討する」「役所などがある場合は、役所に関連する仕事の多い士業向けに、会議室の壁を機密性の高い防音壁にする」といった対応が考えられます。

4 シェアオフィスを展開する企業の取り組み

1)WeWork

シェアオフィスの最大手であるWeWorkでは、24時間365日オフィススペースを利用することができます。専用デスクには施錠可能なキャビネットなどを取り揃えている他、来客対応や郵送対応のサービスも行っているため、業務に集中することができます。また、WeWorkコミュニティとして、イベントへの参加や福利厚生などのビジネス以外のサービスを利用できる点も大きな特徴です。

2)サーブコープ

サーブコープは、まだシェアオフィスの浸透していない1990年代からサービスオフィスなどの運営を行っています。提供しているサービスの水準が全般的に高く、同社の全ての拠点では、電話の応対や転送などを代行する秘書サービスが利用できます。また、固定電話番号の即時発行、企業間の無料通話、施設の予約といったITサポートも充実しています。

3)リージャス(TKP)

2019年4月に貸し会議室大手のTKPがシェアオフィスを展開する日本リージャスを買収し、シェアオフィス事業を手掛けています。同社のシェアオフィスは1日単位で利用することができ、スタッフが増えた場合にはデスクスペースの追加などのスケールアップやオフィスのカスタマイズにも対応しています。

以上(2019年8月)

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カーシェアリングの市場動向

書いてあること

  • 主な読者:カーシェアリングサービスの提供を検討する経営者
  • 課題:現在の市場規模、車両台数、注意すべき点などが分からない
  • 解決策:市場の推移や具体的な注意点を把握する

1 カーシェアリングとは

1)カーシェアリングの定義

交通のバリアフリー化や環境対策などに取り組む交通エコロジー・モビリティ財団によると、カーシェアリングとは「1台の自動車を複数の会員が共同で利用する自動車の新しい利用形態」としています。相乗りとは違い、複数の会員が時間を変えて1台の自動車を利用します。15分単位の短時間から利用できる点や、車両の貸し出し、返却に24時間365日対応している点も大きな特徴です。

2)カーリース、レンタカーとの違い

自動車を借りるサービスとして、カーリースやレンタカーが挙げられますが、これらのサービスは利用時間や料金、車両の保管などで相違点があります。

カーシェアリング、カーリース、レンタカーの違いは次の通りです。

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2 カーシェアリングの市場動向

1)カーシェアリング車両台数と会員数の推移

交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」によると、車両台数と会員数の推移は次の通りです。

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2018年3月の調査では、車両台数は2万9208台(前年比19%増)、会員数は132万794人(同22%増)となっています。また、図表にはありませんが、カーシェアリングのステーション数は1万4941カ所(同16%増)となっており、年々拡大しています。

会員数ベースで見ると、132万794人のうち約97%を大手5社(タイムズ24、オリックス自動車、三井不動産リアルティ、アース・カー、名鉄協商)が占めています。

同団体の「全国のカーシェアリング事例一覧」によると、大手カーシェアリング企業の状況(会員数ベース)は次の通りです。

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2)車両台数とステーション数の推移

ジェイティップスが運営するカーシェアリングのサービス比較、統計を行っているウェブサイト「カーシェアリング比較360°」によると、全国のカーシェアリング車両台数とステーション数の推移は次の通りです。

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3 開業の留意点

1)資金の負担について

現在所有している駐車場をカーシェアリング会社に貸し出し、ステーションを設置する場合はカーシェアリング会社が車両や必要な設備を設置するため、資金の負担は少ない場合が多くなります。

一方、カーシェアリング会社のフランチャイズに加盟する場合や、自社で車両と予約システムを確保してカーシェアリングを手掛ける場合は資金の負担が大きくなります。

例えば、ルフト・トラベルレンタカーが提供するカーシェアリングサービス「カリチャオ!」では、フランチャイズ資金の目安を公表しています。同社ウェブサイトによると、開業時に必要な資金として加盟金が50万円、車載器が1台につき5万円、開業前の研修が4万円となっています。これに合わせて、車載器の取り付けやレンタカーの事業許可に掛かる費用、駐車場に設置する備品の購入費用が別途掛かります。

また、カーシェアリングシステムの開発や自動車電子システムの開発、サービス提供などを手掛けるサージュへのヒアリングによると、「カーシェアの予約、運用システムを構築する場合で、少なくとも200万円の費用が掛かる」とのことです。

2)会員の確保が課題

カーシェアリングは、複数人の会員からの売り上げで固定費を賄うため、ある程度の会員数を確保する必要があります。現代文化研究所が自動車保有者を対象に行った「2018年全国自動車保有ユーザー調査」によると、自家用車からカーシェアリングの利用への移行については、今後利便性が高まればカーシェアリングに移行するかとの問いに「移行する可能性はかなり高い」と答えた割合は全体で7%、「移行を検討するかもしれない」と答えた割合が全体で29%となっている一方で「あまり検討する意向はない」「全く検討する意向はない」と答えた割合がいずれも32%と高くなっています。

また、カーシェアリングの普及については、3大都市圏中心部では「普及する」との見方が57%となっている一方、10万人未満の都市や町村では23~26%と2倍以上の差があります。人口密度が低く、利用者が少なければカーシェアリングはビジネスとして成り立たないため、地方での普及は難しい面があります。

経済産業省「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」事務局の「中間整理を踏まえた調査結果報告」によると、ラウンドトリップ型カーシェア(車両を借りる場所と返却場所が同じサービスをいいます)を収益化するには、駐車場コストが掛からない場合でも、展開エリアの人口密度が約7000人/平方キロメートル以上であることが必要とされています。

3)カーシェアリングの差異化策

カーシェアリングの差異化策の1つとして、個人での所有・普及が難しい電気自動車や燃料電池車などの最新技術を搭載した車両を導入すること、レジャー施設や観光施設などと提携する方法が挙げられます。

例えば、日産自動車が提供するカーシェアリングサービス「NISSAN e-シェアモビ」では、車両の前後左右にカメラを配置し、車両を真上から見下ろしているように見える映像を撮影することで、車庫入れや発進時の安全確認をサポートするシステムや、走行時の車間距離を自動的に調整するシステムなど、より安全に運転するための技術を搭載した車両を利用することができます。

その他、タイムズカーシェアでは、車両の予約時にタイムズカーシェアが指定するレジャー施設や観光施設をドライブチェックインとして目的地に設定し、設定した施設の駐車場に一定時間駐車することで、電子優待券を受け取ることができます。

また、会員カードを施設で提示することで、入場料の優待などの特典を受けることができます。

4 大手カーシェアリング企業の取り組み

ここでは、大手カーシェアリング企業の取り組みと、カーシェアリングのステーションを設置するに当たっての条件や留意点についてヒアリングした結果を紹介します。

1)タイムズ24

時間貸し駐車場やカーシェアリングサービス、温浴施設の運営などを手掛けるタイムズ24では、カーシェアリングサービスの「タイムズカーシェア」を提供しています。

同サービスの取り組みとして、官民連携によるカーシェアリングサービス普及の活動が挙げられます。市庁舎に電気自動車のカーシェアリングを設置し、平日は職員の公用車、休日は市民や観光客用の車両として利用してもらうことで、カーシェアリングの認知拡大や交通利便性の向上などに取り組んでいます。

同社ウェブサイトによると、カーステーションの設置は、平面もしくは自走式の駐車場であること、路面にステッカーやスタンド看板などを設置できることが条件になります。車両の配備やメンテナンス、必要な機材の設置をタイムズ24側で行うため、無料でカーステーションを設置することができます。契約から1カ月で車両が配備されます。

同社へのヒアリングによると、「カーシェアリングのステーション設置に当たっては、現地の商圏調査や駐車場周辺の情報を調査した上で、駐車場の賃料や設置する車両などのプランを相談している。カーシェアリングの場合は、途中解約の場合の違約金も発生しない」とのことです。

2)オリックス自動車

レンタカーやカーシェアリングサービスなどを手掛けるオリックス自動車では、カーシェアリングサービスの「オリックスカーシェア」を提供しています。同サービスは、顧客満足度の調査・コンサルティングを手掛けるJ.Dパワーのカーシェアリング顧客満足度調査において、総合満足度で3年連続No.1を獲得しています。2018年から安全性の高いブレーキアシスト付きの車両への入れ替えを進めている他、スマートフォンアプリにオリックスレンタカーの店舗検索や予約機能を追加し、より便利にサービスを利用できるように取り組んでいます。

同社ウェブサイトによると、カーステーションの設置は平置きもしくは自走式の駐車場であること、NTTドコモのFOMAの電波が恒常的に受信できることが条件になっています。問い合わせからステーション開設までの期間は3カ月としています。

同社へのヒアリングによると、「現地の商圏調査などを1週間程度行った上でステーションの設置が可能かどうかを判断している。原則として1~2年の期間で賃貸借契約を結び、月決めで賃料を支払う形になる。また、ステーションの運用・管理は全てオリックス側で行うため、駐車場への特別な工事や費用は発生しない」とのことです。

3)三井不動産リアルティ

不動産仲介や駐車場の管理運営などを手掛ける三井不動産リアルティでは、カーシェアリングサービスの「カレコ・カーシェアリングクラブ(careco)」を提供しています。同サービスは、首都圏と関西の三井のリパークを中心にステーションを展開しています。普段の利用に便利な車両だけでなく、オープンカーやキャンピングカーなど、カーシェアでは珍しい車両や高級車を積極的に導入していることが特徴です。

4)アース・カー

カーシェアリングサービスや駐車場シェアリングサービスを手掛けるアース・カーでは、カーシェアリングサービスの「アースカー」を提供しています。

同サービスでは、カーシェアリング事業への参入をトータルで支援する事業者向けプラットフォームを提供しています。これは、カーシェアリングの運営に当たって必要となる仕組みをパッケージ化して提供するもので、車両とステーションとなる駐車スペースを用意すればカーシェアリングの運営を始めることができます。企業規模を問わず、参加企業の社名やサービス名などでカーシェアリングサービスを展開できるのが特徴です。

同社ウェブサイトによると、イニシャル費用は、車載器が3万9800円台/(税抜)、キーボックスが2万2800円/台(税抜)、ランニング費用は、データ通信・システム利用月額料が1万円/台(税抜)となっています。

同社へのヒアリングによると、カーシェアリングの運営については、「1台から始めることができるが、車両1台当たりの収益が高くないことや、車両の故障や事故などが発生した場合に事業が止まってしまうことから、複数台での導入を推奨している。なお、駐車場のシェアリングサービス、カーシェアリングのプラットフォーム登録いずれの場合も、駐車場への設備の設置や特別な工事などは必要ない」とのことです。

5)名鉄協商

オフィス用品などの法人営業、駐車場事業などを手掛ける名鉄協商では、カーシェアリングサービスの「カリテコ(cariteco)」を提供しています。名古屋市を中心に341カ所のステーションを展開しています。ステーションは名鉄協商パーキングを主な拠点にしており、カリテコの車両を利用中は、車両を貸し出した場所以外の名鉄協商パーキングも無料で利用できる、交通ICカードを会員カードとして利用できる、同乗者が会員の場合は、運転の交代ができるといった特徴があります。

同社へのヒアリングによると、「車両や看板などの必要な設備は名鉄協商側で全て手配するため、ステーション設置に当たって特別な費用は掛からない。賃料は相談の上で決めている」とのことです。

以上(2019年8月)

pj50443
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地域全体で取り組む“食”を切り口にした活性化

書いてあること

  • 主な読者:飲食業や観光業の経営者、地域を活性化させたい経営者
  • 課題:“食”を活用して地域へ人を呼び込む際に、効果を高め、持続させたい
  • 解決策:「ガストロノミーツーリズム」など、地域の人たちが連携し、さまざまな“潜在資源”を掘り起こして地域全体の魅力を高める

1 集客効果を地域全体へ長期的に波及させる

“食”で集客し、地域に賑わいを与える。例えば、地元の名産・名物料理を売り込んで観光客を呼び込むなどの手法が既に行われています。集客対象を縦軸、集客方法を横軸にして整理すると、次のようになります。なお、下表の位置付けは一例であり、取り組みを正確に比較したものではありません。個別の活動によってさまざまな評価があります。

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多様な取り組みの中で、最近注目を集めているのが「ガストロノミーツーリズム」、農山漁村の「農泊」、市街地などでの「シェアキッチン」です。これらに共通するのは、歴史文化や自然、創業意欲の高い住民など、地域のさまざまな“潜在資源”を掘り起こし、“食”を核として集客していることです。

集客効果を地域全体に波及させ、街全体を長期的に活性化させる狙いがあるわけですが、個店にとっても、街全体が活性化すれば持続的な集客効果につながります。“食”をキーワードとした地方創生にはさまざまなプレーヤーが関係します。そうした人々の取り組みの一助となるよう、ガストロノミーツーリズム、農泊、シェアキッチンの動向を紹介します。

2 国連が提唱するガストロノミーツーリズム

1)ガストロノミーツーリズムとは

ガストロノミーツーリズムは、「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」と定義されており、国連世界観光機関(以下「UNWTO」)が提唱しています。その背景には、SDGs(持続可能な開発目標)の一環として、持続可能な地域づくり、地域の食文化の保護継承という視点があります。

国内では、2015年12月にUNWTOと包括的業務提携を結んだ日本観光振興協会が中心となって推進しています。

2)最終目標は持続可能な地域づくり

地域の食材や郷土料理を前面に打ち出した観光旅行には、ガストロノミーツーリズムより以前から、「フードツーリズム」などの表現が用いられています。フードツーリズムも、地域の食文化にまで触れるという意味合いを含んで使用される場合があるので、表面上の使われ方には大きな違いはないといえそうです。

ただし、前述のようにガストロノミーツーリズムには、最終的に持続可能な地域づくりというゴールを目指すという視点が含まれていることが特徴となっています。

日本観光振興協会がぐるなび、UNWTO駐日事務所とともに、同協会の会員向けに作成した「我が国のガストロノミーツーリズムに関する調査報告2018」(以下「調査報告」)では、各地のガストロノミーツーリズムの取り組みについて、このゴールに向けた達成度を指標で示しています。指標には、国内外の観光客から注目を浴びてツーリズムにつながっているかを示す「アウトプット指標」と、食文化の保護継承に結びついているかという「アウトカム指標」の2種類を設定しています。

この指標を基に取り組み事例を分析することで、自分たちの取り組みに足りない部分や、他地域の先進的な事例から参考にすべき点が分かる仕組みになっています。

3)ガストロノミーツーリズムの事例

調査報告に掲載されているガストロノミーツーリズムの事例は、次の通りです(一部を抜粋してまとめています)。

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3 農山漁村にインバウンドを取り込む農泊

1)農泊とは

農泊(注)とは、「農山漁村滞在型旅行」を指します。関係閣僚や有識者で構成する「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が2016年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」の中で、「日本ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ農泊」を推進することが掲げられました。

2017年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、農泊をビジネスとして実施できる体制を持った地域を2020年までに500地域創出することにより、農山漁村の所得向上を実現するとしています。このため農林水産省は農泊支援地域を採択し、農山漁村振興交付金などの支援を行っています。

農泊の普及は訪日旅行(インバウンド)の取り込みへの期待が寄せられており、農林水産省は農泊支援地域を、アジアを中心とした海外のタレントやブロガーを起用したインターネット動画およびSNSなどの配信によっても紹介しています。また、「SAVOR JAPAN」のブランドで、訪日外国人に特化したグルメサイトを通じた情報発信も行っています。

(注)「農泊」(農家による宿泊施設の提供)は、NPO法人安心院町グリーンツーリズム研究会会長の宮田静一氏の登録商標です。それ以外の「農泊」は農林水産省の商標です。

2)推進組織には民間企業も参加

農林水産省は、2018年12月に「農泊推進のあり方検討会」を発足させ、農泊推進対策として、多様なプレーヤーを構成員とする地域協議会を設置し、法人格を持つ事業体(中核法人)が地域の取りまとめを行う体制の整備を目指すとしています。

農林水産省が2018年12月に公表した「農泊推進の現状と課題について」によると、中核法人の主たる事業は、農林漁業関連、観光協会等非営利事業の他、宿泊事業や小売事業などの民間企業が農泊の中核を担っている事例も少なくありません。

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3)農泊の取り組みと実績

同じく農林水産省「農泊推進の現状と課題について」によると、農泊支援地域の体験プログラムおよび開発食事メニュー数の推移は、次の通りです。

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同資料では、2017年度のインバウンド向けの体験プログラムの事例として、最東端のクルージング体験(北海道根室市)や、稲刈り体験(静岡県湖西市)、武家屋敷着物茶道体験(鹿児島県出水市)を挙げています。

また、インバウンド向け食事プログラムの事例として、46品目の発酵かご盛りランチ(島根県邑南町)、地元の食材を使ったフレンチ(京都府南丹市)、ハラル対応農家民泊(青森県南部町)を挙げています。

こうした取り組みが奏功し、農泊支援地域における2017年度の外国人宿泊者数は、2016年度の約6万7000人泊の約2.1倍となる約14万2000人泊となり、インバウンドの取り込みに一定の成果が見られました。

なお、農林水産省はインバウンド対応に向けた農泊の取り組みに関する優良事例を紹介している他、農泊プロセス事例集も掲載しています。

■農林水産省「農泊の取組に関する優良事例」■
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/nouhaku/170203.html

4 空き店舗対策と創業支援を兼ねたシェアキッチン

1)シェアキッチンとは

シェアキッチンとは、厨房施設および付随する飲食・物販施設などを、通常の年間単位などの長期契約ではなく、時間単位などスポットで貸し出すものです。時間によって別の事業者が出店したり、同時に複数の事業者が出店したりすることもあります。

借り手にとっては安い初期投資額で出店でき、退店も容易なので、試行的な出店や期間限定での出店にも適しています。また、シェアキッチンを貸し出す運営者が食品衛生法に基づく飲食店営業許可を取得している場合、飲食業が未経験の人でも食品衛生責任者の資格さえあれば、出店できるメリットもあります。

前述のガストロノミーツーリズムや農泊は地域を挙げた大プロジェクトであり、海外など遠方からの集客も狙っていましたが、シェアキッチンは規模が小さく、あまりコストを掛けずに始められることもあり、それほど広い商圏を設定していないケースが多いようです。このため立地は市街地など、ある程度の人口集積ないし人の往来がある場所のほうが適しているとみられます。

2)シェアキッチンの担い手はさまざま

シェアキッチンは、営利目的で不動産業などの民間企業が事業展開している他、地域活性化や空き店舗対策といった観点からNPO法人や地域の有志の集まりが企画してスタートさせたものなどもあります。中には、クラウドファンディングで得た原資をもとに始めるケースなどもあるようです。例えば、東京都武蔵野市には同市の創業サポート開設支援事業の対象となった「MIDOLINO_」「8K」という2カ所のシェアキッチンがあります。また、静岡県東伊豆市には芝浦工業大学の学生によって改修された空き家を、NPO法人に移管して運営している「ダイロクキッチン」があります。

以降では、シェアキッチンを市街地の活性化に結びつけようとしている東京都豊島区の取り組みを紹介します。

3)市街地の活性化にも活用できるシェアキッチン

東京・池袋駅から西に2キロメートルあまり、かつて手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らの漫画家が集った「トキワ荘」があった豊島区南長崎地区の「トキワ荘通り」に2019年1月、シェアキッチン「コマワリキッチン」が誕生しました。

副都心、池袋を擁する同区ですが、総務省による2013年の住宅・土地統計調査(抽出調査)では空き家率が全国平均の13.5%を上回り、東京23区でワースト1の15.8%でした。これを受けて同区は、2018年4月に「豊島区空家活用条例」を施行するなど、空き家対策に力を入れています。

こうした対策の一環で誕生したのがコマワリキッチンです。同区は起業支援を主眼に、2018年度に「平成30年度『豊島区創業チャレンジ支援施設開設事業補助金』採択事業」を実施し、民間企業からの提案を募りましたが、新築物件でないことを条件にしており、実質的に空き店舗対策の意味合いが含まれています。

さらに、同区は、この採択事業を地域活性化に結びつける狙いから、商店街に出店する場合は地元の商店会に参加するということも条件に加え、コマワリキッチンの提案を採用しました。

4)地域住民や観光資源との連携も

コマワリキッチンは40平方メートルほどのスペースに、2つのキッチンと冷蔵ショーケースおよびカウンター、飲食スペースが用意されており、同時に2組の出店が可能です。これまでに菓子作りの好きな主婦や喫茶店の起業希望者による出店、弁当屋による仕込みのための厨房の借用、味噌やパン作り教室の開催など、地元住民を中心に幅広い用途で活用されているようです。

コマワリキッチンの特徴的な点は、地元の名所であるトキワ荘と連携して集客を図ろうとしていることです。豊島区はコマワリキッチンのある南長崎地区などを「トキワ荘ゆかりの地」として街づくりを進めており、2020年3月にはトキワ荘通り沿いにトキワ荘を再現した「(仮称)マンガの聖地としまミュージアム」を開設する予定です。

コマワリキッチンの名前の由来は、キッチンをシェアすることをマンガの「コマ割り」に例えて付けられたものです。同区による支援は3年間で終了しますが、コマワリキッチンにはトキワ荘関連の施設と連携したイベントをはじめ、地元住民との協働により、賑わいを創出する拠点としての役割が期待されています。

5 企画力と協力者を増やすことが重要に

本稿で紹介した3つの取り組みは、“食”を切り口とし、地域のさまざまな資源を連携させて集客につなげるものです。地域の人たちが連携していくには、まずは中心となる企業ないしは自治体などの団体の企画・構想力と行動力、そして周囲を巻き込み協力者を増やすことが必要となります。地域の人たちが連携し、地域全体の魅力を高めていくことで、集客力が高まるとともに顧客満足度も向上し、リピーターの増加にもつながります。

協力者を増やすには、その企画に賛同してもらうことが前提です。“郷土愛”に訴えかけることも大事ですが、街全体の活性化がもたらすビジネス上のメリットを定量的に示すことも必要でしょう。

店や街に多くの人が集まるということは、これまで自分たちが築いてきた“食”などの資源が、多くの人に評価されているということを意味します。外部から高い評価を得ることは、自分たちの街への誇りと愛着にもつながります。その誇りと愛着が、街の魅力をもっと多くの人に理解してもらおうというエネルギーになれば、集客と街の活性化という好循環が生まれることでしょう。

以上(2019年4月)

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画像:unsplash