営業権(のれん)の評価と償却の取り扱い

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者や経理担当者
  • 課題:営業権(のれん)が会社の財政状態にどのような影響を与えるのか知りたい
  • 解決策:営業権の基本的な考え方から、会計上の取り扱いを解説する

1 営業権の評価

1)営業権の定義

営業権とは、特定企業が同種の平均的企業と比較して超過収益力を持っている場合、この超過収益力の一般的要因を価額評価したものを指します。

会社法並びに企業会計は、営業権を個別の権利として規定していませんが、会社計算規則第11条で、「のれん」としての営業権の計上が認められています。なお、ここでは、単体上ののれんを対象としており、連結上ののれんは含みません。

【会社計算規則第11条】
会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。

のれんの具体的な内容は、超過収益力を有するための無形の財産的価値を有する事実関係であり、その超過収益力の要因としては、企業の伝統と社会的信用、立地条件、経営の優秀性、優れた技術の保有(秘法や秘伝など)、特殊の取引関係の存在とそれらの独占性(仕入先・販売先・金融機関などとの親密性)、生産設備・技術・人的組織の優秀性(従業員の熟練度・管理者の管理能力・労使の協調性)などを総合一体化したものということができます。

企業会計では企業会計原則・貸借対照表原則5のEと注解25で、営業権を無形固定資産とし、その償却の取り扱いを定めています。

【企業会計原則・貸借対照表原則5のE】
無形固定資産については、当該資産の取得のために支出した金額から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。

【企業会計原則・注解25】
営業権は、有償で譲受け又は合併によって取得したものに限り貸借対照表に計上し、毎期均等額以上を償却しなければならない。

なお、法人税法上の営業権(資産調整勘定(注))の概念は、かつて他社から購入したものだけを認めていました。その営業権は会計上の超過収益力による営業権の他、「繊維工業における組織の登録権利、許可漁業の出漁権、タクシー業のいわゆるナンバー権のように法令の規定、行政官庁の指導等による規制に基づく登録、許可、割当て等の権利を取得するために支払う費用」を営業権とし、5年間の均等償却を要求しています。

現在では他社購入の営業権に加え、一定の合併等により資産または負債を受けた場合において、移転を受けた法人がその合併等により交付した金銭等の額について調整勘定が生じるときは、その調整勘定は借方勘定の場合は正ののれん(資産)として計上し、20年以内の償却期間で定額法により償却し、貸方勘定の場合は負ののれん(負債)として計上し、原則として特別利益とします。

(注)税法上の営業権については、法人税法と相続税法で名称や取り扱いが異なります。法人税法上では、法人が一定の合併などに伴い生じる「資産調整勘定」に、相続税法上では、一定の相続や贈与に伴い生じる「営業権」になります(詳細は後述)。ここで用いる営業権は法人税法上の資産調整勘定を意味し、会計上の営業権と基本的に同じ概念のものになります。

2)営業権の評価

会社法並びに企業会計が、営業権を認めるのは企業の事業譲渡、合併、吸収分割が行われる際に限られます。ここでは分かりやすいように企業合併(買収)のケースで見てみます。

企業を買収する際、買収対象の企業価値は、時価純資産価額方式を基礎に考えることが一般的です。

画像1

 被買収企業の時価純資産価額方式による企業価額は、次の通りです。

  • イ.資産(A)+含み損益(D)-負債(B)

しかし、この企業価額は資産の時価を合計したものにすぎず、営業権などの価値が含まれていません。一方、営業権を含んだ企業の正しい価値を評価しようとすれば、次の通りです。

  • ロ.資産(A)+含み損益(D)+営業権(E)-負債(B)

通常、被買収企業の価額はイ.ロ.のいずれかで決定します。

ここで「営業権の価額をいくらに設定するか」という問題が発生します。そもそも営業権とは、実際の買収価額から時価による資産と負債の合計を引いた金額としています。つまり、買収企業が被買収企業に対して支払った金額から、被買収企業の時価純資産を引いた金額を営業権の価額としており、会社法並びに企業会計では先に営業権の価額が決定しているという解釈ではなく、あくまで後付け的な曖昧なものとなっています。

実際の買収の場面では、営業権の価額は当事企業間で取り決められます。そのため、買収企業が被買収企業の不動産や生産設備以外に資産的価値を認めない場合は、営業権の価額はゼロとなります。半面、是が非でも買収したい企業の場合には営業権の価額は高く設定されます。

通常、被買収企業は営業権の価額を高く評価しがちです。そのため買収企業が妥当と考える営業権の価額と大きくかけ離れるケースも少なくありません。

なお、赤字企業の場合は同種の平均的企業よりも超過収益力があるとはいえないため、営業権が認められないのが一般的です。ただし、赤字企業であっても特殊な諸権利、強固な販路、高付加価値の商品などを保有し、将来の超過収益が見込める場合は、営業権として認められる場合があります。

3)財産評価基本通達による評価

相続税法上の営業権に係る評価方法は、財産評価基本通達(165~166:第7章「無体財産権」第9節「営業権」)に規定されています。

画像2

画像3

4)寄附または贈与に留意する

営業権に関する課税は財産評価基本通達による営業権の価額が基準となります。被買収企業の営業権を財産評価基本通達による営業権の価額より著しく高く評価し、買収企業が対価を支払った場合は、買収企業は寄附金課税、被買収企業は受贈益課税の対象になります。反対に、財産評価基本通達による営業権の価額より著しく低い価額で買い取った場合には、買収企業は受贈益課税、被買収企業は寄附金課税の対象になることがあるので注意が必要です。

これは税法上、資産の譲渡は時価で行われるのが原則なので、営業権(無形固定資産)の譲渡についても同様に取り扱われているためです。

2 営業権の償却の取り扱い

営業権は無形固定資産なので、当該資産の取得のために支出した金額から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とします。

営業権の減価償却については税務上、「無形減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって、営業権の耐用年数は5年と規定されています。なお、その減価償却額は定額法でなければなりません。

以上(2020年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 鬼丸真史)

pj35071
画像:hoto-ac

負担付贈与って何?

書いてあること

  • 主な読者:財産と同時に債務の贈与を検討している人
  • 課題:贈与された資産が何かなどによって、贈与税の計算が異なるなど複雑な仕組みになっている
  • 解決策:負担付贈与の基本的な考え方と主な計算パターンを、事例を交えながら解説

1 負担付贈与とは

負担付贈与とは、受贈者(贈与を受ける人)に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。個人から負担付贈与を受けた場合は贈与財産の価額から負担額を控除した価額に課税されることになります。

この場合の課税価格は、贈与された財産が土地や借地権などである場合および家屋や構築物などである場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額によることになっています。

また、贈与された財産が上記の財産以外のものである場合は、その財産の相続税評価額から負担額を控除した価額となります。

なお、負担付贈与があった場合において、その負担額が第三者の利益に帰すときは、第三者は負担額に相当する金額を贈与により取得したことになります。

相続税法基本通達には負担付贈与について、次のように定められています。

1)負担付贈与等(相続税法基本通達9-11)

負担付贈与又は負担付遺贈があった場合において当該負担額が第三者の利益に帰すときは、当該第三者が、当該負担額に相当する金額を、贈与又は遺贈によって取得したこととなるのであるから留意する。この場合において、当該負担が停止条件付のものであるときは、当該条件が成就した時に当該負担額相当額を贈与又は遺贈によって取得したことになるのであるから留意する。

2)負担付遺贈があった場合の課税価格の計算(相続税法基本通達11の2-7)

負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における当該財産の価額から当該負担額(当該遺贈のあった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によるものとする。

3)負担付贈与の課税価格(相続税法基本通達21の2-4)

負担付贈与に係る贈与財産の価額は、負担がないものとした場合における当該贈与財産の価額から当該負担額を控除した価額によるものとする。

2 贈与税の課税対象金額

繰り返しになりますが、負担付贈与とは、受贈者に第三者に対して一定の給付をすべき債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。個人から負担付贈与を受けた場合の課税は贈与財産の価額から負担額を控除した価額に課税されることになります。

例えば、父親から時価2000万円の土地の贈与を受ける代わりに父親の有する借入金1000万円を負担することとした場合の贈与税の課税対象金額は次の通りです。

  • 土地の時価2000万円-借入金1000万円=贈与税の課税対象金額1000万円

3 贈与財産の価額

贈与財産が、「土地等又は建物等」(土地及び土地の上に存する権利並びに家屋及びその附属設備又は構築物)か、「土地等又は建物等以外」の財産であるかで財産の価額の評価方法が異なります。

贈与された財産が「土地等又は建物等」である場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担することとなる債務額を控除した価額によることになっています。「土地等又は建物等」が贈与財産の場合、その価額は相続税評価額ではないのです(相続税関係個別通達(注))。

(注)個別通達、平成元年3月29日(改正平成3年12月18日)「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」

一方、「土地等又は建物等以外」の財産の場合、その価額は相続税評価額になります。贈与された財産が「土地等又は建物等以外」の財産のものである場合は、その財産の相続税評価額から負担することとなった債務額を控除した価額となります。

国税不服審判所の平成18年12月15日裁決(裁決事例集No.72 218頁)によると、「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び建物等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」通達でいう「通常の取引価額」は、贈与があったとされる当時の課税の対象となる資産の現況を考慮し、最も合理的かつ適切な評価方法により当時の時価を見いだすべきであり、土地については公示価格に基づいて算出する方法により、また、建物については再建築価格を基準とした価額から、建物の建築時からその経過年数に応じた減価又は償却費の額を控除して算出する方法によるのが合理的かつ最も適切な評価方法であると認めるのが相当であるとされています。

4 第三者の利益

負担付贈与があった場合において、その負担額が第三者の利益に帰すときは、第三者は負担額に相当する金額を贈与により取得したことになります。

例えば、兄に金融機関からの借入金があり、父親の土地がその担保に供されていたとします。その土地が弟に贈与されるに当たり、兄の借入金の返済も弟が引き受ける場合、兄は借入金の分の贈与を受けたことになります。

画像1

5 相続税・贈与税の税率

1)相続税の税率

相続税の税率は次の通りです。

画像2

2)贈与税の税率

贈与税の税率は次の通りです。

画像3

以上(2020年1月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

pj30081
画像:photo-ac

17年ぶりのガイドライン改定 パソコン業務による健康問題

書いてあること

  • 主な読者:長時間のパソコン業務がある企業の経営者など
  • 課題:この業務による従業員の健康悪化は問題。どうすれば防げる?
  • 解決策:「片方のまぶたがけいれんする」などの症状は、作業環境が原因である可能性が高い。症状を訴える従業員がいたら、付属のチェックシートを使って改善点を確認する

1 アンケートに見るパソコン業務への対応

長時間に及ぶ「情報機器作業」(パソコンやタブレット端末などを使ったデータ入力、文章・画像の編集、監視などの作業)は、眼精疲労、首・肩こり、腰痛、抑うつ症状など、さまざまな不調を引き起こす恐れがあり、社会的な問題となっています。

しかし、全国の経営者に対して行った独自アンケートによると、情報機器作業による健康悪化への対応を「行っている」のは全体の21.0%にとどまり、「健康悪化が認められるが行っていない」のは36.9%という結果になりました。

画像1

「健康悪化が認められるが行っていない」、最も大きな理由は「どんなことをしたらよいか分からないから」の30.6%、次は「対応を進める上での知識・ノウハウがないから」の25.9%でした。

情報機器作業による従業員の健康悪化に問題意識を持ちつつも、情報不足により具体的な対応策を見いだせない企業が多いことが分かります。

画像2

一方、対応を講じている企業に具体的な対応策を聞いてみたところ、最も多かったのは、「照明・採光の調整・管理」の58.3%、次は「デスク(作業台)や椅子の改善」の56.5%でした。

画像3

必要な対策は作業環境などによって異なりますが、具体策を検討する上で参考になるのは、実に17年ぶりに改定された「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)です。

2 17年ぶりに改定されたガイドラインのポイント

ガイドラインは、2002年4月に公表された「VDT(Visual Display Terminals)作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を、近年の情報機器の多様化などを踏まえて、17年ぶりに改定したものです。

ガイドラインは、産業医学や人間工学などの知見に基づき、適切な採光条件や作業時間などを具体的に示しており、産業医による職場巡視の際などに、チェックの基準となります。

ガイドラインの改定のポイントは、情報機器作業において、「拘束性のある作業」を健康悪化の最も大きな原因としたことです。拘束性のある作業とは、次の通りです。

  • 【拘束性のある作業の定義】
    1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれか
    • 作業中、常時ディスプレイを注視、または入力装置を操作する必要がある
    • 作業中、自身の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である

ガイドラインでは、上記のような作業者に対し、事業者は、適切な作業環境管理などの他、配置前および1年に1回、「業務歴」「既往歴」「自覚症状の有無」「眼科学的検査」「筋骨格系検査」について健康診断を実施することとしています。

これら情報機器作業に関する健康診断は、一般的に「VDT健診」などと呼ばれます。VDT健診では、受診者ごとに眼や首・肩などに関するアドバイスや、作業環境の改善点の指摘などを行ってくれることが多いようです。

■情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(厚生労働省「職場における労働衛生対策」ページの「情報機器作業」にアップされています)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02.html

3 パソコン業務が原因かどうかを見分けるには?

VDT健診を実施している医療機関へのヒアリングによると、「VDT健診を依頼する企業や、情報機器作業による健康悪化を訴える人はかなり増えている。ただし、拘束性のある作業に従事して、健康悪化の症状を訴えている人でも、本当に作業環境の改善が必要なレベルではない場合も多い」(*)とのことです。

(*)2019年12月13日時点

では、どのような症状がある場合に、VDT健診を受診したり、作業環境の改善が必要になったりするのでしょうか。同医療機関へのヒアリングによると、次の自覚症状がある場合、作業環境の改善項目が見つかる可能性が高いとのことです。

  • 【作業環境などが要因となっている可能性が高い症状】
    次のいずれかの症状が、睡眠をしっかり取った翌日も改善しない場合
    • 午後にかけて、眼の奥に痛みを感じる
    • 午後にかけて、眼を開けていたり、物を見るのがつらい
    • 片方のまぶたがけいれんする

上記のような自覚症状を訴える従業員がいたら、原因となっている作業環境を洗い出し、改善していきましょう。

4 【チェックシート】あなたの職場の問題点と改善策

ガイドラインなどを基に、健康悪化の原因になりやすい作業環境と、その改善策の例をチェックシートにまとめたので、ぜひご活用ください。

なお、産業医業務を受託している企業へのヒアリングによると、「工場など製造現場の執務スペースや、小売業のバックオフィスなどは、照明や採光、デスク(作業台)や椅子などの作業環境が整っていないことが多い。ただし、情報機器の数が多くないので改善されやすい」(*)とのことです。

一方で、「パソコン業務が多い企業では、照明や採光、デスク(作業台)や椅子などは整っているものの、姿勢や連続作業時間など、自助努力で改善できる部分が整っていないことが多い」(*)とのことです。

(*)2019年12月13日時点

画像4

5 ノートパソコンでの作業は特に注意

前述した産業医業務を受託している企業へのヒアリングによると、「最近は、フリーアドレスで、従業員がノートパソコンを使う事業所が増えている。ノートパソコンでの作業は姿勢が悪くなりやすい」(*)とのことです。

(*)2019年12月13日時点

日本人間工学会「ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン」によると、ノートパソコンでの作業の際には、次のような点に特に注意が必要とされています。

  • ノートパソコンを狭いデスク(作業台)に置いたり、資料を横に置きながら作業したりすることで、ねじれ姿勢になりやすい
  • ノートパソコンはディスプレイとキーボードが一体化しているため、前かがみになり、眼との距離が近くなりやすい
  • キーが小さかったり、作業スペースが十分でない場合、手首が外側へ曲がった窮屈な姿勢になったり、手首に対して指先側が外側へ曲がりすぎたり(尺側変位)、手首から先が上方向(背屈)あるいは下方向(掌屈)に曲がりすぎたりしやすい

このような状況で作業している従業員が見られる場合は、正しい作業姿勢を図解したチラシなどを用いて、自助努力による姿勢改善を促しましょう。

また、キーボードが小さすぎると感じる従業員のために、外付けキーボードを用意しておくのもよいでしょう。

以上(2020年1月)

pj40040
画像:pixabay

【朝礼】「裏メニュー」が出てくる関係の作り方

私は、旅行をしたときや、新しいお店で食事をするとき、積極的に地元の人や店員に話しかけるようにしています。

先日の出張でもそうでした。次のアポイントまで少し時間が空いたので、私は小さな川沿いの道を歩いていました。そのときはまだ、私にとって何の変哲もない小川です。少し歩いて喉が渇いたので、私は川沿いにあるカフェに入りました。そのカフェには小さな美術館が併設されていて、ちょっと変わった空間でした。

コーヒーを注文するとき、「美術館が併設されているなんてすてきですね」と、店員に話しかけたところから会話が始まりました。その店員は、なんと美術館の館長で、小川や展示物のことをいろいろと教えてくれました。例えば、小川には、秋になると鮭が帰ってくるそうです。また、川辺には季節ごとに美しい花が咲き、展示物はそうした自然をモチーフにしているとのことでした。

館長の話を聞いたことで、何の変哲もなかった小川が、一気に特別なものになりました。鮭が帰ってくる様子や、季節の花が咲き誇る景色を想像するのは楽しいものです。同じ時間を同じ場所で過ごすとしても、経験に格段の深みが増すことが分かると思います。

飲食店でも同じです。「おいしいですね」「丁寧な接客をありがとう」と伝えることで、店員はお店の歴史や大切にしていることを教えてくれたり、ちょっとしたサービスをしてくれたりします。

皆さんの中には、店員に気軽に話しかける私の姿を、“オヤジ臭い”と言う人がいます。店員が女性の場合は余計に、「私がその店員と話したいだけ」だと思うのでしょう。そう言われると、私は「なんて発想力がないのだ。もったいないな」と思ってしまいます。

日本では、黙っていても金額なりのサービスが受けられます。しかしそれは、マニュアル通りの、何の変哲もないサービスです。一方、いきつけの飲食店で「裏メニュー」が出てくることがありますが、いきなり出てくるわけではありません。店員と仲良くなり、「作ってほしい」「食べてみたい」などと、こちらからお願いしたからこそ出てくる、特別なサービスなわけです。

商談相手に、「予算がない」と紋切り型の断り文句を言われ、諦めている人はいませんか。無機質に断られてしまうのは、こちらも決まり切ったマニュアル通りの営業しかできていないからです。相手は予算を持っています。ただ、「私たちにその予算を使おう」と思ってくれていないだけなのです。相手にとって、皆さんは何の変哲もない営業担当でしかありません。早くそこから脱し、特別な存在になりましょう。相手が求めることを考えるのが基本ですが、いきなりビジネスの話をしているようでは駄目で、会話の広がりが大切なのです。どうすればよいのか。そのヒントは、飲食店の店員との気軽な会話にあることも少なくないのです。

以上(2020年1月)

pj16990
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】考えたら行動する。それが基本だ!

今年の4月から偶数月に皆さんと個人面談をしています。12月で5回が終わったわけですが、この面談を通じて、皆さんがさまざまなことを考え、また意見を持っていることが分かりました。

例えば、「業務プロセスを改善したい」「若手の教育をもっと丁寧にやりたい」「業務の平準化を図って、全体の残業時間を削減したい」「資格を取得して、もっと自分のスキルを高めたい」など、とても素晴らしいものです。

ただ、残念なことがあります。それは、私が少し質問をしただけで、皆さんは自分の考えを言えなくなってしまうことです。私は決して難しい質問をしているわけではありません。「資格を取得したい」という人には、「何の資格を取得するのか、いつから勉強を始めるのか」といったことしか質問していません。また、「若手の教育体制を整えたい」という人には、「仕組みができるまでの間、あなたの残業が増えるかもしれませんが、よろしくお願いします」と言うと、「自分の残業が増えるのは嫌です」と答えます。しかし、残業をせずに若手の教育体制を整える具体的な方法を考えているわけではありません。

「『口だけ』で、しっかりと考えていないのだな」と感じます。「何かをやりたい」という気持ちの強さは人それぞれです。「本気でやりたい!」という強いものから、言ってみただけという程度のものまであります。皆さんのお話の多くは、言ってみただけ程度のものだったのでしょう。

しかし、私は、言ってみただけ程度でもいいと思っています。前向きに捉えるなら、何も考えていなければ口にすら出さないはずですから、それほど気持ちは強くなかったとしても、「やりたい!」という気持ちがあるのは確かなはずです。

少し寝坊をした休日。ランニングや買い物など、やりたいことがあるけれど、ダラダラとしているうちに気付いたら夕方になってしまい、結局何もしなかったという経験はありませんか。人は、「面倒だ」「難しい」と感じることほど、勢いで始めてしまわないと、なかなか行動に移すことができません。やりたい気持ちがあまり強くないことについても、これと同じです。

実際に行動をしてみると、やりたい気持ちが高まったり、逆に自分が求めていることではなかったと気付いたりします。結果として、三日坊主で終わるものもありますが、行動を起こさなければ分からないことなのです。

言ってみただけ程度でも、それを行動に移すことさえできれば、それが皆さんの成長のきっかけになります。ここで皆さんにお聞きします。皆さんは、私にいろいろなことを話してくれました。「それで、皆さんは行動しますか、考えているだけで終わりますか?」

次の個人面談は2カ月後です。もちろん、私が個人面談で聞きたいのは、皆さんの本気です。今朝の朝礼をきっかけに皆さんが行動し、やりたい気持ちが高まれば素晴らしいことです。

以上(2019年12月)

pj16985
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】理想の姿を描けば、なすべきことが見えてくる

ここ数カ月、私は知り合いの経営者に勧められて、「経営道場」なるものに参加しています。ここでは、受動的に学ぶのではなく、能動的にあるべき「理想の姿」を追求していきます。そして、理想の姿を実現するために足りていない部分を認識し、それを埋めるために最も効果的な取り組みを検討、実行します。

この一連の流れを繰り返す、こんなシンプルな経営道場での活動を通じて、私はとても重要な2つの気付きを得ました。今朝は、それを皆さんにお伝えします。

1つ目の気付きは、「『理想の姿』を持つ」ことの大切さです。経営道場の参加者は、向上心あふれる経営者ばかりなので、仕事についての理想の姿を熱く語ることができます。理想の姿を実現したいという思いは、日々の活力になります。

皆さんはどうですか。仕事でもプライベートでも結構です。「理想の姿」はありますか?

もしかすると、仕事について理想の姿を持つことは難しいかもしれません。私や上司の指示に従うことに慣れ過ぎていて、自由に発想することが苦手になっているかもしれないからです。

では、「皆さんに、仕事上の課題はありますか?」という質問ならどうですか。

こちらのほうが答えやすいのではないでしょうか。謙遜もあるかもしれませんが、自分の至らない部分、つまり課題を挙げるのは比較的、簡単なことでしょう。

問題は、皆さんが挙げた課題のほとんどが、改善に向かっていないと思われることです。それはなぜか。厳しい言い方かもしれませんが、課題について深く考えていないからです。この朝礼のように、課題の解決を約束するような場でなければ、「何となく、このままではいけない」と思っている程度のものについて、さも自分が思い悩んでいる重要な課題として話していないでしょうか。

ここで、経営道場で学んだ、重要な2つ目の気付きが活きてきます。それは、「自分を疑う」ことです。経営道場で私も熱く理想の姿を語りました。しかし、他の経営者から突っ込んだ質問をされると言葉に詰まってしまいました。考えているようで、実は表面的なところしか捉えていなかったのです。そこで、何度も何度も「それは本当に自分の理想なのか?」と自分に問いかけた結果、表面的な部分がそぎ落とされていき、本当の理想に近づけたのです。

理想が明確になると、今、克服しなければならない課題も分かります。課題を公式化すると、「理想-現実=課題」となります。本気で願う「理想の姿」から、正しい「現実」を引き算した結果が、今、取り組むべき本当の課題なのです。

ビジネスでは正しい課題設定が重要です。ただし、足元を見るだけでは正しい課題は見つかりません。思いつきレベルの課題でお茶を濁すのは、論外です。本当に重要な課題は、「理想の姿」を描くことで見つかるものなのです。

以上(2019年11月)

pj16981
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】勝ちたければ、やるべきことはひとつ

今日は皆さんに、私が知っているある2人の話をします。2人とも、私がよく行くビリヤード場で一緒にビリヤードをする人です。その2人の話から何を感じるか、それぞれ考えてみてください。

1人は、ビリヤードを始めてまだ2カ月とほぼ初心者なのですが、とても研究熱心です。ビリヤードのプロの動画を何度も何度も見て正しいフォームを一から覚え、ビリヤード場で繰り返し練習しています。思うように玉を突けないときは、プロの動画を改めて見直したり、ビリヤードの上手な人に頭を下げて教えてもらったりしています。やみくもに自分の突き方だけを押し通そうとせず、素直に教えを聞き、自分の良くない点を改善しようとしているのです。

こうした姿勢でビリヤードに取り組む彼は、まだ始めてたった2カ月ですが、どんどん腕を上げ、時にはビリヤード歴の長い人に勝つこともあるくらいです。

一方、もう1人は、かれこれ、もう2年以上ビリヤード場に通っている人ですが、言葉を選ばずに言えば、実に下手で、誰かに勝っているのをほとんど見たことがありません。研究熱心な彼とは違い、練習したり誰かに教わったりするわけでもないので、一向に上達する気配もありません。単にビリヤードをすること自体が好きなのかと思っていましたが、本人はとても負けず嫌いな性格で、「勝ちたい」といつも言っています。負けると悔し涙を浮かべることもあるくらいです。

研究熱心な彼と、上手ではない彼は、「勝ちたい」という気持ちは同じです。しかし、気持ちは同じでも、それを原動力にして実際に行動に移したかどうかで、その先は大きく違ってきます。

研究熱心な彼は、勝ちたいと思うからこそ、研究し、練習したり教わったりするのは当たり前だといつも言っています。これには非常に共感しますし、彼の本気度合いが伝わってきます。

その一方で、本人はどう考えているのか分かりませんが、上手ではない彼が「勝ちたい」と言っていても、とても本気には思えません。「勝ちたい」と言う割に、勝つための努力や工夫をしようとしていないからです。負けて悔し涙を浮かべるのも、「誰かに負けてしまう」という事実を、感情的に嫌がっているようにしか見えないのです。

ビリヤードは単なる遊びですが、この2人の行動は、仕事にも通じるところがあると思います。皆さんも、日ごろ仕事で、「こうすればいいのに」「もっとこうしたい」などといろいろと言うことがあるでしょう。果たして、皆さんの「こうしたい」は、どれだけ本気で言っていることなのでしょうか。皆さんは、「こうしたい」ことを、実際にどのような行動に移しましたか。

口であれこれ言うのは簡単です。誰でもできることです。大切なのは、その先に、実際に具体的な行動に移したかどうかです。皆さん、「口だけ」は早く卒業してください。行動が全てです。皆さんの本気の行動を期待しています。

以上(2019年11月)

pj16982
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】自分の「人付き合いルール」を持つ意味

先日、とても尊敬しているメンターの方から、人付き合いについて大切なことを教えてもらいましたので、それを皆さんに共有します。

実は、私は最近、仕事上で協業する可能性がある人との人間関係に困っていました。相手は悪い人ではないし、仕事で協業できそうなことも多いのですが、言動を見ているとどこか違和感があり、なんとなく打ち解けられずにいたのです。

そうした折、メンターの方とお会いする機会があったので、相手の実名は出さずに、私の心持ちだけを打ち明けてみました。するとメンターの方は、私にこう尋ねたのです。

「あなたが、『付き合わない』と決めているのは、どのような人ですか?」

正直に言えば、これまで私は、そうした視点で考えたことはありませんでした。「どのような人と付き合いたいか」と聞かれたら、恐らくすぐに答えることができたでしょう。しかし、「どのような人とは『付き合わない』のか」という問いかけに、私は答えることができませんでした。

メンターの方は続けて言いました。「経営者ともなると、多くの人と出会います。だからこそ、『こういう人とは付き合わない』というルールを持っておくことが、あなた自身と会社を守ることにつながります。『付き合わない』というルールに当てはまる人に出会ったら、早いうちに、お付き合いをお断りするのがよいでしょう。ただし、謙虚な気持ちで丁寧にお断りすることです」

私は、どのような人とは「付き合わない」のかをじっくりと考えてみました。私にとって大切なのは、やはり、「人」です。特に、社員や部下を大切にしていないと感じる人とは、たとえ仕事上のメリットがあっても、付き合いたくありません。当社の社員である皆さんのことも大切にしてもらえないような気がするからです。それが私の人付き合いのルールなのだと、初めて実感しました。

恐らく、私は今回、そうした点で相手に違和感を持ったのでしょう。その人との協業の話は、お断りしました。ただし、これはあくまでも私の主観です。実は社員や部下を大切にする人なのに、私が未熟で、そのことに気付けなかっただけなのかもしれません。そう考えると、メンターの方が言う「お断りは、謙虚な気持ちで丁寧に」というのも、よく分かる気がしたのです。

今日お伝えしたことは、皆さんには、まだピンとこないかもしれません。しかし、「こういう人とは付き合わない」という自分のルールを決めておくことは、皆さん自身が「どのように仕事をしていきたいか」「どのような人生を送りたいか」につながっていくのではないでしょうか。

ちなみに、尊敬するメンターの方は、「人の時間を大切にしない人とは付き合わない」と決めています。遅刻の他、自分勝手に仕事を進め、周りへの配慮がない人も該当するそうです。そうした方にお付き合いいただけることに感謝し、自分を顧みる軸にしようと、改めて感じました。

以上(2019年11月)

pj16983
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「私有スマートデバイス取扱規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 私有スマートデバイスを業務に利用する「BYOD」

スマートフォンやタブレット端末などの携行可能な情報通信機器(以下「スマートデバイス」)が普及し、従業員が私有スマートデバイスを業務に利用する「BYOD」(Bring Your Own Device)という考え方が広まっています。

従業員にとってBYODは、使い慣れたスマートデバイスで、自ら導入したアプリケーション(アプリ)やクラウドサービスを利用し、いつでもどこでも業務を行えるという面で大きなメリットがあります。例えば、次のような行為を日常的にしているビジネスパーソンは少なくないのではないでしょうか。

  • 私有のスマートフォンで顧客に連絡し、訪問のアポイントメントを取る
  • 私有のスマートフォンにインストールした名刺管理アプリで顧客情報を管理する
  • 私有のタブレット端末で会社のサーバーにアクセスし、メールを確認する
  • 自宅で私有のタブレット端末を使い、見積書を作成する
  • 出張先のホテルで私有のタブレット端末を使い、翌日の会議の資料を作成する

会社にとってBYODは、従業員の業務効率化や組織の生産性向上、機器の導入や使い方の教育に掛かるコスト抑制などが期待できる半面、ルールを定めなければ、重要な情報の紛失・漏洩にもつながる危険性をはらむ悩ましい課題です。

BYODを有効活用するためには、私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する際の取り扱いと情報管理について定めた規程の策定や、業務に利用する場合の注意点についての教育を受ける機会を設ける必要があります。

本稿では、コンピュータソフトウェア協会が公表している「私有スマートデバイス取扱規程サンプル」「私有スマートデバイス利用許可申請書サンプル【新規】」「私有スマートデバイス利用許可申請書サンプル【機器追加】」「私有スマートデバイス利用解除申請書サンプル」(注)を基に、私有スマートデバイス取扱規程のひな型について紹介します。

■コンピュータソフトウェア協会「『BYOD』導入検討企業向け情報提供ページ」■
https://www.csaj.jp/activity/support/sample/byod.html

(注)コンピュータソフトウェア協会「私有スマートデバイス取扱規程サンプル」「私有スマートデバイス利用許可申請書サンプル【新規】」「私有スマートデバイス利用許可申請書サンプル【機器追加】」「私有スマートデバイス利用解除申請書サンプル」は、クリエイティブ・コモンズライセンス「CC BY-SA 2.1 JP 」によって許諾されています。

BY-SA

ライセンス証  https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/
リーガルコード https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/legalcode

なお、これらのサンプルは、特定の前提条件を想定して作成されており、それぞれの内容が必ずしも参照される各社の状況にそのまま合致するとは限りません。

2 私有スマートデバイス取扱規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【私有スマートデバイス取扱規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する際の取り扱いと情報管理について定めるとともに、私有スマートデバイスからの情報漏洩、紛失、盗難、外部侵入などの危機に際しての行動指針を定め、会社の情報セキュリティの維持・向上並びに業務効率の向上を通じて、顧客の信頼を確保することを目的とする。

第2条(適用範囲)
1)本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。
2)会社の業務委託を受けて、会社の情報システムに接続する委託事業者および派遣社員等が、私有スマートデバイスから会社の情報システムへ接続することは原則禁止とする。

第3条(用語の定義)
スマートデバイスとは、スマートフォン、タブレット端末等の携行可能な情報通信機器もしくは会社が判断した機器をいう。

第4条(利用許可)
1)利用許可を得た従業員等に限り、会社の許可条件に従い、私有スマートデバイスで、会社の電子メール、業務で使用する情報資産、顧客情報、業務アプリケーションの使用等もしくは、VPN、有線LAN、無線LAN等へ接続、使用することができる。なお、利用許可の範囲は、会社が認めた所定の範囲とする。
2)従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを利用しようとする場合、所定の別表第1「私有スマートデバイス利用許可申請【新規】」を提出し、承認を得なければならないものとする。
3)会社は、利用状況等に鑑み、いつでも前項に規定する利用許可を解除することができるものとする。
4)会社は、第2項に規定する利用許可に当たり、許可申請のあった私有スマートデバイスに他の企業の機密情報であって、持ち出し・複製・第三者への開示が禁止された情報が含まれている場合には、従業員等に当該情報を消去させることができる。
5)従業員等は、会社が定めた私有スマートデバイス利用許可申請に記載されている内容および本規程の全てを順守するものとする。
6)従業員等は、会社が実施する私有スマートデバイスに関する教育プログラムを受講し、受講報告書を提出するものとする。
7)従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを追加する場合、所定の別表第2「私有スマートデバイス利用許可申請【機器追加】」を提出し、承認を得なければならないものとする。
8)従業員等は、退職や業務遂行において私有スマートデバイスを利用する必要がなくなった場合、所定の別表第3「私有スマートデバイス利用解除申請」を提出し、承認を得なければならないものとする。なお、従業員等は利用解除に当たり事前に、利用していた私有スマートデバイスに登録されている会社業務に関する全ての情報を消去するものとする。
9)従業員等は、機種変更などの事由により業務遂行において私有スマートデバイスを変更する場合、初めに別表第3を提出した後、あらためて別表第1を提出し、承認を得るものとする。
10)利用許可を得ていない従業員等は、私有スマートデバイスによる会社の電子メール、業務で使用する情報資産、顧客情報、業務アプリケーションの使用等もしくは、VPN、有線LAN、無線LAN等への接続、使用を一切禁止する。

第5条(費用負担)
1)会社は、従業員等が利用する私有スマートデバイスの通信費用、保守費用、データバックアップ費用、紛失等での再取得費用等を原則として一切負担しない。
2)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、業務利用部分の通話費用を明確にした請求書を作成し、部門長、総務部門を経由して経理部門に届け出るものとする。その場合、加入電話会社が提供する通話記録の明細書を添付しなければならない。
3)前項の請求分は毎賃金計算期間の末日に締め切り、別途「賃金規程」(省略)に定める賃金支払日に支給する。

第6条(善管注意義務)
1)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、個人情報保護、不正競争防止、情報管理における一般的な知識の下、法令を順守し、善良なる管理者の注意をもって私有スマートデバイスを管理、運用しなければならない。
2)従業員等は、本規程、その他情報セキュリティに関連する全ての規程等(以下「情報セキュリティ等の規程等」)の改定、変更に注意を払い、常に最新の情報セキュリティ等の規程等を十分に理解するよう努めなければならない。
3)従業員等は、私有スマートデバイスの管理、運用に当たり、業務で利用する情報とプライベートで利用する情報を、明確に分けておかなければならない。
4)従業員等は、私有スマートデバイスを紛失し、もしくは盗難に遭った場合、またはコンピューターウイルスに感染し、もしくはその恐れがあると判断した場合には直ちに上長等に報告しなければならない。

第7条(監査)
1)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、会社の求めに応じて、情報セキュリティ等の規程等に関する適用状況について、監査を受けなければならない。
2)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、監査において、デバイスの安全性や設定状態、業務情報の保存状態の開示、これらを確認するための操作に協力しなければならない。

第8条(緊急措置)
1)会社は、会社のデータやプログラム、もしくは情報システム、または顧客のデータ(以下「データ等」)の保護のため必要と判断される場合、従業員等の私有スマートデバイスによる会社の情報システムへの接続を解除することができる。
2)従業員等は、本規程に違反し、もしくはその恐れがあると判断された場合、速やかに私有スマートデバイスの利用を中止し、上長等に報告するとともに、本規程で定められた手順、もしくは上長等の指示にのっとり、私有スマートデバイスにあるデータ等の消去など、適切な処置を講じなければならない。
3)前項の私有スマートデバイスにあるデータ等の消去には、状況に応じて私有スマートデバイスに保存されたプライベートで利用する情報が含まれる場合がある。
4)上長等は第1項および第2項に規定する措置を実施するに際し、合理的かつ有効な措置を従業員等とともに講じなければならない。
5)従業員等が第2項にあるデータ等の消去などを速やかに行わない、もしくはそれらの措置を講じることが困難な場合、会社は強制的にデータ等の消去などを行える権利を有するものとする。

第9条(免責)
従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを利用するに当たって生じるリスクについて、全ての責任を負うものとし、会社は一切責任を負わないものとする。これには、会社が第8条第3項にある私有スマートデバイスに保存されたプライベートで利用する情報などを消去した場合を含む。

第10条(賠償)
従業員等が本規程に違反し会社に損害を与えた場合、会社は当該従業員等に対して相当分の賠償を求める場合がある。

第11条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第12条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

(別表第1)

画像1

(別表第2)

画像2

(別表第3)

画像3

以上(2019年11月)

op60147
画像:ESB Professional-shutterstock

私有スマートデバイスの業務利用BYODについて考える

書いてあること

  • 主な読者:私有スマートデバイスを業務で利用する従業員がいる企業の経営者、情報システム部門、管理責任者
  • 課題:従業員の業務効率化や組織の生産性向上は図りたいが、重要な情報の紛失・漏洩は避けなければならない
  • 解決策:実態を把握した上で、リスクの軽減と、従業員の利便性や業務効率化を勘案した対応をしていく

1 私有スマートデバイスの脅威

1)BYODとは

スマートフォンやタブレット端末などの携行可能な情報通信機器(以下「スマートデバイス」)が普及し、従業員が私有スマートデバイスを業務に利用する「BYOD」(Bring Your Own Device)という考え方が広まっています。

従業員にとってBYODは、使い慣れたスマートデバイスで、自ら導入したアプリケーション(アプリ)やクラウドサービスを利用し、いつでもどこでも業務を行えるという面で大きなメリットがあります。

一方、企業にとってBYODは、従業員の業務効率化や組織の生産性向上、機器の導入や使い方の教育にかかるコストの抑制などが期待できる半面、重要な情報の紛失・漏洩の危険性もはらむ悩ましい課題です。

2)情報漏洩が発生すれば企業の責任が問われる

業務用の社有パソコンについては、多くの企業が情報システム部門や管理責任者などを設置し、端末の管理規程や利用マニュアルを整備し、情報セキュリティや個人情報保護に関する教育などの措置を講じ、取り扱いを管理・監視する体制を構築していることでしょう。

一方、従業員の私有スマートデバイスについては、あくまで「私物」であり、企業の管理の範囲外と見なしているケースもあるようです。しかし、仮に、業務にスマートデバイスを利用し、そのことが原因でセキュリティ被害や情報漏洩が発生した場合には、「そのスマートデバイスが社有か、私有か」「利用場所は社内か、社外か」「利用時間は業務時間内か、業務時間外か」などにかかわらず、企業の責任が問われることになります。

3)リスクを認識し、実態に即した対応が求められる

企業がルールを定めなければ、従業員は私有スマートデバイス内に、業務データとプライベートなデータを混在させて保存することになります。従業員のプライベートなデータを企業が管理・監視することは、プライバシーの権利の観点からも現実的ではありませんが、業務データは企業が管理・監視し、守るべき重要な経営資源の1つです。

従業員が、私有スマートデバイスを使って社有パソコンと同等の業務データを取り扱えるという状況は紛れもない事実であり、その状況を看過、黙認することは、業務データの紛失・漏洩などにつながりかねません。

企業は、BYODにおける脅威およびリスクを認識する必要があります。そして、自社のBYODの実態を把握した上で、リスクの軽減と、従業員の利便性や業務効率化を勘案した対応をしていくことが求められます。

2 BYODにおける脅威およびリスクの例

BYODにおける脅威およびリスクの例として次が挙げられます。

画像1

従業員は、私有スマートデバイスを常に持ち歩くため、紛失、水没や落下による故障といった偶発的な事象によって業務データが漏洩、消失する恐れがあります。

また、悪意を持った第三者による盗難、画面ののぞき見、不正プログラムへの感染などによって業務データが漏洩する恐れもあります。

さらに、タッチパネルの反応範囲や反応速度による操作ミス、Wi-Fiの自動接続設定をオンにしておいたことによる不正な無線LANアクセスポイントへの接続、私的に利用するアプリがGPSの位置情報や電話帳データにアクセスすることを知らずにインストールしていたなど、従業員の認識不足が業務データの漏洩につながる恐れもあります。

3 BYOD導入に当たっての検討課題

1)BYODにおけるリスクへの対応

リスクの大きさは、一般的に、脅威の発生確率、脅威が及ぼす影響度の掛け算によって評価できます。

BYODにおけるリスクへの対応を検討する際には、まず、自社にどのような脅威があるのか、実態を把握し、リスクを適切に評価する必要があります。アンケートやヒアリングを実施するなど、私有スマートデバイスの業務利用について従業員の実態を確認し、脅威を洗い出し、その上で、脅威の発生確率や影響度について評価していきます。

リスク評価の結果は、どのような業務をBYODで遂行するのか/しないのかを決める際の1つの判断材料となります。

2)従業員の利便性や業務効率化の勘案

どのような業務をBYODで遂行するのか/しないのかを決める際、重要なのは、リスク評価の結果と従業員の利便性や業務効率化の関係を勘案することです。

リスク評価の結果、仮にリスクが大きいと判断したとしても、リスクに比して、従業員の利便性や業務効率化の効果が期待できることもあり得ます。また、仮に、リスクが大きいという理由で、ある業務をBYODで遂行することを禁止したとしても、隠れて行う従業員が出てくる可能性もあります。

リスクへの対応は、リスク評価の結果と従業員の利便性や業務効率化を比較検討し、経営判断を下すことになります。

3)セキュリティ対策の考え方

BYODにおけるセキュリティの確保は、従業員の意識次第という面は否めません。そのため、BYODにおけるセキュリティ対策を検討する際には、従業員による運用面と企業(情報システム部門)による技術面の2つの側面から考える必要があります。BYODにおけるセキュリティ対策例として次が挙げられます。

画像2

例えば、盗難や紛失は、発生してしまうことを前提に、「端末内に業務データを残さないこと」が情報漏洩を防ぐための基本的な考え方となります。その上で、業務データが残っている可能性を考慮し、「第三者による侵入やデータの窃取を防ぐために端末をパスワードで保護しておくこと」、さらに「万一、端末のパスワードが破られた場合に備えてデータを暗号化しておくこと」が必要といえるでしょう。

4)従業員の私的なデータと業務データの使い分け

BYODで重要なのは、私的なデータと業務データを明確に使い分けることです。これらが端末内で混在して保存されていた場合、万一の際、業務データの情報漏洩を防ぐために、リモートワイプ機能で私的なデータも一緒に消去しなければならなくなります。

また、私的なデータと業務データがクラウドサービスなどの外部記憶域で混在して保存されていた場合、業務データが個人ごとに異なるクラウドサービスに広く拡散し、情報漏洩などが発生した際の原因究明や対策が困難になってしまいます。

業務で利用するアプリやアカウントは、プライベートで利用するアプリやアカウントと別にするなど、「公私を使い分ける」ことを従業員に理解させる必要があります。

5)利用終了時の取り扱いの明確化

従業員が退職したときやスマートデバイスを買い替えたときなどには、それまで使ってきたスマートデバイスを、業務で利用できないようにしなければなりません。その際、顧客情報や業務上知り得た機密情報などが、端末内に残存していないかチェックし、残っていれば削除する必要があります。また、ファイルサーバー、社内ネットワークなどへのアクセス権限も削除します。

ただし、従業員が個人で利用しているクラウドサービスのシステム上に残っている業務データについて、企業側で把握することは困難です。そのため、クラウドサービスについてあらかじめ利用を禁止するか、クラウドサービスのシステムから業務データを削除したことを誓約させるなどの措置が必要です。

6)費用負担

業務目的以外で従業員が自費で購入した有償アプリの取り扱い、スマートデバイス本体の購入代金の負担、通信費の負担などについても取り決めておく必要があります。

例えば、セキュリティ対策製品の導入や業務アプリのインストールなどについては、状況によって企業側の費用負担を考慮する必要があるでしょう。

なお、ビジネス用には050で始まる番号(IP電話)、プライベート用には080/090で始まる番号を簡単な操作で使い分けでき、ビジネスで利用した通話料は企業に請求するサービスもあります。そうしたサービスの利用も検討するとよいでしょう。

以上(2019年11月)

op60146
画像:photo-ac