自販機を使ったインバウンド向けの新たな商機

書いてあること

  • 主な読者:インバウンド需要の取り込む手法を探る経営者
  • 課題:都心や観光地で見かける外国人観光客向けの自動販売機は今後広がるのか
  • 解決策:外国人観光客向けの自動販売機が注目される背景や、導入の方法、課題などについてまとめる

1 自販機の隠れた魅力

全国に約300万台(日本自動販売システム機械工業会)。私たち日本人の生活にすっかり根付いている自動販売機(以下「自販機」)ですが、外国人旅行者にとっては、「“変”なもの」らしいです。

  • 「なぜ、日本には大量の自販機が無防備に設置されているのか?」

というのが、“変”の正体です。この点について、筆者が日本在住の外国人に聞いてみました。すると、次のように教えてくれました。

  • 「自販機は海外にもあるけど、日本ほど多くは見かけない。そして、何といっても、ほとんど盗難されないところがすごいよね。あとは、デザインが奇抜なところ、売っている商品が多種多様なところ、ハイテクなところもすごいと思うよ」

こうした背景から、もしかすると、自販機にビジネスチャンスがあるのではないか、と考える人が増え、インバウンド需要を狙う自販機が登場してきました。政府も条件付きではあるものの、自販機を「免税店」として扱う制度を開始する意向です。

「外国人旅行者×自販機」から生まれてきそうなビジネスチャンスを、事例とともに考えます。   

2 普及率は世界一!?

日本自動販売システム機械工業会によると、単純な設置台数は米国が世界一といわれていますが、人口や国土の面積などを勘案すると、普及率では日本が世界一と推測されるそうです。

同工業会へのヒアリングによると、「インバウンド需要を取り込むため、工業会として統一の施策などは取っていないものの、会員企業の中には、インバウンド需要を狙った自販機の製造に取り組んでいるところもある」とのことです。

実際、「近年は来日する外国人旅行者が増加しており、そうした人々がSNSなどに日本の街角と一緒に自販機の写真や商品をアップすることで、認知度が上がってきている。こうしたインバウンド需要を取り込むため、新しいタイプの自販機に対する需要・関心は高まっている」という自販機メーカーもあります。

3 自販機を店舗に設置するには

1)費用や期間

自販機を店舗に設置するにはどのような準備が必要なのでしょうか。飲料水などを販売する自販機の場合、一般的には自販機を販売する企業(自販機メーカー)や飲料水を製造・販売する企業(オペレーター)が設置費用などを負担し、リース費用などは掛からないようです。自販機を設置する側(ロケーションオーナー)の負担としては、電気代が1カ月当たり数千円となります。

お土産用やイベント用などのさまざまな用途に応じた自販機の販売および設置支援を行っているパルサー(宮城県)へのヒアリングによると、こうした自販機を設置する際に発生する費用としては、次のようなものがあるそうです。

  • 自販機の設置費用は1台当たり50万~60万円程度。販売する商品の形状やサイズによっては、梱包費用などが必要な場合もある。飲料水などを販売する自販機と同様、ランニング費用として電気代が1カ月当たり数千円程度掛かる
  • 自販機を設置するまでに、商品によって払い出しの試験運用をする場合もあるが、契約締結後1~2カ月程度で納入することができる

2)必要な許可または免許など

日本自動販売システム機械工業会のウェブサイトによると、缶・ビン・ペットボトルに入った飲料水を販売する場合には、許可は必要とされていません。しかし、以下のような商品を販売する場合は、関連する法令に基づき、許可または免許などが必要です。

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3)インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点

パルサーによると、インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点として、次のようなものが挙げられるそうです。

  • 外国人旅行者の目を引き付けるためには、ぱっと見た自販機のインパクトが重要。そのためには、有名キャラクターや忍者などのデザインや柄で自販機本体をラッピングし、「分かりやすい日本らしさ」を見せることが不可欠
  • 販売する商品の形状によって、飲料水などを販売する自販機と、自販機の正面部分がガラス製で、商品が視認できるスパイラル式に構造が大別できる。前者は耐久性・安全性が高く屋外に設置できるが、格納できる商品は缶やペットボトル状の円柱形にする必要がある。後者は、ガラス製なので耐久性や日光の遮光性が低いため屋内に設置されるが、雑貨などの形状が一定でない商品を格納することができる

4 インバウンド需要を狙った“変”な自販機の事例

1)SHIBUYA109エンタテイメント:渋谷のお土産需要を創出

SHIBUYA109エンタテイメント(東京都)は、渋谷のお土産需要を創出するために、2018年9月にクリエーターによるオリジナルTシャツを「スーベニア自動販売機」で販売しました。

渋谷はスクランブル交差点が有名な観光スポットとなっているなど、訪問者数は増加しています。ただ、渋谷には代表的なお土産がなく、外国人旅行者も渋谷周辺にあまり宿泊しません。ここにビジネスチャンスを見いだし、お土産需要の創出を狙っているようです。

2019年は同様のオリジナルTシャツを5~7月にかけて販売しました。今回は、デザインの数や参加するクリエーターの数も増え、パネル展示やフォトスポットの設置など、付随するイベントも行っています。

2)アイナス:ご当地限定の缶詰を3つの基準で選定

アイナス(兵庫県)は、その土地でしか入手できない商品が入った缶詰「ゴトカン」を販売する自販機を、兵庫県や香川県に設置し運営しています。

ゴトカンの内容は「ご当地愛」「ご当地貢献度」「ご当地チャレンジ精神」の3つのルールに沿って査定され、基準点以上のものがゴトカンの商品として認定されます。このルールでは、現地の材料を用いて現地で加工されていること、地域経済が潤うこと、外国人旅行者にもアピールできることなどが判断基準とされます。

同社へのヒアリングによると、外国人旅行者からの評判は良好で、その要因として、海外ではあまり見かけない自販機で、質の高いご当地の食品などが販売されていることが挙げられるそうです。

この自販機で外国人旅行者にアピールするため、同社は「タッチパネルの3言語(日本語、英語、中国語)対応」と、「設置場所」に注意したそうです。

自販機になじみのない外国人旅行者に、購入方法や商品を自国語などで説明することで、「珍しい自販機の写真を撮る」という行動から実際の購入へ促すことができます。

同社は自販機を設置する際に、飲料水などを販売する自販機の隣に設置するのではなく、実店舗に隣接して設置したり、商品を製造する工場の見学ルート上に設置したりすることで、効率的に販売しているそうです。

3)インバウンド十和田:観光地図やショップカード同封で地域を活性化

インバウンド十和田(青森県)は、十和田市の魅力を海外に発信し、地域経済の活性化を目的に活動しています。同社は2019年9月から、十和田市のピンバッジや観光地図、近隣の飲食店のショップカードなどを詰め込んだ「とわだばこ」を自販機で販売しています。

この自販機は、中古のタバコの自販機を一部改修して利用しています。新品の自販機の購入コストを抑えることができ、タバコの自販機に搭載済みの成人識別カード「タスポ」の機能を残したことで、アルコール類のドリンクサービス券を封入したり、タスポを店舗で借りるときに店舗内に誘導できたりするなどのメリットがあります。

同社へのヒアリングによると、この自販機の運営開始からまだ日が浅く、売り上げに劇的な伸びは見られないそうですが、新聞やテレビなどで何度も取り上げられたことで、全国の自治体などからの問い合わせが殺到しているそうです。

この自販機を設置するに当たって工夫したこととして、前述の中古のタバコの自販機を転用したことに加え、地元の商店街への集客を狙うために、観光地図や協賛した店舗のショップカードを封入したこと、観光地図の裏面を多言語表示にし、観光地や各店舗のQRコードを記載したことが挙げられます。

同社は、この自販機の設置台数を、販売する商品に変更を加えながら、2020年以降も増やしていく計画のようです。

5 外国人旅行者に直撃インタビュー

前述の通り、各地でインバウンド需要の取り込みを狙った自販機が出現しています。日本の空の玄関口、羽田空港にはこうした自販機が幾つか設置されています。空港内の外国人旅行者にインタビューした結果は次の通りです。

1)自販機の印象

  • さまざまな商品(キャラクターグッズ、伝統工芸品、お菓子、だしなど)が販売されており、他の国ではまず見かけない光景なので面白い。価格が1000円以上するような商品を自販機で販売できるのは、治安が良いことを表す証拠にも映る
  • 中華圏や東南アジア圏からの旅行者の中には、日本のアニメのキャラクターを知っている人もおり、キャラクターが描かれた自販機は目に入りやすい
  • 商品の表記が日本語のみの場合が多く、商品の説明もないため、何を売っているかイメージが湧きやすいように、多言語での商品説明を、自販機の目の付きやすい場所に表示することが望ましい

2)外国人旅行者からの提言

  • 自販機で外国人旅行者向けに商品を販売する場合には、飲料水などを販売する自販機に隣接して設置すると、その自販機に利用者の視線が奪われやすい。そのため、観光スポットや土産物店などに設置するほうが、効率的に集客できると推測する
  • 商品の価格を1つの自販機で統一する必要はないが、比較的高額な商品と一般的な価格の商品を同じ自販機で販売すると、価格差に違和感がある

なお、実際に羽田空港では、2000円以上のグッズと数百円のお菓子が同じ自販機で販売されていました。

6 自販機が免税店に?

冒頭の通り、増加する外国人旅行者向けのビジネスを促進するため、政府は条件付きで自販機を免税店扱いすることを検討しているようです。国土交通省は、「令和2年度 国土交通省税制改正要望事項」の中で、「外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充(消費税・地方消費税)」を政府に対して要望しています。

これは、従業員を介さずに免税手続きが可能な機器を設置した場合、この機器を通じて販売した商品を免税の対象とするものです。現行では、免税店の許可要件として、免税販売手続きに必要な人員を配置することなどがあります。

観光庁にヒアリングしたところ、一部の大手企業が、外国人旅行者向けに腕時計やオリンピック関連のTシャツなどを自販機で販売することを検討しており、これらの商品の免税を要望しているそうです。

また、新たに免税店として想定されている自販機として、顔認証システムを搭載し、個人やパスポートなどの認証機能を備えたものなどが挙げられるとのことです。

以上(2019年12月)

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学習塾業界の競争環境と成長戦略

書いてあること

  • 主な読者:学習塾経営者や学習塾
  • 課題:少子化、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化などの外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題がある
  • 解決策:講師不足で個別指導が出来ない学習塾の場合、教育ベンチャーなどが提供している個別指導が可能なスマホアプリのサービスを利用するなどして、指導を充実させることができる

1 学習塾市場の本格的な縮小が始まる

日本の学習塾の市場規模は、2017年時点で約9511億円です(経済産業省「特定サービス産業実態調査」。2019年3月時点の最新データです)。2018年以降は、学習塾を含む教育業界にとって、本格的な市場縮小が始まることが予測されています。

18歳人口(生徒数)が減少基調となるためです。加えて、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化といった外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題を抱えています。

こうした中、各塾は新たなビジネスモデルが求められています。一般的に、学習塾は小学生から高校生、予備校は高校生や浪人生を対象としますが、現在、各塾はそうした垣根なく生徒を獲得しています。学習塾業界の動向を見ていきましょう。

2 学習塾業界のPEST分析

1)政治(Politics)

学習塾業界は、教育行政の影響を大きく受けます。現在、国ではグローバル化、生産性向上などさまざまな課題への対応策の1つとして、教育改革を推進しています。

例えば、2020年度からは大学入試センター試験に代わって、大学入学共通テストが導入されます。知識偏重型の大学入試を見直し、思考力・判断力・表現力などを問うことが狙いです。国語と数学ではマーク式だけでなく記述式の問題、英語ではライティング・リーディング・リスニングに加え、新たにスピーキングの4技能が問われる問題が出題される予定で、学習塾には新テストへの対応が求められます。

2)経済(Economy)

従来、教育関連への支出を「聖域」とみなす保護者が多いとされてきました。しかし、近年では教育関連への支出を削る保護者が増えているとされます。一方、教育に熱心な保護者は一定数存在しており、このような保護者は、子どもの習熟度に合わせた個別指導や、難関校の受験に強みを持つ学習塾に子どもを通わせる傾向があるようです。

大手の学習塾などでは、集団指導、個別指導、動画による講義、オンライン上で講師に質問ができるスマホアプリの提供など、サービス・価格ともに幅広くラインアップして、全方位的に顧客のニーズに対応しています。

一方、大手と同様の取り組みが難しい中小規模の学習塾の場合、教科や生徒の対象を絞り込むなどして、差異化を図っていく必要があるでしょう。

3)社会(Society)

従来より、少子化は学習塾を含む教育業界の課題でしたが、大学進学率が上昇していたことから、その影響は限定的といえるものでした。今後は、生徒数の減少に加え、大学進学率の上昇も見込めないことから、本格的に市場の縮小が始まるとみられます。

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっていますが、その流れは加速するものとみられます。

4)技術(Technology)

さまざまな業界でITやAIなどの新たな技術を活用した取り組みが活発になっています。学習塾においてもITやAIなどの新たな技術を活用した教材などが導入されています。

例えば、AIを使った教材では、生徒が解答を間違えたデータなどをAIが収集・解析し、生徒が苦手な問題へと自動的に誘導します。また、AIは問題の難易度や問題範囲を調整して出題するため、理解度や習熟度を高める効果が期待できるようです。

ITやAIなどの新たな技術を活用した教材は、教育系ベンチャー企業が製作していることも多く、こうした教育系ベンチャー企業と提携する学習塾も増えています。

3 学習塾業界の競争環境

1)業界内の競合企業との敵対関係

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっています。より多くの生徒を獲得し、囲い込むため、自塾が指導対象としていない年齢や教科を扱う他塾との提携・買収によって、提供サービスの拡充を図っています。

例えば、小中学生を対象とする学習塾が幼児教室と、また、集団指導を得意とする学習塾が、個別指導や英語指導などの特定教科の指導に強みを持つ学習塾と、提携・買収などを進めています。

また、提携・買収が進んでいるもう1つの要因として、経営者の高齢化が挙げられます。学習塾の約66%は個人経営であり、中小規模の学習塾といえます(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。こうした中小規模の学習塾には、地域によって大きく特色が異なる中学・高校入試対策の指導に強みがあります。

大手の学習塾は、中小規模の学習塾との提携・買収によって、中学・高校入試対策の指導を強化することができます。一方、中小規模の学習塾も後継者問題の解決に加え、大手の学習塾が持つ効率的な塾運営のノウハウなどを得ることができます。

そのため、大手の学習塾と地域の中小規模の学習塾との提携・買収などは今後も進んでいくものとみられます。

2)新規参入の脅威

学習塾は、開業時の許認可や資格が不要です。そのため、自宅の一室で開業することも可能であり、開業自体は容易だといえます。

とはいえ、指導にはノウハウが必要であることに加え、市場縮小によって生徒獲得を巡る競争も激化しています。そのため、既存事業とのシナジーが見込めない企業が新規参入する魅力は乏しいといえるでしょう。

3)代替サービスの脅威

学習塾の代替サービスには、家庭教師や通信教育などがあります。これら代替サービスを手掛ける企業も、学習塾と同様に顧客獲得競争が激化しています。また、家庭教師や通信教育などは学習塾に比べて市場が小さく、より大きな市場である学習塾業界への進出を図るため、学習塾業界の提携・買収などの再編に参画しています。

例えば、通信教育の場合、提携・買収先の学習塾で、自社の教材を使った指導を行うといったシナジー効果が見込めます。

また、近年では、ITやAIなどの新しい技術を活用した教材などを製作する教育系ベンチャーも見られます。こうした教育系ベンチャー企業は個人に対して教材を販売するだけでなく、学習塾などと提携し、自社の教材の導入を図っています。

こうした代替サービスの存在は、学習塾業界にとって脅威となる一方、連携を図りながら、弱みを補う存在といえるでしょう。

4)売り手の脅威

学習塾にとっての売り手とは、教材製作会社などです。これらの企業は、前述した代替サービスと同様に、脅威となる一方、自塾の弱みを補う連携相手として考えることもできます。

この他の売り手として、指導を担う講師を挙げることができます。学習塾の講師の約70%はアルバイトが担っています(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。

しかし、近年では、アルバイト講師の確保に苦慮する学習塾が少なくありません。これは、アルバイト講師の担い手である大学生の人数が減少しているためです。

また、労働条件が明示されなかった、講義前の準備や講義後の質問への対応などが労働時間として考慮されなかったなど、いわゆる「ブラックアルバイト」のイメージも広がっており、アルバイト講師の確保を難しくしています。

人手不足の状態は、業界を問わず、日本全体で課題となっています。学習塾では、アルバイト講師にとって魅力ある職場とする努力に加え、ITなどを活用して、少ない人手で指導する体制づくりを検討していく必要があるでしょう。

4 学習塾の成長戦略

1)学習塾業界の成長マトリクス

学習塾を取り巻く環境は厳しいものといえます。特に、中小規模の学習塾では、「アルバイト講師に頼りながら、地域の小中学生を指導する」といった従来通りの方法では、単独での生き残りを図るのは難しいでしょう。

大手学習塾、教育系ベンチャーなどの他社との提携も含めて、自塾が生き残るための方法を検討することが不可欠です。学習塾の成長戦略の一例を示すと次のようになります。

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2)既存市場×既存サービス:市場浸透

スマホアプリ「manabo」は、生徒がスマホで分からない問題を撮影して投稿すると、manaboに登録している大学生のチューターが解答する仕組みです。個別指導を行いたいというニーズがあるものの、講師が足りない中小規模の学習塾で導入されています。

3)既存市場×新規サービス:新製品投入

千葉県柏市の学習塾「ネクスファ」は、小学生向けの学童保育を併設しており、宿題の指導やプログラミングの体験を提供しています。共働きの保護者が増えていることから子どもの預かりニーズが高まっており、顧客を囲い込む(自塾に通い続けてもらう)方法として有効だと考えられます。

4)新規市場×既存サービス:新市場開拓

数学に特化した学習塾を展開する和からは、数学に苦手意識を持つ社会人向けに「数学的思考力アップコース」を開講しています。数学の基礎や、グラフや図形を用いて数字を的確に表現するポイントなどを指導しています。リカレント教育を実践する社会人が増えており、こうしたニーズを取り込もうとしています。

5)新規市場×新規サービス:多角化

北海道や東北地方で学習塾を展開する練成会グループは、ベトナムで学習塾を展開しています。アジア諸国では、経済成長に伴って教育熱が高まっており、日本式の教育への関心も高いといわれています。小規模の学習塾が海外市場に進出するのは難しいものの、中規模の学習塾などでは生き残りの一手段として、海外市場への進出を検討する価値があるかもしれません。

以上(2019年4月)

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エステティックサロン業界の現状と開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:エステティックサロンを開業したい経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 業界の動向

1)エステティックサロンとは

エステティックサロンは、契約や施術に関するトラブルが絶えず、エステティックサロンについて、よいイメージを持っていない消費者もいます。

また、エステティックサロン業界では、長時間労働などが慢性化しているなど、その労働環境が問題視されています。近年では大手エステティックサロンが、残業代の未払いで自社の従業員に訴えられ話題となりました。エステティックサロンの経営には、高い技術を持つエステティシャン(従業員)の確保が欠かせません。エステティシャンの多くを女性が占める中、結婚、出産などの後もエステティシャンを続けられるような労働環境を整備することが求められています。

2)全国のエステティックサロン数 

全国のエステティックサロンの正確なデータは把握されていません。参考としてNTTタウンページ「iタウンページ」に登録されている「エステティックサロン」の件数を紹介します。都道府県別のエステティックサロンの件数は次の通りです。

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全国のエステティックサロンの件数は2万2731件となっています。また、富山県、福井県、長野県において人口10万人当たり件数が多くなっています。

3)大手エステティックサロンの動向

日経MJ「サービス業総合調査」によると、エステティックサロンの売上高ランキングは次の通りです。

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日経MJの分析によると、節約志向の高まりにより、売上高が伸び悩むエステティックサロンが増えているようです。

なお、回答が得られなかったため、「サービス業総合調査」では紹介されていませんが、エステティックサロンの有力企業として、ミュゼプラチナムと不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)を傘下に持つRVHや、TBCグループが挙げられます。

2 トラブルに対する業界の対応と課題

1)エステティックに関する相談件数の推移

国民生活センター「消費生活相談データベース」によると、全国の消費生活センターおよび国民生活センターに寄せられたエステティックサービスに関する相談件数の推移は次の通りです。

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エステティック業界は他業界に比べて、顧客とのトラブルが多い業界といわれています。全国の消費生活センターおよび国民生活センターには、解約や施術のクオリティなどに関するトラブルが寄せられています。

2)施術に関するトラブルへの対応ー業界団体が実施するエステティシャン資格制度

エステティシャンの技術の未熟さに起因するトラブルによる業界全体のイメージダウンを防ぐ対策として、業界団体などが資格制度を設け、高い技術を持つエステティシャンの養成を図っています。

現在のところエステティシャンに関する国家資格はありません。エステティシャンになるための試験や条件がないため、技術が未熟であってもエステティシャンとして顧客にサービスを施すことが可能な状態にあります。

こうした状況を受け、日本エステティック協会と日本エステティック業協会は、業界全体の信頼回復に向けさまざまな取り組みを進めています。その一つとして、「エステティシャンの技術育成」が挙げられます。

両協会では、それぞれ独自のエステティシャン資格制度を作り、エステティシャンの技術を育成することによって顧客に対する信頼を獲得し、業界全体のイメージアップを図ろうとしています。

3)契約関連のトラブルへの対応

契約関連のトラブルへの対応については、国で関連法が整備されています。

1.特定商取引に関する法律

「特定商取引に関する法律(特商法)」では、訪問販売やエステティックサロンが含まれる特定継続的役務提供など、消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に事業者が守るべきルールと、クーリング・オフなどの消費者を守るルールを定めています。

例えば、エステティックサロンの場合、契約書面を受領した日から8日間はクーリング・オフが可能です。事業者の側に不実告知または威迫行為があり、顧客が誤認または困惑してクーリング・オフを行わなかったときは、クーリング・オフ期限が延長されます。また、クーリング・オフ期間経過後も、契約期間中であれば、いつでも、理由の如何を問わず中途解約が可能であることが定められています。

また、2017年12月1日には改正特商法が施行されました。この改正では、医療機関で実施される、シミの除去や脱毛などの美容医療契約についても、特定継続的役務提供の対象に追加され、クーリング・オフが可能になりました。美容医療は、エステティックサロンが窓口となり、シミなどに悩む顧客を提携する美容クリニックなどに紹介するケースが多々あるとされているため、改正動向についても押さえておく必要があるでしょう。

2.割賦販売法

2008年6月「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律案」が成立し、2009年12月1日に改正法が施行されました。この改正では、「クレジット規制の強化」が盛り込まれており、支払い能力の乏しい人に高額の割賦を組ませることを防ぐ狙いがあります。

エステティックサロンでは、定期的に施術を行うコースの場合、都度払いはできず、コースの契約時にまとめて料金を支払うのが一般的です。しかし、この場合、一度に支払う料金が高額になるため、頻繁に割賦販売が行われます。こうした特性から、今回の改正はエステティックサロンの業績に大きな影響を及ぼしました。

2009年の法改正後は、大手エステティックサロンを中心に、ウェブサイトなどを通じて、会員となる場合に必要な料金、コースの契約時に必要な料金、都度払いの料金を掲載するなど、料金の明瞭化を図っています。

3 エステティックサロンの開業

1)多様化する業態

専業のエステティックサロンは、さまざまな取り組みで顧客の拡大に努めています。「脱毛」「足やせ」のように、提供サービスを絞り込んでいるエステティックサロンがある一方で、ゲルマニウム温浴施設や岩盤浴など、さまざまなリラクゼーションサービスを提供する複合施設にすることで、集客力を強化しているエステティックサロンもあります。

また、入会金不要で、顧客が自分で機器を使ってマッサージなどをする、セルフ方式エステティックサロンや、訪問エステティックサービス(以下「訪問エステ」)を行っているエステティックサロンもあります。

2)兼業業者の乗り入れ

エステティックサロン以外を本業とする業者が兼業という形でエステティックサロン業界に参入する事例もみられます。例えば、美容院が差異化、収益向上策として参入したり、訪問販売化粧品メーカーの販売員たちによるサービスの提供などがこれに当たります。

一般的にこれらの店舗は小規模であり、店舗で行われるエステティックサービス自体も簡易で、低価格なのが特徴です。

3)メニューの差異化戦略

業態の多様化、兼業業者の乗り入れなど、エステティックサロン業界では競争が激化しています。このような状況下では、次に挙げるような、多様化する顧客ニーズに合った、ユニークなサービスを提供することが望まれます。

  • 「ホームヘルパー」など介護の専門知識および資格を有するスタッフをそろえた高齢者向けエステティックサロン
  • 働く女性の来店をターゲットとした駅構内のエステティックサロン
  • メンタルケア(対話などを通じて顧客の心の問題をケアすること)に重点をおいたエステティックサロン
  • 託児所を併設し、子どもを持つ女性も安心してエステティックサービスを受けることができるエステティックサロン

4 開業収支モデル

以降で設定した条件に基づき、開業収支シミュレーションを紹介します。

1)賃貸条件

  • 店舗面積30坪
  • 賃料:324万円(1坪当たり9000円。1カ月当たり27万円)
  • 保証金:162万円(賃料6カ月分) 
  •  

2)内装費など

  • 内装費:900万円(坪当たり30万円)
  • 設備費、備品:400万円(ベットやシャワールームなど:360万円、ガウン・タオルなど40万円)
  • エステティック機器430万円(フェイシャルエステ・痩身併用機80万円3台、脱毛機40万円2台、スチーマー20万円3台、その他50万円)

3)開業費用

  • 350万円(開店チラシ、店頭販売用化粧品など)

4)売上高

  • 4674万円(1万円未満は四捨五入)=1558万円(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)×エステティシャン3人

5)原価率

  • 17.1%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

6)人件費

  • 1729万円(1万円未満は四捨五入)=4674万円(売上高)×37.7%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

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5 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2018」によると、エステティック業の経営指標は次の通りです。

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以上(2019年6月)

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できる経営者は「飲み会」でビジネスを成功させる

書いてあること

  • 主な読者:飲み会をうまく利用してビジネスの可能性を広げたい経営者
  • 課題:店選びや会話のペースがうまくつかめない
  • 解決策:飲み会といえども礼節をわきまえる。遊び心も忘れずに

1 一昔前のスタイルでは嫌われる

「上座に深々と座り、左右は“ごますり隊”で固める。誰かがお酌をしてきたら応じるが、自分からは動くことはない」。一昔前の飲み会で見かけたかもしれない社長の姿です。今、このような態度を取ったら、座がしらけるのは明白です。

その宴席が社外でも社内でも、社長は最高のエンターテイナーであり、セールスマンでなければなりません。相手を自分のファンとし、オフィシャルだと話しにくいことも酒のさかなにしてしまう。そんなすてきな宴会術を紹介します。

2 下見は決して手を抜かない

自分がホスト役の場合、なじみの店を使うのが基本です。そのため、和食・中華・イタリアン・バーなどでなじみの店を幾つか確保しておきたいものです。なじみになるためには定期的に訪れる必要がありますが、その飲食代は自分への投資です。

一方、新規の店を使う場合は、下見が必要です。店のこだわり、お酒の種類、おすすめの料理はもちろん、トイレの位置なども把握します。店長や料理長などにも挨拶をして、「○○日はよろしくお願いします」などと伝えるようにします。

そして当日は、相手に「大切な飲み会なので、最も良いお店を準備した」ことをさりげなく伝えます。例えば、「この街で飲むのなら、ぜひ、このお店にお連れしたくて」などと特別感をアピールするのです。

下見は物事に向き合う真摯な態度の表れです。きちんと下見をして、真剣に店を選んでいることは相手にも伝わります。特に、同じように人をもてなす立場にいる人は、こちらの真摯な姿勢に好感を抱いてくれるでしょう。

3 聞くことを基本にする

人は「自分の意見を聞いてほしい」という欲求を持っており、飲み会でも変わりません。そのため、社内の飲み会といえども社長の独演会は好ましくありません。また、やたらと自分の得意分野に話題を振りたがる人は、次に誘ってもらえないかもしれません。

飲み会では、自分がホスト役であっても、ゲストであっても、相手の話を聞くスタンスで臨みます。さらに、ホスト役の場合は周囲を気遣い、飲み会の雰囲気になじめない人がいたら率先して話しかけ、その人が主役になれる時間をつくりましょう。

「ちょっといいですか。この方の経歴、とても面白いですよ」など、ホスト役の権限で参加者の時間を少しだけもらうのです。ホスト役は、全ての参加者が主役になれる時間をつくり、置いてけぼりになる人をつくらないことが大切なのです。

お店の状況によりますが、カジュアルな居酒屋などの場合は、同じ席にとどまらずにいろいろな人の隣に座るのがよいでしょう。社長といえども、今どきはフットワークの軽さが大事です。

なお、相手との話が盛り上がらない場合は、お互いの共通項を探して話題を膨らませるようにします。仕事、地域、学校、家族構成、趣味など、共通項が多ければ多いほど、親近感が湧くものです。

4 真面目なだけでは目立たない

大勢が参加する飲み会では、皆の印象に残らなければなりません。どんなに礼儀正しく振る舞ったとしても、それだけでは特徴がありません。何か一つでも「この人は面白い」と印象付ける“ネタ”が必要です。

まず、ベタですが「自己紹介」は工夫したいものです。多くの人は自己紹介で自分の名前を覚えてもらおうと努力します。しかし、お酒の入っている状況で、そう何人もの名前を覚えることはできません。

名前は後で名刺を見れば分かります。大事なのは、顔と名前を一致させてもらうこと、つまり名刺の裏に書き込んでもらう内容のインパクトです。仕事内容を淡々と説明しても印象に残りにくいので、インパクトのあるフレーズが欲しいものです。

例えば、○○市場の10%を占める会社の代表を務めている場合、自分の名前よりも「『10%の男』と覚えてください」などと自己紹介します。自分の本名はその場では覚えてもらえないかもしれませんが、「10%の男」は印象に残るでしょう。

また、個別に話すときのために、“鉄板ネタ”を一つは持っておきたいものです。仕事でもプライべートでもよいのですが、真面目になりすぎず、“毒がある”ところをうまく見せると、人間の面白みを感じてもらえます。

ちなみに、経営者同士の飲み会でよくあるのは社員に関するネタです。ただし、相手に真に受けられると困るので、毒のある話をするときはタイミングに注意し、すぐに笑い話にすることが不可欠です。

仕事は真面目にするものですが、宴席で真面目な話ばかりをしていると、相手は退屈になります。それは「この人と仕事をしても面白くない。可能性を感じない」という印象に変わってしまうことがあるからです。

5 真剣トークの時間を設ける

社長の場合、人脈形成や商談のきっかけづくりとして飲み会に参加することが多いものです。とはいえ、その場で商談の話ばかりをしていたら嫌われてしまうでしょう。飲み会は、あくまでも相手を知る場であると割り切ります。

特に、誰かから紹介を受けた場合はなおさらです。行儀の悪いまねをすれば、紹介してくれた人のメンツを潰してしまいます。そうした場では、紹介してくれた人に進行を任せ、前述した通り、自分が何者であるかをうまくアピールします。

一方で、今後のために相手が話したことも覚えていなければなりません。とはいえ、目の前でスマートフォンやメモ帳にメモを取るわけにはいきません。そうした場合は、自分がトイレに行って(あるいは相手がトイレに行っているときに)メモを取ります。

また、ちょっとしたテクニックですが、相手の話を聞くときはうなずき、別れ際には「今日は楽しかったです」などと伝えるのがポイントです。ただし、相手に「楽しかった。また会いましょう!」と言ってもらうには、こちらに光るものがないといけません。

その光るものを示すために、飲み会の中に真剣トークの時間をつくります。長い飲み会の間にほんの数十分でいいのですが、自分がどのようなことに真剣に取り組んでいるのかを伝えます。これが相手に伝われば、そこから関係が深まります。

6 当日にお礼を。信頼は飲み会後に強まる

飲み会が終わったら、その日のうちにお礼をするのが基本です。FacebookやLINEなどでつながっている相手なら、「本日はありがとうございました」など、簡単なメッセージを送ります。

当日にお礼ができなかった場合は、翌朝、相手が出社してメールを確認したときに、こちらからのお礼のメールが確認できるようにします。礼儀正しく接しているうちに信頼関係が強まり、そこからビジネスの話につながっていきます。

飲み会の場で意気投合し、ビジネスの話で盛り上がることもありますが、その場の雰囲気と勢いによる約束は、後日、有名無実化することがよくあります。一緒に仕事ができるほどの信頼関係は少しずつ構築されるものです。

また、飲み会に誘われることもあるでしょうが、その際は「大いに飲み、食べ、笑う」ようにします。相手は、自分がホスト役を務める飲み会を楽しんでくれる人を好むものなのです。

飲み会では相手の本音が分かることがあります。ただし、飲み会だけで信頼を得ることはできず、その後の付き合い方が重要です。飲み会とそれ以外の場を上手に使って、相手との信頼関係を築くことが大切です。

以上(2018年6月)

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【規程・文例集】これだけ押さえて! 「働き方改革」 就業規則の変更ポイント

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革に乗り出すに当たり、就業規則を見直したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:法改正の内容が多岐にわたり、何から手を付ければよいか分からない
  • 解決策:「企業の取り組みは義務か」「就業規則等の変更は必要か」「全企業に関連する内容か」によって、法改正の内容を区分けする

1 待ったなしの働き方改革

2019年4月1日より「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」)が順次施行されています。中小企業も、2020年4月1日に「時間外労働の罰則付き上限規制」の適用などが控えており、いよいよ本気で働き方改革に乗り出さなければなりません。

まず取り組むべきは、就業規則等の見直しです。働き方改革関連法の内容は多岐にわたりますが、努力義務のものや、就業規則等の変更までは必要ないものもあるので、優先順位を付けて取り組みましょう。

2 働き方改革関連法の内容を区分けしよう

働き方改革関連法の内容は、次のように区分けできます。

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就業規則等の見直しという観点から考えると、取り急ぎチェックが必要なのは、図表の網掛けの部分です。次章以降で、法改正の内容と就業規則等の変更のポイントについて詳しく見ていきましょう。

3 全企業に関連するもの

1)時間外労働の罰則付き上限規制

1.法改正の内容

社員に時間外労働を命じる場合、次の3つを遵守することが必要となりました(1.は現行では基準告示あり。2.と3.は中小企業の場合、2020年4月1日適用)。違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

  • 時間外労働の上限について、月45時間、年360時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とする(現行の基準告示に「限度時間」として定めていたものを法律に格上げ)(注)
  • 臨時的な特別な事情があって労使が合意する(特別条項)場合でも、月100時間未満(休日労働を含む)、年720時間(休日労働を含まない)を上限とする。ただし、時間外労働(休日労働を含まない)が月45時間を超えられるのは年6カ月まで
  • 特別条項の有無にかかわらず、いかなる場合も月100時間未満(休日労働を含む)、2~6カ月平均80時間(休日労働を含む)を上限とする

例外として、自動車運転の業務、建設事業、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品等の研究開発業務については、適用が猶予・除外されます。

(注)1年単位の変形労働時間制(対象期間が3カ月を超えるもの)を導入している場合、月42時間、年320時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とします。

2.就業規則等の変更のポイント

社員に時間外労働を命じるには、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下「36協定」)の締結と、所轄の労働基準監督署への届け出が必要です。なお、法改正に伴い36協定の新書式が公表されているため、事前に確認しておきましょう。

また、就業規則には「36協定で定める時間外労働時間が、労働基準法等で定める上限を超えることがない」旨を追記しておきましょう。

2)中小企業に対する割増賃金率の猶予措置廃止

1.法改正の内容

社員の時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要です。しかし、これまで中小企業の場合、この50%以上の割増賃金の支払いについては猶予措置が設けられ、当面の間努力義務とされていました。

働き方改革関連法では、この猶予措置が廃止され、中小企業においても時間外労働が1カ月当たり60時間を超える社員については、50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられました(2023年4月1日施行)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則で時間外労働の割増賃金率を定めている場合、時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合の割増賃金率が50%を下回らないよう変更する必要があります。

なお、この50%以上の割増賃金率のうち25%については、代替休暇を付与することで代用できるので、制度を導入する場合は就業規則にその旨を定めておきましょう。ただし、代替休暇制度を導入するには、労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

3)5日以上の年次有給休暇の時季指定義務化

1.法改正の内容

10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与される社員について、10日以上のうち5日を、企業が時季を指定して基準日から1年以内に付与しなければならない旨が定められました(2019年4月1日施行)。

なお、5日のうち社員の時季指定や、計画的付与(企業があらかじめ年休の取得日を決め、計画的に取得させる制度)により取得された年休の日数分(5日を超える場合には5日分)については、企業が指定する必要はないとされています。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、年休の付与日数のうち5日について、企業が時季を指定して取得させる旨を追記しておきましょう。ただし、企業が時季を指定する際は、社員の意見を聴取し、社員の希望に沿った取得時季になるように努めなければなりません。

なお、中小企業の場合、慢性的な人手不足により、社員が年休を取得しにくいケースが少なくありません。例えば、計画的付与を導入すると、年休付与日数のうち5日を超える部分(例:年休付与日数が10日の場合、5日(10日-5日))については、企業が取得日を決め、年休を計画的に取得させることができます。ただし、計画的付与を導入するには労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

4)時間外労働が80時間超の社員に対する面接指導の強化

1.法改正の内容

時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合における、医師による面接指導の実施が、努力義務から義務へと変更されました(2019年4月1日施行)。

なお、「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員」については、面接指導の実施に関するルールが異なります(詳細は後述します)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる社員が申し出た場合に、医師による面接指導を実施する」旨の規定を追記しておきましょう。

社員の過重労働防止を強く推進したいのであれば、「(社員の申し出がなくても)疲労の蓄積が認められる場合に面接指導を実施する」など、対象となる社員を広く取る規定にしておくのもよいでしょう。

4 対象企業が限定されるもの

1)産業医の産業保健業務に必要な情報の提供を義務化

1.法改正の内容

産業医の選任義務がある社員数50人以上の事業場に対し、産業医が産業保健業務を行うために必要な情報を提供することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

産業医に提供する情報の具体的な内容は次の通りです。

  • 健康診断や面接指導実施後の措置の内容(措置を講じない場合はその理由)
  • 時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、時間外労働の時間数(高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた場合、その超過時間が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、その超過時間数)
  • その他社員の業務に関する情報で、産業医が社員の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

2.就業規則等の変更のポイント

社員の個人データは法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに第三者に提供してはならないとされています。働き方改革関連法が施行されれば、産業医の産業保健業務に必要な情報は、法令に基づくものとなるため、社員本人の同意がなくても産業医に提供することは理論上可能です。

とはいえ、病歴や健康診断等の結果といった健康管理上の個人情報は、取り扱いに特に留意すべき「要配慮個人情報」です。社員とのトラブルを防ぐに当たり、産業保健業務のために産業医に健康管理上の個人情報を提供することがある旨を就業規則に追記しておくのが無難です。機微な内容であるため、自社の就業規則を見直す際は、専門家の意見などを参考にするとよいでしょう。

なお、社員の心身の状態に関する情報の取り扱いについては、情報を適正に管理するために、厚生労働大臣の指針に基づき必要な措置を講ずることが義務付けられることになります。

2)産業医の勧告に関する衛生委員会等への報告を義務化

1.法改正の内容

産業医から、社員の健康を確保するために必要な事項について勧告を受けた場合、その勧告の内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

衛生委員会は、労働安全衛生法に基づき、社員の健康障害の防止・健康の保持増進などについて審議するために設置される委員会です。設置義務があるのは、社員数50人以上の事業場です。衛生委員会に加えて、安全委員会の設置義務もある事業場(社員数50人以上または100人以上で特定の業種に該当するもの)は、2つの委員会をまとめて安全衛生委員会とすることができます。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則に「安全衛生管理に関する事業場責任者の職務」などの項目があれば、産業医から勧告を受けた場合の衛生委員会等への報告を職務に追加しておくとよいでしょう。

3)特定の業務に従事する社員に対する、医師による面接指導を義務化

1.法改正の内容

「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務(注)」に従事する社員について、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合、社員の申し出がなくても医師による面接指導を実施することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

なお、新技術・新商品等の研究開発の業務に従事する社員については、上の要件に該当する場合だけでなく、前述の「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合」にも面接指導を実施する義務があります。

(注)金融商品の開発業務・ディーリング(売買)業務・アナリスト業務、コンサルタント業務といった高度な専門的知識を必要とする等の業務が該当します。なお、高度プロフェッショナル制度の導入に当たっては、一定の年収や労使委員会の決議などの要件を満たす必要があります。高度プロフェッショナル制度が適用される社員は、労働基準法の労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金の規定が適用除外となります。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則には、面接指導の対象となる業務と社員の範囲、時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり100時間を超えた場合に、医師による面接指導を実施することを定めておく必要があります。

なお、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合は、社員の申し出や疲労の蓄積等を必要としません。そのため、就業規則においては、通常の社員に対する面接指導とは別に規定を設ける必要があります。

また、就業規則には直接関係ありませんが、この法改正に伴い、管理監督者を含む全ての社員を対象とした労働時間の把握(高度プロフェッショナル制度の対象となる社員は健康管理時間の把握)が企業に義務付けられています。

具体的には「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」によって労働時間を把握した上で、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための措置を講じる必要があります。自社の労働時間管理の体制についても、見直しが必要になるかもしれません。

以上(2019年10月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ESB Professional-shutterstock

レンタルフラワーの業界動向

書いてあること

  • 主な読者:レンタルフラワーサービスの提供を検討する経営者
  • 課題:現在の市場規模、注意すべき点などが分からない
  • 解決策:市場の推移や具体的な注意点を把握する

1 レンタルフラワーとは

レンタルフラワーとは、法人・個人に対し、装飾用・観賞用の花を有料でレンタルするサービスのことです。植物をレンタルする事業としては、レンタルグリーン(観葉植物のレンタル)が広く知られていますが、近年は後述する造花やプリザーブドフラワーの質の向上などにより、レンタルフラワーにも注目が集まってきています。

事業者によって異なりますが、レンタルフラワーの一般的なサービスの流れは次の通りです。

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一般的に、レンタルフラワーには、会社、病院、ホテル、ショッピングモール、飲食店などで定期交換を繰り返しながらレンタルする「レギュラーレンタルフラワー」と、ステージ・イベント、撮影会、講演会などのために単発的にレンタルし、不要となった際は撤去する「スポットレンタルフラワー」があります。

レンタルフラワーは、1つの花を使い回す特性上、小売業に比べると低い料金でサービスを提供しやすいという特徴があります。一方で、常に新品を提供するわけではないため、製品の品質維持に留意する必要があり、また交換の頻度などによっては小売業よりも多くの人員が必要となる可能性があります。

2 レンタルフラワーの市場規模

経済産業省へのヒアリングによると、「レンタルフラワーは、日本標準産業分類における『7099 他に分類されない物品賃貸業』に該当する」とのことです。この分類には、レンタルフラワー以外の物品賃貸業も含まれるため、市場規模を測る指標としては適切とはいえません。

フラワースクールの運営や花に関する情報提供などを行っているフラワーエデュケーションジャパン・アソシエーション(以下「FEJ」)へのヒアリングによると、「レンタルフラワーを単独で行う事業者は少なく、花屋などの小売業を営んでいる事業者が、小売業と並行してレンタルフラワーを行っている場合がほとんどであると思われる」とのことでした。

そこで、参考情報として日本標準産業分類「6093 花・植木小売業」の市場規模を紹介します。花・植木小売業の事業所などの推移は次の通りです。

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3 レンタルフラワーを始める際の留意点

1)取り扱う花の種類について

レンタルフラワーで取り扱う花は、次の3種類に大別されます。

1.生花

造花やプリザーブドフラワーのように加工を施していない自然の花です。香りや質感を重視する顧客には好まれます。

しかし、造花やプリザーブドフラワーに比べると製品寿命が短く、交換頻度が高い、メンテナンスに手間が掛かるといったデメリットがあります。また、顧客は水やりなどの世話を定期的に行う必要があります。

2.造花

布やプラスチックなどの素材を加工した人工の花です。丈夫で軽量なため、長期利用が可能な他、アレンジメントがしやすくなっています。水やりなどの世話が不要なため、顧客にとっては使いやすい製品です。

近年は制作技術の向上により、生花に近い質感を出せるようになっていますが、それでも生花には劣るという意見が多いようです。

3.プリザーブドフラワー

生花を特殊加工して、長期利用を可能にした花です。生花に近い質感を維持することができ、また、専用の香水を使って香りを付けられるものもあります。水やりなどの世話が不要なため、顧客にとっては使いやすい製品です。

しかし、プリザーブドフラワーに加工できない生花もあるため、種類が限られるというデメリットがあります。また、湿気の多い場所ではカビが生えることがあるなど、注意が必要な面があります。

レンタルフラワーでは、1つの花を使い回して使用するため、長期利用が可能な造花やプリザーブドフラワーを取り扱う事業者が多いようです。

もちろん生花レンタルを行う事業者もありますが、FEJへのヒアリングによると、「長期利用を想定した場合、生花は造花やプリザーブドフラワーよりもコストがかかる傾向にある。そのため、生花レンタルを専門に行う事業者はほとんどないと思われる」とのことでした。

2)レンタル料金について

レンタル料金は、花の種類やサイズ、交換頻度などによって異なります。例えば、エミハナスタイル(静岡県静岡市)では、花のサイズと交換頻度に応じて、アーティフィシャルフラワー(造花)のレンタル料金を次のように設定しています。

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3)営業活動について

FEJでは、協会のウェブサイトで、レンタルフラワーの営業活動を仕事につなげるためのポイントを紹介しています。主なポイントは次の通りです。

1.企画書を準備する

きちんとした企画書を準備して臨むと、より仕事を円滑に進めていくことができます。次の5つを押さえて、できるだけ簡潔な企画書をつくることがポイントです。

  • 自身のプロフィール
  • プリザーブドフラワーもしくはアーティフィシャルフラワーの魅力
  • レンタルのメリット
  • 数種類のサンプル画像を添付
  • 料金表

2.レンタルのメリットを明らかにする

次の内容を参考に、レンタルのメリットを顧客に説明します。

  • 価格:購入する場合との比較や、生花との比較を具体的に明記しましょう
  • 業務の効率化:手入れ時間などが不要なため、貴重な時間を有効利用していただけます
  • 衛生的:水や土が不要なため、病院などでも安心してご利用いただけます

3.料金は具体的なプランを提示する

年間12回(毎月交換)、年間6回(2カ月ごとに交換)、年間4回(季節ごとに交換)など、具体的なプランを提示します。さらにこれらをサイズごとにリストアップして、あらゆるニーズに対応できることを提示します。分割払いと一括払いの金額に差をつけたり、買い取りの金額を記載したりするといいでしょう。

4.訪問時はサンプルを持参する

花の魅力を伝えるには実際に見て触れてもらうのが一番効果的なので、訪問時は企画書と一緒にサンプルを持参します。できればショップイメージに合わせたデザインで制作します。

5.花を飾る意味や効果を伝える

「こちらのお店は女性だけではなく、男性のお客様も多くいらっしゃいますので、グリーンとホワイトを基調とした清潔感のあるデザインにしました」など、花を飾る意味や効果を伝えます。

詳細については、FEJのウェブサイトをご確認ください。

■FEJ「最近良く聞くレンタルフラワービジネス.仕事に繋げる為にはどうしたらいい?」■
http://flowereducation.net/blog/2017/03/23644

4 レンタルフラワーを行っている事業者の事例

1)花門フラワーゲート(東京都中央区)

観葉植物の他、草花、生花、造花のレンタルを行っており、「日本で最初に草花のレンタルを始めた会社」とされています。生花・造花のメンテナンスにおいては、交換を行いながら常に美しい状態を保つことに留意しており、花の種類と状態に合わせた水さし、あらかじめ器に生けた状態での納品などを行っています。

■花門フラワーゲート■
https://www.flowergate.co.jp/

2)エム・エフ・プランニング(東京都世田谷区)

アートフラワー(造花)のレンタルを行っています。冒頭で紹介した「レギュラーレンタルフラワー」「スポットレンタルフラワー」の他、観葉植物や人工樹木のような鉢物とは趣の異なるあか抜けたイメージの葉物・枝物を提供する「グリーンアレンジレンタル」などのサービスを実施しています。

■エム・エフ・プランニング■
http://mf-planning.com/

3)エミハナスタイル(静岡県静岡市)

アーティフィシャルフラワー(造花)のレンタルを行っています。前述の通り、花のサイズや交換頻度に合わせた料金設定をしている他、花に関する知識や技術を学ぶフラワーアレンジメントスクールも運営しています。

■エミハナスタイル■
https://www.emihanastyle.com/

以上(2019年7月)

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画像:pixabay

外国企業と取引を始めるに当たって注意すべき事項

書いてあること

  • 主な読者:外国企業と取引したい経営者
  • 課題:外国企業と取引する際の注意点が分からない
  • 解決策:国のリスクや商習慣の違いなどを踏まえる。相談先機関も活用する

1 外国企業と取引する際の注意事項

国内で完結する取引と異なり、国際的な取引(いわゆる「貿易取引」)には、「取引相手の情報が不足している」「思わぬ手間や出費を強いられる」などのリスクがあります。そのため、国内企業との取引とは違う点にも注意を払わなければなりません。

外国企業との取引で注意すべき点は次の通りです。

1)情報の不足

日本国内で取引をする場合に比べ、土地勘がなく、顔を直接向き合わせてのコミュニケーションが難しい外国企業との取引は情報が不足しがちです。そのため、契約不履行(商品の相違、納期遅れなど)、詐欺、取引相手の倒産、現地政府の政策による輸出入の差し止め、その他商習慣の違いなどに起因するトラブルの発生を防ぎにくい傾向があります。自社で情報収集を強化するだけでなく、現地事情に精通した専門家や専門機関を活用し、必要な情報を得られるようにしておきましょう。

具体的に不足しがちな情報としては、次のようなものがあります。

  • 相手となる外国企業の信用情報
  • カントリーリスク
  • 商習慣や文化の違い

なお、企業情報の調査機関である帝国データバンクや東京商工リサーチでは、海外の提携調査機関から取得した、外国企業の信用情報を提供しています。

■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■東京商工リサーチ■
http://www.tsr-net.co.jp/

2)展示会などに出展

国内外で開催される国際的な展示会・展覧会・商談会へ定期的に出展することで、新規取引先を発掘したり、既存取引先との関係を強化したりする良い機会になります。自社で負担できる費用と、開拓したい市場(国・地域、販売チャネルなど)を勘案し、適切な展示会・展覧会・商談会に出展するようにしましょう。

中小企業基盤整備機構では、専門家によるアドバイス、翻訳・印刷支援といった海外展示会出展サポートを行っている他、「海外展示会ハンドブック」も配布しています。

■中小企業基盤整備機構 海外展示会ハンドブック■
http://biznavi.smrj.go.jp/handbook-overseas-exhibitions

3)カントリーリスク

貿易取引には「カントリーリスク」と呼ばれるリスクがあります。これは、個別の取引相手が持つ商業リスク(契約不履行、倒産、詐欺など)とは別に、貿易取引相手国の政治・経済・社会環境に起因する損害発生のリスクのことです。

具体的なカントリーリスクとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 著作権や商標権など、知的財産権の侵害の頻発
  • 行政手続きが不透明で、法的根拠が薄い
  • 政府による民間企業の経営や案件への介入
  • 政権交代が経済の混乱につながりやすい
  • 民族や宗教の対立が根深く、紛争が生じやすい

なお、日本貿易保険(NEXI)では、中小企業や農林水産業従事者を対象に、船積み後のカントリーリスクやバイヤーの信用リスクをカバーする「中小企業・農林水産業輸出代金保険」を提供しています。取引金額が大きい、取引相手の信用度が低いなど、取引のリスクが大きいと判断した場合は利用を検討してもよいでしょう。

■日本貿易保険(NEXI)「中小企業・農林水産業輸出代金保険」■
https://www.nexi.go.jp/product/sme/

4)商習慣や文化の違い

外国企業との取引に当たっては、商習慣や文化の違いによるトラブルが生じる可能性があります。例えば、日本国内の取引であれば、「顧客に必要と思われることは、契約や約束の範囲でなくても、可能な範囲で行う」「外装の破損は、たとえ商品そのものにダメージがない場合でもクレームの対象になり得る」「納期は守られる」「代金は期日までに回収できる」といったことが一般的です。

しかし、外国企業との取引であれば、「契約書に記載されている事項以上の仕事はしない」「外装が破損していても、商品そのものにダメージがなければ問題ない」「納期が必ずしも守られない」「代金が期日になっても回収できない」といった、商習慣や文化の違いに起因するトラブルが発生する場合があります。

また、ベースとなる考え方が違う以上、「常識的に考えれば○○してくれるであろう」という、以心伝心のコミュニケーションは外国企業との間では成立しません。そのため、メールなどでやり取りをする場合は、自社が取引相手に伝えたい内容を簡潔に分かりやすく伝えることが大切となります。

商習慣や文化の違いによるトラブルを軽減するために、取引相手に求める詳細な事項を契約書に盛り込んで順守させるようにしましょう。

5)煩雑な手続き

貿易取引においては、国内で完結する取引と異なり、多数の書類のやり取りが必要となる煩雑な手続きが必要な場合もあります。これは、商品が輸出企業から輸入企業の手に渡るまでに多くの企業・機関が関与しているためです。そして、手続きによっては、怠ることで損失が生じるだけでなく、何らかの処罰の対象になったり、順法意識が薄いなどとして自社の信用低下につながったりする場合すらあります。

手続きに漏れがないよう、社内でのチェック体制を整えたり、貿易取引に関する専門機関に照会したりするなどして、トラブルが発生しないようにしましょう。

6)輸出入の規制

貿易取引は、国外から商品を運び込む取引、国外に商品を運び出す取引によって成り立ちます。そのため、国内に持ち込まれると問題となる商品(例:病害虫がついた農作物、偽ブランド商品、コメなど国の政策で保護されている農作物・工業製品)や、国外に持ち出すのが好ましくない商品(例:希少動植物など)については、輸出入が規制されています。こうした輸出入の規制には、国によっては家庭用ゲーム機器など、通常の企業活動では取引の規制が想定しにくい商品であっても、性能の高さや使われているソフトウエアなどを理由に規制対象となっている場合があります。

もし、輸出入しようとした商品が規制の対象となっている場合、取引そのものが不履行となって損害が生じたり、十分な数量の輸出入ができなくなったりします。

日本からの輸出や、日本への輸入が規制されている品目については、税関(財務省関税局)「輸出入禁止・規制品目」などで確認できます。

■税関(財務省関税局)「輸出入禁止・規制品目」■
http://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

7)為替レートの変動

貿易取引は、基本的に外貨によって行われます。当事者企業双方の利便性の観点から、米ドルやユーロなど基軸通貨(またはそれに準ずる通貨)を利用するのが一般的ですが、これらの通貨の為替レートは時として大きく変動します。

為替レートの変動への対応策としては、「円建てで取引する」「為替予約(注)をして事前に交換レートを確定させる」などが挙げられます。金融機関では為替レート変動対策の金融商品を提供している場合があるので、渉外担当者に確認してもよいでしょう。

(注)一定時期後の外貨と円の交換を事前にレートを決めて予約する金融取引のことをいいます。

8)専門機関に相談

初めて外国企業と取引をする際には、専門機関に事前に相談し、情報収集やノウハウの蓄積に努めるようにしましょう。

主な専門機関としては、日本貿易振興機構(通称:ジェトロ)や中小企業基盤整備機構などの国が運営している機関、都道府県が運営している国際化支援機関、国際的な取引を支援する民間団体、各国の政府が日本国内に設けた投資・貿易支援機関などが挙げられます。

2 相談先、情報源

1)支援機関

1.日本貿易振興機構

日本貿易振興機構は、日本貿易振興機構法に基づき設立された貿易・投資の支援機関です。日本貿易振興機構は、海外進出を検討している企業に対して、投資相談(無料)、海外調査(有料)を提供しています。

■日本貿易振興機構■
https://www.jetro.go.jp/

2.中小企業基盤整備機構

中小企業基盤整備機構では、国際化支援アドバイス(中小企業の国際化を支援するアドバイスの提供)を行っています。個別の相談ごとに国別担当の経営支援専門員が、内容に応じて各分野で専門性の高いスキルを持つ「国際化支援アドバイザー」と連携しながら、経営課題解決の観点に立ったアドバイスを行っています。アドバイスの費用は無料となっており、何度でも相談できます。

また、同機構では、ウェブサイト上での情報提供や、全国各地において貿易など海外展開に関するセミナーを実施しています。

■中小企業基盤整備機構「海外展開」■
http://www.smrj.go.jp/sme/overseas/index.html

3.商工組合中央金庫

商工組合中央金庫では、国内外全店舗に「中小企業海外展開サポートデスク」を設置しています。個別相談により、海外進出に必要な海外投融資から貿易金融まできめ細かくサポートを行っています。

■商工組合中央金庫「国際業務サポート」■
https://www.shokochukin.co.jp/corporation/support

4.日本商事仲裁協会

日本商事仲裁協会は、国内・国際間の商事紛争の予防と処理によって取引を促進することを目的とした団体です。同協会では、会員向けに国際取引に関する法律相談・契約相談・貿易相談などを行っています。

■日本商事仲裁協会■
https://www.jcaa.or.jp/

2)情報源

1.日本貿易振興機構「国・地域別に見る」

日本貿易振興機構では、ウェブサイト上で「国・地域別に見る」を提供しており、国・地域の概要や、貿易上の留意点などを見ることができます。

■日本貿易振興機構「国・地域別に見る」■
https://www.jetro.go.jp/world/

2.日本貿易振興機構「ジェトロ貿易ハンドブック2019(オンデマンド版)」

貿易取引に関わる基本的な事項をまとめたハンドブックで、貿易実務の基礎知識やマニュアル、国際ビジネス関連機関や検査機関の連絡先などが収録されています。

■タイトル:ジェトロ貿易ハンドブック2019
■発行:日本貿易振興機構
■定価:1620円(税込)

以上(2019年5月)

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経営者の健康リスクが企業に与える影響と対策を考える

書いてあること

  • 主な読者:自身の健康リスクに備えたい経営者
  • 課題:ケガや病気で経営に携われなくなったときの備え方が分からない
  • 解決策:後事を託せる人物を確保するなど、事前策を講じておく

1 企業のリスクとして捉えたい経営者の健康

人は誰しも突発的な事態に直面する可能性があったり、加齢に伴って心身が衰えたりします。例えば、交通事故、急性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)、認知症の発症などが考えられます。

企業にはさまざまなリスクが存在しますが、経営者が「突然の死亡や高度障害」「判断力や認知力の低下」の事態に陥ることで任に堪えなくなることも想定しておかなければならないでしょう。

経営者の業務は激務であり、代わりとなる人物がいないため、体調を崩しても「忙しいから」「一時的な疲れでたいしたことはない」と判断して、通院や治療が先送りになりがちです。その結果、経営実務に携われないほど深刻な症状を招くこともあるのです。

改めて経営者の健康を、経営上のリスクという観点から考え、その対応を検討してみましょう。なお、以降では会社法に関する記述もあります。ここで紹介するのは原則論であり、例外となるケースが多いことにもご注意ください。

2 経営者の権限と責任

1)経営者の権限

経営者(代表取締役)は、会社の業務に関する包括的な代表権を有します(会社法第346条第4項)。そのため、取締役が1人のみで、経営者に万一の事態が生じた場合、資産の売却や多額の借り入れなどの重要な決定が下せなくなる恐れがあります。

経営者が株主総会の議決権の過半数を握る「オーナー(大株主)」でもある場合、事態は一層深刻になります。株主総会の成立や決議が、一定数の議決権を持つ株主の出席・投票を要件としているためです。株主総会における決議の方法は次の通りです。

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経営者に万一の事態が生じた場合、会社の定款や経営者の保有株数などによっては、取締役等の役員に欠員が生じた場合の新たな役員の選任(注1)、取締役等の役員や会計監査人の解任、その他重要事項についての株主総会の承認など、株主総会の決議が必要な事項について定足数を充足しない(注2)ために、決議を実施することが困難になる可能性があります。

(注1)利害関係人が申し立てることで、裁判所に「一時役員の職務を行うべき者(仮取締役等)」を選任してもらうことが可能です(会社法第346条第2項)。

(注2)身体に障害が生じているものの、判断力が正常な場合であれば、議決権の代理行使の委任状を取り付けることで、株主総会の定足数を充足させることができます(会社法第310条)。

2)経営者の責任

経営者に万一の事態が生じ、責任が果たせなくなった場合に生じる影響の例は、次の通りです。「あの経営者だから」という属人的な信用や能力でビジネスを成り立たせることはある意味で、かけがえのない経営者の能力です。しかし経営者に万一の事態が生じた場合、社内外に大きな影響を及ぼしかねないことも覚えておきましょう。

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3 対策

1)事前の対策を講じて混乱を最低限に

経営者に万一の事態が生じた場合、事前に対策を講じていなければ、企業経営に大きな影響を及ぼし、企業の存亡にすらかかわりかねません。そのため、経営者に万一の事態が生じないようにし、万一の事態が生じてもそのリスクを低減し得る事前の対策を講じておきましょう。

2)会社としての事前対策

1.後継者の指名や育成、または後事を託せる人物の確保

経営者、特にオーナー経営者であれば「生涯現役」でありたいと考え、「誰かに引き継ぐのはまだ先」と思っていることが少なくないでしょう。しかし、加齢による心身の衰えを避けることはできません。また、経営者が加齢による心身の衰えを心配する年齢でなくても、疾病にかかったり、事故に遭遇したりするリスクがあります。そして、経営者に万一の事態が生じた場合、経営に空白が生じる可能性があります。

任を果たせない場合でも経営に空白がないよう、後継者となる人物の指名や育成、いざというときに後事を託せる人物の確保を進めなくてはなりません。そして、情報共有を進め、経営者に万一の事態が生じた場合でも、スムーズに経営を引き継げるようにしましょう。

2.定款の見直し

会社法では、「定款に別段の定めがある場合を除き」とする規定が多くみられます(いわゆる定款自治)。逆にいえば、定款に定めがない場合、会社法の規定に従って会社組織を運営することになります。

そのため、会社法で許容されている範囲で定款を見直してみることも一案でしょう。主な定款見直し例は次の通りです。

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図表3から分かる通り、定款の見直しは、会社の機関設計や株主構成などによって効果が大きく異なります。そのため、弁護士など専門家と相談し、会社法の規定の範囲内で、定款の規定を万一の事態に備えられる内容に整備するようにしましょう。

なお、定款の変更には、株主総会における特別決議(会社法第309条第2項11号)が必要となるため、早めに対策をしておくとよいでしょう。

3)経営者個人としての事前対策

1.自分の健康に対する意識を高める

経営者の業務は、ただでさえ激務であり、心身に負担がかかりやすいものです。そのため、身体や心に不調を来してしまい、業務を続けるのが難しくなったり、判断が鈍ったりすることもあるでしょう。

また、加齢によって心身は衰えるものですが、自分が思っているより早く衰えがくることもあります。例えば、認知症といえば高齢者が発症するイメージを持っているかもしれませんが、若年性の場合は40~50歳代に発症することがあります。

疾病の場合、症状が進行した後では対応策を検討・実施するのは難しい場合があります。そのため、経営者は自身の健康に対する意識を高め、予防や早期発見に努めて、万一の事態に陥らないようにしておきましょう。

具体的な取り組みとしては、「食生活のバランスを取る」「可能な限り規則正しい生活を送る」「ウオーキングなど有酸素運動をする」などといった生活習慣病の予防、定期的な人間ドックの利用、心身の異常を感じたら速やかに専門医療機関で受診、などが挙げられます。また、自己診断して誤った対応をしないよう、正しい知識を身に付けておくのもよいでしょう。

2.サポート役を確保する

経営者は孤独なものです。そのため、心身に不調を来したとしても、ついついそのままにしがちです。

そこで考えたいのが、会社経営にあっては後継者や参謀役、家庭にあっては家族といった、サポート役の確保です。そして、万一の事態における判断の手助け、経営者の健康にかかわる助言や行動のサポートなどをしてもらい、健康状態の変化が会社経営に影響を与えることがないようにしておきましょう。

また、経営者が健康なうちに、後継者や顧問弁護士など、信用のおける人に任意後見人となってもらうのもよいでしょう(任意後見契約の公正証書の作成などが必要)。これにより、経営者の判断能力が認知症などにより低下した場合でも、財産管理に関する事務などを自身で選んだ信用のおける人に委任でき、後継者への株式の譲渡などの対応策を講じられるため、混乱を最低限に抑えることが期待できます。

3.「万一の事態」に備えるのは経営者に課せられた重要な役割

万一の事態は、どの経営者にも訪れる可能性があります。「自分は大丈夫」と過信せず、「自分に何かあったとき、経営にどのような影響が生じるのか」「自分の健康状態は良好なのか」などといったことに気を配るとともに、万一の事態への備えを万全にして、企業経営への影響を最小限にしたいものです。これも、経営者に課せられた重要な役割の1つといえます。

以上(2019年11月)
(監修 ベリーベスト法律事務所 弁護士 長野良彦)

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経営者が押さえておくべき収支シミュレーションの作り方

書いてあること

  • 主な読者:起業するときや既存の企業が新規事業への参入を検討している経営者
  • 課題:綿密な収支シミュレーションを作成する際のポイントを知りたい
  • 解決策:業種別のポイントや、事例を用い作成手順を解説する

1 収支シミュレーションとは

1)収支シミュレーションを作成する目的

収支シミュレーションは、起業するときや既存の企業が新規事業への参入を検討するときなど、新たに事業を開始する場面で必要なものです。コスト削減など、経営改善策を検討するときにも有効です。

完成した収支シミュレーションは、経営者が思い描く事業の将来像を数値で表現したものです。結果はもとより、その数値を導いた思考プロセスも大切です。まだ見えない収益や費用を数値化していく過程で、事業の実現性や難所を改めて整理・チェックし、事業計画をブラッシュアップすることができます。

なお、外部からの資金調達を必要とする際は、資金提供者を説得するために欠かせない資料の1つでもあります。

2)損益計画と収支計画の違い

ここで、「損益計画」と「収支計画」の違いを押さえておきましょう。

損益計画とは、売上、売上原価、経費、利益を見積もることで、決算書の「損益計算書」を予測するイメージです。

販売先との取引条件が「月末締め翌月末入金」の場合、売掛金の入金は翌月になりますが、売上は当月に計上します。また、店舗物件の取得資金など、設備投資に該当するものは、貸借対照表の固定資産に計上するので、損益計画には反映されません。

それに対して収支計画は、売上は入金される月に収入として計上し、設備投資の資金は支出として計上します。実際の資金の入出金と現預金残高を予測することで、資金ショートを防ぐ方策の必要性を把握できます。「資金繰り表」や「キャッシュフロー計算書」をイメージした計画だといえます。

新規事業を始める際などには、損益計画に加えて収支計画を作成することで、より綿密な検討が可能になります。

3)業種ごとのポイント

収支シミュレーションは、業種ごとの特徴を反映したものでなければなりません。ここでは、業種別に主なポイントを紹介します。

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2 事例で見る収支シミュレーションの作成手順

実際の作成手順を理解するために、ここではイタリアンレストランの新規開業を例にとって説明します。

A法人は事業多角化の一環として、飲食業への参入を決め、新たにイタリアンレストランを開業(20XX年10月1日)することにしました。

東京都台東区の▲▲駅徒歩7分の雑居ビルの1室、15坪程度の広さの物件で開業を検討中です。本ケースの開業計画における収支シミュレーション(1年目)について考えていきましょう。

1)前提となる投資計画を立てる

収支シミュレーションを作成する前提として、開業するには何にいくらの資金がかかるか(かけるべきか)、資金調達はどうするか、といった投資計画の検討が必要です。

投資計画は、開業当初にかかるイニシャルコストに加えて、開業後半年~1年の間に予想される資金不足を賄うためのランニングコストも含めて検討します。具体的には、店舗の敷金・保証金、内装工事費、厨房設備や備品などの設備資金と、当面の人件費、家賃、広告宣伝費、水道光熱費などの運転資金に分けて考えます。

さらに、これらの資金調達方法の計画も不可欠です。自己資金、融資、出資など、考えられる方法をピックアップして、投資総額の調達が可能かどうか検討します。

事業の成功確率を高めるための基本的な姿勢は、当初の投資金額が過大にならないようにすることです。投資金額が大きいと、元を取るために必要な売上が増えることになります。かといって投資を削りすぎると、顧客を確保できない原因になることがあります。投資金額は、実現可能な売上から逆算して見積もる必要があります。

そのために投資計画は、収支シミュレーションを検討しながら、適正と判断できる内容に修正することで、事業の成功確率を高めることができます。

本ケースでは、次のような計画を立てました。

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2)損益計画を作成する

先に損益計画を検討すれば、収支シミュレーションを作成しやすくなります。ここでは、損益計画の各項目の検討方法について解説します。

1.売上高

飲食店の場合の売上予測は、「お客様の平均単価×座席の数×回転数」で算出するのが一般的です。

  • (ランチタイム) 単価1,000円×36席×2回転/1日=7万2000円
  • (ディナータイム)単価3,000円×36席×1回転/1日=10万8000円

このように、1日の売上を算出して、月の売上を予測します。なお、ウイークデーと週末に分ける、2月や8月など一般的に飲食店の売上が低下する月は予測を下げるなど、事前調査や経験などに基づいた変動要因(季節指数など)を加味することで、より現実的な計画に近づきます。

なお、本ケースでは、12月は忘年会シーズン、3、4月は送歓迎会シーズンであることから、季節指数を高めに設定しています。

2.売上原価

飲食店の売上原価は、食材やドリンクの仕入れなどが該当します。本ケースでは、原価率を飲食店の平均的な水準である35%と想定しました。つまり、月商が300万円だとすると、原価は300万円×35%=105万円になります。

原価率など経営指標の業界平均は、中小企業庁「中小企業実態企業調査」や日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」などを参考にするとよいでしょう。

3.販売費および一般管理費

販売費および一般管理費(以下「販管費」)は、家賃、人件費、水道光熱費、減価償却費などの費用を想定していきます。販管費は、売上の増減にかかわらず一定の「固定費」と、売上の増減によって変動する「変動費」とに分けて検討すると、より精緻な計画になります。主な固定費には家賃、人件費、減価償却費などがあります。また、主な変動費には広告宣伝費、消耗品費や、前述の売上原価などがあります。

ただし、固定費と変動費の分類は会社ごとに異なるため、費用ごとに自社の売上の増減と連動する費用かどうかの判断が必要になります。

  • 給与・賃金:正社員2人 30万円と25万円、パート(1人当たり)10万円×2名=20万円
  • 家賃:42万円(木造2階建の物件。1階15坪、2階15坪)
  • 広告宣伝費:販促物製作費やポスティング費用で、初月に60万円、2カ月目に40万円を見込む。3カ月目以降も、継続的にチラシ配布や飲食店サイトへの広告出稿を行う費用として月に20万円を見込む
  • 水道光熱費:水道料は月5万円、光熱費を月10万円と見込む
  • リース費:一部備品のリース費用として月5万円を見込む
  • 通信費:電話料、Wi-Fi使用料などで月3万円を見込む
  • 備品・消耗品:布ナプキンや割り箸などの消耗品の他、備品の補修料として月に10万円を見込む
  • その他:諸会費や突発的な費用が掛かることを予想して月に5万円を計上

4.営業外損益

本業以外での収入が見込める場合は、営業外収入として計上します。例えば、受取配当金などがあります。また、営業外費用としては、主に借入金の利息が考えられます。本ケースでは、利息の支払いが2万円/月としています。

5.損益分岐点売上高

売上と費用項目が出そろったら、損益分岐点売上高を計算しましょう。損益分岐点売上高とは、事業が黒字になるか赤字になるかの境界、つまり採算が合うか合わないかの売上高をいいます。損益分岐点は次の計算式で算出されます。

  • 損益分岐点売上高=固定費/(1-(変動費/売上高))

3)収支シミュレーションの作成

損益計画ができたら、実際の資金の出入りを反映した収支計画を作成しましょう。融資金が入金されるタイミング、設備投資の支払いのタイミングなどを考慮し、表に落とし込んでいきます。

Excelなど表計算ソフトを活用すれば、「売上原価率が38%になった場合」など、数値が変動したときを想定したシミュレーションが簡単にできます。

損益計画と収支計画について、「何年くらい先まで作成すべきか」ということは、事業内容によって変わってきます。ベンチャー企業でプロダクト開発に数年を要する場合は、5年以上先までが必要となるでしょう。飲食店の場合は、開業後3年先まで作成すれば通常は十分と考えられます。

A法人の事例では、次のような収支シミュレーションを作成しました。

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3 収支シミュレーションにおいて留意すべきポイント

1)収支計画の根拠を明確に

収支シミュレーション作成時に陥りがちな過ちは、「数字の遊び」になってしまうことです。収支をプラスにすることだけを考えて、希望的観測で数字をいじっていても、「絵に描いた餅」の計画になってしまいます。

「事業はやってみなければ結果は分からない」のは事実ですが、根拠をより明確にすることで実現可能性は高まります。ディナータイムで1日1回転することを見込むとすれば、その根拠がどこにあるかがポイントです。

飲食店の場合に根拠となるのは、店舗の立地条件(人通り、顧客層の数、競合店の分布と繁盛ぶり)、自店のコンセプト、提供する料理、サービスの魅力や競合優位性などです。こうした分析と検討が、売上見込の算出根拠として説得力を持ちます。

売上見込の算出方法は、業種や事業内容によって異なります。法人向けのサービス業などBtoBの事業であれば、すでに見込取引先があるかどうか、これまでの人脈などからアプローチできる先がどれくらいあるか、といった点が根拠になり得ます。これまでにない斬新なビジネスでブルーオーシャンを狙うベンチャー企業は、市場規模を想定したうえで、市場占有率から予測する方法も考えられます。

事業内容に応じて、多面的な視点から収支の妥当性を検証することが、成否を左右するといえます。

2)3つのケースで予測する

収支シミュレーションは、環境変化や不測の事態も想定して、3つのケースで予測しましょう。

1つ目は「ベースケース」で、必ず達成したい水準の計画です。「これくらいはいかないとやる意味がない」といえる数字で策定するものです。多くの創業者や経営者は、ベースケースを甘く立てがちな傾向にあります。慎重に根拠を検証して、保守的な計画にすることが重要です。

2つ目は「ポジティブケース」で、予想以上にいい条件が重なったとした場合に想定できる希望的観測値です。これを策定するメリットは、チームが達成意欲を向上できることです。

3つ目は「ネガティブケース」で、ベースケースを下回ることを想定した計画です。悪条件が重なったとしても、最低でも達成できると思う水準です。ネガティブケースも想定したうえで、余裕ある資金を準備できることが望ましいといえます。

収支シミュレーションを運用するうえでは、それぞれのケース間で異なるポイントを整理し、一定期間(例えば、四半期・半期など)ごとに実績がいずれのケースで進んでいるのかをチェックすることが大切です。なぜポジティブケース、あるいはネガティブケースになっているのか、その原因を詳細に検証していくことで、収支シミュレーションは日々の経営判断を支える重要なツールとなります。

3)数字以外の計画との整合性

とかく「事業計画=数値計画」と認識されがちですが、数字以外の事業計画を練り上げてこそ、収支の実現可能性を高めることができます。

数値計画が「定量計画」といわれるのに対して、数字以外の事業計画とはビジネスモデル、コンセプト、マーケティング、アクションプランなど「定性計画」です。「定量計画」と「定性計画」の整合性を考えることが、事業の成功確率を高めることにつながります。

例えば、「売上を月300万円にするためには、どんなマーケティングを行うべきか」など、数値計画を達成するための定性計画をブラッシュアップすることです。事業を開始した後も、数字の動きを見ながらアクションを何回でも修正することで、事業の発展を図っていきましょう。

以上(2019年10月)
(執筆 株式会社MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士 上野光夫)

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医療施設における患者トラブルとその対応を考える

書いてあること

  • 主な読者:患者とのトラブルを危惧する医療従事者
  • 課題:患者からクレームがあったときの対応が定まっていない
  • 解決策:患者に適切な対応をとるとともに、防止策も検討する

1 医療施設における患者トラブル

高齢化が進み、治療や介護などで医療施設を利用する人が増えています。それに伴い、これまではトラブルにならなかった些細なことが、例えば「これは医療ミスではないか」などといった患者からのクレームにつながるケースが増えています。

トラブルと一言でいっても、治療行為そのものに関するクレームから、「治療内容についてしっかりと説明を受けていない」「治療費に納得がいかない」「処方された薬でアレルギー反応が出た」など、その内容はさまざまです。患者の多くは、健康や生命に不安を感じており、早く身体を治したいという強い願望を抱いています。その思いが強い分、医療従事者との些細なコミュニケーション不足などが原因で、根深い不信感を招き、トラブルに発展するケースが少なくありません。

2 患者が抱く不満

厚生労働省「平成29年受療行動調査の概況」によると、外来患者および入院患者の病院に対する項目別の満足度(2017年)は次の通りです。

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外来患者の不満では「診療までの待ち時間(26.3%)」という回答が上位となっています。また、入院患者の不満では「食事の内容(15.9%)」「病室・浴室・トイレなど(10.2%)」という回答が上位に挙がっています。こうした不満が基でトラブルに発展する恐れが大きいと考えられます。

3 患者からのクレームへの対応

医療施設や医療従事者は、次の2つの考え方を持つことが重要となります。

  • 患者とのトラブルを未然に防止する
  • トラブルに発展してしまった患者に対して適切な対応をとる

「患者とのトラブルを未然に防止する」ために必要なのは、患者の不満に気付く努力をすることです。例えば、「患者向けアンケート調査の実施」「投書箱の設置」などによって、患者の意見を幅広く集めていきます。その結果、アンケートでの評判が良くない医療従事者に対して改善を求めたり、評判が良い医療従事者を表彰したりすることもできます。

患者へのアンケートでは、「病院にどのような対応を求めるか」「これまで診療を受けた病院で最も印象に残っているサービスはどのようなものか」といった、医療施設そのものに対する患者の意識調査を実施し、患者の生の声に基づいて施設や運営、サービスなどを見直すことも効果的です。

「トラブルに発展してしまった患者に対して適切な対応をとる」ために必要なのは、クレームの内容・要求が正当かを見極めることです。必要以上に患者とのトラブルを恐れるあまり、結果的に無理な依頼を受けてしまったりすると、かえって問題をこじらせてしまうことがあります。クレームの内容が正当かつ要求も正当であれば、誠意をもって対応し、場合によっては謝罪することも求められます。逆に、クレームの内容が不当かつ要求も不当であれば、毅然とした態度で臨む必要があるでしょう。

もし、クレームの内容は正当であっても、それに対する要求が不当な場合は、慎重に対応しないと大きなトラブルに発展しかねません。このような場合は、その場で即答することを避け、組織として対応するようにしましょう。

4 医療メディエーション

メディエーションとは、紛争の当事者に対して、メディエーターと呼ばれる第三者が相互の対話を促し、それによって当事者が自主的に紛争を解決していくものです。

「医療メディエーション」は、患者と医療従事者との対話不足を解消することを重視し、相互の不信感の払拭を目指すものです。

2012年の診療報酬改定で「患者サポート体制充実加算」が新設され、医療施設には、患者相談窓口を設置し、患者やその家族からの相談の受け付けや、医療従事者との話し合いの場を作る「医療対話推進者」として専任の看護師などを配置すること、患者支援のマニュアル作成、医療従事者への研修実施など、相談体制の整備が求められています。

こうした中、日本医師会、日本医療機能評価機構などの団体が医療メディエーター研修(医療対話推進者養成研修)を実施しています。医療メディエーターは、公的な資格ではありませんが、患者と医療従事者が向き合う場を設定し、対話を促進することを通して関係の再構築を支援する人材です。

5 ADRの活用

ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)とは、訴訟手続きによらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図るものです。

ADRは、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく手続きです。同法では、ADRについて、民間事業者が行う調停、あっせんなどの和解を仲介する業務を対象として、それが法律に定められた基準・要件に適合している場合に法務大臣が認証する制度を設けています。認証された民間事業者の手続きを利用した場合には、一定の要件の下に時効中断などの法的効果が認められるなど、その利便性が高められています。

刑事事件ではない場合、患者が医療施設・医療従事者を相手取って裁判で法的責任を追及するには結審するまで3~4年かかるといわれています。ADRは、半年程度での和解成立を目指すもので、裁判と比べて費用の負担が少ないというメリットがあります。

また、裁判では、原告・被告に分かれて責任のなすり合いをして、結審後にも遺恨が残りがちですが、ADRは、医療施設・医療従事者と患者の対話の場としても期待されています。

■法務大臣による裁判外紛争解決手続の認証制度「かいけつサポート」■
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/

医療施設・医療従事者向けのADRに関しては、日本弁護士会連合会が各地の弁護士会医療ADRを紹介しています。

■日本弁護士連合会「医療ADR」■
https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/adr/medical_adr.html

6 患者トラブルへの対応に関する相談先

各地にある医師会、保険医協会、看護協会などでは、研修会を実施するなど、患者トラブルへの対応に関する取り組みを進めているところも少なくありません。

この他、本格的にトラブルに巻き込まれた場合、暴力行為や威力業務妨害など刑事事件の可能性があれば所轄の警察に相談するとよいでしょう。また、弁護士会を通じて、医療施設に関連したトラブルの案件に精通した弁護士を紹介してもらうのもよいでしょう。

以上(2019年5月)

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