勝てるチーム作りの心得 ~元ラグビー日本代表主将から学ぶ組織論~

書いてあること

  • 主な読者:組織がシャキッとしないと悩んでいる経営者
  • 課題:組織に活を入れる際の参考にできる成功事例を知りたい
  • 解決策:2019年のワールドカップでベスト8に躍進したラグビー日本代表の組織作りを参考にする。重要なのは「目標設定」と「コミュニケーション」

1 8年前に1勝もできなかったチームがW杯で8強に

皆さん、初めまして。元ラグビー日本代表の菊谷崇(きくたに たかし)です。私は日本代表主将として、2011年にニュージーランドで開催されたワールドカップ(以下「W杯」)に出場しました。この大会で日本代表は1次リーグで4試合を戦い、3敗1分け。そう、1試合も勝つことができませんでした。

それから8年後の2019年に、自国開催のW杯で日本代表が世界中に巻き起こした旋風は、皆さんも記憶に新しいことと思います。この8年間で日本代表はどうやって「勝つ組織」に変わっていったのでしょうか。

私は、2014年まで代表チームに身を置き、代表の引退後も、チームが変化し、成熟する様子を見守ってきました。1勝もできなかったチームに「勝者のメンタリティー」が備わり、ベスト8進出を果たすまでの過程について、私なりの分析と考察をお届けできればと思います。

2 「ローマは一日にして成らず」 8強の礎に2015年のW杯あり

2019年W杯の躍進は、イングランドで開催された2015年W杯が礎になっています。2015年W杯は、W杯で24年間勝利のなかった日本代表が、世界ランキング3位だった南アフリカ代表にラストワンプレーで逆転勝利した、「ブライトンの奇跡」が話題になった大会です。

その2015年W杯に向けて、2012年4月にエディー・ジョーンズさん(現イングランド代表監督)が、日本代表のヘッドコーチ(以下「HC」)に就任しました。エディーさんのHC就任こそ、それまでの7回のW杯で1勝(21敗2分け)しかできなかった日本代表に、強化のための“メス”が入った瞬間だったと思います。

エディーさんは、日系米国人の母親と日本人の妻がいて、東海大学や日本の社会人チームでの監督(HC)経験もあることから、日本人と日本ラグビーのことを熟知していました。

一方で、オーストラリア代表のHCとして2003年W杯で準優勝に導くなど、世界の強豪国のレベルもよく知っています。そのため、世界で勝てない日本代表が抱える課題を理解していました。HCに就任した時点で、勝つ組織にするというゴールから逆算して、日本代表を、「どこからどのようにして変えていけばよいのか」のプランができていたのだと思います。

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3 エディーHCの「勝てるチーム作り」のポイント

エディーHC率いる日本代表(以下「エディーJAPAN」)で私が感じた、エディー流の「勝てるチーム作り」のポイントを紹介します。

1)大きなビジョンと2つの目標を掲げる

エディーHCが就任時に最初に掲げたのが、「日本のラグビーを変える」というビジョンでした。後にエディーHCは、「日本ではかつて、ラグビーはとても人気のあるスポーツでした。しかし、いつの間にか人気がなくなってしまった。私が就任した当初、誰もが日本はラグビーではうまくいかないと思っていました。そこで私は、もう一度ラグビーをポピュラーなスポーツにしたいと考えました。そのためには、世界の舞台で勝つことのできるチームにしたかったのです」と日本のメディアに伝えています。勝ちたいという思いは誰にもありますが、まず「なぜ勝たないといけないのか」を大きなビジョンで示すことで、勝つことの意義を、より強く意識できるようになりました。

さらに、具体的な目標は、「W杯ベスト8」という「結果目標」に加えて、日本代表が「憧れの存在になる」という「意義目標」の2つを掲げました。意義目標を掲げた経緯については後で話しますが、2つの目標があったからこそ、日本代表は、多様性豊かな選手全員が同じ方向にベクトルをそろえ、1つのチームにまとまることができたのだと思います。

2)組織の弱点を分析し、計画的に克服していく

世界のラグビーでは、「ティア1(ワン)」と呼ばれる強豪国と、日本などが該当するその下の中堅国「ティア2(ツー)」などにランク付けされています。

私が主将として出場した2011年W杯は、いわゆるティア1チームとの試合経験を積まないまま、大会に臨んでいました。それまで「勝利」という結果を世界に残していなかった日本代表は、ティア1チームと試合をするチャンスをもらえなかったのです。初戦の相手はティア1のフランスでしたが、過去にフランスと対戦した経験がある選手は1人だけ。強豪国との試合経験がなく、対戦相手の情報が映像しかないという厳しい環境では、「勝つ」と意気込んではいたものの、勝てると確信できる根拠に乏しい状態でした。

経験不足という日本代表の弱点を克服するために、エディーHCは、まずティア2チームとの対戦で着実に勝利を重ねていき、強豪国との試合を実現させる、というプランを立てました。そのプラン通り、エディーJAPANは2012年11月にティア2のルーマニア、ジョージアに勝利します。日本代表にとって、アウェーでヨーロッパチームに勝つのは初めての快挙でした。そして翌2013年6月には、ティア1であるウェールズを日本に迎え、第2試合で初勝利(トータル1勝1敗)を飾りました(注:執筆者は上記4試合にフル出場)。

ウェールズ戦での勝利によって世界的に日本代表の力が認められたことで、その後、毎年1~2回は世界ランキング上位チームとの対戦が組めるようになりました。より強度の高い試合を経験することが可能になり、そこで得た経験を基にチームの目標設定を毎年更新していくことで、チームの戦力が上がったように思います。

ちなみに、ウェールズ戦後に聞いた話ですが、この試合に勝たなければ、エディーHCと日本ラグビーフットボール協会との契約が終わっていた可能性もあったそうです。組織を変えるため、そして周囲の理解を得るためには、絶対に結果を残さなければならないタイミングがあるのかもしれません。

3)データを示した上での「世界一」ハードな練習

エディーJAPANは、世界一といえるハードな練習量が有名でした。日本代表は年間120日ほどの合宿を行いますが、「朝5時から朝食まで」「午前中」「夕方から夜まで」と1日3回の練習を行う「ラグビー漬け」の毎日でした。しかも、約4年間で休日はたった2日でした。

選手たちがハードな練習についていけたのは、それぞれの練習に、「なぜ」の説明がされていたため、納得して取り組めたからです。エディーHCは世界のトップレベルをベンチマークに、具体的な数字を示して、日本代表に足りない部分を理論的に説明しました。そのため、選手たちに「世界で勝つ」という意識が強まり、練習でも主体的に動く選手が増えていったのです。

図表は、エディーHCが示したデータと目標の代表的な例です。

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図表の数字は、15人の選手が試合中の1分間に走る距離の平均値(メートル毎分)です。日本の最高峰であるトップリーグでは75メートル、世界ランキング1位のニュージーランド(以下「NZ」)代表は95メートルでした。エディーHCは、世界で勝つためには、この数値をNZ代表さえ上回る100~110メートルにしなければならない、という目標を示したのです。

なぜかというと、日本代表の選手たちはNZ代表の選手たちより体格で劣るため、ボールを止めずに、パスやランニングで勝負している時間を増やす必要があったからです。そして、試合で110メートル走るために、練習では120メートル走ることを目指しました。その結果、前述した2013年6月にウェールズに勝利した頃には、120メートル走れるようになっていたのです。

ハードな練習や、データで目標を示すことは、「それを乗り越えたときに、勝利への自信につながる」というメリットがあります。当時の日本代表キャプテンだった廣瀬俊朗(ひろせ としあき)さんは、ハードな練習について、「追い込まれても前を向ける選手をピックアップしたかったのだと思います」と語っていました。そのような過酷な時間を乗り越えたからこそ、これまでW杯で1勝しかしていなくても、自信を持ってW杯の開催地に乗り込むことができたのです。また、データでNZ代表を上回っているという「事実」が自信の裏付けとなり、想定範囲外のことが起こっても安定したプレーを続けられるようになったのだと思います。

4)リーダーグループを中心とした、主体性とコミュニケーションの重視

エディーHCが構築したチーム体制は、それまでと大きく変化しました。主将(キャプテン)という立場はあるものの、「リーダーグループ」という組織によって、選手が主体的に活動できる環境作りが進められました。チーム発足当初にエディーHCが指名したリーダーグループのメンバーと、グループ内での担当は、次の通りでした(敬称略)。

  • 主将(キャプテン):廣瀬俊朗
  • 日本人と外国人とのコミュニケーション担当:リーチ・マイケル
  • グラウンド内担当:五郎丸歩(ごろうまる あゆむ)
  • グラウンド外担当:菊谷崇

リーダーグループは、この4人に加えて、エディーHCが招聘(しょうへい)したメンタルコーチにサポートしてもらいました。当初は外部の人は不要だと思っていましたが、自分たちだけでは気付かなかったアドバイスをもらえ、有益だということが分かりました。例えば、プレーについて指導する立場である五郎丸さんが、選手を褒めることが得意でないことが分かると、「1日1回、人を褒めよう」というアドバイスをしてくれて、コミュニケーションが円滑になりました。

リーダーグループはまず、選手たちの意向を踏まえて「理想とする日本代表は何なのか」を話し合い、目標設定を行いました。エディーHCも合宿の開始時など定期的に参加し、目標や課題を確認します。ただし、目標の立案や、目標を実現させるための具体的な活動内容と実行プランを作成するのは、リーダーグループです。そして、選手たちに、それらを理解し、実行してもらうように説明をします。このような過程で、リーダーグループを中心に選手たちの主体性が向上し、日本代表としてのロイヤルティー(愛着心)が高くなったと思います。

リーダーグループの取り組みの一例が、日本代表が「憧れの存在になる」という「意義目標」を設定したことです。純粋にラグビーの人気が出てほしいと願う選手たちの思いに加えて、日本代表の価値向上を図るという目的がありました。

ラグビーの場合、国籍を問わず、その国に3年以上生活すれば代表資格を得られます。分かりやすく言うと、多くのスポーツの日本代表が「日本人の代表」なのに対し、ラグビーの日本代表は「日本地域の代表」という考え方ができます。このため、日本代表に外国人が多く入ることになるのですが、この考え方に戸惑う方も多く、ファン獲得に大きな壁となりました。「憧れの存在になる」には、この壁を取り払う必要がありました。

この問題についてリーダーグループで話し合った結果、試合前の国歌斉唱の際は、外国人も含めた選手全員で歌うことに決めました。そして、毎週のミーティング後にスタッフ、コーチを含め全員で国歌斉唱を練習することにしました。また、歌詞の意味を知るために、「さざれ石」がある宮崎県日向市の神社を参拝したりもしました。こうした活動の積み重ねが、多様性豊かな選手たちを1つのチームにまとめることにつながったのでしょう。そして、結果として2019年W杯でラグビーというスポーツが注目されるきっかけになったと思います。

5)ベテランの経験値や影響力を活用

すでにベテランとなっていた私を日本代表に呼んでくれたエディーHCは、ベテラン選手の経験値や影響力を、勝てるチーム作りに巧みに活用しました。

ラグビーでベテランの経験値が役に立つのは、実は試合中ではなく、練習後の体のメンテナンスや、試合前にやっておく準備などです。ベテランは試合の重要な局面でも周りを見渡す余裕や判断力があるというイメージを持たれているかと思いますが、それは試合に向けて行ってきた準備の量の問題であり、経験値とは別物です。

最もベテランの経験値が活きる場面は、2019年W杯での躍進の理由とも関連します。私は日本代表がベスト8に進めた要因の1つは、日本開催だったことだと思っています。なぜなら、W杯は開幕戦から決勝戦まで44日間を要し、事前キャンプを含めると2カ月近い長丁場だからです。

普段、日本で過ごしている日本代表メンバーは、日本での暮らしについて十分な経験値を持っています。ですが、他国の代表メンバーは、日本で過ごすという経験値がほとんどありません。気候、食事、ホテルでの生活、家族とのコミュニケーションなどは、選手のプレーを左右する重要な項目です。W杯で勝つには、外国での長期の生活に柔軟に対応できることが必要なのです。その点、ベテランには、長期の海外遠征時に必要な持ち物や海外での時間の使い方、海外でストレスをためない環境作りなど、若手選手にアドバイスできる経験値があります。

ベテランの影響力として最も大きいのは、練習に対する姿勢や、チームに貢献しようとする姿勢などを、若手選手に見せることです。海外遠征では帯同できるスタッフに限りがありますので、選手たちも裏方作業を行わなければなりません。そうしたときに、ベテラン選手が大きな荷物を運んだり、アイシングの準備をしたり、選手に水を渡したりと、裏方作業を積極的に行うことで、控えの若手選手もチームの勝利のために貢献しようという気持ちになってくれます。

また、前述のように、エディーJAPANはハードな練習量が有名でしたが、エディーHCから、練習では私のようなベテラン選手が、ひたむきに、積極的に取り組む姿勢を見せるように求められました。私としては、ある意味で若手選手を奮起させるための「見せしめ」のような立場ですので、代表復帰を後悔した時期も少なからずありました。

私自身は、エディーJAPANで3年間プレーし続け、当初のエディーHCの希望通りに、若手選手へ経験を伝え、役割を全うして代表を引退。ちょうど2015年W杯まで、残り1年を切った時期でした。

6)大一番で選手が力を発揮できる環境を設定する

エディーHCは、選手たちが自信を持ってW杯の開催地へ乗り込めるように、もう1つの「準備」をしていました。それは、2015年W杯の第1試合である南アフリカ戦の試合会場で、事前に2回、試合を行ったことです。W杯の第1試合という大一番を、慣れない環境でプレーするのではなく、自分たちのイメージをしっかり持った状態で挑めるようにするためです。このような環境を設定することも、マネジメントをする立場の人にとっての、重要な仕事だと感じました。

7)失敗者を責める組織でなく、失敗しないようサポートできる組織にする

エディーHC以前の日本のラグビーは、テクニック重視の練習が多く、状況判断を伴う練習が少なかったと思います。エディーHCは、「それでは試合でプレッシャーがかかったときに、練習で積み上げたことが発揮できない」という考えを持っていましたので、練習は常にゲーム中心で、状況判断が必要なメニューを取り入れていました。

エディーHCが重視したのは、ボールを保持している選手が行う状況判断を、ボールを持っていない選手がどうサポートするか、でした。特にラグビーは、前にいる選手にはボールをパスできませんので、味方は全員、ボール保持者の後方にいます。つまり、ボールを持っている選手は、味方を目視できない中で状況判断をしなければなりません。このため、常に後ろにいる味方が声をかけてサポートする必要があるのです。逆に言うと、ボールを保持していない人が言葉でサポートをすることで、プレーに良い影響を与えることができるわけです。それを15人という大所帯で行うわけですから、ラグビーは、コミュニケーションや対人関係のスキルが求められるスポーツといえるでしょう。

私は現役を引退してから3年になりますが、エディーHCの下で培った経験を活かし、ラグビーのコーチをしています。特にエディーHCの指導方法や考え方を取り入れているのが、自分で立ち上げた子供向けのラグビーアカデミーです。

ラグビーアカデミーの子供たちは、ミスをした選手に対し、「なんでパスをしない」「なんでそっちに行くんだ」と注意します。そんなときに私たちコーチは、「変わらない過去に激しく問いかけても未来は何も変わらない。未来に向けて、次に同じ場面が来たらどんな声かけをすればパスをしてもらえるか考えてみよう」と声かけをします。

皆さんも職場で、ミスをした社員に対して「なんで…」と言っていませんか? ミスという変わらない過去ではなく、未来に向けてミスをなくす改善策に目を向けるようにすると、コミュニケーションの取り方も変わってくるかもしれません。

4 終わりに:重要なのは目標設定とコミュニケーション

たくさんのエディー流の仕掛けを持って臨んだ2015年W杯で、「ブライトンの奇跡」を起こした日本代表。ジェイミー・ジョセフHCに引き継がれてからのさらなる活躍は、皆さんもご存じの通りと思います。

私は、エディーJAPANが残した、2015年W杯の実績と、主体性やコミュニケーションを重視するチーム作りという礎があったからこそ、ジェイミーJAPANは強豪国との対戦が可能となり、「One Team」と呼ばれるまでにチームが一体化したのだと思っています。

私が日本代表やトップリーグで経験して感じたのは、組織に必要なものは、「まとまり」と「目標設定」だということです。「まとまり」を作るためのキーになるのは、コミュニケーションだと思います。エディーJAPANと、その後の日本代表の活躍は、そのことを裏付けてくれています。

以上(2021年1月)
(執筆 元ラグビー日本代表主将 菊谷崇)

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画像:執筆者提供

ビジネスマッチング応用編/新チャレンジには外部の力も借りてみよう(2)

書いてあること

  • 主な読者:ビジネスマッチング(商談会、紹介、ウェブサイトなど)に参加する経営者
  • 課題:ビジネスマッチングで、少しでも成果を上げたい
  • 解決策:事前に【誰の、何を、解決できるか】を明確に。「商談シート」の事前準備も有効

1 ビジネスマッチングで重要なのは「最初の商談」

ビジネスマッチングを利用することで、ビジネスの可能性を広げることができます。ビジネスマッチングの仕組みはさまざまですが、とにかく最初の商談が重要です。面識のない人同士が商談をするため、“最初のつかみ”ができないと、なかなか次に進めません。

最初の商談がうまくいくかどうかは、事前準備で変わってきます。そこで本稿では「ビジネスマッチング応用編」として、必要な事前準備を幾つかご提案します。ビジネスマッチングの基本的な仕組みなどを知りたい方は、以下のコンテンツをお読みください。

2 事前に【誰の、何を、解決できるか】を明らかにする

限られた時間でビジネスマッチングの相手に興味を持ってもらうためには、「何を伝えるか」が非常に重要です。そこでまず、事前に、商品やサービスが【誰の、何を、解決できるか】を明らかにしておきましょう。これが最も基本かつ重要で、これに尽きるといっても過言ではありません。相手が経営者の場合、「御社のサービスで何が実現できますか?」と単刀直入に聞かれたりします。要は、詳しい機能の説明よりも、「この商品やサービスは自分たちに関係があるかどうか」を知りたいということです。

よく、営業活動の中で、メリットは「できること」、ベネフィットは「メリットの結果、得られるいいこと、変化」と言いますが、ビジネスマッチングの「最初の商談」では、このベネフィットを伝えるのが大切です。そこに興味関心があれば、次に具体的な話に進めやすくなるからです。

例えば、「人々の興味関心を把握して、それぞれに合ったテーマのメールを自動配信するツール」の場合で考えてみましょう。メリットは「効率的にメールの開封数・クリック数を増やすことができる」であり、ベネフィットは「今より効率よく営業成果が上がり、新規事業の原資とリソースが捻出できる(興味関心に合った“滑らない”内容のメールを送って営業活動ができるから)」などになります。

こうした【誰の、何を、解決できるか】は、次のようなイメージで事前にまとめておくと、頭の中が整理でき、限られた時間の中でも慌てずに大切なことを伝えられるようになります。また、多くの会社(経営者)が参加する商談会の場合などは、もう一歩進めて、分かりやすいキャッチコピーも用意しておくとよいでしょう。

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この【誰の、何を、解決できるか】は、商談会などだけではなく、ウェブサイトのビジネスマッチングサービスで案件を登録する際にも役に立ちます。ウェブサイト上では、上記のように整理しておいた内容を参考にする他、実績や金額例なども併せて登録しておくとよいでしょう。

3 「商談シート」を準備する

もう一つの事前準備としてお勧めしたいのは、「商談シート」です。商談シートにまとめた内容は、「営業活動のログ(履歴)」になるので、次回のビジネスマッチングや今後の営業活動、商品開発に役立てることができます。また、商談会や紹介された人と会うときに、相手に確認するのを忘れたり、こちらが伝え忘れたりするのを防ぐのにも使えます。

商談シートはエクセルなどの他、書き込みやすい紙ベースのものを手元に用意するのも一策です。今どきはオンラインでの商談会や紹介も多いので、手元でメモできるほうが活用しやすいかもしれません。商談シートには、例えば次の1)から4)の項目などを盛り込みましょう。

1)属性:相手の企業名、氏名、業種、事業概要、実績、社員数など

ビジネスマッチングする相手の基本情報です。紹介者がいる場合は、その情報も入れておきます。オンラインの場合、名刺情報が入手しにくいので、企業名や氏名はしっかり確認しましょう。その場でSNSでつながると、基本情報が入手しやすいかもしれません。

2)内容:相手(もしくはこちら側)の商品やサービスの提案内容、対する反応など

相手から提案のあった商品やサービスの内容、もしくはこちら側から提案した内容を入れておきます。重要なのは、それに対する反応です。相手からの提案であればこちら側の関心度を、こちら側からの提案であれば、相手の反応を忘れずに記録に残し、次につなげます。

3)確認:相手に確認したこと、相手から質問されたことなど

具体的な価格や仕様など相手に確認したことを入れておきます。逆に、相手から質問されたことを商談シートにメモしておけば、「どのようなことを聞かれやすいか」が分かるので、次回のビジネスマッチングにも役に立ちます。

4)次回:次回のアクション、ランクなど

資料をいつまでに送るのか、見積もりをいつまでに出すのかなど、次回のアクションも忘れずに残します。また、すぐにビジネスになりそうなのか、ひとまず情報交換にとどめて様子を見るのかなど、今後の進め方をランク付けしておくと営業の優先度がつけやすくなります。

商談シートの記入例は次の通りです。

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4 紹介者には「思い」も伝える

ここまで紹介した内容のうち、【誰の、何を、解決できるか】は、ビジネスマッチングの紹介者に、自社の商品やサービスを説明する際にも役に立ちます。例えば、金融機関のビジネスマッチングを利用する場合、金融機関の担当者にもきちんと【誰の、何を、解決できるか】を伝えましょう。金融機関の担当者はさまざまな会社(経営者)を知っているため、商品やサービスで得られる「効果」だけでなく、「思い」が合いそうな先、経営者同士で共感できそうな先を紹介してくれることもあります。

以上(2021年1月)

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画像:vectorfusionart-shutterstock

ビジネスマッチング基礎編/新チャレンジには外部の力も借りてみよう(1)

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス上の出会いを求めている経営者
  • 課題:信頼できる相手や会社と出会い、ビジネスの可能性を拡げたい
  • 解決策:金融機関のビジネスマッチングサービスで、新しく出会うチャンスを増やす

1 ビジネスマッチングサービスで出会いを広げよう!

経営者は常に既存事業の強化や新規事業の開発について考えています。それを実現しようとする上で、自身が進出しようとしている分野の専門家、自身が求めている技術を有する企業、自身が悩んでいることを経験したことのある経営者などとの出会いはとても貴重です。

本稿で紹介する「ビジネスマッチングサービス」とは、こうした出会いを加速させるための仕組みです。今どきは、プライベートな意味で人と人が出会うマッチングアプリが数多く登場していますが、ビジネスマッチングとは、まさにビジネス上の出会いを加速させる仕組みなのです。知らない相手とビジネスをすることには一定のリスクがありますが、銀行など金融機関が主催しているビジネスマッチングであれば安心です。

ビジネスマッチングサービスを利用したことのある経営者のアンケートでは、40%近くの経営者が「また使いたい」「良い出会いがあった」と回答しています(日本情報マート独自調べ。詳細後述)。ビジネスマッチングサービスをうまく活用すれば、新たなビジネスの可能性が大きく広がっていく可能性があります。ビジネスマッチングで大切な「最初の商談」の準備について知りたい方は、以下のコンテンツをお読みください。

2 ビジネスマッチングサービスの種類を知ろう!

1)ビジネスマッチングサービスでできること

改めて、ビジネスマッチングサービスで期待できることを整理すると次のようになります。

  • 販路を見つける:新しい営業先、市場の開拓などにつながる
  • 協業先を見つける:新しいコラボレーション、販売代理店契約などにつながる
  • 技術力を見つける:アイデアの商品化につながる他、新商品開発の可能性も広がる
  • 人を見つける:これまでにない知見、新しいリソースの獲得につながる
  • ニーズを見つける(知る):売りたい、買いたい案件などから、最近どのようなニーズがあるのか、どのような新しいビジネスがあるかなどを知る。ビジネスのヒントになる

そして、これらを実現するためのビジネスマッチングサービスにはさまざまな分類があります。以下で整理してみましょう。

2)最も大切なのは信頼できる相手を紹介してくれること

ビジネスマッチングサービスで最も重要なポイントは、信頼できる相手を紹介してくれることです。この点で最も優れているのは金融機関によるビジネスマッチングサービスです。金融機関は自らの顧客同士や、金融機関が審査をした相手などをビジネスマッチング先として紹介するため、反社会的勢力など好ましくない相手が紛れ込む恐れが小さいのです。

金融機関によるビジネスマッチングサービスにはさまざまな形態があるので、ここで整理してみましょう。

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この「金融機関によるビジネスマッチングサービス」は、

  • 金融機関の顧客である中小企業と中小企業を結ぶ
  • 金融機関の顧客である中小企業と金融機関の業務提携先を結ぶ

が基本となります。複数の金融機関が提携して上の1.を行えば広域のビジネスマッチングとなります。また、ビジネスマッチングによって具体的な商売が成立した場合などに、金融機関が手数料を得るサービスを有償ビジネスマッチング、手数料を得ないサービスを無償ビジネスマッチングなどと呼びます。また、顕在化した企業の提携ニーズだけではなく、経営者同士を集めて交流してもらうことで“化学反応”が起こることを期待する交流会が開催されるケースも多くあります。

いずれにしても安心して相手と話せることや、ビジネスマッチング先の多様さが金融機関によるビジネスマッチングサービスの特徴です。

3)インターネットで完結するサービスの普及

ビジネスマッチングサービスは、仲介者などと呼ばれる「人」が介在することが多いのですが、ここ2~3年はウェブサイト上だけで完結するサービスも出てきています。かつてもこうしたインターネット上で売り買い情報をやりとりするサービスがありましたが、「商売は、実際に相手と会って行うもの」という意識が根強かったこともあり、なかなか活性化しないのが実情でした。

しかし、インターネットに抵抗のない比較的若手の経営者にとってはインターネット上で完結できるビジネスマッチングサービスのほうが便利な面もあり、普及してきています。新型コロナウイルス感染症で“オンライン”が一気に身近になったこともこうした動きに拍車を掛けています。

ただし、やはりどこかで仲介者が入ったほうがスムーズに話が進むのも事実です。この点、金融機関によるビジネスマッチングサービスでは、インターネットの仕組みを使いつつも、渉外担当者が適時のフォローをすることで出会いや商談がスムーズにいくようにしています。

4)その他の分類

この他、ビジネスマッチングサービスの特徴として、

  • 特定分野か、多分野か
  • メンバー限定か、オープンか
  • 地域限定か、全国か

などの違いがあるので、自社のニーズに合ったビジネスマッチングサービスを探してみるとよいでしょう。

3 ビジネスマッチングに関する経営者アンケート

最後に、ビジネスマッチングサービスに関する経営者アンケートの結果をご紹介します。実際に活用した経営者はどう感じたのか、また、多くの経営者はビジネスマッチングサービスについてどのようなイメージを持っているのか。今後のご参考になれば幸いです(2020年11月、日本情報マートが独自に行ったアンケートで、回答した経営者・役員は508人です)。

Q1 さまざまな人や会社、案件などと出会う可能性のあるビジネスマッチングサービスを使ったことがありますか?(以降全て出所は日本情報マート)

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ビジネスマッチングサービスを「使ったことがある:70人 13.8%」に対して、「使ったことがない:315人 62.0%」です。業種や年代などにもよるかもしれませんが、今後の活用に期待したいところです。

Q2 ビジネスマッチングサービスを使ってみてどうでしたか? 近いものを全てお選びください。(Q1で使ったことがあると答えた70人が回答)

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実際に活用すると、「情報収集できた」「出会いがあった」と感じているようです。

Q3 ビジネスマッチングサービスに対するイメージはどのようなものですか? 近いものを全てお選びください。(Q1で使ったことがある、使ったことがない、分からないと答えた406人が回答)

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プラス回答「もう一つの営業ツール」「世界が広がる」がある一方で、「お金がかかる」「うさんくさい」といったマイナス回答があるのも事実です。初めてのビジネスマッチングサービスでは、「信頼できるよく知っている金融機関の担当者」が仲介者となってくれるものを活用するのがよいのかもしれません。

以上(2020年12月)

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画像:vectorfusionart-shutterstock

【朝礼】牛になりますか、馬になりますか

明けましておめでとうございます。今年のえとは「丑(うし)」です。そこで、けさは、「牛も千里、馬も千里」ということわざを紹介します。

このことわざは、歩くのが遅い牛でも、走るのが速い馬でも、いずれは千里に到達するというところからきています。それが転じて、「能力の違いがあっても、努力を怠らなければ、最終的には同じ結果にたどり着くことができる」という意味で用いられています。

このように言うと、皆さんの多くは、馬のほうが牛よりも先に千里に到達することをイメージするでしょう。しかし、それは牛と馬が「整備された平坦な道」を進むという前提に立った場合の話です。どういうことか、もう少し掘り下げて説明します。

実は牛には、進む速さで劣る代わりに、馬よりも優れている点があります。それは、体のバランスです。牛は多くの種類が、中指と薬指の2本の指で地面に立っています。これに対し、馬は多くの種類が、中指1本で地面に立っています。体を支える指が多い分、牛は体のバランスを取りやすくなっています。そのため、傾斜地や坂道のように足場の悪い場所を歩く能力が、馬よりも優れているのです。

つまり、冒頭のことわざに照らして考えると、仮に牛と馬が「整備されていない足場の悪い道」を進む場合であれば、牛のほうが馬よりも先に千里に到達する可能性もあるわけです。

さて、皆さん、会社には、事業を通じてお客様や社会に対して実現したいことがあります。例えるなら、千里の道の先にあるゴールです。そして、そのゴールにたどり着くためには、さまざまな道があります。

先ほどの整備された平坦な道と、整備されていない足場の悪い道で例えるなら、前者は「すでに開拓されている分野」、後者は「まだ開拓が進んでいない分野」といえるでしょう。皆さんなら、どちらの道を進んでゴールを目指しますか?

これには正解はありません。すでに開拓されている分野を突き進むのが得意な「馬」のような人もいるでしょうし、まだ開拓が進んでいない分野で、着実に前進を重ねていく「牛」のような人もいるでしょう。自分の得意とする分野で、少しでもゴールに近づけるよう、存分に力を発揮してもらえればと思います。

ただし、忘れないでほしいことがあります。それは、「どの道を進むかを決めるのは、皆さん一人ひとりである」ということです。たとえどんな道を選んでも、自分が一度「この道で頑張りたい」と思ったのなら、その選択に責任を持ってほしいのです。千里の長い道を進んでいる限り、必ずどこかでくじけそうになることがあります。そんなとき、皆さんを支えてくれるのは、「努力を続ける」という意志です。1年間、強い意志をもって業務にまい進してください。

以上(2021年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】逆風の今こそ「会社は誰のためのものか」を実感するとき

今朝は皆さんに、少し大きな視点に立って、我が社や皆さんの仕事の社会的な意義について考えてみてもらいたいと思います。

今、世界では改めて、会社は誰のためのものか、という議論がされています。以前なら教科書通り、会社は株主のもの、が正解でした。しかし今は、これまで以上に、会社の社会的な意義が問われるようになりました。会社は株主だけのためでなく、従業員、取引先、地域社会など、直接・間接の利害関係者に配慮することが求められています。

それでは皆さんは、民間の会社がなぜ地域社会にまで配慮すべきなのかを、考えたことがあるでしょうか。自社のイメージアップ、という目先の利益を得るためということも、もちろんあるでしょう。しかし私は、長い目で見たときに、自社の利益だけでなく、地域社会との共存共栄まで考えられる、誠実で志の高い会社であることこそが、我が社の存続にとって重要だと思っています。

それを理解するヒントが、老舗(しにせ)の会社の家訓にあります。老舗の会社には、「先義後利」「利他」などの家訓がある企業が少なくありません。近江商人の「三方よし」の教えも同じです。いずれも、社会の幸せを考えることを重視した教えです。家訓は基本的に外部にアピールするものではなく、代々、家中で伝えられてきたものです。老舗の会社の経営者が残した言葉は、イメージアップを図る目的ではなく、自社を長く存続させるために最も適切な教えのはずです。

私の経験上、どのような会社にも、順風のときと逆風のときがあります。そして私は、会社の存亡に関わるほどの逆風下で、誰かに手を差し伸べられて首の皮一枚で窮地を逃れた会社と、誰にも見向きもされずに消えていった会社を見てきました。生き残った会社に共通するのは、その会社が誠実であることを理解している多くの関係者が、「この会社を支えてあげたい」「できる限り存続のために協力したい」と思っていた、ということです。老舗の会社の経営者も同じように、会社の「生き死に」を見てきたからこそ、社会との共存共栄の思いを持つよう戒めたのだと思います。

ご存じの通り、我が社も今、厳しい逆風下にあります。それでも、なんとかやれているのは、皆さんの頑張りもありますが、それだけではありません。我が社がこれまで誠実に、高い志を持って事業に取り組んできたからこそ、「応援しているから頑張って」「うちも厳しいけど、長年お世話になっているので」と、取引を継続してくださっているお客様がいるからなのです。

私は、この逆風が一段落したら改めて、我が社が取引先や地域社会のために、何ができるかを考え、そして行動するつもりです。この逆風下でも、我が社は生かしてもらったという「感謝と恩返し」の気持ちを大切にしたいのです。皆さんも、我が社や仕事の社会的な意義を感じ、取引先など全ての関係者に対して誠実に、高い志で向き合ってください。

以上(2020年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】坂本龍馬に学ぶ「勉強が楽しくなるとき」

私は日ごろから皆さんに、書籍を読んで知識を蓄える、外部の人間に会って知見を広げるなど、「勉強」を欠かさないよう伝えています。しかし、残念ながら、現状ではこれが十分にできている社員はほとんどいません。

皆さんの多くは、私から注意を受ければそのときは積極的に勉強しようとしますが、その姿勢は長続きしません。それは皆さんの中に、「業務が忙しいから、勉強にまで手が回らない……」「難しい勉強は苦手だ……」といった思いや考えがあるからでしょう。しかし、私に言わせると、勉強はとても楽しいものであり、勉強が続かない人はそこに気付いていないのです。そこで、今日は「勉強が楽しくなるヒント」について話したいと思います。

皆さんは、土佐藩出身の幕末の志士、坂本龍馬をご存じでしょうか。当時、険悪だとされていた薩摩藩と長州藩の仲を取り持って「薩長同盟」を成立させ、倒幕のきっかけをつくった人物です。この他にも、議会による政治運営など新しい政治構想についてまとめた「船中八策」を起草するなど、先進的な考えを持った聡明(そうめい)な人物というイメージがあります。

ただ、こうしたイメージとは裏腹に、子供の頃の龍馬は、実は落ちこぼれだったといわれています。12歳で漢学の塾に入学したものの、勉強嫌いであまりに出来が悪かったため、すぐに退塾させられたという説があります。

一方、剣術が得意だった龍馬は、14歳で入門した道場で腕を上げ、19歳のときに土佐藩から剣術修行のための江戸遊学の許可を得ます。しかし、江戸を訪れて間もなく、ペリー率いる黒船の来航を目の当たりにし、外国の軍事力に強い関心を持つようになります。龍馬は、兵学者・佐久間象山などに学んで外国に関する知見を広げ続けます。そして、28歳のときに幕臣・勝海舟の「外国に負けない強い海軍をつくる」という考えに感銘を受けて彼の弟子となり、歴史の表舞台へと飛び出していきます。

子供の頃は勉強嫌いだった龍馬が、外国という知らない世界について、積極的に学ぼうとした理由は何だったのか。考え方はさまざまですが、私は龍馬が得意とした剣術が関係しているように思います。龍馬は卓越した強さを持っていたものの、江戸で見た黒船は剣術では到底太刀打ちできない存在でした。剣術に打ち込み、強さを追求し続けてきた龍馬だからこそ、黒船の強さに人一倍魅了され、それが外国について学びたいという思いへと変わっていったのではないかと思います。

ですから勉強が苦手という皆さんは、まず自分の得意分野を極めることを考えてください。もしかしたら、その先に別の世界への入り口が待っているかもしれません。たとえ自分が知らない世界でも、それが自分の得意分野の延長線上に広がっている世界であれば、学びたいという思いは自然と湧き上がってくるはずです。

以上(2020年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】働きアリが働く目的は?

先日読んだ本が興味深かったので、今朝はそのお話をします。テーマは「働きアリの働き方」です。アリについては、「女王アリは至れり尽くせりの世話を受けて幸せ。働きアリは一生働かなければならず、ブラック企業の社員みたい」といったイメージがあるかもしれません。

しかし、働きアリは無理やり働かされているわけではありません。女王アリに卵を産ませたほうが自分に近い遺伝子を残せるので、そこは女王アリに任せ、自分は他の仕事をしているのです。またこの労働は、滅私奉公ではありません。働きアリの役割は、幼虫を育てる、巣を掃除する、エサを見つけて運び込む、外敵が来たら戦うなどですが、女王アリから指図されているわけではなく、個々の裁量でやるべきことを決めています。

そのため、働きアリをよく観察していると、隊列から外れてフラフラとサボるアリもいます。ただ、こうしたアリも、巣が壊れる、外敵が襲ってくるなどの非常事態には率先して仲間を助けます。また、うろちょろと寄り道をする中で、エサへの近道を見つけることもあります。

こうした働きアリの生態には学ぶことも多いですが、私は違和感も覚えます。

その違和感とは、「女王アリと働きアリ」「種の保存」という、いつまでも変わらない価値観の中だけで動いているように見えるところです。

私たちはどうでしょうか。知らず知らずのうちに、いつまでも変わらない価値観に支配されていることはないでしょうか?

働きアリが本能で女王アリの世話をするように、私たちは生きるために働き、家族も養います。そのために一生懸命になることは、会社にとってありがたいことですが、これは最も基本的な「生理的欲求」です。そして次に、やりがいを見つけるために、「目的」を決めようとします。上司と部下の面談でよく見かける、「あなたの働く目的を決めましょう」といったものですが、この行為さえも、今、本当に必要なのかは疑問です。

極端に言えば、確固たる目的ややりがいがなくても、「こういうものがあったら便利かも」「今の仲間と一緒に働けるのは勉強になる」という気持ちが少しでもあり、それを軸に自分で行動できれば、それでいいのではないでしょうか。むしろ、「上司から言われたので目的を考えた」という既定路線の受け身な姿勢は、進化の邪魔になります。

働きアリの話から飛躍しているかもしれませんが、私はむしろ、働きアリの話にただ感心しているようではいけないと危機感を覚えました。皆さんはどうでしょうか。今、皆さんの価値観や「なぜ働くか」について、バージョンアップを図る時期に差し掛かっているのです。

以上(2020年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

金銭消費貸借契約/改正民法が分かる(9)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:金銭消費貸借契約のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 諾成的消費貸借契約の新設

お金を貸し付ける契約は、民法上、消費貸借契約に該当します。これは、借りたものと同じものを、同じ数量を返却することを約束して、物や金銭を借りる契約のことです。

旧民法では、消費貸借契約は、要物契約であるとされていました(旧民法第587条)。当事者の意思表示の合致に加えて、一方の当事者からの目的物の引き渡しその他の給付があって初めて成立する契約ということです。そのため、「お金を貸します」「お金を返します」という約束だけではなく、実際にお金の引き渡しがあって初めて契約が成立します。また、お金の引き渡しがされる以前に、貸主が「やっぱり貸せません」などと断った場合、契約が成立していないことから、借主はお金を貸してもらうよう請求することもできませんでした。

ところが、実務上は、判例(最高裁昭和48年3月16日)で無名契約としての諾成的消費貸借契約が認められていました。これは、「お金を貸します」という約束の時点で契約の効力が生じることで、住宅ローンや金融機関から融資を受けることを前提とする大型の開発プロジェクトのように、諾成的消費貸借契約に対するニーズがあります。そのため、改正民法ではこれまでの判例・実務上認められていた諾成的消費貸借契約を新設し、明文化しました。

ただし、当事者の「合意のみ」によって契約上の義務が生まれると、安易に金銭を借りる約束や貸す約束をしてしまった者に酷な結果が生じかねません。そこで、改正民法では、書面または電磁的記録による諾成的消費貸借の規定が設けられました(改正民法第587条の2)。

以降では、金銭消費貸借契約を締結する際の契約書の記載例や注意点を紹介します。

2 契約書の記載例

改正民法を踏まえた契約書を作成する場合、次のような記載例が考えられるでしょう。

【金銭消費貸借契約書】

貸主(以下「甲」という。)と、借主(以下「乙」という。)は、乙が、○年○月○日に支払期限が到来する仕入れ代金の返済に充てることを目的として、以下の通り、金銭消費貸借契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(諾成的金銭消費貸借契約)
甲は、乙に対し、金○○○○万円を貸し渡し、乙はこれを借り受けることを合意する。

第2条(金銭の授受)
甲は、乙に対し、前条の金員を、○年○月○日限り、乙の指定する口座に振り込む方法により貸し渡す。振込手数料は甲の負担とする。

第3条(返済期限・方法)

第4条(利息)

第5条(期限の利益の喪失・解除)

第6条(遅延損害金・損害賠償)
1)乙は、甲に対し、第3条に基づく返済を遅延した場合、遅延した日の翌日から支払い済みまで、残元金に対する年○パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
2)甲が、本契約に基づき金銭を貸し渡す義務を怠った場合、甲は、これにより乙が被った損害を賠償する。

第7条(乙による解約)
乙は、甲から第2条記載の金員を受領する前に限り、本契約を一方的に解除することができる。ただし、甲がこれにより損害を被った場合には、当該損害について賠償する義務を負う。

第8条(一括返済)
乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。ただし、乙は甲に対し、これにより甲が被った損害を賠償する。ただし、甲がこれにより損害を被った場合には、当該損害について賠償する義務を負う。

第9条(協議条項)

第10条(裁判管轄)

1)タイトル・頭書

表題(タイトル)は、通常通り、金銭消費貸借契約書でよいでしょう。

また、頭書部分については、金銭消費貸借の目的を書くとよいでしょう。改正民法では、利息付消費貸借契約においては、売買の規定が包括準用されます(改正民法第559条)。そのため、契約不適合責任が問題となります。詳細は本シリーズの第5回「債務の履行」にて解説しているため割愛しますが、旧民法の瑕疵(かし)担保責任が、改正民法では契約不適合責任となり、義務の履行が契約に適合しない場合には追完請求、契約解除、損害賠償請求などができます。

この契約不適合責任においては、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約をした目的や、締結に至る経緯など一切の事情が考慮されるといわれています。そこで、この点を踏まえて、契約をした動機・目的・契約締結に至る経緯を明確にすることが重要になります。

2)第1条~第2条

第1条~第2条は、改正民法では書面合意による消費貸借契約が認められたため、それを表した条項例です。

3)第3条~第5条

第3条~第5条については、現行の金銭消費貸借契約書と内容が変わらないため、記載を省略しています。

ただし、第5条の解除について若干補足します。改正民法第587条の2第3項において、書面でする消費貸借においては、借主が金銭などを受け取る前に、貸主または借主が破産手続き開始の決定を受けたときは、その効力が失われると定められました。

これは、当事者の一方が破産した場合に、貸し付けを履行させることは不合理であるためです。契約書の解除事由として当事者の一方が破産したということが記載されていない場合であっても、貸主または借主が破産手続き開始の決定を受けたときは、合意の効力が失われることに留意が必要です。

4)第6条

第6条について、諾成的消費貸借では、貸主の債務不履行に対する借主からの損害賠償が考えられます。まず、諾成的消費貸借契約においては、貸主が借主に対して貸し付けを行う義務が生じます。そして、貸主がこれを怠ることによって借主に損害が生じた場合には、貸主にはそれによる損害を賠償する義務が生じます。

ただし、何をもって損害とするか、損害をいくらと評価するかは、個々の事案における解釈・認定に委ねられ、紛争となる恐れがあります。そこで、賠償の内容を具体的に記載することも考えられます。

例えば、第6条において、次のような記載例も考えられます。

甲が本契約に違反した場合、乙は、甲に対し、損害賠償を請求することができる。この場合の損害賠償の額は、金○円とする。

甲が本契約に違反した場合、乙は、甲に対し、損害賠償を請求することができる。この場合の損害賠償の額は、乙が他で同額の資金を調達するために要した費用の額(本契約より不利な条件で借り受けたことによる経済的損失も損害と見なす)とする。

なお、これは借主側の視点になりますが、上記の記載例のように、事前に賠償額を予定する内容は、注意が必要です。賠償額が過大な場合には改正民法第90条や不当条項規制の問題から、無効となる可能性があります。

5)第7条

第7条については、改正民法第587条の2第2項の前段の内容を明記したものです。同項では、借主が目的物を受け取るまでは契約の解除ができることを定めています。これは、金銭などの引き渡し前に資金需要がなくなった借主を契約の拘束力から解放させるべきとの考えからです。

一方、改正民法第587条の2第2項の後段では、上記の場合であっても、貸主が損害を受けたときは借主に対して損害賠償請求権を有することを定めています。

もし損害賠償の話となった場合には、損害の内容や評価額で紛争になる可能性があるため、例えば、「ただし、その場合、乙は、甲に対し、違約金として金○円を支払う」のように、違約金額を定めておくことも一つの方法でしょう。

ただし、違約金額が過大である場合には改正民法第90条や不当条項規制の問題として無効となる可能性もあります。また、事業者が消費者に貸し付ける場合には、消費者契約法第9条により、一般的な損害額を超える部分については効力が否定される可能性がありますので、留意が必要です。

6)第8条

第8条について、改正民法第591条第2項、第3項では、消費貸借契約において、返還時期を定めた場合でも、借主は期限の利益を放棄して返還できること、および、借主が期限前返済をしたことで貸主に損害が生じた場合、貸主が借主に対して損害賠償請求権を有することが定められました。

旧民法においても、内容としては同様の理解がされていたものであり、契約実務上も一括返済の条項が置かれることが多いため、実務上の扱いに大きな影響を与えるものではありません。

なお、損害の内容および損害額については争いになる可能性があるため、例えば、次のような記載例とすることが考えられるでしょう。

(一括返済による賠償責任は無いとする場合)
第8条(一括返済)

乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。この場合、乙は甲に対し、何ら損害を賠償する責めを負わない。

(一括返済による賠償責任を、甲が得られるはずだった利息を踏まえ算出する場合)
第8条(一括返済)

乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。この場合、乙は甲に対し、当初の弁済期までの利息に相当する金員から中間利息を控除した金額を損害として賠償しなければならない。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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ソフトウエア開発の請負契約/改正民法が分かる(8)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:ソフトウエア開発の請負契約を紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任についての改正

改正民法では、請負契約における「瑕疵(かし)担保責任」が廃止されて、「契約不適合責任」に改められました。これは、売買契約における売主の担保責任と同様の改正であり、「瑕疵」の概念そのものがなくなりました。

契約不適合責任に改められたことにより、目的物が契約内容から乖離(かいり)している場合、発注者に認められる請求の内容が増えました。これは請負人にとっては負担が大きくなる改正です。そこで、本稿では、主に請負人の視点からソフトウエア開発の請負契約を締結する際に注意すべき点をまとめます。

なお、今後も「瑕疵担保責任」という用語を契約書で使用する場合、法律上の定義がない用語となりますので、契約書において、「瑕疵」の定義(例:本契約その他甲乙間において合意した仕様・品質・数量などを有しないこと)を置く必要があるでしょう。

2 契約書の記載例

改正民法では、契約不適合がある場合に責任追及ができます。この契約不適合とは、契約の内容に適合しないことをいい、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約をした目的や締結に至る経緯など、一切の事情が考慮されます。

「瑕疵」と「不適合」の違いが具体的にどう表れるかについては、今後の解釈に委ねられています。ただし、いずれにしても、契約締結に至る経緯が契約内容の解釈に影響する可能性は高いといえます。そのため、契約書でも契約の趣旨、目的または内容を記載しておくことが有用です。例えば、請負人は契約時に契約の目的を次のように記載することが考えられます。

第○条(目的)
甲(*注文者)と乙(*請負人)は、甲が、自社で受注した複数の建築工事につき、それぞれの作業進捗、作業人員、予算、資材などを一元的に管理できるシステム(第○条で定義する。以下「本件システム」という。)の開発を希望しており、乙がかかる管理システムについて開発可能な技術者を多数雇用し、十分な開発実績を有していることから、乙に開発委託をすることが適切と考えて、本契約を締結するものである。

1)追完請求・代金(報酬)減額請求の追加に注意する

改正民法では、契約不適合がある場合、注文者は請負人に対して追完(目的物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡し)を請求できます(改正民法第562条)。請求したにもかかわらず追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(改正民法第563条)。

例えば、システムの一部に不具合があったとします。このとき、まず注文者は、請負人(開発を請け負ったシステム会社)に対して、不具合を修補するよう求めることになります。

しかし、請負人が不具合を修補できず、注文者が自社で完成させたり、別のシステム会社に開発を委託して完成させたりしたとします。このような場合、請負人は不具合のあった部分の開発費に相当する費用を報酬から減額されることが考えられます。

第○条(契約不適合責任)
本件システムの成果物の納入日から1年以内に、当該成果物の仕様・品質・数量などについて、個別契約、仕様書などの定めと異なることまたは当該成果物が甲乙間で合意した水準に達していないこと(以下、総称して「契約不適合」という。)が判明した場合には、甲は、その選択に従って当該成果物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡しによる履行の追完を請求することができるものとする。なお、これらの履行の追完が不能である場合または追完によって契約の目的を達成できない場合においては、甲は、代金の減額を請求することができるものとする。

2)修補義務などが重くなり過ぎないよう工夫する

改正民法では、注文者が請負人に対して、プログラムの修補を求めたり、損害賠償を請求したりできる期間が大きく変わりました。具体的には、注文者が目的物の契約不適合を知ったときから1年以内に請負人に通知すればよいと定められました(改正民法第637条)。

例えば、請負人に落ち度があり、システムに大きな不具合があったとします。改正民法では、請負人の落ち度が分かったときから1年以内に、「開発していただいたシステムに○○という不具合がありました」という通知をしておけば、契約不適合を知ったときから5年以内(消滅時効、改正民法第166条第1項第1号)は、いつでもシステムの修補や賠償を求めることができます。

請負人としては、このような重い負担を避けるための特約を定めるかを、検討すべきでしょう。例えば、契約書に次のような条項を定めておくことが考えられます。ただし、修補や賠償の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができないとされているため注意が必要です(改正民法第572条)。

第○条(契約不適合の場合の修補義務)
1)本件システムの検収の合格から1年以内に、本件システムの成果物が本契約の内容に適合しないことが発見され、同期間内に乙(*請負人)に対してその旨の通知があった場合、乙は無償で当該不具合を修補するものとする。
2)乙の担保責任は、法令に反しない限り、前項の範囲に限られるものとし、前項の期間経過後に本件システムの不具合が判明した場合であっても、乙は何らの責任を負わないものとする。

3)注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の改正に注意する

請負は、請負人が仕事の完成を約し、注文者がその結果に対して報酬を支払うことを約束することで、有効に成立する契約です。そして、報酬は仕事の目的物の引き渡し時または仕事終了時に支払われます(報酬後払いの原則。旧民法第633条、改正民法第633条)。

そのため、仕事が未完成の場合には報酬を請求できないのが原則です。しかし、それでは仕事の進捗状況や仕事が完成しなかった事情によっては、報酬の全部または一部を請求できず、不合理な場合があります。そのため、改正民法第634条で、一定の事由がある場合において報酬請求ができると定められました。

具体的には、次のように定められました。

  • 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき(改正民法第634条第1号)、または、請負が仕事の完成前に解除されたとき(改正民法第634条第2号)において、
  • すでに行われた仕事の結果のうち「可分」な部分の給付によって注文者が利益を受けるときには、その部分について完成があったと見なし、請負人は、「注文者が受ける利益の割合に応じて」報酬請求権を有する

例えば、システム開発が途中で頓挫し、プロジェクトが中止されて契約解除となったとします。改正民法では、プログラムの9割は出来上がっている。ただし、出来上がっている部分とそうでない部分の機能が連動しており、プログラム全体としては利用不可能というような場合、部分的な請求は認められないものと考えられます。

もし、上記のような法の定めとは異なる定めをしたい場合には、その旨を特約などで明記する必要があります。例えば、次のような条項を契約書に定めることが考えられるでしょう。

第○条(報酬)
甲(*注文者)は乙(*請負人)に対して、請負業務の対価として、以下に記載の成果物の検収合格後○営業日以内に、以下の通り対価を支払うものとする。

  • 要件定義…成果物:要件定義書、システムテスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 外部設計…成果物:基本設計書、結合テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 内部設計…成果物:詳細設計書、単体テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • プログラミング…成果物:本件システムのソースコード一式
    金○円(消費税別)
  • システムテスト…成果物:テスト報告書
    金○円(消費税別)

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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賃貸借契約/改正民法が分かる(7)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:賃貸借契約のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 個人根保証の改正

1)極度額を定める

直接的には賃貸借契約に関する改正ではありませんが、賃貸借契約の締結にあたってきちんと知っておかなければいけない重要な改正民法の一つとして、個人の根保証に関する改正が挙げられます。具体的には、保証人の保護を拡充するために、全ての個人根保証契約に極度額を付すことが求められました。これにより、極度額の定めがなければ根保証契約が無効になります。

賃貸借契約の保証は、家賃の他、物件破壊などの賠償や、明け渡し遅延の損害金など、賃貸借に関して生ずる一切の金銭債務について責任を負うものであり、根保証にあたります。そのため、保証人が個人の場合、保証契約に極度額の記載が必要になります。例えば、契約書には、連帯保証人の条項を次の通り定めなければなりません。

第○条(連帯保証人)
連帯保証人丙は、本契約に基づく乙(*賃借人)の一切の債務を、乙と連帯して負担しなければならない。ただし、丙がこれにより、甲に対して負担する債務は、【○万円(または月額賃料の○カ月分)】を限度とする。

なお、2020年3月以前に締結された保証契約に係る保証債務については、旧民法が適用されます。保証債務が発生したとしても(例えば、改正民法施行後に賃料滞納が生じたとしても)、保証契約が改正民法の施行前であれば、保証人に対して責任を追及できます。一方、2020年4月以降の保証契約に係る保証債務については、改正民法に従った対応が必要です。

注意すべきは、既契約が更新または再契約によって続く場合です。このタイミングで新たな根保証契約が締結されたものと評価される可能性があるので、保証の効果が失われないよう、更新または再契約のタイミングで改正民法に従った対応が必要になります。

2)情報提供義務が履行されたことを確認する文言を入れる

改正民法では、主債務者は、事業のために負担する債務について保証人になろうとする者(個人のみ)に対し、財産・収支・負債の状況などの情報を提供しなければならないという義務が定められました(改正民法第465条の10第1項)。提供すべき情報(主債務者の財産などの状況)は、具体的には次の通りです。

  • 財産および収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況
  • 主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときはその旨およびその内容

提供すべき情報を提供しなかったり、事実と異なる情報を提供したりしたために、保証人が上記事項を誤認し、保証契約を締結した場合、保証契約が取り消されることがあります(改正民法第465条の10第2項)。

このような理由による取り消しの主張を防ぐため、保証契約締結の手続きを見直す必要があります。契約書の中で係る義務が履行されたことを確認する文言を入れ、手続きが正しく履行された旨を書面に残すといった対応も検討するべきでしょう。また、契約書上においては、例えば、以下のような条項を設けておくことが考えられます。

第○条
連帯保証人丙は、本契約に基づく乙(*賃借人)の債務を保証するにあたり、乙に関する以下の情報提供を受け、当該事項を認識した上で乙の債務を保証するものである。

  • 財産および収支の状況
  • 本契約に基づく乙の債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況
  • 本契約に基づく乙の債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものの有無およびその内容

なお、この情報提供義務は、改正民法上、事業用の賃貸借契約において個人が保証する場合にのみ求められています。居住用の賃貸借契約や、法人が保証人となる場合には不要です(少なくとも法令上要求されていません)。

3)主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務がある

改正民法では、債権者(賃貸人)は、保証人から求められたときは、遅滞なく、主たる債務(=家賃)の元本および利息、違約金、損害賠償などについて、不履行の有無・滞納額などに関する情報を提供しなければなりません(改正民法第458条の2)。

この義務に違反した場合、債務不履行の一般法理に従い、損害賠償請求や保証契約の解除ができることがあるので対応が必要です。なお、これは、2)と異なり、全ての保証契約が対象となります。つまり、居住用の賃貸借契約や、法人が保証人となる場合にも適用されます。

2 賃借人の修繕する権利についての改正

改正民法では、賃借人は、賃借物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当する場合、自ら修繕することができることが明文化されました(改正民法第607条の2)。

  • 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間に必要な修繕をしないとき
  • 急迫の事情があるとき

ただし、賃借人の自由な修繕を認めてしまっては、紛争が複雑化することも考えられます。そこで、契約書において、例えば次のような特約を検討します。

【特約(例)】
賃借人は、民法第607条の2にかかわらず、増改築に及ぶものはもとより、耐震工事や建物の躯体(くたい)に影響する大規模修繕に関する修繕権を有しないものとし、修繕権を有するのは小規模修繕に限るものとする。ただし、賃借人が小規模修繕を行う場合には、緊急を要する場合を除き、工事費見積書を添えて事前に賃貸人に通知して、賃貸人に修繕の機会を与えるものとし、かつ、賃貸人の同意を得るものとする。

なお、賃借人が個人など消費者契約法に定める「消費者」の場合は、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)により無効とならないかどうかの検討が必要です。

3 賃料の当然減額・契約解除についての改正

改正民法では、賃借物の一部が滅失その他の事由によって使用収益ができなくなった場合、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃借人からの請求を待たずに、賃料が減額されると規定されました(改正民法第611条第1項)。

しかし、具体的にどの程度賃料を減額するのかは、直ちに明らかになるとは限りませんし、実務上もこの点を巡る紛争はよく見られます。また、賃借人が故障をそのまま放置し、賃貸人もそれを認識していない状況で、後日、賃借人から、その間の賃料が当然に減額されていると不意打ち的に主張されて、建物賃貸借の現場が混乱する恐れもあります。そのため、契約書においては、次のような特約を入れることを検討するとよいでしょう。

【特約(例)】
賃借人は、本件賃貸物件に一部滅失を発見した場合には、発見から○日以内に、具体的な賃料減額割合を示して賃貸人に通知するものとし、この通知をしなかった場合には、特段の事情のない限り、通知以前の賃料減額を主張し得ないものとする。

また、旧民法では、賃借物の一部が「賃借人の過失によらないで滅失した場合」において、残存部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときに、賃借人は契約を解除できるとしていました。

これに対し、改正民法では、残存部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときには、賃借人に帰責事由があっても、契約の解除ができるようになりました。

4 不動産の賃貸人たる地位の移転についての改正

改正民法では、不動産の賃貸人たる地位の移転に関して、「賃貸人たる地位の留保」という新しい制度が規定されました(改正民法第605条の2第2項)。

例えば、建物所有者Aが、賃借人Bに対して賃貸している不動産を、第三者Cに譲渡するというケースを考えます。次の賃貸借の対抗要件を備えた場合、賃借人の承諾がなくても、賃貸人たる地位を旧所有者Aのもとに留保することができます。

  • AC間で賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされること
  • Cを賃貸人、旧所有者Aを賃借人とする賃貸借契約が締結されること

なお、AC間の賃貸借契約が終了したときは、改めて賃貸人の地位が旧所有者Aから新所有者Cに当然に移転します。

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この改正は、次のような趣旨によるものです。例えば、賃貸不動産の信託による譲渡などの場面において、新所有者(信託の受託者:C)が修繕義務や費用償還義務など、賃貸人としての義務を負わないことを前提とするスキームを構築するニーズがあり、賃貸人たる地位自体を旧所有者(譲渡人:A)に留保する必要があります。改正民法によって、賃借人の同意を得ず、現在の賃貸借関係を維持しながら、賃貸借物件の譲渡ができるようになりました。

5 賃貸借の存続期間についての改正

賃貸借契約の存続期間が、最長50年とされました(改正民法第604条)。旧民法では最長20年だったため、大幅に長くなっています。この改正によって、例えば、建物所有を目的としない太陽光パネルの設置用地やゴルフ場の敷地の賃貸借期間の上限は、50年まで延長されました。

なお、借地契約や借家契約については、民法の特則である借地借家法が適用され、これまでと扱いは変わりません。

6 その他の改正

改正民法では、賃貸借契約終了後の収去義務および原状回復義務について改正民法第621条に規定が新設されたり、敷金について第622条の2においてその基本事項に関する規定が新設されたりしています。これらは実務の運用に合わせる形の改正内容であり、従前より契約において賃借物に損傷があった場合は、賃借人は賃貸人に対して原状回復義務を負うなどの規定を置いているのが一般的です。そのため、特段留意すべき事項はないでしょう。

これらの事項が民法上に明記されたこと自体は意義のあることですが、判例法理やこれまでの解釈を明文化したものであり、実務上の取り扱いに与える影響は小さいものと思われます。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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