中小企業にとって最適な組織形態

書いてあること

  • 主な読者:組織変革を考える経営者
  • 課題:現在の市場環境と社内の状況に合わせ、適切な組織形態を選択したい
  • 解決策:組織形態の基本的な形を紹介し、理想の組織のヒントをまとめる

1 組織形成は社長の仕事

小規模な組織は職務・責任・権限の所在が明確で、組織間のコミュニケーションも取りやすいものです。ただし、組織は“生き物”です。事業拡大、人材不足などさまざまな要因で組織は機能不全を起こします。

そのため、社長は常に組織の状態を確認しつつ、社内外の環境変化や自社の中期計画に沿って組織変革を進める必要があります。こうした社長の参考となるよう、本稿では組織形態の基本を紹介していきます。

2 職能別組織(機能別組織)

企業の規模拡大によって、仕入れ、製造、販売、財務、総務といったような機能の分化が起こります。このように、組織をその果たす機能・役割によって分化させたものを職能別組織(または機能別組織。以下「職能別組織」)といいます。

職能別組織において、各職能別組織の長は、与えられた職能に関する個別の意思決定はしますが、全社的な意思決定は社長に委ねられます。職能別組織は、事業環境が安定し、事業分野が限定されている企業にとっては効率的です。

一方、機能分化によって部門間のコミュニケーションが不足し、販売部門と製造部門が対立する状況が典型です。また、事業規模が拡大して経営が多角化した場合などは、職能単位での意思決定を集約しても、企業全体での方向性を見失う可能性もあります。

さらに、職能別組織の責任者は専門性を深めることはできますが、事業の全体像を見る機会が少ないため、次代の経営を担う人材を育てるのが難しいこともあります。選別された人材の、組織横断的な人事ローテーションが必要になります。

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3 事業部制組織

企業が成長し、多角化や地域的な拡大を図った場合、職能別組織では対応が困難になっていきます。例えば製品の多角化によって複数の製品を製造する場合、同一の製造部門に複数のラインを持つことでマネジメントがかえって複雑になる恐れがあります。

事業部制組織は、事業に関して製品開発から販売までを垂直的に統合し、併せて人事・経理などの機能も組織内に包含する事業部が複数存在する形態です。事業部はあたかも1つの企業のように権限と責任を持って行動することになります。

事業部制組織は、製造から販売までの一貫体制が保たれるため、市場の声を反映しやすくなります。一方、事業部が独立採算制で運営され、他の事業部との競争が生じます。短期的な収益を追いがちで、中長期的な視点のマネジメントを阻害することがあります。

そのため、中長期的な視点から事業ポートフォリオを作成する経営企画部門や、基礎的研究を行う部門を置くことが必要ですが、当初は経営企画部門と事業部門のコミュニケーションが上手くいかないケースも多々見られます。

なお、中小企業においては大企業のような事業部制組織をつくるケースは少ないようですが、過去に成熟産業の分野で業績を伸ばした中小企業の中には、その部門を一定規模に縮小し、新規事業部門を新たに設けるといった事例も見られます。

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4 プロジェクト・チーム

明確な目的のもと、一定の期間を設けて編成されるのがプロジェクト・チーム(以下「PT」)です。PTは、その組織を必要とする期間が有限である場合や、既存の組織の枠内では対処することが難しい課題などを取り扱う場合に組成されます。

一般的に、PTの構成メンバーは新規事業の検討や経営ビジョンの策定といったプロジェクトの目的に応じて、組織横断的に選任されます。多くの場合、構成メンバーはそれぞれの組織のエース級で、本来業務との兼務となります。

PTが困難なテーマに取り組む場合、構成メンバーが本来業務へ逃げてしまったり、各部門の利益代表になってしまったりという問題が発生します。この回避策は、プロジェクト・マネジャーのリーダーシップと適切な業績評価システムです。

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5 マトリックス組織

マトリックス組織は、1人の組織構成員が同時に2つの組織に所属する形態です。1人の構成員が構造的に2人以上の上司を持ち、2つ以上の命令系統によってコントロールされることになります。

マトリックス組織の分かりやすい事例は、自動車の開発生産体制です。新車開発では、マーケティング・設計・試作・テスト・生産準備・本格生産まで多くの職能別組織の構成員が新車開発のプロジェクト・マネジャーの下で、業務を推進します。

マトリックス組織は指揮命令系統が多元的であり、運用は容易ではありませんが、成功すると大きな成果を収めるといわれます。成功のためには、あらかじめ職能別組織の長にマトリックス組織の役割を十分に理解してもらうことが不可欠です。

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6 ラインとスタッフ

ラインとは、メーカーにおける製造部門と営業部門、流通業における仕入れ部門や販売部門など、企業の目的を直接的に達成するための部門です。そのため、「直接部門」と呼ぶこともあります。

一方、スタッフとは、企画部門、研究開発部門、広告宣伝部門、管理部門など、ラインに助言を与えて支援するための部門です。そのため、「間接部門」と呼ぶこともあります。

一般的に事業規模が拡大し、経営に必要な専門的知識や経験が増すと、スタッフの数が増加します。しかし、スタッフは企業の収益に直接的に貢献しないため、コストセンターとして位置付けられ、ラインとスタッフの要員バランスが課題となります。

企業では高収益時にスタッフ部門を強化し、ラインのサポート強化と“暴走”を抑制します。一方、収益が低下した場合、コスト削減のためにスタッフからラインへの配置転換を行います。

7 中小企業の外部組織活用

1)中小企業の特徴

中小企業の特徴は、構成員個々人が組織に埋没せず、しかも組織全体が固い結束を持って事業を進めるところにあります。企業の目標が組織構成員1人ひとりに正しく理解され、同じ目標に向かって一丸となってまい進するところが中小企業の良さです。

しかし、規模の拡大に従って、社長と従業員の間に、部長・課長・係長などの管理層が存在し、本来の中小企業の特徴である「風通しの良さ」がなくなってしまうことがあります。

2)中小企業と外部組織

中小企業の組織を考えた場合、内部組織と同等あるいはそれ以上に大切なのが企業の外部組織です。中小企業は大企業に比べて規模が小さいために取引上不利を被ることが少なくありません。

このため「協同組合」などを組織し、不利を克服する努力が続けられてきました。近年では、中小企業の「情報ネットワーク」が著しく広がりを見せ、世界的な規模での事業を展開している中小企業もあります。

具体的な方法としては、「協同組合」はもとより、外部専門能力の活用の観点から「公設試験研究機関」や「大学」に研究開発を委託したり、製品の販売を「専門商社」に任せるといった方法があります。

また、新規事業のアイデアを模索して、異業種企業と接触したり、共同事業化を行う例もあります。金融機関や商工会議所、商工会などが組織する「交流会」なども有効でしょう。

8 理想の組織形態とは

「理想の組織をつくること」は社長にとって永遠の課題ですが、「組織は環境に応じて組み替えられていくもの」であり、環境が刻々と変化する以上、理想の組織も常に変化せざるを得ません。

また、企業は外部環境だけではなく、企業の内部環境(年齢別人員構成など)の変化により、常に自らの組織の改編を迫られています。まさに、組織は“生き物”であり、時代とともに変化していくものなのです。

競争のグローバル化、IT技術を利用したディスラプト、働き方改革など、日本企業を取り巻く環境は急速に変化しています。単に今どきの組織を追い続けるのではなく、環境変化に適合した内部組織の改編や外部組織の活用が必要です。

以上(2019年4月)

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販売代理店契約の概要と契約書のひな型

書いてあること

  • 主な読者:販売代理店契約を締結したいと考える経営者
  • 課題:契約締結に当たって注意すべき点、具体的な契約内容が分からない
  • 解決策:契約書のひな型を参考に、自社に即した契約内容にする

1 販売代理店制度について

1)販売代理店と販売代理店制度

「販売代理店」とは、メーカーなどの商品供給者(以下「メーカーなど」)に代わって商品を販売する法人・個人事業主を指します。この場合、メーカーなどが販売代理店に対して、販売代理店契約に基づいて手数料などの対価を支払ったり、独占的・優先的に商品を供給したりします。こうした取り決めを「販売代理店制度」といいます。

メーカーなどは、販売代理店制度を利用することで、短期間で効率的に流通チャネルを構築できるとともに、販路開拓を販売代理店に任せることができるため、商品の開発・提供に専念することができます。

一方、販売代理店は、メーカーなどから特別な条件を認めてもらうことが期待できます。例えば、仕入れ価格を通常よりも安くしてもらうことで、事実上の問屋として活動ができたり、一定範囲の市場に関する販売を独占的に認められたりするなどがあります。ただし、販売代理店契約の内容によっては、こうした条件と引き換えに、逆に販売代理店が最低販売目標、販売地域の限定などの制約を受ける場合もあります。

メーカーなどが新たな販売ルートとして販売代理店を開拓するに当たっては、販売代理店契約を締結する必要があります。その際には、法的な規制に十分に留意し、適切な販売手数料を設定した上で双方が合意する必要があります。

2)販売代理店の契約形態

販売代理店の契約形態には、「売買型」と「仲介型」の2つに分別されます。

メーカーなどが販売代理店制度を構築する際は、商品の魅力、販売代理店との力関係などを考慮した上で、いずれの形態にするかを決める必要があります。

1.売買型

メーカーなどが販売代理店に商品を販売し、販売代理店が利益を上乗せした価格で顧客に商品を販売します。売買型の販売代理店は、売買契約の当事者となるため、代理店というよりも販売店に近い位置付けとなります。販売代理店は、仕入れによる在庫リスクを負う一方、販売価格をある程度自由に設定して販売できるのが通常です。

2.仲介型

販売代理店が顧客をメーカーなどに紹介し、メーカーなどが顧客に商品を販売します。メーカーなどから販売代理店に対して販売手数料を支払うことで、関係が成り立つのが通常です。

2 販売代理店契約の留意点

1)独占禁止法による規制

売買型の販売代理店契約を締結する際は、独占禁止法による規制に留意する必要があります。これは、販売代理店の販売活動を強く拘束する条項は、独占禁止法に抵触することがあるためです。

事業者が取引をどのような条件で行うかということは、基本的には契約当事者間の自主的な判断に委ねられるものです。しかし、独占禁止法では、自由な競争の制限につながるような行為や競争の基盤を侵害するような行為を、「不公正な取引方法」として禁止しています(独占禁止法第2条第9項)。

1.「再販売価格の拘束」の禁止

販売代理店が商品を販売する際の価格(再販売価格)は、販売代理店の意向を尊重しなければならず、メーカーなどが販売価格を拘束することは、原則として独占禁止法で違法とされています。

【独占禁止法第2条第9項第4号】

自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。

  • 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること、その他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
  • 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させること、その他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

2.「優越的地位の濫用」の禁止

メーカーなどが商品の取引において優越的な地位にあることを利用して、販売代理店に金銭や役務の提供を求める行為は原則として独占禁止法で違法とされています。

【独占禁止法第2条第9項第5号】

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

  • 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
  • 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
  • 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

3.「排他条件付取引」の禁止

自社が供給する商品のみを取り扱い、他社の競合関係にある商品を取り扱わないことを条件として取引を行うなどにより、不当に競争相手の取引の機会や流通経路を奪ったり、新規参入を妨げるおそれがある場合は、独占禁止法で違法とされる場合があります。

【不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(一般指定11項)】

(排他条件付取引)
不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。

4.「拘束条件付取引」の禁止

取引相手の事業活動を不当に拘束するような条件を付けての取引は独占禁止法で違法とされる場合があります。テリトリー制によって販売地域を制限したり、安売表示を禁じたりするなど、販売地域や販売方法などを不当に拘束するような場合がこれに該当します。

【不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(一般指定12項)】

(拘束条件付取引)
独占禁止法第2条第9項第4号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。

これらの独占禁止法の規制に抵触する場合には、公正取引委員会により排除措置命令(違反行為を取り除く旨の命令)や課徴金納付命令(再販売価格の拘束と優越的地位の濫用に限る)が執行される可能性があるので注意が必要です。

詳細については、公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を参照してください。

■公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」■
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html

2)商品提供義務と解除権の行使

販売代理店が最低販売目標を達成できない場合や、信用不安に陥った場合など、メーカーなどの信用を害するような販売方法で販売を行った場合には、メーカーなどは販売代理店契約の解除と商品供給の停止を検討する必要が出てきます。

メーカーなどには販売代理店に対して商品を供給する義務があるので、どのような場合に商品供給を停止するのかを、あらかじめ契約で明確に定めておき、この点について後に紛争が発生することを防止しなければなりません。

3 仲介型販売代理店の販売手数料

販売手数料(仲介型)の設定方法には一律方式と逓増方式があります。一律方式は、販売手数料を、販売代金の○%と一律に設定する方法です。一方、逓増方式は、次のようなテーブルを設ける方法です。

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手数料率が一律であるよりも、売上高に応じて手数料率が上がるほうが販売代理店の販売意欲は増します。なお、一律方式であっても、販売手数料の他に売上高に応じたリベートを出せば、逓増方式と同様の効果が得られます。

4 仲介型販売代理店契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なります。実際に販売代理店契約書を作成する際には、専門家のアドバイスを受けることが必要です。

【仲介型販売代理店契約書のひな型】

株式会社○○○○(以下、甲という)と□□□□株式会社(以下、乙という)は、次の通り販売代理店契約を締結する。

第1条(独占的販売代理店の指定)
本契約の有効期間中、甲は本契約により、乙を別紙に規定した商品(以下「本商品」という)の独占的販売代理店に指名し、乙は甲の販売代理店として、本商品を適正価格で継続的に販売するものとする。

第2条(販売代理店の表示)
乙は店頭に甲の販売代理店であることを表示する。乙の店頭に表示する標識は、甲より乙に本契約期間中貸与する。

第3条(二次販売代理店)
乙は、甲の事前の承諾を得ない限り、他の法人または個人を本商品を販売する二次販売代理店として指名し、本商品を販売する権利を付与することはできない。

第4条(販売手数料)
乙の販売手数料は本商品の販売代金の△%とし、乙は毎月○日までに、前月中に販売した本商品の販売代金の総額から、その販売手数料を控除した残額を、甲の指定する銀行口座に振り込んで支払う。

第5条(月次報告義務)
乙は、毎月○日までに、次の事項を記載した報告書を甲に提出するものとする。

  • 前月中に販売した本商品の種類、数量、販売代金の総額
  • 前月中に販売した本商品にかかわる販売手数料の金額
  • 前月中に販売した本商品の販売代金の総額から販売手数料を控除した残額

第6条(年次報告義務)
1)乙は甲に対し、毎年、○月○日までに、向こう1年間の販売予定数量および金額を記載した報告書を提出するものとする。
2)前項の報告書には次の各書類を添付しなければならない。

  • 貸借対照表、損益計算書およびこれに付随する明細書
  • 青色申告書および付属書類の写し

第7条(販売目標額)
1)乙の販売目標額は年額金○○万円とする。
2)前項の目標額達成が著しく困難なときは、甲は本契約を解除することができる。
3)甲は第1項の目標額を毎年改定し、これを乙に通知する。

第8条(競業品の販売)
乙が他より本商品と同種または類似の物品の委託販売を引き受けようとするときは、あらかじめ甲の許諾を要する。

第9条(担保)
甲は、乙の資産状態が悪化するなど担保を必要と認める場合には、乙に対し、次の措置を求めることができ、乙は甲からの請求に基づき担保を提供しなければならない。

  • 保証金の差し入れ
  • 有価証券、預金についての質権設定
  • 根抵当権の設定

第10条(機密保持)
乙は甲の業務上の機密に関しては、本契約継続中はもちろん、契約終了後といえども他に漏洩してはならない。

第11条(譲渡の禁止)
乙は、本契約上の地位もしくは本契約に基づく一切の権利または義務を甲の書面による事前の同意なく、第三者に譲渡もしくは担保の目的に供してはならない。

第12条(契約の解除)
1)乙について以下の各号の一に該当する事実が生じたときは、本契約に基づき乙が甲に対して負担する債務につき、乙は甲の催告なくして当然に期限の利益を失い、直ちに債務全額を支払わなければならない。

  • 債務を1回でも期限に支払わなかったとき
  • 手形または小切手につき不渡りを発生させたとき
  • 破産、民事再生、会社更生、特別清算の申し立てをし、または申し立てがなされたとき
  • 保全処分、強制執行がなされたとき
  • 乙の株式の過半数が他に譲渡されて、実質上の経営者が代わったとき
  • 合併、事業譲渡など、重大な組織変更があったとき
  • 乙が第9条に基づく担保、保証の提供を拒否したとき
  • 第5条および第6条の報告義務を怠ったとき

2)甲は乙に前項各号または、以下の各号の一に該当する事実が発生したときは、何らの催告なく本契約を解除することができる。

  • 甲の名誉、信用を棄損し、機密を漏洩し、甲または顧客に対して損害を与え、またはこれらのおそれがあるとき
  • その他本契約条項の一つにでも違反したとき

第13条(契約期間)
本契約の有効期間は、締結の日から1年間とし、同期間満了3カ月前までに甲乙いずれからも別段の申し出のないときは、さらに1年間延長するものとし、以後も同様とする。

第14条(契約終了時の措置)
1)本契約が終了したときは、乙は直ちに甲の販売代理店である旨の表示を中止するものとし、以後、甲の販売代理店である旨を表示してはならない。
2)乙は甲が本商品販売のために貸与した標識などを本契約終了後直ちに甲に返還しなければならない。

第15条(合意管轄)
本契約上の紛争については、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とすることに合意する。

以上(2019年7月)

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経営者と音楽

書いてあること

  • 主な読者:余暇に音楽を楽しみたい、音楽をビジネスに活かしたい経営者
  • 課題:音楽とどう向き合い、ビジネスに活かせばいいのかが分からない
  • 解決策:クラシック音楽への理解を深める。音楽を使った事例を参考にする

1 音楽への参加の実態

1)音楽のもたらすさまざまな効果や楽しみ方

音楽は、人の心を動かし、喜びや感動、癒しを与え、そして時には聴く人の悲しみやせつなさを代弁してくれる。また、「ゆったりとした」「高揚した」「威厳に満ちた」「はかなげな」など、さまざまな雰囲気を演出する。

音楽が人の心に与えるさまざまな効果をビジネスに取り入れている例は少なくない。例えば、ホテルのラウンジではゆったりとくつろぐことができるよう、控えめで穏やかな音楽が流れている。また、エステティックサロンやリラクゼーション施設などでは美しい音色のクラシック音楽で高級感を演出している。

そして音楽は、自らが演奏者となって奏でるという楽しみ方もできる。ピアノ・バイオリン・ギター・トランペットといった楽器を独奏して楽しむ他、オーケストラに参加したりバンドを結成するなど複数人で音楽を演奏することもできる。複数人での演奏は、「共に1つの音楽を作り上げる」という一体感で心を満たしてくれるだろう。

団塊の世代などを対象とした音楽教室も多くなっており、こうした大人向けの音楽教室では、楽器のレンタルやサークル感覚で集えるグループレッスンなどが行われている。これまで楽器に触れたことのない初心者でも気軽に参加できるし、さまざまな人と交流することもできる。

本稿では、余暇活動として音楽を楽しむ人がどのくらいいるのかというデータを紹介するとともに、経営者が音楽をビジネスに生かす方法を考えていく。

2)音楽への参加人口

日本生産性本部「レジャー白書」によると、音楽関連の余暇活動参加人口の推移は次の通りである。

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音楽関連の余暇活動を楽しむ人は、減少傾向にある。スマートフォンやゲームなど余暇時間を楽しむための選択肢が増えているからかもしれない。ただし、2017年以降、作曲ができるウエアラブル端末なども登場しているため、上記の項目に当てはまらない“新しい音楽の楽しみ方”もこれから増えていくかもしれない。

2 音楽と心

1)心に影響を与えるさまざまな音楽

そもそも音楽は人の心に影響を与えるものだが、特に「ヒーリングミュージック」は人の心に癒しを与えてくれる。小川のせせらぎや小鳥のさえずりなど自然を連想させる穏やかなヒーリングミュージックは、医療機関や福祉施設などでも取り入れられている。

また、映画やテレビといった映像の世界では、多くの音楽が、観ている者に対してより効果的に喜び・悲しみ・せつなさといった心の機微を伝えたり、あるいは恐怖感や高揚感を高める手段として用いられている。

この他、格闘技の選手入場の際には、気分を奮い立たせるような、あるいは選手の特徴を表すようなテーマ曲が会場に響き渡る。観客は、テーマ曲が流れると大いに盛り上がり、気持ちを高めつつ、試合を観戦することができる。

2)心に影響を与えるクラシック音楽の例

音楽が人の心に喜びや悲しみをもたらし、心を動かす作用は古くから注目されてきた。音楽には、クラシック・ジャズ・ロック・パンク・ポップス・レゲエ・歌謡曲などのさまざまなジャンルがあるが、特にクラシック音楽は、時を越え場所を越えて人々の心に語りかけ、共通の音楽として全世界に広がっている。

例えば、18世紀、バッハやハイドンをしのぐ人気を博していたといわれるドイツの作曲家テレマンは、「ターフェルムジーク」すなわち「食卓の音楽」という宮廷音楽を作っている。「食事時が楽しくなるような音楽」「食が進む音楽」として宮廷で行われた祝宴のときなどに多く演奏された。

また、19世紀のドイツの作曲家ワーグナーによる歌劇「ニーベルングの指環」の第1夜「ワルキューレ」で演奏される「ワルキューレの騎行」が、闘争心をかきたて人々の心を高揚させる曲として、政治家の演説の際などに聴衆を引き付けるために用いられたのは有名な話である。

この他、クラシック音楽は戦時中に自らの主義主張を訴える手段としても用いられた。ロシアの作曲家ショスタコービッチによって第二次世界大戦時に作曲された交響曲第7番「レニングラード」は、ドイツ軍に包囲されたレニングラードを表している作品で、ショスタコービッチのドイツ軍への反発の気持ちを表現しているとされている。当時、ロシアではドイツ軍による侵略に対する不満が渦巻いていたことから、ドイツ軍への反発を表現した「レニングラード」は人気を集めたという。

このように、音楽は、古くから人の心に影響を与えるものとして認識されてきた。

3 経営者が音楽をビジネスに生かす

1)ビジネスに生かす考え方

これまで、音楽は少なからず人の心に影響を与えることを紹介してきた。ここでは、こうした音楽を経営者が実際にビジネスに生かすことを考えていく。

飲食店などのサービス業の多くは、集客策の一環として、顧客に対して「居心地のよい空間」「オリジナル性豊かな空間」の提供を心がけている。こうした空間を演出する際に、BGMとして流す音楽が大きな役割を担うことになる。

また、音楽は人の心にさまざまな影響を与えることが多いため、顧客に対してだけではなく、メンタルヘルスケアの観点から従業員に対しての活用も考えられる。従業員の心を癒しリラックスさせるというだけではなく、従業員に前向きな気持ちになってもらうために活用してもよいだろう。

ここでは、さまざまな音楽のジャンルの中から主にクラシック音楽を取り上げ、集客策やメンタルヘルスケアなどにつながる音楽を紹介しよう。

1.飲食店などのサービス業における集客策としての音楽

サービス業での効果的な音楽の活用方法は、2つのパターンが考えられる。1つ目は「一般的に軽やかでやわらかな、耳にして気持ちが良いとされる音楽を流す」というものである。多くの人が好む(あるいは不快感を抱かない)とされる音楽をBGMとして流すことで、顧客に対する居心地のよい空間の提供を試みるのである。例えば飲食店などの場合、先に紹介したテレマン作曲の「ターフェルムジーク」などは、多くの顧客が気持ち良く食事をする雰囲気を作り上げるだろう。

また、一般的に軽やかでやわらかな音楽として、モーツァルトの曲がBGMに広く活用されている。モーツァルトの場合、明るい、軽やかといったイメージの曲が多いため、葬送用の「レクイエム」などの一部の曲を除けば、どの曲を流しても和やかな雰囲気が生まれるだろう。モーツァルトの曲の中で紹介するとすれば、「フルートとハープのための協奏曲」などは、優雅で宮廷にいるような時間を演出してくれる。また、誰もがそのメロディを知っている「きらきら星変奏曲」は、軽快で楽しく、明るい雰囲気を演出してくれるだろう。

サービス業での効果的な音楽の活用方法の2つ目は、店舗のコンセプトや雰囲気に応じて「自店舗の特徴を表現する音楽を流す」というものである。例えば、スペイン料理店では情熱的なラテン系のギター演奏が行われていることが多い。こうした店舗では、料理を楽しみながらスペイン音楽に触れ、顧客は舌と耳の両方でスペインを堪能することができる。

この他、スーパーマーケットなどのタイムサービス時などに、フランスで活躍したドイツの作曲家オッフェンバッハの「天国と地獄」を流し、テンポよく顧客心理を盛り上げても面白いかもしれない。

2.従業員のメンタルヘルスケアや気分転換としての音楽

従業員に対するメンタルヘルスケアや気分転換には、「朝の出勤時間・業務終了時間などにその時間にふさわしい音楽を流す」ことが考えられる。朝であれば爽やかな気分になる音楽を流して従業員に気持ち良く1日をスタートしてもらい、業務終了時間には心に安らぎと癒しを与える音楽を流して従業員の心の疲れを癒す。

朝にふさわしい音楽としては、ノルウェーの作曲家グリーグによる「ペールギュント第一組曲」の中の「朝」が有名で、学校や職場で朝の音楽として広く活用されている。

業務終了時間には、心の疲れを癒すことを第一の目的として音楽を選択するとよいだろう。例えば、ドイツの作曲家パッヘルベルの「カノン」やバッハの「主よ人の望みの喜びよ」などは親しみやすく、心の疲れを洗い流してくれるような音楽である。

さらに、癒し効果のある音楽として取り上げられることが多いのが、モーツァルトである。モーツァルトは「胎教によい」「脳の活性化をサポートする」「ストレスをやわらげてくれる」などとされ、音楽療法などにも活用されている。業務終了時間には、モーツァルトの中でも心に染みる曲や優しい曲、あるいは充足感を感じるような曲などを流してもよいだろう。例えば「バイオリン協奏曲第3番第2楽章」などはバイオリンの旋律が心に染みる名曲である。また、「交響曲第40番」は優しいメロディと広がりのあるオーケストラの音色が、従業員の心をゆったりとやわらげてくれるだろう。

この他、音楽を流して「従業員の気持ちを盛り上げ会議などの活性化につなげる」といった例が考えられる。この場合、軽快なリズムと心が躍るような音楽がよいだろう。例えば、イタリアの作曲家ヴィヴァルディの「バイオリン協奏曲」や、「四季」の中の「春」などが挙げられる。会議の際、あるいは会議の休憩時間などに控えめに流しておいてもよいだろう。

2)経営者が自分自身のために聴く音楽

経営者は、1人部屋にこもり集中力を高めることもあるだろう。また、自分自身を鼓舞しなければならないときもある。このようなときも、音楽は効果的である。

人によって好みは異なるため、集中力を高める効果が得られる音楽のジャンルも人それぞれであろうが、ここではクラシック音楽の例を紹介する。

先に紹介したワーグナーの「ワルキューレの騎行」では、気分を奮い立たせることができるだろう。また、ドイツの作曲家ブラームスによる「交響曲第1番」も、1人で集中力を高めたいとき、あるいは自分を鼓舞したいときにお薦めの音楽とされている。オーケストラの荘厳な響きと打楽器(ティンパニ)の連打で重々しく幕を開けるこの交響曲は、完成までにブラームスが20年以上もの歳月を費やした曲である。20年以上という歳月がそのまま体現されているような重厚な曲で、特に第一楽章の始まりは、1歩1歩かみ締めながら運命を切り開いていくかのような雰囲気さえ漂っている。経営者が気持ちを集中し高めていくのにふさわしい曲といえるだろう。

以上(2019年5月)

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「協会」設立で自社のビジネスを盛り上げる

書いてあること

  • 主な読者:自社商品の認知度向上などのために協会の設立を検討している企業の経営者やマーケティング担当者
  • 課題:協会の設立・運営に必要なノウハウや知識がない
  • 解決策:さまざまな業種の企業や団体が設立した協会の事例や関係者へのヒアリングなどに基づき、協会を設立するメリットや、運営上の注意点などを紹介

1 注目される協会の設立

世の中には、数多くの「○○協会」が存在していて、その数はおよそ約2万9800件に上ります(2019年6月12日時点の国税庁法人番号公表サイト検索結果)。協会の設立主体はさまざまで、中小企業や個人事業主が設立するケースも増えています。

なぜ、協会の設立が増えているのでしょうか。それは、協会の設立によって自社のビジネスが成長していく可能性があるからです。協会を設立することのメリットや運営上の注意点をまとめます。

2 協会を設立する3つのメリット

1)認知度の向上

協会として活発に活動し、周囲の注目が集まれば、自社や商品の認知度を向上させられる可能性があります。

金沢市農産物ブランド協会は、加賀野菜や金沢の風土を生かして生産された農産品の普及を目的として設立されました。協会の前身は、加賀野菜の消滅を懸念した金沢市内の種苗店が中心となって、生産者や流通業者が発足させた加賀野菜保存懇話会です。その後、行政も巻き込んで協会が誕生しました。

生産者は品質の維持や生産ロットの確保、流通業者は販売先の拡充やネットワーク化、行政はPRや若い生産者を育成するための金沢農業大学校の開校などに注力することで、徐々に知名度を獲得していきました。

大手ビールメーカーのCMで加賀野菜を食べるシーンが使われたり、金沢市内で加賀野菜を扱う店舗が増加したりなどの効果がありました。

2)信頼性の向上

協会に対して「由緒が正しい、しっかりしている」というイメージを持つ人は少なくないため、協会を設立して自社の考え方や商品を普及させることができます。

日本ネットワークセキュリティ協会は、中小企業を含む情報セキュリティーを手掛ける企業などによって設立されました。設立メンバーとなった企業などは協会設立前から個別に情報漏洩対策などの重要性を訴えてきましたが、理解が広がらなかったことから危機感を共有する企業が集まり、協会設立後は経済産業省や情報処理推進機構から、企業のセキュリティー対策を促進する事業を受託するなどの実績を重ねています。

現在、情報セキュリティー対策の分野では、協会のガイドラインが参照され、設立メンバーが情報セキュリティー対策の第一人者などとして紹介されています。

3)規模の拡大

協会を設立して会員を集めることで、自社単独では難しい活動に取り組むことができます。

シェアリングエコノミー協会では、全国の自治体と連携して、シェアリングシティの取り組みを進めています。

シェアリングシティとは、子育て支援や空き家の活用など地域の課題解決にシェアリングサービスを利用する取り組みで、地域住民の満足度向上、移住の促進などにつながる可能性があり、欧米などでも注目されています。

自治体は、協会会員企業のシェアリングサービスを2つ以上導入しているなど、定められた要件を満たすと、協会からシェアリングシティとして認定され、シェアリングサービスを積極的に利用していることをPRできます。

協会の会員は中小企業や若いベンチャー企業が多いことなどを考えると、企業単独で自治体に営業するよりも、協会として自治体にアピールすることで引き合いの機会が増えると考えられます。

3 協会の運営がうまくいかないのはなぜ?

前述の通り、協会の設立には一定のメリットがあります。一方、協会を設立したものの、会員が集まらない、活動が盛り上がらないなど運営面での課題を抱え、活動が停滞している協会が少なくないのも事実です。

その理由としては、協会の理念が不明確である(メッセージ性が弱い)、ほとんど活動していない、そもそも協会を通じて広めたい考え方や商品に力がないなどさまざまです。

また、資格取得などを通じて独自の考え方や商品を普及させる協会の中には、受験料や登録料などの徴収が事実上の目的となっているところがあり、本来の活動がおろそかになっていることがあります。これでは、会員は協会の魅力を感じることができません。

こうなった場合の問題は、協会の活動が停滞することだけにとどまりません。協会に信頼感を持つ人が一定数いるのと同様に、“うさん臭さ”を感じる人もいます。ネガティブなイメージを持たれた場合、企業本体のブランドを毀損するリスクもあります。

協会の設立には相応の準備が必要です。また、設立後も活動のための時間を確保しなければなりません。具体的にどうするべきなのか。数多くの協会の設立・運営などのコンサルティングを行う協会総研などにヒアリングした結果を次章で紹介します。

4 協会を盛り上げるために必要な考え方

1)重要になる理念

協会の理事長や会長を務める経営者は、協会がどのような価値観を大切にし、何を目指しているのかを打ち出した理念を掲げる必要があります。また、理念は経営者が考える価値観や目的を反映したものですが、その内容は多くの人に伝わるようにかみ砕いた言葉としなければなりません。これは簡単ではないため、時間をかけた検討が必要です。

2)多くの時間を割かなければうまくいかない

会員を集めるためには、積極的なPRが必要ですが、どのPR方法が効果的かなどは一概にはいえないため、でき得る限りのことをやっていきます。

既存の顧客や取引先に案内する、各地でイベントやセミナーを開催し受講者を集める、イベントを開催するたびにプレスリリースを打つ、協会の事業内容に関連したコンテンツを掲載するサイトを制作して、メールマガジンの会員を集めるなどの方法があります。

こうした取り組みには、企画や準備を含めて多くの時間がかかり、多忙な経営者にとっては負担となりますが、「理事長の活動への思いに共感した」「会長が親身に相談に乗ってくれた」など、トップに魅力を感じて、入会する人も少なくありません。

経営者がトップを務める場合、本業に割かなければならない時間以外は、全て協会の活動に充てるというくらいの姿勢で取り組む必要があります。

3)トップには巻き込み型のリーダーシップが求められる

トップには積極的に協会の運営に携わっていくことが求められますが、巻き込み型のリーダーシップを心掛けなければなりません。

協会の活動内容などは、会員の意見を取り入れて決定することが望ましいといえます。こうした合意形成には時間がかかるため、一部のトップは、思わずトップダウンで指示や決定をしてしまうことがあるようです。しかし、これでは不満を持つ会員も出てきます。上からの指示・決定ではなく、会員とともに話し合いながら、協会を導く意識が重要です。

4)協会とビジネスは似て非なるもの

ビジネスの場合、顧客に商品をPRするのであれば、商品を利用することで問題を解決できるなどと、メリット面を訴求します。しかし、協会の場合はこうした訴求が逆効果になることもあります。

会員は会費を支払うなど、協会の収入に貢献する存在で、顧客とは異なります。会員は「会員となることで自身が成長できる」「同じ関心や志を共有できる仲間がいる」などの理由から協会へ入会することも少なくありません。

メリットを前面に出した訴求や顧客扱いといった、通常のビジネスと変わらないアプローチでは、自分が求めている協会とは違う、資格さえ取得すれば、その後は協会と積極的に関わる必要はないなどと感じて、会員の脱会につながりかねません。

5)協会と会員、会員同士のコミュニケーションの場を設ける

協会を存続させていくためには、会員の満足度を高める活動によって、収益を上げることが欠かせません。しかし、年に1度、会員の更新時期にのみ連絡をするだけで、その他は協会側から積極的に会員にアプローチしていないなどの場合、脱会につながります。

これを避けるためには、会員と定期的に面談の場を設けて、会員の関心に応じた資格の生かし方、協会の活動への携わり方などについてアドバイスするとよいでしょう。

また、資格制度を設けていない場合も、部会や交流会など会員同士が交流できる場を設けることが有効です。

5 協会の設立方法

1)法人格は関係ない

法人格のない任意団体であっても、株式会社であっても「協会」を名乗ることができます。ただし、任意団体の場合は対外的な信用度が低いこと、株式会社の場合は営利を追求するビジネスライクな印象が強いといったことから、基本的には一般社団法人や特定非営利活動法人(NPO法人)による設立が好ましいとされています。

協会の主な設立方法は次の通りです。

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2)一般社団法人とNPO法人のどちらがよいのか

一般社団法人のメリットは、目的や事業などに制約がなく、設立や運営などの手続きが比較的簡単なことです。ただし、基本的に課税対象は全所得となります(税法上の非営利型法人の要件を満たす場合や、公益認定を受けた場合の課税対象は収益事業に係る所得のみとなります)。

NPO法人のメリットは、設立費用が無料であることや、課税対象が収益事業に係る所得のみなど、税制面での優遇があることです。ただし、目的や事業内容などに加え、設立に必要な人数が一般社団法人に比べて多いなど、設立に際して多くの制約がある他、所轄庁に設立の申請をした後、登記までに4カ月程度の時間を要します。設立後も所轄庁への事業報告や情報公開などが義務付けられています。

一般社団法人、NPO法人の双方の設立方法とも、一長一短があります。目的や事業内容などを念頭に、どちらの設立方法がよいのかを税理士などの専門家と相談し、検討するとよいでしょう。

以上(2019年7月)

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すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

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1 「人をつなげる人」になる

ビジネスにはレイヤーがあり、それによって付き合い方が異なります。経営者同士のつながりは深く、トップセールスと呼ばれるように、その場で商談がまとまることがあります。また、他では聞けない貴重な情報を入手できることもあります。

そのため経営者にとって、ビジネスのつながりを広げていくことはとても大切な仕事です。しかし、つながりを広げるためにセミナーや勉強会に参加したり、紹介を求めたりしても、“当たり外れ”が大きいというのが実感でしょう。

経営者は、自らいい人と出会うこと、自分が大事にしている人にいい人を紹介してネットワークを広げること、そして何らかのビジネスを起こすことを加速させなければなりませんが、そのためには人とのつながり方を工夫する必要がありそうです。

今回は、「何としても『いい人』のコミュニティーに交じる」「いい人とは『愛ある人』のことである」「すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑」という3つを取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 何としても「いい人」のコミュニティーに交じる

私の最近のアポイントは、ベンチャー界隈ではかなり有名な方(ここでは「Aさん」とします)からの紹介で多くが埋まります。紹介された人と1対1で会うこともあれば、会食で複数の人と会うこともあり、それなりの人数と会っています。

私が「すごいな!」と思うのは、Aさんから紹介される全ての人が「いい人」であることです。確率的には“よく分からない人”が交じっていてもおかしくないほどの人数を紹介されていますが、本当にいい人ばかりなのです。

Aさんは年間1000人もの経営者や学生などと会います。以前、「会う人はどのように決めているのですか」と聞いてみたことがあります。すると、「いい人から紹介された人とだけ会う。それだけです」と教えてくれました。

例えば、Aさんは、Zさんを紹介された場合、Zさんの人となりはもちろんですが、それ以上に誰からの紹介かを重視するというのです。Aさんが信頼するBさんの紹介ならZさんに会いますが、そうではないCさんの紹介では、Zさんには会わないということです。

また、いい人を集めるために重要なことは、「いかにして、いい人を集めるか」ではなく、「いかにして、良くない人を入れないか(排除するか)である」ということも教えてくれました。

いい人は、いい人とつながっています。そして、自分のネットワークがいい人だけであることを厳しく管理しているため、結果として、一人でもいい人と知り合うことが、人脈を広げる上でとても大切になるのです。

皆さんはいい人のコミュニティーに入っているでしょうか。セミナーや勉強会に参加することは大切ですが、実はいい人とつながることも大事なのです。となると、気になるのは、どのような人がいい人なのかということです。

3 いい人とは「愛ある人」のことである

お互いにプロフェッショナルのビジネスパーソンとして会う以上、その分野で“仕事ができる”のは当たり前のことです。そのため、仕事ができる人=いい人という図式は成り立ちません。

いい人のコミュニティーの中心になっている人がよく口にするいい人の特徴は、「愛がある」「『利他の心』を持っている」ことです。自分のことだけを考えず、世の中を良くしたいという信念を持って活動する人ともいえます。

そして、仕事ができるいい人(愛がある人)とつながると不思議なことが起きます。仕事ができるいい人は、相手の課題が分かります(この点は、次章で触れます)。そして、それを解決するのに役立ちそうな人を紹介してくれるのです。

実際、仕事ができるいい人や、その人から紹介された人と一緒にビジネスをすると、それまで取引先と行ってきたこまごまとしたやりとりがくだらないことに思えるほど、ビジネスをスムーズに進めることができます。

これは、相手が優秀だからという理由だけではありません。いい意味で、互いのことを信じて任せる部分が大きいので、細かく管理する必要がなく、進めやすいのです。相手を信頼しているため、相手の言動を受け入れやすいことも大きな理由です。

なお、愛や利他と聞いて「無償」をイメージする人が多いかもしれませんが、基本的にお金のやりとりはあります。ただし、仕事ができるいい人がお金をもらう目的は、通常のビジネスとは異なる面があります。

具体的には、「無理なく長く付き合うために、お金のことはきっちりしておく」、あるいは「お金をもらわない代わりに、自分が紹介する人ときちんと対話してほしい」といったことがお金をやりとりする主な目的であり、私欲のためではないのです。

4 すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑

ある大企業に“マッチングの神様”と呼ばれ、周囲から尊敬される人物がいます。私はご縁あってその方と出会い、何度か実際のマッチングの場に同席させていただく機会を得ました。

マッチングというと聞こえはいいですが、セッティングした人が「いい話になるから紹介するよ」と言いつつも、実は当人が気持ちいいだけで、その後のことはあまり考えられていないというケースが少なくありません。

そうした中、“マッチングの神様”は、とことん相手にヒアリングをします。同席していたとき、少し本題とそれているのではないかと感じたくらい、周辺情報も含めて本当に広い視点で相手のニーズを探ろうとします。

それも、2社のマッチングであれば交互に2社の立場に立って、「A社さんはこうすると好ましいわけですよね。それでB社さんはこの点を工夫したらニーズに合致しますか?」といった具合です。

こうして話をしていくと、場が次第に盛り上がってくるわけですが、“マッチングの神様”は途中、何度もクールダウンの時間を設けて、本当にA社とB社のためになるのか、また実現するために何が必要なのかを考えるのです。

マッチングの心構えを“マッチングの神様”に私が聞いてみたところ、「当事者にとって、マッチングというのは『すごくいい、ちょっといい、ありがた迷惑』の3つの段階がある。この段階を引き上げていくことが全て」と教えてくれました。

人と人とをつなぐことは、それを行う仲介者にとって、人から感謝される気持ちいい行為です。ただし、仲介者は、自分が人から感謝されるためや、自分の地位を高めることを目的に、相手のニーズについてよく調べずにつないではいけません。

こうした一人よがりな行為は、相手にとって「ありがた迷惑」なものです。「なぜ、自分が紹介されているのか分からない……」「ニーズは合っているが相手に全く権限がなく、世間話で終わってしまう」といったケースがこれに該当します。

人と人とをつなげる以上、相手にとって、最低でも「ちょっといい」、理想的には「すごくいい」マッチングを心掛けたいものです。「ちょっといい」マッチングとは、小さなビジネスにつながったり、その後も続く緩やかなご縁をいただいたりするものです。

これを超える「すごくいい」マッチングとは、大きなビジネスにつながることはもちろん、紹介された者同士が深い絆で結ばれることであり、そのきっかけとなるのが仲介者への信頼と感謝です。

仲介者のことを信頼し、また感謝しているのなら「あの仲介者を裏切ることはできないし、紹介してくれる人も大事にしなければならない」という思いになります。これが「すごくいい」マッチングに結び付くのです。

人と人を結び付けるためには、相手の課題を本当に分かっていなければなりません。もっとも、それは簡単に分かるものではありません。人間性を磨くことを含め、自分のビジネスのように真剣に取り組まなければ成し遂げられないでしょう。

以上(2019年6月)

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怒らせずに相手を動かす/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

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1 ピンチのときに前を向く強さはあるか?

ビジネスには順境もあれば、逆境もあります。何をやってもうまくいかないと、投げ出してしまいたくなるときが誰にでもあるものですが、経営者にはそれが許されません。経営者はつらくても前を向き、進み続けることが求められるからです。

つらさをこらえて前に進む経営者の姿は虚勢に見えるかもしれませんが、日々の経営で培った心の強さは本物です。内部と外部、人・物・金、あらゆるところで発生する大小の問題を自分の弱さと向き合いながら解決してきた経験は、経営者だからこそ持ち得る強さです。

経営者の力量はピンチのときほど試されます。つらくても今の事業を継続するのか、撤退して次の事業に懸けるのか。逆境において、自分をどれだけ信じてこの難しい判断を下せるかが大事です。経営者の決意が言動に表れ、組織を導く強い力になるからです。

今回は、「厄介なプライドを捨て、助けを求める」「小さな頼み事をする」「怒らせずに相手を動かす」という3つのテーマを取り上げます。経営者がピンチに直面したとき、それに立ち向かう上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 厄介なプライドを捨て、助けを求める

本シリーズの前作「事を成すには、狂であれ/成功する経営者に欠かせない思考習慣」の中で、守屋淳著『組織サバイバルの教科書 韓非子』より“性弱説”という考え方をご紹介しました。

人間は環境によって心の持ちようや言動が変わってしまう弱い生き物であるという“性弱説”。経営者に限らず、ピンチのときはぜひとも確認したい考え方ですが、“性弱説”を意識してもなお、プライドによって正しい言動が制約されることがあります。

本当にピンチなのに妙に冷静に振る舞ったり、自分に歯向かってくる人を受け入れるそぶりを見せたりする人がいます。本当に強く、心も広いのなら素晴らしいことですが、そうした人はごくわずかでしょう。

大半の人は、「ピンチのときだって自分は強い」とプライドを保つためのカラ元気を示したり、本当は余裕がないのに、「歯向かってくる人さえ受け入れられる」という器の大きさをアピールしたりしたいだけなのです。

しかし、ピンチの経営者がこんなことをしている時間はないはずです。田村耕太郎著『頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法』(*)の中で、「メンツより実利」との指摘があります。ピンチのときこそ戦力を冷静に分析し、現実的な目標を設定しなければなりません。

起死回生の策でV字回復を果たすことはまれで、多くの場合は1つのきっかけを得て緩やかに上向いていきます。経営者はそのきっかけを見つけなければならないのですが、多くの場合は1人では解決できず、他人の助けが必要となります。

ピンチのときは困っていることを他人に示して助けを求めますが、相手が「もはや救いようがない」と判断すれば見放されます。逆に、「大したピンチではない」と判断されても、助けてもらえないときがあります。このような事態を避けるためには、どうすればよいのか考えてみましょう。

3 小さな頼み事をする

多くのビジネスパーソンが愛読する名著の1つに、D・カーネギー著『人を動かす 完全版』(**)があります。この中で指摘されている、人を動かす方法の1つが、「小さな頼み事をする」ことです。

皆さんは、人によく頼み事をするタイプですか、それともめったにしないタイプですか。日本人の場合、「人に何かを頼むと迷惑を掛けてしまうので、控えめにする」という人が多いかもしれません。

しかし立場を変えて、皆さんが頼み事をされる側になったらどうでしょう。“一部の頼み事”を除き、基本的に頼りにされることに嫌な気分はしないはずです。相手は困っていて、頼る相手として自分を選んでくれたわけですから。

特に経営者は社会に貢献したい、人の役に立ちたいという志を持っていることが多いはずです。そうした経営者は、人の頼み事をかなえて感謝される快感を知っているので、自分が忙しくても頑張ってしまうのです。

なお、“一部の頼み事”とは、単なる営業目的の頼み事です。それも、付き合いが浅く、普段はこちらがお世話をしているような相手から営業の頼み事をされると、へきえきしてしまうのです。

話を戻します。ピンチを切り抜けるために頼み事をするのはよいのですが、“小さな”というところがポイントです。頼み事の大小の基準は相手の力量によって違いますが、大切なのは事の大小よりも、相手に「小さい」と感じてもらえる関係性です。

まずは、「本当に困ったことがあります。どうか、お力添えください」と丁寧に頼み、こちらがピンチを脱する強い意志を持っていることを示しましょう。そうしたこちらの態度を見た瞬間に、相手はほとんど助けるか否かを決めているでしょう。

相手が助けるつもりなら、こちらの頼み事が厄介でも、「あなたのためならなんてことはないですよ」と応えてくれます。逆に、助けないつもりならば、こちらの頼み事がささいなことでも動いてくれません。この違いがどこからくるのか考えてみましょう。

4 怒らせずに相手を動かす 

ビジネスはチャンスとピンチの連続です。チャンスとピンチの波は市場環境の変化によって交互に訪れますが、それ以外にも「人とどのような付き合い方をしているか」にも影響を受けます。

企業を切り盛りする経営者は、それなりの自信を持っています。しかし、その自信が間違えた方向に向かうと、「自分が正しい」と思い込み、人の意見を聞かなくなります。経営者の独裁が指摘されにくい社内では、さらに経営者の言動が助長されます。

人材不足の折、社員の退職が後を絶たずに経営の継続が難しくなる企業があります。社員が新しい可能性を求めて前向きに転職するケースがある一方、経営者の間違えた自信がパワーハラスメントになってしまっているケースもあります。

これは極端な例ですが、社内外を問わず関係者とどのような関係を築いているかによって、ビジネスの状況が大きく変わるのは事実です。人の恨みによってピンチは訪れますが、人の情けによってピンチを脱することもできるのです。

ビジネスでは互いの利害はなかなか一致しません。双方が何らかの我慢を受け入れていますが、それが度を越したり、我慢する価値のない相手と判断されたりすれば、相手は怒るかもしれないし、黙って去っていくかもしれません。

ビジネスを進める上で、人との付き合い方はとても大切なことです。つまり、あなたが少々厄介な頼み事をしても、「何をいきなり……失礼な人だ」と怒るのではなく、「あなたのために頑張ります」と言ってくれる仲間をたくさん持つことが重要なのです。

では、利害が一致しない相手を怒らせずに動かすにはどうすればよいのでしょうか。前述した『人を動かす 完全版』の中でさまざまな指摘がされていますが、基本は「相手を認め、称賛する」ことです。

人は、自分の取り組みを認めてくれる人に好意を抱きます。年齢や業界に関係なく幅広い経営者の人脈を持つ人物も、「経営者は自分の話を聞いてもらい、認めてもらいたいと考えている。そこを突くのが関係構築のポイントだ」と言います。

とはいえ、あからさまな“おべんちゃら”は逆効果です。そうならないためにも、ちょっとした食事会であっても、事前に相手の取り組みを正しく知り、相手が認めてほしいと考えるポイントを押さえることが大切です。

ピンチのとき、プライドに負けるのは論外です。格好悪いなどと思わず、周囲に助けを求める姿勢が経営者には必要です。そして、そのときに実際に助けてもらえるか否かは、日ごろの相手との接し方によって変わってくるのです。

  • 【参考文献】
  • (*)「頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法」(田村耕太郎、朝日新聞出版、2014年7月)
  • (**)「人を動かす 完全版」(D・カーネギー、新潮社、2016年11月)

以上(2019年3月)

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事を成すには、狂であれ/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

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1 ピンチのときに前を向く強さはあるか?

ビジネスには順境もあれば、逆境もあります。何をやってもうまくいかないときは投げ出してしまいたくもなりますが、経営者にはそれが許されません。経営者はつらくても前を向き、進み続けることが求められるからです。

つらさをこらえて前に進む経営者の姿は虚勢に見えるかもしれませんが、日々の経営で培った強さは本物です。内部と外部、人・物・金、あらゆるところで発生する大小の問題を、自分の弱さと向き合いながら解決してきた経験はだてではありません。

経営者の力量はピンチのときほど表れます。つらくても今の事業にかけるのか、撤退して次にかけるのか。逆境において、この難しい判断をどれだけ自分を信じて下せるかどうかが大事です。経営者の決意が言動に表れ、組織を導く強い力になるからです。

今回は、「人間の本性は“弱さ”にあると心得る」「事を成すには、狂であれ」「最後は自分勝手に振る舞え!」という3つを取り上げます。経営者がピンチに直面したとき、それに立ち向かう上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 人間の本性は“弱さ”にあると心得る

中国古典から経営のヒントを得る経営者は少なくありません。特に『論語』『韓非子』『孫子』の人気は高いものです。このうち『論語』と『韓非子』に注目すると、一般的に前者は性善説、後者は性悪説に立ったものだと理解されています。

この理解をさらに掘り下げた指摘が、守屋淳著『組織サバイバルの教科書 韓非子』(*)の中にあります。「人の本性は性善説や性悪説というよりも、環境によって流される弱いものであり、いわば“性弱説”である」というものです。

“性弱説”とは、経営者の心理を鋭く突いた指摘であると思えます。特に逆境のときの経営者の心は激しく揺れています。逆境のつらさに流された結果、経営者が本来良しとする「地点(価値観など。以降、同様)」から大きく離れてしまうことがあります。

逆境のとき、「自分はへこたれず前を向ける!」と自身を鼓舞する経営者は多いものです。自分を駆り立てることはとても大事ですが、立ち止まって“性弱説”について考えてみたいものです。

なぜなら、“性弱説”を知っているか否かによって気持ちの整理の仕方が変わってくるからです。“性弱説”を知る経営者は、多少の時間を要しても、まず自分が良しとする「地点」に立ち戻ろうとし、その過程で冷静さを取り戻していきます。

一方、“性弱説”を知らない経営者は、「とにかく何とかしなければ!」と、自分が良しとする「地点」から離れた場所でもがきます。確信を持てずに迷っているのに、外見は泰然とした立ち居振る舞いを続ける“カラ元気”のようなものです。

ピンチを跳ね返そうとするとき、私たちは拳をぐっと握り締めて構えがちですが、こうした剛の姿勢だけでは柔軟性がありません。ましてや“カラ元気”では、すぐに倒れてしまいます。こうしたときこそ、自分の弱さを受け入れる柔の姿勢が大切です。

3 事を成すには、狂であれ

“性弱説”を知り、自分が良しとする「地点」に立ち返った後は、自信を持って信じる道を進みましょう。信じる道とは、経営者が「成し遂げたいこと」と言い換えることもできます。それを実現したいという思いの強さが前に進む強さになります。

西沢泰生著『1分で心に効く 50の名言とストーリー』(**)の中で、京セラ創業者・稲盛和夫氏の「事を成すには、狂であれ」という言葉が紹介されています。稲盛氏は、狂を「壁を打ち破る強力なエネルギーに満ちた状態」と表現したそうです。

こう聞くと、確かに「狂」の状態は大切です。ただし、いくら熱狂しているとはいえ、自分の思いだけを押し通そうとすれば、事は失敗するでしょう。熱狂しているからこそ、逆に冷静になって、事を成し遂げなければなりません。

歴史上、非常に難しいといわれた外交交渉の1つに、日露戦争終結を目的とした「ポーツマス条約」があります。国家の未来をかけて交渉に臨んだ小村壽太郎氏は交渉を必ず成立させなければならず、事の大きさにチームは熱狂していたはずです。

戦争を終わらせたい日本と、続けたいロシア。交渉余地が限られた状況にあって、小村氏は日本からの指示とそれまでの交渉過程を分析し、絶好のタイミングでロシアが受け入れやすい条件(賠償金要求の撤回とサハリンの北半分の放棄)を提示しました。

小村氏が提示した2つの条件は、交渉開始当初の日本の態度からは考え難いものでした。しかし、小村氏は丁寧に交渉を積み重ねていき、そうした小村氏の姿勢と刻々と変わる世界情勢が、日本とロシアの態度を変容させたのかもしれません。

リアルのビジネスで、こちらの要求が100%受け入れられる交渉はまずありません。難しい局面だからこそ、経営者は全てを求めず、冷静に譲歩の余地を計算する必要があります。譲歩の余地は、そこに至るまでの経営者の姿勢にかかってきます。

4 最後は自分勝手に振る舞え!

経営はピンチの連続です。そのため、経営者はある意味でピンチの対応に慣れており、経験で何となく対応できてしまうこともあります。しかし、そうした経験に甘えずに、「成し遂げたいこと」と真摯に向き合い続けなければなりません。

経営者の決断は関係者の生活などに影響を及ぼします。経営者は、たくさんのことを背負っているという感覚を忘れてはならず、常にそれを考えて行動している姿が周囲の態度を変容させ、また経営者が周囲を巻き込む権利を得ることにつながります。

上記の条件を満たした経営者は、最終的に「こうだ!」と決めたことを、ある意味で自分勝手に進めてもよいでしょう。判断は前進に限らず、撤退もありますが、根本的な方向性を決める際は独断することもできます。

周囲には常にさまざまな意見があり、満場一致はありません。であるならば、「誰が何と言おうと、自分の考えは正しい」と信じられなければ、経営者は自分の意思で道を切り開くことができません。

なお、経営者の最終的な判断が、どうしても納得できないという人もいます。その結果、例えばビジネスの提携関係が決裂したり、従業員が辞めていったりすることもあります。

そうなるかもしれないと覚悟していたとはいえ、これは経営者にとって悲しい出来事です。しかし、その悲しみやつらさを乗り越えなければ切り抜けられないピンチがあります。得るものもあれば、失うものもあるということです。

こうした感覚は経営者にしか分からず、だからこそ経営者は孤独であるといわれます。しかし、見方を変えれば、自分の弱さを知り、自分が成すべきことを知り、そして痛みを乗り越えて進む機会を得ることで、経営者は確実に成長できるのです。

  • 【参考文献】
  • (*)「組織サバイバルの教科書 韓非子」(守屋淳、日本経済新聞出版社、2016年8月)
  • (**)「1分で心に効く 50の名言とストーリー」(西沢泰生、大和書房、2016年8月)

以上(2018年12月)

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もどかしいけど、自分でやらない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。「9時に出社して18時に退社する」という働き方もその1つで、これまで疑問を持つ人はほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

実際、世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「訓練すれば“ボルトは外せる”」「もどかしいけど、自分でやらない」「バッドケースがグッドケースにつながる」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 訓練すれば“ボルトは外せる”

スティーブ・ジョブズの「Stay hungry,stay foolish」、吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」。経営者ならどこか共感できる言葉かもしれません。何かを成し遂げたいのなら、常識の枠から飛び出すことも必要です。

そして、何かを成し遂げようとする人の姿はいつの時代も大胆で、“ボルトが何本か外れている”ように見えます。ここでいうボルトが外れた状態とは、「歯止めを外して、限界を設けずに行動する」という前向きな意味です。

経営者の中にもボルトが外れた人がたくさんいます。有名な経営者でなくても、「このプロダクトで世の中を良くしてみせる!」と、周囲の反対を押し切り、熱い思いで突き進む経営者は、ボルトが何本か外れているように見えます。

もちろん、経営者にはさまざまなタイプがいて、ボルトを締めるほうが得意な人もいます。ただし、そうした経営者でさえ、新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しないことを進める中で、突き抜けたいと感じる機会が増えているでしょう。

そのようなとき、「自分はおとなしいタイプだから」と自分の枠を決めるのではなく、ボルトを外す訓練をしてみましょう。スタートアップの経営者の中にも、ボルトを外す訓練をすることで、新しいスタイルを手に入れた人がたくさんいます。

ボルトを外すには、ボルトの外れた人と積極的に交流するのが一番です。直接話をしたり、一緒に行動したりして異質なエネルギーに触れ続けるのです。そうすると、新しいエネルギーが自分に注入され、やがて定着していきます。

ボルトの外れた自分は、“出島”のようなものです。出島とは、本丸とは違う考え方を育み、行動するための心のよりどころです。本質を変える必要はありません。しかし、出島を幾つも持って多様性を確保することは、持続的な成長に寄与します。

3 もどかしいけど、自分でやらない

中小企業では、経営者であっても税務や労務の手続きなど、こまごまとしたバックオフィス業務を行わざるを得ません。営業に関してもそうで、ちょっとした顧客へのフォローなどがなかなか手から離れません。

また、今どきは新規事業の開発や働き方改革の推進など、常識が通用しない取り組みが求められる中で、活動のスピードを上げ、しかも成功の確率を高めるために、これまで以上に経営者が手を動かす機会が増えています。

経営者が動くのは悪いことではありませんが、「自分が動けば必ずうまくいく」という思い込みは排除すべきです。現場から離れていれば感覚がズレますし、別の観点から見ても、企業の持続的な成長のために社員に任せることが大切だからです。

「2018 FIFAワールドカップ ロシア」の決勝トーナメントで、日本代表はベルギー代表に惜敗したのですが、その試合で、ベルギー代表のエースストライカーであるルカク選手が見せたプレーは、ビジネスにも通じる大事なことを示していました。

この試合、あまり活躍していなかったルカク選手。そこに決勝点を狙えるパスがきます。エースストライカーの意地もあり、自ら決めたいと考えて不思議はありません。しかし、ルカク選手はシュートを打たずにスルーし、背後のシャドリ選手に託したのです。

ルカク選手は、自分でシュートを打つと見せかけてマークを引きつけ、背後をノーマークで走ってくるシャドリ選手に託したほうが、得点できる可能性が高いと考えたのでしょう。そして、シャドリ選手は、見事に決勝点を挙げたのです。

全てを自分でやろうとするのは頑張り屋ですが、一方で自分勝手ともいえます。理想は、周りに注意を払い、そのプロジェクトを最も成功させる確率の高い人、あるいは将来のために学んでほしい人に託すことです。

新規事業の開発や働き方改革の推進などは、経営者にとって失敗したくない取り組みです。であるならば、「もどかしい、自分でやりたい」という気持ちを抑え、社員に任せてみることが大切です。

4 バッドケースがグッドケースにつながる

「日々の業務を細かく管理し、失敗を許さない」。こうしたマネジメントをしている企業は少なくないようです。失敗を許さない環境で働く社員は叱られることを嫌い、チャレンジをしなくなってしまいます。

一方、新規事業の開発などの新しい取り組みにおいて、ミスをしないというのは無理な話です。いわゆる「シリアルアントレプレナー」(連続起業家)と呼ばれる人たちも、「新規事業を全て成功させるなんてあり得ない」と言います。

幾つも取り組んだ結果、その中で成功するものがあればいい。経営者は、社内にこのような雰囲気を根付かせなければなりません。つまり、「バッドケースがグッドケースにつながる」という考え方を徹底するのです。

実際、私たちは失敗をして初めて、自分が気付かなかった課題に気付くことができます。早いタイミングで何度も何度も失敗することで、成功に一歩ずつ近づけるということなのです。

大切なのは、「失敗の原因をしっかりと分析し、改善策を講じた上で次に進む」ことです。ただし、こうした過程を踏む企業は多くないため、経営者がトップダウンで指示しつつも、現場の社員の意見を聞いて整備するのが理想です。

ここでも経営者はもどかしさを感じるでしょう。しかし、我慢して社員に任せなければなりません。それも、その時点の社員の能力で対応できるであろうことの2段階くらいレベルの高い取り組みを任せてみるのです。

こうした活動を続けることで社員は成長し、経営者が知らない情報を集めてきたり、気付かなかった視点を指摘してきたりします。これらが組織の成長と、組織力の底上げにつながります。

ビジネスの潮流が目まぐるしく変わる現在、経営者にはボルトを外すような大胆さ、もどかしくても社員に任せる忍耐力、組織全体で失敗から学ぶ謙虚な姿勢が求められます。これらがそろったとき、組織は次のステージへと進むことができるのでしょう。

以上(2018年9月)

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画像:unsplash

SDGsが中小企業にもたらすビジネスチャンス

書いてあること

  • 主な読者:サプライチェーンに属する中小企業
  • 課題:そもそもSDGsとは何か、どのように取り組めばよいのかを知りたい
  • 解決策:中小企業の間ではSDGsの知名度はまだ低い。今のうちにSDGsに取り組むことで、他社に先んじて、サプライヤーとしての競争力を高めることができる

1 SDGsは中小企業のビジネスチャンス

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)と書いて、「エスディージーズ」と読みます。この言葉は、地球環境や雇用の問題など、国際社会が抱える課題を解決に導くために設定された国際目標です。

現在、SDGsに積極的に取り組んでいるのは大企業ですが、そこには中小企業のビジネスチャンスが見え隠れします。例えば、大企業のサプライチェーンに属する中小企業がSDGsに取り組むことで、サプライヤーとしての立場が強固になります。独自にSDGsに取り組み、新規事業として成功させた中小企業もあります。

中小企業もSDGsの当事者に十分なり得ます。SDGsは中長期的な経営戦略を考える際の重要な要素であり、経営者がぜひとも知っておきたい取り組みです。中小企業の経営者に必要なSDGsの情報をコンパクトにまとめます。

2 SDGsの概要

SDGsは、2015年9月の国連サミットにおいて193カ国の全会一致で採択されました。2030年を期限として、17のゴール(目標)と具体的なアプローチである169のターゲット(達成基準)からなります。SDGsの17目標は次の通りです。

なお、詳細は、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)のウェブサイトなどで確認できます。

■GCNJ「持続可能な開発目標(SDGs)」■
http://www.ungcjn.org/sdgs/index.html

SDGsが中小企業にもたらすビジネスチャンスの画像です

SDGsの特徴は、国やNPO・NGOだけでなく、民間企業が、SDGsに取り組むべき主要プレーヤーとして位置付けられていることです。民間企業が、社会課題の解決にビジネスチャンスを見いだすことに主眼が置かれているのです。

ビジネスと持続可能な開発委員会(BSDC)が2017年6月に発表した報告書では、アジア圏の企業がSDGsの主要目標を達成することで、2030年までに5兆米ドル以上のビジネスチャンスが見込まれています。

3 SDGsを取り巻く国内動向

1)日本政府が積極的に推進

日本政府は、SDGsを積極的に推進する姿勢を示しています。2016年5月には、内閣にSDGs推進本部が設置され、同年12月には、実施指針が策定されました。

同指針では、国と民間企業が連携強化を図り、国が、民間企業によるSDGsを通したイノベーション創出を支援するとしています。2018年12月には、そのための具体的な取り組みなどを盛り込んだ「SDGsアクションプラン2019」が発表されました。

SDGsアクションプラン2019では、大企業や業界団体に加えて、中小企業に対してもSDGsの取り組みを強化することが明記されています。

内閣府、外務省、経済産業省、環境省など、各省庁にまたがる横断的な取り組みとなっています。

2)産業界も呼応

産業界の動きも活発で、日本経済団体連合会(以下「経団連」)は2017年11月、「企業行動憲章」にSDGsの理念を取り入れた改定を行いました。ISO26000(企業の社会的責任に関する国際規格)の制定に応じた前回の改定から、7年ぶりに内容を大きく見直しました。

改定版では、企業がIoTやAIなどの技術を活用して経済成長を進めるとともに、SDGsが定める社会的課題の解決に積極的に取り組むことを促しています。

経団連の会員企業は日本を代表する1376社であり、これら企業が順守すべき指針としてSDGsへの取り組みを掲げたことは、日本の産業界に大きなインパクトを与えました。

3)東京五輪が普及の起爆剤に?

2020年に開催される東京五輪に向けた動きも活発化しており、SDGsへの取り組みが国内で普及する起爆剤になるのではという見方もあります。

2012年のロンドン大会では「持続可能な調達コード」が導入され、建物から大会で提供される食品に至るまで、経済合理性のみならず持続可能性にも配慮した調達を行う仕組みが導入されました。

東京大会でも、2019年1月に「持続可能性に配慮した調達コード(第3版)」が発行されており、東京大会で製品やサービスを納入する企業やスポンサー企業の他、東京都をはじめとする地方自治体の公共調達にも影響を与えるといわれています。

4 サプライヤーとしての立場を強固にする

1)サプライヤー管理に乗り出す大企業

前述した通り、SDGs推進の動きは中小企業にも無関係ではありません。中小企業のSDGsへの関わり方には大きく分けて2つありますが、まず1つが、サプライヤーとしての立場を強固にするために取り組むというものです。詳しく見てみましょう。

近年は、外資系企業やグローバルに事業を展開する日本企業などが、SDGsの実践的な取り組みとしてサプライヤー管理に乗り出しています。

例えば、米アップル社はサプライヤーに対して再生可能エネルギーの利用を促しています。2017年3月に同社は、部品メーカーのイビデンが日本で初めて、同社向けの製造活動の全てを再生可能エネルギーで賄うことを約束したと発表しました。

また、国内ではANAグループが、環境保全や人権尊重を含む「食のサプライチェーンマネジメント」を強化するため、将来的に、流通段階も含め機内食に係る全ての人・組織がIDを登録し、サプライチェーンを「見える化」する取り組みなどを進めています。

こうした動きに加え、今後は、SDGsに積極的な大企業の取引先となった企業も、自社のサプライヤーに対して同様の取り組みを求めていくだろうといわれています。

2)大企業の具体的な取り組み

大企業が、SDGsに沿って自社のサプライヤー管理を進める際に、サプライヤーに求める可能性の高い事柄を見てみましょう。

GCNJと地球環境戦略研究機関(IGES)が2018年3月に発表した調査レポート「未来につなげるSDGsとビジネス」によると、日本の大企業などが重点的に取り組んでいる目標は、「気候変動(13)」「働きがい・雇用(8)」「消費・生産(12)」「健康と福祉(3)」などです。その上で、同レポートは、こうした企業の傾向として「SDGsをビジネス機会の獲得・拡大よりも経営リスクへの対応として取り組んでいるとも捉えられる」と分析しています。

例えば、近年、サプライチェーン上で起こる人権侵害や環境破壊などが、経営を揺さぶる問題にまで発展するケースが増えていることから、電子機器関係のメーカーや大手サプライヤーの中では、「働きがい・雇用(8)」と「消費・生産(12)」への取り組みとしてEICC(電子業界行動規範)にのっとったCSR調達などに取り組む企業が増えているといわれます。

今後、大企業のサプライチェーンに属する中小企業がSDGsに取り組むことで、サプライヤーとしての競争力が強まったり、サプライチェーンから外された企業に代わって、新たなサプライヤーに選ばれる余地が出てきたりするかもしれません。

5 独自に取り組みビジネスチャンスを創出

大企業の動きに呼応する関わり方は、中小企業にとって現状維持や新たな取引先開拓にはなるものの、あくまで受動的な取り組みといえます。

他方で、中小企業のSDGsへのもう1つの関わり方として、独自にSDGsに取り組み、新規事業としてビジネスチャンスを創出するというものがあります。

例えば、神奈川県にある従業員約40人の大川印刷は、2005年から、石油系溶剤を含まない印刷インキの使用を開始したり、生態系や地域社会に配慮した調達を示すFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)認証の紙を使用したりするなど、環境に配慮した印刷に取り組んでいます。

2017年からは、こうした自社の経営戦略にSDGsを統合させながら、製品開発などを進めています。同年11月には、紙を束ねる金属製の輪の代わりに紙製のリングを使用し、さらに白内障の人や、色弱者なども見やすいように配慮した卓上カレンダーを発売し、SDGsの5つの目標達成に貢献できるものとして紐づけました。

同製品は、外資系企業のオフィシャルカレンダーに選定され、また、同社にユニバーサルデザインの依頼増加をもたらしました。SDGsへの取り組みが売り上げの増加や販路開拓に結びついた事例といえます。

6 他社に先行することで勝機を得る

中小企業が本格的にSDGsに取り組むためには、超えなければならない幾つかの課題があります。それは、資金・人的資源や取り組み方法に関する知識などの不足です。

そこで、環境省は、中小企業向けのSDGs導入手引きとして「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」を、2018年6月に発表しました。

■「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」■
http://www.env.go.jp/policy/sdgs/index.html

また、具体的な取り組み方や自社の経営戦略への統合手法が分からないという企業向けの支援ツールとして、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)と国連グローバル・コンパクトおよびWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が、企業行動指針「SDG Compass」を共同で発行しています。

■「SDG Compass:SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」■
https://pub.iges.or.jp/pub/sdg-compass:sdgsの企業行動指針-sdgsを企業はどう活用するか-

現状では、前述した課題もあり、SDGsに本格的に取り組む中小企業は多くありません。関東経済産業局と日本立地センターが2018年12月に発表した共同調査レポートによると、SDGsについて全く知らないと答えた中小企業経営者は84.2%に上ります。

逆に言えば、今のうちにSDGsに取り組むことで、他社に先んじて、サプライヤーとしての競争力を高めたり、新たなビジネスチャンスを創出できたりする可能性があります。

以上(2019年4月)

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画像:un.org

鶏と卵の順番にこだわる/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。例えば、「9時に出社して18時に退社する」という働き方に疑問を持つ人は、これまでほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「鶏と卵の順番にこだわる」「『言霊(ことだま)』を信じる」「『本の世界』から飛び出す」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 鶏と卵の順番にこだわる

ミーティングの場では、「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズがよく使われます。これの意味するところは、「今、検討されている取り組みの順番は、どちらが先でもよい」といったものです。

特に新たなチャレンジをする際の検討事項は多いものですが、本当に優先順位が高い事項はわずかで、ほとんどは「目の前のものから片付ければよい」類いです。しかし、それでも経営者は“鶏と卵の順番”、つまり手順にこだわります。

まずは鶏が先の場合。例えば、新規事業の具体的な内容は決まっていないが、先に別会社や事業部を立ち上げて体制を整え、新しい環境で事業を検討するアプローチです。魅力的な卵を産み出す環境の整備を重視しています。

次は卵が先の場合。例えば、新規事業の内容を明確にした後に、その卵を素早くふ化させるために、既存組織とは別の組織運用ができる別会社や事業部を立ち上げるアプローチです。卵を確実にふ化させる手順を重視しています。

鶏が先か、卵が先か。好ましい順番は状況によって異なるもので、どちらかが絶対的な正解というわけではありません。前述した例の場合は、組織の雰囲気や規制の厳しさなどによって選択することになるでしょう。

大切なのは、一見すると後先は特に問題にならないような場合でも、手順を常に考え続けることです。「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズは、ともすれば組織が優先順位の判断を放棄して、思考停止の状態に陥るきっかけにもなり得るからです。

経営者は細部にまでこだわります。社員からすれば鶏と卵の問題に見える簡単そうな判断でも、経営者は事柄を細かく分類し、詰め将棋のような思考実験をして手順を決めているものなのです。

3 「言霊(ことだま)」を信じる

「言霊」という言葉を使う経営者が少なくありません。これは“霊的”な意味で用いているわけではなく、「一つのことを願い、言い続けていれば、いつか実現できると信じている」と考えているのです。

この一つのことを願うというのは意外と難しいものです。本で読んだり、人から聞いたりした話を表面的になぞって話す人がいますが、しばらくすると、全く違ったことを言い始めたりします。これでは、言霊が宿ることはないでしょう。

経営者が同じことを言い続けることで宿る言霊には、科学的な根拠があります。一つのことを願い続けるということはゴールが変わらない、つまり取り組みにぶれがないということです。そのゴールに向かって一歩一歩進めば、ビジネスは成功に近づきます。

また、一つのことを言い続けると、周囲に刷り込まれていきます。そして、「○○を目指す人」という“通り名”ができると、経営者仲間などが関連する情報をくれたり、人を紹介してくれたりします。

社内にも良い効果を与えます。経営者が常に同じことを言っていれば、社員は自分たちがどこに向かっているのかが分かります。それが具体的な行動につながれば、全体で共有しているゴールを目指して、効率的に仕事をすることができます。

このように、経営者が考える言霊の効果は、ある意味で科学的な根拠があります。特に経営者は、同じ悩みを抱える経営者仲間を応援したいと考えているものであり、その力を貸してもらえることは頼もしい限りです。

以上が、経営者が言霊に見いだしている意義ですが、その前提となる大切なポイントは、経営者がずっと言い続けることができる「何か」を見つけていることです。それは、経営者本人が本気でほれ込み、全力で打ち込めるものであるのが理想です。

4 「本の世界」から飛び出す

経営者は知識の吸収に貪欲で、本や雑誌、テレビなどから得ます。それも本業の関連分野から芸能分野まで幅広いジャンルです。なぜなら、「どのようなものでも、ビジネスに結び付く可能性がある」と考えているからです。

また、経営者が本を読むときなどは、フラットに構え、いわゆる「バイアス」を取り除く努力をします。特にビジネスの変化が急速な今どきは、過去から続く“当たり前”を排除しなければ時代にキャッチアップできません。

このような知識の吸収の仕方は経営者が実践しているものです。大切なのは、吸収した知識を使って行動することです。逆に言えば、知ることで満足し、吸収した知識を使わないでいるようでは意味がないのです。

また、経営者は知識の蓄積と活用について独自の感覚を持っています。例えば、集中して本を読めば、ある程度の知識が吸収されて「知らない」状態から、「知っている」状態に進むことができます。

しかし、たくさんの本を読むと1冊に対する印象が薄くなり、本に書いてあった内容がほとんど記憶に残らない状態になります。これを回避するために、多くの人は3回読むとか、線を引くなどのテクニックを使います。

一方、経営者は本の知識が蓄積されにくいことをあまり気にしません。大切なのは行動であり、本の知識を正確に蓄えることではないからです。行動のヒントが得られれば、本の途中でも読むのをやめることが珍しくありません。

経営者は、行動することで得られる「気付き」を大切にします。知識を得て行動し、リアルな課題に遭遇し、それを乗り越えることで、ようやく本質にたどり着くことができます。

そして、気付きを得た後に、もう一度、本を読み返してみると、最初は読み飛ばしていた文章の意味を見いだすことができ、それをまた行動に生かします。これこそが本の世界から飛び出さないと得られない価値です。

以上(2019年10月)

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