新商品を開発するに当たっての一般的なプロセス

書いてあること

  • 主な読者:製品開発の新任担当者
  • 課題:新製品を開発するためのアイデアの出し方やマーケティングの方法を知りたい
  • 解決策:新商品開発の一般的なプロセスと、それに伴うマーケティング分析や販路の確保について解説する

1 新商品開発のプロセス

1)アイデア

新商品は、開発を目的にアイデアを創出するケースと、思いついたアイデアを基に新商品を開発するケースがあります。

前者の場合、ある一定期間を設けてアイデアをスタッフから募ったり、ブレーンストーミングなどの手法でアイデアを集めるのが一般的です。後者の場合は、アイデアを出そうと思って考えたわけでなく、「こんな商品があったら売れるのでは?」という偶然のアイデアから商品を開発するものです。

しかし、いざアイデアを捻り出そうと思ってもなかなか良いアイデアは浮かばないものです。そのため、社内で「提案制度」などを設けて定期的にアイデアを募集する体制が求められます。

また、アイデアの創出という意味では、顧客のニーズを取り入れることも重要です。クレームなどをデータベース化して商品開発のアイデアとして利用したり、消費者調査などを通じて「消費者の生の声」を集めるようにするのもよいでしょう。また、近年では小売業とメーカーなどの異業種が情報やノウハウを共有して共同で商品開発を行うケースも見られます。

2)マーケット分析

新商品のアイデアが出そろい、どのアイデアを採用するのかという段階では、それぞれのアイデアのマーケット分析を行います。「市場・顧客の動向」「競合他社の商品」「自社の経営資源」などの分析を行い、一番良いアイデアを選定します。

その際、「消費者へのアンケート調査」などを実施して好評だったアイデアを選ぶのも一つの方法ですが、自社に市場分析を行うノウハウがない場合は、外部へのアウトソーシングを検討するとよいでしょう。

3)企画

この段階では、各種スケジュールや予算、製造方法などを企画します。具体的には「試作品」「消費者モニター」「販売代理店募集」「製造」「営業」「販売日」などのスケジュールを立てるとともに、「開発費」「材料費」「労務費」「経費」などのコスト算出や、「外注先の選定」などの製造方法を検討します。同時にそれぞれの項目ごとに、スケジュール、予算、品質などの管理責任者を決めます。

また、できれば企画の段階で、「販売数の見込み」とともに、開発費、材料費、人件費などを考慮に入れた「利益の見込み」も立てておきたいものです。その結果、どうしても利益の確保が望めないということが分かれば、商品化を見送ります。

4)開発

開発の段階では、まず仕様書を作成し、それを基に試作品を完成させます。試作品はなるべく完成品に近いものが望ましいのですが、ここで問題となるのは製造コストです。いくら良いものでも製造コストが多大にかかるのであれば大量生産ができません。大量生産を念頭において材料・素材の選定を行い、場合によっては外注を検討します。自社の技術レベルや機材の有無によっては外注の方が結果的に安く上がることも少なくありません。

いかに製造コストを下げることができるのかという点を踏まえながら開発することが重要です。

5)テストマーケティング

試作品が出来上がったら、その商品が本当に計画通りに売れるのかどうかを検証します。消費者モニターのほか、限られた地域での市場テストや営業テストなどを行い、予想通りの販売が見込めるのかを調べます。

その際、期待通りまたは期待以上の販売結果が得られれば、すぐにでも商品化し、全国に向けて販売することができます。逆に期待通りの結果を得られなかったときは、たとえ企画の段階で売れるという結果が出ても「実際は売れない」と割り切り、商品化は見送るべきでしょう。ここまでの開発費は無駄になりますが、売れない商品を市場に導入する意味はありません。再度アイデアまたは企画の段階からやり直します。

6)商品化

テストマーケティングが終了したら、いよいよ商品化となります。大量生産を踏まえた製造方法の確立、パッケージの選定、広告戦略の推進などを行い、販売を開始します。

その際、商品の種類にもよりますが、流通ルートの開拓も重要となります。企画の段階で定めていた営業方法のほかに、代理店の選定や特殊なルートでの販売方法など、さまざまな拡販方法を推進します。

また、顧客へのアフターフォローの仕方や、クレーム処理の対処方法などもこの段階で明確にしておきます。

7)販売後のフォロー

販売を開始した後は、ただ売ればよいというわけではありません。顧客からのクレームや意見を集め、商品の仕様やパッケージの見直しを図ります。

2 マーケティング分析と販路の確保

新商品の開発に当たっては、正確なマーケット分析とともに、販路の確保が重要です。

通常、新商品というと、次のような商品に分類できます。

  • 今までにない全く新しい商品
  • 他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品
  • 既存商品に何らかの改良を加えた商品

それぞれの分類ごとにマーケット分析や販路確保の手法は異なってきます。また、商品のライフサイクルによっても商品の仕様やコンセプトを変更する必要があります。

以降では、新商品を開発・販売する上で留意することをまとめます。

1)今までにない全く新しい商品

今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、その市場規模は未知数となります。商品を購入する消費者の「年齢層」「性別」「嗜好」のほか、「デザイン」「販路」「年間販売量」「将来性」などを考慮し、確実に売れることが見込めた段階で参入することが求められます。これらのノウハウを自社が持っている場合は問題ありませんが、そうでない場合は自社のノウハウだけに頼らず、次のような業種と協力することによって商品を企画していくことが近道になるかもしれません。

  • 商品企画会社(売れる商品の企画)
  • リサーチ会社(消費者へのアンケート調査やマーケット分析)

これらの中で最も頼りにすべきは、商品企画会社(企画デザインプロダクション)です。リサーチ会社の場合、それぞれの商品に対して調査や分析を行うのが仕事であり、売れるかどうかの見込みはあくまで予想となります。参考とはなるものの、実際の販路開拓は期待できません。

一方、商品企画会社の中には強力な販路を持ち、その販路での売り上げが期待できる商品を企画している会社もあります。そのような商品企画会社と提携し、将来的には自社で企画開発ができるようにノウハウを吸収することが大切です。なお、優れた商品企画会社を見つけるためには、今までの実績のほか、「具体的な販路を提示できるか」が重要なポイントとなります。

商品企画が決定した後は、販路を探すこととなります。販路はできれば企画の段階で見込みを立てておくことが望ましく、「このような商品があったら取り扱ってくれますか」といった問い合わせをするとともに、「○○円以下であれば○○個発注してもよい」というレベルの販路をいくつか開拓し、確実に採算が合うと判断できた段階で商品化することが求められます。

なお、今までにない全く新しい商品を開発して販売する場合、当初は、価格競争に巻き込まれることはなく、価格も強気に設定できます。しかし、競合商品が現れたときにはさらなる高付加価値化や生産コストの見直しによる低価格化が必要となります。競合商品の動向を見据え、常に売れる商品開発を行うことが大切です。

2)他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品

他社では販売しているが自社にとっては初めて生産する商品の場合、既存市場への参入となるため、市場の把握はもとより、消費者へのアンケート調査が重要となります。「他社商品と比べてどう思うか」「いくらなら購入するのか」などという商品そのもののアンケートのほか、「パッケージのデザイン」「購買意欲をそそるキャッチコピー」など、十分な調査を重ねた上で商品化することとなります。できれば消費者アンケートの専門企業(リサーチ会社など)に依頼し、正確で客観的な情報を入手するとよいでしょう。

既存市場への新規参入は、通常「既存品よりも安くて良いもの」、「既存品よりも高いが付加価値が付いているもの」のいずれかを販売することになります。前者の場合は、商品1個当たりの利益は少なくなるので、大量に販売しなければ利益の確保が難しくなります。後者の場合は逆に高付加価値を前面に押し出し、なるべく商品1個当たりの利益が大きくなるようにすることが求められます。

販路に関しては、大手の販売店や問屋への営業のほか、通信販売やインターネット上での販売など、独自の販売ルートも検討したいものです。営業先の選定は、それぞれの業態や商品のカテゴリごとに業界団体を調べ、その業界団体から名簿を入手するのが早道となります。名簿を公表していない業界団体に関しては、大手企業を数社紹介してもらうなど、効率的な営業を心がけます。

3)既存商品に何らかの改良を加えた商品

既存商品に何らかの改良を加えたものを新商品として販売する場合は、従来のデザインやパッケージをそのまま踏襲するのではなく、何らかのリニューアルを加えたほうがよいでしょう。

もっとも、現在の売れ行き状況や、競合の度合いによってデザインやパッケージのリニューアル方法は異なってきます。

例えば、「市場でのシェアはナンバーワンだが、競合商品によって販売数が減少している」という商品の場合、何らかの改良を加えて商品の高付加価値化を図ることは非常に有効です。その際、商品が成長期にあるときは、機能強化や容量の増加、新材料の採用など、高付加価値化をアピールするにとどめ、大幅なリニューアルはしないほうが得策です。せっかく構築した認知度を下げてしまうことを避けるためです。

一方、商品が成熟期にあり、「買い換え需要を狙う」という状況の場合は、デザインやパッケージの大幅なリニューアルが効果的でしょう。商品の種類にもよりますが、新商品として販売すれば、競合商品よりも新鮮な商品であることをアピールできるからです。

以上(2018年10月)

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「価格戦略」の基本

書いてあること

  • 主な読者:価格決定をしなければならない経営者や担当者
  • 課題:価格設定を担当者の勘に任せてしまっている
  • 解決策:従来の価格設定法に加え、顧客が価格を決めるPWYW方式を紹介。また、価格戦略のポイントを解説する

1 なぜ同じ“食べ物”でも、価格改定の影響度合いが違うのか

2019年10月から消費税率が10%に引き上げられる一方、酒と外食などを除く食品全般は税率を8%に据え置く対象になっています。税率を8%に据え置く際に、特に注目を集めたのが「どこまでを外食として認めるのか」という点です。外食の場合、価格弾力性が大きいため、増税が需要を大きく減少させる可能性が高いからです。

価格弾力性とは、価格が1%上昇したときに、需要が何%減るかを表したものです。価格弾力性が1を下回る場合、価格の増減の変化の影響を受けにくく、1を上回ると、価格の増減の変化の影響を受けやすいとされます。

基本的には、価格弾力性の大きい商品は、他の商品で代替が可能であり、所得と比べて支出割合が大きい傾向にあります。そのため、値上げが難しく、値下げが効果的だとされています。

一方、価格弾力性の小さい商品は、他の商品で代替することが難しく、所得に対する支出と比べて支出割合が小さい傾向にあります。そのため、比較的値上げが受け入れられやすく、値下げしてもそれほど大きな効果が無いとされます。

総務省「家計調査(2018年)」を見ると、「外食」は1.908と1を上回っています(注)。なお、同じ食べ物でも、生活必需品である「食料」は0.625であり、値上げをしても外食ほど大きな影響は受けない可能性があります。

価格設定は、単に「安ければよい」というわけではなく、商品の特性を踏まえ、自社の利益が確保できる、適正な価格を検討することが重要です。

なお、いずれの価格設定法も一長一短があるため、企業では商品特性や顧客のニーズ、自社の販売戦略などを勘案しつつ、複数の方法を用いながら、価格を検討するのが一般的です。

(注)総務省「家計調査(2018年)」より「支出弾力性」を紹介しています。「食料」には「外食」を含めて「穀類」「肉類」などが含まれます。

2 基本的な価格設定法

1)コスト志向の価格設定法

コストを基本に置き、企業が安定した利益を得ることを目的として価格を設定する方法です。

1.コストプラス法(原価加算法)

商品のコストに、一定の利益率または利益額を加えて価格を設定します。

2.マークアップ法

卸売業者・小売業者が売価を決めるために使う方法です。仕入れ原価にある一定の利益率または利益額を加えて価格を設定します。

3.目標収益法

損益分岐点分析を利用した方法です。企業の目標とする投資収益率(ROI:Return On Investment)を実現できるように価格を設定します。

2)競争志向的な価格設定法

市場に既に出回っている商品や競合企業の価格を基準とし、それを模倣したり、基準よりも少し下げたりして自社の価格を設定します。

3)需要志向的な価格設定法

顧客側の事情を勘案して、自社の価格を設定する方法です。

1.知覚価値型価格設定法

マーケティング調査などによって、「いくらなら購入するか」などを顧客に聞いて自社の価格を設定する方法です。原価が顧客の希望する価格よりも高い場合は、コストカットや仕様の見直しなどを行い、その価格帯に原価を近づけます。

2.需要価格設定法

市場セグメントごとに、価格を変化させる方法です。顧客層(学割など)、時間帯(早朝割引など)、場所(グリーン車など)によって、異なった価格を設定します。

3.心理的価格設定法

「498円」などの端数を用いたり、「ジュースは1本130円」といったよくある価格や、ある商品に対して持つ顧客の心理的反応・知覚に基づいて設定する方法です。

4)戦略的な価格設定法

商品単体の価格設定を考える際の基本的な方法は前述の通りですが、この他にも、戦略的な視点から価格を検討する方法もあります。代表的なものは、新商品の価格設定法である、スキミングプライスとペネトレーションプライスです。スキミングプライスは、高価格を設定し、早期に開発コストなどを回収する方法です。一方、ペネトレーションプライスは低価格を設定し、市場シェアの獲得を目指す方法です。

この他にも、「複数商品のセット価格を単品価格の合計よりも安くする」といったように、複数商品を考慮した価格設定法などがあります。

3 顧客に価格を決めてもらうPWYW方式

前述のような価格設定法は、以前から見られるものですが、売り上げや収益を最大化するために、多くの企業では最適な価格を求めてさまざまな工夫を行っています。

例えば、比較的新しい価格設定法の1つに「ペイ・ワット・ユー・ウォント(ペイ・アズ・ユー・ウィッシュともいわれます。以下「PWYW」)方式」があります。この方法は、「顧客が価格を決める=価値に見合うだけの価格を支払う」というものです。世界的に人気のあるロックバンドが、この方式を使って新作アルバムをiTunes上で発売したことから話題になりました。日本では愛知県のはづ別館が導入しています(前日までの予約客のみが対象です。あらかじめ料金が設定されている日があるなど例外もあります)。 最近では、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが、商品の配送時に掛かる送料を顧客が自由に設定できる「送料自由」を試験導入しました。その結果、送料として設定された金額の平均は、税込みで96円で、送料が0円で設定された割合は43%に達しました。この結果を受けて、同社は通常配送の送料を税込みで一律200円に改訂しました。

「PWYW方式では、利益が確保できないのでは?」と思いがちですが、一部の企業ではPWYW方式で成功を収め、同等の商品に比べて高い価格を支払う人も多数いるようです。PWYW方式で成功している企業は、顧客から商品の価値を認められているからこそ、適正な利益を確保することができます。

なお、「顧客が認めた価値に見合うだけの価格を支払う」というPWYW方式の価格設定は、基本的にBtoCが対象であり、「できるだけ安く」という経済合理性が特に強く働くBtoBには適していません。また、PWYW方式は、飲食や宿泊、音楽や書籍といった経験や満足度など、実体の無い価値を提供している商品が適していて、形のある商品の場合、他の商品と価格比較が容易なので、買いたたかれてしまう可能性が高く、導入には向いていません。

4 Pepperに学ぶ価格戦略

1)Pepperの価格

ここでは、ソフトバンクが手掛けるロボット「Pepper(ペッパー)」の事例を紹介します。

現在、Pepperは、個人・法人の双方が利用できる「Pepper(一般販売モデル)」と、法人のみの「Pepper for Biz(法人向けモデル)」がありますが、ここでは一般販売モデルを取り上げます。

【一般販売モデル(本体のみ購入可能・価格は全て税抜き)】

  • 本体:19万8000円
  • サービスなど(任意加入・クラウドサービスなど+保険・最低36カ月の契約が必要):2万4600円(月額)×36カ月=88万5600円
  • 合計:108万3600円

2)市場に浸透させるための戦略的な価格設定

発売当初のPepperは、ペネトレーションプライスを設定しています。孫正義社長がPepper発表の記者会見の際、19万8000円の販売価格は「製造台数が少ないこともあり、現状では製造コスト以下だ」と発言しているように、本体のみの販売では赤字になるような価格設定をしていました。

Pepperは2015年に発売され、クラウドサービスや保険などのプランの契約期間が3年で更新されます。Pepperを開発・販売するソフトバンク傘下のソフトバンクロボティックスによると、大半の利用者が契約の更新をしているそうです。

ソフトバンクは、コスト以下であっても価格を抑えて、まずは市場シェアを獲得することを最優先としたマーケティング目標にしているのでしょう。

5 BtoCとは異なるBtoBの価格戦略

1)BtoBの価格設定の特徴

本稿で紹介してきた内容は、BtoCの価格戦略を前提としています。一方、BtoBにおける価格設定は、BtoCとは異なり、価格を公表しないことが多くなります。これは取引金額が多額になること、取引関係が継続的になることなどから、次のような点を考慮しながら、購入先と個別に交渉して価格を決定するためです。

  • 商品の仕様
  • 販売数量
  • 取引条件(支払時期・方法、納期、納品方法、販売後の保証など)
  • 過去および現在の取引実績
  • 今後の取引数量・継続の可能性
  • 購入者との力関係や依存度
  • 販売先の予算
  • 競合する商品の価格

これらの点を考慮して価格を決定するため、同一の仕様・販売数量・取引条件であっても、実際の販売価格は販売先によって異なることがあります。また、今回、販売することによって、今後、多額の取引が見込める場合などは、商品を購入してもらうことを優先するために、大幅な赤字となる価格で販売することもあります。

交渉によって価格を決定する場合は、原価を把握しておく、BtoCと同様の方法で社内的な基準価格、取引数量と割引率などを明示した標準的な割引表、取引数量などを基にした最終決裁者を決めておくなど、実際の販売価格をスムーズに検討するための資料や規定を作成しておくとよいでしょう。

2)価格を公表するか否かの基準

BtoBの商品であっても、価格を公表したほうがよい商品もあります。具体的には、次のような商品は、個別交渉に掛かる手間やコストの削減などを勘案し、価格の公表を検討してもよいでしょう。

  • 取引金額が少額になる商品
  • 仕様や取引条件を標準化できる商品
  • 販売先が多数にわたる商品

ただし、価格を公表すると、前述したような柔軟な価格設定を行いにくくなるので、慎重に検討する必要があります。例えば、購入者の予算などを勘案し、標準的な価格よりも高い価格で販売できる場合もありますが、価格を公表していると、こうした価格設定は難しくなります。

なお、価格を公表する場合は、基本的にはBtoCと同様の方法で価格を決定することになります。

6 今こそ、価格戦略を見直そう!

価格決定は、企業の収益を左右する重要な事柄です。とはいえ、重要であることは理解していても、体系的な価格戦略を持っている企業は限られているようです。

裏を返せば、多くの企業が「競合企業が値上げした」「顧客から値下げ要請があった」といった場面で慌てふためき、場当たり的な対応に終始しているのではないでしょうか。

例えば、社内の基準となる価格は、先達がマーケティング調査や顧客の声を反映して決めたものでしょうが、その内容は現在のビジネス状況に合致しているでしょうか。何年も前から改定されていないものであれば、再度マーケティング調査や顧客アンケートなどを実施して、改めて価格戦略について見直してみましょう。

以上(2019年4月)

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中小企業が知名度を高めるための手段「パブリシティー活動」

書いてあること

  • 主な読者:自社や商品の情報を、メディアに取り上げてもらうよう働き掛けたい広報担当者
  • 課題:パブリシティー活動のノウハウがない
  • 解決策:内容を工夫することに加えて、体裁や読みやすさなどの見た目にも注意を払ったプレスリリースにすることで、メディアに取り上げてもらいたやすくなる

1 中小企業におけるパブリシティー活動

1)パブリシティー活動って何?

大企業や大手フランチャイズチェーンは、多くの営業担当者に多数の企業を訪問させたり、多額の資金を投じて広告を打ったりすることで、商品の知名度を向上させることができます。しかし、人材や資金に限りのある中小企業においては、大企業と同じ活動はできません。特徴のある商品・サービス(以下「商品」)にもかかわらず、知名度が低いために、うまく顧客を獲得できないのは残念なことです。

こうした企業が検討するとよいのが「パブリシティー活動」です。パブリシティー活動とは、「企業などが自社や商品の情報を発信して、メディアに取り上げてもらうよう働き掛ける活動」であり、多くの営業担当者を割くことや、多額の予算を投入することなく、広く自社や商品の情報を発信することができます。

2)企業の情報発信と中小企業におけるパブリシティー活動の重要性

パブリシティー活動を含め、企業の情報発信は次のように行われています。

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パブリシティー活動においても、物量(人材や資金力)が豊富で知名度が高い大企業のほうが有利です。しかし、パブリシティー活動は、「メディア側が取り上げる情報を決定する」という特性により、他の情報発信の取り組みと比べると、大企業と中小企業との差が少ない活動であるともいえます。

例えば、ビジネス誌で「地方発・海外進出に成功している中小企業」の特集が組まれたり、情報番組で「ユニークなメニューを目玉にした、行列の絶えない飲食店特集」が組まれたりすることがあります。そこにうまくアプローチし、メディアから評価されれば、中小企業であっても自社や商品が大きく取り上げられる可能性があります。

以上から、多額の広告費などをかけにくい中小企業にとって、パブリシティー活動は、知っておきたい情報発信の取り組みの1つといえます。以下で、もう少し詳しくパブリシティー活動について見ていきましょう。

2 パブリシティー活動の基本的な流れ

1)メディアに取り上げてもらいたい情報の整理

まず、メディアに取り上げてもらいたい情報を整理します。例えば、新商品の告知であれば、発売日・価格・販売場所などの商品に関する基本的な情報は必須です。また、新商品の発売に至った経緯・新商品の特徴・他社の類似商品との差異化点・新商品の対象とする顧客なども大切な情報です。特に他社の類似商品との差異化点を強調することで読者・視聴者のメリットが明確になるため、メディアに取り上げてもらいやすくなるかもしれません。

2)情報を取り上げてほしいメディアの選定

自社が情報を受け取ってほしいと考えている対象者を明確にし、そうした人をターゲットとしているメディアを見つけます。例えば、十代の女性向けの化粧品に関する情報をビジネス誌に掲載しても、ターゲットが異なるため効果が見込めません。こうした情報とメディアのミスマッチが生じないようにします。

まず、主なメディアには「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」「インターネット」がありますが、情報を受け取ってほしい対象者がよく接するメディアは何かを考えて、選ぶようにしましょう。

メディアの種類を選定したら、次は具体的な媒体を決定します。雑誌に掲載するのであれば、「どの出版社の、どの雑誌に掲載するのか」を決定します。日本雑誌協会では、協会員である出版社の雑誌について、「総合月刊誌」「女性ヤング誌」などジャンルごとに発行部数のデータを公開しています。メディアを選定するに当たっては、こうしたデータを参考にするのもよいでしょう。

また、「共同通信PRワイヤー」「PR TIMES」などのプレスリリース配信サービスでは、複数の配信先(メディア)がパッケージングされており、プレスリリースの内容によって配信先を選ぶことができます。ポータルサイトやニュースサイトなどとも提携しているので、ネットニュースのコーナーの1つで取り上げられる可能性もあります。こうしたサービスを利用すれば、メディアの選定や配信先の連絡先を調べる手間も省くことができます。

3)プレスリリースに盛り込む内容

プレスリリースを作成する際、内容を工夫するのはもちろんのこと、体裁や読みやすさなどの見た目にも注意を払いましょう。プレスリリースを目立たせるための一例として、「タイトルを大きい文字にする」「文字フォントにメリハリを付ける」といった方法があります。「どの程度、文字を大きくするか?」といったことについては、既にインターネット上などで公開されている他社のプレスリリースを参考にするとよいでしょう。

また、初めてアプローチするメディアには、プレスリリースに加えて会社概要など、自社について理解を深めてもらうための資料も同封します。

では、プレスリリースに盛り込む具体的な内容を見ていきましょう。

1.タイトル

内容が一目で分かるキャッチフレーズをつくるのが理想的です。また、ネットニュースで取り上げられたり、SNS上で拡散されたりしやすいように、あえて“突っ込みどころ”をつくるのも効果的でしょう。この他、商品などに関連した顧客アンケートや調査データなどの「数字」があると、メディアで取り上げられやすいといわれています。インターネット調査などを実施している会社に依頼し、顧客アンケートなどを実施して、タイトルや本文にその結果を紹介してもよいでしょう。

  • (例)「『孫の日』の贈り物に悩む祖父母は約50%! 今年はモノより思い出を」

2.要約

要約とは、プレスリリース全体をまとめたものです。「いつ、どこで、誰を対象に、何を、どうするか」などを記載します。

  • (例)「一生の思い出に残る、ユニークな旅行をお届けする株式会社○○(自社名)では、孫の日(10月第3日曜日)に合わせて、祖父母・父母・孫の3世代が楽しめるパッケージ旅行を販売いたします」

3.特徴、商品開発の背景など

商品の特徴、商品を開発するに至った背景などを記載します。タイトルや要約を見て興味を持ったメディアが、記事を作成するためのヒントになるような事実を盛り込みましょう。書き方は、文章形式でも、箇条書き形式でも構いません。

  • (例)「弊社が孫のいる祖父母300人に実施したアンケート調査によると、孫の日の贈り物に困っていると回答された方が46.7%に上ります。
    弊社では『孫や家族に特別な贈り物をしたい』と考える祖父母の方に向けて、大自然や歴史的な建造物に囲まれて、家族がともに楽しい時間を過ごすことができるパッケージ旅行をご提案します。玩具や洋服などのモノではなく、一生忘れないすてきな思い出をプレゼントするお手伝いをさせていただきます」

4.問い合わせ先

メディアからの問い合わせを受け付ける窓口を記載します。自社の住所、電話番号、FAX番号、担当者名、担当者のメールアドレスなどを記載します。

4)プレスリリースの送付

作成したプレスリリースをメディアに送付します。メディアの代表番号に電話し、プレスリリースを送付したい旨を伝え、担当部署に取り次いでもらいましょう。この際、掲載を希望する番組や紙面などがあらかじめ決まっている場合には、直接その担当部署に電話を取り次いでもらうよう依頼します。

担当部署に電話を取り次いでもらったら、電話した意図(プレスリリースを送りたい旨、取り上げてほしい情報の概要など)を簡単に説明した上で、相手からの承諾が得られた場合、プレスリリースを送付します。

5)送付先へのフォロー

プレスリリースを送付したら、到着する時期を見計らって、メディアの担当者宛てに「プレスリリースをお送りしましたが、到着していますか」といったフォローの電話やメールをします。

メディア担当者が興味を示している場合は、「実物をお持ちして、直接説明させてください」「実際に店舗(会社、工場など)に取材に来ていただけないでしょうか」など、さらに詳しい情報を発信するチャンスをうかがいます。一方、まだ到着していない、あるいは到着したが目を通していないといった場合には、内容の確認をお願いします。

6)メディア担当者に説明をして、取材を受ける

メディアの担当者と直接会って説明をする、もしくは取材に来てもらうことになったら、事前に説明の流れを練っておきます。メディア担当者に直接説明する際、説明の要点が分かりにくかったり、説明がしどろもどろになってしまっては印象が悪くなります。

また、メディア担当者のスケジュールが急に変更になったときなどでも、変化に対応できるように、「メディア担当者があまり時間を取れない場合の説明」「メディア担当者が十分に時間を確保してくれた場合の説明」など、いくつか説明のパターンを考えておくとよいでしょう。

3 パブリシティー活動における留意点

1)必ずしもメディアに取り上げてもらえるわけではない

パブリシティー活動において、情報を取り上げるか否かを決めるのはメディアです。また、取材後に、社会の動きや事件などによってメディアの取り上げる内容が変わり、紙面や番組の構成が変更されることがあります。パブリシティー活動を実施したからといって、必ずしもメディアに取り上げられるわけではないことを理解しておきましょう。

2)メディアに取り上げられた後の対応を考えておく

パブリシティー活動が功を奏し、多くの問い合わせがきたとしましょう。このとき、担当者以外の従業員が情報について理解しておらず、きちんとした対応ができなければ、問い合わせてきた人に悪い印象を与えます。また、飲食店などの場合では、メディアに取り上げられたことにより来店客が増えた際に、顧客への対応がしっかりできなければ、クレームにつながり、逆に顧客を失うことにもなりかねません。こうした事態を防ぐためには、社内の情報共有や社員教育をきちんとしなければなりません。

また、メディアに取り上げられたら、その結果を他の情報発信の取り組みと連動させながら日々の営業活動に活用しましょう。例えば、「自社情報が新聞記事に取り上げられたことを紹介した、営業担当者の営業資料を作成する」「自社ウェブサイトやSNS、ダイレクトメールなどに、メディアに取り上げられたことを記載する」といった方法があります。

4 メディアに取り上げてもらうためのヒント

1)メディアに取り上げてもらうための工夫

自社の情報や商品をメディアに取り上げてもらうためには、さまざまな工夫が必要です。例えば、全国紙(全国版)やキー局のテレビ番組は競争率が高く、取り上げてもらうのが困難なため、業界専門誌や地方紙などに集中的に働き掛けるという方法を選択してもよいでしょう。また、「日本初」「業界初」などの、初めての取り組みであることは大きなアピールポイントになるようです。

この他、「社会情勢を意識した取り組み」「法や条例などに基づく認定制度の初適用」などもメディアに取り上げられやすいようです。

2)情報の受け手に具体的なメリットを併せて提示する

情報の受け手に対して、具体的なメリットを併せて提示することも、メディアに取り上げられやすくなる方法の1つです。

例えば、飲食店の新規開店の情報を取り上げてもらいたいのであれば、店舗の情報の他に「この記事を持参すると全品500円引き」という情報を加えたり、新商品の情報を取り上げてもらいたいのであれば、商品概要の他に「応募者20名様にプレゼント」という情報を加えるなどが挙げられます。

このように、情報の受け手に具体的なメリットを併せて提示することで、ただの新規開店や新商品の情報が逆にメディアにとっても価値のある情報になります。その結果として、メディアにも取り上げられる可能性が高まります。

以上(2019年10月)

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小さな会社でもアピールできる会社案内のアイデア集

書いてあること

  • 主な読者:「会社の名刺」として会社案内を作成したい経営者・担当者
  • 課題:取引先や顧客向けに会社案内が必要
  • 解決策:自社が属する「業界イメージ」などを踏まえて、「冊子の形状や色」「載せる内容」などを決定する

1 会社案内のコンセプト

「会社案内」は自社の“顔”です。住所や連絡先などの基本情報の他に、事業内容などを簡潔に記載することで、ウェブサイトと並び自社のことを知ってもらうための有効なツールになります。

新たに会社案内を制作する際は、まずはコンセプトを明確にしましょう。その際、業界の特徴を考慮することが大切です。例えば、介護・福祉業界の場合は「温かさや清潔感」といったように、消費者が各業界に期待しているイメージがあり、それを無視するのは得策ではありません。洗練されているとはいえ、介護・福祉業界の会社がデザイン会社のような会社案内を作成すると、介護・福祉サービスの利用者である高齢者などから敬遠されてしまう恐れがあるのです。

そのため、会社案内を作成する際は、同業他社の会社案内を入手するなどして、必ず次のような業界特有の雰囲気を確認しておきましょう。

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会社案内を構成する代表的な要素は「形、素材、色、内容」です。コンセプトから大きく逸脱することなく、これらの要素をうまく組み合わせながらオリジナルの会社案内を制作しましょう。

会社案内の制作代行サービスを行う会社に相談してみるのも一策です。各社ともノウハウ、価格、デザイン性、スピードなどそれぞれの持ち味を売りにしているようです。近年は紙媒体だけでなく、ウェブサイトや動画による会社案内とコラボレーションしたプランも提案してくれます。

2 会社案内のアイデア:形

よく見られるA4サイズの会社案内の形状はさまざまで、表紙と裏表紙に挟まれた見開きの形のものから、表紙と裏表紙を含めて数十ページを超えるものまであります。レストランのメニュー表のように細長い形状の会社案内もあります。また、細長い三つ折りのものなどもあり、その形状の例は次の通りです。こうした会社案内は、「センス良く見える」「スマートに見える」などの理由で人気があるようです。

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さらに楕円形や、表紙をくりぬいたものなど、さまざまな形状の会社案内があります。従来の形にとらわれない形状の例は次の通りです。

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図表3以外にも、例えば楽器メーカーの会社案内であればピアノの形状、住宅メーカーであれば表紙に長方形のドアが貼ってあり、ドアを開けて会社案内に「入っていく」ような形状などさまざまな例が考えられます。ただし、斬新な形状で目を引くものであっても、自社の事業内容との関係性が感じられないようでは意味がありません。

3 会社案内のアイデア:素材

会社案内で使用される紙質は、表面に光沢がありツルツルしている「コート紙」が中心ですが、この他にもさまざまな種類があります。面白い素材としては、和紙・わら半紙・段ボールなどがあります。また、紙以外では麻布などが使用されることもあります。

和紙やアルミ箔など一般的に会社案内には使われない素材をそのまま会社案内に使用すると、印刷コストが高くなったり、「読みにくい」「ページがめくりにくい」などの問題が出てきたりします。この場合、和紙などはそのまま使用するのではなく、コート紙などに和紙などの模様を印刷して和紙風にするなどの工夫をするとよいでしょう。

この他、梱包材やジグソーパズルなどをコート紙に印刷して背景や模様にすると、デザイン性の高いユニークな会社案内になります。

4 会社案内のアイデア:色

1)基本の配色パターン

会社案内にたくさんの色を使用すると、読み手は「楽しそう」という印象を持ちます。一方、使う色を減らせば、「落ち着いている」という印象を持つでしょう。同様に、配色のコントラスト(対照)がはっきりしていれば、読み手は「メリハリがある」という印象を持ちますし、同系色でまとめていれば「統一感がある」という印象を持つでしょう。

実際に会社案内を制作する際は、コンセプトに基づいた色使いをします。例えば次のように、最初からある程度、使用する色の方向性を決めておくとよいでしょう。

  • 明るい元気な色を中心:オレンジ、黄色、赤系統などの色
  • 爽やかな自然を感じさせる色を中心:緑、黄緑、茶系統などの色
  • クールさを感じさせる色を中心:青、水色、白、グレーなどの色

また、色の系統は次のような配色で考えることもできます。

2)コントラスト配色

色の明るさ、暗さなどのバランスで配色をまとめる方法です。例えば、黒に対してオレンジなどの対照的な色を組み合わせることによって、人目を引く効果が期待できます。チラシや看板広告などによく用いられる配色です。

3)アクセント配色

コントラスト配色と類似したイメージですが、似たような色使いの中にアクセントとなる色を配色することで、目立たせる効果があります。例えば、薄い緑色と薄い黄緑色をベースに、目立たせたい部分にオレンジや黒などの強い色をアクセントカラーとして配色すると、見た目が引き締まります。

4)優しい配色

パステル調の淡い配色でまとめると、全体的に優しい雰囲気に仕上がります。例えば淡い黄色、淡いピンク色、淡い水色、白などを基調としてまとめる方法です。

5)鮮やかな配色

ビビッドカラー(他の色の混ざっていない純粋な赤、青、緑などの鮮やかな色)の配色でまとめる方法です。純粋な強い色はビビッドの名の通り鮮やかに目に飛び込んでくるため、イベントのチラシやショーウインドーなどによく見かけられます。ただし、ビビッドカラーを使用する際に注意したいのは、それだけでまとめてしまうと全てが鮮やかになってしまい、目立たせたい部分が埋もれてしまう恐れがあることです。ビビッドカラーを効果的に使用したい場合には、淡い色などと組み合わせるほうがよいかもしれません。

6)配色パターンの応用編

配色パターンによって読み手の感じ方は変わります。会社案内を制作する際に、配色について勉強してみてもよいでしょう。

また、変わった色使いとしては、印刷会社などで本刷りする前に、校正・確認用に青くプリントアウトする「青焼き」という状態の印刷物をそのまま使用したり、昔の写真のようなセピア調でシックにまとめたりするなどの方法が考えられます。例えば、社屋や社屋周辺の地域の写真を全てセピア調にして、昔懐かしい風景に仕上げると面白いかもしれません。

5 会社案内のアイデア:内容

内容にはキャッチコピーや文章、写真などがあります。写真であれば社屋や代表者、また従業員一同の写真、研究開発装置や機械の写真などの他に、次のような案も考えられます。従業員一人一人に自由な意見を求めると、より幅広い意見が集まってくるでしょう。

  • 読み手が会社の入り口から入って社内を散策しているかのように、道順に沿った社内風景を写真で順番に掲載する
  • 会社の窓から見える四季折々の風景を掲載する

また、掲載する文章としては、事業概要や会社の沿革の他に、次のような内容を盛り込んでみるのもよいでしょう。

  • 機械や品種などの研究開発に関する秘話
  • 商品にまつわる小話や歴史
  • 従業員の座右の銘や尊敬する人物

会社案内の中で新商品を開発する際のアイデア募集の告知を行ったり、クーポン券やクジなどを付けたりしても面白いかもしれません。この他、自社・商品のキャッチコピーを工夫するとより効果的でしょう。キャッチコピーは、伝えたいことを簡潔かつ的確に表現するものであることが重要です。

6 さまざまなアイデア例

これまでに紹介してきた4つのアイデアをベースに、営業や採用など目的に合わせて工夫を凝らした会社案内を制作している会社が多くあります。そうした事例のいくつかを以下に紹介します。なお、現在さらにリニューアルなどが加えられ、表にまとめた形態とは異なるものもあります。

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7 会社案内は「自社の名刺」

今どきはウェブサイト上で自社の会社案内を紹介するのが一般的です。また、ツイッターやフェイスブックなど手軽に情報発信できるツールを活用して、自社のウェブサイトへのアクセスを促したり、商品やサービスの情報を公開したりする会社も増えています。広い意味で捉えると、こうした方法も会社案内の1つといえるでしょう。

会社案内は自社の“顔”であり、自社のことを知ってもらう「名刺」のようなものです。会社案内を制作する際には、コンセプトを明確にした上で、従業員それぞれがアイデアを持ち寄りながら、世界でたった1つの「名刺」を目指してみましょう。

以上(2018年4月)

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いまさら聞けない「のれん」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:「のれん」の実態や、財務上どのように影響するのか分からない
  • 解決策:のれんは超過収益力(買収価額と買収企業の純資産額の差額)をいい、財務上無形固定資産に計上する。税務上の取り扱いも要注意

1 「のれん」とは何か?

「のれん」とは、超過収益力を表したものとよくいわれます。会計的には、被取得企業または取得した事業の買収価額が、取得した資産および引き受けた負債の純額(以下、「純資産価額」)を超過する額と表現されます。図表1の通り、純資産価額を超過する買収価額のM&Aが成立するのは、そこに超過収益力の価値が含まれているためと考えられます。

なお、被取得企業または取得した事業の買収価額が純資産価額を下回ることもあり得ます。この場合の不足額は、「負ののれん」といわれ、マイナスの超過収益力として買収価額の算定に当たり減額要素となります。

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2 「のれん」はなぜ発生するのか?

M&Aにおける買収価額は、被取得企業または取得した事業の純資産価額と一致するとは限りません。買収価額は、被取得企業または取得した事業の資産および負債の買収時の時価評価額(以下、「時価純資産価額」)のみで決定されるものではなく、被取得企業または取得した事業の収益性・成長性、仕入先・販売先ルート、優れた営業力・技術力・人員、ブランド等の無形の価値も反映して決められるためです。

時価純資産価額に無形の価値を反映したものが買収価額となるため、この無形の価値が「のれん」として認識されることになります。

「負ののれん」の発生原因には、M&A実施後に大規模なリストラクチャリングに関連する費用の発生が見込まれる等、被取得企業または取得した事業に関連して発生する費用負担額を、買収価額の算定に当たって減額した場合等が考えられます。

●設例1

  • 被取得企業の貸借対照表(以下、「BS」)の純資産価額は10でした。これを時価評価した結果、保有する土地の時価が10増加していたため、時価純資産価額は20となりました。
    被取得企業の得意先には大口顧客が多く、今後も高い収益性が見込める状況です。
    買収価額が20であれば、時価純資産価額20と同額のため「のれん」は発生しません。
    買収価額が50であれば、高い収益性という無形の価値が反映されていると考えられ、時価純資産価額20を超過する30が「のれん」として認識されます。

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3 「のれん」の会計上の取扱い

「のれん」は無形固定資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。「のれん」の償却費は販売費及び一般管理費に計上します。実務上は、償却期間を5年とするケースが多く見受けられます。

償却期間を長く設定することで、1年当たりの償却負担額を少なくすることが可能ですが、「のれん」は減損会計の適用対象でもあるため、償却期間の途中に「のれん」の価値が損なわれた場合、一時に多額の減損損失を負担することもあります。

なお、「負ののれん」は発生した事業年度に全額を特別利益に計上することとなります。

●設例2

  • 設例1の「のれん」30を5年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は6となります(図表3、黒色の長い棒部分)。10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3となります(図表3、オレンジ色の短い棒部分)。
    償却する総額はいずれも30で同額ですが、5年間で償却した場合、前半の5年間は10年間で償却した場合より1年当たりの償却負担額は3多くなります。後半の5年間は1年当たりの償却負担額は3少なくなります。

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「のれん」を10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3(図表4、オレンジ色の短い棒部分)となりますが、5年目に「のれん」の価値が全部損なわれ、未償却残高15が全て減損損失となった場合、償却負担額3に加え減損損失15(図表4、赤色の長い棒部分)を一時に負担するため、5年目の損益に大きな影響を及ぼす懸念があります。「のれん」自体を個別に売却するのは困難であることを考慮すると、合理的に説明ができる範囲内で、なるべく短期間で償却することが健全な対応と考えられます。

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4 「のれん」の税務上の取扱い

純粋な第三者間による組織再編のような非適格組織再編において、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を超過する額を「資産調整勘定」として計上します。「資産調整勘定」は5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は損金の額に算入します。また、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を下回る額は「差額負債調整勘定」として計上します。「差額負債調整勘定」も5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は益金の額に算入します。

「資産調整勘定」は会計上の「のれん」に、「差額負債調整勘定」は会計上の「負ののれん」に対応する概念となります。ただし、会計および税務において、償却期間の考え方が異なっているため、同一の償却期間とならない場合、申告調整および税効果会計の適用が必要になります。

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5 M&Aを考える中小企業経営者が知っておきたい「のれん」に関するリスクと対策

前述の通り「のれん」は、被取得企業または取得した事業の無形の価値であり、買収価額と時価純資産価額の差額として把握されます。被取得企業または取得した事業を過大に評価した場合、割高な買収価額となり、結果として「のれん」も多額となります。この場合、被取得企業または取得した事業の収益力は買収時の見込みを下回ることが多く、「のれん」償却額に比較し十分な売上が確保できないばかりか、「のれん」の価値の毀損による減損損失の計上で、業績が圧迫されるリスクがあります。

このリスクを低減するためには、被取得企業または取得した事業を適切に評価した買収価額を算定することが何よりも重要です。以下は、中小企業におけるM&Aの実務で広く普及している主な買収価額の算定式です。

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算定式から分かる通り、時価純資産価額の算定に当たって資産および負債の時価評価を適切に実施する必要があります。また、「のれん」の算定に当たっては、適切な営業利益の算定および妥当な倍率を判断することが欠かせません。

ただし、いずれの算定に当たっても専門的な技能を要する局面が多いことから、金額的重要性が乏しいM&Aを除き、公認会計士や税理士等による財務的・税務的なリスクの詳細調査(デューデリジェンス)を実施した上で判断することが、中小企業のM&Aにおいて効果的な対策と考えられます。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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経理担当者でも迷う社会保険の会計・税務処理を徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:社会・労働保険の会計上の取り扱いの整理がしたい経理担当者
  • 課題:社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑でわかりにくい
  • 解決策:社会・労働保険の基礎知識をまとめ、事例を用いながら会計処理を解説する

1 社会・労働保険と会計処理

多くの中小企業は、独立した経理部門や人事部門を設置していません。しかし、労務、会計、税務の業務は少しずつ重なるため、担当者は幅広い知識を持っていないとスムーズに業務を処理できません。

例えば、社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑になります。また、保険料を損金算入するタイミング、つまり税務上の注意が必要です。

ここでは、中小企業の担当者が迷いがちな社会・労働保険の会計処理についての流れを紹介します。

2 社会・労働保険の基礎知識

1)社会保険

社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険をいいます。社会保険は、被保険者の月額報酬(会社から受ける毎月の給与など)を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」を設定し、この標準報酬月額に基づいて保険料の額を計算します(注)。

標準報酬月額の算定方法には毎年1回行う「定時決定」、昇給などにより標準報酬月額が大幅に変動した場合に行う「随時改定」などがあります。

なお、社会保険料は、毎月、会社と従業員が半分ずつ負担します。従業員負担分については、会社が給与から徴収し、会社負担分と併せて発生月の翌月末に納付(10月保険料の場合は、11月末日)します。

(注)賞与が支給される場合、賞与分は「標準賞与額」に基づき保険料を計算します。

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2)労働保険

労働保険とは、雇用保険、労災保険をいいます。労働保険は、一般的な事業の場合、毎年4月1日から翌年3月31日までに対象となる被保険者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて算出します。申告手続きの際は、労働保険に加えて石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金(確定分のみ)の申告も同時に行います。

保険料は算定期間の初めに賃金総額の見込額を基に「概算保険料」を算出して申告・納付します。その後、算定期間終了後における実際の賃金総額を基に確定保険料の申告を行い、概算保険料との差額分を精算します(以下「年度更新」)。

年度更新は、原則として年1回、6月1日から7月10日までの間に行われます。ただし、次のいずれかの場合には年3回の分割納付が認められています。

  • 概算保険料が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)以上の場合
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合

なお、雇用保険料は会社と従業員が一定の割合で双方負担しますが、労災保険料については全額会社が負担します。

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3 会計上の取り扱い

1)社会保険料の取り扱い

社会保険料の会計処理の方法は、預り金(負債)として処理する方法と、従業員負担分を法定福利費(費用)のマイナスとして処理する方法とに大別されます。それぞれの方法で処理した場合の社会保険料の発生月、給与支給日、社会保険料の納付月の会計処理を紹介します。

なお、それぞれの事例の前提として、10月分の社会保険料を500万円(会社と従業員で折半)とします。また、社会保険料の取り扱い以外の項目については簡略して紹介します。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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2)労働保険料の取り扱い

労働保険は毎年7月に納付する概算保険料と確定保険料の差額の調整が必要です。なお、労働保険のうち、雇用保険の会計処理の方法は、概算保険料を納付時に資産で処理する方法と、納付時に法定福利費(費用)で処理する方法とに大別されます。

ここでは、概算保険料納付時、会社負担分の月次計上時、給与支給日、翌年の年度更新時の会計処理を紹介します。なお、概算保険料を納付時に資産計上する方法においては、翌年の年度更新時に確定保険料が概算保険料を上回った場合と、下回った場合(次期の概算保険料納付額に充当する方法と還付を受ける方法)において、処理が異なるため注意してください。

それぞれの事例は前提として、2019年7月に算定した概算保険料250万円(うち、従業員負担分の雇用保険料が60万円)とします。また、労働保険料の取り扱い以外の項目については、簡略して紹介しています。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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4 税務上の取り扱い

1)税務上の考え方

社会・労働保険料ともに、会社負担分の金額については損金(税務上の費用)に算入でき、従業員負担分については損金に算入することはできません。

税務上の取り扱いで注意すべきなのは、会社負担分を損金に算入するタイミングです。社会・労働保険料は、発生時期と納付時期が一致しなかったり、概算額を計上したりするため、会計上、未払費用勘定や前払費用勘定などを用いて処理しました。税務上、損金に算入するためには、原則、債務が法律的に確定していなければなりません。つまり、いつの時点で社会・労働保険料が税法上確定していると見なされるのかが重要なポイントとなります。

2)社会保険料の損金算入時期

社会保険料は、その算定の対象となった月の末日が属する事業年度に損金に算入することができます。つまり、10月の社会保険料であれば、10月31日が事業年度内にあるかどうかがポイントとなります。

注意が必要なのは、決算月の取り扱いです。例えば、3月末決算法人であった場合、3月の社会保険料の算定の対象となった月末は3月31日であるため、その事業年度の損金に算入することができます。ただし、決算日が月末ではなく、月の中途である場合(例えば3月20日など)には、3月の社会保険料はその事業年度の損金に算入することはできません。

3)労働保険料の損金算入時期

労働保険料は、概算保険料、概算保険料と確定保険料の差額について、それぞれ損金算入時期が決められています。

概算保険料については、申告書を提出した日または納付日の属する事業年度に損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。なお、一定の要件を満たし、分割納付の適用を受けている会社はそれぞれ納付した日となります。

概算保険料と確定保険料の差額については、申告書を提出した日、または不足額を納付した日の属する事業年度の損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。

以上(2019年10月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)
(監修 社会保険労務士コレド事務所 社会保険労務士 古田美奈子)

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これだけ押さえて! 「民法改正」の要点

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法。そのポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか掴んでいない。契約にどのような影響が出そうなのか? など自社に必要な対応の目星がつかない
  • 解決策:本稿で改正のあらましを押さえて、自社に必要な対応の検討材料とする

2020年4月に民法が改正されました。よく話題になるのが「瑕疵担保責任」の言葉が無くなった点です。既存の契約では、瑕疵担保責任の条項を盛り込んでいる場合も多いと思いますが、今後(改正後)の契約では、どのような内容にすればよいのでしょうか。

瑕疵担保責任を含めて改正民法では多岐にわたる点が改正され、中には旧民法と比べて要件・効果に変更が生じたものもあります。自社の契約のどの部分に見直しが必要? などの疑問を解消するためにも、まずは改正のあらましを押さえて、対応を検討しましょう。

1 個人保証人の保護が拡充された保証債務

保証に関する規定は、改正の主要なテーマの1つです。本稿では大枠のみをお伝えすることになりますが、大きく2つのポイントを挙げると、1.個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限、2.保証契約締結時の情報提供義務になります。

1)個人の包括根保証や事業用融資における第三者保証の制限

改正民法は、これまで規定されていた個人貸金等根保証契約に限らず、個人が行う根保証契約全て(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないもの)について極度額を付すことが求められ、極度額の定めがなければ根保証契約が無効になります。

そのため、これまで極度額が付されていないことも多かった次の契約では、注意が必要になります。

  • 不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務一切を保証する保証契約
  • 企業の代表者が保証人となり当該企業が負う債務等を保証する保証契約
  • 介護施設等への入居者が負う各種債務を保証する保証契約

その他、個人的な義理等から安易に保証人になった結果、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、保証人の生活が破綻するような事例が少なからず存在していました。かかる保証人を保護する必要性から、改正民法では、事業用融資(事業のために負担した貸金等債務)について、第三者が個人保証をする場合には、当該保証契約締結の日前1カ月以内に作成された公正証書において、保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思表示をしていなければ、保証契約の効力は生じないと定められました(ただし、主債務者が法人の場合における理事や取締役等、一定の場合は除かれます)。

2)保証契約締結時の情報提供義務

さらに、保証人に対して適切な情報を提供することで、保証人が履行義務を負う可能性をなるべく具体的に把握できるように、主たる債務者の財産状況やその他の債務の履行状況などについて情報提供を義務付ける規定が新設されました。主たる債務者がかかる情報提供義務に違反した場合には、保証人が保証契約を取消すことができる規定も設けられました(改正民法第465条の10第2項)。

2 新設された定型約款

さまざまな場面で使われる定型的な取引条項である約款のうち、次の要件を満たす約款は、「定型約款」として改正民法上の規定の適用を受けます。

  • 特定の者が、不特定多数を相手方とする取引で
  • 取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもので
  • 契約内容とすることを目的として上記特定の者により準備された条項の総体

例えば、鉄道・バスの運用約款、電気・ガス・水道の供給約款、インターネットサイトの利用規約などがこれに該当するといえるでしょう。

そして、定型約款であれば、次の要件のいずれかを満たす場合には、その内容を認識していなくても、定型約款の各条項に合意したものと見なされることになります。

  • 定型約款を契約内容とする旨の合意をした場合(改正民法第548条の2第1項第1号)
  • 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していた場合(同項第2号)

また、定型約款は次のいずれかに該当する場合には、一方的にその内容を変更することができます(改正民法第548条の4第1項)。なお、変更するにあたっては、効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期を、適切な方法により周知しなければいけません(同条第2項)。

  • 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
  • 変更が契約の目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更にかかる事情に照らして合理的なものである場合

このように「定型約款」に該当すると、改正民法ではさまざまな効力が認められます。そのため、対象となる約款が「定型約款」に該当するかどうかを判断する必要があります。

3 分かりやすくなった消滅時効

改正によって、時効期間はシンプルに統一され、次のように整理されました。また、時効に関する次の概念の意味が統一されました。

  • 時効の「更新」:一定の事由が発生することでそれまでの時効期間がリセットされ、新たな時効が進行する(時効期間のリセット)
  • 時効の「完成猶予」:一定の事由が発生した場合に一定期間時効の完成が猶予される

(注)改正民法では、新たに当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面合意があるときは、時効の完成が猶予される規定が新設されました。

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4 利率の引き下げと緩やかな変動制の導入、商事法定利率が廃止された法定利率

旧民法では、民事法定利率は年5%でしたが、それが年3%に引き下げられるとともに、3年ごとに法定利率を見直す緩やかな変動制が導入されました。また、商事法定利率が廃止され、商行為によって生じた債務についても民法の規定が適用されます。

5 柔軟性が高まった債権譲渡

近年、債権譲渡を利用した資金調達が、特に中小企業において期待されています。しかし、旧民法においては譲渡制限特約が付されていると、譲受人がその特約につき悪意または重過失がある場合には債権譲渡が無効となると解されていたため、譲渡制限特約が債権譲渡の有用な利用において大きな阻害要因となっていました。

そこで、改正民法においては、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある場合でも債権譲渡が有効とされました。もっとも、譲渡制限特約が付されていることで、自身の弁済先が転々と変更されてしまう債務者を保護するために、譲渡制限特約につき悪意または重大な過失がある譲受人その他の第三者に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができ、かつ、元の債権者(譲渡人)に対する弁済等を行うことで免責される規定も設けられました。

また、これまで実務上争いがあった将来債権の譲渡について、明文で認められました。

これらの規定により、これまでよりも債権譲渡を容易に行うことができるようになりました。

6 全面改定された瑕疵担保責任(契約不適合責任)

旧民法の規定において、一般的に理解が難しい用語として「瑕疵担保責任」という言葉がありました。言葉の意味もさることながら、特定物か不特定物かによって適用が異なったり、瑕疵担保責任として追及できる責任の内容に実務上争いがあったりするなど、国民一般に分かりにくい内容であることは否定できませんでした。

そこで、ルールを分かりやすく明確にする観点から、特定物か不特定物かを区別することなく、「契約の内容に適合しない」目的物を引き渡した場合に責任を負う形に改正されました(これまでの裁判例における「瑕疵」の解釈を見てみると、「瑕疵」=「契約の内容に適合しないこと」と考えられていた傾向がありますので、実務上大きな影響はないと思われます)。

その他、旧民法では瑕疵担保責任に基づいて買主が請求できる権利は、損害賠償請求権と契約解除権に限られていました。改正民法ではこれに加えて、目的物の修補や代替物の引き渡しなどの履行の追完請求や代金減額請求ができることが明記されました。

なお、買主が上記のような請求権を行使するには、目的物が契約の内容に適合しないことを知ってから1年以内にその旨を売主に対し通知することが原則として必要です。

7 要件が変わった契約解除

旧民法においては、履行不能の場合における契約解除は、債務者に帰責性がない場合には認められないと定められており、履行遅滞などの債務不履行についても債務者の帰責性が必要だと解されていました。

しかし、契約解除は、債務不履行の場合において、債権者を契約の拘束から解放することを目的とする制度と捉える考えが有力だったこともあり、改正民法においては、債務者の帰責性がなくても契約解除ができるようになりました(ただし、債権者に帰責性がある場合、契約解除はできません)。

その他、債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときや債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなどには、無催告解除が可能であることが明文化されました。

以上(2020年7月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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オンラインセールスの落とし穴とは?〜社員5名でアクティブユーザー2000社をオンラインセールスで開拓したからこそ言えること〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、齋藤 正秋さん(株式会社meet in代表取締役)です。

新型肺炎の発生から半年が経過し、セールスのあり方も劇的に変わろうとしています。訪問型のセールスが全くできなくなっていた4月〜5月に、訪問→オンラインセールスへの置き換わりが全国で始まりました。そんな中、オンラインセールスツールmeet inのメーカーであり、このツールの販売手法をオンラインセールス主体で、今年の初めまでは社員数2名でアクティブユーザー1000社を開拓、そこからおおよそ6カ月弱でさらに1000社開拓された(現在社員数は5名)株式会社meet in齋藤社長にオンラインセールスのあり方について、特にオンラインセールスへの単純置き換わりでは上手く行かないこと、【落とし穴】についてお話を伺いました。

(インタビューも終始笑顔で楽しく。左上が齋藤さん)

1 オンラインセールスツールmeet inの良さはどこにあるのか?またどんなことが起きているのか、実際の利用されている方のコメントとご自身がSNSに投稿されていた内容が想いの部分として非常に解りやすく以下にまとめます。

1)セールスプロモーションのプロ集団であるSANGO株式会社 立花社長のコメント

■ミートイン導入を決めた二つの理由

弊社は営業会社という性質上、毎年数百件程度の商材の話を聞かせて頂きます。
その中でもミートインは今後爆発的な需要がありそうだと確信した事と、日本中の潜在労働力(ママ・障碍者)の最大化を実現するというコンセプトに大きな社会的意義を感じた事でした。

■爆発的な需要を感じた理由

これも二点ありまして、一つ目は、弊社ではコロナ以前の昨年2月よりオンライン商談ツールを導入し、導入後その部署の売上が急遽3倍となる経験をしていた事。
二つ目は、商品力の高さ、高品質・低価格・超簡単という3拍子そろった完成度に衝撃をうけました。しかも、こんな事が出来たら良いなと思う機能が、どんどん追加され進化していくスピード感もすごかったです。

2)セールスのみならず、学校の授業シーンでも活用、不登校がゼロに!

  • オンラインにすることで不登校の子が100%授業に参加するようになった
  • iPadを生徒全員に支給し数学の授業でホワイトボードを活用し授業
  • 通信の学校は不登校の子が多いのでオンライン導入はかなりいいと思うとのこと
  • 学校関係の方はIT苦手な方が多いのでシンプルで使いやすいのがいいからとにかく接続が簡単でいい!

上記は、つくば開成高等学校様のコメントです。

3)齋藤社長のFacebookでの投稿(7月9日)を下記に。想いと経営姿勢を物語っている内容です。

    『先月末に中小企業様向けのオンラインセールスツールmeet inがアクティブユーザー社数2000社を超えました!!
    エンドユーザーの皆様、関係者の皆様いつもご協力いただきありがとうございます。
    社員5名で成し遂げられたのは、リモートママ達のおかげなのと、4月から参画してくれたハンデを抱えたメンバー達のおかげです!!固定費(人件費・地代家賃・光熱費)をあまりかけず、採用費もほぼなし、広告費はゼロのため、金額を販売当初からずっと変えずに、新しい機能追加を実現できています
    このあたりの組織の仕組化を今後サービスとして提供して参りますので、ご興味ある方はぜひお気軽にコメントか、メッセージをくださいませm(__)m
    また、今後は多くの企業様と連携してコロナの時代を乗り切る施策をして提供して参ります。【★第1弾★】は株式会社ライトアップ様とです。全国の中小企業様の補助金・助成金の申請の負担を軽減できればと思います。
    引き続き世のため人のために事業展開をして参ります。どうぞ宜しくお願い致します。』

というコメントです。齋藤さんの経営への考え方も解りやすい素晴らしいものでした。また、同社の立ち上げから齋藤さんの想いを詳しく私のHPにて掲載しています。よろしければこちらも御覧ください。私のHP記事はこちら

杉浦氏と齋藤氏の画像です

2 オンラインセールスの【落とし穴】?自社で経験したからこそ解ること?

※『同社作成のオンラインセールスのはじめ方(オンラインセールス虎の巻)』から内容を抜粋いたしました。

1)オンラインセールスは万能ではない

訪問営業→オンラインセールスに全部移行できるものではないと話す齋藤さん。
加えて、【 オンラインセールスができる ≠ オンラインセールスで成約できる 】セールスの結果は、ツールが利用できることでもありません、結果、成果が出せるか否か。前述のSANGO社の立花さんが選定理由に、このツールで3倍の成果が出たと話していらっしゃいます。成約に至ることが必須ですね。
オンラインセールスに向く、向かない、商材、サービス、だれに販売するか、新規か継続か、オンラインだけか、オフラインも織り交ぜるのかによって大きく成果に差が出るそうです。そこも踏まえて、今回は、【新規開拓営業のオンライン化】に絞って記述してまいります。

2)オンラインセールス可否判断のポイント

■対面営業の商談を整理する

オンラインセールスを始めるにあたり、はじめに商談を整理します。商品・サービス別に以下の内容を確認しましょう。

  • 決裁キーマン(または決裁プロセス):誰が最終決定者なのか? 承認プロセスはどうなっているのか?
    ※誰が買っているのか? どの地域で売れているのか? などの顧客属性の整理は別途で必要
  • 平均商談期間:初期接点から成約までの平均期間はどのくらいか?
  • 商談の基本ステップ:初期接点から成約までには平均何ステップ必要か?
  • 成約の鍵:成約のための重要な鍵は何か?何をすれば成約率が引きあがるのか?
  • 成約率:成約率はどの程度なのか?

営業を単純にオンライン化しただけでは、“成約”という結果を安定して出すことはできません。例えば、最終決裁者が上場企業の役員だった場合、最後は訪問する必要はないでしょうか? 商談の基本ステップが5回だったとした場合、そのすべてのステップをオンラインだけで対応できるでしょうか? こうした観点で整理をし、そもそも自社にとってのオンラインセールスの役割を明確にする必要があります。
オンラインセールスの役割として、オンラインだけで成約をしたいのか。それともオンラインと対面営業を併用して、営業活動を効率化したいのか、を考えておく必要があります。例えば、初回接点における商談確度の見極めだけをオンラインで行いたいという場合であれば、オンラインにおける役割は非常に小さくなります。ところが、一度も会わずにオンラインだけで成約したいのであれば、実施のハードルは一気に高くなります。まずは自社にとっての“オンラインにおける基本的な役割”を決定します。
オンラインセールスにおける役割を決定した上で、以下の項目について整理をしてみましょう。

  • 決裁キーマン、または決裁プロセス
  • 平均商談期間
  • 商談の基本ステップ
  • 商談成功の鍵
  • 成約率

■【商談成約の鍵】がオンラインセールスの鍵

オンラインセールスの役割として“成約”をゴールとした場合、自社のオンラインセールスの可否判断をどうすれば良いでしょうか? ここでオンラインセールスでできること、できないことの整理をしてみます。

オンラインセールスでできること、できないことの比較表の画像です

対面営業でできることの多くは、オンラインでも同じように対応できます。注目して欲しいのは、“できないこと・難しいこと”に記載されている2つの項目です。“集中力を持続させる”については、後の章で解説をしますので、本章では“体験や体感を伴うデモ”について解説します。商談において成約率を左右するポイントの一つに“デモ(≒体験版・貸出し等)”があります。これは実際に商品・サービスを体験することで利用イメージが湧き、その効果や価値を実感できることにあります。試食や試飲、試供品の提供など、様々な形でのデモが世の中には溢れています。オンラインセールスではどうでしょうか?実は“できないデモ”があります。それは、実際に触れて貰う。大きさや重さを実感して貰う。味や匂いを感じて貰うなどの体験・体感を伴うデモです。貸出機を先に送り、それからデモを行うなどの対応ができない限り、解決はできません。つまり、“デモ”が重要な鍵となっているのであれば、最初からすべてのオンラインセールスでは完結できません。シンプルにオンラインだけで、対面営業で行ってきた事と同様の効果を再現できるかどうかの判断が必要になります。

■標準化とオンラインの壁

『商談シナリオを見ながらセールスができるため、経験値の低い営業マンでも対応できます』本当でしょうか?ここには大いなる誤解があります。オンラインセールスを支援するツールの中には、商談シナリオをカンニングペーパー的に表示する機能を有しているものもあります。ところが、カンペだけで安定的に“成約”という結果を獲得できる企業の前提には

  • 商談シナリオが定まっている
  • シナリオ通りに説明すれば成約率が高くなる
  • 顧客側がそのシナリオを受け入れてくれる

という3つの条件が整っている必要があります。これだけでも相当に営業が仕組み化されている必要があるのですが、その上で、オンラインという独特の環境要因が壁になります。画面を通した1対1の面談の場面で、お客様とカンペを交互に確認しながら商談を進め“成約”する必要があります。少しでも営業経験がある方なら、これは非常に難易度の高い営業だと気付かれると思います。多くの場合、営業はブラックボックス化しており属人的です。成約率の高い標準的な営業シナリオが決まっているというケースは稀です。仮にカンペを見ながら営業ができたとしても、経験の少ない営業マンが単なる商品・サービスの説明を行っているだけのオンラインセールスになってしまったら、オンラインセールスを実施すればするほど、顧客を失うという悲惨な結果となってしまいます。

■営業の本質

もしも商品のニーズが明確で、それが誰にとってもイメージができるものであれば、“営業”をしなくても勝手に売れてしまいます。それでは営業が必要な理由とは何でしょうか?【商品・サービスの価値を顧客の課題と結びつけ、その効果や効能を理解して貰うために“説明が必要”な商品】だからです。その存在を知って貰うために営業が必要というケースもありあすが、いずれにしても営業とは、顧客が購入に至るまでの“不足している何か”をアシストする役割となります。シンプルですが、自社の商品・サービスの購入者について

  • 決裁者が分かっている
  • 課題が分かっている
  • 効果・効能が分かっている

この3点が分かっていれば、それがオンラインに移行したとしても成約することは可能です。ちなみに、【競合比較】【顧客の声(事例)】【実績】【価格】【サポート体制】【導入障壁の低さ】なども大切だと言われますが、これは購入を決める上での後押しの要素でしかありません。シンプルな要素が整理できた後に、購入者にとっての安心感を訴求する、これらの項目を検討していきます。

◆まとめ オンラインセールスの可否判断のポイントをまとめます。

  • 【決裁者-課題-効果・効能】のシンプルな要素が整理できている
  • 読むだけで安定的な成約率が出せる商談シナリオが明文化されている
  • 体験を伴うデモなどが成約の鍵となっていない
  • オンラインセールスの役割が決まっている(部分的導入による効率化か。オンラインのみか)
  • 商談の整理ができている

【オンラインセールスができる】だけの状態であれば、これらの要素はすっ飛ばして、“やり方”だけを学べば、今からもオンラインセールスはスタートできます。オンラインセールスを今後の時流と捉えて、自社の新しい武器としたいと考えるのであれば、この要素を一つ一つ検証していきましょう。

3)オンラインセールス 成功のポイント

■はずさないオンラインセールスの肝

可否判断の結果、オンラインセールスを実施できると判断できたとします。いよいよオンラインセールスを始めていくことになりますが、成果を上げるために絶対に外してはいけないポイントがあります。

【売り込みの意識を“0”にすること】です。

オンラインセールスでは“売り込み”はNGです。驚かれるかもしれませんが、この事が分かっていなければ、オンラインセールスで成果を上げることはできません。“セールス”という言葉を使っているので、どう売るか?と考えてしまいます。オンラインセールスで大切なことは“どう売るか?”ではなく、“どう理解し合えるか?”という意識で臨むことです。感覚としては、自社の商品・サービスが解決できるテーマに関するコンシェルジュの様な立ち位置を意識すると良いかもしれません。

“いやいや、可否判断のポイントで“商談シナリオ”の明確化と話していたじゃないですか!“

とお叱りを受けそうですが、読むだけで安定した成約率を実現できる商談シナリオは必要です。それは、課題も含めて理想通りのお客様と出会うという可能性も十分にあるからです。この商談シナリオが安定していなければ、すべての商談が博打となってしまいます。

■オンラインのネガティブ要素

オンラインは手軽に始められそうなイメージがある一方で、特有のネガティブ要素が存在します。

  • 雰囲気が何よりも重要(訪問以上に細かな点に注意する)
  • 事前準備を徹底していることが最低条件
  • 焦りや緊張感が伝わり易く、相手のペースに巻き込まれやすい
  • 相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

1.雰囲気が何よりも重要

オンラインミーティングでは、身だしなみも含めた雰囲気が大切です。上半身の鎖骨辺りから上部しか映りません。また基本はアップで映るため、細かな点に目がいきます。襟が曲がっている。髭の剃り残しがある。洋服にシミがあるなど。対面では気付かない点にも自然と意識が向いてしまいます。資料を説明している際は、顔は映りませんが、商談中は相手の画面にこちら側の顔がアップとなっています。

マイクの精度や背景などにも、気を遣う必要があります。声が聞こえ難い。声が割れている。周囲の雑音を拾ってしまうなど、集中できない雑音をなるべく除去することが必要になります。さらには背景。最近ではバーチャル背景などが当たり前に利用できます。バーチャル背景が自然となる様に単一色の壁を背にする。背景にもこだわりを持って、それが商談の中で話題になる事も含めて考えるなど。全体の雰囲気に考慮する必要があります。また、照明やカメラ位置なども重要です。PC内臓のカメラの場合、どうしても目線が上からになってしまいます。PCの位置を上に上げる。またはタブレット等で目線の位置の外部カメラを利用して目線の位置を並行にするなどの配慮が必要になります。

2.事前準備を徹底していることが最低条件

『“商談のために移動する”という行為に価値があったんです!』そんな話しをすると「まさか、そんなこと」と感じるかもしれません。オンライン化が進んだことで、これまで以上にミーティングの回数が多くなって忙しくなった、と悲鳴を上げる人が続出しています。これは“移動”という物理的な負荷が無くなったことで、反対に“会う”という行為そのものの心理的負荷が軽くなったことに原因があります。

確かに【オンライン=気軽・手軽】というイメージがあります。対面と同じ長さのミーティングであっても、“移動”という負荷が無くなるだけで、お互いに感じる“相手に対する申し訳なさ”は小さくなります。それではオンラインセールスにおける“訪問=移動”と同じような効果をもたらすものは何でしょうか?それが事前準備です。ここで言う事前準備とは、【お客様のことを事前に知る準備】を指しています。

例えば、

  • 企業情報を知るためにHPを確認する(属性や商品・サービス等を知る)
  • 商品・サービスのレビューなどのサイトが無いかを確認する
  • メディアなどで取り上げられていないかを確認する
  • 社長がSNSなどを通じた発信をしていないかを確認する
  • 求人情報などから、その会社の特徴などを確認する

こうした事前準備をした上で、商談に臨むことで相手の印象が変わります。“移動”という負荷が無いため、心理的には“営業が楽をしている”という印象を与えてしまいます。ところが、商談の端々に事前に調べていると実感できる内容が含まれていると、『そこまで調べて貰っているのですか!?』と驚かれます。気軽だからこそ、手間を掛けていないという誤った印象があります。その反作用として、事前準備をしてくれているという事実が好印象を与える効果を発揮します。

3.焦りや緊張感が伝わり易い

オンラインセールスの場合、『台本を用意すれば新人でも対応できますよ』と言われる事があります。例えば、営業側の画面にのみカンニングペーパーが表示される機能や、上司がモニタリングできてチャットで指示を出す機能などがあり、新人営業マンをサポートします、と言われています。本当でしょうか?

オンラインでは営業マンの顔がアップとなります。また声もクリアに聞こえるため、焦りや緊張といった精神的な動揺が対面営業よりも伝わってしまいます。緊張で営業トーク中に頻繁に噛んだり、目線がうろうろしたりといった微妙な仕草も気付かれてしまいます。また、予想外のお客様からの質問に動揺し、詰まったり無関係な回答をした瞬間に信頼は崩れていきます。焦りや緊張感は顧客にとっての不信感を高める事になります。“新人でもできます”が、“新人には難易度が高い”営業と考える必要があります。

4.相手の本音、細かな仕草が掴みにくく、距離感を縮める難しさがある

営業マンの細かな仕草や動揺が相手に伝わってしまう一方で、お客様の本音や細かな仕草が掴み難いのもオンラインの特徴です。対面営業であれば、お客様の全身が見えているため、その行動の微細な変化に気付くことができます。時計を見る仕草が多くなった。資料から目を離し、下を向くケースが増えた。身体が揺れ始めて明らかに飽きが来ているなど。営業サイドの説明が受け入れられているかどうかを、お客様の雰囲気を感じながら対応することができます。オンラインの場合は、顧客側の顔のみ。またカメラ機能をオフにされてしまえば、音声のみが頼りとなります。そのため、こうした微妙な変化を感じ取ることができません。

【最大3分】

これはYoutubeなどの一方的な動画を集中して視聴できる時間も目安と言われています。決してオンラインでのセールスは3分以内で終わりましょうと無茶振りをしたい訳ではありません。認識をしておくべきことは【オンラインは遥かに聞き手の集中力が持続しない】という事実です。そうでなくとも新規開拓営業は、聞き手の姿勢が懐疑的です。オンラインの場合、お客様がPCで対応されるケースがほとんどです。“集中力を阻害する環境”という前提を理解して取り組む必要があります。
本音が見え難く、集中力を阻害する要因が多く、距離を縮め難いというデメリットがあると理解をすることがオンラインの前提となります。

■オンラインセールス成功の原則

ここからはオンラインセールスで成功するための原則をお伝えします。可否判断が終わり、オンラインの特性も理解した上で、どうすれば自社でもオンラインセールスができるのか。そのポイントを原則という観点から整理してみましょう。

  • まずはトップセールスから事例を作る
  • 30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問
  • 開始3分に集中する
  • クロージングパターンの明確化

1.まずはトップセールスから

オンラインセールスを成功させるためのキーポイントは、“誰が事例づくりをするか”に掛かっています。
事例づくりを行うのはトップセールスマンです。自社のトップセールスでも難易度が高いとなった場合、それを新人で対応するというのは無理があります。対面営業とはその作法が異なるため、対面営業で強い営業マンがオンラインでも成果を上げられるかどうかは分かりません。それでも一定の指標にはなります。

オンラインセールスでは、商談そのものを録画する事ができます。トップセールスと共にトライ&エラーを繰り返し、自社の型を作ることが重要です。商談を録画する事で、その雰囲気やトークの流れ、ポイントになるキラーワードなどを他の営業マンに伝え易くなります。社内での成功事例づくりは必須となりますが、その型はトップセールスマンと作る。商談を録画し、成功商談自体を教材として横展開をしていくというステップが大切です。

2.30分1本勝負! 短い説明、顧客の状況把握質問

オンラインセールスの基本は30分。「え!?そんなに短いの?」と思いましたか?会議は1時間以内。セールスは30分前後というのが、オンラインの平均的な時間となりつつあります。商談が予想以上に盛り上がれば、1時間前後というケースもありますが、基本は30分です。その時間内で商品・サービスを理解して貰い、顧客の課題を把握し、温度感を高め、購入意思を固めて貰う必要があります。その為、商品・サービスの説明をいかにコンパクトにできるかどうかも重要になります。

【5~7分】

これはベンチャー企業が起業家向けにプレゼンするピッチコンテストの制限時間です。自社の説明、その事業を始めたきっかけ、サービス概要と顧客へのメリット。そして将来展望までをこの時間内で話します。オンラインセールスでは、こうした5分で理解できるサービスプレゼンのシナリオを精緻に設計する必要があります。

説明よりも対話を重視するオンラインセールスでは、説明の時間が長くなると、“ながら視聴モード”に入り、集中力が持続しません。短い説明と適切なタイミングでの質問や確認が、集中力を持続させる鍵です。
また顧客の状況、特に課題を把握する質問を準備しておくことも大切です。可能であれば商談前に簡易的なアンケートなどで必要事項は押さえておくなど工夫も必要になります。【診断・分析】などをセールスの前に行うステップに入れておくだけで、セールスのタイミングで確認すべき事項を減らすことができます。セールスを行う上で重要な事は、顧客の課題とその解決による効果です。課題の認識が明確で緊急性が高く、そしてその効果も明確であれば、セールスは容易です。ポイントは、“気付いていない課題を顕在化すること”です。状況把握は課題把握と同義です。ここについても、事前に準備をしておく必要があります。

3.開始3分に集中する

“3分で掴めば成約率は20倍になる!”

これは当社の実績です。オンラインセールスを始めた当初は2%程度だった受注率が今では40%と20倍になっています。商談シナリオもブラッシュアップしていますし、いくつもの改善を重ねた結果ではあります。
ただ、最も大きな要素は何かと聞かれたら“冒頭3分です”と答えます。
冒頭の3分はお互いの距離感を模索し、相手に営業マンとして信頼できるかどうかを見定めて貰う時間です。
この3分で掴めなければ商談はLOSSします。逆にこの3分で掴めたら、商談を有利に進める事ができます。
それでは3分のポイントは何でしょうか?

  • 人柄を宣言する
  • 事前準備で収集した情報で距離感を縮める

この3分という時間で、“自分という人間”を感覚的に理解して貰う必要があります。人柄を表現する言葉というのは幾つもあります。実際に自分はどんな人だと認識をして欲しいのか。自己紹介を兼ねた冒頭3分間では、そうした人柄に関するコメントもそれとなく入れておく必要があります。“少し早口ですが”“よく笑うと言われるので”“雑談が少し多めかもしれませんが”“固いですが緊張している訳ではありません”など。事前に自分という人間を相手に伝えておくことで、聞き手はパーソナリティを意識する事になります。

さらに事前準備で調べた顧客情報を活用して、“御社に興味があります”というメッセージを伝えます。『HPにあったんですが』『○○の記事に書かれていた』『求人サイトで見かけたんですが』など、それとなく調査した情報を、お客様との会話の架け橋に活用します。“ちゃんと調べてるんだね”という印象を与えることができれば、相手との距離は縮まっています。
この3分という時間は、営業マンの人柄を理解させ、お客様との距離感を縮めるために外すことのできない大切な時間です。成約率20倍の差がこの3分にあります。

4.クロージングパターン

セールスなのでクロージングは大切です。このクロージングのパターンを明確にしておく必要があります。1回のオンラインセールスで決着を付けるのか。複数回でクロージングまで持っていくのか。その商談の次のステップが何であり、どの様な反応が取れなければ失注と認識するのか。ここが曖昧なままであれば、グレイな案件が大量に発生することになります。
クロージングを最小ステップで設計するのであれば、初期接点者は決裁者に絞る必要があります。また初期接点者が決裁者であったとしても、実際の商品・サービスを利用する部門長の理解を得なければいけないというケースも多くあります。法人にはありがちな事ですが、決裁者が複数存在するパターンです。初回クロージングのパターンと最終クロージングに分ける等、パターンを事前に認識した商談設計が必要です。

4)まとめ

今回は新規開拓営業をオンラインセールスで成功するためのポイントを整理してきました。オンラインセールスで成果を上げるために、『最も大切なことを一つだけ教えてください』と聞かれたら、間違いなく【相談相手になること】と答えます。「3)オンラインセールス 成功のポイント」でもお伝えしましたが、【売り込みの意識を“0”】にできれば、半分以上は成功すると考えています。
その分野やテーマにおける相談者やコンシェルジュとは何でしょうか?そのポイントは次の3点です。

  • 説明ではなく聞き役だと意識する
  • 提案ではなくアドバイスだと考える
  • 相談者を思い、自社以外のサービスでも積極的に提案する

この3点を意識できれば、オンラインセールスで成果を出すことができる様になります。どうやって売ろうか。上手にクロージングする方法は無いか。そればかりを考えると、本質を見失ってしまいます。
今や情報過多の時代に入りました。お客様が求めているのは、新たな情報ではなく、この情報の渦の中から自社にとって適切な商品・サービスはどれかを導いてくれる先導者の存在です。説明や説得ではなく、自社を理解した上でのアドバイスや納得性の高い提案です。これは時代の変化であり、営業という仕事自体のマインドチェンジが必要なのかもしれません。【売る】のではなく【売れる】状態をつくること。それは顧客との関係性においても大切なポイントになります。

営業のオンライン化によって、営業自体の本質的価値の変化が顕在化されています。
根底から営業の仕組みを見直すことを前提に、取り組んで頂けたら幸いです。

3 齋藤社長からのコメントもいただきました。

正直、私はオンラインで何かをすることは今でも苦手です。人材系の会社に入社し、朝から晩まで電話営業・飛び込み営業を経験し、直接会って信頼関係を構築する大切さを学んだからです。しかし、meet inに限らずオンラインツールを活用すれば大きな可能性を広げられることも痛感しました。待機児童を抱えたママが働けるようになったり、コロナの影響で学校・塾が休校を余儀なくされているときに授業を継続できたり、訪問することができずに営業活動が全くできない企業が少なからず売上をあげられたり。と。オンラインツールは決して魔法の杖ではありませんが、活用することで雇用の創出・学習の継続・営業活動の再開が実現できることで、生活の可能性が大きく広がると思います。中にはオンラインツールを使用すれば売上が5倍にあがる! みたいな広告も見ますが、それは本当に極端な例で、あくまでもオンラインツールは道具であり、手段の一つです。現在この手段を「どのように活用して、目的を果たすか?」ということが肝心になっています。今後はこのあたりの活用方法の共有・ソリューション提供など、ソフト面の強化をはかり、コロナと共存する世界、労働人口減少が著しい日本に、少しでも貢献できれば幸いです。

とコメントくださった、齋藤さん。
コメントにもありましたが、齋藤さんのように、オンラインが苦手だからこそ、中小企業の苦手意識ある皆さんにこれだけのスピード感で受け入れられたこと、広がったことに納得感があります。そして事業の根底に働き手としてのママ支援、想いの大きさも在られるからこそと感じます。まだまだこれからと話される、齋藤さんの活動をこれからも注目し続けたいと思います。

以上(2020年7月作成)

旅費交通費における領収書の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:新任経理担当者
  • 課題:経費精算のチェックは時間がかかるため、少しでも作業を効率化したい
  • 解決策:旅費交通費の基本を押さえた上で、判断に迷う事例をQ&A形式で解説する

1 手間の掛かる旅費交通費の申請

「あぁ~、毎月の旅費交通費の精算が面倒だ……」。特に社外での活動が多い従業員はこう感じているかもしれません。旅費交通費の申請は、「移動ルート」も記載することが多く、とにかく面倒な作業です。それに、近場の電車やバスの移動では、そもそも領収書をもらわない場合が多いでしょう。そのため、過去の行動を思い出しながら経費精算するので、時間もかかります。

旅費交通費の申請を面倒に感じる人の気持ちはよく分かります。経営者としても、従業員が旅費交通費の申請に長い時間をかけているのは困ります。とはいえ、経費精算の最も重要な目的は、企業の利益を正しく計算することであり、少額だからといって適当にできるものではありません。

また、経理担当者側も、経費精算の漏れや、間違った金額での請求などのチェックに多くの時間を要します。経費精算の作業を少しでも効率的に行うためには、従業員の意識と経理担当者の正確な知識が必要です。

本稿では、旅費交通費の基本事項を押さえた上で、判断に迷いやすい旅費交通費の取り扱いを解説します。

2 旅費交通費の基本を押さえよう

1)旅費交通費とは

旅費交通費とは、業務に必要な移動や宿泊で生じる費用です(旅費交通費にならないケースは後述)。厳密には遠方への移動を旅費、近場の移動を交通費と考えますが、一般的には「旅費交通費」として取り扱います。ただし、出張旅費規程においては、いわゆる「出張手当」との兼ね合いから、移動距離に応じた取り扱いを自社で定めているケースが多いので、一度、自社の規程を確認してみてください。

旅費交通費に含まれる主な費用は次の通りです。

画像1

自宅から勤務先への通勤費も旅費交通費に含まれます。一般的に、通勤費は給与に含めて支給されるため、給与と勘違いしている人もいるかもしれません。ここで注意が必要なのは源泉所得税の問題です。

通勤費は、基本的に源泉所得税は課されません(非課税)。ただし、非課税になるには次のような要件を満たしている必要があります。

  • 電車、バスなど公共の移動手段を利用して通勤する場合は、1カ月当たり15万円以内であること
  • マイカー、自転車を利用して通勤する場合は、片道の通勤距離が2キロメートル以上であること(通勤距離ごとに1カ月当たりの限度額があります)

通勤費が上記の限度額を超えた場合、超えた部分は従業員の給与所得となり、源泉所得税の課税対象となります。

2)旅費交通費として処理されない費用

業務上の移動に掛かる全ての費用が、旅費交通費で処理されるわけではありません。重要なのは「移動の目的」であり、これによって旅費交通費ではなく、交際費や福利厚生費などとして処理される場合があります。企業によって処理方法は異なるため、自社の取り扱いについては、税理士などの専門家に相談しましょう。

1.交際費として処理する場合

自社の主催で取引先を接待する場合に、取引先を会場まで送迎した際のタクシー代などは、交際費として処理します。一方、取引先主催の接待に出席する際のタクシー代などは接待そのものに対する支出ではないため、旅費交通費として処理します。

2.福利厚生費として処理する場合

社員旅行や従業員の歓送迎会など、福利厚生を目的としたイベントを開催する場合に、目的地までの移動に掛かる費用は、福利厚生費として処理します。

3.研修費として処理する場合

社外の会場での社員研修や外部講師のセミナーを受講する場合に、会場までの移動に掛かる費用は、研修費として処理します。

3)旅費交通費の精算には必ず領収書が必要か?

近場の得意先に訪問するためなどに電車やバスを利用した場合、領収書が発行されないことがあります。原則としては、少額であっても領収書を添付しなければなりません。

ただし、鉄道会社やバス会社によって領収書の発行方法が異なり、その都度領収書をもらうのも手間がかかります。また、経路や運賃はインターネットなどでも確認することができます。

さらに、消費税法上、税込みの支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存は必要なく、法定事項(取引年月日、取引内容など)が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています(3万円以上で請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載することになっています)。

このような理由から、多くの企業は公共の移動手段を使った近場での移動に限って、領収書の添付は不要としています。ただしこうした場合、移動の根拠(適正な旅費交通費であることの証明)として、使用した路線や運賃などを「旅費交通費精算書」に記載することが大切です。

3 実費精算と出張旅費規程に基づく精算

1)実費精算

実費精算(従業員の請求)で支払う場合は、従業員が立て替えた費用を事後に精算する場合と、事前に仮払金を支払い、後日、実費との差額を精算する場合があります。

前者の場合、従業員が立て替える費用が高額になると負担が大きくなります。出張などに掛かる費用が高額になることが事前に分かるときは、仮払いを併用するのがよいでしょう。

また、経費精算には必ず期限が設けられています。仮に、経費精算が遅れてしまうと、一定期間内(月次決算の場合には月、四半期の場合には期間)に発生した費用が把握できず、正確な損益計算(決算処理)ができなくなります。そのため、従業員が出張などから戻った際には、期限に遅れないように経費精算を申請してもらうようにしましょう。

2)出張旅費規程に基づく精算

出張旅費規程に基づいて精算する場合は、交通費や宿泊代などの手当を定額で支給することができます。従業員によって経路や宿泊先が違う場合でも、支給する金額は定額なので、経費精算の事務処理を簡略化することができます。

出張旅費規程で定めるべき主な事項は次の通りです。

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また、定額で出張旅費が支給されることで、実際に掛かる金額よりも多くの金額を受け取ることができる場合もあるため、実費精算の場合よりも、多くの旅費交通費を法人税の計算上、損金(税務上の費用)の額に計上することができます。損金が多いほど、所得(税務上の利益)が少なくなるため、所得に対して課税される法人税の負担を軽減することができます。

3)出張手当の取り扱い

宿泊費や旅費交通費以外で出張の際に発生する食事代や雑費などについても、出張旅費規程で定めることで、実費ではなく、あらかじめ決められた金額を支給することができます。遠距離出張旅費・出張手当・宿泊料の取り決め例は次の通りです。

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この他、必要に応じて、時間外労働に掛かる手当(時間外の割増賃金とは別に企業が定めるもの)の有無を記載します。

また、定額で出張旅費が支給される場合でも領収書が必要です。領収書がないと、空出張や費用の架空計上を疑われることがあるためです。出張に使った新幹線代や航空券代、ホテル代などの領収書は必ず保存するようにしましょう。なお、保存期間は、7年間となります。

4 こんなときはどうする? 旅費交通費のQ&A

1)タクシーの相乗りで領収書がない場合

タクシーに相乗りし、運賃を割り勘で支払った場合、領収書がもらえないケースがあります。このような場合は、領収書の代わりとして、出金伝票を作成してもらう必要があります。

市販の出金伝票を使うこともできますが、自社でひな型を作成する場合には、支払日、支払先、支払内容、支払金額を記載する必要があります。出金伝票のひな型は次の通りです。

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2)企業支給の交通系ICカードでチャージした場合

企業支給の交通系ICカードにチャージした場合の取り扱いには迷います。「交通系」といえども、コンビニなどさまざまな店舗で決済できるため、チャージした時点では、交通費として処理することはできません。

そのため、仮払金として一旦処理をし、実際に使った用途に応じて仮払金以外の科目に変更します。例えば、ボールペンやノートなどを購入したときは、旅費交通費ではなく消耗品費として処理をします。

また、交通系ICカードを、うっかりプライベートのシーンで使ってしまう場合もあると思います。このような私的な支出は費用にはならないので、経費精算に含めないよう注意しましょう。

3)電車事故などにより通勤経路を変更した場合

通常、通勤に利用している路線が電車事故などにより運休になっていた場合、別の路線を利用することになります。通常よりも交通費が高くなったときは、経路を変更した理由が合理的であれば、差額を交通費として支給することができます。

このような場合は、経路を変更して通勤したことが分かるように、遅延証明書や振替輸送票を申請書に添付してもらうようにします。また、電車事故などで通勤経路を変更する場合の取り扱いは、あらかじめ就業規則で支給額も含めて定めておくとよいでしょう。

4)週末の出張でプライベートの旅行をした場合

例えば、金曜日に東京から名古屋へ出張したので、少し足を延ばして土日に京都に行って観光をした従業員がいるとします。この場合、東京-名古屋間の交通費は、旅費交通費として往復の金額を支給します。

しかし、名古屋-京都間の交通費や観光のための宿泊費は自己負担になります。とはいえ、法律上で一律にこのような対応を取らなければならないという規定はないため、自社の旅費交通費規程に従うこととなります。

なお、プライベートの旅費を会社が負担した場合には給与として取り扱われますので注意が必要です。

5)過去の領収書が見つかった場合

旅費交通費の精算を忘れていた数カ月前の領収書が見つかる場合があります。原則、領収書の日付と旅費交通費を精算する日付が同じ年度内であれば、経費精算をすることができます。

例えば、3月末決算の企業の場合、4月1日から翌年の3月31日までの間であれば、その年度中に支払った費用については精算が可能です。会計処理は年度ごとに行われており、その会計処理に基づいて、法人税などの税金が計算されるからです。つまり、決算日を越えてしまうと、前年度の費用は、原則損金として処理することはできません。従業員には経費精算の目的を理解してもらい、期限を守って経費精算をするように呼び掛けましょう。

以上(2020年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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社員が新型コロナウイルス感染症にかかった……どこまで会社の責任?

書いてあること

  • 主な読者:新型コロナウイルス感染症の対策の指標が欲しい経営者
  • 課題:懲戒処分で強制力を持たせたり、プライベートでも命令したりできるのかを知りたい
  • 解決策:同業・同規模の会社の標準的な感染症対策を参考にする。多くのことを社員に求める場合は、丁寧な説明が必要

“ウィズコロナ”の時代。当面、会社の感染症対策も続きます。経営者は、事業と感染症対策のバランスを取らなければなりません。弁護士に、法的な見地から会社の感染症対策について聞きました。

1 感染症対策はどこまでやれば十分?

会社には、社員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。会社がこの義務を怠ったために、社員が新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)にかかった場合、社員やその家族から損害賠償請求を受ける恐れがあります。とはいえ、安全配慮義務違反の基準は明確ではありません。実務ではどのように判断されるのでしょうか?

――感染症対策はどこまでやれば十分ですか?

社員がコロナにかからないようにするためにどのような感染症対策を実施すべきかは、社員の業務や職務の内容などによって異なるため、一概には言えません。「消毒を10回したので大丈夫」といったような明確な基準を設けることもできません。会社や社員の具体的な状況によって、求められる感染症対策は異なりますし、「本当に会社でコロナにかかったのか」という感染経路の問題もあります。

――具体的にどういうことですか?

まず業種です。例えば、不特定多数の人が出入りする飲食店のホールスタッフなどの場合、店舗内の消毒やマスクの着用は、多くの経営者や店舗が行っています。

そのため、このような対応を怠り、結果として店舗でクラスターが発生して社員も感染してしまった場合、「安全配慮義務を十分に果たしていなかった」と言われる可能性は高くなってくると思います。

他方、例えば、各自がパーテーションで区切られたデスクに座って仕事をし、誰かと対面で話したりすることがないような場合、会話による飛沫感染などは想定しにくいので、就業時間中にマスクを着用していなかったとしても、「直ちにコロナに感染する」とは言いにくいと思います。

そのため、就業時間中に社員にマスクを着用させていなかったとしても、先ほどの飲食店のホールスタッフなどに比べれば、「安全配慮義務を十分に果たしていなかった」とは言われにくいと思います。

――社員が感染したら、会社は安全配慮義務違反に問われるのですか?

感染したというだけで、直ちに会社の責任となるわけではありません。先ほど「感染経路の問題もあります」と言いましたが、原則として安全配慮義務違反とコロナにかかったこととの間に、相当因果関係があることが必要です。

コロナについての判例はこれからですから、はっきりしたことは言えませんが、コロナ感染による疾患については、どのような機会に感染したのかが特定され、それが業務に起因したものであると認められる必要があります。コロナにかかったとしても、休日に買い物をしたときに感染したのかもしれませんし、友人からうつったのかもしれません。「本当に勤務中に感染したと言えるのか」という点の立証は、通常、なかなか難しいと思います。

もちろん、だからといって、社員の安全配慮義務をおろそかにしてよいわけではありませんし、労災認定される可能性はあります。労災認定と裁判の判断基準は若干違いますが、労災については、次のように若干緩い判断基準が設けられているようです。

――なるほど。企業規模はどうですか?

企業規模も、若干ですが安全配慮義務の成否に影響を与えると思います。例えば、体温が高い方が来訪したときのためにサーモグラフィーを設置するといった対応は、社員へのコロナ感染を防ぐ上で有効ですが、導入コストの問題もあるので、導入が容易な会社も、そうでない会社もあるでしょう。

このような場合も、「サーモグラフィーを設置していなかったので感染した」と確実に言うことは難しいですから、サーモグラフィーの設置の有無が、安全配慮義務違反の成否に直結するわけではありません。ただ、企業規模などを考慮し、対策を取れる状況にあるかによって、会社に求められる安全配慮の程度も異なります。

2 感染症対策の内容はどうやって決めればいい?

人員や費用の制約上、会社が実施できる感染症対策には限りがあります。感染症対策の内容はどうやって決めればいいのでしょうか?

――会社の感染症対策を決めるに当たって、何か指標になる資料はありますか?

例えば、厚生労働省「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」には、人がよく触れる場所の消毒、リモートワークの実施など、基本的な感染症対策が掲載されています。このようなチェックリストを見ながら、対策導入を検討していくのがよいのではないでしょうか。

ただ、先ほども申し上げた通り、業種や企業規模によって会社に求められる感染症対策の内容は変わります。ですから、チェックリストに掲載されている内容を全て実施する必要があるわけではありません。

しかし、その場合でも、実施をよく検討したというプロセスは踏むべきですし、導入できない理由をきちんと議論し、代替策を取るということをしておくことがよいと思います。また、そのような検討プロセスを、議事録など記録に残しておくということが有用だと思います。

――なるほど。では、具体的にどうやって感染症対策の内容を決めればいいですか?

まずは、自社と同業・同規模の会社の標準的な感染症対策を押さえることです。公的機関や民間企業が実施しているアンケート調査などが参考になります。

例えば、中小企業基盤整備機構「新型コロナウイルス感染症の中小・小規模企業影響調査(2020年5月)」などを参考に、中小企業の標準的な感染症対策を考えていくという方法があると思います。

他にも、新聞や雑誌の記事、ウェブサイトの記事、業界団体が実施しているアンケート、他社の発表している対応内容、専門家の意見なども参考になります。

――標準的な感染症対策を押さえた後は、どうすればいいですか?

社内で議論の上、標準的な感染症対策の中から、自社が実施できるものを選択します。

例えば、上述のアンケートでは、中小企業が実施している感染症対策で最も多いのは、「備品(マスク・除菌スプレー)配布・設置」(50.3%)です。50.3%という数字を多いと捉えるか少ないと捉えるかは微妙なところですが、最も多くの会社で実施されている対策ですから、「この対策は導入する方向で考えるべき」と言えるでしょう。

実際、東京ではほとんどの方がマスクを着用していますが、そのような実情から言っても、「マスクの配布は対策として導入した方がいい」と言えそうです。ただ、夏場は熱中症の問題もあり、人との接触頻度が低い場合、「熱中症予防のためにはむしろマスクの着用を義務付けるべきでない」という議論もあり得ます。社員の安全・健康という観点から、会社が真剣に検討をすることがあるべき対応だと思います。

他方、上述のアンケートでは、「パーテーションの設置」を現在導入しているのは10.2%ですから、例えば、コストと相談して、「今は対策から外す」という判断の材料にはなるかと思います。

いずれにしても、感染症対策の内容を決めるに当たって「何を参考にしたか」「どのような議論があったか」などを書面に残し、プリントアウトするかPDFデータで取っておくなどして、後で根拠を示せるようにしておくとよいでしょう。

感染者が出て安全配慮義務違反に問われても、明確な方針に基づいて感染症対策の内容を決めていることが証明できれば、会社の責任が減免される可能性があるからです。

3 感染症対策に協力しない社員に懲戒処分を科せる?

会社が感染症対策を決めても、社員の協力がなければ感染を防ぐことはできません。ある程度強制力を持たせたい場合、感染症対策に協力しない社員に懲戒処分を科すというのも1つの選択肢です。その際、法的にはどのような注意点があるのでしょうか?

――就業時間中のマスク着用を義務付け、違反した場合は懲戒処分を科すことを考えています。法的に問題はありませんか?

前提として、社員に懲戒処分を科すためには、就業規則に懲戒事由を定める必要があります。例えば、服務規律の中に「社員は、会社が社員の安全を守るために指定した内容を遵守しなければならない」といった規定があれば、これを根拠にすることも考えられます。服務規律違反が懲戒事由となっていれば、それを根拠に懲戒処分を検討することになります。

また、この「安全を守るために」というところに、感染症対策という内容が読み込めるかは疑義もありそうですから、もう一歩、踏み込んで規定を置く場合には、服務規律に、「感染症等の予防のため、会社が指定した対応内容を遵守すること」といった規定を新しく置くことも考えられます。

ただし、就業規則に規定があるからといって、必ず懲戒処分を科すことができるわけではありません。

――具体的にどういうことですか?

まず、就業時間中のマスク着用を義務付けたとしても、会社がマスクを提供せず、それが理由で義務を履行できない場合、懲戒処分を科すことはできないでしょう。

また、マスクをしないことで、直ちにコロナ感染が引き起こされる蓋然性が高いとも言えませんから、懲戒に値する違反行為かというと、慎重な判断が必要です。

例えば、「何度も注意をしているのに社員が聞き入れず、マスクを着用しないことについて、他の社員からクレームが出ている」など、会社の秩序や他の社員への影響があるかといった点も加味し、違反の程度が重いとか、それにより生じる会社への損害(会社の秩序への影響を含む)があって、懲戒処分が有効になると考えられます。

4 感染を防ぐため社員のプライベートの行動を制限できる?

会社が社員に具体的な指揮命令を下すことができるのは、原則として就業時間中のみです。プライベートで社員がコロナにかかるのを防ぎたい場合、会社として何かできることはないでしょうか?

――緊急事態宣言が再度発出された場合、「就業時間外でも、人の密集する場所に立ち入らないよう社員に義務付け、違反した場合は懲戒処分を科す」ことを考えています。問題はありませんか?

就業時間外に、懲戒処分という制裁付きで、特定の行動を命じたり禁止したりするのは難しいでしょう。

――いくらプライベートといっても、感染の危険があるような行動は見過ごせません。何か会社としてできることはないですか?

人の密集する場所に立ち入らないよう社員に「要請」することは可能でしょう。ただし、要請はあくまでもお願いであり、懲戒処分はできないと考えます。

社員の協力を得るには、コロナにかかった場合のリスクを説明し、社員に納得してもらうしかありません。最も大切なのは本人や家族の健康であり、みんながコロナ対策を重く受け止める雰囲気を作りつつ、自発的な対応を促すしかないでしょう。

実際、感染者が出てしまえば、保健所対応や、事務所の消毒、他の社員の検査などが必要になったりしますし、場合によっては、取引先への説明や、面談・会社訪問予定をキャンセルせざるを得なくなったりします。その社員や他の社員が休むことになれば、会社の機能不全というリスクもあります。こうした説明を社員にしていくしかないのではないでしょうか。

――分かりました。ちなみにプライベートの行動が原因で、社員がコロナにかかった場合、会社が安全配慮義務違反に問われる可能性はありますか?

就業時間中、会社が必要な感染症対策を講じていたのであれば、会社が安全配慮義務違反に問われる可能性は低いと思います。

5 感染症対策よりも事業を優先することは許されない?

感染症対策は社員を守るために必要不可欠です。しかし、感染症対策のために事業を行うことができないという事態になっては本末転倒です。感染症対策と事業のバランスはどのように取るべきでしょうか?

――緊急事態宣言が再度発出されたら、社員にリモートワークを義務付けようと考えています。しかし、どうしてもオフィスでなければできない業務もあります。緊急事態宣言中、こうした業務に従事する社員を出社させたら、安全配慮義務違反になるのでしょうか?

政府が2020年4月7日に発出した緊急事態宣言(同年5月25日に全面解除)には、法的拘束力がありませんでした。実際、社員を出社させている会社は多くありました。前回の緊急事態宣言時のような状況であれば、電車やバスで出勤したからコロナにかかる「蓋然性が高い」とも、言いにくいでしょう。こういった事情から、仮に同種の緊急事態宣言が再度発出された場合、宣言発令中に社員を出社させたからといって、それだけで直ちに、安全配慮義務違反に問われることはないと思います。

ただし、緊急事態宣言の趣旨が、国民の生命の危険を回避することにある以上、漫然と社員に出社させることには反対です。業務上の必要性や緊急性と相談しながら行うのが、緊急事態宣言の趣旨に沿う対応ですし、社員を漫然と危険にさらす対応は、社員の理解も得られないと思います。

――具体的にはどのような場合が考えられますか?

例えば、「機密事項を扱う業務で、リモートワークで実施するにはセキュリティー上の問題がある」「早急にクライアントに納品すべき商品があり、オフィスに出社しないと入手できない」といった場合、業務上の必要性や緊急性が高いと言えるでしょう。

逆に、特に何も検討せずに、「これまで通り」という理由だけで社員に出社を命じ、高熱を出している社員も何らの対策も取らず漫然と出社させ、それが原因で他の感染者が出た場合などは、安全配慮義務を尽くしたとは言いにくいでしょう。

以上(2020年7月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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