書いてあること
- 主な読者:発酵食品に関する情報収集をしたい経営者
- 課題:どのような団体に情報収集、取材などをして良いのか分からない
- 解決策:発酵食品は業界団体、大学等で研究している機関がある
1 発酵食品とは
1)「発酵」とは
発酵は、微生物(カビ、菌、細菌など)の作用により有機物(米、牛乳、野菜など)が分解され、新しい物質(酒、ヨーグルトなど)が生成される作用のうち、栄養が体内に吸収されやすくなるなど、人体に良い影響を与えるものをいいます。同様の作用として腐敗も挙げられますが、こちらは食中毒など、人体に悪影響を与えるものをいいます。
近年では、食品製造に限らず、医薬品や化学物質(燃料など)の生成などの工業分野でも用いられるようになっています。
2)発酵食品とは
発酵食品は、発酵によって原材料を変化させた食品のことをいいます。例えば、「米、水+コウジカビ=日本酒」「牛乳+乳酸菌=ヨーグルト、チーズ」などが挙げられます。
食品を発酵させることで、「長期間の保存が可能になる」「風味が増す」といった効果があります。これは、発酵によって、「有機物が変質し、腐りにくくなる」「アミノ酸など風味に影響する物質が生成される」などの作用が生じるためです。
なお、発酵食品の製造と食品の腐敗は紙一重であることが珍しくありません。例えば、日本酒の「火落ち」は、乳酸菌の一種である「火落ち菌」が繁殖して醸造中の酒を白濁させて風味を悪くするという、一種の「腐る(腐造)」現象です。また、一部の発酵食品にみられる独特の香りや風味が人によっては「腐っている」と感じさせるものであることも、発酵食品の製造と食品の腐敗が紙一重である象徴といえるでしょう。
3)主な発酵食品
発酵食品は、数千年前から製造されてきたほど歴史が古く、また微生物はさまざまな環境で生息していることもあり、米国アラスカ州のような厳寒の地から、東南アジア諸国のような熱帯の地に至る世界中でみられます。
主な発酵食品としては、次のようなものが挙げられます。
- 酒類:日本酒、焼酎、ビール、ワインなど
- 乳製品:ヨーグルト、チーズなど
- 水産加工品:くさや、なれずし、かつお節など
- 肉類加工品:ドライソーセージ(サラミなど)、火腿(かたい・中国のハムの一種)など
- 調味料:味噌、しょうゆ、酢、みりん、塩麹など
- その他:パン、一部の漬物(キムチ、らっきょう漬けなど)、納豆など
このように、発酵食品は多様であり、原材料も、「穀類(米、麦など)」「イモ(サツマイモなど)」「肉類(豚肉など)」「乳類(牛乳など)」「その他有機物」などさまざまです。また、発酵食品は、地域土着の微生物を使うことで差異化が図りやすいため、地元の特産品として売り出しやすい特徴を持っています。
以降では、発酵食品の関連団体や研究機関、参考文献について紹介していきます。
2 発酵食品に関連する機関
1)関連団体について
発酵食品の関連団体としては、「発酵食品の製造業者の団体」「業界の一部が発酵食品に関わっている団体」「発酵に関連する分野が含まれる学会」などがあります。ここでは、「関連学会・機関」「業界団体」に分けて紹介します。
2)関連学会・機関
関連学会・機関は次の通りです。
1.日本醸造学会(東京都北区)
https://www.jozo.or.jp/gakkai/
醸造に関する学会です。醸造に関するセミナーやウェブ講習をはじめ、毎月発行している学会誌などを通じて、醸造に関する研究成果を公表しています。
2.日本生物工学会(大阪府吹田市)
https://www.sbj.or.jp/
生物工学に関する研究の発表や支援などを行っている学会です。もともと醸造関係の学会として発足した経緯があるため、学会誌などを通じて、発酵食品に関する発表を行っています。
3.日本農芸化学会(東京都文京区)
https://www.jsbba.or.jp/
化学的な観点から生命現象や食品などについて考える「農芸化学」に関する学会です。ウェブサイト上の「年次大会講演発表データベース」では、キーワードや発表者名などで発表内容、発表者名や所属団体などを検索できます。また、農芸化学関連の研究室などもウェブサイトで検索できます。
4.日本食生活学会(東京都文京区)
https://www.jisdh.jp/
食生活に関する学会です。研究大会・集会や学会誌の発行を通じて、研究成果の発表を行っています。
5.日本家政学会(東京都文京区)
http://www.jshe.jp/
家事や育児など、家政学に関する学会で、発酵食品に関する発表もされています。
6.日本発酵文化協会(東京都目黒区)
http://hakkou.or.jp/
発酵食品の開発や普及を支援する団体です。同協会が開催する発酵教室では、さまざまな発酵食品の基本的な製造方法を学ぶことができます。
3)発酵食品に関連する業界団体
1.全国発酵乳乳酸菌飲料協会(東京都新宿区)
https://www.nyusankin.or.jp/
発酵乳・乳酸菌飲料の製造・販売に関する業界団体です。乳酸菌の働きや、食生活と健康に関する情報を発信しています。
2.日本乳業協会(東京都千代田区)
https://www.nyukyou.jp/
乳業の業界団体です。乳製品に関する情報発信などを行っています。
3.日本酒造組合中央会(東京都港区)
https://www.japansake.or.jp/
日本酒・焼酎の全国団体です。酒税の保全および酒類業の取り引きの安定を目的としており、酒類業界の振興や消費者向けの情報提供などを行っています。
4.全国醤油工業協同組合連合会(東京都中央区)
https://www.soysauce.or.jp/(注)
醤油業界の全国団体です。同じく業界団体である日本醤油協会などと共同で運営する「しょうゆ情報センター」のウェブサイトなどを通じ、業界内部や消費者に向けた情報発信などを行っています。
(注)URLは「しょうゆ情報センター」のものです。
5.全日本漬物協同組合連合会(東京都江東区)
https://www.tsukemono-japan.org/
漬物業界の全国団体です。漬物に関する情報発信を行っている他、各地の漬物協同組合の上位団体として、各種委員会の取りまとめや、製造従事者の技能レベルを認定する「漬物製造管理士制度」を運営しています。
6.全国味噌工業協同組合連合会(東京都中央区)
http://zenmi.jp/
味噌業界の全国団体です。味噌に関する情報発信を行っている他、原材料を安値で安定して確保できるシステムづくりを進めています。
7.チーズフェスタ
https://www.cheesefesta.com/
チーズ普及協議会と日本輸入チーズ普及協会が共同開催している、チーズに関する総合イベントです。同フェスタでは、チーズを使った料理のグランプリ「チー1」を開催しており、上位作品についてはレシピを公開しています。
4)大学
一般的に、発酵食品に関する研究を行っている大学の学部・専攻としては、農学部、工学部、理学部などに設けられた「応用生命学」「醸造学」「食品科学」「農芸化学」などが挙げられます。ただし、専攻名などに「醸造」「発酵」と付いていても、発酵食品の研究を行っていないケースは少なくありません。これは、微生物の研究が進んだ結果、発酵を食品以外の分野(医薬品製造、燃料生成など)に活用する研究にシフトし、以前は手掛けていた発酵食品の研究を行わなくなったためです。
発酵食品に関する研究を行っている主な大学は次の通りです。多くの大学では産学連携の窓口を設けています。共同研究や受託研究の依頼をする際は、まずこうした窓口に協力を打診して、自社が求めている分野の適切な研究者を紹介してもらうようにしましょう。
1.秋田県立大学 生物資源科学部応用生物科学科食品醸造グループ
http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/DBT/
秋田県産の豊富な農畜水産物を活用した発酵食品の研究・開発を行っています。
2.石川県立大学 生物資源環境学部食品科学科
https://www.ishikawa-pu.ac.jp/undergraduate/food_science/
分子レベルから、製造・加工・流通の技術や方法、栄養や衛生の問題など、食品に関する幅広い研究を行っています。
3.大阪大学 大学院工学研究科生物工学専攻
https://www-bio.eng.osaka-u.ac.jp/
戦前から醸造学の研究を行っており、今日では国内におけるバイオテクノロジー研究のトップランナーです。
4.鹿児島大学 農学部 焼酎・発酵学教育研究センター
http://shochu.agri.kagoshima-u.ac.jp/honkaku/
地場産業である焼酎などの発酵食品の製造や、微生物そのものに関する研究を行っています。
5.岐阜大学 応用生物科学部応用生命科学課程食品生命科学コース
http://www.abios.jpgu-u.ac.jp/lifescience/
素材から流通に至る食品に関する広範な研究を行っています。
6.京都大学大学院 農学研究科産業微生物学講座
http://www.sangyo.kais.kyoto-u.ac.jp/
微生物の有する潜在能力を活用したモノづくりに関する研究を行っています。
7.東京農業大学 応用生物科学部醸造科学科、大学院 農学研究科醸造学専攻
http://www.nodai.ac.jp/academics/app/fer/ (応用生物科学部醸造科学科)
http://www.nodai.ac.jp/nodaigs/major/agri/fermentation/ (農学研究科醸造学専攻)
醸造を専門とする学科・専攻で、多くの酒造関係者を輩出してきた名門です。
8.広島大学 工学部第三類生物工学プログラム発酵工学課程
https://home.hiroshima-u.ac.jp/hakko/
酒類総合研究所に隣接している地の利を活かし、酒造などさまざまな分野の発酵に強みを持っています。
9.別府大学 食物栄養科学部発酵食品学科
https://www.beppu-u.ac.jp/course/nutrition/ferment/
地場産業である酒類(日本酒、焼酎など)や調味料(味噌、醤油など)のメーカーとのつながりに強みを持っています。
10.三重大学 生物資源学部、大学院生物資源学研究科
http://www.bio.mie-u.ac.jp/
生物資源の持続的生産を目指した開発や利用に関する研究を行っています。
11.名城大学 農学部応用生物化学科応用微生物学研究室
http://www-agr.meijo-u.ac.jp/labs/nn008/
発酵や醸造、微生物の活用に関する研究を企業と連携しながら行っています。
12.山梨大学 ワイン科学研究センター
http://www.wine.yamanashi.ac.jp/
地場産業であるワインの醸造や、醸造・発酵に役立つ微生物の研究を行っています。
13.酪農学園大学 農食環境学群食と健康学類
https://www.rakuno.ac.jp/department/agriculture/food.html
地場産業である酪農に関連した発酵食品の研究・開発などを行っています。
5)研究機関
発酵食品に関する研究は、大学の他、国や地方自治体などが運営する技術支援機関でも行われています。こうした機関では、自ら研究を行う他、共同研究・受託研究の形で企業などに対する技術支援や、検査・試験機器の貸し出しや検査・試験の代行などをしています。
発酵食品に関する研究を行っている主な研究機関は次の通りです。
1.農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 食品研究部門(茨城県つくば市)
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/nfri/
食に関わる科学と技術に関するさまざまな研究を企業などと行っている機関です。同研究所では微生物の高度利用やパン酵母遺伝子などの研究成果をデータベースなどの形で公表しています。
2.酒類総合研究所(広島県東広島市)
https://www.nrib.go.jp/
酒に関する各種研究・調査や分析・鑑定などを行っている機関です。研究成果についてはデータベースなどの形で公表しています。
3.食品産業センター(東京都港区)
https://www.shokusan.or.jp/
食品産業に関する各種調査、研究・開発の支援などを行っている機関です。食品加工に関するガイドラインや、特産食品に関する情報提供、食品製造の衛生管理に関する研修会などを手掛けています。
4.日本醸造協会(東京都北区)
https://www.jozo.or.jp/
日本酒・醤油・味噌など醸造に関する調査・研究を行っている機関です。酵母など醸造に使用する資材の供与、分析・検査の代行、技術者・技能者の育成、技術指導などの形で醸造業者を支援しています。
以上(2020年7月)
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画像:photo-ac