生産性を上げるオフィスレイアウト

書いてあること

  • 主な読者:オフィスのレイアウト変更を検討する経営者
  • 課題:どのようにレイアウトすれば生産性が向上するのか分からない
  • 解決策:目的を明確にし、社員が働きやすい環境づくりを心掛ける

1 今、経営者がオフィスにお金をかける理由

オフィスレイアウトのリニューアルによって、社員が働きやすい環境を整える会社が増えています。中には、キッチンを設置して経営者が料理を振る舞ったり、卓球台やビリヤード台を設置して社員が交流できたりするオフィスもあります。

こうしたオフィス改革が進む最大の理由は、労働力不足の深刻化です。オフィスレイアウトの変更を通じて働きやすい職場であることをアピールし、人材採用につなげようとする狙いがあり、だからこそ経営者も予算を掛けることができます。

もちろん、「働き方改革」も見逃せない要素です。経営者も社員も本気で生産性を上げなければならないため、机や椅子などの什器にこだわったり、休憩スペースを設けたりしています。

2 経営者がやるべきこと

1)オフィス改革の最終目的を考える

オフィス改革を進める際は、そこで働く社員にフォーカスすることが大切です。人材採用、生産性の向上、イノベーションなどオフィス改革をする理由ではさまざまですが、これらは最終目的ではありません。

社員一人ひとりの仕事を進める力・考える力・創造する力を高めて成長させ、組織としての力を強くするために実践するのがオフィス改革です。言ってみれば「人が育つ組織」をつくることが最終目的といえるでしょう。

社員との距離が近い中小企業において、オフィス改革を組織改革の一環として成功させるには経営者が先頭に立って進めることが大切です。以降で、経営者がやるべきことを見てみましょう。

2)社員と外部から情報収集をする

経営者は、どのような組織を目指すのか、その理想型を社員に伝えましょう。そして、現場に視点を下ろし、組織文化の理想型を実現するためには、具体的にどのようなオフィスにしたらよいかを検討します。

まずは現場で働く社員の声を聞くことから始めます。改善点についてアンケートを取ったり、直接話を聞いたりするなどが考えられます。ブレーンストーミングやランチミーティング形式にすると、社員が臆せずに意見を言えるようになるでしょう。

また、オフィス改革の事例を集めて学ぶことも大切です。オフィス改革を行った省庁としてよく取り上げられる総務省行政管理局では、オフィス改革を進めるに当たり、実際にITベンダー数社を見学したといいます。

オフィス改革を推進しているニューオフィス推進協会は、オフィス改革を実践した会社を表彰する取り組みを行っており、受賞企業の見学会も実施しています。こうした見学会に社員と一緒に行き、感想を話し合うのも一策です。

3)オフィス改革を進める社内体制をつくる

オフィス改革を進めるときは、その体制づくりも重要です。働き方や改善点などは部門や職種によって違うので、さまざまな部門や職種、立場の社員が関わるタスクフォースを立ち上げて進めるなどします。

その際は、今回のオフィス改革で実現したいことを明らかにして共有しておくこと、オフィス改革に際して使う用語・データフォーマットなどを共通化して効率的に進めることが必要です。

経営者が全てを決めたくなるかもしれませんが、社員の意見をできるだけ取り入れるなど“社員参加型”にすることが大切です。オフィス改革は実際に現場で働いている社員のために行うものであり、社員が参加したほうがアイデアが広がります。

3 オフィス改革で実現したい3つのこと

1)動きやすい

社員が行動しやすい環境は、生産性の向上につながります。それには、社員の日ごろの動線からオフィスレイアウトを考えるとよいでしょう。

例えば、エンターテインメント事業などを手掛けるグループ会社を抱えるセガサミーホールディングスは、部門間の壁をできるだけ取り払うとともに、デスク間の通路を増やすなどして、社員が動きやすいオフィスづくりを目指しました。

2018年8月以降、同社およびグループ各社の基幹機能を新オフィスに集約し、人材交流の活性化や事業連携の強化を進めています。フロア内を周回しやすくする通路を用意するなど、社員間の交流を積極的に創出できる工夫も施しています。

家具や生活雑貨を輸入・販売するカッシーナ・イクスシーも、社員が動きやすい新オフィスを整備しました。2019年2月、店舗を構えるビル内にオフィスを移設し、ショールームとしての役割を兼務するオフィスを顧客に見学してもらえるようにしました。

フリーアドレスの導入により席数を減らしたのが特徴です。空いたスペースをカフェエリアやリフレッシュエリアにするなど、オフィス内でもリラックスできるよう配慮されています。

2)集まりやすい

社員が集まりやすい環境が整えば、コミュニケーションを取る機会が増え、情報共有や意見交換がしやすくなります。

企業や地域向けのコンサルティングや研修事業を展開するスノーピークビジネスソリューションズは、ユニークなコンセプトで集まりやすいオフィスづくりを提案しています。

同社はアウトドア製品を使い、オフィス内に建てたテントで打ち合わせをしたり、屋外に建てたテントで会議や打ち合わせ、研修を実施するといった施策をサービス化して提供しています。自然を感じる環境でクリエイティブな発想を生まれやすくしているのが特徴です。従来のオフィス像にとらわれない新しいオフィスとして注目されています。

その他、本や雑誌を閲覧できるライブラリースペースや一息入れるカフェスペース、予約せずに簡単な打ち合わせができるミーティングスペースなど、人が集まることを想定した施設やスペースを設ける企業は少なくありません。

3)学びやすい

「人が育つ組織」をつくるに、社員が“外の世界”からの刺激を受け、学べるようにします。それを実現するには、動きやすく集まりやすい環境に加えて、社員が新しいことや面白いことに触れ、視野が広がる機会をつくることが必要です。

例えば、前述のセガサミーホールディングスは、オフィス内に社外の人が利用できるコアワーキングスペースを設置しています。社員が社外の人と接する機会をつくることで、自社の新規事業やアイデアの創出につなげる考えです。

オフィスビルの賃貸事業などを手掛ける野村不動産ホールディングスの場合、入居するテナント向けに書籍や雑誌を閲覧できるスペースを設置しています。専門家が選定した書籍を提供し、入居する企業の学習機会の創出を支援しています。

4 オフィス改革は社員のためのものである

さまざまなメリットのあるオフィス改革ですが、その実現は簡単ではありません。かかる時間や費用もさることながら、社員のネガティブな反応に遭うことがあるからです。 例えば、変化を望まない社員は、抵抗感を示したり、自分には関係ないという態度を見せたりするでしょう。それでも経営者は、根気良く対話し、オフィス改革の意味を伝え続けていかなければなりません。

こうした“ネガティブ社員”こそ、オフィス改革の事例を学ばせ、タスクフォースのチームの一員に加え、オフィス改革の意味を体感させるのも一策です。

例えば、オフィス家具を製造・販売するイトーキは、2018年12月に発表した新オフィスの見学会を実施しています。新オフィスは、「集中して作業したい」「2人で話し合いながら作業したい」「情報を整理したい」など、オフィスで一般的に行われる10の活動を定義し、これらをサポートする空間づくりをコンセプトにしています。

どの会議室や席が空いているのかをリアルタイムで把握する在籍管理アプリを使い、時間を効率的に使えるような工夫も施しています。オフィス改革に関心を示さない社員を、こうした見学会などに参加させてもよいでしょう。自社のオフィスレイアウトの参考にもなります。

オフィス改革を通じて、社員一人ひとりの仕事に対する意識が変わること、これこそがオフィス改革の大きなメリットといえるでしょう。

以上(2019年4月)

pj40026
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納期管理を徹底すれば生産性が向上する

書いてあること

  • 主な読者:納期を管理したいと考える経営者
  • 課題:納期を守れない、抜本的な対策を講じることができない
  • 解決策:日程管理や進度管理を導入するなどした体制を築く

1 納期に対する“甘え”をなくす

1)なぜ、納期遅れが生じるのか?

製造業でいわれる「Q:Quality(品質)」「C:Cost(コスト)」「D:Delivery(納期)」は、その他の業種においても重要であることは言うまでもありません。しかし、これらをバランスよく実現することは難しいものです。

例えば、「D:Delivery」です。納期については社員の甘えが出やすく、なかなか実現することができません。「多少遅れても大丈夫」であるとか、「自分だけの責任ではない」などの意識が働くためです。

仕事の流れに沿って、部門別の納期を分類してみましょう。1つの業務は複数の部門や担当者によって成立していることがよく分かりますし、どこかで納期遅れが生じれば、全体に悪影響を及ぼすことになってしまいます。

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図表1で示した6つの納期の中で最も長いのは「1」であり、ゴールである「6」に近づくほど短くなります。取引先納期である「1」と、社内納期である「2」との間に余裕がないと納期遅れが生じる恐れがあるため、多くの企業で相応の余裕を設けています。

2)過度の余裕による弊害

とはいえ、「1」と「2」の間に必要以上の余裕を設けるのは問題です。製造部門の担当者は「2」の納期に相当な余裕があると感じ、「3」にも余裕を持たせますし、社内ということもあり、納期厳守の意識がルーズになります。

加えて、「多少の遅れは急げば取り返せる」という、間違えた安心感も生まれます。そして、納期に余裕があったのにギリギリになって追い込みをかける、まるで“夏休みの宿題”のような状態になり、焦って対応した分、歩留まりも悪くなります。

3)適切な納期の設定

このように、必要以上の余裕は、納期意識を低下させるだけでなく、生産性や部門間の信頼関係をも低下させてしまいます。もちろん、歩留まりが悪くなれば、クライアントの信用も失います。

そこで、週1回、納期に関する情報共有を図るなど各部門の担当者は連絡を密にし、適正納期を設定し、それを必ず順守するように心掛けます。わざわざ集合する必要はなく、社内SNSなどを利用すれば十分でしょう。

2 納期管理のための実践方法

1)日程管理(生産の着手、完了時期をいつにするか決める)

日程管理では、「ガントチャート」が多く利用されます。ガントチャートとは、生産管理やプロジェクトの管理などで使用される工程管理図のことで、作業計画やスケジュールを棒グラフで横形に示します。

ガントチャートで日程計画は一目で分かりますが、部門や部署との関係が不明瞭です。工程が多いとガントチャートで管理するのは難しいため、相互関係を明確化したパート図を使った日程管理をしましょう。

2)現品管理(何が、どこに、どれだけあるのかを把握する)

現品管理は、次の進度管理に直接結び付く基本要素で、「工程間の現品受け渡しを容易にする」「運搬や保管が分かりやすいように整理整頓する」「現品の紛失や劣化によるロスを防止する」ためのものです。例えば現品の保管であれば、「何が、どこに、どれだけあるのか」を把握するために、管理状況(安全面など)を確認します。

3)進度管理(工程における仕掛量や進み具合を把握する)

毎日の生産状況を把握するためには、「生産進度管理図」や「流動数曲線による進度表」を用いて管理します。「流動数曲線による進度表」は継続生産を行うような現場には適していますが、個別生産には適しません。

また、作業の遅れを段階的に早期発見する仕組みとして「カムアップシステム」を導入することも一案です。カムアップシステムは納期前に、担当者に納期を確認することを全ての納期段階で行うので、納期遅延対策としては非常に有効です。

4)基準日程の策定(納期に対して各工程作業の着手を決めるためのベース作り)

基準日程とは、「工程待ち→加工→検査→運搬」の全ての作業日数を決めるものです。基準日程は継続生産、ロット生産、少量多品種生産を行う場合に設定方法が変わります。また、ある程度経験と勘に頼るところがあります。ただし、基準日程が適切でないと納期遅延の原因となります。

5)現場や企業としての取り組み

1.現場としての取り組み

納期遅延対策として行われているのが、生産現場での「差し立て板(さしたてばん)」「工程管理板」による確認です。これらを利用すれば、工程管理者や作業者が一目で作業の進捗状況を把握することができます。

また、工程管理に正確性を期するためにバーコードやQRコード(二次元バーコード)付き作業票を取り入れているところもあります。バーコードやQRコードの導入は、作業者の作業票記入を省くだけでなく、各工程の進捗状況を把握できるメリットがあります。加えて、工程ごとの実績や停滞時間なども明らかにできることから、データを分析しやすくなり、問題点の把握も容易となることから、さらなる改善につながります。

2.企業としての取り組み

納期管理を部門ごとに徹底して行うのは当然ですが、一歩先を考えれば、企業全体で、あるいは下請けメーカー、物流会社、販売会社など関連するところ全体で一貫した納期管理を行う必要があるでしょう。

製品製造に関わる関連部門を巻き込んで情報化を図ることが第一歩です。正しい伝達なしに、納期管理は実践できませんし、納期遅延などの対応にも苦慮することになります。正しい情報が即座に伝達できるシステムの構築が納期管理には必要です。

以上(2019年4月)

pj40025
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アウトソーシングの考え方/コスト削減の教科書

書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 アウトソーシングの考え方

アウトソーシングは、経営の効率化や環境変化に対応するための手法の1つです。アウトソーシングを活用する目的は、人材の効率的な活用やコスト削減などのように、「経営の効率性を高める」ことと、自社の人材をコア部門に集中させるなどのように、「経営資源を集中させ、企業の競争力を高める」ことに大別されます。

2つの目的に共通するのは、アウトソーシングによって「自社の生産性・競争力の強化を目指す」ということです。本稿では、自社の生産性・競争力の向上につながるアウトソーシングを「戦略的なアウトソーシング」と位置付け、中小企業がアウトソーシングを活用する際の考え方を紹介します。

2 アウトソーシングの検討ポイント

1)自社のコア部門(本業)の確認

一般的なアウトソーシングは、自社の経営資源をコア部門(本業)に集中させ、本来の業務とは離れた業務(付随業務)を外部に委託して、経営の効率性・有効性を高める手法です。そのため、アウトソーシングを活用する際は、自社の強み・弱みをしっかりと、分析し、コア部門(本業)を明確にしておく必要があります。

自社の強み・弱みを見極めることによって、経営資源を投入すべきコア部門(本業)と、外部に委託して効率化を図ったほうがよい部門とが明確に分かります。自社の強み・弱みを見極める際には、「SWOT分析」を用いるとよいでしょう。

また、最近では金融機関が取引先企業の成長性などを見極めるために、強みや課題を洗い出す「事業性評価」に力を入れています。金融機関の営業担当者と一緒に、自社の強みなどを把握するようにするのも一策かもしれません。

2)既存業務の洗い出しと見直し

自社の強み・弱みを見極めた後は、重複業務のムダ・ムラ・ムリを把握して、委託する部門や業務の範囲を明確にします。例えば、ウェブサイトの制作と運営など、一括して委託したほうが費用対効果が高い業務もあります。そのため、既存業務を見直した後は、「どのような選択が自社にとって最も有益であるか」という点を、費用や効果の面から十分検討しましょう。

3)人材・業務遂行力の適正配置

「戦略的なアウトソーシング」を実現するためには、人材の適正配置が必要です。入力やチェック作業など単純作業の一部をアウトソーシングすると、従業員はこれまで行っていた単純作業から解放され、他の業務に集中できるようになります。

人材の適正配置の結果、その部門に余剰人員が生まれたとすれば、その余剰人員を自社のコア部門(本業)である開発設計部門に回し、自社の商品開発力を強化することが可能です。

4)アウトソーシングする業務範囲の決定、効果の算出、確認の仕組みの構築

アウトソーシングする業務を決定した後も、いきなり“丸投げ”するのではなく、業務範囲の確認、効果の算出、是正ポイントの確認などを行いながら、段階的に進めていきます。

こうすることで、その業務が本当にアウトソーシングに向いている業務であるか、求めている効果が本当に得られているかなどが確認できます。是正ポイントが見つかったら、素早く改善します。

3 事例から考えるアウトソーシング

1)A社の現状を整理する

A社は従業員15人の企業です。経理や総務など従業員の役割は一応決まっているものの、ほとんどの従業員がシームレスに多分野の業務をしています。A社は従業員が少なく管理が容易なため、新たな取り組みを始める際も自社の従業員でカバーするという発想が強く、アウトソーシングしようとは考えていませんでした。

このようなA社が、情報発信のために自社のウェブサイトをリニューアルし、SNSを導入することになりました。今回も自社の従業員でSNSの導入・運用を行う考えでいます。仮に、SNSの導入・運用などをアウトソーシングした場合、約100万円(初期費用のみ)のコストが発生します。

SNSの導入・運用をA社従業員だけで取り組んだ場合と、アウトソーシングを活用した場合の「取り組み比較」は次の通りです。単純に表中の項目だけで見た場合、コストの面以外は、アウトソーシングを活用することに分がありそうです。

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2)アウトソーシングすべきか否か

A社の目的が、SNSの導入・運用などのノウハウ蓄積であれば、A社従業員だけで取り組むのもよいでしょう。しかし、アウトソーシング費用という目先のコストを嫌っているだけなら、金額には表れないムダやコストを抱え込む恐れがあります。

仮に、SNSの導入・運用を、A社で営業活動を主体に行っている従業員Yに任せるケースを考えてみます。通常、従業員Yは得意先回りや取引先の開拓に精を出しています。帰社してからは営業報告や日報の整理、その他部下の指導もこなすA社の貴重な戦力です。

この従業員Yが、これまでの業務の他に、SNSの導入・運用に関する業務も毎日行うようになってから、従業員Yの業務スケジュールは次のように変わりました。

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アウトソーシングを活用した場合、初期費用の100万円に加え、ランニングコストが毎月数万円発生します。その半面、質の高いサービスが期待できることや、従業員に新たな業務負担が発生しないというメリットがあります。

一方、A社従業員だけで取り組む場合は、構築のための時間、完成後のメンテナンスに必要な時間、およびそれに付随する人件費などのコストも考慮しなければなりません。

このようにはっきりと数字で表れるコストを検討することはもちろん、従業員Yが本来、主として行う業務で得られたであろう期待利益が損なわれていることにも、目を向ける必要があります。これらを併せて比較検討してみると、単純なコスト比較でも、どちらがA社にとってメリットがあるかは、はっきりしています。

A社は、自社に欠けている弱みの部分に関しては外部資源を活用し(SNSの導入・運用をアウトソーシングすること)、自社の強みである部分をより生かしていくこと(従業員Yには営業業務に専念し成果を上げてもらうこと)が正しい選択といえるでしょう。

アウトソーシングによってコスト削減を図るというのは、人件費の削減といった目に見えるコストを抑えるというだけではなく、「期待利益を大きくする」「生産性を損ねるムダを削減する」という大きな意味があります。

4 中小企業に求められる姿勢

中小企業がアウトソーシングで生産性向上を図るためには、コスト削減だけに着目するのではなく、「自社のコア部門(本業)に経営資源を集中させる」「生産性を損ねるムダを削減する」といった視点を持つことが不可欠です。

最近は、インターネットを通じて外部から必要な人的資源を調達する「クラウドソーシング」も盛んであり、業務分野によっては活用できるでしょう。また、アウトソーシングではありませんが、会計ソフトなどを使うことでも省力化が図れます。

中小企業は、自社の従業員だけで業務をこなそうとする“自前主義”に陥りがちです。しかし、視野を広く持ち、既存の業務遂行体制を疑いながら、アウトソーシングの活用なども検討することが、自社の今後の成長につながります。

以上(2018年9月)

pj40011
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コストダウンを成功に導くリーダーシップ

書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 コストダウンの成否を決めるもの

中小企業のコストダウンが成果を上げにくいのは、経営者のリーダーシップに問題があるからかもしれません。社員はコストダウンをすることで、自分たちの仕事がやりにくくなることを経営者が言い始めると、急に経営者をチェックし、観察するようになります。

今回のコストダウンは「本気でやるのか、口先だけなのか」と経営者の本心を探り始めます。たとえ経営者が本気でも、「今期だけのことだから我慢して言うことを聞こう」「半年もしたら言わなくなるだろう」と自分勝手に解釈する社員も出てきます。

また、社員に厳しいコストダウンを要求する一方で、経営者の接待交際費は従来のままであったり、ある部門にだけは使い放題の予算を与えていたりすると、社員は敏感に不公平感を抱きます。

企業がコストダウンを実践し、成果を上げるためには、「経営者の本気の姿勢」「不公平感の払拭」の2つが欠かせません。そのために重要になるのが、経営者のリーダーシップです。

2 典型的な失敗例

1)前例踏襲不変型

予算計画は前例を踏襲しがちで、コストダウンの指示があっても、予算を一から見直すことがありません。この場合、コスト内容は吟味されず、安易な一律カットで対応してしまうケースがあります。

2)意思統一不完全型

部門によってコストダウン意識にバラツキがある場合です。特に製造部門と間接部門の意識に格差が生じやすくなります。こうした問題を改善しない場合、効果が目に見える製造部門にだけコストダウンを強要するケースがあります。

3)部分最適、全体不最適型

A事業部門ではコストダウンの効果が表れたが、一方でB事業部門ではコストアップとなってしまうというケースです。A事業部門の取り組みによって生じた何らかのしわ寄せをB事業部門は受けています。

4)成果短期部分型

無理なコストダウンを行って短期的には成果を上げたが、次年度以降にそのしわ寄せが表面化してコストアップとなるケースです。コストダウンは、短期的な視点と中期的な視点のバランスをとらなければなりません。

5)不測事態発生コストアップ型

実施したコストダウンにより不測の事態が生じ、企業全体としてはコストアップとなってしまうケースがあります。例えば、原材料費を見直したことによる品質の劣化と、それに伴うクレーム対応などが考えられます。

3 大切なのは経営者のリーダーシップ

1)一から見直しをする

前例を踏襲しているようでは、コストダウンの効果は期待できません。全部門において一から見直す覚悟が必要です。ただし、部門の特質を無視した一律カットは、必要なコストまで削減してしまい、生産性を低下させることもあります。

2)部門間の意識格差を認識する

部門間のコストダウン意識のバラツキは、経営者が思っているよりも大きいものです。例えば、製造原価の低減が利益に直結することをはっきりと認識している製造部門では、コストダウン意識が浸透しています。

一方、営業部門はこまごまとコストを削減するより、売り上げを獲得したほうが利益に結びつくと考える傾向があります。事実その通りなのですが、売上増加とコストダウンは別の取り組みであり、いずれも利益に結びつくことを認識させる必要があります。

3)コストダウンの対象は部門によって異なる

コストダウンの対象は、部門の特徴を見極めてから決定します。例えば、製造部門は「製造工程の見直し、歩留まりの向上、原材料や仕入れ先の見直し」、営業部門は「交際接待費や旅費の見直し」、経理部門は「残業代削減」というように異なります。

4)コストダウン負荷は部門間で均一化

コストダウンの対象が決定したら、次に「いつまでに」「何%削減するか」を決めます。大切なことは、各部門におけるコストダウンで生じる負荷の均一化を図ることです。目標設定の段階で負荷の均一化が図られていれば、部門間の競争意識も芽生えてきます。

5)最終的には経営者のリーダーシップ

できる限り負荷を均一化したとしても、他部門よりも自部門のほうが負荷が大きいといった不満は必ず生じるものです。また、経営者が「目標設定は完了した。あとは達成することが至上命令だ」と叫んだところで不満は解消しません。

経営者は部門長やその部門の社員に対し、設定した目標は公平であり、他部門と負荷は変わらないことを伝えると同時に、その目標設定には根拠があることを、数値を使うなどして社員が納得するまで説明することが求められます。

4 成功するコストダウンの考え方

正しいコストダウンを実現するために、経営者は「コストダウン計画をゼロベースから策定し、各部門の実情に合わせてコストダウンの対象を決定します。さらには、各部門におけるコストダウンの負荷の均一化を図る」という視点を持ちましょう。

しかし、これだけでは十分ではありません。全社的なマネジメント体制を整備する一方で、部門間にまたがるコストダウン計画の策定、管理も行います。そして、コストダウンの実施により偶発的に生じるトラブルにも、適切に対応しなければなりません。

中期的なマネジメントも欠かすことはできません。コストダウンの成果を1年間で求めると、無謀なコストダウンをしがちです。短期間のコストダウンであっても(短期間のコストダウンだからこそ)成果が上がれば、その期の損益計算書には反映されます。しかし、次年度にコストアップを招いてしまっては意味がありません。

成果の反動が生じるような無謀なコストダウンを防止する意味でも中期的なマネジメントが必要です。

以上(2018年10月)

pj40014
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「ムダ・ムラ・ムリ」を改善しよう

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  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 「ムダ・ムラ・ムリ」とは

ビジネスの「ムダ・ムラ・ムリ」とは、次のような状態を指します。

  • ムダ:時間・労力・経費が無駄遣いされている
  • ムラ:時間・労力・経費にばらつきがあり、効率的に使われていない
  • ムリ:時間・労力・経費が不足して、業務を遂行できない

こうした「ムダ・ムラ・ムリ」は、顕在化しているもの(既に認識されているが、うまく対応できずに発生しているもの)と、潜在化しているもの(認識されていないもの)とがあります。

特に問題となるのは、潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」のほうです。存在すら認識されていないため、無意識のうちに経営資源を浪費し続けることになるからです。まずは潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」を顕在化させるためのポイントを考えます。

2 「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすい業務

1)慣例化している業務

最初から「ムダ・ムラ・ムリ」だと分かっていて導入される業務はありません。当初は明確な目的があり、それを達成するために必要な業務だった(少なくともそう考えられていた)はずが、次第にその業務を行うこと自体が目的化してしまいます。

こうなると、「以前から続いている業務だから」といった“よく聞く理由”で継続することが当たり前となり、「その業務が現在の企業全体、あるいは部門の業務目的に適合しているか」といった検討がなされなくなってしまいます。

2)担当者が頻繁に変わる業務

多くの担当者が引き継いできた業務は、目的が曖昧になりがちです。業務を引き継ぐ際、前任者は自分がいなくても進められるようにと、作業手順を丁寧に説明します。しかし、業務の目的については、新任者も既に理解していると考え、省略しがちです。

引き継ぎ後、新任者は前任者が行っていたように円滑に業務を進めることに注力します。結果として、「なぜ、この業務を現在のような手順や方法で行っているのか」という意識が希薄となり、業務だけが慣例化されてしまいます。

3)特定の人しか理解していない業務

何かのきっかけがなければ、自分の担当業務の目的を思い起こし、「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを定期的にチェックしている人はほとんどいないでしょう。「ムダ・ムラ・ムリ」の発見には、管理者や担当者以外の社員の客観的な指摘が必要なのです。

しかし、特定の人にしか分からない業務だと、そのような指摘をすることができません。その結果、「ムダ・ムラ・ムリ」があってもその存在が認識されず、“属人的で複雑な手順の業務”ができてしまいます。

4)責任者を明確に定めていない業務

責任者を明確に定めていない業務も、「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすくなります。例えば、複数の部門間にまたがる業務です。こうした業務では全体を統括する人が不明確になりがちで、「ムダ・ムラ・ムリ」に注意を払う人もいなくなります。

また、実務担当者が「ムダ・ムラ・ムリ」を発見しても、自分たちだけで改善することができず、他部門との調整が必要になります。こうなると、改善に対する取り組みが後回しにされ、結果として「ムダ・ムラ・ムリ」が放置されてしまうことが多いのです。

3 「ムダ・ムラ・ムリ」を発見する

1)業務プロセスなどの明確化

まず、現状の業務プロセスや業務内容の全体像を明確にします。「業務記述書」などを使って自己申告をさせるとともに、不明な部分については、直属の上司などが担当者にヒアリングをして確認するようにします。

次に、企業・部門・社員ごとに業務に対する目標を明確にします。そして、その業務目標に従って、現在の業務内容が目標達成に対して有効な業務であるか否かを客観的に検討します。

2)トラブルを放置しない

また、事前に「ムダ・ムラ・ムリ」の回避策を講じている企業であっても、不意に「ムダ・ムラ・ムリ」が表れます。例えば、日常業務でトラブルが発生した場合、原因をつくった人の「不注意」や「能力不足」といった属人的な批判で終わりがちです。

しかし、その背後において「ムダ・ムラ・ムリ」が原因となっているケースは少なくありません。トラブルが発生した場合、現在の業務の方法などに「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを検討してみることが大切です。

例えば、納期に遅れてしまった場合、営業担当者が忙しさのあまり、必要な手続きや納期の確認をしていなかったなど、業務の進め方に「ムラ」や「ムリ」があったことが原因かもしれません。この辺りは、しっかりと確認する必要があります。

4 「ムダ・ムラ・ムリ」の改善

1)やめる

「ムダ・ムラ・ムリ」の改善方法として最も効果的なものは、「ムダ・ムラ・ムリ」の発生原因を根本的になくすことを考えてみることです。すなわち、その業務自体を「やめる」(廃止・削除など)ことができないかという視点です。

2)減らす

「やめる」ことができない業務については、「減らす」(回数・頻度・数量・重さ・サイズなどを減らす)ことを考えてみます。例えば、毎日行っている報告書の提出を週単位や月単位にして、提出頻度を「減らす」といった方法です。

3)変える

「やめる」ことも「減らす」ことも難しい業務については、「変える」(形・色・位置・場所・順序・手順・材料・部品・担当などを変える)ことを考えてみます。より効率的な業務の進め方を検討することが大切です。

5 改善例

1)問題となった事例

営業部門のAさんは、「営業成績の報告」をするために、各営業担当者の日報から営業成績を計算し、その数値を報告書フォーマットに入力して報告書を作成していました。プリントアウトした報告書は経営者・各部門長に手渡します。

毎日、前日分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。加えて毎週月曜日には、先週分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。

この業務の「ムダ・ムラ・ムリ」について、「やめる」「減らす」「変える」に基づいた改善例を考えてみます。

2)「ムダ・ムラ・ムリ」を「やめて」みる

Aさんは、「日単位と週単位の報告書は、本当に両方とも必要なのだろうか」と考え、上司や各部門長、経営者に確認しました。すると、「日単位の報告書は週に何回か確認しているが、週単位の報告書はほとんど見ていない」という現状を把握できました。

そこで、関係者の了承を得て、試験的に1カ月間、週単位の報告書を「やめて」みました。すると、日単位の報告書があることから、経営者・各部門長から再度作成してほしいという要望は上がらず、1カ月後には週単位の報告書の廃止が決定しました。結果的に、Aさんは「ムダ」な業務を「やめる」ことができたのです。

3)「ムダ・ムラ・ムリ」を「減らして」みる

次に、Aさんは日単位の報告書について、「営業成績は1日でそれほど大きく変わらないし、経営者・各部門長も週に何回かしか確認していない。週2回の報告でもいいのでは?」と考え、関係者の了承を得た上で、報告書を週2回に「減らして」みました。

すると、製造部門からは「生産計画を立てる際の参考にするために、週3回は報告書が欲しい」という要望がありました。また、経営者からも「収益は気になるので、毎日もらう必要はないが、週2回では少ない」との要望がありました。

そのため、Aさんは報告書の提出回数を、週2回から1回増やして月曜日・水曜日・金曜日の週3回に変更しました。それでも報告書を毎日提出していた従来の方法に比べると、回数を「減らす」ことができました。

4)「ムダ・ムラ・ムリ」の原因となるやり方を「変えて」みる

さらにAさんは、報告書を作成するやり方を見直して「ムダ・ムラ・ムリ」を改善しようと考えました。Bさんから、「もっとパソコンを上手に活用すると効率的だよ」というアドバイスを受け、早速、パソコンをもっと活用したやり方に「変えて」みました。

具体的には、これまではエクセル上で足し算をしていたやり方を、関数を使った自動的な集計に変えてみました。同時に、報告書を経営者・各部門長に手渡ししていたやり方を、電子メールで送信するという方法に変更しました。

最初は新しいやり方に手間取った部分もありましたが、慣れてくると、今までよりも1時間以上早く終わるようになりました。従来の方法を「変える」ことで、Aさんは時間の短縮に成功したのです。

このように、「ムダ・ムラ・ムリ」の改善は、企業にとって貴重な経営資源の浪費を防ぐことにつながります。企業は「ムダ・ムラ・ムリ」の発見と改善に積極的に取り組むとよいでしょう。

以上(2018年12月)

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コストダウン意識の高い組織の作り方

書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 コストダウンの意識を持った組織

経営者や経営幹部はもちろん、全ての社員がコストダウンの意識を持つことが理想です。コストダウンの意識を持った組織では、社員は常に「費用(コスト)対効果」を考えて行動し、また、ムダを発見した場合は率先して改善しようと試みます。

こうした組織を作り上げるためには、組織の立ち上げや評価制度の整備が必要になります。「コストダウンの意識を持った組織」作りのステップは次の通りです。

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以降で各ステップの内容を確認していきましょう。

2 「当たり前の意識」を改善

1)課題:「接待」は当たり前?

コストダウンを進める際、長い期間をかけて定着した社員の「当たり前の意識」が邪魔になることがあります。例えば、「接待がなければ顧客との親密な関係が築けない」と考えている営業担当者がいるかもしれません。

そこに突然のコストダウン宣言があり、接待交際費がこれまでの半分しか認められなくなったら、営業担当者は反発するでしょう。こうした当たり前の意識は、他にもたくさんあります。

2)対策:コストダウン推進の理由を説明

当たり前の意識を改善する方法として、経営者の宣言があります。ただし、「コストダウンを進めるので、来年度から接待交際費枠は半分になります」と説明しただけでは不十分です。これでは社員の当たり前の意識とぶつかってしまうでしょう。

ここで経営者が社員に説明しておきたいのは、「コストダウンは決して最終目標ではない」ということです。コストダウンは、新商品開発、営業活動などと同様に利益追求のための取り組みです。

この点を強調しながら、経営者はコストダウンを推進する理由を社員にきちんと説明しましょう。その際、コストダウンを推進しなかった場合の最悪のシナリオ(いくらのコストがムダになっているのか)を示すことが効果的です。

3)効果:社員の「当たり前の意識」が変わる

経営者の説明によって、社員は「なぜ、変わらなければならないのか」に気が付きます。同時に、これまでの当たり前が「本当に当たり前なのか?」と疑問を感じるようになってきます。

例えば、先の「接待」の場合は、「同僚の営業担当者Aは、接待なしでも新規顧客を獲得しているな。本当に接待は必要なのだろうか? もしかすると、接待に頼る営業スタイルに問題があるのかもしれない」といったように変化してきます。

3 「コストダウン推進委員会」の設立

1)課題:コストダウンに対する社員の意識は継続しない?

経営者の説明によって、社員のコストダウンに対する意識は高まります。しかし、そうした意識は、放っておけばすぐに薄らいでしまうため、何らかの仕掛けが必要になってきます。

2)対策:コストダウン推進委員会を設置する

そこで、社員のコストダウンに対する意識を持続するために「コストダウン推進委員会」を設置しましょう。コストダウン推進委員会とは、「コストダウンを推進するために設置される専門チーム」です。

企業規模などによってコストダウン推進委員会の概要などは異なりますが、理想は、経営者が委員長になることです。経営者が出席するだけでも、委員会の場に良い意味での緊張感が生まれます。

また、各部門から少なくとも1人ずつメンバーを選出して全社的なタスクフォースとします。メンバーは、部長クラスなど意思決定権を持つ社員を選出したほうが好ましいといえます。

コストダウン推進委員会では、コストダウン計画を立案します。計画のポイントは、具体的に「どのコストを」「いつまでに」「何%削減する」といった目標を部門ごとに設定することです。

コストダウン推進委員会の活動状況(議事録、決定事項など)は、必ず社員に通知します。全体朝礼・部門別朝礼・回覧物などを利用するとよいでしょう。コストダウン推進委員会の活動は全て社員に伝え、コストダウンに対する意識の統一を図ります。

コストダウン計画の対象期間が終了した時点で、コストダウン計画の実効性を確認し、見直しを行います。その際、目標を達成した部門と未達成の部門にヒアリングを行い、双方で相違点がないかを確認してみましょう。

もしかすると、達成組には「部長が先頭に立って部全体でコストダウンに取り組む強い機運が生まれていた」「定期的にコストダウンミーティングを開き、効果を検証していた」など、未達成組にはない動きがあったかもしれません。

3)効果:社員はコストに対する意識を高めていく

コストダウン推進委員会は、コストダウンを進める上で大きな権限を持つタスクフォースです。ここがきちんと機能していれば、社員はコストダウンに対する意識を高め、それを持続することができるでしょう。

4 小規模な「分科会」の設置

1)課題:他人任せの社員が出てくる

コストダウン推進委員会は、総務部門、製造部門など各部門に具体的なコストダウンの目標を与えます。しかし、部門全体の目標の場合、個々の社員は「自分がやらなくても、同僚がやってくれるだろう」と考えてしまいがちです。

2)対策:小規模な分科会を設置する

社員にコストダウンに対する責任を持ってもらうためには、コストダウン推進委員会が決定した各部門のコストダウンの目標を、個々の社員の業務目標に置き換える必要があります。

例えば、総務部門の中に「冷暖房の設定温度に気を配り、光熱費のコストダウンを推進するチーム」「オフィス備品購入のコストダウンを推進するチーム」といったような、小規模な分科会を設置し、それぞれが責任を持って活動します。

3)効果:個々の社員が責任を持ってコストダウンに取り組む

分科会を設置し、コストダウンの目標の達成に対する責任の所在を明確にすることで、社員はこれまで以上に強い責任を持ってコストダウンに取り組むようになるでしょう。

5 評価する仕組みを作る

最後に、コストダウンを推進する際、企業(経営者)と社員の関係を良好に保つための取り組みを紹介します。コストダウンを成功させるために、ある程度の責任を社員に課すことは重要です。しかし、責任があまり重過ぎてはいけません。

多くの社員はコストダウンにマイナスのイメージを抱いており、責任まで問われることになれば大きな負担に感じます。こうした問題に対応するために、コストダウンへの取り組みを評価できる仕組みを構築することです。

例えば、経営者が目標を達成した部門(総務部門)や分科会(光熱費チームなど)を表彰し、賞金を出します。また、コストダウンの目標達成手当を作ることや、コストダウンへの意欲的な姿勢を人事考課の対象とするなどの方法もあります。

正しいコストダウンを推進するには、個々の社員が当たり前の意識を改善し、責任を持ってコストダウンに取り組むことが必要です。そのためには、コストダウン推進委員会の設置と、評価体制の整備が非常に重要なポイントになるといえるでしょう。

以上(2018年10月)

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新しい収益認識基準で考える ITサービスの会計・税務上のポイント

書いてあること

  • 主な読者:大企業を相手に定額利用サービスを提供している企業の経営者・経理担当者
  • 課題:取引相手が大企業である場合には、実態に即した契約内容に修正を求められるなどの手続きが生じる可能性がある
  • 解決策:ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを念頭に、収益の計上時期や、処理の判断が難しい取引の会計上の取り扱い、および税務上の留意点を解説

1 様々な分野に広がるサブスクリプション取引とは

サブスクリプション取引とは、定額課金により一定期間サービスを提供する取引をいいます。新聞や雑誌の定期購読など、定額課金によるサービスは以前から存在していましたが、近年では、ソフトウエアのライセンス供与や動画・音楽配信サービスの他、自動車や洋服など様々な分野でもサブスクリプション取引が広がっています。

本稿では、サブスクリプション取引の典型例として、ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを念頭に、収益の計上時期や、処理の判断が難しい取引の会計上の取り扱い、および税務上の留意点について解説します。

2 サブスクリプション取引の会計上の問題~新しい収益認識基準~

企業がサブスクリプション取引を行う場合、販売側の企業では会計上収益を計上することになります。しかし、従来の会計基準では、企業会計原則に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とされているのみで、収益認識に関する詳細な基準は定められていませんでした。

これが、2018年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「会計基準」)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」といい、会計基準と適用指針を合わせて「収益認識基準」)が公表され、収益認識に関する包括的な会計基準が定められました。

収益認識基準の適用時期は2021年4月1日以降開始の事業年度からですが、現時点でも任意適用することができます。以降では収益認識基準を参考に、サブスクリプション取引の会計上の取り扱いを解説します。

3 販売側の会計上の取り扱い

1)収益の計上時期

ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを提供する企業は、収益認識基準に基づいて収益計上を行う場合、ライセンス供与の性質が次のいずれであるかによって計上時期の判定を行います(適用指針62項)。

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ライセンス供与後も随時ソフトウエアのアップデートが行われると想定される場合は上記の(2)に該当し、一定期間(契約に基づくサービス期間)にわたり分割して収益を計上します。また、ライセンス供与後のアップデートが予定されていない場合は上記の(2)に該当し、ライセンスの供与を開始した時点で一括して収益を計上します。

2)収益の計上単位

次に、ソフトウエアのライセンス供与は、インストール・サービス、ソフトウエア・アップデートおよびテクニカル・サポートなどとともに、同一の契約で提供される場合があります。このような場合、各サービスが「一体のもの」か、「別個のもの」かによって収益の計上方法が異なります。

収益認識基準では、顧客に提供するサービスなどについて、次の要件をいずれも満たす場合は別個のものとすると定めています(会計基準第34項)。

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ソフトウエアがソフトウエア・アップデートやテクニカル・サポートなどがなくても機能し続けるような場合は、上記(2)の要件を満たすと考えられます。また、各サービスを独立して履行することができ、各サービスの依存度合いや関連度合いが高くないといえるような場合は上記(2)の要件を満たすと考えられます。

各サービスが別個のものと判定される場合、サービスごとに区分して収益認識を行うことになります。

3)収益の額の算定

ソフトウエアのライセンスの定額利用サービスでも、完全定額制ではなく、利用量が一定水準を超えた場合は従量課金となる場合があります。このように、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を、収益認識基準では「変動対価」と定義し、変動対価の額の見積もりによる会計処理を行わなければなりません。

見積もりに当たっては、発生し得ると考えられる対価の額を最も可能性の高い単一の金額(最頻値)とする方法か、発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額(期待値)とする方法のいずれかのうち、対価の額をより適切に予測できる方法を用いることとされています。また、サービス期間が決算をまたぐ場合には、上記の見積もりについて決算時に金額を見直す必要があります。

4 購入側の会計上の取り扱い

ソフトウエアのライセンスの定額利用サービスを購入している企業においては、通常はサービス利用期間を通じて均等に費用計上することになると考えられます。

ただし、費用を一括で前払いしている場合には、支払い時に前払費用として資産計上し、利用期間にわたって費用に振り替える会計処理が必要になると考えられます。

また、支払形態は定額課金であったとしても、実態としてはソフトウエアの買い切りであると考えられるような取引の場合は、無形固定資産として計上し、使用期間に応じて償却を行うことも考えられます。

5 中小企業の場合

一般的な中小企業の会計処理は、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」等によることが認められていますが、収益認識基準はこれらの会計ルールに反映されていません(任意に適用することは可能です)。

従って、一般的な中小企業においては、収益認識基準による厳格な会計処理は求められず、収益認識については従来通り実現主義による会計処理(サービスの提供が終わった時点で、かつ対価が確定したときに収益計上)で問題ありません。

ただし、前述した「収益の計上単位」がそれぞれのサービス(インストール・サービス、テクニカル・サポートなど)ごとに別個のものと判断される取引で、かつ取引相手が大企業である場合には、実態に即した契約内容に修正を求められるなどの手続きが生じる可能性があります。近年、サブスクリプション取引は様々な分野に広がっているため、中小企業においても無視できないトピックであることは間違いありません。

6 税務上の留意点

1)法人税について

法人税法上、益金の額および損金の額は、原則として「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理することとされており、サブスクリプション取引の場合、益金として計上すべき時期は「サービス提供が完了したタイミング」となります。

従って、会計上の取り扱いと同様に「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利」であれば一定期間にわたり分割して益金を認識し、「ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利」であればライセンスの供与を開始した時点で一括して益金を認識します。

なお、税務上、変動対価については次の要件のすべてを満たす場合に所得として認めることとしています。会計上はこういった要件がないため、会計上と税務上で相違する点となりますが、実務的には会計上もこの要件を参考に収益の額を見積算定することが多いと思われるため、実質的な相違はないと考えられます。

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2)消費税について

サブスクリプション取引について、会計上と法人税との間に差異が発生する可能性は低いと考えられます。ただし、消費税については一定の影響が生じます。主な理由は消費税では、「変動対価の見積計上」を認めていないため、会計上、変動対価を計上している場合には、課税売上(消費税の計算上の売上)を計算する上で所定の調整が必要になると考えられます。

3)その他の留意点

一般的な中小企業の会計処理は、従来通り「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」などによることが認められています。従って、一般的な中小企業においては、収益認識基準による厳格な会計処理は求められず、収益認識については従来と取り扱いが変更になることはありません。

以上(2019年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士・税理士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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課税強化が進む「国外財産」に関する申告制度

書いてあること

  • 主な読者:国外に財産を有する経営者
  • 課題:現在の国外財産に関する税務手続きや、税務当局の情報収集の方法を知りたい
  • 解決策:2017年1月に創設・開始された2つの制度を解説した上で、その他の国外財産に関する申告制度をまとめる

1 強まる国外財産に関する情報収集

近年、税務当局は国民の資産に関する情報収集を強めています。背景には、高齢化に伴う相続件数や国外転出者の増加などが考えられます。また、複雑化する国外財産の移転手段などにより、国内の情報だけでは、正確に資産状況を把握することが難しくなっており、近年では各国の税務当局が連携して、自動で情報を交換する制度(詳細は後述)も始まっています。本稿では、まず、2017年1月に創設・開始された2つの制度を解説した上で、その他の国外財産に関する申告制度をまとめます。

2 国外財産に対する課税の動向

1)財産債務調書制度

最近の海外資産の申告制度に関する税制改正のひとつに、財産債務調書制度の創設があります。

この制度により、一定以上の所得や資産などのある個人は、「財産債務調書(国内・国外にある財産の一覧)」をその年の翌年の3月15日までに提出しなければなりません。

なお、財産債務調書の提出が必要な個人とは、所得税の確定申告書を提出しなければならない人で、かつ、次のいずれの要件も満たす者をいいます。

  • その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2千万円を超える者
  • その年の12月31日時点で、その価額の合計額が3億円以上の財産を有する者、または、その価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する者

財産債務調書を未提出であったとしても、罰金や懲役、加算税といった直接のペナルティーは設けられていません。しかし、財産債務調書を提出しているかどうかは、後に申告漏れが見つかったときのペナルティーに影響してきます。

財産債務調書を期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産または債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、過少申告加算税等が5%軽減されます。一方、財務債務調書を提出していない場合に、所得税・相続税の申告漏れが生じたときは、過少申告加算税等が5%課されます。

2)共通報告基準(CRS)

国外では、租税条約による各国の相互情報交換が進み、海外資産に対する課税が強化されています。

外国の金融機関などを利用した国際的な脱税や租税回避に対処するため、OECD(経済協力開発機構)において、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(以下「CRS:Common Reporting Standard」)」が公表され、日本を含む各国がその実施を約束しました。この基準に基づき、まずは各国の税務当局は、自国に所在する金融機関の情報の報告を受けます。

そして、租税条約等の情報交換規定に基づいて、その非居住者の居住地国(例えば、日本人が国外の金融機関に預貯金等を有する場合には日本)の税務当局に対して、その情報を提供します。

CRSにより、これまで各国の税務当局が把握することが困難であった租税回避行為の情報を、タイムリーに知ることができるようになります。

3 その他の国外財産に関する申告制度

1)国外送金等調書制度

国外送金等調書制度とは、国外への送金または国外から送金を受領した金額が100万円を超えた場合に、金融機関が「国外送金等調書」を税務署に提出することをいいます。

なお、国外送金等調書には、次の事項が記入されます。

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国税当局にとっては、海外取引に係る資金の流れや国外財産を把握するための重要な情報源となっています。この制度は、納税者自身ではなく、金融機関に提出が義務付けられているものであるため、100万円を超える国をまたいだ資金移動は、確実に国税当局が把握することになります。

2)国外証券移管等調書制度

国外証券移管等調書制度とは、国境を越えて有価証券の証券口座間の移管を行った場合に、証券会社が「国外証券移管等調書」を税務署に提出することをいいます。この制度も、納税者自身ではなく、証券会社に提出が義務付けられているものです。

3)国外財産調書制度

国外財産調書制度とは、その年の12月31日において、価額の合計額が5000万円を超える国外財産を有する個人(国内に住所を有し、または現在まで引き継いで1年以上居所を有する非居住者以外の居住者)が、「国外財産調書(国外にある財産の一覧)」を税務署に提出することをいいます。

なお、居住者のうち国外財産調書の提出が不要となる非居住者とは、日本の国籍を持たず、かつ過去10年以内に日本に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の個人です。

4 実務家からのアドバイス

これまで見てきた通り、近年、海外資産に対する課税は強化されています。特にCRSの導入により、最新の海外資産の情報が送られることになります。これらの情報が、今後の税務調査に活用されることは間違いないでしょう。

また、「財産債務調書」と「国外財産調書」の両調書に「質問検査権」の規定を設けました。質問検査権の規定を設けることは、両調書に対して税務署が税務調査を行えるということです。税務当局がこの両調書をいかに重要視しているのかをうかがい知ることができます。

税務署が国外財産の存在を把握するのは時間の問題と捉えて、もし申告漏れが発覚した場合などには自主的に、かつ速やかに申告するようにしましょう。

以上(2019年9月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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「印紙税」の概要と税理士が教える実務のポイント

書いてあること

  • 主な読者:実務で印紙を取り扱う営業担当者、経理担当者
  • 課題:印紙を貼り忘れたり、金額を間違ったりすることがある
  • 解決策:印紙税の概要と実務上のポイントを知る

1 印紙税とは

1)印紙税と納税者

印紙税とは、契約締結時や代金を領収したときなどに作成される文書に対して課される流通税(財産が動くときに課される税)です。

工事請負契約書や不動産売買契約書、領収書などに決められた印紙を貼り、印鑑や署名で消印することで納税します。また、預貯金通帳など、特定の文書については、印紙を貼ることに代えて、納税義務者が申告することで納付金額を確定させる申告納税方式も認められています。

印紙税の納税義務は課税文書を作成したときに発生し、課税文書の作成者は、その作成した課税文書ごとに、印紙税を納める義務があります。「作成した時」の判定は、課税文書の作成目的などによって異なります。印紙税の納税義務が生じるタイミングは次の通りです。

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なお、複数の人が共用して一つの課税文書を作成した場合は、作成をした人全員に連帯納付義務が発生します。

2)印紙税の貼り漏れがあった場合

印紙税の貼り漏れがあった場合、課税文書の作成者から、納付しなかった印紙税額とその2倍に相当する金額との合計額、つまり、合計で3倍の金額に相当する過怠税が課税されます(200円の場合は、600円)。

印紙の貼り漏れがあることを自主的に所轄税務署長に申し出た場合、貼り漏れていた印紙税の金額と、その印紙税の額に100分の10の割合を乗じて計算した金額を加えた金額が過怠税となります(200円の場合は、220円)。

なお、印紙は貼ったものの、消印がない場合には、消印されていない印紙の税額と同額の金額が過怠税となります(200円の場合は、200円)。

2 印紙税が課される課税文書とは

1)課税文書とは

課税文書(印紙税が課税される文書)とは、国税庁「印紙税額一覧表」(以下「一覧表」)に記載されている20種類のいずれかの文書に該当するもので、課税事項を証明する目的で作成された文書をいいます。ただし、一覧表の右側に掲載されている非課税文書(一定の金額以下のものなど)を除きます。

2)課税文書に該当するかどうかの判定のポイント

課税文書に該当するかどうかについては、その文書に記載されている個々の内容について判断します。そのため、一覧表にはない文書の名称(見積書や請求書など)でも、その文書に記載されている文言の実質的な意義に基づいて課税文書かどうかを判断します。例えば、契約書は、契約の成立を証明する文書だけでなく、契約の変更をする際の文書、契約の更新、内容変更、内容の補充を証明する文書など、重要事項の契約に関連する文書すべてが課税文書となります。

■国税庁「印紙税額一覧表」■
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/tebiki/pdf/08.pdf

なお、課税文書の種類ごとの内容と印紙税額については、以下コンテンツをご参照ください。

▶ 30015 「いくらの印紙を貼るのか?」を分かりやすくまとめています

3 税理士に聞く 印紙税Q&A

1)電子契約書の場合の取り扱いは?

近年では、紙の代わりに電子データ上で取り交わす契約書(電子契約書)が広がっています。電子契約書の場合には、印紙税は課税されません

前述の通り、印紙税は課税文書の作成者が納税者となります。ここでいう「作成」とは、紙の書面にて交付することをいいます。つまり、電子契約は紙の書面ではないので課税文書の「作成」に該当せず、印紙税は課税されないということになります。

2)子会社や社員と、会社が締結した契約書の取り扱いは?

まず、子会社との間で締結した契約書については、収入印紙の貼付が義務付けられております。次に社員と会社が締結した契約書については、契約の内容に応じて取り扱いが変わってきます。どのような雇用形態であっても、雇用契約書の内容が請負契約である場合については印紙が必要となります

3)海外企業と契約を締結した場合の取り扱いは?

印紙税は日本国内の法律なので、その適用地域は日本国内に限られます。従って、課税文書が国外で作成されるときは、国内でサービスを受ける場合や日本国内で文書を保存する場合でも課税されません

その文書が、いつ・どこで作成されたのかということと、その文書の効力が生じるタイミングが重要となります。つまり、効力が生じるときに国内で文書が作成された場合は、印紙税が課税されることになります。

4)「覚書」に印紙は必要?不必要?

「覚書」についても印紙が必要となるケースがあります。印紙が必要か否かの判断は、その作成した覚書が課税文書に該当するか否かで判断をします。「契約書」か「覚書」か、文書の名称で判断をするのではなく、前述の「課税文書に該当するかどうかの判定のポイント」に記載されている内容に合致した場合、課税されることとなりますので注意が必要です。

5)レシートに印紙が貼られていなかった場合は、受け取った側も問題があるの?

レシートや契約書に印紙の貼付がなかった場合でも、課税文書自体は有効です。また、この場合、印紙税の納税者は、あくまでも「課税文書の作成者」になりますので、受け取った側は特に問題はありません。

6)一つの文書に複数の金額記載がある場合の取り扱いは?

一つの文書に複数の金額記載がある場合、印紙税は契約書に記載されている金額の合計額で判断をすることになります。

以上(2020年8月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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会計基準とは? 日本基準・IFRS・米国基準の違いを整理しよう

書いてあること

  • 主な読者:将来IPOを考えている経営者
  • 課題:日本の上場企業のすべてが、同じ会計基準を採用しているわけではない
  • ポイント:日本基準、IFRS、米国基準それぞれの背景や適用範囲、代表的な違いについて紹介

1 1つだけではない会計基準

会計基準とは、主に財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)の作成ルールのことをいいます。会計のルールは、各国において慣行や法令などで定められており、日本には日本の会計基準(以下「日本基準」)があります。ただし、代表的な日本企業をいくつか見てみると、全ての企業が日本基準を適用しているわけではありません。

現在、国内において適用が認められている会計基準としては、日本基準の他に、国際財務報告基準(以下「IFRS」)、米国の会計基準(以下「米国基準」)があります。この他に修正国際基準(いわゆる「日本版IFRS」)も認められていますが、現時点で適用している企業はほとんどないと思われますので、説明は省略します。

これらの会計基準は、基本的には上場企業に適用が義務付けられているものですが、近年、売上計上基準やリース基準などについて、IFRSの改定を受けて、日本基準や中小会計指針(中小企業向けの会計ルール。詳細は後述)が変わるという報道を目にする機会が増えています。

会計基準が違うと、同じ項目であっても、意味する数値が異なっていたり、財務諸表の項目が異なっていたりします。なぜ、異なる会計基準を適用するのかや、それぞれの会計基準の特徴を知ることは、他社の財務分析をする上で欠かせません。

本稿では、日本基準、IFRS、米国基準それぞれの背景や適用範囲、代表的な違いについて紹介します。

2 それぞれの会計基準の背景と適用範囲

1)日本基準とは

日本基準は、日本において一般に公正妥当と認められる「公正なる会計慣行」を規範としています。公正なる会計慣行とは、「企業会計原則」(1949年に大蔵省企業会計審議会が制定)を中心に、同審議会が設定した会計基準と、2001年より会計基準の設定主体となった企業会計基準委員会が設定した会計基準を併せたものから構成されます。

2)IFRSとは

IFRSとは、国際会計基準委員会(IASB)が設定する会計基準です。日本基準や米国基準などのように各国において定められたルールとは異なり、国際的な会計ルールとして適用される目的で設定されています。

2005年からEU域内の上場企業に対して、IFRSの適用が義務付けられたことをきっかけに、現在では世界中で普及しています。

日本においても、金融商品取引法における連結財務諸表の作成に、IFRSを適用することが認められ、現在では200社を超える企業が適用しています。

3)米国基準とは

米国基準は、米国において一般に公正妥当と認められる会計基準をいい、会計基準を設定する機関として米国財務会計基準審議会(FASB)があります。

かつては米国の証券市場に上場する場合、外国企業であっても米国基準で財務諸表を作成する必要がありました。このため、米国の証券市場に上場する日本企業は米国基準で財務諸表を作成しなければならず、当該企業に対しては、日本においても金融商品取引法における連結財務諸表の作成に、米国基準を適用することが認められています。

しかし、現在では、米国でも外国企業に対しIFRSの適用が認められており、米国証券市場に上場している企業も米国基準からIFRSへ移行する企業が相次いでいるため、米国基準を採用する日本企業は減少傾向にあります。

4)IFRSや米国基準の適用範囲

わが国において適用を認められている会計基準として、日本基準の他にIFRSや米国基準があると述べましたが、その適用範囲は原則として金融商品取引法における連結財務諸表に限定されます。つまり、個別財務諸表については適用することができません。

また、IFRSは上記範囲の財務諸表に任意適用が認められていますが、米国基準は米国上場企業(例えばソニー、トヨタ自動車など)にしか認められていません。

さらに、米国上場企業の中にも米国基準からIFRSに移行ないし移行予定の企業が増えており、現在では米国基準を採用する企業は十数社にすぎません。IFRSが会計の世界標準となる中、今後米国基準を新たに採用する日本企業はほとんど出てこないことも考えられます。

個別財務諸表については日本基準しか認められていませんので、株主総会に提出される決算書や税務申告のための決算書は、日本基準で作成する必要があります。

そのため、一般的な中小企業においてIFRSや米国基準は選択肢になりませんが、今後上場を目指して準備中の企業においては、連結財務諸表のみIFRSの適用が選択肢となり得ます。

5)(参考)中小企業のための会計ルール

上場企業や一部の大企業などにおいては、会計監査が義務付けられており、上記いずれかの会計基準に準拠した財務諸表を作成する必要があります。

一方、一般的な中小企業においては、会計基準を厳格に適用せず、税務申告のための決算書のみ作成しているのが実情です。特に会計上は費用計上すべきにもかかわらず、税務上損金として認められないもの(例えば退職給付費用、賞与引当金繰入額など)は、費用計上していない企業が大半です。

このような実情を受け、中小企業においても一定水準の会計ルールを適用することを目的に、「中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)」が策定されています。これは、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所および企業会計基準委員会の4団体が、法務省、金融庁および中小企業庁の協力のもと、中小企業が計算書類を作成するに当たってよるべき指針を明確化するために作成し、2005年に公表したものです。中小企業向けとはいえ、一定水準の会計ルールとするため、IFRSの改定による影響も受けることになります。

また、中小会計指針に準拠した財務諸表の作成であっても相応の負担が生じることから、中小会計指針に比べて簡便な会計処理である「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」も策定されています。これは、中小企業団体、金融関係団体、企業会計基準委員会および学識経験者が主体となって設置された「中小企業の会計に関する検討会」が、中小企業庁、金融庁および法務省の協力のもと策定したものであり、2012年に公表されています。

3 知っておきたい会計基準の主な違い

1)のれんの会計処理

のれんの会計処理には大きな違いがあります。日本基準ではのれんの定期償却が義務付けられていますが、IFRSや米国基準では定期償却を行いません。

なお、IFRSでは、定期償却を行わないものの、毎期買収した企業の収益性をテスト(減損テスト)し、回収可能価額がのれんの帳簿価額を下回る場合には、損失を計上しなければなりません(減損処理)。

2)各段階損益

日本基準では、損益計算書において、営業利益、経常利益、当期純利益という各段階損益が表示されますが、IFRSと米国基準ではこのような区分がありません。本稿では詳細な説明は省略しますが、異なる会計基準では、それぞれの損益の意味(計算過程に含まれている項目)が異なります。

それぞれの会計基準を適用している企業の損益計算書(各段階損益抜粋)を並べると次のようになります。

画像1

このようにIFRSを適用している企業の損益計算書には、経常利益の区分がなく、特別利益・損失の区分が認められていません。また、日本基準であれば営業外収益・費用に計上される項目が金融収益・費用とそれ以外に区別され、後者は営業利益の構成要素となっています。

3)売上計上基準

現時点では日本基準とIFRS・米国基準で売上計上時期や金額に差異が生じるケースがあります。例えば、日本基準では売上高と販売促進費(ポイント還元費用など)などをそれぞれ総額で計上しているケースにおいて、IFRS・米国基準では販売促進費等を実質的な売上値引きとみなし、売上から控除するといった違いがあります。

なお、日本基準ではこれまで売上高などの収益全体を取り扱う会計基準がなく、実務慣行に基づき売上計上を行ってきました。しかし、IFRSと米国基準が共同で収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、2014年に公表したことを受け、わが国でも「収益認識に関する会計基準」を作成、2018年に公表するに至りました。当該基準の適用が義務付けられる2021年4月1日以降開始の事業年度からは、日本基準とIFRS・米国基準で基本的には違いがなくなります。

4)リース基準

IFRSでは原則として全てのリース取引について資産計上するルールとなっていますが、日本基準では、一部のリース取引については資産計上せずに、リース料支払時に費用(支払リース料などとして)処理するルールがあります。ただし、日本基準でも同様のルール(全てのリース取引を資産計上するルール)を導入する方向で会計基準の開発に関する検討を進めています。

4 IFRSを会計基準として選択する理由

日本企業は、通常であれば日本基準に基づき財務諸表を作成しますが、金融商品取引法における連結財務諸表についてはIFRSや米国基準(米国証券市場に上場している企業のみ)を選択することができます。

前述の通り、今後、米国基準を選択する日本企業はレアケースと思われますので、ここでは日本基準でなくIFRSを選択する理由について説明します。

企業が連結財務諸表作成に際しIFRSを選択する主な理由としては、次のものが考えられます。

1)のれんの会計処理

M&Aを積極的に行う企業においては、IFRSを導入することにより毎期の利益額が大きくなりますので、これをメリットと考える企業は少なくありません。

M&Aを実施する際、買収対象企業の純資産よりも買収金額のほうが大きい場合、その差額がのれんとして資産計上(一部無形資産として計上するケースもある)されます。日本基準ではのれんを毎期償却(毎期一定の償却費用が計上される)しなければならないのに対し、IFRSでは定期償却が必要ないため、利益額はIFRSを適用したほうが大きく見せることができます。

2)財務諸表の国際的な比較可能性

IFRSは会計基準の世界標準となっているため、海外の投資家らに企業内容を理解してもらうことが容易になり、資金調達などの選択肢が増えることはメリットといえます。また、海外に多くの子会社を持つ企業であれば、グループ企業の会計基準をIFRSに統一することで、経営管理が容易になります。

他方で、IFRSを導入するデメリットとしては、事務負担やコスト増が挙げられます。これまでの日本基準での財務諸表をIFRSで作成するためには、多大な事務負担が生じる上、IFRS導入のためのアドバイザリー費用やシステム対応費用など、コスト面での負担も大きくなります。

これらのメリットとデメリットを勘案して、メリットのほうが大きいと判断した企業がIFRSを導入し、そうでない企業は従来通り日本基準を採用することになります。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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