うま味調味料の代替品となる調味料

書いてあること

  • 主な読者:調味料を製造したり、原料として使用したりする食品メーカー
  • 課題:既存のうま味調味料の代替品を探している
  • 解決策:従来のうま味調味料の代替品として、ビール酵母やパン酵母を原料として生産する「酵母エキス」などが利用されている

1 うま味調味料とその他の調味料の特徴の比較

アミノ酸の効果により、料理にうま味を利かせるうま味調味料は、汎用性や保存性、コスト面に優れており、一般家庭でも広く使用されています。うま味調味料の代替品として、酵母エキス、エキス調味料、たんぱく加水分解物、魚醤・塩こうじなどが想定されます。

図表は、うま味調味料と、その代替品として想定される調味料の特徴を比較したものです。調味料ごとに特徴があるので、使用目的や、使用者が重視するポイントに合わせて選択するのが望ましいといえるでしょう。

なお、図表の評価は2020年4月17日時点における業界団体や調味料メーカーなどの情報を基に作成した一例であり、それぞれの調味料の特徴を正確に比較したものではありません。さまざまな評価がありますし、今後の商品開発や製品分析の研究の進展などによっても、評価が大きく変わる可能性があります。

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次章以降では、それぞれの調味料の特徴や、うま味調味料の代替性について紹介します。

なお、うま味調味料やその代替品に関しては、「化学調味料」「天然素材」などとの表現で区別されることもあります。原材料や製造過程を理解しないままに呼び方だけが先行している部分もあり、実際に「化学」的な調味料と「天然」の調味料の線引きをするのは困難な面があります。

従って本稿では、それぞれの調味料への理解を深めるためにも、原材料や製造過程を含めて紹介していくことにします。

2 既存のうま味調味料

現在、最も一般化しているうま味調味料は、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムの3物質で作られています。グルタミン酸はアミノ酸系で、昆布やチーズ、野菜などに多く含まれます。残りの2物質は核酸系で、イノシン酸はかつお節や肉類、グアニル酸は干ししいたけに多く含まれています。それぞれに水酸化ナトリウム溶液を加えると3物質になります。

「味の素」の場合、グルタミン酸ナトリウムが97.5%、残り2物質が各1.25%で構成されています。味の素のウェブサイトなどによると、グルタミン酸ナトリウムの製造方法は、まずサトウキビを搾って取り出した糖蜜を発酵液の入ったタンクに入れ、他の栄養素とともに加熱殺菌します。その後「グルタミン酸生産菌」を加えて発酵させると、発酵過程でグルタミン酸生産菌が糖分を取り込んでグルタミン酸を作ります。発酵液を酸性にすることでグルタミン酸を結晶化させて分離し、これに水酸化ナトリウム溶液を加えてグルタミン酸よりも水に溶けやすいグルタミン酸ナトリウムを合成します。ろ過して不純物を取り除いたものを乾燥させると、グルタミン酸ナトリウムの結晶ができます。

一連の製造過程を踏まえて、うま味調味料を「化学調味料」と見なすかどうかは意見が分かれているようですが、食品衛生法では3物質を食品ではなく食品添加物に指定しています。

3 酵母エキス

近年、従来のうま味調味料の代替品として、ビール酵母やパン酵母を原料として生産する「酵母エキス」が使われるケースが見られます。酵母エキスは液体タイプだけでなく、ペーストタイプや粉末タイプも開発されています。食品添加物に分類されていないため、「無添加」「化学調味料不使用」を強調する加工食品に含まれていることも多いようです。健康志向の消費者向けにも訴求できることから、需要の伸びが期待されており、既存のうま味調味料のメーカー以外も積極的に酵母エキス調味料の製造に参入しています。

酵母エキスとは、発酵液が入ったタンク内で酵母を培養・増殖させ、酵母に含まれるアミノ酸やペプチド、核酸などの成分を抽出したものです。酵母の細胞壁を溶解して内容物を抽出しますが、細胞壁を溶解する方法は酸・アルカリ処理や酵素処理などがあります。酸処理は塩酸など、アルカリ処理は水酸化ナトリウムなどを使用します。酵素処理には、酵母菌自体が持つたんぱく質分解酵素および核酸分解酵素などで分解する「自己消化」処理と、他の分解酵素を加えて処理する方法とがあります。成分を抽出した後は、遠心分離やろ過で不純物を取り除き、乾燥もしくは濃縮させてペーストや粉末などに加工します。

原料の酵母や製造方法によってアミノ酸などのうま味成分の含有量や割合が異なってきますし、近年ではうま味を強めるために、グルタミン酸の生成能力の高い酵母菌の選抜や、加水分解酵素などの酵素を加えてグアニル酸やイノシン酸を増やす方法も開発されているようです。

酵母エキスは基本的に天然の原料を用いて製造されているようですが、工業的な製造手法などを指摘して、「自然には存在しないもの」「自然な成り立ちではない」との意見も一部にあります。

酵母エキス調味料の主な商品は、次のウェブサイトに掲載されています。

■アサヒグループ食品「ハイパーミーストHG」■
https://www.asahi-fh.com/products/wholesale/yeast-extract02.html
■三菱商事ライフサイエンス「酵母エキス・アミノ酸事業」■
https://www.mcls-ltd.com/business/yeast.html
■富士食品工業「酵母エキス」■
https://www.fuji-foods.co.jp/product_process/div_01.html
■大日本明治製糖「コクベースシリーズ」■
https://www.dmsugar.co.jp/products/seasoning/kokubase.html

4 エキス調味料

肉・魚類、野菜など自然の素材からうま味成分を抽出したのが「エキス調味料」と呼ばれる調味料です。2003年9月に日本エキス調味料協会も発足しています。エキス調味料は「天然調味料」とも表現されており、健康・本物志向の消費者などからの支持を得ています。ただし、1種類の調味料で多くのシーンに使えるという、うま味調味料の特徴でもある汎用性や保存可能期間の点から、うま味調味料の代替としてのニーズはそれほど高くないとみられます。

■日本エキス調味料協会■
https://ekisu.jimdo.com/

エキス調味料の主な商品は、次のウェブサイトに掲載されています。

■日研フード■
http://www.nikkenfoods.co.jp/overview/lineup.html
■イズミ食品■
http://izumi-syokuhin.com/product/
■焼津水産化学工業■
https://www.yskf.jp/product/l-seasoning.html
■仙味エキス■
http://www.senmiekisu.co.jp/material.html
■久原本家グループ「茅乃舎(かやのや)」■
https://www.kayanoya.com/products/

5 たんぱく加水分解物(アミノ酸混合物)

原料となる素材のたんぱく質をアミノ酸に分解したものです。「食品添加物」には当たりませんが、分解する際に塩酸などを用いると、人体への有害性が指摘されているクロロプロパノール類が生成されることが指摘されています。農林水産省もウェブサイトで「食品中のクロロプロパノール類及びその関連物質に関する情報」を掲載しており、「その量によっては健康に悪影響を及ぼす可能性があります」と注意を喚起しています。

■農林水産省「食品中のクロロプロパノール類及びその関連物質に関する情報」■
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/c_propanol/

6 魚醤・塩こうじ

消費者の健康志向の中で、天然由来の魚醤や塩こうじといった、古来使われているうま味を引き出す調味料が再び注目されているようです。魚醤には秋田県の伝統調味料である「しょっつる」、タイの「ナンプラー」も含まれます。ただ、魚醤や塩こうじは基本的に液体やペーストであり、開封後の保存可能期間の面で劣ることや、うま味調味料と比べて塩分が多いという点でも、うま味調味料の代替として使用されるケースは少ないと考えられます。

以上(2020年6月)

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画像:pixabay

日本におけるサンショウの需給

書いてあること

  • 主な読者:サンショウを使った食材の開発などで、サンショウの取引を始めたい経営者
  • 課題:サンショウの国内市場の構造や需給が分からない
  • 解決策:サンショウの国内における生産状況や消費動向を知る

1 日本におけるサンショウの作付けについて

1)サンショウの栽培面積、収穫量、出荷量

農林水産省「特産果樹生産動態等調査」によると、サンショウは、かんきつ類以外の果樹(落葉果樹)に含まれます。サンショウの栽培面積、収穫量、出荷量の推移は次の通りです。

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2017年のサンショウの栽培面積は約333ヘクタール、収穫量は約736トン、出荷量は約728トン(うち加工向けが約541トン)となっています。

2)サンショウの主要産地

農林水産省「特産果樹生産動態等調査」によると、サンショウの主要産地(2017年)は次の通りです。

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栽培面積、収穫量、出荷量ともに第1位は和歌山県です。和歌山県内の主要産地は、有田郡有田川町、海草郡紀美野町、紀の川市で、品種は実が大きく肉厚な「ぶどうサンショウ」です。

有田川町では、未熟果(生サンショウ)が5月上旬から6月上旬に収穫されます。生サンショウはつくだ煮やちりめんサンショウなど、食用に加工されます。香辛料の七味などに利用されるサンショウは7月上旬から8月中旬に収穫され、乾燥した後に乾(ひ)サンショウとして出荷されます。

■有田川町「ぶどう山椒」■
https://www.town.aridagawa.lg.jp/top/kanko/6/3238.html

2 日本におけるサンショウの消費について

1)サンショウの主な用途

サンショウは、部位によってさまざまな用途に利用されています。

  • 木の芽(葉サンショウ):薬味、香辛料
  • 雄株の花(花サンショウ):酢漬け
  • 未熟果(生サンショウ):つくだ煮、ちりめんサンショウ
  • 成熟果(乾サンショウ):香辛料、漢方薬
  • 樹皮:みそ漬け、しょうゆ煮
  • 幹:すりこぎ

2)食品用サンショウの主な実需者

香辛料や調味加工食品の製造を手掛けるエスビー食品、ハウス食品グループ本社(ハウス食品、ギャバン、朝岡スパイス)、ユウキ食品(ブランド名はマコーミック)、ヤスマ(ブランド名はマスコット)などの食品メーカーが、乾サンショウの主な実需者として挙げられます。

これらの実需者による主な加工製品は、乾サンショウのホールタイプの商品の他、乾サンショウを粉砕した「粉サンショウ」があります。その他、コメからつくった油に粉サンショウを加えた「山椒香味油」や、蒸留液にサンショウなどを漬け込んで香りを引き出した後に再蒸留した「プレミアムジン」などに加工している実需者もいます。

3)漢方薬原料用サンショウの消費について

東京生薬協会のウェブサイトによると、サンショウは漢方処方薬として冷えによる腹痛や膨満感を治療する薬方に配合される他、芳香性健胃薬などの原料となります。日本特産農産物協会「地域特産作物(工芸作物、薬用作物及び和紙原料等)に関する資料(平成30年産)」(2020年3月)によると、2018年産のサンショウは、薬用作物として約221ヘクタールで栽培され、約240トンが生産されました。

生薬や漢方薬の製造を手掛ける武田薬品工業、ツムラ、クラシエ薬品、イスクラ産業などの薬品メーカーが、乾サンショウの主な実需者として挙げられます。

以上(2020年6月)

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福祉用具貸与・介護予防福祉用具貸与の概要と市場動向

書いてあること

  • 主な読者:福祉用具貸与の事業を手掛けたい経営者
  • 課題:需要や、参入に当たりハードルになること、規制が分からない
  • 解決策:課題の一つとして、å福祉用具貸与事業者は、福祉用具の手持ち在庫が必要なため、初期投資が比較的高額になる傾向がある。こうした場合、福祉用具レンタル卸を活用することで、手持ち在庫を持たず、管理や点検の手間も省くことができる

1 福祉用具貸与事業の概要

1)福祉用具貸与とは

福祉用具貸与とは、要介護の状態等になったときにも、その能力に応じて、できる限り居宅で自立した日常生活を行うことができるように、利用者の希望・状況・環境を踏まえて適切な福祉用具の選定の援助・取り付け・調整を行うサービスをいいます。

福祉用具貸与は「要支援」「要介護」によってそれぞれ次のように分類されます。事業者は同時に両方の指定を取得することも可能です。

  • 介護予防福祉用具貸与(要支援1~2)
  • 福祉用具貸与(要介護1~5)

介護保険制度を使って福祉用具のレンタルを検討する場合は、ケアマネジャーに相談することになります。福祉用具貸与の費用(レンタル料)は、福祉用具貸与事業者が自由に設定できます。ただし、介護保険の給付の対象になるためには、福祉用具の貸与がケアマネジャーの作成するケアプランに組み込まれていて、支給限度額の範囲内であることが必要です。

2)レンタル期間

福祉用具のレンタル期間は、利用者の状況や品目によって大きく異なります。例えば介護ベッドの場合、利用者の身体状況の変化により2~3カ月でレンタルを終了してしまうケースもあれば、2~3年という長い間レンタルが続くこともあります。

また、利用者の意向によってもレンタル期間は異なります。例えば、介護老人福祉施設などの施設に空きがないため、やむを得ず在宅介護を受けている状態にある利用者は、施設に空きが出たときにレンタルが終了します。一方、施設に空きがあるものの施設に入る意思がない利用者の場合、レンタル期間は長くなりがちといえます。

3)レンタル商品の仕入れ方法

福祉用具貸与事業者が介護ベッドなどのレンタル用品を調達する方法はさまざまです。介護ベッドなどの仕入れ先はメーカーあるいは卸売業者であり、比較的大規模な福祉用具貸与事業者はメーカーと取り引きしています。

また、介護ベッドなどの仕入れ方法には購入とレンタルの2つの方法がありますが、比較的大規模な福祉用具貸与事業者は購入によって調達することが多いようです。

4)福祉用具貸与の対象品目

福祉用具貸与の対象となる品目は、ベッド、車いす、つえなどさまざまです。福祉用具貸与の対象となる項目は次の通りです。

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2 介護保険制度の改正

1)利用者負担割合について

2018年4月に施行された「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(以下「改正介護保険法」)により、2018年8月以降、介護保険の利用者負担割合や、福祉用具貸与価格などが見直されました。

介護保険の利用者負担割合は、年金収入等が単身世帯で280万円未満(2人以上世帯は346万円未満)の場合は1割、280万円以上(2人以上世帯は346万円以上)の場合は2割、340万円以上(2人以上世帯は463万円以上)の場合は3割となりました。

2)福祉用具貸与価格について

現在の福祉用具貸与価格は、仕入価格、搬出入、保守点検などの経費の違いから、同じ商品を取り扱っていても福祉用具貸与事業者ごとに価格差があります。改正介護保険法により、適切な貸与価格を確保する観点から、厚生労働省が全国平均貸与価格および貸与価格の上限を公表しています。

また、福祉用具貸与事業者が福祉用具を貸与する際には、福祉用具の全国平均貸与価格と自社の貸与価格の両方を利用者に説明する必要があります。併せて、機能や価格帯の異なる複数の商品を提示する必要があります。

■厚生労働省「福祉用具」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html

3 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具貸与の介護費の推移

国民健康保険中央会「介護費の推移」によると、福祉用具貸与事業者における介護費の推移は次の通りです。

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高齢者の増加により、福祉用具貸与事業者における介護費は増加を続けています。

2)福祉用具貸与の事業者数

厚生労働省「介護給付費等実態統計」によると、福祉用具貸与と介護予防福祉用具貸与サービス事業所数の推移は次の通りです。

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4 福祉用具貸与事業の動向

1)福祉用具レンタル卸

福祉用具貸与事業者は、福祉用具の保管および消毒のための設備や器材が必要で、事業運営には相応の広さの区画を必要とします。ただし、福祉用具の保管または消毒を他の事業者に行わせる場合にあっては、福祉用具の保管または消毒のために必要な設備または器材を有しないことができます(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「基準」)第196条第1項)。

福祉用具貸与事業者は、福祉用具をメーカーから仕入れ、それを利用者に貸し出すことになるため、常にある程度の手持ち在庫を持たなければなりません。そのため、新規参入を図る事業者にとって、初期投資は比較的高額になる傾向があります。

そのような場合、福祉用具レンタル卸を活用すれば、利用者の利用期間終了後は福祉用具を返却すればよいため、手持ちの在庫を抱える必要はありません。福祉用具の在庫管理や使用後の消毒・点検などの手間も省くことができます。

福祉用具レンタル卸の大手としては、日本ケアサプライが挙げられます。同社のコア事業は、指定居宅介護事業者向けに福祉用具のレンタルおよび販売を行う「福祉用具サプライ事業」です。

■日本ケアサプライ■
https://www.caresupply.co.jp/

2)「福祉用具貸与計画」作成義務

福祉用具専門相談員は、利用者の希望、心身の状況およびその置かれている環境を踏まえ、指定福祉用具貸与の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した福祉用具貸与計画を作成しなければなりません(基準第199条の2第1項)。

以上(2020年6月)

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画像:pixabay

採用におけるデジタルトランスフォーメーションとは/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(1)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:DXという字面にひっぱられない。重要なのは、経営者の採用に対する本気の姿勢

新型コロナウイルス問題は採用市場を激変させました。空前の人手不足から一転、急激に冷え込んでいます。しかし不況期は、他社の採用活動が慎重になることで、逆にいい人材を獲得できるビッグチャンスでもあります。勇気は必要なものの、今こそ「攻めの採用活動」に転じるべきなのです。

そのカギを握るキーワードが「デジタル」です。今回、シューカツでWEB面接が一気に進んだように、IoTやAIを駆使した採用活動へシフトしていくのは明白。そもそも第4次産業革命といわれる時代を迎え、企業のDX=デジタルトランスフォーメーションへの対応が、今後の競争力を大きく左右されると指摘されていました。進みが遅かった人事の領域においても例外ではありません。これがウィズコロナ、アフターコロナの採用における明暗を分けていくでしょう。

本連載では、こんな時期だからこそ「攻めの採用活動」に転じ、「リクルーティングDX」と呼ぶべきデジタル採用を確立するためのノウハウを解説してきます。第1回目の本稿では、DX=デジタルトランスフォーメーションについて解説しつつ、本連載で取り上げる「採用におけるDX」の第一歩となる取り組みについて論じていきます。

1 デジタルアレルギーに別れを告げて

昨今、「DX」であるとか「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉を耳にする機会が増えています。むしろ語感的なインパクトも手伝ってか、デジタル関連の話にはとりあえず「DX」という言葉さえつけておけばOK!的な風潮さえ感じられます。 

筆者は、そういった“猫も杓子もDX”の流れを否定しているわけではありません。その正確な定義や本質的な意義をきちんと理解することは、もちろん有意義なのですが、たとえきちんと理解できなくても、“猫も杓子もDX”の流れに乗っかってDXに取り組んでいくほうがいいと思っています。

  • 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

これが、経済産業省が2018年12月にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」における定義です。こうした解説を読んだだけだと、スッとは頭に入ってきません。ただでさえ、デジタル関連の言葉を聞くだけで、小難しくてよくわからないと苦手意識を感じる人は少なくないはずです。特に経営陣をはじめ事業の意志決定に携わる上位層においては、その傾向が顕著でしょう。本連載では、DX自体はざっくりの理解でよしとして、採用にもたらすDXの効能に焦点を当てていこうと思います。

2 デジタル化三段活用

経産省の定義を待つまでもなく、トランスフォーメーションという仰々しい言葉がついていることからも、DXが単なるデジタルへの置き換えを指すのではないことは、イメージできます。そして、DXがデジタル化によって目指す最終形態だということが、下記のように類似する言葉と対比することで理解できます。

  • デジタイゼーション→デジタル化のこと。今まで紙とハンコで進めてきた業務をペーパーレス化するなどアナログなものをデジタル情報として扱えるようにすること
  • デジタライゼーション→デジタイゼーションでデジタルに置き換えたデータを利用し、ビジネスにイノベーションを起こすこと
  • DX:デジタルトランスフォーメーション→デジタイゼーション、デジタライゼーションを前提として、企業そのものを変革していくこと

デジタル化はゴールではなく、その先にある「果実」を手にするためのプロセス。デジタイゼーションとデジタライゼーションの間にある違いは、こう理解できます。そしてデジタライゼーションとDXの違いは、「果実」を手にするための本気度の差。筆者はこう解釈しています。

3 リクルーティングDXのスコープ

そういった意味で、トランスフォーメーションという言葉には、「デジタルによって本気で変えていくぞ」という圧倒的な熱量への要求が込められていると思うのです。熱量こそが到達する高み~既成概念を根底から覆し創造されるイノベーションという果実~のレベルを決すると思うからです。結局のところ、この本気度が肝なんです。

難解なDXについて、できるだけ肩の力を抜いて向き合ってほしい。本気で挑んでほしい。そんな老婆心から前置きが長くなってしまいました。

さて、ここからが本題です。リクルーティングDXについて具体的なノウハウを論じていきましょう。

  • 第一段階…新しいテクノロジーを積極的に活用することで
  • 第二段階…これまでは実現しなかった採用や人材の活躍を生み出し
  • 最終段階…組織生産性を向上させ企業変革に寄与する

本連載における「リクルーティングDX」は、こうした三段活用的な一連の取り組みをイメージしながら、母集団形成フェーズ、選考フェーズ、入社フェーズという3つの採用プロセスに分けて、そのノウハウを語っていきます。

4 オウンドメディアを主軸に

さて本稿では、母集団形成におけるDXの前半について解説します。まず取り組むべきは、従来型の求人マスメディアへの依存から脱却することです。またも遠回りになりますが、トリプルメディア戦略というマーケティング概念を用いて説明していきます。

採用シーンにおけるトリプルメディアとは、

  • ペイドメディア:Paid Media
    有料求人広告メディア(求人ポータルサイトや求人フリーペーパー)
  • オウンドメディア:Owned Media
    WEBサイトにおける採用ホームページ、採用パンフレットなど
  • アーンドメディア:Earned Media
    フェイスブックやインスタグラムなどSNSを中心としたクチコミメディア

といった整理になります。

日本は、リクルートに代表されるように、世界に類を見ないほど有料求人広告メディアが発達した国でした。これまで採用シーンにおいては、有料求人広告メディアのパワーが圧倒的だったのです。しかし昨今、求職者の志向の変化、あるいはSNSの普及など情報取得手段の多様化をうけ、その影響力が低下しています。Paidという名称からも、“お金はかかるものの瞬時に応募を集めるチカラ”が持ち味だったのが、相対的にパワーダウン。

しかも不況期の今は比較的応募が集めやすい。PaidからOwnedへのメディアシフトは、時代の流れから見ても、今まさにすすめるべきです。

5 今さら聞けないindeed

今、採用ホームページを主軸にしていく背景には、実はindeedというモンスター集客ツールの台頭があります。indeedは求人サイト、ハローワークをはじめ、あらゆる求人情報をAIが数千のウェブサイトを巡回することで収集し掲載。求人業界のGoogleと言ってしまえば分かりやすいかもしれません。収集する情報の中には、もちろん企業の採用ホームページも含まれています。

その強みは、検索した時に上位表示されるSEOの卓越したチカラ。そしてSEOパワーを支えるのが、AIによって収集された圧倒的な情報量。この原稿を書いている5月20日現在252万件の情報が掲載されています。国内有数の求人メディアであるタウンワークネットが45万件であることと比較すると、いかにモンスターかが分かります。

求職者の多くは仕事を探す際、まずGoogleやYahooなどの検索エンジンを開きます。検索エンジンで「アルバイト 求人 東京」「正社員 求人 新宿」などのように、自分の探したい仕事に応じたキーワードを入力し、検索ボタンをクリックします。検索してみると検索結果の上位にはindeedの求人が多く表示されます。検索画面の上位にあるサイトほどクリックされやすい傾向にあるため、求職者は意識しないうちにindeedで応募する、というわけです。日本の5~10年先を走るアメリカでは、なんと求職者の65%もの人がindeed経由で仕事を選んでいます。

6 ダイレクト・リクルーティングへの布石

indeedを駆使した採用ホームページシフトは、コストパフォーマンスが高い母集団形成を実現してくれます。しかしそれだけではありません。メディアスイッチ自体は、先述のデジタイゼーション(紙とハンコの文化をペーパーレスやデジタル認証へ切り替える)的な取り組みですが、実はその先にあるデジタライゼーションを見据えた布石なのです。

それが「ダイレクト・リクルーティング」です。indeedをはじめとする「求人検索エンジン」から“直接”自社の採用ホームページに誘導するファスト・リクルーティングも、日本においてはダイレクト・リクルーティングのひとつとされます。

しかし、ここでいうのはダイレクト・ソーシングと言われる手法です。企業側が、求めている人材を “直接”探し出してアプローチする「攻めの採用」です。ここは次回詳しく解説します。

7 過保護な人材サービス業界からの自立

従来型の求人マスメディアへの依存から脱却すること。これが母集団形成におけるDXの第一歩です。しかし、これが意外と難しいであろうこともお伝えしておきます。

先述のように、世界に類を見ないほど求人広告メディアが発達した日本には、採用担当者の多岐にわたる要望(時にむちゃぶりも)に応える求人広告営業マンが多数存在しています。大袈裟に例えると、サザエさんに登場する「三河屋のサブちゃん」のような存在がたくさんいるということです。彼は醤油やビールを届けてくれるだけではありません。もうすぐ味噌が切れそうだと察知して、頼んでもいない味噌を先回りして持ってきてくれたりします。

求人マスメディアへの依存から脱却することは、ホスピタリティ満載の求人広告営業マンと決別することと同義です。自ら採用に本気でコミットする意識の変革が、リクルーティングDXの一丁目一番地なのです。

以上(2020年6月)
(執筆 平賀充記)

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画像:mast3r-Adobe Stock

パン製造業などが注意すべき認証制度や安全規格の概要

書いてあること

  • 主な読者:安全性をアピールできる認証制度の取得を検討する食品製造業の経営者
  • 課題:認証取得に向けて何をすべきか、どのくらい費用が掛かるのかが分からない
  • 解決策:安全・安心認証制度の概要を把握し、自社で取り組める内容なのかを検討する

1 食の安全・安心を求める動きに対応

消費者の「食の安全・安心」に対するニーズが高まる中、パン製造業を含む食品事業者には食の安全・安心の確保に向けた取り組みが一層求められるようになっています。食品事業者の中には自社の製造工程などの安全性を示すため、自治体や第三者機関による認証制度などを取得する動きも見られます。

では、食品の安全性を示す認証制度や安全規格にはどのようなものがあるのでしょうか。パン製造業などが導入を検討したい認証制度と安全規格を以降で紹介します。

2 HACCPの概要

1)HACCPとは

HACCP(ハサップ)とは食品製造時の安全を確保するための管理手法です。「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、食中毒菌による汚染や異物混入などの危害要因を除去、または低減させるために重要な工程を管理します。これまでの一般的な抜き取り検査による管理に比べ、問題のある製品の出荷を効果的に防げるようになる他、原因を追究しやすくなるのが特徴です。

なお、食品を扱う事業者はHACCPによる衛生管理が義務付けられることになっています。2020年6月から義務化されますが、1年間の猶予期間があるため、完全に義務化されるのは2021年6月からです。ただし義務化に当たり、HACCPの認証を必ず取得しなければならないわけではなく、HACCPを使った衛生管理を実施すれば問題ありません。

2)HACCPの構成とメリット

HACCPは7つの原則と12の手順で構成されています。

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各原則・手順の詳細は割愛しますが、製造工程を可視化する一覧図を作成し、各工程に問題はないのかを記録、確認できるようにするのが基本です。例えば、冷却工程で使用する水質や水温、材料を調合する工程での調合比率などを記録するといった具合です。

また、特に危害要因が多く含まれそうな工程を「重要管理点」と定め、連続して監視するなどの措置を講じられるようにするのも特徴です。

こうした衛生管理体制を構築することにより、製造する食品の安全を高められるようにします。なお農林水産省「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査」によると、HACCP導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 品質・安全性の向上
  • 従業員の意識の向上
  • 企業の信用度やイメージの向上
  • 製品イメージの向上
  • 事故対策コストの削減
  • 製品ロスの削減
  • 取引の増加
  • 製品の輸出が可能(有利)
  • 製品価格の上昇

3)HACCPを導入するに当たって

自社がHACCPを導入する場合、認証取得を支援するコンサルティング会社を利用したり、具体的な取り組み内容を学べる研修会に参加したりするのが一般的です。

コンサルティング費用は会社の規模や対象となる食品などにより異なります。費用について、HACCP認証協会へのヒアリングによると「会社の規模などにより異なる。当協会の場合、認証審査費用の30万円に加え、HACCP認証コンサルタントを派遣する費用などが加わる」(*)とのことです。

________________________________________
(*)HACCP認証協会(2020年4月21日時点)

3 ISO22000の概要

1)ISO22000とは

ISO22000とは、「食品安全マネジメントシステム(FSMS)」を構築するための事項を定めた国際規格です。HACCPの概念と品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001」の概念を取り入れる一方、経営者の関与や責任が不明確だったり、製造工程のみが対象だったりするHACCPの欠点を補っているのが特徴です。食品の生産から消費者に届くまでの全ての工程(フードチェーン)を管理対象にします。

日本では、日本適合性認定協会(JAB)が認定したマネジメントシステム認証機関がISO22000を認証しています。

2)ISO22000の構成とメリット

ISO22000は、10の要素で構成されています。

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HACCP同様、食の安全・安心に関わる工程を監視、測定し、評価できるようにしますが、運用するための組織体制、役割、権限、リーダーリップなども構成要素として定義しているのが特徴です。なおJABによると、ISO22000導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 安全な食品を提供することによるリスクの低減
  • 業務効率の改善や組織体制の強化
  • 各業務の見える化による業務継承の円滑化
  • 安全管理体制の継続的な改善による企業価値の向上
  • 法令遵守(コンプライアンス)の推進
  • 海外企業を含む取引要件の達成

3)ISO22000を導入するに当たって

認証を取得するのに掛かる費用はHACCP同様、取り扱う食品などにより異なります。一例ですが、日本能率協会 審査登録センターのウェブサイトでは目安として「20~30人規模の食品工場の場合、はじめて認証登録する年に120万円、2年目と3年目にはそれぞれ50万円、4年目は70万円が目安」としています。

4 FSSC22000の概要

1)FSSC22000とは

FSSC22000とは、ISO22000を補強した食品安全マネジメントの国際規格です。ISO22000の場合、確認事項の1つである「前提条件プログラム(PRP)」の取り組むべき内容の選択が組織に任されています。そのため、衛生管理のレベルにばらつきが出てしまうという欠点をFSSC22000は補っています。

FSSC22000はオランダに本部を置くFFSC(Foundation for Food Safety Certification)が開発した規格です。FSSCの認証は、マネジメントシステム認証機関などの国際的組織である国際認定フォーラム(IAF)における国際相互承認協定(MLA)に調印したIAF/MLAメンバーの認定機関から認定を受けたFSSC認証機関が行うことになっています。

2)FSSC22000の構成とメリット

FSSC22000は、ISO22000、ISO22000で確認すべき事項の一部を補強した「ISO/TS22002-1」、追加要求事項の3つで構成されています。

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製造工程などを管理する以前に、製造機器や食品などを加工する施設内の清掃や洗浄は適切に管理されているかといった「前提条件プログラム」を、ISO/TS22002-1を使って示しているのが特徴です。

なお、FSSC認証機関である日本ガス機器検査協会によると、FSSC22000導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 顧客による2社監査の円滑化
  • GFSI認証スキームの適用により、新規市場への参入機会の拡大
  • 消費者や取引先に安全・安心な製品・サービスの提供をアピール
  • 工程トラブルや製品回収リスクの提言
  • フードディフェンス(食品防御)への対応強化
  • 製造工程の可視化などで作業効率、業務改善の促進

また、FSSC22000の認証取得により、「グローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ(GFSI)」という業界団体の承認を受けられるようになるのがメリットです。GFSIとは、ウォルマート(米国)、テスコ(英国)、イオン(日本)などの食品流通業や食品製造業の大手企業で構成する団体で、認証取得によりグローバルに食品安全マネジメントシステムの有効性をアピールできるようになります。

3)FSSC22000を導入するに当たって

認証の取得に掛かる費用は、HACCPやISO22000同様、取り扱う製品などにより異なります。ISO22000やFSCC22000などの認証取得を支援するコンサルタント会社へのヒアリングによると、「審査費用、コンサルティング料金、審査員の交通費、宿泊費などを含めると、企業規模などにより異なるが、100万~120万円以上が目安になる。コンサルティング会社ごとに料金に幅があるので、複数社から見積もりを取るのが望ましい」(*)とのことです。

________________________________________
(*)ISOなどの認証取得を支援するコンサルティング会社(2020年4月21日時点)

なお、FSSC認証機関である日本品質保証機構(JQA)のウェブサイトでは、認証取得に当たっての質問などが掲載されています。検討開始から登録証発行までのおよその期間、認証取得対象となる組織や設備、JQAによる認証取得に向けたサポート体制などに触れているので、参考にするとよいでしょう。

■日本品質保証機構(JQA)■
https://www.jqa.jp/

6 AIBフードセーフティ指導・監査システムの概要

1)AIBフードセーフティ指導・監査システムは

AIBフードセーフティ指導・監査システムとは、安全な食品を製造するためのガイドラインである適正製造規範(GMP)を重視した食品安全管理システムです。

AIBフードセーフティ指導・監査システムは認証制度ではありません。世界のさまざまな法規を基に米国製パン研究所(AIB)が独自に作成した「AIB国際検査統合基準」にのっとって指導・監査するもので、日本では日本パン技術研究所がその活動を担っています。なお、パン製造業以外にも多様な食品関連企業(精米、乳製品、菓子、加工肉などの食品製造業)に導入されています。

2)AIBフードセーフティ指導・監査システムの構成とメリット

AIBフードセーフティ指導・監査システムは5つのカテゴリで構成されています。

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現場での審査に重点を置くのが特徴で、カテゴリごとに評点し、合計スコアに応じて達成認定証が発行されます。なお日本パン技術研究所によると、AIBフードセーフティ指導・監査システム導入のメリットとして、主に次のものを挙げています。

  • 製造現場内を徹底的に検査して問題を見つけ出すことで、改善を進められる
  • 危害を排除するサイクルを繰り返すことで、食品安全レベルを維持・向上できる

3)AIBフードセーフティ指導・監査システムを導入するに当たって

日本パン技術研究所の場合、導入に掛かる費用は次の通りです。

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以上(2020年6月)

pj50038
画像:photo-ac

プライバシーマーク制度の概要

書いてあること

  • 主な読者:プライバシーマークの新規取得を考えている経営者
  • 課題:個人情報の適切な取り扱いを実施する体制を構築したい
  • 解決策:プライバシーマーク制度や「JIS Q 15001:2017」について理解し、規程、様式などの策定や教育の実施など社内体制を整える

1 プライバシーマーク制度の目的

プライバシーマーク制度は、日本産業規格「JIS Q 15001:2017 個人情報保護マネジメントシステム―要求事項」(以下「JIS Q 15001:2017」)に適合して、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者などを認定して、その旨を示すプライバシーマークを付与し、事業活動に関してプライバシーマークの使用を認める制度です。

プライバシーマーク制度の目的は次の通りです。

  • 消費者の目に見えるプライバシーマークで示すことによって、個人情報の保護に関する消費者の意識の向上を図ること
  • 適切な個人情報の取り扱いを推進することによって、消費者の個人情報の保護意識の高まりに応え、社会的な信用を得るためのインセンティブを事業者に与えること

2 プライバシーマーク制度の実施体制

1)プライバシーマーク付与機関(付与機関)

付与機関は、審査機関(後述)を指定すること、事業者からのプライバシーマーク付与の申請を審査することをはじめとし、プライバシーマーク制度を適正に運用する役割を担っています。付与機関は日本情報経済社会推進協会(以下「JIPDEC」)です。

付与機関の下には、学識者、有識者、事業者団体の代表、消費者代表、法曹関係者などで構成される「プライバシーマーク制度委員会」と、消費者などからの個人情報の保護に関する問い合わせ、プライバシーマーク制度に関する苦情などを受け付けて対応する「消費者相談窓口」が設置されています。

■日本情報経済社会推進協会■
https://www.jipdec.or.jp/

2)プライバシーマーク指定審査機関(審査機関)

個人情報を取り扱う民間事業者を会員とする事業者団体で、付与機関から指定を受けた団体です。

■JIPDEC「プライバシーマーク指定審査機関一覧」■
https://privacymark.jp/system/about/agency/member_list.html

3)プライバシーマーク指定研修機関(研修機関)

付与機関に申請してプライバシーマーク制度委員会の審議を経て研修機関として指定を受けた団体です。研修機関は、審査員補を養成するための研修、並びに主任審査員、審査員および審査員補が資格を維持するためのフォローアップ研修を実施します。

3 プライバシーマーク付与の対象と単位

プライバシーマーク付与の対象は、日本国内に活動拠点を持つ事業者で、「JIS Q 15001:2017」に準拠した個人情報保護マネジメントシステムを定め、それに基づき実施可能な体制を整備し、個人情報の適切な取り扱いを実施している事業者です。

付与は、法人単位です。ただし、医療法人、学校法人等については一部例外があります。

4 プライバシーマークを表示できる場所

プライバシーマークを表示できる場所は、店頭、契約約款、説明書、宣伝・広告資料、封筒、便箋、名刺、ウェブサイトなどです。

5 プライバシーマーク付与の有効期間

1回の認定による有効期間は2年間です。ただし、以降は、2年ごとに更新を行うことができます。なお、更新申請は、有効期間の終了する8カ月前から4カ月前の日までの間に行わなければなりません。

6 プライバシーマーク付与事業者

プライバシーマーク付与事業者は、次のウェブサイトで確認できます。2020年4月21日時点で1万6459事業者がプライバシーマークの付与認定を受けています。

■JIPDEC「プライバシーマーク付与事業者検索」■
https://entity-search.jipdec.or.jp/pmark

7 プライバシーマーク付与登録までの流れ

プライバシーマーク付与の認定を受けようとする事業者は、申請書類を審査機関または付与機関の受付窓口に提出します。申請方法は次のウェブサイトを参照してください。

■JIPDEC「プライバシーマーク制度 申請手続き」■
https://privacymark.jp/p-application/

なお、個人情報保護マネジメントシステムの運用に際して、「JIS Q 15001:2017」では、個人情報保護管理者と個人情報保護監査責任者が1名ずつ必要と定められています(兼任不可)。法人であっても一人会社の場合は付与の対象となりませんし、組織体としての実態があれば、個人事業主も付与の対象となります。

新規申請の場合、プライバシーマーク付与登録までの流れは次のようになります。

  • 個人情報保護方針(プライバシーポリシー)の策定と公表
  • 個人情報保護のための組織化
  • 個人情報の特定とリスクの認識
  • 個人情報保護のための規程・規則・手順書・様式などの策定
  • 策定した規程類に基づく全従業者に対する教育の実施
  • 個人情報保護マネジメントシステムの運用(1カ月以上)
  • 全拠点・部門での内部監査の実施
  • 内部監査結果の代表者への報告と是正
  • 申請準備と申請(申請書類を審査機関あるいは付与機関に提出)
  • 審査機関あるいは付与機関によるプライバシーマーク付与適格性の審査(受審)
  • 審査機関あるいは付与機関からの指摘事項の是正
  • プライバシーマーク付与の認定
  • プライバシーマーク付与契約、登録証の交付

8 プライバシーマーク付与に係る費用

プライバシーマーク付与に係る費用は次の通りです。ただし、この費用は、付与機関であるJIPDECまたは審査を申請した審査機関に支払う金額です。規程、様式などの策定や教育の実施など、社内体制整備のためにコンサルタントなどを利用した場合、別途費用が必要です。

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なお、事業者規模の区分(小規模、中規模、大規模)は、「登記された資本金の額または出資の総額」「従業者数」「業種」を基準として一律に判定します。資本金の額または出資の総額が登記されていない無限責任の事業者(合名会社、合資会社等)の場合は、従業者数と業種のみで判定します。同様に、資本金の額または出資の総額が登記されていない社団法人や財団法人等も、従業者数と業種のみで判定します。

■JIPDEC「プライバシーマーク制度 費用」■
https://privacymark.jp/p-application/cost/
■JIPDEC「プライバシーマーク制度 事業者規模の区分」■
https://privacymark.jp/p-application/cost/segment.html

以上(2020年6月)

pj60040
画像:photo-ac

【朝礼】私は新しい時代の「裸の王様」になる!

おはようございます。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、私たちの働き方は急激な変化を余儀なくされています。当社でも在宅勤務を取り入れたことで、コミュニケーションの在り方や仕事の進め方が大きく変わりました。

ところで、働く場所や連絡方法、仕事で使うツールなどは変わりましたが、肝心の私たち自身は変わったのでしょうか?

この1カ月余り、私は、自分の存在意義について考えていました。私は、皆さんにたくさん小言を言ってきました。仕事のレベルを上げる、スムーズに進める。そのために私の小言が必要であると信じてきたからです。

ところが、在宅勤務になり、私がそれほど小言を言わなくなっても、それなりに仕事は進んでいきます。

そのときに思い出したのは、アンデルセン童話の「裸の王様」です。周囲をイエスマンの家臣で固めて他人の意見を聞かない。揚げ句に詐欺師にだまされて、ありもしない洋服を着て町を練り歩く滑稽な王様。私の小言に実際の効果はないのに、皆さんは権力を恐れて何も言えない。だとしたら、私はまさに裸の王様だと思ったのです。

かつては、裸の王様のような存在が必要だった時代もあります。仕事はできないけれど、偉そうに椅子にふんぞり返って、周囲ににらみを利かせる存在が、「組織の重し」としての役割を担っていました。

しかし、時代は変わりました。もはや単なる「組織の重し」に存在意義はなくなりました。童話に出てくる裸の王様で例えるならば、家臣がノーと言える雰囲気になり、詐欺師にだまされない知識を養わなければなりません。そして何より、自らが率先垂範することで、町民から恐れられるのでなく、尊敬されるようにならなければなりません。

現実の世界で、私がこうしたことを実践してこなかったわけではありません。自由な雰囲気を目指し、プライベートの時間を削って勉強し、自分を律してきました。しかし、それは十分ではなかったのです。不謹慎かもしれませんが、私は今回のコロナ禍の非常事態を、自分を変える良いきっかけであると捉えています。

私は、裸の王様の定義を変えます。裸であるとは、「どこから見られても恥ずかしくないような、隠し事や後ろめたいことがない状態」とします。

そして私は、あえて裸でいる、新しい時代の裸の王様になります。ありのままの姿を見てもらった上で、家臣や町民から敬意を抱かれる、そんな王様に私はなります。

皆さんも変わってください。「指示されることが当たり前」の状態から脱却してください。仕事のレベルを上げるために何をすべきかを、自ら考え、提案し、行動するようになってほしいのです。

今、この瞬間が、成長する会社と沈む会社との分かれ道となります。変化する会社こそが、成長できるのです。

以上(2020年6月)

pj17008
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】新・次工程はお客様

今日は、皆さんに考えてほしい言葉があります。それは、「次工程はお客様」。お客様に対して行うのと同じような丁寧さで、次の工程の担当者が仕事を進めやすいようにするという趣旨の言葉です。皆さんも、一度は聞いたことがあるでしょう。

次の工程の担当者が仕事を進めやすいようにするというのはビジネスの基本ですし、私自身も、実践すべき大切なことだと思っています。それを分かった上で、私はこの言葉の「次工程」という部分について、皆さんに問いたいことがあります。

皆さんが「次工程」と認識している仕事は、本当に次の工程の担当者、つまり自分以外の人間がやるべき仕事なのでしょうか。このように感じるようになったのは、最近、当社で在宅勤務を行うことが増えてきたからです。

在宅勤務の特徴は、「会わない、見えない、話さない」です。電話やオンラインツールがあるとはいえ、会社で一緒に仕事をしているときに比べ、「会って、見て、話す」機会は確実に減ります。それを補うため、在宅勤務では、チャットツールやグループウエア、メールなどを駆使して、文書形式でうまくコミュニケーションを取らなければなりません。在宅勤務体制が始まる前、私は皆さんが「うまく情報を発信できるだろうか」と心配でした。しかし、結果は逆で、「終わりました。確認をお願いします」「確認はまだでしょうか」「次の工程に進めてください」など、大量のメッセージが飛び交うようになりました。

在宅勤務では、質問にその場ですぐに答えられるわけではありません。文書形式のメッセージを読み、文書で返すという「手数」が発生します。大量のメッセージが管理職などに集中するようになった結果、一部の人は、会社で仲間と仕事をしていたときよりも仕事量が増えています。

そこで、皆さんにもう一度問います。今まで皆さんが「次工程」と思っていたことは、本当に皆さん自身が考え実践しなくてよいことですか。あるいは、本当に上司や先輩から了承をもらわないと、決めることも次に進めることもできないことですか。必ずしもそうではないはずです。

昔は、会社が社員一人ひとりに仕事と権限を割り当てることで、自然と「自分の工程」と「次工程」が決まっていました。しかし、環境が目まぐるしく変化する今の時代、従来通りの工程をなぞるだけでは、生き残っていくことはできません。

皆さん、今日から「一つ次の工程も自分で進める」ことを意識してください。今までの「次工程」は「次工程」ではなく、「自分のやるべきこと」なのです。私も、直属の上司や先輩も、皆さんの「自分の工程」を広げられるよう、仕事と権限の移譲について柔軟に対応することを約束します。

ですので、次々にメッセージを上司に送る必要はありません。自分の工程を広げることで、仕事は進み、全員が一段レベルアップします。皆さん一人ひとりが「新しい次工程」に挑めば、組織が新しく生まれ変わるでしょう。

以上(2020年6月)

pj17011
画像:Mariko Mitsuda

働き方改革関連法 中小企業は何から取り組むべき?

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革関連法に適った労務管理に改めたい経営者、労務管理担当者
  • 課題:何から着手すればよいか分からない
  • 解決策:「時季を指定した年休の付与」など5項目から優先して取り組む

1 法律の区分けで見る働き方改革の優先順位

2019年4月1日より働き方改革関連法の施行が始まって、約1年がたちました。時季を指定した年休(年次有給休暇)の付与をはじめ、法改正の内容は多岐にわたりますが、中小企業が優先して注力すべきは、図表1における色付き部分の5項目です。

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中小企業が優先して注力すべき5項目の内容は次の通りです。

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以降では、この5項目に注力するに当たり、実際にどのような取り組みが考えられるのかを、「年休の取得促進」「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の実現」の3つの観点から各企業の事例を交えて紹介します。

事例については、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」「パート労働者活躍企業好事例バンク」などを参考にしています。

2 年休の取得促進のための取り組み例

1)半日単位年休の取得推進

「半日単位年休」とは、社員が希望し、使用者が同意した場合に、本来1日単位で付与する年休を半日単位で付与する制度です。

半日単位年休を取得した場合、0.5日が時季を指定した年休の付与となる日数(5日)から除かれます。1日単位では年休を取得しにくくても、半日単位なら取得できるという社員は多いかもしれません。

例えば、小売業を営むメディプラス(東京都渋谷区)では、年に4回(正月、盆、ゴールデンウイーク、10月)、1週間に限って1日の勤務時間を6時間とする制度を設けています。半日単位年休の場合、3時間だけ勤務すればよいことになるため、社員は休暇を取得しやすくなります。

また、同社では、正月と盆には「商品券1万円分」を社員に支給し、家族とのレジャーや外食などでの利用を促すことで、家族のために年休を取得したいという社員の気持ちを後押ししています。

2)年休の計画的付与の実施

「計画的付与」とは、企業が年休の取得日を計画的に割り振ることができる制度です。計画的付与の対象は、労働者に付与されている年休のうち5日を超える部分です。また、導入に当たっては、労使協定の締結が必要です。

計画的付与により年休を付与した場合、その日数は、時季を指定した年休の付与の対象となる日数(5日)から除かれます。社員が周囲に遠慮して年休の取得をためらっている場合でも、企業主導で年休を取得させられるというメリットがあります。

例えば、製造業を営む斎藤板金工業所(山形県鶴岡市)では、夏季と年末年始に計5日間の年休を、計画的付与制度を使って付与しています。企業が独自に設定している夏季休暇や年末年始の休日などに合わせて計画的付与を行うと、大型連休を実現することができます。社員はこの大型連休を1つのゴールとして頑張ることができるなど、モチベーションアップの効果が期待できます。

3 長時間労働の是正のための取り組み例

1)管理職の意識改革

中小企業に限らず、多くの管理職はプレイングマネジャーです。プレイングマネジャーは業務の幅が広く、経営者もその残業を大目に見がちです。

しかし、管理職の働き方は部下にも影響を与えます。管理職が「残業削減なんて関係ない」と言わんばかりに部下に残業を課したり、定時で帰りにくい雰囲気を醸し出したりしていれば、その職場の残業削減は一向に進みません。そこで考えたいのが、管理職が社内の残業削減に積極的に協力する仕組みをつくることです。

例えば、食料品製造業などを営むミートサプライ(大阪府高槻市)の草加工場では、管理職の人事考課の項目に、部下の時間外労働を組み入れています。また、それが管理職の評価のみならず、報奨(年2回の賞与と翌年度の給与)にも影響する仕組みとなっています。

同社ではこの取り組みと併せて、社員から管理職に対する残業の事前申請を義務付け、管理職が日々の生産計画と事前申請の申告表に基づいて残業が適正なものかを判断するという取り組みを実施しています。

2)業務の見える化

人手不足に陥りがちな中小企業では、社員1人当たりの抱える業務量が多く、残業が多くなりがちです。しかし、業務量だけが残業の多い理由なのかというと、必ずしもそうとは限りません。

「時間に対する意識が甘く、長い時間をかけて仕事をする癖がついている」「雑務などを部下や後輩に振らず、業務を抱え込んでいる」といった理由で、本来必要のないムダな残業が発生してしまっているケースは少なからずあります。では、どうやってムダな残業を見つけ出すのか、その1つの答えが業務の見える化です。

例えば、非破壊検査業などを営むテクノス三原(広島県三原市)では、各社員の業務を棚卸し・細分化した上で、その内容を業務管理ツールに登録しています。営業の業務であれば、「顧客打ち合わせ」「顧客用資料作成」「営業事後対応」といった具合に細分化し、 細分化したそれぞれの業務について、遂行にかかる予定時間と実績時間を登録します。

実績時間が予定時間より遅れていれば、そこには何らかのムダが発生している可能性があり、改善に取り組む必要があるということになります。

4 同一労働同一賃金の実現のための取り組み例

1)正社員と同じ等級制度の導入

同一労働同一賃金は、平たく言えば「正社員と同等の働き方をしているパート等には、正社員と同等の待遇(賃金、福利厚生など)を保障しなければならない」というルールです。

正社員とパート等の賃金格差を設けている企業は、その格差の根拠を明確にしておかなければなりません。根拠を明確にしたい場合、社員の「等級制度」の等級を判断基準とするのも一策でしょう。

例えば、介護事業などを営む日豊ケアサービス(大分県豊後高田市)では、パート等に対し、正社員と同一の職能資格等級制度を適用しています。人事評価も正社員と同じ基準を用いて賃金に反映している他、資格手当なども支給しており、パート等の定着につながっています。

2)パート等のキャリアアップ

賃金ではありませんが、正社員と同等の働き方をしているパート等に対しては、教育訓練についても正社員と同等の扱いをしなければなりません。

例えば、有料老人ホームの運営などを行っているサンリッチ三島(静岡県三島市)では、正社員・パート等の就業形態を問わず、社員のキャリアアップ支援に取り組んでいます。正社員・パート等ともに、採用後はオリエンテーションを行い、独自の研修マニュアルによるOff-JTを実施している他、看護師、介護支援専門員などの資格取得を支援するため、通信教育受講料などの援助を行っています。

以上(2020年6月)

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画像:pexels

ポストコロナ時代の人材活用を考える/激動の2020年を勝ち抜く採用戦略(8)

世界中を震撼させる新型コロナウイルスの蔓延によって、日本の労働市場は大きく変化しています。例えば、これまで遅々として進まなかったテレワークが一気に広がっています。テレワークへの振り子は、コロナ収束後も元には戻らないでしょう。こうした動きは働き方を変えるだけでなく、働く価値観さえも大きく揺さぶることになります。それは、採用という人材確保の手法にも影響を及ぼしていきます。

テレワークの普及が起点となって、採用のあり方が変わっていく。本連載の最終回となる本稿では、ポストコロナ時代の採用戦略、というか採用の枠を超えた人材確保策について考えていきたいと思います。

1 にわかテレワーカー170万人の衝撃

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として接触8割減が叫ばれるようになり、どれだけ外出を抑えられるかが喫緊の問題なのはご存知の通りです。企業も続々とテレワークを導入し、在宅勤務を推進しています。
パーソル総合研究所が発表した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によると、正社員におけるテレワーク(在宅勤務)の実施率は13.2%、そのうち現在の会社で初めてテレワークを実施した人は半数近い47.8%とのこと。国勢調査をもとにざっくり推計すると、約360万人の正社員がテレワークを実施しており、そのうち約170万人が初めて実施したという結果です。この調査が行われた期間が3月9日~15日であることを鑑みると、現時点での「にわかテレワーカー」はもっと増えているはずです。

そもそもテレワークは働き方改革を推進すべく推奨されていたものの、その進捗は思わしくありませんでした。IT環境の未整備や情報セキュリティの不安といった物理的な問題もありますが、やはり根深いのは古い働き方から脱却できない就業価値観の問題でした。しかし状況はコロナによって瞬時に一変したわけです。
目覚ましく進歩したデジタルツールの恩恵を受けながら、通勤がないことでその分を仕事の時間に充当できることを噛みしめ、時間を有効に使わなきゃという強迫観念の中、思った以上に頑張れることを実感した人は多いはず。つまり「会社に行かなければできない仕事は皆無?」であると、みな気づかされたのです。

2 副業や独立が加速する

こうしてテレワークが一気に市民権を得ていくと何が起こるか。ずばり副業が増えます。そもそもコロナによる収入減を危惧する経済的背景から、副業で収入を増やしたい人は増えています。そこにテレワークという仕事環境が加わったわけです。控え目に言っても「比較的自由な労働環境」といえるテレワークでは、他の仕事がやりやすくなります。もっとあからさまに言うと、(ちゃんと業務を行い、アウトプットを納品していれば)誰も見ていないんだし、堂々と副業してもOKという状況なわけです。

そういった物理的な側面だけではありません。テレワークによって上司や同僚とのリアルな接触が減ると、どうしても所属する企業や組織への帰属意識が希薄になっていくのです。つまりテレワークが進むと、雇用する/雇用されるという意識が少しずつ曖昧になっていくことになります。そうなると一企業に忠誠を誓っている状態に疑問符が湧いてきてもおかしくはありません。こうした目に見えない心理的な変化が、複業へのチャレンジを後押しするのです。
さらに進むと、フリーランスへ転身するケースも出てくるでしょう。コロナによる景気の悪化で、「このまま会社にいても大丈夫だろうか?」という気分も水面化では高まっていますから、テレワーク中に副業してみたら結構いけたという人たちが独立を考えるのは、自然な流れです。

3 人材をシェアするという考え方

副業は、働き手にとってはパラレルワーカーになることを意味しますが、雇う側からすると、人材のリソースをシェアするということになります。雇うことは、これまで一般的には、自社で囲い込んだ人材のリソースを独占的に活用することと同義でしたから、この意識を大きく変えていく必要があるのです。

つまりポストコロナの時代は、人材を独占するのではなくシェアするという前提に立って人材を確保していく時代になってくるのです。人材をシェアするというと、リソースが流出すると感じる方がいるかもしれませんが、逆にパラレルワーカーやフリーランスといった人材を獲得するチャンスと捉えるべきでしょう。
働き手を縛り付けずに、あちこち壁を乗り越えていってもらい、自社にとっても他社にとっても、いい結果をもたらしてくれる。会社間や職場間を自由に行きかう人材を上手にシェアすることが、企業として勝ち残る重要なポイントになるのではないでしょうか。
これは、筆者が以前から提唱してきた「人材をオープンソースとして共有する」という考え方でもあります。このスタンスが、令和の時代にはスタンダードになると、再三述べてきました。こうした価値観が定着するのはもう少し先のことだと思ってもいましたが、もはやコロナで待ったなしとなるかもしれません。

現に副業(複業)を積極的に推進するサイボウズでは、他に本業を持つ人間が週に2日だけサイボウズで働くというような制度を推進しています。他の仕事で培ったノウハウをサイボウズの業務でも活かし、それにより他の社員が刺激を受け成長するというサイクルが生まれているようです。

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4 出戻りもウエルカム

雇用の垣根が曖昧になる。その観点でいけば、「雇用の出入りを曖昧にする=退職者の出戻りを歓迎する」という施策も考えられます。
出戻りというのは、言うまでもなく一度辞めた社員が、他社での勤務や独立など別の経験を経て、また自社に戻ってきて入社することです。アルムナイ(卒業生)リクルーティングとも呼ばれ、ビフォーコロナの超人出不足時代には注目の採用手法でした。

しかし、この出戻り採用にも乗り気になれない企業は少なくないでしょう。終身雇用が当たり前だった日本では、一社で長く働くことが正義で辞めることは裏切りであり悪でした。そういう価値観がはびこっている職場では、辞めた時点で「2度と顔出すな」となりがちです。ただ、もうそんな時代ではありません。ポストコロナには大きなパラダイムチェンジが求められていることは再三述べてきました。

そもそも出戻り人材は即戦力です。業務経験もあり、社内ルールも、社風もわかっています。会社のことを嫌いになったわけではないけど、どうしても新しいチャレンジしたいというような前向きな人が、外で武者修行して戻ってきてくれると考えれば、むしろ嬉しい誤算ともいえます。

5 働き手のキャリアを支援するスタンスこそ

副業を認め人材をシェアしあう。退職者の出戻りを歓迎する。通底するのは、雇う側が働き手一人ひとりのキャリアを支援するスタンスに立つ必要があるということです。

さまざまな理由から新しいチャレンジをしたいと考えた社員がいたとします。自社内でそのチャレンジの希望を叶えてあげられないのであれば、無理に引き留めるのではなく、シェアという考え方で積極的に支援する。それでも難しそうならいったんリリースする。そういった企業と個人のフラットな関係性が極めて重要となるのです。
ポストコロナ時代における働き手の帰属意識は、縛り付けるのではなく、むしろさまざまなチャレンジを支援することで醸成されていくでしょう。こういう考えに立脚した企業が魅力的に見えないわけがありません。パラレルワーカーを獲得するにも、優秀な人材が出戻ってきてくれることも、この魅力があってこそ。

未曾有のコロナ苦境を乗り切っていくために、変わらなければならないことは多いでしょう。人をシェアしていくというパラダイムチェンジも容易ではないでしょう。しかしポストコロナ時代の採用戦略に関しては、革新的手法を確立することではありません。採用の枠を超えた「働き手ファースト」の考え方こそが、人材確保の要諦なのです。結局のところ、普遍的で骨太な「人」に対する思いにたどり着くのです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年5月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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