人を好きになるより嫌いにならない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 思考習慣のバージョンアップ

経営者は独自の視点と価値観を持って、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。

経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結びついていくのでしょう。

経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。

今回は、「報連相は型よりもスピードを求める」「こだわりを守るために方針転換する」「人を好きになるより嫌いにならない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者の考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。

2 報連相は型よりもスピードを求める

「報連相」(報告・連絡・相談)はビジネスの基本であり、社員教育の重要テーマに位置付けられています。そのため、上司は報連相のやり方として、報告をする内容や順番、タイミングを細かく部下に指導します。

やがて部下は、上司から指示された内容を、指示された順番で話すという“型にはまった報連相”が上達していきます。しかし、上司が心から納得できる報連相ができる部下はほとんどいません。

そもそも、上司と部下とでは立場や経験が違うため、報連相の内容などにおいて上司と部下のギャップが完全に解消されることはありません。また、“型にはまった報連相”ができたとしても、その部下が物事を深く考えているとは限らず、上司から「で、どうしたいの?」と聞かれると、何も答えられなくなってしまうことがあります。

経営者も社員に報連相を求めますが、自分と社員とのギャップを誰よりもよく理解しています。そのため、社員には報連相の型よりもスピードを求めます。社員に少しでも早く情報を伝達してもらったほうが、経営者が物事を考え、判断する時間を長く確保することができるからです。

また、経営者は社員が報連相をしやすい雰囲気づくりにも配慮しています。それは、社員から「悪い情報」をいち早く知るためです。悪い情報でも隠蔽されずに伝達される組織は健全といえ、課題の早期解決にもつながるからです。

報連相に限りませんが、情報は求めるだけでは入手できず、相手に「情報を出したい」と思ってもらわなければなりません。経営者は、社員の報連相に感謝する姿勢を示し、社員が情報を出したいと思える雰囲気づくりをすることが欠かせません。

3 こだわりを守るために方針転換する

「一度決めたことに、どれだけこだわるか」。ビジネスでしばしば議論になることです。ビジネスにおいて、経営者は周囲の反対を押し切ってでも自分の考えを押し通すことがある一方で、他人の意見を聞いてすんなりと自分の考えを変えることもあります。

経営者が最もこだわるのは、企業経営の根幹となる理念であったり、社運をかけて取り組む新規事業であったりします(「撤退プラン」はあります)。もちろん、そこから派生する重要事項についてもこだわります。

一方、経営者は競争に勝ち抜くために柔軟性のある考え方を維持することにも努めています。そのため、「これは素晴らしい!」と感じたものは積極的に取り入れます。企業経営に関して多くのことを決められる、経営者だからこその決断です。

また、当初は1000万円の予算を承認する雰囲気だった経営者が、1週間後には500万円まで削減するように指示を出したりします。1週間で考えが変わることもあれば、「具体的な根拠はないものの、500万円が惜しくなった」ということもあります。

いずれも、経営者としては「こだわりを捨てず、直感を信じ、より良い決断をした」ということです。しかし、周囲にはそれが分からないことがあり、自分勝手な経営者であるとか、考えがころころ変わる経営者と映ってしまうことがあります。

企業でありがちな問題ではありますが、経営者の方針が社員にとっては受け入れ難いものでは困ります。経営者の方針を実行するのは社員だからです。そのため、経営者は自分の方針転換によって影響を受ける社員の心境もおもんぱかり、ある程度の配慮をする必要があります。

このことは、提携先など社外の人との関係においても同様です。経営者がより良いサービスを実現するために提携先と決めた内容を見直した場合、その理由が明確に伝わっていないと、提携先は経営者のことを「やりにくい相手」と認識してしまうのです。

経営者のこだわりは周囲からは見えにくく、柔軟性は「付和雷同」と映ることもあります。そうならないように、経営者は方針を出した背景や目的を周囲に伝え、理解を得るようにしましょう。これは、経営者のこだわりを実現するために欠かせない配慮です。

4 人を好きになるより嫌いにならない

ビジネスでは、人と人とのつながりが大切です。相手と良い関係を築くことができれば、ビジネスの可能性は大いに広がります。良いパートナーを見つけ、関係を維持する力は、今どきのビジネスパーソンにとって必須だといえるでしょう。

相手と良い関係を築くために多くの人がすることは、相手を好きになる努力です。ビジネスでは双方の利害がなかなか一致しませんが、相手を好きになることができれば、相手のことを受け入れる余地が広がり、良い関係が築きやすいと考えるためです。

相手を好きになろうとする過程で、相手のことをより深く知れるのはよいことです。ただし、人を好きになるのは簡単ではありません。家族や友達、恋人でさえ分かり合えないことがあるので、ビジネス上の相手ではなおさらのことです。

一方、ビジネスで知り合ったばかりの人のことを好きだという人がいますが、これは考え方や波長が合う程度のことが多く、一緒にビジネスをしてみると、意見が合わない部分や、好ましくないと感じる部分が出てくるものです。

人を好きになるのは難しいということを経営者は理解しています。加えて、企業経営を任されている経営者は、「だまされてはいけない」という思いも強く、会ったばかりの相手とは一歩引いて付き合わざるを得ない面もあります。

以上から、経営者は相手を好きになることよりも嫌いにならない努力をします。好きではないことと、嫌いであることは全く違います。好きではないというのは普通の関係ですが、嫌いになると相手を避けるようになり、ビジネスがしにくくなるのです。

相手を嫌いになる理由は、見た目や話し方、考え方などさまざまです。このうち、見た目や話し方などについては、ビジネスと直接関係ないので、経営者は気にしないようにしています。

また、相手の考え方が気に入らない場合は、自分の考え方を相手の考え方に合わせようとせず、「考え方は多様である」ことを分かる努力をします。あえて苦手な人と2人で会食をして、“異質”に触れる訓練をする経営者もいます。

以上のように、相手を嫌いにならないことは大切です。ただし、ドライに徹し過ぎると“仲間”をつくることができません。経営者には社内外の仲間が必要です。「この人だ!」と感じる人がいれば、心を開いて相手の懐に飛び込んでみることも大切です。

以上(2019年4月)

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経営者から管理職へ 「名言」で伝える心構え

書いてあること

  • 主な読者:日々、部下指導に悩む管理職を励ましたい経営者
  • 課題:うまく部下指導ができない、部下に気を使いすぎる。そんな管理職が多い
  • 解決策:名言を使って管理職としての自覚を伝えると同時に、経営者が管理職を応援する気持ちも伝える。

1 管理職に対してこそ必要な「メッセージ」

管理職は、部下の指導について多くの悩みを抱えています。部下との意思疎通をうまく図れない、部下がついてきてくれない、部下が思うように成長しない、部下が何を考えているか分からない……。こうした現状に疲弊している管理職は少なくありません。

管理職の話を聞き、励ますのは、経営者の大切な仕事です。特に、組織を率いる立場の経営者から語りかけるメッセージは、管理職の「行動指針」にもなるでしょう。本稿では、「重さ」「弱さ」「強さ」というテーマでそのようなメッセージを紹介します。

2 「重さ」を自覚するための言葉

今、多くの管理職が「部下との接し方」に迷い、悩んでいます。「部下を理解したい」「自分(管理職)の意図を理解してほしい」と思う一方、「部下を叱るとパワハラと言われるのでは」「部下に嫌われたくない」と恐れる気持ちもあります。

こうした気持ちが強過ぎると指導がしにくくなり、部下を避けてしまいかねません。そこで経営者は、「管理職としての部下との接し方」を、改めて管理職に伝えましょう。その際、ミスター・ラグビーと呼ばれた平尾誠二氏の次の言葉が参考になります。

  • 「コミュニケーションの頻度を高めることが、コミュニケーションを深めるとは限らない」(*)

数々のラグビーチームを率いた経験を持つ平尾氏の考えは、リーダーが行うコミュニケーションの在り方として、「短絡的に、コミュニケーションは量が多いほうが良いと考えるのは間違いだ」というものでした。

リーダーが安易にコミュニケーションを取り過ぎていると、「肝心なときに言葉が求心力を持たなくなる」と平尾氏は考えていました。そのため、神戸製鋼ラグビー部のキャプテン時代には、他の選手とはあえて距離を取り、メリハリをつけていたといいます。

平尾氏の考え方は、管理職にもあてはまる部分があります。部下を指導する立場にある管理職の発言には、ある程度、「重さ」が必要です。部下に好かれようと気を使い、部下に対して“仲良く”接しているだけでは、管理職としての「重さ」は感じられません。

管理職の役目は、部下を成長させることです。そのため、叱るべきときは厳しく叱る、褒めるときは大いに褒める、挑戦させるときには思い切って部下を突き放し、部下に一人で苦労させるなど、メリハリをつけて接するのが理想です。

しかし、これは簡単ではありません。特に、叱ることや、突き放すことができない管理職は多いでしょう。経営者は、平尾氏の言葉を借りて、管理職に必要な「重さ」を自覚させ、部下との接し方を、改めて考えさせることが大切です。

3 「弱さ」をさらけ出すための言葉

管理職の中には、部下や周りに対して「格好をつける人」がいます。「管理職として部下に良い影響を与えたい」といった思いであれば理解できますが、単に「できる管理職として自分を良く見せたい」という自分勝手な考えが行き過ぎてはなりません。

こうした管理職は、問題を隠したり、部下に対して「いい顔」ばかりしたりすることがあるからです。経営者は、「時にはありのままを見せる大切さ」を伝えましょう。その際、スターバックスの元CEO、ハワード・シュルツ氏の次の言葉が参考になります。

  • 「偉大なリーダーも、時にはある程度の弱さを見せ、本心を他人と共有しなければなりません」(**)

スターバックスにとって、非常に厳しいシーズンとなった1995年のクリスマス。売り上げは「絶望的」で、このままでは会社が危機に直面するという状況でした。シュルツ氏は、全社員を集め、厳しい現状と、心配している苦しい胸の内を正直に伝えたのです。

それまで、常勝のヒーローとされてきたシュルツ氏が社員に初めて「弱さ」を見せたため、反発する経営陣もいました。しかし、社員の多くは、自分たちが直面している問題を直接CEOから詳細に説明してもらい、非常に良かったと言ったそうです。

シュルツ氏はこのとき、社員にとって必要なのは、「気勢を煽ることではなく、苦境を具体的に知らせ、実質的な指導をすることだ」と思っていました。これは、会社全体と社員一人ひとりのために自分がすべきことを真剣に考えたからこそといえるでしょう。

ビジネスは、良いこともあれば悪いこともあります。時と場合によりますが、管理職は組織全体や部下のために、悪いことや弱点ほどいち早く明らかにし、具体的な対策を考え、部下に指示しなければなりません。格好をつけている場合ではないのです。

管理職が考えるべきなのは、「自分がどう見られるか」ではありません。組織のこと、そして守るべき部下のことです。経営者は、シュルツ氏の言葉を借りて、真剣に部下を思う気持ちを伝え、管理職に「自分視点」から脱却するよう指導しましょう。

4 継続する「強さ」を持つための言葉

部下の指導に真面目に取り組んでいる管理職ほど、悩みは深いものです。部下が思うように成長しないことに腹立ち、落胆し、つい、「自分で全部やったほうが早い」と自分で手を動かしてしまうことなどは、管理職の“あるある”といってもよいでしょう。

経営者は、部下の指導は地道に行うべきものであること、そして指導をあきらめてしまっては、部下だけでなく管理職自身も成長できないことを繰り返し伝えなければなりません。その際、帝人の元会長・社長である長島徹氏の次の言葉が参考になります。

  • 「どうぞあきらめさせないでください」(***)

貧しかった長島氏は幼い頃、野球用のボールを買ってもらえず、何時間もかけて布を巻きボールを作りました。そのボールが竹やぶに入ってしまい、どれほど探しても見つからなかったとき、長島氏は「あきらめさせないでください」と祈ったといいます。

長島氏は、「ボールが見つかるように」ではなく、「ボールを探そう」という自分の気持ちが消えないように、自分があきらめるという考えを抱くことのないようにと祈ったのです。何事も自分の気持ち次第であるという強い意志の表れといえるでしょう。

部下の指導も同じです。管理職があきらめてしまったら、部下の成長は止まってしまうでしょう。管理職にとって“敵”は部下ではありません。あきらめて、「自分で全部やったほうが早い」と部下と向き合うのをやめてしまう管理職自身の気持ちが“敵”なのです。

多くの経営者は、管理職に比べて、社員(部下)を育てることを簡単にあきらめたりはしません。経営者は、会社やビジネスから逃げることができません。覚悟の度合いとそれに支えられた意志の強さが管理職とは違うのです。

とはいえ、経営者も、人を育てることが一番難しいと実感しています。そこで経営者は、長島氏の「どうぞあきらめさせないでください」という言葉を借りて、管理職に、「自分も決してあきらめない。だから一緒に頑張ろう」と思いを共有することが肝要です。

  • 【参考文献】
  • (*)「人を奮い立たせるリーダーの力」(平尾誠二、マガジンハウス、2017年4月)
  • (**)「世界のトップ経営者に聞く!:CNNリスニング・ライブラリー」(『CNN English Express』編集部編、朝日出版社、2012年3月)
  • 「スターバックス成功物語」(ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄、大川修二(訳)、日経BP社、1998年4月)
  • (***)「58の物語で学ぶリーダーの教科書」(川村真二、日本経済新聞出版社、2014年4月)

以上(2019年1月)

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いまさら聞けない請求書・領収書の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:適正な会計処理・税務処理を徹底したい経営者・経理担当者
  • 課題:身近であるが故に、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくない
  • 解決策:実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を解説

1 請求書・領収書の基本

1)請求書・領収書とは

請求書は、代金の支払人に対して、販売した商品等の代金の支払いを求める書類です。また、領収書は、代金の受取人がその代金を受け取ったことを証明する書類です。

請求書・領収書は、ビジネスパーソンであれば必ず取り扱うことになる身近なものです。一方で、身近であるが故に、「会社の備品を買ったときには、とにかく領収書をもらわなければいけない」といったように、曖昧に覚えていたり、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくありません。

しかし、請求書・領収書は、誰が誰に対して、いつ、何のために代金を支払った(受け取った)かという「お金の動き」を示す大切な書類です。

本稿では、実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を紹介します。実際には、この他にも会計上や法務上の留意点や、社内規程などのルールが定められていることがあるので、こうした点にも注意しましょう。

2)請求書・領収書の記載事項および様式

請求書・領収書の記載事項については、「この事項の記載が漏れていたら請求書・領収書として認められない」といったものが、法人税法・所得税法上で定められているわけではありません。ただし、「お金の動き」を把握するために必要となる事項は共通しているので、請求書・領収書はおおむね同じです。

例えば、請求書の一般的な記載事項は次の通りです。

  • 宛名
  • 発行者(会社等)の名称・住所
  • 日付
  • 請求金額(内訳と合計金額)
  • 支払期限
  • 振込先(銀行口座名等)および振込手数料負担者

また、領収書の一般的な記載事項は次の通りです。

  • 宛名
  • 発行者(会社等)の名称・住所
  • 日付
  • 受領金額
  • 但書

請求書・領収書の様式も記載事項と同様に法人税法・所得税法上では定められていません。そのため、市販されているもの、インターネット等で入手したひな型、自社独自に作成したもの等であっても問題はありません。

3)消費税法における定め

消費税法上では、請求書・領収書の記載事項について定めがあります。詳しい説明は省略しますが、消費税の課税事業者で簡易課税制度を適用しない事業者が、支払対価が3万円以上の場合で仕入税額控除を受けるときには、原則として、取引の相手方から交付を受ける請求書等(請求書、納品書その他これらに類する書類で領収書も含まれる)を保存しなければならず、その請求書等には、次の事項が記載されていなければなりません。

  • 書類の作成者の氏名又は名称
  • 課税資産の譲渡等を行った年月日
  • 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
  • 課税資産の譲渡等の対価の額
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
  • 軽減税率の対象品目である旨(「※」等軽減税率の対象となることを表示)
  • 一般税率と軽減税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)

この規定に該当する請求書・領収書には、上記事項の記載がなければなりませんが、前述した一般的な請求書・領収書には、これらの記載事項が含まれているため、実務上はあまり気にする必要はないかもしれません。

なお、軽減税率等の導入により、2019年10月1日から2023年9月30日までの期間は、今までの『請求書等保存方式』を維持しつつ、区分経理に対応するための措置として、『区分記載請求書等保存方式』が導入されています。

2 請求書・領収書のよくある10の疑問

ここでは税務上、問題になることが多い領収書を中心に、実務上よくある疑問点や間違った認識を持っている人が多い事項について、取り扱い方法等を紹介します。

1)領収書は必要になるか

領収書がなくてもレシートがあれば問題がない場合があります。

最近のレシートには、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額に加えて、飲食店の場合は利用人数なども印字されているものが多くなっています。こうしたレシートであれば、前述した「領収書の一般的な記載事項」については、おおむね網羅されているため、領収書がなくとも問題はありません。ただし、金額しか記載されていないような簡易レシートの場合は、領収書を発行してもらう必要があります。また、高額の支出の場合は、領収書を発行してもらうほうが無難です。

なお、レシートには宛名の記載がありません。一方、前述した消費税法上定められた記載事項には「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」とあります。ただし、消費税法には小売業、飲食店業、写真業、旅行業等を営む事業者が交付する請求書等については、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載要件が除かれています。

レシートを発行する企業のほとんどは小売業や飲食店業のため、実務上、この点を気にする必要はほとんどないといえるでしょう。

2)宛名が「上様」とされた領収書は有効か

領収書の宛名が、「上様」とされることがありますが、これは会社名を記載するようにしたほうがよいでしょう。

法人税法上は、宛名に関する特段の規定がないため、「上様」とされている領収書であるからといって、直ちに経費にできないということはありません。ただし、「上様」では、誰が支出したのか(本当に会社の経費なのか)ということが、領収書だけでは判断できません。そのため、税務調査の際に指摘を受けたり、説明を求められたりするなど、問題が発生することがあります。

また、社内実務においても、「上様」の領収書では、個人的な支出など不適切な支出に対するものか否かといった判断が難しくなります。

加えて、消費税法上の場合は、前述した通り、一定の要件に該当する場合以外は、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」がなければ、仕入税額控除の対象とすることができなくなることがあります。

3)4万円の領収書を発行。収入印紙を貼り付ける必要はあるか

2014年4月1日付以降に発行される領収書(印紙税法上は「領収書」「レシート」等の名称にかかわらず、金銭又は有価証券の受取書の全てが対象になります)については、記載された受取金額が4万円であれば、収入印紙を貼り付ける(印紙税を納付する)必要はありません。

領収書は、記載された受取金額に応じて、印紙税を納付しなければなりません。印紙税の納付は、領収書などの課税文書に収入印紙を貼り付けた上で、その課税文書と収入印紙の彩紋とにかけて消印等をしなければなりません。

2014年3月31日までに発行された領収書は、記載された受取金額が3万円未満の場合に非課税となるため、4万円の領収書であれば印紙税を納付する必要がありました。一方、2014年4月1日以降に発行される領収書は、5万円未満まで非課税となるので、印紙税を納付する必要はありません。

領収書の発行実務を頻繁に行わない人は、「3万円未満は、印紙税の納付は不要」としか覚えていないことがあり、誤って収入印紙を貼り付けてしまうことがあるので注意しましょう。

なお、消費税額等が区分記載されているとき又は、税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかとなる場合には、その消費税額等は印紙税の記載金額に含めないこととされています。

4)領収書に貼る収入印紙の消印が押されていないけど問題ないか

印紙税を納付するときには、単に収入印紙を貼り付けるだけではなく、その収入印紙が使用済みであることを示す消印等をしなければなりません。そのため、正しい金額の収入印紙を貼り付けていたとしても、消印等がない場合には「印紙税を納付していない」ことになるので、収入印紙の金額の同額と過怠税が課されます。

また、本来、印紙税を納付する必要があるにもかかわらず、収入印紙を貼り付けていない場合は、その事実が税務調査等で発覚すると、「納付しなかった印紙税額+その2倍に相当する金額の合計額」(すなわち印紙税額の3倍の金額)の過怠税が課されるので注意が必要です。ただし、不備について自己申告した場合は、「納付しなかった印紙税額+その10%に相当する金額の合計額」に過怠税が軽減されます。

なお、印紙税が納付されているか否かと、領収書の有効性は関係ありません。そのため、印紙税が納付されていなくても、領収書の内容自体は有効と認められます。

5)領収書に宛名の記載が漏れていた。追記してよいか

領収書に不備がある場合は、勝手に追記をせずに、それらを発行した相手方に修正をしてもらったり、再発行してもらったりするなどしてください。

領収書・請求書は法律上の証拠書類に当たります。証拠書類に勝手に追記をしたり、書き換えたりすると私文書偽造として刑事罰の対象となる可能性があります。また、税務調査などで発覚すれば、重加算税を課される可能性があります。

6)領収書に書損が生じたので、破棄してよいか

領収書は、書損をしても勝手に破棄せずに、領収書の控えと併せて保管するのが一般的です。

様式は各社各様ですが、領収書は通し番号を付して管理するのが一般的です。また、相手に渡す領収書と社内で保管する控えがワンセットになっていますが、書損が発生した場合は、領収書を破棄せずに控えと併せて保管しておくことが大切です。

これは、領収書の改ざんや金銭の横領などの事故を防止するためです。例えば、誰かが「顧客から現金を受領し、控え分と併せて事前に抜き取った領収書に金額を記載して顧客に渡し、現金を横領する」ということを企てた場合、通し番号を付していれば、会社に保管している領収書は、その番号だけ抜けているので、不正の端緒をつかむことができます。

7)クレジットカード会社が発行した請求明細があれば領収書は不要か

商品などの販売元が発行する「ご利用明細」等は領収書の代わりになりますが、クレジットカード会社が発行した請求明細は、領収書の代わりにならないと考えたほうがよいでしょう。

請求明細の取り扱いで問題になるのが消費税です。クレジットカード会社が発行した請求明細は、課税資産の譲渡等を行った事業者(商品などを販売した事業者)が作成・交付した書類ではないため、前述した消費税法の規定に該当する書類とは認められません。

一般的に、クレジットカードで商品などを購入すると、販売元は「ご利用明細」等を発行しています。通常、「ご利用明細」等には、書類の作成者の氏名又は名称をはじめ、前述した要件が全て記載されているため、消費税法の規定に該当する書類と認められます。

ポイントは「ご利用明細」等の書類の名称ではなく、必要事項が漏れなく記載されていることなので注意をしましょう。

8)インターネット通販での「取引内容確認メール」は、領収書の代わりになるか

「取引内容確認メール」は、基本的に領収書の代わりになります。

インターネット通販の場合、領収書・請求書を発行していないことがあります。この場合、購入手続きを終えた後に送信されてくる「取引内容確認メール」や、購入手続き終了後に表示される購入情報が掲載されたウェブページなどは、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額、購入者名といった事項が記載されていることが一般的であり、こうしたものであれば領収書の代わりとすることができます。

9)倉庫がいっぱいになったので、請求書・領収書を破棄してよいか

請求書・領収書は保存期間が決められているので、勝手に破棄してはいけません。

請求書・領収書は、法人税法上、「取引等に関して作成し、又は受領した書類」として、保存期間が定められています。例えば、青色申告者の場合は、原則、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が義務付けられています(青色申告書を提出した事業年度に欠損金が生じた場合は、当該年度からの保存期間は9年間(注)となります)。この期間中は「保存スペースがないから」「前回の税務調査で、税務署に確認されたから」等という理由で、勝手に破棄してはいけません。

なお、請求書・領収書などの帳簿書類は、一定の要件を満たす場合は、マイクロフィルムや電磁的データ等で保存することができます。スペースの問題で保存が難しい場合は、こうした方法を検討してもよいでしょう。

(注)2018年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度においては、保存期間は10年間となります。

10)交際費等に該当する飲食費が1人当たり5000円を超えた。領収書を2つに分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたらどうなるか

領収書を2つに分けることには意味がありませんし、分けてはいけません。

現在は法人の資本金や交際費の内容等の一定要件により損金に算入できる場合がありますが、原則として、交際費等は税務上の損金に算入することができません(一定要件に関する詳しい説明は省略します)。ただし、交際費等の範囲に含まれるものであっても、1人当たり5000円以下の飲食費(社内飲食費を除く)は、一定の要件に該当するものについては、損金に算入することができます。

そうすると、「1人当たり5000円を超えたときに、領収書を複数に分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたら、損金に算入することができるのでは」と考える人がいるようです。

しかし、領収書が複数に分かれていても、それが一体の飲食であるときは、全ての領収書に記載された金額を合計した上で、金額の判定を行います。

国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」では、これに類似したケースである「1次会と2次会の費用」に関するQ&Aがあり、次の通り説明されています。

(Q)

飲食費が1人当たり5000円以下であるかどうかの判定に当たって、飲食等が1次会だけでなく、2次会等の複数にわたって行われた場合には、どのように取り扱われるのでしょうか。

(A)

1次会と2次会など連続した飲食等の行為が行われた場合においても、それぞれの行為が単独で行われていると認められるとき(例えば、全く別の業態の飲食店等を利用しているときなど)には、それぞれの行為に係る飲食費ごとに1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行って差し支えありません。

しかしながら、それら連続する飲食等が一体の行為であると認められるとき(例えば、実質的に同一の飲食店等で行われた飲食等であるにもかかわらず、その飲食等のために要する費用として支出する金額を分割して支払っていると認められるときなど)には、その行為の全体に係る飲食費を基礎として1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行うことになります。

(出所:国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」)

なお、こうしたことを意図的に行うと、仮装隠蔽と判断されて重加算税の対象となる可能性があるので注意しましょう。

以上(2019年12月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

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働く人なら一度は考えるべき「ビジネスの三種の神器」

書いてあること

  • 主な読者:立場を問わず、悩みや迷いを抱える全ての働く人
  • 課題:もやもやした悩みや迷いを誰に相談したらいいか、どう解決したらいいか分からない
  • 解決策:自分がビジネスにおいて大事にしている軸は何か。それを「三種の神器」として改めて考えてみる

1 「ビジネスの三種の神器」とは何か

ビジネスにおいて大切だと思うものが何かは、人によって異なります。「コミュニケーション」を大切にしている人もいれば、「知識」が大切という人もいます。これらはいわば、「ビジネスの価値観」です。

ビジネスの価値観が明確な人は、実はあまり多くはありません。むしろ、これまで考えたこともないという人が大半ではないでしょうか。そうした人にお勧めしたいのが、「ビジネスの三種の神器」を挙げてみることです。

戦後の日本における新生活の象徴であり、生活の必需品だった「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」は、一般的には「家電の三種の神器」といわれていました。「ビジネスの三種の神器」は、そのビジネス版と考えれば分かりやすいでしょう。

自分のビジネスにおける必需品、欠かせないもの、大切にしているもの。こうした「ビジネスの三種の神器」を挙げれば、ビジネスに対する取り組み方や向き合い方が分かります。本稿では、「ビジネスの三種の神器」の活用法や例などを紹介します。

2 「ビジネスの三種の神器」で見えるその人の姿

自分で挙げるだけでなく、人の「ビジネスの三種の神器」を知れば、その人の考え方や姿勢が見えてきます。経営者と社員、上司と部下などが、それぞれ「ビジネスの三種の神器」とその理由を挙げれば、互いに対する理解が一歩深まるかもしれません。

また、社内外を問わず、自分よりも立場が上の人に聞いてみると、自分では思い至らなかった「ビジネスの三種の神器」を学ぶことができます。「ビジネスの三種の神器」は、立場によって変わってくるからです。

例えば、ある営業担当者が「パソコン、スマホ、名刺」というツールを3つ挙げたのに対して、その上司は「パソコン、部下、メンター」を挙げました。部下やメンターが必要だという考えは、上司という立場だから出てきたものといえるでしょう。

起業家と社員でも「ビジネスの三種の神器」は違います。例えば、ある起業家は「理念、情熱、教育」の3つを挙げています。もし、社員がこうしたものを挙げたなら、その社員には新しい道を切り開いていこうとする起業家マインドがあるのかもしれません。

3 「ビジネスの三種の神器」には理由がある

「ビジネスの三種の神器」に正解はありません。人それぞれで、立場の他にも、関わっている仕事によっても異なるでしょう。例えば接客業であれば、「笑顔」を挙げるかもしれません。専門職の人の中には「技術力」を挙げる人もいるでしょう。

また、ツールとスキルを組み合わせる人もいます。「パソコン」に加え、「文章力、分析力」を挙げた人がいますが、これは、パソコンは必需品ではあるものの、それだけでは十分ではなく、自分で考えアウトプットすることが大切だといいます。

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「ビジネスの三種の神器」は、「何を挙げるか」も大切ですが、それよりもっと重要なのは、自分にとっての「ビジネスの三種の神器」は何か、それはなぜかを考えることにあります。そうすると、ビジネスに対する自分の思いが明らかになるからです。

例えば、上表では「墓参り」を挙げている人がいます。これは、その人が日ごろから感謝の気持ちを忘れず、常に正しい行いをしていることがビジネスの成功につながると考えているからであり、正しい行いを象徴するのが「墓参り」なのだといいます。

また、「人物を見極める力」を挙げている人は、相手が何をどこまでできる人なのか、本当に信頼できる人なのかを見極める力が、ビジネスには欠かせないといいます。ビジネスは一人ではできない、「人」の力こそが必要だという思いの表れといえるでしょう。

4 誰の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいか

「ビジネスの三種の神器」がビジネスに対する思いを表すのなら、次に考えてみたいのは、「誰に聞きたいか」ということです。自分が尊敬している人や一目置いている人、目標としている人の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいと思うのではないでしょうか。

そうした人には機会を見つけて、「ビジネスの三種の神器」を尋ねてみましょう。周りから尊敬されるような人は、ビジネスに対する強い思いや信念を持っているものです。大きな学びとなる「ビジネスの三種の神器」を答えてくれることでしょう。

また、部下育成に悩んでいる経営者や上司は、部下に、誰の「ビジネスの三種の神器」を聞いてみたいかを尋ねてみるのも一策です。そうすれば、部下がどのような人を尊敬しているか、どのような人に憧れを抱いているかが見えてくるかもしれません。

5 変化する「ビジネスの三種の神器」

立場が変われば「ビジネスの三種の神器」も変わってきます。そうした意味では、成長度合いを測るモノサシともいえます。経営者や上司は、定期的に部下に、「今のビジネスの三種の神器は何か」を尋ねてみてもよいでしょう。

自分の「ビジネスの三種の神器」の記録を付けておけば、自分自身の成長を測ったり、考え方の変化を認識したりすることもできます。今の「ビジネスの三種の神器」を書き留めておき、3年後、5年後に改めて振り返ってみるのもよいでしょう。

例えばある経営者は、会社設立当初は、恐らく「信念、スピード、根性」といったものが「ビジネスの三種の神器」だったと振り返ります。経営が安定し社員が増えた今では、「信念」は変わらないものの、残り2つは「社員」と「誇り」だといいます。

人にもよりますが、「ビジネスの三種の神器」の変化は、どのようにビジネスに取り組んできたかを表す軌跡でもあります。今、自分がビジネスにおいて大切だと思うものは何か。そして、それがどのように変化していくのか。一度、真剣に考えてみましょう。

以上(2019年1月)

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経営者と管理職の役割分担を考える

書いてあること

  • 主な読者:もっと管理職に期待に応えてほしいと思っている経営者
  • 課題:管理職との意思疎通がうまくできていない、管理職が頼りない
  • 解決策:経営者がやるべきは、思いの共有、役割の確認、そして我慢

1 経営者から見ると管理職が頼りない?

経営者は、管理職が自分(経営者)の考えや思いを正しく理解し、それを現場に伝えてまとめてほしいと期待します。しかし、これができている管理職は多くはありません。経営者から見ると、管理職が管理職としての仕事をしていないのです。

見かねて管理職のやり方に口を出し、場合によっては経営者自身が細かく指導することもあるでしょう。社員育成は経営者の仕事ですが、細かなところまでやっていては、将来のビジネスの種を見つけ、組織を前に進めるという経営者本来の仕事ができません。

このように、経営者が管理職を頼りないと感じると、経営者と管理職の役割分担がうまくいかなくなり、企業活動に支障を来すことがあります。本稿では、そうならないようにするために、経営者が意識すべきポイントをまとめました。

2 組織のギャップを解消する

1)まずはギャップの認識

理想的な組織は、経営者が掲げる“理想の社員像”を少なくとも管理職が理解し、それに基づく指導を現場で行うことです。しかし、経営者と管理職の考えや思いには次のようなギャップがあり、なかなか認識合わせができません。

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2)理解できる? 管理職の経営者に対する不満

経営者が管理職に不満を覚えているのと同様に、管理職も経営者に不満を覚えています。管理職も「管理職としての役割を果たそう」と思ってはいます。「自分がこの組織を回していく!」という責任感や、やりがいを持っている管理職もいます。

しかし、経営者の思いが分からず、自分のやり方に自信が持てない管理職もいるのが事実です。特に、答えが見えにくい部下指導については、自分のやり方が正しいのかどうか迷うことが多いのです。

経営者は、管理職の部下指導が正しくない、迷っているのだろうと感じると口を出します。経営者は指導方法の手本を管理職に見せているつもりですが、管理職にはそれが分からず、「自分のやり方はそんなにまずいのか」と自信をなくします。

そして、経営者が直接社員を指導するなら、「自分は何も言わないほうがよいのではないか」と誤解する管理職が出てきます。経営者は管理職を指導しているつもりが、自信のない管理職は、強烈な“ダメ出し”をされているように感じるのです。

3)経営者と管理職のギャップを埋めるには?

こうした経営者と管理職のギャップを埋めるために、経営者は管理職に2つの働き掛けをしましょう。1つ目は経営者の考えや思いを管理職に伝え、理解させることです。2つ目は、経営者が管理職に対して、管理職として成長させる機会をつくることです。

そのためには、経営者自身が経営者と管理職の役割を整理した上で、「経営者として何をすべきか」「どこまで管理職に任せるか」を考えなければなりません。管理職も、「経営者が教えてくれないから分からない」と言っているだけではなく、経営者の考えや思いを理解するよう努め、部下指導に生かす方法を考えなければなりません。

以降ではそれぞれのやるべきことを見てみましょう。

3 経営者と管理職が考えや思いを共有する

1)経営者は管理職に「何を大切にしているか」をイメージさせる

経営者は、管理職に自分の考えや思いを伝える機会を設けましょう。経営者の考えや思いをある程度理解し、行動に移すことのできる管理職もいます。そうした管理職に協力してもらって、他の管理職に伝えてもらうのも一策です。ただしその場合、えこひいきに思われないよう注意が必要です。

経営者の言うことを“腹落ち”しないと思う管理職もいますが、そうした管理職に対しては、ゆっくり時間をかけて話すしかありません。

2)管理職のほうから経営者に近づく努力をする

経営者の考えや思いが分からない、期待されている役割が分からないという管理職は、遠慮せずに経営者に質問してみましょう。しかし、一見簡単なようでいて、この「経営者に質問する」ことがなかなかできないのが管理職です。

管理職には「管理職なのだから自分でなんとかしなければ」という思いがあるのです。そこでまず、経営者の愛読書や普段よく使う言葉などから、「経営者が何を大切にしているか」を学び取ることから始めてみましょう。

経営者が大切にしていることを学ぶと、経営者と同じ言葉で話ができるようになります。経営者が管理職や他の社員に、考えや思いを伝えるのは言葉です。経営者と同じ言葉で話せるようになれば、経営者の考えや思いに近づくことができるでしょう。

管理職が経営者の考えや思いを理解するために、部下指導について具体的な相談を持ち掛けるのも一策です。経営者の答えとその理由を聞けば、経営者がどのような部下指導を求めているかを知るためのヒントになるでしょう。

3)「耳の痛い話」こそ共有できる関係を目指す

「こんなことは経営者に言えない」と思い、自ら口を閉ざしてしまう管理職もいるでしょう。特に、自分の部下のマイナス点は「部下のために」「経営者に心配を掛けたくない」と、よかれと思って言わない管理職は少なくありません。

しかし、部下にマイナス点があるのなら、その事実は早く経営者に伝えなければなりません。経営者には、現状を正しく把握し、組織全体の今後を考える責任があります。現場の社員(部下)の現状を、正しく経営者に伝えるのも管理職の重要な役割です。

一方の経営者も、管理職から部下のマイナス点など「耳の痛い話」を聞き出せるように、一緒に飲みに行くなどの機会をつくらなければなりません。耳の痛い話こそ、経営者と管理職で共有していくことが大切です。

4 管理職が管理職としての役割を果たすには

1)経営者はとにかく我慢する

基本的には、「経営者が決めて管理職が実行する」というのが経営者と管理職の役割分担です。経営者が部下指導について決めるのは、会社としてのルール、社員のあるべき姿、そして個々の社員について「どのレベルに達してほしいか」の3つです。

この3つを管理職に伝えた上で、具体的な部下指導の方法は管理職に考えさせましょう。どうしても管理職がうまく指導できないときなどは、経営者が口を出す必要がありますが、原則として部下指導は管理職に任せ、「我慢する」のも経営者の役割です。

経営者から見れば、管理職の部下指導は不十分に思えることが多々あります。その場合も、経営者が直接その部下に指導する前に、管理職に「もし私だったらこうする」と伝えてみるとよいでしょう。そうして管理職を成長させることが必要です。

2)管理職は経営者の決めたことを部下に行動で示す

管理職の役割の1つは、経営者と部下(社員)のクッションになることです。経営者の決めたことを部下が理解できるよう、管理職が自分(管理職)の言葉や行動で、「どうすればよいか」を具体的に示すことが大切です。

例えば、経営者が「自己啓発に積極的に励んでほしい」と決めたとしましょう。管理職がやるべきは、まず、セミナーに参加したり資格取得を目指すなどして、管理職自身が自己啓発に努めている姿を部下に見せ、まねさせることです。

部下にまねさせるには、実績を上げなければなりません。この場合、本気で自己啓発に取り組み、資格取得にチャレンジするなら合格することが大切です。その上で、部下の適性やキャリアなどを考え、具体的に部下が行くべきセミナーなどを指示しましょう。

ルールについても同様です。「挨拶をする」のが会社のルールなら、管理職自身が職場の誰よりも挨拶をしっかりしなければなりません。時間管理を徹底するのがルールなら、管理職がまず時間管理をしなければならないのです。

3)管理職の仕事を取り上げられるのは経営者しかいない

多くの管理職が抱えるのが「時間の壁」です。プレイングマネジャーの管理職は、部下指導に割く時間がないというのが本音です。状況に応じて管理職の仕事を取り上げ、他の社員に振り分けるのは経営者の仕事です。

管理職は、ある程度は自分で差配してなんとかしなければなりませんが、難しい場合はそのことを経営者に相談しましょう。「大丈夫です」と言って無理に仕事を抱え込むのは、管理職として正しい選択ではないことを理解しなければなりません。

5 経営者も管理職も考えるべき管理職の成長

部下指導について経営者と管理職のやるべきことを見てきましたが、重要なのは、経営者が決めたことを管理職が実行できるよう、経営者が管理職を育てることです。同様に管理職は、自ら管理職として成長できるよう努めなければなりません。

経営者が管理職に求めることは、経営者の考え方や会社の規模などによって違ってきますが、「全体を捉えられる大局観」「部下がまねしようと憧れる人間力」「やるべきことを遂行する仕事力」です。そして、これを表しているのが次のカッツ・モデルです。

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カッツ・モデルの特徴は、ヒューマン・スキルがどのレベルの管理職にも求められることと、管理職のレベルによって重要度が増す能力(コンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキル)が違ってくることです。

しかし、人数の少ない会社では、「上位だから」「下位だから」と言っている場合ではありません。管理職である以上、前述の3つの能力全てを身に付けて成長できるように、経営者も管理職も努めなければならないといえるでしょう。

組織の成長は、日ごろ現場の社員を指導している管理職の成長なくして実現することはできません。人が育つ、人を育てる会社になるには、経営者も管理職も、互いに思いを共有し、力を合わせなければならないことを、いま一度、自覚することが大切です。

  • 【参考文献】
  • 「一日一話 仕事の知恵・人生の知恵」(松下幸之助(著)、PHP総合研究所(編)、PHP研究所、1999年4月)

以上(2019年4月)

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信頼される経営者になるための「10のチェックリスト」

書いてあること

  • 主な読者:改めて自分自身の立ち位置、足りない部分を知りたい経営者
  • 課題:どのような経営者であれば、社内外でもっと信頼されるか分からない、迷う
  • 解決策:自分自身の「やりたいこと」を考え抜き、周りに感謝の気持ちを持つことが大切。本稿では、経営者が今日からやるべき10のことを明らかにする

1 経営者に求めるものは何か

経営者は「会社の顔」であり、常に、顧客や取引先、金融機関、社員などから見られています。これらの人々が経営者に対して求めるものはさまざまですが、根源にあるのは、「『この人なら』と信頼できるかどうか」ではないでしょうか。

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上表は、経営者から見ると、「言われなくても分かっている」と感じることかもしれません。しかし、実際に身に付けられているかは別問題です。本稿では、「信頼される経営者」になるために、経営者が自らを振り返る「10のチェック項目」を紹介します。

2 どのような経営者が信頼されるのか

経営者の仕事は、利益を出し、社員を雇用し、何があっても会社を存続させることです。会社の規模にもよりますが、「この人ならそれができる」と信頼されるためには、「先見性」「決断力」「ビジネスを形にする行動力」「人を育てる力」などが必要です。

これらの力さえあればよいわけではありませんが、時代を読み顧客が何を望んでいるのか、ビジネスチャンスはどこにあるのかを見極めて進む力、それを形にして利益を出す力、会社の成長を担う社員を育てる力などは経営者の基本といえるでしょう。

3 信頼される経営者になるために必要な10のこと

1)「やりたいこと」を明確に示しているか

よくいわれる例えですが、経営者は会社という船の船長です。船長は、世の中の流れを読みつつも、船がどこに進むのか、何を目指しているのかということを一番明確に持っていなければなりません。会社の「理念」と言い換えてもよいでしょう。

社内外に対して、この理念を明確に示すのは経営者の重要な仕事です。何をしている会社なのか、これから先、何を実現しようとしているのか。顧客や金融機関などの他、実際に現場で働く社員に対しては、特に繰り返し伝えていかなければなりません。

2)自分の弱点を認識しているか

経営者一人の力では会社は立ちゆきません。社員や周囲の協力、補完があって初めてて、会社は成り立ちます。この点についてよく例に挙げられるのは、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏とその名参謀、藤沢武夫氏の関係です。

2人は、「技術の本田」「経営(販売)の藤沢」と呼ばれるほど、それぞれが得意分野を突き詰め、互いに補完し合って会社を成長させたといいます。経営者には、自分の弱点を認識した上で社員や周囲に協力してもらい、それに対して感謝する器が必要です。

3)社外ネットワークを広げているか

経営者には、社外ネットワークも必要です。「困ったときに相談できる“その道のプロ”がどれだけいるか」「自社のために一肌脱いでくれる社外の人がどれだけいるか」は、信頼される経営者のバロメーターの一つといえるでしょう。

また、テクノロジーが発展し、グローバル化が進む現在では、社内のリソースだけでは今後の成長が難しい局面も出てくるでしょう。新しい分野の社外ネットワークを築き、ビジネスの可能性を広げていくことも、経営者にとって欠かせない仕事です。

4)誰よりも勤勉であるか

経営者は、自社のことに加え、顧客や業界のことについて社内外の誰よりも詳しいといえるくらい常に情報収集し、学び続けなければなりません。経営者には、会社を存続させていくために先見性が求められますが、それには裏付けとなる知識が必要です。

また、業種や規模にもよりますが、現場に行って情報収集することにも勤勉でなければなりません。顧客が今、何を求めているのか、オペレーションにはどのような課題があるのかなどは、実際に現場に行ってこそ見えてくるものです。

5)キャッシュフローを把握しているか

会社の規模にもよりますが、経営者が意外と正確に把握できていないのが「会社のお金の動き」です。金融機関などステークホルダーに対して説明するのはもちろん、会社のあらゆる活動を進めていくため、「お金の動き」は必ず把握しなければなりません。

ただし、経営者が知っておくべきなのは、細かい仕訳などではありません。例えば、前月どれだけの利益を出しているのか、すぐに動かせるキャッシュはどのくらいあるのか。こうした数字を把握しておけば、経営者は迅速に“次の一手”が打てるでしょう。

6)決断する軸を持っているか

会社の最終的な意思決定者は経営者です。大なり小なり、日々、あらゆることを決断するのが経営者の仕事です。しかも、決断したことの責任も、最終的には全て経営者が負うことになります。経営者とその他の社員とでは、この点が決定的に違います。

だからこそ、経営者は決断するのに迷うことがあります。そこで必要なのは、決断する軸として、「どのようなことを大切にする会社なのか」「どのような経営者でありたいか」といったことを、常に自分の中に持っておくことです。

7)社員の「人間力」を磨いているか

経営者には社員を成長させる責任がありますが、それは仕事面のことだけではありません。会社で重要なのは「人」です。「相手のことを考える」「礼儀をわきまえる」「困難を乗り越える」など、社員の基本的な「人間力」を育成することが必要です。

また、経営者が直接指導して育成するだけでは足りません。経営者がいなくても、あるいは次の経営者にバトンタッチした後も、「社員が社員を育てる」会社にしていくことが理想です。非常に難しいことですが、信頼される経営者としての重要な役目です。

8)社員に誇りを持たせられているか

考え方は人によりますが、社員が働きがいを感じ成長していく源泉は、「この会社で働くことを誇りに思える」ということです。そして、社員に誇りを持たせることができるのは、経営者に他なりません。

自社のビジネスや社員一人ひとりの活動にはどれだけ価値があるか、どのような顧客に喜ばれているか、どれだけ経営者が社員に感謝しているか。そうしたことを社員に伝え、社員と一緒に大きな夢を描いていきましょう。それが社員の誇りにつながります。

9)素直であり続けているか

環境や時代の変化など、何があっても会社を存続させていくために、経営者には時に柔軟性も必要です。そのために忘れてならないのは「素直さ」です。立場や年齢などにこだわらず、社員や周囲の人の話に、素直に耳を傾けてみましょう。

そうすることで、経営者が気付いていなかった思わぬヒントが得られる場合があるからです。特に、経営者とは異なる視点や反対意見を持つ人の話は、腹が立つかもしれませんが、素直に聞いてみれば大きな発見があるかもしれません。

10)24時間365日、経営者でいられるか

社員には休みがありますが、経営者には休みはありません。24時間365日、経営者は経営者です。会社のこと、社員のこと、ビジネスのことなどを、いつでもどこでも考えることができるのが真の経営者といえるでしょう。

会社を経営するのは簡単ではありません。つらいことも困難も山ほどあります。しかし、ビジネスが成功したときや社員の成長を感じられたときなど、24時間365日経営者でいた者にしか味わうことのできない、大きな深い喜びもあることを忘れてはなりません。

4 まとめ:10のチェックリスト

  • 「やりたいこと」を明確に示しているか
  • 自分の弱点を認識しているか
  • 社外ネットワークを広げているか
  • 誰よりも勤勉であるか
  • キャッシュフローを把握しているか
  • 決断する軸を持っているか
  • 社員の「人間力」を磨いているか
  • 社員に誇りを持たせられているか
  • 素直であり続けているか
  • 24時間365日、経営者でいられるか

以上(2019年3月)

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シニア層の需要が広がる自費出版の動向

1 自費出版の動向

1)自費出版のニーズについて

自費出版の顧客は、60歳以上がメーンとなっています。この理由として、退職などをきっかけに、自分のこれまでの歩みを自分史として書籍に残したいなどのニーズが増えていることが挙げられます。一方で、若年層の場合は、紙媒体よりもSNSやウェブサービスによって手軽に自己表現、情報発信をする傾向にあるようです。

自費出版物の制作、販売支援や日本自費出版文化賞の開催などを通じて自費出版物の社会的評価の向上に取り組む日本自費出版ネットワークへのヒアリングによると、「書籍の制作費用が高額なことから、自費出版文化賞への応募も資金面に余裕がある高齢者が多いとみられる。応募総数は全分野合わせて毎年500部前後で推移しており、自費出版文化賞の地域文化、個人誌、小説、エッセー、詩歌、研究・評論、グラフィックの7部門のうち、写真・画集などのグラフィック部門と現代詩、俳句、短歌などの詩歌部門の応募が増えている」(*)とのことです。

また、今後の自費出版のニーズについては、「会員企業を通じての応募の呼び掛けや、郵送による応募の強化などに取り組んでいるため、今後も自費出版文化賞への応募や、自費出版をやりたいというニーズは増えていくと思われる」(*)とのことです。

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(*)日本自費出版ネットワーク(2020年2月7日時点)

一方で、自費出版を手掛ける企業にとっては、どのようにして顧客からの受注を増やすのかといった課題があります。また、顧客の中には、自費出版をやりたいが、原稿の書き方が分からないといった悩みを抱えている人もいます。

そのため、企業の中には、地域の公共施設で自費出版に関する講座を開いたり、原稿を制作するためのマニュアルを配布したりすることで、顧客からの相談や受注の増加につなげているケースがあります。

以降では、自費出版に注力する企業に対して、顧客層や受注状況、自費出版の取り組みなどをヒアリングした結果を紹介します。

2)朝日印刷工業(群馬県前橋市)

書籍の制作、画像加工、ウェブサービスなどを手掛ける朝日印刷工業では、デジタル印刷ショップの「ディップス朝日」を運営しており、個人市場をターゲットにした小ロットの書籍づくりに注力しています。同社は、社内に自分史活用アドバイザー(自分史活用推進協議会の認定資格者)がいることから、自分史を中心とした自費出版の制作提案に取り組んでいます。

朝日印刷工業にヒアリングした結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の顧客がメーンとなっている。朝日印刷工業では、県内の図書館や公民館で自費出版に関する講座を開催しており、それがきっかけで、来社した顧客からの相談や依頼を受けるケースが増えている。

【受注状況、制作部数について】

年間平均で20件程度となっている。1人当たりの制作部数は、作成した書籍を家族や友人に配りたいのか、書店で販売したいのかといった目的によっても異なるが、少ない場合で15~20冊、多い場合で150~200冊程度となっている。顧客が原稿を用意していない場合でも、外部のライターと提携し、一から原稿を作ることができる。

3)清水工房(東京都八王子市)

研究誌、機関誌、会社案内などの冊子印刷を手掛ける清水工房では、自伝・社史を制作するための簡易年表や、自分史の書き方を分かりやすく解説したマニュアル本の提供などの丁寧な対応を強みとしています。

また、書籍の企画段階から配送までを一貫して手掛けており、出版部門の「揺籃社(ようらんしゃ)」を立ち上げ、自費出版で制作した書籍を全国の書店で販売したいというニーズに対応しています。

清水工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月12日時点)

【顧客について】

制作費用の都合や、編集者と頻繁に打ち合わせをする必要があることから、60歳以上で地元の顧客からの受注が多い。

知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から受注が来るケースが多い。また、駅前の公共施設などを借りて、自費出版に関する無料相談会を開催することで、顧客からの相談や受注の増加につなげている。

【受注状況、制作部数について】

1人当たりの平均制作部数は200冊程度、書店で販売する場合は、1500~2000冊程度制作するケースがある。また、清水工房では電子書籍での自費出版も手掛けているものの、紙の書籍を出版したいという顧客が多い。

4)めぐみ工房(新潟県長岡市)

学校印刷物の制作や文集の製本などを手掛けるめぐみ工房では、自費出版でエッセーや郷土史、ブログ本、写真集などの制作実績があります。

めぐみ工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の高齢の顧客が多い。知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から依頼を受けることがほとんどとなっている。

【受注状況、制作部数について】

受注件数は非公表だが、高齢の顧客がほとんどなので、自分が亡くなったときに、家族に残すための終活ノートを作成するケースが多い。作成した書籍は家族や親戚のみに配るため、制作部数も10~15冊程度となっている。

5)自費出版の競争状態

自費出版の競争状態について、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」に沿って考えます。

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自費出版は厳しい環境に置かれているといえます。書籍を制作する材料となる印刷用紙やインクの価格が高騰しており、清水工房へのヒアリングによると「紙の価格は、本のページに使う書籍用紙で1~2割程度、表紙に使う特殊紙は書籍用紙よりも高くなっていると感じる。また、使われる頻度が少ない紙はメーカーが生産を取りやめているため、紙の供給も少なくなっているのではないか」(*)とのことでした。

一方で、自費出版は、60歳以上の高齢者がメーンとなっています。電子書籍に対する抵抗や、紙の書籍を創る憧れがあることから、すぐに電子化で代替される可能性は低いといえるでしょう。

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(*)清水工房(2020年2月12日時点)

以上(2020年5月)

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民間主導で空き家、空き店舗などを活用したまちづくりに取り組む事例

書いてあること

  • 主な読者:空き家・空き店舗を活用して地域を活性化させたい企業や団体
  • 課題:活用するためのアイデアが十分に集められていない
  • 解決策:他地域での成功事例を参考にする

1 空き家、空き店舗、廃校利活用の方向性

一言に空き家、空き店舗、廃校の利活用といっても、建物を管理する事業者が建物をリノベーションし、利用者に貸し出す場合もあれば、利用者自身で建物をリノベーションする場合もあります。以降で紹介する事例は、建物をリノベーションする主体と目的の違いで、次のように整理できます。

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2 空き家の利活用事例

1)尾道空き家再生プロジェクト(広島県尾道市)

尾道空き家再生プロジェクトは、NPO法人尾道空き家再生プロジェクトの代表である豊田雅子氏が、2007年に空き家となっていた「旧和泉家別邸」を購入、修復したことがきっかけで始まった取り組みです。

空き家をリノベーションし、尾道市街の古い町並みや景観の保全などを図るため、空き家に放置されている家財道具のチャリティー蚤(のみ)の市、市民に空き家問題についての理解を深めてもらうためのまちづくり発表会、古い空き家の修復と「坂の町」尾道の暮らしを楽しむ体験型夏合宿などに取り組んでいます。

■NPO法人尾道空き家再生プロジェクト■
http://www.onomichisaisei.com/

2)越後妻有 大地の芸術祭の里(新潟県十日町市)

「越後妻有(つまり) 大地の芸術祭の里」は、NPO法人越後妻有里山協働機構が運営元として、3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の舞台となっている場所です。この場所では、過疎化、高齢化や2004年の新潟県中越地震などの影響で空き家や廃校が増えています。こうしたことから、地域の景観を維持するために、空き家や廃校をリノベーションし、アート作品や美術館として活用しています。空き家や廃校のリノベーションは、大地の芸術祭の会期中に限らず、通年で取り組んでいます。

空き家をリノベーションした施設として、家全体に彫刻刀で彫り込みを入れることでアート作品に再生させた「脱皮する家」や、かやぶき屋根の古民家を「やきものミュージアム&レストラン」に再生させた「うぶすなの家」などがあります。

■越後妻有 大地の芸術祭の里■
http://www.echigo-tsumari.jp/

3 空き店舗の活用事例

1)岩村田本町商店街(長野県佐久市)

岩村田本町商店街では、同振興組合が中心となって空き店舗の活用に取り組んでいます。空き店舗は、住民アンケートによる活用策を基にリノベーションをしており、これまでに、地域コミュニティーの集い場「中宿おいでなん処」、手作り総菜の店「本町おかず市場」、若手起業家の育成施設「本町手仕事村」の他、「岩村田寺子屋塾」「子育てお助け村」などの地域密着型施設を整備しています。

この取り組みの結果、空き店舗数は2000年時点で15店舗でしたが、2015年には2店舗まで減少しています。

■岩村田商店街オフィシャルサイト いわむらだ.こむ■
http://www.iwamurada.com/

2)長浜・黒壁スクエア(滋賀県長浜市)

長浜・黒壁スクエアは、地元企業や長浜市が共同で設立したまちづくり会社の黒壁が、黒壁銀行の愛称で親しまれた古い銀行の建物をリノベーションしたのをきっかけに始まった取り組みです。同社では、ガラス工芸品の販売事業を手掛けており、その売り上げを空き店舗のリノベーション費用などの町並み形成に充てています。

また、長浜・黒壁スクエアのにぎわいを周辺の地域に拡大するため、まちづくり会社の長浜まちづくりが設立され、空き家再生バンクや空き家をリノベーションしたシェアハウスの運営、若者の創業支援などを手掛けています。

長浜まちづくりへのヒアリングによると、「既存店舗のリノベーションを含む空き店舗を活用した出店実績は、2008年からの累計で118店舗となっている」(*1)とのことです。また、来街者数について、黒壁へのヒアリングによると、「2017年が195万9000人、2018年が211万6000人と増加傾向にある」(*2)とのことです。

■黒壁■
https://www.kurokabe.co.jp/

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(*1)長浜まちづくり(2019年11月14日時点)
(*2)黒壁(2019年11月14日時点)

3)なごのや(名古屋市西区)

なごのやは、観光まちづくりに関するコンサルティングや訪日外国人向けツアーオペレーターなどを手掛けるツーリズムデザイナーズが、円頓寺(えんどうじ)商店街の廃業した喫茶店「西アサヒ」をリノベーションし、2015年4月にオープンした複合店舗です。店舗の1階が喫茶・食堂、2階が民宿となっています。1階は喫茶・食堂としての役割だけでなく、アーティストのライブ会場や作品展示の場としても活用されています。

また、2018年4月にはボルダリング施設とゲストハウスを併設した別館をオープンしました。

■なごのや■
https://www.nagonoya.com/

4)沼垂テラス商店街(新潟県新潟市)

沼垂テラス商店街は、旧市場の長屋が連なる沼垂地区のシャッター通りを再生するため、地元の商店主が旧市場全体を買い取り、2014年に管理事務所となるテラスオフィスを設立したのがきっかけで始まった取り組みです。2019年11月時点で雑貨店や飲食店など28の店舗と、管理事務所兼ゲストハウスなど4つのサテライト店舗があります。

空き店舗のリノベーション方法や、新規出店を誘致するための方法などについて、商店街の運営を手掛けるテラスオフィスへヒアリングした結果は次の通りです。

  • 空き店舗は、テラスオフィスで屋根や外壁などを修復し、内部のリノベーションは入居する店舗にお願いしている。リノベーションの費用は、店舗の規模によって異なるものの、例えば1棟を丸ごとリノベーションし、ゲストハウスにした場合は1000万円以上の費用が掛かっている。
  • 新規出店の募集、来訪者の誘致などの情報発信はSNSを中心に行っている。また、商店街のほとんどの店舗が何かしらのSNSツールを利用しており、各店舗の情報発信が相乗効果を生み、情報が広がっている。それをキャッチしたメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディアなど)が取り上げてくれることで、さらに認知度が高まっていると実感している。他にも、外部イベントへの出店によって、知名度アップや新規顧客の誘致につながっている場合もある。
  • 知名度のアップなどによって「沼垂テラス」というブランドが構築されつつあり、この場所で起業したい、出店したいという相談を受けており、空き家のオーナーとの調整を行っている最中である。今後、年に何軒もリノベーションを手掛けるのは難しいものの、1年に1軒程度は実現していけるような目標設定をしている。(*3)
■沼垂テラス商店街■
https://nuttari.jp/

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(*3)テラスオフィス(2019年11月13日時点)

4 廃校の活用事例

1)猟師工房ランド(千葉県君津市)

猟師工房ランドは、狩猟ビジネスを手掛けるTSJが君津市から旧香木原(かぎはら)小学校の体育館と土地を借り受け、同社が改装、2019年7月にオープンした施設です。

君津市では、鳥獣による農作物への被害が大きな問題となっていることや、旧香木原小学校を地域活性化の拠点として有効活用するため、鳥獣被害対策をテーマに民間事業者を公募した結果、TSJからの応募があり施設を貸し付けることになりました。

約2500坪の土地に狩猟大学校、キャンプ場、ドッグラン、バーベキュー場があります。施設は、君津市内で捕獲された鹿やイノシシを加工した食品、工芸品の販売に利用されているだけでなく、有害鳥獣の駆除、狩猟ビジネスに取り組みたい市内の若者が、狩猟の知識や技術を学ぶ場所としても活用されています。

■廃校施設を活用した地域活性化の拠点「猟師工房ランド」■
http://maruchiba.jp/sys/data/index/page/id/18829

2)潮の杜(宮崎県日南市)

潮の杜は、マリンスポーツ用品の販売などを手掛けるレジェンドが、廃校となった旧日南市立潮(うしお)小学校を活用し、起業支援や地域交流の拠点として2014年4月にオープンした施設です。校舎は地域の団体が教室やワークショップを開くための場だけでなく、日南市鵜戸(うど)地区の地域おこしにつながる起業支援の場として活用されています。起業支援は、空き教室の提供だけでなく、経営に関するノウハウ提供やインターネットでのPRなどのサポートもしています。

また、グラウンドはオートキャンプ場として活用されており、宿泊も可能です。

■潮の杜■
https://www.ushio.co/

5 その他の事例

ヤマキウ南倉庫(秋田県秋田市)は、インテリアやグラフィックなどのデザイン制作を手掛けるSee Visionsが、不動産事業を手掛けるヤマキウの旧倉庫を改装し、2019年6月にオープンした複合施設です。倉庫内にはスーパーマーケット、雑貨店、美容院など10の店舗と6つのオフィス、コワーキングスペース、ホールがあります。

同社は、秋田市南通亀の町のエリアリノベーションに以前から取り組んでおり、閉店した居酒屋を改装したバル(軽食喫茶店)やベーカリーなどを開店した実績があります。

■ヤマキウ南倉庫■
https://yamakiu-minamisoko.com/

以上(2020年2月)

pj50493
画像:photo-ac

【朝礼】道を切り開くのは「上司」ではない。自分だ

先日、当社の若手・中堅社員にアンケートをとりました。内容は、「将来、当社がもっと輝くために、改善すべき点は何か?」というものです。普段、思っていることや考えていることを、正直に答えてほしかったので、あえて匿名でのアンケートにしました。

すると、若手・中堅社員のさまざまな不満が明らかになったのです。今日は、そのアンケートの結果を基に、皆さんにお話しします。腹が立つ人や耳が痛いと思う人もいるかもしれませんが、現状を真摯に受け止めてください。

回答の中で特に多かったのは、「自分たちが日ごろ頑張っているのだから、上司にももっと仕事をしてほしい」「上司には、部下の頑張りをもっと分かってほしい」「上司にはちゃんと判断してほしい」といった、上司に対する不満や要望でした。皆さんは、これを、どのように感じますか。

本当に至らない上司が多いのか、それとも若手・中堅社員が分かっていないだけなのか。もちろん、それも問題なのですが、私が気になったのは、別のことです。「若手・中堅社員は、将来も、この会社を動かしていくのは上司だと思っているのか。自分たちでどうにかしてやろうとは思わないのだろうか」。そう危機感を覚えたのです。

若手・中堅社員に聞きます。「能力の高い、ちゃんとした上司がいて、それに従う」のが、皆さんにとっての「将来、当社が輝いている姿」なのですか。本当にそれでいいのでしょうか。

誤解を恐れずに言います。若手・中堅社員の皆さん、当社は、「上司ありき」の会社ではありません。社歴も役職も関係ありません。上司がふがいないなら、「自分たちで会社を変えてやる」と行動を起こしてください。「これを自分たちにチャレンジさせてほしい」と、ぜひ、手を上げてほしいのです。若手・中堅社員のチャレンジを、私は心から応援し、バックアップします。

もちろん、至らない上司には、私から指導しますが、上司が変わるのを待たないでください。変わるのは、上司の指示に従うだけだった若手・中堅社員の皆さんです。大切なのは、「上司がどうするか」ではなく、「将来に向けて、自分がどうしたいか」です。

また、上司の皆さん。実情はどうであれ、あなた方の部下は、「上司本願」で物事を捉えています。若手・中堅社員には、自分で考え、行動し、道を切り開いていく力を付けてもらわなければなりません。その機会を創るのが上司の仕事です。将来を担っていく若手・中堅社員が、上司を基準に物事を捉えているのは、皆さんが部下のやる気や成長の機会を奪ってきた結果ではないでしょうか。私は、それが部下の「上司が変われば会社が良くなる」という考えの根本にあると思います。

そして、もう一度言います。若手・中堅社員の皆さん、これから会社を変えていくのは、皆さん自身です。今、この時から、立ち上がってください。

以上(2020年2月)

pj16992
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】審議書は新たなチャレンジのチケット

先日、とある上司と部下のコンビ、ここではAさんとBさんとしておきますが、その2人のデスクの前を通りかかったときのことです。書類を前に、2人で難しい顔をしながら話し合っていたので、何の件なのかと思って聞いてみると、審議書を作成しており、上司のAさんから部下のBさんに対して修正の指示をしているとのことでした。

部下のBさんはついこの前入社したばかりだと思っていたのに、審議書を作成するようになったのだなと思うと、頼もしく感じました。

ちなみに皆さんは、審議書と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。もし、「手続き、根回し、面倒」というイメージを持っていて、「できれば審議書なんて作りたくない」と考えているのだとしたら、ビジネスパーソンとしてはあまりに物足りません。

審議書の目的は、会社の想定を超えたレベルでビジネスをすることにあります。投資であったり、新規契約であったり、何かあれば会社に大きな影響がある内容だからこそ、審議書を通して、複数の人間がさまざまな角度から、この取り組みには問題がないかを確認するのです。

審議書が承認されれば、チャレンジはお墨付きだといえます。しかし、この点を意識していない人からは、会社にとって想定内のビジネスについての審議書しか挙がってきません。例えば、当社の今月の取締役会に上程された、パソコン入れ替えに関する審議書がそうです。

この審議書の内容は、リース期間の終了に伴い、今と同スペックのパソコンを調達するというものでした。確かに審議書は上程されましたが、単に前例踏襲のための手続きであり、全くチャレンジしていません。それでは、いつまでたってもビジネスチャンスは訪れないでしょう。

働き方改革を進めている当社にとって、パソコン入れ替えは千載一遇のチャンスです。デスクトップをノートにしたり、ファイル管理方法を見直したりすれば、フリーアドレスやリモートワークなど、働き方改革が加速します。

しかし、その審議書はパソコンを調達できるギリギリの時期に上程されたので、もはや新たな計画を検討する猶予はありませんでした。結局、その内容のまま承認されることになりました。

この例で上程された審議書が、いけないわけではありません。パソコンの入れ替えのための手続きとしては、要件を満たしています。しかしそこまでのことで、私から見ると本当に物足りません。

審議書が承認されたら、新たなチャレンジをするための“公式チケット”を手に入れたのと同じです。今年度、皆さんは何枚のチケットを手に入れたでしょうか?

その枚数は、皆さんのチャレンジのバロメーターです。新年度、積極的にチャレンジする皆さんの姿勢が、審議書として上程されてくることを楽しみにしています。

以上(2020年2月)

pj16993
画像:Mariko Mitsuda