弁護士が教える新型コロナウイルス感染症の労務管理Q&A

新型コロナウイルス感染症の感染予防対策として従業員に休業を要請するなど、経営者は平常時とは異なる判断を求められています。そこで、

  • 従業員を(全部/⼀部)休ませたい
  • 従業員を休ませることが難しい
  • 保健所への通報などについて知りたい

の3つのテーマについて、弁護⼠がQ&A⽅式でお答えします。判断はケース・バイ・ケースで、本稿の内容が常に妥当とは限りませんが、1つのよりどころとしてご活⽤いただけると思います。

以降の内容は、2020年4⽉17⽇時点の情報に基づきます。

1 従業員を(全部/⼀部)休ませたい

1)従業員を休ませる場合、休業⼿当(平均賃⾦の60%)の⽀払いが必要でしょうか?

まず、前提として「会社側の都合により従業員を休業させる場合、休業⼿当の⽀払いが必要」になります(労働基準法第26条)。不可抗⼒であれば「会社側の都合による休業」に当たらないので休業⼿当の⽀払いは不要です。しかし、不可抗⼒だと認められるにはハードルが⾼くなります。ケースごとの考え⽅を紹介します。

●新型コロナウイルス感染症に感染したことが判明したので休ませたい

当該従業員を休業させることは不可抗⼒でしょう。休業⼿当の⽀払いも不要と考えられます。なお、従業員が健康保険などに⼊っている場合、傷病⼿当⾦の⽀給をご検討ください。

●発熱が続くなど新型コロナウイルス感染症の症状が疑われるので休ませたい

厚⽣労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の⽅向け)」(以下「厚⽣労働省Q&A」)では、⼀般的には休業⼿当を⽀払うべきとされており、これに従うのが穏当と思われます。ただし、濃厚接触者(注)や、新型コロナウイルス感染症の流⾏地域からの帰国者に対しては、休業⼿当の⽀払いは不要ではないかという意⾒もあります。

(注)厚⽣労働省Q&Aによると、感染者に対して必要な感染予防策をせずに⼿で触れた、または対⾯で互いに⼿を伸ばしたら届く距離(⽬安として2メートル)で⼀定時間以上接触があった場合、濃厚接触者に該当し得るとされています。

●緊急事態宣⾔が発出された。休業要請の対象業種ではないが休ませたい

直ちに休業⼿当の⽀払いが不要とは⾔えません。あくまで⾃主的な休業判断とされる可能性も⼗分あり得ます。

厚⽣労働省Q&Aでも、緊急事態宣⾔などを受けて事業を休⽌し、従業員を休業させる場合であっても、⼀律に労働基準法に基づく休業⼿当の⽀払義務がなくなるものではなく、会社(経営者)として休業を回避するための具体的努⼒を最⼤限尽くしていると⾔える必要があるとされています。具体的な努⼒を尽くしたと⾔えるか否かに関して、例えば、

  • 在宅勤務などの⽅法により従業員を業務に従事させることが可能な場合、これを⼗分に検討しているか
  • 従業員に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか

といった事情が挙げられています。

なお、⾃宅(で仕事ができるよう)待機(しておくように)という趣旨で従業員に⾃宅待機を命じる場合は、100%の賃⾦の⽀払いが必要です。例えば、引き継ぎの電話に出られるようにしておいたり、メールやチャットツールに対応したりするよう求める場合が該当します。

●緊急事態宣⾔が発出された。休業要請の対象業種に該当するため休ませたい

やはり、直ちに休業⼿当の⽀払いが不要とは判断できません。ただし、休業要請の対象業種であるという点から、上記とは異なる配慮はあり得ます。休業が「不可抗⼒」だという解釈も、説得⼒を⼀応持ちますし、休業となる従業員の理解も⽐較的得やすいと思います。

やむを得ず休業とし、休業⼿当を⽀払わないとする場合も、

  • 「他の仕事をさせられるかを検討した上で、やむなく休業とせざるを得ない」という判断のステップを経ること
  • 従業員とよく話し、理解を得る努⼒をすること

が必要でしょう。

2 従業員を休ませることが難しい

1)感染予防の対応(帰社時の⼿洗いや⼿指消毒、就業中のマスク着⽤の義務化など)を従業員に義務づけ、違反の場合は懲戒の対象とできるでしょうか?

業務命令として可能です。ただし、マスク着⽤を義務づける場合、マスクを準備するのは会社です。消毒⽤アルコールやハンドソープについても同様です。

違反者に対する懲戒処分ができるかについては、当該⾏為が直ちに感染を引き起こすわけではないことから、悪質性や企業秩序への悪影響が限定的と⾔われているので、重い処分は無効とされる可能性が⾼いでしょう。

懲戒は慎重に検討すべきであり、まずは事実上の注意や指導を繰り返しましょう。懲戒処分を⾏うのは、具体的なトラブルを招いた場合などに限定し、やむを得ず懲戒処分を⾏う場合も重い懲戒処分は避けるべきでしょう。

また、業務命令は、原則として会社内(勤務時間内)のみのことです。会社外での活動(通勤時にマスクを着⽤せよとか、飲みに⾏かないよう⾃粛を求めるなど)については、⼀般的には、業務命令によって禁じるのは難しいでしょう。業種の特殊性や、実際に⼤きく報道されることなどにより、そのような⾏動が企業秩序によほどの悪影響があるならば⼀考の余地はありますが、基本的には認められにくいと考えられます。

なお、会社外での活動(旅⾏、ライブなど)についても、そういった⾃粛を「要請」する限りであれば問題ないでしょう。ただし、あくまで⾃粛要請であり、破った従業員に対する罰則や不利益な取り扱いはできません。⾃粛を要請する場合は、その理由も併せて説明すべきです。

2)従業員への配慮として、会社はどの程度のことを検討すべきでしょうか?

会社の規模や業種にもよりますが、テレワークや時差出勤を検討されてはいかがでしょうか。厚⽣労働省Q&Aでも、この点に触れられています。助成⾦の利⽤ができるケースもあります。

通常業務を⾏う場合(時短や交代制を伴う場合も含む)でも、感染予防の観点から、次の3点を考えてはいかがでしょうか。

  • 発熱などの症状がある従業員については、医師の指導に従って⾃宅で療養させるべき(会社の判断で休ませるため、休業⼿当の⽀払いが必要)
  • ⼿洗いや咳エチケットなどの(職場の)感染防⽌対策について教育・普及啓発を⾏う
  • 必要に応じて職場の清掃・消毒を⾏う

3)毎朝、従業員に体温を測らせ、報告させることに問題はないでしょうか? また、従業員の体温をホワイトボードに記載するなどして管理してよいでしょうか?

従業員に対して体温を測るよう求めることは問題ありません。

ただし、報告を求めることについては、やや難しい判断があります。例えば、「37.5度を超えた場合は上⻑に報告させる」といった形で要求するのは問題ないでしょう。しかし、具体的な体温を毎⽇報告させることについては、体温もセンシティブな個⼈情報に当たるため、許されないとする意⾒もあります。

私⾒としては、現状に鑑み、感染者を出社させないよう管理することは必須であるところ、体温計での計測を促すため、具体的な体温を報告させることに合理性があると考えています。ただし、その場合でも、センシティブな個⼈情報を、職場の他の者が分かるような扱いは不適切ですから、上⻑ないし取りまとめ役への報告とするべきです。

特に、⼥性にとって体温は、⽣理や排卵の時期にもかかわる情報ですから、例えば、⼥性従業員に関しては、体温の報告先を⼥性にするといった配慮もすべきでしょう。

3 保健所への通報などについて知りたい

1)新型コロナウイルス感染症の陽性判定が出た従業員がいます。会社として何をすべきでしょうか? また保健所に通報すべきでしょうか?

当該従業員は就業させるべきではなく、その者との濃厚接触者も⾃宅待機とすべきでしょう。また、会社の事務所を閉鎖すべきか(消毒後の開所)については、保健所と相談になるものと思われます。

なお、医師は新型コロナウイルス感染症の患者を発⾒したときは、保健所に届け出ることを義務づけられているため(感染症法第12条)、会社から通報する必要はありません。むしろ、センシティブな個⼈情報のため、かかる対応はすべきではないでしょう。

2)新型コロナウイルス感染症の症状が疑われる従業員が、⾃ら保健所に連絡しないので、保健所に連絡するよう命令することは可能でしょうか? ⾃分でしない場合、会社が保健所に通報してもよいでしょうか?

症状の程度などにもよりますが、会社が業務命令として、保健所に連絡して感染の有無を判断してもらうよう命じることは可能でしょう。

しかし、従業員が会社の求めに応じず保健所に連絡しない場合でも、会社が保健所に直接連絡することは避けるべきでしょう。当該従業員の個⼈情報(健康情報)ですので、当該従業員の同意がない限りは違法となる可能性が⾼いです。

以上(2020年4⽉)
(執筆 みらい総合法律事務所 弁護⼠ ⽥畠宏⼀)

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画像:pixabay

スマート住宅・スマートマンションで活用されるテクノロジーの事例

書いてあること

  • 主な読者:自社で管理する住宅やマンションの付加価値を高めたい不動産会社
  • 課題:導入に当たって、どのような設備が良いのかが分からない
  • 解決策:導入されることが多い設備として、アナウンスを流して無人で応対するインターホンや、カメラを使って来訪者を識別する顔認証システムなど、入居者のプライバシー保護や建物のセキュリティーを高めるものがある

1 スマート住宅やスマートマンションで導入される設備の主な事例

ここでは、スマート住宅やスマートマンションに導入される設備の主な事例について、「防犯・セキュリティー」「設備管理」「防災」「介護」「エネルギー管理」「その他」の分野に分けて、それぞれ紹介します。

1)防犯・セキュリティー

1.入居者のプライバシーを守るインターホン

パナソニック(大阪府門真市)が提供するマンション向けインターホン「クラウジュ」は、ロビーインターホンから自動でアナウンスを流して来訪者の用件を事前に確認することで、入居者が用件を確認した上で応対するかどうかを判断できます。

このため、セールスに応対したくない、日中の不在を知られたくないといった入居者のプライバシーを守ります。また、不在時でも来訪者の顔と用件を記録し、カレンダー形式で来訪者の履歴をインターホンの画面に表示できます。

他にも、マンション管理事務室からの連絡やアンケート、天気予報などを住戸内で確認できる機能を備えています。

同社は、戸建て住宅向けのインターホンでも、外出中にスマートフォンで来客応対をしたり、アナウンスを流して来訪者の用件を事前に確認したりできる製品を提供しています。

2.外出先からでも応対可能なインターホン

アクロディア(東京都新宿区)は、マンション向けのインターホンIoTシステムを提供しています。インターホンをインターネットに接続することで、外出先からでもスマートフォンなどの端末を経由して、来訪者との通話やオートロックの解錠ができます。

また、来訪者の顔をデータとして登録できるため、専用アプリの画面上で誰が来たのかを確認できます。

宅配会社や運送会社向けには、遠隔でインターホンを鳴らして入居者が在宅しているかどうかを確認する機能もあります。これにより、宅配会社などは、不在による再配達の手間を無くせる他、入居者は荷物の再配達時間を外出先から配達員に直接伝えることができます。

3.顔認証式の宅配ボックス

フルタイムシステム(東京都千代田区)は、宅配ボックスを使ったマンション向けセキュリティーサービス「F-ace」を提供しています。

宅配ボックスに内蔵されたカメラを使い、利用者の顔を識別する認証機能を備えているのが特徴です。

顔認証によって、入居者が鍵やICカードを使わずにマンションのエントランスやエレベーターに入れる他、子どもがエントランスを通過したときに、自動で保護者にメールを送信して、子どもの帰宅を知らせます。

4.入居希望者の内覧、民泊にも対応できるスマートロック

大崎電気工業(東京都品川区)は、集合住宅向けに既設の鍵に後付けで交換できるスマートロック「OPELO」を提供しています。

OPELOは、交通系ICカードやおサイフケータイ、シリンダー錠、暗証番号といった多様な解錠・施錠方法に対応したスマートロックです。ワンタイムパスワードを自動で発行する機能を備えているため、空室時に入居希望者が部屋を内覧するときや、外国人観光客の民泊のときに、管理人がその都度鍵の貸し出しや返却に立ち会う手間が無くなります。

5.徘徊(はいかい)防止に有効なスマートロック

エナスピレーション(静岡県藤枝市)は、戸建て住宅、集合住宅向けの徘徊対策に有効なスマートロック「ES-F700G」を提供しています。

ES-F700Gは、指紋認証、暗証番号、ICカードで解錠できるスマートロックです。既設の玄関ドアに後付けで交換可能で、オートロックのため、鍵を閉め忘れる心配も無くなります。

また、室内から解錠するときは、登録済みのICカードもしくは非常キーが必要になるため、認知症による突然の外出や徘徊の防止につながります。他にも、火災や不正解錠に対する警報機能も備えています。

2)設備管理

1.マンション掲示板のデジタル化

大京(東京都渋谷区)と、グループ会社の大京アステージ(東京都渋谷区)は、自社が手掛けるマンション「ライオンズ蒲田レジデンス」に24時間、365日対応のAI管理システム「AI INFO」を導入しています。

AI INFOはマンションの管理員が担う機能とマンションの掲示板を一体化したシステムです。管理員機能は、入居者からの問い合わせに対して、AI管理員が音声で自動応対するシステムで、入居者はスマートフォンから問い合わせができます。

また、これまでは貼り紙で掲示していた情報をデジタル化することで、管理会社からのお知らせに加えて、施設内での落とし物や地域のイベント、天気予報などのさまざまな情報を配信できるようにしています。

2.住宅設備全体のコントロール

YKK AP(東京都千代田区)は、エアコンや照明などの家電製品に加え、シャッターや玄関ドアといった住宅設備を統合管理するサービスを提供しています。

HEMS(Home Energy Management Systemの略称で、家庭内で使うエネルギーを節約するための管理システムをいいます)用の制御パネルから住宅設備を操作できるだけでなく、外出先でスマートフォンからシャッターの開閉や玄関ドアの解錠、施錠ができます。そのため、大雨や強風の際は外出先からシャッターを閉めて、ガラスが割れるのを防ぐことができます。

3.顔認証によるマンション共用部分の利用

ヨシコン(静岡県静岡市)とフルタイムシステム(東京都千代田区)は、マンションのゲストルームなどの共用部分を顔認証で利用できる「スマートマンションシステム」を2021年3月から静岡県藤枝市のマンションで導入する予定です。

スマートマンションシステムは、フルタイムシステムが手掛ける顔認証サービス「F-ace」と、パソコンや携帯電話からマンションの共用部分の利用予約ができるウェブサービス「ファンナビ」を組み合わせています。ファンナビでマンションの共用部分の利用予約をした上で、共用部分に設置されたカメラで顔認証を行うことで利用できます。共用部分を利用する際に、その都度管理室から鍵を借りなければならないといった手間や、鍵を紛失するリスクが無くなります。

3)防災

1.防災用品を格納した宅配ロッカー

穴吹興産(香川県高松市)、日本電力(香川県高松市)、エリーパワー(東京都品川区)、フルタイムシステム(東京都千代田区)は、マンションや集合住宅向けの「シェアリング防災宅配ロッカー」を共同開発し、2020年3月に発売しました。

シェアリング防災宅配ロッカーは、宅配物の受け渡しだけでなく、災害時の電力供給や防災用品を格納する機能を備えています。地震発生時には揺れを感知し、自動で扉が開いて防災用品を取り出せるようになる他、外部からの電力供給が遮断されても、内蔵のリチウムイオン電池により約3時間の電力供給が可能です。

2.BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)をサポートするビル管理システム

大成建設(東京都新宿区)は、東光高岳(東京都江東区)と共同で、災害発生時に館内設備を自動的にコントロールする「T-BC Controller」を2020年1月に開発しました。

T-BC Controllerは、主にオフィスビルを想定した設備管理システムです。大規模災害でライフラインの供給が止まったときに、BAS(Building Automation Systemの略称で、設備を監視・管理・制御するシステムをいいます)やBEMS(Building Energy Management Systemの略称で、設備の使用エネルギー量などを把握・管理するシステムをいいます)と連携して水や発電機燃料などの供給可能時間を可視化します。また、優先度の低い部屋の電源や設備を自動で停止させることで、施設の稼働時間の確保や、BCPの実行を支援します。

4)介護

1.急性疾患の予防

積水ハウス(大阪市北区)は、戸建て住宅向けの在宅時急性疾患早期対応ネットワークの「HED-Net」を2020年中に提供開始する予定です。

HED-Netは、入居者の心拍数などのバイタルデータを解析し、脳卒中などの急性疾患を発症する可能性を検知した際に緊急通報から安否確認、救急隊の出動要請、玄関ドアの遠隔解錠・施錠までを一貫して行う仕組みです。

同サービスは、「安否確認システム」として国内のシステム特許を取得し、国際特許も出願中です。

2.AIを活用した要介護状態の予防

ネコリコ(東京都千代田区)、日本データサイエンス研究所(東京都文京区)、東京大学は共同で、AIと電力データを用いたフレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体や認知機能の低下が見られる状態)の検知に関する実証実験を2020年内に三重県東員町で行うこととしています。

実験では、単身の高齢者世帯を対象に、スマートメーターから得られる電力データ、モーションセンサーやCO2センサーのデータ、AIを活用し、フレイルの簡易判定、早期発見に取り組む予定です。

5)エネルギー管理

トヨタホーム(愛知県名古屋市)が戸建て住宅向けに提供するエネルギー管理システム「HeMS」は、太陽光などの発電状況と併せて、家庭内の各部屋、機器ごとの消費電力も把握できます。

また、車のカーナビゲーションシステム、スマートフォンから玄関の鍵やエアコンなどの機器を操作できるため、鍵の掛け忘れやエアコンの消し忘れなどを防止できます。

6)その他

1.入居者の利便性を高めるマンション

長谷工コーポレーション(東京都港区)は、ICT技術を活用した学生向けの賃貸マンションを施工しています。

マンションにはHEMSをはじめ、顔認証で入館、エレベーター制御を行うシステムや、地震発生時に入居者や入居者の家族に通知する振動センサーを導入する予定です。

住宅設備から得たデジタルデータをクラウドに集積、分析することで、セキュリティーや情報サービス、見守りなどの入居者の利便性やサービスの向上につなげる計画です。

2.入居者の健康改善を図るスマートハウス

神奈川県横浜市は、IoTスマートホームを用いて入居者の健康状態を可視化、健康改善につなげる実証実験「未来の家プロジェクト」に取り組んでいます。

同プロジェクトはNTTドコモ(東京都千代田区)、and factory(東京都目黒区)と共同で2017年6月に発足した取り組みです。室内に設置したIoT機器やセンサーで入居者の健康や生活状況をスキャン・可視化することで入居者の健康改善につながる行動を促します。

同プロジェクトには20者の企業・団体が参画し、センサー付きパジャマや歯の磨き方をチェックできるIoT歯ブラシ、眠りを感知するセンサーを設置することで、入居者自身が設定した健康状態の目標と現時点の状態を可視化するなどの実証実験に取り組んでいます。

将来的には、AIを活用することで家自体が入居者の生活状況を把握し、室内を入居者にとって快適かつ健康的な状態に自動調節することを目指しています。

2 参考情報

1)IoT機器の導入に関するヒアリング結果

IoT機器の導入状況に関して、IoT事業を手掛けるユーピーアール(東京都千代田区)へのヒアリングによると「機械の遠隔操作、例えば、ネットワークカメラや外出先からでも応対が可能なインターホン、宅配ポストや宅配ロッカーに荷物が投函されると、スマートフォンに自動で通知が届くなどの仕組みについて、導入の相談を受けることが増えている」(*)とのことです。

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(*)ユーピーアール(2020年2月5日時点)

2)スマートマンションの普及状況について

スマートマンション(MEMSを導入し、マンション全体でエネルギー管理、節電効果を高めるマンションをいいます)については、2013~2017年の期間で経済産業省が「スマートマンション導入加速化推進事業費補助金」制度を設けて、既設、新築マンションのスマートマンション化を支援してきました。

同補助金のMEMSアグリゲータ(マンションなどの集合住宅にMEMSを導入し、エネルギー管理の支援やMEMSから得た情報を活用し節電を図る事業者をいいます)に対する最終的な交付決定数は1685件(総戸数は18万3296戸)となっています。

助成制度が終了したあともスマートマンション化の拡大を図るために、現在はスマートマンション推進協議会がスマートマンションの認定制度を運用しています。

同協議会のスマートマンション認定では、MEMS機器を設置し、建物全体や各戸の電力使用量が見えることや、MEMS機器が共用部の機器を制御できる機能を持っていることなどを認定条件としています。2020年3月時点で、スマートマンション推進協議会が認定したスマートマンションは33物件あります。

以上(2020年5月)

pj59025
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【朝礼】時間の密度を高めなさい

もうすぐ6月になります。今年も半ばに差し掛かろうとしていますが、皆さんは「もう6月になってしまった」と感じますか、それとも「まだ6月か」と感じますか。

時間の早さの感じ方については、「同じことを繰り返しているとマンネリ化して刺激がなく、時間がたつのが速い」、逆に「新しいことにチャレンジしていると、これまでにない刺激を受けるので、時間がたつのが遅い」などといわれます。

私の場合、昔は時間がたつのがとても速く、常に時間に追われている感覚でした。ところが、今は全く違い、時間がたつのが速いと感じなくなりました。昨年から新規事業にチャレンジしているので、新しい刺激を受けているということもあるのでしょう。しかし、それだけでは説明がつきません。

私は、時間に追われていた昔も、常に新しいことにチャレンジしていました。逆に、時間がたつのが速いと感じなくなった今も、昔と同じルーティンワークを継続しています。つまり、やっていることが古いか新しいかというだけで、時間経過の速さの感じ方が変わるわけではないのです。

私は、本質は【時間の密度】であると考えます。私が時間の密度を意識するきっかけになった言葉を紹介します。江戸時代末期の武士である高橋泥舟(たかはしでいしゅう)の言葉が転じたものだそうです。

  • 人の道と降る雪は、つもりつもりて、道を誤る

「最初は小さな出来心でも、積み重なれば取り返しのつかない過ちになる。だから油断するな」という意味です。ただ、私はこの言葉を「正しく積み重ねていけば、道は開ける」という、本来とは逆の意味にも取れると考えています。日々の取り組みは一粒の雪のようにはかないものですが、積もり積もってその人の生き様になります。そうなってから変えることは難しいため、日々、正しく積み重ねていくしかありません。

そこで考えるのが、時間の密度です。退屈なルーティンワークでも、これまでとは違う見方をするようになりました。ダラダラとやったら時間の密度が低くなるので、素早くやるか、改善するかを本気で考え、実践するようになりました。つまり、自ら時間の密度を高くするよう、仕事を一つひとつ積み重ねていくことにしたのです。

また、私は、新規事業を通じてベンチャーやスタートアップと呼ばれる未知の世界に足を踏み入れました。これまでと全く違う世界は刺激的ですが、没頭すると立ち位置を見失ってしまいます。ですから、冷静にビジネスのポジションを確認する機会を多く設けるようにしました。これも、正しい積み重ねの一つと信じています。

ゴールはまだ先ですが、確実に進んでいると実感できるからこそ、さらに時間を大切にし、集中するようになります。この好循環のおかげで私の時間の密度は高まっています。ぜひ皆さんも、時間の密度について考えてみてください。

以上(2020年5月)

pj17006
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】皆さんが「言語化」できる2つのこと

今日は皆さんに、「言語化する」ことについてお話しします。言語化とは、例えば仕事で言えば、自分が実践しているノウハウやポイント、考えなどを、他の誰もが分かるよう言葉にすることです。

仕事における言語化には、2つの種類があります。1つ目は、「行動の言語化」です。当社のベテラン営業担当者の例でお伝えしましょう。

先日、私は、その営業担当者が、まだ営業経験の浅い後輩を指導しているのを目にしました。どうやら、ある新規営業がうまくいかなかったようで、後輩から報告を受けた営業担当者はこう言っていました。「ダメな理由を聞いた? 聞いていないの? 聞かなきゃ。理由によっては、もしかしたら挽回できるかもしれないし、理由を知っておけば他の営業先のときに、断られないよう役立てることもできるんだから」。

また、この営業担当者は別の後輩に、こうも言っていました。「サンプルを複数送るときのメールには、私だったら一言『当社のおすすめはこれです。なぜなら~』と書くよ。相手が選ぶ参考にできるし、当社が込めた思いも伝えられるから」。

営業担当者が言った2つは、ほんのささいな当たり前のことです。普段から実践している人には言わずもがなかもしれません。しかし、実践できていない人から見れば、これは大いなるノウハウです。こうした具体的な行動とその理由を言葉にして人に伝える、あるいは他の人が見て分かるよう残しておく。これが「行動の言語化」です。

2つ目は、「感覚の言語化」です。「言葉にしにくいことの言語化」と言ってもいいでしょう。先日、当社の営業担当者の一人から新規営業の状況について報告を受けました。

その彼いわく、新規営業先のうち、「この営業先はいける」とピンと来た会社が2社ほどあるそうです。彼はこのようにピンと来た先があると「この営業先にロックオンして力を入れよう」と営業活動のやり方を変えるといいます。この「ピンと来る」のが、とても言葉にしにくいところです。一見すると、感覚的で属人的に思えるからです。

しかし、「ピンと来る」のはなぜかを掘り下げていくと、おそらく、単なる感覚ではなく、何らかの理由があるはずです。営業先の経営計画内容、課題感、営業先にとってのコンペティターの動向、タイミング、そして営業担当者のこれまでの経験などさまざまな状況や情報が絡み合って「ピンと来る」のでしょう。本人は「なんとなくなので言葉にできない」のかもしれませんが、言葉にしにくいことだからこそ、言語化すれば、とっておきのノウハウや名言になるのではないでしょうか。

「行動の言語化」と「感覚の言語化」。皆さんには、両方の、言語化できる「何か」があると私は信じています。今日から、ぜひ、行動や感覚を言葉にして人に伝えること、形に残すことを意識してみてください。皆さん一人ひとりが、ノウハウの塊なのですから。

以上(2020年5月)

pj17007
画像:Mariko Mitsuda

SNSを使った人材採用 成功するための3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:SNSを活用して人材採用に結び付けたい経営者、採用担当者
  • 課題:採用に成功するために、どうすればよいのか分からない
  • 解決策:日ごろから発信力を高める、SNSの各サービスの特徴を知るなどのポイントを押さえる

1 SNSを使った採用のメリットは?

多くの中小企業は、ハローワークや人材紹介サービスなどを利用して求人募集を行っている。しかし、深刻な人手不足が続く中、そもそも求職者と出会えないといった悩みがある。その打開策として、Twitter、Facebook、LINE などのSNSを活用して求人募集を行い、採用に結び付けようとする企業が増えている。

総務省「通信利用動向調査報告書」によると、SNSを活用している企業の割合は2017年の28.9%から2018年には36.7%に増加。そのうち、会社案内や人材募集を目的とする企業の割合が、2017年の35.5%から40.6%に増加している(図表1)。

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SNSを使った採用は、経営者や採用担当者が自身のアカウントを運用して取り組むことが多い。例えば経営者が「事務職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM(ダイレクトメッセージ)を下さい」などの内容をSNSに投稿する。この投稿に反応してコンタクトしてきた求職者とやり取りや面談をして、採用活動を進めるというものだ。

今や、20代の約80%、30代の約75%が個人でSNSを利用しているといわれる中、求職者との接点をつくるためのツールとしてもSNSは注目されている。

他にも、SNSを使った採用には、次のようなメリットがある。

  • 求職者が企業に対する理解を深めやすく、「実際に企業を訪問してみたら思っていたのと違う」というミスマッチを事前に回避しやすい
  • 自ら能動的に情報収集して自社に関心を持った、モチベーションの高い人材を採用できる
  • メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の求職者の人となりや、様子を知ることができる
  • 本格的な転職活動はしていないものの、「現在の働き方に満足していない」「良い企業があれば話を聞いてみたい」と考える求職者予備軍に対しても、アプローチできる

2 SNSを使った採用で成功するための3つのポイント

SNSを使った採用に取り組んだからといって、すぐに人材を採用できるというわけではない。SNSを使った採用の取り組み方はさまざまで、活用するツールもTwitter、Facebook、LINEなど多岐にわたる。それぞれの特徴は後述するが、どのツールを活用するにしても、共通して成功するためのポイントがある。

1)日ごろから発信力を高める

SNSを使った採用に取り組むためには、フォロワーや友達の数が多いほうがよいと考えるかもしれない。しかし、より重要になるのは「質」だ。

製造業の現場改善のコンサルティングをしている企業では、事業拡大のためにコンサルタントが必要になり、経営者のTwitterで「○○県で一緒に働いてくれる同志を募集します」と投稿したところ、面識のないフォロワーの1人からコンタクトがあり、採用に至った。

この経営者は、日ごろからコンサルティングをしたクライアントの課題、自らの仕事観などをTwitterで発信していたことから、フォロワーには、面識がない人を含めて同業者や類似の業界で働く人が多いそうだ。

この経営者がSNSを使った採用に成功したのは、投稿に共感してくれる人、考えや関心が近い人などがフォロワーになっていたからであり、こうしたフォロワーや友達をつくるためにも、経営者や採用担当者が日々の業務や、仕事観などを発信することは重要だといえる。

他にも、日ごろの発信力を高める取り組みとして、次のような事例がある。

  • 「○月○日は何の日です」などの記念日、その日の新聞の経済ニュース、就職・転職に役立つ豆知識を定期的に投稿する
  • 入社した先輩が日々の仕事や、ちょっとした独り言などを堅苦しくない口調でつぶやき、自社の雰囲気や魅力、取り組みなどを伝える
  • 実際に業務を行っている様子や、会社説明会、新入社員研修、インターンなどの様子を写真や動画と共に発信する

日々の様子や独り言などをつぶやくのは、求職者に親しみを感じさせるのに効果的だ。一方で、不特定多数が見るSNSという特性上、うっかりデリケートな発言をして「炎上」しないように気を付ける必要がある。例えば、特定の政治・宗教の話題は控える、他社をおとしめる発信はしないなど、社内でSNSの運用ルールを共有しておくとよいだろう。

2)経営者が積極的に関与する

SNSを使った採用をしている企業の中には、「まずは食事をしながらお話ししませんか?」「弊社に遊びに来てみませんか?」など、求職者へのアプローチの一部は採用担当者が行うものの、実際に関心を持ってくれた人材とその後のSNS上でのやり取りや面談などは、経営者が自ら取り組むという企業もある。

求職者の中には、表面的な面談は不要で、自らが働く現場の責任者と経営者との2回程度の面談で、しっかり話したいという人もいる。

また、経営者と実際に顔を合わせるのは、面談がかなり進んでからという企業もある中で、最初から経営者が関与することは会社の印象を良くすることにつながる。求職者は自分のことを真剣に考えてくれていると感じて、自社に関心を持つようになる。

3)実際に会えた場合は、しっかりと考えや思いを伝える

SNSを使った採用で、経営者や採用担当者からのアプローチに応えてくれる求職者は、従来型の採用活動に満足していない人たちだ。

こういう人たちは条件面だけではなく、募集要項からはうかがい知れないこと、例えば、実際に経営者と話をして、自社や事業に対する考えや思いを聞き、その企業や事業の将来性はあるのか、自分が成長できる企業なのか、経営者や採用担当者はビジネスパーソンとして尊敬できる人なのか、一緒に働きたいと思える人なのかなどを知りたいと考えている。

SNS上の投稿で、日ごろの業務や仕事観などを発信することは重要だが、それだけでは十分とはいえないので、実際に求職者と会えた機会にしっかりと考えや思いを伝える必要がある。

例えば、実際に顔を合わせた求職者に対して、「全国の中小企業の経営課題の解決につながるサイトを構築したい」「1年後にはサイト上で、業務の効率化につながるサービスを使えるようにしたい」「それを実現するためにも、サイトのシステムを構築するエンジニアを求めている」「力を貸してほしい」など、しっかりと思いを伝えることで、求職者が真剣に自社に関心を持ってくれるようになる。

3 SNSによって異なる特徴を知る

一口にSNSと言っても、サービスごとに特徴が異なる(図表2)。以降では、Twitter、Facebook、LINEなど、採用側(経営者や採用担当者)が基本的に無料で利用することができるSNSについて、特徴を紹介したい。

こうした特徴を押さえて、適切に情報を発信したり、利用したりすることで、自社が求めている人材にアプローチできるだろう。

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1)Twitter

一部では、「Twitter採用(Twitter転職)」という言葉が浸透しているほど、SNSを使った採用では一般的に利用されている。簡単に投稿ができる、実生活で面識がない人ともつながりやすいなどの理由から、Twitterが利用されることが多いようだ。

また、Twitterでは、本名以外でのアカウント登録が可能なことや、文字数制限があるので、短文で気軽な内容の投稿が多くなっている。そのため、人となりや本音が出やすく、経営者や採用担当者としては、求職者のことを知る上で参考になるようだ。

Twitterを使った採用では、求人情報を詳細に掲載するというよりも、「営業職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM下さい」や、採用色を前面に出さずに、「ヘルスケア業界で働く方、○○で食事会を開催します! 業界の将来について語りませんか?」などの情報を投稿する。投稿に反応があった人とコンタクトを取って、実際に会う機会などにつなげている場合が多いようだ。

さらに一部の経営者や採用担当者は、コンタクトを取ってきた人に限らず、リツイートなどの反応をした人を確認して、自社が求める人材であれば求職中かどうかを問わず、個別にアプローチしている。

2)Facebook

FacebookはTwitterとは異なり本名での登録が基本で、出身校や所属企業などの属性を登録している人も多い。また、Facebookを通じて仕事上のやり取りを行っている人もいるので、「友達」を見ることで、どういう人とつながっているのかなど、Twitterよりも社会的な立場や交友関係を知ることができる場合もある。

Facebookを使った採用では、経営者や採用担当者が、Twitterのように自社が現在採用活動していることを簡単に告知したりするだけでなく、自社の社員紹介や社内イベントの様子など、企業案内に近い投稿をしたりしている場合もある。

なお、経営者や採用担当者の個人のアカウントではなく、自社の企業アカウントを取得している場合は、求人機能を利用できる。これはフォームに従って職種などの求人情報を記載し、投稿を作成する機能だ。また、有料になるが、Facebook上で広告を出すことで、ターゲットを絞り込んで求人情報を投稿することもできる。

3)LINE

LINEは多くの若者が日常的に利用しているSNSツールであり、採用活動にLINEを活用する企業が増えている。

LINEのメリットの1つは、求職者がメッセージを見落としてしまう可能性が少なく、スムーズに連絡が取れるという点だ。LINEはメールなどと違い、基本的にスマートフォンの画面上にメッセージが通知されることや、普段からコミュニケーションツールとして頻繁に利用されていることから、求職者が見忘れてしまったり、他のメールなどに埋もれてしまったりする心配はほとんどない。

また、LINEはメールなどと違い、求職者がメッセージを既読しているかどうかを確認できる。「メッセージには気付いているが、返信をしてこない」ということが分かるため、求職者の志望度を察したり、志望度が低い求職者に別のアプローチを検討したりすることもできる。

企業の活用事例としては、企業がLINEの友達登録用のQRコードを用意し、エントリーしてきた求職者や、イベントなどに参加した学生に対して、希望者に登録を促すというものがある。その後、定期的に説明会の情報などをタイムラインや一斉メッセージ送信などで共有する。

また、内定者フォローとして、社内報などを発信して自社の魅力をアピールしたり、内定者のグループLINEを作って内定者同士の親交の場にしたりすることで、内定辞退や早期離職の防止に取り組んでいる場合もある。

4 他の求人媒体と組み合わせる

SNSを使った採用は、企業が特定の求職者にピンポイントでアプローチする「ダイレクト・リクルーティング」の1つだ。

他にも、企業の細かいニーズに特化した人材紹介サービスや、人材会社が開催する求人イベント、リファラル採用(縁故採用)、紹介予定派遣など、求人媒体の選択肢は広がっている。

自社が求める職種、年齢、条件、人物像によって、効果を発揮する求人媒体は異なる。例えば、求める人材が専門職で、その専門職の多くが、SNSにあまりなじみのない高年齢層である場合、SNSの効果は薄いかもしれない。また、全体の母数が少ない専門職を探す場合、SNSよりも、その専門職に特化した人材紹介サービスや、ダイレクト・リクルーティングサービスを利用したほうが早い場合もあるだろう。

ただし、そうした他の求人媒体で出会った求職者の人となりを知ったり、求職者との関係を深めたりするのに、SNSは効果を発揮する。求人媒体の1つとして、また、採用の成功率を上げる補助ツールとして、SNSは企業の採用活動の幅を大きく広げるものといえる。

以上(2020年5月)

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画像:pixabay

中小企業による公認会計士の活用方法

書いてあること

  • 主な読者:公認会計士に顧問を依頼しようと考えている中小企業の経営者
  • 課題:公認会計士と税理士のしごとの違いや、中小企業における必要性がわからない
  • 解決策:資格上の専門業務は違うものの、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なる

1 中小企業による公認会計士の活用

1)公認会計士の業務

公認会計士の業務は、企業が作成・公表する財務諸表に関する監査業務と、監査業務などを通じて培われた知識と経験を活かした経営全般に関するコンサルティング業務などになります。

しかし、中小企業にとって公認会計士は身近とは言い難い存在です。これは、後述するように公認会計士による監査が義務付けられている中小企業が少ないことや、公認会計士の数が少ないことなどが原因となっています。

ここでは、日本公認会計士協会のパンフレット「CPA&JICPA(2020年度版)」などを基に公認会計士の業務について簡単に説明します。

2)「監査」業務

企業から学校法人、公益法人など幅広い対象について、独立した立場から監査意見を表明し、財務情報の信頼性を担保します。

1.法定監査

法定監査とは、法律の規定によって義務付けられているものです。主なものは次の通りです。

  • 金融商品取引法に基づく監査
  • 会社法に基づく監査
  • 保険相互会社の監査
  • 特定目的会社の監査
  • 投資法人の監査

2.法定監査以外の監査

  • 法定監査以外の会社等の財務諸表の監査
  • 特別目的の財務諸表の監査

3.国際的な監査

  • 海外の取引所等に株式を上場している会社または上場申請する会社の監査
  • 海外で資金調達した会社または調達しようとする会社の監査
  • 日本企業の海外支店、海外子会社や合弁会社の監査
  • 海外企業の日本支店、日本子会社の監査など

3)「税務」業務

公認会計士は税理士登録をすることにより、税務業務を行うことができます。事例としては、次のようなものがあります。

  • 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉など)
  • 各種税務書類の作成
  • 企業再編に伴う税務処理及び財務調査
  • グループ法人税制、連結納税制度などの相談・助言
  • 移転価格税制、タックスヘイブン税制についての相談・助言
  • 海外現地法人、合弁会社設立を含む国際税務支援
  • その他税務相談、助言

4)「コンサルティング」業務

経営戦略の立案から組織再編、情報システムの構築など、経営全般にわたる指導・助言を行います。事例としては、次のようなものがあります。

  • 相談業務(会社の経営戦略、長期経営計画を通じたトップ・マネジメント・コンサルティング)
  • 実行支援業務(情報システム・生産管理システム等の開発と導入)
  • 組織再編などに関する相談、助言、財務デューデリジェンス
  • IFRSに関するコンサルティングや業務支援
  • 企業再生計画の策定、検証
  • 統合報告の実施支援
  • 環境・CSR情報の相談、助言
  • 株価、知的財産等の評価
  • Trustサービス(注)(WebTrust、SysTrustの原則及び基準に基づく検証・助言)
  • システム監査、システムリスク監査(システム及び内部統制の信頼性・安全性・効率性等の評価・検証)
  • システムコンサルティング(情報システムの開発・保守、導入、運用、リスク管理等に関するコンサルティング)
  • 不正や誤謬を防止するための管理システム(内部統制組織)の立案、相談、助言
  • 資金管理、在庫管理、固定資産管理などの管理会計の立案、相談、助言
  • コンプライアンス成熟度評価
  • コーポレート・ガバナンスの支援

(注)Trustサービスとは、インターネットを介した電子商取引の安全性やシステムの信頼性などに関する内部統制について保証を与えるサービスです。

2 中小企業における公認会計士の活用シーン

公認会計士はさまざまな業務を行っていますが、これらの中で、特に中小企業にとって身近と思われる活用シーンについて紹介します。

1)法定監査

金融商品取引法では、株式上場を行っている企業などに対して公認会計士による監査を義務付けています。また、会社法では、原則的に資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社(会計監査人の設置義務のある会社)を会計監査の対象として規定しています。なお、会社法では、機関設計が柔軟化され、いわゆる中小の非上場企業であっても、会計監査人を設置することが認められています。

2)任意監査

現状としては、公認会計士への業務委託費用の問題や、財務に対する監査を要求される機会が少ないことなどから、中小企業が公認会計士に任意監査を依頼するケースはそれほど多くないようです。

しかし、株式上場を予定している場合は、証券市場の上場基準では過去2事業年度程度(各市場によって条件は異なります)の公認会計士による監査が規定されていることから、任意監査を受ける必要があります。

ただし、株式上場を目指すのであれば資本政策の立案などの株式上場に対する準備が必要となるので、この期間にこだわらず、できるだけ早い時期から公認会計士による指導や監査を受けることが望ましいとされています。

3)税務業務

税務に関しては、中小企業にとって関心の高い事項です。前述のように、税務の専門家である税理士が身近な存在となっているため、多くの中小企業にとっては、税務業務は税理士に依頼することが一般的ですが、当該業務を公認会計士に依頼するケースもみられます。

4)コンサルティング業務

中小企業を主な依頼先とする個人の公認会計士事務所が、前述したような広範な分野に関するコンサルティング業務を行っていることはほとんどありませんが、自らの得意分野に関するコンサルティング業務を行っています。

コンサルティング業務は、他の専門家も行っていることが多く、必ずしも公認会計士を利用する必要はありません。しかし、中小企業が一層の成長を図るために、内部統制制度の整備を行う場合など、公認会計士が適任の分野もあります。

多くの公認会計士は、大手監査法人での勤務経験をもっており、大企業の動向や取り組みに関する知識と経験を有しています。このため、公認会計士に依頼することによって、内部監査制度の整った大企業を参考にしたコンサルティングが期待できるでしょう。

5)会計参与制度

会社法において「会計参与制度」が定められています。会計参与とは、取締役・執行役と共同して計算書類を作成するとともに、当該計算書類を取締役・執行役とは別に保存し、株主・会社債権者に対して開示することなどをその職務とする株式会社の新たな機関のことをいい、公認会計士(もしくは監査法人)または税理士(もしくは税理士法人)がなるものとして規定されています。

会計参与制度は、任意設置機関であり、必ずしも新たに設置する必要はありませんが、設置を検討する際には、公認会計士の利用についても併せて検討してみるとよいでしょう。

6)中小企業が公認会計士を利用する際の注意点

中小企業が公認会計士あるいは税理士を利用する際に、資格に基づいた特徴を基準にどちらの専門家を利用するか検討する人もいるようです。

例えば、「公認会計士は、税法については税理士に劣る部分もあるが、会社法などに関しては深い知識を有しているのではないか」「税理士は法人税、所得税、相続税などの各種税法については高い専門知識を有しているが、会社法などに関しては、それほど深い知識をもっていないのではないか」というようにです。

こうした特徴は、一般的な傾向としてはみられるものの、実際には、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なります。例えば、相続に強い公認会計士がいる一方で、事業承継、営業譲渡、M&Aなどの業務も行っている税理士もいます。

すなわち、中小企業が公認会計士に業務を依頼する際に重視すべき点は、一般的な傾向に注意しつつ、「この公認会計士は依頼業務に対する高い知識や経験をもっているか」という視点から、実績などを踏まえた上で検討することが必要です。

以上(2020年5月)

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リモートワークで求められる5つのコミュニケーション術

私はリモートワーク総合人材企業であるキャスターで、インサイドセールス・カスタマーサポート事業部のマネージャーを務めており、約40名のメンバーをリモートでマネジメントしています。

仕事柄、新型コロナウイルスの影響もあり、多くの企業で急遽リモートワークを導入したものの、事前準備やノウハウが足りないことから、リモートワークについての質問や相談を多々いただくようになりました。

ご相談の内容は多岐にわたりますが、どのような業務にも共通し、特にマネジメントで重要になるのは「コミュニケーション」です。そこで今回は、リモートワークで事業を拡大させ、メンバーの成果創出を促進するコミュニケーションのポイントについて、弊社の事例を通して紹介していきます。

1 テキストにも感情を

弊社では「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、2014年の創業以来全社で常時リモートワークを実施し、現在では45都道府県に住む700名以上のメンバーが活躍しています。

弊社のリモートワークでのコミュニケーションは、ほぼ9割をチャットのテキストで実施しています。その中で、顔文字・絵文字での感情表現を用いるようにしています。

例えば、同僚に

「お疲れさまです。17時までに報告をお願いします。」

という依頼をする場合、

「お疲れさまです^^17時までに報告をお願いしますm(_ _)m(おじぎ)」

というように、文字に柔らかみを与える顔文字や絵文字を多用しています。なぜなら、顔を合わせずに、テキストだけで会話をしていると、「コミュニケーションが取れているのか、不安になってくる」のです。

顔を合わせて会話をしていると、表情や声色で相手の感情を判断できますが、チャットだとそうはいきません。そのため絵文字や顔文字で感情の代替や気遣いをすることが重要です。

また、普段顔文字を使っている人が、顔文字なしの文章でコミュニケーションしている場合は、「怒っていて厳しく伝えたいのだろうか」「仕事で忙しくて余裕がないのかもしれない」など、相手の感情についても把握できます。

ただ、この感情表現の量はリアルの場面と同じでよく、実際に感情をあまり出さない人は無理をする必要はありません。自身のストレスになることは避けるべきですし、対面でのコミュニケーションスタイルから大きく変えなくて良いでしょう。可能な範囲でお礼を言う際に、花の絵文字を付ける程度のことを少し意識してみてください。

2 スピードと状況共有

チャットはメールより、同期型の要素が強いコミュニケーションツールです。
メールは手紙と同じでいつ相手が見ているかわからないので、多少返信に時間がかかったとしても送った側は不安を感じません。一方でチャットではリアルな会話と同じような反応を求められることが一般的です。

例えばオフィスで話しかけて、相手が無反応だったら心配になりますよね。
チャットも同様に、送った相手が1時間たっても回答がなければ不安に思う人が多いでしょう。これは、送る側が受け手側の状況が見えないために発生する疑心暗鬼です。

オフィスでは相手が誰か他の人と会話していたり、忙しそうな様子が見られるようであれば話しかけるタイミングを見計らってくれたりしますが、リモートワークではそうはいきません。そのため、チャットで回答を求められる側、主に管理職が気をつけるべき点は下記の3点です。

  • チャット=非同期コミュニケーションである、という共通認識を持つ
    忙しければチャットを返せませんし、返せるときに返すものです。
    すぐに返信がないからと言って不安に感じる必要はありませんし、いつチャットを送っても良いのか… …と気遣いをする必要もありません。まずはチャットに対する共通認識をチーム内ですり合わせましょう。
  • 回答はせずとも、チャットを見ていることを伝える
    とはいえ、一言でも返信があると相手は安心します。きちんと回答するには時間がかかる内容だった場合、後でゆっくり考えて返信しようと考えがちですが、「いま手が離せないので1時間後に回答します!」など、簡単な文章で良いので反応しておきましょう。
  • 回答できない時間帯をメンバーに発信しておく
    リモートワークで様子が見えない相手の状況を察することは困難です。会議などの予定はカレンダーなどで共有する、作業の期限に追われている場合は積極的に自身の状況を発信するなどして、メンバーに理解を求めましょう。

聖徳太子にはなれないので、スピード良く反応と状況を共有し、メンバーに把握してもらうと、安心感を持ってもらうことができます。

メールマガジンの登録ページです

3 適度に顔を合わせて会話を

文字だけでコミュニケーションを取っていると、相手の個性や人格がわかりにくかったり、特に初めは言いたいことを言いにくく、必要な報告や相談が上がってこなかったりする可能性があります。

そのリスクをなくすために、Web会議ツールを用いたビデオチャットで顔を見せ合う、気軽にコミュニケーションを取ると有効です。

1on1など、定例的にメンバーとのコミュニケーション機会を設けることはもちろん必要ですが、テキストだとうまくニュアンスが伝わりにくいと感じた場合は、ビデオチャットで話すように誘導してください。そこでテキストでは伝わりきらなかった悩みや相談を回収するのです。

現在は便利なビデオチャットがたくさんあります。
Whereby、ZOOM、LINE、Google meet、Microsoft Teamsなど、URLをクリックすればすぐに会話を始められるので、活用してみてください。

4 過程のマネジメントはしない

ここまで、リモートワークでのコミュニケーションについてお話してきました。
加えて、リモートワークにおけるマネジメントで最も重要なのは、成果と期限を重視することであり、過程のマネジメントはしないことです。

過程が非常に見えにくいのがリモートワークの特徴です。「返信がないのでサボっているのかな… …」「休憩に行きすぎじゃないか……」などといくら想像しても、実際の姿は見えないので、確認する方・される方も疲弊してしまいます。もちろん仕事の進行が上手ではないメンバーには、期限と品質を守ってもらうために、ある程度過程を報告するように指示しますが、あくまでも重視するのは成果です。

成果がそのメンバーに課しているミッションに対して妥当であれば、大いに褒めます。他のメンバーが見えるところで、沢山の絵文字を使って大げさとも思える感謝を伝えましょう。
弊社では、成果によって人事評価を行う仕組みのため、メンバーの中に成果思考が育まれやすい環境となっています。

そして管理者は過程ばかり気にして、メンバーがいま何をしているのか逐一チェックをするようなマイクロマネジメントを止めましょう。

成果が出てこなかった際に、はじめて過程やモチベーションを指導してメンバーを導いていければ、より良い組織になります。

5 リーダーの重要性

私が所属する事業部は、主にテレアポ、テレマーケティング、カスタマーサポートなどの案件を多くご依頼いただいており、弊社メンバーがリモートワークで業務対応するサービスを運営しています。
このようなコール業務はストレスを感じやすい業務だと言われており、コールセンター専門誌などで発表されている平均離職率は36%となります。しかし、弊事業部の離職率は3%と非常に低くなっています。定期的に行っているストレスチェック結果を見ても高ストレスなメンバーが0名という状況です。

なぜ組織としてうまくいっているかを分析すると、リモートワークが寄与している可能性もありますが、各プロジェクトをリードしているスーパーバイザー(案件リーダー)が、職場の雰囲気づくりを担っていることも大きな要因になっています。弊社では「キャスターが掲げる3つの軸足」という次のような言葉があります。

1 全ての人を「尊重」し、その人のために「尽力」する
2 現代社会とこれからの未来における「多様性」を重んじる
3 関わってくださる全ての人を「信頼」する

この3つの言葉を採用時や入社後と、定期的に言葉を変えながら伝えています。
上司・部下やクライアントと立場を分けずに相手を尊重し、信頼すること、多様性を持ったものの見方をすることが重要だということです。

これを私からスーパーバイザーに伝え、メンバーにも浸透させています。
そのようなコミュニケーションの流れをつくること、考えをチーム内で浸透させることが、実際に会ったことがないリモート組織で有機的に成長できるポイントだと言えます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年5月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

第17回 【前編】営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

近年、Sales Enablement(以下、セールス・イネーブルメント)というアプローチが注目されています。セールス・イネーブルメントとは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。
「育成自体が目的」ではなく、「営業成果のための育成」というのが一般的な育成の考え方と異なるところです。育成の結果、営業成果に繋がっているかどうかを検証します。育成の投資対効果を見に行きます。

今回の取材では、成果を創出し続ける育成に仕組み作りとそのポイントについて、山下貴宏氏に教えていただきました。前後編の2回に分けてお届けします。前編では「営業が抱える課題の解決にセールス・イネーブルメントがどう役立つのか」、後編では「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」を解説しています。皆さまの営業組織作りのご参考になれば幸いです。

山下さん、貴重な学びのシェア、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

    山下貴宏
    株式会社R-Square & Company 代表取締役社長/共同創業者
    著書「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」(かんき出版)

1 営業とは

営業の役割とは何でしょうか? それは、「顧客に自社の製品・サービスの価値を理解して購入」いただき、「自社の営業目標を達成」することです。「顧客への価値提供」が先にあり、その結果として「自社の売上があがる」という順番です。営業の役割は、「顧客との自社製品・サービスの価値交換を通じた売上の最大化」です。

値引きをしすぎて製品提供をしてはダメですし(顧客はWinだが、自社がLose)、ゴリ押しで売れたとしても商売が続きません(顧客がLoseで、自社がWin)。

言われてみれば当たり前のことです。しかし、「売り物が複雑で専門性が高く難しい」場合や、「売り先である顧客の登場人物(ステークホルダー)が多かったり、組織が複雑で意思決定までに時間がかったりする」場合、この営業活動が途端に難しくなります。いわゆる「B2B(法人営業)」はこの部類にはいります。金融サービス、医療、IT、専門コンサルティングなど、専門性が高い法人向けの営業が典型的な例です。

そして、この難しい「B2B営業パーソンの育成」ということが更に難しいのです。

売れる営業は、どのようにして育成可能なのか? 組織としては一部の営業パーソンに依存しないよう極力「属人化」を排除し、多くの営業が「標準的に」売れる仕組みを構築する必要があります。これが、セールス・イネーブルメントのテーマです。

1)「営業目標」を明確にする

「成果起点の育成」がセールス・イネーブルメントである、とお伝えしました。逆にいうと、セールス・イネーブルメントに取り組むためには、「目指す成果・目標」が定義されている必要があります。端的にいうと、数値目標です。

目標がないところに、育成テーマはありません。

実は営業目標が明確に設定されていない企業が少なからずあり、その数は結構多い印象です。

  • 「営業一人当たりの今期の数値目標はいくらいですか?」
  • 「実は弊社のビジネスは営業一人で完結できる仕事ではないので一人当たりの目標が設定されていないのです」
  • 「わかりました。では、どのようにして個人の成果を評価していますか? 給与は何によって差がつくのでしょうか?」
  • 「……。実は、3倍多く売っても営業同士ではあまり給与は変わりません」

これはこれで1つの組織運営のあり方ですが、少なくとも育成のインセンティブ(動機付け)は働きません。「設定された目標の難易度と個人のスキルギャップが育成テーマ」になってきますが、まずは個々に追うべき目標を設定する必要があります。

2)営業目標は「既知のマーケットポテンシャル」を考慮する

営業目標を組織が設定する上で、「あいつは担当顧客が良かったから目標を大幅達成できたんだ」という声はよく聞かれます。「ノルマ不公平論」です。

多くの場合、担当顧客の割り振りとそのロジックが不明瞭です。もしくはちゃんと説明されていない。これは営業目標を設定する組織サイドの問題です。

例えば、考慮すべき論点は以下のようなものがあります。

1.新規既存

新規顧客だけを担当する営業と既存顧客を担当する営業とでは、その難易度が異なります。受注までの時間や、定常的に発生する引き合いも違ってきます。

2.エリア特性

東京と地方とでは、マーケットサイズが大きく異なります。東京エリアを担当する営業と地方を担当する営業では、当然数値目標が異なります。

3.業界特性

小売業界とIT業界。同じ小売業界でもスーパーや百貨店など、担当する顧客企業の業界によってもマーケットサイズが大きく異なります。つまり、売上獲得の分母が異なるわけで、マーケットサイズが大きな業界は営業目標も大きくなり、小さい業界はそれ相応に設定すべき、となります。

4.企業規模

大手企業と中小企業では出せる予算が当然異なります。同じ製品・サービスを売るのであれば、大手の方が目標値は大きくなります。

5.パイプライン

すでに去年から見込み商談(パイプライン)が大幅に積み上がっている場合、受注率や単価が一定であれば、パイプラインを潤沢に持っている営業パーソンの目標達成難易度は低くなります。逆に言えば余力があるわけで、他の営業と目標設定を変える論点になります。

上記は、営業目標を設定する際の観点の一部ですが、「ノルマ不公平論」を出さないためには、一定のルールや基準に基づいて極力公平に目標設定していることをコミュニケーションしていく必要があります。

3)「今売れている営業は、本当にハイパフォーマーなのか?」

ここで目標設定の公平性と重要性を述べたのには理由があります。

育成の観点からみると、

  • 「本当はスキルが低いにもかかわらず、担当顧客が良いから目標が達成できていて、できる営業として見られている」
  • 「本当は難易度の高い営業アプローチを仕掛けているにもかかわらず、今は成果が上がっていないというだけでローパフォーマーと見られている」

という事象が発生するからです。

後ほど解説しますが、セールス・イネーブルメントの取り組みの骨格は、

  • 組織として取り組むべき育成テーマを見極めて(例えば、新規開拓の改善など)
  • ハイパフォーマー(成果ができている人)のやり方を体系化し
  • コンテンツとして提供し
  • 育成テーマに連動する営業指標が改善したかどうかを、データを持って検証する

というサイクルを回します。

この時に、営業目標が適切に設定されていないと、目指すべきハイパフォーマーを見誤り、打ち手の精度が落ちてしまうことになります。

2 セールス・イネーブルメントとは

ここまで営業の役割と目標設定の重要性について述べてきました。それでは、実際にどのように育成を進めていくべきなのか、セールス・イネーブルメントの考え方を使って見ていきましょう。

冒頭でご紹介した通り、セールス・イネーブルメントは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。

セールス・イネーブルメントの意味を解説した画像です

1)本来目指すべき「成果と育成」を繋げるサイクル

育成は、本来組織が目指す「成果」を起点にして設計される必要があります。イメージとしては以下の図にあるようなサイクルです。

人材開発サイクルを解説した画像です

しかし、実態を見ると、それぞれの階層で分断が起きています。

成果につながらない本質的な課題を解説した画像です

ミクロ視点、マクロ視点で育成が進まない要因があります。

●ミクロ視点

  • そもそも成果起点で営業トレーニングが設計されていない
  • トレーニングが一般的すぎる(特に外部研修)
  • トレーニング後、放置プレー。マネージャーはトレーニングの内容すら知らないことも多い
  • トレーニング結果の検証がない。トレーニングサーベイ(簡単な調査)程度

●マクロ視点

  • 営業パーソン視点では、営業の成果も行動もそのための学習も繋がっているにもかかわらず、提供サイドの組織が別々で連携していない
  • 人事部門は営業数値を把握していない、営業部門は人事が提供しているトレーニングを考慮していない

2)セールス・イネーブルメントは営業成果を一気通貫で支える仕組み

こうした育成にまつわる課題を解決するのに役立つのが、セールス・イネーブルメントの考え方です。

セールス・イネーブルメントは、営業成果に向けて行動、知識スキルを一気通貫で繋ぎ、必要なプログラムとシステムを提供する取り組みです。

セールス・イネーブルメントを通じて目指すことを解説した画像です

欧米では、セールス・イネーブルメント組織が多くの企業で導入され、営業組織を支援しています。

セールス・イネーブルメント組織の役割を解説した画像です

3 営業プロセスの標準化

セールス・イネーブルメントに取り組む上で、最初に「営業目標」を明確にする必要があると述べました。

次に、重要なことは、その「営業目標」達成のために必要な「営業プロセス」が何かを標準化することです。

「どのような営業ステップを踏むことが望ましいのか?」を組織として定義することです。

「実態はいろいろな営業活動があって、行ったり来たりする」ということは百も承知で、それでも組織として望ましい「営業ステップ」を定義するのです。これがないと、営業活動が属人化します。そして、これをシステムで可視化できる状態にしておきます。

営業プロセスを定義する際にとても重要なことが1つあります。それは、「顧客の意思決定プロセスを軸に定義を設定する」ということです。

顧客視点を意識した営業プロセスを解説した画像です

「自社(営業パーソン)が何をやったか」を軸に営業プロセスを定義しているケースがあります。これは見直した方が賢明です(上の図の上段)。

営業活動の大前提は、顧客の意思決定プロセスを前進させることです。例えば、「営業が見積もりを出した」からと言って顧客の意思決定プロセスが進むとは限りません。営業がやったことをもとに営業活動管理を定義すると、ほぼ間違いなく予算管理の精度が落ちます。

逆に、顧客の意思決定プロセスがどのように進むのか、そのために必要な活動は何かを定義すると、管理精度が上がります(上の図の下段)。

セールス・イネーブルメントは、この営業活動の進捗をみて、そこから育成テーマを抽出してプログラム化していきます。

4 インサイドセールスの役割

1)マーケティングと営業の溝

営業プロセスを明らかにする際に欠かせないのが「インサイドセールス」です。
営業活動を設計する上で、インサイドセールスの仕組みを導入する企業が増えています。
旧来、営業が新規案件の発掘からクローズまで全てを担ってきました。それが美徳と考えられてきました。

マーケティングと営業の溝を解説した画像です

しかし、実態を見ると、マーケティングと営業の間で溝が発生しています。典型は、マーケティングが作った見込み客(リード)が適切に営業に引き継がれず、案件化されないまま受注に至らないという問題です。営業は受注すべき案件が増えると受注活動に専念するので、来期の案件の種まきは優先順位が下がります。優先度の問題に加えて、リード情報の引き継ぎプロセスがシステム化されてない場合、見込み客フォローは間違いなく後回しになります。

2)「案件創出」機能としてのインサイドセールス

インサイドセールス機能は、このような背景から案件創出を目的として導入されてきています。企業によってはMarketing Automationツールを活用して見込み客の発掘- 育成- 営業への引き継ぎを可視化/自動化しています。

インサイドセールスによる案件創出の強化を解説した画像です

今回お届けする営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」の前編はここまでです。後編では、「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」をお届けする予定です。楽しみにお待ちください。

山下氏の近影の画像です

 

以上

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多くの中小企業を支える、りそな総合研究所。昨今急増する経営者の「悩み」とは?【代表取締役社長 氷坂 智晶氏インタビュー】

りそなグループのコンサルティング・ファームとして、コンサルティング、会計・法律問題に関する相談や経営情報の提供、ビジネスセミナー運営など幅広い経営支援を行っている、
りそな総合研究所(以下インタビューでは「りそな総研」)。

めまぐるしく情勢が変化する昨今、りそな総研には、中小企業からどのようなお悩みがよせられているのでしょうか。代表取締役社長・氷坂 智晶氏(ひさか ともあき。以下「氷坂」)に、お話を伺いました。

※インタビュー担当:りそなCollaborare事務局(以下「事務局」)

1 多くの中小企業経営者が抱えるのは、「事業承継」や「人」に関するお悩み

事務局

本日は、お忙しいところ誠にありがとうございます。
中小企業をさまざまな方面から支え続けるりそな総研さまに、中小企業支援に対する思いなどをお伺いします。よろしくお願いいたします。

まず、りそなCollaborareの読者に向けて、改めてりそな総研さまについてご紹介ください。

氷坂

りそな総研では、主に2つの事業を運営しています。
1つは、会員さま向けの経営支援サービス、もう1つがコンサルティングサービスです。

コンサルティングサービスの方では、年間で約850件のご相談を受けています。 2-3年前までは年間650件ほどでしたので、約30%増加している状況です。

経営課題が多様化・複雑化する中、経営相談のニーズが高まっているのを感じています。

事務局

ありがとうございます。
りそな総研さまは、長らく中小企業の経営支援をし、多くの中小企業から経営相談を受けてこられました。ご相談事として、どのような内容のものが多いのでしょうか。

氷坂

「経営計画に関するご相談」が約25%、次いで「後継者・事業承継に関するご相談」が約20%です。
また、近年急増しているのが「人事に関するご相談」で、これも約20%を占めています。

経営計画に関しては、現状分析や中期経営計画の策定、経営計画の実行支援を行なっています。

事業承継に関しては、自社株をどのように後継者へ承継していくか、株主構成をどうするか、後継者へ引き継ぐ上で持株会社やグループ会社の方向性といった組織再編のご相談ですね。家族経営の場合は、オーナーの個人資産をどう分散するかといったご相談までお受けしています。

人事については、人事制度の構築・改定、人事制度をどう組織へ定着化させるかという「定着化支援」、また、昨今の働き方改革への対応でお悩みのケースも増えています。

これは事業承継と人事の両面ですが、経営者教育やサクセションプランの策定、管理者層まで広げた教育といったご支援も、ご希望に合わせて行なっています。

コンサルティング案件は約850件とお伝えしましたが、2019年度はまだ終わっておりませんので、このペースですと1000件を超えるかもしれません(インタビューは2020年2月27日時点)。

事務局

1000件は素晴らしいですね。中小企業の経営者から、かなり多くのご相談を受けてご対応されていることがよく分かります。

2 ビジネス界でも”ワンチーム”がキーワードに。ESを重視する企業が急増中

事務局

働き方改革など、社会の流れに合わせてご相談内容も変化していくのですね。

氷坂

そうですね。時代による変化は感じます。

例えば経営相談や人事の相談に関しても、「経営理念やビジョンを策定したい」といった声や、「会社が将来どのような姿を目指すのか言語化したい」といったご相談が増えている点は特徴的です。

不安定な情勢の中、会社として目指す方向を定め「ワンチーム」になりたいというお客さまが増えているものと考えられます。

それに付随して、若手社員の定着やES(Employee Satisfaction)、いわゆる従業員満足度の向上に注目が集まってきています。

企業の従業員に対して意識サーベイを行い、その結果を元に今後の人事制度や育成計画を立てていくというコンサルティングサービスを行っているのですが、スタートアップの企業や、世代交代をして2代目経営者になった企業などから特に要請や問い合わせが来ることが多いですね。
例えば、次のようなご相談などがあります。

「経営者にはなったが、自分より社歴の長い社員が多く、みんなの考えを知りたい」
「若い世代に適切なポジションを与えてあげたい、世代間のギャップを埋めたい」

企業により目的はさまざまですが、サーベイで自社内の状況を把握し、次のアクションを考えたいという経営者が増えているのです。
ESサーベイに関してはデータの蓄積も進んでおりますので、当社としても深掘りし、よりよいサービスに進化させていく方針です。

事務局

「ワンチーム」、確かにそうですね、そうしたことが今後はますます重要になると思います。
多くの中小企業を支援するりそな総研さまがES事業に注力されるというのは、非常に興味深いです。それほど、ニーズが高まっているのですね。

氷坂

そうなのだと思います。ESという観点で言いますと、もう1つ意識の高まりを実感したシーンがあります。

当社では後継者育成・幹部層の育成などを目的とし、東京・大阪の2拠点で毎年マネジメントスクールを運営しております。 今年で33年め、卒業生は約2500名にのぼります。

毎年プログラムの最後では、皆さんから、「経営者としての決意発表」をしていただくのですが、今年は多くの方が「これから、ESに力を入れていきます」と宣言されたのです。
これは、過去のスクールではあまり耳にしたことがありません。

ES向上に取り組む企業はますます増えていくと思います。なぜなら『どう組織をまとめてくか』というのは経営者の永遠の悩みですから。

インタビュー中の氷坂氏の画像です

3 目指すのは、強い会社づくり・人づくりに向け、寄り添うコンサルタント

事務局

りそな総研さまではさまざまな規模・業種の企業で、幅広いお悩みに応えていらっしゃいますが、そのために特別に取り組んでおられることはありますか。

氷坂

りそな総研は「強い会社づくり・人づくり」をお手伝いするパートナーでありたいと考えています。中小企業の経営者に「寄り添うコンサルタント」の集団でありたいのです。
そのために当社で取り組んでいることは、大きく3つあります。

1つめは、コンサルタントの増員と早期育成です。
先ほどお伝えしたように、コンサルティング案件はこの数年で大幅に増えているため、こちらもコンサルタントの人員数も質も強化していかなくてはなりません。

しかし、闇雲に人数を増やすのではなく、先ほど申し上げた「強い会社づくり・人づくり」のパートナーという意識もしっかりと一人ひとりに浸透させていく必要があります。また、コンサルタントを増やしても、若手とベテラン層でスキルに開きがあっては意味がありません。

「暗黙知」になりやすい、ベテランのコンサルタントのスキルや知見、経験値を、いかに若手に受け継いでいくかが重要だと考えています。

そこで当社では、2016年に暗黙知の共有化プロジェクトを立ち上げました。熟練のコンサルタントが持つノウハウやツールを中堅層・若手に受け継ぎ、コンサルタントの早期育成できる体制を整えています。

2つめは、コンサルタントの生産性向上です。
コンサルティングは、基本的にはオーダーメイドの対応なのですが、当社ではコンサルティングの工程を見える化し、コンサルティング作業・ツールの標準化等の取り組みを通じて、生産性向上を図りました。

3つめは、あらゆるお悩みに対応するための、適切な外部パートナーの選定です。
私たちはお客さまのパートナーとして、どのような経営課題のご相談にも「できない」とは言いたくないのです。その為に、あらゆる分野に対応できるよう、150社を超える外部パートナーとアライアンスを組んでいます。

例えば、人事戦略や制度設計などコアな部分はりそな総研のコンサルタントが担い、管理者教育、外国人人材雇用など付随的な部分は、その分野に特化した外部パートナーへ依頼するような形をとっています。

りそな総研のコンサルタントは「プロジェクトの総合プロデューサー」のようなイメージですね。

これらの3つの施策を組み合わせて、多様化し、急増している経営者のご相談に対応している状態です。

4 時流を読み、常に経営者のパートナーでありつづける

事務局

ここで改めて、りそな総研さまのコンサルティング・ポリシーについて教えていただけますか。

氷坂

お客様が永続的に成長できる「強い会社づくり・人づくり」のパートナーとして、いっしょになって真に解決すべき課題と解決方法を見出し、お客様自らも解決する能力を身に着ける事ができる、寄り添うコンサルティングが私たちの目指す姿です。

私たちのコンサルタントは、単にきれいな制度を作って終わりにはしません。経営幹部の方や管理者層とチームを組んで、現状を丁寧にヒアリングし、課題を抽出していきます。そしてディスカッションを重ね、理念やビジョン、進むべきゴールをお客さまと共に設定していくのです。

また、1つひとつの課題やテーマに対して”プロジェクト型”で取り組み、共に解決していくので、お客さま自身が課題抽出から解決というプロジェクトの一連の流れを体感することができるのです。

この方法ですと、少しずつ会社の中にノウハウや知見が蓄積されるので、自走できる組織を目指していただけるというメリットも大きいと考えています。

りそなグループでは、地域、地域でお客さまの交流会を定期的に開催しているのですが、そうした場で、ありがたいことに「氷坂さん、貴社のコンサルタントのおかげで本当に助かっています。ありがとう」とたくさんの経営者から言葉をかけていただくのです。
それも、ベテラン・若手にかかわらず、多くの当社コンサルタントの名前を挙げてくださいます。

中小企業の経営者は、経営上の重大な決断をお一人でされるシーンが多々あります。

「親身になって話を聞いてくれる人がほしい」
「誰かに決断を後押ししてほしい」

りそな総研のコンサルタントは、経営者のそうした想いに応える存在でありたいですし、お客さまからお褒めの言葉をいただくと、そういうコンサルタントが育ってくれているのかなと感じ、私もとてもうれしいです。

事務局

経営者の方から実際に「ありがとう」と言ってもらうのが、一番うれしいことですね!

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5 会員に向けた豊富なコンテンツも魅力。今後はSDGsの領域でもサービスを展開予定

事務局

貴社のもう1つの事業である、会員さま向けサービスの内容と、その賢い活用方法について教えていただけますか。りそなCollaborareの読者の皆さまにも参考になると思います。

氷坂

りそな総研では、会員の皆様に向けてさまざまなサービスをご用意しています。

例えば、経営のさまざまなシーンで必要となる契約書や会社規則などのフォーマットを豊富に取り揃えた「書式ナビ」。 会員さまはこれらのフォーマットを無料でご活用いただけます。

他にも、税理士・会計士・弁護士・社会保険労務士などに無料で相談ができる「相談サービス」も需要が多いです。

書式ナビからダウンロードした就業規則を各社でアレンジし、法務上問題ないかというリーガルチェックを当社相談室の弁護士にお願いする。ーそんな使い方も可能です。

また、新入社員研修・管理者研修、各種ビジネスセミナー、著名人を講師に招いた朝食懇談会や定例講演会などコンテンツも豊富にご用意しており、こちらも会員価格でご利用いただけます。

規則や制度、或いは人材育成の事をこれから整えていくという会社や様々な経営情報をアップデイトしたい企業の皆様には非常にお役に立つと思います。

ぜひ、使い倒していただきたいです(笑)

事務局

「書式ナビ」と士業の方への「相談サービス」を合わせて活用するのは、良いですね。忙しい中小企業経営者の場合、雛形と頼りになる専門家の両方があるのは、とてもうれしいのではないかと思います。

今後、新たに増やしていきたいサービスなどはございますか?

氷坂

先ほども触れましたが、ES向上のための従業員意識調査を軸としたサービスは、今後注力していきたい分野の1つです。

また、今、正にオリジナルサービスとして深堀りを始めているものが「SDGsコンサルティング」です。
SDGsの理念は理解できるものの、実際にどのようにSDGsの概念を経営に反映させ、新たなプロフィットにつなげていくのかという点でお悩みの企業は多くいらっしゃいます。

私たちもまだ深堀りしている最中で、確固とした答えを持っているわけではありませんが、りそなグループは、他社に先駆けSDGsに取り組んできたという自負があります。そうした自社の体験も活かしながら更に深堀りをすすめ、SDGsのご相談にはお応えしていきたいですね。

加えて、コンサルティングだけでなく、会員サービスでもSDGsに関する種々のセミナーを企画し、SDGsの意識そのものを浸透させていくサポートをできたらと考えています。

それから、経営人材の育成についても更にテーマを広げていきたいですね。具体的には、30年以上に渡って続けている「後継者育成」をテーマとしたマネジメントスクールに加え、中小企業経営者の多くが悩まれている「ファミリービジネスの永続」や、“日本で一番大切にしたい会社”のような「ES経営」をテーマとした経営人材育成プログラムにも取り組んでいきたいです。

取り組みたいことはたくさんあります。

インタビュー中の氷坂氏の画像です

6 氷坂氏、自ら、自社のコンサルタントに経営相談。その感想は?

事務局

りそな総研さまでは、コンサルティングサービスだけでなく、さまざまなサービスをご用意されているのですね。ご自身がりそな総研さまのサービスを活用されるとしたら、1番に何を相談したいと思われますか?

氷坂

実は私は、経営者としてすでにりそな総研のコンサルティングサービスを利用しているのです(笑)

当社における昨年度の従業員意識調査では、「企業風土」や「組織の風通し」に関する問題が浮き彫りになってきました。

それを受けて、自社のコンサルタントに対して「風通しの改革」のコンサルティングを依頼し、今まさにプロジェクトが進行しています。
コンサルティングサービスとはどういったものなのか、自ら体感してみたいという想いもありました。

非常に興味深いことですが、当社の大阪本社ではこの風通し改革のプロジェクトを、社員全員でりそな総研の未来を考える「未来創生会議」という全社を巻き込んだプロジェクトに発展させ、多くの社員が集まれる日時で9回に及ぶワークショップを開催し、経営の提言という形で社員の声をまとめ風土改革、風通し改革の提言をしてくれました。大変、参考になる提言が多くありました。

東京本社の「風通し改革」コンサルティングの中間発表もこの前あったのですが、その発表の中で、特に私が印象的だったのは、「りそな総研は~~であるべき」という表現ではなく「~~でありたい」という言葉を使っていたことです。

あるべき論だと、反発する方も出てくるかもしれませんし、結果的に風通しを悪くすることにもなりかねません。

しかし、「こうありたい」という理想像をすり合わせていけば、みんな賛同しやすいですよね。

私自身、そうした「ありたい姿」を言語化する部分に悩んでいたため、それを整理してくれた自社のコンサルタントたちにはとても感謝しています。その結果生まれたのが「「強い会社づくり・人づくり」のパートナー」というワードです。

一経営者としての感想ですが、りそな総研のコンサルティングサービスは、やっぱり素晴らしかった!

自信を持っておすすめできます。

事務局

自ら自社のサービスを体験され「すばらしかった」と断言できるのは、すごいことですね!

最後に、ここまで読んでくださった、りそなCollaborareの会員の方々に向けて応援のメッセージをお願いいたします。

氷坂

昨今、世間の情勢が非常に不透明になっています。
米中問題や中東の問題、英国のEU離脱、そして2020年に入ってからは新型コロナウィルスの問題も起こり、なんとなく社会全体にマイナスの空気感が漂っています。

こうした状況の中で、経営者として悩まれるシーンは多々あるものと思います。

しかし、米国同時多発テロがあり世界情勢が緊迫した2001年前後に、そのアメリカからGoogleやFacebookのような、世界を席巻する企業が誕生しているのです。

混沌とした世の中であればあるほど、ビジネスチャンスもあり、大きく羽ばたく企業が生まれる時期でもあります。

りそなCollaborareの会員の皆様は、夢を持って起業されたり、時代に合わせ事業転換をはかられり、という志の高い方々が多いと思います。
私たちは、これからの日本の成長のために、そうした志高い企業に頑張ってほしいと心の底から願っていますし、志を持って挑戦を続ける経営者には可能性は無限に広がると思っています。

今のこの空気感に負けず、明るい未来を信じて信念を持って頑張ってください。お困りのことがあれば、りそな総研が「強い会社づくり・人づくり」のパートナーとして精一杯皆さまをサポートいたします。

事務局

本日はすばらしいお話とメッセージをありがとうございました!

以上

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エンジニアの価値観を理解して潜在的な求職者にリーチ/激動の2020年を勝ち抜く採用戦略(6)

世界中を震撼させる新型コロナウイルスの蔓延によって、日本の労働市場は大混乱に陥っています。空前の人手不足から一転、内定取り消し報道が相次ぐなど採用環境も激変。今後の見通しも不透明な状況です。
しかし不況による厳選採用時代が到来したとしても、確実に超売り手の環境が継続するであろう採用市場があります。それがエンジニアの世界です。
前回
に続き、ますます争奪戦が過熱するITエンジニア採用について、この記事では、具体的なノウハウを解説します。

1 エンジニアの価値観をしっかり理解する

特定の企業にとっては、エンジニアの獲得は死活問題です。しかしエンジニア自体の不足をはじめ、技術やスキルの見極めの難しさ、現場とのミスマッチなど、エンジニア採用にはさまざまな課題が存在するということについて、前回お伝えしました。
優秀な人材を獲得できれば、企業自体の大きな業績向上にもつながることが期待できます。そういった意味でも、前述の採用課題をどう乗り越えていくかが極めて重要な命題だといえます。

まず取り組むべきは、企業としてエンジニアの価値観をしっかり理解することです。彼らのキャリア観やワークスタイルにフィットした戦略設計こそが、採用で成果をあげるための第一歩となります。
例えば、「総合職として採用され、最初の1年は営業を経験する」といったような人事配置を好んで受け入れるエンジニアは稀です。エンジニアに共通する「性質」に関して、きちんと理解できていないと、このような運用をしてしまいがちです。これでは優秀な人材の確保は難しいでしょう。

2 技術力の向上と成長機会が原動力

エンジニアにとってもっとも関心があるのは、自分自身の持つ技術力や業務経験です。従って、転職時には他の職種と比べ、「技術力の向上が期待できるか」「成長機会が豊富に存在するか」といった内容を重視する傾向があります。
また「リモートワークが可能か」「フレックスなど時間の融通が利くか」「副業OKか」など、働きやすさについても求められるようになっています。新しい技術を勉強する時間が欲しいというエンジニアが増えているのです。

ひと昔前ならば、寝る時間を削ってでも一日も早くシステムリリースしなければならないという風潮がありました。今では残業を肯定するのではなく、残業せずに完了させるためにどうすればよいかなど、生産性を重視する傾向が高まっています。
趣味や資格などのプライベートのための時間をつくりながら、仕事にも集中して取り組みたいと考えるワークライフバランス派も多く、エンジニアが働きやすい環境づくりを推進していく企業努力がより一層求められるようになっています。

3 そもそも採用市場に現れにくい

エンジニアの価値観を理解することで、採用に関するベーシックなスタンスのようなものは見えてきたのではないでしょうか。では、どんな方法を用いてエンジニアを採用すればよいのでしょうか。考えうる採用手段のバリエーションについてご紹介しましょう。

    採用サイトへの掲載
    一般的な採用サイトに加え、エンジニアに特化した求人サイトも登場。こういう場に求人票や広告を掲載する

    人材紹介サービスの利用
    企業が求める人材を紹介してくれる「人材紹介サービス」を利用する。フィーは高価ながら、採用に至った場合のみ手数料を支払う成功報酬制をとるケースが一般的

    ダイレクト・リクルーティング
    企業が採用候補者一人ひとりにアプローチをかける採用方法。採用サイトの登録者に対するスカウトや、SNSで積極的に声をかけていくことを指す

    勉強会やミートアップへの参加
    最新の技術などについて情報共有や議論、交流を行うミートアップや、各種勉強会に出席し、エンジニアや学生と関係を構築する

    リファラル採用
    自社で働いている社員に候補者を紹介してもらう方法。転職市場に出てきづらい優秀な人材にアプローチできるメリットがある

一般的な採用手段といえば、求人サイトに広告を出すことですが、エンジニア採用では空振りに終わることが少なくありません。それは前提として、優秀なエンジニアは厚遇で囲い込まれていることが多く、顕在的な採用市場にはあまり出てきていないからです。エンジニアに特化した採用サイトや人材紹介サービスも出てきていますが、これらを活用しても流動性の低さを解決することは難しいかもしれません。

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4 潜在的な求職者にリーチする

だとするとエンジニア採用の基本戦略は、いかに潜在的な求職者にリーチして、その気になってもらうかということになります。その観点からお薦めできるのが「ダイレクト・リクルーティング」「ミートアップ」「リファラル採用」といった採用手法です。

ダイレクト・リクルーティングで重要なのは、誰に声をかけるのかということに尽きます。潜在的な求職者を狙うとすれば、ミートアップといわれるエンジニアが集う場が最も有効でしょう。成長意欲の高いエンジニアが多く参加していますし、またフランクな場でもあるので、いい人材との出会いが期待できます。こういうリアルイベントに参加し候補者リストをつくっていきます。
そのリストをタレントプールといわれるサービスを使ってデータベース化し、定期的にコミュニケーションをとるのです。その中で自社への興味を持ってくれるようになったエンジニアに対してオファーを出す。こういったやり方が最も旬な採用手法とされています。

リファラル採用は、自社のエンジニアからの紹介なので、ある程度のスキルレベルやカルチャーフィット感が期待できるという点で、極めて有効なリクルーティング手法ともいえます。しかも今はその気じゃない時点での推薦であった場合、先述の候補者データベース=タレントプールにリスト追加し、機が熟した時点でオファーを出せばよいのです。

5 自社のエンジニアを、採用活動に巻き込む

さて、1)ミートアップやリファラルによって候補者リストをつくる→2)タレントプールで採用データベースを構築→3)タイムリーにダイレクトアプローチする。こうして採用手段が確立されれば、採用の母集団はある程度確保できるはずです。

ミスマッチを防ぐ選考について解説しておきましょう。
選考を、人事担当者のみで企画・実施するのは得策ではありません。先述の通り、現場の求める人材像と採用担当者の意識する人材像との間にミスマッチが起こりがちだからです。このミスマッチを解消するためにも、自社のエンジニアに協力を求めるとよいでしょう。自社に必要なスキル・技術の評価や成長性の見極めなどは、人事よりも現場のエンジニアの方が精通しています。
求人票の作成や基礎知識の見極め、面接における技術力の確認など、選考のプロセス全体を通じ、主体的に関与してもらうと良いでしょう。人事部門にエンジニア出身者を配置することも有効です。

本記事では、ITエンジニアの採用動向や彼らの仕事に対する価値観、およびいくつかのリクルーティング手法などを紹介しました。いろいろな手法を試していきながら、採用成功事例を増やしていきましょう。また採用手法だけでなく、社内環境の改善も重要なテーマ。エンジニアにフィットした職場づくりにも注力してください。

最後に、エンジニアの採用ができたとしても、厚遇し過ぎると既存の社員に不満がつのります。【エンジニアは採用できたけれど、別部門の社員が辞めてしまった】という失敗例は少なくないのです。エンジニアの技術は特殊ですが、経理や人事にも専門的な知識が求められるはずです。各人の責務(役割分担)を明確にし、全体調和を図ることも忘れてはなりません。

次回は、コロナウイルス問題に揺れる「新卒採用」について。実は今こそいい人材獲得の勝機であることをお伝えします。

以上

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