かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第10回に登場していただきましたのは、兵庫県神戸市の“チーフ・エバンジェリスト”である乾洋氏(以下インタビューでは「乾」)です(インタビューは2019年12月時点)。
1 「エバンジェリストは、スタートアップ支援以外でも自由にやっていいというところがありますよね。そこが広報とは違うと思います」(乾)
John
乾さん、本日はお忙しいところ愛りがとう(愛+ありがとう)ございます! たくさんお聞きしたことがありますので、ぜひ、よろしくお願いします。
乾
はい、こちらこそ、よろしくお願いします!
John
実は、本日のインタビューの前にご連絡いただいた情報ですが、関西限定の毎日放送の番組で、乾さんともう1人、神戸市のエバンジェリストである女性のことが特集されていましたね。
乾
はい、20分くらいの特集ですね。(2019年)11月14日、15日に毎日放送で密着取材があり、そこで我々がどのような活動をしているのかを取り上げていただきました。
John
番組ではどのような内容が特集されたのですか?
乾
内容は、神戸市でエバンジェリストが採用されたということで、まず、「エバンジェリストとは何者か」からですね。
John
確かに、エバンジェリストとは、具体的にどのような仕事をされているのかなど、まだ知らない人もいるかもしれませんね。
乾
そうですね。「エバンジェリスト」は、元々ITの業界で使われている言葉ですからね。私たち神戸市のエバンジェリストは、神戸の伝道師であり、広い意味では神戸市のPRなどを担っています。特に、もう1人のパートナーが、ブランディング、PRを得意としています。
John
そうなのですね。なぜ神戸市のエバンジェリストは、2名選ばれたんですか?
乾
元々募集は1名でしたが、最終的に専門分野の異なる2人を採用することになったようです。
John
乾さんは、エバンジェリストの募集を、どこで目にされたのですか?
乾
最初は、転職サイトです。「神戸市がこうしたポジションを募集している」ということで、目に留まりました。私は元々神戸出身ということもありますし、「あぁ、これは神戸が面白いことをやろうとしているな」と思ったのです。
John
なるほど。応募数はどれくらいでしたか?
乾
720名くらい応募があったようです。
John
720名、多いですね。乾さんは、そこを突破して見事に受かったということですね! 素晴らしい!!(拍手)。
乾
いえいえ、ありがとうございます。
John
なかなか受かるものではありませんよね。倍率がかなり高いと思います。
乾
いえいえ、そのようにおっしゃっていただくと恐縮です……。
John
もう1名のエバンジェリストの方は、元々何をされていたのですか?
乾
元々、食品会社のエバンジェリストで、食品会社で開発、企画やマーケティングの仕事をされていました。
John
そうですか。その方は、肩書も「エバンジェリスト」だったのでしょうか?
乾
いや、肩書は違います。「アマニ油」をご存知ですか?「ニップンのアマニ」と呼ばれる近年の大ヒット商品を世に出した立役者です。ほとんど市場がゼロのところから、自身もテレビ通販番組にも出演されたりして100億円規模まで育てた方です。
ですから、彼女は本当にエバンジェリストと呼ばれるのにふさわしいと思います。私の場合はPRやブランディングの経験はありませんのでそこは少し、今でも違和感があります。
John
そうなのですか! それは面白いですね。神戸市では、どのような方、あるいはどのような部署が「エバンジェリストを採用しよう」と考えたのでしょうか?
乾
私の所属している「新産業部新産業課」ですね。ここは神戸市の中で新規事業開発を担う部署でして、ここでいわゆるスタートアップの支援をやっています。
John
なるほど、そうでしたか。
エバンジェリストというと、ガイ・カワサキさんなどが思い浮かびます。
乾
そうですね。それから、以前このイノベーションフィロソフィーでJohnさんと対談されたLINEの砂金(いさご)さんも有名ですよね。砂金さんには神戸市のイベントに出ていただいことがあるんです。
John
砂金さんが出られたのはどのようなイベントだったのですか?
乾
「エバンジェリストとは何か?」をテーマにしたイベントです。砂金さんという本物のエバンジェリストが出てきて、私ともう1人のこれから(神戸市で)なろうとしているエバンジェリストとトークセッションを一緒にやったのです。ウィズグループ(Wiz.Group)の奥田浩美さんにも神戸とはいろいろとかかわっていただいています。
John
奥田さん! 奥田さんにも以前イノベーションフィロソフィーに出て頂き、非常に勉強になるお話を聞かせて頂きました。
乾
そうですよね! 奥田さんは、神戸が4年間続けている500 Kobe Accelerator (以下500)というスタートアップ支援取組のオーガナイザーもされている方で、そうした偉大な方がこのイノベーションフィロソフィーの連載に出て、Johnさんと対談されていますよね。私自身はまだ神戸市でイノベーションは起こしていませんが、これから頑張りたいです。
John
このイノベーションフィロソフィーの連載のこともおっしゃっていただいて、本当にありがとうございます。乾さんも、素晴らしいことに取り組んでおられると思っております!
それでは、乾さんがこれまでどのようなお仕事をされてきたのか、これからどのような活動をされていくのかなど、いろいろとお話お伺いしたいと思います。
神戸市がエバンジェリストを設けたというのは、全国で初めてなのでしょうか?
乾
自治体がエバンジェリストという肩書のポジションを置いたのは、どうも初めてみたいです。首都圏で神戸のブランドや都市の魅力を戦略的に情報発信する目的でこのポジションが設置されました。加えて、私が所属している課はIT・テクノロジー系を、スタートアップを育てようという、支援しようという部署ですから、神戸に形成されつつあるイノベーションエコシステムを東京からもサポートする役割、またそれを首都圏で伝える人材が必要と考えたのだと思います。
John
昔の言葉でいうと広報ですよね。神戸市におけるイノベーション担当のPRということでしょうか。
乾
そうですね。端的にいえば、神戸市をPRせよということになるのかもしれませんが、神戸市は大きな組織ですので、当然広報にはたくさんの広報のプロの人間がいます。
John
確かにそうですよね。乾さんは、広報とエバンジェリストの違いは何だと思いますか?
乾
PR以上のことが求められる点で異なると思います。私は部門横断的な仕事もできるポジションにありますので、エバンジェリストは、スタートアップ支援以外民間企業との提携や企業誘致などの営業的な業務もやっていいというところがありますよね。そこが広報とは違うと思います。
John
なるほど、それは面白いですね! どなたがOKを出してくれたのですか?
乾
市長でしょうね。
John
面白い市長ですね。
乾
実は本日も、上司からも「何を話してもいい」と言われています。神戸市には、市長の意見や過去のコメントを忖度して発言する必要はないという自由な気風がありますので自由にやっていいと言ってもらっています。
2 「人生の半分が終わり、かなり経験も積ませてもらいましたので、ここで一旦リセットして。そして、いきなり起業するのではなく、この3年間でぐっと人脈を作るという感じでしょうか」(乾)
乾
ちなみに、私は期間限定、3年間の任期付きですが、公務員です。3年後には一旦契約が切れてしまうので、新しい仕事を見つけなければなりません。
John
そうなのですね。この3年の期間で人脈がたくさんできると思います。乾さんにとっては、さまざまな会社のエバンジェリストをできる可能性が生まれるのではないでしょうか?
乾
そうですね、そうなれればいいなと思っています。
John
なれます! 3年でかなりの人脈ができますから。これは相当面白いことですよね。乾さんにとっては、自分の中でもチャレンジですよね。
乾
はい、ですから自分の中では、この3年間は長い目で見れば助走期間かなと考えています。もちろん神戸に貢献することを前提ですが。助走期間という言い方は適切ではないかもしれませんが、実質起業したような感じで、3年後のIPOを目指すような、自分の中ではそうしたイメージです。人生の半分が終わり、かなり経験も積ませてもらいましたので、ここで一旦リセットして。そして、いきなり起業するのではなく、この3年間でぐっと人脈を作るという感じでしょうか。
John
なるほど、分かりました。過去のお話になりますが、乾さんはマレーシアでお仕事をされていましたよね?
乾
はい。私は以前、オリックスに勤めていましたが、マレーシアはオリックスの中でも東南アジアで1番大きな拠点です。ファイナンスのリースをやっていて、従業員も650人くらいいます。
John
そうなのですね! そのトップを2年間務めていたのですか?
乾
そうです。そこは、30億円くらいの税引前利益を上げているくらいの非常に大きな会社でした。
John
すごいですね。日本のオリックスのグループ会社ですか?
乾
日本のオリックスです。日本のオリックスが出資する100%の現地法人で、立ち上げは48年くらい前です。かなり歴史のある会社です。
John
どういうきっかけで、乾さんはその会社で働くことになったのですか?
乾
本社からの出向ということになりますね。本社からの出向で4年半、マレーシアに行くことになりまして。マレーシアと同時にシンガポールの社外役員を2社やっていましたので、マレーシアからマネジメントをしていました。マレーシアとシンガポールの経験は、完全に経営ですね。CFOを経て、CEOになったという形です。
John
オリックスに勤務されていた期間は長いですね。
乾
はい、長いです。もう1990年からです。
John
乾さんが、オリックスで1番長く担当していた事業はどのような分野ですか?
乾
直近のマレーシアでは、マネジメント、経営をやっていました。その前の東京では、オリックスの投資ポートフォリオのマネジメントや、直接投資を行っているファンドの組成などもやっていましたね。
John
スタートアップの支援も、その際に取り組んでおられたのでしょうか?
乾
スタートアップの支援という形ではなく、レイターステージのファンドに投資をしていましたので、それをある上場企業とGPでファンドを組成して、その運営もやっていました。さらにさかのぼると、シンガポールのオリックスのコーポレートベンチャーキャピタル、CVCのディールを担当していたこともあります。
John
それは2000年ごろのお話ですか?
乾
はい、2003年くらいまでですね。あまりいい時ではありませんでしたので、ここではかなり苦しい投資の経験をしました。
John
どういった会社に投資していたのですか? ネット関連サービスの会社が出てきたところで投資していた感じでしょうか?
乾
はい、正直に言いますと、ドットコムに群がったところはありますね。そういう会社への出資は後に失敗しているところも多いです。成功した事例もありますけど、7、8件くらい投資してかなり失敗しました。このときは、やはり会社を好きになってしまったというか、1つ会社を応援したくなると、その会社にグっと気持ちが入ってしまいますから。それで投資したら、やはり最後はマーケットも落ちたということで失敗してしまいました。
John
そうした失敗は、会社で責められたりしないのですか?
乾
それが、前職のオリックスは懐が大きいんですよね。またチャンスを与えてくれました。元々ベンチャーキャピタル投資というのは、10本で1本くらいしか成功しないというところもあると思いますし。
John
そうなのですね。
3 「ただ『やらなければいけない』と経営者が思ってるだけでは、伝わらないと思います」(John)
John
乾さんは、オリックスでのご経験で、1番何を学ばれましたでしょうか? やはり海外に長くいらしたので、そうしたご経験に関するものでしょうか。ちなみに、乾さんは海外にはどのくらいいたのでしょうか?
乾
留学していた時期もありましたので、17年くらいです。
John
留学先はワシントン大学ですか?
乾
はい、シアトルのワシントン大学です。
John
シアトルはスターバックス発祥の地ですね。いい街ですよね。
乾
はい、いい街ですね。ワシントン大学には、会社からの派遣で、通わせてもらいました。
John
オリックスからですか? 素晴らしい会社ですね!
乾
はい、1年間ビジネススクールで学ばせてもらいました。今でも感謝しています。
John
会社の制度で留学された人って、留学後すぐに会社を辞めてしまう方も多いと思うのですが。乾さんは留学後、長く会社に貢献されてから辞めたのですね。
乾
ちょっと辞めるのが遅すぎたかもしれませんが。
John
しかし、十分に会社に貢献できたのではないでしょうか。
乾
十分……そうですね。なぜ会社を辞めたのかというと、私の場合、ギブアンドテイクで言えば、最後にはイーブンの関係がつくれたのではないかと思ったからです。金融の専門部門にも在籍し、証券化でも、リーマンショック前に証券化商品の組成を行い、それを機関投資家に販売しましたし。
投資でしたら1件何百億円という案件をフィリピンでも2件ほど実行しました。こうした経験を積ませてもらい、小さなものから大きなディールまで現場の最前線でやらせてもらいましたね。
John
オリックスではどのくらい働いていたのでしょうか?
乾
オリックスには30年おりまして、そのうち17年が海外でした。
John
30年働いてそして17年海外にいた、そうした会社を辞める決断はどのようなものだったのでしょうか。そして公務員になろうと思ったきっかけは何だったのですか?
乾
そうですね。やはり、外での自分の価値を見てみようかというところが大きいと思います。
John
正直なところで言えば、少し飽きてきた部分もあったのでしょうか?
乾
そうかもしれません。海外での仕事に少し飽きてきたことは否定しませんが、人生50歳くらいになると折り返しだとか、今はLIFE SHIFTで、人生100年時代などといわれます。そうしたものに影響を受けたところもあります。自分は折り返し地点に来ているのではないかと思います。転換するのであれば、これがラストチャンスだろうと思いました。
まだ私は50歳を少し超えたところですが、ここから、今までの経験を活かして次に何をやるか。そう考えたときに、同じ業種の民間企業に転職するのではなく、全然違ったところへ、いったん資本主義から離れてということを考えるようになりました。しかも、私の出身地である神戸ですし。
John
ちょっと休憩、というイメージでしょうか。
乾
ただ、全然休憩にはなっていません(笑)。全く休憩になっていないことは想定外でした(笑)。
頭の中で、ずっと新しいことを、常にイノベーションを起こそうと思っています。それは後ほど触れていただければと思うのですが、まず何か分からないイノベーションというものを起こさないといけない。ずっと自分の中でそうした思いがあります。
John
いつから思い始めたのですか?
乾
もうずっとですよね。海外でマネジメントをしているときにも、イノベーションは起こさないといけないと考えていました。リースという単純な限界金融というのは、イノベーションを起こさない限り成長は難しいと考えていました。
John
乾さんがイノベーションという言葉に触れたのは、いつ頃でしたか?
乾
実際に触れて、言い始めたのはマレーシアの会社の社長になってからです。ですので、2017年くらいだと思います。そのときに、ダイバーシティとインクルージョン、そしてイノベーションに早く取り組まないといけないと感じました。
John
なるほど。そうしたことを、会議などでメンバーに対して言っていたのですか?
乾
そうですね。会議などで言っていました。メンバーが650人いましたので、その人たちを動かそうと思ったら、大きなメッセージを発信しなければなりません。ですので、「ここでイノベーションを起こさないとやばいよ」と発信していました。
John
乾さんは、何のためにイノベーションに取り組もうと思ったのですか?
乾
これはネガティブな言い方かもしれませんが、リース、金融ビジネス、いわゆるデッドファイナンスといった単純なスプレッド商売は近い将来衰退する可能性があると考えたからですね。先進国を見たら分かるように、今マレーシアやシンガポールで行っている単純な金融ビジネスは、付加価値を付けたりしない限りいずれは下火になっていくだろう、と感じていました。Fin Techなど新しいテクノロジーが出てきたという要因もあります。
John
そうした乾さんの思いはメンバーには伝わりましたか?
乾
難しいですね。こうしたことは、ずっと言い続ける必要があると思います。言い続けていると、メンバーの中でポツポツと、感度のいい人やとがった人が動き始めるというのはありました。
John
そうした感度のいい人、とがった人にしか伝わらないのですよね?
乾
そうです。まずは彼らが自発的に行動を起こして、新しい社内のイノベーションを起こしています。
John
なぜ、そうした数人にしか伝わらなかったのだと思いますか? 今、エバンジェリストという仕事をされていますが、当時と違って今でしたら、乾さんはどのように伝えていたと思いますか? もちろん、時代の違いもあると思いますが。
乾
はい、確かに時代もあると思うのですが、私の場合は言葉でなかなか伝えるのが難しいので、自分が動くでしょうね。自分が動いて、ある程度イノベーションを起こしている人たちと会って行き、そこをつないでいくという方法を取ると思います。
John
なるほど、部下を巻き込むというスタイルですね。
乾
はい、巻き込んでいきますね。でも、経営者はビジョンを示さないといけないので、まず「ビジョンはこれだ」というのを示して、そのビジョンは絶対ぶれないようにして、そこに向かっていく。そのためには何が必要かということが大切なのだと思います。
John
今のお話、経営者は皆さん取り組もうとしますが、失敗していますよね。ただ「やらなければいけない」と経営者が思ってるだけでは、伝わらないと思います。例えば、産業が衰退するから、日本は停滞しているからと言っても誰も働かないじゃないですか。働いているふりなのではないでしょうか。なぜかというと、要は「仕事だから」という意識だけなのではないかと思います。どうすれば心から「動こう、働こう」と思えるようになるのか、そうしたことを、今だから訴えたいですね。全員自発的にね、神戸市民はもちろん、それ以外にも全国、全世界に、何のためにイノベーションを起こすのか、なぜそれが幸せなのかということを訴えたいです。
乾
素晴らしい思いですね。神戸市が今からやろうとしている取り組みにも絡んでくると思うのですが、やはり底上げが重要になると思います。一言でいうと「早く起こさないと、取り残されちゃう」ということになるでしょうか。
Johnさんが言われたように、現状では、このままでは沈んでいく。神戸市もこのままだと沈んでいってしまうという危機感はあります。
John
乾さんがお話されていることは分かります。一方で、失礼なことを言うかもしれませんが、「いや、イノベーション起こさなくても、今の生活で一応生きていける」と思っている人もまだまだ多いと思います。
乾
そうですね、確かに。でも、これからはそうじゃないということを、うまく伝えていかなければならないと思います。
John
どうすればもっと伝わるのでしょうか?
乾
難しい課題ですが、かなり大きなインパクトのあることをやったり、事例を示したりしていくことが必要だと思います。
John
私は、本当に世の中を変えようとするなら、「あなたの生活が変わる」と言うのが、エバンジェリストの仕事だと思っています。「イノベーションを起こしたら、あなたの生活がより豊かになるよ。チームでイノベーションを起こすのだから、あなたの生活にもよい影響が及ぶよ」と。今はこの点を伝える人が1人もいないじゃないですか。それは国の危機であり、一部の地域を何とかしなければいけないということではないと思っています。
乾
確かにそうですね。
John
一部の地域に限定された話ではなくて、実は1つのコミュニティで全員皆、1人1人の人生が変わるという点を、リーダーやエバンジェリストが伝えることができたら、少しよくなると思うんですよ。日本人は。
乾
今、日本人は1人1人が自分の生活、これまで当たり前だと思っていた価値観を見直す岐路にあると思います。例えば、身近なところでいうとペットボトル。今はプラスチックを使っていますが、こういうのは環境に配慮して、できるだけ使わないようにするなど、そうしたことを実践していく必要があります。
そして、身の丈にあった生活をしていく必要があると思います。例えば、なぜ東京で暮らしているのかというと、ある程度イノベーションも起きていて、収入もあるからという理由ではないでしょうか。50万円の収入があって、コストが30万円、40万円でも暮らしていける。でも、地方だったらそれより少ない金額でいけると思いますが。
John
地方だとよりおいしいものが食べられますよね。
乾
そうだと思います。だからそれを個人個人が見直していかなければいけないと思います。
John
そう、あなたの人生が変わるためのという。それで、豊かさの定義といいますか、お金だけではなくて、時間の余裕、心の余裕というのが地方だと生まれやすいのではないかと思っているんです。
乾
そうですね、通勤時間もかからないですし。
John
そうですよね。結局、休日に何をするかとなったときには、どこか自然のあるところに行こうとしますよね。何もしない、自然の多いところ。
結局、忙しく働いていれば働いている人ほど、時間とお金の余裕があるときは、都会の状況から離れようとするのではないでしょうか。人に会わなくていいところへ行き、シャットアウトする。地方の人は、いる場所自体が恵まれているから、逃げ出す必要がない。そういう風に考えてみると、(都会では)本当は人の幸せにおいて大切なものを見落としているのかなと思います。
皆、なぜか「東京に住まなければいけない」「シリコンバレーだ」と言っていますよね。それだけが正解なわけではないと思います。
乾
スタートアップ支援のスタイルもこれからどんどん変わってくるでしょうね。ピッチをして、大きなイベントをやって、お金を使ってという今の形が。
John
新しい日本の、本当にキャッシュを生んでいる人たちをうまく巻き込んでいかなければなりませんよね。
乾
本当にそう思います。実際に私の部署がやっていることは、1%のイノベーションを起こしてくれそうな人たち、要はスタートアップですよね。そうした人たちを市として、行政としてバックアップしていきますが……。
John
今までやっていなかったのですよね。その点に、皆さんがやっと気づいてくれたのだと思います。日本にも、スタートアップというのは昔からありましたが、そこに注目しなさすぎたのです。
その反動といいますか、今度は中小企業のことをあまり見なくなり、スタートアップと大企業の連携が増えてきました。
私たちは、シリコンバレーに、中小企業のオーナー社長等を20名以上お連れして、現地で活躍するスタートアップ、アクセラレーター、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストなどをご紹介しています。日本の現状では、スタートアップと大企業だけがイノベーション創出のためのマッチング等を頻繁に行っています。しかし、自分の意思決定でキャッシュをスタートアップに投資ができる可能性が高い中小企業のオーナー社長が、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを理解し、日本のエコシステム構築をエンジェル投資を通してサポートすることで、日本の地方都市でも起業する人が増えていくと良いと個人的に考えています。
乾さんにエバンジェリストとして、中小企業にも目を向けて「全員でやる」ということを伝えていただければ嬉しいです。
乾
ありがとうございます。これはもう本当に取り組まないといけませんよね。おとといまで神戸市に行っていましたが、中小企業の方の集まりができてきています。もともと神戸市は医療産業都市で、医療関連の会社が360社くらい集まっています。さらに航空機のクラスターというものもあり、市内の中小企業が航空機の部品を結構作っています。
神戸経済の大部分を支えているのは、やはり中小企業です。大企業はもちろん、そうした企業の製品で必要な部品から航空機まで派生して、中小企業を巻き込んで取り組みたいと思いますね。
神戸市のエコシステムはすごく小さいので、今は、ベンチャーキャピタルに認識されている会社が数十社くらいしかないと思います。そこを広げていかないといけませんね。
John
そうですね。なかなか注目される機会は多くはありませんが、地場の町にたくさんある中小企業。あれが本物の企業ですよね。
乾
そうですよね。エバンジェリストは部門横断的に仕事ができますので、スタートアップはもちろん、中小企業のバックアップの仕事もやっていいと言われています。
John
いいですね! このイノベーションフィロソフィーの連載や、このりそなCollaborare
サイトは中小企業の経営者もたくさん見てくださっていますので、ぜひメッセージを伝えていただきたいと思います。
乾
中小企業の皆さんにも輪に加わっていただいて、大きな産業をプロデュースしていく。それも1つやってみたいと思っています。
4 「結局、民間企業も神戸市という自治体も、利益を上げるというよりも、発展するということを目的にしていますから、やることは大きく変わらないと思います」(乾)
John
乾さんはエバンジェリストになられてからどのくらい経つのですか?
乾
(2019年の)10月からですので、2カ月と少し経ちました(インタビューは2019年12月時点)。
John
毎日どのような働き方をされているのでしょうか?
乾
毎日できるだけ人に会っています。インスパイアされるような人に会いに行くことを心掛けています。
John
そうなのですね。乾さんと私の出会いも、そうしたことからでしたよね。乾さんからは、突然、Facebookで英語でメッセージをいただきました。他の日本人の方にも同じように英語でメッセージを送っているのですか?
乾
いや、違います。Johnさんは英語のほうが得意なのではないかと思ったのです。
John
ちょうど乾さんからメッセージをいただいたとき、シリコンバレーのIPOをしていた会社の友達が遊びに来ていて、「あっ、英語で来た」と思って、すぐに返信しました。
「日本人から英語でメッセージが来た!」と、すごくインパクトがありました。
乾
Johnさんはイノベーションを起こされていらっしゃるので、私も勉強したいなと思いまして、連絡させていただきました。
John
いやいや、とんでもないことです、愛りがとうございます。それで、乾さんの毎日の仕事は、そうして面白い人たちに会ったりしていることが多いのですか?
乾
それに加えて、地道な仕事としては、神戸市に企業を誘致するというミッションもあります。私は東京にいて、WeWorkのオフィスにいますが、そこで出会った人たちが大きくなり50人くらいの規模になってくると、関西に第2拠点を欲しいという話になります。そうなると、関西にゆかりのある社長さんもいらっしゃるので、そういった人たちに「神戸でやりませんか?」という風になります。
こうした企業誘致は、イノベーションに関して大きなアドバルーンを上げるというよりも、地道な営業に近い仕事ですね。やはり実際に神戸の地に仕事がないと、学生は神戸にそのまま留まってくれません。ですから、企業の第2本社、拠点として誘致できたらいいと思っています。
John
なるほど。ただ、それは3年以内でできる仕事ではないかもしれませんよね?
乾
確かにそうですね。3年間の中で、できるだけ誘致できればいいなと思っています。それに向けて、こうしてメディアに出る仕事もそうですし、メッセージも出しながら「神戸市がこうした活動をやっている」というメッセージを発信するという仕事があります。
John
企業を神戸市に連れて行くというお仕事と、加えて、神戸市で育てるという仕事もあるわけですよね?
乾
そうですね、東京だけではなく、海外など、500の卒業生なんかも含めて実際に神戸市に連れて行きます。
シンガポール出身で、500の卒業生が神戸に会社を作ってくれました。神戸市が全面的なバックアップをしています。その会社が将来的にIPOをしてくれたら、それは大きなことですよね。500では、全員神戸市に残ってくださいというような、そういう覚書を交わすわけではないので。
そうした会社が毎年何社か出てきてくれると思います。
John
海外からの有力スタートアップの日本進出は、私たちもお手伝いできますので、今後は神戸市とも連携したいですね。
乾
ありがとうございます! バックアップして、神戸市に根付いてくれる会社を育てたいと思っています。
John
そうですね。育てただけで、神戸市から出ていってしまうというのではもったいないですからね。
乾
ただ、市長は、最後は世界に出て活躍してもらいたいと言っていますけどね。
John
そうなのですね。ちなみに、乾さんは長く民間企業に勤めてきましたが、民間と公務員の仕事の進め方の違いはありますか?
乾
私の場合、基本的にはあまり違いはないと思っています。
John
スピード感などはいかがですか?
乾
現在の仕事のほうが速いですね。
John
それは権限が与えられているからでしょうか?
乾
そうですね、意思決定は早いです。私の部署がトップ(市長)と直接つながっているからだと思います。
市長のところに話が届くのも、意思決定も両方とも早いですし、全員が同時進行でSNSでやり取りしますので、メールでいちいち「こういうのやりますか?」とやっているよりも、コミュニケーションが早いですね。
結局、民間企業も神戸市という自治体も、利益を上げるというよりも、発展するということを目的にしていますから、やることは大きく変わらないと思います。最後ボトムラインとしては出て来ませんが、やることは営業でもあり、宣伝でもあり。それはあまり変わらないなと思います。
John
1人社長をやっているようなものですよね。「1人社長」とは、まさに、全部自分で企画して、自分でアポを取って進めていくようなスタイルです。
乾
そうです。それで、自分の中にある妄想を構想に変えて、それを実現していくということかなと思います。
John
何かワークとライフの境界もなく仕事をしている感じですよね。
乾
そうですね、そうなっていくと思います。
John
私もそうです。自分でアポをたくさん取って、実際に会って話して、決めて。それをどんどんやります。乾さんは、バジェットも自由に使うことができるのでしょうか?
乾
それはありません。そこが役所の辛い所で、来年度の予算もある程度決まっていますので。
John
予算は潤沢なのでしょうか?
乾
予算はもちろん取っています。そこは本当に吟味、検討、分配してということをして、来年度はこのスタートアップ関連の活動に、これくらいやりましょうというのを決めていきます。
John
スタートアップ関連って、今さまざまな自治体で結構予算を取っていますよね?
何に予算を使ってきたのでしょうか?
乾
各自治体さんは、さまざまなインキュベーション施設を作ったりしていますね。
そもそも地方創生で2015年くらいから、国からも予算が降りてきて、そこから(スタートアップ支援が)始まっていると思います。ですので、ほとんどの地方自治体が2015年からこういうことをやろうとしていて、そこに神戸市は真っ先に取り組んで、世界に伍するといいますか、世界レベルのアクセラレータ・プログラムである500をやってみよう、ということで取り組みました。
何のノウハウもない状態で2015年から始めて、それを4年間続けて、成果も出てきたと思っています。その次の段階に進むために、今「Urban Innovation JAPAN」という、全国初の取り組みを神戸市が行っています。行政の持っている課題をスタートアップと一緒に4カ月ほど協働してプロダクトを開発して、最後はそのスタートアップから調達までやってしまうという取り組みです。
John
そうなのですね! それは誰が主体となって取り組んでいるのですか?
乾
神戸市の私のいる部署の人間がコーディネートし、問題を持っている所管課と取り組んでいます。例えば、毎月手作業で行っていたレセプトチェックについて、ITツールを使って自動化するといったものです。また、給与関係では、通勤手当支給の際に経路の認定作業を手作業でやっていたものを、最適経路の検索を自動化して年間何千時間もの業務削減ができたとか。あとは受付。区役所においては、受付の方が紙のマニュアルを活用し来庁者の方の案内をしていたのですが、これをタブレットアプリに変えることで案内時間を半減したといったものです。
こうした役所が持っている課題について、神戸市はスタートアップと協働し4カ月間でプロダクトとオペレーションを開発し、その結果を発表しています。2017年の9月ころに始めて、2年以上経ちました。実際に幾つかの成功モデルもできて、かなり高い確率で課題が解決しています。
500に並行して、こうした取り組みを自治体で初めて取り組んでいますので、他の自治体からも興味を持ってもらっていますし、どんどんやりたいという声をいただいています。そこで、お隣の芦屋市や姫路市、兵庫県などとも一緒に「Urban Innovation Japan」に取り組んでいます。これからは関西も超えて一緒に取り組めると思いますが、成功モデルをさらにもっと横展開するということを考えています。
John
素晴らしいですね!!
乾
ありがとうございます。神戸市だけでノウハウを持っていてももったいないので、横展開できるものはしていきます。「Japan」の中で横展開していきましょうと思っています。これは他の自治体だけじゃなくて、国からもかなり注目されています。
これらの取り組みは次につながる「UNOPS」、「The United Nations Office for Project Services」といいますが、ここの目に留まりました。国連等の依頼に基づき援助事業の実施をやる、デンマークのコペンハーゲンに本拠を持つ国連機関です。
彼らは、例えば紛争に苛まれるアフガニスタンの、貧困・環境問題など、いわゆるSDGsに関係するところ、SDGsの中でも本当に1番ベーシックな人間らしい生活を送るために必要な環境を整えることで、いろいろな社会問題を解決していく機関です。
UNOPSは80以上の国と地域でプロジェクトをやっている機関です。彼らが支援する先は、これまで通りの援助をするだけでは、課題が解決できないこともありますので、テクノロジーを使い、イノベーションを起こして解決していこうと考えています。現在、世界で2カ所だけグローバルイノベーションセンターという拠点を設けていますが、その3カ所目に神戸市が選ばれたのです。
John
おめでとうございます! もう2カ所はどこなのですか?
乾
カリブ海東部のアンティグア・バーブーダという国とスウェーデンです。
John
なぜそこに作ったのでしょうか?
乾
やはり、そこに一番の解決すべき問題があったのではないでしょうか。それで、コペンハーゲンのお隣のスウェーデンに2カ所目をつくり、その次に彼らはアジアで探していたのです。
John
しかし、神戸市には問題はないように思いますが。
乾
確かに神戸市には紛争といった問題はありませんが、日本は人口減少や少子高齢化など、課題先進国でもあります。神戸はイノベーションを起こす拠点を作るのに適していたのだと思います。神戸市に2020年の9月にグローバルイノベーションセンター「UNOPS」の拠点を作り、世界からスタートアップを年間で15社程度を集めます。そこに日本の大企業もパートナーとして加わります。それで、1年という期限で3カ月ごとにPDCAサイクルを回し、年間で5社程度を国連調達に参加させる予定です。今後、UNOPSは、アンティグア・バーブーダ、スウェーデンと神戸を含め世界で合計15個所にグローバルイノベーションセンターを開設すると聞いています。
John
新しい取り組みですよね。シリコンバレーとは違う、非シリコンバレーといえますね。
乾
はい、非シリコンバレーの取り組みだと思います。
John
デンマーク流のイノベーションの起こし方。デンマーク流のデザイン思考ですね。
乾
そうですね。国連も関係していますし。
John
デンマークには一度、福岡の人たちと視察に伺わせて頂きましたが、「Citizen-Led Innovation」といい、市民発のイノベーションという考え方が根付いていました。ですので、福祉やウェルネスの先進国になっていますね。
デンマークなど北欧は、やはりシリコンバレー流のキャピタリズムだけの考え方ではなくて、課題に対する彼らなりのデザイン思考があるので、やっていることがシリコンバレーとは違います。
シリコンバレーは、どこか利益に終始するところがあります。人が抱える課題の解決というのとは違うかもしれません。バリエーションゲームであって、結局お金を持っている人がそのゲームに入れば、大きくなります。
しかし、デンマークの場合、全体に広げるというよりも、その地域の課題解決や、その地域の福祉施設をどううまくデザインしていくか、そういう考えが根本にあります。ある福祉施設では身体に障害のある方が理事を務めていました。頭が動くのだから働けるのだと。日本であれば、身体に障害のある方が理事まで務められるケースはあまり多くないようです。しかし、誰でもイノベーションは起こせるんだとデンマークで感じました。
ちなみに、日本は働き方改革を推進していますが、私に言わせると「考え方の改革」が必要です。愛があれば、能力が埋もれて発揮できていない人をより適した場所に配置する、適材適所ができます。デンマークの福祉施設を見て、「優しいな」と思ったのです。この優しさがあれば、働き方はガラっと変わりますよ。そうしたことを、日本はデンマークに見習わなければならないと思います。
5 「違うアイデア、違う意見を持っている人たちを同じところに集めない限り、イノベーションのサイクルは起こりません」(John)
乾
今のお話をお伺いして思ったのは、先ほどの神戸市のUrban Innovation Japanの取り組みは、イノベーションがあったから、国連にも評価されたのかもしれませんね。社会課題を必死に解決しようとしていて、それを全国展開しようとしているという神戸市の真剣さが伝わったのかもしれません。
John
それはよかったですね! 都市としてのサイズ感もちょうどいいですよね。
乾
そうだと思います。
John
それこそ中央都市の港側、ポートアイランドというのがとても魅力的かもしれませんね。
乾
ありがとうございます。ただ私は、エバンジェリストという役割ではありますが、他の都市と比較して神戸市のほうが優れている!ということはしたくないんですよね。「神戸もいいけど、他の都市もいいよ」と言いたいです。やはり、そうじゃないですか。
John
乾さん、素晴らしいお考えです! では、世界であればどの街を目指したいなど、目標はありますか?
乾
何年か前は、上司は「シリコンバレー目指します」と言っていましたが、私はそうではありません。経験から、個人的にはポートランドとシアトルの間くらいかなと思います。
John
あぁ、デザインの街のポートランドですね。
乾
そうです。そことシアトルの間くらいの街を目指すべきかなと思います。
John
個人的には、神戸市のほうが綺麗だと思います。もしくは、シドニーかもしれませんね。意外と潤っていますので。ダイバーシティというのはシドニーが世界2位、1位がサンフランシスコなんです。シドニーには世界190カ国から人が集まって来ていますので、それで私は留学先にシドニーを選びました。
ダイバーシティのある場所にいないと、ダイバーシティな人間にはなれませんし、自分がそこに住みつかなければ分からないこともあります。私がいつも言っているのは、「Diversity of ideas」です。違うアイデア、違う意見を持っている人たちを同じところに集めない限り、イノベーションのサイクルは起こりません。理系や文系ということは関係なく融合して、そこに体操選手がいてもいいわけです。そうするとそこでスポーツの話、スポーツTechの話題が出ることもあるでしょう。
万博のような、さまざまなバックグラウンドを持つ人が参加できる機会や場所がないと、ミートアップに行っても、全部同じイベントでは飽きてしまいますよね。
乾
そう思います。全部同じでは、良くないですよね。
John
はい。全部スタートアップの人だったり、全部大企業の人だったと偏りがちです。イベントだと同じTシャツを着たりすることもありますね、それもいいですが、大事なことは同じ服より同じビジョンです。更に言えば、「同じビジョンで異なるアイデアを持つ者」が集まること。そうすれば、自然と面白い雰囲気が生まれます。
乾さんのお話を伺うと、神戸市はスタートアップの支援だけでなく、国連に選ばれたりと、多岐にわたる可能性を秘めていますね。それが神戸市の一番の魅力ではないかと思います。
乾
ありがとうございます。ですから、これからはもっと大企業やスタートアップが、国連のグローバルイノベーションセンターを目指して来ると思います。15社くらいが集まります。
John
神戸市のエコシステムはもちろん魅力的です。しかし、世界中を意識すると、少し変化球的な魅力もあると良いのではないでしょうか。神戸には港があり、夜景も綺麗で、食事もおいしい、人もいい人が多いし、阪神大震災を乗り越えたという歴史もあります。こうしたことに加えて最後、もう1つあるといいなと思うのはアートですね。アートや音楽、舞台などを充実させてもいいのではないでしょうか。
乾
そうですよね、そうしたものを広めてほしいですよね。
John
海外の方は特にそうしたものを求めます。感覚を鋭敏にすることが非常に大事です。
彼らは、もっと日本人には遊んでほしいと思っています。単にビジネス上の会話だけではなく、お酒を飲みに行ったり、踊ったり歌ったりしたい。金曜日の夜に遊んで土曜日になったら一緒にアウトドアに行くなど、そういうことを一緒にやるのが親密になる秘訣だと思います。神戸市には、そうした面での魅力があるということを発信できれば、長く居続ける、住み続ける動機になると思います。
乾
そうですね。ビジネスの話だけでは広がりがありませんよね。やはりそこは教養や遊びも必要ですよね。
John
そうしたものを共に楽しめる環境が整えば、「乾さんは趣味が多いから好き」ということにも繋がりますよね。他にも、神戸牛を食べたい人はたくさんいますので、「神戸市に来たら、神戸牛を神戸市役所で食べてもらえますよ」といったことも面白いかもしれません。レストランと一緒に盛り上げて、「やはり神戸牛はすごかった」ということになればいいじゃないですか。FoodTechも世界中でブームになってきてますし、また、流行り廃りを超えた本当に美味しい神戸牛というブランドはこれからも世界で求められると思います。
乾
そうですね、神戸牛のブランド力は非常に高いですからね。
John
食からイノベーションに繋がるといいですね。美味しいというのは記憶に残りますから。
乾
神戸市には、今、世界に誇る食文化の都になるという食を軸とした都市戦略「食都神戸2020」ガストロポリス構想を進めています。近隣の大阪が「食い倒れの街」で、京都にも伝統料理があります。神戸市は、それこそダイバーシティの街であり、さまざまな食文化があります。
昔から、海外のものは神戸から入ってきているわけです。例えば洋食、洋服、洋菓子など……。私の名前の「ひろし」も「洋」と書きますが、たくさんの洋が神戸から入ってきて、全国に広まっているのではないでしょうか。もちろん、神戸市の現状で足りないものは、まだまだ色々あると思いますが。
John
なるほど! 食に絡めた、ガストロポリスの取り組みも面白いですね! 楽しみです。
6 「私のイノベーションの哲学は、『自発的セレンディピティの創出』」ということなのではないかと思います」(乾)
John
それでは、最後になりますが、乾さんにとって「イノベーションの哲学」を一言で表してもらえますか?
乾
日々の勉強の中の連続で訪れるチャンスをつかんで、それを掛け合わせてイノベーションにするということですかね。
私の場合は、愚直にじゃないですけど、本当に素直に誠心誠意、人と接して、そこで信頼を勝ち得るというのが自分のポリシーです。それで、皆が好きになってくれるタイプかなと自分で思っています。
ただ、イノベーションというのは、いつもいつも起きるわけではないので、日ごろから相当なアンテナを張って、思い切り勉強して、日々の鍛錬、日々の勉強があって、その中にチャンスがちょっと巡ってくる。そういうことだと思います。それをうまく掴んでいくことが重要なのではないかと思っています。
John
よく分かります。それを、乾さんの言葉で一言で表現するとどうなりますか?
乾
うーん、一言で表すのが難しいですが、格好良く言うと、私のイノベーションの哲学は、「自発的セレンディピティの創出」ということなのではないかと思います。「セレンディピティ=幸運を偶然に掴み取る能力」を日頃から鍛えておく、自ら取りに行けるよう準備しておく、ということでしょうか。
John
なるほど! 確かに、お話をお聞きして思ったのは、積み重ねの中に閃きと目的のある発見があるということです。その閃きを見つけて、爆発させる、掛け合わせることによってセレンディピティの回数を増やしていく。
神戸市というエコシステムを作って、全世界から人々を呼び込み、その出会いの場に種を蒔きながら、色々な木の実がなるのを待つ。ある意味、セレンディピティの回数を増やすためにエコシステム作っているのです。実は、乾さんが言わんとしている活動は、「セレンディピティを爆発させる仕掛け人」ってことなのではないかと思いました。
乾
ありがとうございます。あとはそのチャンスを掴めるかどうかだと思います。見極めて、チャンスと取るか、スルーするか。私はチャンスと取る人間になりたいと思います。
John
乾さんならなれます! 私も陰ながら応援しています!
今回の私たちの出会いもそうだと思うのですが、アンテナを張って動いていれば、重なって、いいものが創出されます。乾さんとの出会いに感謝しています。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、愛りがとう(愛+ありがとう)ございました! とても勉強になりました!
乾
こちらこそ、大変勉強させていただきました。ありがとうございました!
以上
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