書いてあること
- 主な読者:害虫・害獣防除サービス業界への参入を検討する経営者
- 課題:関連する法律や業界団体の取り組みなど、業界の動きが分からない
- 解決策:業界の概要とともに、防除などの取り組み事例にも目を向ける
1 害虫・害獣防除サービス業界の現状
1)害虫・害獣防除サービスとは
害虫・害獣防除サービスとは、建築物の衛生環境を守るために、ゴキブリ・シロアリなどの害虫やネズミなどの害獣の駆除および防除を行う業者で、ペストコントロール業者ともいわれます。
ペストコントロール業者に関する公的な統計は把握されていません。ペストコントロール業者の業界団体である日本ペストコントロール協会によると、2018年度末の所属会員数は875社となっています。なお、同協会は、近年、社会問題になっている特定外来生物であるヒアリや、26年ぶりに国内での発生が確認された豚コレラに関する調査および対策も行っています。
2)建築物における衛生的環境の確保に関する事業の登録
建築物の衛生的な環境を確保するため、建築物の環境衛生上の維持管理を行う事業者(ペストコントロール業者も含む)について、一定の物的・人的基準を満たしている事業者は、都道府県知事の登録を受けることができる制度(以下「事業登録制度」)(注)があります。ただし、事業登録制度の登録は義務ではなく、登録を受けない事業者が建築物の維持管理に関する業務を行うことについて、制限を加えるものではありません。
(注)事業登録制度とは「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」に基づくもので、「建築物ねずみ昆虫等防除業」を含むビルメンテナンス業務8業種について、一定の要件を満たす事業者は都道府県知事の登録を受けることができる制度です。
事業登録制度を受けるために必要な物的・人的基準(ペストコントロール業者に係るもの)は次の通りです。
3)外来生物法の影響
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称「外来生物法」)は、特定外来生物(注1)による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展を目的とし、特定外来生物の飼育・栽培・保管・運搬・輸入などを原則的に禁止(注2)するものです。
また、特定外来生物による被害が既に生じている場合、または生じる恐れがあり、かつ必要であると判断された場合は、国や地方自治体、NPO団体などが特定外来生物の防除を行います。
同法の施行により、現在、アライグマ、カニクイアライグマ、アメリカミンクなどの特定外来生物が防除の対象となっていますが、防除に際して「広大な範囲に多数生息している」「防除に専門的な技術を要する」といった場合、国や地方自治体、NPO団体などだけでは対応が困難となるケースが想定されます。このような状況を勘案し、近年では、社会貢献活動の一環として、特定外来生物の防除を行っている企業も現れています。
(注1)海外起源の外来生物・植物であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、または及ぼす恐れがあるものの中から指定されます。生きているものに限られ、個体だけではなく、卵、種子、器官なども含まれます。
(注2)学術研究、展示、教育、生業の維持などの目的で行う場合には、主務大臣の許可を得ることで飼育などをすることができます。
4)業界団体の対応
近年の異常気象や交通網の発達により懸念されている各種の感染症の拡大被害防止や、台風や地震などの自然災害発生時における防疫活動を行うため、都道府県のペストコントロール協会は、感染症予防衛生隊を編成するなどの対策を取っています。
感染症予防衛生隊は、同協会に加入しているペストコントロール業者が協同で緊急時の感染症対策に対応するものです。鳥インフルエンザやデング熱などの何らかの感染症が発生した場合、感染症予防衛生隊は現場に急行し、現場施設の消毒や出入り車両の殺菌消毒などを24時間で行う体制を整えています。
■日本ペストコントロール協会■
https://www.pestcontrol.or.jp
2 防除などの取り組み事例
1)ベイト工法
シロアリ防除を専門に行っている新栄アリックスは、普通施工やMC(マイクロカプセル)施工の他にベイト工法を利用しています。ベイト工法とは、「シロアリの防除剤を混入した餌(ベイト剤)をシロアリに摂食させて、シロアリを巣ごと防除するシステム」であり、シロアリの習性を活かした防除方法として注目を集めています。
ベイト工法では、ペストコントロール業者が当該エリアのシロアリの生息状況や行動範囲を調査し、シロアリの通り道と推測される場所などに、「ステーション」と呼ばれる防除剤を混入した餌入りケースを土中に埋め込んで設置します。「ステーション」の中の防除剤入りの餌を食べたシロアリは餌を巣に運び、巣に残っている仲間にこの餌を与えます。このため、防除剤入りの餌は巣全体に行き渡り、シロアリを巣ごと防除することができます。
薬剤の散布に比べて、ベイト工法では、わずかな量の薬剤を「ステーション」の中に設置するだけでシロアリを防除することができます。このため、アレルギー体質の人や、薬剤に対する抵抗力が弱い子供やペットがいる家庭でも、安全にシロアリの防除を行うことが可能とされています。
2)薬剤による散布処理と予防
ゴキブリやネズミなどの害虫・害獣、有害鳥獣駆除、防除を手掛けるミヤコ消毒は、ダニ駆除、予防を行っています。ダニを駆除する際、床や畳の面上に散布処理し、その後、空間噴霧処理を行い、ダニ駆除を実施しています。
一方、同社によると、ダニを発生させないためには、高温多湿の環境を作らない、餌となるハウスダスト(ほこり)などをこまめに掃除して取り除くことなどが重要だとしています。
3)増加しているトコジラミに対する独自の駆除方法
トコジラミ(南京虫)は、訪日外国人の増加などを背景に、近年被害が急増しています。東京都福祉保健局「東京都におけるねずみ・衛生害虫等相談状況調査結果」によると、トコジラミの相談件数は、2017年は255件と、2007年からの10年間で、約4倍に増加しています。
ダスキンは、ドライアイスを噴射して駆除する「ダスキンターミニックス」で特許を取得し、サービスを提供しています。この方法は、専用の容器にドライアイスを噴射し、密封することで二酸化炭素によりトコジラミを駆除するため、熱処理などでダメージを与えたくない美術品や、人体に触れるために薬品が散布できない革製品などにも効果的です。
3 経営指標
日本政策金融公庫「小企業の経営指標2018」によると、害虫駆除業の経営指標は次の通りです。
以上(2019年8月)
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工場が減産に対応するためのポイント~IE(経営工学)と労働分配率~
書いてあること
- 主な読者:減産による生産数量の低下に対応したい経営者
- 課題:生産計画や作業者の投入量をどう調整すべきか分からない
- 解決策:IE(経営工学)に基づき適切な質と量を投入する
1 工場で実践される生産管理の意義
いかに高品質で低価格の製品であっても、納品までに時間がかかりすぎるようでは問題です。このような場合、適度に品質を落としたり価格を高くしたりしてでも、納期を短くすることを検討する必要があります。
製造業者が顧客を獲得するためには、いわゆる「QCD」の実現が不可欠です。QCDとは、次の3語の頭文字をとった言葉で、それぞれの要素をバランスよく実現することがポイントです。
- 品質(Quality)
- コスト(Cost)
- 納期(Delivery)
バランスの取れたQCDを実現するための手法には「IE(Industrial Engineering:経営工学)」(以下「IE」)や「トヨタ生産方式」などがあります。これらの手法は主な改善対象としている範囲は異なりますが、広く捉えて「生産管理」と呼ぶのが通常です。
生産管理の基本は、生産計画に基づき、次の項目のような資源を適度な質と量だけ投入することです。
- 人(Man):人数と個々の作業者のスキルアップなど
- 機械(Machine):設備とムダのない配置など
- 材料(Material):数量と調達期間など
人・機械・材料は生産の3要素であり、総称して「3M」と呼ばれます。3Mの投入量が正しくない場合、品質低下、コスト増、納期遅れなどの問題が起こるため、生産管理を行い、調整していかなければなりません。
製造業者は受発注の状況に応じ、投入する3Mの質・量を見直さなければなりません。3Mの「人」(以下「作業者」。ただし、雇用形態による違いを明らかにする必要がある場合は、「正社員」・「パートやアルバイト」と表記します」)に注目した場合、増産時には人数を増やす、減産時には人数を減らすことが必要となります。これを実現するための生産管理の手法は、工場の規模や生産形態などによって大きく異なりますが、基本的な考え方は共通しています。本稿では、作業者に注目し、減産時に対応するためのポイントを紹介していきます。
2 工場の適正人員を求める際の一つの考え方
工場の適正人員とは、その時の生産計画を達成するために必要な最低限の人員ということができるでしょう。この人員は、投入工数から導き出すことができます。工数とは、各生産工程の所要時間です。
簡単な例で説明します。部品A・B・Cからなる製品Zを生産するとしましょう。製品Zを1個生産するための所要工数を115分とすると、1日100個を生産するための所要工数は次の通りです。
- 115分×100個=1万1500分
作業者1人当たりの1日の労働時間を480分(8時間)とし、これで1万1500分を割ると23.95日分(人日)になるため、24人の作業者を配置すればよいことになります。しかし、実際はそれほど単純ではありません。この1万1500分は、部品製造や組み立てなど各工程における所要工数の合計であり、各工程との作業の関連性によって配置される作業者の数は異なります。製品Zを製造するための1個当たりの所要工数のイメージは次の通りです。
実際の工場では、作業の流れ(工場のレイアウト、移動距離など)や作業者の技能などを考慮して最も効率的な生産体制を整え、例えば、次のように配置する作業者数を決めています。
- 部品Aの加工:5人
- 部品Bの加工:5人
- 部品Cの加工:4人
- 部品AとBの組み立て:3人
- 部品Cの組み立て:2人
- 部品A・Bと部品Cの組み立て:3人
- 検品:2人
これは非常に単純化した例ですが、製造業者はこのような考え方で生産計画に基づく所要工数を計算し、現場の実情を踏まえた上で、その時点の工場の適正人員を計算するのが人員配置の基本的な考え方です。
また、例では製品Zだけに注目したものでしたが、複数の製品を製造している工場では、製品Zの部品AとBを加工する作業者が同時に製品Yの部品Dも加工するなど、多能工として機能していることも少なくありません。
加えて、実際に工場の適正人員を計算する際には、工程の内容や作業者の仕事ぶりなどを把握するためにIEなどの手法を実践します。IEについての詳細は後述します。
3 減産による生産数量の低下への対応
減産による生産数量の低下に対応するために、製造業者は生産計画とそれに応じた3Mの投入量を変更する必要があります。作業者の投入量を変更する方法は次の3つです。
1)ムダを排除して投入工数を減らす
生産管理を徹底しているとしても、それぞれの工程には多くのムダが潜んでいるものです。そうしたムダを見つけて排除し、生産効率を上げて投入工数を減らせれば、人件費や燃料費などのコストダウンが図れます。IEなどの手法を利用することで、生産体制の全容が明らかになり、工場の適正人員を計算しやすくなります。
2)雇い止めによってパートやアルバイトなどの人数を減らす
一般的に、パートやアルバイト、派遣社員は、当初の契約が満了した際に雇い止めできると考えてよいでしょう(それまでのパートやアルバイトとの有期労働契約の更新状況によっては、簡単に雇い止めにすることができない場合もあります)。
3)整理解雇によって正社員の人数を減らす
減産への対応を理由に正社員を解雇する場合、いわゆる「整理解雇の4要件」を満たさなければなりません。整理解雇の4要件は次の通りです。
- 会社の存続を図るため、人員整理が必要であること
- 一時帰休、希望退職の募集等、解雇回避の努力をしたこと
- 被解雇者選定に合理性があること
- 労働者側に対する、十分な説明・協議がなされたこと
実際は減産への対応が必要になっても、いきなり正社員を整理解雇することはできません。手順としては、機械、材料について見直しをした上で、ムダの削減やパートやアルバイトの雇い止めを行い、それでも状況が改善されない場合に最後の手段として正社員を整理解雇することになります。
以降では、製造業者の減産への基本的な対応である、ムダの排除に関する基本的なポイントを、IEの考え方に基づいて紹介していきます。
4 IEの考え方に基づくムダの排除
1)IEの分析手法
IEとは、個々の工程や作業に着目して問題点を発見するための分析手法です。工程とは部品を生産する作業の手順のこと、作業とはそれに付随する機械操作などを指しています。
IEの分析手法には、工程分析・稼働分析・時間研究・動作研究があります。ここからは、日本科学技術連盟(日科技連)「IE手法入門」や日本産業標準調査会のウェブサイト公開資料などを参考にしながら、IEの分析手法のポイントを紹介していきます。
■日本科学技術連盟(日科技連)■
http://www.juse.or.jp/
■日本産業標準調査会■
https://www.jisc.go.jp/
2)工程分析
工程分析とは、生産工程や作業者の活動などを時系列的に表し、全体像を把握する手法です。工程の全体を把握することでムダ(例えば、「部品Aと組み立て台までの距離が長く、運搬に時間がかかっている」など)を見つけやすくなります。
工程分析では、工程図記号を用いて加工や運搬などの状況を把握します。工程分析で用いられる基本図記号は次の通りです。
工程分析は、分析対象が製品か作業者かによって製品工程分析と作業者工程分析に分けられます。工程分析を行う際は、実際に行われている作業を観察・記録し、その結果を工程図記号で表します。
付加価値を生み出すのは加工の工程だけであり、それ以外の運搬や停滞の工程はできるだけ削減するのが望ましいといえます。これを行う上で、工程の全体像を工程図記号によって客観的に示す工程分析は非常に役立ちます。
工程の全体像を把握した後は、後述する時間測定によって各工程や作業にかかる時間を測定し、ムダが生じていないかを調査します。
3)稼働分析
稼働分析とは、作業者や設備の稼働率、稼働内容の時間構成比率を求める手法です。作業者の具体的な動きの内訳を知り、段取りなどの時間を短縮することで正味の稼働率(簡単にいうと、作業をしている時間の割合)を高めることができます。
作業者の動きは、作業と余裕に分類されます。余裕とは、作業に関連して生じる必要な行動であり、遅刻や雑談など本来は業務として存在しない非作業は含まれません。この作業と余裕の合計に対する作業の割合が稼働率になります。
稼働分析における作業分類は次の通りです。
稼働分析の代表的な手法として、「瞬間観測法(ワークサンプリング)」「連続観測法」を紹介します。
1.瞬間観測法(ワークサンプリング)
瞬間観測法とは、ある決められた時刻に作業者や機械が「何をしているか」を瞬間的に複数回観測・記録し、稼働率を算出する手法です。瞬間観測法には、ある決められた時刻だけに観測を行えばよく、測定に必要なコストを抑えることができるというメリットがある一方、観測の回数が少ないと精度が下がってしまう他、非繰り返し作業には用いることができないといったデメリットがあります。
2.連続観測法
連続観測法とは、作業者や機械が「何をしているか」を長時間にわたり連続的に観測・記録し、稼働率を算出する手法です。連続観測法には、非繰り返し作業にも用いることができるというメリットがある一方、長時間張り付いて観測を行う必要があるためコスト負担が大きい他、作業者が観測者の目を意識して作業するため作業の精度が落ちることがあるといったデメリットがあります。
4)時間研究
時間研究とは、作業を細かく分割し、個々の作業の遂行に必要な時間を測定する手法です。作業ごとの時間を客観的に示すことができ、他者よりも多くの時間を要している作業者の指導、作業内容の改善などを行うことができます。
時間研究では、作業ごとの標準時間を設定します。標準時間とは、所定の作業条件のもとで平均レベルのスキルを持った作業者が正常な作業ペースで作業を遂行するのにかかる時間です。標準時間を設定することで、作業者のスキルなどの実態に即した現実性のある生産計画を作成し、適正な人数の作業者を配置することができます。
標準時間の設定に用いられる代表的な手法として、「ストップウォッチ法」があります。ストップウォッチ法では、作業ごとの時間をストップウォッチで測定します。ここにレイティング(測定した作業者の習熟度などによる作業時間のブレの補正)を施す他、余裕時間も加味して標準時間を算出します。この標準時間を利用することで、実態に即した現実性のある生産計画を作成することができます。
5)動作研究
動作研究とは、作業者の全ての動作を調査・分析し、最適な作業方法を求める手法です。動作研究では、時間研究によって改善の必要があると分かった作業についてその動作を観察し、動作のムダ・ムラ・ムリを改善できないか検討します。観察方法には、調査員による目視の他デジタルカメラやビデオを用いて記録する方法があります。
動作研究の代表的な手法に、「サーブリッグ分析」があります。サーブリッグ分析は微動作分析とも呼ばれており、基本動作を18種類の微動作に分類して分析する手法です。 サーブリッグ記号の第1類・第2類・第3類の分類は次の通りです。ただし、記号の分類資料によって異なることがあります。
- 第1類:動作の基本となるもので、仕事そのものと物の取り扱いからなる
- 第2類:動作を遅れさせる要素で、治具の置き方・使い方や材料の置き方に問題がある場合に発生する
- 第3類:仕事が進んでいない状態であり、作業動作の不均衡(特に両手)や前後 工程とのつながりの悪さなどが原因で発生する
第1類のうち、「組み合わせる」「使う」「分解する」のみが価値を生む要素となっており、第1類のそれ以外の要素や第2類・第3類の要素は削減の対象となります。
サーブリッグ分析により作業の改善を図る場合、動作経済の原則を用いることができます。動作経済の原則とは、作業者が最も合理的に作業を行うための原則であり、その概要は次の通りです。
1.身体部位の使用に関する原則
- 両手は、休憩時間以外は同時に休めない
- 身体の運動をなるべく指や手などによる小さい動きで行う
- 作業は、落とす、転がす、弾むなどの重力、慣性などの自然の力を利用して容易に行う
2.作業場の配置に関する原則
- 工具や材料は、作業者の手の届く定位置に置く
- 作業台や椅子は、作業者の体格に合わせて正しい姿勢がとれるような高さと形にする
- 物の供給や搬出は、重力や慣性を利用して行う
3.工具・設備の設計の原則
- 2つ以上の工具は、できるだけ1つに組み合わせる
- 機械類の操作は足を有効に使って、手の負担が軽くなるように設計する
6)改善の原則
これらの結果を利用して具体的な改善を図るための代表的な手法に、「ECRSの原則」があります。ECRSの原則は「改善の原則」とも呼ばれ、次の順番で改善の検討を進めます。
- E:Eliminate(排除):なくせないか
- C:Combine(結合):一緒にできないか
- R:Rearrange(交換):順序の変更はできないか
- S:Simplify(簡素化):簡素化・単純化できないか
ECRSの原則を、運搬や検査などの工程の削減に用いた場合の考え方は次の通りです。
- 運搬:経路の短縮、運搬回数の削減、自動化
- 検査:不要な検査の廃止、方法の改善、自動化
- 停留:適正在庫の見直し、作業方法・保管方法の改善
5 労働分配率の視点で考える
1)労働分配率とは
IE(工程分析・稼働分析・時間研究・動作研究)を実践し人員配置を見直すことでムダが排除され、生産効率が高まります。これによって投入工数が削減され、作業者を減らすことができるかもしれません。しかし、正社員を整理解雇することは難しく、パートやアルバイトの雇い止めの効果も限定的です。
そのため、人数を減らすのではなく賃金を減らすことで対応することも検討に値します。減産への対応として製造業者が整理解雇を考える最大の理由は、賃金を支払い切れないためです。そこで、逆に生産量に応じて製造業者が負担できる賃金水準を調整すれば多くの問題を解決できます。
付加価値に対する人件費の割合を示す指標に「労働分配率」があります。労働分配率は、次の式で求めることができます。
- 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値 × 100
付加価値の求め方には幾つかの方法があり、「営業利益に人件費などを加えた金額を付加価値とする」などの考え方があります。
例えば、付加価値が1000万円、人件費が500万円の場合の労働分配率は、次の通り計算されます。
- 50% = 500万円 ÷ 1000万円 × 100
2)付加価値に応じた人件費負担
経済産業省「平成30年経済産業省企業活動基本調査」によると、2017年度の製造業の労働分配率は46.1%です。こうしたデータを参考にして、自社の労働分配率の水準と比較することで、もし仮に自社の労働分配率が全国平均よりも高い場合は、引き下げなどの対策を検討するようにします。
労働分配率が決まると、付加価値と同じように人件費も変動します。分かりやすく労働分配率を50.0%とした場合、付加価値が100億円のときの人件費は50億円、付加価値が70億円に落ち込んだ時の人件費は35億円となります(これは単純な計算の例です)。
この例では付加価値と人件費はともに30%低下していますが、このとき、同様に労働時間も30%短くなっているのであれば、「ノーワークノーペイの原則」により、製造業者は作業者が働いていない時間分の賃金を支払う必要はなくなります。ただし、そのような対応をすれば作業者とのトラブルを引き起こす可能性があるため、事前に就業規則に次のような定めをして作業者に周知徹底しておく必要があるでしょう。
- 【就業規則の規定例】
- 受発注の状況に応じて所定労働時間を短縮することがある。その場合、短縮された時間に相当する賃金は支払わない
なお、作業をしていなくても作業者が出勤している時間は労働時間と解釈されることがあります。「ノーワークノーペイの原則」が適用できるのは、休日や早上がりなど、作業者が企業の指揮命令から完全に解放されている時間です。
一方、労働時間の短縮度合いが賃金の低下度合いを下回っている場合、その差の賃金を引き下げることは、いわゆる「賃下げ」に該当します。実際は、賃金体系などによって異なりますが、賃金が労働時間に応じて決定されるとすれば、賃金は30%低下しているのに、労働時間は20%しか短くなっていない場合、その差の10%については「ノーワークノーペイの原則」を適用することができないことになります。仮に、このような状態になっているのであれば、違法にならないように賃下げをしなければなりません。具体的な手続きは企業の状況によって異なりますが、労働組合が結成されている場合は、労働組合との話し合いが先決です。賃金が低下することは労働者にとって厳しいものですが、代わりに雇用を維持することを伝えれば、労働組合の合意も得やすくなるでしょう。
このような対策を取る体制を整えるためにも、IEを実践してムダをなくし、投入工数を削減することが重要です。
以上(2019年11月)
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生産性を上げるオフィスレイアウト
書いてあること
- 主な読者:オフィスのレイアウト変更を検討する経営者
- 課題:どのようにレイアウトすれば生産性が向上するのか分からない
- 解決策:目的を明確にし、社員が働きやすい環境づくりを心掛ける
1 今、経営者がオフィスにお金をかける理由
オフィスレイアウトのリニューアルによって、社員が働きやすい環境を整える会社が増えています。中には、キッチンを設置して経営者が料理を振る舞ったり、卓球台やビリヤード台を設置して社員が交流できたりするオフィスもあります。
こうしたオフィス改革が進む最大の理由は、労働力不足の深刻化です。オフィスレイアウトの変更を通じて働きやすい職場であることをアピールし、人材採用につなげようとする狙いがあり、だからこそ経営者も予算を掛けることができます。
もちろん、「働き方改革」も見逃せない要素です。経営者も社員も本気で生産性を上げなければならないため、机や椅子などの什器にこだわったり、休憩スペースを設けたりしています。
2 経営者がやるべきこと
1)オフィス改革の最終目的を考える
オフィス改革を進める際は、そこで働く社員にフォーカスすることが大切です。人材採用、生産性の向上、イノベーションなどオフィス改革をする理由ではさまざまですが、これらは最終目的ではありません。
社員一人ひとりの仕事を進める力・考える力・創造する力を高めて成長させ、組織としての力を強くするために実践するのがオフィス改革です。言ってみれば「人が育つ組織」をつくることが最終目的といえるでしょう。
社員との距離が近い中小企業において、オフィス改革を組織改革の一環として成功させるには経営者が先頭に立って進めることが大切です。以降で、経営者がやるべきことを見てみましょう。
2)社員と外部から情報収集をする
経営者は、どのような組織を目指すのか、その理想型を社員に伝えましょう。そして、現場に視点を下ろし、組織文化の理想型を実現するためには、具体的にどのようなオフィスにしたらよいかを検討します。
まずは現場で働く社員の声を聞くことから始めます。改善点についてアンケートを取ったり、直接話を聞いたりするなどが考えられます。ブレーンストーミングやランチミーティング形式にすると、社員が臆せずに意見を言えるようになるでしょう。
また、オフィス改革の事例を集めて学ぶことも大切です。オフィス改革を行った省庁としてよく取り上げられる総務省行政管理局では、オフィス改革を進めるに当たり、実際にITベンダー数社を見学したといいます。
オフィス改革を推進しているニューオフィス推進協会は、オフィス改革を実践した会社を表彰する取り組みを行っており、受賞企業の見学会も実施しています。こうした見学会に社員と一緒に行き、感想を話し合うのも一策です。
3)オフィス改革を進める社内体制をつくる
オフィス改革を進めるときは、その体制づくりも重要です。働き方や改善点などは部門や職種によって違うので、さまざまな部門や職種、立場の社員が関わるタスクフォースを立ち上げて進めるなどします。
その際は、今回のオフィス改革で実現したいことを明らかにして共有しておくこと、オフィス改革に際して使う用語・データフォーマットなどを共通化して効率的に進めることが必要です。
経営者が全てを決めたくなるかもしれませんが、社員の意見をできるだけ取り入れるなど“社員参加型”にすることが大切です。オフィス改革は実際に現場で働いている社員のために行うものであり、社員が参加したほうがアイデアが広がります。
3 オフィス改革で実現したい3つのこと
1)動きやすい
社員が行動しやすい環境は、生産性の向上につながります。それには、社員の日ごろの動線からオフィスレイアウトを考えるとよいでしょう。
例えば、エンターテインメント事業などを手掛けるグループ会社を抱えるセガサミーホールディングスは、部門間の壁をできるだけ取り払うとともに、デスク間の通路を増やすなどして、社員が動きやすいオフィスづくりを目指しました。
2018年8月以降、同社およびグループ各社の基幹機能を新オフィスに集約し、人材交流の活性化や事業連携の強化を進めています。フロア内を周回しやすくする通路を用意するなど、社員間の交流を積極的に創出できる工夫も施しています。
家具や生活雑貨を輸入・販売するカッシーナ・イクスシーも、社員が動きやすい新オフィスを整備しました。2019年2月、店舗を構えるビル内にオフィスを移設し、ショールームとしての役割を兼務するオフィスを顧客に見学してもらえるようにしました。
フリーアドレスの導入により席数を減らしたのが特徴です。空いたスペースをカフェエリアやリフレッシュエリアにするなど、オフィス内でもリラックスできるよう配慮されています。
2)集まりやすい
社員が集まりやすい環境が整えば、コミュニケーションを取る機会が増え、情報共有や意見交換がしやすくなります。
企業や地域向けのコンサルティングや研修事業を展開するスノーピークビジネスソリューションズは、ユニークなコンセプトで集まりやすいオフィスづくりを提案しています。
同社はアウトドア製品を使い、オフィス内に建てたテントで打ち合わせをしたり、屋外に建てたテントで会議や打ち合わせ、研修を実施するといった施策をサービス化して提供しています。自然を感じる環境でクリエイティブな発想を生まれやすくしているのが特徴です。従来のオフィス像にとらわれない新しいオフィスとして注目されています。
その他、本や雑誌を閲覧できるライブラリースペースや一息入れるカフェスペース、予約せずに簡単な打ち合わせができるミーティングスペースなど、人が集まることを想定した施設やスペースを設ける企業は少なくありません。
3)学びやすい
「人が育つ組織」をつくるに、社員が“外の世界”からの刺激を受け、学べるようにします。それを実現するには、動きやすく集まりやすい環境に加えて、社員が新しいことや面白いことに触れ、視野が広がる機会をつくることが必要です。
例えば、前述のセガサミーホールディングスは、オフィス内に社外の人が利用できるコアワーキングスペースを設置しています。社員が社外の人と接する機会をつくることで、自社の新規事業やアイデアの創出につなげる考えです。
オフィスビルの賃貸事業などを手掛ける野村不動産ホールディングスの場合、入居するテナント向けに書籍や雑誌を閲覧できるスペースを設置しています。専門家が選定した書籍を提供し、入居する企業の学習機会の創出を支援しています。
4 オフィス改革は社員のためのものである
さまざまなメリットのあるオフィス改革ですが、その実現は簡単ではありません。かかる時間や費用もさることながら、社員のネガティブな反応に遭うことがあるからです。 例えば、変化を望まない社員は、抵抗感を示したり、自分には関係ないという態度を見せたりするでしょう。それでも経営者は、根気良く対話し、オフィス改革の意味を伝え続けていかなければなりません。
こうした“ネガティブ社員”こそ、オフィス改革の事例を学ばせ、タスクフォースのチームの一員に加え、オフィス改革の意味を体感させるのも一策です。
例えば、オフィス家具を製造・販売するイトーキは、2018年12月に発表した新オフィスの見学会を実施しています。新オフィスは、「集中して作業したい」「2人で話し合いながら作業したい」「情報を整理したい」など、オフィスで一般的に行われる10の活動を定義し、これらをサポートする空間づくりをコンセプトにしています。
どの会議室や席が空いているのかをリアルタイムで把握する在籍管理アプリを使い、時間を効率的に使えるような工夫も施しています。オフィス改革に関心を示さない社員を、こうした見学会などに参加させてもよいでしょう。自社のオフィスレイアウトの参考にもなります。
オフィス改革を通じて、社員一人ひとりの仕事に対する意識が変わること、これこそがオフィス改革の大きなメリットといえるでしょう。
以上(2019年4月)
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納期管理を徹底すれば生産性が向上する
書いてあること
- 主な読者:納期を管理したいと考える経営者
- 課題:納期を守れない、抜本的な対策を講じることができない
- 解決策:日程管理や進度管理を導入するなどした体制を築く
1 納期に対する“甘え”をなくす
1)なぜ、納期遅れが生じるのか?
製造業でいわれる「Q:Quality(品質)」「C:Cost(コスト)」「D:Delivery(納期)」は、その他の業種においても重要であることは言うまでもありません。しかし、これらをバランスよく実現することは難しいものです。
例えば、「D:Delivery」です。納期については社員の甘えが出やすく、なかなか実現することができません。「多少遅れても大丈夫」であるとか、「自分だけの責任ではない」などの意識が働くためです。
仕事の流れに沿って、部門別の納期を分類してみましょう。1つの業務は複数の部門や担当者によって成立していることがよく分かりますし、どこかで納期遅れが生じれば、全体に悪影響を及ぼすことになってしまいます。
図表1で示した6つの納期の中で最も長いのは「1」であり、ゴールである「6」に近づくほど短くなります。取引先納期である「1」と、社内納期である「2」との間に余裕がないと納期遅れが生じる恐れがあるため、多くの企業で相応の余裕を設けています。
2)過度の余裕による弊害
とはいえ、「1」と「2」の間に必要以上の余裕を設けるのは問題です。製造部門の担当者は「2」の納期に相当な余裕があると感じ、「3」にも余裕を持たせますし、社内ということもあり、納期厳守の意識がルーズになります。
加えて、「多少の遅れは急げば取り返せる」という、間違えた安心感も生まれます。そして、納期に余裕があったのにギリギリになって追い込みをかける、まるで“夏休みの宿題”のような状態になり、焦って対応した分、歩留まりも悪くなります。
3)適切な納期の設定
このように、必要以上の余裕は、納期意識を低下させるだけでなく、生産性や部門間の信頼関係をも低下させてしまいます。もちろん、歩留まりが悪くなれば、クライアントの信用も失います。
そこで、週1回、納期に関する情報共有を図るなど各部門の担当者は連絡を密にし、適正納期を設定し、それを必ず順守するように心掛けます。わざわざ集合する必要はなく、社内SNSなどを利用すれば十分でしょう。
2 納期管理のための実践方法
1)日程管理(生産の着手、完了時期をいつにするか決める)
日程管理では、「ガントチャート」が多く利用されます。ガントチャートとは、生産管理やプロジェクトの管理などで使用される工程管理図のことで、作業計画やスケジュールを棒グラフで横形に示します。
ガントチャートで日程計画は一目で分かりますが、部門や部署との関係が不明瞭です。工程が多いとガントチャートで管理するのは難しいため、相互関係を明確化したパート図を使った日程管理をしましょう。
2)現品管理(何が、どこに、どれだけあるのかを把握する)
現品管理は、次の進度管理に直接結び付く基本要素で、「工程間の現品受け渡しを容易にする」「運搬や保管が分かりやすいように整理整頓する」「現品の紛失や劣化によるロスを防止する」ためのものです。例えば現品の保管であれば、「何が、どこに、どれだけあるのか」を把握するために、管理状況(安全面など)を確認します。
3)進度管理(工程における仕掛量や進み具合を把握する)
毎日の生産状況を把握するためには、「生産進度管理図」や「流動数曲線による進度表」を用いて管理します。「流動数曲線による進度表」は継続生産を行うような現場には適していますが、個別生産には適しません。
また、作業の遅れを段階的に早期発見する仕組みとして「カムアップシステム」を導入することも一案です。カムアップシステムは納期前に、担当者に納期を確認することを全ての納期段階で行うので、納期遅延対策としては非常に有効です。
4)基準日程の策定(納期に対して各工程作業の着手を決めるためのベース作り)
基準日程とは、「工程待ち→加工→検査→運搬」の全ての作業日数を決めるものです。基準日程は継続生産、ロット生産、少量多品種生産を行う場合に設定方法が変わります。また、ある程度経験と勘に頼るところがあります。ただし、基準日程が適切でないと納期遅延の原因となります。
5)現場や企業としての取り組み
1.現場としての取り組み
納期遅延対策として行われているのが、生産現場での「差し立て板(さしたてばん)」「工程管理板」による確認です。これらを利用すれば、工程管理者や作業者が一目で作業の進捗状況を把握することができます。
また、工程管理に正確性を期するためにバーコードやQRコード(二次元バーコード)付き作業票を取り入れているところもあります。バーコードやQRコードの導入は、作業者の作業票記入を省くだけでなく、各工程の進捗状況を把握できるメリットがあります。加えて、工程ごとの実績や停滞時間なども明らかにできることから、データを分析しやすくなり、問題点の把握も容易となることから、さらなる改善につながります。
2.企業としての取り組み
納期管理を部門ごとに徹底して行うのは当然ですが、一歩先を考えれば、企業全体で、あるいは下請けメーカー、物流会社、販売会社など関連するところ全体で一貫した納期管理を行う必要があるでしょう。
製品製造に関わる関連部門を巻き込んで情報化を図ることが第一歩です。正しい伝達なしに、納期管理は実践できませんし、納期遅延などの対応にも苦慮することになります。正しい情報が即座に伝達できるシステムの構築が納期管理には必要です。
以上(2019年4月)
pj40025
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アウトソーシングの考え方/コスト削減の教科書
書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 アウトソーシングの考え方
アウトソーシングは、経営の効率化や環境変化に対応するための手法の1つです。アウトソーシングを活用する目的は、人材の効率的な活用やコスト削減などのように、「経営の効率性を高める」ことと、自社の人材をコア部門に集中させるなどのように、「経営資源を集中させ、企業の競争力を高める」ことに大別されます。
2つの目的に共通するのは、アウトソーシングによって「自社の生産性・競争力の強化を目指す」ということです。本稿では、自社の生産性・競争力の向上につながるアウトソーシングを「戦略的なアウトソーシング」と位置付け、中小企業がアウトソーシングを活用する際の考え方を紹介します。
2 アウトソーシングの検討ポイント
1)自社のコア部門(本業)の確認
一般的なアウトソーシングは、自社の経営資源をコア部門(本業)に集中させ、本来の業務とは離れた業務(付随業務)を外部に委託して、経営の効率性・有効性を高める手法です。そのため、アウトソーシングを活用する際は、自社の強み・弱みをしっかりと、分析し、コア部門(本業)を明確にしておく必要があります。
自社の強み・弱みを見極めることによって、経営資源を投入すべきコア部門(本業)と、外部に委託して効率化を図ったほうがよい部門とが明確に分かります。自社の強み・弱みを見極める際には、「SWOT分析」を用いるとよいでしょう。
また、最近では金融機関が取引先企業の成長性などを見極めるために、強みや課題を洗い出す「事業性評価」に力を入れています。金融機関の営業担当者と一緒に、自社の強みなどを把握するようにするのも一策かもしれません。
2)既存業務の洗い出しと見直し
自社の強み・弱みを見極めた後は、重複業務のムダ・ムラ・ムリを把握して、委託する部門や業務の範囲を明確にします。例えば、ウェブサイトの制作と運営など、一括して委託したほうが費用対効果が高い業務もあります。そのため、既存業務を見直した後は、「どのような選択が自社にとって最も有益であるか」という点を、費用や効果の面から十分検討しましょう。
3)人材・業務遂行力の適正配置
「戦略的なアウトソーシング」を実現するためには、人材の適正配置が必要です。入力やチェック作業など単純作業の一部をアウトソーシングすると、従業員はこれまで行っていた単純作業から解放され、他の業務に集中できるようになります。
人材の適正配置の結果、その部門に余剰人員が生まれたとすれば、その余剰人員を自社のコア部門(本業)である開発設計部門に回し、自社の商品開発力を強化することが可能です。
4)アウトソーシングする業務範囲の決定、効果の算出、確認の仕組みの構築
アウトソーシングする業務を決定した後も、いきなり“丸投げ”するのではなく、業務範囲の確認、効果の算出、是正ポイントの確認などを行いながら、段階的に進めていきます。
こうすることで、その業務が本当にアウトソーシングに向いている業務であるか、求めている効果が本当に得られているかなどが確認できます。是正ポイントが見つかったら、素早く改善します。
3 事例から考えるアウトソーシング
1)A社の現状を整理する
A社は従業員15人の企業です。経理や総務など従業員の役割は一応決まっているものの、ほとんどの従業員がシームレスに多分野の業務をしています。A社は従業員が少なく管理が容易なため、新たな取り組みを始める際も自社の従業員でカバーするという発想が強く、アウトソーシングしようとは考えていませんでした。
このようなA社が、情報発信のために自社のウェブサイトをリニューアルし、SNSを導入することになりました。今回も自社の従業員でSNSの導入・運用を行う考えでいます。仮に、SNSの導入・運用などをアウトソーシングした場合、約100万円(初期費用のみ)のコストが発生します。
SNSの導入・運用をA社従業員だけで取り組んだ場合と、アウトソーシングを活用した場合の「取り組み比較」は次の通りです。単純に表中の項目だけで見た場合、コストの面以外は、アウトソーシングを活用することに分がありそうです。
2)アウトソーシングすべきか否か
A社の目的が、SNSの導入・運用などのノウハウ蓄積であれば、A社従業員だけで取り組むのもよいでしょう。しかし、アウトソーシング費用という目先のコストを嫌っているだけなら、金額には表れないムダやコストを抱え込む恐れがあります。
仮に、SNSの導入・運用を、A社で営業活動を主体に行っている従業員Yに任せるケースを考えてみます。通常、従業員Yは得意先回りや取引先の開拓に精を出しています。帰社してからは営業報告や日報の整理、その他部下の指導もこなすA社の貴重な戦力です。
この従業員Yが、これまでの業務の他に、SNSの導入・運用に関する業務も毎日行うようになってから、従業員Yの業務スケジュールは次のように変わりました。
アウトソーシングを活用した場合、初期費用の100万円に加え、ランニングコストが毎月数万円発生します。その半面、質の高いサービスが期待できることや、従業員に新たな業務負担が発生しないというメリットがあります。
一方、A社従業員だけで取り組む場合は、構築のための時間、完成後のメンテナンスに必要な時間、およびそれに付随する人件費などのコストも考慮しなければなりません。
このようにはっきりと数字で表れるコストを検討することはもちろん、従業員Yが本来、主として行う業務で得られたであろう期待利益が損なわれていることにも、目を向ける必要があります。これらを併せて比較検討してみると、単純なコスト比較でも、どちらがA社にとってメリットがあるかは、はっきりしています。
A社は、自社に欠けている弱みの部分に関しては外部資源を活用し(SNSの導入・運用をアウトソーシングすること)、自社の強みである部分をより生かしていくこと(従業員Yには営業業務に専念し成果を上げてもらうこと)が正しい選択といえるでしょう。
アウトソーシングによってコスト削減を図るというのは、人件費の削減といった目に見えるコストを抑えるというだけではなく、「期待利益を大きくする」「生産性を損ねるムダを削減する」という大きな意味があります。
4 中小企業に求められる姿勢
中小企業がアウトソーシングで生産性向上を図るためには、コスト削減だけに着目するのではなく、「自社のコア部門(本業)に経営資源を集中させる」「生産性を損ねるムダを削減する」といった視点を持つことが不可欠です。
最近は、インターネットを通じて外部から必要な人的資源を調達する「クラウドソーシング」も盛んであり、業務分野によっては活用できるでしょう。また、アウトソーシングではありませんが、会計ソフトなどを使うことでも省力化が図れます。
中小企業は、自社の従業員だけで業務をこなそうとする“自前主義”に陥りがちです。しかし、視野を広く持ち、既存の業務遂行体制を疑いながら、アウトソーシングの活用なども検討することが、自社の今後の成長につながります。
以上(2018年9月)
pj40011
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コストダウンを成功に導くリーダーシップ
書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 コストダウンの成否を決めるもの
中小企業のコストダウンが成果を上げにくいのは、経営者のリーダーシップに問題があるからかもしれません。社員はコストダウンをすることで、自分たちの仕事がやりにくくなることを経営者が言い始めると、急に経営者をチェックし、観察するようになります。
今回のコストダウンは「本気でやるのか、口先だけなのか」と経営者の本心を探り始めます。たとえ経営者が本気でも、「今期だけのことだから我慢して言うことを聞こう」「半年もしたら言わなくなるだろう」と自分勝手に解釈する社員も出てきます。
また、社員に厳しいコストダウンを要求する一方で、経営者の接待交際費は従来のままであったり、ある部門にだけは使い放題の予算を与えていたりすると、社員は敏感に不公平感を抱きます。
企業がコストダウンを実践し、成果を上げるためには、「経営者の本気の姿勢」「不公平感の払拭」の2つが欠かせません。そのために重要になるのが、経営者のリーダーシップです。
2 典型的な失敗例
1)前例踏襲不変型
予算計画は前例を踏襲しがちで、コストダウンの指示があっても、予算を一から見直すことがありません。この場合、コスト内容は吟味されず、安易な一律カットで対応してしまうケースがあります。
2)意思統一不完全型
部門によってコストダウン意識にバラツキがある場合です。特に製造部門と間接部門の意識に格差が生じやすくなります。こうした問題を改善しない場合、効果が目に見える製造部門にだけコストダウンを強要するケースがあります。
3)部分最適、全体不最適型
A事業部門ではコストダウンの効果が表れたが、一方でB事業部門ではコストアップとなってしまうというケースです。A事業部門の取り組みによって生じた何らかのしわ寄せをB事業部門は受けています。
4)成果短期部分型
無理なコストダウンを行って短期的には成果を上げたが、次年度以降にそのしわ寄せが表面化してコストアップとなるケースです。コストダウンは、短期的な視点と中期的な視点のバランスをとらなければなりません。
5)不測事態発生コストアップ型
実施したコストダウンにより不測の事態が生じ、企業全体としてはコストアップとなってしまうケースがあります。例えば、原材料費を見直したことによる品質の劣化と、それに伴うクレーム対応などが考えられます。
3 大切なのは経営者のリーダーシップ
1)一から見直しをする
前例を踏襲しているようでは、コストダウンの効果は期待できません。全部門において一から見直す覚悟が必要です。ただし、部門の特質を無視した一律カットは、必要なコストまで削減してしまい、生産性を低下させることもあります。
2)部門間の意識格差を認識する
部門間のコストダウン意識のバラツキは、経営者が思っているよりも大きいものです。例えば、製造原価の低減が利益に直結することをはっきりと認識している製造部門では、コストダウン意識が浸透しています。
一方、営業部門はこまごまとコストを削減するより、売り上げを獲得したほうが利益に結びつくと考える傾向があります。事実その通りなのですが、売上増加とコストダウンは別の取り組みであり、いずれも利益に結びつくことを認識させる必要があります。
3)コストダウンの対象は部門によって異なる
コストダウンの対象は、部門の特徴を見極めてから決定します。例えば、製造部門は「製造工程の見直し、歩留まりの向上、原材料や仕入れ先の見直し」、営業部門は「交際接待費や旅費の見直し」、経理部門は「残業代削減」というように異なります。
4)コストダウン負荷は部門間で均一化
コストダウンの対象が決定したら、次に「いつまでに」「何%削減するか」を決めます。大切なことは、各部門におけるコストダウンで生じる負荷の均一化を図ることです。目標設定の段階で負荷の均一化が図られていれば、部門間の競争意識も芽生えてきます。
5)最終的には経営者のリーダーシップ
できる限り負荷を均一化したとしても、他部門よりも自部門のほうが負荷が大きいといった不満は必ず生じるものです。また、経営者が「目標設定は完了した。あとは達成することが至上命令だ」と叫んだところで不満は解消しません。
経営者は部門長やその部門の社員に対し、設定した目標は公平であり、他部門と負荷は変わらないことを伝えると同時に、その目標設定には根拠があることを、数値を使うなどして社員が納得するまで説明することが求められます。
4 成功するコストダウンの考え方
正しいコストダウンを実現するために、経営者は「コストダウン計画をゼロベースから策定し、各部門の実情に合わせてコストダウンの対象を決定します。さらには、各部門におけるコストダウンの負荷の均一化を図る」という視点を持ちましょう。
しかし、これだけでは十分ではありません。全社的なマネジメント体制を整備する一方で、部門間にまたがるコストダウン計画の策定、管理も行います。そして、コストダウンの実施により偶発的に生じるトラブルにも、適切に対応しなければなりません。
中期的なマネジメントも欠かすことはできません。コストダウンの成果を1年間で求めると、無謀なコストダウンをしがちです。短期間のコストダウンであっても(短期間のコストダウンだからこそ)成果が上がれば、その期の損益計算書には反映されます。しかし、次年度にコストアップを招いてしまっては意味がありません。
成果の反動が生じるような無謀なコストダウンを防止する意味でも中期的なマネジメントが必要です。
以上(2018年10月)
pj40014
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「ムダ・ムラ・ムリ」を改善しよう
書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 「ムダ・ムラ・ムリ」とは
ビジネスの「ムダ・ムラ・ムリ」とは、次のような状態を指します。
- ムダ:時間・労力・経費が無駄遣いされている
- ムラ:時間・労力・経費にばらつきがあり、効率的に使われていない
- ムリ:時間・労力・経費が不足して、業務を遂行できない
こうした「ムダ・ムラ・ムリ」は、顕在化しているもの(既に認識されているが、うまく対応できずに発生しているもの)と、潜在化しているもの(認識されていないもの)とがあります。
特に問題となるのは、潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」のほうです。存在すら認識されていないため、無意識のうちに経営資源を浪費し続けることになるからです。まずは潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」を顕在化させるためのポイントを考えます。
2 「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすい業務
1)慣例化している業務
最初から「ムダ・ムラ・ムリ」だと分かっていて導入される業務はありません。当初は明確な目的があり、それを達成するために必要な業務だった(少なくともそう考えられていた)はずが、次第にその業務を行うこと自体が目的化してしまいます。
こうなると、「以前から続いている業務だから」といった“よく聞く理由”で継続することが当たり前となり、「その業務が現在の企業全体、あるいは部門の業務目的に適合しているか」といった検討がなされなくなってしまいます。
2)担当者が頻繁に変わる業務
多くの担当者が引き継いできた業務は、目的が曖昧になりがちです。業務を引き継ぐ際、前任者は自分がいなくても進められるようにと、作業手順を丁寧に説明します。しかし、業務の目的については、新任者も既に理解していると考え、省略しがちです。
引き継ぎ後、新任者は前任者が行っていたように円滑に業務を進めることに注力します。結果として、「なぜ、この業務を現在のような手順や方法で行っているのか」という意識が希薄となり、業務だけが慣例化されてしまいます。
3)特定の人しか理解していない業務
何かのきっかけがなければ、自分の担当業務の目的を思い起こし、「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを定期的にチェックしている人はほとんどいないでしょう。「ムダ・ムラ・ムリ」の発見には、管理者や担当者以外の社員の客観的な指摘が必要なのです。
しかし、特定の人にしか分からない業務だと、そのような指摘をすることができません。その結果、「ムダ・ムラ・ムリ」があってもその存在が認識されず、“属人的で複雑な手順の業務”ができてしまいます。
4)責任者を明確に定めていない業務
責任者を明確に定めていない業務も、「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすくなります。例えば、複数の部門間にまたがる業務です。こうした業務では全体を統括する人が不明確になりがちで、「ムダ・ムラ・ムリ」に注意を払う人もいなくなります。
また、実務担当者が「ムダ・ムラ・ムリ」を発見しても、自分たちだけで改善することができず、他部門との調整が必要になります。こうなると、改善に対する取り組みが後回しにされ、結果として「ムダ・ムラ・ムリ」が放置されてしまうことが多いのです。
3 「ムダ・ムラ・ムリ」を発見する
1)業務プロセスなどの明確化
まず、現状の業務プロセスや業務内容の全体像を明確にします。「業務記述書」などを使って自己申告をさせるとともに、不明な部分については、直属の上司などが担当者にヒアリングをして確認するようにします。
次に、企業・部門・社員ごとに業務に対する目標を明確にします。そして、その業務目標に従って、現在の業務内容が目標達成に対して有効な業務であるか否かを客観的に検討します。
2)トラブルを放置しない
また、事前に「ムダ・ムラ・ムリ」の回避策を講じている企業であっても、不意に「ムダ・ムラ・ムリ」が表れます。例えば、日常業務でトラブルが発生した場合、原因をつくった人の「不注意」や「能力不足」といった属人的な批判で終わりがちです。
しかし、その背後において「ムダ・ムラ・ムリ」が原因となっているケースは少なくありません。トラブルが発生した場合、現在の業務の方法などに「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを検討してみることが大切です。
例えば、納期に遅れてしまった場合、営業担当者が忙しさのあまり、必要な手続きや納期の確認をしていなかったなど、業務の進め方に「ムラ」や「ムリ」があったことが原因かもしれません。この辺りは、しっかりと確認する必要があります。
4 「ムダ・ムラ・ムリ」の改善
1)やめる
「ムダ・ムラ・ムリ」の改善方法として最も効果的なものは、「ムダ・ムラ・ムリ」の発生原因を根本的になくすことを考えてみることです。すなわち、その業務自体を「やめる」(廃止・削除など)ことができないかという視点です。
2)減らす
「やめる」ことができない業務については、「減らす」(回数・頻度・数量・重さ・サイズなどを減らす)ことを考えてみます。例えば、毎日行っている報告書の提出を週単位や月単位にして、提出頻度を「減らす」といった方法です。
3)変える
「やめる」ことも「減らす」ことも難しい業務については、「変える」(形・色・位置・場所・順序・手順・材料・部品・担当などを変える)ことを考えてみます。より効率的な業務の進め方を検討することが大切です。
5 改善例
1)問題となった事例
営業部門のAさんは、「営業成績の報告」をするために、各営業担当者の日報から営業成績を計算し、その数値を報告書フォーマットに入力して報告書を作成していました。プリントアウトした報告書は経営者・各部門長に手渡します。
毎日、前日分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。加えて毎週月曜日には、先週分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。
この業務の「ムダ・ムラ・ムリ」について、「やめる」「減らす」「変える」に基づいた改善例を考えてみます。
2)「ムダ・ムラ・ムリ」を「やめて」みる
Aさんは、「日単位と週単位の報告書は、本当に両方とも必要なのだろうか」と考え、上司や各部門長、経営者に確認しました。すると、「日単位の報告書は週に何回か確認しているが、週単位の報告書はほとんど見ていない」という現状を把握できました。
そこで、関係者の了承を得て、試験的に1カ月間、週単位の報告書を「やめて」みました。すると、日単位の報告書があることから、経営者・各部門長から再度作成してほしいという要望は上がらず、1カ月後には週単位の報告書の廃止が決定しました。結果的に、Aさんは「ムダ」な業務を「やめる」ことができたのです。
3)「ムダ・ムラ・ムリ」を「減らして」みる
次に、Aさんは日単位の報告書について、「営業成績は1日でそれほど大きく変わらないし、経営者・各部門長も週に何回かしか確認していない。週2回の報告でもいいのでは?」と考え、関係者の了承を得た上で、報告書を週2回に「減らして」みました。
すると、製造部門からは「生産計画を立てる際の参考にするために、週3回は報告書が欲しい」という要望がありました。また、経営者からも「収益は気になるので、毎日もらう必要はないが、週2回では少ない」との要望がありました。
そのため、Aさんは報告書の提出回数を、週2回から1回増やして月曜日・水曜日・金曜日の週3回に変更しました。それでも報告書を毎日提出していた従来の方法に比べると、回数を「減らす」ことができました。
4)「ムダ・ムラ・ムリ」の原因となるやり方を「変えて」みる
さらにAさんは、報告書を作成するやり方を見直して「ムダ・ムラ・ムリ」を改善しようと考えました。Bさんから、「もっとパソコンを上手に活用すると効率的だよ」というアドバイスを受け、早速、パソコンをもっと活用したやり方に「変えて」みました。
具体的には、これまではエクセル上で足し算をしていたやり方を、関数を使った自動的な集計に変えてみました。同時に、報告書を経営者・各部門長に手渡ししていたやり方を、電子メールで送信するという方法に変更しました。
最初は新しいやり方に手間取った部分もありましたが、慣れてくると、今までよりも1時間以上早く終わるようになりました。従来の方法を「変える」ことで、Aさんは時間の短縮に成功したのです。
このように、「ムダ・ムラ・ムリ」の改善は、企業にとって貴重な経営資源の浪費を防ぐことにつながります。企業は「ムダ・ムラ・ムリ」の発見と改善に積極的に取り組むとよいでしょう。
以上(2018年12月)
pj40019
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コストダウン意識の高い組織の作り方
書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 コストダウンの意識を持った組織
経営者や経営幹部はもちろん、全ての社員がコストダウンの意識を持つことが理想です。コストダウンの意識を持った組織では、社員は常に「費用(コスト)対効果」を考えて行動し、また、ムダを発見した場合は率先して改善しようと試みます。
こうした組織を作り上げるためには、組織の立ち上げや評価制度の整備が必要になります。「コストダウンの意識を持った組織」作りのステップは次の通りです。
以降で各ステップの内容を確認していきましょう。
2 「当たり前の意識」を改善
1)課題:「接待」は当たり前?
コストダウンを進める際、長い期間をかけて定着した社員の「当たり前の意識」が邪魔になることがあります。例えば、「接待がなければ顧客との親密な関係が築けない」と考えている営業担当者がいるかもしれません。
そこに突然のコストダウン宣言があり、接待交際費がこれまでの半分しか認められなくなったら、営業担当者は反発するでしょう。こうした当たり前の意識は、他にもたくさんあります。
2)対策:コストダウン推進の理由を説明
当たり前の意識を改善する方法として、経営者の宣言があります。ただし、「コストダウンを進めるので、来年度から接待交際費枠は半分になります」と説明しただけでは不十分です。これでは社員の当たり前の意識とぶつかってしまうでしょう。
ここで経営者が社員に説明しておきたいのは、「コストダウンは決して最終目標ではない」ということです。コストダウンは、新商品開発、営業活動などと同様に利益追求のための取り組みです。
この点を強調しながら、経営者はコストダウンを推進する理由を社員にきちんと説明しましょう。その際、コストダウンを推進しなかった場合の最悪のシナリオ(いくらのコストがムダになっているのか)を示すことが効果的です。
3)効果:社員の「当たり前の意識」が変わる
経営者の説明によって、社員は「なぜ、変わらなければならないのか」に気が付きます。同時に、これまでの当たり前が「本当に当たり前なのか?」と疑問を感じるようになってきます。
例えば、先の「接待」の場合は、「同僚の営業担当者Aは、接待なしでも新規顧客を獲得しているな。本当に接待は必要なのだろうか? もしかすると、接待に頼る営業スタイルに問題があるのかもしれない」といったように変化してきます。
3 「コストダウン推進委員会」の設立
1)課題:コストダウンに対する社員の意識は継続しない?
経営者の説明によって、社員のコストダウンに対する意識は高まります。しかし、そうした意識は、放っておけばすぐに薄らいでしまうため、何らかの仕掛けが必要になってきます。
2)対策:コストダウン推進委員会を設置する
そこで、社員のコストダウンに対する意識を持続するために「コストダウン推進委員会」を設置しましょう。コストダウン推進委員会とは、「コストダウンを推進するために設置される専門チーム」です。
企業規模などによってコストダウン推進委員会の概要などは異なりますが、理想は、経営者が委員長になることです。経営者が出席するだけでも、委員会の場に良い意味での緊張感が生まれます。
また、各部門から少なくとも1人ずつメンバーを選出して全社的なタスクフォースとします。メンバーは、部長クラスなど意思決定権を持つ社員を選出したほうが好ましいといえます。
コストダウン推進委員会では、コストダウン計画を立案します。計画のポイントは、具体的に「どのコストを」「いつまでに」「何%削減する」といった目標を部門ごとに設定することです。
コストダウン推進委員会の活動状況(議事録、決定事項など)は、必ず社員に通知します。全体朝礼・部門別朝礼・回覧物などを利用するとよいでしょう。コストダウン推進委員会の活動は全て社員に伝え、コストダウンに対する意識の統一を図ります。
コストダウン計画の対象期間が終了した時点で、コストダウン計画の実効性を確認し、見直しを行います。その際、目標を達成した部門と未達成の部門にヒアリングを行い、双方で相違点がないかを確認してみましょう。
もしかすると、達成組には「部長が先頭に立って部全体でコストダウンに取り組む強い機運が生まれていた」「定期的にコストダウンミーティングを開き、効果を検証していた」など、未達成組にはない動きがあったかもしれません。
3)効果:社員はコストに対する意識を高めていく
コストダウン推進委員会は、コストダウンを進める上で大きな権限を持つタスクフォースです。ここがきちんと機能していれば、社員はコストダウンに対する意識を高め、それを持続することができるでしょう。
4 小規模な「分科会」の設置
1)課題:他人任せの社員が出てくる
コストダウン推進委員会は、総務部門、製造部門など各部門に具体的なコストダウンの目標を与えます。しかし、部門全体の目標の場合、個々の社員は「自分がやらなくても、同僚がやってくれるだろう」と考えてしまいがちです。
2)対策:小規模な分科会を設置する
社員にコストダウンに対する責任を持ってもらうためには、コストダウン推進委員会が決定した各部門のコストダウンの目標を、個々の社員の業務目標に置き換える必要があります。
例えば、総務部門の中に「冷暖房の設定温度に気を配り、光熱費のコストダウンを推進するチーム」「オフィス備品購入のコストダウンを推進するチーム」といったような、小規模な分科会を設置し、それぞれが責任を持って活動します。
3)効果:個々の社員が責任を持ってコストダウンに取り組む
分科会を設置し、コストダウンの目標の達成に対する責任の所在を明確にすることで、社員はこれまで以上に強い責任を持ってコストダウンに取り組むようになるでしょう。
5 評価する仕組みを作る
最後に、コストダウンを推進する際、企業(経営者)と社員の関係を良好に保つための取り組みを紹介します。コストダウンを成功させるために、ある程度の責任を社員に課すことは重要です。しかし、責任があまり重過ぎてはいけません。
多くの社員はコストダウンにマイナスのイメージを抱いており、責任まで問われることになれば大きな負担に感じます。こうした問題に対応するために、コストダウンへの取り組みを評価できる仕組みを構築することです。
例えば、経営者が目標を達成した部門(総務部門)や分科会(光熱費チームなど)を表彰し、賞金を出します。また、コストダウンの目標達成手当を作ることや、コストダウンへの意欲的な姿勢を人事考課の対象とするなどの方法もあります。
正しいコストダウンを推進するには、個々の社員が当たり前の意識を改善し、責任を持ってコストダウンに取り組むことが必要です。そのためには、コストダウン推進委員会の設置と、評価体制の整備が非常に重要なポイントになるといえるでしょう。
以上(2018年10月)
pj40013
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新しい収益認識基準で考える ITサービスの会計・税務上のポイント
書いてあること
- 主な読者:大企業を相手に定額利用サービスを提供している企業の経営者・経理担当者
- 課題:取引相手が大企業である場合には、実態に即した契約内容に修正を求められるなどの手続きが生じる可能性がある
- 解決策:ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを念頭に、収益の計上時期や、処理の判断が難しい取引の会計上の取り扱い、および税務上の留意点を解説
1 様々な分野に広がるサブスクリプション取引とは
サブスクリプション取引とは、定額課金により一定期間サービスを提供する取引をいいます。新聞や雑誌の定期購読など、定額課金によるサービスは以前から存在していましたが、近年では、ソフトウエアのライセンス供与や動画・音楽配信サービスの他、自動車や洋服など様々な分野でもサブスクリプション取引が広がっています。
本稿では、サブスクリプション取引の典型例として、ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを念頭に、収益の計上時期や、処理の判断が難しい取引の会計上の取り扱い、および税務上の留意点について解説します。
2 サブスクリプション取引の会計上の問題~新しい収益認識基準~
企業がサブスクリプション取引を行う場合、販売側の企業では会計上収益を計上することになります。しかし、従来の会計基準では、企業会計原則に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とされているのみで、収益認識に関する詳細な基準は定められていませんでした。
これが、2018年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「会計基準」)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」といい、会計基準と適用指針を合わせて「収益認識基準」)が公表され、収益認識に関する包括的な会計基準が定められました。
収益認識基準の適用時期は2021年4月1日以降開始の事業年度からですが、現時点でも任意適用することができます。以降では収益認識基準を参考に、サブスクリプション取引の会計上の取り扱いを解説します。
3 販売側の会計上の取り扱い
1)収益の計上時期
ソフトウエアのライセンス定額利用サービスを提供する企業は、収益認識基準に基づいて収益計上を行う場合、ライセンス供与の性質が次のいずれであるかによって計上時期の判定を行います(適用指針62項)。
ライセンス供与後も随時ソフトウエアのアップデートが行われると想定される場合は上記の(2)に該当し、一定期間(契約に基づくサービス期間)にわたり分割して収益を計上します。また、ライセンス供与後のアップデートが予定されていない場合は上記の(2)に該当し、ライセンスの供与を開始した時点で一括して収益を計上します。
2)収益の計上単位
次に、ソフトウエアのライセンス供与は、インストール・サービス、ソフトウエア・アップデートおよびテクニカル・サポートなどとともに、同一の契約で提供される場合があります。このような場合、各サービスが「一体のもの」か、「別個のもの」かによって収益の計上方法が異なります。
収益認識基準では、顧客に提供するサービスなどについて、次の要件をいずれも満たす場合は別個のものとすると定めています(会計基準第34項)。
ソフトウエアがソフトウエア・アップデートやテクニカル・サポートなどがなくても機能し続けるような場合は、上記(2)の要件を満たすと考えられます。また、各サービスを独立して履行することができ、各サービスの依存度合いや関連度合いが高くないといえるような場合は上記(2)の要件を満たすと考えられます。
各サービスが別個のものと判定される場合、サービスごとに区分して収益認識を行うことになります。
3)収益の額の算定
ソフトウエアのライセンスの定額利用サービスでも、完全定額制ではなく、利用量が一定水準を超えた場合は従量課金となる場合があります。このように、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を、収益認識基準では「変動対価」と定義し、変動対価の額の見積もりによる会計処理を行わなければなりません。
見積もりに当たっては、発生し得ると考えられる対価の額を最も可能性の高い単一の金額(最頻値)とする方法か、発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額(期待値)とする方法のいずれかのうち、対価の額をより適切に予測できる方法を用いることとされています。また、サービス期間が決算をまたぐ場合には、上記の見積もりについて決算時に金額を見直す必要があります。
4 購入側の会計上の取り扱い
ソフトウエアのライセンスの定額利用サービスを購入している企業においては、通常はサービス利用期間を通じて均等に費用計上することになると考えられます。
ただし、費用を一括で前払いしている場合には、支払い時に前払費用として資産計上し、利用期間にわたって費用に振り替える会計処理が必要になると考えられます。
また、支払形態は定額課金であったとしても、実態としてはソフトウエアの買い切りであると考えられるような取引の場合は、無形固定資産として計上し、使用期間に応じて償却を行うことも考えられます。
5 中小企業の場合
一般的な中小企業の会計処理は、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」等によることが認められていますが、収益認識基準はこれらの会計ルールに反映されていません(任意に適用することは可能です)。
従って、一般的な中小企業においては、収益認識基準による厳格な会計処理は求められず、収益認識については従来通り実現主義による会計処理(サービスの提供が終わった時点で、かつ対価が確定したときに収益計上)で問題ありません。
ただし、前述した「収益の計上単位」がそれぞれのサービス(インストール・サービス、テクニカル・サポートなど)ごとに別個のものと判断される取引で、かつ取引相手が大企業である場合には、実態に即した契約内容に修正を求められるなどの手続きが生じる可能性があります。近年、サブスクリプション取引は様々な分野に広がっているため、中小企業においても無視できないトピックであることは間違いありません。
6 税務上の留意点
1)法人税について
法人税法上、益金の額および損金の額は、原則として「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理することとされており、サブスクリプション取引の場合、益金として計上すべき時期は「サービス提供が完了したタイミング」となります。
従って、会計上の取り扱いと同様に「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利」であれば一定期間にわたり分割して益金を認識し、「ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利」であればライセンスの供与を開始した時点で一括して益金を認識します。
なお、税務上、変動対価については次の要件のすべてを満たす場合に所得として認めることとしています。会計上はこういった要件がないため、会計上と税務上で相違する点となりますが、実務的には会計上もこの要件を参考に収益の額を見積算定することが多いと思われるため、実質的な相違はないと考えられます。
2)消費税について
サブスクリプション取引について、会計上と法人税との間に差異が発生する可能性は低いと考えられます。ただし、消費税については一定の影響が生じます。主な理由は消費税では、「変動対価の見積計上」を認めていないため、会計上、変動対価を計上している場合には、課税売上(消費税の計算上の売上)を計算する上で所定の調整が必要になると考えられます。
3)その他の留意点
一般的な中小企業の会計処理は、従来通り「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」などによることが認められています。従って、一般的な中小企業においては、収益認識基準による厳格な会計処理は求められず、収益認識については従来と取り扱いが変更になることはありません。
以上(2019年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士・税理士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:pixabay
課税強化が進む「国外財産」に関する申告制度
書いてあること
- 主な読者:国外に財産を有する経営者
- 課題:現在の国外財産に関する税務手続きや、税務当局の情報収集の方法を知りたい
- 解決策:2017年1月に創設・開始された2つの制度を解説した上で、その他の国外財産に関する申告制度をまとめる
1 強まる国外財産に関する情報収集
近年、税務当局は国民の資産に関する情報収集を強めています。背景には、高齢化に伴う相続件数や国外転出者の増加などが考えられます。また、複雑化する国外財産の移転手段などにより、国内の情報だけでは、正確に資産状況を把握することが難しくなっており、近年では各国の税務当局が連携して、自動で情報を交換する制度(詳細は後述)も始まっています。本稿では、まず、2017年1月に創設・開始された2つの制度を解説した上で、その他の国外財産に関する申告制度をまとめます。
2 国外財産に対する課税の動向
1)財産債務調書制度
最近の海外資産の申告制度に関する税制改正のひとつに、財産債務調書制度の創設があります。
この制度により、一定以上の所得や資産などのある個人は、「財産債務調書(国内・国外にある財産の一覧)」をその年の翌年の3月15日までに提出しなければなりません。
なお、財産債務調書の提出が必要な個人とは、所得税の確定申告書を提出しなければならない人で、かつ、次のいずれの要件も満たす者をいいます。
- その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2千万円を超える者
- その年の12月31日時点で、その価額の合計額が3億円以上の財産を有する者、または、その価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する者
財産債務調書を未提出であったとしても、罰金や懲役、加算税といった直接のペナルティーは設けられていません。しかし、財産債務調書を提出しているかどうかは、後に申告漏れが見つかったときのペナルティーに影響してきます。
財産債務調書を期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産または債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、過少申告加算税等が5%軽減されます。一方、財務債務調書を提出していない場合に、所得税・相続税の申告漏れが生じたときは、過少申告加算税等が5%課されます。
2)共通報告基準(CRS)
国外では、租税条約による各国の相互情報交換が進み、海外資産に対する課税が強化されています。
外国の金融機関などを利用した国際的な脱税や租税回避に対処するため、OECD(経済協力開発機構)において、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(以下「CRS:Common Reporting Standard」)」が公表され、日本を含む各国がその実施を約束しました。この基準に基づき、まずは各国の税務当局は、自国に所在する金融機関の情報の報告を受けます。
そして、租税条約等の情報交換規定に基づいて、その非居住者の居住地国(例えば、日本人が国外の金融機関に預貯金等を有する場合には日本)の税務当局に対して、その情報を提供します。
CRSにより、これまで各国の税務当局が把握することが困難であった租税回避行為の情報を、タイムリーに知ることができるようになります。
3 その他の国外財産に関する申告制度
1)国外送金等調書制度
国外送金等調書制度とは、国外への送金または国外から送金を受領した金額が100万円を超えた場合に、金融機関が「国外送金等調書」を税務署に提出することをいいます。
なお、国外送金等調書には、次の事項が記入されます。
国税当局にとっては、海外取引に係る資金の流れや国外財産を把握するための重要な情報源となっています。この制度は、納税者自身ではなく、金融機関に提出が義務付けられているものであるため、100万円を超える国をまたいだ資金移動は、確実に国税当局が把握することになります。
2)国外証券移管等調書制度
国外証券移管等調書制度とは、国境を越えて有価証券の証券口座間の移管を行った場合に、証券会社が「国外証券移管等調書」を税務署に提出することをいいます。この制度も、納税者自身ではなく、証券会社に提出が義務付けられているものです。
3)国外財産調書制度
国外財産調書制度とは、その年の12月31日において、価額の合計額が5000万円を超える国外財産を有する個人(国内に住所を有し、または現在まで引き継いで1年以上居所を有する非居住者以外の居住者)が、「国外財産調書(国外にある財産の一覧)」を税務署に提出することをいいます。
なお、居住者のうち国外財産調書の提出が不要となる非居住者とは、日本の国籍を持たず、かつ過去10年以内に日本に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の個人です。
4 実務家からのアドバイス
これまで見てきた通り、近年、海外資産に対する課税は強化されています。特にCRSの導入により、最新の海外資産の情報が送られることになります。これらの情報が、今後の税務調査に活用されることは間違いないでしょう。
また、「財産債務調書」と「国外財産調書」の両調書に「質問検査権」の規定を設けました。質問検査権の規定を設けることは、両調書に対して税務署が税務調査を行えるということです。税務当局がこの両調書をいかに重要視しているのかをうかがい知ることができます。
税務署が国外財産の存在を把握するのは時間の問題と捉えて、もし申告漏れが発覚した場合などには自主的に、かつ速やかに申告するようにしましょう。
以上(2019年9月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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画像:pixabay