【朝礼】「裏メニュー」が出てくる関係の作り方

私は、旅行をしたときや、新しいお店で食事をするとき、積極的に地元の人や店員に話しかけるようにしています。

先日の出張でもそうでした。次のアポイントまで少し時間が空いたので、私は小さな川沿いの道を歩いていました。そのときはまだ、私にとって何の変哲もない小川です。少し歩いて喉が渇いたので、私は川沿いにあるカフェに入りました。そのカフェには小さな美術館が併設されていて、ちょっと変わった空間でした。

コーヒーを注文するとき、「美術館が併設されているなんてすてきですね」と、店員に話しかけたところから会話が始まりました。その店員は、なんと美術館の館長で、小川や展示物のことをいろいろと教えてくれました。例えば、小川には、秋になると鮭が帰ってくるそうです。また、川辺には季節ごとに美しい花が咲き、展示物はそうした自然をモチーフにしているとのことでした。

館長の話を聞いたことで、何の変哲もなかった小川が、一気に特別なものになりました。鮭が帰ってくる様子や、季節の花が咲き誇る景色を想像するのは楽しいものです。同じ時間を同じ場所で過ごすとしても、経験に格段の深みが増すことが分かると思います。

飲食店でも同じです。「おいしいですね」「丁寧な接客をありがとう」と伝えることで、店員はお店の歴史や大切にしていることを教えてくれたり、ちょっとしたサービスをしてくれたりします。

皆さんの中には、店員に気軽に話しかける私の姿を、“オヤジ臭い”と言う人がいます。店員が女性の場合は余計に、「私がその店員と話したいだけ」だと思うのでしょう。そう言われると、私は「なんて発想力がないのだ。もったいないな」と思ってしまいます。

日本では、黙っていても金額なりのサービスが受けられます。しかしそれは、マニュアル通りの、何の変哲もないサービスです。一方、いきつけの飲食店で「裏メニュー」が出てくることがありますが、いきなり出てくるわけではありません。店員と仲良くなり、「作ってほしい」「食べてみたい」などと、こちらからお願いしたからこそ出てくる、特別なサービスなわけです。

商談相手に、「予算がない」と紋切り型の断り文句を言われ、諦めている人はいませんか。無機質に断られてしまうのは、こちらも決まり切ったマニュアル通りの営業しかできていないからです。相手は予算を持っています。ただ、「私たちにその予算を使おう」と思ってくれていないだけなのです。相手にとって、皆さんは何の変哲もない営業担当でしかありません。早くそこから脱し、特別な存在になりましょう。相手が求めることを考えるのが基本ですが、いきなりビジネスの話をしているようでは駄目で、会話の広がりが大切なのです。どうすればよいのか。そのヒントは、飲食店の店員との気軽な会話にあることも少なくないのです。

以上(2020年1月)

pj16990
画像:Mariko Mitsuda

部下が辞めない叱り方/若手社員が採用できる、辞めない職場づくりのヒント(5)

1 アナタは、部下を叱れますか?

  • 「キツく叱ったら、翌日から会社に来なくなった」
  • 「ミスを指摘したら、思った以上に部下が傷ついてしまった」
  • 「パワハラが気になって指導がしにくい」

マネジメント層の方から、こんな声をよく聞きます。

パワハラ、メンタルヘルス、ブラック企業……。こんな言葉がニュースをにぎわせる昨今、いつ自分が当事者になるか分からないとすれば、ついつい腫れ物に触るようなマネジメントに終始してしまう上司にも、同情の余地はあります。

だからといって、もちろん部下を甘やかしていいわけではありません。部下がミスを犯したなら、間違いを正すのがオトナの役目。しかし、一歩間違うと辞めるに直結してしまう。怒られ慣れていない若者をどう叱ればいいのか。昨今、「叱る」は、一触即発の難しいコミュニケーションともいえます。本稿では、拙著「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」をもとに、部下に響く叱り方について解説します。

2 居心地のいい職場

昨年、組織マネジメントやチームビルディングの領域においてバズワードとなったのが「心理的安全性」という心理学用語でした。前回の寄稿でも触れましたが、意味合いとしては、“他人の反応におびえたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境”を指しています。

ビジネスシーンにおいては、“本来の自分とは大きく異なる仕事用の人格を演じることではなく、普段通りのリラックスした状況で仕事に臨むことができる状態をつくること”が、心理的安全性の提供につながるとされます。ものすごくシンプルに解釈すると、従業員にとって「居心地のいい職場」をつくりましょうということです。

最も有効な処方箋のひとつが「褒め」です。承認欲求が強いとされる最近の若者をうまく褒めることは、マネジメントにおける最重要テーマともいえます。私も常々、講演や研修などでは、SNSで「いいね!」を押す感覚で、細かいことでもリアルタイムに褒めましょう、というプチ褒めを推奨しています。

3 失敗したくない若者

話は少し脱線しますが、「ドクターX」というテレビ番組をご存じでしょうか。米倉涼子さん扮する女医が、毎回自信満々に「ワタシ、失敗しないんで!」というセリフを決めます。最近の若者は、その真逆。「最近の若者は失敗を怖がる」「最初に行動することをちゅうちょしがち」という声をよく聞きます。

ここにもSNS世代の特徴が表れているのです。彼らは、SNSで「常に誰かに見られているリスク」を念頭に置いてコミュニケーションを取る習性が身についています。「こんな投稿をしたら、どんなふうに思われるか」「批判を浴びることにならないか」「友達に嫌がられないか」などと、いつも神経をすり減らしながら投稿しているわけです。

一度炎上してしまった投稿は、削除したところですでに手遅れ。写真のコピーや投稿画面のキャプチャ画像があっという間に増殖して、ネット上では半永久的にさらされ続けることになります。ちょっとした間違いによって、「黒歴史」や「デジタルタトゥー」といった消えない負の遺産を背負ってしまう……。そんな意識が、若者の行動を保守的にしてしまっているのです。

結果、最近の若者は、職場でも「同僚からバカにされないだろうか」「上司から叱られないだろうか」などと、極度に周囲の目を気にしながら過ごしています。

4 「怒る」を「叱る」に変えられるか

こんな話をしていると、ますます部下の失敗を正すことが難しく思えてきます。しかし褒めるだけでは、ぬるま湯のような環境にしかなりません。それは、本来の意味で心理的安全性が提供されているのとは異なります。

だからこそ、正しい叱り方を習得する必要があるのです。端的にいうと、「怒られた!」じゃなく「叱ってもらえた!」と、部下に感じてもらえるようなコミュニケーション。これに尽きます。

では、どうすれば「怒る」を「叱る」に変えることができるのでしょうか。

  • 1stSTEP~怒りを予防すること
  • 2ndSTEP~怒りの衝動をコントロールすること
  • 3rdSTEP~怒りの基準を明確に提示しておくこと

このように、叱り方のマネジメントは3段階に構造化して捉えることができます。ここからは、その具体的なメソッドを紹介していきます。

5 怒りの予防は、価値観の理解から

怒りを予防することとは、そもそも怒りが湧いてくる状態をつくらないようにすること。まず必要なのは、若者の価値観に近づくことです。彼らの行動原理が理解できれば、少なからず、「あ、そういうことか」という共感が生まれます。

例えば、「今の若者はオフィスの電話を取らない」という嘆きの声をよく聞きます。確かに「3コール以内で電話を取れ!」と教えられてきたオトナ世代からすると、イラっとしますよね。しかし、彼らの育った環境をよく考えてみてください。今の若者世代にとって、電話といえば自分の携帯電話。電話とはパブリックなものではなく、極めてプライベートなツールなのです。だから、オフィスで電話に出ないのは、ボーッとしているわけではなく、「勝手に電話に出ていいの?」という思考回路が働いているのです。

このように、彼らの行動原理を少しでも理解できるようになるだけで、怒りポイントは相当減りませんか。

6 定期的な1on1面談のススメ

最近、職場において「1on1」といわれる個人面談の重要性が語られていますが、こうした定期的な面談も怒りの予防に有効です。改まった場を作って、きちんと面談することで、コミュニケーション不足が解消されます。

忙しいと、つい“言わないでも分かってもらえるだろう”となりがちですが、それがミスやトラブルのもと。コミュニケーション量が増えれば、当然、お互いの意思疎通がスムーズになります。

部下が仕事を通じて直面した課題、悩みを上司と共有する場で、その体験に適切なフィードバックを提供できれば、ミスやトラブルの芽を摘むことができます。こうして部下が取り組むべき課題が明確になり、そこから学ぶ習慣ができる。そんな経験学習のサイクルが自然と回っていくようになることで、部下が成長してくれれば、怒りの気持ちが湧いてくる機会は激減するはずです。

7 怒りのコントロール~怒りは6秒しか続かない!

次のステップは怒りのコントロールです。人間が爆発的な怒りを感じ、その感情が持続するのは、たったの6秒ほどだそうです。だから怒りを感じたらまずは6秒間我慢する。この6秒ルールで、怒りの衝動は相当収まってきます。

とはいえ、実は6秒って意外と長く感じるもの。だからやり過ごすために、ちょっとしたワザを用います。例えば難しい計算をしてみるとか、自分の怒りに点数をつけてみるとか。 あるいは、自分の好きなタレントさんの名前とか、飼っているペットの名前とか、なんでもいいのですが、イラっとした瞬間に唱える言葉を決めておくというのも手です。いずれにせよ、冷静になれるようなルーティンをひとつ持っておけばいいのです。

そして6秒たった時点で、クールダウンした頭で怒るべきかどうかを見極めればいいのです。冷静になってみて、怒るまでもないことだと感じられれば、それは無駄な怒りだったということで、怒りを回避できます。

あるいは、6秒たって考えても怒るべきだと選択した場合でも、その怒り方がかなり違ってくるはずです。感情的に怒鳴るのではなく落ち着いて怒る。これがまさに「怒る」から「叱る」に変わる第一歩です。

8 怒りの基準を明確に~イエローカードを出すときは、ブレずに!

そもそも人が怒りを覚えるのは、“自分としてはこうあるべきだ”というこだわりが破られたときです。その自分の「べき」を、「許せる範囲」「なんとか許せる範囲」「これは許せない範囲」と線引きしてみましょう。そうすると、自分のイラっとする基準が分かってきます。

例えば「今日中に提出しなさい」と指示した資料が、出てくるのがいつになったら、あなたはイラっとしますか? 定時を過ぎたらでしょうか。あるいは、0時を過ぎたらでしょうか。どちらでも構わないのですが、まずは「これを破ったらイエローカード」という基準を自分で設定することが重要です。そして、そのルールを部下に明示しておきましょう。これが「怒る」を「叱る」に変える大きなポイントになります。

しかし実際には、このルールがブレている、あるいはルールが示されていないケースが実に多いのです。あるときは定時を過ぎても叱らなかったり、あるときはギリギリ時間内に提出したのに叱ったり。もしくは「今日中」がいつなのか、はっきり提示していなかったり。つまり、ルールが微妙に変わっていることが多々あるのです。

こうしたブレた怒り方は、若者にとっては理不尽な怒りとしか映りません。審判に抗議するサッカー選手を思い描いてください。ファウルの判定基準が曖昧だと、いくらイエローカードを出しても試合は落ち着かず、むしろ荒れ試合になって退場者が続出します。逆に、事実に基づく判定基準がしっかりしていれば、若者は素直に話を聞いてくれますし、ファウルを犯さないように努めるようにもなります。

9 ダメ出しとフォローのツンデレ効果

最後は、叱り方の複合技についてお伝えします。たとえ納得の理由で叱られたとしても、しょっちゅう叱られていると、さすがに自信を失ったりします。特に若者は「そんな自分が嫌だ」とか「いつも叱られているダメなやつだと思われたくない」という自意識が強めです。ダメ出しの言いっ放しは、どんどん二次被害を生んでしまいます。否定されると言われたほうは萎縮してしまうからです。またダメ出しされるのを怖がってしまって、意見を言うのが苦手になったり、自分なりのチャレンジをするのが嫌になったりしてしまいます。

「私には無理」「僕には向いていない」と思い込み、「辞める」につながりかねません。これでは「心理的安全性」からは真逆のループです。そんな彼らには「ダメ出し」と「フォロー」をセットにします。若者っぽく言うなら「ツンデレ」でしょうか。

「提出時間を過ぎてるぞ。ダメだよ、決められた時間内に出さないと(ツン)。中身はよくできているんだから、もうちょい早くできたら完璧だな!(デレ)」。こんな具合です。ダメなことはダメとはっきり言わねばなりません。しかし「プチ褒め」をくっつけることも忘れないようにします。注意ができないとマネジメントが難しくなるばかりですが、ちょい足しでフォローを入れるとやりやすくなります。

10 まとめ

職場の心理的安全性を高めることが重要とされる中、承認欲求を満たす、イコール褒めるマネジメントが有効であることは言うまでもありません。しかし、上司としては、当然ながら、叱らなければならない局面もあります。「同僚からバカにされないだろうか」「上司から叱られないだろうか」などと、極度に周囲の目を気にしながら過ごす若者に、どう接すればよいのでしょうか。

それは、まさに「怒る」を「叱る」に変えることです。無駄な怒りをなくす、怒りの基準を明確して伝える。怒鳴るのではなく、「こうしてほしい」というリクエストの形で伝えることができれば、職場が劇的に変わるはずです。ぜひ実践してください。

以上(2020年1月)
(執筆 平賀充記)

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画像:NDABCREATIVITY-Adobe Stock

マーケティングの基礎知識~マーケティングの3C編~

書いてあること

  • 主な読者:マーケティングを活用して利益を増やしたい経営者、経営戦略担当者
  • 課題:マーケティング手法に関する知見が足りない
  • 解決策:マーケティングの3C分析に基づいて戦略を練る

1 マーケティングの定義付け

日本マーケティング協会では、マーケティングについて、次のように定義しています。

マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である

企業活動におけるマーケティングとは、企業の利益を増加させることを目的としています。これを実現するために、顧客にとってより良い製品やサービスを、顧客が買ってくれそうな価格を付け、効率的かつ顧客の手元に届きやすい流通経路で販売し、顧客にとってより訴求力のあるプロモーションを行う一連の活動を指しているといえるでしょう。

■日本マーケティング協会■
https://www.jma2-jp.org/

2 マーケティングの3Cとは

具体的なマーケティングの手法や戦略を考える際に必要なのが次の「マーケティングの3C」による分析です。

  • Customer(カスタマー=顧客(市場))
  • Competitor(コンペティター=競合)
  • Company(カンパニー=自社)

3Cの視点はマーケティングを行う上で基本となるもので、「顧客(市場)」「競合」「自社」の順番で分析していきます。以降では、3Cのうち「顧客分析」を行う際に役立つ代表的なフレームワークを紹介します。

1)顧客分析に役立つAIDMAモデル

例えば、コーヒーを中心に製造販売している飲料メーカーであれば、次の点などを把握しておく必要があります。

  • どのような属性の顧客(年代・性別・職業など)が
  • どのようなコーヒー(銘柄や微糖・無糖など)を
  • どのようなシーンで
  • どのくらいの頻度で購入しているのか
  • なぜ購入したのか(購入の理由)

これらのことを知るためには、定期的に顧客を対象としたアンケート調査などを行って顧客の生の声を収集し、その結果をデータベース化しておくなどの方法が考えられます。

また、顧客を分析する上では「顧客が製品を認知してから購買に至るまでのプロセス」を把握しておきましょう。この際に役立つのが「AIDMA(アイドマ)モデル」です(「AIDMAの法則」と呼ぶこともあります)。AIDMAモデルとは、顧客が製品を認知してから購入に至るまでの心理的プロセスを段階的にモデル化したもので、次の5段階の心理的プロセスモデルの頭文字をとっています。

  • Attention(注意=注意を引き、目にとまる)
  • Interest(関心=興味を持つ)
  • Desire(欲求=欲しいという欲求が発生する)
  • Memory(記憶=心に刻み、あるいは思い出す)
  • Action(行動=購買という行動に出る)

このAIDMAモデルで顧客がコーヒーを購入するまでのプロセスを考えてみると、次のようになります。

  • Attention「へえ~『○○コーヒー』という商品が発売されたのか」
  • Interest「ダイエットに効果がある成分が含まれているんだ。興味があるな」
  • Desire「どんな効果があるか飲んでみたいな」
  • Memory「そうだ、今日のランチのときに飲んでみようか」
  • Action「よし買おう!」

製品やサービスの種類によって、心理的プロセスには多少の違いがありますが、顧客が何に注意を引かれ、どのように興味を持ち、そしてどのような場面で購買を思い立つかを把握することが大切です。

2)顧客識別に役立つRFM分析

顧客分析の一つの手法として「RFM分析による顧客の識別」があります。これは自社の顧客を、「R:最新購買日(Recency)=最近いつ購入したか」「F:購買回数(Frequency)=どのくらいの頻度で購買しているか」「M:購買金額(Monetary)=いくら使っているか」という3項目で評価するものです。

RFM分析では、それぞれの項目ごとに区分を決定し、段階をつけて評価していく方法が知られています。RFM分析の例は次の通りです。

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例えば、ほぼ毎日来店し、必ず3000円分購入する顧客AのRFMは、R=3日以内(ランク5)、F=20回以上(ランク5)、M=3000円以上(ランク5)であり、顧客AのRFM分析による評価は555(全てがランク5)となります。

RFM分析の評価は「555」が最高で、この評価の顧客は自社にとってかなりの優良顧客といえます。「555」評価の顧客に対しては、末長くリピーターでいてもらうために、「季節のあいさつなどを欠かさず密に連絡を取る」などの「親密度を高め、顧客側が大事にされていると認識できる」方法を用いると効果的でしょう。

このRFM分析では、自社にとっての優良顧客を見極め、いかにして「555(全てがランク5)の顧客」にするかを考察することがポイントです。

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このように、RFM評価を活用すると、顧客ごとの特徴をつかみやすくなります。

例えば、R評価が同レベルの顧客の場合、F評価の高い顧客のほうが、購入頻度が高い傾向にあり、自社にとって良い顧客ということになります。また、F評価は低いもののM評価の高い顧客がいる場合、R評価で比較し、そのR評価の高い顧客に対して優先的にアプローチすることも考えられます。

以上(2019年12月)

pj70020
画像:unsplash

マーケティングの基礎知識~マーケティングの4P編~

書いてあること

  • 主な読者:マーケティングを活用して利益を増やしたい経営者、経営戦略担当者
  • 課題:マーケティング手法に関する知見が足りない
  • 解決策:まずはマーケティングの4Pに基づく視点で戦略を練る

1 マーケティングの定義

日本マーケティング協会では、マーケティングについて、次のように定義しています。

マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である

企業活動におけるマーケティングとは、企業の利益を増加させることを目的としています。これを実現するために、顧客にとってより良い製品やサービスを、顧客が買ってくれそうな価格を付け、効率的かつ顧客の手元に届きやすい流通経路で販売し、顧客にとってより訴求力のあるプロモーションを行う一連の活動を指しているといえるでしょう。

■日本マーケティング協会■
https://www.jma2-jp.org/

2 マーケティングの4Pとは

マーケティングの手法や考え方にはさまざまなものがありますが、基本の1つとされているのが「マーケティングの4P」です。

マーケティングの4Pとは、顧客にとってより良い製品やサービスを、適正な価格で、効果的な販売チャネルによってより多く販売し利益を得る、ということを実現するための4つの要素です。これら4つの要素は一般的に次のように呼ばれます。

  • Product(プロダクト=製品) 
  • Price(プライス=価格) 
  • Place(プレイス=流通) 
  • Promotion(プロモーション=広告などによる販売促進活動)

3 Product(製品)戦略

1)新製品に重要なアイデアの発想

製品開発にまず重要なのは「アイデア」です。アイデアを生み出す方法としては、顧客のニーズから発想する「ニーズ的発想」と、企業内にある技術などのシーズ(種)から発想する「シーズ的発想」があります。 

ニーズに合った製品を開発するために、まずは「ニーズ的発想」によるアイデアを整理して、ターゲットとする顧客や、製品の活用シーンなどを明確にします。例えば、エアコンの場合であれば、アイデア整理方法としては次のように、5W1H方式を用いるとよいでしょう。

  • 誰が(Who):一人暮らしのビジネスパーソンが
  • いつ(When):外出しているときに(自宅にいないときに)
  • どこで(Where):自宅で
  • 何を(What):エアコンを
  • なぜ(Why):エアコンの消し忘れを防ぐために
  • どんなふうに(How):人の存在を感知し、誰もいなければ自動的に電源が切れる

製品開発に関するアイデアを生み出す際に「ニーズ的発想」と「シーズ的発想」のどちらか1つの方法のみで十分ということではありません。両方の発想方法から顧客のニーズに応える製品の開発を考えることが必要です。

2)製品のライフサイクル

人の一生と同様に、アイデアを基に製品化され、市場に投入された製品にも「一生」があります。これを「製品のライフサイクル(PLC=プロダクト・ライフサイクルと呼ぶこともあります)」といいます。製品のライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、衰退期に分けられます。

導入期では、市場に製品が投入されたばかりの頃で、その製品に対する認知度がそれほど高くないため、製品の普及は比較的スローペースで進みます。

成長期では、製品の普及が進み、その価値が認められるようになり、次第に売り上げは伸びていきます。競合製品も次々と投入され、競争が活発化します。

その後、製品がある程度まで普及してしまうと成長が緩やかになり、成熟期に入ります。さらに、代替品の登場などによってますます成長が衰退することになれば、市場から消えていくといった衰退期を迎えるケースもあります。

製品のライフサイクルに基づくマーケティング活動の特徴は次の通りです。

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4 Price(価格)戦略

価格は、企業にとっての目的である「利益」に直結する要素であり、顧客にとっては購買の意思決定を促す重要な要素となります。価格の決定には、大別すると次のような方法があります。

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1)費用重視型

原価のみを基に、一定の額の利益を上乗せして価格を決定する方法です。機械的かつ簡単に価格を設定できるため、販売品目が多岐にわたっている小売業などで用いられる傾向があります。

2)競争重視型

競争相手となる競合他社製品の価格を参考にしながら、自社製品の価格を決定する方法です。例えば、生鮮食品やガソリンなど均質化が進んでいる製品は、価格以外の面で競争相手と差異化を図ることが難しいことから、この方法を用いることが多いようです。

3)需要重視型

顧客の値ごろ感(「この製品がこのくらいの値段だったら購入してもいいな」と顧客が思う値段)を調査し、それに合わせて価格を決定する方法です。顧客の心理的な特徴を考慮した価格設定を「心理的価格設定」といいます。顧客の心理に基づく価格設定方法の例は次の通りです。

5 Place(流通)戦略

製品がメーカーから顧客の手元に届くまでには、「生産者(メーカー)→卸売業者→小売業者→顧客」のプロセスを経ます。このようなメーカーから顧客への製品の流れを流通チャネルといいます。

Place(流通)の大きな目的は、顧客が必要なときに、必要な製品が必要な数量、必要な場所にあり、顧客の手に入れやすさを実現することです。

1)流通チャネルの種類

1.開放的流通チャネル

製品を扱う流通業者を制限しないことによって、幅広く販売する方法です。

この方法は、顧客側から見ると、どの店でもその製品を買うことができることになります。購入頻度の高い日用雑貨や飲料などの製品に用いられることが多くあります。

2.選択的流通チャネル

流通業者を選別して販売する方法です。家電などのアフターサービスが必要な製品や高いブランドイメージを確立したい化粧品やアパレル製品などに適用されます。選別した小売業者などに、メーカーから販売員を派遣したり、販売ノウハウを伝授したりするケースもあります。

3.排他的流通チャネル

特定の流通業者に限定して販売する方法です。メーカーの意図を明確に反映させたい製品などに有効で、高級車や高級ブランド品などに用いられます。

排他的流通チャネルの代表的な手法として知られているのが、「メーカーによる系列化」です。系列化は、メーカー側から見れば流通における自社の意思を浸透させやすい、というメリットがあります。また、流通業者側から見ればノウハウを提供してもらえたり、支援してもらえたりするというメリットがあります。

2)流通における垂直的マーケティングシステム

流通チャネルは、メーカー・卸売業者・小売業者がチームを組んで協力し合い、製品をより効率的に多く販売するという「垂直的マーケティングシステム」の考え方から、次のような3タイプに分類されることもあります。

1.管理型

メーカー・卸売業者・小売業者がそれぞれ独立していますが、メーカーがリーダーとなり、卸売業者や小売業者に対して販売促進活動に関してさまざまな支援を行います。

2.企業型

1つの企業(あるいは企業グループ)が生産・卸売り・小売りの全てを行います。

3.契約型

フランチャイズチェーンやボランタリーチェーンなど、メーカー・卸売業者・小売業者が契約を結んで協力体制で販売活動を行います。

垂直的マーケティングシステムの場合、メーカー・卸売業者・小売業者が協力し合いながら流通体制を整えることによって、情報の共有化が進むという大きなメリットが得られます。特に、小売業者から収集される「性別・年齢層・地域による購買行動などの顧客情報」が共有化できます。

顧客の好みや購買傾向が多岐にわたっている現代では、流通チャネル内において、いかに「顧客情報」をスムーズに流通させるかが重要なポイントになります。

6 Promotion(プロモーション)戦略

プロモーション活動は、主に次のように大別されます。

1.人的促進

人による販売促進活動のことを指します。

2.広告

新聞、雑誌、テレビなどの有料媒体を使い、広告主のメッセージを顧客に伝えるものです。「人手」によるものではないことから、「非人的促進」とも呼ばれることもあります。

3.販売促進

店頭での陳列や店内での陳列広告、製品サンプルの無料配布など、顧客に対して、購買意欲を促進するような活動の全てをいいます。

以降では、プロモーション活動における考え方や評価方法などについて見ていきます。

1)広告効果測定

広告によるプロモーション活動が中心の場合、広告がどれだけの人の目に触れ、どれだけの人に接触したかという「広告効果測定」が重要になります。あまり効果が上がっていないようなら、早い段階で軌道修正する必要があるからです。

広告効果測定の方法としては、「地域限定トライアル広告」という方法があります。これは、試験的に特定の地域に限定して広告を発信し、広告が発信された地域での顧客の購買行動などを、広告が発信されていない他地域と比較する方法です。

また、広告が発信された後、製品についての顧客の認知度について聞き取り調査を行うなどの方法もあります。

広告効果を測定する際の調査項目としては、次のものがあります。

  • 広告到達測定:広告を知っているかどうか
  • 広告内容理解:広告の内容(製品についてなど)は理解したか
  • 広告好意度:広告に対して好意を持ったか
  • 製品購買意向:その製品を購入したか

2)ABC分析を販売促進活動に活用する

販売促進活動は、非常に手間が掛かるものです。店頭でサンプル無料配布を行う、クーポン券を発行するなどさまざまな手法がありますが、どれもかなりの労力やコストを要します。また、顧客のニーズに即した販売促進活動を行わなければ、訴求力に欠けてしまいます。

そこで、参考として、効率的かつ訴求力の高い販売促進活動を行う1つの考え方として、ABC分析に基づく販売促進活動を紹介します。

ABC分析とは、複数あるものを、A・B・Cのランクに分けて評価する分析方法です。例えば、自社の製品を「売り上げへの貢献度」によって3段階に分けて、次のように評価する方法が考えられます。

  • A群:売り上げの80%を占める製品群
  • B群:売り上げの20%程度を占める製品群
  • C群:売り上げに影響を及ぼしていない、ほとんど貢献していない製品群

ABC分析によって、自社が注力すべき製品群が分かり、販売促進計画を検討することができます。

7 マーケティングの4Pのまとめ

これまで、マーケティングの基本ともいえる4Pの手法や考え方を見てきました。マーケティング活動を行う上では、4Pの要素がそれぞれ単独で存在するわけではなく、より良い形に組み合わせて、「顧客満足度を高める」「利益を増加させる」ことを実現しなければなりません。

顧客の「製品やサービスに対する選択の自由度」は高まっています。顧客は豊富な種類の製品の中から、機能や品質、価格などを比較検討し、「本当に欲しい製品を厳選」して購買するようになっています。

企業は常に、顧客に選択される製品やサービスを開発して販売しなければなりません。

企業には顧客それぞれのニーズに合った、あるいは顧客それぞれに訴求力のあるマーケティングがますます求められているのだといえるでしょう。

以上(2019年12月)

pj70019
画像:pexels

オンライン診療の動向

書いてあること

  • 主な読者:オンライン診療を検討する医療機関など
  • 課題:オンライン診療に対してどの程度のニーズがあるのか、どのような課題があるのかを知りたい
  • 解決策:本稿では、各省庁の調査結果などから、オンライン医療の実施状況や、利用者の動向などを紹介している。自医院がオンライン診療を実施するか否かの参考材料として活用できる

1 オンライン診療の概要

オンライン診療は、一般的には医療機関と患者の自宅などをインターネットで結び、医療行為またはそれに準じる行為を行うものです。インターネットを経由するため、時間や場所の制約が少なく、外出が困難な高齢者の診療や遠隔地などでの導入・検討が進んでいます。

厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、オンライン診療は、「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」である遠隔医療のうち、「医師―患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」とされています。遠隔医療の分類は以下の通りです。

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2 オンライン診療のニーズ、認知

本稿では、各省庁の調査結果などから、オンライン医療の実施状況や、利用者の動向などを紹介します。

1)実施数

厚生労働省の資料「オンライン診療に関するアンケート集計結果」は、実際にオンライン診療を実施している医師を対象にした、オンライン診療を受ける患者数やオンライン診療を実施する際の課題などのアンケート結果を集計しています。

同アンケートにおける、オンライン診療を導入している患者数は次の通りです。

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2)ニーズおよび認識

同省の資料「平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」によると、オンライン診療に対する医療関係者の主なニーズおよび認識などについて調査結果が公表されています。

この調査によると、オンライン診療の実績がある医療関係者の58.3%が、「オンライン診療に対するニーズは少ない」と回答しています。また、オンライン診療の実績がある医療関係者の66.7%が、「オンライン診療を行うメリットが手間やコストに見合わない」と回答しています。

■厚生労働省 平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成30年度調査)の報告書案について■
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000493972.pdf

3)オンライン診療に対する利用者の動向

内閣府「平成29年 高齢者の健康に関する調査結果」では、全国の55歳以上の3000人を対象に実施された、インターネットで医療や健康に関してどのような情報を入手しているのかが示されています。「医療や健康情報のインターネットでの入手」に対する回答結果は次の通りです。

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3 オンライン診療の課題

オンライン診療の課題として一般的に挙げられるものとして、「患者の病歴などの個人情報の安全性を確保することが難しい」「通信環境の不良により患者との適切なコミュニケーションを取ることが難しい」「患者のカメラの光の加減や角度で適切な診断が難しい」「遠隔のため患者が正確な症状を伝えることができない・しない」などの課題があります。

厚生労働省の資料「オンライン診療に関するアンケート集計結果」によると、オンライン診察時のトラブルとして、次のようなものが挙げられています。

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4 医療機関のオンライン診療に対する意欲

医療関係者向けの情報を発信するエムスリーでは、2018年1月30日~2月5日に会員制サイト「m3.com」を通じてオンライン診療についてアンケートを実施しました(回答者数1535人)。

オンライン診療を現在実施しているとの回答は、全体の4%強にとどまり、勤務医の56.5%、開業医の73.4%が実施したいとは思わないと回答しています。一方で、勤務医の36.7%、開業医の20.3%が今後実施する予定または実施したいと回答しています。

なお、このアンケートでは、オンライン診療の普及に対しての賛否も調査しています。それによると、勤務医の42.0%が賛成、10.0%が反対と回答しているのに対し、開業医は21.2%が賛成、20.9%が反対と回答しており、オンライン診療に対する認識に違いがあることが分かります。

■エムスリー m3.com意識調査「『オンライン診療、実施予定・したい』、勤務医36.7%、開業医20.3%」■
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/585294/

5 自治体・医療機関の動向

1)愛知県:オンライン服薬指導

愛知県は、高齢化が進む離島(西尾市の一部、南知多町)や山間地(新城市、東栄町など)が国家戦略特区に指定され、離れた場所にいる患者に、薬の飲み方を指導するオンライン服薬指導に取り組んでいます。

愛知県によると、オンライン服薬指導を実施する薬剤師側には、患者が自宅に居ることで、患者のプライバシーが保たれることや、薬の残量も確認できるなどのメリットがあるものの、システムの操作方法の説明や、画面越しでの服薬指導のために、医療機関で指導するよりも手間と時間が掛かったそうです。

患者側からは、オンライン服薬指導は事前予約が必要で、予約した時間にシステムを起動させることが必須などの手間がかかったそうです。

2)茨城県石岡市:医療相談アプリを試験導入

住民1人当たりの小児科医の数が全国最少といわれる茨城県石岡市は、医師不足を解消する取り組みとして子育て世代を対象とした、医療相談アプリ「LEBER(リーバー)」の実証実験を行っています。リーバーは、AGREE(茨城県)が提供するアプリです。同アプリは、チャットボット(自動会話プログラム)が問診を行い、回答に沿って医師が市販薬の推奨や、適切な診療科などの情報を提供します。

同市へのヒアリングによると、このアプリの対象となる世代(石岡市内に居住し、0~3歳児のいる世帯)の約30%が既にユーザー登録を済ませているそうです。ユーザー登録が進んでいることの背景として、「日常的にスマートフォンを利用する子育て世代に向けた取り組みであることに加え、ダイレクトメールの送信や、石岡市の広報にアプリの情報を掲載したことなどが挙げられる」とのことです。(*)

一方で、今後の想定される課題として、「増加するユーザーの入退会の管理や、操作方法の分かりやすい説明が挙げられる」とのことです。(*)

また、医師からは「すきま時間」を有効に活用するために、新たにこのアプリで情報を提供できないかどうかの問い合わせを受けているそうです。

________________________________________
(*)茨城県石岡市(2019年9月13日時点)

以上(2019年12月)

pj50475
画像:photo-ac

【朝礼】考えたら行動する。それが基本だ!

今年の4月から偶数月に皆さんと個人面談をしています。12月で5回が終わったわけですが、この面談を通じて、皆さんがさまざまなことを考え、また意見を持っていることが分かりました。

例えば、「業務プロセスを改善したい」「若手の教育をもっと丁寧にやりたい」「業務の平準化を図って、全体の残業時間を削減したい」「資格を取得して、もっと自分のスキルを高めたい」など、とても素晴らしいものです。

ただ、残念なことがあります。それは、私が少し質問をしただけで、皆さんは自分の考えを言えなくなってしまうことです。私は決して難しい質問をしているわけではありません。「資格を取得したい」という人には、「何の資格を取得するのか、いつから勉強を始めるのか」といったことしか質問していません。また、「若手の教育体制を整えたい」という人には、「仕組みができるまでの間、あなたの残業が増えるかもしれませんが、よろしくお願いします」と言うと、「自分の残業が増えるのは嫌です」と答えます。しかし、残業をせずに若手の教育体制を整える具体的な方法を考えているわけではありません。

「『口だけ』で、しっかりと考えていないのだな」と感じます。「何かをやりたい」という気持ちの強さは人それぞれです。「本気でやりたい!」という強いものから、言ってみただけという程度のものまであります。皆さんのお話の多くは、言ってみただけ程度のものだったのでしょう。

しかし、私は、言ってみただけ程度でもいいと思っています。前向きに捉えるなら、何も考えていなければ口にすら出さないはずですから、それほど気持ちは強くなかったとしても、「やりたい!」という気持ちがあるのは確かなはずです。

少し寝坊をした休日。ランニングや買い物など、やりたいことがあるけれど、ダラダラとしているうちに気付いたら夕方になってしまい、結局何もしなかったという経験はありませんか。人は、「面倒だ」「難しい」と感じることほど、勢いで始めてしまわないと、なかなか行動に移すことができません。やりたい気持ちがあまり強くないことについても、これと同じです。

実際に行動をしてみると、やりたい気持ちが高まったり、逆に自分が求めていることではなかったと気付いたりします。結果として、三日坊主で終わるものもありますが、行動を起こさなければ分からないことなのです。

言ってみただけ程度でも、それを行動に移すことさえできれば、それが皆さんの成長のきっかけになります。ここで皆さんにお聞きします。皆さんは、私にいろいろなことを話してくれました。「それで、皆さんは行動しますか、考えているだけで終わりますか?」

次の個人面談は2カ月後です。もちろん、私が個人面談で聞きたいのは、皆さんの本気です。今朝の朝礼をきっかけに皆さんが行動し、やりたい気持ちが高まれば素晴らしいことです。

以上(2019年12月)

pj16985
画像:Mariko Mitsuda

休暇明けに部下が元気に出社してくるための秘訣/若手社員が採用できる、辞めない職場づくりのヒント(4)

1 正月休み明け、上司への審判が下る?

本人に代わって会社と退職の手続きを行う「退職代行」というサービスをご存じでしょうか。2019年は、このサービスが急速に広まった年でした。メールやLINEで依頼するだけで、本人はその瞬間から会社と一切関わることなく退職できるのが、人気の理由のようです。我々、ツナグ働き方研究所が“入社3年目までの若者1000人”に聞いたところ、退職代行を知っていると回答した男子の47.5%が“退職代行を利用したい”という驚きの調査結果が出たほどです。

特に長期休暇の後は、退職代行が活躍しやすい季節です。実家に帰省して親と話したり、学生時代の友人と会ったりすることで、人生について見直すことが多いのです。

最近の若者は、SNSでいろんな人とつながっています。オンライン社会の中で“見て見られて”という生活を送ることで、無意識のうちに他人と自分を相対比較することが習慣化しています。だから久しぶりに会った友人の状況にも敏感。同世代がイキイキ働いている話を聞くと、自分の職場と比較して悶々とします。ただでさえ、あっさり辞めてしまう世代です。急激にモチベーションが下がり、休みが明けても出社することなく退職代行を頼む。こういう展開が容易に想像できます。

職場の若手が、お正月明けにちゃんと出社してくるか。それは彼らがどのようなコンディションで働いていたのかにかかっています。上司にとっては、日々のマネジメントに審判が下るドキドキの2020年仕事始めとなるかもしれません。

年始に元気よく部下が出社してくれることを願わない上司はいないでしょう。前置きが長くなりましたが、本稿では、拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』をもとに、若手部下に対して、日ごろからどのようなコミュニケーションを取っておくことが重要なのか、について述べていきます。

2 俄然、注目を浴びる心理的安全性

「心理的安全性」という言葉をご存じでしょうか。他人の反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境を指す心理学用語です。グーグル(アルファベット社)が、自社のプロジェクト運営研究結果から、「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と発表したことから、注目を集めるようになりました。ビジネスシーンにおいて、本来の自分とは大きく異なる仕事用の人格を演じることではなく、普段通りのリラックスした状況で仕事に臨むことができる状態がベスト。そうGAFAの一角をなすITの巨人が言うわけですから、かなりの説得力です。

特に若者にとって、この心理的安全性はとても重要な意味があります。前述のように、いまの若者世代はSNSの中で“見て見られ”という生活に慣れ親しんだことで、過剰なくらい忖度をしがちです。同僚からバカにされないだろうか、上司から叱られないだろうか……。彼らは常にまわりの目を気にしているのです。そんな若者に「自分はここにいていいんだ」「何を言っても否定せずに受け止めてもらえるんだ」という居場所を提供することが極めて重要なのは、言うまでもないでしょう。

では、どうやったら職場の若者に心理的安全性を提供できるのか。

オトナ世代と若者の価値観には大きなギャップがあります。そのギャップを少しでも埋めていくことです。ひと言でいえば「彼らの価値観を理解し、彼らを承認していく」ということに他なりません。

3 理不尽なタテ社会を嫌悪

ここまでも再三述べてきたように、彼らは「SNS村社会」とも呼ぶべきオンライン空間の住人です。SNSを駆使することで、会ったことのない人とも容易につながり、仲間関係が横へ横へと広がっていきます。そこには年上も年下もなく、経営者でも会社員でも、あるいは外国人であっても、個と個でつながっています。

このように、フラットでボーダレスな「ヨコ社会」で生きている若者からすれば、職場や会社という枠組みは、それほど大きな意味を持ちません。まず組織ありきで働くのではなく、なんらかの目的があって集まった人たちという感覚です。ですから仕事の仕方も、上司や先輩の指示で盲目的に動く「上意下達型」ではなく、いろんな人と協力しながら進める「プロジェクト型」を志向します。

そんな若者にとって理想的な上司と部下の関係とはどういうものでしょうか。

彼らが望んでいるのは「仲間」です。人生の先輩と後輩でもなく、ましてや師匠と弟子ではなく、ひとつの仕事を協力して成し遂げる仲間であることを彼らは求めています。

仲間なのだから、どちらかが威張るのはおかしい。困っている相手を助けようとしないのもおかしい。ましてや、どうしていいかわからないでいる部下に対し、「自分で考えろ」とか「いちいち聞くな」などと言う上司は、仲間として不適格だと彼らは判断します。

オトナ世代は、上から降りてきた話はとりあえず受け止めてきたと思います。上司や先輩が言っていることを「上から目線」とは思いませんし、多少の疑問や不満があっても「それが仕事」だと自分を納得させてきたことでしょう。しかし若者たちは、これを理不尽ととらえます。また「自分のほうが上」とばかりに知識をひけらかしたりする上司には、忌むべきタテ社会の象徴として、相当なアレルギー反応を示します。

4 仲間的な上司が持つファシリテーション思考

「仲間的な上司」と言われても、しっくりこない人もいるでしょう。そんな友達みたいな関係性で組織マネジメントができるわけがないと感じる人もいるでしょう。

もう少し補足すると、強烈なリーダーシップで組織を引っ張るというより、サポートシップでチームを支援する意識のことを指しているのです。ファシリテーション思考ともいえます。

分かりやすい事例で言うと、青山学院大学陸上部監督の原晋氏。フレンドリーな指導に定評があり、体育会系にありがちな部員の上下関係も廃しました。トータルでの目標タイムを決めて各選手に割り振るのではなく、個々の選手がどのくらいのタイムで走りたいかを会話しつつ、その積み上げで目標タイムを作っていく、という話を聞いたことがあります。こうした上から目線ではなく横から目線、もっと言うと下から目線のコミュニケーションで、チーム内の自発的活動性を高めているのです。箱根駅伝4連覇という成果が、若者のハートを掴んでいる何よりの証拠でしょう。

仲間的な上司像の輪郭を具体的にしてみると、こんな感じでしょうか。

  • 細かく口を出すのではなく、スタッフに権限を与えてくれる
  • スタッフの成功やプライベートの充実、健康に関心を示してくれる
  • 良い聞き手であり、情報共有を円滑にする良いコミュニケーターである
  • チームをサポートするために必要な専門的技術やスキルを持っている
  • 組織への帰属意識を高めるために明確なビジョンを掲げている

5 承認は最強のコミュニケーション

ここからは「承認」についてのメソッドを解説しましょう。ポイントは至ってシンプル。コミュニケーションの「質より量」を意識することです。最近の若者は雑談が苦手だとか、興味のない話をしたがらないなどといわれます。みなさんの職場にも、黙々とデスクに向かっていて「話しかけないでオーラ」が出まくっている若者がいるかもしれません。

しかし若者は人と関わることが嫌いなわけではありません。面倒なタテの人間関係が苦手なだけで、「居心地のいいフラットな人間関係」自体は強く求めています。むしろ、インスタグラムでフォロワーが、自分の投稿に何も反応しなくなると不安でたまりません。職場でも「見てもらえているか」どうかを、かなりセンシティブに捉えています。だからこそ、承認の第一歩は、こまめなコミュニケーションから始まるのです。

これは、褒め方にも共通するポイントです。

例えば、いつもしかめっ面で怒ってばかりの厳しい師匠が、最後の最後で「よく頑張ったな」とポツリ。またしかめっ面で歩き出す師匠の背中を、目に涙を浮かべた弟子が追いかけていく……。若者はこんな「ドラマティックな光景」は望んでいません。渾身の大褒めよりむしろ「プチ褒め」が望まれています。

部下の長所を見つけて褒めるのが理想ですが、「プチ感謝」でも十分効果的。例えば報連相には必ず「ちょい足し」して返す。言葉はなんでも構いません。「よくなったな」と褒めてもいいし「大変だったろう」と共感してもいいし「助かったよ」と感謝を伝えてもいいでしょう。

褒めることは、相手を承認することに直結する最強のコミュニケーション。オトナ世代はフェイスブックやインスタグラムでいいね!を押し合う若者世代に対して、ぜひ意識的に取り組んでいただきたいですね。

6 レスポンスも素早くこまめに

若者からの報告や相談がメールであったとき、「ちゃんと答えないとマズいから、後にしよう」なんて1日寝かせたりした経験はないでしょうか。プレイングマネージャーだったりすると、自分の仕事も忙しいので、なかなかすぐには返答できない場面もありますよね。そんなときは、素早くベストな回答をしようとせず、一言だけも即レスしておけばOKです。

若者はノーレス状態に「あれ?」と思ってしまいます。「何か変なこと送っちゃったかな」「もしかして自分は軽く見られているんじゃないか」などと勝手に不安になったりします。この価値観に大きな影響を与えているのが、いうまでもなくラインです。既読スルーが許されないのは「SNS村社会」の典型的なマナーのひとつ。彼らはとりあえずであろうがレスを怠りません。スタンプひとつでも必ずリプライします。そのくらい、とりあえず一言返すことは重要なのです。少なくともオトナ側の事情で寝かせたりするより、よっぽどマシに見えるはずです。

「ありがとう」とか「後で返すね」と送るだけで、相手には「ちゃんと見てるよ」というメッセージが伝わります。レスポンスも、相手を承認する重要な行為なのです。繰り返しますが、職場においても「既読スルー」は許されません。

7 名前で呼ぶ効能

自分の名前が呼ばれたとき、自分のことを呼んだ人に対して好感を抱くことは、心理学においてネームコーリングという効果で知られています。人間は無意識に自分の名前を好ましいものとして捉えているため、名前を呼ばれると自分に好意があるのではないかと考えるのです。

部下を名前でちゃんと呼ぶ。めちゃくちゃ簡単ですが、これだけでも承認欲求を満たすことになるのなら、実践しない手はありません。例えば会議中、「今、○○さんが言ってくれたみたいに……」などと、わざわざ名前を添えて発言する。挨拶も「おはよう」じゃなく「○○さん、おはよう」。なにか業務をオーダーするときも「あのさ、これお願い」じゃなく「○○さん、これお願いね」。普段の会話の中に、部下の名前を差し込んでいく。この繰り返しが、相手の存在をしっかりと認めることにつながるのです。

また許されるのであれば、あだ名で呼び合うようにするのも効果的。SNSの中でいくつものハンドルネームを使い、キャラを確立している若者からすると、どんなふうに呼ばれるかは、個性や自意識と直結しているのです。

あの面白法人カヤックでも、新人にあだ名をつけることが文化として根付いているとのこと。名字が武田なら「鉄也」とか、名字が浅利なら「ボンゴレ」とか、ものすごく安直ではあるらしいのですが、確実に親近感が増します。

8 まとめ

連休明けなどは、職場の若者が辞めやすい時期。年始に部下が元気よく出社するためにも、上司としては日ごろから、次のようなコミュニケーションを心がけるべき。

  • 職場の若者に心理的安全性を提供することがとても重要
  • そのためには、職場の若者の価値観を理解・承認することが必要
  • 上から目線ではないファシリテーション思考を心がける
  • 質より量のコミュニケーション(プチ褒め・プチ感謝の実践)
  • レスポンスも素早くこまめに
  • 名前をちゃんと呼ぶことでも承認感は高まる

以上(2019年12月)
(執筆 平賀充記)

pj90143
画像:NDABCREATIVITY-Adobe Stock

豊臣秀吉(武将)/経営のヒントとなる言葉

「信長公は勇将なり、良将にあらず。剛の柔に克つことを知り給ひて、柔の剛を制することを知られず」(*)

出所:「名将名君に学ぶ 上司の心得」(PHP研究所)

冒頭の言葉は、

  • 「部下から恐れられるような態度を取っていては、良いリーダーとはいえない。リーダーは、部下の心情、部下の視点に配慮することが求められる」

ということを表しています。

秀吉は織田信長に仕え、こまやかな心配りや機転の良さによって、頭角を現したことで知られ、こうした秀吉の特性は次のエピソードにも見られます。

ある日、秀吉は信長から、城の薪代がかさんでいるため、節約を図るように命じられて、薪奉行を任されます。それを受けて、秀吉は台所で使用する薪代や、暖房として必要な薪代などについて関係者に話を聞き、使用量を調べたところ適正量であり、薪代がかさんでいるのにはほかの原因が考えられました。

秀吉は次に薪の流通経路に着目しました。すると、薪の生産地から城に運び込まれる間に、多くの中間業者が存在し、マージンを受け取っていることが明らかになったのです。また、一説によると、秀吉の前任の薪奉行は中間業者から賄賂を受け取っていた可能性もあるようです。

そこで、秀吉は中間業者を通さない新たなルートで、薪を調達することを思い付きます。そうすれば、前任の薪奉行が不正を働いていたことは公になることはありません。秀吉は、領内の村を訪ねて回り、薪として使用できる古い木を無料で城まで運び、古い木と引き換えに苗木を渡すという交渉を取り付けました。この秀吉のやり方に信長は満足しました。また、「不正が明るみに出ないように」という秀吉の配慮に対して、前任の薪奉行も感謝したようです。

秀吉は「主である信長の命令にさえ応えられればよい」「自分さえ手柄を立てられればよい」という上下関係の視点だけではなく、前任の薪奉行、領内の村など多くの関係者が満足するようにうまく利害を調整しています。

秀吉の成功には、信長に取り立てられて力をつけていったという側面だけでなく、自ら周囲の人をうまく巻き込んで、もりたててもらったという見方ができるのではないでしょうか。

秀吉は低い身分から後に天下人にまで出世を果たしますが、こうした過程で秀吉は自分が臣下の立場で感じた、リーダーに対する思いを、自らがリーダーになった際に生かしています。

例えば、冒頭の言葉は主君であった信長の非情な性格について秀吉が言及したものの一部で、信長は恐れられこそすれ愛されることがなかったリーダーであり、こうした信長の性格が明智光秀の裏切りを招いたと、冷静に分析しています。

また、信長に仕える以前の主であった松下之綱の下を、将来性が無いと感じて去る際に、次のような言葉を残したとされています。

「およそ主人たる者、一年使ひ見て、役に立たぬ時は暇を遣はし、家来としては、三年勤めて悪ししと知らば、暇を取ること、法なり」(**)

秀吉は多くの臣下を抱える主となった後も、“臣下の心情”“臣下の視点”に配慮して接したことで、竹中半兵衛、黒田官兵衛など、多くの才能ある将を引き付けたのかもしれません。

リーダーはリーダーであり、部下とは同じ立場に立てるわけではありません。リーダーに求められるのは、組織を健全に保つため、律するべき部下を律し、引き上げるべき部下を引き上げるということです。リーダーはミスを犯した部下を叱責しますが、その目的はその部下に同じミスを犯さないように気付いてもらうためです。一方、良い仕事をした部下を引き上げますが、その目的は、その部下のやる気を高め、組織全体に良い影響を与えるためです。決して、リーダーの個人的な好き嫌いによって、部下への処遇や評価が変わるわけではありません。

こうしたリーダーの姿勢は、マネジメントの基本ですが、さらに部下への配慮や気遣いというエッセンスを加えることで、その効果を高めることができます。

部下は、リーダーと部下の置かれている立場が異なることを理解しています。だからこそ、リーダーの部下への配慮や気遣いを感じた部下は、そうしたリーダーの姿勢に応えたいと思い、一生懸命に仕事に取り組んでくれるでしょう。

部下への配慮や気遣いとは、部下のためだけではなく、リーダーを助け、結果的に組織の発展へとつながるものだといえるでしょう。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

とよとみひでよし(1537〜1598)。尾張国(現愛知県)生まれ。織田信長の下に仕え、後に天下統一を実現。

【参考文献】

(*)「名将名君に学ぶ 上司の心得」(童門冬二、PHP研究所、2007年5月)
(**)「戦国武将のひとこと」(鳴瀬速夫、丸善、1993年6月)
「戦国武将のマネジメント術 乱世を生き抜く」(童門冬二、ダイヤモンド社、2011年3月)

以上(2019年12月)

pj15147
画像:Josiah_S-shutterstock

売上の計上時期が変わる!? 新たな収益認識基準とは

書いてあること

  • 主な読者:大企業を取引先にもつ中小企業の経営者・経理担当者
  • 課題:2021年4月1日以後に開始する事業年度から、中小企業を除くすべての企業は、新しい収益認識基準を適用しなければならない
  • 解決策:従来の会計基準の違いや、ポイント、中小企業が注意すべき点を解説

1 新しい収益認識基準の公表

企業会計基準委員会(日本における会計基準の設定主体。以下「ASBJ」)は、2018年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「本会計基準等」という)を公表しました。

本会計基準等における新たな収益認識基準は、上場・非上場企業であるかを問わず、中小企業を除く全ての企業に適用されることになります。なお、2018年4月1日以後に開始する事業年度より任意で適用が開始され、2021年4月1日以後に開始する事業年度からは強制適用されます。

本会計基準等の適用により、収益の認識単位・金額・タイミングが変わる可能性があり、これに対応するためには、企業の収益認識に及ぼす影響の把握と、正しく収益認識を行うための事前準備が必要となります。

本稿では、収益認識基準が新しくなった背景を解説したうえで、新たな収益認識基準のポイント及び中小企業に想定される主な影響を紹介します。

2 新たな収益認識基準が公表された背景

従来の日本における収益認識基準は、企業会計原則の損益計算書原則において「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準がこれまで開発されていませんでした。

一方、国外では、国際財務報告基準(以下「IFRS」)を策定している国際会計基準審議会(以下「IASB」)と、米国における会計基準を策定している米国財務会計基準審議会(以下「FASB」)が、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、2014年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic606)を公表しました。

これらの状況を踏まえ、2015年3月に開催されたASBJ会議において、日本における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後2016年2月に適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(以下「意見募集文書」という)が公表されました。この意見募集文書に寄せられた意見等を踏まえ審議が進められ、2017年7月20日に収益認識に関する会計基準等の公開草案を公表し、当該公開草案に対して寄せられた意見等について検討が行われてきました。

そして、2018年3月26日開催のASBJ会議において、企業会計基準第29号及びその適用指針第30号(以下、合わせて「本会計基準等」)が承認され、本会計基準等が同年3月30日付で公表されました。

3 従来の会計基準との主な違い

従来から多くの企業が契約(または受注)単位で収益を計上しています。一方、新たな収益認識基準では、その契約の中に複数の履行義務(顧客に対して、財またはサービスを提供する約束)がある場合、その履行義務ごとに収益認識の「単位」「金額」「タイミング」(詳細は後述)を判断することになります。例えば、製品の販売に付随して、無償で修理を行うなどのアフターサービスを付けた場合、製品の単価とアフターサービスの単価ごとに売上の単位・金額・タイミングを認識することが考えられます。

4 新たな収益認識基準のポイント

新たな収益認識基準の基本原則は、約束した財またはサービスの顧客への移転を、当該財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額によって収益の認識を行うことです。また、この基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用することになります。

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1)ステップ1:契約の識別(単位)

顧客との契約を識別します。本会計基準等では、顧客と合意し、かつ、所定の要件を満たす契約に適用されることになります。

2)ステップ2:履行義務の識別(単位)

契約における履行義務を識別します。契約において、顧客へ提供することを約束した財またはサービスが所定の要件を満たす場合には、別個のものであるとして、当該約束を履行義務として区別して識別することになります。

3)ステップ3:取引価格の算定(金額)

取引価格を算定します。変動対価または現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響及び顧客に支払われる対価について調整を行い、取引価格を算定することになります。

4)ステップ4:取引価格の配分(金額)

契約における履行義務に取引価格を配分します。契約において約束した別個の財またはサービスのそれぞれの独立販売価格の比率に基づき、それぞれの履行義務に取引価格を配分します。独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積もることになります。

5)ステップ5:収益認識(タイミング)

履行義務を充足したときに、または充足するにつれて収益を認識します。約束した財またはサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足したとき、または充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識します。履行義務は、所定の要件を満たす場合には一定の期間にわたり充足され、所定の要件を満たさない場合には一時点で充足されます。

5 重要性等に関する代替的な取扱い

本会計基準等においては、これまで行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性(財務諸表の期間比較や、他社比較が可能なこと)を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めています。なお、重要性の判断については、公認会計士などの専門家が判断することになります。

1)契約変更(上記ステップ1関係)

契約変更による財またはサービスの追加が、既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合の処理の取扱いがあります。

2)履行義務の識別(上記ステップ2関係)

提供することを約束した財またはサービスが、顧客との契約の観点で重要性に乏しい場合には、当該約束が履行義務であるかについて評価しないことができます。

3)一定の期間にわたり充足される履行義務(上記ステップ5関係)

工事契約について、契約における取引開始日から、完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。また、受注制作のソフトウエアについても、工事契約に準じて同様に適用することができます。

4)一時点で充足される履行義務(上記ステップ5関係)

商品または製品の国内の販売において、出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転されるときまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転されるときまでの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができます。

5)履行義務の充足に係る進捗度(上記ステップ5関係)

一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、当該契約の初期段階で収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積もることができるときから収益を認識することができます。

6)履行義務への取引価格の配分(上記ステップ4関係)

履行義務の基礎となる財またはサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、当該財またはサービスが、契約における他の財またはサービスの付随的なものであり、重要性に乏しいと認められるときには、当該財またはサービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチ(契約における取引価格の総額から、契約において約束した他の財またはサービスについて、観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積もる方法)を使用することができます。

7)契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(上記ステップ1、2及び4関係)

一定の要件を満たす場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている顧客に提供する財またはサービスの内容を履行義務と見なし、個々の契約において定められている当該財またはサービスの金額に従って収益を認識することができます。

6 中小企業に想定される影響

新たな収益認識基準は、上場・非上場を問わず、中小企業を除く全ての企業に適用されることになります。なお、中小企業においては、「中小企業の会計に関する指針」が適用されることになりますが、今後、当該指針の見直しが行われることも考えられます。

その場合には、事前に顧客との契約を見直し、企業内の管理体制を整備することが求められます。企業の会計・経理担当者は、収益の認識に関して「契約の識別」をするために法務担当者と連携しながら、契約の成立時点を契約書等に照らして確認しておくことが必要です。

また、「履行義務の識別」をするためには、契約書の条項に照らし、顧客に提供することを約束した財またはサービスのそれぞれについての履行義務を、あらかじめ確認しておくことも必要になります。

さらには、企業が想定する実態に合った収益認識を行うために、取引先と契約内容(契約条項など)を見直すことが必要となるかもしれません。

例えば、上記「ステップ1:契約の識別」の段階においては、そもそも契約の成立が特定されない限り、企業は収益を認識することができません。現行では、実務上個々の取引契約書や受注書・注文書によって企業の代表者名義による書面を取り交わしていない場合には、新しい収益認識基準に基づく収益認識にあたっては契約の識別が困難になる可能性があります。仮に、取引基本契約書が存在するのであれば、個々の取引契約の成立を容易に説明できる契約条項を織り込んでおくことが必要です。

また、そもそも企業の代表者名義による書面を取り交わしていないような場合には、契約の識別を容易に行えるように客観的な証拠を残す工夫が必要であると考えられます。上記「ステップ2:履行義務の識別」の段階においては、財またはサービスの給付対象だけでなく、それに付随して提供される財またはサービスの約束(販売インセンティブやポイントの付与など)等も含めて履行義務を特定しておくことが必要となります。

さらに、大企業との取引がある中小企業については、「中小企業の会計に関する指針」の見直しの有無にかかわらず、上記のような契約の見直し等を求められる可能性も考えられます。

以上(2019年12月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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ABCの考え方/コスト削減の教科書

書いてあること

  • 主な読者:取コスト削減を図りたい製造業の部門担当者
  • 課題:コスト削減のための具体的なフローを知りたい
  • 解決策:ABC(Activity-Based Costing:活動基準原価計算)を利用したコスト削減方法を実践してみる

1 ABCの考え方

1)ABCとは

ABC(Activity-Based Costing:活動基準原価計算)は、原価計算手法の1つです。ABCでは、さまざまな企業活動(アクティビティ)を基準に原価を集計します。その特長は、従来の原価管理手法では詳細に把握することができなかった間接費を、より正確につかめることにあります。製造業におけるABCのイメージは次の通りです。

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2)業務プロセスの明確化

自社の業務プロセスを、フローチャートなどを用いて明らかにします。製造業の業務プロセスは、一般的に「購買→材料在庫→製造→製品在庫→販売」などの主要業務、「経理」「人事」などの支援業務に分けられます。

3)業務をアクティビティに細分類

主要業務の「製造」に注目します。管理者や実務担当者にヒアリングすると、「製造」は、さらに「材料出庫」「段取り」「加工」「組み立て」「検査」「梱包」などのアクティビティに細分類できるでしょう。

4)アクティビティごとのコストを把握

アクティビティごとのコストは、単価と時間と回数を掛け合わせて計算します。そのため、前述したヒアリングの際に、作業時間や回数についても明らかにすることが重要になります。

5)労務費以外への展開

アクティビティを行うために投入する経営資源を、金額に換算してコストを把握します。業種やABCを活用する目的などによって異なるため一概には言えませんが、製造業の場合、次のように考えられます。

  • 材料費:原材料などに関する費用で、原材料費や買入部品費など
  • 労務費:従業員を雇用することにより発生する費用で、賃金や法定福利費など
  • 経費:材料費と労務費以外の費用で、賃借料や水道光熱費など

「材料費」「労務費」「経費」の3つの費目は、従来通りの原価計算で直接費と間接費に分類できます。ABCが主に対象とするのは、製品などに直接配賦することのできない間接材料費・間接労務費・間接経費です。

2 ABCの活用例

1)業務プロセスを明確にする

最終消費財メーカーX社の生産部門における製造業務を例に、ABCの活用例を見ていきます。X社の生産部門における業務プロセスは次の通りです。

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X社では、原材料の仕入先から材料を購入し、それを加工・組み立てることで製品化しています。完成した製品は製品在庫として一時保管した後、注文に応じて出庫されることになります。また、これら一連の製造部門のプロセスは、現在の製品在庫量や受注量などを勘案した上で作成された、生産計画に基づいて実施・管理されています。

2)アクティビティを明確にする

X社では、作成したフローチャートを基に、各部門の責任者などへのヒアリングを実施しながら、各業務のプロセスのアクティビティを明確にし、製造部門のアクティビティを「材料出庫」「段取り」「工程待ち」「加工・組み立て」「検査」「梱包」の6つに分類しました。X社の製造業務のアクティビティは次の通りです。

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3)投入要素の算出

X社では、製造原価報告書などの財務データを基に、製造業務で発生している費用を次の4つの投入要素に分類しました。

  • 間接材料費:補助材料費など製造部門で使用している直接材料費以外の費用
  • 労務費:従業員の賃金など製品の製造にかかった費用
  • 設備関係費:経費の中で製造部門に配置されている機械類に関わる修繕費など
  • その他経費:上記以外に発生する費用(水道光熱費など)

労務費およびその他経費は、各アクティビティに関する費用をできるだけ正確に把握する目的から、直接労務費・直接経費を含むこととしました。これら4つの投入要素を業務ごとに分析した結果、製造業務の4つの投入要素は次の通りで、合計1850万円となっていることが分かりました。

  • 間接材料費:100万円
  • 労務費:1200万円
  • 設備関係費:350万円
  • その他経費:200万円

4)投入要素別コストの算出・配賦

X社では、間接材料費は全て「加工・組み立て」で発生しているため、このアクティビティに配賦しました。また、「労務費=作業時間」「設備関係費=(機械設備の)稼働時間」「その他経費=作業時間」と配賦基準を定め、それに従って投入要素を各アクティビティに配賦して算出しました。

X社の製造業務のアクティビティコストは次の通りです。

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5)アクティビティコストを各製品に配賦する

X社では、製品Aと製品Bを製造しています。これらを製造するのにかかった作業時間・稼働時間を基にアクティビティごとの単価を算出し、「4)投入要素別コストの算出・配賦」でアクティビティ別に算出されたアクティビティコストと掛け合わせると、製品別コストが算出されます。X社の製造業務における製品別コストは次の通りです。

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X社の製造業務における製品別コストは、次の結果になりました。

  • 製品A:1071万円
  • 製品B:779万円

3 ABCをコスト削減のために活用するには

1)付加価値を生み出さないアクティビティに注目する

本来、自社の業務は、「部品を加工・組み立てて製品にする」など、新たな付加価値を生み出すために行われることが理想です。しかし、実際には、付加価値を全く生み出さない、あるいは付加価値をほとんど生み出さない業務が見られる場合があります。

ABCでは、現在の自社における業務プロセスと、その業務プロセスを構成している具体的な活動(アクティビティ)を明確に定義します。すると、削減すべき付加価値を生み出さないアクティビティを把握することができます。

例えば、X社の製造業務プロセスにおいては、「工程待ち」は全く付加価値を生み出さないため無駄であり、できる限り「工程待ち」の時間をゼロに近づけることが理想です。また、「段取り」は「加工・組み立て」を行うために欠かすことのできないアクティビティですが、それ自体に付加価値はないため、「段取り」の時間を短縮する取り組みが必要です。

ABCでは各アクティビティにかかるコストも明確にしていることから、無駄なアクティビティの削減に対する取り組みの効果や、進捗状況などを具体的な金額として、定量的に把握できるというメリットがあります。

2)コストの高いアクティビティに注目する

ABCをコストダウンに活用する際のもう1つの視点は、コストの高いアクティビティに注目することです。もちろん、コストが高いアクティビティでも、それに見合うだけの付加価値を生み出していれば、経営資源が適正に配賦されているということになります。

しかし、コストの高いアクティビティには、無駄なコストを生み出す要因が潜んでいることがしばしばあります。そのため、コストの高いアクティビティを細分化してより詳細に分析を行い、無駄なコストが発生していないかを確認することが必要です。

以上(2019年11月)

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画像:pixabay