ディスカッションを通じて、ビジネスを広げる!/半歩先行く中堅社員(15)

企画を担当する中堅社員のAさんは、自分の主張を述べますが、自分の意見に固執することが問題です。今日の会議でも、Aさんは自分の考えを一気にまくし立てた後、「ふぅ~」と一息ついて椅子に深々と座り込んでしまいました。

それでも、参加者のうちの何人かはAさんの意見に興味を持ったようで、Aさんとディスカッションしようとしました。しかし、Aさんはうまく意見をやりとりすることができません。そればかりか、何だかんだと言いながら、結局、最後は自分の意見を押し通そうとしてしまいます。

深まらない議論に業を煮やした参加者は、Aさんとのディスカッションを諦めてしまいました。Aさんと一緒に会議に参加し、一連の動きを見ていた課長がAさんに言いました。

「Aさんのアイデアは、他の人の意見を取り入れたらもっとよくなるよ。そのチャンスがたくさんあったことに気付いてた?」

「1×1」は幾つになりますか?

人とディスカッションして知恵を出し合うと、新たな発見があります。そのまま意気投合して新しいビジネスが始まることもあります。「1×1」の結果が10にも100にもなるという、“プラスサムゲーム”のイメージでアイデアが広がる感覚です。

しかし、ディスカッションが苦手な人は“ゼロサムゲーム”のイメージで捉えています。議論をしているだけなのに、「相手に“マウント”をとられないようにしたい」「言い負かされないようにしたい」と、勝負のように考えてしまうのです。

“ゼロサムゲーム”のディスカッションから、ビジネスの可能性が広がることはほとんどありません。また、ディスカッションを、正しいか間違っているかの証明、あるいは勝負と捉えている参加者がいると、その時点で議論が停滞して前に進みません。

こうした失敗をしないように、中堅社員は“ディスカッション上手”にならなければなりません。以降で、そのために重要となるポイントを紹介していきます。

ディスカッション上手になるために

1)まずは、己を知る

自分と相手の意見がかみ合わない主な理由は次の通りです。

  • 向かっている方向が違う
  • 向かっている方向は同じでも、持っている情報が違う
  • 最初からディスカッションするつもりがない

ビジネスでは、まれに3.のケースに出くわします。その場合は“ツイてなかった”と諦め、早々にディスカッションを打ち切るしかありません。“損切り”の感覚です。

大切なのは、1.と2.の場合です。これらは、正しいか間違っているかを証明するという“戦闘モード”でいると、なかなか見えてこないので、まずは冷静になって、ディスカッションの場を俯瞰(ふかん)してみましょう。その際、「自分の主張は何だっけ?」と再確認してみると、相手との違いが分かってきます。

もし、1.の問題でそもそもの方向性が違う場合、「右か左か」の打ち合いをするのは時間のムダなので、双方で歩み寄れる余地があるのかを確認するようにします。

2)相手の発言を自分に「入力」する

ディスカッションが苦手な人の特徴は、相手の発言を「うんうん」といかにも聞いているふうを装い、頭の中では次に何を言うか考えていることです。つまり、最初から相手の言葉など耳に入っていないわけなので、よい結果など出ないのです。

こういう人は、前述した2.のケースに当てはまり、損をします。向かっている方向が同じで、ビジネスの広がりが期待できる絶好の機会なのに、相手が持っている情報と自分が持っている情報とを擦り合わせることができないため、物別れに終わってしまうのです。

実際のビジネスでは、一方が正しくて、もう一方が間違っているということはほぼありません。大切なのは、自分の価値観を相手に伝えつつ、相手の発言からその価値観を探ることなのです。

「正解」のバージョンアップ

多くの会社では、「上司が言うことが正解」という感覚が根付いているかもしれません。権限や役職が正解と密接に関係している状況です。そうした環境に慣れている社員は、ディスカッションにおいて、発言の内容よりも、“マウント”をとって自分の立場を上にすることで自分の正当性を確保しようとしがちです。

しかし、技術も考え方も目まぐるしく進化する昨今、経験がちょっと長いだけで、その人の発言が常に正解であるはずがありません。その気になれば、360度、至る所から正解を導き出せる時代になったのです。

今、中堅社員に求められるのは、次の2つのことです。

  • 慣習にとらわれない柔軟性
  • 具体的に変革を進める勇気と行動

これができる中堅社員は、さまざまな知恵を取り入れ、具体的なビジネスに結びつけていくことができるはずです。「ディスカッションを、正しいか間違っているかの証明、あるいは勝負」などと小さく考えてはいけません。部下の“異見”を自分への反乱と捉えるのも問題外です。

視野を広く持ってください。会社の未来を切り開くのは中堅社員の皆さんです。

  • 中堅社員の皆さんにとって、自身の、そして会社の「あるべき理想の姿」とはどのようなものでしょうか?

その理想の姿を実現するために活動していきましょう!

Point

  • 中堅社員は、視野を広く持つ。「あるべき理想の姿」を考え、それを実現するために活動すべし。
  • 会社の未来は中堅社員にかかっている!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

「原点回帰」と言って格好つけるな!/半歩先行く中堅社員(14)

法人営業課に所属する中堅社員のAさん。新規顧客も定期的に獲得して勢いに乗っています。

しかし、ここで問題が起こりました……。

複数の既存クライアントから、「最近、“放置”されている。もっと提案をしてほしい!」などのクレームが寄せられるようになり、ついには契約解消先も出てきてしまいました。お客様第一がモットーのAさん。このままではまずいと反省し、心に決めました。

ここは原点回帰するしかない。しばらく新規営業を控えて、既存クライアントのフォローに回ろう!

次の日、Aさんはこのことを課長に相談しました。活動方針の見直しによって営業計画も変わってくるので、事前に承認を得ておこうと思ったのです。Aさんの報告を最後まで聞いていた課長が言いました。

「原点回帰は大事だが、本当にそれでいいの?」

原点回帰は攻めか守りか?

ビジネスで行き詰まったとき、「原点回帰しよう!」と、立ち止まることはよくあります。原点に立ち返り、会社や自分を見つめ直すことはとても重要です。冷静になり、見落としていた貴重なヒントが見つかることもあります。

どちらかというと、原点回帰という言葉にはプラスのイメージがあります。「今の問題を解決するために冷静になって、一から見つめ直す」「おごり高ぶってしまったことを反省し、一からやり直す」といった意味を感じ取ることができるからです。

しかし、実際はこうした前向きな意味合いのものばかりではありません。原点回帰という言葉が使われた文脈や、発言者のその後の行動を見ていると、言葉のイメージだけが先行し、何ら中身が伴っていないケースも少なくないのが実情です。

中堅社員も原点回帰を考えることがあるでしょう。では、その原点回帰に中身は伴っているでしょうか。少なくとも、以降で紹介する好ましくない原点回帰は避けなければなりません。

好ましくない原点回帰の2パターン

1)浅はかな原点回帰

1つの問題に過度に引きずられ、全体を見る視野を失った状態での原点回帰は浅はかです。冒頭のAさんの場合、既存クライアントで起きた問題を機に、お客様第一という原点に回帰するということであり、この姿勢は誠実に見えます。

しかし、既存クライアントの対応で、具体的にどこに問題があるのかを把握しようとしていません。それに、理想は好調な新規営業を継続しながら、既存クライアントの満足度も高めることであり、この可能性を追求しなければなりません。

にもかかわらず、お客様第一に徹すると言って新規営業をやめようとしています。新規を開拓できなければ、会社の収益にも悪い意味でインパクトを与えるわけであり、中堅社員として、Aさんの判断は、視野が狭過ぎると言わざるを得ません。

2)無策の原点回帰

業績不振の会社ほど、その経営戦略の中に原点回帰という言葉が踊ります。不振の原因を徹底的に検証することは大切ですが、その後の具体的な行動の裏付けがなければ意味がありません。

そして、裏付けのない原点回帰ほど“先祖返り”をしがちです。その時点で間違いを修正したものの、それが組織に浸透せず、いつの間にか修正前の間違った状態に戻ってしまうのが、ここでいう先祖返りです。もともと具体的な方針がなく、取り組み自体がブレているので、こうしたことが起こってしまいます。

原点回帰への“正しい”アプローチ

1)アクションプランとゴールを設定する

原点回帰をすること自体が、ゴールではありません。原点に立ち返った先で何を見つけたいのか、何を改善したいのかのほうが大切です。そして、それを達成するための具体的なアクションプランを立案し、実行する必要があります。

2)本当に原点回帰が必要かを考える

原点回帰は、それまでの活動の一部を否定することに他ならず、組織に与える印象も痛烈です。軽々しく原点回帰を口にする前に、今の課題を正しく把握し、そのレベルに合った対策を講じる冷静さが求められます。実際、仰々しく考える前に、スピード感を持って細かくPDCAを回したほうが、改善につながるケースは多くあります。

原点回帰を軽率に口にしない

中堅社員が直面する壁の1つは、思考の質と量です。複数のことを同時に考え、行動ベースにまで落とし込まなければなりませんが、思考することに慣れていないと、すぐに気持ちが一杯になり、思考停止の状態に陥ります。そうなったときに出てくる言葉はだいたい決まっていて、その中の1つが「原点に立ち返ってみます」だったりするわけです。

中堅社員に求められているのは、具体的なアクションと、分かりやすい成果です。思考停止は活動停止でもあるため、その状態では何も改善されません。原点回帰を軽率に口にする前に、もう一度、問題の本質を考えてみましょう。意外と身近なところに解決のヒントが転がっていることが珍しくありません。

Point

  • 軽率に「原点回帰」を口にしない。
  • 原点回帰を進めるならば、必ずアクションプランとセットにする!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

「決められる部下」を育てるには?/半歩先行く中堅社員(13)

取引先X社に、自社製品を最終プレゼンする大事な日。こちらからは中堅社員のAさんの他に、部長と課長が出席しました。また先方からは、社長をはじめ役員全員が出席しました。

熱のこもったAさんのプレゼンは大成功で、最後の質疑応答の時間となりました。そのとき、Aさんのスマートフォンが鳴りました。Aさんは無視していましたが、何度も着信があるのを見かねた先方の社長が、「急ぎの用件のようなので連絡をしてきたら。一旦休憩にするから」と言ってくれました。

Aさんは、おわびをしながら会議室を出て、着信履歴を確認しました。相手は留守を任せている部下のBさんです。早速Bさんに連絡してみると、慌てた様子で報告してきました。

「大きなトラブルが発生しました……」

しかし話を聞くと大した問題ではなく、Aさんは矢継ぎ早にBさんに指示を出したのでした。

「権限委譲」で「働き方改革」が進む

多くの上司にとって、「権限委譲」は古くて新しいテーマです。権限委譲によって部下に一定の裁量権を与えることで、自主性を育て、モチベーションを高めることを目指します。「働き方改革」を進めるためには、文字通り、「決められる部下」を育成し、マネジメントの負担を軽くすることが欠かせません。そして、指示待ちではなく、ある程度、自身の判断で仕事を進める部下を育成するために、権限委譲が大事です。

また、現場の中堅社員としては、部下に権限委譲しないと定例的な仕事に忙殺され、自身が本当に取り組むべき重要な仕事がおろそかな状況に陥ってしまうのです。

基本は委譲する権限の明確化

中堅社員としては、権限委譲を通じて自主性の高いチームを作りたいところです。そのための重要な第一歩は、委譲する権限を明確にすることです。部下が、自分の任された範囲を迷うようでは、自ら判断して行動することなどできません。まずは、取引先の担当、プロジェクトの役割、予算額など、比較的分かりやすい基準に基づいて権限委譲しましょう。

この他にも権限委譲で大切なポイントが2つあるので、以降で紹介します。

1)部下に意思決定の経験を積ませる

意思決定には一定の責任が伴うため、これに慣れていないと、必要以上に責任を重く感じ、尻込みしてしまいます。そこで、小さなことでいいので、部下に意思決定の経験を積ませます。

最初から、何も責任を負いたくないという部下は問題外ですが、通常は、場数を踏んでいくことで、意思決定することへの抵抗感や恐怖心が拭われていき、決めることに慣れてきます。

2)上司は部下を信頼する

部下に権限委譲したのであれば、上司は部下を信頼し、できるだけ部下が決めたことに口を出さないようにします。もちろん、取り返しのつかない結果を招きそうな場合は、上司は部下の意思決定を改める必要があります。しかし、ささいなことにまで上司が口を出してしまうと、部下は、「結局、何でも上司が決めてしまう」とやる気を失ってしまいます。

効率の悪い進め方をしているなど、上司の目からは多少問題があるように見えても、「部下の成長のため」と見守るくらいの余裕を持ちましょう。また、口を出すのであれば、「このままだと、大きなトラブルになる恐れがある」など、明確な理由を部下に伝えることが大切です。

悪いのはBさんだけではない

以上を踏まえた上で、冒頭のAさんのケースについて考えてみましょう。

最終プレゼンの最中という切羽詰まった状況で、Aさん自身も判断に迷うところです。ただ、「Bさんの権限で意思決定すべき案件である」と考えたのであれば、短い時間で省略した指示を出すよりも、思い切ってBさんに任せるべきだったかもしれません。大した問題ではなかったので、AさんとしてもBさんに任せやすい案件だったはずです。それに、Bさんにとって、意思決定のよい経験になります。

こうした意思の疎通は、上司と部下が離れた場所にいる場合に、より難しくなります。このあたりのマネジメントをそつなくこなすことが、これからの中堅社員に求められます。

そうした意味でいうと、Aさんは、自分への連絡がとりにくくなる時間を、Bさんに明確に伝えておくべきでした。そうすれば、よほどのことでない限り、その時間にBさんが連絡をしてくることはなかったでしょう。また、万一、トラブルが生じた場合に備え、まずはチャットツールで状況を共有するなどの対応手順を決めておくことも大切です。

「権限委譲」は意味づけとセットで!

権限委譲は、部下に対する仕事の丸投げではありません。上司が部下に期待していることをきちんと伝え、自分(上司)のやり方と違ったとしても、部下が目的に向かって自走することをサポートするものです。

かつては、権限委譲は“上司の期待の証し”でした。しかし、若い世代の部下は、「なぜ、その仕事を自分が行うのか?」という理由を求める傾向にあります。“部下が仕事をする理由”を伝えることがポイントです。

Point

  • 「決められる部下」を育てるには、部下に意思決定の経験を積ませつつ、権限委譲することが大切。
  • 仕事の意味づけも忘れずに!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

コーラとコーヒーを一緒に売るのは正しいのか?/半歩先行く中堅社員(12)

メディア運営会社に勤める中堅社員のAさん。日ごろから情報収集に余念がなく、社内会議でも新しいアイデアを次々と発表し、「動画を取り入れたほうがよい、やっぱり今の時代はAI(人工知能)でしょう。いや、この際アプリ化を進めるべきではないか!」といった感じです。

アイデアを出すのはよいことですが、会社のリソースは限られています。いくらチャレンジするとはいえ、あれもこれもと手当たり次第というわけにはいきません。また、会社には事業ドメインやブランドがあります。思い付きに振り回されて事業ドメインを逸脱したり、ブランドを損なったりすることはできません。

今日の会議でも活発に発言するAさんですが、相変わらず意見が散らかり気味です。見かねた課長が指摘しました。

「Aさん、いろいろと考えるのはよいけれど、本当に重要なのはどのアイデアなの? またそのアイデアはなぜ重要なの?」

コーラとコーヒーの落とし穴

会社が成長するには新たなチャレンジが必要です。異分野に取り組むのはリスクが高いので、既存の商品やサービスに関連する分野でチャレンジするのが1つのセオリーです。

ただし、こうした考え方がリアルのビジネスで常に通用するわけではありません。例えば、皆さんは「コーラなどの炭酸飲料(以下「炭酸飲料」)とコーヒーを一緒に売る」という戦略をどう評価しますか?

清涼飲料の代表格である炭酸飲料とコーヒーを一緒に売れば、収益の拡大が期待できるかもしれません。実際、清涼飲料メーカーは炭酸飲料もコーヒーも取り扱っています。

しかし、事業戦略の視点で考えると、炭酸飲料とコーヒーを一緒に売ることに問題があるケースもあります。

  • 中堅社員の皆さん、これがなぜだか分かりますか?

炭酸飲料とコーヒーは似て非なるもの

炭酸飲料とコーヒーは類似商品と思われがちですが、少し考えると想定される消費者や購入シーンが大きく異なることに気付きます。好みはありますが、一般的には炭酸飲料はスカッとしたいとき、コーヒーはホッとしたいときに飲むことが多いでしょう。

もし、会社が「炭酸飲料にかける!」という状況なら、安易にコーヒーに手を出すべきではありません。「炭酸飲料で勝負する」場合の戦略と、「炭酸飲料に加えてコーヒーも販売する」場合の戦略とでは、リソースの配分などが大きく異なります。それに、同時に2つのことに取り組むと、PDCAも2分の1以下しか回すことができなくなります。その結果、「どうなれば成功なんだっけ?」という、非常に根本的なところさえも曖昧になり、撤退の判断も鈍ってしまいます。

例えば、「炭酸飲料は好調。コーヒーは伸び悩んでいるが、足元では伸びつつある」といった場合にありがちなのは、「炭酸飲料とコーヒーを合算すれば利益が出ているし、コーヒーをもうちょっと頑張ってみようよ」という発想です。出発点は炭酸飲料で、その収益をもっと拡大するチャンスがあるのに、着手したコーヒーに愛着が湧いてきて撤退できず、機会損失が大きくなってしまうのです。

ビジネスは行動しなければ始まらないので、「取りあえずやってみる!」というのは悪くありません。しかし、思い付きに近い状態で着手してよいのは、「今すぐに低コストでできて、撤退も簡単なもの」だけです。

思い付きをビジネスプランに変える!

以上のことを踏まえた上で、中堅社員は次の“飯のタネ”を見つけなければなりません。最近は、フラットで多様性のある組織運営を目指す会社が増えています。そうした会社では、社員のアイデアに真摯に耳を傾ける雰囲気があります。

中堅社員はビジネスの仕組みが少しずつ分かってきて、新しいことにチャレンジしてみたくなる時期であり、活躍の機会が広がるでしょう。ただし、せっかくのアイデアも、「これからはAIしかない。わが社もやろう!」といった軽率なアウトプットに終わるのは残念です。このまま上司に相談したら、「もっと考えてから発言しないとダメじゃないか!」と一蹴されて終わりでしょう。

最初は思い付きのアイデアでもよいですが、ビジネスプランに落とし込む際は、少なくとも「AIを選ぶ理由、短期・中期の収益、既存事業やブランドとの関係、リソース確保と実現の可能性」は明確にしなければなりません。

アイデアを精査する目が養われていないといけないということであり、これを養うためには、常にいろいろな人と会って話す、書籍を読むなどして、ビジネスアイデアを模索することが大切です。

中小企業は一点突破?

リソースが限られた中小企業は、「これだ!」と決めた事業で一点突破を図ることが少なくありません。どんなときでも、会社が最初に着手するのは、最も効果的と思われるたった1つのアイデアです。中堅社員は、それを慎重に見極めるようにします。

ただし、大事なことなのでもう一度触れますが、「今すぐに低コストでできて、撤退も簡単なもの」は、すぐに着手してみるべきでしょう。将来大きく成長するかもしれませんし、新たな知見が得られる可能性もあるからです。

また、素晴らしいアイデアでも、小さな声で自信なさげに伝えられたら、「よし、やってみよう!」という気にはなれません。中堅社員は、自分のアイデアを魅力的に伝えるために「Show and Tell」の訓練をしましょう。「Show and Tell」とは、資料などを見せながら、論理的かつ情熱的に伝える手法で、最近は教育の現場でも注目されています。積極的にピッチイベントや交流会などに参加して、会社や自分のことなどを相手に伝える経験を積むとよいでしょう。

Point

  • 「アイデア出し」は積極的に行う!
  • 同時に、思い付きレベルを脱し、何が最も効果的であるかを検討できるビジネス力を養う。

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

その “リスケ” では事態が悪化します!/半歩先行く中堅社員(11)

現在の時刻は17:45。営業を担当する中堅社員のAさんは、本日18:00までに企画書をクライアントにメールで送ることになっています。しかし、現段階で、企画書は70%の出来です。

そこでAさんは、先方にリスケジュール(以下「リスケ」)をお願いしようと電話をしました。その際、納期遅れの後ろめたさからつい焦り、次のように言ってしまいました。

「18:30までに必ず提出します」

70%の出来の企画書が18:30までに終わるはずもなく、再びリスケをお願いする羽目になりました。結局、企画書を提出できたのは23:00でした。念のためとクライアントに電話してみましたが、既に営業終了を伝える自動アナウンスに切り替わっていました。

翌日、Aさんから一連の報告を受けた上司は言いました。

「なぜ、もっと早くクライアントに連絡して適切な時間にリスケしなかったの?」

中堅社員に求められる“リスケ力”

時間厳守は理屈抜きのルールです。ビジネスで時間にルーズな人は、決して信用してもらえません。

一方、ビジネスではさまざまな要因によって、スケジュールが変更されます。時間厳守が前提ですが、正当な理由によるリスケは織り込み済みであるということです。

注意が必要なのは、どのような理由があるとはいえ、リスケによって一度約束した時間が変更されるため、“まずい”リスケをすると、相手の信頼を失い、関係を悪化させてしまうことです。中堅社員には、トラブルなくリスケを行う“リスケ力”が必要です。

“まずい”リスケの典型例

“まずい”リスケの典型例を確認していきましょう。「あぁ~、やったことがある」と心当たりのあるリスケはないでしょうか?

1)時間に鈍感な人の「俺様リスケ」

ビジネスは、関係者が時間を分け合いながら進めるものです。この基本を理解せず、時間の価値を軽んじる人は、簡単なメールだけで気軽にリスケをします。リスケをされた相手がスケジュール変更を余儀なくされ、手待ち時間が生じることをイメージできないのです。

こうした自分勝手な「俺様リスケ」に対して、相手は“大人の対応”をしてくれるかもしれませんが、信頼関係は確実に損なわれています。

2)“ビビり”な人の「自作自演リスケ」

“ビビり”な人は、リスケする自分を過度に責める傾向があり、必要以上に相手に気を使います。その結果、冒頭のAさんのように、自分で自分を苦しめるような、できもしないリスケを申し出てしまいます。

結局、リスケしたスケジュールも守れずに何度もリスケをお願いするという、「自作自演リスケ」に陥ります。一見、丁寧なように見えますが、相手にとっては、何度もリスケをされて迷惑です。

情報を集め、素早く、丁寧に

  • 「リスケの申し出は、その可能性が高まった時点で速やかに」

言うは易しで、これを実行するには、ビジネスの計画と、その遂行を妨げる要因が生じていないか(生じる恐れがないか)をチェックしておかなければなりません。

そこで、中堅社員は部下を巻き込んで、仕事に関する情報が自分のところに集まってくるようにしましょう。集まってくる情報は、部分的・断片的で、バイアスもかかっています。その情報をいかに適切に処理するかが、中堅社員の腕の見せどころです。

リスケが確定したら相手に新しいスケジュールを伝えます。その際、焦って連絡せず、もう一度状況を確認しましょう。最近は、メッセンジャーなどのツールで手軽に相手と連絡がとれるため、考えがまとまっていない状態で用件を伝えてしまいがちですが、リスケの場合は慎重にならないと、「俺様リスケ」や「自作自演リスケ」になってしまいます。

“相手ありき”を忘れない

リスケは、「確実に実現できる最も早い時間」とするのが基本ですが、これも相手の状況次第です。例えば、当日の23:00であれば確実に企画書を提出できるとしても、それはあくまでこちらの都合です。相手からしてみれば、当日の18:00に間に合わないなら、翌朝の9:00でも同じことかもしれません。それに、「働き方改革」が進む今、遅い時間に連絡をするのは、相手にも迷惑ですし、こちらの状況も“透けて見える”ことになってしまいます。

一方、少し違った見方をすれば、リスケを当日の23:00とするのがよいのか、翌朝の9:00とするのがよいのかを、その場で考えているようではいけません。中堅社員には、事前に「自社が企画書を提出した後、相手はどのように動くのか?」を把握しておき、それに適した対応が求められます。「次工程はお客様」という言葉がありますが、文字通り、リスケをする際は次工程を考えることが大切です。

ビジネスを成功させる「良いリスケ」

最後に、リスケには「良いリスケ」もあることを、中堅社員は覚えておきましょう。「良いリスケ」とは、双方の利益を高めるために必要な時間を見込んだリスケです。例えば、「もう少し周囲の状況を把握・調整してから動いたほうが、お互いに進めやすくなる」といった場合です。

「良いリスケ」をする必要が生じたら、その理由を相手にきちんと説明し、相談をしてみましょう。タイミングさえ間違わなければ、これは「提案」の一環でもあるのです。

時間厳守は理屈抜きのビジネスのルールですが、「良いリスケ」もまた、ビジネスを成功させるために必要なものなのです。

Point

  • 時間厳守がビジネスの基本。しかし、一定のリスケはやむを得ない。
  • 相手のことを考えて丁寧にリスケすること!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

「会議の壊し屋」になっていないか!?/半歩先行く中堅社員(10)

食品会社で企画・マーケティングを担当している中堅社員のAさん。現在、大手スーパーなどとタイアップした新商品の企画を担当しています。複数の会社が集まる会議はとても刺激的で、Aさんも積極的に発言するようにしています。

今日も会議に参加しているAさんは、いつも通り積極的に発言しました。

「つまり、消費者のニーズについて『仮説』を立てることが重要ですよね。そもそも私たちが作りたいものは一体何なのでしょうか? そこには明確なストーリーが必要です。それぞれがプロ意識を持ち、できることを一生懸命にやることが大切だと思います!」

一見、Aさんは大いに会議に貢献しているようですが、Aさんがこうした発言をすると、他の参加者は「う~ん……」と腕組みをして考え込んでしまうばかりで、議論が前に進みません。一体、なぜなのでしょうか?

会議の価値は「発言」ではあるものの……

冒頭のAさんが参加していたような企画会議やマーケティング会議では、参加者が知恵を出し合わなければ意味がありません。参加者の発言と議論こそが会議の価値なのです。

Aさんは元気よく発言しており、この点は評価できます。しかし、発言の内容は好ましくありませんでした。Aさんの発言には現状分析に対する具体性や、将来に向けての提案が含まれていませんでした。堂々巡りしている議論を軌道修正するなどの意図があって、わざと発言しているのならよいですが、Aさんにはそうした狙いはないようです。

しかも、企画・マーケティングの担当者がよく使うキーワードである「仮説」などの言葉が板に付いていない印象があり、参加者は少しイラつきながら、「そんなことは分かっているよ……」と腕組みをしてしまいます。

「勇気を持ってとにかく発言」は正しいか?

「会議は発言してなんぼ」というところもあるので、会議に参加する部下のことを、上司が「勇気を持って、とにかく発言してきなさい!」と送り出すことがあります。上司としては、「緊張を乗り越えて、一回り成長してほしい」という狙いがあります。

しかし、これは危険でもあります。複数の会社が参加する“他流試合”の会議では、どんな発言でも許容されるわけではありません。明らかに的を外した発言を繰り返すと、「この参加者は分かっていない」と、他社の参加者から軽く見られ、以後のビジネスがやりにくくなります。自分の考えがズレていると分かって発言がためらわれるのならば、しばらく黙って様子を見るという手もあります。

会議には参加者のレベルがあります。部下に“ワンランク上の世界”を経験させたいのであれば、部下が慣れるまでは上司も同席したほうがよいでしょう。“他流試合”の会議ではなおさらです。

会議の発言で心がけたい重要なポイント

1)発言は周囲に配慮する

ビジネスにはそれぞれの思惑があります。そのため、参加者は自分(自社)の都合のよいように物事を解釈しがちです。

しかし、その姿勢が会議の発言で前面に出過ぎると、「この人は自分(自社)の利益のことしか考えていない……」と他の参加者から嫌悪感を抱かれてしまいます。会議の参加者は、心の中で自分(自社)のベストシナリオを持っているはずですが、それをストレートに出し過ぎるのは控えたほうが無難です。

ただし、会議が間違った方向に進みそうな状況を軌道修正するときや、自分(自社)が圧倒的に不利な立場に追い込まれそうなときには、強く主張しなければなりません。

2)思考停止ワードに気をつける

会議を停滞させるような発言は慎みましょう。Aさんは「仮説」というキーワードを使いましたが、それを補強する説明がありませんでした。

このような、一見、正しいと思えそうなふわっとした発言をするときは、必ず根拠となるデータと、新たな方向性を示す提案をセットにしなければなりません。逆に、データや提案がないのであれば、そのことを最初に断ってから発言するべきです。

「質問」が最大の武器である!

会議では、必ず進行する人やファシリテーターがいます。もし、自分の発言がズレているかもしれないと感じたならば、進行する人などに、「今の私の発言は論点がズレていましたか?」と、素直に質問してみるとよいでしょう。

こうした質問をすることで、他の参加者は「この人は冷静に会議の成り行きを見ており、全体に貢献しようとする意識も高い」と評価してもらえることがあります。

また、発言する際は「伝え方」にも気を配りましょう。例えば、「それはいかがなものでしょうか……」と、否定的な発言をすることもありますが、その場合は、

  • 「これまでの議論を振り返りながら、問題点や課題がないかを再度確認してみませんか?」

と言い方を工夫すれば、他の参加者の印象や会議の雰囲気は大きく違ったものになるでしょう。

Point

  • 会議の価値は「発言」にあるので、積極的に!
  • しかし、ふわっとした「思考停止ワード」を使うと、会議を停滞させてしまう。

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

仕事が遅れるのは、“速さ” の問題にあらず/半歩先行く中堅社員(9)

責任感が強く、上司からの信頼も厚い中堅社員のAさん。課長から3日以内に資料を作成するように指示されましたが、2日たった今も着手できていません。Aさんは、その現状を課長に素直に報告しました。

報告を受けた課長は、普段と様子が違うAさんを少し気遣いながら言いました。

「今のままで間に合う? 他の仕事は同僚に任せて、Aさんはその資料作成を優先してくれ。大事な資料だから」

するとAさんは、「皆忙しそうで、仕事を頼むことはできない」と主張してきました。しかし、課長から見ると仕事の振り先はたくさんあるように感じます。どうやらAさんは、他の人に仕事を頼むのが苦手なようです。そんな課長の思いを察したAさんは言いました。

「自分がやったほうが速いから大丈夫です!」

抱え込み過ぎによる悪影響

「中堅社員の仕事が振れない問題」はとても重要なので、

  • 「仕事があるのに「休日出勤」したらいけないの?」

に引き続き、このテーマを取り上げます。

真面目で責任感が強い中堅社員ほど、冒頭のAさんのような状況に陥りがちです。しかし、会社は、社長から新人までのメンバーがおのおのの役割を果たすことで成り立っています。自分でやるべき仕事と、他の人にやってもらう仕事を上手に区別しなければ、仕事は終わりません。

中堅社員になると、一定の仕事をやりくりして、部下にさばく役割を担うようになります。営業や経理など機能が明確に分かれていない中小企業では、こうした仕事の“交通整理”が非常に重要になります。この機能が滞るとAさんのような問題が生じるのです。

中堅社員の頑張りたい気持ちや、同僚を思いやる気持ちは大切ですが、であるならばなおさら、仕事を任せなければなりません。

部下に仕事を任せる際の心構え

1)「完了」する癖をつけさせる

部下に仕事を任せる際、いきなり「完璧」を求めず、まずは「完了」する癖をつけさせます。最初は中堅社員がその仕事を行う何倍も時間がかかりますが、それはいっときのことで、いずれ部下は仕事を習得します。そうなれば、自分(中堅社員)は次の仕事にチャレンジできるようになります。部下にとっても、学びが多いはずです。

2)赤・黄・青で把握する

中堅社員は、部下たちの仕事の状況を個別に把握しましょう。その際のイメージは次の通りです。

  • 赤=仕事量が許容範囲を超えている状態
  • 黄=仕事量が許容範囲の80%~100%の状態
  • 青=仕事量が許容範囲の80%未満の状態

部下が「忙しい、忙しい!」と言っていても、実際の状態はそれぞれです。対応できる仕事量や完了までの時間は、各人の能力とモチベーションに左右されるので、中堅社員は、部下がどれほどの仕事をこなすことができるのか、その“器の大きさ”を把握するようにします。

難しいのは、皆が器いっぱいまで仕事ができるわけではないことです。100%まで仕事を抱えても大丈夫な部下がいる一方で、70%を超えたあたり、つまり上の赤・黄・青でいえば黄に近い青の状態なのに、「もう仕事は引き受けられません」という部下もいます。こうした部下を見つけて、少しずつ、引き受けられる仕事量を増やしていくようにします。

3)「人を育てる=自分を育てる」という意識を持つ

部下に仕事を教えることは簡単ではありません。自分は当たり前に分かっていることでも、部下のレベルに合わせ、かみ砕いて説明することは大変で、「なんで分かってくれないんだ」という、若干のいら立ちや焦りを乗り越える忍耐力が求められます。

一方、今の仕事を改善するヒントを得ることもできます。人に説明するときは、仕事を分解して、それぞれの関連性を明らかにします。そうした過程において、仕事の肝はどこなのか、どこでミスが生じやすいのかなどが分かってくるでしょう。

どうしても他の人に任せられないときは

ここまで、中堅社員が今よりも成長するために、部下に自分の仕事を教えていくポイントを紹介してきました。しかし、実際のビジネスでは、どうしても他の人に仕事を頼めない場合があります。

例えば、次のようなケースです。

  • 全ての部下が「赤=仕事量が許容範囲を超えている状態」である
  • とても専門的な仕事なので、自分(中堅社員)しか担当できない
  • スピードが求められており、教えながらでは間に合わない

このような状態に遭遇したら、中堅社員は迷わず上司に相談しましょう。そうした状態に陥るということは、そもそもの人材が不足している恐れがあるため、別のレベルでの対応が必要になります。

中堅社員は、孤軍奮闘しなければならないこともあります。しかし、それは部下の仕事まで引き受けて頑張るということではなく、自分がやるべき仕事についての話であることを忘れてはなりません。

Point

  • 仕事を抱え込み過ぎてはいけない。うまく部下に振っていく能力が中堅社員には求められる。
  • 信号機のイメージで把握しよう!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

料理と後片付けは別々にやろう!/半歩先行く中堅社員(8)

総務部に所属する中堅社員のAさん。会社は「働き方改革」として残業削減を進めているのに、Aさんの残業時間は増えています。不思議なのは、総務部全体の残業時間は減少していることです。

仕事量の偏りをなくしたい課長が、Aさんに声をかけました。

「お疲れさま。最近忙しいみたいだけど、一人で仕事を抱え込んだらダメだよ。今、どんな仕事をしているの?」

するとAさんは次のように答えました。

「リスク管理の取りまとめと周年記念事業の準備、社内運動会の会場手配と、それからいろいろ……。とにかく同時並行で進めています。全体を少しずつ進めて、一気に終わらせます」

それを聞いた課長はびっくりした様子で言いました。

「いやいや。リスク管理は今すぐに関係者に依頼しないと間に合わないよ。それに、相手の立場になれば分かると思うけど、まとめて仕事を依頼されたら困るでしょ?」

ストライプ型とソリッド型の仕事術

入社3年程度の中堅社員は、質の違う複数の仕事を同時並行で進めるようになります。仕事の進め方としては、「力を分散し、並行して進めていく方法」と、「力を一点に集中し、順番に1つずつ終わらせる方法」とがあります。仕事に色をつけたとすると、この2つの仕事の進め方は、ストライプ型とソリッド型のイメージになります。

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ストライプ型は、多くのことに気を使いつつ、正しい優先順位づけと丁寧にスケジュール管理をしながら進めないとうまくいきません。また、いくら類似した仕事であっても、具体的にやることは異なるため、体の動きだけでなく、考え方も仕事に合わせて切り替える必要があります。

一方、ソリッド型は1つのことに集中しやすいため、経験があまりない社員に向いています。

目玉焼き、半熟のはずが固焼きに……

ここまでの話は、料理と後片付けを同時に進めることに似ています。料理と後片付けは一連の取り組みですが、やることは全く違います。慣れない人が、ストライプ型のイメージで料理と後片付けを同時に進めると、食器を洗っているときに火加減の確認がおろそかになり、半熟の目玉焼きを作るつもりが、固焼きになってしまうかもしれません。

逆に、火加減に気をとられ過ぎると食器洗いに集中できず、洗っている皿を落とし、割ってしまうかもしれません。

また、意外と忘れがちなのは、「食事で使う皿は、食後でなければ洗えない」ことです。つまり、最後には必ず皿洗いが必要です。それであれば、火加減に注意して目玉焼きを固焼きにしてしまうリスクを回避しつつ、後でまとめて皿洗いをしたほうが効率的ともいえます。ソリッド型のほうが安全であるということです。

ただし、リアルのビジネスで、1つの仕事に集中できる時間は限られます。では、どうすればよいでしょうか?

ストライプをソリッドにする

ストライプ型をうまくこなせられれば、効率的に多くの仕事を進めることができます。そのために重要になる考え方が、「ストライプの中でソリッドを作ること」です。複数の仕事の中でも、できるだけ類似するものを集めて“仕事の固まり”を作るのです。

例えば、本稿では皿洗いを1つの仕事として捉えてきましたが、さらに分解することができます。具体的には、料理の合間に洗う皿(料理をする際に使った皿)と、食後に洗う皿(食事で使う皿)とに分けて考えることができます。

仮に、全部で10枚の皿を洗うとして、料理の合間に洗う皿が5枚、食後に洗う皿が5枚だったとします。ソリッド型では食後に10枚の皿を洗いますが、ストライプ型では料理の合間に5枚、食後に5枚の皿を洗うことになります。うまくいけば、全体でかかる時間が短縮されるのです。

期日の集中は避けるべし

ストライプ型では、仕事を分解したパーツが計画的に配置されています。どこかでつまずくと、“音ゲー(音楽のリズムなどに合わせてボタンを押すゲーム)”で一度失敗してパニックに陥るように、それ以降がハチャメチャになって立て直しができません。

こうした事態を引き起こす原因の1つが「期日の集中」です。どんな仕事でも、最後の仕上げは思ったよりも時間がかかります。複数の仕事を一気に仕上げようとすると、まず計画通りには完了できません。

そのため、ストライプ型で仕事をするときは、できるだけ期日を分散させておくことが重要なポイントです。万一、態勢を崩しても、1つの期日をクリアするごとに正常化していきます。

Point

  • 仕事の進め方は、「ストライプ型」と「ソリッド型」がある。
  • 中堅社員は、ストライプをソリッドにする!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

助け合いは大事。ただし、数字の裏付けも忘れずに/半歩先行く中堅社員(7)

相手を思いやる気持ちが強く、同僚や部下の仕事も献身的にサポートする中堅社員のAさん。その姿勢が課内でも浸透し、他の社員も助け合いながら仕事をするようになってきました。

この功績が評価されたAさんは、若くして取引先とのプロジェクトリーダーに抜てきされました。しかし、その直後から取引先の仕事が遅れ始めました。悩んだ末にAさんは、取引先をサポートしようと決めました。社内外関係なく、皆、プロジェクトの大切なメンバーであると考えたからです。そして、課長に相談しました。

「取引先の仕事に遅れが生じ、“泣き”が入っています。そこで、当社が一部を引き受け、助けたいと思っています」

すると課長は、そっけない感じで言いました。

「それは、本当に当社が助けてあげるべきことなの?」

課長の意外なリアクションに驚いたAさんは、「取引先が困っていたもので……」と、同じ言葉を繰り返すばかりです。

「協力」する基準はありますか?

「取引先をサポートしてプロジェクトをうまくまとめたい」という気持ちは理解できますが、冒頭のAさんの選択は正しいのでしょうか?

ビジネスには役割分担があり、関係者がそれを守らなければ、良好な関係は維持できません。相手が社外の場合、契約によって役割分担(権利と義務)が決まります。いくら全体や相手のことを考えてのことであっても、本来やらなくてもよい契約外の仕事を引き受けることになれば、社内に負荷がかかり、収益も悪化します。

一方、“損して得とれ”ということで、そのとき相手に協力することで、その後のビジネスの広がりが期待できるなら話は別です。では、どのような場合に相手に協力できるのか、その基準を考えていきましょう。

良いシームレスと悪いシームレス

Aさんが所属する課のように、情報が活発に共有され、互いに助け合える「シームレス」な組織は理想的です。しかし、この関係を社外にまで広げるとなると、マネジメントが一気に難しくなります。

ビジネスには、「良いシームレス」と「悪いシームレス」とがあります。両者の違いは、「定性的な感覚と定量的な感覚のバランス」にあります。定性的な感覚とは、仕事に向き合う真摯さや他者を思いやる心です。また、定量的な感覚とは、文字通り、数字で仕事の収益性や効率性などを測る姿勢です。

Aさんのようなタイプは定性的な感覚は優れていますが、定量的な感覚は乏しいかもしれません。思いが先行し、コスト計算をしていない状態で仕事を引き受けてしまうのです。

仮に他社をサポートした場合、Aさんやその仲間には満足感があるでしょう。しかし、定量的に分析してみると、機会損失が大きく、会社全体で見るとマイナスになっていることがあります。

良いシームレスな体制の作り方

1)仕事の標準化を図る

良いシームレスを実現するための大前提は、中堅社員自身が効率的に仕事を進め、余裕のある状態をキープしておくことです。自分の仕事が終わっていないのに、新たに他人の仕事を引き受けるのはよくありません。

中堅社員は、メンバーの状況を正しく把握して余裕がありそうなメンバーを見つけ、そのメンバーにもう一頑張りしてもらうなどして、全体に余裕のある状態をキープします。

2)仕事の収益を把握する

仕事を進めるために生じるコストと所要時間を把握します。例えば、皆さんが受け取る給料から時給を計算し、仕事の所要時間を控えておけば、その仕事の収益が分かります。

同様のことをメンバーについても行えば、チーム全体のパフォーマンスが分かります。大まかでもよいので収益を把握すれば、少なくとも悪いシームレスに陥ることはありません。また、どの仕事にリソースを集中すべきかを判断する上でも役立ちます。

3)契約内容を確認する

良いシームレスとして取引先をサポートするとしても、契約範囲から逸脱することは好ましくありません。もし、その仕事でトラブルが生じた場合、責任の所在が問題になります。取引先の仕事に協力するのであれば、トラブル時を想定した取り決めが必要です。

また、こちらが善意で取引先の仕事をサポートするとしても、それはそのとき限りのことであるのが通常です。「どこまでやるのか、いつまでやるのか」を明確に示しておかないと、やはりトラブルになる恐れがあるので注意が必要です。

日々、意識すること

Aさんはプロジェクトリーダーであり、プロジェクトの収益を詳細に把握することができます。仮に自社の利益が数%下がるとしても、それによってプロジェクトの遅れが解消されて取引先との関係が強まり、次のビジネスにつながる可能性が高いのであれば、検討の余地があります。

ただし、中堅社員の独断で進めるのではなく、少しでも迷うところがあれば上司に相談しましょう。中堅社員はこのプロジェクトの収益を考えますが、上司はそれを含む複数のプロジェクトで収益を考えます。部分最適と全体最適の違いであり、上司はAさんと違った判断をすることもあります。

Point

  • 中堅社員は定量的な感覚を磨くべし。
  • そして「良いシームレス」を進め、関係者との信頼関係を築き、ビジネスの可能性を広げる!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

「働き方改革」の第一歩は、今でも「整理整頓」/半歩先行く中堅社員(6)

中堅社員のAさんが勤める会社では、「働き方改革」の一環として、いわゆる「5S」を推進しています。しかし、大ざっぱな性格のAさんは、整理整頓がとても苦手です。Aさんのデスクは常に書類が山積みで、パソコンのデスクトップもファイルが散乱しています。

ある日、課長がAさんに言いました。

「昨日Aさんに渡した資料が見当たらないんだが、キャビネットに戻してくれた?」

焦ったAさんは、ガシャガシャと書類をかき分けながら資料を探し始めましたが、なかなか見つかりません。あきれた課長は、「見つかったら持ってきてね。整理整頓しないと書類をなくすよ!」と言って、立ち去ってしまいました。

残されたAさんは、心の中で思っています。

「整理整頓が大切なのは分かっているけど、忙しいから仕方がない! 仕事で成果を上げればいいんでしょ!!」

整理整頓は仕事の一環

まず理解したいのは、オフィスは「公の場所」であるということです。そこで働く以上、同僚などに不快感を与えないように、整理整頓するのは最低限のマナーです。

しかし、「売上が先、整理整頓は後!」といったように、この点を理解していない人がいます。「ビジネスなのだから、整理整頓をしなくても、仕事で成果を上げればよい!」と考えているわけですが、これは正しいとはいえません。整理整頓ができていないと、以降で紹介するようなマイナスポイントがあります。

3つのマイナスポイント

1)相手に不信感を抱かれる

デスクの整理整頓ができない社員は、パソコンやかばんの中も散らかっています。目の前でノートパソコンの中のファイルを探していたり、かばんの中の名刺入れを探していたりするような人が、相手から信頼を得ることは難しいでしょう。

2)コストをムダにする

整理整頓が苦手な社員は、コスト感覚も欠如しています。整理整頓ができておらずに会社の備品をなくした場合、会社のコストをムダにしています。また、デスクやパソコンのファイルなどが散らかっていると、本来は必要のない探し物をする時間が生じます。ビジネスパーソンが探し物をする時間は、年間150時間といわれますが、整理整頓ができていない社員はもっと長くなります。

仮に時給4000円とすると、その社員が150時間探し物をする場合の人件費は年間60万円です。探し物をしている間、別の社員を待たせることもあるため、ムダなコストはこれよりも大きくなります。

3)情報の漏洩、紛失

整理整頓されていないと、情報の漏洩や紛失が起こりやすくなります。例えば、パソコンのファイルが整理されていないと、メールの添付ファイルを間違えてしまうことがあります。もし、他社の営業情報や個人情報が記載されたファイルを誤って送ってしまったら、取り返しがつきません。

こうしたリスクを知っている上司は、部下に整理整頓を指示します。実際、デスクやパソコンを整理していくと、意外に不要な書類やファイルが多く、「なんで、とっておいたんだっけ?」と思うものがあるはずです。その気になれば、どんどん捨てられます!

書類の分類でトレーニング

仕事で成果を上げるために、整理整頓が大切であることはお分かりいただけたと思います。では、整理整頓が苦手な人はどうすればよいのか、そのヒントを紹介します。

1)処分する癖をつける

まず、面倒がらずに書類やファイルを処分する癖をつけましょう。捨てるかどうか迷うものは、一時保存の場所を確保し、しばらくたっても使わなければ、捨ててしまうとよいでしょう。

2)書類とファイルの保管方法

紙の書類を、次から次へと積み重ね続けるのはやめましょう。書類を種類別に整理すべきファイルを作って、そこに入れるようにします。そもそも、紙の書類は廃止していくのが好ましいかもしれません。

また、パソコンにあるファイルについては、ファイル名のルールを決めましょう。少なくとも「日付、内容、作成者」が明らかになるようにします。また、これらの要素の順番も統一します。

整理整頓も仕事の1つ

整理整頓ができない上司の部下は、上司に似て整理整頓ができなくなります。中堅社員にも部下がいるはずですが、整理整頓は部下指導の一環でもあります。

そのため、中堅社員は、自身はもちろん、部下や同僚にも整理整頓をするように働きかけましょう。会議室などの共用スペースについても、整理整頓を心がけると理想的です。こうした姿勢が部下に伝われば、仕事を整然とこなす強いチームを作ることができ、結果として生産性が向上していきます。

Point

  • オフィスは「公の場所」である。自分のデスクなどはもちろん、共用スペースも整理整頓をしよう。
  • 生産性の向上につながる!

以上(2019年8月)

pj00425
画像:Eriko Nonaka