部下が知っておきたい上司の指導方針

書いてあること

  • 主な読者:上司に不満を感じている若手社員
  • 課題:仕事が物足りない、上司の話についていけないなどの不満を感じている
  • 解決策:上司は部下の成熟度に合わせて指導をしている。意図を理解し、上司との間のギャップを埋めるように努める

1 上司は部下の実力で態度を変える

上司は、丁寧かつ親身に部下を指導します。一方、部下は「自分の上司は大したことはない。すぐに追い抜ける」と思っているかもしれません。部下が自分の実力を知りたければ、上司の指示や指導の内容、態度を観察してみましょう。

上司も人間です。部下に追い抜かれたくはありません。部下が成長して自分のレベルに迫ってきたら、リードを確保しようと焦り出します。逆に、部下はまだまだ自分より下だと思っていれば、指導に余裕があります。

まだまだと思われている部下は、上司にとって「自分を脅かす存在」ではありません。そのような部下がすねた態度を取っても、上司は「まぁ、言われた通りにやってくれ!」と意に介しません。

このように、部下の成長や実力によって上司の態度は変わってくるものです。それを体系的にまとめた考え方に、経営学者のハーシーとブランチャードが提唱した「SL理論:Situational Leadership理論(状況適応理論)」があります。

SL理論によると、リーダーは仕事に対する部下の成熟度(以下「成熟度」)に応じて接し方を変えるべきだとされます。成熟度が低い部下には具体的な指示を与え、成熟度が高い部下には積極的に権限を委譲するといった具合です。

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成熟度が低い部下は具体的な指示で導き、成熟度が高い部下は権限委譲で自主性や対応力を育てるというのが基本的な考え方です。以降では、SL理論を基に部下と上司の間で生じがちなギャップとその解消法を紹介していきます。

2 上司が細かな指示を出す理由

1)部下の不満「仕事が物足りない、指示も細か過ぎる」

やる気があるのに、上司からは簡単な仕事ばかり任され、スケジュールや進め方についても細かく指示されることがあります。部下は、「自分はもっと難しい仕事に挑戦したい」「結局自分は信用されていないのか」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は、「今の部下は基礎固めのレベルにある」と考えています。簡単な仕事を通じて、仕事の基礎的な進め方や難所を把握させたりしようとしているのです。これはとても大切です。基礎を押さえれば、そこから部下の活動範囲を広げることができるからです。

3)部下はこう行動しよう

部下は仕事を軽く見たり、指示を聞き流したりしてはいけません。まずは与えられた仕事をきちんとこなして、仕事の基礎を固めましょう。与えられた仕事をミスなくこなせるようになれば、次第に上司からより難易度の高い仕事を任されるようになります。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

教示型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の指示はしっかりとメモを取る」「最後に指示の内容を確認し、ヌケモレがない」ようにして、与えられた仕事をミスなくこなすことが大切です。

3 上司が精神論交じりの話をする理由

1)部下の不満「話の内容が“昭和”で、ついていけない」

上司が仕事に関する指示だけでなく、「どのような姿勢で仕事に臨むべきか」といったことを、精神論を交えながら、長い時間をかけて話すことがあります。部下は、「昔の話は聞きたくない」「早く仕事に戻りたい」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は部下の成長を感じ、「徐々に仕事の難易度を上げていこう」と考えています。上司の指示通りに仕事を進めるだけでなく、仕事の意味を理解し、正しい姿勢で仕事に向き合ってほしいと願っているため、「考え方」に関する話が長くなるのです。

3)部下はこう行動しよう

部下は上司の話に耳を傾ける一方で、仕事に向き合う正しい姿勢を自問自答してみましょう。仕事に対する向き合い方は人それぞれです。だからこそ、いろいろな考え方に接し、良いところを積極的に学ぶことが大切です。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

説得型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の話で理解できない点は質問する」「多様な価値観を毛嫌いしない」ようにして、“あるべき姿”を真剣に考えてみることが大切です。

4 上司が答えにくい質問をする理由

1)部下の不満「答えにくい質問ばかりされるので、上司と接したくない」

仕事に取り掛かる前に、上司から「この仕事の難所は?」「相手が求めていることは?」などと質問されることがあります。部下は、「やってみなければ分からない」「自分に任された仕事なのだから、放っておいてほしい」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は部下の成長をより強く感じ、「そろそろ部下に仕事を任せたい」と考えています。そこで、質問を通じて部下の理解度や考え方を確認し、間違いがあればアドバイスを与えようとしています。

3)部下はこう行動しよう

部下は、「そんなこと分かるはずがない」と投げ出してはいけません。ビジネスは不確定要素だらけで進みますが、この問題にどう向き合うかで部下のキャリアも決まってきます。前に進みたければ、未来をイメージするトレーニングをしましょう。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

参加型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司から質問されそうなことを事前に想定する」「仕事をシミュレーションして、事前に難所を取り除く」ようにして、未来志向の感覚を養うことが大切です。

5 上司に放っておかれる理由

1)部下の不満「指示がなく、見放された感じがする……」

これまで口うるさかった上司が、ほとんど指示をしてこなくなることがあります。部下は、「もしかしたら自分は嫌われたのか?」「仕事も責任も丸投げするつもりか?」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は、部下は自分で考えてこなせるレベルに達したと認めています。部下の考えを尊重するために指示は最小限にとどめ、部下の仕事ぶりを見守っています。もちろん、問題があればすぐにサポートするつもりです。

3)部下はこう行動しよう

部下は、「どうすればよいか?」と不安を感じる必要はありません。むしろ、独り立ちできつつあることを誇りに感じ、自分のやり方を試してみればよいのです。ただし、本当に困ったことがあれば、すぐに上司に相談しましょう。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

委任型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「積極的にチャレンジする」「上司への『報・連・相』は早めに行う」ようにして、自立した働き方を実践することが大切です。

6 上司にアピールするのも悪くない

部下は上司の言動から自分のレベルを知り、それに合った取り組みをすることで成長を早めることができます。ただし、上司が知っているのは部下の一面にすぎず、部下が就業外に何らかの自己啓発をしていても把握することができません。

もし、部下が自分の成長のために取り組んでいることがあれば、それを積極的に上司にアピールしましょう。例えば、「先日セミナーでこのような話を聞いたのですが……」など、収集した情報や学んだ内容を上司との会話の中で披露するのです。

こうしたアピールもまた自分(部下)自身の成長を促します。「この部下は、○○を学んでいたな。関連する仕事を任せてみよう」といった具合に、上司から一段高いレベルの仕事を任せてもらえるチャンスが広がるからです。

いつの時代も上司と部下の間には、埋め難いギャップがあります。不満を持つだけでは前に進みません。相手(上司)の考えを理解するのはもちろん、自分(部下)自身も研さんを積むことで、お互いにとって良い関係が生まれてくるのです。

以上(2019年1月)

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画像:photo-ac

元CAから広がるビジネス世界観。セカンドキャリア支援から防災訓練まで?/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い起業家は駒崎クララさんです。

●運営しているメディア【CREW WORLD】
http://crew-world.com/

「元CA(キャビンアテンダント。客室乗務員)による防災訓練。………。それは一体なんですか?」とお聞きしたことに始まって、物事の見方、ビジネスの幅の広さを学ばせていただいたのが今回のインタビュー。

駒崎さんは、私にインスタグラムを始めるキッカケをくれた先生でもあるのですが、その駒崎さんがCAから起業家に転身していく過程や、自分自身と向き合うことの大切さ、ぶれない軸はどのようにできたのか、現在の事業内容など盛りだくさんのお話を伺いました。

1 記者会見にCAのいでたちでご登場!

まず、2018年8月1日に日経新聞に掲載された記事をご覧ください。

その際の写真はこれです。

ビルメンテナンス業界に初めてドローンを取り入れるなど、ベンチャースピリットを掲げて新しいことにチャレンジしている大成株式会社(本社:名古屋・東京両本社)。同社で、ビル1棟にひも付く面白い福利厚生サービスを集めた事業モデル「T-select」の記者会見を行いました。駒崎さんも、T-selectに下記2つのサービスを提供しており、記者会見にはCAのいでたちで参加していました。

  • 元客室乗務員による防災訓練
  • 元客室乗務員の人材紹介サービス

ここで冒頭の質問に戻ります。人材サービスについては想像しやすいのですが、「元CAによる防災訓練」は想像もつきません。そこで、お聞きしてみました。

「元CAによる防災訓練。………。それは一体なんですか?」

すると、次のような回答を得ました。

『客室乗務員は、搭乗客へのホスピタリティある接客業務がクローズアップされます。しかし、もっと大切なのは乗客の安全確保、避難誘導といった、命を守る保安業務です。防災訓練がないがしろにされている場面を見て、事業化を思いつきました。ビルでの訓練を想定し、リスクマネジメントの観点で行っています』

「なるほど!」と腹に落ちました。いざというときに役立つ、しかも、CAのいでたちなら話題となって参加者が増えます。場が華やかになり、多くの人が参加し、本来的な訓練ができるという、“一石三鳥”の効果がありそうです。

駒崎クララさんによる防災訓練の様子を示した画像です

2 「女子未来大学」で初めてお会いして

さて、私が駒崎さんに初めてお会いしたのは、2016年6月の大阪でした。そのときの写真がこちらです。

たまたま私の関係で、大阪で会場提供をさせていただいたのが出会いのキッカケでした。

その後、東京で再会し、駒崎さんの事業についてお聞きしました。そして、私がお役に立てそうな先をご紹介させていただいたことが、前述のT-selectの記者会見につながった次第です。

では、ここで、駒崎さんを含め立場の異なる先進的な女性3名で立ち上げられた「女子未来大学」についてご紹介しておきましょう。ここは「女性たちが自らの主体性を持って人生を選択するための“学びの機会”を提供する、女性なら誰でも参加できるプラットフォーム大学」です。

3 CAは3年で辞めるつもりだった

インタビューに戻ります。

駒崎さんは、高校生の頃から漠然とCAになりたいと思っていたそうです。さらに質問してみると、その原点には、子供時代の体験があることが分かりました。5歳から10歳まで、ヨットでフランスから日本まで旅をした際に遭遇した命の危険や、習得した危機管理術が、保安に携わるCAへの道を意識させたのだと駒崎さんは話します。

その思いを遂げ、駒崎さんはCAとなります。しかし、当時は3年でCAを辞めると決めていたそうです。その理由を尋ねてみると、

『自分自身がやってみたい、いろいろな職業の中にCAがありました。CAは保安の仕事だということから、体力が必要だと想定していたので、体力があるうちにCAとして働こうと思いました。それで、社会人最初の3年に割り当てようと思ったのです』

とのことです。

なかなか計画をキチンとされての選択、そして仕事内容も理解されてのことです。

『結局、毎日の仕事が楽しくて3年では辞められず、7年半、“雲の上でお仕事”をしていました』

フライト毎にチームを組み、リレーションをつくり、はじめましてのお客様とコミュニケーションを取りながら、安全に目的地にご案内するという達成感が「最高だった」そうです!

航空業界はさまざまな仕事をリレーのようにつなげていく業界です。このようにCAの仕事だけでなく俯瞰(ふかん)的に業界が見えるようになったとき、「航空業界に役に立ちたい」という気持ちは変わらないが、CAとしてではなく、違う形で業界を盛り上げていきたい、そう思ったことが起業へつながったと駒崎さんは話します。

CA時代の駒崎クララさんの画像です

あるとき、キャリアカウンセリングを受けた際に、自己認識、自己肯定の大切さを感じたそうです。それが「自分の軸」、何が自分にとって大事か? 大切にしないといけないことか? を見つめることができたそうです。

4 起業、航空業界になかったサービスを開始

駒崎さんは、今までに業界になかったこと、他業界でもあまりやろうとしないことに着目して事業をスタートしています。

【CREW WORLD】という業界横断的に情報発信をするSNSを構築しました。世界中の“現場”で活躍している現役CA、元CAの皆さんが情報共有をするサービスです。

クローズドな世界で、会社の垣根を越えてCAの方同士が相談し合う、情報を提供し合う。同じ会社の同僚 などには聞きづらいことでも、同業他社の方には聞けたり、尋ねやすかったりするものです。しかも、匿名なので気軽に交流が生まれ、広まり、かなりの数のCAの方が活用しているそうです。

日々の忙しさ、過酷なCA仕事からモチベーション向上にもつながるこの交流の場に、駒崎さんは1万人の現役CA、元CAの皆さんが参画してもらえるように活動しています。この【CREW WORLD】上ではさまざまな企業が、広告の出稿やCAの皆さんへの商品評価、海外現地での多くの体験アンケートなどを実践しており、航空業界のみならず広く注目されています。2018年から、口コミの一部をオープン化し、多くの方に情報が届くようになりました。

5 CAが長きにわたり活躍する未来へ

駒崎さんが描く未来とは、どのようなものなのでしょうか。それはCAのセカンドキャリア支援事業に取り組む姿勢にかいま見えます。といっても、現役CAの方々に、率先して転職を勧めているわけではありません。かなり時間を掛けて、じっくりとCAの皆さんと向き合い、対話をして、なりたい自分はどのような自分なのか? 自分の居場所はどこなのか? 自分の“根っ子”は何なのか? 自己肯定感(自分の軸)が得られるようにカウンセリングを丁寧に行っているそうです。

駒崎さんは、これも航空業界の発展のための一環として行っています。自分発見からまたCAとしてイキイキとモチベーション高く持って復帰される方もいれば、次のステップへ進む方もいる。こうした方々に、社会への接続を大事に、大切にとアドバイスをしているそうです。

ちなみに、セカンドキャリアとして、元CAの皆さんがどのようなところでご活躍か聞いてみますと、『法人営業(クロージングメインでなくBtoBでの顧客接点の構築、メイン担当でなく営業サポート的に)、コミュニティーマネージャー、広報、採用人事、秘書、と活躍の場が広がっています』と。元CAだからこそ“相談の和”が広がるのも納得です。

たった一人で起業した頃、コーディングも独学で習得、徹夜もいとわず、時には3日間寝ずに仕事に没頭したり、コワーキングオフィスに寝袋持参でパソコンに向かったりしていましたと、笑顔で語る駒崎さん。

自社のメンバーが10名(業務委託を含む)を超えてきても、ぶれずに航空業界の発展を見据えて事業を展開する駒崎さんは、『具体的な数字目標を第一に掲げるのでなく、その前に自分の軸をどうするか、どこに置くかを明確にした事業運営を大切にしています』と話します。数字一辺倒の経営視点から、駒崎さんの自分や会社の“根っ子”を大事にする視点も大切にしたいと思いますね。自分との対話を大切に。と私自身も大事にしたいと思いました。

また、駒崎さんはプライベートでは能にもチャレンジされ、女子未来大学のメンバーと共に若者に能を広める若者能の社会人スタッフ等、多彩に活動されています。

筆者と駒崎クララさんの画像です

以上(2018年12月作成)

【朝礼】「売上」は信頼の証し、「利益」は工夫の証し

もうすぐ2018年も終わりを迎えます。今年もさまざまなことがありました。中でも、9月に女優の樹木希林さんが亡くなったことは、私自身がファンだったこともあり、とても衝撃的な出来事でした。

独特の雰囲気を持っていた樹木希林さんは、さまざまな名言を残したとされています。私が忘れられないのは、あるインタビューで次のような趣旨の発言をしていたことです。

「自分のことを俯瞰(ふかん)して、自分が今、この世の中でどのくらいの位置にいるのかなというのを見誤らないようにしている」

樹木さんは、マネジャーを置かず、出演料の交渉も自分で行っていました。彼女は、先の言葉の通り、いつも自分がどのくらいの位置にいるかを見誤らないようにしているため、「出演料の交渉ほど簡単なものはない」のだそうです。

相手が提示した金額が少ないと思えば断り、過大に評価されていると感じれば、自ら、「そこまでの金額を出さなくてもよい」と言うこともあったそうです。言葉を選ばずに言うと、業界における自分の価値と、自分に付けられるべき「値段」を分かっていたということなのでしょう。

私は、「値段」とは、「支払う側が価値を認めてくれた信頼の証し」だと思っています。ビジネスでは、「売上」と言い換えてもよいでしょう。当社の「売上」は、お客様が当社の価値を認め、信頼してくれている証しではないでしょうか。

皆さん、いま一度振り返ってみてください。今年一年、皆さんは、お客様からの信頼に応える仕事、つまり「売上に値する仕事」をしてきましたか。お客様の立場に立ち、どのような対応や提案をすれば、お客様にとって一番良いのかを考え、行動に移そうとしてきたでしょうか。

また、ビジネスでは「売上」を見ているだけでは不十分です。「利益」のことも考えられるようにならなければなりません。「利益」を生み出し、そして増やすには工夫が必要です。誰と関わり、どのような進め方をすれば「利益」が今より増えるのか。無駄なこと、少しでも改善できることはないのか。「利益」とは、皆さんがそうして一つひとつの仕事に対して向き合うことで増えていくものなのです。

皆さんは今年、何か一つでも「利益」を生み出す工夫、増やす工夫をしましたか。ぜひ、上司や同僚と話をしてみてください。もし、工夫が足りなかったというなら、来年こそは工夫するよう心掛けましょう。

お客様が私たちにくれた「売上」という名の信頼。その「売上」に対し、私たちが工夫して「利益」を増やし、新しいビジネスや取り組みに投資して成長していくことこそ、お客様の信頼に応えることに他なりません。

「売上」は信頼の証し、「利益」は工夫の証しです。肝に銘じておきましょう。

以上(2018年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】知人を招けるオフィスにしよう

おはようございます。今朝、管理職の皆さんに集まってもらったのは、来年に実施する当社のオフィスレイアウト変更に向けて、オフィスが持つ意味を真剣に考えたかったからです。

オフィスは仕事をするための場所ですから、そうした意味では、働く人にとって居心地の良い空間でなければなりません。そこで私や管理職の皆さんは、社員が働きやすいオフィスにしようと考えます。実際、当社のオフィスレイアウト変更もこうした経緯から出発しました。働きやすいオフィスを実現すれば、社員のモチベーションが高まることが期待できます。また、魅力的なオフィスをアピールできれば、人材の採用にもつながるかもしれません。

これは当社に限らず、多くの企業にとって重要なテーマになっています。私の知り合いの会社にも、卓球台を設置して自由な雰囲気を醸し出したり、机や椅子の機能性にとことんこだわったりしているところがあり、社員の評判は上々のようです。しかし、それはハードを整えたことによる一過性のものかもしれません。その場で働く人たちのマインドが伴っていなければなりません。

先日、ある有名なIT企業を訪問しました。サービスが優れていることはもちろん、遊び心満載のオフィスやリモートワークによる自由な働き方を実践していることでも知られる会社です。本当にすてきなオフィスだったのですが、印象に残ったのは取締役の意外な発言でした。

その取締役はこう言いました。「どれほどオフィスを奇麗にしても、社員はすぐに飽きちゃいます。リモートワークも実際は効率が悪いです。私はオフィスよりも別のところに投資したほうがよいと思っているのです……」。この発言を聞いた私は確信を得ました。オフィスレイアウトの変更は、ハードを整えるだけでは不十分で、そこに込める“想い”が重要であるということです。

「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という言葉があります。解釈はさまざまですが、新しいことをしたければ、新しい環境が必要であると解釈することもできます。私は、レイアウト変更後のオフィスを新しい革袋とし、その中で新しい酒、すなわち新しい企業文化を育みたいのです。起点となるのは、既に皆さんに示している中期経営計画なので、今後も周知徹底していきます。

こうして、新しい革袋の中で新しい酒がなじめば、単なる奇麗なオフィスが整備された会社ではなく、奇麗なオフィスに負けない、社員がいきいき働く素晴らしい雰囲気を持った会社になると信じています。

私の知人に、数多くの会社の顧問を務める、良い会社の目利き役のような人物がいます。その人いわく、「良い会社の社員は躍動している」そうです。この知人を含め、たくさんの知人を招けるオフィスにしましょう。そこでは、皆さんが自由な発想で躍動しているのです。来年、我々は新しいオフィスで大きく成長します。

以上(2018年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】私が皆さんを誇りに思う理由

先日、とてもうれしい出来事があったので、皆さんにお伝えします。当社の若手社員の話です。

彼は先日、あるビジネスコンテストに、会場設営や来場者を案内するボランティアスタッフとして参加しました。全国5000社の経営者や起業家の中から、選び抜かれた十数社のファイナリストたちが集う大会です。ビジネス界での注目度は非常に高く、来場者は2000人以上、審査員にも、著名な経営者や投資家、大学教授などが名を連ねていました。

もともと私はこのビジネスコンテストに興味を持っていましたが、主催している団体の理事からお願いされたこともあり、当社の社員を1人、ボランティアスタッフとして参加させることにしました。知見や人脈が大きく広がり、とても良い経験になると思ったからです。

私がまず、うれしかったのは、当社のある若手社員が、意欲的な気持ちで参加してくれたことです。彼は、私が参加希望者を募ろうと皆さん全員に呼びかけたとき、真っ先に手を挙げてくれました。普段は割と落ち着き払っており、「何事にもとても積極的」というわけではないその彼が、進んで手を挙げ、「ぜひ僕に行かせてください。他ではできない経験をして、会社の皆さんに伝えたいです」と言ってくれたのです。

そのことだけでも私は大いに感動し、彼のチャレンジを心から応援しようと思いました。しかし、話はそれで終わりではありませんでした。

私が皆さんにこの件を呼びかけたのは、大会の前々日という差し迫った状況でした。参加することになった彼は、他に幾つも仕事を抱えており、翌々日に丸一日かけてボランティアスタッフをやるには、無理をすることは必至でした。

しかし、彼の上司や同僚は、彼が参加したいと手を挙げたのを見てすぐに、「今抱えている仕事と納期、進捗状況を全部教えてくれ」と言って集まり、分担して彼の仕事を引き受けることにしたのです。彼が無理をせず、気持ち良くボランティアスタッフになれるようにするために。

私は、このことについて、何の指示も出してはいません。全て、彼の上司や同僚が自発的に行ったことです。それぞれに忙しい状況でしたが、工夫して少しずつ自分が負担する仕事を増やして、全員で彼をバックアップし、ボランティアスタッフとして送り出したのです。

ビジネスコンテストの裏方として懸命に働いた彼は、その翌日、記念にもらったというTシャツを着て出社してくれました。そして、周りに、いかに面白いビジネスがあったか、どのように素晴らしい方々と話すことができたかを喜々として伝えてくれていました。

新しいことに自ら勇気を持ってチャレンジしようとする若手社員がいる。そして、それを進んで応援し、バックアップしようとする上司や同僚がいる。私は、こうした皆さんを、心から誇りに思います。皆さん、本当にありがとう。

以上(2018年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】感謝も不満も心の持ち方次第で決まる

最近、「ありがとうございます!」を聞く機会が減ってきたように感じます。私が、何かのきっかけになればと人を紹介したり、新たなサービスを付加してあげたりした際、相手は感謝こそするものの、「ありがとうございます!」と分かりやすい言葉で伝えてくることがあまりありません。もちろん、相手に恩を売るためだけにやっていることではないのですが、何だか物足りなく、そして悲しい気持ちになってしまいます。

「すみません」という言葉についても同じです。先日、取引先が納期ギリギリで、しかも完成度の低い仕事をしたため、当社がフォローをしなければなりませんでした。にもかかわらず、その取引先が「申し訳ございませんでした」と潔く謝罪することはありませんでした。謝罪してもらうことが目的ではないものの、気持ちをリセットし、すっきりとした気分で次に進むためには、謝罪による一区切りが必要だと思うのです。

私は幼い頃から、「『ありがとう』と『すみません』は人間の基本である」と教えられてきたので、なおさら今のような状況には違和感を覚えます。また、相手が「ありがとう」や「すみません」を言ってくれないことへの不満が募ると、こちらも「ありがとう」などと言うのをやめようという、ちょっと意地悪な気持ちになってしまいます。そうなると、「ありがとう」や「すみません」を言うハードルがますます高くなっていき、何となくギスギスとした関係になってしまうのです。

このようなことを考えて、悶々(もんもん)としていたとき、メンターと仰ぐある人の言葉で心の霧が晴れていくような気がしました。その言葉とは、「どのようなことでも、心の持ちようで捉え方は変わるものである。義理を欠いた言動があったとしても、それはあなたに『これをしてはいけないよ』と教えてくれているのだと考えれば、相手に感謝することができる。そして、心の中で『ありがとう』と言えばよい」というものでした。

心の持ちようによって、どのようなことにも感謝することができます。たとえ相手の態度が礼を欠くものだったとしても、そこから学ぶことができるのです。私たちは、意識して気持ちをフラットにしていないと、自分の固定観念によって、偏ったものの見方しかできなくなってしまいます。柔軟な考えを持つ人であるためにも、常に感謝の気持ちを忘れたくないと私は考えます。

皆さん、相手に何かをしてもらったら気持ちよく「ありがとうございます!」、こちらがミスをしてしまったら潔く「申し訳ございませんでした」と伝えてください。相手の態度に惑わされて、これらの言葉を伝えるハードルを上げてはいけません。

ただし、「ありがとうございます!」や「申し訳ございませんでした」という言葉を、単なる“音”として便利に使うだけでは気持ちは伝わりません。言葉に重みを持たせられるか否かは、日ごろの皆さんの行動次第なのです。

以上(2018年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

社内表彰制度の作り方と考え方

書いてあること

  • 主な読者:社内表彰制度の導入を検討する経営者
  • 課題:自社に合った社内制度の設け方を知りたい
  • 解決策:表彰をする目的から、それに合った社内表彰制度を考えてみる

1 社内表彰制度とは

社内表彰制度とは、永年勤続表彰をはじめとして、業績表彰・皆勤表彰・改善提案表彰といった、企業の内部で行われる各種表彰制度の総称です(以下「表彰制度」)。

根本的には、どの表彰制度も「顧客サービスの向上」「社員の一体感の強化」「コーポレートブランドの強化」などの目的を持つ、いわゆる「インセンティブ制度」の一種といえます。

同じインセンティブ制度であっても、内容や基準の違い、個人に対するものかグループに対するものなのかなどにより、それぞれの表彰制度が社員に与える効果は異なります。そこで本稿では、主な表彰制度を分類し、それぞれの役割や効果、適切な運用方法について考えます。

2 表彰制度の分類

多くの企業が、さまざまな表彰制度を設けています。表彰の目的からそれらを分類すると次のようにまとめることができます。

  • 業績達成のための表彰制度
    営業成果表彰(売り上げ、新規顧客の獲得など)、営業目標達成表彰、顧客紹介キャンペーン
  • 社員のモラールを向上させるための表彰制度
    皆勤表彰、無事故表彰、永年勤続表彰、善行表彰
  • 社業に貢献するための表彰制度
    アイデアコンテスト、改善提案
  • 企業の節目に際して行う表彰制度
    創立記念日
  • 社員の節目を祝うための表彰制度
    定年退職記念、誕生日記念

なお、この分類は、表彰制度の一次的な目的に基づいてまとめています。例えば、皆勤表彰は、「社員のモラールを向上させるための表彰」だけではなく、社員のモラール向上が生む生産性の向上により「業績達成のための表彰」につながるとも考えられますが、こうした二次的な目的では分類していません。

3 目的に応じた表彰制度の効果と運用方法

1)業績達成のための表彰制度

企業の売り上げや利益を伸ばすための表彰制度です。「コンテスト」などの形で取り入れる企業が多いようです。

運用方法としては、営業コンテストの場合、社員個人やチーム単位で次のような方法を取っているようです。

  • 通常の業績評価と同様に、商品の売り上げや販売数で順位を付ける
  • 商品ごとに販売ポイントを設定して、累計ポイントで順位を付ける

こうした表彰制度は、たとえコンテスト形式にしたとしても、上司の販売促進姿勢が強くなりすぎたり、社内に過度の緊張感が漂ったりして、社員から不満が出ることも考えられます。こうした不満を少なくするためには、ビジネスの「生々しさ」を極力抑えたポイント制などによって、評価を決定するとよいかもしれません。

また、営業職以外の社員をコンテストに参加させる際に、特に気を付けるべき点として、明らかに達成が困難なノルマを設定しないことが挙げられます。

普段、営業をすることのない総務・経理といった間接部門の社員に明らかに達成が困難なノルマを設定すると、「専門外の仕事」をさせられているという不満が募り、表彰制度は、かえって社員のモチベーションを下げる結果に終わってしまう可能性があります。こうした不満をできるだけ抑え、かつコンテストで一定の成果を上げるには、チーム単位で競わせるのも良い方法といえます。

さらに、間接部門の社員をコンテストに参加させる際は、表彰の敷居を低くするために次のような工夫も必要でしょう。

  • 知人などの中から見込客を営業に紹介した時点でポイントを付与する
  • 消費者向けに販売しやすい安価な商品をコンテストの対象にする

なお、表彰する社員に与える報奨は、業績という企業の成果に直結する制度の場合、品物ではなく、報奨金にするケースが多くなっています。一人に対して支給する報奨金の金額は企業によってさまざまです。報奨金以外では、海外旅行を報奨としている企業もあります。要は、社員がやる気を出してくれるだけの魅力ある報奨を用意することが大切といえるでしょう。

2)社員のモラールを向上させるための表彰制度

企業や仕事に対する社員のモラールを高めるための表彰制度です。こうした表彰制度には、職場の雰囲気を良くし、社員の企業に対する帰属意識を高める効果があり、これらを通じて業績を向上させる効果もあります。例えば、無事故表彰によって事故が減り、車の修繕費が節減され、利益が増加するなどのメリットがそれに当たります。また、管理職を対象に、ダイバーシティや部下との円滑なコミュニケーションなど、ワークライフバランスに関する取り組みを表彰している企業もあります。

しかし、こうした表彰制度が持つ業績を向上させる効果は、あくまでも二次的なものです。経営者がこの効果に期待を寄せるのは当然かもしれませんが、社員にまでその認識を押し付けるのは得策とはいえません。多くの社員は、これまで頑張ってきたことを企業に素直に評価してほしいと思っているものです。

従って、この表彰制度では、本来の目的であるモラールを向上させるために、次の点が大切になります。

  • 全ての社員に「まじめにやれば報われる」という希望を持ってもらう
  • 全ての社員に平等にチャンスを与える

このような観点から、こうした表彰制度では、皆勤賞や永年勤続表彰など、仕事の能力自体よりも、むしろコツコツ続ける毎日の努力に対して表彰を行うべきといえます。無事故表彰の場合は、「◯年以上無事故」「○年間皆勤」を達成すれば表彰するといった具合に、「継続こそ力である」という趣旨で制度を定めるのがよいでしょう。

なお、こうした表彰制度の報奨は、国内旅行、小額の報奨金、時計などの記念品、商品券、文具などが多いようです。

3)間接的に社業に貢献するための表彰制度

社員からさまざまなアイデアを募集するコンテストや、書類の整理方法の工夫・日常業務の効率化などを表彰する制度です。

こうした表彰制度は、本業に閉塞しがちな社員の頭の中を切り替えられるとともに、日々の業務以外にも企業にとって必要な活動があることを社員に示すことができます。一方、間接部門の業務改善提案などは、ルーティン化している業務に新しいアイデアを取り入れ、生産性を向上させる可能性があります。

なお、アイデアや改善提案の評価方法には「提案の優秀性」「年に何件提案したかという回数」などがあるでしょう。

また、提案の方法としては「個人による提案」「部や課、チームなどのグループによる提案」などがあるでしょう。映画館の1シアターを貸し切り、事前に書類選考で選ばれた候補者を集めて大会形式のプレゼンテーションを行っている企業もあります。どの方法を取り入れるかは、それぞれの企業の組織形態や業務の進め方などに沿って検討するのがよいでしょう。

改善提案やアイデアコンテストの報奨は、次のような基準で報奨金を支給する企業が多いようです。

  • 提案の質に応じて500円程度から10万円程度の報奨金
  • 規定の提案件数を満たした上で一定の水準以上の提案者に一律5000円

なお、ニュービジネスに関するアイデアなど、直接売り上げに結びつく可能性があるものは、一般に報奨金の金額も高く、50万〜100万円といった高額の報奨金を支給している企業もあります。また、賞金だけでなく、トロフィーや特別休暇などを賞品として授与しているところもあります。

4)企業の節目に際して行う表彰制度

創業記念日などの企業の節目に際して行う表彰制度です。この節目に際して永年勤続を表彰する他、企業がこれまで業績をあげるのに貢献してきた社員に対して感謝の気持ちを伝える行事を行ったり、創立記念日を制定したりすることもあるようです。

創業記念の場合、大企業などでは盛大な行事を開くところもあるようですが、中小企業ではお菓子などの簡単な記念品の配布や、パーティー、社員旅行などの社員全員で楽しめる企画を実施することが多いようです。

5)社員の節目を祝うための表彰制度

誕生日、結婚記念日など、社員の人生の節目を祝う表彰制度です。

記念日を迎えた社員に、企業から贈り物をするのがこの表彰の趣旨です。社員に対する細かな心配りができるかが、この表彰制度の正否を左右するといえるでしょう。

ケーキ(誕生日)、筆記用具(成人式)、書籍、アルバムなど、多くの費用をかけなくても「気持ちの通じるもの」を贈るとよいでしょう。また、表彰制度と併行して、誕生日、結婚記念日などに特別休暇を与える制度も実施すれば、休日増加策としても利用できます。

4 社内表彰を行った場合の税制上の優遇措置

社内表彰を行った場合に支給する記念品などは、次に掲げる用件を満たしていると、給与としての課税をしなくてもよいことになっています。

1.創業記念などの記念品の場合

  • 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること
  • 記念品の処分見込価額による評価額が1万円(税抜き)以下であること
  • 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること

2.永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用

  • 勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること
  • 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること
  • 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること

なお、記念品を支給したり旅行や観劇に招待したりする代わりに現金や商品券を支給する場合、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

以上(2018年12月)

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画像:photo-ac

日本でたった一人? 起業+事業開発20回以上のキャピタリストの宮嵜太郎さんのお話/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い起業家は宮嵜太郎さんです。

私もHPに“仲間”としてご掲載いただいているベンチャーキャピタルがあります。そこに私のご縁でジョインされた宮嵜さん。その経歴はまさに波乱万丈なのですが、その一端としてHPに掲載されている宮嵜さんの経歴をご紹介します。

“中学卒業後、丁稚(でっち)奉公として造園業に3年間従事。その後、営業経験を積むために就職。24歳のときに故郷である福岡に戻り起業。約12の事業を手掛けるが、知識や情報・経験の不足から多くの失敗を経験。資金も限られることから開業資金10万円で可能な事業を模索し、(株)豆吉郎を創業。豆腐の移動販売事業をフランチャイズ(FC)モデルにて展開。約700名のフランチャイジーと契約し、全国最大の移動販売組織を構築。2017年7月に同社を西日本新聞社に売却し、当社へ参画。”

●会社HP
http://www.kppartners.jp/aboutus.html

一目見ただけで「宮嵜さんに会いたい!」と連絡が入るほどのユニークな経歴。起業+買収+事業開発、アルバイトや業務委託を含めると、多業種にわたるビジネス経験が20回以上に及び、30代でありながら中学を卒業後に“丁稚奉公”の経験まであるという宮嵜さん。今回のインタビューで、とてもチャレンジングな“起業&企業家半生”について語っていただきました。

1 まずは大切な2つのこと

最初に、今回のインタビューを通じて感じた、最も重要で感動したこと2点を紹介します。それは、これまで起業や経営をしてきている中で、たった一度も、

  • 従業員への給与遅配が無い
  • 取引銀行への返済が滞ったり、リスケをしたりした経験が無い

ということです。

企業経営をしていく上で、この2点は本当に重要なことだと思います。顧客満足の前に社員満足。社員を大切に、そして自立心を持った社員の皆さんと一緒に事業を創っていく。そこを大事にしていたそうです。そして信用。金融機関との信用づくりも欠かせない。だからこそ、「借りたものは返す」という当たり前のことを徹底して信用づくりにこだわったそうです。

では、次章から宮嵜さんの目まぐるしい “起業&企業家半生”を、企業経営で大切なエッセンスを交えつつご紹介していきます。

宮嵜さんの画像です

2 幼稚園時代から営業経験?!

中学卒業後の起業経験を聞く前に気になったのが、幼い頃の話です。そこに「原点というか、ポイントがあるのでは?」と感じて最初に聞いてみたら、やはりあったのです。ビックリするエピソードが。

宮嵜さんは、なんと、幼稚園の頃からお父さんの造園業の営業を開始したそうです。『庭木の消毒は要りませんか?』と、5歳の子供が1軒、1軒を営業するというお話。お父さんから水筒を首に掛けられ、『お父さんは、今日1日この家で仕事しているから、隣の家からまわって来い!』と言われたそうです。

最初はよく分からないながらも営業を開始。途中からはコツをつかみ始めます。それが興味深いのですが、ピンポンとベルを鳴らした後、インターホンでは何もしゃべらず、無言で玄関の前で待っているのだそうです。すると、住人が出てきてビックリするわけです。「なんと子供が営業に来た!」と。そこで住人に話を聞いてもらうことができ、随分お父さんの仕事につながったというのですから驚きです。営業はちょっとした気づきと改善が必要ですが、そうした営業職としてのセンスが5歳の頃から開花していたのだと納得。そこから小学校に行きながら、営業職としての活動を続けたそうです。

3 短かった高校生時代の家出から京都での丁稚奉公経験

少年時代、学校に行く意味をあまり感じていなかった宮嵜さん。でも高校くらいは行こうと思って入学するも、やはり学校の勉強に興味は持てなかったそうです。そして、明日からテストという日、片道分の交通費だけ持って家出をし、福岡から大阪に向かったのでした。

ボクサーに憧れていた宮嵜さんは、大阪のボクシングジムに入ろうと門をたたきますが、門前払いされてしまいます。学生服を着たまま1週間ジムの近所の公園で寝泊まりしながら、入門を訴えるも許可はされなかったそうです。

仕方なく福岡に戻りますが、その後高校を中退し、アルバイトを転々としました。土木会社、飲食店、塗装会社、ガソリンスタンド、日雇い作業員など多数を経験しますが、「10年後も同じ状況で生活していてはいけない」と思い立ち、福岡から大分へ向かいます。そこで仕事をしながら、もっと遠くへ行こうと思い、今度は京都の造園会社に飛び込みで丁稚奉公を志願します。

当初は福岡からということもあり、正規の段取りは「作文を書いて郵送、審査」というものでしたが、それも無視して、着の身着のまま無一文で京都に行ったそうです。思い立ったら即行動。本当に行動力が半端ではありません。造園業での給与は当時6万円くらいで、それだけでは生活がままならないため、夜は中華料理店、土日は別の造園業者でアルバイトをしていました。

4 訪販営業で全国1位の営業マン時代

21歳になった頃、庭木の仕事は一通り習得していました。しかし、将来に不安を感じていた宮嵜さんは、「営業を勉強しよう!」と思い立ち、またもや全く土地勘の無い東京の渋谷へカバン1つ持って向かいます。『渋谷には何かあったのですか?』と質問すると、『東京だったら渋谷でしょ』という返答。渋谷に着いた頃は真冬の1月だったそうですが、ビルの駐輪場に2週間も野宿をしながら職探しをしていたそうです。

見つけたのは訪問販売の仕事。幼稚園時代の営業経験が復活し、2カ月目には全国1位の営業成績となっていったそうです。以来3年間、ずっとトップの成績を継続しながら、3年目には副業で介護用品のレンタル事業も行っていたと言います。

どうして営業成績1位になれたか聞いてみると、『周りの営業マンは自社の商品を売ることだけ考えていましたねぇ。私は、造園業の経験を生かして、無料で庭木の手入れをして喜んでもらって購入につなげていました。買ってもらうよりも先に、サービスをしていた、ということだと思います』と笑顔で語ります。「5歳からの営業経験は伊達じゃない」と感じました。

5 スクラップ&スクラップの連続から九州全域をカバーする事業開発へ

24歳のときに結婚。それを機に、福岡へ戻った宮嵜さんは個人事業主として、藤吉郎(後に豆吉郎に変更、法人化)を創業しました。屋号へのこだわりは、木下藤吉郎がどんどん出世していったことへの憧れからだそうです。

起業後は米の配達、レンタカー業、物干し竿の移動販売、広告代理業、半年後には法人化、食品の移動販売業、赤字を補うために造園業、古紙回収業とさまざまな事業をやりながら方向性を探り、29歳で豆腐の移動販売に事業を集中しました。

30歳の頃には、豆腐の移動販売で本格的にFC展開を開始し、早い段階で九州全域をカバー。広島エリア、大阪、福島県にまで事業を一気に拡大しました。なんと、50の事業所を開設し、25事業所を撤退したそうです。まずやってみて、ダメならすぐに撤退することを実践していました。

33歳の頃には事業拡大とともに、社員の自立化が図れて、社長業に余裕が出来たことから、新規事業の開発や子会社設立などを5社ほど経験。売却、統合、解散したそうです。飲食業界に進出して11店舗を10カ月で開業、9店舗を1年で閉店、外貨両替機の運営会社を設立するも設置場所が確保できずに撤退、忍者体験事業に進出するも撤退と、本当に目まぐるしい感じです。

●豆吉郎HP
https://www.toukichirou.club/

豆吉郎のホームページの画像です

6 事業売却からキャピタリストを選んだワケ

「自身の車1台から始めた食品の移動販売業は業績も好調。でも、もともと豆腐の事業をやりたくて起業したわけではない、自分はこのまま事業を続けるのか?」。そんな自問を35歳の頃に繰り返していた宮嵜さん。その頃にM&Aの仲介会社から複数声が掛かるようになっていたそうです。本業の移動販売は社員に任せていても大丈夫なほど仕組みが完成していたこの頃、「今だったら売却しても引き継ぎ先に迷惑も掛からない」と判断しました。大手コンビニからも手が挙がるほど多数の候補先から、売却先として地元の新聞社を選定したそうです。

事業売却後に、M&A仲介企業や、他社から社長候補としての声が掛かる中、宮嵜さんは「勤める、経営者になる、投資家になる」という3つの中から方向性を悩んだそうです。前者2つは経験済みだが、投資家になったことはないと考え、いきなり自分だけで投資をスタートするのではなく、どこかで勉強したい、経験を積めるところ、ということで、たまたま私がご紹介したベンチャーキャピタルに合流することになった次第です。

今後、起業家・事業家に復帰する可能性を残しつつも、逆に起業家を支援する立場でチャレンジをしていきたいと宮嵜さんは言います。これだけの幅広い経験を持つキャピタリストはなかなかいないと思います。起業家の立場に立ったアドバイスからスーパーハンズオンのキャピタリストとしてご活躍されることと思います。

またこれまでの経験を、スピーカーの立場として発信されることになりそうです。これからの半生も楽しみな宮嵜さんです。

以上(2018年11月作成)

【朝礼】業務のメリハリで分かる会社のレベル

いわゆる「チャットツール」の進化によって、以前に比べて連絡を取りやすい環境になりました。かつては電話や電子メールで連絡していたことでも、簡単な内容であれば要件を打ち込むだけで関係者に伝えることができます。非常に便利なものです。

一方、チャットツールの進化によって新たな問題が生じています。それは平日の遅い時間や休日でも、仕事の連絡が手軽にできてしまうことです。「通知を見るくらいだから負担にならないだろう」「嫌ならば通知をオフにしておけばよい」というのが、平日の遅い時間や休日に連絡をする人の言い分です。しかし、これは一面的なものの見方です。

もう一方から見ると、「いつ会社から連絡がくるか分からない」という状況がプレッシャーとなり、安心して休めないと感じる人がいるのです。気軽に使えるからこそ、チャットツールをビジネスで利用するときには配慮が必要であるということです。

まだ携帯電話が普及していなかった頃、頻繁にポケットベルが鳴り、そのたびに公衆電話を探していた上司を私は見てきました。携帯電話が普及した後は、出先で会社や取引先とひっきりなしに連絡を取っている同僚を見てきました。そして今は、平日の遅い時間や休日にチャットツールを使って業務連絡をしている皆さんを見ています。ツールは違っても、やっていることは同じです。

中期的に私たちが目指しているのは業務効率化です。チャットツールの進化で連絡を取りやすくなったとはいえ、今の煩雑な業務連絡の状況は効率的とはいえません。

皆さんに知ってほしいことは、仕事のできる人と外出したり、打ち合わせをしたりしているとき、その人に連絡がほとんど入らないことです。それは、外出などをする前に引き継ぎをしっかりとしているからです。「引き継ぎ」というと難しく聞こえるかもしれませんが、多くの場合、「外出中にA社から連絡があったら、○時に折り返すと伝言してください」と伝えておく程度のことです。

就業時間外についてはなおさらです。平日の遅い時間や休日に連絡しなければならないのは、本当に重要なことに限られます。突発でそうした事態が発生したのなら仕方がないですが、ちょっとしたメモ程度のことを通知するのはマナー違反なのです。

このように、皆さんの気遣いで全体的な業務にメリハリを付けることができます。そして、今の時代、気遣いをする範囲はチャットツールにも及ぶということです。

今年も残りわずかとなりましたが、この年末年始の休暇を皆さんにしっかり休んでほしいと思っています。休暇中、仕事の連絡をする必要がないように、今からきちんと準備をしてください。足元だけではなく、仕事始めの状況も想定し、準備をしておくことが大切です。

以上(2018年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

ベーカリーの開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:ベーカリーの開業を検討している経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 ベーカリーの概況

パンの小売業は製パン工場からパンを仕入れる「仕入小売型」と、自店で製造する「製造小売型」(以下「ベーカリー」)に大別されます。本稿では、ベーカリーの概況と開業に当たってのポイントおよび開業収支シミュレーションを紹介します。

1)パン小売業(製造小売)の統計の推移

総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」および経済産業省「商業統計」によると、パン小売業(製造小売)の事業所数などの推移は次の通りです。

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2)パンへの1世帯当たり年間支出金額

総務省「家計調査年報(家計収支編)」によると、パンへの1世帯当たり年間支出金額の推移は次の通りです。なお、家計調査の値には、ベーカリーだけではなくスーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、他業態で購入したパンへの支出金額も含まれています。

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3)原材料費の動向

近年、パンの原材料となる製品の価格は上昇傾向にあります。例えば、農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」によると、輸入小麦の政府売り渡し価格の推移は次の通りです。

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日本では、パンの原材料となる小麦の多くを輸入に頼っており、輸入小麦の売り渡し価格は農林水産省が直近6カ月間の平均買い付け価格を基に算定しています。

4)ベーカリーの競争力

スーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、異業態の店舗でも品質の高いパンを販売しており、ベーカリーにとって競合は激しくなっています。

焼きたてのパンを販売するベーカリーの特徴は、工場で生産されたパンより風味や香りで勝ること、製造から販売までを一貫して行う製販一貫体制であることなどがあります。これらの特徴を最大限に生かせるよう工夫することが重要です。

一般に、食品などの最寄品販売の商圏は、半径500メートル~1キロメートル程度の近隣商圏といわれていますが、ベーカリーは競争力を高めることで、商圏を広げることが可能です。地域で評判の店舗になれば、その商圏は半径2~3キロメートル、またはそれ以上の地域商圏を見込むことも可能となります。また、近隣に学校や事業所が多ければ、サンドイッチなどの調理パンを展開することで、中食市場への参入が可能となります。

2 ベーカリー開業に当たってのポイント

1)開業立地

パンは最寄品であるため、基本的には近隣商圏で成り立ちます。そのため、ここでは「近隣商圏として半径1キロメートル程度」を見込むこととします。

競争力を発揮するには、それにふさわしい開業立地を選定することが必要です。望ましい立地の条件として、次のような点が挙げられます。

  • 顧客となる人口が十分にいる地域であること、また、将来的に人口の増加が見込める地域であること
  • 分かりやすい場所で交通事情がよく、来店しやすいこと
  • 競合する店舗が集中していない場所であること
  • 店舗開設に支障がなく、比較的安価に物件を取得できる場所であること

具体的な立地候補地としては、「駅前」「主要商店街」「住宅や事業所の集積地」「ショッピングセンターなど大型店舗内」などが考えられます。

なお、ショッピングセンターなどにテナント出店する場合は、「ショッピングセンターの集客力に大きな影響を受ける」「テナント料が必要になる」「販売促進や営業時間など店舗運営に一定の制約を受ける」といった点に注意が必要です。

2)ベーカリーの開業に当たって他店と差異化を図るポイント

1.手作り感や焼きたて感の訴求と品ぞろえの充実

ベーカリーの特徴は、自店で手作りしたパンを焼きたてで提供できることです。店頭に看板やのぼりなどを立て、手作り・焼きたてのパンを提供していることをアピールする他、店内では営業時間内でもパンを製造して、焼きたて感のあるパンを定期的に陳列するとよいでしょう。また、ベーカリーは、顧客ニーズに対応した商品を独自で開発することができます。顧客ニーズを把握し、品ぞろえを充実させることは、他店との差異化につながります。

2.お買い得感の演出

価格を下げ、価格を訴求することは他店との差異化につながりますが、量産品のパンを扱うスーパーなどのほうが、比較的容易に価格を下げることができるため、価格での競争は難しいのが実状です。従って、商品の全てを低価格にするのではなく、日替わりの一部の商品を特売価格で販売するのもよいでしょう。

3.来店のしやすさの向上

来店しやすい場所に出店することが重要です。さまざまな場所でパンが売られるようになっているため、開業に当たっては事前に地域の人口の把握や交通量など、条件にかなう立地であるかどうかを慎重に調査しなければなりません。また、ロードサイドに出店する場合は、自動車で来店する顧客が多いため、駐車場を設けた上で、視認しやすく駐車が容易であるように配慮することも欠かせません。

4.イートインスペースの設置

「買ったパンをその場で食べたい」「カフェのように休憩などの用途で利用したい」などのニーズがあることから、イートインスペースの設置は顧客の増加につながります。イートインスペースを設置する際は、イートインスペースがあることを、のぼりやチラシなどで訴求することが重要です。また、ドリンクメニューを設ける必要がありますが、「当店オリジナル手作りジュース」など自店独自のメニューがあれば他店との差異化が図りやすいでしょう。

その他、イートインスペースを設置することで店内の陳列スペースが不足し、品ぞろえが不十分となって顧客の減少を招くことのないよう、自店の店舗面積などに応じて慎重にイートインスペースの設置の有無やスペースの広さを検討しましょう。

3 新規開業収支を考える

1)前提条件

1.賃借料

賃貸物件に入居、賃借料年額300万円(賃借料月額25万円)

2.保証金・敷金

賃借料の6カ月分で150万円とします。

3.店舗造作費

店舗造作費を1200万円(1坪当たり40万円で30坪)とします。

4.厨房等設備費

厨房等設備費(冷蔵庫、オーブン、作業台など)を800万円とします。

5.開業費

200万円(広告・宣伝費・その他)

6.売上高

4270万円(前出の経済産業省「経済センサス」の1事業所当たり年間商品販売額)

7.パン製造小売の場合の原価率

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の売上高総利益率53.9%を参考に、原価率を46.1%とします。

8.固定費

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の人件費対売上高比率34.8%を参考に、人件費を1486万円(4270万円×34.8%)とします。

その他の諸条件は次の通りとします。

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2)収支シミュレーション

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4 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2017」によると、パン小売業(製造小売)の経営指標は次の通りです。

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以上(2018年10月)

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