マーケティングを営業戦略に生かすには

書いてあること

  • 主な読者:マーケティングを踏まえた営業戦略を練りたい経営者
  • 課題:営業戦略を具体的にどう立案すべきかが分からない
  • 解決策:マーケティングの分析結果を参考に具体的なアクションプランに落とし込む

1 営業戦略とは

1)業績達成に不可欠な「営業戦略」

営業は会社の業績を支える重要な活動であり、営業戦略はその営業活動の方向性を定める戦略である。しかし、この戦略策定があいまいなまま営業活動を行っている企業も多いのではないか。例えば、次のようなケースはないだろうか。

  • 「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった業績目標はあるものの、それを実現するための道筋(戦略)が不明瞭である
  • 営業戦略はあるものの、前年度の内容を踏襲したもので、市場環境の変化などを踏まえておらず実態に合っていない

こうした状況であれば、営業部門、実際の営業活動に従事する各営業担当者は、「具体的にどの市場で戦うべきなのか」「数多くある商品の中で、どの商品に力を入れて販売すればよいのか」といった点を判断できなかったり、変化した市場環境に適合する活動を行えなかったりして、思うように業績を残せないだろう。

営業部門が効果的に営業活動に取り組み、成果を上げていくためには、しっかりと練られた営業戦略が不可欠なのである。

もし、前述したような点に思い当たることがある経営者は、改めて自社の営業戦略について考えてみる必要があるだろう。

2)営業戦略の基本要素

具体的な営業戦略の内容はさまざまだが、主な要素を整理すると次のようになるだろう。

  • 営業目標
  • 営業目標を達成するための市場戦略(以下「市場戦略」)
  • 営業活動を支えるための内部戦略(以下「内部戦略」)

1.営業目標

「営業目標」とは、1年間の営業活動を通じて達成すべき目標となる。営業上の目標というと、「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった業績目標が思い浮かぶだろう。こうした業績目標は不可欠ではあるが、その他の目標設定も忘れてはならない。例えば、「営業担当者の育成」「営業情報の共有化による組織のレベルアップ」など、業績目標とは直接的な関連が薄いものであっても、営業力を強化するなどのために解決すべき課題があるのならば、営業目標として設定しなければならない。

2.市場戦略

「市場戦略」とは、営業目標を達成するための外部に対する戦略である。例えば、「どの顧客に」「どの製品を」「どのようにして」販売していくのかということを決めることである。

このように説明すると、全社的なマーケティング戦略などと同じような印象があるが、市場戦略では「より具体的な形にする」必要がある。

例えば、マーケティング戦略であれば、「○○地域の法人をターゲットに、A製品を重点的に販売する」といったように、「市場=一定のマス」として説明されることが多い。

一方、市場戦略では、営業部門が実際に活動する際の指針となるように、例えば、○○地域の法人をさらにセグメント化しその中で優先順位を付け、営業目標を達成するためにいつまでに何をすべきかといった点まで落とし込む必要がある。

3.内部戦略

「内部戦略」とは、営業活動を支える社内に関する戦略である。例えば、組織体制や業務フローの見直し、営業担当者の確保・育成などといった営業力強化のための社内における取り組みなどが該当する。

営業戦略は、営業部門のみで全て決定できるものではない。また、経営戦略をはじめ企業活動を規定するその他の戦略などとの整合性もとれていなければならない。実際にはこうした整合性を確認しながら、「営業戦略を策定し、その他の戦略や企業活動にも反映させていく」「その他の戦略や企業活動の内容を踏まえて、営業戦略の内容を見直す」といったように、行きつ・戻りつしながら、最適な営業戦略を策定することになる。

以降では、市場戦略を中心に、マーケティングを生かして営業戦略を策定するポイントを紹介する。

2 マーケティングを生かして営業戦略を策定する際のポイント

営業戦略を策定する際の第一歩は、外部環境や内部環境についてしっかりと分析をすることである。中小企業の場合は、こうした分析をしっかりしていなかったり、過去の分析結果などを無条件に踏襲しているため、市場の変化を十分に捉えた分析をしていなかったりといったケースが散見される。

以降では、こうした点を検討する際に利用できる主な分析手法などを紹介する。

1)顧客に関する分析

対象とする顧客層を検討するための主な分析方法にはターゲットセグメンテーション分析やABC分析がある。

1.ターゲットセグメンテーション分析

ターゲットセグメンテーション分析とは、市場を特定の基準に基づいて細分化し、それぞれの集団の特徴を分析する方法である。市場を細分化する際には、「各集団が同質的なニーズを有する」「各集団間はニーズが異なる」ようにするのが基本となる。

市場を細分化する際は、比較的容易に情報を入手できる次のような基準を使うことからはじめてみるとよいだろう。

・個人向け市場の場合

年齢、性別、学歴、職業、所得水準、居住地など

・法人向け市場の場合

業種、所在地、企業規模(売上高、従業員数、資本金)など

2.ABC分析

ABC分析は、売上金額や利益額などに基づいて、既存顧客の会社への貢献度を分析する方法である。「20対80の法則」と言われるように、多くの企業では、少数の優良顧客から多くの売上金額や利益額を上げている。ABC分析を通じて、こうした顧客の貢献度合いや会社にとっての重要度を分析することができる。

なおABC分析は、必ずしもABCの3つのグループに分ける必要はない。各社の実情に応じてグループを増やして分析してもよい。

2)製品に関する分析

自社製品の可能性を分析するために役立つ分析方法の1つがPPM(Product Portfolio Management)である。PPMは、自社製品を「相対的シェア」と「市場成長率」の2つの軸に基づいて整理し、経営資源をどう振り分ければよいかを4象限で示したものである。PPMの概念は図表1の通りである。

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PPMでは「市場の成長率」と「相対的シェア」を基に、製品を「問題児」「花形」「金のなる木」「負け犬」に分類するが、この4つのパターンは製品の“誕生”から“死滅”へのプロセス(プロダクトライフサイクル)の考え方が背景にある。

すなわち、最初は「問題児」として登場し、やがて「花形」「金のなる木」を経て、最後は「負け犬」となって消えていくというものである。そのため、PPMに基づく基本的な経営資源の配分の考え方は、「金のなる木」で得た資金を「花形」や将来性の見込める「問題児」に投資をして育成する。そして花形への移行を見込めない一部の「問題児」や「負け犬」からは撤退する。

ただし、実際には「負け犬」になりかけている製品のテコ入れを行ったり、リニューアルをしたりして、再び他の象限に該当するような製品になるケースも多い。そのため、基本的な経営資源の配分の考え方をベースにしつつ、自社の方針などを踏まえて、各製品の位置付けを検討することになる。

3)外部環境・内部環境の分析

外部環境や内部環境を分析する最もポピュラーな方法はSWOT分析である。SWOT分析は、自社の内部環境を強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、外部環境を機会(Opportunities)と脅威(Threats)に分けて分析する。SWOT分析の視点は図表2の通りとなる。

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SWOT分析の結果に基づく戦略策定の基本方針は図表2内の各セルに記載しているが、「強みをいかにして生かすか」という点を重視して考えることが大切となる。弱みに対する相応の対処は必要ではあるが、弱みは経営者の考え方、組織上の問題などが複雑に絡み合っており、簡単には改善できないことが多い。そのため、強みを生かすほうが、より効果的な営業活動をできる可能性が高い。

なお、詳しい説明は省略するが、主な環境分析手法には図表3のようなものがあるので、活用を検討してみるとよいだろう。

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3 マーケティングの結果を営業戦略に反映するには?

こうした各種分析結果を基にすることで、より説得力ある、そして実現性の高い営業戦略を策定できる。以降では、マーケティングの結果を反映させつつ、効果的な営業戦略を策定する際のポイントを紹介する。

1)営業戦略の4つの階層

実効性のある営業戦略を策定する際には、「営業目標」「基本方針」「個別戦略」「アクションプラン」の4つの階層に分けて考えるのが基本となる。営業戦略のイメージ(市場戦略)は図表4の通りである。

内容は企業ごとに異なるが、「営業目標」の下に営業戦略の方向性を示す「基本方針」を策定する。この基本方針を実現するためにはさまざまな取り組みが必要で、それを定めるのが個別戦略となる。個別戦略は、地域別、顧客層別、製品別など、複数の戦略を策定するのが一般的である。

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そして個別戦略において具体的に実行すべき事項を整理したのがアクションプランとなる。図表4のアクションプランは簡略化しているが、実際には、誰が、いつまでに何をするのかといった点が分かるように決めておく。例えば、「ターゲットのリスト化と担当割を△チームが4月中に行う」といったように明確にしておくことが大切になる。

なお、ここでは市場戦略を例に紹介したが、内部戦略についても同様に4つの階層に分けて考えるのが基本となる。

2)マーケティングを営業戦略に生かす必要性

営業戦略の策定に際して、前述したような手法で行った分析結果を活用する最大のメリットは、過去の延長線上の営業戦略から脱却できるという点にある。

変化する経営環境の中では、過去の実績を踏襲した「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった営業目標のみを掲げて営業活動を行っても、効率的な営業活動を行うことはできないし、そうした営業活動では早晩行き詰ってしまうことになる。

また、仮に営業戦略を策定しようとしても、過去に策定した営業戦略の延長線上のものになるか、現在の環境に合わないものになってしまうことになるだろう。

こうした状況に陥らないようにするためには、しっかりと分析を行い、現状を正しく把握することが不可欠となる。

3)営業戦略を策定する際の注意点

1.営業戦略の可能性を探る

営業戦略を策定する際には、例えば「新規顧客の開拓」といった1つの方向性の営業戦略のみを検討するのではなく、複数の方向性を検討した上で、最良の営業戦略を選択することが望ましい。

新たな成長の可能性を探るため、例えば「新規顧客の開拓」といった1つの方向性の営業戦略のみを検討するのではなく、「新規顧客の開拓」を重視した戦略と「既存顧客の深耕」を重視した戦略などの複数の方向性を組み合わせて検討した上で、最良の営業戦略を検討してみるとよいだろう。

営業目標を達成するために企業が取り得る営業戦略は1つではない。また、当初から1つの方向性に絞り込むと前年度を踏襲した営業戦略になってしまう可能性が高い。

2.「やらないことを決める勇気」「優先順位を付ける勇気」を持つ

しばしばいわれることだが、戦略とは「やらないことを決めること」である。営業目標を達成するためには、多くのことに取り組んだほうがよいことは確かである。しかし、組織として、やれることには限界がある。中途半端にいろいろなことに取り組んでも、かえって全てが中途半端になり、十分な成果を上げることはできない。

また取り組むと決めたことであっても、全てについて100%の力で取り組むことは現実的ではない。そのため優先順位付けを行うことも不可欠となる。そのため、関係部署と議論を重ねつつ、やらないことを決め、またやることについても優先順位付けを行うようにしなければならない。

3.中小企業ならではの柔軟性を生かす

しっかりと練られた営業戦略であっても、思うような成果が上がらないこともある。こうした場合、規模の大きな企業であれば、営業戦略を容易に変更するのが難しいことが多い。

しかし、小回りの利く中小企業の場合は、営業戦略の見直しなどを比較的容易に行うことができる。そのため、「一旦営業戦略を策定したら、1年間はそのまま突き進む」といったことではなく、営業戦略の進捗状況や成果を常に注視し、思うような成果が上がらなければ、次の一手を念頭においておくことが大切となる。

以上(2019年5月)

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企業のライフサイクルに沿った人材活用の考え方

書いてあること

  • 主な読者:企業のライフサイクルに応じた人材配置をしたい経営者
  • 課題:適任者がいない。あるいは、同じようなタイプの人材が登用される
  • ポイント:既存の枠にとらわれないチャレンジングな登用が奏功することもある

1 企業の「ライフサイクル」とは

1)商品のライフサイクルの考え方

ヒットした商品もいずれは衰退期を迎え、市場から姿を消していきます。商品が市場に出てから姿を消すまでを「商品のライフサイクル」といい、次の4段階で進んでいきます。

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導入期や成長期では、市場に参入する負荷が高いので、宣伝広告や営業活動などの販促活動を総動員して「市場づくり」「顧客づくり」に力を注ぎます。

成熟期では、需要をできる限り継続させてシェアの維持を図ります。このため、ユーザーへのアフターケアを強化するとともに、生産や供給コストの合理化を図って商品力を強化していきます。

衰退期は、商品が徐々に衰退しながら新しい商品へと交替していく時期です。従来の商品に替えて、次の商品を導入するタイミングが重要な意味を持ってきます。早過ぎると在庫過剰や自社ブランドの共食い現象が発生し、遅過ぎると旧商品によって形成された市場に競合が割り込んでしまいます。

2)企業にもある「ライフサイクル」

企業(組織)においても商品と同様に「ライフサイクル」が存在します。ライフサイクルを企業に当てはめてみましょう。企業のライフサイクルの4段階は次の通りです。

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企業の人材活用に必要な視点は、自社がこれらのライフサイクルのどの段階にあるかによって異なります。本稿では、身近な例を挙げながら、企業のライフサイクルと人材活用の関係について紹介します。

2 企業のライフサイクルと人材戦略の関係

1)企業のライフサイクルと「適材」「適所」の関係

企業のライフサイクルが進むごとに、企業の組織構成も新しくなります。新しい組織に人材を配置するセオリーが「適材」「適所」であることは言うまでもありません。「適材」とは、適切な能力を持った人材であり、「適所」とは、人材が適切な機能を果たす部門ということです。例えば、会計部門であれば会計業務に長じた人材を配置することになります。

しかし、もう少し戦略的な見方で「配置」を考えると、いくつかの問題点が浮上してきます。例えば次のような問題点が挙げられるでしょう。

  • 適任者がいなければ、機能すべき部門が十分に機能しない可能性がある
  • 適任者といえども、あくまで業務に対する能力であって、「新組織」という不確定要素の多い環境に適応しているとは限らない
  • 逆に、安定して機能している組織に「新組織」を得意とする人を配置してしまうケースもある

2)「適材」「適所」の考え方

こんな例があります。ある広告代理店で、クライアントの増加により営業社員の担当エリアが拡大したため、営業部が本社とは別に支社を設置することになりました。しかし、新しい支社の責任者選びになかなか結論が出ません。人事部長はどうにか候補者を2名に絞り込んだところで会議を招集し、「新しい支社の責任者にA君とB君を候補として考えています。意見を聞かせてください」と伝えました。

A君は、社内状況をしっかりと把握し、営業面でもそつなくこなしており、現場での人望も厚いようです。しかも生え抜きで、下馬評では最有力です。B君は、実績面でこそ合格ラインとなっているものの、ルール違反や社内の他部門に対する配慮に欠けた営業活動で、他の部門からは非難を浴びているとのことです。

結果、会議で出された意見ではA君の支持が圧倒的となりました。しかし、そこで人事部長は「皆さんの意見は分かりました。私の意見はB君です。会議結果をまとめて社長に報告します。従って、最終的な辞令は後日、社長から発表していただきます」と伝えました。そして数日後、大方の予想を裏切ってB君が責任者として任命されました。

半年後、新支社は見事に大きな実績を上げることができたのです。当初の立ち上げ計画を大幅に上回り、新規のクライアントが数多く含まれていました。

実は、人事部長は社長にこんな提言をしていました。「普通に考えれば、A君で決まりです。しかし、これでは支社の立ち上げ目標をクリアするのは困難で、本社から相当の支援を必要とします。ですから、今回はあえてB君に白羽の矢を立てたのです。彼は、どうも本社内で勝手な動きをしているのが気になるのですが、原因は本社の業務システムと彼の活動システムが根本的に違うことにあるのではないかと思うのです。責任者としての適性に疑問は残りますが、新規の土俵をつくり上げる役割という視点で見れば彼の発想は注目すべきです」。

新しい部門は、ルールづくりから始めなければなりません。新しい関係先や取引先も、一からの関係づくりが必要です。その半面、コストパフォーマンスや合理性の追求は後回しになりがちで、既存の「やり方」と摩擦を起こすこともしばしばあるものです。責任者がこうした摩擦を負担に感じてしまうようでは推進力が鈍ります。負担には違いないけれども、これらを解決することに焦点を定めて果敢にトライするエネルギーが貴重な戦力になるのです。

今回のケースは、企業のライフサイクルにおける「拡大期」の人材配置の例です。企業が飛躍を始める拡大期においては、業務をそつなくこなすことよりも、新しいことに次々と取り組んでいける人材が必要になります。

平時において治めることに力を発揮する者もいれば、混乱の中でその力を発揮する者もいます。B君の特質はまさに後者であったということです。支店の営業が安定した後にはA君に責任者の地位を譲り渡すこともあり得るでしょうが、少なくとも支店の立ち上げという「拡大期」においてはB君の起用がより効果的だったわけです。一見、不適切に思える人材配置も、その「時期」を見極めれば適切なものになり得るのです。

3 「適材」「適所」に「適時」の視点を加える

企業経営はよりスピードを増し、経営者にとっても、企業にとっても過酷な要求が次々と投げかけられます。例えば、社内の情報化を例に挙げると、「組織として対応せざるを得ないのは分かっているが、組織を動かす『人』がいない」といった悩みを抱えている経営者は数多くいるのではないでしょうか。企業では既に分社化や事業部ごとの独立採算制が進み、組織はどんどんコンパクトになり、それに伴い意思決定のスピードも速くなっています。意思決定スピードの上昇に対応するため、従来のタテ割りの組織形態を変更し、よりフラットな組織形態を選択する企業も出てきています。そのような組織形態では、タテ割り型の組織よりもリーダーになる人材が限られることが多く、組織のリーダーとなる人材を選択することの重大さはますます大きくなるでしょう。

そんな変革の時代の人材配置の考え方として、「適材」「適所」という選択基準に「適時」という考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。A君とB君の例では、事業が拡大期にあり、新しいことを次々とこなしていける人材が求められていたからこそB君の力が生きたわけです。逆に、衰退期にある事業部を統合するといった状況であれば、A君やその他の人材の能力が活かされることでしょう。

人材は見方を変えれば、異なった特性を発見することができます。変革の時代においては、従来の人材配置手法である、業務の達人が昇進してリーダーになるだけのシステムでは、真に優秀な人材を活かすことはできなくなるかもしれません。

これからの人材配置は、次のような点をより重視して、「適切な人材」を「適切な部門」へ「適切な時期」に配置することが重要となるでしょう。

  • 今、その事業がライフサイクル上のどのような位置にあるのか
  • 今、求められているのはどのような能力なのか

以上(2019年10月)

pj80073
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ストーリーで学ぶソリューション営業

書いてあること

  • 主な読者:ソリューション営業で今より成果を上げたい経営者や営業担当者
  • 課題:顧客の欲しいもの、やりたいことを聞いて答える「御用聞き営業」がうまくいかない
  • 解決策:ソリューション営業にはリソースがかかる。対象顧客の絞り込みや情報収集のポイントなどを解説する

1 対象顧客の決定

インターネットなどを通じて、製品比較や口コミなどの情報が容易に収集できる現在、営業担当者と顧客の間に「情報の非対称性」はほぼありません。そのため営業担当者には、もう一歩顧客に近づき、顧客の課題を解決するソリューション営業が求められます。

本稿では、レトルト食品を製造するA社の営業部を例に、ソリューション営業の進め方を確認していきます。最初に実施するのはソリューション営業の対象顧客の決定です。早速、A社の状況を見てみましょう。

【ソリューション営業の検討】

A社は、カレーやパスタソースなどレトルト食品の製造販売をしています。食材にこだわった同社の商品は、百貨店やレストランでも使われています。しかし、最近は競合他社の攻勢もあり、A社の売り上げは伸び悩んでいます。

A社は、訪問回数を増やしましたが効果がありません。売り上げ減少に歯止めをかけたいA社は、顧客のニーズを再確認するために、ソリューション営業の検討を開始しました。

とはいえA社の顧客は数百社あり、全てにソリューション営業を行うのは現実的ではありません。ソリューション営業は、顧客とのミーティング、情報収集・分析、提案書の作成など時間と労力が必要だからです。

これまでの営業でコミュニケーションが取れている顧客に、あえてソリューション営業を行う必要はありません。顧客に利用されるだけで終わるのも避けたいところです。A社はソリューション営業の対象顧客をどのように決めたのかを見てみましょう。

【ソリューション営業の対象決定】

A社は、経営者、営業責任者、製造責任者で話し合い、「どの顧客にソリューション営業を行うか」を検討しました。その際、取引実績を縦軸、成長性を横軸とするポジションマップに顧客を業種別に配置しました。

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最も重要なのはスーパーですが、現状維持でも問題ありません。また、百貨店は成長性が見込めません。一方、レストランは成長性がある期待の分野ですが、取引実績は低調です。そこで、A社はレストラン部門をテコ入れすることにしました。

ポジションマップを活用すれば、ソリューション営業の対象を絞り込みやすくなります。なお、A社が取引するレストランの数が多いため、今度はレストランだけのポジションマップを作成し、さらに絞り込む必要があります。

また、図表1のポジションマップでは紹介していませんが、「取引実績のない見込み客」についても検討すると理想的です。見込み客の中に、今後の大きな成長が期待できる先が見つかるかもしれないからです。

2 対象顧客の情報収集

顧客の選定と並行して、顧客の外部環境と内部環境の情報を収集します。外部環境は顧客を取り囲む環境のことで、法改正、規制緩和などが該当します。顧客の競合他社の出現、店舗前の道路工事なども外部環境の変化です。

一方、内部環境は顧客が有する経営資源のことで、経営者、経営理念、組織体制などから始まり、経営計画、収益動向、採用動向などが該当します。A社は、レストランXについて、次の情報を収集しました。

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A社は、自社の営業担当者、雑誌・新聞、インターネット、社外の調査機関を活用して情報を収集しました。競合店の売り上げ状況は信用調査会社の情報を利用し、接客態度やメニューはA社の営業担当者が客として訪れることで把握しました。

インターネットを利用することで、素早くさまざまな情報を収集することができますが、本当に必要な情報はインターネットにはあまり公開されていないものです。そうした情報を収集するためには、社外の調査機関を利用することも一考に値します。

3 情報分析と課題把握

収集した情報を分析し、顧客で発生している課題を把握します。

【課題の把握】

レストランXからA社への発注が減っているのは、レストランXの売り上げが減少しているからでした。レストランXが苦戦している理由は、「レストランXがこれまで開催してきたフェアの中止」です。

レストランXは、「カレーフェア」「パスタフェア」などを行い、集客は上々でした。にもかかわらず、レストランXがフェアを中止したのは、フェアに合わせた新メニューの考案や、スタッフの対応が大変だからです。

レストランXの店長もフェアの中止によって売り上げが減少したことを認識しています。しかし、利益率の低さとスタッフの負荷の大きさから、フェアの復活は難しいと考えていました。

そこでA社は、これらの課題を解決しつつ、フェアが復活できるプランを提案することを決めました。難しい提案になりますが、それを成し遂げてこそレストランXにメリットがあり、A社も評価されると考えたのです。

ここでは紹介していませんが、通常、上記のような状態でレストランXにフェアの復活を提案しても、「そんなことは十分に考えた。でも無理だよ」と相手にしてもらえないでしょう。そこを突破するには、日ごろの関係構築が不可欠です。

4 提案の立案

顧客の課題を解決に導くと同時に、自社の商品を採用してもらえる提案をします。

【提案の立案】

A社が立案したのは、フェアに関するパッケージサービスの提供でした。A社の立案した提案内容の骨子は次の通りです。この取り組みで効率化を図り、フェアの収益を改善することが狙いです。

  • フェアのメニューは、A社がレトルト食品として提供する
  • レトルト食品のレシピは、A社とレストランXのシェフが相談して決定する
  • フェアの店内POPの案はA社が作成する
  • A社は同業のB社、C社と提携し、多様なレトルト食品を提供する。窓口はA社に一本化する

仮に、自社だけでは顧客の課題を解決できない場合は、他社との提携を検討します。「自社と顧客」だけではなく、「自社、自社の競合先、自社の顧客、自社の顧客の顧客、自社の顧客の競合先」といった広い視点を持ちましょう。

5 プレゼンテーション

提案内容が決まったら、いよいよプレゼンテーションです。

【プレゼンテーションの実施】

プレゼンテーションでは、「A社を窓口としてレストランXがB社、C社から商品を購入した場合の料金」と「レストランXが、直接B社、C社から商品を購入した場合の料金」の比較も示されました。

A社を通したほうが若干高くなるものの、レストランXは、発注窓口をA社に一本化するほうがメリットが大きいと考えました。また、総合的な支援が盛り込まれているA社の提案内容は、レストランXから高く評価されました。

プレゼンテーションは、数字を交えたほうが説得力が増します。通常、顧客は安いプランを選択しますが、A社の提案は多少高くても選択したくなるだけの魅力がありました。ここがソリューション営業の大切なポイントです。

6 フォローアップ

ソリューション営業の提案がうまくいくようにフォローアップします。

【フォローアップ】

A社のプレゼンテーションから3カ月後に1回目のフェアが開催されました。集客は上々で、レストランXとA社は収益を上げました。A社では、今後もレストランXのフェア開催を強力にサポートしていくことを決定しています。

フォローアップは、全社的にソリューション営業を根付かせるきっかけになります。顧客と継続的に深く関わることで、営業担当者はソリューション営業を強く意識するようになっていくからです。

こうして、営業担当者のソリューション営業を全社的にサポートすることができれば、ソリューション営業の効果は高まります。また、ソリューション営業で実現したビジネスモデルを、企業の強みとして定着させることも重要です。

以上(2019年4月)

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効率的に目標を達成するための「営業の科学」

書いてあること

  • 主な読者:場当たり的で属人的な営業を脱して、営業効率を高めたい営業マネジャー、営業担当者
  • 課題:場当たり的な営業活動で非効率的。うまくいっても再現性が低い
  • 解決策:営業活動を一つひとつ分解し、数字とロジックで「見える化」する。誰が見ても分かり、行動できるようになる

1 1億円を1年で取り返す!?

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これは、あるIT会社のミーティングでの一幕です。社長から全社員に向けて、強烈なゲキが飛びました。この会社の年間売上は10億円。年間1億円の損失は非常に大きなインパクトです。容易に取り返せるものではありません。

このような場合、皆さんの会社ではどのように営業活動を進めるでしょうか? 本稿では、こうした目標を達成するために、必要な営業活動を「見える化」して考えます。今日からでも、皆さんの営業活動にお役に立てば幸いです。

2 御社の営業チーム、それでうまくいきますか?

1億円を1年で取り返す。この目標を達成するために、営業の若手社員が集まっています。やる気があるのはよいことですが、計画性がなく、「とにかく動いてみよう」としている様子……。次のような会話は、ありがちかもしれません。

・営業担当X君:

よし、やろう! 俺は全国の見込み先を回るぞ。会って、うちの商品の魅力を話せば、きっと買ってくれる!

・営業担当Y君:

僕も全国を回りますよ! ちょっと旅費交通費がかかるけど、獲得できれば安いものです!

・営業担当Z君:

だめだめ。気持ちは分かるけど、行き当たりばったりすぎる。だいたい、全部って何件あるの? その中のどこを回って1億円取り戻すの?

・営業担当X君:

え~と……。とにかく、全部獲得する気で回ればいいんだよ!

・営業担当Y君:

う~ん、確かにそうですね。まずどういうところに回るか、考えてみましょうか。え~と……。難しいな。何かアイデア、ありますかね?

「とにかく1件でも多く成約するまで回り続ける」という考えなしの営業活動では、目標を達成するのは困難です。営業担当者の労力や気力も続きません。仮に今回うまくいったとしても再現性がなく、ノウハウが蓄積されないでしょう。

営業活動では、目標を達成するために、「どのように進めれば、より成果を上げやすいか」を考え、実践に落とし込むのが基本です。また、かけられる時間やコストにも限りがあります。できるだけ効率的に成果を上げる方法を考えなければなりません。

3 営業活動を「数式」で考える

成果を上げる確率を高めるには、営業活動を一つひとつ分解し、それぞれに施策を立てることが必要です。例えば、「営業先=どこに営業するか?」「接触=どのようにアプローチするか?」など、次の「数式」のようなイメージです。次章で詳しく見てみましょう。

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4 営業活動の一つひとつの施策を立てる

1)潜在市場:どこに営業するか?

潜在市場を選ぶ際に重視すべき主な事項は3つです。1つ目は市場の大きさ(規模)であり、言葉を換えれば、自分たちの顧客になってくれる可能性がある先が何社あるか(法人営業の場合)ということになります。

潜在市場が1万社あるA市場と、100社しかないB市場があったとします。売上目標を達成するために10社の成約が必要だと仮定した場合、A市場なら0.1%、B市場なら10%の顧客化が必要となるため、端的に言えば、A市場のほうが狙いやすくなります。

一方、その市場規模は足元の状況なので、将来の成長性も加味します。これが2つ目に重視すべき事項です。成長性は量と質で考えます。潜在市場にいる社数が増えるだけではなく、社数が同じでも、規模が拡大して客単価が大きくなることもあるからです。

さて、中小企業の多くは単一事業で、顧客も特定の市場に偏っています。地の利のある市場であり、ここで勝負することが理想ですが、獲得できる顧客数には限界があるため、別の潜在市場にも目を向けなければなりません。

潜在市場を見るとき、3つ目に重視すべきは現実性です。接触できる先が多いという意味で市場規模は大きいほど魅力的ですが、仮に1万社全てと接触できるかどうかは、自社のリソースによります。実際に接触を試みることができる数を加味した選定が必要です。

まずは、現在自分たちが顧客化している市場だけで勝負できるかを確認します。足りないようであれば、別の市場を狙うことになりますが、市場規模を知るためには、官公庁の統計などが役立ちます。成長性については業界リポートなども入手しましょう。

2)接触率:どのようにアプローチするか?

接触率、つまり、「何件に、どのようにアプローチするか?」を考える際に、まず重視すべきは時間軸です。「潜在市場を見るとき」でも触れていますが、仮に営業候補先が市場に1万社あっても、1年間など限られた時間の中ではその全てに接触はできません。

メールやSNSで情報発信し、アクセス状況を見ながら反応の良い先に電話をして耕すといった方法は、1年間で成果を上げるには現実的ではないのです。従って、営業候補先1万社をセグメントした上で優先順位を決め、テレコールするといった方策が必要です。

セグメントする際の視点は、営業候補先の規模、競合の営業状況、過去の営業履歴の3つです。まず、目標を早く達成するには、販売価格の大きい可能性がある先を優先すべきです。規模が100億円の会社と10億円の会社では、前者のほうが可能性は大きいでしょう。

また、競合が営業している先、あるいは既に競合を導入している先は、同様の商品やサービスを検討する素地ができているといえます。自社の商品やサービスを一から説明するよりも、成約する可能性は高いと考えられます。

とはいえ、「営業候補先の規模」「競合の営業状況」という視点は、営業候補先の状況を考慮せず、こちら側が「可能性が高い」という仮説を立てているにすぎません。営業候補先の状況をある程度考慮できるのは、「過去の営業履歴」という視点です。

過去に営業したことがあり、成約に至らなかった先については、その理由や内情がある程度、分かっています。それを加味してアプローチすれば、初回訪問して自己紹介から始めるよりも、早く成約する可能性があるのは言うまでもありません。

また、セグメントしてアプローチする優先順位を決める際は、時間の経過とともにアプローチできる先が減少することにも注意が必要です。営業活動が進むにつれ、提案内容が個別具体的になれば、アプローチ先1社に費やす時間が長くなっていくからです。

営業候補先の規模は、業界団体のウェブサイトや信用調査会社から分かります。過去の営業履歴は社内で確認できます。一方、競合の営業・導入状況の入手には工夫が必要です。業界関係者へのヒアリング、調査会社への調査依頼なども検討しましょう。

3)商談率:何件に見積もりを提出するか?

商談については、まず、「商談率とは何を指すか」を明確にすることが必要です。例えば、自己紹介と実績を伝えるだけの初回訪問では、商談をしているとはいえません。成約に近い具体的な検討段階に到達して初めて、商談しているといえるのです。

成約に近い具体的な検討段階とは、つまり、見積もりを提出する段階です。従って、商談率とは、「見積もりを提出し、商談化する率」といえます。商談率は、これまでの商談経験やアプローチ先の状況、時期などを加味することで明らかになります。

「具体的な予算を聞き出せれば、見積もりを提出できる可能性が高い」など、これまでの商談経験を踏まえ、似た状況にある先は、商談化できる先と見込めます。また、予算取りの時期が分かれば、その時期に提案することで、商談化できる率は高まるでしょう。

アプローチ先の意思決定者が同席した、競合の営業状況をアプローチ先のほうから明らかにしてくれたといった場合も、具体的に見積もりを提出する段階が近づいているといえます。こうした「商談化できそうな状況」は、必ず社内で共有しておきましょう。

一方、商談率には、目標から逆算するという視点も必要です。その際には、過去の成約率の数値が欠かせません。仮に、目標達成に20社の成約が必要で、これまで商談から成約に至るのが10%だったとすれば、少なくとも200社は商談化しなければなりません。

そこで重要になってくるのは、「商談率を上げる」ための工夫です。「既存顧客に対して新商品を案内するときに言うべきこと、見せるべき資料」「新規先に話すべき事例」など、状況に応じて言うべきことや確認事項などを共有し、商談率を上げるのです。

4)成約率:何件獲得できるか?

成約率は、「何件獲得できるか?」です。仮に、売上目標が1億円で想定の販売単価が500万円であれば、必要な成約件数は20社です。過去の成約率から、20社成約するために必要な商談率や接触率を算出し、潜在市場を見るという「逆算」も必要です。

また、「何件獲得できるか?」は、商談化(見積もりを提出する段階に進むこと)と同様に、商談先の状況にもよります。ここまできたら、必要なのは、どのようにして成約率を高めるかという、社内で共有しルール化した取り組みです。

購買決定要因や意思決定者の意向を確認して対応する、競合との差異化ポイントを伝えるなど、成約率を高めるトークスクリプトを用意しておくのがよいでしょう。最終提案の1週間後には必ず連絡を入れるなど、行動をルール化するのも一策です。

トークスクリプトは、一度作成したらそれで完成するものではありません。現場の営業担当者からの「こう言ったらスムーズに成約できた」といったフィードバックを基に、より成約率の高い言い方や方法などを都度反映し、内容を更新し続けましょう。

5)販売単価:いくらで販売するか?

常に定価でスムーズに成約できれば問題はありませんが、営業の現場では、いつもそううまくいくとは限りません。「値下げしたほうが成約できる(成約の確度が高まるのではないか)」と考える営業担当者は少なくないでしょう。

ただし、値下げすれば、その分だけ成約件数を増やさなければなりません。分かりやすく単一価格、単一商品で表すと、仮に販売単価500万円で20件成約して1億円の売上目標を達成できるとすると、販売単価を400万円に値下げした場合、25件の成約が必要です。

そのため、そもそも顧客になる可能性のある先が少ない市場では、値下げ戦略を取るのは得策ではありません。同様に、価格弾力性の低い商品やサービスの場合、値下げしても販売数量が増えないのであれば、値下げはあまり意味がないことになります。

一方、価格弾力性が高く、値下げが販売数量に大きく影響を及ぼす場合、値下げは一考の余地があります。状況によっては、販売先がリピーターとなることもあるでしょう。どのような価格戦略が良いかは、商品やサービスの価格特性を加味することが必要です。

また、商品やサービスにもよりますが、「いくらで販売するか?」を考える上では、競合の価格という視点も重要です。競合の状況によっては、自社が市場を早く席巻するため、あえて低価格戦略を取るという方法もあり得るでしょう。

6)購入頻度:どのくらいの頻度で販売するか?

一度販売した顧客がリピーターとなってくれれば売上目標に貢献しますが、重要なのは時間軸です。例えば1年間で1億円といった目標の場合、極端に言えば、この1年以内にリピーターとなってもらわなければ意味がありません。

そこで、顧客のニーズや予算などの状況をヒアリングしながら、目標期間内に予算が確保できそうであれば、成約した商品、サービスのアップセルやクロスセルを目指して、新しい提案をするのがよいでしょう。

ただし、顧客の状況や関係性を考えず、自分勝手に「お願い営業」をするようなことがあってはなりません。目標期間内にアップセルやクロスセルが難しそうであれば、具体的な提案は次期などに回し、今回は別の顧客を開拓するといった対応が必要です。

7)売上(目標):コスト感覚を持ちつつ目標を達成する

本稿では、分かりやすくするために、目標を「売上」としていますが、実際の営業活動では必ず利益も考えなければなりません。そこで、営業活動における各施策は、営業担当者の人件費も含め、コスト感覚を持って進めることが肝要です。

販売する商品やサービスについて、変動費と固定費から限界利益や損益分岐点を算出し、営業活動で発生してもよいコストの範囲を営業担当者に周知しておきましょう。営業担当者にコスト感覚を持たせるには、具体的な数値を示すことが大切です。

5 1年で1億円を達成したその後は……

ここまで、効率的に目標を達成するために、営業活動を一つひとつ分解して施策を立てる考え方を紹介してきました。冒頭で紹介したIT会社は、この方法を取り入れ、「1年で1億円」という目標を達成できたようです。

・営業担当X君、Y君、Z君:

やったー!1億円!達成したぞ!!!

・営業担当X君:

いや~、どこに営業するかとか、どうやってアプローチするかとか、最初は考えることが多くて大変だったけど、終わりよければ全てよし!

・営業担当Y君:

そうですね!今回は、会社の規模と過去の営業履歴から優先順位を付けてアプローチしたので、いつもよりムダが少なかった気がします!

・営業担当Z君:

頑張ったかいがあったな。ただ、商談率と成約率の見込みが、まだ甘いと思う。特に商談率は、アプローチした先の0.5%を見込んでいたが、実際は0.4%だった。そこから20件も成約できたのは、先輩方のフォローのおかげだよ。

・営業担当X君:

そうそう、それは俺も思った。実際の現場では想定通りにいかないことが多いしな~。今回の実績を踏まえて、社内で「0.5%が通常」とされてきた商談率を見直したほうがいいかもしれないな。

・営業担当Z君:

そうだな。同時に、商談率や成約率を高められるよう、トークスクリプトも見直しが必要だ。

・営業担当Y君:

よし! 善は急げです! 我々3人で、もっと成約につながるトークスクリプトを考えてみましょうよ!

営業活動には終わりはありません。大切なのは、目標を達成した後も、成功や失敗をノウハウとして社内で共有し、次に生かすことです。そうすれば、成約率も目標もレベルアップしていくでしょう。ぜひ、組織全体で営業力を高めていきましょう!

以上(2019年7月)

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広報経験者に聞く 自社の魅力を伝える勘所

書いてあること

  • 主な読者:広報活動をしたことがない、ノウハウが少ない企業の経営者や広報担当者
  • 課題:プレスリリースの出し方やメディアとの付き合い方の質を向上させたい
  • 解決策:広報活動の基本や広報経験者が教える効果的な広報活動のポイントなどをまとめる

1 社外にアピールする広報活動の必要性

どんなに優れた製品やサービス、技術を保有していても、消費者にその良さを届けられなければ意味がありません。企業には、自社の強みや魅力といった売りを社外に向けてアピールする広報活動が必要です。

もっとも、広報活動に取り組んだことがないため、社内に十分なノウハウが蓄積していなかったり、広報を担う人的余裕がなかったりする企業は少なくありません。

一方で、十分なノウハウや人的余裕がない中でも広報活動に注力し、自社ブランドや製品などの認知度向上、新規取引先の開拓、採用率向上などの成果に結び付けた企業があるのも事実です。

そこで本稿は、実際に広報を経験した人へのインタビューを基に、企業が広報活動に乗り出す際のポイントや注意すべき点を紹介します。

2 広報活動の基本を理解する

1)主な業務内容

広報担当者が担う業務は多岐にわたります。企業規模や部署の役割などによって異なりますが、広報の主な業務内容は次の通りです。

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広報活動の目的に合致する業務を優先して取り組むことが大切です。製品やサービスの認知度を高めたいのか、自社ブランドを根付かせたいのか、採用率や離職率を改善したいのかなど、広報活動の目的は企業ごとに異なります。何のための広報活動なのかを明確に定め、限られた人員や予算で実現可能な業務を絞り込むことが重要です。

2)自社の全貌を把握する

広報担当者は、社外からの問い合わせに対応する「窓口」の役割を担います。そのため、自社の業績、製品やサービスの特徴、直面する課題などを正確に把握することが大切です。問い合わせがあったとき、以下の内容を踏まえた上で迅速に回答できるようにします。

  • 自社のビジョン、経営戦略
  • 自社を取り巻く市場の動向、規模、課題
  • 自社製品やサービスの特徴、売り上げ実績、主な競合
  • 今期の業績、前期からの推移、各事業部の事業内容、計画、目標
  • 自社に対するユーザーや消費者の声、評価、主なクレーム内容

3)社内外を結ぶ「情報経由地」となる

広報担当者の中核業務は「情報の収集・発信」です。社外に向けて自社情報を発信するだけではなく、発信すべき情報を社内から収集したり、メディアに取り上げられた記事などをチェックし、自社が社外でどう評価されているのかを社内にフィードバックしたりすることも必要です。

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情報を効率よく収集・発信できるようにするには、メディアをはじめとする社外の人脈を形成するのは言うまでもありません。また、見落としがちなのは、社内の各部署との関係です。社内の情報を余すことなく収集するには、各部署の取り組みや課題の聞き取りが不可欠です。普段からコミュニケーションを図って社内の人脈を形成し、社外に発信できそうな話題を入手できるようにします。

3 広報経験者が教える効果的な広報活動のポイント

1)4人の広報経験者に聞く

新たに広報活動に取り組む場合、オーソドックスな広報活動を展開するだけでは十分な効果を見込めません。競合がひしめく中でも自社をアピールできるよう工夫を凝らし、他社と差異化した施策を打ち出すことが大切です。

以降では、4人の広報経験者が実際に取り組んだポイントを紹介します。

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2)効果的なプレスリリース制作のコツは?

Aさん:

読み手であるメディア担当者が興味を持つ見出しを考えるのは言うまでもありません。製品を使うユーザーが、どんな“幸せ”を得られるのかを伝えられるよう配慮します。文章で伝えにくければ画像や動画を活用します。製品の良さをどう伝えるのが効果的かを考えることが大切です。

一度プレスリリースで案内した製品を、内容を変えて再利用します。市場の動きやトレンドに合わせて製品の特徴を伝えられるように書き直すと、以前よりメディア担当者の反応が良くなることがあります。流行のキーワードを文章に盛り込むのも効果的です。

Bさん:

プレスリリースで取り上げる情報が足りないと考える企業は多いはずです。そんなときは、収集した情報の裏側に潜む背景や秘話を探ることが大切です。

例えば、新年度に掲げるスローガンについて、その意味を示すだけではプレスリリースとしての価値はありません。どんな経緯で生まれたのか、何を目指しているのかといった背景や秘話を加えるだけで、価値を高められます。背景や秘話を通して自社のビジョンを周知できる他、企業イメージを植え付ける効果も見込めます。

3)メディアと良い関係を構築するには?

Cさん:

メディアからの問い合わせは「迅速かつ正確に回答する」ことが基本です。メディアの規模や過去の掲載実績に関係なく、平等に対応します。規模が小さく記事掲載による波及効果を望めないメディアであっても、問い合わせの回答を後回しにしてはなりません。当たり前かもしれませんが、誠実に1件ずつ対応することが求められます。

Dさん:

メディアの編集部などを定期的に訪問して関係を維持します。メディアに提供する新情報を持ち合わせていないと訪問しづらいかもしれません。そんなときは「御用聞き」になるのがお勧めです。今後予定している企画を聞き出し、どんな情報を欲しているのかを探ります。場合によっては取材先を紹介したり、必要な情報を探したりします。こうした取り組みによって関係が深化します。訪問するメディアリストを作成し、担当者名や訪問履歴を記録しておくことも大切です。

4)SNS運営で気を付けることは?

Bさん:

運営する目的を明確にすべきです。SNSの目的は一般的に、自社のイメージ向上やファン獲得です。そのため、新製品やサービスを紹介するプレスリリースの内容をSNSにそのまま投稿するのは必ずしも好ましくありません。内容は薄くて構いません。セミナー開催の裏側やスタッフ紹介、就業中の何気ない写真など、「当社はこんな会社です」というイメージを訴求する内容をコツコツ投稿するのが望ましいでしょう。もちろん、運営目的や自社の戦略などによって投稿すべき内容は異なります。

Cさん:

SNSの運営に試行錯誤している企業は少なくないでしょう。中には成果を急ぐあまり、奇抜で過激な内容を意図的に投稿するケースが散見されます。企業風土や業態などによって異なりますが、こうした“炎上狙い”の投稿は控えるべきです。企業のイメージ低下を招く可能性は、わずかでも排除するのが広報担当者の務めです。

5)広報活動の成果をどう評価する?

Aさん:

広報活動へのKPI(重要業績評価指標)導入は賛否が分かれます。広報活動による実績を一定の指標で可視化するのは難しく、指標と売り上げが直結しにくいという問題もあります。広報活動を始めた直後は効果を見込みにくく、KPIも形骸化しかねません。

広報活動は、経営者の理解が強く求められる業務です。そのため経営者はもとより周囲の理解と協力が、広報活動による効果拡大には欠かせません。KPIを設けたとしても目安程度にとどめるべきです。

Dさん:

記事1本につき○ポイント、テレビなどの大きな露出は○ポイントといった配分で、半期ごとに評価するKPIを設けています。目標を達成するときもあれば、目標を大きく下回るときもあります。

KPIは、自分の取り組んだ結果を客観的に把握できる1つの目安です。前期や前月からの推移を比較し、広報活動が十分かどうかの参考になります。以前より下回っていれば、広報活動の内容を見直したり、工夫したりするなどの対策を講じます。

もっとも、上期にプレスリリースで発表すべき新製品・サービスの投入がなく、下期に集中することもあります。こうした“会社の事情”で目標達成の難易度は大きく変わります。KPIを導入する場合、記事掲載数やプレスリリースの本数に依存しない評価項目と、ポイントの配分が重要です。KPIの項目・数値設定は難しい作業です。運用しながら修正して精度を高めるのが望ましいでしょう。

6)広報担当者が備えるべき心構えとは?

Bさん:

いくら頑張っても成果に結び付かないかもしれないのが広報活動です。ただし、成果を見込めなくても諦めてはいけません。地道に継続することが広報活動では極めて重要です。モチベーションを維持するのは難しいでしょう。しかし、小さな情報発信が大きな効果を生む可能性を秘めているのが、広報活動の醍醐味でもあります。成果を急ぐ必要はありません。日々の広報活動を積み重ねることが大切です。

Cさん:

広報担当者が扱うのは「情報」です。情報はメディアごとに使い方や解釈が異なります。時間とともに鮮度も下がります。そのときの状況に応じて情報の利用目的や価値を使い分けることが大切です。

例えば、メディアからプレスリリースに関する問い合わせがあったら、メディアが何を望んでいるのかを踏まえ、そのときの最適解を提示します。プレスリリースに掲載していない新たな動きがあれば、併せて伝えるのが親切です。毎回同じではなく、その都度異なる対応を迫られるのが広報です。

以上(2019年2月)

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顧客データを営業活動に生かすための整理術

書いてあること

  • 主な読者:顧客データを営業に生かしたいと考える経営者や担当者
  • 課題:顧客データの管理が行き届いていないために、営業活動に利用できない
  • 解決策:顧客データを管理する際のポイントを解説する

1 顧客データを全社共有する必要性

誰が、いつ、何を、何個買ったのかという購買履歴は、今後の販売目標や生産計画を立てるときの指標になります。購買意欲の高い優良顧客を探すときにも役立ちます。また、顧客の住所は、DM(ダイレクトメール)の送付や効率的な訪問計画の作成などに欠かせません。このように、営業活動を進める上で顧客データは重要な役割を担います。

しかし、顧客データを営業活動に十分生かせない企業は少なくありません。営業活動が属人的で共有すべき情報がそろわなかったり、そもそも営業担当者が登録作業を面倒臭がったりと、本来は全社で活用すべき顧客データが不完全なケースが見られます。

企業が顧客データを効果的に活用するには、従業員がその価値を認識するとともに、使える状態で顧客データを管理することが不可欠です。登録や管理は地味な作業ではあるものの、この取り組みが売り上げ向上に寄与し、競争力の源泉となるのです。

そこで本稿は、顧客データを活用するための基本となる整理術を紹介します。

2 管理が行き届かない顧客データの現状

1)コスト増大や人材不足が管理上の課題に

顧客データから得られる気付きを営業活動に生かしたい……。取得可能なデータ量の増加に伴い、こう考える経営者が増えています。しかし足元を見ると、複数の顧客リストが散在するなど、実用に足る信頼性を持ち合わせない顧客データが多いようです。

これは、管理に必要なコストや人材を確保できないといった理由が根底にあります。総務省の調査によると、「データの収集・管理に係るコストの増大」を課題と考える企業の割合が47.4%を占めます。利用方法が分からない、取り扱いに精通する人材が足りないなどの声もあり、利活用への障壁は低くないようです。

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2)機会損失や顧客離反を誘因

しかし、営業活動において顧客の住所や連絡先、購買履歴などの利用頻度が高まる中、顧客データの不備が営業活動に支障を来すケースが増えています。表記揺れや記入漏れ、重複、入力ミスのある顧客データは、顧客の現状を正しく把握できず、売り上げの機会損失や顧客満足度低下による顧客離反などを招く恐れがあります。

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例えば、請求書や契約更新案内、各種証明書などの重要書類を旧住所や以前の担当者宛てに送付すれば、「書類が届かない」といったクレームにつながりかねません。結果として、サービス解約や他社サービスへの契約切り替えのリスクを高めてしまいます。

誰がどんな商品を購入しているのかが正しくひも付かなければ、どの顧客にどんな新商品を提案すればいいのかも分かりません。効果的な販売施策を打ち出せない“的外れ”な営業活動は、売り上げ低下に直結します。

3 顧客データの要は「精度」「粒度」「鮮度」

1)精度

氏名や住所、連絡先など、正しい情報を登録します。もし間違えていれば、郵送物が届かなくなったり顧客と連絡が取れなくなったりし、顧客満足度低下などの引き金になりかねません。顧客データを登録する際の入力ミスも考えられることから、電話番号やメールアドレスも含めて正確性を担保するようにします。

2)粒度

データの度合いや細かさをそろえます。例えば顧客ごとの売り上げを登録する際、1年間の総額なのか、毎月の売り上げなのか、利用明細別の売り上げなのかといった具合です。収集期間や対象範囲などをそろえることで、顧客を同じ基準で比較、選別できるようになります。顧客データの用途を踏まえ、粒度を定義するのが望ましいでしょう。

3)鮮度

顧客に関する情報が最新であるようにします。日々の営業活動により、顧客との関係や次回に提案すべき内容は刻々と変化します。こうした直近の動きを踏まえて営業活動を実施できるようにします。顧客先を訪問したばかりなのに、別の営業担当者がアポイントメントを取ろうとしている、などの無駄を省く上でも必要です。

4 顧客データを整理する手順を把握する

1)現状把握

自社で保有する顧客データが、どう管理されているのかを確認します。顧客データを収録したファイルの数、保存場所、ファイル形式、更新頻度、現在使われているかなどを把握します。

ファイルの作成者が分かる場合、ファイルを作成した目的も確認します。DMを送付するため、優良顧客を抽出するため、展示会で自社ブースを訪れた来場者に連絡するためなどの目的から、ファイル内の顧客データの重要度を見極めます。

これらを踏まえ、整理すべき顧客データを絞り込みます。散在する全ての顧客データを一元化する必要はありません。整理する手間や時間を考慮し、利用価値の見込める顧客データだけを整理対象に含めます。

2)ルールづくり

顧客データを登録する際の表記ルールを策定します。「株式会社」と「(株)」のどちらを使うか、住所を「丁目、番地、号」と「‐(半角ハイフン)」のどちらで表記するかなどを決めます。表記揺れの多い項目を洗い出し、書き方をそろえます。

保存場所も明確にします。全社員が「この場所に保存されている顧客データが最新」という認識のもと、利活用しやすい場所に保存するのが望ましいでしょう。利便性の面から顧客データをクラウドに保存する場合、暗号化するなどの対策も検討します。

顧客データをファイルで管理する場合、特定の表計算ソフトウエアで利用する機会が多ければ、表計算ソフトウエア用のファイル形式で保存します。SFA(営業支援)やBI(データ分析)ツールなどで利用する機会が多ければ、「csv」や「txt」といった汎用的なファイル形式で保存しておくと便利です。

その他、氏名を「姓」と「名」に分けるのか、カナ入力欄を設けるのかなども検討します。顧客の優良度ランクや受注確度をランク付けした指標などのファイル固有の入力項目がある場合、顧客データを整理する際にその入力項目を残すかどうかも決めます。

3)正誤確認

顧客データの間違いを正します。特に担当者や住所が古いままのケースが多いことから、ウェブサイトの会社情報や直近に交換した名刺などを参考に、間違いの有無を確認します。場合によっては登録した担当者に正誤確認してもらうことも必要です。

住所の都道府県名や建物名などが抜けて空欄となっている場合、情報を補完します。書き直す際は、事前に策定したルールに従って入力します。

4)重複データ統合

同じ顧客データであるかどうかを判別し、同じ場合は統合します。住所と担当者、社名が完全に一致する場合は同一と見なすなどのルールを定めておくようにします。

なお、ルールを満たす場合でも統合は慎重に行います。社名と住所が同じでも担当者は別などといったケースがあり得るからです。統合する際、営業担当者などに不ぞろいな情報を上書きして構わないかを確認することも必要です。

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5 表記揺れを解消する

顧客データを整理する際、最も手間のかかる作業が表記揺れの修正です。登録時のルールを決めずに社員任せにしているケースが多く、さまざまな書き方が存在します。そこでここでは、一般的に起こり得る主な表記揺れの例を紹介します。ルールを策定したり、表記揺れをチェックしたりする際の参考にしてください。

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6 顧客データを整理するポイント

1)定期的なメンテナンスを

「顧客データは一度整理すれば終わり」というわけではありません。使い続けるほど汚くなるため、定期的なメンテナンスが不可欠です。担当者の変更や取引先の移転に伴う住所変更などの情報を更新し、営業活動に使える状態を維持することが大切です。

もっとも、完璧を目指す必要はありません。用途によりますが、1件の間違いもない顧客データを用意する必要が本当にあるのかを考えるべきです。メンテナンスに割く人員やコストを勘案し、現実的に可能なメンテナンスを実施するようにします。

2)ツール活用で整理作業を効率化

顧客データの整理に人員を割けない場合、表記揺れや重複を解消するツールの導入を検討しましょう。導入コストはかかるものの、膨大な顧客データの表記をそろえたり、類似するものを統合したりする作業を自動化します。

なお、表計算ソフトウエアの中には、書き方が不統一な郵便番号や電話番号、日付を一括変換し、特定の表記に書き直せるものがあります。数字を含む一部の顧客データに限られるものの、表記揺れを容易に解消できるので便利です。

整理作業を代行する事業者に依頼する方法もありますが、顧客データを事業者に預けることになるため情報流出に注意します。顧客データの受け渡し方法や管理方法、納品後の処分方法を確認するとともに、過去の実績を踏まえて事業者を選定すべきでしょう。

以上(2019年1月)

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「お客様が怖い」をなくす営業力強化法

書いてあること

  • 主な読者:営業部に配属されたがお客様とうまく話せない “営業初心者”や「営業が苦手な部下」を持つマネジャー
  • 課題:お客様と話すとき、必要以上に委縮してしまう
  • 解決策:怖れるなかれ、失敗はあってよい。あとは、簡潔に話す、プラスの言い方をするなど日ごろの訓練がものを言う

1 営業担当者は「お客様が怖い」?

営業担当者がお客様としっかりコミュニケーションが取れない。うまく提案できない。多くの会社で共通する課題です。例えば、お客様のニーズや提案の検討状況など確認するための質問ができない営業担当者が少なくないのです。

営業担当者がお客様に質問できない理由は2つです。1つ目は、質問すべきことが分からないことです。上司の指示の下、言われたことをやっているだけの営業担当者は、何を質問したらよいか自分で考えることができません。

2つ目は、営業担当者に「お客様が怖い」という気持ちがあることです。確かに、お客様と向き合いその声に真摯に耳を傾けようとすればするほど、大切なお金を支払っていただいていると思えば思うほど「お客様は怖い」ものです。

しかし、必要以上に「お客様が怖い」と萎縮するのは問題です。行き過ぎると、「時間がない」と言い訳をして、お客様への連絡や提案などを避け、後回しにするようになるでしょう。これでは営業のチャンスを逃してしまいます。

「お客様が怖い」を克服して営業力を強化するには、訓練することが大切です。特に営業担当者が苦手意識を持ちやすい「質問するとき」「プレゼンテーション(プレゼン)するとき」について、今日からでも社内でできる訓練法や心構えを見てみましょう。

2 質問の訓練は、事前準備が大切

質問の訓練は、質問する役とお客様役に分かれて行うロールプレイング(ロープレ)が効果的です。お客様役には営業経験の豊富な上司や先輩が適していますが、今までにない視点を求めるなら、若手社員をお客様役にするのも一策です。

「お客様が怖い」を克服するための訓練は、臨場感が必要です。質問する役はもちろん、お客様役も、想定するお客様のことを事前に情報収集した上で訓練に臨みましょう。この事前準備を習慣づけると、実際の営業現場でも役に立ちます。

また、質問する役が「この質問によって商談をどのように進めたいのか」を考え、自分の意思を持っておくことも不可欠です。冒頭で紹介した「何を質問したらよいか自分で考えることができない」という問題の解決にもなるでしょう。

そこでお客様役は、質問する役が「どうしたいのか」をあらかじめ確認し、その方向に進む質問ができているかをチェックしましょう。例えば提案プランAの導入を目指すなら、Aについての感触を確認する質問ができているか、などのようにです。

3 「簡潔に分かりやすく」の訓練

「お客様が怖い」という気持ちが先立つと、「嫌がられたらどうしよう」「断られたらどうしよう」という不安がどんどん大きくなります。その結果、お客様に対して回りくどい言い方で長々と質問してしまうことがあります。

状況や関係性にもよりますが、回りくどい質問は、お客様を不快な気分にさせます。質問の意図が分からず、答えにくいからです。こうならないように、訓練の際に簡潔で分かりやすい言い方を心掛けることが大切です。

例えば、質問する役は、初めに「お聞きしたいことが3点あります」と言って、質問が何点あるか明らかにすることを習慣づけます。そうすれば、相手に「いつまで質問が続くのだろう」と思わせることはなくなるでしょう。

また、5W2H「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうする・いくら」を明らかにすれば、自分の考えを整理して質問ができます。特に重要かつお客様に聞きにくいのは「なぜ」です。必ず「なぜ」を明らかにする訓練をしましょう。

4 「プラスの言い方」の訓練

質問も含め、お客様と話をする際はできるだけプラスの言い方をすることが大切なのですが、「お客様が怖い」と思い過ぎていると、自分のほうからマイナスの言い方をしてしまうことがあります。

例えば、「この方法が良いと思いますが、これだと手間が掛かって大変ですよね?」と聞くのと、「多少手間が掛かるかもしれませんが、これがお客様のニーズに合った一番良い方法です。いかがですか?」と聞くのとでは印象が全く違います。

お客様に対してプラスの言い方ができるようになるには、ロープレにおいてプラスの言い方を意識します。それをお客様役がチェックし、マイナスの印象を受けた言い方については改善します。

5 プレゼンは緻密な組み立てが必要

お客様に商品・サービスを提案するプレゼンの訓練にも事前準備が必要です。プレゼンの目的や内容を覚えるのはもちろん、「どこにどのくらいの時間を掛けて話すか」をあらかじめ組み立てなければなりません。

例えば、資料1ページごとに何分間話をするかという進行表を作っておくのもよいでしょう。聞き役は、進行表を見ながら、想定時間をオーバーしたページをチェックしてプレゼンする側にフィードバックし、調整しながら全体を仕上げます。

こうした準備や訓練は自信につながります。プレゼンは緊張するので、「お客様が怖い」という気持ちが全くなくなることはないかもしれませんが、自信がつけば、必要以上に萎縮せずに済むでしょう。

また、聞き役には、厳しい上司や先輩がよいかもしれません。プレゼン後の質疑応答のロープレでは、聞き役がわざと答えにくい質問をするのもよいでしょう。厳しい状況を想定して訓練をしておけば、本番で楽に話せるようになるでしょう。

6 「堂々と話す」訓練

プレゼンで大切なのは、相手に伝わるよう、堂々と話すことです。いくら提案の内容が良くても、早口過ぎたり声が小さかったり、自信がなさそうな話し方では、相手に与える印象が良くありません。

人は自分の話し方に影響されます。小さい声で自信がなさそうに話していると、本当に自信がなくなり、「お客様が怖い」という気持ちが強くなるものです。訓練のときから大きな声でゆっくり話すよう心掛けましょう。

また、自分の言葉で話すことも大切です。上司から言われた通りのことを説明しているだけでは深みがなく、相手に伝わりません。お客様の前では、緊張してなおさら自分で言っていることが分からなくなるでしょう。

プレゼンの訓練をしていると、どうしても話しにくいところが出てきたりしますが、これも「自分の言葉になっていない」のが原因です。こうした場合は、話す内容や資料をもう一度見直して、自分の言葉で説明しやすいように変えていくとよいでしょう。

7 失敗は、あっていい

プレゼンには自信があるものの、その後にお客様から質問されるのが怖いという営業担当者も少なくありません。想定問答集は作るものの、リアルのビジネスではお客様が想像もしないような質問をしてくるのが常だからです。

これは対面のプレゼンに限らず、電話でも同じです。営業担当者はお客様からの質問にうまく答えられないと「失敗した」「お客様が怖い」と思いがちですが、分からないことを「分からないので確認します」と答えるのは恥ずかしいことではありません。

「お客様が怖い」と萎縮する気持ちは、裏を返せば「うまくいかなかったらどうしよう」「嫌な思いをしたくない」「恥ずかしい思いをしたくない」という失敗を恐れる気持ちでもあります。

こうした気持ちにとらわれ過ぎてお客様と接することを避けていては、結果を出すことはできません。たとえ失敗したとしても、それは貴重な経験です。何もしないでいるより、一歩前に進んでいるのです。

以上(2018年11月)

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ワイン市場と国内ワイナリーの業界動向

書いてあること

  • 主な読者:ワインの製造・販売を検討する経営者
  • 課題:市場規模や業界を取り巻く環境が分からない
  • 解決策:市場規模や大手製造業者の動き、輸入ワインの状況などを把握する

1 ワインの基準と分類

1)ワインの定義

国税庁のウェブサイトによると、ワインとはぶどうを原料として発酵させたものの総称を指します。ただし、酒税法では果実酒もしくは甘味果実酒に分類されます。国税庁は「酒のしおり(平成31年3月)」の中で、酒税法第3条第13号および第14号に基づく果実酒および甘味果実酒の定義の概要について、主に次のように説明しています。

  • 果実酒…「果実を原料として発酵させたもの(アルコール分が20度未満のもの)」または「果実に糖類を加えて発酵させたもの(アルコール分が15度未満のもの)」
  • 甘味果実酒…「果実酒に糖類又はブランデー等を混和したもの」

ワインの製造法によって4分類したものを当てはめると、非発泡性のスティル・ワインおよび発泡性のスパークリング・ワインは果実酒に、発酵過程でブランデーなどの強い酒を加えたフォーティファイド・ワインの多く(一部は果実酒)や、スティル・ワインに薬草や果汁などを加えたフレーバード・ワインは甘味果実酒となります。

2)「国産ワイン」の表示基準

国税庁は、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項に基づき、2015年10月30日に「果実酒等の製法品質表示基準」(以下「基準」)を定めました。それまで一般的に「国産ワイン」と呼ばれてきたものを、原材料や製造地によって明確に分類したもので、2018年10月30日から適用しています。基準では、ワインを次の3つに区分しています。

  • 日本ワイン…国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒
  • 国内製造ワイン…日本ワインを含む、日本国内で製造された果実酒および甘味果実酒
  • 輸入ワイン…海外から輸入された果実酒および甘味果実酒

基準では、この他にも「特定の原材料を使用した旨の表示」など、ワインの表示について定めています。

2 国内ワイン市場の規模

1)日本のワイン市場

国税庁「酒税課税関係等状況表」によると、果実酒および甘味果実酒の販売(消費)数量の推移は次の通りです。

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ワインの中心を占める果実酒の販売(消費)数量は、ここ数年はほぼ横ばいですが、10年前と比べると大きく増加しています。なお、キリンのウェブサイトにある「ワイン参考資料(2019年7月)」では、「2000年以降ワインは、食事をしながら楽しむ食中酒として、(中略)スーパーやコンビニエンスストアでも気軽に購入できるようになり、日常で飲まれるお酒として定着しつつあります」としています。

■キリン「データ集」■
https://www.kirin.co.jp/company/data/

総務省「家計調査」によると1世帯当たりのワインの購入数量と支出金額の推移は次の通りです。

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10年前と比べると、酒類全体の支出金額が減少傾向にあるのに対して、ワインの支出金額は大幅に増加し、ここ数年は横ばいとなっています。結果的に、酒類に占めるワインの支出の割合は、10年前と比べて3ポイント上昇しています。

2)国内のワイナリー数

国税庁「国内製造ワインの概況」によると、国内ワイナリー数およびワイン製造販売事業者数の推移は次の通りです。

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堅調なワインの消費動向にも支えられ、国内のワイナリーは増加傾向にあります。ワイナリー数は2017年度に300場を超えました。

3 国内ワイン業界の環境

1)PEST分析

国内ワイン業界を取り巻く環境について、ビジネスフレームワークのPEST分析を基に触れていきます。

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ワイン自体の需要は堅調に推移していますが、酒類全体の消費の落ち込みや、低価格の輸入ワインの流入といった価格低下要因もあります。国内ワインは製造ノウハウや機器類の技術の改善による品質向上や、日本ワインのブランド化などによって、付加価値を高める土壌が整備されてきているといえます。現時点では、ワインに対する堅調な需要を背景に、国内外の製造・販売業者が売り上げを拡大させようと、品質面および価格面で激しく競合している状況にあるといえます。

2)ワイン製造業者の経営状況

ワイン製造業は、大手飲料・食品メーカーのグループであるメルシャン(キリンホールディングス傘下)、サントリーワインインターナショナル(サントリーホールディングス傘下)、アサヒビール(旧サントネージュワイン)、サッポロビール(旧サッポロワイン)、マンズワイン(キッコーマン傘下)の大手5社と、その他の中小企業という構造となっているようです。

国税庁による2014年度のデータでは、ワインの製成数量(9万5098キロリットル)のうち、78.7%(7万4864キロリットル)を大手5社が占めています。

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国税庁「国内製造ワインの概況(平成29年度調査分)」によると、ワイン製造業者の8割以上は生産規模が100キロリットル以下にとどまる一方で、1000キロリットル以上を生産する7者で全体の8割以上を生産しています。一方、日本ワインの生産割合で見ると、300キロリットル以下の製造業者は9割以上が日本ワインを製造しているのに対し、1000キロリットル以上の大手製造業者では8.4%にとどまっています。

生産規模によって、少量高付加価値型と大量生産型に分かれているといえます。 

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大手を除いたワイン製造業者の経営状況は、2015年度をピークに利益が悪化しているようです。特に期限付免許者である新規参入業者の平均では赤字経営となっています。国税庁「国内製造ワインの概況(平成29年度調査分)」によると、期限付免許者を除いた製造業者においても、2017年度は営業赤字の製造業者が49者(27.2%)、営業利益額が50万円未満の製造業者が28者(15.6%)で、両者を合わせると77者(42.8%)に上ります。営業赤字ないし営業利益額が50万円未満の製造業者の数は、2016年度の66者(39.7%)、2015年度の51者(28.2%)から年々増加しており、経営環境が厳しくなってきていることが分かります。

3)ワイン製造の主要産地と品種

ワインの原材料となるぶどうは、気候や土壌の性質などによって生産に適した品種が異なります。また、ぶどうの品種改良の進展によってもワインの品質が変わります。例えばヤマソービニオンは、1990年に山梨大学によって登録された、カベルネ・ソービニヨンとヤマブドウを交配して作られた品種で、山形県や岩手県などで生産されています。

ワインは原材料となるぶどうの品種の他、製造地域の気候や製造方法などによって、地域単位、ワイナリー単位で個性が出るため、差異化しやすい商品といえます。

ワインの生産量の上位5道県である主要ワイン生産地の生産量と、使用しているぶどうの品種別数量は次の通りです。

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4)輸入ワインの状況

国内ワイン市場に大きな影響を与えるのが、輸入ワインの存在です。前出のキリンのウェブサイトにある「ワイン参考資料(2019年7月)」によると、2018年のワインの出荷数量(36万1388キロリットル)のうち、3分の2程度(23万9379キロリットル)を輸入ワインが占めています。

海外からのワインの輸入量は、ここ数年はほぼ横ばいとなっていますが、10年前と比べると数量ベースで39.9%増加しています。ただし、金額ベースでは18.3%の増加にとどまっています。1リットル当たりの平均単価で見ると、2008年の約764円から2018年には約646円へと下落しています。

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主要6カ国からのワインの輸入の状況は、各国によってさまざまです。最も輸入数量が増えているのは、2007年9月に発効した日本チリ経済連携協定に基づき、段階的に関税の引き下げが続いたチリです。輸入数量は10年間で4倍近くに増えて、日本向け第1位の輸出国に躍進しました。ただ、平均単価は1リットル当たり300円台と低価格商品の扱いとなっており、2018年には1リットル当たり約316円まで下落しています。スペイン産ワインも低価格商品の位置付けにあるといえます。

一方、米国産ワインは平均単価を上昇させており、「カリフォルニアワイン」などのブランド戦略が奏功しているといえます。また、フランスも1リットル当たり1000円前後を維持しています。

消費者がブランドによって、低価格帯と高価格帯の商品を選別して購入する傾向が広がっているとみられます。

5)経済連携協定の影響

今後は、自由貿易協定の広がりにより、輸入ワインの数量が増加する可能性があります。2019年2月に発効した日EU経済連携協定により、これまで15%または1リットル当たり125円のうち安い関税がかけられていたEU産のワインへの関税が撤廃されました。これにより、イタリア、フランス、スペインといったワイン輸出国から無関税でワインが流入することとなりました。

また、2007年9月に発効した日本チリ経済連携協定に基づき、12年間で段階的に関税を引き下げてきたチリワインに対する関税が、2019年4月に完全撤廃となりました。オーストラリアに関しても、2015年1月に発効した日本オーストラリア経済連携協定に基づき、ボトルワインの輸入に関して7年間での撤廃に向けた段階的な関税の引き下げを行っています。

輸入会社は、従来は販売価格に転嫁していた関税の分の費用を、価格を下げたり、拡販施策に活用したりして、販売攻勢をかけることも想定されます。

6)ワイナリーへの格付け

これまで日本では個別のワインに対する品評会はありましたが、ワイナリーに対する評価には、あまり高い関心が寄せられていませんでした。

こうした中で2018年から、品質の高いワインを造るワイナリーを表彰する「日本ワイナリーアワード」が始まりました。消費者がワインを愉しむ一助となることを目指したもので、日本ワインを広く取り扱う酒販店・飲食店の代表または仕入れ担当者や、日本ワインに関する著作・記事のある人たちで構成する日本ワイナリーアワード審議会が審査を行います。

審査では、最高位の「5つ星」から「4つ星」「3つ星」「コニサーズワイナリー」の4段階で格付けを行います。高い格付けを得た中小のワイナリーは、ワイン愛好家からの関心が集まり、独自のブランドづくりに役立つとみられます。

以上(2019年12月)

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イベント業界(企画会社、会場設営会社)の動向

書いてあること

  • 主な読者:イベント業界への参入を検討する経営者
  • 課題:現在の市場規模、注意すべき点などが分からない
  • 解決策:市場規模や今後の展望などから、参入の可能性を探る

1 イベント業界の概要

1)イベント業界の成り立ち

イベントには、オリンピックやFIFAワールドカップなどの巨大なスポーツ大会をはじめ、国際会議(コンベンション)、展示会・見本市、コンサートや演劇などの興行や地域のフェスティバルなど多種多様なものがあります。広義で見ると、会社内の周年事業や学校の運動会などもイベントに含まれます。

イベントの開催目的は社会貢献から企業の営利活動、地域住民の集まりまで多岐にわたっており、主催者も官公庁、企業、業界団体、地域住民などさまざまです。

こうしたイベントは、規模が大きくなるほど主催者が独力で開催することは困難となり、いわゆるイベント業界の会社やボランティアの協力が欠かせません。また、経験の浅い主催者は、外部からイベント開催のノウハウの指導を受けることが必要な場合もあります。イベントの開催に当たり、裏方作業を中心に主催者などから業務を請け負うことで、イベント業界は成り立っています。

2)イベント業界の構成

イベントを開催するには、企画、制作、運営、会場設営、会場の警備、物販、清掃、広報など、多様な役割の担い手が必要です。イベント業界には、主催者だけでは手が回らない、さまざまな業務を遂行する数多くのイベント関連会社があり、こうした業務を請け負っています。

イベントの規模や目的などによってイベント関連会社の関わり方はさまざまです。主催者が企画段階からイベント関連会社に協力を仰ぐ場合、業務委託を受けたイベント関連会社が、運営や会場設営などその他の業務全般の発注についても取り仕切るケースが多いようです。

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3)イベント関連会社の業務内容

ここでは、イベント関連会社の業務内容について触れます。

1.イベント企画会社

主催者から請け負ったり、広告代理店などから業務を受託したりします。主催者がコンペ方式やプロポーザル方式で企画会社を選定することが多いようです。

イベントの内容や企画会社によっては、企画会社が制作や運営まで一貫して取り仕切るケースもあるようです。例えば、イベント企画会社のフロンティアインターナショナル(東京都渋谷区)は、労働者派遣業、屋外広告業、特定建設業、一級建築士事務所、警備業などの許可・登録・認定を受けています。

一方、シミズオクト(東京都新宿区)のように、イベントの運営から会場設営、会場管理など「裏方」業務に強みを持った会社もあります。こうした「裏方」業務は、主に人材派遣会社などからの派遣人材が実際の担い手となっています。

2.イベント会場設営会社

イベントの制作・運営を行う企画会社などからの発注に応じて業務を行います。会場設営といっても、建築、建築用機材などのレンタル、電気系統の配線、映像・音響系の機材設置および演出など、さまざまな分野があります。イベント会場の内装や展示のデザインなどを中心に手掛ける大手ディスプレイ会社の中には、展示会のブースの設営などを、自社グループ会社で行うケースもあるようです。

4)イベント業界に関する法規制など

イベントを開催するには、主に安全面から、さまざまな法規制に従う必要があります。

1.建築基準法

建築基準法では、仮設興行場や仮設店舗などを含む仮設建築物に関し、安全上、防火上および衛生上の観点から許可基準を設けています。例えば、火気を使用する設備もしくは器具を設けた場合、壁や天井の表面の仕上げを準不燃材料にすることが定められています。

2.警備業法

来場者の誘導や会場の警備、交通整理などイベントでの警備は、雑踏警備業務となります。国家公安委員会規則により、雑踏警備業務を行うには、予想される雑踏の状況に応じて、開催区域ごとに1級または2級検定合格警備員を配置する必要があります。

3.食品衛生法

飲食物を提供する出店者がある場合は、出店場所の所轄の保健所から営業許可証を得る必要があります。

4.道路交通法

道路露店や屋台を出店したり祭礼行事を行ったりする場合や、道路案内などの広告板を設置する場合は、管轄する警察署長から道路使用許可を受けなければなりません。

5.消防法(火災予防条例)

イベントの際に、コンロなど規制の対象となる火気器具などを使用する露店などには、消火器の準備が義務付けられています。また、消防長が定める屋外イベントを行う場合には、防火担当者の選任や火災予防上必要な業務計画の提出などが必要となります。

この他、法規制ではありませんが、イベントの円滑な実施のために、事前に保健所、警察、消防などに相談することを求めている地方自治体が多いようです。

2 イベント業界の市場分析と展望

1)イベント業界の市場規模と環境分析

日本イベント産業振興協会が2019年6月に公表した2018年の国内イベント消費規模推計によると、交通費や宿泊費なども含めた国内イベント消費規模は前年比4.2%増の17兆3510億円に上り、7年連続で前年を上回りました。

また、日本展示会協会が2019年2月に公表した展示会実績によると、同協会会員である主催者・団体が2017年度に開催した展示会数は、前年度を10.1%上回る369件となりました。来場者数も前年度より9.5%多い412万4965人となっています。

電通テックのイベントプロデューサーの経歴を持つ岡星竜美・目白大学メディア学部特任教授(イベント学)へのヒアリングによると、「全てのイベントの市場規模が拡大しているわけではないが、特にスポーツ分野や、大規模な音楽フェスティバルなど大型イベントの市場が拡大しており、業界全体としては成長している」(*)とのことです。

2020年には東京オリンピック・パラリンピック、2025年に国際博覧会(大阪・関西万博)という巨大イベントを控えている他、観光庁などが訪日客の増加などを目指しMICE(Meeting=企業などの会議、Incentive Travel=企業などの報奨・研修旅行、Convention=国際会議、Exhibition/Event=展示会・見本市やイベント)誘致に取り組んでいること、消費者が参加・体験型のレジャーを楽しむ“コト消費”を好む傾向が強まっていることなど、今後もイベント業界の市場規模が拡大するとみられる要因はさまざまあります。

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2)イベント業界のM&Aの動向

業務内容の特性を考慮すると、イベント企画会社はクリエーティブ性に加え、ノウハウの蓄積や、クライアントなど関係各社へのコネクションといったノウハウ・情報集約性の高い業種であり、大手では組織力やネームバリュー、小規模の会社は個人の経験や力量に依存する部分が大きいと考えられます。このため、海外展開などを除き、単純な規模拡大を目指した水平的な統合効果は、それほど大きくないといえるでしょう。

一方、垂直的な統合には自社グループによる提供サービスの拡充という点から一定の効果があると考えられます。特に、主催者やイベント参加者からの信頼度を高めるため、知名度の高いメディアや広告代理店の傘下に入るケースは、被買収企業にもメリットのあるM&Aになるといえます。

また、肉を中心としたスーパーマーケットや外食事業を展開するジャパンミートが、「肉フェス」などを制作・運営しているAATJを買収したように、本業に関わる分野の啓発・発展を目指し、イベントの譲り受けを目的としたM&Aを行うことも合理的な戦略といえるでしょう。

イベント設営会社に関しては、現場部門は労働集約的であり、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなど巨大イベントが増えた場合、人手不足になる可能性も考えられます。こうした要因もあり、特に小規模の事業者にとっては、水平的な統合を目的としたM&Aによるスケールメリットは大きいとみられます。また、業務量を平準化しにくいイベント業界の弱点を補完するために、既存事業を活かした他業種への進出もしくは他業種との統合のために、M&Aを活用することも有効でしょう。

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3)イベント業界の展望

前述の岡星特任教授へのヒアリングによると、「最近のイベント業界の傾向として、大型化、長期化、複合化が見られる。消費者の満足度を高め、興行者の利益も拡大させるために、規模を拡大したり、開催期日を長くしたり、例えば花火大会の開催地周辺で音楽ライブやグルメイベントを開催するなどイベントを複合化させたりしている。これらはイベントの規模が大きくなるので、一定程度の大きな会社でないと企画・運営はできない」(*)とのことです。

その一方で、「映像系に強いとか、演出の評価が高いといった、『クリエーティブ・ブティック』もある。今後も有名ユーチューバーとの連携やドローン、VR(バーチャルリアリティー)を使った映像表現など、突出したコンテンツを活用したイベントを開催できる企画会社が急成長する余地がある。地方の地域イベントは、地方自治体の予算が続く限りは継続的に行われるので、安定性はあるだろう」(*)とのことです。

4)イベント産業のISO

イベント業界の展望として、イベントマネジメントの国際標準規格ISO20121の取得が挙げられます。2007年に策定された規格で、環境問題などの持続可能性を考慮したものとなっています。認証の対象はイベント、主催者や制作会社などの企業、競技会場などの施設といったもので、ロンドンやリオデジャネイロのオリンピック・パラリンピックの組織委員会も取得しました。

国内のイベント関連会社では、コンベンションの企画・運営を行う日本コンベンションサービス(東京都千代田区)や、スポーツイベントなどを制作するセレスポ(東京都豊島区)が取得しています。今後、規格の知名度が高まるに従って、取得の有無が1つの評価につながる可能性もあります。

3 経営指標

イベント関連会社に関する公的機関が公表している経営指標は確認できませんでしたが、イベント関連会社である広告代理業およびディスプレイ業の経営指標を紹介します。

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以上(2019年12月)

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遊休地活用のアイデア例

書いてあること

  • 主な読者:遊休地を活用したい経営者
  • 課題:具体的にどう活用するのが効果的か分からない
  • 解決策:さまざまな活用例を参考に、できそうなアイデアを模索する

1 新事業の展開の必要性が高まる

どの産業も導入期、成長期、成熟期、衰退期をたどります。成熟期もしくは衰退期にある産業の事業者は、規模を縮小しつつ事業を継続して残存者利益を勝ち取るか、新たな収益源を生み出すしか、生き残る手段はありません。

本稿では、従来の事業の縮小・撤退などで生じた遊休地もしくは空きビルなどの建築物の活用により、新たな収益源を生み出すためのアイデア例を紹介します。

2 遊休地の活用例

1)セルフストレージ

セルフストレージは、顧客に収納スペースを提供するものです。タイプを大きく分けると、倉庫業法に基づき、物品を預かる事業である「トランクルーム」と、物品を収納するためのスペースを顧客に賃貸する事業の「レンタル収納」および「貸しコンテナ」があります。

トランクルームは倉庫業法に基づく事業であり、事業者には顧客との寄託契約により物品の補償義務が生じます。これに対し、レンタル収納および貸しコンテナは、スペースの賃貸借契約になるので、賃貸業と見なされ、原則として物品の補償はありません。

レンタル収納はビルや専用施設の室内を区切って使用するのが一般的で、貸しコンテナは屋外にコンテナを設置することが多いようです。このため、後者は遊休地、前者は後述する空きビル(建築物)の活用例に該当します。

セルフストレージは国内での歴史が浅く、今後の市場の成長が期待されています。業界大手のキュラーズのプレスリリースによると、トランクルームの2018年の市場規模は約590億円で、2025年には1000億円を超える規模へと成長する可能性を秘めているとしています。また、日本セルフストレージ協会のウェブサイトによると、米国では1700万室のセルフストレージがあるのに対し、日本では50万室程度にとどまっており、「狭い住宅事情の日本では、今後このサービスの需要は大きくなっていくものと思われます」と分析しています。

■キュラーズによる市場規模に関するプレスリリース■
https://www.quraz.com/info/pr/20190523.aspx
■日本セルフストレージ協会■
http://www.japanssa.org/

2)コインランドリー

コインランドリーはクリーニング業法の適用外の事業です。ただし、衛生的な管理を行うために厚生労働省が「コインオペレーションクリーニング営業施設の衛生措置等指導要綱」を定めており、事業者は施設の開設時などに保健所への届け出を行うことが必要となります。

基本的に店舗の営業は無人で行えるメリットがあることから、個人がフランチャイジーになるなどして副業として事業を始めるケースもある他、異業種からの参入も活発になっているようです。

東日本コインランドリー連合会のウェブサイトによると、コインランドリーの店舗数は、1997年の1万739店から、2017年は2万店となり、20年間でほぼ倍増しています。同連合会では、米国と比べて人口当たりのコインランドリーの店舗数はまだ半分であることから「これから伸びるビジネス」と見ています。

コインランドリーの特徴として、顧客には洗濯や乾燥のための待ち時間があることから、さまざまな施設を併設し、売り上げ手段の多様化や集客力のアップを図る動きが見られます。代表的な併設店舗は、カフェ、コンビニエンスストア、書店、ガソリンスタンド、フィットネスクラブなどで、この他にも洗濯関連のワンストップサービスとして洗濯代行を引き受ける店舗やクリーニング店もあるようです。

併設店舗の広がりは、逆に異業種からの参入を促す効果もあります。コンビニエンスストア大手のファミリーマートは2018年3月、コンビニエンスストアに併設したコインランドリー「ファミマランドリー」の第1号店を開店しました。2019年2月にはコンビニエンスストアおよび24時間フィットネスクラブとコインランドリーを併設した店舗も開設しています。また、ドラッグストア大手のツルハドラッグは2018年7月、コインランドリーのフランチャイズを展開するエムアイエス(旧mammaciao)とフランチャイズ契約を結び、ドラッグストアの施設内にコインランドリーを開設しました。

■東日本コインランドリー連合会■
http://claej.net/

3)サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」)は、2011年に改正された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づく高齢者向けの住宅です。入居する高齢者に対し、状況把握サービス(入居者の心身の状況を把握し、その状況に応じた一時的な便宜を供与するサービス)、生活相談サービス(入居者が日常生活を支障なく営むことができるようにするために入居者からの相談に応じ必要な助言を行うサービス)、その他の高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスを提供する施設で、建築物ごとに都道府県知事の登録を受けた住宅(もしくは有料老人ホームの居住部分)を指します。

登録を受けるには、国土交通省および厚生労働省が定めた基準を満たす必要があります。基準は国土交通省のウェブサイト「サービス付き高齢者向け住宅」に掲載されています。

高齢者住宅協会のウェブサイトによると、サ高住の登録件数は毎月増加しており、2011年12月の112棟・3448戸から、2019年7月には7415棟・24万7165戸へと増えています。

サ高住に関しては国が供給支援策を講じており、建設・改修の補助や税制優遇、住宅金融支援機構による融資などを受けられることも、追い風になっているといえます。

■国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000005.html

3 空きビル(建築物)の活用例

1)レンタルオフィス、貸し会議室

レンタルオフィスにはさまざまな定義がありますが、ここでは椅子やデスク、電話、通信回線など業務に使用される一定の物品や環境が備わったオフィス全般を指すこととします。そのため、シェアオフィス、コワーキングスペース、サービスオフィス、バーチャルオフィス、インキュベーションオフィスなどもレンタルオフィスに含むこととします。貸し会議室は、椅子、テーブル、ホワイトボードなどを備えた会議用の一室のみを貸し出す事業です。いずれも建築物内の1部屋単位から開業可能な事業です。

レンタルオフィスはシェアハウスのオフィス版という見方もできますが、他社との交流による情報収集や、施設に付随した各種サービスなど、賃料の安さ以外の目的で利用する企業が多いと見られます。料金体系は、月決めから時間貸し、機器類や各種サービスの利用といったオプションの設定などさまざまあります。貸し会議室は1日単位、時間単位での料金体系が多いようです。

貸し会議室大手で、サービスオフィスを展開する日本リージャスホールディングスを2019年4月に完全子会社化したティーケーピーが2019年8月に公表した新中期経営計画説明資料によると、同社が「フレキシブルオフィス」と定義するホテル宴会場、貸し会議室、レンタルオフィス、コワーキングスペースの2019年の市場規模は2000億円で、2030年には6兆円に拡大すると予測しています。同社はフレキシブルオフィス事業に関して、提供施設を2019年7月の410拠点・48万7000平方メートルから、2030年には約1500拠点・約140万平方メートルに拡大させる計画です。

レンタルオフィスは、施設やサービスの内容によって差異化が図れます。例えば、起業家向けのインキュベーションオフィス、セミナールーム・イベントスペース・会議室が使用可能なオフィス、共用スペースにラウンジやカフェを併設したオフィスなどがあります。この他、受付や電話対応の人員を配備したオフィスや、キッズルームが利用可能なオフィスもあります。さらに運営者側が共用スペースを使って、想定顧客のニーズに合わせたセミナーやイベントを定期的に開催するなど、ソフト面でも差異化できます。

一方、会議室は差異化策よりも規模や立地の影響が大きいと見られますが、前述のティーケーピーは宿泊施設に会議室などを併設した宿泊研修施設も展開しており、差異化にも取り組んでいます。

2)フィットネスクラブなど

日本生産性本部「レジャー白書2019」(以下「白書」)によると、フィットネスクラブの2018年の市場規模は7年連続の拡大となる4800億円で、前年を190億円(4.1%)上回りました。白書では小規模フランチャイズチェーンの拡大と、大手事業者のリノベーションや新業態・サービスの提供が寄与しているとしています。具体的には、24時間セルフサービス型ジムやトレーニングスタジオ、ホットヨガスタジオ、ストレッチサービス店を例に挙げています。さらに、新たに注目を集めている業態として、低酸素状態や暗闇でトレーニングするなど、小規模の目的志向業態と呼ばれる“ブティックスタジオ”の出店にも言及しています。

また、ヨガ・ピラティススタジオも成長が期待されています。白書によると、2018年の余暇活動の潜在需要(希望率から参加率を引いた数値が高いもの)の上位10位の中で、ヨガ・ピラティスは女性合計で第5位(13.6%)となり、女性の20代から50代までの各世代で上位10位以内に入っています。

ボルダリング・クライミングジムも注目されています。スポーツクライミングは新たに2020年の東京オリンピックで正式競技種目になり、今後メディアでの露出度が増えることが予想されます。中でもスポーツクライミングの3競技(リードクライミング、スピードクライミング、ボルダリング)のうち最も手軽に行えるボルダリングに特化したジムは、老若男女が参加できる施設としてニーズが高まる可能性があります。

3)その他

この他にも、立地の制約などは受けますが、今後の市場の拡大が見込まれる事業として、幼児向けのインドアプレイグラウンド、VR(バーチャルリアリティ)アミューズメント施設、インドアゴルフ場・シミュレーションボウリング場、カフェ等併設型ランニング(ウォーキング)ステーションなどが挙げられます。

以上(2019年11月)

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