書いてあること
- 主な読者:マーケティングを踏まえた営業戦略を練りたい経営者
- 課題:営業戦略を具体的にどう立案すべきかが分からない
- 解決策:マーケティングの分析結果を参考に具体的なアクションプランに落とし込む
1 営業戦略とは
1)業績達成に不可欠な「営業戦略」
営業は会社の業績を支える重要な活動であり、営業戦略はその営業活動の方向性を定める戦略である。しかし、この戦略策定があいまいなまま営業活動を行っている企業も多いのではないか。例えば、次のようなケースはないだろうか。
- 「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった業績目標はあるものの、それを実現するための道筋(戦略)が不明瞭である
- 営業戦略はあるものの、前年度の内容を踏襲したもので、市場環境の変化などを踏まえておらず実態に合っていない
こうした状況であれば、営業部門、実際の営業活動に従事する各営業担当者は、「具体的にどの市場で戦うべきなのか」「数多くある商品の中で、どの商品に力を入れて販売すればよいのか」といった点を判断できなかったり、変化した市場環境に適合する活動を行えなかったりして、思うように業績を残せないだろう。
営業部門が効果的に営業活動に取り組み、成果を上げていくためには、しっかりと練られた営業戦略が不可欠なのである。
もし、前述したような点に思い当たることがある経営者は、改めて自社の営業戦略について考えてみる必要があるだろう。
2)営業戦略の基本要素
具体的な営業戦略の内容はさまざまだが、主な要素を整理すると次のようになるだろう。
- 営業目標
- 営業目標を達成するための市場戦略(以下「市場戦略」)
- 営業活動を支えるための内部戦略(以下「内部戦略」)
1.営業目標
「営業目標」とは、1年間の営業活動を通じて達成すべき目標となる。営業上の目標というと、「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった業績目標が思い浮かぶだろう。こうした業績目標は不可欠ではあるが、その他の目標設定も忘れてはならない。例えば、「営業担当者の育成」「営業情報の共有化による組織のレベルアップ」など、業績目標とは直接的な関連が薄いものであっても、営業力を強化するなどのために解決すべき課題があるのならば、営業目標として設定しなければならない。
2.市場戦略
「市場戦略」とは、営業目標を達成するための外部に対する戦略である。例えば、「どの顧客に」「どの製品を」「どのようにして」販売していくのかということを決めることである。
このように説明すると、全社的なマーケティング戦略などと同じような印象があるが、市場戦略では「より具体的な形にする」必要がある。
例えば、マーケティング戦略であれば、「○○地域の法人をターゲットに、A製品を重点的に販売する」といったように、「市場=一定のマス」として説明されることが多い。
一方、市場戦略では、営業部門が実際に活動する際の指針となるように、例えば、○○地域の法人をさらにセグメント化しその中で優先順位を付け、営業目標を達成するためにいつまでに何をすべきかといった点まで落とし込む必要がある。
3.内部戦略
「内部戦略」とは、営業活動を支える社内に関する戦略である。例えば、組織体制や業務フローの見直し、営業担当者の確保・育成などといった営業力強化のための社内における取り組みなどが該当する。
営業戦略は、営業部門のみで全て決定できるものではない。また、経営戦略をはじめ企業活動を規定するその他の戦略などとの整合性もとれていなければならない。実際にはこうした整合性を確認しながら、「営業戦略を策定し、その他の戦略や企業活動にも反映させていく」「その他の戦略や企業活動の内容を踏まえて、営業戦略の内容を見直す」といったように、行きつ・戻りつしながら、最適な営業戦略を策定することになる。
以降では、市場戦略を中心に、マーケティングを生かして営業戦略を策定するポイントを紹介する。
2 マーケティングを生かして営業戦略を策定する際のポイント
営業戦略を策定する際の第一歩は、外部環境や内部環境についてしっかりと分析をすることである。中小企業の場合は、こうした分析をしっかりしていなかったり、過去の分析結果などを無条件に踏襲しているため、市場の変化を十分に捉えた分析をしていなかったりといったケースが散見される。
以降では、こうした点を検討する際に利用できる主な分析手法などを紹介する。
1)顧客に関する分析
対象とする顧客層を検討するための主な分析方法にはターゲットセグメンテーション分析やABC分析がある。
1.ターゲットセグメンテーション分析
ターゲットセグメンテーション分析とは、市場を特定の基準に基づいて細分化し、それぞれの集団の特徴を分析する方法である。市場を細分化する際には、「各集団が同質的なニーズを有する」「各集団間はニーズが異なる」ようにするのが基本となる。
市場を細分化する際は、比較的容易に情報を入手できる次のような基準を使うことからはじめてみるとよいだろう。
・個人向け市場の場合
年齢、性別、学歴、職業、所得水準、居住地など
・法人向け市場の場合
業種、所在地、企業規模(売上高、従業員数、資本金)など
2.ABC分析
ABC分析は、売上金額や利益額などに基づいて、既存顧客の会社への貢献度を分析する方法である。「20対80の法則」と言われるように、多くの企業では、少数の優良顧客から多くの売上金額や利益額を上げている。ABC分析を通じて、こうした顧客の貢献度合いや会社にとっての重要度を分析することができる。
なおABC分析は、必ずしもABCの3つのグループに分ける必要はない。各社の実情に応じてグループを増やして分析してもよい。
2)製品に関する分析
自社製品の可能性を分析するために役立つ分析方法の1つがPPM(Product Portfolio Management)である。PPMは、自社製品を「相対的シェア」と「市場成長率」の2つの軸に基づいて整理し、経営資源をどう振り分ければよいかを4象限で示したものである。PPMの概念は図表1の通りである。
PPMでは「市場の成長率」と「相対的シェア」を基に、製品を「問題児」「花形」「金のなる木」「負け犬」に分類するが、この4つのパターンは製品の“誕生”から“死滅”へのプロセス(プロダクトライフサイクル)の考え方が背景にある。
すなわち、最初は「問題児」として登場し、やがて「花形」「金のなる木」を経て、最後は「負け犬」となって消えていくというものである。そのため、PPMに基づく基本的な経営資源の配分の考え方は、「金のなる木」で得た資金を「花形」や将来性の見込める「問題児」に投資をして育成する。そして花形への移行を見込めない一部の「問題児」や「負け犬」からは撤退する。
ただし、実際には「負け犬」になりかけている製品のテコ入れを行ったり、リニューアルをしたりして、再び他の象限に該当するような製品になるケースも多い。そのため、基本的な経営資源の配分の考え方をベースにしつつ、自社の方針などを踏まえて、各製品の位置付けを検討することになる。
3)外部環境・内部環境の分析
外部環境や内部環境を分析する最もポピュラーな方法はSWOT分析である。SWOT分析は、自社の内部環境を強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、外部環境を機会(Opportunities)と脅威(Threats)に分けて分析する。SWOT分析の視点は図表2の通りとなる。
SWOT分析の結果に基づく戦略策定の基本方針は図表2内の各セルに記載しているが、「強みをいかにして生かすか」という点を重視して考えることが大切となる。弱みに対する相応の対処は必要ではあるが、弱みは経営者の考え方、組織上の問題などが複雑に絡み合っており、簡単には改善できないことが多い。そのため、強みを生かすほうが、より効果的な営業活動をできる可能性が高い。
なお、詳しい説明は省略するが、主な環境分析手法には図表3のようなものがあるので、活用を検討してみるとよいだろう。
3 マーケティングの結果を営業戦略に反映するには?
こうした各種分析結果を基にすることで、より説得力ある、そして実現性の高い営業戦略を策定できる。以降では、マーケティングの結果を反映させつつ、効果的な営業戦略を策定する際のポイントを紹介する。
1)営業戦略の4つの階層
実効性のある営業戦略を策定する際には、「営業目標」「基本方針」「個別戦略」「アクションプラン」の4つの階層に分けて考えるのが基本となる。営業戦略のイメージ(市場戦略)は図表4の通りである。
内容は企業ごとに異なるが、「営業目標」の下に営業戦略の方向性を示す「基本方針」を策定する。この基本方針を実現するためにはさまざまな取り組みが必要で、それを定めるのが個別戦略となる。個別戦略は、地域別、顧客層別、製品別など、複数の戦略を策定するのが一般的である。
そして個別戦略において具体的に実行すべき事項を整理したのがアクションプランとなる。図表4のアクションプランは簡略化しているが、実際には、誰が、いつまでに何をするのかといった点が分かるように決めておく。例えば、「ターゲットのリスト化と担当割を△チームが4月中に行う」といったように明確にしておくことが大切になる。
なお、ここでは市場戦略を例に紹介したが、内部戦略についても同様に4つの階層に分けて考えるのが基本となる。
2)マーケティングを営業戦略に生かす必要性
営業戦略の策定に際して、前述したような手法で行った分析結果を活用する最大のメリットは、過去の延長線上の営業戦略から脱却できるという点にある。
変化する経営環境の中では、過去の実績を踏襲した「目標売上高○億円(対前年度比10%増)」といった営業目標のみを掲げて営業活動を行っても、効率的な営業活動を行うことはできないし、そうした営業活動では早晩行き詰ってしまうことになる。
また、仮に営業戦略を策定しようとしても、過去に策定した営業戦略の延長線上のものになるか、現在の環境に合わないものになってしまうことになるだろう。
こうした状況に陥らないようにするためには、しっかりと分析を行い、現状を正しく把握することが不可欠となる。
3)営業戦略を策定する際の注意点
1.営業戦略の可能性を探る
営業戦略を策定する際には、例えば「新規顧客の開拓」といった1つの方向性の営業戦略のみを検討するのではなく、複数の方向性を検討した上で、最良の営業戦略を選択することが望ましい。
新たな成長の可能性を探るため、例えば「新規顧客の開拓」といった1つの方向性の営業戦略のみを検討するのではなく、「新規顧客の開拓」を重視した戦略と「既存顧客の深耕」を重視した戦略などの複数の方向性を組み合わせて検討した上で、最良の営業戦略を検討してみるとよいだろう。
営業目標を達成するために企業が取り得る営業戦略は1つではない。また、当初から1つの方向性に絞り込むと前年度を踏襲した営業戦略になってしまう可能性が高い。
2.「やらないことを決める勇気」「優先順位を付ける勇気」を持つ
しばしばいわれることだが、戦略とは「やらないことを決めること」である。営業目標を達成するためには、多くのことに取り組んだほうがよいことは確かである。しかし、組織として、やれることには限界がある。中途半端にいろいろなことに取り組んでも、かえって全てが中途半端になり、十分な成果を上げることはできない。
また取り組むと決めたことであっても、全てについて100%の力で取り組むことは現実的ではない。そのため優先順位付けを行うことも不可欠となる。そのため、関係部署と議論を重ねつつ、やらないことを決め、またやることについても優先順位付けを行うようにしなければならない。
3.中小企業ならではの柔軟性を生かす
しっかりと練られた営業戦略であっても、思うような成果が上がらないこともある。こうした場合、規模の大きな企業であれば、営業戦略を容易に変更するのが難しいことが多い。
しかし、小回りの利く中小企業の場合は、営業戦略の見直しなどを比較的容易に行うことができる。そのため、「一旦営業戦略を策定したら、1年間はそのまま突き進む」といったことではなく、営業戦略の進捗状況や成果を常に注視し、思うような成果が上がらなければ、次の一手を念頭においておくことが大切となる。
以上(2019年5月)
pj70017
画像:pixabay