経営計画で使えるフレームワークの例

1 フレームワークを使って経営計画を整理しよう

経営計画を立案する際、経営者の頭の中にある考えをまとめたり、自社の置かれている状況を客観的に整理したりする必要があります。そうしたときに役立つのが「フレームワーク」です。

フレームワークを使うと、自社の置かれている状況や課題を、特定の枠組み(フレーム)に当てはめて可視化できるので、

課題やリスクの見落とし、あるいは同じような試行錯誤を繰り返すことを防ぎ、効率的に思考を整理することが可能

になります。自社の状況などを、社員や取引先に共有するのにも役立つでしょう。

この記事では、次のフレームワークを一例として紹介します。

  • 経営環境分析の基本「SWOT分析」
  • 外部環境分析のための「ファイブフォース分析」
  • 内部経営資源分析その1「バリューチェーン」
  • 内部経営資源分析その2「VRIOフレームワーク」
  • 競争・成長戦略策定のための「アンゾフの成長マトリクス」

この他にも、マクロ環境分析のための「PEST分析」や、顧客・競合他社・自社の状況を洗い出す「3C分析」など、さまざまなフレームワークがあります。自社の状況や目的に応じて、使用を検討してみるとよいでしょう。

2 フレームワークの例

1)経営環境分析の基本「SWOT分析」

SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を分析するための基本的なフレームワークです。内部環境分析では、人・営業・技術・設備などに代表される企業内部の経営資源を分析し、また、外部環境分析では、企業を取り巻く業界・競合先の動向などの外部環境を把握して、

  • Strength(強み):内部環境×プラス要因
  • Weakness(弱み):内部環境×マイナス要因
  • Opportunity(機会):外部環境×プラス要因
  • Threat(脅威):外部環境×マイナス要因

の4つのグループに分けて、自社にとっての強みと弱みを整理します。SWOT分析を経営戦略の策定に活用する場合は、

  • 「強み」を「機会」に活用する
  • 「弱み」を克服した上で、「機会」に活用することを検討する
  • 統制不可能要因として「脅威」を回避する

ことを目標にしてみましょう。

製造業をイメージしたSWOT分析の例として、次のようなものが考えられます。

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SWOT分析を行う際には、業界や自社を取り巻く外部環境をマクロ的な視点から整理する「PEST分析」、そして、顧客・競合他社・自社の状況を洗い出す「3C分析」を行い、その内容を活用すると進めやすいかもしれません。「PEST分析」や「3C分析」については、下記のコンテンツに掲載されています。

2)外部環境分析のための「ファイブフォース分析」

「ファイブフォース分析」は、競合他社と戦うための戦略を検討するためのフレームワークです。業界の魅力度(平均的な収益性の高さなど)に影響を与える競争要因として、

  • 業界内の競争関係
  • 売り手の交渉力
  • 買い手の交渉力
  • 新規参入の脅威
  • 代替品・サービスの脅威

の5つを挙げ、それぞれの状況を分析します。

競合他社と戦っていくためには、まずは自社の置かれている業界の動向を整理する必要があります。ファイブフォース分析は、外部環境の中でも、特に企業に直接的な影響を与える可能性の高い「ミクロ環境」を中心に整理する際に有効なツールといえるでしょう。ファイブフォース分析は、図表2のように整理します。

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3)内部経営資源分析のフレームワーク1:バリューチェーン

バリューチェーン分析とは、企業が製品やサービスを顧客に提供するまでの一連のプロセスのうち、どこで多くの付加価値が生み出されているかを分析するフレームワークです。つまり、

付加価値を基準として自社の強みを検討する分析方法

です。

企業の一連の活動は、

  • 主活動(「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」)
  • 主活動を支える支援活動(「全般的管理(インフラストラクチャー)」「人事・労務管理」「技術開発」「調達活動」)

に分類されます。バリューチェーン分析は、自社のどの活動に強み(あるいは弱み)があるかを知るのに役立ちます。

バリューチェーンは業種や業務内容など個々の企業によって異なりますが、製造業をベースとしたバリューチェーンの一般モデルは図表3の通りです。

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4)内部経営資源分析のフレームワーク2:VRIOフレームワーク

VRIOフレームワークは、企業の内部資源の競争優位性を

  • VALUE(経済価値)
  • RARITY(希少性)
  • INIMITABILITY(模倣困難性)
  • ORGANIZATION(組織)

という4点から評価するフレームワークです。

VRIOを使うことによって、

自社の経営資源のVALUE(経済価値)にどれだけ希少性があり、模倣が困難で、そしてそれを組織全体で使いこなせているのか

を整理し、可視化することができます。

4点の中で軸として考えるのはVALUE、つまり自社が持っている経営資源の経済価値です。企業がその経営資源を保有することで収入が増加する、もしくは支出が減少することから、VALUE(経済価値)は「強み」の源泉と位置付けることができます。

しかし、同様の「強み」を他社も保有していたり、簡単に保有できたりする場合、その「強み」は、競合他社に対して「強み」とはいえないでしょう。さらに、その「強み」を最大限活かしていくためには、それを可能にする組織体制が求められます。

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3 他社に打ち勝つための戦略の考え方

自社が事業を行う製品・市場領域を決定した後は、その製品・市場領域において、いかに競合他社よりも優位に事業を展開し、どうやって利益を獲得するかを考えていきます。そのための取り組みの方法や方向性を定めるものが競争戦略です。

ここでは、基本となる3つの競争戦略と、自社の事業領域を定める「アンゾフの成長マトリクス」を紹介します。

1)基本となる3つの競争戦略

競争戦略として広く知られているのが、次の「コストリーダーシップ戦略」「差異化戦略」「集中戦略」という3つの基本戦略です。

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2)競争・成長戦略策定のための「アンゾフの成長マトリクス」

アンゾフの成長マトリクスとは、自社のドメイン(主力事業の領域)に基づいて

  • どのような製品・市場領域で事業を行うか
  • 専業・多角化を図るか

といった点を検討するためのフレームワークです。戦略は、既存製品・新製品と既存市場・新規市場の4つの組み合わせのマトリクスに基づいて検討することが基本となります(これは「成長ベクトル論」とも呼ばれています)。

アンゾフの成長マトリクスの内容は、次の通りです。

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以上(2025年2月更新)

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画像:pixabay

初開催でも安心。オンラインイベント開催のコツは「体験・参加」にあり

1 「立体的なオンラインイベント」を開催しよう

新型コロナウイルス感染症が第5類感染症に移行してから約1年9カ月、通常のリアルイベントも勢いを取り戻しつつありますが、一方、オンラインイベントもスタンダードなイベントの形態のひとつとして定着しました。オンラインイベントには、

  • 開催地と勤務地・居住地が遠い人でも参加しやすい
  • 時間の都合が付かなくても参加しやすい
  • どこに何分滞在したか、どの商品を集中して見ていたかのデータが取りやすい

など独自のメリットがあり、「ウチでも開催してみよう」と考える会社も少なくないでしょう。

ただ、これからオンラインイベントの開催を検討する場合、「他社に比べて出遅れた感がある」「面白くしないと参加してもらえないのでは」など、色々と不安があるかもしれません。確かに、オンラインイベントは「見るだけ」「聞くだけ」になりがちな面もあります。

そこで、この記事では、参加者に喜んでもらうための工夫を、「展示型」「参加型」「混合型」ごとに、事例を交えて紹介します。

ちなみに、最近の潮流としては

メタバース(インターネット上の仮想空間)型イベントやハイブリッド型イベントの定着

が挙げられます。例えば、2025年の国際博覧会(万博)でも、スマートフォンやパソコン、VRゴーグルなどを使って、オンライン上で実際に各パビリオンを巡ることができるアプリがリリースされるそうです。「見るだけ」「聞くだけ」になりがちなオンラインイベントを、

「体験する」「参加する」という立体的なものにする

ために、導入を検討してみてください。

2 展示型:体験型展示とバーチャルならではの利便性

「展示型」とは、一つの会場に集まって開催していたリアル展示会を、オンライン上で開催するものです。オンラインのみの開催の場合、

参加者の満足度を上げるためのポイントは、リアル展示会と同じような体験ができるように工夫すること

です。

例えば、ある機材販売会社のオンライン展示会では、リアル展示会と同じような感覚で参加してもらえるよう、インターネットのページにブースやスタッフの、シンプルで親しみやすいイラストを配置しました。一方で、参加者に見せたい商品(プリンターやラベル印刷機など)は、目立つように写真で掲載。気になる商品をクリックするとより詳細な情報を閲覧でき、その場で資料をダウンロードしたり、チャットで相談をしたりできるようにしました。

リアル展示会で会場マップを見ながら出展ブースを回るという体験と、ネットならではの利便性を兼ね備えたオンラインイベント

といえるでしょう。

3 参加型:「ペア分け(グループ分け)」で積極的な参加を

「参加型」のスタイルもさまざまですが、なかでも注目したいのは、「オンライン上で参加者を個別のグループに分ける機能」を使ったスタイルです。この機能があるウェブ会議ツールは限られますが、

少人数になることで参加者がただ話を聞くだけでなく、積極的に参加する形になる

という利点があります。

使い方の例としては、イベントスタート時のアイスブレイクが分かりやすいでしょう。主催者側が任意で参加者をペアに分け、「5分間の自己紹介タイム」などを設けます。そうすると、参加者の画面上には「自分たち2人」しか表示されないので、まるで2人だけで対面で自己紹介し合っているかのような空間が実現します。

特に参加型セミナーなどを開催する場合、このペアに分かれての自己紹介タイムは効果的です。例えば、とあるコンサルティング会社では、「自社サービスの魅力を伝えるノウハウ」をテーマにしたイベントなどで、この自己紹介タイムを活用しました。参加者が

「自分はイベントの当事者だ」ということを冒頭で実感することで、イベント中に積極的に発言や質問などをするためのきっかけにもなり、イベント自体に対する満足度も上がる

でしょう。

もちろん、参加者の満足度を上げるには、主催者側による「ペア分け(グループ分け)」が重要になってきます。それぞれの参加者の仕事、立ち位置、現状の課題などを思い描きながら、

誰と誰を組み合わせると喜んでもらえるか、面白いことが生まれそうか

を考えて分けましょう。うまくいくと、これ以上ないくらい参加者は喜んでくれますし、参加者同士で新しいビジネスが生まれることもあります。

4 混合型:「メタバース」が定着

数年前は珍しかった「混合型」のスタイルも、今やスタンダードになってきています。ここでいう「混合型」とは、「オンライン×リアル」というハイブリッドスタイルを実現すること、

つまり、「リアルだけ」「オンラインだけ」では実現できない、または実現しにくいことを、両者を組み合わせることで可能にするオンラインイベント

です。

例えば、ある和装関係のイベントでは、東京で行われているリアル展示会の会場をメタバース上に再現し、仮想空間の中で、世界中のユーザーが会場を歩き回れる仕組みをつくりました。また、メタバース上で自分の好みの浴衣を着られる取り組みなども実施しました。

リアル展示会で会場マップを見ながら出展ブースを回るという体験に限りなく近いことをオンラインでも実現し、リアルとバーチャルが融合している

というわけです。

上記の例のように、

近年は「メタバース×リアル」型の展示会が定着

しつつあります。メタバース型の展示会では、参加者が自社ブース内でどのように動きどの商品をどれくらい見たか、などの行動履歴が残るので、出展者側がその情報を展示会後の営業活動などに活かせるというメリットがあります。

以上(2025年2月更新)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

【中小企業の予算(8)】 KPIを予算に織り込む ~予算を行動につなげるために~

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者や財務担当者
  • 課題:予算が数字の寄せ集めだけで終わってしまう会社は少なくない
  • 解決策:予算作成の前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定する

1 KPIでメンバーの行動を導こう

これまで7回にわたって続いてきた【中小企業の予算】シリーズも、今回で最後となります。今回の重要なキーワードが「KPI(Key Performance Indicator)」という言葉ですが、皆さん、聞いたことはありますか。

KPIとは、業績に大きな影響を与える数字

のことです。KPIの代表例といえるのが、

  • 営業部門であれば、販売単価や販売数量
  • 製造部門であれば、歩留まり率や機械稼動率

です。

例えば、販売単価をKPIとして設定し、通常の販売単価が100円の会社が、「来年度は10%アップの110円にすることを目指そう」と目標を立てたとします。メンバーは、販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと、得意先と交渉する人もいるでしょう。

このように、KPIには、何を、どれくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーが取るべき行動が正確に共有できるという効果があります。そのため、

予算を作成する前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定すること

がとても大切になります。

例えば、売上高という漠然とした水準ではなく、売上を「単価」と「数量」に分けることによって、単価を上げるのか、数量を上げるのかを明確にし、それぞれに紐づいた行動に結び付けていきます。こうした具体的な数値の設定は、年度途中の早い段階で予算に対する進捗度合いを確認することが可能になります。

2 社内で重要視している指標がKPI

シリーズ第2回(【中小企業の予算(2)】予算「損益計算書」の数字の作り方)で、掛け算型と足し算型の話をしました。この掛け算型の構成要素が、KPIになることが多くあります。一番イメージしやすいものが、上記の例で挙げた売上を「単価」と「数量」に分けることです。

ただ、ここでは計算の構成要素として「単価」と「数量」を管理するだけではなく、一歩進んで個別に目標設定をした上で直接担当者と共有したり、年度途中でも進捗度合いを確認したりして、KPIとしての管理を考えます。

売上以外にも人件費をはじめとする会社にとって重要な科目について、その関連する構成要素(最終的な利益や作業の効率化に貢献するものなど)をKPIとして抽出して予算に組み込み、日々管理していくのです。ここで、業種別の主なKPI例を紹介します。

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では、KPIは、どのように選べばよいのでしょうか。取り組みの手順としては、

まず会社で従来大切にされてきた指標が何かを特定する

ことがおすすめです。社内で実際に使われている指標のほとんどは、長年の経験から業績向上につながると判断できるものです。もちろん、新たに業績向上につながる指標があれば追加してもかまいません。その際、「そのKPIは頑張れば達成できる性質のものなのか」「複数の類似する指標がある場合には、どれが最適な指標なのか」といった点に注意が必要です。

3 KPIのトレード・オフには気を付ける

重要な業績指標として管理していくKPIは、1つとは限りません。KPIを複数設定する場合は、およそ5つまでにしたほうが把握・管理がしやすいと思います。その場合には、優先順位を付けるようにしましょう。

さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般的に販売単価を下げれば、販売数量が伸びる傾向があるため、販売単価と販売数量はトレード・オフの関係(どちらかが良くなれば、どちらかが悪くなる関係)にあるといえます。

ここで「販売単価も上げてください」「販売数量も増やしてください」というメッセージとして、営業担当者に伝わってしまうと、どちらを優先していいかが分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールです。このような矛盾が発生しないように注意しましょう。

ただ、トレード・オフの関係にあるKPI両方の達成はムリなのかというと、そうとも限りません。ある外食チェーンでは、まず客数の増加を目指し、低価格の商品を多く販売しました。そして、一定の客数を確保したところで、高価格の商品を開発して、販売単価を上げる目標にシフトしたことで、販売数量と販売単価の両方を高く達成することができました。つまり、タイミングをずらすことが攻略法になります。

4 KGIにつなげるための非財務KPI

最近耳にする言葉に、KGI(Key Goal Indicator)があります。これは、

業績に重要な達成すべき目標

で、ほぼ予算と同義となります。営業部署でいえば、KGIが売上予算となり、主なKPIとして単価や数量があります。予算の作成前にKPIを設定する際、KGIに引っ張られて、

決算数値には直接関係するKPI(以下「財務KPI」)

に分類される項目である単価や数量を頭に思い浮かべがちです。特に、予算作成の担当者が決算数値を扱う財務系の部署であれば、なおさらです。ただ、営業部門のメンバーにとって財務KPIは、日々の目標としては管理しづらく、イメージしづらいことも多くあります。そこで、訪問件数、提案書の提出件数などの、

決算数値には直接関係しないKPI(以下「非財務KPI」)

を用いることを考えます。営業フェーズ別の主なKPI例を見てみましょう。

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上の図表のように、売上につながる業務を細分化することで、KPIになり得る指標が見えてくることも押さえておきましょう。

非財務KPIは、メンバーには身近な数字であるため、理解しやすくなります。特に、経験が浅いメンバーであれば、販売数量を増やすように努力するよりも、訪問件数を増やすほうが分かりやすいので、頑張れるということになるのです。

以上(2025年2月作成)

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画像:thanksforbuying-Adobe Stock

【入社1年目の教科書】守ることはたった1つ。「会社のお金」と「自分のお金」を区別する

書いてあること

  • 主な読者:会社のお金を使う上での基本的なルールを確認したい新入社員
  • 課題:もともとお金にルーズだし、経費精算なども面倒なので自腹でもいいと思っている
  • 解決策:「会社のお金」と「自分のお金」を明確に区別して、どちらからも逆流させない

あぁ~、やっちゃった……。仕事の調べ物で本を買ったときの領収書をなくしてしまった。どうしようかな。先輩に謝って手続きを聞くのは面倒だな。「大した金額じゃないのに、騒いだりしてケチな奴だ」って思われるのも嫌だし……。よし、今回は自腹でいいや。給料日も近いし問題ないでしょ。間接的に会社の利益に貢献したことにもなるしね!……なるよね?

1 大切なのは「お金に色を付ける」こと

社会人になると、仕事のために会社のお金を使うようになりますが、大切なのは、

自分のお金と会社のお金を明確に分けること

です。「お金に色はない」といわれますが、皆さんは「会社のお金」と「自分のお金」に色を付けて、明確に区別しなければなりません。会社のお金を自分のために使うことも、自分のお金を会社のために使うこともダメなのです。

また、会社のお金は金庫の中の現金だけではなく、移動のための交通費、仕事のために買った書籍代などの経費もそうです。経費は「会社のお金」と「自分のお金」が曖昧になりがちなので、一定のルールを守って使わなければいけません。ルールについては、規程としてまとまっているものもあれば、暗黙のルールになっているものもあるので、分からないことは、必ず先輩に確認しましょう。

2 お金を管理するために大切な5つの項目

お金に関するルールは会社によって違うことがあります。ただ、お金をもらうときも、払うときも、次の5つの項目が大切であることを覚えておいてください。

  1. 領収書の宛名(自社の名称)
  2. 支払先の名称
  3. 支払った日
  4. 支払った目的(購入した商品やサービスなど)
  5. 支払った金額

会社のお金で買い物や食事をするとき、「必ず領収書をもらってきてね」と先輩に言われるはずです。これは、領収書に5つの項目が書かれているからです。そして、会社は「誰に、いつ、何のために、いくら支払ったか」という記録と、実際のお金の動きを照合して、正しくお金が使われているかを管理しています。

逆に、こうした点が不明瞭だと会社は簡単にお金を支払えません。とはいえ、自分のお金で立て替えた領収書をなくしてしまったときも、勝手に自分で負担してはいけません。仕事で使うお金を社員が負担するというのは、会社としてとても不健全だからです。

領収書をなくした場合の正しい対処法は、領収書を再発行してもらうか、「事情報告書」(領収書を紛失した状況などを説明する書面)などの書面で状況を説明すること

です。手間はかかりますが、社会人の義務、社員の義務と心得ましょう。

3 「1円」だってズレてはいけない!

電子マネーのチャージ残高が思ったより多いぞ。やった~!

普段なら、こんな感じでしょうが、会社のお金の場合はそうはいきません。1円単位でビシッと合っていなければなりません。例えば、記録上は10万円あるはずなのに、現金が9万9999円しかなかったら、「ま、1円だからいいか」とはならず、過去の入出金記録を再確認したり、社内に1円硬貨が落ちていないか探し回ったりします。

絶対にやってはいけないのが、「1円だから」と自分の財布からお金を出すこと

です。会社のお金と自分のお金を区別するということは、自分のお金を会社のために使ってはいけないということでもあるのです。金額に関係なく、仕事に必要なお金を社員が負担することは不健全ですし、社長もそんなことを望んでいません。

4 日にちや期間が重要

会社は、お金の動きを「1日」「1週間」「1カ月」「1年」といった期間で管理します。中でも重要なのが「1年」です。なぜなら、会社は1年間の業績を基に株主への説明資料を作ったり、税金の申告をしたりするからです。これを「決算」といいます。

多くの会社は4月1日~翌年3月31日を会計期間としているのですが、この場合、3月31日と4月1日には大きな違いがあります。何かの買い物をした場合、それが3月31日なら当期の費用になりますし、4月1日なら翌期の費用となります。これはつまり、当期か翌期かの利益に影響を及ぼすことになるわけです。この辺りのことを考えて、社長たちはいつ買い物をするかを決めています。

新入社員の皆さんが、こうした話を意識するのはまだ先のことだとしても、身近な問題として意識する「期間」は「経費精算の1カ月」です。多くの会社は月単位で業績を管理しているので、4月に支払った経費は4月のうちに精算するのが基本となるのです。面倒に感じることもあるかもしれませんが、経費はこまめに精算しましょう。

5 早くお金をもらえば会社のためになる?

お金をもらったり、逆に支払ったりするときは「何月何日」を意識しましょう。これが会社の経営を楽にする「資金繰り」につながります。

例えば、お金を払うのは20日、お金をもらうのは30日だったとします。この場合、お金をもらうまでの10日間、会社のお金は減ってしまい資金繰りが悪化します。商品も仕入れられなくなるなど、ビジネスが停滞してしまうこともあり得ます。ですから、少し自分勝手に思えるかもしれませんが、

もらうのは早く、支払うのは遅く

というのが基本になるのです。

ただ、実際は皆さんがお金を払うタイミングをその都度、決めることはないでしょう。会社には「月末締めの翌月20日払い」といったようなルールがあるので、それを守ってください。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【コスト削減の教科書(1)】コスト削減の進め方

1 今こそ、コスト削減のチャンス!

「売上を上げて、コストも削減する」。これは経営の基本です。とはいえ、「これまでもコスト削減は一通りやってきているので、カラカラの雑巾のようだ……」という経営者も多いでしょう。

しかし、雑巾はまだ絞れます。

例えば、対面が当たり前だった会議はオンラインが当たり前となりましたし、テレワークも浸透しています。これまでとは違った切り口のコスト削減が試せるのです。それに、今後のさらに深刻になる人手不足に備えるには、コスト削減の活動に伴う効率化が必須です。まさに今こそ、コスト削減を再検討する絶好のチャンスだといえるでしょう。

このシリーズでは、サクゲン株式会社という架空の会社で繰り広げられるコスト削減の活動を、具体的な削減金額とともに紹介します。皆さまの会社のコスト削減にお役立てください。

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2 削減するコスト項目と方針を決める

サクゲン株式会社は、まさにコスト削減会議の最中です。メンバーは社長、管理部長、営業部長、製造部長の4人です。

社  長:中期経営計画で示したように、今後3年間で4500万円のコスト削減を達成します。事前に削減するコストを検討するように伝えましたが、どのような状況ですか?

管理部長:はい。早速ですが「出張」をなくしましょう。コロナ禍は出張しなくても営業できていたわけですから、問題ないかと。

営業部長:いやいや、ちょっと待ってくれ。相手と関係を築くのにリアルのコミュニケーションは必要だよ。それに、以前より出張の回数は減らしている。そんなことより、管理部の残業代のほうが問題なのでは? 製造部だって、もっと安い材料を使えばいい!

管理部長:いやいや、決算期の状況を知らないからそんなことが言えるのでしょう。棚卸しは本当に大変なんですよ。

製造部長:いやいや、材料を変えたら品質の確認からやり直しだ。売るものが作れなくなったら、営業部だって困るだろう!

社  長:待ちなさい。いきなり個別のコストに注目して、他部門に責任を押し付けるのではなく、コスト項目全体を把握することから始めてほしい。そこから個別に検討しよう!

どの部門も自分たちの経費(コスト)が削減されることには反発します。「今のやり方を変えなければならない」「無駄遣いしていると思われている」など、マイナスの感情が生まれるからです。ですから、目についたコストを「槍玉」に挙げるような議論をしてはいけません。各部門長が感情的になると部下に“本気の指示”をしないため、成果も上がりにくくなります。

正しい手順は、まず網羅的にコストを洗い出し、「何を削減するのか」をできるだけコスト削減会議の上で合意して決めることです。どうしても意見がまとまらない場合は社長が判断します。

さて、サクゲン株式会社では次のコスト項目を削減対象としたようです。人件費は最も大きなコスト項目の1つですが、サクゲン株式会社は人件費には手をつけない方針です。

各コストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。

コスト削減会議では、次のステップとして削減対象となったコスト項目ごとに、削減方針と削減目標を決めています。例えば、出張費の場合は次の通りです。

出張費

  • 定  義:業務に関連して遠隔地へ行くときにかかる支出
  • 支出内容:取引先を訪問するときの電車運賃やタクシー代、出張時の交通費や宿泊費など
  • 削減方針:予約方法・交通手段・宿泊施設などを変える、出張をやめる・減らす
  • 削減目標:××万円

このように情報を整理することで、コストの内容や削減目標を全社的に共有でき、削減のアイデアを募ることも可能です。情報を整理するときのポイントは、コストの担当者(例えば、出張費であれば営業部など)だけに任せないことです。なぜなら、重要な取引先に関わる支出、属人化している支出などが“聖域”になってしまう恐れがあるからです。

3 削減方法と優先順位を計画表にまとめる

社  長:約30の削減方法が提案されたね。これらを実行すれば削減目標を達成できそうだ!

管理部長:はい。社外と交渉しなければならない項目もあります。もし決裂しても、他の項目が達成できればカバーできます。

社  長:よし。早速、始めよう! どのように着手しますか?

製造部長:難易度が低く、効果の高いものから着手します。具体的な計画は、配布資料にある通りです。

社  長:承知した。この計画で進め、2カ月に1回、進捗会議を行って状況を共有しよう。分かっていると思うが、社員をうまく巻き込むための努力を欠かさないように。

サクゲン株式会社では、コスト削減の難易度を低・中・高の3段階に分けました。

  • 低:ルール変更や制度を導入すれば実行可能
  • 中:実行するための作業や準備が必要なもの
  • 高:対外的な交渉が必要

そして、必要に応じて見積もりを取りながら、1年間の削減効果をシミュレーションした結果を、コスト項目ごとにまとめました。例えば、出張費の場合は次の通りです。

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さらに、その内容を次のような計画表に落とし込みました。以下の表はエクセル形式でダウンロードできるので、ぜひ、御社のコスト削減活動でご活用ください。

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こちらからダウンロード

 

4 コスト削減を社員の「自分事」に!

計画表が完成したら、いよいよ実行です。続けていくうちに、「今月は忙しかったから、目標未達は仕方ない」などの甘えが出てくることがあります。しかし、甘えを許さず、「どのように遅れを取り戻すのかなどを厳しく確認する」ようにしましょう。

そして、コスト削減を継続する上で重要になるのが、社員の意識です。社員が「自分事」としてコスト削減に取り組む雰囲気づくりは簡単ではありませんが、次の4つのポイントを押さえることが大切です。

1)コスト削減のルールをフラット化する

社員の自発的な協力を得るには、まず、部長・課長クラスなどに与えられていた「特別待遇」など、コスト削減に関わる不満要素を一掃しておきましょう。

例えば、出張での新幹線のグリーン車の利用や宿泊料金の条件について、原則として全社員一律のルールを定めるなどです。ただし、交際費などは役職に応じたグレードが求められることもあるので、必要があるものについては一定の格差を残します。

2)環境保全など、コスト削減以外の取り組みのメリットを示す

SDGsの浸透などにより、社会貢献に興味を持っている社員もいるでしょう。こうした社員の自発的な協力を得るには、コスト削減が社会貢献にもつながることを伝えます。例えば、「水道光熱費の削減は、地球環境の保全にも貢献する」といった具合です。

3)コスト削減の効果を「見える化」する

コスト削減の取り組みが成功したかどうかが分かるように、削減効果を「見える化」しましょう。最も分かりやすいのが「数値化」です。コスト削減の年間目標設定や部署ごとの競争、アイデアを出した人の貢献度を測る上での基準となります。

ただし、数値の改善に対する意識が強くなりすぎるあまり、本来の業務に支障が出ることがないよう、一定の配慮も欠かせません。

4)取り組みの効果を社員に還元する仕組みを作る

成果が出れば、社員はそれを還元してもらいたいと考えるものです。削減できたコストのうち、一定の割合を社員に還元することを検討しましょう。金銭で報いるだけでなく、表彰するなど、承認欲求を満たす形で成果を還元する方法もあります。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「なぜ、私の給料はあの人より低いの?」と社員に聞かれたらどう返す?

1 待遇格差の内容や理由、あなたは説明できますか?

「私の給料が同期入社の〇〇さんよりも低いです! 同じ仕事をしているのになぜですか?」

こんな質問を社員からされたらどう説明しますか? 通常、会社は社員1人1人の給料を公にしませんし、社員もあからさまに「私の給料は30万円!」「えっ、私は28万円……」なんて会話はしないでしょう。しかし、仲の良い社員同士が飲み会などの場で給料を話題にすることはありますし、上司がうっかり「もっと頑張らないと、〇〇さんとの給料に差がついてしまうぞ!」などと、口を滑らせてしまうケースもあるかもしれません。

これは、いわゆる「同一労働同一賃金」の問題(注)ですが、きちんと準備をしておかないと、社員から冒頭の質問をされたときに説明できず、会社への不信感がさらに大きくなってしまう恐れがあります。そこで、この記事では待遇格差の説明のパターンを、「ケーススタディー+社労士からのアドバイス付き」で3つ紹介します。

(注)同一労働同一賃金のルール上、非正規社員から「正社員」との待遇格差(給料の他、福利厚生など全ての待遇が対象)について説明を求められたら、会社はその内容や理由を説明する義務があります。「正社員同士」「非正規社員同士」の待遇格差については説明義務の対象外ですが、放置すると職場の雰囲気の悪化や離職などにつながりかねないので、説明したほうが無難です。

2 テレワーク組は楽だから出社組より給料が低いの?

1)ケーススタディー

IT会社で働くAさんは、テレワーク勤務です。地方在住も実現し、テレワーカーとしての働き方に満足しています。しかし、あるときオフィス勤務のBさんとオンラインで雑談をしていて、オフィスワーカーには「出社手当」が支給されていることを知りました。

Bさんいわく、「1日出社するたび、2000円とランチ代が支給される」そうです。一方、テレワーカーのAさんがもらっているのは、月5000円の在宅勤務手当だけ……。不満に思ったAさんは、上司に面談を申し込みました。

「オフィスワーカーには、出社手当が支給されていると聞きました。テレワーカーも同じ仕事をしているのに、なぜ給料に差があるんですか?」

上司は、画面越しに丁寧に説明を始めました。

「まず、テレワーカーもオフィスワーカーも、基本給や評価制度の違いは一切ない」

「その上で説明するけど……」と、上司は話を続けます。

「出社手当の額は、オフィス勤務に伴うコストと負担を考慮して設定されている。通勤に加え、急な対面会議への対応、新入社員のメンタリング、設備管理など、物理的な出社によって発生する苦労はいろいろあるからね。それをねぎらう意味もある。それに、社員が対面で会うことで生まれる新しいアイデアにも期待しているんだ」

2)社労士からのアドバイス

コロナ禍を機に多くの会社で導入されたテレワークですが、状況が落ち着いてくると「皆がオフィスにいたほうが意思の疎通を図りやすい」ということで「オフィス回帰」の動きが強まり、最近はその落としどころとして「ハイブリッド型」が広まっています。

このケースでの説明のポイントは、

給料の格差が「差別」でなく、労力やコストに応じた「区別」であると明確に伝えること

です。Aさんの上司は、出社手当を高く支給する理由として、オフィス勤務に伴うコストと負担の内容を列挙し、それがテレワークとの違いであることを明確にしています。最初に「基本給や評価制度に差はない」と前置きした上で説明している点も重要です。

とはいえ、テレワーカーであるAさんからすれば、オフィスワーカーばかり優遇されている印象は拭えません。このケースでは、出社手当を支給する理由の1つとして「社員が対面で会うことで生まれる新しいアイデアへの期待」を挙げていますが、この視点に立つなら、例えば

地方在住を実現しているAさんに、居住地域を拠点にした新事業のアイデアを出してもらい、会社にとって利益が見込めるなら、必要なポジションに就けて給料にも反映する

といった、テレワークならではの役割設定についても検討してみるとよいかもしれません。

3 先輩よりも新人の給料が高いのは専門性?

1)ケーススタディー

製造会社で正社員として働くCさんは入社3年目です。今年から新入社員Dさんの教育係となり、熱心に指導をしています。ある日、CさんがDさんと飲みに行った際、酔ったDさんは無邪気に「前職よりも給料が上がってうれしいです!」と言い、ついつい支給額もしゃべってしまいました。それを聞いたCさんはがくぜん。なんと教育係である自分より高い金額だったのです。

納得いかないCさんは、上司に「同じ正社員なのに、後から入ったDさんのほうが先輩の私より給料が高いのはおかしいです!」と直談判。上司は、率直に理由を説明しました。

「Dさんは、最新のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の技術者なんだ。今、この会社において非常に重要なスキルを持って入社してきた。だから、相応の初任給を設定したんだ」

Cさんは、今年の仕事始めに社長が「RPAの導入で生産性を上げる」と言っていたことを思い出し、うなだれました。そんなCさんに上司は優しく声をかけました。

「Cさんの指導力は高く評価している。今年から『教育担当手当』が新設されるが、Cさんも対象になるからね。あと、希望すればRPAに関する研修を受けることもできるよ。会社が重視するスキルを身に付ければ、それは当然給料にも返ってくるよ」

2)社労士からのアドバイス

BX(ビジネストランスフォーメーション)を進める会社では、特定のスキルを持つ社員の市場価値が急激に高まり、給料相場も上昇しています。当然、CさんとDさんのような、給料の逆転現象も発生するわけです。

このケースでの説明のポイントは、

市場価値の変化が給料にどう影響しているのかを明確に説明すること

です。Cさんの上司は、市場価値の変動を具体的なスキル(RPA)と結びつけて説明し、会社の経営方針との整合性も示しています。

また、

今よりも給料をアップさせるための改善策を併せて提示すること

も重要です。Cさんの場合、上司はその指導力を評価し、教育担当手当という形で具体的な処遇改善を提示しています。また、RPAに関する研修を受け、知見を深めれば給料アップが見込めることを伝えています。キャリアアップの道筋も示唆しているので、聞いている側も向上心を刺激されます。

4 パートが正社員より給料が低いのは当然?

1)ケーススタディー

小売店で4年間パートとして働くEさんは、あるとき上司との面談を申し込み、以前から気になっていたことを聞きました。

「私は、正社員のFさんと同じように接客や商品管理をしています。ですが、時給に換算すると、私のほうが給料が低いです。同じ仕事をしているのに、おかしくないですか?」

上司は棚から就業規則を取り出し、Eさんに見せながら言いました。

「Eさんの気持ちは分かる。確かに日々の業務ではFさんと重なる部分も多いね。ただ、パートであるEさんと、正社員であるFさんとの間には、いくつか重要な違いがあるんだよ」

上司は、正社員の職務内容が記載された箇所を指しながら説明を続けます。

「正社員には売上目標などのノルマがあり、その達成に向けて残業や休日出勤もこなしている。繁忙期には他店舗への応援出向もある。この違いを待遇に反映させているんだよ」

2)社労士からのアドバイス

同一労働同一賃金の基本は、「均等待遇」「均衡待遇」という考え方です。

  • 「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更の範囲」が同じ場合、非正規社員であるという理由だけでは、正社員よりも低い待遇にできない(均等待遇)
  • 「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更の範囲」「3.その他の事情」が異なる場合、その違いに応じて合理的な待遇格差を設けるのは問題ない(均衡待遇)

「1.職務の内容」には業務内容や責任の程度、「2.職務の内容・配置の変更の範囲」には人事異動などの有無やその範囲、「3.その他の事情」には成果・能力・経験などが該当します。

このケースでの説明のポイントは、

均等待遇・均衡待遇に照らして、どこが正社員との違いなのかを明確にすること

です。今回は、ノルマ(責任)が「1.職務の内容」、他店舗への応援出向が「2.職務の内容・配置の変更の範囲」に当たり、この部分がEさん(パート)とFさん(正社員)とで異なるため、給料に差が生じています。格差があまりに大きすぎる場合などは別ですが、そうでなければ合理的な待遇格差であり、均等待遇・均衡待遇にかなっているということになります。

なお、このケースでは上司が就業規則を使ってEさんに説明をしていますが、実際の説明でも、

就業規則や給料規程など、正社員の待遇の内容が明記された資料を用いるのが基本

です。また、都道府県労働局では、待遇格差の内容や理由を書き込んで社員に渡せる「説明書モデル様式」などを公表しているので、必要に応じてご活用ください。

■厚生労働省奈良労働局「(待遇差の内容や理由)説明書モデル様式」■

https://jsite.mhlw.go.jp/nara-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/kokin_youshikishu.html

以上(2025年2月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】その「種まき」で将来どんな「実」がなるの?

【ポイント】

  • 将来の利益のために、早いうちから小さな取り組みをすることを「種まき」という
  • ただ、種まきそのものが目的になってしまうと、本来のゴールが見えなくなる
  • 種まきの先にある未来を想像するよう、日ごろから習慣付けることが大切

おはようございます。2月に入り、暦の上では春を迎えました。春といえば、こんなことわざがあります。「春植えざれば秋実らず」。春に種をまかないと秋の収穫はできない、つまり「やるべきことを早めにやっておかないと成功は望めない」という意味です。

「種まき」という言葉は、ビジネスでもよく使われます。「将来の利益につなげるために、早いうちから小さなことに取り組む」という意味です。YouTubeやSNSでユーザーに役立つ情報を提供するのも種まきですし、ビジネスイベントや交流会に参加して人脈を広げるのも種まきです。こうした活動はビジネスではとても大切ですが、気を付けなければならないのは、時折「種まきそのものが目的になってしまっている人」がいることです。

例えば、YouTubeやSNSで情報を発信する際、“バズる”こと、つまりユーザーの注目を集めることにとてもこだわる人がいます。もちろん、PV数を稼げるコンテンツを作れるのは素晴らしいことですが、その先にある「コンテンツを見たユーザーに、どんな行動を取らせたいか」ということにまで考えが及んでいるでしょうか。「面白いコンテンツを作ること」そのものが目的になってしまって、「商品・サービスを購入してもらう」という本来のゴールが見えなくなってはいませんか。せっかく良いコンテンツを作れるのですから、それを使ってしっかりゴールにたどり着きたいですよね。

ビジネスイベントや交流会に参加して人脈を広げるのもそうです。自分の知らない世界で活躍している人たちと話すことは、それ自体が刺激になりますし、知見も広がります。素晴らしい取り組みですが、かといってそこでストップしてしまってはもったいないです。私が皆さんに期待するのは、そうした人たちとつながりを持つことで、将来どんなビジネスの可能性が開けてくるのかを自分なりに考えられるビジネスパーソンに成長することです。

ビジネスの経験を積んでいかないと、こうした想像をめぐらせるのはなかなか難しいですが、一方で、日ごろから考える習慣を付けていかないと、急に「想像しろ」と言われてもなかなかできないものです。「秋にどんな実がなるのか」をよく考えながら、春のうちから種まきに取り組んでいってください。

以上(2025年2月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

賃金のデジタル払い

賃金は従業員の銀行口座へ振り込むのが一般的ですが、「○○Pay」など、一部の「資金移動業者」の口座へ支払うこともできます。まだあまり普及していませんが、今後、従業員のニーズが高まることも予想されます。本稿では、賃金のデジタル払いのしくみや注意点について説明します。

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【業務効率化】紙の出勤簿はもう限界?スマートロックなどを使った“今どき”の勤怠管理

1 働き方の多様化。勤怠管理も見直してみませんか?

始業・終業時刻を「紙の出勤簿に手書きする」「タイムカードに打刻する」「エクセルファイルに入力する」など、“昔ながら”の勤怠管理を今も続けている会社は少なくありません。ですが、フレックスタイム制や時短勤務などで、従業員の働き方がバラバラになってくると、もはやこうした勤怠管理では対応しきれなくなってきます。

働き方の多様化に勤怠管理が追いついていない会社では、従業員、労務担当者、経営者それぞれが、次のような不便さを感じているはずです。

  • 従業員「始業・終業時刻や休憩時刻を毎日記録するのは面倒……」
  • 労務担当者「記入漏れや記入ミスが起きやすいし、データの転記や集計にも時間を取られる。給与支払いに直結する業務だけにミスは許されないし、大変だ……」
  • 経営者「始業・終業時刻や休憩時刻を、アナログな方法で毎日従業員に記録させるのは非生産的だ。それに、このままだと労務担当者の業務がいつまでも効率化できない……」

そこで、この記事ではこうした不便さを解決するための方法として、「ICカードなどを使ったオフィス向け入退室管理システム」「さまざまな打刻方法に対応するクラウド型勤怠管理システム」などを活用した、“今どき”の勤怠管理を紹介します。

2 オフィス向け入退室管理システム(スマートロック)

オフィス向け入退室管理システムは、スマートロックとも呼ばれます。ドアの解錠や施錠を、ICカードやスマートフォンなどをリーダーにかざして行えるようにしたもので、権限を持たない人の入退室を制御できます。また、煩雑になりがちな鍵の管理が不要になり、鍵の紛失や不正な複製のリスクもなくなります。

既存のドアは取り換えず、錠の開け閉めを行うサムターンの上に後付けするタイプや、シリンダーそのものを交換するタイプがあります。

サービスによっては、記録される入退室のログ情報を勤怠管理の目的で使用できるタイプもあります。中には、自社で利用している勤怠管理システムとCSVファイルなどを介さずに、APIで直接連携できるものもあります。

サービスの例は次の通りです。

■Photosynth(フォトシンス)「Akerun(アケルン)入退室管理システム」■

https://akerun.com/entry_and_exit/

■アート「ALLIGATE(アリゲイト)」■

https://alligate.me/

■ビットキー「bitlock(ビットロック)」■

https://www.bitlock.jp/

■ソニーネットワークコミュニケーションズ「カギカン」■

https://kagican.jp/

3 クラウド型勤怠管理システム

労働時間や残業時間の打刻・集計、シフト勤務への対応、休暇管理、年次有給休暇の自動付与、ワークフローによる申請・承認、ICカード(社員証、交通系ICカードなど)やスマートフォン(モバイルアプリ)による打刻などに対応したクラウドサービスです。

サービスの例は次の通りです。

■ヒューマンテクノロジーズ「KING OF TIME」■

https://www.kingoftime.jp/

■マネーフォワード「Money Forwardクラウド勤怠」■

https://biz.moneyforward.com/attendance/

■ラクス「楽楽勤怠」■

https://www.rakurakukintai.jp/

■jinjer「ジンジャー勤怠」■

https://hcm-jinjer.com/kintai/

■デジジャパン「Touch On Time」■

https://www.kintaisystem.com/

■DONUTS「ジョブカン勤怠管理」■

https://jobcan.ne.jp/

■アマノビジネスソリューションズ「clouza(クラウザ)」■

https://clouza.jp/

4 客観的なエビデンスとしての記録が重要

会社(使用者)には、従業員の労働時間を適正に把握する義務があります。単に1日何時間勤務したのかを把握するのではなく、労働日ごとの始業・終業時刻を、客観的な方法(タイムカード、パソコンの使用時間の記録など)で確認し、それを基に何時間勤務したのかを計算しなければなりません。

紙の出勤簿やエクセルファイルを使った社員からの自己申告も、労働実態の調査などを併せて行う場合については認められますが、前述した通り、従業員の働き方が多様化している昨今では、1人1人の労働実態を調査するのが大変です。労働時間の把握漏れなどによって、従業員とトラブルになったり、労働基準監督署の“臨検”で指摘を受けたりするリスクもあります。

この記事で紹介した、スマートロックやクラウド型勤怠管理システムは、こうしたリスクを低減する上での助けになります。どこかで“昔ながら”の勤怠管理に見切りをつけて、見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

以上(2025年2月更新)

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画像:Eakrin-Adobe Stock

【2025年版】DX戦略の現在地。他社はどこまで進んでいる?〜経営者200人アンケート

1 2025年を御社のDX元年に!

デジタル技術を駆使して、ビジネスに大きな変革をもたらす取り組み「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。言葉自体はすっかり身近になりましたが、各社の取り組みはどこまで進んでいるでしょうか? この記事では独自アンケートから「DXの現在地」を探っていきます。

仮にDXのレベルを次の5段階に分けたとします。もし御社がレベル1やレベル2に相当するのなら、2025年の目標として「レベル3まで達成すること」を掲げてみてはいかがでしょうか?

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

では、早速、アンケートの結果を見ていきましょう。最後に相談機関なども示していますので、具体的なアクションにつなげてください!

なお、アンケートは2025年1月にインターネットで行い、経営者211人から回答を得ました。

2 DXの現在地。他社はどこまで進んでいる?

1)DXに前向きな企業は約4割

211人全員に、DXの取り組み状況を聞きました。

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44.1%が「着手する予定はない」と回答している一方で、39.4%がDXの取り組みに対して前向きであることがうかがえます。

2)DXに取り組むきっかけは「経営者自身の思い」が一番

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した98人に、DXに取り組むきっかけを聞きました。

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「経営者自身が取り組みたいと感じているため」が最も多く、さらに「法律などの規制・制度変更に対応するため」「金融機関や税理士などから提案されたため」などが続きます。

3)DXで実現したいことは「書類やデータのスムーズな共有」など

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した98人に、DXで実現したいことを聞きました。

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「書類やデータをスムーズに共有したい」「コストを削減したい」「作業時間を短縮したい」という回答が特に多くなっています。人材不足解消や在庫・受発注の管理の見直しよりも、まずは足元の業務効率化を目標に据えたいという企業が多いようです。

4)全社的に「文書の電子化・ペーパーレス化」が進んでいます

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」と回答した53人に、部門ごとのDXの取り組み状況について聞きました。

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部門ごとの特徴は次の通りです。

  • 全社:「文書の電子化・ペーパーレス化」「オンライン会議ツールの導入」「グループウェア・チャットツールの導入」は、部門をまたいで全社的に取り組まれている
  • 総務(経理・人事)部門:「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」と回答した人がおらず、何かしらのDXに取り組んでいる
  • 営業部門:「オンライン会議ツールの導入」「グループウェア・チャットツールの導入」の割合が高く、コミュニケーションツールにDXが導入されていることがうかがえる
  • 生産、物流部門:「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」の割合が他の2部門よりも高く、他の2部門と比較してDXの推進が難しいことがうかがえる

裏を返せば、事業に直接関わらない総務(経理・人事)部門などのバックオフィス系はDXに取り組みやすい部門といえます。もし、これからDXに取り組むことを検討している場合には、まずは総務(経理・人事)部門のDXに目を向けてみるとよいでしょう。

5)DXの成果は「足元の業務効率化」

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」と回答した31人に、DXによる具体的な成果について聞きました。

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「売り上げを倍増できた」「新規商品、サービスを開発した」といった本業に直接関わるような成果はまだ少ないものの、「書籍やデータの共有がスムーズになった」「作業時間が短縮できた」といった足元の業務効率化を実現した企業が多くを占めています。

6)1番に取り組みたいのは「文書の電子化・ペーパーレス化」

1)でDXに「これから着手する予定である」と回答した45人に、部門ごとに取り組みたいDXについて聞きました。

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部門を問わず、「文書の電子化・ペーパーレス化」に取り組みたいという回答が多いです。

7)DX推進の課題は「コスト」と「人材確保」

1)でDXに「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した67人に、DX推進に当たっての課題を聞きました。

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「ツールやシステムを導入するコストを掛けられない」が最も多く、さらに「社内にデジタル人材がいない」が続きます。

8)DXを進めるには、目標をはっきりさせること

1)でDXの取組状況について「分からない/答えたくない」以外の回答をした191人に、今後のDX推進に必要なものを聞きました。

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「低コストで導入できるデジタルツール」や「助成金制度などの外部機関による支援」もDX推進のためには大切ですが、まずはDXに取り組む目的や戦略を明確にする必要があります。DXにこれから取り組む場合には、図表3「DXで実現したいことについて」の回答も参考に、DXに取り組むことで何を実現したいかを明確にして、社員にも共有させるとよいでしょう。

3 総括:各社のDXの現在地は?

ここまでの質問を踏まえて、冒頭で紹介したDXの5段階のレベルについて聞いたアンケートの結果は次の通りです。なお、5段階のレベルの定義は次の通りです。

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

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冒頭の繰り返しにはなりますが、これからDXに取り組もうとする際には、今回のアンケート結果を参考に、

2025年のうちに他社に後れを取らないレベルになること

を意識してみましょう。

4 (参考)DXに関する助成金制度や認定機関の紹介

ここでは、DXに関する助成金制度や認定機関などの情報をまとめました。これからDXに取り組む際に、ぜひ参考にしてみてください。

1)DXに関する情報収集や人材育成に活用できるウェブサイト

1.独立行政法人情報処理推進機構(IPA):DX SQUARE

DXに関する情報を発信するウェブサイトです。DXの基礎知識や用語集をはじめ、他社のDX推進事例やDX推進に役立つツールなどを紹介しています。

■DX SQUARE■
https://dx.ipa.go.jp/

2.IPA:マナビDX

デジタルスキルに関する学習コンテンツを紹介するウェブサイトです。DXの基礎的な講座をはじめ、社員のキャリアアップや企業研修に活用できる講座の情報をまとめています。

■マナビDX■
https://manabi-dx.ipa.go.jp/

3.中小企業基盤整備機構:ここからアプリ

中小企業がDX推進に関して、導入しやすい業務用アプリを紹介するウェブサイトです。アプリの概要だけでなく、実際の企業による導入事例なども紹介しています。

■ここからアプリ■
https://ittools.smrj.go.jp/

2)DXに関する認定制度

1.IPA:DX認定制度

2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づく認定制度です。企業からの申請に基づき、優良な取り組みを行う事業者を経済産業省が認定するものです。

この制度に認定されることで、DX認定制度のロゴマークを利用し自社PRができるだけでなく、DX実現に必要なデジタル関連投資に対して税額控除、もしくは特別償却を受けることができるなどのメリットがあります。

■DX認定制度■
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html?utm_source=dxsquare

2.経済産業省:DXセレクション

中堅・中小企業などのモデルケースとなる優良事例を「DXセレクション」として紹介する取り組みです。優良事例を選定・公表することで、地域内や業種内での横展開をはじめ、中堅・中小企業などにおけるDXの推進や取り組みの活性化につなげていくことを目的としています。

■DXセレクション■
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

以上(2025年2月更新)

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画像:TarikVision-Adobe Stock