社労士に相談が多い事例トップ10とその解決策

働き方にも“新時代”が到来している今、私たち社労士のもとに多く寄せられる相談事例トップ10と、その解決策を検討することで、よりよい職場環境についてともに考えてみたいと思います。

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【かんたん会社法(7)】増資(募集株式の発行等)の基本

書いてあること

  • 主な読者:資金調達の1つとして「募集株式の発行(増資)」の基本を知りたい人
  • 課題:募集株式の発行にはいくつかの種類があり、分かりにくい
  • 解決策:既存株主に配慮する。公開会社と非公開会社とで手続きが異なる

1 3つある募集株式の発行等の形態

株式会社(以下「会社」)の資金調達は、金融機関からの借り入れや社債の発行などの「デット(debt:負債)」と、募集株式の発行や新株予約権の発行などの「エクイティ(equity:株主資本)」とに大別されます。エクイティは返済義務がなく、自己資本の増強につながりますが、経営権に影響が及ぶ恐れもあります。

ここで紹介するのは「募集株式の発行等」です。聞き慣れないかもしれませんが、要するに「増資」です。具体的には、

  • 募集に応じた者に株式を発行(新株発行)
  • 自己株式の処分による株式の割当

を指します。また、募集株式の発行等の形態は次の3つです。

  1. 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に株式を発行する
  2. 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に株式を発行する
  3. 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に株式を発行する

募集株式の発行等の基本的な流れは次の通りです。

  1. 募集事項の決定(募集株式数、払込金額等を決定)
  2. 募集事項の通知・公告
  3. 株式の申し込み・割当・引き受け
  4. 出資の履行・効力の発生
  5. 株券の発行(株券発行会社の場合)
  6. 変更登記

以降では、第三者割当と株主割当に注目し、手続きの概要を紹介します。

2 第三者割当の手続き

1)募集事項の決定

募集の際は、次の募集事項を決定します。

  • 募集株式の数
  • 募集株式の払込金額またはその算定方法
  • 現物出資の場合は、その旨並びに当該財産の内容および価額
  • 金銭の払い込みまたは財産の給付の期日または期間
  • 増加する資本金および資本準備金に関する事項

1.公開会社の場合

公開会社の場合、原則として、募集事項は取締役会が決定します。これは機動的な資金調達を行うためです。ただし、有利な価格で株式を発行する「有利発行」だと既存株主の株式価値が減少するので取締役会では足りず、株主総会の特別決議が必要です。また取締役は、その株主総会で有利発行が必要な理由を説明しなければなりません。

なお、種類株式発行会社が譲渡制限株式を募集する場合、その種類株式の種類株主総会の特別決議が必要です。ただしこの種類株主総会は、定款に定めれば省略できます。

2.非公開会社の場合

非公開会社の場合、株主は議決権割合の維持に大きな関心があります。そのため、取締役会ではなく、株主総会の特別決議で募集事項を決定します。ただし、株主総会で募集株式数の上限と払込金額の下限を定めれば、特別決議によって募集事項の決定を取締役会に委任できます。

なお、公開会社と同様に、有利発行の場合は株主総会による特別決議と取締役の説明が必要です。譲渡制限株式を募集する場合も、種類株主総会の特別決議が必要ですが、定款に定めれば省略できます。

2)募集事項の通知・公告

公開会社が取締役会で募集事項を決定した場合、原則として、株式の代金払込期日の2週間前までに、決定した募集事項を既存株主に通知します(全ての株主の同意があれば、期間の短縮可)。これは、不当な募集株式の発行がなされた場合に、既存株主が「株式発行差止請求権」を行使できるようにするためです。ただし、株主が多いと大変なので、公告でも大丈夫です。一方、公開会社が株主総会の特別決議によって募集事項を決定した場合、決定した募集事項を、別途、株主に通知や公告をする必要はありません。

また、新株発行(自己株式処分を含む)によって、新たに議決権の2分の1を超えて株式を所有する「特定引受人」が出る場合、会社は株式の代金払込期日の2週間前までに、既存株主に特定引受人の氏名等を通知するか、公告しなければなりません。そして、この通知等から2週間以内に、全ての株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対の旨を会社に通知した場合、事業継続のために緊急の必要があると認められるときを除き、会社は代金払込期日の前日までに株主総会の普通決議による承認を受けなければなりません。

3)株式の申し込み・割当・引き受け

会社は、募集株式の引き受けの申込者に、商号・募集事項・金銭の払込取扱場所などを通知します。申込者は、氏名または名称、住所、引受株式数を記載した書面などで会社に申し込みます。

会社は、割当をする申込者を決め、払込期日または払込期間の初日の前日までに、申込者に割り当てる株式数を通知します。申込者は、株式の割当を受けて「株式引受人」となります。

4)出資の履行・効力の発生

株式引受人が株主となるには、金銭の全部の払い込みまたは現物出資の全部の給付が必要です。払い込みまたは給付がされた場合、期日が定められていればその日に、期日が定められず期間が定められている場合は履行のあった日に、株主となります。なお、現物出資の場合の手続きは金銭の払込みとは異なりますが、ここでは説明を割愛します。

5)変更登記

会社は、発行済株式総数、資本金の額など、変更すべき事項について変更登記をします。

3 株主割当の手続き

株主割当の手続きの多くは、第三者割当と同じです。以降では、第三者割当てとは異なる点を中心に紹介します。

1)募集事項等の決定

株主割当の場合、第三者割当の募集事項に加えて、次の事項を決定します(以下「募集事項等」)。

  • 株主に対して、募集株式の割当を受ける権利を与える旨
  • 募集株式の引き受けの申し込みの期日

1.公開会社の場合

公開会社の場合、取締役会が募集事項等を決定します。なお、会社が種類株式発行会社で、今回の株主割当によって特定の種類株主に損害を与える恐れがあるときは、種類株主総会の特別決議が必要です。ただしこの株主総会は、定款に定めれば省略できます。

2.非公開会社の場合

非公開会社の場合、定款の定めに従って取締役か取締役会が募集事項等を決定します。定款に定めがない場合は、株主総会の特別決議によって募集事項等を決定します。

なお、公開会社と同様に、会社が種類株式発行会社である場合、種類株主に損害を及ぼさないように種類株主総会の特別決議が必要ですが、定款に定めれば省略できます。

2)募集事項等の通知・公告

会社は、募集株式の引き受けの申し込み期日の2週間前までに、株式の割当を受ける権利を与えた株主に募集事項等を通知します。

3)株式の申し込み・割当・引き受け

申込者は、氏名または名称、住所、引受株式数を記載した書面などで会社に申し込みます。申し込みの期日までに申し込みをしない場合、株式の割当を受ける権利を失います。

4 株式発行の瑕疵

株式の発行に違法などの瑕疵(かし)がある場合、他の株主はそれを理由に株式発行の差止請求をしたり、株式発行の無効を主張したりすることができます。

1)株式発行の差止請求

株式発行の差止請求は、株式発行の効力発生前に行使できる手段です。会社が法令や定款に違反し、または著しく不公正な方法で株式を発行することによって、株主が不利益を受けるおそれがある場合に講じる措置です。

2)株式発行の無効主張

株式発行の無効主張は、株式発行の効力発生後に行使できる手段です。ただし、いったん効力が発生したものを無効にするのは大変で、一定のルールがあります。例えば、株式発行の無効を主張するためには会社を訴えなければなりません。訴えの提起は、相手が公開会社なら発行の効力発生日から6カ月以内、非公開会社なら1年以内に限られます。また、訴えを提起できるのは、株主、取締役、執行役、清算人、監査役に限られます。

無効の主張が認められた場合、判決の効力は原告以外の第三者にも及びます。どういった場合に株式発行の無効が認められるかは個別の解釈によりますが、一般的には重大な法令・定款違反となります。

この他、株式発行の手続きがまったくないままで株式発行に関する登記が行われた場合、株主は株式発行の不存在確認の訴えを起こすことができます。この訴えは、確認の利益を有する人であれば誰でもできますが(原告になるのは、前述した株式発行の無効の訴えを提起できる人の他に、従業員や債権者などとなります)、判決の効力は原告以外の第三者にも及びます。

以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:Mariko Mitsuda

人手不足の今こそ「ダイバーシティ採用」に取り組もう

書いてあること

  • 主な読者:採用の視野を広げたい経営者
  • 課題:ダイバーシティ採用は難しそうで、自社で実施できるか分からない
  • 解決策:ダイバーシティ採用は想像よりずっと有用。ポイントを押さえた上で採用の視野を広げてみよう

1 なぜ、今「ダイバーシティ採用」なのか?

近ごろよく耳にする「ダイバーシティ」。直訳すると「多様性」ですが、会社にとっては、
人種・国籍・性・年齢を問わずに人材を活用すること(小学館 デジタル大辞泉より)
と捉えるほうが分かりやすいでしょう。この考え方を採用に取り入れたものが「ダイバーシティ採用」です。採用の対象になるのは、例えば「女性」「高年齢者」「外国人」「障害者(障がい者)」「LGBTQ+」「難病患者」などです。

「ダイバーシティ採用はいろいろと大変そう」ということで、最初から検討しない経営者も多いのですが、今回、専門家の方にお話を伺ってみたところ、ポイントさえ押さえれば、ダイバーシティ採用は想像しているよりもずっと現実的であることが分かりました。そのポイントは次の通りです。

  • 女性(主に子育てをされている方):子育てとの両立のため、柔軟な働き方を実現
  • 高年齢者:年齢と体調に合わせた勤務形態のすり合わせと現場社員の理解
  • 外国人:日本人と違うのはビザの有無だけ。ビザのサポートと安心感が大切
  • 障がい者:キャリアアッププランの提示と、会社と社員の擦れ違いをなくすための努力
  • LGBTQ+:「不快にさせない配慮」と環境整備
  • 難病患者:治療と仕事の両立のための柔軟な働き方と、採用側の意識改革

少しの気遣いと環境整備をすれば、今まで採用してこなかった人材も現場で活き活きと働けるようになるかもしれません。人材採用難の折、ダイバーシティ採用は検討に値するでしょう。各章で、専門家の見解も交えつつ詳細を紹介していきますので、参考にしてください。

(注)この記事では、法令等の固有名詞の場合を除いて「障がい」と記します。LGBTQ+は、いわゆる性的マイノリティや性的指向が定まっていない人をいいます。

2 女性の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

女性を雇用する場合、会社は図表1の取り組みを実施する必要があります。「休暇・休業」「労働時間」に関する制度は、社員から請求があったら必ず、また「社内設備」については、請求の有無に関係なく、女性の人数などに応じて環境を整備しなければなりません。

(図表1)【女性の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
休暇・休業
(義務)
産前・産後休業 妊娠・出産をする社員は、産前6週間(双子以上は14週間)、産後8週間まで休める
育児休業 出生した子どもを養育する社員は、原則子どもの1歳(最長2歳)到達日まで休める(2回まで分割可)
子の看護休暇 小学校入学前の子どもを看護する社員は、1年度1人当たり5日まで、2人以上は10日まで休める(2025年4月からは、小学校3年生修了までの子どもが対象。また、学校行事に参加する場合などにも休暇を取得可)
生理休暇 生理で就業が困難な社員は、就業可能になるまで休める
労働時間
(義務)
育児時間 就業時間中に授乳などを行う必要がある社員は、休憩時間とは別に、1日30分以上×2回まで授乳などのための時間を確保できる
母性健康管理措置 産後1年間は、医師などから指示・指導があった社員に対し、健康診査等を受けるために必要な時間を確保できるようにする
所定外労働の制限 3歳未満の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、所定外労働を免除する(2025年4月からは、小学校入学前までの子が対象)
時間外労働の制限 小学校入学前の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を免除する
深夜業の制限 小学校入学前の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、深夜労働を免除する
所定労働時間の短縮措置等 3歳未満の子どもを養育する社員、家族を介護する社員は、所定労働時間の短縮(原則1日6時間以内)、時差出勤、フレックスタイム制などの措置を実施する(2024年5月31日より1年6カ月以内の法律で定める日からは、小学校入学前の子が対象)
社内設備
(義務)
女性用トイレの整備 女性を雇用する企業は、女性20人以内ごとに1個以上女性用トイレを設置する(社員数10人以下の場合は、独立個室型トイレに限り男女共用でも可)
休養室・休養所 社員が50人以上または女性が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置する

(出所:労働基準法、育児・介護休業法などを基に作成)

2)「職場復帰のサポートが手厚い会社」「労働時間に融通が利く会社」が目を引く

特に手厚いサポートが必要になるのは、子育て中の期間。以降は、子育てをしている女性に喜ばれる制度を紹介していきます。

一般的に女性が働きにくいとされる建設業界で、女性の定着促進に向けた支援を行っている「女性技能者協会」。代表理事の石川 由希恵(いしかわ ゆきえ)氏に、女性雇用のポイントを聞きました。

育児休業などで長く仕事を休む女性にとって「職場復帰のためのサポートが手厚いこと」は重要です。3歳未満の子どもについては、住民税非課税世帯であるなど一定の要件を満たさない限り幼児教育・保育無償化の対象ではないなどの理由から、子どもを保育園に入れられずに職場復帰を果たせないという女性も少なくありません。自分が子育てをしている間、「他の社員とスキルに差がついてしまうのでは」と不安に思う人も多いです。

また、時間の問題も大きなネックに。子どもの体調不良や保育園のお迎えなど、様々な場面で時間を取られるので、「労働時間に融通が利くこと」は、子育て中の女性にとって非常にありがたいです。(石川氏)

女性の求職者は、「職場復帰のサポートが手厚い会社」や「労働時間に融通が利く会社」に着目しているようです。例えば、次のような制度を整備し、求人票や採用ページなどでアピールすると非常に好印象です。

  • (保育園利用料の補助)国の制度では、基本的に対象外となる0歳から2歳までの子どもにかかる保育園利用料を会社が補助する
  • (資格取得支援)業務に関連する資格取得に必要な費用などを補助する
  • (フレックスタイム制・テレワーク制の導入)始業・終業の時刻や仕事をする場所を柔軟にすることで、子育てと仕事の両立をある程度コントロールできるようになる
  • (中抜け制度や時間単位年休の導入)子どもの送り迎えや看病などのために、勤務中の中抜けを許可、時間単位で年次有給休暇を取得できるようにする
  • (カンガルー出勤制度)子どもを連れての出勤を許可する
  • (段階的な働き方の見直し)子どもの小学校入学・進学などタイミングを見て、定期的に今後の働き方の希望をヒアリングし、仕事の量を調整する

3)その他にこんなポイントも

妊娠中の方は体調の管理が難しく、また、子どもが生まれた後も育休中に保育園を見つけられないなどの理由で、法定内の育休期間のみでは復職が難しいとの声もあります。また、一度離職した女性の中には、「子育てでブランクがあるから、雇ってもらえないのではないか」と不安に思う人もいます。

既存制度に「ちょい足し」するかたちで次のような制度を実施するのも、妊娠中・子育て中の女性を採用する上で、大きなアピールポイントになります。

  • (産前休業の延長)本来は産前6週間前から休業開始だが、8週間前からに前倒しする
  • (育児休業の延長)本来は子どもが1歳(最長2歳)になると休業終了のところ、3歳まで休めるようにする
  • (ジョブリターン制度)一定の条件を満たす場合、以前と同じポジションに復帰させる

最近では、社員の不妊治療についてサポートしている会社もあります。例えば、

  • (不妊治療のための特別休暇)「ファミリーサポート休暇」など、不妊治療だと悟られたくない人向けに、名称を工夫した特別休暇を導入する

といった取り組みは、不妊治療をしている/将来的にするかもしれないと考えている女性に、安心して働ける職場であることをアピールするのに役立つでしょう。

3 高年齢者の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

高年齢者(法令上、55歳以上の人のことをいいます)を雇用する場合、会社は「65歳まで雇用する措置を実施する義務(65歳までの雇用確保)」と、「70歳まで働ける機会を与える努力義務(70歳までの就業機会確保)」を負います。

(図表2)【高年齢者の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
65歳までの雇用確保
(義務)
65歳まで雇用するよう、次のいずれかの措置を講じる
●定年の引き上げ(65歳まで)
●定年の廃止
●継続雇用制度の導入(65歳まで)
70歳までの就業機会確保
(努力義務)
70歳まで働けるよう、次のいずれかの措置を講じる
●定年の引き上げ(70歳まで)
●定年の廃止
●継続雇用制度の導入(70歳まで)
●継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(70歳まで)
●継続的に次の事業に従事できる制度の導入(70歳まで)
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

(出所:高年齢者雇用安定法などを基に作成)

2)活き活きと働いてもらうために、現場の理解と健康サポートが必要

高年齢者や障がい者など、多様な人材をサポートするミライロの取締役 梶尾 武志(かじお たけし)氏に、高年齢者を含め、多様な人材の活躍を実現するためのポイントを聞きました。

できるだけ細かい情報開示が必要です。バリアフリーや勤務体系の柔軟さなど会社内で実現できている制度を明記するのはもちろんですが、逆に実現できていないところもハッキリと示したほうが好印象。具体的な情報を示すことで、求職者は自分が活躍できるかどうかをイメージしやすくなります。

また、採用する人事に多様性の理解があっても、現場に理解がないと人材が定着することは困難。定着化のため、全社的な研修を行う必要性があると考えます。現場の社員含めてマインドの改革が実現すれば、「何が足りないか」がおのずと見えてくるもの。その「気付き」によって環境が改善されることが多様性の実現につながります。(梶尾氏)

高年齢の求職者の中には、健康面に不安を感じている人も少なくありません。定期的に面談を行い、本人やご家族の健康状態などに合わせた多様な勤務形態をかなえることが大切です。

また、新たに高年齢者を雇い入れた際、現場との擦れ違いを防ぐためには、全社的に多様な人材に対する研修制度を導入することも効果的。これは、後述する障がい者雇用にも通じます。

以上のポイントを踏まえて次のような制度があると、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (職場の環境の明記)高年齢者にとって快適な環境が整備されているか否かの明記
  • (短時間正社員制度の導入)1日6時間など、短時間で働く正社員として雇用する。職務内容や責任の範囲など、非正規社員との区別を明確にすると不平不満が生まれにくい
  • (人事考課の実施)嘱託などとして再雇用する場合も人事考課の対象とし、成績が良い場合、賃金などに反映する
  • (年齢不問の明記)年齢で判断せず、活躍できる旨を提示する
  • (健康診断の実施)聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などをチェックする
  • (更新時の面談)更新のタイミングで、本人の体調や今後の働き方の希望を確認する
  • (研修制度の導入)多様な人材や働き方に関する研修を、全社的に行って理解を深める

3)その他にこんなポイントも

高年齢者に、自信を持って活き活きと働いてもらうためには、

  • (体力テストの実施)体力テストで無理なく体を動かせる範囲を確認
  • (アシストスーツの着用)物を持ち上げたり運んだりする作業が多い場合、腰への負担を軽減できるアシストスーツを着用させる
  • (実地訓練の実施)新しい仕事について、自信を持てるようになるまで訓練を繰り返す

などのアイデアを取り入れることも一手です。

雇用した高年齢者が意欲的に元気で働いている姿は、他の社員のモチベーション向上にも効果をもたらすでしょう。

4 外国人の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

外国人を雇用する場合、日本人とは全く違うイメージがあるかもしれませんが、実は「在留資格(日本に滞在し、活動するための資格)」以外のルールは、基本的に日本人と同じです。

(図表3)【外国人の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
外国人特有
(義務)
●就労可能な在留資格の取得を条件に、雇用する必要がある
●原則として、在留資格で許可された範囲を超える活動はできない
●在留資格は一部を除き在留期間が決まっているため、満了前に更新が必要
日本人と同じ
(義務)
●同じ活動を行う日本人と同程度の報酬を支払う
●住民登録が必要
●税金、社会・労働保険料などの納付義務を負う(要件に該当する場合)
●労働関係法令を守る(年次有給休暇、健康診断など。労働時間などは一部扱いが異なる場合がある)

(出所:出入国管理及び難民認定法などを基に作成)

在留資格の区分によって職種の制限や在留期間などが異なります。入社前に「業務に適合した在留資格か」「期限は切れていないか」などを必ず確認しましょう。

■出入国在留管理庁「在留資格一覧表」■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html

2)「活躍」と「安心感」を保証することが大切

外国人雇用のサポートを通じて日本での多文化共生を目指す、外国人雇用協議会 理事の竹内 幸一(たけうち こういち)氏に、外国人雇用のポイントを聞きました。

外国人労働者は、ビザの有無以外は日本人と何も変わらない。ビザが切れてしまうことを不安に思う人も多いので、それをサポートする制度があると大変喜ばれ、皆安心します。また、日本に働きに来る方は向上心に満ちて、自らのキャリアを重要視している方がほとんど。求人票にはより詳細の仕事内容や外国人雇用の実績を記述し、「外国人が活躍できる」と求職者に伝わることが重要です。

母国を遠く離れての就労には不安がつきもの。外国人求職者たちが安心して働くことができるよう、彼らを歓迎していることを求人票に明記する、里帰り休暇などを設けるなどの方法で精神的なサポートがあると、外国人求職者は会社に更に魅力を感じます。(竹内氏)

外国人の求職者は、自身のキャリアを磨ける環境、そして、外国人ならではの不安や悩みなどが少なく、安心して働ける環境を望んでいます。例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (求人票の工夫1)「外国人就労者を歓迎していること」を明記する
  • (求人票の工夫2)活躍している外国人がいる場合、求人票にその人数や役職を明記する
  • (求人票の工夫3)より詳細の業務内容を提示するために、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を導入する
  • (ビザの更新サポート制度)日時や期限をアラートし、ビザ更新をサポートする
  • (里帰り休暇)母国に帰るための、2週間程度の長期休暇制度を導入する
  • (住居確保の支援)会社が寮・社宅を提供する、本人が住宅を借りるサポートをする

3)その他にこんなポイントも

他にも気になるのは、言語や宗教、文化の壁など。同じ職場で働く日本人に、外国人の宗教や文化に関する理解を深めてもらうように研修を行うことも大切です。ですので、

  • (日本語学習の支援)ビジネス日本語能力テストの受験料などを補助する
  • (業務中の宗教行為の部分的許可)礼拝のための中抜けを許可する
  • (食文化の違いへの配慮)社員食堂やそれに準じた制度がある場合、宗教や文化の違いなどの理由で食べられないものを事前にヒアリングしておく

などのサポートがあれば、母国から離れた場所で、より安心して働くための一助となります。

なお、今後、外国人技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」制度が創設され、2027年に運用が開始となる予定です。

5 障害者(障がい者)の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

社員数が一定数以上の会社は、社員数に障害者雇用率(2024年4月からは2.5%)を掛けた障害者を雇用しなければなりません。また、障害者(障がい者)を雇用する場合、「障害者差別の禁止」「合理的配慮の提供」といったルールもあります。

(図表4)【障害者の雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
一定数の障害者の雇用
(義務)
社員数が一定数以上の場合、社員数に障害者雇用率を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない
●(2024年4月~)障害者雇用率は2.5%
●(例)常時40人以上の場合、障害者を1人以上雇用(=40人×2.5%)
障害者差別の禁止
(義務)
募集・採用、賃金、配置、昇進などで、次のような差別をしてはならない
●障害者であることを理由に障害者を排除する
●障害者に対してのみ不利な条件を設ける
●障害のない人を優先する
合理的配慮の提供
(義務)
障害の特性などに応じて、次のような観点から、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければならない
●募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
●障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

(出所:障害者雇用促進法などを基に作成)

2)擦れ違いを解消し、長所を活かす

障がい者の雇用をサポートする、カムラックの代表取締役 賀村 研(かむら けん)氏に、障がい者雇用のポイントを聞きました。

障がい者の中にもさまざまな人がおり、それぞれ求めているものも違うので、求人の際にはサポート制度があることを明記するのが大切です。会社側と障がい者の間に立ち、双方の擦れ違いをなくす役割として福祉的支援の外部委託を導入することなども効果的。また、活躍したいと思っている障がい者にとって、期間の定めなしの雇用やキャリアプランの提示はとても魅力的なものです。

障がい者を雇用することで仕事を整理し、よりシンプルに作業できるようになった結果、業務が効率的になったという話も聞きます。全てを障がい者に合わせるのではなく、個々が活躍できる場でお互いを認め合い、自立できる社会になるのが理想ですね。(賀村氏)

障がい者は、それぞれの障がいの程度や種類に応じて活躍できる場所を見極めれば、新たな気付きをもたらしてくれるポジティブな可能性を秘めた存在です。

例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (福祉的支援の外部委託)何かあった場合に相談できる機関との連携
  • (期間の定めなしの雇用)障がい者の雇用には期間が定められていることが多いので、期間の定めなく雇用することで、活躍したい人が集まる
  • (キャリアアッププランの明示)キャリアへの不安を持っている方も多いので、求人票に明確なキャリアアップの情報を提示する

3)その他にこんなポイントも

次のような取り組みで、働きやすい環境づくりに注力している会社もあります。アイデアを取り入れ、誰もが活き活きと働ける環境を目指しましょう。

  • (バリアフリー整備)オフィスなどの床を段差のないOAフロアにする、車いすで入れる多目的トイレを増築する、車いすでもタッチできる位置にスイッチ類を設置するなど
  • (テレワークの実施)移動が負担になる場合などは、在宅勤務を認める。ただし、意識しないと孤独になってしまいがちなので、1日30分などオンラインで話す機会を設ける
  • (柔軟な勤務体系)通院と業務の両立のため、時短勤務、曜日勤務などを適用する

6 LGBTQ+の採用を検討する際のポイント

1)会社が守るべき法令のルール

LGBTQ+を雇用する場合に限りませんが、会社は、パワハラやセクハラなどの防止措置を実施する義務、LGBTQ+への理解を増進する努力義務などを負っています。

(図表5)【LGBTQの雇用に関する主なルール】

内容 法令のルール
ハラスメント防止措置の実施
(義務)
LGBTQの場合、次のような言動がパワハラやセクハラになる可能性があり、担当者による相談対応など一定の防止措置を講じなければならない
●本人の性的指向などを暴露する(アウティング)
●LGBTQへのカミングアウトを強要する
●性的指向などに関する差別的発言をする
LGBTQへの理解の増進
(努力義務)
職場において、LGBTQへの理解の増進に努める
●情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備など
国や自治体への協力
(努力義務)
国または地方公共団体が実施する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努める

(出所:労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、LGBT理解増進法などを基に作成)

2)「不快感を取り除く」引き算の環境づくり

LGBTQ+の人材を採用するために必要なのは、

当事者が応募してきた際や入社した際に、不快感や苦痛を覚えないための工夫
です。

厚生労働省「多様な人材が活躍できる職場環境に関する会社の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」(2020年3月)によると、性的マイノリティのうち、職場での困り事があるのは全体の約4~5割。「プライベートの話をしづらい」「侮辱的な言動を見聞きしてしまう」など内面的なものから、「トイレや更衣室などの設備利用」「通称名の使用が認められない」など制度的なものまで、その内容はさまざまです。

ハラスメントに関する意識は年々高まっていますが、LGBTQ+に対する理解はまだ十分とはいえません。求人票や採用ページなどでアピールするというよりは、次のような取り組みや工夫があることで、当事者が不快感なく働くことができるようになるでしょう。

  • (ハラスメント防止方針の再周知)性的指向のいかんを問わず、パワハラ、セクハラは懲戒処分の対象になることを周知する
  • (面接官向けガイドラインの策定)面接官に、性的指向に関する対応について教育する
  • (採用時の工夫)応募書類に性別欄を設けない、採用ポリシーにおいて差別を行わないことを明記する
  • (個人情報の取り扱い)戸籍上の性別は個人情報とし、開示しない。また、本名で呼ばれたくない場合、通り名の使用などを許可する
  • (柔軟な勤務体系)ホルモン治療や性別適合手術のため、通院を必要としている方もいるので、個人の事情に合わせて柔軟な勤務ができるようにする
  • (健康診断サポート)日程や医療機関などを自由に選べるようにする
  • (独立型トイレの設置)本人の性的指向や性自認にかかわらず使用できる、完全独立型のトイレを設置する

当事者の中には、自分の考えや性的指向を表に出しづらいと考えている人がいるのも事実。匿名のアンケートで意見を募るなどして、慎重に対応することが大切です。

3)その他にこんなポイントも

「性別に応じた服装規定で苦痛を覚える」「同性パートナーに福利厚生が適応されない」という困り事もあります。社員間での不公平感を解消するために、次のような制度を導入することも効果的です。

  • (制服)男女で違う制服を規定している場合、パンツスタイルに統一する
  • (福利厚生)婚姻同等の関係にある同性カップルや異性間・同性間を問わず事実婚をした社員に対しても、家賃補助や結婚休暇などの福利厚生を適用する

7 難病患者の採用を検討する際のポイント

難病患者と一口に言ってみても、一般雇用のフルタイムで働く方々から、障がい者雇用の枠で働く方までさまざまです。しかし、難病患者の中には体調の状態によっては健常者と同じ条件での労働が難しい方も存在し、そうした中には、要件に当てはまらないため障害者手帳が交付されないという人も少なくありません。障害者手帳がないと、一般枠での採用に応募せざるを得ず、その結果、就職活動がうまくいかずに、失意に沈む人が多いのも事実です。

難病患者の雇用をサポートする「就労支援ネットワークONE」の中金 竜次(なかがね りゅうじ)氏に、難病患者を雇用する際のポイントを聞きました。

難病を抱えている方にとって、治療と仕事の両立が喫緊の課題。通常の有給休暇にプラスして特別休暇が利用できる仕組みがあると、皆さんとても喜ばれます。また、体調によってフレックスタイムやテレワーク、長期の入院や治療が必要になった際の復職支援の制度などがあると、大きな安心につながります。

まずは難病について知ってもらうことで、「難病患者の雇用は難しい」という勘違いをなくしたい。実際に難病患者を雇用してイメージがガラリと変わり、続けて何人も採用した会社の例もあります。

助成金や雇用に関する勉強会、難病患者の雇用について相談できる窓口が各都道府県にあることなどを会社に知ってもらい、会社にとっても、難病患者にとっても、Win-Winの関係を築いていけるようになればと考えています。(中金氏)

難病患者にとっては治療と仕事の両立が可能であることが一番のポイントです。例えば、次のようなポイントは、求人票や採用ページなどでアピールする材料になります。

  • (柔軟な働き方)フレックスタイム・テレワーク制度を導入する
  • (特別休暇・病気休暇)通院の際に使用できる特別休暇などを導入する
  • (復職支援)長期入院や治療で仕事を休んだ際、復職のサポートをする制度を導入する

また、難病患者は定期通院や、時には急な体調の変化に合わせて治療を受けることにより、体調を保っている方が多いのが実情。入社してから必要なサポートを把握するために、採用面接の際(本人から申し出があった際)にどんなサポート(配慮)が必要かヒアリングするとよいでしょう。

採用時でなくとも、当事者の病状の変化や発症によってサポートが必要になった際、無理をすることないよう会社側に相談できる時間や場所があると当事者は更に安心するほか、同じ職場で働く人に、難病に関する理解を深めてもらうように研修を行うことも大切です。

以上(2024年7月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:Bro Vector-Adobe Stock

採用から育成まで一気通貫 県内就職希望先でトップに輝く中小企業の採用戦略 ワークスマイルラボ(岡山市・働き方改革・DX支援など)

岡山市のワークスマイルラボは2010年代後半から共感度を重視する採用で学生から人気を集めている。人手不足による売り手市場の中で、従業員数が30人台の中小企業が地元紙の就職希望先ランキングでトップに輝いた。

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モスフードサービス元会長 櫻田厚氏 創業の心を次世代に伝える 相手の本心を見抜く質問 後継者選びでは「夢」を聞く(日経トップリーダー, 2024/06号)

モスフードサービスを退社して、1年近くたちました。現在、モスの社長を務める中村栄輔に後を託したのは2016年のこと。私は後継者の選定に5年の歳月を費やしました。今回は私が後継者選びで大事にしていた「軸」について、お話ししたいと思います。

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失った信頼をどう回復するか(日経トップリーダー, 2024/06号)

自分のミスで誰かに迷惑をかけた場合は、まずはすぐに非を認めて謝罪することが重要です。これは一見、当たり前のことのように思えるかもしれませんが、「心からの謝罪」ができているケースはそう多くはありません。

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増え続ける高齢者労働力の生かし方 シニア雇用で成長力を押し上げ(日経トップリーダー, 2024/06号)

島根県大田市は、県庁所在地の松江市から車で約1時間。世界遺産の石見銀山を抱え、歴史好きの観光客も少なくない。だが、人口は約3.2万人(2024年5月1日)。ここ10年で約5000人減少した典型的な「老いていく日本の地方都市」だ。

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【中小企業の予算(1)】 なぜ、「予算」が必要なのか? 銀行のご機嫌取りだけではない理由

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者
  • 課題:現状の経理と予算管理の位置付けの違いが分からない
  • 解決策:経理は過去の情報収集であり、「やらされている会計」。一方、予算管理を含む管理会計は将来のためであり、「自分からやる会計」である。

1 予算とは何か?

「予算」とは何か? 一言で言うならば、

1年かけて達成したい数字の「目標」

です。上場企業は、中期経営計画や業績見込みを対外的に公表しなければならないので、予算管理が経理業務に組み込まれています。一方、取引先の銀行などを除けば、中小企業が中期経営計画などを外部に公表することはなく、予算管理の取り組み度合いも経営者次第です。

ですが、このシリーズでは中小企業もきちんと予算を作ることをご提案します。その理由は2つです。

  • 成り行きまかせで経営を行うとリスクコントロールがしづらいから
  • 従業員の目線を合わせるため

経営の先行きは常に不透明です。足元では物価高が多くの会社の経営に影響を与えています。こうした際、少しでも将来を見据え、少なくとも1年後にどのようになっていたいかという数値を明確に整理し、その達成に向けて行動をしていくことはとても重要です。

また、そうした行動を起こす際の共通言語として「予算」を示すことで、予算達成に向けた組織のモチベーションが高まります。経営者や一部の経営幹部だけではなく、従業員も巻き込んだ取り組みが期待できます。

2 過去ではなく、将来のためにある会計

予算管理は「管理会計」の1つなので、まず管理会計がどういうものかを説明します。管理会計とは、

将来を予測し、将来を変える会計

のことです。イメージしやすいように日常生活に置き換えて考えると、

管理会計は天気予報にとてもよく似ている

のです。

皆さんは、なぜ、天気予報を確認しますか? 雨だったら傘を持ち、寒いなら厚手のコートを着るためでしょう。つまり、これからの天気を知った上で、自身が快適に過ごせるように対応するのです。

まさに管理会計も同じです。

会社の売上や利益がどうなるか(晴れか雨か)を把握し、問題がありそう(降水確率が高い、気温が高い低い)なら何らかの手を打つためのものです。

3 予算管理は将来のために「自分からやる会計」

「管理会計と経理は何が違うのか?」という疑問を持たれた方もいるでしょう。一言で答えるなら、

経理(財務会計または税務会計と呼ばれます)は「やらされている会計」、管理会計は「自分からやる会計」

です。

「やらされている会計」というのは、法律などに基づいて行うことが強いられているという意味です。その代表格は税務計算のための税務会計であり、ルール通りに厳格に処理しなければなりません。

一方、「自分からやる会計」である管理会計はやるもやらないも会社の自由で、特にルールもありません。

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管理会計の目的は、会社のより良い将来を実現するために、経営者の意思決定に役立つ情報を提供することです。経営に役立つ情報というものは、会社の状況によって異なり、10社あれば10通りあるものです。

4 役立つ予算とはどういうものか

予算はこうなりたいという「目標」なので、

一度決めたら簡単に変えないことが原則

です。予算をコロコロ変えるとどれが最新のものなのか、どのレベルを目指したらよいのかが分からなくなり、予算が目標として機能しない事態に陥ってしまいます。

ただ、会社が置かれている環境に大きな変化があった場合は予算を変えざるを得ません。例えば、極端な円安の進行といった外部環境の変化や、会社の経営方針の大転換といった内部環境の変化が起きた場合には、当初の予算に固執する意味はありません。

次に、役立つ予算に必要なことは、

どう頑張っても達成できないものを予算としない

ことです。とはいえ、その逆に簡単に達成できる予算というのも、目標としては意味が薄くなってしまいます。ということは、予算には、

  • 達成にある程度の頑張りが必要
  • 現実的に達成可能

という2つの条件をバランスよく満たすようにする必要があるのです。

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以上(2024年7月作成)

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画像:thanksforbuying-Adobe Stock

リスクマネジメントの進め方とビジネスに関するリスク一覧

「新規事業にどれだけ資金投入するか?」「社員を採用すべきか、業務委託にすべきか?」「運転資金をどう工面するか?」など経営はこうした判断の連続で、その結果には常に「リスク(不確実性)」が伴います。リスクに備えるうえで重要となるのが「リスクマネジメント」です。

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理し、損失などの回避や低減を図るプロセスです。

コロナ禍、不安定な国際情勢、物価高、円安、人材不足などが同時に押し寄せる不確実な時代にあって、リスクマネジメントはますます重要になりました。この記事では、一般的なリスクマネジメントの流れやビジネスに関するリスク一覧を紹介していきます。

1 リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違い

まずは、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いを確認しましょう。下の図で分かりやすく示してみました。

リスクマネジメントの流れ

「事業を脅かす危機の発生」を挟んでリスクマネジメントとクライシスマネジメントがあることから分かるように、両者には次のような違いがあります。

  • リスクマネジメントは「事前の策」で、リスクを組織的に管理し、損失などの回避や低減を図るプロセスです。
  • クライシスマネジメントは「事後の策」で、会社が危機的な状況に直面したときの対応です。

では、この記事のテーマであるリスクマネジメントに注目し、その進め方を説明していきます。基本的な進め方は、「リスクの特定」から「モニタリングと改善」にいたる、5つのステップに分けられます。

  • リスクの特定:リスクを洗い出す
  • リスクの分析:リスクの大きさを分析する
  • リスクの評価:対応の優先順位をつける
  • リスクの対応:具体的な対策を講じる
  • モニタリングと改善:効果を検証し、改善する

2 「リスクの特定」とは

リスクの特定とは、自社に悪影響を及ぼす恐れがあるリスクを網羅的に洗い出すことです。

経営者はさまざまなリスクを想定しているはずですが、加えて他の取締役や現場の担当者も交えたディスカッションによって、抜け漏れなくリスクを洗い出しましょう。リスクは純粋リスクと投機的リスクに大別されるので、これを意識すると整理しやすくなります。

  • 純粋リスクとは、企業に損だけをもたらすリスクで、地震や火災、感染症などがあります。
  • 投機的リスクとは、企業に益や損をもたらすリスクで、新規取引や設備投資、為替変動などがあります。

ビジネスに関わる一般的なリスクは次の通りです。純粋リスクと投機的リスクの違いも意識しながら確認してみてください。

(図表2)【ビジネスに関わる一般的なリスク】

戦略リスク
競争状態の変化 予期せぬ競合の出現と顧客喪失など
技術の進化 新技術の出現や研究開発の失敗など
トレンドの変化 消費者ニーズの変化や価格決定の失敗など
人材 採用難、離職、社員の高齢化など
サプライチェーン 自然災害によるサプライチェーンの寸断など
規制強化 法令や新たな規制によるビジネスの停滞など
風評被害 スキャンダルによる企業イメージの失墜など
M&A 敵対的買収、M&A後のPMIの失敗など
持続可能性 環境や社会的責任への不適切な対応など
反社会的勢力 ずさんな信用調査による反社会勢力との取引など
財務リスク
金利 金利変動による貸付コストや投資収益の変化など
為替 為替変動が収益に与える影響など
調達価格 原材料、原油価格の高騰など
流動性 金融商品の売買不能など
資金繰り 資金調達難、運転資金の不足、黒字倒産など
与信 取引相手の倒産による貸し倒れなど
株価の変動 株価の変動による投資損失など
不動産価値の変動 不動産価格の変動による影響など
投資活動 投資活動の失敗による損失など
ハザードリスク
自然災害 地震、洪水、台風、異常気象による被害など
火災 火事による損失など
サイバーセキュリティ サイバー攻撃やデータ漏洩など
地政学 不安定な国際情勢による戦争やテロなど
事故、故障 交通事故や設備交渉など
感染症 新型ウイルスのパンデミックなど
オペレーショナルリスク
製造物責任 製品の瑕疵(かし)、リコールなど
ヒューマンエラー 誤操作や不適切な判断など
業務プロセスの問題 納期遅延、納品ミスなど
情報漏洩 機密情報などの漏洩
コンプライアンス 独禁法や下請法などの違反など
知的財産の侵害 特許や著作権などの不正利用
労務管理 過重労働、ハラスメントなど
労働組合関連 団体交渉やストライキの長期化など
不正会計など 粉飾決算、横領など
環境問題 工場排水の不適切な処理など

(出所:日本情報マート作成)

3 「リスクの分析」とは

リスクの分析とは、洗い出したリスクの大きさを分析することです。

リスクの大きさを定量的に把握するために、

発生確率、被害規模、対策状況といった指標で点数化

をしてみましょう。

(図表3)【定量化する際の判断基準のイメージ】

発生確率 被害規模 対策状況
5点 6カ月以内の発生確率が高い 全社的に甚大な被害がある 対策が検討されていない
3点 1年以内の発生確率が高い 局所的に大きな被害がある 対策は検討している
1点 発生の可能性がある 被害は限定的である 6カ月以内にメドがつく
0点 ほぼ発生しない ほぼ被害はない ほぼ対策は完了している

(出所:日本情報マート作成)

4 「リスクの評価」とは

リスクの評価とは、特定したリスクについて、対応の優先順位をつけることです。

リスクを評価する際は、前述した発生確率、被害規模、対策状況といった指標で点数化した結果を見ます。この他、製品ライフサイクルの考え方を取り入れることもできます。

製品ライフサイクルとは、プロダクト・ライフサイクルとも呼ばれ、製品の状況を、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つのフェーズで示すものです。

製品ライフサイクルを法人の存在そのものに当てはめて、リスクを評価することもできます。例えば、導入期はまだ市場が小さい状況なので競合はほとんど存在しませんが、そもそも製品自体が不発に終わるリスクがあります。フェーズが進んで成長期に入ると、製品がコモディティー化し、値下げを余儀なくされるリスクがあります。

製品ライフサイクル

5 「リスクの対応」とは

リスクの対応とは、対応すべきリスクに対して、具体的な対策を講じることです。

基本的な考え方は、リスクコントロールとリスクファイナンシングに大別されます。

  • リスクコントロールとは、損失の発生頻度と大きさを削減する手法です。
  • リスクファイナンシングとは、損失を補填するために金銭的な手当てをする手法です。

リスクコントロールとリスクファイナンシングの具体的な手法は次の通りです。

(図表5)【リスク対策の方法】

区分 手段 内容
リスクコントロール 回避 リスクを伴う活動自体を中止し、予想されるリスクを遮断する対策。リターンの放棄を伴う。
損失防止 損失発生を未然に防止するための対策、予防措置を講じて発生頻度を減じる。
損失削減 事故が発生した際の損失の拡大を防止・軽減し、損失規模を抑えるための対策。
分離・分散 リスクの源泉を一箇所に集中させず、分離・分散させる対策。
リスクファイナンシング 移転 保険、契約等により損失発生時に第三者から損失補てんを受ける方法。
保有 リスク潜在を意識しながら対策を講じず、損失発生時に自己負担する方法。

(出所:中小企業庁「2016年版中小企業白書」

(注)この図表は、リスク管理・内部統制に関する研究会「リスク新時代の内部統制」から中小企業庁が作成したものです。

6 「モニタリングと改善」とは

モニタリングと改善とは、リスクマネジメントの効果を検証し、必要に応じて改善することです。

リスクマネジメントは継続的に取り組まなければなりません。半期や年度ごとに、特定したリスクの発生状況や、実際に顕在化したリスクの対応が適切だったかを確認します。その際、他の取締役や現場の担当者も交えて話し合いをするのが好ましいです。

7 他社は何をリスクと捉えているのか

ここまでリスクマネジメントの流れを確認してきましたが、他社が何をリスクと捉えているかも気になるところです。ここでは、デロイトトーマツグループ「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2022年版」を紹介します。

(図表6)【優先して着手が必要と思われるリスク】

●日本国内
1位 人材流失、人材獲得の困難による人材不足 39.3% (2)
2位 原材料ならびに原油価格の高騰 29.8% (5)
3位 異常気象(洪水・暴風など)、大規模な自然災害(地震・津波・火山爆発・地磁気嵐) 19.7% (1)
4位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による大規模システムダウン 17.8% (6)
5位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えい 17.0% (3)
6位 事業に影響するテクノロジーの変革 12.8% (12)
7位 サプライチェーン寸断 12.5% (11)
8位 製品/サービスの品質チェック体制の不備 11.0% (7)
9位 長時間労働、過労死、メンタルヘルス、ハラスメント等労務問題の発生 10.7% (10)
10位 市場における価格競争 10.4% (7)
10位 中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢 10.4% (27)
●海外拠点
1位 中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢 30.9% (4)
2位 グループガバナンスの不全 24.7% (2)
3位 人材流失、人材獲得の困難による人材不足 21.1% (5)
4位 原材料ならびに原油価格の高騰 18.8% (8)
5位 サプライチェーン寸断 18.4% (5)
6位 疫病の蔓延(パンデミック)等の発生 16.1% (1)
7位 東南・東アジアにおけるテロ、政治情報 13.9% (11)
8位 サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えい 13.0% (3)
9位 為替変動 11.1% (15)
10位 従業員の不正・贈収賄等 9.8% (14)
10位 市場における価格競争 9.8% (13)

(出所:デロイトトーマツグループ「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2022年版」

(注1)有効回答数は376社です。
(注2)( )内は、2021年調査時の順位です。

こうした調査の他にも、有価証券報告書やホームページから他社が重視しているリスクを確認できます。同じ業界であれば自社にも関係しますし、取引先(大企業)のリスクを把握し、自社のリスクマネジメントに反映させることもできます。

8 独自のフレームワークに落とし込む

通常、リスクを分類整理するときは発生確率と被害規模の軸を用います。これを基本としつつ、想定時期と対策状況などの軸を加えたポジションマップを作ることで、別の視点からもリスクを評価できます。何を軸にするかは、会社の状況と経営者の感覚によります。

フレームワーク

以上(2024年1月更新)

画像:Photon photo-Shutterstock

世代間のコミュニケーションギャップで困っているあなたへ/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(1)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 コミュニケーションに関わる知識やノウハウを、実践するのは難しい

今回から新シリーズが始まります。その前に、前回シリーズの『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を読んでくださった皆さん、ありがとうございました。その後、現場で実践してみていただけましたか? うまく一歩を踏み出せたでしょうか?

今シリーズは、「コミュニケーションに関わる知識やノウハウを、実践するのは難しい」という前提でお送りする前回シリーズの【実践編】です。

前回シリーズをまだ読んでいないという方、読んだけれど忘れてしまったかもという方のために、簡単におさらいしておきましょう。「私はしっかり読んで覚えている」という方はこの章を飛ばして先に進んでください。

組織は人でできていて、多くの仕事がチームで行われるため、仕事をスピーディかつ高い成果へと結実させるには、人と人とのコミュニケーションが欠かせません。とりわけ管理職・リーダーの立場にある人たちには、チームとしての課や部、経営者であれば会社全体をリードしマネジメントしたりする立場として高いコミュニケーション能力が求められます。

しかしながら、ここ10年で若手社員が職場や上司に求めるものがすっかり変化しているにもかかわらず、そのことに気付いていないリーダーが多いのです。

新入社員が理想とする職場像の上司像のキーワードとして、ここ10年で「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」などの優先順位が上昇しています。逆に低下したのは「活気がある」「互いに鍛え合う」「みんなで1つの目標を共有する」などでした。

若手社員のそうしたスタンスに対して、上司としては「君たちは仕事や組織というものが全く分かっていない、教えてやろう」と言いたくなる方もいるかもしれません。が、グローバルな視点で見てみれば、彼らのスタンスの方が正しいことが分かります。

世界のビジネストレンドのキーワードは、[競争]から[共創]へ、[経験・改善]から[新価値創造(イノベーション)]へと変わり、それらを選択し、決断した企業が高い成長力を手にしています。

[共創]や[新価値創造(イノベーション)]を進めていくためのマネジメントにおいても、[管理]から[自律]へ、[指導]から[支援]へと時代は変わっているのです。これらは先ほど挙げた新入社員が理想とする職場像の上司像である「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」の方向性に合致しています。

すなわち、管理職・リーダーの側が昭和世代のマネジメントやコミュニケーションスタイルを持ち出しても何の解決にもならないばかりか、成長が期待できず戦えない、そして若手の人材確保すらできなくなってしまうのです。

会社は人でできています。将来に向けて人がいなくなれば、会社は存在できません。となれば、昭和世代の上司やリーダーの側が若手や世界のトレンドに合わせ、むしろ推進していくしかありません。

そこで前回シリーズでは『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』として「①傾聴」「②褒める」「③前向き発想」の3つをご提案し、詳しい解説とその使い方をご紹介しました。

さて問題は実践です。私はコラムの執筆以外にもコンサルティングを初め、企業向け研修の講師や講演・セミナーなどを行っているのですが、そこで受講者の声として感じるのは実践し定着させることの難しさです。

2 お金と時間をかけていくら学んでも、実践しない限り1円にもならない

世の中には参加無料をうたう研修・講演・セミナーがいろいろあります。

経済の原則からすれば至極当然ですが、こうした研修などの裏には、費用を負担している主催者側の少なからぬ期待が隠れています。それは必ずしも受講者の学びや成長を意図するものではありません。募集で得た受講者リストを事後の商売につなげる意図があるからこそ、費用を全て負担=投資してくれているのです。

片や有料の場合はどうでしょう。

受講者本人が費用を負担するケースと会社が「行って来い」と送り出して負担するケースがありますが、いずれにしても“投資”です。会社負担の場合、単価と人数を考えれば年間では少なくない金額となるでしょう。加えて本人が参加している時間自体も投資です。だからこそ、私は講師として受講者の皆さんにこう言います。

「お金と時間をかけていくら学んでも、あなたが実践しない限り1円にもなりませんよ」

自腹を切ることなく、会社負担で参加されている社員の皆さんにも分かってほしいのです。社員研修や講演・セミナーへの参加は、新たな機械やシステムの導入、新事業開拓、新技術への投資などと同じく“投資”であり、投資額に見合ったリターンが必要なのです。同じ額を他のことに投資したらどうだっただろうという検証も含めて。

管理職・リーダーの方にとっては釈迦(しゃか)に説法かもしれませんね。その上で「分かってはいるけれど、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』をなかなか実践できない」と悩んでおられるのかもしれません。

そんなわけで、今シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣【実践編】』をスタートすることとしました。

『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践がうまくいかないという方のために、

毎回社内の“あるある”場面を想定したケースを用意し、回をまたいで読者の皆さんにも考えていただきながら、実践イメージを膨らませていただきます。

また、若手社員の読者の皆さんに向けては、リーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による“上司世代との上手な付き合い方のヒント”も紹介していこうと思います。

ご期待ください。

3 笑顔のない新人Aさんを飲みに誘ったところあいまいな返事。どうしますか?

ではさっそく、第1回の“あるある”場面を想定したケースについて考えていきましょう。

—————————

[事例1]

〇4月に新人Aさんが加わりました(皆さんの部署に新卒配属がなければ、若手の異動をイメージしてください)。歓迎会など酒席パーティが開かれ、部署単位での2次会も用意してひと通りの交流を無事に終えました。幸いにも部署の業績は右肩上がりで、その後はずっと部署全員が日々の業務に追われる毎日でした。

〇ところが最近Aさんの表情が心配です。「おはよう」と声をかけても元気がなく、業務中も飲み会の時に見たような笑顔がありません。

〇そこで上司であるあなたは、Aさんと話す時間をつくってみようと考えて声を掛けました。「Aさん、最近仕事はどう? よかったら今日仕事が終わったら一杯飲みに行かないか」。するとAさんは「ええ……まあ……」とはっきりしません。

—————————

Q. Aさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また最初の声かけを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

ヒントの1つは、「まずAさんの現在の心の状態を想像すること」です。「ええ……まあ……」の言葉の裏にはどんな心理状態があるのでしょうか。

4 あなたが新人Aさんだとして、上司にどのように告げればうまくいくでしょうか?

Aさんのような若手社員の皆さん。あなたの上司がこのコラムを読んで一生懸命に若手社員の気持ちやコミュニケーションを考えて努力してくれる人であればいいのですが……。

必ずしもそうでなかった場合、あなたならどのような一言を告げますか。上司の反感を買うことなく、自分の素直な気持ちを伝えられるでしょうか。

上司の側の視点だけでなく、上司からの的確な一言が期待できなかった場合 の部下側の上手なコミュニケ―ションの方法についても触れていきたいと思います。ぜひ第2回までに考えてみてください。

上司の方にとっても若手社員の視点を想像することは、毎回の事例を考える上でもヒントになります。彼らがどんな気持ちでそのように返してくるのかを想像できれば、自身の日常のコミュニケ―ションを『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』に変えるヒントになることでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、[事例1]に対して最初に上司がAさんにかけるべき一言、また若手社員Aさんが上司の反感を買うことなく、自分の素直な気持ちを伝えられる一言の例をご紹介していきたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年7月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)

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