組織をむしばむ「静かな退職」。 早期に対応する方法とは?

1 中小企業こそ要注意! 組織をむしばむ「静かな退職」

「静かな退職」とは、

すぐに仕事を辞めるつもりはないけれど、仕事への情熱や会社への貢献意欲が薄れてしまい、与えられた最低限の業務だけを淡々とこなすような働き方

のことをいいます。「静かな退職」は、中小企業にとって注意が必要な課題の一つとなってきています。それは少人数の職場では、一人ひとりの役割が大きいからです。

もし、誰かが「静かな退職」状態になってしまうと、これまでの業務の改善提案や、部下や後輩の指導、顧客との良好な関係づくりなどが次第に行われなくなります。その分、意欲的に働いている社員の負担が重くなり、職場全体の活気や効率が下がり、チームワークやコミュニケーションもうまくいかなくなります。場合によっては、やる気のある社員のほうが先に退職してしまうことも考えられます。

一方で、遅刻や欠勤があるわけでもなく、任された仕事はそれなりにこなしているため、会社側はなかなか気付きにくい、気付いたとしても指摘しにくいというのが、「静かな退職」のやっかいなところです。

この記事では、「静かな退職」の兆候を見逃さず、早めに対応していくための方法について、特に、厚生労働省が取り組んでいる「セルフ・キャリアドック」という制度に注目してご紹介していきます。

2 「静かな退職」の兆候は、合理的な塩対応?

「静かな退職」状態の社員には、次のような言動が見られる傾向があります。

  • 定時出社、定時退社を徹底する(残業を拒む)
  • 昇進や責任あるポジションに関心を示さない
  • 業務時間外の社内イベントへの参加を避ける
  • 仕事関連のメッセージに最低限しか返信しない
  • 会議での積極的な発言やアイデア出しをしない
  • 指示された以上の業務は行わない
  • 新しいスキルや知識の習得を避ける

「静かな退職」は、社員が自らの意思で過度な労働や貢献を避けるという選択をした結果であり、「ただ何となくやる気がない」といった受け身の姿勢とは異なります。社員なりにそうする理屈があり、ある種、合理性をもって塩対応をしているわけです。

なぜこうした行動や態度を取るのかというと、実は様々な要因が複雑に絡み合っています。例えば、次のようなものがそうです。

  • かつての日本的雇用慣行であった終身雇用制度が事実上崩壊し、社員は将来的なキャリアパスを描きにくくなっている
  • ワーク・ライフ・バランスへの関心の高まりなどの影響もあって、仕事を生活の手段と捉え、プライベートを重視する社員が増えている
  • 少子高齢化と人手不足の深刻化で、新卒社員の初任給を大幅に引き上げる一方、既存社員の待遇改善まで手が回らない会社があり、「頑張っても報われない」というやるせなさを感じている社員も少なくない
  • 会社によっては、心配事や意見を安心して話せない雰囲気があったり、上司と部下の信頼関係が薄く、コミュニケーションが一方的になっていたりする

3 「セルフ・キャリアドック」で仕事への愛を取り戻せ!! 

1)「セルフ・キャリアドック」とは

「セルフ・キャリアドック」とは、

年齢や昇進などのキャリアの節目に、キャリアコンサルティング面談やキャリア研修などを行い、社員のリスキリングの支援を含めた、主体的なキャリア形成を支援する取り組み

のことをいいます。あまり聞き慣れない用語かもしれませんが、

厚生労働省の「キャリア形成・リスキリング推進事業」で、企業・団体向けに無料で導入支援が受けられる

ことをうたっています(同事業はパソナが受託・運営)。これは、セルフ・キャリアドックを実施したい会社に対して、専門家(国家資格のキャリアコンサルタント)が伴走しながら支援するもので、キャリアコンサルタントが社員と会社の間に入り、社員個人が「なりたい姿」と、会社側が社員に求める「こうなってほしい姿」の、両方を考慮したアプローチを取るのが特徴です。

■キャリア形成・リスキリング推進事業■
https://carigaku.mhlw.go.jp/
■全国各地のキャリア形成・リスキリング支援センター及び相談コーナー■
https://carigaku.mhlw.go.jp/otw/

2)「セルフ・キャリアドック」の実施で期待される効果

「セルフ・キャリアドック」では、キャリアコンサルタントとの対話を通じて、社員が自分の仕事の価値や会社での存在価値を再認識することで、自らのキャリアを深く考え、やる気を取り戻す可能性があります。また、会社からキャリアサポートを受けることは、仕事に対する満足感や充実感を高め、組織への愛着を深めることにつながります。

例えば、ある宿泊業の会社は、社員が10年、20年後の自身のキャリアプランを考える機会として、セルフ・キャリアドックを導入。キャリアコンサルタントを呼び、「ジョブ・カード(注)」を用いて社員の強み・弱みを明らかにした後、責任者との面談でこれまでのキャリアを振り返り、今後の将来設計について話し合っているそうです。

(注)ジョブ・カードとは、職務経歴・学習歴・資格・仕事への意識や希望などを一元的にまとめられる、個人のキャリアポートフォリオのことです。

セルフ・キャリアドックと、特定のスキルを学べる社外研修なども実施したことで、「同じ仕事の反復にならないように、社外からのインプットを活かして成長をしたい」という社員の期待に応えることができるようになり、社員の主体性が育まれ、日々の業務のモチベーション向上につながっているそうです。

厚生労働省の「キャリア形成・リスキリング推進事業」で紹介されている導入事例を分析してみると、セルフ・キャリアドックにより、次のような効果が期待されるとしています。

  • キャリア面談や研修、肯定的な自己理解支援により、社員のキャリア自律を促す効果
  • 1on1やチームミーティングによる相談しやすい風土をつくり、コミュニケーションが活発になる効果
  • 社員が仕事のやりがいを再発見し、主体性・モチベーションを向上させる効果
  • 会社の人材育成方針と融合した制度にしていくことで、組織としての課題を「見える化」し、社員の処遇改善などにつなげる効果
■キャリア形成・リスキリング推進事業 活用事例■
https://carigaku.mhlw.go.jp/koujirei/

4 参考

■働きがいのある会社研究所(Great Place To Work® Institute Japan)「静かな退職に関する調査2025年」■
https://hatarakigai.info/news/2025/0304_3848.html
■マイナビキャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」■
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/
■パーソル総合研究所「定点調査から見える『静かな退職』の動向~背景に潜む3つの就業変化~」■
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202506120001.html
■エン・ジャパン「『静かな退職』実態調査(2025)」■
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2025/42001.html
■リクルートワークス研究所「『辞めない理由』の研究からわかったこと」■
https://www.works-i.com/research/project/whytheystay/found/index.html

以上(2025年8月作成)

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精神障害の労災1,000件超え

仕事によるストレスが原因で精神障害を負い、国から「労災」と認められた件数が、令和6年度に1,055件に上りました。年々増える傾向にありますが、初めて1,000件を超え、過去最多となりました。本稿では、厚生労働省が今年5月に公表した「令和6年度 過労死等の労災補償状況」から、精神障害の労災認定に絞って主なデータを紹介します。

1 10年前の2倍以上に

精神障害の労災認定1,055件は、前年度と比べ172件増えました。10年前の平成26年度(497件)と比べると、2倍以上となっています。1,055件のうち自殺や自殺未遂に至ったのは88件でした。

精神障害の労災認定件数

精神障害の労災認定件数

※厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」より

1,055件を業種別に見ると、多い順に「社会保険・社会福祉・介護事業」152件、「医療業」118件、「道路貨物運送業」69件、「総合工事業」46件、「飲食店」44件となっています。このほか、「その他の事業サービス業」「その他の小売業」「食料品製造業」「宿泊業」などが上位15業種に入りました。

職種別では、1,055件のうち最多が「一般事務従事者」の97件、続いて「保健師、助産師、看護師」70件、「自動車運転従事者」と「介護サービス職業従事者」がそれぞれ62件、「営業職業従事者」51件、「社会福祉専門職業従事者」47件となっています。このほか、「法人・団体管理職員」「接客・給仕職業従事者」「商品販売従事者」などが上位15職種に入っています。

2 原因はパワハラが1位

1,055件を原因別に見ると、最も多かったのは、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の224件。続いて、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が119件でした。「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)が108件で3番目に多く、「セクシュアルハラスメントを受けた」が105件で4番目となっています。

長時間労働も主要な原因となっています。「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が51件、「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」も36件ありました。仕事に伴うメンタル疾患を防ぐには、まず、ハラスメントや長時間労働を防ぐことが重要なのです。

ただ、それだけでは不十分です。日頃から、会社全体で従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要があります。ストレスチェックや面接などで、従業員一人一人の精神の状態を把握し、不調がある場合には、医療機関の受診を勧めるほか、業務量を減らしたり、休暇を与えたりといった配慮も欠かせません。

しかし、中小企業では、人的な余裕がないことなどを理由に、取り組みが低調になりがちです。厚労省の「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業の割合は、労働者数50人以上の事業場では91.1%に上りますが、30~49人の事業場では73.1%、10~29人の事業場では55.7%となっています。

3 さいごに

仕事が原因の精神疾患については、労災の請求件数自体も増える傾向にあり、令和6年度には、過去最高の3,780件の請求がありました。企業が、精神疾患について労災を国に請求するような事態は、かなり深刻なケースです。そうなる前に、日頃から従業員の心の状態に配慮し、メンタルヘルスケアに力を入れることが重要です。

すぐに参考になるのは、厚労省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」です。このサイトには、「中小企業の事業主の方へ~メンタルヘルスケアに役立つコンテンツ~」と題した特設ページがあります。このほか、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」など、すぐに利用できるコンテンツもありますので一度確認してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2025年7月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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精神障害の労災1,000件超え

仕事によるストレスが原因で精神障害を負い、国から「労災」と認められた件数が、令和6年度に1,055件に上りました。年々増える傾向にありますが、初めて1,000件を超え、過去最多となりました。本稿では、厚生労働省が今年5月に公表した「令和6年度 過労死等の労災補償状況」から、精神障害の労災認定に絞って主なデータを紹介します。

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経営者200人に聞いた「癒やしのペット」! 1位は犬、猫どっち?

1 経営者たちの癒やしの源泉を辿ってみよう

日々、忙しく走り回る中小企業の経営者たち。この記事は、そんな経営者たちを自宅で癒やしてくれる「ペット」と、仕事中の癒やしである「ランチ」についてのコンテンツです。

今回、中小企業の経営者218人にアンケートを実施し、

  • あなたが好きな環境・好きな時間を使ってペットを飼えるなら、犬、猫、それ以外のどれを選びますか?
  • 平日のランチは、お米(定食や丼ものなど)、麺(ラーメン、そば、うどんなど)、パン(サンドウィッチやトーストなど)のどれを食べることが多いですか?

の、2つの質問をしてみました。次章からそれぞれのアンケート結果と、個性豊かな「理由」のも紹介していきます!

アンケートは2025年6月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 もしもペットを飼えるとしたら……

まずは、

あなたが好きな環境・好きな時間を使ってペットを飼えるなら、犬、猫、それ以外のどれを選びますか?

という質問です。経営者たちの気になる回答はこちら!

ペットを飼うなら犬派?猫派?

アンケートの結果、

経営者は圧倒的に「犬派」が多い(56.4%)

ということが判明しました! では、それぞれの派閥のコメントを紹介します。

1)素直さが一番! 犬派の意見

犬派

「犬派」の経営者たちの意見はこちらです。

【コミュニケーションが取りやすい】

  • 多くのコマンドでコミュニケーションが取れる
  • 体全体を使って喜びを表現する様子に癒やされるから
  • 犬のほうが色々と教えがいがあるし、懐いてくれる
  • 犬の競技会に興味があり、犬の訓練をしているから
  • 子供のころ飼っていた。犬のほうが感情が伝わりやすい

【一緒に運動したい!】

  • 一日必ず散歩ができるから
  • 一緒に散歩したり出かけたりできるから
  • 散歩など一緒に運動ができるのと、コミュニケーションがとりやすいと思うから
  • 可愛げがある、一緒に散歩などをしたい

【従順さ】

  • 親しみや家族感は、犬が一番感じると思う
  • 頭が良い。かわいい。人に寄り添う
  • 犬は、人に忠実なので
  • 従順で飼い主を裏切らない
  • 従順で頭がいいから

2)マイペースさが魅力! 猫派の意見

猫派

「猫派」の経営者たちの意見はこちらです。

【とにかく癒やされる】

  • なぜか猫のほうが癒やされる
  • 見ていて癒される。綺麗好きそう
  • 甘えてくるときの仕草が好き
  • 猫パンチなど仕草が可愛い
  • 猫は予想外の行動をするから可愛い

【猫の姿に学ぶ経営者たち】

  • 自分勝手な行動に生き方の学びを感じるから猫が大好き
  • 飼い主に媚びない自由さ
  • マイペースな猫が好きなので
  • 猫の飼い主から少し引いた感じがいいと思う
  • ツンデレがいい

【飼いやすさはピカイチ】

  • 散歩が必要ない
  • おとなしい
  • 室内で飼える猫が好き
  • ほっといても大丈夫だから
  • 飼いやすさで猫

また、犬猫の他には鳥派の経営者も。「散歩が要らない、トイレも楽」「癒やされる」という回答が寄せられました!

3 仕事中のランチ、何食べる?

次に、

平日のランチは、お米(定食や丼ものなど)、麺(ラーメン、そば、うどんなど)、パン(サンドウィッチやトーストなど)のどれを食べることが多いですか?

という質問です。経営者たちの気になる回答はこちら!

平日のランチは何を食べる?

アンケートの結果、

「お米派」(56.4%)が1位の座に輝きました!

しかし、「麺派」も33.0%を占めるなど、中々健闘しています。では、それぞれの派閥のコメントを紹介します。

1)日本人ならやっぱりコレ! お米派の意見

お米派

「お米派」の経営者たちの意見はこちらです。

【ランチはしっかり食べたい!】

  • 腹持ちがいい
  • 昼は抜くことも多い反面、摂るときにはキチンと食事したい
  • パワーがみなぎる
  • 米を食べないと夕方までもたないから

【慣れ親しんだ味が一番】

  • 日本人だから
  • 一番自分の食生活にマッチしているから
  • やっぱりお米が一番
  • 米のほうが体に合っているから
  • お米が好きだから

【お米は健康にも良い】

  • 栄養が偏らないため
  • グルテンフリーのため小麦粉はたべない

また、「お弁当持参のため、お米になる」という回答も多く寄せられました。

2)大健闘&こだわり強め! 麺派の意見

麺派

「麺派」の経営者たちの意見はこちらです。

【食べやすさは正義】

  • 時間をかけずに食べることができる
  • 昼はサッパリと麺派だから
  • 楽に食べられるから
  • すぐに食べられスープも取れるので

【麺類は熱烈なファン多し】

  • お米もパンも食べますが、蕎麦が好きなので麺類が多い
  • うどんが一番
  • 焼きそばが好き
  • 単純に蕎麦やうどんやラーメンが好きだから
  • 麺類が大好き

【生活リズムに組み込まれている】

  • 晩はごはん、朝はパンかごはんだから、昼は麺が多い
  • 朝パン昼麺夜ご飯のサイクルが通常できている

また、「ちょうど良いボリュームだから」「その日の気分でバリエーションを分けられるから。」という回答も寄せられました。

3)パン派・それ以外派・食べない派の意見

それ以外派

少数派ですが、それぞれに個性的な意見が揃いました!

【パン派の経営者たち】

  • 近くのスーパーで買うことが多く、パンのほうがさっと食べれる
  • お昼は手軽に済ませたいので、パンが多いです
  • 年齢的に昼から米飯を食すると重く感じるようになってきた
  • パンは手間がかからなく、短時間で食べられるから効率が良い

【それ以外派の経営者たち】

  • 基本的には米派だが、ダイエット中なのもあって、昼は少なめにしているので炭水化物を控えることが多い
  • 仕事の忙しさによって変わる
  • バランス良く平均的に

【食べない派の経営者たち】

  • ダイエット
  • 昼ご飯は得てしてカロリー過多になるから
  • この40年、昼食は取っていない

以上(2025年7月作成)

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画像:いらすとや

【PDF】印刷して貼れる職場ポスター「セキュリティ意識を高めよう」

印刷して職場に掲載できるポスターです。

今回は、PCなどを扱う際に各社員に知っておいてほしい「セキュリティ対策の心得」をまとめました。


こちらからポスターのPDFをダウンロードできます。社員への呼びかけのため、職場などに貼ってご活用ください

こちらからダウンロード

以上(2025年7月作成)

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画像:日本情報マート

【朝礼】花火の歴史から考える、リスクを取ってでも良いものを!

【ポイント】

  • 花火は時代とともに華やかな形へと進化したが、花火職人は常に危険にさらされてきた
  • それでも、花火職人は「今よりも良いものを作りたい!」と花火作りに情熱を注いだ
  • リスクはゼロにはならない。リスクを取ってでも良いものを作るという意気込みが大切

皆さん、おはようございます! 夏真っ盛りで暑い日が続きますが、一方で楽しいイベントもありますね。例えば、花火大会がそうです! 夜空を彩る花火の数々は何歳になっても良いものですよね。今日は、そんな花火の歴史をひもときながら、話をしたいと思います。

日本で最初に花火を見たのは、諸説ありますが、江戸幕府の初代将軍・徳川家康だといわれています。イギリス国王の使節が献上した花火を見た家康が、それに魅せられ、三河の砲術隊に命じて、観賞用の花火を作らせるようになったそうです。やがて、8代将軍・吉宗の時代に、飢饉で亡くなった人たちの慰霊と悪疫退散を祈って水神祭を行うために花火が打ち上げられるようになり、これが花火大会の由来になったといわれています。江戸時代の花火は赤一色だったそうですが、明治時代に入り、さまざまな金属が西洋から輸入されるようになると、鮮やかな色を出せるようになり、今の華やかな形へとつながっていったわけです。

とはいえ、花火は火薬を扱うため、打ち上げには常に危険がついてまわります。実際、今ほど安全対策が徹底されていなかった大正や昭和の時代には、花火によって多くの死者が出たという記録も残っています。ですが、過去の花火師たちはそんな死と隣り合わせの状況にありながらも、火薬の配合、筒の強度、打ち上げのタイミングなど、あらゆる工程で試行錯誤を繰り返し、いかに安全に、そしていかに美しく花火を打ち上げるかに情熱を注いできました。それは、「リスクを取ってでも、今より良いものを作りたい!」という情熱があったからでしょう。彼らの努力によって、花火は危険なものから、人々を魅了する芸術へと昇華していったのです。

わが社のビジネスでは、花火師のような物理的な危険にさらされることは少ないですが、とはいえどんな仕事にも、「何か失敗をすれば、何かを失うリスク」は大なり小なりあります。誰だってできればリスクは取りたくないものですし、失敗する可能性を減らすための努力は必要不可欠ですが、どんなに頑張ってもリスクが完全にゼロになることはありません。だったら、たとえリスクがあったとしても、今より良いものを作る! 皆さんにはそんな情熱を常に持っていてほしいと思います。花火を芸術に昇華させた花火師のような、熱いチャレンジを私は心より応援します。

以上(2025年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

災害大国日本の「防災ビジネス」 民間市場は15兆円超!?

1 災害大国日本での「防災ビジネス」の可能性は?

地震、台風、集中豪雨など自然災害が頻発し、その規模も甚大化している中、

防災ビジネス(自然災害の被害を最小限に抑えるための製品やサービス)が拡大傾向

にあります。防災といっても、重要インフラの整備だけにとどまらず、特に、AI、IoT、ドローンなどのデジタル技術を活用した災害予測や情報伝達は、今の防災ビジネスをけん引する中核分野とされています。

実際、防災ビジネスに関する国内の状況を追ってみると、

  • 国土強靭(きょうじん)化に関する民間市場の規模は、2017年時点で合計15.6兆円と推計されている(内閣府「防災立国に向けた防災産業の育成・国際展開」)
  • 防災情報システム・サービスに関する市場規模は、2024年度の約2150億円から、2025年度には約2416億円まで拡大すると予測されている(シード・プランニングの調査)
  • 他にも、個々のライフスタイルや家族構成に合わせた「パーソナル防災」や、特定のニーズや状況に特化した「ニッチ市場」の開拓も大きな伸びしろがある

となっています。ですから、中小企業にとっては、大企業では対応しきれない細やかなニーズを捉えることで、独自のビジネスを展開できるチャンスがあるといえます。

防災ビジネスについては、明確な定義があるわけではありませんが、まずは一般的に防災ビジネスとして取り上げられる4つの分野を押さえると、ビジネスチャンスを探りやすいかもしれません。以降で分野ごとに、実際に防災ビジネスを行っている企業の事例を紹介します。

防災ビジネスの主な分野

2 防災情報システム・サービス

災害発生時に、正確な情報を迅速に住民や従業員に届けて避難誘導するためのシステムや、リアルタイムの被害予測・情報共有システムなどが挙げられます。企業が災害時でも事業を継続するためのBCP策定支援、安否確認システム、データバックアップサービスなどもこの分野に該当します。

1)避難所の空き情報を可視化:VACAN(東京都千代田区)

商業施設やイベントでの混雑回避システムを提供する同社では、全国の自治体向けに避難所に関する防災サービス「バカン」を提供しています。平常時は公共施設の予約や駐車場の混雑状況の可視化などができるシステムですが、災害時特有の機能として、

  • 避難所の混雑情報を、地域住民にリアルタイムで配信する
  • QRコードや公的身分証で避難者の受け付けを行い、避難者名簿をデータで管理する

といったことができるようになっています。

■VACAN■
https://corp.vacan.com/

2)住民への避難支援などを実現:ポケットサイン(東京都新宿区)

電子署名・認証サービスの企画、開発を手掛ける同社では、自治体向けにマイナンバーカードを用いたデジタル身分証アプリ「ポケットサイン防災」を提供しています。災害発生時にはスマートフォンのアプリを通じて、

  • マイナンバーカードの情報を基に、住民の年齢・性別・住所などに応じた避難指示を住民に瞬間通知する
  • 避難所のQRコードをスマートフォンで読み取り、待ち時間ゼロで入ることができる
  • アンケート機能により、避難所の状況をタイムリーに可視化する

といったことができるようになっています。

宮城県で実証実験にも取り組んでおり、原子力災害発生時を想定した実証実験では、宮城県庁の職員100人がポケットサイン防災を使った避難所チェックインを導入したところ、約2分で全ての参加者が避難を完了させることができたそうです。

■ポケットサイン■
https://pocketsign.co.jp/

3 防災食品

災害時には、非常食などの食料確保が喫緊の課題です。長期保存が可能で、調理不要、または簡易な調理で食べられるレトルト食品、フリーズドライ食品、缶詰、乾パン、栄養補助食品などが含まれます。また、昨今では、アレルギーやハラル対応など、多様な食のニーズに応える製品が求められています。

1)ペット用非常食:安井商店(大阪府羽曳野市)

馬刺しやさいぼし(馬肉を燻製(くんせい)した保存食品)、ペット馬肉の販売を手掛ける同社では、人間、ペット兼用の非常食「SONAE」を提供しています。

玄米、馬肉、大豆などが使われており、添加物や防腐剤を使用していないため、ペット用の非常食としても利用できる

のが特徴です。同社はもともと馬刺しやさいぼし、ペット馬肉を販売していましたが、2018年の台風21号で自身が被災したことをきっかけに、ペット用の防災食の開発に取り組んだそうです。

また、同社では、一般消費者向けの防災対策や、ペット防災に関する情報を「SONAE」のウェブサイトで情報発信しています。

■安井商店■
https://saiboshi.net/

2)ハラル対応の非常食:アルファー食品(島根県出雲市)

アルファ化米を主体とした米加工食品の製造・販売を手掛ける同社では、自治体・企業向けに防災食品を提供しています。同社では、食物アレルギー対応をはじめ、

日本アジアハラール協会認証やヴィーガン認証を受けており、要配慮者(注)への非常食を備えている

のが特徴です。

■アルファー食品■
https://www.alpha-come.co.jp

(注)発災前の備え、発災時の避難行動、避難後の生活などの各段階において、特に配慮を要する人を「要配慮者」といいます。高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、外国人などが該当します。

4 防災設備

病院、介護施設、データセンターなど、災害時にも電力供給を維持する必要がある施設に設置される発電設備や、災害時に開設される避難所に備える簡易ベッド、パーティション、照明、暖房、炊事設備などが含まれます。

1)防災用の移動型独立電源を開発:NTN(大阪府大阪市)

ベアリング(自動車などの軸を滑らかに回転させる部品)などの精密機器部品などの製造・販売を手掛ける同社では、発電装置と蓄電池を備えた電源システム「N3 エヌキューブ」を取り扱っています。

蓄電池をコンテナ内に格納した移動型独立電源で、電力を必要とする地域にトラックなどで運搬して、即座に発電・給電を行える

のが特徴です。

内装のカスタマイズが可能で、防災倉庫や仮設事務所、エコトイレなど様々な用途に活用することができます。

■NTN■
https://www.ntn.co.jp

2)エアーマットや防災ボートを販売:ケイウッド(高知県高知市)

工業薬品の販売や公害防止施設の運転などを手掛ける同社では、防災製品として水害から身を守るためのエアージャケットや避難所に備えるエアーマットなどを取り扱っています。

様々な防災製品の中で、例えば、避難所に備えるエアーマットであれば、

製作に当たり、高知県内の市町村の防災担当者の意見を反映させており、裏面に滑り止めをつけることで、体育館や公民館での使用に特化している

のが特徴です。

同社はもともと、人材派遣業として創業しましたが、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、防災製品の企画、販売を新事業として立ち上げたそうです。

■ケイウッド■
https://www.k-wood.co.jp/

5 インフラメンテナンス

災害発生時の被害を最小限に抑えるための橋梁、トンネル、道路、上下水道、電力網などの耐震補強、劣化診断、修繕工事などが含まれます。また、災害時の飲料水や調理、衛生管理のための給水態勢の整備も含まれます。

1)インフラのない場所での水利用を可能に:WOTA(東京都中央区)

水処理事業を手掛ける同社では、世界初の持ち運べる水再生処理プラントである「WOTA BOX」を提供しています。独自開発した水質センサーとAI技術を活用し、生活排水の浄水処理と排水処理が行えます。

装置やフィルターが正常に作動しているかどうかや、フィルター交換までの時間を常にAIが診断してリアルタイムで表示し、一度使った水の98%以上が再利用できる

のが特徴です。

屋外シャワーキットとつなぐことで、災害時の避難所などでシャワーが利用することもでき、2016年の熊本地震、2024年の令和6年能登半島地震などの避難所で、入浴支援に活用された実績があります。

■WOTA■
https://wota.co.jp

2)避難所などでの仮設トイレの提供:インプルーブエナジー(大阪府大阪市)

仮設トイレなどの防災関連事業を手掛ける同社では、主な製品に感染予防型仮設トイレがあります。

マイナスイオンや低濃度オゾンの独自技術を活用し、臭いを元から分解するだけでなく、トイレの密閉度が高く、臭いの逆流を防げる

のが特徴です。災害時にはトイレ環境が不衛生なために、水分や食事を控えたり、同じ姿勢で座り続けることで、結果としてエコノミークラス症候群になるケースがありますが、清潔なトイレがあれば、安心して食事を取ることができ、健康状態の悪化を防げます。

令和6年能登半島地震では、延べ150基以上のトイレを被災地域に提供し、「臭わないトイレ」として話題になった実績があります。

■インプルーブエナジー■
https://im-prove-energy.jp/

以上(2025年7月作成)

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画像:KenamiRyoko-Adobe Stock

増え続ける「リベンジ退職」の脅威! 損害賠償は請求できる?

1 立つ鳥跡を濁す……退職時に会社を脅かす社員

社員が退職する際に、会社の備品や重要情報を持ち逃げされた……。退職後にSNSで誹謗(ひぼう)中傷や悪評を拡散された……。こうした、

会社に対して何かしらの不満を持っている社員が、その不満を晴らすために、退職時に意図的に損害を与える「リベンジ退職」

が深刻なリスクとして浮上しています。

会社としては、「そんな悪意ある行動は許せない! 損害賠償を請求したい」と考えるかもしれませんが、これは簡単ではありません。労働基準法第16条には、

使用者(会社)は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない(賠償予定の禁止)

というルールがありますし、民法第627条でも、

「労働者は、一定の期間を置きさえすれば、いつでも自由に労働契約を解消できる」旨などが定められていて、実害に基づく損害賠償請求であっても認められる範囲は限定的

なのです。

また、そもそも社員が会社への不満を内に秘めながら、自分が辞めることで会社を困らせようとして退職するのは、会社と社員の信頼関係が失われているということです。そのため、社員がリベンジ退職をした場合の対応だけでなく、それらを未然に防ぐための手立ても考えなければいけません。

そこで、この記事では、

  • リベンジ退職のケースごとに見る、損害賠償請求の可否
  • 会社が社員のリベンジ退職を未然に防ぐための手立て

について解説していきます。

2 このリベンジ退職、損害賠償請求できる?

1)重要情報の持ち出し・消去

社員が退職時に顧客情報などの会社の重要情報を持ち出したり、消去したりするケースがあります。例えば、退職した社員が顧客情報を持ち出した上で、同業他社に転職し、その後、転職先で顧客情報を利用していることが判明したため、会社が退職者に対して内容証明郵便で警告し、最終的に情報の返却・破棄に至った裁判例があります(大阪地裁平成25年4月11日判決)。

重要情報の持ち出しに対しては、まず、

不正に持ち出された情報が使われてしまうことを止めるのが第一で、その際は内容証明郵便で警告するのが効果的

です。

損害賠償請求については、重要情報の持ち出しだけでなく、社員が退職時に重要な業務データを消去・復旧できなくしたことで、データの再開発やそのための新たな人件費が必要となり、

退職者の故意に基づく、会社側に過失のない不法行為である

として、退職者に対する損害賠償請求が認められた裁判例があります(徳島地裁令和7年1月16日判決)。データ消去の場合は、退職者がデータ消去を故意に行ったという事実関係の証明や、消去されたデータが会社にとってどの程度重要なものであったかを明らかにすることが大切です。

2)会社備品の持ち出し

会社の貸与品であるPCや携帯電話、書類などを退職時に返却しない場合、まずは所有権に基づく返却請求を検討します。それでも返却されなければ、社員の不法行為(退職したのに備品を返却しない)に対する損害賠償として、備品代を請求することを考えます。

ただし、本人の同意なく、賃金や退職金から一方的に備品代を控除することは、労働基準法違反になる恐れがあるため注意が必要です。判例で、

会社の持つ債権(この場合は損害賠償請求権)と賃金を一方的に相殺することはできない

とされているからです。労使協定の控除項目に、「備品代(退職時に備品を返却しない場合)」などと定めていたとしても同様です。

もっとも、損害賠償請求については、過去に最高裁が、

客観的に見て「社員の自由意思に基づいて同意がなされた」ものといえる合理的な理由がある場合、賃金から控除しても賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)には反しない

と判断した裁判例があります(最高裁平成2年11月26日判決)。つまり、賃金や退職金から備品代を控除したいのであれば、まずは本人の同意を得る必要があるわけです。

3)繁忙期を狙った突然の退職・引き継ぎ拒否

会社の繁忙期や年度末など、人員が抜けると困るタイミングをあえて狙って退職したり、他の社員に業務を引き継いだりしないことで、現場を混乱させる行為は、リベンジ退職の典型的なパターンとされています。

管理職など幅広い業務を担当している社員や、特定の業務に対して専門的な知識を持った社員が引き継ぎなしに突然退職してしまうと、業務の継続性に深刻な影響を与えるだけでなく、他の社員の負担が急増するリスクがあります。

損害賠償請求については、インテリアデザインの企画設計等を行う会社が工事を受注したものの、本件工事に対応するはずだった社員が退職し、工事ができなくなったとして、200万円の損害賠償を請求した裁判例があります(東京地裁平成4年9月30日判決)。しかし、裁判所は民法第627条の退職の自由に関する規定などに照らして、

信義則を適用し、原告の請求することのできる賠償額を限定することが相当である

として、200万円のうち70万円までの損害賠償請求しか認めませんでした。退職による損害賠償請求は、実際に発生した損害の具体的な立証が不可欠です。特に、繁忙期の退職や引き継ぎ不足による「逸失利益」の算定は極めて困難とされており、判例でも限定的にしか認めない傾向があります。

4)退職後のSNSでの誹謗中傷・悪評拡散

職場の人間関係に不満を抱いていた社員が、退職後にSNSで会社を特定できる形で「人間関係が破綻している」「ブラック企業だ」などと、誹謗中傷や悪評を拡散するケースがあります。このような行為は会社のイメージを著しく損ない、人材採用や取引先との関係に悪影響を及ぼす恐れがあります。

損害賠償請求については、退職した契約社員が常務取締役や総務部部長を誹謗中傷するメールを複数回にわたって送信し、メールのCCに他の社員をはじめ、取引先や関係者も含めて拡散したことについて、

本人への名誉毀損だけでなく、第三者からの常務取締役や総務部部長の社会的評価を低下させた

として、損害賠償請求が認められた裁判例があります(東京地裁令和4年5月13日判決)。

3 リベンジ退職を未然に防ぐための手立ては?

1)就業規則の見直し

就業規則において、退職手続きを明確に定めることが重要です。民法第627条では原則として、社員が退職の2週間前までに申し出れば、退職が認められます(無期雇用の場合)。ただし、業務の引き継ぎを円滑に行うためには、退職の1カ月前などに申し出るよう、就業規則に明記することが望ましいでしょう。

退職届の提出方法(書面での提出推奨)や、業務引き継ぎ、貸与品返却などの必要な手続きを具体的に定めることも重要です。

また、就業規則に退職手続きや引き継ぎ義務を明記するだけでは不十分です。定期的な社員への説明会や、デジタルツールでのアクセス容易化などで周知徹底を図っていきましょう。

2)秘密保持誓約書・競業避止義務契約の締結と運用

退職後の秘密保持義務は、就業規則や誓約書で取り決めることで有効になります。秘密保持誓約書には、秘密情報の範囲や期間を明確に記載することが重要です。S

競業避止義務についても、期間や地理的範囲、対象業務範囲を合理的に設定し、代償措置(退職金の加算など)を設けることで有効性が高まります。

3)情報セキュリティー管理の徹底と経済産業省「営業秘密管理指針」の活用

機密情報の明確な定義と一覧化、退職前の情報持ち出しチェック、退職時にシステムアクセス権限を削除することなどは、情報漏洩を防ぐ上で非常に重要です。また、業務中でも会社のデータは、会社のサーバーやクラウドに一元管理するなどの方法で、退職した社員が引き継ぎをせずに退職した場合でも、データや資料が所在不明になるといった事態を避けることができます。

経済産業省の「営業秘密管理指針」では、営業秘密として法的保護を受けるための「秘密管理性」の要件が示されており、情報に接する社員が秘密だと分かる程度の措置(「マル秘」表示、アクセス制限、教育プログラムなど)を講じることが推奨されていますので、参考にするとよいでしょう。

■経済産業省「営業秘密管理指針」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/r7ts.pdf

4)組織風土・コミュニケーション改善による予防

法的な対策だけでなく、社員が不満を抱えにくい組織風土を醸成し、良好なコミュニケーションを維持することが、リベンジ退職の根本的な予防につながります。

例えば、次のような対策が考えられます。

1.1on1ミーティングの活用

定期的な1on1ミーティングを通じて、部下の悩みや不安を傾聴し、キャリアプランを一緒に考えることは、不満の解消やモチベーション向上につながります。

2.適切な人事評価とキャリアパスの明確化

社員の成果を正当に評価し、昇給・昇進の機会を明確にすることで、社員のモチベーションや企業への愛着心(エンゲージメント)が向上します。

3.職場環境の改善とメンタルヘルスケア

長時間労働の削減、ハラスメント対策、柔軟な働き方の導入は、社員の不満を減らし、離職防止につながります。ストレスチェックの活用、産業医や外部専門家(EAPサービスなど)との連携は、社員のメンタルヘルス不調の早期発見・早期対応体制を構築する上で非常に有効です。

以上(2025年9月作成)

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画像:Vadym-Adobe Stock

経営者がよく使うSNS、1位は顔出し前提のアレだった!

1 気になる経営者たちのデジタル事情

日々の業務や経営の意思決定において、情報収集やツールの選択は非常に重要。しかし、ほかの経営者の環境については意外に知らないものです。

そこで今回は、2025年6月、中小企業の経営者全409人を対象として、

  • 普段、どのSNSを一番よく使いますか? その理由は?
  • 業務で使っているPCのOSは、WindowsとMacどちらですか?
  • (書類を読むとき)紙派? デジタル派?

という3つの質問をしてみました。

中小企業の経営者たちが普段どのように情報を得て、どのような環境で仕事をしているのか、その実態が明らかになりました。気になる結果は次章から、詳しくご紹介していきます!

なお、回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 経営者に人気のSNS決定戦

経営者に人気のSNS

経営者が使用しているSNS、

ナンバーワンはFacebook(29.1%)

でした! 次点でX(17.4%)とInstagram(13.4%)が続きます。また、「使わない」と答えた経営者も34.0%とかなりの割合を占めていました。

経営者のSNS事情

以下に、それぞれのSNSをよく使う理由も紹介します。

【Facebook】

  • 昔から習慣的に使っているので
  • 年齢層が同じだから
  • 仲間同士の近況報告として
  • 会社関係者がよく使っているから
  • 国外からの友人からの発信をよく見る
  • 業務内容を紹介するため
  • FBの内容によって特定業種でのトレンドを測っている

【X(旧Twitter)】

  • 世の中の情報がリアルタイムで分かる
  • 情報量が多い
  • 情報収集がしやすいから
  • 拡散が期待できる
  • 読みやすく、用不用の判断がしやすいので
  • 思ったことを書いたりしてもすぐいいねがもらえるから
  • 読み物として面白いから
  • 思いがけない内容が投稿されて知的興味をそそられる

【Instagram】

  • 新しい発見があるから
  • ユーザーが多く、情報が多いから
  • よく行くお店が使っているから
  • 画像を上げることが多いので
  • 綺麗な写真を見るため
  • お客様集客のため
  • 我が家のペットを毎日アップロードしている
  • 興味深いものが見つけやすい

3 実際、Mac派ってどれくらい居るの?

Mac派ってどれくらい居るの?

また、経営者が業務中に使用しているOSについては、

Windows派が91.4%とかなりの優勢

です。デザイン業務やその使いやすさから、Macを選ぶ経営者も居ます。

経営者が業務中に使用しているOS

以下に、それぞれのOSを使用する理由も紹介します。

【Windows派】

  • システムに慣れている
  • 業務上、Windowsが使いやすい
  • 他の人とのコミュニケーションが取りやすい
  • 仕事とツールの相性が良いから
  • 安価で使いやすい
  • 今一番気に入っているPCのレッツノートのOSだから
  • 業務で使用するソフトがWindows用しかないから
  • 互換性が高いから

【Mac派】

  • デサインで使うことが多いから
  • 直感で使えるから
  • iPhoneとの親和性が高いから
  • 若い時からずっとMacなので扱い慣れているから
  • Macは使い慣れており、タブレット・携帯を連携しているので
  • 長年使い慣れているし写真を扱うのにスムーズ
  • Spotlight検索が秀逸だから

4 資料は紙で見たい? 画面で見たい?

資料は紙で見たい? 画面で見たい?

ペーパーレスの必要性が叫ばれる昨今、経営者たちに「(書類を読むとき)紙派ですか? データ(デジタル)派ですか?」と聞いてみたところ……

まだまだ紙が根強く人気! 紙派が全体の45.0%

を占めています。

紙派とデジタル派

しかし、紙にもデジタルにもそれぞれの長所があります。また、状況によって臨機応変に使い分けている経営者たちも多く見られました。以下に、それぞれの理由を紹介します。

【紙派】

  • 見落としが少なくなるから紙
  • 紙の方が頭に入るから
  • なかなかまだデジタルは馴染めていないから
  • 前へ行ったり後ろへ行ったり、逆さにしたりひっくり返したり、いろいろな方向から読めるから
  • 紙ならゆっくりと何度でも読み返しが出来るし、長文でも目が疲れない。
  • 年をとってるひとばかりでアナログ人間だから
  • 紙派である。読みながら書き込みや思考順が記入出来て、図解も余白に記入できるので、更なる展開に活用出来るから。
  • 図・表が含まれている場合などは、紙の方が全体を見ることができるから
  • 紙の方が、温かみがあって好きだから

【デジタル派】

  • コストと保管の便利さ
  • AIで要点が整理しやすいから
  • 検索、ページスキップ等必要な情報にたどり着きやすい
  • 拡大縮小が可能
  • 紙だと紛失等があり、データの方が良いと考える
  • 読み上げをしてもらえるから
  • 紙代が勿体無い
  • 職員同士共有できる
  • 書類が多くなると整理整頓が大変だから極力ペーパーレス化をしている

【併用】

  • 情報の重要度によって使い分ける
  • 紙でアウトプットされた書類は全体を把握しやすいが、データなら細かい部分を拡大したり二次利用がしやすいので一長一短がある
  • 紙は安心感があるし、データは若い社員が受け入れやすいから
  • 全体を見たい場合は紙、それ以外はペーパーレスでデータ
  • 仕事でデータ化しているのでデータで見るが確認のために紙を使う
  • データはスマホで見れるものは、場所や時間に縛られないのでいつでも見ることができます。紙は無くさなければ、手軽に見れますが、整理しておかないと見つけるのに時間がかかる場合が有ります。一長一短です
  • 我々下請けは元請けのサーバーにアクセスして納品書を印刷して納品してる。ペーパーレスしているのは元だけで、そこから下はしっかり紙使ってますがな
  • 記録の1次提出は紙で行うが、保存や加工のためにデータで保管はしている
  • 紙のものは紙で見るしデータで送られて来たものはそのままデータで見ることが多いただしそのデータを使いチェックするべきものであった場合にはプリントアウトする

以上(2025年7月作成)

pj00780
画像:ChatGPT

【事業承継】 弁護士が教える。事業承継でホールディングスを活用するメリットと実務

1 事業承継でホールディングスを活用する5つのメリット

ホールディングスとは、事業会社の株式を譲渡などして設立される会社(持株会社)です。このホールディングスの傘下に事業会社を加えれば、事業承継対策として次の5つのメリットが期待できます。

  • 株価上昇を抑制する効果が得られる
  • 先代経営者のポストが用意できる
  • 後継者世代の経営管理ができる
  • 所有と経営の分離ができ、親族外への承継に対する不安排除の一助になる
  • 複数の事業を統括・管理できる機能が持てる

1)株価上昇を抑制する効果が得られる

ホールディングス体制に移行すると、事業会社の株価上昇を抑制する効果が得られます。これはホールディングスの資産となった事業会社の株式が値上がりすると、ホールディングスが保有する資産に含み益が生じるからです。

ホールディングスは、事業会社の株式が資産の50%以上を占めているケースが多いです。そのため、株価評価をする際は純資産方式で株価を算定します。この純資産方式による計算過程で時価評価が必要になるのですが、価値が上昇している資産(業績好調な事業会社の株式など)を有している場合は含み益が生じます。そして、この含み益に対して純資産方式では、

法人税相当額37%を控除できる

ので、結果として株価の上昇を抑えられる効果が期待できるのです。

自社株の相続税評価額

さらに、ホールディングスが本社ビルなどの不動産を保有すると、不動産の評価減によって株価が引き下げられる効果も期待できます。なぜなら、ホールディングスが不動産を取得した場合、取得後3年間は取得価格で評価しなければなりませんが、3年を経過するとその不動産を相続税評価で評価できるようになるからです。

不動産の相続税評価というのは、建物は固定資産税評価額、土地は路線価評価額となりますが、このような相続税評価は、時価の半額ほどであるケースが多いといわれています。つまり、評価減が起こる資産を親会社であるホールディングスが取得すると事業会社の株価を押し下げてくれる効果が期待できるのです。

2)先代経営者のポストが用意できる

事業承継を円滑に進めるためには、役員退職金を支給された先代経営者のポストを用意するケースがあります。長期にわたって代表者として事業会社の経営を担ってきた先代経営者は、依然として社内外に大きな影響力を持っているのが通常だからです。

ホールディングスは事業会社の株式を100%保有しており、事業会社を経営支配していますので、先代経営者がホールディングスの代表者に就任し、事業会社は後継者世代に委ねると良いバランスになることがあります。

先代経営者のポスト

3)後継者世代の経営管理ができる

事業承継を決断する経営者の悩みの多くは後継者の経営手腕ですが、この問題もホールディングスの活用で解消できます。

ホールディングスは、事業会社の株式を100%保有しているため、事業会社の株主総会の決議を書面決議(書面の同意のみで決議があったものとみなされる方法)で行うことができます。事業会社の株主総会決議というのは、事業会社の取締役の選解任や報酬の決定など、事業会社の経営の根幹にかかわる事項です。それを書面決議で決定できる権利を持っているのですから、ホールディングスは事業会社に対して強い経営支配を及ぼします。

この経営支配の仕組みを活用し、若い後継者世代の経営をサポートすることができます。経営のバトンを後継者に渡した後、事業会社の経営状況が思わしくない場合には、経営方針を変更させるなどの修正を行うことができます。

4)所有と経営の分離ができ、親族外への承継に対する不安排除の一助になる

中小企業の事業承継がなかなか進まない理由の1つは、親族内に後継者がいないことです。経営者に子がない、子がいたとしても他の企業に就職しているなど、事情はさまざまです。こうした後継者不在の問題もホールディングスの活用で解消できます。

具体的には、ホールディングスは事業会社の株式や不動産などの資産を所有する機能だけを担わせ、事業会社の経営は、役職員の中で一番優秀な者に担わせるのです。事業会社に利益が計上された場合、例えばその3割をホールディングスに配当で分配し、3割を内部留保にし、4割を役職員の報酬として分配するなど、一定のルールを作って、経営を親族外の経営者に担わせることも可能です。

親族外の者に事業会社の社長のポストを担わせることは不安に感じられる場合もあるかもしれませんが、ホールディングスは、事業会社の株式の100%を保有していますので、事業会社の社長を変更するのも書面決議で行うことができます。

所有と経営の分離

5)複数の事業を統括・管理できる機能が持てる

どのような事業であっても、良いときもあれば悪いときもあります。そのような中で事業を永続させていくには、複数の事業をホールディングスの傘下で管理していくことが重要になります。A、B、Cの3つの事業のうち、A事業の将来性は低くても、B事業、C事業がそれを補ってくれるグループを目指すということです。

このように複数の事業を統括するのが、まさにホールディングスです。ホールディングスに管理部門を配置することで、A事業、B事業、C事業の経営を管理し、経営資源を将来の事業計画に従って振り分けていくことができるようになります。また、このようにグループ経営ができれば、A事業は親族内の後継者に、B事業、C事業は親族外の役員に経営を委ねるなどの体制を取ることもできるようになります。

ホールディングスのイメージ

2 ホールディングス化のための2種類の手続き

1)株式譲渡によりホールディングスを設立する方法

オーナーが保有する事業会社の株式をホールディングスに譲渡すれば、ホールディングス体制を構築することができます。しかし、株式譲渡をする場合は、ホールディングスが株式を買い取る資金を銀行から調達しなければならず、過剰な債務を負担せざるを得ない恐れがあります。また、株式の譲渡代金の20%が譲渡所得税として課税され、ホールディングス体制に移行するだけで多額の税負担が発生する恐れもあることに留意しなければなりません。

2)株式移転を行う方法

株式移転によって持株会社を設立する場合、大きな税負担を負うことなく、ホールディングス体制に移行できます。株式移転の場合には、オーナーが事業会社の株式をホールディングスに現物出資し、その代わりにホールディングスの新株の発行を受けます。オーナーはホールディングスに事業会社の株式を渡しますが、対価として現金の支払いを受けないので課税されることは有りません。

株式移転によって持株会社を設立する場合

3 事業承継でホールディングスを活用する際のポイント

以上のように、事業承継対策としてホールディングスを活用するメリットは多いです。もっとも、このようなメリットを享受するためにはある程度の時間が必要です。一口にホールディングスといっても、どの程度の期間、その組織が運営されているのかで信用力も得られるメリットも大きく違ってくるからです。

事前にどのような課題を解決するためにホールディングスを活用するのか、方針を明確化した上で、じっくり組織を作っていくことが重要になってきます。

以上(2025年7月作成)
(日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda