人材を採用するにあたって、雇用仲介事業者が運営する「求人サイト」を利用するケースも多いと思います。しかし、一部の求人サイトを巡ってトラブルが発生していることから、厚生労働省が注意を呼び掛けています。また、トラブルを防ぐため、厚生労働省は職業安定法に基づく指針を改正し、今年4月1日に施行しました。本稿では、求人サイトを巡る主なトラブル事例や対処法をお伝えします。
求人サイト利用時のトラブル
人材を採用するにあたって、雇用仲介事業者が運営する「求人サイト」を利用するケースも多いと思います。しかし、一部の求人サイトを巡ってトラブルが発生していることから、厚生労働省が注意を呼び掛けています。また、トラブルを防ぐため、厚生労働省は職業安定法に基づく指針を改正し、今年4月1日に施行しました。本稿では、求人サイトを巡る主なトラブル事例や対処法をお伝えします。
1 複数の料金請求
求人サイト(雇用仲介事業者)の多くは、求人者からサービス利用料金(情報提供代金)を取ります。人材の採用が決まった後に、成功報酬として請求するのが一般的です。「成功報酬型の募集情報等提供事業者」と呼ばれ、次のようなトラブルが発生しています。
※厚生労働省リーフレット「求人者の皆さまへ 労働者の採用を仲介した雇用仲介事業者を正しく把握しましょう」より
求人者Cは、雇用仲介事業者Aが運営する求人サイトに無料登録し、求職者に関する情報をもらい、求職者Dの採用が決まりました。求人者Cは、雇用関係が成立したので、利用料金を雇用仲介事業者Aに支払いました。しかし、求人者Cは雇用仲介事業者Bからも、利用料金の支払いを求められました。求人者Cは、採用決定と直接関係ない雇用仲介事業者Bからの請求に納得がいきません。
原因は、求職者Dが雇用仲介事業者A、Bの両方に登録し、Bにも採用決定の報告を行ったためです。その結果、Bからも求人者Cに利用料金の請求が届いたのです。
このトラブルの背景には、採用決定後、雇用仲介事業者が求職者に「就職のお祝い」として金銭やギフト券を渡すサービスがあります。求職者は、この金銭やギフト券を受け取りたくて、登録した複数の雇用仲介事業者に採用決定の報告をするのです。このため、厚生労働省は今年4月1日施行の改正指針で、募集情報等提供事業者による労働者への金銭等提供を、原則禁止しました。
2 利用時の注意点
人材を採用したい中小企業が、複数の成功報酬型サービス事業者を利用するケースもあります。その場合にトラブルを避けるには、採用する労働者について、次の点を整理し、記録しておくことが欠かせません。
- ✓ どの事業者のサービスを通じて面接に至ったのか
- ✓ 当該労働者と連絡や面接を行った日時や内容
- ✓ 採否結果の連絡方法・日時
- ✓ 事業者への成功報酬の支払日 など
別の成功報酬型サービス事業者から請求を受けた場合に、この記録を見せ、「御社から提供してもらった求職者の情報は、今回の採用とは直接関係がない」と説明するとよいでしょう。
また、成功報酬型サービスの契約時には、次の点を必ず確認してください。
- ✓ 労働者を採用したときの事業者への報告(その期限や方法を含む)
- ✓ 労働者との連絡方法(連絡手段に関する制限の有無など)
- ✓ 情報提供を受けた労働者を他の機関経由等で採用した場合の扱い(この場合にも料金の支払いを求める定めはあるか、その内容はどのようなものか)
- ✓ 違約金について(どのような場合に違約金が発生するか、内容・金額)
- ✓ 返戻金について(早期退職の場合に、支払った料金の一部が返金される定めはあるか、対象となる期間や返戻率)
- ✓ 契約主体(求人事業所のみに適用される契約なのか、法人全体に適用される契約なのか)
最後の「契約主体」もよく調べてください。契約主体を巡っては、求人者と求職者のマッチングを行う「職業紹介事業者」でトラブルが起きています。ある企業の一つの事業所で、職業紹介事業者から紹介された人材を不採用とした後、同じ企業の別の事業所が、そのことを知らずにこの人材を直接採用したところ、紹介手数料を請求されました。
※チェック項目は、厚生労働省リーフレット「求人者の皆さまへ 民間人材サービス(職業紹介、募集情報等提供)を利用する際の留意点」を参考に作成
3 さいごに
今年4月1日の改正指針で、募集情報等提供事業者や職業紹介事業者には、違約金の額や発生条件を含む契約の内容について、求人者にわかりやすく、正確に書面やメールなどで明示する義務も課されました。また、厚生労働省は「人材サービス総合サイト」を運営し、全国の募集情報等提供事業者や職業紹介事業者の情報を掲載しています。
人手不足が続いているので、人材の確保は、多くの中小企業で悩みの種になっていると思います。採用については、公共職業安定所(ハローワーク)を活用することもできます。
※本内容は2025年5月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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2025年度版 税制改正早わかりハンドブック(2025年6月号)
2025年度の税制改正法案が3月に可決・成立しました。“賃上げと投資が牽引する成長型経済” への移行を促進、さらなる発展を主な目的として、法人税に関しては中小企業者等の法人税軽減税率の見直し、中小企業経営強化税制の拡充、地域未来投資促進税制の見直しおよび適用期限の延長などが盛り込まれています。
所得税に関しては、103万円の壁の引上げや、特定親族特別控除の創設、子育て支援に関する政策税制などが盛り込まれました。
本冊子では、中小企業に影響を及ぼす内容を中心に、2025年度の税制改正について解説します。
※本冊子は、2025年4月30日時点の情報に基づいています。
もう迷わない! 企業が成長する 「補助金」選び&事業計画のコツ
1 補助金は申請すれば必ずもらえるとは限りません
資金調達手段として有効な補助金や助成金。実は次のような違いがあります。
助成金は受給要件を満たすことと書類に不備がなければ受給できますが、補助金は申請時に事業計画の提出を求められ、事業計画の内容が審査されて採択・不採択が決まります。ハードルが高いといえますが、
補助金は、原則として返金不要(事業で利益が出た際に一部納付する収益納付の場合もあります)
であることが大きな特徴です。
うまく補助金や助成金を使いたいところですが、国や地方自治体などがさまざまな事業を行っているので、どのように選び、どのように活用したらよいのか迷う方も多いようです。また、近年は補助金も助成金も受給要件について、細目が追加や変更され複雑化しています。
この記事では、数ある補助金の中で、主に企業の成長に活用される補助金の選び方と、事業計画が採択され補助金を得るためのポイントをご紹介します。
2 目的・対象者・要件に合致したものを選ぶ
補助金の目的と内容はさまざまです。さらに最近の傾向として、1つの補助事業の中に複数の「枠」が設けられていたり、1つの枠が複数の「型」に細分化されていたりするケースもあります。例えば、IT導入補助金は、「インボイス枠」「セキュリティ対策推進枠」「複数社連携IT導入枠」といった枠があり、さらにインボイス枠が「インボイス対応類型」「電子取引類型」に分かれています。枠や型というのは、「申し込むコース」と考えると分かりやすいでしょう。それぞれの枠や型に要件が定められていることもあります。
補助金は、補助事業ごと、枠・型ごとの、目的・対象者・要件に合致しているものを選びましょう。
補助事業の目的(何のための補助金なのか)・対象者・要件は、補助金の“ルールブック”である公募要領に記載されています。
補助金の申請を検討する際は、公募要領を読み込まなければなりませんので、時間がかかります。そのような場合は、専門家(中小企業診断士など)に相談することをお勧めします。
また、各補助金には概要版やガイドブックが作成されていることもありますので、制度の概要を確認したい場合はそちらを参照されるとよいでしょう。ただし、公募要領と違って、あくまで概要版ですので、要件について細部まで記載されているわけではありませんので注意が必要です。
1)目的を確認する
まず、補助事業の目的を確認しましょう。自社が補助金を得て取り組みたい事業が、補助事業の目的に沿うかをチェックします。目的に沿わない申請は、審査で対象外と判断されてしまいます。
例えば、「事業再構築補助金」の後継として2025年に新設された「中小企業新事業進出促進補助金」の場合、目的は次のように書かれています。
「中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします」
この場合、既存店舗を増やしたり休眠会社を復活させたりというのは、そもそも目的から外れているわけです。
また、補助対象事業に関して、新市場・高付加価値事業への進出が求められており、「実質的には中小企業の賃上げなどが目的になっている」ことを読み解く必要があります。
2)対象者を確認する
次に、対象者を確認しましょう。公募要領では補助金の対象者を明記しており、表でまとめている場合が多いです。また、多くのケースでは、対象者は従業員数や資本金の額によって決められています。
補助金は基本的には経済産業省の管轄の中小企業(商業、工業)が対象ですが、補助金によっては、学校法人や医療法人が対象の場合もあります。ただし、大企業の関連会社は対象外のことが多いので注意しましょう。また、
幾つも会社を経営している場合(会社の株の過半数を持つ場合)は、1つの会社で交付決定(補助予定金額の決定通知)を受けると、同じ補助金については、他の会社で申請できなくなることもあります
ので、公募要領で確認してください。
3)要件を確認する
目的、対象者の確認が済んだら、要件を確認しましょう。補助金には複数の要件を課しているものが多いので、
全ての要件を満たす必要があるのか、一部でよいのかを確認します。
また、対象の事業終了後(申請した経費を使い、実績報告書を提出し終えた後)に、賃上げなどの要件が課されている場合がありますので要注意です。
要件を満たさない場合は、補助金の一部(もしくは全額)を返還することを義務付けられていることがあります
ので、しっかりと公募要領を確認してください。
4)補助対象経費の内容、補助率、補助金額の上限にも要注意
目的、対象者、要件に合致しても、
必ずしも事業に関する全ての経費が補助されるわけではありません。
公募要領には補助対象経費についても詳しく記載されていますので、内容、補助率、補助金額の上限などを確認しましょう。補助対象外の例も挙げられています。
補助対象経費の説明書きに記載されていない場合は、補助の対象外の可能性があると考えることがベターです。
補助の対象かどうか迷うときには、事務局やコールセンターに連絡して確認しましょう。また、たとえ補助の対象となっていたとしても、
原則、補助金は精算払い(後払い)なので、補助対象経費を自社で立て替えることが必要
です。融資等を検討する場合は、金融機関等との相談も行いましょう。
5)参考:4つの主要な補助金など
ここで、参考として、国が幅広く行っている4つの主要な補助金の概要を紹介します。補助金選びにお役立てください。多様な枠や型がありますので、必ず補助金の公募要領で細目をご確認ください。
この他に、2025年から新設された補助金として、令和6年度補正予算による「中小企業成長加速化補助金」があります。
- 補助上限が5億円、補助率1/2
- 売上高100億円を目指す、かつ、売上高10億円以上100億円未満の中小企業が補助対象
- 「100億円宣言」を行うことや、投資額1億円以上などが要件
売上高100億円を目指す中小企業を対象にしていることが珍しいですね。次年度以降も公募があるかは不明ですが、今後、こうした企業への補助金も活性化するかもしれません。
3 採択される事業計画づくりのポイント
申請した事業計画が採択されなければ補助金は受給されません。採択される事業計画づくりにはポイントがありますので紹介します。
1)様式と枚数制限を守る
補助事業によっては、
事業計画の様式を指定していたり、計画書の枚数制限をしていたりする場合があります。
必ず公式のウェブサイトで様式や枚数制限の有無を確認しましょう。様式を指定していない場合でも、参考様式を公開しているケースがあります。必ずしも参考様式を使用することはありませんが、事業計画に盛り込むべき必要項目が記載されている場合がありますので、確認しておきましょう。
枚数に関して、「〇〇枚以内」と書かれている場合は、必ず規定枚数以内に収めてください。
審査が厳しい場合は、枚数を超過すると「不備」として不採択になることがあります。
2)審査員への説得文のつもりで合理的に分かりやすく
事業計画には、自社の現状を踏まえ、「なぜ補助金の活用が必要なのか」「補助金を活用することで自社の業績にどう効果が出るのか」というストーリーを、合理的に一貫性を持たせて記載しましょう。事業計画を「審査員への説得文」と捉えるとよいでしょう。
審査員が審査にかけられる時間は、1つの事業計画につき短いものは15分ほどといわれています。短時間で事業計画を確認し採点しますので、分かりやすさも重要です。
ストーリーの分かりやすさはもちろん、図やイラストなどを用いるとより効果的になります。
事業計画に記載する内容は補助金によって細目が異なりますが、大まかには次のようなものになります。
- 現在の自社の事業の概要、財務状況、内部環境分析と外部環境分析
- 補助金を活用して実施する新規事業の必要性
- 新規事業の具体的な内容
- 新規事業の市場分析、競合分析、自社の優位性や差別化要素
- 新規事業の課題やリスクと解決方法
- 実現可能性の高いマーケティング戦略
- 実施体制、スケジュール、資金調達計画
- 収益計画
3)審査基準を押さえる
事業計画の審査では、複数の審査員が、主観や事業計画の印象ではなく、審査基準に従って点数を付けているといわれています。補助金の公募要領には審査基準が記載されています。
例えば、ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)では、次のような審査項目例があります。
審査項目(1)には、「要件を満たすか」が書かれていることが分かります。審査項目に入っているものですので、事業計画にも「この要件を満たしている」旨の記載が必要になります。
電子申請の場合、申請画面に入力するだけでなく、事業計画にも記載してください。
また、(2)のそれぞれの質問に対する回答も事業計画に明記しましょう。前述したように、審査員は短時間しか審査にかけられません。そのため、
ニュアンスで分かるというレベルではなく、明記されていることが重要です。
4)加点項目を押さえる
審査員が事業計画を審査する際、
多くの場合は「加点審査」であり、減点はないといわれています。加点項目は公募要領に記載されていることがありますので、必ず確認しましょう。
補助金を支援するコンサルタントなどからすると、加点項目は単なる「付け足し」ではなく、「該当項目は必ず盛り込む項目」です。
「加点項目があって当然、なければ他社と比べて弱い」といえるくらい、加点項目を盛り込むことは重要です。
また、場合によっては減点項目が設定されていることもあります。例えば、
過去に類似の補助金を受給している場合に減点されることがあります
ので、減点項目が設定されているかどうか、忘れずに確認しておきましょう。
4 こんな事業計画は採択されにくい!
最後に、採択されにくい事業計画について解説します。「採択されない」と悩む経営者の事業計画には、大きく分けると次の3つの傾向が見られます。
1)ストーリーが分かりにくい/一貫性がない、専門用語の解説がない
自社の業務や研究開発の説明に大半を使ってしまい、自社の現状を踏まえての「なぜ補助金の活用が必要なのか」「補助金を活用することで自社の業績にどう効果が出るのか」という、ストーリーの説明が不足している事業計画は採択されにくいです。
加えて、専門用語の解説がないものも多く見られます。審査員は、必ずしも各業界の業務内容まで理解しているわけではありません。過去の業務経験で知っている場合がありますが、審査員は業界を知らないものとして記載しましょう。ポイントは、
中学生が読んでも理解できる内容を目指す
ことです。
2)審査項目の記載漏れがある
不採択の事業計画の特徴の1つに、審査項目の記載漏れが散見されます。審査項目は、必ず分かりやすく記載してください。
審査項目を審査員に見落とされないようにする
ことも大切です。
3)根拠がない、もしくは弱い
「なぜ機械を導入する必要があるのか」「なぜ新規事業で売り上げが立つのか」という説明に対して、その根拠がない、もしくは根拠が弱いものがよくあります。
特に採択か否かの差がつくのは、事業化の箇所です。
不採択になる事業計画には、「なぜ新規事業として成り立つのか」が分かりにくい、もしくはその記載がほとんどない場合が多いです。事業化した後の想定までしっかりと検討した上で、事業計画に落とし込んでください。
昨今、補助金の制度自体が複雑化しており、募集時期が変わるたびに枠や要件が変更されることもあります。申請を検討する際は、必ず最新の情報をご確認ください。補助金をうまく活用して、自社の成長に結び付けましょう。
以上(2025年6月更新)
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【分かりやすい原価計算(3)】管理会計PLとCVP分析 ~原価計算に特有の費用の分け方~
1 「変動費」と「固定費」を分ける管理会計PLのカタチ
2 CVP分析で売上高の変動に対する利益の変動が分かる
3 どっちが利益を出しやすい体質か?
4 固定費と変動費では同じ経費削減でも効果が違う?
1 「変動費」と「固定費」を分ける管理会計PLのカタチ
今回は、管理会計の損益計算書(以下「管理会計PL」)を見ていきます。管理会計PLと聞いて身構える必要はありません。なぜなら、管理会計PLの話は前回から始まっています。変動費と固定費を分けた損益計算書のカタチが、管理会計PLです。
普段見慣れている財務会計の損益計算書(以下「財務会計PL」)からおさらいしていきましょう。まず、売上高、そこから製造活動の費用である売上原価を引いて、売上総利益を出します。この売上総利益は粗利(アラリ)とも呼ばれ、経営者が気にする代表的な利益の一つです。粗利から販売費及び一般管理費(以下「販管費」)を引いて、営業利益を出します。
次に、管理会計PLです。
管理会計PLでは、売上高から引く売上原価と販管費を変動費と固定費に分ける
というのが特徴です。そして最初に、売上高から変動製造原価と変動販管費といった変動費を引いて、限界利益を出します。
この限界利益から固定製造原価、固定販管費といった固定費を引いて、営業利益を出します。売上高と営業利益は財務会計PLと同じ金額になります。
実務的なコツとして、
限界利益によって固定費を回収する感覚
を持っていただくとよいでしょう。固定費というのは売上高が増えても減っても変わらないので、決まった額が発生します。それを売上高に連動する限界利益で回収していきます。限界利益で固定費を全額回収すれば、その先の売上で利益が発生していくのです。
この管理会計PLの例で、変動費1500万円を売上高4000万円で割ると、0.375。この会社の売上に対する変動費の割合(変動費率)は37.5%となります。
また、限界利益2500万円を売上高4000万円で割ると、0.625。売上に対する限界利益の割合(限界利益率)は62.5%となります。
管理会計PLは、費用を変動費と固定費とに分けて、売上高から変動費を先に引いて、限界利益を出すというのが肝になってくるのですね。
上記のケースでは、次のことがいえます。
- 「限界利益率が62.5%ということは、売れて手元に残るのは約6割だけ」
- 「固定費が1700万円ということは、これを必ず回収しなくてはいけない」
自社の変動費と固定費を計算し、管理会計PLを作るだけではもったいないので、ぜひ、
その先にある数字の「意味合い」にまで落とし込むこと
を意識してください。会計の活用につながります。
2 CVP分析で売上高の変動に対する利益の変動が分かる
続いて、変動費と固定費を分けることによってできる「分析」について説明していきます。皆さんは、「CVP分析」や「損益分岐点分析」という言葉を聞いたことがあると思います。どちらもほぼ同じ意味であることが多く、ここでは「CVP分析」と呼ぶことにします。
CVP分析は自分の会社の「体質」を把握することに役立ちます。特に、会社の利益が出るか出ないかが容易に分かる損益分岐点売上高を求めることができます。損益分岐点売上高とは、
売上高と費用が一致して、利益がプラスマイナス0、トントンになる売上高
のことをいいます。さらには、売上が上がったり下がったりした場合に、利益への影響がどのくらいあるかということもCVP分析を通じて分かります。
例えば、A社とB社の売上が、ともに10%下がったにもかかわらず、A社の利益は25%も下がり、B社の利益は15%だけ落ちていました。なぜこのようなことが起こるのかを知るにも、CVP分析は役立つのです。
自分の会社はA社とB社のどちらに近いのかをあらかじめ把握しておくことはとても大事です。つまりは、売上高が減少した場合に、利益がどれだけ減ってしまうかを把握すると言い換えることもできます。
3 どっちが利益を出しやすい体質か?
CVP分析は、ざっくりいえば、
費用、売上高、利益の3つの関係を把握して、将来の予測をしましょう
ということです。費用、売上高(営業量)、利益を英語でいうとCost(コスト)、Volume(ボリューム)、Profit(プロフィット)となります。この頭文字を取って「CVP分析」と呼びます。まずは、前提知識のおさらいです。
- 利益=売上高-費用
- 費用=変動費(※)+固定費 ※変動費は、変動費率×売上高
利益は、売上高から費用を引くことで求められます。この費用を売上高に連動する変動費と、売上高に連動しないで決まった額が発生する固定費とに分けます。そして、変動費は「変動費率×売上高」として表し、これに固定費を足すと費用になります。ここでいう変動費率とは、売上高に対する変動費の割合のことをいいます。
それでは、イメージ図を見てみましょう。
横軸を売上高、縦軸を金額とします。ここに、売上高と費用の線を引いています。これがCVP分析のイメージ図になります。
まず、斜め45度の線が、売上高線となります。横軸の売上高1に対して、縦軸の売上高の金額も1になるので、角度が45度の直線で表されます。
次に費用を見ていきます。売上高が0のところでも発生している部分が固定費になります。固定費は売上高0円でも1000万円でも、同じだけ発生します。これに対して、変動費は売上高が増えれば連動して増加します。このため、固定費の上に「売上高×変動費率」で計算される変動費が乗っかるように引かれた斜めの線が、費用線となります。
売上高が1増えるのに対して増加する変動費の割合が変動費率になり、費用線の傾きになります。例えば、売上高100に対して仕入などの変動費が35のときは、変動費率が35.0%となり、費用線の傾きは35度となります。
この売上高線と費用線が交わるところが損益分岐点売上高です。売上高と費用が同じ額になり、損益がトントンになる売上高を表します。
ここでポイントとなるのは、変動費は売上高との比率(%)で見るのですが、固定費は額でみるところです。
変動費と固定費のバランスがどのように利益に影響するのか、次の2つの特徴を理解しておきましょう。
- 変動費の割合が高い場合、固定費が少ない分、少ない売上でも利益が出ます。しかし、損益分岐点売上高を超えても、変動費が多くかかるので、売上が増加する割に、利益はあまり増えなくなります。
- 固定費の割合が高い場合、固定費が多い分、多くの売上を上げないと利益が出ません。しかし、損益分岐点売上高を超えると、変動費が少ないので、利益が大きく増えていきます。
具体的に考えてみましょう。グラフのA社とB社は、現在、同じ売上高と同じ利益を出しています。
しかし、グラフの(1)を見ると、固定費の金額を表す切片(左側の縦軸と直線が交わる点)がA社の方が上にあることから、固定費はA社の方がB社よりも高いことが分かります。一方、2本の直線の傾き(グラフの(2))を見ると、A社の傾きの方が緩やかなので、傾きが示す変動費率は低いことが分かります。
このことが示す意味合いはとても大事ですので、ぜひ理解してください。
まず、固定費が高額で変動費率が低いA社は、売上が少ないうちは利益がなかなか出ません。グラフからも、売上を示す直線が下方向に遠く離れていることで、損失が多いことが分かります。一方、売上が増え、損益分岐点売上高を超えてからは逆です。今度はA社の直線よりも売上の直線は上方向に遠く離れますので、利益が多く上がるようになるのです。
つまり、A社は固定費が多い分、初めは利益を出しづらいのですが、売上が増えてくると一転して、利益が出やすい体質となります。
B社は逆です。固定費が少ないため、初めから利益が出やすいのはうれしいものの、売上が増えてくると、利益がA社に比べて伸びないのです。
4 固定費と変動費では同じ経費削減でも効果が違う?
ここで費用を削減した場合の、CVP分析のイメージ図を見てみましょう。
1)固定費を削減した場合
固定費を削減した場合は、費用線がその分だけ下に動きます。このため、損益分岐点売上高も下がり、縦軸で表される利益も、固定費の削減額だけ増えます。例えば、現状では、工場の敷地に余分なスペースがある場合に、適切な広さのところに引っ越すというようなことが考えられます。
2)変動費を削減した場合
変動費を削減した場合は、売上高に対する変動費の割合、変動費率が下がります。このため、費用線の傾きが緩やかになります。これにより、やはり損益分岐点売上高が下がります。そして、売上を増やすほどにその効果は上がっていきます。例えば、比較的安価なメーカーの材料に切り替えるなどが当てはまります。
このように、CVP分析のグラフを見ると、変動費の削減と固定費の削減はそれぞれ違った意味合いを持つことが分かります。
以上(2025年5月更新)
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イベントレポート NexTech Week 2025【春】 AI・人工知能EXPO
2025年4月15日火曜日〜4月17日木曜日。東京ビッグサイトにて、RX Japan主催のイベント、
NexTech Week 2025【春】
が開催されました。
このイベントは春と秋の年に2回行われ(2025年秋版は幕張メッセで10/8〜10/10開催予定)、AI・人工知能やブロックチェーンといった分野の製品やサービスを出展する展示会・商談会イベントです。
最新テクノロジーに関するイベントということで来場者も多く、RX Japanの発表によると、3日間で2万7745人! 特に最終日の4/17は1日だけで1万人を超えたようです。
■NexTech Week 2025【春】来場者数■
https://www.nextech-week.jp/hub/ja-jp/showreport/visitorcount/spring.html
AI・人工知能 EXPO、ブロックチェーン EXPO、量子コンピューティング EXPO、デジタル人材育成支援 EXPOと4つの展示会から構成されているNexTech Week 2025【春】。出展数も参加者も多く、特に混雑していたのは「AI・人工知能 EXPO」でした。
「AIエージェント World」「生成AI Hub」といったゾーンも設けられ、リスク診断デモ有りのブースでは、行列も見られました。2000人もの人が訪れたブースもあったようです。
アバターや次世代型生成AIデジタルヒューマン自身が自分のサービスを案内をしてくれるブースもあり、目をひいていました。今後はこうしたAIが自分で説明してくれるブースが増えそうです。
AIに関しては、展示されている商品・サービスが全体的に年々、進化してきている印象でした。初出展ながらコンテンツづくりのかゆいところに手が届く文章ライティングなど、プロダクトのレベルが高く、「これはすごい」と感じる生成AIを展示しているところもありました。
そのほかにも、非常にたくさんのブース出展、商品、サービスがあり、とても1日では回りきれない量でした。
どんどん進化していく、そして、ますますビジネスで関心が高まっていくAI界隈のパワーを感じる展示会でした!
最後に、そのほかにお話をお伺いした方々などもショート動画でご紹介します。お忙しい中インタビューやお写真、動画撮影にご協力いただきました皆さま、本当に有り難うございました。
以上(2025年5月作成)
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年間10万人の介護離職を止めよう! 3つのステップと復職支援
1 仕事を辞めたいわけではない「介護離職」を防止する
介護離職とは、
仕事と家族の介護を両立することが難しくなり、仕事を辞めること
で、1年に約10万人の離職者がいます。特に2025年は「団塊の世代」が75歳を超え、その子供である「団塊ジュニア世代」(40~50代)の介護離職が大幅に増える可能性があります。ただ、介護はデリケートな問題故に、会社側からは積極的に介入しにくいのが悩みどころです。
そこで、大事になってくるのが
社員のほうから会社に相談してもらえるよう、社員が介護に直面する前から準備をする
という考え方です。会社が日ごろから介護について相談しやすい雰囲気づくりや、両立支援に関する情報提供に取り組んでいると、社員に「介護に直面しても仕事を続けられる(または辞めても戻ってこられる)」という安心感を与え、復職につなげられる可能性があるのです。以降で、介護離職を防止する3つのステップと復職支援について紹介していきます。
なお、「2.両立支援に関する情報提供」については、
2025年4月1日から、社員から介護の申し出があった場合や、介護に直面する前の早い段階において、支援制度(介護休業など)に関する情報提供をすることが義務化
されるので、押さえておきましょう(詳細は第3章で後述)。
2 介護について相談しやすい雰囲気づくり
社員は「介護は家族の問題だから、自分で何とかしなければ……」と考えがちですが、経営者や上司が日ごろから次のようなメッセージを積極的に発信していれば、介護について相談しやすくなります。
- 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
- 介護を担う社員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
- 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
- 介護をしていることを隠さずに相談してほしい
また、会社は社員の家族構成についても、可能な範囲で把握しておきましょう。一般的に、75歳を超えると要介護状態になる人が多くなるといわれています。社会保険の被扶養者情報などに目を通しておくと、これから介護が必要となりそうな社員がある程度分かるでしょう。
「仕事と介護の両立支援のため」に、社員の介護の実態や家族の状況などを、個人面談の際に把握しているという例もあります。
■経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン-参考資料集-」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html
3 両立支援に関する情報提供
1)法定の両立支援制度に関する情報
育児・介護休業法には「介護休業」「介護休暇」など、仕事と介護を両立するためのさまざまな支援制度が定められています。2025年4月1日からは図表2の赤字の通り、内容が手厚くなります。
2025年4月1日からは、介護離職を防ぐことを目的として、社員が図表1の支援制度を円滑に利用できるよう、次の4つの措置のいずれかを講じることが会社に義務付けられます(複数の措置を講じるのが望ましい)。
- 支援制度に関する研修の実施
- 支援制度に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
- 支援制度の利用事例の収集・提供
- 支援制度の利用促進に関する方針の周知
また、同じく2025年4月1日から、前述した通り、
- 社員から介護に直面をした旨の申出があった場合に図表2の支援制度等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認すること
- 介護に直面する前の早い段階(40歳等)においても、社員の支援制度等への理解と関心を深めるため、必要な情報提供をすること
が義務化されます。
2)公的介護保険サービスに関する基礎的な情報
自治体などから提供されている、公的介護保険サービスに関する情報も社員に伝えましょう。
- 介護について分からないことは、地域包括支援センターの専門家に相談できる
- 公的介護保険サービスを利用するには、地域包括支援センターか市区町村に申請する
- 要介護(要支援)認定の申請やケアマネジャーの手配は、地域包括支援センターで行っている
- 日中の見守りや夜間の緊急対応が受けられるかもしれない
3)会社独自の取り組みや民間の保険サービスに関する情報
テレワークなど、社員が介護をしながら働ける取り組みがあるなら、積極的に周知しましょう。社員が取り組みの存在を知らなかったり、自分は対象にならないと思い込んでいたりするケースは意外と多いものです。
例えば、社外から講師を招くなどして、公的介護保険サービスについて学べるセミナーを開催するとよいでしょう。
また、損害保険会社が販売する団体保険で、社員の親が介護状態になると保険金を受け取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などの加入を検討してもよいかもしれません。要介護の状態になると、自宅のバリアフリー改修や有料老人ホームへの入居などで、まとまった費用が必要になることが少なくないからです。
4)親族の協力の重要性など踏み込んだ情報
仕事と介護を両立する際、親族の協力があればとても心強いものです。社員によって親族との関係性が違うので一概には言えませんが、次のようなことを伝えることも考えられます。ただし、社員のプライベートに干渉しすぎるとモラハラ(モラルハラスメント)に当たることもありますので、社員の立場に配慮しながら対応するようにしましょう。
将来の介護を見据え、日ごろから親や親族とコミュニケーションを取ったほうがよいでしょう。
- 親の状況(持病、かかりつけ医、親しくしている近所の人など)は親族間で共有する
- 親の介護保険証や健康保険証の保管場所を確認しておく
4 介護に直面した社員との話し合い
社員が介護に直面した場合、なるべく早い段階で経営者が、「介護を理由に辞めてほしくない。会社として仕事と介護の両立を支援したい」というメッセージを伝えましょう。その上で、今後について話し合い、社員が介護をしながら無理なく仕事を続けられるように支援します。次のようなサポートをすることで、社員の気持ちをつなぎ留めることができるかもしれません。
1.要介護(要支援)認定を取得したか?
取得していなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。
2.ケアマネジャーにケアプランを作成してもらったか?
担当のケアマネジャーが分からなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。
3.介護をしながら仕事を続ける上で困っていることはないか?
介護休業・介護休暇の取得や、可能であればテレワークを勧めます。
4.仕事や介護の不安・悩みなどはいつでも相談してほしい
不安や悩みを1人で抱え込む必要はないことを伝え、サポートする姿勢を示します。経営者や上司が継続的に見守り、両立が困難な状況に陥っていないか、社員の心身のケアをします。
5 自社への復職を支援する
介護の悩みは、その社員が置かれた状況によって千差万別で、その状況も刻一刻と変化します。場合によっては、介護休業から復職できず、最終的に離職を選択してしまう社員もいるでしょう。ただ、そうした場合であっても、「状況が変わったら、いつでも連絡してほしい」と伝えておくなどすれば、復職の可能性を残すことができます。
離職した社員の状況などにもよりますが、離職後も定期的に連絡を取り続け、様子を確認するとともに、「会社はあなたのことを気にしている」という思いを伝えることも大切かもしれません。知識や技術を持ち、経験を積んだ社員は会社にとって貴重な戦力です。一から教育する必要がない経験者は、たとえ一度は職場を離れても、戻ってきてもらう価値があるでしょう。
以上(2025年5月更新)
(監修 弁護士 田島直明)
pj00166
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熱中症も労災! 実録 小さな建設業が一人親方と裁判沙汰になった経緯
1 小さな建設業は労災が多い
建設現場では、高所作業や重量物の運搬、重機の使用などが日常的に行われ、墜落・転落、挟まれ・巻き込まれといった労働災害(以下「労災」)が頻繁に発生します。大手ゼネコンのように専門スタッフが常駐して厳格に安全を管理する所もありますが、人的リソースが限られる小規模な建設業では、十分な安全対策ができず、労災が多く発生する傾向にあります。
なかには専門スタッフがいないために、「建設現場で熱中症になっても労災ではない」「突風によるけがは自然現象だから労災ではない」といった誤解から、違法な対応が行われてしまうケースも少なくありません。
2 小さな建設業で起きた労災の落とし穴「4選」
次のリンクから、現役社労士が直面した小さな建設業で起きた労災の事例をベースに、労災に対するよくある誤解を取り上げた記事をご覧いただけます(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
以上(2025年6月作成)
pj00756
画像:ChatGPT
【労災の落とし穴(建設業)】 一人親方の労災は元請には関係ない?
この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「一人親方の労災を『自社には関係ない』と放置していたら、後に損害賠償を請求されてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 「一人親方の労災だから関係ない」と思ったら、後になって損害賠償請求が……
Dさんは、特定の会社に属さずに働く「一人親方」です。ある日、Dさんは住宅の建築工事で床や壁に合板を埋め込む仕事を依頼され、作業中に2階から転落、骨折などの大けがを負いました。けがを負った理由の1つは、作業場に転落防止ネットが設置されていなかったからでした。
Dさんに仕事を依頼した元請会社の社長は、彼の見舞いに行った際、「Dさんはたしか労災保険に特別加入しているよね。だったら治療費も労災保険から出るから心配ないよ」と告げました。しかし、社長から一言もわびがないことに怒ったDさんは、その後「転落防止ネットが設置されていなかったから負傷した」と、元請会社に損害賠償を請求。裁判所は「Dさんに対する安全配慮義務を果たさなかった」として、元請会社に賠償金の支払いを命じました。
2 一人親方であっても安全確保のための措置は必須!
労災保険は本来、会社に雇用される社員が加入するものですが、一人親方のように、社員ではないが業務の関係上事故に遭う可能性が高い人は、一定の要件を満たす場合、例外的に労災保険に加入し、保険給付を受けることができます。これが「特別加入」という制度です。
ただ、注意しなければならないのは、
一人親方が労災保険に特別加入しているかどうかに関係なく、元請会社は一人親方が現場で働く人が労災に遭わないよう、一定の措置を講じなければならない
という点です。具体的には
- 注文者(仕事の全部または一部を他者に依頼する者)
- 事業者(自社の雇用する労働者に作業をさせる者)
- 特定元方事業者(発注者から直接建設等の仕事の依頼を受ける元請会社)
について、それぞれ図表1の措置を講じることが義務付けられています。
一人親方が労災事故を起こした場合、元請会社の社長の中には「一人親方は労働者じゃないから、うちは関係ない」と思われる方もいます。確かに、基本的には一人親方が現場で怪我や病気になっても、元請会社が労災の責任を肩がわりする必要はありません。
しかし、最近はフリーランス新法が改正されたこともあり、元請会社に対する「安全配慮義務」が強化されています。適切に対応できない場合、契約が成立しなかったり、安全管理上の義務違反とみなされたりと、事業者や管理者が法的な責任を負うリスクがあります。
Dさんに仕事を依頼した元請会社は、「注文者」であり「特定元方事業者」でもあるので、建設物等を使用させる場合の労災防止措置や、危険な場所における危険防止措置などを講じなければなりません。作業場に転落防止ネットが設置されていなかったのは、元請会社がそうした義務を十分に果たしていなかったことの証明になってしまいます。
3 社員も一人親方も、安全管理においては同等に扱う
社員も一人親方も同じ建設現場で作業をするのであれば、
社員も一人親方も、安全管理においては同等に扱うのが基本
です。Dさんのケースであれば、転落防止ネットを設置する他、安全に作業をするための指導(ヒヤリ・ハットの説明など)も併せて行うべきです。
なお、一人親方などを一定の危険有害な作業(化学物質を取り扱う作業、粉じん作業など)に従事させる場合、図表2のように健康障害を防止する措置を講じることが義務付けられているのでこちらも押さえておきましょう。
以上(2025年6月作成)
pj00762
画像:ChatGPT
【分かりやすい原価計算(2)】原価の区分~原価計算特有の費用の分け方
1 原価を分解すると見えてくる利益のカタチ
2 販売数で変わる1皿当たりの原価
3 原価計算で使う費用の分け方1:直接費と間接費
4 原価計算で使う費用の分け方2:変動費と固定費
5 変動費と固定費を分けるのは手間がかかる?
6 業種別の勘定科目の情報がとても参考になる
7 100点満点はあり得ない。悩まずにやってみる!
1 原価を分解すると見えてくる利益のカタチ
それでは前回と同様に、回転寿司店で利益や1皿当たりの原価を考えてみましょう。まず、月の利益がトントンになる売上高・販売数量(皿)はどれくらいでしょうか。考える際の前提条件は以下の通りです。
- 販売単価(皿当たり):100円
- 材料費(皿当たり):ネタは65円、シャリは5円
- その他、料理人の人件費(1カ月当たり):21万円
- 寿司ロボットのリース代(1カ月当たり):24万円
1皿食べてくれる(売れる)と、材料費を引いて、いくらもうかるでしょうか?
販売単価100円-材料費(65円+5円)=30円
何皿食べてくれると、人件費・家賃が賄えるでしょうか?
(人件費21万円+リース代24万円)÷1皿当たりの利益30円=15000皿
15000皿×100円=150万円
この150万円が月の利益がトントンになる売上高、いわゆる「損益分岐点売上高」です。仮に、1家族4人で、1人が10皿ずつ食べてくれるとすると、1家族40皿となり、
15000皿÷40皿=375家族
と計算できます。つまり、1日で、12家族(≒375家族÷31日)が来店してくれると利益がトントンになるということになります。
2 販売数で変わる1皿当たりの原価
1)15000皿売れた場合の、1皿当たりの原価
ネタやシャリの材料費は、1皿当たり(70円=ネタ65円+シャリ5円)がはっきり分かります。
しかし、人件費やリース代はそう簡単にはいきません。人件費は1カ月当たり21万円、リース代は1カ月24万円かかります。これらの費用は、お寿司の売れ行きに関係なく、つまり何皿売れたかにかかわらず決まった額が発生します。このため、1皿当たりどれだけの費用がかかったかは正確には分かりません。
では、どうするかというと、ここでは1カ月15000皿売れれば利益がトントンになるということなので、この販売数で1カ月の人件費とリース代を割って、1皿当たりの費用を出すことにします。
- 人件費(1皿当たり)は、21万円÷15000皿=14円
- リース代(1皿当たり)は、24万円÷15000皿=16円
これで全ての原価について、1皿当たりの計算ができました。このように、原価計算や管理会計では、もともとある数値を目的に合わせて基準を設定し、加工することが必要になります。1カ月15000皿売れた場合の1皿当たりの原価は、
材料費70円+人件費14円+リース代16円=100円
となります。
2)30000皿売れた場合の、1皿当たりの原価
ネタやシャリの材料費(1皿当たり)は、30000皿のときも同じで、65円+5円=70円です。人件費とリース代は、それぞれ、
- 人件費(1皿当たり)は、21万円÷30000皿=7円
- リース代(1皿当たり)は、24万円÷30000皿=8円
となります。
このように、販売数によって1皿当たりの原価は変わってきます。そして、販売数が増えるほどに、1皿への割り当てられる費用が減って、原価が安くなります。これが、経済学の「規模の経済」につながる話です。
3 原価計算で使う費用の分け方1:直接費と間接費
上記を見ていただいて気付かれた方もいらっしゃるかもしれません。費用によって1皿当たりへの割り当て方が違ってきます。実は、原価計算を行うため、また、管理会計の手法を活用していくための準備として、それぞれの費用を大きく2つに分ける必要があります。
まず、製品との関係が直接紐づく費用です。これを、「直接費」と呼びます。もう1つは製品との関係が分かりづらく、紐づきが間接的にしか分からないような費用があります。これを「間接費」と呼びます。
原価を計算する場合、直接費は製品に直接割り当てることができます。これを、直課と呼びます。回転寿司の原価でいえば、ネタ、シャリが直接費に当たります。これらは、1皿ごとに費用を割り当てることができます。
一方で、間接費は製品との紐づきが明らかではないので、何かしらの基準で割り当てるしかありません。これを配賦と呼びます。回転寿司の原価でいえば、人件費やリース代がこれに当たります。先ほどは、販売皿数で1皿ごとに割り当てていきました。
人件費やリース代のいずれも、販売皿数には連動しないで決まった額が費用としてかかっています。このため、販売皿数によって1皿ごとの費用が変わってくるのです。
4 原価計算で使う費用の分け方2:変動費と固定費
もう1つ原価計算、管理会計に特有の費用の分け方があります。具体的には、費用について「売上と連動するかどうか」という点に注目します。
まず、売上が増えたり減ったりすれば、それに連動して同じように増えたり減ったりする費用を「変動費」と呼びます。もう一つは、売上に連動しない費用です。つまり、売上が増えても減っても関係なく、決まった額だけかかってしまうような費用を「固定費」と呼びます。実務でも比較的使われる言葉ですので、皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれません。
また、先ほどの直接費と間接費と似たような感じをうけられた方もいるかもしれません。このシリーズでは学問的な正確性は置いておいて、中小企業の原価計算・管理会計において、直接費と変動費、間接費と固定費は、同じと考えていきましょう。
5 変動費と固定費を分けるのは手間がかかる?
それでは、会社の損益計算書から費用を変動費と固定費に分ける方法を見ていきましょう。これには主に2つの方法があり、「勘定科目法」と呼ばれる方法と、「最小二乗法」と呼ばれる統計的な方法とがあります。
ここでは、基本であり、手間が少ない勘定科目法を見ていきます。なお、もう1つの統計的な方法は、エクセルで簡単にできて実務での使い勝手も良いものです。すでに勘定科目法に取り組んでいる方は、トライしてみるのもお勧めです。
勘定科目法は、試算表の中で、勘定科目によって、これは変動費、あれは固定費かなというふうに分けていく方法です。なかには同じ科目の中に売上に連動する項目と、連動しないで決まった額が発生するものの両方が含まれていることもあります。その場合は、さらに細かく、総勘定元帳まで遡って見ていくこととなります。
6 業種別の勘定科目の情報がとても参考になる
勘定科目法を使うにあたって、事業内容が理解できているベテランの方であれば、比較的簡単に変動費と固定費を分けていけるのではないでしょうか。ただ、経理経験の浅い方や事業内容の理解がまだまだであると、判断に迷ってなかなか作業が進まないことにもなりかねません。
そのようなときには、中小企業庁が出している変動費と固定費の分解の情報が参考になります。
製造業、卸・小売業、建設業という3つの業種別に、勘定科目ごとに変動費と固定費に分けられています。
例えば、卸・小売業の場合に、売上原価は変動費、販売員給料手当は固定費となっています。また、卸売業では車両燃料費は50%が変動費で、残り50%が固定費というように、勘定科目の中に変動費と固定費が混在しているものにも対応しています。
さらに、これを見ると同業種の勘定科目ごとの変動費・固定費の傾向が分かるので、比較することで自分の会社の特徴が理解できるようになります。
7 100点満点はあり得ない。悩まずにやってみる!
ここで1つ大事なのが、変動費と固定費の分解はあまり悩みすぎないということです。
そもそも変動費と固定費というのは、100点満点の正解があるわけではないからです。例えば、工場の電気代や水道代なんかも、普通、製造量が拡大すれば増えていくはずです。しかし、実際は基本料金のようなものも含まれていて、決まった額発生する部分と、売上や製造活動と連動する部分に分かれています。これを準変動費と呼びます。
また、固定費の中にも、ある一定水準までは定額だけれど、それを超えると、もう1ランク上の金額で定額になるというような準固定費と呼ばれるものがあります。
「まずはあまり悩まないでやってみる」というのが、中小企業の実務を知る立場からのアドバイスです。まずは分けてみて、実際に使ってみて、役に立つかどうか。活用した後で、調整していく進め方で十分といえます。
以上(2025年5月更新)
pj35141
画像:Shutter z-shutterstock