社内表彰制度の作り方と考え方

書いてあること

  • 主な読者:社内表彰制度の導入を検討する経営者
  • 課題:自社に合った社内制度の設け方を知りたい
  • 解決策:表彰をする目的から、それに合った社内表彰制度を考えてみる

1 社内表彰制度とは

社内表彰制度とは、永年勤続表彰をはじめとして、業績表彰・皆勤表彰・改善提案表彰といった、企業の内部で行われる各種表彰制度の総称です(以下「表彰制度」)。

根本的には、どの表彰制度も「顧客サービスの向上」「社員の一体感の強化」「コーポレートブランドの強化」などの目的を持つ、いわゆる「インセンティブ制度」の一種といえます。

同じインセンティブ制度であっても、内容や基準の違い、個人に対するものかグループに対するものなのかなどにより、それぞれの表彰制度が社員に与える効果は異なります。そこで本稿では、主な表彰制度を分類し、それぞれの役割や効果、適切な運用方法について考えます。

2 表彰制度の分類

多くの企業が、さまざまな表彰制度を設けています。表彰の目的からそれらを分類すると次のようにまとめることができます。

  • 業績達成のための表彰制度
    営業成果表彰(売り上げ、新規顧客の獲得など)、営業目標達成表彰、顧客紹介キャンペーン
  • 社員のモラールを向上させるための表彰制度
    皆勤表彰、無事故表彰、永年勤続表彰、善行表彰
  • 社業に貢献するための表彰制度
    アイデアコンテスト、改善提案
  • 企業の節目に際して行う表彰制度
    創立記念日
  • 社員の節目を祝うための表彰制度
    定年退職記念、誕生日記念

なお、この分類は、表彰制度の一次的な目的に基づいてまとめています。例えば、皆勤表彰は、「社員のモラールを向上させるための表彰」だけではなく、社員のモラール向上が生む生産性の向上により「業績達成のための表彰」につながるとも考えられますが、こうした二次的な目的では分類していません。

3 目的に応じた表彰制度の効果と運用方法

1)業績達成のための表彰制度

企業の売り上げや利益を伸ばすための表彰制度です。「コンテスト」などの形で取り入れる企業が多いようです。

運用方法としては、営業コンテストの場合、社員個人やチーム単位で次のような方法を取っているようです。

  • 通常の業績評価と同様に、商品の売り上げや販売数で順位を付ける
  • 商品ごとに販売ポイントを設定して、累計ポイントで順位を付ける

こうした表彰制度は、たとえコンテスト形式にしたとしても、上司の販売促進姿勢が強くなりすぎたり、社内に過度の緊張感が漂ったりして、社員から不満が出ることも考えられます。こうした不満を少なくするためには、ビジネスの「生々しさ」を極力抑えたポイント制などによって、評価を決定するとよいかもしれません。

また、営業職以外の社員をコンテストに参加させる際に、特に気を付けるべき点として、明らかに達成が困難なノルマを設定しないことが挙げられます。

普段、営業をすることのない総務・経理といった間接部門の社員に明らかに達成が困難なノルマを設定すると、「専門外の仕事」をさせられているという不満が募り、表彰制度は、かえって社員のモチベーションを下げる結果に終わってしまう可能性があります。こうした不満をできるだけ抑え、かつコンテストで一定の成果を上げるには、チーム単位で競わせるのも良い方法といえます。

さらに、間接部門の社員をコンテストに参加させる際は、表彰の敷居を低くするために次のような工夫も必要でしょう。

  • 知人などの中から見込客を営業に紹介した時点でポイントを付与する
  • 消費者向けに販売しやすい安価な商品をコンテストの対象にする

なお、表彰する社員に与える報奨は、業績という企業の成果に直結する制度の場合、品物ではなく、報奨金にするケースが多くなっています。一人に対して支給する報奨金の金額は企業によってさまざまです。報奨金以外では、海外旅行を報奨としている企業もあります。要は、社員がやる気を出してくれるだけの魅力ある報奨を用意することが大切といえるでしょう。

2)社員のモラールを向上させるための表彰制度

企業や仕事に対する社員のモラールを高めるための表彰制度です。こうした表彰制度には、職場の雰囲気を良くし、社員の企業に対する帰属意識を高める効果があり、これらを通じて業績を向上させる効果もあります。例えば、無事故表彰によって事故が減り、車の修繕費が節減され、利益が増加するなどのメリットがそれに当たります。また、管理職を対象に、ダイバーシティや部下との円滑なコミュニケーションなど、ワークライフバランスに関する取り組みを表彰している企業もあります。

しかし、こうした表彰制度が持つ業績を向上させる効果は、あくまでも二次的なものです。経営者がこの効果に期待を寄せるのは当然かもしれませんが、社員にまでその認識を押し付けるのは得策とはいえません。多くの社員は、これまで頑張ってきたことを企業に素直に評価してほしいと思っているものです。

従って、この表彰制度では、本来の目的であるモラールを向上させるために、次の点が大切になります。

  • 全ての社員に「まじめにやれば報われる」という希望を持ってもらう
  • 全ての社員に平等にチャンスを与える

このような観点から、こうした表彰制度では、皆勤賞や永年勤続表彰など、仕事の能力自体よりも、むしろコツコツ続ける毎日の努力に対して表彰を行うべきといえます。無事故表彰の場合は、「◯年以上無事故」「○年間皆勤」を達成すれば表彰するといった具合に、「継続こそ力である」という趣旨で制度を定めるのがよいでしょう。

なお、こうした表彰制度の報奨は、国内旅行、小額の報奨金、時計などの記念品、商品券、文具などが多いようです。

3)間接的に社業に貢献するための表彰制度

社員からさまざまなアイデアを募集するコンテストや、書類の整理方法の工夫・日常業務の効率化などを表彰する制度です。

こうした表彰制度は、本業に閉塞しがちな社員の頭の中を切り替えられるとともに、日々の業務以外にも企業にとって必要な活動があることを社員に示すことができます。一方、間接部門の業務改善提案などは、ルーティン化している業務に新しいアイデアを取り入れ、生産性を向上させる可能性があります。

なお、アイデアや改善提案の評価方法には「提案の優秀性」「年に何件提案したかという回数」などがあるでしょう。

また、提案の方法としては「個人による提案」「部や課、チームなどのグループによる提案」などがあるでしょう。映画館の1シアターを貸し切り、事前に書類選考で選ばれた候補者を集めて大会形式のプレゼンテーションを行っている企業もあります。どの方法を取り入れるかは、それぞれの企業の組織形態や業務の進め方などに沿って検討するのがよいでしょう。

改善提案やアイデアコンテストの報奨は、次のような基準で報奨金を支給する企業が多いようです。

  • 提案の質に応じて500円程度から10万円程度の報奨金
  • 規定の提案件数を満たした上で一定の水準以上の提案者に一律5000円

なお、ニュービジネスに関するアイデアなど、直接売り上げに結びつく可能性があるものは、一般に報奨金の金額も高く、50万〜100万円といった高額の報奨金を支給している企業もあります。また、賞金だけでなく、トロフィーや特別休暇などを賞品として授与しているところもあります。

4)企業の節目に際して行う表彰制度

創業記念日などの企業の節目に際して行う表彰制度です。この節目に際して永年勤続を表彰する他、企業がこれまで業績をあげるのに貢献してきた社員に対して感謝の気持ちを伝える行事を行ったり、創立記念日を制定したりすることもあるようです。

創業記念の場合、大企業などでは盛大な行事を開くところもあるようですが、中小企業ではお菓子などの簡単な記念品の配布や、パーティー、社員旅行などの社員全員で楽しめる企画を実施することが多いようです。

5)社員の節目を祝うための表彰制度

誕生日、結婚記念日など、社員の人生の節目を祝う表彰制度です。

記念日を迎えた社員に、企業から贈り物をするのがこの表彰の趣旨です。社員に対する細かな心配りができるかが、この表彰制度の正否を左右するといえるでしょう。

ケーキ(誕生日)、筆記用具(成人式)、書籍、アルバムなど、多くの費用をかけなくても「気持ちの通じるもの」を贈るとよいでしょう。また、表彰制度と併行して、誕生日、結婚記念日などに特別休暇を与える制度も実施すれば、休日増加策としても利用できます。

4 社内表彰を行った場合の税制上の優遇措置

社内表彰を行った場合に支給する記念品などは、次に掲げる用件を満たしていると、給与としての課税をしなくてもよいことになっています。

1.創業記念などの記念品の場合

  • 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること
  • 記念品の処分見込価額による評価額が1万円(税抜き)以下であること
  • 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること

2.永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用

  • 勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること
  • 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること
  • 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること

なお、記念品を支給したり旅行や観劇に招待したりする代わりに現金や商品券を支給する場合、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

以上(2018年12月)

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日本でたった一人? 起業+事業開発20回以上のキャピタリストの宮嵜太郎さんのお話/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い起業家は宮嵜太郎さんです。

私もHPに“仲間”としてご掲載いただいているベンチャーキャピタルがあります。そこに私のご縁でジョインされた宮嵜さん。その経歴はまさに波乱万丈なのですが、その一端としてHPに掲載されている宮嵜さんの経歴をご紹介します。

“中学卒業後、丁稚(でっち)奉公として造園業に3年間従事。その後、営業経験を積むために就職。24歳のときに故郷である福岡に戻り起業。約12の事業を手掛けるが、知識や情報・経験の不足から多くの失敗を経験。資金も限られることから開業資金10万円で可能な事業を模索し、(株)豆吉郎を創業。豆腐の移動販売事業をフランチャイズ(FC)モデルにて展開。約700名のフランチャイジーと契約し、全国最大の移動販売組織を構築。2017年7月に同社を西日本新聞社に売却し、当社へ参画。”

●会社HP
http://www.kppartners.jp/aboutus.html

一目見ただけで「宮嵜さんに会いたい!」と連絡が入るほどのユニークな経歴。起業+買収+事業開発、アルバイトや業務委託を含めると、多業種にわたるビジネス経験が20回以上に及び、30代でありながら中学を卒業後に“丁稚奉公”の経験まであるという宮嵜さん。今回のインタビューで、とてもチャレンジングな“起業&企業家半生”について語っていただきました。

1 まずは大切な2つのこと

最初に、今回のインタビューを通じて感じた、最も重要で感動したこと2点を紹介します。それは、これまで起業や経営をしてきている中で、たった一度も、

  • 従業員への給与遅配が無い
  • 取引銀行への返済が滞ったり、リスケをしたりした経験が無い

ということです。

企業経営をしていく上で、この2点は本当に重要なことだと思います。顧客満足の前に社員満足。社員を大切に、そして自立心を持った社員の皆さんと一緒に事業を創っていく。そこを大事にしていたそうです。そして信用。金融機関との信用づくりも欠かせない。だからこそ、「借りたものは返す」という当たり前のことを徹底して信用づくりにこだわったそうです。

では、次章から宮嵜さんの目まぐるしい “起業&企業家半生”を、企業経営で大切なエッセンスを交えつつご紹介していきます。

宮嵜さんの画像です

2 幼稚園時代から営業経験?!

中学卒業後の起業経験を聞く前に気になったのが、幼い頃の話です。そこに「原点というか、ポイントがあるのでは?」と感じて最初に聞いてみたら、やはりあったのです。ビックリするエピソードが。

宮嵜さんは、なんと、幼稚園の頃からお父さんの造園業の営業を開始したそうです。『庭木の消毒は要りませんか?』と、5歳の子供が1軒、1軒を営業するというお話。お父さんから水筒を首に掛けられ、『お父さんは、今日1日この家で仕事しているから、隣の家からまわって来い!』と言われたそうです。

最初はよく分からないながらも営業を開始。途中からはコツをつかみ始めます。それが興味深いのですが、ピンポンとベルを鳴らした後、インターホンでは何もしゃべらず、無言で玄関の前で待っているのだそうです。すると、住人が出てきてビックリするわけです。「なんと子供が営業に来た!」と。そこで住人に話を聞いてもらうことができ、随分お父さんの仕事につながったというのですから驚きです。営業はちょっとした気づきと改善が必要ですが、そうした営業職としてのセンスが5歳の頃から開花していたのだと納得。そこから小学校に行きながら、営業職としての活動を続けたそうです。

3 短かった高校生時代の家出から京都での丁稚奉公経験

少年時代、学校に行く意味をあまり感じていなかった宮嵜さん。でも高校くらいは行こうと思って入学するも、やはり学校の勉強に興味は持てなかったそうです。そして、明日からテストという日、片道分の交通費だけ持って家出をし、福岡から大阪に向かったのでした。

ボクサーに憧れていた宮嵜さんは、大阪のボクシングジムに入ろうと門をたたきますが、門前払いされてしまいます。学生服を着たまま1週間ジムの近所の公園で寝泊まりしながら、入門を訴えるも許可はされなかったそうです。

仕方なく福岡に戻りますが、その後高校を中退し、アルバイトを転々としました。土木会社、飲食店、塗装会社、ガソリンスタンド、日雇い作業員など多数を経験しますが、「10年後も同じ状況で生活していてはいけない」と思い立ち、福岡から大分へ向かいます。そこで仕事をしながら、もっと遠くへ行こうと思い、今度は京都の造園会社に飛び込みで丁稚奉公を志願します。

当初は福岡からということもあり、正規の段取りは「作文を書いて郵送、審査」というものでしたが、それも無視して、着の身着のまま無一文で京都に行ったそうです。思い立ったら即行動。本当に行動力が半端ではありません。造園業での給与は当時6万円くらいで、それだけでは生活がままならないため、夜は中華料理店、土日は別の造園業者でアルバイトをしていました。

4 訪販営業で全国1位の営業マン時代

21歳になった頃、庭木の仕事は一通り習得していました。しかし、将来に不安を感じていた宮嵜さんは、「営業を勉強しよう!」と思い立ち、またもや全く土地勘の無い東京の渋谷へカバン1つ持って向かいます。『渋谷には何かあったのですか?』と質問すると、『東京だったら渋谷でしょ』という返答。渋谷に着いた頃は真冬の1月だったそうですが、ビルの駐輪場に2週間も野宿をしながら職探しをしていたそうです。

見つけたのは訪問販売の仕事。幼稚園時代の営業経験が復活し、2カ月目には全国1位の営業成績となっていったそうです。以来3年間、ずっとトップの成績を継続しながら、3年目には副業で介護用品のレンタル事業も行っていたと言います。

どうして営業成績1位になれたか聞いてみると、『周りの営業マンは自社の商品を売ることだけ考えていましたねぇ。私は、造園業の経験を生かして、無料で庭木の手入れをして喜んでもらって購入につなげていました。買ってもらうよりも先に、サービスをしていた、ということだと思います』と笑顔で語ります。「5歳からの営業経験は伊達じゃない」と感じました。

5 スクラップ&スクラップの連続から九州全域をカバーする事業開発へ

24歳のときに結婚。それを機に、福岡へ戻った宮嵜さんは個人事業主として、藤吉郎(後に豆吉郎に変更、法人化)を創業しました。屋号へのこだわりは、木下藤吉郎がどんどん出世していったことへの憧れからだそうです。

起業後は米の配達、レンタカー業、物干し竿の移動販売、広告代理業、半年後には法人化、食品の移動販売業、赤字を補うために造園業、古紙回収業とさまざまな事業をやりながら方向性を探り、29歳で豆腐の移動販売に事業を集中しました。

30歳の頃には、豆腐の移動販売で本格的にFC展開を開始し、早い段階で九州全域をカバー。広島エリア、大阪、福島県にまで事業を一気に拡大しました。なんと、50の事業所を開設し、25事業所を撤退したそうです。まずやってみて、ダメならすぐに撤退することを実践していました。

33歳の頃には事業拡大とともに、社員の自立化が図れて、社長業に余裕が出来たことから、新規事業の開発や子会社設立などを5社ほど経験。売却、統合、解散したそうです。飲食業界に進出して11店舗を10カ月で開業、9店舗を1年で閉店、外貨両替機の運営会社を設立するも設置場所が確保できずに撤退、忍者体験事業に進出するも撤退と、本当に目まぐるしい感じです。

●豆吉郎HP
https://www.toukichirou.club/

豆吉郎のホームページの画像です

6 事業売却からキャピタリストを選んだワケ

「自身の車1台から始めた食品の移動販売業は業績も好調。でも、もともと豆腐の事業をやりたくて起業したわけではない、自分はこのまま事業を続けるのか?」。そんな自問を35歳の頃に繰り返していた宮嵜さん。その頃にM&Aの仲介会社から複数声が掛かるようになっていたそうです。本業の移動販売は社員に任せていても大丈夫なほど仕組みが完成していたこの頃、「今だったら売却しても引き継ぎ先に迷惑も掛からない」と判断しました。大手コンビニからも手が挙がるほど多数の候補先から、売却先として地元の新聞社を選定したそうです。

事業売却後に、M&A仲介企業や、他社から社長候補としての声が掛かる中、宮嵜さんは「勤める、経営者になる、投資家になる」という3つの中から方向性を悩んだそうです。前者2つは経験済みだが、投資家になったことはないと考え、いきなり自分だけで投資をスタートするのではなく、どこかで勉強したい、経験を積めるところ、ということで、たまたま私がご紹介したベンチャーキャピタルに合流することになった次第です。

今後、起業家・事業家に復帰する可能性を残しつつも、逆に起業家を支援する立場でチャレンジをしていきたいと宮嵜さんは言います。これだけの幅広い経験を持つキャピタリストはなかなかいないと思います。起業家の立場に立ったアドバイスからスーパーハンズオンのキャピタリストとしてご活躍されることと思います。

またこれまでの経験を、スピーカーの立場として発信されることになりそうです。これからの半生も楽しみな宮嵜さんです。

以上(2018年11月作成)

【朝礼】業務のメリハリで分かる会社のレベル

いわゆる「チャットツール」の進化によって、以前に比べて連絡を取りやすい環境になりました。かつては電話や電子メールで連絡していたことでも、簡単な内容であれば要件を打ち込むだけで関係者に伝えることができます。非常に便利なものです。

一方、チャットツールの進化によって新たな問題が生じています。それは平日の遅い時間や休日でも、仕事の連絡が手軽にできてしまうことです。「通知を見るくらいだから負担にならないだろう」「嫌ならば通知をオフにしておけばよい」というのが、平日の遅い時間や休日に連絡をする人の言い分です。しかし、これは一面的なものの見方です。

もう一方から見ると、「いつ会社から連絡がくるか分からない」という状況がプレッシャーとなり、安心して休めないと感じる人がいるのです。気軽に使えるからこそ、チャットツールをビジネスで利用するときには配慮が必要であるということです。

まだ携帯電話が普及していなかった頃、頻繁にポケットベルが鳴り、そのたびに公衆電話を探していた上司を私は見てきました。携帯電話が普及した後は、出先で会社や取引先とひっきりなしに連絡を取っている同僚を見てきました。そして今は、平日の遅い時間や休日にチャットツールを使って業務連絡をしている皆さんを見ています。ツールは違っても、やっていることは同じです。

中期的に私たちが目指しているのは業務効率化です。チャットツールの進化で連絡を取りやすくなったとはいえ、今の煩雑な業務連絡の状況は効率的とはいえません。

皆さんに知ってほしいことは、仕事のできる人と外出したり、打ち合わせをしたりしているとき、その人に連絡がほとんど入らないことです。それは、外出などをする前に引き継ぎをしっかりとしているからです。「引き継ぎ」というと難しく聞こえるかもしれませんが、多くの場合、「外出中にA社から連絡があったら、○時に折り返すと伝言してください」と伝えておく程度のことです。

就業時間外についてはなおさらです。平日の遅い時間や休日に連絡しなければならないのは、本当に重要なことに限られます。突発でそうした事態が発生したのなら仕方がないですが、ちょっとしたメモ程度のことを通知するのはマナー違反なのです。

このように、皆さんの気遣いで全体的な業務にメリハリを付けることができます。そして、今の時代、気遣いをする範囲はチャットツールにも及ぶということです。

今年も残りわずかとなりましたが、この年末年始の休暇を皆さんにしっかり休んでほしいと思っています。休暇中、仕事の連絡をする必要がないように、今からきちんと準備をしてください。足元だけではなく、仕事始めの状況も想定し、準備をしておくことが大切です。

以上(2018年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

ベーカリーの開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:ベーカリーの開業を検討している経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 ベーカリーの概況

パンの小売業は製パン工場からパンを仕入れる「仕入小売型」と、自店で製造する「製造小売型」(以下「ベーカリー」)に大別されます。本稿では、ベーカリーの概況と開業に当たってのポイントおよび開業収支シミュレーションを紹介します。

1)パン小売業(製造小売)の統計の推移

総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」および経済産業省「商業統計」によると、パン小売業(製造小売)の事業所数などの推移は次の通りです。

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2)パンへの1世帯当たり年間支出金額

総務省「家計調査年報(家計収支編)」によると、パンへの1世帯当たり年間支出金額の推移は次の通りです。なお、家計調査の値には、ベーカリーだけではなくスーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、他業態で購入したパンへの支出金額も含まれています。

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3)原材料費の動向

近年、パンの原材料となる製品の価格は上昇傾向にあります。例えば、農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」によると、輸入小麦の政府売り渡し価格の推移は次の通りです。

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日本では、パンの原材料となる小麦の多くを輸入に頼っており、輸入小麦の売り渡し価格は農林水産省が直近6カ月間の平均買い付け価格を基に算定しています。

4)ベーカリーの競争力

スーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、異業態の店舗でも品質の高いパンを販売しており、ベーカリーにとって競合は激しくなっています。

焼きたてのパンを販売するベーカリーの特徴は、工場で生産されたパンより風味や香りで勝ること、製造から販売までを一貫して行う製販一貫体制であることなどがあります。これらの特徴を最大限に生かせるよう工夫することが重要です。

一般に、食品などの最寄品販売の商圏は、半径500メートル~1キロメートル程度の近隣商圏といわれていますが、ベーカリーは競争力を高めることで、商圏を広げることが可能です。地域で評判の店舗になれば、その商圏は半径2~3キロメートル、またはそれ以上の地域商圏を見込むことも可能となります。また、近隣に学校や事業所が多ければ、サンドイッチなどの調理パンを展開することで、中食市場への参入が可能となります。

2 ベーカリー開業に当たってのポイント

1)開業立地

パンは最寄品であるため、基本的には近隣商圏で成り立ちます。そのため、ここでは「近隣商圏として半径1キロメートル程度」を見込むこととします。

競争力を発揮するには、それにふさわしい開業立地を選定することが必要です。望ましい立地の条件として、次のような点が挙げられます。

  • 顧客となる人口が十分にいる地域であること、また、将来的に人口の増加が見込める地域であること
  • 分かりやすい場所で交通事情がよく、来店しやすいこと
  • 競合する店舗が集中していない場所であること
  • 店舗開設に支障がなく、比較的安価に物件を取得できる場所であること

具体的な立地候補地としては、「駅前」「主要商店街」「住宅や事業所の集積地」「ショッピングセンターなど大型店舗内」などが考えられます。

なお、ショッピングセンターなどにテナント出店する場合は、「ショッピングセンターの集客力に大きな影響を受ける」「テナント料が必要になる」「販売促進や営業時間など店舗運営に一定の制約を受ける」といった点に注意が必要です。

2)ベーカリーの開業に当たって他店と差異化を図るポイント

1.手作り感や焼きたて感の訴求と品ぞろえの充実

ベーカリーの特徴は、自店で手作りしたパンを焼きたてで提供できることです。店頭に看板やのぼりなどを立て、手作り・焼きたてのパンを提供していることをアピールする他、店内では営業時間内でもパンを製造して、焼きたて感のあるパンを定期的に陳列するとよいでしょう。また、ベーカリーは、顧客ニーズに対応した商品を独自で開発することができます。顧客ニーズを把握し、品ぞろえを充実させることは、他店との差異化につながります。

2.お買い得感の演出

価格を下げ、価格を訴求することは他店との差異化につながりますが、量産品のパンを扱うスーパーなどのほうが、比較的容易に価格を下げることができるため、価格での競争は難しいのが実状です。従って、商品の全てを低価格にするのではなく、日替わりの一部の商品を特売価格で販売するのもよいでしょう。

3.来店のしやすさの向上

来店しやすい場所に出店することが重要です。さまざまな場所でパンが売られるようになっているため、開業に当たっては事前に地域の人口の把握や交通量など、条件にかなう立地であるかどうかを慎重に調査しなければなりません。また、ロードサイドに出店する場合は、自動車で来店する顧客が多いため、駐車場を設けた上で、視認しやすく駐車が容易であるように配慮することも欠かせません。

4.イートインスペースの設置

「買ったパンをその場で食べたい」「カフェのように休憩などの用途で利用したい」などのニーズがあることから、イートインスペースの設置は顧客の増加につながります。イートインスペースを設置する際は、イートインスペースがあることを、のぼりやチラシなどで訴求することが重要です。また、ドリンクメニューを設ける必要がありますが、「当店オリジナル手作りジュース」など自店独自のメニューがあれば他店との差異化が図りやすいでしょう。

その他、イートインスペースを設置することで店内の陳列スペースが不足し、品ぞろえが不十分となって顧客の減少を招くことのないよう、自店の店舗面積などに応じて慎重にイートインスペースの設置の有無やスペースの広さを検討しましょう。

3 新規開業収支を考える

1)前提条件

1.賃借料

賃貸物件に入居、賃借料年額300万円(賃借料月額25万円)

2.保証金・敷金

賃借料の6カ月分で150万円とします。

3.店舗造作費

店舗造作費を1200万円(1坪当たり40万円で30坪)とします。

4.厨房等設備費

厨房等設備費(冷蔵庫、オーブン、作業台など)を800万円とします。

5.開業費

200万円(広告・宣伝費・その他)

6.売上高

4270万円(前出の経済産業省「経済センサス」の1事業所当たり年間商品販売額)

7.パン製造小売の場合の原価率

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の売上高総利益率53.9%を参考に、原価率を46.1%とします。

8.固定費

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の人件費対売上高比率34.8%を参考に、人件費を1486万円(4270万円×34.8%)とします。

その他の諸条件は次の通りとします。

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2)収支シミュレーション

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4 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2017」によると、パン小売業(製造小売)の経営指標は次の通りです。

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以上(2018年10月)

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営業最強フレーズ集 困ったとき編1 土壇場で「値下げせよ」と言われたときの一言

この内容で、これ以上のお値引はできません

「今月はノルマがきつくて……」

決まり文句というのは、どこにでもあるものです。例えば、昔の営業担当者は「今月のノルマが厳しくて……」などと言って、懇意にしているお客様に助けを求めたものです。お客様は決まり文句と分かっていながらも、いつも良くしてくれる営業担当者から頼まれると、思わず助けてしまうことがあるのでしょう。

ただし、この営業担当者は同じことを別のお客様にも言っています。ピンチのときにお願いできる先をどれだけ持っているかということは、営業担当者が数字をつくる上で大切なことです。

当然、相手にも決まり文句がある

営業担当者と同様に、お客様の側にも決まり文句があります。内定をもらい、よほどのことが無ければ導入してもらえるという局面で飛び出す決まり文句。そう、「もうちょっと安くならないの?」という一言です。お客様としては、1円でも安く買いたいわけですから、当然のお申し出だといえます。しかも、導入間際の絶妙のタイミングで繰り出してきます。

これを言われると、経験の浅い営業担当者は思わずたじろぎ、「え、いくらくらい下げればいいですか?」などと、真正面から受け止めてしまうことがあります。

しかし、待ってください。内定は予算込みでもらえるもの。ここまできて値引をする必要は、通常の場合は無いはずです。

正当性を伝えましょう

土壇場でお客様から値下げ要請を受けたときに使えるのが今回のフレーズです。

お客様の顔を見て、「今のサービス内容だと、これ以上のお値引はできません」と伝えましょう。このフレーズには、こちらがしっかりとした根拠で金額設定しているという意志が込められています。この局面に至るまでの間、営業担当者はお客様と何度も商談し、条件を1つ1つ詰めてきているはずです。にもかかわらず、ここで簡単に値下げをしてしまうようでは、「もともとの金額は何だったの?」と、逆に不信感を抱かせることになります。

ただし、逃げ道も用意しておく

今回のフレーズは、多少強気に伝えてもよいものです。ただし、実は同業他社が最後の攻勢をしかけてきているかもしれません。お客様側の意思決定権者が値下げを要請している可能性もあります。

こうした事態に対応するために、「サービス内容を変更すれば、値下げの余地はあります。今回、このようなお申し出を受けた理由を教えていただけますか?」と付け加えておきましょう。

決まり文句で言っただけならお客様が引き下がるのが通常です。何か理由があるなら、そこから新しい商談が始まります。

値決めは難しいものですが、主張すべきは主張し、引くべきことは引くを心掛ければ、不要な値下げは必要ありません。

以上(2018年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

株式会社ハッシャダイの「ヤンキーインターン」/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーの目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い会社は株式会社ハッシャダイです。

株式会社ハッシャダイのメーンサービスは「ヤンキーインターン」。自分の考えが固まりきらず、“就社”がゴールになっている人も多い中、たった一度の人生を大切にして、流されず、自立感を持って社会に出ていく若者を支援するサービスです。

同社の概要や、「ヤンキーインターン」に参加する若者を相手に講演して気付いた、ビジネスで本当に大切なことをまとめます。

1 株式会社ハッシャダイとのご縁

株式会社ハッシャダイのことは、私の20代の友人が同社に転職したことをきっかけに知りました。その友人は学生時代に同社でインターンとして活躍し、卒業後は別の会社で社会人生活をスタートしました。しかし、転職という形で同社に戻る道を選びました。

友人から株式会社ハッシャダイの事業概要を聞きながらホームページを見ると、そのインパクトに驚きます。まずは【Choose your Life】の文言から伝わる勢い、そして、画面右下に表示される「ヤンキーインターンに参加の方はこちらから!」というのも面白いです。

2 ヤンキーインターンの概要。そして株式会社ハッシャダイの理念とは?

1)若者の費用は負担なし

株式会社ハッシャダイのビジネスモデルについて詳しく見ていきましょう。「ヤンキーインターン」という響きから、なにか面白いことに出合えそうな予感しかありませんでしたが、詳細を聞くとさらにビックリします。まず、「ヤンキーインターン」の概要は次の通りです。

  • 対象は、中高卒の18~24歳で東京以外在住限定
  • 充実した座学と実践のカリキュラム
  • 参加無料

現在のところ、カリキュラムは6カ月のビジネスコースと、3カ月のハッカーコースの2つがあります。ここに二十数名が集っています(2018年7月現在)。地元を離れることで、今までの人生と全く違った人たちに出会い、大都会東京で濃密なビジネスに没頭する。しかも家賃、食費も負担してもらえ、(提携先企業での)仕事もある。地方の中卒・高卒の若者に、費用を負担させずに社会参加の機会を提供しているのが、株式会社ハッシャダイです。

「ヤンキーインターン」の提携先企業において若者たちが活動し、成果を出すことで株式会社ハッシャダイは収益を上げています。インターン終了後の就職や起業については副次的なものであり、このポイントでの収益化にはとらわれず、対象となる若者の自立にフォーカスしているのです。

2)仕事を楽しむ社会の実現

株式会社ハッシャダイのホームページには、「私たちが目指す世界とはハッシャダイが不要な世界です」という同社代表のメッセージが書かれています。非大卒に光が当たる時代。それが実現すれば、自分たちは不要となり、その時には解散する覚悟が感じられます。逆にいえば、そうなるまでは、“発射台”が必要であるというメッセージでもあるのでしょう。

2018年8月17日時点の株式会社ハッシャダイのホームページです。

仕事を仕事として変に区別するのではなく、大切な人生の一部として捉える。そしてヤリガイや楽しみを得るために仕事ができる人々を増やす。そうした理想を掲げて事業を行っているのだと感じられ、私も強く共感します。

3 講演を通じて感じた若者たちの熱くて真っ直ぐな思い

冒頭で紹介した友人から講演を依頼された私は、若者たちのエネルギーを感じたかったこともあり、二つ返事で講演を引き受けました。そして私は、ほどなく「ヤンキーインターン」に参加する若者たちと向き合うことになったのです。

講演の内容は、「私は人生でどのような選択をしてきたのか。どのような出会いが人生に影響を及ぼしてきたのか。仕事観、人生観等々」です。これらについて、私は“素”の状態で包み隠さずにお話ししました。
当日、私の入室を若者たちの大きく元気な声、声、声のアイサツが迎えてくれました。2時間対話をさせていただきましたが、元気と迫力が半端ではありませんでした。

以前から大学生の皆さんといくども対話する機会がありましたが、全員が私の目を見て頷き、積極的に質問してもらえることは珍しいものです。本当に皆さんからエネルギーをいただきました。少し、社会に背を向けているのかなと感じる若者もいましたが、それはそれで逆に生命力の強さを感じ、これから社会を変えていくのではと期待が込み上げてきました。将来が本当に楽しみです。

株式会社ハッシャダイのハッシャダイポーズの画像です

4 自分の人生への気付きが得られた

講演を通じて、私が何かを教えるというよりも、自分の人生を振り返る良い機会を得た感覚でした。私自身、中学生の頃から「大したことは何もないなぁ」と感じることがありましたが、その都度、一定の「選択」をしてきたからこそ今に至るのだと再認識しました。

講演後にいただいた感想文の中に、『今日の講演会で僕は、学歴もなく、知識もなく、根拠のない自信だけはありました。ですが、方向性が定まっておらず何からすれば良いのかわからないままだったのですが、色んなことに触れて、色んな知見を広げていくことの大事さを学びました』といったものがありました。この感想文を読み、私自身も「チャレンジ」や「経験」の大切さに改めて気付かされました。また、この他にもたくさんの熱い思いのこもった感想文をいただき、読んでいると自然に涙が出ました。

「人生いつでもこう思ったときがスタート」

そう気付けた株式会社ハッシャダイでした。

株式会社ハッシャダイ感想文1

株式会社ハッシャダイ感想文2

以上(2018年8月作成)

営業最強フレーズ集 番外編3 人事異動の有無を確認するときの一言

このプロジェクト、今の体制で必ず成功させましょう!

人事異動の恐怖……

営業担当者にとって、クライアントの人事異動は大きな関心事です。営業をテーマにした書籍などには、「クライアントの人事異動はピンチにもチャンスにもなる」と書かれています。しかし、多くの営業担当者の実感は、人事異動はピンチにつながることが多い、厄介なイベントといったものではないでしょうか。

考えてみれば当然のことです。営業担当者は相手との関係構築に腐心します。正直、苦手な相手もいます。しかし、営業担当者は何とかそれを克服して、良好な人間関係を築いてきているはずです。ところが、そうした努力が人事異動によって、一瞬にして水泡に帰してしまう恐れがあるのだから、たまったものではありません。

思い入れなし? 引き継ぎ不十分?

人事異動がピンチにつながる理由はさまざまあります。

例えば、人事異動によって着任してきた新任担当者には、現行サービスに対する思い入れがほぼありません。そのため、着任後の初仕事として、サービスの量や取引金額に大ナタを振るわれることがあります。

また、人事異動は新規プロジェクトが動き始める時期に重なることが多いため、「これから!」というタイミングで相手の担当者が代わり、もう一度、基本的なところからの擦り合わせを余儀なくされたり、方針転換を迫られることもあります。

人事異動を乗り越えろ

このように、営業担当者にとって人事異動には危険がいっぱいですが、営業担当者の力でこれを防ぐことはできません。

そこで、営業担当者が行うべきことは、人事異動の気配をできるだけ早く察知し、事前に体制を整えることです。そんなときに使えるのが今回の最強フレーズです。人事異動のタイミングで、今の体制に変更がないかを暗に確認することができます。

とはいえ、人事異動に関する情報はクライアントにとっても重要機密なので、正式な辞令が出る前に教えてくれることは、まずありません。関係がとても良好な場合でも、「私もこの部署が長いので、そろそろかな……」など、含みを持たせた回答をしてくれる程度でしょう。

周囲を固めて先手を打つ

人事異動の可能性を感じたら、何らかの理由をつけて、「ご挨拶に伺います。ぜひ、チームの方とも名刺交換をさせてください」などと持ちかけて、すぐに会いに行くのが理想的です。それが人事異動の直前のタイミングであれば、現行の担当者は何らかのシグナルを送ってくれるかもしれません。そして、味方である現行の担当者同席のもと、他のメンバーと名刺交換をして、面識を持っておきます。今の自社の努力を理解してくれる人物を一人でも多く持つことは、クライアントの人事異動への備えとして、とても大切なことです。

以上(2018年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

営業最強フレーズ集 番外編2 キーマンを味方につけたいときの一言

御社の意向に沿って進めたいので、お考えをお聞かせください

敵か味方かはっきりしない……

ビジネスでは、1つのクライアントに対して複数の企業が同時に提案をする「一対多」の状況になることがよくあります。

こうした状況で、自社が提案する側の1社になった場合、他社との関係性によって取り得る行動は変わってきます。例えば、他社と敵対関係にある場合の対応は比較的単純で、選択肢は「戦う、撤退する、協業を持ち掛ける」に絞られます。一方、共同提案する予定ではあるものの、過去に取引実績がない、担当者の言動に違和感を覚えるなど、いまひとつ信頼できない相手の場合、対応が難しくなります。

自社が有利にビジネスを進めるために、営業担当者はどうするべきでしょうか?

まずは陣地を決めてしまう

相手に疑念を抱くのは、相手に出し抜かれて自社が損をするのではないか、相手はパートナーとしてしっかり仕事をしてくれるのだろうかと感じるからです。

この問題を解決するための最もシンプルな方法は、役割分担を決めてしまうことです。そのために、営業担当者は「業務が重複するといけないので、お互いの役割を決めたほうがよいですね」と相手に持ち掛けましょう。この際、契約書を交わして責任の所在についても明らかにしておきます。

この場合の役割分担とは、陣地と統治権を決めることであり、話がまとまれば、他社に出し抜かれることは回避できます。

クライアントを味方につける

さらにビジネスを有利に進めるために、クライアントを味方につける努力をしましょう。

複数の会社が集まると、それぞれの利害が衝突し、なかなか話がまとまらないものですが、この状況を逆に利用してしまうのが今回の最強フレーズです。これを、「私(自社)は御社(クライアント)のことを考えており、今の状況を何とか打開して前に進めたいと願っている」という思いとともに伝えるのです。

クライアントには、「この営業担当者は全体のことをよく考えてくれている」と映り、うまくいくと、プロジェクトリーダーを任せてもらえることもあります。

クライアントとの関係が大切

ただし、この最強フレーズは、クライアントと信頼関係が築けている営業担当者しか使ってはいけません。そうでないとクライアントから、「この営業担当者は他社を出し抜こうとしているのか?」と、悪い印象を持たれてしまうことがあります。

それからもう1つ。他社も今回の最強フレーズを使う可能性があります。その結果、クライアントが他社をプロジェクトリーダーに指名したら、条件次第ではありますが、素直に従ったほうが得策です。全体を仕切ることはできなくなりますが、あらかじめ陣地を決めているので、その分の収益は確保できるからです。

以上(2018年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

営業最強フレーズ集 番外編1 年末年始休暇に入る前に掛けておきたい一言

来年も、御社にとっても弊社にとってもさらに良い年にしましょう!

「年末のご挨拶に……」の時期が来た

月に一度、お客様と連絡を取ることをルールにしている営業担当者は少なくありません。お客様とコミュニケーションを取り、刻々と変化するニーズを捉えるためには、メールだけのやり取りではなく、実際に直接会話をすることが大切です。

特に必ず連絡を取りたいのは、4月や10月といった期の変わり目や、年末年始休暇など長い休みに入る前です。4月や10月に連絡をするのは、人事異動の有無やお客様の方針を確認するためです。年末年始休暇の前に連絡するのは、1年の感謝の気持ちを伝えるとともに、“来年のこちらの行動を宣言する”という意味があります。

“年明けスタートダッシュ”を宣言する

通常、3月決算の企業は年末から2月頭にかけて、予算取りを行います。つまり、こちら側の提案が通るかどうか、ある程度の感触はこの時期に分かります。

確度が高いときは、相手の上層部からの差し戻しなどに備え、最後の詰めに入ります。一方、確度があまり高くないときは、相手の予算取りまでの時間を考慮しつつ、こちらとして提案を継続するか、来年度に持ち越すかを決定します。

いずれにしても、年末年始休暇の前に年明けのこちらの活動を宣言しておきます。そして、年明けに「年末にお伝えしていた件ですが」と連絡すれば、いきなり営業の本題からスタートすることができます。

営業担当者の願いを一言に込める

とはいえ、年末年始休暇の前は相手も忙しいので、長々と説明するのは得策ではありません。また、行事が盛りだくさんな年末年始を挟むと、相手がこちらの話の内容を忘れてしまうかもしれません。

それでもなお、「長い休みに入っても、あなた(の会社)のことを忘れずにちゃんと考えますよ」ということを印象付けておきたい……。こうした営業担当者の願いを込めた一言が、冒頭で紹介したフレーズです。互いにWin-Winになる良い提案をし、それを実現したいという前向きな言葉で締めくくっておけば、相手も気持ちよく“宣言”を受け止めてくれるでしょう。

来る20XX年は……

ここで重要なのは、前向きな言葉を使うということです。誰しも、1年の終わりは気持ち良く締めくくり、来る新年を新たな気持ちで迎えたいと思うものです。

1年の間には、さまざまな出来事があったことでしょう。中にはトラブルもあったかもしれません。たとえどのようなことがあっても、自分の会社と関わりを持ってくれた相手には、感謝の気持ちを伝え、気持ち良く新しい年を迎えてもらうようにしなければなりません。それが、会社を代表して相手と話をしている営業担当者の重要な役割といえるでしょう。

20XX年。本稿を読む全ての営業担当者にとっても良い年にしましょう!

以上(2018年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

営業最強フレーズ集 困ったとき編3 「担当者間で握っておこう」と言われたときの一言

その件、論点を整理したいのでメールで送っておいてください

営業担当者の「外交機密」

ビジネスでは、契約書には定められていない条件に基づいてサービスが提供されることが意外と少なくありません。同様に、本来ならば契約書の疑義事項に該当し、正式な協議が必要であるところを、双方の担当者が暗黙の了解で条件を取り決めているケースもあります。

以上は、俗にいう「担当者間で握っている」、つまり「担当者間で独自の運用をしている」状態です。

文書にすると仰々しいことですが、営業の現場で担当者やごく一部の関係者しか知らないルールは無数に存在します。ベテランの営業担当者になると、相手の上司の合意が得られるか微妙な条件は明文化せず、担当者レベルの「握り」を前提に商談を進めることだってあるのです。

「握り」は時に必要か?

「そこを握っておかなければビジネスが前に進まない……」というケースは少なくありません。それが社会や会社のルールに反する内容であってはいけませんが、“柔軟な運用”といえるレベルであれば、ビジネスをスムーズに進めるために仕方のないことだともいえます。

もし、相手から「握り」を持ち掛けられたら、条件はもちろんのこと、担当者の人間性までよくよく考えて対応を検討するようにしましょう。少しでも迷ったら、上司に相談することも忘れてはなりません。

備えは怠らない

相手と「握る」ことになっても、口約束しかしていない状態は問題です。その時はよいかもしれませんが、ビジネスは、いずれ必ず見直しが入ります。また、わずか数カ月後に人事異動があり、担当者やその上司が変わることだってあります。

このようなとき、握っている事柄に注目が集まると、「いつ、誰が、どのように決めたんだ?」ということが必ず議題に上ります。こうなった時、口約束だけではきちんと経緯を説明することができず、信ぴょう性もありません。

そこで、相手から「握り」を持ち掛けられたときに実践したいのが今回の最強フレーズです。このフレーズを使い、メールの平文であっても、「握り」の内容を形に残しておくのです。

基準を持つ

柔軟にやり方を変えることで、ビジネスがスムーズに進むことはよくあります。特に営業には、臨機応変な姿勢が強く求められます。

ただし、柔軟に運用することと、ルールに違反することは全く別です。相手からルールに違反する「握り」を求められた時は、きっぱりと断る強さも持たなければなりません。断りのフレーズには、「それは当社としてはお引き受けしかねます。次回、上司も同席の上、ご相談させてください」といったものがあります。

以上(2018年8月)

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画像:Mariko Mitsuda