未来志向で人物評価する/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「どうなりたいか」を常に考える

経営者は「自由に時間を行き来する」というのは言い過ぎですが、「自社のあるべき姿」を考えるという意味では、経営者は過去と現在の自社の姿を見つめつつ、未来のあるべき姿に思いをはせています。

しかし、先行きの不透明感が高まる昨今は、未来を考えることが一層難しくなっています。こうした不安な状況を、人は一気に打開したいと考えます。しかし、足元がおぼつかない状況で無理をすると、どこかで反動が出てしまうことを経営者は知っています。

こうしたときは、地道な努力を続けるしかありません。実際、経営者は足元はもちろん、遠くにも視線を向けながら一歩一歩進んでいます。それが「自社のあるべき姿」にたどり着く確実な方法だからです。

今回は、「未来志向で人物評価する」「『石の上にも三年』の経営者的な解釈」「自社の原点から未来が開ける」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 未来志向で人物評価する

何かを見たり、感じたりするとき、多くの人は「他とは違う部分」に注目します。例えば視力検査で使う、一部が欠けたアルファベットの「C(シー)」のような図形と、全く欠けていない円の図形があった場合、前者の欠けているほうに注目しがちです。

問題は、欠けている部分の捉え方です。一般的な経営者の場合、ビジネスで知り合う相手の多くから得られるのは、「ある部分は至らないが、他は問題ない」といった評価でしょう。これを先の「C(シー)」に当てはめると、欠けている部分がすなわち「欠点」ということになります。

そして、欠点は時間の経過とともに“強烈”に映るようになることがあります。最初は我慢できていても、付き合いが長くなると欠点に触れる機会が増え、徐々に我慢できなくなっていくからです。

それに対し、成功する経営者は「C(シー)」の欠けている部分に注目しますが、捉え方が異なります。欠けている部分、つまり他とは違う部分を、その人の特徴や可能性として前向きに捉えます。

日ごろのビジネスを通じて、経営者は自分自身も含め、人には至らない点があることを痛感しています。そのため、いつも人の優れたところと至らないところの凸凹をつなぎ合わせて、社内のチームや他社との連携を実現しているのです。

また、経営者はその時点の姿だけで人物評価をしません。その人の特徴や可能性が、将来、どのような成長につながるのかをイメージしながら教育します。こうすることが会社のためになることを知っているからです。

相手の欠点ではなく美点に注目し、未来志向で人物評価をするのが、成功する経営者のやり方です。人には欠点があることを前提に、欠点をカバーする美点がどれだけ成長の余地を持っているのかを見極めることが重要なのです。

3 「石の上にも三年」の経営者的な解釈

「石の上にも三年」ということわざがあります。冷たい石でも、3年間、座り続ければ温まってくるという意味が転じて、「つらいことでも3年間我慢して努力を続ければ、道が開ける」という教えにつながっています。

このことわざは、地道な努力を称賛する日本人の気質に合う面があります。しかし、最近では、なぜ硬い石に座るのか、3年は長過ぎるなど否定的な意見も聞かれます。確かに、見方によっては、「石の上にも三年」というのは“苦行”です。

「石の上にも三年」というのは、経営者にも当てはまります。企業経営とは、現実の石とは比べものにならないほど座り心地の悪いところに、いつ終わるか分からない時間、座り続けなければならないものでもあるからです。

これを苦行と思うか、次へのステップにつながる経験と思うかが大きな分かれ道です。何事も相応の努力をして知識を身に付けなければ、次に進めません。この努力は、自己成長につながる、ある意味でワクワクする経験です。

にもかかわらず、努力をする前から、経営者が「つらい。自分には合わない」と諦めたら企業は潰れます。まずはやってみて、その結果で判断すればよいのです。試みたことが自社にフィットしなかったり、自分(経営者)には不要だと思ったりすれば、きっぱりやめればよいことです。

3年という時間も捉え方次第です。企業が3年の中期計画を策定したとしても、それを実現するのは月次計画です。さらに、月次計画の遂行は日々行われます。つまり、同じことを3年続けるというよりも、短期間の努力をつなぐイメージで捉えます。

「石の上にも三年」ということわざを解釈するときに、「石」や「三年」という言葉に引っ張られてしまうのは残念なことです。大切なのは、環境や期間を問わず、必要なときに相応の努力ができるか否かということなのです。

4 自社の原点から未来が開ける

「先のことは誰にも分からない」のは当然のことです。昨今は特に先行きの不透明感が高まっています。こうした状況は、チャンスにも、脅威にもなり得ますが、これもまた経営者の考え方次第です。

先が読めない時代を勝ち抜くために、多くの人が「イノベーション」を求めます。一瞬のひらめきとともに舞い降りるような、圧倒的に斬新で、かつてないアイデアをイノベーションと捉え、夢見るのです。

経営者も常にイノベーションを求めますが、捉え方が違います。経営者の前提は、どんなに素晴らしいひらめきでも、顧客ニーズを満たしていなければ意味がないということです。そして、先が読めない時代は、顧客ニーズも見通しにくいものです。

こうした状況で、やみくもに組織を動かすのは危険です。「活動している」という実感は得られるかもしれませんが、成果はなかなか上がらないはずです。前提となるゴール(顧客のニーズ)が明確でないからです。

イノベーションには「0から1を起こすタイプ」と、「1と1を足して2にするタイプ」とがあります。多くの人は前者をイメージしますが、実際には「ちょっとした組み合わせ」から生まれる後者のイノベーションのほうが世の中では多いのです。

先が読めない時代だからこそ、焦らずに多くの知識を貪欲に吸収しながら、自社の強みを再確認することが重要です。こうしたタイミングでこそ「原点回帰」し、顧客、競合、自社の状況を見つめ直すことが、新たな事業を模索する機会になるでしょう。

インプットとアウトプットの連続によって、組織の“活動域”は揺らぎながら広がっていきます。不確実性が高い状況なら、自社の得意分野を深く耕しつつ、ビジネス領域を広げていくのも有効な手段です。

以上(2018年10月)

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人を好きになるより嫌いにならない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

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1 思考習慣のバージョンアップ

経営者は独自の視点と価値観を持って、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。

経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結びついていくのでしょう。

経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。

今回は、「報連相は型よりもスピードを求める」「こだわりを守るために方針転換する」「人を好きになるより嫌いにならない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者の考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。

2 報連相は型よりもスピードを求める

「報連相」(報告・連絡・相談)はビジネスの基本であり、社員教育の重要テーマに位置付けられています。そのため、上司は報連相のやり方として、報告をする内容や順番、タイミングを細かく部下に指導します。

やがて部下は、上司から指示された内容を、指示された順番で話すという“型にはまった報連相”が上達していきます。しかし、上司が心から納得できる報連相ができる部下はほとんどいません。

そもそも、上司と部下とでは立場や経験が違うため、報連相の内容などにおいて上司と部下のギャップが完全に解消されることはありません。また、“型にはまった報連相”ができたとしても、その部下が物事を深く考えているとは限らず、上司から「で、どうしたいの?」と聞かれると、何も答えられなくなってしまうことがあります。

経営者も社員に報連相を求めますが、自分と社員とのギャップを誰よりもよく理解しています。そのため、社員には報連相の型よりもスピードを求めます。社員に少しでも早く情報を伝達してもらったほうが、経営者が物事を考え、判断する時間を長く確保することができるからです。

また、経営者は社員が報連相をしやすい雰囲気づくりにも配慮しています。それは、社員から「悪い情報」をいち早く知るためです。悪い情報でも隠蔽されずに伝達される組織は健全といえ、課題の早期解決にもつながるからです。

報連相に限りませんが、情報は求めるだけでは入手できず、相手に「情報を出したい」と思ってもらわなければなりません。経営者は、社員の報連相に感謝する姿勢を示し、社員が情報を出したいと思える雰囲気づくりをすることが欠かせません。

3 こだわりを守るために方針転換する

「一度決めたことに、どれだけこだわるか」。ビジネスでしばしば議論になることです。ビジネスにおいて、経営者は周囲の反対を押し切ってでも自分の考えを押し通すことがある一方で、他人の意見を聞いてすんなりと自分の考えを変えることもあります。

経営者が最もこだわるのは、企業経営の根幹となる理念であったり、社運をかけて取り組む新規事業であったりします(「撤退プラン」はあります)。もちろん、そこから派生する重要事項についてもこだわります。

一方、経営者は競争に勝ち抜くために柔軟性のある考え方を維持することにも努めています。そのため、「これは素晴らしい!」と感じたものは積極的に取り入れます。企業経営に関して多くのことを決められる、経営者だからこその決断です。

また、当初は1000万円の予算を承認する雰囲気だった経営者が、1週間後には500万円まで削減するように指示を出したりします。1週間で考えが変わることもあれば、「具体的な根拠はないものの、500万円が惜しくなった」ということもあります。

いずれも、経営者としては「こだわりを捨てず、直感を信じ、より良い決断をした」ということです。しかし、周囲にはそれが分からないことがあり、自分勝手な経営者であるとか、考えがころころ変わる経営者と映ってしまうことがあります。

企業でありがちな問題ではありますが、経営者の方針が社員にとっては受け入れ難いものでは困ります。経営者の方針を実行するのは社員だからです。そのため、経営者は自分の方針転換によって影響を受ける社員の心境もおもんぱかり、ある程度の配慮をする必要があります。

このことは、提携先など社外の人との関係においても同様です。経営者がより良いサービスを実現するために提携先と決めた内容を見直した場合、その理由が明確に伝わっていないと、提携先は経営者のことを「やりにくい相手」と認識してしまうのです。

経営者のこだわりは周囲からは見えにくく、柔軟性は「付和雷同」と映ることもあります。そうならないように、経営者は方針を出した背景や目的を周囲に伝え、理解を得るようにしましょう。これは、経営者のこだわりを実現するために欠かせない配慮です。

4 人を好きになるより嫌いにならない

ビジネスでは、人と人とのつながりが大切です。相手と良い関係を築くことができれば、ビジネスの可能性は大いに広がります。良いパートナーを見つけ、関係を維持する力は、今どきのビジネスパーソンにとって必須だといえるでしょう。

相手と良い関係を築くために多くの人がすることは、相手を好きになる努力です。ビジネスでは双方の利害がなかなか一致しませんが、相手を好きになることができれば、相手のことを受け入れる余地が広がり、良い関係が築きやすいと考えるためです。

相手を好きになろうとする過程で、相手のことをより深く知れるのはよいことです。ただし、人を好きになるのは簡単ではありません。家族や友達、恋人でさえ分かり合えないことがあるので、ビジネス上の相手ではなおさらのことです。

一方、ビジネスで知り合ったばかりの人のことを好きだという人がいますが、これは考え方や波長が合う程度のことが多く、一緒にビジネスをしてみると、意見が合わない部分や、好ましくないと感じる部分が出てくるものです。

人を好きになるのは難しいということを経営者は理解しています。加えて、企業経営を任されている経営者は、「だまされてはいけない」という思いも強く、会ったばかりの相手とは一歩引いて付き合わざるを得ない面もあります。

以上から、経営者は相手を好きになることよりも嫌いにならない努力をします。好きではないことと、嫌いであることは全く違います。好きではないというのは普通の関係ですが、嫌いになると相手を避けるようになり、ビジネスがしにくくなるのです。

相手を嫌いになる理由は、見た目や話し方、考え方などさまざまです。このうち、見た目や話し方などについては、ビジネスと直接関係ないので、経営者は気にしないようにしています。

また、相手の考え方が気に入らない場合は、自分の考え方を相手の考え方に合わせようとせず、「考え方は多様である」ことを分かる努力をします。あえて苦手な人と2人で会食をして、“異質”に触れる訓練をする経営者もいます。

以上のように、相手を嫌いにならないことは大切です。ただし、ドライに徹し過ぎると“仲間”をつくることができません。経営者には社内外の仲間が必要です。「この人だ!」と感じる人がいれば、心を開いて相手の懐に飛び込んでみることも大切です。

以上(2019年4月)

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経営者から管理職へ 「名言」で伝える心構え

書いてあること

  • 主な読者:日々、部下指導に悩む管理職を励ましたい経営者
  • 課題:うまく部下指導ができない、部下に気を使いすぎる。そんな管理職が多い
  • 解決策:名言を使って管理職としての自覚を伝えると同時に、経営者が管理職を応援する気持ちも伝える。

1 管理職に対してこそ必要な「メッセージ」

管理職は、部下の指導について多くの悩みを抱えています。部下との意思疎通をうまく図れない、部下がついてきてくれない、部下が思うように成長しない、部下が何を考えているか分からない……。こうした現状に疲弊している管理職は少なくありません。

管理職の話を聞き、励ますのは、経営者の大切な仕事です。特に、組織を率いる立場の経営者から語りかけるメッセージは、管理職の「行動指針」にもなるでしょう。本稿では、「重さ」「弱さ」「強さ」というテーマでそのようなメッセージを紹介します。

2 「重さ」を自覚するための言葉

今、多くの管理職が「部下との接し方」に迷い、悩んでいます。「部下を理解したい」「自分(管理職)の意図を理解してほしい」と思う一方、「部下を叱るとパワハラと言われるのでは」「部下に嫌われたくない」と恐れる気持ちもあります。

こうした気持ちが強過ぎると指導がしにくくなり、部下を避けてしまいかねません。そこで経営者は、「管理職としての部下との接し方」を、改めて管理職に伝えましょう。その際、ミスター・ラグビーと呼ばれた平尾誠二氏の次の言葉が参考になります。

  • 「コミュニケーションの頻度を高めることが、コミュニケーションを深めるとは限らない」(*)

数々のラグビーチームを率いた経験を持つ平尾氏の考えは、リーダーが行うコミュニケーションの在り方として、「短絡的に、コミュニケーションは量が多いほうが良いと考えるのは間違いだ」というものでした。

リーダーが安易にコミュニケーションを取り過ぎていると、「肝心なときに言葉が求心力を持たなくなる」と平尾氏は考えていました。そのため、神戸製鋼ラグビー部のキャプテン時代には、他の選手とはあえて距離を取り、メリハリをつけていたといいます。

平尾氏の考え方は、管理職にもあてはまる部分があります。部下を指導する立場にある管理職の発言には、ある程度、「重さ」が必要です。部下に好かれようと気を使い、部下に対して“仲良く”接しているだけでは、管理職としての「重さ」は感じられません。

管理職の役目は、部下を成長させることです。そのため、叱るべきときは厳しく叱る、褒めるときは大いに褒める、挑戦させるときには思い切って部下を突き放し、部下に一人で苦労させるなど、メリハリをつけて接するのが理想です。

しかし、これは簡単ではありません。特に、叱ることや、突き放すことができない管理職は多いでしょう。経営者は、平尾氏の言葉を借りて、管理職に必要な「重さ」を自覚させ、部下との接し方を、改めて考えさせることが大切です。

3 「弱さ」をさらけ出すための言葉

管理職の中には、部下や周りに対して「格好をつける人」がいます。「管理職として部下に良い影響を与えたい」といった思いであれば理解できますが、単に「できる管理職として自分を良く見せたい」という自分勝手な考えが行き過ぎてはなりません。

こうした管理職は、問題を隠したり、部下に対して「いい顔」ばかりしたりすることがあるからです。経営者は、「時にはありのままを見せる大切さ」を伝えましょう。その際、スターバックスの元CEO、ハワード・シュルツ氏の次の言葉が参考になります。

  • 「偉大なリーダーも、時にはある程度の弱さを見せ、本心を他人と共有しなければなりません」(**)

スターバックスにとって、非常に厳しいシーズンとなった1995年のクリスマス。売り上げは「絶望的」で、このままでは会社が危機に直面するという状況でした。シュルツ氏は、全社員を集め、厳しい現状と、心配している苦しい胸の内を正直に伝えたのです。

それまで、常勝のヒーローとされてきたシュルツ氏が社員に初めて「弱さ」を見せたため、反発する経営陣もいました。しかし、社員の多くは、自分たちが直面している問題を直接CEOから詳細に説明してもらい、非常に良かったと言ったそうです。

シュルツ氏はこのとき、社員にとって必要なのは、「気勢を煽ることではなく、苦境を具体的に知らせ、実質的な指導をすることだ」と思っていました。これは、会社全体と社員一人ひとりのために自分がすべきことを真剣に考えたからこそといえるでしょう。

ビジネスは、良いこともあれば悪いこともあります。時と場合によりますが、管理職は組織全体や部下のために、悪いことや弱点ほどいち早く明らかにし、具体的な対策を考え、部下に指示しなければなりません。格好をつけている場合ではないのです。

管理職が考えるべきなのは、「自分がどう見られるか」ではありません。組織のこと、そして守るべき部下のことです。経営者は、シュルツ氏の言葉を借りて、真剣に部下を思う気持ちを伝え、管理職に「自分視点」から脱却するよう指導しましょう。

4 継続する「強さ」を持つための言葉

部下の指導に真面目に取り組んでいる管理職ほど、悩みは深いものです。部下が思うように成長しないことに腹立ち、落胆し、つい、「自分で全部やったほうが早い」と自分で手を動かしてしまうことなどは、管理職の“あるある”といってもよいでしょう。

経営者は、部下の指導は地道に行うべきものであること、そして指導をあきらめてしまっては、部下だけでなく管理職自身も成長できないことを繰り返し伝えなければなりません。その際、帝人の元会長・社長である長島徹氏の次の言葉が参考になります。

  • 「どうぞあきらめさせないでください」(***)

貧しかった長島氏は幼い頃、野球用のボールを買ってもらえず、何時間もかけて布を巻きボールを作りました。そのボールが竹やぶに入ってしまい、どれほど探しても見つからなかったとき、長島氏は「あきらめさせないでください」と祈ったといいます。

長島氏は、「ボールが見つかるように」ではなく、「ボールを探そう」という自分の気持ちが消えないように、自分があきらめるという考えを抱くことのないようにと祈ったのです。何事も自分の気持ち次第であるという強い意志の表れといえるでしょう。

部下の指導も同じです。管理職があきらめてしまったら、部下の成長は止まってしまうでしょう。管理職にとって“敵”は部下ではありません。あきらめて、「自分で全部やったほうが早い」と部下と向き合うのをやめてしまう管理職自身の気持ちが“敵”なのです。

多くの経営者は、管理職に比べて、社員(部下)を育てることを簡単にあきらめたりはしません。経営者は、会社やビジネスから逃げることができません。覚悟の度合いとそれに支えられた意志の強さが管理職とは違うのです。

とはいえ、経営者も、人を育てることが一番難しいと実感しています。そこで経営者は、長島氏の「どうぞあきらめさせないでください」という言葉を借りて、管理職に、「自分も決してあきらめない。だから一緒に頑張ろう」と思いを共有することが肝要です。

  • 【参考文献】
  • (*)「人を奮い立たせるリーダーの力」(平尾誠二、マガジンハウス、2017年4月)
  • (**)「世界のトップ経営者に聞く!:CNNリスニング・ライブラリー」(『CNN English Express』編集部編、朝日出版社、2012年3月)
  • 「スターバックス成功物語」(ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄、大川修二(訳)、日経BP社、1998年4月)
  • (***)「58の物語で学ぶリーダーの教科書」(川村真二、日本経済新聞出版社、2014年4月)

以上(2019年1月)

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画像:pixabay

いまさら聞けない請求書・領収書の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:適正な会計処理・税務処理を徹底したい経営者・経理担当者
  • 課題:身近であるが故に、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくない
  • 解決策:実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を解説

1 請求書・領収書の基本

1)請求書・領収書とは

請求書は、代金の支払人に対して、販売した商品等の代金の支払いを求める書類です。また、領収書は、代金の受取人がその代金を受け取ったことを証明する書類です。

請求書・領収書は、ビジネスパーソンであれば必ず取り扱うことになる身近なものです。一方で、身近であるが故に、「会社の備品を買ったときには、とにかく領収書をもらわなければいけない」といったように、曖昧に覚えていたり、特段注意を払わずに、流れ作業的に取り扱ったりしている人が少なくありません。

しかし、請求書・領収書は、誰が誰に対して、いつ、何のために代金を支払った(受け取った)かという「お金の動き」を示す大切な書類です。

本稿では、実務上問題になることの多い税務の観点から、請求書・領収書に関する基礎知識を紹介します。実際には、この他にも会計上や法務上の留意点や、社内規程などのルールが定められていることがあるので、こうした点にも注意しましょう。

2)請求書・領収書の記載事項および様式

請求書・領収書の記載事項については、「この事項の記載が漏れていたら請求書・領収書として認められない」といったものが、法人税法・所得税法上で定められているわけではありません。ただし、「お金の動き」を把握するために必要となる事項は共通しているので、請求書・領収書はおおむね同じです。

例えば、請求書の一般的な記載事項は次の通りです。

  • 宛名
  • 発行者(会社等)の名称・住所
  • 日付
  • 請求金額(内訳と合計金額)
  • 支払期限
  • 振込先(銀行口座名等)および振込手数料負担者

また、領収書の一般的な記載事項は次の通りです。

  • 宛名
  • 発行者(会社等)の名称・住所
  • 日付
  • 受領金額
  • 但書

請求書・領収書の様式も記載事項と同様に法人税法・所得税法上では定められていません。そのため、市販されているもの、インターネット等で入手したひな型、自社独自に作成したもの等であっても問題はありません。

3)消費税法における定め

消費税法上では、請求書・領収書の記載事項について定めがあります。詳しい説明は省略しますが、消費税の課税事業者で簡易課税制度を適用しない事業者が、支払対価が3万円以上の場合で仕入税額控除を受けるときには、原則として、取引の相手方から交付を受ける請求書等(請求書、納品書その他これらに類する書類で領収書も含まれる)を保存しなければならず、その請求書等には、次の事項が記載されていなければなりません。

  • 書類の作成者の氏名又は名称
  • 課税資産の譲渡等を行った年月日
  • 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
  • 課税資産の譲渡等の対価の額
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
  • 軽減税率の対象品目である旨(「※」等軽減税率の対象となることを表示)
  • 一般税率と軽減税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)

この規定に該当する請求書・領収書には、上記事項の記載がなければなりませんが、前述した一般的な請求書・領収書には、これらの記載事項が含まれているため、実務上はあまり気にする必要はないかもしれません。

なお、軽減税率等の導入により、2019年10月1日から2023年9月30日までの期間は、今までの『請求書等保存方式』を維持しつつ、区分経理に対応するための措置として、『区分記載請求書等保存方式』が導入されています。

2 請求書・領収書のよくある10の疑問

ここでは税務上、問題になることが多い領収書を中心に、実務上よくある疑問点や間違った認識を持っている人が多い事項について、取り扱い方法等を紹介します。

1)領収書は必要になるか

領収書がなくてもレシートがあれば問題がない場合があります。

最近のレシートには、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額に加えて、飲食店の場合は利用人数なども印字されているものが多くなっています。こうしたレシートであれば、前述した「領収書の一般的な記載事項」については、おおむね網羅されているため、領収書がなくとも問題はありません。ただし、金額しか記載されていないような簡易レシートの場合は、領収書を発行してもらう必要があります。また、高額の支出の場合は、領収書を発行してもらうほうが無難です。

なお、レシートには宛名の記載がありません。一方、前述した消費税法上定められた記載事項には「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」とあります。ただし、消費税法には小売業、飲食店業、写真業、旅行業等を営む事業者が交付する請求書等については、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載要件が除かれています。

レシートを発行する企業のほとんどは小売業や飲食店業のため、実務上、この点を気にする必要はほとんどないといえるでしょう。

2)宛名が「上様」とされた領収書は有効か

領収書の宛名が、「上様」とされることがありますが、これは会社名を記載するようにしたほうがよいでしょう。

法人税法上は、宛名に関する特段の規定がないため、「上様」とされている領収書であるからといって、直ちに経費にできないということはありません。ただし、「上様」では、誰が支出したのか(本当に会社の経費なのか)ということが、領収書だけでは判断できません。そのため、税務調査の際に指摘を受けたり、説明を求められたりするなど、問題が発生することがあります。

また、社内実務においても、「上様」の領収書では、個人的な支出など不適切な支出に対するものか否かといった判断が難しくなります。

加えて、消費税法上の場合は、前述した通り、一定の要件に該当する場合以外は、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」がなければ、仕入税額控除の対象とすることができなくなることがあります。

3)4万円の領収書を発行。収入印紙を貼り付ける必要はあるか

2014年4月1日付以降に発行される領収書(印紙税法上は「領収書」「レシート」等の名称にかかわらず、金銭又は有価証券の受取書の全てが対象になります)については、記載された受取金額が4万円であれば、収入印紙を貼り付ける(印紙税を納付する)必要はありません。

領収書は、記載された受取金額に応じて、印紙税を納付しなければなりません。印紙税の納付は、領収書などの課税文書に収入印紙を貼り付けた上で、その課税文書と収入印紙の彩紋とにかけて消印等をしなければなりません。

2014年3月31日までに発行された領収書は、記載された受取金額が3万円未満の場合に非課税となるため、4万円の領収書であれば印紙税を納付する必要がありました。一方、2014年4月1日以降に発行される領収書は、5万円未満まで非課税となるので、印紙税を納付する必要はありません。

領収書の発行実務を頻繁に行わない人は、「3万円未満は、印紙税の納付は不要」としか覚えていないことがあり、誤って収入印紙を貼り付けてしまうことがあるので注意しましょう。

なお、消費税額等が区分記載されているとき又は、税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかとなる場合には、その消費税額等は印紙税の記載金額に含めないこととされています。

4)領収書に貼る収入印紙の消印が押されていないけど問題ないか

印紙税を納付するときには、単に収入印紙を貼り付けるだけではなく、その収入印紙が使用済みであることを示す消印等をしなければなりません。そのため、正しい金額の収入印紙を貼り付けていたとしても、消印等がない場合には「印紙税を納付していない」ことになるので、収入印紙の金額の同額と過怠税が課されます。

また、本来、印紙税を納付する必要があるにもかかわらず、収入印紙を貼り付けていない場合は、その事実が税務調査等で発覚すると、「納付しなかった印紙税額+その2倍に相当する金額の合計額」(すなわち印紙税額の3倍の金額)の過怠税が課されるので注意が必要です。ただし、不備について自己申告した場合は、「納付しなかった印紙税額+その10%に相当する金額の合計額」に過怠税が軽減されます。

なお、印紙税が納付されているか否かと、領収書の有効性は関係ありません。そのため、印紙税が納付されていなくても、領収書の内容自体は有効と認められます。

5)領収書に宛名の記載が漏れていた。追記してよいか

領収書に不備がある場合は、勝手に追記をせずに、それらを発行した相手方に修正をしてもらったり、再発行してもらったりするなどしてください。

領収書・請求書は法律上の証拠書類に当たります。証拠書類に勝手に追記をしたり、書き換えたりすると私文書偽造として刑事罰の対象となる可能性があります。また、税務調査などで発覚すれば、重加算税を課される可能性があります。

6)領収書に書損が生じたので、破棄してよいか

領収書は、書損をしても勝手に破棄せずに、領収書の控えと併せて保管するのが一般的です。

様式は各社各様ですが、領収書は通し番号を付して管理するのが一般的です。また、相手に渡す領収書と社内で保管する控えがワンセットになっていますが、書損が発生した場合は、領収書を破棄せずに控えと併せて保管しておくことが大切です。

これは、領収書の改ざんや金銭の横領などの事故を防止するためです。例えば、誰かが「顧客から現金を受領し、控え分と併せて事前に抜き取った領収書に金額を記載して顧客に渡し、現金を横領する」ということを企てた場合、通し番号を付していれば、会社に保管している領収書は、その番号だけ抜けているので、不正の端緒をつかむことができます。

7)クレジットカード会社が発行した請求明細があれば領収書は不要か

商品などの販売元が発行する「ご利用明細」等は領収書の代わりになりますが、クレジットカード会社が発行した請求明細は、領収書の代わりにならないと考えたほうがよいでしょう。

請求明細の取り扱いで問題になるのが消費税です。クレジットカード会社が発行した請求明細は、課税資産の譲渡等を行った事業者(商品などを販売した事業者)が作成・交付した書類ではないため、前述した消費税法の規定に該当する書類とは認められません。

一般的に、クレジットカードで商品などを購入すると、販売元は「ご利用明細」等を発行しています。通常、「ご利用明細」等には、書類の作成者の氏名又は名称をはじめ、前述した要件が全て記載されているため、消費税法の規定に該当する書類と認められます。

ポイントは「ご利用明細」等の書類の名称ではなく、必要事項が漏れなく記載されていることなので注意をしましょう。

8)インターネット通販での「取引内容確認メール」は、領収書の代わりになるか

「取引内容確認メール」は、基本的に領収書の代わりになります。

インターネット通販の場合、領収書・請求書を発行していないことがあります。この場合、購入手続きを終えた後に送信されてくる「取引内容確認メール」や、購入手続き終了後に表示される購入情報が掲載されたウェブページなどは、発行する会社名・店名、住所、日時、購入品目、購入金額、購入者名といった事項が記載されていることが一般的であり、こうしたものであれば領収書の代わりとすることができます。

9)倉庫がいっぱいになったので、請求書・領収書を破棄してよいか

請求書・領収書は保存期間が決められているので、勝手に破棄してはいけません。

請求書・領収書は、法人税法上、「取引等に関して作成し、又は受領した書類」として、保存期間が定められています。例えば、青色申告者の場合は、原則、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が義務付けられています(青色申告書を提出した事業年度に欠損金が生じた場合は、当該年度からの保存期間は9年間(注)となります)。この期間中は「保存スペースがないから」「前回の税務調査で、税務署に確認されたから」等という理由で、勝手に破棄してはいけません。

なお、請求書・領収書などの帳簿書類は、一定の要件を満たす場合は、マイクロフィルムや電磁的データ等で保存することができます。スペースの問題で保存が難しい場合は、こうした方法を検討してもよいでしょう。

(注)2018年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度においては、保存期間は10年間となります。

10)交際費等に該当する飲食費が1人当たり5000円を超えた。領収書を2つに分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたらどうなるか

領収書を2つに分けることには意味がありませんし、分けてはいけません。

現在は法人の資本金や交際費の内容等の一定要件により損金に算入できる場合がありますが、原則として、交際費等は税務上の損金に算入することができません(一定要件に関する詳しい説明は省略します)。ただし、交際費等の範囲に含まれるものであっても、1人当たり5000円以下の飲食費(社内飲食費を除く)は、一定の要件に該当するものについては、損金に算入することができます。

そうすると、「1人当たり5000円を超えたときに、領収書を複数に分けてそれぞれ1人当たり5000円以下になるようにしたら、損金に算入することができるのでは」と考える人がいるようです。

しかし、領収書が複数に分かれていても、それが一体の飲食であるときは、全ての領収書に記載された金額を合計した上で、金額の判定を行います。

国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」では、これに類似したケースである「1次会と2次会の費用」に関するQ&Aがあり、次の通り説明されています。

(Q)

飲食費が1人当たり5000円以下であるかどうかの判定に当たって、飲食等が1次会だけでなく、2次会等の複数にわたって行われた場合には、どのように取り扱われるのでしょうか。

(A)

1次会と2次会など連続した飲食等の行為が行われた場合においても、それぞれの行為が単独で行われていると認められるとき(例えば、全く別の業態の飲食店等を利用しているときなど)には、それぞれの行為に係る飲食費ごとに1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行って差し支えありません。

しかしながら、それら連続する飲食等が一体の行為であると認められるとき(例えば、実質的に同一の飲食店等で行われた飲食等であるにもかかわらず、その飲食等のために要する費用として支出する金額を分割して支払っていると認められるときなど)には、その行為の全体に係る飲食費を基礎として1人当たり5000円以下であるかどうかの判定を行うことになります。

(出所:国税庁「交際費等(飲食費)に関するQ&A(平成18年5月)」)

なお、こうしたことを意図的に行うと、仮装隠蔽と判断されて重加算税の対象となる可能性があるので注意しましょう。

以上(2019年12月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

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働く人なら一度は考えるべき「ビジネスの三種の神器」

書いてあること

  • 主な読者:立場を問わず、悩みや迷いを抱える全ての働く人
  • 課題:もやもやした悩みや迷いを誰に相談したらいいか、どう解決したらいいか分からない
  • 解決策:自分がビジネスにおいて大事にしている軸は何か。それを「三種の神器」として改めて考えてみる

1 「ビジネスの三種の神器」とは何か

ビジネスにおいて大切だと思うものが何かは、人によって異なります。「コミュニケーション」を大切にしている人もいれば、「知識」が大切という人もいます。これらはいわば、「ビジネスの価値観」です。

ビジネスの価値観が明確な人は、実はあまり多くはありません。むしろ、これまで考えたこともないという人が大半ではないでしょうか。そうした人にお勧めしたいのが、「ビジネスの三種の神器」を挙げてみることです。

戦後の日本における新生活の象徴であり、生活の必需品だった「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」は、一般的には「家電の三種の神器」といわれていました。「ビジネスの三種の神器」は、そのビジネス版と考えれば分かりやすいでしょう。

自分のビジネスにおける必需品、欠かせないもの、大切にしているもの。こうした「ビジネスの三種の神器」を挙げれば、ビジネスに対する取り組み方や向き合い方が分かります。本稿では、「ビジネスの三種の神器」の活用法や例などを紹介します。

2 「ビジネスの三種の神器」で見えるその人の姿

自分で挙げるだけでなく、人の「ビジネスの三種の神器」を知れば、その人の考え方や姿勢が見えてきます。経営者と社員、上司と部下などが、それぞれ「ビジネスの三種の神器」とその理由を挙げれば、互いに対する理解が一歩深まるかもしれません。

また、社内外を問わず、自分よりも立場が上の人に聞いてみると、自分では思い至らなかった「ビジネスの三種の神器」を学ぶことができます。「ビジネスの三種の神器」は、立場によって変わってくるからです。

例えば、ある営業担当者が「パソコン、スマホ、名刺」というツールを3つ挙げたのに対して、その上司は「パソコン、部下、メンター」を挙げました。部下やメンターが必要だという考えは、上司という立場だから出てきたものといえるでしょう。

起業家と社員でも「ビジネスの三種の神器」は違います。例えば、ある起業家は「理念、情熱、教育」の3つを挙げています。もし、社員がこうしたものを挙げたなら、その社員には新しい道を切り開いていこうとする起業家マインドがあるのかもしれません。

3 「ビジネスの三種の神器」には理由がある

「ビジネスの三種の神器」に正解はありません。人それぞれで、立場の他にも、関わっている仕事によっても異なるでしょう。例えば接客業であれば、「笑顔」を挙げるかもしれません。専門職の人の中には「技術力」を挙げる人もいるでしょう。

また、ツールとスキルを組み合わせる人もいます。「パソコン」に加え、「文章力、分析力」を挙げた人がいますが、これは、パソコンは必需品ではあるものの、それだけでは十分ではなく、自分で考えアウトプットすることが大切だといいます。

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「ビジネスの三種の神器」は、「何を挙げるか」も大切ですが、それよりもっと重要なのは、自分にとっての「ビジネスの三種の神器」は何か、それはなぜかを考えることにあります。そうすると、ビジネスに対する自分の思いが明らかになるからです。

例えば、上表では「墓参り」を挙げている人がいます。これは、その人が日ごろから感謝の気持ちを忘れず、常に正しい行いをしていることがビジネスの成功につながると考えているからであり、正しい行いを象徴するのが「墓参り」なのだといいます。

また、「人物を見極める力」を挙げている人は、相手が何をどこまでできる人なのか、本当に信頼できる人なのかを見極める力が、ビジネスには欠かせないといいます。ビジネスは一人ではできない、「人」の力こそが必要だという思いの表れといえるでしょう。

4 誰の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいか

「ビジネスの三種の神器」がビジネスに対する思いを表すのなら、次に考えてみたいのは、「誰に聞きたいか」ということです。自分が尊敬している人や一目置いている人、目標としている人の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいと思うのではないでしょうか。

そうした人には機会を見つけて、「ビジネスの三種の神器」を尋ねてみましょう。周りから尊敬されるような人は、ビジネスに対する強い思いや信念を持っているものです。大きな学びとなる「ビジネスの三種の神器」を答えてくれることでしょう。

また、部下育成に悩んでいる経営者や上司は、部下に、誰の「ビジネスの三種の神器」を聞いてみたいかを尋ねてみるのも一策です。そうすれば、部下がどのような人を尊敬しているか、どのような人に憧れを抱いているかが見えてくるかもしれません。

5 変化する「ビジネスの三種の神器」

立場が変われば「ビジネスの三種の神器」も変わってきます。そうした意味では、成長度合いを測るモノサシともいえます。経営者や上司は、定期的に部下に、「今のビジネスの三種の神器は何か」を尋ねてみてもよいでしょう。

自分の「ビジネスの三種の神器」の記録を付けておけば、自分自身の成長を測ったり、考え方の変化を認識したりすることもできます。今の「ビジネスの三種の神器」を書き留めておき、3年後、5年後に改めて振り返ってみるのもよいでしょう。

例えばある経営者は、会社設立当初は、恐らく「信念、スピード、根性」といったものが「ビジネスの三種の神器」だったと振り返ります。経営が安定し社員が増えた今では、「信念」は変わらないものの、残り2つは「社員」と「誇り」だといいます。

人にもよりますが、「ビジネスの三種の神器」の変化は、どのようにビジネスに取り組んできたかを表す軌跡でもあります。今、自分がビジネスにおいて大切だと思うものは何か。そして、それがどのように変化していくのか。一度、真剣に考えてみましょう。

以上(2019年1月)

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経営者と管理職の役割分担を考える

書いてあること

  • 主な読者:もっと管理職に期待に応えてほしいと思っている経営者
  • 課題:管理職との意思疎通がうまくできていない、管理職が頼りない
  • 解決策:経営者がやるべきは、思いの共有、役割の確認、そして我慢

1 経営者から見ると管理職が頼りない?

経営者は、管理職が自分(経営者)の考えや思いを正しく理解し、それを現場に伝えてまとめてほしいと期待します。しかし、これができている管理職は多くはありません。経営者から見ると、管理職が管理職としての仕事をしていないのです。

見かねて管理職のやり方に口を出し、場合によっては経営者自身が細かく指導することもあるでしょう。社員育成は経営者の仕事ですが、細かなところまでやっていては、将来のビジネスの種を見つけ、組織を前に進めるという経営者本来の仕事ができません。

このように、経営者が管理職を頼りないと感じると、経営者と管理職の役割分担がうまくいかなくなり、企業活動に支障を来すことがあります。本稿では、そうならないようにするために、経営者が意識すべきポイントをまとめました。

2 組織のギャップを解消する

1)まずはギャップの認識

理想的な組織は、経営者が掲げる“理想の社員像”を少なくとも管理職が理解し、それに基づく指導を現場で行うことです。しかし、経営者と管理職の考えや思いには次のようなギャップがあり、なかなか認識合わせができません。

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2)理解できる? 管理職の経営者に対する不満

経営者が管理職に不満を覚えているのと同様に、管理職も経営者に不満を覚えています。管理職も「管理職としての役割を果たそう」と思ってはいます。「自分がこの組織を回していく!」という責任感や、やりがいを持っている管理職もいます。

しかし、経営者の思いが分からず、自分のやり方に自信が持てない管理職もいるのが事実です。特に、答えが見えにくい部下指導については、自分のやり方が正しいのかどうか迷うことが多いのです。

経営者は、管理職の部下指導が正しくない、迷っているのだろうと感じると口を出します。経営者は指導方法の手本を管理職に見せているつもりですが、管理職にはそれが分からず、「自分のやり方はそんなにまずいのか」と自信をなくします。

そして、経営者が直接社員を指導するなら、「自分は何も言わないほうがよいのではないか」と誤解する管理職が出てきます。経営者は管理職を指導しているつもりが、自信のない管理職は、強烈な“ダメ出し”をされているように感じるのです。

3)経営者と管理職のギャップを埋めるには?

こうした経営者と管理職のギャップを埋めるために、経営者は管理職に2つの働き掛けをしましょう。1つ目は経営者の考えや思いを管理職に伝え、理解させることです。2つ目は、経営者が管理職に対して、管理職として成長させる機会をつくることです。

そのためには、経営者自身が経営者と管理職の役割を整理した上で、「経営者として何をすべきか」「どこまで管理職に任せるか」を考えなければなりません。管理職も、「経営者が教えてくれないから分からない」と言っているだけではなく、経営者の考えや思いを理解するよう努め、部下指導に生かす方法を考えなければなりません。

以降ではそれぞれのやるべきことを見てみましょう。

3 経営者と管理職が考えや思いを共有する

1)経営者は管理職に「何を大切にしているか」をイメージさせる

経営者は、管理職に自分の考えや思いを伝える機会を設けましょう。経営者の考えや思いをある程度理解し、行動に移すことのできる管理職もいます。そうした管理職に協力してもらって、他の管理職に伝えてもらうのも一策です。ただしその場合、えこひいきに思われないよう注意が必要です。

経営者の言うことを“腹落ち”しないと思う管理職もいますが、そうした管理職に対しては、ゆっくり時間をかけて話すしかありません。

2)管理職のほうから経営者に近づく努力をする

経営者の考えや思いが分からない、期待されている役割が分からないという管理職は、遠慮せずに経営者に質問してみましょう。しかし、一見簡単なようでいて、この「経営者に質問する」ことがなかなかできないのが管理職です。

管理職には「管理職なのだから自分でなんとかしなければ」という思いがあるのです。そこでまず、経営者の愛読書や普段よく使う言葉などから、「経営者が何を大切にしているか」を学び取ることから始めてみましょう。

経営者が大切にしていることを学ぶと、経営者と同じ言葉で話ができるようになります。経営者が管理職や他の社員に、考えや思いを伝えるのは言葉です。経営者と同じ言葉で話せるようになれば、経営者の考えや思いに近づくことができるでしょう。

管理職が経営者の考えや思いを理解するために、部下指導について具体的な相談を持ち掛けるのも一策です。経営者の答えとその理由を聞けば、経営者がどのような部下指導を求めているかを知るためのヒントになるでしょう。

3)「耳の痛い話」こそ共有できる関係を目指す

「こんなことは経営者に言えない」と思い、自ら口を閉ざしてしまう管理職もいるでしょう。特に、自分の部下のマイナス点は「部下のために」「経営者に心配を掛けたくない」と、よかれと思って言わない管理職は少なくありません。

しかし、部下にマイナス点があるのなら、その事実は早く経営者に伝えなければなりません。経営者には、現状を正しく把握し、組織全体の今後を考える責任があります。現場の社員(部下)の現状を、正しく経営者に伝えるのも管理職の重要な役割です。

一方の経営者も、管理職から部下のマイナス点など「耳の痛い話」を聞き出せるように、一緒に飲みに行くなどの機会をつくらなければなりません。耳の痛い話こそ、経営者と管理職で共有していくことが大切です。

4 管理職が管理職としての役割を果たすには

1)経営者はとにかく我慢する

基本的には、「経営者が決めて管理職が実行する」というのが経営者と管理職の役割分担です。経営者が部下指導について決めるのは、会社としてのルール、社員のあるべき姿、そして個々の社員について「どのレベルに達してほしいか」の3つです。

この3つを管理職に伝えた上で、具体的な部下指導の方法は管理職に考えさせましょう。どうしても管理職がうまく指導できないときなどは、経営者が口を出す必要がありますが、原則として部下指導は管理職に任せ、「我慢する」のも経営者の役割です。

経営者から見れば、管理職の部下指導は不十分に思えることが多々あります。その場合も、経営者が直接その部下に指導する前に、管理職に「もし私だったらこうする」と伝えてみるとよいでしょう。そうして管理職を成長させることが必要です。

2)管理職は経営者の決めたことを部下に行動で示す

管理職の役割の1つは、経営者と部下(社員)のクッションになることです。経営者の決めたことを部下が理解できるよう、管理職が自分(管理職)の言葉や行動で、「どうすればよいか」を具体的に示すことが大切です。

例えば、経営者が「自己啓発に積極的に励んでほしい」と決めたとしましょう。管理職がやるべきは、まず、セミナーに参加したり資格取得を目指すなどして、管理職自身が自己啓発に努めている姿を部下に見せ、まねさせることです。

部下にまねさせるには、実績を上げなければなりません。この場合、本気で自己啓発に取り組み、資格取得にチャレンジするなら合格することが大切です。その上で、部下の適性やキャリアなどを考え、具体的に部下が行くべきセミナーなどを指示しましょう。

ルールについても同様です。「挨拶をする」のが会社のルールなら、管理職自身が職場の誰よりも挨拶をしっかりしなければなりません。時間管理を徹底するのがルールなら、管理職がまず時間管理をしなければならないのです。

3)管理職の仕事を取り上げられるのは経営者しかいない

多くの管理職が抱えるのが「時間の壁」です。プレイングマネジャーの管理職は、部下指導に割く時間がないというのが本音です。状況に応じて管理職の仕事を取り上げ、他の社員に振り分けるのは経営者の仕事です。

管理職は、ある程度は自分で差配してなんとかしなければなりませんが、難しい場合はそのことを経営者に相談しましょう。「大丈夫です」と言って無理に仕事を抱え込むのは、管理職として正しい選択ではないことを理解しなければなりません。

5 経営者も管理職も考えるべき管理職の成長

部下指導について経営者と管理職のやるべきことを見てきましたが、重要なのは、経営者が決めたことを管理職が実行できるよう、経営者が管理職を育てることです。同様に管理職は、自ら管理職として成長できるよう努めなければなりません。

経営者が管理職に求めることは、経営者の考え方や会社の規模などによって違ってきますが、「全体を捉えられる大局観」「部下がまねしようと憧れる人間力」「やるべきことを遂行する仕事力」です。そして、これを表しているのが次のカッツ・モデルです。

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カッツ・モデルの特徴は、ヒューマン・スキルがどのレベルの管理職にも求められることと、管理職のレベルによって重要度が増す能力(コンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキル)が違ってくることです。

しかし、人数の少ない会社では、「上位だから」「下位だから」と言っている場合ではありません。管理職である以上、前述の3つの能力全てを身に付けて成長できるように、経営者も管理職も努めなければならないといえるでしょう。

組織の成長は、日ごろ現場の社員を指導している管理職の成長なくして実現することはできません。人が育つ、人を育てる会社になるには、経営者も管理職も、互いに思いを共有し、力を合わせなければならないことを、いま一度、自覚することが大切です。

  • 【参考文献】
  • 「一日一話 仕事の知恵・人生の知恵」(松下幸之助(著)、PHP総合研究所(編)、PHP研究所、1999年4月)

以上(2019年4月)

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信頼される経営者になるための「10のチェックリスト」

書いてあること

  • 主な読者:改めて自分自身の立ち位置、足りない部分を知りたい経営者
  • 課題:どのような経営者であれば、社内外でもっと信頼されるか分からない、迷う
  • 解決策:自分自身の「やりたいこと」を考え抜き、周りに感謝の気持ちを持つことが大切。本稿では、経営者が今日からやるべき10のことを明らかにする

1 経営者に求めるものは何か

経営者は「会社の顔」であり、常に、顧客や取引先、金融機関、社員などから見られています。これらの人々が経営者に対して求めるものはさまざまですが、根源にあるのは、「『この人なら』と信頼できるかどうか」ではないでしょうか。

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上表は、経営者から見ると、「言われなくても分かっている」と感じることかもしれません。しかし、実際に身に付けられているかは別問題です。本稿では、「信頼される経営者」になるために、経営者が自らを振り返る「10のチェック項目」を紹介します。

2 どのような経営者が信頼されるのか

経営者の仕事は、利益を出し、社員を雇用し、何があっても会社を存続させることです。会社の規模にもよりますが、「この人ならそれができる」と信頼されるためには、「先見性」「決断力」「ビジネスを形にする行動力」「人を育てる力」などが必要です。

これらの力さえあればよいわけではありませんが、時代を読み顧客が何を望んでいるのか、ビジネスチャンスはどこにあるのかを見極めて進む力、それを形にして利益を出す力、会社の成長を担う社員を育てる力などは経営者の基本といえるでしょう。

3 信頼される経営者になるために必要な10のこと

1)「やりたいこと」を明確に示しているか

よくいわれる例えですが、経営者は会社という船の船長です。船長は、世の中の流れを読みつつも、船がどこに進むのか、何を目指しているのかということを一番明確に持っていなければなりません。会社の「理念」と言い換えてもよいでしょう。

社内外に対して、この理念を明確に示すのは経営者の重要な仕事です。何をしている会社なのか、これから先、何を実現しようとしているのか。顧客や金融機関などの他、実際に現場で働く社員に対しては、特に繰り返し伝えていかなければなりません。

2)自分の弱点を認識しているか

経営者一人の力では会社は立ちゆきません。社員や周囲の協力、補完があって初めてて、会社は成り立ちます。この点についてよく例に挙げられるのは、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏とその名参謀、藤沢武夫氏の関係です。

2人は、「技術の本田」「経営(販売)の藤沢」と呼ばれるほど、それぞれが得意分野を突き詰め、互いに補完し合って会社を成長させたといいます。経営者には、自分の弱点を認識した上で社員や周囲に協力してもらい、それに対して感謝する器が必要です。

3)社外ネットワークを広げているか

経営者には、社外ネットワークも必要です。「困ったときに相談できる“その道のプロ”がどれだけいるか」「自社のために一肌脱いでくれる社外の人がどれだけいるか」は、信頼される経営者のバロメーターの一つといえるでしょう。

また、テクノロジーが発展し、グローバル化が進む現在では、社内のリソースだけでは今後の成長が難しい局面も出てくるでしょう。新しい分野の社外ネットワークを築き、ビジネスの可能性を広げていくことも、経営者にとって欠かせない仕事です。

4)誰よりも勤勉であるか

経営者は、自社のことに加え、顧客や業界のことについて社内外の誰よりも詳しいといえるくらい常に情報収集し、学び続けなければなりません。経営者には、会社を存続させていくために先見性が求められますが、それには裏付けとなる知識が必要です。

また、業種や規模にもよりますが、現場に行って情報収集することにも勤勉でなければなりません。顧客が今、何を求めているのか、オペレーションにはどのような課題があるのかなどは、実際に現場に行ってこそ見えてくるものです。

5)キャッシュフローを把握しているか

会社の規模にもよりますが、経営者が意外と正確に把握できていないのが「会社のお金の動き」です。金融機関などステークホルダーに対して説明するのはもちろん、会社のあらゆる活動を進めていくため、「お金の動き」は必ず把握しなければなりません。

ただし、経営者が知っておくべきなのは、細かい仕訳などではありません。例えば、前月どれだけの利益を出しているのか、すぐに動かせるキャッシュはどのくらいあるのか。こうした数字を把握しておけば、経営者は迅速に“次の一手”が打てるでしょう。

6)決断する軸を持っているか

会社の最終的な意思決定者は経営者です。大なり小なり、日々、あらゆることを決断するのが経営者の仕事です。しかも、決断したことの責任も、最終的には全て経営者が負うことになります。経営者とその他の社員とでは、この点が決定的に違います。

だからこそ、経営者は決断するのに迷うことがあります。そこで必要なのは、決断する軸として、「どのようなことを大切にする会社なのか」「どのような経営者でありたいか」といったことを、常に自分の中に持っておくことです。

7)社員の「人間力」を磨いているか

経営者には社員を成長させる責任がありますが、それは仕事面のことだけではありません。会社で重要なのは「人」です。「相手のことを考える」「礼儀をわきまえる」「困難を乗り越える」など、社員の基本的な「人間力」を育成することが必要です。

また、経営者が直接指導して育成するだけでは足りません。経営者がいなくても、あるいは次の経営者にバトンタッチした後も、「社員が社員を育てる」会社にしていくことが理想です。非常に難しいことですが、信頼される経営者としての重要な役目です。

8)社員に誇りを持たせられているか

考え方は人によりますが、社員が働きがいを感じ成長していく源泉は、「この会社で働くことを誇りに思える」ということです。そして、社員に誇りを持たせることができるのは、経営者に他なりません。

自社のビジネスや社員一人ひとりの活動にはどれだけ価値があるか、どのような顧客に喜ばれているか、どれだけ経営者が社員に感謝しているか。そうしたことを社員に伝え、社員と一緒に大きな夢を描いていきましょう。それが社員の誇りにつながります。

9)素直であり続けているか

環境や時代の変化など、何があっても会社を存続させていくために、経営者には時に柔軟性も必要です。そのために忘れてならないのは「素直さ」です。立場や年齢などにこだわらず、社員や周囲の人の話に、素直に耳を傾けてみましょう。

そうすることで、経営者が気付いていなかった思わぬヒントが得られる場合があるからです。特に、経営者とは異なる視点や反対意見を持つ人の話は、腹が立つかもしれませんが、素直に聞いてみれば大きな発見があるかもしれません。

10)24時間365日、経営者でいられるか

社員には休みがありますが、経営者には休みはありません。24時間365日、経営者は経営者です。会社のこと、社員のこと、ビジネスのことなどを、いつでもどこでも考えることができるのが真の経営者といえるでしょう。

会社を経営するのは簡単ではありません。つらいことも困難も山ほどあります。しかし、ビジネスが成功したときや社員の成長を感じられたときなど、24時間365日経営者でいた者にしか味わうことのできない、大きな深い喜びもあることを忘れてはなりません。

4 まとめ:10のチェックリスト

  • 「やりたいこと」を明確に示しているか
  • 自分の弱点を認識しているか
  • 社外ネットワークを広げているか
  • 誰よりも勤勉であるか
  • キャッシュフローを把握しているか
  • 決断する軸を持っているか
  • 社員の「人間力」を磨いているか
  • 社員に誇りを持たせられているか
  • 素直であり続けているか
  • 24時間365日、経営者でいられるか

以上(2019年3月)

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働き方改革の第2波に抜本対策を!/激動の2020年を勝ち抜く採用戦略(1)

2020年は、ここ数年の人出不足をさらに上回る「異次元の人材難」に直面することが予見されています。オリンピック開催と働き方改革関連法に伴う改正という2つのビッグイベントによって、労働市場が大混乱をきたすからです。

本連載では、この難局を勝ち抜く採用戦略について実践的なノウハウを提供していきます。連載第1回の本稿では、働き方改革関連法が採用環境に与える影響について、改めて解説します。その本質を正しく理解した上で、真摯に「採用」と向き合うマインドセットを確立することが、極めて重要だからです。

1 同一労働同一賃金の導入

2020年4月、働き方改革関連法の大きな柱である法改正が施行されます。いわゆる「同一労働同一賃金」の導入です。2016年9月に首相が「働き方改革実現推進委員会」を立ち上げ、2019年には「残業時間の上限規制」を柱とした労働関連8法案が改正されました。その第2波でありラストピースがこの同一労働同一賃金の導入というわけです。

そもそも同一労働同一賃金とは、同じ労働であれば同じ賃金を支払う、というシンプルで分かりやすい考え方です。全く同じ仕事をしているのに給与が異なるなんて不公平だ――。そんな不公平を解消しようと、同一労働同一賃金の導入が検討されてきました。

しかし、今回の法改正によって、このまますぐに同一労働同一賃金が実現すると考えるのは早計です。ざっくり解説すると、均等・均衡待遇原則に沿って、働き方が同じであれば同一の待遇にしなさい、働き方に違いがあれば、違いに応じてバランスをとって待遇差を解消しなさいということです。

同一労働同一賃金そのものというよりは、そのためのステップとして不合理な待遇差をなくそうとする内容になっています。つまり実態を見ると同一労働同一賃金の導入の一歩手前くらいのレベル感なのです。また、2020年4月時点では大企業のみの適用となり、中小企業においては1年間の猶予があります。そして直接的な罰則も、現時点では設けられていません。

そういった意味では、「同一労働同一賃金」の実現に向けて本格的に動き出したと捉えるくらいでちょうどよいかもしれません。

2 派遣労働者は待ったなし

とはいえ、留意しなければならない点もあります。今回の対象となる雇用形態は「パートタイム労働者」「有期雇用労働者」「派遣労働者」という、非正規雇用と呼ばれる人たちですが、直接雇用ではない派遣労働者に関しては、企業規模の大小に関わらず、一斉に適用されます。

派遣労働者の待遇が改善されるということは、派遣労働者を活用する企業にとってコスト増を意味します。しかも今回の法改正を理由に、企業側に派遣料金の値上げを迫ろうとしている(=値上げの好機と捉えている)派遣会社が多いとも聞きます。

加えて、今回の労働者派遣法の改正内容は極めて複雑です。そもそも同一労働同一賃金という概念を「派遣」という働き方になじませること自体かなり難しいわけで、結果的に法案が複雑化せざるをえなかったのです。派遣会社はもちろんですが、派遣労働者を活用する企業側も、派遣法の改正内容をある程度把握しておく必要に迫られます。

直接雇用の採用がままならず、派遣という人的リソースに活路を見出した企業にとっては、今回の法改正はかなりの逆風なのです。

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3 残業時間の上限規制

同一労働同一賃金に目がいきがちですが、実はそれよりインパクトがあるのが「残業時間の上限規制」でしょう。このルール自体は、先述のように2019年4月に施行されましたが、適用範囲は大企業まででした。それが1年の猶予期間を経て、2020年4月からいよいよ中小企業にまで適用されるのです。これこそが働き方改革の第2波の正体なのです。

残業時間の上限規制は、いうまでもなく労働者保護の視点から考案されたものです。長時間労働が横行している業界のひとつに飲食業界があげられます。我々、ツナグ働き方研究所が飲食店店長を対象に実施した調査では、彼らの月間平均残業時間は、なんと92.3時間にも及んでいました。さらに年末年始などの繁忙期は130時間超。改正法では完全に一発アウトです。確かにこの働き方は看過できるものではありません。

企業規模が中小零細であることが多いITベンチャーにおいて、特にエンジニア職種などでは、同じような傾向が見られるでしょう。

4 中小企業に与えるインパクト

改めて、残業時間の上限規制についてかいつまんで解説します。

  • 原則として「月45時間」「年360時間」
  • 36協定を結んだとしても「年720時間以内」
  • 単月の上限は「月100時間未満(休日労働を含む)」
  • 複数月平均上限「80時間以内(休日労働を含む)」(※「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1月当たり80時間以内)
  • 原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月まで
  • 上記に違反した場合には、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される

大人数の労働者を雇用する大企業と違って、少人数が労働集約的に働くことで切り盛りしている中小企業において、労働時間のキャップが決められるというのは、極めて大きな打撃でしょう。決められた残業時間を遵守しようとすると、相当な人出不足が予見されます。

前述のように、派遣労働者活用が難易度も高まり、採用難易度は格段に増します。いったん落ち着きを見せている有効求人倍率が反転する可能性もあります。

5 副業の加速

実は、全ての働き手が「残業が少なくなること」を歓迎しているわけでありません。残業時間が減る、それはすなわち残業代が減ることを意味するからです。特に健康に自信を持つ若者の中には、がっつり働いてがっつりお金が欲しいという層が少なからずいます。そういった人は、稼ぎが減るぶん他でも稼ごうとなります。いわゆる副業です。

ある大手メーカーが従業員に副業を斡旋する取り組みをはじめたことが、新聞報道で紹介されていました。複数の仕事を経験することがイノベーションにつながるといった指摘もあり、副業が増えること自体は好ましいことかもしれません。

しかし、企業体力に余力のない中小企業にとって、従業員の副業は悩ましく感じることが多いかもしれません。本業とは働く場所が変わっても、1日8時間、週40時間を超えると割増賃金の支払い対象となるとされています。支払い義務を負うのは副業先の事業所です。しかし本業の事業所は従業員が副業先で雇用されている場合、労働時間を把握することとされています。この労働時間の把握が、実に面倒です。

6 本質的な命題

残業規制の中小企業への適用拡大は、少数の先発完投型従業員から多数の小刻みな継投型従業員での職務遂行へのシフトチェンジを求めています。また企業視点では、副業による従業員ロイヤリティの低下は懸念材料です。これは、家族のような絆で結ばれた日本型雇用の関係性を変質させていくものです。

日本型雇用慣行といわれる雇用システムは、企業と労働者の運命共同体的関係を育んできました。企業側は「うちの会社に就職したら一生安泰」という安心・安定を保障する一方で、労働者側は「雇って(=守って)もらっているわけだから、会社の都合で、なんでもやります」と忠誠を誓う濃ゆい関係性でした。

老舗の中小企業においては、特にこの傾向は顕著でしょう。また新進気鋭のベンチャー企業にしても、起業した社長のカリスマ性に惹かれた従業員が献身的に働くという構図は、同一線上にあるといえます。

そういった意味において、この働き方改革の第2波は、「残業規制による人出不足」という表層的課題だけでなく、「日本的雇用慣行=昭和なメンタリティ」との決別という本質的課題を課しているといってもいいでしょう。雇い方が変わることで採用のあり方もおのずと変わります。雇用のパラダイムチェンジ。これが2020年における採用戦略を考える上での一丁目一番地です。

次回は、採用ブランディングについて触れていきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年2月12日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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第9回 iU 情報経営イノベーション専門職大学 設立準備室室長 宮島徹雄氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第9回に登場していただきましたのは、新しいイノベーション人材の教育機関として注目される、2020年4月開学予定のiU情報経営イノベーション専門職大学(以下「iU」)の準備責任者、宮島徹雄氏(以下インタビューでは「宮島」)です。

1 「限界超えるまでやりきったら、必ず道は開けるという、そういう努力の仕方をしています」(宮島)

John

本日は、お忙しいところお時間いただきまして、本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!


本日は、宮島さんが営業担当者のころのお話や、会社経営、iUに関するお話など、過去を振り返ったり未来のことを教えていただいたりしながら、宮島さんの個人としてのお考えをいろいろとお聞きできればと思います! そして、最後には、宮島さんのイノベーション哲学をお教えください。よろしくお願いします。

宮島

こちらこそ、ありがとうございます。よろしくお願いします!

John

まず、宮島さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。最初に宮島さんのキャリアを拝見したときに、非常にユニークだなと思いました。

宮島

そうですかね、あまり一般的ではないかもしれませんね(笑)。

John

宮島さんは関西の出身ですね。関西学院大学では何を学ばれていたのでしょうか?

宮島

はい。関西出身です。大学時代は、ラグビーをやっていました(笑)。

John

そうですか! ラグビーでは、どういったことを一番学ばれましたか?

宮島

僕は少し変わっていまして、高校時代には写真部に所属していました。高校時代はとても痩せていたのですが、一念発起して、大学では体育会系のラグビー部に入りました。当時、僕のポジションは、フッカーで、(スクラムの)一番前でした。そのポジションはケガ人が多かったのです。素人が大学でラグビーをやり始めてもなかなかレギュラーになれないのですが、そのポジションはケガ人がかなり出るため、僕にも順番が回ってきました。大学3回生で僕はなんとレギュラーになってしまいました。そのとき、母親が一言こう言いました。「徹雄、無事これ名馬なりやで(笑)」。徹底して努力すればチャンスが来るということをラグビーで学ばせていただきました。

John

ケガをせず、ポジションが回ってきたときに、そのチャンスを掴むという考えはビジネスにも通じるものがありそうですね。リクルートに入社した一番の決め手は何だったのでしょうか?

宮島

ラグビー部の先輩がリクルートにいらっしゃったということと、お会いしたリクルーターの方が非常に魅力的な方だったことです。

John

大学では何学部だったのでしょうか?

宮島

経済学部です。

John

経済学部で学んだことで、宮島さんが今の仕事に使われていることや考え方などはありますか?

宮島

(大学のときは)ほとんど勉強をしていなかったので、何とも言えないのが正直なところです(汗)。iUの学生に言えませんが(汗)。ただし、経済学の授業を受けていたことが、今になって参考になっているのではないかなと思うことはあります。

John

もしかしたら、ラグビーの方が勉強になったのでしょうか?

宮島

確かに、ラグビーの方が社会人として生きていく上では勉強になりました。

John

それは、人脈であったり、考え方であったり。そういうことでしょうか?

宮島

そうですね。先ほど申し上げました通り、努力すれば、必ず報われるということを学んだと思います。

John

宮島さんの努力の仕方について聞きたいと思います。どのようなお考えで努力されてきたのでしょうか?

宮島

限界超えるまでやりきったら、必ず道は開けるという、そういう努力の仕方をしています。

John

それは素晴らしいですね。実際に限界を超えるまでやることをやっている人は、あまりいないと思います。
どういった限界を設定しているのでしょうか? どこまでいくと限界なのですか?

宮島

自分の大学生活を全てラグビーに捧げる、というようなイメージです。

John

なるほど! 朝から晩まで練習する!ということですね。

宮島

そうですね。大学時代は、誘惑も多いですよね。僕はとにかくラグビーをやっていました。関西学院は、おしゃれなイメージの大学です。ミッション系の大学でサークル活動も華やかです。最初は、「大学に入ったら遊ぶ」予定だったのですが、ラグビー部に入部してしまったので(笑)。朝、大学に行って練習し、帰って家で筋力トレーニングをする。僕は試合の経験がないので、「いい試合」と言われている試合のビデオを何百回も見続けました。言ってみれば、それだけです。

John

ストイックな大学生活ですね! 宮島さんが副キャプテンとして何かこだわっていたことはありますか?

宮島

率先してしんどいことに取り組むこと、ケガをしないことです。僕の学年はレギュラーがとても少なかったということもありましたし。キャプテンもケガが多かったので、監督からも「お前は絶対にケガするな」と言われていました。

John

どのようにケガを防止されていましたか?

宮島

練習に集中し、徹底してやりきること、筋力トレーニングを徹底してやることですね。

John

それは、ビジネスで失敗しないことと似たような感覚なのでしょうか?

宮島

そうかもしれません。ビジネスでは、成功するまでやり続けることが大事で、努力さえすれば、結果が出ると思います。その努力をする人が圧倒的に少ないのですが。一方、スポーツは、努力してもなかなか結果が出にくいこともあります。もちろん、本人のセンスの問題もあるかとは思いますが。ビジネスの場合は、努力した量によって必ず結果が返ってきます。ビジネスでは努力は絶対に裏切らないと思っています。それはリクルート時代の上司に言われたことも大きく影響しています。その上司に言われたのはスポーツマン、例えばイチロー選手は3割を打つ。でも我々は打てない、10回に3回もヒットを打てません。でもこう言われました。じゃあビジネスマンはイチロー選手が10回打席に立つところを100回、1000回立てばいい。


イチロー選手は10回打席に立って結果を残せる。ビジネスマンは本人がその気になれば100回、1000回打席に立てる。そこで3本ヒットを打てばイチロー選手と一緒だと。これが私の原点かもしれません。やりきるということの。

2 「『誠実にやる』ということです。しっかり効果を出して、しっかりクライアントのことを考える。しかも、クライアントのことだけを考えるので無く、自分たちも適切に儲かるようにするということです」(宮島)

John

宮島さんは、リクルートに新卒で入社されて、教育関連の事業部で11年、不動産関連事業部で4年の計15年間勤められていますね。リクルートで起業している仲間を見ると、3~5年で独立するなど、早い段階で別の道に行く方が多いですが、なぜ15年も続けることができたのですか?

宮島

あまり深く考えていませんでした(汗)。起業したいという思いもありませんでしたし、仕事も楽しかったですし、期待もしてもらっていて営業成績も非常に良かったので、気持ちよく仕事をさせていただいていました。

John

そうでしたか。宮島さんは、新卒で入社したリクルートのときに、何か特にこだわった点はありますか?

宮島

お客さまにちゃんと価値を伝えることです。

John

どのような価値をお伝えになっていましたか?

宮島

広告の効果ですね。私が担当している限りは、そのお客さまから大切なお金をいただいているわけですので、その広告効果をきっちり返すことを常に念頭に置いていました。そうでなければリピート受注することはできません。私は教育関係のルートセールスでしたので、焼畑農業(とにかく受注すればいい、効果や価値は関係ない)のような営業は好きではありませんでした。しっかりと効果を返し続けるからこそ、継続して関係が保て、広告を受注ができると考えていたのです。

John

リクルートの教育関係の仕事とは、どのような仕事だったのでしょうか?

宮島

学生募集メディアの広告営業ですね。“リクルート進学ブック”という大学、専門学校選びの進学雑誌があって、その広告営業をしていました。

John

最初から教育関係の仕事を希望されていたのですか?

宮島

実はリクルートという会社の主軸となる就職関係の部門を希望していましたが、内定者アルバイトで配属されたのが、教育関係の部門だったので、正直に就職関係の部門を希望していると言えなかったのです(汗)。結局11年間教育関係の部門でした。結果的には今の仕事に繋がっているのでとても感謝しています。

John

ルートセールスは、先輩方が作ったルートを、宮島さんが引き継いで営業に行くという方法ですよね。先輩が「素晴らしい価値」をお客さまにご提供していたら、そのルートを引き継ぐときにプレッシャーを感じることもあったかもしれません。引き継ぎのときに注意した点はありますか?

宮島

「誠実にやる」ということです。できないことはできないと正直に言うことです。しっかり効果を出して、しっかりクライアントのことを考える。しかも、クライアントのことだけを考えるのでなく、自分たちも適切に儲かるようにするということです。当然、会社から給与をいただいているわけですから。ここを勘違いしている営業担当者はたくさんいらっしゃると思います。お客さまからお金をいただくのが苦手な営業担当者もたくさん見てきました。

John

そうですね、(お客さまと自分たちの)両方ということが大切ですね。

宮島

はい。(お客さまと自分たちの)両方にメリットがないと、営業担当者としては失格だと思います。そういう営業担当者は、お客さまのほうだけを見て、とにかく値引いて会社の利益を全く考えなかったりします。逆に、自分と会社の利益だけ考えていて、お客さまのほうを全く見ていない営業担当者もいます。バランスが悪いという感じでしょうか。


そういう意味でいうと、私は多分、バランスがとても良かったのだと思います。会社の利益もしっかり出す。自分自身の成績も良い。そして、お客さまの業績も良い。そのためには、相当、仕事にコミットして考えないといけません。そうでなければ、お客さまに提案することもできないと思います。また高校生という読者にも配慮しなければならないので、三方が大切だと常に思っていました。

宮島氏の近影です

3 「企画書にマーカーを引いた、それだけでも、お客さまはこんなにも感動するのだなと気付きました」(宮島)

John

リクルート時代の営業経験は、今、宮島さんが大学の設立準備室室長として働かれている中で、活かされていると思いますが、いかがでしょうか?

宮島

はい。とても活かされています。基本は全てこのときに学びました。でも実は、営業をしていたときよりも、自分がクライアントになったときのほうが勉強になりました。リクルートから、クライアントだった辻調理師専門学校グループに転職しましたので、広告営業する側から広告を買う側になりました。これが大きな転機でしたね。営業を見る目が変わりました。いい営業担当者は確かにいるんだなとも実感しました。辻調理師専門学校は日本を代表する学校ですので、営業に来られる方も100人を超えます。その中でやはり良い営業をする方がいらっしゃって、信頼ってこう創るんだということも学ばせていただきました。

John

そうなのですね。宮島さんは、辻調理師専門学校に移られる前に、不動産関連で4年、お仕事をされているかと思います。教育関連から不動産関連に変わるときに、違和感などはなかったのでしょうか?

宮島

違和感はたくさんありました(笑)。そもそも業界のルールが全く違うので。

John

なるほど(笑)。不動産関連では、宮島さんは何をされていたのですか?

宮島

SUUMOの雑誌やWEBの営業、営業マネジャーをやっていました。

John

その間に、宮島さんは、年間最優秀マネジャー賞を受賞されていらっしゃるのですね。どのようにしてこうした賞を獲ることができたのでしょうか? 何人中、どのくらいの人数の方が受賞されるものなのですか?

宮島

マネジャーなど含め営業担当者が何百人もいますので、その中で事業部の年間のナンバーワンということで、何百人の中の1人です。

John

本当に素晴らしいですね! 宮島さんは、どのようにして、そこに到達されたのでしょうか?

宮島

それはもう、当たり前のことを当たり前にやるだけです。学校関連のときと同じで、お客さまのことをちゃんと考えて、かけていただいた費用に対してちゃんと(価値を)お返しできるかということに尽きます。適切なときに、適切な提案をするということですね。例えば、「お礼をちゃんと言う」ということも大切です。


一つ、例を挙げたいと思います。私が入社2年目の時に先輩に教わったことです。先輩に企画書作成の指導をいただいたときのことでした、先輩が企画書にマーカーを引かれていたのです。そのお客さまとの商談で大事なところに。商談で大事なところというのは、お客さまも分かっているものなので意味があまりないと思いますよと先輩にお話しました。しかし先輩から、「このポイントにマーカーを引く、こういう細かいことがとても大事なんや」と言われまして、僕も言われるまま自分で作っていた企画書にマーカーを引いて、あるお客さまに出しました。そうしたら、提案の満額で決まったのです。(売り上げが)4000万円だったお客さまが8000万円になりました。僕は、マーカーを引いただけですが、そのお客さまには、「お前、うちのことよう考えとる」と言っていただきました。企画書にマーカーを引いた、それだけでも、お客さまはこんなにも感動するのだなと気付きました。そういう細かいところが大切なのだと気付かせてくれました。

John

なるほど、勉強になるお話ですね! 多くの方にとって良いヒントになると思います。

宮島

ありがとうございます。そこで大きな商談がまとまりましたので、以降無理して営業しなくてよくなりました。予算の貯金ができたからです。1つ貯金ができると、次のお客さまにも余裕を持って提案ができるようになります。そうして全てのお客さまに良い提案ができるようになりますので、10年ほど、ずっと(予算を)達成し続けられました。無理な営業をする必要がないので、常にお客さまに最適な提案ができるようになりますよね。一番良くない営業は、「月末で数字が足りないときに、要らん商品売って……」という営業です。それを僕は一切しなくてよかったのです。

John

良いお話ですね、ありがとうございます。ちなみに、きっかけとなったマーカーは何色でしたか?

宮島

黄色です。いわば、「幸せの黄色いハンカチ」(笑)。本当にそうなんですよ。マーカーを引いてお客さまに企画書を出して、お客さまから「お前、うちのことよう考えとる」と言っていただける。「こんなの当たり前だ」と思っていたのですが、当たり前ではなかったのだと思います。

John

よく分かります。当たり前なことを当たり前に行う人は、そう多くはないかもしれませんね。宮島さんの商談スタイルについて教えてください。

宮島

教育関連の部門のときは、商談は年に1回でしたので、普段はお客さまの募集状況を把握することや、こまめに訪問して関係を構築していました。例えば学校の場合は、オープンキャンパスの来場者数はどうか、今のメディアの反応はどうかというような、お客さまの課題をずっとヒアリングしている感じでした。
1年間かけて課題や解決しなければならないことを全部ヒアリングし、そして年1回のプレゼンでクライアントにしっかり提案する。教育関連のときは、そうした営業スタイルでした。

John

宮島さんはユーモアがある印象が強いのですが、営業のときも面白いことを話したりされましたか?

宮島

いえいえ、ユーモアなんてないですよ。普通の営業をしていただけです。

John

営業で「自分自身を出す」ということは?

宮島

意識はしていませんでした。無理に自分を出そうとすると、提案がゆがんでしまいますから。より普通に、とにかく良い提案を当たり前にすることを心掛けているつもりでした。

John

意外です。宮島さんは一見、「濃い関西味」のように見えて、あっさりされていますね。

宮島

はい、本当にそうだと思います(笑)。関西味のようでいて、さっぱり派なのかもしれません。

4 「伸びやすい人は、素直な人です。これに尽きると思います。自分のやり方に固執しない人が一番伸びると思います」(宮島)

John

宮島さんは、辻調理師専門学校には2006年に入社されたのですね。なぜ入ろうと思ったのでしょうか?

宮島

それまでずっと学生募集や集客のお手伝いをしてきて、一定の達成感もありました。さらに、ずっと広告を売る仕事だったので、実際にリアルな事業はどうなのかなと興味があり、リクルートで評価された実力を試したいなと思ったのです。辻調理師専門学校が素晴らしい学校でしたので、なんとか営業時代のお返しをしたいという気持ちもありました。それで、思い切ってリクルートを辞めました。

John

リクルートは、社風的に起業家を生み出したりしますよね。宮島さんは、起業しようとは思わなかったのですか?

宮島

今もそうなのですが、私は、起業したいとは思いません。

John

それはなぜでしょうか?

宮島

そんな能力もないですし、明確に「自分でやりたいこと」がないのだと思います。私は、「こういうものをやってほしい」など、要望されたものに対してフィットするタイプだと思います。頑張ってほしいとか、助けてほしいといったものに対して、フィットするタイプ。あまり自分で一から実現したいというタイプではないです。しかし、今回のiU設立は、自分のキャリアの総決算だと思っています。今までなかった自分のやりたいことが、どうしてもやりたいことができて、まさにドンピシャだと思っています。

John

ああ、なるほど。そうすると、(今回の大学は)起業と一緒ですよね。

宮島

起業までは行きませんが、とても楽しいですよ。自分のやりたいことと、今までのキャリア、世の中のニーズが一致していますので、これほど楽しいことはないと思います。

John

それは素晴らしいことですね! 辻調理師専門学校で10年間働かれて、募集とPRの責任者をされて、3校の副校長をやっていらっしゃいましたね。

宮島

はい。そうです。校長が1人ですので。東京、フランス、大阪に7校あったうちの3校が私の担当でした。

John

3校をどのように担当されていたのですか?

宮島

学生に教えるわけではなく、組織をマネジメントする仕事でした。

John

教育、不動産、そして今度は料理・製菓だったわけですよね。マネジメントで一番必要なことは何だと思いますか?

宮島

僕自身があまりできていないかもしれませんが、個人の能力を伸ばすことと、全員で同じ目標に向かうことだと思います。それをリードするのがマネジメントする人間の仕事だと思います。

John

どうすれば人は伸びるとお考えですか。伸ばしやすい人と、そうでない人がいますよね。

宮島

伸びやすい人は、素直な人です。これに尽きると思います。自分のやり方に固執しない人が一番伸びると思います。

John

素直な人には、どのように声をかけて、さらに伸ばすのですか?

宮島

基本的に、僕は放牧型です(笑)。あまり細かいことは言わず、大きな方針だけを示して、あとは個人の工夫で動いてほしいタイプです。なぜそうするかというと、僕自身がそういう風にされるのが一番心地よいからです。お客さまに向き合い、自分自身のやり方を見つけていく。たまに目標からずれることがあれば、声をかけ再び目標へと導く。メンバーはさまざまなことを周りから学び吸収することで、本人ですら思ってもいなかったような成長をしていくと考えています。

森若氏の近影です

5 「これから必要なのは、ITの知識が分かっていて、英語を喋ることができ、そしてビジネスをドライブできることだと思うのです」(宮島)

John

それから、宮島さんは、2016年には東証1部上場のエボラブルアジアの執行役員となり、東京に行くことになりましたね。現在は役員を退任されてアドバイザーということですが、具体的にはどのようなお仕事でしょうか?

宮島

人をご紹介したり、会社と会社をお繋ぎしたりといったことです。例えば開発に困っているという会社があれば、エボラブルアジアに紹介するという感じです。

John

なるほど、宮島さんは、人と人を繋いだりされるということですね。
そしていよいよ、ここからは、「iU」についてお伺いしたいと思います。2019年に、室長として本格的に全国を回られて、今、どのような準備をしているのでしょうか。なぜ墨田区に開学することになったのですか?

宮島

墨田区で開学することになったのは、墨田区が23区で唯一大学がない区であり、大学のある街づくりを進めていて10年くらい大学の誘致をされていたためです。


母体の電子学園日本電子専門学校の経営が非常に順調で、新宿の校舎は学生でいっぱいです。大学を作るときに、専門学校をやめて大学を作るのではなく、専門学校は従来どおり運営し、さらに新しく大学を作るのが我々の大学の作り方です。大学用地を探していたときに墨田区に出会い、墨田区も人づくり、街づくりを進めていることを知りました。我々も、ずっと人づくりをやっていましたので、職業教育を行う画期的な専門職大学を作りたいということを墨田区の方にお話してみたら、墨田区側も「いいですね」と言っていただき、トントン拍子に話が決まりました。

John

大学を作ることになった流れについて教えてください。

宮島

55年ぶりに学校教育法の一部改正により新しい高等教育機関として、職業教育を行う専門職大学の設置が決まりました。私共は長らく職業教育を実直にやってきましたので、この新しい専門職大学設置にチャレンジしようということになりました。

John

今、一番日本に必要な大学になりそうですね!

宮島

ありがとうございます。私もそう思っています。私自身が強く感じていたことですが、やはり日本にはビジネスリーダーが必要だと考えています。結果的に起業するのもいいのですが、今の日本で一番足りなくて必要なのは事業をドライブしていく人です。そういう人を、iUでは育てていきます。

John

一番役に立つ人材のスキルを学ぶ大学なのですね。具体的には、どういうことができるようになるのでしょうか。

宮島

これから必要なのは、ITの知識が備わっていて、多国籍な環境でビジネスを進めるために必要な英語を話すことができ、さらに新しいアイデアを生み出し、事業として実現できることだと思うのです。そのために必要な知識・スキルを学んでいくカリキュラムを用意しています。

6 「『学校を辞めたらあかん』と僕は思っています」(宮島)

John

iUでは、何歳から何歳までが対象ですか?

宮島

年齢的には、下は18歳、高校新卒から。上は何歳でもかまいません。65歳の方も入学を予定されており、また親子で入学を希望されている方も複数いらっしゃいます。

John

受験はどういった形式でしょうか?

宮島

受験は、既存の大学と同じ、AO入試、一般入試、推薦入試で行います。

John

受験の問題は難しいのですか?

宮島

基礎学力は問いますが、それほど難しいわけではありません。センター入試レベルです。僕らは、高校時代に高校の授業を面白くないと思っている子、学生活動をしている子、生徒会をやっている子など、自分で考え行動している子に入学してほしいと思っています。

単純に良い成績を取りたいというよりも、僕らはどちらかというと、高校時代に起業をしている子、大学に入って起業したいと考えている子、あるいは面白くないから暴れてみたいなど、そうした思いを持っている子にも来てほしいなと思います。

iUに興味を持ってくれている子から直接連絡をもらうこともありますが、進学校に通う高校生が多いですね。僕の取材記事などを読み、Facebookで友達申請してきて、直接話をしたいと言ってくれる子も多くいます。慶応義塾大学のSFCの希望の高校生や、東京大学からiUに進路変更を考える子などもいます。

John

いろいろな子が注目してくれているのですね! そうした子たちにiUが「面白い」と思い続けてもらえるようにすることも大切ですね。また、起業したら、学校に通う時間がなくなってしまうかもしれないですが、そのあたりは何か工夫があるのでしょうか?

宮島

大学校舎の中にコワーキングスペースを作っていますので、そこで起業してもらうのが良いのではないかと思います。大学で登記できるようにしてありますので。資金も支援していきます。

John

なるほど。そうすると、大学を辞めなくても、起業ができますね。

宮島

「大学を辞めたらあかん」と僕は思っています。例えば、海外で働くことを考えるとビザの問題があります。大卒のほうが絶対にいいです。私が会っている起業家の学生で、大学を中退しようと思うと言っている学生には、「絶対辞めたらあかん。どんなことがあっても、卒業はするべきだ」と伝えています。

John

宮島さんは、留学生についてはどのようにお考えですか?

宮島

学生に多様な人がいることを感じてほしいので沢山の留学生に入学してほしいと思っています。

John

部活動はどうでしょう?

宮島

部活動は学生が、自分たちで考えて作ったらいいのではないかと思っています。eスポーツ部を作りたいと言っている子もいます。あとはドローン部などもできるかもしれませんね。新しい大学ですので、学生自身が考えて作ってくれたらいいなと思います。

John

理想の男女比はありますか。

宮島

できれば半々がいいですね。

John

ライバルとなるような大学はありますか?

宮島

今のところありません。

宮島氏と森若氏の対談の様子です

7 「それが僕の『墨田バレー構想』です」(宮島)

John

iUが協業できそうな、例えば秋田の国際教養大学、国際基督教大学、立命館アジア太平洋大学など、9つくらいの日本の大学が英語で単位が取れると思うのですが、そうした大学とコラボレーションすることも考えられているのですか?

宮島

ぜひコラボレーションさせていただきたいですね。

John

エッジネクスト(次世代アントレプレナー育成事業)や東大、慶応、早稲田、九州大学、旧帝国大学を核としたアントレプレナーシップ教育などとのコラボレーションなどもいかがでしょうか?

宮島

いいですね、そうしたこともやっていきたいとは思っていますが、まだもう少し先かもしれません。まずは自分たちのこの大学をちゃんと形にして、良い人材を育てていかないといけません。足元を固めるのが優先です。そして、iUは墨田区に作りますので、まずは、地元に愛される大学にならなければと考えています。

John

素晴らしいお考えですね! 地元の方に配慮した特別な取り組みなどは、何かありますか?

宮島

はい、考えています。例えば、学食や図書館を開放することや、プログラミング教育を墨田区の小中学校で行う、といったことを考えています。「墨田区ではプログラミング教育が受けられるので、墨田区に住みたい」という声が、親世代で上がっているようです。プログラミング教育が進んでいますので、墨田区の小中学校で学び、高校も地元。そして大学はiUで学び、そして墨田区で起業してもらう。こういうことが実現できたらいいなと思っています。


墨田区では、かつて1万社あった中小企業が今2000社くらいしかなくなっていると言われています。iUが開学したことによって、学生が墨田区で起業する。iUの優秀な学生を求めてベンチャー企業が墨田区に集まってくるようなことを実現したいと思っています。それが僕の「墨田バレー構想」です。

John

墨田バレー構想、いいですね!


iUは、若い人にスタートアップを起業してもらうのが目的なのか、後々のリーダー、40歳くらいからチャレンジングな新規事業を立ち上げられるようにするのが目的なのか、お考えがありますか?

宮島

それは、どちらでもいいと思っています。学生本人が選ぶことであって、僕らは火をつけるだけであり、大学からすぐ飛び出して経営者になるか、10年後、20年後に独立するかは本人が選んだら良いと思います。

John

なるほど。理想としては、全員が起業することを望まれていますか?

宮島

学生全員に起業にチャレンジしてもらって、それがうまくいけば一番いいかなと思っています。しかし、うまくいかないことが多いとも思います。

John

私もiUで客員教授をさせていただいていますが、約200人もの方が客員教員をされていますね。

宮島

そうですね、開学すればもっと多くなるのではないかと思います(笑)。

John

客員教員には、どのような人材を選ばれたのですか?

宮島

まず、うちのコンセプトに共感していただいている方々です。

8 「とことんやりきる」(宮島)

John

最後に、これまでを振り返ってお聞きしたいと思います。さまざまなキャリアを積まれた後に、iUを開学されますが、宮島さんにとって、一番のビジネスのやりがいとはなんでしょうか?

宮島

今は、日本の大学教育に一石を投じられるような大学を作る機会を与えていただきました。教育でしか国は良くならない。しかし、既存の大学教育ではなかなか国をより良く変えることは難しいと言われている中で、国が新しい教育を行う大学を作ると決め、電子学園がその大学を作る。そしてその大学設立の準備室室長というポジションをもらえたことは、この上ない自分のやりがいとなっています。

大学は全国で800校くらいしかないですし、新規で大学を立ち上げるのはなかなかチャンスが巡ってこない。本当に、今とても、やりがいはもちろん責任も感じています。

John

まさに、キャリアの総決算ですね!

宮島

はい。力の限りやり続けたいと思っています。

John

私も大学で教えさせてもらったり、自分で全国の大学の講演を巡ってツアーなどをさせてもらったりする中で、ハーバードやスタンフォードなどさまざまなところで学んできて、博士課程を取るような賢い方々とたくさんたくさんお会いしてきました。

しかし、世界には寂しい思いをしている人も多く、より良い社会を作ろうと考える人たちの数も足りていないと感じています。ただ活躍する人を生み出すのではなく、世界の課題を自分事として捉える優しさを持ち合わせたリーダーが、今後求められるのではないでしょうか。例えばシリコンバレーを見ても、確かに便利にはなりましたが、所得格差などの課題が根強く残っています。そうしたことを考えると、iUでは、宮島さんが考える、本当に良い人間教育ができるといいなと思います。

宮島

本当にそうですね。ハートを持った、熱い人間。世の中の負を解消したり、世の中を良くしたりする子を育てたいなと思います。自分のことだけ考えるのではなくて、世の中を良くしたいという起業家を育てたいのです。

John

その通りですね。


最後に、宮島さんにとって、世の中を良くする学生を生み出すための志、宮島さんにとってのイノベーションの哲学とは、一言で言うと何でしょうか?

宮島

情熱を持って「とことんやりきる」ということだと思います。成功している人は皆そうではないでしょうか。情熱を持って最後までやりきる、やり続けるのがイノベーションだと、僕は思っています。

John

なるほど。素晴らしいですね! ありがとうございます! 最後に、中小企業の経営者の方々に、お伝えしたいメッセージなどはありますか?

宮島

ぜひ、iUに見に来ていただきたいです。そしてご子息を入学させてください。そうすると、この大学で、さまざまなネットワークができます。こうしたネットワークは非常に有効ではないでしょうか。起業家を志す子たちが、たくさんの経営者から、帝王学を授けられるわけですから。そうしたものは、他人に授けてもらったほうがいいと思いますので、ぜひ、いらしてください!

John

中小企業とイノベーターたちのネットワーク、素晴らしいですね! 愛りがとうございます!

本日は、iUの開学準備で大変にお忙しい中、宮島さんにたくさんお話いただきました。誠に、愛りがとうございます! 開学が本当に楽しみです。素晴らしい大学となりますように!

宮島氏のイノベーション哲学を示した画像です

以上

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シニア層の需要が広がる自費出版の動向

1 自費出版の動向

1)自費出版のニーズについて

自費出版の顧客は、60歳以上がメーンとなっています。この理由として、退職などをきっかけに、自分のこれまでの歩みを自分史として書籍に残したいなどのニーズが増えていることが挙げられます。一方で、若年層の場合は、紙媒体よりもSNSやウェブサービスによって手軽に自己表現、情報発信をする傾向にあるようです。

自費出版物の制作、販売支援や日本自費出版文化賞の開催などを通じて自費出版物の社会的評価の向上に取り組む日本自費出版ネットワークへのヒアリングによると、「書籍の制作費用が高額なことから、自費出版文化賞への応募も資金面に余裕がある高齢者が多いとみられる。応募総数は全分野合わせて毎年500部前後で推移しており、自費出版文化賞の地域文化、個人誌、小説、エッセー、詩歌、研究・評論、グラフィックの7部門のうち、写真・画集などのグラフィック部門と現代詩、俳句、短歌などの詩歌部門の応募が増えている」(*)とのことです。

また、今後の自費出版のニーズについては、「会員企業を通じての応募の呼び掛けや、郵送による応募の強化などに取り組んでいるため、今後も自費出版文化賞への応募や、自費出版をやりたいというニーズは増えていくと思われる」(*)とのことです。

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(*)日本自費出版ネットワーク(2020年2月7日時点)

一方で、自費出版を手掛ける企業にとっては、どのようにして顧客からの受注を増やすのかといった課題があります。また、顧客の中には、自費出版をやりたいが、原稿の書き方が分からないといった悩みを抱えている人もいます。

そのため、企業の中には、地域の公共施設で自費出版に関する講座を開いたり、原稿を制作するためのマニュアルを配布したりすることで、顧客からの相談や受注の増加につなげているケースがあります。

以降では、自費出版に注力する企業に対して、顧客層や受注状況、自費出版の取り組みなどをヒアリングした結果を紹介します。

2)朝日印刷工業(群馬県前橋市)

書籍の制作、画像加工、ウェブサービスなどを手掛ける朝日印刷工業では、デジタル印刷ショップの「ディップス朝日」を運営しており、個人市場をターゲットにした小ロットの書籍づくりに注力しています。同社は、社内に自分史活用アドバイザー(自分史活用推進協議会の認定資格者)がいることから、自分史を中心とした自費出版の制作提案に取り組んでいます。

朝日印刷工業にヒアリングした結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の顧客がメーンとなっている。朝日印刷工業では、県内の図書館や公民館で自費出版に関する講座を開催しており、それがきっかけで、来社した顧客からの相談や依頼を受けるケースが増えている。

【受注状況、制作部数について】

年間平均で20件程度となっている。1人当たりの制作部数は、作成した書籍を家族や友人に配りたいのか、書店で販売したいのかといった目的によっても異なるが、少ない場合で15~20冊、多い場合で150~200冊程度となっている。顧客が原稿を用意していない場合でも、外部のライターと提携し、一から原稿を作ることができる。

3)清水工房(東京都八王子市)

研究誌、機関誌、会社案内などの冊子印刷を手掛ける清水工房では、自伝・社史を制作するための簡易年表や、自分史の書き方を分かりやすく解説したマニュアル本の提供などの丁寧な対応を強みとしています。

また、書籍の企画段階から配送までを一貫して手掛けており、出版部門の「揺籃社(ようらんしゃ)」を立ち上げ、自費出版で制作した書籍を全国の書店で販売したいというニーズに対応しています。

清水工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月12日時点)

【顧客について】

制作費用の都合や、編集者と頻繁に打ち合わせをする必要があることから、60歳以上で地元の顧客からの受注が多い。

知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から受注が来るケースが多い。また、駅前の公共施設などを借りて、自費出版に関する無料相談会を開催することで、顧客からの相談や受注の増加につなげている。

【受注状況、制作部数について】

1人当たりの平均制作部数は200冊程度、書店で販売する場合は、1500~2000冊程度制作するケースがある。また、清水工房では電子書籍での自費出版も手掛けているものの、紙の書籍を出版したいという顧客が多い。

4)めぐみ工房(新潟県長岡市)

学校印刷物の制作や文集の製本などを手掛けるめぐみ工房では、自費出版でエッセーや郷土史、ブログ本、写真集などの制作実績があります。

めぐみ工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の高齢の顧客が多い。知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から依頼を受けることがほとんどとなっている。

【受注状況、制作部数について】

受注件数は非公表だが、高齢の顧客がほとんどなので、自分が亡くなったときに、家族に残すための終活ノートを作成するケースが多い。作成した書籍は家族や親戚のみに配るため、制作部数も10~15冊程度となっている。

5)自費出版の競争状態

自費出版の競争状態について、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」に沿って考えます。

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自費出版は厳しい環境に置かれているといえます。書籍を制作する材料となる印刷用紙やインクの価格が高騰しており、清水工房へのヒアリングによると「紙の価格は、本のページに使う書籍用紙で1~2割程度、表紙に使う特殊紙は書籍用紙よりも高くなっていると感じる。また、使われる頻度が少ない紙はメーカーが生産を取りやめているため、紙の供給も少なくなっているのではないか」(*)とのことでした。

一方で、自費出版は、60歳以上の高齢者がメーンとなっています。電子書籍に対する抵抗や、紙の書籍を創る憧れがあることから、すぐに電子化で代替される可能性は低いといえるでしょう。

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(*)清水工房(2020年2月12日時点)

以上(2020年5月)

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画像:pexels