AIベンチャー社長に聞く、AIによる経営課題の解決策

マンパワーグループ会長兼CEOのヨナス・プライジング氏は、「世界各国で過去に例がないほどの人材不足に陥っていて、(中略)人材、スキル、業務プロセス、テクノロジーの適切な組み合わせを確立することこそが、企業が事業戦略を遂行し、価値を生み出し、社員の人生を豊かにするただひとつの方法」(*1)と、まさに世界に「スキル革命の時代」が到来していると話しています。

ここ日本では、89%の雇用主が必要な人材を見つけられない(*2)という深刻な状況となっています。今まで豊富な知識や経験を有してきた人材であったとしても、「人」であるが故に、いずれは企業を去るときが必ずやってきます。さらに、事業を継承する上でも、知識や経験をどのように伝承すべきなのかが問われているのが現状です。

同氏が言う、人材の育成やスキルの習得、業務プロセスの改善、そして、必要なテクノロジーの選択をどのように行うべきなのか、また、それらをどのように組み合わせるべきなのか。こうした「How」 の部分が明らかではないために多くの企業は議論を先に進められていないのです。今は、このような深刻な人材不足問題に対し、新たなアプローチをせざるを得ない時代なのです。こうした時代を生き抜く上で大切になる解決手法のひとつが、まさに人工知能AI技術(以下「AI」)なのです。

1 非構造化データの利活用が企業の未来を左右する

全世界のありとあらゆるデータをかき集めてきたときに、その中でコンピューターが読める構造化データは20%にも達しません。つまり、これまでは、20%未満のデータを基に企業は経営戦略や事業戦略を立案・推進してきたといえます。これはあまりにもリスキーで、これまでは偶然うまくいっていただけと考えるべきであって、非常に低い精度に基づく判断であったといえるでしょう。コンピューターが読むことができない残り80%以上もの音声や画像、PDFといった非構造化データを、AIを駆使して取り込み、企業戦略に役立てることがどれだけ重要で、企業の未来を左右するか、ということは容易に想像がつくはずです。その非構造化データをコンピューターが読めるデータに構造化し、AIの音声認識技術や画像解析技術、そして自然言語処理技術を融合化させることで、企業の未来をより精度高く予測することが実現できるようになるのです。

2 バラエティーに富んだ人材発掘と最適な人材配置を割り出す

企業は、その規模を問わず、取引先の価値最大化を実現するために、戦略的組織をつくり上げたいと日々模索しています。組織の命運は、その最小単位である 「人」 によってかなり大きく左右されます。一番恐ろしいのは、組織の形骸化であり、「生きもの」 としての動きを止めてしまった組織は、自社のみならず、様々なステークホルダーに多大な悪影響を及ぼします。それは、収益を圧迫する直接の要因となって、その企業を中枢からむしばむことにもなるのです。

組織を「生きもの」 として魅力あるものにするには、組織を構成する「人」がバラエティーに富み、「人」と「人」との効果的な相関関係をどのように生み出すのかがキーとなります。そのための有効策がAIの自然言語処理・類似度解析技術なのです。

今までは、企業が求める人材像はほぼ1つでした。そのため、たとえ優秀な人材が集められたとしても、個性は度外視され、同じような考え方を持つ人材しか入社してこなかったのです。しかしながら、企業には様々なセクションが存在し、そのセクションごとに求められる適性が異なるのは当たり前です。従って、セクションごとに求める人物像を細かく定義し、応募してくる人材との適合性がどの程度あるのかを判別できれば、企業にとって本当に必要な人材を割り出し、適材適所の採用が実現できるようになるのです。その際、セクションごとに求める人物像をAIに教師データとして与え、応募してくる人材の履歴書をはじめとする各種情報とどれほど似ているのかをAIで解析していくのです。こうすれば、今まで見落としがちだった本当に必要な人材を見つけることができ、採用業務の担当者の負担も大きく軽減することにつながります。このAIの技術は人材交流や人事異動の際にも有効です。

また、「人」と「人」との相関関係については、例えば、ある企業が、AさんとBさんがタッグを組むと売り上げが30%増加するのに、AさんとCさんがタッグを組むと売り上げが20%減少する、という事実を把握していても、これまでは、どのように対処すれば効果的なタッグを組めるのか打開策の講じ方が分かりませんでした。このような場合でも、AIの自然言語処理・乖離(かいり)度解析技術を駆使することで、企業が望む結果を生み出したタッグをAIに教師データとして与え、今回のタッグがどの程度その事例から乖離しているのかを解析することで対応できるようになります。

このように、AIの自然言語処理・類似度解析技術や乖離度解析技術を利活用することで、今まで定量的解析しかできていなかった世界に多角的視野を与え、あらゆる視点から考察することができるようになるのです。

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3 人材育成・技能伝承の実現のために「人」への依存度を軽減するAI利活用

専門性を追求し、技術を身に付けた人材は、企業の価値を創出するために、とても重要な存在です。しかしながら、そのような人材も、「人」であるが故に、体調を崩すことや高齢のため退職してしまうことが多々あり、それを引き継ぐ人材の育成や技能の伝承が企業のリスク要因となっています。そのリスクヘッジのために企業をサポートするのがAIなのです。「匠」や「ベテラン」と呼ばれる人材の豊富な知識や経験を、AIに画像、音声、テキストという形の教師データとして与え、AI技術を利活用することにより、知識や経験を伝承していこうとする試みが進んでいます。

例えば、日本の酒蔵で働く杜氏(とうじ)は、気温や湿度はもとより、米や水の状態を把握し、水に浸した米が、ひび割れを起こす状態を経験的に判断できます。また、ショベルカーの操縦士は、土を掘る際にショベルの爪先を寸分違わず、狙った位置に接地させることができます。その他、化粧品売り場の販売員は、女性の肌のキメ細かさの状態を経験的に十数種類に分類し、その状態の肌にフィットする化粧品をリコメンドできます。こうした経験を技術的に伝承していくことは、企業にとって非常に重要であり、それが実現できないとなると、企業のブランドや信用が失われてしまう事態に陥ってしまいます。

そこで、日本酒の酒蔵では、水に浸して米がひび割れする状態の大量の画像をAIで学習させ、その状態になる瞬間に水から米を引き揚げることを実践する取り組みが行われていますし、工事現場では、ショベルカーの爪先にIoTセンサーを埋め込み、数ミリ秒単位で動く爪先の位置情報を通信衛星を経由して収集し、地面のどの位置に爪先が接地するのかをAIによって予測する取り組みも行われています。これが本格的に展開されれば、現場で人が作業する必要性はなくなり、ホワイトカラーの人がリモートでゲームコントローラーのようなものを操作し掘削するということができるようになります。難しい操縦を覚える必要がなくなり、現場での事故も限りなくゼロに近づくとして、働き方改革を実践できるのです。また、一つとして同じものがないといわれる人の肌のキメ細かさを判断する化粧品売り場の販売員は、対象の肌の画像全てを判定しなくてはなりません。その負担は甚大で、時間的な経過により判定精度が低下することも考えられます。AIの画像解析・分類技術によりこれらの課題が解決できるため、AIが果たす役割は非常に大きいといえます。

4 AIの技術による課題の解決は、AIの特性の把握から

AIの音声認識技術を利活用するシーンを想定してみましょう。例えば、会議内容を議事録化する際には、この技術を利活用することは重要です。音声認識では、発話した音声を話者分離しながらリアルタイムに発言内容をテキストデータ化することができます。しかし、それだけで議事録化できるわけではなく、AIの自然言語処理技術によって、テキストを認識し、解析し、形成・加工して、テキストを要約する必要があります。このように、複数のAIの技術要素を融合することで、会議内容を議事録化したいというニーズに応えられるのです。

さらにその際、熟知しておかなければならないことがあります。ひとつは、AIの音声認識技術によるテキストデータ化の平均精度が75~85%であり、それをベースとした議事録化を検討しなくてはならないということです。もうひとつは、AIの自然言語処理技術におけるテキスト要約を実現できるAIベンダーはごく限られているということです。

AIの自然言語処理を提案するAIベンダーの中には、文章の排除・削除・言い直しのことを「要約」と称して、「要約」ができると言い切るAIベンダーがいることに注意する必要があります。これはルールに基づいて文章を「削減」しているだけに他なりませんので、もはやAIではないのです。本当の意味でのAIによるテキスト「要約」とは、テキスト化された文章データを、最小単位である品詞ごとに分解して、それらの相関関係や感情要素を解析し、人間の感性に近い形で必要な文書量にまとめることなのです。これは、AIの音声認識技術とAIの自然言語処理技術の融合シナリオを展開できるAIベンダーでなければ実現が難しいのです。AIとは何なのか、AIの特性を理解して、ニーズを満たすソリューションやサービスを選定できるようになることが重要で、それができて初めて今までに相当な時間を要していた議事録作成業務から解放され、より質の高い業務に従事することができるようになるのです。さらに、様々なAIの技術要素の融合により、人材育成や獲得、最適な組織編成や人員配置、不安視される経験や技術の伝承、業務効率化などが実現可能となります。

AIは、「人に優しく、人に寄り添う世界」 を創造する人類のパートナーとして、今後はますます重要なポジションを占めていくことになります。AIの技術の特性を把握すること、そのためにしっかりとAIについて学ぶこと、そして、AIの個別の技術評価を行うのではなく、自社が抱える課題を抽出することで、どのようなAIが課題解決のために必要なのかを検討し、それが本当にAIの技術を利活用して解決すべき課題なのか、コンピューターシステムにより解決すべきなのかを慎重に検討することが大切なのです。

<注釈>
(*1)マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査 人材不足を解消する4つの戦略―育成、採用、外部活用、配置転換」

(*2)マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査結果を発表(2018.08.08)」

以上

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第12回 世界のトップ企業は、なぜインド人エンジニアが欲しいのか?/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

皆さまこんにちは。いつも私のコラムを読んでくださり、SNSでシェアしていただき、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。今回は、インド工科大学でのことをお伝えしたいと思います。

GoogleのSundar Pichai CEOをはじめ、マイクロソフトのSatya Nadella CEO、シリコンバレーにおけるインド出身の経営者やエンジニアの大活躍には、目を見張るものがあります。アメリカの巨大企業もインドのトップ工科大学などに、わざわざ学生をリクルートしに行くほどです。

日本でも、インド出身のエンジニアが求められる時代となっており、楽天やメルカリでもインド人エンジニアを雇用したことが話題となりました。インドのNarendra Modi首相と安倍総理の交流もあり、インドと日本の関係も良いものになっていることは、喜ばしいですね。

世界大学ランキングを見ると、上位にはアメリカの大学が名を連ねていますが、シリコンバレーをはじめ世界中のIT企業には、非常に多くのインド人エグゼクティブやエンジニアがいます。特に、インド工科大学ムンバイ校(Indian Institute of Technology Bombay:略称 IITB)は最難関と称されるほど入学する際の競争率が高い大学で、多くの学生たちがアメリカをはじめとした世界のトップ企業で活躍することを夢見ています。

同校の客員教授である永原正章教授と私は、数年前から「#StatupFire」という学生起業家を生み出すスタートアップイベントの共同開催を福岡県北九州市で行う仲間です。世界で活躍する日本人の育成にも力を入れてきました。

このたび、永原教授との共同研究において、システム制御理論でドローンなどの研究をされているIITBのDebasish Chatterjee教授をご紹介いただきました。彼自身、IIT Kharagpur(IITBと並ぶ名門校)を卒業した後、シカゴ近くのイリノイ大学でPh.D.(日本の博士号)を取得後に、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)にも留学をされています。

今回は、人工知能の研究に従事されているお2人から、学生のために「シリコンバレーのアントレプレナーシップ教育とイノベーション」についての講演依頼があり、9月4日に70分間、英語にて特別講演をすることになりました。私自身も、インドのトップ校の学生たちはどのくらい勉強熱心なのか、起業に対して思い入れが強いのか、なぜシリコンバレーや日本のトップ企業がインド人の人材を必要としているのかなどを知る良い機会になればと思い、非常に胸が高まりました。

講演当日は、ガネーシャというインドの神様を敬うお祭りの週だったにもかかわらず、多くの学生たちが講演に参加してくれました。彼らは真剣に耳を傾け、アグレッシブに手を挙げて質問し、自分の意見を述べていました。「将来、起業したい人」と質問すると、ほぼ全員が手を挙げたことには、さまざまな大学で講演をしてきた私も驚きました。なぜ、学生たちにとって「起業」という選択肢が身近に感じられるのか、その秘密はIITBの中の3つの組織にありました。

まず挙げられるのが、今回の講演会の企画・運営も行ってくれたIITBのTinkers’ Laboratory(Tinkers’ Lab)です。Tinkers’ Labは、1975年に卒業生の多大な貢献とサポートから設立され、一部の教員の指導の下で、ほぼ学生によって運営されているラボです。小さな抵抗器から3DプリンターやCNCなどの洗練された機械まで、さまざまな機械と機器があり、熱心なエンジニアにとってアイデアを実現しやすい場所となっています。

Tinkers’ Labの画像です

また、Tinkers’ Labでは、革新者や思想家を育て、その創造的なアイデアをエンジニアリング製品に活かすことを目指しているため、学生に何時間でも好きなだけ実験し、チャレンジし続けることができる環境を提供しています。こうしたことから、実験が好きなエンジニアが多く集まり、エンジニアリング教育において高い評価を受けています。

さらに、多くのテックイベントや、学生に技術的なこと(センサー、マイクロコントローラー、プロジェクトの作り方、優れたリーダーになりプロジェクトをリードする方法など)を教えるTinkering WeekendなどのトークイベントやTLトーク(ちょっとしたプレゼンテーション)の実施、スピーカーを招いてのイベントなども積極的に行われています。このような取り組みによって、テクノロジーと起業家精神の両面から、学生たちがイノベーションを起こしたくなるような刺激を与えているのです。

今回の私の講演もTinkers’ Labの運営のおかげで常にスムーズに進み、心から感謝をしています。また、彼らの活動に私も深く共感し、日本に帰国した後、正式にアドバイザーに就任しました。意識の高い学生たちとともに新しい未来を創造できることが楽しみでなりません。

その他にも、IITBには起業家を育成する土壌があり、特にSINEとE-Cellが有名です。 SINE(Society for Innovation & Entrepreneurship)は、ムンバイにおける主要なインキュベーターの1つであり、研究活動を起業家ベンチャーへの転換を促進することでIITBの役割を拡大しています。また、経営、財政支援も提供しており、約15~17社のスタートアップの入居対応が可能です。

SINEの画像です

私は実際に訪ねて、SINEのビジネスエコシステムのディレクターとミーティングさせていただきました。施設内には、パソコンに向かって真剣に働いている多くの学生起業家が、男女ともにたくさんいました。現在、140以上のスタートアップが生まれ、450人以上の起業家が育っており、3800人以上の雇用を生んでいます。

E-Cell(Entrepreneurship Cell)は非営利団体で、潜在的に起業家精神を養う目的で、学生によって運営されている巨大組織です。ヘルシーなアントレプレナーエコシステム構築を目指し、若い起業家によるワークショップ、ハッカソン、スピーカーセッション、ビジネスプランコンペティションを毎年開催するなど、精力的に活動しています。

E-Cellの画像です

E-Cellのビジョンである「Empowering youth to create ventures with innovative solutions that enrich lives.(人生をより豊かにするためにイノベーティブなソリューションを生み出すベンチャーを創造する若者をエンパワーする)」に共感し、私もメンターとして今後、より良い起業家を生み出すサポートをすることになりました。以下にE-Cellの主な取り組みをご紹介します。

●E-Cellの7つのイニシアチブ

  • Eureka:5カ月間の著名なビジネスコンペティションを開催
  • National Entrepreneurship Challenge:全国にある他校のE-Cellの学生達に起業家精神を養うサポート
  • E-Summit:2日間のカンファレンスの開催、120名のスピーカーセッション、ネットワーキング、ハッカソン、資金調達のチャンスを設ける
  • Entrepreneurship and Business(EnB) Club:ビジネスコンペティション、ブートキャンプ、ワークショップ、ミートアップ、スピーカーセッションをして、IITB内でのスタートアップエコシステムを強化
  • E-Connect Internfair:インド工科大学のトップ6校から、特に優秀な生徒だけを著名スタートアップに紹介して、インターンシップで実務経験を積ませる
  • Startup Service Platform(SSP):SSPを通して、スタートアップ企業向けに、最も重要なサービスのいくつかを通常の市場に比べて、譲歩的な価格で提供している
  • Social Initiative:毎年、社会問題に対してテクノロジーを使ったり、人的なリソースを使ったりして、解決に取り組む

IITBだけでも、このように、Tinkers’ Labのように学生が自由に実験できたり、SINEのように実際に起業できたり、E-Cellのように巨大な学生起業家団体があったりと、起業家になるための土台がしっかり作られています。もし彼らが卒業後、起業をせずに就職したとしても、学生時代に起業家になるための学びを得たなら、社内起業家として活躍することでしょう。

このように、学生時代に高い専門性はもちろん、将来働く上で必要な多くのマインド教育やビジネススキルを磨く機会を通して、ビジネスパーソンとしての実践力を身につけていることが、インド人エンジニアを積極的に雇用したいと思わせる理由なのではないでしょうか。シリコンバレーの著名企業がこぞって、インドのトップ校の学生が欲しいと思う気持ちが理解できた気がします。

また、インドには、特有の考え、教えがあります。ハーバードビジネススクールのDean (学部長)であるNitin Nohria教授(インド生まれ)は、バンガロールでの特別講演「アントレプレナーシップ」において、インド特有の考え方であるJugaadという、ヒンディー語で「目の前にあるモノで、新しいモノを創造する」についても語っています。

この意味はつまり、資源が限られている中で、工夫と機知でよりイノベーティブな解決方法を見つけることが大切だということです。ハーバードビジネススクールのイベントも、たびたびインドで行われているといいます。それもそのはず、ムンバイには、ハーバードビジネススクールのエグゼクティブプログラムが受けられるHBS Campusがあります。

インドにおける素晴らしい教育と、特有の考えから、私たちは多くのことが学べるのではないでしょうか。いつも、お読みいただき、愛りがとうございます。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

インドでの森若氏の画像です

以上

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【新連載】弁護士が教える「解雇とハラスメント」のトラブル解決

創業間もないスタートアップでは、何と言っても資金調達や資金繰りといったお金に関する課題の解決が優先されます。そのため、売り上げに直結しないバックオフィス業務が後回しになったり、組織体制が整っておらずガバナンスが効いていなかったりということが起こり得ます。

しかし、このような状態を続けるとさまざまな法務トラブルが発生する恐れがあります。日ごろからスタートアップ支援をされているのぞみ総合法律事務所の市毛由美子弁護士、清永敬文弁護士、結城大輔弁護士に、創業間もない時期に抱えがちな法務トラブルと、それを避けるための方法や対応についてお話しいただいた内容をまとめた弁護士監修シリーズです。

第1回のテーマは、解雇とハラスメントをめぐるトラブルです。

1 解雇、残業代の未払い……。労務に関するトラブルは増加傾向

市毛弁護士

最近、スタートアップ企業の経営者からよく受ける相談は、何と言っても解雇に関連するトラブルです。

例えば、正社員やパート・アルバイトを雇ったものの、その人が仕事についてこられないということがあります。そこで、残念ではありますが、辞めてもらおうと考えた場合、経営者が法律上の解雇の手続きなどを知らずに、感情的になって「あなたは明日から出社しなくていいですよ」などと言ってしまうことがあります。

しかし、こうした対応は、労働法上、大きな問題です。

また、いわゆる残業代の未払いや出退勤管理をしていないことなどで、従業員が労働基準監督署に駆け込むケースもあります。そうなると、本来払うべき残業代に加えて遅延損害金や裁判所に訴訟が提起されると付加金(労働基準法第114条)の請求を受けたりするといった恐れもあるので、企業にとっては看過できない問題です。

清永弁護士

確かに労働問題は、近年とても相談が多いジャンルの一つですね。

結城弁護士

私の場合、例えば飲食店経営者からのご相談で、解雇や残業代などの労働問題が増えている印象がありますね。

りそなCollaborare事務局(以下「事務局」)

そうなんですね。スタートアップで働きたいという人は、経営者の理念やビジョンに共感を抱いて入社することが多いと思います。そうしたことから、給料や労働時間などの待遇はあまり気にしない印象があったので、労務に関するトラブルが多いというのは意外でした。

清永弁護士

仮に共感を抱いて待遇を気にせずに入社したとしても、働いているうちに「やっぱり違うな」となったときに、問題が出てきがちです。例えば、未払いの残業代が発生している場合には、法的に当然請求できるわけですから、従業員から未払い残業代を請求するといった事態が起こります。もちろん、企業が残業代を支払うのは当然のことであり、従業員が理念などに共感を抱いているがゆえに未払い残業代の請求に思い至らなくても企業のほうからきちんと時間管理をして未払いのないようにすべきなのですが、それを怠り、未払いが積もり積もった後に請求されると、実際に対応するのは大変です。

事務局

例えば、企業が問題のある従業員を解雇したいと考えた場合、弁護士に相談することで法的な手続きに基づいた解雇に関するアドバイスをしてもらえるのでしょうか?

清永弁護士

法的に見て解雇が可能なケースであれば、法的手続きを含めて解雇に向けたアドバイスをすることができます。また、解雇が可能ではない場合は、それを前提としたアドバイスをすることになります。

市毛弁護士

経営者としては、従業員が著しく勤務態度や勤務成績が悪い場合は、解雇を考えざるを得ないこともあると思います。状況はよく分かりますが、解雇のハードルはとても高いということを認識しておく必要があります。

結城弁護士

そうなんですよね。経営者からすると、こんなに問題がある社員なのに、なぜ解雇できないんだ、当然解雇だ、という発想で入ってしまっていることが多いので、基本的に労働者を保護する労働法制の考え方や、もしも解雇が無効となると、働いていなかった期間について給与を支払わなければならなくなる大きなリスクがあることからご理解いただく、というのがスタート地点です。

市毛弁護士

正規雇用の場合のみならずパート・アルバイトなどの非正規雇用の場合の解雇や期間の定めのある雇用契約の雇止めでも、それぞれハードル(制約)があるという点は同じです。特に、期間の定めのある雇用契約において期間途中で解雇する場合は、「やむを得ない事由」が必要となるので、期限の定めのない雇用契約の場合よりもハードルは高くなります。

まず、就業規則の解雇事由には、「勤務態度が著しく悪く、向上の見込みがないと会社が認めたとき」等と規定しておくべきです。そして、この解雇事由の要件を満たす前提として、教育の機会を与えなければならないし、指導もしなければなりません。仮に裁判で争われた場合、裁判所は、「教育の機会も与え、何度も指導や改善勧告もしたが、それでも改善が見られない」といった事情があるか否かによって、解雇事由の有無を判断します。

裁判所に解雇事由があると認めてもらうには、例えば、「何度も改善命令や警告書を出して、同じ問題を繰り返し注意した。それでも改善されなかった」というような、客観的に明らかな「著しい勤務不良」を裏付ける証拠が必要です。

これがなければ、訴訟リスクを負うことになります。つまり、仮にそういった注意を繰り返し注意していたとしても、パート・アルバイト側が「そんな指示は聞いていない」「指示が悪かった」などと主張すれば、立証責任は雇用者側が負い、証拠がなければ敗訴のリスクを負います。

また、裁判より迅速に審理が行われる労働審判という手続きになると、その手続きの性格上、雇用者側が反論のための十分な時間が取れないためか、証拠が薄い場合には雇用者側には厳しい判断がなされる可能性があります。

何度も注意勧告していると実態があるのであれば、少なくとも、メールなど客観的な証拠に残る形で指導したことを残すことが大切です。しかし、何も証拠が残っておらず、訴訟リスクを考えると解雇するのをちゅうちょせざるを得ない場合が少なくありません。

そのような客観的な資料がない場合、「退職金を上積みするので、任意で退職届を出してください」「お互いに考えや価値観などが合わない中で働いていても、あなたにとっても幸せとはいえないですよね」といった交渉を行い、納得してもらった上で退職してもらうことになります。この場合は、解雇ではなく、労働契約の合意解除になります。いずれにしても弁護士を使えば弁護士費用が掛かりますし、上積みの退職金も必要になってきます。経営者にとっては、少なくない負担となるでしょう。

事務局

確かに大きな問題ですね。さらに言えば、大企業の場合、ある従業員が経理業務に適性がなかったとしても、他業務の適性があるかもしれないので、配置転換をして適性を探すという対応ができます。そうした上で、「配置転換もしたが、やはり自社で働いてもらうのは難しいので、辞めてもらう」といった対応ができると思います。

一方、スタートアップは基本的に単一事業なので、配置転換する場所がありません。そうなると、先ほどお話があったように、きめ細かく何度も注意や指導をする、さらに、その証拠を残しておく、ということを実践するしかないということでしょうか。なかなか難しいところですね……。

清永弁護士

そうですね……。確かに、難しいところではあると思います。

また、人に関するトラブルとしては、労務とは違いますが、共同経営者間のトラブルというのも少なくありませんので触れておきます。最初は同じ志を持ってスタートしたはずですが、やってみるうちに、「方向性が違う」「考え方が違う」ということで、けんか別れになってしまうことがあります。こういったトラブルを未然に防ぐためには、事前に共同経営者間で契約を結ぶことが有効です。

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2 パワハラやセクハラに関するトラブルも要注意

市毛弁護士

労務関係で言えば、いわゆるハラスメントに関するトラブルにも注意が必要です。

結城弁護士

そうですね。ハラスメントは企業規模を問わず、多くの企業・組織で最近ますます問題となっています。異動が難しいことです。

また、業務が忙しいスタートアップでは、従業員の中で、次第に「これほど忙しいのに、思ったより給料がもらえない」などさまざまな不満がたまってくることがあります。

こうしたときに、経営者や上司などが強い口調で指導してしまって、パワハラだと訴えられるということがあります。しかし、経営者や上司の側は指導の証拠をほとんど残していません。

一方、パワハラを訴える側は、録音などで証拠を残している場合が多いものです。最近はスマホなどですぐに録音することもできます。

いつもは冷静な経営者や上司でも、つい、適切ではないと思われる発言をしてしまったり、強い口調で指導してしまったりすることもあると思います。そうした場合、そこだけを切り取られて録音されるというパターンもあります。

裁判例などを見ると、勤務態度にかなり問題がある従業員で、企業側は指導に困るだろうなと思われるようなケースであっても、1度でも上司の側が限度を超えた発言をしてしまうと、従業員に対して慰謝料(3万円、5万円など)を支払うように命じた判決が出されています。このように、違法ではないということが言いにくい場合、慰謝料を支払うように判断されることもあるので、注意しなければいけません。

セクハラの場合も同じです。スタートアップでは、当事者同士を引き離すというのが難しいので、どちらか、特に、セクハラだと指摘を受けた側が辞めなければいけないという話になりがちです。やはり相当気をつけなければならないトラブルだといえるでしょう。

事務局

ありがとうございました。スタートアップであっても、労務のトラブルが多いことが分かりました。困ったときは、こじれる前に弁護士などに相談するのが良さそうですね。

次回は、売掛金などお金に関するトラブルについてお伺いします。


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弁護士が教える 創業間もない時期の法務トラブル

以上

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【2019年10月弁護士再監修】定型約款の具体的妥当性(事業者向け取引) 〜民法改正と契約書の見直し(6)

こんにちは、弁護士の鈴木和生と申します。「民法改正と契約書の見直し」の第6回は、前回に引き続き、改正民法で新設された「定型約款」について扱います。前回は消費者向け取引(B to C)を対象に定型約款該当性を論じましたが、今回は、事業者間取引(B to B)において、定型約款規定が適用されるかなどについて説明します。

1 定型約款の要件

定型約款に該当するためには以下の3つの要件を充たす必要があるので、要件をおさらいしておきましょう。なお、各要件の詳細については、第4回「定型約款の定義と契約上の影響」をご覧ください。

  • 不特定多数要件

    不特定多数の者を相手方として行う取引であること。

  • 画一性要件

    取引の内容の全部又は一部が画一的であることが、
    契約当事者双方にとって合理的であること。

  • 目的要件

    契約の内容とすることを目的として準備されたものであること。

上記の各要件を満たして定型約款に該当する場合、改正民法における定型約款の規定の適用を受けることになります。

2 事業者間取引の原則論

事業者間取引で用いられる約定は、原則として改正民法における定型約款に該当しないものと考えられています。その理由は以下の通りです。

  • 事業者間取引は、相手方の個性に着目して取引内容が決定され、大量の取引を迅速・円滑に行う必要性に乏しく、不特定多数要件を満たさないと考えられること。
  • 事業者間取引の契約内容は当事者間の交渉で定まり、取引内容が画一的であることが当事者双方にとって合理的とはいえず、画一性要件を満たさないと考えられること。
  • なお、契約に当事者の一方が準備したひな型が利用されるような場合でも、事業者間取引では、ひな型通りに契約を締結するかどうかは最終的には当事者間の交渉で定まり、取引内容が画一的であることが当事者双方にとって合理的とはいえません。

    仮に、事業者が全ての取引先との間でひな型通りに契約を締結しているような場合でも、それが当事者間の単なる交渉力の格差を理由としていた場合、相手方にとっては取引内容が画一的であることが合理的とはいえず、画一性要件を満たさないと考えられます。

  • 事業者間取引の多くは、上記の通り交渉が予定されていることや、交渉の前提として契約内容を十分に吟味・検討することが想定されている。このような場合、「契約の内容を補充する」目的があるとも評価できず、通常、目的要件を満たさないと考えられること。

このように、事業者間取引で用いられる約定は、たとえ形式的に「約款」という名称が付されている場合でも、改正民法における定型約款には該当しないことが多いといえます。

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3 定型約款に該当するもの

他方、事業者間取引における約定も、取引相手が消費者である場合と事業者である場合とで取引の実態に変わるところがない場合には、定型約款に該当する場合があります。例えば、金融機関の預貯金規定、インターネットバンキングサービス規約、ソフトウェア提供企業との間で用いられるソフトウェアライセンス規約、運送約款、企業向けの保険約款などが挙げられます。

これらの約定に際しては、事業者も消費者と同様に契約内容に関して交渉を行わないことが社会通念上合理的と考えられるため、定型約款の該当性が肯定されます。
なお、企業向け保険においては、保険契約者との間で個別の協定書等を締結する場合がありますが、このような場合は、協定書の内容について当事者間で交渉が予定されるため、画一性要件を満たさず、定型約款には該当しないものと考えられます。

4 定型約款該当性が問題となるもの

1)フランチャイズ契約

事業者間取引における約定が定型約款に該当しないものの例として、フランチャイズ契約が挙げられます。

フランチャイズ契約においては、フランチャイザーがフランチャイジーに商標使用や店舗運営ノウハウなどを1つのパッケージとして提供し、フランチャイジーはフランチャイザーが用意した契約書をそのまま受け入れることが多く、事実上、定型的な契約書で運用されることが多いといえます。

しかし、このような運用は、フランチャイズ契約におけるフランチャイザーとフランチャイジーの交渉力の格差によるもので、契約内容が画一的であることが、少なくともフランチャイジーにとって合理的であるとは評価できず、「取引内容を画一的にすることが当事者双方にとって合理的である」との画一性要件を満たしません。従って、フランチャイズ契約における約定は、定型約款に該当しないものと考えられます。

2)銀行取引約定書・金銭消費貸借契約書

銀行取引約定書は、さまざまな銀行取引に包括的に適用される基本契約で、原則としてどの顧客においても同一内容で締結されることから、これが定型約款に該当すると考える見解も存在します。

しかし、銀行取引約定書は、顧客の財務状況や属性等について総合的な審査を経て締結される相手方の個性に着目した取引で、不特定多数要件を充たすか疑問があります。また、銀行取引約定書は、その締結過程で修正の交渉があり得るので、実際に銀行が修正に応じることもあり、画一性要件を充たすかにも疑問があります。さらに、顧客は各条項を十分に確認した上で記名押印を行うことが通常で、目的要件も欠くと考えられることなどからすれば、銀行取引約定書は定型約款には該当しないと考えられます。

同じく、銀行が事業性の融資の際に用いる金銭消費貸借契約書についても、銀行ごとにひな型が存在し、実態としては書式に画一性が見られます。しかし、金銭消費貸借契約書についても、相手方の財務状況や属性等の個性に着目して取引がなされること、契約条項修正の交渉の余地があること、顧客は各契約を十分確認することが通常であることなど、銀行取引約定書と同様、これも定型約款には該当しないものと考えられます。

3)労働契約

事業者間取引そのものではありませんが、事業者と従業員が締結する労働契約についても、通常、事業者側が準備した契約書のひな型を利用して締結されることが多いと考えられます。

しかし、労働契約を締結するかどうかは、一般に、相手方の能力や人格などの個性に着目して判断され、不特定多数要件を満たさないと考えられるため、労働契約のひな型についても、定型約款には該当しないと考えられています。

5 定型約款規定の適用を受ける場合の留意点

定型約款規定の適用を受ける場合、主に以下の点について留意が必要です。

  • 定型約款に、相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する内容の条項が規定されていた場合、その内容が信義則に反して相手方の利益を一方的に害する場合、当該条項が契約の内容から除外されることになります。
  • 相手方から、定型約款の内容について開示を求められた場合、開示が必要となります。
  • ある条項の変更が相手方の利益になるなど一定の場合には、相手方と個別の合意等をすることなく、定型約款の変更ができます。

次回は、売買契約(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)について解説いたします。


あわせて読む
民法改正と契約書の見直し

以上

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全国、全ての中小企業を黒字に!〜ITサービスを提供するライトアップ社が実現したいこと/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、昨年(2018年)6月にマザーズに上場された株式会社ライトアップの代表取締役である白石 崇さんです。

全国にあまたある企業の中で、周知のとおり圧倒的に数が多いのは中小企業。平成27年度国税庁データによると、企業数における大企業の割合は、0.3%。残りの99.7%の中で、黒字の中小企業は35.4%、圧倒的多数を占める64.3%の中小企業が赤字となっている現実。この赤字の中小企業にIT化という経営支援を推進することで経常利益率は1.46倍(出所:経済産業省)に。そこにコミットして、サービスを販売することから考えると儲かりづらい赤字中小企業にマーケットを絞り、愚直に事業に取り組んでおられる白石さんにお話を伺いました。

1 中小企業の課題感について

1)現状について なぜ赤字中小企業にターゲットを絞っているか?

大企業も中小企業の支えがあってこそ経営がなりたっているはず。その中で中小企業を取り巻く環境は厳しくなる一方。その支えている中小企業の3分の2が赤字決算、本当に厳しい経営環境。なぜ企業はITやネットを活用しようとしているのか? それは経営状態を改善したいからだ(売上向上等)と、いつしか考えるようになった白石さん、そのために2014年に専門部署を立ち上げ『経営支援』に真っ向から取り組んでいくと覚悟を決めたそうです。

冒頭の、業務をIT化することで経常利益が1.46倍に増える!ここにフォーカスして赤字企業を黒字へ導く支援をスタートしたそうです。赤字企業のIT化へのネックは【資金不足】と【人材・ノウハウ不足】の2点(中小企業庁のデータより)。ここも明確化している、そのために【安価】なITサービスを提供し、そのためのチャレンジ資金をなんとか確保する。解決施策と資金の両方の【解】をセットで提供することでどんな赤字企業でも業務のIT化が実現し、利益率を向上させることができる環境を作り、提供していきたいと話します。もともとITの世界にいた白石さんは、【資金不足】と【人材・ノウハウ不足】の2点をITで解決するのが、IT企業の役割、存在意義だと語ります。

2)白石さんが実現したいこと

国の税収は主に3つ、所得税、法人税、消費税で合計60兆円。支出は約100兆円。毎年40兆円の国債が新規で発行されている現実。現在300万社の法人が存在しますが、その合計で30兆円の利益を出し、12兆円の法人税が納付されています。

ここを白石さんは、すべての企業が3倍の利益を出すことができれば、法人税は36兆円となり、国債発行はほぼ必要なくなる。そしてさらに3倍の利益になれば国家予算は2倍に増えて、すべての社会問題に対して何らかの対策を打つことができ、日本を再度活性化させることができると思っていらっしゃいます。

起業家として大きな課題解決を掲げて取り組む大切さを感じました。

3)白石さんが実現できたこと(2018年度)

  • 年間2万社の経営者に2時間の経営勉強会でIT活用のノウハウ提供ができた
  • 年間2000社に対して経営コンサルティングができた
  • 年間3000社に対して業務のIT化支援を提供できた

この実績はなかなかすごいですね。そもそも事業投資、事業継続もままならない、赤字企業へアプローチすること、儲からないの一言が参入障壁となっていると感じますが、その儲けづらいマーケットをあえて選んで事業展開をされていることに頭が下がります。

その上、想いの高さ、大きな実績を作っておられる白石さん、続いて起業に至るまでのお話についてお聞きしました。

2 起業のキッカケ

1)NTTを辞めるまで 会社員時代6万人のファンがいたそうです

大学生の時の衝撃的な出会い、それがEメール、インターネット。【世の中を変える】そう感じ、一生このインパクトあるツールとなにかしら付き合っていこうと決めていたそうです。

その環境を続けられる会社として選択したのがNTT。「マルチメディアを形にするNTT」というテレビCMを見たことがきっかけだったそうです。サラリーマン活動がスタートしました。でもなかなか自分のやりたいことができない時、入社4年目にインターネットプロバイダ事業を行う子会社に出向した際、その事業連携の打診先にと連絡を取ったのが、後に転職することになる、まだまだ人数の少なかったサイバーエージェント社だったそうです。白石さんから連絡した時に、サイバーエージェント社側から『あのメルマガで有名な白石さん?』と聞かれたそうで、ご自身がビックリ。

白石さんは、大学時代から心理学を学び、それを題材に個人でメルマガを発行していたそうで、読者が当時6万人を超えてランキング3位という、その世界では【有名人】だったそうです。この有名人の白石さんから連絡があった、サイバーエージェント社側が、白石さんをスカウトへと動いて、NTTを退職することになったそうです。

2)サイバーエージェント社をスピンアウト

サイバーエージェント社に入社した白石さん、プログラム以外の仕事はすべてやりました、と話します。同社初のコンテンツ企画制作部門を創っていかれたそうです。

入社して1年ほどで転機を迎えます。白石さんが管掌していたコンテンツ部門が業務縮小へと方針が変化し、仕事がやりづらくなっていったそうです。その頃一緒に仕事していた部下の皆さんから『辞めないのですか?』『起業しないのですか?』と尋ねられるようになり、全く起業志向ではなかった中で周りから背中を押される感じで、起業の道を選んだそうです。サイバーエージェント社とはその後も友好関係が続き、創業後数年間はたくさんの仕事を発注してもらえたそうです。

以下にライトアップ社HPから同社の変遷をご紹介します。

    ・(株)ライトアップ・現在までの歴史

    (株)ライトアップは、2002年にサイバーエージェント社コンテンツ部門メンバーが中心になり設立されました。元々の部署名が「メルマガファクトリ」だったこともあり、当初は様々な企業の「メールマガジン」の編集代行を実施していました。現在でも、ライトアップは「現存する国内最古のメルマガ編集会社のひとつ」だと思います。

    その後、「メルマガ」→「ブログ」→「バズマーケ」→「ソーシャルマーケ」→「SEO」→「クラウドツール」→「経営コンサル」・・・と新規事業と業態転換を続けながら拡大していきます。その結果、2018年6月22日(金)に東証マザーズ市場へ上場することができました(証券コード:6580)。

    選択と集中という言葉がありますが、弊社は真逆を進み「世の中が望むサービスをできるだけたくさん、できるだけ低コストで提供し続けていく」をモットーに、あらゆるネット系新規事業にチャレンジし続けています。

    20年近くの社歴に基づいた安定感と、社員の数より多い商品・サービス群を武器に、これからも「受託制作業務」→「クラウドツール開発・卸業務」→「赤字の中小企業への経営・IT支援」に全力で取り組んでまいります。

    現在、最も力を入れていることはこちらです。これがIT・ネット企業の存在意義だと考えています。

    「全国、全ての中小企業を黒字にする」

    (出所:ライトアップ社ウェブサイト)

この歴史を拝見していて、まさに企業は生き物、トライアンドエラーの連続、ITを土台に時代にマッチする事業を行っている。白石さんのマーケットの声を聞く姿勢があればこそのことと感じました。

続いて、同社の事業概要、今力を入れている事業についてお話を聞きました。

3 毎年、年間600回のセミナーを開催、2万社の経営層が参加!

1)年間600回をどうやって?

年間600回のセミナー、勉強会、イベントを実施されている白石さん、IT企業だけにオンラインで実施している?と思いますがそれが全てリアルイベントだそうです。白石さん曰く、まだまだ地方の中小企業経営者はインターネットを日常的に【活用していない】ため、IT企業でありながら、対面状況を創り全国で600回にのぼるリアルな説明会イベントを開催しています。と。このリアルイベント、勉強会を開催するために、全国の、地銀、電力会社、生損保、自治体、商工会議所等と連携もしているそうです。智恵を絞り出されていますね。

2014年に経営支援に真っ向から取り組む覚悟で開発したツールが、社長のための経営支援サービス

Jマッチの画像です

これは、自社の【資本金、社員数、所在地、売上等】の【基本情報】と、【売上減少、人材採用難、離職率等】の【経営課題】を入力することで、最適な【解決策】と【資金確保手段】を自動的に提案するようになっています。

その結果、2017年には大きく飛躍することができ、会員1万社、80億円超の資金確保(返済不要)、多様な人材研修の提供などが実現できました。大変好評です。とのこと。

Jマッチの画像です

道玄坂日記の画像です

2)現状注力中のITサービスについて

白石さんにココ最近一番注力していること、そこを尋ねますと、真っ先に返事があったのが【採用です】と。昨今採用費はうなぎ登り、コストを掛けても採用人数0人やせっかく採用してもすぐに辞めていく。そんな中で、一人あたりの採用コストが150万円となっている現実。そこを10万円に下げようと頑張っていらっしゃいます。その余ったコストの100万円分を入社後の育成、研修や業務のIT化に投資できる経営環境を作りたいと思っています。

自社でもコスト70万円で15名の採用に成功されています。その概要はこちらです。

上記以外にも、外国人に特化した求人媒体、ロジックで最適人材を紹介する全自動の人材紹介会社システム、1日500円からの短期バイト・マッチングサービス、無料で利用できる採用診断システム、と多彩なサービスを展開中です。

3)今後の展開について

採用の次は離職の防止で経営者の役に立ちたいと思っている白石さん。

「革命的なPCログ分析ツール」「かゆいところに手が届く月次自動アンケートシステム」「ブロックチェーンを活用した福利厚生サービス」「かなり真面目な離職確率測定サービス」となかなかおもしろい企画が目白押しだそうです。順次、システム提供に移っていこうとされています。白石さんは、採用、育成、離職防止といった「人」に関する大切なことにITを活用して自動化し、売上向上や社員の働きやすい環境を実現して、本当の意味で生産性を向上させる。そんな取り組みを進めていこうとされていると思います。

【赤字】の中小企業を支援したいと事業にコミットしている、そんな会社はライトアップくらいだと奇特な会社扱いをされるそうですが、白石さんは、至って真面目に、真剣に取り組んでいますと胸を張ります。

最後に事業連携についても積極的に進めようとされています。同社としても提供できること、また必要としていることについても伺いました。

◆同社が提供できるもの

  • Jマッチ会員5万社をご紹介できます(79%が経営層・社員数20名未満)。毎年2万社の経営層が参加する勉強会を共同で開催したり、サービスを公的支援制度対応にリパッケージできます(価格ネックの大幅低減)。
  • 最新の各種ITツールを安価に“卸”せます。

◆同社が必要としているもの

  • 中小企業を支援したいと考えている「パートナー企業」「個人」
  • 中小企業の経営課題を解決できる「IT系サービス」
  • 新しいITサービスを開発したが、売り方がわからない「ベンチャー企業」

※法人、個人の区別なく、ビジョンに共感していただける方は大歓迎です、とのこと。

自分たちは、日本経済の足元を支えている中小零細企業の社長の悩みに向き合って、それに対して何をしたらいいかだけを真剣に考えてきた、そしてこれからも考えていく会社です。とお話しされる白石さん。

事業連携も加速していきながら赤字の中小企業を無くす、白石さんの「世の中へのお役立ち」にますますの成長を期待したい会社だと感じる次第です。

白石さんと杉浦さんの画像です

以上(2019年10月作成)

【2019年10月改訂】消費者向け約款の『定型約款』該当性〜民法改正と契約書の見直し(5)

1896年に現行民法が制定されて以来の大改正となる 民法 。この改正で契約書をどのように見直す必要が出てくるのでしょうか。シリーズ第5回においては、「定型約款の定義と契約上の影響~民法改正と契約書の見直し(4)」で説明した定型約款の「定義」に基づき、具体的な消費者向け取引(B to C)の約款を対象に、定型約款該当性について解説いたします。

なお、本稿の内容は、筆者の個人的な見解に基づくものであることをあらかじめご理解ください。

1 定型約款とは? ― 3つの要素

定型約款に該当するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  • 不特定多数要件

    不特定多数の者を相手方として行う取引であること。

  • 画一性要件

    取引の内容の全部又は一部が画一的であることが、
    契約当事者双方にとって合理的であること。

  • 目的要件

    契約の内容とすることを目的として準備されたものであること。

以降では、この要件を前提として具体的な消費者向け取引(B to C)の約款の定型約款該当性を検討します。

2 「定型約款」に当たると考えられ、改正法への対応が望まれる取引例

1)預金規定・証券総合サービス約款

預金規定や証券総合サービス約款は、定型約款に該当するものと考えられます。詳細は以下の通りです。

  • 不特定多数要件:
    預金取引や証券取引は、銀行や証券会社が不特定多数の顧客を対象として行う取引であるため、不特定多数要件を満たすものと考えられます。預金口座や証券総合口座開設の際には、顧客が反社会的勢力に該当していないことをチェックするものの、このチェックは「相手方の個性に着目した取引」という趣旨ではありません。このチェックにより不適切な顧客を排除することが目的であり、適切な顧客との間では「相手方の個性には着目しない取引」が履行されます。
  • 画一性要件:
    預金取引や証券取引のように大量の取引が予定されているものについては、画一的な取引とすることにより、銀行や証券会社にとって事務の定型化による正確性・迅速性の確保やコスト低減を図ることができます。また、顧客にとっては、正確かつ迅速なサービスを平等かつ低額で利用できるというメリットを享受することができます。双方にとって合理的であるといえるため、画一性要件を満たすものと考えられます。
  • 目的要件:
    預金規定や証券総合サービス約款について、顧客側は個別の条項の内容を逐一検討しません。契約の内容とすることを目的として、銀行や証券会社が一方的に準備したものといえるため、目的要件を満たすものと考えられます。

2)保険約款

個人向けの生命保険や損害保険における保険約款は、定型約款に該当するものと考えられます。詳細は以下の通りです。

  • 保険約款は、保険会社が不特定多数の保険契約者を相手方として契約を締結することが予定されているため、不特定多数要件を満たすものと考えられます。なお、生命保険であれば被保険者の健康状態の審査をする等、加入に当たって一定の審査が行われることはありますが、これはリスク管理上、不適切な顧客を排除することが目的であり「相手方の個性に着目した取引」という趣旨ではありません。
  • 預金取引と同様、保険取引も大量の取引が予定されているものであり、画一的な取引とすることにより、保険会社にとっては事務の定型化による正確性・迅速性の確保やコスト低減を図ることができます。また、保険契約者にとっては、正確かつ迅速なサービスを平等かつ低額で利用できるというメリットを享受することができます。そもそも、保険取引とは、各保険契約者が公正・衡平な条件で加入することを前提として、大数の法則や収支相等原則等に基づいて商品設計されるものです。そのため、個別の相手方との間で条件交渉を実施し、個別に契約内容を修正していては、制度として成り立たないともいえます。したがって、画一的であることが双方にとって合理的な取引であり、画一性要件を満たすものと考えられます。
  • 保険約款について、顧客側は個別の条項の内容を逐一検討しません。契約の内容とすることを目的として、保険会社が一方的に準備したものといえるため、目的要件を満たすものと考えられます。

3)ソフトウエア利用約款

ソフトウエア利用約款は、定型約款に該当するものと考えられます。詳細は以下の通りです。

  • ソフトウエア利用取引は、ベンダーが不特定多数のユーザーを相手方とすることが予定されているため、不特定多数要件を満たすものと考えられます。
  • ソフトウエア利用取引は、画一的な取引とすることにより、ベンダーにとっては事務の定型化による正確性・迅速性の確保やコスト低減を図ることができます。また、ユーザーにとっては、正確かつ迅速なサービスを平等かつ低額で利用できるというメリットを享受することができます。双方にとって合理的であるといえるため、画一性要件を満たすものと考えられます。
  • ソフトウエア利用約款は、ユーザーが個別の条項の内容を逐一検討していなくても、契約の内容とすることを目的として、ベンダーが一方的に準備したものといえるため、目的要件を満たすものと考えられます。

4)消費者ローン契約書

消費者ローン契約書は、定型約款に該当するものと考えられます。詳細は以下の通りです。

  • 消費者ローンは、金融機関や貸金業者等が不特定多数の借主を相手方とすることが予定されているため、不特定多数要件を満たすものと考えられます。借入に当たっては、個人信用情報、年収、勤務先情報等をもとに貸付実行の可否につき審査を実施しますが、これはリスク管理上不適切な顧客を排除したり、ビジネスとしての採算性を確保したりすることが目的であり「相手方の個性に着目した取引」という趣旨ではありません。
  • 消費者ローンは、画一的な取引とすることにより、貸主にとっては事務の定型化による正確性・迅速性の確保やコスト低減を図ることができます。また、借主にとっては、正確かつ迅速なサービスを平等かつ低額で利用できるというメリットを享受することができ、双方にとって合理的であるといえるため、画一性要件を満たすものと考えられます。
  • 消費者ローン契約書は、借主が個別の条項の内容を逐一検討していなくても、契約の内容とすることを目的として、貸主が一方的に準備したものといえるため、目的要件を満たすものと考えられます。

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3 「定型約款」に当たるか慎重な検討が求められる取引例

1)住宅ローン契約書

住宅ローン契約書については、定型約款に該当しないと考える余地もありますが、通常は定型約款に該当する場合が多いのではないかと考えられます。詳細は以下の通りです。

  • 住宅ローンは、金融機関や貸金業者等が不特定多数の借主を相手方とすることが予定されているため、不特定多数要件を満たすものと考えられます。借入に当たっては、個人信用情報、年収、勤務先情報等をもとに貸付実行の可否につき審査を実施しますが、これはリスク管理上不適切な顧客を排除したり、ビジネスとしての採算性を確保したりすることが目的であり「相手方の個性に着目した取引」という趣旨ではありません。
  • 住宅ローンは、画一的な取引とすることにより、貸主にとっては事務の定型化による正確性・迅速性の確保やコスト低減を図ることができます。また、借主にとっては、正確かつ迅速なサービスを平等かつ低額で利用できるというメリットを享受することができ、双方にとって合理的であるといえるため、画一性要件を満たすものと考えられます。もっとも、例えばアパートローンのように、事業性ローンである場合については、個別の事案に応じて借主との間で交渉をしながら契約を締結することが予定されている場合もあり得るため、そのような実態がある場合には、画一性要件を満たさないとも考えられます。
  • 住宅ローン契約書は、借主が個別の条項の内容を逐一検討していなくても、契約の内容とすることを目的として、貸主が一方的に準備したものといえるため、目的要件を満たすものと考えられます。ただし、アパートローンのような場合に前述したような実態があるのであれば、借主が契約内容を十分に吟味するのが通常であるため、目的要件を満たさないと考える余地もあります。

2)不動産売買契約書・不動産賃貸借契約書

不動産売買契約や不動産賃貸借契約については、買主や貸借人の相手方が事業者であれ消費者であれ、個別の顧客ごとに、個別事案に応じて交渉を経て契約を締結するのが通常であると思われます。従って、不特定多数要件も画一性要件も満たさないと考えられます。

もっとも、住宅の賃貸借契約については、例えば、各地の住宅供給公社が大規模団地を建設し、契約内容を画一的に定める場合などは、契約当事者双方にとって画一的であることが合理的と考えられ、不特定多数要件、画一性要件、目的要件も満たすため、定型約款に該当するとも考えられます。

次回は、定型約款の具体的妥当性(事業者向け取引)について解説いたします。


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民法改正と契約書の見直し

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付加価値の計算方法と変動損益計算書を使った管理

付加価値とは、「企業が生産・サービス活動によって新たに生み出した価値」です。付加価値は企業の実力であり、他社と差別化を図る上での基本です。また、付加価値を向上させるのは企業の工夫であり、設備投資や人材教育の方向性を示唆します。

このように、付加価値は企業経営において非常に重要です。まずは、自社がいくらの付加価値を生み出しているのかを計算することから始めましょう。付加価値の計算方法や日々のコントロールの手法を紹介していきます。

1 付加価値の計算方法は「積上法(加算法)」と「控除法」

付加価値の計算方法は、積上法(加算法)と控除法とに大別されます。

積上法とは、自社が生み出した価値を加算する方法です。価値としては、人件費や賃貸料などが該当します。

一方、控除法とは、自社の売上高から他社の価値を控除する方法です。他社の価値としては、原材料費や外注加工費などが該当します。

具体的な付加価値の計算方法として確立されているものに、日銀方式や中小企業庁方式などがあります。日銀方式は積上法、中小企業庁方式は控除法です。

  • 日銀方式:経常利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課
  • 中小企業庁方式:売上高-外部購入価値(材料費、買入部品費、外注加工費など)

いずれの方法で計算しても問題ありませんが、まずは自社の生み出している付加価値を計算してみるようにしましょう。

2 付加価値を管理するために役立つ変動損益計算書

先の日銀方式と中小企業庁方式を見ると分かるように、基本的に付加価値は「損益計算書(PL)」の勘定科目から求めることができますが、少し工夫して「変動損益計算書」を用いると、より分かりやすくなります。

変動損益計算書とは、費用を変動費と固定費に分けて作成する損益計算書であり、いわゆる「管理会計(経営者が会社の状態を知って意思決定するための会計)」を利用します。損益計算書と変動損益計算書の違いは次の通りです。

損益計算書と変動損益計算書の違いを示した画像です

変動費と固定費の例は次のようになります。

  • 変動費:売上高の増減に比例して変動する費用。材料費・外注加工費・運送費など
  • 固定費:売上高の増減に関係なく発生する費用。人件費、減価償却費など

変動損益計算書のイメージは次の通りです。

変動損益計算書のイメージを示した画像です

企業によって状況は違いますが、一般的には変動費の大部分は外部購入価値となるため、「限界利益」(売上高-変動費)と付加価値は近いレベルになるでしょう。

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3 変動損益計算書を使った付加価値の管理の基本

自社の付加価値を計算したら、同業種・同規模の他社と比較してみましょう。付加価値は企業の実力であり、自社の競争力を客観的に把握することができます。例えば、中小企業庁「中小企業基本実態調査」が参考になります。中小企業(法人企業)の1企業当たりの付加価値額と、付加価値比率を見てみましょう。

なお、ここでは付加価値額は次の算式で計算しています。

付加価値額=労務費+売上原価の減価償却費+人件費+地代家賃+販売費及び一般管理費の減価償却費+従業員教育費+租税公課+支払利息・割引料+経常利益

付加価値額と付加価値比率のイメージを示した画像です

付加価値は、業種やビジネスモデルによって異なります。例えば、自社で製品を製造する製造業は、付加価値比率(売上高に占める付加価値額の割合)は高くなりますが、製品を仕入れて販売する小売業は付加価値比率が低くなります。

こうした特徴を踏まえつつ、同業種・同規模の他社の付加価値と比較したり、自社の過去3年分の付加価値の推移を確認したりしてみましょう。業種やビジネスモデルで一定の制約はあるものの、差が出ているのは各社の工夫の成果です。

付加価値の向上を図るための基本的な考え方は、販売に注力するなどして売上を増やすことと、材料費や外注加工費などのコストを減らすことですが、単に固定費の割合(≒限界利益率)を高めればよいわけではありません

固定費の多くは「付加価値の源泉」です。例えば、人件費は製造や販売を行う人に対する費用ですし、減価償却費は生産・販売活動などを支える設備への投資の結果であり、いずれも簡単に削減することはできません。

そこでお勧めなのは、固定費の内容を分析して、「重要管理費用」と「削減対象費用」とに分類してみることです。そのイメージは次の通りです。

限界利益(≒付加価値)の分類例のイメージを示した画像です

「重要管理費用」は、付加価値の源泉であり、事業の維持・成長に向けて適切に管理すべきものです。一方、「削減対象費用」は、基本的には付加価値を生み出さない費用であり、削減を図るべきものです。このように費用を分類することで、適切な固定費の管理を行うことができます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年10月3日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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売れる営業の5つの条件

1 販売だけではない営業担当者の仕事

営業活動の中心は販売ですが、そこに至るまでには次の活動も不可欠です。これらの活動は数字には表れませんが、優れた営業担当者はその重要性を十分に理解して取り組んでいます。

  • 関係者との良好な関係構築など、商品を販売しやすい環境をつくり上げる
  • つくり上げた環境を活かし、顧客に適切な提案をする

このような機能を「商品販売」「関係構築」「情報収集」「アラーム」に分類した場合、それらの関係図は次の通りです。

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「商品販売」機能の活性化は、営業担当者の最終目標です。この機能を十分に発揮するためには、「関係構築」「情報収集」「アラーム」の3つの機能が欠かせません。また、「関係構築」「情報収集」「アラーム」機能から「商品販売」機能に向かう途中に、最後の壁が立ちはだかっていることが分かります。最後の壁を突破できなければ、「商品販売」機能を十分に発揮することは難しいのです。

本稿では、「商品販売」「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能について確認した後、最後の壁を突破するための考え方を紹介します。

2 「商品販売」機能

「商品販売」機能とは、取り扱う商品を販売することであり、営業活動の中心です。ただし、営業担当者は営業成果として売り上げのことだけを考えていればよいわけではありません。「商品販売」機能を十分に発揮するために、営業担当者は「関係構築」機能などにも積極的に取り組まなければなりません。

一方、「関係構築」機能などが不十分であっても、コンスタントに成果を上げる営業担当者がいます。こうした営業担当者は、「事前準備が不十分でも、最後の壁を突破する力が強い」「本当に重要な場面で、上手に『関係構築』機能などを発揮している」のです。あるいは、たまたま自社の商品などを求めている顧客をタイミング良く訪問するなど、強運の持ち主であることもあります。いずれにしても、他人がまねをすることは難しいスタイルです。

営業の基本は、あくまでも「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能を十分に発揮することです。

3 「関係構築」機能

1)「関係構築」機能とは

「関係構築」機能とは、社内外を問わず、関係各所と良好な関係を構築する活動です。もし営業担当者が、「営業成果は自分の手柄。だから、社内でも社外でも一匹おおかみでいい」と考えているのなら改めましょう。顧客の要求が高度になっている現在、営業担当者だけの力には限界があります。少し乱暴な言い方ですが、「利用できる相手は利用する」姿勢が必要で、そのためには周囲との関係構築が重要となるのです。

営業担当者が「関係構築」機能を発揮すべき主な相手は次の通りです。

2)社内との関係構築

1.上司との関係

上司との関係を良好に保って信頼を獲得します。上司の信頼が得られれば自分の提案などが承認されやすくなり、営業の幅が広がります。

2.他の営業担当者との関係

他の営業担当者の好成績をうらやむだけでは前に進みません。自分よりも優れた営業担当者と積極的に情報交換を行い、そのノウハウを自分のものにしていきましょう。

3.他部門との関係

製造部門、経理部門など他部門との連携を深めましょう。営業部門と製造部門の連携がスムーズなら、少々厳しい納期にも製造部門が対応してくれるでしょう。

3)顧客との関係構築

1.窓口担当者との関係

既存顧客や見込み客から見て、営業担当者は常に頼れる味方でなければなりません。営業担当者は複数の顧客を担当しますが、顧客に「自社は○○さんが担当している営業先の1つ」と意識させては失格です。あたかも専属の営業担当者であるかのように振る舞い、「○○さんは、いつも自社のことを考えてくれる面倒見の良い担当者だ」と思わせることが重要です。

2.窓口担当者の上司の存在を意識する

営業担当者は、「自分の取引相手は顧客の窓口担当者」と考えてはいけません。窓口担当者の背後には、上位の意思決定権者がいます。その存在を常に意識しておきましょう。

3.窓口担当者の上司と商談する際のポイント

窓口担当者の上司と商談できる機会は限られています。その貴重な機会を無駄にしないよう、臆せずに自信を持って提案していきましょう。営業担当者の自信ある姿は相手に安心感を与え、信頼へとつながっていきます。

4)業界団体との関係構築

1.業界団体との関係

多くの業界には、いわゆる「業界団体」があります。必要に応じて業界団体との関係を構築しておくと、業界全体の動きが把握しやすくなります。

2.業界団体との関係構築のポイント

業界団体との関係を構築する上で注意が必要なのは、業界団体はあくまでも公平・公正な立場の組織であるということです。無理に取り入ろうとすれば、かえって不信感を抱かれます。まずはこまめに連絡するなど、自社の存在、自社の取り組み、自分の名前を覚えてもらうようにしましょう。

5)他社との関係構築

1.競合先との関係

競合先を意識し過ぎるのは問題です。競合先の営業担当者もあなたと同じ悩みを抱えているはずです。一線を引く必要はありますが、営業担当者レベルで適度に良好な関係を築き、情報交換ができる関係になるのは有意義です。

2.類似商品の販売企業との関係

直接の競合先には当たらないものの、同業界で類似した商品を販売している企業があります。こうした先を気に留めない営業担当者が多いようですが、これは残念なことです。顧客層が異なる(競合先ではない)分、ざっくばらんに情報交換ができますし、信頼関係が強まれば、互いに見込み客を紹介し合う間柄に発展することもあります。

6)友人・知人などとの関係構築

営業担当者の優劣は情報の収集・分析力にあります。社内や顧客などから得られる情報は、営業担当者には不可欠です。さらに、家族・友人・知人など営業担当者の私的な人脈から得られる情報もあります。また、セミナーや趣味などで広げた人脈を大切に育むことも非常に重要です。

4 「情報収集」機能

1)「情報収集」機能とは

「情報収集」機能とは、幅広く適切な情報を収集することです。営業担当者が収集すべき情報は多岐にわたります。「顧客との関係構築」が発揮されていれば、比較的スムーズに情報収集できるでしょう。「情報収集」機能に取り組み始めた当初、集まってくる情報は“点”にすぎないかもしれません。しかし、“点”は少しずつ連続して“線”となり、何本も“線”が引かれることで、最後は大きな“面”となります。“面”となった情報は営業戦略の方向性を確認し、必要に応じて修正していく際の羅針盤となります。

目標は、全ての情報が自分(自社)に集まるような体制を整えることです。そのために、例えば、次のような情報の収集に取り組みましょう。

2)商品情報の収集

1.同業他社の商品情報の収集

同業他社の商品情報も徹底的に収集します。一通りの情報は他社のウェブサイトなどから収集できます。

2.自社商品と他社商品の比較

自社商品と他社商品の機能などの違いをまとめた一覧表を作成することは非常に重要です。ただし、これは多くの営業担当者が実践していることなので、そこで一歩踏み込んで、顧客の窓口担当者とその上司の立場で、自社商品と他社商品について必要な情報を整理してみましょう。その際の視点は次の通りです。

  • 窓口担当者

窓口担当者は、複数の企業の商品を比較し、どの企業の提案が最も上司に報告しやすいかを考える傾向があります。また、自分と相性が良く、自分の意図を正確に理解してくれる営業担当者を好みます。窓口担当者が興味を示すのは、各社の商品の機能や価格などを一目で比較できるような資料です。

  • 窓口担当者の上司

窓口担当者の上司(この説明では以下「上司」)は、ある程度の権限を持ち、企業全体の利益を常に考えて判断しています。誰でも知っているようなメリットや機能は、既に窓口担当者からの報告で把握しています。

上司が興味を示すのは、他社の動向、商品導入後に自社が他社より優位に立てる点です。また、「費用対効果」についてもシビアなので、上司は価格に見合ったメリットを知りたいと考えています。

3)業界情報の収集

業界団体のウェブサイトや業界紙などを確認し、業界の動向を把握します。規制強化・緩和など業界の方向性を左右する重要な情報は、必要に応じて業界団体に直接問い合わせて確認します。この確認作業は、業界団体との関係構築にもつながります。

4)顧客情報の収集

1.ウェブサイトや業界紙などを通じた基本的な情報の継続的収集

業界団体のウェブサイトや業界紙などから、顧客に関する基本的な情報を収集します。例えば顧客の窓口担当者からの連絡で、「先月、当社は新しい顧客管理システムを導入したんですよ」などと、事後報告を受けるようでは失格です。顧客より先に連絡し、「御社は新しい顧客管理システムを導入されたようですね」と先手を打つようでなければなりません。これは電話が先か後かの時間的な違いではありません。先手を打って連絡することで、窓口担当者が「この営業担当は自社のことをよく理解している。信頼できるな」と考えるようになるのです。

2.窓口担当者を通じた情報収集

業界団体のウェブサイトや業界紙などから収集できない情報は、積極的に窓口担当者に連絡して確認しましょう。窓口担当者と良好な関係を構築できていることが前提ですが、窓口担当者は自分が採用した取引先を上手に使いたいと考えているので、そのために必要な情報は提供してくれることが多いのです。

3.人脈を活かした情報収集

家族や友人などから貴重な顧客情報を収集できることもあります。友人の学生時代の後輩が顧客企業に勤めているなどのケースは意外とあるものです。

5)他社情報の収集

1.ウェブサイト、窓口担当者などからの情報収集

一通りの情報は、他社のウェブサイトなどから収集可能です。より踏み込んだ詳細な情報は、顧客の窓口担当者から収集できることもあります。窓口担当者は、自分の立場を維持するためにも、自分が選択した取引先に一番でいてほしいと考えます。そのため、同業他社について「先日、○○社さんがこんな提案をしてきたよ」などといった貴重な情報を教えてくれることがあります。窓口担当者がこうした情報を教えてくれたときは、素直に感謝しましょう。

2.窓口担当者から情報収集する際の注意点

顧客の窓口担当者が情報を提供してくれるとはいえ、それに頼り過ぎることは禁物です。窓口担当者はこちら側の情報収集力を疑い、「実は何も知らないのではないか」と考えます。一度そのように思われてしまうと、信頼を回復することは容易ではなく、最後は取引を打ち切られるといった最悪のケースもあり得ます。

3.同業他社からの情報収集

同じ業界に属している企業は情報の宝庫です。積極的に情報交換しましょう。

5 「アラーム」機能

1)「アラーム」機能とは

「アラーム」機能とは、業界・顧客・他社などのちょっとした変化も見逃さず、自社のチャンスになる場合も危機になる場合も必ず上司に報告する活動です。この「アラーム」機能が発揮されなければ、「情報収集」機能は意味がありません。

例えば顧客の窓口担当者が、「先日、○○社さんが来て、新しいサービスの提案をしてくれたよ」と貴重な情報を教えてくれたにもかかわらず、何の対策も講じず、上司にも報告しない営業担当者がいたとします。

最悪の場合、この営業担当者は取引先を○○社に奪われてしまいます。また、最悪のケースは回避できたとしても、顧客の窓口担当者は「○○社の提案内容を教えているのに、今の取引先から何のリアクションもない。もしかすると、自社にとってあまり良くない取引先なのではないか」と信頼を失う結果になりかねません。

こうしたことがないように、営業担当者は業界・顧客・他社などのちょっとした変化も見逃してはなりません。例えば、次のような変化には注意が必要です。

2)業界の動き

1.顧客が属する業界で新たな規制強化(緩和)が実施された

自社商品が規制強化(緩和)に対応しているかを即座に確認しましょう。自社商品は既に対応しているが、他社商品はまだ対応していないのであれば大きなビジネスチャンスです。逆の場合は危機であり、早急な対応が求められます。

2.業界団体が、業界標準のサービス構築を進めている

自社商品が業界標準になるチャンスである半面、他社商品が業界標準となれば、多くの顧客を失う危険性があります。

3)顧客の動き

1.顧客からの連絡が途絶えている

頻繁に連絡のあった顧客から、プッツリと連絡が途絶えたら危険信号です。こちらから連絡して状況を確認しましょう。

2.顧客が同業他社のことについて質問してきた

顧客が同業他社を必要以上に気にし始めたら危険信号です。「同業他社から提案がきているのか」「その提案はどのような内容か」を素直に質問し、対策を講じましょう。

3.顧客が突然、訪問したいと言ってきた

通常は営業担当者が顧客を訪問するものです。にもかかわらず、顧客のほうが訪問を申し出てきたら、大きな危機かもしれません。落ち着いて訪問の理由を聞いてみましょう。

4.顧客が値下げ要請をしてきた

値下げ要請は危険信号ですが、大切なのは値下げの金額だけではありません。顧客が値下げを要請してきた理由です。顧客企業内でコスト削減の対象となったのか、他社が自社を下回る価格で提案をしてきているのかを確認しなければなりません。場合によっては、窓口担当者が“言ってみただけ”ということもあります。値下げ要請を受けると、多くの営業担当者は慌てますが、こんなときこそ冷静に対応しなければなりません。

5.顧客がまともに話を聞いていない

営業担当者としての信頼を失っている危険性があります。一から関係を構築し直す必要があるかもしれません。

6.顧客の窓口担当者が異動になった

状況に応じてチャンスにもなりますが、前提として認識しなければならないのは、新たな窓口担当者は、自社商品に何の思い入れもないということです。そのため、取引先を変更したり、それまでの提案の差し戻しを求めることがあります。

一方、前任の窓口担当者になかなか採用してもらえなかった商品を、仕切り直しで提案するチャンスでもあります。いずれにしても、慎重に一から関係を構築し直さなければなりません。

7.顧客の主要な営業エリアで大きな事件や事故があった

顧客への影響が心配です。プレスリリースやインターネットから必要最低限の情報を入手しておきましょう。ただし、こちらから質問することは控えます。

8.顧客の窓口担当者が、訪問前の事前の資料提出を求めている

これまで提出してきた提案書などが、窓口担当者のイメージ通りでなかった場合は危機です。半面、窓口担当者が“本気”で上司に商品導入を進言しようとする際も、同様の動きが見られます。その場合はチャンスです。

9.商談の場に窓口担当者の上司、あるいはさらに上役が出席すると言っている

顧客は営業担当者の提案を本気で検討する姿勢を見せています。大きなチャンスであるため、臆することなく、自信を持って提案しましょう。

10.門前払いが多かった見込み客が、話を聞きたいと言っている

商品を導入したいのか、情報収集だけをしたいのかは微妙です。ただし、見込み客との関係を深めるチャンスであることに違いはありません。

4)他社の動き

1.他社が新しい商品を開発した

新商品に関する情報を収集し、特徴・機能を整理しましょう。仮に自社商品よりも優れているようであれば、その点は素直に認め、顧客から質問されれば事実を伝えます。

2.新たな競合先が誕生した

危機であるかチャンスであるかは分かりません。「強力なライバル」になる可能性と「頼れる提携先」になる可能性の両方があるためです。「関係構築」機能と「情報収集」機能を発揮させ、状況を見守りましょう。

3.顧客から他社の悪評を頻繁に耳にする

顧客の言葉は受け流し、悪評の事実関係の確認を急ぎましょう。決して、顧客と他社の悪口で盛り上がってはいけません。

6 「Win-Win関係創造」機能

1)「Win-Win関係創造」機能がブラックボックスを解き明かす

営業では「商品販売」機能が注目されがちですが、実際は「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能も欠かせません。そして多くの営業担当者は、このことは頭では理解しています。事前準備を周到に行うだけでは営業成果に結びつかないこと、あるいは事前準備をおろそかにしては、コンスタントに営業成果は上げられないことを知っているのです。

実際、多少のビジネスセンスのある営業担当者は、事前準備として「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能を発揮しています。にもかかわらず、なかなか「商品販売」機能に結び付かないのは、事前準備から最終目標である販売に向かう途中に立ちはだかる最後の壁を突破することができないからです。最後の壁は営業のブラックボックスといえ、それを解き明かす鍵となるのが、「Win-Win関係創造」機能です。「Win-Win関係創造」機能の発揮のイメージは次の通りです。

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2)「Win-Win関係創造」機能の基本は想像力

「Win-Win関係創造」機能の基本は、「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能によって明らかになった状況を確認し、自社と顧客の双方にメリットがあるWin-Winの関係をじっくりと想像してみることにあります。要はWin-Winの関係が構築できるように、さまざまな仮説を立ててみればよいのです。

営業担当者が立てた仮説がそのまま実現することは少ないかもしれません。しかし、仮説を立てて検証するという一連の思考を何度も繰り返すことで、「Win-Win関係創造」に近づくことができます。こうした創造のための想像力(仮説立案とその検証)が研ぎ澄まされてくれば、最後の壁を打ち破るための本当の営業力が養われていきます。

  • ケーススタディー

次のような場面に遭遇した際、あなたはどのような仮説を立てますか。

    • 自社:顧客にシステムの一部を販売している。
    • 顧客C社:自社の既存顧客であり、ライバル社とも取引関係にある。
    • ライバル社:競合先。顧客C社にシステムの一部を販売している。
    • 同業他社:自社とライバル社のいずれとも競合関係にない同業他社。自社の営業担当者は、同業他社の営業担当者と関係を構築している。

現在、自社とライバル社は顧客C社にシステムの一部を販売しています。自社とライバル社は競合関係にありますが、顧客C社に関しては一応、営業上のすみ分けができており、直接的な競合関係にはありませんでした。

ところが、顧客C社の業界に直接関係する新法が施行されることになって状況が一変します。顧客C社は新法に対応した新システムの導入を検討し始めました。その一環として複数のシステム業者と取引している現在の体制を見直し、取引先を一本化することも検討しています。

ライバル社はいち早く新法に対応した新システムを開発し、活発に営業活動を展開しています。当然ながら、顧客C社にも積極的にアプローチしています。

また、このケーススタディーで「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能を発揮した結果は次の通りです。

1.「関係構築」機能

    • 私は自社の営業部長とのコミュニケーションは良好で、かなり信頼されている。
    • 私が同僚の営業担当者に聞いたところ、最近、ライバル社の営業が活発らしい。
    • 私がライバル社の営業担当者に聞いたところ、最近、新法に関する問い合わせが多いらしい。
    • 私は顧客C社の窓口担当者と非常に良好な関係を築いている。

2.「情報収集」機能

    • 私が調べた結果、顧客C社の業界では、新しい業界指針が出るらしい。
    • 顧客C社の窓口担当者は、私にこう言っていた。「現在、複数の取引先に自社システムの構築をお願いしているが、できれば一本化してコストを削減したい」
    • 私は同じ業界の同業他社から、次のような情報を入手した。「ライバル社が新法に対応した新しいシステムを開発したらしいが高価格のようだ」

3.「アラーム」機能

    • 顧客C社の窓口担当者の上司から私に直々に連絡があり、会いたいと言ってきた。その際、システムを一手に引き受けた場合の見積もりを提示してほしいと求められた。新法への対応が前提のようだ。
    • そういえば先日、顧客C社の窓口担当者は、私に今のシステムがもう少し安くならないかと尋ねた。本気とは思わなかったが、どうやら自社の価格競争力を確認しているようだ。
    • 顧客C社の窓口担当者は、訪問前に資料だけ送ってほしいと言っている。

例えば次の仮説が立てられるのではないでしょうか。

    • 顧客C社の業界では、新法への対応が重要な課題となっている。近々、業界指針が出るらしく、急いで対応しなければならないようだ。
    • 顧客C社は、新法対応とコストダウンのため、取引先の一本化を図っているようだが、それに対応できる企業は限られてくる。
    • そこで、現時点で有力な選択肢の1つとなっているのが、ライバル社の開発した新システムなのだろう。
    • ただし、同業他社からの情報通り、ライバル社の新システムは高価格らしい。顧客C社の窓口担当者とは良好な関係を築いているはずなのに、わざわざその上司から連絡があり、見積もりが欲しいというのは迷っている証拠だ。
    • いずれにしても、顧客C社は新法に対応したシステムを一手に引き受けてくれる取引先を探していることは間違いない。しかも事前に資料提出まで要求しているところを見ると、商談の場に上位の役職者が出席するかもしれない。

この仮説が妥当であるか否かは分かりません。しかし、このような仮説を立てた営業担当者は、上位の役職者が出席するかもしれない商談をチャンスと捉えることができます。そして、顧客C社のシステムを一手に引き受けるために、新法に対応できるシステムを提案するでしょう。

また、顧客であるC社との交渉では価格が1つのポイントとなることも分かっているため、事前に自分の上司である営業部長に通常よりも低価格で提案をすることの承認も得てあります。顧客C社から見ると、この提案は求める要求の多くを満たすものであり、十分に検討に値するでしょう。

最終的に、顧客C社に自社システムを導入できるか否かは分かりません。もしかすると、ライバル社が大幅な値下げをしてくる可能性もあります。仮にライバル社が大幅な値下げをして、自社が顧客C社を失うことになったとしても、それは営業担当者の責任ではありません。自社のシステムがライバル社より価格競争力で劣っていたための結果であるからです。

営業担当者が臆する必要はありません。大切なことは、継続して「関係構築」「情報収集」「アラーム」の各機能を発揮して営業の事前準備を行い、常に「Win-Win関係創造」機能を発揮するといった、正しい営業のプロセスを踏んでいればよいのです。これを続けていけば、いずれは最終目標である「商品販売」機能が高まるでしょう。

7 スランプのときこそ基本に立ち返る

本稿では、営業という仕事を改めて見直すために、営業担当者に求められる機能を「商品販売」「関係構築」「情報収集」「アラーム」「Win-Win関係創造」の5つに分けて紹介してきました。

これらは営業の基本ですが、スランプに陥った営業担当者は、得てして営業の基本を忘れてしまいがちです。大切なのは、スランプのときこそ基本に立ち返ってコツコツと営業活動を展開していくことなのです。

また、「商品販売」機能は、一足飛びに達成できるものではありません。田畑を耕すように事前準備を進め、出始めた芽が枯れないように育て、慎重に収穫までこぎつけなければなりません。

営業の仕事は毎日続くものです。そして、営業の仕事には高いモチベーションとその維持が求められます。このような仕事だからこそ、正しいアプローチを常に継続し、それを自信につなげていきましょう。今は数字が上がっていなくても、正しいアプローチを続けてさえいれば、必ず成約(収穫)のときが訪れます。

以上(2019年10月)

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画像:photo-ac

新たな食糧源として注目される昆虫食の動向

書いてあること

  • 主な読者:食品としての昆虫に関心のある経営者
  • 課題:昆虫食の長所、短所を把握する
  • 解決策:国内外の事例や、専門家の意見を参考にする

1 注目される昆虫食

昨今、「昆虫食」がにわかに注目されており、日本では、昆虫食のメニューや試食会を紹介する記事やテレビ番組を目にすることが増えています。世界に目を向ければ昆虫食は20億人の食生活の一部になっており、今後はさらにその数が増えると予測されています。

昆虫食が注目を集める背景には、食糧を巡る問題があり、昆虫食はその解決策として期待されています。2013年には、国際連合食糧農業機関(以下「FAO」)が、食用昆虫の飼育を推奨する報告書を公表し、昆虫食への注目度が一段と高まりました。

こうした中、海外を中心に、従来は駆除の対象であった昆虫の飼育に乗り出している畜産家や農家がある他、効率的に昆虫を養殖する方法や、昆虫を原料とする加工品などの製造・販売に取り組む企業が出てきています。

2 国内外を取り巻く昆虫食の状況

1)昆虫食を取り巻く世界の状況

世界的に人口や中間所得者層の増加が見込まれる中、食糧の安定的な確保、肉などの動物性たんぱく質のコスト上昇、家畜生産の増加による環境汚染の拡大など、さまざまな食糧を巡る問題への対応が求められています。

こうした中、FAOが「食用昆虫についての報告書」(Edible insects Future prospects for food and feed security)を2013年に公表しました。この報告書では、食用昆虫が、牛肉や鶏肉に匹敵する栄養分を含有し、かつ大きな設備などを必要とせず、水や餌などを抑えて養殖できることが示されています。

また、2018年1月から施行された「新規食品(ノベルフード)」に関するEU規則も、昆虫食市場への追い風とされています。従来、食品としての昆虫の販売は、禁止も認可もされていない状態でした。そのため、昆虫が新規食品として認定されたことで、EU全域で食品として昆虫を流通させることができるようになりました。

昆虫食には、マクドナルドや穀物メジャーのカーギルなどのグローバル企業も注目しています。こうした企業は、肉や大豆といった従来のたんぱく源への依存を減らし、代替たんぱく源の獲得を志向しているとされており、昆虫食関連の企業へ出資しています。

もともと昆虫食の文化があるタイなどの他、欧米諸国においても、昆虫を効率的に養殖するための研究や養殖工場の建設を手掛ける企業、昆虫の粉末を含んだプロテインバーなどの加工品の製造・販売に取り組む企業などが注目されています。

世界全体の市場規模については明らかではないものの、2019年から2030年までの間に、年率24%以上の上昇を続け、2030年には約80億ドル(約8500億円)に達するとの予測もあります。

2)国内の状況

日本における昆虫食の市場規模はどうなのでしょうか。農林水産省や財務省などに生産量や輸入量などについてヒアリングしたところ、昆虫食の市場規模は小さく、統計を集計していませんでした。

昆虫食を販売している国内企業などへのヒアリングによると、一部の大学が研究として昆虫の養殖などを手掛けてはいるものの、タイや欧米諸国のように、本格的な養殖工場などを持っている日本企業はまだないようです。

ただし、伝統的なイナゴのつくだ煮や蜂の子などを製造・販売する企業にヒアリングしたところ、FAOの報告書が公表されてから販売数が増えており、新たな引き合いに対応できないほど盛況のようです。さらに、これらの企業に対して、スーパーマーケットなどを展開する大手企業から、全国の店舗で昆虫のつくだ煮などの販売を打診されているとのことです。

3 従来の家畜との比較

昆虫は、牛や豚、鶏などの従来の動物性たんぱく源に比べると、飼育のための水や餌、土地などが少なくて済むので、生産コストを低く抑えられ、環境への影響も小さいとされています。

その理由として、昆虫は外部の温度により体温が変化する変温動物であるため、牛や豚、鶏などの恒温動物と異なり、体温を保つのに消費するエネルギーが少ないことが挙げられます。

また、種類によって異なるものの、昆虫は従来の動物性たんぱく源と同等かそれ以上の栄養素を含んでいます。FAOの報告書を基に、従来の家畜を生産する場合と昆虫を養殖する場合に必要な水・餌・土地および栄養素の比較は次ページの通りです。

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4 国内外の昆虫食の製品事例

1)Exo(エクソ)(米国):コオロギ粉末を使ったプロテインバーを製造・販売

昆虫食ベンチャーのエクソは、コオロギの粉末を練り込んだプロテインバーを製造・販売しています。同社のプロテインバーは、単にたんぱく質が豊富なコオロギの粉末を固めるだけでなく、フルーツなどの天然素材とミックスさせたものを販売しています。

同社のウェブサイトでは、16グラムのたんぱく質を配合したアイスクリームやチョコブラウニー味などのプロテインバーを、1ダース28ドル(定期購入の場合は23.8ドル)で販売しています。

また、大手広告代理店の電通が運用するコーポレート・ベンチャーキャピタル・ファンドである電通ベンチャーズでは、2016年4月に同社に出資し、製品の普及や新規事業の開発を支援しています。

2)TAKEO(東京都):昆虫食の販売、店舗の運営、昆虫の養殖

昆虫食を販売するTAKEOは、日本で唯一の実店舗を運営しています。実店舗では、同社が運営する通販サイトと同様に、バッタなどの粉末や、サソリをチョコレートでコーティングしたお菓子、タガメからエキスを抽出し、国内で製造されたサイダーなどを販売しています。

同社は、食用の昆虫を養殖するため、神奈川県で「むし畑」も運営しています。むし畑は、できるだけ自然に近い形で環境に配慮した養殖を行うため、化学薬品の使用を極力抑えた土壌や餌を用いています。同社はむし畑で養殖された昆虫の初めての収穫を2019年秋に予定しています。

5 昆虫食の製造・販売を行う際のコスト・留意点

1)原料について

昆虫のつくだ煮などを製造・販売している塚原信州珍味(長野県)によると、日本国内の昆虫を原料とする場合、田畑での採集が基本になります。捕獲は自社で行うか、捕子と呼ばれる昆虫を採集する業者に依頼します。

ただし、自然採集には限界があります。最近では引き合いが増えており、需要に対応するために東北地方や長野県内から仕入れているイナゴや蚕を自社で養殖したり、昆虫食が盛んなラオスから輸入したりすることを検討しているそうです。

なお、同社では、加工前のイナゴを冷凍し、食品の原料用として1キログラム当たり3300円で販売しています(2018年8月時点)。

また、FAOの報告書「Six-legged livestock : edible insect farming, collection and marketing in Thailand」には、昆虫食が盛んなタイ国内での食用昆虫の卸売価格が掲載されています。

同報告書によると、ヨーロッパイエコオロギが1キログラム当たり80~100タイバーツ(当時の日本円で約257~322円)、蚕のさなぎが同120タイバーツ(同約386円)で卸業者向けに販売されていました。

この他、フィンランドで昆虫食の製造・販売をしているEntoCube(以下「エントキューブ」)にヒアリングしたところ、法人向けのコオロギのアメリカ向け参考価格は、最低販売可能数量の2キログラムで70ユーロ(約8800円)、一般向けは5キログラム200ユーロ(約2万5000円)で販売しています(2018年8月時点)。

フィンランド大使館商務部によると、エントキューブも含め、現時点でフィンランドから食品の原料として昆虫を日本へ輸出している企業は把握していないそうです。また、フィンランド国内で流通している食品を日本へ輸入する場合、運賃や保険料などが加算されるため、現地価格の約1.3~2倍程度になるケースが多いとのことです。

2)昆虫の養殖コストについて

エントキューブによると、フィンランド国内でコオロギを養殖する場合、1キログラム当たり5.5ユーロ(約690円)の固定費がかかるそうです。この固定費の中には、餌代や温度調節のための電気代などが含まれています。また、固定費の他にも人件費や運送費、昆虫を乾燥させるための熱処理などの費用がかかるとのことです(2018年8月時点)。

また、農家などが新規に養殖を行う際、養殖器具に関連する費用として、次のようなケースが挙げられるとのことです。

中規模の農家が450個の養殖器具を導入し、1器具当たり1.5キログラムのコオロギを年間11回繰り返して養殖した場合、約4万ユーロ(約500万円)の費用が想定されます。これに加えて、器具の更新などのため、およそ1000~3000ユーロ(約12万5000~37万5000円)の費用が発生するそうです(2018年8月時点)。

3)輸入および国内で製造・販売する際の法規制など

厚生労働省や農林水産省などの関係省庁に確認したところ、昆虫食を輸入および国内で製造・販売する際の法規制などは見当たらないとのことです。しかし、輸入する場合には検疫所、製造・販売する場合には保健所へ相談するのが望ましいとのことです。

また、昆虫食を販売している店舗では、消費者の昆虫食に対する認識が低いため、衛生面で問題が発生しないことに特に留意しているとのことです。

6 専門家からのコメント 

昆虫食の可能性や食べ方について研究をしている、昆虫食普及ネットワーク理事長の内山昭一氏にインタビューした結果は次の通りです。

1)日本における昆虫食の養殖の現状

  • 日本では本格的にビジネスとして昆虫を養殖している企業はまだ多くはありません。徳島大学が食用コオロギの研究に取り組み、地元の企業が連携し、非常食としてコオロギの粉末を生地に練り込んだパンの缶詰を製造しています
  • MUSCA(東京都)は、家畜のし尿にイエバエの卵を入れて短期間に魚の飼料と農業用肥料を量産するシステムを開発しました。他にも小規模ながらコオロギなどを養殖し、商品化を目指す企業や個人からの問い合わせがここ数年増えてきています

2)養殖に適した立地や昆虫の種類

  • 昆虫の養殖は広い面積を必要としない利点があります。飼育セットを積み上げれば狭い面積でも量産できます。また、耕作放棄地に養殖用ハウスを設置する方法も想定されます。外気温が成長速度や身体の大きさに影響を与えるため、温暖な地域が養殖に適しているといえるでしょう
  • 食用としては、今のところ飼育技術が確立しているコオロギ、ミールワーム、蚕などが適しています。イナゴやトノサマバッタなども候補として挙げられるでしょう。飼料としてはイエバエが注目されています。生ごみや家畜の排せつ物なども餌として活用でき、ライフサイクルも他の昆虫に比べて早いのが利点です

3)昆虫食の市場を広めるための課題

  • 今後、市場を拡大するためには、見た目と安全性、価格が主なハードルです。見た目については、欧米の昆虫食品メーカーは、高い栄養素をセールスポイントにして、粉末やプロテインバーに加工し、健康意識の高い人をターゲットに販売しています。日本でもそうした工夫が必要です
  • EUでは昆虫を「新規食品」に加える規則改正が2018年1月から施行されましたが、日本では昆虫はJAS規格に入っていません。昆虫もJAS規格として認定されれば安心して食べてもらえると思います
  • 見た目と安全性がクリアできれば、消費が増えて価格を抑えることができるでしょう

以上(2019年10月)

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会社計算規則に準拠した自己株式の会計処理と表示

書いてあること

  • 主な読者:自社株の取得・処分を検討している中小企業の経営者
  • 課題:中小企業では、自社株取引は頻繁に発生しないため、その取り扱いに迷う
  • 解決策:自社株を取得・処分をした場合の会計上の取り扱いを解説する

1 貸借対照表の純資産の部の表示例

会社法により、株式会社は、自社の株式を取得することが認められています(会社法第155条)。自己株式の会計処理と表示については、法務省令の会社計算規則に定められています。

株式会社が自己株式を取得する場合、その取得価額を自己株式の額とします(会社計算規則第24条第1項)。自己株式は、純資産の部の株主資本に係る項目の中で、控除項目として区分表示します(会社計算規則第76条第2項)。

また、企業会計基準委員会の「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)」には、自己株式の貸借対照表における表示方法について「取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する。期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示する」とされています。会社計算規則に基づいた貸借対照表の純資産の部の表示例は次のようになります。

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本稿は、会社計算規則と企業会計基準委員会の「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)」を基に自社株の取得・処分に係る会計処理方法についてまとめたものです。

2 自己株式の会計処理

1)自己株式の取得と保有

自己株式については、従来より資産として扱う考えと資本の控除として扱う考えがありました。資産として扱う考えは、自己株式を取得したのみでは株式は失効しておらず、その他の有価証券と同様に換金性のある会社財産とみることができる点を論拠としています。また、資本の控除として扱う考えは、自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有することを主な論拠としています。

会社法第155条には、「株式会社は、次(同条第1~第13号)に掲げる場合に限り、自己株式を取得することができる」と規定されています。

取締役会設置会社は、市場取引等により自己株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができます(会社法第165条第2項)。

自己株式の取得価額の総額は、分配可能利益を超えることはできません(会社法第461条第1項)。会社法上の「分配可能額」は分配(配当や自己株式取得)時の財政状態を基に計算されます(会社法第461条第2項)。

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自己株式2000万円を保有したまま期末を迎えた場合、貸借対照表の純資産の部は次のようになります。

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2)自己株式の処分

自己株式の処分は株主との間の資本取引と考えることができ、自己株式の処分に伴う処分差額は原則として損益計算書に計上せず、純資産の部の項目を直接増減します。 自己株式を処分する際に生じる自己株式の処分差益は、その他資本剰余金に計上します。自己株式の処分差損は、その他資本剰余金から減額し、減額しきれない場合は、繰越利益剰余金から減額します。

自己株式処分差益と自己株式処分差損は、会計年度単位で相殺した上で上記処理を行います。

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自己株式1000万円を保有したまま期末を迎えた場合、貸借対照表の純資産の部の株主資本は次のようになります。

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3)自己株式の消却

株式会社は自己株式を消却することができます(会社法第178条第1項)。また、取締役会設置会社では、株式消却の決定は取締役会の決議によらなければなりません(会社法第178条第2項)。自己株式を消却する場合、消却手続きが完了したときに、その他資本剰余金から減額します。

その他資本剰余金の残高がマイナスになった場合、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとして、そのマイナス分の金額を繰越利益剰余金から減額します。

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以上(2019年10月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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