後継者に伝えたい賢者の「家訓」

書いてあること

  • 主な読者:後継者候補や企業に、どのような訓戒を残せばよいか迷っている経営者
  • 課題:企業にとって最も大切なことを分かりやすく伝え、後継者に実践してもらう
  • 解決策:偉大な先人たちの家訓を参考にする。伝えられる側の気持ちにも配慮し、言いたい

ことを絞り、押し付けを避ける

1 家訓は偉大な先人たちの「知恵の結晶」

愛情を注いで育て上げた子供や孫、あるいは経営する企業について、自分が去った後の行く末を案じる気持ちは、誰にでもあるものです。こうした不安を少しでも和らげるために、子孫や部下に対する訓戒として「家訓」を遺すことは、古くから行われてきました。

東京・日本橋の老舗企業である伊場仙(後述)は、投機を戒める家訓を守ったおかげで、バブル崩壊時に損害を免れたといいます。家訓とは、偉大な先人たちが自らの人生経験から得た教訓や価値観を、後継者たちが活かせるようにまとめた「知恵の結晶」ともいうべきものです。

本稿では、企業の後継者に伝える家訓づくりの参考になるように、生きていく上での処世術や、組織の永続に関するもの(企業を永続させるための教え、組織のリーダーとしての心構え)に重点を置いて紹介します。なお、参考文献を引用したものは、現代仮名遣いに直すなど平易に読めるようにしており、必ずしも原文とは一致しません。参考文献を記載していない家訓は、当該企業に直接確認をしています。

2 日常生活に関する戒め

実はどの時代に遺された家訓も、「朝は早く起きなさい」「怠けるな」「酒に溺れるな」「忍耐せよ」など、親が子供に諭す“小言”のような内容が多くを占めています。

小説「三国志演義」では天才的な軍師として活躍している中国・三国時代の諸葛亮(孔明)ですが、妹の子に対して戒めたとされる書簡の中に、次のような一節があります。

「自分の意志を抑えることを学び、感情的な些細(ささい)にとらわれず、疑問に対しては謙虚に教えを請い、また人に対する疑いや恨みをなくすようにすれば、たとえ一時的に挫折することがあっても、品格を損なうことはなく、実現できないことから絶望に陥ったりはしないものだ」(*1)                                    

特に子供や親族に対しては、まずはリーダーとしてより、一人の人間として立派に成長してほしいと願うのは、親の正直な気持ちといえます。

3 生きていく上での処世術

1)武田信玄(戦国武将)

「弓矢の儀、勝負の事、十分(のうち)六分、七分の勝ちは十分の勝ちとする。特に大合戦はこのようにすることが肝要だ。なぜなら八分の勝ちは危うく、九分、十分の勝ちは味方が大敗する下地になる」((*2)を現代語に訳しています)            

特に大きな戦いで完勝すると心におごりが生じ、後の大敗につながると戒めたものです。戦国時代最強ともいわれた武田軍団を支えたのは、トップである信玄の用心深さでした。急成長を続けている企業ほど、こうした家訓を遺しておくべきかもしれません。

2)徳川光圀(水戸藩主)

「掟(おきて)に怖(お)じよ、火に怖じよ、分別なきものに怖じよ(後略)」((*3)を現代仮名遣いにしています)                                

水戸黄門でおなじみの、水戸藩の2代藩主である徳川光圀によるとされる「徳川光圀卿壁書」の一節です。光圀は“不良少年”時代に一念発起して勉学に励み、後に「大日本史」の編さんなどの文化事業にも力を注いだ君主とされています。

上記の家訓は現代風に解釈すると、法令遵守、災害対策、内部統制および顧客対応というリスク管理に対する警鐘とも受け取れます。企業にとって影響の大きいリスクをズバリと指摘する家訓は、遺された後継者にとって有益なアドバイスになるでしょう。

4 企業を永続させるための教え

1)半兵衛麸(京都府京都市)

「財を残すは下、事業を残すは中、人を残すは上、

されど、財なくば事業保てず、事業なくば人育たず」

1689年(元禄2年)創業の、京麸・京ゆばを製造販売する「半兵衛麸」(京都府京都市)に、「先義後利」「不易流行」の家訓とともに伝わる教えです。企業の経営者にとって最も大切にすべきものは人材でしょう。しかし、企業である限りは利益を出すことも必要だという、理想を掲げつつも現実との両立を促す内容となっています。「商売であるのでもうけないといけないが、大事なのはもうけた金を何に使うかだ。世の中のために使うということが大事だと考えており、その1つに人材育成がある」(玉置万美社長)とのことです。

老舗と呼ばれる商家の家訓の中には、「先義後利」や「三方よし」に代表されるように、自社の利益だけでなく、企業倫理や社会に貢献することを重視した、現代のCSR(企業の社会的責任)に通じる内容の教えが少なくありません。

経営者が自社を永続させたいと願うのは当然ですが、半兵衛麸の家訓には、ステークホルダーから「この企業は永続させたい」と思われることが、結果的に企業の永続につながるという教訓が込められているようです。

2)大七酒造(福島県二本松市)

「起きて造って、寝て売れ」

1752年(宝暦2年)創業の老舗酒造「大七酒造」(福島県二本松市)で先代から受け継がれた家訓で、朝早起きして一生懸命おいしい酒造りに励んでいれば、売る段階で苦労しないという教えです。

第10代当主の太田英晴社長は、「今の時代、マーケティングが非常に重要であることは言うをまたないが、それでも、良いものを一生懸命に造ってきたという自信がなければ、相手の心を捉える良いマーケティングにつながらない。家訓は今でも私どもの心に生きている」と言います。

また、同社には「外に樫(貸し)、内に花梨(借りん)」の家訓とともに、中庭に植えられた花梨の木が残っています。江戸時代に地元の藩主の別邸で落雷に遭った木を、4代目の当主が賜って植えたもので、雷が一度落ちた木には二度と落ちないだろうという験(げん)担ぎもあるそうです。高品質な酒米の購入や、高品質を維持するための設備投資、醸造過程での長期間の熟成など、「酒蔵の経営は資金力が大切」(太田社長)であり、家訓は「堅実経営と、世間に対して貸しをつくる社会貢献の教えとして受け継がれている」(同)そうです。

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3)伊場仙(東京都中央区)

「2とつくことには手を出すな」

1590年(天正18年)創業の、うちわ・扇子・和紙製品を製造販売する東京・日本橋の老舗「伊場仙」(東京都中央区)で代々受け継がれてきた訓えです。「2とつくこと」とは、セカンドビジネスや投機、セカンドハウス、セカンドカーなど、本業と異なる分野やぜいたく品を意味します。「1つの事業でも続けていくのは大変なので、2番目に手を出す余裕はないと、父から口伝として教えられた」(第14代当主の吉田誠男社長)そうです。

同社はこの他、災害に備えておくことの重要さも伝えられてきたといいます。吉田社長は「江戸は火災や震災が多く、400年の歴史で店舗は10回焼失している。今は地震保険などの備えがあるが、かつては災害時に仮店舗も開ける避難地を所有し、店舗を復旧させるための材木の貯木もしていた」と話しています。

5 組織のリーダーとしての心構え

1)立花宗茂(戦国武将)

「戦は兵数の多少によるものではない。一和の(一つにまとまった)兵でなくては、どれほど大人数であっても勝利は得られないものだ。道雪(注)以来、我らにおいても、小人数をもってたびたび大勝利を得た。これは兵の和によるものだ。その一和の元は、日ごろから心を許して親しむことにある。そうしておけば、ただ一言によっても身命を捨てるものであるから、大将たる者は心得ておくべきだ」((*4)を現代語に訳しています)  

(注)立花宗茂の義父である立花道雪を指します。

この教えを遺した立花宗茂は、豊臣秀吉から「東の本多忠勝、西の立花宗茂。東西無双」とたたえられた武将です。関ヶ原の戦いで西軍に味方していったんは改易(取り潰し)されましたが、誠実で廉潔な人柄や武将としての能力が徳川家康・秀忠に評価されて、後に旧領への復帰を果たし、柳川藩(福岡県)の藩祖となりました。

宗茂に対する家臣の信望は厚く、改易後の浪人時代にも一部の家臣が付き従い、他家に移った旧家臣も経済的な援助をしながら宗茂の復帰を待ち望んだといわれています。

企業にも劣勢の状況で挑戦しなければならないときや、苦境に立たされるときがあるものです。そのようなときこそ、日ごろ築いてきた従業員との信頼関係が大きな意味を持つことでしょう。

2)久保本家酒造(奈良県宇陀市)

「一年の計は田でせよ

百年の計は山でせよ

それ以上は人でせよ」

1702年(元禄15年)創業の「久保本家酒造」(奈良県宇陀市)に伝わる家訓です。酒造りは田で米をつくることから始まり、1年はかかります。また、久保家では山林を所有していますが、出材まで100年がかかります。しかし、何よりも大切なのは「人」なのだという教えです。

同社は2003年に生もと造りを導入するに当たり、新たな杜氏(とうじ)を招くなど多数の協力者を得ました。「周りの人が助けてやろうと集まってくれるような、人間としての器をつくっていくことが、『人でせよ』という意味なのだと痛感している」(第11代当主の久保順平社長)そうです。

同社にはこの他にも、「自分はぜいたくせず、人様を優先させよ」「自利・利他」、第6代当主の弟と親交のあった福沢諭吉の言葉を家訓にした「家業に励み、他を羨むな」といった教えが伝えられています。

6 家訓を遺される側にも配慮を

1)時代の変化に即した家訓に

建国者や創業者の偉業の恩恵が、その後の何世代にもわたって及ぶ時代であれば、家訓は金科玉条のように守られても不思議ではありません。しかし、先代と同じことだけをしていては生き残れない可能性もある現代では、先代の家訓は一歩間違うと、一方的な時代遅れの「押し付け」と受け取られることにもなりかねません。

前述の伊場仙の吉田社長によると、「江戸の老舗には、家訓が遺されている店はそれほど多くない。江戸は経済環境の変化が激しく、火事などの災害も多かったため、のれんを守っていくためには、家訓を遺すことよりも、業態や経営の柔軟性を失わないことのほうが重視されていた」ようです。

無借金経営を勧める家訓が遺っている前述の大七酒造では、2002年の創業250周年記念事業として、新社屋および精米工場を建設するために借り入れを行う決断をしました。太田社長は、「祖父も父も、闇雲に節約して貯めるのではなく、いざというときに大胆に投資できるために蓄えてきた。今の時代は文字通りの無借金経営にこだわるよりは、健全経営に配慮しつつも、将来をみすえた投資をも大切にしている」といいます。

経営者が一番に守るべきものは家訓ではなく、従業員、顧客、取引先などを含めた企業そのものです。家訓を守るために企業の存続が危ぶまれては、本末転倒というものです。

2)家訓の伝達効果を高める方法

戦国時代の武将で津藩(三重県)の藩祖となった藤堂高虎は200カ条の家訓を遺し、それでも足りないとばかりに、さらに4カ条を追加しました。藩の行く末を案じる気持ちは分かりますが、家訓が実際に後継者たちの心にとどまり、活かされ続けるかというと、その伝達効果は疑わしいと言わざるを得ません。現代では、家訓を受け継ぐ人の気持ちにも配慮し、本当に伝えたいことに絞って簡潔にまとめることが、賢者の家訓をつくるための条件の一つになるといえるでしょう。

家訓の伝達効果を高めるためには、伝えたいことを絞るだけでなく、文書の書き方の工夫もあるとよいでしょう。前述の久保本家酒造の家訓のような対句法を活用した表現や、数え歌形式の家訓などは、後継者が覚えやすい家訓をつくるための参考になります。

また、後継者が日ごろから家訓を意識しやすくするための工夫があると、伝達効果はさらに高まるでしょう。家訓は文書にまとめて遺されることが多いですが、中には代々の口伝としている家もあるようです。例えば前述の大七酒造のように、中庭の木が家訓の由来になっていると、後継者はその木を見るたびに家訓を意識することになります。書家や企業にゆかりのある人に揮毫(きごう)してもらった掛け軸ないし色紙を飾っておくなど、目に入りやすい形にして家訓を遺しておくのもよいかもしれません。

7 目的ごとの家訓の種類

本稿で紹介してきた家訓のように、一口に家訓といっても、誰が、誰に、どのような目的で遺すかによって、内容も書き方もさまざまです。京都府が地元の老舗企業への調査などを基に編集した「老舗と家訓」(*5)では、家訓のテーマは次のように分類されるとしています。

1.家名継承、2.祖先崇拝と信仰、3.孝道、4.養生、5.正直、6.精勤、7.堪忍、8.知足、9.分限、10.倹約、11.遵法、12.用心、13.陰徳、14.和合、15.店則

さらに15.の店則については、遵法、信用、商才、倹約(始末)、職分、団結の6つに分類しています。

上記の分類を基に、家訓を目的別(組織の永続か日常生活の規範か)および内容別(実践的か心構えか)に分けて図示しました。次の図表から、家訓には日常生活に関する戒め(日常生活の規範のための実践)、生きていく上での処世術(日常生活の規範のための心構え)、企業を永続させるための教え(組織の永続のための実践)、組織のリーダーとしての心構え(組織の永続のための心構え)といったタイプがあることが分かります。

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【参考文献】
(*1)「中国歴代家訓選」(永井義男、徳間書店、1991年2月)
(*2)「甲陽叢書第一篇 甲陽軍鑑 上」(高坂弾正、温故堂、1892年12月)
(*3)「日本教育文庫 訓誡篇 上」(同文館編輯局編、同文館、1910年5月)
(*4)「名将言行録 前編 下巻」(岡谷繁実、文成社、1896年11月)
(*5)「老舗と家訓」(京都府編、京都府、1970年2月)

                         

以上(2020年7月)

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未来志向で人物評価する/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「どうなりたいか」を常に考える

経営者は「自由に時間を行き来する」というのは言い過ぎですが、「自社のあるべき姿」を考えるという意味では、経営者は過去と現在の自社の姿を見つめつつ、未来のあるべき姿に思いをはせています。

しかし、先行きの不透明感が高まる昨今は、未来を考えることが一層難しくなっています。こうした不安な状況を、人は一気に打開したいと考えます。しかし、足元がおぼつかない状況で無理をすると、どこかで反動が出てしまうことを経営者は知っています。

こうしたときは、地道な努力を続けるしかありません。実際、経営者は足元はもちろん、遠くにも視線を向けながら一歩一歩進んでいます。それが「自社のあるべき姿」にたどり着く確実な方法だからです。

今回は、「未来志向で人物評価する」「『石の上にも三年』の経営者的な解釈」「自社の原点から未来が開ける」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 未来志向で人物評価する

何かを見たり、感じたりするとき、多くの人は「他とは違う部分」に注目します。例えば視力検査で使う、一部が欠けたアルファベットの「C(シー)」のような図形と、全く欠けていない円の図形があった場合、前者の欠けているほうに注目しがちです。

問題は、欠けている部分の捉え方です。一般的な経営者の場合、ビジネスで知り合う相手の多くから得られるのは、「ある部分は至らないが、他は問題ない」といった評価でしょう。これを先の「C(シー)」に当てはめると、欠けている部分がすなわち「欠点」ということになります。

そして、欠点は時間の経過とともに“強烈”に映るようになることがあります。最初は我慢できていても、付き合いが長くなると欠点に触れる機会が増え、徐々に我慢できなくなっていくからです。

それに対し、成功する経営者は「C(シー)」の欠けている部分に注目しますが、捉え方が異なります。欠けている部分、つまり他とは違う部分を、その人の特徴や可能性として前向きに捉えます。

日ごろのビジネスを通じて、経営者は自分自身も含め、人には至らない点があることを痛感しています。そのため、いつも人の優れたところと至らないところの凸凹をつなぎ合わせて、社内のチームや他社との連携を実現しているのです。

また、経営者はその時点の姿だけで人物評価をしません。その人の特徴や可能性が、将来、どのような成長につながるのかをイメージしながら教育します。こうすることが会社のためになることを知っているからです。

相手の欠点ではなく美点に注目し、未来志向で人物評価をするのが、成功する経営者のやり方です。人には欠点があることを前提に、欠点をカバーする美点がどれだけ成長の余地を持っているのかを見極めることが重要なのです。

3 「石の上にも三年」の経営者的な解釈

「石の上にも三年」ということわざがあります。冷たい石でも、3年間、座り続ければ温まってくるという意味が転じて、「つらいことでも3年間我慢して努力を続ければ、道が開ける」という教えにつながっています。

このことわざは、地道な努力を称賛する日本人の気質に合う面があります。しかし、最近では、なぜ硬い石に座るのか、3年は長過ぎるなど否定的な意見も聞かれます。確かに、見方によっては、「石の上にも三年」というのは“苦行”です。

「石の上にも三年」というのは、経営者にも当てはまります。企業経営とは、現実の石とは比べものにならないほど座り心地の悪いところに、いつ終わるか分からない時間、座り続けなければならないものでもあるからです。

これを苦行と思うか、次へのステップにつながる経験と思うかが大きな分かれ道です。何事も相応の努力をして知識を身に付けなければ、次に進めません。この努力は、自己成長につながる、ある意味でワクワクする経験です。

にもかかわらず、努力をする前から、経営者が「つらい。自分には合わない」と諦めたら企業は潰れます。まずはやってみて、その結果で判断すればよいのです。試みたことが自社にフィットしなかったり、自分(経営者)には不要だと思ったりすれば、きっぱりやめればよいことです。

3年という時間も捉え方次第です。企業が3年の中期計画を策定したとしても、それを実現するのは月次計画です。さらに、月次計画の遂行は日々行われます。つまり、同じことを3年続けるというよりも、短期間の努力をつなぐイメージで捉えます。

「石の上にも三年」ということわざを解釈するときに、「石」や「三年」という言葉に引っ張られてしまうのは残念なことです。大切なのは、環境や期間を問わず、必要なときに相応の努力ができるか否かということなのです。

4 自社の原点から未来が開ける

「先のことは誰にも分からない」のは当然のことです。昨今は特に先行きの不透明感が高まっています。こうした状況は、チャンスにも、脅威にもなり得ますが、これもまた経営者の考え方次第です。

先が読めない時代を勝ち抜くために、多くの人が「イノベーション」を求めます。一瞬のひらめきとともに舞い降りるような、圧倒的に斬新で、かつてないアイデアをイノベーションと捉え、夢見るのです。

経営者も常にイノベーションを求めますが、捉え方が違います。経営者の前提は、どんなに素晴らしいひらめきでも、顧客ニーズを満たしていなければ意味がないということです。そして、先が読めない時代は、顧客ニーズも見通しにくいものです。

こうした状況で、やみくもに組織を動かすのは危険です。「活動している」という実感は得られるかもしれませんが、成果はなかなか上がらないはずです。前提となるゴール(顧客のニーズ)が明確でないからです。

イノベーションには「0から1を起こすタイプ」と、「1と1を足して2にするタイプ」とがあります。多くの人は前者をイメージしますが、実際には「ちょっとした組み合わせ」から生まれる後者のイノベーションのほうが世の中では多いのです。

先が読めない時代だからこそ、焦らずに多くの知識を貪欲に吸収しながら、自社の強みを再確認することが重要です。こうしたタイミングでこそ「原点回帰」し、顧客、競合、自社の状況を見つめ直すことが、新たな事業を模索する機会になるでしょう。

インプットとアウトプットの連続によって、組織の“活動域”は揺らぎながら広がっていきます。不確実性が高い状況なら、自社の得意分野を深く耕しつつ、ビジネス領域を広げていくのも有効な手段です。

以上(2018年10月)

pj10012
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人を好きになるより嫌いにならない/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 思考習慣のバージョンアップ

経営者は独自の視点と価値観を持って、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。

経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結びついていくのでしょう。

経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。

今回は、「報連相は型よりもスピードを求める」「こだわりを守るために方針転換する」「人を好きになるより嫌いにならない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者の考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。

2 報連相は型よりもスピードを求める

「報連相」(報告・連絡・相談)はビジネスの基本であり、社員教育の重要テーマに位置付けられています。そのため、上司は報連相のやり方として、報告をする内容や順番、タイミングを細かく部下に指導します。

やがて部下は、上司から指示された内容を、指示された順番で話すという“型にはまった報連相”が上達していきます。しかし、上司が心から納得できる報連相ができる部下はほとんどいません。

そもそも、上司と部下とでは立場や経験が違うため、報連相の内容などにおいて上司と部下のギャップが完全に解消されることはありません。また、“型にはまった報連相”ができたとしても、その部下が物事を深く考えているとは限らず、上司から「で、どうしたいの?」と聞かれると、何も答えられなくなってしまうことがあります。

経営者も社員に報連相を求めますが、自分と社員とのギャップを誰よりもよく理解しています。そのため、社員には報連相の型よりもスピードを求めます。社員に少しでも早く情報を伝達してもらったほうが、経営者が物事を考え、判断する時間を長く確保することができるからです。

また、経営者は社員が報連相をしやすい雰囲気づくりにも配慮しています。それは、社員から「悪い情報」をいち早く知るためです。悪い情報でも隠蔽されずに伝達される組織は健全といえ、課題の早期解決にもつながるからです。

報連相に限りませんが、情報は求めるだけでは入手できず、相手に「情報を出したい」と思ってもらわなければなりません。経営者は、社員の報連相に感謝する姿勢を示し、社員が情報を出したいと思える雰囲気づくりをすることが欠かせません。

3 こだわりを守るために方針転換する

「一度決めたことに、どれだけこだわるか」。ビジネスでしばしば議論になることです。ビジネスにおいて、経営者は周囲の反対を押し切ってでも自分の考えを押し通すことがある一方で、他人の意見を聞いてすんなりと自分の考えを変えることもあります。

経営者が最もこだわるのは、企業経営の根幹となる理念であったり、社運をかけて取り組む新規事業であったりします(「撤退プラン」はあります)。もちろん、そこから派生する重要事項についてもこだわります。

一方、経営者は競争に勝ち抜くために柔軟性のある考え方を維持することにも努めています。そのため、「これは素晴らしい!」と感じたものは積極的に取り入れます。企業経営に関して多くのことを決められる、経営者だからこその決断です。

また、当初は1000万円の予算を承認する雰囲気だった経営者が、1週間後には500万円まで削減するように指示を出したりします。1週間で考えが変わることもあれば、「具体的な根拠はないものの、500万円が惜しくなった」ということもあります。

いずれも、経営者としては「こだわりを捨てず、直感を信じ、より良い決断をした」ということです。しかし、周囲にはそれが分からないことがあり、自分勝手な経営者であるとか、考えがころころ変わる経営者と映ってしまうことがあります。

企業でありがちな問題ではありますが、経営者の方針が社員にとっては受け入れ難いものでは困ります。経営者の方針を実行するのは社員だからです。そのため、経営者は自分の方針転換によって影響を受ける社員の心境もおもんぱかり、ある程度の配慮をする必要があります。

このことは、提携先など社外の人との関係においても同様です。経営者がより良いサービスを実現するために提携先と決めた内容を見直した場合、その理由が明確に伝わっていないと、提携先は経営者のことを「やりにくい相手」と認識してしまうのです。

経営者のこだわりは周囲からは見えにくく、柔軟性は「付和雷同」と映ることもあります。そうならないように、経営者は方針を出した背景や目的を周囲に伝え、理解を得るようにしましょう。これは、経営者のこだわりを実現するために欠かせない配慮です。

4 人を好きになるより嫌いにならない

ビジネスでは、人と人とのつながりが大切です。相手と良い関係を築くことができれば、ビジネスの可能性は大いに広がります。良いパートナーを見つけ、関係を維持する力は、今どきのビジネスパーソンにとって必須だといえるでしょう。

相手と良い関係を築くために多くの人がすることは、相手を好きになる努力です。ビジネスでは双方の利害がなかなか一致しませんが、相手を好きになることができれば、相手のことを受け入れる余地が広がり、良い関係が築きやすいと考えるためです。

相手を好きになろうとする過程で、相手のことをより深く知れるのはよいことです。ただし、人を好きになるのは簡単ではありません。家族や友達、恋人でさえ分かり合えないことがあるので、ビジネス上の相手ではなおさらのことです。

一方、ビジネスで知り合ったばかりの人のことを好きだという人がいますが、これは考え方や波長が合う程度のことが多く、一緒にビジネスをしてみると、意見が合わない部分や、好ましくないと感じる部分が出てくるものです。

人を好きになるのは難しいということを経営者は理解しています。加えて、企業経営を任されている経営者は、「だまされてはいけない」という思いも強く、会ったばかりの相手とは一歩引いて付き合わざるを得ない面もあります。

以上から、経営者は相手を好きになることよりも嫌いにならない努力をします。好きではないことと、嫌いであることは全く違います。好きではないというのは普通の関係ですが、嫌いになると相手を避けるようになり、ビジネスがしにくくなるのです。

相手を嫌いになる理由は、見た目や話し方、考え方などさまざまです。このうち、見た目や話し方などについては、ビジネスと直接関係ないので、経営者は気にしないようにしています。

また、相手の考え方が気に入らない場合は、自分の考え方を相手の考え方に合わせようとせず、「考え方は多様である」ことを分かる努力をします。あえて苦手な人と2人で会食をして、“異質”に触れる訓練をする経営者もいます。

以上のように、相手を嫌いにならないことは大切です。ただし、ドライに徹し過ぎると“仲間”をつくることができません。経営者には社内外の仲間が必要です。「この人だ!」と感じる人がいれば、心を開いて相手の懐に飛び込んでみることも大切です。

以上(2019年4月)

pj10030
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経営者から管理職へ 「名言」で伝える心構え

書いてあること

  • 主な読者:日々、部下指導に悩む管理職を励ましたい経営者
  • 課題:うまく部下指導ができない、部下に気を使いすぎる。そんな管理職が多い
  • 解決策:名言を使って管理職としての自覚を伝えると同時に、経営者が管理職を応援する気持ちも伝える。

1 管理職に対してこそ必要な「メッセージ」

管理職は、部下の指導について多くの悩みを抱えています。部下との意思疎通をうまく図れない、部下がついてきてくれない、部下が思うように成長しない、部下が何を考えているか分からない……。こうした現状に疲弊している管理職は少なくありません。

管理職の話を聞き、励ますのは、経営者の大切な仕事です。特に、組織を率いる立場の経営者から語りかけるメッセージは、管理職の「行動指針」にもなるでしょう。本稿では、「重さ」「弱さ」「強さ」というテーマでそのようなメッセージを紹介します。

2 「重さ」を自覚するための言葉

今、多くの管理職が「部下との接し方」に迷い、悩んでいます。「部下を理解したい」「自分(管理職)の意図を理解してほしい」と思う一方、「部下を叱るとパワハラと言われるのでは」「部下に嫌われたくない」と恐れる気持ちもあります。

こうした気持ちが強過ぎると指導がしにくくなり、部下を避けてしまいかねません。そこで経営者は、「管理職としての部下との接し方」を、改めて管理職に伝えましょう。その際、ミスター・ラグビーと呼ばれた平尾誠二氏の次の言葉が参考になります。

  • 「コミュニケーションの頻度を高めることが、コミュニケーションを深めるとは限らない」(*)

数々のラグビーチームを率いた経験を持つ平尾氏の考えは、リーダーが行うコミュニケーションの在り方として、「短絡的に、コミュニケーションは量が多いほうが良いと考えるのは間違いだ」というものでした。

リーダーが安易にコミュニケーションを取り過ぎていると、「肝心なときに言葉が求心力を持たなくなる」と平尾氏は考えていました。そのため、神戸製鋼ラグビー部のキャプテン時代には、他の選手とはあえて距離を取り、メリハリをつけていたといいます。

平尾氏の考え方は、管理職にもあてはまる部分があります。部下を指導する立場にある管理職の発言には、ある程度、「重さ」が必要です。部下に好かれようと気を使い、部下に対して“仲良く”接しているだけでは、管理職としての「重さ」は感じられません。

管理職の役目は、部下を成長させることです。そのため、叱るべきときは厳しく叱る、褒めるときは大いに褒める、挑戦させるときには思い切って部下を突き放し、部下に一人で苦労させるなど、メリハリをつけて接するのが理想です。

しかし、これは簡単ではありません。特に、叱ることや、突き放すことができない管理職は多いでしょう。経営者は、平尾氏の言葉を借りて、管理職に必要な「重さ」を自覚させ、部下との接し方を、改めて考えさせることが大切です。

3 「弱さ」をさらけ出すための言葉

管理職の中には、部下や周りに対して「格好をつける人」がいます。「管理職として部下に良い影響を与えたい」といった思いであれば理解できますが、単に「できる管理職として自分を良く見せたい」という自分勝手な考えが行き過ぎてはなりません。

こうした管理職は、問題を隠したり、部下に対して「いい顔」ばかりしたりすることがあるからです。経営者は、「時にはありのままを見せる大切さ」を伝えましょう。その際、スターバックスの元CEO、ハワード・シュルツ氏の次の言葉が参考になります。

  • 「偉大なリーダーも、時にはある程度の弱さを見せ、本心を他人と共有しなければなりません」(**)

スターバックスにとって、非常に厳しいシーズンとなった1995年のクリスマス。売り上げは「絶望的」で、このままでは会社が危機に直面するという状況でした。シュルツ氏は、全社員を集め、厳しい現状と、心配している苦しい胸の内を正直に伝えたのです。

それまで、常勝のヒーローとされてきたシュルツ氏が社員に初めて「弱さ」を見せたため、反発する経営陣もいました。しかし、社員の多くは、自分たちが直面している問題を直接CEOから詳細に説明してもらい、非常に良かったと言ったそうです。

シュルツ氏はこのとき、社員にとって必要なのは、「気勢を煽ることではなく、苦境を具体的に知らせ、実質的な指導をすることだ」と思っていました。これは、会社全体と社員一人ひとりのために自分がすべきことを真剣に考えたからこそといえるでしょう。

ビジネスは、良いこともあれば悪いこともあります。時と場合によりますが、管理職は組織全体や部下のために、悪いことや弱点ほどいち早く明らかにし、具体的な対策を考え、部下に指示しなければなりません。格好をつけている場合ではないのです。

管理職が考えるべきなのは、「自分がどう見られるか」ではありません。組織のこと、そして守るべき部下のことです。経営者は、シュルツ氏の言葉を借りて、真剣に部下を思う気持ちを伝え、管理職に「自分視点」から脱却するよう指導しましょう。

4 継続する「強さ」を持つための言葉

部下の指導に真面目に取り組んでいる管理職ほど、悩みは深いものです。部下が思うように成長しないことに腹立ち、落胆し、つい、「自分で全部やったほうが早い」と自分で手を動かしてしまうことなどは、管理職の“あるある”といってもよいでしょう。

経営者は、部下の指導は地道に行うべきものであること、そして指導をあきらめてしまっては、部下だけでなく管理職自身も成長できないことを繰り返し伝えなければなりません。その際、帝人の元会長・社長である長島徹氏の次の言葉が参考になります。

  • 「どうぞあきらめさせないでください」(***)

貧しかった長島氏は幼い頃、野球用のボールを買ってもらえず、何時間もかけて布を巻きボールを作りました。そのボールが竹やぶに入ってしまい、どれほど探しても見つからなかったとき、長島氏は「あきらめさせないでください」と祈ったといいます。

長島氏は、「ボールが見つかるように」ではなく、「ボールを探そう」という自分の気持ちが消えないように、自分があきらめるという考えを抱くことのないようにと祈ったのです。何事も自分の気持ち次第であるという強い意志の表れといえるでしょう。

部下の指導も同じです。管理職があきらめてしまったら、部下の成長は止まってしまうでしょう。管理職にとって“敵”は部下ではありません。あきらめて、「自分で全部やったほうが早い」と部下と向き合うのをやめてしまう管理職自身の気持ちが“敵”なのです。

多くの経営者は、管理職に比べて、社員(部下)を育てることを簡単にあきらめたりはしません。経営者は、会社やビジネスから逃げることができません。覚悟の度合いとそれに支えられた意志の強さが管理職とは違うのです。

とはいえ、経営者も、人を育てることが一番難しいと実感しています。そこで経営者は、長島氏の「どうぞあきらめさせないでください」という言葉を借りて、管理職に、「自分も決してあきらめない。だから一緒に頑張ろう」と思いを共有することが肝要です。

  • 【参考文献】
  • (*)「人を奮い立たせるリーダーの力」(平尾誠二、マガジンハウス、2017年4月)
  • (**)「世界のトップ経営者に聞く!:CNNリスニング・ライブラリー」(『CNN English Express』編集部編、朝日出版社、2012年3月)
  • 「スターバックス成功物語」(ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄、大川修二(訳)、日経BP社、1998年4月)
  • (***)「58の物語で学ぶリーダーの教科書」(川村真二、日本経済新聞出版社、2014年4月)

以上(2019年1月)

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働く人なら一度は考えるべき「ビジネスの三種の神器」

書いてあること

  • 主な読者:立場を問わず、悩みや迷いを抱える全ての働く人
  • 課題:もやもやした悩みや迷いを誰に相談したらいいか、どう解決したらいいか分からない
  • 解決策:自分がビジネスにおいて大事にしている軸は何か。それを「三種の神器」として改めて考えてみる

1 「ビジネスの三種の神器」とは何か

ビジネスにおいて大切だと思うものが何かは、人によって異なります。「コミュニケーション」を大切にしている人もいれば、「知識」が大切という人もいます。これらはいわば、「ビジネスの価値観」です。

ビジネスの価値観が明確な人は、実はあまり多くはありません。むしろ、これまで考えたこともないという人が大半ではないでしょうか。そうした人にお勧めしたいのが、「ビジネスの三種の神器」を挙げてみることです。

戦後の日本における新生活の象徴であり、生活の必需品だった「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」は、一般的には「家電の三種の神器」といわれていました。「ビジネスの三種の神器」は、そのビジネス版と考えれば分かりやすいでしょう。

自分のビジネスにおける必需品、欠かせないもの、大切にしているもの。こうした「ビジネスの三種の神器」を挙げれば、ビジネスに対する取り組み方や向き合い方が分かります。本稿では、「ビジネスの三種の神器」の活用法や例などを紹介します。

2 「ビジネスの三種の神器」で見えるその人の姿

自分で挙げるだけでなく、人の「ビジネスの三種の神器」を知れば、その人の考え方や姿勢が見えてきます。経営者と社員、上司と部下などが、それぞれ「ビジネスの三種の神器」とその理由を挙げれば、互いに対する理解が一歩深まるかもしれません。

また、社内外を問わず、自分よりも立場が上の人に聞いてみると、自分では思い至らなかった「ビジネスの三種の神器」を学ぶことができます。「ビジネスの三種の神器」は、立場によって変わってくるからです。

例えば、ある営業担当者が「パソコン、スマホ、名刺」というツールを3つ挙げたのに対して、その上司は「パソコン、部下、メンター」を挙げました。部下やメンターが必要だという考えは、上司という立場だから出てきたものといえるでしょう。

起業家と社員でも「ビジネスの三種の神器」は違います。例えば、ある起業家は「理念、情熱、教育」の3つを挙げています。もし、社員がこうしたものを挙げたなら、その社員には新しい道を切り開いていこうとする起業家マインドがあるのかもしれません。

3 「ビジネスの三種の神器」には理由がある

「ビジネスの三種の神器」に正解はありません。人それぞれで、立場の他にも、関わっている仕事によっても異なるでしょう。例えば接客業であれば、「笑顔」を挙げるかもしれません。専門職の人の中には「技術力」を挙げる人もいるでしょう。

また、ツールとスキルを組み合わせる人もいます。「パソコン」に加え、「文章力、分析力」を挙げた人がいますが、これは、パソコンは必需品ではあるものの、それだけでは十分ではなく、自分で考えアウトプットすることが大切だといいます。

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「ビジネスの三種の神器」は、「何を挙げるか」も大切ですが、それよりもっと重要なのは、自分にとっての「ビジネスの三種の神器」は何か、それはなぜかを考えることにあります。そうすると、ビジネスに対する自分の思いが明らかになるからです。

例えば、上表では「墓参り」を挙げている人がいます。これは、その人が日ごろから感謝の気持ちを忘れず、常に正しい行いをしていることがビジネスの成功につながると考えているからであり、正しい行いを象徴するのが「墓参り」なのだといいます。

また、「人物を見極める力」を挙げている人は、相手が何をどこまでできる人なのか、本当に信頼できる人なのかを見極める力が、ビジネスには欠かせないといいます。ビジネスは一人ではできない、「人」の力こそが必要だという思いの表れといえるでしょう。

4 誰の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいか

「ビジネスの三種の神器」がビジネスに対する思いを表すのなら、次に考えてみたいのは、「誰に聞きたいか」ということです。自分が尊敬している人や一目置いている人、目標としている人の「ビジネスの三種の神器」を聞きたいと思うのではないでしょうか。

そうした人には機会を見つけて、「ビジネスの三種の神器」を尋ねてみましょう。周りから尊敬されるような人は、ビジネスに対する強い思いや信念を持っているものです。大きな学びとなる「ビジネスの三種の神器」を答えてくれることでしょう。

また、部下育成に悩んでいる経営者や上司は、部下に、誰の「ビジネスの三種の神器」を聞いてみたいかを尋ねてみるのも一策です。そうすれば、部下がどのような人を尊敬しているか、どのような人に憧れを抱いているかが見えてくるかもしれません。

5 変化する「ビジネスの三種の神器」

立場が変われば「ビジネスの三種の神器」も変わってきます。そうした意味では、成長度合いを測るモノサシともいえます。経営者や上司は、定期的に部下に、「今のビジネスの三種の神器は何か」を尋ねてみてもよいでしょう。

自分の「ビジネスの三種の神器」の記録を付けておけば、自分自身の成長を測ったり、考え方の変化を認識したりすることもできます。今の「ビジネスの三種の神器」を書き留めておき、3年後、5年後に改めて振り返ってみるのもよいでしょう。

例えばある経営者は、会社設立当初は、恐らく「信念、スピード、根性」といったものが「ビジネスの三種の神器」だったと振り返ります。経営が安定し社員が増えた今では、「信念」は変わらないものの、残り2つは「社員」と「誇り」だといいます。

人にもよりますが、「ビジネスの三種の神器」の変化は、どのようにビジネスに取り組んできたかを表す軌跡でもあります。今、自分がビジネスにおいて大切だと思うものは何か。そして、それがどのように変化していくのか。一度、真剣に考えてみましょう。

以上(2019年1月)

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経営者と管理職の役割分担を考える

書いてあること

  • 主な読者:もっと管理職に期待に応えてほしいと思っている経営者
  • 課題:管理職との意思疎通がうまくできていない、管理職が頼りない
  • 解決策:経営者がやるべきは、思いの共有、役割の確認、そして我慢

1 経営者から見ると管理職が頼りない?

経営者は、管理職が自分(経営者)の考えや思いを正しく理解し、それを現場に伝えてまとめてほしいと期待します。しかし、これができている管理職は多くはありません。経営者から見ると、管理職が管理職としての仕事をしていないのです。

見かねて管理職のやり方に口を出し、場合によっては経営者自身が細かく指導することもあるでしょう。社員育成は経営者の仕事ですが、細かなところまでやっていては、将来のビジネスの種を見つけ、組織を前に進めるという経営者本来の仕事ができません。

このように、経営者が管理職を頼りないと感じると、経営者と管理職の役割分担がうまくいかなくなり、企業活動に支障を来すことがあります。本稿では、そうならないようにするために、経営者が意識すべきポイントをまとめました。

2 組織のギャップを解消する

1)まずはギャップの認識

理想的な組織は、経営者が掲げる“理想の社員像”を少なくとも管理職が理解し、それに基づく指導を現場で行うことです。しかし、経営者と管理職の考えや思いには次のようなギャップがあり、なかなか認識合わせができません。

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2)理解できる? 管理職の経営者に対する不満

経営者が管理職に不満を覚えているのと同様に、管理職も経営者に不満を覚えています。管理職も「管理職としての役割を果たそう」と思ってはいます。「自分がこの組織を回していく!」という責任感や、やりがいを持っている管理職もいます。

しかし、経営者の思いが分からず、自分のやり方に自信が持てない管理職もいるのが事実です。特に、答えが見えにくい部下指導については、自分のやり方が正しいのかどうか迷うことが多いのです。

経営者は、管理職の部下指導が正しくない、迷っているのだろうと感じると口を出します。経営者は指導方法の手本を管理職に見せているつもりですが、管理職にはそれが分からず、「自分のやり方はそんなにまずいのか」と自信をなくします。

そして、経営者が直接社員を指導するなら、「自分は何も言わないほうがよいのではないか」と誤解する管理職が出てきます。経営者は管理職を指導しているつもりが、自信のない管理職は、強烈な“ダメ出し”をされているように感じるのです。

3)経営者と管理職のギャップを埋めるには?

こうした経営者と管理職のギャップを埋めるために、経営者は管理職に2つの働き掛けをしましょう。1つ目は経営者の考えや思いを管理職に伝え、理解させることです。2つ目は、経営者が管理職に対して、管理職として成長させる機会をつくることです。

そのためには、経営者自身が経営者と管理職の役割を整理した上で、「経営者として何をすべきか」「どこまで管理職に任せるか」を考えなければなりません。管理職も、「経営者が教えてくれないから分からない」と言っているだけではなく、経営者の考えや思いを理解するよう努め、部下指導に生かす方法を考えなければなりません。

以降ではそれぞれのやるべきことを見てみましょう。

3 経営者と管理職が考えや思いを共有する

1)経営者は管理職に「何を大切にしているか」をイメージさせる

経営者は、管理職に自分の考えや思いを伝える機会を設けましょう。経営者の考えや思いをある程度理解し、行動に移すことのできる管理職もいます。そうした管理職に協力してもらって、他の管理職に伝えてもらうのも一策です。ただしその場合、えこひいきに思われないよう注意が必要です。

経営者の言うことを“腹落ち”しないと思う管理職もいますが、そうした管理職に対しては、ゆっくり時間をかけて話すしかありません。

2)管理職のほうから経営者に近づく努力をする

経営者の考えや思いが分からない、期待されている役割が分からないという管理職は、遠慮せずに経営者に質問してみましょう。しかし、一見簡単なようでいて、この「経営者に質問する」ことがなかなかできないのが管理職です。

管理職には「管理職なのだから自分でなんとかしなければ」という思いがあるのです。そこでまず、経営者の愛読書や普段よく使う言葉などから、「経営者が何を大切にしているか」を学び取ることから始めてみましょう。

経営者が大切にしていることを学ぶと、経営者と同じ言葉で話ができるようになります。経営者が管理職や他の社員に、考えや思いを伝えるのは言葉です。経営者と同じ言葉で話せるようになれば、経営者の考えや思いに近づくことができるでしょう。

管理職が経営者の考えや思いを理解するために、部下指導について具体的な相談を持ち掛けるのも一策です。経営者の答えとその理由を聞けば、経営者がどのような部下指導を求めているかを知るためのヒントになるでしょう。

3)「耳の痛い話」こそ共有できる関係を目指す

「こんなことは経営者に言えない」と思い、自ら口を閉ざしてしまう管理職もいるでしょう。特に、自分の部下のマイナス点は「部下のために」「経営者に心配を掛けたくない」と、よかれと思って言わない管理職は少なくありません。

しかし、部下にマイナス点があるのなら、その事実は早く経営者に伝えなければなりません。経営者には、現状を正しく把握し、組織全体の今後を考える責任があります。現場の社員(部下)の現状を、正しく経営者に伝えるのも管理職の重要な役割です。

一方の経営者も、管理職から部下のマイナス点など「耳の痛い話」を聞き出せるように、一緒に飲みに行くなどの機会をつくらなければなりません。耳の痛い話こそ、経営者と管理職で共有していくことが大切です。

4 管理職が管理職としての役割を果たすには

1)経営者はとにかく我慢する

基本的には、「経営者が決めて管理職が実行する」というのが経営者と管理職の役割分担です。経営者が部下指導について決めるのは、会社としてのルール、社員のあるべき姿、そして個々の社員について「どのレベルに達してほしいか」の3つです。

この3つを管理職に伝えた上で、具体的な部下指導の方法は管理職に考えさせましょう。どうしても管理職がうまく指導できないときなどは、経営者が口を出す必要がありますが、原則として部下指導は管理職に任せ、「我慢する」のも経営者の役割です。

経営者から見れば、管理職の部下指導は不十分に思えることが多々あります。その場合も、経営者が直接その部下に指導する前に、管理職に「もし私だったらこうする」と伝えてみるとよいでしょう。そうして管理職を成長させることが必要です。

2)管理職は経営者の決めたことを部下に行動で示す

管理職の役割の1つは、経営者と部下(社員)のクッションになることです。経営者の決めたことを部下が理解できるよう、管理職が自分(管理職)の言葉や行動で、「どうすればよいか」を具体的に示すことが大切です。

例えば、経営者が「自己啓発に積極的に励んでほしい」と決めたとしましょう。管理職がやるべきは、まず、セミナーに参加したり資格取得を目指すなどして、管理職自身が自己啓発に努めている姿を部下に見せ、まねさせることです。

部下にまねさせるには、実績を上げなければなりません。この場合、本気で自己啓発に取り組み、資格取得にチャレンジするなら合格することが大切です。その上で、部下の適性やキャリアなどを考え、具体的に部下が行くべきセミナーなどを指示しましょう。

ルールについても同様です。「挨拶をする」のが会社のルールなら、管理職自身が職場の誰よりも挨拶をしっかりしなければなりません。時間管理を徹底するのがルールなら、管理職がまず時間管理をしなければならないのです。

3)管理職の仕事を取り上げられるのは経営者しかいない

多くの管理職が抱えるのが「時間の壁」です。プレイングマネジャーの管理職は、部下指導に割く時間がないというのが本音です。状況に応じて管理職の仕事を取り上げ、他の社員に振り分けるのは経営者の仕事です。

管理職は、ある程度は自分で差配してなんとかしなければなりませんが、難しい場合はそのことを経営者に相談しましょう。「大丈夫です」と言って無理に仕事を抱え込むのは、管理職として正しい選択ではないことを理解しなければなりません。

5 経営者も管理職も考えるべき管理職の成長

部下指導について経営者と管理職のやるべきことを見てきましたが、重要なのは、経営者が決めたことを管理職が実行できるよう、経営者が管理職を育てることです。同様に管理職は、自ら管理職として成長できるよう努めなければなりません。

経営者が管理職に求めることは、経営者の考え方や会社の規模などによって違ってきますが、「全体を捉えられる大局観」「部下がまねしようと憧れる人間力」「やるべきことを遂行する仕事力」です。そして、これを表しているのが次のカッツ・モデルです。

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カッツ・モデルの特徴は、ヒューマン・スキルがどのレベルの管理職にも求められることと、管理職のレベルによって重要度が増す能力(コンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキル)が違ってくることです。

しかし、人数の少ない会社では、「上位だから」「下位だから」と言っている場合ではありません。管理職である以上、前述の3つの能力全てを身に付けて成長できるように、経営者も管理職も努めなければならないといえるでしょう。

組織の成長は、日ごろ現場の社員を指導している管理職の成長なくして実現することはできません。人が育つ、人を育てる会社になるには、経営者も管理職も、互いに思いを共有し、力を合わせなければならないことを、いま一度、自覚することが大切です。

  • 【参考文献】
  • 「一日一話 仕事の知恵・人生の知恵」(松下幸之助(著)、PHP総合研究所(編)、PHP研究所、1999年4月)

以上(2019年4月)

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信頼される経営者になるための「10のチェックリスト」

書いてあること

  • 主な読者:改めて自分自身の立ち位置、足りない部分を知りたい経営者
  • 課題:どのような経営者であれば、社内外でもっと信頼されるか分からない、迷う
  • 解決策:自分自身の「やりたいこと」を考え抜き、周りに感謝の気持ちを持つことが大切。本稿では、経営者が今日からやるべき10のことを明らかにする

1 経営者に求めるものは何か

経営者は「会社の顔」であり、常に、顧客や取引先、金融機関、社員などから見られています。これらの人々が経営者に対して求めるものはさまざまですが、根源にあるのは、「『この人なら』と信頼できるかどうか」ではないでしょうか。

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上表は、経営者から見ると、「言われなくても分かっている」と感じることかもしれません。しかし、実際に身に付けられているかは別問題です。本稿では、「信頼される経営者」になるために、経営者が自らを振り返る「10のチェック項目」を紹介します。

2 どのような経営者が信頼されるのか

経営者の仕事は、利益を出し、社員を雇用し、何があっても会社を存続させることです。会社の規模にもよりますが、「この人ならそれができる」と信頼されるためには、「先見性」「決断力」「ビジネスを形にする行動力」「人を育てる力」などが必要です。

これらの力さえあればよいわけではありませんが、時代を読み顧客が何を望んでいるのか、ビジネスチャンスはどこにあるのかを見極めて進む力、それを形にして利益を出す力、会社の成長を担う社員を育てる力などは経営者の基本といえるでしょう。

3 信頼される経営者になるために必要な10のこと

1)「やりたいこと」を明確に示しているか

よくいわれる例えですが、経営者は会社という船の船長です。船長は、世の中の流れを読みつつも、船がどこに進むのか、何を目指しているのかということを一番明確に持っていなければなりません。会社の「理念」と言い換えてもよいでしょう。

社内外に対して、この理念を明確に示すのは経営者の重要な仕事です。何をしている会社なのか、これから先、何を実現しようとしているのか。顧客や金融機関などの他、実際に現場で働く社員に対しては、特に繰り返し伝えていかなければなりません。

2)自分の弱点を認識しているか

経営者一人の力では会社は立ちゆきません。社員や周囲の協力、補完があって初めてて、会社は成り立ちます。この点についてよく例に挙げられるのは、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏とその名参謀、藤沢武夫氏の関係です。

2人は、「技術の本田」「経営(販売)の藤沢」と呼ばれるほど、それぞれが得意分野を突き詰め、互いに補完し合って会社を成長させたといいます。経営者には、自分の弱点を認識した上で社員や周囲に協力してもらい、それに対して感謝する器が必要です。

3)社外ネットワークを広げているか

経営者には、社外ネットワークも必要です。「困ったときに相談できる“その道のプロ”がどれだけいるか」「自社のために一肌脱いでくれる社外の人がどれだけいるか」は、信頼される経営者のバロメーターの一つといえるでしょう。

また、テクノロジーが発展し、グローバル化が進む現在では、社内のリソースだけでは今後の成長が難しい局面も出てくるでしょう。新しい分野の社外ネットワークを築き、ビジネスの可能性を広げていくことも、経営者にとって欠かせない仕事です。

4)誰よりも勤勉であるか

経営者は、自社のことに加え、顧客や業界のことについて社内外の誰よりも詳しいといえるくらい常に情報収集し、学び続けなければなりません。経営者には、会社を存続させていくために先見性が求められますが、それには裏付けとなる知識が必要です。

また、業種や規模にもよりますが、現場に行って情報収集することにも勤勉でなければなりません。顧客が今、何を求めているのか、オペレーションにはどのような課題があるのかなどは、実際に現場に行ってこそ見えてくるものです。

5)キャッシュフローを把握しているか

会社の規模にもよりますが、経営者が意外と正確に把握できていないのが「会社のお金の動き」です。金融機関などステークホルダーに対して説明するのはもちろん、会社のあらゆる活動を進めていくため、「お金の動き」は必ず把握しなければなりません。

ただし、経営者が知っておくべきなのは、細かい仕訳などではありません。例えば、前月どれだけの利益を出しているのか、すぐに動かせるキャッシュはどのくらいあるのか。こうした数字を把握しておけば、経営者は迅速に“次の一手”が打てるでしょう。

6)決断する軸を持っているか

会社の最終的な意思決定者は経営者です。大なり小なり、日々、あらゆることを決断するのが経営者の仕事です。しかも、決断したことの責任も、最終的には全て経営者が負うことになります。経営者とその他の社員とでは、この点が決定的に違います。

だからこそ、経営者は決断するのに迷うことがあります。そこで必要なのは、決断する軸として、「どのようなことを大切にする会社なのか」「どのような経営者でありたいか」といったことを、常に自分の中に持っておくことです。

7)社員の「人間力」を磨いているか

経営者には社員を成長させる責任がありますが、それは仕事面のことだけではありません。会社で重要なのは「人」です。「相手のことを考える」「礼儀をわきまえる」「困難を乗り越える」など、社員の基本的な「人間力」を育成することが必要です。

また、経営者が直接指導して育成するだけでは足りません。経営者がいなくても、あるいは次の経営者にバトンタッチした後も、「社員が社員を育てる」会社にしていくことが理想です。非常に難しいことですが、信頼される経営者としての重要な役目です。

8)社員に誇りを持たせられているか

考え方は人によりますが、社員が働きがいを感じ成長していく源泉は、「この会社で働くことを誇りに思える」ということです。そして、社員に誇りを持たせることができるのは、経営者に他なりません。

自社のビジネスや社員一人ひとりの活動にはどれだけ価値があるか、どのような顧客に喜ばれているか、どれだけ経営者が社員に感謝しているか。そうしたことを社員に伝え、社員と一緒に大きな夢を描いていきましょう。それが社員の誇りにつながります。

9)素直であり続けているか

環境や時代の変化など、何があっても会社を存続させていくために、経営者には時に柔軟性も必要です。そのために忘れてならないのは「素直さ」です。立場や年齢などにこだわらず、社員や周囲の人の話に、素直に耳を傾けてみましょう。

そうすることで、経営者が気付いていなかった思わぬヒントが得られる場合があるからです。特に、経営者とは異なる視点や反対意見を持つ人の話は、腹が立つかもしれませんが、素直に聞いてみれば大きな発見があるかもしれません。

10)24時間365日、経営者でいられるか

社員には休みがありますが、経営者には休みはありません。24時間365日、経営者は経営者です。会社のこと、社員のこと、ビジネスのことなどを、いつでもどこでも考えることができるのが真の経営者といえるでしょう。

会社を経営するのは簡単ではありません。つらいことも困難も山ほどあります。しかし、ビジネスが成功したときや社員の成長を感じられたときなど、24時間365日経営者でいた者にしか味わうことのできない、大きな深い喜びもあることを忘れてはなりません。

4 まとめ:10のチェックリスト

  • 「やりたいこと」を明確に示しているか
  • 自分の弱点を認識しているか
  • 社外ネットワークを広げているか
  • 誰よりも勤勉であるか
  • キャッシュフローを把握しているか
  • 決断する軸を持っているか
  • 社員の「人間力」を磨いているか
  • 社員に誇りを持たせられているか
  • 素直であり続けているか
  • 24時間365日、経営者でいられるか

以上(2019年3月)

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シニア層の需要が広がる自費出版の動向

1 自費出版の動向

1)自費出版のニーズについて

自費出版の顧客は、60歳以上がメーンとなっています。この理由として、退職などをきっかけに、自分のこれまでの歩みを自分史として書籍に残したいなどのニーズが増えていることが挙げられます。一方で、若年層の場合は、紙媒体よりもSNSやウェブサービスによって手軽に自己表現、情報発信をする傾向にあるようです。

自費出版物の制作、販売支援や日本自費出版文化賞の開催などを通じて自費出版物の社会的評価の向上に取り組む日本自費出版ネットワークへのヒアリングによると、「書籍の制作費用が高額なことから、自費出版文化賞への応募も資金面に余裕がある高齢者が多いとみられる。応募総数は全分野合わせて毎年500部前後で推移しており、自費出版文化賞の地域文化、個人誌、小説、エッセー、詩歌、研究・評論、グラフィックの7部門のうち、写真・画集などのグラフィック部門と現代詩、俳句、短歌などの詩歌部門の応募が増えている」(*)とのことです。

また、今後の自費出版のニーズについては、「会員企業を通じての応募の呼び掛けや、郵送による応募の強化などに取り組んでいるため、今後も自費出版文化賞への応募や、自費出版をやりたいというニーズは増えていくと思われる」(*)とのことです。

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(*)日本自費出版ネットワーク(2020年2月7日時点)

一方で、自費出版を手掛ける企業にとっては、どのようにして顧客からの受注を増やすのかといった課題があります。また、顧客の中には、自費出版をやりたいが、原稿の書き方が分からないといった悩みを抱えている人もいます。

そのため、企業の中には、地域の公共施設で自費出版に関する講座を開いたり、原稿を制作するためのマニュアルを配布したりすることで、顧客からの相談や受注の増加につなげているケースがあります。

以降では、自費出版に注力する企業に対して、顧客層や受注状況、自費出版の取り組みなどをヒアリングした結果を紹介します。

2)朝日印刷工業(群馬県前橋市)

書籍の制作、画像加工、ウェブサービスなどを手掛ける朝日印刷工業では、デジタル印刷ショップの「ディップス朝日」を運営しており、個人市場をターゲットにした小ロットの書籍づくりに注力しています。同社は、社内に自分史活用アドバイザー(自分史活用推進協議会の認定資格者)がいることから、自分史を中心とした自費出版の制作提案に取り組んでいます。

朝日印刷工業にヒアリングした結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の顧客がメーンとなっている。朝日印刷工業では、県内の図書館や公民館で自費出版に関する講座を開催しており、それがきっかけで、来社した顧客からの相談や依頼を受けるケースが増えている。

【受注状況、制作部数について】

年間平均で20件程度となっている。1人当たりの制作部数は、作成した書籍を家族や友人に配りたいのか、書店で販売したいのかといった目的によっても異なるが、少ない場合で15~20冊、多い場合で150~200冊程度となっている。顧客が原稿を用意していない場合でも、外部のライターと提携し、一から原稿を作ることができる。

3)清水工房(東京都八王子市)

研究誌、機関誌、会社案内などの冊子印刷を手掛ける清水工房では、自伝・社史を制作するための簡易年表や、自分史の書き方を分かりやすく解説したマニュアル本の提供などの丁寧な対応を強みとしています。

また、書籍の企画段階から配送までを一貫して手掛けており、出版部門の「揺籃社(ようらんしゃ)」を立ち上げ、自費出版で制作した書籍を全国の書店で販売したいというニーズに対応しています。

清水工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月12日時点)

【顧客について】

制作費用の都合や、編集者と頻繁に打ち合わせをする必要があることから、60歳以上で地元の顧客からの受注が多い。

知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から受注が来るケースが多い。また、駅前の公共施設などを借りて、自費出版に関する無料相談会を開催することで、顧客からの相談や受注の増加につなげている。

【受注状況、制作部数について】

1人当たりの平均制作部数は200冊程度、書店で販売する場合は、1500~2000冊程度制作するケースがある。また、清水工房では電子書籍での自費出版も手掛けているものの、紙の書籍を出版したいという顧客が多い。

4)めぐみ工房(新潟県長岡市)

学校印刷物の制作や文集の製本などを手掛けるめぐみ工房では、自費出版でエッセーや郷土史、ブログ本、写真集などの制作実績があります。

めぐみ工房へのヒアリング結果は次の通りです。(2020年2月8日時点)

【顧客について】

60歳以上の高齢の顧客が多い。知り合いからの紹介や、口コミで評判を聞いた人から依頼を受けることがほとんどとなっている。

【受注状況、制作部数について】

受注件数は非公表だが、高齢の顧客がほとんどなので、自分が亡くなったときに、家族に残すための終活ノートを作成するケースが多い。作成した書籍は家族や親戚のみに配るため、制作部数も10~15冊程度となっている。

5)自費出版の競争状態

自費出版の競争状態について、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」に沿って考えます。

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自費出版は厳しい環境に置かれているといえます。書籍を制作する材料となる印刷用紙やインクの価格が高騰しており、清水工房へのヒアリングによると「紙の価格は、本のページに使う書籍用紙で1~2割程度、表紙に使う特殊紙は書籍用紙よりも高くなっていると感じる。また、使われる頻度が少ない紙はメーカーが生産を取りやめているため、紙の供給も少なくなっているのではないか」(*)とのことでした。

一方で、自費出版は、60歳以上の高齢者がメーンとなっています。電子書籍に対する抵抗や、紙の書籍を創る憧れがあることから、すぐに電子化で代替される可能性は低いといえるでしょう。

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(*)清水工房(2020年2月12日時点)

以上(2020年5月)

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民間主導で空き家、空き店舗などを活用したまちづくりに取り組む事例

書いてあること

  • 主な読者:空き家・空き店舗を活用して地域を活性化させたい企業や団体
  • 課題:活用するためのアイデアが十分に集められていない
  • 解決策:他地域での成功事例を参考にする

1 空き家、空き店舗、廃校利活用の方向性

一言に空き家、空き店舗、廃校の利活用といっても、建物を管理する事業者が建物をリノベーションし、利用者に貸し出す場合もあれば、利用者自身で建物をリノベーションする場合もあります。以降で紹介する事例は、建物をリノベーションする主体と目的の違いで、次のように整理できます。

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2 空き家の利活用事例

1)尾道空き家再生プロジェクト(広島県尾道市)

尾道空き家再生プロジェクトは、NPO法人尾道空き家再生プロジェクトの代表である豊田雅子氏が、2007年に空き家となっていた「旧和泉家別邸」を購入、修復したことがきっかけで始まった取り組みです。

空き家をリノベーションし、尾道市街の古い町並みや景観の保全などを図るため、空き家に放置されている家財道具のチャリティー蚤(のみ)の市、市民に空き家問題についての理解を深めてもらうためのまちづくり発表会、古い空き家の修復と「坂の町」尾道の暮らしを楽しむ体験型夏合宿などに取り組んでいます。

■NPO法人尾道空き家再生プロジェクト■
http://www.onomichisaisei.com/

2)越後妻有 大地の芸術祭の里(新潟県十日町市)

「越後妻有(つまり) 大地の芸術祭の里」は、NPO法人越後妻有里山協働機構が運営元として、3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の舞台となっている場所です。この場所では、過疎化、高齢化や2004年の新潟県中越地震などの影響で空き家や廃校が増えています。こうしたことから、地域の景観を維持するために、空き家や廃校をリノベーションし、アート作品や美術館として活用しています。空き家や廃校のリノベーションは、大地の芸術祭の会期中に限らず、通年で取り組んでいます。

空き家をリノベーションした施設として、家全体に彫刻刀で彫り込みを入れることでアート作品に再生させた「脱皮する家」や、かやぶき屋根の古民家を「やきものミュージアム&レストラン」に再生させた「うぶすなの家」などがあります。

■越後妻有 大地の芸術祭の里■
http://www.echigo-tsumari.jp/

3 空き店舗の活用事例

1)岩村田本町商店街(長野県佐久市)

岩村田本町商店街では、同振興組合が中心となって空き店舗の活用に取り組んでいます。空き店舗は、住民アンケートによる活用策を基にリノベーションをしており、これまでに、地域コミュニティーの集い場「中宿おいでなん処」、手作り総菜の店「本町おかず市場」、若手起業家の育成施設「本町手仕事村」の他、「岩村田寺子屋塾」「子育てお助け村」などの地域密着型施設を整備しています。

この取り組みの結果、空き店舗数は2000年時点で15店舗でしたが、2015年には2店舗まで減少しています。

■岩村田商店街オフィシャルサイト いわむらだ.こむ■
http://www.iwamurada.com/

2)長浜・黒壁スクエア(滋賀県長浜市)

長浜・黒壁スクエアは、地元企業や長浜市が共同で設立したまちづくり会社の黒壁が、黒壁銀行の愛称で親しまれた古い銀行の建物をリノベーションしたのをきっかけに始まった取り組みです。同社では、ガラス工芸品の販売事業を手掛けており、その売り上げを空き店舗のリノベーション費用などの町並み形成に充てています。

また、長浜・黒壁スクエアのにぎわいを周辺の地域に拡大するため、まちづくり会社の長浜まちづくりが設立され、空き家再生バンクや空き家をリノベーションしたシェアハウスの運営、若者の創業支援などを手掛けています。

長浜まちづくりへのヒアリングによると、「既存店舗のリノベーションを含む空き店舗を活用した出店実績は、2008年からの累計で118店舗となっている」(*1)とのことです。また、来街者数について、黒壁へのヒアリングによると、「2017年が195万9000人、2018年が211万6000人と増加傾向にある」(*2)とのことです。

■黒壁■
https://www.kurokabe.co.jp/

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(*1)長浜まちづくり(2019年11月14日時点)
(*2)黒壁(2019年11月14日時点)

3)なごのや(名古屋市西区)

なごのやは、観光まちづくりに関するコンサルティングや訪日外国人向けツアーオペレーターなどを手掛けるツーリズムデザイナーズが、円頓寺(えんどうじ)商店街の廃業した喫茶店「西アサヒ」をリノベーションし、2015年4月にオープンした複合店舗です。店舗の1階が喫茶・食堂、2階が民宿となっています。1階は喫茶・食堂としての役割だけでなく、アーティストのライブ会場や作品展示の場としても活用されています。

また、2018年4月にはボルダリング施設とゲストハウスを併設した別館をオープンしました。

■なごのや■
https://www.nagonoya.com/

4)沼垂テラス商店街(新潟県新潟市)

沼垂テラス商店街は、旧市場の長屋が連なる沼垂地区のシャッター通りを再生するため、地元の商店主が旧市場全体を買い取り、2014年に管理事務所となるテラスオフィスを設立したのがきっかけで始まった取り組みです。2019年11月時点で雑貨店や飲食店など28の店舗と、管理事務所兼ゲストハウスなど4つのサテライト店舗があります。

空き店舗のリノベーション方法や、新規出店を誘致するための方法などについて、商店街の運営を手掛けるテラスオフィスへヒアリングした結果は次の通りです。

  • 空き店舗は、テラスオフィスで屋根や外壁などを修復し、内部のリノベーションは入居する店舗にお願いしている。リノベーションの費用は、店舗の規模によって異なるものの、例えば1棟を丸ごとリノベーションし、ゲストハウスにした場合は1000万円以上の費用が掛かっている。
  • 新規出店の募集、来訪者の誘致などの情報発信はSNSを中心に行っている。また、商店街のほとんどの店舗が何かしらのSNSツールを利用しており、各店舗の情報発信が相乗効果を生み、情報が広がっている。それをキャッチしたメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディアなど)が取り上げてくれることで、さらに認知度が高まっていると実感している。他にも、外部イベントへの出店によって、知名度アップや新規顧客の誘致につながっている場合もある。
  • 知名度のアップなどによって「沼垂テラス」というブランドが構築されつつあり、この場所で起業したい、出店したいという相談を受けており、空き家のオーナーとの調整を行っている最中である。今後、年に何軒もリノベーションを手掛けるのは難しいものの、1年に1軒程度は実現していけるような目標設定をしている。(*3)
■沼垂テラス商店街■
https://nuttari.jp/

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(*3)テラスオフィス(2019年11月13日時点)

4 廃校の活用事例

1)猟師工房ランド(千葉県君津市)

猟師工房ランドは、狩猟ビジネスを手掛けるTSJが君津市から旧香木原(かぎはら)小学校の体育館と土地を借り受け、同社が改装、2019年7月にオープンした施設です。

君津市では、鳥獣による農作物への被害が大きな問題となっていることや、旧香木原小学校を地域活性化の拠点として有効活用するため、鳥獣被害対策をテーマに民間事業者を公募した結果、TSJからの応募があり施設を貸し付けることになりました。

約2500坪の土地に狩猟大学校、キャンプ場、ドッグラン、バーベキュー場があります。施設は、君津市内で捕獲された鹿やイノシシを加工した食品、工芸品の販売に利用されているだけでなく、有害鳥獣の駆除、狩猟ビジネスに取り組みたい市内の若者が、狩猟の知識や技術を学ぶ場所としても活用されています。

■廃校施設を活用した地域活性化の拠点「猟師工房ランド」■
http://maruchiba.jp/sys/data/index/page/id/18829

2)潮の杜(宮崎県日南市)

潮の杜は、マリンスポーツ用品の販売などを手掛けるレジェンドが、廃校となった旧日南市立潮(うしお)小学校を活用し、起業支援や地域交流の拠点として2014年4月にオープンした施設です。校舎は地域の団体が教室やワークショップを開くための場だけでなく、日南市鵜戸(うど)地区の地域おこしにつながる起業支援の場として活用されています。起業支援は、空き教室の提供だけでなく、経営に関するノウハウ提供やインターネットでのPRなどのサポートもしています。

また、グラウンドはオートキャンプ場として活用されており、宿泊も可能です。

■潮の杜■
https://www.ushio.co/

5 その他の事例

ヤマキウ南倉庫(秋田県秋田市)は、インテリアやグラフィックなどのデザイン制作を手掛けるSee Visionsが、不動産事業を手掛けるヤマキウの旧倉庫を改装し、2019年6月にオープンした複合施設です。倉庫内にはスーパーマーケット、雑貨店、美容院など10の店舗と6つのオフィス、コワーキングスペース、ホールがあります。

同社は、秋田市南通亀の町のエリアリノベーションに以前から取り組んでおり、閉店した居酒屋を改装したバル(軽食喫茶店)やベーカリーなどを開店した実績があります。

■ヤマキウ南倉庫■
https://yamakiu-minamisoko.com/

以上(2020年2月)

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画像:photo-ac

【朝礼】道を切り開くのは「上司」ではない。自分だ

先日、当社の若手・中堅社員にアンケートをとりました。内容は、「将来、当社がもっと輝くために、改善すべき点は何か?」というものです。普段、思っていることや考えていることを、正直に答えてほしかったので、あえて匿名でのアンケートにしました。

すると、若手・中堅社員のさまざまな不満が明らかになったのです。今日は、そのアンケートの結果を基に、皆さんにお話しします。腹が立つ人や耳が痛いと思う人もいるかもしれませんが、現状を真摯に受け止めてください。

回答の中で特に多かったのは、「自分たちが日ごろ頑張っているのだから、上司にももっと仕事をしてほしい」「上司には、部下の頑張りをもっと分かってほしい」「上司にはちゃんと判断してほしい」といった、上司に対する不満や要望でした。皆さんは、これを、どのように感じますか。

本当に至らない上司が多いのか、それとも若手・中堅社員が分かっていないだけなのか。もちろん、それも問題なのですが、私が気になったのは、別のことです。「若手・中堅社員は、将来も、この会社を動かしていくのは上司だと思っているのか。自分たちでどうにかしてやろうとは思わないのだろうか」。そう危機感を覚えたのです。

若手・中堅社員に聞きます。「能力の高い、ちゃんとした上司がいて、それに従う」のが、皆さんにとっての「将来、当社が輝いている姿」なのですか。本当にそれでいいのでしょうか。

誤解を恐れずに言います。若手・中堅社員の皆さん、当社は、「上司ありき」の会社ではありません。社歴も役職も関係ありません。上司がふがいないなら、「自分たちで会社を変えてやる」と行動を起こしてください。「これを自分たちにチャレンジさせてほしい」と、ぜひ、手を上げてほしいのです。若手・中堅社員のチャレンジを、私は心から応援し、バックアップします。

もちろん、至らない上司には、私から指導しますが、上司が変わるのを待たないでください。変わるのは、上司の指示に従うだけだった若手・中堅社員の皆さんです。大切なのは、「上司がどうするか」ではなく、「将来に向けて、自分がどうしたいか」です。

また、上司の皆さん。実情はどうであれ、あなた方の部下は、「上司本願」で物事を捉えています。若手・中堅社員には、自分で考え、行動し、道を切り開いていく力を付けてもらわなければなりません。その機会を創るのが上司の仕事です。将来を担っていく若手・中堅社員が、上司を基準に物事を捉えているのは、皆さんが部下のやる気や成長の機会を奪ってきた結果ではないでしょうか。私は、それが部下の「上司が変われば会社が良くなる」という考えの根本にあると思います。

そして、もう一度言います。若手・中堅社員の皆さん、これから会社を変えていくのは、皆さん自身です。今、この時から、立ち上がってください。

以上(2020年2月)

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画像:Mariko Mitsuda