【中小企業の予算(8)】 KPIを予算に織り込む ~予算を行動につなげるために~

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者や財務担当者
  • 課題:予算が数字の寄せ集めだけで終わってしまう会社は少なくない
  • 解決策:予算作成の前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定する

1 KPIでメンバーの行動を導こう

これまで7回にわたって続いてきた【中小企業の予算】シリーズも、今回で最後となります。今回の重要なキーワードが「KPI(Key Performance Indicator)」という言葉ですが、皆さん、聞いたことはありますか。

KPIとは、業績に大きな影響を与える数字

のことです。KPIの代表例といえるのが、

  • 営業部門であれば、販売単価や販売数量
  • 製造部門であれば、歩留まり率や機械稼動率

です。

例えば、販売単価をKPIとして設定し、通常の販売単価が100円の会社が、「来年度は10%アップの110円にすることを目指そう」と目標を立てたとします。メンバーは、販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと、得意先と交渉する人もいるでしょう。

このように、KPIには、何を、どれくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーが取るべき行動が正確に共有できるという効果があります。そのため、

予算を作成する前の段階でKPIの種類を特定し、具体的な数値を設定すること

がとても大切になります。

例えば、売上高という漠然とした水準ではなく、売上を「単価」と「数量」に分けることによって、単価を上げるのか、数量を上げるのかを明確にし、それぞれに紐づいた行動に結び付けていきます。こうした具体的な数値の設定は、年度途中の早い段階で予算に対する進捗度合いを確認することが可能になります。

2 社内で重要視している指標がKPI

シリーズ第2回(【中小企業の予算(2)】予算「損益計算書」の数字の作り方)で、掛け算型と足し算型の話をしました。この掛け算型の構成要素が、KPIになることが多くあります。一番イメージしやすいものが、上記の例で挙げた売上を「単価」と「数量」に分けることです。

ただ、ここでは計算の構成要素として「単価」と「数量」を管理するだけではなく、一歩進んで個別に目標設定をした上で直接担当者と共有したり、年度途中でも進捗度合いを確認したりして、KPIとしての管理を考えます。

売上以外にも人件費をはじめとする会社にとって重要な科目について、その関連する構成要素(最終的な利益や作業の効率化に貢献するものなど)をKPIとして抽出して予算に組み込み、日々管理していくのです。ここで、業種別の主なKPI例を紹介します。

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では、KPIは、どのように選べばよいのでしょうか。取り組みの手順としては、

まず会社で従来大切にされてきた指標が何かを特定する

ことがおすすめです。社内で実際に使われている指標のほとんどは、長年の経験から業績向上につながると判断できるものです。もちろん、新たに業績向上につながる指標があれば追加してもかまいません。その際、「そのKPIは頑張れば達成できる性質のものなのか」「複数の類似する指標がある場合には、どれが最適な指標なのか」といった点に注意が必要です。

3 KPIのトレード・オフには気を付ける

重要な業績指標として管理していくKPIは、1つとは限りません。KPIを複数設定する場合は、およそ5つまでにしたほうが把握・管理がしやすいと思います。その場合には、優先順位を付けるようにしましょう。

さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般的に販売単価を下げれば、販売数量が伸びる傾向があるため、販売単価と販売数量はトレード・オフの関係(どちらかが良くなれば、どちらかが悪くなる関係)にあるといえます。

ここで「販売単価も上げてください」「販売数量も増やしてください」というメッセージとして、営業担当者に伝わってしまうと、どちらを優先していいかが分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールです。このような矛盾が発生しないように注意しましょう。

ただ、トレード・オフの関係にあるKPI両方の達成はムリなのかというと、そうとも限りません。ある外食チェーンでは、まず客数の増加を目指し、低価格の商品を多く販売しました。そして、一定の客数を確保したところで、高価格の商品を開発して、販売単価を上げる目標にシフトしたことで、販売数量と販売単価の両方を高く達成することができました。つまり、タイミングをずらすことが攻略法になります。

4 KGIにつなげるための非財務KPI

最近耳にする言葉に、KGI(Key Goal Indicator)があります。これは、

業績に重要な達成すべき目標

で、ほぼ予算と同義となります。営業部署でいえば、KGIが売上予算となり、主なKPIとして単価や数量があります。予算の作成前にKPIを設定する際、KGIに引っ張られて、

決算数値には直接関係するKPI(以下「財務KPI」)

に分類される項目である単価や数量を頭に思い浮かべがちです。特に、予算作成の担当者が決算数値を扱う財務系の部署であれば、なおさらです。ただ、営業部門のメンバーにとって財務KPIは、日々の目標としては管理しづらく、イメージしづらいことも多くあります。そこで、訪問件数、提案書の提出件数などの、

決算数値には直接関係しないKPI(以下「非財務KPI」)

を用いることを考えます。営業フェーズ別の主なKPI例を見てみましょう。

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上の図表のように、売上につながる業務を細分化することで、KPIになり得る指標が見えてくることも押さえておきましょう。

非財務KPIは、メンバーには身近な数字であるため、理解しやすくなります。特に、経験が浅いメンバーであれば、販売数量を増やすように努力するよりも、訪問件数を増やすほうが分かりやすいので、頑張れるということになるのです。

以上(2025年2月作成)

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画像:thanksforbuying-Adobe Stock

【入社1年目の教科書】守ることはたった1つ。「会社のお金」と「自分のお金」を区別する

書いてあること

  • 主な読者:会社のお金を使う上での基本的なルールを確認したい新入社員
  • 課題:もともとお金にルーズだし、経費精算なども面倒なので自腹でもいいと思っている
  • 解決策:「会社のお金」と「自分のお金」を明確に区別して、どちらからも逆流させない

あぁ~、やっちゃった……。仕事の調べ物で本を買ったときの領収書をなくしてしまった。どうしようかな。先輩に謝って手続きを聞くのは面倒だな。「大した金額じゃないのに、騒いだりしてケチな奴だ」って思われるのも嫌だし……。よし、今回は自腹でいいや。給料日も近いし問題ないでしょ。間接的に会社の利益に貢献したことにもなるしね!……なるよね?

1 大切なのは「お金に色を付ける」こと

社会人になると、仕事のために会社のお金を使うようになりますが、大切なのは、

自分のお金と会社のお金を明確に分けること

です。「お金に色はない」といわれますが、皆さんは「会社のお金」と「自分のお金」に色を付けて、明確に区別しなければなりません。会社のお金を自分のために使うことも、自分のお金を会社のために使うこともダメなのです。

また、会社のお金は金庫の中の現金だけではなく、移動のための交通費、仕事のために買った書籍代などの経費もそうです。経費は「会社のお金」と「自分のお金」が曖昧になりがちなので、一定のルールを守って使わなければいけません。ルールについては、規程としてまとまっているものもあれば、暗黙のルールになっているものもあるので、分からないことは、必ず先輩に確認しましょう。

2 お金を管理するために大切な5つの項目

お金に関するルールは会社によって違うことがあります。ただ、お金をもらうときも、払うときも、次の5つの項目が大切であることを覚えておいてください。

  1. 領収書の宛名(自社の名称)
  2. 支払先の名称
  3. 支払った日
  4. 支払った目的(購入した商品やサービスなど)
  5. 支払った金額

会社のお金で買い物や食事をするとき、「必ず領収書をもらってきてね」と先輩に言われるはずです。これは、領収書に5つの項目が書かれているからです。そして、会社は「誰に、いつ、何のために、いくら支払ったか」という記録と、実際のお金の動きを照合して、正しくお金が使われているかを管理しています。

逆に、こうした点が不明瞭だと会社は簡単にお金を支払えません。とはいえ、自分のお金で立て替えた領収書をなくしてしまったときも、勝手に自分で負担してはいけません。仕事で使うお金を社員が負担するというのは、会社としてとても不健全だからです。

領収書をなくした場合の正しい対処法は、領収書を再発行してもらうか、「事情報告書」(領収書を紛失した状況などを説明する書面)などの書面で状況を説明すること

です。手間はかかりますが、社会人の義務、社員の義務と心得ましょう。

3 「1円」だってズレてはいけない!

電子マネーのチャージ残高が思ったより多いぞ。やった~!

普段なら、こんな感じでしょうが、会社のお金の場合はそうはいきません。1円単位でビシッと合っていなければなりません。例えば、記録上は10万円あるはずなのに、現金が9万9999円しかなかったら、「ま、1円だからいいか」とはならず、過去の入出金記録を再確認したり、社内に1円硬貨が落ちていないか探し回ったりします。

絶対にやってはいけないのが、「1円だから」と自分の財布からお金を出すこと

です。会社のお金と自分のお金を区別するということは、自分のお金を会社のために使ってはいけないということでもあるのです。金額に関係なく、仕事に必要なお金を社員が負担することは不健全ですし、社長もそんなことを望んでいません。

4 日にちや期間が重要

会社は、お金の動きを「1日」「1週間」「1カ月」「1年」といった期間で管理します。中でも重要なのが「1年」です。なぜなら、会社は1年間の業績を基に株主への説明資料を作ったり、税金の申告をしたりするからです。これを「決算」といいます。

多くの会社は4月1日~翌年3月31日を会計期間としているのですが、この場合、3月31日と4月1日には大きな違いがあります。何かの買い物をした場合、それが3月31日なら当期の費用になりますし、4月1日なら翌期の費用となります。これはつまり、当期か翌期かの利益に影響を及ぼすことになるわけです。この辺りのことを考えて、社長たちはいつ買い物をするかを決めています。

新入社員の皆さんが、こうした話を意識するのはまだ先のことだとしても、身近な問題として意識する「期間」は「経費精算の1カ月」です。多くの会社は月単位で業績を管理しているので、4月に支払った経費は4月のうちに精算するのが基本となるのです。面倒に感じることもあるかもしれませんが、経費はこまめに精算しましょう。

5 早くお金をもらえば会社のためになる?

お金をもらったり、逆に支払ったりするときは「何月何日」を意識しましょう。これが会社の経営を楽にする「資金繰り」につながります。

例えば、お金を払うのは20日、お金をもらうのは30日だったとします。この場合、お金をもらうまでの10日間、会社のお金は減ってしまい資金繰りが悪化します。商品も仕入れられなくなるなど、ビジネスが停滞してしまうこともあり得ます。ですから、少し自分勝手に思えるかもしれませんが、

もらうのは早く、支払うのは遅く

というのが基本になるのです。

ただ、実際は皆さんがお金を払うタイミングをその都度、決めることはないでしょう。会社には「月末締めの翌月20日払い」といったようなルールがあるので、それを守ってください。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【コスト削減の教科書(1)】コスト削減の進め方

1 今こそ、コスト削減のチャンス!

「売上を上げて、コストも削減する」。これは経営の基本です。とはいえ、「これまでもコスト削減は一通りやってきているので、カラカラの雑巾のようだ……」という経営者も多いでしょう。

しかし、雑巾はまだ絞れます。

例えば、対面が当たり前だった会議はオンラインが当たり前となりましたし、テレワークも浸透しています。これまでとは違った切り口のコスト削減が試せるのです。それに、今後のさらに深刻になる人手不足に備えるには、コスト削減の活動に伴う効率化が必須です。まさに今こそ、コスト削減を再検討する絶好のチャンスだといえるでしょう。

このシリーズでは、サクゲン株式会社という架空の会社で繰り広げられるコスト削減の活動を、具体的な削減金額とともに紹介します。皆さまの会社のコスト削減にお役立てください。

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2 削減するコスト項目と方針を決める

サクゲン株式会社は、まさにコスト削減会議の最中です。メンバーは社長、管理部長、営業部長、製造部長の4人です。

社  長:中期経営計画で示したように、今後3年間で4500万円のコスト削減を達成します。事前に削減するコストを検討するように伝えましたが、どのような状況ですか?

管理部長:はい。早速ですが「出張」をなくしましょう。コロナ禍は出張しなくても営業できていたわけですから、問題ないかと。

営業部長:いやいや、ちょっと待ってくれ。相手と関係を築くのにリアルのコミュニケーションは必要だよ。それに、以前より出張の回数は減らしている。そんなことより、管理部の残業代のほうが問題なのでは? 製造部だって、もっと安い材料を使えばいい!

管理部長:いやいや、決算期の状況を知らないからそんなことが言えるのでしょう。棚卸しは本当に大変なんですよ。

製造部長:いやいや、材料を変えたら品質の確認からやり直しだ。売るものが作れなくなったら、営業部だって困るだろう!

社  長:待ちなさい。いきなり個別のコストに注目して、他部門に責任を押し付けるのではなく、コスト項目全体を把握することから始めてほしい。そこから個別に検討しよう!

どの部門も自分たちの経費(コスト)が削減されることには反発します。「今のやり方を変えなければならない」「無駄遣いしていると思われている」など、マイナスの感情が生まれるからです。ですから、目についたコストを「槍玉」に挙げるような議論をしてはいけません。各部門長が感情的になると部下に“本気の指示”をしないため、成果も上がりにくくなります。

正しい手順は、まず網羅的にコストを洗い出し、「何を削減するのか」をできるだけコスト削減会議の上で合意して決めることです。どうしても意見がまとまらない場合は社長が判断します。

さて、サクゲン株式会社では次のコスト項目を削減対象としたようです。人件費は最も大きなコスト項目の1つですが、サクゲン株式会社は人件費には手をつけない方針です。

各コストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。

コスト削減会議では、次のステップとして削減対象となったコスト項目ごとに、削減方針と削減目標を決めています。例えば、出張費の場合は次の通りです。

出張費

  • 定  義:業務に関連して遠隔地へ行くときにかかる支出
  • 支出内容:取引先を訪問するときの電車運賃やタクシー代、出張時の交通費や宿泊費など
  • 削減方針:予約方法・交通手段・宿泊施設などを変える、出張をやめる・減らす
  • 削減目標:××万円

このように情報を整理することで、コストの内容や削減目標を全社的に共有でき、削減のアイデアを募ることも可能です。情報を整理するときのポイントは、コストの担当者(例えば、出張費であれば営業部など)だけに任せないことです。なぜなら、重要な取引先に関わる支出、属人化している支出などが“聖域”になってしまう恐れがあるからです。

3 削減方法と優先順位を計画表にまとめる

社  長:約30の削減方法が提案されたね。これらを実行すれば削減目標を達成できそうだ!

管理部長:はい。社外と交渉しなければならない項目もあります。もし決裂しても、他の項目が達成できればカバーできます。

社  長:よし。早速、始めよう! どのように着手しますか?

製造部長:難易度が低く、効果の高いものから着手します。具体的な計画は、配布資料にある通りです。

社  長:承知した。この計画で進め、2カ月に1回、進捗会議を行って状況を共有しよう。分かっていると思うが、社員をうまく巻き込むための努力を欠かさないように。

サクゲン株式会社では、コスト削減の難易度を低・中・高の3段階に分けました。

  • 低:ルール変更や制度を導入すれば実行可能
  • 中:実行するための作業や準備が必要なもの
  • 高:対外的な交渉が必要

そして、必要に応じて見積もりを取りながら、1年間の削減効果をシミュレーションした結果を、コスト項目ごとにまとめました。例えば、出張費の場合は次の通りです。

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さらに、その内容を次のような計画表に落とし込みました。以下の表はエクセル形式でダウンロードできるので、ぜひ、御社のコスト削減活動でご活用ください。

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こちらからダウンロード

 

4 コスト削減を社員の「自分事」に!

計画表が完成したら、いよいよ実行です。続けていくうちに、「今月は忙しかったから、目標未達は仕方ない」などの甘えが出てくることがあります。しかし、甘えを許さず、「どのように遅れを取り戻すのかなどを厳しく確認する」ようにしましょう。

そして、コスト削減を継続する上で重要になるのが、社員の意識です。社員が「自分事」としてコスト削減に取り組む雰囲気づくりは簡単ではありませんが、次の4つのポイントを押さえることが大切です。

1)コスト削減のルールをフラット化する

社員の自発的な協力を得るには、まず、部長・課長クラスなどに与えられていた「特別待遇」など、コスト削減に関わる不満要素を一掃しておきましょう。

例えば、出張での新幹線のグリーン車の利用や宿泊料金の条件について、原則として全社員一律のルールを定めるなどです。ただし、交際費などは役職に応じたグレードが求められることもあるので、必要があるものについては一定の格差を残します。

2)環境保全など、コスト削減以外の取り組みのメリットを示す

SDGsの浸透などにより、社会貢献に興味を持っている社員もいるでしょう。こうした社員の自発的な協力を得るには、コスト削減が社会貢献にもつながることを伝えます。例えば、「水道光熱費の削減は、地球環境の保全にも貢献する」といった具合です。

3)コスト削減の効果を「見える化」する

コスト削減の取り組みが成功したかどうかが分かるように、削減効果を「見える化」しましょう。最も分かりやすいのが「数値化」です。コスト削減の年間目標設定や部署ごとの競争、アイデアを出した人の貢献度を測る上での基準となります。

ただし、数値の改善に対する意識が強くなりすぎるあまり、本来の業務に支障が出ることがないよう、一定の配慮も欠かせません。

4)取り組みの効果を社員に還元する仕組みを作る

成果が出れば、社員はそれを還元してもらいたいと考えるものです。削減できたコストのうち、一定の割合を社員に還元することを検討しましょう。金銭で報いるだけでなく、表彰するなど、承認欲求を満たす形で成果を還元する方法もあります。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「なぜ、私の給料はあの人より低いの?」と社員に聞かれたらどう返す?

1 待遇格差の内容や理由、あなたは説明できますか?

「私の給料が同期入社の〇〇さんよりも低いです! 同じ仕事をしているのになぜですか?」

こんな質問を社員からされたらどう説明しますか? 通常、会社は社員1人1人の給料を公にしませんし、社員もあからさまに「私の給料は30万円!」「えっ、私は28万円……」なんて会話はしないでしょう。しかし、仲の良い社員同士が飲み会などの場で給料を話題にすることはありますし、上司がうっかり「もっと頑張らないと、〇〇さんとの給料に差がついてしまうぞ!」などと、口を滑らせてしまうケースもあるかもしれません。

これは、いわゆる「同一労働同一賃金」の問題(注)ですが、きちんと準備をしておかないと、社員から冒頭の質問をされたときに説明できず、会社への不信感がさらに大きくなってしまう恐れがあります。そこで、この記事では待遇格差の説明のパターンを、「ケーススタディー+社労士からのアドバイス付き」で3つ紹介します。

(注)同一労働同一賃金のルール上、非正規社員から「正社員」との待遇格差(給料の他、福利厚生など全ての待遇が対象)について説明を求められたら、会社はその内容や理由を説明する義務があります。「正社員同士」「非正規社員同士」の待遇格差については説明義務の対象外ですが、放置すると職場の雰囲気の悪化や離職などにつながりかねないので、説明したほうが無難です。

2 テレワーク組は楽だから出社組より給料が低いの?

1)ケーススタディー

IT会社で働くAさんは、テレワーク勤務です。地方在住も実現し、テレワーカーとしての働き方に満足しています。しかし、あるときオフィス勤務のBさんとオンラインで雑談をしていて、オフィスワーカーには「出社手当」が支給されていることを知りました。

Bさんいわく、「1日出社するたび、2000円とランチ代が支給される」そうです。一方、テレワーカーのAさんがもらっているのは、月5000円の在宅勤務手当だけ……。不満に思ったAさんは、上司に面談を申し込みました。

「オフィスワーカーには、出社手当が支給されていると聞きました。テレワーカーも同じ仕事をしているのに、なぜ給料に差があるんですか?」

上司は、画面越しに丁寧に説明を始めました。

「まず、テレワーカーもオフィスワーカーも、基本給や評価制度の違いは一切ない」

「その上で説明するけど……」と、上司は話を続けます。

「出社手当の額は、オフィス勤務に伴うコストと負担を考慮して設定されている。通勤に加え、急な対面会議への対応、新入社員のメンタリング、設備管理など、物理的な出社によって発生する苦労はいろいろあるからね。それをねぎらう意味もある。それに、社員が対面で会うことで生まれる新しいアイデアにも期待しているんだ」

2)社労士からのアドバイス

コロナ禍を機に多くの会社で導入されたテレワークですが、状況が落ち着いてくると「皆がオフィスにいたほうが意思の疎通を図りやすい」ということで「オフィス回帰」の動きが強まり、最近はその落としどころとして「ハイブリッド型」が広まっています。

このケースでの説明のポイントは、

給料の格差が「差別」でなく、労力やコストに応じた「区別」であると明確に伝えること

です。Aさんの上司は、出社手当を高く支給する理由として、オフィス勤務に伴うコストと負担の内容を列挙し、それがテレワークとの違いであることを明確にしています。最初に「基本給や評価制度に差はない」と前置きした上で説明している点も重要です。

とはいえ、テレワーカーであるAさんからすれば、オフィスワーカーばかり優遇されている印象は拭えません。このケースでは、出社手当を支給する理由の1つとして「社員が対面で会うことで生まれる新しいアイデアへの期待」を挙げていますが、この視点に立つなら、例えば

地方在住を実現しているAさんに、居住地域を拠点にした新事業のアイデアを出してもらい、会社にとって利益が見込めるなら、必要なポジションに就けて給料にも反映する

といった、テレワークならではの役割設定についても検討してみるとよいかもしれません。

3 先輩よりも新人の給料が高いのは専門性?

1)ケーススタディー

製造会社で正社員として働くCさんは入社3年目です。今年から新入社員Dさんの教育係となり、熱心に指導をしています。ある日、CさんがDさんと飲みに行った際、酔ったDさんは無邪気に「前職よりも給料が上がってうれしいです!」と言い、ついつい支給額もしゃべってしまいました。それを聞いたCさんはがくぜん。なんと教育係である自分より高い金額だったのです。

納得いかないCさんは、上司に「同じ正社員なのに、後から入ったDさんのほうが先輩の私より給料が高いのはおかしいです!」と直談判。上司は、率直に理由を説明しました。

「Dさんは、最新のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の技術者なんだ。今、この会社において非常に重要なスキルを持って入社してきた。だから、相応の初任給を設定したんだ」

Cさんは、今年の仕事始めに社長が「RPAの導入で生産性を上げる」と言っていたことを思い出し、うなだれました。そんなCさんに上司は優しく声をかけました。

「Cさんの指導力は高く評価している。今年から『教育担当手当』が新設されるが、Cさんも対象になるからね。あと、希望すればRPAに関する研修を受けることもできるよ。会社が重視するスキルを身に付ければ、それは当然給料にも返ってくるよ」

2)社労士からのアドバイス

BX(ビジネストランスフォーメーション)を進める会社では、特定のスキルを持つ社員の市場価値が急激に高まり、給料相場も上昇しています。当然、CさんとDさんのような、給料の逆転現象も発生するわけです。

このケースでの説明のポイントは、

市場価値の変化が給料にどう影響しているのかを明確に説明すること

です。Cさんの上司は、市場価値の変動を具体的なスキル(RPA)と結びつけて説明し、会社の経営方針との整合性も示しています。

また、

今よりも給料をアップさせるための改善策を併せて提示すること

も重要です。Cさんの場合、上司はその指導力を評価し、教育担当手当という形で具体的な処遇改善を提示しています。また、RPAに関する研修を受け、知見を深めれば給料アップが見込めることを伝えています。キャリアアップの道筋も示唆しているので、聞いている側も向上心を刺激されます。

4 パートが正社員より給料が低いのは当然?

1)ケーススタディー

小売店で4年間パートとして働くEさんは、あるとき上司との面談を申し込み、以前から気になっていたことを聞きました。

「私は、正社員のFさんと同じように接客や商品管理をしています。ですが、時給に換算すると、私のほうが給料が低いです。同じ仕事をしているのに、おかしくないですか?」

上司は棚から就業規則を取り出し、Eさんに見せながら言いました。

「Eさんの気持ちは分かる。確かに日々の業務ではFさんと重なる部分も多いね。ただ、パートであるEさんと、正社員であるFさんとの間には、いくつか重要な違いがあるんだよ」

上司は、正社員の職務内容が記載された箇所を指しながら説明を続けます。

「正社員には売上目標などのノルマがあり、その達成に向けて残業や休日出勤もこなしている。繁忙期には他店舗への応援出向もある。この違いを待遇に反映させているんだよ」

2)社労士からのアドバイス

同一労働同一賃金の基本は、「均等待遇」「均衡待遇」という考え方です。

  • 「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更の範囲」が同じ場合、非正規社員であるという理由だけでは、正社員よりも低い待遇にできない(均等待遇)
  • 「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更の範囲」「3.その他の事情」が異なる場合、その違いに応じて合理的な待遇格差を設けるのは問題ない(均衡待遇)

「1.職務の内容」には業務内容や責任の程度、「2.職務の内容・配置の変更の範囲」には人事異動などの有無やその範囲、「3.その他の事情」には成果・能力・経験などが該当します。

このケースでの説明のポイントは、

均等待遇・均衡待遇に照らして、どこが正社員との違いなのかを明確にすること

です。今回は、ノルマ(責任)が「1.職務の内容」、他店舗への応援出向が「2.職務の内容・配置の変更の範囲」に当たり、この部分がEさん(パート)とFさん(正社員)とで異なるため、給料に差が生じています。格差があまりに大きすぎる場合などは別ですが、そうでなければ合理的な待遇格差であり、均等待遇・均衡待遇にかなっているということになります。

なお、このケースでは上司が就業規則を使ってEさんに説明をしていますが、実際の説明でも、

就業規則や給料規程など、正社員の待遇の内容が明記された資料を用いるのが基本

です。また、都道府県労働局では、待遇格差の内容や理由を書き込んで社員に渡せる「説明書モデル様式」などを公表しているので、必要に応じてご活用ください。

■厚生労働省奈良労働局「(待遇差の内容や理由)説明書モデル様式」■

https://jsite.mhlw.go.jp/nara-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/kokin_youshikishu.html

以上(2025年2月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】その「種まき」で将来どんな「実」がなるの?

【ポイント】

  • 将来の利益のために、早いうちから小さな取り組みをすることを「種まき」という
  • ただ、種まきそのものが目的になってしまうと、本来のゴールが見えなくなる
  • 種まきの先にある未来を想像するよう、日ごろから習慣付けることが大切

おはようございます。2月に入り、暦の上では春を迎えました。春といえば、こんなことわざがあります。「春植えざれば秋実らず」。春に種をまかないと秋の収穫はできない、つまり「やるべきことを早めにやっておかないと成功は望めない」という意味です。

「種まき」という言葉は、ビジネスでもよく使われます。「将来の利益につなげるために、早いうちから小さなことに取り組む」という意味です。YouTubeやSNSでユーザーに役立つ情報を提供するのも種まきですし、ビジネスイベントや交流会に参加して人脈を広げるのも種まきです。こうした活動はビジネスではとても大切ですが、気を付けなければならないのは、時折「種まきそのものが目的になってしまっている人」がいることです。

例えば、YouTubeやSNSで情報を発信する際、“バズる”こと、つまりユーザーの注目を集めることにとてもこだわる人がいます。もちろん、PV数を稼げるコンテンツを作れるのは素晴らしいことですが、その先にある「コンテンツを見たユーザーに、どんな行動を取らせたいか」ということにまで考えが及んでいるでしょうか。「面白いコンテンツを作ること」そのものが目的になってしまって、「商品・サービスを購入してもらう」という本来のゴールが見えなくなってはいませんか。せっかく良いコンテンツを作れるのですから、それを使ってしっかりゴールにたどり着きたいですよね。

ビジネスイベントや交流会に参加して人脈を広げるのもそうです。自分の知らない世界で活躍している人たちと話すことは、それ自体が刺激になりますし、知見も広がります。素晴らしい取り組みですが、かといってそこでストップしてしまってはもったいないです。私が皆さんに期待するのは、そうした人たちとつながりを持つことで、将来どんなビジネスの可能性が開けてくるのかを自分なりに考えられるビジネスパーソンに成長することです。

ビジネスの経験を積んでいかないと、こうした想像をめぐらせるのはなかなか難しいですが、一方で、日ごろから考える習慣を付けていかないと、急に「想像しろ」と言われてもなかなかできないものです。「秋にどんな実がなるのか」をよく考えながら、春のうちから種まきに取り組んでいってください。

以上(2025年2月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

賃金のデジタル払い

賃金は従業員の銀行口座へ振り込むのが一般的ですが、「○○Pay」など、一部の「資金移動業者」の口座へ支払うこともできます。まだあまり普及していませんが、今後、従業員のニーズが高まることも予想されます。本稿では、賃金のデジタル払いのしくみや注意点について説明します。

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【業務効率化】紙の出勤簿はもう限界?スマートロックなどを使った“今どき”の勤怠管理

1 働き方の多様化。勤怠管理も見直してみませんか?

始業・終業時刻を「紙の出勤簿に手書きする」「タイムカードに打刻する」「エクセルファイルに入力する」など、“昔ながら”の勤怠管理を今も続けている会社は少なくありません。ですが、フレックスタイム制や時短勤務などで、従業員の働き方がバラバラになってくると、もはやこうした勤怠管理では対応しきれなくなってきます。

働き方の多様化に勤怠管理が追いついていない会社では、従業員、労務担当者、経営者それぞれが、次のような不便さを感じているはずです。

  • 従業員「始業・終業時刻や休憩時刻を毎日記録するのは面倒……」
  • 労務担当者「記入漏れや記入ミスが起きやすいし、データの転記や集計にも時間を取られる。給与支払いに直結する業務だけにミスは許されないし、大変だ……」
  • 経営者「始業・終業時刻や休憩時刻を、アナログな方法で毎日従業員に記録させるのは非生産的だ。それに、このままだと労務担当者の業務がいつまでも効率化できない……」

そこで、この記事ではこうした不便さを解決するための方法として、「ICカードなどを使ったオフィス向け入退室管理システム」「さまざまな打刻方法に対応するクラウド型勤怠管理システム」などを活用した、“今どき”の勤怠管理を紹介します。

2 オフィス向け入退室管理システム(スマートロック)

オフィス向け入退室管理システムは、スマートロックとも呼ばれます。ドアの解錠や施錠を、ICカードやスマートフォンなどをリーダーにかざして行えるようにしたもので、権限を持たない人の入退室を制御できます。また、煩雑になりがちな鍵の管理が不要になり、鍵の紛失や不正な複製のリスクもなくなります。

既存のドアは取り換えず、錠の開け閉めを行うサムターンの上に後付けするタイプや、シリンダーそのものを交換するタイプがあります。

サービスによっては、記録される入退室のログ情報を勤怠管理の目的で使用できるタイプもあります。中には、自社で利用している勤怠管理システムとCSVファイルなどを介さずに、APIで直接連携できるものもあります。

サービスの例は次の通りです。

■Photosynth(フォトシンス)「Akerun(アケルン)入退室管理システム」■

https://akerun.com/entry_and_exit/

■アート「ALLIGATE(アリゲイト)」■

https://alligate.me/

■ビットキー「bitlock(ビットロック)」■

https://www.bitlock.jp/

■ソニーネットワークコミュニケーションズ「カギカン」■

https://kagican.jp/

3 クラウド型勤怠管理システム

労働時間や残業時間の打刻・集計、シフト勤務への対応、休暇管理、年次有給休暇の自動付与、ワークフローによる申請・承認、ICカード(社員証、交通系ICカードなど)やスマートフォン(モバイルアプリ)による打刻などに対応したクラウドサービスです。

サービスの例は次の通りです。

■ヒューマンテクノロジーズ「KING OF TIME」■

https://www.kingoftime.jp/

■マネーフォワード「Money Forwardクラウド勤怠」■

https://biz.moneyforward.com/attendance/

■ラクス「楽楽勤怠」■

https://www.rakurakukintai.jp/

■jinjer「ジンジャー勤怠」■

https://hcm-jinjer.com/kintai/

■デジジャパン「Touch On Time」■

https://www.kintaisystem.com/

■DONUTS「ジョブカン勤怠管理」■

https://jobcan.ne.jp/

■アマノビジネスソリューションズ「clouza(クラウザ)」■

https://clouza.jp/

4 客観的なエビデンスとしての記録が重要

会社(使用者)には、従業員の労働時間を適正に把握する義務があります。単に1日何時間勤務したのかを把握するのではなく、労働日ごとの始業・終業時刻を、客観的な方法(タイムカード、パソコンの使用時間の記録など)で確認し、それを基に何時間勤務したのかを計算しなければなりません。

紙の出勤簿やエクセルファイルを使った社員からの自己申告も、労働実態の調査などを併せて行う場合については認められますが、前述した通り、従業員の働き方が多様化している昨今では、1人1人の労働実態を調査するのが大変です。労働時間の把握漏れなどによって、従業員とトラブルになったり、労働基準監督署の“臨検”で指摘を受けたりするリスクもあります。

この記事で紹介した、スマートロックやクラウド型勤怠管理システムは、こうしたリスクを低減する上での助けになります。どこかで“昔ながら”の勤怠管理に見切りをつけて、見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

以上(2025年2月更新)

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【2025年版】DX戦略の現在地。他社はどこまで進んでいる?〜経営者200人アンケート

1 2025年を御社のDX元年に!

デジタル技術を駆使して、ビジネスに大きな変革をもたらす取り組み「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。言葉自体はすっかり身近になりましたが、各社の取り組みはどこまで進んでいるでしょうか? この記事では独自アンケートから「DXの現在地」を探っていきます。

仮にDXのレベルを次の5段階に分けたとします。もし御社がレベル1やレベル2に相当するのなら、2025年の目標として「レベル3まで達成すること」を掲げてみてはいかがでしょうか?

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

では、早速、アンケートの結果を見ていきましょう。最後に相談機関なども示していますので、具体的なアクションにつなげてください!

なお、アンケートは2025年1月にインターネットで行い、経営者211人から回答を得ました。

2 DXの現在地。他社はどこまで進んでいる?

1)DXに前向きな企業は約4割

211人全員に、DXの取り組み状況を聞きました。

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44.1%が「着手する予定はない」と回答している一方で、39.4%がDXの取り組みに対して前向きであることがうかがえます。

2)DXに取り組むきっかけは「経営者自身の思い」が一番

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した98人に、DXに取り組むきっかけを聞きました。

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「経営者自身が取り組みたいと感じているため」が最も多く、さらに「法律などの規制・制度変更に対応するため」「金融機関や税理士などから提案されたため」などが続きます。

3)DXで実現したいことは「書類やデータのスムーズな共有」など

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した98人に、DXで実現したいことを聞きました。

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「書類やデータをスムーズに共有したい」「コストを削減したい」「作業時間を短縮したい」という回答が特に多くなっています。人材不足解消や在庫・受発注の管理の見直しよりも、まずは足元の業務効率化を目標に据えたいという企業が多いようです。

4)全社的に「文書の電子化・ペーパーレス化」が進んでいます

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」と回答した53人に、部門ごとのDXの取り組み状況について聞きました。

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部門ごとの特徴は次の通りです。

  • 全社:「文書の電子化・ペーパーレス化」「オンライン会議ツールの導入」「グループウェア・チャットツールの導入」は、部門をまたいで全社的に取り組まれている
  • 総務(経理・人事)部門:「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」と回答した人がおらず、何かしらのDXに取り組んでいる
  • 営業部門:「オンライン会議ツールの導入」「グループウェア・チャットツールの導入」の割合が高く、コミュニケーションツールにDXが導入されていることがうかがえる
  • 生産、物流部門:「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」の割合が他の2部門よりも高く、他の2部門と比較してDXの推進が難しいことがうかがえる

裏を返せば、事業に直接関わらない総務(経理・人事)部門などのバックオフィス系はDXに取り組みやすい部門といえます。もし、これからDXに取り組むことを検討している場合には、まずは総務(経理・人事)部門のDXに目を向けてみるとよいでしょう。

5)DXの成果は「足元の業務効率化」

1)でDXに「着手しており、成果が出ている」と回答した31人に、DXによる具体的な成果について聞きました。

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「売り上げを倍増できた」「新規商品、サービスを開発した」といった本業に直接関わるような成果はまだ少ないものの、「書籍やデータの共有がスムーズになった」「作業時間が短縮できた」といった足元の業務効率化を実現した企業が多くを占めています。

6)1番に取り組みたいのは「文書の電子化・ペーパーレス化」

1)でDXに「これから着手する予定である」と回答した45人に、部門ごとに取り組みたいDXについて聞きました。

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部門を問わず、「文書の電子化・ペーパーレス化」に取り組みたいという回答が多いです。

7)DX推進の課題は「コスト」と「人材確保」

1)でDXに「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した67人に、DX推進に当たっての課題を聞きました。

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「ツールやシステムを導入するコストを掛けられない」が最も多く、さらに「社内にデジタル人材がいない」が続きます。

8)DXを進めるには、目標をはっきりさせること

1)でDXの取組状況について「分からない/答えたくない」以外の回答をした191人に、今後のDX推進に必要なものを聞きました。

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「低コストで導入できるデジタルツール」や「助成金制度などの外部機関による支援」もDX推進のためには大切ですが、まずはDXに取り組む目的や戦略を明確にする必要があります。DXにこれから取り組む場合には、図表3「DXで実現したいことについて」の回答も参考に、DXに取り組むことで何を実現したいかを明確にして、社員にも共有させるとよいでしょう。

3 総括:各社のDXの現在地は?

ここまでの質問を踏まえて、冒頭で紹介したDXの5段階のレベルについて聞いたアンケートの結果は次の通りです。なお、5段階のレベルの定義は次の通りです。

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

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冒頭の繰り返しにはなりますが、これからDXに取り組もうとする際には、今回のアンケート結果を参考に、

2025年のうちに他社に後れを取らないレベルになること

を意識してみましょう。

4 (参考)DXに関する助成金制度や認定機関の紹介

ここでは、DXに関する助成金制度や認定機関などの情報をまとめました。これからDXに取り組む際に、ぜひ参考にしてみてください。

1)DXに関する情報収集や人材育成に活用できるウェブサイト

1.独立行政法人情報処理推進機構(IPA):DX SQUARE

DXに関する情報を発信するウェブサイトです。DXの基礎知識や用語集をはじめ、他社のDX推進事例やDX推進に役立つツールなどを紹介しています。

■DX SQUARE■
https://dx.ipa.go.jp/

2.IPA:マナビDX

デジタルスキルに関する学習コンテンツを紹介するウェブサイトです。DXの基礎的な講座をはじめ、社員のキャリアアップや企業研修に活用できる講座の情報をまとめています。

■マナビDX■
https://manabi-dx.ipa.go.jp/

3.中小企業基盤整備機構:ここからアプリ

中小企業がDX推進に関して、導入しやすい業務用アプリを紹介するウェブサイトです。アプリの概要だけでなく、実際の企業による導入事例なども紹介しています。

■ここからアプリ■
https://ittools.smrj.go.jp/

2)DXに関する認定制度

1.IPA:DX認定制度

2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づく認定制度です。企業からの申請に基づき、優良な取り組みを行う事業者を経済産業省が認定するものです。

この制度に認定されることで、DX認定制度のロゴマークを利用し自社PRができるだけでなく、DX実現に必要なデジタル関連投資に対して税額控除、もしくは特別償却を受けることができるなどのメリットがあります。

■DX認定制度■
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html?utm_source=dxsquare

2.経済産業省:DXセレクション

中堅・中小企業などのモデルケースとなる優良事例を「DXセレクション」として紹介する取り組みです。優良事例を選定・公表することで、地域内や業種内での横展開をはじめ、中堅・中小企業などにおけるDXの推進や取り組みの活性化につなげていくことを目的としています。

■DXセレクション■
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

以上(2025年2月更新)

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画像:TarikVision-Adobe Stock

【入社1年目の教科書】議事録は「事前準備」でスピーディーに作成する!

書いてあること

  • 主な読者:議事録をうまく取ることができずに困っている新入社員
  • 課題:会議などの内容についていけない。そもそも、どうまとめたらよいのか分からない
  • 解決策:議事録は速記ではない。フォーマットを決めて、事前にポイントを絞ることが大切。AIなどツールを活用するときも頭の整理は必要

新しい事業の検討が始まり、今日の会議はとても盛り上がっている。良いことだけど、議事録が問題なんだよな。みんな早口だし、初めて聞く言葉もあってメモすら追いつかない。「ちょっと待ってください!」と話を止める勇気もないし。あぁ~、こんなことならスマホで録音しておけばよかったかな……。あ、AIを使うっていう手もあるかな、上手く使えるかな……

1 議事録は速記ではありません。AIなどツールの活用も検討を

皆さんは議事録と聞いて「速記」をイメージしていませんか。つまり、会議の進行と同時に会話をまとめていくイメージです。しかし、これは無理です。速記は、速記のプロが速記文字という特殊な記号を使ってまとめており、皆さんが普通に書いたり、入力したりしても議論のスピードに追いつけるわけがないのです。

発想を転換しましょう。議事録に必要なのは速記の技術ではありません。皆さんがすべきことは、

事前準備と速やかな確認

なのです。事前準備とは、

  1. フォーマットを決めておく
  2. アジェンダ(議事録のフォーマットを使う)を事前共有する
  3. ChatGPTや音声AIなど、議事録の要約・作成に活用できそうなツールを確認しておく

ことです。

また、会議中は議論が紛糾することがありますし、発言の意図が分からないこともあります。こうした点は、会議が終わった後に先輩に確認すればよいことです。会議中に全て理解できれば理想ですが、これはまだ先のことなので、焦らなくて大丈夫です。

今は、ChatGPTや音声AIなど、議事録の要約・作成に活用できるツールがあり、それらを活用すれば作業時間はかなり短縮できます。ただし、ツールを使っても、さまざまな人が次々に発言する会議の内容を、すべて正しく要約・議事録作成できるとは限りません。AIなどで作成した議事録であっても、やはり最後は人が確認したほうがいいでしょう。

AIなどを活用した後に最終確認をする際は、ある程度、自分の頭の中で会議の内容が整理できていることが望ましいです。次章からお伝えする「議事録の作法」、例えば、時系列に整理する、事実と意見を分ける、次のアクションを具体的に示すといったことを覚えておくと、頭の整理に役立ちます。

2 これだけは覚えたい議事録の6つの作法

議事録に限ったことではなく、ビジネス文書にはセオリーがあります。まずは次の6つのセオリーを押さえてください。議事録に記載すべき情報の整理に迷ったら、この6つを参考にすれば大丈夫です!

  1. シンプルに、抜け漏れなくまとめる。大事なことは繰り返してよい
  2. 話題は大きいところから小さいところへ
  3. 過去・現在・未来を基本に、時系列を分かりやすく
  4. 事実と意見を分ける
  5. 決定事項と継続議論の事項を分ける
  6. 次の具体的なアクションを示す

3 フォーマットを決めておく

1)必ず記載する事項

議事録には必ず次の事項を記載するので、フォーマットの中に入れておきましょう。このフォーマットは、AIなどのツールを使う際にも、どのようなう項目でアウトプットしてもらうかを設定したいときなどに役立ちます。

  • 日時:yyyymmdd 10:00~11:00
  • 場所:A社の本社、オンライン
  • 出席(欠席)者:A社課長○○さん、□□さん。B社部長△△さん、××さん
  • テーマ:新しい展示会に関する業務提携について
  • 資料(資料などのリンク):A社企画書(資料名)
  • 内容:課題、決定事項、懸案事項、次回のアクションなど
  • 次の開催日:yyyymmdd 10:00~11:00 ※以降、定例化を検討

2)議事録の形式

議事録には、ポイント形式と会話形式とがあります。一般的なのはポイント形式です。

1.ポイント形式

ポイント形式とは、会議で話し合ったポイントをまとめるものです。内容には次のようなものになります。

  • 決定したこと:会議で決まったこと。「○○を共同制作する」
  • 具体的なアクション:次にすべきこと。「A社は企画書を改訂、B社は基本契約を準備」
  • 継続して議論すること:次回の会議に持ち越すこと。「A社とB社の費用の負担割合」
  • 議論のポイント:決定や継続議論に至った経緯

具体的なアクションは文字通り、具体的であるほどよいです。大切なのは、日時を指定することと、A社ではなく「××さん」と具体的な人まで示したほうが望ましいです。また、議論のポイントでは、特に共有したいことを記載します。何を記載するかの判断は難しいと思いますので、最初のうちは先輩に確認しましょう。

2.会話形式

会話形式とは、発言の内容をそのままの流れでまとめるものです。

  • A社 X課長「新しい企画があります。ぜひ、御社と提携して進めていきたいです」
  • B社 Y部長「ありがとうございます。具体的にどのような企画ですか?」
  • A社 X課長「これまでにない展示会の形式でして……」

先輩から「議事録を取って!」と言われたときに新入社員の皆さんが作りがちなのは、この会話形式です。ただ、会話形式は録音などを確認しながらでないと作れないので時間がかかります。それに、議事録が長くなり、ポイントが分かりにくくなるなどの問題があります。会社のフォーマットが会話形式でない限り、ポイント形式を採用したほうがよいです。

会話形式は、トラブル解消についての議論や何らかの謝罪など、「誰が、何と発言したか」を時系列でまとめることが必須の場合に採用します。

3)ファイル形式やファイル名のルール

会議の議事録は関係者にメールなどで共有します。その都度、ファイル形式やファイル名が違っていたら不便なのでルールを決めましょう。

ファイル形式は「.docx(Microsoft Word)」「.txt(テキスト)」などが一般的です。議事録はシンプルに情報がまとまっていることが理想なので、デザインなどにそれほどこだわらなくてよいでしょう。それよりも会議が終わってから議事録を展開するまでのスピードが大事です。

ファイル名は、例えば、

「展示会の企画-yyyymmdd.docx」「yyyymmdd-展示会の企画.docx」

などとします。テーマを優先したいのか、日付を優先したいのかによって工夫します。

議事録は、メールやクラウド上のドライブで共有します。もしメールで共有する場合は、ファイル名を件名にすると、後でメールが検索しやすくなります。例えば、

メールの件名:【議事録】展示会の企画-yyyymmdd

といった具合です。また、クラウド上のドライブで共有する場合は共有範囲に注意しましょう。間違えると、共有してはならないファイルまで共有されてしまいます。

4 アジェンダ(議事録のフォーマットを使う)の事前共有

会議の方向性をある程度コントロールするために、

アジェンダを事前共有

しましょう。アジェンダにポイントをまとめておき、それに沿って会議を進めていくと進行がスムーズで、議事録も取りやすくなります。定期的に会議がある場合などは、会議の最後に次回のアジェンダを皆に共有しておき、会議終了後すぐにテキストで全員に送るという方法もいいでしょう。

アジェンダは、そのテーマについて過去・現在・未来がある程度分かっていなければ作れません。きちんとアジェンダが作れるようになったら一人前です!

5 録音・録画の確認は最小限に

会議の内容を録音・録画していると、「後から確認できる」と安心してしまい、会議中に議事録の作成に集中できないことがあります。しかし、録音や録画の確認には思った以上に時間がかかります。仮に会議が60分とすると、録音や録画を確認しながら議事録を作るのに最低でも120分はかかるかもしれません。

そこで、AIなどのツールを活用して数分で要約・議事録作成をアウトプットするわけですが、最終的には内容が合っているか確認することになるので、会議に集中して話を聞く、録音・録画を倍速で聞いてみる、といったことは必要になるでしょう。

ですので、スピーディーに議事録を作るには、

  1. アジェンダの事前共有
  2. 会議中にポイントを記載
  3. 会議後の確認(ここで録音や録画を確認する)

といったことを基本とします。録音や録画を確認しても分からないところは、先輩に確認するようにしましょう。

上手くAIなどのツールを活用すれば、議事録作成の時間を短縮できる上に、会議中は話に集中することができます。ツールを使うことで、かえって会議内容を頭の中で整理する訓練になるかもしれません。話の内容が分かってくれば、もっと会議や仕事そのものが面白く感じられるようになるでしょう。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

2025年はアップサイクル元年 環境にやさしい食品製造業が取り組む捨てない経営のすべて

1 アップサイクルで食品ロス削減と収益化の両方を実現

「食品ロス」とは、食べられるのに、売れ残りや食べ残し、賞味期限切れなどの理由で捨てられてしまう食品のことです。企業から排出される「事業系食品ロス」は減少傾向にはありますが、そもそもの量が多く、2022年時点で236万トンもの食品が廃棄されています。

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2022年の状況では、事業系食品ロスの約半分を食品製造業が占めています。製造の過程で出荷先の基準に合わない規格外品ができたり、顧客からの返品や売れ残りが発生したりするのが日常茶飯事で、どの企業も頭を抱えています。

この記事では、そんな食品製造業の方に「アップサイクル」という取り組みをご提案します。

アップサイクルとは、リサイクルのように元の素材に戻すのではなく、例えばお菓子にしたり、畳の原料にしたりと、付加価値を与えて別の製品として再生させること

です。単に食品ロスという“マイナス”を減らすだけで終わらず、別の製品として売り出すことで、企業にとっての“プラス“に変えていくアプローチです。

特に、今年(2025年)は、「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」が施行され、

廃棄物の再資源化や回収・運搬の規制が緩和される予定なので、これから食品アップサイクルに取り組みたい企業にとっては大きなチャンス

になります。

以降で、食品ロス削減と、新しい収益を確保する一策となる、食品アップサイクルの具体的な取り組み事例をポジショニングマップ付きで紹介します。食品製造業が押さえておきたい法規制、自治体による食品アップサイクルへの支援策にも触れているので、ぜひご確認ください。

2 食品アップサイクルのイメージ

一口に食品アップサイクルといっても方法はさまざまですが、パターンとしては「自社で出た廃棄食材をアップサイクルするケース(内部調達)」と「他社から廃棄食材を仕入れてアップサイクルするケース(外部調達)」とに分けられます。

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内部調達の場合、例えば自社で発生した廃棄食材を、加工会社に頼むか自社の工場などで直接加工して別の製品にアップサイクルし、消費者に販売します。外部調達の場合、例えば農家から規格外の野菜を仕入れるなどした上で、加工して販売します。

製品の方向性もさまざまで、「食品としてアップサイクルするケース(例:規格外品の野菜を長期保存が可能な野菜シートや野菜チップスなどに加工する)」もあれば、「非食品としてアップサイクルするケース(例:茶殻(お茶を急須で入れた後や、ティーバッグの中に残ったお茶の葉)を畳や壁材などの原料に使う)」もあります。

3 食品アップサイクルの具体的な取り組み事例

ここからは、食品アップサイクルに取り組む企業の事例を紹介します。図表3は、ご紹介する事例のポジショニングを「1.アップサイクル製品の原料(製造副産物)の出所が自社か他社か」「2.アップサイクル製品が食品か非食品か」の2軸で整理したものです。

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1)食品にアップサイクル×原料を外部調達

1.アイル:野菜シート「VEGHEET」

アイル(長崎県平戸市)では、規格外野菜をシート状に加工したVEGHEET(ベジート)を手掛けています。VEGHEETは、原材料に野菜と寒天のみを使用し、アレルゲンフリーとなっています。また、常温で2年間(備蓄用は5年間)保存可能で、軽くて、薄く、保管しやすいため、自治体の防災備蓄品に採用された実績もあります。

また、原料となる規格外の野菜は農家から定価で買い上げており、農家の収入支援や過疎地域の雇用支援にも貢献しています。

■VEGHEET■
https://www.vegheet.jp

2.ASTRA FOOD PLAN:ぐるりこ®

RASTRA FOOD PLAN(埼玉県富士見市)では、野菜の不可食部分などの端材や規格外、余剰農作物、飲料残渣(ざんさ)などを過熱蒸煎機(食品を乾燥・殺菌する装置)にかけて粉末状にしたパウダーの「ぐるりこ®」を手掛けています。

かくれ食品ロス(注)の削減を目標に、野菜の端材などが発生している食品製造業の工場への「過熱蒸煎機」導入によって、食品工場から同社工場へ冷蔵・冷凍輸送する時のCO2排出や物流コスト削減にも取り組むとしています。

(注)食品工場で発生する野菜の端材や、産地で発生する規格外農作物など「食品ロス」には含まれない食品廃棄を指します。

■ASTRA FOOD PLAN■
https://www.astra-fp.com

3.オイシックス・ラ・大地:野菜端材のチップスなど

オイシックス・ラ・大地(東京都品川区)では、「Upcycle by Oisix」というブランドで「りんごの芯チップス」「梅酒から生まれたしっとりドライフルーツ」など、未活用だった食材をアップサイクルした食品を手掛けています。これらの食品販売によって、食品ロスの削減を約132トン達成できたとしています(2021年7月8日~2024年11月28日までの商品流通総量より算出)。

また、「Oisixサステナブルマーケット」という販売コーナーを設け、ふぞろい、余ったり捨てられたりする端材、災害や急な出荷停止で販売不可となったなどの理由で未活用となっている食材と、その食材を活用したミールキットの「Kit Oisix」などを販売しています。

■オイシックス・ラ・大地■
https://www.oisixradaichi.co.jp

4.Beer the First:パンや麺類、災害備蓄食品から作ったクラフトビール

Beer the First(神奈川県横浜市)では、廃棄予定のパンや麺類、災害時備蓄品などを原料にしたクラフトビールを手掛けています。事業系の食品ロスでパンや麺類などの炭水化物の割合が高いことに着目し、それらを原料にしたクラフトビールへのアップサイクルに取り組んでいます(麦芽比率の都合上、品目は発泡酒に分類されています)。

クラフトビールの実績として、三菱地所が保有するビルの災害備蓄食品(乾パンやアルファ米)を原料として、丸の内の地産地消を目指す「Loop Marunouchi」や、成田空港JAL国際線ラウンジのご飯をアップサイクルした「Japan Arigato Lager」などがあります。

■Beer the First■
https://beerthefirst.com

5.アサヒユウアス:クラフトビールなど

アサヒユウアス(東京都墨田区)では、廃棄物や規格外品を原料にしたクラフトビールなどの製造を手掛けています。取り組みには、次のようなものがあります。

  • まっちゃれんじ:クラフトビール醸造所と提携し、規格外の抹茶をクラフトビールにアップサイクル
  • 社食de MyBEERプロジェクト:社員食堂で余ったご飯をクラフトビールにアップサイクルして納品
  • CACAOMOIプロジェクト:カカオハスク(チョコレートの生産過程で廃棄されるカカオ豆の外皮)をクラフトビールにアップサイクル

また、食品に限らず、未利用の間伐材を使用したタンブラーなども商品展開しています。

■アサヒユウアス「サステナブルクラフト」■
https://www.asahi-youus.com/products/sustainablecraft/

2)食品にアップサイクル×原料を内部調達

モスフードサービス:Stand by Mos

モスフードサービス(東京都品川区)では、規格外などの理由から廃棄される野菜や果物を原料にしたドリンクを販売するドリンクスタンド「Stand by Mos」(スタンドバイモス)を東武東上線池袋駅の改札内で展開しています。

味や風味に問題はないものの、傷が付いていたり、サイズが必要な基準を満たさなかったりするといった理由から、通常ならば廃棄されるはずの野菜や果物を原料にすることで、食品ロス削減をはじめ、生産者への支援、成人1日あたりの野菜摂取量の目標達成に貢献しています。

■モスフードサービス「Stand by Mos」■
https://www.mos.jp/standbymos/

3)非食品にアップサイクル×原料を外部調達

1.appcycle:りんごを原料にしたレザー製品

appcycle(青森県青森市)では、青森県産のりんご残渣(ざんさ)を原料に使用した合成皮革の「RINGO-TEX」を手掛けています。りんごの食品ロス解決につながることももちろんですが、加工や廃棄時のCO2排出量が本革や一般的な合成皮革よりも抑えられる、一般的な合成皮革よりも石油由来のポリウレタンの使用量が少ないといった利点もあります。

■appcycle■
https://appcycle.jp

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2.fabula:野菜の端材を素材にアップサイクル

fabula(東京都大田区)では、規格外の野菜や加工時に出る端材などの食品廃棄物を原料にした素材開発に取り組んでいます。原料となる廃棄物はコーヒーかす、みかんなどのかんきつ系の皮、白菜などがありますが、原料由来の色や香りが風合いに出ることが特徴です。これまでにコースター、お椀、タイルなどの雑貨類が実用化されています。

また、白菜の廃棄物で作った素材は、コンクリートの約4倍の曲げ強度(材質が折れ曲がるまでの強さ)があるとされており、建材としての実用化も期待されています。

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■fabula■
https://fabulajp.com

3.ファーメンステーション:化粧品などの原料

ファーメンステーション(東京都墨田区)では、規格外などの理由で廃棄される野菜や果物を酵素や微生物による発酵技術で化粧品や食品などの原料にアップサイクルしています。

商品開発の例として、高知県から提供されたゆずのさのう(加工過程で廃棄される、果実の中心にある白い袋状の部分)から保湿成分の「ゆずのさのうエキス」を開発し、この成分がポーラ(東京都品川区)のボディーソープに採用された実績があります。

また、食品向けには、かんきつの皮をアルコールにアップサイクルし、宝酒造(京都府京都市)が販売するチューハイ飲料に採用されています。

■ファーメンステーション■
https://fermenstation.co.jp

4)非食品にアップサイクル×原料を内部調達

1.伊藤園:茶殻アップサイクル製品

伊藤園(東京都渋谷区)では、お茶の飲料を生産する際に発生する茶殻のアップサイクルに取り組んでいます。

茶殻はお茶の匂いやカテキン・テアニンなどの有効成分が残っており、これらの成分による抗菌性や消臭性などの効果があります。

この特徴を活かして、名刺や封筒などの紙製品から、畳や壁材などの建材、インソールやプラモデルなどの雑貨まで、幅広い製品を開発しています。

■伊藤園「茶殻リサイクルシステム」■
https://www.itoen.co.jp/ochagara_recycle/index.html

2.ニチレイフーズ:除菌ウエットティッシュ

ニチレイフーズ(東京都中央区)では、焼きおにぎりの製造時にラインからこぼれたものや、形が崩れてしまった規格外のおにぎり(ご飯)からファーメンステーション(3)3.を参照)が発酵・蒸留させて生成したエタノールを除菌ウエットティッシュとしてアップサイクルしています。

また、アップサイクルの第二弾として、規格外の今川焼(あずきあん)を丸ごと発酵・蒸留させて生成したエタノールが原料となったウエットティッシュもあります。

同社はコールドチェーン(冷蔵や冷凍の温度を保ったまま、生産地から食卓まで流通させる仕組み)に強みがあり、長期保存や出荷の調整などのときにも食品を傷めず品質を保持することで、食品ロス削減に貢献しています。

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■ニチレイ「食品ロス研究所」■
https://www.nichirei.co.jp/food_loss/

4 食品製造業が押さえておきたい法規制

1)資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(2025年施行)

脱炭素化、再生資源の確保といった資源循環を促進するための法律です。

食品関連では、2030年度までに食品ロスを2020年度比で半減させることを目標としています。また、廃棄物処理に関する特例も設けられています。例えば、AIを活用した廃棄物の選別など、高度な技術を活用したリサイクル計画として、事業者が資源循環のための事業計画を提出し、環境大臣の認定を受けることで、廃棄物処理法上の許可を受けなくても、廃棄物処理施設を設置できるようになるといった特例があります。

そのため、これまでは外部の処理業者に食品廃棄物の処理を委託していたものを自社で処理ができるようになり、食品廃棄物の再資源化が進むといった可能性が想定されます。
また、環境省の資源循環に向けた取り組みとして、「デコ活(二酸化炭素を減らす脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む”デコ“と活動・生活を組み合わせた言葉)」の中でも、食品ロス削減の推進が掲げられています。

2)食品ロスの削減の推進に関する法律

食品ロスの削減に関して、国、地方公共団体などの責務や施策の基本となる事項を定めた法律です。食品関連事業者に対しては、国や地方公共団体が行う食品ロスの削減に関する施策に協力することを求めています。また、食品関連事業者が取り組む食品ロスの削減に対して、国や地方公共団体が必要な支援を行うことも定めています。

支援策としては、規格外や未利用の農林水産物の活用(加工・販売など)の促進、季節商品の需要に見合った販売推進などが挙げられます。

3)廃棄物の処理及び清掃に関する法律

廃棄物の処理や保管、運搬、処分などに関するルールを定めた法律です。食品関連事業者に対しては、食品リサイクル法での廃棄物処理について、次の特例措置があります。

  • 大臣登録を受けた再生利用事業者の事業場に持ち込む場合は、荷卸し地の許可を不要とする
  • 大臣認定を受けた再生利用事業計画の範囲内においては、収集運搬に係る許可を不要とする

4)食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)

食品廃棄物の減少と、飼料や肥料などの原料として食品廃棄物を再生利用することを目的に、食品循環資源の再生利用などを進めるための法律です。

食品製造業、食品小売業、食品卸売業、外食産業などの事業者ごとに、食品再生利用の目標値を定めています。2019年7月12日に公表された「食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針」では、2024年度までに、食品製造業は95%、食品卸売業は75%、食品小売業は60%、外食産業は50%の再生利用等実施率を達成する目標が定められています。

5)環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(みどりの食料システム法)

農林漁業者に対して、化学農薬・化学肥料の使用低減、または温室効果ガスの排出量の削減などを求める法律です。

食品ロスの削減に直接関係する法律ではありませんが、食品廃棄物のリサイクルに当たっては、残留農薬や環境への負担が少ない方が再活用の幅が広く見込めるため、この法律の促進は食品廃棄物のリサイクルにも良い影響があると言えるでしょう。

以上(2025年2月作成)

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