イベントレポート 徳島県産品試食・商談会 in 渋谷エクセルホテル東急

2025年3月17日(月)、渋谷エクセルホテル東急にて、徳島県産業国際化支援機構主催の

徳島県産品試食・商談会

が開催されました!

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当日は、自慢の品を持ち寄った地元企業27社が大集合。試食コーナーも数多く設けられ、会場では来場者の「美味しい!」という声が、次々に聞こえてきました。

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また、食品以外にも特産の「藍」を利用したアクセサリーや足袋、椿・柑橘類を利用したエッセンシャルオイルなどを製造する企業も出展していました。徳島県産品の、想像以上の幅広さが発揮されています。

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今回、本商談会の主催である徳島県産業国際化支援機構 販路開拓・海外進出課(当時)の大野祥子(おおの しょうこ)さんと、企画・運営を担当した東急メディア・コミュニケーションズ 企画開発本部(東京都渋谷区)の星野ゆり(ほしの ゆり)さんに、イベントにかけた想いについてお伺いしました。

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徳島県の農林水産物を使用した加工品はとても質が良く、ずっとそれを皆さまに知って欲しかったんです。この商談会を開催することで、生産者の方々とバイヤーの方々が直接意見を交換し、徳島県産品が更に高みを目指して進化していくことにも期待しています。(大野さん)

我々にとっても、「商談会」の実施は初の試みでした。渋谷という地で徳島県産品をPRすることができ、また、徳島県産業国際化支援機構さんと綿密に話し合い、協力し合って無事に商談会の開催に至ったことを、とても嬉しく思います。(星野さん)

お二人のインタビューの内容をまとめた動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


取材陣も県産品を試食させていただいたり、生産者の方々のお話をお聞きしたりする中で、徳島県産品に秘められた魅力と、その確かな品質を存分に感じることができました。

徳島県産品の可能性は無限大! とくさくnaviは今後も、進化し続ける県産品に注目していきます。

以上(2025年5月作成)

【労災の落とし穴(建設業)】 靴ひもが原因でけがしたら自己責任?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「安全靴のひもをしっかり結ばずけがをした社員に対し、『本人のミスなので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 業務中にけがをしたのに、労災保険を使えないどころか始末書まで書くはめに……

社員数5人の小さな型枠工事会社に勤めるCさん。ある日、Cさんは安全靴のひもをしっかり結ばずに作業していたため、足元がもつれて転倒。足首をひねってしまい、数日の休業を要するけがを負いました。

現場を見ていた社長は、「ちゃんと安全靴を履かないで作業したから転んだんだろう? それなら自己責任だ。労災は適用できないし、始末書も書いてもらう」とCさんに告げます。Cさんも自分の不注意だと感じていたので、健康保険を使って治療することにしました。

2 「本人のミスかどうか」は労災認定には関係ない

労災認定の基準は「事故が会社の支配・管理下で発生したか(業務遂行性)」「事故と業務との間に因果関係があるか(業務起因性)」です。

事故が「本人のミスによるものかどうか」は労災認定には関係ない

ので、「自己責任だから労災申請しなくていい」という言い分は通用しません。

社員が安全に働けるよう指示・教育・環境整備をするのは、安全配慮義務の一環です。Cさんのケースの場合、社長が日ごろから「安全靴の正しい着用」を徹底させていたかどうかで、安全配慮義務を果たしたといえるかどうかの判断が変わってくるでしょう。

なお、このケースでは、社長がCさんに始末書を書かせようとしていますが、これ自体は違法ではありません。社員が明らかに規則違反(例:ヘルメットや安全帯の未着用、安全靴を履いていない等)を繰り返す場合、会社は懲戒処分を検討することが可能です。ただし、

懲戒処分事由に該当するからといって、労災保険を使わせないのは違法

です。

3 安全衛生教育を徹底する

社員が「故意に事故を起こした」「私的な用事をしていて事故に遭った」などの特殊なケースでなければ、業務中に起きたけがは、基本的に労災になるので労災保険を使うことを徹底しましょう。

また、安全衛生教育の実施体制も見直しましょう。Cさんのケースの場合、「作業前に安全靴の靴ひもを確認すること!」などの張り紙をした上で、社長や管理職からも口頭で指導する体制を整える必要があるでしょう。なお、社員にも自身の健康を守り、安全に働けるよう努力する「自己保健義務」があるので、安全管理を徹底させるためにも、社内規程(就業規則本則や安全衛生管理規程)で、

  • 社員には作業前に安全靴などを正しく着用する義務があること
  • 着用義務に違反し、注意・指導をしても改善しない場合、懲戒処分の対象とすること

などを定めておくとよいでしょう。なお、懲戒処分事由を社内規程に定めていない場合、社員に懲戒処分を科すことはできないので注意が必要です。

以上(2025年6月作成)

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画像:ChatGPT

これがないと危ない! 休職トラブルを防ぐ就業規則6つの鉄則

1 休職をめぐるトラブルは就業規則で回避する

社員が「休職(私傷病休職)」するのは、仕事以外の理由でケガをしたり、病気になったりしたことによって欠勤し、その欠勤が一定期間以上に及んだ場合です。

休職制度は、労働基準法や労働契約法などの法律で規制されているわけではないため、休職期間や復職の可否などをめぐってトラブルが生じます。

こうしたトラブルを避けるためには、就業規則に、

  1. 休職の対象
  2. 休職命令の発令のタイミング
  3. 休職期間
  4. 休職期間中の賃金
  5. 休職期間中の勤続年数の算定
  6. 復職の可否の判断

の6つについて定めることが非常に有益です。

以下では、私傷病休職を前提に、上記の6点につき、どのような点がポイントになるのか、それぞれ具体的に確認していきます。

2 休職の対象

休職制度は、社員の長期雇用を前提とするため、

適用対象は契約期間に定めのない正社員(試用期間中の社員は除く)に限定

されていることが多いですが、

短時間労働者(パートタイマー)であっても無期雇用の場合は、正社員と同様、休職制度を適用

しなければ、正社員との間で不合理な待遇差を設けるものとして、パートタイム・有期雇用労働法に違反する恐れがあります。

一方、有期雇用の場合は、その契約期間が長期間に及ぶものでなければ、適用対象にしなくても、正社員との間で不合理な待遇差を設けるものではないと考えられますが、契約期間の満了までという条件で休職を認めるケースもあります。

最近の同一労働同一賃金に関する裁判例の傾向として、

長期間雇用されている短時間労働者(パートタイマー)や有期雇用労働者に関しては、正社員と同じく休職制度の適用対象としなければ、待遇差が不合理であると判断される

可能性もあるので、休職の適用対象については、慎重に検討する必要があります。

3 休職命令の発令のタイミング

一般に、休職命令は、

  1. 欠勤が一定期間(1カ月など)続き、その後も療養のため働けない場合
  2. その他休職を命じる必要があると会社が認めた場合

に発令されます。

1.の場合は、事前に社員から主治医の診断書を提出してもらうなどして、休職が必要か否かを判断した上で、休職命令を発令します。主治医の診断書だけでは不十分な場合には、産業医などにも意見を聴くことが適切です。

2.の場合は、主に早期に社員を休職させなければならない事情がある場合、例えば、重大な傷病等に罹患している場合などが想定されます。

休職期間の起算点をめぐって、社員とトラブルにならないよう、

いつ休職命令を発令したかは、書面やメールなどで必ず記録に残す

ことが重要です。

なお、休職規定の中には、「休職事由が生じた場合には休職とする」といった規定、つまり休職事由が発生した場合には、休職命令を待つことなく当然に休職となると読める規定も見受けられます。

ただ、休職制度は、社員が私傷病によって就労できない状態になった際、一定の療養期間を与え、解雇をできるだけ回避するための制度ですので、回復の見込みがないような場合にまで休職制度を適用する(解雇できなくなる)というのは妥当ではありません。

「休職を命じる場合がある」といった具合に、会社に一定の裁量を持たせる規定にする

のが適切です。

4 休職期間

休職を開始した社員が、一定の休職期間を経過しても復職できない場合、原則として休職期間満了時に退職となります。休職期間は会社によって異なり、3カ月から6カ月程度のところもあれば、2年から3年程度と長期に設定しているところもあります。メンタル不調の社員のように、断続的に欠勤が続くこともあるため、休職命令の発令前の欠勤期間についても休職期間に通算できるような規定を就業規則に定めておくのがよいでしょう。

また、「通算規定制度」も検討すべきです。

通算規定制度とは、復職後、一定期間内に同じまたは類似の傷病で再び休職した場合は、休職期間を通算する制度

のことです。次のような規定を設けると、長期休職が何度も発生することを防げます。

復職した社員が、その後○カ月以内に、同じもしくは類似の傷病により、再度欠勤をした場合、または、通常の労務提供ができなくなった場合は、復職を取り消し、直ちに再休職とする。この場合の休職期間は復職前の休職期間の残期間とする。

なお、この通算規定を新設して、従前よりも休職可能な期間が(実質的に)短縮される場合、労働条件の不利益変更に当たることには留意が必要です。

5 休職期間中の賃金

休職期間中の賃金は、

ノーワーク・ノーペイの原則に従い無給

となるのが原則ですが、その旨を就業規則に定めておくことが大半です。ちなみに、休職期間中、賃金の支払いがない場合、社員は一定の条件を満たすことで健康保険の傷病手当金を受給することが可能です。

社会保険料と住民税については、休職期間中も発生しますが、無給の場合には賃金から控除できません。この場合、次の1.から3.のいずれかの方法で対応することが考えられます。

  1. 社会保険料と住民税の額を社員に伝え、会社指定の口座に入金してもらう
  2. 会社が立て替えておき、復職後の賃金からまとめて控除する(労使協定の締結が必要)
  3. 傷病手当金の受取先を会社にして、社会保険料や住民税を控除した上で社員に支払う

6 休職期間中の勤続年数の算定

社員が休職する場合、

休職期間は勤続年数に含めない

のが一般的です。表彰、賞与、退職金など、会社が勤続年数を基準に評価する制度については、就業規則の規定に矛盾がないかを確認しましょう。また、年次有給休暇の付与日数を計算する際も、休職期間は勤続年数に含めないのが一般的です。

7 復職の可否の判断

復職の可否の判断はデリケートな問題です。通常、休職期間が満了する前に、社員から主治医の診断書を提出してもらって復職の可否を判断しますが、社員の主治医が仕事内容の詳細を把握しているとは限りません。また、うつ病のようなメンタルヘルス疾患の場合、症状が一進一退を繰り返すため、復職の判断が難しいケースも少なくないです。

そのため、社員の主治医だけでなく、必要に応じて会社指定の医療機関にも協力を仰ぎ、復職の可否を慎重に判断できるようにしておくことが適切です。具体的には、次のような規定を就業規則に設けることが考えられます。

  1. 社員は復職に当たり、所定の復職願に社員の主治医による診断書を添えて提出する
  2. 会社は復職の可否を判断するため、社員に会社指定の医療機関での受診を命じることがある
  3. 最終的な復職の可否は会社が判断する

特に、2.については、会社指定の医療機関として産業医の意見を聴くことが重要です。社員の主治医の意見は、会社の業務に精通していない関係で、業務との関係性があまり考慮されないケースが多いのに対し、産業医の意見は、「社員の病状に照らして会社の業務に就けるか」など、実務的な観点から述べられます。

もっとも、上記のように就業規則上のルールを定めていても、社員が主治医や会社指定の医療機関の診断を受けてくれないケースがあります。その場合は、会社としては主治医や会社指定の医療機関の診断を抜きに復職判断をせざるを得ませんが、既に休職中であることから、「回復」が明らかではない以上、復職不可という判断をすることが多いと思われます。

なお、社員が復職直後から休職前と同じように働こうとして再び体調を崩し、そのまま退職してしまうケースが少なくないため、

復職後、当面の間は、労働時間を短縮(時短勤務)するなどして、経過を見ながら徐々に従前の働き方に戻していく

ことが望ましいです。主治医や産業医の意見を聴くことなく、従前の働き方に戻した結果、社員の体調が再び悪化したような場合には、会社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償請求がなされる可能性も考えられます。

そのため、

復職後、会社が必要と認める場合、社員との協議の上、労働条件を変更することがある

旨の規定を就業規則に定めておくとよいでしょう。

以上(2025年5月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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画像:unsplash

【労災の落とし穴(建設業)】 突風は自然現象だけど労災になる?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「社員が突風で足場から転落したのに、『自然現象だから労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 突風で足場から転落したのに、会社は「自然現象だから」の一点張り……

社員数5人のとび・土工・コンクリート工事会社に勤務するBさん。ある日、Bさんは地上3メートルの高さの場所に看板を設置する作業を行っていました。その日は晴天でしたが風が強く、Bさんは作業中、突風にあおられて足場から転落してしまいました。幸い骨折はなく、軽い打撲で済みましたが、医師から「少なくとも1週間程度は作業を休むように」と診断されました。

電話で報告を受けた社長は「突風は自然現象だからなぁ、けがも軽いみたいだし、健康保険で治療してよ」と言いました。Bさんは戸惑いながらも「社長がそう言うなら……」と、健康保険を使って治療することにしました。

2 「自然現象によって事故が発生しやすい事情」があれば、労災になり得る

まず、業務が原因で負傷したり病気になったりした場合、必ず労災保険で対応しなければなりません。

労災なのに健康保険を使うことは違法であり、後に発覚すれば「労災かくし」とみなされ、会社や社長が罰せられる恐れ(50万円以下の罰金)

があります。「軽傷かどうか」は労災認定には関係ないので、会社の裁量で勝手に判断してはいけません。次に、自然現象が労災になるかどうかですが、これについては、

  • 地震、台風など天災地変によって被災した場合は、原則として労災にならない
  • ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情がある場合は、労災と認められる

というルールがあります。Bさんのように、日ごろから高所での作業に従事している社員は、常に「突風によって足場などから転落するリスク」を抱えているため、突風による転落事故は労災になる可能性が高いです。

3 「悪天候なら作業はさせない」が基本

労働安全衛生規則やクレーン等安全規則では、「悪天候時に作業中止等をしなければならない作業」が具体的に示されています。

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Bさんのケースは、「高さが2メートル以上の箇所で行う作業」に該当するため、強風で危険が予想される場合、会社が作業の中止を命じなければなりません。

「悪天候の日は、社員を作業に従事させない」という姿勢が大切

です。また、転落防止のための措置が徹底されているかも併せてチェックしましょう。厚生労働省が足場などからの転落防止のポイントやチェックリストをまとめています。

■厚生労働省「墜落・転落災害等防止対策推進事業(建設業)【厚生労働省委託事業】」(下記URLの「令和元年度用テキスト」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05646.html

以上(2025年6月作成)

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画像:ChatGPT

【分かりやすい原価計算(1)】原価の範囲~赤字覚悟!? どこまでが原価に含まれているの?

1 原価計算は何のためにするもの?

原価計算は、モノやサービスを作るのにいったいどれだけ費用がかかったかを知る手法で、会計などの分野にも必要な考え方です。会計は目的ごとに、

  • 税務会計:納税額を計算
  • 財務会計:株主などに向けて会社の状態や業績などを報告
  • 管理会計:自社の将来の意思決定のための資料

の3つに分かれ、いずれも原価計算が関わってきます。

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税務会計と財務会計では、決算期末の仕掛品などの在庫を決算書に計上するために必要となります。この在庫を基に売上原価が計算され、その後の利益計算が行われていきます。

一方、将来を予測し、将来を変える会計といわれる管理会計でも、原価計算の考え方は重要です。例えば、経営者は「物価高による解約で売上が2割落ちる見込みだが、利益はいったいいくらになるのか」「資金繰りは大丈夫なのか」といったことが心配になります。これらの疑問に答えるのに、自社のモノやサービスにいったいどれくらいお金がかかっているのかが全く分からないというのでは話になりません。原価計算の考え方を通して、将来の活動の方向性を示していくことができるように、会社の体質を把握していかなければなりません。

この会社の体質を、経営者、経理や財務だけでなく、あまり全体の数字には携わっていない営業担当者や製造担当者とも共有しておくことが大事です。各現場で全社として正しい判断ができるようになるでしょう。

書店に行くと、原価計算の体系化された書籍や新しい知識が盛り込まれた書籍が数多くあります。しかし、その中には中小企業の現場では使わない論点も数多くあるように感じます。本シリーズでは、このような膨大な情報の中から、中小企業の経営者や従業員が現場に落とし込むのに必要な情報を抜き出し、紹介していきます。

2 本当に赤字覚悟か? 原価で見るモノやサービスの値段

街中の飲食店で「赤字覚悟!」とうたい、スペシャルメニューの大盛りラーメン、ステーキやお寿司などを提供しているのを見たことがあると思います。お店が赤字になるぐらいギリギリの値段で、お客さんにはとてもお得というような宣伝文句として使われます。

この場合の赤字(その反対は黒字)には、どのような意味があるでしょうか。赤字・黒字というのは、利益のあるなしを示す言葉です。経営では、まず会社のもうけを増やすことを考えます。このもうけ、つまり利益は、

売上−費用=利益

の計算式で表すことができます。この費用の中に、

モノやサービスを作るための「原価」が含まれているのです。

少し身近な例(回転寿司店)で原価の範囲を考えてみましょう。回転寿司のお寿司の原価には何が含まれるかイメージしてみてください。ざっくり次のようなものがイメージできるのではないでしょうか。なお、次章の解説につなげるため、グループ分けしています。

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赤字覚悟と言われると、売上からネタやシャリなど材料費だけを引いたものが赤字スレスレとなっていると感じるかもしれませんが、実際は違います。なぜなら、材料費だけではなく料理人の給料や店舗家賃、電気代などの水道光熱費もかかっているからです。数字の仕事をされている方は、ちょっと立ち止まって、

どこまでの原価を費用に入れて赤字覚悟なのだろうか

と考えてみるのもよいでしょう。

3 決算書から読める原価はどれ?

原価のイメージができたところで、さっそく決算書(損益計算書と製造原価報告書)を見ていきましょう。

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損益計算書の「売上原価」に含まれている項目(製造原価報告書の当期製品製造原価)が、モノやサービスを作るための原価です。なお、製造原価報告書とは、原価を集計し、当期に完成した製品の原価(製造原価)を計算する決算書をいいます。売上原価には、材料費、労務費、外注費、経費といったモノやサービスを作るためにかかった費用が含まれます。図表2でいえば、1から6までが売上原価になります。

また、これ以外に本社の人件費や広告宣伝費といった販売や管理をするための費用として販売費及び一般管理費(以下「販管費」)があります。図表2でいえば、7から10までが販管費になります。

原価計算では、狭い意味での原価としてモノやサービスを作るためにかかった「売上原価」、広い意味での原価として、さらに販売や管理にかかった費用を加えた「売上原価+販管費」と表現します。

損益計算書の営業外収益・営業外費用、特別利益・特別損失は、原価計算の対象にはなりません。これらは、モノやサービスを作るためや販売・管理をするための費用、つまり営業活動にかかる費用ではないからです。

以降では、モノやサービスを作るための直接的な費用である「売上原価」を原価(狭い意味での原価)として説明していきます。

4 原価は3つ+αで構成される

原価は、何のために使った費用かということで、まず材料費、労務費、経費の3つに分類されます。

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さらに、経費の中に含まれる外注費は別枠で把握していきます。外注費というのは、自分の会社ではできないことを、他の会社や人に依頼してやってもらう場合に発生する費用です。自分の会社ではできないというのは、技術がなくてできないケースもあれば、まさに自社の本業だけれども、仕事の依頼が多すぎて人が足りないためできないというケースもあります。

自社のみで仕事を回すほうが、一般的に利益率は高くなります。このため、損益予測をしたり、決算分析で前期比較や予算比較をしたりする場合も、外注費がどれくらいかかっているかというのは重要になってきます。

例えば、建設業で前期よりも売上は20%上がったが、利益率が落ちているというケースで考えてみましょう。経営者は、仕事の効率が落ちてしまっているのかと心配になるかもしれません。そのときに見てもらいたいのは、外注費が多くなっていないかということです。仕事が会社のキャパ(許容範囲)よりも多くなってしまうと、どうしても外注に回す必要があります。外注する場合、自社だけで仕事を回すよりも一般的には利益率は落ちてしまいます。なので、自社で仕事をした分の効率が落ちていなければ、外注に回した仕事が増えたことによって全体の利益率が落ちることは問題ありません。

このように外注費は個別に把握すべき費目といえるので、

原価は材料費、労務費、外注費、経費という区分で考える

ことが大切なのです。

以上(2025年5月更新)

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画像:Shutter z-shutterstock

【朝礼】なぜ、「隣の芝生は青く見える」のか?

【ポイント】

  • 「隣の芝生が青く見える」のは普通で、転職などを考えるのは悪いことではない
  • ただ、私たちは、他人のものや外の環境の良い部分ばかりを見てしまう傾向がある
  • 「自分の芝生に水をやること」「隣の芝生の土をよく観察すること」を意識してみよう

今日は、「隣の芝生は青い」ということわざをテーマに話したいと思います。皆さんもご存じですよね。「他人のものや外の環境のほうが、自分のものや今いる場所より魅力的に見える」という意味です。ビジネスでも、今いる会社よりも、外の世界に魅力を感じ転職を考えるようになるというのはよくある話ですし、これは別に悪いことでもなんでもありません。ただ、なぜ私たちの目には「隣の芝生が青く見える」のでしょうか?

答えはシンプルです。私たちが「他人のものや外の環境の良い部分ばかりを見ているから」です。例えば、SNSには、他人や他社の華やかな投稿がたくさん載っています。もちろん、探せばネガティブな投稿も出てくるでしょうが、多くの人は今、自分がいる環境に慣れてしまっていて、無意識のうちに「自分は今のままでいいのだろうか……」「もっといい道があるのでは?」と考えています。だから、ネガティブな情報よりもポジティブな情報のほうが目に入りやすく、その結果、ますます「自分の環境はイマイチだな……」という思考に陥ってしまうのです。

とはいえ、SNSなどから得られる情報は断片的です。一見華やかな投稿でも、私たちは他人や他社がその陰で、どのような努力や苦労をしているかを知りません。外の世界に魅力を感じて転職するのはよくある話だと言いましたが、いざ新しい会社に入ってみたら「思っていたのと違った」というのもまたよくある話です。そこで、私から皆さんに提案したいことが2つあります。

1つは、「自分の芝生に水をやること」です。もし、少しの努力で今の環境を変えられそうなら、まずは自分のスキルを磨くなどして、どんな変化が訪れるか試してみましょう。意外と自分の芝生を好きになれるかもしれません。もう1つは、「隣の芝生の土をよく観察すること」です。先ほども言いましたが、無意識にポジティブな情報を探しているときは、ネガティブな情報が見えにくくなるものです。ポジディブな情報の陰にある努力や苦労に目を向ける、想像をする癖をつけましょう。

一度きりの人生、たくさんの選択肢の中から自分に合ったものを選ぶことは大切です。だからこそ後悔のない選択を! それでは、今日も一日よろしくお願いします。

以上(2025年5月作成)

pj17217
画像:Mariko Mitsuda

【債権回収】経営者個人から債権回収できる4つのケースとは?

1 経営者からの債権回収は可能か?

取引先に債務不履行があったとき、

会社が払えないなら、経営者から回収をしたい

と考えます。特に相手が中小企業だと、経営者と会社が一体と感じられるので、なおさらです。しかし、原則として会社と経営者は別の法人格であり、会社の債務を経営者個人が負うことはありません。

ただし、経営者が連帯保証人になっている、実質的に株式会社と経営者が一体とみなされるなどのケースでは経営者から債権回収ができます。この記事では、

「経営者個人」から債権回収が可能となる4つのケース

について紹介します。

2 経営者が連帯保証人である場合

1)連帯保証とは

経営者が連帯保証人になっている場合、経営者に弁済を求めることができます。連帯保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っていません。

催告の抗弁権とは、

債権者が主債務者に請求せずに保証人に請求してきた際、まず主債務者に請求するよう求める権利

です。

また、検索の抗弁権とは、

債権者が主債務者に対して請求しても弁済しないので、保証人に請求を求めてきたときに、主債務者に弁済の資力があり、かつ執行が容易であることを証明して、まずは主債務者の財産から執行するよう求める権利

です。

以上から、債務者である会社が債務不履行を起こしたら、すぐに連帯保証人である経営者に弁済を求めることができます。

なお、保証にはいくつかの種類があり、いわゆる「普通保証(単純保証)」でも経営者に弁済を求めることができます。ただ、普通保証の保証人は催告の抗弁権と検索の抗弁権を持っているため、担保というには難があります。

2)支払能力の確認

連帯保証人であっても、その経営者に支払能力がなければどうすることもできません。そこで、経営者が所有していると思われる不動産(自宅、本籍地、別荘など)を不動産登記簿で調査し、次の点を明確にしましょう。そして、保有資産の規模から、支払能力を推測します。

  • どのような土地・建物を所有しているか
  • 抵当権等の担保権が設定されているか
  • 他の債権者による差押がなされていないか

会社が倒産する前後で、連帯保証人が所有不動産について、

  • 所有権を妻子の名義に移転する
  • 所有権移転の仮登記を付する
  • 他の債権者の担保権を設定する

などをして、回収から逃れようとするケースがあります。このような行為があった場合は、「詐害行為取消権」を行使して法的手段に訴えることができます。詐害行為取消権とは、

債権がその行為の前から存在することなどを要件に、債権者が債務者の行為を取り消す権利

です。

不動産以外にも、連帯保証人が「貴金属、書画・骨董、家具などの動産」「株券、債券などの有価証券」「現金、預貯金、ゴルフ会員権」などの資産を所有していることがあるかもしれません。しかし、これらの資産は簡単に隠せるので、正確に把握するのは困難です。

また、連帯保証人である経営者が他の会社の役員などを兼務している場合、その会社が連鎖倒産していなければ、他の会社から受ける報酬なども回収の対象にできることがあります。

3)交渉開始

連帯保証人との交渉では、正面から弁済を求めてもうまくいかないことが多いです。また、前述した通り、連帯保証人が資産を第三者に移転する恐れもあるため、

まずは連帯保証人の資産を仮差押した上で接触するのが好ましい

かもしれません。

仮差押とは、

売掛金債権などの金銭債権を保全するために、取引先の保有している財産を暫定的に差し押さえる制度

です。仮差押をすると交渉が進めやすくなりますが、仮差押をするには、裁判所に担保金を供託したり、必要に応じて弁護士に仮差押手続の申立てを依頼したりする必要があります。一時的にコストがかかるので、慎重に検討しましょう。

4)回収の実際

交渉が進んだとしても、連帯保証人の支払能力には限界があります。税金の滞納があるような場合、一般債権よりも優先されます。そのため、連帯保証人の資産状況によっては、債務の「一部弁済」や「分割弁済」で対応しなければならないケースもあります。分割弁済の場合、口約束でなく契約書を作成することが大切です。

3 実質的に株式会社と経営者個人が同一と認められる場合

相手が株式会社や合同会社の場合、経営者個人は債権者に対して直接の責任は負いません。しかし、「法人格の形骸化」や「法人格の濫用」が認められる場合、「法人格否認の法理」によって責任を追及できることがあります。

法人格の形骸化とは、

法人とは名ばかりであって経営者個人が営業している状態で、株主総会や取締役会を開催していなかったり、財産を混同していたりするなどの場合

です。また、法人格の濫用とは、

法人が株主により意のままに道具として支配されていることに加えて、株主に違法または不当な目的がある場合

です。ただし、経営者は法人格の形骸化や法人格の濫用を認めないことがほとんどで、結局、訴訟などで決着をつけなければならないことが多いです。

なお、法人格否認の法理とは、簡単に言うと、

法人と個人の独立性を確保すると、正義・衡平に反することがある場合に、生じている問題を解決する範囲で、法的に別個の法人格を有する法人と個人とを一体として取り扱う

という考え方です。

4 違法な職務執行により損害を受けた場合

相手の株式会社や合同会社とした取引により損害を被ってしまった場合、その取引を行うに際して、相手の経営者に悪意や重過失が認められる場合には、経営者個人に対して損害賠償責任を追及できることがあります。例えば、

経営者個人の違法な職務執行(粉飾決算、支払い見込みのない調達など)により損害を受けた場合

です。

もう少し具体的にいうと、取引先が組織的に粉飾決算をしていることを知らずに取引してしまい、その結果、債権回収ができずに損害を被ったケースでは、粉飾決算を行った取締役のみならず、粉飾決算を黙認した取締役、監視義務を怠った取締役や、監査上の責任を負う監査役にも個人責任を追及できる場合があります。

粉飾決算までしていた場合、かなりの確信犯なので、経営者は用意周到に夜逃げをするケースもあるでしょう。こうした場合は夜逃げをした経営者を捜すより、他の取締役、監査役の責任追及を検討したほうが早道かもしれません。

5 債務者が合名会社や合資会社である場合

合名会社の社員(出資者)や合資会社の無限責任社員は、会社の債権者に対して無限責任を負います。経営者がこれらに該当する場合は責任を追及できます。

以上(2025年7月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

助成金で「健康経営」を実現! 時間外労働の削減で1520万円?

1 働き方改革推進支援助成金などを活用しよう!

働き方改革やSDGsの観点から、社員の「健康」維持が大きく注目されています。残業を減らす、休暇や休日を増やすなどアプローチはさまざまですが、同時に社内制度や設備の見直しも必要で、それなりにコストがかかります。そこで、ご提案するのが助成金の活用です。例えば、

建設業など特定の業種が時間外労働の削減などに取り組むと、最大1520万円が支給

されるのをご存じですか。これは働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)というものですが、他にも「健康経営」に関する助成金がいくつかあります。以降で、制度概要の紹介と併せて専門家がポイントを説明するので参考にしてください。

なお、助成金の内容は2025年4月28日時点のもので、将来変更される可能性があります。

2 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)(最大1520万円)

1)働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)とは?

建設業、運送業、病院等、砂糖製造業、情報通信業、宿泊業の中小企業が生産性を向上させ、時間外労働の削減などに取り組んだ場合に助成を受けられるというものです。なお、砂糖製造業は、「鹿児島県・沖縄県の事業者のみ」が対象です。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692_00001.html

2)助成金を受け取るには?

中小企業で、申請時点において一定の要件(年5日の年休(年次有給休暇)の取得に向けた就業規則等を整備している、法的要件を満たした36協定を締結し、届け出ている等)を満たしている会社が、次のいずれかの「成果目標」を設定し、成果の達成に向けて「支給対象となる一定の取り組み」を実施する必要があります。

具体的な「成果目標」となるのは次の7つで、1つ以上を選択する必要があります。なかには一部の業種にのみ適用されるものもあります。

  • 36協定の設定時間数の縮減
  • 年休の計画的付与制度の導入
  • 時間単位年休+1つ以上の特別休暇(注1)の導入
  • 勤務間インターバル制度の導入
  • 所定休日の増加(建設業のみ)
  • 「医師の働き方改革の推進(注2)」の実施(病院等のみ)
  • 3直3交代制等の勤務割表の整備(砂糖製造業のみ)

(注1)病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇等が対象です。

(注2)労務管理体制の構築(労務管理責任者の設置等、副業・兼業を行う医師の労務管理体制の整備、労働時間管理に関する研修の実施)、医師の労働時間の実態把握を指します。

次に、「支給対象となる取り組み」は次の9種類です。なお、7.から9.については、原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません(ただし、所定の要件を満たした場合は緩和されます)。

  • 労務管理担当者に対する研修(勤務間インターバル制度に関するもの、業務研修を含む)
  • 社員に対する研修、周知・啓発
  • 外部専門家によるコンサルティング
  • 就業規則・労使協定等の作成・変更
  • 人材確保に向けた取り組み
  • 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  • 労務管理用機器の導入・更新
  • デジタル式運行記録計の導入・更新
  • 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

ここまでの内容を踏まえた上で、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。その後、事業実施計画に沿った取り組みを実施した後、申請期限までに支給申請をすることで助成金を受け取れます。

3)受け取れる金額はいくら?

取り組みの実施に要した経費の一部を成果目標の達成状況に応じて(具体的には図表1の額)受け取れます。なお、指定する従業員について、一定の賃上げを実施することを成果目標に加え、実施を達成した場合、加算が受けられます。

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要件を満たした場合、最大で次の額を受け取れる計算になります。

  • 建設業:1270万円
  • 運送業等:1190万円
  • 病院等:1240万円
  • 砂糖製造業:1520万円
  • 情報通信業、宿泊業:1170万円

4)専門家のワンポイントアドバイス

働き方改革推進支援助成金は全部で4つのコースがありますが、いずれも

2025年度の「交付申請書」の申請期限は、2025年11月28日まで(予算の制約により11月28日以前に締め切られる場合があるので注意)

となっているので、早めに準備を進める必要があります。加えて、時間外労働の削減などの各種取り組みについても、

交付決定後、2026年1月30日までに提出した計画に沿って取り組みを実施した上で、支給申請期限までに都道府県労働局に支給申請をしなければならない

ので、交付申請書の提出時期によっては非常にタイトなスケジュールになるため、余裕を持って計画的にプロジェクトの立案等を進めるようにしてください。

3 働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)(最大1000万円)

1)働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)とは?

事業主団体等(中小企業の団体やその連合団体等で1年以上の活動実績があるもの)が、傘下の構成事業主(社員を雇用する会社)の社員について、労働条件を改善するため、時間外労働の削減や賃上げに向けた取り組みを実施した場合に助成を受けられるというものです。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200273.html

2)助成金を受け取るには?

課題対応の「成果目標」として

事業主団体等が事業実施計画に基づき、時間外労働の削減・賃上げに向けた改善事業の取り組みを行い、構成事業主の2分の1以上にその取り組みまたは取り組み結果を活用

する必要があります。

支給対象となる取り組みは、次の10種類です。いずれも成果目標の達成に向けて実施する必要があります。

  • 市場調査の事業
  • 新ビジネスモデルの開発、実験の事業
  • 材料費、水光熱費、在庫等の費用の低減実験(労働費用を除く)の事業
  • 下請取引適正化への理解促進等、労働時間等の設定改善に向けた取引先との調整の事業
  • 販路の拡大等の実現を図るための展示会開催・出展の事業
  • 好事例の収集、普及啓発の事業
  • セミナーの開催等の事業
  • 巡回指導、相談窓口の設置等の事業
  • 構成事業主が共同で利用する労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新の事業
  • 人材確保に向けた取り組みの事業

ここまでの内容を踏まえた上で、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。その後、事業実施計画に沿った取り組みを実施した後、申請期限までに支給申請をすることで、助成金を受け取れます。

3)受け取れる金額はいくら?

取り組みの実施に要した経費の一部(具体的には図表2の額)を受け取れます。

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要件を満たした場合、最大1000万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

基本的な注意点は、働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)と同じです。ただし、交付決定後の取り組み実施期間は、2026年2月13日までとなります。なお、働き方改革推進支援助成金には、ここで紹介した「業種別課題対応コース」「団体推進コース」の他に、「労働時間短縮・年休促進支援コース」「勤務間インターバル導入コース」があります。

  • (労働時間短縮・年休促進支援コース)年休の計画的付与を導入した場合などにおいて、最大920万円を受け取れる
  • (勤務間インターバル導入コース)事業場の半数超を対象とする勤務間インターバル制度を新たに導入した場合などにおいて、最大840万円を受け取れる

両者については、次のコンテンツで紹介しています。

4 その他の健康経営関連の助成金

1)業務改善助成金(最大600万円)

会社(実際は支店等の事業場単位)が事業場内最低賃金(最も賃金が低い社員の時給)を30円以上引き上げ、生産性を向上させるための設備投資等を行った場合、その費用の一部について助成金を受け取れるというものです。こちらは中小企業・小規模所業者だけが対象です。

■厚生労働省「業務改善助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

助成金の対象になる設備投資等の例として、

  • 設備投資(例:POSレジシステム導入による在庫管理の短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮)
  • コンサルティング(例:専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上)
  • その他(例:店舗改装による配膳時間の短縮)

が挙げられており、これらを導入することで時間外労働の削減などが図れるかもしれません。次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

2)人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)(最大287.5万円)

社員の離職率を低下させるために、

  • 雇用管理制度(賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度、職場活性化制度、健康づくり制度)
  • 雇用環境整備(社員の直接的な作業負担を軽減する機器・設備等の導入・運用)

の措置のいずれかを実施し、離職率が低下した場合に助成金を受け取れるというものです。

■厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html

雇用管理制度の「健康づくり制度」とは、希望者に対する「人間ドック」の実施のことです。 次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

3)両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)(最大90万円)

女性社員が不妊治療と仕事を両立したり、健康課題(月経や更年期)に対応したりするため、休暇制度などを導入し、実際に対象者に利用させた中小企業が助成金を受け取れるというものです。

■厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

具体的には

  • 休暇制度(不妊治療や女性の健康課題に対応するための特別休暇。多様な目的で利用できるものも可)
  • 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度。ただし、利用しても1時間当たりの基本給等の水準の引き下げや雇用形態の変更がされないことが条件)
  • 所定外労働制限(残業免除)、時差出勤制度、フレックスタイム制度、在宅勤務等

などが対象になります。次のコンテンツで申請のポイントなどを紹介しています。

以上(2025年6月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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仕事はできるが態度が悪い社員は会社に残すべきか?

1 優秀だけど問題が多い社員。残すかどうか?

仕事はできるが、短気で口が悪い、上司の命令に従わない、遅刻が多いといった問題の対応は難しいものです。ただの問題社員なら、場合によっては辞めてもらう(解雇する)という選択肢がありますが、相手が会社の中核を担う優秀な社員だと、辞めた後の影響が心配です。とはいえ、優秀だからといって問題社員を放置するわけにはいきません。

このようなケースにどのように対応すべきかについて、次の2つを紹介します。

  • 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
  • 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

2 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する

就業規則には「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」があります。誰が相手でも「服務規律」を厳格に適用することが基本です。その上で、勤務態度が悪い社員には次のような流れで対処します。

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図表のうち、2)については労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への定めが、3)から5)については就業規則への定めが必須です(ただし、1)については特に定めは不要)。

また、5)の「普通解雇」とは、

社員としての適性がない(能力、健康状態、勤務態度などに問題がある)ことを理由とする解雇

です。問題社員に対処する場合、「懲戒解雇」をイメージする人も多いでしょうが、懲戒解雇は原則、横領やハラスメントなど重大な問題行為を対象とした処分なので、単に勤務態度が悪い社員に対して行っても無効となる可能性が高いです。

図表のケースであれば、1)から4)までの行程を経ても社員の勤務態度が改善されなければ、5)の普通解雇は免れないという考え方です。逆に言えば、

1)から4)までの行程で社員が問題行為を起こさない状況をつくれば、解雇する必要はなくなる

ということになります。次章では、「『解雇する前』の段階で手を打って社員を会社に残す」という観点から、図表の各行程のポイントを紹介していきます。

3 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

1)注意:問題行為は必ず注意する。ただし、社員の言い分も聞く

社員の勤務態度に問題があれば、まずはその上司が「君の言動は間違っている。改めなさい」などと注意します。大切なのは、「問題行為を発見したら必ず注意する」という姿勢です。時によって対応がまちまちになると、せっかく注意をしても社員から「今日は、上司の機嫌が悪いから注意されたのかな」などと、軽く受け取られる恐れがあります。

また、注意する際は社員の言い分も聞きます。例えば、仕事の進め方について上司の命令を聞かない社員は、もしかしたら自分のやり方のほうが合理的だと思っているかもしれません。実際にそうならば、

「君のやり方のほうが良さそうだ、今回はそれでやってみよう。ただし、次回から自分の考えを試したい場合は事前に相談してくれ」

と社員の意見を取り入れつつ、相談を怠ったことを注意します。

繰り返し注意しても改善が見られない場合、

「注意書」「指導書」などの形で、どのような注意をしたかを書面で残しておく

と、「言った、言わない」のトラブルになるのを防げます。

2)配置転換など:問題行為を起こしにくく、能力を発揮できる状況をつくる

注意しても社員の勤務態度が改善しなければ、

  • 短気で口が悪い社員は、他の社員と関わらずに1人でできる業務を与える
  • 上司の命令に従わない社員には、思い切って権限を移譲してみる
  • 遅刻が多い社員は、「9時始業、18時終業」などの均一的な労働時間管理が適していない可能性を考え、働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」を適用する

といった具合に、配置転換や労働条件の変更を検討します。社員の勤務態度を改めさせるというよりも、社員が問題行為を起こしにくい状況をつくるイメージです。

ただし、例えば「問題行為は起きにくいが、単純作業しか行わないポジションに就ける」といった配置転換は、場合によってはパワハラ(パワーハラスメント)になる恐れがありますし、優秀な社員を活用し続けたいという会社側の意図にも反します。ですから、

社員が「どうすれば問題行為を起こしにくいか」だけでなく、「どうすれば能力を発揮しやすいか」も考慮した上で、配置転換などを実施することが大切

です。

3)懲戒処分:貢献度に応じて処分を軽減しつつ、警告を忘れない

配置転換などをしても効果がなければ、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分を検討します。懲戒処分は、一般的に次の7種類に分けられます。なお、社員の問題行為に対して重すぎる懲戒処分や、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分は無効になり得ますので注意が必要です。

  • 戒告:厳重注意を言い渡す(懲戒処分として行うので、前述した「注意」とは異なる)
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  • 減給:一定期間、賃金額を下げる
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  • 懲戒解雇:即時に解雇する

一概には言えませんが、単に勤務態度が悪い社員に対して懲戒処分を行う場合、

一般的には「1.戒告」から「3.減給」あたりが妥当(「口が悪い」が行き過ぎてパワハラに当たる指導を繰り返した場合などは、「4.出勤停止」「5.降格」もあり得る)

です。実際は、「当該行為の動機、目的、方法、頻度等の行為態様」「会社に与えた損害や周囲への影響」「社員の過去の処分歴・指導歴や反省態度」「会社側の落ち度」「社員の会社への貢献度」などを考慮して慎重に判断します。

例えば、社員が過去に新サービスを立ち上げたなど、客観的に評価できる実績がある場合、

その貢献度を考慮して、処分を引き下げること

が可能です。とはいえ、単に処分を軽くするだけだと社員が増長する恐れもあるので、

「今回は、君のこれまでの会社への貢献度を考えて軽い懲戒処分とする。ただ、今後勤務態度に改善が見られなければ、次はより重い処分を科す用意がある」

といった具合に、社員が反省しない場合の警告もします。

4)退職勧奨:退職を促しつつ、社員に反省の意思があれば雇用継続を検討する

懲戒処分後も状況が変わらなければ、「退職勧奨」の実施を検討します。退職勧奨とは、

会社から社員に自主退職を促し、社員が同意した場合に退職させること

で、一般的な流れは次の通りです。

  • 「注意」「配置転換など」「懲戒処分」を実施したが状況が改善しなかったため、会社としては社員に自主退職してもらいたいと考えている旨を伝える
  • 退職勧奨に応じる場合の条件(退職金の支払い、年次有給休暇の消化など)について説明する
  • 社員に退職勧奨に応じるかを確認し、応じた場合に退職が成立する

退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を解除する解雇と違い、社員に退職を強制するものではありません。ですから、

仮に社員がこの時点で「退職したくありません、これまでの勤務態度を改めます」などと言ってくるようであれば、反省の様子によっては雇用を継続する

という選択肢もあります。逆に、ここでも社員が反省せず退職勧奨にも応じない、あるいは「勤務態度を改める」というのが口だけで、その後も改善が見られないといった場合、解雇せざるを得ないという判断になります。

5)普通解雇:この行程まで来たら雇用継続は諦める

退職勧奨後も改善が見られなければ、「普通解雇」の行程に移ります。労働基準法では、

普通解雇に限らず、解雇はその30日前に解雇予告をして実施しますが(解雇予告手当を支払えば日数を短縮可)、一度解雇予告をしたら会社の意思で撤回することは不可

です。つまり、普通解雇を決定したら、社員の雇用を継続するのは諦めなければなりません。繰り返しになりますが、どれだけ優秀であっても、この行程まで来て勤務態度に改善が見られないような社員を雇用し続けることは、企業秩序を危うくします。企業秩序と社員の定着、両立できればそれが一番ですが、

いざ両立が難しくなったときは、企業秩序を優先するという姿勢を貫くこと

が大切です。

以上(2025年5月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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【労災の落とし穴(建設業)】 熱中症は労災になる? ならない?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「社員が日陰も休憩もほとんどない環境で熱中症になったのに、『本人の自己責任なので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 日陰も休憩もほとんどない環境なのに、熱中症になったら自己責任と言われた……

社員数10人の屋根工事会社に勤めるベテラン社員のAさん。夏場の猛暑日が続く中、Aさんは屋根のふき替え作業を長時間続けていました。現場には日陰がほとんどなく、しかも社長が「早く終わらせよう」とせかすため、水分補給も十分にできません。そんな環境で仕事をしていたAさんは、作業中に突然、めまいや吐き気を感じ、倒れてしまいました。

同僚がAさんを日陰に移動させ、社長に報告しましたが、社長は「体調管理が甘かったんだろう」「水分をちゃんと取っていたら、こんなことにはならなかったはず」と、Aさんの自己管理不足を責める始末……。さらに、「大した症状ではないだろう」と判断し、労災対応や医療機関への報告も行わず、Aさんを自宅で休ませるだけにとどめてしまいました。

2 会社の安全配慮義務が原因で熱中症になったのなら、労災になり得る

業務中の事故でけがをした場合、それが労災になるかどうかは、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

を基準に判断されます。

Aさんは、屋根のふき替え作業中に突然、めまいや吐き気を感じたので、業務遂行性は認められるでしょう。問題は、業務起因性ですが、会社には安全配慮義務(労働者が安全に働けるよう配慮する義務)があるため、

安全配慮義務を果たさなかったことで事故が発生したのであれば、業務との因果関係があるとして、業務起因性が認められる可能性が高い

です。屋外作業や高温多湿の環境が原因で起こる熱中症は、会社が管理すべき作業環境が大きく影響します。Aさんのケースでは、「休憩を十分に与える」などの安全対策が取られておらず、安全配慮義務を十分に果たしているとはいえないので、労災になり得ます。「本人の体調管理が甘かった」「水分をちゃんと取らなかった」では済まされないのです。

3 万が一の発症時は、すぐ医療機関を受診&労災の手続きを

熱中症は重篤化すると生命に関わる危険があります。熱中症の疑いがある社員がいたら、まずは速やかに作業を中断させ、医療機関を受診するよう指示しましょう。労災であれば、

4日以上の休業が発生した場合、労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を遅滞なく提出しなければなりません。4日未満でも、四半期ごと(3カ月ごと)にまとめて報告が必要

です(違反は労働安全衛生法により50万円以下の罰金の対象)。なお、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。

ここまでが、社員が熱中症になった場合の対応ですが、もちろん「予防」も大切です。

  • 定期的な休憩時間の確保
  • スポーツドリンクの用意
  • 日除け・テントや遮光ネットの設置
  • 冷却ベストやファン付き作業服の導入(作業服や保護具の通気性が悪い場合)

など、会社が取れる予防策は多岐にわたります。熱中症の初期症状(めまい、だるさ、吐き気、頭痛など)を社員に周知し、チーム全員で互いの体調をチェックし合えるようにするなど、安全衛生教育も不可欠です。

夏の建設現場は、何もしなくても熱中症になるリスクがあります。

社員の自己責任では片付けられない(会社が責任を問われる可能性がある)

ということを念頭に置いて、会社主導で積極的に対策を講じましょう。

以上(2025年6月作成)

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画像:ChatGPT