【朝礼】無理が通れば道理が引っ込む

日々、私たちは“常識”を意識しながら生活しています。常識とは、「明文化されていないが、多くの人が一般的と感じるルール」のことなので、皆が常識人であれば、心地よい社会になるはずです。しかし、現実はそうなっていません。なぜなら、常識はとても主観的なものだからです。

例えば、ビジネスで利用するメールの文面は、分かりやすい例の1つです。とても丁寧にメールを書く人は、メールといえども礼儀を尽くすことが常識だと考えています。一方、用件だけを簡潔に書く人は、できるだけ文章量を減らして分かりやすくすることが常識だと考えています。どちらも相手のことを気遣い、自らの常識に従って行動しているだけですが、この2人がメールでやり取りをしたら、お互いに相手のことを「非常識だ!」と感じ、衝突してしまうかもしれません。

このように、常識は個人ごとに大きく違います。加えて、時代の流れによっても変わっていきます。メールの例でいえば、今どきはメールよりもチャットで連絡を取る機会が増えています。スピードと手軽さが優先されるチャットでは、あいさつ抜きで用件を伝えることが珍しくありません。その代わり、感情を示すアイコンなどを多用して、相手に誤解を与えないように配慮します。また、1回の投稿が長文にならないように、あえて短文に分けるなどします。これらは、チャットを使う際の1つの常識ですが、メールしか知らない人にとっては想像できないルールでしょう。

メールの文面に関する常識だけを意識していたら、自分としては常識的に振る舞っているつもりでも世の中の流れから取り残され、的を外した議論をしてしまうことになりかねません。これはとても恐ろしいことです。もし、我が社がそうなってしまったら、変化の激しい現在を勝ち抜くことはできません。

皆さんは、「無理が通れば道理が引っ込む」ということわざを知っていますか。このことわざは、「無理を強引に押し通すと、道理にかなった正しいことは行われなくなる」という悪い意味で使われることが多いのですが、私は少し違った見方をしています。ビジネスでは、自分の常識には当てはまらないこと、つまり「無理ではないか?」と思うことに多々遭遇します。そうしたとき、私はこのことわざを思い出し、客観的に考えるようにしています。私の常識では「無理」でも、外の世界では既に別の「常識」になっていることがあるからです。

「非常識」と思えることに直面すると、反射的に目を背けてしまいがちです。しかし、これまで触れたことのない非常識の中にこそ、新しい発想のもとや、これまでとは違う切り口のビジネスチャンスが眠っていることがあります。皆さん、恐れずに外の世界に飛び出してください。そして、この会社にとっての「非常識」をどんどん持ち込んでください。皆さんが持ち込む新しい刺激が、組織を強くしていくのです。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】働き方改革の極意は、植木屋さんの「手入れ」にあり

知り合いの経営者が、以前、植木屋さんでアルバイトをしたことがあるそうで、とても興味深いことを教えてくれました。

皆さんは、植木屋さんの仕事で、「手入れ」というものがあるのを知っていますか。「手入れ」というのは、簡単に言うと、植え込みの中に手を入れ、ゴミを取り除いてきれいにすることです。文字通り、植え込みの奥にまで“手を入れて”作業するので、枝やトゲなどで手は傷だらけになります。当然痛みもあります。そうして痛くて傷だらけになっても、しっかりと手を入れて作業しないと、きれいにならないのだそうです。

会社も同じだと、知り合いの経営者は言います。「会社も、問題のあるところに自ら入り込み、たとえ痛い思いやつらい思いをしても、どうにかしようとしなければ、きれいにならない」。そうした思いで、社員の意識改革や業務改善に取り組んでいると話してくれました。

私は、その思いにとても共感しています。組織が変わっていくということは、時に大きな痛みを伴います。特に、自分たちの問題のあるところをつまびらかにし、真っ向から向き合っていくのは、簡単ではありません。私も皆さんも、一人ひとりが皆、痛くてつらい思いをするでしょう。それでもなんとかしようとしなければ、会社は変わることはないのです。

私は、この植木屋さんの話を聞き、会社を変えていく決意と覚悟を、改めて固めています。

今年度から、私たちは、会社を新しく変えようと取り組んでいます。特に重要なのは、働き方改革をしっかりと実践するための、全業務の見直しです。当社には、これまで築いてきた40年の歴史があります。諸先輩方の教えを守り、踏襲しながらも、新しくすべきところは、思い切って変えていかなければなりません。

業務を見直すに当たって、今、皆さんにお願いしているのは、当社の全ての業務を洗い出し、一つ一つの業務にどれだけ時間とコストがかかっているかを明らかにすることです。

皆さんの中には、これまで所要時間を“なあなあ”に見積もったり、コスト感を持たずに仕事をしてきた人もいるでしょう。業務の洗い出しをするだけでも、自分の至らなさに直面し、既に「痛い」「つらい」と感じているかもしれません。

しかし、これから先は、もっと痛くてつらいはずです。業務の問題点をあぶり出し、「時間がかかり過ぎだ」「この業務自体必要ない」「新しいやり方に変えるべきだ」といった議論をして、一つ一つ見直すことになるからです。新しいオペレーションを覚えるのも、簡単ではないでしょう。

それでも、私たちは、前に進み続けます。痛くてもつらくても、会社の未来は、自分たちで創っていかなければならないからです。新しい元号「令和」に変わった今、当社の「手入れ」も、待ったなしです。皆さん、どうか一緒に、私たちの会社を変えていきましょう!

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】管理職が、今こそ若手社員に教えるべき4つのこと

今日は特に、若手社員を部下に持つ管理職の皆さんにお伝えしたいことがあります。

新年度に入り約1カ月が過ぎました。最初は熱心に若手社員に向き合っていた管理職の皆さんにも、「このままの指導法でよいのか」と迷いが出たり、「部下とコミュニケーションが取りにくい」といったネガティブな気持ちが出始めたりする時期かもしれません。

そこで今日は、当社の管理職として若手社員に教えるべき4つのことを、改めてお伝えします。知っていて当たり前と思えるような基本的なことばかりですが、実践できていない若手社員が多いので、ぜひ、できるように指導してください。

1つ目は、部下が「ありがとうございます」と「申し訳ありません」を言えるようにすることです。社外の人に対してだけではありません。上司や先輩、同僚など社内の人に対しても同じです。何かを教えてもらったとき、時間を割いてもらったときはお礼を、迷惑を掛けてしまったときはおわびを。部下が自分のほうから人に頭を下げることができるよう指導しましょう。これは、物事の全てにおける基本です。

2つ目は、部下が率先して動けるようにすることです。例えば、会議の準備や後片付けをするとき、皆で掃除をするとき、来社したお客さまをご案内するときなどは、サッと立ち上がり、進んで行動ができるよう指導しましょう。自分のことばかりでなく、周りにも気を配れるようにします。

3つ目は、部下がリアクションをしっかり取れるようにすることです。呼ばれたら返事をすることはもちろん、呼んだ人のほうを向いて話を聞くことも教えなければなりません。また、質問されたとき、分からなくても黙り込まず、「すみません、分からないので確認します」と返答することも教えましょう。相手のほうを向くこと、相手にリアクションをしっかり返すことなどは、その人との関係性を築いていく上でとても大切です。

そして4つ目は、これまで挙げてきた3つの総括ともいえますが、部下が、「相手のことを考える」という気持ちを持てるようにすることです。仕事は、一人では決してできません。社内外の人と一緒に進めていくものです。自分のことばかりでなく、「相手はどのように言っているか。どう思っているか」ということを必ず考えるよう、部下に繰り返し伝えてください。

これら4つのことは、いわば「人としてできて当たり前」の基本的なことばかりです。しかし、世の中には、できていない人も少なくないのが事実です。当社の社員はそれではいけません。しっかりと実践できるよう、若手社員の頃から、私や管理職の皆さんが指導することが必要です。

そして、部下は管理職の言動をまねします。管理職の皆さんは、4つのことを率先垂範し、部下に実践している姿を見せてください。今から1カ月後、皆さんの部下が今と変わった姿を見せてくれることを、私は期待しています。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】感情を込めろ。ビジネスが広がる

先日、ある会社の窓口担当者の言動を見て、自分たちも改めて気を付けようと思ったことがあるので、皆さんと共有します。

その窓口担当者の会社は、マーケティング関係のコンサルティングを行っており、当社と一緒にクライアント向けの案件を進めています。ここ半年くらいは月に3~4回、メールや電話でやり取りをしてきました。先日、その案件が成功を収めたので、私から窓口担当者にメールを送りました。そのときのことです。

メールには、今回のお礼と、当社が今後考えている展開を簡単にまとめた上で、最後は「当社でお役に立てることもあるかと思いますので、また、ぜひ一緒にやりましょう。一度お打ち合わせをお願いします」という趣旨の文章で結びました。窓口担当者とは、先方の代表や役員も含めた場で、今後一緒にさまざまなビジネスを展開していこうと、何度も話をしていたからです。私としては、窓口担当者からも、同様の趣旨のメールが返ってくるものと期待していました。

ところが、全くそうではなかったのです。窓口担当者から返ってきたのは、「ありがとうございます。必要な場合は、こちらからご連絡します」というそっけないメールでした。

「今後のビジネス展開」は当社側の独りよがりだったのか、先方の意に沿わないことがあったのか。いずれにしても何かしら迷惑を掛けたのかもしれないと、私はおわびのメールを返しました。

結果から言えば、それは私の取り越し苦労でした。おわびのメールを返したその日のうちに、先方の代表から「ぜひ一緒にやりたい」と電話があり、現在は別の案件を共に企画しています。代表は電話口で、窓口担当者が私にそっけないメールを送ったことを、しきりに謝っていました。

皆さんは、この話を聞いて、どう思いますか。皆さんも日ごろ、この窓口担当者と同じようなことを、相手に対してしてはいないでしょうか。

私はこの窓口担当者が、メールに「感情をもっと込める」ことができればよかったのだと思います。窓口担当者は、今後一緒にビジネスを展開することを立場的に即断できなかったのかもしれません。それでも、「私見ですが、一緒にできたらうれしいです」「私も、もっと御社の今後の展開をお聞きしたいです」という「窓口担当者自身の感情」を込めることはできたでしょう。

ビジネス上の付き合いは、気心の知れた友人とのそれとは違います。相手が何を考えているか分からない場合も少なくありません。だからこそ、「ありがたい」「うれしい」「一緒にやりたい」といった感情を込めて接していくことで、その後の関係性が大きく変わってくるのです。

皆さん、今日から、感情をもっと込めて周りと接することを心掛けてみてください。苦手な人は、いつものメールに、「うれしいです」など、一言感情を添えてみましょう。ビジネスの広がりは、その一歩から始まります。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

上司必読! 部下を伸ばす言葉、ダメにする言葉

書いてあること

  • 主な読者:部下の指導に悩む上司、管理職
  • 課題:モチベーションを引き出すために、どう言葉を掛けて良いかわからない
  • 解決策:「急ぎで働いてもらわなければいけない場合」など、シーンに応じた言葉の掛け方を学ぶとともに、部下がやる気をなくしてしまう言葉を掛けないよう留意する

1 部下を「伸ばす」言葉がある

上司は日ごろから部下を伸ばそう、成長させようと指導しているが、うまくいかずに悩みを抱えていることが多い。

部下を伸ばすためには、まず「部下のやる気を引き出すこと」が鍵となる。そして、部下のやる気を引き出すために上司は、「日ごろから部下に、どのような言葉をかけるか」を考えなければならない。部下の仕事内容・仕事の進め方・進捗状況を一番把握し、部下にとって最も身近な存在なのは、上司だからである。

部下の性格や考え方にもよるが、やる気を引き出す基本は「上司が部下に、信頼を寄せ、関心を示し、期待していることを示す」ことである。

人は「自分が必要とされている、信頼されている」と感じると「嬉しい」「よし、頑張ろう」と思う。特に、「最も身近な存在である上司が自分の仕事をしっかりと見てくれている、期待してくれている」と感じれば、部下は期待に応えようと奮起する。

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上司が信頼・関心・期待を表すことができるのは、褒め言葉や部下を肯定する言葉だけではない。注意を促す言葉に込めることもできる。

例えば、「君の仕事の進め方で、○○の点については少し効率が悪いと思う。少し方法を変えてはどうだろうか?」といったように、より具体的に注意することで、部下は「自分の仕事をしっかりと見てくれているのだな」と感じる。

2 部下を伸ばす言葉の具体例

1)部下が作成した資料の内容が良くないため再作成を命じるとき

このときのポイントは、イメージが違っても頭ごなしに否定するのではなく、部下の意図を聞く姿勢を見せることである。部下は、そうした上司の姿に、上司からの信頼と関心を感じる。

  • 上司の言葉:
  • 「君が作成した△△の資料、○○の部分が私のイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」
  • 部下の感じ方:
  • 「作成した資料をしっかりと見てくれている」「自分の考えを聞いてくれる」

2)部下に1人で急ぎの仕事を遂行してもらうよう指示するとき

このときのポイントは、上司がなぜ部下に急ぎの仕事を依頼するのかをきちんと説明し、「助けてもらいたい」という気持ちを表すことである。部下は、上司に頼られ期待されていることが分かり、「よし、それならば私がサポートしよう」と意欲的に取り組む。

  • 上司の言葉:
  • 「××の資料をどうしても今日の5時までに完成させなければならないのだが、私は□□をしなければならないので時間がない。急ではあるが、今日の4時までに××の資料を作成しておいてくれないか?」
  • 部下の感じ方:
  • 「自分を信頼して任せてくれている」「上司ができない理由を教えてくれている」

3)部下のミスや不注意によってトラブルが発生したため、再発防止を命じるとき

このときのポイントは、トラブルの再発防止について部下に考えさせるチャンスを与えることである。部下は、上司からの信頼・関心・期待を感じ、トラブルを素直に反省するとともに、前向きに仕事に取り組む。

  • 上司の言葉:
  • 「今回のトラブルについて、今後同じようなトラブルを避けるためにはどうしたら良いと思う?」
  • 部下の感じ方:
  • 「自分に考えさせようとしてくれている」

3 部下を「ダメにする」言葉もある

上司の言葉一つで部下がやる気出るのと同じように、上司の言葉一つで部下がやる気を失い、ダメになってしまうこともある。身近な存在である上司だからこそ、ささいな言葉一つで、部下は、「この人にそう言われるということは、自分はもうダメなのかもしれない」と誤解し、やる気や自信を失う恐れがある。

上司と部下はあくまでもビジネス上の関係であり、友人関係ではない。仕事を遂行するため、そして部下の能力をより向上させるために、上司は、時には部下を注意したり叱ったりすることもある。しかし、上司のせっかくの本意を誤解し、部下がやる気を失ってしまうようではもったいない。

部下がやる気を失ってしまうのは、前述した「部下を伸ばす言葉」の逆で、「上司から信頼も関心も寄せられず、期待もされていないと感じてしまった場合」である。

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部下が「信頼・関心・期待が寄せられていない」と誤解するのは、上司に叱られたときばかりではない。

仕事を依頼するときの「君は与えられた仕事を終わらせてくれればいいから」「とりあえず、適当に進めておいて」などのような言葉で「余計なことはするな、と言われているのか?」「面倒だから丸投げした感じだな」と受け取り、やる気を失うことがある。

また、たとえ褒められたとしても、「最近いいじゃない」などの抽象的な表現だけでは、「適当におだてているだけなのではないか」と誤解してしまう部下もいるだろう。叱るときだけではなく、仕事を依頼するときや褒めるときなども、上司は、「信頼・関心・期待を寄せていない」と部下に思わせてしまうような言葉を避けたほうがよい。

4 部下をダメにする言葉の具体例

部下に注意するときや部下の理解を確認するときなど、シーンに応じて「信頼・関心・期待が感じられないと部下が誤解しがちな上司の言葉の例」「部下の感じ方」「上司の本意」「良い上司の言葉」を確認してみよう。

1)部下が作成した資料の内容が良くなかったとき

部下をダメにするのは、誰かと比べて否定する言葉である。今、目の前にいる部下にフォーカスした言い方に変えることがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「君が作成した資料、全然イメージと違うからもういいよ。A君に頼むから」
  • 「A君だったら、君が作ったような資料は作成しないと思うよ」
  • 部下の感じ方:
  • 「ほかの人と比較され、『自分は劣っている』と言われている」ように感じる。
  • 上司の本意:
  • 悔しさを感じ「もう一度私にやらせてください」と言ってほしい。
  • 良い上司の言葉:
  • 「君が作成した△△の資料、どうしてもイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」

2)部下の仕事を上司自身が代わりに行ったり、ほかの部下に振ったりするとき

部下をダメにするのは、「もういい」などの見放すような言葉である。割り振りを変えるときは、その理由を説明することがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「もう◇◇についてはやらなくていいから」
  • 部下の感じ方:
  • 「もう任せてはくれないのかな」と上司からの信頼や期待がなくなってしまったように誤解する。
  • 上司の本意:
  • ××の件で忙しそうだから、◇◇を担当してもらうのは無理だろう。
  • 良い上司の言葉:
  • 「君は今××の件で手一杯だろうから、今回は私が(あるいはA君が)やるよ」

3)仕事について部下が理解しているか確認したいとき

部下をダメにするのは、「当然分かるよね?」など「No」と言うことができないような言葉である。部下の意見や考えを聞き出す言い方に変えることがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「君なら当然分かるよね?」「君はもう当然できているよね?」
  • 部下の感じ方:
  • 「分からない、できていないと答えたら怒られる」という強迫観念にとらわれる。また、「上司は、自分が分かっていない、できていない、と思っているのかもしれない」と上司からの信頼を得られていないように感じることもある。
  • 上司の本意:
  • 理解しているかどうか、どのように考えているのか聞いてみよう。また、自分の言葉で説明させることによって自分自身の頭の中を整理してもらおう。
  • 良い上司の言葉:
  • 「□□について君の意見を聞かせて欲しい」

5 部下一人ひとりと真剣に向き合う勇気

「伸ばす言葉」「ダメにする言葉」のどちらも、「信頼・関心・期待をどのように上手に伝えるか」がポイントとなる。ただし、部下は個々の性格や考え方が違うので、上司の言葉に対する受け止め方もそれぞれ異なる。信頼・関心・期待を寄せられていると感じるポイントも違う。そこで、部下一人ひとりと真剣に向き合わなくてはならない。

一方、部下は、部下一人ひとりと真剣に向き合おうとする上司の姿勢を感じるだけで、「自分たち部下に関心を寄せ、考えてくれようとしている」と思い、それに応えようと努力するはずである。

部下を伸ばすために大切なのは、上司が、日ごろから部下一人ひとりと真摯に向き合い「部下のやる気を引き出す言葉」をかけることである。そうすれば、部下のやる気を引き出すだけではなく、上司と部下との間で強い信頼関係を築くことができるだろう。

また、時と場合によっては、上司は言葉を選ばず、部下を厳しく叱ったり指導したりしなければならない。厳しくするときには厳しくする。上司のそうした真摯な姿勢に部下は、「自分に向き合ってくれている」と尊敬と感謝の気持ちを抱くのである。

最後に、やる気を引き出し部下を伸ばす「魔法の言葉」と、やる気を失わせ部下をダメにする「避けたほうがよい言葉」を紹介する。上司は、適度に部下に「魔法の言葉」をかけ、部下のやる気を引き出していくことが大切といえよう。

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以上(2019年5月)

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待ったなしの副業解禁の時代をひもとく〜現代の遣唐使 他社留学を事業化するエッセンス社の米田さんに聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、エッセンス株式会社の社長である米田瑛紀さんです。

2019年4月、副業・兼業の解禁やリモートワークの推進など、激動の「働き方多様化時代」が始まっています。米田さんは、その最先端を担っていて、経済産業省におけるワーキンググループの委員にも選出されています。

大企業の優秀な人材をスタートアップ企業へ期間限定で送り込む「他社留学」の他、「現代の遣唐使」に見立てて「地方人材を東京へ送り込む」ことを事業化するなど、幅広く人材を活性化し「人財」にする活動をされています。

1 副業人財で決まりましたよ!

最初に、私のキャリアでターニングポイントになった出来事を紹介します。今から20年ほど前、当時懇意にしていた得意先の方から、ドラッカーさん(ピーター・ドラッカー)の音源を聞かせてもらったことがあります。その音源の中に、ドラッカーさんが来るべき将来に必要な人材像についてコメントしている場面がありました。

詳細なことまでは覚えていないのですが、当時のドラッカーさんが、「1社に帰属し自身の関わる仕事だけのプロフェッショナルの時代は確実に終わる」ということと、「多様性の時代が来る。その際には、いろんな業界、企業、職種、コミュニティーと対話ができる器用なビジネスパーソンが重宝される時代となるだろう」というようなことを予言的に話していたことは鮮明に覚えています。

これらドラッカーさんのお話に衝撃を受けた当時の私。幸いにして20代で全く違う業界へ2度の転職経験があり、さらに、私はあらゆる業種と関わりのあった損保会社で仕事をしていました。そうしたことから、ドラッカーさんのメッセージを、「まさにドラッカーさんが私に言ってくれている」と自分勝手に誤解? 曲解?して受け取り、それが根拠のない自信となって現在に至るまでパワーをもらっています。

会社員時代、就業規則の関係により私は金銭的な副業経験をしたことは一度もありません。しかし、当時から社外へ求め始めたネットワークのおかげで、莫大な【情報】と【信用】を手に入れることができました。金銭以上のものを【副業】として得られたといっても過言ではないと今まさに感じ、感謝しています。

これからの時代を生き抜く上でも、副業は大切な意味を持っていると思っています。

そろそろ冒頭のタイトル、【副業人財で決まりましたよ!】に戻りたいと思います。【副業人財で決まりましたよ!】。これは、私がインタビューに伺った際に、米田さんが席に着くなり、ニコニコ顔で語ってくださった言葉です。

今から数カ月前、懇意にしている上場会社の社長さんから、「杉浦さん! ここ6カ月ほど、社長マターで幹部人材を探しているけれど採用できなくて困っています! どこか採用の支援をしてもらえる会社を紹介してください!」と依頼を受け、すぐに米田さんにお願いしたものでした。

そこから2カ月もたたないうちに、米田さんから「副業人財をご導入いただくことが決まった」との報告をいただき、少し不思議な感じでした。役員級での採用要請でしたので、私は常勤の候補が当たり前と思っていましたが、この副業でジョインされた方は元マイクロソフトでマーケティングを担当したこともあり、現在は世界的によく知られるマーケティング会社の超有名人だそうです。

もしこのハイスペックな方を説得し、100%のコミットで転職要請するには、いったいいかほどの年俸を準備することになるのでしょうか。そして、どれくらい先にジョインすることとなるのでしょうか。

恐らく、企業側が想定している額をはるかに上回る金額が必要で、しかも、候補の方の状況によっては、実際にジョインするのはしばらく後になるかもしれません。企業にとっては、かなり難しく現実的ではない状況になるでしょう。

「常勤採用の発想から企業側も転換をしたほうが良いですよ」。そう米田さんは話します。「副業人財」としてジョインしてもらえば、ハイスペックな方を週1もしくは月数回程度で味方にすることができ、企業のレベルアップが図れます。依頼主の社長にとっては良いことずくめです。

米田さん率いるエッセンス社では、「戦略設計図を描けるプロ(人財)をそろえている」という点で、他社にはない価値を企業に提供できるとしています。また、人材を探している企業に寄り添い、「足りないピースは何か」「どこなのか」といった点も掘り下げていく【丁寧なチューニング】も、大きな強みといえるでしょう。

米田さんの姿勢から、「副業だからこそ人財の適材適所をしっかり考えることの大切さ」を目の当たりにした次第です。案件の数にこだわるのではなく、チューニングの丁寧さとクオリティーの部分に、エッセンス社が「何を重要視しているのか」がうかがえます。

2 水面下でも動き出している大企業の「他社留学」という研修スタイル

次にご紹介するのは「他社留学」という取り組みです。1万人以上を抱える大企業では、仮に自分が必死で努力したり、運を味方につけたりしたとしても、役員にまで上りつめることは本当に大変です。昨今、大企業でも役員の若返りにチャレンジしているとはいえ、20代で役員会に出るチャンスは皆無といってもよいくらいです。

しかし、エッセンス社ではその経験を20代でかなえる取り組みも実施されています。実は私がご紹介した会社はまさに社員数1万人以上で、「有能な若手人財をつなぎ留めておく施策はないか?」と探しているところでした(大概の場合、期間限定の海外研修ってことが多いですね……)。そこでその会社には、期間限定で他の会社に留学するという「他社留学」を若手社員に経験させてみることを紹介しました。

当初、まずは、その会社の1名を、あるスタートアップ企業に留学させることにしました。その結果、

  • 自社(大企業)のリソースの大きさ、ポテンシャルを認識できた
  • スタートアップ企業の役員会に参加することで経営側の考え方を学ぶことができた

ということだそうです! そこで、現在は3年目の他社留学をスタートしており、非常に効果が出ているといいます。

例えば、他社に留学することで、現業の【引き出し】が増え、課題解決力や視座が高まり、価値観も広がる。そして何より、「マインドが変わる=自立心が育まれる」ことが大きいと思います。

私が会社員時代に感じていた、【企業研修】の意味のなさ。研修に際して、会社が多額の投資をしてくださったことには感謝していましたが、「座学→眠い→体験値が低い→研修期間を過ぎればすぐに消えてゆく」。こうしたことの連続でした。だからこそだと思いますが、私には、エッセンス社の他社留学事業は大企業にとって「本当に社員を変えることのできる」画期的な【研修事業】と映りました。

企業が副業解禁に向かう場面でも、この他社留学は意味あるものだと感じます。自分が勤めている会社のことしか知らないという純粋培養では、企業側が副業解禁しようとしても、社員たちは何も分からない、変わらない、一歩も前へ進めない。そんな状況かもしれません。他社留学は、そうした社員の背中を押す施策と感じます。

●エッセンス社の他社留学に関する説明はこちら
http://nanasan.essence.ne.jp/

他社留学事業を説明した画像です

3 【現代の遣唐使】地方と東京をつないでいく

米田さんの思いは、「地方活性化」にも及びます。米田さんは、その思いを「現代の遣唐使」という表現で話してくださいました。飛鳥時代から平安時代にかけ、日本の礎(技術、政治、文化、宗教)に大きな影響を与えたのが、日本から「唐」に派遣されていた「遣唐使」です。遣唐使も、まさに「有能な人財を全く見たこともない世界に送り込むことで成長の機会を得られる」という制度でした。米田さんは、「現代の遣唐使」になぞらえて、地方の企業から東京の企業へ社員を送り込み、学びの機会を創出するという事業にもチャレンジされています。

例えば、青森県六ヶ所村に所在する日本原燃株式会社の例を見てみましょう。同社の2017年度の売り上げは2600億円超、従業員数も2700人を超えています。今回、この地元の超優良企業である日本原燃社から、都会にあるユニリーバ・ジャパン社の人事や、サイボウズ社の総務にと、日本でも先端的な取り組みをしている企業で「現代の遣唐使」が実施されたそうです。

既成概念の中で硬直した企業組織、若い世代が違和感を持っても過去の事例の中では発言すらはばかられる。日本原燃社では、こうした状況を打破すべく、「現代の遣唐使」を導入したのかもしれません。社員は、東京の企業で、全く違った組織運営の在り方や、仕事への取り組み方について現場で学ぶことができます。最先端の取り組みを行っている企業で経験した実績を、遣唐使となった社員が自社に持ち帰ることで、実際に、社内が大いに活性化しているそうです。

「現代の遣唐使」では、「既にある良きもの」をどんどん都会から持ち帰り、地方で生かしていくことがポイントです。今まで、地方へ有能な都会人財を送り込むことで活性化を生むケースは見受けられました。「都会人財が地方へ行く」という一方通行ではなく、双方向、特に地方から都会への遣唐使制度の中に、地方活性化の早道があるかもしれないと感じました。

4 副業解禁、その時代に必要とされる人財に大切なこと

働き方改革、副業解禁といったように社会が大きく変化していく中だからこそ、「人財」として大切にしなければならないことがあると、私は思っています。

あるスタートアップ企業で部長級以上の会議に出席したときに居合わせた、60歳以上の元商社出身の人生の先輩。この会社で必要なことへの言及は全くせず、終始、自分の経歴を一生懸命プレゼンするだけでしたが、結果として、その方は多額の報酬要求をされました。こうした、過去の人脈を頼り、電話一本で「この会社の社長と会え!」などと言う、強引な顧問の時代もそろそろ終わりに近づいていると感じます。

米田さんも、これから副業解禁時代を生き抜くためには、【再現性】と【マインド】という2つのキーワードが特に重要だと話します。

米田さんの会社で中核事業の一つである、プロ人材の紹介サービス事業である【プロパートナーズ事業】には、大企業で現役として働いている方や引退した方が「プロ候補」としてたくさん面談に訪れるそうです。しかし、そのうちの80%以上はお引き取りを願うのだそうです。

【再現性】と【マインド】という2つのキーワードを持っていない、それがお引き取りを願う理由だと米田さんは言います。有名企業に所属していただけ、肩書があるだけで、現場で実践してきたビジネススキルや成功体験を持ち合わせていない。また、やってきた仕事は単に所属企業のルーティンワークで、自社以外に持ち出して活用したり、再現できたりするものは何一つない。そんな方が少なくないと言います。

加えて、【マインド】もなく「大企業にいた」という上から目線で、そのことが地方の中小企業の現場では全く役に立たないことを理解していないようです。「自分が何に、どうしたら役に立てるか?」を必死で考える言葉が出る、そして行動する。そうした他者貢献のマインドがあってこそ副業ができるのです。【再現性】と【マインド】。この2点がないと、副業時代を生き抜くことは難しいと米田さんは話します。

●エッセンス社のプロパートナーズ事業に関する説明はこちら
https://www.essence.ne.jp/propartners

プロ人材の活用の広がりを説明した画像です

【再現性】と【マインド】。この2つを意識し、多様化し、激変していく世の中で活躍できる人材が「人財」となり、地方と都会の両方が活性化することを願いたいと思います。

以上(2019年4月作成)

【朝礼】苦手なことほど、ブランクを空けず実践してください

私事ですが、最近、ピアノ教室に通い始めました。子どもの頃に習っていたのですが、高校生になってからやめてしまったので、実に30年ぶりにピアノを練習しています。

再びピアノに挑戦してみてショックだったのは、楽譜の読み方や指の動かし方を、すっかり忘れてしまっていたことです。子どもの頃に体で覚えたことなので、何回か教室に通う中で勘を少しずつ取り戻しつつありますが、まだ完全に思い出したわけではありません。間違ってばかりです。やはり、長い期間のブランクがあると、勘も腕も鈍ってしまうのだと実感しています。

プロのピアニストでも、1日ピアノに触れないだけで調子が出なくなってしまうといいます。他の楽器でも、きっと同じでしょう。

勘や腕が鈍るという感覚は、ビジネスでも同じことだと思っています。日ごろから実践していないと、いざやろうとしても、うまくできなくなってしまうことがあるのではないでしょうか。

分かりやすいケースでいえば、「声を出すこと」です。日ごろ、挨拶をしないでいたり、何か問い掛けられてもリアクションを取らないでいたりすると、声をなかなか出せなくなります。声を出さないでいるのが普通になるため、周囲にアナウンスすべき大切なことも、おっくうになって伝えられなくなるのです。私が普段、皆さんに「声を出すように」と繰り返し伝えているのは、こうした状態に陥ってほしくないからです。

また、「お客様と話すこと」も同じです。普段からお客様に電話をして直接話を聞いたり、当社の商品の説明をしたりしていれば、どのように質問や説明をすればよいのか、どのようなキーワードが響くのかといったことが蓄積されていきます。さらには、「何曜日の何時ごろに連絡すると話が聞きやすい」といったことも分かるようになります。日々実践することで、勘や腕が磨かれるともいえるでしょう。

しかし、ブランクがあると、いざ連絡を取ろうとしても、どのようにコミュニケーションを取ればよいのか分からなくなります。お客様と接するのが怖いといった意識が芽生え、必要以上に身構えてしまいます。皆さんの中にもお客様と話すのが苦手という人がいますが、苦手意識があって避けているため、余計にできなくなっているように思えます。

私の知っている経営者は、この状態を、「必要な『筋肉』を日ごろから使っていないと、その『筋肉』は動かなくなる」と表現しています。「声を出す」「お客様と話す」といったことを実践するための「筋肉」は、日ごろから使わないと、動かなくなってしまうということでしょう。

逆に言えば、毎日実践していれば、動かなくなるのを防げます。例に挙げた「声を出すこと」「お客様と話すこと」が苦手な人は、今日から少しずつでいいので実践してみてください。勘も腕もきっと磨かれていくでしょう。

以上(2019年4月)

pj16955
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】あなたは、どのようなことができる人ですか

先日、ベンチャー企業の経営者や起業家が、自分たちのビジネスについてプレゼンを行うイベントを見学してきました。このイベントはマッチングや資金調達が主な目的で、大企業の新規事業担当者やベンチャーキャピタリストなど、数多くの人たちがプレゼンを聴きに来ていました。

会場は熱気にあふれ、プレゼンターも聴き手も本気度が高く、聴いていて胸が躍る素晴らしいイベントでした。私が特に印象に残ったのは、多くのプレゼンターが、「チームメンバーの紹介」に時間を割いていたことです。

持ち時間は1人5分間で、決して長い時間ではありませんでした。しかし、その短い時間の中で、「具体的にどのようなことができ、どのような活動をしているメンバーがいる会社なのか」ということがよく分かるプレゼンが多かったのです。中には、今後の事業展望よりも、チームメンバーのことを熱く語って終わる人もいたくらいです。

プレゼン後の交流会で、私はプレゼンターの1人に、なぜ、チームメンバーの紹介にこれほど時間を割くのかを尋ねてみました。すると彼はこう答えたのです。

「正直なことを言えば、今後、外部環境などによって事業内容は変わっていくかもしれない。それでもいいと思っている。それよりも、何ができるメンバーがいて、それぞれが日ごろどのような活動をしているか。会社の実力を知ってもらうには、それを伝えることのほうが大切だ」

私はこれを聞いて、最近、仕事で出会った海外のビジネスパーソンたちのことを思い出しました。人にもよるのでしょうが、彼らは、自己紹介をするときに、会社名を先に名乗ることはほとんどありませんでした。まず自分の名前を、次に「私はこのようなことができます」「私が現在やっていることはこれです」と自己紹介をするのです。そのため、私は一人ひとりを、会社名ではなく、「何ができる人か」で覚えました。

日本人の場合は、逆です。最初に会社名を名乗り、お互いに会社名を覚えます。具体的に何ができる人かは、よく分からないままということが少なくありません。私も、海外の方に会社名を名乗ったら、すぐに「あなたは何ができるのか」「何を実現しているのか」と質問をされました。

皆さんは、どうでしょうか。社外の人に、どのように自己紹介をしていますか。「自分はこれができる」と明確に言うことができるでしょうか。

そう言えるようにするためには、得意分野を持ち、それを突き詰めることが必要です。しかも、社内だけでなく、社外でも通用するくらいでなければなりません。

私は皆さん一人ひとりに、「自分の得意分野はこれだ」と言えるものを持ってもらいたいと思っています。「能力の肩書」といってもいいでしょう。皆さん、新年度を迎えた今こそ、「自分は何ができるのか」を改めて自分に問いかけてみてください。

以上(2019年4月)

pj16954
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】居心地のよい場所から一歩踏み出せ

「マズローの欲求5段階説」を知っている人は多いでしょう。人間の欲求は、下のほうから「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「尊敬への欲求」「自己実現の欲求」の5つであり、次々と上のほうの欲求を満たしたくなるという説です。例えば、「生理的欲求」が満たされた人は、「安全への欲求」を満たしたくなるということです。

欲求5段階説は、社員のモチベーション管理でもよく応用されています。最も基本的なのは、「出世によって社員の尊敬への欲求を満たし、さらに大きな権限を与えて社員がやりたいビジネスを支援する、つまり自己実現の欲求を満たす」というものです。

ただし、これらは会社が設定するモチベーションアップの枠組みです。この枠組みの中にいれば、放っておいてもある程度の出世をし、権限も与えられるので、枠組みの中にいる人にとっては居心地がよいかもしれません。しかし、その状況に甘んじ、努力をしなければ成長はありません。

先日、私が面接官を務めた中途採用の面接で、経営戦略や財務の基礎さえも理解していない中年の求職者と会いました。その求職者を、仮にAさんとしましょう。「いかに人材不足とはいえ、これでは採用は厳しい……」というレベルです。それなのにAさんが私との面接までたどり着いたのは、Aさんの経歴が決して悪くないからです。面接の場でも、「プロジェクトを任されていました」と、悪びれずに言っていました。

戦略を立てられず、損益も計算できないAさんが、どうやってプロジェクトを回せたのでしょうか。チームの他のメンバーが優秀だったのか、プロジェクトがとても簡単だったのか……。Aさんと話をして私が得た答えは、Aさんも、Aさんにプロジェクトを任せた上司も、Aさんが勤めていた会社も、その時点で自分たちが行っているビジネスや、その進め方をバージョンアップできることに気付いていなかったということでした。

私はAさんを非難するために、この話をしているわけではありません。皆さんに、「会社も社員も、自ら常にバージョンアップしなければならない」ことを分かってほしいのです。そうしないと、私たちは「井の中の蛙(かわず)」になってしまいます。「井の中」にいれば、欲求5段階説で示された欲求は、高いレベルで満たされるかもしれませんが、それでは小さくまとまるだけなのです。

人間の欲求は際限がないといわれます。一方、人間は慣れる生き物でもあります。疑問や不満、不安を解決したいという欲求があっても、いつしかその状態に慣れ、「特別に努力する必要もなく、楽で居心地がよい場所」に感じるでしょう。そのうち、こうした“ぬるま湯のような居心地のよさ”から抜け出せなくなってしまいます。

居心地がよい場所に長居は無用です。居心地のよい場所から一歩でも外に出れば、これまで知らなかった世界が広がっていることに気付きます。そこにたどり着く努力をしてください。

以上(2019年4月)

pj16952
画像:Mariko Mitsuda

ネット販売時代でも変わらない接客の基本

書いてあること

  • 主な読者:販売員を指導する教育担当者
  • 課題:販売員の接客方法を見直したい、改善したい
  • 解決策:言葉遣いや身だしなみの基本を押さえた上で、より顧客からの好感度が上がる接客方法を習得させる

1 接客に不可欠な3つの要素

接客で相手に好印象を与えるためには、「態度、言葉遣い、身だしなみ」が重要です。例えば、礼儀正しい態度、正しい言葉遣い、清潔で衛生的な身だしなみということですが、これらは、ほぼ第一印象で判断されます。

経営者は、自社が大切にする態度、言葉遣い、身だしなみの基準を社員に周知徹底しなければなりません。そして、現場の責任者は販売員が常に実践できるように訓練する必要があります。

本稿では、企業が自社の態度、言葉遣い、身だしなみの基準を検討、あるいは再確認する上でヒントとなる情報を紹介します。ご一読いたき、御社が大切にすべきこと、改善すべきことの整理につながれば幸いです。

2 態度

1)販売員の心構え

販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いです。詳細な説明を求める人、自由に検討したい人など、お客様はさまざまです。親切で誠意ある態度を取ることを前提に、ある程度の判断は販売員に任せるのがよいでしょう。

2)明るい声と笑顔

明るい声と笑顔はとても大切です。朝が弱くて、声が出ない、頭も働かないという人でも、明るい笑顔をつくれば明るい声が出てきます。ただし、むやみに大きな声で話すとお客様を驚かせてしまうので、販売員同士で心地良い大きさを検討しましょう。

話すスピードは、速過ぎても遅過ぎてもいけません。早口で話すと、落ち着かない印象を与え、追い立てられる感じがします。逆に、あまりにゆっくりだと、お客様を馬鹿にしているような印象を与えかねせん。

3 言葉遣い

1)接客の基本6用語

まず、次の「接客の基本6用語」を確実にマスターしましょう。これらを知ると、接客の流れを再認識することにもつながります。

  • いらっしゃいませ
  • かしこまりました
  • お待たせいたしました(少々お待ちくださいませ)
  • 申し訳ございません(申し訳ございませんでした)
  • 恐れ入ります(恐れ入りますが……)
  • ありがとうございます(ありがとうございました)

2)適切な敬語

敬語には、丁寧語、尊敬語、謙譲語があります。丁寧語は語尾に「○○です(でした)」「○○します(しました)」とすればよいので簡単ですが、尊敬語と謙譲語は慣れないと使い分けが難しいものです。

尊敬語は相手に敬意を払う表現、謙譲語は自分をへりくだって使う表現です。よく使われる敬語の例は次の通りです。尊敬語や謙譲語を使用するときには丁寧語を併せて使用するのが一般的なので、それぞれ丁寧語を併せた表現にしています。

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敬語に慣れるには、ロールプレーイングを繰り返すことが一番です。前述の「接客の基本6用語」の発声練習を行うことは敬語の練習にもなります。

また、敬語とは少し違いますが、上品な印象を与える美化語も知っておきたいものです。美化語とは、名詞の前に「お」や「ご」を付けます。「この菓子は茶に合いますね」と「このお菓子はお茶に合いますね」とでは、後者のほうが上品です。

3)分かりやすい言葉

お客様と話をするときは、分かりやすい言葉を使います。お客様の知らない用語を多用することは、お客様を不快な気持ちにさせてしまいます。業界や自店でのみ通用する略語や通称なども、お客様と話しているときに使ってはいけません。

4 身だしなみ

接客には、清潔感ある身だしなみが不可欠です。お客様に不快な印象を与えない身だしなみを心掛けましょう。例えば、飲食店で清潔感がないことは致命的なので、無精ヒゲは好ましくありません。

一方、アパレルの場合では、販売スタッフはファッションリーダーであり、無精ヒゲがおしゃれに見えることもあります。業種に合わせて適切な基準を決め、その実効性を持たせるために就業規則の服務規定に定めるとよいでしょう。

5 豊富な知識

態度、言葉遣い、身だしなみは販売員にとって重要ですが、商品について素人では困ります。つまり、豊富な知識を有し、お客様のニーズに合わせて提案できなければなりません。

カタログや説明書、先輩販売員の知識など、自社内で得られることだけではなく、積極的に社外からも情報を収集しましょう。飲食店であれば、競合店に食事に行ってみると相手のレベルが分かります。

十分な知識があるのにうまく説明することができない場合は、販売員同士で商品説明のロールプレーイングをしましょう。知識を言葉にすることを繰り返すと、本番の接客でも言葉がスムーズに出てくるものです。

6 好感度アップの接客方法

1)褒め言葉

コミュニケーションを円滑に行うために、お客様を褒めることは重要です。例えば、次のようにです。

  • 「すてきなバッグですね」
  • 「ロングコートがお似合いですね」
  • 「背が高くてスタイルもよろしいので、どんな洋服でもお似合いになりますね」

お客様が何かにこだわりを持っているようなら、そこを褒めます。例えば、帽子や眼鏡、時計などについて「すてきですね」と表現します。こだわりのモノを褒められて気を悪くする人はいないでしょう。また、価値観の共有は親近感につながります。

また、子供連れのお客様には、「かわいい赤ちゃんですね」と、子供を褒めるのもよいでしょう。赤ちゃんは見た目で男の子か女の子か判断するのは難しいものです。その場合は、女の子とするのが無難です。仮に男の子であっても「あまりにかわいいので女の子かと思いました」と続けることができるからです。

ただし、上辺だけの褒め言葉は危険です。機械的に褒め言葉を言っても、気持ちが込められていないことはすぐに分かります。うまく褒められないのなら、無理をせずに誠実に対応したほうが無難です。

2)肯定的な表現を徹底する

表現は肯定的にします。例えば、お客様からMサイズとLサイズしかない商品について、「もっと大きいLLサイズはありますか」と聞かれたとします。この場合の受け答えには次の2通りがありますが、後者のほうが柔らかい印象を与えます。

  • 「あいにく、こちらの商品はLLサイズやXLサイズはございません」
  • 「こちらの商品はMサイズとLサイズだけの展開です。LLサイズですと、春らしいデザインのこちらの商品はいかがですか?」

日本語は英語などの外国語に比べて、ストレートな表現を避けるケースが多いものです。他の商品で希望に沿ったサイズの商品があれば、続けて、「あちらの商品ですと大きいサイズもございますが、ご覧になりますか」と、代替商品の提案につなげます。

3)短所は先に長所は後に

次の2つを比べてみてください。どちらも同じ内容の言葉が並んでいるのですが、聞き手の印象は大きく異なることが分かります。後で聞いた情報のほうが、最初に聞いた情報よりも記憶に残りやすいことを意識してみてください。

  • 「A氏は努力家なのだが、たまに失敗をする」
  • 「B氏はたまに失敗はするが、努力家である」

A氏は「努力家」という好評価を得ているが、「たまに失敗をする」ということで、その評価を帳消しにするようなマイナス面が強調されます。一方、B氏は「たまに失敗をする」というマイナス評価を打ち消すほどの「努力家」であるといった印象を与えます。

これを接客の場面で考えてみると、お客様から、「A商品はちょっと高いですね」と言われたときに、どのように答えるかでお客様への伝わり方が大きく異なります。

  • 「A商品は機能性が高いため、値段が若干高くなっています」
  • 「確かにA商品は値段が若干高いのですが、それ以上に機能性が高くなっています」

また、次のような場合はどうでしょうか。

  • 「A商品の値段が高いのは、機能性が高いからでして、それを考えると、値段がそれほど高いというわけではありません」
  • 「確かに高いかもしれません。しかし、それ以上に使い勝手が良くなっています。従来の商品では不可能でしたが、○○までできるようになったのです」

上のほうは、機能性の高さを強調していますが、お客様の意見を否定することになります。高いか安いかはお客様が判断すべきことであり、お客様の判断を否定するような発言は失礼です。

セールストークは、理屈や議論でお客様を説き伏せるというものではありません。お客様の意見や価値観を尊重しつつ、別の視点による利点を伝えるためのものです。従って、このような場合は、下のような表現にするべきです。

4)聞き上手になる

接客は、話し上手であるよりも、聞き上手であることのほうが大切です。聞き上手になるための基本は、お客様の話に適切に相づちを打ったり、お客様の話を復唱したりすることです。

相づちを入れたり復唱したりすることで、お客様の話をしっかり聞いているという姿勢を見せることができるのに加え、聞き間違いや勘違いを防ぐこともできます。また、適切に質問をすることも聞き上手になるためには重要です。

7 実際の接客では……

お客様がいないとしても、販売員が暇そうにしている店よりも、ディスプレーの変更や商品の整頓などをして常に動いている店のほうが入店しやすいものです。そして、作業をしていても店内や入り口への注意を欠かさず、お客様の入店と同時に、「いらっしゃいませ。どうぞ、ご自由にご覧くださいませ」と言葉を掛けます。

しかし、そこですぐにお客様の近くに寄っていってはいけません。入店時から買いたい商品が決まっているお客様は少なく、多くは「取りあえず商品を見て、気に入ったものがあれば買おう」と考えているのです。それなのに入店と同時に販売員が近寄ってきたら、お客様は「必要のないものを買わされるのではないか」と警戒心を抱きます。

販売員は、お客様が入店したらタイミングを計って作業を中断し、お客様に声を掛けます。しかし、「何をお探しですか」と聞いても明確な回答が得られるとは限りません。最初は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問から始めるとよいでしょう。

大切なのは、購入の決定はお客様がするということです。迷っているお客様に販売員が商品をお勧めして購入してもらえば、接客は成功したかのように見えます。しかし、お客様が実は迷っていたのに、販売員に押し切られる形で商品を購入したら、後で不満を覚えることになります。

店に対して不満を抱いたお客様は、知人に悪評を伝えるかもしれません。そうした悪評を聞いた人たちは、果たしてその後店にやって来るでしょうか。恐らく来店は期待できないでしょう。

商品を1つ販売するために、リピーターになってくれたかもしれないお客様を逃し、また潜在的なお客様も失ってしまうのは大きな損失です。販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いであることを忘れてはなりません。

以上(2019年4月)

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