中小企業も今こそ、SDGsを理解し、実践しましょう!〜CSRとは似て非なるもの、企業成長のために/岡目八目リポート

 年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、SDGsビジネススクール「Start SDGs」を運営している株式会社グローバルイノベーションズの代表取締役である黒岩 賢太郎さんです。

 35℃を超える日々も多くあった今夏、それでもスーツの上着を着ている方々をたくさん見かける丸の内周辺。そこで、左胸の社章と、目につくのが、カラフルな色が散りばめられた【輪っか】、そうです、SDGsのピンバッジ。本当の意味をキチンと理解している方々がどれほどいるのか? そこは解りませんが、着実に浸透しつつあるのも事実、中小企業経営者に尋ねると『うちには関係ないよね〜』という返事も現状かと感じる次第です。

 そこで、中小企業になぜSDGsが今必要か? そこにフォーカスしたいと思います。

1 中小企業とSDGsについて

1)現状について

SDGsの認知度状況を示した画像です

日本における認知度、19%! 主要20カ国における平均が51.6%にかなり出遅れている現状をまず理解しておく必要がありますね。日本だけのお話ではなく世界的な潮流であり、世界共通言語になっていることをまず理解、19%の認知度の多くは大企業、実際380万社と仮定した場合の中小零細企業での現況は、

  • SDGsについて対応、アクションを行っている:1.2%→45,600社
  • SDGsについて対応、アクションを検討している:0.2%→7,600社
  • SDGsについて知っているが、特に対応はしていない:5.8%→22.04万社
  • SDGsという言葉を聞いたことがあるが内容は知らない:8.0%→30.4万社
  • SDGsについて全く知らない:84.2%→319.96万社

全く知らない会社が300万社を超えていることになること、またこの出遅れ感をなんとかしないといけないという課題感の大きさとともに、SDGsを指標にしたビジネスは中小企業にとって大きなチャンスが眠っている事を知らない会社が多すぎると黒岩さんは話します。

2)なぜ中小企業に必要か? を知る

滋賀銀行における【SDGs融資】についてのリリースを示した画像です

上記は、昨年日経新聞でも大きく取り上げられた、滋賀銀行における【SDGs融資】についてのリリースです。これは国内金融機関初の事例であり、金融面でのSDGsの大切さがクローズアップされた事象のスタートとなります。金融関係会社はほぼSDGs宣言をしている状況下において、今後ますます増えてくる事が予想されます。

もう少し大局的な目線でお伝えしますと、大企業と繋がりがある、自社の商売の根幹をなす中小企業も少なくないと思いますが、ほぼ全ての大企業がなぜSDGsに取り組むのか? SDGsを真正面から取り入れようとしているそこも大切ですし、そう本心から実践に向かっている会社も存在します、その一方で、大企業と機関投資家の関係も見過せません。

ESG投資をご存知でしょうか? 「ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。ESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つと言えます」。そこに、世界の投資家が重視し始めているという状況があります。「世界最大規模の公的年金基金もESG投資を採用しており、ESGを考慮した運用は、今後重要度が高まると考えられます」。実際、「世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では2017年に1兆円規模のESG投資を2017年に開始。今後3兆円まで増やす予定」とのこと(以上、大和証券HPより引用)。

大企業の株価がこの投資により大きく変化するリスク、そこから事業の大転換、変革も今後確実に起こってくる、その変化対応のためにも中小企業がSDGsを理解し、時代の先を読み解く力が必要であると黒岩さんは強く語ります。この変化を知ることで自社の先々の事業のあり方、あるべき姿を認識するキッカケに繋がります。

CSRもとても大事ではありますが、SDGsは事業の継続、発展、収益化にそもそも直結するものであり、過去にあったISOブームの次元が高いヴァージョンですとも黒岩さんは話します。

このゴールにおいて自社事業と関連する17のゴールを事業に落とし込むことで、事業の発展に繋げていく。中小企業におけるその具体的な事例について、黒岩さんにお聞きしました。

1. フロムファーイースト株式会社[第1回SDGsビジネスアワード大賞受賞企業]

使われれば使われるほど、売れれば売れるほど環境改善に繋がり、収益から森林を増やす100%無添加・自然素材の化粧品を販売。

米ぬかや小麦ぬかなど廃材になりそうな材料で製造し、皮膚にも優しく、有益微生物が排水までも綺麗にする商品を開発。

このSDGsビジネスであったからこそ、大手百貨店を中心に約800店舗の取り扱いへと拡大している。

2. 株式会社エコシステム[第2回SDGsビジネスアワード大賞受賞企業]

大量生産・大量消費型社会が生んだ産業廃棄物の瓦。形状の特異性などから最終処分場でも受け入れを敬遠されがちであり、処分費も高額になってきている中、瓦廃材を粉砕し、透水性特殊舗装製品や複合コンクリート製品としてアップサイクル商品を開発。

世界共通言語のSDGsビジネスだからこそ、今では南米との取引も加速している。

3. 会宝産業株式会社[第2回ジャパンSDGsアワード「SDGs推進副本部長(外務大臣)表彰」受賞企業]

自動車解体業という枠を超えて自動車リサイクルを事業に。車輌仕入れから解体・部品管理・販売までを一元管理できるシステムを屋台骨に、世界約90カ国とネットワークを形成し、ものをつくるのが「動脈産業」で、つくったものを循環させるのが「静脈産業」とするならば静脈産業のパイオニアとして地球環境と世界経済のために、その輪を広げています。

※上記だけではなかなか伝わらないと思います。上記企業のHPなどを是非ご覧くださいませ。

2 黒岩さんがSDGsを取り組むようになったワケ

1)自身の事業への疑問

阪口氏との出会いから5年、別の事業を経営しつつ勉強し、このSDGsビジネス普及に関する取り組みを決心し、行動に移して1年ほどという黒岩さんですが、なぜこの短期間で事業化に踏み込んで行えたのか。その部分についてお聞きしました。

長らくセールスプロモーションの業界に身を置いてきました。クライアントが喜んでもらうことを主眼にやってきましたが、自分の事業が【売り込み】に終わっている、例えばツールの販売に終わっている。お金の世界に喘いでいる自分に息苦しさを感じていました。未来に繋がる事業を模索している自分がいたと黒岩さんは話します。

2)阪口氏、平本先生との出会い

その頃に私の紹介で、黒岩さんにお繋ぎしたのが阪口竜也さんでした。阪口さんについてはこちらの記事をご覧ください(出典 2017年7月アナザーライフの記事より)。阪口さんは2017年の第1回SDGsビジネスアワード大賞の受賞者であり、私とは15年近いお付き合いです。当時のリリースはこちらです。

100年後の地球や子供達のことを本気で考え、実行している阪口さんに出会って、大きな衝撃だったと話す黒岩さん、自分がやってきたことで未来に繋がる事業はなにか? と考えた時にいろんな事業アイデアが生まれてきたそうです。

上記の資料で言うと3番(SDGsの考えを発展させる)、4番(SDGsを実践する)この部分が、黒岩さんが思いついた部分、その実現を話し始めた頃に阪口さんが、日本の最先端、早期のうちからSDGsに取り組んで来られた、金沢工業大学の平本先生を紹介してもらって、直接指南をいただけることになったそうです。平本先生の研究室のHPはこちらです。

そこで先生から、SDGs市場はこれから形成の段階にはいっていくところ、現在は、【理解】と【定義】が必要、市場を創造する前の段階、啓蒙活動をしていく必要性を促されたそうです。

そこから、黒岩さんは自身でSDGsビジネス普及に関する学びを平本先生から直接受け、イベントにも積極的に参加、昨年の12月からSDGs普及に関する講座、スクールの開講に向けて一気に舵を切りました。それから3カ月で準備も完了しスクールの開始へ。このスピード感で準備できたのはまさに元々本業であった、セールスプロモーションの仕事をやってきたからだそうです。

例えば、ある頭髪美容系メーカーにおいては、美容サロンへの教育ツールの開発、社内イベントの実施、美容師向けのカットコンテスト、Webプロモーションと、セールスプロモーションと言っても多岐にわたる経験、実績があってのこと、その経験がこのスクールの立ち上げに見事に活きているそうです。

3 SDGsビジネスプログラムをスタートして、そして今後

1)SDGsビジネスプログラム募集開始から見えてきたこと

最初にこちらの動画をご覧ください。

この動画は全国6箇所でスタートしたSDGsビジネスプログラムでの実際の状況です。第1期目の応募関係の数値から見えてきたこと。問い合わせ社数439社、申込者数107社うち大企業が12社(大企業の中には世界に名だたる有名ブランド、ナショナルブランド企業も参加しています)、残りの95社が中小企業とのことです。全国各地からの申込みがあり、大きな広告費も掛けていない中でのこの反応には黒岩さん自身がびっくりしたそうです。さらにびっくりするのは、中学生や高校生の発言が参加する大人以上に真剣にこのSDGsの取り組みへの理解と実践について考えていること。学生さんのプレゼンから参加する大人達の表情、スクール参加への意気込みも変わり真剣さもましていったそうです。面白いですね(学生さんの参加は無料で対応しているそうです)。

加えて、平本先生のプログラムが圧倒的であることが大きいとも黒岩さんは語ります。単純な座学のみのスタイルではなく【自発的】にどう実践するか? そこに持ち込める特殊の手法を用いたワークショップ形式の内容となっていること。そこが大きい。バックキャスト・トレードオフ・ボーダレス・トリプルボトムラインなどSDGsならではの新規事業企画要素を取り入れていたりしています。面白いことに、SDGs講師業の方も受講にきているという事実があるのは、圧倒的である事を物語っているのではないかと思います。

更にはこの「Start SDGs」はスクールの域を超えてマルチステークホルダーパートナーシップの形成が起こりつつあり、既に受講者企業同士で連携や新会社設立の話にもなってきているそうです。

2)今後の展開について

第1期目のプログラムの実施から、次への展開も見えてきた黒岩さんに今後について聞きました。

今回は座学、ワークショップによる【通学制スクール形式】で実施していますが、誰でもどこにいてもいつでもeラーニング形式でSDGsビジネスを学べる【オンラインスクール】、企業ごとに個別でスクール対応をする【社内実践スクール】、企業ごとに、社員と会社のエンゲージメントを高める側面からや働き方改革の文脈でも【社内浸透イベント】、企業がSDGs宣言を展開し、ブランディング広報・PRを具体的に行動できるように【宣言企画】や【宣言ツール製作】のお手伝いを行っていくそうです。

また、小学校でも今年からSDGsの授業が義務化されたこと、今後中学校、高校、大学へと教育プログラムの中でマスト化していくことに対応するため、【教育者向けプログラムの開発】を行い、今年の11月頃には実施に移りたいと話します。加えて、まだまだ遅れている、日本の女性社会活躍問題、男性の意識改革も含めて女性向けのプログラム開発も来年1月スタートに向けて準備中だそうです。

SDGsの実践のためにも、阪口さんのような、事業そのものがSDGsと関連する事業者、SDGsの取り組みを加速できる協力事業者とも連携していく構想とともに、学生や子供達がもっとビジネス社会と関われる機会の実現に向けた【マッチングプラットフォーム兼オンラインサロン】も具現化しようとしています。

過去に培ったセールスプロモーションの力量を思う存分、将来世代のために、未来創造のために役立てていこうとされています。私も心から楽しみにしています。

最後に黒岩さんから一言、想いを

私は、日本とともに世界を変えられると信じて努力しています。
次世代を担う子供達の100年後の未来を守れると。
SDGs…これ程までに一つのキーワードのもとに人々が動く事象があったでしょうか。
SDGsの重要な点は、ビジネスを通じて様々な社会課題を解決していくという事です。
誰でも変革者になれます。
SDGsを通じて同じ志を持った人は全て同志になります。
これまで出会わなかった、交えなかった人達と行動を共にする事ができます。

はじめてSDGsを知った人の中には、貧困をなくそうと聞いて「いやいや海外の話で、日本はないでしょ?」と思われる人もいるかもしれません。
しかし、日本の子供の7人に1人が貧困といわれています。
親の都合で1人で食事をとる子供も貧困です。
「仕事だから仕方ない」で本当に良いのでしょうか。

他にも、熱波・寒波・大規模洪水・高温少雨など日本をはじめ世界各地で深刻な災害をもたらしている気候変動など、様々な社会課題もあります。
ちなみに、世界最大手の保険会社であるアクサのCEOは「今後、世界の平均気温が4℃上昇したら損害保険ビジネスは崩壊する」と宣言しています。
「自分は関係ない」で本当に良いのでしょうか。

改めて、なぜこの事業に取り組むのか。
私は、SDGsを指標として実践に移せるビジネスだからこそ、日本とともに世界を変えられると信じているからです。

その想いの中で、
金沢工業大学 経営情報学科・SDGs推進センターの平本先生と出会いました。
平本先生はSDGsをビジネスに落とし込むロジックと手法をお持ちになられていました。
このロジックと手法を、もっと多くの人に知ってもらいたいという想いが湧き上がりました。

そして、昨今SDGsの広まりに伴って、SDGsのコンサルタントと銘打って、確かな知識・経験がない方による表面的な表現だけの支援が目立つようになったと各所から声が聞こえるようになりました。
こうした状況を否定して新たな対立構造を生み出すのではなく、実際の社会変革の経験に基づいた知識・経験の共有が今後は特に必要であると考え、SDGsを確かな知識のもとに実践に移していける人物を各地で育てていくべく、本スクール化について平本先生に監修いただくとともに企画・実行する運びとなりました。

そして、SDGs・社会課題に対する有識者への登壇依頼が殺到している状況下において、休日も全く取得できずにご家族と過ごすこともままならない程に多忙な処遇の解決。
そして、確かな知識と経験を積んだ学生に対する無償活動支援の強要を阻止すると共に、当スクールでは選抜された学生・若者に対しての受講料は無償化し、次世代を担う希望に社会で活躍できるステージを提供していくこと、女性の活躍への正当なる評価実現も当スクールの運営目的としました。

学ぶだけのスクールの域を超え、SDGsを指標としたその先にある「実践」を第一に弊社及び私は活動して参ります。

●SDGsビジネススクール「Start SDGs」
https://www.startsdgs.com/

以上(2019年9月作成)

第11回 心をわしづかむプレゼンをするための5つのポイントとは?/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

皆さまこんにちは。いつも私のりそコラのコラム「イノベーションフォレスト」と対談シリーズ「イノベーションフィロソフィー」を読んでくださり、SNSでシェアしていただき、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。

皆さまは、人前で話をするときに心掛けていることはありますか?

私は普段から、大学や高専、大企業、スタートアップ、学術研究都市、アクセラレータープログラムなどで60~120分の講義を行っております。日本語のみでなく英語でお話しする場合もありますし、海外で講演や司会をすることもあります。

その他にも、企業向けのプレゼン指導、スタートアップ起業家向けの投資家に対するピッチ指導、著名起業家や経営者向けのテックカンファレンスやテレビ出演の際のスピーチの構成、表現、ボディーランゲージ、ファッション、舞台演出などのサポートもしております。

これらの経験を踏まえて、今回のコラムでは「心をわしづかむプレゼンをするための5つのポイント」を書かせていただきました。ご参考になれば幸いです。

1 オーディエンスは誰なのか明確にする

まずは、オーディエンスについて理解を深めることが、人前で話す際の第一歩です。聞き手は誰か、人数はどれくらいいるのか、彼らはどのような立場で、どのような目的を持って話を聞きに来るのか。これらを踏まえた上で、何を伝えれば役に立つのか、どのように伝えれば理解しやすいのかを考えていきましょう。

また、講演など主催者の方がいる場合は、オーディエンスのみだけでなく、主催者の目的も考慮するとよいでしょう。さらに、社会のニーズをうまく取り入れて話すことも重要です。オーディエンスにとっても、主催者にとっても、世の中にとってもより良い変化を与えられる「三方よし」のプレゼンを目指して、内容を練りましょう。

2 プレゼン資料は1ページに1つのメッセージにする

これは、「1 Para 1 Idea」といって、1つのパラグラフに、1つのアイデアを書く英語の文章の書き方を参考にしています。日本人のプレゼン資料は、1ページに対する情報が多すぎて非常にごちゃごちゃしており、最も伝えたいポイントが分かりにくいことがあります。それに比べて、シリコンバレーをはじめ西洋の資料は、さっぱりとしていて非常に見やすく、後から資料を一人で読み返した際も、ポイントが分かりやすく、プレゼンの内容が思い出しやすいのです。伝説のプレゼンターであったSteve Jobsのプレゼン資料も、すごくシンプルだったことを読者の皆さまも覚えていると思います。

もちろん、統計グラフや最新のデータのページがあれば、よりイメージが湧き、より理解しやすくなりますので、バランスを考えた上で活用するとよいでしょう。

3 他では聞けない話をする

情報化社会である現在は、インターネットなどを通して多くの情報を手に入れることができるようになりました。便利になる一方、人前で話をする立場の者には、検索すれば分かる情報ではなく、「今ここでしか聞けない情報」が聞けたり、「今ここでしかできない体験」をしたりする機会の創出が求められているのではないでしょうか。

あなたの経験に基づく話や考えなど、あなただからこそ伝えられることがあるはずです。それを見つけましょう。調べれば分かる話だけでは、わざわざ時間を作って来てくださったオーディエンスの満足度を高めることは難しいでしょう。

4 プレゼンの山場を決める

10分間の朝礼でのプレゼン、海外パートナーとの45分間のオンラインミーティング、90分間の日本の大学での講演、3時間から6時間のワークショップなど、時と場合によって長さも内容も違いますよね。しかし、常に意識しておきたいことは「山場」を作るということです。たまに残念だと思うのは、内容もまとまっていて分かりやすいのですが、最初から最後まで同じような話し方で心に響かないプレゼンです。このような話し方では、人の記憶に残ることは難しく、熱意も伝わりません。そこで必要なのが「山場」です。

事前にプレゼンの山場を想定して、そこに向かって盛り上がっていくように話をしましょう。また、「声の大きさ」「身振り手振り」「感情の込め方」に変化をつけることで、山場を演出することができます。人前で話すときも、音楽の演奏のように、抑揚や変化をつけることで人の心を動かすのです。今は動画サイトなどでも多くのプレゼンを見て学ぶことができますので、ぜひ上の3点に注目して、どうしたら「山場」を作れるのか研究し、まねをすることで、心に響く話し方を習得してください。

5 インタラクティブに、会場を盛り上げる

次にお伝えするのは、ハーバードビジネススクールで初めての講義のときに、私自身が衝撃を受けた方法で、プレゼンの際も取り入れるようにしています。どのような方法かというと、一方的に話をするのではなく、意図的に質問を投げかけ、オーディエンスの考えを拾い上げながら話を進めるというものです。質問の仕方にもさまざまな方法があります。オーディエンス全体に質問を投げかけ、当てはまるものに挙手してもらう方法、クイズ形式で答えが分かった人からどんどん答えてもらう方法、質問に対して近くの人とグループになって話し合い発表してもらう方法、一人の人と対話を通して考えを深める方法など。これらをその場の空気や目的に応じて、使い分けるとよいでしょう。

また、オーディエンスが自分の意見を言いやすい雰囲気を作るために、事前にアイスブレークとして隣の人と自己紹介をしたり、英語で褒め合ったり、握手をしたりなどして場を温めることや、オーディエンスの間を歩いて距離を縮めることも効果的です。

以上の5つのポイントが少しでもご参考になれば幸いです。

私はいつも人前で話をする際に、オーディエンスの一人一人の心の中にプレゼントを渡すつもりで話をしています。一人一人の目を見て話をしていると、オーディエンスの方々が徐々に前のめりになり、目が輝いてくるのが分かります。その様子を見て、私の話にもさらに熱が入るのです。このような好循環を生み出すには、何よりもまず話し手であるあなたが、楽しく、イキイキと情熱を持って話すことが大事だと思います。貴重な時間を割いて話を聞いてくれる方々への感謝が伝わるような、頭だけでなく心に響くプレゼンを目指しましょう。

これからも、皆さまのトークで、日本を、そして世界を一緒に熱くしていけるとうれしいです。いつも愛りがとうございます。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年9月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

財務データを分析してビジネスプランを磨き上げる

このシリーズでは、起業3年程度の経営者に必要な財務諸表の見方を取り上げています。実際に自社の財務諸表を読んでみた感想はいかがですか。戦略がうまく機能しているところや、そうでないところが、財務データに表れていませんでしたか。

財務諸表には、日々のビジネス活動の結果が数字で表現されており、皆さんご自身の経営に対する成績表です。こうして表現された財務データを活用して、自社のビジネスの特徴、経営課題を読み解き、経営戦略、ビジネスプランがうまく機能しているのかを検証し、さらに戦略やビジネスプランを磨き上げていきましょう。

1 まずは過去の自社と比較してみる

ある年度の自社の財務諸表だけを見ていても、その良しあしは分かりにくいものです。自分の身長は高いのか低いのか、体形は痩せ形なのか、ぽっちゃり形なのかは、他人と比べることで明らかになります。財務データも同じで、何かと比べることで特徴や経営課題が読み取りやすくなります。

同業の上場会社と比べてもよいのですが、規模や業歴の差が大きく、あまり役に立たないかもしれません。入手可能であれば、業界の平均値のような数値と比較する方法もありますが、まずは自社の過去の数値と比較することをお勧めします。

起業以降、もろもろの課題や悩みに対処しながら、戦略、ビジネスプランを立てて、会社のかじ取りをしてきたことと思います。そうしたこれまでの経営がどのように財務データに反映されているかを、過去の経営のかじ取りを振り返り、定性的な時々の戦略と財務データを見比べながら、評価してみましょう。

比べてみると分かりますが、売上、利益、貸借対照表の各項目の数値が、大きく変動しています。実際の数字を例えば年度ごとに並べてみても、そこから何かを読み解くことは、よほどの経験がない限り難しいのです。以降では、財務データを指標化することによって、財務分析をしやすくする「財務指標分析」について解説していきます。

2 財務分析の手順

1)ROEとROA

財務データを活用して会社の状況を分析するとき、皆さんは会社のどのようなことが気になりますか。もうかっているのか、どういう活動で利益を生み出しているのかといった収益性、効率よくビジネスが行われているかの効率性、自社は潰れないかといった安全性、さらには売上、資産共に成長しているかの成長性などたくさんあるはずです。

しかし、やみくもに気になるところを見ても、会社の全体像は把握できません。財務指標分析にも、これまで財務諸表を見てきたのと同じように手順があります。それは、会社の総合力を表すといわれるROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)から確認していくことです。

会社の生産性を見る際のポイントを示した画像です

ROEとは、純資産に対する利益(当期純利益)の比率です。毎期生み出した当期純利益は利益剰余金として純資産に組み入れられることから、株主から預かっている資金を1年間でどれだけ増やしたかを示しており、株主が最重要視する指標です。外部に不特定多数の株主を持つ上場会社においても、経営を行うにあたり意識すべき重要な指標です。

一方、ROAは、ビジネスに投じた資金(資産)に対する利益の比率を表すもので、ここでは反復継続して稼ぐ利益である経常利益を使います。

高いROEを株主に対して約束する会社(主として上場会社)は、それを実現するために、社内ではお金の使い道である資産に対する利益率を示すROAを、部門の目標に掲げるなどしています。この2つの指標はどちらか一方というよりも、対で用いられることが一般的です。

2)ROEとROAの分解

ROEとROAが企業の総合力を表す指標だとされるのは、それぞれが重要な指標の集大成だからであり、逆にいえば重要な指標に分解できるからです。ROEは、「収益性×効率性×安全性(ROAは収益性×効率性)」に分解できます。企業の総合力を表すROEが、どのようにもたらされているのかを3要素から読み取ることができます。

総合力を表す財務指標 ROE/ROAを示した画像です

ROEを構成する3要素(売上高当期純利益率・総資産回転率・財務レバレッジ)を個別に見ていきましょう。

売上高当期純利益率(ROAは売上高経常利益率)は、売上からどれだけ利益を生み出しているかの収益性を表す指標です。

総資産回転率は、企業がビジネスに投じた資金(総資産)の何倍の売上を上げているかといったビジネスの効率性を表す指標です。

財務レバレッジは、外部からの負債をどれだけ活用しているか、返済期日のない純資産の何倍の資金を使ってビジネスを行っているかを示す指標で、安全性をどれだけ犠牲にしてビジネスを行っているかを表す指標といえます。

起業したばかりの会社では、業績が不安定なこともあり、負債を大きく活用することは現実的ではないでしょう。ROEは財務レバレッジを上げれば高くなりますが、それは安全性を犠牲にした結果だということを理解しなければなりません。

過去のROE、ROAと比べてみると、会社の総合力を表す指標がどのように変化したかが分かります。それを分解すると、ROEやROAが変化した要因を収益性、効率性、安全性の要素ごとに分析することができます。ROEが向上したのは、売上高当期純利益率の収益性に起因するのか、総資産回転率の効率性に起因するのかといった具合で、ざっくりとROE、ROAの変化の要因を分析することができます。

例えば、売上高当期純利益率が向上しているなら、収益性が改善していることは理解できますが、果たして製品やサービスの価値が認められて高く売れるようになったのか、販管費が効率よく売上につながるようになったのかは、これだけでは分かりません。ROE、ROAの3要素への分解は、企業分析において「あたりをつける」ためのものだとお考えください。売上高当期純利益率が改善したならば、どのレベルの利益の水準が改善したのかまで詳細に見るようにしましょう。

3 収益性の確認

それでは、収益性を詳細に確認しましょう。本シリーズ第2回「損益計算書(P/L)で経営者が見るべき点は?」で取り上げた4つの利益(売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益)を思い出してください。それぞれの利益率を計算すれば、どこに利益を上げる秘訣があるのかが読み取れます。

例えば、売上高総利益率が改善しているのなら、自社の提供する製品やサービスが顧客に価値をより認められている、ブランド力が高まっているといえるでしょう。売上高営業利益率が改善しているなら、販売、マーケティング、会社の間接部門の活動が売上に以前よりも効率よくつながっているといえるでしょう。自社の過去の数字との比較では上記のようなことが分かりますが、他社比較、業界平均との比較では、どこに自社の優位性があり、どこが自社のウイークポイントなのかが読み取れるでしょう。こうして、具体的な「打ち手」を考えることができるようになります。

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4 効率性の分析

次に効率性についてですが、ROE、ROAの分解で見えてくるのは、総資産回転率という自社の資産全体の効率性です。過去の自社の数値や他社の数値といった比較対象と比べて効率性が悪いということであれば、まず設備の稼働率といった固定資産の生産性を確認してみましょう。店舗を拡大しているようなケースでは、店舗当たりの売上、利益がきちんと伸長しているかを確認しましょう。

次にROE、ROAの3要素の分解では見えてこない部分を、細かく見ていきましょう。具体的には、日々のビジネスの効率性を、本シリーズ第4回「運転資本(WC)とキャッシュフロー計算書(CFS)でキャッシュの動きを感じる」で解説した、資金繰りに影響を与える運転資本を構成する売上債権、棚卸資産、仕入債務から見ます。

売上債権は早期に、かつ確実に回収できているか、棚卸資産は適切な水準か、仕入債務の支払いは十分に余裕を持って行われているかを回転期間で見ます。売上債権は納品から何日で行われているか、棚卸資産は何日分あるか、仕入債務は納品を受けてから何日後に支払われているかということですね。

起業したての頃は経営者自らが一件一件の取引に目配りできているのですが、ビジネスが軌道に乗り、拡大を始めるとなかなか目が届かなくなります。気が付けば取引先とのビジネス上のクレームから売上の回収が滞っていたり、棚卸資産を潤沢に持っておきたい現場の判断で在庫が多くなっていたり、販売不振商品が在庫に滞留していたりと、経営者が思っているのと異なった実態になりがちです。ここは必ず見ておきたいポイントです。

取引金融機関の担当の方から、皆さんの会社の決済条件、在庫の水準などをヒアリングされたことはありませんか。例えば、売上債権は月末締めの翌月払いであれば、最短30日、最長60日ですから、おおむね45日程度になるはずですが、実際の財務諸表から計算すると、これとずれていることが多々あります(売上債権の回転期間は、貸借対照表の売上債権÷損益計算書の売上高×365日で計算できます)。こうした問いは経営者が自身のビジネスをきちんと掌握できているかを把握するために聞かれているのです。棚卸資産(貸借対照表の棚卸資産÷損益計算書の売上原価×365日)や仕入債務(貸借対照表の仕入債務÷損益計算書の売上原価×365日)の回転期間も同様です。

このようにROE、ROAの3要素の分解をきっかけに、より詳細に見ていくことが、分析の精度を上げていくためには必要です。

5 安全性の分析

次に安全性です。自己資本比率という指標は聞いたことがある方もいるでしょう。ビジネスに必要な資金を、どの程度返済義務のない資金で調達しているかを表すものです。起業間もない、業績が不安定な時期には特に重要な指標です。本シリーズ第3回「【資金繰りチェック】経営者は貸借対照表(B/S)のどこを見るべき?」の貸借対照表の読み方で解説しましたが、負債を活用しやすいビジネスと、活用しにくいビジネスがあると紹介しました。ビジネスに必要な資金をどの程度負債に依存するのかは、極めて重要な経営上の判断が求められます。これは財務部長に任せていてはダメですね。実は、ROEを分解した際に登場する財務レバレッジは、この自己資本比率の逆数です。つまり自己資本比率という安全性を犠牲にしたものといえます。

流動資産と流動負債のバランスも安全性を示すもので、流動比率と呼ばれています。すぐに返済しなければならない負債(流動負債)に対して、すぐに現金化できる資産(流動資産)がどの程度あるかを示します。100%を超えていればざっくり問題ないレベルといえます。借り入れコストの安さに注目しすぎると、ついつい金利が安いことが優先され、返済期間が短い資金調達になりがちですが、経営者は見ておかなければならないところですね。

6 成長性の分析

最後に成長性です。売上高成長率、総資産成長率を見る場合は、それぞれを比べてみる視点が必要です。総資産の成長に見合った売上の成長、利益の成長となっているかは大事な視点です。ビジネスが拡大して、会社のあらゆる数字が大きくなっている際には気が付きにくいですが、投資に対するリターンの効率が悪くなっていないかの確認をする必要があります。

7 分析結果を事業計画に活かす

ROE、ROAを分解することで、抜け漏れなく会社の収益性、効率性、安全性、成長性を分析することができることはご理解いただけたでしょう。経営者が自らこうした計算をする必要はありませんが、どういう切り口でご自身のビジネスの健康状態をチェックすればよいのか、またそうしたチェック指標から何が言えるのかは理解しておかなければなりません。

戦略、ビジネスプランを描くのは経営者です。戦略、ビジネスプランの実施後の姿をチェックし、その妥当性、有効性を確認、修正するのも、経営者が行うべきでしょう。このサイクルを迅速に、かつ、頻度高く定期的に行うために財務指標分析は有効なツールです。ぜひPDCAのサイクルを回す上でご活用いただきたいと思います。

次回以降は、経営戦略、ビジネスプランの妥当性、有効性を検証するための事業計画の作成方法について解説していきます。定性的なストーリーとしての戦略やビジネスプランも、ビジネスというからには、もうかるのか、いくら資金が必要なのか、投資は何年で回収できるのかといった定量的な検証がなければ前に進みません。定性的なストーリーとしての戦略、ビジネスプランを数字で説明するための事業計画の作成方法について、財務諸表の構造、指標分析の方法を振り返りながら考えていきましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年9月10日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【後編】第4回 株式会社ウィズグループ(Wiz.Group) 代表取締役 奥田浩美氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第4回に登場していただきましたのは、IT関連のカンファレンスやイベントなどのプロデューサーとして国内外で幅広く活躍されている著名人、起業家でもある株式会社ウィズグループ(Wiz.Group)代表取締役、奥田浩美氏(以下インタビューでは「奥田」)です。前後編に分けてお送りします。今回は後編です。前編はこちらからご確認ください!

6 「私はとにかくクロスという言葉が好きです。この時期のこの時代、この人、この場所で絶対クロスする瞬間というのが、どんな時代にもあると思っています」(奥田)

John

浩美さんは、日本に学会のような日本式イベントしかなかった時代にカンファレンスなどをプロデュースされています。どのように多くの方々を楽しく巻き込まれて、成功に導いてこられたのでしょうか?

奥田

私はアメリカのカンファレンスをものすごくリスペクトしていて、彼らのやってきたことを取捨選択したに過ぎないといいますか、変化させたということです。つまり、アメリカで「ウケる部分」と「日本ならではの部分」をうまくアレンジしたので、ある意味それは、1つのプロデュースだと思います。例えばアメリカの場合、感動するような舞台と言えば、例えば1960年代くらいのチャールズ・イームズ氏(アメリカのデザイナー)です。彼は、展示会のカンファレンスプロデューサーだったのです。

彼がデザインしたのは、例えば、椅子です。チャールズ・イームズ氏は、家具などの天才デザイナーと呼ばれている、近代家具の父みたいな人です。そうした人が、商業カンファレンスのようなところのプロデュースとして存在していたのです。その一方、日本は、商業カンファレンスというものはなく、先ほどJohnさんがおっしゃった通り、あるのは学会や展示会。それも、同じ画一的なブースを使います。そこにデザインというものがないのです。私はその時に、場所というものの「空気」は、デザインできるものだということに気付きました。例えば、今ここ(私の自宅)にいると、皆さんは私にデザインされた私の空気の中にいるわけですよね(笑)。しかし、今まで日本には、空気をデザインするイベントプランナーなどは、あまりいなかったのではないでしょうか。

例えば、オペラに行くことを想像してみてください。私たちは、(会場に)入った瞬間から、オペラを楽しみますよね。むしろ、行く前から、「オペラを楽しみに行くんだ」と思っていて、いざオペラの会場に入ってみると、建物から何から、全てデザインされています。それに対して、イベント会場は、どのような用途にでも使えるようになっています。広告代理店や、「なんでもやれる人」がその場をつくっているわけです。でも、オペラは違います。オペラは、オペラをつくる人が、オペラ用に場所があってやっている。そういうことに対して、私はとても悔しかったのです。アメリカに行くと、カンファレンス用の場所が、カンファレンス用につくられている。それにふさわしい「場所」と「空気」というものに、非常にこだわっているのです。それを見て、私も「空気を売る人になりたい」と思っていました。

John

すごく面白いですね! 浩美さんは、どういった空気をつくられたのですか?

奥田

わくわくすることだけ、というような(笑)。

John

なるほど~(笑)! 人がわくわくする空間は、どのようにつくるのですか?

奥田

いろいろな人のパッションや、ミッションを持った思いのようなものが交差、つまりクロスするようにします。私は、とにかくクロスという言葉が好きです。この時期のこの時代、この人、この場所で絶対クロスする瞬間というのが、どんな時代にもあると思っています。そのため、とても場所にこだわりますし、人にも、時代にもこだわっています。例えば、1000年前であれば、水道というものに対してカンファレンスができたと思いますが、今、「水道展」を開催しても、私たちはたぶん、わくわくしないですよね(笑)。しかし、おそらく500年前や1000年前には、水というものがひねれば出てくるわけではなかったので、「汲まなくても好きな時に水が出せる」ということに対して、世界中の人が集まってわくわくしたと思うのです。

それは、1990年代でいえば、インターネットのハブやルーターなど、どちらかというと物理的な側ですよね。具体的に言うと、例えば、インターロップ(Interop Tokyo、インターネットテクノロジーイベント)なのですよ。その時期(1990年代)に、そういうものをやりたかった。でもその当時は、きっとインターロップのようなものは後々、おもしろいイベントではなくなるだろうとも思っていました。なぜなら、今はあるのが当たり前で、インターネットという言葉を聞いただけでわくわくする人は、いないですよね(笑)。

John

実は私は、結構冷めているところもあって、人が楽しいと言っているようなところはあまりわくわくしません。言い方は良くないかもしれませんが、「ここに行ったら楽しいですよ」と多くの人に言われているような場所にはあまり行きたくなくて、自分でつくりたいのです。

奥田

分かります。私もです。皆が「ここに行ったら楽しいですよ」という「安心感のある」場所は、クロスするポイントが初めて生まれる場所ではないと思っています。

John

そうですよね。知られていない名店、例えば、誰も知らないようなパン屋さんに行ってみたら、とても美味しかったり、2畳ぐらいの広さしかなくお客さんが6人程度で満席になったりするなど、そういう面白くて誰も知らないところを、自分で発見した時のほうがわくわくします。

しかし、浩美さんは、皆が「ここに行ったら楽しいですよ」というような空間をつくることもできるということですよね?

奥田

確かにそうした空間をつくるのも得意ですが、持続させるのが苦手です(笑)。

John

それは、飽きてしまうからですか?

奥田

飽きます。飽きますが、商業的な視点で考えて、まだわくわくする人がいると思うと、人に渡します。

John

その、渡す「次の人」をどのようにして見つけられているのでしょうか? 一緒にやっていた人の中で見つけるのですか?

奥田

「次に残るもの」というのは、とてもお金を生み出します。ビジネスでプロデュースする時、私には、コインがチャリーンという音を立てるのが聞こえます。「最初にお金が生まれました」という感じです。私は、そのチャリーンという音を一番聞きたいのです。今までずっと皆が研究していなかったり、皆がフォーカスしていなかったりするもの、しかし、それがクロスして、そこにチャリーンという音がしたら、私はとても満足です。そこから先は札束がバサバサ入ってくるので、皆がやって来ます。ですから、次(にそれを続ける人)を見つける心配はいらないのです。皆が来るから、「どうぞ」と言って渡せば、皆、喜んでくれますし、流行りますし、お金もできますし。「一石なん鳥!?」ということになります(笑)。

John

なるほど、そういうことですよね! どのようにイベントやプログラムなどの値段を決めていくのでしょうか?

奥田

一応、業界的な標準となるものを自分で決めています。一番最初は時代が時代でしたので、1日当たりで5万円、10万円という形で基準をつくっていましたが、それは途中でやめました。その辺りを基準にしても、短い時間でいいものをつくった時に、安くなってしまいますよね(笑)。その点に疑問を覚えるのが、私は早かったのです。「ひらめき」に対しての価格の低さ……そこがイノベーティブではない日本の社会、ということなのでしょうね。「ひらめいて、短い時間でつくって、皆は理解できないけれど、2年後にいいもの」は、ほとんど値がつきませんので(笑)。

7 「インドに出て、『自分のいる場所と自分の周りの人で4億人』という状態になった時に初めて、とても居心地が良かった」(奥田)

John

今回の対談記事は、様々な立場の方が読んでくださると思いますので、お聞きしたいのですが。就職や起業ということが「語られすぎている日本」ということに対しても、私は、不思議に思っています。就職してから起業してもいいし、起業してから就職してもいいし、同時進行でもいいと思うのですが、とにかく最近、日本では、そうした起業論がとても多いような気がします。

「人を幸せにしたい」あるいは、「自分の趣味がたまたま続いている」ということで起業したのであればいいのですが、最近は、「最初から、とにかくなんでもいいから起業することを考えている」「1年以内に起業する」というような人が多いのです。何が日本を変えてしまったのでしょうか。「スポーツをやりたい」ということと同じような感覚で「起業したい」「スタートアップをやりたい」というのは、どういうことなのでしょうかね。オープンイノベーションもそうです。日本では、ここ2年くらいで起業やオープンイノベーションが流行り出しました。これについて、どう思われますか?

奥田

お金だけに向き合っていると、それをできるだけ長く持続させて札束を生み出そうということになるので、オープンイノベーションも、ある意味、それにつぶされてしまったのではないでしょうか。つまり「オープンイノベーション」というパッケージをつくって、「あの会社もやってますけど、どうですか?」という感じでやってしまった。たくさんやったほうが、お金になりますから。

しかし、私は、もっと、時代も場所も人も俯瞰して見るということをすべきだと思います。日本人はそうした俯瞰する目を養っていないので、右と左しか見ていないのです。「右がやる、左がやる、それじゃあ自分もやらなきゃならない」「右が勉強している、左が勉強している。じゃあ自分も大学に行かなきゃいけない」。就職もしかりです。そういうところがあると思います。

スタートアップもエコシステムがとても小さいので、その周囲にいる人が、「あの人も起業、3億円でexit」「この人も起業、2億円でexit」ということで、「それじゃあ3億円でexitするくらいで俺も起業したい」というふうになってしまいます。ここ4、5年は、30億円exitが続きましたよね。その30億円でexitした人たちが今、とても悩んでいるわけです。「ゲームの会社つくりました、メディアもウェブも立ち上げてみました、売りました。だけど、私って社会を何か変えたんだっけ?」というように。

John

なるほど、立ち返ってくるということですね。

奥田

立ち返ってきますね。右を見て、左を見て、「皆が」と思ってしまうのですよね。それは、「皆がテレビゲーム持ってるんだよ」と言っている小学生と変わらないじゃないですか。「皆がオープンイノベーションをやっている」の「皆」が、狭い中の右と左しか見ていないから、おかしいわけですよね。

そこで、やはり教育なのだと思います。私は、教育は、もっと上から俯瞰して見られる、あるいは寝転がって見られるという風にすれば良いと考えています。学校の姿にも物理的に表れていますよね。同じテーブルの同じ目の高さから、ずーっと先生を見る教育は、おかしいのではないかと思います。寝転がったり、飛び上がったり、さまざまな角度から、さまざまな人と、いろいろなものを見るということが大切です。たかが教室、されど教室なのですよ。

同じ方向しか見ないのには、違和感があります。仮に、その中で動き回る子がいると、矯正しようとするじゃないですか。本当は矯正する必要はありませんよね。そういう子は、そういう子に合う場所を与えればいいと思います。それは、「それができない」と評価するのではなく、「その子は何が楽しいのか」ということに向き合うということです。40人に1人ぐらいは、そういう子はいます。

私も小学校時代、1クラス40人の中で、全く居心地が良くなかったのです。高校生になって、1学年400人になっても、全然駄目でした。それが、インドに出て、「自分のいる場所と自分の周りの人で4億人」という状態になった時に初めて、とても居心地が良かった。このように、自分の好きなボリュームゾーンがどこかということを、皆、見極めなければならないのではないでしょうか。もしかしたら、2人という環境がとても好きな子は、2人で行う学習手段がいいでしょう。つまり、マンツーマンです。40人がいいと思えば教室がいいでしょうし、40人がきついのであれば、もっと何億人のところを回れるというような。

私は、今、自分がとても居心地が良い環境を自覚しているので、だからこそ会社の中にいられないのです(笑)。うち(の会社)は小さくて、10数人。それは私にとってさらに気持ち悪いし、いくら規模の大きい会社でも、1つの部署は20人~40人くらいですよね。私は40人だとダメなのです(笑)。

8 「やはり愛です。私は、『愛りがとう(愛+ありがとう)』を、もう17年使っています」(John)

John

対談を読んでくださっている方は、ほとんどの方が会社に行って仕事をしていると思いますので、会社における環境づくりや見せ方など、何かアドバイスはありますか?

奥田

離れていても伝わるような思いを持った上司でなければ、良い環境づくりはできないので、だから、なかなか実現できていないのではないかと思います。

John

確かに、ビジョンを語る社長も少ないですし、言葉では「ビジョン、ミッション、バリュー」と言ったり書いたりしますが、その本人がしっかり思っていないこともあります。こうしたことについては、どのように思われますか?

私が言いたいのは、表現の仕方が良くないかもしれませんが、日本社会はうわべだけのことが多いのではないかということです。「うわべだけのオープンイノベーション」や、「うわべだけのビジョン」など。いったい日本はどこに向かっているのだろうか、何を見失っているのだろうかと思います。昔からそうなのかもしれませんが、日本はグループの中に入っておくのが安心と考える人が多いような気がします。

今からでも日本社会を変えられそうな、より幸せなあり方や考え方などは、あるのでしょうか?

奥田

日本人というのは、とても人間的な人がたくさんいる環境ですので、私は日本が悪いとは全く思ってはいません。しかし、日本では必ず、「自分と他」で考えて、「他のいない自分」について考える環境がないなとは思います。「どのような人が周りにいようが、私は私でやりたいことがあり、私は私で意味がある」というようなことを、私はとても思っています。おそらく、私がいるだけで、空気がわくわくするということもあると思います。しかし、日本では、「私」を消さなければならないと思っている人が多くて、私のように考える人はあまりいないのかもしれません。

ただし、それは、皆が皆、「自分に対して自信満々になれ」ということではありません。生まれてきたからには、必ずその人には、何らかの役目も、良さもあるということです。例えば、私は、ここにいるだけで、単語で言うと「愛」や「希望」や「未来」というような存在でありたいと思っているので、それが皆に伝わる行動をしています。伝わる仕事だけを選んでいます。伝わるような家族をつくっています。伝わるような社会への発信をしています。たった3つの単語「愛」「希望」「未来」だけ。ただ、最近は「未来」だけは消しているのですよね。「未来」については、あえてしゃべらなくても、「今」が続くわけなので。ですから、「愛と希望」。アンパンマンですよね(笑)。

ですので、皆それぞれ、「私はナントカの権化です」ぐらいのことを、小さい時に教えてあげるのではなく、見出していけばいいのだと思います。Johnさんの場合は、どのようなものだと思われますか?

John

私も、やはり愛です。私は、「愛りがとう(愛+ありがとう)」という言葉を、もう17年使っています。そうすると、「愛りがとう」とメールで返してくださる方も多かったりしますので、やはり言葉で言い続けるべきだと思っています。

私は、日本ではよく勘違いされることも多いようですが、お会いしていただけると、「本当に愛がある人間だな」と思っていただけるようです。時間と約束を守ることだけは徹底して、相手に好きになってもらうよりも、「自分がまず相手を愛す」ことが大切だと思っています。相手に対して、「何かいいところないかな」と思っています。やはり愛ですね。

奥田

なるほど、分かります。「愛と希望」という2つのセットは、自分の中でおそらく24時間、考えなくてもずっと何かに壁打ちしているのだと思います。例えば、人から「1億円の事業なんですけど、どうですか」と言われた時に、そこに、人類としての愛や希望がなければ、私は多分、100パーセントお断りします。人付き合いに関しても、この人を通して愛や希望が拡散されていきそうだと思える人とは付き合うようにしています。(相手が)いくら地位が高かったり、いくらお金を持っていたりしても、私の2つの言葉「愛と希望」にフィットしないと、私の中では「違う」と思ってしまいます。お金になろうがなるまいが、その2つの単語が常にあります。

私の周りの人にも、皆それぞれの魅力があります。例えば、ものすごい好奇心の塊のような人や、非常に美意識が高い人、あるいはものすごく誠意のある人など、それぞれの良さがあります。はっきり言えば、その良さ1つだけでは生きていけませんが、その「核心」があれば、(他の「核心」の人と)セットになることの意味が見えてきます。

例えば、うちの夫は、ものすごく誠意がある人です。そうなると、夫と私が2人でいる意味が出てくるのですよね。良い単語がたくさん集まった袋をつくったような感じだと思います。この、私の「愛」と「希望」や「勇気」みたいなもの……いえ、私は自分の心にある単語は、「勇気」ではないのですよね。結果的に勇気ある行動はしていると思いますが、自分の根源にはやはり「希望」があるから勇気を見せなければならない! と思っています。根底は「勇気」ではないのだと思います。「愛」から「希望」に行くために、少し腰が重かったりしても、「勇気」を振り絞ろうと思うのですが、ときどき見境なく「勇気」だけ出す時があります(笑)。

私は、例えば、「根拠もなく『勇気』だけある人」がペアになると、「愛と勇気と希望」になります。そこに「誠意」もあると、さらによくなるのです。「愛と希望」の間には、やはり「誠意」がないと伝わらないと思うと、そこに誠意を入れたくなったりします。だから、自分に必要な「誠意」という、「いい感覚」を入れていくイメージです。

John

なるほど~~! とても面白い考え方ですね! 浩美さんは、会社のチームで、「仕事をやるチーム」「イベントを成功させるチーム」といった視点で見る時に、メンバー一人ひとりの「言葉」「単語」「核心となっている感覚」といったものが見えるのでしょうか?

奥田

はい、全部見えます。一人ひとりの、なんといいますか、「玉」のようなものが見える感じです。おそらく、私と1カ月くらい一緒にプロジェクトをすると、私はその人の核心みたいなものが分かるので、「あ、(この人は)勇気ちゃん」みたいな感じになると思います(笑)。

John

すごいですね~! 例えば、「勇気」というカラーを持っている人は営業職ということになりますか?

奥田

そうとは限りません。「勇気」の人が、仮にそそっかしくて失敗をしても、「この人の良さは勇気だから、そそっかしさによる失敗は当然の副産物である。むしろ、それがないと勇気が出せないから、それでいいや」と思います(笑)。

奥田氏との対談の様子を示した画像です

9 「『12人ぐらい』という規模であれば、一人ひとりが『自分だけ』にフォーカスしてくれていい」(奥田)

John

今お話に出てきた「勇気」や「希望」「愛」といった、その人の「核心」によって、向いている職種も見えたりするのでしょうか?

奥田

見えます。例えば、「信頼」の人がいます。AIでなければこなしきれない種類の事務的な仕事を、全部普通に片付けていくようなすごい人です。集中して、誠意をもって信頼される仕事をしたい人なので、外を飛び回っていることは好きではないし、おそらく無理なのですよね。ですから私は、その人はその人で、営業に出る必要はないと思っています。

しかし、なぜか日本の会社は、「信頼」という確信は好きでも、「一応、営業経験してみようよ」ということで、そこをクリアできないと上に行けませんというようなことを、無理にしている気がします。

John

そういう方法は、良くないと思いますか?

奥田

それで変わる人もいるので否定はしませんが、私は、究極の人間の本質を活かす仕事は、無理にチャレンジして生まれるものではないと思っています。人間には、本質的に変わらないものがあるのではないでしょうか。

John

私が思うのは、職種でいうと、例えば事務の人と営業の人がいるとして、お互いが連携すると会社のアドバンテージが強くなると思います。事務の人が営業のお手伝いということで配達をすれば、営業の人の気持ちが分かるし、営業の人にも事務のことをしてもらったりすれば、事務の人の気持ちが分かります。そうして、お互いの気持ちが分かるようにすることが大切なのではないでしょうか。

奥田

なるほど。それは、そうしたことをお互いにさせることによって、その人が「もともとの自分の良さ」に気付くという意味で、良いことなのではないでしょうか。

John

私の場合、そこ(自分の良さに気付くこと)ではなくて、「相手の辛さ」を知ることが目的なのです。例えば、少し極端ですが、事務の人が営業の人の代わりに病院に重い機械を持って行き、納期に遅れてお客さまに事務の人が怒られてしまう、というような。そうすれば事務の人は、こうしたことがあってはいけない、営業の人は大変だと実感しますので、日頃から早く手続きを進めるようになったり、営業の人を笑顔で送り出すようになったりします。「自分が」ではなくて、「相手に」優しい言葉をかけることができる自分になるために、事務の人が営業に出る機会をつくったりしています。

奥田

そういう意味で言えば、うち(の会社)の場合は逆に、「自分だけにフォーカス」ということでいいと思っています。ただ、私のこうしたやり方が正しいというわけでは全くありません。私は「12人ぐらい」という規模を決めていますので、その規模であれば、一人ひとりが「自分だけ」にフォーカスしてくれていいのです。ましてや、その素質(核心)を選んでチームにしているのは私ですので、その規模であれば、皆が皆、「自分だけ」に特化しても大丈夫な組み合わせにしています。

John

ああ~なるほど。それは確かに、いいですね。分かります。私は、自分でもアクセラレーターをつくったりしていますが、別にスタートアップの人だけを応援しているわけではありません。例えば大学生で学校に満足できない人や、日本で言う一流企業に勤めている人たちも参加してくださり、楽しそうにしてくださっています。

僭越ながら、私が浩美さんのことを「すごいな」と思って、勝手にですが「先輩!」と思っているのが、浩美さんの周りに集まってくる方々も、さまざまな方がいらっしゃるということなのです。スタートアップの方も、そうでない方も。「スタートアップの方はこうして応援してあげよう」「社会事業家の人はこう応援してあげよう」というように、分けているのでしょうか?

奥田

全然分けていませんよ。スタートアップというのは、人から資本を預かり、短期的にスケールさせて資本を回すという、そのゲームの1つの材料がお金だったり仕事だったりというだけです。やりたいことを、最後まで自分のカラー(核心)を出して社会に浸透させていくという意味では、どの人も、全部、皆一緒です。そのことを私は、「会社を辞めないという選択」という本に書いていますが、人は皆、自分のカラーを持ち、それを、会社を通してうまく社会に流していくのであれば会社員でいいし、そこにうまくあてはまる会社がなければ自分でつくればいい。お金が今すぐに見えなければ、社会起業のようなくくりをつくって、寄付で回せばいい。このような感じですので、私の中では、あまり「起業家」というくくりとしては、分けていないのです。

10 「どこに生まれても、どのようなものを信じていても行ける『1つの英知』をつくりたい」(奥田)

John

浩美さんご自身のことは、どのようにとらえていらっしゃるのでしょうか?

奥田

私自身は結果的に4回起業していますので、「起業家ですか」と言われると、そうに違いないとは思うのです。ただ、まだ自分がやりたいことの集大成は社会に出していなくて、おそらくこれからが一番おもしろいと思っているのですが、それが「起業家」という名前でもない気がしているのですよね。「人々を幸せな方向に」というと、今までは宗教などしかありませんでしたが、宗教でもスピリチュアルでもコーチングでもなんでもないもの。「そこ」を今、探しています。

John

それ、本当によく分かります! 私も、そうしたことを考えていて、今回の対談記事タイトルも、「イノベーションの哲学」「イノベーションフィロソフィー」で、自分自身はイノベーションフィロソファーや、イノベーションプロバイダーと「勝手に」名乗っています。

奥田

私はしょっちゅう、「あなた宗教つくりませんか」と人から言われます。確かに宗教はつくれる気がしますが、私がやりたいことは、「宗教」という名前を冠したものではなく、もっともう少し、どこに生まれても、どのようなものを信じていても行ける「1つの英知」をつくりたいのですよねぇ。

John

「カルチャー」といいますか、intellectualな部分とemotionalな部分が合わさったものではないでしょうか。

奥田

私の中では、「起業家」というものが、自分の心を動かすのに、ある意味一番簡単です。なぜなら、既にできあがった1つのモデルがあり、「こういうふうになれば、起業家で成功だね」というルートがあるからです。まず自分が考えたものを表に出す、そしてそこに対して投資が来る、そこに対してお金がやってきて、社会が動くという、型にはめている感じがするのですよね。起業は。しかし、型にはめたルートではない、「あなたが生まれてきたものを社会に流す方法」が、起業でも社会起業でもなんでもない、何かもう1つある気がしているのです。

John

新しい文化革命、カルチャークリエーターのようなイメージですよね。

奥田

決して学歴でもなく、あるいは置かれている状況や環境でもなく、性別でもなく、「あなたが生まれてきてここの中にあるものの良さ」を、「もっと社会を動かすために使ってみませんか」と言った時に、どのような枠をつくって、枠というか……とにかく、どのようにして、何を使ってサラッと出すのがいいのだろうかということを、今、考えています。

John

よく分かります。私もそうしたことに、ちょうど直面しています。分かりやすいので、「起業」なのです。

奥田

そうです。私の中では、一番世の中に認めてもらいやすくて、簡単なのが「起業」だったのです。

John

「私が本当に目指してること」は、愛を広め、離婚を減らすことだったりします。離婚を減らすことと、出生率を上げることは、愛を叫び、一人ひとりが仲良くなっていただければ可能だと信じてます。今は、「起業」や「兼業」がかなり注目されていて、人々がゆっくりする時間が家庭の中にないという状況もあるのではないでしょうか。家族や夫婦で、自宅で一緒にご飯をつくるような時間をつくれば、家族が皆、仲良くなりますよ。離職率も減ると思います。そういった時間の余裕、心の余裕というのは、実は自分がつくっている、自分がつくるものなのですよね。しかし、ほとんどの人は、「起業」などに振り回されているので、そこに気付かないのかもしれません。

奥田

もはや、私はだんだん、もう体がなくてもいい気がしてきています(笑)。体が動く、動かないということに関係がなく、幸せを発信できるといいますか、会社は多分動くと思っています。しかし、言葉かオーラは出したいです。

John

浩美さん、すごく面白いことおっしゃいますね!

奥田氏との対談の様子を示した画像です

11 「日本が好きだから、大切だから、だからこそ海外に行く」(John)

John

表現を選ばずに言いますが、私は、「シリコンバレーに自分自身が洗脳されている」ような感覚がありました。シリコンバレーを意識しすぎてるというか。イノベーションを起こすために、デザイン思考などを勉強をしているうちに、「シリコンバレー流だけではなく、ほかの地域でイノベーションを起こしてるところも見てみたい」と思うようになったのです。デンマークでは、障害者の方々が働く福祉施設やデザインコンサルファームを訪れました。去年は特に、多くの国へ行きました。イスラエル、フィンランド、エストニア、中国の上海、フランスなど。今年は、シリコンバレーをはじめ、マレーシア、フランス、ルクセンブルク。それらの国々を見て思いましたが、各地域のイノベーションエコシステムの中に行きますから、世界中のどこへ行っても結局はシリコンバレー流なのですよね(笑)。

奥田

そう、それはとても分かります。それで言うと、私は、(今いる)ここから300メートル動くほうが、私がシリコンバレーやエストニアに行くよりも遠い気がします。300メートル先にある、例えば行ったことのない施設のほうが遠い。シリコンバレーに行き、「Hi Hiromi !」と言ってお互い話をして、「分かる、分かる」「Hi yes yes」となるほうが、私からしたら本当に距離が近い。しかし、例えば鹿児島の限界集落は私から遠いのです。

John

それもよく分かります! カルチャーの違いがどれくらいあるかということだと思います。私も、世界各国を見ているうちに、全く喜べない自分に出くわしてきました。エコシステムの中にいると、歓迎され始めたり、喋らせていただいたりします。そうして人が寄って来てくださった瞬間、「これはパリでもシリコンバレーの真似になってしまっている」と思いました。「これじゃないんだよな。ここが人類の幸せではなかったりするのでは」という風に思いました。

奥田

なるほど、その話について言えば、私は自分に対して、10年くらい前から「端と端」という言葉を意識をしています。例えば、先週インドに行きました。自分の振れ幅で、「インドから見て一番端っこ」というところはどこかというと、一見刺激がなさそうな鹿児島なので、次は鹿児島に帰ろうかという感じです。実際に、そこ(鹿児島)に行くと、今度はここから一番遠いとこはどこだろうと思うと、シリコンバレーかなと。そしてシリコンバレーに行きます。要は、「端と端」というのは、違いが大きいところ、振れ幅が一番大きいところ、そこに足を踏み込んで行くことです。実際の物理的な距離の問題ではありません。シリコンバレーは、本当に今、東京ととても近いのです。そうなると、シリコンバレーからの「端」とは、どこなのだろうなぁと、ずっとずっと考えています。

John

それはよく分かります。そして、どこへ行っても同じでは、行った気がしないですよね。

奥田

自分が「イノベーティブ」という言葉を語れる人種の中にいるというのは、結局、全く変わっていないわけです。しかし、例えば、私が自分の田舎に行って、実家などで「イノベーティブ」という言葉をしゃべると、周りからは「んっ? 何?」となります。こういうところで、自分がどう動いていくのかということが大切なのではないかと思います。

今の私たちは、「毎日が本当に刺激的な日にしなければならない」というように、皆、感じていますが、それは本当に良いことなのでしょうか。いわゆる「田舎」で活動していて思うのは、昔は「ハレの日」と「ケの日」があり、年間340日ぐらいは、もう何も楽しくない、何にもない日だったわけです。わずか100年前は、年間340日ぐらいは、いつお金が入ってくるか分からないような状況で、皆、人の土地を耕していたのですよね。そうした状況から逃げる気持ちを発散するために「祭り」があったり、お正月があったりしました。だからこそ、あのころの祭りは、本当に楽しかっただろうなと思います。

それが今、こうしたSNSの時代になり、毎日楽しいことや刺激的なことをしなければ、自分が耐えられない。昔の人は、毎日「辛い辛い辛い」と言っていて、時々、パーッと楽しかった。しかし、今の日本人は、楽しいことが少し下がっただけで、「これはどうにかしなければならない」と皆、大げさに悩んだりします(笑)。でも、私は、「いつも何もないゼロの状態が340日なのだ」ということが、分かる場所に行きたいと思っています。何も日々変わらない、何も日々特別なこともない。「ここでは、おばあちゃんにとって何が楽しいですか? 何にも変わらないし、毎日面白いこともないし」という状況の幸せみたいなものを感じることができる場所ですよね。現代人が行ったとしてもつまらないのかもしれませんが、「なぜつまらないか」を考える必要があるのだろうと思います。

John

なるほど! この間マレーシアに行った時には、時間とお金の使い方を相当考えました。

どこかに行くことも大事ですし、行かなくても、気持ち的にはできる時もありますよね。

奥田

あります。だからこそ、1人で自分の心と向き合う時間が一番大切だと思っていて、それがつくれないので、働き方改革が必要なのだと思います。そこ(働き方改革が必要な理由)が分からないまま、(労働)時間を8時間にして、早く会社を出て会社の仲間と乾杯をしていても、結局、社会は変わらないのではないでしょうか? それであれば、できた時間は、「私は何者なんだろう」「私にはどのようないいところがあるのだろう」「家族とはなんだろう」「家族では、どういうことができるのだろう」「家族で社会をどう変えられるのだろうか」ということに使うべきだと思います。

John

私も、3世代で働ける会社にしようと言っています。これは、自分の子供も、孫も、働きたくなるような会社をいっぱいつくろうという意味です。ある1つの家族だけという意味ではなく、「皆のファミリー」という意味で、「ファミリー企業」と呼んでいますし、そう会社をたくさんつくりたいという気持ちがあります。

奥田

私は、ファミリー企業の違う形がこれから生まれてくるかもしれないとは思います。昔は家業があって、その家業を守るために「ファミリー」でしたが、これからは、ファミリーがいて、このファミリーをどう生かすかを考えて事業がつくれるのではないかと思っています。

John

新しい「ファミリー企業」ですよね。

奥田

それが一番戦力になると思いますし、そこが日本と海外の大きな差ではないでしょうか。海外の企業を見ていると、「この人はこれが得意だから、この人に全権を預けて、この人を活かすために事業、場所を選ぶ」というところがありますが、そういうのは日本では少ないですよね。日本の企業の場合、職業や職種の中に人を当ててしまうのではないでしょうか。

John

私は、この日本を立て直すためには、まず自分が世界をめぐり、世界をより良くするイノベーターを生み出せるくらいの教育者になりたいです。もっと日本人一人ひとりが、GDPといったものだけではなく、「幸せだな」「この国が好き」「うちの家族が一番!」と思えるようにしたいです。学校にしても、「うちの学校が好き」と思える子供がたくさん育つ国にしたいと、本当に思っています。私はとにかく、日本が好きすぎて、だからこそ海外に行くというイメージです。修行のために(笑)。

奥田

私はやはり、新しいものが生まれて、「ぽこっと泡になる瞬間」を見たいので、(世界中を)飛び回っています。

奥田氏との対談の様子を示した画像です

12 「『愛と希望』というものを、時代に合わせて最適化する必要がある」(奥田)

John

この対談を終わりにするのが非常に惜しいのですが、最後の質問です。浩美さんにとって「イノベーションの哲学」とは何でしょうか?

奥田

結局、今までお伝えしてきたことと同じになりますが、「愛」なのですよね。「愛と希望」というものを、時代に合わせて最適化する必要があると思っていますので、その「最適化」というところのクロスの点が、イノベーションなのではないでしょうか。そして、クロスの点は、時代背景によっても変わっていくものだと思います。

日本では、イノベーションというと技術を伴っているように思われていますが、そうとは限りません。最初が技術的な変化しかなかったために、そうした認識になっているだけです。今後、イノベーションは、技術に関係なく、精神的な部分で起きていくでしょう。そうなると、イノベーションというものは、「愛と希望の社会の最適化」をきちんと生み出せた人や、生み出す現象を指すのではないでしょうか。しかし、今お伝えしたようなことを、まだ今の日本の社会で言っても、多くの人からは「なんか、よく分からない」と言われてしまう発言だと思います。

John

スキルとマインドのどちらが大事かと言えば、私は、やはりマインドの部分だと思っています。

奥田

そうですね。あとは、先ほどの「水道の話」のように、技術というものは目に見えるので、人は皆、そこをもてはやしているのだと思います。そのうち、技術というものが見えにくいものになって、当たり前になった時に、「マインド」という部分が浮き上がってくるのではないでしょうか。

John

今までの日本は確かに技術(ハード)に頼ってきましたが、今後はソフト面のパワーや、「おもてなし」などそうしたものが大切になってくると思います。日本人は、プロフェッショナルな「おもてなし」はできるようになったかもしれませんが、英語ではまだまだできていないし、やるべきことや課題はたくさんあるでしょう。

東京五輪もそうですし、大阪万博でも、海外の人がたくさん日本に訪れます。ただの経済効果を求めるだけではなくて、もっと海外を視察して、海外の人に何回もリピートしてもらえるようなものにしなければなりません。東京五輪を利用すれば、後々、日本がしっかりと継続的に世界中を巻き込んでいくことができるものを完成させられると思うのです。

1つ、改めてお聞きしたいのですが、浩美さんは2004年か2005年頃、エコシステムビルダーをやっておられたと思います。当時は「エコシステム」と言っていたのでしょうか? やはりシリコンバレーから見られていたのですか?

奥田

はい、言っていました。「シリコンバレーのエコシステム」というのは、昔から名前がありましたよね。そして日本社会にエコシステムがないということも、言われていました。私はエコシステムを見ていましたので、あるのが分かっていましたし、そのためのプロフェッショナルが必要なのだということも学びました。

それから、話が少し戻りますが、先ほどJohnさんがおっしゃっていた「これから先のおもてなし」ということについてです。今、日本の「おもてなし」というものが、あまりに規格化されすぎて、「おもてなし」が、まるで工業製品のように私は感じています。海外を旅すると感じることですが、海外では、一人ひとりを見てくれるのです。それは、一人ひとりのニーズが違うからです。日本は面として見ていて、「こう来たらお茶を出して、この時間にサーブをする」というような。そして一緒のもの、たくさんのものを並べて「おもてなし」と言いますが、世界は、そうではない風になっていますから。

John

本当にそうですよね。よく分かります。

奥田

それから、イノベーションの話に戻りますが、プロダクトアウトするには、一人ひとりのニーズを見ないと難しい時期が来ていると思います。昔のように、同じものをつくって同じ時期に出せば売れるというわけではありません。そこが、日本が弱くなった理由かなと思います。昔は自動車を出す時期には、世界中の人が同じ時期に同じ自動車が欲しかったのです。しかし、今は、全てが違います。日本を中心に考えて、「同じものです。どうだ世界」というのは、もう無理だと思います。「この国はこう」「この国は何が欲しい」というように、その共通項を区分して見分けた上で共通項を見る、というところで、日本は負けているのだと思います。

John

やはり、世界をたくさん見ることが大切ですね! 日本人でも2カ国、3カ国に同時に住むような時代が来ますか?

奥田

そうならなければだめですね。今、この10年は、日本は、鎖国で守られているのかなという気がします。日本語が、日本を守っているのだと思います。

John

意外に英語ができないからこそ、守っているのですよね。

奥田

日本が今、全員が英語をしゃべれていたら、海外から人がたくさんやって来ていますよ、外国人が。インド人が来ますよ。優秀ですからね(笑)。

John

そして、上司が全部外国人になるかもしれないですね。意外に、英語ができないほうが、この国を守れているのでしょうか。

奥田

今はそうですが、それは「今だけ」ということに気付かなければなりませんね(笑)。

John

本当ですね。これで最後の最後の質問ですが、浩美さんが一番尊敬するイノベーターは誰ですか?

奥田

マザー・テレサ氏です。マザー・テレサ氏の言葉はたくさん残っていますが、中でも私の一番好きな言葉は、「どんな背景のあるお金でも、私の目の前に持ってきてくれたら、それをきれいにします」というものです。つまり、お金をものすごくきれいに世の中に流しますという意味です。マザー・テレサ氏には、黒い世界と繋がりがあるのではないかと言われた負の時期がありましたが、その時に言った言葉なのです。私は、これを「ファウンディング」というのだろうと思いました。こうしたこともあって、マザー・テレサ氏は、イノベーターなのだと、私は捉えています。

John

なるほど、そういうことですね! 素晴らしい!

本日は、素晴らしい大講演をお聞かせいただいたような感じがしています! 日本のためになります!

本当に、本当に愛りがとうございます!!

奥田氏のイノベーション哲学を示した画像です

以上

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事業承継に種類株式を活用するための手続き

書いてあること

  • 主な読者:種類株式について知りたい経営者
  • 課題:どのような種類株式があるのか分からない
  • 解決策:本稿では種類株式の概要や、発行手続きについて紹介するので参考にする

1 種類株式の概要

株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会において議決権を行使することができる事項など、会社法に定められている事項について異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(法第108条第1項。本稿の参照条項は全て会社法の条文であり、「法」と表記しています)。

内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合、その各株式を「種類株式」と呼びます。法第108条第1項には、種類株式の内容として定めることのできる事項について、次章で示す9つの事項が掲げられています。

種類株式を活用することにより、株主から出資を受けながら、経営権限の分散防止を図ることができます。また、1つの株式には2以上の内容を付することができます。例えば、1つの株式について、剰余金配当優先(第1号)と議決権制限(第3号)の内容を付することができます。

2 9種類の種類株(法第108条第1項)

1)剰余金の配当(第1号)

剰余金の配当について、異なる内容を定めた株式をいいます。

2)残余財産の分配(第2号)

会社解散後の清算段階における残余財産の分配について、異なる内容を定めた株式をいいます。

3)株主総会において議決権を行使することができる事項(第3号)

議決権制限株式に係る種類株式の規定です。議決権制限株式とは、株主総会で決議する全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式をいいます。なお、公開会社では一部の経営者等が議決権制限株式を利用することで、少数の議決権で会社を支配する状況を生み出すことは好ましくないとの観点から、議決権制限株式数が発行済株式総数の2分の1を超えた場合、当該会社は直ちに2分の1以下にするための措置を講じる義務が課せられていますので注意が必要です(法第115条)。

4)譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(第4号)

譲渡制限株式(法第2条第17号)に係る種類株式の規定です。譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいいます。会社法では譲渡制限性は株式の種類の1つとして位置付けられています。なお、一部の種類の株式のみ譲渡制限がある会社であっても、会社法上の公開会社になり、非公開会社に比べて厳格な規律に服することになる点には注意が必要です(法第2条第5号)。

5)当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(第5号)

取得請求権付株式(法第2条第18号)に係る種類株式の規定です。取得請求権付株式とは、株主が会社に対して保有する株式の取得(買取)を請求できる株式をいいます。この場合、株主は、定款に定められた期間内に請求することで、定款の定めに従い、対価を得ることになります(法第108条第2項第5号、第107条第2項第2号)。

6)当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(第6号)

取得条項付株式(法第2条第19号)に係る種類株式の規定です。取得請求権付株式は、株主が請求できるものであったのに対し、取得条項付株式は、一定の事由が生じたことを条件に会社側が当該株主の保有する株式を取得することができる株式です。この場合、会社は、定款に定められた事項が生じたこと等を株主等に通知・公告(法第168条第2項および第3項、法第169条第3項および第4項、法170条第3項および第4項)し、定款の定めに従い対価を支払うことになります(法第108条第2項第6号、第107条第2項第3号)。

7)当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること(第7号)

全部取得条項付種類株式に係る規定です。全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の特別決議(法第171条第1項、第309条第2項第3号)によりその全部を取得することができる種類の株式をいいます。この場合、定款で発行可能種類株式総数と取得対価の決定方法等を定めておく必要があります(法第108条第2項第7号イ)。

8)株主総会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの(第8号)

拒否権付株式、いわゆる「黄金株」に係る種類株式の規定です。株主総会等の決議に加え、種類株主総会の決議があることも必要とする株式をいいます。

9)当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること(第9号)

取締役等の選任に係る種類株式の規定です。特定の種類株主総会決議により、取締役等を選任することが定められた株式をいいます。ただし、取締役等の選任に係る種類株式は、委員会設置会社および公開会社は発行することができません(法第108条第1項但書)。

3 種類株式を発行するための手続き

1)定款の変更

これまで種類株式を発行していない株式会社が新たに種類株式を発行するためには定款を変更する必要があります。定款を変更するためには、株主総会の特別決議が必要です。

特別決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立します(法第466条、第309条第2項第11号)。

2)定款に記載すべき内容

種類株式を発行する場合に、定款で定める事項は法第108条第2項で次の通り定められています。発行可能種類株式総数および発行する各種類の株式の内容は登記事項です(法第911条第3項第7号)。定款を変更した際には、定款変更決議の効力発生日から2週間以内に、本店所在地の管轄法務局に変更の登記申請をする必要があります(法第915条第1項)。

【法第108条第2項】
株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
 一 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
 二 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
 三 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
  イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
  ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
 四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
 五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
  イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
  ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
 六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
  イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
  ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
 七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
  イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
  ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
 八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
  イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
  ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
 九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
  イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
  ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
  ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

なお、種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式に取得条項を付し、または取得条項の内容を変更する場合(法第108条第1項第6号)には、株式会社が実際に取得条項付株式を取得する際に、株主保護のため、当該株主全員の同意が必要です(法第111条第1項)。

4 事業承継で後継者が経営権限を持つ方法

1)考えられる方法

種類株式発行会社ではない非公開会社で、現に複数の株主が既発行の株式を保有している状況で、後継者に経営権限を集中させるための方法は種類株式によるものに限られません。種類株式によらない方法としては、例えば「新株発行による方法」があります。

一方で、種類株式を活用することにより、後継者以外の株主による議決権を制限する方法としては、「既発行株式の内容変更による方法」「全部取得条項付株式による方法」「取得条項付株式による方法」などがあります。

以降で非公開会社を想定した上記の方法を紹介しますが、これを読むとオーナー経営者および後継者が経営権限を持つための方法が複数あることが分かります。どの方法が最も適切かは会社の規模や株主構成、または株主の関係などの要因によって異なります。そのため、実際には、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家の助言を得ながら進める必要があります。

2)新株発行による方法

当該株式会社が新株を発行し、それを後継者に対して割り当てます。後継者が他の株主が保有する議決権の合計を上回る株式を保有する状態にすれば、結果として後継者が過半数または3分の2超の議決権を持つことになります。

新株を発行する際には、株主総会で募集事項を決定し、募集手続きを取らなければなりません。

1.募集事項の決定

会社が株式を発行する場合(募集株式を引き受ける者の募集をする場合)、募集する株式の数や、払込価額、払込期日など当該募集に関する事項(以下「募集事項」)を決定しなければなりません(法第199条第1項)。この募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議によらなければなりません(法第202条第3項第4号、第309条第2項第5号)。

2.募集手続き

会社は募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、募集事項などの通知をしなければなりません(法第203条第1項)。

引き受ける者の申し込み(法第203条第2項)を受け、会社は申込者の中から割り当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集株式の数を定めなければなりません(法第204条第1項)。募集株式が譲渡制限株式である場合には、その決定は原則として株主総会の特別決議によらなければなりません(法第204条第2項、第309条第2項第5号)。

また、会社は払込期日(期間を定めた場合はその期間の初日)の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集株式の数を通知しなければなりません(法第204条第3項)。

なお、これらの規定は、募集株式を引受けようとする者がその総数の引受けを行う契約(総数引受契約)を締結する場合は適用されません(法第205条)。

募集株式の引受人による出資の履行により、当該引受人は募集株式の株主となります(法第209条)。なお、金銭ではなく現物で出資された場合、出資された財産等の価額が不足する場合には取締役等の填補責任が定められていますので注意が必要となります(法第213条)。

3.ポイント

新株発行による方法は、手続きが比較的シンプルという利点がありますが、後継者が発行される新株を引き受けることができるだけの資金力を持っていることが必要です。

3)既発行株式の内容変更による方法

後継者以外の株主が保有する株式を議決権制限株式に内容変更する方法です。手続きは次の通りです。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います(法第466条、第309条第2項第11号)。

2.議決権制限株式に変更される各株主の同意

上記の定款変更の他、議決権制限株式に変更される各株主の同意も必要と解されます。

3.ポイント

上記の方法は、議決権制限株式に変更される各株主の同意が必要であるため、実際にこの方法が活用できるケースは極めて限定的であるといえます。

4)全部取得条項付株式による方法

当該株式会社が、株主が保有する株式を全部取得条項付株式に変更した上で株式を取得し、その対価として議決権制限株式を交付する方法です。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います(法第466条、第309条第2項第11号)。

2.既発行株式を全部取得条項付株式とする旨の定款変更

株主総会の特別決議および種類株主総会の特別決議(法第111条第2項)により、既発行株式を全部取得条項付株式とし、取得対価として議決権制限付株式を交付する旨の定款変更を行います。

3.議決権制限株式の交付

全部取得条項付株式の対価として、従前の持ち株比率に応じて議決権制限株式を交付します。交付に先立ち、取得対価の内容や割り当てに関する事項等を株主総会の特別決議で決定する必要があります(法第171条、第309条第2項第3号)。

4.株式の処分

当該株式会社が全部取得条項により取得した自己株式を、現オーナー経営者に割り当てることにより処分します。それによって、現オーナー経営者は議決権を有する株式を独占することができます。自己株式の処分は新株発行と同じ手続きが必要とされているので、法第199条第1項により募集事項を定め、現オーナー経営者に株式を割り当てます。なお、この募集事項の決定は、原則として株主総会の決議によらなければなりません(第202条第3項第4号、第309条第2項第5号)。

5.ポイント

全部取得条項付株式による方法は現オーナー経営者の手元に潤沢な資金がなくても実行できることが特長です。一方、手続きが煩雑で、全部取得条項付株式への内容変更に反対の株主には買取請求権が認められています(法第116条第1項第2号)ので、当該株式会社には買取資金を準備しておく必要がある場合があります。また、現オーナー経営者の持ち株数が議決権の3分の2に達していない場合、オーナー経営者には不足する株式を取得するための資金が必要となります。

5)取得条項付株式による方法

株主が保有する株式を当該株式会社がいったん取得し、対価として議決権制限株式を交付する方法です。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います。

2.既発行株式を取得条項付株式とする旨の定款変更

既発行株式を取得条項付株式に転換することは、一定の事由が生じた際にいわば強制的に当該株式会社が株式を取得することになるため、株主全員の同意を得ることが必要とされています(法第110条)。

3.株式の取得と議決権制限株式の発行

あらかじめ定款に定めた日の到来や取締役会の決議など、一定の事由が生じたことによって当該株式会社が取得条項付株式を取得し、その対価として議決権制限株式を発行します。

4.ポイント

取得条項付株式による方法は、株主全員の同意が必要であるため、実際にこの方法が活用できるケースは極めて限定的であるといえます。

以上(2019年9月)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:unsplash

任されたいのに指示待ちって、どっちなんだ?/若手社員が採用できる、辞めない職場づくりのヒント(2)

1 すぐ辞めてしまう若者。どのように接すればいいの?

すぐ答えを欲しがる、何がモチベーションか分からない、怒るとパワハラと言われる、急に辞めてしまう……。新入社員や若者とどのように接すればいいのか、悩んでいる人も多い時期ではないでしょうか。本稿では、拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』から一部抜粋し再構成の上、悩めるオトナを日々のストレスから解放するためのヒントを探ります。

2 なんでもテンプレ問題

今回は、「仕事なんでもテンプレ化問題」を取り上げます。

最近の若い子って、とにかく答えを知りたがる。この言葉が、マネジメント層からよく聞こえてきます。まずは自分で考えてみてほしいのに、真っ先にテンプレートやマニュアルを欲しがる。確かにそんな若者が増えているように感じます。

オトナ世代と若者の残念なすれ違い事例を紹介しましょう。

ある中堅食品会社の商品開発部。この会社の商品開発部は花形部署であり、幾つかのチームがそれぞれ新商品の開発を巡りしのぎを削っています。「女性に喜ばれる商品開発」を担うチームでリーダーを務めている木村係長(女性・40歳)の下に、新人の藤原さん(女性・22歳)が新しく配属されてきました。

木村係長が、ある案件の市場調査を藤原さんに頼んだときのこと。

  • 「市場調査って初めてなんですけど、どういうデータを調べたらいいんですか?」
  • 「うーん、藤原さんが必要だと思うデータでいいよ。まずは自分で考えてみてよ」
  • 「え、ああ、はい……。そしたら、過去に作った調査書類のテンプレみたいなの、どこかにないですか?」
  • 「あると思うけど、別に形が重要なわけじゃないから、まずは簡単にでも自分で作ってみてほしいの」

こんな会話が繰り広げられていました。

3 まず自分で考える習慣をつけてほしいのに……

木村係長の言い分はこうです。

  • 「私が若い頃なんて、今ほど丁寧に仕事を教えてくれることはなかった。先輩のやり方を見て盗んでいくのが当然だし、振られた仕事を自分なりになんとかやり遂げて、それで認めてもらいたいって気持ちのほうが強かったけど。若い子は言われた通りの作業はやりがいがないとか言うくせに、考えてと言ったらテンプレがほしいと言う。
  • 育てていくことも私の仕事だから、なるべく考えさせようとしているのが、なぜ伝わらないんだろう」

しかし藤原さんにも言い分があります。

  • 「答えがあるなら、まずそれを参考にするほうが無駄がなくていいと思うんだけど。考えてって言われて考えて出したこともあるけど、結局いろいろ直されて木村係長の答えになったじゃない。その間の私の時間と手間ってなんなの? 考えることが大事なのは分かる。だけど、それとテンプレを使わないことは違う話じゃない? 考えなくていいところは省いて、考えるべきところに時間を割くべきだと思う」

自分で考えた結果、結局いつもと同じ答えになるくらいなら、考えるだけ無駄。そうではなくて、自分の考えた結果が成果物にちゃんとつながることだけに集中したい。これが今どきの若者の仕事観なのです。

4 GAFA世代の思考回路

まさに超合理的。そんな若者のバックボーンにはテクノロジーがあります。今の若者は、スマホを持ち歩き24時間常時接続、フェイスブックで友達とつながり、分からないことがあればすぐにググる。参考資料が必要になれば、アマゾンでポチる。いわゆるGAFA(ガーファ)の申し子です。GAFAとは、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4つの主要IT企業の頭文字を取って総称する呼称。これらのデジタルテクノロジーと若者がタッグを組んでしまえば、オトナが培ってきた経験や知識を、軽々と飛び越えていくということです。

テンプレ問題の根っこは、ここにあります。どれだけ時間と経験を重ねて渾身(こんしん)の力で企画書を作り上げたとしても、そのノウハウはテクノロジーで簡単にシェアできてしまいます。先人がたどり着いた答えをシェアすることは当たり前。これが若者です。

逆に、積み上げた知識が100あっても、テクノロジーを使いこなす力が10しかなかったら、若者から見ると「仕事ができない人」と同義だったりするわけです。自前で考えて知見として蓄積していくことに意味を見いだしません。

5 とにかく時間の無駄が許せない

20代の若手社員に何が一番のパワハラかを尋ねたら、意外な答えに最も多くの賛同が集まりました。「何十分も説教されるのが一番嫌かも。時間を奪われるのが最悪」

てっきり、暴言を浴びせられたり怒鳴られたりする説教がパワハラかと思っていたのですが、それよりも“時間を奪われる”ことをハラスメントだと感じると言うのです。無茶な仕事を振られるのも、理不尽な指示を受けるのも、結局は時間が無駄になるのが一番のダメージだと、彼らは考えているのです。

ある新聞記事によると、GAFA断ち(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのサービスを使わないこと)をして仕事をするという実験を3週間行ったら、仕事の生産性が3分の1になってしまったとのこと。テクノロジーの発達と一般化が、合理的で生産性への意識を高めているのは間違いありません。そんな状況下で、若者は時間に対してとてつもなく大きな価値を見いだすようになってきたのです。とにかく何事も最短距離でゴールしたい。そのために、どうやって時間を生み出すか、その時間で何を生産するか。「コストパフォーマンス」ならぬ「タイムパフォーマンス」を常に追求しているのです。だからビジネスでもメールよりLINEなどのチャットツールを好みます。メールでの定型的な「お世話になっております」は無駄中の無駄。「了解しました」を「りょ」だけで済ませる時短派もいるくらいです。

6 働き方改革ともシンクロ

そんな若者の仕事価値観は、昨今の働き方改革ともフィットしています。その文脈でいけば、むしろ早く帰ることを強要されて戸惑っているオトナ世代よりもはるかに進歩的です。私が聞いた若者の時間に対するコメントを幾つか紹介しましょう。

  • 「親の世代は長時間働くことを正当化している」
  • 「仕事の時間と自分の時間を分けたいから、そこに踏み入ってこられるとパワハラだと思う」
  • 「同じ量の仕事を、昔より短い時間でやらないといけないから、そこは困る。昔の人はいくらでも時間をかけられたが今は違う」

定時に帰りたがるなどといわれることもありますが、若者たちも働きたくないわけではありません。それよりも若者たちには、オトナ世代には仕事に費やせる時間がたっぷりあったけど、自分たちは違うという感覚があるようです。テクノロジーがもたらした生産性至上主義の側面もありますが、オトナが想像している以上に忙しい毎日を送っているという事情もあります。何百人とか1000人超というフォロワーとつながり、幾つものコミュニティーに所属して、マルチに活動している若者は、ワーク以外のライフの時間に大きな価値を置いているのです。

7 「8割テンプレ・2割余白」で考えさせる

とはいえ、若者に仕事を任せることが成長につながるというマネジメント側の思考も間違いではありません。そもそも若者は、「すぐに答えを欲しがる」くせに「単純作業はやりたくない」と考えています。任されたいのか指示してほしいのか、どっちなんだ? と言いたくもなりますが、基本的に、仕事は任されるほうがやりがいがあると考えています。あくまで無駄を省きたいわけで、成長欲求は強めですから。

では、いったいどうすればいいのか。

結論から言うと、「8割テンプレ・2割余白」で仕事を任せるくらいがベストです。まず型を教えてあげることはマスト。書類のテンプレやひな型のようなものを渡してあげましょう。そして、それを完全流用すれば間違いはないし、ちょっと自分なりに工夫しても大外れにはならないよ、と示してあげます。そこが2割の余白です。無駄なやり直しが大嫌いな若者に、答えを示しつつ工夫する余地も与えるという作戦です。

SNS村社会での若者には「守破離」の感覚が備わっているといわれます。例えばあるコミュニティーに属すとき、最初は「型」にはまろうとするそうです。例えば、自撮りが流行だとすれば、自分も自撮りでアップします。これが守破離の「守」。そしていったん型にはまってから、ちょっとだけ独自の使い方を開発します。これが守破離の「破」。それが広まってブームになると、自分がコミュニティーを立ち上げる。これが守破離の「離」。

要するに、彼らが欲しがっている答えというのは、ベースの「型」なのです。言う通りにしろと命令されたいわけではありません。難しく考える前に「8割テンプレ」は提供してしまいましょう。2割の余白が、若者にとっては貴重なアイデンティティーの発露。どう使って型を破るかは若者次第です。さらにそこからイノベーションが生まれたら、それはまさに離の境地。オトナにとってももうけものです。

いかがですか。若者の背景にある価値観や行動原理を知ると、少しは彼らに近づける気がしませんか。それが若者攻略の第一歩です。そしてうまくチカラを引き出すマネジメントにつなげてください。

以上(2019年9月)
(執筆 平賀充記)

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【朝礼】「他責」の自分に気付いた管理職こそが成長できる

おはようございます。今朝は管理職の皆さんに集まってもらいました。変化の激しい時代、今後の我が社の成長には、管理職の皆さんの頑張りが欠かせません。そこで、私から皆さんにお伝えしたいことがあります。耳の痛い話かもしれませんが、これは私から管理職へのエールです。

先日、大学生時代の友人たちと食事をしました。皆、それなりのポジション、つまり、ある程度の権限を持って組織を回す管理職クラスになっていました。彼らは恐らく、並々ならぬ努力の末、今のポジションを手に入れたのでしょう。私は、そんな彼らをとても尊敬しています。

一方で、一つ気になったことがありました。それは、彼らが口々に自分ではなく、「若手」のことを語っていたことです。内容はさまざまで、「若手にもっと頑張ってほしい」といったものから、「若手の教育にもっと時間とコストをかけるべき」といったものまでありました。

私は彼らの意見自体はもっともだと思いましたが、一方で、「そういう皆さんはどうなの?」と疑問に感じました。若手に頑張れと言うのなら、「管理職はその何倍も頑張り、なおかつ若手が頑張れる環境をつくっているのだよね?」とか、若手の教育の話をする前に、「管理職は経営者から見て十分に勉強しているのか?」と思うのですが、彼らから「自分」に関する発言は出てきませんでした。つまり、彼らの話は「他責」に終始し、「自責」の要素が欠けてしまっていたのです。

この話は、若手のことだけではなく、自分の上司に対しても同じことです。管理職が、「うちの役員は頭が固くて……」とため息をつく姿をよく見かけます。それはそれで一つの感じ方ですが、やはり思うのは、「そう言うあなたは、何をしているのですか?」ということなのです。

管理職は情報への感度を高め、これだというものについてトライ&エラーを繰り返しながら、実行しなければなりません。権限とは、そのためのものです。しかも、今は環境の変化が激しく、昔と同じやり方では、ほぼ通用しません。ダーウィンの「唯一生き残るのは、変化できる者である」という言葉を、今まさに管理職は肝に銘じるべきでしょう。厳しい言い方ですが、多くの管理職は、自分の上司や部下のことを、あれこれ批判している余裕はないはずです。上司や部下の意見に流されて、都度ポジションを変えることも論外です。

管理職が下から上司を仰ぎ、上から若手を見る時代は、もう終わります。皆さんはこれまでよりも簡単に上を追い越すことができますし、逆に、簡単に下に追い越されてしまいます。今すぐ、自分の権限で具体的な行動を起こさなければならないのです。もしかすると、「失うものが多いと思っている」ことが他責につながっているのかもしれません。しかし、誠実に活動している限り、皆さんがビジネスで失うものは何もないのです。たとえ失敗しても、次で取り返せばよいことです。皆で、さらなる成長を目指しましょう。

以上(2019年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】ラグビーに学ぶ。君たちは、勝ち方を知っているか

もうすぐ、ラグビーワールドカップが、この日本で始まります。ラグビーファンはもちろん、ラグビーをよく知らなくても、4年前のワールドカップで、日本代表が強豪南アフリカ代表を倒したあの劇的勝利は、記憶に残っていることでしょう。

今回の日本代表の活躍も、とても楽しみです。

4年前、日本代表を率いていたのは、エディ・ジョーンズ氏です。彼のやり方には賛否両論ありそうですが、24年ぶりにワールドカップで白星を挙げ、南アフリカ戦をはじめ、3勝という輝かしい成績を収めたのは誰もが認めるところです。

当時の日本代表の快進撃にはさまざまな要因がありますが、大きかったのは、ジョーンズ氏が「勝ち方を知っていた」からだと私は思っています。ジョーンズ氏は、よくインタビューなどで、「日本人の体格は小さいが、正しく努力すれば勝つことができる」と言っていました。だからこそ、体の大きな選手がボールを持って向かってくるのを守るラグビーではなく、常に自分たちでボールを保持して回し続け、攻め続けるスタイルを貫いたのだといわれています。そして、攻め続けるラグビーを実現するために、ジョーンズ氏は、選手たちに相当なハードワークを課したのです。

私はラグビーについてそれほど詳しくはありませんが、ジョーンズ氏のやり方は、実に理にかなっているように思えます。「勝てる方法」を考えた。そして、「そのために必要な準備」を徹底した。この2点に尽きるのではないでしょうか。

「勝てる方法」を考えるだけでは、「勝ち方を知っている」とはいえません。勝てる方法を実現するために、必要な準備を実際にやってこそ、「勝ち方を知っている」といえるのです。

ビジネスの世界も同じです。例えば営業活動で言えば、まず、「顧客を獲得できる方法」を考えます。どのような順番で話を持っていき、どのような提案をすれば、どのような難所をクリアすれば顧客を獲得できるのか。そして「そのために必要な準備」として、どのような情報を収集し、どのような資料を提出し、日ごろ、誰とどのようにコミュニケーションを取っていくか。これらを実践して初めて、「勝つ」ことができるのです。

皆さんの仕事の進め方はどうですか。行き当たりばったりで考えなし、単なる前例踏襲だったりはしませんか。失注して悔しいのなら、うまく進められなくて苦しいのなら、「勝てる方法」を考え、「そのために必要な準備」をしなければなりません。ただがむしゃらに、これまでと変わらないやり方を繰り返しても、きっと勝つことはできないでしょう。あえて厳しい言い方をすれば、それは、正しい努力ではありません。考えること、準備することを放棄した、思考停止も同じです。

皆さん、今の仕事を、改めて振り返ってみてください。「勝てる方法」も、「そのために必要な準備」も、日々担当している皆さんだからこそ、考え、実践できるはずです。「勝ち方」を知れば、皆さんは、必ず、「勝てる」のです。

以上(2019年9月)

pj16973
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「管理職予備軍」の中堅社員に伝えたい2つの話

今日は、入社3年目から5年目までの中堅社員の皆さんに集まってもらいました。皆さんは、これから先、我が社を背負って立つ存在です。中には、管理職となって部下を育て、組織を率いていく人もいるでしょう。皆さんは、「管理職予備軍」ともいえるのです。

管理職には、一般社員とは違った意識や働きが求められます。よく、「立場が人を育てる」と言いますが、いざ管理職になってから意識や働きを変えようと思っても、なかなかうまくはいきません。「管理職予備軍」である皆さんには、今のうちから管理職になる準備をしておいてほしいのです。そこで、私はこれから皆さんに、2つの話をします。ぜひ、今のうちから、管理職としての心構えを学んでください。

1つ目の話です。先日、学生時代の友人が初めて本格的な舞台の脚本を書いたので、私は仲間と一緒に見に行きました。舞台の素晴らしさもさることながら、私は一緒に見ていたある仲間の姿に感心したのです。舞台はコメディーだったので、随所に笑いどころがありました。彼は、笑いどころでは真っ先に、とても気持ちの良い明るい声で笑い、素晴らしい演技には惜しみない拍手を送っていました。つられて周りの観客も笑い、手をたたくようになり、会場は大いに盛り上がったのです。舞台後、脚本家の友人や役者が、「笑い声で場が盛り上がってやりやすかった。本当にありがとう」と口々に言っていたのが印象的でした。

私の仲間の楽しみ方は、「役者たちが演じやすい場をつくった」のでしょう。管理職にも、同じことが求められます。明るく前向きな場をつくるのは管理職の仕事です。管理職が前向きな言動でハツラツと仕事をしていれば、組織はポジティブになるでしょう。逆に後ろ向きで文句ばかり言っていれば、ネガティブな組織になってしまいます。管理職は、言動一つにも、「場をつくる」という責任があることを忘れてはなりません。

ただし、いつも、単に盛り上げていればいいというわけではありません。組織には、時に、立ち止まって考えることや足元を固めることも必要です。ここでお伝えしたいのが2つ目の話、世界的に有名なF1レーサーが言っていたことです。

彼いわく、「レーサーにとって一番大切なのはブレーキを踏む判断力」なのだそうです。その力があるからこそ、レーサーは、自分を信じて、時速何百キロものスピードを出すことができます。組織にも、ブレーキは必要です。ブレーキを踏むことができればこそ、組織は思い切って前に進めるのです。管理職は、必要とあらば率先して組織のブレーキにならなければなりません。そのためには、目の前の見えるところだけを見るのではなく、広くて高い視点を持つ努力が必要です。

中堅社員の皆さん、今日、私は管理職として大切な心構えを、2つお話ししました。皆さんが、一日も早く管理職となり、一緒に我が社をつくっていく未来を、私は心から待っています

以上(2019年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【前編】第4回 株式会社ウィズグループ(Wiz.Group) 代表取締役 奥田浩美氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第4回に登場していただきましたのは、IT関連のカンファレンスやイベントなどのプロデューサーとして国内外で幅広く活躍されている著名人、起業家でもある株式会社ウィズグループ(Wiz.Group)代表取締役、奥田浩美氏(以下インタビューでは「奥田」)です。前後編に分けてお送りします。今回は前編です。

1 「その人がやりたいことであれば、働く『べき』とも思わないし、仕える『べき』とも思いません。『べき』が一切ない感じです」(奥田)

John

今回の対談は、株式会社Wiz.Groupの奥田浩美さんが登場してくださいました! インタビューの中では、「浩美さん」と呼ばせていただきます。浩美さんは、日本中、そして世界各地でも活躍されており、多くのメディアでもお話されていらっしゃいます。たくさんの方がご存知だと思います。

浩美さん、本日は大変お忙しいところ、本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます! よろしくお願いいたします。さっそくですが、浩美さんは以前、インドに留学される前は、何をされていたのでしょうか?

奥田

鹿児島の(大学の)教育学部の学生で、障害児教育の1種免許を持って、学校の先生になろうとしていました。

John

小学校の先生を目指していらっしゃったのですか?

奥田

はい、障害児教育をしている小学校か養護学校です。試験もパスして、あと数カ月したら学校の先生だというところでした(笑)。親も教員でしたので。私の世代ですと、女性が管理職まで行けるのは、学校の先生か、市役所くらいだったのです。ただ、市役所も、「平等には入れても、上までは行けない」という感じでした。

John

その頃、その若さで、上まで行こうと思われたのは、何か理由があったのでしょうか?

奥田

私自身は、全く上昇志向があったわけではありませんでした。ただ、父は私にリーダーシップがあると思っていたようで、子供の頃から「浩美は皆と違うから」とずっと言われて育ちました(笑)。

John

そうなのですね(笑)。お父さまは、校長先生だったのでしょうか?

奥田

そうです。父がインドの日本人学校の校長をしていましたので、インドに縁がありました。

John

お父さまは、なぜインドとご縁があったのですか?

奥田

インドに縁があったというよりは、父は、とにかく他の人が行きたがらないところに行く人でした。例えば、父は、鹿児島の中でも、ずっと赴任希望地を白紙で出していました。そうすると、何が起きるかというと、皆が行かないような、全校生徒20人など島の中でも一番小さな学校に赴任することになったりするのです。

John

面白いですね! 浩美さんのご実家はどちらだったのでしょうか?

奥田

実家は、宮崎県と鹿児島県の県境にある、今は曽於市になっているところです。そこから、曽於市と大隅半島、屋久島、阿久根市という天草の方に近いところに父が赴任しました。高校がない地域を転々とするので、(私が)中学校3年の時に、父から「もうお前たち専用の家を建ててあるから。妹と2人で住むように」と言われました。その家は、鹿児島市内の、いわゆる地方の一番いい学校2つの間に建ててあったのです。

John

お母さまはどうされていたのですか?

奥田

父を支えていました。今は時代がどんどん10年ごとに変わっていますが、私の両親の時代は、母が「旦那さんを支える」という時代でした。父も、奥さんに支えてもらって一人前の仕事ができるというような。つまり、今言ってしまうと、たった1つの仕事を(夫婦)2人で支えなければならないような、ある意味とても変わった社会だったわけです。転勤が多いような、他の仕事もそうだったかもしれませんよね。たった1人分の仕事を、奥さんまで含めた家族ぐるみで支える。要は、家族ぐるみで日本を支える。そうした不思議な社会の時代です。

John

浩美さんは、そうしたご家族、時代、社会をどのように感じていましたか?

奥田

母は、そうした価値観で育っていますから、とても幸せに感じていたと思います。私も、小中学校まではそれが当たり前だと思っていました。

ただ、父は、母に対してはそれで幸せだと思っていたと思いますが、彼も時代を見ているので、私の時代はそれが幸せではないかもしれないと考えていたと思います。ただし、必ずしも女性全員が仕事を目指すべきと考えていたわけでもないと思います。私自身も、その人がやりたいことであれば、働く「べき」とも思わないし、(家族に)仕える「べき」とも思いません。「べき」が一切ない感じです。

John

とてもよく分かります! ただ、当時はそうしたお考えは珍しかったのではないですか?

奥田

珍しいですよね。私は生まれてから多分この性格だったと思うのですが、父は、(この社会に)私が生まれるのがちょっと早いぐらいに思っていたのではないでしょうか。

John

なるほど~!

そして、浩美さんはインドに行かれるわけですが、動画やメディアなどに載っていない部分で、インドを目指した気持ちといいますか、そうしたものをお聞かせいただけますか?

奥田

本などに書いていない部分で言いますと、その時代に、(インドが)一番変化の幅が大きそうな気がしたのです。もちろん、父がインドにご縁があったということもありましたが、父に連れて行かれたわけでもありません。

さらに言うと、親からは大反対されましたので、インドに行くという理由は一切ありませんでした。逆に、「3カ月ぐらい大喧嘩をした」と本に書いてある通りで、遠距離電話代で20万円くらい使っていました(笑)。日本から親に何度も電話をかけて、「(インド行きを)認めてくれ」と大喧嘩していました。

John

それはすごい話ですね~! そして、(インドで)ご家族と一緒に住むことになるのですか?

奥田

最初は親がインドにいましたので、一緒に住みましたが、後半は、下宿をしました。下宿をした先は、ゾロアスター教(ペルシャ起源の宗教)の方の家です。まさに、ボヘミアン・ラプソディに出てくるフレディの実家のような「いい行いをしなさい」という厳しいお宅でした。「いいことをする」ということを、心底思っている人たちに囲まれて暮らしていたのです。

John

素晴らしい体験ですね!

奥田氏との対談の様子を示した画像です

2 「『生身の私』が仕事をするのではなく、私がやっているさまざまなことの、10やったうちの9が失敗でも、1残ったものの残像で仕事ができるようにしたい」(奥田)

John

話は変わりますが、今、浩美さんの会社では、地方都市で従業員の方を雇われていますよね。従業員の方やお客さまと、遠距離において、どのようにコミュニケーションを取っておられるのですか?

奥田

私は、実は月に一度ぐらいしか会社に行きません。Wiz.Groupの本社も自宅から近くにありますが、それでも行かないのです。Slackを使うなどして、とにかくITの進化と共に仕事のやり方を変えてきています。

私は2000年に子供を産んだのですが、その時に、場所に縛られると子育てもできないし自分のやりたいこともできないので、場所にとらわれないようにしたいと思いました。「生身の私」が仕事をするのではなく、私がやっているさまざまなことの、10やったうちの9が失敗でも、1残ったものの残像で仕事ができるようにしたいと。ですので、今、(会社の)皆が動いている部分は、私がすでに自分の身をもって3年前か、10年前か30年前にやったこと。それだけを会社に残していっているようなイメージです。

John

すごいことですね! さらっとおっしゃっていますが、それはすごいことだと思います。

奥田

私はかなり動かないといけないので、会社に行っている時間がないのです。思った場所に飛んで行きます。例えば去年、おととしは2カ月に一度シリコンバレーへ行き、人と一緒に、あるプログラムをつくりました。そのプログラムは試行錯誤してつくり、2年間みっちりとやりました。

今は、それ(プログラム)が人に渡せるものなのかどうか、減らすといいますか、削っているところです。私は、自分がつくったことが10あったら、10(全部)は渡せないと思っています。人に渡せるものはうまくいって1割、うまくいかなければ3%くらいかもしれません。ですので、私自身が飛び回ります。

John

それでは、ご主人やご家族、従業員の方とは、ツールを使って接するということですか?

奥田

そうですね。夫ともSlackとmessengerとLINEです。Slackは基本的に会社の業務関連で、messengerは割とフリーな感じです。LINEは私と娘と夫という感じでしょうか。

John

私も同じです。家族とのやりとりはLINEになりますよね。エモーショナルな部分、気持ちを伝えるにはLINEのスタンプが良いのかもしれませんね。

奥田

気持ちを伝えるには、確かにスタンプが良いと思います。そこにもっとかなり深い部分がある気がします。LINEでグループをつくると、ある意味、そこには「お茶の間のログ」ができているのです。

例えば、人は、心にとても苦しいものを抱えている時、一番ひどい時は、(LINEグループに)何も書き込まない。少し回復したとして、でも「苦しいよ」という言葉にすることはまだできないので、何かしらスタンプを送ってくる。人間の感情を考えると、結構回復した状態でなければ、メッセージ(言葉)にはできません。このように、LINEだと、その人の状態がある程度分かるのではないかと思います。

一方、電話では、なかなかそれが難しいのです。電話で「どう?」と尋ねると、ある程度の年齢の人は、「大丈夫」と言いますが、そう言う時は、だいたい大丈夫じゃない。声にしても、文字にしてもかもしれませんが、「大丈夫か」と尋ねて「大丈夫」と返ってくる時は、半分くらいは大丈夫ではないと思います。でも、スタンプであれば、何かしら感情を表すスタンプを返せます。

John

確かに、電話だと、本当に伝えたいことは言えない場合もありますよね。

奥田

そうですよね。とはいえ、「声は聞きたい」という気持ちも、やはりあると思うので、コミュニケーションのツールはたくさん持っておいたほうがいいなと感じています。

また、電話はなかなか同時に多数で通話できませんが、LINEのいいところはグループができるところです。例えば、親族でLINEグループをつくって孫もグループに入れておいて、全く登場しなくても、「そのグループにいる」ということが大切です。

私は、お茶の間の面白いところだなと思っているのですが、50年前の地方などでは、家の中に3世代か4世代いるのが当たり前でした。祖父母からすれば、ずっとお茶の間に黙って座っているだけでも、親子や家族が会話しているのが見えているという環境だったのです。その「見えている」という環境をどうつくるかを考えた時に、LINEグループが良いのではないかと思います。

LINEグループで、月に一度くらい孫が出てくると、祖父母はもうそれだけでうれしいものです。孫は、祖父母と共通の会話はあまりないので、直接「おじいちゃん、おばあちゃん元気?」とは書きません。

ただ孫同士が、LINEグループの中で「今度、夏祭りに浴衣着ていくから貸して」といった会話をしているわけです。祖父母からすれば、「大丈夫か」「元気か」と正面から向かって来られるよりも、孫たちのこうした会話を見ることが一番の幸せなのだそうです。対峙されることが一番幸せなわけではなく、「正月などに親戚など皆が集まってきて、周りでざわざわしている」という状況が、人間の一番幸せなことなのかもしれません。

John

本当によく分かります! 浩美さんにお聞きしたかったのは、まさしくこうした人間的な部分です。

3 「働き方改革なんて、私にとってはもう、過去なので」(奥田)

John

浩美さんは、文系理系関係ないご出身なわけですよね。私もそうです。今後の社会も、エンジニアや開発している人だけがすごいというわけではなく、使う側が世の中のテクノロジーを生活にどう使うかで、家族も会社もより豊かにできると思います。浩美さんはそういった部分で、非常に新しいことを考え、先を行かれていらっしゃいます。「未来から来ました」という浩美さんの言葉がありますが、あの言葉に込められた意味は、どういうものなのでしょうか?

奥田

「未来から来ました」というのは、明らかに私が、2050年から来ているわけではないのは分かりますよね。けれど、未来は「まだら」だと何人もの人が言っているように、女性の働き方だと、私はもう20年前、30年前に自分で実現していることが、世の中では未だに、「女性の活躍」とか「改革」とかやっているわけです。働き方も、私は20日に1回くらいしか社員に会わないのに、私の思いが全部浸透して、向こうは向こうで回っているという感じです。

働き方改革なんて、私にとってはもう、過去なので。働き方改革で私に講演させるとしたら、本当は20年前が1番ちょうど良かったのです(笑)。あの20年前の私に講演をさせてくれたら、かなりいい講演ができたのに、今(講演で)呼ばれても、通り過ぎてしまって熱意がない(笑)。

John

本当にすごいですね(笑)。名言がたくさん出てきました!

20年前のその当時、一番訴えたかったことはどのようなことでしたか? そして、今また日本を変えるために訴えなければならないこと、日本を変えるために必要なキーワードはどのようなものですか?

奥田

キーワードはやはり、会社や社会を中心に全ての制度が作られているので、「結婚も含めて、いったん、自分だけの世界の幸せみたいなものを考える必要がある」ということだと思います。先ほどの話のように、社会が発展するために、会社のために、お父さんもお母さんも、子供も含めて、一致団結して会社に貢献しなければならないということを、わずか40年前に、皆、当たり前のように思っていましたよね。

しかし、今は、会社がここにあるとすると、「会社を幸せにすることの、その先に本当に(あなたの)幸せがありますか?」ということを考える。この対峙の仕方で、全てを疑っていかなければならない。私の会社もそうしているのですが、究極は、「その人が一生何をしたいか」ということで、仕事を全部用意してあげているつもりでいます。基本は、雇うからには私が(従業員の)パトロンのつもりです。

John

分かります。アーティストを育成しているような感覚ですよね。

奥田

そうです。これ(写真を下記に掲載しています)も、従業員の作品で、その従業員は20年前からアート活動をしています。彼は桜の作品を毎年撮るので、桜の時期は、東京からずっと北上していくわけです。(彼は)会社に来るより、それがやりたいのです。週末を含めてたった5日間を写真を撮るために休むとすると、なぜその5日間を有給のような制度を使わなければならないのか。「そんなのいいから」となります。「その人はその時期に北上するアーティストであり、その感性があるから、うち(の会社)で働けるのだよね」というように、一人ひとりの背景を考えます。

例えば、もう1人は、「自分はゲームクリエーターですが、ゲームクリエーターだと年収がこれぐらいしかないのです」ということが分かったら、「じゃあ、その5倍くらいはうち(の会社)で稼いで」ということになります。こうして、「一番やりたいことがそこなら、それでいいじゃない」ということでやっていくと、だいたい12人ぐらいまでが、「本当に応援したい人」になります。12人を超えると、自力で独立してほしいなぁと思います(笑)。「パトロンできる人数」はそれくらいかなと思っています。

奥田氏との対談の様子を示した画像です

John

そうなのですね。従業員の方の作品、素晴らしいです! 実際に、浩美さんの会社の人数はどれくらいなのですか?

奥田

今は12人です。どんどん独立させていくので、(従業員が)自分の仕事として持って行けるようになります。今まで、うちの従業員は女性が多いので、女性の場合、会社がなくなったら終わりとなってしまうより、その人が一生食べていけるようなスキルを身に付けさせるほうがいいのです。そうなると、最初は個人事業主か、その先が経営者かという形を目指していましたので。これから先は、皆がそうした形になると思うので、あえてそこまでしなくてもいいのかなとも思います。

John

それはとても面白いですね。その中からスタートアップのような方も出たりするのでしょうか?

奥田

スタートアップというよりは、今までは受託系が多いです。もちろんスタートアップもいます。スタートアップの場合、うち(の会社)で従業員として雇うというよりは、今、何人かに投資しています。

4 「Wiz.Groupは、『個』が魔法使いで、魔法使いが集まってるグループという意味」(奥田)

John

「Wiz.Group(ウィズグループ)」という会社名は、どういった意味で付けたのでしょうか?

奥田

Wiz(ウィズ)は、「誰かと一緒に」ということではなくて、ウィザード(wizard)。基本は魔法使いです。今までなかったものをパッとつくり出したり、今まで、例えば10年かかっていたことを短縮したりといったことです。あるいは、他では時間のかかるようなことも、魔法使いのように、書類にしてもササッとつくってあげられる。そうした思いを持って、ウィザードのグループと名付けました。会社としてのグループ企業ではなく、「個」なのです。「個」が魔法使いで、魔法使いが集まっているグループという意味です。

John

面白いですね! そうした発想はどのようにしてお考えになったのですか?

奥田

私、「オズの魔法使い」が大好きだったのです。「Wiz of OZ」。なぜかといいますと、一見、何の才能もなさそうだったり、一見、ダメそう(に見えたりする)な人の中にも、とてもキラキラしたものがあって、ダメなものをよくするのではなく、「そもそも、ダメと思われているのは周りの人が悪いわけで、ダメではないよ」というように考えています。私の周りには、そういう方が、多分数百人はいると思います。英語では「gifted(ギフテッド)」といったりしますよね。すごい才能だから。

John

そういうことなのですか。私、実はラップをやっていまして、ラッパー名を「Gifted」といいます。なぜそのラッパー名にしたかというと、日本にギフテッドという言葉を広めたいからなのです。(曲を)出してみたら、おかげさまでAmazonで三度ほど、全国1位になりました。

奥田

私が今、出資している先のギフテッドの女性は、アメリカの医師免許を取得しています。医学部を出て(日本に)帰ってきたら、英語を忘れてしまって全然しゃべれないのですが、医師免許は持っている(笑)。

分かる気がしますよね。(免許を)取らなければならない時は、たぶん頭にスーッと入ってくるのだと思います。

John

どのようにして、そういう方と出会われたのでしょうか?

奥田

イベント受付のボランティアに来てくれたりします。

John

そうなのですね。浩美さんのイベントには、良い意味で尖った方が行きたくなるのでしょうね。

奥田

おそらくそうだと思います。私の周りには、とても多いです。

John

イベントといえば、20年前、どのようにして海外からのイベント運営をされていたのでしょうか?

奥田

私がインドから帰ってきたのが1989年の6月でした。当時、アルバイトか何か、仕事をしなければという状況で、国際会議を運営する会社に入りました。当初、そこには、あまり長くいるつもりはなかったのですが、たまたま、あてられた会議が技術系の会議だったのです。当時、ITやインターネットは、貧困格差をなくして人々を平等にする、情報格差をなくして世の中を幸せにするということを、多くの人が基調講演などで言っている時代でした。彼らは「世界を変える」と言っていたのです。

私は、マザー・テレサ氏のところでフィールドワークをしていましたので、「一人ひとりを救うなんて、私には一生かかってもできない。私には何もできないんだ」と思っていたような時に、「(ITで)世界を変える」という人たちに出会ったわけです。ですので、「これは本当にすごい世界が来るのではないか!?」と思いました。

John

「世界を変える」というような言葉は、直接お聞きになったのですか?

奥田

直接聞いたのはもう少し後でした。ビル・ゲイツ氏やスティーブ・ジョブズ氏が来日したのは、1992年~1993年からくらいです。

John

そうした方々のイベント運営もお手伝いされていたのですか?

奥田

そうです。私はIDG(IT分野に特化したメディア、イベント企画企業)やZiff Davis(ネット関連のコンテンツ企業)の事務局をしていましたので。最初にビル・ゲイツ氏が来た時のアテンドもやらせていただきました。

John

そうした、IT関連の大実業家など世界のトップリーダーと対面されたり、お仕事されたりする時に、技術的な内容が分からない時もあると思います。浩美さんがそうした方々とお話される上で、大切にされたりしているものは、何かありますか? そうした方々のお話から、何を掴みとろうとして聞いているのでしょうか?

奥田

「人間」と「人間」だと思っています。私が社会に出たのが25歳で、カンファレンスのお仕事で出会ったアメリカの人たちは35歳くらいでしょうか。出会えて良かったと思うのは、ステージの上で、「世界を変える」というようなことを言う人々が、実はそのステージに出る10秒前くらいは、割と舞台裏で震えていたり、とても緊張して人にあたったりするのを目の当たりにしたことかもしれません。

以前、映画で、スティーブ・ジョブズ氏のカンファレンスにフォーカスしたものがありましたが、カンファレンスの舞台裏は、本当にあの映画くらいピリピリしています。そうした姿を見ていましたので、人間は全てがパーフェクトではない、しかし、ステージで言っていることはつくっている嘘ではなくて、両方その人だということがよく分かりました。多少調子の良くないところがあっても、それもその人だし、「なんか人間っていいな」ととても思ったのです。すごい方々のそうした姿を若い頃に見ましたので、「人間は皆一緒だよ」と言いながらも、結局、幅がとても広いということも学びました。

5 「一人ひとりがその時に幸せかどうか、ということだけにフォーカスすればいい」(奥田)

John

私は、「いい人」と「賢い人」と「広げる人」は、別ではないかと思っています。浩美さんは、世界をつくっている方々をたくさん見ていらっしゃると思いますが、そうした方々のつくった世界で、結局、幸せになっている人は増えているのでしょうか。失礼な言い方かもしれないのですが、ITで何か薄れていったもの、なくしたものは、ないのでしょうか。世界はITで大きくなりましたが、日本については、「失われた30年」という言い方をする人もいるかと思います。

奥田

日本人は、昭和30年代のようなところを見て、「ダメになった、ダメになった」と言っていますが、本当にダメになっているのか、私はもう分からないと思っています。時代は常に動いているので、その時点その時点で勝者を決めるのは、もう意味がないと。ですので、今、アメリカに勝っている、負けていると言ってもあまり意味がないかもしれません。私も、日本は、この後10年くらいはアメリカには絶対勝てないと思っていますが、100年後や、もっと言うと1000年先を考えたら、今勝っている負けているを言っても「つまらないことだな」と考えたりします。

では、その次に何を思うかといえば、要は、(その時代に)生きてきた一人ひとりがその時に幸せかどうか、ということだけにフォーカスすればいいと思っています。それは、「皆が自分本位で自分のことだけ考えればいいのか」ということではありません。自分が、「これがいい」と思った一部のものを、他の人にシェアしていけばいいと思っています。シェアするもののうち、「他の人もたくさん幸せにできるような節目」がイノベーションではないでしょうか。そういうことに対して、全員が本当は努力をすべきだと思っています。だからこそ、「自分だけが幸せで自分だけで終わった」という人が1億人いたら、本当はみんながイノベーションを起こす必要はないのですよ。1億人がきちんと幸せなのですから。

John

いつからそうしたお考えなのですか? また、そうしたお考えになったきっかけはあるのでしょうか?

奥田

これが強固になったのはここ10年くらいだと思います。明らかなきっかけは、1つ目は、娘を産んでからです。2つ目は、これはいいと思っていた事業が、リーマンショックで全部なくなった時。3つ目は東日本大震災だと思います。特に娘を産んだことは大きかったのではないでしょうか。

John

そうなのですね。

アメリカのIT長者の方々は確かに世界を変えていますが、良い方向に変えていると思いますか? 「良い」ということについてフォーカスしている方があまりにも少ないように感じています。

奥田

(彼らは)良いと考えていたと思いますよ。最初は、「皆を幸せにしたい」という1つのことを思っていたのですが、巨大になっていけばいくほど、従業員が増えれば増えるほど、「この人たちを雇って食べさせていかなければならない」と思ったり、株式の資本ということになれば、株主にしっかり還元しなければならないという、ある意味「余計なこと」が多くなってしまいますよね。「行きたい先」よりも、そこに向かう途中で、「結果を出す」ということにフォーカスしがちな気がします。

それと、やはり、たくさんの起業家を見てきて、感じることがあります。自分の思いと時代がクロスして、自分の中に持っている「こういう社会がいいな」というものや、その人の背景が活きてくる時があります。いろいろな時代がありますが、たまたまその時代に、例えば「人とのつながりが欲しい」という時代がクロスすると、それに関する事業がポンと跳ねるわけですよね。それが、早すぎても難しいと思います。

時代の中のわずか数年で、「どこにクロスさせるか」というのが大きいのではないでしょうか。例えば、フェイスブックで考えると、登場してから10年くらいして、自己承認欲求の形が変わってきています。たくさんの人に「私を知って知って」というと余計なものも来るので、そのような欲求ではなくなっていますよね。今の私の欲求は、「もう追いかけられたい」のです。「私は、どこに潜んでいるか分からないけど、私を訪ねてきて(笑)」というのが、私がここ数年やりたいことです。ですので、日本にいないですし、表に出ません。私を訪ねてくれて、「こういうことをやりたいから、こういうようなことをしてほしい」と、わざわざ向こうから訪ねてアクションをしてくる人と「クロスしたい」と思うのです。

しかし、そうした気持ちは突然出てくるものではなくて、私も10年くらい前には、「とにかくたくさんの人に会って、たくさんの情報を得て」という考えでした。ですので、よく、時代は「行動しろ、行動しろ」と言いますが、行動だけしている時代は、私にはもう終わっています。(私は、今は)行動してはいけないのですよ。行動すると、余計な「やらなければならないこと」が増えてしまいますから。30年間、こうした仕事をしてくると、誰かと話をすると、「私は何かできますよ」と、全部握手できてしまうのです(笑)。何かの役には立つから全部握手できてしまって、握手はしたけど、「これ、私でなければならないのでしたっけ」というようなことが起きてしまいます。そういうことがあるので、今は潜んでいる時期だと思っています。

奥田氏との対談の様子を示した画像です

  • 奥田氏との対談はまだまだ続きます。
    この続きは「後編」をご確認ください!

以上

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