待ったなしの副業解禁の時代をひもとく〜現代の遣唐使 他社留学を事業化するエッセンス社の米田さんに聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、エッセンス株式会社の社長である米田瑛紀さんです。

2019年4月、副業・兼業の解禁やリモートワークの推進など、激動の「働き方多様化時代」が始まっています。米田さんは、その最先端を担っていて、経済産業省におけるワーキンググループの委員にも選出されています。

大企業の優秀な人材をスタートアップ企業へ期間限定で送り込む「他社留学」の他、「現代の遣唐使」に見立てて「地方人材を東京へ送り込む」ことを事業化するなど、幅広く人材を活性化し「人財」にする活動をされています。

1 副業人財で決まりましたよ!

最初に、私のキャリアでターニングポイントになった出来事を紹介します。今から20年ほど前、当時懇意にしていた得意先の方から、ドラッカーさん(ピーター・ドラッカー)の音源を聞かせてもらったことがあります。その音源の中に、ドラッカーさんが来るべき将来に必要な人材像についてコメントしている場面がありました。

詳細なことまでは覚えていないのですが、当時のドラッカーさんが、「1社に帰属し自身の関わる仕事だけのプロフェッショナルの時代は確実に終わる」ということと、「多様性の時代が来る。その際には、いろんな業界、企業、職種、コミュニティーと対話ができる器用なビジネスパーソンが重宝される時代となるだろう」というようなことを予言的に話していたことは鮮明に覚えています。

これらドラッカーさんのお話に衝撃を受けた当時の私。幸いにして20代で全く違う業界へ2度の転職経験があり、さらに、私はあらゆる業種と関わりのあった損保会社で仕事をしていました。そうしたことから、ドラッカーさんのメッセージを、「まさにドラッカーさんが私に言ってくれている」と自分勝手に誤解? 曲解?して受け取り、それが根拠のない自信となって現在に至るまでパワーをもらっています。

会社員時代、就業規則の関係により私は金銭的な副業経験をしたことは一度もありません。しかし、当時から社外へ求め始めたネットワークのおかげで、莫大な【情報】と【信用】を手に入れることができました。金銭以上のものを【副業】として得られたといっても過言ではないと今まさに感じ、感謝しています。

これからの時代を生き抜く上でも、副業は大切な意味を持っていると思っています。

そろそろ冒頭のタイトル、【副業人財で決まりましたよ!】に戻りたいと思います。【副業人財で決まりましたよ!】。これは、私がインタビューに伺った際に、米田さんが席に着くなり、ニコニコ顔で語ってくださった言葉です。

今から数カ月前、懇意にしている上場会社の社長さんから、「杉浦さん! ここ6カ月ほど、社長マターで幹部人材を探しているけれど採用できなくて困っています! どこか採用の支援をしてもらえる会社を紹介してください!」と依頼を受け、すぐに米田さんにお願いしたものでした。

そこから2カ月もたたないうちに、米田さんから「副業人財をご導入いただくことが決まった」との報告をいただき、少し不思議な感じでした。役員級での採用要請でしたので、私は常勤の候補が当たり前と思っていましたが、この副業でジョインされた方は元マイクロソフトでマーケティングを担当したこともあり、現在は世界的によく知られるマーケティング会社の超有名人だそうです。

もしこのハイスペックな方を説得し、100%のコミットで転職要請するには、いったいいかほどの年俸を準備することになるのでしょうか。そして、どれくらい先にジョインすることとなるのでしょうか。

恐らく、企業側が想定している額をはるかに上回る金額が必要で、しかも、候補の方の状況によっては、実際にジョインするのはしばらく後になるかもしれません。企業にとっては、かなり難しく現実的ではない状況になるでしょう。

「常勤採用の発想から企業側も転換をしたほうが良いですよ」。そう米田さんは話します。「副業人財」としてジョインしてもらえば、ハイスペックな方を週1もしくは月数回程度で味方にすることができ、企業のレベルアップが図れます。依頼主の社長にとっては良いことずくめです。

米田さん率いるエッセンス社では、「戦略設計図を描けるプロ(人財)をそろえている」という点で、他社にはない価値を企業に提供できるとしています。また、人材を探している企業に寄り添い、「足りないピースは何か」「どこなのか」といった点も掘り下げていく【丁寧なチューニング】も、大きな強みといえるでしょう。

米田さんの姿勢から、「副業だからこそ人財の適材適所をしっかり考えることの大切さ」を目の当たりにした次第です。案件の数にこだわるのではなく、チューニングの丁寧さとクオリティーの部分に、エッセンス社が「何を重要視しているのか」がうかがえます。

2 水面下でも動き出している大企業の「他社留学」という研修スタイル

次にご紹介するのは「他社留学」という取り組みです。1万人以上を抱える大企業では、仮に自分が必死で努力したり、運を味方につけたりしたとしても、役員にまで上りつめることは本当に大変です。昨今、大企業でも役員の若返りにチャレンジしているとはいえ、20代で役員会に出るチャンスは皆無といってもよいくらいです。

しかし、エッセンス社ではその経験を20代でかなえる取り組みも実施されています。実は私がご紹介した会社はまさに社員数1万人以上で、「有能な若手人財をつなぎ留めておく施策はないか?」と探しているところでした(大概の場合、期間限定の海外研修ってことが多いですね……)。そこでその会社には、期間限定で他の会社に留学するという「他社留学」を若手社員に経験させてみることを紹介しました。

当初、まずは、その会社の1名を、あるスタートアップ企業に留学させることにしました。その結果、

  • 自社(大企業)のリソースの大きさ、ポテンシャルを認識できた
  • スタートアップ企業の役員会に参加することで経営側の考え方を学ぶことができた

ということだそうです! そこで、現在は3年目の他社留学をスタートしており、非常に効果が出ているといいます。

例えば、他社に留学することで、現業の【引き出し】が増え、課題解決力や視座が高まり、価値観も広がる。そして何より、「マインドが変わる=自立心が育まれる」ことが大きいと思います。

私が会社員時代に感じていた、【企業研修】の意味のなさ。研修に際して、会社が多額の投資をしてくださったことには感謝していましたが、「座学→眠い→体験値が低い→研修期間を過ぎればすぐに消えてゆく」。こうしたことの連続でした。だからこそだと思いますが、私には、エッセンス社の他社留学事業は大企業にとって「本当に社員を変えることのできる」画期的な【研修事業】と映りました。

企業が副業解禁に向かう場面でも、この他社留学は意味あるものだと感じます。自分が勤めている会社のことしか知らないという純粋培養では、企業側が副業解禁しようとしても、社員たちは何も分からない、変わらない、一歩も前へ進めない。そんな状況かもしれません。他社留学は、そうした社員の背中を押す施策と感じます。

●エッセンス社の他社留学に関する説明はこちら
http://nanasan.essence.ne.jp/

他社留学事業を説明した画像です

3 【現代の遣唐使】地方と東京をつないでいく

米田さんの思いは、「地方活性化」にも及びます。米田さんは、その思いを「現代の遣唐使」という表現で話してくださいました。飛鳥時代から平安時代にかけ、日本の礎(技術、政治、文化、宗教)に大きな影響を与えたのが、日本から「唐」に派遣されていた「遣唐使」です。遣唐使も、まさに「有能な人財を全く見たこともない世界に送り込むことで成長の機会を得られる」という制度でした。米田さんは、「現代の遣唐使」になぞらえて、地方の企業から東京の企業へ社員を送り込み、学びの機会を創出するという事業にもチャレンジされています。

例えば、青森県六ヶ所村に所在する日本原燃株式会社の例を見てみましょう。同社の2017年度の売り上げは2600億円超、従業員数も2700人を超えています。今回、この地元の超優良企業である日本原燃社から、都会にあるユニリーバ・ジャパン社の人事や、サイボウズ社の総務にと、日本でも先端的な取り組みをしている企業で「現代の遣唐使」が実施されたそうです。

既成概念の中で硬直した企業組織、若い世代が違和感を持っても過去の事例の中では発言すらはばかられる。日本原燃社では、こうした状況を打破すべく、「現代の遣唐使」を導入したのかもしれません。社員は、東京の企業で、全く違った組織運営の在り方や、仕事への取り組み方について現場で学ぶことができます。最先端の取り組みを行っている企業で経験した実績を、遣唐使となった社員が自社に持ち帰ることで、実際に、社内が大いに活性化しているそうです。

「現代の遣唐使」では、「既にある良きもの」をどんどん都会から持ち帰り、地方で生かしていくことがポイントです。今まで、地方へ有能な都会人財を送り込むことで活性化を生むケースは見受けられました。「都会人財が地方へ行く」という一方通行ではなく、双方向、特に地方から都会への遣唐使制度の中に、地方活性化の早道があるかもしれないと感じました。

4 副業解禁、その時代に必要とされる人財に大切なこと

働き方改革、副業解禁といったように社会が大きく変化していく中だからこそ、「人財」として大切にしなければならないことがあると、私は思っています。

あるスタートアップ企業で部長級以上の会議に出席したときに居合わせた、60歳以上の元商社出身の人生の先輩。この会社で必要なことへの言及は全くせず、終始、自分の経歴を一生懸命プレゼンするだけでしたが、結果として、その方は多額の報酬要求をされました。こうした、過去の人脈を頼り、電話一本で「この会社の社長と会え!」などと言う、強引な顧問の時代もそろそろ終わりに近づいていると感じます。

米田さんも、これから副業解禁時代を生き抜くためには、【再現性】と【マインド】という2つのキーワードが特に重要だと話します。

米田さんの会社で中核事業の一つである、プロ人材の紹介サービス事業である【プロパートナーズ事業】には、大企業で現役として働いている方や引退した方が「プロ候補」としてたくさん面談に訪れるそうです。しかし、そのうちの80%以上はお引き取りを願うのだそうです。

【再現性】と【マインド】という2つのキーワードを持っていない、それがお引き取りを願う理由だと米田さんは言います。有名企業に所属していただけ、肩書があるだけで、現場で実践してきたビジネススキルや成功体験を持ち合わせていない。また、やってきた仕事は単に所属企業のルーティンワークで、自社以外に持ち出して活用したり、再現できたりするものは何一つない。そんな方が少なくないと言います。

加えて、【マインド】もなく「大企業にいた」という上から目線で、そのことが地方の中小企業の現場では全く役に立たないことを理解していないようです。「自分が何に、どうしたら役に立てるか?」を必死で考える言葉が出る、そして行動する。そうした他者貢献のマインドがあってこそ副業ができるのです。【再現性】と【マインド】。この2点がないと、副業時代を生き抜くことは難しいと米田さんは話します。

●エッセンス社のプロパートナーズ事業に関する説明はこちら
https://www.essence.ne.jp/propartners

プロ人材の活用の広がりを説明した画像です

【再現性】と【マインド】。この2つを意識し、多様化し、激変していく世の中で活躍できる人材が「人財」となり、地方と都会の両方が活性化することを願いたいと思います。

以上(2019年4月作成)

【朝礼】苦手なことほど、ブランクを空けず実践してください

私事ですが、最近、ピアノ教室に通い始めました。子どもの頃に習っていたのですが、高校生になってからやめてしまったので、実に30年ぶりにピアノを練習しています。

再びピアノに挑戦してみてショックだったのは、楽譜の読み方や指の動かし方を、すっかり忘れてしまっていたことです。子どもの頃に体で覚えたことなので、何回か教室に通う中で勘を少しずつ取り戻しつつありますが、まだ完全に思い出したわけではありません。間違ってばかりです。やはり、長い期間のブランクがあると、勘も腕も鈍ってしまうのだと実感しています。

プロのピアニストでも、1日ピアノに触れないだけで調子が出なくなってしまうといいます。他の楽器でも、きっと同じでしょう。

勘や腕が鈍るという感覚は、ビジネスでも同じことだと思っています。日ごろから実践していないと、いざやろうとしても、うまくできなくなってしまうことがあるのではないでしょうか。

分かりやすいケースでいえば、「声を出すこと」です。日ごろ、挨拶をしないでいたり、何か問い掛けられてもリアクションを取らないでいたりすると、声をなかなか出せなくなります。声を出さないでいるのが普通になるため、周囲にアナウンスすべき大切なことも、おっくうになって伝えられなくなるのです。私が普段、皆さんに「声を出すように」と繰り返し伝えているのは、こうした状態に陥ってほしくないからです。

また、「お客様と話すこと」も同じです。普段からお客様に電話をして直接話を聞いたり、当社の商品の説明をしたりしていれば、どのように質問や説明をすればよいのか、どのようなキーワードが響くのかといったことが蓄積されていきます。さらには、「何曜日の何時ごろに連絡すると話が聞きやすい」といったことも分かるようになります。日々実践することで、勘や腕が磨かれるともいえるでしょう。

しかし、ブランクがあると、いざ連絡を取ろうとしても、どのようにコミュニケーションを取ればよいのか分からなくなります。お客様と接するのが怖いといった意識が芽生え、必要以上に身構えてしまいます。皆さんの中にもお客様と話すのが苦手という人がいますが、苦手意識があって避けているため、余計にできなくなっているように思えます。

私の知っている経営者は、この状態を、「必要な『筋肉』を日ごろから使っていないと、その『筋肉』は動かなくなる」と表現しています。「声を出す」「お客様と話す」といったことを実践するための「筋肉」は、日ごろから使わないと、動かなくなってしまうということでしょう。

逆に言えば、毎日実践していれば、動かなくなるのを防げます。例に挙げた「声を出すこと」「お客様と話すこと」が苦手な人は、今日から少しずつでいいので実践してみてください。勘も腕もきっと磨かれていくでしょう。

以上(2019年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】あなたは、どのようなことができる人ですか

先日、ベンチャー企業の経営者や起業家が、自分たちのビジネスについてプレゼンを行うイベントを見学してきました。このイベントはマッチングや資金調達が主な目的で、大企業の新規事業担当者やベンチャーキャピタリストなど、数多くの人たちがプレゼンを聴きに来ていました。

会場は熱気にあふれ、プレゼンターも聴き手も本気度が高く、聴いていて胸が躍る素晴らしいイベントでした。私が特に印象に残ったのは、多くのプレゼンターが、「チームメンバーの紹介」に時間を割いていたことです。

持ち時間は1人5分間で、決して長い時間ではありませんでした。しかし、その短い時間の中で、「具体的にどのようなことができ、どのような活動をしているメンバーがいる会社なのか」ということがよく分かるプレゼンが多かったのです。中には、今後の事業展望よりも、チームメンバーのことを熱く語って終わる人もいたくらいです。

プレゼン後の交流会で、私はプレゼンターの1人に、なぜ、チームメンバーの紹介にこれほど時間を割くのかを尋ねてみました。すると彼はこう答えたのです。

「正直なことを言えば、今後、外部環境などによって事業内容は変わっていくかもしれない。それでもいいと思っている。それよりも、何ができるメンバーがいて、それぞれが日ごろどのような活動をしているか。会社の実力を知ってもらうには、それを伝えることのほうが大切だ」

私はこれを聞いて、最近、仕事で出会った海外のビジネスパーソンたちのことを思い出しました。人にもよるのでしょうが、彼らは、自己紹介をするときに、会社名を先に名乗ることはほとんどありませんでした。まず自分の名前を、次に「私はこのようなことができます」「私が現在やっていることはこれです」と自己紹介をするのです。そのため、私は一人ひとりを、会社名ではなく、「何ができる人か」で覚えました。

日本人の場合は、逆です。最初に会社名を名乗り、お互いに会社名を覚えます。具体的に何ができる人かは、よく分からないままということが少なくありません。私も、海外の方に会社名を名乗ったら、すぐに「あなたは何ができるのか」「何を実現しているのか」と質問をされました。

皆さんは、どうでしょうか。社外の人に、どのように自己紹介をしていますか。「自分はこれができる」と明確に言うことができるでしょうか。

そう言えるようにするためには、得意分野を持ち、それを突き詰めることが必要です。しかも、社内だけでなく、社外でも通用するくらいでなければなりません。

私は皆さん一人ひとりに、「自分の得意分野はこれだ」と言えるものを持ってもらいたいと思っています。「能力の肩書」といってもいいでしょう。皆さん、新年度を迎えた今こそ、「自分は何ができるのか」を改めて自分に問いかけてみてください。

以上(2019年4月)

pj16954
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】居心地のよい場所から一歩踏み出せ

「マズローの欲求5段階説」を知っている人は多いでしょう。人間の欲求は、下のほうから「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「尊敬への欲求」「自己実現の欲求」の5つであり、次々と上のほうの欲求を満たしたくなるという説です。例えば、「生理的欲求」が満たされた人は、「安全への欲求」を満たしたくなるということです。

欲求5段階説は、社員のモチベーション管理でもよく応用されています。最も基本的なのは、「出世によって社員の尊敬への欲求を満たし、さらに大きな権限を与えて社員がやりたいビジネスを支援する、つまり自己実現の欲求を満たす」というものです。

ただし、これらは会社が設定するモチベーションアップの枠組みです。この枠組みの中にいれば、放っておいてもある程度の出世をし、権限も与えられるので、枠組みの中にいる人にとっては居心地がよいかもしれません。しかし、その状況に甘んじ、努力をしなければ成長はありません。

先日、私が面接官を務めた中途採用の面接で、経営戦略や財務の基礎さえも理解していない中年の求職者と会いました。その求職者を、仮にAさんとしましょう。「いかに人材不足とはいえ、これでは採用は厳しい……」というレベルです。それなのにAさんが私との面接までたどり着いたのは、Aさんの経歴が決して悪くないからです。面接の場でも、「プロジェクトを任されていました」と、悪びれずに言っていました。

戦略を立てられず、損益も計算できないAさんが、どうやってプロジェクトを回せたのでしょうか。チームの他のメンバーが優秀だったのか、プロジェクトがとても簡単だったのか……。Aさんと話をして私が得た答えは、Aさんも、Aさんにプロジェクトを任せた上司も、Aさんが勤めていた会社も、その時点で自分たちが行っているビジネスや、その進め方をバージョンアップできることに気付いていなかったということでした。

私はAさんを非難するために、この話をしているわけではありません。皆さんに、「会社も社員も、自ら常にバージョンアップしなければならない」ことを分かってほしいのです。そうしないと、私たちは「井の中の蛙(かわず)」になってしまいます。「井の中」にいれば、欲求5段階説で示された欲求は、高いレベルで満たされるかもしれませんが、それでは小さくまとまるだけなのです。

人間の欲求は際限がないといわれます。一方、人間は慣れる生き物でもあります。疑問や不満、不安を解決したいという欲求があっても、いつしかその状態に慣れ、「特別に努力する必要もなく、楽で居心地がよい場所」に感じるでしょう。そのうち、こうした“ぬるま湯のような居心地のよさ”から抜け出せなくなってしまいます。

居心地がよい場所に長居は無用です。居心地のよい場所から一歩でも外に出れば、これまで知らなかった世界が広がっていることに気付きます。そこにたどり着く努力をしてください。

以上(2019年4月)

pj16952
画像:Mariko Mitsuda

ネット販売時代でも変わらない接客の基本

書いてあること

  • 主な読者:販売員を指導する教育担当者
  • 課題:販売員の接客方法を見直したい、改善したい
  • 解決策:言葉遣いや身だしなみの基本を押さえた上で、より顧客からの好感度が上がる接客方法を習得させる

1 接客に不可欠な3つの要素

接客で相手に好印象を与えるためには、「態度、言葉遣い、身だしなみ」が重要です。例えば、礼儀正しい態度、正しい言葉遣い、清潔で衛生的な身だしなみということですが、これらは、ほぼ第一印象で判断されます。

経営者は、自社が大切にする態度、言葉遣い、身だしなみの基準を社員に周知徹底しなければなりません。そして、現場の責任者は販売員が常に実践できるように訓練する必要があります。

本稿では、企業が自社の態度、言葉遣い、身だしなみの基準を検討、あるいは再確認する上でヒントとなる情報を紹介します。ご一読いたき、御社が大切にすべきこと、改善すべきことの整理につながれば幸いです。

2 態度

1)販売員の心構え

販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いです。詳細な説明を求める人、自由に検討したい人など、お客様はさまざまです。親切で誠意ある態度を取ることを前提に、ある程度の判断は販売員に任せるのがよいでしょう。

2)明るい声と笑顔

明るい声と笑顔はとても大切です。朝が弱くて、声が出ない、頭も働かないという人でも、明るい笑顔をつくれば明るい声が出てきます。ただし、むやみに大きな声で話すとお客様を驚かせてしまうので、販売員同士で心地良い大きさを検討しましょう。

話すスピードは、速過ぎても遅過ぎてもいけません。早口で話すと、落ち着かない印象を与え、追い立てられる感じがします。逆に、あまりにゆっくりだと、お客様を馬鹿にしているような印象を与えかねせん。

3 言葉遣い

1)接客の基本6用語

まず、次の「接客の基本6用語」を確実にマスターしましょう。これらを知ると、接客の流れを再認識することにもつながります。

  • いらっしゃいませ
  • かしこまりました
  • お待たせいたしました(少々お待ちくださいませ)
  • 申し訳ございません(申し訳ございませんでした)
  • 恐れ入ります(恐れ入りますが……)
  • ありがとうございます(ありがとうございました)

2)適切な敬語

敬語には、丁寧語、尊敬語、謙譲語があります。丁寧語は語尾に「○○です(でした)」「○○します(しました)」とすればよいので簡単ですが、尊敬語と謙譲語は慣れないと使い分けが難しいものです。

尊敬語は相手に敬意を払う表現、謙譲語は自分をへりくだって使う表現です。よく使われる敬語の例は次の通りです。尊敬語や謙譲語を使用するときには丁寧語を併せて使用するのが一般的なので、それぞれ丁寧語を併せた表現にしています。

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敬語に慣れるには、ロールプレーイングを繰り返すことが一番です。前述の「接客の基本6用語」の発声練習を行うことは敬語の練習にもなります。

また、敬語とは少し違いますが、上品な印象を与える美化語も知っておきたいものです。美化語とは、名詞の前に「お」や「ご」を付けます。「この菓子は茶に合いますね」と「このお菓子はお茶に合いますね」とでは、後者のほうが上品です。

3)分かりやすい言葉

お客様と話をするときは、分かりやすい言葉を使います。お客様の知らない用語を多用することは、お客様を不快な気持ちにさせてしまいます。業界や自店でのみ通用する略語や通称なども、お客様と話しているときに使ってはいけません。

4 身だしなみ

接客には、清潔感ある身だしなみが不可欠です。お客様に不快な印象を与えない身だしなみを心掛けましょう。例えば、飲食店で清潔感がないことは致命的なので、無精ヒゲは好ましくありません。

一方、アパレルの場合では、販売スタッフはファッションリーダーであり、無精ヒゲがおしゃれに見えることもあります。業種に合わせて適切な基準を決め、その実効性を持たせるために就業規則の服務規定に定めるとよいでしょう。

5 豊富な知識

態度、言葉遣い、身だしなみは販売員にとって重要ですが、商品について素人では困ります。つまり、豊富な知識を有し、お客様のニーズに合わせて提案できなければなりません。

カタログや説明書、先輩販売員の知識など、自社内で得られることだけではなく、積極的に社外からも情報を収集しましょう。飲食店であれば、競合店に食事に行ってみると相手のレベルが分かります。

十分な知識があるのにうまく説明することができない場合は、販売員同士で商品説明のロールプレーイングをしましょう。知識を言葉にすることを繰り返すと、本番の接客でも言葉がスムーズに出てくるものです。

6 好感度アップの接客方法

1)褒め言葉

コミュニケーションを円滑に行うために、お客様を褒めることは重要です。例えば、次のようにです。

  • 「すてきなバッグですね」
  • 「ロングコートがお似合いですね」
  • 「背が高くてスタイルもよろしいので、どんな洋服でもお似合いになりますね」

お客様が何かにこだわりを持っているようなら、そこを褒めます。例えば、帽子や眼鏡、時計などについて「すてきですね」と表現します。こだわりのモノを褒められて気を悪くする人はいないでしょう。また、価値観の共有は親近感につながります。

また、子供連れのお客様には、「かわいい赤ちゃんですね」と、子供を褒めるのもよいでしょう。赤ちゃんは見た目で男の子か女の子か判断するのは難しいものです。その場合は、女の子とするのが無難です。仮に男の子であっても「あまりにかわいいので女の子かと思いました」と続けることができるからです。

ただし、上辺だけの褒め言葉は危険です。機械的に褒め言葉を言っても、気持ちが込められていないことはすぐに分かります。うまく褒められないのなら、無理をせずに誠実に対応したほうが無難です。

2)肯定的な表現を徹底する

表現は肯定的にします。例えば、お客様からMサイズとLサイズしかない商品について、「もっと大きいLLサイズはありますか」と聞かれたとします。この場合の受け答えには次の2通りがありますが、後者のほうが柔らかい印象を与えます。

  • 「あいにく、こちらの商品はLLサイズやXLサイズはございません」
  • 「こちらの商品はMサイズとLサイズだけの展開です。LLサイズですと、春らしいデザインのこちらの商品はいかがですか?」

日本語は英語などの外国語に比べて、ストレートな表現を避けるケースが多いものです。他の商品で希望に沿ったサイズの商品があれば、続けて、「あちらの商品ですと大きいサイズもございますが、ご覧になりますか」と、代替商品の提案につなげます。

3)短所は先に長所は後に

次の2つを比べてみてください。どちらも同じ内容の言葉が並んでいるのですが、聞き手の印象は大きく異なることが分かります。後で聞いた情報のほうが、最初に聞いた情報よりも記憶に残りやすいことを意識してみてください。

  • 「A氏は努力家なのだが、たまに失敗をする」
  • 「B氏はたまに失敗はするが、努力家である」

A氏は「努力家」という好評価を得ているが、「たまに失敗をする」ということで、その評価を帳消しにするようなマイナス面が強調されます。一方、B氏は「たまに失敗をする」というマイナス評価を打ち消すほどの「努力家」であるといった印象を与えます。

これを接客の場面で考えてみると、お客様から、「A商品はちょっと高いですね」と言われたときに、どのように答えるかでお客様への伝わり方が大きく異なります。

  • 「A商品は機能性が高いため、値段が若干高くなっています」
  • 「確かにA商品は値段が若干高いのですが、それ以上に機能性が高くなっています」

また、次のような場合はどうでしょうか。

  • 「A商品の値段が高いのは、機能性が高いからでして、それを考えると、値段がそれほど高いというわけではありません」
  • 「確かに高いかもしれません。しかし、それ以上に使い勝手が良くなっています。従来の商品では不可能でしたが、○○までできるようになったのです」

上のほうは、機能性の高さを強調していますが、お客様の意見を否定することになります。高いか安いかはお客様が判断すべきことであり、お客様の判断を否定するような発言は失礼です。

セールストークは、理屈や議論でお客様を説き伏せるというものではありません。お客様の意見や価値観を尊重しつつ、別の視点による利点を伝えるためのものです。従って、このような場合は、下のような表現にするべきです。

4)聞き上手になる

接客は、話し上手であるよりも、聞き上手であることのほうが大切です。聞き上手になるための基本は、お客様の話に適切に相づちを打ったり、お客様の話を復唱したりすることです。

相づちを入れたり復唱したりすることで、お客様の話をしっかり聞いているという姿勢を見せることができるのに加え、聞き間違いや勘違いを防ぐこともできます。また、適切に質問をすることも聞き上手になるためには重要です。

7 実際の接客では……

お客様がいないとしても、販売員が暇そうにしている店よりも、ディスプレーの変更や商品の整頓などをして常に動いている店のほうが入店しやすいものです。そして、作業をしていても店内や入り口への注意を欠かさず、お客様の入店と同時に、「いらっしゃいませ。どうぞ、ご自由にご覧くださいませ」と言葉を掛けます。

しかし、そこですぐにお客様の近くに寄っていってはいけません。入店時から買いたい商品が決まっているお客様は少なく、多くは「取りあえず商品を見て、気に入ったものがあれば買おう」と考えているのです。それなのに入店と同時に販売員が近寄ってきたら、お客様は「必要のないものを買わされるのではないか」と警戒心を抱きます。

販売員は、お客様が入店したらタイミングを計って作業を中断し、お客様に声を掛けます。しかし、「何をお探しですか」と聞いても明確な回答が得られるとは限りません。最初は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問から始めるとよいでしょう。

大切なのは、購入の決定はお客様がするということです。迷っているお客様に販売員が商品をお勧めして購入してもらえば、接客は成功したかのように見えます。しかし、お客様が実は迷っていたのに、販売員に押し切られる形で商品を購入したら、後で不満を覚えることになります。

店に対して不満を抱いたお客様は、知人に悪評を伝えるかもしれません。そうした悪評を聞いた人たちは、果たしてその後店にやって来るでしょうか。恐らく来店は期待できないでしょう。

商品を1つ販売するために、リピーターになってくれたかもしれないお客様を逃し、また潜在的なお客様も失ってしまうのは大きな損失です。販売員の仕事は、商品を「売る」ことではなく、お客様が「買う」ための手伝いであることを忘れてはなりません。

以上(2019年4月)

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画像:pixabay

社員の多様性を育む「パラレルキャリア」

書いてあること

  • 主な読者:「パラレルキャリア」について知りたい経営者
  • 課題:どんなメリットがあるのか。本業に支障が出ないか懸念している
  • 解決策:パラレルキャリアを認めることで、優秀な人材の流出を防ぐ可能性がある

1 自己成長・自己実現の手段が多様化してきた

1)2枚目の名刺を持つ時代

「ちょっと待ってください。実は私こんなこともやってまして」

朝活や交流会などで名刺交換をするとき、こう言いながら2枚目の名刺を差し出してくる人が増えてきました。今話題の「パラレルキャリア」を実践している人です。

パラレルキャリアとは、ピーター・F・ドラッカーがその著書である『明日を支配するもの—21世紀のマネジメント革命』において紹介した考え方です。この著書の中でパラレルキャリアは、組織よりも人間の寿命のほうが長くなった時代の生き方の1つとして、「これまでの本業を続けながら、パラレルキャリア(第二の仕事)を持つこと」が紹介されています。現在、パラレルキャリアというワードは多義的に用いられていますが、大きな特徴として次の2つを挙げることができます。

  • 副業やダブルワークとは異なり、必ずしも収入を第一の目的としていない
  • パラレルといってもキャリアが完全に並行するわけではなく、相互に作用し合う

2)マズローの欲求5段階説との関係

パラレルキャリアが注目される理由の1つは、働き方が多様化し、1つの会社に40年以上も所属し続けるスタイルにとらわれなくなってきたからです。代わって、社外にも活動の場所を持つことで可能性を見いだし、自己実現を果たそうと考える人が増えているのです。この状況を、人のモチベーションの在り方を示したマズローの欲求5段階説で示すと、次のようになります。

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マズローの欲求5段階説における最も上位の欲求は「自己実現欲求」です。従来は本業として勤める会社で出世して周囲から認められ、「やりたいことをできる権限を持つ」ことが、自己実現欲求を満たすための有力な手段と考えられていました。「出世が何より」という時代のキャリア形成の在り方です。

今でも、出世はビジネスパーソンが大成するための手段であることに変わりはありません。しかし、パラレルキャリアを実践する人にとって、自己実現の場所は本業として勤めている企業に限定されません。そのため、地域おこしのためにNPOに参加して汗をかいたり、プロボノとして自分が持っている能力を社会に還元したりと、出世以外の方法により、自己実現を果たそうとする人が増えてきました。

2 並行するキャリアをつなぐもの

1)本業への影響をどう考えるべきか?

こうしたパラレルキャリアについて、企業のマネジメント層とパラレルキャリアを実践している従業員の間で認識の相違が生じやすいのは、本業への影響です。

例えば、人手不足に悩む中小企業の経営者は、従業員が週末の活動で張り切り過ぎて本業に支障を来し、場合によっては退職してしまうのではないかと懸念を抱くでしょう。確かに、パラレルキャリアを実践している従業員の中には、本業ではなく、自分の興味のあることや成し遂げたいことに注力するために退職するケースもあります。しかし、全体から見ればまだ少数派であり、そもそも本業をおろそかにしてもよいという甘えもありません。むしろ、本業とパラレルキャリアで得た知見を融合させ、それぞれのレベルを高めていこうと考えるのが一般的です。

パラレルキャリアにおけるキャリアは、本業とそれ以外の二者択一ではなく、相互に作用し合うものであると考えることができます。以降で、その関係を確認してみましょう。

2)イノベーション思考

例えば、パラレルキャリアの一環として参加するNPOや研究会には、立場や意見が異なる様々な人が集まってきます。そこで地域おこしなど自分の目的を達成するためには、互いの考え方を理解することから始めなければなりません。程度の差こそあれ、参加者は意欲にあふれた人たちです。こうした中で相手の意見を聞き、自分が主張すべきところは主張しながら物事を進めていくことで、これまでにない新しい発想が生まれてくることがあります。こうした経験は自ら積極的に発想をする訓練になり、上司から与えられた仕事を受け身でこなすだけのスタイルを改めるきっかけになります。

3)リーダーシップ

本業である勤め先の役職には、一定の公式な権限が与えられています。それでも人を動かすことは難しく、指示を出しても快く従ってくれない部下もいます。公式な権限があっても発揮するのが難しいリーダーシップを、NPOなどで実現するのは至難です。皆が自分の確固たる意見を持っている場においてリーダーシップを発揮するためには、より深く相手のことを知り、相手の立場に立って自分の意見を伝えなければなりません。また、他人の話をよく聞き、受け入れることで自身の思考の幅が広がると同時に、他者を受け入れる「寛容性」も養われます。

4)人脈

パラレルキャリアを実践することで、通常の活動の中ではなかなか知り合うことのできない人と同じ釜の飯を食いながら、“濃い付き合い”をすることができます。知り合う仲間は、国会議員、弁護士、主婦など実に様々です。こうした人脈を本業で使うことに抵抗を感じる人は少なくありませんが、いざというときに頼れる存在であることに変わりはありません。また、日ごろから多様な人と付き合うことで、これまでのネットワークではアンテナに引っかかってこなかった分野の情報を素早くキャッチすることができます。

3 最大のメリットはリテンション?

1)人材不足と多様性の確保

企業が従業員のパラレルキャリアを認めることで得られるメリットは様々ですが、特に中小企業における最大のメリットはリテンション(優秀な人材の流出を防ぐ施策)かもしれません。前述の通り、ある意味で“滅私奉公”的な会社への貢献意識が変化している中で、従業員が出世とは異なる別の自己実現の方法を取り入れ始めています。

働き方改革の影響もあり、従業員の多様な働き方が社会的に容認されつつある昨今、パラレルキャリアを実践している従業員、あるいは意識している従業員にとって、パラレルキャリアを認めてくれる企業と、抑制しようとする企業では、評価は大きく分かれます。当然ながら、自分がやりたいことを認めてくれる企業で働きたいと思うでしょう。

人材不足と多様性の確保への対応は、規模を問わず日本の企業がこれから長期的に向き合っていかなければならない重要な経営課題です。その対策の1つとして、従業員のパラレルキャリアを認めることは検討に値するかもしれません。

2)“拡張OFF-JT”から始めてみる

パラレルキャリアから中小企業が学ぶ根本的なことは、働き方に対する従業員の意識の変化です。パラレルキャリアに取り組んでいない従業員であっても、本業という枠から少し外れたところで学び、刺激を受けたいと考えている人はたくさんいます。

そこで、いわゆる「OFF-JT」を充実させることは、従業員の意向に沿うと同時に企業にとってもメリットがある取り組みかもしれません。OFF-JTは職場外で行われる本業に関係するテーマの研修です。これを拡張して、ボランティア研修や他社への就業体験など、本業と少し離れたメニューを取り入れたり、そうした活動を人事考課の中で評価する“拡張OFF-JT”は、従業員の自己実現をサポートする仕組みとなるでしょう。

また、“拡張OFF-JT”によって企業が従業員の本業以外の活動に理解を示し、サポートすれば、従業員は「この会社は古い」といきなり退職することなく、企業ともう1つの活動の両立を目指すことでしょう。

以上(2019年4月)

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誰よりも印象に残る 花の贈り方

書いてあること

  • 主な読者:顧客や取引先に花を贈りたい経営者
  • 課題:どんな花がふさわしいか、どのように贈るのかなどのマナーが分からない
  • 解決策:お祝い事やお見舞いなど、シチュエーションに応じたマナーがあるので、それを押さえる

1 ビジネスで花を贈る意味

ビジネスではコミュニケーションの一環として、顧客や取引先に贈り物をすることがあります。贈り物の定番といえば花ですが、花を贈る際には配慮すべきマナーが多く、比較的高価でもあることから、近年は花以外の商品を贈り物に選ぶ会社が増えているようです。

しかし、贈り物として花が選ばれにくい今だからこそ、あえて花を贈ることで、こちらの気持ちを相手に伝えやすくなる面もあります。シチュエーションや相手の好みを踏まえた花を選び、マナーを守って届けることができれば、相手は「自分のことを大切に思い、これだけの手間をかけてくれた」と好感を抱いてくれるでしょう。花を贈る相手がこれから関係を強化していきたい営業先である場合、そのオフィスに自社の立て札が付いた花を飾ってもらうことで、きれいな花と一緒に自社の存在を印象づけることができます。

本稿では、ビジネスで顧客や取引先に花を贈る際の基本的なマナーを踏まえた上で、さらに一歩進んで相手の印象に残りやすい花の贈り方のテクニックを紹介していきます。

2 4つのポイントで押さえるマナー

1)マナーを理解するための4つのポイント

花を贈る際のマナーはさまざまですが、次の4つのポイントを押さえればマナーの勘所が分かります。

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ここからは、花を贈る際の具体的なマナーを確認していきましょう。相手が「法人」か「ビジネス関係者(顧客や取引先の社長、担当者など)」かによって、花を贈るシチュエーションは異なります。ここでは代表的な4つのシチュエーションを紹介します。

2)法人のお祝い事(開業・開店祝い、移転祝い、竣工祝い、創立記念日など)

1.どこへ届けるのか?

相手のオフィス、店舗などに届けるのが一般的です。開業・開店レセプション、竣工式、創立記念パーティーなどが行われる場合は、会場に花を届けることもあります。なお、オフィス、店舗のスペースの関係などで花を受け取らないようにしている企業もあるので、事前に確認しておきましょう。

2.いつ届けるのか?

花を届ける時期の目安は次の通りです。

  • 開業・開店祝い:開業・開店日の1週間前〜当日
  • 移転祝い:移転から2週間以内
  • 竣工祝い:完成日前日が望ましいが、移転を伴う場合は移転後1〜2週間後
  • 創立記念日:式典などがない場合は記念日の1週間前〜当日
  • 開業・開店レセプション、竣工式、創立記念パーティー:開催日前日または当日

いずれの場合も、開業・開店日や移転日などを必ず確認しておきましょう。ポイントは、花を受け取れる人がいる日時に届けることです。

3.どんな花か?

開業・開店や移転などの場合、相手は準備で忙しいため、飾り付けや水やりなどの手間が少ない花を贈ります。また、実際に花がどこに飾られるかを想定すると、種類を絞り込みやすくなります。

  • カウンターやテーブル:胡蝶蘭(こちょうらん)、アレンジメントフラワー(以下「アレンジメント」)など
  • オフィスや店舗の通路、コーナー:そのまま地面に置ける観葉植物など
  • 路面に面した1階入り口、会場ホールの廊下:スタンド花など

これはあくまで一例なので、相手のオフィス、店舗の広さなどによって臨機応変に贈る花を決めましょう。

また、花の色はコーポレートカラーなど相手のイメージに合うものを選ぶのが一般的です。ただし、赤など火を連想させる色の花はタブーとされているので注意しましょう。

4.予算は?

相手との関係性などによって変化するため一概には言えませんが(以降、予算の記述において同様)、花を贈る際の予算の目安は次の通りです。

  • 開業・開店祝い:1万円〜5万円
  • 移転祝い:5千円〜3万円
  • 竣工祝い:1万円〜5万円
  • 創立記念日:1万円〜5万円

3)ビジネス関係者のお祝い事(栄転・就任祝い、退職祝いなど)

1.どこへ届けるのか?

ビジネス関係者のオフィスや自宅に届ける場合もありますが、送別会などに招待されているときは、直接持参して本人に渡します。

2.いつ届けるのか?

栄転・就任祝いの場合は、正式に辞令が出たことを確認した後、仏滅を避けて1週間以内に届けます。退職祝いの場合は退職日の直前、送別会がある場合はその当日に届けます。自宅に届ける場合は、転居を伴うこともあるため注意しましょう。

3.どんな花か?

花束やアレンジメントを贈るのが一般的で、種類は相手の好みに合わせます。事前に好みの色などを聞いておくと、花が選びやすくなります。好みを聞きにくい場合は、日ごろ身に着けている装飾品などを参考にするとよいでしょう。

オフィスに届けたり、送別会に持参する場合は、自宅に花を持ち帰ることになるので、帰宅中に邪魔になったり、目立ちすぎたりしない花を選びます。また、形が崩れにくいラッピングを施すようにします。自宅に花を届ける場合は、花束やアレンジメントの他に鉢物などを贈ることもあります。ただし、マンションなどの場合、スペースが限られているため大きい花は避けましょう。

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は次の通りです。

  • 栄転・就任祝い:2万円〜5万円
  • 退職祝い:5千円〜1万5千円

4)ビジネス関係者のお見舞い

1.どこへ届けるのか?

お見舞いの相手が入院している病院に持参します。ただし、感染症予防対策で花の持ち込みを禁止しているところもあるので、注意しましょう。

2.いつ届けるのか?

入院直後や手術前後は避けましょう。病状が落ち着き回復に向かい始めた頃に持参するのが理想的です。

3.どんな花か?

病室はスペースが限られているため、コンパクトな花を選びます。また、水やりの手間が少ないアレンジメントなどを選ぶとよいでしょう。

なお、次のような花は一般的にタブーとされています。ただし、タブーであっても、お見舞いの相手が特に好きな花であれば問題はありません。また輪菊と小菊以外の菊の花は結婚式などで使われるものも多く、こういった花は選択肢に加えても大丈夫です。

  • 鉢植え:根があり、「根付く」を連想させるため
  • 輪菊と小菊:葬儀・お供えに使われる花であるため
  • 白やブルーの花:葬儀・お供えに使われる花の色であるため
  • 赤い花:血の色を連想させるため
  • 下向きの花:頭が落ちていることから、「首が落ちる」を連想させるため
  • 散りやすい、またはひと息に散る花:「命が散る」を連想させるため
  • 香りの強い花:患者の気分が悪くなることがあるため

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は、5千円〜1万5千円です。

5)ビジネス関係者のお悔やみ(一般的な仏式の場合)

1.どこへ届けるのか?

通夜・告別式の場合は斎場に届け、初七日から四十九日、四十九日を過ぎてからの法事や命日では基本的に自宅に持参します。

2.いつ届けるのか?

花を届ける時期の目安は次の通りです。

  • 通夜・告別式:開催時刻の約2時間前(告別式の場合、通夜と同じ斎場であれば通夜に届ける)
  • 初七日から四十九日:特に決まりはないが、ご家族が落ち着いてから
  • 四十九日を過ぎてからの法事や命日:法事や命日の前日まで

3.どんな花か?

お悔やみの際は、次のような花を贈るのが望ましいとされています。

  • 通夜・告別式:原則持参はしない(不幸を待っていたと思われるため)。斎場に届ける場合はスタンド花か花輪(斎場の指示に従う)
  • 初七日から四十九日:アレンジメントなど
  • 四十九日を過ぎてからの法事や命日:アレンジメントなど(家族と親しい場合は、仏壇や墓前に供えられる花束も可)

四十九日まではバラを除く白一色の花を贈り、四十九日を過ぎてからは相手が亡くなられてからの年数に応じて淡い色の花も入れていくのが一般的です。近年は斎場をバラで彩る「バラ葬」など、タブーに関係なく本人が好きだった花を贈るケースも増えていますが、亡くなられた相手のご家族と特別に親しい関係でなければ、マナーを守るのが基本です。

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は、1万円〜3万円です。

3 相手に合わせた対応で差をつける

1)マナーの先にあるもの

シチュエーションにもよりますが、マナーを守って花を贈るだけでは、相手の印象に残りにくいことがあります。他にも同じように花を贈っている会社がある場合、通り一遍のマナーを実践するだけでは目立たないからです。また、マナーが正しいからといって、相手が多忙なときに花を贈ってしまうと、かえって相手に不快感を与えることもあります。

もちろん、まだ知り合って間もない企業相手であれば、通常のマナーに従って花を贈るほうが無難です。しかし、ある程度関係の深い会社とさらに関係強化を図りたいのであれば、マナーの基本を押さえた上で、相手に合わせた柔軟な対応を行っていくことが重要です。そのヒントを紹介します。

2)「どこへ届けるのか?」に生かせるポイント

開店祝いなどの場合、相手の新店舗のスペースは、贈る花の種類や大きさを選ぶ上で重要なポイントです。とはいえ、相手が開店準備で多忙なときに、「花を贈りたいのですが、どのくらいのスペースがありますか?」とはなかなか聞けないものです。

しかし、例えば支店を複数持っているような企業が相手であれば、「○○社様の新店舗となると、たくさん花が届きそうですね?」というような聞き方をすると、「はっきり分からないけど、□□店舗のときはこのくらい届いたね」と返答してくれる場合もあります。さらに「新しく出される店舗も、□□店舗くらい大きいんですか?」というように会話を続けていくと、新店舗のおおよそのスペースが分かることがあります。ビジネス関係者との会話を工夫し、不快感を与えないように情報を聞き出していくことで、贈る花の種類や大きさをある程度絞り込めるかもしれません。

3)「いつ届けるのか?」に生かせるポイント

開店祝いなどで花を贈る場合、できるだけ他社よりも早く花を届けて、相手に好印象を与えたいと考える人もいるでしょう。しかし、贈るのが早すぎると、開店前に花がしおれてしまったり、相手の受け入れ準備ができておらず、置き場所に困ってしまったりすることもあるでしょう。

こうした場合は、花を贈る日程を少し遅らせてみるのも1つの手段です。例えば、開店祝いでは、開店日当日に新店舗を直接訪問すれば、店舗のスペースや、現状他社から届いている花の数を把握することができます。花屋の中には即日配送を行っているところもあり、店舗の状況を確認してすぐに手配をすれば、開店日当日中に花を届けられる場合もあります。相手に花が届くのが他社より後でも、それがスペースにぴったり合い、なおかつ目を引くきれいな花であれば、相手に与える印象は変わってくるでしょう。

4)「どんな花か?」に生かせるポイント

1.花の種類ではなくデザインを工夫する

「法人のお祝い事といえば胡蝶蘭」など、花には贈る用途に応じた定番があります。しかし、定番は無難である分目新しさがなく、他社からもたくさん花が届く場合は埋もれてしまいます。こういうときは、花のデザインを工夫して他社と差をつけてみましょう。例えば、胡蝶蘭の中には「化粧蘭」と呼ばれるものがあります。これは専用のパウダーを使い、お祝いの文字や季節感のある絵で花を彩った胡蝶蘭です。オリジナルのロゴマークやメッセージを付けられるところもあるので、特別感を演出するのに適しています。

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画像提供:アートグリーン

2.花器を工夫する

一般的な花器は鉢、スタンド、花瓶などですが、他にもさまざまな種類があります。例えばフレームの中に花を入れ、絵画のように壁に掛けて観賞できる「フレームアート」というフラワーギフトがあります。フレームアートは、壁に掛けるため邪魔になりにくく、水やりが不要で半永久的に枯れないプリザーブドフラワーが使用されていることが多いため、相手が長い間飾ってくれる可能性があります。デザインも鉢や花瓶に花を生けるより目立ちやすいため、相手の興味を引くことができるでしょう。

【フレームアート】

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画像提供:日比谷花壇

3.花言葉を添える

相手の好きな色や花の種類が分からず、何を贈ればよいか決まらない場合は、自分から相手への尊敬や感謝の気持ちをストレートに伝えられる花言葉で花を選ぶ方法もあります。例えば退職祝いで贈る花の場合、「白いバラ:心からの尊敬、清純、相思相愛、素朴、約束を守る」「グロリオーサ:栄光、勇気」「スイートピー:門出、優しい思い出」といった花言葉があります。

そして、送別会などで、「白いバラの花言葉は『心からの尊敬』です。これからもご指導をお願いいたします」と一言添えたり、メッセージカードなどに書いて花と一緒に相手に渡すとよいでしょう。

4.家族の好みを聞いてみる

ビジネス関係者のお祝い事で花を贈る際、いきなり「花を贈りたいのですが、好きな花や色は何ですか?」と聞かれても、いまいちピンとこないことがあります。

こうした場合、家族の好きな花や色を聞いてみるのも1つの手段です。自宅に花を持ち帰る場合、水やりなどは家族がすることになりがちです。また、「自分だけでなく家族のことも気遣ってくれた」という印象を相手に与えることにもつながります。

もちろん、ある程度相手と関係性ができていることが前提になりますが、こうした方法で花の好みを聞き出してみるのもよいでしょう。

以上(2019年4月)

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部門別業績評価の方法

書いてあること

  • 主な読者:複数の事業を手掛ける企業の経営者
  • 課題:事業ごとの損益や問題点を把握したい
  • 解決策:部門別業績評価を導入し、縦割りで管理する

1 部門別業績評価制度の導入

企業が成長して複数の事業を行うようになると、全体の損益計算書を見るだけでは事業部門間の損益のバラツキに気付かず、企業が抱える問題点を明確につかめなくなりがちです。

例えば、A部門の業績は良いが、B部門の業績は悪い場合、全体の損益計算書だとA部門とB部門のプラスマイナスが相殺されます。そのため、いずれの部門もそこそこの業績を上げていると間違えた判断をしてしまう恐れがあります。

こうならないように部門ごとの業績を管理する必要があります。「部門別業績評価制度」と呼ばれるもので、同じ部門内における商品別(X・Y・Z)の業績についても適用できます。部門別評価のイメージ図は次の通りです。

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2 部門別業績評価制度の組織編成ポイントと留意点

1)区分の仕方

部門別業績評価制度の区分の仕方はさまざまですが、大まかには「商品(製品)別」「販売先別」「地域別」などとなります。どの区分が適切かは、業種・業態・商品の市場特性・販売組織などによって異なります。部門そのものを商品別にしている企業もあれば、地域別にしている企業もあります。

商品別・販売先別・地域別で事業本部を組織している企業のイメージ図はそれぞれ次の通りです。

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大企業はもとより、中小企業でも事業部制の組織体制であることが多くあります。こうしたところでは、商品別・販売先別・地域別で部門を区分しています。また、この区分により業績に対する責任を持つことにつながります。

単一または同じカテゴリーの商品しか販売していない企業であれば、販売先別や地域別に部門を区分してもよいでしょう。しかし、複数の商品を販売している企業は、商品別の組織が適しています。

商品別に部門を区分する場合、指揮命令・財務・商品開発・営業・人事労務などが明確になります。これは、資材などへの投資判断、在庫管理、営業マニュアルの作成、販売や代金回収・人材教育など、現場のマネジメントが容易になることを意味します。

2)「縦割り」で管理する

商品別で部門を区分した場合、いわゆる縦割りの組織運営となります。縦割りの組織による運営のメリットは次の通りです。

  • 部門長への権限委譲が進む。一方で、経営者は全社的な意思決定に注力できる。
  • 業績の測定が容易で、業績責任が明確になる
  • 分権組織として部門長は部門ごとに包括的な権限を行使することができる
  • 商品企画、仕入れ、生産、販売などの各担当職能間の対立が生じることなく、良いコミュニケーションを維持できる
  • 構成メンバーは常に部門の仕事・課題・目標が何であるかを知りやすく、それに対する自分の責任もよく分かるようになる
  • 管理者は販売、生産、仕入れ、在庫管理、財務管理に至る広範囲の管理能力を修得でき、幅広い人材の育成が可能になる

ただし、留意点がないわけではありません。XYZ事業本部のケースで考えてみます。

XYZ事業本部の中で縦割りの意識が強まりすぎると、事業本部の運営に問題が生じます。XYZ事業本部の規模拡大によって、X・Y・Zの組織規模も拡大したり、当初はX商品課だったものが部に昇格したりします。また、それぞれの組織が自己利益を追求するのは止むを得ないことですが、X商品部の利益追求行動がY商品部の損失に直結するようでは、事業本部全体としてのマネジメントが効かないことになります。

マネジメントは、X・Y・Zの商品部ごとに実行するのが一般的です。しかし、組織は商品部ごとの縦割りであるにもかかわらず、実際の現場は地域ごとに区分されているケースも少なくありません。商品別で事業本部を組織している企業で、複数地域に進出している例は次の通りです。

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こうしたケースでは、各支社ごとに、各商品のマネジメントを行う人材が必要になります。つまり、東京支社にX・Y・Zの各商品部のマネジャークラスが在籍することになります。

仮に、東京支社のX商品部に属するマネジャーが、XだけでなくY・Zのいずれの商品、また関連するマネジメントについても精通していれば、東京支社のX・Y・Zのマネジメントはこの者一人で行うことができます。

各支社で同様の人材を配置できれば、マネジャークラスの人件費が1支社当たり3分の1で済みます。しかし、現実には、事業部で扱う全商品のマネジメントができる人材がいるケースはまれなようです。

3)権限と責任

組織単位の管理者・リーダーの職務と責任、特に達成すべき業績基準がはっきり示されなければなりません。

商品別で事業本部を組織している企業のイメージ図は次の通りです。このように商品別に部となっていれば、部長がその部の責任を負います。もちろん、職務遂行に必要な権限が委譲されていなければなりません。

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4)セクショナリズムの台頭

XYZ事業本部長は、各商品部が健全な競争をしてほしいと願うでしょう。部が創設された時点であれば、健全な競争状態にあるのかしれません。しかし、時間の経過とともに、セクショナリズムが台頭するようになります。

その原因は「部長同士の人間関係が良好でない」「X商品部とY商品部の業績に格差がある」「X商品市場は好況である一方で、Y商品市場は不況など環境があまりに違いすぎる」といったようにさまざまです。

セクショナリズムが深刻化すると、必要な情報の共有が行われなかったり、事業本部内で不健全な競争が起きるようになります。分かりやすいところでは、部同士での顧客の奪い合いが起こることがあります。見えないところでは、インフォーマルな場において他の部を悪く言うことなどが代表的な事例です。

こうした状況に陥らないようにするには、一般的には「トップマネジマント(上記の例では、XYZ事業本部長)の実行」「公正な人事評価」「組織改革」が必要といわれています。

5)チームとは

チームとは、それぞれ得意とする技能、知識を持っている人が集まり、目標に向かって共に働くことで、最近ではプロジェクトチームとかタスクフォースといった組織形態がこれに該当します。

一般的には縦割り組織単位内(図表5ではXYZ事業本部)の役割分割です。事業本部をまたぐようなチームが組織される場合は、社長直轄のチームとなることが多いようです。

チームの場合、チームリーダーの権限、意欲、能力、リーダーシップがチームの業績に大きな影響力を持っています。商品別で事業本部を組織している企業で、チーム制を実施している例のイメージ図は次の通りです。

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3 部門別業績管理会計

1)部門別業績管理会計とは

業績を管理するには、業績そのものを測定・把握しなければなりません。業績管理は、管理会計の領域で、日常の経営活動および目標を管理者が設定します。管理会計は、目標達成のための組織の活動を調整、統制するための会計情報を月次など定期的に確認するための必要な取り組みです。

2)部門別損益計算ルール

部門別に利益を測定・把握するためには、「売り上げや原価がどこに、どの範囲で帰属するのか、経費はどこの負担になるのか」といった損益計算のルールが必要です。この計算ルールは、あらかじめ業績に対する責任のある管理者に周知徹底されていなければなりません。部門別損益計算ルールを決める場合の留意点は次の通りです。

1.関係者の合意

関係者の大多数が、「業績管理上の約束」だと割り切って、納得した上で実施されなければなりません。

2.目的の明確化

業績管理の目的をはっきりさせます。目的は次の通りです。

  • 経営者が正しい判断、適切な経営方針を打ち出すため
  • 部門と部門管理者の業績が明確化されることにより、責任体制の強化と組織の活性化を図れるようにするため
  • 部門別に意思決定を迅速・適切にし、機動力を発揮するため

3.関係者の参画

本部や会計部門だけでなく、支社など現業部門の関係者も参加して、ルールを作ります。関係者の参画により、納得性が高まり、生産や販売などの実情に合ったものになります。

4.ルールの継続

実情に合わなくなったり、実施して不都合が生じた場合を除き、一度決めたルールはなるべく変更しません。

3)売上総利益と振替価格

部門別損益計算ルールの第一は、売上総利益の把握です。売上総利益は略して「総利益」または「粗利益」ともいわれます。経営活動の最終的な利益は税引後当期利益ですが、その源泉は、この総利益です。総利益の計算が部門別損益計算にとって最大の難関で、これが解決されれば損益計算ルールは、半ば完成したといってよいでしょう。

1.売上高の把握と売上原価

部門別損益計算は、同一期間内にその部門で実現した収益から、それに対応して発生した費用を差し引いて利益を計算します。収益とは売上高のことで、主な費用が売上原価です。

  • 計算区分=業績把握単位

これは売上高の把握だけでなく、業績管理会計そのものの課題です。本社各部、工場、支社などのプロフィットセンターおよびコストセンターがそれぞれ計算単位になります。

  • 純売上高

得意先に出荷・納品し、計上された総売上高から、返品と値引きを控除したネット(正味)の売上高が本来の売上高です。部門別の純売上高の誤差を最小限にすることが必要です。

  • 外部売上高と内部売上高

外部売上高は、企業外部の得意先に対して売り上げた通常の売上高です。内部売上高は、本社から支社などへの社内取引による売上高です。この社内取引による利益は、管理会計上の利益であるため、決算時にはこれを除去する必要があります。

総売上高の次は、これに対応する売上原価を計算します。小売業の場合は「売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高」です。

この際、部門別での在庫の把握が必要になります。実地棚卸しは毎決算期末としても、帳簿棚卸しは毎月または3カ月ごとに行う必要があります。

2.社内振替価格の設定

社内振替価格(移転価格)は社内取引に用いる売買価格です。この社内振替価格の決め方が業績管理成否の決め手になります。社内振替価格の設定には、主に2つの方法があります。

1つは市価基準であり、もう1つは原価基準で原価を基準とするものです。いずれの方法をとるかは、それぞれの企業の実態によって異なりますが、市場価格と原価の間の適切な価格を設定する必要があります。

4)利益と直接損益

売上総利益の次は、管理・販売費の計算で、業績管理の目的に合った計算区分が必要です。

1.管理可能費と管理外経費

管理可能費とは、各部門の構成メンバーが自ら使用したことが分かる費用で、当該部門の管理者の責任において管理可能な費用です。

管理外経費は、管理不能費とも呼ばれ、当該部門に発生する直接費ですが、管理者の管理不能な費用です。

2.管理可能利益

売上総利益から管理可能費を控除したものを管理可能利益といいます。部門の構成メンバーの協力で活動した成果であり、管理者の責任に帰す利益です。

管理可能費は、別の観点からみれば、ほとんど変動費とみなすことができます。売上高から変動費を控除したものは、限界利益といわれます。

変動費、固定費、限界利益という概念は利益計画などに利用されます。業績評価損益計算書のイメージ図は次の通りです。

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3.直接利益

管理可能利益から、直接人件費を含めた管理外経費を差し引いたものを直接利益といい、その部門で発生する直接費の全てを控除した利益です。

4.経常利益

部門別業績評価は、直接利益を中心に行われるべきで、本社費など共通費の配賦は必ずしも必要ではありません。本社費の配賦をしないで業績管理の効果を上げている企業も少なくありません。本社費を配賦しない理由は次の通りです。

  • 本社費は部門の権限や努力ではどうしようもなく、部門の管理者の責任外のもの
  • 公平な配賦基準が見出せない
  • 配賦額の計算、業績資料への反映にコストがかかる
  • 社内のコンセンサスが得られない

しかし、本社費配賦が可能ならば業績管理の目的からも実施すべきです。本社費を配賦する理由とメリットは次の通りです。

  • 業績評価や成果配分のためには直接利益で十分だが、その部門の収益性は、現実に発生している管理・間接費および金利を負担した経常利益によって判断されるべきである
  • 経営者は、本社費負担後の収益性によって各部門と企業の経営戦略の意思決定ができる
  • 各部門にどれだけの直接利益を上げればよいかの目安を与え、業績評価基準の裏付けにもなる。特に、直接利益の低い部門は、本社費の配賦により黒字から赤字になる場合があり、部門の構成メンバーに企業全体の利益に対する感覚を養わせることができる
  • 本社費の効率化の引き金になる
  • 管理・間接部門は、ライン部門に対して中枢管理機能と諸業務集中処理サービスを提供する。このサービスには、対価を支払う必要がある

本社費を各部門に負担させる配賦基準には次のようなものが考えられます。

  • 売上高(または総利益)基準

売上高の実績により、本社費を配賦する方法です。固定費である本社費を売上高や総利益で負担するのは無理があり、実務上も良い方法ではありません。

  • 資産・残高基準

棚卸資産・売上債権などの流動資産または、固定資産残高を加えた資産残高による配賦であり、資産残高を圧縮させる方向に働くメリットがあります。

  • 人員割り

その部門に所属する従業員数を基準として配賦します。単純明快で理論上も、実務上も優れた方法です。人員割りが人員増加を抑え、生産性を向上させる刺激になります。

  • 人件費基準

人員構成などで各部門間の格差が大きいときは、人員割りに替えて、人件費を配賦基準とします。人員割りのメリットを備えた優れた方法です。

  • 使用実績基準

業務サービス費は、部門ごとの使用実績が把握できれば、直接賦課します。

これらの方法のうち会社の実情により、1つの方法、または必要に応じていくつかの方法を組み合わせて本社費を配賦します。

4 業績評価と目標設定

1)業績評価の目的

業績評価は、組織を基礎とし、管理会計により測定した業績を次の経営目標に役立たせるためのものであり、定量的な指標が中心になります。測定された管理可能利益や直接利益の数値をほかの基準値と比較して分析検討することです。

業績評価の基準には、次のようなものがあります。

  • 投入した経営資源

投下資本、設備(生産能力、売場面積など)、従業員など、ヒト・モノ・カネをどれだけ投入したかによって利益が決まります。

  • 時系列分析

時系列の比較です。対前期比、対前月比などからはじまり、中長期の傾向から将来の予測をしたりします。

  • クロス・セクション分析

同業他社、社内他部門・他部署との比較です。

  • 標準値比較

客観的な標準値を設定しておき、これと比較します。

  • 目標・計画あるいは予算対比

業績に関する経営目標、部門目標との比較です。年度計画あるいは、年度予算と実績との比較や差異分析も必要です。

このような比較分析により、業績評価が行われ、評価の結果は次の目標設定、計画策定、戦略・戦術上の意思決定に活用されます。

2)業績評価基準

部門管理者の業績責任は、その職務権限によってコントロールできる範囲のものでなければなりません。業績評価は、管理可能な指標によって行い、収益、費用、利益および、投下資本(資産)などを責任者が管理できる部分と管理できない部分に区分し、明示する必要があります。

こうして明示された業績管理指標により、各責任者は目標を示し、計画を立てて実行し、統制することになります。 

業績管理指標すなわち評価項目の定義と利益責任の所在の例は次の通りです。

1.利益額

  • 粗利益=売上高−売上原価(期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高)
  • 管理可能利益=粗利益−管理可能費
  • 直接利益=管理可能利益−直接人件費・そのほかの管理外経費
  • 経常利益=営業利益−支払利息など

2.利益率

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3.生産性(パーヘッド効率)

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  • 【利益責任の所在(業績評価項目)】
  • 係長以下:(個人別)粗利益・管理可能利益(グループ別)・商品利益率
  • 課長:管理可能利益・直接利益・生産性
  • 部長:営業利益・売上高総利益率・生産性
  • 事業本部長:経常利益・売上高経常利益率・総資本経常利益率

3)業績目標の設定

業務管理は業績目標の設定と年度計画策定・予算編成から出発し、年度末の業績評価で一巡します。目標設定は業績評価基準に組み込まれている管理指標が中心になります。

目標値を実現するための年度計画は、売上高から始まって損益計算ルールで決まっている収益・費用・利益の各段階にわたり、具体的で実行可能なものでなければなりません。また、目標設定、計画設定は各部門自らの責任のもとになされたものでなければなりません。従って、トップ・ダウンと、ボトム・アップの積み上げとのフィード・バック方式が業績管理を成功させる必要条件です。

部門別に業績を管理すれば、経営者が各部門の状況を把握できるだけでなく、従業員も売上高や利益といった数字をより身近に感じることができます。部門別に適正な業績目標を設定し、適正な評価結果を人事考課に反映させることで、従業員の売上高や利益に対する意識をより高めることができるでしょう。

以上(2019年4月)

pj00222
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【朝礼】新入社員に伝えたい「冷静な頭脳と温かい心」

新入社員の皆さん、当社に入社してくれてありがとうございます。ここにいる皆さんは、新しい生活への期待に胸を膨らませていることでしょう。そこで今日は、皆さんに、これからの社会人生活で大切にしてほしいことをお話しします。

皆さんは、これから先、どのような社会人になりたいと考えていますか。私は、皆さんに、何事に対しても、「自分はこうしたい」「これがやりたい」という意志を持ち、自分で物事を決めていける人になってほしいと思っています。自分の意志で、「自分事」として取り組めば、どのような仕事でも、必ず、面白くやりがいのあるものになるからです。

しかし、ビジネスについて知識の少ない皆さんは、「自分はこうしたい」「これがやりたい」ということが、まだ考えられないかもしれません。そこで、皆さんにお願いしたいのは、「冷静な頭脳と温かい心」を持つことです。

この「冷静な頭脳と温かい心」は、イギリスの経済学者であるアルフレッド・マーシャル氏が、「経済学者に必要なもの」として示したものです。経済学には、物事を冷静に、理論的に分析し、把握する頭脳が必要。そして、世の中の人を思いやり、皆の生活を良くしようという温かい心も忘れてはならない。こうした意味が込められています。

仕事も同じです。「自分はどうしたいか」を考える土台として、まず、ビジネスを分析し、把握する力が必要です。これが、「冷静な頭脳」です。

皆さんが「冷静な頭脳」を身に付けるには、必死で勉強するしかありません。ビジネスはどのような仕組みで動いているのか。商品やサービスがどのようにつくられ、どのようにして売り上げが上がり、利益が生み出されるのか。本を読み、ニュースや新聞で情報収集し、上司や先輩の話を聞いて、ビジネスの基本をしっかり学んでください。皆さんの社会人生活は、学ぶことから始まります。

そして、忘れてならないのは「温かい心」です。「自分はこうしたい」「これがやりたい」ということを決めるときは、「どうすれば世の中の人のためになるか」ということを軸にしてもらいたいのです。皆さんには、当社がどのような会社に見えるでしょうか。会社なので、もちろん利益は追求しますが、それだけではありません。当社は、世の中を、人々の生活を、今よりももっと良くすることを本気で考える会社です。このことを、常に忘れないでいてください。

私は高校時代、授業で経済学者マーシャル氏が示した「冷静な頭脳と温かい心」のことを聞き、雷に打たれたような衝撃を受けました。それまで考えたこともない視点だったからです。そのとき、自分が社会に出る際には、「冷静な頭脳と温かい心」を持ち、世の中を良くすることを本気で考え、実践しようと決心しました。

皆さんは、今日から当社の大切な仲間です。一人ひとりが「冷静な頭脳と温かい心」を持ち、一緒に世の中を良くしていきましょう!

以上(2019年3月)

pj16951
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】時には、「泥臭く」なりなさい

先日、ある経営者と話をした際のことです。以前から彼のビジネスに取り組む姿勢には大いに刺激を受けているのですが、改めて感動したことがあるので、皆さんと共有します。

その経営者は、ブロックチェーンやAIといったテクノロジーに非常に強く、多くのエンジニアを抱え、法人向けに最先端のサービスを提供する会社を経営しています。今回、新しいサービスの構築にチャレンジすることにしたそうで、そのことを私に語ってくれました。

私が改めて感動したのは、新しいサービス構築のために、彼が「面倒なこと」をいとわず、地道に、いうなれば「泥臭く」取り組んでいたからです。彼は全国の関連する業種の会社にアポイントを取って訪問し、どのようなサービスであればユーザーの役に立つのか、一社一社、ヒアリングして回ったのです。それだけではありません。自分たちのテクノロジーをより一層磨こうと、国内外を問わず、第一人者とされる著名な大学教授やエンジニア、起業家に会いに行って教えを乞い、議論し、サービスの質向上に努めていました。時には、3日連続して飛行機の中で夜を明かすほど、経営者自らが世界中を動き回っていたのです。

彼は私に言いました。「このサービスにおいては、ユーザーから、自分たちのものが一番だと言われたい。そのためには、どこの会社よりも、誰よりも、実際に人に会い、話を聞くのは当たり前。私は当たり前のことを実践しているだけです」

皆さんはこれを聞いてどのように感じますか。これまで会ったことのない人や、会ってもらうのが難しいような人に会う段取りをして、実際に会いに行き、話を聞くのは、簡単にできることではありません。なかなかうまくいかないことも多いでしょうし、時間も労力もかかります。要するに、非常に「面倒なこと」なのです。

こうした「面倒なこと」に、どれだけ真摯に、地道に粘り強く取り組むことができるか。大勢の人が「そうした努力にこそ価値がある」のだと分かっているとは思いますが、実際に取り組むことができている人は、そう多くはないでしょう。

皆さんはどうですか。誰にも負けないくらい、「面倒なこと」に地道に取り組んだと胸を張って言えることがありますか。

時と場合にもよりますが、私は、仕事をするなら、一度くらい「面倒なこと」に、苦労して泥臭く取り組むことが必要ではないかと思っています。そうすることで初めて、仕事をする意味や、お客様から感謝されることの喜びを心から実感することができるからです。

冒頭で紹介した経営者の会社には、貴重な情報やノウハウが蓄積されています。「面倒なこと」に地道に取り組んだため、他では手に入れられないものが、集まっていったのでしょう。皆さんも、時には、地道に、泥臭く仕事に取り組むことを意識してください。きっと、皆さん自身の人生にも、大きな価値が生まれるでしょう。

以上(2019年3月)

pj16950
画像:Mariko Mitsuda