「会議の壊し屋」になっていないか!?/半歩先行く中堅社員(10)

食品会社で企画・マーケティングを担当している中堅社員のAさん。現在、大手スーパーなどとタイアップした新商品の企画を担当しています。複数の会社が集まる会議はとても刺激的で、Aさんも積極的に発言するようにしています。

今日も会議に参加しているAさんは、いつも通り積極的に発言しました。

「つまり、消費者のニーズについて『仮説』を立てることが重要ですよね。そもそも私たちが作りたいものは一体何なのでしょうか? そこには明確なストーリーが必要です。それぞれがプロ意識を持ち、できることを一生懸命にやることが大切だと思います!」

一見、Aさんは大いに会議に貢献しているようですが、Aさんがこうした発言をすると、他の参加者は「う~ん……」と腕組みをして考え込んでしまうばかりで、議論が前に進みません。一体、なぜなのでしょうか?

会議の価値は「発言」ではあるものの……

冒頭のAさんが参加していたような企画会議やマーケティング会議では、参加者が知恵を出し合わなければ意味がありません。参加者の発言と議論こそが会議の価値なのです。

Aさんは元気よく発言しており、この点は評価できます。しかし、発言の内容は好ましくありませんでした。Aさんの発言には現状分析に対する具体性や、将来に向けての提案が含まれていませんでした。堂々巡りしている議論を軌道修正するなどの意図があって、わざと発言しているのならよいですが、Aさんにはそうした狙いはないようです。

しかも、企画・マーケティングの担当者がよく使うキーワードである「仮説」などの言葉が板に付いていない印象があり、参加者は少しイラつきながら、「そんなことは分かっているよ……」と腕組みをしてしまいます。

「勇気を持ってとにかく発言」は正しいか?

「会議は発言してなんぼ」というところもあるので、会議に参加する部下のことを、上司が「勇気を持って、とにかく発言してきなさい!」と送り出すことがあります。上司としては、「緊張を乗り越えて、一回り成長してほしい」という狙いがあります。

しかし、これは危険でもあります。複数の会社が参加する“他流試合”の会議では、どんな発言でも許容されるわけではありません。明らかに的を外した発言を繰り返すと、「この参加者は分かっていない」と、他社の参加者から軽く見られ、以後のビジネスがやりにくくなります。自分の考えがズレていると分かって発言がためらわれるのならば、しばらく黙って様子を見るという手もあります。

会議には参加者のレベルがあります。部下に“ワンランク上の世界”を経験させたいのであれば、部下が慣れるまでは上司も同席したほうがよいでしょう。“他流試合”の会議ではなおさらです。

会議の発言で心がけたい重要なポイント

1)発言は周囲に配慮する

ビジネスにはそれぞれの思惑があります。そのため、参加者は自分(自社)の都合のよいように物事を解釈しがちです。

しかし、その姿勢が会議の発言で前面に出過ぎると、「この人は自分(自社)の利益のことしか考えていない……」と他の参加者から嫌悪感を抱かれてしまいます。会議の参加者は、心の中で自分(自社)のベストシナリオを持っているはずですが、それをストレートに出し過ぎるのは控えたほうが無難です。

ただし、会議が間違った方向に進みそうな状況を軌道修正するときや、自分(自社)が圧倒的に不利な立場に追い込まれそうなときには、強く主張しなければなりません。

2)思考停止ワードに気をつける

会議を停滞させるような発言は慎みましょう。Aさんは「仮説」というキーワードを使いましたが、それを補強する説明がありませんでした。

このような、一見、正しいと思えそうなふわっとした発言をするときは、必ず根拠となるデータと、新たな方向性を示す提案をセットにしなければなりません。逆に、データや提案がないのであれば、そのことを最初に断ってから発言するべきです。

「質問」が最大の武器である!

会議では、必ず進行する人やファシリテーターがいます。もし、自分の発言がズレているかもしれないと感じたならば、進行する人などに、「今の私の発言は論点がズレていましたか?」と、素直に質問してみるとよいでしょう。

こうした質問をすることで、他の参加者は「この人は冷静に会議の成り行きを見ており、全体に貢献しようとする意識も高い」と評価してもらえることがあります。

また、発言する際は「伝え方」にも気を配りましょう。例えば、「それはいかがなものでしょうか……」と、否定的な発言をすることもありますが、その場合は、

  • 「これまでの議論を振り返りながら、問題点や課題がないかを再度確認してみませんか?」

と言い方を工夫すれば、他の参加者の印象や会議の雰囲気は大きく違ったものになるでしょう。

Point

  • 会議の価値は「発言」にあるので、積極的に!
  • しかし、ふわっとした「思考停止ワード」を使うと、会議を停滞させてしまう。

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

仕事が遅れるのは、“速さ” の問題にあらず/半歩先行く中堅社員(9)

責任感が強く、上司からの信頼も厚い中堅社員のAさん。課長から3日以内に資料を作成するように指示されましたが、2日たった今も着手できていません。Aさんは、その現状を課長に素直に報告しました。

報告を受けた課長は、普段と様子が違うAさんを少し気遣いながら言いました。

「今のままで間に合う? 他の仕事は同僚に任せて、Aさんはその資料作成を優先してくれ。大事な資料だから」

するとAさんは、「皆忙しそうで、仕事を頼むことはできない」と主張してきました。しかし、課長から見ると仕事の振り先はたくさんあるように感じます。どうやらAさんは、他の人に仕事を頼むのが苦手なようです。そんな課長の思いを察したAさんは言いました。

「自分がやったほうが速いから大丈夫です!」

抱え込み過ぎによる悪影響

「中堅社員の仕事が振れない問題」はとても重要なので、

  • 「仕事があるのに「休日出勤」したらいけないの?」

に引き続き、このテーマを取り上げます。

真面目で責任感が強い中堅社員ほど、冒頭のAさんのような状況に陥りがちです。しかし、会社は、社長から新人までのメンバーがおのおのの役割を果たすことで成り立っています。自分でやるべき仕事と、他の人にやってもらう仕事を上手に区別しなければ、仕事は終わりません。

中堅社員になると、一定の仕事をやりくりして、部下にさばく役割を担うようになります。営業や経理など機能が明確に分かれていない中小企業では、こうした仕事の“交通整理”が非常に重要になります。この機能が滞るとAさんのような問題が生じるのです。

中堅社員の頑張りたい気持ちや、同僚を思いやる気持ちは大切ですが、であるならばなおさら、仕事を任せなければなりません。

部下に仕事を任せる際の心構え

1)「完了」する癖をつけさせる

部下に仕事を任せる際、いきなり「完璧」を求めず、まずは「完了」する癖をつけさせます。最初は中堅社員がその仕事を行う何倍も時間がかかりますが、それはいっときのことで、いずれ部下は仕事を習得します。そうなれば、自分(中堅社員)は次の仕事にチャレンジできるようになります。部下にとっても、学びが多いはずです。

2)赤・黄・青で把握する

中堅社員は、部下たちの仕事の状況を個別に把握しましょう。その際のイメージは次の通りです。

  • 赤=仕事量が許容範囲を超えている状態
  • 黄=仕事量が許容範囲の80%~100%の状態
  • 青=仕事量が許容範囲の80%未満の状態

部下が「忙しい、忙しい!」と言っていても、実際の状態はそれぞれです。対応できる仕事量や完了までの時間は、各人の能力とモチベーションに左右されるので、中堅社員は、部下がどれほどの仕事をこなすことができるのか、その“器の大きさ”を把握するようにします。

難しいのは、皆が器いっぱいまで仕事ができるわけではないことです。100%まで仕事を抱えても大丈夫な部下がいる一方で、70%を超えたあたり、つまり上の赤・黄・青でいえば黄に近い青の状態なのに、「もう仕事は引き受けられません」という部下もいます。こうした部下を見つけて、少しずつ、引き受けられる仕事量を増やしていくようにします。

3)「人を育てる=自分を育てる」という意識を持つ

部下に仕事を教えることは簡単ではありません。自分は当たり前に分かっていることでも、部下のレベルに合わせ、かみ砕いて説明することは大変で、「なんで分かってくれないんだ」という、若干のいら立ちや焦りを乗り越える忍耐力が求められます。

一方、今の仕事を改善するヒントを得ることもできます。人に説明するときは、仕事を分解して、それぞれの関連性を明らかにします。そうした過程において、仕事の肝はどこなのか、どこでミスが生じやすいのかなどが分かってくるでしょう。

どうしても他の人に任せられないときは

ここまで、中堅社員が今よりも成長するために、部下に自分の仕事を教えていくポイントを紹介してきました。しかし、実際のビジネスでは、どうしても他の人に仕事を頼めない場合があります。

例えば、次のようなケースです。

  • 全ての部下が「赤=仕事量が許容範囲を超えている状態」である
  • とても専門的な仕事なので、自分(中堅社員)しか担当できない
  • スピードが求められており、教えながらでは間に合わない

このような状態に遭遇したら、中堅社員は迷わず上司に相談しましょう。そうした状態に陥るということは、そもそもの人材が不足している恐れがあるため、別のレベルでの対応が必要になります。

中堅社員は、孤軍奮闘しなければならないこともあります。しかし、それは部下の仕事まで引き受けて頑張るということではなく、自分がやるべき仕事についての話であることを忘れてはなりません。

Point

  • 仕事を抱え込み過ぎてはいけない。うまく部下に振っていく能力が中堅社員には求められる。
  • 信号機のイメージで把握しよう!

以上(2019年8月)

pj00428
画像:Eriko Nonaka

料理と後片付けは別々にやろう!/半歩先行く中堅社員(8)

総務部に所属する中堅社員のAさん。会社は「働き方改革」として残業削減を進めているのに、Aさんの残業時間は増えています。不思議なのは、総務部全体の残業時間は減少していることです。

仕事量の偏りをなくしたい課長が、Aさんに声をかけました。

「お疲れさま。最近忙しいみたいだけど、一人で仕事を抱え込んだらダメだよ。今、どんな仕事をしているの?」

するとAさんは次のように答えました。

「リスク管理の取りまとめと周年記念事業の準備、社内運動会の会場手配と、それからいろいろ……。とにかく同時並行で進めています。全体を少しずつ進めて、一気に終わらせます」

それを聞いた課長はびっくりした様子で言いました。

「いやいや。リスク管理は今すぐに関係者に依頼しないと間に合わないよ。それに、相手の立場になれば分かると思うけど、まとめて仕事を依頼されたら困るでしょ?」

ストライプ型とソリッド型の仕事術

入社3年程度の中堅社員は、質の違う複数の仕事を同時並行で進めるようになります。仕事の進め方としては、「力を分散し、並行して進めていく方法」と、「力を一点に集中し、順番に1つずつ終わらせる方法」とがあります。仕事に色をつけたとすると、この2つの仕事の進め方は、ストライプ型とソリッド型のイメージになります。

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ストライプ型は、多くのことに気を使いつつ、正しい優先順位づけと丁寧にスケジュール管理をしながら進めないとうまくいきません。また、いくら類似した仕事であっても、具体的にやることは異なるため、体の動きだけでなく、考え方も仕事に合わせて切り替える必要があります。

一方、ソリッド型は1つのことに集中しやすいため、経験があまりない社員に向いています。

目玉焼き、半熟のはずが固焼きに……

ここまでの話は、料理と後片付けを同時に進めることに似ています。料理と後片付けは一連の取り組みですが、やることは全く違います。慣れない人が、ストライプ型のイメージで料理と後片付けを同時に進めると、食器を洗っているときに火加減の確認がおろそかになり、半熟の目玉焼きを作るつもりが、固焼きになってしまうかもしれません。

逆に、火加減に気をとられ過ぎると食器洗いに集中できず、洗っている皿を落とし、割ってしまうかもしれません。

また、意外と忘れがちなのは、「食事で使う皿は、食後でなければ洗えない」ことです。つまり、最後には必ず皿洗いが必要です。それであれば、火加減に注意して目玉焼きを固焼きにしてしまうリスクを回避しつつ、後でまとめて皿洗いをしたほうが効率的ともいえます。ソリッド型のほうが安全であるということです。

ただし、リアルのビジネスで、1つの仕事に集中できる時間は限られます。では、どうすればよいでしょうか?

ストライプをソリッドにする

ストライプ型をうまくこなせられれば、効率的に多くの仕事を進めることができます。そのために重要になる考え方が、「ストライプの中でソリッドを作ること」です。複数の仕事の中でも、できるだけ類似するものを集めて“仕事の固まり”を作るのです。

例えば、本稿では皿洗いを1つの仕事として捉えてきましたが、さらに分解することができます。具体的には、料理の合間に洗う皿(料理をする際に使った皿)と、食後に洗う皿(食事で使う皿)とに分けて考えることができます。

仮に、全部で10枚の皿を洗うとして、料理の合間に洗う皿が5枚、食後に洗う皿が5枚だったとします。ソリッド型では食後に10枚の皿を洗いますが、ストライプ型では料理の合間に5枚、食後に5枚の皿を洗うことになります。うまくいけば、全体でかかる時間が短縮されるのです。

期日の集中は避けるべし

ストライプ型では、仕事を分解したパーツが計画的に配置されています。どこかでつまずくと、“音ゲー(音楽のリズムなどに合わせてボタンを押すゲーム)”で一度失敗してパニックに陥るように、それ以降がハチャメチャになって立て直しができません。

こうした事態を引き起こす原因の1つが「期日の集中」です。どんな仕事でも、最後の仕上げは思ったよりも時間がかかります。複数の仕事を一気に仕上げようとすると、まず計画通りには完了できません。

そのため、ストライプ型で仕事をするときは、できるだけ期日を分散させておくことが重要なポイントです。万一、態勢を崩しても、1つの期日をクリアするごとに正常化していきます。

Point

  • 仕事の進め方は、「ストライプ型」と「ソリッド型」がある。
  • 中堅社員は、ストライプをソリッドにする!

以上(2019年8月)

pj00427
画像:Eriko Nonaka

助け合いは大事。ただし、数字の裏付けも忘れずに/半歩先行く中堅社員(7)

相手を思いやる気持ちが強く、同僚や部下の仕事も献身的にサポートする中堅社員のAさん。その姿勢が課内でも浸透し、他の社員も助け合いながら仕事をするようになってきました。

この功績が評価されたAさんは、若くして取引先とのプロジェクトリーダーに抜てきされました。しかし、その直後から取引先の仕事が遅れ始めました。悩んだ末にAさんは、取引先をサポートしようと決めました。社内外関係なく、皆、プロジェクトの大切なメンバーであると考えたからです。そして、課長に相談しました。

「取引先の仕事に遅れが生じ、“泣き”が入っています。そこで、当社が一部を引き受け、助けたいと思っています」

すると課長は、そっけない感じで言いました。

「それは、本当に当社が助けてあげるべきことなの?」

課長の意外なリアクションに驚いたAさんは、「取引先が困っていたもので……」と、同じ言葉を繰り返すばかりです。

「協力」する基準はありますか?

「取引先をサポートしてプロジェクトをうまくまとめたい」という気持ちは理解できますが、冒頭のAさんの選択は正しいのでしょうか?

ビジネスには役割分担があり、関係者がそれを守らなければ、良好な関係は維持できません。相手が社外の場合、契約によって役割分担(権利と義務)が決まります。いくら全体や相手のことを考えてのことであっても、本来やらなくてもよい契約外の仕事を引き受けることになれば、社内に負荷がかかり、収益も悪化します。

一方、“損して得とれ”ということで、そのとき相手に協力することで、その後のビジネスの広がりが期待できるなら話は別です。では、どのような場合に相手に協力できるのか、その基準を考えていきましょう。

良いシームレスと悪いシームレス

Aさんが所属する課のように、情報が活発に共有され、互いに助け合える「シームレス」な組織は理想的です。しかし、この関係を社外にまで広げるとなると、マネジメントが一気に難しくなります。

ビジネスには、「良いシームレス」と「悪いシームレス」とがあります。両者の違いは、「定性的な感覚と定量的な感覚のバランス」にあります。定性的な感覚とは、仕事に向き合う真摯さや他者を思いやる心です。また、定量的な感覚とは、文字通り、数字で仕事の収益性や効率性などを測る姿勢です。

Aさんのようなタイプは定性的な感覚は優れていますが、定量的な感覚は乏しいかもしれません。思いが先行し、コスト計算をしていない状態で仕事を引き受けてしまうのです。

仮に他社をサポートした場合、Aさんやその仲間には満足感があるでしょう。しかし、定量的に分析してみると、機会損失が大きく、会社全体で見るとマイナスになっていることがあります。

良いシームレスな体制の作り方

1)仕事の標準化を図る

良いシームレスを実現するための大前提は、中堅社員自身が効率的に仕事を進め、余裕のある状態をキープしておくことです。自分の仕事が終わっていないのに、新たに他人の仕事を引き受けるのはよくありません。

中堅社員は、メンバーの状況を正しく把握して余裕がありそうなメンバーを見つけ、そのメンバーにもう一頑張りしてもらうなどして、全体に余裕のある状態をキープします。

2)仕事の収益を把握する

仕事を進めるために生じるコストと所要時間を把握します。例えば、皆さんが受け取る給料から時給を計算し、仕事の所要時間を控えておけば、その仕事の収益が分かります。

同様のことをメンバーについても行えば、チーム全体のパフォーマンスが分かります。大まかでもよいので収益を把握すれば、少なくとも悪いシームレスに陥ることはありません。また、どの仕事にリソースを集中すべきかを判断する上でも役立ちます。

3)契約内容を確認する

良いシームレスとして取引先をサポートするとしても、契約範囲から逸脱することは好ましくありません。もし、その仕事でトラブルが生じた場合、責任の所在が問題になります。取引先の仕事に協力するのであれば、トラブル時を想定した取り決めが必要です。

また、こちらが善意で取引先の仕事をサポートするとしても、それはそのとき限りのことであるのが通常です。「どこまでやるのか、いつまでやるのか」を明確に示しておかないと、やはりトラブルになる恐れがあるので注意が必要です。

日々、意識すること

Aさんはプロジェクトリーダーであり、プロジェクトの収益を詳細に把握することができます。仮に自社の利益が数%下がるとしても、それによってプロジェクトの遅れが解消されて取引先との関係が強まり、次のビジネスにつながる可能性が高いのであれば、検討の余地があります。

ただし、中堅社員の独断で進めるのではなく、少しでも迷うところがあれば上司に相談しましょう。中堅社員はこのプロジェクトの収益を考えますが、上司はそれを含む複数のプロジェクトで収益を考えます。部分最適と全体最適の違いであり、上司はAさんと違った判断をすることもあります。

Point

  • 中堅社員は定量的な感覚を磨くべし。
  • そして「良いシームレス」を進め、関係者との信頼関係を築き、ビジネスの可能性を広げる!

以上(2019年8月)

pj00426
画像:Eriko Nonaka

「働き方改革」の第一歩は、今でも「整理整頓」/半歩先行く中堅社員(6)

中堅社員のAさんが勤める会社では、「働き方改革」の一環として、いわゆる「5S」を推進しています。しかし、大ざっぱな性格のAさんは、整理整頓がとても苦手です。Aさんのデスクは常に書類が山積みで、パソコンのデスクトップもファイルが散乱しています。

ある日、課長がAさんに言いました。

「昨日Aさんに渡した資料が見当たらないんだが、キャビネットに戻してくれた?」

焦ったAさんは、ガシャガシャと書類をかき分けながら資料を探し始めましたが、なかなか見つかりません。あきれた課長は、「見つかったら持ってきてね。整理整頓しないと書類をなくすよ!」と言って、立ち去ってしまいました。

残されたAさんは、心の中で思っています。

「整理整頓が大切なのは分かっているけど、忙しいから仕方がない! 仕事で成果を上げればいいんでしょ!!」

整理整頓は仕事の一環

まず理解したいのは、オフィスは「公の場所」であるということです。そこで働く以上、同僚などに不快感を与えないように、整理整頓するのは最低限のマナーです。

しかし、「売上が先、整理整頓は後!」といったように、この点を理解していない人がいます。「ビジネスなのだから、整理整頓をしなくても、仕事で成果を上げればよい!」と考えているわけですが、これは正しいとはいえません。整理整頓ができていないと、以降で紹介するようなマイナスポイントがあります。

3つのマイナスポイント

1)相手に不信感を抱かれる

デスクの整理整頓ができない社員は、パソコンやかばんの中も散らかっています。目の前でノートパソコンの中のファイルを探していたり、かばんの中の名刺入れを探していたりするような人が、相手から信頼を得ることは難しいでしょう。

2)コストをムダにする

整理整頓が苦手な社員は、コスト感覚も欠如しています。整理整頓ができておらずに会社の備品をなくした場合、会社のコストをムダにしています。また、デスクやパソコンのファイルなどが散らかっていると、本来は必要のない探し物をする時間が生じます。ビジネスパーソンが探し物をする時間は、年間150時間といわれますが、整理整頓ができていない社員はもっと長くなります。

仮に時給4000円とすると、その社員が150時間探し物をする場合の人件費は年間60万円です。探し物をしている間、別の社員を待たせることもあるため、ムダなコストはこれよりも大きくなります。

3)情報の漏洩、紛失

整理整頓されていないと、情報の漏洩や紛失が起こりやすくなります。例えば、パソコンのファイルが整理されていないと、メールの添付ファイルを間違えてしまうことがあります。もし、他社の営業情報や個人情報が記載されたファイルを誤って送ってしまったら、取り返しがつきません。

こうしたリスクを知っている上司は、部下に整理整頓を指示します。実際、デスクやパソコンを整理していくと、意外に不要な書類やファイルが多く、「なんで、とっておいたんだっけ?」と思うものがあるはずです。その気になれば、どんどん捨てられます!

書類の分類でトレーニング

仕事で成果を上げるために、整理整頓が大切であることはお分かりいただけたと思います。では、整理整頓が苦手な人はどうすればよいのか、そのヒントを紹介します。

1)処分する癖をつける

まず、面倒がらずに書類やファイルを処分する癖をつけましょう。捨てるかどうか迷うものは、一時保存の場所を確保し、しばらくたっても使わなければ、捨ててしまうとよいでしょう。

2)書類とファイルの保管方法

紙の書類を、次から次へと積み重ね続けるのはやめましょう。書類を種類別に整理すべきファイルを作って、そこに入れるようにします。そもそも、紙の書類は廃止していくのが好ましいかもしれません。

また、パソコンにあるファイルについては、ファイル名のルールを決めましょう。少なくとも「日付、内容、作成者」が明らかになるようにします。また、これらの要素の順番も統一します。

整理整頓も仕事の1つ

整理整頓ができない上司の部下は、上司に似て整理整頓ができなくなります。中堅社員にも部下がいるはずですが、整理整頓は部下指導の一環でもあります。

そのため、中堅社員は、自身はもちろん、部下や同僚にも整理整頓をするように働きかけましょう。会議室などの共用スペースについても、整理整頓を心がけると理想的です。こうした姿勢が部下に伝われば、仕事を整然とこなす強いチームを作ることができ、結果として生産性が向上していきます。

Point

  • オフィスは「公の場所」である。自分のデスクなどはもちろん、共用スペースも整理整頓をしよう。
  • 生産性の向上につながる!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

接待は「おにぎり」を食べてから行こう!/半歩先行く中堅社員(5)

大切なクライアントとの接待を前に、課長がおにぎりを食べています。“食事の前の食事”が理解できない中堅社員のAさんは、「課長、これから接待ですよ。今食事をしたら料理がおいしく食べられません」と、話しかけました。

すると課長は笑いながら答えました。

「これから接待だから食べてるんだよ。私はおなかがすき過ぎていると、がっついてしまう癖があってね。もてなす側の姿勢として好ましくないでしょ。だから、軽く食べているんだよ」

納得したAさんは「へ~、いつもそうなんですか?」と、さらに話しかけました。

そこで課長は言いました。

「そんなことはないよ。接待によっては、“ガツガツ”食べたほうが喜ばれるときもあるからね。Aさんも経験を積んだら、TPOに合わせた立ち居振る舞いが分かってくるはずだよ」

接待にもあるTPO

接待は、相手との関係強化、情報交換、セールスなどの目的で行われます。食事やゴルフなど、オフィス以外の場所で行われるのが通常なので、ふとした瞬間に、好ましくない“素の自分”が出てしまうことがあります。

例えば、食べ方が汚い、話題が下品、ゴルフなどのゲームの進め方が自分勝手などです。もてなす側がこうした振る舞いをすると相手は不快になり、せっかくの場が台無しになってしまいます。

また、食事を伴う接待では、料理をおいしく食べるのが基本ですが、食べ方はその場の雰囲気で変わります。冒頭の課長は、このことに配慮していたわけです。

接待のTPOは次のようにさまざまです。

  • 日 時:平日か休日か? 昼か夜か?
  • 場 所:行ったことがある場所か、ない場所か?
  • 相 手:関係が深いか、浅いか?
  • 雰囲気:打ち解けた感じか、真面目な感じか?
  • 立 場:もてなす側か、もてなされる側か?

「平日の夜に、なじみのカジュアルイタリアンで、長年のクライアントをもてなす場合」と、「休日の昼に、新規クライアントの社長宅に招かれて、ホームパーティーでもてなされる場合」とでは、こちらの立ち居振る舞いや服装、事前準備が全く違うでしょう。これらを意識しておくことは、とても大切です。

自分のペースを保つための3つの事前準備

接待のTPOに合わせるための秘訣は、落ち着いて自分のペースを保てるように、事前準備を徹底することです。そのためのポイントを、会食を例に確認してみましょう。

1)食べ物の好き嫌いを確認する

相手が楽しめるよう、事前に相手の嗜好を確認しておきましょう。相手の好きな食べ物と苦手な食べ物、帰宅の際に利用する路線などを確認するのは基本です。

また、年末など接待が集中する時期は、こちらが接待する日の前後で、相手がどういったジャンルの食事をするのかについても把握します。これによって、相手が3日連続で焼き肉を食べるといった事態を防げます。

2)お店を把握する

一度も行ったことのないお店で接待をするのは避けたほうが無難です。何らかの理由で新規のお店を利用する場合は、下見をしておくべきでしょう。

その際、お店周辺の地理や店内のレイアウト、トイレの場所、お薦めの料理などを確認しておきましょう。また、店長と名刺交換をして、「接待の当日はよろしくお願いします」と一言伝えることも大切です。

3)時間を管理する

特に昼の接待では、接待後の相手のスケジュールを確認しておきましょう。こちらの好意でコース料理を予約しても、あまり時間がなければ、料理を楽しむことができません。

また、配膳のスピードが遅い場合などは、さりげなくお店に伝えて、スピードを速くしてもらいます。

大切なのはもてなす心

本当に大切なのは、相手をもてなす心です。礼儀作法を重んじるあまり、ロボットのような対応になっては面白みがありません。相手との共通の話題を見つけ、笑顔で会話を楽しみましょう。

「TPO×自分」=新しい可能性

接待に限らず、中堅社員はいろいろな場を経験し、自分なりのビジネススタイルを確立していきます。最初は、基本に忠実にしていれば、大きな失点をすることはありません。

    

慣れてきたら、「TPO×自分」でアレンジしてみましょう。課長のように、“食事の前の食事”をすることは、型にはまった行為ではありません。しかし、課長は自分自身をよく知っていたため、事前に軽食を済ませ、相手との会話に集中できるようにしたわけです。

皆さんの得意分野を活かすにはどうしたらよいか、逆に不得意分野を改善するにはどうしたらよいかを考え、その結果とTPOを掛け合わせることで、皆さんの魅力が磨かれ、相手とのコミュニケーションも深まっていくことでしょう。

Point

  • 中堅社員は、「TPO×自分」を意識して、自分なりのビジネススタイルを確立しよう。
  • それが中堅社員の魅力になる!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

ジーンズにはき替えたら、すごいアイデアが浮かぶ?/半歩先行く中堅社員(4)

リース会社に勤める中堅社員のAさん。最近、服装がガラリと変わりました。どうやら、先月参加したイベントで他の参加者に刺激を受け、服装をカジュアルにしたようです。

Aさんの会社はカジュアルな服装が認められていますし、会話で横文字を使うのも普通です。ただ、Aさんの場合、どこか“ 板についていない” 印象がある上に、急激な変わりっぷりも気になります。

そこで、課長がAさんに声をかけてみました。

「Aさん、ここのところずいぶんと印象が変わったね!」

するとAさんは、次のように答えました。

「課長もスーツにネクタイなんてダメですよ。そんな堅苦しい格好では、いいアイデアなんて出てきません」

課長はため息をついた後、言いました。

「確かに格好から入ることも大事だ。ただ、スーツをジーンズに替えただけで、すごいアイデアが出てくるものなのかな?」

スーツ族とジーンズ族

考え方や立場の違いを、団塊ジュニアやミレニアル世代などといったグループで区別することがあります。「スーツ族とジーンズ族」の違いもこれと同じようなものかもしれません。

一般的なビジネスパーソンの場合、警察官の制服のように誰もが一目で職業を認識できるようにしたり、工場の作業着のように労災のリスクを徹底的に低減したりする必要はなく、割と自由に服装を選択することができます。

にもかかわらず、服装選びに対する考え方は立場によって大きな違いがあります。最近は減ってきたように思いますが、「お客様に失礼だから、スーツを着てビシッとしなければダメだ!」という意見や、「スーツは堅苦しい印象になるし、窮屈で生産性が低下する!」という意見があり、互いに相容れない部分があるようです。

服装選びのポイント

スーツとジーンズ(ここでは、カジュアル全般の意味)のどちらが仕事の服装としてふさわしいかについてはケース・バイ・ケースですが、仕事の服装を選ぶ基準は次の2 つです。

  • 相手に失礼のないこと
  • 仕事がしやすいこと(動きやすい、快適など)

単純に考えれば、相手に失礼のない服装はスーツにネクタイが無難、仕事がしやすい服装はジーンズよりもっと楽なジャージーが好ましいといえるでしょう。

とはいえ、例えばIT 系のイベントにガチガチのスーツ姿で参加したら浮いてしまいます。同様に、いくら動きやすいとはいえ、ホテルのフロントがジャージーで勤務したら違和感があります。

「守破離」に当てはめてみよう

冒頭のAさんは、参加したイベントで自分が知らなかった新しい雰囲気に刺激を受け、服装という分かりやすいところから取り入れました。この姿勢を、柔軟で向上心があるととるか、短慮で場当たり的ととるかは、Aさんの言動次第です。

この問題は、「守破離」で考えてみると分かりやすいです。具体的には次のイメージです。

  • 「新しいアイデアを得るためにイベントに参加した。まずは周囲に合わせ、その格好をまねながら、ルールや考え方を深く理解する(「守」の段階)。その上で自分なりのアレンジを加え(「破」の段階)、最終的に自分のオリジナルスタイルを確立する(「離」の段階)」

そうではなく、「手段の目的化」に陥っているようなら問題です。「手段の目的化」とは、目的を達成するための手段ばかりに目がいき、その手段を講じること自体が目的にすり替わってしまっている状態です。

Aさんがイベントに参加した目的は、ビジネスの課題解決や人脈拡大のはずです。それを忘れず、まず服装をまねてみたのなら問題はありません。

しかし、服装をカジュアルに変えたことに満足し、本来の目的を達成するための努力を怠ってしまうのは本末転倒です。

継続すること、味方を得ること

変化を起こそうと頑張る中堅社員は、組織の宝です。せっかくの取り組みを、単に「ジーンズ族にかぶれた人」という残念な評価で終わらせないためにも、本来の目的を達成する努力を継続しましょう。

その際、「スーツ族とジーンズ族」といったような、目的とは直接関係のない二項対立を作り出し、不要な摩擦を生むことは、絶対に避けなければなりません。

新しいことを始めようとするときは摩擦が生じます。中堅社員はそうした摩擦を恐れず、前に進む勇気を持ちたいものですが、その勇気はスーツをジーンズに替えただけで示せるものではありません。正しい目標を設定し、継続的に取り組むことを忘れないようにしましょう。

Point

  • 中堅社員は変化を起こす勇気を持とう!
  • ただし、「手段の目的化」に陥らないように注意する。
  • 不要な二項対立も作ってはならない。

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

仕事があるのに「休日出勤」したらいけないの?/半歩先行く中堅社員(3)

「頑張り屋」で有名な中堅社員のAさん。「働き方改革」が進む昨今ですが、残業や休日出勤をいとわずに働いています。今日は土曜日ですが、Aさんはいつものように休日出勤してきました。

Aさんがオフィスに着くと、課長も休日出勤していました。Aさんを見るなり、課長が声をかけてきました。

「お疲れさま。休日なのに悪いね。ここのところ残業や休日出勤が続いているようだけど、会社としては残業は削減、休日出勤は原則禁止だから、少し見直してほしいな。私も相談に乗るし」

すると、やや怒った様子のAさんが言いました。

「仕事が終わらないので、残業や休日出勤は仕方のないことです。とにかく私は頑張ります!」

それを聞いた課長は、少し困った表情で言いました。

「う~ん……。他の社員、特に部下への影響も考えてほしいな。Aさんは周囲から見られる立場になったんだよ」

組織人である以上、ルールは守る

働き方は人それぞれです。冒頭のAさんのように、「仕事第一」で残業や休日出勤を全く苦にしない人がいる一方で、仕事よりもプライベートを充実させたい人もいます。

働き方は個人の意思に基づいて自由に選択されることが理想ですが、会社に所属している以上、そのルールを守らなければなりません。会社が「残業は削減、休日出勤は原則禁止」といった方針を打ち出しているのであれば、それを守ることが基本となります。

もう1つ、役職が上がるほど意識しなければならないことがあります。それは「周囲への配慮」です。自分の言動が周囲にどのような影響を与えているのかを、考えなければなりません。

中堅社員に求められる周囲への配慮

1)良きロールモデルになる

部下に「自分も上司(中堅社員)のようになりたい」と思ってもらえたら、とてもうれしいものです。では、Aさんのような働き方を見た部下がそのように思ってくれるでしょうか?

  • 「Aさんのような働き方は無理……」

多くはこのように敬遠するはずです。それに、Aさんの働き方を受け入れられない部下は、Aさんが自発的に働き、実は楽しんでいることを知らないまま、

  • 「自分の会社は、残業や休日出勤が慢性化している社員がいるブラックな職場である」

とSNSに書き込むかもしれません。誤解なのに、こうした書き込みがされると会社のブランドが毀損されることがあります。

2)部下に任せる

「頑張り屋」が陥りやすい問題の1つが、「どんな仕事でも引き受けて、自分で抱え込んでしまうこと」です。ただでさえ忙しいのに、さらに仕事を引き受けてしまうのです。

その結果、どんどん仕事がたまっていき、残業や休日出勤をしなければ終わらなくなってしまいます。そのような状況で、Aさんが体調を崩しでもしたら、関係者に大きな迷惑をかけることになります。

加えて、簡単な仕事もAさんがやってしまうと、部下の成長の機会は奪われてしまいます。中堅社員は、部下の育成も重要な仕事であることを認識しなければなりません。

仕事の振り先はある

  • 「そう言われても、仕事の振り先がない……」

こんな反論が聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか?

忙しいように見えて、実はかなり余裕を持って仕事をしている人はいないでしょうか。そうした人こそ、仕事の振り先となります。

「教える時間がとれない。自分でやったほうが速い」と考えがちですが、それでも誰かに仕事を振らなければ、仕事は終わらず、部下も仕事を覚える機会がありません。仕事を振ることが、中堅社員の仕事です。

“本当の忙しさ”を見える化する

1)仕事の見える化で情報共有

人に仕事を振るために、まずは仕事の状況を正しく把握しましょう。具体的には、中堅社員とその部下が担当している仕事をスケジューラーに登録します。その際、仕事ごとの所要時間も登録することで、各人の“本当の忙しさ”が見えてきます。

中には、わざと長い時間を登録して忙しさを演出する部下が出てくるかもしれないので、中堅社員が適正な所要時間を示し、部下をマネジメントします。

2)朝一のメールを禁止する

少々細かなマネジメントになりますが、午前中の部下の仕事を15~30分単位で把握してみてください。メールや資料作成など、仕事の種類ごとに色分けすると、多くの部下が、朝の集中できる大切な時間をメールに費やしているという実態が浮き彫りになるはずです。

朝の時間を有効に活用して生産性を向上させるために、“メールからの解放”は有効です。そうした意味では、上司の「ちょっといい?」と言って、部下の時間を少しずつ奪うコミュニケーションもやめるようにしましょう。

Point

  • 中堅社員は、部下から見られる存在である。
  • 安易に残業や休日出勤をする前に、チームの生産性を向上させることを考えよう!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

定時退社の上司に、部下はついていけるのか?/半歩先行く中堅社員(2)

中堅社員のAさんが勤める会社では、毎月、幹部会が行われます。今月から、Aさんも上司のB本部長と一緒に出席することになりました。B本部長はAさんを高く評価しており、「他の幹部に名前を覚えてもらえるように」と声をかけてくれました。

その日の幹部会のテーマは「働き方改革」。幹部たちは所管部の取り組みを順番に発表していきます。次は社内でも仕事ができると評判のC本部長です。どんな発言をするのか興味津々だったAさんですが、C本部長の発言は意外なものでした。

「私は定時退社で『働き方改革』を実践しているが、部下は残業続きだ。部下の要領が悪くて仕事が遅いのが一番の原因だ」

C本部長の指摘にも一理あるのかもしれませんが、残業が慢性化しているのは事実です。C本部長の真意が理解できないAさんは、同意を求めるように隣のB本部長を見ました。すると、B本部長も何やら深く考え込んでいます……。

働かない上司は問題外

若い頃はバリバリ働いていたのに、今は面倒なことは全て部下にやらせて、自分は口だけ出す。こんな人が皆さんの会社にはいませんか? 定時退社するのが、こんな「働かない上司」だったら誰もついてきません。

かつては、年功序列・終身雇用で若い頃に頑張った分、ある程度の年齢になったら楽をする働き方も認められていたかもしれません。しかし、今の時代には通用しません。

働かない上司の存在は、現場の士気にも悪影響を及ぼします。中堅社員が自ら解決するのは難しいはずなので、その場合は自分の上司に“やんわり”と、働かない上司のことを相談してみるとよいでしょう。

仕事ができても“愛”がなければ……

冒頭のC本部長は、働かない上司ではなく、仕事ができる上司です。新技術が次々と登場し、働き方も残業規制、副業・兼業の容認、リモートワークなどと様変わりする中、C本部長は環境の変化に適応し、第一線で通用するスキルを維持する努力を続けてきたはずです。

C本部長のような上司の下で働く部下は、新しいことにチャレンジする機会に恵まれます。変化が当たり前の環境で鍛えられた部下は、柔軟性と突破力を兼ね備えることができるかもしれません。

これを実現するためには、上司の“愛”ある指導が必要です。仕事ができる上司は、部下にも自分と近いペースで働くことを求めがちです。しかし、上司が求めるスピードについてこれる部下はほとんどいません。

能力不足や不慣れなど、部下の仕事が遅い理由はさまざまですが、部下の“迷い”にも注目してあげたいものです。部下が、自分の思った通りに進めれば意外と早く終わるのに、「本当にこの進め方でよいのだろうか。間違えたら上司に叱られる」などと迷ってしまうので、余計な時間がかかるのです。

こうした部下の迷いを断ち切るためには、上司が丁寧に指導しなければなりません。仕事ができる上司が、「昔は自分もそうだった。手間と時間はかかるが、しっかりと教えてあげよう」と、“愛”のある指導を行ったとき、部下は成長することができるのです。

定時退社の上司を部下はどう見ているのか?

ところで、部下は自分たちが残業続きであっても、仕事ができる上司が定時退社することを、最初、次のように好意的に受け止めてくれることがあります。

  • 「上司は『働き方改革』を率先垂範するために、早く帰っているのだ」

ただ、この状態は長く続きません。上司が残業削減の対策を講じなければ、部下の状況は改善されません。そして、「定時退社の上司」と「残業続きの部下」という構図が定着します。不満がたまった部下は、先ほどとは全く違う印象を持つようになります。

  • 「なぜ、自分たちだけ残業しなければならないのだ!?」

仕事ができる上司は、「働き方改革」を率先垂範しているつもりでも、部下の心はどんどん離れていってしまうのです。

問われるのは「依存と自立」のバランス

C本部長が発言しているとき、Aさんの上司であるB本部長が考えていたのは、「依存と自立」のバランスです。全てがそうではありませんが、指示通りに働いていれば給料がもらえ、雇用も維持されるという環境は、ある意味、「会社への依存」です。

同様に、何かあれば上司がフォローしてくれるから大丈夫と甘えるのも、「上司への依存」といえるでしょう。

会社や上司は、こうした依存を受け入れる代わりに、社員(部下)から労働力の提供を受けていますが、「働き方改革」が進む中で、こうした関係は少しずつ変わっています。それは、

  • 個々人が自立して働くようになっている

ということです。

C本部長のやり方は、部下の自立を促すものかもしれませんが、言葉が足りませんでした。B本部長がAさんを幹部会に同席させたのも自立を促すためですが、B本部長がきちんと説明していたので、Aさんはやる気になっています。

「依存と自立」のバランスが問われる時代、大切なのは、上司が丁寧に説明することです。最初は時間がかかるかもしれませんが、そこで投資した時間は、必ず将来に活かされます。

Point

  • 中堅社員は、仕事ができて“愛”のある上司を目指していこう!
  • 「依存と自立」のバランスを忘れずに。

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka

おごってくれない上司を、部下はケチだと思うか?/半歩先行く中堅社員(1)

「ごちそうさまでした~♪」

満腹・満足げな部下たちに別れを告げた中堅社員のAさん。今月は大忙しだったため、頑張った五人の部下たちをねぎらおうと奮発して焼き肉をおごりました。食事会は大盛り上がりで、「チームの結束が強まった!」と実感できました。

ただ、切実な問題が1つ……。Aさんの財布の中身がさみしいのです。

食事会の目的と、その成果を考えれば、飲食代を会社に請求しても問題ないでしょう。しかし、Aさんの会社では、「上司は部下に必ずおごる」という暗黙の了解があり、Aさんもそれに従っているのです。内心、Aさんはこう思っています。

「自分もよく上司におごってもらうけど、皆会社に請求していないのかな。毎回自腹では、正直、きついはずだ。出世もいいけど、部下におごったためにお小遣いがなくなるのはちょっとな」

「上司はおごるもの」という強迫観念

上司が集まると、「部下にどこまでおごる?」という話に割とよくなります。部下におごるのはいいけれど、毎回だと金銭的につらいので、他人がどこまでおごっているのかを知りたいのです。

とにかく上司は、部下から「ケチだ!」と思われたくはありません。そのため、「前回はおごったので、今回もおごらないと……」とか、「Bさんにはおごったから、Cさんにもおごらないと……」などと考えてしまうのです。

一方、上司にとってはうれしい? 意外な事実があります。部下の立場にある人に話を聞いてみたり、アンケートを見てみたりすると、部下は上司のおごりをそれほど期待していないようです。「気を使うし、おごってもらうのは申し訳ない。それに、フラットな気持ちで話ができない」というのがその理由です。

「部下におごらなければならない」という思いは、上司が持つ強迫観念のようなもので、この傾向は年配の上司に多く見られるようです。年功序列・終身雇用という雇用慣行の中で、「給料が低い若手を援助するのは上司の役割である」という雰囲気があったのでしょう。

とはいえ、おごるのは効果的?

とはいえ、「おごるのや~めた!」ということにはなりません。財布事情は別として、食事会は上司と部下とのコミュニケーションの場であることは間違いないからです。

普段とは違う雰囲気でリラックスできますし、おいしい食事があれば会話も弾みやすくなります。上司から食事に誘われた部下は、最初、「上司と二人はつらいな~。説教されるのでは……」などと敬遠するかもしれませんが、「おいしいお店があるから、一緒に食べに行こう。おごるよ!」とカジュアルに誘えば、部下も上司の誘いに応じやすくなります。

結局、上司はある程度は部下におごることになりそうですが、それが毎回だと、部下は「上司の誘い=タダ飯」と期待するかもしれません。バブル時代、ご飯をおごってもらうだけの「メッシーくん」がいましたが、“メッシー上司”になるのは避けたいものです。

おごるか否かの基準を持つ!

ということで、上司は「おごるか否かの基準」を持ちましょう。単純ですが分かりやすいのは、

  • 仕事なのか、プライベートに近いのか?

という基準です。

この基準を冒頭のAさんに当てはめてみましょう。食事会の目的は「部下をねぎらい、やる気を明日につなぐ」ことであり、完全に仕事です。しかも成果が上がっています。これなら、会社に飲食代を請求しても問題ないでしょう。

なお、こうした飲食代を「いくらまで請求していいか?」は、会社の規則で定められているはずです。経費を請求する場合は、事前に確認しましょう。

上司の素直な気持ちが大切

ここまでの話とは逆に、「会社に経費請求するまでもなく、むしろ自分で支払いたい」と上司が感じるケースがあります。

例えば、上司が一人の人間(人生の先輩)として部下にアドバイスをする場合や、頑張っている部下を何らかの形で応援したいと思う場合は、こんなふうに考えるものです。難しく考えずに、「上司がおごりたいと思ったら、おごる」というシンプルな判断をすればよいでしょう。ただし、懐具合とのバランスはとっておかないと長続きしません。

そうした意味では、食事でなく、コーヒーをおごるだけでも十分です。豪華な食事を1回するよりも、何度も一緒にコーヒーを飲むほうが、コミュニケーションの回数も増えます。

いずれにしても、中堅社員になったら、使う経費が増えてきます。部下との食事会に限らず、会社のお金と自分のお金の区別を明確にしなければなりません。

  • 「出世するほど、お金にきれいになる」

というのが、中堅社員の1つのテーマです。

また、今どきの問題として気をつけたいのが、ハラスメントです。部下と二人だけで食事などに行く場合、そこでの言動にはいつも以上に注意しておいたほうが無難です。こちらの意図とは全く関係のないところで、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを指摘されることがあるかもしれないからです。そうした懸念があるなら、食事会は三人以上としたほうが無難です。

Point

  • 「上司はおごるもの」という強迫観念から解放され、「おごるか否かの基準」を設ける。
  • 大切なのはコミュニケーションの質!

以上(2019年8月)

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画像:Eriko Nonaka