【2019年8月改訂】契約の解除と危険負担~民法改正と契約書の見直し(3)

こんにちは、弁護士の村上嘉奈子と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第3回は、契約の解除と危険負担について扱います。

1 契約の解除に関する改正内容

契約が約定通りに履行されない場合、契約の当事者(主に債権者)の立場からは、契約を解除して代金支払いなどの反対債務から解放されることが望まれます。

このような契約解除(法定解除)の要件について、改正民法では現行民法と異なる定めが設けられることとなりました。

以降では、主な改正点を大きく3つに分けて説明します。

1)法定の契約解除について債務者の帰責事由が不要に

現行民法のもとでは、債務不履行が生じた場合の契約の解除は、これに関する損害賠償請求とセットで理解されており、債務者に帰責事由(故意または過失)がある場合にのみ可能というのが通説とされていましたが、改正民法においては、「解除」は当事者を契約に拘束することが不当である場合に、契約の拘束力から離脱させることを目的とした制度として新たに整理され、「債務者の帰責事由」が解除の要件から外れました。

これにより、債務不履行の状態が生じた場合、債務者に帰責事由があるのはもちろんのこと、当事者のいずれにも責任がない場合にも、改正民法第541条または同第542条に基づき契約の解除が可能となります(なお、債権者に帰責事由がある場合には、改正民法第543条により法定解除ができないものとされますのでご留意ください)。

2)債務不履行が軽微であるときは契約解除できない旨が明文化

また、改正民法においては、それまでの判例法理が改正民法第541条但書において明文化され、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」に解除権が発生しないことが明らかにされました。

これにより、債務不履行の部分が数量的に僅かである場合や付随的な債務の不履行にすぎない場合など、「軽微」であるときには、契約の解除(法定解除)ができないこととなります。

3)無催告解除ができる場合の整理

さらに、改正民法は、事前の催告をすることなく直ちに契約を解除することができる場合を、次の通り整理しました。

【契約の無催告解除が可能な場合】

  • 債務の全部の履行が不能であるとき
  • 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
  • 債務の一部の履行不能等の場合で、残存する部分のみでは契約目的を達することができないとき
  • 特定の日時等に債務を履行しなければ、契約目的を達することができない場合で、債務者が履行せずに当該時期を経過したとき
  • その他債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき

【契約の一部の無催告解除が可能な場合】

  • 債務の一部の履行が不能であるとき
  • 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

なお、次の記事では契約書で解除条項を定める際のポイントや、契約解除の流れとトラブル時の対応などについて解説していますので、ご確認ください。

2 危険負担に関する改正内容

1)危険負担とは

例えば、売主Aと買主Bが、Aの所有する自動車を500万円でBに売る約束をしていたところ、約束の引渡日の前に落雷があり当該自動車が大破してしまったとします。この場合、買主Bは売主Aに対して代金500万円を支払う義務を負うのでしょうか。

このように契約当事者双方の責によらず、契約の目的物が滅失したり損傷したりしてしまった場合に、契約当事者のどちらがその負担をすべきか、というのが危険負担の問題です。

2)現行民法における危険負担の定め

現行民法ではこのような場合、売買の目的物が「特定物」であるか「不特定物」であるかにより、結論が大きく異なりました。

特定物とは当事者がその個性に着目した物、不特定物とは単に種類に着目し、個性を問わずに取引した物です。自動車を例とすれば、個別の車両ごとに状態が異なるクラシックカーは特定物にあたり、車両ごとに個性が認められない新車は一般に不特定物にあたると理解されます。

現行民法においては、取引の対象とされた目的物が特定物の場合は、債権者Bにおいて危険を負担しなければならないこととされ、一方で目的物が不特定物の場合は、債務者Aにおいて負担するものとされていました。

すなわち、先の例で現行民法に従うと、売買の目的物がクラシックカー(特定物)であった場合は、自動車が滅失しても買主Bは売主Aに対して代金500万円を支払わなければならず(債権者主義)、一方で売買の目的物が新車(不特定物)であった場合には、買主Bは代金支払義務を負わないという結論となりました。

3)改正民法における危険負担の定め

上記の通り、現行民法においては、目的物が特定物であるか不特定物であるかによって危険負担の結論が相違し難解でしたが、改正民法においては、危険負担の定めが上記1でご説明した契約の解除に関する定めと併せて整理されて、大きく取り扱いが変化し、目的物が特定物であるか不特定物であるかによって結論に違いが生じなくなりました。

すなわち、上記の通り改正民法においては、当事者双方の責めによらずに契約が履行不能となった場合、契約の解除(法定解除)が可能となります。

これに加えて改正民法第536条1項は、当事者双方の責めに帰することができない事由によって、債務を履行することができなくなった場合に、債権者に反対給付の履行を拒む権利がある旨を定めました。

よって、前述した例が改正民法で発生した場合においては、売買の目的物がクラシックカーであろうと新車であろうと、買主Bは売主Aに対して契約解除の意思表示をすることができますし、あるいは解除の意思表示を待つことなく、売主Aへの代金の支払いを拒絶することもできます。

なお、債権者の反対給付の履行拒絶権は、反対給付に関する債務を消滅させるものではありませんので、買主Bが代金債務から解放されるためには、別途契約解除の意思表示を行う必要があることとなります。

メールマガジンの登録ページです

3 契約書の見直し

これらの改正民法の規定を踏まえ、具体的に契約書のどのような点について見直しを検討すべきか見ていきましょう。

1)契約解除

契約解除については、これまでも契約書に任意解除規定が定められる例が一般的であったものと解されます。

前述した通り、債務不履行が軽微である場合に、法定解除が制限される旨が改正民法で明文化されたことなどをも踏まえると、引き続き任意解除規定を充実させて、解除事由や解除方法等について、後に争いが生じないよう明確に合意しておくことが有用と解されます。

なお、任意解除規定が現行民法の法定解除を前提とした規定ぶりとされていた場合には、改正民法の法定解除よりも解除が制限される懸念もありますので、契約更新等のタイミングで点検を行うことが望ましいでしょう。

1.相手方の義務違反の場合の解約の定め

相手方の義務違反の場合の解約の定めについて、現行民法下の法定解除を前提に、次に紹介するような例が法改正後もこのまま残存した場合には、改正民法の法定解除よりも債権者にとって不利な条項となってしまう懸念があります。

「本契約の当事者が、故意または過失により本契約の定めに違反した場合には、相手方当事者は違反当事者に対して書面により通知した上、本契約を直ちに解除することができる」

改正民法の規定を踏まえた上で、当事者間の共通認識に沿った定めとされているか、留意して点検していただくことをお勧めします。

さらに、当事者双方の合意により、改正民法に基づく法定解除の場合よりも解除の範囲を拡張し、契約の相手方の義務違反が生じた場合に、当該債務不履行の程度を問わずに契約を解除することを可能とする場合には、次に紹介するような任意解除規定を置くなどして、その旨を明確に定めておくことが想定されます。

「本契約の当事者が、本契約の定めの一にでも違反した場合には、相手方当事者は違反当事者に対して書面により通知した上、本契約を直ちに解除することができる」

2.倒産解除条項・反社会的勢力排除条項等

現行民法下において契約書に定められることの多かった、いわゆる倒産解除条項(契約当事者に破産、民事再生等の申立てをはじめとした信用不安などの事態が生じた場合の契約解除条項)および反社会的勢力排除条項(契約当事者がいわゆる反社会的勢力に該当する場合の契約解除条項)等の任意解除規定は、改正民法においても、契約を解除できる範囲を拡張するものにあたりますので、当事者間の合意に基づき遺漏なく定めることが有益です。

2)危険負担

前述した通り、改正民法における危険負担の定めは、契約解除に関する定めと併せて理解される必要があり、当事者の責によらず取引上の債務が履行不能となった場合には、債権者による反対給付の履行拒絶および契約解除がいずれも可能とされます。

上記の改正の経緯からすれば、特に特定物の売買等における危険負担の制度が大きく変更されることとなり、特定物の売買を業とする事業者は、改正民法により大きな影響を受ける可能性があることに留意が必要です。

もし従前通り、危険負担につき債権者主義として契約を締結したい場合には、その旨の危険負担の原則を契約において明確に定めるとともに、改正民法における買主の解除権をも併せて排除するために、契約解除が可能な場合を、当事者に故意・過失があったときのみに限る旨を併せて明確に合意するなどして、法定解除よりも狭い範囲に解除権を制限する必要が生じるものと解されます。

また、契約の履行が段階的に行われる事例などにおいて、一定の債務(例えば目的物の納品等)の履行が完了した時点で、危険負担につき債権者主義を採用することが望まれる場合(例えば目的物の納品後は債権者において危険を負担し、代金支払い義務を免れない旨の合意が予定される場合)にも、危険負担の時期および効果を明確に定めるとともに、解除権の定めについても適切な定めを置いて整合性を保つことに配慮する必要があるでしょう。

次回は、定型約款の定義と契約上の影響について解説いたします。


あわせて読む
民法改正と契約書の見直し

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【2019年8月改訂】債務不履行に基づく損害賠償請求〜民法改正と契約書の見直し(2)

こんにちは、弁護士の松林智紀と申します。シリーズ第2回は、債務不履行に基づく損害賠償請求を中心に扱います。

1 債務不履行に基づく損害賠償とは?

「債務不履行に基づく損害賠償」とは、何らかの契約(売買契約や賃貸借契約など)があり、この契約に基づく約束(債務)を履行しなかった場合に生じる損害賠償です。契約責任や契約不履行と呼ぶこともあります。

これに対して、特に契約などがない関係において、違法性のある行為自体によって生じるのが「不法行為に基づく損害賠償」です。

債務不履行には履行遅滞(履行が可能であるのに履行期を徒過した場合)、履行不能(契約時は履行可能であったが、その後に履行が不可能になった場合)、不完全履行(履行はあったものの、給付が不完全な場合)の3類型があります。

債務不履行に基づく損害賠償については、民法第415条において定められています。

なお、債務不履行に係る帰責事由(債務者の責めに帰すべき事由)が債務者にないことの立証責任は、債務者が負います。

2 実質的な改正内容:法定利率(改正民法第404条)

債務不履行に関連する実質的な改正点としては、法定利率の変更があります。

法定利率は、利息を支払うことは合意しているけれど利率を決めていない場合や、金銭債務について事前に遅延損害金の額を合意していない場合の遅延損害金の算定等に用いられるもので、現在は年5%の固定金利とされていますが、低金利時代において高過ぎるとの意見が多くありました。

改正により、年5%の固定金利の法定利率は廃止され、改正民法施行当初の法定利率は年3%となり、さらに、3年を1期として変動するように定められました。具体的には日本銀行が公表する「貸出約定平均金利」(銀行や信用金庫が金融機関以外に融資した際の金利を平均したものです)の過去5年分の平均値を基準として、1%以上の増減が発生した場合には、法定利率もそれに応じて1%単位で増減する仕組みが導入されます。

「変動」とはいっても、初めて遅滞の責任を負った時点(遅延損害金の場合)、または初めて利息が発生した時点(利息債権の場合)の法定利率が、その(元本)債権の消滅まで適用されるのであり、住宅ローンの「変動金利」のように、債権が発生した後に、その債権に適用される法定利率が変動することはありませんので注意が必要です。

また、商事法定利率(年6%)は廃止され、民法の法定利率に統合されます。

なお、改正民法の施行日前に利息が生じた場合における、その利息を生ずべき債権に係る法定利率は、従前の法定利率(年5%)によることになります。

メールマガジンの登録ページです

3 その他の改正

1)債務者の帰責事由

上記1で説明をした債務者の帰責事由(債務者の責めに帰すべき事由)の有無について、改正民法では「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることとされました(改正民法第415条第1項)が、従来の通説的見解や実務に変更を迫るものではないでしょう。

2)特別損害の予見可能性

損害賠償の範囲(改正民法第416条)の特別損害(通常生ずべき損害ではなく特別の事情によって生じた損害)については、「予見し、又は予見することができた」が「予見すべきであった」と改められました。当事者が現実に予見することが可能であったか否かではなく、債務者が予見すべきであったか否かという、規範的な評価を問題とすることとされました。実務上の影響はあまりないと考えられます。

3)過失相殺

過失相殺(改正民法第418条)に関しては、「債務の不履行に関して債権者に過失があったとき」が「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったとき」と改められました。これは、従来の判例で認められている損害軽減義務的な要素を明確化したものですので、これも実務上の影響はあまりないと考えられます。

4)中間利息の控除

また、将来において取得すべき利益(例:交通事故で死亡した者に係る逸失利益)についての損害賠償の額を定める場合、その利益を取得すべきときまでの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により控除することが明記されました(改正民法第417条の2、中間利息の控除)。

これ自体は判例法理の明確化にとどまりますが、上記2の通り法定利率が変更されたことにより、損害賠償額から控除されるべき中間利息の額が減少することになりますので、損害賠償の額が上昇することに注意が必要です(法務省民事局の説明資料では、22歳男性サラリーマンが事故で死亡した場合、現行法では逸失利益の額が約5760万円だったものが、改正民法では約7950万円となるという例が挙げられています)。

4 規定の見直し

今回取り上げた改正との関係では、あらかじめ合意していないと金銭債権の遅延損害金が年3%(改正当初)になってしまい、現行の年5%ないし年6%(商事法定利息)と比較すると、相当金額が低くなることに注意が必要です。これでは、金銭債務の履行を確保するためのインセンティブとして不十分である場合も多いことから、事前に法定利息を超える遅延損害金の額(率)を合意しておくことが考えられます。例えば、契約書に次のような規定を設ける方法があります。

【法定利息を上回る遅延損害金を合意する場合】

本契約に基づく金銭債務の支払を遅延したときは、遅延した当事者は遅延額に対して年14.6%の割合による遅延損害金を付して支払うものとする。


あわせて読む
民法改正と契約書の見直し

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

従業者の教育等。会社がやるべきこととは?

前回の記事では、従業員、派遣社員、役員など社内で働く者全てを含めた概念である「従業者」を対象に、これら従業者を監督する際のポイントについて解説しました。

個人情報の保護においては、単に従業者を監督するだけにとどまらず、従業者教育についても重要になります。とはいえ、従業者教育とは具体的に何を指すのでしょうか。個人情報保護法(以下「法」)では、「個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」としか定められておらず(法第21条)、具体的に何をすべきかについては事業者の判断に任されています。

具体的に何をすべきかについては、個人情報保護委員会が公表している個人情報保護法のガイドラインや、プライバシーマークの規格(JISQ15001:2017)で説明されています。この記事では、これらの説明に即して、定期的な研修といった会社が実施すべき従業者教育について見ていきます。

なお、以降で挙げる例はあくまでも参考であり、全てを実施しなくても違法とされるわけではありません。会社の実情に応じた方法を採用してください。

1 定期的な研修を実施する

定期的な研修の方法としては、全員を一堂に集めて専門家が講義をしたり、部署ごとで責任者が講話をしたり、eラーニングを利用して都合のよい時間に個別に受講したりすることなどが考えられます。実践的な方法として、標的型メールを疑似体験するといった危機体験型の訓練をすると、従業者の意識が高まります。

研修等には、次の事項を盛り込むとよいでしょう。

  • 個人情報やマイナンバーの規制の概要の説明
  • (社内規程がある場合)社内規程があることとその概要の説明
  • 実際の漏えい事故の例
  • 漏えいや法律違反の事実や、その可能性を知ったときの社内通報先

個人情報やマイナンバーの規制の概要の説明については、個人情報保護委員会が公表しているパンフレットなどを用いれば十分です。個人情報保護委員会のサイトには、個人情報については「中小企業サポートページ」があり、「個人情報保護法ハンドブック」や「個人情報保護法の5つの基本チェックリスト」などの資料が掲載されています。

マイナンバーについても「ガイドライン資料集」のページがあり、「小規模事業者必見!マイナンバーガイドラインのかんどころ」や「社長必見《ここがポイント》マイナンバーガイドライン(事業者編)」などの資料が掲載されています。これらの資料は数ページから20ページ程度のものが多く、研修にも利用しやすいと思います。

なお、研修等の目的は、情報セキュリティの重要性や安全管理に関する従業者の役割と責任を理解させて、それを従業者が確実に果たすことができるようにすることです。そのため、マイナンバーや重要情報を扱う従業者には、規制の内容や漏えい事故の例について解説して自覚を促すというように、従業者の担当業務、役割や責任に応じて研修等の内容を変更するのが適切といえます。

2 アンケートや小テストを実施する

研修等を行った後は、アンケートや小テストを実施するのが望ましいでしょう。これによって、従業者の理解度を把握して教育内容の見直しを図ったり、従業者の自覚を促したりすることができます。

アンケートや小テストの記録は、研修名、開催日時、講師、研修の概要等を記載した書面と一緒に保管するとよいでしょう。こうしておけば、従業者教育等を実施したことの証拠となり、取引先や金融機関等から個人情報保護体制についての問い合わせを受けた際の提出資料にできます。

メールマガジンの登録ページです

3 人事上の評価等に用いる

入社時や昇進・昇格時の条件として、個人情報の保護や情報セキュリティに関する教育を受けることを求めたり、理解度が一定基準に達しない者を再教育することにしたりしている会社もあります。

重要な情報を扱う従業者については、理解度が一定基準に達しなければ当該業務から外すといった措置も考えられます。

4 モニタリングの実施

従業者の教育と併せて、従業者のモニタリング(メール・インターネットや電話の記録、カメラ撮影など)を実施する会社もありますが、モニタリングは、プライバシーや人格権の侵害による損害賠償請求訴訟で争われることもあるので注意が必要です。

モニタリングについては、「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である」とする裁判例があります(東京地判H.13.12.3)。

そこで、モニタリングを実施する際には、次の点に留意すべきです。

  • モニタリングの目的をあらかじめ特定し、社内規程に定めるとともに、従業者に明示すること。
  • モニタリングの実施に関する責任者とその権限を定めること。
  • モニタリングを実施する場合には、あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること。
  • モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

サバイバルゲームフィールドの開設について

書いてあること

  • 主な読者:サバイバルゲームフィールドの開設を検討している事業者
  • 課題:市場の動向や収支見込みに関する知見がない
  • 解決策:競合の状況や開設に必要な設備・サービス、関連する法規制などを把握する

1 サバイバルゲームの概要と市場動向

1)サバイバルゲームとは

サバイバルゲームは、板壁などで囲った施設の中で玩具銃を用い、模擬的な銃撃戦などを敵味方に分かれた数人から数十人のチームで楽しむ競技です。一般的には、BB弾と呼ばれる直径6ミリメートルの球状の弾丸を装填し、難燃性ガスや圧縮空気などの力で射出するタイプの玩具銃(以下「エアガン」)が用いられます。

野外で楽しむことが多かったり、一種の「戦争ごっこ」でもあったりすることから、雰囲気を盛り上げ、かつ安全性を確保するべく、服装(以下「ミリタリールック」)は野外の行動に適した軍装品・迷彩服(払い下げ品やレプリカ品など)や、それに近いものであるのが一般的です。

また、エアガンは、射出時に代替フロンなどの難燃性ガスを使う「ガスガン」、射出時に電動モーターでポンプを作動させて作り出した圧縮空気を使う「電動ガン」、銃弾の装填と同時に人力で銃内部のポンプを使って圧縮空気を作り出し、弾丸を射出する「エアコッキングガン」があります。

銃弾が自動で装填され、低温でも作動するなど利便性の高さから大型銃を中心に電動ガンが使用されています。拳銃モデルなど小型の銃は電動モーターなどを内蔵するのが難しいため、ガスガンやエアコッキングガンが主流のようです。

2)市場の概要

サバイバルゲームの市場は、エアガン、ミリタリールックといった「装備」と、サバイバルゲームを楽しむ場所である「サバイバルゲームフィールド(以下「フィールド」)」などで構成されます。

装備市場は、総称してミリタリーショップなどと呼ばれるミリタリールック専門店・サバイバルゲーム専門店の他、玩具専門店・量販店などが主なプレーヤーです。主として、商品の販売で収益を上げています。

フィールド市場は、主に次のような背景を持つ事業者によって運営されています。

  • 愛好家グループを母体とする事業者(個人、法人)
  • 玩具銃も取り扱うミリタリーショップ
  • 遊休不動産の活用や町おこしなどを目的とする、異業種の新規参入者

フィールドの収益源は、時間・1日単位の貸し切り料、定例会(詳細は後述)の参加費、飲食物や関連グッズの販売などです。

3)フィールドの件数

東京サバゲーナビによると、都道府県別のフィールドの件数は次の通りです。

画像1

なお、本業の閑散期(例:春~秋季のスキー場)、商業施設のイベントといった期間限定で開業しているフィールドや、個人が運営する小規模なフィールドなど、捕捉できていないフィールドもあるため、実際には図表より件数は多いものとみられます。

■東京サバゲーナビ■
https://tokyosavage.jp/
■日本遊戯銃協同組合(ASGK)■
http://www.asgk.jp

2 フィールドの概要

1)スタイル別に見るフィールド

フィールドのスタイルは、アウトドア型とインドア型に大別されます。

アウトドア型は、郊外の山林や採石場跡などの遊休地に立地する、フィールド外部に流れ弾が飛ばないように板壁やフェンスなどで囲った施設です。障害物を設置するなどして、模擬的な野外戦闘を楽しめるようにしています。

インドア型は、廃倉庫や廃工場といった使われなくなった施設、ビルのワンフロアなど、屋内でサバイバルゲームを楽しめるようにしたものです。施設の特性上、模擬的な屋内戦闘を楽しめるようにしてあるのが一般的ですが、模擬樹木を設置するなどして森林戦を模しているところもあります。

いずれのスタイルのフィールドも、開設に当たっては障害物や競技に必要な機材を設置するだけなど、比較的手間が掛からず、原状回復もしやすいため、遊休不動産の活用策にもなります。例えば、事務所跡を什器などが残った居抜きの状態でフィールドに転用し、日常的な環境で楽しめるようにしているケースがあります。また、スキー場の運営者が、春~秋季の休業中の施設活用策としてフィールドを運営しているケースもあります。

2)主な付帯設備

フィールドの付帯設備として、セーフティー(待機・休憩所)、更衣室、洗面所、装備の整備・一時保管スペース、試射場などが挙げられます。セーフティーはサバイバルゲーム特有の設備で、他のプレーヤーからの銃撃によって退場させられた人や、プレーの順番待ちをしている人が安全に待機できるようになっていることから、その名が付いています。

アウトドア型の場合、セーフティー、更衣室、洗面所といった付帯設備は、プレハブの建物などにまとめていることが多いようです。都心から離れているフィールドであれば、駐車場も備えています。

なお、女性愛好家の増加に伴い、女性専用の更衣室や洗面所などを設けるところも見られるようになっており、フィールドの計画を立てる際は留意が必要です。

3)主なサービス

フィールドのサービスとして、定例会の開催、フィールドの貸し切り、銃や防具など装備の有料レンタル、飲食物や関連グッズの販売、最寄り駅への送り迎えなどがあります。

定例会は、不特定の愛好家にサバイバルゲームの参加を呼びかけるもので、1日単位で行われます。特定のチームに属していない人でも参加費を支払うことで手軽に参加できます。フィールドの定員にもよりますが、1日当たり20~30人程度を集めるのが一般的なようです。稼働率向上が図れるため、参加者が見込める土日祝日を中心に行われています。

フィールドの貸し切りは、団体客向けに施設を数時間~1日単位で貸し出すもので、多くの施設では最低利用人数を定めています。

装備の有料レンタルは、初めてサバイバルゲームに参加する人や、装備をそろえるまでに至っていないライト層を取り込むためのサービスで、多くのフィールドで取り扱っています。

最寄り駅への送り迎えは、フィールドまでの交通手段がない人に対して行うものです。現地までの移動距離が長く、路線バスの本数も少ないため、タクシーでの移動を余儀なくされるような場所に立地しているフィールドで実施されている場合があります。

4)料金の目安

フィールドの利用に関わる料金の目安は次の通りです。

  • 定例会会費(1人当たり)
    3000円(終日)
  • 貸し切り料金
    定例会会費×最低利用人数
    (例:定例会会費が3000円、最低利用人数が15人の場合、3000×15=4万5000円)
  • 装備レンタル料
    エアガン:2000~3000円程度
    迷彩服:1000円程度
    フェースガードやゴーグルといった小物類:各500円程度

5)開設に掛かる費用

フィールドの開設に掛かる費用は、大きく分けて次の3つになります。

  • フィールドそのもの
    土地・建物の賃借料・取得費、造成費(アウトドア型の場合)
  • フィールドの設備
    セーフティーなどに使う建物、水道や電気などのインフラ回り(いずれもアウトドア型の場合)、遮蔽物(小規模な建物、工作物、廃車など)
  • フィールドの備品
    受付、ロッカー、レンタル用装備(エアガン、小物類)

なお、実際に掛かる費用については、どのようなフィールドにするのかによって、大きく異なってきます。例えば、フェンスの設置など手を付ける範囲を最低限にとどめ、セーフティーをイベント用のテントにしたり、トイレを仮設タイプにしたりするなどして、設備を簡易なものにする場合、造成費はほとんど掛からず、その他の費用も抑えられるでしょう。

ただし、魅力的なフィールドにするためには、多額の投資を行い、快適性やエンターテインメント性を高める施策が欠かせません。具体的には、セーフティーなどに使う建物を設置して水洗トイレやシャワー、更衣室を設けたり、遮蔽物を小屋など本格的なものにしたりすることが考えられます。

また、装備レンタル料については、1セット当たりの大まかな目安は次の通りです。

  • エアガン:2万~3万円(銃本体、バッテリーなど)
  • 迷彩服:5000~1万円(上下セット)
  • 小物類:2000~5000円(フェースガード、ゴーグルなど)

6)法規制

フィールドを開設するに当たり、特有の法規制はありません。

また、フィールドは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」の規制対象となる「5号営業(ゲームセンターなど)」には基本的に該当しません。ただし、念のため所轄警察署の生活安全を担当する部署に相談しておくと、間違いないでしょう。

アウトドア型フィールドを次に挙げるような場所に設置する場合、許認可を取り付けたり、転用の手続きを取る必要があります。

  • 市街化調整区域(都市計画法)
  • 保安林(森林法)
  • 農地(農地法)
  • その他開発が規制されている場所

そのため、フィールドの開設を予定している場所が決まり、大まかな計画が固まり次第、土地の登記簿を取得したり、市町村の建設担当部署に問い合わせたりして、必要な手続きを洗い出す必要があります。規制によって開発できないケースもあり得るため、早めの対応が欠かせません。

また、セーフティーなどとして使う建築物を新たに設置する場合、建築基準法などに基づく手続きが必要なため、併せて建設担当部署に問い合わせておきましょう。

そして、開設に関わる工事や開設後にトラブルとならないよう、説明会や見学会を行うなどして、近隣住民の不安を解消することが欠かせません。

運営に当たっては、条例等により18歳未満の使用が禁止されているエアガンもあることから、18歳未満の入場を規制したり、該当するエアガンを18歳未満には貸し出さないなどの対応が必要です。

7)利用者などへのヒアリング、専門家への確認が欠かせない

本章で紹介したフィールドの概要は、あくまで基本的なもので、立地や競合環境、ターゲット層、ターゲット層が求める設備、敷地に見合った適正なプレー人数などの見極めが重要です。近隣のサバイバルゲーム専門店にヒアリングしたり、サバイバルゲーム愛好家を招いて試遊会を開催したりして、利用者に選ばれるフィールドを構築できるようにしましょう。

また、土地開発や風俗営業に詳しい行政書士などの専門家とも相談し、トラブルなく開設できるようにしましょう。

以上(2019年8月)

pj50436
画像:pixabay

この会社を選ぶ意味を語れますか?/若手社員が採用できる、辞めない職場づくりのヒント(1)

1 ビジョン語りで優秀な学生を採る

ゆとりさとり世代、ミレニアル世代、デジタルネイティブ、SNS社会の住人――。

どれも今どきの若者を形容するキーワードです。究極の売り手市場といわれる令和の時代、そんな彼らの価値観や行動原理を理解することなしに採用成功は望めません。本稿では、拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』に記した若者を理解するためのキーワードをもとに、いま若手採用において、何が重要かを解説していきます。

今どきの若者がよく言う口癖に「それって意味あるんですか?」というセリフがあります。とにかく論理的、合理的な納得感が彼らの行動原理。意味と目的を理解できないと動きません。逆にその意味と目的に共感したら、大まじめに取り組みます。

就職先を選ぶ上でも、この「意味付け」という価値観が大きく影響しています。ですから企業としては、ビジョナリーな採用コミュニケーション戦略がより重要度を増しています。特に知名度の低い中小企業においては、ビジョン語りによる「意味」の提供は生命線となってくるでしょう。逆に「意味」の提供ができれば、優秀な学生を大企業からリプレイスできるジャイアントキリングにも期待が持てます。

2 親や友達に説明しなきゃいけない

彼らが、これほど企業選択に対する「意味付け」にこだわるのには、納得感以外にも理由があります。他人に、“なぜこの会社を選ぼうとしているのか”という理由を説明するための意味を欲しているのです。その筆頭が親です。オヤカクという言葉があるように、新卒で就職するにせよ転職するにせよ、いまや就活に親が口を出す時代。いまの若者たちは、親に対しての説明を意識せざるをえません。

また、いまの若者には多くの友達がいます。育ってきた中で知り合ったリアル友達だけでなく、SNSでつながったオンライン友達が圧倒的に増えています。その友達にも“なぜこの会社を選ぼうとしているのか”を語りたい、あるいは語る必要に迫られているのです。SNS上での彼らは、炎上したり悪目立ちしたりするのは困るけど、充実した自分を見せたい!他人に認められる自分でありたい!という欲求が人一倍強い世代なのです。

3 その会社に決めて「いいね」と言われたい

だから「そういう理由で選んだのなら分かる。いいじゃん。頑張ってね」と言われたいのです。逆にいうと、自分の友達が認めてくれないような就職先を選ぶというのは、相当勇気のいる選択なのです。超合理的な価値観を持つ若者からすると、すごく説明コストがかかるのです。それこそコスパが悪いじゃんということになってしまいます。

終身雇用が崩壊し、将来不安を抱える若者の人気企業ランキングにおいて、相変わらず大企業が上位にズラリと並ぶのは、その企業の安定性を買っているのではありません。だって一生勤め上げるという感覚は皆無なのですから。あのランキングには、就職先を選んだ意味の語りやすさ、周囲への説明のしやすさが反映されているといっても過言ではありません。

4 テクノロジー積極活用のススメ

また超合理的で生産性を極限まで追求する彼らは、時間のムダが大嫌い。最短ルートでゴールしたいと考えています。当然ながらデジタルツールを使うことは大得意です。こういった採用ツール(最近ではHRテックといわれます)を駆使することは、若手採用を成功させるもうひとつのカギといえます。

そういった観点から、若者への親和性があって時短を実現してくれる採用ツールをふたつ紹介しましょう。

まずは、オンライン自動面接日程調整システム。急速に進歩を遂げた「チャットボット」という技術によって、面接日程調整を完全自動化するサービスが台頭してきています。「チャットボット(Chatbot)」とは、チャット(会話)とボット(ロボット)を組み合わせた言葉で、人工知能を活用した「自動会話プログラム」のことです。

いまの若い世代は、LINEなどチャットでのリアルタイムなやりとりが当たり前。応募したものの「どうして返事するのに1日もかかるのか」というようなストレスを感じる人は、少なくありません。

一方で、採用業務に携わる担当者のデジタルリテラシーが高くないと、この手のHRテックシステムを駆使するのは難しいというのも事実。しかし最近では、機能充実より機能を絞って操作性をシンプルにするというサービスが増えています。

従来型の採用管理システムを導入していたあるアパレルチェーン。月間300~1000名の応募者をさばくために、1日3時間を費やしていた本社の採用担当者は、前述の面接設定に特化したシステムに乗り換えたことによって採用業務時間が半減したとのこと。

「生産性を高めるシステムって導入してみても、使いこなせないって、あるあるですよね。でも新しいシステムは触っちゃえばまあまあ簡単だったっていう感触。私の仕事はなくなっちゃうんじゃないですか?って思わず言ってしまったほどです」。そう話す担当者もいました。

5 YouTube世代にささる動画面接

面接をオンラインでやってしまいましょうというテックサービスも増えています。この動画面接システムも、面接にこぎつけるスピード感という面で非常に有効です。採用担当者の面接時間確保、応募者との日程調整だけでも大変な中、当たり前ですがリアルな面接では面接会場の確保も必要になります。全てが空いているタイミングを探すのに労力がかかり、なかなか面接をセッティングできずに終わってしまうケースも実際に多々起きています。

しかも、ライブ面接だけでなく録画面接という機能もあります。この機能を使えば、応募者がスマホで録画しておいた面接動画を、採用担当者が空いている時間にチェックすることが可能です。観たい時に映画を観るオンデマンドな動画サービスと同じです。これも忙しい採用担当者にとっては、非常にありがたい機能でしょう。

また応募者が遠方に在住している場合、面接に来てもらうのには、移動時間や交通費の面で大きな負担となります。その点、オンラインでの動画面接は場所の制約を受けません。日本全国(あるいは世界中)どこに住んでいても、面接が可能です。いとも簡単に時空を超えて面接できるというのは、応募者と採用担当者の負担を大幅に軽減することにつながります。

さて、利便性は理解できたとしても動画面接に踏み切れない理由があるとすれば、「やっぱり実際に会って面接しないと、応募者の人となりは分からないでしょ」という見極め問題でしょう。しかし考えてみてください。緊張感いっぱいの面接で自分を出し切ることって、なかなか難しいものです。特に最近の若者はリアルコミュニケーションが苦手。むしろYouTubeやTikTokに投稿慣れしている世代にとっては、動画による自己表現のほうがよっぽどリラックスして「素」を出せそうです。そう考えると、ガチガチに緊張して盛り上がらないリアル面接よりも、実は応募者のキャラを見極めやすいのかもしれません。

6 SNS世代を理解したリクルーティング戦略

生まれた時からインターネットがあり、多感な思春期にSNSというバーチャルな社会にデビューしたいまの若者は、もはやオンラインコミュニケーションのほうが得意。SNSで個人と個人が直接つながり、仲間関係が横に広がっています。そこでは年上も年下もなく、経営者でも会社員でも、外国人であっても、個と個でつながっています。

若者はそういった「ヨコにつながる仲間コミュニティ」の中で「バリバリ目立つのは嫌だけど認められたい」という葛藤を抱えながら、一方で「意味や目的のないムダな仕事はしたくない」合理性と生産性への強いこだわりを持っています。

そんな彼らの傾向を理解した上での採用活動を心掛けていただきたい。キーワードはビジョナリーなコミュニケーション&テックでのスピーディな採用です。

以上(2019年8月)
(執筆 平賀充記)

pj90140
画像:NDABCREATIVITY-Adobe Stock

【朝礼】答えはお客さまの中にある

6月になり、2019年上半期のヒット商品番付が公表されました。東の横綱には新元号「令和」が、西の横綱にはスマホ決済サービス各社が行ったキャンペーン「スマホペイ還元」が上がりました。

この他にも、各種メディアでは、改元のあった今年の上半期にふさわしい、新しい発想の商品やサービスが多数報道されました。例えば、普通は置いて使うはずのプリンターを、手で持って自分で動かせるものに変えた「リコーハンディープリンター」。ビルなどにあるのが一般的なオフィスを、エキナカに設置した「ボックス型シェアオフィス」。こうした、これまでの常識を変えたものが「新しい発想」として注目されたのでしょう。

社会や人々のライフスタイルがめまぐるしく変わりゆく現代では、商品やサービスもそれに合わせて進化させていくことが求められます。ただし、私は、「新しい発想」を生み出す源泉自体は、いつの時代も変わらないと思っています。

それは、「お客さまが本当に望んでいることは何かをとことん考え抜く」ことです。これは、かなり難しいことでもあります。本当に望んでいること、困っていることの多くは、実は本人も分かっていないからです。私の知っている経営者は、こう言っています。「本人も分かっていない、潜在的な本当の困り事を見つけて解決することが、自分の一生を懸けた仕事である」。そのため、彼は、使える限りの時間をお客さまと一緒に行動し、お客さまの話を聞くことに費やしています。

当社も同じです。お客さまが普段、どのようなことを考え、どのような行動を取っているか。喜びや悲しみを感じるのはどのようなときか。そうしたことを聞き、お客さまの表情をよく見て、そこから「本当に望んでいることは何か」を考え抜く。それこそが、私たちがやるべき一番大切な仕事です。

皆さん、ぜひ、お客さまの顔をよく見てください。連絡を取り、できるだけ直接会って話を聞きましょう。そうしなければ、お客さまの困り事を見つけることはできません。お客さまのほうから要望を言ってもらい、その後に対応するようでは遅いのです。言われてからやることは、作業にすぎません。しかし、言われるより前に実践すれば、それは、お客さまにとって「うれしいサービス」になるでしょう。

皆さんの中には、「お客さまと話をしているが、お客さまのことがよく分からない」という人もいるかもしれません。それは、お客さまの思っていることをしっかりと聞き出せていないからです。「なぜそうするのか、そう思うのか」「なぜ他の選択肢を選ばないのか」。こうしたことを質問し、お客さまの話はとことん掘り下げることが大切です。掘り下げた先に、きっと、お客さまの本当の思いが見えてくるでしょう。

「新しい発想」は、お客さまに思いを寄せ、考え抜くことで生まれます。いつの時代も、「答えはお客さまの中にある」と私は考えます。

以上(2019年7月)

pj16968
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】ビジネスの正解はあなたの情熱の中にある

先日、経営者仲間で食事をしたときに、話題になった質問があります。その内容は、「あなたが経営者ならば、A事業とB事業のどちらを選択しますか?」というものです。A事業は「社会的な意義が大きいが、もうからない事業」、B事業は「社会的な意義はないが、もうかる事業」です。皆さんの答えはどのようなものでしょうか。

この質問は、Google社が相手の視野の広さや柔軟性を知るために使うことがあるそうです。正解があるわけではありませんが、人によって答えに大きな違いが生じます。

ちなみに、私の答えは「A事業でもうかるように工夫する」というものでした。まず私の信条として、社会的に意義のない事業はやりたくありません。それに、A事業が本当に社会的に意義のあるものならば、いずれは世間に受け入れられる可能性が高いと思います。「もうからない」というのは、既存の参入企業を想定した情報かもしれませんが、そうであるならば、むしろビジネスチャンスが大きいと私は思うのです。

同じ類いの質問は他にもあります。例えば、「中小企業は大きな市場を狙うべきか? それとも、いわゆるニッチ市場を狙うべきか?」というのもその類いです。これらの質問で共通しているのは、絶対的な正解がなく、前提条件次第で有利な回答に変わることです。こうした質問を受けたとき、私が最も情けないと感じるのは、「前提条件が分からないから答えられない」という回答です。

このように回答する人は、いつまでも前提条件の提示を求め、結局、自分の答えを言えないものです。しかし、ビジネスは不確定要素だらけで、完全に前提条件が分かることはありません。

冒頭の質問は、いわゆる経営判断を求めるものです。では、私が何をもって意思決定したかといえば、最終的には自分の情熱なのです。もちろん市場調査はするでしょうし、これまでの経験も生かされるでしょう。しかし、リアルのビジネスではどの選択にも一長一短があることがほとんどで、99対1のように、分かりやすい差がつくことはまれです。となると、最後は自分の情熱で選択するしかないのです。言葉を変えれば、「どちらを『正解』にしたいか」を自分で決めるということなのです。この正解とは、皆さんの信念や夢に沿ったビジネスということになります。

皆さん、「こっちを正解にしたい!」という思いを持って活動してください。そのためには、世の中の大きなうねりを感じ、自分がビジネスの主人公になることです。試しに、A4用紙の中央に「自分」を書き、周囲に皆さんの仕事や業界の動きを書き込んでみてください。頭の中が整理され、重要なことは自然と大きく書くでしょう。そのたった1枚の図の中に、皆さんの仕事の喜びや苦しみが凝縮されています。それをじっくり見れば、「あぁ、自分がやりたいことはこれだ!」とおぼろげにでも分かってくるはずであり、それが皆さんの判断基準となるのです。

以上(2019年8月)

pj16969
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】頼れる人、頼れない人

今日は、皆さんに大事なことを質問します。皆さんには、困ったときに頼れる人はいますか。仕事のことでも、仕事以外のことでも、頼れる人がいるのといないのとでは、心の持ちようが大きく違います。

私には、困ったときに頼れる人が、何人かいます。そのうちの1人は、まだ20代の若者です。彼は、自身の専門分野に明るいのはもちろんですが、それだけではありません。人から相談されたときに、すぐに解決できないことでもゼロ回答とせず、一緒にどうにかしようとする姿勢や心意気を持っています。彼の真摯な姿を見ていると、感謝で胸がいっぱいになります。心が洗われ、自分自身も頑張ろうという気持ちが湧いてきます。

一方で、残念ながら「この人は、いざというときに頼れないな」と思う人もいます。何かを相談したりお願いしたりしたときに、リアクションが悪く、対応してくれる際も保身に走る言動が目立つような人は、「頼れない」と感じてしまいます。利害関係があれば、ある程度の保身は仕方がないのかもしれませんが、それがあまり目に付くようだと、信頼できなくなってしまうのです。

そうした頼れない人の言動を見ると、私は悲しい気持ちになるのと同時に、その人を反面教師にしなければと強く思います。皆さんは、こうした話をどのように感じますか。困ったときに頼れる人はいるか、そして、皆さん自身は、誰かの頼れる人になっているか。一度、考えてみてください。

頼れる人と頼れない人には、さまざまな違いがあります。分かりやすいのは、「相談を受けた際、どのような動きをするか」という点でしょう。

頼れる人は、すぐにリアクションをします。自身が今できることを考え、実践しようとするのです。たとえ今、本人にできることがなかったとしても、「この手段がよいかもしれない」「この人に聞けば分かる可能性がある」「こうした影響も考慮したほうがよい」と、前に進む提案や建設的な意見を相手に伝えられるのが頼れる人です。

一方、私の経験上、頼れない人は、自分から動こうとしません。「分かりません」「できません」「今は難しいです」と、できるだけ労力を費やさずに済まそうとします。こういうリアクションを取らせる関係を築いてしまった側にも責任はあるでしょう。しかし、こうした言動は、相手にあまりにも冷たく利己的な印象を与えます。そして、次第に相手からの信頼は失われていくのです。

頼れる人と頼れない人とでは、結局、「誠実さ」において違いがあるのではないかと私は考えます。相手の困っている状況や気持ちに寄り添い、誠実に向き合おうとすれば、人は自ずと、頼れる人の言動を取るものではないでしょうか。

例に挙げた20代の彼は、私が感謝すると、「いえ、自分はまだ、至らないところが多くて。もっと勉強します」と答えます。皆さんは果たして、そうしたことが言えますか。皆さん、ぜひ、私と一緒に、「頼れる人」になりましょう。

以上(2019年8月)

pj16971
画像:Mariko Mitsuda

【2019年8月改訂】改正民法を読み解くキーワード「社会通念」などの概念~民法改正と契約書の見直し(1)

こんにちは、弁護士の市毛由美子と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」では、2020年4月1日から施行される改正民法に伴い、契約書をどのように見直す必要があるのかについて、具体的に説明していきます。

今回の改正では、消滅時効、法定利率、定型約款などの債権に関する規定が見直され、1896年に現行民法が制定されて以来の大改正となります。企業は改正に備えて、自社の契約書の見直しなどを行っておく必要があります。

第1回は、改正民法において頻出する「社会通念」などの概念や、改正民法を踏まえて契約書上で明確にすべき点について扱います。

1 改正民法を読み解くキーワード

改正民法では、「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という用語が頻繁に使われています。改正法案について長年議論を重ねてきた法制審議会の記録を見ると、この「契約及び取引上の社会通念に照らして」という表現の採用に至るまでには、相当な議論を重ねたことがうかがえます。

そこで今回は、改正民法に共通する用語として、この「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念」が何なのかを説明するとともに、それが具体的な契約書にどう影響するのか、を説明したいと思います。

2 「契約の趣旨」と「社会通念」は対立する概念?

これらの用語について法制審議会(部会)では、特に履行不能や特定物債務の保存義務などについて、深く議論がなされてきたようです。

例えば、「履行不能」の判断基準としては、1.「社会通念上」不能といえるかという契約外在的基準と、2.「契約の趣旨に照らして」不能かという契約内在的基準があるとされています。

1.の「社会通念」とは、人間社会の暗黙の了解や、一般的に受け入れられている「常識」「良識」「見解」という意味で、社会共通の物差しのようなものです。

2.の「契約の趣旨」とは、「契約の目的、性質(有償か無償か等)、対象、当事者の属性、契約締結に至った事情その他契約に関する諸事情」を含む概念であると説明され、当事者の個別具体的な事情を意味する言葉とされています。

そうなると、「社会通念」は、「契約の趣旨」と対立する概念のようにも考えられますが、改正民法では、「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という表現を採用し、1.と2.を「及び」という接続詞で表現しています。

これは、契約の趣旨に照らして判断する際、当事者の個別具体的事情等の他、社会通念をも考慮して評価、判断する、すなわち、社会通念も考慮要素として取り込んだ契約の趣旨に照らして判断するという趣旨だと説明されています。なお、最終的な改正民法の用語は、単純に「契約」とされていますが、これは「契約の趣旨」と同義と考えてよいようです。

また、契約と併記されている「その他の債権(債務)の発生原因」とは、契約以外の債務の発生(例えば、交通事故等の不法行為による損害賠償債務)の場合を含むことを意味しています。

3 条文では

具体的に、「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念」などの文言が入った改正後の条文は次の通りです。

(錯誤)

第95条

1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

(特定物の引渡しの場合の注意義務)

第400条

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

(履行不能)

第412条の2

1.債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

(債務不履行による損害賠償)

第415条

1.債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(特定物の現状による引渡し)

第483条

債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

4 紛争予防のために契約書で明確にすべきこと

前述の通り「社会通念」は、社会で共有されている物差しのようなもので、個人の事情によってブレないことを前提とした概念ですが、「契約の趣旨」は個別具体的事情となりますので、当事者間でその認識や言い分が違うと、紛争の原因になる可能性があります。

そこで、「契約の趣旨」のうち、契約には必ずしも書かれていない「目的」「当事者の属性」「契約締結に至った事情」といったことも、契約書に確認的に書いておくことは、紛争予防や裁判時の判断要素の証拠として意味があるといえます。

ただし、日本の裁判では、自由心証主義(民訴法第247条)が採られているので、裁判官は、契約書に記載されていない事実も契約の解釈にあたり斟酌(しんしゃく)することができます。よって、契約書に書かれていない事情でも、裁判で判断要素として採用してもらえる可能性もないわけではありません。ただ、その事情の内容に争いがある場合には、契約書の記載があると証拠となりうるので、尋問その他の煩雑な立証の手間が省けるということです。

メールマガジンの登録ページです

5 英文契約書のWhereas Clauseは参考になる?

英文契約書では、日本語の契約書では通常見かけない長い前文があり、その中に、いわゆる「Whereas Clause」が記載されていることがあります。例えば、次のような契約に至った経緯や、当事者の立場・要望について記述がなされます。

WHEREAS, the Buyer desires to purchase a certain kind of materials for the Products, and, WHEREAS, the Seller is a manufacturer of such kind of materials, and desires to sell them,

Whereas Clause は、英米法系の契約固有の考え方や歴史に沿って書かれるようになったもので、それ自体で拘束力を持つものではないとされていますが、それでも、当事者の間で本契約の権利または義務の内容などに関する解釈や意見が異なったような場合に、解釈の基準ないしは参考として機能することがあります。これは、改正民法で、契約の解釈基準の1つとして明記された「契約の趣旨」に類似したものとなりますので、このような前文の記述も参考になるかもしれません。

6 事情を書く場合、有利にも不利にも働く可能性のあることに注意する

ただし、これらの事情を契約書の中に盛り込む場合、それが契約の解釈基準になるということは、当事者の立場によって、その記載が有利にも不利にも働く可能性がある点に注意を要します。よって、動機や経緯が書かれるのであれば、その波及効果について慎重な考慮を要すべき場合が出てくるのではないかと思われます。

例えば、離婚時の財産分与の契約において、一方当事者が財産分与は課税されないという認識に基づいて合意した場合、その認識が契約書上の経緯として記載されていることで、錯誤取消を主張される可能性があります。取消のリスクを回避するためには、一方が契約の前提として記載された認識自体が正しいかどうかの確認をしなければならないことになりますが、実際には、そのような確認が現実的でないまま調印に至るという場合も少なくないでしょう。

同様に、プログラムの開発契約で、発注者側のビジネス上の必要から、ある時期までに当該プログラムを稼働させることを希望している、とか、当該プログラムをある時期のイベントに利用することを目指している(「2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける普及を目的として」)等と記載されていると、何らかの事情でその時期を逃すと「履行不能」と解釈される可能性があります。

あるいは、ある特定物の売買契約の中で、その対象物のある機能に着眼して購入するというような経緯が書かれていると、売主はその特定物を買主に引き渡すまで、期待された機能を維持しなければ善管注意義務違反の責任を負う可能性があります。

もちろん、自由心証主義のもと、「契約の趣旨」だけでなく「社会通念」も判断基準として採用されるので、必ずそうなるというわけではない不安定さは残ります。そうであるなら、最初から契約書の権利・義務として明記することや、これ以上の義務は負わないということを明記する等、正面から多様な解釈の余地のない契約書を目指すほうが、法的安定性は保たれると考えられます。

次回は、債務不履行に基づく損害賠償請求について解説いたします。


あわせて読む
民法改正と契約書の見直し

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

普及が進むブロックチェーンの概要と事例

ビットコインなどの仮想通貨に使われている技術である「ブロックチェーン」。金融サービスにITを取り入れたフィンテック(FinTech)の普及に伴い、メディアなどでも取り上げられる機会が増えてきました。しかし、ブロックチェーンがこれほどまでに注目されている理由や、仮想通貨以外のユースケースについては知らない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、ブロックチェーンの概要などを解説した上で、国内外におけるブロックチェーン関連の取り組みについて紹介します。ブロックチェーンとは何かについてだけでなく、さまざまな分野におけるブロックチェーンのユースケースを知ることで、より身近なものとして、その可能性に触れていただければと思います。

1 透明性・堅ろう性・耐改ざん性を兼ね備えるブロックチェーン

ブロックチェーンは、もともとは仮想通貨ビットコインの中核技術として発明されました。ビットコインは暗号学者が情報交換をする米国のメーリングリストにおいて、2008年11月にサトシナカモトと名乗る人物によって投稿された「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題する論文で発表されました。

ブロックチェーンとは、簡単に言えば「情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種」とされています(総務省「情報通信白書平成30年版」)。

従来型の情報一元管理とブロックチェーンによる分散管理のイメージを示した画像です

ブロックチェーンでは、ネットワークに接続している複数のノード(端末)に同じ取引情報が記録されます。また、従来のサーバークライアント方式のように、サーバー側で取引情報を集約して管理する場合、そこが障害時の弱点(単一障害点)となり得ますが、ブロックチェーンであれば、複数のノードに障害が発生してもシステムを維持することができます。

実際に、取引情報が記録される際には、ある特定のノードが一定時間の間に処理された取引情報をブロックとしてまとめます。ブロックは圧縮されたファイルのようなものであり、ブロックとしてまとめられた取引情報は、その他の複数のノードによってその妥当性が承認されます。

さらにブロックには、ブロックが生成された時系列を表すタイムスタンプや、直前に生成されたブロック固有の不可逆な乱数であるハッシュが収納されています。そのため、過去に遡って誤った、あるいは悪意のある取引情報の入ったブロックとして記録しようとしても、ブロックに収納された前ブロックのハッシュやタイムスタンプが矛盾してしまい、妥当なブロックとして承認されません。データの改ざんが限りなく不可能であるといわれています。

ブロックチェーンの概念図を示した画像です

2 ブロックチェーンが活用されている分野

改ざんが難しく、透明性や堅ろう性を併せ持つブロックチェーンは、先述したビットコインのようなデジタル通貨をはじめとした、あらゆる資産のデジタル化の実現に寄与することが期待されています。決済、送金において電子マネーやポイントプログラム、SWIFT(スウィフト)などのソリューションが存在していますが、これらは基本的には各組織内のデータベースで管理されているものであり、複数の組織をまたいでデータを移転することができない、あるいは費用や時間がかかっていました。

しかし、ブロックチェーンでは、複数の参加者が共通のデータベースにアクセスすることができるため、組織あるいは国家をまたいだ安全でシームレスなデータ移転が可能になります。

また、ブロックチェーン上に契約データを記録し、自動的に実行することのできるスマートコントラクトの分野も注目を集めています。書面の代わりに、契約データをブロックチェーン上に記録すれば、その内容は決して改ざんされることなく、契約に関わる人物は皆が同じ契約データにアクセスすることができるようになります。さらに、現在は研究中の技術ですが、イーサリアムと呼ばれるブロックチェーン上でプログラミングのできるプラットフォームが確立すると、一定の条件を満たした場合に、あるアクションが自動的に実行されるような仕組みが実現します。

これにより、例えば家電の利用データについて、IoTと連携することで、自動的に家電メーカーに販売したり、各家庭がどれだけ節電に貢献しているかの情報を入手したりすることが可能になります。

現在、ブロックチェーンは次のような分野で活用が広がっています。

ブロックチェーンのユースケースとサービス事例を示した画像です

3 急拡大が予測されるブロックチェーン市場

あらゆる領域での応用が期待されるブロックチェーンへの投資は、今後数年で急成長すると予測されています。IDC Japanは世界のブロックチェーン関連支出額について、クロスボーダー決済、来歴管理、貿易金融/ポストトレード決済などの分野を中心に、2018年の15億USドルから2022年には117億USドルへ、また国内支出についても2018年の49億円から2022年に545億円へと急速に拡大するという予測を発表しています。

ブロックチェーン市場 支出額予測(主要地域別)を示した画像です

国内ブロックチェーン市場の支出予想額を示した画像です

それでは、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。国内外の事例を幾つかご紹介します。

メールマガジンの登録ページです

4 海外の事例

1)トレーサビリティ

インドネシアの繊維大手アジアパシフィックレーヨン(APR)は2019年5月に、シンガポールのブロックチェーン開発企業パーリンと共同で、同社製品の来歴追跡ができるブロックチェーンを基盤としたモバイルアプリのローンチを発表しました。

APRは、アジアで初めて再生可能な原料でビスコースレーヨンを製造する、完全統合型ビスコースレーヨンメーカーです。APRは自社のサスティナブルなサプライチェーンを証明するために、パーリンが開発するブロックチェーンソリューション“Perlin Clarify”を利用しアプリを開発しました。これによりAPRの顧客は植栽から出荷までの主な生産工程を監視することができます。

実際のアプリ画面を示した画像です

2)投票

2018年11月に米国ウエストバージニア州で行われた中間選挙で、投票者の投票内容をブロックチェーンサーバーに保管するという実験的な取り組みが行われました。この取り組みは、ウエストバージニア州で選挙権を有し、海外に駐留する軍人を対象にAndroidまたはAppleのスマートフォンアプリによる投票を許可し、投票結果をブロックチェーンサーバーのネットワークに保管する、というものです。

遠隔地に駐在する軍関係者にとって、安全な投票用紙を受け取り、それを郵送または電子的手段で期限内に返送するのは非常に困難であるなどの理由から、投票率は低迷していました。この取り組みはその状況を改善するために行われ、30カ国144人の軍関係者がスマホアプリを通じて投票を行いました。

5 国内の事例

1)アートワークの所有・売買

アニメやマンガ、ゲームなどのアートワークを所有・売買できるブロックチェーンサービスAnique(アニーク)は、2019年5月にアニメ「進撃の巨人」のアートワーク計26点のデジタル所有権の販売を発表しました。

デジタル所有権の保有者は、オーナーとしてブロックチェーン上に所有履歴が記録されます。絵画などと異なり、デジタル作品は実物を所有することはできませんが、オーナーにはIDが付与されることによりデジタル作品の所有を実現できます。

また、アートワークはデジタル資産として、プラットフォーム上で世界中の人と売買することができますが、その売買金額の一部は制作者に還元されるため、新たな作品が生まれ続けるエコノミーに成長していく可能性があります。

「進撃の巨人」アートワークのデジタル所有権証明書の画像です

2)電力取引

中国電力は2019年4月に、再生可能エネルギーで発電された電気を顧客間で融通するブロックチェーンを活用したシステムの実証実験を、日本IBMと共同で開始すると発表しました。再生可能エネルギーなどの分散型電源や蓄電池の普及拡大に伴い、将来的に個人や企業間で電力取引が行われる可能性があることから、取引記録の信頼性、システムの可用性等に優れるブロックチェーン技術を活用したP2P(Peer-to-Peer。顧客同士がやり取りする)取引の実験を行う予定です。

実証実験では電力を供給する顧客と購入を希望する顧客をマッチングし、模擬的な電力取引が行われる予定です。

ブロックチェーン技術を活用した電力融通システムの実証概要を示した画像です

6 ブロックチェーンの今後

ブロックチェーンは、ここ数年多くの実験や取り組みが行われ、ようやく幾つかの実用例、プロダクトが世の中に出てきました。その一方で、各国の規制や技術面での本質的な課題が残されており、根幹技術の研究開発も継続されている状況です。技術やコミュニティーが規制を変え、また規制が変わることによってブロックチェーンの活用分野が発展するという、まさに過渡期であるともいえます。今後ますますブロックチェーンによるイノベーションが期待されます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年7月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。