シェアリングエコノミーの先駆け、ライドシェアビジネスの現状

海外で広く普及しているライドシェア。UBER(ウーバー)にLyft(リフト)といった名前は、その時価総額の高さも相まって、日本でもよく耳にするようになりました。とはいえ、まだ日本においてライドシェアを経験したことのある人は少ないかもしれません。

ライドシェアとは何か。なぜ海外で人気なのか。「注目される民泊ビジネス」に続き、話題のシェアリングエコノミーに迫ります。

1 各国の交通事情

1)日本におけるタクシーの位置付け

日本における公共交通機関といえば、電車とバス。安い料金で、特に都心であれば本数もそれなりに多く、数多くの人の移動手段としてよく利用されています。一方で、タクシーは「困ったときに使う最終手段」という認識の方が多いかもしれません。それは、電車やバスに比べて乗車賃が高いから、という認識が根底にあるからで、便利さでいえばタクシーのほうが上かもしれません。

日本には、東京、大阪、名古屋などのように在来線、地下鉄、新幹線と多くの線が往き来する都市もありますが、地域によっては、電車やバスの本数が少ないところもあり、住民の主要交通機関はタクシーという場合があります。

2)海外におけるタクシーの位置付け

海外では都心であっても、電車とバスの整備がまだ進んでいない地域が多く存在します。中国を含む東南アジアなどでは、それが顕著な状態となっています。

一方で、大渋滞を引き起こしたり、排気ガスによる環境問題が浮上したりと、付随する問題が多く発生しています。また、自家用車を手に入れるには多額の資金が必要になるため、フィリピン、ベトナムなどの家庭の中には、1つのバイクに家族3人が乗っているようなところもあります。

大渋滞の中を自身で運転すること自体大変であり、特に大人数でのバイクの相乗りは危険でもあるため、タクシーに安く乗れるのならば、タクシーで通勤・通学したいというニーズが出てきます。環境の面から見ても、1台当たりの乗車人数が上がれば、走行車数が減りますので、渋滞緩和や排気ガス抑制につなげることができます。

3)タクシーが抱える課題

電車やバスのように大勢と乗車するものと違い、タクシーは閉鎖空間であり、行き先の権限が運転手にあることから、警戒心を抱く人もいます。日本では、タクシーに関する犯罪はなじみがないかもしれませんが、海外であれば、旅行客を狙った、法外な乗車賃の提示などが行われることもあるようです。

また、慢性的なタクシー不足から、街角でいわゆる流しのタクシーに乗車するのが難しいという地域も多数あります。

良い運転手を見極めて安心して乗車したい、適正な乗車賃で乗車したい、すぐにタクシーに来てほしい……こういったニーズから、タクシーの配車アプリやライドシェアのサービスが誕生しました。

2 ライドシェア

日本では、タクシーの配車アプリを利用したことがあっても、ライドシェアのアプリおよびサービス自体を利用した経験のある人は少ないかもしれません。一方、海外では人々の身近な交通手段としてライドシェアは頻繁に利用されています。

もともとライドシェアは相乗りを意味しますが、現在では必ずしも大人数での乗り合いを意味せず、タクシー業には必要とされる免許を持たない個人が、他人を乗せ、対価として金銭を受領する、すなわち業務として行う“白タク”の代名詞としても使われています。また、1人の運転手が、1台に複数の顧客を要所要所でピックアップする相乗り型のサービスも存在します。

従来の白タクといえば、無許可・無認可の素人がドライバーを務めていることから、タクシーよりも質が低いという認識が大勢でした。

それが、テクノロジーの進化で、アプリ上からドライバーのレーティングができるようになりました。レーティングが高いドライバーほど収入が高額になるため、サービスの質を高めようとドライバーの行動が改善され、タクシーと白タクの評価が逆転し始めたのです。

また、ライドシェアアプリでは、近くにいる運転手が応答して、指定した場所へ迎えに来てくれて、乗車賃もあらかじめ支払額が表示されているため安心感があります。クレジットカードを登録しておくことで、現地通貨の用意がなくても払えることや、現地の言語が話せなくとも、目的地はアプリを通じて運転手に伝わっていますし、運転手とのチャットアプリにおいても互いの言語に自動翻訳されるため意思の疎通が可能です。

一方で、個人が簡単に参入できるとなっては、既存のタクシー業界は自分たちの利益を奪われるのではと脅威に感じてしまいます。多くの国でタクシー業界による白タク反対運動が展開されており、移動手段の供給不足が深刻な国では社会問題になっています。

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3 海外での普及

1)米国

UBERとLyftという二大スタートアップが市場を占めています。UBERへは、日本のSoftBank社も投資を行って話題になりました。同社は世界展開を目指しつつも、中国を除くアジア圏ではシンガポールを拠点とするGrabが覇権を握り、日本では白タク規制で思うようにサービス展開ができないなどの苦戦も見られます。

ライドシェア事業は、レベニューシェア型の契約であり、各社の売り上げはドライバーの数に比例して増えます。そのため、プレーヤー同士でドライバー数を奪い合うことになりますが、時間当たりのドライバーへの利益還元率を高めることでドライバーを確保しようとすると、結果として乗車賃が上昇することになってしまい、それだと従来のタクシーに対し安い乗車賃というモデルが成り立たなくなってきます。

そこで、各社が取り始めている戦略が、自動運転への参入です。走行データ、データとマップのリンク、画像処理、特定の事象に遭遇した際に行う動作などをAIに覚えさせ、運転手がいなくても走行できる車が増えれば、利益が運転手に依存しなくなるためです。自動運転へはライドシェアの多くが調査・開発に乗り出しており、いずれ無人タクシーが広く普及する日もくるかもしれません。

2)中国

中国ではDiDiが最も有名でしょう。こちらも最近日本に進出し、タクシーを呼ぶアプリとして日本交通の展開するJapan Taxiとの戦いを見せています。

数カ月前には、運転手が乗客に性的暴行を加えた事件が中国で問題となり、DiDiに対する非難の声が上がったこともありましたが、DiDi側でも、運転手のレーティングなどを強化していく方針を打ち出したこともあり、すでに国民にとって必要不可欠なインフラとなりつつあるDiDiは、依然として利用されています。

3)アジア(中国以外)

東南アジアで広く普及しているのがGrabです。UBERとの戦いに勝ち、広くGrabブランドが普及しています。フィリピン、マレーシア、ベトナムなど多くのアジア圏で利用でき、同じアプリ、同じUXで使えます。

また、GrabはGrabPayと呼ばれる決済機能も備えています。乗車賃支払いのために登録したクレジットカードで、タクシー以外の店舗でも決済することができ、そのとき特別クーポンが使えることもあります。日本におけるSuicaのように、毎日使う交通系マネーは、他のところでも使いやすく、中国におけるAlipayやWechatpayのような役割も見せ始めています。

4  日本における展開

日本では、国土交通省が定める道路運送法という法律で、ライドシェアが禁止されています。また、日本では確かにタクシーの初乗りは世界的に見てやや高いものの、電車やバスが整備されていることや、タクシーの質が高く、ライドシェアがないと通勤・通学に支障があるという地域がそれほど顕在化していません。

2018年7月には、UBERが淡路島でタクシー配車アプリの実証実験を開始。既存団体の反対もあり、現状ではライドシェアはいずれも日本では運営できない状況となっています。また、UBERはハイヤーの配車アプリという位置付けでサービス展開をしており、DiDiはタクシーの配車アプリとして展開しています。

一方で、2018年秋の未来投資会議では、内閣府から次世代モビリティ推進の一環として、一部地域でのライドシェア(自家用車での有償運送)をやりやすくする環境整備の方針が出されています。規制が緩和されライドシェアが認められたとき、乗車運賃や既存の業者との拮抗具合がどのように変化するのかが注目されます。

無許可の個人が乗車の対価として金銭を受け取ることが禁止されているのであれば、金銭を受け取らなければいいという観点に立ったのが、nottecoというサービスです。これは無料のライドシェアで、行きたい目的地がある人と、その目的地まで運転する予定の人をマッチングする、ヒッチハイクのような仕組みです。ドライブが趣味な人と、遠方へ旅行したいけれども車が運転できない人などがマッチングしているようです。

配車アプリとしてはUBER、DiDiなどの他、日本交通が提供する全国タクシーなどがあります。これらのサービスはいずれも呼び出しをした場合、迎車手数料がかかりますが、フルクルというサービスでは迎車手数料がありません。ただし、同アプリでは、距離制限があるため、かなり近い距離にいるタクシーを呼び止めるといった形での利用となります。

5 今後の展開

国民や社会課題を救う手段の一つとして注目されるライドシェア。特に中国、東南アジア、インドなどではもはやインフラの一つといえるでしょう。

一方で注目されているのが、MaaS(Mobility As A Service)という流れです。MaaS は、ITを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、個人か法人かなどの運営主体にかかわらず、マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動)を一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ概念です。

例えば、既存の乗り換えアプリのように、A地点からC地点へ移動する際の最適経路を計算し、A地点からB地点は電車、B地点からC地点へはシェアサイクルといった組み合わせと価格を提示、そのアプリ内で決済までも完結できるというものです。

また、現在“ラストワンマイル”と呼ばれる、家から最寄り交通機関までの移動についても個人向けヴィークル(移動手段)の開発が進んでおり、身体障害者や高齢者の移動がより楽になることが期待されています。

一方で、運転・移動機能を持つものの走行については各国で規制があるため、例えば乗り捨てられるセグウェイを、企業の敷地内や大学キャンパス内などに設置するといった試みが始まっています。

MaaSの概念の中には自動運転も含まれており、トヨタ自動車の展開する「e-pallet Concept」といった構想が分かりやすい事例でしょう。ライドシェア、宅配など複数のサービス事業者が1台の自動運転車を相互利用したり、複数のサイズバリエーションを持つ自動運転車による効率的な輸送などを目指しています。

そうした中で、ライドシェアは、快適な暮らしへと進化していく途中にある存在といえるでしょう。日本での今後の動向が注目されます。

以上

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内部不正が発生する原因とは? 事例と対策方法について解説

ニュースなどで報道される情報漏えい事故には、企業に所属する従業員や元従業員、もしくは委託先の内部不正が原因となっているケースも少なくありません。

このような内部不正が発覚すると、社会的な信用が失墜し、取引先に関係を絶たれてしまうなど、企業の存続を揺るがしかねない大打撃となってしまいます。そしてそもそも、内部不正が生じるようなガバナンスの甘さを、経営者は許すわけにはいきません。

この記事では、内部不正はどのような原因から発生してしまうのか、また実際の事例と対策について紹介します。

1 内部不正の事例

まず、内部不正によって発生した代表的な事件の前例を3つ紹介します。

1)【事例1】元社員による営業秘密不正取得

家電量販店A社の元課長が、退職前に事務所のパソコンに遠隔操作ソフトをインストール。競合他社である転職先B社の業務用パソコンから遠隔操作をおこない、A社の営業秘密を入手したり、元部下の協力で情報を得たりしていました。

抜き出したデータは約200件にも及び、A社の住宅リフォーム事業の地域別売上や販売戦略、管理システムのマニュアルなどの内容でした。

このデータをもとにB社が同様の事業を立ち上げたため、A社が元課長とB社を刑事告訴するに至っています。抜き出したデータはB社の社内パソコンにA社の名前そのままのフォルダに保存され、一部は誰でも閲覧できる状態でした。

元課長は不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)容疑で逮捕され、懲役2年(執行猶予3年)・罰金100万円の判決を受け、有罪が確定しています。

調べに対し、元課長は「再就職先で格好をつけたかった」と供述したといい、B社としても中途採用制度がないなか、実績とノウハウを買っての異例の採用だったとのことです。

2)【事例2】職員による個人情報を含む行政文書の不正持ち出し

C県D市職員が、個人情報を含む行政文書約220万件を不正に持ち出し、自宅の個人パソコンで保管していたことが判明したとして、D市が謝罪しました。

同市によると、職員にはセキュリティ機能を搭載したUSBメモリを業務用に貸与しており、それを同職員が私的利用、庁舎のパソコンのデータを自宅のパソコン・ハードディスクにコピーしていたとのこと。

また、紙文書も原本とコピーを自宅に持ち帰っていました。持ち出した行政情報のうち約14万2000件のファイルに個人情報が記載されていました。

同職員によれば、動機は仕事や勉強に使いたかったとのことです。なお、これらの情報の外部流出は確認されていません。

同市では同職員に停職6カ月の懲戒処分を実施、同日付で刑事告発をおこないました。同月末に同職員は依願退職しています。

3)【事例3】委託SEによる個人情報漏えい

E社は、学生・子ども向け通信教育サービスを提供している大手企業です。E社は子会社のF社にダイレクトメールやイベントなどで収集した、個人情報を保管するデータベースの保守を依頼していました。

F社はこれをさらに複数社に再委託しており、このうち1社の委託社員であるシステムエンジニア(SE)が同データベースの保守管理業務に関わり、顧客情報をダウンロード、私用スマートフォンにコピー。

この個人情報を複数の名簿販売業者に売却し、これがさらに転売されて、競合他社である教育関係の企業など多くの事業者に渡り、使用されてしまいました。

流出したデータの内容は、E社に会員登録している子どもと保護者の氏名、住所や電話番号、生年月日や出産予定日などで、漏えい件数は約3504万件にも上りました。

結果、犯人として突き止めた委託SEが刑事告訴され、不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。その後の調べで、個人情報は複数ルートから約10社に漏えいしたことが分かりました。

また、重複分も含めて同SEは合計20回にわたり、延べ2億300万件もの個人情報を売却していたことが判明しています。

2 内部不正が発生する原因

では、内部不正はどのような原因から発生してしまうのでしょうか。実際のケースなどをもとに見ていきます。

1)内部不正の要因

内部不正には「技術的要因」に分けられます。人的要因とは文字通り人に起因することであり、技術的要因はそれを可能にしてしまうシステムの弱点などをいいます。

以降では、内部不正が発生してしまう人的要因に関して解説していきます。

2)内部不正した人・流出先の傾向

情報処理推進機構(IPA)が発表した2017年のデータによると、内部不正をした人、その流出先は次のようなケースが多いです。

内部不正した人の実態・情報流出先の実態を示した画像です

この結果によると、現職従業員等のミスや中途退職者(正規社員)による漏えいがワースト2となっており、その流出先は競業他社が最も多くなっています。

また、内部不正も情報の持ち出しのみならず、メールの転送や背任行為、システムの破壊といった妨害行為をおこなうケースも増加しているといいます。

3)内部不正を働く動機

故意に内部不正をおこなった人は、どのような動機でその行為に至ったのでしょうか。同じくIPAの公表したデータによると、次のような結果となっています。

●不正行為への気持ちを高める要因
1位:不当だと思う解雇通告を受けた 34.2%
2位:給与や賞与に不満がある 23.2%
3位:社内の人事評価に不満がある 22.7%
4位:職場で頻繁にルール違反が繰り返されている 20.8%
5位:システム管理がずさんで顧客情報を簡単に持ち出せることを知っている 20.1%

(出所:IPA「組織内部者の不正行為によるインシデント調査 調査報告書」より一部抜粋)

ワースト3を占めたのは、いずれも会社や上司への不満となっており、その報復として内部不正に至るケースが多いようです。

4)発生率を高める3要因

アメリカの組織犯罪研究者、ドナルド・R・クレッシーによると、内部不正は「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」という3要因がそろったときに発生するといわれます。

内部不正の発生率を高める3要因を示した画像です

動機・プレッシャー

不正行為を実行しようと思うきっかけ、原因となるもの。
例:人事・処遇への不満、金銭的な問題がある、高いノルマを課されたことへの不満やプレッシャー

機会

技術や組織のルール面などで、不正が容易におこなえる環境にあること。
例:システムの管理権限がある、長期間同じ業務を担当している、情報を持ち出せる環境にある

正当化

自分勝手な理由づけや都合のよい解釈、責任転嫁をすること。
例:正当に評価されない、自分の境遇は会社が悪いと思う

3 内部不正の対策

つづいて、内部不正を発生させないための対策について、基本的な原則を解説していきます。

1)内部不正を防ぐには3要因の低減が重要

前述のように3要因がそろったとき、内部不正が発生してしまいがちです。つまり、抑止するためにはこれらの3要因を低減することが重要です。

組織として能動的に低減させられるのが動機・プレッシャーと機会の2要因であり、例えば次のような対策をおこなうという方法があります。

「動機・プレッシャー」の低減

  • 職場環境の整備
  • 従業員の不満解消など

「機会」の低減

  • アクセス、操作ログの管理や暗号化など
  • 従業員のモニタリング、通報制度など
  • 内部統制、法令順守の強化など

「正当化」の低減

  • 誓約書や署名などを提出させる

2)IPAが定める3要因を低減するための5原則

IPAでは、犯罪学者のCornish&Clarkeが提唱した犯罪予防の理論をもとに、3要因を低減するための5原則を次のように定めています。

1. 犯行を困難にする、やりにくくさせる

対策を強化し、不正を難しくする

2. 見つかるリスクを高める→「機会」低減

監視・管理を強化することで、不正発覚のリスクを高める

3. 犯行のメリットを減らす、割に合わなくする

標的を隠す、排除するなどすることで、利益を得にくくする

4. 犯行をおこなう気にさせない→「動機」低減

犯行をおこなう気持ちにさせないことで抑止する

5. 犯行の弁明、言い訳をさせない→「正当化」低減

犯行をおこなう者が自らの行為を正当化する理由を排除する

(出所:IPA「組織における内部不正とその対策」を基に作成)


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4 【内部不正の対策】3つのケース別に紹介

つづいて、内部不正が発生しやすい具体的なケースをもとに、それぞれどう対策を講じるべきかを解説していきます。

1)【ケース1】システム管理者による不正行為

多くの権限を所有するシステム管理者は、不正行為をおこなった場合の影響が大きく、重大事故になりかねません。特に、次のような場合はハイリスクといえるでしょう。

  • 権限が1人に集中している
  • 重要情報へアクセスしているシステム管理者が特定できない
  • システム管理者の操作ログなどの監視をおこなっていない
  • 権限が必要以上に多くの従業員に付与されている(制限がない)

1.対策方法① 適切な権限管理

  • 権限が1人に集中しないよう分散する

システム管理者が1人の場合、管理者以外が操作ログの確認をおこなう。

  • システム管理者ごとにIDを割り当て、特定できるようにする

共有アカウントを使用しない。

  • 特権を用いる操作をできるだけおこなわない

特権が必要な場合に対象作業の申請、承認プロセスを厳密化、特権IDを一時的に発行するなど。

  • 相互にシステム管理者が監視をおこない、不正ができない環境にする

作業は複数人で立ち会う、別の管理者が作業内容・日時の記録された報告を確認するなど。

  • 必要最低限のメンバーに権限を付与する

2.対策方法② システム管理者の監視

  • システム管理者によるアクセス・操作ログを記録し、定期的にシステム管理者以外が監査

定期作業外の操作、作業申請外のアクセスがないかなど、システム管理者の上司や総括責任者、委託元の責任者などが確認。

  • 操作ログが記録されていることが確認できたら、業務担当者に連絡

2)【ケース2】退職に伴う情報漏えい

経済産業省「人材を通じた技術流出に関する調査研究」のデータでは、営業秘密を漏えいした者で最も多かったのが中途退職者です。従業員の「転職」「契約期間の満了」の前後は特に注意する必要があります。

1.対策方法① 退職前の監視強化

従業員のパソコンなどを退職の数週間前からシステム管理部門などの管理下に置く。「監視されている」と意識させることが不正の抑止力になる。

  • 退職の数週間前から重要情報へのアクセス権、USBメモリなどの利用に制限を設ける
  • 退職する従業員のメールのやり取り、印刷やUSBメモリのコピーなど、情報の持ち出しに関する操作ログを監視する

2.対策方法② 退職時の手続き

従業員が退職後に重要情報を持ち出せないようにし、競業他社に営業秘密などが漏えいしないための対策を講じる。

  • すみやかにアカウント情報、管理権限などを削除する
  • パソコンなど貸し出し機器、入館証の返却
  • 自社の情報を他社に漏らさないよう「秘密保持契約」や誓約書などを取り交わす(どの情報が契約対象になるか明確化が必要)
  • 重要な情報を扱う従業員とは「競業避止義務契約」を締結する手段もある(ただし職業選択の自由を侵害しない範囲)

3)【ケース3】職場環境に起因する不正行為

従業員が不正行為をおこなう動機になる不満を与えないためには、職場環境の整備が重要になります。まず前提として、危険要因となるのが次のような不満です。

  • 人事評価に関して不満がある
  • 単独での作業が多い
  • 特定の従業員が特定の業務を長期間担当している
  • 特定の従業員のノルマが過大になっている
  • 業務の悩みが誰にも相談できない環境、孤立

1.対策方法① 公平な人事評価

  • 人員配置・配置転換を適切におこなう
  • 客観的かつ公平な人事評価の制度を設け、その内容を従業員が納得できるように説明をおこなう

2.対策方法② 適正な労働環境

  • 業務負荷が特定の従業員に対して極端に大きい状態を改善する
  • 勤務時間・ノルマを適正化する

3.対策方法③ 良好なコミュニケーション

  • 業務の支援や上司・同僚とコミュニケーションを取りやすい環境に整備し、気軽に悩みなどを相談できる状態となるよう推進していく

5 まとめ

内部不正は「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の3つが主な要因となり、これらを低減することで、内部不正が起こりにくい環境にできるということを解説しました。

しかし、従業員は何が引き金となって、不正行為を実行に移してしまうか分かりません。日ごろから社内の状況を把握できるようにし、自社に合う適切な制限・監視などをおこない、対策を講じていくことが非常に重要といえるでしょう。

以上

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損益計算書(PL)から読み取る経営情報

第2回では、「損益計算書」を取り上げたいと思います。損益計算書を読み、その会社がどのように利益を稼いだのか、またはなぜ損失を被ったのか、それぞれの要因を詳細に把握することで、現状の確認と経営改善が図られます。

なお、貸借対照表の読み方については第1回の「貸借対照表(BS)から読み取る経営情報」を参照ください。また、これら財務諸表のつながりを確認したい場合は、「財務3表のつながりと、キャッシュフロー計算書の読み方」を読んでみてください。

1 損益計算書の基本

損益計算書(PL)とは、会社の稼ぎ方(収益)と収益を得るための工夫や犠牲のコスト(費用)を一覧にした書類です。経営活動でもうかる(Profit)科目と損する(Loss)科目を一覧にした利益の計算明細書なので、Profit & Loss Statement(プロフィット&ロスステートメント)と呼ばれています。

損益計算書のポイントを示した画像です

損益計算書を見ることで、経営活動の詳しい内容とともに、1事業年度中の経営の結果、「もうかったのか」あるいは「損したのか」が分かります。

2 損益計算書の「収益」とは?

収益には、本業での売上高である「営業収益」、財務的な稼ぎである「営業外収益」、巨額で臨時的に発生する「特別利益」の3つの種類があります。

営業収益には、定款に記載している事業目的から実現した売上が計上されます。売上には、商品や製品の売上高やサービス(役務)提供による売上高、業種によっては手数料収入なども含まれます。売上高は、会社の販売戦略の結果が表れる数字です。

例えば、「プレミアム商品の限定販売」という戦略で高付加価値商品を限定数量だけ市場に提供したり、「薄利多売」の戦略で価格を抑えた商品を大量に流通させたりすることで、売上アップを図るなどの方策が考えられます。まさに、会社の販売方針と市場戦略の成果が売上高であり、マーケティング力が問われます。

3 損益計算書の「費用」とは?

費用には、「売上原価」「販売費及び一般管理費」「営業外費用」、当期だけの臨時で巨額な「特別損失」、そして当期の所得に対する「法人税、住民税及び事業税」という5つの種類があります。

売上原価とは、売上計上した商品の仕入原価および製品の製造原価です。

製造業では原材料を仕入れて自社の工場で加工製造し、または外注加工先に製造を委託します。そのため製造業の損益計算書には、材料費、外注費、労務費および経費など製造原価についての計算明細書である「製造原価報告書(Cost Report、略してCR)」を作成して添付します。

販売費及び一般管理費は、製品を販売したり会社を管理したりするための諸経費であり、販管費(はんかんひ)と略して呼称されます。

営業外費用は、支払利息、為替差損、手形売却損などの財務的な金融上の費用です。

特別損失には、固定資産売却損、投資有価証券売却損、災害損失などが計上されます。


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4 損益計算書の「利益」とは?

損益計算書では、収益と費用を対応させることで「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「当期純利益」という性質の異なる4種類の利益が表示されます。

売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いた利益で製品力の高さを表します。なお、金融・サービス業などの原価がない商売を営む会社の損益計算書では、売上総利益が表示されない場合もあります。

営業利益は、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた「本業」によるもうけを表します。

経常利益は、営業利益に営業外収益を加算し営業外費用を差し引いたもうけであり、財務力も考慮に入れた「実力」といえるもうけを表します。

当期純利益は、経常利益に当期だけの特別な損益科目と法人税等の負担額も計算に入れた当期の「最終」のもうけを表します。

損益計算書を見ることで、どのような経営活動で収益を稼ぎ出し、どの程度の費用を負担しているのかが分かります。

5 損益計算書は「分解」して見る!

損益計算書の数字は分解することで「強み」と「弱み」が明らかになり、弱い点を改善するための糸口を見つけることができます。

例えば、売上高は製品別、得意先別、事業所別に細分化した金額を見ます。

また、「売上高(Sales)=価格(Price)×数量(Quantities)」に分解できるので、売上高がダウンした場合でも、価格が下がったことによる売上減少と、数量の減少による売上減少では、打つべき対策も違ってきます。

価格が下がった場合には、戦略的特売セールの結果なのか、単なる値引き販売のしわ寄せなのか、その原因を調べます。数量については、受注件数、得意先の数、イベント数、商品の販売数などの視点で細かく展開して増減の原因を探る必要があります。

売上高をアップさせるためには、「値引きせずに売る努力」と「リピート客の確保」の両方を心掛けることが、基本の戦略となります。

6 損益計算書は「百分率」で見る!

損益計算書を見るときは、売上高を分母(100)として利益と費用を「百分率(%)」に換算します。

売上高100のうち利益額の占める割合である利益率(=利益÷売上高)を見れば、「もうける力」が分かります。利益率が高いほど収益力の高い会社となります。

例えば、「経常利益1億円」である場合にも、「利益率(=経常利益÷売上高)」を見ることが重要です。経常利益の金額の大きさだけでは経営状況が良いのか悪いのか判断できません。「利益率」を見ることで経営規模の違う会社と同じ尺度で比較できます。

売上高が10億円で経常利益が1億円である会社の経常利益率は10%です。ところが経常利益が同じ1億円でも、売上高が20億円である会社の経常利益率は5%になります。経常利益の金額が同じであっても、実力が同じとは限らないのです。

また、売上高に対する費用の比率をチェックすれば、「費用の無駄遣いがないか」を確かめることができます。利益率と費用率は裏返しの関係なので、利益率を高めるには、費用の負担率を下げる経営努力が求められます。

7 損益計算書は「単位当たり」で見る!

売上高や経営規模の違いがある会社でも、「1人当たり」「1時間当たり」「1平方メートル当たり」という単位当たりの数字ならば、同じ土俵で比較できます。

例えば、「1人当たり売上高」「1人当たり利益」「1人当たり付加価値額」などの計算結果で、人的生産性を評価することができます。利益額が同じ2億円であっても、従業員50人のA社と、従業員100人のB社とでは、生産性の高さが違います。1人当たり利益で見ると、A社の400万円に対して、B社は200万円と半分の結果になってしまいます。A社のほうが効率的にもうけているといえます。

以上

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財務会計とは/財務会計と管理会計の違いで確認

友人から、「事業を始めるので100万円の資金を提供してほしい」と言われました。その友人いわく、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」とのこと。あなたがそれを信用した場合、友人に資金を提供しますか?

今の100万円と5年後の100万円の価値が同じであれば、資金を提供してもよいでしょう。しかし実際は、今の100万円は5年後の100万円に比べ価値がある、すなわち、貨幣には時間的価値があると考えます。これが「現在価値」の考え方のポイントです。


財務・会計の基本が分かる

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1 財務会計と管理会計とは?

財務会計とは、企業外部の利害関係者に対して、過去の財政状態や経営状況を示すために行われるものです。一定のルール(会計制度)に基づき比較可能性を担保した状態で財務諸表などを作成、公表します。企業外部の利害関係者に対して公表されるものであるため、内容の正確性が重視されます。集計単位は、企業単体やグループ中心となります。

一方、管理会計とは、企業内部、特に経営者が、経営の意思決定に使うことを目的としたものであり、将来志向の強いものとなります。企業内部で利用される管理会計は、経営者が欲しい情報を反映させるため、企業ごとに内容が大きく異なり、規制されるルールも特にありません。経営者の意思決定のためにタイムリーな情報提供が必要となるため、迅速性が重視されます。集計単位は、企業単体やグループ中心だけではなく、事業別・部門別・地域別などとなります。

財務会計と管理会計の特徴をまとめると次のようになります。

財務会計と管理会計のそれぞれの特徴を示した画像です

ここからは管理会計に注目し、「現状分析」「業績管理」「意思決定」の3つの視点でポイントを整理していきます。

2 現状分析

1)収益性・成長性の分析

収益の向上は経営の大きな目的の1つです。経営資源を効率的に回し、成果を得ることができているかどうかを把握することが必要であり、具体的には、売上高や売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高当期純利益率の推移や傾向を分析します。

2)安全性・キャッシュフローの分析

安全性の観点で特に重要となるのがキャッシュフローです。黒字倒産という言葉があるように、利益が出ていても資金がショートする恐れがあるからです。キャッシュフローの分析では、全体、あるいは項目別(営業・投資・財務)キャッシュフローの増減分析だけではなく、営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー÷売上高)で、売上高からどれだけのキャッシュを生み出しているのかを売上高営業利益率と比較して把握します。

また、運転資本の増減推移による分析などで「日々の資金繰りが問題なく行えていけるか」、自己資本比率・流動比率や固定長期適合率などで「資産・負債・純資産のバランスに違和感がないか」、債務償還年数(有利子負債÷営業キャッシュフロー)などで「長期的な借入金の返済にも耐えられる体力が企業にあるか」を分析します。

3)生産性・効率性の分析

生産性の分析では、主により少ない資源でいかに多くのアウトプットを生み出しているかどうかを把握します。具体的には1人当たり売上高や労働分配率の推移を確認し、人員の増加がしっかりと企業の成長につながっているか、より効率的に収益を上げるためにはどうするかなどを分析します。特にサービス業ではこの指標をより良くすることが必須となっています。

3 業績管理

1)業績管理の概要

主に現状分析で把握した情報を基にしながら、利益とキャッシュフローによる業績管理を行います。自社の利益構造を分析して、企業を取り巻く環境の変化に対応しながら、目標達成のための年間予算や複数年の利益目標などを設定します。業績管理ではさまざまな手法が用いられますが、損益分岐点分析と変動損益計算書が基本的な手法です。

2)損益分岐点分析

損益分岐点分析では、売上高の増加とともにどれくらいの利益が確保できるのか、固定費の回収ができる売上高である損益分岐点売上高(固定費÷限界利益率)がいくらなのかを把握します。限界利益率とは、売上高に占める限界利益の割合です。限界利益は、売上高から変動費を差し引いたものであり、文字通り、限界の利益となります。

売上高の変動幅や会社の成長性によって固定費と変動費の適切な割合は変化しますが、一般的に損益分岐点比率(損益分岐点売上高÷売上高)が80%以下であれば優良とされています。

3)変動損益計算書

変動損益計算書とは、費用を固定費と変動費に分けて作成する損益計算書のことです。損益分岐点分析で全体の状況を把握した後、部門別に固定費の回収ができているかを確認するため、部門別の変動損益計算書を作成します。これを基に、利益の源泉を把握して、成長のために経営資源をどこにどれだけ投入するか検討します。部門別損益計算書の例は次の通りです。

部門別損益計算書を示した画像です

この部門別損益計算書を基に部門別変動損益計算書を作成すると、次のようになります。

部門別変動損益計算書を示した画像です

4)その他の業績管理のための手法

損益分岐点分析や変動損益計算書の方法の他にも、業績管理にはさまざまな手法が活用されます。例えば、バランススコアカードやABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)などがあります。

詳細な説明は省略しますが、バランススコアカードとは、企業のビジョンや戦略を明確にした上で、それを実現するために必要となる要素を「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「成長と学習の視点」の4つの視点で整理し、管理を行っていく際のフレームワークです。

また、ABCとは、特に製造間接費の正確な把握に効果がある原価計算の方法で、原価管理や利益管理に際して有益な情報を提供してくれます。

こうした手法を活用することは有益ですが、相応の手間がかかります。自社における導入効果を見極めつつ、活用を検討する必要があります。

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4 意思決定

意思決定は大きく2つに分かれます。1つは、前述した現状分析や業績管理などを基に、PDCAサイクルを回すなかでの短期的、日常的な意思決定です。例えば、図表3の部門別変動損益計算書を基に、「売上高に正比例する限界利益が大きいB部門を強化する」「部門別利益の段階でマイナスとなっているC部門について、コスト削減を図る」といった意思決定が該当します。

もう1つは長期的な将来にまで影響を及ぼす設備投資やM&Aなどの意思決定です。これらは、金額や経営に及ぶ影響が大きく、不確実性の高い判断となるため、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を活用し、投資金額の決定や投資回収のシミュレーションを慎重に行いながら意思決定を行います。


財務・会計の基本が分かる

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「現在価値」が分かればファイナンスの基本が分かる

友人から、「事業を始めるので100万円の資金を提供してほしい」と言われました。その友人いわく、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」とのこと。あなたがそれを信用した場合、友人に資金を提供しますか?

今の100万円と5年後の100万円の価値が同じであれば、資金を提供してもよいでしょう。しかし実際は、今の100万円は5年後の100万円に比べ価値がある、すなわち、貨幣には時間的価値があると考えます。これが「現在価値」の考え方のポイントです。


財務・会計の基本が分かる

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1 「現在価値」の考え方

1)貨幣の時間的価値

時間的価値を学ぶ前提として、複利計算について説明します。複利計算とは、現在の100万円が5年後にいくらの価値になるかという将来価値に換算する方法を指します。将来価値とは、以下のような式で計算することができます。

将来価値の計算式を示した画像です

PV:現在価値
i:金利
n:年数
FVn:n年後の将来価値

仮にあなたは友人に100万円を提供せず、代わりに年10%の利率の金融商品に投資したとします。100万円を引き出さずそのまま運用を続けた場合、5年後に得る金額は以下のように計算できます。つまり、この場合の将来価値は約161万円ということです。

将来価値の計算式を示した画像です

2)現在価値の計算式

今度は逆の考え方をしてみましょう。つまり、5年後の100万円が、現在いくらの価値を持つのかということであり、これが現在価値という考え方になります。現在価値は以下のように計算することができます。

将来価値の計算式を示した画像です

100万円が年10%の利率で殖えると、5年後には約161万円になります。逆に言うと、5年後の約161万円を年に10%の利率で割り引いたものが現在価値となります。ここで年に10%で割り引いている率を割引率といい、将来の金銭を現在価値に換算する1年当たりの割合をいいます。
冒頭の例に戻りましょう。友人に資金を提供すると5年後に100万円が返ってきます。この5年後の100万円にいくらの価値をつけるべきなのか。この場合の現在価値は以下のように計算することができます。

現在価値の計算式を示した画像です

約62万円が5年後の100万円の現在価値となります。そのため、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」という友人に対して、あなたが提供できる資金は、最大で62.09万円までと考えることもできるのです。

2 「割引率とリスク」の考え方

ここまでの前提は、友人から100%の確率で100万円が返ってくるものでした(以下「シナリオ(1)」)。では、友人の事業が成功する確率は50%で、仮に失敗した場合は1円も返ってこないとしたら、あなたはいくらの資金を提供するべきでしょうか。支払いの不確実性(リスク)がある場合は、リスクに応じて割引率を調整し、投資の金銭的価値にリスクの影響を織り込みます。

シナリオ(1)の5年後に100万円の支払いが確実な場合(リスクがない場合)には、割引率が10%で、現在価値は62.09万円でした。一方、友人の事業が50%の確率で失敗する、つまり50%の確率で何ももらえないという前提で、シナリオ(1)と同様の5年後に100万円という期待値を達成するためには、残り50%の確率で200万円が必要になります(以下「シナリオ(2)」)。

2パターンのシナリオで5年後の支払額を示した画像です

ここで、5年後の200万円の現在価値が、シナリオ(1)の現在価値である62.09万円になるような割引率を、現在価値の計算式を利用して求めると、以下のように26.36%という高い値になります。

シナリオ(1)の現在価値の計算式を示した画像です

シナリオ(1)の割引率の計算式を示した画像です

そのため、100%支払いが確実な金融商品と、50%の確率で事業に失敗する友人の事業への投資の差を割引率の差として算定すると、10%と26.36%の差として表現できます(リスクの数値化は、実際にはより複雑な検討が必要となります)。

3 「継続価値」の考え方

新たに、毎年継続的に100万円の資金を受け取れる金融商品について検討してみましょう。この金融商品の現在価値は、以下のように1年ごとに得られる100万円の現在価値を計算し、合計することで算出できます(割引率は10%と仮定しています)。

1年ごとに得られる現在価値の計算を示した画像です

上記の計算式を解くと、以下のような簡単な式になります。

1年ごとに得られる現在価値の計算式を示した画像です

つまり、毎年100万円の資金を受け取れる投資の価値は、毎年受け取る資金を割引率で割った金額となります。

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4 「企業価値」の考え方

現在価値の考え方は、企業価値を評価する際にも使えます。企業価値とは、その企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値といえるからです。例えば、毎期100万円のキャッシュフローを継続的に生み出すことを期待される企業があるとして、実際にそうならないリスクを考慮した割引率を10%と仮定した場合、その企業の価値は、以下の式で計算することができます。

毎期100万円のキャッシュフローを生む企業の割引率10%の場合の企業価値の計算式を示した画像です

また、この企業が生み出すキャッシュフローが毎期継続的に5%ずつ成長すると考えた場合には、以下のような式で現在価値を計算することができます。

毎期5%成ずつ成長する場合の企業価値の計算式を示した画像です

上記の計算式を「継続価値」と同様に変形していくと以下の通り、簡単な式で現在価値を計算することができます。

毎期5%成ずつ成長する場合の企業価値の計算式を示した画像です

5 企業価値と密接に関係する資本構成

企業価値は、資本構成によって左右されます。元本返済を約束していない資本による調達の利回り(割引率)は高くなります。それに対して、借入金で資金調達した場合の利回り(割引率)は、元本返済を約束しているため低くなります。しかし、過度に負債を利用すると倒産などのリスクが高まるため、割引率が高くなり、企業価値を毀損することになります。これらの結果として割引率が変動するため、資本構成は企業価値に影響を与えるのです。

負債利用と企業価値の関係を示した画像です

ここで、割引率が変動した場合、企業価値がどの程度影響を受けるのかを検討してみましょう。毎期100万円のキャッシュフローを継続的に生み出す企業があったとします。その企業の企業価値は割引率によって、以下のように変動します。

割引率と企業価値を示した画像です

このように、資本構成が変動すると割引率も変動します。そのため、同じキャッシュフローを生み出している企業でも、企業価値が大きく異なる結果となります。

企業のライフサイクルや業種にもよるため一概には言えませんが、一般的に自己資本比率40%以上、フリーキャッシュフローで10年以内に返済できる規模が、財務健全性の観点からは望ましいといわれています。現在価値を利用した投資判断に加え、企業のステージやビジネスの安定性を考慮して、最適資本構成を検討することが望ましいと考えられます。

さらに、企業価値は投資の影響も強く受けると考えられるため、有利な投資機会が生まれたときに、必要な投資金額を機動的に調達できるようにしておくことが望ましいでしょう。企業のステージやビジネスの安定性なども考慮し、企業価値を最大化できる財務戦略の構築が不可欠です。


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貸借対照表(BS)から読み取る経営情報

ビジネスを進める上で、決算書を読みこなし、経営状況を分析する能力は必須です。今回の連載では、主要な決算書である貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方と生かし方の基本を解説します。

多忙な経営者は、決算書をじっくり読み込む時間が取りにくいかもしれません。しかし、自社や取引先の財務状況は健全であるか、業績が良好であるか、資金繰りの安全性は高いか、将来の発展のために投資を怠っていないかなどを決算書から読み解くことは大切です。

第1回は、貸借対照表の読み方のポイントを紹介します。なお、第2回は「損益計算書」、第3回は「キャッシュフロー計算書」を取り上げます。これら財務諸表のつながりを確認したい場合は、「財務3表のつながりと、キャッシュフロー計算書の読み方」を読んでみてください。

1 貸借対照表の基本

貸借対照表(BS)とは、会社が所有するプラスの財産(資産)、マイナスの財産(負債)、そして資産と負債の差額である純資産を示す書類です。決算日における財産の残高(Balance)表なので、Balance Sheet(バランスシート)と呼ばれています。

また、貸借対照表は、お金の使い方(運用)と集め方(調達)を表す「お金の貸し借りの明細書」でもあります。運用を表す資産の額は、調達を表す負債と純資産の合計額と同額であり、貸借の金額が一致します。

貸借対照表のポイントを示した画像です

貸借対照表を見れば、「どれほどの資産を保有しているか」「借金が多すぎないか」「全ての資産を売却して負債を返済すれば、差額の純資産はいくら手許に残るか」「お金の使い方と集め方のバランスが崩れていないか」などの財産状況が分かります。

2 総資産(=総資本)で経営規模をつかむ

まず、貸借対照表は総資産(=総資本)の大きさで会社の財務的な経営規模を見ます。

総資産(=総資本)が大きい会社は、多額の資産を保有して、あるいは多額のお金を投入しているということであり、経営規模が大きいといえます。

しかし、総資産が大きいだけでは優良企業とはいえません。保有している総資産(=総資本)を有効に活用して、多くの売上高を稼ぎ出し、きっちり利益を計上することが大切です。たとえ総資産は小さくても多くの売上を稼ぎ出す会社は、「無駄な資産を抱えないで、大きく稼ぐ」効率的な経営を実践している会社といえます。

効率的な経営が実践できているかどうかチェックするための指標は、「総資産回転率(=売上高÷総資産)」です。総資産回転率とは、総資産(=総資本)の何倍の売上を稼ぎ出しているか、言い換えれば、1年間の売上で何回、総資産を回収できたかを表す経営指標です。

お金のことは「お足」ともいいます。お金は滞留することなく、会社の周りをグルグルと勢いよくまわっていることが望ましいのです。そのため基本的には、回転率が高い会社ほど、効率的な経営ができている会社であると評価できます。

3 お金の集め方に無理はありませんか?

貸借対照表の右側に表示されている負債と純資産の大きさを比較することで、お金の集め方の健全性を見ます。経営分析において、負債を他人資本といい、純資産(純資産合計から新株予約権と非支配株主持分を除く)を自己資本といいます。

このうち自己資本の割合を見る指標が、「自己資本比率(=自己資本÷総資本)」です。自己資本比率が高いほど、お金の集め方が健全で他人資本への依存度が低いといえます。なぜなら、自己資本は他人資本と違い返済義務がないからです。

どの会社も借入金以外に、商取引での仕入債務や未払税金、将来の退職給付債務などを抱えているでしょうから、他人資本をゼロにはできません。とはいえ、総資本に占める負債(他人資本)の額は半分(50%)以下に抑えておきたいものです。

業種や業態、経営規模を問わず、自己資本比率が高い会社とは、過去から自己資金での決済が可能な取引を通して、着実に利益を蓄積してきており、身の丈に合った堅実経営を継続してきた証しです。


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4 資金調達コスト0円のお金の集め方とは?

自己資本は、株主から払い込みを受けた資金である資本金および資本金へ組み入れなかった資本準備金や、過年度の利益の蓄積である利益剰余金などで構成されます。

自己資本とは、原則として、返済する必要のないお金の集め方ですが、資本金を払い込んでくれた株主に対して、支払配当金という資金調達コストがかかります。しかも、支払配当金は費用ではなく、法人税等を支払った後の利益の分配であるため、法人税等の計算上、考慮されません。

一方で、借入金に対する支払利息は、損益計算書の費用に計上されることで、法人税等の納税額が減るという税金の減額効果があります。税負担を考慮に入れると、支払配当のほうが支払利息よりも高コストとなる場合もあります。

自己資本のなかで資金調達コストが不要なのは、自社の利益の蓄積である利益剰余金となります。

5 流動資産は1年以内にお金になりますか?

貸借対照表の流動資産には、正常な営業活動での受取手形と売掛金、棚卸資産の他、おおむね1年以内に資金化できる資産科目が表示されます。

受取手形と売掛金は、製品や商品に係る売上代金の未回収額です。売上高を回収する権利という意味で「売上債権」と総称します。なお、売上債権のうち、得意先の経営状況により回収が困難となった債権は「破産更生債権」として固定資産に計上します。

また、「棚卸資産」は、決算作業のときに倉庫や店頭の陳列棚から卸して数と品質をチェックすべき資産の総称です。貸借対照表では、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの業種ごとに、より分かりやすい具体的な科目で報告します。棚卸資産は、いずれ顧客・消費者などに売って売上の基になる資産です。

棚卸資産は商売のために必要不可欠ですが、油断をすると過剰在庫を抱えやすいものです。在庫と売上は基本的に連動した関係にあるため、適正在庫であるかどうか、月々の売上高と比較してみることも大切です。

もしも売上が伸び悩んでいるのに、在庫が増加しているならば、滞留在庫や死蔵在庫(売り物にならない在庫)が増えている恐れがあります。

6 固定資産への無駄な投資はありませんか?

固定資産へ投入したお金(以下「投下資金」)は、1年を超えて長期に運用することを予定しています。固定資産は、売却や処分をするまで投下資金を回収できないため、「長期間資金が寝る」という表現をします。投下資金の回収に時間を要することに加えて、購入後の値下がりリスクも抱えます。

固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに区分して表示します。

有形固定資産には、土地、建物、機械及び装置などの事業活動に必要な形のある資産、無形固定資産には借地権、のれんなどの事業活動に必要な形のない資産が計上されます。全ての固定資産が収益獲得に貢献しており、事業に必要とされる資産であるかチェックしましょう。

投資その他の資産には、投資目的の有価証券や子会社株式、回収期限が1年を超える長期貸付金、施設利用権などが計上されます。ビジネスに活用されていない資産がないか、投資目的の資産の時価が帳簿価額よりも大幅に下がっていないかどうかを注意します。

また、焦げ付く可能性が高い破産更生債権等は、固定資産に計上されていても回収は困難と考えられます。これらの不良債権が計上されることで固定資産が膨らむと、結果として、実力より利益が過大に計上されることになります。破産更生債権等は、その残高と適正な貸倒引当金で回収不能に備えているかも見ておきましょう。

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自分の10大ニュースと反省〜小宮一慶の社長コラム

折をみて、自分の行動を振り返ることは、自身の成長のためにとても大切な習慣であるといえます。この振り返りを行うことで、たとえわずかな一歩であっても、自身の頑張りを実感することができます。毎日、毎週などの定期的な振り返りに加えて、1年など少し長いスパンの振り返りを行うことで、次の1年に向かうモチベーションを高めることもできます。

1 1年を「自分の10大ニュース」で振り返る

以前のシリーズで、会社をつぶす社長は、普段から何ごとにも「反省」が足りないシリーズ第4回「会社をつぶす社長は『反省』しない~小宮一慶の社長コラム」というお話をしました。反省するということが日々においてとても重要です。論語でも「われ、日にわが身を三たび省みる」とあります。もうすぐ今年度も終わりますが、この1年を振り返ってみることは、とても大切だと私は考えています。

1年というと結構長い時間です。手帳を見返してみると、いろいろな出来事を思い起こすことができます。私は、毎日日記を書くようにしています。これは日々を振り返るためですが、私の1年の振り返り方をご参考までにご紹介しましょう。

私は数年前から、「自分の10大ニュース」を書くようにしています。1年間に起こった自分にとって大きな出来事を書き出し、それに1番から10番まで順番をつけているのです。仕事上のこともありますし、プライベートのこともありますが、それが結構面白いのです。

2 「人生のステージアップ」と「なれる最高の自分」

私が「自分の10大ニュース」に興味を持つようになったのは、それを書くことが1年の振り返りになるからでなく、自分の「人生のステージ」が上がっているかどうかを知るのに、とても有用だと思っているからです。これは価値観の問題かもしれませんが、わずかでも自分の「人生のステージ」が上がっていることが私にとってはとても大切なことなのです。

一方、私はよく講演などで「なれる最高の自分になる」ということをお話しします。それが「自己実現」の大前提だと考えているからです。しかし、「なれる最高の自分」ということを具体的にイメージすることは実はとても難しいことだとも感じています。そのために、私は、そのことをお話しする際には、「なれる最高の自分を意識しながら、これからの1年で何をするか、何を目指すかを具体的に考えてください」ということを付け加えることにしています。

最終的な「なれる最高の自分」を考えるのはなかなか難しいですが、「1年後」や「1年間」で行う目標なら立てやすいのではないかと思うのです。そして、その1年間を通じた目標を実行していくことで、自分が変わったかどうか、つまり自分の「人生のステージ」が上がっているかどうかを「10大ニュース」で確かめてみるのです。

「人生のステージが上がる」とは、具体的には、今までできなかったような仕事ができた、会う人が少しレベルの高い人になった、行ったことのなかったようなところに行けた、などさまざまあると思います。もっというと、世間からの評価が変わったかどうか、それが上がったかどうかが重要なのではないでしょうか。もちろん、評価のために仕事を行うのではありませんが、評価されるということは、それだけお客さまや働く仲間、世の中から喜ばれていることになるからです。そうした意味で、世間の評価から見て、「人生のステージ」が上がっているかどうかが大切だと私は思っているのです。

3 頑張っているからこそ人生のステージを上げたい

もちろん、この文章をお読みの皆さんの大部分は、会社経営やご家族とのかかわりなどにおいて毎日を一生懸命過ごしておられると思います。一生懸命に毎日を過ごすことは、とても大切なことです。しかし、せっかく頑張るのなら、というよりは、せっかく頑張っているからこそ、自分でその実感を得ることも大切だと思います。つまり、人生のステージが上がっていることを自覚することが必要です。そのためにも、日々の振り返りや、年間の振り返りが必要なのです。

私は10人余りの小さな経営コンサルティング会社を経営していますが、ときどき社員に、「『今日一日、一生懸命働いたか』、『0.01歩でも進歩しているか』の2つのことを反省してから帰ってください」とお願いします。自分の進歩を知るためにも振り返ることが大切だからです。いずれにしても、1年はあっという間ですね。10大ニュースで振り返ると結構興味深いですよ。

以上

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超短期間(最短2カ月!)で会社変革・V字回復を成し遂げる方法とは?〜社長請負人の大久保さんは徹底的に現場、実践主義の方でした!〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介する面白い人物は、大久保治仁さんです。

今回、大久保さんにお会いして、初めて「代表執行役社長」というなかなかお聞きしない肩書を知りました。ほんの一例ですが、大久保さんは、次のようなことを成し遂げてこられた方です。

  • 年商数百億円の会社をたった2カ月で変革し、破産後の会社もV字回復へ導く
  • 国内で初めてファンドによるMBI(Management Buy in。企業買収の手法の一つで、企業買収と同時に外部から経営陣を招いて経営再建を行うもの)による事業再生を実施し、営業初月から黒字化を実現
  • 事業変革を行い、再生プロジェクトのマネジャーを3カ月から1年で社内表彰されるレベルに養成する

大久保さんは、瀕死(ひんし)の状態にある会社を10社以上もV字回復させ、後進の育成でも大きな実績を残されてきた、会社変革の請負のプロ。こうした「社長請負人」の大久保さんについて、今回はリポートしたいと思います。

なお、いつもインタビューでは内容が素晴らしく盛りだくさんですが、今回はさらに濃い内容となっていますので、目次をつけています。

目 次

1 さまざまな会社の「経営変革」の立役者

お会いいただいた際に、お話をお聞きして印象に残ったのは、【社長請負人の大久保さん】というフレーズでした。まず、大久保さんのご経歴についてお伝えします。

1967年鹿児島出身の大久保さんは、ラ・サール高校卒業、そして、早稲田大学政経学部経済学科卒業です。学生時代から企業再建ができる、実践派のコンサルタントを志していたそうです。新卒で中堅中小企業に対する実務的な経営コンサルタントを行う会社に入社。その後、会計事務所での実務経験を経て、主に上場企業を中心に、経営幹部、管理者との協業による現場常駐型「経営変革プロジェクト」を通じて、社長主導による経営変革・業績改善を支援されてこられました。

大久保さんの専門領域はまさに【経営変革の実践】といえます。製造業、卸売業、小売業、サービス業を中心に年商10億~数兆円規模の東証一部上場企業、未上場オーナー企業、企業グループの子会社、投資ファンド投資先企業、破産後の企業再生まで、幅広く経験されています。こうした経験から、大久保さんは、「『経営変革』に関する実践に基づく【戦術】をエッジの効いた武器としています」と語っていらっしゃいました。

また、後進の育成にも熱心で、「普通のコンサルタントを短期間で優秀なコンサルタントに養成すること」についても、相当数のご実績があるそうです。これまで、役割としては、プロジェクト責任者、外資系投資ファンド投資先の暫定COO、執行役員(社長特命担当)、東証一部上場企業の社外取締役、執行役副社長、代表執行役社長をご経験されています。大久保さんのお話をお聞きして、レポーティングや会議出席などなど……といった仕事の「上辺だけのコンサルタント」ではなく、本気で実行し、変革を成し遂げてこられた方だと感じました。

2 経営変革の基本は植木屋さんのアルバイトで学んだ!?

大久保さんは、社会人時代に面白い経験をしています。なんと植木屋さんでのアルバイトです。植木屋さんでの経験が、経営変革の実践を行う上で大いに役立ったという興味深いお話もしてくださいました。

大久保さんいわく、「植木屋さんで行うさまざまなことが、実はビジネス全般に通じる大切な教えだった」そうです。例えば、植木屋さんでは、「手入れ」というお仕事があります。うっそうとした植え込みの中にあるゴミを取り除く際には、しっかりと、文字通り“手を入れて”作業をしなければなりません。植栽の枝や茎、トゲなどにはばまれるので、痛いし、腕のひっかき傷は当たり前。こうしてしっかりと植え込みの中に入り、たとえ痛いことでも実践しなければ、きれいにすることはできないのだそうです。

こうした「手入れ」は、経営変革を実践するときにも同じだと思います。会社の中、しかも問題のあるところに自ら入り込んで、痛くてもつらくても、なんとかしようとしなければ、会社をきれいにすることはできない。そういうことではないでしょうか。

また、「根回し」にも、深い意味があると教えてくださいました。木を植え替えたり、移植したりする際、「どの根っこまで切り落とすか」「どこまで残すか」を考えなければなりません。そして根っこを切り落とした後は、その根っこをきちんと養生し、移植します。移植した後も、新しい場所でしっかりと根が張りやすいように、細かい根が切れないように、土壌や水、環境に気を配らなければなりません。これが植木屋さんの「根回し」なのだそうです。

日ごろ、ビジネスでも、「根回し」という言葉はよく使われます。志や実現したいことがあったとき、そのことが「しっかりと根が張るように」「細かい根までも切れないように」、小さなところにまで気を配って一人ひとりと話をし、調整をしていく。まさに、植木屋さんで実践している「根回し」と同じだと、大久保さんは語ります。

このように、植木屋さんのアルバイトで経験したことが、実際に現場での旧経営陣との対峙、社員との対話、V時回復への「根回し」に生きたそうです。草木は、ハサミの入れようによって状況が変わります。たった1回のミスで枯れたりすることがあるばかりか、そのミスが他の木に影響を及ぼしてしまったりする。それくらい難しいものだそうです。

大久保さんは、経営改善も同じ。問題を避けてもうまくいかない、少々の痛みは当たり前と話されます。本当に面白いですね。植木屋さんのアルバイト経験も無駄にされていない。大久保さんは、「感じる力」が人並み以上なのだと思った次第です。

大久保さんと執筆者の対談の様子を示した画像です

3 「経営変革」の実践:大久保さんへの一問一答

大久保さんに、「経営変革」を実践する際に大事にされていることについて、幾つか質問をさせていただきましたので、ご紹介します。

1)過去に困ったこと、ご自身の【武器】を手に入れるに至った貴重な経験、エピソードについて

・大久保さんのご回答

まだこの仕事の経験が浅かった30歳くらいの頃のことです。私の倍近くの年齢で、その企業を世界トップシェアへと導いた実績のあるこわもての実力派の支社長に対して、マネジメント行動を変革する覚悟を決めていただかなければいけない場面がありました。この支社長は、自信があって、何を言っても自説を曲げることはなく、変革の強力な抵抗勢力になるだろうと、前評判が高い方でした。

正攻法で愚直に変革を促していくだけの時間的余裕がないプロジェクトでしたので、最初の面談で、覚悟を持っていただこうと、面談の1週間前から、ああでもないこうでもないと、寝ていても頭が勝手に考えているような状態でした。

しかし、面談の際には、それまで考えていたことは全て忘れて、その場の真剣勝負をすることにしました。真正面からこちらの真剣な思いとエネルギーを伝えようと考えたからです。

結果、初回の面談で、その支社長は変革の覚悟を決めてくださり、抵抗勢力どころか、変革推進の旗振り役になっていただいたのです。優秀な方でしたので、周囲が驚愕(きょうがく)するような改善成果を創出しました。変革への働きかけの基本は「愚直」です。しかし、相手がそれなりに手慣れた経営幹部でしたら、正攻法では困難で、それなりの戦術が必要となります。

・大久保さんのご回答で受けた印象など

大久保さんに、この「戦術」についてもお話を伺いましたが、これは企業秘密ということでした。【心構え】が第一、それがあれば対処もできるようになっていく(経験値が上がっていく)ということでもあると感じます。

2)短期的に会社を立て直す。そこを現場で数多く経験されてこられて大切にされている着眼点について

・大久保さんのご回答

本物、本質、本音です。会社の中で本当に価値があるのは何か? どの商品か? どのサービスか? サービスの中のどのような要素なのか? それを本気で追究している気骨のある人物は、社長の他には誰か?

本質は? 社長をはじめとした経営幹部が業績向上において本来、果たすべき責任と権限とは? 現場のマネジメントはどうあるべきなのか? 経営者や経営幹部、管理者は、本音では、どのような志を抱いているのか? また、社員の本音は? こうしたことを捉えていきます。

大久保さんと執筆者の対談の様子を示した画像です

3)どのような手法で現場を掌握され、立て直されているかについて

・大久保さんのご回答

現場で、虚心坦懐(きょしんたんかい)に見て、感じて、「おかしい」という直感を大切にしています。表象的な問題として発生している事象も大切ですが、その背景にあるものを見抜くことを心掛けています。そのためにも、現場で働いている方々の生の声(本音)を聞くことに留意しています。現場の経営幹部や管理職が問題を問題と感じなくなってしまっていることが多いため、問題を経営幹部や管理職と一緒に見て、問題認識を共有することから着手し、経営幹部や管理職に問題解決の当事者として、即時改善を実践し、成果を創出していただきます。

4)学生時代、今のお仕事に通じるエピソードについて

・大久保さんのご回答

大学時代に飲食店でアルバイトをしていたのですが、同僚から「20歳にもなって自分のやりたいことが分からないなんて、バカですよね」と言われました。その彼は、夢を抱いて、地方都市から上京していました。そのとき私は、「そうだよね」と同調したふりをしたのですが、改めて、自分自身が何を職業として選択するべきなのかを真剣に考えました。景気循環の数理的モデリングを研究する経済学者になりたいと漠然と考えていたのですが、ゼミの担当教授から「学者は、お金と暇がなければなれません」と言われ、諦めました。

父親は田舎で小さな事業を営んでいました。夜になると、近隣の個人事業主や中小企業の経営者が訪ねて来ます。父は、そうした方々の相談に乗っていました。幼少期に、その席に同席し、たまに、父から、「どう思う?」と質問されました。もちろん、返答できるはずがありません。その経営者の中には倒産したり、夜逃げしたりした方もいました。

こうした幼少期のことを思い出し、中小企業の経営者を助けられるような仕事をしたいと考え、経営コンサルタントという仕事があることを知りました。田辺昇一さんや船井幸雄さんの本も読みましたが、最も影響を受けたのは、企業再建を専門にやっていた一倉定さんで、1冊1万円近くする書籍が全シリーズで10巻近くあったと思いますが、全巻購読しました。

私は、企業再建が実践できるような腕利きの経営コンサルタントを志しました。当時の就職状況はバブル経済の真っ盛りで、売り手市場。友人は、内定を何社もらった、特別待遇を受けたなどの自慢話をしていましたが、世間知らずながら、私は一人黙々と、その道につながるであろう道を探して、就職活動をしていました。

4 大久保さんの強烈な胆力【なんとかする精神力】は、中学受験で身についたというお話

大久保さんにインタビューをさせていただいているうちに、会社を変革させるときの、【なんとかする精神力】【胆力】は、いつ、どういう経験で備わったのか?ということを疑問に感じ、質問させていただきました。

意外にも、中学受験が大きな影響を及ぼしているとのことでした。名門ラ・サールへの中学入試。一般的な入試の準備では小学3年生か4年生から塾通いを始めるところを、大久保さんは6年生の途中から猛勉強し、周りが驚くほど短期間で合格ラインまで急成長したそうです。しかし今度は、あまりに勉強を頑張り過ぎて体調を壊し、ドクターストップ! 年末から学校や塾にも行けず、ましてや勉強もできない状況が1カ月半。大久保さん、「病床でどれだけ苦しんだか分かりません」と当時を振り返ります。こうした絶体絶命の中で、【なんとかする精神力】が身につき、土壇場、正念場の踏ん張りで、見事合格を勝ち取ったそうです。

また、30代前半に、売上100億円ほどの会社で国内初のMBIによる事業再生案件を実施し、実質、営業初月で黒字化を達成したときのお話も、この小学校時代に中学受験にまい進したお話と通じるところがあります。再スタート間際に、破綻した会社の社員100人全員と、たった2日間で面談したというのです。

社員1人に費やせる時間は、わずか15分。この15分が真剣勝負です。社員にとっては、自分の今後の人生や生活が掛かった重大な面談であり、本気でぶつかってきます。かなり厳しい面持ちで真っ向から立ち向かってくる社員100人に対峙する。会社にとっては、新たに事業を“爆速”で立て直すための大事な面談でもあるのです。

こうした局面で、100人の社員全員に対峙する2日間の面談。並大抵の精神力ではできないと思います。このあたりにも、子供の頃の経験からくる、【なんとかする精神力】が生きていると大久保さんは話します。

5 今の日本に足りないもの、今後について

大久保さんには、社長請負人として、今の日本に足りないと感じること(社長として必要なことも含めて)、今後、関わっていきたいことについても、お聞かせいただきました。

・大久保さんのご回答

企業再建で、経営者を助けたい、というような甘い考えでいたのですが、実際に企業再建の現場で痛感したことは、「いかに企業経営に強さを取り戻し、さらに強化するかが重要である」ということでした。社員がやる気になり、一丸となって頑張って再建しましたという美談も、リスク管理がおろそかになり、将来に禍根を残している可能性が高いことを実感しました。

そこで、私が貢献できることは、「経営力の強化」だと考えています。経営力が弱いことは、「問題から逃げる、甘える(先送りする)、隠す」という経営を生じやすく、そういう経営の会社は、社会的にも罪悪だと考えています。

業績不振は、経営力を抜本的に見直す好機です。業績不振で弱気になりがちな経営者に、強い気持ちで再起していただき、業績不振を早期に解消し、真摯にまい進する経営者を支援したいと考えています。有能な経営者は、業績が好調のときにこそ、あえて抜本的な経営変革に着手します。当然ながら、現状維持派の抵抗に遭います。私は、志の高い経営者の経営変革を支援したいと考えています。

組織が3階層以上になれば、各階層の経営管理者のマネジメント力強化のために、経営者の強力な武器として「経営変革プロジェクト」が最も有効です。私自身、「経営変革プロジェクト」の責任者としての経験がなければ、企業再建ができるような経営コンサルタントになりたいという志はあっても、実現できなかったでしょう。日本において33歳という若さで、外資系投資ファンド投資先の暫定COOとして、破産後の企業再生で営業初月から黒字化など到底できなかったと思います。日本経済を根底で支えていただいている百戦錬磨の質実剛健な経営者の皆さまとご一緒に、経営変革や事業承継という経営の根幹に関わる重要な課題に取り組ませていただく機会もなかったでしょう。

「経営変革プロジェクト」の責任者の経験を生かして、「経営変革プロジェクト」を縦横無尽に活用し、経営を変革し続け、長期的な成長を実現する。そして日本経済の将来を支えていただける、志あるオーナー企業の後継者を支援したいと考えています。

経営変革プロジェクトの工程を示した画像です

6 大久保さんへのインタビューの振り返り

今回、何かすごく「アツいもの」を感じるインタビューでした。直面する事業承継問題にも大きなヒントになるお話を、大久保さんから示唆していただけたと思います。ここ最近、事業承継の軽い感じのイベントが目につきます。アイデアを出す、事業承継を座学で勉強をする、新規事業を考えてみる。こうした単なる「イベント事」で厳しい事業承継が成し遂げられるとは、私には到底思えません。

今回の大久保さんへのインタビューから、後継者問題の解決の早道は、まずは会社の再建、変革が先だということ、そして、それほど後継者育成は難しいということを、改めて考えさせられました。旧経営陣や古参社員による社内クーデター、離反、内紛が毎日勃発するような場面を乗り切る胆力、心構え。また現状の経営体制の根本を見直せる、変化に対応できる。そうした経営変革ができる後継者が、今、まさに必要なのだと感じました。

・このインタビューを通じて、大久保さんから一言。

短期間で成果が出せる理由、なぜ、他のコンサルタントや同じ仕事をしている元部下が成果創出に時間がかかっているのかを考察する、良き機会をいただきました。ありがとうございます!

大久保さんと何かご一緒させていただける場面を今後も創出し、事業承継に役立つ活動に、私自身も参画していきたいと、強く思いました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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第5回 日本各地にシリコンバレー流アクセラレーターを作り、地方創生イノベーションを起こすには? Angel Acceleratorの講義内容大公開!/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

皆さん、こんにちは。SNSで私のコラムのたくさんシェアしてくださり、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。前回の「シリコンバレーのアクセラレーターから学ぶ教育)」では、シリコンバレーのアクセラレーターで何を学ぶことができるのか、日本企業の経営や教育にどのように活かせるのかを、私なりに“提案型”でお伝えしました。

今回は、地方都市でもアクセラレーターを作ることで、世界を良くする人材を輩出できるということを、今の私の活動を通じた具体例とともに紹介していきます。日本をアクセラレーターで元気にしていきましょう!

早速ですが、私は日本でアクセラレーターを立ち上げました。その名も「Angel Accelerator(エンジェルアクセラレーター)」です。

エンジェルアクセラレーターのロゴを示した画像です

2018年。年の瀬の12月30日の夜に思い立ち、すぐに行動を起こし、年が明けた今年(2019年)の1月8日に決起集会を行いました。ご縁あって埼玉県和光市の松本市長から教室をご提供いただきました。松本市長は、アンバサダーとして門下生(Angel Accelerator(エンジェルアクセラレーター)の受講生)にも会いに来てくださるなど、応援してくれています。

エンジェルアクセラレーターの決起集会の画像です

私がアクセラレーターを立ち上げたのには理由があります。私は、世界最速のスピードで、アクセラレーターを日本に作りたかったのです。1月8日の決起集会では、まず私から「なぜ立ち上げたのか、そして世界を良くする門下生を生み出すビジョンとは」について熱く語りました。ここで、一番重要なのは、日本人がまだ考えたこともないことを真剣に語ることでした。

例えば、ユニコーン(企業価値1200億円以上)を目指すことよりも、さらにその上をいく「ヘクトコーン」(企業価値11兆円)を目指すこと。また、最終的には、日本からアメリカ大統領になったり、もしくはアメリカ大統領のスポンサーになって、アメリカから世界を変えたり、日本を良くしたりすること。このように、「本当にできるの?」あるいは「できるわけがない」と言われそうなことを、本気で考えることが大切だと語ったのです。

私は、専門家を招いて指導してもらえば、門下生のスキルが高まると考えていました。実際、そうしてスキルを身に付けることも大事です。しかしそれ以上に、私は「世界を良くしたい、愛こそ全てだ」という、人生でもビジネスでも一番大切なマインドを重視した教育をしています。

エンジェルアクセラレーターの決起集会の画像です

Angel Accelerator(エンジェルアクセラレーター)は、門下生の募集期間が短いものでした。わずか1週間足らずの間に、私のFacebookの告知だけでさまざまな人が集まってくれました。東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、立教大学、立命館アジア太平洋大学、アメリカの大学、日本を代表する大企業3社の他、すでに注目されているスタートアップ企業などから来た人も含めて18人の門下生候補が集まり、45秒で決意表明を行っていただきました。この「45秒ピッチ」で、門下生候補が皆に伝えたのは、次の5つのことでした。

  • 氏名
  • Angel Accelerator(エンジェルアクセラレーター)で何を学びたいか
    (例:ピッチの仕方、シリコンバレーのYコンビネーターが思いつく以上のビジネスアイデア、資金調達の仕方など)
  • 何のために学びたいか(目的)
    (例:受講期間中にスタートアップを作りたいから、世界を良くする上で企業が必要だからなど)
  • 志、ビジョン、夢は何か
  • Angel Accelerator(エンジェルアクセラレーター)へのリターンをどうするか
    (例:受講料を支払う、起業した後に支払う、株で支払う、スポンサーを連れて来るなど)

1月8日の決起集会では、人工知能スタートアップ Nextremerの向井永浩CEOが1時間半、「元大企業社員だった僕がアントレプレナーで4.9億円の資金調達をするまで」を講演していただきました。主な内容は次の通りです。

  • スタートアップ立ち上げ方
  • チームの作り方
  • 資金調達の仕方

ベンチャーキャピタリストの方にも、「起業の重要性」「現在のベンチャービジネスの環境」などについて、データを使って講演していただきました。

アンバサダーである和光市松本市長からの挨拶、東京証券取引所の方、そして、このメディア「りそなCollaborare(コラボラーレ)」を運営している日本情報マートからもご挨拶いただきました。その日の最後には、皆で懇親会を行いました。

その後、私は、アクセラレーターを最速のスピードで進めています。このアクセラレーターでは、2カ月間で実際にプロダクトを作り、デモが実施できるまでにしようと、最初から考えていたからです。門下生が集った勉強会の内容などは次の通りです。

●1月22日 基礎

  • アントレプレナーに必要なマインド講義「門下生の心のインフラを整え、世界を良くするイノベーターになる」 by 森若 幸次郎
  • スタートアップに必要な会計 基礎編 講義  by 某大手公認会計士
  • 懇親会

●1月29日 応用

  • 門下生同士でピッチデック(投資家向けのプレゼン資料:Yコンビネーターのやり方を参考にして制作)を見せ合い、フィードバックし合う
  • アントレプレナーシップ講義とGood News by 森若 幸次郎
  • 門下生によるピッチの発表
  • スタートアップに必要な知財戦略 講義 by 著名弁理士
  • 門下生によるピッチ
  • 懇親会

●2月8日 実践

  • 門下生同士でピッチデック(投資家向けのプレゼン資料:Yコンビネーターのやり方を参考にして制作)を見せ合い、フィードバックし合う
  • アントレプレナーシップ講義 by 森若 幸次郎
  • 営業企画 by 平泉大
  • スタートアップに必要な資本政策 by 樋原 伸彦准教授(早稲田大学)
  • 和光市松本市長 ご挨拶
  • 懇親会

●2月13日 総括(最終講義)

  • 門下生同士でピッチデックを見せ合い、フィードバックし合う
  • アントレプレナーシップ講義 by 森若 幸次郎
  • スタートアップに必要な会計 基礎編 講義(英語) by 某大手公認会計士
  • 懇親会

エンジェルアクセラレーターの講義の画像です

エンジェルアクセラレーターの講義の画像

2月13日の最終講義の後は、門下生がプロダクトやサービス開発に集中する時間が続いています。そして、磨き上げたプロダクトを発表する場として、3月8日に「デモデイ」を和光市で開催することになりました。3月8日は、きっと、100年後、1000年後の世界の歴史の教科書に載る「愛のイノベーション伝説」と語り継がれる1日になると思います。

私の愛のあるアントレプレナーシップ教育として、最終講義では、次のことを門下生に送りました。

  • 知識より行動を起こせ
  • スピード命
  • 機会損失を防げ! 機会創出をしろ!
  • Stay Hungry, Stay Crazy!! より大きく(世界市場)、よりクレージーに!!(イノベーティブ)
  • 愛こそ全て

このように、わずか1週間足らずで、しかもFacebookだけで門下生を募集し、2カ月で、愛のあるアントレプレナーシップ教育をする。スタートしてから、たったの2カ月後に、デモデイをして、たくさんの起業家が育っていけば、日本全国が明るくなると信じています。ぜひ皆で一緒にシリコンバレーのスタンダードを学び、世界を良くするイノベーションを起こす企業を増やしていきましょう。

いつも愛りがとうございます。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

最後に。3月8日のデモデイのポスターは、漫画家の方に描いていただきました。

エンジェルアクセラレーターのデモデイのポスターの画像

(画:漫画家 真田ちか氏)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【朝礼】新入社員に伝えたい「冷静な頭脳と温かい心」

新入社員の皆さん、当社に入社してくれてありがとうございます。ここにいる皆さんは、新しい生活への期待に胸を膨らませていることでしょう。そこで今日は、皆さんに、これからの社会人生活で大切にしてほしいことをお話しします。

皆さんは、これから先、どのような社会人になりたいと考えていますか。私は、皆さんに、何事に対しても、「自分はこうしたい」「これがやりたい」という意志を持ち、自分で物事を決めていける人になってほしいと思っています。自分の意志で、「自分事」として取り組めば、どのような仕事でも、必ず、面白くやりがいのあるものになるからです。

しかし、ビジネスについて知識の少ない皆さんは、「自分はこうしたい」「これがやりたい」ということが、まだ考えられないかもしれません。そこで、皆さんにお願いしたいのは、「冷静な頭脳と温かい心」を持つことです。

この「冷静な頭脳と温かい心」は、イギリスの経済学者であるアルフレッド・マーシャル氏が、「経済学者に必要なもの」として示したものです。経済学には、物事を冷静に、理論的に分析し、把握する頭脳が必要。そして、世の中の人を思いやり、皆の生活を良くしようという温かい心も忘れてはならない。こうした意味が込められています。

仕事も同じです。「自分はどうしたいか」を考える土台として、まず、ビジネスを分析し、把握する力が必要です。これが、「冷静な頭脳」です。

皆さんが「冷静な頭脳」を身に付けるには、必死で勉強するしかありません。ビジネスはどのような仕組みで動いているのか。商品やサービスがどのようにつくられ、どのようにして売り上げが上がり、利益が生み出されるのか。本を読み、ニュースや新聞で情報収集し、上司や先輩の話を聞いて、ビジネスの基本をしっかり学んでください。皆さんの社会人生活は、学ぶことから始まります。

そして、忘れてならないのは「温かい心」です。「自分はこうしたい」「これがやりたい」ということを決めるときは、「どうすれば世の中の人のためになるか」ということを軸にしてもらいたいのです。皆さんには、当社がどのような会社に見えるでしょうか。会社なので、もちろん利益は追求しますが、それだけではありません。当社は、世の中を、人々の生活を、今よりももっと良くすることを本気で考える会社です。このことを、常に忘れないでいてください。

私は高校時代、授業で経済学者マーシャル氏が示した「冷静な頭脳と温かい心」のことを聞き、雷に打たれたような衝撃を受けました。それまで考えたこともない視点だったからです。そのとき、自分が社会に出る際には、「冷静な頭脳と温かい心」を持ち、世の中を良くすることを本気で考え、実践しようと決心しました。

皆さんは、今日から当社の大切な仲間です。一人ひとりが「冷静な頭脳と温かい心」を持ち、一緒に世の中を良くしていきましょう!

以上(2019年3月)

pj16951
画像:Mariko Mitsuda