【朝礼】時には、「泥臭く」なりなさい

先日、ある経営者と話をした際のことです。以前から彼のビジネスに取り組む姿勢には大いに刺激を受けているのですが、改めて感動したことがあるので、皆さんと共有します。

その経営者は、ブロックチェーンやAIといったテクノロジーに非常に強く、多くのエンジニアを抱え、法人向けに最先端のサービスを提供する会社を経営しています。今回、新しいサービスの構築にチャレンジすることにしたそうで、そのことを私に語ってくれました。

私が改めて感動したのは、新しいサービス構築のために、彼が「面倒なこと」をいとわず、地道に、いうなれば「泥臭く」取り組んでいたからです。彼は全国の関連する業種の会社にアポイントを取って訪問し、どのようなサービスであればユーザーの役に立つのか、一社一社、ヒアリングして回ったのです。それだけではありません。自分たちのテクノロジーをより一層磨こうと、国内外を問わず、第一人者とされる著名な大学教授やエンジニア、起業家に会いに行って教えを乞い、議論し、サービスの質向上に努めていました。時には、3日連続して飛行機の中で夜を明かすほど、経営者自らが世界中を動き回っていたのです。

彼は私に言いました。「このサービスにおいては、ユーザーから、自分たちのものが一番だと言われたい。そのためには、どこの会社よりも、誰よりも、実際に人に会い、話を聞くのは当たり前。私は当たり前のことを実践しているだけです」

皆さんはこれを聞いてどのように感じますか。これまで会ったことのない人や、会ってもらうのが難しいような人に会う段取りをして、実際に会いに行き、話を聞くのは、簡単にできることではありません。なかなかうまくいかないことも多いでしょうし、時間も労力もかかります。要するに、非常に「面倒なこと」なのです。

こうした「面倒なこと」に、どれだけ真摯に、地道に粘り強く取り組むことができるか。大勢の人が「そうした努力にこそ価値がある」のだと分かっているとは思いますが、実際に取り組むことができている人は、そう多くはないでしょう。

皆さんはどうですか。誰にも負けないくらい、「面倒なこと」に地道に取り組んだと胸を張って言えることがありますか。

時と場合にもよりますが、私は、仕事をするなら、一度くらい「面倒なこと」に、苦労して泥臭く取り組むことが必要ではないかと思っています。そうすることで初めて、仕事をする意味や、お客様から感謝されることの喜びを心から実感することができるからです。

冒頭で紹介した経営者の会社には、貴重な情報やノウハウが蓄積されています。「面倒なこと」に地道に取り組んだため、他では手に入れられないものが、集まっていったのでしょう。皆さんも、時には、地道に、泥臭く仕事に取り組むことを意識してください。きっと、皆さん自身の人生にも、大きな価値が生まれるでしょう。

以上(2019年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】新年度を迎える前に一人ひとりに考えてほしいこと

もうすぐ新年度を迎えます。皆さんは、どのような新年度にしていきたいですか。今日は皆さんに、当社が新年度からどのようなことに取り組むかを伝えますので、それを踏まえて、各自、新年度に自分が何をしていくべきかを考えてみてください。

当社は新年度から、さまざまな変化を実現していくことになります。例えば、これまで温めてきた新規事業をいよいよ形にします。営業面でも、既存市場の顧客だけでなく、新しい市場を開拓していきます。そうなると、プロモーションの方法も変えていかなければなりません。今ある商品やサービスの在り方を見直すことも必要です。

そうしたさまざまな新しいチャレンジや変革を実現していくために、働き方改革にも、より本格的に取り組まなければなりません。

そのためには、今までと同じ仕事の進め方では限界があります。改善すべきところは大いに変えていかなければなりません。一つ一つの仕事について、皆さん一人ひとりがスピードアップすることも必要です。

どうですか。ここまで、新年度からやるべきことについて、一部を挙げてみましたが、皆さんは、どのように感じたでしょうか。「正直言って、いろいろと変えていくのは大変そうだ」と尻込みしたくなる人もいるかもしれませんが、私一人や、一部の人間だけでは会社を変えていくことはできません。全員の力が必要です。

そこで、皆さんに真剣に考えてもらいたいのは、「会社を変えることに対して、自分はどのように貢献することができるか」ということです。

例えば、新しいことにチャレンジするため、今までとは違った分野のネットワーク構築に努めようと、より社外に出る機会を増やすという方法もあるでしょう。あるいは、皆が今よりも効率的に仕事が進められるよう、オペレーションの方法を見直したり、新しいツールを学んで導入したりすることで貢献しようと思うかもしれません。

考えられる貢献の方法は人によってさまざまですが、重要なのは、一人ひとりが「今の自分よりも、もう一段上の自分になろう」とすることです。そうして、それぞれが「できること」を増やしていけば、それが全体として大きな変化を生み出す力になるからです。

新しいことにチャレンジしたり、物事を変えたりするのは簡単ではありません。私が皆さんに求めることも、難易度、スピードともにグレードアップしていきます。皆さんは、うまく進められず、壁にぶつかったり、逃げ出したくなったりするかもしれません。そうしたときは、「困っています」と声を出し、周りに助けを求めてください。どうすればよいか、皆で知恵を出し合って考えていきましょう。一人ひとりが「もう一段上」を目指し、そして困ったときは全員で考える。それが当社の進化の仕方です。新年度、全員で、「大いなる進化」を遂げていきましょう。

以上(2019年3月)

pj16949
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】正しい優先順位を付けて価値ある仕事をしよう

複数の仕事を同時に進めるとき、しばしば課題となるのが優先順位の付け方です。皆さんに、なぜ優先順位を決められないかを聞くと、「そもそもどれが重要な仕事なのかを判断できない」などの意見が出てきます。しかし、私から言わせると、これは単なる言い訳です。

ここで、優先順位付けと共通する部分が多い、片付けを例に考えてみましょう。皆さんは、片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんを知っていますか。彼女の片付け術の特徴は「残すものを選ぶ」という考え方です。

片付けといえば捨てることに目が行きがちですが、近藤さんは「ときめくものだけを残すこと」を勧めています。ときめくというのは、その服を着ると自信が持てるなど、前向きな気持ちになれることを指します。ときめくものを残すことで、自分のモチベーションが上がるというのです。

また、片付けの最中には、ときめくのか、そうではないのか、迷うものも出てきます。その際に重要になるのが、片付けのゴールです。「夜7時、キッチンで、家族全員が協力して、夕食を準備する生活を送る」など、ゴールを具体的にイメージすることで、それを実現するために何を片付けるべきなのかが明確になります。

近藤さんの片付け術を実践した人は、自分がときめくものや、求める生活が明確になることで、不要なものを買わなくなり、再び散らかってしまうという事態を防げると感じるようです。

片付けと仕事はそのまま比較できませんし、仕事の優先順位付けの基準は「ときめくものだけを残すこと」とは違い、状況によってさまざまな判断があり得ます。しかし、皆さんは優先順位を決める基準をどれだけ意識して、日々の仕事に取り組んでいるでしょうか。

例えば、仕事においては、最も収益につながる、最も時間がかかるなどの基準がありますが、これらは過去の経験を基に判断することになります。つまり、優先順位を正しく付けられないのは、これらの経験を積み重ねていないからです。仕事のゴールを考えて、それに向かって最もよい結果が得られるようにという視点ではなく、「目先にあるので」「やりやすいから」という理由で仕事に取り組み、根拠ある行動を避けているのです。

「過去の経験にとらわれず、感じたままに行動する」ことも、時には大切です。ただし、基準となる過去の経験が何もない状態ならば、どれくらい新しいのか、どれくらいリスクがあるのかを測ることができず、無謀な挑戦になるだけです。

正しい優先順位付けは全ての社員に必要ですが、特に管理職が間違えた優先順位で指示を出せば、部下はムダな動きをします。加えて、目先の仕事や、やりやすい仕事を優先するということは、管理職としての責任や人件費に見合わない仕事を優先することになります。管理職の皆さん、正しい優先順位を付けてチームを率い、会社に貢献する働きをしてください。

以上(2019年3月)

pj16948
画像:Mariko Mitsuda

社内提案制度において提案の量・質を確保するための重要なポイント

書いてあること

  • 主な読者:社内提案を取り入れている企業の経営者
  • 課題:良い提案がない。提案自体なかなか挙がってこない
  • 解決策:ノルマ制やインセンティブ、評価制度の確立などによって提案を出しやすい雰囲気作りが必要

1 社内提案の意義

社内提案制度を導入して、社員の多様な知識を経営に生かそうと試みる企業が多くあります。社内提案制度の対象となる事柄は、些細な業務改善から新規事業の立案までさまざまです。いずれの場合も、社員の多様な知識を提案という形でうまく吸い上げ、適切に選別し、実際に行動に移すことができれば、社内提案制度は企業にとって有益な取り組みになります。

一方で、社内提案制度を導入したものの提案の件数が集まらなかったり、提案はそこそこ集まってくるものの、“中身のある提案”が出なかったりなどの問題を抱える企業が少なくありません。こうした問題が生じる理由はさまざまですが、提案の量と質を確保するために重要となるポイントを押さえることで、解決できる部分も少なくありません。

本稿では、「日ごろ、顧客と接している営業部門の社員の感覚をマーケティングに生かす」「製造部門の社員が感じている製造工程のムダ・ムラ・ムリを改善して生産性を高める」といったレベルの提案を募るケースを想定し、提案の量と質を確保するためのポイントについて解説します。

2 提案の量を確保するためのポイント

1)ノルマ制の導入

提案の量を確保する上で、最も効果的だといえるのはノルマ制です。具体的には「1人1日1件」「グループで月30件」といったルールを設けて、社員に提案の提出を求めます。

ノルマ制が導入されたことに反発し、提案の提出を拒む社員が出てくることも想定されますが、提案の提出は業務の一環であることを繰り返し社員に伝えると同時に、管理職がきちんとノルマを守って率先垂範することで、社員もそれに倣うようになってくるでしょう。

2)提案を提出したくなる雰囲気づくり

管理職などが積極的に声掛けをして、社員が社内提案を提出したくなる雰囲気をつくることが大切です。具体的には、良い提案を出してくれた社員を皆の前で賞賛したり、ある提案を取り上げ、それをさらに深掘りするためのミーティングを開催し、社内提案制度に対する社員の意識を高めるなどの方法があります。

とはいえ、管理職が絶えずそのような働きかけを社員にするのは難しい面があり、しつこく言い過ぎると社員が嫌がってしまうこともあります。そのため、「月曜日の朝礼」など、社内提案制度について通知する日を決めておくとよいでしょう。

3)インセンティブを与える

せっかく提案を提出しても、それが何の評価にもつながらないようでは、社員は提案をする気がなくなってしまいます。そのため、何らかの方法で社員の提案を評価する仕組みを取り入れることが重要です。

分かりやすい方法は、金銭的なインセンティブを与えることです。例えば、提案1件について100円(100件提案したら1万円)を「提案手当」などの名目で支払う方法があります。ただし、この場合、とにかく提案を出して手当を稼ごうとする社員が出てくる可能性があります。これを回避するためには、提案を評価して点数をつけ、高い点数を獲得した提案や実現に至った提案に対して、「提案手当」を支給したりするとよいでしょう。

3 提案の質を確保するためのポイント

1)提案しやすいテーマを設定する

提案の質を高めるためには、社員が提案しやすいテーマを設定することが重要です。

例えば、製造部門と営業部門や経理部門を比較して考えてみましょう。製造部門からは提案が出やすく、またその内容も優れていると評価されることが多い理由の一つは、製造部門では「歩留り」や「5S」など改善すべきポイントが明確で、QCなどの手法も確立されており、提案が他部門に比べ比較的容易なためです。

一方、営業部門や経理部門の場合、製造部門のように改善すべきポイントが明確になりにくい面があり、具体的な手法が確立されている分野も限られます。そのため、単に「提案を提出してください」と指示しても、営業部門や経理部門は何を提案すればよいのかイメージしにくいものです。

この問題を解決するために、次のように提案する内容を明確にして、社員に通知する必要があるでしょう。

  • 新規営業先を毎月10件獲得するために、現在の営業活動で見直すべき点を提案してほしい
  • 営業利益率を○○ポイント引き上げるために必要な施策を提案してほしい
  • 営業の成功事例と失敗事例を共有するための仕組みを提案してほしい
  • クレームを月間○件に抑えるために必要な取り組みを提案してほしい
  • 経費請求の手間を軽減するための仕組みを提案してほしい
  • 経理業務を効率化するために必要なシステムを検討してほしい
  • 経理業務を進める上で感じているムダ・ムラ・ムリを教えてほしい

上記は一般的な内容を列挙した一例ですが、実際に社員に提案の内容を示す際は、企業の事業方針などに即したものにする必要があります。そのため、管理職が社員に対して部門の方針はもとより、全社的な事業方針についてもきちんと説明し、進むべき方向性や問題意識を共有しておかなければなりません。

2)提案評価の体制

提案の質を高める上で、提案を評価する人の力量も重要です。

例えば、社員からの提案を社長自ら評価する場合、社長が社員からの提案の全てに目を通すのが難しいことがあります。そのため、集まってきた提案を選別し、ある程度件数を絞り込んだ後で社長が評価するといったことになります。

問題は、社長に提出する提案をどのように選別するかです。社長に提出する前に各部門の部長クラスが評価する方法もありますが、それでは部長クラスの負担が大きくなりますし、視点が偏る恐れがあります。とはいえ、一般に製造部門からの提案を営業部長が正しく評価することは適任ではありません。

そのため、提案評価の体制としては、各部門の管理職クラスが参加する「提案委員会(仮称)」を設置し、同委員会が中心になって、複数人が目を通しつつ、役割分担をして提案を評価するとよいでしょう。

ただし、例えば全社的なコスト削減活動の場合、管理職が各部門の利益代表者になってしまい、自部門にとって有利な提案ばかりを取り上げてしまうことが懸念されます。 また、管理職は業務に精通している一方で、自身の考えや感覚に合わない提案を排除してしまうかもしれません。しかし、排除された提案の中には、これまでにない斬新なアイデアが隠れている可能性があります。そこで、「提案委員会(仮称)」には、各部門の管理職の他に若手社員や、経営企画室など客観的な視点で提案を評価する社員を加えることが非常に重要なポイントです。

3)評価基準

提案の評価基準は企業によって異なりますが、主要な項目はあらかじめ設定しておくことで評価がしやすくなります。例えば次のような項目を設定し、5段階で評価する方法もあります。

  • 事業方針に合致しているか
  • 数字などが具体的に記載されているか
  • 新しい発想が盛り込まれているか

この他、「提案委員会(仮称)」が提案を評価しやすくするために、フォーマットやカテゴリ、表記ルールはきちんと決めておくとよいでしょう。

4)フィードバックしながら、提案しやすい雰囲気をつくる

「提案委員会(仮称)」を通じて社長に上がってきた提案については、社長は必ず目を通し、その提案について評価できるポイント、見直したほうがよいポイントを明らかにした上で、その提案をした社員にフィードバックします。社長から直々にフィードバックを受けた社員は、次回以降、その内容を踏まえて提案を提出してくるようになるため、質も上がっていきます。

また、社長からのフィードバックは、必要に応じて提案者の氏名を隠す形で全社的に共有するとよいでしょう。質の高い提案は、社長や管理職にとって耳の痛い話であることが少なくありません。そうした提案であっても、きちんと社長が目を通し、なおかつコメント付きで全社で共有するようになれば、社員は安心して提案を出すことができるでしょう。

5)実行に移す

社員から提出された提案のうち、効果が見込めるものは実行に移していくことが重要です。いくら提案を提出しても、一向にそれらが実現されないようでは、社員はやる気を失ってしまいます。そのため、小さなことでも良いので、具体的な行動を起こし、それを社員に見せることが重要です。そのやり方には次のようなものがあります。

  • 実際にプロジェクトとして始動させる
  • 提案を提出した社員に、社長や役員が話を聞く場を設ける
  • 社長から、管理職に対して検討を指示する

4 企業事例:サトーホールディングス「三行提報」

社内提案制度の成功例として知られている企業に、サトーホールディングスがあります。サトーホールディングスは、自動認識技術を使用した商品の開発、製造、ソリューションの開発、インテグレーションを提供する企業で、アジア、オセアニア、米州、欧州など、グローバル展開している東証一部上場企業です。

サトーホールディングスが行っている取り組みは「三行提報(さんぎょうていほう)」(「企業を良くする創意・くふう・気付いた事の提案や考えとその対策の報告」の略称)と呼ばれるもので、1976年から実施されています。「三行提報」が開始されたのは、創業者である佐藤陽氏が労働争議によって倒産の危機にひんした際、「社員の声に耳を傾けるようにすれば、こうした問題が起こらないだろう」と考えたことがきっかけとなっています。そのため、経営側が社員の声に耳を傾ける姿勢を持つことが「三行提報」の一つの特徴となっています。

「三行提報」では、社員は100文字以上127文字以内(英語の場合は上限が150ワード)の短文で業務改善や営業のアイデアなどをまとめて提出し、それがデータベースに蓄積されます。また、その中から選ばれた約50件が社長にプリントされて渡されると同時に、幹部にも電子データで送られる仕組みになっています。また、50件に選ばれなかった「三行提報」についても、有用と判断されるものは、各部署のナレッジリーダーに展開され、判断を任せられる仕組みになっています。

「三行提報」はサトーホールディングスに深く根付いており、より良い製品・サービスを実現するための原動力となっているようです。

以上(2019年3月)

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画像:pixabay

ROEとレバレッジの関係

レバレッジは英語の“Lever”を語源とする言葉で、「梃(てこ)」を意味します。ビジネスでは「レバレッジ効果」などといいますが、これは自分自身の小さな力=小さな自己資本で、大きなビジネスを行うことを指します。

レバレッジを効かせる一般的な方法は、金融機関借入や社債発行です。つまり、他人資本を梃にして自己資本の何倍もの資金を動かすことで、大きなビジネスを実現することが可能となります。

“温めていた”有望なビジネスがあるにもかかわらず、十分な自己資本が手元にないために空想だけで終わらせてしまう……。経営者には耐えられないことかもしれません。そうならないための考え方に、レバレッジ効果があるわけです。ROEの解説を中心に、レバレッジについて紹介します。


財務・会計の基本が分かる

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1 ROEを高めるための方策

ROE(Return On Equity:自己資本利益率)が重要な指標であることは、皆の知るところです。ROEとは、企業が株主から信託された自己資本を使用し、どれだけ効率よく利益を稼いだかを示す指標であり、「当期純利益÷自己資本」で求めます。

投資家がROEを重要視するのは、稼ぐ力と利益還元の両方の要素が、この指標に盛り込まれているからです。ROEが市中金利を下回っている企業への投資は、投資家にとっては魅力的ではありません。また、金融機関も企業の信用度を測る指標としてROEを確認しています。

ROEを高めるためには分子である当期純利益を増やすか、分母である自己資本を減らすことになります。ROEの算式は次のように分解できます。これを見ると、ROEは売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジを掛け合わせたものであることが分かります。

ROEの計算方法とROEを上げるための方法を示した画像です

売上高利益率は、売上高に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標です。総資産回転率は、一定期間中に売上によって総資産がどれだけ入れ替わったかを示す指標です。そして、財務レバレッジは、負債を活用して自己資本の何倍の資産を事業に投下しているかを示す指標です。

これらを組み合わせることで、ROEを高めることが可能となりますが、次章では、特に財務レバレッジに注目して考えていきましょう。

2 レバレッジを効かせる

レバレッジとは、金融機関借入などを梃にして、自己資本以上のビジネスを行うことでした。数値に置き換えて、具体的な事例を見ていきます。

A社、B社、C社の3社で共通しているのは、総資産が1000百万円、営業利益が100百万円、法人税等の税率が30%であることです。

一方、調達状況は異なります。A社の借入金は0円で、総資産の全額を自己資本で調達しています。B社の借入金は300百万円で、残額の700百万円を自己資本で調達しています。C社の借入金は500百万円で、残額の500百万円を自己資本で調達しています。B社とC社の借入金利は、ともに2%です。

A社、B社、C社のROEの違いは次の通りです。

A社、B社、C社のROEなどを比較した画像です

借入金が多いC社のROEが最も高くなっています。この表だけで判断すれば、レバレッジを効かせたC社が、自己資本を効率的に利用したといえます。

しかし、営業利益が減少するような局面になると、負債の利用によりROEを減少させてしまうことになります。ここでは、極端な例として営業利益が100百万円から10百万円に減少したケース(借入利率2%(負債コスト)よりROA(収益力)が低いケース)を見てみましょう。

A社、B社、C社のROEなどを比較した画像です

先ほどとは反対に、借入金が多いC社のROEが最も低くなっています。借入金による自己資本の減少割合より、利益の減少割合のほうが大きくなったためです。

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3 レバレッジとの相性

次に、どのような業界がレバレッジを効かせているのかを確認しましょう。次の表は業界別の負債比率を表しています。負債比率が大きいほど、負債の利用が多く、レバレッジを効かせたビジネスをしているといえます。

主な業界別の負債比率を比較した画像です

宿泊業、飲食サービス業では負債比率が特に高いことが分かります。宿泊業、飲食サービス業にはホテルなどを運営する企業が含まれています。ホテルという建物(有形固定資産)を保有するには多額の資金が必要となるため、自己資本だけで賄うことは難しく、金融機関借入などの負債を活用することになります。

逆に情報通信業は負債比率が低いことが分かります。情報通信業には通信業などのインフラ設備の投資が必要な企業も含まれていますが、インターネット関連やシステム開発関連企業は、人材が全てであり、大規模な投資は必要ない企業が多いと考えられます。

4 負債との付き合い方

負債を利用することでレバレッジを効かせ、より大きなビジネスを展開することができるのは大変魅力的です。しかし、「無借金経営のメリットとデメリット」でも紹介しているように、過度な負債利用は倒産リスクを高めます。また、資金繰りが厳しいからといったネガティブな理由による借入は、レバレッジ効果に直接つながるものではありません。

自社のビジネス内容や景気・金利などの外部環境を考慮し、積極的に投資を実行すべきか否か、またその投資の原資は自己資本で賄うのか、金融機関借入などによってレバレッジを効かせるのかを十分に検討する必要があります。


財務・会計の基本が分かる

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以上

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第4回 シリコンバレーのアクセラレーターから学ぶ教育/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

皆さん、こんにちは。SNSで私のコラムのたくさんシェアしてくださり、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。さて、前回の「シリコンバレー流エレベーターピッチを名刺交換や自己紹介に活かす方法」で、世界一のイノベーションの聖地であるシリコンバレーには、スタートアップを急成長させる短期の教育プログラムである「アクセラレーター」があることを紹介しました。

今回は、さらにアクセラレーターに注目してみます。アクセラレーターでは一体何を学び、日本企業の経営や教育にどのように活かせるか、私なりに“提案型”で書いてみたいと思いますので、どうぞお付き合いください。

シリコンバレーには、アクセラレーターが無数に存在します。そうした中でも、著名で最も実績があるのが「Yコンビネーター(以下「Yコン」)」です。Yコンは、多くのユニコーン企業を生み出していることでも有名です。

Yコンは、6カ月プログラムであり、スタンフォード大学やハーバード大学より入るのが難しいといわれます。それほどまでに素晴らしいアクセラレーターといえ、シリコンバレーの成功者たちが一目置くだけではなく、世界中の投資家たちが「Yコンに採択されたスタートアップに投資したくてたまらない」と思うくらい、Yコンの卒業生たちは、ユニコーン企業になる可能性を秘めています。

ここで、Yコンの哲学や仕組み、プログラムをご紹介します。

●Yコンの哲学:

  • Make Something People Want (人が欲しがるものを作れ!)
  • ファウンダーは、プロダクトがマーケットフィットするためにビジネスモデルを精練し、プロダクト、チーム、マーケットを作ることに集中して、スタートアップが急成長するビジネスに育て上げる
  • デモデイが最後にあり、投資家の前でピッチをする

●Yコンの仕組み:

  • シードの資金提供 150K(約1800万円)
  • アドバイス提供
  • コネクション提供する代わりに、7%のエクイティをスタートアップからもらう

●Yコンのプログラム内容:

  • Office hour: ファウンダーがYコンのパートナーと個別面談し、アドバイスをもらえる
  • 毎週ディナーで、シリコンバレーのエコシステム内のスターの講演が聴ける

Yコンの他にも、全米トップのアクセラレーターの1つで、B2Bのスタートアップに特化した約6カ月プログラムである「Alchemist Accelerator」があります。ここでは、私もメンターをしています。

スタンフォード大学の現役講師がファウンダーというだけあり、スタンフォード大学卒業生のスタートアップが多数、受講しています。スタンフォード大学という「信用」が自然とついてくるのが強みの1つです。シリコンバレーだけではなく世界中どこに行っても、B2Bのスタートアップの多くは、大企業にサービスを販売していくビジネスモデルをとりますが、Alchemist卒業生はスタンフォードの信用があるため、大企業と取引する“壁”は乗り越えられやすくなっていると思います。

さらに、私も受講したことがある「Blackbox」というプログラムもあります。サンフランシスコ市内にて、外国人起業家だけ(アメリカ人以外の、世界中から厳しい審査の後に採択されたスタートアップのファウンダー兼CEOのみ)を対象にしており、2週間寝食を共にし、朝から晩まで講義を受け続けます。Blackboxは、Google for entrepreneursということで、Googleがアントレプレナー育成のために約5000万円出資してくれています。

Blackboxでは、毎日朝から晩まで、スタートアップ経営をする上で必要なスキルとマインドをゲスト講師が教えに来てくれます。私が受講していたときは、ハーバードビジネススクールを卒業し、サンフランシスコで起業して成功している女性CEOが「スタートアップ経営」について、また、ハーバードビジネススクールの卒業生のみが入れるエンジェル投資協会の会長が、「どのようなスタートアップにエンジェル投資したいか」について講演してくれました。そして、著名ベンチャーキャピタリストや、シリコンバレーバンクというスタートアップに投資する銀行員、フューチャリストで有名なシンギュラリティ大学のパスカル氏が「未来の作り方」などを講演してくれました。

YコンやAlchemist Acceleratorからの学びは、6カ月と長いスパンの中で、1週間に1回くらいのペースで、成長曲線を描いていくことが大切だということです。
また、Blackboxからの学びは、社員教育のために単発の講演会に行かせたり、学会に1日とか、2日だけ社員1名を行かせたりするよりも、グループ20人くらいで、一気に2週間寝食を共にすることが重要だということです。2週間、同じ環境で、同じものを食べ、同じ講義を受けて、同じ志で学び、お互いを高め合うことができるからです。

シリコンバレーのアクセラレーターは、日本のベンチャー、スタートアップだけでなく、「社員教育」という意味で、中小企業にとっても非常に参考になります。
何を成し遂げたいかで、スキル重視で伸ばしたいのか、マインド重視で伸ばしたいのかで、教育プログラムの内容が変わってきます。実際に、社員教育を行う際には、「誰をどのように育てたいのか」をきちんと目標設定して、シリコンバレーのアクセラレーターの中から参考になるモデルを選んだり、“いいとこどり”で結びつけて、自社の教育プログラムを作っていくのもよいかもしれません。

イノベーションを起こすことが急務な日本だからこそ、シリコンバレーのアクセラレーターから学ぶことがたくさんあると思います。自社をイノベーティブにするには、GoogleやFacebook、co-working spaceのような高い天井やオープンスペースの遊びがあるオフィスにするだけでは足りません。アクセラレーターで提供されているようなイノベーターの生の声が聞ける機会や、挑戦するカルチャーを作っていくことが大切なのです。

次回は、私が主催している「Angel Accelerator」(エンジェルアクセラレーター)についてご紹介する予定です。

今回も、最後までお読みいただき、愛りがとうございました。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年2月12日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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ホワイト企業財団は、日本の次世代に残るべき企業を認定しています。〜デジタルガバメントによる未来の士業の在り方について〜/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介する面白い起業家は、五味田匡功さんです。

●団体HP【ホワイト財団】
https://jws-japan.or.jp/

1 足元の状況を再確認

少しかための話となりますが、五味田さんを紹介する前に、足元の状況について確認したいと思います。

2018年11月1日に内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室が発表している、【デジタル・ガバメントの取組状況について~ワンストップサービスの実現に向けて~】をご存じでしょうか?

上記の20、21ページが以下になります。

ステップ1:手続の見直しを示した画像です

ステップ2:企業が有する従業員情報の新しい提出方法に係る構想を示した画像です

本資料「ステップ1:手続の見直し」冒頭には、次のように記載されています。

  • 各種申請・届出手続をマイナポータルからオンライン・ワンストップで実施できるサービスを平成32年度(資料に和暦で掲載されています)から順次開始できるよう検討を進める。具体的な対象手続等は関係府省の状況等も踏まえ、精査の上、決定する。
  • 現在、手続ごとに必要な情報の提供を求めているが、申請・届出手続のオンライン・ワンストップ化を行い、マイナポータルを通じて各種手続に必要なデータを行政機関等のシステムに連携。

あくまで、私の主観ですが、「各種申請・届出手続をマイナポータルからオンライン・ワンストップで実施できる」というくだり。これは、来年から企業と行政(政府)とを直接結ぶということを意味しているのかもしれません。これって税理士、社労士、司法書士、行政書士など、士業の皆さんの主たる業務である【手続き業務】が減っていく可能性があるのではないかと認識しました。

他方、日本再興のための【成長戦略】を政府が策定し、日本経済が景気回復を経て長期的に安定した成長を実現していくのに、内外の潜在需要を顕在化しつつ民間投資を喚起する成長戦略を行い、労働生産性を高め潜在成長力を強化することが不可欠であるとしています。「働き方改革元年の今年、企業も、より本格的に取り組まなければならないのだ」と個人的に感じます。

こうした世の中の動きを相当以前から先取りし、社労士事務所で先進的な活動をされているのが五味田さんなのです。また、次世代に残したい企業を【ホワイト企業】と定義し、それを世に広めるための財団(一般財団法人 日本次世代企業普及機構・ホワイト財団)を設立し、奮闘されています。

では、五味田さんの紹介を始めましょう。

2 お会いして10年と少し。常に先進性を持った社労士事務所経営を目指して

現在38歳の五味田さん。お会いしたのは、五味田さんが27歳の頃だったと思います。その頃から先進的な考えをお持ちであり、事務作業一辺倒な士業の方が多い世界で、五味田さんのことを、良い意味で異質に感じたことを今も鮮明に覚えています。

五味田さんは和歌山県南で育ち、ご実家の事業を弟さんに任せて、自分は別の事業家になる意志を早めに固めて大阪の大学へ。たくさんの事業を数字面から見る、研究できるということに引かれ、会計事務所に入りました。そこで、会計事務所の世界を見聞きし、競合ひしめく中での独立は成功確率が低いことを実感します。そこで大型事務所の少ない社会保険労務士(社労士)の世界で独立を決意、猛勉強の末、社労士と中小企業診断士の資格にW(ダブル)で合格します。

会計事務所の新規事業の一つとして社内独立を果たし、その後自身の事務所を開業。この社労士と中小企業診断士のWライセンスを生かして人事・労務設計を行い、多数の企業サポートを実践しています。

社労士事務所の看板を掲げながらその領域は多岐にわたり、事業設計、補助金申請、資金調達、企業の【経営企画】的立ち位置にまで広げています。

3 20代後半からの事務所経営のコンセプトを簡単に

五味田さんに、20代後半からの事務所経営について、そのコンセプトを尋ねてみました。

まず、初期。この頃は助成金、補助金を経営者に徹底的に知らせることにしたと言います。そのときに大切にしていたのは、経営者のサポートだけをするのでなく、「経営者が従業員を大切にしているか?」「人を大切にする経営者が伸びる!」ということを信念に置くこと。この信念に基づき、サポートを多数行っていたそうです。

次に、5年ほど前。この頃から企業の組織コンサル、経営コンサルを前面に押し出すようになりました。時には、理念の確認、中期経営計画立案、事業の組み立て、商材拡販に至る事業領域全般に関わるところまで深く、クライアントファーストの目線で取り組んでいました。

そしてここ最近は、開業以来磨き上げてきた一流のノウハウを誰でも活用できるようにしています。例えば、士業未経験者であってもすぐに一人前化できるように、多様なコンサルティング領域をコンテンツ化し、「どのタイミングでどうクライアントに提供していくか?」を、マーケティング手法を使って所員に活用できるように仕組み化したそうです。

4 社労士業界と今後について。そして、ホワイト財団設立の経緯について

五味田さんに、社労士事務所の名前の由来について尋ねたことがあります。五味田さんの事務所の名前は【ソビア社会保険労務士事務所】です。この「ソビア」とはいったい何か?

ソビアを右、左、真ん中の順で読み上げるとアソビとなります。決してふざけた意味ではありません。企業理念に掲げる「Focus on your Dream!=お客様の「夢中」を創り出すお手伝いをし、そして私たちがどの企業様よりも「夢中」で仕事に取り組みたい」ともつながっています。子供の頃、夢中になって、面白がって、時間を忘れて取り組んでいたあの頃のように、クライアントの本業のお手伝いができるようにと、「ソビア」と名付けたそうです。

私は、これまで数多くの社労士事務所の代表の方々に出会ってまいりましたが、これほどまで先進的な活動をしている方はなかなかいません。

また、ここ最近の社労士業界については、五味田さんは次のように述べています。

  • 社労士の資格者は年々増加しています。特に、大手企業退職者や退職者予備軍を中心に、資格ホルダーが増えています。資格者が増えることで競争激化の助長となります。
  • 一方、社労士の顧客となり得る中小企業は減少しています。ニュースその他で周知の通り、後継者難による廃業が後を絶たず、企業数および従業員数が減少しており、この点でも競争が激しくなってきています。
  • 本稿の冒頭で紹介した通り、デジタルガバメントは一層加速しています。給与計算や、入退社手続きなどの事務手続き業務自体がデジタル化の方向にある中で、規模にかかわらず先進的な企業は自社内で完結し、社労士経由での業務が不要になろうとしています。

そもそもITリテラシーが低い社労士も多く、業界の競争激化とマーケットそのものの縮小が大きな課題と感じます。

また、経営者目線、従業員目線の、どちらかに偏った活動をする士業も多いと感じますが、五味田さんは、クライアント企業の満足、クライアント企業経営者の満足、クライアント企業従業員の満足、自事務所所員の満足という全てが満足であって初めて、次世代に残る企業になると考えています。

この次世代に残すべき企業を増やしたい。そこで企業成長を計測する指標を各項目に設定していき、その指標を達成する企業、目指す企業において、会社・経営者・従業員がそれぞれバランスよく指標に到達していれば、その企業を【ホワイト企業】と認定する。こうした「ホワイト企業認定」を実現するために、財団設立の運びとなっていったそうです。

5 自己評価よりも他人評価がこの国の国民性。ホワイト企業は他人評価であることが重要

五味田さんから面白い話を伺ったことがあります。あるとき、「地震などの災害発生時でも、コンビニで整然と並ぶ日本人の礼儀正しさ。それはなぜか、ということを考えたことはありますか?」と五味田さんから質問されました。

五味田さんは、日本人の『他人の目線を気にする国民性』からそうなるんだと思ったと言います。村社会的発想から、他人目線を重要視する、その「他人目線」を良い意味で企業活動に利用できるのでは?と思ったことを、ホワイト財団運営にも役立てているそうです。

これに関連して、私自身も感じるところがあります。ここ最近の人材採用マーケットについては、人手不足、採用難から自己(自社)評価を高くし、過大化・虚実化して採用広告に掲載。そして、それにある意味“だまされた”不幸な人が入社し、数カ月から数年で転職してしまうという悪循環。まさに人材採用マーケットの巨大化というより肥大化で、企業をむしばみ、害悪化していることへの怒りすら感じます。それに対してホワイト企業に認定されるという他人(第三者)評価、客観性があることで人材採用マーケットだけに限らず、企業活動全般の評価も上がります。ホワイト企業として認定された企業は、まさに次世代に残すべき企業としての意味があると感じます。

6 ホワイト企業認定とアワードについて

1)ホワイト企業認定について

ISO、プライバシーマークなど、以前からさまざまな国際的な企業向け資格認定を見てきましたが、ホワイト企業認定がそうした資格と違うのは、認定審査、認定費用が【無料】であることです。費用がかかるのは認定の翌年からの更新費用のみ。お金を払って資格や認定を取得するようなものも世の中には多数存在しますが、ホワイト企業認定はその類ではありません。

しかしながら無料といえども、簡単に認定されるものではありません。認定されるのは、申請する大企業でも半分以下、中小企業だと場合によっては5%程度となっています。ある意味、次世代に残る、変化に耐え得る企業を創出していくためにも、ホワイト企業認定は、まず変化(改革、改善、改良、時には抜本的に)を求められる認定指標となっています。認定を受けた会社の中には、新卒のエントリーが前年の5倍になった会社、各メディアへ認定企業をアピールする等などプラスの効果が得られた会社もあります。詳しくは財団HPをご覧ください。

●団体HP【ホワイト財団】
https://jws-japan.or.jp/

2)ホワイト企業アワードについて

「ホワイト企業アワード」は、2016年に始まりました。大賞、特別賞、ワーク・ライフ・バランス賞、女性活躍部門賞、ダイバーシティ部門賞、CSR部門賞の各部門で表彰するもので、スタートからたった1カ月で142社がエントリーしました。

2017年の第2回では272社が応募、ホワイト制度部門、イクメン支援部門も設定され、13社が受賞しています。2018年には一気に応募が877社となり、11部門27社が受賞しました。今年も第4回のアワードの開催を予定しており(2019年1月末締め切り)、ビジネスモデル、生産性、健康経営、柔軟な働き方、人材育成、働きがいなど10部門のエントリーを募集しました。2019年1月17日時点で、1200社がエントリーをしており、この時点で昨年を大きく上回っています。

五味田さんは、ホワイト財団の活動により、これから激変する社会で変化に耐えながらも成長できる企業を創出、見いだし、認定し、会社、経営者、そこに集う従業員を幸福に導くということを掲げています。また、この財団運営に関わる全国の士業に活躍の場を同時に創出しようとしているところです。五味田さん、三方良しどころでなく、四方八方世の中をホワイト化しようと企画しています。ますます活躍に期待したいと思います。

五味田さん・執筆者の近影の画像です

以上(2019年2月作成)

AIベンチャー社長に聞く、AIの現在地

「人工知能」や「AI」というワードを見ない日はありませんが、一方でいまだにAIに対する間違った考えを持っている人が少なくありません。いち早くAIを導入した企業では、「こんなはずではなかった」というAIに対する失望感がまん延しているとも聞きます。

そのような状況だからこそ、改めてAIが得意とすることは何か、なぜ企業はAIを必要とするのか、AI導入で何を達成したいのかについて、正確な情報に触れることが重要だと考えます。長くAIに携わってきた筆者が、AIの可能性を分かりやすく紹介します。

1 AIは今、どのように利活用されているか?

チェスや囲碁でAIが人を打ち負かしたという話題は、人々をAIの世界に引き込む上で重要な役割を果たしました。この他にも、AIが14世紀から20世紀までの肖像画約1万5000点を学習した上で描画したこと、クラシック音楽を学習してバッハが作曲したものと区別がつかないほどの曲を創作したこと、高校野球の戦評やイニングのデータを学習して新聞記事を書いたことなどが話題となりました。

人間とAIの能力の比較において、AIの優位性が示された事例は数々あります。この他にも、以下のようなものがあります。

  • 投資家向けのアナリストリポートをAIが解析し、過去のリポートとの客観的類似度を評価する
  • 新卒採用時の書類をAIが効率的かつ迅速に選考する
  • 杜氏(とうじ)の経験を生かし、AIが米の膨らみを画像診断して酒の品質を保持するよう支援する
  • 化学プラント事故を未然防止するために、生産設備に取り付けたセンサーの情報をAIが解析し、異常予兆を検知する
  • 結婚相談所で成婚率やマッチング率を高めるために、登録者のプロファイルなどの表面的な情報だけではなく、当人の生い立ちや周辺環境といったあらゆる情報をAIが他の登録者と掛け合わせる
  • テストの点数だけではなく、一人ひとりの家庭での学習状況をAIが分析し、その小学生に合った最適な学習プランを策定する
  • 最大の売上を達成するために、アルバイトやパートのシフトの組み合わせを調整する

これらのAI利活用は、今までは取り扱うことができないほどの大量なデータから傾向値を導き出す「未来予測」という、AIが得意とする能力によって実現したものです。これにより、業務の効率化、継続性および安全性の担保、コスト削減などのメリットが生まれています。

とはいえ、AIが導き出した答えが100%正しいわけではありません。あくまで確率が弾き出されるだけで、最終的な判断は人間が下します。この点がAIと「システム」の明確な違いです。つまり、1+1=2であるとするのが「システム」、70%くらいの確率で1+1=2かもしれないと考えるのがAIです。最終的に2とするか否かは人間が判断します。

2 AIを進化させるための「点」のビジネスからの脱却

先に示したAIの導入事例は、AIを使って「点」の企業ニーズを実現したものです。日本でのAI導入は「点」のビジネスの実現のために進められていますが、この「点」のビジネスから脱却し、大きな視点で捉えることこそがAIを進化させ、人に優しく寄り添うAI世界を実現することにつながると考えています。

ここでは、「点」のビジネスから脱却して、AIを進化させることを考えてみましょう。例えば、「空き家」問題です。既に空き家になっている情報を管理しているだけでは将来の街づくり構想はままなりません。既に空き家となっているデータだけでなく、AIを活用した「空き家になりそうな家の予測データ」も加えることで、初めて街づくりを検討することができます。

つまり、現時点の家族構成、近隣者との関係、通院履歴、子どもの進学状況、生活に必要な物資の入手方法、治安状況、福祉システムの充実度、道路の劣化度などのあらゆる情報分析をAIで行うことで、今後、空き家になる可能性の高いエリアの予測が可能となり、それが街づくりに反映されるわけです。

そして、空き家にならないように、間を空けずに別の家族に住んでもらうための情報提供も、AIによって支援することができます。このようにして自治体は税収確保が実現でき、治安の良い安全で魅力ある街づくりの推進が可能になるのです。

また、企業においてはAI音声認識技術とAI自然言語解析技術を融合させる試みが進もうとしています。具体的には、会議やコールセンターで会話した音声データを、話者ごとに分離をしながらリアルタイムにテキスト化し、余計な会話内容を自動削除して要約したり、議事録にまとめたりして、関係部署に即座にデータ共有を図るという試みです。さらに、スマートスピーカーから取り込んだ音声をベースに、出張予約から会計処理までを、一気に完了させるというものもあります。

このように、「点」の企業ニーズから脱却し、大きな視点で「実現したいこと」を考え、AIの利活用を考えると、業種はもちろん業務の壁も取り除かれ、AIがあらゆるシーンで利活用される「変革」が生まれるのです。これこそがAIの大きな可能性であり、全てのビジネスをAIが変えるといわれるゆえんです。

3 AIの未来像

現在のAIは、全て決まった作業を遂行する「特化型AI」に分類されます。これと対比するものとして、「汎用型AI」というものがあります。「汎用型AI」とは、あらゆる目的や課題に対応して、人間のような知的な振る舞いを一通りこなすAIであり、これこそが「人工知能」と呼ぶに値するものでしょう。

「汎用型AI」を実現するプロセスとして、人間の脳の神経系ネットワークを丸ごと再現しようとする全脳エミュレーションというアプローチと、新皮質・基底核・海馬のプログラムを個別に解析し、後に結合するという全脳アーキテクチャーというアプローチがあります。

人間の脳には、約1000億個のニューロン、約100兆個のシナプスがあり、その全容解明には相当な時間がかかるといわれますが、今世紀末に人類がそれを手に入れると予測する人もいます。これはまさに第4次産業革命につながるといえるもので、「我が社の決算書を作成してほしい」「A社とB社のホームページを開発してほしい」「自動車産業の最近の動向を10ページにまとめてほしい」というようなリクエストに、瞬時に応えることができるでしょう。

また、人間の体内からの内分泌物質をシミュレートすることで、人間が持つ約4500もの感情表現を生成することも、現実味を帯びてきています。その他、医療分野では、7μm(マイクロメートル)程度といわれる人間の赤血球ほどの大きさのナノロボットにAIを搭載し、血管注射により体内に大量に送り込むことで、ナノロボットががん細胞を退治したり、動脈硬化や脳梗塞を体内から治療したりするといったことが期待されています。

さらに、そのナノロボットを脳のあらゆる毛細血管に送り込んでスキャンし、人間の記憶・人格・発想などをコンピューター上にアップロードすることで、「人間の身体は死んだとしても精神だけは生き続けられる」ということも可能になるのです。これらは、倫理面の課題を多く残していますが、科学技術的には実現可能なのです。

このようにAIは世界を変える可能性を秘めていて、必然的にAIが人間の知性を超越するシンギュラリティ(技術的特異点)に到達します。一方で、AIが暴走しないように「人間に寄り添うAIの世界」の実現を目指す必要があります。AIに携わる企業などは、こうした世界を実現することで、「AIが人類の未来を脅かす」といった意見や危惧が無用であることを示していくことが大切です。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年2月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【朝礼】新入社員に「贈る言葉」はなんですか?

4月になると、当社に新入社員が入社してきます。そこで今日は、新入社員を迎えるにあたり、皆さんにお願いしたいことがあります。

皆さん、新入社員に「贈る言葉」を、それぞれ選んでみてください。著名な経営者の名言、映画や漫画のセリフなど、どこで使われた言葉でもかまいませんが、2つ条件があります。1つ目は、前向きな言葉を選ぶことです。新入社員は、これから社会に出て新しい生活をスタートさせます。明るく第一歩を踏み出せるよう、前向きな言葉で応援しましょう。

2つ目は、その言葉を選んだ理由や思いを明らかにすることです。たとえ著名な経営者の名言を選んだとしても、それは、その経営者の言葉にすぎません。そこに皆さんが選んだ理由や思いを乗せることで、言葉が「温度」を持ち、より新入社員の心に響くようになるのです。もちろん、皆さん自身が考え出した言葉でもかまいません。

参考までに、私が新入社員に贈ろうと考えているのは、「おもしろおかしく」という言葉です。これは、堀場製作所の創業者である堀場雅夫氏の有名な言葉で、堀場製作所の社是でもあります。

どのような仕事でもつまらないものはない。徹底的にやり抜くこと、チャレンジし続けることで、仕事は「おもしろおかしく」することができる。人生の大部分を費やすことになる仕事を「おもしろおかしく」することで、人生をも豊かにできる。そうした思いが込められた言葉です。

新入社員には、社会人としてスタートを切るその日から、こうした思いを持ってほしいと心から願っています。ただし、私が「おもしろおかしく」を選ぶ理由はそれだけではありません。新入社員にこの言葉を贈るには、迎える側である私たち自身も、「おもしろおかしく」なければならないと思っているからです。

右も左も分からない新入社員は、いわば真っ白なキャンバスです。そのキャンバスにどのような色をのせ、どのような絵を描けるかは、本人の頑張りもさることながら、会社を創っている私たちの影響が大きいのは間違いありません。

誰もが新しいことや面白いことにチャレンジできる会社。前例にとらわれず自由に意見が言える、しかし責任は一人ひとりがしっかり果たそうとする会社。困ったときは皆で議論し、助け合える会社。何よりも、一人ひとりが「仕事が楽しい」と思える会社。そうした会社であればこそ、新入社員は、「おもしろおかしく」を実現できるのだと私は考えます。

私の言う「おもしろおかしく」は、新入社員に仕事への向き合い方を伝えると同時に、一人ひとりが「おもしろおかしく」働くことのできる会社にすることを、新入社員とここにいる皆さんに約束する言葉でもあるのです。

あと約1カ月で、新入社員が入社してきます。さあ、皆さんは、どのような言葉で新入社員を迎えたいでしょうか。

以上(2019年2月)

pj16947
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】質問力を高めるために必要な3つのこと

現在、社会人が改めて勉強する「大人の学び直し」や、就労と学びを循環させる「リカレント教育」が注目されています。語学や会計、プログラミング、文章の書き方など内容はさまざまですが、意外と人気があるのは「インタビューの仕方」なのだそうです。

上手に質問できるようになりたい、相手から話を引き出したい。そうした理由で、実際にインタビューをする仕事に就いていない人も、多く受講しているようです。部下ともっとコミュニケーションを取りたい管理職や、顧客のニーズをしっかりヒアリングしたい営業担当者などが、インタビューのプロから「質問力」を高める秘訣を教わりたいのかもしれません。

質問力はビジネスの基本です。ビジネスは、社内外の相手が何を考えているか、何を実現したいかを知り、調整しながら、互いにとって良い結果となるよう進めていく必要があるからです。

しかし、これができない人が少なくありません。皆さんの中にも、自分の質問力に自信のない人がいるのではないでしょうか。そこで、質問力を高めるために必要な3つのことを紹介します。

まず、一番大切なのは、相手に関心を持つことです。相手のことを「知りたい」と思わなければ、質問したいことも思い浮かばないでしょう。世の中に、自分と全く同じように考える人はいません。相手の考えを知れば、皆さん自身の世界も広がります。そう捉えて、相手に関心を持ちましょう。

次に実践したいのは、「なぜ」という質問をすることです。何事にも必ず理由があります。相手の考えていることや状況を知るには、「なぜ」の部分が最も重要です。

場合によっては、「なぜ」を聞くことで、相手の考えや要望より、もっと良い方法が探せることもあるでしょう。「なぜ」と聞くのを怖がってはいけません。

そして、3つ目に必要なのは、掘り下げることです。これは、「なぜ」と聞くのに似ています。相手の話に対して、「具体的には?」という質問をして掘り下げていくのです。「それについて具体的にどうするのがよいと考えているのか」「具体的に何が必要なのか」。こうした質問をして掘り下げることで、相手も、考えを深めたり整理したりすることができるでしょう。

先日、私はある雑誌の企画でインタビューを受ける機会がありました。そのときのインタビュアーがとても質問上手だったことが印象に残っています。「どのような状態が理想なのか」「なぜそう思うのか」「その状態を実現するために、具体的に今、何が必要なのか」「そのために実践していることは何か」。こうした質問をしてもらえたおかげで、自分でも曖昧だった自分自身の考えを、言葉にして整理することができました。

皆さんも、ぜひ、3つの方法を実践してください。質問力が高まれば、皆さんの世界も、ビジネスの可能性も、きっと広がるでしょう。

以上(2019年2月)

pj16946
画像:Mariko Mitsuda