書いてあること
- 主な読者:上司に不満を感じている若手社員
- 課題:仕事が物足りない、上司の話についていけないなどの不満を感じている
- 解決策:上司は部下の成熟度に合わせて指導をしている。意図を理解し、上司との間のギャップを埋めるように努める
1 上司は部下の実力で態度を変える
上司は、丁寧かつ親身に部下を指導します。一方、部下は「自分の上司は大したことはない。すぐに追い抜ける」と思っているかもしれません。部下が自分の実力を知りたければ、上司の指示や指導の内容、態度を観察してみましょう。
上司も人間です。部下に追い抜かれたくはありません。部下が成長して自分のレベルに迫ってきたら、リードを確保しようと焦り出します。逆に、部下はまだまだ自分より下だと思っていれば、指導に余裕があります。
まだまだと思われている部下は、上司にとって「自分を脅かす存在」ではありません。そのような部下がすねた態度を取っても、上司は「まぁ、言われた通りにやってくれ!」と意に介しません。
このように、部下の成長や実力によって上司の態度は変わってくるものです。それを体系的にまとめた考え方に、経営学者のハーシーとブランチャードが提唱した「SL理論:Situational Leadership理論(状況適応理論)」があります。
SL理論によると、リーダーは仕事に対する部下の成熟度(以下「成熟度」)に応じて接し方を変えるべきだとされます。成熟度が低い部下には具体的な指示を与え、成熟度が高い部下には積極的に権限を委譲するといった具合です。
成熟度が低い部下は具体的な指示で導き、成熟度が高い部下は権限委譲で自主性や対応力を育てるというのが基本的な考え方です。以降では、SL理論を基に部下と上司の間で生じがちなギャップとその解消法を紹介していきます。
2 上司が細かな指示を出す理由
1)部下の不満「仕事が物足りない、指示も細か過ぎる」
やる気があるのに、上司からは簡単な仕事ばかり任され、スケジュールや進め方についても細かく指示されることがあります。部下は、「自分はもっと難しい仕事に挑戦したい」「結局自分は信用されていないのか」などと思うかもしれません。
2)上司はこう考えている
上司は、「今の部下は基礎固めのレベルにある」と考えています。簡単な仕事を通じて、仕事の基礎的な進め方や難所を把握させたりしようとしているのです。これはとても大切です。基礎を押さえれば、そこから部下の活動範囲を広げることができるからです。
3)部下はこう行動しよう
部下は仕事を軽く見たり、指示を聞き流したりしてはいけません。まずは与えられた仕事をきちんとこなして、仕事の基礎を固めましょう。与えられた仕事をミスなくこなせるようになれば、次第に上司からより難易度の高い仕事を任されるようになります。
4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス
教示型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の指示はしっかりとメモを取る」「最後に指示の内容を確認し、ヌケモレがない」ようにして、与えられた仕事をミスなくこなすことが大切です。
3 上司が精神論交じりの話をする理由
1)部下の不満「話の内容が“昭和”で、ついていけない」
上司が仕事に関する指示だけでなく、「どのような姿勢で仕事に臨むべきか」といったことを、精神論を交えながら、長い時間をかけて話すことがあります。部下は、「昔の話は聞きたくない」「早く仕事に戻りたい」などと思うかもしれません。
2)上司はこう考えている
上司は部下の成長を感じ、「徐々に仕事の難易度を上げていこう」と考えています。上司の指示通りに仕事を進めるだけでなく、仕事の意味を理解し、正しい姿勢で仕事に向き合ってほしいと願っているため、「考え方」に関する話が長くなるのです。
3)部下はこう行動しよう
部下は上司の話に耳を傾ける一方で、仕事に向き合う正しい姿勢を自問自答してみましょう。仕事に対する向き合い方は人それぞれです。だからこそ、いろいろな考え方に接し、良いところを積極的に学ぶことが大切です。
4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス
説得型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の話で理解できない点は質問する」「多様な価値観を毛嫌いしない」ようにして、“あるべき姿”を真剣に考えてみることが大切です。
4 上司が答えにくい質問をする理由
1)部下の不満「答えにくい質問ばかりされるので、上司と接したくない」
仕事に取り掛かる前に、上司から「この仕事の難所は?」「相手が求めていることは?」などと質問されることがあります。部下は、「やってみなければ分からない」「自分に任された仕事なのだから、放っておいてほしい」などと思うかもしれません。
2)上司はこう考えている
上司は部下の成長をより強く感じ、「そろそろ部下に仕事を任せたい」と考えています。そこで、質問を通じて部下の理解度や考え方を確認し、間違いがあればアドバイスを与えようとしています。
3)部下はこう行動しよう
部下は、「そんなこと分かるはずがない」と投げ出してはいけません。ビジネスは不確定要素だらけで進みますが、この問題にどう向き合うかで部下のキャリアも決まってきます。前に進みたければ、未来をイメージするトレーニングをしましょう。
4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス
参加型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司から質問されそうなことを事前に想定する」「仕事をシミュレーションして、事前に難所を取り除く」ようにして、未来志向の感覚を養うことが大切です。
5 上司に放っておかれる理由
1)部下の不満「指示がなく、見放された感じがする……」
これまで口うるさかった上司が、ほとんど指示をしてこなくなることがあります。部下は、「もしかしたら自分は嫌われたのか?」「仕事も責任も丸投げするつもりか?」などと思うかもしれません。
2)上司はこう考えている
上司は、部下は自分で考えてこなせるレベルに達したと認めています。部下の考えを尊重するために指示は最小限にとどめ、部下の仕事ぶりを見守っています。もちろん、問題があればすぐにサポートするつもりです。
3)部下はこう行動しよう
部下は、「どうすればよいか?」と不安を感じる必要はありません。むしろ、独り立ちできつつあることを誇りに感じ、自分のやり方を試してみればよいのです。ただし、本当に困ったことがあれば、すぐに上司に相談しましょう。
4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス
委任型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「積極的にチャレンジする」「上司への『報・連・相』は早めに行う」ようにして、自立した働き方を実践することが大切です。
6 上司にアピールするのも悪くない
部下は上司の言動から自分のレベルを知り、それに合った取り組みをすることで成長を早めることができます。ただし、上司が知っているのは部下の一面にすぎず、部下が就業外に何らかの自己啓発をしていても把握することができません。
もし、部下が自分の成長のために取り組んでいることがあれば、それを積極的に上司にアピールしましょう。例えば、「先日セミナーでこのような話を聞いたのですが……」など、収集した情報や学んだ内容を上司との会話の中で披露するのです。
こうしたアピールもまた自分(部下)自身の成長を促します。「この部下は、○○を学んでいたな。関連する仕事を任せてみよう」といった具合に、上司から一段高いレベルの仕事を任せてもらえるチャンスが広がるからです。
いつの時代も上司と部下の間には、埋め難いギャップがあります。不満を持つだけでは前に進みません。相手(上司)の考えを理解するのはもちろん、自分(部下)自身も研さんを積むことで、お互いにとって良い関係が生まれてくるのです。
以上(2019年1月)
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画像:photo-ac