部下が知っておきたい上司の指導方針

書いてあること

  • 主な読者:上司に不満を感じている若手社員
  • 課題:仕事が物足りない、上司の話についていけないなどの不満を感じている
  • 解決策:上司は部下の成熟度に合わせて指導をしている。意図を理解し、上司との間のギャップを埋めるように努める

1 上司は部下の実力で態度を変える

上司は、丁寧かつ親身に部下を指導します。一方、部下は「自分の上司は大したことはない。すぐに追い抜ける」と思っているかもしれません。部下が自分の実力を知りたければ、上司の指示や指導の内容、態度を観察してみましょう。

上司も人間です。部下に追い抜かれたくはありません。部下が成長して自分のレベルに迫ってきたら、リードを確保しようと焦り出します。逆に、部下はまだまだ自分より下だと思っていれば、指導に余裕があります。

まだまだと思われている部下は、上司にとって「自分を脅かす存在」ではありません。そのような部下がすねた態度を取っても、上司は「まぁ、言われた通りにやってくれ!」と意に介しません。

このように、部下の成長や実力によって上司の態度は変わってくるものです。それを体系的にまとめた考え方に、経営学者のハーシーとブランチャードが提唱した「SL理論:Situational Leadership理論(状況適応理論)」があります。

SL理論によると、リーダーは仕事に対する部下の成熟度(以下「成熟度」)に応じて接し方を変えるべきだとされます。成熟度が低い部下には具体的な指示を与え、成熟度が高い部下には積極的に権限を委譲するといった具合です。

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成熟度が低い部下は具体的な指示で導き、成熟度が高い部下は権限委譲で自主性や対応力を育てるというのが基本的な考え方です。以降では、SL理論を基に部下と上司の間で生じがちなギャップとその解消法を紹介していきます。

2 上司が細かな指示を出す理由

1)部下の不満「仕事が物足りない、指示も細か過ぎる」

やる気があるのに、上司からは簡単な仕事ばかり任され、スケジュールや進め方についても細かく指示されることがあります。部下は、「自分はもっと難しい仕事に挑戦したい」「結局自分は信用されていないのか」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は、「今の部下は基礎固めのレベルにある」と考えています。簡単な仕事を通じて、仕事の基礎的な進め方や難所を把握させたりしようとしているのです。これはとても大切です。基礎を押さえれば、そこから部下の活動範囲を広げることができるからです。

3)部下はこう行動しよう

部下は仕事を軽く見たり、指示を聞き流したりしてはいけません。まずは与えられた仕事をきちんとこなして、仕事の基礎を固めましょう。与えられた仕事をミスなくこなせるようになれば、次第に上司からより難易度の高い仕事を任されるようになります。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

教示型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の指示はしっかりとメモを取る」「最後に指示の内容を確認し、ヌケモレがない」ようにして、与えられた仕事をミスなくこなすことが大切です。

3 上司が精神論交じりの話をする理由

1)部下の不満「話の内容が“昭和”で、ついていけない」

上司が仕事に関する指示だけでなく、「どのような姿勢で仕事に臨むべきか」といったことを、精神論を交えながら、長い時間をかけて話すことがあります。部下は、「昔の話は聞きたくない」「早く仕事に戻りたい」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は部下の成長を感じ、「徐々に仕事の難易度を上げていこう」と考えています。上司の指示通りに仕事を進めるだけでなく、仕事の意味を理解し、正しい姿勢で仕事に向き合ってほしいと願っているため、「考え方」に関する話が長くなるのです。

3)部下はこう行動しよう

部下は上司の話に耳を傾ける一方で、仕事に向き合う正しい姿勢を自問自答してみましょう。仕事に対する向き合い方は人それぞれです。だからこそ、いろいろな考え方に接し、良いところを積極的に学ぶことが大切です。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

説得型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司の話で理解できない点は質問する」「多様な価値観を毛嫌いしない」ようにして、“あるべき姿”を真剣に考えてみることが大切です。

4 上司が答えにくい質問をする理由

1)部下の不満「答えにくい質問ばかりされるので、上司と接したくない」

仕事に取り掛かる前に、上司から「この仕事の難所は?」「相手が求めていることは?」などと質問されることがあります。部下は、「やってみなければ分からない」「自分に任された仕事なのだから、放っておいてほしい」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は部下の成長をより強く感じ、「そろそろ部下に仕事を任せたい」と考えています。そこで、質問を通じて部下の理解度や考え方を確認し、間違いがあればアドバイスを与えようとしています。

3)部下はこう行動しよう

部下は、「そんなこと分かるはずがない」と投げ出してはいけません。ビジネスは不確定要素だらけで進みますが、この問題にどう向き合うかで部下のキャリアも決まってきます。前に進みたければ、未来をイメージするトレーニングをしましょう。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

参加型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「上司から質問されそうなことを事前に想定する」「仕事をシミュレーションして、事前に難所を取り除く」ようにして、未来志向の感覚を養うことが大切です。

5 上司に放っておかれる理由

1)部下の不満「指示がなく、見放された感じがする……」

これまで口うるさかった上司が、ほとんど指示をしてこなくなることがあります。部下は、「もしかしたら自分は嫌われたのか?」「仕事も責任も丸投げするつもりか?」などと思うかもしれません。

2)上司はこう考えている

上司は、部下は自分で考えてこなせるレベルに達したと認めています。部下の考えを尊重するために指示は最小限にとどめ、部下の仕事ぶりを見守っています。もちろん、問題があればすぐにサポートするつもりです。

3)部下はこう行動しよう

部下は、「どうすればよいか?」と不安を感じる必要はありません。むしろ、独り立ちできつつあることを誇りに感じ、自分のやり方を試してみればよいのです。ただし、本当に困ったことがあれば、すぐに上司に相談しましょう。

4)部下が次のステップへ進むためのワンポイントアドバイス

委任型リーダーシップによる指導を受けている段階の部下が次のステップに進むためには、「積極的にチャレンジする」「上司への『報・連・相』は早めに行う」ようにして、自立した働き方を実践することが大切です。

6 上司にアピールするのも悪くない

部下は上司の言動から自分のレベルを知り、それに合った取り組みをすることで成長を早めることができます。ただし、上司が知っているのは部下の一面にすぎず、部下が就業外に何らかの自己啓発をしていても把握することができません。

もし、部下が自分の成長のために取り組んでいることがあれば、それを積極的に上司にアピールしましょう。例えば、「先日セミナーでこのような話を聞いたのですが……」など、収集した情報や学んだ内容を上司との会話の中で披露するのです。

こうしたアピールもまた自分(部下)自身の成長を促します。「この部下は、○○を学んでいたな。関連する仕事を任せてみよう」といった具合に、上司から一段高いレベルの仕事を任せてもらえるチャンスが広がるからです。

いつの時代も上司と部下の間には、埋め難いギャップがあります。不満を持つだけでは前に進みません。相手(上司)の考えを理解するのはもちろん、自分(部下)自身も研さんを積むことで、お互いにとって良い関係が生まれてくるのです。

以上(2019年1月)

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権力闘争という難問〜守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(10)〜

うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 犬に爪と牙を与えたら

『韓非子』は、組織を一つにまとめるために法や権力を武器とし、さらに成果をあげる組織を作るために信賞必罰や、刑名参同などの仕組みを作ったということを前回まで述べました。

これらは、考え抜かれた素晴らしい手法の数々なのですが、一つ大きな問題を抱え込むことにもなりました。それが「権力闘争」を呼び込んでしまうことなのです。

  • 権勢は以って人に借すべからず。上、その一を失わば、臣以って百をなす(権限を部下に貸し与えてはならない。トップが失った一のものを、部下は百倍にもして使う)『韓非子』
  • それ虎のよく狗(いぬ)を服する所以(ゆえん)の者は、爪牙(そうが)なり。虎をしてその爪牙を釈(す)てしめて、狗をしてこれを用いしむれば、則ち虎は反(かえ)って狗に服せん。人主なる者は、刑徳を以って臣を制する者なり。今、人に君たる者、その刑徳を釈てて、臣をしてこれを用いしむれば、則ち君は反って臣に制せられん(虎が犬を屈服させられるのは、爪や牙を持っているからだ。虎に爪や牙を捨てさせて、犬に用いさせれば、反対に虎が犬に屈服するハメになるだろう。君主という存在は、「刑罰」と「恩賞」で臣下を統制する者だ。いま、人の上に立つ君主が、その「刑罰」と「恩賞」という武器を捨て去って、臣下に与えてしまったら、君主がかえって臣下に統制されるハメになるだろう)『韓非子』

「刑罰」と「恩賞」は、それを握った方が権力を持ち得るわけですから、弱いはずの臣下でも、もしそれを握れたなら、虎の爪と牙を持った犬のように力関係を逆転できるわけです。そうなると、君主はいかにそれを手離さないかに腐心し、臣下はいかにうまくそれを掠(かす)め取るかを考えるという、キツネと狸の化かし合いのような事態が始まります……。

では、臣下の方はいったいどうやって権力を掠め取ろうとするのか。

  • 姦臣は、皆人主の心に順(したが)いて、以って親幸の勢を取らんと欲する者なり。ここを持って主に善する所あらば、臣従いてこれを誉(ほ)め、主に憎む所あらば、臣因ってこれを毀(そし)る(腹黒い臣下は、君主の心に取り入って、寵愛を勝ち取ろうとする。だから君主が気に入っているものであれば誉め称え、君主が気に入らないものであれば罵るのである)『韓非子』

こうやってお気に入りとなったらどうするのか。よくあるのはこんな手です。

  • 田常、上は爵禄(しゃくろく)を請いて、これを群臣に行い、下は斗斛(とこく)を大にして百姓に施す(斉の国の田常という貴族は、君主のお気に入りだったことを利用して爵位や俸禄をたっぷりもらうと、他の家臣たちに気前よく分け与え、一般庶民には穀物をわざと大きな升で貸し出し、返してもらうときは小さな升を使うといったやり方で恩恵を施した)『韓非子』

会社でたとえるなら、オーナーや社長のお気に入りとなって交際費などをたっぷり使えるようにしてもらった役員が、社内接待で自分の派閥を広げ、オーナーや社長の追い落としを謀るといった形とそっくり同じになります。

さらに、次のような口車で権力の源泉を奪い取ってしまうという方法もあります。

  • 子罕(しかん)、宋君に謂いて曰く、「それ慶賞賜与(しよ)は、民の喜ぶ所なり。君みずからこれを行え。殺戮刑罰は、民の悪(にく)む所なり。臣請うこれに当たらん」。ここにおいて宋君刑を失いて、子罕これを用う。ゆえに宋君は劫(おびや)かさる(宋の国の子罕という貴族は、宋の君主にこう言った。「褒章や賜与というのは、民の喜ぶものですから、君主みずからお与えください。殺戮や刑罰というのは民の嫌がるものですから、私がこれを担当しましょう」。そこで宋の君主は刑罰の権限を子罕に与えた。その結果、宋の君主は子罕に脅かされることとなった)『韓非子』

筆者もサラリーマンを10年やっていたので経験がありますが、査定のときに部下に悪い結果を伝えるのは誰しも嫌なものです。そうした心理をついて、刑罰の権限を取り上げてしまう形になるわけです。

では、こうした動きに君主はどう対抗していけばよいのか。話はどんどんときな臭くなっていきます……

2 どのように真実を見抜くか

もちろん家臣や部下のなかにも、権力奪取を狙う腹黒い人物もいれば、本当にこちらに忠誠を尽くそうとする人物もいるわけです。ただしそれは、表の態度や言葉だけではわかりません。そこで『韓非子』はこう指摘します。

  • 聴くに爵を以ってして、参験を待たず、一人を用いて門戸となす者は、亡ぶべきなり(相手の地位にこだわって、さまざまな情報を突き合わせず、寵臣一人だけを情報源としている。このような君主はわが身を滅ぼす)『韓非子』
  • 君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり。その暗き所以の者は偏信すればなり(明君の明君たるゆえんは、広く臣下の意見に耳を傾けることであり、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下の言葉だけしか信じないことである)『貞観政要』

後者は『貞観政要』という、日本でもよく帝王学のテキストとして使われる古典からの引用ですが、つまり部下たちの発言を突き合わせて真実を見抜けと言っているわけです。お気に入りの発言ばかり信じていると、そのお気に入りが実は腹の黒い人物だった場合、やがては権力を奪われてしまうよというわけです。会社の社内抗争でも、「まさか、目をかけていたお前に裏切られるとは」といったセリフを吐いて追い落とされる権力者は少なくなかったりします。

では、部下の発言を突き合わせればうまく部下たちの本性が見抜けるかといえば、これだけではダメなのです。なぜなら、すべての側近たちが口裏を合わせて、君主を欺いてくることも考えられるからです。ではどうするか。

3 トップには七つの「術」が必要

  • 七術とは、一に曰く、衆端を参観す。二に曰く、必罰、威を明らかにす。三に曰く、信賞、能を尽くさしむ。四に曰く、一に聴きて下(しも)を責む。五に曰く、疑詔詭使(ぎしょうきし)す。六に曰く、知を挟(さしはさ)みて問う。七に曰く、言を倒(さかさ)にして事を反す『韓非子』

一、部下の言い分をお互いに照合して事実を確かめること
二、法を犯した者は必ず罰して威信を確立すること
三、功績を立てた者には必ず賞を与えて、やる気を起こさせること
四、部下の言葉に注意し、発言に責任を持たせること
五、わざと疑わしい命令を出し、思いもよらぬことを尋ねてみること
六、知っているのに知らないふりをして尋ねてみること
七、白を黒と言い、ないことをあったことにして相手を試してみること

ここで見るべきは、五以下の条。部下にさまざまな揺さぶりをかけて、本当のことを言っているのか、何が本当のことなのかを見抜いていけ、というわけです。権力闘争というのは、いったん始まると、本当に泥沼になっていくんですね……

しかも、話はここで終わりません。たとえ部下の本性を見抜けたとしても、次のような問題が起こる可能性があるからです。

4 トップが警戒すべき六つの「微」

  • 六微とは、一に曰く、権、借して下に在り。二に曰く、利、異にして外に借る。三に曰く、似類に託す。四に曰く、利害、反するにあり。五に曰く、参疑、内に争う。六に曰く、敵国の廃置なり『韓非子』

一、権限を部下に貸し与えること
二、部下が外部の力を借りること
三、部下が誰かを陥れるためトップを騙そうとすること
四、部下が利害の対立につけこむこと
五、内部に勢力争いが起こること
六、敵の謀略や干渉に乗せられること

注目すべきは二の指摘。権力の源泉は、組織内部で調達できなければ、外部から調達することも可能になるのです。会社でいえば、社内抗争に敗れた一派が、外部のファンドの力を借りて、会社の乗っ取りを謀るような構図でしょう。

結局、「人が信用できない」という前提でよい組織を作ろうとするのは、どうしてもどこかに無理が生じざるを得ないのです。さらに、こうした『韓非子』流の統治法は、もう一つの大きなマイナス面を持っていました。それは現代にも通じる難問であり、古代においては秦王朝を崩壊させる原因にもなっていったのです。(続)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月31日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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素直ということ〜小宮一慶の社長コラム

社長として、そして人間として成功するには「素直さ」がとても大切だと思います。素直さは謙虚さにつながります。多くの社長を見てきてつくづく感じますが、成功している人は自分の芯をしっかりと持ちつつ、根本のところで素直で謙虚です。松下幸之助さんも、「人が成功するために一つだけ資質が必要だとすると、それは素直さだ」という趣旨のことをおっしゃっています。

1 素直さが成功の一番の根本

私の仕事は、人の成功をサポートすることです。社長の中には大成功した人もいますし、残念ながら会社を潰してしまった人もいます。ただし、成功した人も失敗した人も性格的にはそれほど大きく違わないのです。

根本的に違うのは、失敗した人は、素直さや謙虚さがなく、他人の話を聞かないのです。

2 部下の話にメモを取っているか

皆さんは部下の話にメモを取っていますか。例えば、講演会や上司の話には、大抵メモを取ります。そこでメモを取れない人は、そもそも芽がない人です。一方で、部下の話をメモに取ることができない上司が少なくありません。素直さ、謙虚さを知らず知らずのうちに失っているからです。

部下の視点で考えてみれば、自分の話を上司がメモしてくれているのを見たらうれしいものです。また、上司の立場からも利点があって、後々に「言った」「言わない」という初歩的なトラブルがなくなります。メモに証拠が残っていますから、「○月○日に、君はこう言ったよね」と事実確認をすることができます。

謙虚さとはそういうこと。立場が変わっても、同じ目線でいつも物事を見られるということなのです。社長はもちろん、コンサルタントもそうですが、どこへ行っても「社長」と呼ばれ、「先生」と呼ばれます。すると、気付かぬうちに目線が高くなりがちです。

ですから私は、お客さまには「先生」ではなく「小宮さん」と呼んでいただくようにお願いしています。いつも同じ目線、対等な目線でいたいからです。

社長も同じです。偉いから社長なのではなく、そういう役割なのです。ところが、会社の業績が良いと人は傲慢になりがちです。相手が“お金に頭を下げている”のが分からなくなり、自分が偉いからだと勘違いしてしまうのです。

「実るほど頭の下がる稲穂かな」ではないですが、素直さや謙虚さをなくしてしまうと、物事が正しく見えなくなります。

私には、失敗する人のほとんどは自らそうした道を選んでいるように見えます。しかし、本人はそれに気付いていません。一方、成功する人に共通するのは、小さな気配りや行動を徹底できる点にあります。そして、いつまでも初心を忘れず、素直で謙虚な気持ちを保つベースがあるのです。だからこそ、部下もついてきます。

3 素直の「3つのステップ」、見えていますか?

では、どうすれば社長は「素直さ」を持つことができるのでしょうか。私は、素直さを自分のものにするための「3つのステップ」があると考えています。

第1のステップは、「聞く」こと。相手が言っていることを、受け入れる姿勢を持つことです。とにかくまずは受け入れて、自分の中で良いか悪いか、やるかやらないかを判断するのです。

中には頑なな人もいて、そういう人は相手の話を受け入れる前に目の前ではじき返してしまいます。どんなに頭の良い人でも、他人の意見を受け入れない人は、自分の殻を破れず、他人の知恵を生かせないのです。さらには、他人の意見を聞かないと、人は徐々に話をしてくれなくなり、どんどん離れていきます。

第2のステップは、「良いと思ったことは、やる」ということ。分かったような顔をしているけれど、実際にはやらないという“聞いたフリ”は良くありません。

もちろん、何でもかんでもやる必要はありません。相手の話を受け入れ、その上で自分の価値基準に照らして「良い」と思うものはそのまま受け入れ、リスクの高いことは、じっくり考えた上で判断すればいいのです。そのためには、社長は普遍的な価値観を持っていなければならないことは言うまでもありません。いけないのは、よく考えることもせずに、行動だけを先延ばしにする姿勢です。

最後の第3のステップは、「やり続ける」こと。結果が出るまで、とにかくやり続けてください。本当に良いことは、一生やり続けるのです。とにかく良いことを続けることが大切です。

いずれにしても、私も含めて常に自分が素直であるかを反省することが大切だと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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今から2000年以上前の業績評価制度〜守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(9)〜

うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 刑名参同

「信賞必罰」の徹底により、一つにきちんとまとまっていて、かつ成果のあがる組織を『韓非子』は作り上げようとしました。さらに、これを徹底するために、時代を2000年以上も先駆けた、ある手法を描いてみせます。少し長い文章ですが、まず次をお読みください。

  • 人主(じんしゅ)、まさに姦を禁ぜんと欲せば則ち刑名を審合すとは、言と事なり。人臣たる者は陳(の)べて言い、君はその言を以ってこれに授け、専らその事を以ってその功を責む。功その事に当たり、事その言に当たらば則ち賞し、功その事に当たらざれば則ち罰す。故に群臣その言大にして功小なる者は則ち罰す。小功を罰するに非ず。功、名に当たらざるを罰す。群臣その言小にして功大なる者もまた罰す。大功を説ばざるに非ず。以爲(おもえ)らく名に当たらざるは、害、大功あるよりも甚だしと、故に罰す
    (部下の悪事を防ごうとするならば、トップは部下に対して「刑」と「名」、すなわち申告と実績の一致を求めなければならない。まず部下がこれだけのことをしますと申告する。そこでトップは、その申告にもとづいて仕事を与え、その仕事にふさわしい実績を求める。実績が仕事にふさわしく、それが申告と一致すれば、賞を与える。逆に、実績が仕事にふさわしくなく、申告と一致しなければ、罰を加える。これだけはやりますと申告しながら、それだけの実績をあげなかった者は、罰する。実績が小さいからではない。申告と一致しないから罰するのだ。これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する。なぜか。むろん、実績の大きいことを喜ばないわけではない。だがそれよりも、申告と実績の不一致によるマイナスの方がはるかに大きいからだ)『韓非子』

このように部下の申告と実績をつきあわせて、一致しているかどうかによって賞罰を下す方法のことを「刑名参同」と言います。

まさしく現代における「目標管理制度」や「業績評価制度」を先取りした制度が、古代の中国では唱えられていたわけです。

ただし、お読みになって頂ければわかるように、まったく同じというわけではありません。一点大きな違いがあります。現代的な目から見ても、

「これだけはやりますと申告しながら、それだけの実績をあげなかった者は、罰する」

というのは、よくわかります。実際、少なからぬ数の会社員の方は、こうしたノルマ未達を避けようとしている面があるわけです。

しかし、

「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する」

これは、現代的にいえば、わけがわからない指摘でしょう。1000万円の売り上げ目標を立てていたのに、1200万円の売り上げを達成して喜んでいたら、減給や降格させられてしまうようなものですから……。

なぜ、こんな話になってしまうのか。ここには、性悪説――つまり、人を信用しないでうまくまわる組織を作ろうとすることの問題点が端的にあらわれています。

2 部下の裁量を極力排除する

前にもご紹介したように、『韓非子』という古典には、

  • 人主の患いは人を信ずるに在り。人を信ずれば則ち人に制せらる(君主がしていけないことは、相手を頭から信用してかかることである。そんなことをすれば相手からいいように利用されてしまう)『韓非子』
  • 上下(しょうか)は一日に百戦す。下はその私を匿(かく)して用(も)ってその上を試し、上は度量を操りて以ってその下を割く(君主と臣下とは、一日に百回も戦っている。臣下は下心を隠して君主の出方をうかがい、君主は法を盾に取って臣下の結びつきを断ち切ろうとする)『韓非子』

といった記述があります。つまり、そこには「部下は裏切るもの」「人は信用できないもの」という大前提がありました。

韓非の活躍した戦国時代の末期は、戦乱が行くところまで行きついたような時代であり、実際に下剋上や内乱が絶えない状況でした。ですから、これは仕方のないことなのですが、しかし、この前提はどうしても歪みを生んでしまうのです。角度を変えて言えば、

「部下からの裏切りを防ぐためには、決めたこと、約束したこと、言ったことの徹底的な遵守を求め、部下の裁量を極力排除する」

という条件と、

「組織として成果をあげていく」

という条件とが矛盾してしまった場合、一般の企業であれば後者に比重を置くわけです。言ったこと、決まったことをピンポイントで守るというだけでは、複雑な現実に対処し切れませんし、チャレンジ精神や前向きな気持ちというのは出にくいからです。

しかし『韓非子』の場合、裏切られれば、それは自分の死を意味するわけですから、時代状況からいって前者に比重を置くしかありませんでした。このため次のような一節が続きます。

「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する。なぜか。むろん、実績の大きいことを喜ばないわけではない。だがそれよりも、申告と実績の不一致によるマイナスの方がはるかに大きいからだ」

他人が基本的には信用できない以上、その裏切り防止が最優先にならざるを得ない――そんな歪んだ状況が、現代との違いを生んでいるわけです。

3 自己申告による目標設定

さらに、『韓非子』が「刑名参同」を導入した理由として、もう一つ次のような条件をあげることもできます。

「法や権力によって人々を縛り、しかも賞や罰を与える制度は、権力者や責任者が怨まれやすいので、それを回避する方策が必要となる」

もちろん、賞をもらって上を怨む人はいないでしょう。しかし、問題は罰の方です。例えば、権力者が恣意的に組織や部下の目標を設定し、それを下に強制してやらせたとします。しかし残念ながらそれは達成されず、皆が罰を与えられたとしましょう。こうなると、次のように考える人が出てもおかしくありません。

「上が勝手に押し付けてきたノルマで、こんなヒドイ目にあわされた。あの権力者は許せない、引きずり落としてやる」

現代であれば、こういった状況が続けば普通は転職という話になるでしょうが、下剋上や内乱が当たり前だった古代ですと、怨みのある権力者へのクーデターや暗殺などの元凶になってしまうわけです。

当然、上に立つ人間としては、こうした事態は最も避けたいわけです。では、どうするのか。そこで『韓非子』が考えたのは、目標を本人に決めさせる手法なのです。

「だって、その目標は自分で決めたものだよね。それを達成できないというのは、自分の責任でしょ。誰も怨めないよね」

こういうロジックで、権力者へ怨みを集中するのを避けようとしたと捉えることができるのです。

実は、『韓非子』という古典は、老荘思想として知られる『老子』という古典の影響をかなり受けていました。その『老子』には、こんな言葉があります。

  • 太上は下これあるを知る。その次は親しみてこれを誉(ほ)む。その次はこれを畏(おそ)る。その下はこれを侮る(最も理想的な指導者は、部下から存在すら意識されない。部下から敬愛される指導者はそれよりも一段劣る。これよりさらに劣るのは、部下から恐れられる指導者。最低なのは部下から軽蔑される指導者だ)『老子』

そして『韓非子』にも、こんな言葉があります。

  • 人主の道は、静退をもって宝となす(君主の道というのは、静かに身を退けて状況をうかがうこと)『韓非子』

いわんとすることは、いずれも同じです。権力を持っていて、それをそのまま揮(ふる)っていれば、怨みをかって自分の身は安泰とはいえません。「信賞必罰」や「刑名参同」といったシステムを作って稼働させ、あくまで自分は関わりがないようなフリをして権力を揮い、組織を意のままに操るのが賢い君主のやり方になるわけです。

君主はこうした手法を駆使しつつ、部下を裏切らせず、かつ、成果のあがる組織を作っていくわけですが、しかし他人を信用しない組織というのは、どうしてもほころびが出ます。次回はそのほころびについて触れたいと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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ウェブサイト活用時の法的トラブル/スタートアップのための法務(7)

こんにちは、弁護士の村上嘉奈子と申します。シリーズ「スタートアップのための法律知識」第7回は、ウェブサイト活用時に生じ得る法的トラブルとその対策について紹介します。

ウェブサイト上での情報発信は、自社の認知や信用を高め、取扱商品・サービスの広告としても大いに効果を発揮します。また、情報発信にとどまらず、スタートアップ時からインターネットを通じた商品売買などのビジネスを予定している企業も多いのではないでしょうか。

しかしながら、ウェブサイト上での情報発信や商品売買などには即座に情報が広い範囲に伝達される特性があり、不適切な情報発信などがトラブルにつながる例も散見されます。ウェブサイトの活用時に想定される法的トラブルを事前に認識し、留意することも肝要です。


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シリーズ・スタートアップのための法務

こちらはスタートアップのための法務シリーズの記事です。
以下の記事もあわせてご覧ください。

1 他サイトの画像や文章の無断転用をしない~著作権法等

ウェブサイトに関連するトラブルとして最初に想定されるのは、他サイトの画像や文章等の素材の無断転用を発端とするトラブルです。

他サイトに掲載されている魅力的な素材を思わず自社サイトにも利用したところ、著作権者から著作権侵害のクレームが来たという事例はしばしば目にします。クレームがウェブサイトを通じて行われる例も多く、サイト運営者の信用低下にもつながります。また、この場合には著作権者による差止請求や損害賠償請求などの法的トラブルにつながることも十分に想定されます。

このようなトラブルを回避するため、自社の著作物に当たらない素材を利用する場合には、事前にいわゆる「著作権フリー」の素材であるか否かを確認し、無断転載が許されない素材については著作権者の同意を得ることを検討します。また、著作権フリーの素材でも、商用利用を禁止しているケースがあるので注意が必要です。

なお、著作権法においては、著作権者の承諾がなくとも、「公表された著作物」を「引用」として利用することは可能とされますが、著作権法上適切な「引用」として認められるためには、次のような要件を満たす必要があります。適切に要件を満たしていることにご留意下さい。

  • 出典/引用部分が明確に分かる状態とすること
  • 引用以外の部分が「主」で引用部分が「従」であることが分かるような形態とすること
  • 報道、批評、研究その他の目的上、正当な範囲で行われること

2 真偽や根拠が不明な内容を掲載しない~景品表示法

インターネット上の広告内容等が虚偽を含む場合や適切な根拠が存在しない場合には、景品表示法の規制を受ける可能性があります。

自社の商品やサービスの魅力を伝えるために、商品等の効果・効用を多少オーバーに表現したくなる

心情は人の常ともいえます。しかし、景品表示法では、商品・サービスの内容または取引条件について、実物や競争事業者の商品等よりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認させる表示等を、措置命令や課徴金納付命令等の規制対象としており、注意が必要です。

表示内容が同法に違反した場合、対象商品・サービスの売上額の3%相当額の課徴金を納付しなければならなくなる可能性があり、事業活動に与える経済的ダメージは少なくありません。また、事業者に対する措置命令や課徴金納付命令は行政庁による公表の対象とされ、事業者の信用にも大きなダメージを与えます。

事業者が行政庁の求めに応じて表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出することができない場合は、不当表示に当たるものと解されることとなります。従って、商品・サービスの広告を行う際は、記載内容が適切であるか、またその根拠を事前に確認・検討し、リスクを回避していただく必要があります。

また、インターネット上の広告表示については、消費者庁公表のガイドライン「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」も参照し、取引条件についての重要な情報を表示する場合にハイパーリンクの文字列に明確にその旨を表示することや、情報の更新日を正確かつ明瞭に表示することなどにも併せてご留意下さい。

3 情報漏洩防止等に備える~個人情報保護法・GDPR等

昨今、ウェブサイトの安全管理が不十分であることを原因とした情報漏洩や不正アクセスなどの不祥事も頻繁に生じています。

インターネット上の安全管理が不十分であることにより、情報漏洩や不正アクセスが生じてしまった場合、顧客に重大な損害が生じることとなり、事業者の信頼も大きく毀損されます。ウェブサイトに顧客情報等の入力が予定される場合には特に、不正ソフトウェア対策やシステム監視などの適切な安全管理措置にご留意下さい。

なお、インターネットを通じて海外向けサービスを展開している場合には、海外における個人データの保護規制にもご留意いただく必要があります。特に2018年5月に施行されたEUの一般データ保護規則(GDPR)では、域外適用が定められており、EUに拠点がない企業も、EU域内の顧客に商品・サービスを提供する場合などには規制を受けます。違反した場合の制裁金リスクが高額であることが知られており、欧州域内の顧客との取引が想定される事業者においては十分にご留意下さい。

4 適切な定型約款を活用する~改正民法

2020年4月1日施行予定の改正民法においては、定型約款(事業者が作成する定式化された「約款」「規約」などの条項群)に関する民事ルールが新たに定められ、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)につき、所定の要件を満たした定型約款の効力が法律上明確に認められました。定型約款の活用は、多数の顧客との画一的・統一的な契約条件を実現し、大量取引の合理化・効率化を可能にするものといえます。

 上から目線にならない催促メールの書き方を文例付きで紹介します。なお、こちらが催促を受けてしまった場合は、次の記事が参考になります。

一方、定型約款の活用に当たっては、定型約款準備者(企業)等において相手方から請求があった場合、直ちに定型約款の内容を示す義務を負うものとされます。ウェブサイト上の開示等による対応も可能とされますので、適用条件等につき確認の上、活用していただければと存じます。

今回はウェブサイト活用時の注意点を見てきました。ご紹介した点にご留意いただきつつウェブサイトを最大限に有効活用し、皆様のビジネスをさらに発展させていただければと存じます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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「権力」をいかに握り、使いこなすのか〜守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(8)

うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 そもそも「権力」とは何か

法やルールを守らせるためには「権力」が必要であると『韓非子』では指摘していると、前回記しました。

では、そもそも「権力」とは何でしょう。案外わかったような、わからないような言葉なのですが、面白いことに、兵法書の『孫子』にその定義をズバリ記したような一節があります。

  • 善く戦う者は、人を致して人に致されず(戦上手は、相手をこちらの意のままに操り、こちらは相手の意のままにならない)『孫子』

つまり、こちらは相手を自由にコントロールできるが、相手の意のままにはならずに済む。この状態が、「権力」を握った状態になるわけです。

ちなみに『孫子』の場合、これは「権力」の要件を描いたものではなく、「主導権」の要件を述べたところなのです。つまり、平時における「権力」と、戦時における「主導権」とはかなり似た概念なのです。

では、どうやって相手を意のままにコントロールするのか。『孫子』にはこんな手段が記されています。

  • よく敵人をして自ら至らしむるは、これを利すればなり。よく敵人をして至るを得ざらしむるは、これを害すればなり(敵に作戦行動を起こさせるためには、そうすれば有利だと思い込ませなければならない。敵に作戦行動を思い止まらせるためには、そうすれば(作戦行動を起こせば)不利だと思い込ませることだ)『孫子』

「利」と「害」――これはアメと鞭、エサと毒と言い換えてもいいでしょう――を二本の操縦かんのようにして操れ、というのです。では「権力」を駆使するための「利」と「害」とは何か。歴史的にいえば、次の要因があげられます。

  • 軍事力・裁判権:「利」言うことを聞けば生かしておくよ/「害」聞かないと殺しちゃうよ
  • 財力:「利」言うことを聞けばお金をあげるよ/「害」聞かないとあげないよ
  • 人事権:「利」言うことを聞けば出世させるよ/「害」聞かないと左遷・クビだよ

他にも「依存関係(言うこと聞かないと依存させないよ)」「情報格差(言うこと聞かないと教えてあげないよ)」など、さまざまなパターンがありますが、こういった要因を源泉にして、相手をコントロールするのが「権力」の実相なのです。

こうした「権力」行使の端的な実例に、民主党が政権をとったときに唱えた「政治家主導」があります。そのとき、官僚たちを操縦する手法としていわれていたのが、次の内容でした。

「金の流れと人事を握れ」

まさしく「財力」と「人事権」という権力の源泉を握ってコントロールしよう、という話だったわけです。

こうした「権力」を駆使して、

「法やルールを守らない者は厳罰に処す・殺す」

という形を作ることが、まず『韓非子』にとって組織をまとめる大前提としてありました。

2 権力関係をいかに見抜き、利用するか

こうした「権力」や、それをもとにした「権力関係」は、濃淡はありますが、さまざまな組織や人間関係で見られるものです。卑近な話でいいますと、こんな例があります。

昔よく、

「戦後、家庭におけるお父さんの権威が甚だしく低下した」

といわれていました。今では当たり前過ぎて話題にもあがらなくなった感もありますが、ではなぜそうなったのか。ユニークな理由として、「給料が銀行振り込みになったから」という説があります。

もちろん、どこまで本気かわからないような内容ですが、「権力」の源泉の問題を考える限り、これはあながち間違いとは言い切れない面があります。

もし給料が手渡しであるならば、月に一回お父さんたちは、

「自分が『財力』という力の源泉を握っている」

と、自分の権力を家族に示すことができるわけです。

ところが銀行振り込みになると、そんな機会はなくなります。そうなると、専業主婦の妻も子供も「お金は勝手に口座に振り込まれるもの」と考えるようになってもおかしくありません。実際、世の妻のなかには、自分の夫のことを「ATM」と揶揄(やゆ)して呼んでいる人もいたりするわけです……。

さらにもう一つ、ビジネスでこんな例があります。

筆者が中国で大成功をおさめたビジネスマンに取材したとき、こんなビジネスの成功のコツを聞いたことがありました。

「どんなビジネスでも、相手から信用されたいと思ったら、まずこちらが信用してかかるのが大前提。こちらが信用もしていないのに、相手から信用されようなんて虫のいい話は通用しません。
 だから、まずビジネスのパートナーに対しては信用してかかるのですが、しかし同時に、裏切られたときの保険をかけておかないと商売は始まりません。
 ある人と商売を始めようと思ったら、その人の知り合いで、その人を抑えられる人間を探しておくわけです。例えば、ある地区の消防署長と仲良くなって一緒に商売を始めようと思ったら、さらに偉い消防署長と知り合っておきます。その上で、その人を抑えることの保証をとってから商売を始めるわけです。
 信用はするけれども、保険はかけておく、この二枚腰が中国のビジネスでは絶対に必要になるのです」

権力関係をいかに見抜き、それをうまく使って保険をかけておくことが重要かというわけです。さらに、こうした手法は――ちょっと違った切り口になりますが――企業間提携においても使われることがあります。ドラッカーにこんな指摘があるのです。

《「最後に、意見の不一致をいかに解決するかについて、事前に合意しておかなければならない。」
 企業間提携においては、トップ・ダウンの指示は機能しない。最善の方法は、紛争が起こる前に、提携の当事者双方が知っており、尊敬しており、かつその裁定が最終のものとして受け入れられるような調停者を決めておくことである》『未来企業―生き残る組織の条件』ピーター・F・ドラッカー 上田惇生、田代正美、佐々木実智男訳 ダイヤモンド社

権力や権威を背景とした関係をいかに見抜き、また、いかに利用するかが人や組織の生き残りには欠かせないわけです。

3 信賞必罰

ただし、厳しい罰によって、組織が一つになったとしても、それでは単にまとまっただけ。「成果をあげる組織」にはなりません。この状態に、「成果を出せる仕組み」をさらに組み込んでいく必要があります。

その鍵となるのが「信賞必罰」として知られる手法でした。

  • 明主の導(よ)りてその臣を制する所の者は、二柄(にへい)のみ。二柄とは刑徳なり。何をか刑徳と謂(い)う。曰く、殺戮これを刑と謂い、慶賞これを徳と謂う。人臣たる者は、誅罰を畏(おそ)れて慶賞を利とす。故に人主、自らその刑徳を用うれば、則ち群臣その威を畏れてその利に帰す。故に世の姦臣(かんしん)は然らず。悪(にく)む所は則ち能くこれをその主に得てこれを罪し、愛する所は則ち能くこれをその主に得てこれを賞す(名君は、二本の操縦かんによって臣下を統制する。二本の操縦かんとは刑と徳のことだ。では、刑と徳とは何か。殺戮を刑といい、賞を徳という。部下というのは罰を恐れ賞を喜ぶのが常である。だからトップが罰と賞との二つの権限を握っていれば、震えあがらせたり、手懐けたりして、意のままに操ることができる。腹黒い部下は、そこにつけこんでくる。気に入らない相手は、トップになり代わって自分が罰し、気に入った相手には、やはりトップになり代わって自分で賞を与える)『韓非子』

簡単にいいますと、

  • 主に成果をあげさせるための手段――信賞
  • 主に組織をまとめるための手段――必罰

の二つを駆使して、一つに団結し、かつ成果もあげられる組織を作り上げようとしたのです。さらに『韓非子』は、この手法を徹底するために、時代を2000年以上先駆けたある仕組みを導入しようとしました。(続)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月24日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(7) 〜性悪説にもとづく組織論〜

 うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 韓非の悲劇の生涯

『韓非子』を書いたといわれる韓非(前280年頃~前233年)は悲劇の生涯を送った人物でした。『史記』にある彼の伝記は少々長いのですが、ビジネスに携わる人であれば結構泣ける話なので、ご紹介したいと思います。

韓非は、韓という国の公子の一人だった。「刑名法術(けいめいほうじゅつ)の学」を好み、その根本は「黄老(こうろう)」(注)にあった。韓非の人となりとして、弁舌は下手だったが、著作は得意だった。李斯(りし)とともに荀子(じゅんし:性悪説を唱えたことで有名)に師事したが、李斯は韓非にかなわないと思っていた。

(注)黄は中国古代伝説中の帝王である黄帝、老は道家の思想を創設した中心人物である老子を意味します。黄帝を始祖とし老子を大成者とする道家系の思想(黄老思想)で、『史記』においても法家の刑名思想は黄老に由来すると記しています。

韓非は、韓の領土が削り取られて弱体化していくのを見て、たびたび書面で韓王を諌めた。しかし、韓王はそれを用いることができなかった。このとき韓非は、国を治める際の問題として、

  • 法制を明確にしようとしない
  • 権力で臣下をコントロールしようとしない
  • 富国強兵に努め、人材を求めて賢者を登用しようとしない
  • うわべを取り繕って国を蝕む人物を、本当に功績ある者の上に置いてしまう

という点をあげた。儒者は文化を重視して法を混乱させるし、任侠者は私的な武勇によって禁令を破る。余裕があるときには、儒者や任侠者のような名声の高い人を寵愛するが、事があれば結局は甲冑(かっちゅう)の士に頼る。これではいま手元で養っているのは役立たずであり、役に立つのは養っていない人間ということになる。

韓非は、清廉でまじめな人間が、よこしまな家臣たちから、排除されることを悲しみ、歴史の得失の変化を観察して、孤憤(こふん)、五蠹(ごと)、内外儲(ないがいちょ)、説林(ぜいりん)、説難(ぜいなん)など十余万言を作った。

ある人が、韓非の著書を秦に伝えた。秦王(後の秦の始皇帝)は孤憤、五蠹の書を読むと、こう言った。

「ああ、私はこれを書いた人間と交友できれば、死んでも心残りはない」

李斯が言った。

「それを書いたのは韓非です」

秦はそこで、突然韓を攻撃した。韓王は最初、韓非を用いなかったが、危急にのぞみ、彼を秦に使者として派遣した。

秦王は彼に会って喜んだが、まだ信じて用いることができなかった。李斯と姚賈(ようか)は韓非の登用を妨害しようと考え、こう讒言(ざんげん)した。

「韓非は、韓の公子の一人です。いま王は諸侯を併呑したいと望んでいますが、韓非は韓のことを考え、秦のことは考えないでしょう。それが人情というものです。かといって、いま王が登用されず、長らく引き留めた後に帰せば、これは自ら災いの種をまくようなもの。法を脇に置いて、殺してしまうのが一番です」

秦王はなるほどと思い、獄吏の手に韓非を委ねた。李斯は人をやって韓非に薬を与えさせ、自殺に追い込もうとした。韓非は自分で申し開きをしたいと思ったが、その機会は与えられなかった。秦王が後悔し、人をやって赦免(しゃめん)させようとしたときには、韓非はすでに死んでいた。

2 火の政治、水の政治

この後、韓非の考え方は秦の統治原理として採用されます。このこともあり、秦は中国統一に成功するのです。しかし後ほど詳述しますが、法治の問題点が噴出することによって秦王朝はたったの15年で滅んでしまいました。たとえるなら、効き目も副作用も強い劇薬というのが韓非の思想なのです。

ただし一言つけ加えておきますと、こうした「法家思想」というのは韓非の専売特許というわけではありません。彼の先達の政治家・思想家である李克(りこく)や商鞅(しょうおう)、申不害(しんふがい)、慎到(しんとう)といった人たちの、

「法や権力を使わないと、組織はうまくまとめられない」

という思想を集大成したものなのです。では、なぜ先達たちはこうした考え方を抱くに至ったのか。孔子と同時代の名政治家として知られた子産(しさん)に、端的な指摘があるのでご紹介したいと思います。

  • 私の後を継いで国政を担う人物は、あなたをおいて他にいない。参考までに私の話を聞いて欲しい。私は政治には二つの方法があると思う。一つはゆるやかな政治、もう一つは厳しい政治だ。ゆるやかな政治で人民を服従させるのはよほどの有徳者でないと難しい。だから、一般には厳しい政治をとった方がよいのだ。
  • この二つは、たとえてみれば水と火のようなもの。火の性質は激しく、見るからに恐ろしいので人々は怖がって近寄ろうとしない。だから、かえって火によって死ぬ者は少ないのだ。ところが水の性質はいたって弱々しいので、人々は水を恐れない。そのためにかえって水によって死ぬ者が多いのである。ゆるやかな政治は水のようなもの、一見やさしそうだが、実は非常に難しい。『春秋左氏伝』

子産は政治のあり方というものを、

  • ゆるやかな政治=水=徳治
  • 厳しい政治=火=法治

という対比で語っていますが、ここには「徳治」の問題がそのまま炙り出されています。

すなわち、「ゆるやかな政治で人民を服従させるのはよほどの有徳者でないと難しい」というのが、

  • 徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる。
  • 徳を持った人物自体、変節してしまうことがある。

という問題とまず繋がってきます。有徳者は数が少ない。しかも、変節せずに有徳者であり続ける人はもっと少ないのです。

また、「水の性質はいたって弱々しいので、人々は水を恐れない」という部分が、

  • 現場の暴走を止める術がない
  • 自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる。

という問題と直結してきます。ゆるやかな統制しかできない「徳治」では、現場や悪意ある者の暴走を止め切れなくなってしまうわけです。

こうした問題の解決策として、まず重要視されたのが「法の徹底」に他なりませんでした。

3 法やルールを守らせるためには

皆さんも会社や職場で、規則やルールを作ったりすることがあると思いますが、このときに大原則が一つあります。それを示したのが、次の言葉です。

  • 法は貴きに阿(おもね)らず、縄は曲がれるに撓(たお)まず。法の加うる所は、智者も辞する能わず、勇者も敢えて争わず。過ちを刑するには大臣をも避けず、善を賞するには匹夫をも遺さず(法律の条文は、相手の地位が高いからといって曲げることはない。線を引くものさしは、相手が曲がっているからといって、それに合わせて曲がることはない。いったん法が適用されれば、智者でも言い逃れることができず、勇者でも抗うことができない。罪を罰するのには、重臣でも避けないし、善行は庶民でも漏れなく賞する)『韓非子』

つまり、公平性が何より重要だというのです。会社でも「職場のルール? 私は専務だから関係がないよ」「オーナーの親族の私に規則を守れというの」などと言う人がいたら、それは機能しなくなってしまうわけです。

ただし、法やルールは、公平に適用されたとしても、皆が守ってくれるとは限りません。実は今の日本の法律にも、こんな例はいくらでもあります。その端的なものが飲酒運転です。

飲酒運転は、2002年に厳罰化され、マスコミなどでも飲酒運転者に対する厳しい糾弾の目が向けられるようになりました。

厳罰化される前には、高速道路入り口の飲食店では、ドライバーに平気でお酒が出されていましたし、その昔、ある全国紙の記者の人に、筆者はこんな話を聞いたことがあります。

「この地区では、地方紙の力が強くて、うちは販売部数でとてもかなわないんですよ。なにせその地方紙には、『本日警察の交通一斉取り締まり』という記事が載ったりするんです。それを見たドライバーが、その日だけ繁華街に行くのをやめるんですから……」

しかし、2002年の厳罰化以後、マスコミは違反者、特に公務員や芸能人の違反者を執拗に叩きました。その報道ぶりは批判されもしましたが、これによって、

「飲酒運転禁止は守らないとマズイ」

というように空気が変わったのです。

つまり、法やルールは、「それを守らないとマズイ」と思わせる何かがないとなかなか守ってくれない面があるのです。韓非はその何かを、「権力」に求めました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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現役弁護士が解説。上手な相談・依頼の方法

弁護士は、司法試験に合格し、司法修習を終了した者に付与される国家資格(弁護士法に基づく)で、約4万人が弁護士名簿に登録をしています。

弁護士は法務関連全般のスペシャリストです。例えば、契約書の作成や、自社の事業の法的リスクに関する相談先となります。頼れる弁護士の見極め方や依頼のポイントは何か、現役弁護士に聞いてみました。

なお、公認会計士・税理士や社会保険労務士(社労士)への依頼の仕方を解説したコンテンツもあります。併せてご活用ください。

1 弁護士の伝統的な主要業務を4つに整理

1)契約書の作成

企業活動では売買契約書、投資契約書、秘密保持契約書、業務委託契約書など各種の契約書が必要です。契約書には“お決まり”の一般的な条項もありますが、大部分は契約の内容や当事者の力関係、ビジネスモデルを反映した個別の内容です。マークしていない法令が、予想外に関係してくることもあります。

各種契約書のひな型はインターネット上でも公開されていますが、上記のような部分をカバーしていません。また、法令改正に対応していない「古い」契約書など、必ずしも信用できないものも少なからず存在します。弁護士は、そういった不備もきちんと是正し、自社のビジネスに適切なオリジナルの契約書を作成してくれます。依頼者との面談を通じて、契約の相手方との関係性に応じて強気な(または控えめな)内容とするのか、将来のことも踏まえた内容とするのかなども検討してくれます。

2)法律相談

「新規事業は法的に問題ないか」「予定されている法改正の、どのような点に気を付ければ法務リスクを低減できるか」といった、事業遂行に関する相談に対応します。また、「明後日○○の事業について会議を開くので、そのときまでにリスクを洗い出しておいてほしい」といった依頼に対応します。その他、最近は初期段階で法規制を考慮したビジネスを検討するために、「○○のビジネスを行いたいと考えているが、法的に問題がないスキームを一緒に考えてほしい」といった依頼も多くなっているように感じています。

3)交渉

法律行為や和解の代理、それに関する交渉事に対応します。こうした行為は弁護士でなければ認められていません。依頼者の代理人として売買代金の支払いを求める内容証明を送ったり、内容証明を受け取った相手方からの電話に応対したり、場合によっては訴訟を提起したりすることもあります。

4)訴訟

交渉ではどうしても解決できない場合など、必要に応じて訴訟を提起します。訴訟では、弁護士が法廷で依頼者の言い分を法律的に主張し、その主張が正当であることを立証していきます。民事訴訟では客観的な証拠がとても重視されるため、事前準備が重要です。依頼者に対して集めるべき証拠を指示し、書面を作成する事前準備の場面で、依頼者の主張を法律的に組み立てられるかどうかが、弁護士の腕の見せどころです。

2 企業から弁護士に寄せられる相談・依頼ベスト5

1)各種契約書の確認

最も多い相談は、各種契約書の確認です。秘密保持契約書、投資契約書、業務委託契約書など、企業の事業遂行上問題となりやすいものや、頻繁に結ばれる契約書の確認依頼が数多くあります。なお、契約書の確認といってもさまざまで、「この契約書の法的リスクを確認してください」といった包括的な依頼から、「この契約書の文言の意味がよく分からないので教えてほしい」といった文言解釈の相談、また「こちらに有利な契約書の修正案をどのように相手方に納得してもらえばよいか」といった相手方との契約交渉の方法を相談されることもあります。

2)新規事業および内部体制に関する相談

リスクに関する法的なアドバイスや、類似事例の照会といった相談です。「新規事業を始めたいが、適法に事業を遂行できるのか」「社内体制は会社法に適合したものなのか」「他社の知的財産権を侵害していないか」などの相談が寄せられます。また、「社内で最近○○について問題があることが分かったが、取引先との対応、今後の社内体制の改善など、通常他の企業がどのように行っているのか、当社はどうすればよいのか教えてほしい」といった社内体制に絡んだトラブル対応、「業務執行の決定を早めたいのですが社内体制について良いアイデアはないか」といった企業の意思決定プロセスの改善について相談を受けることもあります。

3)顧客や取引先とのトラブルの対応

顧客や取引先とのトラブルの対応です。「未払いの債権を回収してほしい」「顧客からクレームが出たが、自社の対応に法的な問題があるかを確認した上で対応してほしい」といった依頼があります。ビジネスを行う以上、避けて通れない顧客や取引先とのトラブル対応をうまく弁護士に任せてしまって損失や信用低下を最小限に抑え、自社は新しいビジネスや既存事業の拡大など、前向きなことに注力する場合が多くあります。

4)労使問題に関する相談

企業と従業員の労使問題に関する相談にも対応します。「従業員を解雇したいが、法的に問題はないか」「従業員から労働調停を起こされたが、どうすればよいか」といった相談が多く寄せられます。また、最近は、働き方改革の影響もあり、従業員の働き方を柔軟にするために現在の就業規則を変えずにどのようなことができるか、テレワークの導入は可能かなど、従業員のための相談も増えてきています。

5)インターネットの利用規約・プライバシーポリシー作成

事業展開にインターネットを活用する企業が多いため、サイトを立ち上げるに当たって必要になる、利用規約やプライバシーポリシー作成に関する依頼も増えています。

その他、ランキング外ではありますが、最近は、事業承継などを理由とするM&Aに関する相談がかなり増えています。これまでは上場企業や売り上げが100億円以上ある企業において話題になることが多いテーマでしたが、最近はスモールM&Aと呼ばれる売り上げ数千万円の企業を数百万円で売買(事業譲渡や株式譲渡といった手法)する場合もよく見かけます。M&Aは、思わぬ落とし穴があることも多いため、顧問弁護士などに相談をしながら進めていくことがよいでしょう。

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3 弁護士に相談・依頼する際の4つのポイント

1)弁護士と会う際は、必ず契約書の写しを持参する

各種契約の確認の場合で考えてみましょう。まずは、契約書の写しを準備することから始めます。契約書は相手方との取引のルール、合意内容を明らかにしたものであり、契約内容を問わず重要になります。可能であれば、事前に契約書の写しや必要資料(ビジネスの内容や取引スキームが分かる資料)を弁護士に送付しておくとよいでしょう。

2)契約の力関係を明らかにし、弁護士に説明できるようにしておく

「自社のほうが、相手方に比べて力が強いのか、弱いのか」などの点は、社長など意思決定権者の考えを明らかにしておくことが大切です。いくら自社に有利であっても、相手方が受け入れる可能性がない内容や相手方に修正案を提示することで関係が悪くなるようなアドバイスは意味がありませんので、この点は重要なところといえます。

3)どうしても譲歩できない水準を、ある程度明確にしておく

納期や瑕疵(かし)担保などの点についても、社長など意思決定権者の考えを明らかにしておくことが大切です。契約交渉は、双方が納得する落としどころを見つける作業です。そのため、「○○は譲ってもいいけど、△△は譲れない」など納得できる基準を決めておく必要があります。その上で、いかに自社に有利な契約にまとめるかは、弁護士の腕の見せどころといえるでしょう。

4)時間に余裕を持って相談する

結果として、契約書全体を修正することになる可能性もあるため、時間に余裕を持っておきましょう。通常、弁護士事務所に連絡をした後、1~2週間程度の間に面談をすることになります。また、当初は簡単な確認のつもりでも、弁護士との面談の結果、見落としていた検討事項が生じるなどして、大幅な見直しが必要になることもあります。そのため、少しスケジュールに余裕を持っておくとよいでしょう。

また、必ず守らなければならない期日がある場合は、先にそれを弁護士に伝え、スケジュール調整をしながら契約書のチェックを進めていくとスムーズです。

4 気になる相談料。弁護士に相談・依頼するといくら掛かる?

1)法律相談料

対面で法律相談をする際に掛かる料金です。初回1時間(法律事務所によっては30分単位のところもあります)ごとに法律相談料が掛かります。目安としては、1時間1万円から2万円程度ですが、案件によっても異なります。初回は無料の法律事務所もあります。

2)弁護士費用

弁護士に案件を依頼する際に掛かる料金です。多くの法律事務所が次の形態で料金を定めています。

1. 着手金・報酬金

・着手金

弁護士が案件に着手するに当たって発生する料金です。案件によって着手金は変わりますので、直接弁護士に聞いてみるとよいでしょう。なお、弁護士職務規程上、弁護士報酬などの費用についてはきちんと説明しなければならないことになっています。

・報酬金

多くの法律事務所では、得られた経済的利益に一定の利率を掛けた額を報酬金としています。案件の処理が終了した時点で支払います。一般的には案件が依頼者にとって何かしらのメリットをもたらした場合に生じる成功報酬制の場合が多いですが、案件の性質・内容などによっては、成功したかどうかにかかわらず、案件が終了した時点で生じる終了時報酬の場合もあります。この点は弁護士に説明を求めるとよいでしょう。

2.タイムチャージ

着手金・報酬金を支払う方法の他に、タイムチャージで弁護士報酬を支払う方法があります。タイムチャージの場合、弁護士が案件処理のために活動した時間に単価を掛けて費用を算出します。依頼者と対面していないときにも費用が発生するため、弁護士はそれぞれタイムシートで時間を管理しています。案件の処理が終了した時点で支払います。

3)顧問料

法律事務所と顧問契約を結んだ場合に発生する料金です。月々一定額を支払い、「1カ月○○時間まで無料で法律相談や契約書のチェックなどの弁護士業務に対応する」など、契約に応じたサービスが受けられるというプランが一般的です。

顧問料は法律事務所やプランにもよりますが、月々5万円以下で顧問契約をしている法律事務所もあります。顧問の法律事務所は、その企業に関する相談を多く受けていることから、トラブルが起こった場合もスムーズに対応を進めることができ、有利に案件を解決できる可能性があります。こうしたメリットから、いざトラブルが起こったときに備えて顧問契約を締結しているという企業も多数あります。

4)料金体系の選択

法律事務所によって異なりますが、料金体系は依頼者が自由に組み合わせることができます。例えば、依頼者の主張が認められた場合、得られる経済的利益の見込みが少ない案件では、着手金・報酬金という料金体系にしたほうがお得です。

一方、大きな経済的利益が見込まれる案件では、タイムチャージにしたほうがお得なこともあります。案件に応じて料金体系を組み合わせるとよいでしょう。

ここでは、一応の目安を紹介していますが、実際は、事前にその法律事務所のホームページで確認したり、電話で尋ねたりするようにしましょう(弁護士報酬の他に、依頼内容によっては収入印紙代、交通費などの実費が必要になる場合があります)。

5 信頼できる弁護士を選ぶ3つのポイント

1)経営判断の選択肢を狭めない弁護士

単にリスクがあるから「ダメだ」と言ったり、「こういうリスクがあります」とアドバイスをしたりするだけではなく、代替案を提示する、リスクがある中でのベストの案は何かを明確に提示することはとても重要な弁護士の役割だといえます。

もっとも、「リスクの洗い出し」はできても、最終的にどうすればよいのかを明確にアドバイスできる弁護士は、必ずしも多いとはいえません。自社のニーズに応えつつ、「違法ではない」解決策や全てのリスクを払拭できないまでもリスクが生じた際にどのように対応すればよいかをきちんと整理し、安心してビジネスができるような法的なアドバイス・提案ができる弁護士は、信頼できる弁護士の条件といえるでしょう。

2)自社にとって都合の悪い事実も指摘してくれる弁護士

経営判断の選択肢を狭めないことは大事なことです。これは、自社にとって都合の良い事実だけをクローズアップすべきという意味ではありません。リスク管理の専門家として、「言うべきところは言う」というバランス感覚があることも、信頼できる弁護士の条件です。

3)自社の事業に興味を持っていない弁護士はNG

自社を担当する弁護士は、事業内容に興味を持ってくれているでしょうか。たくさんの交渉の場を経験してきた弁護士ほど、交渉の行方は、事業についてどの程度きちんと理解しているかどうかによって大きく異なってくることを知っています。そのため、時間は掛かりますが、1つとして同じ交渉はないことを心得て、ビジネススキームをきちんと理解した上で、法的整理を行い、1件1件の事情を理解しようとする弁護士こそ、自社のために「真剣に」交渉をしてくれる、信頼できる弁護士といえるでしょう。

以上

(監修 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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元CAから広がるビジネス世界観。セカンドキャリア支援から防災訓練まで?/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い起業家は駒崎クララさんです。

●運営しているメディア【CREW WORLD】
http://crew-world.com/

「元CA(キャビンアテンダント。客室乗務員)による防災訓練。………。それは一体なんですか?」とお聞きしたことに始まって、物事の見方、ビジネスの幅の広さを学ばせていただいたのが今回のインタビュー。

駒崎さんは、私にインスタグラムを始めるキッカケをくれた先生でもあるのですが、その駒崎さんがCAから起業家に転身していく過程や、自分自身と向き合うことの大切さ、ぶれない軸はどのようにできたのか、現在の事業内容など盛りだくさんのお話を伺いました。

1 記者会見にCAのいでたちでご登場!

まず、2018年8月1日に日経新聞に掲載された記事をご覧ください。

その際の写真はこれです。

ビルメンテナンス業界に初めてドローンを取り入れるなど、ベンチャースピリットを掲げて新しいことにチャレンジしている大成株式会社(本社:名古屋・東京両本社)。同社で、ビル1棟にひも付く面白い福利厚生サービスを集めた事業モデル「T-select」の記者会見を行いました。駒崎さんも、T-selectに下記2つのサービスを提供しており、記者会見にはCAのいでたちで参加していました。

  • 元客室乗務員による防災訓練
  • 元客室乗務員の人材紹介サービス

ここで冒頭の質問に戻ります。人材サービスについては想像しやすいのですが、「元CAによる防災訓練」は想像もつきません。そこで、お聞きしてみました。

「元CAによる防災訓練。………。それは一体なんですか?」

すると、次のような回答を得ました。

『客室乗務員は、搭乗客へのホスピタリティある接客業務がクローズアップされます。しかし、もっと大切なのは乗客の安全確保、避難誘導といった、命を守る保安業務です。防災訓練がないがしろにされている場面を見て、事業化を思いつきました。ビルでの訓練を想定し、リスクマネジメントの観点で行っています』

「なるほど!」と腹に落ちました。いざというときに役立つ、しかも、CAのいでたちなら話題となって参加者が増えます。場が華やかになり、多くの人が参加し、本来的な訓練ができるという、“一石三鳥”の効果がありそうです。

駒崎クララさんによる防災訓練の様子を示した画像です

2 「女子未来大学」で初めてお会いして

さて、私が駒崎さんに初めてお会いしたのは、2016年6月の大阪でした。そのときの写真がこちらです。

たまたま私の関係で、大阪で会場提供をさせていただいたのが出会いのキッカケでした。

その後、東京で再会し、駒崎さんの事業についてお聞きしました。そして、私がお役に立てそうな先をご紹介させていただいたことが、前述のT-selectの記者会見につながった次第です。

では、ここで、駒崎さんを含め立場の異なる先進的な女性3名で立ち上げられた「女子未来大学」についてご紹介しておきましょう。ここは「女性たちが自らの主体性を持って人生を選択するための“学びの機会”を提供する、女性なら誰でも参加できるプラットフォーム大学」です。

3 CAは3年で辞めるつもりだった

インタビューに戻ります。

駒崎さんは、高校生の頃から漠然とCAになりたいと思っていたそうです。さらに質問してみると、その原点には、子供時代の体験があることが分かりました。5歳から10歳まで、ヨットでフランスから日本まで旅をした際に遭遇した命の危険や、習得した危機管理術が、保安に携わるCAへの道を意識させたのだと駒崎さんは話します。

その思いを遂げ、駒崎さんはCAとなります。しかし、当時は3年でCAを辞めると決めていたそうです。その理由を尋ねてみると、

『自分自身がやってみたい、いろいろな職業の中にCAがありました。CAは保安の仕事だということから、体力が必要だと想定していたので、体力があるうちにCAとして働こうと思いました。それで、社会人最初の3年に割り当てようと思ったのです』

とのことです。

なかなか計画をキチンとされての選択、そして仕事内容も理解されてのことです。

『結局、毎日の仕事が楽しくて3年では辞められず、7年半、“雲の上でお仕事”をしていました』

フライト毎にチームを組み、リレーションをつくり、はじめましてのお客様とコミュニケーションを取りながら、安全に目的地にご案内するという達成感が「最高だった」そうです!

航空業界はさまざまな仕事をリレーのようにつなげていく業界です。このようにCAの仕事だけでなく俯瞰(ふかん)的に業界が見えるようになったとき、「航空業界に役に立ちたい」という気持ちは変わらないが、CAとしてではなく、違う形で業界を盛り上げていきたい、そう思ったことが起業へつながったと駒崎さんは話します。

CA時代の駒崎クララさんの画像です

あるとき、キャリアカウンセリングを受けた際に、自己認識、自己肯定の大切さを感じたそうです。それが「自分の軸」、何が自分にとって大事か? 大切にしないといけないことか? を見つめることができたそうです。

4 起業、航空業界になかったサービスを開始

駒崎さんは、今までに業界になかったこと、他業界でもあまりやろうとしないことに着目して事業をスタートしています。

【CREW WORLD】という業界横断的に情報発信をするSNSを構築しました。世界中の“現場”で活躍している現役CA、元CAの皆さんが情報共有をするサービスです。

クローズドな世界で、会社の垣根を越えてCAの方同士が相談し合う、情報を提供し合う。同じ会社の同僚 などには聞きづらいことでも、同業他社の方には聞けたり、尋ねやすかったりするものです。しかも、匿名なので気軽に交流が生まれ、広まり、かなりの数のCAの方が活用しているそうです。

日々の忙しさ、過酷なCA仕事からモチベーション向上にもつながるこの交流の場に、駒崎さんは1万人の現役CA、元CAの皆さんが参画してもらえるように活動しています。この【CREW WORLD】上ではさまざまな企業が、広告の出稿やCAの皆さんへの商品評価、海外現地での多くの体験アンケートなどを実践しており、航空業界のみならず広く注目されています。2018年から、口コミの一部をオープン化し、多くの方に情報が届くようになりました。

5 CAが長きにわたり活躍する未来へ

駒崎さんが描く未来とは、どのようなものなのでしょうか。それはCAのセカンドキャリア支援事業に取り組む姿勢にかいま見えます。といっても、現役CAの方々に、率先して転職を勧めているわけではありません。かなり時間を掛けて、じっくりとCAの皆さんと向き合い、対話をして、なりたい自分はどのような自分なのか? 自分の居場所はどこなのか? 自分の“根っ子”は何なのか? 自己肯定感(自分の軸)が得られるようにカウンセリングを丁寧に行っているそうです。

駒崎さんは、これも航空業界の発展のための一環として行っています。自分発見からまたCAとしてイキイキとモチベーション高く持って復帰される方もいれば、次のステップへ進む方もいる。こうした方々に、社会への接続を大事に、大切にとアドバイスをしているそうです。

ちなみに、セカンドキャリアとして、元CAの皆さんがどのようなところでご活躍か聞いてみますと、『法人営業(クロージングメインでなくBtoBでの顧客接点の構築、メイン担当でなく営業サポート的に)、コミュニティーマネージャー、広報、採用人事、秘書、と活躍の場が広がっています』と。元CAだからこそ“相談の和”が広がるのも納得です。

たった一人で起業した頃、コーディングも独学で習得、徹夜もいとわず、時には3日間寝ずに仕事に没頭したり、コワーキングオフィスに寝袋持参でパソコンに向かったりしていましたと、笑顔で語る駒崎さん。

自社のメンバーが10名(業務委託を含む)を超えてきても、ぶれずに航空業界の発展を見据えて事業を展開する駒崎さんは、『具体的な数字目標を第一に掲げるのでなく、その前に自分の軸をどうするか、どこに置くかを明確にした事業運営を大切にしています』と話します。数字一辺倒の経営視点から、駒崎さんの自分や会社の“根っ子”を大事にする視点も大切にしたいと思いますね。自分との対話を大切に。と私自身も大事にしたいと思いました。

また、駒崎さんはプライベートでは能にもチャレンジされ、女子未来大学のメンバーと共に若者に能を広める若者能の社会人スタッフ等、多彩に活動されています。

筆者と駒崎クララさんの画像です

以上(2018年12月作成)

和の組織の功罪〜守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(6) 〜

うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 なぜ劉邦は天下を取れたのか

さて、ここまで『論語』をベースとした「和の組織」の作り方を見てきました。その要諦を一言であらわすなら、

「お互いに育み合い、生かし合い、諫言(かんげん)し合う人材が、適材適所で動いている」

といった感じになります。では歴史上、本当にそんな組織が存在したのか、といえば、これに近い有名な実例があるのです。今回は、まずそれをご紹介しましょう。

まず、ここまで取り上げてきた『論語』の主人公である孔子が活躍していたのは春秋時代の末期です。次の戦国時代になると、争乱状態はさらに加速していきますが、紀元前221年には秦が中国を統一しました。この結果、登場したのが有名な秦の始皇帝だったのです。

ところがこの秦王朝、たったの15年で滅んでしまいます。そして、その後の覇権を争ったのが、司馬遼太郎さんの小説でも有名な項羽と劉邦でした。二人は対極的なキャラクターの持ち主だったといわれています。

まず項羽は、名門の家の生まれで、戦の天才といわれています。しかし、活躍したのが30歳前後と若かったこともあり、他人を信用して使いこなすことがあまり得意ではありませんでした。

一方の劉邦は、貧しい家の出で、戦に弱く、負けて逃げまわってばかりでした。しかし、貴賎を問わず相手とすぐ仲良くなってしまうようなコミュニケーション能力と、気前のよさがありました。

普通、こうしたタイプが戦えば、戦の天才が勝って終わるはずなのですが、結果はその逆となりました。劉邦が勝って、漢王朝を興したのです。

なぜこうなったのか。まず『史記』という歴史書には、天下を統一した後の、劉邦と部下たちのこんな問答が残されています。

劉邦が部下にこう切り出した。

「皆のもの、隠さず本音を言って欲しい。わしが天下を取った理由とは何か、項羽が天下を失った理由とは何か」

部下の高起(こうき)と王陵(おうりょう)がこう答えた。

「陛下は、傲慢な上に人を侮ります。一方の項羽は思いやりに溢れ、人を愛します。しかしながら陛下は、城や領土を部下に攻略させると、気前よく分け与えて独り占めなさいません。ところが項羽は、他人の人徳や才能に嫉妬しがちで、功績を立てた者は退け、賢者には疑心暗鬼になる始末。勝っても部下に報いず、領地は独り占めです。これが天下を失った理由ではないでしょうか」

すると劉邦は、

「お前ら、一を知って二を知らんな。帷幄(いあく)のなかに謀(はかりごと)をめぐらし千里の外に勝利を決するという点では、わしは張良(ちょうりょう)にかなわない。内政の充実、民生の安定、軍糧の調達、補給路の確保では、わしは蕭何(しょうか)にはかなわない。百万もの大軍を自在に指揮して、勝利をおさめるという点では、わしは韓信(かんしん)にはかなわない。この三人はいずれも傑物といっていい。わしは、その傑物を使いこなすことができた。これこそわしが天下を取った理由だ。項羽には、范増(はんぞう)という傑物がいたが、彼はこの一人すら使いこなせなかった。これが、わしの餌食になった理由だ」『史記』

2 営業をやらせれば、誰にも負けなかったのに……

この劉邦と臣下たちの問答を、現代の会社でたとえれば、こんな絵柄になります。

会社を起業して、一部上場企業にまで育て上げた社長さんが、自分の人生を次のように振り返るわけです。

「自分にはたいした才能もなかったが、各ジャンルの素晴らしい専門家たちをうまく使いこなして、組織として力を発揮し、この会社を一部上場企業にまで育てることができた」

一方、負けた項羽の方は、最後に自死する前に、次のように述べたといわれています。

「兵をあげてから八年、わしは七十余りもの戦闘に加わり、無敵の強さを誇っていまだ敗北したことがない。だから天下の覇権も握ったのだ。そんなわしが、これほど苦しむのは、天がわしを滅ぼそうとしているからなのだ」『史記』

これも会社でたとえるなら、自分の会社を潰してしまった社長さんが、次のように述懐するようなものでしょう。

「私は営業をやらせれば、誰にも負けたことがなかった。そんな私の会社が潰れてしまったのは、景気のせいに違いない」

問題は、組織全体として力を発揮できるか否かなのです。いかに希代の天才・項羽といえども、一人の力だけでは、劉邦側の何人もの力を結集した組織力にはかないませんでした。

こうした実例もあって、「和の組織」は成果のあがる組織の端的な例として、古来考えられるようになったわけです。

ただし、こうした組織はうまくまわれば確かに大きな成果も生み出しますが、逆に根深いマイナスをいくつか内包している面もあるのです。それは、「儒教的だ」「『論語』的だ」といわれる日本の会社の宿痾(しゅくあ)とも繋がってきます。最後に、その点に触れておきましょう。

まず、主なマイナス面を箇条書きしてまとめると、以下の通りです。

1)徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる

2)徳を持った人物自体、変節してしまうことがある

3)現場の暴走や、逆にトップの暴走もやめる術がない

4)自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる

これらの根っこにあるのは、

  • 徳を身に付けられるか、身に付け続けられるかは、個人の問題になってしまう
  • 上司と部下の関係が、「徳と信頼」という絆でしか結ばれていない

という問題点なのです。

3 和の組織の問題点

1)から4)には、それぞれ端的な例があります。まず、

1)徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる

という問題からいいますと、一時期素晴らしい人柄と能力の社長さんがいて、業績もよかったのに、何代かたつうちに「なんでこの人が?」という人物が社長になり、会社がボロボロになるという例は案外珍しくありません。

実はここに絡むのが、

2)徳を持った人物自体、変節してしまうことがある

の問題でもあるのです。筆者はこんなことを言われたことがあります。

「どんな社長さんでも、60歳を過ぎると、自分の会社を血の繋がった人間に継がせたくなるんだよね。それまで、いくら会社は個人のものじゃないとか、皆のものにするとか言っていても、歳をとると変わるんだ。あれは本能なんだろうね」

もちろん、血の継承が悪いという話ではまったくありません。しかし、人間歳をとってくると、考えが往々にして変わってしまうことがあるのです。

そして、血の継承が必ずしも有徳者を呼ばないことは確かでしょう。さらに、社長を続けているうちに、権力の居心地のよさに目覚めてしまい、院政を敷いて会社をおかしくした、などという例もよく見るものです。

さらにこれが、

3)現場の暴走をやめる術がない

の問題にも繋がってきます。

もともと統治がゆるい「和の組織」において、「どうせ、後継ぎのボンボンだから、わからないだろう」「現場に任せきりだから報告なんていいだろう」と下から思われているような社長がいた場合、現場の暴走がやめられなくなってしまうのです。特に危機管理の際にこれが起こると、目も当てられません。

そして、最後に、

4)自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる

に関しては、粉飾決算が端的な例になります。実はこの粉飾決算、『論語』の観点からいえば、逮捕された社員は「いい人」という評価になるかもしれないのです。なぜなら、先輩の失敗を隠して、自分で処理しようとして罪を被った忠誠心溢れる人物になるわけですから……。

ただし、もちろんそれが法律的に許されるはずもなく、会社の信用を大きく毀損する結果になってしまったのです。

そして、こうした問題への解決として編み出されたのが、法家の思想でした。

以上

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