【朝礼】私が皆さんを誇りに思う理由

先日、とてもうれしい出来事があったので、皆さんにお伝えします。当社の若手社員の話です。

彼は先日、あるビジネスコンテストに、会場設営や来場者を案内するボランティアスタッフとして参加しました。全国5000社の経営者や起業家の中から、選び抜かれた十数社のファイナリストたちが集う大会です。ビジネス界での注目度は非常に高く、来場者は2000人以上、審査員にも、著名な経営者や投資家、大学教授などが名を連ねていました。

もともと私はこのビジネスコンテストに興味を持っていましたが、主催している団体の理事からお願いされたこともあり、当社の社員を1人、ボランティアスタッフとして参加させることにしました。知見や人脈が大きく広がり、とても良い経験になると思ったからです。

私がまず、うれしかったのは、当社のある若手社員が、意欲的な気持ちで参加してくれたことです。彼は、私が参加希望者を募ろうと皆さん全員に呼びかけたとき、真っ先に手を挙げてくれました。普段は割と落ち着き払っており、「何事にもとても積極的」というわけではないその彼が、進んで手を挙げ、「ぜひ僕に行かせてください。他ではできない経験をして、会社の皆さんに伝えたいです」と言ってくれたのです。

そのことだけでも私は大いに感動し、彼のチャレンジを心から応援しようと思いました。しかし、話はそれで終わりではありませんでした。

私が皆さんにこの件を呼びかけたのは、大会の前々日という差し迫った状況でした。参加することになった彼は、他に幾つも仕事を抱えており、翌々日に丸一日かけてボランティアスタッフをやるには、無理をすることは必至でした。

しかし、彼の上司や同僚は、彼が参加したいと手を挙げたのを見てすぐに、「今抱えている仕事と納期、進捗状況を全部教えてくれ」と言って集まり、分担して彼の仕事を引き受けることにしたのです。彼が無理をせず、気持ち良くボランティアスタッフになれるようにするために。

私は、このことについて、何の指示も出してはいません。全て、彼の上司や同僚が自発的に行ったことです。それぞれに忙しい状況でしたが、工夫して少しずつ自分が負担する仕事を増やして、全員で彼をバックアップし、ボランティアスタッフとして送り出したのです。

ビジネスコンテストの裏方として懸命に働いた彼は、その翌日、記念にもらったというTシャツを着て出社してくれました。そして、周りに、いかに面白いビジネスがあったか、どのように素晴らしい方々と話すことができたかを喜々として伝えてくれていました。

新しいことに自ら勇気を持ってチャレンジしようとする若手社員がいる。そして、それを進んで応援し、バックアップしようとする上司や同僚がいる。私は、こうした皆さんを、心から誇りに思います。皆さん、本当にありがとう。

以上(2018年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】感謝も不満も心の持ち方次第で決まる

最近、「ありがとうございます!」を聞く機会が減ってきたように感じます。私が、何かのきっかけになればと人を紹介したり、新たなサービスを付加してあげたりした際、相手は感謝こそするものの、「ありがとうございます!」と分かりやすい言葉で伝えてくることがあまりありません。もちろん、相手に恩を売るためだけにやっていることではないのですが、何だか物足りなく、そして悲しい気持ちになってしまいます。

「すみません」という言葉についても同じです。先日、取引先が納期ギリギリで、しかも完成度の低い仕事をしたため、当社がフォローをしなければなりませんでした。にもかかわらず、その取引先が「申し訳ございませんでした」と潔く謝罪することはありませんでした。謝罪してもらうことが目的ではないものの、気持ちをリセットし、すっきりとした気分で次に進むためには、謝罪による一区切りが必要だと思うのです。

私は幼い頃から、「『ありがとう』と『すみません』は人間の基本である」と教えられてきたので、なおさら今のような状況には違和感を覚えます。また、相手が「ありがとう」や「すみません」を言ってくれないことへの不満が募ると、こちらも「ありがとう」などと言うのをやめようという、ちょっと意地悪な気持ちになってしまいます。そうなると、「ありがとう」や「すみません」を言うハードルがますます高くなっていき、何となくギスギスとした関係になってしまうのです。

このようなことを考えて、悶々(もんもん)としていたとき、メンターと仰ぐある人の言葉で心の霧が晴れていくような気がしました。その言葉とは、「どのようなことでも、心の持ちようで捉え方は変わるものである。義理を欠いた言動があったとしても、それはあなたに『これをしてはいけないよ』と教えてくれているのだと考えれば、相手に感謝することができる。そして、心の中で『ありがとう』と言えばよい」というものでした。

心の持ちようによって、どのようなことにも感謝することができます。たとえ相手の態度が礼を欠くものだったとしても、そこから学ぶことができるのです。私たちは、意識して気持ちをフラットにしていないと、自分の固定観念によって、偏ったものの見方しかできなくなってしまいます。柔軟な考えを持つ人であるためにも、常に感謝の気持ちを忘れたくないと私は考えます。

皆さん、相手に何かをしてもらったら気持ちよく「ありがとうございます!」、こちらがミスをしてしまったら潔く「申し訳ございませんでした」と伝えてください。相手の態度に惑わされて、これらの言葉を伝えるハードルを上げてはいけません。

ただし、「ありがとうございます!」や「申し訳ございませんでした」という言葉を、単なる“音”として便利に使うだけでは気持ちは伝わりません。言葉に重みを持たせられるか否かは、日ごろの皆さんの行動次第なのです。

以上(2018年12月)

pj16936
画像:Mariko Mitsuda

社内表彰制度の作り方と考え方

書いてあること

  • 主な読者:社内表彰制度の導入を検討する経営者
  • 課題:自社に合った社内制度の設け方を知りたい
  • 解決策:表彰をする目的から、それに合った社内表彰制度を考えてみる

1 社内表彰制度とは

社内表彰制度とは、永年勤続表彰をはじめとして、業績表彰・皆勤表彰・改善提案表彰といった、企業の内部で行われる各種表彰制度の総称です(以下「表彰制度」)。

根本的には、どの表彰制度も「顧客サービスの向上」「社員の一体感の強化」「コーポレートブランドの強化」などの目的を持つ、いわゆる「インセンティブ制度」の一種といえます。

同じインセンティブ制度であっても、内容や基準の違い、個人に対するものかグループに対するものなのかなどにより、それぞれの表彰制度が社員に与える効果は異なります。そこで本稿では、主な表彰制度を分類し、それぞれの役割や効果、適切な運用方法について考えます。

2 表彰制度の分類

多くの企業が、さまざまな表彰制度を設けています。表彰の目的からそれらを分類すると次のようにまとめることができます。

  • 業績達成のための表彰制度
    営業成果表彰(売り上げ、新規顧客の獲得など)、営業目標達成表彰、顧客紹介キャンペーン
  • 社員のモラールを向上させるための表彰制度
    皆勤表彰、無事故表彰、永年勤続表彰、善行表彰
  • 社業に貢献するための表彰制度
    アイデアコンテスト、改善提案
  • 企業の節目に際して行う表彰制度
    創立記念日
  • 社員の節目を祝うための表彰制度
    定年退職記念、誕生日記念

なお、この分類は、表彰制度の一次的な目的に基づいてまとめています。例えば、皆勤表彰は、「社員のモラールを向上させるための表彰」だけではなく、社員のモラール向上が生む生産性の向上により「業績達成のための表彰」につながるとも考えられますが、こうした二次的な目的では分類していません。

3 目的に応じた表彰制度の効果と運用方法

1)業績達成のための表彰制度

企業の売り上げや利益を伸ばすための表彰制度です。「コンテスト」などの形で取り入れる企業が多いようです。

運用方法としては、営業コンテストの場合、社員個人やチーム単位で次のような方法を取っているようです。

  • 通常の業績評価と同様に、商品の売り上げや販売数で順位を付ける
  • 商品ごとに販売ポイントを設定して、累計ポイントで順位を付ける

こうした表彰制度は、たとえコンテスト形式にしたとしても、上司の販売促進姿勢が強くなりすぎたり、社内に過度の緊張感が漂ったりして、社員から不満が出ることも考えられます。こうした不満を少なくするためには、ビジネスの「生々しさ」を極力抑えたポイント制などによって、評価を決定するとよいかもしれません。

また、営業職以外の社員をコンテストに参加させる際に、特に気を付けるべき点として、明らかに達成が困難なノルマを設定しないことが挙げられます。

普段、営業をすることのない総務・経理といった間接部門の社員に明らかに達成が困難なノルマを設定すると、「専門外の仕事」をさせられているという不満が募り、表彰制度は、かえって社員のモチベーションを下げる結果に終わってしまう可能性があります。こうした不満をできるだけ抑え、かつコンテストで一定の成果を上げるには、チーム単位で競わせるのも良い方法といえます。

さらに、間接部門の社員をコンテストに参加させる際は、表彰の敷居を低くするために次のような工夫も必要でしょう。

  • 知人などの中から見込客を営業に紹介した時点でポイントを付与する
  • 消費者向けに販売しやすい安価な商品をコンテストの対象にする

なお、表彰する社員に与える報奨は、業績という企業の成果に直結する制度の場合、品物ではなく、報奨金にするケースが多くなっています。一人に対して支給する報奨金の金額は企業によってさまざまです。報奨金以外では、海外旅行を報奨としている企業もあります。要は、社員がやる気を出してくれるだけの魅力ある報奨を用意することが大切といえるでしょう。

2)社員のモラールを向上させるための表彰制度

企業や仕事に対する社員のモラールを高めるための表彰制度です。こうした表彰制度には、職場の雰囲気を良くし、社員の企業に対する帰属意識を高める効果があり、これらを通じて業績を向上させる効果もあります。例えば、無事故表彰によって事故が減り、車の修繕費が節減され、利益が増加するなどのメリットがそれに当たります。また、管理職を対象に、ダイバーシティや部下との円滑なコミュニケーションなど、ワークライフバランスに関する取り組みを表彰している企業もあります。

しかし、こうした表彰制度が持つ業績を向上させる効果は、あくまでも二次的なものです。経営者がこの効果に期待を寄せるのは当然かもしれませんが、社員にまでその認識を押し付けるのは得策とはいえません。多くの社員は、これまで頑張ってきたことを企業に素直に評価してほしいと思っているものです。

従って、この表彰制度では、本来の目的であるモラールを向上させるために、次の点が大切になります。

  • 全ての社員に「まじめにやれば報われる」という希望を持ってもらう
  • 全ての社員に平等にチャンスを与える

このような観点から、こうした表彰制度では、皆勤賞や永年勤続表彰など、仕事の能力自体よりも、むしろコツコツ続ける毎日の努力に対して表彰を行うべきといえます。無事故表彰の場合は、「◯年以上無事故」「○年間皆勤」を達成すれば表彰するといった具合に、「継続こそ力である」という趣旨で制度を定めるのがよいでしょう。

なお、こうした表彰制度の報奨は、国内旅行、小額の報奨金、時計などの記念品、商品券、文具などが多いようです。

3)間接的に社業に貢献するための表彰制度

社員からさまざまなアイデアを募集するコンテストや、書類の整理方法の工夫・日常業務の効率化などを表彰する制度です。

こうした表彰制度は、本業に閉塞しがちな社員の頭の中を切り替えられるとともに、日々の業務以外にも企業にとって必要な活動があることを社員に示すことができます。一方、間接部門の業務改善提案などは、ルーティン化している業務に新しいアイデアを取り入れ、生産性を向上させる可能性があります。

なお、アイデアや改善提案の評価方法には「提案の優秀性」「年に何件提案したかという回数」などがあるでしょう。

また、提案の方法としては「個人による提案」「部や課、チームなどのグループによる提案」などがあるでしょう。映画館の1シアターを貸し切り、事前に書類選考で選ばれた候補者を集めて大会形式のプレゼンテーションを行っている企業もあります。どの方法を取り入れるかは、それぞれの企業の組織形態や業務の進め方などに沿って検討するのがよいでしょう。

改善提案やアイデアコンテストの報奨は、次のような基準で報奨金を支給する企業が多いようです。

  • 提案の質に応じて500円程度から10万円程度の報奨金
  • 規定の提案件数を満たした上で一定の水準以上の提案者に一律5000円

なお、ニュービジネスに関するアイデアなど、直接売り上げに結びつく可能性があるものは、一般に報奨金の金額も高く、50万〜100万円といった高額の報奨金を支給している企業もあります。また、賞金だけでなく、トロフィーや特別休暇などを賞品として授与しているところもあります。

4)企業の節目に際して行う表彰制度

創業記念日などの企業の節目に際して行う表彰制度です。この節目に際して永年勤続を表彰する他、企業がこれまで業績をあげるのに貢献してきた社員に対して感謝の気持ちを伝える行事を行ったり、創立記念日を制定したりすることもあるようです。

創業記念の場合、大企業などでは盛大な行事を開くところもあるようですが、中小企業ではお菓子などの簡単な記念品の配布や、パーティー、社員旅行などの社員全員で楽しめる企画を実施することが多いようです。

5)社員の節目を祝うための表彰制度

誕生日、結婚記念日など、社員の人生の節目を祝う表彰制度です。

記念日を迎えた社員に、企業から贈り物をするのがこの表彰の趣旨です。社員に対する細かな心配りができるかが、この表彰制度の正否を左右するといえるでしょう。

ケーキ(誕生日)、筆記用具(成人式)、書籍、アルバムなど、多くの費用をかけなくても「気持ちの通じるもの」を贈るとよいでしょう。また、表彰制度と併行して、誕生日、結婚記念日などに特別休暇を与える制度も実施すれば、休日増加策としても利用できます。

4 社内表彰を行った場合の税制上の優遇措置

社内表彰を行った場合に支給する記念品などは、次に掲げる用件を満たしていると、給与としての課税をしなくてもよいことになっています。

1.創業記念などの記念品の場合

  • 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること
  • 記念品の処分見込価額による評価額が1万円(税抜き)以下であること
  • 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること

2.永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用

  • 勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること
  • 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること
  • 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること

なお、記念品を支給したり旅行や観劇に招待したりする代わりに現金や商品券を支給する場合、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

以上(2018年12月)

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画像:photo-ac

社長に必要な「思考力」と「実行力」を鍛えるには〜小宮一慶の社長コラム

社長には「思考力」と「実行力」が必要です。「思考力」は考える力、「実行力」はその考えたことを具体化する力です。今回は、これらの鍛え方について話をします。

1 便利な社会は「思考力」が落ちる

ビジネスの世界では「QPS(Quality、Price、Service)」における差別化が重要であり、それを考える「思考力」が求められます。さらに、経営では、売上向上、資金調達、人材採用、業務効率化など多くのことを考えなければなりません。ここにも「思考力」が求められます。

にもかかわらず、現代では油断すると「思考力」が落ちやすいことに、皆さんは気付いているでしょうか。AIやロボットなどの飛躍的な進化によって、便利な世の中になっている一方、深く考えなくてもいろいろなことができるようになっています。

例えば、皆さんの多くはSuicaなどのICカードを持っていることでしょう。以前は、路線図を見て料金を確認して切符を買い、小さな切符をなくさないようにする、お釣りを確認する、精算するなど、いろいろなことを考えなければなりませんでした。しかし、今ではピッと改札を通ればそれで完了です。

そしてもう一つ、便利な社会が思考力を落としているという事実を認識しなければなりません。一つの例ですが、DeNAという会社のロゴマークの「D」の左隣に、「:」が付いています。私は「『ディー』と音が濁るので、その濁点が付いているのかな」と考えていました。しかし、ある人が、「いいえ、あれはニコちゃんマークを横にしたものです」と教えてくれました。

ありがたいと同時に、私は「これは危ないな」と感じました。なぜなら、その人はGoogleで検索することで「正解」を得ていたからです。言ってしまえば、何も考えず、正解を知っただけなのです。

2 経営では検索エンジンで答えが出ない問題が多い

経営では正解のない問題についても意思決定をしなければなりません。誰を役員に昇進させるのか、資源をどちらの事業に集中すべきか、これらのことをGoogleに聞いても答えは得られません。人生の岐路に立たされた場合の決断でも、検索エンジンに頼らず、考え抜かなければならないのです。

そして、もう一つ認識しなければならないことは、普段の生活は便利になり、単純化されている一方、社会そのものは複雑化しているということです。そうした社会においては、社長は複雑なことを複雑なままに考える「思考力」が必要なのです。

3 「思考力」を鍛えるには、普段から考えること

「思考力」は訓練や習慣で鍛えることができます。基本は、普段からものを考える習慣を持つこと。Googleで検索する前に、一度、自分で考えてみるようにします。

そして、時々は難しい本を、苦労して読んでみるのもよいでしょう。ゆっくりでいいので、理解できるまで読み込むのです。私は、1ページを理解するのに30分くらいかけて読むこともあります。いろいろなことを考えながら、あるいはそれこそ、インターネットを利用してバックグラウンドの情報を確かめながら「完全」とまではいかなくとも、著者が考えるレベルに近づくまで読みこなすのです。

4 「実行力」がなければ結果が出ない

そして、ビジネスでは、「実行力」も欠かせません。思っているだけ、口で言っているだけでは何も変わりません。道を切り開くには実行力が必要です。

「実行力」は「言ったことをやる」ことで鍛えられます。簡単なことですが、誰かと飲みに行く約束をしたら、それをやる。子供と交わした小さな約束も必ず実行する。社長の場合、売上を50%上げる、社員を海外旅行に連れて行くと言ったら、それを実行するのです。言ったことを守るということは、「実行力」を鍛えるだけでなく、人の信用を得ることでもあります。私は、交わした小さな約束ほど、手帳にメモするようにしています。忘れないで実行するためです。

これに加えて、「思ったこともやる」ようにします。例えば、「働き方改革でリモートワークをやったらどうかな」と思ったら、それをやるのです。もちろん、「思考力」を使って、リスクを考えることは不可欠ですが。

こうして「思考力」と「実行力」を高めていけば、経営にプラスになる面が増えてくると私は考えます。普段の心掛けが大事であることを忘れないでください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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創業チームのメンバーとのコミュニケーションのポイント

創業チームのメンバーは、社長(創業者)と夢を共有した人たちです。忙しさの中にやりがいを感じ、同じ思いを持つ仲間と一緒に働けることを楽しんでいます。社長も創業チームとの強い絆を感じ、自分たちが成し遂げたいことや、自分自身のことを全て分かってくれていると考えます。

しかし、勘違いしてはいけません。「夢は実現したいが、社長とは反りが合わない」「仕事が楽しいだけで、人間関係について特別な思いはない」などと、会社を去っていくメンバーは少なくありません。創業期の活気が大好きで、会社が落ち着き始めると次の“活気”を求めて出ていくような、1カ所に落ち着けないタイプもいます。

1 組織力を測る強度と伸度

「明日、誰も会社に来なかったら……」

これは社長なら誰しも一度は考えたことがある最悪の事態です。特に創業期は内部的にはメンバーの出入りが激しく、また外部的にもさまざまなタイプの取引先と付き合います。誰を信じて任せたらよいのか、メンバーは自分についてきてくれるのかと疑心暗鬼になる社長がいるかもしれません。

創業期に、煩雑な事務作業や社内政治から解放されて、社長が社長としての仕事を果たすためには、少なくともチームがしっかりしていなければなりません。「組織づくりはもう少し大きくなってからでもよい」と後回しにされることもありますが、創業期こそチームの結束力強化が大切なのです。

チームの結束力は強度と伸度によって決まります。強度とは求心力の強さ、伸度とは求心力が及ぶ範囲で決まります。創業期の結束力は、社長の強力な求心力によって高い強度を誇ります。しかし、社長の他に求心力を発揮するメンバーがいないことからクッションになるものがないため、ピンと張り詰めすぎると、意外と簡単に切れてしまうことがあります。

社長はこの点を認識した上で、創業チームとより良い関係を築き、会社を発展に導くマネジメントを心掛けなければなりません。

2 創業チームの心をつかむ伝え方

1)社長と創業チームの距離感が変わってくる

創業初期は、社長と創業チームの役割分担が明確という会社が少なくありません。異なる技能や強みを持つメンバーが集まり、「社長はAI(人工知能)の技術者で、営業はメンバーに任せている」といったケースです。

創業直後は、社長と創業チームがとにかく多くの時間を一緒に過ごします。仕事を通じて距離も縮まっているので、意思の疎通がとても図りやすい状態です。

しかし、チームとしての活動が板についてくる頃、社長と創業チームの距離感が問題になることがあります。同じ方向には向かっているものの、本当の立ち上げ時と違って別々に活動することが増えるため、擦れ違いが生じ、時には大きな衝突につながります。

こうした問題を避けるために、社長は「指示」「理由・思い」「感謝」「多様性」の4つの要素を意識して、創業チームとコミュニケーションを取るようにしましょう。

2)「指示」だけのパターン

「○○をしてくれ!」とだけ伝えるパターンです。

社長が指示を出す背景には、理由や思いがあります。しかし、「忙しくて全部話している暇はない」という事情や、「言わずもがなの社員は分かってくれているはず」といった勘違いから、「理由・思い」などの他の要素を省いてしまっています。創業チームは、消化不良のまま指示を遂行することになりますが、社長の指示が創業チームの考えや思いと違っていると衝突が起こりやすくなります。

3)「指示+理由・思い」のパターン

「××の目標を達成するために、○○をしてくれ!」と伝えるパターンです。

指示の背景が明確なので、創業チームはその指示に従う理由を知ることができるので、指示の内容を勘違いすることが減ります。ただし、忙しい状況が続いている中で、さらに社長が新しい仕事を指示する場合、創業チームは「社長は言いたいことばかり言って、現場のことを分かっていない!」という不満につながることがあります。

4)「指示+理由・思い+感謝」のパターン

「いつもありがとう! ××の目標を達成するために、○○をしてほしい。一緒にやっていこう!」と伝えるパターンです。

指示の背景が明確な上、社長の創業チームに対する感謝の気持ちも表れています。創業チームとしても「よし、やってやろう!」と勢いづきやすくなります。また、上の例は社長が全メンバーに指示するイメージですが、「久しぶりに飲みにいこう!」といったように、個別にコミュニケーションを取るのもよいでしょう。

5)「指示+理由・思い+感謝」×多様性のパターン

「いつもありがとう! ××の目標を達成するために、○○をしてほしい。力を貸してくれ! 皆の考えや意見も教えてほしい。一緒にこの会社を盛り立てていこう!」と伝えるパターンです。

「指示+理由・思い+感謝」のパターンを実践すれば、創業チームが不満を覚えることは減るでしょう。しかし、ここまでやったとしても、依然として社長からの一方的な情報発信であることに変わりはありません。

メンバーとの関係性をさらに良くするためには、メンバーから意見を求め、参加意識を高める必要があります。結果として創業チームの意見を無視することになっても問題ありません。社長が創業チームの意見を聞く姿勢を示すことに意義があるのです。

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3 会社の成長期に活躍できるマネジャーを育てる

会社の成長に応じた変化を表す際、「創業チーム」と「成長チーム」は違うということがいわれます。これは会社が成長していく過程で役割分担が明確になり、やるべき仕事が高度化していく中で、それに適応できないメンバーも出てくるからです。

成長期には新メンバーも入ってきます。彼らは創業チームとは異なる感覚を持っているので、創業期は気にも留めなかった「人事制度」や「職務分掌」の整備も必要になるでしょう。会社として組織が整っていくということである一方、創業チームにとっては居心地が悪いこともあります。

社長はこうした変化も視野に入れて創業チームと接し、成長期に入ったら、プレーヤーからマネジャーに脱皮して活躍できるように育てなければなりません。「とにかくがんばる!」というステージから、より戦略的に会社を見るステージに上がってもらうことが必要であり、具体的には次の3つの視点を授けます。

  • 虫の目:目の前にある業務を、複眼的に注意深く確認する視点
  • 鳥の目:上空から見下ろすように、全体像を俯瞰(ふかん)する視点
  • 魚の目:川や海を泳ぐように、将来のビジネスの方向を予想する視点

安定した会社のメンバーの場合、最初に自身の担当業務に関する「虫の目」を持つため、社長や上司は教育によって「鳥の目」「魚の目」を授けることになります。これに対して、創業チームは最初にぼんやりとした「鳥の目」「魚の目」を持っています。創業チームの夢は、業界を俯瞰し、将来の流れを読んだ上で、「勝てる!と信じた事業を成功させる」ことだからです。

社長は、創業チームが持っている「鳥の目」「魚の目」の視力を上げつつ、一つひとつの仕事を効率的に進めるための「虫の目」を授けます。

  • 虫の目:目の前の仕事を効率的に進めるための仕組みをつくる視点
  • 鳥の目:フレームワークなどを使い、自分たちの事業を客観的に評価する視点
  • 魚の目:将来の会社の成長やメンバー自身のキャリアを冷静に考える視点

創業チームの熱いハートは会社が失ってはならない原動力です。そこに上の3つの視点を授けることで、社長とともに会社を成長過程に導くマネジャーを育てることができるでしょう。

4 会社をポジティブに保つために社長が忘れてはならないこと

創業チームに限らず、会社はメンバーのがんばりによって支えられています。

ビジネスでは、忙しい時、辛い時があります。メンバーを厳しく叱らなければならないこともあります。そうした時に、メンバーが「よし、やってやる!」とポジティブになるのか、「もう無理だ…」とネガティブになるのかの違いは、社長のメンバーに対する関わり方で変わってきます。メンバーに対する伝え方に配慮し、会社の成長に応じて必要になる視点を授けることが、ポジティブな会社を維持するためのポイントであることを忘れてはなりません。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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現役社労士が解説。上手な相談・依頼の方法

社会保険労務士は、一般的に「社労士」の名称で知られている国家資格(社会保険労務士法に基づく)で、約4万人が登録しています。

社労士は労務関連のスペシャリストです。例えば、就業規則など社内規程の作成や、厚生労働省管轄の助成金に関する相談先となります。また、昨今はいわゆる「働き方改革」の関連の相談も増えてきているようです。頼れる社労士の見極め方や依頼のポイントは何か、現役社労士に聞いてみました。

なお、公認会計士・税理士や弁護士への依頼の仕方を解説したコンテンツもあります。併せてご活用ください。

1 社労士の業務を4つに整理

1)法定書類の作成等

いわゆる「1号・2号業務」と呼ばれるものです。雇用保険や健康保険などを定める、労働・社会保険法令に基づく申請書類・帳簿書類の作成・提出業務を行います。これらの書類について行政官庁等の調査が入る場合は、事業主の代理で主張や陳述も行います。

資格の取得や喪失(資格の得喪)や、昇給など給料の変化による保険料の算定は意外と面倒な作業であり、起業したての経営者の負担になります。これらの業務を社労士に依頼すれば、経営者の事務負担は軽減されます。

2)コンサルティング(3号業務)

いわゆる「3号業務」と呼ばれるものです。労務全般に関するコンサルティング業務です。例えば、賃金制度の構築やそれに連動した人事考課制度の企画・立案、各種助成金の申請代行などを行います。「『働き方改革』の一環でリモートワークを導入したいのだけど、労務管理のどこに注意すればよい?」などの相談に乗ってくれます。

3)紛争解決手続代理業務

社労士には、「社会保険労務士」と「特定社会保険労務士」がいます。紛争解決手続代理業務を行うことができるのは、別途研修を受け国家試験に合格した「特定社会保険労務士」です。

昨今は、企業と個別の社員が争う個別労働関係紛争が増えています。その内容も変化してきており、かつては「解雇」関連が多かったのに対し、最近は残業代の未払いや、ハラスメント関連が増えています(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティーハラスメントなど)。

企業と社員との間で争いが生じた場合、特定社会保険労務士は企業か社員の代理人として相手と交渉し、「裁判外紛争解決手続(ADR)」によってその解決を図ります。

4)給料計算等

社労士は給料計算業務なども行います。給料計算は前述の保険料の算定に加え、税金の計算等、意外と手間がかかるものなので、社労士にこれを委託する企業が少なくありません。

給料計算をする際、付随して年次有給休暇の付与および消化の状況を管理することもあります。時間単位の年次有給休暇を導入している企業は管理が煩雑になりますし、2019年4月からは10日以上の年次有給休暇が付与される社員について、5日については基準日から1年以内に企業が時季を指定して必ず取得させなければならなくなります。これに付随する制度設計なども、 社労士に相談することができます。

2 企業から社労士に寄せられる相談・依頼ベスト5

1)日々の労働に関する相談

最も多いのは、自社の就業規則で定めている労働時間、賃金、退職・解雇、欠勤・休職などが労働基準法などの法令に違反していないか、新たな法令改正に対応したものになっているかの確認や相談です。

2)問題の未然防止、解決

上記の確認や相談の結果、既に問題が生じていたり、問題になりそうだったりすることが分かった場合、具体的な対応をアドバイスします。例えば、就業規則の変更例の提示などが該当します。

3)社内規程の作成・変更依頼

就業規則などの各種社内規程の変更です。最近は、リモートワークなどこれまでとは大きく異なる働き方を推進する企業が増えていて、市販されている規程ひな形では対応できない部分が多くなっています。今後この分野に関する相談はますます増えそうです。

4)行政官庁の立ち入り調査に関する相談

労働基準監督署や労働局、年金事務所による調査・臨検などへの対応です。事前に相談された場合は対策を検討し、その場に立ち会うこともあります。また、臨検などの結果、指導・是正を求められた場合、その対応をアドバイスします。

5)助成金に関する相談・依頼

主に厚生労働省が管轄する助成金の申請をサポートします。助成金を受給するためには、就業規則や賃金台帳など少なからぬ書類や資料を準備しなければなりません。抜け漏れなく効率的に申請ができるようにサポートします。

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3 社労士に相談・依頼する際の5つのポイント

1)自社の方針を明確にする

まずは、自社の方針を明確にすることが大切です。例えば、「残業代の未払い」に関してトラブルになりそうな場合、自社として新たに支払うのか、既に支払っている分で十分だと捉えているのかなど、基本的な考えを決めます。もちろん、社労士との面談で方針が変わっていくことはありますが、この方針が明確になっていないと、社労士も対策を講じることが難しくなります。

2)関連書類を準備する

社労士に依頼する際は、必ず関連する書類を準備しておきます。残業代の未払いについての相談であれば、勤怠管理や賃金台帳、残業申請書などが必要となります。場合によっては、比較するために、対象となっている社員の同僚などの資料が必要となることもあります。労務関連の資料の調製は後回しにされがちですが、日々整備しておくことが大切です。

3)雇用の責任者が同席する

小さな企業の場合、経営者が人事担当者ということも珍しくありません。しかし、他に人事担当者がいたり、対象となっている社員の上司がいたりする場合は社労士との面談に同席させるのがよいでしょう。経営者が把握していない現場の細かなやり取りによって、企業の方針を変えざるを得ないこともあるからです。

4)時間に余裕を持って相談する

時間に余裕を持って相談することが大切です。そうしないと、準備の時間を十分に取ることができないからです。残業代の未払いとは別ですが、例えば、契約期間に定めのある社員を雇止めにする場合、状況によって30日以上前に予告しなければならないケースがありますが、直前の相談では間に合わないことがあります。

5)当初の方針を見直す

企業(経営者)と社員の見解が一致せず、トラブルになりそうなケースでは、感情的にならずに、冷静に判断するよう徹します。当初、未払い残業代は発生していないとの立場でも、社労士の調査によって実は未払い残業代が発生していたというケースもあります。こうした場合は、法令に基づき、柔軟に方針を見直すことが大切です。

4 気になる相談料。社労士に相談・依頼するといくらかかる?

1)比較してみる

かつては都道府県社会保険労務士会が報酬規定を定めていましたが、今は各社労士が個別に報酬を決めているため、一概に金額を示すのは難しくなっています。ここでは、一応の目安を紹介しますが、実際は、事前にその社労士事務所のホームページで確認したり、電話で尋ねたりするようにしましょう。

この他、社労士などの士業を紹介しているウェブサービスもあります。こうしたサービスでは、複数の社労士の得意分野や料金などを比較することができます。

2)顧問料

多くの社労士は、顧問契約を交わし、包括的に業務を受諾しています。顧問料は、社員数と依頼内容によって異なります。例えば、中小企業が相談業務だけの顧問契約を交わす場合の顧問料は月数万円、労働・社会保険法令に基づく書類の作成・提出業務を含めた場合は月10万円以内が目安になるでしょう。

3)スポット料金

顧問契約を交わさず、相談や依頼の都度、料金が発生するものです。対面で相談をする場合、30分5000円前後としている社労士が多いようです。この他、1案件ずつ金額を設定している社労士もいます。

5 信頼できる社労士を選ぶ3つのポイント

1)経験が豊富な社労士

労務に関するトラブルでは人と人との感情がぶつかるため、法令上の解釈を示すだけでは当事者の納得を得られないことがあります。この点、経験が豊富な社労士であれば、当事者の感情にも配慮した対応ができるため、トラブルの解決がスムーズになることがあります。

また最近は、働き方改革の実施を検討する際に、ビジネス経験が豊富な年配の社労士に相談が集まるケースもあるようです。ビジネス経験が豊富な社労士であれば、企業がやりたいことと法令とのバランスを取ってくれます。

2)得手不得手を心得ている社労士

社労士が行う業務は幅広く、各社労士には得手不得手の分野があります。「年金」などといった専門分野に特化している社労士がいるのはこのためですので、依頼する際は、事前に依頼分野が得意か否かを確認してみるとよいでしょう。良い社労士は、依頼された業務が自分の得意分野でなければ、その分野を得意とする別の社労士を紹介してくれます。

3)聞こえの良いことを言う社労士は要注意

「簡単に残業代を減らすことができます」といった金銭的なメリットを強調してくる社労士がいるようです。一般的には、残業代を削減するのは簡単ではなく、強引に進めれば、そのしわ寄せが社員に及ぶこともあります。金銭的なメリットは自社にとって魅力的ですが、一方で社員を軽視するような社労士には注意が必要です。

以上

(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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日本でたった一人? 起業+事業開発20回以上のキャピタリストの宮嵜太郎さんのお話/杉浦佳浩の岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が、今回紹介する面白い起業家は宮嵜太郎さんです。

私もHPに“仲間”としてご掲載いただいているベンチャーキャピタルがあります。そこに私のご縁でジョインされた宮嵜さん。その経歴はまさに波乱万丈なのですが、その一端としてHPに掲載されている宮嵜さんの経歴をご紹介します。

“中学卒業後、丁稚(でっち)奉公として造園業に3年間従事。その後、営業経験を積むために就職。24歳のときに故郷である福岡に戻り起業。約12の事業を手掛けるが、知識や情報・経験の不足から多くの失敗を経験。資金も限られることから開業資金10万円で可能な事業を模索し、(株)豆吉郎を創業。豆腐の移動販売事業をフランチャイズ(FC)モデルにて展開。約700名のフランチャイジーと契約し、全国最大の移動販売組織を構築。2017年7月に同社を西日本新聞社に売却し、当社へ参画。”

●会社HP
http://www.kppartners.jp/aboutus.html

一目見ただけで「宮嵜さんに会いたい!」と連絡が入るほどのユニークな経歴。起業+買収+事業開発、アルバイトや業務委託を含めると、多業種にわたるビジネス経験が20回以上に及び、30代でありながら中学を卒業後に“丁稚奉公”の経験まであるという宮嵜さん。今回のインタビューで、とてもチャレンジングな“起業&企業家半生”について語っていただきました。

1 まずは大切な2つのこと

最初に、今回のインタビューを通じて感じた、最も重要で感動したこと2点を紹介します。それは、これまで起業や経営をしてきている中で、たった一度も、

  • 従業員への給与遅配が無い
  • 取引銀行への返済が滞ったり、リスケをしたりした経験が無い

ということです。

企業経営をしていく上で、この2点は本当に重要なことだと思います。顧客満足の前に社員満足。社員を大切に、そして自立心を持った社員の皆さんと一緒に事業を創っていく。そこを大事にしていたそうです。そして信用。金融機関との信用づくりも欠かせない。だからこそ、「借りたものは返す」という当たり前のことを徹底して信用づくりにこだわったそうです。

では、次章から宮嵜さんの目まぐるしい “起業&企業家半生”を、企業経営で大切なエッセンスを交えつつご紹介していきます。

宮嵜さんの画像です

2 幼稚園時代から営業経験?!

中学卒業後の起業経験を聞く前に気になったのが、幼い頃の話です。そこに「原点というか、ポイントがあるのでは?」と感じて最初に聞いてみたら、やはりあったのです。ビックリするエピソードが。

宮嵜さんは、なんと、幼稚園の頃からお父さんの造園業の営業を開始したそうです。『庭木の消毒は要りませんか?』と、5歳の子供が1軒、1軒を営業するというお話。お父さんから水筒を首に掛けられ、『お父さんは、今日1日この家で仕事しているから、隣の家からまわって来い!』と言われたそうです。

最初はよく分からないながらも営業を開始。途中からはコツをつかみ始めます。それが興味深いのですが、ピンポンとベルを鳴らした後、インターホンでは何もしゃべらず、無言で玄関の前で待っているのだそうです。すると、住人が出てきてビックリするわけです。「なんと子供が営業に来た!」と。そこで住人に話を聞いてもらうことができ、随分お父さんの仕事につながったというのですから驚きです。営業はちょっとした気づきと改善が必要ですが、そうした営業職としてのセンスが5歳の頃から開花していたのだと納得。そこから小学校に行きながら、営業職としての活動を続けたそうです。

3 短かった高校生時代の家出から京都での丁稚奉公経験

少年時代、学校に行く意味をあまり感じていなかった宮嵜さん。でも高校くらいは行こうと思って入学するも、やはり学校の勉強に興味は持てなかったそうです。そして、明日からテストという日、片道分の交通費だけ持って家出をし、福岡から大阪に向かったのでした。

ボクサーに憧れていた宮嵜さんは、大阪のボクシングジムに入ろうと門をたたきますが、門前払いされてしまいます。学生服を着たまま1週間ジムの近所の公園で寝泊まりしながら、入門を訴えるも許可はされなかったそうです。

仕方なく福岡に戻りますが、その後高校を中退し、アルバイトを転々としました。土木会社、飲食店、塗装会社、ガソリンスタンド、日雇い作業員など多数を経験しますが、「10年後も同じ状況で生活していてはいけない」と思い立ち、福岡から大分へ向かいます。そこで仕事をしながら、もっと遠くへ行こうと思い、今度は京都の造園会社に飛び込みで丁稚奉公を志願します。

当初は福岡からということもあり、正規の段取りは「作文を書いて郵送、審査」というものでしたが、それも無視して、着の身着のまま無一文で京都に行ったそうです。思い立ったら即行動。本当に行動力が半端ではありません。造園業での給与は当時6万円くらいで、それだけでは生活がままならないため、夜は中華料理店、土日は別の造園業者でアルバイトをしていました。

4 訪販営業で全国1位の営業マン時代

21歳になった頃、庭木の仕事は一通り習得していました。しかし、将来に不安を感じていた宮嵜さんは、「営業を勉強しよう!」と思い立ち、またもや全く土地勘の無い東京の渋谷へカバン1つ持って向かいます。『渋谷には何かあったのですか?』と質問すると、『東京だったら渋谷でしょ』という返答。渋谷に着いた頃は真冬の1月だったそうですが、ビルの駐輪場に2週間も野宿をしながら職探しをしていたそうです。

見つけたのは訪問販売の仕事。幼稚園時代の営業経験が復活し、2カ月目には全国1位の営業成績となっていったそうです。以来3年間、ずっとトップの成績を継続しながら、3年目には副業で介護用品のレンタル事業も行っていたと言います。

どうして営業成績1位になれたか聞いてみると、『周りの営業マンは自社の商品を売ることだけ考えていましたねぇ。私は、造園業の経験を生かして、無料で庭木の手入れをして喜んでもらって購入につなげていました。買ってもらうよりも先に、サービスをしていた、ということだと思います』と笑顔で語ります。「5歳からの営業経験は伊達じゃない」と感じました。

5 スクラップ&スクラップの連続から九州全域をカバーする事業開発へ

24歳のときに結婚。それを機に、福岡へ戻った宮嵜さんは個人事業主として、藤吉郎(後に豆吉郎に変更、法人化)を創業しました。屋号へのこだわりは、木下藤吉郎がどんどん出世していったことへの憧れからだそうです。

起業後は米の配達、レンタカー業、物干し竿の移動販売、広告代理業、半年後には法人化、食品の移動販売業、赤字を補うために造園業、古紙回収業とさまざまな事業をやりながら方向性を探り、29歳で豆腐の移動販売に事業を集中しました。

30歳の頃には、豆腐の移動販売で本格的にFC展開を開始し、早い段階で九州全域をカバー。広島エリア、大阪、福島県にまで事業を一気に拡大しました。なんと、50の事業所を開設し、25事業所を撤退したそうです。まずやってみて、ダメならすぐに撤退することを実践していました。

33歳の頃には事業拡大とともに、社員の自立化が図れて、社長業に余裕が出来たことから、新規事業の開発や子会社設立などを5社ほど経験。売却、統合、解散したそうです。飲食業界に進出して11店舗を10カ月で開業、9店舗を1年で閉店、外貨両替機の運営会社を設立するも設置場所が確保できずに撤退、忍者体験事業に進出するも撤退と、本当に目まぐるしい感じです。

●豆吉郎HP
https://www.toukichirou.club/

豆吉郎のホームページの画像です

6 事業売却からキャピタリストを選んだワケ

「自身の車1台から始めた食品の移動販売業は業績も好調。でも、もともと豆腐の事業をやりたくて起業したわけではない、自分はこのまま事業を続けるのか?」。そんな自問を35歳の頃に繰り返していた宮嵜さん。その頃にM&Aの仲介会社から複数声が掛かるようになっていたそうです。本業の移動販売は社員に任せていても大丈夫なほど仕組みが完成していたこの頃、「今だったら売却しても引き継ぎ先に迷惑も掛からない」と判断しました。大手コンビニからも手が挙がるほど多数の候補先から、売却先として地元の新聞社を選定したそうです。

事業売却後に、M&A仲介企業や、他社から社長候補としての声が掛かる中、宮嵜さんは「勤める、経営者になる、投資家になる」という3つの中から方向性を悩んだそうです。前者2つは経験済みだが、投資家になったことはないと考え、いきなり自分だけで投資をスタートするのではなく、どこかで勉強したい、経験を積めるところ、ということで、たまたま私がご紹介したベンチャーキャピタルに合流することになった次第です。

今後、起業家・事業家に復帰する可能性を残しつつも、逆に起業家を支援する立場でチャレンジをしていきたいと宮嵜さんは言います。これだけの幅広い経験を持つキャピタリストはなかなかいないと思います。起業家の立場に立ったアドバイスからスーパーハンズオンのキャピタリストとしてご活躍されることと思います。

またこれまでの経験を、スピーカーの立場として発信されることになりそうです。これからの半生も楽しみな宮嵜さんです。

以上(2018年11月作成)

New Spaceが引き起こす宇宙事業ビッグバン

2018年9月、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」などを運営するスタートトゥデイ(現ZOZO)・代表取締役社長の前澤友作氏が、米国の宇宙ベンチャーSpace X社のロケットで月に行くというニュースが話題になりました。

ロケットの打ち上げや宇宙旅行など、2030年の世界の宇宙産業の市場規模は約65兆円という見立ても存在するほど巨大なものです。(出典:“A UK Space Innovation and Growth Strategy 2010 to 2030”)

これまで宇宙開発といえば、NASAやJAXAなどが手掛ける国家主導の宇宙開発プロジェクトが中心でした。アポロ計画・スペースシャトル計画・国際宇宙ステーション(ISS)などは、宇宙開発に興味が無い方でも耳にしたことがあるでしょう。

しかし、1980年代に欧州で宇宙産業の商業化が始まり、1990年代に米国で商業化+民営化の流れが起きました。2000年代に入り、リスクマネーの流入や宇宙産業外でのテクノロジーの急速な成長の影響もあり、宇宙産業は新たなイノベーションを生む一大産業となる潮流ができています。

 そんなトレンドを踏まえ、昨今日本を含めて世界中で熱を帯びつつある、民間主導による宇宙ビジネスを追いかけてみたいと思います。

1 宇宙産業の歴史

1970~1980年代:米ソ冷戦で勃興した宇宙産業

宇宙産業の大きな広がりのきっかけをつくったのは、実は米ソによる冷戦である、ということをご存じでしょうか。宇宙開発は代理戦争という位置付けで火花を散らし、やがてソ連によるソユーズロケットの打ち上げや、米国のアポロ計画などに発展していきます。米ソの競争が激化した1960~1970年代は、インテルサット(米)やユーテルサット(仏)といった現在まで続く通信衛星企業が設立された時代でもあります。

その後、1980年代に入ると、欧州12カ国、53社の出資のもと、大型ロケット打ち上げサービスを行うアリアンスペースが創業されます。また、1985年には、ルクセンブルクを本拠地とする情報通信衛星運用企業であるSESが創業します。これらの企業は現在でも宇宙産業を第一線でけん引しているプレーヤーでもあります。

このように、国家主導で宇宙開発プロジェクトが推進されていた頃から、世界では段階的に民営化や産業化が進んできた背景があります。

1990~2000年代:米国国策で多数誕生した宇宙ベンチャー

1990~2000年代前半の時期には、米国で今に至る宇宙起業家が相次いで登場します。ピーター・ディアマンディス氏が立ち上げたXプライズ財団では、1996年から、優勝賞金1000万米ドルの民間宇宙旅行開発レースAnsari XPRIZEを開催しました。その後、シリコンバレーを中心とするテクノロジー業界の超人たちが相次いで宇宙ベンチャーを創業します。Amazon.comのCEOであるジェフ・ベゾフ氏はBlue Origin社を、Paypal共同創業者であるイーロン・マスク氏はSpace X社を創業、さらに英国ヴァージングループを率いるリチャード・ブランソン氏もVirgin Galacticを創業するなど、ビリオネアたちが宇宙起業家として名をとどろかせます。

しかし、ドットコムバブル直後の米国でビリオネアたちが宇宙産業へ参入し事業を拡大させてきた背景には、国家としての宇宙政策および宇宙法整備があります。オバマ大統領は、国家機関が手掛けるプロジェクトと民間に委託するプロジェクトを明確に分け、民間のプレーヤーが事業を拡大させていきやすい政策を推し進めていきました。

NASAは、ISSへの輸送サービスを民間企業から購入するという方針を打ち出し、 商業軌道輸送サービス(COTS)や 商業補給サービス(CRS)を推進しました。

今では宇宙ベンチャー界をけん引しているSpace X社も、このCOTSに採択されたことで、NASAから多くの資金や人材を勝ち取り、ロケット開発を推し進めてきた背景があるのです。このように、強烈な起業家精神を持ったビリオネアの挑戦と未来を見据えた宇宙政策の整備が相乗効果を生み、米国で宇宙ベンチャーの新しい潮流が生まれていきました。現在では、1000社を超える宇宙ベンチャーが米国にあるといわれています。

2000年代~:部品高度化・小型化で進む衛星活用

宇宙産業の裾野が広がった背景には、電子部品が高性能化し、安価な電子部品が流通したことで、人工衛星が安価になっていったことが挙げられます。また、2003年に世界で初めて打ち上げに成功したCubeSatと呼ばれる超小型衛星が注目されており、超小型衛星の打ち上げが現在加熱しています。

Satellite Industry Association(SIA)の算出によると、2016年の宇宙産業の市場規模3391億米ドルの内、衛星関連市場は2605億米ドルに上ります。

地上や海上を遠隔から観測する方法は、人工衛星だけではなく、ドローンや地上センサーなどさまざまなものがあります。多くの選択肢がありますが、人工衛星には、「広域性」「越境性」「抗たん性」「同報性」という4つの特長があります。これらの恩恵を一番受けるとして注目されているのが、リモートセンシングです。農業や林業といった一次産業だけでなく、金融業などの掛け合わせも近年は注目されており、今後、私たちの地上での生活を変化させるイノベーションの1つとして注目されています。

宇宙ベンチャー一覧の画像

2 国内外の民間宇宙産業プレーヤー

それでは、宇宙産業の背景を振り返った後に、国内の注目プレーヤーを見てみましょう。世の中の注目度よりも、宇宙産業の中でイノベーションを起こし得る企業をセレクトしてみました。

・アクセルスペース

東京大学の研究室で小型人工衛星の開発に携わった博士課程の学生が、大学卒業後の2008年に立ち上げた大学発ベンチャーです。このベンチャーの事業内容は、小型人工衛星の製造・運用支援ですが、小型衛星を製造することがイノベーションなのではありません。現在のトレンドは、ビッグデータである“衛星が地球を撮影して得られる画像”を解析し、有益な情報に変換してクライアントに届けることです。
アクセルスペース社は、地球観測網“AxelGlobe”の構築に取り掛かっています。このAxelGlobeが完成すると、1日1回地球上の全陸地の約半分を撮影することが可能となり、人類の生活の大部分の情報を軌道上から得る世界がやってきます。より多様性あふれるデータビジネスが可能となると期待されています。

・インターステラテクノロジズ

実業家の堀江貴文氏がファウンダーであることなどから注目を集めているベンチャーです(2003年に設立)。手掛けている事業は、小型ロケット開発です。ロケット開発には非常にコストがかかることもあり、このインターステラテクノロジズ社は資金調達には苦戦しています。理由としては、人工衛星を打ち上げるとどんなことができるようになるのかは一般の人でも理解しやすいですが、モノや人を輸送することの重要さはまだあまり認識されていないからです。ロケットの打ち上げは迫力がありますが、宇宙輸送自体は地味に見えてしまいます。

しかし、現在の宇宙産業のボトルネックは宇宙への輸送システムだといわれているのも事実です。インターステラテクノロジズ社の小型ロケット開発は非常に重要な事業となっており、今後の打ち上げ成功に期待が集まっています。

・QPS研究所

九州に宇宙産業を根付かせるというマインドで2005年に設立されたベンチャーです。合成開口レーダー(SAR)と呼ばれる人工衛星の小型化に取り組んでいます。一般の人工衛星はカメラを利用するのに対してこのSARはレーダーを利用して地球を観測します。メリットは、雲が厚くても夜でも観測が可能な点。デメリットは対象物の色が分からない点です。このSAR衛星は、他の光学的な人工衛星よりも多くの電力を消費するので小型化は困難といわれていましたが、近年は技術の進歩があり小型化や低価格化が徐々に進んでいます。QPS研究所は2017年に23.5億円の資金調達に成功しましたが、海外の競合宇宙ベンチャーの台頭もあるため、いち早いサービスインが期待されています。

・ALE

金融業界出身の女性が2011年に立ち上げた宇宙ベンチャーです。特殊な素材の粒を人工衛星から宇宙空間に放出し、大気圏に突入させることで人工的に流れ星を作り出す事業を計画しています。

この企業は、宇宙×エンターテインメントという新しいジャンルを生み出そうとしている点で世界でも注目されています。報道によると、今年の12月にJAXAのイプシロンロケットで衛星の初号機が打ち上げられる予定です。人工流れ星という新しいプロジェクトは、ライブなど様々な興行での活用が考えられており、宇宙産業の多様な在り方を体現するモデルケースとなり得ると注目を集めています。

・Space BD

衛星とロケットのマッチングを行う“宇宙商社”として2017年に設立された宇宙ベンチャーです。社名のBDは、“Business Development”から取っています。同社の代表は、大手商社で鉄鋼に関する資源開発業務に従事した経験を生かし、宇宙産業のプレーヤーがおのおのの業務に集中できるような基盤を作ることの必要性を感じSpace BDを起業しました。先に述べたように、宇宙産業のボトルネックは宇宙への輸送アクセスです。そのボトルネックに対してSpace BDは、ロケット開発という技術開発ではなく重くない交渉や打ち上げ機会へのアクセスを実現しようとしています。今までは技術力を武器とする宇宙ベンチャーがメーンでしたが、このように技術開発をしない宇宙ベンチャーも増えてくるかもしれません。

民間宇宙産業のプレーヤーを見てみましたが、まだまだ世の中には多くの宇宙ベンチャーが活躍しています。日本国内では20~30社、欧州では300~400社、米国では1000社以上の宇宙ベンチャーがしのぎを削っている状態とされています。

宇宙産業というのはIT産業などとは異なり、2~3年で事業をスケールさせることは困難であり初期投資も莫大です。そのため民間のVCなどはどうしても投資をためらう傾向があります。だからこそ、政府の投資ファンドやメガバンクの支援、エンジェル投資家などの支援が大事と見なされています。

短期間でのエグジットは困難であっても、確実に20~30年後には巨大市場となっているといわれている宇宙産業。この宇宙産業を長く温かく資金面でバックアップする方々が求められています。

宇宙ベンチャー一覧の画像

3 宇宙産業における課題

それでは、今後、宇宙ビジネスはどのような広がりを見せていくのでしょうか。

現在、宇宙産業のボトルネックとなっているのは、宇宙輸送サービス(ロケットなど)です。価格や頻度、投入軌道やリードタイム(ロケットの契約締結から打ち上げまでの期間)などの条件を総合的に満足させる宇宙輸送システムの構築が、今後の宇宙産業の広がりの鍵となっています。光ファイバーが整備された後にインターネットをはじめとする多くのサービスが登場したように、輸送システムの構築の後に、宇宙産業の大きなイノベーションが登場してくるといわれています。

2020年代前半をめどに、宇宙輸送システムの確立が期待されています。再使用型のロケットによる高頻度打ち上げや、小型ロケットによる安価な打ち上げなど、さまざまな宇宙ベンチャーがロケット開発に取り組んでいます。

Bryce Space and Technology社(旧Tauri Group)が調査を行っている「2018 State of the Satellite Industry Report」によると、2017年の世界規模の宇宙ビジネスの市場規模は、2686億米ドルでした。(現在のレートで約30兆円であり、2016年と比べると約3%の成長率)。

宇宙産業市場規模の画像です

この円グラフを見て分かるように、現在の宇宙ビジネスの45%は、“Ground Equipment” つまり、地上でのサービスとなっています。約2%にすぎない宇宙輸送サービスが拡大していけば、軌道上で様々なサービスが展開され、それらの恩恵がより地球上での私たちの暮らしに直結すると期待されています。また、グラフからも読み取れるように、人工衛星の製造(“Satellite Manufacturing”)よりも、衛星サービス(“Satellite Services”)のほうが大部分を占めています。人工衛星の使い道はまだまだ成熟しておらず新たな用途の模索が期待されています。新しいプレーヤーが加入し衛星サービスが多様化していくことが、地球上の私たちの暮らしをより良いものにしていくと思われています。

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4 宇宙生活が一般化した未来へ

その後の2030年代には、宇宙へのアクセスコストは各段に低下し、多様な大規模需要が生まれると予測されています。宇宙旅行だけでなく、宇宙エンターテインメントや宇宙デブリ監視、宇宙太陽光発電や月面基地活用、深宇宙探査と呼ばれる、火星や小惑星への資源探査など、多様な大規模需要が宇宙産業の中で見込まれると考えられています。

人々が宇宙空間にいることが日常になってくると、宇宙への価値観も変化してくるでしょう。まだまだ、宇宙とは一般の人々にとって未知の世界であり憧れの的です。しかし、キラキラした憧れだけで日本の宇宙産業が成長する事は無く、適切な資金が流入し積極的な投資を行い法整備や宇宙政策を整備することこそが、日本の宇宙産業を推し進めていくといわれています。

実際、日本においても、 2018年3月20日、安倍首相から、今後5年間にわたって宇宙ビジネスに対して官民合わせて1,000億円規模のリスクマネー供給を可能にするといった、宇宙ベンチャー育成のための支援パッケージが発表されました。

宇宙へ行くことが目的だった時代から、宇宙でできることを模索する時代へ進化しようとしています。今後も宇宙事業の動向から目が離せません。

ロケットの画像の画像です

以上

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IPO前に検討すべき資本政策

資本政策とは、IPOを目指す企業が、上場後の自社のあるべき株主構成を見据え、自社の株式を「いつ」「誰に」「どのような手段で」「どの程度保有してもらい」「どの程度の資金を調達するか」というストーリーをつくり、実行することです。

一般的に、株式価値は、企業の成長に伴って高くなるため、株式比率に変動があったときに与える経済的な影響は、時間の経過とともに変わります。また、自社の株式が市場に流通し、多額の価値を持つようになること、株主が不特定多数になって規制も厳格になることから、株主構成を大きく見直すことは難しくなります。従って、上場後、安定的な企業運営を行うためにも、資本政策は未上場のうちから検討することが不可欠です。


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シリーズ・IPO

こちらはIPOシリーズの記事です。
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1 資本政策で考慮すべき主な事項

1)資金調達

資金需要が旺盛な企業は、資金調達が大きな経営課題となります。十分な返済能力がある会社であれば、金融機関からの借入で対応できますが、そうでない場合はエクイティファイナンス(新株式の発行を伴う資金調達)を行う必要があります。

エクイティファイナンスは返済の必要がなく、財務体質を強化できるというメリットがあります。ただし、創業経営者や企業オーナー(以下「創業者」)の持株比率と資金調達額はトレードオフの関係にあるので、会社のステージに応じていくら資金が必要になるのか、どのような株主に出資してもらうのかを慎重に決めることが重要です。

2)安定株主対策

創業者の持株比率が低いと経営が不安定になって、敵対的TOBの脅威にさらされたり、健全な株価が形成されにくくなったりする恐れがあります。

一方、創業者の持株比率が極端に高いと、市場に流通する株式数が少なく、株価の乱高下を招くことがあります。また、上場後も創業者の持株比率が過半数以上だと留保金課税がかかるという問題もあります。そのため、資本政策では、各株主の持株比率を慎重に決める必要があります。

株主の権利や株主総会における決議事項は持株比率(議決権割合)によって異なるので、安定的な企業運営を図るため、後述する「株主の類型」と併せて検討することが大切です。

持株比率と株主の権利の関係を解説した画像です

3)創業者のキャピタルゲイン

創業者にとって、保有株式の売却によって得られるキャピタルゲインは、資本政策の重要な目的の1つであり、IPOを行うインセンティブでもあります。

上場前は、保有株式の価値の評価は比較的自由度が高いので、役員や従業員のモチベーション維持や、取引先との関係維持のために低額で譲渡することがあります。

一方、上場後の創業者による株式売却は、インサイダー取引規制の対象となるため自由度が低いことに加え、一般株主の心証が良くないため、なかなか売却できないので注意を要します。そもそも創業者は、キャピタルゲインだけを目的にIPOを目指すべきではなく、上場後も引き続き企業価値を高めていくことが責務であることを認識する必要があるでしょう。

4)役職員のインセンティブ・プラン

会社の創業期や急成長期を支えてくれる役員や従業員、さらには専門家などの外部協力者に対して、インセンティブの一環としてストックオプションを付与したり、株式を保有してもらったりするケースがあります。

5)事業承継対策

企業経営に邁進してきた創業者にとっては、相続財産のほとんどが自身の創業した会社の株式になってしまうことが一般的です。非上場株式は流動性が低いため、IPOによって換金可能な資産として納税資金を確保するとともに、経営体制を健全化して、事業を次世代の経営者に承継していくことが可能となります。

6)上場審査基準への適合

証券取引所では流通株式数をはじめとして、上場を維持するために必要な形式要件を次のように定めています。

各市場の形式基準を示した画像です

資本政策を検討する際は、初期の段階から、IPO時の流通株式数、公募または売出しなどの実施、流通株式比率などについて見直す必要があります。証券会社や公認会計士などの専門家と相談しながら、事業計画を基に、IPO時点で想定される自社の時価総額を算出した上で逆算することになるので、事業計画を見直すたびに、資本政策も再検討することになります。

2 誰が株主になるのか。株主の類型を考える

1)創業者グループ

創業者本人の他、創業者の相続対策として設立される資産管理会社、財団法人など、最も安定した株主となるグループです。ただし、上場後に事業承継した経営者と経営方針などで対立することもあります。

2)共同経営者、創業メンバー

創業時または創業間もない時期に、株主になるグループです。創業初期は、企業をけん引するメンバーとして頼りになる上、最初は低い報酬でコミットして働くため、創業者も多くの比率を割り当てることがあります。しかし、上場前や上場直後に辞めてしまうことが多いので、必ずしも安定的な株主とはいえません。

3)投資家

ベンチャーキャピタル(VC)などは金融投資家であり、キャピタルゲインを得ることを目的としている株主です。経営に参画するハンズオン型VCや、出資のみ行うVCなど、さまざまな投資スタイルがあります。強力なサポートをしてくれるケースも多いですが、IPOに向けて過度に圧力をかけてきたり、IPOスケジュールを延期すると、意図せざる株主への売却を打診してきたりすることもあります。さらに、上場後は必ず株式を売却するため、安定的な株主とはいえません。

4)事業提携先

関係性の高い取引先が株主となるケースです。株主比率も、数%程度から50%超となるケースまでさまざまです。株主として事業の発展に寄与してくれるか、どの程度ビジネスにコミットしてくれるか、他の株主との関係で問題はないかなど、双方慎重な検討が必要です。

5)役員持株会・従業員持株会

役職員向けのストックオプション以外のインセンティブ・プラン、または資産形成のために設立するケースがあります。安定的な株主ではあるものの、高い持株比率となることはありません。

6)自社(自己株式)

会社法上の財源規制はあるものの、IPO前に売却を打診してくる株主の受け皿の1つとして自社株買いがあります。自己株式になると、議決権が停止されるため、全体の資本構成に影響を与えることに留意が必要です。

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3 資本政策の主な手法

1)資金調達を伴う手法

ベンチャー企業には、次のようなIPO前の資金調達フェーズがあります。

ラウンド別にIPO前の資金調達フェーズを示した画像です

各ラウンドによって、バリュエーション(株式価値)も調達資金額も異なるため、投資家と資金調達交渉をしているうちに、資金調達が重要なのか、創業者持株割合を確保することが重要なのか分からなくなってしまうことがあります。そのため、資金調達活動を始める前に、最低調達目標額と、そのために削ってもよい創業者の持株割合を決めておくことが肝要です。

1.第三者割当増資
第三者割当増資とは、役員、従業員、金融機関および取引先などの特定の第三者に対して新株を発行して株式を割り当てる方法です。IPO準備の過程で第三者割当増資を行う際には、タイミングとバリュエーションが重要です。特にシードラウンドやシリーズAラウンドにおいて、低いバリュエーションで多額の資金調達を行うと、創業者の持株比率が大幅に低下してしまいます。

逆に、高いバリュエーションで資金調達を行い、創業者の持株比率を高いまま維持すると、その後のビジネスが事業計画通りに進まず、投資家の持分の減損処理を招いて信頼関係を失ってしまうことがあります。

また、一度高い株価がつくと、ストックオプションの行使価格が高くなり、魅力的なストックオプションが設計できなくなったり、シリーズBラウンドでの資金調達が難しくなったりするなど、資本政策の足かせになることもあります。

第三者割当増資を行うときには、こうした点に注意しながら検討する必要があります。

2.新株予約権付転換社債
主にシードラウンドの資金調達手法として、新株予約権付転換社債が用いられる場合があります。新株予約権付転換社債とは、発行した企業の株式に一定の条件で転換できる権利が付いた社債です。

例えば、創業者が1000万円の資本金で設立した会社に対し、エンジェル投資家が1000万円投資したとします。このとき、資本金は2倍になりますが、創業者の持分は一気に50%になってしまいます。

一方で、エンジェル投資家の持分を10%に抑えるためにバリュエーションを1億円にした場合、次のラウンドは1億円以上のバリュエーションにしないと、エンジェル投資家は損をしてしまうため、会社の資金調達の自由度が奪われてしまうことになります。このとき、新株予約権付転換社債を利用し、転換条件を次回のラウンドでのバリュエーションベースで10%などと決めることで、双方が納得のいく資金調達ができます。

2)資金調達を伴わない手法

1.株式移動・自己株式の買取
IPO前に株式移動を行う場合は、次のようなケースが考えられます。

  • 創業者が途中入社した役職員に対し低額で株式を譲渡
  • 退社した役職員が保有している株式の買取
  • 上場スケジュールが延期になったことなどによるVCの保有株式の買取
  • 資本提携先との提携関係の解消
  • 相続が発生して名義が散らばっている株式の買取

株式移動と第三者割当増資の違いは、すでに発行された株式を誰かが買い取るということです。株式売買代金は会社ではなく、株式の譲渡者に支払われますが、新株主の資金負担は第三者割当増資と変わりません。

株式移動の場合、バリュエーションが高いと、企業に資金が供給されないことを嫌って第三者の譲受者が現れにくく、結局は創業者が買い取るというケースは多くあります。また、元従業員からの買取や資本提携の解消においては、直近の増資時価を相手が知っていて交渉が難航することもあり、慎重に進めることが求められます。株式移動で解決できない場合は、企業が自己株式として買い取るという方法もよく行われます。

2.ストックオプション
ストックオプションは、あらかじめ定められた価格で、将来、自己株式を購入する権利を割り当てるものです。優秀な役職員や、協力してくれる弁護士や会計士、コンサルタントなど外部専門家へのインセンティブ・プランとしてストックオプションがあります。

ストックオプションはIPOを目指す企業の報酬制度の一環として設計されることが多く、上場時の発行済株式制度の10%未満が目安とされています。株式を直接保有するのと異なり、保有者が退社すると権利がなくなったり、上場後の行使条件をあらかじめ設計できたりするので、資本政策には利用しやすい手法といえるでしょう。

税制適格ストックオプションとして制度設計をする場合、行使価格は普通株式の時価以上とされているので、付与対象者にとっては、企業のバリュエーションが低いときのストックオプションのほうが魅力的なものとなります。

一方で、創業期に活躍した人が、会社の急拡大期にも活躍し続けられるとは限らないので、創業期のメンバーと上場直前のメンバーとでストックオプションの内容に大きな差があると、後から入ってきたメンバーのモチベーションダウンを招く可能性もあり、制度設計は慎重に行う必要があります。

4 資本政策で最も大切なこと

ここまでIPO前の資本政策について説明しましたが、創業者が資本政策で注意しなければならないのは、創業者の持株比率を維持することではありません。最も重要なことは、たとえ外部株主が増加しても、事業を成功させて株主に支持される経営を続けることです。資本政策を検討するときには、この点を忘れないようにする必要があります。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月14日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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第2回 シリコンバレー流 チームの役割とは?/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

皆様、こんにちは。森若幸次郎ことジョンです。

私のコラムをお読みいただき、心より感謝申し上げます。東京、大阪、福岡を中心に行う講演では、参加者の中小企業やスタートアップ経営者にお読みいただき、大企業のパートナーの皆様にもお読みいただき、プリントアウトして社内で回覧までしていただき、SNSでも沢山シェアしていただきました。本当に “愛りがとうございます(ありがとうございます)”。

“愛りがとうございます”は、「愛こそ全て」をモットーとするジョン流の挨拶です。以後、よろしくお願いいたします。

さて、前回の「シリコンバレー流 仲間の集め方/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)」では、「シリコンバレーのスタートアップ企業が、どうやって良い人材を見つけているか」について書きました。今回は、良い仲間を見つけた後に必要な知識として、「シリコンバレー流チームの役割」について、私の経験やシリコンバレーの実態に基づいてお伝えしていきます。

シリコンバレーの伝説のエンジェル投資家であるロン・コンウェイ氏は、投資をする際に一番必要な3つのことは、「チーム、チーム、そしてチームだ!」と言っています。今回はここを掘り下げていきます。

皆様が関心を抱くのは、「どのような役割を持つ人材が集まれば、良いチームになるのか」ということではないでしょうか。また、「どのようなチームメンバーがいれば、投資家は魅力を感じるのか」ということも気になるでしょう。

大切なのは、チームにジョインしてもらう前に、明確な役割を決め、それから人材を探すということです。CEOがビジョンを掲げ、自分たちのビジネスで達成したい目標を明確に示し、それを達成するために必要な人材を集めるのです。

また、仮に優秀な人材を集められたとしても、チームとしてパッションがなければエネルギーは生まれてきません。同じビジョンを共有できていないチームについても同様です。これは、いくら一流プレーヤーばかりを集めたとしても、チームとして強くなければ、何年経っても優勝できないのと同じことです。

このようなチームでは、投資家の評価を得るのは難しいでしょう。急成長することができ、イノベーションを起こすにはチームプレーが重要です。そのためには、繰り返しになりますが、メンバーの役割が明確で、各人が自分の得意分野で役割を果たしつつ、チームとして有機的に結び付くことが大事なのです。

私が尊敬するシリコンバレーのベンチャーキャピタリストのアニス・ウッザマン氏の著書『スタートアップ・バイブル』によると、組織構成は企業の規模に関係なく、基本を守るべきであると述べられてます。第一に、各自の組織での役割と責任を明確にする必要があるからです。少人数の組織であっても、何をするために働いているかが分かってないと、上司の指示を待つメンバーだけになってしまいますが、これではスタートアップも中小企業も忙しくて回らないはずです。

第二に、組織構成がしっかりしていなければ、投資家や取引先から信用が得られないことが多いです。社内にとっても、社外にとっても、きちんと部署や役職を設けて人材を配置し、チームとして機能することが重要です。

では、具体的にどのような役割が必要なのか、つまりどのようなメンバーを集めるべきなのかを見ていきましょう。

まずは、CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者。いわゆる「社長」)です。シリコンバレーでは、Founder(ファウンダー)といわれる創業者がスタートアップを起業し、多くの場合、このファウンダーがCEOにもなります。CEOは、スタートアップのトップであり、次のような役割を担います。

  • 企業のビジョンを示す
  • 社員のモチベーションを保つ
  • 良い人材を確保する
  • 将来の変化を予測する
  • 企業の戦略を決める
  • 投資家との良好な関係を構築、維持する
  • 予算を決定する

シリコンバレーでは、既にエグジット実績があるシリアルアントレプレナー(連続的起業家)は、初めて起業するCEOよりも投資家の支援が受けやすくなっています。実績のある人には、信用と期待が集まるからです。このようなシリアルアントレプレナーは、企業文化をつくることにも長けています。

また、面白いのが、Co-founderといって、2人以上、まれに3人で起業した例などもあります。「投資家にとっては人数が多くなればなるほど、投資対象になる」とシリコンバレーでは言われているのですが、なぜだと思いますか?

それは、企業の規模が大きくなると、創業メンバー同士のいざこざが増えて、結局、どちらかが辞任するか、辞めさせられるかという事態に陥ることがあります。そうしたとき、Co-founderであればどちらかがCEOとして企業を存続することができます。投資家は、こうした点を評価しているのでしょう。

CEOの次に重要なポジションは、CTO (Chief Technology Officer:最高技術責任者)です。CTO は、テクノロジーを使って、CEOが掲げたビジョンをサービスやプロダクトに落とし込みます。次第にCTOが1人だけでは開発が間に合わなくなり、部下となるエンジニアも雇い始めると、進捗状況のマネジメントも重要な役割になってきます。シリコンバレーでは、エンジニア上がりのCEOが多いので、当初はCEOがCTOを兼務しているスタートアップも多くあります。

企業が成長してくるとCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)が必要になってきます。CFOは、財務に関する責任者としてだけではなく、経理、財務、人事といった幅広い責任を負います。以前私は「イノベーションは買える」ということに気づき、スタンフォード大学経営大学院のエグゼクティブ教育にて、M&Aを学んだことがあります。そのときのクラスメートはほぼCFOで、残り10%くらいが世界中から学びに来たCEOでした。そのときに、優秀なCFOとは、資金調達、またエグジット戦略として、IPOとM&Aのどちらで進めるのがよいのかを理解し、実際にチームをリードできる人材だと学びました。

VP of Sales(Vice President of Sales:最高営業責任者)とは、企業に収益をもたらす非常に重要な役割です。チームで調達した資金で開発したサービスやプロダクトを販売して、もうけることを指揮するトップです。どのようにしたらユーザーやクライアントを獲得できるのか、マーケティング戦略を練り、市場ニーズを把握し、営業します。

CMO (Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)とは、企業のマーケティングを立案する責任者で、市場調査を行い、常に、業界、競合他社の動向を把握し、ブランディングを行い、広報も統括します。まだ自社でCMOを雇えない状況のときは、外部のコンサルティング会社に依頼して、戦略を作ってもらう企業も多数見受けられます。

COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)は、企業のオペレーティングに関する責任者です。企業が大きくなってきたら雇うプロの経営者といえ、CEOよりも経営に長けた人を選ぶことが理想で、日本だと銀行出身者、シリコンバレーだと経営の実績がある人などをヘッドハンティングします。

一番有名なCOOの1人は、Facebook(フェイスブック)のシェリル・サンドバーグ氏でしょう。まだ経営の実績がなかったマーク・ザッカーバーグ氏は、どのようにFacebookを収益化したらよいか、どのような組織をつくっていけばよいかで悩んでいました。そこに、ハーバードビジネススクールでMBAを取得して、Google(グーグル)を大きくした実績を評価されたシェリル氏が、Facebookにジョインしました。すると、あっという間に広告収入を得られる仕組みをつくり、新たなFacebookの組織を整え、一大企業に育て上げました。このようにCOOは、スタートアップから、さらに大きな企業になるときに必要な役割です。CEOと社員の架け橋になり、企業全体の経営マネジメントを行うことが多いのです。

最後に必要なのは、アドバイザーです。シリコンバレーでも日本でも設立間もないスタートアップやベンチャー企業をどう信じるかはチーム次第なのですが、そこに、誰がアドバイザーとしてついているかは非常に重要になってきます。私自身、シリコンバレーのスタートアップのピッチデック(資金調達するためのプレゼン資料)をよく見ているのですが、そこには、アドバイザーは1人ではなく、多数います。

なぜだと思いますか?

日本の企業の場合、顧問が1人であり、多い場合でも弁護士がついている程度です。一方、シリコンバレーのスタートアップは、大企業になる前から、「経営に関してはこのアドバイザー」、「エンジニアに関してはこのアドバイザー」、「デザインに関してはこのアドバイザー」といった具合に、各専門分野のアドバイザー数名にジョインしてもらいます。

アドバイザーは、業界に顔が利く人脈と専門知識を持ち、ビジネスで困ったことがあれば相談に乗ってくれる先生です。そして、シリコンバレーと日本の決定的な違いは、アドバイザーにも株式シェアを与え、チーム一丸となって、企業の急成長にコミットすることです。

日本の中小企業は所有と経営が分離していないことが多く(いわゆる「オーナー企業」)、どうしても“ワンマン社長”になりがちかもしれません。ここで紹介した「シリコンバレーのスタートアップのチームの役割」が、より成長の速い組織にリ・デザインしていくことの一助になれば幸いです。

コラムを読んでいただき、愛りがとうございます。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月14日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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