民法改正にも対応。オフィス移転のスケジュールと官公庁などへの届出・手続き

事業規模の拡大に伴うメンバーの増員、福利厚生の充実、経営者の出身地への貢献など、オフィス移転を検討するケースは意外と多いものです。実際にオフィス移転をするとなると、移転に必要なコストの調査や官庁などへの届出など、やるべきことが少なくありません。

しっかりと準備する場合、オフィス移転には10カ月程度を要することがあります。年度始めなど区切りの時期にオフィス移転を検討されている企業の参考になるように、この記事では、オフィス移転のスケジュールの目安、移転準備などで検討すべきポイントなどを紹介します。

1 オフィス移転に必要なスケジュールの目安

オフィス移転では、移転スケジュールの確認などの社内事務と法定届出事務などの社外事務が生じます。これらをスムーズに行うためにはスケジュールをしっかり立てましょう。次のスケジュールは目安ですが、実際に移転する際の参考になると思います。

時期別に移転の際のタスクをまとめた画像です

2 移転に必要なコストなど移転準備

1)自社にとって適正な広さや賃料を知るためには

日本ビルヂング協会連合会が発行する「ビル実態調査(全国版)」には、契約面積ベースのオフィスワーカー1人当たり床面積の推移などが掲載されています。

また、不動産流通推進センターのウェブサイト「不動産ジャパン」の他、オフィス仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどでは、主要都市のオフィス賃料の相場データを公表しているので、賃料の参考にすることができます。

2)移転に必要な費用はどの程度かかるのか

オフィス移転にかかる費用は、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、前共益費、火災保険料、内装工事費、設備工事費、家具・備品購入代、引っ越し代、名刺や封筒の印刷代など多岐にわたります。これらにかかる費用を把握しておきましょう。

詳細については、不動産会社など関係各所から見積もりを取る必要がありますが、三鬼商事や三幸エステートなどのサイトでは、面積や入居人数などから、移転に必要な費用の概算をシミュレーションできます。

3)移転を任せるパートナーの選び方

オフィス移転に関する業務は非常に多岐にわたり、ノウハウ・実績を持つパートナーの協力が欠かせません。パートナー候補先としては、オフィス家具メーカー、建築デザイン事務所、プロパティマネジメント会社、通信系設備工事会社などがあります。

ノウハウ・実績などからパートナーの候補先を数社に絞り、各社にプレゼンテーションしてもらい、技術面・コスト面から提案内容を判断したり、候補先の担当スタッフの力量を確認したりします。

4)現状のオフィスの解約予告期間を確認する

不動産の賃貸借契約書には、契約解除に関する条項があります。オフィス移転のスケジュールを立てる際に、現在のオフィスの賃貸借契約書で、この条項を確認しておきましょう。現在のオフィスと移転後のオフィスの賃料について、両方負担する期間をなるべく短くするため、この解約予告期間を勘案して移転の時期や条件を検討します。

5)不動産会社に物件を紹介してもらう

移転の時期や希望する条件が固まったら、不動産会社へ移転先オフィスビルの紹介を依頼します。移転先の候補となる物件については、現地にて内見をします。あらかじめ設定していた条件に加え、フロア形状、フロア内の柱の有無、眺望、採光、入居している他のテナントの状況、エントランスの開閉時間、エレベーター・トイレなど共用部分の状況、携帯電話の電波状況などを確認します。

6)申し込みと条件交渉

移転先の候補として気に入った物件が見つかったら、不動産会社へ申し込みをします。この段階で、不動産会社を通じて、移転先候補の物件の貸主に条件交渉を行います。賃料・共益費の金額交渉を行うとよいでしょう。賃料が一定期間発生しないフリーレント物件なら、1~3カ月程度の賃料を抑えられます。

また、不動産会社を通じて審査書類を提出します。主な審査書類として次が挙げられます。提出が求められる審査書類は、物件の貸主によって異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。

  • 法人の登記簿謄本(写し)
  • 法人の概要(会社のパンフレットなど)
  • 直近3期分の決算書類
  • 連帯保証人の身分証明書(写し)
  • 連帯保証人の収入証明(写し)

7)現在のオフィスを解約する

審査書類を提出後、審査を通過した段階で現状のオフィスの管理会社に解約を申し入れます。解約の申し入れは基本的に電話ではなく書面で行います。この解約通知書面は、契約時に渡されるのが一般的で、その書面をFAXまたは郵送で送付します。

なお、解約の申し入れ後は、日割り計算で賃料を支払うのが通常です。送付日が解約を受け付けた日付となるため、早めに対応するようにしましょう。

8)賃貸借契約を締結する

契約時に必要なものとしては、一般的に次の書類があります。契約によって必要な書類は異なるので、事前に不動産会社や貸主に確認の上、契約日までに用意します。

  • 法人の登記簿謄本
  • 法人の印鑑証明書
  • 連帯保証人の住民票
  • 連帯保証人の印鑑証明書

賃貸借契約を締結した後に一方的に解約を申し出ても、それが認められるとは限りません。違約金などが発生する可能性もあるので、事前に条件交渉の結果が正確に契約書に反映されているかをしっかりと確認することが大切です。内容に問題がなければ契約書に署名・押印を行います。敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料などを支払い、費用に応じて領収書、預かり証などを受け取った後、鍵が渡されて契約は完了します。

9)各種工事の発注と引っ越し

賃貸借契約完了後に、内装工事、家具・備品、通信機器・LAN設定工事、引っ越しの発注を行います。騒音が出る工事については、他のテナントの迷惑にならないよう、土曜、日曜にしか作業ができない場合も多いため注意が必要です。

また、取引先などに出す移転通知状や社用封筒、名刺、ゴム印などの発注を忘れずに済ませておきましょう。この他に、引っ越しの際に発生するごみの処理を検討しておきましょう。運送業者に引き取ってもらえるかどうかを確認し、引き取ってもらえない場合は、廃棄物処理業者などに別途依頼する必要があります。

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3 民法改正はオフィスの賃貸にどう影響する?

2020年4月1日より民法が改正され、オフィスの賃貸については次のような影響があります。

  • 敷金の返還や原状回復のルールが明確化
  • 貸主(債権者)から保証人に対して、主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務が新設
  • 個人根保証契約において極度額の設定が義務化
  • 個人根保証契約において契約時の情報の提供義務が新設

1.については、判例や解釈論などを明文化したものであることから、実務上の影響はそれほど大きくないといわれています。

一方、2.~4.については、大きな変更とされており、特に借主の立場でいえば、3.~4.が重要になります。3.については、契約書で極度額(保証人の責任限度額)を定めることが義務付けられました。改正後は極度額を定めていない契約には効力が生じません。極度額は法律上の規定があるわけではなく、保証人と貸主が相談によって決めます。

4.については、オフィスなど事業用の賃貸については、個人の保証人に対して借主の財産状況などの情報を提供することが義務付けられました。情報提供を行わない、または虚偽の情報を提供したことによって、保証人が誤認をし、それによって保証契約の申し込みまたはその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せずまたは事実と異なる情報を提供したことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます。

4 法務局、金融機関など関係各所への手続きを忘れずに

移転時には、法務局や税務署など各監督官庁に届出をしなければなりません。各届出書は、「移転するのが本店なのか支店なのか」「移転先が同一都道府県か否か」など、ケースによって提出書類や添付書類、届出期間が異なるものがあります。

なお、次に紹介する項目以外にも必要な届出があるので、移転前に各届出先、司法書士・行政書士・税理士・社会保険労務士などの専門家に相談した上で、進めていきましょう。

官公庁などへの手続きや届出が必要な事務をまとめた画像です

また、各監督官庁以外にも金融機関や郵便局などへの届出も、忘れないようにしましょう。

以上

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資金調達に役立つ「ファクタリング」とは?

企業間の取引では、手形や売掛債権などによる信用取引が大半です。信用取引は企業間の取引では欠かせないものですが、仮に債権回収が遅れたり、回収不能になったりした場合は、資金が不足する事態にもなりかねません。また、与信管理、支払の督促などを行う際の費用や手間などの負担も小さくないでしょう。

そこで、債権回収や与信管理などに関係する一連の業務を、外部の業者にアウトソーシングしてしまう選択肢があります。その方法の1つが「ファクタリング」です。

1 ファクタリングとは

ファクタリングとは、ファクター(ファクタリング業者)が、債権者(商品の販売者)から売掛債権を買い取ったり(以下「買取ファクタリング」)、債務者(商品の購入者)の代金支払の保証を行ったり(以下「保証ファクタリング」)するサービスです。

ファクタリングにはさまざまな種類がありますが、「取引先企業の信用リスクをファクターに移転できる」「与信管理に関する事務を効率化して、本業に専念できる」などの特徴があります。

「売掛金を回収するまでに時間がかかる」「もっと多くの商品を販売したいが、与信限度を超えてしまう」といった悩みを持つ企業は、ファクタリングの活用で取引量を増やしながら、売掛債権を早期に回収して資金調達を図ったり、貸倒リスクを低減したりすることができます。

(注)記事中で紹介しているファクタリングの仕組みと活用のメリットなどは、一般的なファクタリングサービスの概要を紹介したものです。買取代金の支払時期、償還請求権の有無など、ファクター各社によってサービスの仕組みや内容などが異なる点にご留意ください。

2 買取ファクタリングの仕組み

買取ファクタリングとは、ファクターが債権者から売掛債権を買い取るサービスです。
ファクターが債権者に対して支払う買取代金は、手数料を割り引いた金額であり、もともとの売掛債権の金額より少なくなります。

一方、買取ファクタリングには、「売掛債権の資金化が図れるので、早期にキャッシュが手に入る」「自己資本比率の向上が図れる(バランスシートのスリム化)」などの特徴があります。

買取ファクタリングの基本的な仕組みは次の通りです。

買取ファクタリングの基本的な仕組みを示した画像です

買取ファクタリングには、ファクターに複数の債権者の債権を譲渡する「一括ファクタリング」などのサービスもあります。

一括ファクタリングの仕組みは、債権者・債務者・ファクターが合意の上で、ファクターが債務者の決済を代行します。債権者が保有する売掛債権をファクターに一括して譲渡できることから、 債務者は支払業務の効率化が図れる他、債権者も機動的に資金を確保できるなどのメリットがあります。

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3 保証ファクタリングの仕組み

保証ファクタリングとは、ファクターが債権者と保証契約を結び、債務者の売掛債権の決済を保証するサービスです。保証ファクタリングでは債権者がファクターに対して保証料を支払い、万が一、債務者が倒産した場合、ファクターから保証範囲内で 保証金額が支払われます。

保証ファクタリングには、「積極的に新規取引先を開拓しながら、(焦げ付きなどの)リスクヘッジができる」「ファクターが関与している(保証をしている)ことを債務者に知られない」といった特徴があります。

保証ファクタリングの基本的な仕組みは次の通りです。

保証ファクタリングの基本的な仕組みを示した画像です

保証ファクタリングには、輸出入の貿易を行う際のファクタリングである「国際ファクタリング」などのサービスもあります。

国際ファクタリングの仕組みは、国内のファクターと提携している海外のファクターが信用調査を行った上で、債務者の信用リスクを保証します。輸出入を行う際の決済にはL/C(Letter of Credit:信用状)が使われますが、国際ファクタリングを利用することで、L/Cの開設などの手続きが不要になるなどのメリットがあります。

また、「下請債権保全支援事業(債権支払保証事業)」も保証ファクタリングの1つです。下請建設業や資材業などの経営・雇用の安定、連鎖倒産防止などを図ることを目的として国土交通省により創設されました。この事業では、元請建設企業に対して保有する工事請負代金などの債権をファクターが保証するもので、ファクターに支払う保証料が国によって助成されるので、保証料の負担が軽減されるというメリットがあります。

なお、下請債権保全支援事業を取り扱うファクターは、全国でも限られています。りそなグループのりそな決済サービスでは、下請債権保全支援事業などのファクタリングサービスを提供しています。

●りそな決済サービス
https://www.resona-ks.co.jp/factoring/factoring.html

4 こんなときに使えるファクタリングの活用シーン

1)債権の早期回収のために買取ファクタリングを活用

買取ファクタリングは、「債権の早期回収」を図る場合に有効です。さまざまな業種で買取ファクタリングは活用できますが、例えば、医療機関や介護サービス業者の場合、診療報酬や介護報酬が支払われるまでに時間を要します。こうした医療機関や介護サービス業者がファクタリングを利用してファクターに診療報酬や介護報酬の債権を譲渡することにより、診療報酬や介護報酬の債権を早期に資金化することができます。

2)信用リスクを低減するために保証ファクタリングを活用

与信管理のためには、債務者の評判のような定性情報や財務分析などの定量情報などを収集し、分析することが欠かせません。

自社(債権者)で与信管理のノウハウを蓄積するのは大切ですが、ファクターでは専門的な見地から、債務者の信用調査を定期的に実施します。こうした保証ファクタリングが持つ機能を活用すれば、「もっと多く販売したいが、社内の与信限度の規定を超えてしまう」「販売先が多くなり、管理部門だけでは与信管理が十分行き届かない」といったケースにも対応できます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【朝礼】業務のメリハリで分かる会社のレベル

いわゆる「チャットツール」の進化によって、以前に比べて連絡を取りやすい環境になりました。かつては電話や電子メールで連絡していたことでも、簡単な内容であれば要件を打ち込むだけで関係者に伝えることができます。非常に便利なものです。

一方、チャットツールの進化によって新たな問題が生じています。それは平日の遅い時間や休日でも、仕事の連絡が手軽にできてしまうことです。「通知を見るくらいだから負担にならないだろう」「嫌ならば通知をオフにしておけばよい」というのが、平日の遅い時間や休日に連絡をする人の言い分です。しかし、これは一面的なものの見方です。

もう一方から見ると、「いつ会社から連絡がくるか分からない」という状況がプレッシャーとなり、安心して休めないと感じる人がいるのです。気軽に使えるからこそ、チャットツールをビジネスで利用するときには配慮が必要であるということです。

まだ携帯電話が普及していなかった頃、頻繁にポケットベルが鳴り、そのたびに公衆電話を探していた上司を私は見てきました。携帯電話が普及した後は、出先で会社や取引先とひっきりなしに連絡を取っている同僚を見てきました。そして今は、平日の遅い時間や休日にチャットツールを使って業務連絡をしている皆さんを見ています。ツールは違っても、やっていることは同じです。

中期的に私たちが目指しているのは業務効率化です。チャットツールの進化で連絡を取りやすくなったとはいえ、今の煩雑な業務連絡の状況は効率的とはいえません。

皆さんに知ってほしいことは、仕事のできる人と外出したり、打ち合わせをしたりしているとき、その人に連絡がほとんど入らないことです。それは、外出などをする前に引き継ぎをしっかりとしているからです。「引き継ぎ」というと難しく聞こえるかもしれませんが、多くの場合、「外出中にA社から連絡があったら、○時に折り返すと伝言してください」と伝えておく程度のことです。

就業時間外についてはなおさらです。平日の遅い時間や休日に連絡しなければならないのは、本当に重要なことに限られます。突発でそうした事態が発生したのなら仕方がないですが、ちょっとしたメモ程度のことを通知するのはマナー違反なのです。

このように、皆さんの気遣いで全体的な業務にメリハリを付けることができます。そして、今の時代、気遣いをする範囲はチャットツールにも及ぶということです。

今年も残りわずかとなりましたが、この年末年始の休暇を皆さんにしっかり休んでほしいと思っています。休暇中、仕事の連絡をする必要がないように、今からきちんと準備をしてください。足元だけではなく、仕事始めの状況も想定し、準備をしておくことが大切です。

以上(2018年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

海外ビジネスと法的トラブル(準拠法・紛争解決)/スタートアップのための法務(6)

こんにちは、弁護士の緑川芳江と申します。シリーズ「スタートアップのための法務」第6回は、海外ビジネスを展開する上で避けては通れない法的トラブルへの備えについて扱います。

スタートアップの中には、創業後のプランとして海外ビジネスの展開を予定しているところも多いでしょう。海外ビジネスを進める上で、欠かせないのは適切な契約書です。JV設立であったり、ライセンス取得であったりと、取引の種類は様々ですが、商慣習や法文化の違いを超えて取引を行う海外ビジネスでは、詳細な契約書を締結するのが一般的です。


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シリーズ・スタートアップのための法務

こちらはスタートアップのための法務シリーズの記事です。
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1 ある日突然訴状が届く? 海外ビジネスの現場

日ごろ、いろいろな国の企業にアドバイスをしていると、法的な紛争への対応もお国柄があることが分かってきます。日本企業同士の場合、法的な紛争が生じても長期間にわたって当事者間でじっくり協議するのが通常で、裁判所に行くのはあくまで最後の手段だということが多いのではないでしょうか。

しかし、海外の企業は必ずしもそうではありません。極端な例としては、ある日突然訴状が届くという事態も起こり得ます。

2 ビジネス紛争に備えて契約書では何を決めておくべきか?

ビジネスパートナーと見解の相違が生じたり、相手方が支払いを遅延したりというように、法的な紛争が生じたとしましょう。そのような場合に頼りになるのが契約書です。

海外ビジネスでの紛争に備えて、必ず契約書で規定しておくべきなのは、「準拠法」(governing law)「紛争解決」(dispute resolution)の条項です。内容が適切であれば、迅速かつ適切な紛争解決が期待できます。

このことは貴重なリソースを次のビジネスチャンスに割くことができるか否かという、長期的な企業運営にも影響します。海外ビジネスで交渉を担当する人は、「準拠法」「紛争解決」の条項にも十分注意するようにしましょう。

また、特に経営陣が認識しておきたいのは、法的な紛争解決も立派なビジネスの一部であるということです。そして、企業として、法務部門・管理部門をサポートする態勢を整えることが重要です。紛争解決の対応には、担当部署に相当な負荷がかかります。証拠を集めたり、関係者から事実関係を聞き取ったりするだけでなく、国際的なビジネス紛争の場合、海外の弁護士とのやりとりも発生するからです。

米国企業などでは、法務部門のトップが経営陣に加わっていることが一般的ですし、紛争解決に必要なリソースを配分し、迅速な意思決定ができる環境になっています。経産省の報告書(「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」2018年4月公表)でも指摘されているように、国際的な活躍を目指す日本企業も、そのような姿勢が求められてきているのではないでしょうか。

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3 準拠法条項

さて、海外ビジネスでの紛争に備えて重要となる契約書の規定の1つ目が「準拠法」です。準拠法とは、契約を解釈する場合に基準となる法律です。例えば、日本法を準拠法とした場合、契約書に書いていない事項があれば、民法など日本の法律に従って判断されることになります。

では、準拠法を規定しておかないと、どのような問題が起こるのでしょうか。

裁判になった場合を考えると、「どこの国の法律に従って裁くか」という点が、裁判における大きな争点になってしまいます。その結果、「契約違反があったかどうか」「損害はいくらか」という本題の審理に入るまでに、多くの時間を要することになります。国によっては、裁判手続きに10年かかるということもあります。そのような国で、裁判手続きがさらに長引いてしまうような事態は避けなくてはなりません。

海外ビジネスの場合、準拠法として英米法が選ばれることが多いですが、もし日本法で合意できるのであれば、そのようにしたほうが慣れ親しんだ法律に沿ってビジネスができ、紛争になった場合の帰趨(きすう)も予測しやすいというメリットがあります。

4 紛争解決条項:裁判か仲裁か

海外ビジネスでの紛争に備えて重要となる契約書の規定の2つ目が「紛争解決」です。紛争が起こった場合に、どのような手続きを取るかについてあらかじめ決めておくものです。

これも極端な例ですが、ひな型のままの内容で契約を締結して、紛争が起こった場合を考えてみましょう。自社のひな型には、「A国の裁判所で紛争を解決する」という条項と、「B国における仲裁で紛争を解決する」という条項が規定されていたとします。紛争解決条項として、契約を結ぶ前に、裁判か仲裁かのどちらかを選ばなくてはならないのに、十分な検討がなされず両方が規定されたまま契約が締結されてしまったという例もあります。そうなると、裁判と仲裁のどちらで紛争を解決すべきかを決めるために、何年もかかって裁判をしなくてはならないという事態に陥りかねません。

では、契約書ではどのように規定しておくべきなのでしょうか。

海外ビジネスの場合は、裁判よりも仲裁を選ぶほうが多いです。仲裁とは、当事者の合意により、中立の第三者である仲裁人に判断を委ねる紛争解決方法です。仲裁では、判決の代わりに「仲裁判断」が下されます。

裁判よりも仲裁が選ばれるのには、国際条約が関わっています。仲裁については、150カ国以上の国が加盟している条約(ニューヨーク条約)で、外国で取得した仲裁判断を各国の裁判所で執行(相手方の財産を差し押さえて強制的に換金する方法)できる仕組みが整っています。

他方、裁判については、そのように多くの国が参加している国際条約はまだありません。外国の裁判所が下した判決を他の国の裁判所が執行するかどうかは、個別の判断となります。例えば、中国の裁判所が下した判決は日本の裁判所では執行できないと判断されているので、中国企業との契約で、裁判を選択するのは好ましくありません。

5 ビジネス紛争と費用

最後に、国際的なビジネス紛争と費用について触れておきます。一般的に、国際的な裁判や仲裁には多額の費用がかかります。しかし、費用がかかるので権利行使を諦めるというのでは、契約を結んだ意味が乏しくなってしまいます。

重要なのは、(1)「勝てる権利」なのかどうかの見極めと、(2)効率的な費用管理です。

(1)「勝てる権利」であるかどうかは、裁判や仲裁など正式な紛争解決手続きに入る前に、弁護士に自社の法的立場がどの程度強いのか分析をしてもらう(「メリットレビュー」ともいいます)ことにより見極めることができます。メリットレビューの結果、勝ち目がある、と判断された場合に限って裁判や仲裁に踏み切ればよいのです。

(2)効率的な費用管理をするには、紛争解決方法や弁護士の選び方も重要です。外部資金の活用も検討に値します。中でも最近注目が高まっている紛争解決費用の調達方法として、サードパーティーファンディング(Third Party Funding; TPF)があります。

TPFとは、専門ファンドに紛争解決に必要な費用を立て替えてもらい、裁判や仲裁で勝った場合には、獲得した賠償金の一部を成功報酬として専門ファンドに支払うというものです。国際的な裁判や仲裁では、TPFの利用が活発化していますので、紛争が発生したときには、メリットレビューに加えてTPFの活用を検討するのもよいかもしれません。

以上

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IPO時に求められる事業計画

事業計画とは、事業上の目標とそれを達成するための手段を盛り込んだ計画です。社内に対しては、従業員が一丸となって目指すべき目標を共有し、共に活動するための羅針盤となります。また、社外に対しては、資金調達や取引先の開拓などの際に、金融機関や取引先に対して、会社の現況や事業の収益性・成長性などを説明するための資料になります。

IPOを目指す場合、自社の事業計画はそれまでよりも多くの関係者の目に触れ、厳しく精査されることになります。改めて事業計画の作成ポイントを確認していきましょう。


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1 IPOにおける事業計画の役割

IPOを目指す場合、金融機関や取引先はもちろん、主幹事証券会社、監査法人、IPOコンサルティング会社、ベンチャーキャピタルといったIPOをサポートする様々な支援機関と連携するようになり、こうした関係者が自社の事業計画を精査します。

また、証券取引所による上場審査 の際に事業計画が必要です。IPOによって、企業の株式は不特定多数の投資家の投資対象となるので、東京証券取引所(以下「東証」)などの市場開設者は、投資家保護の観点から厳正な審査を行います。例えば、マザーズでは「事業計画の合理性」を上場審査基準の1つにするなど、事業計画は上場審査において重要な意味を持っています。

さらに、IPO実施後においても、不特定多数の投資家に対して、自社が投資に値する企業であることを説明する必要があり、それを示す1つの資料が事業計画となります。

2 IPO時に求められる事業計画の基本的なポイント

1)IPOを目指す経営者が心掛けたいこと

IPOを目指すからといって、特別な事業計画の構成が求められるわけではありません。具体的な項目名などは各社の事情によって異なりますが、おおむね次のような項目を分かりやすく盛り込む必要があります。

  • 経営理念
  • 経営ビジョン
  • 事業環境(外部・内部)
  • 自社のビジネスモデル
  • 経営戦略
  • 数値計画(利益計画、販売計画、仕入・生産計画、設備投資計画、人員計画、資金計画など)

IPOを目指す経営者が心掛けたいのは、「納得感がある事業計画を作成する」ことです。IPOに関連する社外の関係者は多岐にわたり、これらの人たちは、それぞれの立場でその企業を評価するために事業計画の内容を詳細に分析します。それ故、特にIPO時には社外の関係者が、納得できるような質の高い事業計画を作成しなければなりません。

納得感がある事業計画を作成するための留意点は次の通りです。

2)根拠を明確にする

事業計画の作成に当たっては、計画の前提となる根拠を、できるだけ具体的な数値をもって明確にする必要があります。また、自社で独自に分析した情報だけでは、不適切なバイアスがかかってしまう恐れがあり、信頼性を疑われかねません。

こうした事態を防ぐために、特に市場規模など外部環境に関する情報については、第三者が分析・調査した情報も用いるようにします。

3)客観的な視点を持つ

計画が企業本位にならないように、客観的な視点から事業計画を作成します。例えば、自社の強みや売上見込みでは自社を過大評価する一方で、競合企業の強みや自社の弱みなどは過小評価してしまうケースです。

こうした問題を防ぐには、公認会計士等の社外の専門家も含めて、できるだけ多くの人の目を通してアドバイスをもらうなど、第三者の客観的な視点から評価してもらうとよいでしょう。

4)実現可能性を検討する

作成した事業計画が“絵に描いた餅”とならないように、自社が本当にその事業計画を実行する実力があるか否かを検討する必要があります。例えば、急成長を図る企業では、それを支える人材教育や管理職の不足によるマネジメント体制の不備により、計画通りに事業が進まないといったケースがあります。

こうした問題についても、前述した「根拠を明確にする」「客観的な視点を持つ」といったポイントを重視して、想定される問題点を分析し、実現可能性のある計画にする必要があります。

5)事業計画全体の整合性を保つ

事業計画は多くの要素から構成され、それぞれの整合性が取れている必要があります。特に、IPO時の事業計画は、一旦作成した事業計画の内容を何度も見直してブラッシュアップを図る必要があります。こうしたとき、ある修正事項に関連する項目についての修正漏れが生じることが多いので、注意しましょう。

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3 マザーズの上場審査基準における事業計画のポイント

マザーズでは、上場審査基準として、株主数などの定量的な基準である「形式要件」と、情報開示の体制などを確認する定性的な基準である「実質審査基準」を設けています。事業計画に関連する項目としては、「実質審査基準」の1つとして「事業計画の合理性」を審査基準として設定しています。マザーズの実質審査基準の概要は次の通りです。

マザーズの実質審査基準の概要を示した画像です

また、IPO時の事業計画の作成においては、マザーズが重視する成長可能性についても注意しましょう。ここでは、東京証券取引所「2018 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」(以下「ガイドブック」)から、事業計画作成のポイントとなる「事業計画の合理性」と「成長可能性」の考え方について紹介します。

4 「事業計画の合理性」のポイント

東証では、事業計画の合理性に関する審査は、次の2つの視点から行います。

  • 新規上場申請者の企業グループの事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められるか(以下「事業計画の適切性」)
  • 新規上場申請者の企業グループの事業計画を遂行するために必要な事業基盤が整備されているか、または整備される合理的な見込みがあるか(以下「事業基盤の整備状況」)

また、ガイドブックでは、それぞれの審査のポイントを次のように解説しています。

「事業計画の合理性」に関する審査のポイントを解説した画像です

「事業計画の適切性」では、事業計画の妥当性や整合性といった事業計画の「質」を審査する一方、「事業基盤の整備状況」では、事業基盤の整備状況や今後の計画といった事業計画の「実現可能性」を審査しているといえるでしょう。

5 「成長可能性」のポイント

ガイドブックでは、「高い成長可能性」を説明する際のポイントとして「市場の状況」「差別化要因」「経営資源」の3つを例示しています。それぞれの留意事項は次の通りです。なお、「高い成長可能性」については、主幹事証券会社が評価を行い、東証は、高い成長性の直接的な根拠となる事項について、主幹事証券会社の評価を前提に、事業計画の整合性の審査を行います。

高い成長可能性があると判断した根拠を説明する際の留意事項を示した画像です

「市場の状況」と「差別化要因」においては、市場全体の有望性と、その市場において会社が高い成長性を実現するために不可欠な自社の強みなどに関して、客観性のあるデータや事実に基づいた説明を求めているといえるでしょう。

また、「経営資源」においては、高い成長性を可能にする経営資源の実現可能性について説明を求めているといえるでしょう。

実際のIPOの上場審査に向けた事業計画の作成は、主幹事証券会社などの社外の専門家の助言・指導を受けながら作業を進めることになります。しかし、将来的にIPOを目指すのであれば、早いうちから、こうした点に注意して、自社なりに工夫をしながら、質の高い事業計画の策定に取り組むことが欠かせません。

以上

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成功者は一歩踏み込む習慣を持っている〜小宮一慶の社長コラム

多くの社長を見てきましたが、会社がそこそこ順調になってくると、それまでの熱心さがなくなってしまう人も少なからずいます。余裕が出てきたので、仕事以外のことに時間やお金を使うようになるのです。

1 これでいいと思わない

もちろん、仕事だけが人生ではありません。しかし、自分の仕事を適当にこなすようになれば、会社の成長も自分の成長もそこで止まり、今度は衰退してしまうかもしれません。以前に、松下幸之助さんと親交の深かった私の知人が、次のように言っていました。「松下幸之助さんほど、自分を抑えて人の話を聞くのがうまい人はいなかった。そして、新入社員さんの話にも『良い話を聞かせてもらって有難う』と必ずおっしゃっていた」というのです。

私は、この話を聞いて2つのことに大いに感心しました。ひとつは、松下さんは「素直」ということをとても大事にされていたので、新入社員さんの話からも人生やビジネスのヒントを得られ、そのことに対して「有難う」とおっしゃっていたことです。もうひとつ、私が何よりも感心したのは、松下さんが新入社員の話を聞いているということです。

私の知人と松下さんが親交のあった頃、松下電器は相当大きくなっていたはずです。国内だけでも数万人の従業員がいたはずです。小学校を4年生までしか行けず、丁稚奉公から日本有数の会社に育て、10年連続で長者番付日本一になった松下さんです。「新入社員の相手は人事部長がすればいい」とおっしゃっても誰も文句は言わなかったでしょう。

しかし、本当に成功する人は違うのです。どんなことでも一歩踏み込む、それも自然にその一歩を踏み込むことができるのです。これは、成功したからそうなったのではなく、大成功される前からも、何事にも一歩踏み込む、徹底するという習慣を持っているから、そのような行動が自然にできるのだと思います。

2 「一歩踏み込む」習慣

私の会社(小宮コンサルタンツ)の事務所は東京の千代田区二番町というところにあり、すぐ近くにセブン&アイの大きな本社ビルがあります。そこには、ファミレスのデニーズが併設されており、当社から一番近いお店ということもあって、私はよくそのお店で親しいお客さまやスタッフと食事をします。多いときには、週に3回くらい行きます。

実は、そのデニーズで食事をする楽しみがもう一つあります。それは、セブン&アイの創業者の伊藤雅俊さんが、よくそのデニーズに食事にいらっしゃることです。これまで何回もお見かけしました。ご高齢ですが、杖をついて、若い方とご一緒に来られて、一般のお客さまと一緒に食事をされています。そのデニーズはセブン&アイの本社ビルと直結なのですが、以前は、わざわざ外から一般のお客さまと同じに入られて、2階まで階段で上がっていました。最近は、中から来られますが、それでもわざわざお店に来られるのです。

私はセブン&アイの本社ビルの中に入ったことはありませんが、創業者であり、名誉会長であるわけですから、きっと立派な執務室があり、秘書もいるはずです。もし、デニーズのものを食べたいなら、秘書に言ってメニューを持ってこさせ、中でつながっているのですから、デリバリーしてもらってもいいはずです。売上高6兆円もの日本を代表する小売業を築いた人ですから、それくらいのことを言っても誰も文句を言わないでしょう。

しかし、ご自身でお店まで来られるのです。お店に来ないと、お客さまがどういうものを食べているのかということや、店の雰囲気や接遇の状況が分かりません。「現場」でないと分からないことがあるのです。これも「一歩踏み込む」ということです。それが自然に習慣として身についているのでしょう。

3 「グッドはグレートの敵である」

「良好(グッド)は偉大(グレート)の敵である」という言葉は、私の愛読書の「ビジョナリーカンパニー.2」(*)の本文の冒頭に出てきます。そこそこ良い「グッド」な状態が実は「グレート」になる最大の敵だというのです。

会社の社長となり、ある程度の実績を上げれば「グッド」な状態となれます。社長だけではなく、従業員もある程度の待遇を得れば「グッド」だと感じます。もちろん、それは、悪いことではありません。

しかし一方で、「グッド」な状態にあると、「これでまあいいか」という感情が芽生えてきがちです。そして、熱心さがなくなってしまうことがあるのです。

本当に「グレート」になりたければ、現状に満足せず、どんなときにも「一歩踏み込む」という習慣を持つことが大切だということを忘れてはなりません。

【参考文献】
(*)「ビジョナリーカンパニー.2」(ジェームズ・C・コリンズ(著)、山岡洋一(訳)、日経BP社、2001年12月)

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中小企業が売り上げ拡大を実現させる“営業革命”

営業活動は、人員が限られている中小企業にとって重要な課題です。いくら技術力が高く、素晴らしいサービスがあっても、営業にリソースを振り分けることができずに営業機会を失ってしまうことがあるからです。

例えば中小企業では、経営者を含む一部のトップセールスに頼りがちですが、経営層に依存した営業活動には限界があります。特に経営者の場合、他にやることが山ほどあるため、営業できる件数は限られてくるでしょう。 こうしてアプローチできなかった先にチャンスがあったとすれば、機会費用は大きくなります。このような問題を解決できるのがマーケティングオートメーション(MA)です。

中小企業にとってMAは、営業活動における人手不足を補うというだけのものではありません。マーケティングの視点を加えることで、お客様のことが分かり、「的を射た営業活動」ができるようになるのです。

本稿では、MAでできることを、事例を交えて紹介します。また、MAを活用して成功する秘訣や経営者がやるべきことも明らかにしていますので、多くの経営者にとって、自分たちの営業活動を見直すヒントになれば幸いです。

1 営業の歩留まりを上げる

昨今、採用環境は厳しくなる一方です。大企業も苦戦しており、中小企業はなおさら厳しい状況にあります。運良く優秀な営業担当者を採用できたとしても、自社の顔として独り立ちできるようになるまでには、一定の時間と教育コストが必要です。

例えば、10回訪問したうち8回が空振りだったというのは営業ではよくあることです。ここでの本質は、10回の訪問を50回にも100回にも高めることですが、人手不足の折、これはなかなか難しいところがあります。

同様に、どういった先に10回訪問するかというのも問題です。そもそも見込みが高い先に訪問しているのかどうかは、個人的な感覚に頼る部分が多いわけです。つまり、「確率が高い先を見つけ、あるいは確率が高くなったタイミングを逃さずに、より多くの先に効率的にアプローチできる」というのがMAなのです。

2 データに基づいてお客様のことを正しく理解する

こうした活動ができるのは、MAを活用することで集まったデータによってお客様のことを正しく理解できるようになるからです。

例えば、「○○業界を攻めても、どうせ無駄だと感覚的に思っていたけれど、データを見てみたら、実はその業界に潜在顧客が眠っていることが分かった」「うちに興味を持つのは男性だと思っていたけれど、調べてみると、男女比は半々だった」といったように、MAを導入した結果、これまで自社のお客様に対して抱いていた“常識=固定観念”が覆されたという例もあります。

データを見ないまま誤った常識に縛られていたとしたら、お客様が求めている情報を正しく伝えられないまま、間違ったコミュニケーションを取り続けてしまう危険があるというわけです。

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3 MAを導入して成功した「小さな会社」たち

「そんなことを言っても、マーケティングなんてやったこともないし、できる人材はうちにいないよ」というのが経営者の本音なのかもしれません。しかし、そもそもMAは比較的新しいツールなので、約400万社あるといわれる日本企業のうち、MAを導入している企業は、まだ5000社もありません。

一方で、社員数12名の仕出し弁当屋さんでMAを導入し、お客様のWebサイトの動きに応じて、メールの内容を出し分けたりした結果、導入から1年で広告費を50%削減できた事例があります。その上、注文数も45%増加したというから驚きです。

また、社員数20名以下のノベルティーの印刷販売を行う企業では、MAで既存顧客に対して購入履歴が分かる画像を自動挿入したメールを送ることで、注文が殺到する繁忙期を分散することができるようになりました。この企業では、過去最高の売上高を達成しています。

いずれも小さな会社であり、最初からMA活用にたけた優秀なマーケターが存在していたわけではありません。担当者が初心者の状態から始めて、短い期間で成功につなげているのです。

こうしたMAで自社が望む成果を出している企業には、いくつかの共通点があります。以降では、MAを活用して成功する秘訣ともいえる共通点と、経営者がやるべきことを整理してみます。

4 若手にチャンスを与える

「MAを誰が運用するのか」は、ありがちな問題ですが、テクノロジーの活用に抵抗感の少ない若手に権限を与えて自由にやらせることで成功している例が少なくありません。

お客様のことを知るためには、MAを活用しながら試行錯誤を重ねることになります。しかし、横からこまごまとした指示が出される窮屈な状態では、担当者がやる気を失ってしまいます。

だからといって、「MAで何ができるか考えて、勝手にやってみて」と、丸投げするだけでは問題です。MAによって「何をどうしたいのか(どこの数字を上げたいのか)」という目的をしっかりと伝えた上で、経営者や上司が適宜フィードバックを与えながら、本来の目的に近づけるよう見守ることが大切です。

5 小さな成功を積み重ねる

MAの導入・活用に掛かる費用は小さなものではありません。MAについて、優秀な人材を雇うイメージで投資をしたとしても、なかなか結果が出なければ、MA導入に反対をしていた他の社員から「本当に意味があるのか」と指摘されてしまうでしょう。

そうならないために大切なのは、できるだけ早く小さな施策を繰り返し、そこから得られた“気付き”を生かしながら、次の施策にトライするというサイクルを回していくことです。これが、大きな成功への近道です。

どこから着手すべきかは企業によって異なりますが、目指したいのは、“改善できたらビジネスに与えるインパクトが大きく、かつ現状の作業負担が非常に重い”ところです。

6 チャレンジを応援する企業文化をつくる

MAは営業支援のためのツールですが、名前に“マーケティング”という言葉が入っているために、その本質が理解されないまま毛嫌いされ、担当者が社内で孤立してしまうケースもあるようです。

しかし、実際に行うべきことは、「お客様のことや自社のビジネスを正しく理解し、それを成果につなげる」というビジネスで最も基本的で重要なことなのです。

経営者は、こうしたMAの目的を明らかにし、社内の理解が深まるようメッセージとして発信していかなければなりません。そうして新しいことへのチャレンジを応援する企業文化をつくっていくことこそ、MA活用に当たって一番に経営者がやるべきことといえるでしょう。

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今、注目の建設・不動産Tech

既存産業にITの力を組み合わせ、新しい事業を生み出すXTech。金融のFinTech、教育のEdTechなどがありますが、最近では建設・不動産業界にも新しい波が押し寄せています。

建設会社間(元請けと下請け)のマッチング、測量機器の進化、プロジェクトマネジメント、建設資金の調達、物件の査定、販売プラットフォームからリノベーションまで、そのバリューチェーンは多岐にわたります。

ITとの親和性が薄そうに見える建設・不動産業界において、広がりを見せるTechの活用についてご紹介いたします。

1 日本の建設・不動産市場

国土交通省によると、2018年度の建設投資額は57兆円の見通しとなっています。政府と民間の比率は約4:6と、公共事業の比率がいまだに高い業界です。政府事業としては土木、民間事業は住宅・事業用の建築案件が中心となります。

1989年度~2018年度までの建設投資額(名目値)の推移を示した画像です

建設業界は多層構造で、ゼネコン(General Contructor)と呼ばれる設計・施工・開発の全てを担う企業群が高いシェアを持つのが特徴です。このゼネコンなどが、不動産のコンセプトを作り、建築や内装は、別の建築会社や内装会社、個人事業主へ委託することも少なくありません。

また、不動産の流通市場に目を向ければ、都心の賃貸オフィスの賃料は年々右肩上がりで推移しており、空室率も低下しています。中古マンション市場も2020年東京オリンピック・パラリンピックを意識しながら上昇傾向にあります(全国宅地建物取引業協会連合会 不動産総合研究所の資料「不動産市場動向データ集」)。

2 日本の建設・不動産業界の課題

1)海外進出が難しい

口頭契約でも信頼で成り立つことの多い日本と比較して、取引慣行が異なる海外では、相手方から訴えられるなどの事象が発生しやすくなります。そのため、大手ゼネコンでも海外売上比率は15%と低率にとどまっています。また、地域ごとに建築規制があるため、米国ならば州ごとの規制をクリアする必要があり、資材調達の段階から既に複雑な設計となりがちです。

2)ITツールの採用率が低い

建設現場にとどまらず、不動産の流通フェーズにあっても口頭確認や紙文化が色濃く残っています。契約書は紙ベースで保管し、SaaSやアプリの導入営業をしても受け入れてもらえなかったりするという課題があります。

3)厳しい労働環境と若手人材の不足

総務省によると、建設業界の就業者は1997年の685万人をピークに、2016年には約7割の495万人へと減少の一途をたどっています。その上、3年以内の離職率も30%と高くなっています。また、29歳以下の就業者率が11%台で、若手人材の確保も課題となっています。人材が不足する背景の一つに厳しい労働環境が挙げられます。福利厚生制度の整備不足、年間300時間以上の長時間労働、個別の企業によって異なるものの、給与水準は業界平均年収で400万円台以下という状況であり、国土交通省や業界団体などが労基面を含め改善に取り組んでいます。

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3 建設・不動産Tech スタートアップ

海外でこの分野はRe-Techと総称されることが多く、特に不動産販売の段階は、PropTech(Property Tech)とも呼ばれます。米国では2010年前後に、建設Techスタートアップの設立ラッシュがありましたが、投資額自体は2008年のリーマンショックの影響から1億ドルを割り込みました。Pitchbookによれば、2013年ごろより1億ドルを超え、2016年には10億ドルの大台に乗っているようです。

日本でも同じくRe-Tech、建設部分は特にCon-Tech(Construction Tech)などと称されます。大手企業もこの分野に注目しており、清水建設は地球と人類の課題解決に資する研究開発型の革新的テクノロジーを指す、リアルテックに特化したファンドへ出資したり、シリコンバレーに駐在員を置いています。コマツも2015年にドローン測量の米Skycatchに出資し、相互リソース提供を行うなどしています。

建設・施工マッチング、建設現場支援などのカテゴリ別に注目される不動産/建設Startupを示した画像です

1)建設・施工マッチング

施主と工事業者、総合建設会社と専門工事業者のマッチングをオンライン上で行うサービスです。建設事業者間のマッチングを行うツクリンク、オフィスの内装でのマッチングを行うSHELFY、新築一戸建て建設にあたり専門家と相談できるSumika(タマホームとカヤックのJV)などが著名です。

2)建設現場支援

設計段階では、VRで建築物の完成イメージを伝達する、SYMMETRYなどのサービスが登場しています。施工段階では、足場の悪い現場で測量や写真撮影を行うドローンの貸し出しなどがあり、Skycatch、Terra Motorsのグループ会社であるTERRA Droneがこの分野に参入しています。また、いわゆるWBS機能を提供するSaaSでは、案件進捗管理をサポートしています。SoftBankが900億円の投資を決めたKatteraが著名ですが、日本でもネット環境の普及や若者世代へのスマホの普及により、現場でのITツール導入が進んでいっています。

3)建設材売買

建機、間接資材(工具や部品など)は商流が複雑で、価格決定の過程が不透明とされてきました。これを解決するために、卸の一部を省くなどして、売買のフローを見える化する動きが活発です。楽天やAmazonと同様にECプラットフォームを構築したモノタロウが有名で、この他にも建機の中古販売・リースの手続きが簡単なP2P(Peer to Peer)サービスを提供する動きも出てきています。

4)付加価値・リノベーション

IoTでスマートロック機能をつけて物件の価値を上げたり、既存の物件を特定のコンセプトに沿って再構築するリノベーションや、リノベーションの施工業者と消費者のマッチングなども流行しています。土地や建物を買い取って、ホテルやコワーキングスペースに改築し運営するという事例が最近増えています。空居物件をブティックホテルに改築して再売り出しするWhyHotelでも390億ドルを調達し注目を集めているなど、改築、場貸し・再販のフローが一体化する動きが出てきており、改装の際にIoT(電子キー付与など)を組み込み、最新のスマート物件にして価値を上げるものもあります。

5)販売・流通市場

新築や中古の流通市場ではマッチングサービスの他、遠隔でも内覧できるVR内覧が人気を集めています。最近では空き物件を有効活用し、消費者とマッチングするAirbnbなどの民泊サービスや、スペースマーケットなどの時間貸しも人気を博しています。

4 今後の動き

建設分野では、国土交通省が「建設業働き方改革加速化プログラム」を表明しており、建設工事現場における週休2日の後押し、技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組みであるキャリアアップシステムの稼働、社会保険加入義務化などの推進が見込まれています。

また、生産性向上のために、ITを活用することが掲げられていることから、今後スタートアップを含めてRe-Tech、Con-Tech関連サービス採用の加速が期待されます。

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IPOするまでのスケジュールと支援機関の役割

 IPOするまでにはさまざまな準備が必要であり、それらに対応するために多くの時間がかかります。企業規模や経営管理体制などによっても異なりますが、スムーズに準備ができた場合でも一定の時間がかかります。

 IPOするまでのスケジュールを簡単に確認したのち、主幹事証券会社や株式事務代行機関など、IPOまでの活動を支援してくれるさまざまな機関の役割について紹介していきます。


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シリーズ・IPO

こちらはIPOシリーズの記事です。
以下の記事もあわせてご覧ください。

1 IPOするまでのスケジュール

一般的に、IPOするまでにはおおむね3年の準備期間が必要であるといわれます。スケジュールのイメージは次の通りです。

IPOまでのスケジュールのイメージを示した画像です

IPOは自社独自でできるものではなく、外部の機関と連携しながら準備を進めていくことになります。特に、主幹事証券会社や監査法人 は早い段階から選定しておく必要があります。各機関がどのような役割を担うのかを確認していきましょう。

2 主幹事証券会社の役割とは

主幹事証券会社とは、自社(IPO準備会社)が証券取引所に株式を上場する際に、その準備段階の全てにわたって支援を行う証券会社です。主幹事証券会社の推薦がなければ、証券取引所に株式を上場することはできません。

主幹事証券会社から見れば、自らが推薦した会社が上場後に不祥事などを起こしたり、すぐに業績の下方修正を行ったりすると、投資家から責任を問われることになるため、IPO準備会社を厳しく審査します。

証券会社には次のような種類があります。捉え方はさまざまですが、一般的には次のような特徴があるといえるでしょう。

証券会社の特徴を説明した画像です

経営者やIPO準備担当責任者と、証券会社担当者との相性の良しあしもあるので、主幹事証券会社の選定に当たっては、なるべく複数社と接触し、各証券会社の特徴などを把握するようにしましょう。

たとえ主幹事証券会社に選定しなくても、上場時には複数の証券会社を平幹事会社として選定するのが一般的です。そのため、主幹事証券会社の対抗馬として、複数の証券会社と付き合っておき、いろいろな意見を聞くとよいでしょう。

なお、主な証券会社の部署には、RM部門(Relationship Management。いわゆる「企業担当」)、引受部門、引受審査部門などがあります。RM部門は自社に寄り添って相談に乗ってくれる部門、引受部門はRM部門寄りで引受審査部門での審査対策を支援してくれる部門、引受審査部門は厳しく上場審査を行う部門という位置付けになります。

主幹事証券会社は多くの場面で自社をサポートしてくれますが、想定発行価格(上場時の目論見書に記載される公募想定価格)の決定については、IPO株式に応募する証券会社の顧客の利益を考慮して、低めの価格を設定することもあるので注意が必要です。

従って、上場が近づいてきたら、直近のIPO株式の初値騰落率(公募価格と初値との差異)を研究し、IPO株価について証券会社とよくディスカッションしておくとよいでしょう。

3 監査法人の役割とは

監査法人とは、財務諸表の監査や、IPOの準備に際してさまざまなアドバイスをする機関です。

IPOでは、直前々期と直前期の2期分の監査報告書が必要です。さらに、上場申請のタイミングによっては申請期の四半期決算に関するレビュー報告書が必要です。監査報告書は、上場申請時に証券取引所に提出する新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)、および上場承認日の新株発行決議の際に財務局に提出する有価証券届出書において必要になります。

これらの監査報告書の交付を受ける前提として、財務諸表の作成過程において信頼し得る内部統制制度が構築されていることが求められます。そのため、証券会社と同様に、監査法人からも内部統制制度に関する指導も受けることになり、主幹事証券会社より早い段階で監査法人を選定するケースが多いようです。

証券会社と同様に、監査法人にも大手と中堅・中小監査法人があります。一般的には、大手監査法人のほうがIPOの準備に関するノウハウがあり、証券会社や証券取引所とのリレーションも良いと考えられます。

また、担当する監査チーム、中でも監査報告書にサインするパートナーや実務を担当するインチャージ(=主任)の経験や柔軟性に注目し、自社との相性を見極めましょう。一度監査法人を決めると、上場後も付き合うことになるため、この点も念頭に置いておく必要があります。

監査法人は主幹事証券会社と同じく、自社にとっては重要な伴走者なので、3者の役割を踏まえて連絡を密にとり、良好なコミュニケーションを心掛けましょう。

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4 株式事務代行機関の役割とは

株式事務代行機関とは、株主名簿の管理や、株主総会招集通知の発送、配当金の処理などの株式に関係する事務処理を代行する機関です。証券取引所が指定する信託銀行、または証券代行会社が該当します。

一般的に、IPO準備の段階では株主数が少ないので、株式事務の委託という点では大きなメリットを感じられないかもしれません。しかし、資本政策や株主総会運営などのノウハウにたけていることや、株主の整理・特定などが必要な場合もあるので、上場申請期の2年程度前を目安に契約することが望ましいでしょう。

5 証券印刷会社の役割とは

証券印刷会社とは、ディスクロージャー全般においてサポートしてくれる会社のことで、国内では(株)プロネクサスと宝印刷(株)がシェアを二分しています。

IPOに際しては、金融商品取引法や証券取引所規則、会社法など、さまざまな規則により上場申請書類や株主総会招集通知などのディスクロージャー資料を作成する必要があります。また、上場後も、有価証券報告書やIRサイトの作成など継続開示が必要です。証券印刷会社ではこれら専門的な資料の作成指導やチェック、IRサイト作成などをサポートしています。

6 弁護士などの専門家の役割とは

1)弁護士

取引先との契約書のレビューや、資本政策におけるコンプライアンスチェック、法律面での開示資料に関する相談、内部統制上必要な社内規程の整備、M&Aに関する相談など、IPO準備の段階から上場後を見据えて信頼できる弁護士と顧問契約を結んでおくと、上場審査の法務リスク対応がスムーズになります。

2)司法書士

IPO準備段階では、増資やストックオプションの付与、役員変更、定款変更に伴う登記事項の変更など、登記に関連するイベントが多く発生するため、商業登記に慣れた司法書士と付き合っておくとよいでしょう。

3)税理士

自社が成長ステージに入ると、海外取引や投資、M&Aなど税務処理の難易度の高い取引が発生します。また、連結納税など、中小企業ではあまり見かけない処理が増えてきます。従って、上場企業と取引実績のある税理士や税理士法人と契約しておくことが望ましいでしょう。

4)社会保険労務士

中小企業の中には、労働基準法に準拠した社内制度が整備されていないところがあります。上場審査においては、未払残業代や就業規則をはじめとした労務関連規則のチェックなどは重点的に審査されるので注意が必要です。労務関連の相談は弁護士でも受けてくれますが、労務に特化した専門家としての社会保険労務士のサポートが必要なケースがあります。

7 IPOコンサルタントの役割とは

IPOコンサルタントには明確な定義がなく、主に公認会計士や、証券会社・ベンチャーキャピタル(VC)出身者、ベンチャー企業CFO等の役職経験者などのバックグラウンドを持つコンサルタントが該当します。自社で雇用し、IPO準備のプロジェクトマネジャーとして活用するケースもあれば、経営アドバイザーとして時々相談するなど、依頼方法や金額も多岐にわたります。

8 ベンチャーキャピタルの役割とは

ベンチャーキャピタル(VC)とは、自社に出資し、上場後のキャピタルゲインを得ることを目的とした投資家です。証券会社系・銀行系・事業会社系・外資系・独立系などに類型されます。さらに、社外役員やオブザーバーを送り込んで事業構造改革や取引先開拓を積極的に行うハンズオン型のVCから、書面での報告程度で経営にはあまり関与しないVCまであり、そのスタイルはさまざまです。

資金が潤沢な場合は、必ずしもVCを必要としませんが、事業の成長期で、資金が必要なときに力を借りると、自社の成長を後押ししてくれることもあります。

一方、VCから長期間IPOしそうにないと判断された場合、株式の買い戻しを迫られたり、自社が意図していない株主に対する株式売却を打診されたりと、資金回収に向けたプレッシャーも強いので、出資を受ける場合には慎重な検討が必要でしょう。

9 社内の人材がIPOの成否を左右する

IPOするために必要な支援機関を紹介しましたが、最も重要な支援者は社内の人材ともいえます。具体的には、上場後の事業運営まで見据えた参謀としてのCFOや社外取締役・監査役、内部監査室のスタッフ、開示や税務に強い経理担当者など、非上場会社ではあまり求められない特定のスキルを持った経営陣やスタッフを集めたり、育てたりする必要があります。

単に起業することと、IPOすることは大きく異なります。IPOするということは自社の株式が証券取引所で有価証券として取引される、すなわち公器になることを意味します。経営者はそのことを重く捉え、法令を順守し、健全で透明な経営を心掛ける必要があるでしょう。

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企業の方向づけを行う「正しい努力」〜小宮一慶の社長コラム 

以前、経営とは(1)企業の方向づけ、(2)資源の最適配分、(3)人を動かす、の3つだと説明しました。そして、その中で最も重要なのは、方向づけです。企業が「何をやるか、やめるか」を決めることです。方向が明確に定まっていなければ、どんなに働く人が頑張ってもどうにもなりません。今回は、その最も重要な「方向づけ」を行う能力をどのように高めるかということをお話します。

1 経営で最も重要なことは「方向づけ」

「方向づけを正しく行う」。言うのは簡単ですが、実行するのは難しいものです。「方向づけ」とは戦略と言い換えてもいいと思います。それを正しく行うためには、まず、(1)企業として目指すべき、あるいは企業の存在意義である「ビジョン」をベースに、(2)企業がコントロールできない「外部環境」、そして(3)企業の「内部環境」を分析することが必要です。その上で、自社の強みを活かし、他社との違いを明確に出せる市場を決め、製品やサービスを提供しなければなりません。

その際に、「外部環境」の状況や変化を読み取ることが何よりも大切です。「会社」という字は興味深いことに「社会」という字の反対です。どんなに大きな会社でも社会の流れに勝てる会社はありません。自社や自社が属する業界を取り巻く環境を、短期的、中長期的にも読み解いていかなければならないのです。

もちろん、未来はだれにも分かりません。しかし、その分からない未来を、少しでも確率を高めて読み解く必要があるのです。その能力を高めるのにとても有効な手段の1つは、新聞を読むことだと私は思っています。

2 社会の関心を自分の関心に合わせる訓練

多くの皆さんが、毎日新聞を読んでいることでしょう。では、新聞を「経営者的に」読んでいる人はどれだけいるでしょうか。経営者的に読むというのは、社会の流れを読み解くように読むということです。

最良の方法は、新聞の1面トップ記事を毎日読むことです。新聞の1面トップ記事は、新聞社が読者に最も知らせたい重要な記事になります。そのため、自分の関心の高さにかかわらず、多くの人が関心を寄せていると考えられます。そうした情報を毎日収集するのです。これは、いわば「社会の関心を自分の関心に合わせる訓練」ともいえるでしょう。そうして考えると、見出しだけで読む記事を決めている人は、経営者的な読み方ができていないのかもしれません。

忙しい時は、「リード文」を読むだけでも良いでしょう。リード文とは、記事の最初にある4~5行のことで、ここに記事の内容がまとめられていることが多いものです。リード文のない1面トップ記事もありますが、その場合には、最初の数段落を読むと良いでしょう。こういう読み方を3カ月も続けていると、世の中の流れがだいぶつかめるようになってきます。

3 関心のないものは何度見ても見えない

人間は関心のないものは目に入りません。以前、私が『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭で書いた話ですが、セブン‐イレブンのロゴが「7-ELEVEn」というように最後の「n」だけ小文字であることをご存じでしょうか。

多くの皆さんはこのロゴを何度も見たことがあると思います。しかし、ロゴの最後の「n」が小文字であることに気づいている人は、かなり少ないと思います。関心のないものは見えないのです。しかし、元々は関心の低い記事でも、それらを毎日読んでいるうちに、興味がわいてきます。そうすれば「関心のフック」ができて、さらに新しい情報がそのフックにひっかかるようになり、自分の頭の中のデータベースが拡充していくのです。これは、別に新聞記事に限ったことではありません。

「メモする」ことも大切です。皆さんは、1週間前に食べた夕飯の献立を覚えていますか? これと同じように、以前に読んだ新聞記事の内容を覚えておくのは難しいことです。それを補助するのがメモです。毎日、新聞を読んで気づいたことや関心を持ったことを、短い言葉だけでもいいので、手帳などにメモしてください。私の場合は数字が多いです。それを、仕事の空き時間などに、ときどき見返します。そうすると、自身の脳のデータベースが活性化するのです。

最後にもう1つ、素直さもとても大切です。バイアスがかかっていると、物事を正しく見ることができません。特に、自分の考えを補強する情報だけに注目してしまう「確証バイアス」には注意が必要です。素直に謙虚に物事を見る。このことを、是非、心掛けてください。

以上

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