IPOのメリットとデメリット

IPOのメリット・デメリット、ちゃんと理解していますか?

IPO(Initial Public Offering: 新規株式の公開)を1つのゴールにしているスタートアップ企業やベンチャー企業が少なくありません。実際、IPOの件数も増加傾向にあり、2018年9月末時点で56社のIPOがあります。「年間100社上場」となる日も遠くはないかもしれません。

「自社のIPOを検討してみたい」「IPOがゴール!」と考える経営者は、まずIPOの基本的なメリットとデメリットを理解する必要があるでしょう。IPOによって資金調達などがしやすくなる一方、経営の自由度は低くなるなどの影響が出ます。ポイントを整理していきましょう。


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IPOのメリット

1)資金調達ができ、事業機会の拡大や成長投資が可能に

IPOの大きな目的は資金調達です。間接金融や経営者個人の裁量で調達してきた企業も、上場することで広く投資家から出資を募り、返済が不要な自己資本を増強することができます。上場により資金調達の選択肢を増やすことができるということは、それだけ事業機会の拡大や研究開発などに必要な資金調達が可能であるということにつながります。なお、近年は未上場企業の資金調達が活発であり、一概にIPOがもたらすメリットとは言い切れない面もあります。

2014~2018年9月13日の間にIPOをした企業の公募・売出しの合計額の中央値は、次のようになります(日本取引所グループウェブサイト)。仮にマザーズに上場した場合は、11億円程度の資金調達ができる可能性があります。

  • マザーズ:11億円(最大値は1307億円、最小値は1.5億円)
  • JASDAQスタンダード:7.2億円(最大値は40億円、最小値は3.5億円)

調達した資金の使い道は企業によって異なりますが、新サービスリリースに必要となる人材獲得費用・研究開発費用・設備投資など、さらなるステップアップのためにさまざまな資金の用途があります。

2)信用度や知名度がアップ

上場に当たっては証券取引所の厳格な審査をクリアすることが必要なため、上場が認められると対外的な信用度がアップします。多くの人に自社を知ってもらえるというメリットもあります。信用度や知名度がアップすることによって、新たな顧客や取引先の獲得につながる企業は多いようです。

3)パブリックカンパニーへのステップアップ

上場時の審査はもとより、上場を維持していくためにも内部統制の整備が重要になります。上場に向けての準備、そして上場後もパブリックカンパニーとして多くの注目を集めることによって、自社の体制は洗練されていきます。

4)社員のモチベーションアップ・優秀な人材の確保

社員は、上場企業の一員としての誇りや自覚を持ちます。また、信用度や知名度がアップすることによって、顧客や取引先が増えるだけでなく、優秀な人材の確保にもつながります。最近は、「オヤカク(親の確認)」「嫁ブロック(妻の反対で内定を辞退)」など、これまで以上に家族の意向が就職・転職に影響を与えていますが、上場企業であれば本人だけでなく、家族の安心感も増します。

5)キャピタルゲインの獲得

創業者(経営者)にとっては、保有する株式を売出してキャピタルゲイン(創業者利益)が獲得できる点も見逃せません。キャピタルゲインとは、創業者の頑張りに対する評価の1つでもあります。シリアル・アントレプレナーと呼ばれる、複数回の起業に成功している人たちのなかには、キャピタルゲインを新たな起業への資金としている人もいます。

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IPOのデメリット

1)経営の自由度がダウン

株主と経営者が同一(または親族など)であれば、基本的に経営者の意思で経営ができます。しかし、上場企業となれば株主を選ぶことはできません。短期的な利益を求める株主だけでなく、中長期の成長を願う株主もおり、その意向をある程度くみ取る必要があります。こうした点を嫌い、一時は上場していても、MBO(経営陣による買収)によって非上場化を選ぶ企業もあります。

また、上場企業は広く投資家の資金を募って事業活動を行う面があるため、投資家に対して持続的な成長を示し続けることも必要になります。自社の成長戦略をどうアピールし、それをどのように実現していくのか、企業の実力が問われることになります。

2)情報開示に関する大きな負担

上場企業となれば、決算公告や有価証券報告書などの法定開示に加えて、コーポレートガバナンス・コードや、さまざまな立場のステークホルダーへの対応、個人・機関投資家へのIR活動など、多くの情報開示に関する活動が増えます。

これらの活動は重要であり、対応するための人員・組織の整備は決して小さな負担とはいえません。

3)上場維持のためには1億円!? 多額の管理コストが必要

上場を維持するためには管理コストが必要です。企業規模などによって異なるものの、1億円程度かかるともいわれます。産業能率大学の倉田洋教授は、ご自身が実際に在籍していたIT企業を例に、上場維持のためのコストを次のように示しています。

上場維持コストの内訳を示した画像です

IPOにはメリットもデメリットもあるので、よく理解した上で、自社に合う成長のための方法を選ぶことが欠かせません。「資金調達」という目的であれば、IPO以外にも複数の手段があります。例えば銀行では、一般借入以外にもさまざまな資金調達手段を提供しています。

IPOをきっかけに自社をネクストステージへ!

負担があるといっても、IPOには多くの魅力があり、実際に次の成長につなげている企業もあります。IPOはゴールではありませんが、IPOへの準備、上場後の過程も含めて自社を成長させる良い機会になります。

では、IPOを成功させるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。次回は、上場までのスケジュールの目安や、主幹事証券会社や株式事務代行機関など、IPOまでの活動を支援してくれるさまざまな機関の役割などについて紹介します。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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起業で失敗しないための大切な4つのポイント

近年、会社員や主婦などさまざまな人が起業にチャレンジしています。その背景には、準備資金のハードルが下がったり、支援制度が充実してきたりしていることの他、自分で道を切り開いていくというマインドが広がってきていることがあるでしょう。しかし、起業すること自体は簡単でも、企業を発展させていくことは簡単ではありません。経営を続けていく上で、乗り越えるべきさまざまな課題があり、中には起業の段階から押さえておいたほうがよいものもあります。

そこで、今回は、起業で失敗しないために事前に押さえておきたい大切な4つのポイントを、経験者でもある筆者がお伝えしたいと思います。

1 起業の目的(ビジョン設定)

当たり前のことですが、起業の目的を明確にすることは非常に重要です。起業当初は、誰しも「作りたい世界」や「ありたい姿」をイメージし、やる気に満ちあふれています。しかし、勢いが先行して、「作りたい世界は、誰のどのような問題を解決するのか?」などが詰め切れていないことがあります。何度も自問自答を繰り返してみることが大切です。

また、起業はしたもののビジネスが軌道に乗らずに気弱になり、「このビジネスはニーズがないのではなかろうか」と落ち込むことがあるかもしれません。つらいとき、迷ったときに立ち戻れるビジョンがあれば、自分とビジネスを信じて前に進むことができます。

2 起業の始め方

起業というと株式会社などの法人設立をイメージすると思いますが、売上の見込みが立たないうちは、個人事業主としてスモールスタートし、事業が軌道に乗ってから「法人成り」するほうがよいかもしれません。

株式会社の設立には定款の作成や役員の選出などの他、登記に必要な手続きが多くあります。加えて、司法書士などに依頼すると、15万~30万円程度の費用がかかります。起業当初から出資を受ける見込みがあったり、課税売上高が1000万円を超えたりして、消費税の負担軽減が期待できる場合は法人成りのメリットがあります(同様に、利益については所得税と法人税を比較します)。しかし、そうでない場合は個人事業主としてのスタートがよいでしょう。

また、起業初期は、収入が安定しないことも多いです。固定費をなるべく抑えることが重要なので、オフィスを借りたり、従業員を雇ったりするタイミングは慎重に検討するようにしましょう。

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3 集客のポイント

起業当初、限られたリソースで営業するためには、効率性を高める必要があります。見込み顧客と接点を持つための方法として検討したいのが、SNSマーケティングです。SNSマーケティングをうまく展開すれば、潜在的な顧客がどの媒体を利用しているのかなどを探ることができます。

SNSマーケティングで大切なのは、“共感を呼ぶ情報の発信”です。起業当初は、できるだけ多くのコアなファンを作ることが、ビジネスを成功に導くポイントです。そのため、大多数の人に必要となる情報ではなく、ターゲットとなる顧客層を絞り込み、ペルソナ設定を行い、そのペルソナに響く情報を発信し続けましょう。

筆者の場合、顧客層は20代後半~30代の女性が多いのですが、コアの顧客層は「30歳前後の独身女性で、キャリア形成とプライベートのバランスに迷っている人」と設定しています。こうすることで、顧客層の抱えている課題をリアルにイメージでき、より共感性の高い情報を発信することが可能となります。

4 チーム化

起業して少しずつ仕事量が増え始めたときにぶつかる壁が、1人でできることの限界です。人を雇うほどの経済的余裕がないときには、業務委託という形で、動画やHP制作、ライティング、経理などの一部の業務を切り出して委託します。

委託先に心当たりがない場合、クラウドワークス、シュフティ、ココナラなどのクラウドソーシングを利用すれば、特定のスキルを持つ人材が見つかるかもしれません。また、既に委託先に心当たりがある場合、任せたい業務をプロジェクトごとにチーム化して仕事を進める方法もあります。チャットワーク、Facebookのメッセンジャーなどを利用すれば、お互いどこにいても仕事の進捗管理ができ、タスクの振り分けなども可能となるため、プロジェクト単位で依頼する相手を決めてチームを作ることが可能です。

業務を委託する際のポイントは、シンプルな業務委託契約と守秘義務契約を締結し、業務の範囲や最低限守るべきポイントなどを明記しておくことです。ただし、この方法だと細かな部分で認識の相違が発生する恐れがあるので、委託先は慎重に選定する必要があります。

5 女性ならではの気を付けたいポイント

最後に、女性ならではのポイントについてお伝えします。女性は、結婚や出産などのライフイベントによって、生活のリズムやスタイルが大きな影響を受けます。そのため、起業の計画を立てる際に、5年先くらいまでの自身のライフプランも同時に考えておく必要があります。

例えば、妊娠・出産した場合、個人差はありますが、体調の変化やつわり、睡眠不足などで、それまでの30~50%程度の時間しか稼働できないことや、体力的に無理がきかないことなどは想定しておきましょう。パートナーがいる方は、ライフプランと起業プランを話し合い、1年後、3年後、5年後の理想の生活イメージを共有しておくことが大切です。

起業のタイミングと妊娠や出産が重なった筆者は、つわりの中で事業計画を立て、出産後すぐに保育園に娘を入園させ、毎日睡眠不足の時期を過ごしました。なかなか計画的にはいかないものの、事前に起こり得るライフイベントを想定して、起業の時期をずらすことが可能ならば、負担は少なく、むしろ楽しみながら取り組むことができます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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個人事業主が知っておきたい、税務から見た法人成りのタイミング

「法人成り」とは、個人で行っている事業を法人化することです。一般的に、法人で事業を行ったほうが取引先や金融機関からの信用力が高まり、節税の幅も広がります。そのため、個人として事業をスタートしてから一定期間経過した段階で、法人成りを検討する経営者が多くいます。

ただし、個人に対する税金(所得税)と法人に対する税金(法人税)の課税の仕組みが違うため、誤ったタイミングで法人成りをすると、「個人で事業を行っていたほうが、税負担が少なかった」ということにもなりかねません。

以降では、所得税と法人税の違いを踏まえ、個人事業主が法人成りを検討する際の目安となるタイミングや、メリット・デメリットなどを紹介します。

1 法人成りを検討する目安となる利益・売上

法人成りを行う際は、事業の状況などに応じて慎重に検討・判断しましょう。節税を目的として法人成りのタイミングを計る場合、下記の金額を1つの目安にするとよいでしょう。

1)利益の金額

1つ目の目安は「利益の金額」です。個人事業主が得た利益については、所得税が課されます。この所得税は累進課税(利益が増えれば増えるほど、段階的に税率が上がっていく制度)であり、その税率は5%から45%までとなっています。

所得税の税率を示した画像です

一方、法人が得た利益については法人税が課されます。法人税は税率が23.2%と一定であり、さらに中小企業については年間800万円までの利益については、税率が15%(2019年4月1日以後に開始する事業年度については19%)に軽減されます。

法人税の税率と軽減税率を示した画像です

基本的に、利益が少ないときは個人で事業を行ったほうが有利になります。そして、利益が一定程度を超えてきたタイミングで法人成りすることにより、高い税率(所得税)での税負担を回避することができます。

なお、利益に対しては所得税や法人税の他、住民税や事業税も課されるため、実際にはこれらの税金も加味してシミュレーションを行うことになりますが、一般的には利益が800万円程度になったところで法人成りの検討を行うケースが多いようです。

2)売上高

2つ目の目安は「売上高」です。利益の金額は所得税や法人税に影響を与えるものでしたが、売上高は消費税に影響を与えます。

個人事業主は、原則として暦年で2年前の売上高が1000万円以上の場合に消費税を申告納付する必要があり、1000万円未満であれば申告納付する必要はありません。法人の場合、前々事業年度の売上高で同様に判断しますが、設立1期目と2期目は「前々期」が存在しないため、原則として消費税の申告納付は不要となります。

従って、2年前の売上高が1000万円未満である期間中は個人事業主を継続し、1000万円を超えるタイミングで法人成りすることにより、消費税の申告が不要となる期間をさらに2年間延ばすことができます。

なお、消費税の納税義務の判断は上記以外にも特例等があるため、最終的にはそれらも加味して判断する必要がある点に留意しましょう。

2 法人成りの税務上のメリット

1)役員報酬や親族への従業員給与

個人事業主の場合、収入から費用を差し引いた利益に対して所得税が課されます。事業を手伝っている親族に対して給与を支払っていても、その給与を個人事業主の利益から差し引くには一定の制限があります。もちろん、個人事業主は、自分で自分に給与を支払うことはできません。

一方、法人においては、役員である自分自身に支払う役員報酬や、事業を手伝っている親族に支払う従業員給与については、原則として全額が費用とされ、利益から差し引くことができます。

なお、役員報酬や親族への従業員給与に対しては所得税が源泉徴収されることになりますが、複数の親族等に給与を支払って利益を分散すれば、低率の所得税率が適用されることになり、結果として税金の圧縮が可能となります。さらに、その役員報酬や給与を受け取る従業員全員から、「給与所得控除」と呼ばれる一定額の控除額を給与の金額から差し引いた上で源泉徴収の計算が行われるため、その節税効果はさらに大きくなります。

2)退職金の支給

個人事業主の場合、仮に事業を取りやめたとしても自分に退職金を支給することはできません。

一方、法人においては、役員であるご自身が退任した場合に支給する退職金については、金額が適正であるかぎり、費用とすることができます。

3)社宅経費

個人事業主が賃貸マンションに居住している場合、そのマンションの賃借料については、個人事業主の経費として利益から差し引くことはできません。

一方、法人の場合、その賃貸マンションを法人名義として借りた上で社宅として使用するなど、一定の条件をクリアすることによって、その賃借料を法人の経費として計上することができます。

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3 法人成りの税務上のデメリット

1)交際費(法人成りのデメリット)

個人事業主の場合、事業に関連して支払う交際費は全て経費となりますが、法人の場合、年間800万円まで(中小企業の場合)しか経費として認められません。ただし、交際費を年間800万円も使用しない場合は、さほどのデメリットにはならないでしょう。

2)均等割(法人成りのデメリット)

法人の場合、たとえ赤字であっても均等割と呼ばれる住民税を必ず納めなければなりません。個人事業主についても均等割を納めなければなりませんが、その金額が数千円であるのに対し、法人の場合は最低でも7万円ほどとなります。

4 登記費用、社会保険、確定申告などにも注意

個人事業主で一定程度の売上や利益が得られると、法人成りを検討される方も多いと思いますが、法人を設立する場合には、登記費用や登録免許税その他の初期費用が必要となる点に留意しましょう。

また、個人事業主の場合、従業員が5人未満であれば健康保険・厚生年金の加入義務はありませんが、法人の場合には原則として強制加入となるため、法人成り後は社会保険料の負担が増加することも念頭に置いておく必要があります。

さらに、個人事業主も法人も「確定申告」が必要ですが、一般的には個人事業主(所得税)よりも法人(法人税)の確定申告のほうが難しくなっています。添付すべき書類も多くなるため、正確な確定申告を行うために税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。

最後に、法人成りを検討するにあたって節税という点だけに目が行き過ぎると、法人成りした後に「想像と違った」といった結果になる事例も数多くあります。従って、法人成りについては専門家も交えつつ事前に十分に検討することをお勧めします。

以上

(監修:税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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第1回 シリコンバレー流 仲間の集め方/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

世界のどこにいても、そう、ここ日本でも毎日使っているツールの一つに、Google(グーグル)があるでしょう。ちょっと知りたいことをGoogleで検索してみるのですが、その際に利用するスマホやパソコンは、アップル社のiPhone(アイフォーン)やMacBookかもしれません。

あるいは、日々の出来事をFacebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)、Instagram(インスタグラム)を使って投稿する人も多いでしょう。そして、仕事が終わると、Amazon(アマゾン)でついつい何かを注文し、外に買い物に出なくても済む日々を過ごしているかもしれません。

お気付きの読者の方も多いと思いますが、これら全てが世界のイノベーションの聖地シリコンバレーから生まれた企業で、「GAFA」(ガーファ)などと呼ばれます。GAFAとは、「G:Google、A:Apple、F:Facebook、A:Amazon」の頭文字です。

「えっ、シリコンバレーってどこにあるの?」

このような読者もまだ多いかもしれません。シリコンバレーとは、米国の西海岸にあるサンフランシスコより少し南のサンマテオからサンノゼまでのエリアを指します。こう聞くと、シリコンバレーという名前の空港があるかのような都市を思い浮かべますが、5年前に筆者が初めて訪れたとき、サンフランシスコ空港とサンノゼ空港はあるのに、“シリコンバレー空港”がなくて驚いたことを覚えています。

そう、シリコンバレーは世界一有名な場所の一つですが、地図に載っていないただの愛称なのです。そして、この地から本当に数多くのスタートアップと呼ばれる、日本でいうところのベンチャー企業(捉え方はさまざまです)が生まれ続けています。

スタートアップ企業とは、世界を変えるイノベーションを生み出す、設立されたばかりの企業で、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから投資を受けて急成長し、イグジット(M&AやIPO)を目指しています。

今日のコラムでは、こうしたシリコンバレーのスタートアップ企業が、どのようにして「良い人材を集めているのか?」について書こうと思います。

少々前置きが長くなりましたが、今月号からコラムを書かせていただく森若幸次郎と申します。あだ名は、John(ジョン)ですが、別にジョン万次郎の生まれ変わりではないです。自称・他称「平成の坂本竜馬」で、日本とシリコンバレーなどをつなぎ、グローバルイノベーションを世界中の人々のより健やかな人生のために、皆様と起こしたいと思っております。

私は、山口県下関市で創業47年目になる医療機器イノベーション企業の2代目です。シリコンバレーのスタートアップ企業で働いていたことや、日本の上場企業のシリコンバレー拠点の責任者をしたこともあります。国内外を問わず数多くのスタートアップ企業の顧問をはじめ、中小企業支援の経営コンサルティングを行っています。実際に企業の中に入って、ハンズオンで経営を一緒にさせていただいてもいます。

19歳から7年半、オーストラリアに単身留学して日本に帰国した後、私はハーバードビジネススクールでリーダーシップとイノベーションについて学びました。日本に必要なのはアントレプレナーシップ教育(起業家精神)だと理解し、アントレプレナーが一番多い場所であるシリコンバレーと日本を行き来して、早いもので5年が過ぎました。

さて、シリコンバレーのスタートアップ企業は、どのように「良い人材を集めているのか」ということですが、最も重要なポイントとして、彼らには明確なビジョンがあります。成功するシリコンバレーの創業者(兼)CEOの役割は、世界を自分たちの事業でどのように変えていくか、そして、自分たちのサービスやプロダクトで、世の中のどのような問題を解決するかを明確にし、未来の投資家、顧客、従業員に伝えています。

シリコンバレーのスタートアップ企業のCEOたちは、エレベーターピッチと呼ばれるわずか45秒の間に、自分たちの会社は何をしていて、その独自のテクノロジーで課題をどのように解決しているか、そしてグローバルマーケットでどこまで成長できる事業をしているか、いつイグジット(M&A やIPO)するかを語ります。そのための準備として、エレベーターの中でいつ投資家と会ってもよいように、短時間のピッチ(投資家向け資金調達のためのプレゼンテーション)ができるように練習を繰り返しているのです。

そして、彼らは、投資家を魅了するのと同じように、一緒に働く仲間を見つけるというか、口説き落とすことを、とても重要だと考えています。また、シリコンバレーの伝説のエンジェル投資家であるロン・コンウェイ氏は、自分が投資するスタートアップ企業で一番重要なのは、「チーム、チーム、チーム」と言っています。

そう、トレンドを追いかけるだけ、天才CEOがいるだけでは経営はうまくいかないと、No.1スーパーエンジェル(エンジェル投資家でもたくさん投資する人)は知っているのです。コンウェイ氏は、良いチームを作れたら、あとは良いサービスを作り、自分のところにデモ(実際にサービスやプロダクトが動くところを見せること)しに来てくれたらよいと思っているのでしょう。

良い人材を集めるためには、明確なビジョンと、それを短時間であっても分かりやすく伝えることが必要だということです。ちなみに、シリコンバレーの社長の平均年齢は29歳といわれています。これに比べて日本は58.9歳です(帝国データバンク「全国社長年齢分析(2018年)」)。

このデータを見ると日本の経営者は高齢ですが、最近はシニアスタートアップもたくさん出てきています。社会人経験を積んだ40歳を過ぎてから起業するケースも、シリコンバレーで増えています。特に、バイオテクノロジーやヘルスケアのスタートアップは、医療現場で経験を積んだ医師やエンジニアによる起業が増えているのです。

ビジネスに年齢は関係ありません。むしろ、ビジョンを明確にし、それを伝えながら相手を口説くということは、ビジネス経験が豊富な人のほうが得意かもしれません。良い仲間を見つけるのは、エレベーターでいつ投資家に会っても大丈夫なように周到に準備するのと同じです。つまり、出会いに貪欲であること、そして、出会ったら、どのような状況でもビジョンや気持ちをストレートに伝える訓練が必要なのです。

以上

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これだけは理解しておくべき海外ビジネスの法務/スタートアップのための法務(5)

こんにちは、弁護士の結城大輔と申します。シリーズ「スタートアップのための法務」の第5回は、海外ビジネスの法務において、これだけは押さえておきたい基本的事項を扱います。

現在、多くの日本企業が海外関係のビジネスに力を注いでいる一方で、海外ビジネスに関する法務の経験が乏しい企業は少なくないようです。私が韓国・米国の法律事務所で働いていた際、日本では誰もが知っている日本の著名企業が、海外でとても苦労している様子を何度も目にしてきました。

あるとき、私が当時働いていたニューヨークの法律事務所に、世界的に人気のある商品を開発、販売して有名になった日本の中小企業のオーナー社長が相談に来ました。知的財産の関係などで米国弁護士のサポートが必要になったのです。彼は私に言いました。「日本では特に弁護士が必要だと感じたこともなく、顧問弁護士もいません。しかし、さすがに米国となると弁護士が必要と思い、相談に来たのです」

私は、なるほどな、と思いました。日本国内でのビジネスであれば、必ずしも法務・弁護士の重要性を意識する必要がないと感じている企業はまだまだ多く、このあたりが、海外ビジネスに関する法務について十分精通していない日本企業にとってのポイントだと感じるようになりました。以降では、日本企業、特に海外との取引や法務について十分な経験のないスタートアップ企業にとって、海外ビジネスにおいて、これだけは押さえておくべきという法務の基本を概説します。


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1 海外ビジネスの法務リスク:紛争リスク

まず何よりも、スタートアップの経営者に理解してもらいたいのは紛争リスクです。海外ビジネスでは、紛争が一度発生すると桁違いの巨額なコストが発生する恐れがあります。

典型的な国は米国です。米国の民事訴訟では、「懲罰賠償」という日本にはない考え方があり、悪質性の高い被告には、被害の埋め合わせ(填補賠償)に加えて、懲罰としての賠償が認められることが少なくありません。しかも、米国訴訟では一般市民が「陪審」として責任の有無および賠償額の判断を行います。コーヒーが高温で大火傷を負ったという原告の訴えに対し、過去にも同種のクレームがあったにもかかわらず、これを軽視したなどの悪質性に着目し、被告のマクドナルドに対し、270万ドル(現在のレートで約3億円)の懲罰賠償を認める評決が出されたケース(最終的には裁判官が減額しましたが、それでも懲罰賠償として48万ドル(同約5400万円)が認められています)などは、巨額の損害賠償のリスクを表した著名な例です。

また、判決として巨額の賠償が命じられるリスクのみならず、そもそも国際訴訟となるとその手続自体にも莫大な費用がかかります。米国の場合、「ディスカバリ」と呼ばれる強烈な証拠開示手続が法定されていて、訴訟の両当事者は、訴訟に関連し得る証拠をお互いに開示し合う義務を負います。これに反して証拠を隠したり、廃棄したりすれば、厳しい制裁を受けることになります。

このディスカバリに対応するために、双方の弁護士は、大量の証拠(特に電子メールや電子データ)の分析に莫大な時間を使うので、日本とは桁が幾つも違う弁護士費用を要することになります。

制度は違っても、米国以外に証拠開示制度が存在する国は少なくありません。それに、国際訴訟を担当できる実力のある弁護士に依頼するには、高額な費用がかかります。海外の納品先・買い手から未払売買代金を回収しなければならないが、海外で訴訟を提起する手間とコスト、特に高額の弁護士費用を考えると、泣き寝入りせざるを得ないという日本企業を目の当たりにしてきました。

2 海外ビジネスの法務リスクを:コンプライアンスリスク

次に理解していただきたいのは、海外でのコンプライアンス違反は、日本とは比べものにならない過酷な制裁がもたらされる恐れがあるという点です。

有名な例が価格カルテルと贈賄行為です。例えば、日本の多数の自動車部品メーカーは、価格カルテルによる米国独占禁止法違反を理由に、米国で多額の罰金刑と実刑判決を受けており、米国の刑務所に服役した日本企業の幹部社員は既に数十名を超える状況です。

罰金刑については、日本の刑事罰のように罰金の上限を具体的金額で法定するのではなく、当該犯罪行為により得た利益や他者が被った損失の2倍までの罰金が科され得るため、大きな入札案件をめぐるカルテルや贈賄行為などの場合、罰金額が1000億円近くに上ることもあります。このような巨額の罰金を受けてしまうと、企業の存立すら危うくなりかねません。また、民事責任を追及する多数の損害賠償請求訴訟と、これらに伴う莫大な弁護士費用の負担も発生します。

他にも、韓国では、ビジネス上のトラブルで刑事事件に巻き込まれるリスクが日本よりはるかに高いということができます。やや誇張して言えば、“貸付金が約束通り返済されない場合、詐欺罪で告訴して刑事事件とし、刑事事件における示談交渉での回収を図る”というように、民事紛争において刑事告訴がなされることが少なくありませんし、実際に受理され、刑事事件となる比率が日本よりははるかに高いといわれています。また、ハッキングの被害に遭い、個人情報の流出事故があった場合に、“被害者”のつもりで警察に相談していたところ、情報管理体制が不十分であるとして、逆に“被疑者”の立場で刑事責任を追及される可能性もあります。

海外ビジネスを行う際には、日本と比べて、はるかに過酷な制裁を科されるリスクのある国や、より容易に刑事事件に発展するリスクのある国の存在を十分考慮しなければなりません。日本と同じ感覚で海外ビジネスを行い、刑事責任のリスクを冒してしまうことは、何の装備も持たずに冬山に登るような、無謀極まりない行為なのです。

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3 海外ビジネスの法務における対応ポイント

以上のような海外ビジネスにおける紛争リスクとコンプライアンスリスクを踏まえ、海外ビジネスの法務では以下のポイントに注意しましょう。

1)契約書を徹底的に作り込む

紛争リスクを低減するためには、丁寧な契約書の作成が必要不可欠です。日本国内のビジネスの場合、いざもめてしまったときに相互に誠実に協議するという、いわゆる「誠実協議条項」に基づいて解決を目指し、それが駄目なら、そのときは訴訟により解決すればよいという考え方が強いせいか、あまり細かい内容を契約書に書かない傾向があります。

しかし、海外との取引にこのようなスタンスで臨んでしまうと、いざ紛争となった場合のコストやリスク(懲罰賠償を含め)が途方もなく大きく、全くペイしないことになってしまいます。契約書を作成する際は、単に自分の側に有利な内容を盛り込むという発想だけでなく、想定される紛争を見込んであらかじめ細かく規定しておくことで紛争が発生しにくくなる、という発想も併せ持つことが重要です。

2)適切な専門家を活用する

契約書作成と同時に重要なのが、適切な専門家の活用です。海外ビジネスという大海原に漕ぎ出す以上、法務であれば弁護士というように、専門家の力をうまく活用することが必要不可欠です。特に法律は、国や州によって、あるいは自治体ごとの条例によっても、変わってきます。裁判例によって成文のない判例法が法規範となる国も少なくありません。インターネットで収集できる一般的情報のみに基づいて行動してしまうと、判断を大きく誤るリスクがあります。

さらに、専門家といっても、具体的に誰を起用するかによって状況は大きく変わります。弁護士なら誰でも一緒というわけではありません。取り扱い分野が細かく専門分化している国で、専門外の分野の弁護士を頼んでしまい、悲惨な展開となる事例は数え切れませんし、そもそも専門家によってサービスのクオリティーが大きく異なることも珍しくありません。特に、海外の法制度等に明るくなく、かつ、海外法務に精通した法務部が備わっていない日本のスタートアップにとっては、比較的低コストで丁寧な説明とコミュニケーションを尽くしてくれる弁護士との連携が重要でしょう。

3)取引相手をよく選ぶ

意外に盲点となるのが、そもそも取引先として選ぶ相手を間違えるな、という点です。海外取引に関するご相談で、「◯国の□社と取引をするので、契約書をしっかり準備してほしい」という依頼を受け、そもそも□社を取引相手に選んだ理由を確認すると、“直接ウェブサイトを見たと連絡してきてくれたから”とか、“トレードショーに出品した際に声をかけられたが、社長も良い人のようだから”といったように、相手選びの検討があまりなされていないケースをまま目にします。

きっかけはトレードショーでもよいのですが、実際に継続的な契約関係に入る場合、あるいは、合弁会社の設立や、事業・会社の買収のような戦略的な事業パートナー関係に入る場合には、相手のことを十分に調査する必要があります。調査会社を利用する、弁護士等の専門家に公開情報に基づく調査を依頼する、当該相手先からNDA(秘密保持契約)に基づいてある程度情報提供を受ける、徹底した法務デュー・デリジェンスを行うなど、対応の程度は色々ありますが、ぜひ必要な調査・検討を行うべきです。そもそも相手がその契約を無視するような企業であったり、信用力に不安があったり、あるいは、公務員への接待など贈賄の恐れがあったりする場合、どれほど丁寧に契約書を作成してもリスクはカバーできません。

4)コミュニケーションと信頼関係

最後にコミュニケーションと信頼関係の重要性を挙げておきます。私が見てきた事案でも、例えば契約は締結したが後は海外の契約先に任せきりで、日本企業が現地とのやりとりも情報把握もほとんどしていないような場合、だいたい何らかのトラブルが発生しています。距離が遠く、カルチャーも違う以上、その壁を越えるだけの密な関係構築を心掛ける必要があります。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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どんな時にもビジョンや理念に回帰する〜小宮一慶の社長コラム

会社経営には、いい時もあればしんどい時もあります。いい時には気が緩みがちで、経営者のお金の使い方も荒っぽくなることがあります。場合によっては、公私混同してしまうことも少なくありません。逆にしんどい時には、それこそお金儲けに必死になり、お客さまや社員を大切にすることを忘れがちです。しかし、強い会社を見ていると、やはり、ビジョンや理念をどんなときにも大切にしていると感じます。そうであるからこそ、強い会社と言えるのではないでしょうか。

1 忘れられない言葉

経営コンサルタントとして独立してすぐのことで、かれこれ20年前のことですが、今でも忘れられない出来事があります。
ある事情があってつぶれる直前の会社で研修を行ったことがありました。その会社は、研修の数カ月前には40人ほどいた社員が、解雇されたり自主的に辞めたりして20人ぐらいに減っていました。給与の支払いも遅れ、ボーナスも出ない状態でした。実際、その会社は研修後半月ほどで倒産しました。

1研修では、社員さんに、「思っていることを話してください」と、ひとりずつ前に出て話してもらいました。そのなかで、新卒でこの会社に入った入社2年目の女性社員が言った一言を、私は、一生、忘れないだろうと思います。
彼女は、こう言ったのです。

「社長のセルシオのために働いていると思うと、アホらしくて働けない」

その女性社員は、社長の私利私欲のために働かされていると感じていたのでしょう。

2 最も長く続く組織は「宗教団体」

この話を聞いて、私は、その時に分かったことがあります。

「社員は、会社が通常の時には給料についてくる。しかし、しんどい時にはビジョンや理念についてくる」

社員は、平常時は、どんなにイヤな社長がいる会社でも、社風の悪い会社でも自分の生活のために我慢して働くことができます。すぐに独立したり、転職できたりする人ばかりではありませんから、会社からノルマを課せられても、経営者の志が低くても、どうにか頑張ることができるのです。

しかし、会社そのものが傾きかけたら話は別です。お金も十分に払えず、先の見通しも立たない。そのような状況では、「お客さまが求める商品やサービスを提供する」「働く人を活かし、幸せにする」といったビジョンや理念など、会社の存在意義が浸透しているかが、社員がついて行こうとするかどうかの最後のよりどころとなります。

またこれは、危機の時だけの話ではありません。平時でも、同じようなビジネスをしている同業の中で、図抜けて高いパフォーマンスを出す会社がありますが、このような会社は、「考え方」、ビジョンや理念の浸透度合いが違うのです。さもなければ、「恐怖政治」のようなことをやっている会社でも、まれに好業績のところもありますが、社員は疲弊し、業績も長続きはしないのです。

考え方を求心力にした組織、たとえば宗教団体が1000年以上も組織を維持できる一方、お金などを求心力にした組織は長続きしないものなのです。

3 経営者は「考え方」の宣教師たれ

経営者はビジョンや理念の大切さを十分に認識しなければなりません。松下幸之助さんは、理念の大切さに目覚めた昭和7年を、わざわざ創業命知元年としているほどです。逆に言えば、それに気づかないうちはまだまだ本物の経営者ではないということです。

だからこそ、ビジョンや理念はお題目で終わらせてはいけません。経営者が先頭に立って体現していることが大切なのです。ビジョンや理念が大事だ、お客さま第一で良い仕事をしていこうと言いつつ、お客さまそっちのけでゴルフに行ってしまうような経営者のもとでは、ビジョンや理念が育まれるはずがありません。

社員は、経営者が思う以上に経営者のことをよく見ています。
表向きは、もっともらしいビジョンや理念があっても、実は経営者の金儲けのためだけに存在している会社なのか、その“本質”を見抜いています。

暗いところから明るいところはよく見えるけれども、明るいところから暗いところはよく見えないものです。舞台の上と下を思えば分かりやすいのですが、暗い観客席からは明るい舞台はよく見えてもますが、舞台から客席はよく見えません。経営者は、明るいところにいます。社員からはとてもよく見えています。経営者が社員を見ているよりも何倍も社員は経営者を観察しています。

どこの会社にも、お客さまを大切にする、社会に貢献する、社員を幸せにするといったビジョンや理念があると思いますが、経営者自身が、正しい考え方をベースにそれらを率先垂範していることが大切です。

企業経営においては、強い組織を作るための考え方を求心力にすることが最も重要です。経営者はその根幹になるビジョンや理念の宣教師にならなければなりません。

以上

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「サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)」の脅威と対策

  • 運用しているWebサービスの日常的なアクセス状況や負荷、許容範囲などを把握
  • 運用しているWebサービスに脆弱性を作り込まない
  • サービス妨害攻撃によってWebサービス停止時を想定した体制を敷いている

これらができていない中小企業は、いわゆる「サービス妨害攻撃(DDoS攻撃。Distributed Denial of Service attack)」を受けて、大きな損害を被る恐れがあります。この記事では、実際に中小企業で起きた情報セキュリティ問題を取り上げ、対策のポイントを紹介します。

1 DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)とは

DoS攻撃(Denial of Service attack)とは、攻撃対象となるサーバやネットワークに対して大量のデータを送りつけることで提供するサービスを機能停止に追い込むサイバー攻撃です。DoS攻撃を仕掛ける際、複数の端末や機器から攻撃対象へ一斉に大量のデータを送りつけることを、今回のテーマとなる「DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)」と呼びます。

2 突然のサーバダウン

インターネット通信販売企業「XYZネットショップ」(仮名)。PC電化製品を中心とした個人向けネットショップを運営しており、価格比較サイトのランキングでも常に上位をキープしているベンチャー企業です。

ある日の午後、経営者A氏のもとにネットショップの担当者から連絡がありました。その内容は、「当社のネットショップにアクセスできないという顧客からのクレームの電話が鳴りやみません!」というものです。

A氏はスマートフォンからネットショップへのアクセスを試みましたが、つながりません。慌ててシステム管理者に問い合わせたところ、「ネットショップ(Webアプリケーション)に大きな負荷がかかっていて正常に動作していません。復旧に向けて対処していますので、お待ちください」との回答がありました。しかし、1時間、2時間と待っても通販サイトが復旧するめどは立たず、A氏はWebアプリケーションを構築したシステム開発会社に相談することにしました。

システム開発会社が対処に駆けつけてくれた頃にはWebアプリケーションへの負荷も落ち着き、ネットショップを復旧することができました。結局、この日は全く出荷ができず、今度は出荷遅延のクレームの電話応対に追われることになりました。

システム管理者がシステム開発会社の協力のもと、アクセスできなくなった原因を調査した結果、DDoS攻撃に遭ったようだとの報告があがってきました。そこで、詳しい調査や今後の対策について、サイバーセキュリティの専門家B氏に相談することにしました。

数日後、B氏は調査結果を経営者A氏へ報告しました。

「今回は御社のネットショップがDDoS攻撃を受けていたことを確認しました。DDoS攻撃とは、攻撃者が不正に操った複数のコンピュータやIoT機器(ボットネット)から、標的とするネットワークやWebアプリケーションへ大量の通信データ(パケット)を送りつけることで大量の処理負荷を与え、機能停止状態に追い込む攻撃のことです。また、最近はWebアプリケーションの脆弱性を突いてくる場合もあります。

今回、ネットショップは大量の通信データの処理負荷に耐え切れず一時的にダウンしましたが、他に攻撃の兆候は見当たりませんでしたので、顧客情報の流出等は発生していないようです。御社ではDDoS攻撃の対策が全く取られていない状態なので、これを機に対策を検討しましょう」

攻撃者から不正に操られた機器を経由して、Webサービス提供者に対してDDoS攻撃を行う様子を示した画像です

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3 DDoS攻撃の対策

DDoS攻撃の対策として、まずは運用しているWebサービスの日常的なアクセス状況や負荷などを把握して、想定される最大の通信データ量を確実に処理できるネットワーク帯域の確保やサーバ処理能力を備えるようにしましょう。ネットワーク帯域を広げることはとても有効な対策です。しかし、費用もかかることなので、過剰投資とならないように注意しましょう。

また、ファイアウオールやWAF(Web Application Firewall)などのネットワーク機器のフィルタリング機能を用いて、不要な通信データや詐称されているIPアドレスからの通信データ、攻撃元であると分かっているIPアドレスからの通信データ、Webアプリケーションの脆弱性を突くような通信データをブロックすることも有効な対策です。

今回、海外のIPアドレスからの異常な通信データを確認しました。御社のネットショップのお客様は日本国内だけなので、海外からのアクセスを制限することも検討しましょう。

しかし最近は、IoT機器を不正に操って巨大なボットネットを構築するといった新しい攻撃手法が出てきたり、ボットネットを時間貸しするようなアンダーグラウンドサービスが生まれており、DDoS攻撃の激しさは増す一方です。そこで自社で全てを賄おうとせずに、常に対策強化に取り組むインターネットサービスプロバイダー(ISP)や外部サービスを利用することも一考です。

B氏は、一通りの対策を説明した後、まとめの言葉で締めくくりました。

「御社の売上はネットショップ運営が大半です。従って、DDoS攻撃の対策は必須であり、また、Webサービスがダウンした場合を想定した事業継続計画も考えておくべきでしょう」

XYZネットショップの経営者A氏は、システム管理者やシステム開発会社と相談し、DDoS攻撃の対策を強化しているISPへWebサービスを移行することにしました。その後、XYZネットショップではDDoS攻撃の被害は発生していません。

次回は、元従業員による重要データの情報持ち出しが発覚!? 内部不正の脅威と対策について解説します。

以上

(監修 エドコンサルティング株式会社 代表取締役 江島将和)

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レーダーチャートを使った財務分析で企業の状態を「見える化」

財務分析では、いわゆる財務三表と呼ばれる「貸借対照表(Balance Sheet:B/S)」「損益計算書(Profit and Loss Statement:P/L)」「キャッシュ・フロー計算書(Cash Flow Statement:CF)」の数値を分析します。

とはいえ、財務三表の数値にはさまざまな種類があり、慣れていないと問題点などが明らかになりません。そこでこの記事では、レーダーチャートを使った財務分析の手法を紹介します。企業の状態が一気に「見える化」され、強みと弱みが分かります。

1 決算書(財務諸表)から分析するのは収益性、生産性、安全性

財務分析は、次のような視点で行います。

  • 収益性分析:企業の稼ぐ力がどの程度あるか
  • 生産性分析:企業が経営資源を効率的に利用して生産できているか
  • 安全性分析:企業の債務支払能力は問題ないか

早速、主要な財務指標を使った「レーダーチャート」を作ってみましょう。下のレーダーチャートは、日本政策金融公庫「小企業の経営指標2018」を基に作成したものです。情報通信業の財務指標(「総資本経常利益率」など。詳細は後述します)の平均値を100とし、インターネット付随サービス業の財務指標の平均値を比率で示しています。比率が100以上ならば良好だといえます。

インターネット付随サービス業のレーダーチャートの作成例を示した画像です

実際は、自社と競合先の財務諸表を使って分析します。また、業界や比較対象によって見るべき指標が異なってきます。例えば飲食店では、いわゆる「FL比率」を確認します。FはFood(食材などの材料費)、LはLabor(人件費)であり、これらコストの売上に対する比率をFL比率と呼びます。飲食店では、FL比率を一定に抑えることが重要になります。

上のレーダーチャートで用いている財務指標の特徴と計算方法を確認していきましょう。

2 収益性に関する指標の見方

1)総資本経常利益率(ROA。経常利益÷総資本×100)

「ROA」として知られる総合的な指標です。総資本経常利益率が高い企業は、総資本を効率的に使って利益を上げているといえます。

2)売上高経常利益率(経常利益÷売上高×100)

財務活動までを含めた企業の稼ぐ力を示しています。本業の稼ぐ力を把握したいときは、売上高営業利益率(営業利益÷売上高×100)を利用します。

3)総資本回転率(売上高÷総資本)

資産をどれだけ効率的に売上につなげているかを示します。総資本回転率が低い場合、在庫の状況や設備の老朽化、土地・建物の遊休化を確認します。

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3 生産性に関する指標の見方

1)従業者1人当たり売上高(売上高÷従業者数)

従業者1人当たり売上高が高い企業は、それだけ企業の労働生産性が高いといえます。一方、昨今は賃金が上昇しているため、後述する「人件費対粗付加価値額比率」とのバランスが大事です。

2)従業者1人当たり粗付加価値額(粗付加価値額÷従業者数)

企業は、仕入れた材料などに付加価値を付け加えて収益を上げます。付加価値の考え方はさまざまありますが、減価償却費までを含めたものが粗付加価値です。

3)人件費対粗付加価値額比率((人件費+労務費)÷粗付加価値額×100)

前述した粗付加価値が、どれだけ人件費として従業者に分配されているかを示しています。昨今は上昇傾向にあります。

4 安全性に関する指標の見方

1)流動比率(流動資産÷流動負債×100)

1年以内の短期安全性を示しています。流動比率が高い場合、手元に潤沢な資金があることを意味しますが、一方で新規事業への投資など資金の活用を検討する必要があるかもしれません。

2)固定長期適合率(固定資産÷(自己資本+固定負債)×100)

1年超の長期安全性を示しています。固定長期適合率が100%を超える場合、長期的な資金で賄うべき固定資産への投資が短期資金で賄われるなど、借入期間のミスマッチが生じている可能性があります。

3)自己資本比率(自己資本÷総資本×100)

返済を要しない自己資本の割合を示しています。この値が高いと借入比率が低く、金利負担も小さくなるため、安全性が高いと評価されます。

5 レーダーチャートを作ってみよう

ここまで説明した各指標の数値を利用して、ある業種のレーダーチャートを作成する方法と留意点を説明します。まず、収益性・生産性・安全性の分析用指標について、各指標の実績値と当該業種の平均値との比率を算出します。その後、集計用レーダーチャートに値を記入します。

このとき、人件費対粗付加価値額比率や固定長期適合率のように、低いほうがよい指標は逆数をとる点に注意が必要です。なお、高いほうがよいか、低いほうがよいかの判断は、経営者の考え方や企業の成長ステージによって異なります。

また、総資本経常利益率や売上高経常利益率に関しては、マイナスの値を示す場合があり、その際の計算方法にも注意が必要です。例えば、売上高経常利益率について、インターネット付随サービス業の値がマイナス0.2、情報通信業の値がマイナス0.1だった場合の計算式は次のようになります。

インターネット付随サービス業の比率計算結果を示した画像です

先に紹介したインターネット付随サービス業と情報通信業の財務指標の場合は次のようになります。

総資本経常利益率や売上高経常利益率がマイナスの値だった場合の計算式を示した画像です

  • 収益性:経常赤字を計上しており、黒字化が求められる
  • 生産性:情報通信業全体に比べて、従業者1人当たり売上高が高い一方で、従業者1人当たり粗付加価値額は低い値となっている。人件費を抑える努力などが求められる
  • 安全性:自己資本比率がマイナスで債務超過となっており、財務体質の改善が求められる

このように、自社の属する業種の平均値などと比較することで、自社の財務的な位置付けや、自社の財務上の問題点などを明確にすることができます。

業界ごとの他社の財務諸表を把握するには、この記事でも紹介した日本政策金融公庫「小企業の経営指標」の他、有料ですがTKC「TKC経営指標(BAST)」、帝国データバンク「全国企業財務諸表分析統計」、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」などがあります。

6 仮説を立ててみる

財務分析は、定量的な分析であるため、財務諸表には表れない定性的な分析も併せて行うことが不可欠です。収益性・生産性・安全性の各指標から問題となる数値結果を発見した場合、自社の経営手法について分析し、その問題の原因を明確にしましょう。

例えば、「老朽化した設備があり、有形固定資産の生産性が落ちているのではないか」という仮説を立てれば、有形固定資産回転率が低くないかを検討します。同様に、「借入金が増加しているため、短期安全性が低下しているのではないか」という仮説を立てれば、流動比率や当座比率を比較する必要があります。

以上

(監修:税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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スタートアップこそ専門家の支援を受けよう

「このプロダクトで世の中を良くする!」。そんな熱い思いを持って起業したものの、経営者は理想と現実の違いに悩みます。創業間もないスタートアップやベンチャー企業では、経営者が1人で何役もこなしていて、“本業”に集中できないことが多いからです。

特に大量のバックオフィス業務は、経営者の時間を奪います。必要だが、そこに時間を割くのはもったいない。本稿では、労務や法務など専門性が問われるバックオフィス業務を、外部に任せる際の考え方などをまとめます。時間を有効に使うヒントになれば幸いです。

1 経営者が経営に専念するには

人を採用する際の手続き、資金繰りに影響を与える消費税の支払いのプランニングなど、バックオフィス業務は多岐にわたります。一度経験すれば何となく理解できる実務がある一方、分かりにくいものも多く、初めてだと余計に手間がかかります。

また、ビジネスが大きくなってくると法令上の規制や権利関係が複雑になり、専門知識がなければ解決できない問題も出てきます。「個人情報保護法や民法が改正されるようだけど、今の利用規約で大丈夫なのだろうか?」といった具合です。

作業的なことから専門的な業務まで、経営者がやるべきことは多いもの。このようなとき、専門家の支援を受けることで、手間を減らせる場合があります。しかも、目先の作業をこなすだけではなく、新たなチャンスやリスクを認識できるかもしれません。

2 専門家の得意分野はさまざま

経営を支援してくれる専門家は、弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、弁理士などさまざまです。これらの士業の他にも、一定の時間、業界関係者の知見を借りることができる“シェアエコ”(シェアリングエコノミー)のサービスもあります。

ここでは、弁護士などの士業に注目します。弁護士は法務の専門家、税理士は税務の専門家であることは誰もが知っています。例えば、契約のことで迷ったら弁護士、税務のことで迷ったら税理士に相談すればよいと思います。

しかし、実際に専門家に相談しようとすると、事態はそう簡単ではないことに気付きます。まず、創業間もないスタートアップやベンチャー企業は専門家と顧問契約を交わしているケースは少なく、今すぐに連絡できる先がないのです。

そこで、知り合いの経営者や取引している金融機関などから専門家を紹介してもらうわけですが、ここでまた問題が起こります。それは、それぞれ得意分野が異なるため、なかなか適切な専門家に出会えないことです。

例えば弁護士の場合、会社法や著作権法、労働法など得意分野は異なります。また、「スタートアップの実務はよく分からない」という弁護士もいるので、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。

さらに、案件が複雑になると複数の専門家に相談しなければならないケースも出てきます。例えば、資本政策の変更で株を買い戻したいときは、株価を算定する公認会計士と、交渉をサポートする弁護士の両方に相談しなければならないでしょう。

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3 相場はどのように形成されるのか?

相談する案件が複雑であれば、専門家に稼働してもらう時間も長くなるので相談料が高くなるのは当然です。しかし、決算業務などのように、ある意味定型的な案件であっても、依頼する税理士(監査を行うのは公認会計士)によって料金が異なることがあります。

かつて、税理士は「税理士報酬規定」に基づいて報酬を決めていましたが、今は廃止されています。今でもこの規定を参考にすることはありますが、基本は税理士次第です。規定の廃止は、同じ案件でも税理士によって料金が違うことが理由の一つとなっています。

この他、税理士が以前の所属先の料金を踏襲しているケースもあります。かつてどこかの事務所に所属していた税理士が独立する際、前の事務所が用いていた料金をそのまま踏襲するケースがあるのです。

このように、専門家への依頼料金には相場があるものの、必ずしも明確な裏付けがあるわけではありません。顧問料はその代表例といえるでしょう。この状況を踏まえれば、“頼りになる専門家”であることを前提に、料金が安い専門家を探すことが大切です。

4 リスク低減とチャンス創出

法的に見た場合、白か黒か、つまり適法か違法かの判断は比較的簡単につくでしょう。それを指摘するのは当然として、良い専門家が示してくれるのはグレーな部分、例えば「経営者がやろうとしていることは法令違反ではないが、際どい部分もある」というケースです。

例えば株価を算定するとき、「しゃくし定規に計算したら1株当たり●万円ですが、将来の買い取りを考えるなら、△円くらいまで落としても大丈夫だと思いますが……」といった提示をしてくれるのが良い専門家です。

最終的に株価を△円にするか否かは経営者の判断です。しかし、専門家が専門知識に基づいて示すグレーな領域やアドバイスは、それを知ることでリスク低減や、将来の成長余地につながることもあります。

5 専門家の力を借りる

ここまで紹介してきたことを踏まえつつ、経営者は、お付き合いする専門家を選ぶとよいでしょう。創業間もないスタートアップやベンチャー企業を支援している専門家は多く、1人でも知り合うことができれば、そこからネットワークが広がります。

専門家の力をうまく借りることができれば、経営者が手を動かす必要のないバックオフィス業務から解放され、複雑な案件についても専門知識に基づいた解決を図ることができるようになります。

知りたいことに正確に答えてくれて、料金も適正である。そのような専門家と数多くつながっていることは経営者に求められる能力の一つです。相談すべき案件はなくても、専門家とのネットワークづくりは今すぐに始めるべきだといえるでしょう。

●スタートアップ、ベンチャー企業向けの士業への相談プラットフォーム
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以上

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ベーカリーの開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:ベーカリーの開業を検討している経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 ベーカリーの概況

パンの小売業は製パン工場からパンを仕入れる「仕入小売型」と、自店で製造する「製造小売型」(以下「ベーカリー」)に大別されます。本稿では、ベーカリーの概況と開業に当たってのポイントおよび開業収支シミュレーションを紹介します。

1)パン小売業(製造小売)の統計の推移

総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」および経済産業省「商業統計」によると、パン小売業(製造小売)の事業所数などの推移は次の通りです。

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2)パンへの1世帯当たり年間支出金額

総務省「家計調査年報(家計収支編)」によると、パンへの1世帯当たり年間支出金額の推移は次の通りです。なお、家計調査の値には、ベーカリーだけではなくスーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、他業態で購入したパンへの支出金額も含まれています。

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3)原材料費の動向

近年、パンの原材料となる製品の価格は上昇傾向にあります。例えば、農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」によると、輸入小麦の政府売り渡し価格の推移は次の通りです。

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日本では、パンの原材料となる小麦の多くを輸入に頼っており、輸入小麦の売り渡し価格は農林水産省が直近6カ月間の平均買い付け価格を基に算定しています。

4)ベーカリーの競争力

スーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、異業態の店舗でも品質の高いパンを販売しており、ベーカリーにとって競合は激しくなっています。

焼きたてのパンを販売するベーカリーの特徴は、工場で生産されたパンより風味や香りで勝ること、製造から販売までを一貫して行う製販一貫体制であることなどがあります。これらの特徴を最大限に生かせるよう工夫することが重要です。

一般に、食品などの最寄品販売の商圏は、半径500メートル~1キロメートル程度の近隣商圏といわれていますが、ベーカリーは競争力を高めることで、商圏を広げることが可能です。地域で評判の店舗になれば、その商圏は半径2~3キロメートル、またはそれ以上の地域商圏を見込むことも可能となります。また、近隣に学校や事業所が多ければ、サンドイッチなどの調理パンを展開することで、中食市場への参入が可能となります。

2 ベーカリー開業に当たってのポイント

1)開業立地

パンは最寄品であるため、基本的には近隣商圏で成り立ちます。そのため、ここでは「近隣商圏として半径1キロメートル程度」を見込むこととします。

競争力を発揮するには、それにふさわしい開業立地を選定することが必要です。望ましい立地の条件として、次のような点が挙げられます。

  • 顧客となる人口が十分にいる地域であること、また、将来的に人口の増加が見込める地域であること
  • 分かりやすい場所で交通事情がよく、来店しやすいこと
  • 競合する店舗が集中していない場所であること
  • 店舗開設に支障がなく、比較的安価に物件を取得できる場所であること

具体的な立地候補地としては、「駅前」「主要商店街」「住宅や事業所の集積地」「ショッピングセンターなど大型店舗内」などが考えられます。

なお、ショッピングセンターなどにテナント出店する場合は、「ショッピングセンターの集客力に大きな影響を受ける」「テナント料が必要になる」「販売促進や営業時間など店舗運営に一定の制約を受ける」といった点に注意が必要です。

2)ベーカリーの開業に当たって他店と差異化を図るポイント

1.手作り感や焼きたて感の訴求と品ぞろえの充実

ベーカリーの特徴は、自店で手作りしたパンを焼きたてで提供できることです。店頭に看板やのぼりなどを立て、手作り・焼きたてのパンを提供していることをアピールする他、店内では営業時間内でもパンを製造して、焼きたて感のあるパンを定期的に陳列するとよいでしょう。また、ベーカリーは、顧客ニーズに対応した商品を独自で開発することができます。顧客ニーズを把握し、品ぞろえを充実させることは、他店との差異化につながります。

2.お買い得感の演出

価格を下げ、価格を訴求することは他店との差異化につながりますが、量産品のパンを扱うスーパーなどのほうが、比較的容易に価格を下げることができるため、価格での競争は難しいのが実状です。従って、商品の全てを低価格にするのではなく、日替わりの一部の商品を特売価格で販売するのもよいでしょう。

3.来店のしやすさの向上

来店しやすい場所に出店することが重要です。さまざまな場所でパンが売られるようになっているため、開業に当たっては事前に地域の人口の把握や交通量など、条件にかなう立地であるかどうかを慎重に調査しなければなりません。また、ロードサイドに出店する場合は、自動車で来店する顧客が多いため、駐車場を設けた上で、視認しやすく駐車が容易であるように配慮することも欠かせません。

4.イートインスペースの設置

「買ったパンをその場で食べたい」「カフェのように休憩などの用途で利用したい」などのニーズがあることから、イートインスペースの設置は顧客の増加につながります。イートインスペースを設置する際は、イートインスペースがあることを、のぼりやチラシなどで訴求することが重要です。また、ドリンクメニューを設ける必要がありますが、「当店オリジナル手作りジュース」など自店独自のメニューがあれば他店との差異化が図りやすいでしょう。

その他、イートインスペースを設置することで店内の陳列スペースが不足し、品ぞろえが不十分となって顧客の減少を招くことのないよう、自店の店舗面積などに応じて慎重にイートインスペースの設置の有無やスペースの広さを検討しましょう。

3 新規開業収支を考える

1)前提条件

1.賃借料

賃貸物件に入居、賃借料年額300万円(賃借料月額25万円)

2.保証金・敷金

賃借料の6カ月分で150万円とします。

3.店舗造作費

店舗造作費を1200万円(1坪当たり40万円で30坪)とします。

4.厨房等設備費

厨房等設備費(冷蔵庫、オーブン、作業台など)を800万円とします。

5.開業費

200万円(広告・宣伝費・その他)

6.売上高

4270万円(前出の経済産業省「経済センサス」の1事業所当たり年間商品販売額)

7.パン製造小売の場合の原価率

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の売上高総利益率53.9%を参考に、原価率を46.1%とします。

8.固定費

後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の人件費対売上高比率34.8%を参考に、人件費を1486万円(4270万円×34.8%)とします。

その他の諸条件は次の通りとします。

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2)収支シミュレーション

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4 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2017」によると、パン小売業(製造小売)の経営指標は次の通りです。

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以上(2018年10月)

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