【労災の落とし穴(運送業)】 自賠責保険で労災対応したら、 労災保険は使えないでしょ?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「長期休業が必要になり労災保険での対応を求めてきた社員に対し、『自賠責保険で対応したからだめだ』と突っぱねてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 対向車との接触事故、自賠責保険で対応したが費用負担が予想以上に高い……

社員数10人の配送会社に勤めるドライバーのCさん。ある日、Cさんは業務で車両を運転していた際、アクセルを踏み間違えた対向車と接触する事故に遭いました。幸い、命に別状はありませんでしたが、長期休業が必要になるほどの大けがを負ってしまいました。

Cさんの休業中の諸費用(入院・治療費や生活費)は、加害者側の自賠責保険で賄うことになりました。しかし、Cさんのけがは後遺障害が残るレベルではなかったものの、費用負担が予想以上に重くなってしまいました。Cさんは社長に「労災保険で対応できませんか?」と相談しましたが、「もう自賠責保険で対応したんだから無理だよ」と突っぱねられてしまいました。

2 自賠責保険と労災保険は、併用できる場合もある

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、交通事故の被災者を救済するための保険で、全ての自動車に加入が義務付けられています。本来労災保険で対応すべき業務中の事故を健康保険で対応することは違法ですが、

労災保険と自賠責保険の場合、どちらの保険で事故に対応するかは社員(被災者)が選択

できます。

なお、労災保険と自賠責保険の間には、

補償内容が重複する部分については、どちらか一方の保険からしか給付を受けられない

というルールがあり、この点を勘違いして「自賠責保険で治療費や休業費の補償を受けたら、労災保険からの給付は受けられない」と思っている人がいます。しかし、実は両方の保険から給付を受けられる場合もあります。

例えば、休業補償については、労災保険と自賠責保険それぞれで、

  • 労災保険:休業4日目から給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)
  • 自賠責保険:原則1日6100円。収入減の立証で1万9000円を限度として、実額を補償

という補償内容になっていますが、労災保険の「特別支給金20%」の部分は、労働者の福祉のために政策的に支給されるもので、損害の補填を目的としていないため、自賠責保険とは重複しないと考えられています。

つまり、Cさんのケースであれば、自賠責保険の休業補償とは別に、労災保険の特別支給金の支給を受けられる可能性があるわけです。

3 労災保険と自賠責保険、それぞれの補償内容を押さえる

労災保険と自賠責保険は、前述した休業補償の他にも違いがあります。例えば、自賠責保険には被害者に対する慰謝料の支給がありますが、労災保険にはありません。一方で、自賠責保険は治療費の上限額が決まっており、超過部分が自己負担となるケースがありますが、労災保険の場合は自己負担がありません。

労災保険と自賠責保険の比較

前述した通り、労災保険と自賠責保険、どちらを使うかは社員(被災者)が自由に選択できますので、それぞれの給付の内容を理解した上で対応しましょう。

■厚生労働省「労災保険給付の概要」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/rousai/040325-12.html
■自賠責保険・共済ポータルサイト「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html

以上(2025年7月作成)

pj00768
画像:ChatGPT

【債権回収】与信管理で使えるチェックリスト

1 日々の「与信管理」で使えるチェックポイント

 与信管理は日々、継続して行う必要があります。しかし、取引開始後はどうしてもチェックが甘くなりがちです。また、社員によって与信管理に対する重要性の認識が違うため、足並みも揃いません。こうした問題を解決し、取引先の状況を「横で比較」しやくするため、

取引先の経営実態をつかむ際に重要となるチェックポイント

を紹介します。これをリスト化して、日々の与信管理に活用してください。

2 ヒトから経営実態をつかむ

 企業経営はヒトが要で、特に中小企業では「経営者=会社」というほど、経営者が経営に影響を与えます。取引先のヒトを知るには、実際に話してみるのが肝心。対面が望ましいですが、難しい場合はオンラインでもよいでしょう。ヒトに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 壮大な事業計画を口にする
  • 他人の意見や忠告を聞かない
  • 社外の公職をひけらかす
  • 服装や生活が派手だ
  • 家庭不和の噂がある
  • 幹部社員の入れ替わりが激しい
  • 社長との連絡がほとんどとれない
  • 社員の表情が暗い、覇気がない

3 モノから経営実態をつかむ

 取引先の経営実態は商品などモノの流れから把握できます。具体的には、仕入先や販売先、在庫などをチェックします。取引先と関係のある仕入先や販売先の企業にヒアリングしたり、取引先の倉庫に出向く機会があれば在庫を確認したりしてみましょう。モノに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 取引量が急増もしくは急減した
  • 仲間取引が急増している
  • 主要仕入先や販売先が頻繁に変わる
  • 在庫品がきちんと保管されていない
  • 不良品が増加している
  • 本業と関係のない商品の取り扱いを始めた

4 カネから経営実態をつかむ

 取引先の経営実態は、決算書などの財務内容に表れます。取引先の決算書を入手して財務内容をチェックすることも必要です。取引先の決算書を入手するのが難しければ、信用調査会社から入手することもえきます。カネに関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 売掛金、借入金、棚卸資産が急増している
  • 税金や社会保険料の滞納が続いている
  • 決済日を守らなくなった
  • 手形のサイトが長期化した
  • 決済条件の変更を頻繁に要請してくる
  • 取引銀行が頻繁に変わる

5 周辺情報から経営実態をつかむ

 同業者の声や街の噂など、取引先に関する第三者の情報も役立ちます。周辺情報に関する主なチェックポイントは次の通りです。

  • 同業者から悪い噂を耳にする
  • 使い込みなどの噂を耳にする
  • 飲み屋で支払いが悪いという声を耳にする
  • 派手な接待を行っているといった噂を聞く

以上(2025年7月更新)

pj60055
画像:Mariko Mitsuda

【債権回収】取引先が「民事再生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

1 「民事再生手続」の位置付け

取引先が民事再生手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の民事再生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

「民事再生手続」の位置付け

会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

民事再生手続は、

株式会社の他、個人や株式会社以外の法人においても利用できる制度

になります。財産の管理・処分権は原則として債務者が有することとなっており、各種手続も同じ再建型の手続きである会社更生手続よりも柔軟です。

では、民事再生手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 民事再生手続における債権の分類

民事再生手続では、債権を4つに分類します。

民事再生手続における債権の分類

商取引上の債権の多くは再生債権です。再生債権は、「債権は○%カットされる」など権利変更の対象になります。一方、共益債権・一般優先債権は再生手続によらず、随時弁済を受けることができます。また、詳細は省略しますが、通常の商取引では開始後債権に該当するものは限られます。

上記の他、「再生手続開始後の利息請求権」や「再生手続開始前に劣後的債権とすることを合意した債権」などは、劣後的取扱いのされる再生債権となります。

3 民事再生手続の概要

民事再生手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

民事再生手続の主な流れ

1)裁判所による保全処分・中止命令等

会社を再建するには、債務者が所有する財産の散逸を防がなければなりません。そのため、民事再生手続の申立てから開始までには、債権者などの権利行使を制限するさまざまな定めがあります。例えば、裁判所は、一部の債権者のみに弁済したり、各債権者が自己の債権回収を進めたりすることを防ぐため、申立てまたは職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。加えて、こうした個別の対処では不十分な場合に備えて、

再生手続開始の決定までの間、全ての再生債権者(再生債権の権利者)に対して、強制執行などを包括的に禁止する

こともできます。

例外的な債権回収方法は後述しますが、

再生債権に関しては、民事再生手続申立て後は、基本的に認可を受けた再生計画によらずに弁済を受けることは難しい

と考えておいたほうがよいでしょう。

2)再生債権の届出

再生債権者は、民事再生手続の開始決定時に定められた債権届出期間内に、裁判所に自らの債権の内容等を届け出なければなりません。

再生債務者(再生手続の対象者)は、届出があった再生債権について、その内容などの認否を記載した認否書を作成します。原則、この認否書の内容に基づいて各再生債権者の債権の額などが調査・確定されます。再生債務者は、届出がない再生債権があることを知っているときは、それも再生債権に含める必要があります。

3)再生計画案の決議・認可

再生計画とは、

再生債務者の再生を図るための取り組みなどを定めた計画

のことです。再生計画には、全部または一部の再生債権者の権利を変更する条項、共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項などが定められます。再生債権者から見ると、「債権は○%カットされる」など、権利変更の内容が定められた計画です。

再生債務者などが裁判所に再生計画案を提出すると、裁判所は書面などによる決議または債権者集会による決議に付します。このとき、再生債権者は再生債権額などに応じて議決権を有します。再生債権者にとっては、意思表示ができる数少ない機会です。

可決要件は、債権者集会に出席している再生債権者または書面などによる議決権を行使した債権者の頭数による過半数の賛成と、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の賛成の双方が必要となります。

4 民事再生手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

再生債権者が再生債務者に対して債務がある場合、

債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺

できます。相殺できる債権債務には一定の条件があります。主な条件は次の通りです。

  • 自働債権(相殺の意思表示をする側の債権。この場合は再生債権者)の弁済期が再生債権届出期間満了前までに到来していること。受働債権(相殺の意思表示をされる側の債権。この場合は再生債務者)の弁済期間が到来している必要はない
  • 再生債権者による相殺の意思表示が、再生債権届出期間内に相手方に到達していること

2)担保権の行使

民事再生手続開始の時点で、再生債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、民事再生手続によらずに行使できるとされます。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、競売などを通じて債権回収できる可能性があります。

「特別の先取特権」は、「動産売買の先取特権」と「不動産の先取特権」に分けて詳細が定められています。動産売買の先取特権の場合、例えば、

再生債務者が自社から仕入れた商品を転売している場合、再生債務者が転売先に対して有する売掛金などの債権を、裁判所の債権差押命令によって差押さえて債権回収できる

場合があります。こうした方法で全額弁済を受けることができない場合は、不足する部分について、再生債権者として権利を行使することができます。

なお、一般の先取特権は別除権とはなりませんが、これによって担保される債権は、一般優先債権として、再生手続によらずに随時弁済を受けることができます。

3)その他の手立て

ここで紹介する手立ては再生債務者の申立てや裁判所の職権によるものなので、債権者が主体的に始めることはできません。しかし、債権回収の可能性がある手立てなので紹介します。

1.中小企業者の債権に対する弁済の許可

再生債務者を「主要な」取引先とする「中小企業者」が、再生債権の弁済を受けなければ事業継続に著しい支障を来す恐れがあるとき、裁判所は再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者などの申立てや職権によって、その全部または一部の弁済を許可することができます。

なお、「主要な」や「中小企業者」について絶対的な基準はなく、中小企業者と再生債務者のその規模や、再生債務者への依存度(取引高の規模)などが考慮して決められます。

2.少額債権の弁済の許可

「少額」の再生債権を早期に弁済することで民事再生手続を円滑に進められるとき、または「少額」の再生債権を早期に弁済しなければ、再生債務者の事業継続に著しい支障を来すときは、裁判所は再生計画が認可される前でも再生債務者などの申立てによって、弁済を許可することができます。

なお、「少額」についても絶対的な基準はなく、再生債務者の規模、債務の総額、弁済能力、弁済の必要性などが考慮して決められます。

以上(2025年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

pj60195
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】油断大敵! 「自覚なきカスハラ」をしていませんか?

【ポイント】

  • 「カスハラをしている」という自覚のないまま、つい横柄な態度を取ってしまう人がいる
  • 相手が取引先の場合、自分の言動一つで会社の評判が傾くこともある
  • 相手への思いやりと、「これを言ってしまったらどうなるか」という危機意識が大切

今日は「カスハラ」をテーマにお話しします。皆さんもご存じですよね。正式名称は「カスタマーハラスメント」、客がお店の店員などに対し、暴言を吐いたり土下座を迫ったりといった、悪質な嫌がらせをすることをいいます。カスハラは今や社会問題、客から嫌がらせを受け、精神を病んでしまう人も多いと聞きます。もしも社員である皆さんが、誰かからカスハラを受けようものなら、会社は全力で皆さんを守ります。ただ、今日考えていただきたいのは、それとは別の話。皆さんが「客」として、知らず知らずのうちにカスハラをしていないか、という問題です。

このように言うと、皆さんの多くは「自分がカスハラなんてするわけがない!」と憤慨することでしょう。でも、よく考えてみてください。例えば、「仕事帰りに疲れていて、たまたま寄ったコンビニの定員に、ついぶっきらぼうな態度を取ってしまった」「飲食店で注文が通っていなくて、つい舌打ちをしてしまった」、このような経験はないでしょうか? 誰しも1つぐらいは思い当たるものがあるはずです。もちろん、こうした行為が即カスハラとして認定されるわけではありませんが、私が皆さんに伝えたいのは「油断をするな」ということです。

仮に皆さんが、コンビニや飲食店の店員でなく、取引先の窓口担当者に横柄な態度を取ってしまったとしたら、どうなるでしょう? たとえ法的にはカスハラにならなくても、「あの会社の担当者に横柄な態度を取られた」という話に尾ひれが付いて、「あの会社はカスハラまがいのことをしてくる」なんて噂が広まってしまう……自分の言動一つで会社の評判が傾くことだってあるのです。

「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、今、世の中で起きているカスハラだって、加害者の多くには「カスハラをしている」という自覚がありません。「悪気はなかった」「店員を教育してあげたつもりだった」というような言い訳、皆さんも聞いたことがあるでしょう。自分の言動というのは、自分が考えている以上に相手を傷付けているケースが多いのです。

「自覚なきカスハラ」をしてしまう人に足りないのは、相手への思いやりと、「これを言ってしまったらどうなるか」という危機意識です。油断大敵! 言動にはくれぐれもご注意を。

以上(2025年7月作成)

pj17221
画像:Mariko Mitsuda

「そのとき社員は動けるか?」~AEDに初期消火、今こそ見直す防災訓練~

1 【提案】日ごろからの訓練で災害に備えましょう!

大地震などの災害時に適切な行動が取れるようにするには、日ごろの訓練が欠かせません。2024年に発生した「令和6年能登半島地震」など、近年は大規模な災害が続いており、改めて企業の防災意識と具体的な備えが求められています。具体的には、以下を実現させましょう。

  • 災害が発生した場合の初動対応の流れ(全体像)を理解する
  • 初動対応を円滑に進められるよう、代表的な防災訓練である「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを押さえ、実施する

2 仕事中に大地震が発生したらどうする?

仕事中に大地震が発生した場合を想定した際の初動対応は、一般的に次のようになります。

  • 安全確保と応急救護
  • 通報と初期消火(火災が発生した場合)
  • 避難

大地震が発生した場合を想定した際の初動対応

火災も発生してしまった場合には、周囲に火災が発生した旨を伝え、119番通報(第4章参照)を促した上で、初期消火(第5章参照)などを行います。

火災が発生した場合の対応

火災や建物の倒壊の危険があったり、役所・警察・消防から避難の指示があったりした場合はすぐに避難(第6章参照)します。避難の流れは次の通りで、火災や建物の倒壊の危険がなく、役所・警察・消防から避難の指示がない場合、会社が避難すべきかどうかを判断します。

  • 近所の学校や公園などの「一時集合場所」に避難
  • 一時集合場所への避難が危険な場合、大きな公園・広場などの「避難場所」に避難
  • 火災や建物の倒壊の危険がなくなり自宅に被害がない場合、帰宅
  • 自宅で生活できない場合、学校などの「避難所」に避難

以上が、大地震が発生した場合の初動対応の流れですが、日ごろから訓練していなければ、いざというとき適切な対応を取るのは難しいです。次章からは、いよいよ具体的な防災訓練のポイントを見ていきます。ここまでの初動対応の流れを踏まえ、

  • 応急救護訓練
  • 通報・伝達訓練
  • 消火訓練
  • 避難訓練

という順番で紹介します。防災訓練についてより詳細な情報を知りたい方は、総務省消防庁のマニュアルなども参考になります。また、訓練内容や消防署員の派遣などについて相談したい方は、最寄りの消防署にお問い合わせください。

■総務省消防庁「消防安第31号 小規模ビル避難等訓練マニュアルについて」■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/post1367/
■東京消防庁「自衛消防訓練~もしもの時に備えて訓練していますか?~」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/life11.htm

3 応急救護訓練

1)応急救護訓練の概要

災害が発生したとき、まずは身の安全を確保し、周りの人の安否を確認します。その際、けがをした人に応急救護する必要があります。応急救護訓練では、三角巾やAED(自動体外式除細動器)の使い方、人工呼吸や心臓マッサージのやり方などを身に付けます。専門的な内容もあるので、可能であれば消防署に相談の上、救命講習を受講するのが理想です。総務省消防庁の「一般市民向け応急手当WEB講習」サイトなどでも、基本的な知識を学ぶことができます。

■一般市民向け応急手当WEB講習■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/

応急救護訓練

2)応急救護訓練のポイント

応急救護の基本的な流れは、

  • 負傷者の状況を確認し、必要に応じ119番通報する
  • 救急車の到着まで手当てをする

です。手当ての内容は、「出血している」「骨折している」「意識・呼吸がない」などの状況によって異なるので、救命講習で状況ごとの対応を習いましょう。

また、救命処置の一環として、特にAEDの場所と使い方は社員に周知しておきましょう。

AEDとは、心臓がけいれんして血液を全身に送れない状態(心室細動)になった場合、電気ショックを与えて蘇生を試みるための医療機器

です。

一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者(全体)の1カ月後の生存率は14.8%なのに対し、AEDを使用した傷病者の1カ月後の生存率は54.2%になっています(総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」)。

AEDは全国の駅や公共施設など、さまざまな場所に設置されています。AEDの設置場所を検索したり、地図上で確認したりできるサービス・アプリが登場しているので使ってみるとよいでしょう。

■日本救急医療財団「財団全国AEDマップ」■
https://www.qqzaidanmap.jp
■日本AED財団「AED N@VI」■
https://aed-navi.jp
■アルム「日本全国AEDマップ」■
https://aedm.jp

AEDの基本的な使い方については、前述した一般市民向け応急手当WEB講習のサイトなどで動画が公開されているので、こちらも併せて社内に周知しておきましょう。

■一般市民向け応急手当WEB講習「心肺蘇生 AEDの基本的な使い方」■
https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/01futsu/05shinpai/01_05_11.html

4 通報・伝達訓練

1)通報・伝達訓練の概要

通報訓練では、火災などの災害発生時から通報するまでの一連の流れ(119番通報の方法、非常放送の流し方など)を身に付けます。119番通報の訓練で実際に119番通報することもできますが、この場合は消防職員の立会いが必要です。

通報・伝達訓練

2)通報・伝達訓練のポイント

119番通報などをする場合の基本的な流れは、

  • 非常ベルを押す
  • 火災を確認後、非常放送などで社内に知らせる
  • 119番通報する

です。非常放送では、次のように「火災の状況」と「社員に対する指示」を正確かつ簡潔に知らせます。

  • (非常ベルを押した場合)ただ今○階で、非常ベルが作動しました。現在、確認中ですので、指示があるまで待機してください
  • (火災の発生を確認した場合)ただ今○階で、火災が発生しました。所属長の指示に従って避難してください
  • (確認したが、火災でなかった場合)先ほど今○階で、非常ベルが作動しましたが、火災ではないことが確認できました。安全を確認しましたので、ご安心ください
  • (火災が発生後、消火が完了した場合)先ほど〇階で発生した火災の消火が完了しました。避難中の社員の皆さんは、安全の確認が取れるまでそのまま待機してください

消防署員にも正確かつ簡潔に状況を伝えます。総務省消防庁が、通報に便利な「119番通報メモ」を公表しているので、あらかじめ通報項目を記入して、電話機の前などに貼っておくとよいでしょう。なお、スマートフォンの場合は通報前にGPS機能をONにしておくと、災害発生場所の特定がより迅速になることが期待されます。

119番通報メモ

5 消火訓練

1)消火訓練の概要

消火訓練では、消火器や屋内消火栓の使い方を身に付けます。屋内消火栓は消火器よりも放水能力が高く、消火器での初期消火が難しい場合などに使われます。

放水訓練(実際に燃えている火を消す訓練)の場合、最寄りの消防署や防災センターなどに問い合わせることで、訓練が受けられます。最近はVRなどを使って、初期消火を擬似的に体感しながら学ぶ訓練もあります。

消火訓練

2)消火訓練のポイント

消火器を使う場合の基本的な流れは、

  • 火事だと大きな声で周囲に知らせる
  • 消火器を取りに行く
  • 初期消火を行う

です。消火器は安全ピンを抜いてから使用しますが、運搬時に誤ってピンを抜くと事故のもとなので気を付けましょう。また、

消火器で初期消火を行える限界は、炎が天井に到達するまでが目安

です。危険を感じたら直ちに初期消火を中止し、安全な場所に避難してください。

消火器の操作

なお、消火器は使用期限を過ぎると腐食が進み、破裂などの事故を起こす恐れがあります。

使用期限は、業務用消火器の場合で約10年(住宅用消火器は約5年)

ですので、社内の消火器が使用期限を過ぎていないか必ず確認してください。

屋内消火栓を使って消火を行う場合、

  • 1号消火栓(ホースを延長しないと、水を流せないタイプ)
  • 2号消火栓・易操作性1号消火栓(ホースが収納状態でも、水を流せるタイプ)

の2種類があり、それぞれ操作要領が違うので注意が必要です。下記にて両者の違いがイラスト付きで掲載されているのでご確認ください。

■総務省消防庁「小規模ビル避難等訓練マニュアル 消火訓練」(下記2枚目を参照)■
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/160305an31_1.pdf

6 避難訓練

1)避難訓練の概要

避難訓練では、通路・階段を使った、安全な場所までの避難方法を身に付けます。火災で煙が出ることを想定する場合、ハンカチやタオルで鼻・口を押さえ、姿勢を低くして避難します。

避難器具(緩降機や避難はしご)の使い方を訓練する場合、事故防止のため消防署員の立会いのもとで行うことが推奨されています。

避難訓練

2)避難訓練のポイント

非常放送(第4章)が流れてから避難するまでの基本的な流れは、

  • 避難誘導を行う
  • 避難通路・避難階段を使って外に出て、安全が確保できる場所まで誘導する
  • 避難者を確認する

です。避難誘導は、所属長が拡声器を使うなどして避難ルートを指示しながら行います。エレベーターの使用は禁止し、あらかじめ決められた通路・階段を使って外に出ます。この際、

通路・階段に物が放置されていると、消防法違反になる上、避難経路が断たれてしまう

ので、避難ルートの状況は必ず確認し、誘導灯の照明が切れていないかなどにも注意します。

避難経路

実際は出火場所などによって通れない通路や階段も出てくるので、

避難ルートを何パターンか決めておき、出火場所の想定を訓練のたびに変えるなどして、状況に合わせた避難ができるよう社員を訓練すること

も大切です。避難器具については、使い方が分からないという社員も少なくないので、消防署員の立会いのもと、学習の機会を設けましょう。また、東京消防庁のウェブサイトでは、緩降機や避難はしごの使い方を動画で説明しているので、併せて社員に周知するとよいでしょう。

■東京消防庁「消防用設備などの取扱い要領メニュー」■
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/#breadcrumb

以上(2025年7月更新)

pj00723
画像:TY Lim-shutterstock

【債権回収】「公正証書」を作成して強制的に債権を回収する準備をする

1 強制執行の申立ができる「公正証書」の作成

公正証書とは、

公証役場で公証人がその権限に基づいて作成する文書(公文書)

です。単なる公正証書は私的な契約書と比べて訴訟における証明力は非常に強いですが、法的効力自体は同じです。公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、

公正証書に「強制執行認諾文言」を定める

必要があります。強制執行認諾文言とは、

債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項

です。強制執行認諾文言が入った公正証書を「執行証書」と呼び、確定判決などと同様に「債務名義」になります。

強制執行とは、

判決等によって債務の履行をすべきであるにもかかわらず、相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立」をして、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する

ことです。国家の強制力という表現からも非常に強い手続であることが分かります。それ故に強制執行の申立をするには「債務名義」が必要です。債務名義とは、簡単にいうと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。執行証書は債務名義になるわけですから、その効力の大きさが分かります。

ただし、執行証書は一定の額の金銭の支払い等を目的にするものに限られるため、継続的に取引が行われ、支払額が定まらない「基本契約書」の場合は作成できません。また、執行証書に「執行文」が付与されていなければ強制執行はできないのですが、この点は後述します。

2 強制執行を開始するための要件

執行証書に基づいて強制執行を開始するための要件が2つあります。

1つ目は、

執行証書の正本に執行文の付与を受けること

です。執行文とは、債務名義に付与されるもので、強制執行ができるという証明です。執行証書の場合、原本を保存する公証人が債権者の申し立てによって執行文を付与します。少しくどいですが、執行証書であっても執行文の付与がなければ強制執行はできません。

2つ目は、

執行証書の謄本をあらかじめ執行を受けるべき債務者に送達し、そのことを公証人の作成した送達証明書によって執行機関に証明すること

です。

執行文付与の手続は次の通りです。

  • 執行証書の正本を所持する債権者が、その原本を保存する公証人に対し、手数料を納付して執行文の付与を請求する
  • 債権者が執行証書の正本を提出して執行文の付与を求めたときには、公証人は、その正本の末尾に、「甲(債権者)が乙(債務者)に対しこの証書により強制執行することができる」旨の文言を付記して、これを債権者に交付する
  • 執行証書の記載から、金銭請求権が債権者の証明すべき事実の到来(例えば、目的物を先に提供することが条件になっている場合など)にかかっているときは、債権者が、その事実の到来した(条件が成就した)ことを証する文書を提出しない限り、執行文を付与できない場合がある

3 公正証書の作成

以上、公正証書の有効性を紹介してきました。公正証書の作成には手間、時間、費用(相手方の負担にすることもできます)がかかります。また、債権回収のリスクを考えても、全ての契約書を公正証書にする必要はありませんが、取引金額が大きいなどの場合は検討に値します。

詳細は日本公証人連合会のウェブサイトなどに記載されていますが、補足として、以下に公正証書を作成するまでの流れを簡単に紹介します。

■日本公証人連合会■
https://www.koshonin.gr.jp/

まず、契約書に次のように定めておきます。

甲(売主)及び乙(買主)は、本契約締結後速やかに、強制執行認諾条項付の公正証書を作成する。なお、公正証書作成費用は、乙の負担とする

こうすると、契約書に基づいて公正証書が作成される流れとなります。

なお、公正証書を作成する際は、原則として、売主(債権者。以下、同様)と買主(債務者。以下、同様)が公証役場に行きます。しかし、手続上、公正証書を作成したい売主が、買主から公正証書作成のための代理人の選任の委任を受け、後日、売主が買主の代理人を選任して公正証書を作成することもあります。

売主本人が公正証書を作成する当日に公証役場に行かずに売主の代理人と買主にて公正証書を作成する場合の基本的な手順は次の通りです。

  • 売主と買主が協議して売買契約書を作成する
  • 買主が「売買契約書の内容について強制執行認諾条項付公正証書とする旨を委任する」旨の委任状に署名なつ印(実印)して、印鑑証明書とともに売主に交付する。その際、添付する売買契約書になつ印する
  • 委任状があれば、買主の代理人は買主の社員や知人でもよく、その代理人と一緒に公証役場に行き、公正証書の原本に署名なつ印の上、公正証書を作成してもらう
  • 売主は、作成された公正証書を買主本人に送達することを公証人に申請する(その際、送達証明書の交付も申請。送達証明書の交付は強制執行を開始するための要件。後に強制執行をすることになった場合、買主が行方不明になっていたり、公正証書の受領を拒否したりするなど、強制執行を妨げる事態が生じることを防ぐため)
  • 売主が、送達証明書を公証人から交付されて完了

以上(2025年7月更新)

pj60189
画像:Mariko Mitsuda

【労災の落とし穴(運送業)】 無理な配車計画で労災に遭っても、 人手不足だし仕方ないよね?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「無理な配車計画で労災が発生したのに、『人手不足だから仕方がない』と労災対応をしなかった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 2024年問題で配車計画がさらに逼迫、労災リスクが増大……

社員数15人の中小運送会社に勤めるドライバーBさん。Bさんの勤める会社では、2024年問題に対応しようと、社長が「残業時間を減らせ」と号令をかけています。しかし、受注件数や荷主の納期要望は増える一方で、現場では無理な配車計画が組まれがちです。結果として、Bさんは限られた時間内で配送を完了させようと急ぎ運転になり、ある日、急発進でハンドル操作を誤って、駐車場内の支柱に衝突してしまいました。

社長は「配送時間に余裕がないのは仕方ない。君が気を付ければ事故は起こらなかった」と言い、過密スケジュールが原因である点を棚に上げてしまいます。Bさんは事故により右手を骨折しましたが、社長は「君のミスだから」と健康保険で治療するよう指示。Bさんは「社長に意見すると仕事がなくなるかも……」と、指示に従ってしまいました。

2 「人手不足だから仕方がない」は通らない

2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制や改善基準告示の適用が開始されたことで、運送の現場で、「短時間で多くの荷物を運ばなければならない」という圧力が、ドライバーにのしかかっている場合があります。その結果、無理な運転や焦りから交通事故が発生しやすくなる他、車両点検の省略や休憩カットなどにより、労災リスクも高まります。

このケースにおける事故の直接の原因は、Bさんがハンドル操作を誤ったことですが、会社の業務で車両を運転していて事故に遭ったのなら、

  • 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
  • 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか

の両方が認められるでしょう。

また、事故の背景に、会社側の無理な配車計画があると判断されれば、会社が安全配慮義務違反として責任を問われるケースも出てきます。「人手不足だから仕方がない」は通りません。

3 DX化や配置転換で業務効率化を!

会社は単に「残業を減らせ」と言うのでは、具体的な配車計画の見直しや荷主との交渉を行い、社員が焦らずに安全運転できる環境を整備しなければなりません。

労働時間を増やすことなく、余裕のある配車を行いたいのであれば、業務効率化は必須です。

  • ドライバーの点呼を行うロボットや、運行日報の記入を自動化できるデジタルタコグラフ(デジタコ)を導入した会社
  • ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーで、荷待ち時間を可視化し、削減に取り組んだ会社
  • 業界未経験者であっても、会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整えるなどして、新卒採用に取り組んだ会社

などがあります。

以上(2025年7月作成)

pj00767
画像:ChatGPT

【債権回収】知っておきたい与信管理の基本事項

1 「与信管理」では債権回収のリスクを想定する

多くのビジネスでは、売掛金などの「売上債権」が生じます。万一の未回収に備えて取引金額の上限や決済サイトを決めますし、担保の設定をすることもあります。これらの条件は、

債権回収ができないリスクと、それによって被る被害によって決定

します。つまり、

相手が「信用」できるのか

という点に尽きるため、「信用リスク」と呼ばれます。そして、この条件なら“信用”して取引できると判断した場合、信用を相手に与えるのが「与信」です。与信管理は次の図のような手法で行います。

さまざまな与信管理

2 新規取引をする際の与信管理

1)取引先の実体を確認

取引先が実体のある会社であることを確認します。次のような方法で調べられます。

  • 取引先の本社を管轄する法務局や民事法務協会「登記情報提供サービス」で登記簿謄本の履歴事項全部証明書を取得する
  • 実際に先方の事業所や事務所に行って確かめる「実地調査」
  • インターネットで取引先のホームページや、経営者のSNSをチェックする
■民事法務協会「登記情報提供サービス」■
https://www1.touki.or.jp/

秘書代行など会社に代わって電話受け付けや郵便物受け取りを代行するサービスでは、一等地に所在するサービス提供企業の事業所を法人登記できるようにしている場合があります。取得した履歴事項全部証明書に記載されている住所が一等地だからといって安易に信用せずに、当該住所をインターネットで検索するなどして確認しましょう。

2)分析のポイント

分析は、営業担当者だけではなく上席者なども交えて行います。営業担当者だけだと、自分が担当する案件を何としても通そうとして評価が甘くなることがあるためです。また、定性分析は、分析を行う人の主観が入りがちです。これを防ぐために、複数の人で分析しましょう。

3)定性分析

定性分析では、数値化しにくい事項を分析するため結果が曖昧になりがちです。そこで、定性分析で見るべき項目を設定し、個別項目ごとに評価の基準となるポイントを決めて点数を付けます。分析結果が比較しやすくなるとともに、定量分析の結果と合わせて総合的に評価します。

4)定量分析

定量分析では、財務諸表などを分析するため、取引先が情報開示に積極的であれば必要な情報が集まりやすくなります。有料ですが、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関を利用して、取引先の財務に関するデータを入手することもできます。

■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■東京商工リサーチ■
https://www.tsr-net.co.jp/

5)点数化のポイント

定性分析と定量分析の結果を点数化します。その際には、「安心して取引できる取引先の基準」を設けると分かりやすいです。例えば、分析項目を10項目とし、1項目を1~10点の間で採点する場合、安心して取引できる企業の基準を「50点」といったように設定します。

6)与信の審査

分析結果を受けて、最終的な与信の条件を決めます。例えば、「取引先への販売量」「取引で見込まれる自社の利益」「支払いサイトの長さ」「取引先からの担保の差し入れの有無」が挙げられます。こうしたポイントを基に、自社が持つ人的・物的・資金的な経営資源に見合った、取引上限の金額などの条件を決定します。

また、担保の設定や保証金の差し入れを求める場合、評価額や質(災害の影響を受けやすい、価格が変動しやすい、換金性が高いなど)を評価した上で審査に反映します。こうした与信の条件を決定し、取引の契約を締結します。

3 取引後の与信管理

取引開始後は、与信の条件が履行されているかをチェックします。これを「債権管理」と呼び、「請求書の発行」「入金の確認」「未入金の催促」が基本です。未入金など危険な兆候が見られたら、与信の条件変更や取引の解約・解除も検討します。

取引先の動向もチェックします。従来は、「近所まできたついで」「商品の評判を聞きけて」などの口実で訪問していましたが、コロナ禍では難しいところがあります。そのため、相手の担当者とSNSなどでつながり、気軽に連絡を取れる体制を整えることが大切です。取引先について定期的にインターネット検索をすることも大切です。

その他、商品の注文が急激に増えたような場合、取引先に「注文の動機」を確認しましょう。合理的な理由がない場合、商品の横流し、破綻前の商品の持ち逃げ、架空取引・循環取引などの恐れがあります。営業担当者は、販売実績を上げるため与信管理よりも取引の拡大を優先する傾向があります。また、日ごろの付き合いがあるため、取引先を「倒産することはない」「違法行為をすることはない」と信じがちです。営業担当者には、取引先が倒産した場合に被る損害がどれほど大きいのかを理解してもらう必要があります。

4 外部の力を利用した与信管理の強化

1)ファクタリング(売上債権の支払保証)の活用

売上債権の支払保証とは、

債権者がファクタリング業務を行う会社と支払保証契約(ファクタリング契約)を交わすことによってなされる売掛債権の保全

です。ファクタリングとは、

債権者に代わって債権回収を代行する業務

であり、売上債権が回収不能に陥った場合に、ファクタリング会社は債権者に対して契約であらかじめ決めた額まで損失を補填します。

ファクタリング契約を結んだ債権者は、ファクタリング会社に手数料を支払う他、債権を割り引いて売却します。その代わり、債権者は早期かつ確実な債権回収を図ることができます。ファクタリング会社は債務者から債権回収し、回収不可能のリスクを負います。

2)信用調査機関・与信管理サービスの活用

定量分析のところで紹介した信用調査機関の他、与信管理サービスを活用するのもよいでしょう。与信管理サービスは、信用調査会社の調査結果などを基に、倒産確率や与信限度額といった、与信管理に利用できるデータを提供しています。例えば、AGS「Neuro Watcher」などがあります。

■AGS「Neuro Watcher」■
https://www.ags.co.jp/nw/

以上(2025年7月更新)

pj60017
画像:Mariko Mitsuda

地元でがんばる会社たち──きらやか産業賞の受賞企業・2024年度版をご紹介!

1 「きらやか産業賞・ベンチャービジネス奨励賞」2024年度の受賞企業が決定しました!

地域の未来を支える中小企業や団体を応援する「きらやか産業賞」と「ベンチャービジネス奨励賞」。今年も、山形県内で意欲的な取り組みを行う企業さまが表彰されました。

授賞式は2025年3月17日、山形グランドホテルで行われ、受賞企業さまのこれまでの努力と功績がたたえられました。

「きらやか産業賞」は今回で36回目、「ベンチャービジネス奨励賞」は29回目となり、長年にわたって地域の挑戦を後押ししてきた表彰制度です。今回(2024年度)の受賞者は以下の通りです。誠におめでとうございます!

【第36回きらやか産業賞】

  • 公益社団法人山形交響楽協会(前理事長 園部 稔 氏。2025年6月3日より理事長 板垣 正義 氏)
  • 株式会社後藤組(代表取締役 後藤 茂之 氏)
  • 沼田建設株式会社(代表取締役社長 笹 健一 氏)

【第29回ベンチャービジネス奨励賞】

  • 株式会社山から(代表取締役 髙橋 寛光 氏)

次章からは、両賞を受賞した企業について、事業の内容や選考理由を交えてご紹介します。

2 2024年度 受賞企業のご紹介(敬称略)

1)【きらやか産業賞】音楽で地域と子どもたちを育む─山形交響楽協会

山形交響楽協会

山形交響楽協会2

(出所:山形交響楽団ホームページ)

「子どもたちに音楽のミルクを!」という想いのもと、教育・文化・地域をつなぐ活動を長年続けてきた山形交響楽協会。その継続力と地域全体への広がりが評価され、今回のきらやか産業賞受賞となりました。

山形市に本拠を置く山形交響楽協会は、1972年に設立された東北初のプロ・オーケストラ「山形交響楽団」を運営する団体です。以来50年以上にわたり、地域に根ざした音楽活動を続けてきました。

楽団は、年間16回の定期演奏会のほか、庄内での公演や県内各地での「ユアタウンコンサート」などを展開。さらに、東北6県と新潟県を中心に年間100回以上のスクールコンサートを実施し、これまでに延べ5200回以上、約299万人の子どもたちに生の音楽を届けています。創立指揮者・村川千秋氏の「子どもたちに音楽のミルクを!」という理念のもと、情操教育や文化の担い手育成にも貢献しています。

楽団は芸術的にも高く評価され、2017年にはモーツァルト交響曲全集で「第55回レコード・アカデミー賞(企画・制作部門)」を受賞。クラシック音楽専門誌「音楽の友」では、世界オーケストラランキング国内6位、世界45位に選ばれるなど、国際的な存在感も増しています。

音楽を通じて地域文化の活性化と子どもたちの教育に取り組み続けるその姿勢は、文化産業が地域社会にもたらすインパクトの大きさを実証しており、他の地域でも参考となるモデルケースといえるでしょう。

2)【きらやか産業賞】全員でDXに取り組む老舗の建設会社─後藤組

後藤組

後藤組2

(出所:後藤組ご提供資料)

後藤組は長い歴史を持つ建設業(2026年には100周年)でありながら、デジタル化への挑戦を恐れず、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて業界の常識を塗り替えてきたことが評価され、今回のきらやか産業賞受賞となりました。

1926年創業、米沢市に本社を構える株式会社後藤組は、社員150人、完成工事高で米沢市内トップを誇る総合建設業です。地域に根ざした工事実績を積み重ねつつ、東京支社を通じて都市部でも実績を拡大しています。

2019年からは本格的にDXに着手しています。特徴的なのは「全員DX」をモットーに、「全社員に何でもまず一つアプリを制作して発表する」などユニークな取り組みを実践している点です。建設業界における生産性向上の先進事例となりました。

こうした取り組みにより、2022年には「kintone AWARDグランプリ」や全国中小企業クラウド実践大賞 「東北総合通信局長賞」、2023年には「TOHOKU DX大賞 業務プロセス部門 最優秀賞」、さらに2024年には「日本DX大賞(マネジメントトランスフォーメーション部門 大賞)」など、全国レベルでの受賞が続いています。

伝統的な業界でありながらも変革を恐れず、将来を見据えて自らの仕組みを変える力。そして「書類は60%減少。残業時間20%減少。営業利益44%増加」という目覚ましい実績を挙げている後藤組。地域企業にとってDXは難しそうに見えがちですが、後藤組の事例は「やればできる」ことを具体的に示しています。

3)【きらやか産業賞】独自の「技術」と「人材育成」─沼田建設

沼田建設

沼田建設2

(出所:沼田建設ホームページ)

沼田建設は、革新的な建設技術の開発と、地域に根ざした人材育成の両立を図っている点が高く評価され、今回、きらやか産業賞受賞となりました。

1930年創業、新庄市に本社を置く沼田建設は、最上地域を代表する総合建設業者として、2024年3月期には売上高61億円、社員128名の老舗企業です。長年の歴史の中で、地域インフラを支えるとともに、新しい技術への挑戦も続けています。

特に注目されているのが、同社が保有する2つの特許技術です。「パルフォースモルタル工法」は、廃止する管やトンネルなどを破壊せずに埋め立てすることが可能となる、循環型社会の構築を目的とした全く新しい工法です。もう一つの「推進工法」は、道路を掘り返さずに地下に管を通すことができ、住民への影響を最小限に抑えながら工期を短縮できる工法として注目されています。

また、同社は建設業界では珍しい独自の奨学金制度も実施しています。最大月額6万円、4年間で最大288万円を貸与し、10年以上勤務すれば返済が全額免除される仕組みです。この制度により、最上地域の若者の雇用促進と人材定着に大きく貢献しています。

技術力と人の両方を大切にし、地元に根差しながらも未来を見据えた経営を実践する沼田建設。その取り組みは、これからの地方建設業が目指すべき方向の一つを示しているように思います。

4)【ベンチャービジネス奨励賞】「和」を活かしつつ、「洋」を取り入れた新しいお菓子─山から

山から

山から2

(出所:山からご提供資料)

山からは、地域資源を活かしながらも、革新的な商品開発とグローバルな視点を融合させた経営戦略が評価され、今回、ベンチャービジネス奨励賞受賞となりました。

1918年創業の「高橋商店」を起源とし、時代に合わせて事業の形を変えながら、2019年に「株式会社山から」として再スタート。和と洋を融合させた新しい菓子作りを軸に、上山市から山形、そして全国、世界へと独自のおいしさを届けています。

看板商品「かみのやまシュー(上山秀)」は、地元のブランド米「つや姫」を使い、ふるさと納税の返礼品として3年連続1位を獲得する人気商品です。また、商品開発にも積極的で、「ガブリヤヤマガタシューラスク」や「かみのやまぷるーる」など、やまがた土産菓子コンテストで多数の受賞を誇っています。

M&Aにより山形市の老舗茶舗と連携し「お茶と菓で岩淵」を出店するなど、地域内での新市場開拓にも注力。さらに、ベトナム産チョコレートを使った商品や、カンボジアへの寄付・海外実習生の受け入れなど、SDGsにも通じるグローバルな視野を持って事業を展開しています。

「第三の創業期」と位置づける現在、明確なブランド戦略と柔軟な発想で、新しい価値を次々と生み出している山から。伝統を守りながら、変化を恐れずグローバルにもチャレンジするその姿勢が、多くの地域企業に刺激を与えています。

3 まとめ──地域を思う気持ちが、強さにつながる

4つの受賞企業・団体に共通しているのは、「地域を良くしたい」「一緒に働く人を大切にしたい」「人の暮らしを支えたい」といったまっすぐな想いです。そして、その想いを形にするための工夫と努力を、地道に積み重ねてきた点です。

中小企業が生き残っていくためには、時代の変化に柔軟に対応しながら、自分たちの強みを活かす必要があります。今回紹介した受賞先は、参考の一例になるかもしれません。

お読みいただいた皆さまの会社でも「うちの地域では何ができるか」「どうしたらもっと地域や社員の役に立てるか」を考えるきっかけにしていただけたら幸いです。

以上(2025年6月作成)

【中小企業のためのBCP】 重要なデータ・書類のバックアップ

1 電子データや書類のバックアップが不可欠な理由

突然ですが、今、地震が発生し、会社のパソコンやサーバーが壊れてしまったとしたら、あなたの会社は元通りに業務を再開できるでしょうか?

電子データや書類のバックアップが不可欠なのは、

それが使えなくなると事業の存続に関わる危機的な影響が及ぶ

からです。会社には、社員や顧客などの様々な情報が、電子データや紙の書類として蓄積されており、これらが滅失したり毀損したりすれば業務に支障を来すでしょう。また、漏洩すれば社会的な信用を失うことにもなりかねません。

電子データと書類はどうバックアップすればよいのか、バックアップ体制を整えるに当たってどのようなことを考え、日ごろからどのような備えをしておくべきかを見ていきましょう。

2 電子データをバックアップする3つの方法

電子データのバックアップは、主に3つの方法があります。

  • 外部記憶媒体を利用する
  • ネットワークストレージを利用する
  • オンラインストレージを利用する

1)外部記憶媒体を利用する

外付けハードディスク、DVD、USBフラッシュメモリなどに電子データをバックアップする方法です。電子データの容量に応じて適切な記憶媒体を購入し、基本的には、必要な電子データを都度、手作業でバックアップします。

比較的手軽な方法ですが、定期的にバックアップする必要があります。また、外部記憶媒体の紛失や、ウイルス感染に注意しなければなりません。

2)ネットワークストレージを利用する

いわゆる「NAS(Network Attached Storage)」に電子データをバックアップする方法です。NASは、ネットワークを介して複数のパソコンなどから、同時接続できるハードディスクです。

外部記憶媒体よりも高額ですが、数テラバイト以上の大容量のNASを購入すれば、容量をあまり気にせずにバックアップできます。また、あらかじめ深夜帯や休日に設定しておけば、自動的にバックアップすることも可能です。

3)オンラインストレージを利用する

クラウドサービスを利用し、インターネット上に電子データをバックアップする方法です。電子データを自社とは離れた遠隔地に保存できるため、大地震や火災などによって社内のパソコンやサーバーが損傷しても、電子データは無傷で守られます。

サービスの多くは、保存するデータ容量に応じた料金体系になっています。どのくらいの費用がかかるのかを把握するために、バックアップするデータ容量を事前に算出しておきましょう。安全性、速度、運用のしやすさなども、サービスを選ぶ際のポイントになります。

バックアップ方法はどれか1つを選ぶのではなく、複数を組み合わせることで、大切な情報が失われるリスクを低減できます。参考になるのが、情報処理推進機構(IPA)が理想的なバックアップ方法として勧めている「321ルール」です。これは、

  • データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、
  • 2種類の異なる媒体でバックアップし、
  • そのうち1つは異なる場所(オフサイト)で保管する

というルールです。

バックアップ方法「321ルール」

図表のように、電子データのコピーを複数作り、保存する媒体を異なるものにするだけでなく、地理的にも離すことで、ウイルス感染に加えて、大地震や火災などにも対応できます。ただし、電子データを社外に持ち出すことにもなるので、漏洩には十分に注意する必要があります。

3 書類をバックアップする2つの方法

紙の書類のバックアップは、主に2つの方法があります。

  • コピーを取る
  • スキャナーなどで電子データ化する

これらについては細かく説明するまでもないでしょう。

大切なのは、原本とそのコピー(もしくは電子データを記録した媒体)を離れた場所で保管する「二元管理体制」を整えることです。大地震や火災などで同時に被災してしまうのを避けるために、なるべく遠隔地に保管するのが理想的です。

ただし、原本のコピーを取ることで情報漏洩の危険性が高まります。機密情報や個人情報などの取り扱いは特に細心の注意を払い、慎重に行わなければなりません。

4 バックアップ体制を整えるときに考えておきたいことは?

バックアップ体制を整えるに当たって、バックアップ方法の選択以外に、どのようなことを考えておくべきでしょうか。重要になってくるのが、次の3つのポイントです。

  • どの情報を優先的に保護するのかを決める
  • 自社が被災する可能性の高い災害を把握する
  • 目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

これらは「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)のプロセスでもあります。BCPについて考えてこなかった方も、これを足掛かりに策定を検討してみてください。

1)どの情報を優先的に保護するのかを決める

BCPでは、策定の第一歩として、会社の存続に最も重要な「中核事業」を決めます。

災害発生時は、事業を継続するために必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を、平常時と同じように確保することが難しくなります。中核事業を決めるときは、経営資源が平常時の約30%しか利用できないと仮定し、その範囲で継続すべき事業を考えます。

電子データや書類については、中核事業の継続に必要となる情報は保護の優先度が高くなります。経営者や事業部長、現場の業務責任者などを交えたプロジェクトチームを立ち上げ、優先度を検討するとよいでしょう。

2)自社が被災する可能性の高い災害を把握する

BCPでは、中核事業が影響を受けると思われる災害を把握します。

会社が被災する可能性のある災害は、大地震や火災、水害など様々です。行政機関が公表している地震被害想定や河川氾濫浸水マップ、土砂災害ハザードマップなどをチェックし、自社の周辺で災害が起こると、どの程度の被害となるのかを把握しましょう。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」では、土砂災害や津波などの被害を受けそうな地域を確認できる「重ねるハザードマップ」と、市区町村作成のハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」を参照できます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

3)目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

BCPでは、災害が経営資源に与える影響を考え、中核事業の目標復旧時間を設定します。

中核事業が中断した場合、顧客や市場がいつまで復旧を待ってくれそうか、日ごろの取引で培った経営感覚で予測を立てます。顧客と意見交換や調整をしながら合意を得るのも重要です。

コンピューターシステムが被災により滅失・毀損してしまった場合、バックアップした電子データから復旧を試みることになります。事前に、目標復旧時間内に回復できるかどうかを検証し、それまではどのような手段で代替するのかを決めておきましょう。

5 日ごろから備えておきたいことは?

1)パソコンやサーバー本体は、停電・水没・転倒・ほこりに注意

電子データを保存しているパソコンやサーバー本体の保管にも注意が必要です。例えば、次のような対策をしましょう。

  • 落雷などによる停電に備えて無停電電源装置(UPS)を導入して接続しておく
  • 水害などで水没しないように高い場所に置く(サーバールームは地下に設置しない)
  • 地震などの揺れで転倒しないように、耐震マットや固定器具を使用する
  • トラッキング現象による火災に備え、電源プラグやその周りにほこりがたまらないように定期的に掃除する

2)重要書類の原本は、保管場所と取り出し方法をルール化

災害などの緊急時に備え、重要書類の原本の保管場所と取り出し方法を取り決め、責任者や担当者だけでなく、全ての社員にルールを共有しておくことが重要です。

例えば、経理部門や総務部門には、会計帳簿・契約書・社員台帳などの重要書類が集中していますが、

  • 書類の重要度が分かるように分類する
  • 施錠できるキャビネットに整理・保管する

ようにしておくとよいでしょう。

なお、クリアファイルは書類をまとめるのに便利な半面、保管場所の環境によっては書類にカビが生える恐れがあるため、長期保管には向きません。

3)危機管理意識の高い組織を目指す

いざというときに動ける組織であるためには、BCPのような計画やルールの運用に対して、社員と経営者が前向きである必要があります。そのためにも、BCPでは、防災に関する勉強会を開くこと、定期的に訓練を実施することなどが推奨されています。

重要度を問わず、日ごろから書類の整理整頓を行い、コンピューターシステムの「いつもとはちょっと異なる動き」を無視せずに担当者に報告するなどのルールを、社員に徹底することも重要です。

以上(2025年7月更新)

pj60340
画像:onephoto-Adobe Stock