成功を呼び込む経営者の思考術

社員には理解してもらえないけれど、経営者仲間で話をすると分かり合える。そんな経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分や家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げることができません。それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっていくのでしょう。

この記事では、経営者ならではの考え方として「自分を鼓舞する『白い嘘』」「人を好きになるより嫌いにならない」「タフな交渉だからこそ前に出る」という3つのテーマを取り上げます。経営者としての考え方を深めるためのヒントになれば幸いです。

1 自分を鼓舞する「白い嘘」

嘘には2種類あるといわれます。1つは、他人をおとしめたり、自分を取りつくろったりするためにつく悪い嘘。もう1つは、他人を救ったり、自分を鼓舞したりするためにつく嘘です。両者では、嘘をつく理由が全く違います。「嘘も方便」という言葉があるように、「嘘は嘘である」とひとくくりにするのは難しい面があります。こうした感覚は日本人だけのものではなく、欧米でも、悪い嘘を「黒い嘘」、方便を「白い嘘」といったりします。

他人をおとしめる「黒い嘘」は、決して認めることはできません。一方、その時点では偽りかもしれませんが、これからの会社の成長を強く意識するために、経営者は「白い嘘」をつくことがあります。そのときには完全には実現されていない技術を、「これから必ず実現する」と宣言するような場合です。

経営者ではありませんが、これを実践した人物として、米国の第35代大統領であるジョン・F・ケネディ氏を挙げることができます。ケネディ氏は、「われわれは月へ行くことを選びます」と宣言し、それから7年かからずにアポロ11号が月面に着陸しました。当時、宇宙開発でソ連に大きく後れを取っていた米国にとって、月面着陸は世界でリーダーシップを取っていくために重要な目標だったといえるでしょう。

その時点で実現できていること、あるいは確実に実現できることだけでビジネスを考えていては面白みがありません。次々とチャレンジしてくる他社に打ち勝つことも難しいでしょう。だから、経営者は、時に「白い嘘」をつくのです。これから自分たちがどのように成長し、他社に対する競争優位性をどのように発揮していくのかを内外に示すために。

ただし、「白い嘘」も嘘であることに変わりはないので、「嘘をついたまま」で終わってはいけません。経営者には理想とする会社の姿があります。それを実現するために、今、本当にすべきことは何か?を見つけ、実践していくのは経営者の仕事です。

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2 人を好きになるより嫌いにならない

ビジネスでは、人と人とのつながりが大切です。相手と良い関係を築ければ、ビジネスの可能性が広がります。そのために、多くの人は、相手を好きになる努力をします。ビジネスでは当事者の利害がなかなか一致しませんが、相手を好きになることができれば、相手のことを受け入れる余地が広がるという思いもあります。

とはいえ、ビジネスで知り合ったばかりの人のことをすぐに好きになるのは難しいことです。ましてや、企業経営を任されている経営者は、「だまされてはいけない」という思いも強いため、会ったばかりの相手とは一歩引いて付き合わざるを得ない面もあります。

そのため、経営者は相手を好きになる努力はもちろんですが、それ以上に「嫌いにならない努力」をします。好きではないことと、嫌いであることは全く違います。「好きではない」というのは可もなく不可もない普通の関係ですが、嫌いになると相手を避けるようになり、ビジネスがやりにくくなってしまいます。

相手を嫌いになる理由は、見た目や話し方、考え方などさまざまです。このうち、見た目や話し方などについては、ビジネスと直接関係ないので、経営者は気にしないようにしています。

また、相手の考え方が自分と全く違う場合は、自分の考え方を相手に合わせるわけではなく、「考え方は多様である」ことを認識し、受け入れます。あえて苦手な人と2人で会食をして、“異質”に触れる訓練をする経営者もいます。

このように、ビジネスにおける人間関係のつくり方で大切なのは、相手を嫌いにならないことですが、「考え方は多様である」という姿勢でドライに徹し過ぎると“仲間”をつくることができません。経営者には社内外の仲間が必要です。「この人だ!」と感じる人がいれば、心を開いて相手の懐に飛び込むことも大事です。

3 タフな交渉だからこそ前に出る

大幅な減額要請やライセンス契約の打ち切りなど、ビジネスではタフな交渉に臨まなければならないことがあります。このようなとき、「今回は守勢に回らざるを得ない」と身構える人が多いでしょう。そして、相手を怒らせないことを心掛けます。

しかし、経営者はこのようなときこそ強気に出るという選択肢も持っています。日ごろ、相手の要求をできるだけ受け入れながら低姿勢でビジネスを進めているのは、いざというときにきちんと主張するためでもあります。

それに、相手もそれなりに検討した結果としての減額要請などのはずなので、こちらが気を使ったところで要求が緩和されることはあまり期待できません。また、相手の要求を簡単に受け入れて、「簡単に減額できた」と軽い印象を残すのもよくありません。

そのため、周囲には守勢に回らざるを得ない状況に見えても、経営者は前に出る選択をすることがあるのです。強く主張すると、相手の機嫌を損ねるかもしれません。また、大きな減額を受け入れざるを得なくなるかもしれません。しかし、その場は厳しい結果になっても、こちらの誠意と熱意を伝えることで、次につながる可能性があります。

ゼロサムの交渉で損失を食い止めることを重視するか、最悪の事態も覚悟した上でプラスサムを目指すのか。どちらが正しいかはケースバイケースですが、大事な局面でこそ経営者ならではの発想で進むべき道を決断しなければなりません。

ただし、こうした交渉ができる前提は、日ごろからきちんと商品やサービスを提供していることです。ミスが頻発しているなど、相手のこちらに対する評価が低い状態で強い交渉に臨めば、その場で契約解消の話が出てきても不思議ではありません。交渉に臨むときこそ、経営者は窓口になっている社員の言葉に真摯に耳を傾けなければなりません。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2017年9月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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せっかく構築した人脈。長く維持するには?

シリーズ第1回「人付き合いが苦手な社長でも人脈は構築できる」では、良い交流会などの見つけ方や自己紹介のポイントを紹介しました。今回は、つながりを、より太く、長くしていくための取り組みを紹介していきます。

人との関わりは、一対一の場合もあれば、一対多の場合もあります。直接多くの人とつながるのが理想ですが、人数が多過ぎると関係が浅くなってしまいます。であるならば、特定の相手と深く付き合い、その相手が構築している人脈を紹介してもらうほうが効率的な場合もあります。

1 グループの中で生き残り、人脈を広げる

問題は一対一の関係をどのように深めていくかです。例えば、最初は数十人規模だったグループのメンバーが次第に抜けていき、最終的に数人が残ることがあります。このようなケースでは、最後に残る数人の関係はとても深いので、ぜひとも加わりたいところです。

グループの中で生き残るために、集まりには積極的に参加し、飲み会の幹事を引き受けるなどグループに貢献することが大事です。そのグループが魅力的であれば、再びメンバーが増えていくこともあります。そのときコアのメンバーになっていれば、新しく入ってくるメンバーのほうから近づいてくるため、関係を築きやすくなります。

2 “幽霊メンバー”にならない

自分よりも高いレベルの人が参加するグループに属する場合、周囲の迫力に圧倒されたり、自分の無知を思い知らされたりして、何も発言できなくなってしまうことがあります。「こんなことを言ったらバカにされてしまう……」と気後れするからです。こうなると、ただ笑顔でうなずくことしかできなくなりますが、それでは存在感がなく、いてもいなくても変わらない“幽霊メンバー”になってしまいます。

相手から見ると、“幽霊メンバー”は「付き合う価値のない人」であり、そうなってしまったら終わりです。ですから、分からないことは素直に分からないと認め、教えを請うほうがよいでしょう。たとえ笑われたとしても、“幽霊メンバー”になるよりはいいのです。

教えを請う際、相手にお薦めの本を紹介してもらうのが1つのテクニックです。「私はその分野の知識がないので勉強したいです。何かお薦めの本はありますか?」と尋ねると、大抵は何かの本を紹介してくれます。紹介されたら、次に会うまでに必ずその本を読み、感想や質問を準備しておきます。学ぶ姿勢が相手に伝われば、「見込みがあるな」ということで、次も声を掛けてもらえる可能性が高くなります。

良い人脈を求めるということは、ある意味で自分よりも高いレベルの人と付き合うということです。ビジネスに対する考え方だけではなく、食事、洋服、趣味など一つ一つが今の自分とは違うことでしょう。身の丈に合った立ち居振る舞いは必要ですが、一方で積極的に背伸びをして一流の世界を体験してみましょう。そうして自分の視野を広げることは、そのグループの中で生き残り、またさらに上のグループに行くために必要なことです。

具体的には、銀座のクラブや赤坂の老舗料亭に行ってみるのもよいかもしれません。料金からして高額ですが、ふと周囲を見渡すとビジネス誌で見たことがある有名な社長が食事をしていたりして、異空間にいる感覚になります。一流と呼ばれる人たちの“生態”を知るには、同じ店に行ってみることが、誰にでもできる手っ取り早い方法です。

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3 人脈を維持する

ビジネスはギブ・アンド・テイクであり、損得勘定もあります。ただし、人脈構築については、こちらからテイクばかりを求めていては関係が続きません。飲み会の幹事を引き受けたり、勉強会を主催したりして、積極的に相手に喜んでもらえることをしましょう。分かりやすい貢献の仕方は人の紹介です。人と人とを結び付けることでパイプはますます太くなり、線だったつながりが面になり、交流範囲が広くなっていきます。

では、いつ人脈を使うのかということですが、そもそも人脈はつながっているだけで大きな効果があります。つながっている人たちとのちょっとした会話の中で収集できる情報は、新聞やインターネットとは違って生の情報だからです。

社長ともなれば新聞などの情報は一通り知っているので、その域を出ない情報には魅力を感じません。「新聞にはあのように書いてあったが、○○省の知り合いによると……」「あの会社は最近目立っているが、財務状態は……」といった情報にこそ魅力があります。食事会などで会わなくても、場合によっては電話一本でこうした生の情報を得られることが、人脈づくりの大きな効果です。

そうした意味では、相手もこちらに情報を求めているため、多方面にアンテナを張って情報を仕入れる努力をしなければなりません。人脈としてつながっている人は、皆、少なからずこうした意識を持っています。そのため、皆が献身的であり、良い関係が続きやすくなるのです。

4 借りは必ず返す

相手から良い情報をもらう、人を紹介してもらう、ごちそうしてもらうなど借りをつくったら、必ず返さなければなりません。「1つ借りたら、1つ返す」のが基本で、1つの大きさは気にしません。

例えば、ちょっとした食事をごちそうしてもらった代わりに、その人がかねてから会いたいと言っていた著名人を紹介することもあれば、そこそこの商いをあっせんしてくれたお礼にお菓子を贈ることもあります。貸し借りの内容がアンバランスなことがありますが、必ずなんらかのお返しをすることが大事です。

また、お礼の仕方はさまざまですが、手紙は相手の印象に残りやすい効果的な方法です。達筆でなくてもよいので、丁寧に書くことでこちらの誠意が相手に伝わります。手書きが基本ですが、そうした時間が取れない場合、少なくとも名前だけは手書きにするようにしましょう。

5 いつでも連絡を取れるようにしておく

大切な人脈とはいえ、常に連絡を取り合っているわけではありません。放っておくと疎遠になってしまう相手もいるため、関係の維持を心掛けなければなりません。Facebookで友達になったり、メールマガジンを送ったりすることで緩くつながることができますが、これだけでは不十分なので、できれば年1回は会っておきたいものです。

こうしていると、頻繁に連絡する人とそうでない人が出てきます。大きな偏りが出ないように、スケジューラーなどに連絡を取った履歴と、今後の予定を登録しておきましょう。これは、対面で話す場合に限りません。電話やメールでも、相手とやりとりした内容をきちんと覚えておくことが大事です。

そして、次に会うのは数年後かもしれませんが、「前回お会いしたときは、○○のお話で盛り上がりましたね!」と切り出してみせるのです。相手は「そんなことまで覚えているのか」と驚きつつ、こちらが真剣に付き合おうとしている真摯な姿勢を感じてくれることでしょう。

6 動かなければ始まらない

いつも同じ人とばかり食事をしたり、遊びに行ったりしている社長がいます。内弁慶の社長は、社内の自分のシンパを引き連れて飲みに行く機会が多いようです。気心の知れた仲間や自分の話をよく聞いてくれる相手と一緒にいれば、気を遣わずに済むので気楽ですが、そうした居心地の良い場所にいるとそこから出る気がしなくなり、新しい出会いにも恵まれません。

何か新しいことをしようとするとき、「背伸びをしなければならない環境に身を置くことが大切」といわれます。少し背伸びをすることで自分の知らない世界を知り、そこに慣れることでレベルアップを果たし、また少し背伸びをすることで、さらに自分の知らない世界を知る。こうしたことの繰り返しで成長することができるのです。人脈構築は、自分から動かなければ何も始まりません。まずは交流会などに参加することから始めてみてはいかがでしょうか?

また、関係が続くかどうかは、最終的には自分自身の魅力で決まります。ビジネスでは、次のようなポイントが魅力、つまり付き合い続ける理由になります。

  • ビジネスに向き合う姿勢がすてきだ
  • いろいろな情報を持っていて、話が面白い
  • 勉強熱心で常に新しいことにチャレンジしている
  • 付き合っていれば得をしそう
  • 一緒にいるとエネルギーがもらえる
  • まだ若いが、将来有望。いろいろ教えてあげたい

人間性という観点でいえば、素直さと謙虚さを忘れず、明るく元気に振る舞うことがポイントです。

以上

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人付き合いが苦手な社長でも人脈は構築できる

「良い人脈」は、ビジネスを有利にします。人脈の力を借りて自分だけでは会えないような人と知り合ったり、思いもよらないところから仕事が舞い込んできたりすることがあるからです。お友達とは違います。しかし、「同じ仕事をするなら知り合い(の知り合い)がよい」と考えるのは当然ですし、何かを相談する相手は、まずは自分の周りから探すものです。こうした輪の中に入ったり、自ら輪をつくったりすることが人脈づくりです。

1 人脈でビジネスが広がる

人脈づくりが苦手な社長も、「人脈を通じてビジネスの可能性を広げることは社長の仕事である」と認識しましょう。人脈づくりに積極的ではない社長に話を聞くと、知り合った後にどう接したらよいのか分からないという「人付き合いの問題」と、仕事が忙しくて交流会などに参加する暇がないという「時間の問題」があるようです。

人付き合いの問題は場数を踏むしかありません。そもそも、相手はこちらに巧みな話術を求めているわけではありません。人を引き寄せているのは、ビジネスに取り組む真摯な姿勢や前向きなマインド、実績、人間性などです。口下手な社長は会話が途切れないようにと気を遣いますが、それよりも自分の魅力を伝える努力のほうが大切です。

一方、人脈づくりに費やす時間が取れないという社長は、時間を確保して、「月1回は必ず交流会などに参加する」といったことをルーティンにしてみましょう。人脈は交流会などをきっかけに広がることが多いものです。同じタイプの集まりに何度か参加していると、顔見知りができ、一気に輪が広がるようになっていきます。

このテーマは2回の連載です。「人付き合いが苦手な社長でも人脈は構築できる」と題した今回は、良い交流会などの見つけ方や自己紹介のポイントを紹介します。続くシリーズ第2回「せっかく構築した人脈。長く維持するには?」では、交流会などで知り合った人とのつながり方を考えていきます。

2 交流会やセミナーを選んで参加する

交流会などは人脈づくりに最適ですが、当たり外れも大きく、何でも参加すればよいというものではありません。社長が貴重な時間を割くのですから、「既存事業に関係する人たちが参加する」「新規事業として検討している技術に詳しい人が参加する」「ぜひとも会ってみたい人が参加する」などの目的を明確にしておきたいところです。

交流会などを選ぶ際のポイントを以下に例示します。

  • 主催者:主催者のレベルに参加者のレベルは比例するため、力のある主催者ほど良い
  • 募集方法:紹介制のほうが、営業目的などの“招かれざる人”が紛れにくい
  • 規模:小規模なほうが交流しやすい、印象に残りやすい
  • 参加費:有料のほうが交流に積極的な人が集まりやすい

とはいえ、実際に参加してみないと交流会などの当たり外れは分かりません。参加してみて「外れだな……」と感じたら、途中退出して“損切り”すればよいでしょう。ただし、自分のイメージとは大きく異なる交流会などであったとしても、どのような人が、どこで見ているか分からないため、不機嫌そうな態度は取らないようにしましょう。

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3 自己紹介のフレーズを決める

交流会などでは多くの人と名刺交換をするため、全員のことをきちんと覚えておくのは難しく、ほとんど記憶に残らない人もいます。自分がそうならないように、自己紹介を工夫しましょう。

自己紹介は、できるだけ簡潔にすることがポイントです。交流会などは出会いの場にすぎず、これをきっかけに2度、3度と会う機会をつくらなければなりません。であるならば、その場は簡単にして“余韻”を残すくらいでよいのです。相手がこちらの話に興味を持っているようなら、「大切なポイントは次にお会いしたときにゆっくりお話しします」などと伝えるのも効果的です。

具体的に自己紹介の中に織り交ぜるとよい内容は次の通りです。自己紹介はせいぜい1分程度ですが、状況によってはもっと長くアピールできることもあるので、3分バージョン、5分バージョンくらいは用意しておくとよいでしょう。

  • 事業の夢:今の仕事を通じて何を実現したいのかをまとめる
  • 事業内容:事業内容を簡潔にまとめるが、相手によって使う用語や切り口を変える
  • 自分の特徴:自分の性格などを簡潔にまとめる
  • 実績:自分や会社の実績を示す。実物や数字があると具体的になる
  • 次回への布石:次のアポイントを取るための布石を打つ

比較的長い時間話せるようであれば、自分の近況を付け加えます。例えば、「最近は、○○のビジネスをしているのですが、特に××が伸びていまして……」といった具合です。「○○(事業内容)の人」として相手の印象に残れば、次回以降、仕事関係でつないでもらえる可能性も高まります。

相手の心に響く自己紹介のフレーズは、場数を踏んで見つけるしかありません。真面目過ぎる社長は「ちょっと言い過ぎかも……」とちゅうちょし、自分を過小評価する傾向がありますが、主張すべきことは自信を持って主張しましょう。また、言葉の語尾が小さくなると相手が聞き取りにくいので、最後まで気を抜かずに発声したいものですね。

4 名刺交換のタイミング

交流会などに参加したら、主催者や講演者などと名刺交換をしたいところですが、終了後は長蛇の列ができてしまいます。また、相手も次から次へと流れ作業で名刺交換をせざるを得ないため、自分を印象付けることが難しくなります。

そうならないように、可能であれば交流会などが始まる前に名刺交換をしましょう。あるビジネススクールでは、講義が始まるまでの30~60分が最も熱気のある時間です。それは、ほぼ全員の受講生が一斉に名刺交換を始めるからです。最初に名刺交換すると相手の印象に残りやすく、少しでも個人情報を得ておけばディスカッションもしやすくなるからです。

ただし、これから始まる講義に向けて精神を集中している講師もいるので、主催者に「今、講師と名刺交換をしても大丈夫ですか?」と確認するのがマナーです。

こうして知り合った相手とその後も付き合っていくためには、短い期間のうちに何度か会って関係を固めておきたいものです。よくあるのは「1回目:交流会などで出会う → 2回目:情報交換として個別に会う → 3回目:食事をする」といったパターンです。

また、相手の近況や交友関係、趣味などを知るためにFacebookで友達になるのもよいでしょう。ただし、友達申請をする相手は選びます。例えば、名刺交換をしただけで顔と名前が一致しない相手はどんな人か分からないので、注意が必要です。そうした相手から友達申請が来た場合も同様です。また、相手のことは認識しているものの、自分の既存の友達と利害が相反することもあるので、この点にも配慮しましょう。

以上が、交流会などに参加してつながりのきっかけを得るまでの流れです。続くシリーズ第2回「せっかく構築した人脈。長く維持するには?」では、つながりを、より太く、長くしていくための取り組みを紹介していきます。交流会などでは何十人と名刺交換をします。自分が「その他大勢」にならないためにどうすればよいのかを見ていきましょう。

以上

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ビジネスで大切な情報活動を効率化するコツ

“情報通”と呼ばれる人は、独自の情報収集ルートを持っています。そうしたルートは閉鎖的で、仲間に入らなければ情報は得られません。つまりは人と人のつながりであり、情報収集力は人脈力に比例して高まります。ただし、ビジネスにおける情報活動は人脈構築だけでは不十分で、基礎的な情報を継続して収集することも大切です。それは、なぜなのでしょうか。

1 なぜ、情報活動が必要なのか?

最近は、自分のビジネスには関係がないとか、人脈から得られる情報で十分などといった理由から、新聞はもちろん、ウェブニュースさえ読まないビジネスパーソンが増えているようです。しかし、どうでしょうか。3日も新聞を読まなければ、世の中の動きが分からなくなります。

世の中の動きを知らなければ周囲から相手にされず、人脈は構築できません。また、仮に人脈から情報を得られたとしても、それを使うタイミングを計るために、やはり世の中の動きを知っておく必要があります。

情報活動では、「日ごろから基礎的な情報を継続して収集すること」「人脈を構築して、そこでしか得られない情報を収集すること」の2つが大切です。基礎的な情報を収集することで人脈構築のチャンスが広がり、また人脈から得られる情報の“使いどころ”も分かるのです。

本稿では、基礎的な情報をインターネットのニュースサイトなどから収集する際に留意すべきポイントを紹介します。人脈の構築については、別でご用意しているシリーズ第1回「人付き合いが苦手な社長でも人脈は構築できる」シリーズ第2回「せっかく構築した人脈。長く維持するには?」をご参照ください。

2 情報活動の流れ

情報活動の入口は「収集」、出口は「判断」です。出口に向かう過程には、不正確な情報や古い情報を捨て、必要な情報だけを残す「取捨選択」、残った情報の論点を整理して自分が知りたい形にする「加工・活用」の工程があります。

情報活動のサイクルは可視化しにくいものですが、一例として「情報の収集、取捨選択、加工・活用、判断」といった流れで進める場合のイメージを示した画像です

「PA(パーキングエリア)」は、「その時点では必要なさそうに感じられるが、いずれ活用するかもしれない情報を一時的に保管しておく場所」というイメージです。スマートフォンのメモや新聞のスクラップのようなものです。

こうした情報活動のサイクルを回す上で必要なポイントは、「良質な情報に数多く触れる」「情報を正しく取捨選択する」「情報の加工・活用を手伝ってくれる人を持つ」の3つです。

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3 良質な情報に数多く触れる

この段階では、好き嫌いをせず、幅広い情報に触れましょう。とはいえ、膨大な情報に端から当たっていくのは非効率なので、良質な情報がまとめられている情報源を見つけ出すことがポイントです。例えば、「運営機関が信頼できるか」「情報の作成や更新日が明確であるか」などの点を満たす情報源が該当します。

また、レコメンド機能には注意しましょう。レコメンドは、自分の感覚に合った情報をお勧めしてくれる便利な機能ですが、受け身でいると情報の偏りが激しくなります。中には、情報提供者の意図(PVを上げたいなど)でレコメンドをしてくることもあります。

一部のメンバーサイト(有料で会員登録をするようなサイト)は別として、この段階で入ってくる情報の多くは比較的容易に収集できるものです。その中から、良質な情報を選び、数多く触れることが大切です。

4 情報を正しく取捨選択する

この段階では、収集した情報を「正確性」「最新」「既知と未知」の基準で取捨選択していきます。基本になるのは、「正確性」の基準です。正しくない情報は論外であり、誤った判断につながる恐れもあるため切り捨てます。ただし、情報の正確性を見極めるのは簡単ではないため、現実的には「どこから発信された情報なのか」を考慮して、真贋(しんがん)を判断します。

次は「最新」の基準です。特に法令や業界動向など新しさが求められる情報については、「古い条文と比較したい」など特別な事情がない限り、古い情報は不要です。そのため、法令改正の情報であれば、まずは管轄官庁の情報を確認し、その内容が反映されている情報を残し、そうでないものは切り捨てます。

最後は、「既知と未知」の基準です。1つのことを調べていくと、徐々に自分の知識レベルも上がってきます。そうすると、自分が知っている情報に当たることが増えます。自分が知っていることを繰り返し確認するのは時間の無駄なので、まだ自分が知らない一段上の情報を探すようにしましょう。

5 情報の加工・活用を手伝ってくれる人を持つ

この段階では、取捨選択した情報を加工・活用します。情報活動に行き詰まりがちなのは、全ての情報を理解しようとする人です。字面を追うだけでも大変なのに、内容までしっかり理解するのは簡単なことではありません。ましてや、それが専門分野の情報であれば、重要なポイントを見落としてしまうことさえあります。

「自分で全て理解する」という感覚は捨て、情報を整理しながら「疑問を明確にする」ことに注力しましょう。そして、その分野に明るい人に相談をして疑問を解消していくのです。こうして得られた情報は実践的かつ個別的で、一般に公開されている情報とは一線を画します。ビジネスの判断に使えますし、人と情報交換をするのにふさわしい内容です。

なお、疑問を解消するための相談相手はさまざまです。人脈で得た人たちだけでなく、顧問(税理士、公認会計士、社会保険労務士、弁護士など)、金融機関、商工会議所などに相談してみるのもよいでしょう。

自分の疑問を金融機関に相談したがらない社長もいます。これは、「業績が良いわけではないため、あまり金融機関に顔を見せたくない」とか、「こちらの業界のことをよく分かっていないので、相談していいものだろうか」などと考えるからです。

しかし、金融機関には融資先などからの相談に答える相談機能があります。また、グループに総合研究所などのシンクタンクがありますし、ネットワークを通じて専門家を紹介してくれることもあります。一度、相談してみる価値はあるでしょう。

以上

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M&Aの概要と検討する際のポイント

現在、中小企業も経営戦略上の選択肢の1つとして、M&Aをするようになってきました。その目的も、事業の再編・拡大から、後継者難による事業承継(売却)まで多様です。ベンチャーキャピタルなど、ベンチャー企業への出資者にとっては、IPOとともに有力な出口戦略の1つとなっているともいえます。

1 社長にとって欠かせないM&Aの基礎知識

経営においてM&Aが身近になる一方で、その手法や実際に検討する際の留意点などを把握していない人も少なくないようです。自社がM&Aの当事者になるか否かはさておき、社長であればM&Aの基礎知識は押さえておきたいものです。

以降では、株式会社を想定して、M&Aの基本的なポイントを紹介します。まず、M&Aは狭義には「合併・買収」を指しますが、広義には提携などを含むこともあります。整理すると次のようになります。

M&Aを広義に捉えると、合併・買収だけではありません。M&Aの種類を一覧にした画像です

2 提携

1)業務提携

業務提携とは、契約によって協力関係を結ぶことです。資本拠出を伴うものも業務提携ということがありますが、後述する資本提携と区別することが一般的です。業務提携は「販売委託・代理店契約などの販売に関する提携」「技術ライセンスの提供・共同研究開発などの技術・開発に関する提携」「OEMや製造委託・資材調達などの製造に関する提携」など、幅広い目的で行われています。

2)資本提携

資本提携とは、資本拠出を伴った関係を結ぶことです。出資比率によって、関係の親密化を目的として出資するケース(出資比率が低い)から、買収に近いケース(出資比率が高い)まであります。資本提携では、「相手方の株式の取得・新株引受けによる提携(資本参加)」「相互に株式を保有する提携(相互保有)」などが行われます。

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3 経営統合

1)合併

合併とは、複数の会社が1つの会社になることをいいます。合併には、吸収合併と新設合併があります。新設合併の場合、消滅会社が有していた許認可をあらためて取得しなければならないことがあるなどの理由から、通常は吸収合併の手法が用いられることが多くなります。

1.吸収合併
 吸収合併とは、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいいます。吸収合併では、既存の会社のいずれかが合併後も存続します。

2.新設合併
 新設合併とは、合併により消滅する会社の権利義務の全部を、合併により設立する新設会社に承継させるものをいいます。新設合併では、既存の会社は全て消滅します。

2)買収

買収とは、被買収会社の経営権をそれに見合う対価で獲得することです。買収には、次のような手法があります。

1.株式取得
 既存の発行済株式を譲渡(売却)する方法を「株式譲渡」といいます。また、被買収会社が新株を発行(第三者割当増資)し、それを引き受けることを「新株引受」といいます。双方ともに、株式取得によるM&Aにおいて用いられています。

2.事業譲渡
 事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を譲渡(売却)する手法です。土地・建物や売掛金・在庫だけでなく、営業権や人材、ノウハウ等も譲渡(売却)対象とすることができます。事業譲渡のメリットの一例として、簿外資産、簿外負債を引き継がない点、引き継ぐ従業員・契約を限定することができる点などが挙げられます。また、デメリットの一例としては、個別の資産・取引ごとに譲渡の手続きを行わなければならないため、手続きが煩雑である点、取引先との契約などがうまく引き継げないリスクがある点などが挙げられます。

3.株式交換・株式移転
 株式交換とは、ある会社が他の会社を完全子会社化するときに、被買収会社(子会社)の株主に対して、買収会社(親会社)の株式を交付することで完全子会社化する手法です。子会社の株式を持っていた株主には、親会社の株式が所定の交換比率で計算された株数だけ割り当てられます。

株式移転とは、1つまたは2つ以上の会社が、その発行する全ての株式を新たに設立する親会社に取得させることをいいます。完全親会社となる会社が新設され、そこに既存の会社が完全子会社となってぶら下がることとなります。持株会社を設立する際に利用される手法です。

3)分割

分割する会社の権利義務の全部または一部を、既存の他の会社に承継させる「吸収分割」と、分割により設立する会社に承継させる「新設分割」の2つの手法があります。

4 M&A(狭義)を検討する際に押さえておきたいポイント

1)M&Aはどのような流れで進むのか

M&Aの基本的な流れは次の通りです。

M&A(狭義)について、M&Aの検討・方針決定からM&Aの実施までの流れを、9つのステップに分けて整理した画像です

M&Aを進める際は、専門家やアドバイザーの協力が不可欠です。逆に言うと、M&Aを進めるプロセスの多くは、専門家やアドバイザーに相談をしながら判断することができます。

しかし、「M&Aを行うか否か」「M&Aを行う場合、どのような企業(事業)を希望するのか」といった方針の決定や、「どの専門家やアドバイザーと契約し、協力を得るのか」といった専門家やアドバイザーの決定は、会社が主体的に判断することになります。

2)方針の決定

1. M&Aの目的
まずは、M&Aを行う目的を明確にする必要があります。買い手側の目的は既存事業の強化・拡大、新規事業の展開などになります。一方、売り手側の目的は、事業のリストラクチャリングや後継者不在に伴う事業承継などというケースが多くなります。なお、「既存事業の強化・拡大」であれば、「○○地域における事業強化」といったように、目的をより具体的にすることが大切です。

また、その際には、目的達成のためには合併・買収が最良の手法なのかという視点を持つことも大切です。例えば、「既存事業の強化・拡大」を達成するためには、合併・買収以外にも業務提携や資本提携という手法も考えられます。合併・買収に固執することなく、こうした幅広い選択肢の中から、最良の手法を検討するようにしましょう。

2.主要ポイントの整理
M&Aを前向きに検討する場合は、次のようなポイントを、可能な範囲で整理してみるとよいでしょう。

(買い手の主な検討事項)

  • 買収対象(業種、企業規模、特徴、エリアなどを基にした対象選定)
  • 買収金額の予算の程度
  • 買収手法
  • 買収資金の調達方法
  • 法的規制や税法上の問題など障害の有無
  • 買収後の事業計画

(売り手の主な検討事項)

  • 売却先候補(業種、企業規模、特徴、エリア、経営スタイルなど)
  • 売却に当たっての条件(希望譲渡価額など)
  • 法的規制や税法上の問題など障害の有無
  • 売却後の計画(事業計画または資産運用計画)

こうした点を整理した上で、特定分野に強みを持つ専門家・アドバイザーと協議することが有益です。

3)専門家・アドバイザーの決定

M&Aを支援する専門家・アドバイザーとしては、税理士、公認会計士、弁護士などの専門家(各事務所)やM&A支援会社などが挙げられます。また、金融機関もM&Aの支援を行っており、こうした先が専門家・アドバイザー候補となります。

ただし、M&Aを熟知していない企業にとっては、自社に適している候補先を探すのは簡単ではありません。また、専門家・アドバイザーは、M&Aの成否を左右する重要な存在となるため、慎重に決定する必要があります。

自社の判断に不安があるときには、金融機関や顧問税理士などの身近な専門家などに相談するとよいでしょう。金融機関は、自らがM&Aの支援をしているだけでなく、M&Aに強みを持つ専門家やM&A支援会社などを紹介してくれることもあります。

また、専門家は、同業者をはじめとして広範なネットワークを持っています。そのため、自らがM&Aに関する業務を行っていなくても、要望に合った専門家・アドバイザー候補を紹介してもらえることがあります。こうしたM&Aに精通している人たちを活用しながら、信頼できる専門家・アドバイザーを選ぶことが大切です。

以上

(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士、税理士 長本光生)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2017年9月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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中小企業だからこそ必要なAI

皆さんは、AIと聞いて、どんなことをイメージするでしょうか。最近は、テレビや新聞のニュースでAIという言葉を聞かない日がないほどです。AIが囲碁で人間を負かすようになったとか、乗用車の自動運転をするとか、そういったニュースを見て、人間と同等、あるいはそれ以上の万能な存在をイメージするかもしれません。

1 もはや遠い存在ではないAI

また、今後10~20年程度で47%の仕事がAIやロボットに取って代わられるという話や、2045年ごろにはAIが人間の能力を超え(シンギュラリティ)、世界が劇的な変化を迎えるという話などを聞き、AIに不安や脅威を感じているかもしれません。

皆さんそれぞれ、AIについて、いろいろな漠然としたイメージを持っているでしょう。しかし、実際のところ、AIについての断片的な情報をもとに想像していて、何か遠い存在のように感じていることはないですか。

AIに関するニュースでは、Google、Apple、Microsoftなどの世界的な企業の名前が出てきますし、日本でも大企業や最先端技術に取り組む企業の名前が出てきます。こうしたニュースを見ていると、「うちの会社には関係ない」と思い、遠い存在と感じても仕方がないかもしれません。

しかし、もはや、AIは身近な道具として捉えるべき時代です。産業や業種を問わず、また規模の大小にかかわらず、AIは皆さんのビジネスにとって、重要で便利な道具として店頭に並んでいる状態なのです。

2 AIって何? AIって必要?

AIは、Artificial Intelligenceの略で、人工知能と訳されています。しかし、AIという概念は、専門家や研究者によっても、捉え方が異なるのが事実です。

AIについてはさまざまな考え方が存在しますが、皆さんのビジネスにおいては、広く捉えることが大切です。日々の業務の中で、一部の処理や作業を、あたかも人間のようにやってくれる存在。そのくらい広く捉えるほうが、ビジネスに役立つ道具として、目利きすることができるでしょう。

今、日本では、少子高齢化に伴う働き手の不足が大きな課題になっています。皆さんの会社でも、人手不足は大きな課題ではないでしょうか。

特に、地方の企業や中小企業において、人手不足は深刻な課題となっています。これを逆手に取り、AIという道具を上手に使って人手不足という課題を克服すると考えることが、自社のビジネスを守ることになります。

むしろ地方の企業や中小企業こそ、AIという道具を有効に活用できる有利な立場にあります。大勢の従業員を抱える大企業では発想し得ないAIの活用が、大きなテコとなって、創造性と生産性を生み出すことになるのです。

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3 利用が広がるAI

「では、AIはどんなことをしてくれるの?」

ニュースで見聞きする例を見ると、難しそうで、取っつきにくいかもしれません。AIは万能ではありませんが、皆さんの日々の業務のあらゆる場面で、役に立つ道具です。幾つか参考になりそうな例をご紹介します。

AIの中で比較的利用が進んでいるのが「チャットボット」です。チャットボットとは、メッセージのやり取りを会話形式などで自動で対応する「チャット」のロボットのことです。現在、利用が進んでいるチャットボットの多くは、“人工無脳(無能)”といわれることも多く、AIには含まれないという見方もあります。人間が与えたルールにのっとって動きや判断を行うレベルのものです。皆さんが想像するAIに比べると、ちょっとレベルが低いかもしれませんが、比較的簡単なやり取りが想定される業務では、かなり利用が進んでいます。

例えば、企業のウェブサイトなどでは、最近、メッセージボックスが用意され、そこで質問を受け付けていることがあります。オペレータが控えている場合もありますが、チャットボットが備えられているケースが増えています。銀行のホームページにあるメッセージボックスに「口座開設したい」と打つと、簡単な説明文章が並び、「詳しくはこちらをご覧ください」という文章が続き、そこから、詳しい情報が書かれたページにリンクされています。

その他、LINEなどを使って、注文や配達を受け付けるような業務も、チャットボットが担うようになっています。こういった簡単なやり取りは、事前にルールを与えておけば円滑に処理できます。また、業務量としては意外と多いこともあって、費用対効果の観点から利用が広がっているのです。

もう1つ、利用が進んでいるのが「RPA」です。RPAとは、Robotic Process Automationの略で、これまでパソコンを使って比較的簡単で単純に繰り返していた作業を自動化するソフトウェアです。これまでの自動化とは違い、プログラミングをしてシステムを作るのではなく、作業を新人に教えるようなイメージで、直感的かつ短時間で自動化の仕組みを作ることができます。

現状のRPAの多くは、人間が与えたルールにのっとって動きや判断を行うレベルです。例えば、毎日、見込み顧客リストに載っている企業をインターネットで検索し、その結果をもとに企業情報をエクセルシートに記録する、というような作業があったとします。検索で見つからなかった場合は、別のエクセルシートに記録するというようなこともあるかもしれません。こういった比較的簡単で、繰り返し行う作業などをRPAに次々と覚えさせ、毎日、決まった時間に処理させるといった使い方があります。

その他、手続き書類の内容をシステムに登録する作業や、データを定型のフォーマットに転記する作業など、新人に教えることができる程度の一定の作業上のルールがあれば、さまざまな場面で利用することができます。

チャットボットもRPAも月額10万~30万円程度で使えるため、いろいろな業務や作業をこれらに任せていくことで、費用対効果の高いツールとなり得ます。こうしたことから、地域や規模感を問わず、さまざまな企業で利用が広がっています。その他、最近よく耳にする「機械学習」(詳細後述)などを備えたRPAも出てきており、今後ますます利用の幅も広がっていくことでしょう。

4 今、注目されているAI

最近、ニュースなどでたびたび取り上げられるAIは、チャットボットやRPAのようなレベルではなく、一段上のAIがほとんどです。ただし、利用が広がっているという段階にはなく、大企業や最先端技術に取り組む企業が先行的に行っているという状況です。その取り組みもまだ試行段階にある例がほとんどです。商用として提供されているものもまだまだ発展途上であり、今後、本当の意味での実用化が広がっていくと見るべきでしょう。

しかしながら、それは決して遠い話ではなく、もう間近に迫ってきています。昨今の技術発展が急速に加速化しているのと同様に、こうした一段上のAIは、短期間で実用レベルに近づきつつあり、それとともに利用にあたっての費用も低くなってきています。多くの企業にとって、このようなAIを利用する機会は、すぐそこに来ているのです。

それらの代表格としては、「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」ではないでしょうか。そのあたりを少しご紹介します。

まず、学習するという行為の基本的なことは、「物事の違いが分かって、分けることができる」ということです。機械学習は、この分けるためのコツや軸を教えてあげると、AIがそれを生かして大量のデータで学習し、分けることができるようになる仕組みです。一方、深層学習(ディープラーニング)は、分けるためのコツや軸も、大量のデータからAIが自分で見つけ出して学習し、分けることができるようになる仕組みです。

私たちは、犬をすぐに見分けることができます。なぜ見分けることができるのかを説明するのは案外、難しいことです。こうした事柄を機械学習に覚えさせる場合には、どこを見れば分かるのかのポイントを教え、そのサンプルを大量に見せることで、見分けることができるようになります。

深層学習(ディープラーニング)の場合には、「これは犬」という大量のサンプルを与えてあげると、自分でどこを見れば分かるのかというポイントを見つけて、AI自身が見分けることができるようになります。こういった仕組みを利用して、「人間がなんとなくしていること、できていること、あるいはやりたくてもできなかったことを、コンピューターに代わりにやってもらう」というのが、最近、注目されている一段上のAIです。

今回は、AIのおおまかな話でした。次回は、AIの活用事例などをご紹介していきたいと思います。

以上

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個人情報保護法の改正。中小企業の対応は?

企業にとって、個人情報の保護は、コストが掛かる一方で、事故を予防できても売上に直接結びつくわけではないという後ろ向きなイメージがあるかもしれません。しかし、個人情報の漏洩が企業にもたらす影響は甚大で、創業期などで個人情報の管理体制が確立されていない企業は、早期に対応しないと命取りになる恐れがあります。それはどういうことなのでしょうか?

1 はじめに

例えば、2014年7月に発覚した通信教育大手の顧客情報漏洩では、3000万件以上もの顧客情報が漏洩し、企業は顧客への謝罪として200億円の原資を準備、関係役員の引責辞任にも至りました。それにとどまらず、大量の顧客喪失を招き、さらには損害賠償請求の集団訴訟にも発展しました。

ここまでの事例はめったにないとしても、個人情報の漏洩には相応の損失を覚悟しなければなりません。2017年5月に改正個人情報保護法(以下「法」)が施行されたこともあり、個人情報の漏洩にとどまらず、個人情報の取り扱いに対する社会の目はますます厳しくなるのは間違いないでしょう。従って、企業としては個人情報保護に積極的に取り組まなければなりません。

個人情報の保護は「トップダウンのマネジメント」であり、社長をはじめとする経営陣が個人情報を保護するという強い姿勢を示さなければ実現できません。もちろん、社長自らが規制の詳細を理解して動くわけにもいきませんから、個人情報管理の担当者を決めることになります。このときに、担当者任せにして社長が無関心だと、現場が担当者の指示をないがしろにするようになり、漏洩事故につながります。社長が個人情報保護の取り組みに関心があることを全社的にアピールし、担当者が動きやすい環境をつくることが重要です。

本シリーズでは、このような観点から、中小企業の社長が知っておくべき個人情報保護の基本知識を確認し、具体的に社長としてどのように取り組めばよいのかを見ていきたいと思います。

2 そもそも個人情報とは?

個人情報の取り扱いの重要性は漠然と認識しているものの、そもそも個人情報とは何なのかを自信を持って回答できる人は少ないでしょう。

「個人情報」とは、(1)生存する(2)個人に関する情報であって、(3)特定の個人を識別することができるもの又は個人識別符号が含まれるものです(法第2条第1項)。

生存する個人の情報で特定の個人を識別できる情報であれば、あらゆる情報が「個人情報」として保護されます。従って、顧客情報だけでなく、従業員や採用応募者に関する情報も個人情報となります。また、氏名を含まない情報(性別、生年月日、住所、利用履歴等)であっても、それで特定の個人を識別できるのであれば「個人情報」になりますし、撮影画像であっても、社内のモニタリングカメラ映像のように、特定の従業員を識別できるなら「個人情報」です。

「個人情報」の理解で難しいのは、単体では特定の個人が識別できない情報でも、社内の他の情報と照合して特定の個人を識別できるなら、「個人情報」になるということです(法第2条第1項第1号)。例えば、データベースAでは顧客情報を管理番号、メールアドレス、住所、購入履歴で管理し、特定の個人を識別できないようにしていても、別のデータベースBで管理番号と氏名などを管理していて、従業員が双方のデータベースにアクセスできる場合は、データベースAで管理している情報も「個人情報」となります(図表1)。現場では、データベースAは「個人情報ではない」と判断してしまいがちなので、注意が必要です。このあたりの判断は難しいので、個人情報についての研修を受けた個人情報管理の担当者に任さざるを得ないところです。

複数の情報を別々のデータベースに保存している場合、それらの情報が個人情報に該当するのか否かについて説明している画像です

改正法で加わった「個人識別符号」も個人情報になります。個人識別符号は、マイナンバーや基礎年金番号などが該当しますが、電話番号や社員番号は個人識別符号ではありません。具体的に何が「個人識別符号」かは、法令を解説した「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(個人情報保護委員会のサイトで公表されています)が参考になります。

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3 個人情報の規制の概要

個人情報の内容が理解できたら、次は個人情報の取り扱いに係る規制について知らなければなりません。個人情報保護法による個人情報の規制をかいつまんで説明すると、次のようになります(図表2)。なお、ここでは全て「個人情報」の規制として説明しますが、これ以外の規制もあるので、注意が必要です。

まず、個人情報を取得する場合は利用目的を特定しなければなりません(法第15条)。そして、特定した利用目的を本人に通知したりホームページなどで公表したりしなければなりません(法第18条)。また、特定した利用目的の範囲を超えて個人情報を目的外利用するためには、原則としてあらかじめ本人の同意を得なければなりません(法第16条第1項)。

個人情報を利用するために必要な本人の同意や利用目的の特定について説明している画像です

個人情報を安全に取り扱うための規制や、個人情報を授受する場合の規制もあります(図表3)。すなわち、個人情報を取り扱う際には、個人情報の漏洩等を防止するために必要な安全管理措置を講じる(法第20条)とともに、会社で働いている「従業者」を監督しなければなりません(法第21条)。

また、第三者に個人情報を提供する事業者(提供者)は、原則としてあらかじめ本人の同意を得なければならず(法第23条)、誰にどのような個人情報を提供したのかなどの記録を作成し保存しなければなりません(法第25条)。

第三者から個人情報の提供を受ける事業者(受領者)は、提供者が個人情報を取得した経緯等を確認するとともに、誰からどのような個人情報の提供を受けたのかの記録も作成し、保存しなければなりません(法第26条)。

第三者から個人情報を提供された事業者が行う記録の作成などについて説明している画像です

4 やるべきこと

社長がやるべきことを大まかに確認してみましょう。まず、会社として個人情報保護を重視する姿勢を社長が明確にしなければなりません。個人情報保護方針(プライバシーポリシー)を公表している会社も多いですが、これが会社としての姿勢を示すものになります。

そして、個人情報を管理する担当者や責任者を決めます。個人情報の管理担当者の主な職責は次のものが挙げられます。これらの職責を果たすために、担当者は個人情報保護に関する研修を受けることが必須といえます。

  • 個人情報の洗い出し
  • 個人情報取り扱いの社内ルールの策定(個人情報保護規程等)
  • 定期的な従業員教育や社内呼び掛けの実施
  • 個人情報が適切に取り扱われているかの定期的な確認
  • 個人情報が記録された書類、機器などを廃棄した場合の確認
  • 社内ルール違反や漏洩事故などの報告を受け、対処する

また、担当者が1人で全ての任務をこなすのは荷が重いので、複数人を任命することが望ましいでしょう。個人情報管理の責任者には役員クラスを就任させ、従業員が指示に従いやすくしておくことも重要です。

なお、1.~6.を完全に実行するのは容易ではないため、会社の実情に応じて対応することは許されると考えられています。例えば、1.を完璧に実施するのは不可能ともいえるので、どのような個人情報が、どのような形で保存してあるかを、大まかに確認するにとどまることもあるでしょう。

2.も、就業規則に個人情報保護についての大まかな規定を入れておいて、3.と併せて細かいルールは社員教育などで確認することも許容されるでしょう。

3.も、社内講習会というような形ではなく、パンフレットを配布したり、4.と併せて個人情報管理担当者が定期的に個人情報の取り扱い状況をチェックしたりして、注意喚起するということも許容できるでしょう。

個人情報保護方針(プライバシーポリシー)や、個人情報の管理担当者を決めた後は、どのようなケースで個人情報が漏洩するのかを把握し、対策を講じることです。次回は、実際に個人情報が漏洩した事例から、漏洩事故を未然に防ぐための組織体制づくりのポイントを紹介します。

以上

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【朝礼】「人の話」から学ぶための、正しい聞き方

日ごろ、私は経営者同士の交流会や勉強会、セミナーなどによく招待していただきます。また、経営者の方にインタビューしたり、対談したりする機会をいただくこともあります。そうして日々、さまざまな方の話を聞いていると、本当に多くのことを考えさせられます。

中でも私が最近、改めて感じるのは、「人の話を聞き、そこから学ぼうとするときこそ、自分の思いをしっかりと持っていなければならない」ということです。

私がお会いする方々は、自分自身で考え、主体的にビジネスを動かしている方がほとんどです。そうした方は、何事についても“一家言”持っているのが通常です。将来のビジョンや会社の在り方、人とつながる方法、社員の育て方、商品の売り方など、ビジネスに関わる全てのことについて、自分なりに考え、苦労したり工夫したりして実践してきているからでしょう。

そうした方々の話は、どれも非常に力強く、示唆に富み、さまざまな気付きを得られることは間違いありません。一方で、話を聞くこちら側が自分の思いをしっかり持っていないと、「ただ表面的に感心して終わってしまう」のも事実です。それでは、自分の学びにはつながりません。

そこで私は、誰かの話を聞くときは、自分の思いと照らし合わせることにしています。私には、「自社のためだけでなく、世の中のためになることをしたい」という思いがあります。

そのため、お会いする方から、「自社のことだけでなく、世の中のことをどのように考えているか」「どうやって世の中に貢献しようとしているか」について学ぶことを一番大切にしています。

皆さんも、セミナーや勉強会などに参加し、さまざまな人の話を聞く機会があるはずです。その際、ただ「すごい!」と話に感心しているだけでは、学びにはつながりません。その人の話と照らし合わせ、実際の行動に役立てられるように、自分の思いや、何を学びたいのかをしっかりと固めた上で参加してもらいたいのです。

もう一つ注意してほしいことがあります。それは「人の話に真摯に向き合う」ことです。学びにつなげるには、人の話をとことん掘り下げて聞かなければなりません。その人の本当の思いはどのようなものか、何を大切にしている人なのか。ぜひ、そうしたことを「聞ききる」くらいの気持ちで向き合って、話を聞いてみてください。

誰かに何かを伝えようとするとき、人は「良いこと」を言うものです。それは決して悪いことではありませんが、表面的に「良いこと」を聞いているだけでは、その人の本当の思いは見えてきません。人の話は、「なぜそう考えるのか」「なぜそうするのか」をできるだけ掘り下げて聞きましょう。それが「聞ききる」ための第一歩です。

自分の思いをしっかりと持ち、話を「聞ききる」。そうすれば、人の話が皆さんの糧になり、皆さん自身の“一家言”が生まれるでしょう。

以上(2019年7月)

pj16967
画像:Mariko Mitsuda

真田昌幸(武将)/経営のヒントとなる言葉

「汝才智勝るとも、軍陣の数を重ねざる故、名顕はれざれば、良策なりとも用られず」(*)

出所:「戦国武将のひとこと」(丸善)

冒頭の言葉は、

  • 「自分に有利な交渉の素地をつくることが大切である」

ということを表しています。

幸村の父であり、近世大名の地位を固めたことから、真田家「中興の祖」といわれる昌幸。冒頭の言葉は、昌幸が息子の幸村に贈ったアドバイスとされ、交渉や提案などの場面では、自身の要求を受け入れてもらうため、準備を怠らないよう諭していると取れます。

こうした昌幸の考え方は、自身の経験によるところが大きいのかもしれません。昌幸が真田家の地位を高めることに成功したのは、時勢を読み、自らに有利な主君に仕えてきたからです。ただし、力ある者に擦り寄っていけば、生き残っていけるというものではありません。昌幸は敵方への調略が得意だったとされます。交渉や提案などの場面で、自らの主張や有利な条件を織り交ぜながら、主君や敵方などの了解を取り付けることに長けていたからこそ、高い身分になくても一目置かれたのでしょう。

また、力ある者にかしずくだけでなく、時には立ち向かっていった点も、昌幸の特徴です。徳川家康(とくがわいえやす)が対立していた北条家と和解するために、昌幸は従前に苦労して獲得した沼田領を明け渡すように宣告されました。これに対して、昌幸は猛然と家康に反発します。そして、城下の各地に徳川勢を分断して誘い込み、その大軍を撃退しました。このときの昌幸は、対立していた上杉景勝(うえすぎかげかつ)に幸村を人質に出すことで講和を結んでいます。これは家康や北条家との対決に備えて、双方と対立関係にあった景勝の支援を取り付けようとの意図があったようです。勝利を引き寄せるために、昌幸が入念に準備していたことがうかがえるエピソードです。

状況が大きく変化する戦国時代でしたが、昌幸は変わり身の早さが突出していたためか、「表裏比興(ひょうりひきょう)の者」と揶揄(やゆ)されました。この言葉には、態度がころころと変わるという意味が込められています。表面的なプライドや名声を重視する人には分からないかもしれませんが、昌幸は真田家を存続させるという目的があったからこそ、表裏比興と呼ばれようとも手段を選ばなかったのであり、自社を存続させる重要性を知っている経営者には、昌幸の行動が理解できるでしょう。実質を重視する昌幸の姿は、次の言葉にも表れています。

「たとえ錦(にしき)を着ても心が愚かならば役に立たない」(**)

ビジネスでは、自社の要求をうまく提案したり、逆に相手から自社に不利な提案をされたりする交渉の場面が多々あります。重要な取引先など相手の力が大きいほど、どのように対応するか頭を悩ますのではないでしょうか。

弱い立場にありながらも、厳しい時代を生き抜いた昌幸の姿勢から、多くのことを学べます。例えば、交渉の際、相手の力が大きいほど、その要求に全面的に応えなければという考えが頭をもたげます。しかし、自社の選択肢は「譲歩」だけではありません。日ごろから誠実な対応が取れていれば、相手に強く主張することもできます。いつもは相手の要求に応えようと誠実に努力している自社が強く主張すれば、よほどの事情があるのかもしれないと、相手はこちらの状況を鑑みてくれる可能性があります。

もう1つ、力の大きな相手と対峙する場合に大切なのが、協力する姿勢です。ビジネスでは、戦国時代のように命を賭することはありません。多くの相手は自社を潰そうとしているのではなく、自らに有利な条件で交渉を進めたいという思いから、厳しい要求をしています。「相手の要求をのむ」「自社の要求をのんでもらう」というゼロサムではなく、相手も自社も現状の問題を解決し、互いのビジネスを発展させるという姿勢が大切になります。自社が相手と一緒になって解決策を出し合う雰囲気をつくることができれば、前向きな交渉へと導きやすくなるでしょう。

交渉を成功させるための前提は日ごろから誠実に対応し、価値ある商品やサービスを提供することです。この基本を徹底することで、新規の取引先であっても、既存の取引先であっても、自社を選んでもらうスタートラインに立つことができるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

さなだまさゆき(1547〜1611)。出生地不明(出生年や出生地には諸説あります)。信幸(のぶゆき。後に信之)、幸村(ゆきむら。本名:信繁(のぶしげ))の父。

【参考文献】

(*)「戦国武将のひとこと」(鳴瀬速夫、丸善、1993年6月)
(**)「愛蔵版 戦国名将一日一言」(童門冬二、PHP研究所、2010年12月)
「産経新聞 東京朝刊(2000年10月3日付)」(産経新聞社、2000年10月)
「真田宝物館ウェブサイト」(長野市教育委員会 松代文化施設等管理事務所)

以上(2016年10月)

pj15199
画像:Josiah_S-shutterstock

真田幸村(武将)/経営のヒントとなる言葉

「およそ家臣ほど油断のならぬ者はなし。親子兄弟の間にても偽り多し。或ひは利に迷ふことあり。然るに、家人は血を分けたるにもあらず、ただ恩義に感じ、又は勢に恐れて下知に随(したが)ひ、命をもくれることあれば、よく心を用ひ察すべきことなり」(*)

出所:「戦国武将のひとこと」(丸善)

冒頭の言葉は、

  • 「部下の考えを知ろうとすることが重要である」

ということを表しています。

多数いる戦国武将の中でも、高い人気を誇る幸村。それは忠義に厚い、悲劇のヒーローというイメージがあるからかもしれません。

弱小大名だった真田家は、幸村の父である昌幸(まさゆき)の活躍によって、一目置かれるようになりました。昌幸は、生涯同じ主の下に仕えたわけではなく、武田を筆頭に北条・上杉・豊臣・徳川などの強豪の中で、時勢を読み、自らに有利な主に仕えることを選びました。こうした昌幸の政略は、幸村の思想や生き方にも影響を与えていたと考えられます。

幸村は若い頃から人質として、上杉や豊臣などの元に送られており、身の上が安定しない生活を送っていました。忠義に厚かったとのイメージが定着している幸村ですが、こうした生い立ちや“ドライ”とも取れる冒頭の言葉を考えると、ひたむきに主(豊臣家)のために尽くそうと思っていたわけではないのかもしれません。

幸村は主(豊臣家)という存在に忠誠を誓っていたのではなく、自らの信念に対して忠実な人だったのではないでしょうか。大坂冬の陣では、徳川家康は強敵である幸村を調略しようと、信濃一国を与えるので、徳川方に付くようにと勧誘します。しかし、それに対して幸村は、「父である昌幸が家康に立ち向かう志を持っていたことや、不遇をかこつ自分を一軍の将に取り立ててくれた豊臣に報いるため」として、次のように答えて断ったとされます。

「一旦の約の重きことを存じて較ぶれば、信濃一国は申すに及ばず、日本国を半分賜はるとも瓢(ひるがえ)し難し」(*)

幸村は自分の能力が生かせる戦場において、活躍の場を与えてくれたという点で、豊臣方に付いたのでしょう。

部下としての幸村、一軍の将(リーダー)としての幸村、それぞれの立場の生き方から、現代のリーダーは2つのことを学ぶことができます。

1つは、幸村のような才能ある人材を用いるためには、活躍の場を与えることが欠かせないということです。

もう1つは、リーダーには強い信念が欠かせないということです。幸村が現代でも人気を誇るのは、信念を貫き通した幸村に対して憧れる人が多いからでしょう。裏を返せば、それだけ多くの人が自分の信念を貫くことや、信念を持つことに対して難しさを感じているのかもしれません。だからこそ、強い信念を持っているリーダーの存在は、メンバーを引き寄せます。

しかし、常にリーダーの信念に共感し、フォローするメンバーばかりではありません。リーダーが信念に従って、既存事業を大きく変化させたり、前例の無い新しい事業に挑戦したりすることがあれば、反発するメンバーや、離脱するメンバーが出てくることもあります。たとえメンバーの離反を招いたとしても、決断に対して責任を取るのはリーダーであり、リーダーは自らの信念を貫くことに対して遠慮は不要です。

とはいえ、離反するメンバーを放っておけば、リーダーの信念に共感しているメンバーたちにもマイナスの影響を与える恐れがあり、組織全体の結束が乱れることにもつながりかねません。リーダーには、離反するメンバーの存在を認識し、そうしたメンバーの考えを知ることで、組織にマイナスの影響が及ばないように、うまくコントロールしていくことが求められるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

さなだゆきむら(本名:真田信繁(さなだのぶしげ))(1567〜1615)。出生地不明(出生年や出生地には諸説あります)。大坂冬の陣、夏の陣にて徳川家康(とくがわいえやす)を大いに悩ませ、その活躍ぶりから日本一の兵(ひのもといちのつわもの)と評された。

【参考文献】

(*)「戦国武将のひとこと」(鳴瀬速夫、丸善、1993年6月)
「産経新聞 東京朝刊(2000年10月3日・4日・5日付)」(産経新聞社、2000年10月)
「真田宝物館ウェブサイト」(長野市教育委員会 松代文化施設等管理事務所)

以上(2016年1月)

pj15198
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