AIを使って「悩みの要因」を深掘りしたいとき、賢い人だけがやっている「すごい聞き方」とは?

いま、ビジネスパーソンの間で「AI」が急速に浸透している。一部ではAIと対話して仕事を進めることが、すでに当たり前になっている。しかし一方で、「AIなんて仕事の役には立たない」「使ってみたけど、期待外れだった」という声も聞こえる。
「それは使い方の問題。AIの力を引き出すには適切な“聞き方”が必要です」。そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考の研修をしてきた石井力重氏だ。

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「せかせか常習者」は気を付けろ!「倍速行動」が日常にもたらす怖い不調の数々

近年、動画やドラマを倍速視聴する人が増えている。タイムパフォーマンスの向上には確かに有効な視聴方法だが、この風潮に内科医の著者は警鐘を鳴らす。倍速視聴のリスクと、そこから抜け出す方法とは。

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顔と足を見れば「血液ドロドロか」一発でわかる、心筋梗塞と脳梗塞になりやすい人の見た目の特徴とは?

血液がドロドロで、心筋梗塞や脳梗塞になりやすい人の「見た目」の特徴に迫ります。「顔」と「足」のある部位に出ているサインとは? ジャーナリストの笹井恵里子氏が聞きました。

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【朝礼】伊能忠敬、50歳の再出発! 勉強するのは何歳からでも遅くない

【ポイント】

  • 伊能忠敬は50歳で隠居してから学問の道を志し、弟子とともに日本地図を完成させた
  • AIが業務を肩代わりしてくれるようになり、私たちは「学び直し」の時間を作れる
  • いくつになっても知的好奇心を忘れず、学び続ける姿勢が、未来を切り開く原動力となる

今日は、ある歴史上の人物の生涯から、学び続けることの意義について考えてみたいと思います。紹介するのは、伊能忠敬(いのうただたか)です。彼は、江戸時代後期に日本全国を歩いて測量し、弟子とともに日本で初めての正確な実測地図を完成させたことで知られています。

伊能忠敬の人生で特に注目すべきは、彼がこの偉大な地図作りの旅に出た年齢です。なんと、彼は50歳で家業を息子に譲って隠居した後、本格的に天文学や測量学の道を志しました。そして、55歳で測量の旅に出発し、そこから実に17年もの歳月をかけて、全国を歩き続けたのです。彼が亡くなったのは73歳。地図が完成したのは、彼の死後、弟子たちの手によってでした。

この伊能忠敬の生涯は、私たちに非常に力強いメッセージを送ってくれます。それは、「勉強するのは何歳からでも遅くない」というものです。彼は若い頃から学問、特に算術や天文学に強い関心を持っていましたが、家業の経営に忙しく、本格的に学ぶ時間はなかなか取れませんでした。しかし、隠居という人生の転機を迎え、時間ができた時に、彼は迷わず長年の夢だった学問の道を選んだのです。当時50代という年齢で、新たな分野に飛び込み、しかも当時の最新の知識と技術を習得し、それを実践して歴史に残る大事業を成し遂げた彼の情熱と行動力には、ただただ驚かされます。

近年、私たちの業務環境は目まぐるしく変化しています。特に、生成AIをはじめとする新しいテクノロジーの進化は目覚ましく、これまで人間が時間を割いて行っていたルーティンワークや情報整理の多くを、AIが肩代わりしてくれるようになってきています。伊能忠敬は隠居してようやく自由な時間を手に入れましたが、私たちは今、この瞬間にもそれができるわけです。もし、これまで「時間がないから」と諦めていたこと、あるいは漠然と「いつか学んでみたい」と考えていたことがあるなら、今こそがそのチャンスかもしれません。

これまで興味があった分野の深掘りでも、あるいは全く新しい挑戦でも構いません。伊能忠敬のように、いくつになっても知的好奇心を忘れず、学び続ける姿勢こそが、私たちの仕事や人生を豊かにし、未来を切り開く原動力となるはずです。

以上(2025年9月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

3歳を過ぎても時短勤務OK? 10月施行の子育ての新ルール!

1 10月から始まる「新しい働き方」に備えよう

2025年10月1日から、育児・介護休業法の改正により、全ての会社に「柔軟な働き方を実現するための措置等」が新たに義務付けられます。これは、

「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員に対し、「短時間勤務」「テレワーク」などの措置を講じる制度

です。現行法でも、会社は3歳未満の子を育てる社員に対し、短時間勤務などの措置(所定労働時間の短縮措置等)を講じる義務を負っていますが、今回の改正内容である

「柔軟な働き方を実現するための措置等」の場合、会社が2つ以上の措置を実施し、社員がそのうち1つを選択して利用できる仕組みになっている点

が異なります(図表1)。

会社が実施する措置の内容

さて、今回の法改正により、特に中小企業では「制度導入の手間」「代替要員の確保」「職場内の不公平感」など、現実的な課題がつきまといます。「ウチは人手不足だから無理」などと尻込みしてしまうかもしれませんが、少子高齢化と人手不足が加速する今、労働力を確保する上でも、働きやすい環境整備は必須。会社としての姿勢が問われる大事な局面といえます。

この記事では、制度の概要を整理した上で、実際に起こり得る現場の課題とその対応策をご紹介します。

2 会社に求められる「いずれか2つ以上の措置」

2025年10月1日から、会社は図表2の5つの措置のうち、2つ以上の措置を整備・実施する義務を負います。社員は会社が講じた措置の中から、1つを選択して利用することができます。なお、4.の特別休暇と5.のテレワークは、原則時間単位で利用できるようにする必要があります。

ちなみに、2025年4月1日からは、「3歳未満の子を育てる社員のためにテレワークを導入すること」が努力義務化されており、5.のテレワークと混同するかもしれませんが、

5.のテレワークは、「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員が対象で、取り組みは義務(措置の1つとして選択する場合)

となります。

柔軟な働き方を実現するための措置等

なお、措置は2つ以上実施する必要がありますが、

必ずしも会社全体で内容を統一する必要はなく、業務の性質や実施体制に照らして、事業所単位や事業所内のライン単位、職種ごとに決めてもよい

とされています。

制度導入時の注意点は次の通りです。

1)意見聴取

柔軟な働き方を実現するための措置等を講じるに当たって、会社は、

改正法の施行(2025年10月1日)よりも前に、過半数労働組合(ない場合は過半数代表)の意見を聴く義務

を負います。既に社内で導入している制度(テレワークなど)を「柔軟な働き方を実現するための措置等」として選択することは可能ですが、その場合も、職場のニーズを把握するため、過半数労働組合等への意見聴取は必須となっています。

2)個別の周知・意向確認

会社は、選択した制度(以下「対象措置」)について、

社員の子が3歳になるまでの間に、面談等により対象措置の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務

を負います。具体的には、図表3の内容に沿って行います。なお、対象措置の利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。

個別の周知・意向確認

では、これらの制度を導入したときに、実際の職場ではどんな問題が起きるのでしょうか。次章では、現場で想定される課題を挙げ、それぞれの対応策を見ていきます。

3 中小企業における現場の課題とその対応策

1)代替要員がいない! 短時間勤務制度の落とし穴

1.課題

短時間勤務制度を導入した場合、当然ながらその分の労働時間が減ります。1日8時間働いていた社員が6時間勤務になれば、2時間分の仕事を誰かが補う必要があるわけです。しかし、小規模事業者では「代替要員がいない」「残業では補えない」という声も多く聞かれます。

2.対応策

まずは「業務の棚卸しと再分配」から始めましょう。短時間勤務制度を利用する本人が抱えている業務の棚卸しをして、チーム内での再分配を検討します。思い切って「やめる業務」を決めることも必要です。

最近では、短時間・短期間の業務を請け負う「スキマ人材サービス」も普及しています。育児期間中だけ、業務の一部を外部委託するという考え方も現実的です。

あとは、「短時間正社員制度の導入」という方法もあります。代替要員を現行の正社員以外からも募るという考え方です。パート等の処遇を改善し、一定時間の労働で、責任ある業務を担ってもらう仕組みを検討してみましょう。

2)ハラスメントの温床に? 「ズルい」「甘えてる」の空気

1.課題

社員が対象措置を利用することで、そのフォローに回る他の社員などから「また早退か……」「こっちは残業なのに……」など心ない発言がされたり、本人を無視するなどの行為に出たりすることがあります。対象措置を利用した社員が会社に居づらくなるような言動は、

「妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」に該当する恐れ

があります。会社はこのようなハラスメントについて防止措置を講じる義務を負っていますから、上のような空気が生まれる前に、社員を教育する必要があります。

2.対応策

まずは「社員研修」を実施し、「対象措置の利用は権利であり、サポートし合うのが企業文化である」ということを社内に周知しましょう。弁護士やコンサルティング会社などが、ハラスメント防止研修を随時実施しています。短時間のeラーニングでも構わないので、制度導入前に行いましょう。

また、「管理職の意識改革」も大切です。管理職が対象措置の利用に否定的・消極的だと、それが職場全体の空気に影響します。対象措置の利用について、「嫌みを言わない」「制度を利用しやすくする」ことが管理職の責任であると、社長が明確に伝えましょう。

加えて、「相談窓口の整備」についても見直しましょう。会社はハラスメントに関する相談窓口を設置する義務を負っていますが、社内の窓口だけでは対応できる自信がなければ、外部の専門家(弁護士や社労士)への相談窓口も用意しておくと、社員は安心できます。

3)「その制度、私も使えますか?」などの声への対応

1.課題

対象措置の内容を社内に周知した場合、「自分もテレワークを使いたい」「小学生の子どもでも対象ですか?」といった声が、社員から寄せられる可能性があります。ただ、

「柔軟な働き方を実現するための措置等」の対象は、「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員

であり、対象外の社員の声まで聞いていくと、対応しきれない、説明がつかないといった混乱に陥る恐れがあります。また、「〇〇さんは使えて、自分は使えないのはなぜか?」という不公平感にもつながりかねません。

2.対応策

まずは、「対象者や利用要件を明記した社内ルールを整備」するようにしましょう。制度の内容や申請の流れだけでなく、「対象は3歳以上小学校就学前の子を育てる社員」といったように、誰が使えるのかを明確にします。

次に準備したいのは「社員向けQ&A」です。事前に社員から寄せられそうな質問(例:「テレワークって週何回まで?」「事務職でも使える?」「副業中でも使える?」など)を想定し、あらかじめ答えを用意しておくと、混乱を未然に防げます。

こうした一連の取り組みの中で大切なのは、

会社が対応可能な範囲をはっきりさせること

です。例えば、「当社ではテレワーク制度は現在対象外」「短時間勤務制度のみ導入予定」といったように、できること・できないことを明確にします。曖昧な表現を避け、「検討中」よりも「〇年〇月に再検討予定」と記載するほうが誠実です。

4 法改正は「労働力確保のチャンス」

今回の法改正は会社の規模を問わないため、一見「中小企業泣かせ」と思える内容かもしれません。しかし、考え方によっては「柔軟な働き方ができる職場です」とアピールする絶好のチャンスでもあります。子育てや介護を抱える優秀な人材にとって、「働き続けられる会社かどうか」は、採用時の大きな判断基準になっています。

大切なのは、完璧な制度整備ではなく、「まずできることからやってみる」こと。1つの制度を導入すれば、確実に職場の雰囲気や社員の安心感は変わります。中小企業ならではの小回りを利かせて、人に優しい働き方を実現していきましょう。

以上(2025年9月作成)

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画像:Bfinity-Adobe Stock

スケジュール管理を阻む「先延ばし癖」を改善

1 スケジュール管理に悩んでいませんか?

あらゆる仕事には締め切りがあり、スケジュール管理は仕事の基本です。とはいえ、スケジュール管理を苦手とする人は大勢います。スケジュール管理ができない理由として、仕事の見込み時間が甘いなどが考えられますが、「先延ばしにしてしまう」というのも1つです。

産業心理学者が記した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(*)によると、さまざまな調査において、「約95%の人が物事を先延ばしにすることがある」「約4人に1人が先延ばしが慢性的になっており、自分の特徴の1つである」と回答しています。

先延ばし癖は、心理学や行動経済学などの分野でも関心を集めており、

先延ばし癖の改善策の1つとして挙げられるのが、モチベーションのコントロール

です。高いモチベーションを保てれば、物事を先延ばしにすることなく、適切に対応できます。

前述した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」によると、モチベーションを左右するのは、「価値の大きさ」「努力が報われる大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」です。実際、日々の仕事においても、

  • 自分の成長につながるとは思えない(価値が小さい)
  • すぐやらなくても大丈夫(時間に余裕があるので、問題が切実に感じられない)
  • 自分には難し過ぎて解決できない(努力が報われない可能性が大きい)

と感じる仕事は、先延ばしにしてしまう人が多いはずです。

そこで、以降では、「価値の大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」「努力が報われる大きさ」の各要素に注目しながら、先延ばし癖を改善するための行動として

  • あえて先延ばしにする
  • 具体的にイメージする
  • 仕事を小分けにしてみる

を紹介します。

2 あえて先延ばしにする

組織への貢献度や緊急度が高い重要な仕事であっても、あまり自分が得意とすることでない場合、着手する気になれないものです。こうしたケースの改善策として、締め切りが目前に迫っている場合は別ですが、あえて少しだけ先延ばしにし、他の重要度の高い仕事と組み替える方法があります。こうすることで、結局何にも着手できない状態を防ぐことができます。

ただし、組み替える場合は、仕事の優先順位を正しく付けていることが前提です。組織への貢献度や緊急度が低い仕事ばかりに取り組んで達成感を得ることがないようにしましょう。

3 具体的にイメージする

「すぐやらなくても大丈夫」など、時間の余裕がある仕事は先延ばしにしがちです。しかも、余裕があることを言い訳にして、自分を甘やかしてしまいます。

これを避けるには、「週の後半頑張れば間に合うだろうから、前半は違う仕事に取り組もう」とぼんやりと先延ばしするのではなく、何時間先延ばしにするのか、着手しない間にどのような仕事に取り組むのかを、具体的にイメージします。

ある喫煙習慣に関する研究では、被験者に毎日1箱たばこを吸い続けるよう求めたところ、本数を減らす指示をしていないのに、全体的な喫煙量が徐々に減ったという結果があります。これは毎日同じ本数を吸い続けなければならないと自覚したことで、自制心が働くわけです。

何時間先延ばしにし、その間どんな仕事に取り組むのかを具体的にイメージすると、「優先度の低い仕事に取り組んで、無駄な時間を過ごしている場合ではない」と認識することができます。また、先延ばしをしたことで起こるかもしれないトラブルやミスについても具体的にイメージするとよいでしょう。

4 仕事を小分けにしてみる

「自分には難し過ぎて解決できない」など、努力が報われないと諦めを感じる仕事は、先延ばしにしがちです。これを避けるためには、仕事を小分けにして取り組みます。

1つの固まりだと難しく感じる仕事でも、小分けにしてみると、思っていたよりも簡単だったということがあります。また、小分けにして1つずつ終わらせることで、進歩を感じられ、達成感が生まれます。

この際、取り組みやすい課題から少しずつ始めてみるのがコツです。例えば、企画書の作成に着手するなら、「グラフだけでも完成させる」などの視点で取り掛かります。

5 先延ばしが良い効果を生むことも?

先延ばし癖を克服することは簡単ではなく、改善策に取り組んでも劇的にスケジュール管理がうまくいくとは限りません。効果がすぐに表れないと、モチベーションを保つのが難しいと感じるかもしれませんが、諦めてはいけません。

人は年齢を重ねるほど、先延ばしにすることが減るという研究結果があります。これは年齢を重ねて物事の因果関係が理解できるようになることで、若い頃は無意味に感じていたことにも、意味を見いだせるようになるからだと考えられています。

任せられた仕事の中には、なぜ自分が取り組まなければならないのか、その目的を理解するのが難しいものがあるかもしれません。その場合、自分で考えることに加え、上司に相談して、目的やスケジュールを組み立てる際の難所などについて確認しましょう。上司はより高い視点から仕事を捉えているため、気付きを得られるはずです。

また、上司はスケジュール管理を教えるということにとどまらず、部下により多くの経験を積ませるようにします。経験に基づく広い視点は、計画倒れにならないスケジュール管理につながるでしょう。

一方、先延ばしには、悪い効果だけでなく、良い効果もあると説く人もいます。例えば、アイデアを出すといったような、創造性を発揮する類いの仕事の場合、先延ばしによってアイデアの質を高めることができるとの研究もあるようです。

しかし、単に先延ばしをするのではなく、「3時間後に、アイデア出しの時間をつくる」といったように、課題を認識した上で、一旦その仕事から離れて、息抜きをするなど他のことをするのが効果的だとされています。

【参考文献】

(*)「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(ピアーズ・スティール(著)、池村千秋(訳)、阪急コミュニケーションズ、2012年7月)

「予想どおりに不合理 行動経済学が明かす『あなたがそれを選ぶわけ』」(ハヤカワ文庫 NF)(ダン・アリエリー(著)、熊谷淳子(訳)、早川書房、2013年8月)

「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューオンライン(2017年10月31日)」(ダイヤモンド社、2017年10月)

以上(2025年8月更新)

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画像:mayucolor-Adobe Stock

製造業DXの現在地~ DXツールで在庫管理を“なくす”?

1 製造業DX、始めてみませんか?

DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を駆使した業務プロセスや事業内容の改革)という言葉は、今や日本中の企業に浸透しています。とはいえ、蓋を開けてみると、DXの必要性は理解しつつも、取り組みがなかなか進んでいない中小企業が多いのが実情……。

特に製造業の場合、既存の製造プロセスに依存しがちだったり、長い時間の中で保守的な企業文化が形成されていたりで、なかなかDXに踏み切れていない企業が少なくありません。とはいえ、一口にDXと言っても、その程度や種類は様々。いきなり大掛かりな取り組みを考えるのではなく、自社にできる簡単なことからチャレンジしてみるとよいでしょう。

この記事では、DXを図りたいけれど図れない、そんな中小製造業の経営者のために、

高齢の従業員を多く抱える中、「簡単さ・触りやすさ」を重視した、誰もが扱えるDXツールを開発した企業と、そのツールを導入してDX化に成功した製造業の事例を紹介

します。また、第3章では、製造業のDXの取り組み状況や、製造業が導入できそうなDXツールの例を紹介しているので、併せてご確認ください。

2 実家の事業のために作ったDXツールが全国へ~「zaico」

この記事でご紹介するのは、山形県米沢市に本社を構えるZAICOが提供するサービス「zaico」。その名の通り、在庫管理のアプリケーションです。

zaico

zaicoは、スマホで二次元コードを読み込んだり、はかりに物品を載せたりするだけで在庫管理ができるサービスで、累計18万社以上(2025年5月時点)が導入しました。しかし、ZAICOの目標は、ただ単に企業の在庫管理をDX化することではありません。今回お話を聞いた広報チームの皆さんは、

在庫管理を効率化するのではなく、在庫管理を“なくす”のが、zaicoの使命

と、熱い想いを語ってくれました。

サービス開発のきっかけ、製造業にzaicoを導入する手順やメリット、そして、中小製造業のDX化にかける熱い想いとは……!? ZAICOが描く未来の展望を追います。

1)zaicoの始まり

zaicoのサービスは、代表取締役・田村壽英(たむら としひで)氏の実家の家業である、山形県米沢市の「田村倉庫」から始まりました。

家業は当時2億円の借金を抱えており、厳しい経営状況でした。エンジニア出身である田村氏が、何かできることは無いかと模索する中で、倉庫内の在庫管理を、熟練メンバーの経験と勘に依存した、昔ながらの方法で続けていることが問題点だと分かりました。

田村氏はそこで、

「在庫管理をデジタル化して、困っている父親の助けになりたい」

「作業が楽になれば、従業員のおばちゃんも喜んでくれるはず!」

との思いで、エクセルなどの既存ソフトの導入を検討し始めます。しかし、今度は「デジタル管理に慣れていない高齢の従業員たちが、複雑すぎて使いこなせない」という問題が出てきました。

そんなとき、田村氏がふと休憩時間に彼らを見ると、従業員たちは皆夢中でスマホを眺めています。

「スマホで簡単に使えるアプリであれば、皆が使ってくれるのでは……?」

そう考えた田村氏は、

自社倉庫の在庫管理業務を自作のシステムで改善すると同時に、その在庫管理システムを顧客にも無償で提供することで顧客を増やす

ために、アプリの開発に着手しました。

スマート在庫管理

上の画像は、現在のzaicoの元になったアプリ「スマート在庫管理」です。当初はボタン4つだけのシンプルな作りで、誰にとっても分かりやすく、簡単なものになっており、田村倉庫の従業員たちは「これなら触ってみてもよいかも」と、アプリの使用を始めてくれたそうです。

田村氏はそこで、

「簡単さは価値である」

という、現在のZAICOが最も大切にしている価値観に出合いました。今でも同社では、「誰でも触ることができて、シンプルで簡単そうなUI、デザイン」「便利な機能をいかにシンプルに使えるか」という点にこだわって、zaicoサービスの開発が進められているそうです。

つまり、zaicoはその始まりから、

DX化にためらいがちな人々のために作られたサービス

なのです。次は、実際にzaicoを導入した中小製造業の事例を紹介します。

2)zaicoを導入して何が変わった? ~とある製造業の事例

zaicoを導入して何が変わった?

電子機器の製造を主な事業とする、とある製造業の現場では、元々在庫を紙やExcelで管理していたため、ヒューマンエラーが多発していました。その企業は、「正確に在庫管理をしたい!」という理由からzaicoの導入を決めたのですが、いざDX化をしてみると、

  • 出庫ミス(誤った部品の出庫など)が明らかに減少
  • 大勢で2日間かけて行っていた棚卸しが少人数・1日で終わるように

など、現場では「正確な在庫管理」という目標以上の効果が表れたそうです。

また、棚卸し時は製造ラインを止めなければならないのですが、zaicoの導入により、

棚卸しのために製造ラインを止める時間が短縮でき、顧客満足度の向上や利益の向上が見込めるようになった

とのことです。

ちなみに、ZAICOが2025年2月に、在庫管理DXが進んでいる企業の在庫管理業務担当者向けに行った調査(複数回答)では、在庫管理のデジタル化によって、

  • 「月間の残業時間が減った」と答えた人が計73.1%
  • 「突発的な残業が削減された」と答えた人が45.2%
  • 「有給休暇の取得日数が増えた」と答えた人が37.4%

いました。

ZAICOではサービスの導入に当たり、在庫管理の課題の洗い出しから始め、その後トライアル期間を経て、本格的な導入へと至ります。「導入したいけれど、何から始めればよいか分からない」「紙で管理していたものをデータ化する方法が分からない」といった初期段階から円滑な運用まで、伴走しながらDX化を進めていくこともあるそうです。

3)製造業の未来を支えるZAICOの熱い想い

ZAICOの熱い想い

実は、ZAICO代表の田村氏は、zaicoのことを語る際に、「DX」という言葉を使わないそうです。なぜなら彼の目標は、ずばり、

「在庫管理業務を”効率化”」するのではなく、「在庫管理業務を“なくす”」

ことだから! ZAICOは自社が提供するサービスで、工場や倉庫で“モノの出入り”が自動で記録されるようになる仕組み、例えば部品の在庫を正確に管理・把握し、受発注なども自動化された世界を実現することで、

製造業を営む方々が本業である「ものづくり」に集中し、さらなるイノベーションが生まれ、技術が磨かれる未来

を目指しています。

最後に、ZAICOから中小製造業の方への、熱いメッセージを紹介します。

「私たちはこれまで大企業しか持てなかったような、高度な需要予測や生産計画の情報を、小さな町工場でも活用できるようになる社会を目指したい。また、ビジネスの競争条件がフェアになり、日本経済がより活発化するような仕組みをつくっていきたいと思っています。私たちが目指すのは、“中小企業が主役になれる社会”です!」

3 製造業におけるDXの現況は?

2024年10月から11月にかけて、中小企業基盤整備機構(中小機構)が実施したアンケートによると、

2024年時点でDXに取り組んでいる企業は、中小企業全体で18.5%、製造業で20.2%

となっています。

2024年時点でDXに取り組んでいる企業

図表1のように、「取組みを検討している」「必要だと思うが取組めていない」と答えた企業が、過半数を占めている状況です。一方で、

DXに取り組んだ中小企業(製造業以外も含む)の81.6%(複数回答)は、何らかの成果を上げている

という結果も出ていて、具体的な成果には、

  • 業務の自動化、効率化(56.3%)
  • コストの削減、生産性の向上(55.0%)
  • 働き方改革、多様な働き方の実現(37.7%)
  • データの一元化、データに基づく意思決定(36.4%)

などが挙げられています。

また、製造業におけるDXツールと、その効果についても簡単に紹介します。

DXツール

図表2のように、ペーパーレスからAIを使った業務効率化まで、製造業の現場で導入できそうなDXツールは多岐にわたります。自社で有効活用できそうなツールについては、導入を検討してみるのも一手です。

各金融機関などでもDXに関する相談を受け付けている他、自治体も補助金制度などを設けている場合があります。詳細は各金融機関・団体にお問い合わせください。

以上(2025年8月作成)

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画像:株式会社ZAICO

郵船クルーズ34年ぶりの新造船 豪華客船「飛鳥Ⅲ」乗船レポート!

■2025年7月8日、中突堤旅客ターミナル(兵庫県神戸市)にて撮影■

飛鳥III

当行は、郵船クルーズ株式会社およびアンカー・シップ・パートナーズ株式会社と連携し、令和7年7月20日に就航したクルーズ客船「飛鳥Ⅲ」の新企画「ASUKAⅢ meets 47 都道府県」に参画いたしました。
今回は、普段なかなか乗船する事が出来ない豪華客船の船内を見学させていただきました!

「ASUKAⅢ meets 47都道府県」

クルーズ客船「飛鳥Ⅲ」のミッドシップスイート 47 室を対象とし、各都道府県 の地域金融機関等が 47 都道府県それぞれの特色を生かした空間をプロデュースするもの。
当行は「徳島県部屋」の空間プロデュースとして徳島県内取引先事業者等と連携し、徳島県の伝統工芸品や特産品を設え、富裕層を中心としたクルーズ乗船者に徳島県の魅力を発信し、飛鳥ⅢのECサイト等での販路拡大も図ってまいります。

いざ乗船! 新築の建物のような香りに緊張しつつも、クルーの方々の温かなお出迎えに心がほどけました。

乗船の様子

船内に一歩足を踏みいれた瞬間、ふかふかのカーペットと高級ホテルのような雰囲気に包まれました。

■アスカプラザ■
飛鳥Ⅲのメインアトリウム。3層吹き抜けで自然をモチーフにして落ち着いた空間が特徴

メインアトリウム

■アンカーバー■
「アスカプラザ」に隣接するバー。日本国内から厳選した銘酒が取り揃えられている。船内には、他にも多種多様なコンセプトのバー&ラウンジがそろっている。

アンカーバー

船内のお風呂。併設のサウナからの眺望も格別。出航すれば、壮大な海の景色を見ながら心も身体もスッキリすることが出来そうでした。

■グランドスパ■
12デッキ船主に位置。浴槽から前面展望を楽しむことが出来る

グランドスパ

■露天風呂■

露天風呂

いよいよ徳島部屋です! ひときわ目をひくのは、大谷焼の立派な器。馴染みのウェルカムスイーツやドリンクからも、船上にいながら徳島の風情を感じることができました。

■徳島部屋■
(部屋のテーマ)藍のふるさと~阿波藍の魅力
(設置場所)ミッドシップスイート(客室番号 1044)

徳島部屋

今回の貴重な乗船体験は、日常からほんの少し離れ、心を潤す贅沢な時間でした!もし、飛鳥Ⅲを見かけることがあれば、ただ通りすぎる景色ではなく、ぜひ、「次の旅のはじまり」として目を留めてみてください。
次は、皆さまご自身がこの感動を味わっていただけますよう、心よりおすすめ申し上げます。

■本件の担当者 宮本 波太郎さんにコメントをもらいました!■

宮本さんコメント

部屋内画像

飛鳥Ⅲ 船舶データ

■船籍港・・・・・・・・日本/横浜
■全長・全幅・・・・・・230m×29.8m
■総トン数・・・・・・・52,265GT
■喫水・・・・・・・・・6.7m
■航海速力・・・・・・・最高20ノット
■横揺れ減揺装置・・・・フィン・スタビライザー
■乗客数・・・・・・・・740名
■乗り組員数・・・・・・約470名
■客室数・・・・・・・・381室(全室バルコニー付き)

以上(2025年7月作成)

画像:徳島大正銀行 泉 はる香

徳島総合流通センター(徳島県徳島市川内町)にて「夕暮市場IN徳島総合流通センター」が開催されました!

5/28(水)徳島総合流通センター(徳島県徳島市川内町)にて「夕暮市場IN徳島総合流通センター」が開催されました。
当行も同センターの組合員であることから協力企業に参画し、ブース出店を行いました。本イベントは、同センターのPRを目的に開催されましたが、想像を上回るお客さまが来場され、イベント中は終始会場内が笑顔であふれていました。

夕暮市場写真1

夕暮市場写真2

夕暮市場写真3

夕暮市場が2023年にスタートした際のビジョンの一つ、「移動可能な商店街」は、阿南市役所での毎月開催の他、各地で展開されています。ぜひ、夕暮市場のinstagramをフォローし、最新情報をキャッチしてください!

以上(2025年7月作成)

【オーナー企業の事業承継(1)】 事業承継の検討手順と経営の承継

1 すぐにでも手を付くべき事業承継対策

多くの中小企業では、オーナーの高齢化と後継者不在から事業承継が進んでいません。しかし、だからといって何も事業承継対策を講じずにいると、人生を懸けて築き上げた自分の会社の存続が危うくなってしまいます。そうならないためにも、なるべく早く事業承継について考え、対策を実行していかなければなりません。まずは、

中小企業のオーナーが事業承継について検討する際の手順と、後継者の選定など「経営の承継」

について注意すべきポイントを押さえておきましょう。

2 事業承継の検討手順

1)事業承継のスタートラインに立つ

事業承継ニーズの発生要因はさまざまですが、昨今の経営環境を考えると、まず事業自体の継続ができるかを判断しなければなりません。現オーナーが事業を継続できると考えても、後継者の目から見るとその考えに疑問を感じる場合もあるでしょう。つまり、事業自体の継続性が安定していること、それに同意する後継者が存在することが事業承継を検討するスタートラインです。

2)現状分析と問題点の把握

事業承継の悩みを抱えるオーナーは非常に多いのですが、そのような人でも自分の会社の価値を知らない人がたくさんいます。検討に着手する場合の第一手として、自社そしてオーナー自身の現状を把握することから始めましょう。具体的なチェックポイントは

  • 自社の現状:「自社株式」の評価、「株主構成」の問題点、金融機関との取引状況など
  • オーナーの資産状況:「概算相続税額」の把握、「法定相続人」の把握など
  • 後継者:「後継者候補」のリストアップ、「後継者の有無」の確認など

です。

3)後継者の選定と対策の検討開始時期

事業承継で大切なのは、「時間を味方につける」ことです。検討の着手は早ければ早いほど対策の選択肢を広げられますし、時間をかけて対策を実行することで、事業承継に関わる人的、金銭的コストを節約できるケースが少なくありません。「着眼大局、着手小局」の心構えで、まずできることから、なるべく早く取り組みましょう。

3 誰に事業を引き継がせるか

次世代のオーナーとなる後継者を決めるためには、会社の内部・外部を問わず、「誰が最もふさわしいか」という最高レベルの経営判断が必要です。その判断に関わる人は社内でもごく限られた範囲にならざるを得ないでしょう。事業承継のパターンとしては次の3つが考えられます。

1)オーナー自身の子供などへの親族内承継

オーナーが後継者の候補として真っ先に考え、また、比較的周囲の納得も得られやすいのは親族、中でも子供です。この場合にポイントとなるのは、

本人が「本気で経営を引き継ぐ気持ちがあるか」と「オーナーに向いているか」

です。そのため、近くて遠い親子関係の中で、後継者として適任かどうかの冷静な判断が求められます。

2)従業員などへの親族外承継(MBO、LBOなど)

親族内に候補がいない場合は、従業員の中から、例えば番頭格のような人に事業を承継させるのも1つの方法です。今まで共に会社の運営をしてきた実績があり、会社の事情に明るくスムーズに業務を進められるため安心感があります。この場合にポイントとなるのは、

  • 本人の意向に加えて「他の役員・従業員、取引先など利害関係者の同意が得られるか」
  • MBO、LBOなどの方法で会社の所有権を譲るため、「経営権の確保のために自社株を引き受けるだけの資力をつくれるか」

です。なお、MBOとは経営陣が自ら会社の株式・事業などをその所有者から買収することをいい、LBOとは借入金を活用した企業・事業買収のことをいいます。

3)第三者への承継

上記のような適任者がいないからといって、従業員の雇用維持や取引先関係を考えると、簡単に事業を停止するわけにはいきません。このような場合はM&A(合併、買収など)の方法によって会社を第三者に売却して経営を任せることも選択肢の1つです。その際にポイントとなるのは、

「良い買い手が見つかるか」と「売却価格に折り合いがつくか」、さらには「従業員の雇用が継続されるか」

です。

4 後継者を育てる

1)後継者をどこで育てるか

1.社内で育てる

一般的に、社内で後継者を育てるのは難しいようです。例えば、身内であるが故に甘やかしてしまったり、逆に厳しくしてしまったりします。また、将来オーナーになる予定の人に対して厳しく指導できる従業員は少ないでしょう。こうしたこともあり、社内で後継者を育てることは、社内が混乱する原因にもなりかねません。ただし、社外で人に使われる立場では習得できない知識、経験を積むことができるという利点もあります。自社内でオーナーの背中を見ながらマネジメントを覚える時間も必要です。この場合、オーナーは経営者としてのつらい側面ばかりではなく、やりがいや楽しみといった側面を見せることが、後継者教育の第一歩かもしれません。

2.社外で育てる

大企業と中小企業では、組織における個人がもたらす影響のウエートが大きく異なります。社外で育てるのであれば、自社と同規模の会社、それもなるべく厳しいとの定評がある会社が望ましいでしょう。例えば、社歴があり、統制(ガバナンス)が取れていると考えられる会社などです。ただ、このような条件の会社でも、関連会社や取引先などでは、ちやほやされて十分な教育を受けられない可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。

2)オーナーの役割

1.時間をかけて育てる

オーナーは仕入・製造・販売といった業務以外にも、人事労務、税務会計などの管理業務まで幅広く、それが正しいかどうかを判断する力が要求されます。また、会社の全体像を把握するためには、会社のいろいろな部署を経験することも必要かもしれません。この時間を確保するためにも、後継者をできるだけ早く決めて、時間をかけて後継者教育を行うことが重要です。

2.教育係(メンター)を付ける

後継者の教育には、従業員が遠慮して十分な経験が積めないといった事態を避けるため、教育係を明確に指名し、早い時期から経営者としての仕事の考え方を学ばせることが重要です。よく事業承継後では、後継者と先代からの幹部社員との人間関係を良好に保つことが難しいといわれます。そのため、幹部社員を後継者の教育係にすることで、人間関係がうまくいくこともあるようです。

3)後継者の心構え

1.総合的な「人間力」を磨く

経営には高校、大学などで身に付ける一般教養に加えて、何よりも経営者としての「人間力」が要求されます。この「人間力」には、思いやり、包容力、行動力、統率力、忍耐力、決断力、バイタリティーなどさまざまな要素が含まれ、人間的魅力と言い換えることもできるでしょう。

2.先代オーナーの苦労を知る

先代オーナーの存在、また、苦労があったからこそ、現在の自分があるという謙虚さを持ち、先代オーナーと苦労を共にしてきた従業員を尊敬する気持ちを忘れないようにしましょう。

3.オーナー仲間をつくる

オーナーは責任も重く、社内では孤独になりがちです。できれば同じ立場の(2代目)オーナー仲間をつくり、悩みを相談したり、社長としての心得などについてのアドバイスをもらえたりするような環境をつくりましょう。たとえ問題が解決されなくても、同じように経営に悩む仲間の存在自体が孤独感を和らげてくれます。そのためには、オーナー仲間の勉強会や懇親会などの集まりに積極的に参加するとよいでしょう。

5 後継者へ引き継ぎが必要な2つの移転

1)「代表の座(仕事)の移転」

「代表の座(仕事)の移転」とは、代表取締役としての地位を譲ることです。とかく後継者は独自色を出そうと、先代とは違う新しい施策を実施したがる傾向があります。これが社内外に混乱を生む要因となってしまいます。こうした混乱を避けるためには先代オーナーと後継者が経営者として並走できる期間を設けることが必要です。後継者を先代オーナーがフォローすることにより、従業員も安心して働けて、取引先との付き合いもうまく引き継ぐことができます。このためには、やはりなるべく早く事業承継に着手することが必要です。先代オーナーが高齢になり機動的に動けなくなってからでは、しっかりしたフォローができません。ましてや事業承継に着手する前にオーナーが突然の事故で亡くなってしまったり、認知症を発症してしまったりすると、社内の重要な意思決定が行われなくなり、最悪の場合は事業を継続することができなくなる可能性もあります。

2)「経営権(自社株など)の移転」

安定した経営のためには後継者が単独で会社の重要事項を決定できるよう2分の1以上、できれば3分の2以上の議決権(自社株)を集約しておくことが大切です。また、オーナーの土地、建物などの個人資産を会社の事業で利用している場合は、こういった事業用資産も後継者に承継しておきたいところです。加えて、子供が複数いる場合には、いわゆる「争続」対策のために、自社株や事業用資産以外の財産を相続することとなる「後継者以外の子供」と「後継者」との間で、相続時の分割バランスを取る配慮も必要になります。後継者への資産の移転には主に次の3つの方法があり、それぞれのケースで課される税金の種類も異なります。

  • 生前贈与→贈与税
  • 売買→譲渡所得税・住民税
  • 相続→相続税

そのため、事業承継を検討する際には、そのコストともいえる税金のことも知っておかなくてはいけません。相続税の最高税率は55%であり、優良な中小企業の株式の評価額は思っている以上に高額となっていることも多いため、何の対策も取らずに相続すると相続税の負担が重くなってしまいます。「相続が3代続くと財産がなくなる」とまでいわれていますが、早めの対策を行うことで、より多くの財産を次世代に残すことも可能になります。相続税が会社や後継者の活動の制約にならないように、専門家と相談しながら早めの対策を行いましょう。自社株などの移転の検討に当たっての留意点は次の通りです。

1.自社株の評価が低いときに経営権を移転する

自社株の評価額は、その時々の会社の業績や過去からの利益の蓄積により大きく左右されます。そのため、

評価額がなるべく低い時期に経営権を移転すること

がポイントとなります。

例えば、オーナーの引退に伴い退職金を支給する場合には退職金相当額の利益が圧縮されるため、通常、株価は低くなり、自社株を後継者に移す良い機会といえます。

2.相続で経営権を移転する場合には納税資金を確保する

もう1つの留意点は、将来オーナーに相続が発生した場合の納税資金の問題です。相続税は原則として現金で一括納付する必要がありますが、中小企業の自社株については原則として換金性がないことから、

相続税の納税資金をどのように確保するか

がポイントです。納税資金が不足する場合、会社が自社株を買い取ることや、物納、延納なども検討する必要があります。

6 事業承継がうまく進まないときのためのアドバイス

1)立場の違いからくるギャップ「オーナーの思い」と「後継者の考え」

実際に、事業承継に着手しても、ささいなことでオーナーと後継者との意見がぶつかってしまい、承継がうまく進まないケースもあるようです。

オーナーの思いには、

  • 自分が築き上げた会社の経営を、経営者としては未熟な後継者に任せるのはまだまだ不安!
  • 自分と同じような苦労を経験していないのに、口だけ達者で生意気!

といったものが、一方、後継者の考えには、

  • 今までの環境で安定した仕事をしており、あえてオーナーのような苦労をしたくない!
  • 初めての経験であり、オーナーとして会社を経営していく自信がない!
  • 経営を任すとは言っても、いろいろな場面で先代オーナーが口出ししそうで面倒!

といったものがギャップの原因になるようです。両者のさまざまなギャップを解消するためには、それぞれの役割の違いを認識して、お互いに尊重し合うことが重要です。

2)ギャップを解消するためには?

オーナーに求められることは、

  • 後継者がひとまず経営に専念できるよう社内外の環境を整備する
  • すでに認識している会社の未解決問題をそのままにして引き継がない
  • 特にオーナーと同世代の兄弟姉妹との親族争いの火種を消し切る
  • うるさく口は出さないが、目は離さず必要なときは助言する

ことです。一方、後継者に求められることには、

  • 独自色を出すことに固執せず、先代・先々代オーナーの苦労を知り、これまでつくり上げてきたものに敬意を表する
  • 1人で突っ走らず、重要な問題、迷った問題は先代オーナー・幹部社員に相談する

ことが必要になってきます。

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock