【規程・文例集】改正育児・介護休業法に対応した「育児休業等に関する規程」のひな型

1 制度の対象となる子の年齢などに注意

育児・介護休業法では、社員の育児をサポートするための制度が多岐にわたるため、育児休業等に関する規程によって整理することが欠かせません。2025年4月1日施行(一部は10月1日施行)の改正育児・介護休業法では、一部の制度について「対象となる子の年齢が引き上げられる」などの改正があるため、忘れずに規程に落とし込んでおきましょう。

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次章で、図表の法改正の内容を反映した「育児休業等に関する規程」のひな型を紹介します。なお、法改正の内容について詳しく知りたい場合、次のコンテンツをご確認ください。

2 育児休業等に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、「短時間勤務が困難な場合の代替措置」「柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月1日施行)」については、会社ごとに運用が異なる場合がありますが、このひな型では

  • (3歳未満の子を養育する社員に対し)短時間勤務が困難な場合の代替措置として、「育児時差出勤(第12条)」「テレワーク(第13条)」を実施する
  • (3歳以上小学校就学前の子を養育する社員に対し)柔軟な働き方を実現するための措置等として、「育児時差出勤(12条)」「テレワーク(13条)」を実施する

という運用にしています。

また、規程の中に出てくる「社内様式(育児休業等申出書など)」については、こちらからエクセル形式でダウンロードできます。必要に応じてご活用ください。

こちらからダウンロード

【育児休業等に関する規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、従業員の育児休業または出生時育児休業(以下「育児休業等」)、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務などに関する取り扱いについて定めるものである。本規程に定めのない事項は、育児・介護休業法その他の関係法令(以下「法令」)による。

第2条(育児休業の対象者など)

1)1歳に満たない子と同居し、養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子の育児のための休業を希望する場合、本規程で定めるところにより育児休業を取得することができる。期間を定めて雇用される従業員(以下「期間契約従業員」)にあっては、申出時点において、次に該当する場合に限り育児休業を取得することができる。

子が1歳6カ月(第5項の申し出にあっては2歳)に達する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。

2)第1項、第3項、第4項、第5項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)で定めた次の従業員の育児休業は認めない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 申出日から1年以内(第4項、第5項の申し出にあっては6カ月以内)に雇用関係が終了することが明らかな従業員。
  3. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)同一の子について、配偶者が従業員と同じ日からまたは従業員より先に育児休業もしくは出生時育児休業を開始している場合、従業員は子が1歳2カ月に達するまでの間、1年を限度として、育児休業を取得することができる。従業員が出生日以後の産前・産後休業を取得した場合は、その期間と育児休業期間および出生時育児休業期間を合わせて1年を限度とする。

4)次の全てに該当する従業員は、子が1歳6カ月に達するまでの間で必要な日数の育児休業を取得することができる。なお、取得開始日は原則として子の1歳到達日の翌日(前項に基づく育児休業の場合は、当該休業終了予定日の翌日)とするが、従業員の配偶者が子の1歳6カ月に達するまでの間に育児休業を取得する場合については、当該育児休業終了予定日の翌日以前の日を開始日とすることができるものとする。

  1. 従業員または配偶者が原則として子が1歳に達する日(子の1歳の誕生日の前日をいう)に育児休業を取得していること。
  2. 次のいずれかの事情があること。

    a.保育所等に入所を希望しているが、入所できない場合。

    b.従業員の配偶者であって育児休業の対象となる子の親であり、1歳以降育児に当たる予定であった者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合。

  3. 当該子の1歳到達日後の期間において、本項における育児休業をしたことがないこと。

5)次の全てに該当する従業員は、子が2歳に達するまでの間で必要な日数の育児休業を取得することができる。なお、取得開始日は原則として子の1歳6カ月到達日の翌日とするが、従業員の配偶者が子の2歳に達するまでの間に育児休業を取得する場合については、当該育児休業終了予定日の翌日以前の日を開始日とすることができるものとする。

  1. 従業員または配偶者が原則として子が1歳6カ月に達する日(子の1歳の誕生日の6カ月後における応当日の前日をいう)に育児休業を取得していること。
  2. 次のいずれかの事情があること。

    a.保育所等に入所を希望しているが、入所できない場合。

    b.従業員の配偶者であって育児休業の対象となる子の親であり、1歳6カ月以降育児に当たる予定であった者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合。

  3. 当該子の1歳6カ月到達日後の期間において、本項における育児休業をしたことがないこと。

6)育児休業(第4項および第5項に基づく育児休業を除く)は、養育する子が1歳に達する日までの期間内に、2回まで分割して取得することができる。

7)育児休業の期間については、基本給および諸手当、その他の月ごとに支払われる賃金は支給しない。

8)賞与の算定対象期間に育児休業をした期間が含まれる場合には、当該期間を算定対象期間から除いて計算する。

9)育児休業の期間中の定期昇給は行わないものとし、復職後の昇給において休業前の勤務実績を加味し調整する。

10)退職金の算定に当たっては、育児休業をした期間を勤務したものとして勤続年数を計算する。

第3条(出生時育児休業の対象者など)

1)産後休業をしておらず、出生日または出産予定日のいずれか遅いほうから8週間以内の子と同居し、養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子の育児のための休業を希望する場合、本規程で定めるところにより出生時育児休業を取得することができる。期間契約従業員にあっては、申出時点において、次に該当する場合に限り出生時育児休業を取得することができる。

子の出産日から起算して8週間を経過する日の翌日(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日)から6カ月を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。

2)第1項、第3項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)で定めた次の従業員の出生時育児休業は認めない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 申出日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員。
  3. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)従業員は子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出生の日から当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日まで、出産予定日後に当該子が出生した場合は当該出産予定日から当該出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで)の間、28日を限度として、出生時育児休業を取得することができる。

4)出生時育児休業は、2回まで分割して取得することができる。

5)第2条第7項から第10項の規定は、出生時育児休業の場合について準用する。

第4条(育児休業等の申し出の手続きなど)

1)育児休業等の取得を希望する従業員は、育児休業等を開始しようとする日(以下「育児休業等開始予定日」)の1カ月前(第2条第4項および第5項に基づく育児休業または出生時育児休業の場合は2週間前)までに、「社内様式1 育児休業等申出書」を総務部に提出しなければならない。なお、期間契約従業員が育児休業等の取得中に労働契約を更新することになり、引き続き育児休業等の取得を希望する場合は、更新された労働契約期間の初日を育児休業等開始予定日として、「社内様式1 育児休業等申出書」を総務部に提出するものとする。

2)育児休業の申し出は、次のいずれかに該当する場合を除き、一子につき1回限り(第2条第1項に基づく育児休業を分割取得する場合は2回まで)とする。

  1. 第2条第1項に基づく育児休業を取得した従業員が第2条第4項および第5項に基づく育児休業の申し出をしようとする場合、または本条第1項後段の申し出をしようとする場合。
  2. 第2条第4項に基づく育児休業を取得した従業員が第2条第5項に基づく育児休業の申し出をしようとする場合、または本条第1項後段の申し出をしようとする場合。
  3. 配偶者の死亡など法令で定める特別の事情がある場合。

3)出生時育児休業に関する申し出は一子につき2回まで分割できる。ただし、2回に分割する場合は2回分まとめて申し出ることとし、まとめて申し出なかった場合は後の申し出を拒むことがある。なお、出生時育児休業を取得した場合であっても要件に該当すれば育児休業を別途取得することができるものとする。

4)会社は、「社内様式1 育児休業等申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)「社内様式1 育児休業等申出書」が提出されたときは、会社は速やかに当該申出書を提出した従業員(以下「育児休業等の申出者」)に対し、「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を交付する。

6)申出日の後に、申し出に関わる子が出生したときは、育児休業等の申出者は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

第5条(育児休業等の申し出の撤回など)

1)育児休業等の申出者は、育児休業等開始予定日の前日までに「社内様式4 育児休業等撤回届」を総務部に提出し、育児休業等の申し出を撤回することができる。

2)「社内様式4 育児休業等撤回届」が提出されたときは、会社は速やかに当該届を提出した従業員に「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を再度交付する。

3)育児休業等の申し出を撤回した従業員は、当該子に対する育児休業等を取得したものとみなす。ただし、第2条1項に基づく育児休業の申し出を撤回した場合については、第2条第4項および第5項に基づく育児休業の申し出をすることができる。また、第2条第4項に基づく育児休業の申し出を撤回した場合についても、第2条第5項に基づく育児休業の申し出をすることができる。

4)第2条第4項および第5項に定める育児休業の延長の申し出を撤回した従業員は、法令で定める特別な事情がない限り、再度申し出をすることができない。

5)育児休業等開始予定日の前日までに、子の死亡などにより育児休業等の申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合、育児休業等の申し出はされなかったものとみなす。この場合において、育児休業等の申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第6条(育児休業等の期間など)

1)育児休業等の期間は、原則として、「社内様式1 育児休業等申出書」に記載された期間とする。

2)前項にかかわらず、会社は、法令の定めるところにより育児休業等開始予定日の指定を行うことができる。

3)従業員は、育児休業等開始予定日の1週間前までに「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」を総務部に提出し、育児休業等開始予定日を繰り上げることができる。また、育児休業等を終了しようとする日(以下「育児休業等終了予定日」)の1カ月前(第2条第4項および第5項に基づく育児休業または出生時育児休業を取得している場合は2週間前)までに「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」を総務部に提出し、育児休業等終了予定日を繰り下げることができる。育児休業等開始予定日の繰り上げ変更および育児休業等終了予定日の繰り下げ変更は、同一の子について原則として1回に限り行うことができるが、第2条第4項および第5項に基づく育児休業の場合には、第2条第1項に基づく育児休業とは別に、子が1歳から1歳6カ月に達するまでの期間内で1回、子が1歳6カ月から2歳に達するまでの期間内で1回、育児休業等終了予定日の繰り下げ変更を行うことができる。

4)「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」が提出されたときは、会社は速やかに当該申出書を提出した従業員に「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を再度交付する。

5)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児休業等は終了するものとする。

  1. 子の死亡など育児休業等に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 育児休業等の申出者について、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業等が始まった場合

    産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業等の開始日の前日。

  3. 育児休業(第2条第3項に基づく育児休業を除く)において、育児休業に関わる子が1歳に達した場合など

    当該子が1歳に達した日(第2条第4項に基づく育児休業の場合は、当該子が1歳6カ月に達した日。第2条第5項に基づく育児休業の場合は、当該子が2歳に達した日)。

  4. 第2条第3項に基づく育児休業において、出生日以後の産前・産後休業期間と育児休業期間(出生時育児休業期間を含む)との合計が1年に達した場合

    当該1年に達した日。

  5. 出生時育児休業において、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日を経過した場合など

    8週間を経過した日の翌日(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出生の日から当該出産予定日から起算して8週間を経過した日の翌日、出産予定日後に当該子が出生した場合は当該出産予定日から当該出生の日から起算して8週間を経過した日の翌日)。

  6. 出生時育児休業において、出生時育児休業期間が28日に達した場合

    当該28日に達した日。

6)前項各号の事由が生じた場合には、育児休業等の申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第7条(子の看護等休暇)

1)小学3年生修了までの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)は、当該子の看病、予防接種・健康診断、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式・卒園式等の学校行事を理由として、当該子が1人の場合は1年間につき5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として、子の看護等休暇を取得することができる。この場合の1年間とは、4月1日から翌年3月31日までの期間とする。

2)前項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員の子の看護等休暇は認めない。

1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)子の看護等休暇は、1日単位または1時間単位で取得することができる。なお、1時間単位の場合、始業時刻から終業時刻の間で連続または断続して取得することができる。

4)子の看護等休暇を申し出る従業員は、原則として、事前に「社内様式6 子の看護等休暇申出書」を総務部に提出するものとする。

5)会社は、「社内様式6 子の看護等休暇申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

6)子の看護等休暇を取得した時間については賃金を支給しない。

第8条(所定外労働の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、所定労働時間を超えて労働をさせることはない。

2)前項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員の所定外労働は制限しない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)所定外労働の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間(以下「制限期間」)について、制限を開始しようとする日(以下「制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を総務部に提出するものとする。この場合において、制限期間は、第9条に定める時間外労働の制限期間と重複しないようにする。

4)会社は、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)所定外労働の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を提出した従業員(以下「所定外労働制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより所定外労働制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、所定外労働制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に制限期間は終了するものとする。

  1. 子の死亡など所定外労働の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 所定外労働の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 所定外労働制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、所定外労働制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第9条(時間外労働の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員、入社1年未満の従業員、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員を除く)が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、1カ月について24時間、1年について150時間を超えて時間外労働をさせることはない。

2)時間外労働の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間(以下「時間外労働の制限期間」)について、制限を開始しようとする日(以下「時間外労働の制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、時間外労働の制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を総務部に提出するものとする。この場合において、時間外労働の制限期間は、第8条に定める所定外労働の制限期間と重複しないようにする。

3)会社は、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

4)時間外労働の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を提出した従業員(以下「時間外労働の制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

5)時間外労働の制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより時間外労働の制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、時間外労働の制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

6)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に時間外労働の制限は終了するものとする。

  1. 子の死亡など時間外労働の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 時間外労働の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 時間外労働の制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

7)前項各号の事由が生じた場合には、時間外労働の制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第10条(深夜業の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、午後10時から午前5時までの間(以下「深夜」)に労働させることはない。

2)前項にかかわらず、会社は次のいずれかに該当する従業員からの深夜業の制限の請求は認めない。

  1. 日々雇われる従業員。
  2. 入社1年未満の従業員。
  3. 深夜業の制限の請求に関わる子の16歳以上の同居の家族が、次の全てに該当する従業員。

    a.深夜において就業していない者(1カ月について深夜における就業が3日以下の者を含む)であること。
    b.負傷、疾病または障害により育児が困難でないこと。
    c.産前・産後でないこと。

  4. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。
  5. 所定労働時間の全部が深夜にある従業員。

3)深夜業の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上6カ月以内の期間について、制限を開始しようとする日(以下「深夜業の制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、深夜業の制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式9 深夜業制限請求書」を総務部に提出するものとする。

4)会社は、「社内様式9 深夜業制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)深夜業の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式9 深夜業制限請求書」を提出した従業員(以下「深夜業の制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)深夜業の制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより深夜業の制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、深夜業の制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に深夜業の制限は終了するものとする。

  1. 子の死亡など深夜業の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 深夜業の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 深夜業の制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、深夜業の制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)深夜業の制限を受ける従業員に対して、会社は必要に応じて昼間勤務ヘ転換させることがある。

第11条(育児短時間勤務)

1)3歳に満たない子を養育する従業員は、申し出ることにより、所定労働時間を午前9時30分から午後4時30分まで(休憩時間は午後0時から午後1時までの1時間)の6時間とすることができる。

2)前項にかかわらず、会社は次のいずれかに該当する従業員からの育児短時間勤務の申し出を拒むことができる。

  1. 日々雇われる従業員。
  2. 1日の所定労働時間が6時間以下である従業員。
  3. 別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員。

    a.入社1年未満の従業員。
    b.1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。
    c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員。

3)育児短時間勤務の申し出をしようとする従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間について、育児短時間勤務を開始しようとする日(以下「育児短時間勤務開始予定日」)および育児短時間勤務を終了しようとする日を明らかにして、原則として、育児短時間勤務開始予定日の1カ月前までに、「社内様式10 育児短時間勤務申出書」を総務部に提出しなければならない。「社内様式10 育児短時間勤務申出書」が提出されたときは、会社は速やかに育児短時間勤務の申出者に対し、「社内様式11 育児短時間勤務取扱通知書」を交付する。

4)育児短時間勤務の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式10 育児短時間勤務申出書」を提出した従業員は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

5)育児短時間勤務の適用を受ける期間の賃金については、別途定める「賃金規程」(省略)に基づく基本給および諸手当を時間換算した額を基礎とした実労働時間分の基本給および諸手当を支給する。

6)育児短時間勤務の適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第12条(育児時差出勤)

1)次のいずれかに該当する従業員は、申し出ることにより、本条の定めにより育児時差出勤をすることができる。

  1. 3歳に満たない子を養育する従業員で、第11条第2項第3号の「c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員」に該当する者。
  2. 3歳以上で小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)。

2)育児時差出勤における始業および終業の時刻は次のいずれかとする。

  1. 時差出勤A:午前9時始業、午後5時30分終業。
  2. 時差出勤B:午前9時30分始業、午後6時終業。
  3. 時差出勤C:午前10時始業、午後6時30分終業。

3)育児時差出勤の適用を申し出る従業員は、1回につき、1年以内の期間について、制度の適用を開始しようとする日(以下「時差出勤開始予定日」)および終了しようとする日、並びに時差出勤Aから時差出勤Cのいずれに変更するかを明らかにして、原則として時差出勤開始予定日の1カ月前までに、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を総務部に提出しなければならない。

4)会社は、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)育児時差出勤の適用の申出日の後に申し出に関わる子が出生したときは、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を提出した従業員(以下「育児時差出勤の申出者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)時差出勤開始予定日の前日までに、申し出に関わる子の死亡などにより育児時差出勤の申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合には、申し出はされなかったものとみなす。この場合において、育児時差出勤の申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児時差出勤は終了するものとする。

  1. 子の死亡など育児時差出勤に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 育児時差出勤に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 育児時差出勤の申出者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、育児時差出勤の申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)育児時差出勤の適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第13条(テレワーク)

1)次のいずれかに該当する従業員は、申し出ることにより、本条の定めによりテレワークをすることができる。

  1. 3歳に満たない子を養育する従業員で、第11条第2項第3号の「c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員」に該当する者。
  2. 3歳以上で小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)。

2)テレワークの就業場所は、原則として従業員の自宅とし、それ以外の就業場所を希望する場合は事前に総務部に相談の上、許可を得なければならない。なお、騒音が著しい場所、テレワークに使用する端末が故障・紛失する恐れのある場所、セキュリティー保持に支障をきたす場所、その他テレワークの実施に支障が生じる恐れのある場所等での就業は禁止する。

3)テレワークの適用を申し出る従業員は、1回につき、1年以内の期間について、制度の適用を開始しようとする日(以下「テレワーク開始予定日」)および終了しようとする日、並びに1日の中でテレワークを行う時間帯を明らかにして、原則としてテレワーク開始予定日の1カ月前までに、「社内様式13 テレワーク申出書」を総務部に提出しなければならない。

4)会社は、「社内様式13 テレワーク申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)育児時差出勤の適用の申出日の後に申し出に関わる子が出生したときは、「社内様式13 テレワーク申出書」を提出した従業員(以下「テレワークの申出者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)テレワーク開始予定日の前日までに、申し出に関わる子の死亡などによりテレワークの申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合には、申し出はされなかったものとみなす。この場合において、テレワークの申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児時差出勤は終了するものとする。

  1. 子の死亡などテレワークに関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. テレワークに関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. テレワークの申出者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、テレワークの申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)テレワークの適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第14条(教育訓練)

会社は、3カ月以上の育児休業を取得する従業員が育児休業期間中に復職準備プログラムの受講を希望する場合、別途定める「復職準備プログラム基本計画」(省略)に沿って、当該従業員に会社の負担で復職準備プログラムを実施する。

第15条(復職後の取り扱い)

育児休業等後の勤務は、原則として、休業直前の部署および職務で行うものとする。ただし、本人の希望がある場合および組織の変更などやむを得ない事情がある場合には、部署および職務を変更することがある。

第16条(ハラスメントの防止および不利益取り扱いの禁止)

1)会社は、従業員が「育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務などの申し出や請求」(以下「育児休業等の利用」)をした従業員の就業環境を害する言動を行ってはならない。

2)第1項の言動を行ったと認められる従業員に対しては、就業規則(省略)第○条に基づき、厳正に対処する。

3)会社は、育児休業等の利用をしたことを理由に、従業員に対して解雇などのいかなる不利益な取り扱いも行わない。

第17条(支援制度に関する説明と制度利用に対する意向の確認)

会社は、従業員から従業員本人または配偶者が妊娠・出産した旨の報告があった場合、速やかに従業員との面談を行い、本規程に掲げる育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務など各支援制度の内容について説明し、制度利用に対する意向を確認しなければならない。また、従業員が制度の利用を希望する場合、その利用が滞りなく進むよう必要な配慮をしなければならない。

第18条(育児休業等相談窓口の設置)

1)会社は、「育児休業等相談窓口」を設置する。「育児休業等相談窓口」は育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務など各支援制度の利用に当たり、従業員本人やその家族からの相談および苦情の受け付けを行う。

2)「育児休業等相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「育児休業等相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。

3)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第19条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

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以上(2025年1月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【改正育児・介護休業法に対応】社員の育児をサポートするための8つの支援制度

1 育児の支援制度は8つ、2025年度から手厚くなる!

子が生まれた社員が、その後も育児をしながら働き続けるためには、会社のサポートが欠かせません。まず押さえておくべきは、育児・介護休業法で定められている支援制度です。

育児休業をはじめとする支援制度には、

  • 対象となる社員から請求があったら必ず実施する(社員が妊娠・出産の申し出をしてきた時点で、支援制度について個別に周知し、利用の意向を確認する義務がある)
  • サポートの方法が「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる

という特徴があり、また、2025年度からは図表1の赤字の通り、内容が手厚くなります。

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以降で、それぞれの制度の詳細を見ていきます。なお、制度の対象者はパート等への適用も含めて最後に一覧でまとめているので、他の支援制度と比較しながらご確認ください。

2 育児休業

1)育児休業とは

育児休業とは、

社員が原則1歳未満の子を養育する場合、原則その子の1歳到達日まで休める制度

です。通称「育休」と呼ばれています。なお、「1歳到達日」というのは、「1歳の誕生日の前日」という意味です(以下同じ)。

男女ともに取得でき、女性社員の場合は通常、産前・産後休業(出産のため産前6週間、産後8週間まで休める制度。労働基準法)の終了とともに育児休業が始まります。なお、

育児休業は2回に分けて取得できるので、配偶者と交代で働きながら育児をする

といった働き方も可能です(図表2)。

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また、育児休業は「子が1歳になるまで(1歳到達日まで)」が原則ですが、一定の要件を満たすと「1歳2カ月」「1歳6カ月」「2歳」までその期間を延長できます(図表3)。

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なお、図表3は育児休業を「延長」するための要件ですが、

1歳6カ月、2歳までの育児休業については、この他に「再取得」というルール

もあります。1歳6カ月、2歳まで育児休業を延長するには、社員が子の1歳到達日、1歳6カ月到達日に育児休業を取得している必要がありますが、仮に社員自身の育児休業が終了していても、

配偶者が育児休業を取得していれば、その終了予定日の翌日以前に限り、「1歳から1歳6カ月まで」か「1歳6カ月から2歳まで」の任意のタイミングで、もう1回育児休業を取得することが可能

です。

2)育児休業の申出

育児休業を取得する社員は原則、図表4の期日までに、育児休業の開始予定日、終了予定日などを申し出る必要があります。

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申出が遅れた場合、会社は図表5の範囲内で開始予定日を指定します。

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3)育児休業の開始・終了予定日の変更

社員は同一の子の育児休業について、休業1回につき1回だけ

  • 開始予定日の繰り上げ(当初の予定よりも早い時期に育児休業を開始する)
  • 終了予定日の繰り下げ(当初の予定よりも遅い時期に育児休業を終了する)

が可能です。

繰り上げは、特別の事情(早産、配偶者の死亡など)がある社員が、繰り上げ希望日の1週間前までに申し出ると認められます。申出が遅れた場合、会社が「繰り上げ希望日」から「実際に申出があった日の翌日から1週間を経過する日」までの間で、開始予定日を指定します。

繰り下げは、育児休業を取得している社員が、終了予定日の1カ月前(1歳6カ月、2歳までの育児休業の場合は2週間前)までに申し出ると認められます。

4)育児休業の終了

育児休業は、社員が申し出た終了予定日に終わります。その他にも次のような場合、社員の意思にかかわらず育児休業は終了します。

  • 子を養育しなくなった
  • 子の1歳(育児休業の延長等をする場合、1歳2カ月、1歳6カ月、2歳)到達日を経過した
  • 育児休業中の社員が、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業を開始した
  • 1歳2カ月までの育児休業については、上記に加えて出生日以後の産前・産後休業と育児休業(出生時育児休業を含む)の期間が合計1年に達した

5)育児休業の申出の撤回

育児休業を申し出た社員は、開始予定日の前日までに申し出ると、その申出を撤回できます。撤回1回につき1回休業したものとみなされるため、2回撤回すると育児休業の申出は原則できなくなります。ただし、特別の事情(配偶者の死亡など)がある場合は認められます。また、育児休業の申出を撤回した場合も、1歳6カ月、2歳までの育児休業の申出は可能です。

6)育児休業期間中の就業

育児休業期間中に社員を就業させることは原則できません。ただし、子を養育する必要がない期間(配偶者も育児休業を取得しているなど)については、社員と会社が話し合うことで、一時的・臨時的に就業が認められます。

7)育児休業期間中の賃金

育児休業期間中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。無給の場合も、社員が一定の要件を満たせば、

雇用保険の「育児休業給付金」(賃金の67%相当、休業開始6カ月後以降は50%相当)

を受けられます。ただし、育児休業中に社員を就業させ、就業が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えた場合、給付は受けられません。

なお、2025年4月1日からは、社員が配偶者と同時に14日以上の育児休業(または出生時育児休業)を取得するなど一定の要件を満たすと、新たに

雇用保険の「出生後休業支援給付金(新設)」(賃金の13%相当)

を受けられ、育児休業給付金と同時に受給すれば、最大で賃金の80%相当をカバーできます。

8)育児休業取得状況の公表

社員数1000人超の会社には、男性社員の育児休業等(出生時育児休業を含む)の取得状況をインターネットなど一般人が閲覧できる方法で公表する義務があります。厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば(下記URL参照)」などでの公表が推奨されています。

なお、2025年4月1日からは、

公表義務の対象が「社員数1000人超の会社」から「社員数300人超の会社」に引き下げ

られます。

■厚生労働省「両立支援のひろば」■

https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

3 出生時育児休業

出生時育児休業とは、

男性社員など(養子縁組をしたなど、一定の要件を満たす女性社員も一部対象となる)が産後8週間以内の子を養育する場合、産後8週間以内に4週間(28日)まで休める制度

で、通称「産後パパ育休」と呼ばれています。

基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は、男性社員が出生直後の配偶者をサポートするための制度なので、育児休業とは少しルールが違います(図表6)。

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「1.休業の申出」については、原則休業開始の2週間前までに申し出ればよく、男性社員は直前まで休業を取得するかどうかを熟考できます。なお、雇用環境の整備などについて一定の要件を満たせば、申出期限を労使協定で締結する日(2週間超1カ月以内)とすることが可能です。

「2.休業期間」については、制度の趣旨が出生直後の配偶者のサポートにある関係で、育児休業よりも短く設定されています。

「3.休業中の就業」については、労使協定を締結した上で休業開始前に男性社員と会社が個別に合意すると、休業中に男性社員を就業させることができます。ただし、休業中の就業に関しては、就労可能な日数・時間の上限があります(あくまで休業することが目的のため)。

「4.休業中の賃金」については、育児休業と同じく賃金の支払い義務はありません。また、男性社員が一定の要件を満たすと、

雇用保険の「出生時育児休業給付金」(賃金の67%相当を支給)を受けられます。こちらも2025年4月1日からは、前述した「出生後休業支援給付金」と同時に受給することが可能

です。

「5.休業の分割取得」については、育児休業と同じく2回までの分割取得が可能です。なお、

出生時育児休業と育児休業は別々に取得できる

ので、男性社員の場合、両者を組み合わせると仕事と育児のスケジューリングがしやすいでしょう。

4 子の看護休暇(子の看護等休暇)

子の看護休暇とは、

社員が小学校就学前の子を看護する場合、1年度に5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)まで休める制度

です。病気になった子の看病の他、予防接種・健康診断を受けさせる場合にも取得できます。

休暇は1日単位だけでなく、1時間単位でも取得可能

です。また、休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。

なお、2025年4月1日からは名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変わり、

子の看護だけでなく、学校行事に参加する場合などにも取得可能になる他、対象となる子の年齢も「小学校就学前」から「小学3年生修了まで」に引き上げ

られます。

5 所定外労働の制限

所定外労働の制限とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、所定外労働を免除される制度

です。所定外労働とは、所定労働時間(法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間の上限)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

なお、2025年4月1日からは、

対象となる子の年齢が「3歳未満」から「小学校就学前」に引き上げ

られます。

6 時間外労働の制限

時間外労働の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される制度

です。時間外労働とは、法定労働時間(労働基準法で定める労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

7 深夜業の制限

深夜業の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、深夜業を免除される制度

です。深夜業とは、原則として午後10時から午前5時までの労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上6カ月以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

8 所定労働時間の短縮措置等

所定労働時間の短縮措置等とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、短時間勤務(例:1日6時間以内)などの措置を受けられる制度

です。業務の都合などで短時間勤務が困難な社員については、

労使協定により短時間勤務の対象から除外した上で、代替策として子を養育しやすくするための措置(フレックスタイム制、時差出勤、保育施設の設置運営など)

を実施しなければなりません。

なお、2025年4月1日からは、

措置の1つにテレワークが追加

されます。また、少々ややこしいですが、同じく2025年4月1日からは、本項目である「所定労働時間の短縮措置等」とは別に、

3歳未満の子を育てる社員に対し、働き方の1つとしてテレワークを選択できるようにすることが努力義務化

されます。

9 柔軟な働き方を実現するための措置等(新設)

柔軟な働き方を実現するための措置等とは、2025年10月1日から新設される、

社員が3歳以上小学校就学前の子を養育する場合、短時間勤務などの措置を受けられる制度

です。前述した所定労働時間の短縮措置等と似ていますが、こちらは図表7の右欄のように、会社が2つ以上の措置を実施し、社員がそのうち1つを選択して利用できるという仕組みになっています。

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なお、会社は社員の子が3歳になるまでの間に、面談等により柔軟な働き方を実現するための措置等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務を負うことになります。

10 子を養育する社員のための支援制度の一覧

ここまで、社員の育児をサポートする支援制度について、2025年度の法改正で新設が予定されている分を含め8つ紹介してきましたが、

一部、雇用継続の見込みや勤続年数、所定労働日数などの関係で、制度を適用しなくてもよいとされている社員

がいます。具体的には、

  • 育児・介護休業法上、対象者にならない社員
  • 労使協定の締結により、対象者から除外できる社員

です。最後に、8つの支援制度の種類と対象者の一覧を紹介します。「●」が付いている社員が、制度を適用しなくてもよい人です。

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今後に向けて特に注意が必要なのが「子の看護休暇(子の看護等休暇)」「所定労働時間の短縮措置等」です。

まず、子の看護休暇(子の看護等休暇)については、2025年4月1日からは

入社6カ月未満の社員を、労使協定の締結により対象から除外することは不可

となります。

次に、所定労働時間の短縮措置等については、前述した通り2025年10月1日から「柔軟な働き方を実現するための措置等」が新設され、国が限定列挙する措置の中から2つ以上を選択することが義務付けられます。選択肢の中には「所定労働時間の短縮措置」も含まれており、それを選択した会社は、対象となる子の年齢を「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」に引き上がることになります。ただ、

子が「3歳未満」か「3歳以上」かによって、社員を対象から除外できるかできないかが変わってくるケース

が出てきますので、運用面においては注意が必要です。

以上(2025年1月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

2025年度税制改正大綱のポイント~「103→123万円の壁」への引き上げと法人税増税の方向性確立~

(要旨)

  • 政府は税制改正大綱を閣議決定。所得税・住民税の控除の改正に加え、法人税増税の方向性が強まっている点が特徴。例年と異なり少数与党のため、国会議論等の中で内容が修正される可能性は相応にある。
  • 所得税では基礎控除+給与所得控除の合計額を「103万円→123万円」へ引き上げる。生活必需品の物価上昇率に合わせた改定になる。ただし、①住民税の基礎控除引き上げ見送り、②給与所得控除は最低限のみの引き上げとなっており、多くの年収帯では減税要因は所得税の基礎控除引き上げ(+10万円)分のみとなる。マクロの減税額は0.6~0.7兆円と規模は小さめであり、目立った消費押上げ効果は期待しにくい。
  • 特定扶養控除の引き上げを通じて、「学生の年収の壁」への対応も実施。親の特定扶養控除が満額受けられるようになるラインが年収103万円から年収150万円へ引き上げられるほか、それ以上の年収となった場合でも控除が段階的に縮減する形になる。学生の就業調整緩和に一定の効果をもたらすとみられるが、年収130万円には健康保険に由来する「社会保障の壁」は残る。
  • 大綱では“従来の法人減税が所与の効果を上げてこなかった”として法人増税の方向性が示された。実際に防衛増税の一環として特別防衛法人税の2026年4月からの開始、中小企業への法人税率の優遇措置の厳格化が明記された。今後も法人税は増税対象として俎上に載りやすいだろう。

政府が25年度税制改正大綱を決定、例年と異なり今後の修正も

24年12月、政府は2025年度の税制改正大綱を決定した。来年度予算における税制改正の内容を定めるものだ。改正は多岐にわたるが、マクロの観点で注目したいのは大きく3点だ。①「103万円の壁」の見直しとして注目を集める所得税の基礎控除・給与所得控除の改正、②「学生の年収の壁」の緩和につながる特定扶養控除の改正、③防衛増税の実施時期決定のほか、今後の法人税増税の方向性が明記されている点である。

例年であればこの内容で2025年度の税制が国会で成立していく流れになる。したがって、通常であれば税制改正大綱の内容は実質的に来年度の税制改正そのものということになるのだが、先の衆院選で与党は過半数を獲得することができなかった。特に、国民民主党と合意に至っていない所得税の控除の見直しについては、今後の議論の中で内容の修正がかけられる可能性が相応に高い情勢にある。

「103→123万円の壁」へ。住民税の基礎控除は維持

耳目を集める「103万円の壁」の引き上げについては「123万円」への引き上げが示された。「103万円」はこれ以上収入が増えると所得税の課税が始まるラインであり、基礎控除と給与所得控除最低額の合計だ。パート・アルバイト労働者が就業調整をする際にこのラインを超えないように意識する線引きの一つでもあることから、就業調整の「壁」として認識されている。

今回、「103万円の壁」の引き上げの必要性が認識されるようになった背景には、インフレの継続がある。税の課税最低限は額面で定まっており、インフレが進む中ではそれに合わせた調整が必要だ。今回の与党案では、所得税の基礎控除を48万円→58万円、給与所得控除の最低額を55万円から65万円へ引き上げ、合計「123万円」とする(資料1)。前回、控除引き上げのあった1995年以降の基礎的支出項目(生活必需品)の上昇率が2割程度であることを踏まえ、控除も同率程度引き上げるものとされた。なお、与党大綱の案では住民税の基礎控除の引き上げは行わない形となっている(給与所得控除の引き上げは所得税・住民税双方に適用される)。地方税の減収となる改正に自治体から反対が相次いだことを受けての措置とみられる。

与党は一連の所得税による税収への影響を0.6~0.7兆円程度(次に説明する特定扶養控除の所得要件見直しも含む)としている。マクロ的には大きい額ではなく、個人消費の押し上げ効果に多くを期待すべきではないだろう。

なお、この改正は「基礎控除や給与所得控除の最低額が定額であることに対して物価調整を行うものであることを踏まえて、特段の財源確保措置を要しないものと整理する」(大綱)とされた。海外でも同様の税制のインフレ調整は増税や歳出削減などを伴わない形で行われるのが通例であり、この点は妥当な対応であろう。一連の改正は2025年から実施する。(2025年12月の年末調整で適用)

資料1.大綱内容での改正前後の基礎控除(所得税)と給与所得控除

大綱内容での改正前後の基礎控除(所得税)と給与所得控除

(注)基礎控除(所得税)の縮減するタイミングは給与所得のみの場合を想定したもの。

(出所)自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。

与党案/国民民主党案の違いと今後の論点

一定の仮定を置きつつ、個々の世帯レベルでみた年間の減税額を試算したものが資料2である。対比するために国民民主党の178万円案(基礎控除+75万円の引き上げ)も掲載した。例えば年収400万円世帯を見ると、国民民主党案では11.3万円/年の減税となる一方、与党案では0.5万円/年の減税にとどまる。国民民主党案と与党案では減税額に相当の乖離が生じているのが現状だ。今後与党と国民民主党の3党協議や国会論戦が行われることになるが、与党案からは何らかの修正が加わることも見込まれる。

2つの案における減税幅の乖離は「123万円」と「178万円」という引き上げ幅の違いに加え、①与党案は住民税の基礎控除引き上げを見送っている、②与党案は引き上げの半分が給与所得控除の最低限の引き上げによって行われており、この減税効果が190万円以下の低年収帯のみに限られている、点で異なっており、これが減税額の違いにもつながっている。①については地方財政への配慮、という視点なのだと考えられるが、インフレの制度調整を行う観点からは与党案の「住民税を引き上げ対象から除く」という道理は薄いだろう。社会保障制度などへの影響が多岐にわたる住民税の非課税限度額を物価に合わせて適切に見直す、という観点でも住民税の基礎控除引き上げは必要な措置だと考える。

資料2.改正による年収別の減税額の試算

改正による年収別の減税額の試算

(注)給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除(年収の15%とした)、額面年収400万円~では配偶者控除を勘案。

(出所)第一生命経済研究所が作成。

また、大綱では「給与所得控除については、給与収入に対する割合に基づき計算される控除であり、物価の上昇とともに賃金が上昇すれば、控除額も増加する。しかしながら、最低保障額が適用される収入である場合、収入が増えても控除額は増加しない構造であるため、物価上昇への対応とともに、就業調整にも対応するとの観点から、最低保障額を現行の55万円から65万円に10万円引き上げる」として、定額で規定されている最低額のみを引き上げる方針が示されている。しかし、現行の給与所得控除は上限も定額 1である。その点で給与所得控除の最低限のみを引き上げる、という対応は「純粋な制度のインフレ調整」というよりは、結果として中・高所得帯で生じる実質増税(ブラケット・クリープ 2)を一定程度容認する形になっているとも捉えられる。今回、上限額の引き上げが見送られた背景には、高所得層の給与所得控除の縮減が図られてきた過去の経緯があるようだ。上限引き上げを見送る、という対応は所得控除の縮小を通じて税制の累進性を回復させようとする近年の税制改正の流れにある種沿ったものではある。

ただし、国民民主党は基礎控除のみでの引き上げを求めており、高所得層の減税幅が大きくなることを特段問題視していないといえる。今後の3党協議などでは引き上げ幅に加え、与党案の①住民税基礎控除を引き上げ対象から除く、②給与所得控除の最低限のみを引き上げる、という「引き上げ方」も議論の対象となりうるポイントだろう。

特定扶養控除の適用ラインを引き上げ:「学生の年収の壁」には一定の効果

次に、もう一つの「103万円の壁」である特定扶養控除の年収要件が見直される。特定扶養控除は主に19~22歳の大学生の年代の子どもを持つ親に適用される控除だ。しかし、既存制度ではその子どもが年収103万円を超えると特定扶養控除の対象ではなくなり、親の税金が急増することになる(おおむね63万円×所得税適用税率+45万円×住民税率10%)。このため、親の手取り急減を避けるために子どもが就業調整を行う、といった状況が生じていた。

この点に2つの改正がかかる。第一に特定扶養控除の年収要件の引き上げ、第二に、特定親族特別控除の創設だ。後者は一定年収を超えた途端に突如控除がゼロになることを防ぐため、収入の増加に合わせて段階的に控除が減るような仕組みだ。配偶者控除では同様の配偶者特別控除の枠組みが既にあるが、それに則ったものである。この結果、学生は年収150万円までは満額の特定扶養控除を受けられるようになり、それを超えた場合でも控除額の縮減は段階的なものになる。年収の壁による就業調整緩和に効果のある改正といえよう。

一方で、年収の壁は社会保障由来のものもある。学生の場合、具体的には健康保険だ。学生の場合には親の健康保険の扶養に入っているケースが多数だとみられるが、扶養要件である年収130万円を超えると自分で国民健康保険などに加入する必要が生じるため、保険料分手取り収入が減ることになる。資料3は今回の制度改正前後の学生の額面収入と手取り収入の関係を示したものである。従来、学生は税の壁と社保の壁の2つの手取り急減ポイントがあったが、一つは解消されていることがわかる。ただし、社保の壁による手取り急減は当然税制の改正のみでは変わらないことになる。

今回の改正でこの「社保の壁」まで働きやすくはなるため、103万円→130万円への就業拡大は生じることが見込まれる。ただ、社保の壁の見直しがないとそれ以上の労働供給は望みにくいだろう。

資料3.制度改正による「学生の年収の壁」の変化:額面収入と手取り収入の関係

制度改正による「学生の年収の壁」の変化:額面収入と手取り収入の関係

(注)縦軸は特定扶養控除の縮減・消失による親の手取り減分を含む。国民健康保険料は東京都世田谷区の制度に倣った。親の所得税の適用税率は10%とした。なお、額面年収150万円のところで一定幅の手取り逆転が生じているが、これは勤労学生控除が消失することによるものである。親の特定扶養控除などに比べて影響は小さいが、学生自身の勤労学生控除については年収150万円を超えると控除額がゼロになることから、改正後も一定の手取り逆転が生じる。

(出所)第一生命経済研究所が試算。

結果として防衛増税は法人税増税路線の第一歩に?

第三のポイントとして、今後も含めて法人税について増税の方向性が明確に示されている点である(資料4)。法人税増税と租税特別措置などのメリハリ付けの流れは前回の大綱でも示されていた点であるが、文言は「法人税率の引上げも視野に入れた“検討が必要である”」とされていた。今回は「法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を“構築していく”」とトーンが強まっている。その方向性が強まる中で、実際に法人税については、防衛増税の一環として特別防衛法人税(法人税額から控除額を除いた額×4%の付加税)を2026年4月から実施していく方針が定められた。また、リーマンショック時から実施されている年800万円以下の部分にかかる中小法人への法人税率軽減措置について、2年延長の一方で一部厳格化(課税所得が10億円超企業は15%→17%)されることとなった。

大綱の中では、法人税増税の根拠として、従来の法人減税が国内投資や賃上げに効果的ではなかった点が強く主張されている。また、投資や賃上げ還元に消極的な企業へのディスインセンティブを強化することでインセンティブ型の政策効果を高める観点でも増税方向の改正の必要性が訴えられている。法人税に対する風当たりは強まっていく見込みであり、将来的にも増税の対象に挙がってくる可能性が高い。

資料4.大綱における「今後の法人税のあり方」に関する記載

(今回大綱)
法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ず、法人税のあり方を転換していかなければならない。これまで現預金を大きく積み上げてきた大企業を中心に企業が国内投資や賃上げに機動的に取り組むよう、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を構築していく。税制のみならず、予算や制度改正等の様々な政策手段を総動員して国内投資を促し、持続的な経済成長に向けた動きを取引先の中小企業も含め広く経済社会全体に波及させていく。

(昨年大綱)
賃上げや投資に消極的な企業に大胆な変革を促し、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要である。

(出所)自由民主党・公明党「税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。下線は筆者。

資料5.2025年度税制改正大綱の概要

「103万円の壁」の引き上げなど個人所得税の改正
  • 所得税の基礎控除を48→58万円へ引き上げ
  • 給与所得控除の最低保証額のみ55→65万円へ引き上げ
  • 住民税の基礎控除はそのまま
  • 満額の特定扶養控除が受けられる子どもの年収要件を103→150万円へ引き上げ
  • 特定扶養控除について配偶者控除と同様に段階的に控除が縮減する仕組みを導入
  • 配偶者控除や扶養控除の被扶養者の年収要件を103→123万円に引き上げ
  • 学生の勤労所得控除の適用要件を年収130万円→150万円以下へ引き上げ
防衛増税、法人税優遇措置のメリハリ
  • 防衛特別法人税を26年4月から開始。(法人税額から500万円を差し引いた額)×4%
  • たばこ税を26年4月・10月(加熱式)、27年4月以降1年ごとに3段階で引き上げ(加熱式・紙巻)
  • 中小企業(資本金1億円以下企業)の法人税優遇措置を2年延長
    ※ただし、所得の金額が年10億円を超える際、年800万円以下の所得に適用される税率を17% (現行:15% )に引き上げ
  • 中小企業経営強化税制の投資対象に建物を追加
  • 事業承継税制の役員就任要件を見直し
  • DX、5Gに関する租税特別措置を今年度末で廃止
iDeCo・NISAの改正
  • iDeCoの掛け金上限、拠出可能期間(65→70歳まで)を引き上げ
  • つみたてNISAのETFの最低取引単位を1000円→1万円に引き上げ
  • NISAの金融機関変更時に口座変更と同時に買い付け可能に
子育て関連
  • 住宅ローン減税措置を1年延長(子育て世帯・若い夫婦を優遇)
  • 結婚、子育て資金にかかる贈与税非課税措置を2年延長
  • 高校生の扶養控除は維持(児童手当増額に伴う引き下げ措置を見送り)
その他
  • 給与と年金の双方に収入がある場合の控除額上限(280万円)を新設。26年度税制改正で法制化。
  • インバウンド免税を空港で還付するリファンド方式へ見直し
  • 企業版ふるさと納税の3年延長

(出所)自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。


1 給与所得控除の上限(定額)は2012年度の税制改正で盛り込まれた。1995年以前に給与所得控除の最低限度額の見直しを通じたインフレ調整が行われているが、1974年以降の給与所得控除は上限がない仕組みであったため、最低限度額の調整でインフレ調整の役割を一定程度達成できた。

2 インフレによる物価上昇で賃金が上がっても、所得税額がそれ以上の比率で上がり、実質所得が目減りしてしまう現象。「103万円の壁」の引き上げの趣旨の一つはこれを防ぐことである。

以上(2025年1月)
(執筆 第一生命経済研究所 経済調査部)

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画像:photoAC

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

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【入社1年目の教科書】働く上での基本的なルールは、就業規則の服務規律を読めば分かる

書いてあること

  • 主な読者:会社で働く上での基本的なルールを知りたい新入社員
  • 課題:就業規則を読むように言われたけれど、どこから読めばよいのか分からない
  • 解決策:まずは「服務規律」を読む。違反したら罰を受けることもある

分かっちゃいたけど、会社っていろいろ細かいよな。この前も、ランチのときに取引先の名前を出したら先輩にすごく叱られたし……。そういえば、「就業規則を見ておくように!」と言われたな。いろいろなルールが載っているらしいけど、「就業規則」って名前からして難しそう。あぁ~、面倒くさい。読まないと何かマズいことでもあるのかな?

1 悪いことをしたら罰を受ける!

あまり意識していないかもしれませんが、皆さんは会社と「労働契約」を交わしています。労働契約とは、

社員が会社から与えられた仕事をする代わりに、会社が社員にお給料を支払う契約

のことです。

皆さんが労働契約に基づいて仕事をし、商品・サービスをお客様に提供します。すると、会社はお客様からその代金を受け取り、その一部をお給料として皆さんに支払います。実際はもっと複雑ですが、シンプルに示すと次のような流れです。

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大切なのは、皆さんが守るべきルールがあるということです。ルールには、会社のお金を着服しない、他人に危害を加えないなど、人として当たり前のことの他に、「取引先の名前など個人情報を守る」「就業時間中は仕事に集中する」など、労働契約だからこそのルールがたくさんあります。そして、そうしたルールをまとめたものが「就業規則」であり、これに違反して悪いことをすると罰を受ける場合もあります。

これから働いていくに当たり、皆さんは何度も就業規則を確認することになるでしょう。ですから、ここで就業規則の基本について知っておくことはとても大切です。

2 「働く上でのルール」は就業規則にまとまっている

「就業規則」とは、

労働時間や賃金(お給料のこと)などの労働条件について定めた「職場のルールブック」

で、社員が10人以上の会社は、必ず定めなければなりません。就業規則は皆さんがすぐに確認できるようになっていて、会社により冊子にしていたり、データで保管していたりします。

一般的な就業規則の項目は次の通りです。

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項目がたくさんありますが、これらを覚える必要はありません。何か分からないことがあったときに就業規則を確認すれば大丈夫です。例えば、「残業代はどうやって計算されるのかな?」と思ったら、「賃金」の章の割増賃金の条文をチェックするといった具合です。

ただ、今の段階から1つだけしっかりと認識しておくべき項目があります。それは「服務規律」の章です。服務規律とは、

仕事をするに当たって、皆さんが守るべき基本的な行動規範

です。とても根本的なことであると同時に、違反すると罰を受けることもあります。

3 服務規律の内容は?

実は、服務規律を就業規則に定めるか否かは会社の自由です。しかし、ほとんどの会社は服務規律を定めています。服務規律は、会社から社員に対する「わが社の社員として、こうあってほしい」というメッセージでもあり、会社が大切にしている価値観でもあります。

例えば、服務の基本原則として、

  • 職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行すること
  • 職務能率の向上および職場秩序の維持に努めること

などの心構えが書かれていることでしょう。さらに読み進めていくと、皆さんが遵守すべき具体的なことが書かれていると思います。例えば、次のような内容です。

  • 仕事以外の目的で、許可なく会社の応接室、パソコンを使ってはいけない
  • 会社のお金を横領してはいけない
  • 就業時間中は仕事に専念する
  • 会社の名誉や信用を損なう行為(飲酒運転、痴漢など)をしてはいけない
  • 仕事で知った秘密をSNSなどで流してはいけない
  • ハラスメントをしてはいけない

どれも大切なことですが、特に注意したほうがよいのは情報の取り扱いです。会社の秘密や個人情報は本当に慎重に扱ってください。悪気がなくても、何らかの拍子に個人情報が漏洩すれば、会社は損害賠償を請求されることだってあります。それだけではなく、皆さんも罰を受ける恐れがあります。

4 違反したら、どうなる?

就業規則で「服務規律に違反した社員を懲戒処分の対象にする」などと定められていたら、違反をした場合は罰を受けることになります。何をしてしまったかによって処分の重さは違いますが、代表的な懲戒処分を重い順に並べると次のようになります。

  • 懲戒解雇:いわゆる「クビ」。通常はその場で解雇され、退職金も出ないことが多い
  • 諭旨(ゆし)解雇:退職勧告があるなど懲戒解雇より軽いが、解雇であることは同じ
  • 降格:役職が引き下げられる
  • 出勤停止:自宅で謹慎するなど出社できない。通常はお給料も出ない
  • 減給:お給料が減らされる
  • けん責:始末書を書く
  • 戒告:上司などから口頭で注意される

どれも経験したくはないですよね。ですから、皆さんは就業規則をきちんと読んで、服務規律を守って仕事をしなければならないのです。

また、最後に大切なことをお伝えします。服務規律(就業規則)は会社で働く上でのルールですから、原則として皆さんのプライベートまで効力は及びません。ただし、プライベートであっても、あまりに会社の秩序を傷つけるような行為をすれば、罰を受けることになります。社会人としての自覚を持って行動することを忘れてはなりません。

以上(2024年12月更新)

pj00345
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】蔦屋重三郎に学ぶ「ピンチをチャンスに変える力」

【ポイント】

  • 蔦屋重三郎は、出版業が取り締まりを受けても、新人の発掘などに意欲的に取り組んだ
  • 幕府の締め付けを「成功の道筋を見つけてリードするチャンス」と捉えたのかもしれない
  • ピンチに遭遇しても「このピンチをチャンスに変えてやる」という気概を持つことが大事

おはようございます。今日は2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜」の主人公にも選ばれた、蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)の話をします。

重三郎は江戸時代中・後期に活躍した、今で言うところの出版業者です。当時は幕府の権力者・田沼意次(たぬまおきつぐ)が商業重視の施策を展開し、経済が大きく発達した時代。重三郎は時代のニーズを先取りし、庶民の日常生活を描いた浮世絵、遊里を舞台にした洒落本(しゃれぼん)など、自由な世情に合った絵や文学を積極的に出版して人気を博します。こうした功績から、現代では重三郎を“江戸のメディア王”などと呼ぶ人もいます。

ただ、私は重三郎が“メディア王”たるゆえんは、別にあると考えています。私が彼の能力で最もすさまじいと感じるのは「ピンチをチャンスに変える力」です。田沼意次が失脚し、新たに松平定信(まつだいらさだのぶ)が政権を握ると、いわゆる「寛政の改革」で風俗の乱れや政治批判につながる書籍などが厳しく取り締まられるようになります。重三郎の出版業も大きく影響を受け、彼自身も財産を減らされる罰を受けてしまいました。ですが、重三郎は出版業から身を引きませんでした。

彼は寛政の改革以降も、南総里見八犬伝の作者・曲亭馬琴(きょくていばきん)や、役者絵の東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)など、新しい逸材を発掘し、時代に受け入れられる形でプロデュースしていったのです。馬琴や写楽が後世に名を遺す作家・絵師として大成したのも、重三郎の働きによるところが大きいでしょう。重三郎は「幕府の締め付けが厳しいからおとなしくしていよう」ではなく、「締め付けが厳しいからこそ、ここで成功の道筋を見つけて業界をリードしてやる」と考えたのかもしれません。

ピンチに遭遇したとき、ただ畏縮しているだけでは成功はつかめません。そこで「このピンチをチャンスに変えてやる」という気概を持てる人だけが、道を切り開けます。ビジネスを取り巻く環境は刻一刻と変化しています。2025年も厳しい局面を迎えるときがあるかもしれませんが、そんなときこそ、重三郎のような気概を以て難局を乗り越えてください。

以上(2025年1月更新)

pj17205
画像:Mariko Mitsuda

【外国人雇用】初めての外国人雇用Q&A~在留資格の管理から住居等の手続きまで

1 在留資格を押さえれば、他は基本的に日本人雇用と同じ

日本で働く外国人の数は2016年に100万人を超え、2023年には初めて200万人を超えました(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況」)。外国人雇用を検討する会社は多いですが、一方で「日本人と同じように雇用して大丈夫なの?」と不安に思っている経営者も多いはずです。そこで、外国人雇用と日本人雇用の違いを簡単にまとめてみました。

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「日本人雇用と異なる点が多い」と思うかもしれませんが、これらの違いは

外国人が日本に滞在し、活動するための資格「在留資格」に関するもの

です。在留資格とは、

外国人の住所地を管轄する地方出入国在留管理局(出入国在留管理庁の地方支分部局、以下「入管」)に申請すると取得できる資格で、日本で行える活動と在留期間を示したもの

です。在留資格で認められていない仕事に就いたり、在留期間を超えて働いたりするのは違法です(ただし、在留期間が無期限のものもある)。逆に言えば、

在留資格にさえ注意しておけば、外国人雇用と日本人雇用は基本的に同じ

ということになります。

以降では、ここまでの内容をもう少し掘り下げ、外国人を雇用する際の手続きや、在留資格の確認のポイント、雇用した後の注意点などを紹介していきます。なお、在留資格の種類や在留期間については、出入国在留管理庁のウェブサイトなどをご確認ください。

■出入国在留管理庁「在留資格一覧表」■

https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html

2 外国人を雇用する際はどんな手続きが必要?

1)海外から国内に外国人を呼び寄せて雇用する場合

外国人を国内に呼び寄せる場合、「在留資格認定証明書」という書類の交付を申請します。これは、外国人の国内での活動内容が、在留資格の条件に適合していることを証明する書類です。

会社は入管に交付を申請後、交付された証明書を海外にいる外国人本人に送付します。外国人が在外日本大使館や領事館での査証(ビザ)申請を行う際や、入国審査官による上陸審査を受ける際に、この証明書を提出すると審査がスムーズに行われます。

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なお、入国時の感染症対策については、海外から流入する感染症を把握するために、発熱・咳などの有症状の外国人に対して、任意で鼻腔ぬぐい液を採取する「入国時感染症ゲノムサーベイランス」が行われています(検疫所にて実施)。

■厚生労働省「入国時感染症ゲノムサーベイランス」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html

2)海外から技能実習生を受け入れて雇用する場合

技能実習制度は、外国人の技能実習生が、日本で実習を行う会社(実習実施者)の下で働き、母国では得がたい技能の修得などを図るための制度です。実習実施者になるには、

技能実習生ごとの「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構の認定を受ける

必要があります。

なお、技能実習制度については、

2024年6月21日から3年以内に廃止され、新たに「育成就労制度」が開始

される予定です(具体的な施行日については、現時点では未定)。

育成就労制度は、「育成就労」という在留資格を設け、外国人を原則3年間で一定以上の技能を持つ「特定技能」に育成する制度です。技能実習制度と似ていますが、

  • 技能実習制度は、外国人が日本で習得した技能を、将来母国に持ち帰ることを想定した「国際協力」のための制度(特定技能への移行も可能だが、制度上は「帰国」が原則)
  • 育成就労制度は、外国人が技能の習得後も、日本企業の戦力として活躍することを想定した「人材確保」のための制度(帰国せず、日本に「在留」することが原則)

であり、目的が異なります。

育成就労について詳しく知りたい場合、次のコンテンツも併せてご確認ください。

3)現在日本に住んでいる外国人を雇用する場合

外国人の在留資格が、雇用後の業務内容に適合していれば、雇用できる可能性があります。ちなみに在留資格は、外国人が保有している「在留カード」に記載されています。

現在の在留資格では働けない場合、入管に在留資格の変更を申請

する必要があります。一方で、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった就労制限がない在留資格もあります。

4)現在日本に住んでいる留学生を雇用する場合

日本の大学や専門学校、日本語学校などに「留学」の在留資格で在留している外国人をアルバイトとして雇用する場合、外国人が「資格外活動」の許可を受けていれば、雇用できます。卒業と同時に正社員などとして雇用する場合、入管に申請し、在留資格を「留学」から業務内容に適合したものに変更します。

ここまで紹介した4つは許可手続きの主なケースです。外国人の滞在場所などによって手続きの詳細が異なる場合があるため、実務では申請取次行政書士などの専門家に相談してください。

3 在留資格の確認など採用時の注意点は?

1)在留資格を確認する際は何に注意すればいい?

在留資格と査証(ビザ)は混同されがちですが、

  • 査証(ビザ)は、上陸審査時に必要となるもの
  • 在留資格は、日本での滞在・活動時に必要となるもの

といったように全く違うものです。そのため、

報道などで使われる「就労ビザ」という言葉も、本来は「就労可能な在留資格」のことを指します。査証(ビザ)だけ持っていても日本では働けないので、必ず在留資格を確認

しなければなりません。外国人の在留資格を確認する際は、在留資格と雇用後の業務内容に齟齬(そご)がないか、在留期間が終了していないかなどをチェックします。

2)在留資格の判断に迷ったら?

外国人の在留資格が有効か判断しにくい場合、入管に「就労資格証明書」を申請すると、外国人が行える活動について法務大臣の証明が受けられます。また、現在の在留資格では働けないものの、どの在留資格に変更すればよいか分からない場合、入管や厚生労働省の機関である外国人雇用サービスセンターに問い合わせると、アドバイスを受けられます。

在留資格の確認は非常に重要です。この対応をショートカットして後で在留資格と業務内容とが適合していない事が発覚した場合、違法性を問われる事になりますので、充分注意して対応する必要があります。

3)在留資格の確認以外に、採用での注意点は?

求人募集では、外国人のみを対象としたり、外国人が応募できないという条件を出したりすることはできません。

選考では、言語の違いから面接などでの意思疎通がうまくいかないケースがあります。能力等を正確に知りたい場合は、実技をやらせたり、同じ分野の専門家を外国人と面談させて専門分野に関する質問を行ったりして、適性や能力を判断してみるとよいでしょう。

採用が決まったら、労働条件通知書などで労働条件を明示します。労働基準法では昇給、退職金、賞与など、口頭で明示してもよい労働条件がありますが、トラブルを回避するなら書面で明示したほうが無難です。

なお、厚生労働省では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など13カ国語に対応した「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を公表しています。

■厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」(下記URL中段)■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html

4 外国人を雇用した後の主な注意点は?

1)外国人を雇用した後に必要な手続きは?

1.外国人雇用状況の届け出

外国人を雇用した場合、所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に外国人雇用状況の届け出を行います。届け出の方法は、外国人が雇用保険の被保険者になるかどうかで変わります。

  • 被保険者になる:「雇用保険被保険者資格取得届」を入社月の翌月10日までに届け出
  • 被保険者にならない:「外国人雇用状況届出書」を入社月の翌月末日までに届け出

なお、雇用保険の資格取得を行う場合、資雇用保険被保険者格取得届の提出をもって外国人雇用状況届出書を提出したものとみなされます。

2.健康保険・厚生年金保険の届け出

外国人が健康保険・厚生年金保険の被保険者になる場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を、入社日から5日以内に所轄の年金事務所に届け出ます。

被扶養者がいる場合、「健康保険被扶養者(異動)届」なども併せて提出します。なお、被扶養者になれるのは、原則「国内居住者」だけです。国内居住者かどうかは、住民票があるか否かで判断します。この他は基本的に日本人雇用と同じです。

なお、マイナンバーと基礎年金番号が結びついていない場合や個人番号制度の対象外である場合については、「ローマ字氏名届」の提出も必要となります。

2)在留資格の管理は会社がするべきか?

在留資格は永住者など一部の例外を除き、在留期間が決まっており、在留期間を1日でも超えたら「不法滞在」となってしまいます。ですから、

外国人の「氏名」「国籍」「在留資格」「在留期限」などは、会社側で管理しておく

のが望ましいでしょう。在留期間の期限が近づいてきたら、満了前に入管に更新を申請する必要があります。6カ月以上の在留期間を有する場合、期限満了の約3カ月前から申請できます。

3)住居をどうするか?

在留資格の取得などを済ませた外国人は、入国後14日以内に住所を定めなくてはなりません。必要な手続きは日本人と同じ(転入届・転出届など)で、手続き後に住民票が作成されます。

住所を定めるには住居を確保する必要がありますが、言語の違いから不動産オーナーとうまくコミュニケーションが取れないケースもあるようです。この辺りは、外国人賃貸専門の不動産会社を利用するなどして対応しましょう。

なお、出入国在留管理庁では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など15カ国語に対応した「外国人生活支援ポータルサイト」を運営していて、住居の他、日本での生活に必要な知識などを確認できます(ポータルサイト内に掲載の「生活・就労ガイドブック」は16言語に対応)。

■出入国在留管理庁「外国人生活支援ポータルサイト」■

https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/index.html

4)外国人に効果的な教育法は?

外国人を教育する際も、言語の違いから意思疎通がうまくいかないケースがあります。特に安全衛生に関する意思疎通がうまくいかないと、外国人が作業現場などでけがをする恐れがあるので、絵や動画など視覚に訴える方法でポイントを伝えるようにしましょう。

なお、厚生労働省では、建設現場における安全衛生対策のポイントが分かる教材(動画)や働く人の安全と健康について学べる教材(漫画)を公表しています。

■厚生労働省「外国人労働者の安全衛生対策について」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186714.html

5)宗教・文化の違いはどう配慮すべきか?

宗教や文化の違いにもある程度の配慮が必要です。例えば、宗教上決められた時間に礼拝を行う必要がある外国人には就業時間中の礼拝を認めたり、中国の旧正月(毎年2月ごろ)のように、外国人が本国独特の文化で長期にわたって帰国するときは、スムーズに帰国できるよう配慮したりします。

6)外国人に子どもが生まれたときは?

外国人が雇用後に結婚し、子どもが生まれた場合、子どもが日本国籍を持つ場合と持たない場合があります。例えば、父親(労働者)が外国人、母親が日本人の場合、子どもは日本国籍を持ちます。この場合、子どもの在留資格の取得手続きは原則として必要ありません。一方、

父親(労働者)と母親の両方が外国人の場合、子どもは日本国籍を持ちません。この場合、子どもが日本に在留するには、出生日から30日以内に在留資格取得許可の申請が必要

です。

以上(2025年1月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Luis Molinero-shutterstock

【コスト削減の教科書(10)】「材料費」の削減

1 材料費を削減せよ!

このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みをシミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「材料費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力して使うことができます。

こちらからダウンロード

 

材料費の削減は、値下げ交渉か材料・仕入先を変えることが中心となります。しかし、近年は物価高などの影響で、直接的な値下げ交渉は難しいかもしれません。また、材料・仕入先の変更は、品質の確認から取り組まなければならないため、削減効果が出るまでに時間がかかります。

材料管理に関連する人件費を削減するために、在庫管理システムなどを導入するという方法もありますが、導入費はシステムの構成や内容によって、数百万円から数千万円までと幅があるので、提供会社に自社の実情を理解してもらった上で、最適なシステムを提案してもらいましょう。

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2 材料費の削減方針

営業部長と製造部長が材料費の削減方針について話し合っています。

営業部長:材料費の削減方針をまとめよう。

製造部長:まず値下げ交渉だが、これは難しそうだ。逆に、値上げを要求されているよ。交渉できるとしたら、ここ数年で始めたEC関係の資材くらいかな。

営業部長:なるほど。まずはEC関係の仕入先をリストアップしてみるか。あと、材料を変えるのは難しいかな?

製造部長:原材料は商品の品質に関わるから難しいな。ただ、別件で話をしていた改良予定の「冷凍牛肉コロッケ」なら、より安い材料に切り替えることはできるかも。

営業部長:あぁ~、それはそうだな。

製造部長:あと、入出庫・在庫・棚卸しの管理システムを導入するのはどうだろう。

営業部長:システム導入は大きな支出になるのでは?

製造部長:確かに大きな投資だが、毎日、在庫確認に人手を取られていることなどから試算すると、3年以内に削減効果は出る見込みだよ。

この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。

材料費

  • 定  義:商品そのものを構成する材料(直接材料)、もしくは、商品の一部として特定しにくい材料(間接材料)を購入するための支出
  • 支出内容:主要材料費(原料費、製品の主要部分に用いられる材料の費用)
  • 削減方針:仕入先を変える、購入単価を変える、材料を変える
  • 削減目標:350万円

さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。

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なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。

3 材料費の削減シミュレーション

1)より適正な価格の材料に切り替える(難易度:中)

顧客があまり価値を感じていない材料は、適正な価格の材料に変更することで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、年間販売数量19万個の家庭向け冷凍牛肉コロッケ(黒毛和牛A5等級100%使用、牛肉含有量10%、1個90グラム)について消費者にアンケートを取ったところ、A5等級100%であることから生じる、ある種の脂っこさが改善点であることが判明しました。

そこで、原材料の牛肉のうち、50%をA5等級(2.6円/グラム)からA4等級(2.2円/グラム)に変えることにしました。その場合、1年間の削減効果は次のようになります。

34万円≒(2.6円/g-2.2円/g)×90g×10%×50%×19万個

2)入出庫・在庫・棚卸しの管理システムを導入する(難易度:中)

材料の入出庫・在庫・棚卸しにおける確認や記帳作業などは、管理システムを導入することで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、商品個別の重量が異なる食肉特有の煩雑さから、これまで材料の入出庫管理をしておらず、在庫確認は、毎日、4人で1時間かけて行っていました。また、月1回の棚卸し作業は、実地棚卸しに6人で6時間、棚卸し表の作成に1人で2時間かけていました。

管理システム(取得価額500万円、耐用年数5年)を導入することで、毎日の在庫確認がなくなり、実地棚卸しにかかる時間は3人で6時間に減り、棚卸し表の作成も不要になります。なお、毎日の入庫作業は必要になるものの、出荷時の作業負担が軽減されることなどから、累計作業時間には影響しないものとします。また、これらの作業に関わる社員の平均時給は1700円とします。その場合、1年間の削減効果は次のようになります。

104万円={[(4人×1時間×20日+6人×6時間+1人×2時間)×1700円×60カ月]-[(3人×6時間)×1700円×60カ月+500万円]}÷5年

3)仕入価格の値下げ交渉を行う(難易度:高)

仕入価格は、「取引数量を増やす」「現金仕入れにする」「支払いサイトを短縮する」などを交渉材料に値下げ交渉を行うことで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、自社ECサイトの商品用の梱包資材(ギフトボックス370円/枚、月700枚購入)を、資材の主な仕入先(A社)とは別の会社から購入していました。この仕入先をA社に一本化することで10円/枚の値下げに成功した場合、1年間の削減効果は次のようになります。

8万円≒10円/枚×700枚×12カ月

また、法人取引の場合、仕入先を見直す機会はあまり多くありませんが、値下げ交渉が不調となってしまったときには、仕入先の見直しが必要です。例えば、仕入れルートが元卸・1次卸・2次卸と多段階になっていると、中間マージンがかかる分、仕入価格が高くなります。直接メーカーから仕入れることができれば最良ですが、それができなくても、メーカーに近い商社や問屋などから仕入れる努力をしましょう。

4 材料費を削減するときのポイント

1)製品の機能の価値と実現コストを評価する

製品は様々な材料・部品で構成されますが、全ての機能が本当に必要とは限りません。例えば、他社との差異化を図るために様々な機能を付加したものの、製品をリニューアルしていくうちに当初の目的が曖昧になったり、多くの他社製品にも同様の機能が付加されて、すでに差異化要因にならなくなったりしているケースがあります。

材料費を削減するときは、製品の機能の価値と、それを実現するための材料・部品にかかるコストを評価します。評価は、製品の機能が顧客にどれだけの価値をもたらすのかという視点で行い、コストがかかる割に価値が低い機能があれば見直しましょう。

ただ、製品の生産が始まってからでは見直しが難しくなります。できるだけ、開発段階から材料設計を行い、部品の点数を減らせないか、部品の加工に必要な工数を減らせないか、標準化した部品を組み合わせてモジュール化できないかなどを検討します。そして、生産が始まってからは、より安く仕入れる方法を考えることが大切です。

2)安い材料への切り替えは慎重に検討する

材料は、より安いものに切り替えられないか検討することは大切ですが、それによって製品の品質や価値を低下させては意味がありません。会社の信頼にも関わりますので、材料を切り替えた場合の影響を、様々な視点から検討しましょう。また、材料の切り替えによって、加工費が高くなってしまわないかなども考慮する必要があります。

3)材料市況や為替など外部環境の変化に備える

材料費は材料市況や為替などによって変動するため、景気指標などを押さえた上で、先行きを見据える必要があります。

例えば、「PMI(Purchasing Manager’s Index、購買担当者景気指数)」は、購買担当者が知っておきたい景気指標の1つです。製造業やサービス業の購買担当者を対象にアンケート調査や聞き取りなどを行い、新規受注・生産高・受注残・価格・雇用・購買数量などの指数に一定のウエートを掛けて算出されます。通常、数値が50を上回ると景気拡大、下回ると景気後退と判断されます。

英国の金融情報・調査会社IHSマークイットが各国のPMIを算出している他、米国ではサプライマネジメント協会、中国では国家統計局・中国物流購買連合会がPMIを算出しています。

なお、材料費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【コスト削減の教科書(9)】「不動産の賃料」の削減

1 不動産の賃料を削減せよ!

このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みを、シミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「不動産の賃料」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力すれば使うことができます。

こちらからダウンロード

 

不動産の賃料の削減は、解約・値下げ交渉・移転が中心となります。このうち、最初に検討したいのが解約です。利用していない駐車場や利用頻度の低い施設など、遊休の不動産があるなら、活用方法を検討するか、解約してしまうかを決めましょう。

不動産の整理ができた後は、不動産の利用に変更を伴わない値下げ交渉を検討することになります。ただし、都心部のように、年々賃料が上昇している地域では、値下げ交渉が削減方法の選択肢にならないでしょう。

最後、もしくは値下げ交渉と同時に検討したいのが移転です。ただし、移転の場合、新しい物件の賃料だけでなく、移転に伴う多額の費用が発生することになります。また、事業所を移転するときは、営業活動や社員の通勤などに支障を来さないか注意を払わなければなりません。

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2 不動産の賃料の削減方針

営業部長と管理部長が、不動産の賃料の削減方針について話し合います。早速、会議の様子を見てみましょう。

営業部長:不動産の賃料の削減方針をまとめよう。

管理部長:まずは値下げ交渉ですね。ただ、不動産オーナーは逆に値上げを検討しているようで、交渉は難航しそうです。今より小さい物件に移る方法もありますが、移転費用と賃料を考えると、なかなか難しいです。

営業部長:日本橋オフィスを解約してレンタルオフィスに移転するのはどうだろう。テレワークが定着して出社人数は3人ぐらいだし。

管理部長:移転しても業務に影響は出ないでしょうか?

営業部長:確認は必要だな。

管理部長:あと、社用車をレンタカーに変えることになれば、駐車場の解約もできますね。

営業部長:そこは、改めて試算しよう。

この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。

不動産の賃料

  • 定  義:不動産を借りるための支出
  • 支出内容:オフィスや店舗、社宅の家賃・管理費・共益費、駐車場や倉庫の賃料など
  • 削減方針:賃貸契約をやめる、賃料を減らす、賃貸物件を変える
  • 削減目標:1300万円

さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。

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なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。

3 不動産の賃料の削減シミュレーション

出社人数や業務実態に適した物件に移転する(難易度:中)

オフィスは、「出社する社員が何人いるのか」「オフィスでないとできない業務は何なのか」を確認し、適正な広さや場所、設備のある物件に移転することで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、東京の日本橋エリアにオフィス(30坪・賃料70万円)を構えています。しかし、近年はテレワークが浸透して出社人数が減っていることや、取引先との商談・打ち合わせがオンライン会議に切り替わっていることなどを考慮し、このままオフィスを借りておく必要はないと判断しました。

日本橋オフィスを解約し、代わりに近くのレンタルオフィス(賃料18万円)を借り、オフィス勤務の社員は基本的にテレワーク(週2回出社)とした場合、1年間の削減効果は次のようになります。

624万円=(70万円-18万円)×12カ月

なお、移転にかかる諸経費として、現賃貸物件の原状回復費120万円、オフィス什器(じゅうき)の廃棄処分費30万円、入居月の現賃貸物件の賃料70万円、移転先の入居事務手数料36万円、合計256万円を見込んでいます。

サクゲン株式会社の例では、オフィスの移転を選択していますが、現在借りている物件の賃料が周囲の類似物件の相場よりも割高なときは、不動産オーナー(賃貸人)と賃料の値下げを交渉するという選択肢もあります。

不動産の賃貸借契約書には、借地借家法に基づいて、原則として次のような場合、不動産オーナー(賃貸人)と賃借人は、賃料の増減を請求できる旨が定められています。

  • 土地・建物に対する租税その他の公課・負担の増減により、賃料が不相当となった場合
  • 土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動により、賃料が不相当となった場合
  • 近傍類似の土地・近傍同種の建物の賃料に比較して、賃料が不相当となった場合

賃料の改定は、一般的に賃貸借契約の更新のタイミング(2年か3年)で行われることが多いですが、不動産オーナーと賃借人の合意があれば、契約期間中の見直しも可能です。

4 不動産の賃料を削減するときのポイント

1)移転・廃止はタイミングや費用の内容に注意する

オフィスや店舗の移転・廃止を判断しても、すぐに実行すべきではありません。賃貸借契約に定められた解約予告期間外に解約すると、不動産オーナーに違約金を支払うことになるからです。まずは、契約の更新時期や解約予告期間を確認しましょう。

また、移転にかかる費用は多岐にわたり、

新しい拠点の敷金・保証金、礼金、仲介手数料、前家賃、前共益費、火災保険料、内装工事費、設備工事費、家具・備品購入代、引っ越し代、名刺や封筒などの印刷代、現在の拠点の原状回復費など

があります。新拠点の規模や立地によって異なりますが、初期費用だけで数百万円から数千万円になることも珍しくありません。

退去時の原状回復費、新拠点の内装工事費を削減するため、居抜き(設備や器具、道具、日用家具などがついたままでの売買または賃貸借)で契約という方法もあります。ただし、不動産オーナーの許可が必要なため、希望通りには契約できなかったり、設備や器具、道具、日用家具などに見えない傷や故障などがあったりして、後々、想定外の費用がかかることがあります。

2)周辺の類似物件の賃料相場・トレンドを確認する

賃料の値下げを希望する場合、交渉に先立って、まずは周辺の類似物件の賃料相場をチェックしましょう。オフィスであれば、仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどが、主要都市のオフィス市況データを公表しています。

■三鬼商事「オフィスマーケット」■

https://www.e-miki.com/rent/

■三幸エステート「賃貸事務所のオフィス市況データ・相場」■

https://www.sanko-e.co.jp/data/

■シービーアールイー「オフィスマーケットビュー」■

https://www.cbre-propertysearch.jp/article/office_marketview/

また、国土交通省が四半期ごと(毎年1月・4月・7月・10月)に公表する「地価LOOKレポート」では、主要都市の高度利用地などの地区ごとに、地価動向に与える要因を鑑定評価員が判断し、「△上昇・増加」「□横ばい」「▽下落・減少」の3区分で、土地または土地・建物の取引価格、オフィス賃料、店舗賃料などを評価しています。

■国土交通省「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」■

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000045.html

なお、不動産の賃料以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【コスト削減の教科書(8)】「車両費」の削減

1 車両費を削減せよ!

このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みをシミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「車両費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力して使うことができます。

こちらからダウンロード

 

車両費は、買い替え年度に大きく変動します。コスト削減においては、車種だけでなく、所有形態を変えることを含め、広く検討するのがよいでしょう。例えば、社用車の利用頻度が減っているとき、カーシェアリングを利用すれば、駐車場代が削減できます。一方、買い替え年度以外では、エコドライブを徹底させるなどの小まめな削減が中心となります。

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2 車両費の削減方針

管理部長と営業部長が、車両費の削減方針について話し合います。

管理部長:車両費の削減方針をまとめましょう。今年度は社用車の買い替えを予定しているので、見直すいい機会です。

営業部長:え、まさか買い替えないとか言い出さないよね?

管理部長:その、まさかもあり得ると思います。それに、カーリース、レンタカー、カーシェアリングなどのように「所有」しなくても車を利用する手段はたくさんあります。

営業部長:びっくりした……。カーリースはいいけど、レンタカーなんかは利用したいときに車がないなんてケースもあるよ。当社は商品を運ぶから、利用できる車種も限られるし。

管理部長:それも大事ですね。保有車種などをレンタカー会社に確認してみます。

営業部長:だったら燃費性能のいいハイブリッドカーに買い替えるのはどうだろう? 今と同じ車種を買うよりも、コストを削減できるみたいだし。

管理部長:いいですね。他の削減方法と効果を比較してみましょう。あと、事故を起こさないように、安全運転を徹底してもらいたいです。数年間にわたって保険料が上がりますから。

営業部長:社員にエコドライブなどの講習を受けさせてみるか。

この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。

車両費

  • 定  義:社用車の維持管理のための支出
  • 支出内容:社用車の自社保有に伴う減価償却費、税金(自動車税環境性能割、自動車税または軽自動車税、自動車重量税)、保険料(自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」)、任意保険(以下「自動車保険」))、駐車場代、燃料費、走行中の諸費用(高速道路料金、駐車料金など)、修繕費、消耗品費、整備費など
  • 削減方針:車種を変える、給油の契約を変える、走行方法・走行ルートを変える、所有形態を変える
  • 削減目標:30万円

さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。

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サクゲン株式会社では、1)と2)は同時に実行できない削減方法であるため、取り組み難易度と削減効果を基に、1)が採用されています。

なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。

3 車両費の削減シミュレーション

1)カーリースを利用する(難易度:中)

車両のメンテナンスリース契約を利用することで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、社用車として軽バン1台を所有しています。現在の社用車と同車種の軽バン(取得価額100万円、中古、耐用年数3年)を購入すると、維持費(軽自動車税・重量税・自賠責保険料・メンテナンス料)として、3年間で26万円がかかります。

一方、社用車を購入ではなく、3年間のメンテナンスリース契約(リース料2万6000円/月、軽自動車税・重量税・自賠責保険料・メンテナンス料を含む)とした場合、1年間の削減効果は次のようになります。

11万円≒[(100万円+26万円)-(2万6000円×12カ月×3年)]÷3年

なお、カーリースの場合、利用期間中の解除・解約は原則としてできません。

社用車の利用頻度が低く、維持費や駐車場代が高い場合、社用車として所有するのではなく、必要に応じてレンタカーやカーシェアリングを利用するとよいでしょう。税金、保険料、駐車場代などがかからないだけでなく、荷物の量が多いときには大型車、少ないときには軽自動車など、用途に応じて車両を使い分けられるメリットもあります。

2)社用車購入時の車種を見直し、給油の法人カードを利用する(難易度:中)

燃料費は、社用車を燃費性能の低い車種(普通自動車・ガソリン車など)から、燃費性能の高い車種(軽自動車・ハイブリッド車・電気自動車など)に変えたり、給油割引の付いた法人カード(クレジットカード)を利用したりすることで、コスト削減につながります。

サクゲン株式会社では、社用車として軽バン1台(燃費15キロメートル/リットル)を所有しており、1カ月当たり約1500キロメートルを走行しています。今年度、同車種の軽バン(取得価額100万円、中古、耐用年数:3年)を購入する予定です。

まず、法人カードの特典で、10円/リットルの割引(100リットルまで適用)が受けられます。

加えて、ハイブリッド車の軽バン(取得価額110万円、燃費21キロメートル/リットル、中古、耐用年数3年)に乗り換えると、ガソリン代が平均170円/リットルのとき、1年間の削減効果は次のようになります。

2万円≒{[(170円/L-10円/L)×(1500km÷15km/L)×36カ月+100万円]-[(170円/L-10円/L)×(1500km÷21km/L)×36カ月+110万円 ]}÷3年

軽自動車・ハイブリッド車・電気自動車は、税制面でも優遇を受けられます。また、環境性能に優れた自動車は、購入時に自治体から補助金が交付される場合もあるので確認してみましょう。

法人カードでは、給油代金を指定口座から自動振替で支払うため、請求書・領収書の事務処理が大幅に軽減されます。さらに、カード利用代金明細書によって、使用者ごとの月間利用状況を把握できるため、支出のチェックが容易となり、予算管理や経費削減にも役立ちます。

4 車両費を削減するときのポイント

1)社用車の適正台数を割り出す

車両費の削減では、社用車の適正台数の把握が欠かせません。営業や配送の効率を下げない範囲で適正台数を算出します。仮に減らせる台数が1台でも、大きなコスト削減につながります。

適正台数を割り出すためには、現在の使用台数から、「同じルートで走行している車両が多すぎないか」「より効率的に回る方法はないか」などを検討していきましょう。車両で訪問先に出向かなくても、オンライン会議などで事足りるケースもあります。こうしたことも踏まえながら、適正台数を見直しましょう。

2)車両利用とデータを一元管理する

給油記録を利用して、営業担当者やルートドライバーの走行距離、給油量、給油頻度、給油代金を管理しましょう。スマートフォンのカメラで給油時のレシートを撮影し、走行距離を入力するだけで燃費が算出されるアプリや、スマートフォンを携帯することで、車両の走行記録を残せる機能が付いたアプリもあります。

また、営業担当者1人につき1台の社用車を割り当てている場合、車両ごとの給油記録を確認することで、個人の削減目標を設定することができます。特に燃費の良い運転を行う社員がいれば、その運転技術を模範として他の社員にも共有しましょう。

3)社員にエコドライブを徹底させる

燃料費の削減には、社員によるエコドライブの徹底が重要です。環境省によると、エコドライブの方法と燃費改善率の関係は次のようになっています。

  • ふんわりアクセル(最初の5秒で、時速20キロメートル程度):10%の燃費改善
  • 加速・減速の少ない運転:市街地では2%、郊外では6%の燃費改善
  • 減速時は早めにアクセルを離す:2%の燃費改善

交通エコロジー・モビリティ財団では、エコドライブ講習を受講できる自動車教習所などを認定し、ウェブサイトで公表しています。こうしたサービスを利用して、エコドライブの徹底に努めるとよいでしょう。

■交通エコロジー・モビリティ財団■

https://www.ecomo.or.jp/index.html

4)交通事故の防止に努め、保険料負担を下げる

自動車保険は、契約者ごとに等級が設定されており、1年間、交通事故を起こさなければ、1等級上がり、保険料の割引率が高くなります。逆に、交通事故を起こしてしまえば3等級下がり、保険料の割引率が低くなります(事故の状況などによっては、1等級下がるだけ、もしくはノーカウントになる場合もあります)。

割増引率の例は次の通りです。等級が下がることによる保険料の割り増しは、翌年以降の保険料にも影響するため、コスト削減において社用車での交通事故を起こさないことは重要です。

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また、損害保険会社では、自動車保険に加入している法人向けに、交通事故防止支援サービスを提供しているところもあるので、こうしたサービスを利用してもよいでしょう。

5)自家用自動車管理業者を活用する

参考として、社用車の管理・運行のために行う業務を、パッケージ化して請け負う「自家用自動車管理業者」を活用するのも1つの方法です。

例えば、自社で管理・運行している役員専用車などがあれば、運転手の人件費などの総費用を算出し、その総額と委託した場合の総額、および減少する事務負担などを勘案し、選択肢の1つとするのもよいでしょう。

車両本体、自動車税・重量税、自賠責保険料は会社負担となりますが、自家用自動車管理業者のサービスを活用すれば、自動車保険の加入や事故処理などは同管理業者の負担となります。社用車を所有する会社にとっては、管理・運行に伴う様々な業務を同管理業者1社に委託することができるため、リスク管理やコスト削減が望めます。

なお、車両費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda