書いてあること
- 主な読者:自社PRや補助金獲得のため、何らかの「宣言」をしてみたい経営者
- 課題:世の中にどんな宣言があって、どんなメリットがあるのかを確認したい
- 解決策:まず自社の経営課題と社会の要請に合致した宣言を考える。宣言を後押しする公的機関や団体などに申請して支援を受ける
1 積極的な「宣言」が成長のチャンスを生む
「パートナーシップ構築宣言」や「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」など、世の中にはさまざまな「宣言」があります。これらは簡単に言うと、
企業が社会的責任などを果たす上で、「何に取り組んでいるのか」を端的に表すもの
です。宣言に伴い付与されるロゴマークなどが自社PRに役立つのはもちろん、宣言に取り組むことは “企業が成長するきっかけ”にもなります。なぜなら、宣言するまでの過程で、
- 自社には、どのような課題があるのか
- 課題を解決するには、どのような目標を立てればいいのか
- 目標を達成するには、どのような取り組みが必要なのか
などに、真剣に向き合うことになるからです。また、宣言の中には
補助金の加点などの優遇措置を受けられたり、あるいは宣言すること自体が補助金申請の必須要件になっていたりするもの
もあります。この記事では、中小企業が行うさまざまな宣言の中から、
- 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言
- イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言
について紹介します。
2 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言
1)「パートナーシップ構築宣言」(中小企業庁)
パートナーシップ構築宣言は、
企業が「サプライチェーン全体の共存共栄、下請事業者との取引の適正化などに取り組むこと」を発注者側の立場から宣言するもの
です。宣言するには、
- サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携(企業間の情報共有や連携、IT実装支援やサイバーセキュリティ対策、専門人材マッチング、グリーン化、健康経営など労働環境に関する取り組み)を図ること
- 下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を遵守すること
が必要です。宣言すると、
政府、自治体などのさまざまな補助金の加点措置や優遇措置が受けられる
ようになります。また、
次のロゴマークの使用が認められ、宣言企業であることをアピールできる
ようになります。
なお、「宣言」は全国中小企業振興機関協会が運営するポータルサイトに掲載されますが、掲載後に指導・助言を受けるなど、宣言を履行していないと認められた場合、掲載が取りやめになることもあるので注意が必要です。
補助金の加点などの優遇措置については次のウェブサイトをご確認ください。
2)「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」(情報処理推進機構)
SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)は、
中小企業が「情報セキュリティ対策に取り組むこと」を宣言するもの
です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあります。
宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の
- 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
- 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握したうえで、情報セキュリティポリシー(基本方針)を定め、外部に公開すること(★★二つ星)
が必要です。取り組み目標を決めて、自己宣言者サイトから申請をすると、1~2週間程度でロゴマークの使用方法が伝えられます。
宣言すると、
「IT導入補助金」「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)」「事業再構築補助金(サプライチェーン強靭化枠)」などの申請ができる
ようになります(宣言が申請要件の1つになっています)。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
3)「健康企業宣言」(全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)各支部)
健康企業宣言(健康宣言とも。協会けんぽの支部によって名称が異なる)は、
企業が「健康経営に取り組むこと」を宣言するもの
です。宣言するには、協会けんぽの各支部が定める取り組みを実施します。支部によって内容が異なりますが、例えば、東京支部の場合、
- (STEP1)健診受診率を100%にして、特定保健指導の活用を宣言した上で「健診結果の活用」など6つの項目に取り組むこと
- (STEP2)「健診・重症化予防」「メンタルヘルス対策」など6つの項目に取り組むこと
が必要です。
宣言すると、
支部ごとに設定された、さまざまな特典やサポートが受けられる
ようになります。例えば、東京支部では東京信用保証協会の信用保証料率の優遇が受けられたり、健康経営の専門家「健康経営エキスパートアドバイザー」の派遣を無料で受けられたりします。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
4)エコリーフ宣言・CFP宣言(サステナブル経営推進機構)
エコリーフ宣言とCFP宣言は、
企業が「製品のライフサイクル全体について環境負荷を削減すること」を宣言するもの
です。複数の環境側面における負荷の削減について宣言するのがエコリーフ宣言、地球温暖化における負荷の削減について宣言するのがCFP(カーボンフットプリント)宣言です。どちらの宣言も、「SuMPO環境ラベルプログラム」という環境負荷の削減に向けたプログラムの一環です。
宣言するには、
- 「PCR(製品カテゴリールール)」を選定・策定すること
- PCRにのっとり、プログラムが提供する算定ツールを用いて環境に対する影響を定量的に評価すること(LCA(ライフサイクルアセスメント)算定)
- プログラムに第三者検証員の検証を受けること
- プログラムのウェブサイトで情報公開をすること
が必要です。宣言すると、
「ものづくり補助金」の加点措置が受けられる
ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
3 イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言
1)知的障がい者フレンドリー宣言(Lean on Me)
知的障がい者フレンドリー宣言は、
企業が「知的障がいのある人が活躍できる社会づくりに取り組むこと」を宣言するもの
です。運営会社のLean on Me(大阪府高槻市)は、障がい者支援者向けのe-ラーニング教材の提供などをしている会社で、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)におけるアドバイザリー契約を結んでいます。
宣言するには、
- 知的障がい特性理解のための研修を実施する(年1回以上)
- 知的障がいのある人を雇用している
- 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントに協賛する
- 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントにボランティア参加する
の4つのフレンドリーアクションのうち、1つ以上の活動に取り組むことが必要です。
宣言すると、
知的障がい者フレンドリーカンパニー特設サイトに登録され、フレンドリーカンパニー専用バナーを使用できる
ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
2)ISO自己適合宣言
ISO自己適合宣言は、
企業が「国際標準規格ISOに基づくマネジメントシステムを運用していること」を宣言するもの
です。多くの企業は、ISO認証を取得するために、日本適合性認定協会(JAB)が認定した適合性評価機関の審査を受けていますが、ISO9001やISO14001などのマネジメントシステムについては自己適合宣言も認められています。
宣言するには、
ISOに基づくマネジメントシステムの構築・運用が適合していること
が必要です。ただし、実際には、それだけでは信頼度が低いため、
初回は適合性評価機関を通じて認証を取得し、更新する際に外部の第三者機関に適合を証明してもらう検証審査を基に自己宣言に切り替える方法
も取られています。
宣言すると、
適合性評価機関による審査を受けるのと比べて、費用を抑えることができる
ようになります。第三者機関の審査を受ける場合も、「SDC検証審査協会」のような非営利法人に依頼することで費用を抑えられるでしょう。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
3)認知症バリアフリー宣言(日本認知症官民協議会)
認知症バリアフリー宣言は、
企業が「認知症やその家族の人が地域で安心して暮らしていくために、生活のあらゆる場面での障壁を減らしていくこと」を宣言するもの
です。
宣言するには、
- 社内の「人材の育成」
- 行政、他業種などとの「地域連携」
- 認知症の家族をサポートできる社内制度
- 顧客が利用しやすいサービス・店などの環境整備
の4つに継続的に取り組むことが必要です。
宣言すると、
認知症バリアフリー宣言ポータルのウェブサイトに宣言内容が掲載されるとともに、ロゴマークが提供され、自社での広報活動に活用できる
ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
4)SDGs宣言
SDGs宣言は、
企業が「SDGs(持続可能な開発目標)の17項目に取り組んでいること」を宣言するもの
です。他の宣言のように所管の機関があるわけではなく、あくまで自主的に行う宣言です。
細かいルールはありませんが、宣言するには、次のような項目をまとめる傾向にあるようです。発信の方法については、すでに実施している企業を参考にするとよいでしょう。
- 宣言文
- 自社の取り組みと、それに関連するSDGs目標(17項目のうちのいずれか)
- 宣言の公表日
- SDGsの説明
宣言すると、
SDGsのロゴやアイコンを使える
ようになります。これらは国連広報センターのウェブサイトからダウンロード可能です。ただし、資金調達や販促用商品などの商業用途に使う場合は、あらかじめ国連に許諾申請する必要があります。なお、自社のSDGs関連活動など、会社資料や社内報といったものに使う場合は、許可を取る必要はありません。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
また、多くの自治体ではSDGs宣言を募集して、情報提供やPRなどを支援しています。支援制度を利用したい方は、各自治体のウェブサイトをご確認ください。
以上(2024年6月更新)
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画像:blacksalmon-Adobe Stock