孤高の天才ドライバー、アイルトン・セナ。彼が言う「集中」の意味、そして勝利への覚悟が分かる一言とは?

結局、自分や他人の失敗から学んでいくしかないんだ。それが僕のいう、『コンセントレーション(集中)』の意味だ

アイルトン・セナは、F1世界選手権において、1988年、1990年、1991年と計3度のチャンピオンを獲得した、ブラジルのレーシングドライバーです。彼がレース中の事故でこの世を去ってからちょうど30年。今なお世界中のレーシングファンの憧れであるセナは、1988年からの約6年間、イギリスのレーシング・チームであるマクラーレンに所属していました。当時、マクラーレンとタッグを組んでいたのは日本企業のホンダです。

冒頭の言葉は、当時ホンダのF1総監督だった桜井淑敏(さくらい よしとし)氏が、セナに「F1のドライビングの難しさは?」と聞いた際の返答の一部です。セナが口にした「集中」という言葉を、私たちは「余計なことを考えず、一点だけを見据える」という意味で捉えがちですが、彼の場合はその逆でした。セナの考える集中とは、「自分を取り囲むあらゆる要素、つまりレースにおけるその時々の状況、サーキットやマシンのコンディション、天候などを完全に理解すること」でした。要するに、ゴールの一点だけを見据えて走るのではなく、視野を広く持って周囲を冷静に観察しながら走るというアプローチです。

デビューして間もない頃のセナは、速く走りたいと気が急くあまり、マシントラブルやアクシデントを起こすことが度々ありました。ただ速く走るだけではトップに立てないと気付いたセナは、「自分の感情をコントロールし、置かれているシチュエーションを完璧に読み解くこと」を信条とします。何度も失敗を繰り返しますが、その失敗の繰り返しこそが彼の集中力を研ぎ澄ましていったのです。その先に3度のチャンピオン獲得という栄光があったことは言うまでもありません。

社員の人生や会社の未来を一身に背負う経営者もまた、並大抵ではない集中力が求められますが、「成功したい」と気が急くあまり、周りが見えなくなっているときはないでしょうか。そんなときこそセナの言葉を思い出し、「自分や会社の置かれているシチュエーションを読み解くこと」に集中してみてください。

そして、もう1つ忘れてはならないのが、集中を支える「原点」です。誰しも集中力を維持することは簡単ではありません。なぜ、セナは維持できたのか。それは、一選手としての重圧だけでなく、故郷の未来も背負って戦っていたからです。

セナは生前、獲得した多額の賞金を匿名で、故郷・サンパウロ(ブラジル)の病院や施設に寄付していました。レースを終えるたびに貧富の差が激しい故郷へと戻り、その現状を見て「故郷のために負けられない」と気持ちを新たにし、次のレースに向かう。それが彼の原動力だったのです。

自分の原点は何か。自分は今どこに立っているのか。冷静に考えていけば、視界はクリアーになり、進むべき道が自然と明らかになります。その先にはきっと、「成功」という勝利のチェッカーフラッグが見えてくるはずです。

出典:『セナ(RiversidePress)』(桜井淑敏、谷口江里也(著)、早川書房、1996年12月)

以上(2024年6月作成)

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【事業承継】後継者に読んでほしい。自信を持って理想を追求しよう

書いてあること

  • 主な読者:事業承継したばかりで、プレッシャーを感じている経営者(後継者)
  • 課題:老舗のブランド、積み上げてきた利益など、これらを守るプレッシャーが……
  • 解決策:変化の激しい時代。守るだけではなく、新たに創る。後継者にはその権利がある

1 先代からの授かり物ではなく、未来からの預かり物

後継者は望むと望まざるとに関係なく、先代が築いたさまざまな経営の資産を引き継ぎます。収益や負債、それ以外にも会社の雰囲気のような無形のものまで引き継ぎます。先代が抜群のカリスマ性で組織を率いていたら、後継者は自分にもカリスマ性があるか悩みますし、周囲も先代と後継者を比較します。

そのようなとき、後継者の選択は、

  • 先代のまねをする
  • 自分を出す
  • 最初だけ先代のまねをする

といったものです。2つ目の「自分を出す」であれば、

「私は先代のようなカリスマ性はありませんので、全員で知恵を出し合いながら経営をしたいと思います。どうか力を貸してください」

などと宣言します。後継者は後継者であり、自由なのです。

ただし、一つだけ決して忘れてはならないことがあります。それは、

その経営の資産は、先代からの授かり物ではなく、未来からの預かり物である

ことです。先代が残してくれたものは、会社をさらに発展させて未来にバトンをつなぐために使うものなのです。

2 とはいえ、さまざまなプレッシャーが……

1)失敗をしてはいけない?

「自分は自分」と思っていても、会社が積み重ねてきた歴史はやはり重たいものです。老舗のブランド、積み上げてきた利益など、後継者はそれらを守らなければならないというプレッシャーを感じるでしょう。

厳しいようですが、これは後継者の宿命として受け入れるしかありません。また、新しいことにチャレンジしなければ老舗であっても潰れる時代ですから、「ブランドを守りつつ、新しいことにチャレンジする」という難しいかじ取りも求められます。これを実行した結果、一時、収益は落ち込むかもしれませんが、将来の飛躍のための通過点と割り切るくらいのハートの強さを持ってください。

2)この雰囲気を壊してはいけない?

特に中小企業の場合、社長の意向やキャラクターによって会社の雰囲気が決まります。今、先代の雰囲気で会社がうまく回っているとしたら、後継者はそれを壊したくないとプレッシャーを感じるでしょう。事業承継をきっかけに辞める社員が出ているようなら、なおさらです。

しかし、これは一過性のものなので安心してください。後継者は意識しなくても、後継者がそこにいるだけで、自然に後継者の雰囲気が会社になじんでいきます。また、ほんの一部の社員を除けば、社員は後継者が考えているほど過去の雰囲気に固執していませんし、深く考えてもいません。

3)取引を守らなければいけない?

当然ながら、これまでの取引を守らなければならないというプレッシャーを感じるでしょう。しかし、残念なことに、自社との取引を見直したいと考えていた先は、事業承継をきっかけに取引解消や値下げを申し出てくるかもしれません。いきなりタフな交渉となりますが、結果はどうあれ、やられっ放しは駄目なので、つらくても踏ん張って自身の存在感を示してください。

見方によっては、事業承継をしてすぐにタフな交渉に臨むことで、経営者としての胆力も鍛えられるでしょう。それに、事業承継を利用したいのはこちらも同じです。例えば、

先代の時代は紙でやりとりしていた請求書などを、代替わりでDXを推進することになったのでデータにするように依頼する

など、取引慣習を見直す絶好のチャンスです。

いずれにしても、最初のうちは取引先と交渉する内容について先代に相談するようにしましょう。どういった経緯で現在の取引になっているのかが分かれば交渉を有利に進められます。

3 後継者が自分のために取り組んだほうがよいこと

1)メンターや仲間を持つ

困ったことがあったときに限らず、定期的に話を聞いてくれるメンターを持ちたいものです。全く別の視点からのアドバイスは、後継者にとって厳しくもあり、優しくもあります。メンターはさまざまな出会いの中で見つけます。「この人だ!」という人がいたらメンターになってほしいとお願いすればよいですし、経営者仲間から紹介してもらうこともできるでしょう。

また、よくいわれることですが、経営者は孤独です。それは、経営者の気持ちは経営者しか分からないところがあるからです。そこで、ぜひとも、利害関係のない経営者仲間を持ちたいものです。後継者教育の一環として大学院に通ったのなら、その同窓生は仲間になりやすいです。異業種交流会に参加して、気の合う経営者と仲良くなることもできます。相手も経営者仲間を探しているので、ハードルは高くないです。

2)サボらず勉強する

経営者は多忙ですが、勉強しない人はいません。「本を読む」「人から話を聞く」など、どのような方法でもよいので、ぜひ、最新で多様な情報に触れる機会を必ず持ってください。これを怠ると、本当にあっという間に時代に取り残され、周囲の話についていけなくなります。

なお、勉強するというと専門家のような知識を身に付けることを考えるかもしれませんが、そこまでの必要はありません。肝となる部分さえ押さえておけば大丈夫です。ただし、念のためにお伝えしますと、

本業については他を寄せ付けないほどの専門家

でなければなりません。

以上(2024年5月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

2024年6月から始まる「定額減税」の内容とやるべきことを整理

書いてあること

  • 主な読者:社員の給与計算を担当している給与計算担当者
  • 課題:イレギュラーな手続きであるため、減税の処理の漏れも心配だが、そもそも現場では何をすればよいのか把握できていない
  • 解決策:2024年6月以降に支払う給与等の源泉徴収税額から定額減税額を控除し、年末調整時も定額減税を反映させた精算が必要になる

1 2024年6月から始まる「定額減税」とは?

昨今の物価上昇を上回る賃上げを実現するために、令和6年度税制改正で決まった所得税と住民税の定額減税。定額減税とは、

2024年6月以降、会社から支給される従業員の給与、賞与から所得税と個人の住民税に一定額の減税(税額控除)が行われる制度

です。

定額減税の処理の一部は、社内の給与計算担当者が一定の調整を行わなければなりません。もし、その調整を忘れてしまうと、社員が受けられるはずの減税の恩恵を受けられず、損をしてしまいます。定額減税のようなイレギュラーな対応を漏れなく行うために、事前に何をすべきなのか、制度の概要とともに何をすべきかを把握しておきましょう。

1)定額減税の対象者

定額減税の対象者は、以下のすべての要件を満たす人です。

  • 2024年1月1日時点で日本国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人であること
  • 2024年分の所得金額が1805万円以下であること
  • 給与収入のみの場合は年収2000万円以下であること
  • 子ども、特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合、2015万円以下であること

2)定額減税の減税額

実際の減税額は次の通りです。

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2 【所得税】定額減税で新たに生じる実務

所得税については、

  • 給与計算:2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から定額減税額を控除(月次減税事務という)
  • 年末調整:2024年10月~12月の年末調整作業時に定額減税額に基づいた精算を行う(年調減税事務という)

の2つの実務が生じます。

1)給与計算

2024年6月1日以降に支払う給与について、月次減税額(2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から控除する3万円の定額減税額)を源泉徴収額から、できる限り控除します。

賞与支給月は、同月に給与と賞与の支給が発生すると思います。まず先に支給される給与もしくは賞与から月次減税額を控除します。控除しきれない場合、その後に発生する給与もしくは賞与から残額を控除します。

もし、従業員の収入額や扶養家族の人数などにより、6月中の給与や賞与だけで月次減税額の上限に達せず、控除しきれない場合は7月以降の給与や賞与に繰り越して残額を控除していきます。

なお、これらの処理は、2024年6月1日時点で勤めている従業員(定額減税対象者で、扶養控除等申告書を提出している人に限る)に対して行います。6月2日以降に入社した従業員については月次減税事務ではなく、年末調整減税事務で対応します。

また、2024年6月時点では、合計所得金額が1805万円を超えると見込まれる役員や従業員に対しても月次減税処理を行う必要がある点には注意が必要です(年末調整時において精算)。

2)2024年末の年末調整ですべきこと

従業員本人およびその家族の12月31日時点の状況を確認し、

  • 所得税の定額減税対象者であること
  • 定額減税対象者の場合の減税額

を確認した上で年末調整により年間の所得税額の調整を行います。

また、6月2日以降に入社した従業員や役員(前職で定額減税の処理が終わっている人は除く)に対しては、ここで定額減税額を控除します。なお、年末調整時に合計所得金額が1805万円を超えると分かっている役員や従業員については、この制度の対象外であるため、定額減税額を控除しないで年末調整を行います。

3 【住民税】定額減税で新たに生じる実務

1)住民税の処理の基本

住民税の実務はシンプルです。具体的には、

各市区町村から、定額減税を反映した特別徴収税額決定通知書が送付されてくるので(各従業員分)、そこに記載されている金額を法定控除する

ことになります。

注意すべきは特別徴収です。従来、ほとんどの給与所得者は前年度の所得に基づいて当年6月から翌年5月にかけて給与から住民税を特別徴収します。しかし、定額減税の対象者については、

2024年6月の特別徴収額を0円

とします。その上で、以下の計算式で計算した金額を11で割った金額を年間の住民税として、2024年7月の給与から2025年5月の給与にかけて特別徴収します。

所得割―定額減税額+均等割+森林環境税

2)源泉徴収票への記載

定額減税の対象者については、源泉徴収票の摘要欄に以下の通り記載する必要があります。

「源泉徴収所得税減税控除済額〇〇円」

「控除外額〇〇円」

ちなみに、年末時点で控除外額がある場合の調整給付に関しては、各市区町村により実施されるため企業側の対応は不要です。

以上(2024年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【事業承継】後継者を信じて教育し、見込みがなければ厳しくても引導を渡す

書いてあること

  • 主な読者:具体的に後継者教育を進めていこうとしている経営者
  • 課題:多くの社員を教育してきたが、「後継者」の教育となると重みが違う……
  • 解決策:主役は後継者。つらさよりも楽しさを伝え、一緒に中期経営計画を策定する

1 信じて教育する

事業承継で大切なのは後継者選びですが、その後の後継者教育は大変です。なぜなら、後継者教育には、

  • 長い取り組みとなる(3~5年程度が多い)
  • 後継者の覚えが悪くても、信じて教育し続けなければならない
  • それでも見込みがなければ、後継者候補を変えなければならない
  • 自身の経営哲学を押し付けるわけにはいかない

といった特徴があるからです。長期の取り組みの中で経営者と後継者が衝突することは避けられないでしょうし、後継者が経営者には不向きであることが分かれば、そのことを後継者に伝えて引導を渡さなければなりません。相手が自身の子供であっても例外はありません。

後継者教育は覚悟を決めた経営者でなければできない最後の人材育成です。それも、

後継者は「もう私には無理です」と辞退することができます。しかし、経営者に代わりはおらず、逃げることができない

ということです。実際、半数近い会社では経営者(社長)が直接教育をしています。

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教育方針は経営者の考え方次第であり、それが尊重されるべきです。この記事では、後継者教育をする経営者のお手伝いとして、重要となるポイントを紹介しています。「それはやめたほうがいいですよ」と、経営者には耳の痛いこともあるかもしれませんがお付き合いください。

2 経営者は、まずこの3つを理解する

1)経営感覚は少しずつ養われる

経営者の皆さんが若手だった頃は、「石にかじりついてでも3年」と、どんなにつらくても自分のためになると踏ん張ってきたことでしょう。今でこそ「あのときの経験があるから今がある」と迷わずに言えるでしょうが、若かった頃は「何でこんなに苦労しなければならないんだ」と思っていませんでしたか。経営者が長い時間をかけて培ってきた考え方は、やはり一定の時間をかけてゆっくりと伝えていかないと後継者がついてこられません。

2)主役は後継者である

後継者教育の主役はあくまでも後継者です。よく指摘されるポイントですが、多くの経営者は「取引先に後継者を連れて行ったときは、後継者にしゃべらせているから大丈夫」などと言います。これはこれでよいのですが、もっと大切なのは、目に見える言動というよりも、後継者の「考え方」を尊重することなのです。日ごろ「君の考えは甘い」と後継者を認めていないのに、訪問先に行ったときだけ引き立てられたら、後継者は余計に嫌になります。

3)つらさよりも楽しさを

経営者は幾多の困難を乗り越えてきており、そうした話をすることが後継者のためになると考えます。しかし、経営の厳しさやリスク、そして経営者の孤独などつらさばかり伝えられたらどうでしょうか。もともと「経営者になりたい!」と志していた後継者ならいざ知らず、迷いがある後継者にとっては、「やっぱり自分には無理かも……」となってしまいます。経営の楽しさや、やりがいを伝えなければなりません。

3 経営者にしかできない地ならし

1)事業承継の告知と反対者への対応

前章の3つをご理解いただいた上で後継者教育を進めていくのですが、まずは社内の地ならしをしましょう。事業承継や後継者のことを理解してもらうには長い時間がかかります。そのため、経営者は後継者と事業承継の時期を早い段階で告知したほうがよいでしょう。できれば、事業承継の2年ほど前に告知するのがよいと考えられます。

そうすると、残念なことに「退職する社員」が出てきます。また、特に幹部社員の中には、「若い後継者を下に見る者」「自分が後継者になれなかったことを妬む者」がいるかもしれません。そうした幹部社員は経営者が直接説得しますが、改善しないようなら処遇を考えざるを得ません。事業承継後に後継者に反旗を翻すようなことがあっては困るからです。ただし、処遇をする際は、その幹部社員がそれまで会社を支えてくれたことをくれぐれも忘れてはなりません。

2)社外の関係者に後継者をアピール

社内と同様に、社外の地ならしもします。金融機関などについては、事業承継計画書を提出しながら説明します。また、取引先や顧客については、できれば訪問して挨拶したいところですが、時節柄、オンラインでもよいでしょう。

こちらも残念なことに、相手から見ると、事業承継は取引終了や値下げを申し入れる絶好のタイミングになります。これを防ぐためには、挨拶などの際に後継者が頑張らなければなりません。経営者の横に置物のように座っているだけでは駄目で、後継者にきちんと自己主張をさせましょう。

3)後継者のための経営チームを組成

後継者と同年代などの社員も交えた経営チームを組成します。最初、後継者は自分だけで物事を決めることが難しいので、経営チームで議論し、最後は後継者が決めるようにして訓練していきます。経営チームの人選は後継者に一任しますが、経営者もサポートします。また、後継者を十分にサポートできる人材がいない状況はつらいので、後継者と同年代の社員の教育も行う必要があります。

また、経営者も経営チームに参加しますが、あくまでも主役は後継者です。後継者が筋の悪い意見を言うこともあるでしょうが、その場できつく指摘せず、肯定的に接します。そして、会議が終わった後に1on1で意見を擦り合わせるようにします。後継者が自分の子供であれば、一緒にお酒でも飲みながら話をすることも大事な教育です。

4 どこで育成・修業させるか

具体的な後継者教育の方法には、

  1. 他社に勤務させる(社外教育)
  2. 自社内の最前線で「現場の仕事」を経験させる(社内教育)
  3. 各部門の管理職や新規部門の立ち上げなどを経験させる(社内教育)
  4. 経営者の側近として傍らに置き、経営者としての「帝王学」を学ばせる(社内教育)
  5. 経営大学院や研修機関など外部の機関で学ばせる(社外教育)

があります。社外教育については、「他社で修業する機会」を提供するサービスが数多くあるので、そうしたものを利用するのもよいでしょう。社内ではどうしても甘やかされてしまうので、先に外に出て、ビジネスの厳しさを知った上で自社に戻ってくれば、後継者の姿勢も違ってくるはずです。

また、国内外の大学院で学ばせ、経営の知識を一通り身に付けさせることも有効です。一定期間、業務と離れて勉強すれば集中できますし、通常の業務では得られない人脈も築けます。それに経営の知識を身に付ければ、幹部社員と同じ言語で話せるようになります。

5 アウトプットは中期経営計画の策定と実行

後継者教育の方法はさまざまあるわけですが、より実践的な方法は、

中期経営計画の策定と実行

です。中期経営計画には、「収益、予算、人員」などさまざまな要素が含まれます。当然、事業承継計画もその中に含まれるわけで、そうした計画を経営者と後継者が一緒に策定し、実行していくことほど、現場に根付いたアウトプットはありません。

後継者が社外で修業した経験があるのであれば、自社と他社の違いを踏まえつつ考え抜いた中期経営計画になりますし、自身が考えた新規事業を実行することで、経験しなければ分からない事業推進から多くを学ぶことができます。

以上(2024年5月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「ワーケーション」の労務管理は業務とプライベートの線引きが重要!

書いてあること

  • 主な読者:旅行先でテレワークをする「ワーケーション」の導入を検討している経営者
  • 課題:業務とプライベートの境界など、管理上の問題がありそうな気がする
  • 解決策:ツールを使うなどして業務中か否かを把握。業務中はオフィス勤務と同じ

1 旅行先でテレワークをする「ワーケーション」

ワーケーション(Workation)とは、「ワーク(Work)=仕事」と「バケーション(Vacation)=休暇」を組み合わせた造語です。例えば、旅行先でテレワークをすることを「ワーケーション」と呼び、

旅先のホテルなどでテレワークをしながら、空いた時間で休暇を楽しむという自由な働き方

の事を指します。働き方改革や地域おこしにつながるという理由から、国や地方自治体もワーケーションの普及・啓発に力を入れていて、アフターコロナが本格化してからは再び注目を集めています。

ただ、旅行先で「仕事も遊びも両方する」という働き方なので、

業務とプライベートの境界をしっかり分けて労務管理

をしないと、「労働時間管理」「労災(労働災害)の判断」「ワーケーションの費用負担」などで思わぬトラブルに遭遇します。以降でポイントを確認していきましょう。

2 「始業・中断・終業」のタイミングはこまめに把握する

業務とプライベートの境界が曖昧だと、労働時間を正確に算定できないだけでなく、労災の判断や、ワーケーションに掛かる費用負担の判断なども難しくなります。

問題は、ワーケーションでは次の図表のように、1日の中で業務と観光が交互に発生したり、日によって労働時間が変わったりすることです。

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こうした問題を解決するには、

業務の「始業・中断・終業」のタイミングをこまめに把握すること

が大切です。社員から都度チャットツールで連絡を入れてもらうのもよいですし、最近は1日に複数回の打刻ができる勤怠管理システムなどもあります。業務とプライベートの境界が明らかになれば、「観光中、上司から仕事の連絡が入ってちゃんと休めない」といった事態も防ぎやすくなります。

ただ、旅先に仕事を持ち込むことで、ついつい仕事に対する比重が重くなってしまい、せっかくの休暇(プライベート)を潰してしまう事にもなりかねません。そのため、あらかじめ仕事に充てることのできる時間数の上限をルールとして決めておくのも良いかもしれません。

次の問題は、賃金の取り扱いです。上の図表の場合、所定労働時間中に、1日目は5時間(8時間-3時間)、2日目は3時間(8時間-5時間)の不就労時間があります。不就労時間の賃金は控除できます(完全月給制の場合などを除く)が、ワーケーションを強く推進したいのであれば、

「半日単位」や「時間単位」の年休(年次有給休暇)を活用することを推奨

するなどして、社員が気兼ねなく休めるよう配慮しましょう。ちなみに、

  • 半日単位年休:導入する場合、就業規則への定めが必要
  • 時間単位年休:導入する場合、就業規則への定め、労使協定の締結が必要

です。なお、半日単位年休も時間単位年休も、計画的付与(会社が年休の取得日の計画を立て、日にちを指定すること)の対象にはならないので、取得はあくまで社員の意思に委ねられます。

3 業務中と自宅・ホテル間の移動中の被災は労災になり得る

労災には、業務上の事由により発生する「業務災害」と、通勤上の事由により発生する「通勤災害」とがあります。以下でそれぞれの考え方を紹介しますが、実際は個別の案件ごとに労災認定が行われるので、必ず所轄労働基準監督署などに判断を仰いでください。

1)業務災害の考え方

業務災害は、

  • 業務遂行性(社員が会社の支配下にあるときに被災したこと)
  • 業務起因性(業務と被災との間に因果関係があること)

の両方を満たすと労災として認定されます。

業務に従事しているときや、業務に付随する行為(業務の準備や業務中にトイレに行くなど)をしているときに被災すると、「業務遂行性」が認められます。ただし、業務遂行性が認められても、業務中にこっそり私的な用事をしていて、それが原因で被災した場合などは「業務起因性」が否定され、業務災害になりません。

ワーケーションの際、例えば、

ホテルでテレワークをしている最中に喉が渇き、階段下の自動販売機に飲料水を買いに行こうとして階段から転落した場合

などは、業務災害に当たる可能性があります。飲料水を買いに行く行為が、業務に付随する生理的行為に該当すると考えられるからです。

2)通勤災害の考え方

次に通勤災害は、

  • 自宅と就業場所
  • 就業場所と他の就業場所
  • 帰省先と赴任先と就業場所の三者間(やむを得ない事情がある場合)

のいずれかを、合理的な経路・方法で移動していて被災した場合に労災として認定されます。

ただし、合理的な経路を逸脱(通勤上、不要な遠回りなどをした場合)したり、移動を中断したり(通勤と関係ない行為をした場合。ただし日用品の購入などは可)していて被災した場合は、通勤災害になりません。ワーケーションの際、例えば、

ホテルでテレワークをするという前提があって、自宅とホテルの往復中に被災した場合

などは、通勤災害に当たる可能性があります。この場合、自宅とホテルの往復が、「自宅と就業場所」の移動に該当すると考えられるからです。

4 業務に関する費用以外は個人負担としても差し支えない

ワーケーションで発生する費用としては、自宅とホテル間の交通費や宿泊費、通信費などが考えられます。結論から言うと、

通信費など業務に関する費用以外は、個人負担としても差し支えない

と考えられます。

自宅とホテル間の交通費や宿泊費は、出張や社内研修のように会社命令に基づくものであれば、会社負担とするのが妥当です。ただ、会社命令ではなく社員自身の意思で就業場所を選択している場合は、個人負担としても差し支えないでしょう。

通信費については、会社がパソコンなどを貸与する場合、会社負担とします。社員が私物のパソコンなどを使って業務を行う場合も、業務に要した分については会社負担とするのが妥当でしょう。

この他、最近は、社員がホテルなどでワーケーションを行いながら、人間ドックや保健指導、運動指導などを受けられるサービスも登場しています。社員がこうしたサービスを受ける可能性がある場合、福利厚生として会社負担にするのか、社員の意思に任せて個人負担にするのかも決めておきましょう。

5 必要に応じて就業場所や対象者、使用機器などを制限する

ワーケーションの就業場所は、

原則として社員が自由に選択できるようにしつつ、「集中できなかったり、セキュリティーに問題があったりする場所は認めない」というのが基本

です。例えば、不特定多数が出入りし、パソコンの画面を見られる恐れがある場所は不適切です。どこまでやるかは会社次第ですが、参考として紹介すると、

始業前に就業場所の状況を映せるコミュニケーションツールを使用して、上司の承認を得ている会社

もあります。

また、ワーケーションの対象となるのは、

ある程度自立して業務を遂行できる社員

です。このあたりも会社次第になりますが、例えば、就業規則で「能力や勤務態度を考慮して、所属長が承認した者を対象とする」などと定めておき、事前にワーケーションの就業場所や期間を申請してもらう形にすると、管理がしやすくなります。

ワーケーション中に使用する機器については、

会社が貸与するパソコンやWi-Fi端末を利用させるのが基本

です。私物のパソコンなどの利用を認める場合は、

  • 会社指定のセキュリティーソフトをインストールさせる
  • フリーのWi-Fiには接続させないようにする

などの対策を取りましょう。Wi-Fi環境を整備しているホテルなどは多くありますが、セキュリティーの強度が異なるので、社員には会社から貸与したモバイルルーターなどを使用させるのが無難です。対策の詳細については、総務省の資料などが参考になります。

■総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)(令和3年5月)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

以上(2024年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pixabay

Z世代のトリセツ イマドキの若手社員を指導する際に知っておくべき3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:入社1~3年目のZ世代の若手社員を指導する上司
  • 課題:Z世代には、これまでの指導法が通用しない……
  • 解決策:「対面の指導を望む」など、Z世代の特徴を踏まえた指導をする

1 Z世代の若手社員向けに指導をアップデート

入社1~3年目の若手社員は、いわゆる“Z世代”(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)と呼ばれ、ようやく戦力になった“ミレニアル世代”(1980年代~1990年代半ば生まれ)とは違う価値観を持っています。

日本能率協会マネジメントセンター「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」(以下「調査」)によると、Z世代の若手社員は、上司の指導に関して次のニーズを持っています。

  • デジタルネイティブだけど対面での指導を望んでいる(社内の人間関係が大切で、自分のことを認めてほしい)
  • 自分が納得のいく方法で指導してほしい(自分らしく、自分のペースで取り組みたい)
  • うまくいかなかった経験から学びたいが、失敗はしたくない(無理のない範囲で成長したい)
  • 時には厳しい指導も望むが、理由や目的を明確に伝えてほしい(きちんと納得した上で、指導を受け入れて成長したい)

この記事では、Z世代の若手社員(以下「Z世代 」)の特徴を捉えた指導法を紹介します。

2 指導で押さえておくべき3つのポイント

1)遠慮せずに対面でコミュニケーションを取る

Z世代は、対面での指導を望む傾向があります。調査でも「報告・連絡・相談をするのに、有効と感じるのは対面とチャットツールのどちらか」という質問に対し、74.4% が「対面」を望んでいます。この点を踏まえると、リモートワークをしている会社でも、上司は伝えるべきことは対面で伝えることが大切です。

また、「これくらいは分かっているだろう」と放置せず、「ここは理解している?」と細かく確認しながら、必要な指示を出すようにします。さらに、Z世代が理解した指示の内容を言葉で表現してもらうと、確認できるので確実です。

「任せた」「やっておいて」という言葉にも注意しましょう。上司からすれば期待を表現した言葉であり、Z世代にとってもやりがいがあるはずです。しかし、共有すべきことが共有されていないと、互いにイメージと違ったアウトプットになり、ストレスが高まります。もしもZ世代からアウトプットされた仕事が上司のイメージと違った場合は、きちんと認識に齟齬(そご)があったことを認め、丁寧に説明した上で修正を依頼することが必要です。

2)無理をさせず、じっくりと育てる

Z世代は、まずは自分の能力の範囲で仕事をしたいと考えています。調査でも「自分自身が成長することについて、どのように考えるか」という質問に対し、53.9%が「無理のない範囲で業務に取り組みたい」と回答しています。この点を踏まえると、上司は大きく構えてZ世代と接する必要があります。

例えば、Z世代から「ちょっと難しいです」「期限に間に合いそうにないです」と言われると、上司はむっとしてしまいますが、Z世代は「今の実力ではまだ難しい」ということを真剣に上司に訴えているだけです。部下の成長を望むのが上司ですが、そこは焦らず、少しずつ難しい仕事や、量の多い仕事を任せるようにしてみましょう。

また、調査では「新しい知識やスキルを身につけることは重要か」という質問に対し、「YES」と答えたZ世代が86.0%います。これは、ミレニアル世代(80.7%)よりも高い数値です。無理をしたくないだけで、「学びたい、成長したい」という意欲自体はZ世代は十分に持っているので、働きぶりを見ながらゆっくりと業務の幅を広げていくとよいでしょう。

3)いつの時代も? 褒めると伸びるタイプ

Z世代は、褒められながら成長したいという傾向があります。調査でも「自分はどのように指導されることで、成長していけると考えるか」という質問に対し、65.7% が「できている点に目を向け、褒めてもらう」ことを望んでいます。この点を踏まえると、上司は、ささいなことでも、きちんと褒める配慮が必要です。

Z世代は、まだ自分の仕事に自信が持てていません。Z世代が1つの仕事を終えても、上司から何も言われずにすぐに次の仕事を振られてしまうと、「本当にこれでよかったのか」という不安が生じます。この気持ちが続くと、Z世代は「自分はあまり期待されていない」と思うようになり、上司の言葉も次第に響かなくなってしまいます。そこで上司は、

Z世代の仕事や仕事ぶりに良い点を見つけたら、積極的に褒める

ようにします。その際、褒める基準を明確にします。特に、Z世代は失敗を恐れる傾向が強いので、成否を問わず挑戦に対して褒めるようにします。

一方、重大な過失に関しては、50.8%のZ世代が「二度と同じ失敗をしないためにも、本気で厳しく叱ってもらいたい」と回答しており、必要に応じて厳しい指導も望んでいます。しかしその際、Z世代が厳しく指導される理由を納得できるように説明する必要があります。例えば、「悪かった点とその理由を具体的に伝える」「不明な点は確認する(決め付けない)」「過去のミスや人格などに話を発展させない」「人前で叱らない」などを踏まえた上で指導すれば、Z世代は成長のために不可欠なものとして受け入れてくれることでしょう。

以上(2024年6月更新)

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画像:unsplash

中小企業は「宣言」してつかみ取れ!補助金の加点やイメージアップにつながるお得な宣言

書いてあること

  • 主な読者:自社PRや補助金獲得のため、何らかの「宣言」をしてみたい経営者
  • 課題:世の中にどんな宣言があって、どんなメリットがあるのかを確認したい
  • 解決策:まず自社の経営課題と社会の要請に合致した宣言を考える。宣言を後押しする公的機関や団体などに申請して支援を受ける

1 積極的な「宣言」が成長のチャンスを生む

「パートナーシップ構築宣言」や「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」など、世の中にはさまざまな「宣言」があります。これらは簡単に言うと、

企業が社会的責任などを果たす上で、「何に取り組んでいるのか」を端的に表すもの

です。宣言に伴い付与されるロゴマークなどが自社PRに役立つのはもちろん、宣言に取り組むことは “企業が成長するきっかけ”にもなります。なぜなら、宣言するまでの過程で、

  • 自社には、どのような課題があるのか
  • 課題を解決するには、どのような目標を立てればいいのか
  • 目標を達成するには、どのような取り組みが必要なのか

などに、真剣に向き合うことになるからです。また、宣言の中には

補助金の加点などの優遇措置を受けられたり、あるいは宣言すること自体が補助金申請の必須要件になっていたりするもの

もあります。この記事では、中小企業が行うさまざまな宣言の中から、

  • 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言
  • イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言

について紹介します。

2 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言

1)「パートナーシップ構築宣言」(中小企業庁)

パートナーシップ構築宣言は、

企業が「サプライチェーン全体の共存共栄、下請事業者との取引の適正化などに取り組むこと」を発注者側の立場から宣言するもの

です。宣言するには、

  • サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携(企業間の情報共有や連携、IT実装支援やサイバーセキュリティ対策、専門人材マッチング、グリーン化、健康経営など労働環境に関する取り組み)を図ること
  • 下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を遵守すること

が必要です。宣言すると、

政府、自治体などのさまざまな補助金の加点措置や優遇措置が受けられる

ようになります。また、

次のロゴマークの使用が認められ、宣言企業であることをアピールできる

ようになります。

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なお、「宣言」は全国中小企業振興機関協会が運営するポータルサイトに掲載されますが、掲載後に指導・助言を受けるなど、宣言を履行していないと認められた場合、掲載が取りやめになることもあるので注意が必要です。

補助金の加点などの優遇措置については次のウェブサイトをご確認ください。

■「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト 宣言するメリット■
https://www.biz-partnership.jp/merit/index.html

2)「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」(情報処理推進機構)

SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)は、

中小企業が「情報セキュリティ対策に取り組むこと」を宣言するもの

です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあります。

宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の

  • 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
  • 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握したうえで、情報セキュリティポリシー(基本方針)を定め、外部に公開すること(★★二つ星)

が必要です。取り組み目標を決めて、自己宣言者サイトから申請をすると、1~2週間程度でロゴマークの使用方法が伝えられます。

宣言すると、

「IT導入補助金」「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)」「事業再構築補助金(サプライチェーン強靭化枠)」などの申請ができる

ようになります(宣言が申請要件の1つになっています)。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SECURITY ACTION 自己宣言を申請要件などにしている補助金・助成金一覧■
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/requirement/requirement.html

3)「健康企業宣言」(全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)各支部)

健康企業宣言(健康宣言とも。協会けんぽの支部によって名称が異なる)は、

企業が「健康経営に取り組むこと」を宣言するもの

です。宣言するには、協会けんぽの各支部が定める取り組みを実施します。支部によって内容が異なりますが、例えば、東京支部の場合、

  • (STEP1)健診受診率を100%にして、特定保健指導の活用を宣言した上で「健診結果の活用」など6つの項目に取り組むこと
  • (STEP2)「健診・重症化予防」「メンタルヘルス対策」など6つの項目に取り組むこと

が必要です。

宣言すると、

支部ごとに設定された、さまざまな特典やサポートが受けられる

ようになります。例えば、東京支部では東京信用保証協会の信用保証料率の優遇が受けられたり、健康経営の専門家「健康経営エキスパートアドバイザー」の派遣を無料で受けられたりします。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■協会けんぽ東京支部「健康企業宣言®とは」■
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/tokyo/cat070/collabo271210-1/

4)エコリーフ宣言・CFP宣言(サステナブル経営推進機構)

エコリーフ宣言とCFP宣言は、

企業が「製品のライフサイクル全体について環境負荷を削減すること」を宣言するもの

です。複数の環境側面における負荷の削減について宣言するのがエコリーフ宣言、地球温暖化における負荷の削減について宣言するのがCFP(カーボンフットプリント)宣言です。どちらの宣言も、「SuMPO環境ラベルプログラム」という環境負荷の削減に向けたプログラムの一環です。

宣言するには、

  • 「PCR(製品カテゴリールール)」を選定・策定すること
  • PCRにのっとり、プログラムが提供する算定ツールを用いて環境に対する影響を定量的に評価すること(LCA(ライフサイクルアセスメント)算定)
  • プログラムに第三者検証員の検証を受けること
  • プログラムのウェブサイトで情報公開をすること

が必要です。宣言すると、

「ものづくり補助金」の加点措置が受けられる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■ものづくり補助金総合サイト 公募要領■
https://portal.monodukuri-hojo.jp/about.html

3 イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言

1)知的障がい者フレンドリー宣言(Lean on Me)

知的障がい者フレンドリー宣言は、

企業が「知的障がいのある人が活躍できる社会づくりに取り組むこと」を宣言するもの

です。運営会社のLean on Me(大阪府高槻市)は、障がい者支援者向けのe-ラーニング教材の提供などをしている会社で、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)におけるアドバイザリー契約を結んでいます。

宣言するには、

  • 知的障がい特性理解のための研修を実施する(年1回以上)
  • 知的障がいのある人を雇用している
  • 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントに協賛する
  • 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントにボランティア参加する

の4つのフレンドリーアクションのうち、1つ以上の活動に取り組むことが必要です。

宣言すると、

知的障がい者フレンドリーカンパニー特設サイトに登録され、フレンドリーカンパニー専用バナーを使用できる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■知的障がい者フレンドリーカンパニー■
https://leanonme.co.jp/friendlycompany/

2)ISO自己適合宣言

ISO自己適合宣言は、

企業が「国際標準規格ISOに基づくマネジメントシステムを運用していること」を宣言するもの

です。多くの企業は、ISO認証を取得するために、日本適合性認定協会(JAB)が認定した適合性評価機関の審査を受けていますが、ISO9001やISO14001などのマネジメントシステムについては自己適合宣言も認められています。

宣言するには、

ISOに基づくマネジメントシステムの構築・運用が適合していること

が必要です。ただし、実際には、それだけでは信頼度が低いため、

初回は適合性評価機関を通じて認証を取得し、更新する際に外部の第三者機関に適合を証明してもらう検証審査を基に自己宣言に切り替える方法

も取られています。

宣言すると、

適合性評価機関による審査を受けるのと比べて、費用を抑えることができる

ようになります。第三者機関の審査を受ける場合も、「SDC検証審査協会」のような非営利法人に依頼することで費用を抑えられるでしょう。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SDC検証審査協会■
https://www.v-sdc.jp/iso/

3)認知症バリアフリー宣言(日本認知症官民協議会)

認知症バリアフリー宣言は、

企業が「認知症やその家族の人が地域で安心して暮らしていくために、生活のあらゆる場面での障壁を減らしていくこと」を宣言するもの

です。

宣言するには、

  • 社内の「人材の育成」
  • 行政、他業種などとの「地域連携」
  • 認知症の家族をサポートできる社内制度
  • 顧客が利用しやすいサービス・店などの環境整備

の4つに継続的に取り組むことが必要です。

宣言すると、

認知症バリアフリー宣言ポータルのウェブサイトに宣言内容が掲載されるとともに、ロゴマークが提供され、自社での広報活動に活用できる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■認知症バリアフリー宣言ポータル■
https://ninchisho-barrierfree.jp

4)SDGs宣言

SDGs宣言は、

企業が「SDGs(持続可能な開発目標)の17項目に取り組んでいること」を宣言するもの

です。他の宣言のように所管の機関があるわけではなく、あくまで自主的に行う宣言です。

細かいルールはありませんが、宣言するには、次のような項目をまとめる傾向にあるようです。発信の方法については、すでに実施している企業を参考にするとよいでしょう。

  • 宣言文
  • 自社の取り組みと、それに関連するSDGs目標(17項目のうちのいずれか)
  • 宣言の公表日
  • SDGsの説明

宣言すると、

SDGsのロゴやアイコンを使える

ようになります。これらは国連広報センターのウェブサイトからダウンロード可能です。ただし、資金調達や販促用商品などの商業用途に使う場合は、あらかじめ国連に許諾申請する必要があります。なお、自社のSDGs関連活動など、会社資料や社内報といったものに使う場合は、許可を取る必要はありません。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン■
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/

また、多くの自治体ではSDGs宣言を募集して、情報提供やPRなどを支援しています。支援制度を利用したい方は、各自治体のウェブサイトをご確認ください。

以上(2024年6月更新)

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画像:blacksalmon-Adobe Stock

物流業2024年問題。人手不足を解決するための働き方改革のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「物流業2024年問題」に危機意識を持っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:長時間労働を改善したいが、業界慣習などもあってどう対応していいか分からない
  • 解決策:業務のDX化や配置転換、新卒採用などに取り組んでみる

1 物流業2024年問題をどうやったら乗り切れるのか?

物流業2024年問題とは、

働き方改革関連法によって、2024年4月1日から物流業にも「時間外労働の上限規制」が適用されたこと

による影響で起こる問題です。具体的には、時間外労働について「原則1カ月45時間、1年360時間までを上限とする」などの規制を設けるものです。

物流業の1カ月の所定外労働時間(就業形態計、年平均)は、2004年から2023年にかけての20年間、「調査産業計の約2倍」という状態が続いており、業界全体で長時間労働が慢性化している中、規制の適用を受けるようになった形です。

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物流業の場合、例えば、

  • 点呼や運行日報の記入などを人力で行っているケースが多い
  • 長時間の運転時間の他、荷待ち時間が発生したり、本来依頼になかった荷役作業を急ぎで依頼されたりすることが多い
  • 労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいなどの理由から、若手が入りにくい

といった事情から、長時間労働に陥りやすい傾向があります。そこで、この記事では、物流業2024年問題を乗り切るためのポイントとして、次の2つを紹介します。

  • 時間外労働の上限規制の内容を押さえる
  • 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

2 時間外労働の上限規制の内容を押さえる

まずは、時間外労働の上限規制の内容を正確に押さえましょう。そもそも

時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える労働のこと

です。本来、社員は法定労働時間しか働けませんが、会社が社員の代表(過半数労働組合または過半数代表者)と通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出れば、原則36協定に定めた時間数の範囲内で社員に時間外労働を命じられます。

法改正前は、社員に命じられる時間外労働の時間数について具体的な上限が定められていなかったのですが、物流業の場合、2024年4月1日から図表2のように上限が設定されました。

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2024年4月1日以降、物流業の時間外労働は「原則1カ月45時間、1年360時間まで」となり、臨時的・特別な事情がある場合も「1年960時間」が上限となりました。この上限規制は、

2024年4月1日以後に効力が発生する36協定について適用

されています。2024年3月31日以前に効力が発生した36協定がまだ有効な場合、その協定に定めた有効期限までは時間外労働の上限規制は適用されず、次に締結する36協定から適用されます。違反すると、労働基準法により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

ここまでが時間外労働の上限規制の内容ですが、物流業の場合、上限規制に加えてドライバーの拘束時間や休息期間などを定めた「改善基準告示」も守らなければいけません。違反すると、貨物自動車運送事業法により、行政処分(警告、車両の使用停止、事業停止など)の対象になります。改善基準告示は、「トラック運転者」「タクシー・ハイヤー運転者」「バス運転者」についてそれぞれ定められていて、トラック運転者の場合は図表3のようになります。

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3 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

中小企業クラスの物流業における、時間外労働の削減に関する取り組み事例を紹介します。

1)ドライバーの点呼や運行日報の記入を自動化

物流業では、安全運転の徹底のため、運行管理者がドライバーの出発前や帰社後に点呼を取り、健康状態や呼気中のアルコール濃度をチェックすることが欠かせません。ですが、この業務にかかる時間は、DX化によって削減できる可能性があります。

例えば、ある会社は、各営業所に設置したロボットが、ドライバーの健康状態やアルコール濃度のチェックを自動で行い、運行管理拠点にデータを送る形で点呼を行っています。

ロボットが点呼を行うことで、運行管理者がドライバーと対面する必要がなくなり、作業時間を大幅に削減できる

ようになったそうです。

また、この会社では、運行日報の記入の自動化も実施しています。運行日報は手書きが当たり前という会社も多いですが、

「デジタルタコグラフ(デジタコ)」を使い、運転時の速度・走行時間・走行距離などを自動で記録できるようにする

ことで、ドライバーの負担を軽減しているそうです。

2)セーフティーレコーダーで荷待ち時間を削減

ドライバーの長時間労働が慢性化しやすい原因の1つに、荷物の積み下ろしが終了するまでドライバーが待機する「荷待ち時間」の問題があります。

例えば、ある会社は、ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーを全車に導入し、車両の速度、走行時間、走行距離などを分析することで、荷待ち時間がどの程度発生しているのかを突き止めました。さらに、

荷待ち時間を可視化したデータを顧客に見せ、荷待ち時間短縮の協力を仰ぐ

ようにし、配送ルートの見直しも併せて行うことで、時間外労働の削減に成功したそうです。

3)高齢ドライバーを事務職に配置転換し、効率の良い配車を

どの会社でも従業員の高齢化は大きな課題ですが、物流業においては特にその傾向が強いです。経験豊かなベテランは会社にとって戦力の要ですが、一方で人間の身体機能は年齢とともに低下していくため、高齢化とともにドライバーが事故に遭うリスクも高まっていきます。

例えば、ある会社は、こうした高齢のドライバーをあえて「事務職」に配置転換することで、事故のリスクを減らすとともに、働き方改革に成功しました。「経験豊かなベテランを現場から外して大丈夫なのか?」と思うかもしれませんが、

ドライバーの仕事内容を細かく把握しているからこそ、配車が効率良く行える

という側面があり、結果的に職場全体の時間外労働の削減につながったそうです。例えば、どのサイズのトラックなら現場に入れるかなどを細かく顧客とやり取りしながら、ドライバーの仕事を決められるといった具合です。

4)「あえての新卒採用」に取り組む

中小企業の場合、ドライバーは中途採用が基本です。トラックの運転免許については、大型免許であれば原則21歳以上、中型免許であれば原則20歳以上といった具合に年齢要件が高めに設定され、なおかつ一定の運転経験が受験資格に含まれているため、新卒採用に取り組みにくい面があります。ただ、人手不足と高齢化の中、そんなことばかり言ってもいられません。

例えば、ある会社は、「いつまでも若手を入れないわけにはいかない」と考え、

物流業のいわゆる3K(きつい、汚い、危険)のイメージを取っ払い、新卒の人にも興味を持ってもらえる会社づくり

に取り組みました。業界未経験者であっても会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整え、労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいという課題を解決するため、年5日の計画年休制度も導入するなどした結果、高卒のドライバーの新卒採用に成功しました。また、従業員のユニフォームを清潔なデザインに一新したり、社内にパウダールームを設けたりすることで、女性の新卒採用にも成功し、人材の確保・育成を継続しているようです。

以上(2024年6月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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女性約7割の金属部品加工会社 内勤営業だけで売り上げアップ(トップリーダーMONTHLY(プラチナ会員向け情報誌), 2024/04号)

テルミックは自動車、医療、建築関連など幅広い業界の金属部品加工を手掛ける。取引先は約5000社に上り、国内外の多数の協力会社と連携しつつ、自社の工場・物流設備もIT(情報技術)化して短納期を実現。女性社員が約7割で、ウェブマーケティングで売り上げを伸ばす。

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首都直下地震の経済被害は約1000兆円(日経アーキテクチュア, 2024/04/25号)

土木学会は、首都直下地震によるインフラ関連の被害総額が約1000兆円に上るとの推計を明らかにした。耐震化などインフラ整備に大型投資をすれば、経済的被害を4割近く減らせるとの見通しも示している。

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