年間10万人の介護離職を止めよう! 3つのステップと復職支援

1 仕事を辞めたいわけではない「介護離職」を防止する

介護離職とは、

仕事と家族の介護を両立することが難しくなり、仕事を辞めること

で、1年に約10万人の離職者がいます。特に2025年は「団塊の世代」が75歳を超え、その子供である「団塊ジュニア世代」(40~50代)の介護離職が大幅に増える可能性があります。ただ、介護はデリケートな問題故に、会社側からは積極的に介入しにくいのが悩みどころです。

そこで、大事になってくるのが

社員のほうから会社に相談してもらえるよう、社員が介護に直面する前から準備をする

という考え方です。会社が日ごろから介護について相談しやすい雰囲気づくりや、両立支援に関する情報提供に取り組んでいると、社員に「介護に直面しても仕事を続けられる(または辞めても戻ってこられる)」という安心感を与え、復職につなげられる可能性があるのです。以降で、介護離職を防止する3つのステップと復職支援について紹介していきます。

介護離職を防止する3つのステップと復職支援

なお、「2.両立支援に関する情報提供」については、

2025年4月1日から、社員から介護の申し出があった場合や、介護に直面する前の早い段階において、支援制度(介護休業など)に関する情報提供をすることが義務化

されるので、押さえておきましょう(詳細は第3章で後述)。

2 介護について相談しやすい雰囲気づくり

社員は「介護は家族の問題だから、自分で何とかしなければ……」と考えがちですが、経営者や上司が日ごろから次のようなメッセージを積極的に発信していれば、介護について相談しやすくなります。

  • 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
  • 介護を担う社員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
  • 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
  • 介護をしていることを隠さずに相談してほしい

また、会社は社員の家族構成についても、可能な範囲で把握しておきましょう。一般的に、75歳を超えると要介護状態になる人が多くなるといわれています。社会保険の被扶養者情報などに目を通しておくと、これから介護が必要となりそうな社員がある程度分かるでしょう。

「仕事と介護の両立支援のため」に、社員の介護の実態や家族の状況などを、個人面談の際に把握しているという例もあります。

■経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン-参考資料集-」■

https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

3 両立支援に関する情報提供

1)法定の両立支援制度に関する情報

育児・介護休業法には「介護休業」「介護休暇」など、仕事と介護を両立するためのさまざまな支援制度が定められています。2025年4月1日からは図表2の赤字の通り、内容が手厚くなります。

社員の介護をサポートする6つの支援制度

2025年4月1日からは、介護離職を防ぐことを目的として、社員が図表1の支援制度を円滑に利用できるよう、次の4つの措置のいずれかを講じることが会社に義務付けられます(複数の措置を講じるのが望ましい)。

  • 支援制度に関する研修の実施
  • 支援制度に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
  • 支援制度の利用事例の収集・提供
  • 支援制度の利用促進に関する方針の周知

また、同じく2025年4月1日から、前述した通り、

  • 社員から介護に直面をした旨の申出があった場合に図表2の支援制度等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認すること
  • 介護に直面する前の早い段階(40歳等)においても、社員の支援制度等への理解と関心を深めるため、必要な情報提供をすること

が義務化されます。

2)公的介護保険サービスに関する基礎的な情報

自治体などから提供されている、公的介護保険サービスに関する情報も社員に伝えましょう。

  • 介護について分からないことは、地域包括支援センターの専門家に相談できる
  • 公的介護保険サービスを利用するには、地域包括支援センターか市区町村に申請する
  • 要介護(要支援)認定の申請やケアマネジャーの手配は、地域包括支援センターで行っている
  • 日中の見守りや夜間の緊急対応が受けられるかもしれない

3)会社独自の取り組みや民間の保険サービスに関する情報

テレワークなど、社員が介護をしながら働ける取り組みがあるなら、積極的に周知しましょう。社員が取り組みの存在を知らなかったり、自分は対象にならないと思い込んでいたりするケースは意外と多いものです。

例えば、社外から講師を招くなどして、公的介護保険サービスについて学べるセミナーを開催するとよいでしょう。

また、損害保険会社が販売する団体保険で、社員の親が介護状態になると保険金を受け取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などの加入を検討してもよいかもしれません。要介護の状態になると、自宅のバリアフリー改修や有料老人ホームへの入居などで、まとまった費用が必要になることが少なくないからです。

4)親族の協力の重要性など踏み込んだ情報

仕事と介護を両立する際、親族の協力があればとても心強いものです。社員によって親族との関係性が違うので一概には言えませんが、次のようなことを伝えることも考えられます。ただし、社員のプライベートに干渉しすぎるとモラハラ(モラルハラスメント)に当たることもありますので、社員の立場に配慮しながら対応するようにしましょう。

将来の介護を見据え、日ごろから親や親族とコミュニケーションを取ったほうがよいでしょう。

  • 親の状況(持病、かかりつけ医、親しくしている近所の人など)は親族間で共有する
  • 親の介護保険証や健康保険証の保管場所を確認しておく

4 介護に直面した社員との話し合い

社員が介護に直面した場合、なるべく早い段階で経営者が、「介護を理由に辞めてほしくない。会社として仕事と介護の両立を支援したい」というメッセージを伝えましょう。その上で、今後について話し合い、社員が介護をしながら無理なく仕事を続けられるように支援します。次のようなサポートをすることで、社員の気持ちをつなぎ留めることができるかもしれません。

1.要介護(要支援)認定を取得したか?

取得していなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

2.ケアマネジャーにケアプランを作成してもらったか?

担当のケアマネジャーが分からなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

3.介護をしながら仕事を続ける上で困っていることはないか?

介護休業・介護休暇の取得や、可能であればテレワークを勧めます。

4.仕事や介護の不安・悩みなどはいつでも相談してほしい

不安や悩みを1人で抱え込む必要はないことを伝え、サポートする姿勢を示します。経営者や上司が継続的に見守り、両立が困難な状況に陥っていないか、社員の心身のケアをします。

5 自社への復職を支援する

介護の悩みは、その社員が置かれた状況によって千差万別で、その状況も刻一刻と変化します。場合によっては、介護休業から復職できず、最終的に離職を選択してしまう社員もいるでしょう。ただ、そうした場合であっても、「状況が変わったら、いつでも連絡してほしい」と伝えておくなどすれば、復職の可能性を残すことができます。

離職した社員の状況などにもよりますが、離職後も定期的に連絡を取り続け、様子を確認するとともに、「会社はあなたのことを気にしている」という思いを伝えることも大切かもしれません。知識や技術を持ち、経験を積んだ社員は会社にとって貴重な戦力です。一から教育する必要がない経験者は、たとえ一度は職場を離れても、戻ってきてもらう価値があるでしょう。

以上(2025年5月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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熱中症も労災! 実録 小さな建設業が一人親方と裁判沙汰になった経緯

1 小さな建設業は労災が多い

建設現場では、高所作業や重量物の運搬、重機の使用などが日常的に行われ、墜落・転落、挟まれ・巻き込まれといった労働災害(以下「労災」)が頻繁に発生します。大手ゼネコンのように専門スタッフが常駐して厳格に安全を管理する所もありますが、人的リソースが限られる小規模な建設業では、十分な安全対策ができず、労災が多く発生する傾向にあります。

建設業の事業場規模別の労災発生件数

なかには専門スタッフがいないために、「建設現場で熱中症になっても労災ではない」「突風によるけがは自然現象だから労災ではない」といった誤解から、違法な対応が行われてしまうケースも少なくありません。

2 小さな建設業で起きた労災の落とし穴「4選」

次のリンクから、現役社労士が直面した小さな建設業で起きた労災の事例をベースに、労災に対するよくある誤解を取り上げた記事をご覧いただけます(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

以上(2025年6月作成)

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画像:ChatGPT

【労災の落とし穴(建設業)】 一人親方の労災は元請には関係ない?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「一人親方の労災を『自社には関係ない』と放置していたら、後に損害賠償を請求されてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 「一人親方の労災だから関係ない」と思ったら、後になって損害賠償請求が……

Dさんは、特定の会社に属さずに働く「一人親方」です。ある日、Dさんは住宅の建築工事で床や壁に合板を埋め込む仕事を依頼され、作業中に2階から転落、骨折などの大けがを負いました。けがを負った理由の1つは、作業場に転落防止ネットが設置されていなかったからでした。

Dさんに仕事を依頼した元請会社の社長は、彼の見舞いに行った際、「Dさんはたしか労災保険に特別加入しているよね。だったら治療費も労災保険から出るから心配ないよ」と告げました。しかし、社長から一言もわびがないことに怒ったDさんは、その後「転落防止ネットが設置されていなかったから負傷した」と、元請会社に損害賠償を請求。裁判所は「Dさんに対する安全配慮義務を果たさなかった」として、元請会社に賠償金の支払いを命じました。

2 一人親方であっても安全確保のための措置は必須!

労災保険は本来、会社に雇用される社員が加入するものですが、一人親方のように、社員ではないが業務の関係上事故に遭う可能性が高い人は、一定の要件を満たす場合、例外的に労災保険に加入し、保険給付を受けることができます。これが「特別加入」という制度です。

ただ、注意しなければならないのは、

一人親方が労災保険に特別加入しているかどうかに関係なく、元請会社は一人親方が現場で働く人が労災に遭わないよう、一定の措置を講じなければならない

という点です。具体的には

  • 注文者(仕事の全部または一部を他者に依頼する者)
  • 事業者(自社の雇用する労働者に作業をさせる者)
  • 特定元方事業者(発注者から直接建設等の仕事の依頼を受ける元請会社)

について、それぞれ図表1の措置を講じることが義務付けられています。

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一人親方が労災事故を起こした場合、元請会社の社長の中には「一人親方は労働者じゃないから、うちは関係ない」と思われる方もいます。確かに、基本的には一人親方が現場で怪我や病気になっても、元請会社が労災の責任を肩がわりする必要はありません。

しかし、最近はフリーランス新法が改正されたこともあり、元請会社に対する「安全配慮義務」が強化されています。適切に対応できない場合、契約が成立しなかったり、安全管理上の義務違反とみなされたりと、事業者や管理者が法的な責任を負うリスクがあります。

Dさんに仕事を依頼した元請会社は、「注文者」であり「特定元方事業者」でもあるので、建設物等を使用させる場合の労災防止措置や、危険な場所における危険防止措置などを講じなければなりません。作業場に転落防止ネットが設置されていなかったのは、元請会社がそうした義務を十分に果たしていなかったことの証明になってしまいます。

3 社員も一人親方も、安全管理においては同等に扱う

社員も一人親方も同じ建設現場で作業をするのであれば、

社員も一人親方も、安全管理においては同等に扱うのが基本

です。Dさんのケースであれば、転落防止ネットを設置する他、安全に作業をするための指導(ヒヤリ・ハットの説明など)も併せて行うべきです。

なお、一人親方などを一定の危険有害な作業(化学物質を取り扱う作業、粉じん作業など)に従事させる場合、図表2のように健康障害を防止する措置を講じることが義務付けられているのでこちらも押さえておきましょう。

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以上(2025年6月作成)

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画像:ChatGPT

【分かりやすい原価計算(2)】原価の区分~原価計算特有の費用の分け方

1 原価を分解すると見えてくる利益のカタチ

それでは前回と同様に、回転寿司店で利益や1皿当たりの原価を考えてみましょう。まず、月の利益がトントンになる売上高・販売数量(皿)はどれくらいでしょうか。考える際の前提条件は以下の通りです。

  • 販売単価(皿当たり):100円
  • 材料費(皿当たり):ネタは65円、シャリは5円
  • その他、料理人の人件費(1カ月当たり):21万円
  • 寿司ロボットのリース代(1カ月当たり):24万円

1皿食べてくれる(売れる)と、材料費を引いて、いくらもうかるでしょうか?

販売単価100円-材料費(65円+5円)=30円

何皿食べてくれると、人件費・家賃が賄えるでしょうか?

(人件費21万円+リース代24万円)÷1皿当たりの利益30円=15000皿

15000皿×100円=150万円

この150万円が月の利益がトントンになる売上高、いわゆる「損益分岐点売上高」です。仮に、1家族4人で、1人が10皿ずつ食べてくれるとすると、1家族40皿となり、

15000皿÷40皿=375家族

と計算できます。つまり、1日で、12家族(≒375家族÷31日)が来店してくれると利益がトントンになるということになります。

2 販売数で変わる1皿当たりの原価

1)15000皿売れた場合の、1皿当たりの原価

ネタやシャリの材料費は、1皿当たり(70円=ネタ65円+シャリ5円)がはっきり分かります。

しかし、人件費やリース代はそう簡単にはいきません。人件費は1カ月当たり21万円、リース代は1カ月24万円かかります。これらの費用は、お寿司の売れ行きに関係なく、つまり何皿売れたかにかかわらず決まった額が発生します。このため、1皿当たりどれだけの費用がかかったかは正確には分かりません。

では、どうするかというと、ここでは1カ月15000皿売れれば利益がトントンになるということなので、この販売数で1カ月の人件費とリース代を割って、1皿当たりの費用を出すことにします。

  • 人件費(1皿当たり)は、21万円÷15000皿=14円
  • リース代(1皿当たり)は、24万円÷15000皿=16円

これで全ての原価について、1皿当たりの計算ができました。このように、原価計算や管理会計では、もともとある数値を目的に合わせて基準を設定し、加工することが必要になります。1カ月15000皿売れた場合の1皿当たりの原価は、

材料費70円+人件費14円+リース代16円=100円

となります。

2)30000皿売れた場合の、1皿当たりの原価

ネタやシャリの材料費(1皿当たり)は、30000皿のときも同じで、65円+5円=70円です。人件費とリース代は、それぞれ、

  • 人件費(1皿当たり)は、21万円÷30000皿=7円
  • リース代(1皿当たり)は、24万円÷30000皿=8円

となります。

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このように、販売数によって1皿当たりの原価は変わってきます。そして、販売数が増えるほどに、1皿への割り当てられる費用が減って、原価が安くなります。これが、経済学の「規模の経済」につながる話です。

3 原価計算で使う費用の分け方1:直接費と間接費

上記を見ていただいて気付かれた方もいらっしゃるかもしれません。費用によって1皿当たりへの割り当て方が違ってきます。実は、原価計算を行うため、また、管理会計の手法を活用していくための準備として、それぞれの費用を大きく2つに分ける必要があります。

まず、製品との関係が直接紐づく費用です。これを、「直接費」と呼びます。もう1つは製品との関係が分かりづらく、紐づきが間接的にしか分からないような費用があります。これを「間接費」と呼びます。

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原価を計算する場合、直接費は製品に直接割り当てることができます。これを、直課と呼びます。回転寿司の原価でいえば、ネタ、シャリが直接費に当たります。これらは、1皿ごとに費用を割り当てることができます。

一方で、間接費は製品との紐づきが明らかではないので、何かしらの基準で割り当てるしかありません。これを配賦と呼びます。回転寿司の原価でいえば、人件費やリース代がこれに当たります。先ほどは、販売皿数で1皿ごとに割り当てていきました。

人件費やリース代のいずれも、販売皿数には連動しないで決まった額が費用としてかかっています。このため、販売皿数によって1皿ごとの費用が変わってくるのです。

4 原価計算で使う費用の分け方2:変動費と固定費

もう1つ原価計算、管理会計に特有の費用の分け方があります。具体的には、費用について「売上と連動するかどうか」という点に注目します。

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まず、売上が増えたり減ったりすれば、それに連動して同じように増えたり減ったりする費用を「変動費」と呼びます。もう一つは、売上に連動しない費用です。つまり、売上が増えても減っても関係なく、決まった額だけかかってしまうような費用を「固定費」と呼びます。実務でも比較的使われる言葉ですので、皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれません。

また、先ほどの直接費と間接費と似たような感じをうけられた方もいるかもしれません。このシリーズでは学問的な正確性は置いておいて、中小企業の原価計算・管理会計において、直接費と変動費、間接費と固定費は、同じと考えていきましょう。

5 変動費と固定費を分けるのは手間がかかる?

それでは、会社の損益計算書から費用を変動費と固定費に分ける方法を見ていきましょう。これには主に2つの方法があり、「勘定科目法」と呼ばれる方法と、「最小二乗法」と呼ばれる統計的な方法とがあります。

ここでは、基本であり、手間が少ない勘定科目法を見ていきます。なお、もう1つの統計的な方法は、エクセルで簡単にできて実務での使い勝手も良いものです。すでに勘定科目法に取り組んでいる方は、トライしてみるのもお勧めです。

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勘定科目法は、試算表の中で、勘定科目によって、これは変動費、あれは固定費かなというふうに分けていく方法です。なかには同じ科目の中に売上に連動する項目と、連動しないで決まった額が発生するものの両方が含まれていることもあります。その場合は、さらに細かく、総勘定元帳まで遡って見ていくこととなります。

6 業種別の勘定科目の情報がとても参考になる

勘定科目法を使うにあたって、事業内容が理解できているベテランの方であれば、比較的簡単に変動費と固定費を分けていけるのではないでしょうか。ただ、経理経験の浅い方や事業内容の理解がまだまだであると、判断に迷ってなかなか作業が進まないことにもなりかねません。

そのようなときには、中小企業庁が出している変動費と固定費の分解の情報が参考になります。

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製造業、卸・小売業、建設業という3つの業種別に、勘定科目ごとに変動費と固定費に分けられています。

例えば、卸・小売業の場合に、売上原価は変動費、販売員給料手当は固定費となっています。また、卸売業では車両燃料費は50%が変動費で、残り50%が固定費というように、勘定科目の中に変動費と固定費が混在しているものにも対応しています。

さらに、これを見ると同業種の勘定科目ごとの変動費・固定費の傾向が分かるので、比較することで自分の会社の特徴が理解できるようになります。

7 100点満点はあり得ない。悩まずにやってみる!

ここで1つ大事なのが、変動費と固定費の分解はあまり悩みすぎないということです。

そもそも変動費と固定費というのは、100点満点の正解があるわけではないからです。例えば、工場の電気代や水道代なんかも、普通、製造量が拡大すれば増えていくはずです。しかし、実際は基本料金のようなものも含まれていて、決まった額発生する部分と、売上や製造活動と連動する部分に分かれています。これを準変動費と呼びます。

また、固定費の中にも、ある一定水準までは定額だけれど、それを超えると、もう1ランク上の金額で定額になるというような準固定費と呼ばれるものがあります。

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「まずはあまり悩まないでやってみる」というのが、中小企業の実務を知る立場からのアドバイスです。まずは分けてみて、実際に使ってみて、役に立つかどうか。活用した後で、調整していく進め方で十分といえます。

以上(2025年5月更新)

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イベントレポート 徳島県産品試食・商談会 in 渋谷エクセルホテル東急

2025年3月17日(月)、渋谷エクセルホテル東急にて、徳島県産業国際化支援機構主催の

徳島県産品試食・商談会

が開催されました!

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当日は、自慢の品を持ち寄った地元企業27社が大集合。試食コーナーも数多く設けられ、会場では来場者の「美味しい!」という声が、次々に聞こえてきました。

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また、食品以外にも特産の「藍」を利用したアクセサリーや足袋、椿・柑橘類を利用したエッセンシャルオイルなどを製造する企業も出展していました。徳島県産品の、想像以上の幅広さが発揮されています。

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今回、本商談会の主催である徳島県産業国際化支援機構 販路開拓・海外進出課(当時)の大野祥子(おおの しょうこ)さんと、企画・運営を担当した東急メディア・コミュニケーションズ 企画開発本部(東京都渋谷区)の星野ゆり(ほしの ゆり)さんに、イベントにかけた想いについてお伺いしました。

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徳島県の農林水産物を使用した加工品はとても質が良く、ずっとそれを皆さまに知って欲しかったんです。この商談会を開催することで、生産者の方々とバイヤーの方々が直接意見を交換し、徳島県産品が更に高みを目指して進化していくことにも期待しています。(大野さん)

我々にとっても、「商談会」の実施は初の試みでした。渋谷という地で徳島県産品をPRすることができ、また、徳島県産業国際化支援機構さんと綿密に話し合い、協力し合って無事に商談会の開催に至ったことを、とても嬉しく思います。(星野さん)

お二人のインタビューの内容をまとめた動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


取材陣も県産品を試食させていただいたり、生産者の方々のお話をお聞きしたりする中で、徳島県産品に秘められた魅力と、その確かな品質を存分に感じることができました。

徳島県産品の可能性は無限大! とくさくnaviは今後も、進化し続ける県産品に注目していきます。

以上(2025年5月作成)

【労災の落とし穴(建設業)】 靴ひもが原因でけがしたら自己責任?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「安全靴のひもをしっかり結ばずけがをした社員に対し、『本人のミスなので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 業務中にけがをしたのに、労災保険を使えないどころか始末書まで書くはめに……

社員数5人の小さな型枠工事会社に勤めるCさん。ある日、Cさんは安全靴のひもをしっかり結ばずに作業していたため、足元がもつれて転倒。足首をひねってしまい、数日の休業を要するけがを負いました。

現場を見ていた社長は、「ちゃんと安全靴を履かないで作業したから転んだんだろう? それなら自己責任だ。労災は適用できないし、始末書も書いてもらう」とCさんに告げます。Cさんも自分の不注意だと感じていたので、健康保険を使って治療することにしました。

2 「本人のミスかどうか」は労災認定には関係ない

労災認定の基準は「事故が会社の支配・管理下で発生したか(業務遂行性)」「事故と業務との間に因果関係があるか(業務起因性)」です。

事故が「本人のミスによるものかどうか」は労災認定には関係ない

ので、「自己責任だから労災申請しなくていい」という言い分は通用しません。

社員が安全に働けるよう指示・教育・環境整備をするのは、安全配慮義務の一環です。Cさんのケースの場合、社長が日ごろから「安全靴の正しい着用」を徹底させていたかどうかで、安全配慮義務を果たしたといえるかどうかの判断が変わってくるでしょう。

なお、このケースでは、社長がCさんに始末書を書かせようとしていますが、これ自体は違法ではありません。社員が明らかに規則違反(例:ヘルメットや安全帯の未着用、安全靴を履いていない等)を繰り返す場合、会社は懲戒処分を検討することが可能です。ただし、

懲戒処分事由に該当するからといって、労災保険を使わせないのは違法

です。

3 安全衛生教育を徹底する

社員が「故意に事故を起こした」「私的な用事をしていて事故に遭った」などの特殊なケースでなければ、業務中に起きたけがは、基本的に労災になるので労災保険を使うことを徹底しましょう。

また、安全衛生教育の実施体制も見直しましょう。Cさんのケースの場合、「作業前に安全靴の靴ひもを確認すること!」などの張り紙をした上で、社長や管理職からも口頭で指導する体制を整える必要があるでしょう。なお、社員にも自身の健康を守り、安全に働けるよう努力する「自己保健義務」があるので、安全管理を徹底させるためにも、社内規程(就業規則本則や安全衛生管理規程)で、

  • 社員には作業前に安全靴などを正しく着用する義務があること
  • 着用義務に違反し、注意・指導をしても改善しない場合、懲戒処分の対象とすること

などを定めておくとよいでしょう。なお、懲戒処分事由を社内規程に定めていない場合、社員に懲戒処分を科すことはできないので注意が必要です。

以上(2025年6月作成)

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これがないと危ない! 休職トラブルを防ぐ就業規則6つの鉄則

1 休職をめぐるトラブルは就業規則で回避する

社員が「休職(私傷病休職)」するのは、仕事以外の理由でケガをしたり、病気になったりしたことによって欠勤し、その欠勤が一定期間以上に及んだ場合です。

休職制度は、労働基準法や労働契約法などの法律で規制されているわけではないため、休職期間や復職の可否などをめぐってトラブルが生じます。

こうしたトラブルを避けるためには、就業規則に、

  1. 休職の対象
  2. 休職命令の発令のタイミング
  3. 休職期間
  4. 休職期間中の賃金
  5. 休職期間中の勤続年数の算定
  6. 復職の可否の判断

の6つについて定めることが非常に有益です。

以下では、私傷病休職を前提に、上記の6点につき、どのような点がポイントになるのか、それぞれ具体的に確認していきます。

2 休職の対象

休職制度は、社員の長期雇用を前提とするため、

適用対象は契約期間に定めのない正社員(試用期間中の社員は除く)に限定

されていることが多いですが、

短時間労働者(パートタイマー)であっても無期雇用の場合は、正社員と同様、休職制度を適用

しなければ、正社員との間で不合理な待遇差を設けるものとして、パートタイム・有期雇用労働法に違反する恐れがあります。

一方、有期雇用の場合は、その契約期間が長期間に及ぶものでなければ、適用対象にしなくても、正社員との間で不合理な待遇差を設けるものではないと考えられますが、契約期間の満了までという条件で休職を認めるケースもあります。

最近の同一労働同一賃金に関する裁判例の傾向として、

長期間雇用されている短時間労働者(パートタイマー)や有期雇用労働者に関しては、正社員と同じく休職制度の適用対象としなければ、待遇差が不合理であると判断される

可能性もあるので、休職の適用対象については、慎重に検討する必要があります。

3 休職命令の発令のタイミング

一般に、休職命令は、

  1. 欠勤が一定期間(1カ月など)続き、その後も療養のため働けない場合
  2. その他休職を命じる必要があると会社が認めた場合

に発令されます。

1.の場合は、事前に社員から主治医の診断書を提出してもらうなどして、休職が必要か否かを判断した上で、休職命令を発令します。主治医の診断書だけでは不十分な場合には、産業医などにも意見を聴くことが適切です。

2.の場合は、主に早期に社員を休職させなければならない事情がある場合、例えば、重大な傷病等に罹患している場合などが想定されます。

休職期間の起算点をめぐって、社員とトラブルにならないよう、

いつ休職命令を発令したかは、書面やメールなどで必ず記録に残す

ことが重要です。

なお、休職規定の中には、「休職事由が生じた場合には休職とする」といった規定、つまり休職事由が発生した場合には、休職命令を待つことなく当然に休職となると読める規定も見受けられます。

ただ、休職制度は、社員が私傷病によって就労できない状態になった際、一定の療養期間を与え、解雇をできるだけ回避するための制度ですので、回復の見込みがないような場合にまで休職制度を適用する(解雇できなくなる)というのは妥当ではありません。

「休職を命じる場合がある」といった具合に、会社に一定の裁量を持たせる規定にする

のが適切です。

4 休職期間

休職を開始した社員が、一定の休職期間を経過しても復職できない場合、原則として休職期間満了時に退職となります。休職期間は会社によって異なり、3カ月から6カ月程度のところもあれば、2年から3年程度と長期に設定しているところもあります。メンタル不調の社員のように、断続的に欠勤が続くこともあるため、休職命令の発令前の欠勤期間についても休職期間に通算できるような規定を就業規則に定めておくのがよいでしょう。

また、「通算規定制度」も検討すべきです。

通算規定制度とは、復職後、一定期間内に同じまたは類似の傷病で再び休職した場合は、休職期間を通算する制度

のことです。次のような規定を設けると、長期休職が何度も発生することを防げます。

復職した社員が、その後○カ月以内に、同じもしくは類似の傷病により、再度欠勤をした場合、または、通常の労務提供ができなくなった場合は、復職を取り消し、直ちに再休職とする。この場合の休職期間は復職前の休職期間の残期間とする。

なお、この通算規定を新設して、従前よりも休職可能な期間が(実質的に)短縮される場合、労働条件の不利益変更に当たることには留意が必要です。

5 休職期間中の賃金

休職期間中の賃金は、

ノーワーク・ノーペイの原則に従い無給

となるのが原則ですが、その旨を就業規則に定めておくことが大半です。ちなみに、休職期間中、賃金の支払いがない場合、社員は一定の条件を満たすことで健康保険の傷病手当金を受給することが可能です。

社会保険料と住民税については、休職期間中も発生しますが、無給の場合には賃金から控除できません。この場合、次の1.から3.のいずれかの方法で対応することが考えられます。

  1. 社会保険料と住民税の額を社員に伝え、会社指定の口座に入金してもらう
  2. 会社が立て替えておき、復職後の賃金からまとめて控除する(労使協定の締結が必要)
  3. 傷病手当金の受取先を会社にして、社会保険料や住民税を控除した上で社員に支払う

6 休職期間中の勤続年数の算定

社員が休職する場合、

休職期間は勤続年数に含めない

のが一般的です。表彰、賞与、退職金など、会社が勤続年数を基準に評価する制度については、就業規則の規定に矛盾がないかを確認しましょう。また、年次有給休暇の付与日数を計算する際も、休職期間は勤続年数に含めないのが一般的です。

7 復職の可否の判断

復職の可否の判断はデリケートな問題です。通常、休職期間が満了する前に、社員から主治医の診断書を提出してもらって復職の可否を判断しますが、社員の主治医が仕事内容の詳細を把握しているとは限りません。また、うつ病のようなメンタルヘルス疾患の場合、症状が一進一退を繰り返すため、復職の判断が難しいケースも少なくないです。

そのため、社員の主治医だけでなく、必要に応じて会社指定の医療機関にも協力を仰ぎ、復職の可否を慎重に判断できるようにしておくことが適切です。具体的には、次のような規定を就業規則に設けることが考えられます。

  1. 社員は復職に当たり、所定の復職願に社員の主治医による診断書を添えて提出する
  2. 会社は復職の可否を判断するため、社員に会社指定の医療機関での受診を命じることがある
  3. 最終的な復職の可否は会社が判断する

特に、2.については、会社指定の医療機関として産業医の意見を聴くことが重要です。社員の主治医の意見は、会社の業務に精通していない関係で、業務との関係性があまり考慮されないケースが多いのに対し、産業医の意見は、「社員の病状に照らして会社の業務に就けるか」など、実務的な観点から述べられます。

もっとも、上記のように就業規則上のルールを定めていても、社員が主治医や会社指定の医療機関の診断を受けてくれないケースがあります。その場合は、会社としては主治医や会社指定の医療機関の診断を抜きに復職判断をせざるを得ませんが、既に休職中であることから、「回復」が明らかではない以上、復職不可という判断をすることが多いと思われます。

なお、社員が復職直後から休職前と同じように働こうとして再び体調を崩し、そのまま退職してしまうケースが少なくないため、

復職後、当面の間は、労働時間を短縮(時短勤務)するなどして、経過を見ながら徐々に従前の働き方に戻していく

ことが望ましいです。主治医や産業医の意見を聴くことなく、従前の働き方に戻した結果、社員の体調が再び悪化したような場合には、会社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償請求がなされる可能性も考えられます。

そのため、

復職後、会社が必要と認める場合、社員との協議の上、労働条件を変更することがある

旨の規定を就業規則に定めておくとよいでしょう。

以上(2025年5月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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画像:unsplash

【労災の落とし穴(建設業)】 突風は自然現象だけど労災になる?

この記事では、現役社労士が直面した小さな建設業の労災の事例として、「社員が突風で足場から転落したのに、『自然現象だから労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 突風で足場から転落したのに、会社は「自然現象だから」の一点張り……

社員数5人のとび・土工・コンクリート工事会社に勤務するBさん。ある日、Bさんは地上3メートルの高さの場所に看板を設置する作業を行っていました。その日は晴天でしたが風が強く、Bさんは作業中、突風にあおられて足場から転落してしまいました。幸い骨折はなく、軽い打撲で済みましたが、医師から「少なくとも1週間程度は作業を休むように」と診断されました。

電話で報告を受けた社長は「突風は自然現象だからなぁ、けがも軽いみたいだし、健康保険で治療してよ」と言いました。Bさんは戸惑いながらも「社長がそう言うなら……」と、健康保険を使って治療することにしました。

2 「自然現象によって事故が発生しやすい事情」があれば、労災になり得る

まず、業務が原因で負傷したり病気になったりした場合、必ず労災保険で対応しなければなりません。

労災なのに健康保険を使うことは違法であり、後に発覚すれば「労災かくし」とみなされ、会社や社長が罰せられる恐れ(50万円以下の罰金)

があります。「軽傷かどうか」は労災認定には関係ないので、会社の裁量で勝手に判断してはいけません。次に、自然現象が労災になるかどうかですが、これについては、

  • 地震、台風など天災地変によって被災した場合は、原則として労災にならない
  • ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情がある場合は、労災と認められる

というルールがあります。Bさんのように、日ごろから高所での作業に従事している社員は、常に「突風によって足場などから転落するリスク」を抱えているため、突風による転落事故は労災になる可能性が高いです。

3 「悪天候なら作業はさせない」が基本

労働安全衛生規則やクレーン等安全規則では、「悪天候時に作業中止等をしなければならない作業」が具体的に示されています。

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Bさんのケースは、「高さが2メートル以上の箇所で行う作業」に該当するため、強風で危険が予想される場合、会社が作業の中止を命じなければなりません。

「悪天候の日は、社員を作業に従事させない」という姿勢が大切

です。また、転落防止のための措置が徹底されているかも併せてチェックしましょう。厚生労働省が足場などからの転落防止のポイントやチェックリストをまとめています。

■厚生労働省「墜落・転落災害等防止対策推進事業(建設業)【厚生労働省委託事業】」(下記URLの「令和元年度用テキスト」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05646.html

以上(2025年6月作成)

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【分かりやすい原価計算(1)】原価の範囲~赤字覚悟!? どこまでが原価に含まれているの?

1 原価計算は何のためにするもの?

原価計算は、モノやサービスを作るのにいったいどれだけ費用がかかったかを知る手法で、会計などの分野にも必要な考え方です。会計は目的ごとに、

  • 税務会計:納税額を計算
  • 財務会計:株主などに向けて会社の状態や業績などを報告
  • 管理会計:自社の将来の意思決定のための資料

の3つに分かれ、いずれも原価計算が関わってきます。

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税務会計と財務会計では、決算期末の仕掛品などの在庫を決算書に計上するために必要となります。この在庫を基に売上原価が計算され、その後の利益計算が行われていきます。

一方、将来を予測し、将来を変える会計といわれる管理会計でも、原価計算の考え方は重要です。例えば、経営者は「物価高による解約で売上が2割落ちる見込みだが、利益はいったいいくらになるのか」「資金繰りは大丈夫なのか」といったことが心配になります。これらの疑問に答えるのに、自社のモノやサービスにいったいどれくらいお金がかかっているのかが全く分からないというのでは話になりません。原価計算の考え方を通して、将来の活動の方向性を示していくことができるように、会社の体質を把握していかなければなりません。

この会社の体質を、経営者、経理や財務だけでなく、あまり全体の数字には携わっていない営業担当者や製造担当者とも共有しておくことが大事です。各現場で全社として正しい判断ができるようになるでしょう。

書店に行くと、原価計算の体系化された書籍や新しい知識が盛り込まれた書籍が数多くあります。しかし、その中には中小企業の現場では使わない論点も数多くあるように感じます。本シリーズでは、このような膨大な情報の中から、中小企業の経営者や従業員が現場に落とし込むのに必要な情報を抜き出し、紹介していきます。

2 本当に赤字覚悟か? 原価で見るモノやサービスの値段

街中の飲食店で「赤字覚悟!」とうたい、スペシャルメニューの大盛りラーメン、ステーキやお寿司などを提供しているのを見たことがあると思います。お店が赤字になるぐらいギリギリの値段で、お客さんにはとてもお得というような宣伝文句として使われます。

この場合の赤字(その反対は黒字)には、どのような意味があるでしょうか。赤字・黒字というのは、利益のあるなしを示す言葉です。経営では、まず会社のもうけを増やすことを考えます。このもうけ、つまり利益は、

売上−費用=利益

の計算式で表すことができます。この費用の中に、

モノやサービスを作るための「原価」が含まれているのです。

少し身近な例(回転寿司店)で原価の範囲を考えてみましょう。回転寿司のお寿司の原価には何が含まれるかイメージしてみてください。ざっくり次のようなものがイメージできるのではないでしょうか。なお、次章の解説につなげるため、グループ分けしています。

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赤字覚悟と言われると、売上からネタやシャリなど材料費だけを引いたものが赤字スレスレとなっていると感じるかもしれませんが、実際は違います。なぜなら、材料費だけではなく料理人の給料や店舗家賃、電気代などの水道光熱費もかかっているからです。数字の仕事をされている方は、ちょっと立ち止まって、

どこまでの原価を費用に入れて赤字覚悟なのだろうか

と考えてみるのもよいでしょう。

3 決算書から読める原価はどれ?

原価のイメージができたところで、さっそく決算書(損益計算書と製造原価報告書)を見ていきましょう。

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損益計算書の「売上原価」に含まれている項目(製造原価報告書の当期製品製造原価)が、モノやサービスを作るための原価です。なお、製造原価報告書とは、原価を集計し、当期に完成した製品の原価(製造原価)を計算する決算書をいいます。売上原価には、材料費、労務費、外注費、経費といったモノやサービスを作るためにかかった費用が含まれます。図表2でいえば、1から6までが売上原価になります。

また、これ以外に本社の人件費や広告宣伝費といった販売や管理をするための費用として販売費及び一般管理費(以下「販管費」)があります。図表2でいえば、7から10までが販管費になります。

原価計算では、狭い意味での原価としてモノやサービスを作るためにかかった「売上原価」、広い意味での原価として、さらに販売や管理にかかった費用を加えた「売上原価+販管費」と表現します。

損益計算書の営業外収益・営業外費用、特別利益・特別損失は、原価計算の対象にはなりません。これらは、モノやサービスを作るためや販売・管理をするための費用、つまり営業活動にかかる費用ではないからです。

以降では、モノやサービスを作るための直接的な費用である「売上原価」を原価(狭い意味での原価)として説明していきます。

4 原価は3つ+αで構成される

原価は、何のために使った費用かということで、まず材料費、労務費、経費の3つに分類されます。

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さらに、経費の中に含まれる外注費は別枠で把握していきます。外注費というのは、自分の会社ではできないことを、他の会社や人に依頼してやってもらう場合に発生する費用です。自分の会社ではできないというのは、技術がなくてできないケースもあれば、まさに自社の本業だけれども、仕事の依頼が多すぎて人が足りないためできないというケースもあります。

自社のみで仕事を回すほうが、一般的に利益率は高くなります。このため、損益予測をしたり、決算分析で前期比較や予算比較をしたりする場合も、外注費がどれくらいかかっているかというのは重要になってきます。

例えば、建設業で前期よりも売上は20%上がったが、利益率が落ちているというケースで考えてみましょう。経営者は、仕事の効率が落ちてしまっているのかと心配になるかもしれません。そのときに見てもらいたいのは、外注費が多くなっていないかということです。仕事が会社のキャパ(許容範囲)よりも多くなってしまうと、どうしても外注に回す必要があります。外注する場合、自社だけで仕事を回すよりも一般的には利益率は落ちてしまいます。なので、自社で仕事をした分の効率が落ちていなければ、外注に回した仕事が増えたことによって全体の利益率が落ちることは問題ありません。

このように外注費は個別に把握すべき費目といえるので、

原価は材料費、労務費、外注費、経費という区分で考える

ことが大切なのです。

以上(2025年5月更新)

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画像:Shutter z-shutterstock

【朝礼】なぜ、「隣の芝生は青く見える」のか?

【ポイント】

  • 「隣の芝生が青く見える」のは普通で、転職などを考えるのは悪いことではない
  • ただ、私たちは、他人のものや外の環境の良い部分ばかりを見てしまう傾向がある
  • 「自分の芝生に水をやること」「隣の芝生の土をよく観察すること」を意識してみよう

今日は、「隣の芝生は青い」ということわざをテーマに話したいと思います。皆さんもご存じですよね。「他人のものや外の環境のほうが、自分のものや今いる場所より魅力的に見える」という意味です。ビジネスでも、今いる会社よりも、外の世界に魅力を感じ転職を考えるようになるというのはよくある話ですし、これは別に悪いことでもなんでもありません。ただ、なぜ私たちの目には「隣の芝生が青く見える」のでしょうか?

答えはシンプルです。私たちが「他人のものや外の環境の良い部分ばかりを見ているから」です。例えば、SNSには、他人や他社の華やかな投稿がたくさん載っています。もちろん、探せばネガティブな投稿も出てくるでしょうが、多くの人は今、自分がいる環境に慣れてしまっていて、無意識のうちに「自分は今のままでいいのだろうか……」「もっといい道があるのでは?」と考えています。だから、ネガティブな情報よりもポジティブな情報のほうが目に入りやすく、その結果、ますます「自分の環境はイマイチだな……」という思考に陥ってしまうのです。

とはいえ、SNSなどから得られる情報は断片的です。一見華やかな投稿でも、私たちは他人や他社がその陰で、どのような努力や苦労をしているかを知りません。外の世界に魅力を感じて転職するのはよくある話だと言いましたが、いざ新しい会社に入ってみたら「思っていたのと違った」というのもまたよくある話です。そこで、私から皆さんに提案したいことが2つあります。

1つは、「自分の芝生に水をやること」です。もし、少しの努力で今の環境を変えられそうなら、まずは自分のスキルを磨くなどして、どんな変化が訪れるか試してみましょう。意外と自分の芝生を好きになれるかもしれません。もう1つは、「隣の芝生の土をよく観察すること」です。先ほども言いましたが、無意識にポジティブな情報を探しているときは、ネガティブな情報が見えにくくなるものです。ポジディブな情報の陰にある努力や苦労に目を向ける、想像をする癖をつけましょう。

一度きりの人生、たくさんの選択肢の中から自分に合ったものを選ぶことは大切です。だからこそ後悔のない選択を! それでは、今日も一日よろしくお願いします。

以上(2025年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda