教育訓練給付金の拡充

2024年10月から、雇用保険の「教育訓練給付金」が拡充されました。教育訓練給付金は、厚生労働大臣指定の教育訓練を受講、修了した労働者に、受講費用の一部が雇用保険から支給される制度です。厚生労働省は、拡充により、労働者の主体的なスキルアップやリスキリングにつながることを期待しています。本稿では、教育訓練給付金の基本的なしくみと、今回の拡充のポイントについてお伝えします。

1 基本的なしくみ

教育訓練給付金の対象となる厚生労働大臣の指定訓練は、約16,000講座もあります。オンライン受講や夜間・土日受講が可能なものもあり、厚生労働省の検索システムで探すことができます。

約16,000の講座は、レベルや訓練期間、給付手続きなどの違いにより、「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類の給付金に分かれます。主な講座は次のようになっています。

教育訓練給付金の対象となる主な講座

※厚生労働省「教育訓練給付制度」より引用

2 拡充された給付金

3種類のうち「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」の給付金が、2024年10月から拡充され、給付率は次のようになりました。

「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」の給付率

※厚生労働省「教育訓練給付制度」より引用

「専門実践教育訓練」の給付金は、2024年9月30日以前に受講開始した場合、最大で受講費用の70%(年間上限56万円)でした。これに対し、2024年10月1日以降に受講開始し、修了後の賃金が受講開始前と比べて5%以上アップした場合には、受講費用の10%(年間上限8万円)が追加支給され、給付率は合計80%(上限64万円)となります。

例えば、訓練期間2年間、入学料10万円、6か月ごとの受講料が各40万円で、修了後資格を取得したケースを想定します。給付金は、拡充前だと合計112万円ですが、拡充後は、賃金5%アップの条件を満たせば、さらに16万円が追加され計128万円となります。

「特定一般教育訓練」の給付金は、2024年9月30日以前に受講開始した場合、最大で受講費用の40%(上限20万円)でした。これに対し、2024年10月1日以降に受講開始し、資格を取得して就職した場合には、受講費用の10%(上限5万円)が追加支給され、給付率は合計50%(上限25万円)となります。

訓練期間3か月、入学料5万円、受講料25万円のケースでは、拡充前の給付金は12万円でしたが、拡充後は、資格を取得して就職した場合に3万円が追加支給され、計15万円となります。

3 さいごに

教育訓練給付を受けるには、雇用保険の加入期間など細かい条件があります。詳しくは、厚生労働省のサイトを参考にしてください。

従業員のスキルアップは、企業にとっても大きな武器となります。教育訓練給付金について、従業員に積極的に周知することをお勧めします。ご不明の点は、ハローワークへお問い合わせください。

※本内容は2024年11月11日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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ヘッドライトの使い方とその重要性(2024/12号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

秋から冬は日の入りが早くなり、夜が長くなっていきます。また、この時期の薄暮時間帯(日の入り時刻の前後1時間)は夕食準備の買い物や子供の帰宅の時間帯と重なり、歩行者への一層の注意が必要です。視界が悪くなる薄暮から夜間にかけての運転で欠かせないのがヘッドライト。そこで今号では、ヘッドライトの使い方と重要性について考えます。

ヘッドライトの使い方

1.薄暮時間帯における事故防止

◆令和元年から令和5年の5年間における死亡事故発生状況を分析した結果、次のことが明らかになりました。

死亡事故発生状況

  • 日の入り時刻と重なる17時台から19時台に多く発生している
  • 薄暮時間帯には、自動車と歩行者が衝突する事故が最も多く発生しており、事故類型別では、横断中が約8割を占めている
  • 横断中の、特に横断歩道以外の横断における歩行者の約7割に法令違反がある

死亡事故発生状況

出典:警察庁「薄暮時間帯における交通事故防止」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html

◆薄暮時間帯に死亡事故が多い理由としては、周囲の視界が徐々に悪くなり、自動車や自転車、歩行者などの発見がお互いに遅れること、距離や速度が分かりにくくなること、などが挙げられます。

◆薄暗くなる前からヘッドライトの「早め点灯」を行い、自分の車の存在を周囲に知らせるとともに、速度を落として歩行者の予想外の動きにも対応できるようにしましょう。

2.ヘッドライトはこまめに切り替えを

【ヘッドライトの保安基準】

ヘッドライトは、ハイビーム(上向き)とロービーム(下向き)を切り替えて使います。ヘッドライトの照射範囲は、ハイビームで前方100メートル、ロービームで前方40メートルの距離にある障害物を確認できる性能を有することとされています。

【ハイビーム/ロービームの切り替え】

ヘッドライトの使い方については「道路交通法」で規定されており、交通量の多い市街地などの通行時を除きハイビームにし、対向車とすれ違うときや、前の車に追走するようなときは、ロービームに切り替えることとされています。視界確保のためにはハイビームでの走行が望ましいのですが、他車や歩行者がいるときは眩惑などの原因となります。交通状況に応じて切り替えを行いましょう。

3.ヘッドライトの眩しさの危険性

ヘッドライトの眩しさにより周囲の自動車等の発見が遅れ、事故に繋がったケースが2021年までの10年間で300件以上発生しました※。眩しさの危険性に対し、以下の対策が挙げられます。

  • 交通状況に応じてハイビームとロービームの切り替えを適切に行うこと
  • 整備不良による光軸のズレなどを防ぐために点検整備をきちんと行うこと

このほか、ライトの向きを自動調整する「オートレベリング機能」も対策の一つです。この機能は今後、全ての新車(自動二輪車等を除く)に対し装備することが義務づけられました(適用は令和9年以降)。

オートレベリング機能

※出典:国土交通省「自動車のヘッドライトのオートレベリングの装備を拡大します!」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000311.html

この義務化はヘッドライトの眩しさが事故の要因になりうることが顕在化した結果ともいえます。もちろん、オートレベリング機能の有無にかかわらず、ライトの眩しさが周囲に及ぼす影響に配慮した運転を心がけましょう。

以上(2024年12月)

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【ハラスメント対策】オワハラなどの「就活ハラスメント」を起こさないためには?

書いてあること

  • 主な読者:就活生に対して行われる「就活ハラスメント」を防ぎたい人
  • 課題:就活ハラスメントが起きた場合のリスクや、防止のポイントを知りたい
  • 解決策:就活生が精神的な苦痛を受けたら、民法の「不法行為」になる。就活ハラスメントの種類を押さえて、ハラスメント防止方針などで社員に周知徹底する

1 「就活ハラスメント」の規制強化の動きがある

「就活ハラスメント」とは、会社から就活生に対して行われる、

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

などの嫌がらせのことです。

会社は、職場におけるハラスメントについては一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについては現状、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を合わせて示すのが望ましい」というレベルにとどまっていて、各社の対応にバラツキがあります。一方で、足元では厚生労働省が

就活ハラスメント防止に関する企業向けサイトや、就活生向けの悩み相談室を立ち上げる

など、啓発に力を入れています。

就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。規制強化の動きがある中で、「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。

ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。なお、前述した厚生労働省の取り組みについてはこちらのURLをご確認ください。

■厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」■

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/syukatsu_hara/enterprise/

■厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」■

https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/

2 就活ハラスメントの4つの種類

1)オワハラ(就活終われハラスメント)

就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
  • 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
  • わざと採用面接を先延ばしにして、他社の選考を受けにくくする
  • 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする

2)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)

就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

  • 不必要に体に触る
  • 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求し、拒否・抵抗した場合、選考から落とす
  • 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
  • オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

3)圧迫面接

就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。

  • 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
  • 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
  • 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
  • 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る

4)その他

1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、次のようなものがあります。

  • 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
  • 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
  • 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
  • インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く

3 就活ハラスメントのリスク

1)就活生が精神的な苦痛を受けた場合、民法の「不法行為」になる

就活ハラスメント自体を規制する法令はありませんが、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

になり、ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあります。また、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。

また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。

  • オワハラ:内定を辞退しようとした就活生に「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
  • 就活セクハラ:不必要に体に触る(強制わいせつ罪)
  • 圧迫面接、その他:人格否定や差別的な発言をする(名誉毀損罪や侮辱罪)

2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?

就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。

就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入ることがあります。現状、会社名などが公表されるルールはありませんが、規制強化の動きには注意が必要です。

4 就活ハラスメントの防止のポイント

1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ

就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度に強気に出られず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。

会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労力を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。

2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する

就活ハラスメントが違法になる(民法の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。

  1. 会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない
  2. 業務上必要があったとしても、行き過ぎている

就活セクハラなどは1.に当てはまりますし、オワハラや圧迫面接などは「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。

逆に1.と2.に該当しなければ基本的に違法にはならないので、2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、

  • 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
  • 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
  • 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる

といった具合です。

3)社内のハラスメントの防止措置を、就活ハラスメントにも適用する

繰り返しになりますが、現状、就活ハラスメントについては特に防止措置が義務付けられていません。一応、

若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましいという記載がありますが、具体的な措置の内容は定められていない

という状況です。

一方で、社内のハラスメント(社員・役員が社員に対して行うハラスメント)については、労働施策総合推進法などにより、次の4つの防止措置が義務付けられています。この防止措置の対象範囲を、就活ハラスメントにも拡大すれば、トラブル防止につながるでしょう。

  1. ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  2. ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用
  3. ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討
  4. プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など

1.については、「会社として就活ハラスメントを許さない」旨と具体的な言動の内容を、ハラスメントの方針に書き加え、社員に周知徹底します。加えて、外部の専門家(弁護士など)に依頼して、採用活動や面接、OB・OG訪問、インターンシップを担当する社員向けにマニュアルを作成したり、就活ハラスメントに関する研修を実施したりするのもよいでしょう。

2.については、選考に先立って、ハラスメントに関する相談窓口の連絡先を、就活生と共有します。万が一、就活ハラスメントが発生しても、相談を受けた後で迅速に対応すれば、大きなトラブルに発展するのを防げるかもしれません。社内の相談窓口で就活ハラスメントに対処できるかが不安な場合、外部の相談窓口を利用するとよいでしょう。

3.と4.については、基本的に社内のハラスメントでの対応と同じです。

以上(2024年11月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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管理職なら押さえておきたい「重要労働判例」のポイント解説(2024年12月号)

労務トラブルは急に起こるものであり、正しい労務管理をしないと、思わぬことで訴訟に発展する場合があります。労働問題では判例の考えが解決に役立つので、トラブルの防止の観点から、管理職なら知っておきたい重要労働判例を厳選して紹介します。本冊子は、重要労働判例を解説する企画の第3弾です。2018年10月号の第1弾および2020年11月号の第2弾では掲載できなかった労働判例に加え、令和以降の最新判例のなかで特に重要なものを10件セレクトしました。


職場に貼って使える 職場ポスター「その自転車の運転 罰則対象です!」

印刷して職場に掲載できるポスターです。

今回は、道路交通法の改正で、2024年11月から罰則が強化された「自転車の危険運転」についてまとめました。


こちらからポスターのPDFをダウンロードできます。自転車で通勤したり、業務で自転車を使用したりする社員がいる場合、職場に貼ってご活用ください

こちらからダウンロード

以上(2024年12月作成)

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画像:日本情報マート

【かんたん消費税(6)】消費税の計算は「原則課税」か「簡易課税」で行う

書いてあること

  • 主な読者:消費税の計算がどのように行われているのか知りたい経営者
  • 課題:消費税は独自の計算方法で計算される。利益が出なくても納税額は発生する
  • 解決策:課税取引を集計し、預かった消費税から支払った消費税を引いて納税額を計算する

1 赤字でも納税が必要な消費税

消費税は物を売ったり買ったりした場合などに課税されます。会社が赤字でも納税しなければならないケースもあります。また、一つ一つの取引ごとに課税されるかどうかを判断し、独自に消費税を計算しなければならないので、非常に手間もかかります。

経営者としても、ある程度、消費税の計算方法を理解していないと、決算のときに想像以上の納税が発生して納税資金に困る場合もあります。この記事では消費税の計算方法についての概要を説明します。

2 計算は「原則課税」と「簡易課税」の2つ

1)差額を納税する

消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。預かった消費税を「仮受消費税」、支払った消費税を「仮払消費税」と呼びます。

  • 仮受消費税:物を売ったり、サービスを提供したりした場合に預かる消費税
  • 仮払消費税:物を買ったり、サービスの提供を受けたりした場合に支払う消費税

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2)2つの計算方法

納税額の計算方法には、原則課税と簡易課税とがあり、次のように異なります。

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簡易課税の特徴は、実際に支払った仮払消費税の額に関係なく、仮受消費税に一定割合を掛けたものを仮払消費税とみなすことです。仮払消費税の詳細な集計が不要なので簡単ですが、適用を受けるには、

  1. 基準期間の課税売上高が5000万円以下
  2. 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している

といった要件を満たす必要があります。そして、1.の要件を見れば、簡易課税が小規模な会社を対象にしていることがお分かりいただけるでしょう。

3 原則課税による計算の流れ

ここでは、多くの会社で行われている原則課税に注目し、計算の流れをざっくりと解説します。経営者が詳細な計算の流れを知る必要はありませんが、「課税標準とは何か」「仕入税額控除とは何か」といったことは、イメージできるようになると理想です。

1)計算の流れ

原則課税では、仮受消費税から仮払消費税を差し引いて納税額を計算します。ただし、帳簿上の残高を単純に差し引くのではなく、

税法に従って正しく計算し直した上で納税額を計算

します。具体的には、以下の流れで計算されます。

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2)課税標準額に係る消費税額の計算(申告する仮受消費税)

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課税標準額とは、

申告する「仮受消費税」のベースとなる金額

です。消費税の取引は「課税取引」「不課税取引」「非課税取引」「免税取引」の4つに分かれるので、

実際に消費税が発生する「課税取引」の税込金額

を集計します。重要なのは、

取引が課税取引に該当するかどうかの判断

です。商品の売上などだけでなく、建物などの資産(非課税取引となる土地などを除く)を売却したものも含めます。

次に、実際に集計した課税取引の税込金額を税抜金額にします。具体的には、

「課税取引」の税込金額×100/110

と計算します。つまり、税抜にしているということで、これを「課税標準額」と呼びます。課税標準額は、1000円未満は切り捨てです。

ここまできたら、

1000円未満の端数を切り捨てた課税標準額に消費税率を掛ける

ことで、課税標準額に係る消費税額(申告する仮受消費税)が計算できます。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

3)仕入控除税額の計算(申告する仮払消費税)

仕入控除税額とは、

申告する「仮払消費税」の金額で、仕入れや支出に係る消費税額

です。具体的には、

(国内の課税取引(仕入)の税込金額×10/110)+輸入消費税

と計算します。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

詳細は割愛しますが、実際の仕入控除税額の計算はとても細かく、一定の条件のもとに「仮受消費税からそのまま全額控除できるケース」と「全額控除できないケース」とがあります。

4)返品等や貸倒れがあった場合

取引では返品を受け付けて消費者に返金することがあります。とはいえ、販売時に預かった消費税は国に納付しているのに、返金を消費税込ですると、納税者(つまり自社)は損をします。そのため、

返品等で返金をする場合は、返金に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

また、物を販売して売掛金を計上したものの、入金されずに貸倒れとなった場合も返品の際と同じ考え方とします。つまり、

貸倒れた金額に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

以上をまとめると、最終的には、

仮受消費税-仮払消費税-(返品・値引・貸倒金額に含まれる消費税)

によって、国に納付すべき金額が計算されることになります。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【管理会計】その選択をしなかった場合の結果を「機会費用」として検討する

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:強気なだけでリスクをとる、あるいは弱気なだけでリスクを回避する?
  • 解決策:その選択をしなかった場合に得られたはずの利益を考慮し、未来志向で判断する

1 質問:まだ確定していない注文を見込むべきか?

自社の商品Aをいくつ製造するか決めたいと思っています。既にB社から5000個の発注を受けていますが、営業担当者によるとB社以外からも5000個の注文をもらえそうとのこと。さぁ、選択です。

B社向けに5000個だけ製造するか、B社以外の販売も見込んで1万個製造するか

営業担当者が“いける”というのなら、B社以外の販売先の注文も受けたいものですが、もし注文がこなかったらと心配になります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「機会費用」という感覚を持つ

「機会費用」とは、

ある選択をした場合に、選ばなかった別の選択をすることで得られた利益

のことです。商品Aの販売単価は1000円です。5000個だけ製造することを選んだ場合、B社以外の販売先に5000個販売することで得られたはずの500万円が機会費用です(ここでは、製造原価を考慮していません)。

機会費用は「収益の最大化」を意識して検討します。例えば、営業担当者がB社以外の販売先を複数見込んでおり、有力な先もあるのであれば、1万個の製造を選択しやすくなります。さらに大量生産で製造単価も下がるならなおさらです。

反対に、有力な見込み先がなく、製造単価も削減できないなら、5000個だけ製造してB社に売り切ったほうがよさそうです。在庫リスクはなく、営業担当者も他の商品の営業に注力できるので、商品Aの機会費用はなくなります。

3 機会費用を意識した優先順位

もう1つ、機会費用を検討するトレーニングをしましょう。

営業先にC社とD社とがあります。C社は過去に取引実績があり、要求も厳しくありません。競合他社も存在しないので、商談はスムーズに進むでしょう。C社で期待できる売上は500万円です。一方、D社は新規であり、要求はかなり複雑です。競合他社も多数存在するので、受注できるか分かりません。しかし、D社で期待できる売上は2000万円と、C社の4倍です。

C社かD社のいずれか1社としか取引ができないとすると、皆さんはどう判断しますか?

リスクを低減するならC社を優先して500万円を獲得します。1500万円の機会費用が発生しますが、営業上のトラブルや、D社に対応することでリソースが割かれ、他の営業先に悪影響が生じることはありません。

反対にD社を選択する場合は何を考えるでしょうか。2000万円の売上は魅力的で、D社の要求に応えるための努力(技術やノウハウ)はB社の財産になるかもしれません。競合他社に敗れても、将来に向けたビジネスの可能性が広がります。

これは単純な例ですが、機会費用を意識することでより深く検討できます。

4 後ろ髪を引かれても「サンクコスト」は気にしない

管理会計では「サンクコスト(埋没費用)」という考え方も重要です。サンクコストとは、

既に投資したコストや時間など

を指すものです。例えば、人気のラーメン店の行列に並んでいるとき、

予定より待ち時間が長くておなかペコペコだけど、ここまで待ったのだから我慢する

と、それまでのコストや時間を考慮するのがサンクコストの典型です。気持ちは分かりますが、意思決定においては、既に支払っているサンクコストは考慮しないのがセオリーです。そのため、

おなかペコペコなので、別の店にいく。ここまで待った時間は意識しない(諦める)

と、判断します。

ビジネスに話を戻しましょう。ビジネスでは常に撤退プランが準備されています。「これはやるべきではないかもしれない」「無駄かもしれない」と気付いたとき、それまで費やしたコストや時間を考慮せず、素早く撤退の判断したほうがよいのです。

5 練習問題

(問題1)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個では700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を考慮せず、5000個だけ製造しました。しかし、B社以外から5000個受注したとすると、「もうけ損なった利益」はいくらになるでしょうか? 商品Aを販売する際の販売費及び一般管理費などは考慮しません。

(問題1の回答)

1万個製造する場合、5000個までの製造単価は700円、残り5000個は690円です。この場合、B社以外に5000個販売したときの利益は次の通りです。

155万円=(1000円-690円)×5000個

(問題2)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個までは700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を見込み、1万個製造しました。ところが、B社以外に納品する前に1000個に欠陥があることが判明し、1000個を追加で製造しました。また、納期が遅れたため、この1000個の販売単価を1000円から990円に値下げしました。一方、作り直し分の製造単価は680円に抑えることができました。

B社への5000個、B社以外への5000個は、全て販売できたものとした場合、作り直しが発生しなかった場合と比較してどう違うでしょうか?

(問題2の回答)

答えは以下の通りです。

マイナス69万円(236万円−305万円)

1.1000個の作り直しが発生した場合の利益(236万円)

  • 売上高(a):999万円=1000円×9000個+990円×1000個
  • 製造原価(b):763万円=700円×5000個+690円×5000個+680円×1000個
  • 利益(a-b):236万円=999万円-763万円

2.作り直しが発生しなかった場合の利益(305万円)

  • 売上高(a):1000万円=1000円×1万個
  • 製造原価(b):695万円=700円×5000個+690円×5000個
  • 利益(a-b):305万円=1000万円-695万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【ハラスメント対策】中小企業で起きると大問題の「逆パワハラ」に経営者はどう立ち向かうか?

書いてあること

  • 主な読者:逆パワハラへの対応について確認したい経営者や上司
  • 課題:逆パワハラは経営者が気付きにくい問題で、放っておくと組織が機能不全を起こす
  • 解決策:経営者が積極的に関与して解決する

1 逆パワハラは組織が機能不全を起こす前兆?

いわゆる「逆パワハラ」とは、

部下が上司に行うパワハラ(パワーハラスメント)のこと

です。逆パワハラは経営者が気付きにくい問題です。なぜなら、被害者である上司が、「自身のマネジメント能力を疑われる」と心配して、その事実を明かさないからです。これは、

「上司が部下をマネジメントする」という組織の機能がうまく働かなくなってきている

という状況です。こうなる理由はさまざまですが、経営者でないとメスを入れにくい問題に、上司の能力不足があります。実際、上司がビジネスの変化に着いていけず(ITに弱いなど)、部下になめられるというのは、逆パワハラでよくあるケースです。

いずれにしても、社員数が限られた中小企業で逆パワハラが起きると、あっという間に組織体制は崩れます。そうなる前に、

経営者が積極的に関与して、逆パワハラを含むハラスメント防止を進めること

が大切です。

2 こんな事態は末期? 明らかな逆パワハラの例

パワハラに該当するか否かの判断は、次の3つの要素を基準にします。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要のない(または行き過ぎた)言動
  3. 就業環境が害される(働きにくい環境になる)こと

1.の優越的な関係を背景とした言動は、「上司」から「部下」に対して行われるのが典型ですが、部下が集団で結託している、部下だけが業務遂行に必要な知識や経験を持っているなど、

部下の協力を得なければ業務を円滑に遂行することが困難になる場合、「部下」から「上司」に対する言動が、優越的な関係を背景にした言動と判断されること

があります。これがいわゆる逆パワハラに当たります。

ここでは、令和2年厚生労働省告示第5号の「パワハラの6類型」に当てはめて、明らかに逆パワハラに該当する言動の例を紹介します。万が一こうした違法な言動が起きているようなら、即時に対応しなければなりません。

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3 逆パワハラへの対応

1)まずは規程や相談窓口をきちんと整備する

まずは就業規則やハラスメント防止規程で、「部下から上司に対して行われる言動もパワハラになり得る」旨を定めて、社員に周知します。また、パワハラに関する相談窓口がある場合、逆パワハラの相談も受け付けていることも知らせます。「担当者が若いと相談しにくい」と考える上司もいるので、相談窓口の担当者を複数人にするのが理想的です。

相談があった場合、担当者は、まずは事情聴取だけをします。ここで「これは逆パワハラとはいえない」などと意見を述べると、トラブルになる恐れがあるからです。逆パワハラに該当するか否かを判断するのは、事情聴取等を含めた事実確認が終わってからです。

2)加害者である部下の処分は慎重に

加害者である部下の処分は、ケース・バイ・ケースの判断になりますが、「明らかに逆パワハラに該当する言動」があった場合は懲戒処分とすることも考えられますし、逆パワハラに該当するか否かが明らかではないものの不適切な言動が認められた場合には、厳重注意をする等の処分も考えられます。

また、明らかな逆パワハラとまではいかなくても、それが疑われるような言動を放置してはいけません。ハラスメントに関する経営方針を定期的に社員に周知したり、外部機関のハラスメント研修を社員に受講させたりして、社員自身の気付きを促しましょう。

4 (参考)逆パワハラの法的な位置付け

逆パワハラについては、令和2年厚生労働省告示第5号で、

  • 同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  • 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの

と示されています。

また、社内で逆パワハラが発生した場合、加害者である部下が民法第709条(不法行為による損害賠償)に基づき責任を問われる恐れがあります。さらに、会社も民法第415条(債務不履行(安全配慮義務違反)による損害賠償)、民法第715条(使用者等の責任)などに基づき責任を問われる恐れがあります。

以上(2024年11月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:ArtFamily–Adobe Stock

【朝礼】「できる」道を探す人になれ

【ポイント】

  • 難しい要望をもらうと、「できない」と考えながら仕事を進めてしまいがち
  • 「難しい」「できない」と感じるときほど、「できる」という気持ちで取り組もう
  • 「本当にできた」という経験があれば、それは自信と勇気につながる

おはようございます。突然ですが、皆さんはお客様から実現が難しい要望をもらったとき、どのように対応しますか。「何がなんでも実現する。できる」と思ってアプローチしますか。それとも、「実現するのは難しそうだ」と考え、お客様にできないということを説得しますか。おそらく多くの人が前者と答えるでしょう。「できる」と信じて進めるほうがよいと、頭では分かっているからです。一方、皆さんを見ていると、「できない」と考えながら進めている人が多いように思えます。

時と場合によりますが、最初から「できない」と考えていれば、道が開けることはありません。できる道が見えてくるわけがないからです。かくいう私も、このことに気付いたのは高校生の頃、バスケットボール部に所属していた際に、監督から叱られたことがきっかけです。

あるとき、私は難易度の高い新フォーメーションの練習に取り組んでいたのですが、パスがうまく取れないなど失敗が続き、やる気を失いつつありました。そのとき監督が私にこう言いました。「君は、必ず取る、やってやるという気持ちでボールに向かっているのか? できないと思ってやる練習に意味はない。そんな練習ならやめてくれ」と。私はハッとしました。「成功しよう」という気持ちでやっていなかった自分、惰性で練習を続けていた自分に気付いたからです。

そこで、「次はできる。絶対に成功させてやる」と気持ちを切り替えたところ、新フォーメーションを成功させることができたのです。その後は、私を含め、練習する皆の空気が明らかに変わりました。「できる」という気持ちで取り組むことの大切さを、身をもって知ったからです。

皆さんも同じです。「難しい」「できない」と感じるときほど、「できる」という気持ちで取り組んでみてください。特に管理職は、できない理由ではなく、できる手段と方法を探す人になりましょう。部下は日ごろ、管理職の姿勢や言動を見ています。部下に「できる」という気持ちを持たせられるのは、私と管理職の皆さんです。

そうして一つでも「本当にできた」という経験があれば、それは皆さんの自信と勇気につながります。皆さんが取り組もうとしていることは、必ず「できる」のです。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「ポイ活」の税務! 付与する側と利用する側に必要な処理~経理担当者にも消費者にも関係します

書いてあること

  • 主な読者:自社でポイントを付与している企業、「ポイ活」をしている個人消費者
  • 課題:そもそもポイントについて会計・税務処理が必要になるかが分からない。ポイ活で集めたポイントは確定申告が必要なの?
  • 解決策:自社が付与したポイントが使われたら「販売促進費」など、他社からもらったポイントを使ったら「雑収入」など。個人はポイントのもらい方で確定申告が必要

1 どうすればいいの? 具体的な処理・手続き

〇円以上お買い上げのお客さまにポイントを付与!

このような「ポイント制度」は、顧客を囲い込む一般的な方法として普及しています。ポイントを受け取る消費者も、「ポイ活」をして賢くショッピングを楽しんでいます。

ところで、ポイントが魅力的なのは「お金のように使えるから」に他ならないのですが、付与する側もされる側も、会計や税務の処理はいらないのでしょうか。実は、双方に求められる処理があります。まだ、適切に処理をしていない人は、この記事を参考にしてください。ポイントに関する会計・税務の処理を次のように整理しています。

  • ポイントを付与する企業の法人税:販促費で処理、引き当て計上など
  • ポイントを受け取る企業の法人税:ポイントを使った際に雑収入として計上など
  • ポイントを受け取る個人の所得税:ポイントのもらい方によっては確定申告が必要

2 ポイントを付与する企業の法人税

企業がポイントを付与した場合の会計処理は次の3つです。

  • ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理
  • 付与したポイントに対して、決算時に引当金を計上
  • 収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに契約負債を、使用されたときに収益を計上(主に上場企業や大会社で採用)

どの方法を選ぶかによって法人税の取り扱いが変わるので、それぞれの特徴を把握しましょう。なお、上場企業などは、3.の方法で処理することが義務付けられていますが、中小企業はどの方法で処理しても大丈夫です。

1)ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理

ポイントが実際に使用された時点で、その金額を販売促進費(または値引き)として処理する方法で、

  • ポイントを付与した時点では会計処理は発生しない
  • ポイントが使用されたときのみ会計処理が発生する

ことになります。

ポイントが使用されたときの仕訳は次の通りです。

この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いについては、

特別な留意点はなく、通常通り計上した売上と費用科目(販売促進費)を使って利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求める

ことになります。

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2)付与したポイントに対して、決算時に引当金を計上

付与したポイントについて、将来のポイント使用分の見積額を計算し、決算時に引当金を計上する方法で、

  • ポイントを付与した時点では会計処理は発生せず、決算時に会計処理が発生
  • ポイントが使用されたときにも会計処理が発生

します。

決算時の仕訳は次の通りです。なお、一般的に、引当金の金額は過去数年間の実績からポイントが使用された割合(実績割合)を計算し、それを期末時点のポイント残高に乗じて計算します。

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この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いでは、決算時に計上した引当金がポイントになります。法人税を計算する上で、原則引当金の計上は認められていません。そのため、

決算時に計上したポイント引当金は、損金不算入(税務上の費用にならない)として、税務申告書上で調整が必要

になります。

ポイントが使用されたときの対応は、前述した「1)ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理」する方法と同じです。

3)収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに契約負債を、使用されたときに収益を計上(主に上場企業や大会社で採用)

収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに将来のポイント使用の見込額を計算して、契約負債を計上し、使用されたときに契約負債の取り消しと、収益を計上する方法です。収益認識基準は、上場企業や大会社(資本金5億円以上もしくは負債200億円以上の会社)に強制的に適用される会計基準です。現時点で、中小企業が適用する必要はありません(任意適用)。そのため、この記事では収益認識基準の解説は省略します。

この方法では、

  • ポイントを付与した時点で会計処理が発生
  • ポイントが使用されたときにも会計処理が発生

します。

以下のケースで考えてみましょう。

  • 10万円の商品を販売
  • 自社が発行する1万円のポイントを付与
  • 実績割合は70%

一般的には、まず過去数年間の実績からポイントが使用された割合(実績割合)を計算し、それを期末時点のポイント残高に乗じて、見積額(独立販売価格という)を出します。次に、その独立販売価格を使い、取引価格を商品売上に係るものと自社ポイントに係るものに配分します。

この場合、ポイントを付与したとき、使用されたときの仕訳は、次の通りです。

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この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いについては、

特別な留意点はなく、法人税を計算する際の調整も不要で、通常通りの利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求める

ことになります。なお、法人税の計算を会計上の取り扱いに一致させるには、法人税法で決められている詳細な要件を満たす必要があります。そのため、ポイント制度を導入する際は税理士などの専門家に相談し、法人税の取り扱いについて確認するようにしましょう。

3 ポイントを受け取る企業の法人税

ポイントを使用するのは個人消費者に限りません。企業も、消耗品やパソコンなどを購入する際や、出張時の宿泊料や航空券の購入時などに、ポイントを使用することがあります。

ポイントを受け取った企業の法人税の取り扱いは、

  • ポイントを受け取った時点では会計処理は発生しない
  • ポイントを使用したときのみ会計処理が発生する

ことになります。そして、ポイントを使用したときの会計処理は、

  • 雑収入または値引きとして処理
  • 現金で支払った金額で処理

の2つがあります。それぞれの仕訳は次の通りです。

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法人税を計算する際の調整はなく、通常通りの利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求めます。

4 ポイントを受け取る個人消費者の所得税

最後に、ポイントを受け取った個人消費者の税金(所得税)の取り扱いを見ていきましょう。所得税の取り扱いのフローは次の通りです。

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1)確定申告が必要か否か

最も気になるのは、受け取ったポイントについて所得税の確定申告が必要か否かですよね。

この点は、

どのようにポイントを受け取ったか

が重要です。具体的には、次の1.〜3.のどのケースに該当するかということです。

1.買い物の際に購入金額に応じて付与されたもの

このケースに該当するポイントは、

確定申告が必要な所得には該当しない

とされています。具体的には、買い物の際に購入金額に応じて付与され、ためたポイントで、現金や電子マネーには交換できず、そのサイトや店舗内の商品を値引きする際に使用されるものなどがそうです。

2.抽選キャンペーンに当選するなどとして付与されたもの

このケースに該当するポイントは、プレゼント(贈与)としての性質から、

確定申告が必要な所得になり、「一時所得」に該当

します。具体的には、抽選キャンペーンに当選して、受け取る懸賞金などとして付与されたポイントがそうです。この場合、抽選キャンペーンで付与されたポイントが、株式などの金銭的価値のある商品の購入に充当されるケースなども含まれます。

3.アンケート回答や広告視聴などで得られるもの

このケースに該当するポイントは、特定の行為に対する対価としての性質から、

確定申告が必要な所得になり、「雑所得」に該当

します。具体的には、サイト内などのアンケートに回答したり、広告を視聴したりして得られるポイントが該当します。

2)確定申告が必要なケースとは

前述の「2.抽選キャンペーンに当選するなどして付与されたもの」「3.アンケート回答や広告視聴などで得られるもの」に該当するポイントで、次のいずれにも当てはまる場合、確定申告が必要です。

  • ポイントを現金や電子マネーなどに交換した(以下「現金化」)
  • 交換したポイントの合計額が年間20万円(一時所得の場合は原則50万円)を超えている

ポイントがサイト上でたまっているだけの場合などは、現金化されていないので、申告の対象にはなりません。

いかがでしょう。「ポイ活」上手な人は確定申告の必要があるかもしれません。例年、確定申告は2月中旬から3月中旬までに行う必要がありますので、確認は早めに!

以上(2024年12月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Kei A-Adobe Stock