2025年から始まる! 変わる! 注目制度13選(4月施行内容を追記)

1 2025年の法改正を一覧表でチェック!

2025年は、行政手続きの電子化や、育児・介護支援、高齢者・障害者雇用など、さまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2025年の主な法改正を一覧にまとめました。なお、この一覧に税制改正は含めません。

この記事の作成時点(2024年12月30日時点)では施行日が明らかでなかった改正内容についても、2025年4月1日時点の状況を記載し直していますので、改めて確認してみてください。

画像1

2 2025年の主な法改正(13件)

1)安全衛生関連の一部の手続きは、電子申請が義務になります!(1月1日)

安全衛生関連の一部の手続きについて、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化されます。労働災害による死亡や休業の際に提出する「労働者死傷病報告」、社員数が常時50人以上の会社の「定期健康診断結果報告」などがそうです。義務化されていない手続きでも電子申請が可能なものもあります。チェックしてみましょう。

■厚生労働省「労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html

2)マイナンバーカードに運転免許証が一体化できるようになります!(3月24日)

希望者はマイナンバーカードのICチップに、運転免許証の情報を記録できるようになります。これを利用することで、住所や氏名の変更手続きが市区町村役場で完結できます。また、免許証の区分によっては、マイナポータルと連携させれば、免許証更新時の運転者講習をオンラインで受講できるようになり、その分更新料が安くなるなどのメリットもあります。

■警視庁「マイナンバーカードと運転免許証の一体化について」■
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/oshirase/individual_number.html

3)育児・介護支援が強化! 対象者の拡大や制度の周知義務など(4月1日、10月1日)

育児関連では、子の看護休暇(改正後は「子の看護等休暇」)について、対象者が「小学校就学前の子を育てる社員」から「小学3年生修了までの子を育てる社員」に拡大され、子の看護以外に入園(入学)式などでも取得可能になるなどの改正があります。介護関連では、仕事と介護の両立支援制度について、会社から社員への個別の周知や意向確認が義務付けられるなどの改正があります。一部、10月1日に施行される改正内容もあります。

■厚生労働省「育児・介護休業法について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

4)高年齢雇用継続給付の最大給付率が引き下げられます(4月1日)

高年齢雇用継続給付とは、賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象ですが、この給付の最大給付率が「15%→10%」に引き下げられます(1965年4月1日以前生まれの人は原則15%のまま)。高齢社員の賃金の見直しが必要かもしれません。

■厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00043.html

5)障害者雇用促進へ! 「除外率」が引き下げられます(4月1日)

社員数が常時40人以上の会社は、「社員数×2.5%(障害者雇用率)」を掛けた人数以上の障害者を雇用する義務があります。障害者の雇用が難しいとされる一部の業種(建設業、運送業など)については、社員数を計算する際、一定の「除外率」に相当する人数を社員数から除外できる制度があるのですが、その設定率が一律10ポイント引き下げられます。障害者がより多くの業種で働けるようにするための改正です。

■厚生労働省「事業主の方へ」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
■厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」■
https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf

6)SNS上の誹謗中傷などの削除申請手続きが迅速化されます!(4月1日)

近年、大きな問題になっているインターネット上での誹謗中傷について、SNSの運営事業者に対し、被害を受けた人への「対応の迅速化」と「運営状況の透明化」が義務付けられます。誹謗中傷などがあった場合に投稿の削除の申し出を受け付ける窓口を整備するほか、削除の申し出があった場合に速やかに調査し7日以内に判断して被害者に通知することを求めています。

■総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html

7)車検は有効期間満了日の2カ月前から受けられるようになります!(4月1日)

自動車の継続審査(車検)が、車検証の有効期間満了日の「2カ月前」から受けられるようになります。改正前、車検を受けられるのは車検証の有効期間満了日の「1カ月前」からで、年度末の3月に整備作業や車検の予約が集中しがちでした。今回の改正で一定の解消が見込まれます。

■国土交通省「来年4月より、車検を受けられる期間が延びます」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000645.html

8)新たに着工する建築物について、省エネ基準への適合が義務になります!(4月1日)

2025年4月以降に着工する全ての建築物に「省エネ基準」への適合が義務付けられます(改正前は中・大規模(300平方メートル以上)の非住宅の新築、増改築だけが対象)。改正に伴い、行政庁などによる「省エネ適合性判定」と建築主事などによる「確認審査」を受ける手続きが追加されます。手続きの不備で着工などに遅れが生じないよう、注意が必要です。

■国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shouenehou_r4.html
■国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/01.html

9)違法伐採防止に向けて、木材等の合法性確認が義務になります!(4月1日)

木材等の原木市場、製材工場等、輸入事業者に対して、「合法性確認(法令に適合して伐採された木材等か否かを確認すること)」が義務付けられます。素材生産販売事業者(立木の伐採、販売等)や木材の輸出事業者には求めに応じて伐採届等による情報提供が義務付けられ、他の木材関連事業者(家具工場、製紙工場、建築業者等)や小売事業者にも合法性確認が取れた木材の利用に努めることがこれまで以上に求められます。

■林野庁「クリーンウッド法の制度について」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html#kaisei
■林野庁「クリーンウッド法に関する情報提供『クリーンウッド・ナビ』」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/

10)物流業界で荷主・物流事業者に対する規制などが強化されます!(4月1日から順次)

いわゆる2024年問題への対策として、「荷主・物流事業者に対する規制」「トラック事業者の取引に対する規制」「軽トラック事業者に対する規制」が設けられます(一部は努力義務)。2025年4月から順次施行されており、4月からは荷主から運送を委託された元請事業者に対し、「実運送体制管理簿」の作成が義務付けられるなどしています。

■国土交通省「物流効率化法について(物流改正法)」■
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html

11)産業廃棄物処理分野で再資源化の報告制度が創設されます!(11月28日までに)

特に処分量が多い産業廃棄物処分業者に対し、産業廃棄物の種類・処分方法ごとに、処分数量・再資源化した数量を環境大臣に報告することが義務けられます。この取り組みが不十分であると判断された場合、国は勧告・措置命令を出せるようになります。また、資源循環のための事業計画を提出し、環境大臣の認定を受けることで、廃棄物処理法上の許可を受けなくても、廃棄物処理施設を設置できるようになるなどの特例が設けられています。

■環境省「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案の閣議決定について」■
https://www.env.go.jp/press/press_02916.html

12)建設業の安すぎる見積もりや短すぎる工期が禁止されます!(12月13日までに)

建設業の2024年問題などを受け、材料費などを著しく下回る見積もりや短すぎる工期設定に対する規制が強化されます。材料費の見積もりについては、受注者が安すぎる見積もりを作成することに加え、注文者側が通常必要と認められる以上の変更を要求することが禁止されます。工期設定については、今回の改正で受注者となる建設業者が著しく短い工期の請負契約を締結することなどが新たに禁止の対象になりました。

■国土交通省「建設業の担い手確保を推進するため、改正建設業法の一部を施行します」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00250.html

13)危険な海外製品や子供用製品の規制が強化されます!(12月25日までに)

消費者が海外事業者から直接購入する機会が増えたことを受けて、製品の安全性に関わる規制が強化されます。内容は「海外事業者に対し、国内管理人の専任を求める」「ネットモール事業者に対し、国は違反品の出品削除要請とその公表ができるようになる」「届出事業者の公表」「法令等違反行為者の公表」です。また、危険な子供用製品に関する規制も盛り込まれています。

■経済産業省「消費生活用製品安全法の一部改正について」■
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/shouan_ichibu_kaisei.html

以上(2025年4月更新)

pj60357
画像:naka-Adobe Stock

2025年4月から新法施行! ネットで誹謗中傷されたらどうする?

1 誹謗中傷や虚偽の書き込みには冷静かつ毅然とした対応を

SNSや口コミサイトを通じた誹謗中傷や虚偽の書き込み(以下「誹謗中傷等」)が、深刻な社会問題となっています。もし、御社が誹謗中傷等のターゲットになってしまったら、どうしますか?

誹謗中傷等は、いつ、何をきっかけに書き込まれ、拡散されるか分かりませんし、風評被害も不安ですから、放っておくわけにはいきません。かといって、怒りに任せて感情的な対応をしてしまうと、逆に会社のほうが「炎上」してしまう恐れがあります。

誹謗中傷等には冷静かつ毅然とした対応を取りましょう。そのために重要なのは、

  • 事実関係の確認と情報開示
  • 書き込みの削除請求と法的措置の検討

のポイントを押さえることです。幸い、誹謗中傷等への迅速な対応などを目的として、

2025年4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」(旧:プロバイダ責任制限法)が施行

されましたので、対策を進めたい会社にとっては追い風となります。

この記事では、法改正の内容を押さえた上で、誹謗中傷等への対応のポイントなどを紹介します。

2 2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法」とは?

以前は「プロバイダ責任制限法」により、インターネット接続サービスを提供する事業者(アクセスプロバイダ)や、SNSや口コミサイトなどのプラットフォームを提供する事業者(コンテンツプロバイダ)の責任等について、次の内容が定められていました。

【損害賠償責任の制限】

SNSやサイト上で誰かの権利が侵害された場合、関係するプロバイダ等は一定の範囲内で、被害者に対する損害賠償責任を負わない

【発信者情報の開示請求等】

SNSやサイト上で権利を侵害された場合、その被害者は関係するプロバイダ等に、発信者(投稿者)の特定につながる情報の開示を請求できる

【発信者情報開示命令事件に関する裁判手続き】

発信者の特定につながる情報の開示を請求する際は、裁判手続きにより行う(2022年10月以降、それまで複数回の手続きが必要だったのが、一体的に行えるようになった)

ただ、プロバイダ責任制限法には「情報の削除を求める権利」についての定めがないため、この問題を解消すべく、2025年4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」と名称を改めた新法が施行されました。そして、総務大臣の指定を受けた「大規模プラットフォーム事業者」というプロバイダ等に対し、次の措置が義務付けられることとなりました。

【対応の迅速化】

情報の削除を求めるための「削除申出窓口」と、窓口からの削除申出の手続きを整備・公表する。削除申出に対応するための体制を整備し、申出に対する判断・通知を行う

【運用状況の透明化】

情報を削除する際の「削除基準」を策定・公表する。情報を削除した場合、発信者への通知を行う

この改正により、例えば次のような問題を解消することが期待されています。

画像1

今後、必要な政省令が定められ、ガイドラインの見直しなどが行われます。情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会(旧:プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会)のウェブサイト内で公表される予定です。

■情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会■
https://www.isplaw.jp/

法改正の内容を踏まえた上で、誹謗中傷等への対応のポイントを見ていきます。

3 誹謗中傷等への対応のポイント

1)事実関係の確認と情報開示

誹謗中傷等を認識したとき、まずは事実関係を正確に把握することが大切です。書かれている内容に対して「根拠のないデマだ!」と頭から否定してかかって、後から事実だったことが判明すると、そのときに受けるダメージは、より深刻なものになります。

まずは、実際に誹謗中傷等の内容が掲載されているページを確認し、SNSや口コミサイトの名称、URL、発信者、書き込み日時、内容等を記録します(裁判等で証拠として必要になります)。その上で、書き込まれた内容が事実なのか、どうかを確認します。

そして、できるだけ速やかに自社のウェブサイトを通じて情報開示することが望ましいと考えられます。まだ真偽不明の状況であれば「事実関係を調査中」ということを掲載し、調査結果が判明次第、あらためて情報を開示します。なお、

SNSや口コミサイト上で直接反論はしないほうが無難

です。一部が切り取られるなどして曲解されたり、誤った情報がさらに拡散されたりする恐れがあるからです。

2)書き込みの削除請求と法的措置の検討

情報流通プラットフォーム対処法にのっとると、前述した通り、大規模プラットフォーム事業者(プロバイダ等)の削除申出窓口から、書き込みの削除を請求することになりますが、後々の法的措置のことも検討するとなると、

書き込みの削除請求を行うに当たっては、まず弁護士に相談

するのがよいでしょう。

また、総務省委託事業として、「違法・有害情報相談センター」も相談窓口を開設しています。誹謗中傷等について、削除するにはどうすれば良いのか、書き込んだ相手を特定するにはどうしたらよいのかなど、同センターのウェブサイトを通じて利用登録をすると、無料で相談できるようになります(ウェブフォームからの相談のみ受け付けています)。

■違法・有害情報相談センター■
https://ihaho.jp/

4 誹謗中傷等が後を絶たない背景

令和5年版情報通信白書において「インターネット上での偽・誤情報の拡散等」の背景として指摘されているのが、「アテンション・エコノミー」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」です。それぞれ押さえておきたい用語です。簡単に見ていきましょう。

1)アテンション・エコノミー

インターネット上には膨大な情報が流通していますが、興味や関心、注目をひくような情報によって、クリックを促し、より多くの広告を見たり、サービスを使ってもらおうとしたりする仕組み(経済モデル)を「アテンション・エコノミー」といいます。

閲覧者数、クリック数を増やすことが経済的価値を持つようになっている中、過激なタイトルや内容、憶測だけで作成された事実に基づかない記事が次々と生み出されています。

2)フィルターバブル

インターネットで目にする情報は、その人の思考に合わせて表示されるようになっています。アルゴリズムによって検索履歴やクリック履歴が分析、学習され、見たい情報が優先的に表示されるからです。このように自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を「フィルターバブル」といいます。

自身が見たい(とされる)情報しか見えなくなり、そうなっていることすら意識しない状態になってしまっているかもしれません。

3)エコーチェンバー

SNSでは、自身と似たような興味・関心を持つ人をフォローする結果、自身の考えと同調する記事や意見ばかり目にすることになります。こうした状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえて「エコーチェンバー」といいます。

何度も同じような意見を聞くことで、自身の考えは正しい、間違いないと、より強く信じ込んでしまいます。

5 参考:サジェスト汚染の対処法(Googleの場合)

「○○(自社の社名や商品・サービス名)」をキーワード検索(エゴサーチ)し、自社の評判やイメージを確認しているところも多いのではないでしょうか?

そうしたとき、サジェストとしてネガティブなキーワードが表示されることがあります。こうした現象は「サジェスト汚染」と呼ばれます。

検索エンジンの仕組み上、仕方のないこととはいえ、悪意のある事実無根のネガティブワードをそのままにしておくのは気分の悪いものです。

Googleの場合、検索窓にキーワードを入れると表示されるサジェスト一覧の右下に小さく「不適切な検索候補の報告」があり、そこから簡易に削除申請をすることができます。

画像2

また、GoogleのLegalヘルプのフォームを経由して削除申請をすることもできますが、こちらの方法は入力項目も多く、削除申請の根拠を提示するなど、やや専門的な対応が必要です。

■Google「Legalヘルプ 法的削除に関連する問題を報告する」■
https://support.google.com/legal/contact/lr_legalother?product=searchfeature

※画面最下部で表示言語を日本語に変更できます

以上(2025年4月作成)
(監修 弁護士 坂東利国)

pj60359
画像:mw-Adobe Stock

どこで差が付く? 「報連相」が得意な人、苦手な人

1 相手が求める情報を「報連相」する

報連相(ほうれんそう)は「報告・連絡・相談」の頭の漢字を取った造語です。業務をスムーズに進めるために、社会人の基本として必ず身に付けるべきことです。

部下が適切な報連相をしていれば、上司は状況を正しく理解し、適宜、指示を出すことができます。たとえ問題やトラブルが発生しそうになったときでも、事態が悪化する前に、上司がフォローをすることでトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。顧客や取引先との関係を良好に保つことへもつながります。

では、適切な報連相の条件とは何でしょうか? それは、以下の3つの条件を満たすものです。

  1. 業務が「望ましい状況か」「悪い状況か」、またその内容が具体的に伝わる
  2. 目的や意図が、相手に伝わる
  3. 相手がそれに基づいて判断し行動できる

適切な報連相をするには、

相手が知りたいことを過不足なく手短に伝え、相手の判断材料となるよう工夫すること

が必要です。

2 報連相が苦手な人と上手な人は何が違う?

1)あるメーカーで起きたトラブルの報連相。2つの事例

あるメーカーの営業課の社員が、取引先のX社から商品Yを受注しました。しかし、納品前日になって、自社の工場から「生産ラインのトラブルで、納品が納期より2日遅れる」と連絡が入りました。社員は、工場にどうにかできないか掛け合ったものの、工場は「申し訳ありません。どうしても2日遅れてしまいます」の一点張りでらちが明きません。社員は状況を営業課長に報告し、指示を仰ごうとしました。

ここで、営業課長(以下「課長」)へ報告した社員、2人の報連相の事例を挙げます。あなたが課長だったら、どちらの報告をしてほしいですか? 両者を比べてみてください。

1.Aさんの報連相事例

「課長、X社に納品予定の商品Yですが、ラインのトラブルがあった関係で、納品が2日遅れになってしまうと工場が言ってきています。どうにかできないか掛け合ったのですが、工場の担当者は、『申し訳ない』の一点張りでらちが明かず、しかもX社の納期は明日なのですが……」

2.Bさんの報連相事例

「課長、私が担当しているX社に明日納品予定の商品Yについて、トラブルが発生しており、報告とご相談です。先ほど工場から商品Yの納品が2日遅れると連絡がありました。生産ラインでのトラブルが原因とのことです。

商品Yは、X社に10ロット、明日の17時までに納品する予定です。他の取引先にも商品Yの納品予定がないか、各担当者へ確認しており、あと1時間後には全員に確認できる見込みです。

現在、商品Yの在庫は、○○支社に25ロット、××支社に15ロットあります。こちらに回してもらえるか確認します。

工場からは、このトラブルは、他の商品には影響ないとの報告を受けています。まだ対応が決まっていないため、X社にこの件は伝えていません」

 

さて、いかがでしょうか?

Bさんの報連相を聞いた課長は「分かった。各担当者に確認ができ次第、もう一度報告してほしい。○○支社と××支社には、私から連絡する。その結果次第では、X社に私から連絡する」と指示することができます。

一方、Aさんの報連相を聞いた課長は「X社には何ロット納品予定なのか?」「君の担当以外も含めて、X社以外で商品Yの納品予定はないのか?」「他の支社に、こちらに回せる在庫はないのか?」「X社の担当者には連絡しているのか?」と、トラブル解決に必要な質問をすることになります。しかし、Aさんはそれらを確認せずに、課長へ慌てて報告しに行ってしまっていたため、しどろもどろになってしまいました。

2)AさんとBさん、2人の報連相は何が違うのか?

2人とも、取引先に迷惑を掛けたくない気持ちは同じです。そのために、状況を課長に報告して、指示を仰ぐことが報連相の目的です。

しかし、2人の報連相には、次のような違いがあります。

画像1

課長にとって、Aさんの報告は、次の行動を決める上でほとんど役に立ちませんでした。一方、Bさんの報告は、次の行動を絞り込むことができる適切なものでした。

その差を生んだのは、報連相を行ったAさんとBさんの視野や思考、行動の違いです。

1.(視野)目先のトラブルだけにとらわれず、広い視野で見る

Aさんは、自分の担当であるX社のことだけで頭がいっぱいです。また、事態を打開するためのアイデアもありません。

Bさんは、X社だけでなく他の取引先や商品にも視野が行き届いています。目先のトラブルを解決することが第一ですが、連鎖してトラブルが起きないようにすることも大切です。Bさんは、この点についても考えることができていました。

2.(思考、行動)相手の立場になって、他に何を知りたいか仮説を立てて対応する

Aさんは、工場から連絡を受けたときに「とにかく課長に報告しなければ!」と、自分の考えを持たないまま、課長に指示を求めに行っています。

Bさんは「課長はきっとX社以外の取引先への影響も気になるはずだ。それに、工場からの納品は間に合わないとしても、他の支社に在庫があれば、それを手配できないかと考えるはずだ」と仮説を立てて、他の担当者への確認、支社への在庫の問い合わせを行いました。

3 適切な報連相をするために必要なこと

相手にとって、必要な情報を伝えるためには、このように

  • 目先のことにとらわれず、トラブルの及ぼす影響へ、視野を広げること
  • 相手の立場になって、仮説を立てて考えること

が大切です。

普段から、自分が責任者だという意識を持って仕事に取り組むことで、「上司の立場だとしたら、その情報がないと判断に困る」、もしくは「その情報があれば、判断がしやすい」という情報がイメージできるようになります。

その上で、自分が上司に必要だろうとイメージした情報と、実際に報連相をして上司が必要としていた情報の差を埋めていくことが、適切な報連相をするための1つの方法です。

4 適切な報連相のために押さえたい3つのポイント

1)要点を整理し、結論第一で具体的に伝える

報連相をする前に、必ず自分が持っている情報を整理しましょう。重要な情報の抜け漏れを防ぎ、支離滅裂な報連相を避けることができます。

まずは、結論を第一に伝えることが原則です。その後に結論に至った理由や背景、今後の展望などを伝えましょう。新聞記事がそのような構成で書かれていますので、参考にするとよいでしょう。

また、抽象的な表現は使わないようにしましょう。「とても」「少し」「かなり」といった副詞ではなく、数字で説明できる情報は「1万個」というように伝えます。数字は「いつ(納期)」「いくつ(ロット)」「いくら(価格)」といったように、判断に直結するものが多いので注意して伝えましょう。

特に、期限に関しては「今日中」「朝イチ」「お昼頃」など、人によって解釈の分かれる表現を使わず、はっきりと「○日の○時」と明言しましょう。「いくつ」や「いくら」といったビジネスにおいて大事な情報を「1万個くらい」「10万円ほど」のように曖昧に表すのも御法度です。

2)良い報告か悪い報告か、事実と意見・推測を区別し、上司に伝えることを明確に

ビジネスでは、商談が成立したという良い報告もあれば、トラブルが起きたという悪い報告もあるでしょう。「Z社との商談で、当社にとって避けたい状況に陥っており、ご相談です」といったように、良い報告か悪い報告かを示した上で話し始めるとよいでしょう。

特に、ミスやトラブルなど悪い情報について報連相をしなければならないときは気がめいるでしょう。しかし、放っておいては事態が悪化するため、悪い情報こそ早く伝えることが肝要です。自分だけで悩んだり、勝手な判断をしたりすれば、取り返しのつかないことにもなりかねません。

また、話の中で、事実と意見・推測が混在していると、上司は「部下の意見」を「事実」と捉えてしまいかねません。もし、事実に対する意見や推測を加えたい場合は「これは私見ですが」と断ることで、事実と意見・推測が区別できます。

3)伝えるタイミングと方法を、相手に合わせて考慮する

忙しい上司へ報連相を行うに当たっては、タイミングや方法にも配慮が必要です。

口頭で伝える場合には、情報の緊急性・重要性を考えながら、タイミングを見計らって「○○について報告があります。お時間を頂戴してもよろしいですか?」と、相手の都合を確認しましょう。報連相は原則、相手の時間を割いて行うものです。

急を要する報告でなければ、メールやチャットツールなど、上司が都合の良いときに確認できる方法で伝えるのも配慮の1つです。

テレワークを導入している会社だと、面と向かって口頭で伝える機会が減っている所もあるかもしれません。しかし、情報の緊急性・重要性に応じて、メールやチャットツールなどの文面と口頭、どちらが良いのか使い分けをしましょう。口頭での伝達であっても、要点をまとめた文書を添えることで、情報の抜け漏れや、解釈の行き違いを防ぐことができます。

以上(2025年4月更新)

pj00195
画像:TAGSTOCK2-Adobe Stock

知らないと恥ずかしいレベルの「労働時間」

1 自由な労働時間制度は会社の魅力

9時に出社して18時に退社する。変わりつつあるものの、未だにこれが労働時間の基本です。ところで、法定労働時間、所定労働時間、時間外労働など、労働時間にはさまざま取り決めがありますが、皆さんはどれだけ基本を押さえていますか?

この記事では、労務管理をする上で、人事担当者でなくてもこれくらいは知っておきたいというレベルで、労働基準法(以下「労基法」)で定められている労働時間の基本を、分かりやすく説明します。

2 法定労働時間:法律で定める労働時間の基本

法定労働時間とは、

労基法で定められている労働時間の上限で、原則として1日8時間、1週40時間(休憩時間を除く)

です。ただし、特例措置対象事業場(社員が常時10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)は、1日8時間、1週44時間(休憩時間を除く)です。

なお、休憩時間は、

1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上

です。

3 所定労働時間:会社が決める労働時間

所定労働時間とは、

法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間

です。例えば、所定労働時間が1日7時間なら問題ないですが、1日10時間だと違法です。つまり、

原則として、会社は法定労働時間を超えて社員を働かせることができない

ということです。

ただし、通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、この後に紹介する時間外労働や休日労働を、社員に命じることができます。なお、労使協定とは、

過半数労働組合(社員の過半数で組織する労働組合)、過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)との書面による協定

です。

4 時間外労働:いわゆる「残業」

時間外労働とは、

いわゆる「残業」ですが、より正確には法定労働時間を超える労働

です。例えば、9時始業で18時終業(休憩時間が1時間)の会社で、社員が9時から21時まで働いた場合、時間外労働は3時間(11時間-8時間)です。

画像1

また、法定労働時間は1週40時間ですから、通常、出勤は週5日になります。つまり、

8時間×5日=40時間

ということですから、社員が土曜日に出勤して8時間働くと、それは時間外労働となります。

画像2

会社は、時間外労働に対して割増賃金を支払わないといけません。また、1カ月当たりの割増率は時間外労働の長さによって次のように変わります。

  • 60時間以下:25%以上の割増
  • 60時間超:50%以上の割増

5 休日労働:土曜日と日曜日で違う?

休日労働とは、

法定休日(就業規則等で定める、毎週1日または4週間を通じ4日以上の休日)の労働

のことです。例えば、日曜日を法定休日とした場合、日曜日の労働は労働時間に関係なく全て休日労働になります。

会社は、休日労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 休日労働:35%以上の割増

なお、法定外休日(法定休日以外の休日)に働いても、休日労働にはなりません。例えば、土曜日と日曜日が休日の会社が、日曜日を法定休日とした場合、土曜日は法定外休日です。法定外休日の労働は、第4章で紹介した通り、法定労働時間を超える部分が時間外労働になります。その場合、会社は法定外休日の労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 法定外休日の労働(時間外労働になる場合):25%以上の割増

6 深夜労働:深夜というわりに早い?

深夜労働とは、

原則として22時から翌日5時までの労働

です。

会社は、深夜労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 深夜労働:25%以上の割増

7 割増率:要素のコンボで高くなる

時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金は割増されますが、これは足し算されます。

  • 時間外労働が深夜に及んだ場合:50%(25%+25%)
  • 時間外労働が深夜に及び、1カ月60時間を超えた場合:75%(50%+25%)
  • 休日労働が深夜に及んだ場合:60%(35%+25%)

なお、「休日労働の時間外労働」という概念はありません。

8 時間外労働の上限規制

社員に時間外労働を命じる場合、会社は第3章で紹介した36協定に具体的な時間数を定めます。36協定の時間数の範囲内までなら、時間外労働を命じても違法にはなりません。ただし、

36協定に定められる時間数には上限があり、これを超える時間外労働は違法

になります。このルールを「時間外労働の上限規制」といいます。

時間外労働の上限規制は、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日)から適用が開始され、さらに2024年4月1日から、適用が猶予されていた4つの業種・業務が対象に加わりました。どの業種・業務も、時間外労働は原則として「1カ月45時間まで、1年360時間まで」とされていますが、臨時的な特別な事情があり、かつ労使の合意がある場合については、それぞれ上限のルールが異なります。

画像3

2024年4月1日からは、ほぼ全ての業種・業務が時間外労働の上限規制の適用を受けることになりましたが、唯一「新技術・新商品等の研究開発業務」は、適用除外とされています。

9 時差出勤:最も手軽な働き方改革

ここまで労働時間の基本をお話ししてきましたが、近年は柔軟な働き方を実現しようと、労働時間のルールを工夫している会社が増えてきています。ここでは、比較的少ない手間で取り組める「時差出勤」を紹介します。

時差出勤とは、

所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻を変更する制度

です。9時始業で18時終業の会社が時差出勤を導入すると、例えば、10時始業で19時終業にすることができます。

画像4

時間外労働などについて時差出勤特有のルールはないので、この記事の内容を守っていれば問題ありません。必要な手続きは、就業規則の変更と届け出です。具体的には次の通りです。

画像5

以上(2025年4月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

pj00462
画像:Dhammarat Nunart-shutterstock

印刷して新入社員に配れる~入社1年目の教科書のPDF版

「入社1年目の教科書」シリーズは、新入社員の皆さんに今のうちから身に付けてほしい社会人の基礎を分かりやすくまとめたものです。服装・挨拶のマナーや電話の出方など初歩的な内容から、契約のルールなど少し専門的な内容まで、幅広く紹介しています。

今回は、4月に入社した新入社員の研修などで、「入社1年目の教科書」シリーズを印刷してご利用いただける、PDFファイルをご用意しました。

各シリーズの画像をクリックすると、コンテンツのPDFファイルをダウンロードできますので、この機会にぜひご活用ください!

1 社会人の常識・マナー編


まずはここをおさえよう! 会社の一員としてはたらくための基礎知識、あいさつ、服装など、新社会人になったらまずは目を通しておきたいリポート3本を収録しています。

2 電話・メールの作法編


社会人になったら避けては通れない! けれど苦手意識を持つ人が多い、電話やメールなどの作法を解説したリポート3本を収録しています。

3 会議・訪問の準備編


会議や取引先への訪問は緊張しますが、事前準備をしっかりしておけば大丈夫! 基本的なルールやマナー、「上座」問題や議事録の取り方についてのリポート3本を収録しています。

4 お金との付き合い方編


社会人なら知っておきたい「お金」との向き合い方。給与明細や源泉徴収票の見かたから資産形成の基本などのリポート4本を収録しています。

5 財務3表マスター編


会社が年度末に作成する決算報告書の中でも、特に重要視される「財務3表」。基本的な読みかたや記載のルールなどを分かりやすく解説したリポート3本を収録しています。

6 文書・データの取り扱い編


社会人として仕事をするうえで、誠実さが何よりも現れるのはビジネス文書や情報・データの取り扱い。基本のルールをおさえて解説したリポート3本を収録しています。

7 取引先への対応編


失敗したくない取引先への対応。契約書の内容から営業・取引のいろはまで、取引先に対応する上でおさえておきたいルールを解説したリポート3本を収録しています。

8 働き方と健康編


何と言っても「体が資本」。働き方の基本をまとめた服務規律から残業のルール、有給休暇、健康診断など、働きかたについてのリポート4本を収録しています。

【かんたん法人税(1)】会計と税務の違いを理解しよう

1 経営者にとって最も身近な「法人税」

法人税は中期経営計画と関係性が深く、いわゆる「決算対策」の対象にもります。そこで、このシリーズで、経営者が押さえておきたい法人税のポイントをまとめていきます。

シリーズ第1回では、法人税の課税対象や計算に関する全体像などをご説明します。経営者が特に押さえておきたいのは、

  • 会計:収益-費用=利益
  • 税務:益金-損金=所得

の違いです。決算対策で自社に有利な取り組みをするのも、税務調査で指摘を受けるのも、基本的にはこの違いから生じますので、しっかりと確認していきましょう。

2 法人税の概要

1)納税義務者は法人

法人税の納税義務者(税金を納める義務がある者)は「法人」です。法人には株式会社や合同会社の他、一般社団法人や医療法人など多くの形態があります。

法人税法上では、これらの法人を、

  • 内国法人:国内に本店または主たる事務所等を有する法人
  • 外国法人:内国法人以外の法人

の2つに区分しています。一般的な法人の多くは「内国法人」の、「1.普通法人」に該当します。

画像1

2)課税対象は所得

法人税の課税対象は、

事業活動を通じて得た「所得の金額」

です。「所得」は会計上の「利益」に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

  • 会計上は収益となるが、法人税法上は収益とならないもの
  • 会計上は費用となるが、法人税法上は費用とならないもの

などが存在するため、必ずしも「利益=所得」とはなりません。この点の詳細は後述します。

3)税率は原則として23.2%

法人税の税率は、

原則として23.2%

です。ただし、中小法人の場合、

所得が年800万円以下の部分は15.0%(適用除外事業者については19.0%)に軽減

されます。例えば、所得が1000万円の中小法人の場合、800万円までは15.0%(適用除外事業者は19%)が適用され、800万円を超える部分(1000万円-800万円=200万円)には23.2%が適用されます。

なお、適用除外事業者とは、前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者のことです。また、2025年4月1日以後に開始する事業年度からは、所得金額が年10億円超の中小法人については、所得のうち800万円以下の部分に適用される軽減税率が、17.0%となります。

画像2

4)申告期限

1.確定申告

法人税は、

原則として、事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に確定申告をして法人税を納付

します。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは上記申告期限を延長することも可能です。

2.中間申告

事業年度が6カ月を超える法人は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内に中間申告書を提出して中間法人税を納付します。一般的な1年決算法人の場合、前事業年度の法人税の12分の6相当額を中間法人税として納付するのが基本です。

3 「利益」と「所得」の違いと税務調整

1)「利益」と「所得」の違い

会計上の利益は「収益-費用=利益」として計算されますが、法人税法上の所得は「益金-損金=所得」として計算されます。益金は収益、損金は費用に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

会計上は収益(費用)となるが、法人税法上は益金(損金)とならないものがあるなど、両者は必ずしも一致しない

ことになります。

益金の場合、会計上の収益に「会計上は収益とならない(していない)が、法人税法上は益金となるもの」を加算し、「会計上は収益となるが、法人税法上は益金とならないもの」を減算することによって、法人税法上の益金が計算されることになり、損金についても同様です。この加減算調整のことを「税務調整」といいます。これを図解すると次の通りとなります。

画像3

2)税務調整の種類

税務調整項目として代表的なものは次の通りです。

1.益金算入項目:会計上は収益ではない、税務上は益金

2.益金不算入項目:会計上は収益、税務上は益金ではない

3.損金算入項目:会計上は費用ではない、税務上は損金

4.損金不算入項目:会計上は費用、税務上は損金とならない

4 法人税の具体的な計算過程と実務

1)所得金額の算定

収益と益金、費用と損金に違いがあるため、利益と所得は必ずしも一致しません。そこで税務調整が必要となりますが、実際の確定申告書を作成する上では、益金と損金について別々に税務調整を行うのではなく、「会計上の利益をスタート」として、この会計上の利益に直接所定の税務調整を行うことによって所得金額を算出します。

図表4において会計上のP/Lと税務上のP/Lの違いをイメージした上で、実際の確定申告書を作成すると図表5のようになります。

画像4

画像5

2)法人税額(特別控除等考慮前)の計算

法人税額(特別控除等考慮前)は、上で計算した税務上の所得金額(課税所得金額)に法人税率を乗じて求めます。

画像6

3)法人税額(特別控除等考慮後)の計算

法人税法においては、従業員の賃上げを行ったり、試験研究費の支出をしている法人に対しては、計算した法人税を減額する制度(税額控除制度)などがあったりします。また、法人税額の他、一定の同族会社に対して所定の追加税額を課する制度(特別税額制度)などがあります。

従って、上記2)で計算した法人税額に、税額控除制度や特別税額制度によって計算した金額を加減算して1事業年度の法人税の総額を求めます。

画像7

4)納付すべき法人税額の計算

上記3)で計算した法人税額は1事業年度の法人税の総額ですので、最後にその事業年度中に納付した中間納付額を控除することで「確定申告により納付すべき法人税額」が計算されます。

画像8

5)実務上の留意点

法人税の課税対象となる所得の金額は「会計上の利益」をスタートにして所定の税務調整を加減算して計算されます。従って、まずは期中における会計処理を正確に行い、正しい「会計上の利益」を計算することが大前提となります。

また、税務調整を行う上で必要な資料の保存には注意しましょう。「税金計算用ファイル」をあらかじめ用意しておくなど、税金計算作業にスムーズに入れるように普段から準備しておくことが重要です。確定申告時期に慌てて収集しようとしても資料が見つからなかったり、あるいは収集漏れが見つかったりすることがあります。その場合、本来は受けられる税額控除などが受けられない可能性もあります。

なお、この記事で紹介した税務調整項目はほんの一部であり、実務上は多岐にわたります。不明点などがある場合には、税理士と綿密にコミュニケーションを取って作業を進めることなども非常に有用です。

以上(2025年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30070
画像:pixabay

戦わない人材採用のススメ PART.5~リファラル採用の活用~

1 はじめに

さて、今回はPART.5ということで、「戦わない人材採用のススメ」シリーズの最終回となります。今までお付き合いくださりありがとうございました。今回のテーマは「リファラル採用の活用」です。リファラル採用という言葉ご存じでしょうか?近頃、まあまあ聞くようになった言葉かな?と思います。

採用環境が厳しくなるにつれ、従来通りの採用(求人サイトなどを利用した採用=オーディション型採用)ではなかなか良い人材が採用できない、また、前回お話ししました不適格人材を誤って採用してしまうリスクが避けられないなどの背景から注目を浴びているものです。加えて、後ほど詳しくご紹介しますが、リファラル採用に続き、最近注目されているのが「アルムナイ採用」です。これは簡単に言うと、自社を過去に退職した人材を改めて採用するものです。例えば、転職した社員と転職後も一定の関係を持ち続けて、何年か後に改めて採用するようなケースです。この二つの採用方法に共通している最大のメリットは、「どんな人物か事前にわかっている」点にあります。繰り返しですが、不適格人材を採用してしまうと最悪の場合、会社が組織崩壊することもあり得ます。前回は、そのようなリスクを回避する採用面接の方法として、「できるだけ多くの人の目で見ること」「適性検査やリファレンスチェックの活用」などについてお伝えしましたが、(お伝えしておいてこんなこと言うのも何ですが…)これらを確実に実行したとしても、リスクを0にすることはできません。しかしながら、今回ご紹介するこの二つの方法であれば、少なくとも「不適格人材ではない」ということは断言できます。そこが最大の強みということになります。それでは、まずはリファラル採用についてみていきたいと思います。

<ご参考:実施中の人材採用手法と今後検討する手法>

実施中の人材採用手法と今後検討する手法

(出典:2023年度 リファラル採用 従業員規模別統計レポート TalentX社)

2 リファラル採用とは

リファラル(referral)という単語は、「紹介」「推薦」という意味を持っています。リファラル採用とは、自社の社員や自社のことをよく理解している友人や知人などの紹介から行う採用手法です。それって「縁故採用」のことでは?と思われた方もいらっしゃるかもですが、縁故採用は社長や役員などの親族や知人などからいわゆる裏口入社的な形での採用であるのに対し、リファラル採用は自社の関係者からの紹介という点では同じですが、自社の採用基準を満たした方のみを採用する(基準を満たさない場合は採用しない)という点が大きく異なります。それではリファラル採用のメリット、デメリットについて見ていきましょう。

(1)リファラル採用のメリット

① どんな人物かがあらかじめ分かっている

中小企業における採用の失敗は大きな経営リスクです。採用できても半年や1年などの短期で退職してしまうケースや不適格人材を誤って採用してしまうなどは絶対に避けなければなりません。求人サイトなどからの応募者はどんな方か分からないのに対し、リファラル採用の応募者は自社の関係者の誰かがよく知る人物ですので、間違っても不適格人材の可能性はないと言えます。この点が最大のメリットです。

② ミスマッチが起こりにくく定着しやすい

前記①とつながる部分ですが、応募する前や入社を決める前に、自社の関係者が応募者に対して自社の正確な情報を丁寧に伝えているため、入社後に「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが起こりにくく、その結果、定着につながります。

③ 転職潜在層にアプローチできる

通常、求人サイト等から応募してくる応募者はすでに転職市場に出てしまっている人です。他社にも応募している可能性もあり、他社が自社よりも良い条件を出している場合は、採用したいと思ったとしても他社にいってしまうことも大いにありえます。その反面、リファラル採用の応募者については、転職市場に出る前の人ですので、基本的に競合他社は存在しません。「戦わない人材採用」の観点となります。

④ 採用コストの削減につながる

そもそもコスト削減のために行うものではありませんが、結果的に求人媒体や人材紹介などの業者を利用せずに採用活動ができるため、コスト削減につながります。ただし、詳しくは制度設計のところでお話ししますが、紹介者に対するインセンティブ(報酬)を支払う場合はその分の新たなコストが発生しますし、社員と応募者の会食代を負担するなどのコストも発生しますので注意が必要です。

(2)リファラル採用のデメリット

① 時間がかかる

今、他の会社などで活躍している人を採用するわけですので、すぐにというわけにはいきません。現在勤めている会社を辞めるのに一定の期間が必要ですし、アプローチした方が転職を考えていない場合には、その気になってもらうのにある程度の期間が必要となります。時には、初めてアプローチしてから1年がかり、2年がかりなんてこともあります。「人が足らないので今すぐにでも雇い入れたい」などの場合には不向きな手法と言えます。

② 配置や人間関係が難しい

自社の社員からの紹介であった場合、大きな会社であれば全く違う部署に配置することも可能でしょうが、中小企業の場合、紹介者の近くに配置せざるを得ないケースも考えられます。業務でわからないことを質問しやすいなど、それはそれで良い面でもあるわけですが、もともとの知り合いなのでかえってやりづらかったりするかも知れません。また、プライベートでの関係性が仕事に影響を与えることもあるかも知れません。さらに、紹介してもらった応募者が採用となれば良いですが、採用基準を満たさずに不採用となった場合は、紹介者と応募者の関係性に相当の配慮が必要になります。

3 リファラル採用の仕組みづくり

メリット、デメリットについてしっかりと理解したうえで、仕組みづくりに入ります。リファラル採用を成功させるためにはしっかりとした仕組みづくりが重要になります。紹介があった場合のインセンティブを決めるだけでは不十分です。まずは、社員に対して、自社の経営ビジョンや求める人物像をしっかりと伝え、紹介する側、される側の双方にとって分かりやすい制度にすることがスムーズな運用のためのポイントとなります。具体的には、採用条件や応募方法などの情報を社内イントラに掲載するなどして簡単に確認できるようにする。また、実際の社員の紹介活動や採用状況を目に見える形で伝えられるような仕組みもあった方がうまくいく確率がぐんと上がります。

これらすべてを独自に作り上げるのは相当な労力が必要になりますが、リファラル採用に特化した活動促進サービス(※)もありますので利用を検討されてみてはいかがでしょうか?その他、特にはっきりと決めておいた方が良い点は以下の二つです。

<※ MyReferのご紹介>

https://mytalent.jp/refer/

① インセンティブ(紹介報酬制度)

一般的には、採用決定時に1人当たり5万円~20万円程度の報酬を支給しているケースが多いと思いますが、職種や採用難易度、企業の採用ひっ迫度などに応じて金額を設定します。また、採用決定時ではなく応募獲得時に何かしらのインセンティブを設定する場合や、報酬を金銭以外のものに設定している場合もあり、会社の風土、文化、スタイルに合わせて制度設計します。

ここからは私の考えですが、インセンティブは高額にしない方が良いと思いますし、できれば「なし」とするか「お金以外」にした方が良いと思います。なぜなら、応募し採用された社員が、入社後に高額なインセンティブがあることを知った場合、「お金目当てで紹介したのか」と思われてしまう危険性があるからです。また、金額の多い少ないと紹介数は必ずしも連動しないので、(紹介していただいた方に感謝の気持ちを「形」で示すことは大切ですが)お金ではなく、リファラル採用の活動を行うことが会社に貢献しているんだという意義を感じていただくことの方が効果は高まると思います。そのためには制度導入にあたって、トップが社員に向けて制度導入の目的や意義をしっかりと伝えていただくことも重要なポイントとなります。

② 会食費用

候補者との会食費用を支給することで、社員が候補者に対して声を掛けるハードルを下げることができます。具体的には、カフェやランチ、夜の会食代を支給するなど、会食シーンや支給する費用は、それぞれの会社のスタンスに合わせて設定します。紹介者である自社社員の費用だけでなく、友人・知人の会食費も支給対象とすることで社員が友人を誘いやすくなり、リファラル採用を促進できます。

ただし、安易に会食制度を設計すると、単に会食することが目的となってしまって、会食の数は増えるが紹介は全く進まないなどの可能性もあります。よって、例えば会食費の申請は事前申請を必須にすることや、誰と会食を行ったのか、どんな内容だったのかについて報告させるなど、リファラル採用の成果につながるルール設定をすることが重要です。

4 アルムナイ採用

(1)アルムナイ採用とは

アルムナイとは、「卒業生」「同窓生」を意味する単語ですが、そこから派生して「退職者」という意味で使われています。アルムナイ採用とは、一度退職した社員を再び雇い入れる採用手法です。アルムナイは社内事情や企業文化を理解しているので、ミスマッチのリスクが低いことが最大の特徴です。また、外部での経験を経て視野が広がった人材が自社に加わることで、新たな気づきが組織の成長につながることも期待できます。それではアルムナイ採用についてのメリット、デメリットを見てみましょう。

(2)アルムナイ採用のメリット

① 即戦力としての活躍を期待できる

前述のとおり、すでに自社での勤務経験のある人材を雇い入れるため、即戦力としての活躍を期待できます。また、自社の退職後に得た知識や経験を生かして、業務フローを見直すことで業務効率をアップさせることや、新しいアイデアを取り入れることで競争力の強化につなげることなどが期待できます。

② 採用・教育コストの削減

リファラル採用同様に求人媒体や人材紹介会社を利用する必要がほぼないため、採用コストを削減できます。また、アルムナイはすでに企業文化や社内制度、業務内容を把握しているため、研修や教育にかかる時間と費用も抑えられます。

(3)アルムナイ採用のデメリット

① 既存社員の退職を誘発する

アルムナイ採用制度があると「退職しても戻れる」という安心感から、既存社員の退職に対するハードルを下げてしまう可能性があります。この心理が原因で離職率が高まり、結果的に、会社全体の定着率が低下し、人材の流出につながるかも知れません。既存社員のむやみな退職を防ぐには、アルムナイとして再雇用されるためには一定の条件があることを示し、この制度は無条件に利用できるものではないことを社員に周知します。具体的には、在職中の成績や評価、スキル要件等を明確にし、また、再雇用に際しても求められる基準があり必ず採用されるとは限らないとするなど、制度の利用について制約を設けることなどが考えられます。

② スキルギャップの可能性

アルムナイ社員の知識やスキルが、現在の自社が求める基準を満たさない可能性があります。特に、退職後の期間が長い場合は、時代の変化によりアルムナイ社員の持っている知識やスキルが時代遅れになっている可能性が高いです。このような場合は、アルムナイの再雇用にあたり、スキルや経験の現状をしっかりと確認し、必要に応じて研修を行うなどが必要となります。

(4)アルムナイ採用の仕組みづくり

アルムナイ採用を成功させるには、具体的なルール設定や社内体制の整備、退職者との関係構築など、綿密な準備が必要となります。

① 復職条件の設定

アルムナイ採用を導入する際は復職条件を設定して、どんな場合でも再雇用が認められるわけではないことを示すことが重要です。例えば、「一定期間以上の勤務経験があること」「役職等のランクが基準以上であること」「特定の退職理由(懲戒解雇など)ではないこと」など、具体的な条件を設定することで、採用基準が明確になり、既存社員の納得を得やすくなります。また、これらの制約がむやみな退職を防ぐことにもつながります。

② 制度の周知

アルムナイ採用を機能させるためには、既存社員へ制度の存在を周知することが重要です。また、退職者には退職時の面談で再雇用制度について説明し、希望する場合の手続き等を明確に示すことにより、復職への心理的なハードルを下げることができます。

③ 退職者との接点

制度の利用を促進するためには、退職者と定期的に接点を持ち続けることが大切です。退職後の会社の状況が全く分からなくては、再度入社したいとの動機の形成が難しくなります。よって、退職者を含めた懇親会などのイベントを開催したり、SNSを活用してこまめに情報提供を行うことなどにより、会社の最新状況が分かることによって応募の動機形成につなげることができます。

5 まとめ

いかがでしたでしょうか?今回はリファラル採用、アルムナイ採用について見てきました。いずれも企業規模に応じた制度設計が必要になりますし、一定規模以上の企業についてはアナログでの制度運用は難しいと思いますので、専用のサポートサービスなどの利用をお勧めします。

最後になりますが、採用環境はますます厳しくなる一方です。現時点では、人材採用には特に困っていない会社であっても、何年か後には必ず必要になるはずです。ただ、その頃は今とは比べ物にならないくらい厳しい状況になっていることも考えられます。よって、仮に今は困っていなくても、まずはできることから取り掛かっていただくべきだと思っています。そのために、この「戦わない人材採用のススメ」シリーズが何かしら皆さんのお役に立てる情報提供になれば幸いです。

以上(2025年4月作成)

sj09146
画像:photo-ac

高年齢雇用継続給付の縮小

令和7年4月1日から、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」が縮小され、最大15%の支給率が10%に下がります。高年齢雇用継続給付は、企業で働く高齢者を給与面で支援するための給付金です。中小・零細企業でも、受給者がいると思います。本稿では、高年齢雇用継続給付の支給率縮小について、概要をお伝えします。

1 基本的なしくみ

高年齢雇用継続給付は、60歳になった時点と比べて、賃金が75%未満に下がった状態で働き続ける高齢者に支給されます。高齢者とは、60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者を指します。60歳以降は一般的に、50歳代の時と比べて給与が下がります。そこで、給付金を支給して補填するのです。

令和7年3月31日までのルールでは、月の賃金が、60歳になった時点と比べて61%以下となった人に、下がった賃金の15%の給付金が支給されます。15%が最大の支給率です。60歳になった時点と比べて、75%以上の賃金がもらえる人には、給付金は支給されません。

例えば、60歳になった時点の賃金が月30万円の人が、60歳以降、賃金が下がった状態で働き続ける場合、給付金は以下のようになります。

  • 1.賃金が月26万円に低下
     →賃金が75%未満になっていないので、支給率は0%。給付金は支給されない
  • 2.賃金が月20万円に低下
     →低下率が66.67%なので、支給率は8.17%。支給額は20万×8.17%=月16,340円
  • 3.賃金が月18万円に低下
     →低下率が60%なので、支給率は15%。支給額は18万×15%=月27,000円

2 令和7年4月1日からの支給率

令和7年4月1日からは、月の賃金が、60歳になった時点と比べ64%以下になると、下がった賃金の10%相当の給付金がもらえます。10%が最大の支給率となります。

令和7年4月1日からの高年齢雇用継続給付の支給率

※厚生労働省のリーフレット「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」より

例えば、60歳になった時点の賃金が月30万円の人が、60歳以降、賃金が下がった状態で働き続ける場合、給付金は以下のようになります。

  • 1.賃金が月25万円に低下
     →賃金が75%未満に下がっていないので、支給率は0%。給付金は支給されない
  • 2.賃金が月21万円に低下
     →低下率が70%なので、支給率は4.16%。支給額は21万×4.16%=月8,736円
  • 3.賃金が月17万円に低下
     →低下率が56.67%なので、支給率は10%。支給額は17万×10%=月17,000円

新しい支給率(最大10%)が適用されるのは、令和7年4月1日以降に60歳になる人です。従って、令和7年3月31日以前に60歳になる人は、古い支給率(最大15%)が適用されます。雇用保険では、「60歳になる日」は「60歳の誕生日の前日」のことです。

3 さいごに

高年齢雇用継続給付は、平成7年4月に創設され、当時の支給率は最大25%でした。その後、政府の高齢者雇用法制の見直しもあって、65歳までの雇用が一般化してきたことから、平成15年5月に最大15%に引き下げられました。政府は今後、この給付金の廃止も検討しています。ただ、当面、この給付金は続きます。給付金の支給申請は、原則として企業がハローワークに対して行います。中小・零細企業も無関係ではありません。

※本内容は2025年3月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

sj09145

画像:photo-ac

事前にわかる入社と退職手続き実務

1 はじめに

新年度を迎える春は、人事労務担当者の皆さまにとって、1年のなかでも特に手続き業務が増える時期であると思います。その中心となるのが、入社と退社に関する手続きではないでしょうか。

中小企業では、採用計画に沿った人材確保が困難になってきているなか、厚生労働省が2月に公表した最新の人口動態統計速報では、昨年の出生数が720,988人と過去最少を記録しました。今後も少子高齢化による深刻な人手不足の流れが続くと予想され、それを裏付けるように2024年の人手不足倒産は、累計で342件発生したというショッキングなデータを帝国データバンクが公表しています。この数値は、調査開始以降過去最多であり、2年連続で大幅に更新したとされています。

このように、会社の存続にも影響を及ぼしかねない厳しい採用難の時代において、法令遵守のできていない企業に対する求職者からのエントリーは、今後より一層見通しづらくなるでしょう。まずは、皆さまの会社に入社された社員が安心して働き続けられるよう、正しい手続きを適切に行うことで、会社の土台をしっかりと固めていきたいものです。

そこで今回は、適切な手続きについて皆さまとともに確認しながら、この春、特に気を付けておきたいポイントについてもご紹介いたします。

2 入社手続き

(1)採用内定から入社までの流れ

人手不足でエントリー数自体が減少している昨今、これまでよりも選考基準を引き下げざるを得ないという声も聞こえてきています。採用判断の際、業務適性や定着率等を客観的に判断できる資料となり得る適性検査を実施するケースも増えており、当日中に結果が分かるものもありますので導入してみるのもよいでしょう。

さまざまなステップを経て採用内定を決定したあとは、採用内定通知を交付することが多いと思います。書面で採用選考結果を通知するとともに、入社日の案内や、マイナンバー等の提出内容を記載したり、内定誓約書の返送を求めたりするものが一般的です。

内定誓約書は、内定者が就職を承諾するとともに、他社への就職をしない旨を約束させたり、卒業できなかったときや、採用試験の過程に重大な偽りがあった等の内定取り消し事由に該当したりした場合の取り扱いについても記載することが多いです。内定については、法的に「解約権留保付労働契約」が成立したものと解釈されており、内定取り消し事由以外での内定取り消しは難しく、解雇同等の取り扱いとなりますので注意が必要です。

この記事の全文は、こちらからお読みいただけます。pdf

sj09144
画像:photo-ac

全国初! 東京都などで「カスハラ」の防止条例が施行!

2025年4月1日より、東京都、群馬県、北海道などで「カスハラ(カスタマーハラスメント)」の防止条例が施行されました。カスハラとは、

顧客等が、就業者(社員など)に対し、著しい迷惑行為(土下座の強要など)をすること

で、法的には民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)などに該当する可能性があります。

2025年4月1日時点では、カスハラをピンポイントで取り締まる法律はないのですが、東京都などがカスハラの社会問題化を受け、全国で初めて防止条例を作った

のです。

例えば、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」では、次の通り14の条文が定められています。

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(要約)

この条例により東京都内の事業者(会社)には、努力義務ではあるものの、東京都の施策に協力しつつ、カスハラから就業者(社員)を守るための体制の整備、カスハラ防止のための手引きの作成などが求められるようになりました(赤字)

また、東京都はこの条例に加えてカスハラ防止に関する指針を定め、それに基づいてカスハラ防止につながる情報提供や啓発・教育などの防止施策を実施していくようです(青字)。

■東京都カスタマー・ハラスメント防止条例■

https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00005328.html

なお、冒頭で「カスハラをピンポイントで取り締まる法律はない」と言いましたが、実は

2025年通常国会において、カスハラ防止対策を強化するための「労働施策総合推進法」の改正案が提出

されているので、今後は状況が大きく変わっていくかもしれません。改正案の内容は下記URLの「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」の項で確認できますので、今後の動向に注意しておきましょう。

■厚生労働省「第217回国会(令和7年常会)提出法律案」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/217.html

次のコンテンツで、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に基づく、カスハラの基本的な対応についてまとめているので、興味のある方はぜひご確認ください。

また、こちらはカスハラ防止に使える「職場ポスター」です。社員への周知や顧客への注意喚起のため、職場や店舗に貼ってご活用ください。

以上(2025年4月作成)

pj00742
画像:正樹 国府田-Adobe Stock