2024年の株主総会(この記事では「定時株主総会」を指します)のシーズンになりました。
これまで3回にわたって、中小企業の株主総会に関する基本的な実務について解説してきました。今回は、経営陣と対立する株主が株主提案権の行使や動議を行ってきた事例を想定し、問題になりそうな点について、Q&A方式で解説していきます。株主総会の基本的な手続を押さえつつ、トラブルにも適切に対応できるようにすることが大切です。
皆様にとって、本記事が株主総会トラブルに対応するための一助となれば幸いです。
なお、以降で想定するのは、「非公開会社」で、取締役会・監査役設置会社(会計監査人非設置会社)です。非公開会社とは、定款上、発行する株式の全部に譲渡制限を設けている株式会社です。
1 社長が総会招集できない。誰なら招集できるのか?
●シーン1
当社は、今年で創立10周年となります。創立記念も兼ねて、パーティー会場を貸し切り、株主総会とその後の懇親会を開催したいと考えています(Q1)。
ところが、突然、株主Xから、「取締役を全員解任する」ことを株主総会の議題とするように求める書面が届きました(Q2)。株主Xは、当社の創業者であり、現在も良好な関係を築けているものと思っていましたが、どうやら会社の経営に不満があるようです。
さらに不幸なことが続いて、当社のA社長は、流行りの感染症にかかって、入院を余儀なくされました。
そこで、当社の取締役B副社長が、A社長に代わって取締役会を開催し、株主総会の招集を決定しました(Q3)。しかしながら、招集手続に不慣れであったため、6月27日開催の株主総会招集通知を、誤って6月20日に発送してしまいました(Q4)。
Q1.
今年に限って、例年とは異なる場所で株主総会を開催することは可能でしょうか。
A1.
株主総会の開催場所は、定款で特別の定めをしていない限り、取締役会で定めることができます。
ただし、「過去に開催した株主総会のいずれの場所とも著しく離れた場所であるとき」には、その理由を招集通知に記載する必要があります。「著しく離れた場所」とは、株主が株主総会に出席するために相当な時間を要し、出席が困難となるような場所を指します。例えば、これまで東京の本社で開催していたにもかかわらず、大阪で株主総会を開催しようとした場合、「著しく離れた場所」に該当する可能性があります。
もっとも、「著しく離れた場所」といえなくても、開催場所を変更した場合には、株主への注意を喚起するためにも、「創立10周年の式典を行うため」「会場確保の都合で」など変更の理由を招集通知に記載しておくべきです。
Q2.
株主から届いた株主総会の議題として、「取締役を全員解任する」ことを求める書面に対して、どのような手続をする必要があるのでしょうか。
A2.
会社は、株主からの提案を議題に加えたり、議題の中身である議案について「議案の要領」を招集通知に記載したりしなければなりません。
株主は、一定の事項を株主総会で審議することを請求できます。このような権利を「株主提案権」と呼びます。
非公開会社では、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主は、株主総会の日の8週間前までに、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求できます。
従って、適法になされた株主提案を無視することはできず、上記のような対応が必要です。
Q3.
当社の代表取締役が入院しており、株主総会の招集を行うことができません。新たに代表取締役を選定しないと、株主総会の招集ができないのでしょうか。
A3.
新たに代表取締役を選定しなくても、あらかじめ定められた他の取締役が、取締役会決議に基づき株主総会を招集することができます。
株主総会は、取締役会において株主総会の招集が決定された後、招集権者が株主に招集通知を発送します。法令では、「株主総会は、取締役が招集する」とされており、代表取締役による招集が必須なわけではありません。
一般的に、定款において「代表取締役」や「社長」が招集権者と定められていることが多いと思います。しかしながら、これらの者に事故などが起きた場合には、定款や取締役会であらかじめ定められた順序により、他の取締役が招集権者となります。
Q4.
株主総会の招集通知を送付する期限を過ぎてしまった場合、招集手続に法令違反があったものとして、株主総会の決議が取り消されてしまうのでしょうか。
A4.
こうした場合の対策として、株主から招集通知期間を短縮する旨の同意を取得し、再度招集通知を送付することが考えられます。
非公開会社では、書面や電磁的方法による議決権行使を認める場合を除き、株主総会の1週間前までに(中7日)、株主に対して招集通知を発送しなければなりません。しかしながら、招集通知を送付する期限を過ぎてしまったとしても、議決権を行使することができる株主全員の合意がある場合には、招集通知期間を短縮することが可能です。
また、招集通知期間が不足する場合でも、株主全員が開催に同意して出席した場合には、株主総会の決議が有効とされる場合があります。
2 株主から「議長交代」を求められた!
●シーン2
株主総会の招集通知の期限は過ぎてしまいましたが、無事、株主全員に対して招集通知が到達し、全員が株主総会に出席しました。
しかしながら、当社のA社長の怪我は回復せず、株主総会に出席することができません。そのため、やむを得ず、B副社長が、A社長に代わって株主総会の議長を務め、株主総会を開催しようとしました(Q5)。
ところが、株主Xが、突如として、「A社長は、会場にいないので株主総会の議長として不適切である。議長を交代されたい」と提案しました(Q6)。その後も、株主Xが、「取締役報酬を減額する」ことを提案するなどしたため(Q7)、A社長・B副社長ともに予想外の株主Xの行動に困惑させられました。
Q5.
テレビ会議システムを利用して、議長が外部から株主総会に参加することはできるでしょうか。
A5.
議長は、株主総会にテレビ会議システムによって出席することも可能です。
テレビ会議システムによる出席を認めるのであれば、会社は、取締役会での招集決定の際に、テレビ会議システムによる出席方法や質問・動議の提出などの権利の制限について決定する必要があります。また、会社は、これらの事項について招集通知に記載するか、記載した書面を同封して、株主に対して通知する必要があります。
テレビ会議システムを利用する場合、株主総会の会場と接続先が、双方向にかつ速やかに情報を伝達できるようにしなければなりません。そのため、一般的に利用されているライブ配信サービスやウェブ会議ツールで、通信に問題がないかリハーサルや接続テストを実施することなどが必要になると考えられます。また、万が一、当日に通信障害が発生した場合に備えて、代わりのWi-Fiや電話会議システムを用意しておくとよいでしょう。
Q6.
代表取締役A社長が入院しているため、株主総会に出席できません。議長はどうしたらよいでしょうか。
A6.
今回の場合、B副社長が議長となることも考えられます。
株主総会の議長の資格について、法令上の定めはありませんが、一般的には定款において、「代表取締役」や「社長」が議長と定められていることが多いです。
「代表取締役」または「社長」に事故などが起きた場合、定款や取締役会であらかじめ定められた順序により、他の取締役が議長となります。一般的には、「副社長」が代わりの議長とされていることが多いと思います。
Q7.
株主Xからの「議長交代」や「取締役報酬の減額」に関する提案に対して、どのように対応したらよいでしょうか。
A7.
株主総会当日における提案の中には、議場に諮らなければならないものがあります。
これらの株主による提案は、「動議」と呼ばれ、主に、株主総会の議事進行に関わる手続的動議と議案の内容に対する修正動議の2種類があります。
手続的動議の中には、議長の議事進行を促すに過ぎないものもあり、必ずしも、議場に諮る必要はありません。ただし、議長の不信任動議や総会の延期・続行の動議などは、議事進行するための先決事項として直ちに採決を行わなければなりません。
また、取締役報酬の減額や会社が提案した候補者以外の者を取締役に選任することを求める動議など、議案の修正動議については、動議が適法である限り、原則として議場に諮らなければなりません。
3 株主総会終了後にもトラブル。どうしたらよいのか?
●シーン3
なんとか株主総会を終えることができ、懇親会では、株主Xとも改めて良好な関係を築くことができました。A社長とB副社長は、「今回は不運続きだったし、来年の株主総会はもっと簡単にできないかな」と相談していました(Q8)。
その後、B副社長は、顧問弁護士にも相談しながら議事録を作成し、取締役改選の登記手続を行いました(Q9)。
しかし、株主総会が終了して2カ月後、株主Xからは、株主総会議事録や計算書類の謄写を求める請求が来てしまい、てんやわんやです(Q10)。
Q8.
株主総会の開催を省略する場合、どのような手続をしたらよいでしょうか。
A8.
会社は、一定の条件を満たす場合には、株主総会の開催自体を省略することができます。
具体的には、議決権を行使することができる株主全員が、株主総会の議題について書面または電磁的方法で同意した場合、株主総会の決議がなされたものとみなされます。そして、株主総会の目的である議題全てについて、書面または電磁的方法により可決された場合、当該株主総会は終結したものとみなされます。このような株主総会の決議は、一般的に、「書面決議」と呼ばれています。
書面決議の場合でも、忘れずに株主総会の議事録を作成しましょう。
Q9.
もし、取締役の改選に関する登記手続の申請を忘れてしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか。
A9.
会社法では、変更登記の申請手続を失念した場合の定めとして、100万円以下の過料に処せられる可能性があります。
取締役の氏名は登記事項であり、取締役の氏名に変更があった場合、株主総会終了後2週間以内に変更登記の申請手続を行う必要があります。手続を忘れてしまった場合には、速やかに申請手続を行うようにしましょう。
Q10.
株主から株主総会議事録や計算書類の閲覧請求が来た場合、どのように対応したらよいでしょうか。
A10.
会社は、請求に正当な理由がない場合を除き、原則として、これらの請求に応じなければなりません。
株主や債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、株主総会議事録の閲覧・謄写を求めることができます。また、計算書類についても、会社の営業時間内は、いつでも閲覧や謄本・抄本の交付を求めることができます。
法令上、このような閲覧・謄写請求を制約する定めはないため、会社は、請求に正当な理由がない場合を除き、原則として、これらの請求に応じなければなりません。
4 終わりに
この記事で例に挙げたようなトラブル続きの株主総会は、現実ではなかなか起こり得ないかもしれません。しかしながら、いざ、このような事態になったときに慌てることがないよう、今からしっかりと準備しておかなければなりません。
また、何かトラブルが発生したときなどにすぐに弁護士に相談できるようにしておくことも大切です。
以上
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