【管理会計】経営者を惑わす埋没原価。機会原価と増分原価で未来志向に!

書いてあること

  • 主な読者:「えいやっ!」の思いだけではなく、定量的な根拠を持って判断したい経営者
  • 課題:複数の選択肢からプランを選ぶ場合、導入コストの比較くらいしか思いつかない
  • 解決策:過去と未来を切り分けた上で、関連する収益を総合的に把握して判断する

1 未来志向で感覚的に定量判断する

企業経営はいつでも先行きが不透明ですが、これは悲観ばかりではありません。誰にも未来が分からないからこそ、新たなチャンスが生まれてくることもあるのです。現在を切り抜け、未来のチャンスをつかむために経営者のかじ取りが重要です。

この記事では、そうした際に経営者の判断を助けてくれる「3つの原価」の話をします。難しい計算は一切なく、皆さんが感覚的に理解していることだと思います。ポイントは、

過去にとらわれず、今の財務諸表にとらわれず、未来の収益構造をイメージして判断すること

です。

2 「埋没原価」は過去のもの。未来思考で判断する

埋没原価とは、

将来の意思決定に影響を及ぼさない原価

です。例えば、A社から2000万円の新設備を導入するために、200万円の内金を支払ったとします。ところが、B社から同じスペックの設備が1700万円で導入できることが分かりました。A社をキャンセルすると、内金の200万円は戻ってきません。一見、200万円の内金がもったいないと考えてしまいますが、これこそが埋没原価です。A社とB社に払う金額を比較する際、内金は無視をして、次のように考えます。

  • A社から購入:1800万円
  • B社から購入:1700万円

これは新設備の導入なので分かりやすい例です。新設備だと、旧設備の導入費用やその設備に慣れるまでの教育コストなどが気になってしまいますが、これは埋没原価ですので、未来思考で判断する癖をつけましょう。

3 「機会原価」は幅広い視野で判断する

機会原価とは、

ある選択をしたら得られたはずの利益。逆にいうと、ある選択をしなかったために失った利益

です。先の新設備の例で考えてみましょう。埋没原価にとらわれて、

  • A社から購入:1800万円
  • B社から購入:1700万円

という選択肢からA社を購入先に選んだ場合、差額の100万円が機会原価となります。逆にいうと、その選択をしたために失ってしまう利益なので「逸失利益」ともいいます。ただ、機会原価の考え方は難しいので、実際は後述する「増分原価」を検討することになります。

4 「増分原価」は具体的な利益を計算する

増分原価は差額原価ともいわれるもので、

ある意思決定をした際に、現在から増減する具体的な原価

です。意思決定は未来に対して行うものですから、過去の財務諸表を読むだけではイメージできません。複数の設備投資案から選択する場合、設備投資によって変化する収益と原価から利益を算出します。具体的には、

増分利益=増分収益-増分原価

といったように増分利益を算出し、意思決定を行います。

先の設備投資の場合、単純な金額の比較ではB社からの購入が好ましいですが、ビジネスでは常に複数の要素が含まれます。実際、

A社とは別の設備でも取引しており、今回の新設備をA社から導入することで、メンテナンス費用が150万円安くなる

といったことは珍しくありません。この場合、

メンテナンスまで含めた増分利益は、A社から購入したほうが有利

となるわけです。

以上(2024年11月更新)

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2024年(令和6年)の年末調整 対象者や控除の仕組みをわかりやすく解説(税理士監修)

1 今年もやってきた年末調整の時期

2024年も年末調整の時期になりました。年末調整とは、従業員の所得税などの税額を確定するための手続きですが、「正直、仕組みや言葉の意味がよく分からない……」という人もいるでしょう。この記事で、年末調整の仕組みを重要ワードにも触れながら説明しますので、参考にしてください。

なお、基本的なことはいいので、年末調整書類の具体的な記載方法を確認したい人は、以下の記事をご参照ください。

2 「年末調整」とは? とことん分かりやすく

会社(個人事業者も含む。以下同様)は、役員・従業員やパート社員(以下「従業員」)に支払う毎月の報酬・給与から、所得税と復興特別所得税(以下「所得税」)を差し引き、従業員に代わって納税しています。これを「源泉徴収」といいます。

会社が源泉徴収しているため、従業員(給与所得以外の所得がある人などを除く)は、原則として、自分で所得税の申告・納税をする必要がないわけです。ただし、会社が源泉徴収をした金額は、保険料控除などの所得控除(所得金額から差し引くことができる一定の金額。詳細は後述)が反映されていないので、正しい金額ではありません。

そこで、これを解消して年の最後に精算するのが年末調整というわけです。また、今年に限っては、2024年6月以降に行われた定額減税について、年末調整で最終調整(「年調減税」という)が必要になります。

重要ワード

・所得税
個人が1年間(1月1日から12月31日まで)に得た所得に応じて国に納める税金です。所得は10種類(給与所得・事業所得・利子所得・配当所得・不動産所得・山林所得・一時所得・退職所得・譲渡所得・雑所得)に分かれます。

・復興特別所得税
東日本大震災の復興財源を確保するために設けられました。2013年1月1日から2037年12月31日までの25年間の期間限定で導入されています。

・収入金額
自営業者は「売上金額」、給与所得者は「総支給額(社会保険料や税金が差し引かれる前の金額で通勤手当などの非課税金額を除いた額)」が該当します。

・所得金額
上記の収入金額から必要経費を差し引いた金額です。自営業者の必要経費には、仕入費用や人件費・賃料などの諸費用が該当します。給与所得者の必要経費は収入金額に応じて決められていて(55万~195万円)、これを給与所得控除といいます。

また、収入金額が850万円を超える一定の給与所得者は「所得金額調整控除」があります。この控除は複雑ですので、詳しくは後述します。

・所得税の確定申告
1年間の所得金額とそれに対する所得税の額を計算し、毎年2月16日~3月15日(15日が土日・祝日である場合は翌平日)に申告します。所得が給与所得だけの人の多くは、年末調整をすれば確定申告は不要です。ただし、年末調整で申告できない各種控除の適用を受ける人や年末調整対象外の人は確定申告が必要です。

・定額減税
2024年6月以降、会社から支給される従業員の給与、賞与から所得税と個人の住民税に一定額の減税(税額控除)が行われる制度です。減税額は1人当たり所得税が3万円、住民税が1万円となっています。年末調整では、従業員本人とその家族の12月31日時点の状況を確認し、

  • 所得税の定額減税対象者であること
  • 定額減税対象者の場合の減税額

を確認した上で年末調整により年間の所得税額の調整を行います。また、6月2日以降に入社した従業員や役員(前職で定額減税の処理が終わっている人は除く)に対しては、ここで定額減税額を控除します。なお、年末調整時に合計所得金額が1805万円を超えると分かっている役員や従業員については、この制度の対象外であるため、定額減税額を控除しないで年末調整を行います。

3 年末調整の対象となる従業員と、対象とならない従業員

年末調整の対象は、原則として、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)(詳細は後述)を提出している従業員です。ただし、一部、対象にならない従業員もいます。

【年末調整の対象となる従業員】

  • 1年を通じて勤務している人
  • 年の中途で採用され、年末まで勤務している人
  • 年の中途で退職した人のうち、死亡により退職した人など
  • 年の中途で海外赴任により非居住者となった人

【年末調整の対象とならない従業員】

  • 1年を通じて勤務している人で、主たる給与収入金額が2000万円を超える人
  • 2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人
  • 扶養控除等申告書の提出がない人
  • 非居住者(国内に住所も居所(1年以上住んでいる場所)も持っていない人)など

なお、年末調整の対象となる従業員に対して年末調整を行わないと、罰則(1年以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金を受けることもあるので注意が必要です。

4 所得控除とは

所得控除とは、所得税の額を計算するときに、所得金額から差し引き、税負担を軽くする制度です。全部で15種類ありますが、年末調整で申告できるのは、このうち12種類です。

ちなみに、年末調整で申告できない3種類の所得控除は、医療費控除(1年間に一定額以上の医療費がある場合に受けられる)、寄附金控除(国や地方自治体などに一定の寄附をした場合に受けられる)、雑損控除(災害などによって住宅家財などに被害が出た場合に受けられる)です。これらについては、自身で翌年3月15日までに確定申告をすることで所得控除を受けることができます。

重要ワード

・税額控除
所得控除と似た言葉に税額控除があります。税額控除とは、課税所得金額(所得金額-所得控除額)に税率を掛けて計算した金額(税額)から直接控除できる制度です。税率を掛ける前の所得金額から控除する所得控除よりも、税額控除のほうが税負担を軽くする効果が高いです。

5 年末調整の対象となる12種類の所得控除と所得金額調整控除

年末調整における提出書類(申告書)と、それぞれに関係する所得控除の種類を紹介します。なお、以下で説明する「所得金額調整控除」は所得控除ではないものの、年末調整で申告できるので併せて紹介しています。そのため、全部で13種類(前述の12種類+所得金額調整控除)となっています。

1)扶養控除等申告書

扶養控除等申告書は入社時および年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。扶養控除などを記載しますが、適用する所得控除がない場合でも、氏名などの記載事項を記入して会社に提出します。

1.扶養控除

扶養親族(その年の12月31日現在の年齢が16歳以上で、生活費を負担しているなど一定の者)の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(38万~63万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

2.障害者控除

納税者自身や配偶者、扶養親族が障害者(所得税法に規定されている障害者に該当する者)である場合に、一定額(27万~75万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

3.寡婦控除

納税者自身が寡婦である場合に、一定額(27万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚(扶養親族がいる人に限る)した後に再婚をしていない人などをいいます。

4.ひとり親控除

納税者自身がひとり親である場合に、35万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人などをいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

5.勤労学生控

除納税者自身が勤労学生である場合に、27万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。合計所得金額の見積額が75万円以下(給与所得だけの場合は、給与収入金額が130万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人は勤労学生控除は受けられません。

2)給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書は年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。記載事項には計算箇所が多いため、注意が必要です。

6.基礎控除

ほとんどの納税者が対象で、一定額を所得金額から控除することができます。具体的には、所得金額から48万円を控除できますが、合計所得金額が2400万円を超える従業員については、その合計所得金額に応じて控除額が減り、合計所得金額が2500万円を超える従業員については、基礎控除は受けられません。

7.配偶者控除

配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(13万~48万円)を所得金額から控除できる制度で、年末調整で申告できます。控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者控除は受けられません。

8.配偶者特別控除

配偶者の合計所得金額が48万円を超え配偶者控除が受けられない場合に、配偶者の合計所得金額の見積額に応じて一定額(1万~38万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、配偶者控除と同様に控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合や、配偶者の合計所得金額が133万円を超える場合には、配偶者特別控除は受けられません。

9.所得金額調整控除

給与等の収入金額が850万円を超える人のうち、子育て中の人や障害者などである場合、下記の算式で計算された金額の控除を受けられる制度(所得控除ではない)で、年末調整で申告できます。なお、計算式上の収入金額は、収入金額が1000万円を超える場合には1000万円が上限となります。

所得金額調整控除額=(給与等の収入金額-850万円)×10%

3)給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書は年末調整で配布される申告書で、生命保険料控除などに関する記載箇所があります。

10.生命保険料控除

納税者自身が一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合、上限4万円(2011年12月31日以前に一般の生命保険・個人年金保険契約したものについては上限5万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。保険期間が5年未満の生命保険などの中には対象外のものもあります。

11.小規模企業共済等掛金控除

納税者が小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの掛金を支払った場合、その年に支払った金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

iDeCoとは、納税者自身が掛金を拠出・運用し、資産を形成する年金制度です。原則、60歳まで資産を引き出すことはできませんが、掛金の拠出時(掛金が全額所得控除)・運用時(運用益に課税されない)と、資産の受取時(一定額を所得から控除できる)に税金優遇を受けることができます。

12.社会保険料控除

納税者が納税者自身や配偶者、扶養親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に、その年に支払った金額または給与などから差し引かれた金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、控除対象となる社会保険料には、健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険の保険料などが含まれます。

13.地震保険料控除

納税者自身が地震保険料を支払った場合に、上限5万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、地震保険料控除には2007年分の年末調整で廃止された一定の長期損害保険料(共済期間が10年以上のものなど)についても控除対象となっています。

4)住宅ローン控除とは

上記の他に、住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」)があります。住宅ローン控除とは、納税者自身が住宅ローンを組んで住宅の購入・増改築を行った場合、「住宅ローンの年末残高×1%または0.7%(2021年以前に入居した場合は1%、2022年以降に入居した場合は0.7%)」で計算された金額の税額控除(所得控除ではない)を受けられる制度で、年末調整で申告できます。住宅ローン控除を受ける従業員は、「住宅借入金等特別控除申告書」の提出が必要です。

ただし、年末調整で申告できるのは、住宅ローンの利用を開始した年の翌年以降(2年目以降)が対象です。1年目については、自身で確定申告を行う必要があります。

なお、住宅ローン控除期間は13年間または10年間となっており、適用を受けるには一定の所得限度額要件があります。また、控除額には一定の限度額があります。

6 「年末調整の電子化」。煩わしい作業から解放される?

2020年から年末調整の電子化が始まっています。電子化をすると、書類をデータでやり取りしたり、保存したりすることができるようになり、控除額の検算や大量の紙を保管しなくても済みます。

とはいえ、電子化に対応するには、

  • 会社:給与システムの改修など
  • 従業員:専用ソフトのインストールやアカウント作成

などといった準備が必要です。こうした手間もあってか、電子化が始まって数年たった今も、引き続き紙で年末調整を行っている中小企業は多いようです。会社の規模によっては電子化による作業の効率化よりも、かえって新たに発生する実務や負担が多く、逆効果になってしまうこともあるので、担当責任者や税理士などと相談して決めるとよいでしょう。

以上(2024年11月作成)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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【かんたん会社法(1)】 会社の設立、資金調達、M&Aなど…… 実務ごとに会社法の基本ルールを確認!

書いてあること

  • 主な読者:会社法の基本を一から学びたい人・復習したい人
  • 課題:会社法は複雑で難しいイメージがあり、とっつきにくい
  • 解決策:会社経営の実務ごとに、関連する会社法のルールを押さえる

1 取っ付きにくい会社法を分かりやすく整理!

「会社法」とは、簡単に言うと、

会社にまつわる基本的なルール(会社の設立、組織、運営、管理など)を定めた法律

です。会社経営に直結するとても重要な法律ですが、内容が多岐にわたる上に専門用語も多く、「正直取っ付きにくい」という人も少なくないはずです。

とはいえ、900以上ある会社法の条文を丸暗記する必要はありません。

「会社の設立」「機関設計」「資金調達」「M&A(企業再編)」「会社の縮小」など会社経営の実務ごとに、関連する基本的なルールと要点を押さえておけばそれで十分

です。以降で関連記事と併せて紹介するので見ていきましょう。なお、会社法の「会社」は、

  • 株式会社:株式の発行により、多くの人から出資を募る会社
  • 持分会社(合名会社・合資会社・合同会社):株式を発行せず、自分たちで資本金を出資する会社

に分けられますが、このシリーズで対象とするのは「株式会社」です。

2 会社の設立

会社を設立する方法には、

  • 発起設立:会社の設立を企画した発起人が、会社設立時に発行される株式(設立時発行株式)を全て引き受ける方式
  • 募集設立:設立時発行株式のうち、発起人が一部だけを引き受け、その他の株式は第三者から募集する方式

の2種類がありますが、手続き(定款の作成・認証など)に問題があると、会社の設立が無効となってしまうこともあるので注意が必要です。

3 機関設計

会社は経営上の意思決定をしたり、適正な経営がされているか監視したりするため「機関」を設置します。また、複数の機関を会社に適した形に組み合わせることを「機関設計」といいます。

1)株式会社の機関と機能

会社が設置できる機関には、

株主総会、取締役、取締役会、代表取締役、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等、執行役

などがあり、株主総会と取締役は必ず設置しなければなりません。

2)中小企業に多い機関設計のパターン

機関設計は「公開会社か非公開会社か」「大会社か非大会社か」などによって変わります。

  • 公開会社:証券市場に株式を公開して、株主が株式を自由に譲渡・取得できる会社
  • 非公開会社:発行する全ての株式について譲渡制限を定めている会社
  • 大会社:資本金5億円以上、または負債200億円以上の会社
  • 非大会社:大会社に該当しない会社(中小企業などが含まれる)

「非公開会社×非大会社」の中小企業の場合、「株主総会+取締役」「株主総会+取締役会+監査役」など、比較的シンプルな機関設計になることが多いようです。

4 資金調達

会社が株主から資金を調達する方法には、株式の内容の工夫、増資、新株予約権の発行、社債の発行、計算書類などがあります。それぞれ資金調達の形態や手続きが、会社法で細かく定められています。

1)株式の内容の工夫

さまざまなタイプの会社や株主の要望に応じられるよう、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ資金調達がしやすくなります。会社法では、定款で一定の事項を定めることで、

9つの種類株式(剰余金の配当額や、残余財産の分配額が異なる株式など)を発行できる

ので、それぞれの特徴を押さえておきましょう。

2)増資

増資とは、新たに株式を発行して資金を調達する手法のことです。

  • 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に株式を発行する
  • 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に株式を発行する
  • 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に株式を発行する

の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。

3)新株予約権の発行

新株予約権とは、会社の株式の交付を受けられる権利のことです(役員や社員にストックオプションとして付与するなど)。こちらも「第三者割当」「株主割当」「公募」の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。

4)社債の発行

社債とは、会社が多額で長期間の資金を調達する際に行われる手法です。株式と違い、投資家は会社がもうかっていなくても、あらかじめ定められた利息を受け取れます。

  • 社債権者となる者を募集する方法
  • 特定の者に社債を引き受けさせる方法(総額引受)

があり、それぞれ社債の発行手続きが異なります。

5)計算書類

資金調達と併せ、会社法で作成が義務付けられている計算書類についても、内容や作成後の対応(計算書類の監査と承認、公告など)を押さえておきましょう。

5 M&A(企業再編)

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることもあります。

1)事業譲渡

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の会社に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるというイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。譲渡会社(売り手)側では、株主総会の特別決議や、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えるなどの対応が必要になります。

2)合併

合併とは、複数の会社が1つになることで、

  • 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社として存続会社に吸収される
  • 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる

に分けられます。合併する際は「合併契約」を締結しますが、吸収合併と新設合併とで内容が異なります。また、締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

3)株式譲渡

株式譲渡とは、自社の株式の全部または一部を別の会社に売り渡すことです。会社のオーナーが変わるというイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡会社の法人格や契約関係など、対外的な側面には何も影響がない
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。会社の設立時期によっては株券(株式を表章する有価証券)の交付が必要になります。

4)会社分割

会社分割とは、事業の権利義務の全部または一部を別の会社に譲渡することで、

  • 吸収分割:存在する会社に事業を譲渡する
  • 新設分割:新たに会社を設立し、事業を譲渡する

に分けられます。吸収分割の際は「吸収分割契約」を締結、新設分割の際は「新設分割計画」を作成します。また、それぞれ契約・計画内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

5)株式交換・株式移転・株式交付

株式交換・株式移転・株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施できます。株式交換をする際は「株式交換契約」を締結します。こちらも締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

6 会社の縮小

最後に、資本金の額を減少する「減資」、会社を終わらせる「解散・清算」を紹介します。

1)減資

「減資」は、会社の業績が芳しくない場合などに資本金の額を減少することで、

  • 実質上の減資:事業縮小などで不要となった資本金の額を減少する。資本金を剰余金へ振り分けて株主に配当する
  • 形式上の減資:赤字などを解消するために資本金で欠損を填補する。形式上、資本金の額を減少するだけで、株主に配当はしない

に分けられます。減資の際は、株主総会の特別決議の他、債権者が不利益を被る恐れがあるので、異議を述べる機会を設ける必要などがあります。

2)解散と清算

会社の始まりが設立だとすれば、終わりは解散と清算になります。

  • 解散:法人格を消滅させる原因となる事実のこと。原則、会社が解散するだけでは法人格は消滅しない。清算の手続きが必要
  • 清算:解散した会社の資産や負債の処理のための法的な手続きのこと。解散した会社が残った債務を全額支払うことができる場合は通常清算となり、解散した会社が債務超過で、裁判所の監督
    の下行われる清算の場合は特別清算となる

解散は、会社法で定められた理由(定款で定めた存続期間の満了など)に基づいて行う必要があり、株主総会の特別決議によって決定します。また、清算を行うには手続きを遂行する「清算人」という機関の選任が必要になります。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【新任役員、新任管理職】感覚だけではなく、数字の裏付けをもって良い取引と悪い取引を判断しよう

書いてあること

  • 主な読者:取引先を評価して経営戦略に活かしたい新任役員、新任管理職
  • 課題:感覚的な良い悪いだけではなく、数字の裏付けをもって判断したい
  • 解決策:限界利益(率)を使って評価する

1 良い取引と悪い取引の判断

一般的に取引先の良しあしは売上高の大小で把握されているため、より多くの売上が上がっている先を「良い取引先」と考えます。確かに、大きな取引ができているという意味では良い取引先ですが、売上の大きさがそのまま利益の大きさになるわけではありません。極端な例をいえば、売上が大きくても利益が出ていない赤字の取引先もあるわけで、特別な意図がなければ、これは良い取引先とは言えないわけです。

特に新任役員や新任管理職は、着任後、すぐに現状を分析して既存取引先の方針決定(取引規模の拡大、現状維持、縮小)を判断すると同時に、新規取引先の獲得も戦略的に行う必要があります。その際、「取引規模が大きい」「長年の付き合いがある」「相手が大企業である」といったことだけで判断していては、利益を失う恐れがあるのです。

この記事では、「管理会計」の観点から取引の中身に目を向け、定量的に良い取引と悪い取引の判断基準を説明します。

2 費用を分類してみよう

利益は売上から費用を引いて求めるわけですから、まずは管理会計の視点で費用を分類してみましょう。具体的には、次のように「変動費」と「固定費」に分けます。

  • 変動費:売上高に比例して発生する費用
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用

分類の手法には「勘定科目法」と「統計的方法」があります。詳細は割愛しますが、勘定科目法は、自社の費用を勘定科目ごとに変動費と固定費に分ける方法、統計的方法は、売上高と総費用から最小二乗などにより算定する方法です。

また、費用を次のように「直接費」と「間接費」に分けると、さらに詳細に把握できます。

  • 直接費:特定の製品の製造や販売のために発生する費用
  • 間接費:上記に付随して発生する費用

例えば、複数の取引先の営業担当者の人件費は固定費であると同時に、間接費でもあります。営業担当者の活動を「事前準備と商談」とした場合、事前準備と商談にかかる時間を確認し、営業担当者の1時間当たりの人件費と取引先の訪問回数を掛ければ、取引先別の人件費が明らかになります。

  • 1回の訪問にかかる時間:事前準備30分、商談1時間
  • 営業担当者の1時間当たりの人件費:4000円
  • A社(月に3回訪問)に対する費用:1.5時間×4000円×3回=1万8000円

3 取引先ごとの収益状況を比較してみよう

費用の分類をしたら、取引先ごとの収益を一覧にまとめてみましょう。その際、限界利益(率)も計算すると後の分析に役立ちます。

  • 限界利益:売上高から変動費を差し引いた利益
  • 限界利益率:売上高に占める限界利益の割合

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さて、ここで問題です。

A社とB社から5000万円分の増産依頼がありました。うれしい依頼ですが、生産設備の関係で、対応できるのはいずれか1社だけです。

皆さんは、A社とB社のどちらを選択しますか?

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図表1では、A社が売上高、営業利益、営業利益率で勝っていました。図表2でもA社が売上高、営業利益では勝っていますが、営業利益率はB社が逆転しています。つまり、B社のほうが効率的に利益を生んでいるということであり、これは限界利益(率)を見れば分かるのです。数字が際立って良かったり、悪かったりすれば判断は容易ですが、A社とB社のような似通った取引先については、複数の数字の裏付けをもって判断するようにしましょう。

4 単価と数量だけでなく、限界利益はいくらか?

今度は、W社とX社から新規取引を求められたとしましょう。条件は以下の通りです。

【自社の製造条件】

  • 変動費:6万円/製品1個当たり
  • 固定費(本取引で新たに発生するもの):2000万円

【W社とX社の希望】

  • W社:販売単価は11万円で、1000個購入したい
  • X社:販売単価は10万円で、1100個購入したい

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設例のように、販売数量や販売単価が異なる案件を比較する場合は、限界利益に着目します。今回のケースでは、販売数量に応じて変動費も変わってくるため、売上高は同額でも、販売数量の多いX社のほうが変動費は高くなり、限界利益が低くなります。この場合、W社を選ぶのが有利です。また、この結果は、単価を引き下げた場合も同じです。参考として、次の条件のY社とZ社を比較した結果を紹介します。

【Y社とZ社の希望】※ここでは、追加の売上を考慮しません。

  • Y社:販売単価は9万円で、1000個購入したい
  • Z社:販売単価は10万円で、900個購入したい

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やはり販売数量に応じて変動費が変わるため、売上高は同額でも、販売数量の多いY社のほうが限界利益は低くなり、Z社のほうが良い条件となっています。

5 将来有望でも安易な値下げにはご用心

先のY社とZ社では、Z社のほうが自社にとって条件が良いことが分かりました。しかし、Y社は将来有望で、9万円に値下げした条件でも「取引実績を作りたい」と考えています。この何となく取引しておきたいという感覚を、W社、X社、Y社、Z社を比較すると次のようになります。なお、以降ではY社を比較の主体として、他社と比べていきます。

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Y社への販売単価である9万円と、限界利益率である33.3…%を変えない場合、Y社との取引で、他社との取引による利益に追いつくために必要な販売数量は次の通りです。

  • W社の利益3000万円に追いつくための販売個数は、1666.7個
  • X社の利益2400万円に追いつくための販売個数は、1466.7個
  • Z社の利益1600万円に追いつくための販売個数は、1200.0個

Y社への販売数量は1000個の想定でしたが、上の個数を販売できれば他社の利益に追いつきます。例えば、1666.6個販売すれば、利益は3000万円に届くということです。これにより、

「将来有望」という曖昧な部分が、「1666.6個販売できるか?」

といった具合に定量化されました。

「利益を増加させる」という目的で値下げを検討する場合には、値下げによりどれだけ販売数量が増加する見込みがあるのか、事前にこの関係を十分に検討することが重要です。

なお、目標利益を達成するための販売個数は次の数式で求められます。

(目標利益+固定費)÷限界利益率÷単価

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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画像:pexels

【規程・文例集】社員をハラスメントから守る!「ハラスメント防止規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメント防止規程を整備したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:一口にハラスメントといっても種類がさまざまで、対応の方針が立てにくい
  • 解決策:ハラスメントの定義さえ明確であれば、対応の方針は基本的に同じで構わない

1 どのハラスメントも対応の方針は基本的に同じ

ハラスメントは、放置すると被害を受けた社員の心身を蝕むだけでなく、訴訟などのトラブルにも発展しかねない重大な問題です。特に次のハラスメントは、法令により一定の防止措置を講じることが会社に義務付けられています。

  • パワハラ(パワーハラスメント)
  • セクハラ(セクシュアルハラスメント)
  • マタハラ等(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

一定の防止措置とは次の5つのことですが、根幹となるのは1.のハラスメントの方針です。

  1. ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  2. ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  3. 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
  4. 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  5. 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施

ハラスメントの方針は「ハラスメント防止規程」などの形で定めますが、内容に問題があると、事案が発生した際の対応でトラブルが起きます。次章で専門家が監修したハラスメント防止規程のひな型を紹介しますのでご確認ください。

なお、2024年11月1日からは、フリーランスに対するハラスメントについても防止措置を講じることが義務付けられますので、

ハラスメント防止規程に「フリーランスに対するハラスメントを許さない旨」を明記

しておきましょう。

ちなみに、ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)ごとに規程を分ける必要はなく、1つにまとめて差し支えありません。ただし、どのようなハラスメントを防止の対象とするのかは明確に定義しておきましょう。

2 「ハラスメント防止規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した「フリーランスに対するハラスメントを許さない旨」については、第1条(目的)第3項をご確認ください。

【ハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)

1)本規程は、職場におけるハラスメントの防止、並びにこれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用される。

2)本規程における「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など、すべての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされるものを含むものとする。

3)本規程における「ハラスメント」とは、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他これらに準ずるすべての行為をいい、当社の従業員等に対して行われるものだけでなく、取引先の従業員等や当社から業務を委託するフリーランスなど、当社の従業員等以外に対して行われるものも対象とする。

第2条(パワーハラスメントの定義)

1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員はパワーハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  1. 殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
  2. 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
  3. 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けたりするような行為。
  4. 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
  5. 違法行為を強要すること。
  6. 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
  7. 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
  8. 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
  9. 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
  10. 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
  11. 能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、あるいは業務を与えないこと。
  12. 特定の従業員を業務から外す、集団で無視するなど人間関係を切り離すこと。
  13. その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。

第3条(セクシュアルハラスメントの定義)

1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより相手の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員等はセクシュアルハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。なお、相手の性別・性的指向・性自認は問わない。

  1. 不必要な身体への接触。
  2. 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
  3. 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
  4. 交際・性的関係の強要。
  5. わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
  6. 性的な言動への抗議または拒否などを行った相手に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
  7. 性的な言動により、相手の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
  8. その他、相手に不快感を与える性的な言動。

第4条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

1)妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントとは、従業員等の妊娠または出産、産前産後休業、育児休業(出生時育児休業を含む)、介護休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、相手の就業環境が害されることをいう。

2)すべての従業員等は妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  1. 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動。
  2. 部下または同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動。
  3. 部下または同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等。
  4. 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動。
  5. 部下または同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等。

第5条(ハラスメントの防止)

1)すべての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメントあるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。

2)管理者は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「ハラスメント相談窓口」(第6条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。

3)従業員等は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、速やかに上司および「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第6条(「ハラスメント相談窓口」の設置)

1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。

  1. ハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
  2. 教育指導によるハラスメントの未然防止。
  3. ハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  4. その他、ハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。

3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、ハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するハラスメント防止教育を受講しなければならない。

4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第7条(ハラスメントへの対応)

1)ハラスメント(疑い例を含む)の相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。

2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、ハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。

3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。

4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。

5)ハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、法令に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。

6)会社によるハラスメントの調査を適正に進めるため、または被害拡大を避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。また、会社が必要と判断する場合には、相談者その他従業員等に対し、勤務場所の変更等を命じることがある。

7)ハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、ハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。

第8条(不利益な取扱いの禁止)

会社はハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない。

第9条(プライバシーの保護)

1)何人も、ハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。

2)窓口責任者および窓口担当者は、ハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第10条(再発防止の義務)

窓口責任者は、ハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。また、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに関しては、業務体制の整備など、発生の原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講じなければならない。

第11条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【かんたん消費税(5)】海外と取引する際に必要な消費税の知識

書いてあること

  • 主な読者:海外取引に関する消費税の取り扱いを知りたい経営者
  • 課題:輸出と輸入では、消費税の取り扱いが全く異なる
  • 解決策:輸出は消費税が課されないが、輸入は消費税が課される。また、輸出の場合は、仕入税額控除が受けられるので、会計処理を適切に行う必要がある

1 輸出と輸入では全く違う消費税の取り扱い

海外取引をする会社が知っておきたいのは、輸出と輸入とで消費税の取り扱いが全く違うということです。

  • 輸出:消費税が課されない
  • 輸入:消費税が課される

このような違いがあるのは、「消費税は日本国内の消費に対して課する」という考えがあるためです。つまり、

  • 物を海外に輸出したら、その物の消費地は「海外」になるので消費税は課されない
  • 物を日本に輸入したら、その物の消費地は「日本国内」になるので消費税が課される

ということです。

このように輸出と輸入では消費税の取り扱いが全く違うのに、その理解を誤ると、物を輸出した際に得意先に消費税を請求してしまうなどのトラブルが発生します。この記事では、輸出取引と輸入取引に対する消費税の取り扱いの概要と注意点を解説します。

2 輸出した際の消費税の取り扱い

1)輸出の考え方

物を輸出した場合は消費税が課されません。これを、

「免税取引(輸出免税)」

と呼びますが、同じように消費税が課されない取引として「非課税取引」があります。両取引は「消費税が課されない」という点で共通していますが、消費税の「納税額」を計算する際の取り扱いは全く違います。

具体的には、

  • 非課税:本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしている
  • 免税:消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えるのです。つまり、「消費税が課税されない(=非課税)」のか「消費税は課税されているが、結果としてゼロになる(=免税)」のかということです。そして、このちょっとした違いが、納税額の計算方法に大きな影響を与えます。この点の詳細は後述します。

2)免税となる輸出の範囲と注意点

免税となる「輸出」の代表例は、「物の輸出」です。

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「物の輸出」は輸出免税とされる典型的な例ですが、この場合でも、

輸出許可証(税関長が証明した書類)を保存

しておかないと輸出免税として取り扱われません。税務調査では、この輸出許可証の提示を求められることがあるので注意しましょう。

また、「物の輸出」以外にも、非居住者に対して工業所有権(特許権や意匠権など)を貸し付けて貸付料を受け取ったり、「非居住者」に対するコンサルティングなどの役務提供を行って対価を受け取ったりする取引も輸出免税として取り扱われます。目に見えないサービスを海外に輸出していると考えるためです。

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この場合、輸出許可証などの保存は必要ない代わりに、次の事項が記載されている契約書その他の書類を保存しておかなければなりません。

  1. 役務の提供等をした側(つまり読者の皆さん)の氏名又は名称及び住所
  2. 取引を行った年月日
  3. 役務の提供等の内容
  4. 対価の額
  5. 相手側の氏名又は名称及び住所

なお、「非居住者」の詳細は、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」という法律で定められています。その内容は多岐にわたりますが、主に、

取引相手先の事務所がどこにあるか

が判断の目安になるので、海外に事務所を構えている相手先に役務提供を行ったら輸出免税となります。ただし、外国法人でも、その法人の日本支店への役務提供は輸出免税にはなりません。

3)輸出免税がある場合の消費税計算の注意点は?

先ほど、非課税取引と免税取引との違いは、「消費税が課税されない(=非課税)」のか、「消費税は課税されているが、結果としてゼロになる(=免税)」のかの違いであるとお伝えしました。実はこのちょっとした違いが、消費税の納税額の計算方法に大きな影響を与えます。

具体的には、

仕入税額控除の金額が変わってくる

のです。

仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

仕入を行ったときに支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除が取れるわけではなく、

課税される売上に対応する仕入に掛かった消費税しか仕入税額控除は取れない

のです。そのため、

売上が非課税の場合、その仕入に掛かった消費税で仕入税額控除は取れない

ことになります。

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「免税取引」なのに、誤って「非課税取引」として処理した場合、本来は消費税が還付されるべきなのに、還付される消費税がゼロと計算されてしまいます(図表3の計算に置き換えると、仮払消費税が0円となってしまうため)。

経営者の方は消費税の細かい計算方法まで理解する必要はありませんが、同じ「消費税が課されない取引」であっても、

「免税取引」と「非課税取引」の区分を誤ると納税額(還付額)に大きな影響が出る

ということをしっかり理解しておきましょう。

3 輸入した際の取り扱い

1)輸入の考え方

海外で商品を購入しても、その時点で日本の消費税は課されません。しかし、その商品を日本国内に輸入する際は消費税が課されます。具体的には、

保税地域から商品を引き取った際に消費税が課される

ことになります。保税地域とは、

税関の輸入許可がまだ下りていない外国貨物を一時的に保管する場所

のことです。

海外で購入した商品を自由に日本国内に持ち込むことはできないため、まずは保税地域で保管されます。この商品を最終的に引き取る(日本国内に持ち込む)までの一般的な流れは次の通りです。

  1. 関税及び消費税の計算を行い、税関に対して「輸入申告」を行う
  2. 計算した関税及び消費税を納付する
  3. 税関より「輸入許可通知書」が発行される
  4. 商品を引き取る

2)輸入消費税がある場合の消費税計算の注意点は?

輸入申告を行った際に納付する消費税を、一般的に「輸入消費税」と呼びます。この輸入消費税も、日本国内で仕入をした際の仮払消費税と同様に、

仕入税額控除の対象

となります。ただし、仕入税額控除を取るには、

「輸入許可通知書」を保存しておく必要

があります。商品を引き取ったからといって書類を廃棄せずに保存しておきましょう。

なお、日本国内で仕入を行う際は、仕入価格に税率(10%)を掛ければ消費税額が計算できますが、輸入消費税の計算は少し複雑で、単に仕入価格に税率を掛けても計算はできません(具体的な計算方法は割愛)。そうしたこともあり、輸入取引について会計処理を行う際は、

一般的な仮払消費税と輸入消費税は別の勘定科目を使用する

ようにすると、消費税の申告作業時に必要な数値を集計したりするのに便利です。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

【管理会計】値上げ、値下げ。目標利益を達成するために必要な売上高の求め方

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:目標利益が共有されたけど、これを達成するために必要な売上高が分からない
  • 解決策:損益分岐点と同じ考え方。固定費と目標利益の合計を限界利益率で割って計算する

1 質問:必要な売上高を計算できますか?

当期の営業利益は1億円。来期は強気に2億円まで伸ばす計画です!

現在の損益の状況と次期目標利益は次の通りなのですが、この目標利益を達成するために必要な売上高はいくらでしょうか。売上原価は売上高の増減に合わせて変動し、販売管理費は一定とします。

画像1

このケースの売上高は、

12億5000万円=(3億円+2億円)/0.4

となります。上の数式の「0.4」は、本ケースの売上総利益率です(40%(1-0.6))。

これが基本的な答えですが、会社の営業戦略によって変わる部分があります。例えば、強気に値上げをする場合もあれば、値下げして販売量を増やすこともあります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「損益分岐点」という感覚を持つ

「損益分岐点」とは、

売上と費用がトントンの状態

です。損益分岐点は管理会計で用いられる最もポピュラーな指標の1つで、これを知ることで意思決定に明確な根拠を持たせることができます。

さて、損益分岐点を求めるには費用を次のように分けます。

  • 変動費:売上高に応じて変動する費用。小売業の場合は支払運賃、支払荷造費など
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用。人件費や減価償却費、賃借料など

そして、横軸を販売数量、縦軸を金額(費用、利益、売上高)とした場合、変動費、固定費、利益、売上高の関係は次のようになります。

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図表2では変動費の上に固定費を置いているので、固定費ラインが費用の合計(変動費+固定費)になります。売上高ラインと固定費ライン(費用の合計)が交差する点が損益分岐点です。

また、変動費と固定費の上に目標利益を置いています。売上高ラインと目標利益ラインが交差する点が「目標利益達成点」です。必要売上高は次のように算出することができます。なお、「変動費率」は「変動費/売上高」です。

必要売上高=(固定費+目標利益)/(1-変動費率)

さらに分かりやすくすると、「1-変動費率」のことを「限界利益率」といいます。限界利益率を用いると、計算式は次のようにシンプルになります。

必要売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

3 営業戦略のバリエーション

目標利益を達成するための必要売上高の求め方は、損益分岐点の考え方でお分かりいただけたと思います。次は、設定した目標利益をどのように達成するか、つまり営業戦略の問題です。ここでは、次の4つの営業戦略を想定し、それぞれの必要売上高を求めます。

ちなみに、図表3を見て戦略1~4はどのような内容か想像できますか?

画像3

それぞれの戦略は、次のようなものです。

  • 戦略1:販売単価を10%値上げ
  • 戦略2:販売単価を10%値下げ
  • 戦略3:販売管理費を1億円増強
  • 戦略4:販売管理費を1億円削減

これらは企業がとり得る基本的な営業戦略です。条件次第で結果は変わってきますが、以降では「目標営業利益2億円を達成する」ために必要な売上高と販売数量を検討する際の基本的な考え方を紹介します。

4 戦略1:販売単価を10%値上げ

値上げをすると限界利益率が高くなるので利益が出やすくなりますが、一方で販売数量が減少する恐れがあります。

値上げ戦略は、「価格弾力性が低い商品」に適しています。価格弾力性が低い商品とは、

価格の影響を受けにくい商品です。つまり、販売数量は値上げしてもあまり減少せず、逆に値下げしてもあまり増加しない

ということです。具体的には、食品や日用品などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値上げして限界利益率を上げ、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値上げすることで変動費率は54.5…%(6億円/(10億円×1.1))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.545…)=11億円

この場合、販売数量は現在の100%(11億円/(10億円×1.1))、つまり、現状と同じ販売数量で必要売上高を達成できます。

5 戦略2:販売単価を10%値下げ

値下げをすると限界利益が低くなるので利益が出にくくなりますが、一方で販売数量の増加が見込めます。薄利を上回る多売を実現すれば、目標利益の達成が可能になります。

値下げ戦略は、「価格弾力性が高い商品」に適しています。価格弾力性が高い商品とは、

価格の影響を受けやすい商品です。つまり、販売数量は値上げしたら減少し、逆に値下げすると増加する

ということです。具体的には、家具や家電製品など耐久消費財などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値下げして販売数量を増やし、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値下げすることで変動費率は66.6…%(6億円/(10億円×0.9))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.666…)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の約1.7倍(15億円/(10億円×0.9))にする必要があります。

6 戦略3:販売管理費を1億円増強

販売管理費を1億円増強し、営業担当者を増やしたり、広告を出したりして拡販につなげます。製品のライフサイクルが成長期にある場合、営業力強化による拡販は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円増やして4億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(4億円+2億円)/(1-0.6)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の1.5倍(15億円/10億円)にする必要があります。

7 戦略4:販売管理費を1億円削減

販売管理費を1億円削減し、利益を上げやすくします。とはいえ、営業力が極端に低下してはいけないので、基本は不採算店の閉鎖、物流の効率化、在庫の圧縮などの効率化となります。製品のライフサイクルが成熟期にある場合、固定費の削減は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円削減して2億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(2億円+2億円)/(1-0.6)=10億円

この場合、現状と同じ必要売上高と必要販売数量で目標利益を達成できます。ただし、売上高が減少局面にある場合、売上高を維持することは容易ではありません。

8 法人税等を考慮した場合

ここまで紹介してきた4つの営業戦略による売上高、売上原価(変動費)、販売管理費(固定費)、営業利益は次の通りです。

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また、目標利益が税引後利益の場合、法人税等に留意が必要です。例えば、固定費3億円、変動費率60%、法人実効税率30%とした場合、目標税引後利益2億円を達成する必要売上高は次の通りです。

必要売上高

={固定費+目標税引後利益/(1-法人実効税率)}/(1-変動費率)

={3億円+2億円/(1-0.3)}/(1-0.6)≒14億6429万円

目標とする税引後利益から必要売上高を算出する場合、税引後利益に法人税等を加味して、税引前利益を求めてから計算しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【ハラスメント対策】ハラスメントの再発防止。情報提供とハラスメント防止研修の実施

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの再発防止のため、社員に注意喚起をしたい人
  • 課題:ハラスメントの事実をどのように発信するか、ハラスメント防止研修をどう行うか
  • 解決策:プライバシーに配慮しつつ、全社員に当事者意識を持たせることを意識する

1 全社員に当事者意識を持たせる。ただし情報開示は慎重に

ハラスメントが発生した場合、2度と同じような事案が起きないよう、再発防止策を講じなければなりません。大切なのは、社員に「自分もハラスメントの行為者になるかもしれない」という当事者意識を持ってもらうことです。そのために必要なのが、

発生したハラスメントについて社内に情報を開示すること

です。開示する(しない)情報のイメージは次の通りです。

  • 開示する情報:社内でハラスメントが発生したこと、ハラスメントの類型など
  • 開示しない情報:行為者や被害者の名前、具体的な言動、行為者の処分内容など

行為者や被害者の名前などを伏せるのは、関係者のプライバシーへの配慮です。ただ、中小企業の場合、名前などを伏せても何となく誰のことなのかが分かってしまい、それによって被害者が傷付くことがあります。こうした場合は、そもそも情報を開示しない、ある程度期間が経ってから詳細を隠して開示するなどの対応を検討する必要があります。

2 ハラスメント防止方針を再周知する

次に、全社員に対して、「ハラスメント防止方針」の内容を再周知します。ハラスメント防止方針とは、ハラスメントに対する会社の姿勢を示す方針で、主に次の9つの項目を定めます(ハラスメント防止規程など、就業規則の中に定めることもあります)。

  1. 基本的な考え方(ハラスメントを行ってはならない旨)
  2. ハラスメントに当たる言動
  3. 方針の対象(全社員)
  4. ハラスメントに当たる言動を取った者への処分
  5. ハラスメントに関する相談窓口
  6. 相談者・事実関係の確認への協力者等への不利益な取扱いの禁止
  7. 被害者に対する配慮のための措置・行為者に対する措置
  8. 制度等の利用(就業規則等に従い、育児休業等の制度を正当に利用できる旨)
  9. ハラスメント防止研修・講習

再発防止の観点で考えると、特に「1.基本的な考え方」「2.ハラスメントに当たる言動」「4.ハラスメントに当たる言動を取った者への処分方針」を重点的に再周知するのがよいでしょう。

また、ハラスメントを受けた経験の有無やその内容について、社内アンケートを実施するのも効果的です。厚生労働省・あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード」では、「過去3年間にパワハラを受けたと感じたことはあるか?」など、パワハラ(パワーハラスメント)に関する社内アンケートの例を示しているので参考になります。

■厚生労働省・あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード」■

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/

3 ハラスメント防止研修

ハラスメント防止方針を周知するのと合わせて、社員にハラスメントに関する正しい知識・意識を持ってもらうために、ハラスメント防止研修や講義も実施します。弁護士事務所やコンサルタントなどの外部の専門機関などに研修を依頼するのが一般的です。

研修の内容としては、例えば次のようなものがあります。どのような内容にするにしても、「なぜこの研修を実施するのか」という経営者のメッセージを伝え、可能な限り社員全員に受講させることが大切です。

  • ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)
  • ハラスメントに当たる具体的な言動
  • ハラスメントを起こしやすい人の行動特性
  • ハラスメントにならないためのコミュニケーションのポイント
  • ハラスメントを起こした場合のリスク
  • ハラスメントに関する法規制、裁判事例
  • ハラスメント対策の進め方(相談窓口の設置、社内規程の整備など)
  • ハラスメント対応の実務のポイント(相談受付、社内処分、被害者への対応など)

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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【かんたん消費税(4)】消費税が課税される取引と、課税されない取引の違い

書いてあること

  • 主な読者:消費税に関する取引の種類と考え方を知りたい経営者
  • 課題:課税や免税などがあり、仕入税額控除も異なるらしいが、詳細が分からない
  • 解決策:課税取引、不課税取引、非課税取引、免税取引で整理する

1 消費税を知るための4つの取引

消費税の取引は、

課税される「課税取引」と、「課税されない取引」

に分かれます。さらに、課税されない取引は、

課税対象外取引(以下「不課税取引」)、非課税取引、免税取引

の3つに分かれます。つまり、消費税の取引は全部で4つに分類されます。

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消費税が課税されない取引が細かく分類されているので複雑ですが、ここをしっかり押さえないと、消費税の納税額が変わって損をすることがあります。この記事では、消費税の仕組みを知る上でとても大切な4つの取引の概要とともに、分類を間違えた場合に、どのような影響があるのかを説明していきます。

2 取引ごとに異なる消費税の納税額

売上・仕入ともに不課税取引、非課税取引、免税取引は消費税が課されませんが、この3つの取引を一くくりにして会計処理をしてはいけません。なぜなら、

売上が4つの取引のどれに該当するかによって、仕入税額控除の金額が変わる

からです。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

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仕入を行った際に支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除できるわけではなく、売上取引区分ごとに次のようにまとめられます。

  • 課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる
  • 不課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 非課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 免税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる

なお、免税売上は「消費税はかかっているが、税率は免除されている(0%=免税)」と考えるため、これに対応する支払った消費税は仕入税額控除できます。

経営者の方は、それぞれの取引の細かいところまで知る必要はありませんが、この取引区分を誤ると、消費税の納税額に大きな影響を与えることを理解し、経理担当者や税務担当者に適切な指示を出すようにしましょう。

3 それぞれの取引の解説

1)「課税取引」と「不課税取引」

どのような取引が課税の対象(課税取引)になるのかは、消費税法で決まっています。具体的には、

  1. 日本国内において行う取引であること
  2. 会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること
  3. 対価を得て行われるものであること
  4. 物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

の4つの要件を全て満たす取引をいいます。もし、1つでも満たさなければ、消費税はかからない不課税取引となります。

1.日本国内において行う取引であること

消費税法は日本の法律なので、課税の対象となるのは日本国内で発生する取引だけです。外国で物を売っても日本の消費税はかかりません。

2.会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること

消費税は、事業として行われる取引だけが課税の対象です。そのため、自家用車をディーラーに売却したり、友人同士でたまたま物を売買したりした場合は消費税がかかりません。

3.対価を得て行われるものであること

消費税は、対価がある取引だけが課税の対象です。そのため、試供品やサンプルの配布など、商品をタダであげたりした場合には消費税がかかりません。

4.物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

消費税は、商品の売買や資産の貸し借り、コンサルティングなどのサービスの提供といった取引だけが課税の対象です。そのため、これらに該当しない配当金の支払いや、労働の対価として支払われる給料などには消費税がかかりません。

2)「課税取引」と「非課税取引」

上記4つの要件を満たす取引は消費税の課税対象となりますが、

実際に消費税を課すのにはなじまないもの、あるいは政策的な配慮から消費税をかけないこととしているもの

があり、これを「非課税取引」といいます。つまり、4つの要件は満たすものの、種々の理由から「例外的に課税しない」こととしている取引です。主な非課税取引には次のようなものがあります。

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3)「課税取引」と「免税取引」

消費税は日本国内の消費について課税されるものなので、同じ商品の売買であっても、海外で消費されるもの(輸出されるもの)は消費税が免除されます。例えば、皆さんが海外旅行に行く際に、羽田空港の免税店でお菓子(商品)を購入したとします。通常、お菓子の購入には消費税が課税されますが、実際にお菓子を食べるのは出国した後(=海外)ということが前提となるため、消費税が免除されるわけです。また、通常の商品の輸出の他、国際電話や国際郵便、国際線の航空料金なども免税取引になります。

なお、「非課税」と「免税」は両方とも消費税がかからないという点では共通しているため、2つの違いが分かりにくいかもしれませんが、

「非課税」は、本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしているもの

であるのに対し、

「免税」は、消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えると分かりやすいかもしれません。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

【朝礼】「巧詐は拙誠に如かず」。誠実に勝るものなし

【ポイント】

  • 巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから「誠実」であることが大事である
  • 偽るために飾られた言動は、かえって不信につながる
  • 大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行すること

私の社長仲間に、「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如(し)かず」を座右の銘とする人がいます。この言葉は中国古典である『韓非子』に出てくる一節で、「巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから『誠実』であることが大事である」という意味です。

この社長は、分からないことは「分かりません」とはっきりと言い、知ったかぶりをしません。しかも、そこで終わらず、後日、きちんと調べて回答してくれます。しかも、私が「1」を話したことから「10」どころか、「50」も「100」も私のことを理解し、先回りをして対応してくれます。こうした対応をするには相応の時間が必要ですが、彼は多忙な中、ある意味で「利他的」な言動を取ってくれるのです。私は心から彼を信頼し、いつでも恩返ししたいと思っています。

一方、世の中には、残念ながら目先の自分の利益ばかりを優先し、巧みな話術で必ずしも相手のためにならない提案をしたり、自分のメンツばかりを気にして知ったかぶりをしたりする人がいます。偽るために飾られた言動は、かえって「私をだまそうとしていない?」と不信につながります。いざ「巧詐」の本性が明らかになれば、私はその人と二度とビジネスをしないでしょう。

両者の違いは非常に大きなものです。私自身、そうした経験をしたことが何度もあります。ある大型案件のコンペに参加したときのことです。クライアントの要求レベルが非常に高く、競合も当社もその時点で十分に応えることができませんでした。その際、競合は自分たちの強みを強調し、不足している技術をごまかそうとしました。一方、私はその時点の当社の技術で、クライアントの要求をどの程度満たせるかを説明し、自分たちに不足している技術とそれをカバーするまでのスケジュールも示しました。すると、クライアントは当社の姿勢を評価し、「御社は常にこちらのことを考え、誠実に対応してくれるのですね。信頼できる御社にお任せします!」と言ってくれたのです。

ビジネスでは、時にテクニックも必要です。しかし、テクニックだけでは誠実で真っすぐな姿勢に勝ることは決してないのです。大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行することです。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda