【かんたん消費税(4)】消費税が課税される取引と、課税されない取引の違い

書いてあること

  • 主な読者:消費税に関する取引の種類と考え方を知りたい経営者
  • 課題:課税や免税などがあり、仕入税額控除も異なるらしいが、詳細が分からない
  • 解決策:課税取引、不課税取引、非課税取引、免税取引で整理する

1 消費税を知るための4つの取引

消費税の取引は、

課税される「課税取引」と、「課税されない取引」

に分かれます。さらに、課税されない取引は、

課税対象外取引(以下「不課税取引」)、非課税取引、免税取引

の3つに分かれます。つまり、消費税の取引は全部で4つに分類されます。

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消費税が課税されない取引が細かく分類されているので複雑ですが、ここをしっかり押さえないと、消費税の納税額が変わって損をすることがあります。この記事では、消費税の仕組みを知る上でとても大切な4つの取引の概要とともに、分類を間違えた場合に、どのような影響があるのかを説明していきます。

2 取引ごとに異なる消費税の納税額

売上・仕入ともに不課税取引、非課税取引、免税取引は消費税が課されませんが、この3つの取引を一くくりにして会計処理をしてはいけません。なぜなら、

売上が4つの取引のどれに該当するかによって、仕入税額控除の金額が変わる

からです。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

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仕入を行った際に支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除できるわけではなく、売上取引区分ごとに次のようにまとめられます。

  • 課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる
  • 不課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 非課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 免税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる

なお、免税売上は「消費税はかかっているが、税率は免除されている(0%=免税)」と考えるため、これに対応する支払った消費税は仕入税額控除できます。

経営者の方は、それぞれの取引の細かいところまで知る必要はありませんが、この取引区分を誤ると、消費税の納税額に大きな影響を与えることを理解し、経理担当者や税務担当者に適切な指示を出すようにしましょう。

3 それぞれの取引の解説

1)「課税取引」と「不課税取引」

どのような取引が課税の対象(課税取引)になるのかは、消費税法で決まっています。具体的には、

  1. 日本国内において行う取引であること
  2. 会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること
  3. 対価を得て行われるものであること
  4. 物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

の4つの要件を全て満たす取引をいいます。もし、1つでも満たさなければ、消費税はかからない不課税取引となります。

1.日本国内において行う取引であること

消費税法は日本の法律なので、課税の対象となるのは日本国内で発生する取引だけです。外国で物を売っても日本の消費税はかかりません。

2.会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること

消費税は、事業として行われる取引だけが課税の対象です。そのため、自家用車をディーラーに売却したり、友人同士でたまたま物を売買したりした場合は消費税がかかりません。

3.対価を得て行われるものであること

消費税は、対価がある取引だけが課税の対象です。そのため、試供品やサンプルの配布など、商品をタダであげたりした場合には消費税がかかりません。

4.物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

消費税は、商品の売買や資産の貸し借り、コンサルティングなどのサービスの提供といった取引だけが課税の対象です。そのため、これらに該当しない配当金の支払いや、労働の対価として支払われる給料などには消費税がかかりません。

2)「課税取引」と「非課税取引」

上記4つの要件を満たす取引は消費税の課税対象となりますが、

実際に消費税を課すのにはなじまないもの、あるいは政策的な配慮から消費税をかけないこととしているもの

があり、これを「非課税取引」といいます。つまり、4つの要件は満たすものの、種々の理由から「例外的に課税しない」こととしている取引です。主な非課税取引には次のようなものがあります。

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3)「課税取引」と「免税取引」

消費税は日本国内の消費について課税されるものなので、同じ商品の売買であっても、海外で消費されるもの(輸出されるもの)は消費税が免除されます。例えば、皆さんが海外旅行に行く際に、羽田空港の免税店でお菓子(商品)を購入したとします。通常、お菓子の購入には消費税が課税されますが、実際にお菓子を食べるのは出国した後(=海外)ということが前提となるため、消費税が免除されるわけです。また、通常の商品の輸出の他、国際電話や国際郵便、国際線の航空料金なども免税取引になります。

なお、「非課税」と「免税」は両方とも消費税がかからないという点では共通しているため、2つの違いが分かりにくいかもしれませんが、

「非課税」は、本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしているもの

であるのに対し、

「免税」は、消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えると分かりやすいかもしれません。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

【朝礼】「巧詐は拙誠に如かず」。誠実に勝るものなし

【ポイント】

  • 巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから「誠実」であることが大事である
  • 偽るために飾られた言動は、かえって不信につながる
  • 大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行すること

私の社長仲間に、「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如(し)かず」を座右の銘とする人がいます。この言葉は中国古典である『韓非子』に出てくる一節で、「巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから『誠実』であることが大事である」という意味です。

この社長は、分からないことは「分かりません」とはっきりと言い、知ったかぶりをしません。しかも、そこで終わらず、後日、きちんと調べて回答してくれます。しかも、私が「1」を話したことから「10」どころか、「50」も「100」も私のことを理解し、先回りをして対応してくれます。こうした対応をするには相応の時間が必要ですが、彼は多忙な中、ある意味で「利他的」な言動を取ってくれるのです。私は心から彼を信頼し、いつでも恩返ししたいと思っています。

一方、世の中には、残念ながら目先の自分の利益ばかりを優先し、巧みな話術で必ずしも相手のためにならない提案をしたり、自分のメンツばかりを気にして知ったかぶりをしたりする人がいます。偽るために飾られた言動は、かえって「私をだまそうとしていない?」と不信につながります。いざ「巧詐」の本性が明らかになれば、私はその人と二度とビジネスをしないでしょう。

両者の違いは非常に大きなものです。私自身、そうした経験をしたことが何度もあります。ある大型案件のコンペに参加したときのことです。クライアントの要求レベルが非常に高く、競合も当社もその時点で十分に応えることができませんでした。その際、競合は自分たちの強みを強調し、不足している技術をごまかそうとしました。一方、私はその時点の当社の技術で、クライアントの要求をどの程度満たせるかを説明し、自分たちに不足している技術とそれをカバーするまでのスケジュールも示しました。すると、クライアントは当社の姿勢を評価し、「御社は常にこちらのことを考え、誠実に対応してくれるのですね。信頼できる御社にお任せします!」と言ってくれたのです。

ビジネスでは、時にテクニックも必要です。しかし、テクニックだけでは誠実で真っすぐな姿勢に勝ることは決してないのです。大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行することです。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「採用活動」で使える助成金! 早期再就職支援等助成金など4種類を紹介

書いてあること

  • 主な読者:中小企業が採用活動の際に活用できる助成金について知りたい経営者
  • 課題:具体的にどのようなものがあるか分からない
  • 解決策:主なものとして「早期再就職支援等助成金」「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース・就職氷河期世代安定雇用実現コース)」「トライアル雇用助成金」を押さえる

1 採用活動を強力にサポートする助成金を使いこなす!

2023年の中途採用費用(年間平均)は、前年比55.8万円増の629.7万円となっています(マイナビ「中途採用状況調査2024年版(2023年実績)」)。コロナ禍の収束とともに採用活動に再び本腰を入れ始めた会社が多かったようです。一方、中小企業などでは

「採用活動にそこまでお金をかけられない」と、積極的に取り組めずにいる会社

が少なくありません。そもそも採用活動に割けるリソースが限られる上に、入社した社員がすぐに辞めてしまうことも多い昨今、慎重にならざるを得ないのは無理からぬことです。

しかし、諦めないでください。

採用活動をサポートするための助成金を上手に活用し、採用コストに充当すること

でこの問題を打開できる可能性があります。国や自治体が実施する助成金の中には、一定の条件に該当する社員を雇い入れたり、訓練したりすることで受給できるものがあります。

この記事では、

採用活動に関する中小企業向けの助成金を4つ紹介

します。支給額や要件などの情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも載せています。なお、助成金の内容は、2024年11月8日時点のもので将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類等については、各章で紹介しているURLをご参照ください。

2 早期再就職支援等助成金

1)早期再就職支援等助成金とは?

主に会社都合などでやむを得ず離職した社員を、離職後3カ月以内に社員として採用し、OFF-JT(職場から離れて行う研修)やOJT(職場で行う研修)を行った場合、雇入れ・人材育成にかかった費用の一部を受け取れるというものです。

■厚生労働省「早期再就職支援等助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

  • 会社:支給対象者を、離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者となる無期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇い入れ、6カ月を超えて雇用すること。雇入れ時に社員の所定内賃金を離職前よりも5%以上アップさせること。「雇入れ日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
  • 社員:直前の離職の際に「再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」のいずれかになっていること

「再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」の細かい説明は割愛しますが、いずれも倒産や事業の縮小など、会社都合などでやむを得ず離職した人が対象になります。

3)受け取れる金額はいくら?

2)の要件を満たすと、

  • 雇い入れにかかった費用の一部を定額で受給(早期雇入れ支援)
  • 雇い入れから6カ月間のうちにOFF-JTやOJTを実施した場合、その訓練時間に応じた額や、訓練経費の実費相当額を受給(人材育成支援)

できます。なお、雇入れ支援も人材育成支援も、生産指標等により一定の成長性が認められる会社は、「優遇助成」が受けられます。

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4)専門家のワンポイントアドバイス

離職から3カ月以内に社員を雇用するという要件があるので、タイミングを意識して採用計画を立てることが重要です。人材育成支援は、入社前研修なども対象になることがあります。ただし、人材育成支援の助成を受けるには、訓練開始前にあらかじめ「職業訓練計画」を立てて都道府県労働局の認定を受ける必要がある点に注意が必要です。

3 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは?

60歳以上の高年齢者や障害者など、就職が特に困難とされる人材を社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

  • 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、雇用保険被保険者となる社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇い入れること。「雇入れ日の前後6カ月間に解雇等を行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
  • 社員:「高年齢者(60歳以上の者)」「身体・知的・精神障害者」「母子家庭の母等」「ウクライナ避難民」「補完的保護対象者」といった、就職が困難とされる者であること

有期雇用社員として雇用する場合も助成対象になりますが、その社員が65歳以上に達するまで継続して雇用し、継続雇用期間が確実に2年以上(一部3年以上)となる必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で(ただし、対象期に支払われた賃金額を上限として)支給されます。なお、社員を短時間労働者(所定労働時間が20時間以上30時間未満の社員)として雇い入れるかどうかによっても金額が変わります。

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なお、特定求職者雇用開発助成金には「成長分野等人材確保・育成コース」といって、就職困難な社員などを業務経験のない状態で受け入れた上で、次のメニューに該当する取り組みを実施すると、通常の1.5倍の助成が受けられるコースがあります。

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2024年10月1日から要件が緩和され、より利用しやすくなっているため、こちらも併せてご確認ください。

■特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_seichou_00008.html

4)専門家のワンポイントアドバイス

「ハローワーク等からの紹介により雇用した社員」が対象なので、採用手段が要件を満たしているかをあらかじめ確認しておく必要があります。また、高年齢者や障害者を雇用する場合、就業場所や就業時間などについて特別な配慮が必要になる可能性があります。

4 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?

いわゆる「就職氷河期世代(1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人)」で、子育てによるブランクのある人や非正規雇用などで正社員を希望する人を正社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158169_00001.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

  • 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、正社員として雇い入れること。「雇入れ日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない」など、会社都合退職について一定の要件を満たすこと
  • 社員:次の1.から5.の全てに該当すること

  • 1968年4月2日から1988年4月1日の間に生まれている
  • 雇入れ前の過去5年間において、正社員として雇用された期間が通算1年以下である
  • 雇入れ前の過去1年間において、正社員として雇用されたことがない
  • ハローワーク等からの紹介の時点で「失業している」または「非正規雇用労働者など安定した職業に就いていない」者で、就労に向けた支援を受けている
  • 正社員として雇用されることを自ら希望している

社員の要件の2.については、会社役員など助成金の趣旨に合わない人の場合、要件を満たしても支給対象外となるケースがあるので注意が必要です。一方、3.については雇入れ前の過去1年間に正社員として雇用されていても、離職理由が会社都合の解雇等によるものであれば支給対象となります。

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で支給されます。ただし、支給対象期ごとに対象社員に支払った賃金額が図表4の額を下回る場合、その賃金額が支給額の上限となります。

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こちらも特定就職困難者コースと同じく、「成長分野等人材確保・育成コース」の適用対象になります。就職氷河期世代の社員を業務経験のない状態で受け入れた上で一定の取り組みを実施すると、通常の1.5倍の助成が受けられます。

4)専門家のワンポイントアドバイス

特定就職困難者コースと同じく「ハローワーク等からの紹介により雇用した社員」が対象で、採用手段が要件を満たしているかをあらかじめ確認しておく必要があります。また、一概には言えませんが、非正規雇用が長かったことなどにより、正社員として必要なスキルが不足している人もいるため、個別の能力評価や入社後の人材育成は念入りに行う必要があります。

5 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?

職業経験の不足などから就職が困難な人を“トライアル(お試し)”で雇い入れた場合(トライアル雇用)、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。トライアル雇用で本人の適性を確認した後に、無期雇用社員に転換することができます。

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■厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

  • 会社:支給対象者を、ハローワーク等からの紹介により、雇用保険被保険者となる有期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として原則3カ月間トライアル雇用し、その後、無期雇用社員(週の所定労働時間が原則30時間以上)に転換すること
  • 社員:次の1.から5.のいずれかに該当すること

  • 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
  • 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
  • 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
  • 1968年4月2日以降に生まれ、ハローワーク等で担当者制の個別支援を受けている
  • 「母子家庭の母等」「父子家庭の父」「生活保護受給者」といった就職の援助に当たり、特別な配慮を要する者である

3)受け取れる金額はいくら?

対象者1人につき、1カ月単位で4万円(母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、5万円)が最大3カ月分支給されます。ただし、トライアル雇用期間の途中で中に、諸事情で雇用期間が1カ月に満たない月があったり本人の都合による休暇や会社都合による休業があったりした場合、月ごとに

実際に就労した日数÷就労予定日数

で計算した額がどの程度かによって金額が変わります。

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また、トライアル雇用終了後に、引き続き継続して雇用する社員として雇用(無期雇用に移行)する場合、特定求職者雇用開発助成金の一部を受給できます。

4)専門家のワンポイントアドバイス

トライアル雇用の開始から2週間以内に、対象社員を紹介したハローワーク等に「トライアル雇用実施計画書」を提出し、認定を受ける必要があります。また、助成金の申請自体は対象社員を無期雇用に転換してから2カ月以内に実施する必要があります。

以上(2024年12月作成)

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画像:ChatGPT

企画の考え方を教えます! 中小企業が大企業に勝てる「企画」を生み出す4つの型

書いてあること

  • 主な読者:社員から次々と企画が上がってくる活発な組織を目指す経営者
  • 課題:社員は企画を出した経験がなく、とても難しいものと考えている
  • 解決策:企画立案のハードルを下げる。コンビニなど身近なサービスに置き換えてみる

1 企画立案のハードルを下げる

中小企業は、経営資源の質と量では大企業に劣るものの、意思決定の速さと柔軟さには素晴らしいものがあります。この強みを「企画力」として活かせれば、大企業とも十分に戦うことができます。特に営業で大企業に勝ったことがある経営者は、このことを実感していますから、

お客様や取引先に接している社員が、次々と企画を上げてくるような活発な組織を期待

します。

しかし、こうした経営者の期待は、多くの社員にとってハードルが高いようです。なぜなら、多くの社員は「世の中になく、他の追随を許さない、画期的なものを生み出すこと」が企画立案だと思っているからです。御社に「100点満点を求め、失敗を許さない雰囲気」はないですか? こうした組織では社員は自由に発想することができません。

重要なポイントは、

企画立案に対するハードルを下げる

ことです。それと同時に、企画するときの考え方を示してあげることも大切です。身近にあるコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)を例に考えていきますので、御社の社員にも伝えてみてください。

2 企画の基本は「足し算型」

ビジネスにはコアとなる技術やサービスがあり、それを中心に全体像が設計されます。コアを中心に複数の要素を組み合わせる足し算型が企画の基本です。例えば、

コンビニには「小売り」というコアがあり、そこにATMや公共料金の支払い、宅配などの要素が足されていくことで、小売りだけのときより、生活に密着したポジションを確立

することができます。

中小企業においても、いわゆる「水平統合」によって、取り扱う商品やサービスのラインアップを拡充するケースがよく見られます。他社との提携によって、自社の顧客のニーズを十分に満たす商品やサービスを実現するイメージです。

3 新しい付加価値を生む「掛け算型」

前述した足し算型と似ているのが掛け算型で、複数の要素を組み合わせて新たな付加価値を生み出します。最初から掛け算型を目指せればよいのですが、実際は足し算型を続けていくうちに、掛け算型の効果が見えてきます。

引き続きコンビニのケースで考えてみます。例えば、

イートインやコーヒーマシンは個別に見れば足し算ですが、両者を掛け合わせると「ランチや休憩の場所」という、新たな付加価値が生まれて「カフェ」に近い機能が備わり、利用者層の広がりを期待

できます。

中小企業においても、足し算型でサービスを組み合わせていくうちに、掛け算型の新しい付加価値が生まれることがあります。それにいち早く気付けば、コンビニがコーヒーとパンのセット割引をするようなプロモーションも可能になります。

4 常識を覆す「引き算型」

足し算型と掛け算型よりも大きなインパクトがあるのが引き算型の企画です。引き算型では斬新なビジネスモデルの実現による収益向上や、無駄の排除によるコスト削減を期待できます。

コンビニの場合、

決済などのオペレーションを自動化し、従業員がいなくても運営できる「無人コンビニ」や営業時間の短い「時短コンビニ」

などがこれに該当します。これまでのサービスの常識を覆す引き算型は、いわゆる「破壊的イノベーション」を生み出すことがあります。

中小企業にとって、引き算型の企画を遂行することは勇気がいるかもしれません。今あるものを削って顧客の反感を買う恐れがありますし、全く新しいものにチャレンジするのはリスクが高いからです。しかし、引き算型の企画遂行に成功すれば差異化を図りやすくなります。

5 多角化につながる「コア開発型」

ここまで紹介してきた足し算型、掛け算型、引き算型の企画立案は、既にあるコアの魅力を高める取り組みでした。これに対してコア開発型の企画とは、文字通り新しいコアをつくり上げるということであり、事業多角化につながります。

コンビニの場合、

PB(プライベートブランド)の開発

などが該当すると考えられます。足し算型が水平統合のイメージであったのに対し、コア開発型はいわゆる「垂直統合」となります。

中小企業は、単一の事業で戦っていることが少なくありません。コア開発型の企画遂行に成功すれば多角化につながりますが、一足飛びに取り組めるものではありません。まずは、足し算型や掛け算型から企画の練習をすることが優先でしょう。

6 企画力は会社の規模を凌駕(りょうが)する

「古池や蛙(かわず)飛び込む水の音」。松尾芭蕉の有名な句です。ところで、蛙は何色で、何匹いたのでしょうか。また、池に飛び込む音は、どんな音だったのでしょうか。さらに、そもそも「古池」を見たことがなければ、情景をイメージできません。

同様に、

企画を立てたことのない社員は、お題を与えられても、どう考えてよいのか分からない

というのが実情です。そこで、最初は経営者がアイデアを出し、企画会議を進行して、企画の立て方を社員に示していくしかありません。柔軟な発想で企画し素早く形にすれば、大企業を打ち負かすチャンスが生まれるはずです。

組み合わせる、変形させる、差し引く。どのようなアプローチをするにせよ、企画力は自由な発想と異なる要素を通底する力によって生まれます。経営者は、社員が異質なものに触れる機会をたくさんつくりましょう。他流試合の繰り返しによって、「古池」と聞いたときに何通りもの情景を思い描くことができるようになり、企画の幅が広がっていきます。

以上(2024年12月更新)

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画像:fizkes-shutterstock

退職金が少なくても財形貯蓄やiDeCo+でこれだけカバーできる!/人生100年時代の退職金制度を考える(3)

書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性について考えている経営者
  • 課題:退職金制度だけでは、社員の老後の生活費を賄うのに十分とはいえない
  • 解決策:退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用する

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第1回では、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの退職金が必要かをシミュレートしました。85歳までの生活を想定した場合、夫婦2人暮らしでは912万円、独身では744万円が必要でした。

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の

退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

【試算条件】

  • 22歳年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.01%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

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一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.01%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1370万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約2.1万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約2.6万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

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次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較ます。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2022年平均で約1092万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は約2243万円(日本経済団体連合会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)。統計データは異なりますが、1000万円以上の開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1370万円

を用意できた場合、その額は合計2462万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも219万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛け金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛け金に追加して、会社が掛け金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛け金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

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上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで752.3万円、iDeCo+で1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+は約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員の自己負担はiDeCoよりも少なくできます。つまり、社員は今の生活を切り詰めることなく、退職金+αのお金を用意できるのです。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

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仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、その額は合計2423万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも180万円多い

計算になります。ただし、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですから、これ以上の金額を用意する場合は他の制度も利用する必要があります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2462万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2423万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める可能性もありますし、最近では国が積極的に加入を推奨しており、こうした背景なども少なからず影響しているのでしょう。

ただし、iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛け金の一部を負担してくれるなどのメリットがある一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

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以上(2024年12月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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【管理会計】新任役員が知っておきたい管理会計の心得

書いてあること

  • 主な読者:新たに部門の管理が必要になった新任管理職や新任役員
  • 課題:実務としての管理会計を経験していないと、何から手を付けたらいいのか分からない
  • 解決策:管理会計で必要なKPIの設定や、自部門に管理会計を定例化させるポイントを紹介

1 新任役員が押さえておきたい管理会計の基本

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。新任役員は、まずは管理会計を押さえておくといいでしょう。管理会計とは、

業績を改善するために社内で活用する会計であり、「利益を出すための会計」

といえます。一方の制度会計は、税金の法律や会計の基準といった社会のルールに従って、社外に業績を報告するものです。こちらは基本的に経理部に任せておいても問題ありません。

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役員に求められるのは、自分の主管する部門(以下「自部門」)からより多くの利益を上げることです。そこで、利益獲得につながるヒントを提供してくれる管理会計を押さえることが効率的です。自部門の業務内容を決算書の数字に結びつけて、定点観測することがポイントです。

2 自身が求める管理会計を導入するために必要なこと

1)KPIを押さえる

自部門の管理会計としては、KPIを押さえることから始めましょう。KPIとは、業績に大きな影響を与える数字のことです。正確には、Key Performance Indicatorの頭文字をとったもので、日本語では重要業績評価指標と呼ばれますが、名称はそれほど気にしなくて構いません。営業部門であれば販売単価や販売個数、製造部門であれば歩留まり率や機械稼働率がKPIの代表例です。

例えば、販売単価をKPIとして、「来年度は10%アップの110円を目指そう」と目標を立てた場合、メンバーは販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと得意先と交渉する人もいるでしょう。KPIには、何を頑張ったらいいのか、そしてどのくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーがとるべき行動が分かりやすくなる効果があります。

取り組みの手順として、まず、自部門で従来、大切にされていた指標が何かを特定します。社内で実際に使われているKPIのほとんどは、長年の経験から業績向上につながることが分かっており、そのために使われていることが多くあります。それ以外にも、もし業績向上につながるKPIが分かっていれば追加してもいいでしょう。このとき、そのKPIは自部門が頑張れば達成できる性質のものなのか、複数の類似する指標がある場合には最適な指標なのかといった点に注意が必要です。

また、KPIは1つだけとは限りません。KPIを複数設定する場合は、おおよそ5つまでが把握、管理しやすいと思います。その場合には、優先順位をつけるようにします。さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般に、単価を下げれば販売個数が伸びる傾向があるため、販売単価と販売個数はトレードオフの関係にあるといえます。このとき、どちらも同じように大事にすると、部門のメンバーはどちらを伸ばしていいのか分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。中途半端な取り組みの結果、目標が達成できないという事態につながることもあります。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールですので、このような矛盾が発生しないよう注意しましょう。

2)KPIの実績数値の収集、分析、予測

KPIを設定したら、次に、そのKPIの実績数値を数カ月分集めてみましょう。そこで見られる変動の要因が何なのかを納得いくまで分析します。KPIに影響を与える要因を分析することで、何を頑張ればKPIが向上するのかのヒントを得ることができます。数値の良しあしに一喜一憂するだけではいけません。数値の裏側にある情報を押さえることのほうが重要です。

実績数値の分析ができたら、今度は予測に挑戦するといいでしょう。これから数カ月分のKPIの数値を予測します。自部門の活動予定や外部環境の変化などの前提条件を考えたうえで、その情報に基づき数値化します。実績の分析は「数値から情報」という流れでしたが、予測は「情報から数値」という逆の流れです。時が過ぎ、実績数値が出たら、予測との「答え合わせ」をしましょう。もし答えがあっていなかった場合、それは押さえるべき情報が漏れていたのか、それとも読み間違ったのか。この振り返りを何度も行うことで、今後の予測の精度を上げることができます。

正しく将来を読めるようになることは、管理会計の要です。これから自部門、ひいては自社の業績がどうなるのかを正しく予測できれば、必要な対処をとることができます。管理会計は「未来のための会計」ともいわれますが、正しく未来を予測し、必要な場合には適切なアクションをとることで、自社をより良い未来へ導くことができるのです。

3)KPIと決算書の数値の連動

最後に、KPIと決算書の数値を連動させて説明できるようになるといいでしょう。管理会計の目的は業績の向上、つまり、より多くの利益を出すことにあります。決算書上の利益が目標ですので、これと自部門のKPIがどのような関係にあるのかを把握します。

例えば、製造部門の主力製品の歩留まり率をKPIに置いた場合、これが1%改善したらいくらの利益改善効果があるのかを、「金額」で知っておくことが大切です。決算書や利益の話になると、及び腰になる役員も多いのですが、KPIを入り口にして、最終的には決算書の金額に結びつけられるようにならなければなりません。

なぜなら、経営者は、決算書を見て会社の全体像を把握します。つまり、経営者からしてみれば、KPIは会社の一部分の指標にすぎないのです。また、KPIはパーセンテージで表示されることも多く、実際の利益への影響が見えにくいものです。役員は、経営者が意思決定に必要な情報を正確に理解するために、自部門の数値であるKPIと、全社の数字の集合体である決算書上の利益の間を「翻訳」できるようになりましょう。経営者に対して自部門の状況を「翻訳」して説明するのは、役員に求められる必須のスキルといえます。

3 現場で管理会計を定例化させるために必要なこと

1)データベース形式で共有する

日常的にKPIを管理するためには、KPIの実績数値を容易に把握できる仕組みが必要です。丁寧に確認するのは月次で構いませんが、月中にも途中経過を確認できるほうがいいでしょう。KPIを管理するために、必ずしも立派なシステムは必要ではありません。エクセルでも結構ですので、確認したいと思ったときにすぐ確認できる仕組みをつくりましょう。必要なときにいつでも参照できるよう、データベース形式にして共有するのもいいでしょう。他人に頼まないと数値が見られないというのでは、役員として意思決定への活用がしづらくなってしまいます。

2)1つのKPIを管理するのは1つの部門に限定する

同じKPIを複数の部門で集計、管理している場合がありますが、これはなるべく避けましょう。業務が重複して手間が余分に掛かるだけでなく、新たな業務を生みがちだからです。KPIは小数点以下の数値を含むことも多く、複数の部門で管理していると、数値間に差異が発生することが多くあります。数値に差異があると、役員としては安心してその数値を使えず、迅速な意思決定ができなくなりますし、現場も差異の確認に不要な時間がとられます。ぜひ1つの部門で責任を持って計算、管理する方法を採用しましょう。部門をまたぐ話ですので、役員だからこそできる決断でもあります。

3)定期的にアウトプットする

KPIの管理を確実に運用するためには、定例会議資料の項目に織り込むことをおすすめします。定点観測がしやすくなり、また分析のためにいろいろなコメントを得ることができます。そして、KPIの管理に力を入れたい役員自身の本気度を、メンバーに対して伝えることにもつながります。同様の趣旨で、定期的に数値をメールで配信するのもいいかもしれません。小売業のような動きの速い業種では、前日の売上に関するKPIを毎朝配信するのが一般的です。

4)管理サイクルをルーティン化し、スピード感をもって取り組む

初めは、KPIの種類を1~2個に絞り込んだうえでスタートしても構いません。大事なのは、現場を巻き込みながら、定期的なKPIの管理サイクルを回すことです。KPIをはじめ、管理会計はスピード感を持って取り組むことが大切です。数値を確認するのに時間がかかると、分析や実際のアクションにかける時間が減ってしまいます。また、途中で挫折してしまっては、状況の把握が不十分になってしまいます。数値を集計し、分析し、報告する。この流れをタイムリーに運用し続けることを目標に、自部門の管理会計を構築することが、新任役員には求められているのです。

以上(2024年11月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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【ハラスメント対策】ハラスメントの事実確認 順番は「相談者、第三者、行為者」

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの事実確認の進め方、留意点を知りたい人
  • 課題:いきなり「行為者」を問い詰めてしまいそうだが、それは正しくなさそう……
  • 解決策:結論を急がない。相談者にしか分からない事実を引き出すことがポイント

1 事実確認は「焦らず、じっくりと」

ハラスメントに関する相談が相談窓口に寄せられた場合、会社はすぐにハラスメントの事実があったか否かを確認します。これを「事実確認」といいます。具体的には、

相談者(被害者など)、第三者(目撃者など)、行為者の順番で事情聴取をする

ことになります。

経営者としては、早く白黒をつけたいので、ついつい事実確認を行う担当者をせかしがちですが、調査不足は事実誤認のもとです。後々の対応(社内処分など)を誤らないためにも、「焦らず、じっくりと事実確認を行うこと」を心がけましょう。

以降では、相談者、第三者、行為者に事実確認をする際の留意点を紹介します。なお、2024年11月1日から、フリーランスに対してもハラスメント防止措置を講じることが義務付けられていますが、事実確認の基本的な流れは、社員もフリーランスも同じです。

2 相談者に事実確認する際の留意点

1)中立的な立場を貫く

相談者に確認する内容は次の通りです。相談者がメールや録音、SNSなどの客観的証拠を持っているようなら、相談者の同意を得てデータをコピーさせてもらいます。

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担当者は中立的な立場で臨み、相談者や行為者に変に肩入れをしないよう注意します。また、必要なのは事実確認と、ハラスメントがあった場合の処分に必要な情報ですから、興味本位の質問や「あなたにも隙があったのではないですか?」などの発言、「それはハラスメントに当たると思います」などの評価をしてはいけません。

2)行為者の言動を具体的に聞き取る

ハラスメントは客観的証拠がないことが多く、「言った、言わない」の問題になりがちです。相談者の話が信じられるかを判断するための1つの基準は、

相談者の話が、実際に体験した者でなければ語ることのできない、具体的で迫真性に富んだ内容か否か

です。そして、これを確認するには、

行為者の実際の言動を、できる限り具体的に、実際の発言の通りに話してもらうこと

が大切です。ハラスメントを受けた相談者が、精神的なショックなどからうまく話せない場合もありますので、辛抱強く聞き取るようにしましょう。相談を受けたり、事情聴取を行ったりする人数や場所、時間なども、相談者が安心して話ができるよう配慮する必要があります。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、相談者と同性の担当者が事情聴取を行うようにしましょう。

3)相談者を安心させる

相談者は「行為者に報復されるかも……」と心配しているケースが多いので、その場合は

「相談したことで不利益を受けることはないし、行為者には勝手に相談者に接触しないよう強く警告する」

とはっきり伝えます。相談者の精神状態によっては、カウンセリングの実施も検討します。

また、相談者から行為者の処分について質問されることがあります。社内処分は最後に決まるものなので、この段階では「社内処分のことはまだ話せない」と回答しましょう。

相談者によっては、「事を大きくしたくない」「とりあえず報告したかった」と考えているケースもあります。ですから、必ず相談者に対して、第三者への事実確認を行うか、どのように事後対応を進めていくかの確認を取る必要があります。

3 第三者に事実確認する際の留意点

メールや録音、SNSなどの客観的証拠が残っているのであれば、必ずしも第三者に事実確認をしなくてもよいでしょう。逆に客観的証拠がなければ、第三者に事実確認する必要性が高くなってきます。第三者に事実確認する際は、相談者や行為者のプライバシーを守るために、

  • 事実確認する第三者は最小限とし、外部に情報が漏れることを防止する
  • 第三者が事実確認の内容などを他者に漏らさないように「誓約書」を取る

などの対応が必要になってきます。

4 行為者に事実確認する際の留意点

行為者に事実確認する際も中立的な立場で臨みます。事実確認の際は、「虚偽や言い逃れは許さない」という毅然とした態度で臨むことが大切ですが、最初から行為者を犯人扱いしたり、無理に自白を取ろうとしたり、語気を荒らげたりしてはいけません。

また、相談者から相談があったことを行為者に伝えるときは、勝手に相談者に接触しないよう強く警告します。そうしないと、行為者が相談者に「そんなことあった? あのとき、君も笑っていたよね?」などと言って、相談の取り下げを迫ることがあるからです。

なお、ハラスメントの事実が認定できた場合には、行為者には必ず「弁明の機会」を与えます。弁明の機会を与えるのは、

弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがある

からです。

5 その他の留意点

事実確認の際は、あらかじめヒアリングする事項をリストにしておき、聞き漏れがないようにしましょう。また、あらかじめ録音することを伝えたうえで、聴取の様子を録音しておくと、「言った、言わない」の問題を回避できます。

なお、相談者と行為者の言い分が食い違うケースはよくあります。また、行為者が経営者や役員など会社内で地位の高い人物であるケースも多いです。このような場合には、社内だけで事情確認を行うのが難しくなるので、専門家である弁護士に相談しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【かんたん消費税(3)】インボイス制度のデメリットを理解する上で欠かせない「免税事業者」のこと

書いてあること

  • 主な読者:消費税の「免税事業者」について詳しく知りたい経営者
  • 課題:インボイス制度下では取引先に免税事業者がいる場合、自社の消費税の納税負担が増えるかもしれない
  • 解決策:免税事業者の基本は課税売上高が1000万円以下。ただし、例外もある

1 インボイス制度下では、免税事業者は不利な立場に?

「インボイス制度」が始まった後(2023年10月1日以後)は、

免税事業者との取引については「仕入税額控除」が受けられず、自社の消費税負担が重くなって損をする

ことになります。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引く

ことです。これが免税事業者との取引ではできないので、国に納める消費税が増えることになるのです。

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これは自社が免税事業者の場合も影響します。なぜなら、

自社が免税事業者の場合、反対に相手が仕入税額控除ができない

ことになり、取引の縮小や停止を要請されてしまうかもしれません。

そのため、自社や取引先が免税事業者か否かを確認することが、非常に重要になりました。そこで、この記事では、どのようなときに免税事業者になるのかについて解説します。

なお、インボイス制度に向けた事前準備については、以下のコンテンツで詳しく紹介しているので参考にしてください。

2 免税事業者とは? 

1)どんなときに免税事業者となるのか

事業者は、消費税を負担する人(=消費者)から消費税を預かり、消費者に代わって申告し、納付します。つまり、

物を売ったり、サービスを提供したりしている事業者は、消費税の納税義務者になる

のです。

しかし、消費税の申告作業は非常に煩雑で、その事務負担は重いです。そのため、消費税の納税義務者の考え方について特例が設けられ、

小規模の会社については、消費税の納税義務が免除

されます。

では、小規模の会社かどうかはどうやって判断するのでしょうか。それは、原則、

基準期間の課税売上高が1000万円以下かどうか

で考えます。課税売上高とは、消費税が課税される取引金額の合計のことです。また、基準期間とは、一般的な1年決算法人の場合は、

申告しようとする事業年度の前々事業年度

のことです。

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つまり、前々事業年度における課税売上高が1000万円以下の会社は小規模事業者になると判断され、納税義務が免除されるのです。この納税義務が免除される会社を「免税事業者」と呼びます。ちなみに、免税事業者以外は「課税事業者」と呼びます。

2)取引先は免税事業者なのか?

自社が免税事業者か否かは、過去に申告書を提出しているか否かなどを確認すれば、すぐに分かるでしょう。一方、取引先が免税事業者か否かについては、

得意先に「確認状」を送付するなどして、免税事業者かどうかを教えてもらう

ことになります。課税事業者であれば、通常は「適格請求書発行事業者の登録申請」を行っているはずですので、登録番号も併せて教えてもらうようにしましょう。なお、登録番号が分かれば、国税局が公表している「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することもできます。

第4章に、取引先に送付する「確認状」の文例を掲載しているので参考にしてください。

3 さまざまな納税義務の判定パターン

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら、基本的に免税事業者になります。ただし、例外もあります。

1)設立したばかりの会社

設立したばかりの会社には基準期間(=前々事業年度)がありません。基準期間がなければ課税売上高もないため、基本的には免税事業者になります。ただし、

基準期間がなくても期首の資本金が1000万円以上だと免税事業者にはならない

ので注意してください。つまり、資本金が1000万円以上の会社は課税事業者になります。この例外のポイントは次の2つになります。

  1. 資本金で判断するのは「基準期間がないとき」だけ
  2. 判定のタイミングは、申告しようとする事業年度の期首。期中に増資して資本金が1000万円以上になっても、期首が1000万円未満なら免税事業者

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2)設立時の親会社にも要注意

設立したばかりの会社で期首の資本金が1000万円未満でも、親会社などが大規模な会社だと、免税事業者にならない場合があります。具体的には、

持株割合が50%を超えている株主(個人含む)の課税売上高が5億円を超える場合は、課税事業者になる

ということです。なお、課税売上高が5億円を超えるかどうかは、

設立した法人の基準期間に相当する期間における株主側の課税売上高

で判定します。ただし、この特例も「基準期間がない事業年度」についてのみ適用されます。

3)売上が急拡大した会社の場合

消費税の納税義務は前々事業年度(=基準期間)の課税売上高で判断するのが基本のため、当事業年度の課税売上高がどんなに大きくても、基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務はありません。しかし、売上が急拡大している場合は要注意です。なぜなら、

特定期間の課税売上高と給与支払総額のそれぞれが1000万円を超える場合は免税事業者にならない

ためです。特定期間とは、一般的な1年決算法人であれば、

前事業年度の上半期(6カ月間)

のことです。このため、前々事業年度の課税売上高が1000万円以下でも、前事業年度の売上が急拡大し、上半期だけで1000万円を超え、かつ、給与の支払総額も1000万円を超えるときは課税事業者になるのです。

なお、この特例のポイントは、

上半期の課税売上高と給与支払総額の両方が1000万円を超えるときに課税事業者になる

という点です。つまり、どちらか1つが1000万円以下であれば免税事業者になります。

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4)課税事業者を選択した場合

本来は免税事業者に該当する会社でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、自ら課税事業者になることができます。例えば、免税事業者でも申告書を提出することによって還付を受けられるような会社がこの選択をします。ただし、この選択をした場合には最低でも2事業年度は強制的に課税事業者になります。

4 確認状の文例

20××年××月××日

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇御中

会社名 部署

適格請求書発行事業者登録番号のご通知とご依頼について

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、2023年10月1日に導入された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)上、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となっております。

そこで、弊社の適格請求書発行事業者登録番号をご通知するとともに、貴社の登録番号等について、弊社までご連絡をお願い申し上げます。何卒ご主旨をご理解賜り、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 弊社登録番号

T×××××× ××××××

2. 課税事業者のご確認及び登録番号に関するご依頼

課税事業者の場合、貴社の適格請求書発行事業者登録番号を以下の問合せ先まで、ご連絡願います。

また、課税事業者以外(免税事業者等)の場合は、その旨、ご連絡をお願い致します。

まだ、適格請求書発行事業者の登録がお済みでない場合には、登録のご検討をお願い申し上げます。

3. 問合せ先

部署 氏名

住所

電話番号

メールアドレス

以上

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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社員に“モヤモヤ”しているアイデアを出してもらう5つの仕掛け

書いてあること

  • 主な読者:社員に新しいアイデアを積極的に出してもらいたい経営者や管理職
  • 課題:ミーティングの場で社員がなかなか意見を出さない
  • 解決策:ちょっとしたきっかけで社員のアイデアは活性化するもの。ブレストやシックス・ハット法といった、社員が意見を出しやすい「仕掛け」を実践してみよう

1 組織の進化にオススメな“モヤモヤ”ミーティング

今までと同じことをやっているだけでは、会社は成長できません。新しいことに取り組んでいくために、社員にアイデアを出してもらいたいところですが、募集してもなかなか出てきません。社員はアイデア出しに慣れていなかったり、アイデアはあっても、「練っていないので、人に話すことができない」と思い込んでいたりするからです。

そこで、経営者や管理職の方々にご提案したいのが、

社員を巻き込んだ“モヤモヤ”ミーティングの開催

です。これは、社員が日ごろ、なんとなく「これがいいな」と“モヤモヤ”思っているアイデアを自由に披露する場をつくるというもので、オンライン・オフラインのどちらでもできます。“モヤモヤ”ミーティングを活性化する5つの仕掛けを紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 苦手そうな社員には課題を出してみる
  • ブレーンストーミングで場を活性化する
  • シックス・ハット法で掘り下げる
  • 明るく楽しくテンポ良く
  • 経営者や管理職は大いに語ろう

2 苦手そうな社員には課題を出してみる

“モヤモヤ”ミーティングは自由な意見を出せるのがいいところです。ただ、日ごろ、あまり問題意識を持っていない社員は苦手に感じます。そうした社員には、まず、取り組みやすそうな課題を出して考えさせることから始めてみましょう。

課題の例としては、「今、一番不便だと思っていることは何か。それを解消するにはどうすればよいか」「今までの人生で一番熱中したことは何か。それを他の人にどのように勧めるか」「好きに時間を使っていいと言われたら一日何をしたいか」などが挙げられます。具体的に既存商品やサービスについて、「『もっとこうしたほうがいい』と思っていることは何か」を課題にしてもいいかもしれません。

3 ブレーンストーミングで場を活性化する

“モヤモヤ”ミーティングでは、参加している社員に、活発に意見を出してもらうことが大切です。「批判をしない」「自由奔放に考える」「質より量を重視する」「便乗する」といった約束事のあるブレーンストーミング(ブレスト)で進めるのがよいでしょう。

ブレストに慣れていない社員は、つい、他の人のアイデアを批判しがちです。こうした社員には、「『でも、しかし』ではなく『そして、それから』」を徹底し、他の人のアイデアに「便乗する」ことで、アイデアをさらに膨らませるよう指導しましょう。

ビジネスのアイデアを出し合う前に、「動画で商品をPRする新しい企画とは?」「誰もが楽しい社員旅行の企画とは?」といった身近なテーマでブレストを行い、アイデアを出し合う訓練をしてみるのもいいでしょう。

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ブレストの良いところは、1つのアイデアに皆が便乗し、さらに膨らませるため、一体感が生まれることです。最初にそのアイデアを言い出したのは誰かということは重要ではなくなり、参加者全員で力を合わせて1つのアイデアを考えることができます。

4 シックス・ハット法で掘り下げる

ブレストで膨らんだアイデアを深掘りするために、「シックス・ハット法」を使います。これは、視点の違う6色の帽子(他のアイテムでもよい)のうち、全員が同じ1色を身に着け、その色の視点に立って考えていくという方法です。オンラインの場合は、6色の背景画像を用意し、全員が同じ1色を背景色にするなど工夫してみましょう。

シックス・ハット法で用いられる6色は、「青=冷静・管理的、黄=楽観・積極的、黒=警戒・否定的、緑=創造・革新的、白=中立・客観的、赤=情熱・感情的」となります。全員で同じ色を身に着けるので、思考をそろえて議論を深めることができます。

例えば「白」にしたときは、データや数字といった客観的な情報・事実だけを話します。このとき、自分の意見は言いません。一方、「赤」の場合は、「可能性を感じる」「面白い」など自分の感想や気持ちを話します。

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色の順番は決まっていませんが、他の色を統制し、分析したり管理したりする要素を持つ「青」で始めて進め方やゴールを決め、全ての色が終わった後、再度「青」にして、結論や次回への課題を確認して終わることが多いともいわれています。

慣れないと「今の色」と違う視点で意見を言う社員が出てくるので、ファシリテーターが「その発言は黒い帽子ですね。今は白ですよ」と軌道修正します。状況によっては「議論が停滞してきたので、緑の帽子で解決策を出しましょう!」と全員の視点を切り替えることもあります。

シックス・ハット法の良いところの1つは、視点を切り替えて考えられることです。さまざまな視点から捉えることで、“モヤモヤ”していたアイデアのメリットや課題、さらに進化した姿などが分かるため、形が見えるようになってきます。

5 明るく楽しくテンポ良く

ブレストでもシックス・ハット法でも、“モヤモヤ”ミーティングは、社員が楽しみながらテンポ良く進めることが大切です。シーンと静かになってばかりだったり、特定の社員が長々と発言したりしないよう、「発言は1分間」などのルールを決めましょう。特に1人しか発言できない(みんなでワイワイしにくい)オンラインの場合、ファシリテーターが重要です。参加者が満遍なく発言できるように回しましょう。

また、「立場にこだわらずフラットに発言する」というルールにしたとしても、社員は経営者や管理職の発言に影響を受けたり遠慮したりしがちです。社員が慣れるまでは、経営者や管理職はなるべく社員の後に発言するように心掛けるとよいでしょう。

社員がリラックスした気持ちで自由に意見を言えるよう、会社の外に出るのも一策です。オープンカフェや公園など屋外で行えば、いつもと違った雰囲気の中で、社員の視野が広がるかもしれません。

6 経営者や管理職は大いに語ろう

社員が“モヤモヤ”と思い、その“モヤモヤ”をアイデアとして議論し合えるようになるには、社員に会社や仕事を好きになってもらうこと、会社の今後を自分事のように考えてもらうことが必要かもしれません。

それには、経営者や管理職の日ごろの働き掛けがとても重要です。経営者や管理職は、思い描いている夢や「あるべき理想の姿」、どれだけ会社と社員(部下)を誇りに思っているか、たとえ足元の仕事が大変でもその先にどれだけ大きな喜びがあるか、などを大いに語りましょう。経営者や管理職は、未来をつくるのは“モヤモヤ”思ってくれる社員たちであることを忘れてはなりません。

7 社員に、「アイデア脳」になってもらうために

最後に補足として、「社員に、アイデアを出しやすい思考になってもらう」方法をお伝えします。“モヤモヤ”ミーティングの開催と並行して、日ごろから次のことを実践してみるとよいでしょう。

  • 社員にセミナーや勉強会、スタートアップピッチ、アイデアソンなどに参加してもらい、社外の人と積極的に交流する機会をつくる。
  • 経営者や管理職が「○○について人と話をしたが、うちの会社でもこう活かせる」と話して、「身の回りの全ての出来事がアイデアにつながる」と社員に意識させる。

以上(2024年12月更新)

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活発な議論をするために知っておくべき心理学のアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:議論を通してチームのパフォーマンスを高めたい経営者
  • 課題:無駄な会議が多い。優秀な人材を参加させているのにチームの成果が上がらない
  • 解決策:集団心理は良くも悪くも働くものであることを認識し、良いほうへ活用する

1 「3人寄れば文殊の知恵」とはならない不思議

企業では会議やブレインストーミング(ブレスト)など、チームのメンバーがアイデアを出し合って物事を決めたり仕事を進めたりすることが多いものです。しかしチームでの仕事が、常に個人プレーより優れているとは限りません。実際に会議をしてみて、

  • 優秀な人材を集めたのに、期待していたような成果が上がらない
  • 長い時間をかけて会議をしたが、なかなか良い案が出ない

という問題に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。

その背景には、「責任の分散」「同調」「集団分極化」といった、集団心理が働いていることがあります。集団心理は良くも悪くも働くもの、いわば諸刃の剣です。集団で議論するメリットを享受するためには、まず集団心理のメリット・デメリットと、その対策を念頭に置いたマネジメントが重要です。対策は次の3つです。

  • チームをグループに分けてディスカッションをする
  • 反対意見や異なる意見を歓迎する企業風土を醸成し、組織の風通しをよくする
  • 議論後に、個人で振り返りの時間を持つ

なぜ、これらの3つが重要になるのか。以降で明らかにしていきます。

2 1人当たりの責任感の分量が減る「責任の分散」

1)責任の分散とは

責任の分散とは、

多くの人が関わることで1人当たりの責任が小さくなり、「自分がやらなくても、誰かがやるだろう」という心理に陥る

という現象です。

責任の分散を考察するに当たり、象徴的なキティ・ジェノバーズ事件というものがあります。1964年に米国のニューヨークで、午前3時に帰宅途中の女性が暴漢に襲われ殺害されました。悲鳴が上がってから殺されるまで30分余りがありました。後の警察の捜査によると、近隣のアパートの住民38人が悲鳴を聞いたり、窓から顔を出して女性が襲われている現場を見たりしていました。にもかかわらず、誰ひとりとして助けたり、警察へ通報したりといった援助行動を取らなかったのです。

この原因はさまざまな考察がなされていますが、そのうちの1つが、「責任の分散」という集団心理が働いたことです。

後の実験で、このような援助行動は、その場に複数人いるときよりも、1人しかいないときのほうが、迷いなく援助行動を取ることが分かっています。さらに援助の対象が、見知らぬ人よりも顔見知りがほうが、より素早く援助行動を取ることも判明しています。

キティ・ジェノバーズ事件の被害者は、「目撃者が38人もいて、なぜ誰も助けなかったのか」ではなく、「38人もいたからこそ」助けられなかったのです。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐには、

チームをグループに分けてディスカッションをし、各グループの意見を発表する

とよいでしょう。20人が参加する会議でも、4人ずつの5グループに分けると、各自の責任の重さは「20分の1」から「4分の1」に増えます。

なお、グループは凝集性(集団がその中の個人を引きつける度合い)が過度に高くなったり、パワーバランスが生じたり、マンネリ化したりしないよう、ランダムに組むことが望ましいです。

3 周りに合わせて、白も黒と言ってしまう「同調」

1)同調とは

同調とは、

集団のメンバーが、集団の規範や、他のメンバーの意見に沿った行動を取る

という現象です。

社会心理学者のソロモン・アッシュが1951年に発表した論文では、次のような実験について著されています。

被験者1人を含む7人(被験者以外は事情を知っている協力者)に次のような図を見せ、左の図と同じ長さの線分を右の図から選ばせます。被験者以外の6人が全員一致して誤った回答をした場合、被験者はどんな回答をするでしょうか?

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正しい回答は、見ての通り「b」です。

しかし、被験者以外の全員が誤った回答(例えば皆がそろって「a」と回答)をした場合、被験者の誤答率は37%にも上ったのです。正解が明白であるにもかかわらず、他者の意見に同調して3分の1以上の人が誤った回答をしました。正解が明白な問題でもこのような結果になるのですから、会社で議論されるような正解がないテーマでは、なおさら同調は強くなりがちです。

同調が起きる理由として、主に2つが挙げられます。

  • 情報的影響:「正しくありたい」「間違えたくない」ため、「みんなが正しいと言うのだから正しいのだろう」と、他者の回答を判断材料にしたため
  • 規範的影響:「他者に受け入れられたい」集団から孤立したり拒絶されたりすることを恐れ、周囲に合わせたため

日本人は「同調圧力」が強いと言われますが、集団内に働く、多数派の意見に合わせざるを得ないような力のことをいいます。

2)同調を防ぐには

同調を防ぐためには、

反対意見を歓迎する。大多数とは異なる意見を言いやすくする

とよいでしょう。あえて会議の場に、「異論を述べる」役割を置くのもお勧めです。

また、経営者や管理職といったリーダーやファシリテーター役となった人は、中立の立場を示すことも重要です。

なお、社会心理学者のリチャード・クラッチフィールドは、アッシュの行ったような同調の実験を、事情を知っている人を使わずに、パネルを用いて行いました。被験者には、他者が選んで回答した結果がパネルに示されていると説明されています。すると、アッシュの実験のような対面状況よりも、はるかに同調量が減少したといいます。

対面状況のほうが、同調は起こりやすい

のです。

オンラインやリモートで仕事を進める機会が増え、他者の意見を見聞きするかたちも多様化しました。対面で他者の発言を見聞きするばかりでなく、チャットツールや、ビデオ会議と連動したアンケートなどを用いることもあるでしょう。対面と非対面の心理的な違いは意識しておくとよいでしょう。

4 リスキー・シフトを起こす「集団分極化」

1)集団分極化とは

集団分極化とは、

集団で議論すると、議論を行う前の個々の意見が、より極端かつ大胆なものになる

という現象です。議論中、優勢な意見に沿って現状よりさらに踏み込んだ意見を出すことで、集団内の他者より抜きんでようとすることで発生します。集団分極化には2つの方向性があります。

  • リスキー・シフト:意見が極端に大胆になるケース。これまでの歴史や政治においても、大きな過ちにつながった事例がある
  • コーシャス・シフト:極端に慎重になるケース。保守的になってしまい、議論したのに何も決まらず、物事が進まないという現象

いずれにせよ、集団分極化が起こると当初の計画を逸脱してしまったり、現実的ではない結論に至ったりすることがあります。

2)集団分極化を防ぐには

集団分極化、中でもリスキー・シフトを起こしがちな集団には特徴があります。

  • 凝集性(集団がメンバーを引きつける度合い)が高い、良く言えば結束が固い集団
  • 閉鎖的な集団
  • 高いストレス
  • 支配的・指示的なリーダーの率いる集団

よって、集団分極化を防ぐには、他部署や他社、異業種とオープンな交流をしたり、会議に限らず、普段から積極的に意見を交わしやすい企業風土を醸成したりと、

組織の風通しを良くする工夫が必要

です。また、

議論後、個々に振り返りの時間を持ち、集団思考から離れて考えてみること

も大切です。

5 補足・少数派の意見が大きな力を持つとき

集団で議論をしていると、時として、少数派の意見が大きな影響力を持つことがあります。マイノリティ・インフルエンスと呼ばれますが、2種類があります。

  • ホランダーの方略:過去に集団へ大きく貢献した人が、その実績と信頼から支持を得ていく。少数派でも「あの人が言うなら」と賛同する者が増えていく。上の立場からの変革
  • モスコビッチの方略:実績のない下の立場の者でも、一貫して主張し続けることで、多数派が納得していく場合がある。「そこまで言うのなら」「もしかして(多数派の)自分たちが間違っているのではないか」と考えさせる効果がある。下の立場からの変革

出るくいは打たれるのか、涓滴(けんてき)岩をうがつのか。少数派だからといって、意見を飲み込んでしまうのではなく、積極的に表明していきましょう。それが議論を活性化させる起爆剤になることもあり得ます。活発な議論を行い、組織の新陳代謝を促すために、この記事でご紹介した心理学の知識をご活用ください。

以上(2024年12月更新)

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