【入社1年目の教科書】休んでもお給料がもらえる「年次有給休暇」って素敵だ!

書いてあること

  • 主な読者:「年次有給休暇(有休)」など、会社にある休暇制度について知りたい新入社員
  • 課題:有休がいつもらえるのか分からない。好きなときに休んでいいのだろうか?
  • 解決策:有休は6カ月以上勤め、8割以上出勤したらもらえる。休む際のマナーも忘れずに

よく働いて、よく遊ぶ。仕事だけではなくプライベートも充実させないとね! 会社には、休みなのにお給料がもらえる「有休」という制度があるらしい。一体、何日、休むことができるのかな。連休にくっつけて休んでもいいのかな。あぁ?、休みのことを考えていたら、すごく楽しい気分になってきたぞ!!

1 休んでもお給料がもらえる「年次有給休暇(有休)」

会社にはさまざまな休みがあります。その中に、休みなのにお給料がもらえるという「年次有給休暇」(以下「有休」)があります。有休とは、

労働基準法という法律で定められている休暇で、入社後6カ月以上勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤する

という2つの条件を満たせばもらえます。もらえる有休の日数は、勤続年数によって次のように違います。長く勤めれば、有休も増えるということです。

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いずれにしても、6カ月頑張らなければ有休はもらえません。入社したばかりだと有休はありませんが、安心してください。会社には夏季休暇や誕生日休暇などさまざまな休みがあるので、使えるものがないかを確認してみましょう。使える休暇がなかったとしても、会社に許可を取れば休めます。ただし、その場合は「欠勤」となってお給料が出ないこともあるので、注意してください。

ちなみに、休暇と似た言葉に休日がありますが、両者の意味は厳密には違います。

  • 休暇:本来は働く日だが、休むことにした日
  • 休日:もともと働かなくてよい日

この記事の最後で、多くの会社で整備されている一般的な休暇、休日をまとめているので、参考として確認してみてください。

2 余裕を持って申請するのがマナー

有休を取るときは、事前に会社に申請します。申請のルールは会社ごとに違うので、慣れないうちは先輩に確認しましょう。基本的に、有休は皆さんの好きな日にもらえます。しかし、仕事に大きな支障が出そうな場合に限り、会社が有休の日を変えることがあります。

有休は皆さんの権利なので、遠慮せずに取ってよいのですが、いきなり「明日、有休をもらいます!」というのはマナー違反です。急用なら仕方ないですが、そうでなければ1週間前には申請し、引き継ぎも丁寧にしましょう。皆さんの仕事で引き継ぐことは少ないかもしれませんが、

皆さんが担当している仕事の進捗を整理し、特に滞っていることがないか

を伝えるようにしましょう。

3 1年間に5日の有休を取るのが決まり!

有休にはちょっと不思議なルールがあります。それは、

10日以上の有休がある社員は、1年間に5日の有休を取らないといけない

という労働基準法のルールです。皆さんが正社員の場合、入社して6カ月後には10日の有休がもらえるので、そこから1年以内に5日の有休を取らないといけないのです。法律によって「休まないといけない」という、不思議でうれしいルールです。この5日については、皆さんの好きな日に取ることもできますが、会社が「○月○日に有休を取ってください」と指定してくることもあります。

なお、有休は「1日単位」のイメージがありますが、会社によっては「半日単位」でも取れます。その場合、就業規則などで定められているので、確認してみましょう。半日の有休を取った場合、0.5日の有休としてカウントされます。

4 会社にあるさまざまな休暇、休日

有休の他にも、さまざまな休暇、休日があります。一般的なものは次の通りです。法律の定めが「あり」のものは、原則としてどの会社でも利用できます。法律の定めが「なし」のものは、会社が就業規則などで定めていれば利用できます。

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なお、休暇の上から3つ目の「子の看護休暇」は、2025年4月1日から「子の看護等休暇」という名称に変わり、子どもの看護の他、学校行事に参加する場合などにも使えるようになります。対象となる子どもの年齢も「小学校入学前」から「小学校3年生修了まで」に引き上げられます。

ちなみに、この記事で紹介した有休はお給料がもらえる有給の休暇でしたが、上の図表の休暇については、有給か無給かが会社によって異なります。詳しくは、先輩などに確認してみてください。

いずれにしても、

休暇、休日は皆さんの権利なので、休むことに遠慮は不要です。ただし、休暇の申請は事前に行い、引き継ぎなどはしっかり行うことがマナー

であることを忘れないでください。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

ムーミンの作者トーベ・マリカ・ヤンソン氏と「ほんとの自由」

「あんまりおまえさんがだれかを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ」

トーベ・マリカ・ヤンソン氏は、「ムーミン」シリーズの生みの親です。2025年は、ムーミン小説出版80周年。日本で放映されたテレビアニメのムーミンに慣れ親しんでいた方も多いでしょう。

冒頭の言葉は、ムーミンシリーズのキャラクターであるスナフキンが物語の中で、自分に憧れ付き纏ってくる小さな生き物に言い放ったものです。スナフキンという人物は、一言で表すなら「束縛を嫌う自由人」です。他のキャラクターは家を持ち、宝物を集め、自分の持ち物に強いこだわりを持っているのですが、スナフキンだけはいつもリュックサックひとつで旅をしています。彼にとって、何かに執着して自然体でいられなくなることは「不自由」。だから、自分を慕ってくる小さな生き物にも、冒頭の一見冷たくも思えるせりふを言うのですが、そのおかげで小さな生き物は「自由」の意味を知り、スナフキンのもとを去って、自分の人生を楽しむようになります。

自由人スナフキンは、シリーズを通し皆の憧れとして描かれていますが、これにはヤンソン氏自身の生い立ちが大きく影響しているかもしれません。彼女の父は著名な彫刻家で、彼女は幼い頃から芸術に親しんで育ち、わずか14歳で作家デビューを果たします。ヤンソン氏は芸術家である父を尊敬していましたが、成長するにつれ父の芸術に対する古い価値観や権威主義に疑問を抱くようになり、衝突することが増えていったのです。

それはある意味、ヤンソン氏の「本当は父親に認めてもらいたい」という執着の表れでもありました。冒頭の言葉は、彼女の父が亡くなってまもない頃の小説に書かれたものですが、もしかしたらヤンソン氏は自由人スナフキンの物語を通じて自身の執着を捨て去り、尊敬する父のありのままを受け止めようとしていたのかもしれません。

ビジネスでも、古い仕事の進め方を「今までこれでうまくいってきたから」と、あるいは新しい技術を「最先端だから間違いない」と、妄信してしまうことがあります。しかし、それはスナフキンの言う「ほんとの自由」とは大きくかけ離れたものです。自由とは、固定観念にとらわれず、あらゆる選択肢の中から、自分にとって必要なものを自分の考えで選べる状態のことなのです。

その自由を手に入れるためにはまず、小さな生きものがスナフキンに諭されて気付きを得たように、組織の中で知らず知らずのうちに「崇拝」してしまっていることがないかと、疑問を抱くことが大切です。ビジネス環境の変化が著しい昨今はなおさら、何かへの執着を捨てて、自社にとって本当に大切なものを選び取ることが求められます。それができる組織は強く成長します。

ちなみにスナフキンも、大切なハーモニカだけは、どんなときも手放しませんでした。それは彼なりの取捨選択の結果で、いまやハーモニカはスナフキンのトレードマーク。彼の個性であり、大切な要素として世界中で愛されています。

出典:「ムーミン谷の仲間たち」(ヤンソン 山室静/訳 講談社、2011年7月)

以上(2025年3月作成)

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画像:Sogdianite-Adobe Stock

就業規則のトラブル(後編)昇給や副業のルール設定は大丈夫?

1 「モデル就業規則」は自社の実情に合わせて変更すべし

インターネット上にある「モデル就業規則」をそのまま使うと、自社の実情に合わず、トラブルのもとになることがあります。前編に引き続き、最新のモデル就業規則(令和5年7月)を基に、弁護士の視点から危ない部分を解説します。

後編では、「第49条(昇給)」「第52条(退職)」「第67条(懲戒の種類)」「第70条(副業・兼業)」を取り上げます。記事内の赤字は、モデル就業規則の中で修正が必要な箇所、追記・修正案における追記・修正箇所です。前編については、次の記事をご確認ください。

なお、モデル就業規則(令和5年7月)の全文を読みたい人は、次のURLをご確認ください。

■厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

2 「第49条(昇給)」:降給や昇降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第49条(昇給

1)昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。

3)昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。

2)追記・修正案

第49条(昇降給・昇降格

1)昇給・降給は、勤務成績その他別に定める基準に基づく人事考課により、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、昇給を行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず特別昇給を行うことがある。

3)昇給額・降給額は、労働者の勤務成績等を考慮して別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。

4)昇格・降格は、別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。この場合、昇格・降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

5)懲戒処分による降格及び勤務成績不良等、職務不適格事由による人事権の行使としての降格の場合も、降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

3)解説

モデル就業規則には、降給や昇降格に関する定めがありません。役職や職務等級に基づく人事制度があっても就業規則に定めがないと、社員とトラブルになる恐れがあります。ですから、

降給・降格について定めた上で、昇降給・昇降格の具体的な仕組み(役職や職務等級に基づく賃金の基準表を作成し、人事考課の結果に応じて賃金に反映するなど)を明記

する必要があります。

また、人事考課以外の事由による降給・降格がある場合、

懲戒処分や勤務成績不良など、具体的な事由を明記

しておかないと、降級・降格が認められないので注意が必要です。

3 「第52条(退職)」:長期の無断欠勤などについて追記する

1)モデル就業規則

第52条(退職)

1)前条に定めるもの(注)のほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

  1. 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき
  2. 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
  3. 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
  4. 死亡したとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

(注)「前条に定めるもの」とは、モデル就業規則第51条に定める「定年や継続雇用の上限年齢などに達したことによる退職」を指します。

2)追記・修正案

第52条(退職)

1)前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

1.退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき

(中略)

5.届出及び連絡なく欠勤を続け、その欠勤期間が30日を超え、連絡がつかないとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

3)労働者は、退職し、又は解雇された場合、会社の指示に従い速やかに業務を引き継がなければならない。

4)労働者は、退職し、又は解雇された場合、身分証明書、電子機器その他会社から貸与された物品を速やかに会社に返納しなければならない。

5)労働者は退職後であっても、その在職中に行った自己の職務に関する責任は免れない。

6)労働者は、退職または解雇された後も、在職中に知り得た情報を第三者に漏洩、開示してはならない。

7)労働者は、退職後○年間は、会社の許可なく同業他社に就職し、または自ら会社の業務と競争関係になる競業行為を行ってはならない。

3)解説

モデル就業規則には、「社員が無断で長期欠勤した場合」の退職に関する定めがありません。社員が自宅におらず、親族等も行方を知らない、連絡が付かないといった場合、無断の長期欠勤を理由に解雇が認められる可能性があります。ただ、原則として解雇する日の30日前までに解雇予告をする必要があり、社員が行方不明や音信不通の場合、本人にその通知ができないのが難点です。この点、

欠勤期間が30日を超えても社員と連絡がつかない場合、退職の意思表示があったものと解釈して、退職扱いとする旨を明記

しておくと、本人に解雇予告の通知をしなくても自動退職とすることができます。

また、退職後や解雇後の職場の混乱を避けるため、

業務の引き継ぎ、会社が貸与した物品の返納、守秘義務や競業避止義務など

についても追記しておく必要があるでしょう。なお、追記・修正案の第5項では、

退職後であっても、在職中に行った自己の職務に関する責任を免れない

という定めをしていますが、これは社員の退職後に重大な不祥事などが発覚した際、その責任を追及できるようにするためです。

4 「第67条(懲戒の種類)」:降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第65条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

1.けん責

始末書を提出させて将来を戒める。

2.減給

始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。

3.出勤停止

始末書を提出させるほか、○日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。

4.懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

2)追記・修正案

第67条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

1.けん責

始末書を提出させて将来を戒める。

(中略)

4.降格

始末書を提出させるほか、役職の罷免・引き下げ、及び資格等級の引き下げのいずれか、又は双方を行う。

5.諭旨退職

退職願を出すように勧告する。ただし、所定期間内に勧告に従わないときは懲戒解雇とする。諭旨退職となる者には、情状を勘案して退職金の一部を支給しないことがある。

6.懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。また、懲戒解雇となる者には、退職金を支給しない。

3)解説

モデル就業規則では、懲戒処分として「けん責」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」の4種類の懲戒処分が定められていますが、この他にも、

「降格」「諭旨退職」などについても追記

しておくと、懲戒事案に応じて適切な処分をしやすくなります。懲戒処分は、会社が、企業秩序や職場の規律に違反した社員に対して行う制裁なので、就業規則で定められていない懲戒処分は認められません。ですから、懲戒の重さに応じて懲戒処分を段階的に定め、選択肢を広げておく必要があるのです。この他、諭旨退職や懲戒解雇の場合には、

退職金の支給の有無・減額の有無についても明記

しておくとよいでしょう。

5 「第68条(副業・兼業)」:禁止・制限の事由を明確にする

1)モデル就業規則

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合

2)追記・修正案

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  1. 長時間労働や深夜労働などによって健康を害する恐れがある場合、または現に健康を害している場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合
  5. 当社が別途定める副業・兼業に関する手続に違反した場合

3)労働者は、他の会社等の業務に従事する場合、会社が別途定める「副業・兼業取扱規程」に従わなければならない。

3)解説

かつてのモデル就業規則では、「副業・兼業は原則禁止としつつ、一定の条件下で認める」という旨の規定が設けられていましたが、現在は「副業・兼業は原則容認としつつ、一定の条件下で禁止・制限する」というスタンスに変わっています。「原則容認」なので、

副業・兼業を禁止・制限する場合は、その事由を明記

しておく必要があります。

モデル就業規則の第1項の「労務提供上の支障がある場合」というのは、一般的には仕事の掛け持ちで過重労働に陥ることなどを指しますが、若干抽象的なので、

長時間労働や深夜労働などの文言を使って、社員に分かりやすい表現

にしましょう。また、副業・兼業を認める場合には、労働時間の管理や健康状態の確認が必要になりますので、副業・兼業に関する届出手続・フローを整備する必要があります。これらの管理の観点から、

会社が定める副業・兼業に関する手続に従わない場合、副業・兼業を制限することがある旨を明記

しておくとよいでしょう。

なお、副業・兼業については厚生労働省からガイドラインも出されており、労働時間の管理や通算が必要になります。これらの手続について別途「副業・兼業取扱規程」を設けておくとよいでしょう。

以上、モデル就業規則を例に、トラブルになりやすい条項を解説しました。なお、この記事で解説したのは一部の条項のみであり、修正案もあくまでも一例です。実務では専門家などに相談の上、会社の実情に合わせて個別に内容を検討してください。

以上(2025年3月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

「Windows10等サポート終了詐欺」に注意! 警告が表示されても電話しないで

1 「サポート詐欺」の手口を知っておこう

「サポート詐欺」をご存じでしょうか? パソコンでウェブサイトを閲覧中、

  • ウイルスに感染したかのような画面を表示させたり、警告音を発生させたりするなどして、不安をあおる
  • 解除するためには画面に記載された電話番号に連絡する必要があると思い込ませ、電話をかけさせる
  • サポート窓口の担当者をかたって遠隔操作ソフトをインストールさせたり、金銭をだまし取ったりする

といった詐欺の手口です。以降、こうした画面のことを「偽画面」と呼ぶことにします。

偽画面は全画面表示され、「閉じる」ボタンがないため、マウス操作では画面を閉じることができません。警告音が鳴りやまず、パニックに陥った状態で、つい偽画面に記載された電話番号に電話をかけてしまう……。そうすると、サポート窓口の担当者をかたった詐欺被害に遭ってしまうわけです。

サポート詐欺の偽画面が表示されるきっかけは、ウェブサイトに表示された広告枠の「次のページに進むためのボタンに見せかけた広告」や「続きが気になる画像」をクリックしたり、検索結果の上位に表示された偽広告をクリックしたりすることです。巧妙につくられているため、この時点で見破るのは難しいですが、

あらかじめ偽画面のイメージと、所定のキーを使った画面の閉じ方を押さえておく

ようにすれば、万が一クリックしてしまっても落ち着いて行動できます。

今年2025年は、マイクロソフトのOS「Windows 10」や、「Office2016」「Office2019」のサポートが10月14日(米国時間)に終了します。こうした出来事をきっかけに、マイクロソフトのサポート担当をかたった詐欺が増えることも懸念されます。

以降で、サポート詐欺の被害に遭わないための対策を確認していきましょう。

2 実際にどんな状態になるのか、パソコンで体験してみよう

情報処理推進機構(IPA)では、「偽セキュリティ警告(サポート詐欺)対策特集ページ」を設けて注意喚起しています。パソコンで、同ページから「偽セキュリティ警告画面の閉じ方体験サイト」に行くと、実際にどんな状態になるのかを疑似体験できます。

■情報処理推進機構「偽セキュリティ警告(サポート詐欺)対策特集ページ」■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/fakealert.html

(注)体験サイトを起動する前に、説明をよくお読みください。

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偽画面を開いてしまったとしても、いきなりウイルスに感染するわけではありません。まずは、落ち着いてパソコンの音量を下げましょう。その後、偽画面を閉じれば問題ありません。大切なのは、

絶対に偽画面に表示された番号に電話をかけないこと

です。偽画面の閉じ方は、

  • キーボードの「Esc」キーを長押しして全画面表示を解除して、ウインドウを閉じる
  • キーボードの「Ctrl」と「Alt」と「Delete」キーを同時に押して強制再起動する

といった方法があります。詳しくは、情報処理推進機構(IPA)の次のウェブサイトをご確認ください。

■パソコンに偽のウイルス感染警告を表示させるサポート詐欺に注意■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2024/mgdayori20241119.html

3 参考ウェブサイト

情報処理推進機構(IPA)では、次のウェブサイトなどを通じて注意喚起しています。

■サポート詐欺の偽セキュリティ警告はどんなときに出るのか?■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2023/mgdayori20240227.html
■会社や組織のパソコンにセキュリティ警告が出たら、管理者に連絡!■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2023/mgdayori20230711.html
■偽のセキュリティ警告に表示された番号に電話をかけないで■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2021/mgdayori20211116.html
■遠隔操作を他人に安易に許可しないで■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2020/mgdayori20201125.html

日本サイバー犯罪対策センター(JC3)では、解説動画をYouTubeで公開しています。

■サポート詐欺の手口について(動画解説)■
https://www.jc3.or.jp/threats/examples/article-356.html
■サポート詐欺の電話番号に電話をかけてみた(動画公開)■
https://www.jc3.or.jp/threats/examples/article-570.html

以上(2025年3月作成)

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画像:InfiniteFlow-Adobe Stock

就業規則のトラブル(前編)休職やハラスメントに対応できる?

1 「モデル就業規則」は、汎用性は高いが万能ではない

就業規則は、労働時間や賃金などの労働条件についてまとめた「職場のルールブック」です。中小企業の場合、人員数などの関係で人事労務に割けるリソースが限られているので、インターネットや書籍に出ているひな型をベースに、就業規則を作成することが珍しくありません。

例えば、厚生労働省ウェブサイトで公開されている「モデル就業規則」は、政府お墨付きのひな型ということで安心感があり、参考に使用する会社も多くあると思います。ただ、

汎用性を重視して一般的な定めやシンプルな表現になっているため、そのまま就業規則として使うと、内容が自社の実情に合わず、社員とトラブルになる恐れ

があります。

そこで、この記事では、最新のモデル就業規則(令和5年7月)を基に、

  • モデル就業規則をそのまま使った場合、トラブルになりやすい条項は何か
  • 条項をどのように追記・修正すればトラブルを防げるのか

を、弁護士の視点から2回に分けて解説します。

前編では、「第2条(適用範囲)」「第7条(労働条件の明示)」「第9条(休職)」「第11条(遵守事項)」を取り上げます。記事内の赤字は、モデル就業規則の中で修正が必要な箇所、追記・修正案における追記・修正箇所です。後編については、次の記事をご確認ください。

なお、モデル就業規則(令和5年7月)の全文を読みたい人は、次のURLをご確認ください。

■厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

2 「第2条(適用範囲)」:自社の雇用形態に合わせて修正する

1)モデル就業規則

第2条(適用範囲)

1)この規則は、〇〇株式会社の労働者に適用する。

2)パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

3)前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

2)追記・修正案

第2条(適用範囲)

1)この規則は、〇〇株式会社の正社員に適用する。

2)この規則でいう正社員とは、第○章(採用)に定める手続きを経て採用され、期間の定めのない労働契約を締結した者をいい、試用期間中の者を含む。正社員以外の会社で雇用される契約社員、パートタイマー、嘱託、労働契約法第18条により無期労働契約に転換した者などの就業に関する事項については、この規則を適用せず、別に定める。

3)解説

モデル就業規則では、通常の労働者以外に「パートタイム労働者」という雇用形態を設けていますが、会社によっては、正社員以外の社員(いわゆる非正規社員)のことを「パートタイマー」「契約社員」「嘱託」などの名称で呼ぶことがあります。法令上、非正規社員は、

  1. パートタイム労働者(短時間労働者):1週間の所定労働時間が正社員よりも短い社員
  2. 有期雇用労働者:労働契約の期間の定めがある社員

のいずれかに分類されますが、この1.と2のいずれか、または両方に該当する社員を、会社が独自に「パートタイマー」などの名称で呼んでいるわけです。

会社によって非正規社員の名称が異なる上に、雇用形態を複数設けているケースもあるので、社員とのトラブルを避けるためには、

自社の「正社員」「非正規社員」の定義、就業規則の適用範囲を明記

しておく必要があります。

また、有期雇用労働者の場合、契約期間が通算5年を超えると期間の定めのない労働契約に転換される「無期転換」というルールがあるので、社員とトラブルにならないよう、

無期転換された場合、就業規則が適用されるか否かについても定めておく

ようにしましょう。会社は無期転換の申込権を持つ有期雇用労働者に対し、契約の更新時などに「無期転換の申込機会」「無期転換後の労働条件」を明示する義務があります。その際、「無期転換された場合、正社員向けの就業規則が適用されるか否か」がとても重要になってきます。

なお、就業規則の適用範囲から除外される社員については、その社員のための就業規則や雇用契約書を別途設ける必要があります。

3 「第7条(労働条件の明示)」:変更範囲について追記する

1)モデル就業規則

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

2)追記・修正案

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則、その他会社が必要と認める書類を交付して労働条件を明示するものとする。なお、就業場所及び従事する業務については、採用時の労働条件に加え、その変更範囲を明示する。

3)解説

モデル就業規則では、社員を採用するとき、「労働条件通知書」「就業規則」を交付して労働条件を明示するとしています。ただ、いざ社員が入社すると、「採用時に明示された労働条件と、実際の労働条件が違う」という理由でトラブルになるケースが少なくないため、

労働条件通知書と就業規則の他、会社が必要と認める書類も交付する旨を規定

し、必要な書類を用意しておくとよいでしょう。例えば、「就業場所(事業所)の一覧表」「部署とおおまかな業務内容の一覧表」などがそうです。

また、モデル就業規則では、社員を採用するとき、「採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件」を明示するとしています。ただ、

「就業場所」「従事する業務」の2点については、採用時の労働条件に加え、その変更範囲も明示しなければならない点

に注意が必要です。実際に労働条件通知書等や雇用契約書で明示する場合、

  • 就業場所:会社が定める場所、東京都内事業所(別紙)
  • 従事する業務:会社が指示する業務、会社の各部署(別紙)における業務

といった具合に、ある程度包括的な記載の仕方が認められています。なお、テレワークを行うことが想定されている場合には、「労働者の自宅」といった記載も併記する必要があります。

4 「第9条(休職)」:復職などについて追記する

1)モデル就業規則

第9条(休職

1)労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

  1. 業務外の傷病による欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき
    ○年以内
  2. 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
    必要な期間

2)休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3)第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

2)追記・修正案

第9条(休職・復職

1)労働者(試用期間中の者及び入社1年未満の者を除く)が、次のいずれかに該当するときは、休職を命ずることがある。

  1. 継続的・断続的を問わず業務外の傷病による欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき
    ○年以内
  2. 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
    必要な期間

2)休職者が、前項の休職事由が消滅したと復職を申し出る場合には、休職期間が満了する前の会社が指定する日までに、復職願を提出しなければならない。この場合、休職者は、受診している医師による診断書を添付しなければならない。また、受診している医師による証明書が提出された場合でも、会社は休職者に対して、会社が指定する医療機関での受診を命じることがある。

3)会社は、休職期間満了時までに休職事由が消滅したものと認めた場合は、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

4)第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

3)解説

モデル就業規則には復職に関する定めがなく、復職の可否などをめぐって社員とトラブルになる恐れがあります。通常は、休職者から主治医の診断書を提出してもらい、復職の可否を判断しますが、うつ病などのメンタル疾患は、症状が一進一退を繰り返す場合もあって判断が難しくなりがちです。ですから、

社員が復職を希望する場合の手続きの詳細を規定した上で、必要に応じて会社が指定する医療機関での受診を求めるなど、正確かつ慎重な判断ができるように規定

する必要があります。

また、モデル就業規則には「休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる」とありますが、こちらも社員とトラブルにならないよう、

休職事由が消滅したかどうかは、会社が最終的に判断する旨を明記

しておくようにしましょう。

この他、記事では割愛していますが、

会社が医師から意見聴取を求める規定、私傷病休職の利用回数、休職期間の通算規定など

についても定めておくとよいでしょう。

5 「第11条(遵守事項)」:必要に応じて遵守事項を追記する

1)モデル就業規則

第11条(遵守事項)

労働者は、以下の事項を守らなければならない。

  1. 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
  2. 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
  3. 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
  4. 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
  5. 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
  6. 酒気を帯びて就業しないこと。
  7. その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

2)追記・修正案

第11条(遵守事項)

労働者は、以下の事項を守らなければならない。

1.許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。

(中略)

8.パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他のあらゆるハラスメントにより就業環境を害するようなことをしないこと。

9.他の者の業務を妨げないこと。

10.業務上の都合により、担当業務の変更又は他の部署への応援を命ぜられた場合は、正当な理由なく拒まないこと。

11.正当な理由なく無断欠勤及び遅刻、早退、私用外出等をしないこと。

12.会社の許可なく、会社の施設内において組合活動、政治活動、宗教活動など、業務に関係のない活動は行わないこと。

13.暴力団員や暴力団関係者その他反社会的勢力と関係を持たないこと。

14.会社の許可なく、会社の施設内において集会、演説、貼り紙、文書配布、募金、署名活動など業務に関係のない行為を行わないこと。

15.会社の許可なく、会社の文書類又は物品を社外の者に交付、提示しないこと。

16.その他、職場の風紀・秩序を乱す行為をしてはならないこと。

3)解説

モデル就業規則では、服務規律の一般的な遵守事項が7つ定められています。ただ、就業規則では、一般的に遵守事項に違反することを「懲戒事由」として定めるため、遵守事項を明確かつ具体的に定めておかないと懲戒処分を行うことが難しくなるという問題があります。ですから、

会社として「これをされたら困る」という行為がある場合、それを遵守事項に追記

する必要があります。

なお、追記・修正案の第8号では「ハラスメントの禁止」について記載しています。

労働施策推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などにより、会社にハラスメント防止措置が義務付けられているため、具体的なハラスメントの種類も明記することで、社員に注意喚起を促す

という趣旨です。このあたりは就業規則の他、自社のハラスメント防止方針などと併せて、社員に周知徹底しておく必要があります。

また、追記・修正案の第13号では「反社条項」を記載しています。これを定めておくと、社員が反社会的勢力(暴力団など)と関わりを持っていたことが判明した場合に解雇しやすくなります。入社時に

反社会的勢力と関わりがないことを誓約させる誓約書

を取得することも考えられます。

以上、モデル就業規則を例に、トラブルになりやすい条項を解説しました。なお、この記事で解説したのは一部の条項のみであり、修正案もあくまでも一例です。実務では専門家などに相談の上、会社の実情に合わせて個別に内容を検討してください。

以上(2025年3月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

戦わない人材採用のススメ PART.4~失敗しない採用面接とは?~

1 人材の見極めの重要性

このシリーズもPART.4になりました。今回は「失敗しない採用面接とは?」というテーマでお伝えします。これまでは、いかにして自社の魅力度を高めて採用候補人材を集めるか、という観点でお話ししてきましたが、今回は、候補者の人物像や適性をどうやって見抜くかという観点になります。

いつもお話しすることなのですが、人がいないのは困りますよね。でも、それよりも困るのは入社して半年や1年で辞められるケースです。厚生労働省が発表している令和3年3月の新規学卒者の3年以内離職率(下記参照)は高卒者で38.4%(前年から+1.4%)、大卒者34.9%(前年より+2.6%)となっており3年以内に3人に1人以上の方が離職しています。中途採用者の場合はいろんな見方があるため単純比較はできませんが、これらと同等もしくはそれ以上となっていると思われます。新卒採用、中途採用に関わらず、一旦入社した社員が短期間で退職してしまうと、それまでにかけた採用費用や勤務期間中に支払った賃金などが無駄になってしまうだけでなく、業務分担の見直しや先輩社員が新入社員の教育にかけた時間など、金額換算が難しいものまで含めると相当な損失となってしまいます。

また、さらにもっと困るのは不適格人材を採用してしまって、辞めてほしいけど辞めないケースです。日本の法律は従業員寄りのものとなっているため、会社の都合で一方的に辞めさせる(解雇する)ことは、ほぼできないに等しいものとなっています。よくアメリカ映画などで社員が社長から「You are fired!」と言われて、デスク周りの書類を段ボール箱に入れてすごすごと会社を去っていくシーンがありますが、日本ではあんなことはできません。正確に言うと、実際にできなくはないですが、後から社員から「不当解雇だ!」と訴えられると会社は負けてしまって、それまでの賃金も含めて多額のお金を支払わなくてはならなくなる(バックペイと言います)可能性が非常に高いということです。

特に、中小企業の場合、従業員数が少なくなればなるほど1名の重みが大きく、大企業であれば1人や2人不適格人材が紛れ込んでも会社全体からすればそれほど影響は大きくないですが、中小企業にとっては非常に大きなリスクと言え人材の見極めに失敗すると多額の損失を被るばかりか、不適格人材が辞めないことで他の優秀な社員の退職につながり、究極は組織が崩壊するというリスクもはらんでいると言えます。

新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します」
令和6年10月25日

2 見極めのための事前準備

経営者の皆さまから「どうやって人材を見極めれば良いか分からない」とか「良いと思って採用したが、実際は全然違った」などのお話をよく聞きます。確かに、30分や1時間の限られた時間の面接で人材を見極めるのは難しいですし、素晴らしい能力や相当な経験の持ち主であっても、100%正確に見抜くのは無理だと思います。しかしながら、前述の通り中小企業にとっては、その重要性は大企業に比べて非常に大きいという採用面接は極めて高難度のミッションと言えます。

ではどうすれば良いのか?まずは、事前準備をしっかりしましょうということです。PART.1でお伝えした人材要件を決めていただき、これをもとにして採用基準もしっかりと決めておきます。よって、「このような人物を採用する」逆に「このような人物は採用しない」ということを明確にしておき、面接の中でもその観点で見て基準に達しない人は決して採用しない、と腹を括ることです。人が足らない状態で、すぐにでも人が欲しい状況になると、応募のあった人の中から他の応募者と比較して一番良さそうな人を採用する、ということになりがちですが、この発想は危険です。一番良さそうであってもそれは比較論に過ぎず、自社の求める人材かどうかの観点が抜け落ちている可能性があります。あくまで自社の採用基準に照らして基準を満たしていなければ採用すべきではありません。きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、他の応募者と比較し相対的に良いと思っても、その中に不適格人材が紛れ込んでいる可能性がないとは言い切れません。

また、準備という観点では、行き当たりばったりの採用面接ではなく、どのタイミングで誰が面接するのか?面札の際にはどういった質問をするのか?などの準備も大切です。こういった準備が不十分であればあるほど失敗につながる可能性が高まっていきます。

3 見極めのための具体論

さて、準備がしっかりできたとして、具体的に採用面接はどうすれば良いか?私が考えるポイントとしては二つあります。① できでるだけ多くの人が面接する、ということと、② 他の力も借りる、ということです。

① できるだけ多くの人が面接する

小規模企業の場合は社長のみが面接しているケースも多いと思いますし、中小企業であっても、担当者と経営者の2段階(2名)の面接としている会社が多いのではないでしょうか。これではダメだということではないのですが、多くの人の目で見ることで正確性を高めることができます。

例えば、担当者レベルの面接も1名ではなく2名以上の複数で行う。最終面接も社長だけでなく、役員全員で行うなどが考えられます。一人では気づけないことも複数の目で見る(例えば、社長がした質問に答えているタイミングでは、専務は応募者の表情やしぐさに注目するなど)と気づけることもあるかもしれません。また、採用後に配属しようと予定している部署の責任者や担当者が面接することも良いと思います。これは、人物像や適性を正確に見抜くという観点プラス採用後の育成に責任を持たせる意味もあります。面接した結果OKを出したわけですので、実際に配属されたあとの育成に対する責任感が変わってくると思います。よく聞く社員さんの愚痴で「社長(もしくは人事部)が採用する社員は使えないやつばっかりだ。もうちょっとましなやつを採用できないもんかね」みたいなことは言えなくなります。

「そんなことをしたら誰も採用できなくなる」というような反論も聞こえてきそうですが、それくらいハードルは高くして良いと思いますし、最終的な採用・不採用の決定権は経営者にありますので、そこはあらゆる要素を総合的に判断していただければ良いのです。

② 他の力も借りる

「他の力も借りる」とは、人間の判断だけでなく適性検査などもうまく活用する、という観点です。当然ながら人間の力には限界もありますし、応募者は面接の際には最上最高の自分を見せる努力をしていますので、面接だけで判断するのは危険です。よって、例えば最終面接の前に適性検査を受けていただいて、最終面接の際にはその適正検査の結果も踏まえて気になる点について質問してみる、ということを取り入れることで正確性が高まります。

世の中に適性検査はたくさんあるのですが、一つおすすめとして「不適正検査 スカウター」をご紹介します。その名の通り“不”適性検査ですので、「能力がどの程度あるか」や「職務適性があるか」というよりも“不適性”ではないかという観点の強い検査となっています。「定着しない、成長しない、頑張らない人材を見分ける業界唯一の不適性検査R」と紹介されています。

前述したとおり、不適格人材を誤って採用してしまう致命的ダメージを防ぐという効果もありますし、PART.1でご紹介しましたポータブルスキルとテクニカルスキルについて、テクニカルスキル(知識や技術)は入社後にしっかりと教育すれば良いわけですが、ポータブルスキル、思考・価値観については入社後にどうこうすることはほぼ不可能ですので、その人材のベーシックな部分で不適格ではないか、という点をこの検査で確認できる効果もあります。

実は私自身も試しに受けてみました。検査結果については自分自身で見てみて、かなり正確性が高いと感じました。検査の最後に記載されている総合的なコメントについてはほぼほぼ当たっているなという印象でしたし、「ネガティブ傾向」や「職務適性」「戦闘力」「虚偽回答の傾向」などの項目も当たっていましたし、採用・不採用に大きく影響を受けるポイントだと思いました。例えば「ネガティブ傾向」は「働く上でマイナス要因となる心理・情緒面の傾向」を測定していて数値化していますので、あまりに高い場合は採用を見送ることも考えるべきです。また、「虚偽回答の傾向」は、自分を良く見せようとして実際とは違う嘘の回答をしているとこの指標が高くなりますので、高い場合は面接での受け答えも、よりしっかりと慎重に聞いていただく必要があります。

これだけの項目が検査できて1件1,000円弱ですので、使わない手はないと思います。応募者にはメールで受験の案内を行い、応募者が回答すると瞬時にメールで会社側に回答が返ってくる仕組みとなっていますので、最終面接の前日までに受験していただければ十分に対応可能です。また、日本語以外にも英語やタイ語など8か国後に対応していますので、外国人の採用の際にも使えます。

<適性検査について>

適性検査

出典:みんなの採用部

<スカウターのご紹介>

https://scouter.transition.jp/

最後に、「リファレンスチェック」という言葉をご存じでしょうか?欧米では一般的なようですが、日本でまだまだ馴染みのないものだと思います。中途採用にしか使えないものですが、簡単に言うと前職の上司や同僚に前職時代の働きぶりを確認する、というものです。「そんなことができるの?」と驚かれるかもしれませんが、当然ながら勝手にはできず本人の同意が必要です。よって、本人が同意しない場合は実施できませんが、同意しないということは「聞かれたら困ることがある」「面接で前職の実績について嘘を言っている」という可能性も考えられます。本当の円満退職というのは難しいかもしれませんが、特に大きな損害を与えたりしていなければ同意できるのではないでしょうか?

適性検査よりはコストはかかりますがリファレンスチェック専用のサービス(下記back checkのご紹介 参照)もあり、その実効性は適性検査をはるかにしのぐものだと思います。確実を期すという意味では利用を検討されてはいかがでしょうか?応募者の同意が得られて前職時代の働きぶりが確認できればかなり有効な情報だと思いますし、同意が得られない場合は、面接で話していることが本当のことばかりではない可能性を疑うべきということになります。

<back checkのご紹介>

https://site.backcheck.jp/

4 まとめ

ここまで人材の見極めの重要性から具体的な面接の手法についてみてきました。いかがでしたでしょうか?すでに取り組まれていることもたくさんあったかもしれませんが、一つでも二つでも参考にしていただければ幸いです。

採用環境はこれからますます厳しくなっていきます。また、従業員数の少ない中小企業にとっては採用の失敗は会社の存続すら危うくする可能性があります。経営者は、人材採用は経営の最重要課題であるとの認識をもっていただいて取り組んでいただければと思います。

大きな会社は採用にかけられる予算もふんだんにあるのでしょうが、中小企業はそこで勝負しても勝ち目はありません。「戦わない人材採用」の観点で、今回ご紹介した取り組みは、どれも工夫次第でそんなに多額な費用をかけなくても取り組むことができます。また、社員さんと一緒に取り組むことで会社全体のモチベーションアップにもつながりますので、是非積極的に取り組んでみてください。

以上(2025年3月作成)

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【賃金データ集】諸手当のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは雇用形態別の「諸手当」です。

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なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 諸手当の位置付けと概要

1)諸手当の費用の位置付け

諸手当は、基本給ではカバーしきれない従業員の個別の事情(住居形態、家族の有無、担当職務など)を賃金支給額に反映する機能を果たしています。また、近年は人材採用難の対策としてユニークな手当を整備する企業が出てきています。

2)諸手当の概要

諸手当にはさまざまな種類がありますが、

  • 業績関連:従業員の業績達成に対する意欲を喚起するための手当
  • 職務関連:従業員が担当する業務に関連する手当
  • 勤務関連:従業員の通勤や勤務実績に関連する手当
  • 生活関連:従業員の生活を補助するための手当
  • その他:上記に分類されない手当

に大別することができます。

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2 諸手当の潮流

諸手当には、基本給ではカバーしきれない従業員の個別の事情を、賃金支給額に反映する機能があります。基本給そのものを改定せずに諸手当で調整するのは、「賃金管理が煩雑になるのを防ぐ」「基本給の引き上げに応じて、自動的に賞与(一時金)や退職金の算定基礎額が上昇するのを防ぐ」といった理由からです。

こうした事情は現在も大きく変わっていないものの、最近は手当を統廃合する動きが活発になっています。企業には、「業績に応じて賃金支給額を変動させたい」という思いがあるため、生活関連の手当のように、企業業績に関係のない属人的な手当を縮小・廃止するケースがあるのです。

ただし、職務関連の手当については、手当による調整ではなく、基本給に組み入れたり、賞与に上乗せしたりするケースがあります。これは、従業員の担当業務の難易度をきちんと評価し、処遇に反映する企業の姿勢を示すためです。

3 厚生労働省、中央労働委員会の統計資料によるモデル支給額

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4 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

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5 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■賃金事情等総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chingin/

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■中小企業の賃金・退職金事情■
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/

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以上(2025年3月更新)

pj17908
画像:ChatGPT

「教育訓練給付金+教育訓練休暇給付金」でリスキリングを!

1 費用負担を抑えてリスキリングのハードルを下げる

DX時代の学び直しとして「リスキリング」が注目されていますが、

学びたい気持ちはあるものの、物価高などで費用負担がきつい

という人もいます。社員の向上心には応えてあげたいので会社が補助するのもよいですが、加えて「教育訓練給付金」の利用を勧めてみましょう。

教育訓練給付金とは、厚生労働大臣の指定する講座(指定講座)を受講・修了した場合、その入学料や受講料の一部が国から支給されるという雇用保険給付の1つ

で、次のような講座などがあります(給付の内容については第2章から第4章で解説)。

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また、2025年10月1日からは教育訓練給付金とは別に「教育訓練休暇給付金」が新設されます。

教育訓練休暇給付金とは、在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるために支給されるという雇用保険給付の1つ

です(給付の内容については第5章で解説)。

教育訓練給付金と教育訓練休暇給付金、この2つを使いこなすことで、社員の金銭的負担を軽減しながら、リスキリングを図れるかもしれません。

2 教育訓練給付金は3種類、対象は雇用保険の被保険者

教育訓練給付金は、社員が「一般教育訓練」「特定一般教育訓練」「専門実践教育訓練」のいずれかを指定講座を受講(通学、通信教育、eラーニング)することで支給されます。

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いずれも、社員が指定講座を運営する学校に受講を申し込み、その講座を受講・修了することで、入学料や受講料に一定率を掛けた金額が本人に支給される仕組みです(特定一般教育訓練・専門実践教育訓練は、受講前にキャリアコンサルティングなどを受ける必要があります)。

教育訓練給付金をもらうためには、社員が指定講座の受講開始日時点で

雇用保険の被保険者(短期雇用や日雇いを除く)

であって、さらに指定講座ごとに決められた被保険者期間を満たしている必要があります(過去に被保険者であった者も一定の要件を満たせば対象になりますが、ここでは割愛します)。

以降では、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練それぞれについて、指定講座の種類や教育訓練給付金の支給要件を見ていきます。

3 一般教育訓練の教育訓練給付金

1)指定講座

一般教育訓練は、最長1年(原則)の短期間の教育訓練です。指定講座は9種類あり、内容はパソコンの操作から特定の資格や免許の取得まで多岐にわたります。

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なお、指定講座のカリキュラムは学校によって異なるので、詳細はこちらの検索システムをご確認ください(特定一般教育訓練、専門実践教育訓練についても同じ)。

■厚生労働省「教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム」■

https://www.kyufu.mhlw.go.jp/kensaku/

2)教育訓練給付金の内容

1.支給要件

1回目と2回目以降とで支給要件が異なります。

  • 1回目:受講開始日時点で被保険者期間が1年以上あること
  • 2回目以降:受講開始日時点で被保険者期間が3年以上あり、前回の教育訓練給付金受給日から当該受講開始日前までに、3年以上経過していること

2.支給額

入学料や受講料、キャリアコンサルティングの

費用の20%(上限は1回当たり10万円)が支給

されます。ただし、20%に相当する額が4000円以下の場合、教育訓練給付金は支給されません。

キャリアコンサルティングとは、民間のコンサルタンティング会社などが実施する、職業選択や能力開発に関する相談サービスのこと

で、教育訓練給付金の対象となるのは、受講開始日前1年以内のもの(2万円まで)だけです。

3.申請手続き

社員は受講修了日の翌日から1カ月以内に、「教育訓練給付金支給申請書」と添付書類を、社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

添付書類の詳細は、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「一般教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」■

https://www.mhlw.go.jp/content/001310416.pdf

4 特定一般教育訓練に関する教育訓練給付金

1)指定講座

特定一般教育訓練は、最長1年の短期間の教育訓練です。指定講座は3種類あり、ITスキルなどキャリアアップ効果の高い分野の知識を習得できます。

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2)教育訓練給付金の内容

1.支給要件

1回目と2回目以降とで支給要件が異なります。

  • 1回目:受講開始日時点で被保険者期間が1年以上あること
  • 2回目以降:受講開始日時点で被保険者期間が3年以上あり、前回の教育訓練給付金受給日から当該受講開始日前までに、3年以上経過していること

2.支給額

入学料、受講料の40%(上限は1回当たり20万円)が支給されます。ただし、教育訓練経費の40%に相当する額が4000円以下の場合、教育訓練給付金は支給されません。

なお、2024年10月1日からは、

指定講座に関連する資格等を取得し、かつ修了した日の翌日から1年以内に被保険者として雇用された場合、教育訓練経費の50%(上限は1回当たり25万円)が支給

されるようになっています(2024年10月1日以降に受講を開始した場合に限る)。

3.申請手続き

まず、社員は受講開始日の2週間前までに、訓練前キャリアコンサルティングを受講します。

訓練前キャリアコンサルティングとは、職業能力の開発・向上に関する事項を記載した「ジョブ・カード」を作成するためのコンサルティング

です。

また、社員は同じく受講開始日の2週間前までに、「教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票」とジョブ・カード、添付書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

さらに、受講が修了したときは、受講修了日の翌日から1カ月以内に、「教育訓練給付金支給申請書」と添付書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

なお、2024年10月1日以降の追加支給要件に該当した場合、雇用された日(被保険者として雇用されている場合は、資格取得等をした日)(注)の翌日から1カ月以内に所定の書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

添付書類の詳細は、こちらをご確認下さい。

■厚生労働省「特定一般教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」■

https://www.mhlw.go.jp/content/001310414.pdf

(注)業務独占資格などで、試験合格後に名簿登録や免許取得などが必要である資格に関しては、名簿登録日や免許取得日を基準として考えます(届け出書類に登録証や免許証の添付が必要なため)。

5 専門実践教育訓練に関する教育訓練給付金

1)指定講座

専門実践教育訓練は、1年以上3年以内(原則)の中長期の教育訓練です。指定講座は7種類あり、大学院レベルの高度な知識や、特定の分野の専門的な知識を習得できます。

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2)教育訓練給付金の内容

1.支給要件

1回目と2回目以降とで支給要件が異なります。

  • 1回目:受講開始日時点で被保険者期間が2年以上あること
  • 2回目以降:受講開始日時点で被保険者期間が3年以上あり、前回の教育訓練給付金受給日から当該受講開始日前までに、3年以上経過していること

2.支給額

入学料、受講料の50%(上限は年間40万円)が支給されます。指定講座に関連する資格等を取得し、かつ修了した日の翌日から1年以内に被保険者として雇用された場合、前述の50%に加えて追加で教育訓練経費が20%(合計70%。上限は年間56万円まで)支給されます。ただし、50%(70%)に相当する額が4000円以下の場合、教育訓練給付金は支給されません。

なお、2024年10月1日からは、

教育訓練経費の70%が支給される要件(上記)を満たした上で、さらに賃金が受講開始前の賃金(注)と比較して5%以上上昇した場合、追加で10%が加算され、最終的には教育訓練経費の80%(上限は年間64万円)が支給

されるようになっています(2024年10月1日以降に受講を開始した場合に限る)。

(注)受講開始前の賃金については、社員自身が旧事業主に証明を依頼します。なお、離職票で証明を省略できる場合もあります。

3.申請手続き

特定一般教育訓練と同じく、まず社員は受講開始日の2週間前までに、訓練前キャリアコンサルティングを受講しなければなりません。

また、社員は受講開始日の2週間前までに、「教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票」とジョブ・カード、添付書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

さらに、受講開始後は、支給単位期間(受講開始日から6カ月ごと)末日の翌日から1カ月以内に、「教育訓練給付金支給申請書(教育訓練実施者が配布)」と添付書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

なお、受講が修了したときは受講修了日の翌日から1カ月以内に、受講修了後、講座に係る資格等を取得して追加給付を受けるときは、雇用された日(被保険者として雇用されている場合は、資格取得等をした日)(注)の翌日から1カ月以内に、同じ手続きを行います。

また、2024年10月1日以降の追加支給要件に該当した場合、雇用された日(被保険者として雇用されている場合は、資格取得等をした日)(注)の翌日から6カ月を経過した日から起算し、6カ月以内に所定の書類を社員の住所地を管轄するハローワークに届け出ます。

添付書類の詳細は、こちらをご確認下さい。

■厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」■

https://www.mhlw.go.jp/content/001310413.pdf

(注)業務独占資格などで、試験合格後に名簿登録や免許取得などが必要である資格に関しては、名簿登録日や免許取得日を基準として考えます(届け出書類に登録証や免許証の添付が必要なため)。

6 教育訓練休暇給付金(2025年10月1日新設)

教育訓練休暇給付金は、2025年10月1日に新設される雇用保険給付です。前述した通り、在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるために支給されます。まだ詳細が定まっていない部分もありますが、制度のイメージは次の通りです。

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給付内容の欄の「基本手当」とは、雇用保険の被保険者が失業したときに、再就職までの生活を補助するための給付で、支給額については次のようなルールになっています。

  • おおむね賃金の50~80%(60~64歳の場合は45~80%)を支給
  • ただし、1日当たりの額には上限がある(下記は2024年8月1日時点の上限額)
  • 30歳未満:7065円
  • 30歳以上45歳未満:7845円
  • 45歳以上60歳未満:8635円
  • 60歳以上65歳未満:7420円

教育訓練のための休暇はいわゆる「特別休暇」に当たり、会社が就業規則等で独自に定めます。ただし、教育訓練休暇給付金が支給されるのは、

休暇中の賃金が「無給」の場合に限られる

ので、定めをする際は注意が必要です。

以上(2025年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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海外での製造物責任トラブル対策として確認すべき7つのこと

1 海外PLトラブルへの備えは万全ですか?

海外展開をしている企業の皆さん、自社が輸出した製品が原因となり、日本国外で発生する海外PL(製造物責任(Product Liability、以下「PL」))トラブルへの備えは万全ですか?

日本からの輸出の多くを占めるのは米国や中国ですが、これらの国では、訴訟を含むPLトラブルが日本よりも多く起きています。

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国にもよりますが、海外PLトラブルが発生すると次のような事態が起こり得ます。

  • 集団訴訟制度(クラスアクション)があり、原告側が訴訟を起こすハードルが低い
  • 懲罰的損害賠償(裁判所の裁量により、実際に起きた損害の補填に加えて、制裁金を上乗せして賠償請求をする制度)が認められる場合がある
  • 完成品だけに限らず、部品や原材料メーカーなどで製造に一部でも関わっていれば、訴えられる恐れがある
  • 訴訟の証拠開示手続き(ディスカバリー)への対応だけでも、被告側が負担する労力・費用は多大になる

また、欧州連合(EU)では、製造物責任法の原則にあたる「Product Liability Directive (製造物責任指令)」が全面的に改正され、2024年12月8日に発効しています。この改正では、実体のある製品に限らず、ソフトウェア・AIといった無体物に対しても製造物責任が問われることになりました。

こうした観点からも、海外向けに製品を輸出するメーカーや越境ECの出店者は、海外PLトラブルに備えなければなりません。次に挙げるポイントについて、抜け漏れや不備がないか、いま一度確認してみましょう。

  • 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る
  • 契約で自社の免責条項などを設定する
  • 文書管理を徹底する
  • 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す
  • ISO9000シリーズの認証を取得する
  • 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する
  • 海外PL保険への加入を検討する

それぞれのポイントについて、以降で詳しく解説します。

2 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る

輸出先の国に合わせて、自社の製品が現地の法制度に沿った安全基準や品質基準を満たしているのかを確認しましょう。見直すべき点は次の通りです。

  • 製造ラインの設計
  • 設備や機器などの整備
  • 安全対策ポリシー、作業手順書の作成
  • 従業員の教育や訓練の実施、品質管理・安全対策専門部署の設置
  • 検査の実施

この確認や見直しは、

自社の完成品だけでなく、サプライヤーから調達している部品についても行う

必要があります。サプライヤーに対しては、仕様や品質の基準を書面で示したり、定期的に検査を実施したりして、品質を保つようにしていきます。

3 契約で自社の免責条項などを設定する

商社などの取引先を通じて自社の製品を輸出している場合、取引先とのコミュニケーションを密に取りましょう。例えば、取引先からは「米国向けの輸出」と聞いていたのに、実際は、中国やその他の国々にも輸出されていて、中国でPLトラブルが発生したといったケースも起こり得ます。

また、被害者への対応などで取引先が費用を負担していれば、自社も負担を求められる恐れがあります。

取引先との契約には、輸出先の国、販売方法、製品の用途などを指定し、契約に反した場合のPLトラブルは自社が責任を負わないよう、免責条項を設定

しておきましょう。ただし、こうした免責条項が有効なのは、自社と取引先(契約の当事者)間だけです。契約関係にない被害者から、自社に直接、損害賠償などを求められた場合は対抗できません。そこで、

取引先が契約に反した際のPLトラブルによって自社が損害賠償金を負担した場合に、取引先に求償できるような補償条項を設定

することも検討すべきです。

また、取引先が上記のような補償条項に応じない場合に備えて、

自社の損害賠償責任の制限・免責条項を設定

することを検討すべきでしょう。

4 文書管理を徹底する

訴訟の際、米国などでは広範な証拠開示手続き(ディスカバリー)が求められ、短期間で訴訟に関連した大量の文書提出が必要になることもあります。また、訴訟の際は、自社に責任がないことを証明するために、日ごろから安全性の確保に万全を尽くしていたと示す証拠が必要になることもあります。

そのため、

日ごろから製造活動全般に関する文書や、取引先などとのやり取りを文書として残し、適切に保管

しておくことが重要です。

5 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す

製造工程の見直しなどに比べて、取扱説明書や品質表示ラベルは後回しにされがちですが、米国などでは取扱説明書や品質表示ラベルの「表示上の欠陥」を指摘する訴訟も多いとされています。そのため、

  • 製品の使用方法を分かりやすく説明しているか
  • 危険な使用方法などについて注意喚起する表示になっているか

などを確認しましょう。

6 ISO9000シリーズの認証を取得する

JETRO(日本貿易振興機構)は、輸出製品の製造事業所はISO9000シリーズの認証を取得しておくことが望ましいとしています。ISO9000シリーズは、ISO (国際標準化機構)が定めた品質マネジメントシステムに関する国際規格で、ISO9001、ISO9004、ISO9011などがあります。

ISO9001は、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めていくことを目的としています。この規格に基づいて社内で品質管理の仕組みを見直して改善したり、顧客や第三者機関が品質管理状況を審査したりします。認証の取得には、審査費用、マネジメントシステム構築費用、設備投資、諸経費などが掛かります。

7 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する

海外PLトラブルが発生した場合の対応についてマニュアルを作成しておきます。海外PLトラブルに特化したものではありませんが、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」では、事故への対応などについて紹介しています。こうした資料を参考に、製品の不具合が発見された場合のリコール対応などの手順について定めたマニュアルを作成したり、輸出先の国の実情に詳しい弁護士に対応を相談したりするなどしておきましょう。

■経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」■

https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/recalltorikumi.html

8 海外PL保険への加入を検討する

細心の注意を払っていても、海外PLトラブルの発生リスクをゼロにすることはできません。また、海外PLトラブルへの対応は広範囲に及びます。そこで、

海外展開する際には、訴訟に発展した場合に備えて、海外PL保険に加入する

ことも検討しましょう。PL保険とは、PLトラブルが起きたときに損害賠償金や訴訟費用などを補償するものです。

通常のPL保険の補償範囲は「日本国内での事故や訴訟」に限定されているので、海外PLトラブルに備えるのであれば、海外PL保険への加入が必要です。海外PL保険には、

  • 損害賠償金や訴訟費用などの費用面での補償
  • 示談交渉や訴訟を担当する弁護士の選定

などを代行してくれるものもあります。

例えば、日本商工会議所では、会員を対象とした「中小企業海外PL保険制度」を提供しています。安心して自社のビジネスを拡大していくための一策として、海外PL保険への加入を検討しましょう。

■日本商工会議所「中小企業海外PL保険制度」■

https://hoken.jcci.or.jp/overseas-pl

以上(2025年3月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【入社1年目の教科書】頑張っているからといって勝手に残業するのは自己中な振る舞い

書いてあること

  • 主な読者:「残業」のルールについて知りたい新入社員
  • 課題:頑張って仕事をしたいのだから、いくら残業してもいいでしょ?
  • 解決策:残業できる時間には上限がある。また、残業する前には必ず申請をする

まいったな……。もうすぐ定時なのに仕事が終わらない。先輩から「残業するときは、必ず事前に申請するように!」と言われているけど、何だか面倒くさい……。そんなことをするくらいなら、仕事に集中したほうが効率的じゃない? それに頑張って仕事をするわけだから誰も文句はないよね。遅くまで働いているわけだし……もう、残業申請はしなくていいよね?

1 残業は「例外的」な働き方!

仕事は就業時間内に終わらせることが基本です。皆さんの会社でも、「始業は9時、終業は18時」といった決まりがあると思いますが、それが就業時間です。また、就業時間のうち休憩を除いた時間(仕事をしている時間)が労働時間です。

労働時間については、労働基準法という法律により、

原則1日8時間、1週40時間までという上限が決められており、これを「法定労働時間」

といいます。そして、法定労働時間を超えて働くことが「残業」です。本来、残業は例外的なものなので、残業には上限が決まっています。

残業の上限は、会社の「36協定」に定められています。本来、残業は認められない行為なのですが、会社と労働組合(あるいは社員の代表)が書面で約束することで、会社は社員に残業を命じることができます。ただ、無制限に残業を認めるわけにはいかないので、上限があるのです。例えば、36協定で「残業は1日3時間まで」と定められていたら、3時間を超える残業は認められません。イメージは次の通りです。

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また、36協定では、1日単位だけでなく、1カ月単位などでも残業の上限が定められています。例えば、36協定で「残業は1日3時間、1カ月45時間まで」と定められている場合、1日3時間の残業を15日繰り返すと、1カ月の上限45時間に達してしまいます。ですから、「自分が今月何時間残業しているのか」などを把握して、36協定に違反しないよう注意しなければなりません。

2 残業は事前に許可を得る

どうしても仕事が終わらないことはあります。そのようなとき、残業すべきかどうか迷ったら、「○○の業務のため、○時間残業したいです」と先輩に相談してみましょう。また、仕事は終わっているけれど、もう少し頑張りたいと思うときも、そのことを正直に先輩に伝えてみてください。先輩は残業すべきか否かのアドバイスをしてくれるでしょう。

やってはいけないのは、誰にも相談せずに勝手に残業をすることです。皆さんが勝手に残業すると、会社が皆さんの労働時間を正確に把握できません。そうなると、残業代を正しく支払えなくなったり、働き過ぎている社員を見つけられず、その社員が体調を崩してしまったりする恐れがあります。

なお、残業をする場合は、所定の手続きがあるはずなので、こちらも確実に行ってください。面倒かもしれませんが、残業する権利を得るための責務です。

3 健康管理も仕事のうち

残業のルールについて紹介してきましたが、良い仕事をするためには休憩も必要です。労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低60分の休憩を与えることが会社に義務付けられています。会社によっては就業規則などで、これより長い休憩を設定していることがあります。また、「残業が○時間を超える場合、○分の休憩を与える」など、残業に特化したルールを設けていることもあります。

仕事が忙しくなってくると休憩をおろそかにしがちですが、そのようなときこそ休憩をとりましょう。集中力はそんなに続くものではないので、休憩をとることが効率化につながります。そして何より、皆さんの健康が第一であることを忘れてはなりません。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda