企画の考え方を教えます! 中小企業が大企業に勝てる「企画」を生み出す4つの型

書いてあること

  • 主な読者:社員から次々と企画が上がってくる活発な組織を目指す経営者
  • 課題:社員は企画を出した経験がなく、とても難しいものと考えている
  • 解決策:企画立案のハードルを下げる。コンビニなど身近なサービスに置き換えてみる

1 企画立案のハードルを下げる

中小企業は、経営資源の質と量では大企業に劣るものの、意思決定の速さと柔軟さには素晴らしいものがあります。この強みを「企画力」として活かせれば、大企業とも十分に戦うことができます。特に営業で大企業に勝ったことがある経営者は、このことを実感していますから、

お客様や取引先に接している社員が、次々と企画を上げてくるような活発な組織を期待

します。

しかし、こうした経営者の期待は、多くの社員にとってハードルが高いようです。なぜなら、多くの社員は「世の中になく、他の追随を許さない、画期的なものを生み出すこと」が企画立案だと思っているからです。御社に「100点満点を求め、失敗を許さない雰囲気」はないですか? こうした組織では社員は自由に発想することができません。

重要なポイントは、

企画立案に対するハードルを下げる

ことです。それと同時に、企画するときの考え方を示してあげることも大切です。身近にあるコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)を例に考えていきますので、御社の社員にも伝えてみてください。

2 企画の基本は「足し算型」

ビジネスにはコアとなる技術やサービスがあり、それを中心に全体像が設計されます。コアを中心に複数の要素を組み合わせる足し算型が企画の基本です。例えば、

コンビニには「小売り」というコアがあり、そこにATMや公共料金の支払い、宅配などの要素が足されていくことで、小売りだけのときより、生活に密着したポジションを確立

することができます。

中小企業においても、いわゆる「水平統合」によって、取り扱う商品やサービスのラインアップを拡充するケースがよく見られます。他社との提携によって、自社の顧客のニーズを十分に満たす商品やサービスを実現するイメージです。

3 新しい付加価値を生む「掛け算型」

前述した足し算型と似ているのが掛け算型で、複数の要素を組み合わせて新たな付加価値を生み出します。最初から掛け算型を目指せればよいのですが、実際は足し算型を続けていくうちに、掛け算型の効果が見えてきます。

引き続きコンビニのケースで考えてみます。例えば、

イートインやコーヒーマシンは個別に見れば足し算ですが、両者を掛け合わせると「ランチや休憩の場所」という、新たな付加価値が生まれて「カフェ」に近い機能が備わり、利用者層の広がりを期待

できます。

中小企業においても、足し算型でサービスを組み合わせていくうちに、掛け算型の新しい付加価値が生まれることがあります。それにいち早く気付けば、コンビニがコーヒーとパンのセット割引をするようなプロモーションも可能になります。

4 常識を覆す「引き算型」

足し算型と掛け算型よりも大きなインパクトがあるのが引き算型の企画です。引き算型では斬新なビジネスモデルの実現による収益向上や、無駄の排除によるコスト削減を期待できます。

コンビニの場合、

決済などのオペレーションを自動化し、従業員がいなくても運営できる「無人コンビニ」や営業時間の短い「時短コンビニ」

などがこれに該当します。これまでのサービスの常識を覆す引き算型は、いわゆる「破壊的イノベーション」を生み出すことがあります。

中小企業にとって、引き算型の企画を遂行することは勇気がいるかもしれません。今あるものを削って顧客の反感を買う恐れがありますし、全く新しいものにチャレンジするのはリスクが高いからです。しかし、引き算型の企画遂行に成功すれば差異化を図りやすくなります。

5 多角化につながる「コア開発型」

ここまで紹介してきた足し算型、掛け算型、引き算型の企画立案は、既にあるコアの魅力を高める取り組みでした。これに対してコア開発型の企画とは、文字通り新しいコアをつくり上げるということであり、事業多角化につながります。

コンビニの場合、

PB(プライベートブランド)の開発

などが該当すると考えられます。足し算型が水平統合のイメージであったのに対し、コア開発型はいわゆる「垂直統合」となります。

中小企業は、単一の事業で戦っていることが少なくありません。コア開発型の企画遂行に成功すれば多角化につながりますが、一足飛びに取り組めるものではありません。まずは、足し算型や掛け算型から企画の練習をすることが優先でしょう。

6 企画力は会社の規模を凌駕(りょうが)する

「古池や蛙(かわず)飛び込む水の音」。松尾芭蕉の有名な句です。ところで、蛙は何色で、何匹いたのでしょうか。また、池に飛び込む音は、どんな音だったのでしょうか。さらに、そもそも「古池」を見たことがなければ、情景をイメージできません。

同様に、

企画を立てたことのない社員は、お題を与えられても、どう考えてよいのか分からない

というのが実情です。そこで、最初は経営者がアイデアを出し、企画会議を進行して、企画の立て方を社員に示していくしかありません。柔軟な発想で企画し素早く形にすれば、大企業を打ち負かすチャンスが生まれるはずです。

組み合わせる、変形させる、差し引く。どのようなアプローチをするにせよ、企画力は自由な発想と異なる要素を通底する力によって生まれます。経営者は、社員が異質なものに触れる機会をたくさんつくりましょう。他流試合の繰り返しによって、「古池」と聞いたときに何通りもの情景を思い描くことができるようになり、企画の幅が広がっていきます。

以上(2024年12月更新)

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画像:fizkes-shutterstock

退職金が少なくても財形貯蓄やiDeCo+でこれだけカバーできる!/人生100年時代の退職金制度を考える(3)

書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性について考えている経営者
  • 課題:退職金制度だけでは、社員の老後の生活費を賄うのに十分とはいえない
  • 解決策:退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用する

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第1回では、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの退職金が必要かをシミュレートしました。85歳までの生活を想定した場合、夫婦2人暮らしでは912万円、独身では744万円が必要でした。

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の

退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

【試算条件】

  • 22歳年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.01%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

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一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.01%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1370万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約2.1万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約2.6万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

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次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較ます。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2022年平均で約1092万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は約2243万円(日本経済団体連合会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)。統計データは異なりますが、1000万円以上の開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1370万円

を用意できた場合、その額は合計2462万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも219万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛け金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛け金に追加して、会社が掛け金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛け金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

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上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで752.3万円、iDeCo+で1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+は約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員の自己負担はiDeCoよりも少なくできます。つまり、社員は今の生活を切り詰めることなく、退職金+αのお金を用意できるのです。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

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仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、その額は合計2423万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも180万円多い

計算になります。ただし、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですから、これ以上の金額を用意する場合は他の制度も利用する必要があります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2462万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2423万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める可能性もありますし、最近では国が積極的に加入を推奨しており、こうした背景なども少なからず影響しているのでしょう。

ただし、iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛け金の一部を負担してくれるなどのメリットがある一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

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以上(2024年12月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pek-Adobe Stock

【管理会計】新任役員が知っておきたい管理会計の心得

書いてあること

  • 主な読者:新たに部門の管理が必要になった新任管理職や新任役員
  • 課題:実務としての管理会計を経験していないと、何から手を付けたらいいのか分からない
  • 解決策:管理会計で必要なKPIの設定や、自部門に管理会計を定例化させるポイントを紹介

1 新任役員が押さえておきたい管理会計の基本

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。新任役員は、まずは管理会計を押さえておくといいでしょう。管理会計とは、

業績を改善するために社内で活用する会計であり、「利益を出すための会計」

といえます。一方の制度会計は、税金の法律や会計の基準といった社会のルールに従って、社外に業績を報告するものです。こちらは基本的に経理部に任せておいても問題ありません。

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役員に求められるのは、自分の主管する部門(以下「自部門」)からより多くの利益を上げることです。そこで、利益獲得につながるヒントを提供してくれる管理会計を押さえることが効率的です。自部門の業務内容を決算書の数字に結びつけて、定点観測することがポイントです。

2 自身が求める管理会計を導入するために必要なこと

1)KPIを押さえる

自部門の管理会計としては、KPIを押さえることから始めましょう。KPIとは、業績に大きな影響を与える数字のことです。正確には、Key Performance Indicatorの頭文字をとったもので、日本語では重要業績評価指標と呼ばれますが、名称はそれほど気にしなくて構いません。営業部門であれば販売単価や販売個数、製造部門であれば歩留まり率や機械稼働率がKPIの代表例です。

例えば、販売単価をKPIとして、「来年度は10%アップの110円を目指そう」と目標を立てた場合、メンバーは販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと得意先と交渉する人もいるでしょう。KPIには、何を頑張ったらいいのか、そしてどのくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーがとるべき行動が分かりやすくなる効果があります。

取り組みの手順として、まず、自部門で従来、大切にされていた指標が何かを特定します。社内で実際に使われているKPIのほとんどは、長年の経験から業績向上につながることが分かっており、そのために使われていることが多くあります。それ以外にも、もし業績向上につながるKPIが分かっていれば追加してもいいでしょう。このとき、そのKPIは自部門が頑張れば達成できる性質のものなのか、複数の類似する指標がある場合には最適な指標なのかといった点に注意が必要です。

また、KPIは1つだけとは限りません。KPIを複数設定する場合は、おおよそ5つまでが把握、管理しやすいと思います。その場合には、優先順位をつけるようにします。さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般に、単価を下げれば販売個数が伸びる傾向があるため、販売単価と販売個数はトレードオフの関係にあるといえます。このとき、どちらも同じように大事にすると、部門のメンバーはどちらを伸ばしていいのか分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。中途半端な取り組みの結果、目標が達成できないという事態につながることもあります。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールですので、このような矛盾が発生しないよう注意しましょう。

2)KPIの実績数値の収集、分析、予測

KPIを設定したら、次に、そのKPIの実績数値を数カ月分集めてみましょう。そこで見られる変動の要因が何なのかを納得いくまで分析します。KPIに影響を与える要因を分析することで、何を頑張ればKPIが向上するのかのヒントを得ることができます。数値の良しあしに一喜一憂するだけではいけません。数値の裏側にある情報を押さえることのほうが重要です。

実績数値の分析ができたら、今度は予測に挑戦するといいでしょう。これから数カ月分のKPIの数値を予測します。自部門の活動予定や外部環境の変化などの前提条件を考えたうえで、その情報に基づき数値化します。実績の分析は「数値から情報」という流れでしたが、予測は「情報から数値」という逆の流れです。時が過ぎ、実績数値が出たら、予測との「答え合わせ」をしましょう。もし答えがあっていなかった場合、それは押さえるべき情報が漏れていたのか、それとも読み間違ったのか。この振り返りを何度も行うことで、今後の予測の精度を上げることができます。

正しく将来を読めるようになることは、管理会計の要です。これから自部門、ひいては自社の業績がどうなるのかを正しく予測できれば、必要な対処をとることができます。管理会計は「未来のための会計」ともいわれますが、正しく未来を予測し、必要な場合には適切なアクションをとることで、自社をより良い未来へ導くことができるのです。

3)KPIと決算書の数値の連動

最後に、KPIと決算書の数値を連動させて説明できるようになるといいでしょう。管理会計の目的は業績の向上、つまり、より多くの利益を出すことにあります。決算書上の利益が目標ですので、これと自部門のKPIがどのような関係にあるのかを把握します。

例えば、製造部門の主力製品の歩留まり率をKPIに置いた場合、これが1%改善したらいくらの利益改善効果があるのかを、「金額」で知っておくことが大切です。決算書や利益の話になると、及び腰になる役員も多いのですが、KPIを入り口にして、最終的には決算書の金額に結びつけられるようにならなければなりません。

なぜなら、経営者は、決算書を見て会社の全体像を把握します。つまり、経営者からしてみれば、KPIは会社の一部分の指標にすぎないのです。また、KPIはパーセンテージで表示されることも多く、実際の利益への影響が見えにくいものです。役員は、経営者が意思決定に必要な情報を正確に理解するために、自部門の数値であるKPIと、全社の数字の集合体である決算書上の利益の間を「翻訳」できるようになりましょう。経営者に対して自部門の状況を「翻訳」して説明するのは、役員に求められる必須のスキルといえます。

3 現場で管理会計を定例化させるために必要なこと

1)データベース形式で共有する

日常的にKPIを管理するためには、KPIの実績数値を容易に把握できる仕組みが必要です。丁寧に確認するのは月次で構いませんが、月中にも途中経過を確認できるほうがいいでしょう。KPIを管理するために、必ずしも立派なシステムは必要ではありません。エクセルでも結構ですので、確認したいと思ったときにすぐ確認できる仕組みをつくりましょう。必要なときにいつでも参照できるよう、データベース形式にして共有するのもいいでしょう。他人に頼まないと数値が見られないというのでは、役員として意思決定への活用がしづらくなってしまいます。

2)1つのKPIを管理するのは1つの部門に限定する

同じKPIを複数の部門で集計、管理している場合がありますが、これはなるべく避けましょう。業務が重複して手間が余分に掛かるだけでなく、新たな業務を生みがちだからです。KPIは小数点以下の数値を含むことも多く、複数の部門で管理していると、数値間に差異が発生することが多くあります。数値に差異があると、役員としては安心してその数値を使えず、迅速な意思決定ができなくなりますし、現場も差異の確認に不要な時間がとられます。ぜひ1つの部門で責任を持って計算、管理する方法を採用しましょう。部門をまたぐ話ですので、役員だからこそできる決断でもあります。

3)定期的にアウトプットする

KPIの管理を確実に運用するためには、定例会議資料の項目に織り込むことをおすすめします。定点観測がしやすくなり、また分析のためにいろいろなコメントを得ることができます。そして、KPIの管理に力を入れたい役員自身の本気度を、メンバーに対して伝えることにもつながります。同様の趣旨で、定期的に数値をメールで配信するのもいいかもしれません。小売業のような動きの速い業種では、前日の売上に関するKPIを毎朝配信するのが一般的です。

4)管理サイクルをルーティン化し、スピード感をもって取り組む

初めは、KPIの種類を1~2個に絞り込んだうえでスタートしても構いません。大事なのは、現場を巻き込みながら、定期的なKPIの管理サイクルを回すことです。KPIをはじめ、管理会計はスピード感を持って取り組むことが大切です。数値を確認するのに時間がかかると、分析や実際のアクションにかける時間が減ってしまいます。また、途中で挫折してしまっては、状況の把握が不十分になってしまいます。数値を集計し、分析し、報告する。この流れをタイムリーに運用し続けることを目標に、自部門の管理会計を構築することが、新任役員には求められているのです。

以上(2024年11月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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【ハラスメント対策】ハラスメントの事実確認 順番は「相談者、第三者、行為者」

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの事実確認の進め方、留意点を知りたい人
  • 課題:いきなり「行為者」を問い詰めてしまいそうだが、それは正しくなさそう……
  • 解決策:結論を急がない。相談者にしか分からない事実を引き出すことがポイント

1 事実確認は「焦らず、じっくりと」

ハラスメントに関する相談が相談窓口に寄せられた場合、会社はすぐにハラスメントの事実があったか否かを確認します。これを「事実確認」といいます。具体的には、

相談者(被害者など)、第三者(目撃者など)、行為者の順番で事情聴取をする

ことになります。

経営者としては、早く白黒をつけたいので、ついつい事実確認を行う担当者をせかしがちですが、調査不足は事実誤認のもとです。後々の対応(社内処分など)を誤らないためにも、「焦らず、じっくりと事実確認を行うこと」を心がけましょう。

以降では、相談者、第三者、行為者に事実確認をする際の留意点を紹介します。なお、2024年11月1日から、フリーランスに対してもハラスメント防止措置を講じることが義務付けられていますが、事実確認の基本的な流れは、社員もフリーランスも同じです。

2 相談者に事実確認する際の留意点

1)中立的な立場を貫く

相談者に確認する内容は次の通りです。相談者がメールや録音、SNSなどの客観的証拠を持っているようなら、相談者の同意を得てデータをコピーさせてもらいます。

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担当者は中立的な立場で臨み、相談者や行為者に変に肩入れをしないよう注意します。また、必要なのは事実確認と、ハラスメントがあった場合の処分に必要な情報ですから、興味本位の質問や「あなたにも隙があったのではないですか?」などの発言、「それはハラスメントに当たると思います」などの評価をしてはいけません。

2)行為者の言動を具体的に聞き取る

ハラスメントは客観的証拠がないことが多く、「言った、言わない」の問題になりがちです。相談者の話が信じられるかを判断するための1つの基準は、

相談者の話が、実際に体験した者でなければ語ることのできない、具体的で迫真性に富んだ内容か否か

です。そして、これを確認するには、

行為者の実際の言動を、できる限り具体的に、実際の発言の通りに話してもらうこと

が大切です。ハラスメントを受けた相談者が、精神的なショックなどからうまく話せない場合もありますので、辛抱強く聞き取るようにしましょう。相談を受けたり、事情聴取を行ったりする人数や場所、時間なども、相談者が安心して話ができるよう配慮する必要があります。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、相談者と同性の担当者が事情聴取を行うようにしましょう。

3)相談者を安心させる

相談者は「行為者に報復されるかも……」と心配しているケースが多いので、その場合は

「相談したことで不利益を受けることはないし、行為者には勝手に相談者に接触しないよう強く警告する」

とはっきり伝えます。相談者の精神状態によっては、カウンセリングの実施も検討します。

また、相談者から行為者の処分について質問されることがあります。社内処分は最後に決まるものなので、この段階では「社内処分のことはまだ話せない」と回答しましょう。

相談者によっては、「事を大きくしたくない」「とりあえず報告したかった」と考えているケースもあります。ですから、必ず相談者に対して、第三者への事実確認を行うか、どのように事後対応を進めていくかの確認を取る必要があります。

3 第三者に事実確認する際の留意点

メールや録音、SNSなどの客観的証拠が残っているのであれば、必ずしも第三者に事実確認をしなくてもよいでしょう。逆に客観的証拠がなければ、第三者に事実確認する必要性が高くなってきます。第三者に事実確認する際は、相談者や行為者のプライバシーを守るために、

  • 事実確認する第三者は最小限とし、外部に情報が漏れることを防止する
  • 第三者が事実確認の内容などを他者に漏らさないように「誓約書」を取る

などの対応が必要になってきます。

4 行為者に事実確認する際の留意点

行為者に事実確認する際も中立的な立場で臨みます。事実確認の際は、「虚偽や言い逃れは許さない」という毅然とした態度で臨むことが大切ですが、最初から行為者を犯人扱いしたり、無理に自白を取ろうとしたり、語気を荒らげたりしてはいけません。

また、相談者から相談があったことを行為者に伝えるときは、勝手に相談者に接触しないよう強く警告します。そうしないと、行為者が相談者に「そんなことあった? あのとき、君も笑っていたよね?」などと言って、相談の取り下げを迫ることがあるからです。

なお、ハラスメントの事実が認定できた場合には、行為者には必ず「弁明の機会」を与えます。弁明の機会を与えるのは、

弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがある

からです。

5 その他の留意点

事実確認の際は、あらかじめヒアリングする事項をリストにしておき、聞き漏れがないようにしましょう。また、あらかじめ録音することを伝えたうえで、聴取の様子を録音しておくと、「言った、言わない」の問題を回避できます。

なお、相談者と行為者の言い分が食い違うケースはよくあります。また、行為者が経営者や役員など会社内で地位の高い人物であるケースも多いです。このような場合には、社内だけで事情確認を行うのが難しくなるので、専門家である弁護士に相談しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【かんたん消費税(3)】インボイス制度のデメリットを理解する上で欠かせない「免税事業者」のこと

書いてあること

  • 主な読者:消費税の「免税事業者」について詳しく知りたい経営者
  • 課題:インボイス制度下では取引先に免税事業者がいる場合、自社の消費税の納税負担が増えるかもしれない
  • 解決策:免税事業者の基本は課税売上高が1000万円以下。ただし、例外もある

1 インボイス制度下では、免税事業者は不利な立場に?

「インボイス制度」が始まった後(2023年10月1日以後)は、

免税事業者との取引については「仕入税額控除」が受けられず、自社の消費税負担が重くなって損をする

ことになります。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引く

ことです。これが免税事業者との取引ではできないので、国に納める消費税が増えることになるのです。

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これは自社が免税事業者の場合も影響します。なぜなら、

自社が免税事業者の場合、反対に相手が仕入税額控除ができない

ことになり、取引の縮小や停止を要請されてしまうかもしれません。

そのため、自社や取引先が免税事業者か否かを確認することが、非常に重要になりました。そこで、この記事では、どのようなときに免税事業者になるのかについて解説します。

なお、インボイス制度に向けた事前準備については、以下のコンテンツで詳しく紹介しているので参考にしてください。

2 免税事業者とは? 

1)どんなときに免税事業者となるのか

事業者は、消費税を負担する人(=消費者)から消費税を預かり、消費者に代わって申告し、納付します。つまり、

物を売ったり、サービスを提供したりしている事業者は、消費税の納税義務者になる

のです。

しかし、消費税の申告作業は非常に煩雑で、その事務負担は重いです。そのため、消費税の納税義務者の考え方について特例が設けられ、

小規模の会社については、消費税の納税義務が免除

されます。

では、小規模の会社かどうかはどうやって判断するのでしょうか。それは、原則、

基準期間の課税売上高が1000万円以下かどうか

で考えます。課税売上高とは、消費税が課税される取引金額の合計のことです。また、基準期間とは、一般的な1年決算法人の場合は、

申告しようとする事業年度の前々事業年度

のことです。

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つまり、前々事業年度における課税売上高が1000万円以下の会社は小規模事業者になると判断され、納税義務が免除されるのです。この納税義務が免除される会社を「免税事業者」と呼びます。ちなみに、免税事業者以外は「課税事業者」と呼びます。

2)取引先は免税事業者なのか?

自社が免税事業者か否かは、過去に申告書を提出しているか否かなどを確認すれば、すぐに分かるでしょう。一方、取引先が免税事業者か否かについては、

得意先に「確認状」を送付するなどして、免税事業者かどうかを教えてもらう

ことになります。課税事業者であれば、通常は「適格請求書発行事業者の登録申請」を行っているはずですので、登録番号も併せて教えてもらうようにしましょう。なお、登録番号が分かれば、国税局が公表している「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することもできます。

第4章に、取引先に送付する「確認状」の文例を掲載しているので参考にしてください。

3 さまざまな納税義務の判定パターン

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら、基本的に免税事業者になります。ただし、例外もあります。

1)設立したばかりの会社

設立したばかりの会社には基準期間(=前々事業年度)がありません。基準期間がなければ課税売上高もないため、基本的には免税事業者になります。ただし、

基準期間がなくても期首の資本金が1000万円以上だと免税事業者にはならない

ので注意してください。つまり、資本金が1000万円以上の会社は課税事業者になります。この例外のポイントは次の2つになります。

  1. 資本金で判断するのは「基準期間がないとき」だけ
  2. 判定のタイミングは、申告しようとする事業年度の期首。期中に増資して資本金が1000万円以上になっても、期首が1000万円未満なら免税事業者

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2)設立時の親会社にも要注意

設立したばかりの会社で期首の資本金が1000万円未満でも、親会社などが大規模な会社だと、免税事業者にならない場合があります。具体的には、

持株割合が50%を超えている株主(個人含む)の課税売上高が5億円を超える場合は、課税事業者になる

ということです。なお、課税売上高が5億円を超えるかどうかは、

設立した法人の基準期間に相当する期間における株主側の課税売上高

で判定します。ただし、この特例も「基準期間がない事業年度」についてのみ適用されます。

3)売上が急拡大した会社の場合

消費税の納税義務は前々事業年度(=基準期間)の課税売上高で判断するのが基本のため、当事業年度の課税売上高がどんなに大きくても、基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務はありません。しかし、売上が急拡大している場合は要注意です。なぜなら、

特定期間の課税売上高と給与支払総額のそれぞれが1000万円を超える場合は免税事業者にならない

ためです。特定期間とは、一般的な1年決算法人であれば、

前事業年度の上半期(6カ月間)

のことです。このため、前々事業年度の課税売上高が1000万円以下でも、前事業年度の売上が急拡大し、上半期だけで1000万円を超え、かつ、給与の支払総額も1000万円を超えるときは課税事業者になるのです。

なお、この特例のポイントは、

上半期の課税売上高と給与支払総額の両方が1000万円を超えるときに課税事業者になる

という点です。つまり、どちらか1つが1000万円以下であれば免税事業者になります。

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4)課税事業者を選択した場合

本来は免税事業者に該当する会社でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、自ら課税事業者になることができます。例えば、免税事業者でも申告書を提出することによって還付を受けられるような会社がこの選択をします。ただし、この選択をした場合には最低でも2事業年度は強制的に課税事業者になります。

4 確認状の文例

20××年××月××日

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇御中

会社名 部署

適格請求書発行事業者登録番号のご通知とご依頼について

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、2023年10月1日に導入された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)上、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となっております。

そこで、弊社の適格請求書発行事業者登録番号をご通知するとともに、貴社の登録番号等について、弊社までご連絡をお願い申し上げます。何卒ご主旨をご理解賜り、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 弊社登録番号

T×××××× ××××××

2. 課税事業者のご確認及び登録番号に関するご依頼

課税事業者の場合、貴社の適格請求書発行事業者登録番号を以下の問合せ先まで、ご連絡願います。

また、課税事業者以外(免税事業者等)の場合は、その旨、ご連絡をお願い致します。

まだ、適格請求書発行事業者の登録がお済みでない場合には、登録のご検討をお願い申し上げます。

3. 問合せ先

部署 氏名

住所

電話番号

メールアドレス

以上

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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社員に“モヤモヤ”しているアイデアを出してもらう5つの仕掛け

書いてあること

  • 主な読者:社員に新しいアイデアを積極的に出してもらいたい経営者や管理職
  • 課題:ミーティングの場で社員がなかなか意見を出さない
  • 解決策:ちょっとしたきっかけで社員のアイデアは活性化するもの。ブレストやシックス・ハット法といった、社員が意見を出しやすい「仕掛け」を実践してみよう

1 組織の進化にオススメな“モヤモヤ”ミーティング

今までと同じことをやっているだけでは、会社は成長できません。新しいことに取り組んでいくために、社員にアイデアを出してもらいたいところですが、募集してもなかなか出てきません。社員はアイデア出しに慣れていなかったり、アイデアはあっても、「練っていないので、人に話すことができない」と思い込んでいたりするからです。

そこで、経営者や管理職の方々にご提案したいのが、

社員を巻き込んだ“モヤモヤ”ミーティングの開催

です。これは、社員が日ごろ、なんとなく「これがいいな」と“モヤモヤ”思っているアイデアを自由に披露する場をつくるというもので、オンライン・オフラインのどちらでもできます。“モヤモヤ”ミーティングを活性化する5つの仕掛けを紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 苦手そうな社員には課題を出してみる
  • ブレーンストーミングで場を活性化する
  • シックス・ハット法で掘り下げる
  • 明るく楽しくテンポ良く
  • 経営者や管理職は大いに語ろう

2 苦手そうな社員には課題を出してみる

“モヤモヤ”ミーティングは自由な意見を出せるのがいいところです。ただ、日ごろ、あまり問題意識を持っていない社員は苦手に感じます。そうした社員には、まず、取り組みやすそうな課題を出して考えさせることから始めてみましょう。

課題の例としては、「今、一番不便だと思っていることは何か。それを解消するにはどうすればよいか」「今までの人生で一番熱中したことは何か。それを他の人にどのように勧めるか」「好きに時間を使っていいと言われたら一日何をしたいか」などが挙げられます。具体的に既存商品やサービスについて、「『もっとこうしたほうがいい』と思っていることは何か」を課題にしてもいいかもしれません。

3 ブレーンストーミングで場を活性化する

“モヤモヤ”ミーティングでは、参加している社員に、活発に意見を出してもらうことが大切です。「批判をしない」「自由奔放に考える」「質より量を重視する」「便乗する」といった約束事のあるブレーンストーミング(ブレスト)で進めるのがよいでしょう。

ブレストに慣れていない社員は、つい、他の人のアイデアを批判しがちです。こうした社員には、「『でも、しかし』ではなく『そして、それから』」を徹底し、他の人のアイデアに「便乗する」ことで、アイデアをさらに膨らませるよう指導しましょう。

ビジネスのアイデアを出し合う前に、「動画で商品をPRする新しい企画とは?」「誰もが楽しい社員旅行の企画とは?」といった身近なテーマでブレストを行い、アイデアを出し合う訓練をしてみるのもいいでしょう。

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ブレストの良いところは、1つのアイデアに皆が便乗し、さらに膨らませるため、一体感が生まれることです。最初にそのアイデアを言い出したのは誰かということは重要ではなくなり、参加者全員で力を合わせて1つのアイデアを考えることができます。

4 シックス・ハット法で掘り下げる

ブレストで膨らんだアイデアを深掘りするために、「シックス・ハット法」を使います。これは、視点の違う6色の帽子(他のアイテムでもよい)のうち、全員が同じ1色を身に着け、その色の視点に立って考えていくという方法です。オンラインの場合は、6色の背景画像を用意し、全員が同じ1色を背景色にするなど工夫してみましょう。

シックス・ハット法で用いられる6色は、「青=冷静・管理的、黄=楽観・積極的、黒=警戒・否定的、緑=創造・革新的、白=中立・客観的、赤=情熱・感情的」となります。全員で同じ色を身に着けるので、思考をそろえて議論を深めることができます。

例えば「白」にしたときは、データや数字といった客観的な情報・事実だけを話します。このとき、自分の意見は言いません。一方、「赤」の場合は、「可能性を感じる」「面白い」など自分の感想や気持ちを話します。

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色の順番は決まっていませんが、他の色を統制し、分析したり管理したりする要素を持つ「青」で始めて進め方やゴールを決め、全ての色が終わった後、再度「青」にして、結論や次回への課題を確認して終わることが多いともいわれています。

慣れないと「今の色」と違う視点で意見を言う社員が出てくるので、ファシリテーターが「その発言は黒い帽子ですね。今は白ですよ」と軌道修正します。状況によっては「議論が停滞してきたので、緑の帽子で解決策を出しましょう!」と全員の視点を切り替えることもあります。

シックス・ハット法の良いところの1つは、視点を切り替えて考えられることです。さまざまな視点から捉えることで、“モヤモヤ”していたアイデアのメリットや課題、さらに進化した姿などが分かるため、形が見えるようになってきます。

5 明るく楽しくテンポ良く

ブレストでもシックス・ハット法でも、“モヤモヤ”ミーティングは、社員が楽しみながらテンポ良く進めることが大切です。シーンと静かになってばかりだったり、特定の社員が長々と発言したりしないよう、「発言は1分間」などのルールを決めましょう。特に1人しか発言できない(みんなでワイワイしにくい)オンラインの場合、ファシリテーターが重要です。参加者が満遍なく発言できるように回しましょう。

また、「立場にこだわらずフラットに発言する」というルールにしたとしても、社員は経営者や管理職の発言に影響を受けたり遠慮したりしがちです。社員が慣れるまでは、経営者や管理職はなるべく社員の後に発言するように心掛けるとよいでしょう。

社員がリラックスした気持ちで自由に意見を言えるよう、会社の外に出るのも一策です。オープンカフェや公園など屋外で行えば、いつもと違った雰囲気の中で、社員の視野が広がるかもしれません。

6 経営者や管理職は大いに語ろう

社員が“モヤモヤ”と思い、その“モヤモヤ”をアイデアとして議論し合えるようになるには、社員に会社や仕事を好きになってもらうこと、会社の今後を自分事のように考えてもらうことが必要かもしれません。

それには、経営者や管理職の日ごろの働き掛けがとても重要です。経営者や管理職は、思い描いている夢や「あるべき理想の姿」、どれだけ会社と社員(部下)を誇りに思っているか、たとえ足元の仕事が大変でもその先にどれだけ大きな喜びがあるか、などを大いに語りましょう。経営者や管理職は、未来をつくるのは“モヤモヤ”思ってくれる社員たちであることを忘れてはなりません。

7 社員に、「アイデア脳」になってもらうために

最後に補足として、「社員に、アイデアを出しやすい思考になってもらう」方法をお伝えします。“モヤモヤ”ミーティングの開催と並行して、日ごろから次のことを実践してみるとよいでしょう。

  • 社員にセミナーや勉強会、スタートアップピッチ、アイデアソンなどに参加してもらい、社外の人と積極的に交流する機会をつくる。
  • 経営者や管理職が「○○について人と話をしたが、うちの会社でもこう活かせる」と話して、「身の回りの全ての出来事がアイデアにつながる」と社員に意識させる。

以上(2024年12月更新)

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活発な議論をするために知っておくべき心理学のアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:議論を通してチームのパフォーマンスを高めたい経営者
  • 課題:無駄な会議が多い。優秀な人材を参加させているのにチームの成果が上がらない
  • 解決策:集団心理は良くも悪くも働くものであることを認識し、良いほうへ活用する

1 「3人寄れば文殊の知恵」とはならない不思議

企業では会議やブレインストーミング(ブレスト)など、チームのメンバーがアイデアを出し合って物事を決めたり仕事を進めたりすることが多いものです。しかしチームでの仕事が、常に個人プレーより優れているとは限りません。実際に会議をしてみて、

  • 優秀な人材を集めたのに、期待していたような成果が上がらない
  • 長い時間をかけて会議をしたが、なかなか良い案が出ない

という問題に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。

その背景には、「責任の分散」「同調」「集団分極化」といった、集団心理が働いていることがあります。集団心理は良くも悪くも働くもの、いわば諸刃の剣です。集団で議論するメリットを享受するためには、まず集団心理のメリット・デメリットと、その対策を念頭に置いたマネジメントが重要です。対策は次の3つです。

  • チームをグループに分けてディスカッションをする
  • 反対意見や異なる意見を歓迎する企業風土を醸成し、組織の風通しをよくする
  • 議論後に、個人で振り返りの時間を持つ

なぜ、これらの3つが重要になるのか。以降で明らかにしていきます。

2 1人当たりの責任感の分量が減る「責任の分散」

1)責任の分散とは

責任の分散とは、

多くの人が関わることで1人当たりの責任が小さくなり、「自分がやらなくても、誰かがやるだろう」という心理に陥る

という現象です。

責任の分散を考察するに当たり、象徴的なキティ・ジェノバーズ事件というものがあります。1964年に米国のニューヨークで、午前3時に帰宅途中の女性が暴漢に襲われ殺害されました。悲鳴が上がってから殺されるまで30分余りがありました。後の警察の捜査によると、近隣のアパートの住民38人が悲鳴を聞いたり、窓から顔を出して女性が襲われている現場を見たりしていました。にもかかわらず、誰ひとりとして助けたり、警察へ通報したりといった援助行動を取らなかったのです。

この原因はさまざまな考察がなされていますが、そのうちの1つが、「責任の分散」という集団心理が働いたことです。

後の実験で、このような援助行動は、その場に複数人いるときよりも、1人しかいないときのほうが、迷いなく援助行動を取ることが分かっています。さらに援助の対象が、見知らぬ人よりも顔見知りがほうが、より素早く援助行動を取ることも判明しています。

キティ・ジェノバーズ事件の被害者は、「目撃者が38人もいて、なぜ誰も助けなかったのか」ではなく、「38人もいたからこそ」助けられなかったのです。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐには、

チームをグループに分けてディスカッションをし、各グループの意見を発表する

とよいでしょう。20人が参加する会議でも、4人ずつの5グループに分けると、各自の責任の重さは「20分の1」から「4分の1」に増えます。

なお、グループは凝集性(集団がその中の個人を引きつける度合い)が過度に高くなったり、パワーバランスが生じたり、マンネリ化したりしないよう、ランダムに組むことが望ましいです。

3 周りに合わせて、白も黒と言ってしまう「同調」

1)同調とは

同調とは、

集団のメンバーが、集団の規範や、他のメンバーの意見に沿った行動を取る

という現象です。

社会心理学者のソロモン・アッシュが1951年に発表した論文では、次のような実験について著されています。

被験者1人を含む7人(被験者以外は事情を知っている協力者)に次のような図を見せ、左の図と同じ長さの線分を右の図から選ばせます。被験者以外の6人が全員一致して誤った回答をした場合、被験者はどんな回答をするでしょうか?

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正しい回答は、見ての通り「b」です。

しかし、被験者以外の全員が誤った回答(例えば皆がそろって「a」と回答)をした場合、被験者の誤答率は37%にも上ったのです。正解が明白であるにもかかわらず、他者の意見に同調して3分の1以上の人が誤った回答をしました。正解が明白な問題でもこのような結果になるのですから、会社で議論されるような正解がないテーマでは、なおさら同調は強くなりがちです。

同調が起きる理由として、主に2つが挙げられます。

  • 情報的影響:「正しくありたい」「間違えたくない」ため、「みんなが正しいと言うのだから正しいのだろう」と、他者の回答を判断材料にしたため
  • 規範的影響:「他者に受け入れられたい」集団から孤立したり拒絶されたりすることを恐れ、周囲に合わせたため

日本人は「同調圧力」が強いと言われますが、集団内に働く、多数派の意見に合わせざるを得ないような力のことをいいます。

2)同調を防ぐには

同調を防ぐためには、

反対意見を歓迎する。大多数とは異なる意見を言いやすくする

とよいでしょう。あえて会議の場に、「異論を述べる」役割を置くのもお勧めです。

また、経営者や管理職といったリーダーやファシリテーター役となった人は、中立の立場を示すことも重要です。

なお、社会心理学者のリチャード・クラッチフィールドは、アッシュの行ったような同調の実験を、事情を知っている人を使わずに、パネルを用いて行いました。被験者には、他者が選んで回答した結果がパネルに示されていると説明されています。すると、アッシュの実験のような対面状況よりも、はるかに同調量が減少したといいます。

対面状況のほうが、同調は起こりやすい

のです。

オンラインやリモートで仕事を進める機会が増え、他者の意見を見聞きするかたちも多様化しました。対面で他者の発言を見聞きするばかりでなく、チャットツールや、ビデオ会議と連動したアンケートなどを用いることもあるでしょう。対面と非対面の心理的な違いは意識しておくとよいでしょう。

4 リスキー・シフトを起こす「集団分極化」

1)集団分極化とは

集団分極化とは、

集団で議論すると、議論を行う前の個々の意見が、より極端かつ大胆なものになる

という現象です。議論中、優勢な意見に沿って現状よりさらに踏み込んだ意見を出すことで、集団内の他者より抜きんでようとすることで発生します。集団分極化には2つの方向性があります。

  • リスキー・シフト:意見が極端に大胆になるケース。これまでの歴史や政治においても、大きな過ちにつながった事例がある
  • コーシャス・シフト:極端に慎重になるケース。保守的になってしまい、議論したのに何も決まらず、物事が進まないという現象

いずれにせよ、集団分極化が起こると当初の計画を逸脱してしまったり、現実的ではない結論に至ったりすることがあります。

2)集団分極化を防ぐには

集団分極化、中でもリスキー・シフトを起こしがちな集団には特徴があります。

  • 凝集性(集団がメンバーを引きつける度合い)が高い、良く言えば結束が固い集団
  • 閉鎖的な集団
  • 高いストレス
  • 支配的・指示的なリーダーの率いる集団

よって、集団分極化を防ぐには、他部署や他社、異業種とオープンな交流をしたり、会議に限らず、普段から積極的に意見を交わしやすい企業風土を醸成したりと、

組織の風通しを良くする工夫が必要

です。また、

議論後、個々に振り返りの時間を持ち、集団思考から離れて考えてみること

も大切です。

5 補足・少数派の意見が大きな力を持つとき

集団で議論をしていると、時として、少数派の意見が大きな影響力を持つことがあります。マイノリティ・インフルエンスと呼ばれますが、2種類があります。

  • ホランダーの方略:過去に集団へ大きく貢献した人が、その実績と信頼から支持を得ていく。少数派でも「あの人が言うなら」と賛同する者が増えていく。上の立場からの変革
  • モスコビッチの方略:実績のない下の立場の者でも、一貫して主張し続けることで、多数派が納得していく場合がある。「そこまで言うのなら」「もしかして(多数派の)自分たちが間違っているのではないか」と考えさせる効果がある。下の立場からの変革

出るくいは打たれるのか、涓滴(けんてき)岩をうがつのか。少数派だからといって、意見を飲み込んでしまうのではなく、積極的に表明していきましょう。それが議論を活性化させる起爆剤になることもあり得ます。活発な議論を行い、組織の新陳代謝を促すために、この記事でご紹介した心理学の知識をご活用ください。

以上(2024年12月更新)

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【ハラスメント対策】相談窓口を設置。ポイントは「相談しにくい」と思わせないこと

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメント相談窓口の設置方法などについて知りたい人
  • 課題:ハラスメントのことを周囲に知られたくない社員などが、相談をためらってしまう
  • 解決策:内部相談窓口と外部相談窓口を併設し、相談方法や担当者を複数設ける

1 相談のハードルをいかに下げるかがポイント

労働施策総合推進法などにより設置が義務付けられている「ハラスメント相談窓口」(以下「相談窓口」)には、ハラスメントに関する相談や苦情を受け付け、被害を最小限に食い止める役割があります。相談窓口がうまく機能していれば、深刻なハラスメント問題に至る前に事態を収めることができます。そして、うまく機能させるには、

社員から「相談しにくい」と思われそうな要素をできるだけなくすこと

が大切です。

例えば、相談窓口には、

  1. 内部相談窓口:社内の人材を相談窓口の担当とする
  2. 外部相談窓口:弁護士事務所やコンサルタントなどに委託する
  3. 併設:内部相談窓口と外部相談窓口を併設する

の3種類があります。中小企業では内部相談窓口が一般的ですが、「内部だと相談しにくい」という社員のケアや、複雑な事案への対応も考えるのであれば、外部相談窓口も併設するのが理想です。

また、相談窓口の存在は必ず社員に周知しなければなりませんが、その際は、次の事項などを分かりやすく伝え、相談のハードルを下げる必要があります。なお、これらの事項は、相談窓口を設置したときだけでなく、定期的に周知することが大切です。

  • 相談者のプライバシーを守ること
  • 相談しても不利益はないこと
  • 実際に起きていなくても、ハラスメントが起こりそうな状態の相談も受け付けること
  • 面談、電話、メール、ウェブ上のフォーム、郵送など相談方法を選べること
  • 相談担当者として男女それぞれを設置していること

また、相談窓口が使いやすいかどうかは、傍目からは分かりにくいので、「相談しにくい雰囲気がないか」などを、社内アンケートなどで実態を調査することも大切です。逆にちゃんと運用されていて、その上でハラスメントの問題が起きていないのであれば、それは相談窓口がうまく機能している証拠ですから、評価しないといけません。

2 「相談しにくい……」と思わせない担当者を選ぶ

内部相談窓口の担当者には、次のような人たちがいます。

  1. 経営者や役員
  2. 管理職
  3. 人事労務担当部門や法務部門の社員
  4. 社内の診察機関、産業医、カウンセラー
  5. 労働組合

経営者や役員が担当者になると、相談を受けた後の事実確認や行為者の処分の検討などをスピーディーに行えます。ただ、「経営者には相談しにくい」という社員もいますし、万が一、経営者や役員が行為者の場合、周囲が忖度(そんたく)してしまうこともあります。

こうしたデメリットを考慮するのであれば、経営者や役員だけでなく管理職も担当者に加えるようにしましょう。とはいえ、相手が直属の上司だと、やはり相談しにくいケースもあるので、その場合は複数の管理職を担当者にするなどの配慮が必要です。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、同性の担当者が相談を受け付けるのが望ましいです。そうした意味では、男女両方の担当者を置くことも大切です。

3 相談担当者の教育や研修を実施する

信頼できる相談窓口を作るためには、ハラスメントの基本知識や相談への対応方法等に関するマニュアルを作成したり、相談担当者に対する研修を実施したりするようにしましょう。相談担当者がうまく対応できないと、二次被害(相談窓口の担当者の言動によって、相談者がさらなる被害を受けること)が発生してしまう恐れがあります。こうした事態は防がなければなりません。

また、相談窓口には、内部告発(内容はハラスメントに限らない)の声が寄せられることもあります。こうした声は公益通報として、公益通報者保護法の保護下に置かれます。公益通報保護法では、社員数が常時300人超の会社に対し、「内部通報窓口」の設置などが義務付けられています。要件に該当する会社は、

相談窓口と内部通報窓口を一体的に運用すること

を検討してみるのもよいでしょう。

近年、ハラスメント事案が年々増加する傾向にある中、これからの相談担当者は最新の法律知識・社会的動向などを踏まえた対応を求められることになります。

4 フリーランスにも相談窓口の存在を明確に伝える

2024年11月1日から、フリーランス(注)に対しても、社員と同様のハラスメント防止措置を講じることが義務付けられます。相談窓口についても、基本的に社員と同じ窓口をフリーランスにも適用するという対応で差し支えありませんが、注意しなければならないのは、

あらかじめ相談窓口の存在を明確に伝えておかないと、ハラスメント事案が発生した際、フリーランスが外部のユニオンなどに駆け込んで、問題が大きくなる恐れ

があることです。フリーランスと契約を締結する際に、相談窓口の担当者や連絡先を、書面などで明らかにしましょう。

(注)ここでいうフリーランスとは、業務委託先の事業者であり従業員を使用していない者(いわゆる個人事業主等)を指します(フリーランス・事業者間取引適正化等法)。

以上(2024年11月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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目的で異なる3つの会計。財務会計・税務会計・管理会計はどのように違うのか?

書いてあること

  • 主な読者:財務会計・税務会計・管理会計の違いを正しく理解していない経営者
  • 課題:中小企業の会計は顧問税理士に任せきりで、意識せずに税務会計に偏っている
  • 解決策:外部への説明のために財務会計、経営のかじ取りのために管理会計を知る

1 経営者が意識する3つの会計

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。それぞれを簡単に説明すると、

  • 財務会計:制度会計の1つ。株主など社外の関係者に経営状況を説明するための会計
  • 税務会計:制度会計の1つ。税金を正しく計算、納税するための会計
  • 管理会計:投資判断やコスト管理など、経営者などが経営判断をするための会計

といった具合になります。また、気になるこれらの関係性は次の通りです。

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中小企業には、上場企業のように財務諸表を外部に開示する義務がありません。一方、納税義務はあるので、財務諸表は財務会計(会社法や企業会計原則など)ではなく、税務会計(法人税法など)に基づいて作成されるなど、税務会計に偏りがちです。

しかし、金融機関などに業績を説明する際、税務会計に基づく財務諸表だけだと内容が不十分なことがあります。それに、管理会計によって、定量的な指標から意思決定をすることも大切です。大切なのは、それぞれの会計の使い分けなので、この記事でそれぞれの特徴を分かりやすく説明していきます。

2 財務会計とは

財務会計は、

会社法・金融商品取引法(上場会社のみ)・会計基準などの法律や規則に基づいて実施

されます。そのため、財務会計に基づいて作成された財務諸表は他社と比較することができ、株主にとっては投資の参考資料、取引先などにとっては取引の判断材料になります。

財務会計では、会社の活動を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に区分して財務諸表を作成します。このうち資産・負債・純資産は「貸借対照表」に集計され、ある時点の会社の財産の状態を表します。また、収益・費用は「損益計算書」に集計され(収益と費用の差額が利益(または損失))、一定期間の業績を表します。

貸借対照表と損益計算書以外にも、会社のキャッシュの流れを表す「キャッシュフロー計算書」や、純資産の増減内容を表す「株主資本等変動計算書」などが作成されます。

3 税務会計とは

税務会計は、

法人税法・地方税法などに基づいて実施

されます。正しく納税額を計算して、申告期限までに確定申告書を税務署などに提出します。

税務会計では、財務会計で計算された当期純利益に一定の調整を加え、納税額を計算するための基礎となる所得を導きます。なお、財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計の「益金・損金・所得」と言い換えられますが、一部で取り扱いが異なります。そのため、税務会計の所得を計算する際は、次の4つの調整をします。

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なお、中小企業の制度会計は、上述の通り税務に偏っているのが実情であり、多くの中小企業では、税務上の益金・損金の基準に合わせて決算書を作成しています。例えば、財務会計上は認識すべき退職給付引当金について、税務上は損金不算入となるため費用計上しないといったことが生じます。その結果、貸借対照表、損益計算書に会社の財務状況が正しく反映されていないケースが多いことに留意が必要です。

4 管理会計とは

管理会計は、

法令上の決まりなどはなく、会社の考えに従って実施

されます。社内で利用するために管理会計の代表的な分析方法にCVP分析(損益分岐点分析)があります。CVP分析では、まず、財務会計上の費用(製造などに係るもの)を、

  • 変動費:売上の増減に比例して発生する費用。材料費、外注費など
  • 固定費:売上の増減に関係なく発生する費用。地代家賃、水道光熱費、交際費など

に分けます。そして、損益分岐点を計算するのですが、損益分岐点とは、

売上高から変動費を引いた「限界利益」と固定費が同額になる状態

であり、限界利益が固定費を上回ったら黒字です。損益分岐点の計算式は次の通りです。

損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))

5 それぞれの会計の処理と利益の違い

それぞれの会計の処理の違いを比べてみましょう。分かりやすく示すために、交際費を年間1000万円とします。

  • 収益:10億円
  • 費用:9億8000万円(材料費5億8000万円、労務費3億円、経費1億円(交際費1000万円))
  • 資産:3億円
  • 負債:2億5000万円
  • 純資産:5000万円
  • 1年決算法人

1)財務会計における取り扱い

財務会計では、交際費は損益計算書の費用になります。この場合の貸借対照表と損益計算書は次の通りです。

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2)税務会計における取り扱い

税務会計では、原則として、交際費は全額が損金不算入とされます。ただし、会社規模に応じた一定の措置が設けられています。期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるなどの場合、損金不算入額は次のいずれかの金額を選択できます。

  • 交際費(全額接待飲食費に該当する場合)の50%相当を超える部分の金額
  • 年間800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額(定額控除限度額)を超える部分の金額

交際費が年間1000万円の場合の損金不算入額および所得は、次のようになります。

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3)管理会計における取り扱い

管理会計でCVP分析を行う場合、交際費は固定費に分類します。前提要件に基づいて作成する管理会計(CVP分析)上の損益計算書は次の通りです。

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限界利益は4億2000万円で、固定費の4億円を上回っているので2000万円の利益が出ています。

ここで、CVP分析により、翌期に3000万円の利益を出すために必要な売上高を考えてみましょう。変動費率は今期と同じ58%(5億8000万円/10億円)、固定費は今期より2000万円増えて、4億2000万円になる予定です。この場合、来期に必要な売上高は次のように計算することができます。

(固定費+必要利益)/(1-変動費率)

=(4億2000万円+3000万円)/(1-0.58)

≒10億7143万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【かんたん消費税(2)】対応しないと取引先が損をする「インボイス制度」を今一度確認しよう

書いてあること

  • 主な読者:インボイス制度を単なる手続きだと勘違いしている経営者
  • 課題:対応しないと取引先が仕入税額控除を受けられず損をするかもしれない
  • 解決策:自社の申請、請求書のひな型変更、免税事業者との取引確認を行う

1 インボイス制度の影響

「インボイス(正式名称は「適格請求書」)制度」とは、

適用される税率や消費税額を請求書にきちんと記載し、適切に相手に知らせる

というものです。経営者が知っておくべきポイントは、

こちらがインボイス制度に対応しないと、取引相手で仕入税額控除が受けられず、取引先の消費税負担が重くなってしまうことです。これとは反対に、取引相手がインボイス制度に対応しないと、自社が損をする

ことになります。

インボイスには「適格請求書発行事業者の登録番号」を記載しますが、登録番号は自動的に発行されるものではなく、

適格請求書発行事業者の登録申請が必要

です。登録には、申請書を税務署に提出し、通知を受けます。登録番号の通知が来るまでに2週間~1カ月程度の時間がかかります。申請書を1枚提出すればよいだけの簡単な手続きなので、必要な場合には今すぐ申請しておきましょう。

2 インボイスが発行できるのは「課税事業者」のみ

適格請求書発行事業者の登録申請は、消費税の「課税事業者(納税義務がある事業者)」しかできません。もし貴社が「免税事業者(納税義務がない事業者)」であれば、

課税事業者になり、登録申請するか否かを検討

しなければなりません。免税事業者が課税事業者になると、確定申告の手間が増えます。また、納税額が増えることもあるので、税理士などに相談して慎重に判断しましょう。

3 経理の業務を売手側と仕入側で整理

1)売手側の場合

商品等を販売した相手先から求められた際は、

消費税法で決まっている項目を記載したインボイスを交付すると同時に、その写しを保存

しなければなりません。

インボイスにはどの請求書にも記載されている事項(貴社の社名や取引日、取引金額など)に加え、

  • 税率ごとの対価の合計額(税込または税抜)
  • 税率ごとの消費税額および適用税率
  • 適格請求書発行事業者の登録番号

などを記載しなければなりません。つまり、

インボイス制度に対応したフォーマットを作成する

必要があります。例えば、次のようなフォーマットです。

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2)仕入側の場合

売手から請求書を受領したら、

適格請求書として必要な事項が全て記載されているか

を確認し、抜け漏れがあれば再発行を依頼します。

大事なことなので繰り返しますが、

インボイス制度が導入された後の取引(2023年10月1日以後の取引)については、仕入税額控除は適格請求書に「記載」されている仮払消費税しか控除できない

ことになります。つまり、適正な適格請求書を入手していない場合や、インボイスを発行できない取引先(免税事業者や適格請求書発行事業者の登録申請を行っていない取引先)からの仕入れについては、原則、仕入税額控除が認められません。

4 インボイス制度の特例

1)一部省略できる「適格簡易請求書」

インボイスには、取引相手の氏名や名称を記載します。しかし、例えばスーパーなどの場合、レジで消費者に名前を聞いて記入することは非現実的です。このように、業種によっては適格請求書に必要事項の全てを記載することが難しいこともあるため、以下に示す特定の業種については、記載事項を一部省略した「適格簡易請求書」が発行できます。

小売店業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)、これらの事業に準ずる事業で、不特定かつ多数の者と取引をする事業

2)インボイスを発行しなくてよい取引

例えば電車に乗る際は切符を購入しますが、都度、公共交通機関が利用者にインボイスを発行するのは非現実的なので、インボイスの発行が免除されます。この他に、以下に示す一定の取引についても、インボイスの発行が免除されます。

  • 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
  • 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
  • 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
  • 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
  • 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス

3)免税事業者との取引について認められている経過措置

インボイス制度を導入したことによる影響の緩和措置として、インボイスが発行できない免税事業者(あるいは適格請求書発行事業者の登録をしていない事業者)との取引でも、一定期間は仕入税額控除を認める経過措置(移行期間)があります。ただし、経過措置期間中でも消費税の全額について仕入税額控除が認められるわけではなく、期間ごとに控除できる範囲が変わります。

経過措置期間中に認められる仕入税額控除の金額は次の通りです。

  • 2023年10月1日〜2026年9月30日:消費税額の80%まで控除可
  • 2026年10月1日〜2029年9月30日:消費税額の50%まで控除可
  • 2029年10月1日以降:控除不可

4)免税事業者が課税事業者を選択した場合の2割特例

免税事業者が、インボイス制度導入に伴って課税事業者を選択した場合、

納税額を、売上に係る消費税(仮受消費税)の2割とする制度

が導入されます。制度の適用にあたって、事前の届け出は必要ありません。

なお、この制度の趣旨は「インボイス発行事業者の登録によって課税事業者になってしまう小規模事業者の負担を軽減するもの」となるため、適用できるのは、「インボイス制度のせいで仕方なく課税事業者になってしまった人」ということになります。そのため、たとえ小規模事業者であっても、以前から課税事業者を選択していた事業者などについては適用されません。

また、この制度は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間について期間限定で適用されます。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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