書いてあること
- 主な読者:2024年度の法改正について知りたい経営者や実務担当者
- 課題:法改正の内容が多くてキャッチアップできていない。どれを押さえておけばいい?
- 解決策:まずは2024年4月施行のものを押さえる(主な法改正は10件)
1 2024年度の法改正を一覧表でチェック!
いわゆる「2024年問題」や「相続登記の義務化」など、2024年度もさまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2024年度の主な法改正を一覧にまとめました。
以降で、それぞれの法改正の簡単な概要と各省庁のURLを紹介します。まずは2024年4月の法改正を確実に押さえましょう。
2 2024年4月の主な法改正(10件)
1)労働条件通知書、大丈夫? 社員に明示する労働条件が増えます!
労働契約の締結・更新時に、労働条件として明示すべき事項が増えました。具体的には「就業場所・業務の変更範囲」「契約上限の有無とその内容」「無期転換の申込機会と転換後の労働条件」がそうです。これらは原則書面で明示しなければならないので、労働条件通知書などのアップデートが必要です。
■厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
2)社員数40人以上なら障害者雇用は義務です! 顧客などにも配慮して!
常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合(障害者雇用率)を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければなりません。この常時雇用する社員数が「43.5人以上」から「40人以上」に引き下げられ、障害者雇用率は「2.3%」から「2.5%」に引き上げられました。また、雇用面だけでなく、障害のある顧客などと接する際にも、障害の特性などに応じた「合理的配慮」をすることが義務化されました(従前は努力義務)。
■厚生労働省「障害者雇用対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html
■内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」■
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html
3)ついに来た、2024年問題! 建設業なども残業規制の対象です!
建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用されました。時間外労働の上限規制は、36協定に記載する時間外労働(残業)の時間数に上限を設けるというルールで、2019年4月1日から始まりました。上記の事業・業務については長らく適用が猶予されていましたが、その猶予措置が終了しました。なお、自動車運転業務の場合、拘束時間や休息時間について定めた「改善基準告示」の改正にも注意が必要です。
■厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
■厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html
4)裁量労働制の濫用防止! 導入などの手続きが厳しくなります!
「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」について、導入・運用の手続きが厳格化されました。専門業務型裁量労働制については、労使協定に記載すべき事項が追加。企画業務型裁量労働制については、労使委員会で決議すべき事項が増えた他、制度の対象となる社員の賃金・評価制度を変更する場合、労使委員会に変更内容を説明することが義務付けられました。
■厚生労働省「裁量労働制の概要」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/sairyo.html
5)化学物質、アスベスト、一側足場……。社員の安全衛生管理は大丈夫?
「リスクアセスメント対象物」に該当する化学物質を扱う場合、化学物質管理者や保護具着用管理責任者の選任や、関連事項についての衛生委員会での調査審議が義務付けられました。この他、石綿(アスベスト)の切断作業をする際に除じん性能のある電動工具の使用などが義務付けられたり、建設現場における一側足場の使用範囲が明確化されたりしています。
■厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
■厚生労働省「労働安全衛生法関係の法令等(石綿)」(令和5年8月29日厚生労働省令第105号を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/index.html
■厚生労働省「安全衛生関係リーフレット等一覧」(「足場からの墜落防止措置が強化されます(令和5年6月)」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/anzen/index.html
6)交際費の5000円ルールが「1万円ルール」に!
社外飲食費(専ら自社の役員や従業員との接待などのために支出する費を除く)に該当する交際費は、金額が一定以下であれば、原則損金に算入できない交際費の範囲から除かれ、会議費などとして損金に算入できます。この額が、2024年4月1日以降の支払いについては1人当たり5千円から「1万円」に引き上げられます。ただ、中小企業(資本金1万円以下)の場合、社外飲食費の50%までの額(飲食費の額を問わない)、もしくは年間800万円までの交際費のどちらかを選択して損金に算入できる特例があるので、そこまで気にする必要はないかもしれません。
■財務省「令和6年度税制改正の大綱の概要」■
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/06taikou_gaiyou.htm
7)相続登記が義務化。放置した場合は罰金も!
相続した不動産を3年以内(相続の開始を知った日から)に登記することが義務化されました。もし、期限内に所有権移転の登記をしない場合には、10万円以下の過料(行政上の罰金)となります。2024年3月31日以前に相続した不動産も、登記義務の対象になるので注意が必要です。
■法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html?_fsi=h8mmuWaB
■法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00590.html
8)中小企業の商機拡大! 商標登録などがしやすくなりました!
知的財産に関する複数の法律が改正されました。商標の登録要件が緩和され、デジタル空間における模倣行為の差止めも認められるようになるなど、リソースの少ない中小企業も知的財産をビジネスに活用しやすくなりました。
■特許庁「不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)」■
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html
9)「白タク」が合法に? ライドシェアが一部解禁!
ライドシェアは、配車アプリで乗客とドライバーをマッチングし、乗客がドライバーに対価を支払って目的地まで車で運んでもらうサービスです。従前はいわゆる「白タク」行為として禁止されていましたが、タクシー事業者の運行管理の下で一部認められるようになりました。
■国土交通省「自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000416.html
10)子どもは誰の子? 離婚後に生まれた子の「嫡出推定」に例外規定!
離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子とみなす「嫡出推定」について、女性が出産時に再婚していれば「現夫の子」とみなすこととする例外規定が設けられました。嫡出推定見直しに関連し、女性にのみ設けられている「離婚後100日間は再婚できない」との規定も撤廃されます。
■法務省「民法等の一部を改正する法律について」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html
3 2024年5月以降の主な法改正(3件)
1)50人超の会社に勤めるパート等は社会保険に加入!(2024年10月1日)
2024年10月1日より、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の適用対象となるパート等の範囲が拡大されます。パート等は本来、社会保険の適用対象外ですが、厚生年金保険の被保険者数が一定数いる会社に勤め、労働時間や賃金などの要件を満たすと社会保険に加入します。この厚生年金保険の被保険者数の要件が「100人超」から「50人超」へと引き下げられます。
■日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」■
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
■厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」■
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
2)フリーランスとの曖昧な契約や支払い遅延はNG!(2024年秋ごろまでに)
2024年秋ごろまでに、下請法とは別に、業務委託で働くフリーランスを保護するための法律「フリーランス保護新法」が施行予定です。給付の内容や報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示、フリーランスから給付を受けた日から60日以内に報酬を支払ったりすることなどが義務付けられます。
■厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
3)不当表示等に関する取り締まりが強化!(2024年秋ごろまでに)
2024年秋ごろまでに、商品・サービスの品質・内容・価格等を実際よりも良く見せる「不当表示」等に関する取り締まりが強化される予定です。悪質な不当表示等を行った会社に対し、行政処分を経ずに直罰(100万円以下の罰金)を科すことができるようになるなどの法改正があります。
■消費者庁「国会提出法案」(「第211回国会(常会)提出法案」を参照)■
https://www.caa.go.jp/law/bills/
以上(2024年4月作成)
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