【新人経理向け】一時的な会計と税務のルールの違いを調整する「税効果会計」

1 基本的な知識として押さえておきたい税効果会計

税効果会計とは、

会計上と税務上の収益・費用(益金・損金という)のズレを調整する決算処理

です。例えば、引当金など会計上は計上できるが、税務上は計上できないといった会計と税務の違いがあります。すなわち、利益を計上するタイミングが会計と税務で異なることから、こうした違いを調整せずに決算書を作成すると、税金費用が会計上の利益と対応しなくなり、適正な期間損益計算が行えなくなります。そこで、会計上の利益に対応する税金費用を計算するための決算処理が必要になるのです。

税効果会計が義務付けられているのは次の会社です。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場会社(1億円以上の発行価額で有価証券の募集を行った場合など)
  • 会計監査人を設置している会社(非上場も含む)

一方で、中小企業の税効果会計は任意での適用となっています。その理由は、

法人税等の額が少額だったり、株主が親族だけだったりする中小企業は、調整をしなくても特段問題が生じない

からです。税効果会計を行うことで、自社の経営成績を正確に把握できたり、経営指標の健全化を図れたりするメリットもあるため、中小企業の経理担当者も押さえておくべき知識です。

2 仕組みから理解する税効果会計の調整と効果

税引前当期純利益と課税所得(税務上の利益)が共に1000万円で、法人税等を300万円とした場合、損益計算書の税引前当期純利益から税引後当期純利益までは次のようになります。

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もし、×1年度において、会計上で500万円を費用処理したものが、税務上で損金とすることができない場合、課税所得は1000万円ではなく1500万円(1000万円+500万円)になります。この場合は次のようになります。

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×2年度において、前年度(×1年度)に費用処理した500万円を税務上、損金とすることができたとします。会計上の税引前当期純利益が前年度と同じく1000万円なら、税務上500万円が損金となるので、課税所得は500万円(1000万円-500万円)となります。

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税引前当期純利益が、×1年度、×2年度共に1000万円なのに、法人税等の額が、

×1年度は450万円

×2年度は150万円

と大きく違ってくるのです。

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税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点が異なることから生じた差異(税引前当期純利益とそれに対応する法人税等が一致しない部分)を、次のように調整します。

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×1年度において、法人税等450万円のうち、税引前当期純利益1000万円に対応する300万円(1000万円×30%)を超える150万円(450万円-300万円)分の法人税等、つまり、税務上損金にできなかった500万円に対する法人税等(500万円×30%=150万円)を減額することで、会計上の利益と対応した税額に調整できます。

また、×2年度において、税引前当期純利益1000万円に対応する税額は300万円なのですが、課税所得計算上は150万円です。これは×1年度の課税所得計算上損金にできなかった500万円が×2年度に損金計上できることになったためです。そこで、×1年度に税額調整した150万円を×2年度の税額に加えて300万円(150万円+150万円)に増額し、会計上の利益と対応した税額に調整します。

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このようにして、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることができるのです。

3 税効果会計の対象は「一時差異」だけ

税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点の差異を次のように分けています。

  • 一時差異:ずれが一時的に限定されるもの。減価償却費、引当金など
  • 永久差異:ずれが永久に解消されないもの。交際費、寄付金、役員報酬など

税効果会計で調整が必要なのは一時差異だけで、永久差異は対象外となります。あくまで、税効果会計は認識時点にずれの生じたものを調整する手続きだからです。

さらに、一時差異は次のように分けられます。

  • 将来減算一時差異:将来の課税所得を減額させる一時差異
  • 将来加算一時差異:将来の課税所得を増額させる一時差異

それぞれ取り扱いが異なりますので、以降で具体例を確認してみましょう。

4 将来減算一時差異と繰延税金資産

次の条件を基に、将来減算一時差異と繰延税金資産について説明します。

  • ×1年度において、棚卸資産が陳腐化したため、500万円の評価減をした。ただ、これは税務上認められないので、税務上、自己否認(決算書において費用として計上した500万円の評価減の金額を税務申告書で自ら否認して、課税所得を算出)した
  • ×2年度において、評価減した棚卸資産を販売したため、×1年度に評価減した500万円が税務上、損金として認容(過去に否認した損金を、損金算入)された
  • ×1年度、×2年度の税引前当期純利益はそれぞれ1000万円で、実効税率は30%

×1年度と×2年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税等の計算から分かるように、棚卸資産の評価減を自己否認した×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得1500万円の間に500万円の差異が生じています。また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り大きく異なったものとなり、一定率の対応関係にありません。

×1年度:450万円

×2年度:150万円

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(450万円-150万円)

×2年度:300万円(150万円+150万円)

×1年度と×2年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金資産とは、前払税金に相当するもので、将来の期間利益に対応すべき税額ですが、当期に支払うものとして位置付けることができます。税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年度において課税所得を減額する働きがあります。

5 将来加算一時差異と繰延税金負債

次の条件を基に将来加算一時差異と繰延税金負債について説明します。

  • ×1年度に導入した設備について、税法上500万円の特別償却が認められるため、この特別償却を剰余金処分方式により特別償却準備金として積み立て、税務申告において減額した。この準備金は積み立てた翌期から5年間にわたり均等額を取り崩す

特別償却とは、投資額の一定割合を税務上の損金に計上できる制度です。ただ特別償却は会計上では計上されないため、会計上、特別償却の処理のつじつまを合わせるために、剰余金処分の方法で準備金として積み立てる処理が行われます。積立金の取り崩し期間は税法で定められており、前述の例では5年(設備の法定耐用年数が5年以上10年未満)としています。

×1~×6年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税、住民税及び事業税の計算から分かるように、×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得500万円の間に500万円の差異が生じています。また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は次の通りです。

×1年度:150万円

×2年度:330万円

×3年度:330万円

×4年度:330万円

×5年度:330万円

×6年度:330万円

×1年度と×2~×6年度の法人税等は異なります。一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税等の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(150万円+150万円)

×2年度:300万円(330万円-30万円)

×3年度:300万円(330万円-30万円)

×4年度:300万円(330万円-30万円)

×5年度:300万円(330万円-30万円)

×6年度:300万円(330万円-30万円)

×1~×6年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金負債とは、未払税金に相当するもので、当期の利益に対応すべき税額ですが、将来に支払うものとして位置付けることができます。税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年~×6年度において課税所得を加算する働きがあります。

以上(2025年4月)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【株主総会】面倒でも株主総会を開催しないと「会社法」違反!

1 株主総会を開催しない株式会社はやばい?

この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社(公開会社でない会社)とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

株主が経営者とその親族などに限られているオーナー企業では、「いつでも株主と連絡が取れる」「株主総会の実務が面倒」といった理由から、実際の株主総会を開催せず、議事録だけを作成しているケースがあります。しかし、これは会社法第319条第1項で株主総会の決議の省略が認められている場合を除き会社法違反です。

なぜなら、株主総会は株式会社に必ず必要な「機関」です。また、株主総会には、

  • 定時株主総会:事業年度の終了後に開催
  • 臨時株主総会:定時株主総会以外で必要がある場合に開催

がありますが、会社法上、定時株主総会(以下「株主総会」)は事業年度に1回、必ず開催しなければなりません。つまり、

株主総会を開催しなくてよい株式会社はない

ということになります。

2 株主総会で決められることは限定的?

取締役会を設置している会社は、

  • 株主総会の決議事項は、法令で定められた事項と定款に定めた事項に限り認められる
  • 株主総会の議案として上程したもの以外は、原則としてその株主総会では決められない
  • 株主総会の議題については、事前に取締役会の決議が必要

といったルールがあります。つまり、株主総会だけで新しいことをあれこれと決めることはできません。何を決めなければならないのか、事前の取締役会の決議の時点から漏れなどがないようにしなければなりません。以降で、株主総会の主な議題と留意点を確認していきましょう。

3 株主総会の主な議題と留意点

1)計算書類の承認と事業報告の報告

計算書類とは要するに決算書のことで、株主総会で承認のための普通決議を受けなければなりません。普通決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)よる決議

です。また、取締役は株主総会で事業報告をしなければなりません。事業報告とは、文字通り、事業の状況に関する報告です。

取締役会設置会社の場合は、

計算書類と事業報告は取締役会における承認が必要

となるので注意しましょう。

2)取締役・監査役の選任

取締役・監査役の選任には、株主総会の決議が必要です。取締役の任期は原則2年、監査役の任期は原則4年です。ただし、非公開会社の場合、取締役・監査役ともに、定款に定めることで任期を最長10年に伸長できます。

3)取締役の報酬

取締役の報酬は、次の事項を定款に定めるか、定めないときは株主総会の普通決議が必要です。

  1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
  2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
  3. 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2.は業績連動型報酬などのように事前に額を確定できないもの、3.は現物支給やストックオプションなどが該当します。中小企業では、1.に該当するものがほとんどでしょう。

なお、取締役会設置会社の場合、全取締役の報酬総額を「年額○○○万円以内とし、各役員の具体的な報酬額は取締役会に一任する」などと株主総会で決議し、報酬額は取締役会で決定することが実務上は多いです。

株主総会での決議は、一度決議をした範囲で報酬額を決定している限り、毎年行う必要はありませんが、全取締役の報酬総額の上限を超えて報酬を支払う場合や、取締役の報酬総額を決議した内容と異なる報酬額とする場合は、改めて株主総会で決議する必要があります。

4)定款の変更

定款の変更は、株主総会での特別決議が必要です。特別決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)よる決議

です。

定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。絶対的記載事項は、定款に必ず記載する必要があり、その規定を欠くと定款が無効になる事項です。相対的記載事項は、記載がなくても定款の効力自体に問題はありませんが、記載がなければその効力が認められません。任意的記載事項は、会社が任意に記載する事項です。

相対的記載事項を新たに設定する場合、本当に定款に定める必要があるか否かについて会社法の規定を確認する必要があります。絶対的記載事項と主な相対的記載事項は次の通りです。

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以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:Mariko Mitsuda

「勤務時間外は電話に出ません!」 つながらない部下の対処法

1 たまに耳にする「つながらない権利」って何?

皆さんは「つながらない権利」という言葉をご存じですか?

プライベートの時間(勤務時間外)では、社員は会社からの仕事に関する連絡(電話・メール・チャットなど)への対応を断ることができるという権利

のことです。フランスで2016年に法制化されたのをきっかけに、他のヨーロッパ諸国でもこのつながらない権利が広がっています。国によっては、勤務時間外の連絡そのものを禁止していて、違反すると会社に罰金が科される場合もあるほどです。

日本では法制化には至っていませんが、

テレワークなどで働き方が自由になった一方、仕事とプライベートの境界があいまいになり、社員が「常に仕事につながれた状態」になりやすい環境

ができています。そんな中で、つながらない権利をめぐって上司と部下が対立することもしばしば。例えば、上司が急ぎでお願いしたいことがあっても、部下が「勤務時間外ですから」とそれを突っぱねてしまうのです。上司と部下、両者の主張はおそらくこんなカンジでしょう。

(上司)そりゃ、プライベートは大切だろうけど、時と場合によるだろう! そっちは勤務時間外でもこっちは働いているんだ! 少しは融通を利かせてくれないと困る!

(部下)こっちは休みたいし趣味だって楽しみたいのに、当然のように連絡されたんじゃプライベートの意味がない! 勤務時間中は真面目に働いているんだから、いいでしょ!

つながらない権利は、基本的には部下寄りの考え方に立ちますが、会社からすると上司の主張も一理あるかもしれません。どちらの主張も汲んだ「バランスの取れたつながらない権利」を実現するにはどうすればいいのか、そのためには「会社」「上司」「部下」それぞれが以降で紹介するポイントを押さえることが大切です。

2 会社:働き方のルールをきちんと作る!

1)「原則、勤務時間外には連絡しない。ただし、急ぎの案件などは別」が基本

まずは、会社が働き方のルールをきちんと作りましょう。就業規則等に、つながらない権利の規定を設けている会社は少数派かもしれませんが、例えば日本労働組合総連合会(以下「連合」)が次のような規定例を紹介しています。

【規定例】

第〇条(つながらない権利(勤務時間外の連絡))

1 会社は勤務時間外の従業員に対し、緊急性が高い場合を除き、電話、メール、その他の方法で連絡等を行わない。

2 従業員は、勤務時間外の別の従業員に対し、電話、メール、その他の方法で連絡をしてはならない。ただし、緊急性の高いものはこの限りではない。

3 勤務時間外の従業員は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡について、応対する必要はない。

4 会社は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡に応対しなかった従業員に対して、人事評価等において不利益な取扱いをしない。

(出所:連合「【重点分野-2】テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」)

ざっくりポイントをまとめると、

会社は原則として、勤務時間外には社員に連絡しないが、急ぎの案件などでは連絡することがある。ただし、社員が応対しなくても、人事評価等で不利益な取扱いはしない

です。

2)連絡手段についてはもう少し細かいルールを

連絡手段については、必要に応じてもう少し細かいルールを決めておくのもよいでしょう。例えば、

  • 普段、業務で使用するチャットツールについては、勤務時間外では通知をオフにすることを推奨し、社員が安心してプライベートを過ごせるよう配慮する
  • その上で、どうしても急ぎ連絡を取らなければならない場合は、あらかじめ「急ぎの連絡手段(携帯電話への連絡など)」を決めておき、そちらに連絡する

といった具合に、連絡手段を使い分けるようにすると、メリハリが付けやすいかもしれません。あるいは、チャットツールなどについて、深夜・早朝・休日などの時間帯にはアクセス制限をかける仕組みを整えると、上司が部下に悪気なく連絡してしまうのを防ぐことができます。

3)社外への伝達も忘れずに!

社員のプライベートを守るためには、取引先などに自社の営業時間をきちんと伝えておきましょう。例えば、自社のウェブサイトや問い合わせフォームに

「弊社の営業時間は平日9時~18時です。土日祝日は休業日のため、お問い合わせには翌営業日に対応いたします」

といった表記をすることが考えられます。

この他、システム面を工夫して、休暇中の社員への電話を会社に転送したり、時間外に届いたメールを自動削除して再送を求めたりする機能を導入している会社もあります。こうした機能がある場合は、あらかじめ取引先などに説明し、理解を得るようにしましょう。

3 上司:勤務時間外には原則連絡せず、する場合も配慮を!

1)「自分が若い頃は……」は通用しない

上司の中には、「自分が若い頃は、夜中や休日に上司から連絡を受けても対応していた」という人がいるかもしれませんが、今の時代、それは通用しません。本来、プライベートの時間は体を休めたり、趣味を楽しんだりするためのものであり、上司から連絡が来るのが当たり前になると、部下は安心して休むことができません。厳しいようですが、

「原則、勤務時間外には連絡しない」というのが鉄則。しなければならないのだとしたら、それは自身のマネジメントに問題がある

ぐらいに思っておいたほうがいいでしょう。

2)「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有する

とはいえ、1)のように教科書通りにもいかないのがビジネスなので、どうしても部下に連絡をしなければならない場合に備え、「急ぎの連絡をする基準」を部下と共有しておきましょう。

  • 基本は「部下にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
  • 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない

です。休日などに、「翌営業日の対応で間に合うが、忘れないうちに部下に連絡しておきたいので……」とチャットだけを送る上司もいるでしょうが、

上司が即日返信を求めていなくても、部下のほうはいざ連絡を受けると、「自分も早く返信しなければ」と圧を感じることがある

ので、避けたほうが無難です。

また、連絡する場合は次のポイントを意識すると、部下も対応しやすいでしょう。

  • 要点を簡潔に伝える
  • 急ぎかどうかを明確にする
  • 深夜や早朝など、対応が難しい時間帯は避ける

3)稼働した時間の労働時間管理はしっかりと!

勤務時間外に部下に何らかの作業を依頼する場合、部下が稼働した時間は労働時間になります。当然、稼働した時間分の賃金は必要ですし、状況によっては時間外・休日労働の割増賃金も支払わなければなりませんから、労働時間管理はしっかり行いましょう。

4 部下:急ぎの連絡については、可能な限り協力を!

1)正当な業務命令であれば、基本的には従う

部下にとっては「勤務時間外はなるべく会社から連絡を受けたくない」ものですし、ここまでお話しした通り、つながらない権利は最大限尊重されるべきものでしょう。

一方、ほとんどの会社は就業規則等で「36協定に基づき、社員に時間外・休日労働を命じることがある」などの規定を設けています。

部下のほうも正当な業務命令であれば、基本的にはそれに従う義務がある

ので、その点は認識しておきましょう。とはいえ、休日などに急に連絡を受けて即座に対応するのが難しいケースもあるので、その場合は上司に

「今すぐは無理ですが、○時以降なら対応できます」

などと返事して、落としどころを探りましょう。

2)上司のつながらない権利にも配慮を!

また、ここまでは「上司が勤務中」「部下が勤務時間外」という前提で話をしてきましたが、逆のパターンで「部下が勤務中」「上司が勤務時間外」というケースもあります。その場合は当然、部下のほうも上司のつながらない権利に配慮をする必要があります。第3章で紹介した通り、

  • 基本は「上司にその日のうちに連絡をしないと業務に支障が出る場合のみ」連絡する
  • 翌営業日の連絡で間に合うなら、翌営業日に回してその日は連絡しない

です(上司から「今日は先に上がるけど、○時に業務の報告をしてほしい」などと頼まれた場合は別です)。

以上(2025年4月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】テンポと情報量。今どきは情報発信もTPOが大切

【ポイント】

  • 動画は特にテンポが大事。テンポが良くないと見ている側がストレスを感じる
  • 話す速度もテンポが大事だが、人の話で肝心なのは「内容の深さ」になってくる
  • どのような方法で情報を伝えるかによって、適したテンポや情報量は違う

YouTube(ユーチューブ)やTikTok(ティックトック)など、今や世の中にはさまざまな動画コンテンツがあふれています。当社も最近になって、会社の情報を発信するための動画制作を始めました。今日はそんな動画制作について、最近感じたことをお伝えします。

先日、知り合いの放送作家からこんな話を聞きました。その人いわく「ドラマで大事なのは脚本よりもテンポだ。どんなに脚本が良くても、テンポが悪いとつまらなくなる」のだそうです。脚本は面白いのに、場面が切り替わるときにたった2秒、余計な間が入るだけでテンポが悪くなり、そのせいで視聴者から「つまらない」と酷評されたドラマもあるのだとか。

私は以前、「社長の一日」という動画を制作しましたが、最初は動画の冒頭で、「今日の予定」を一覧で見せてから、顧客の訪問シーンに入ろうとしていました。そのほうが視聴者に分かりやすいと思ったからです。しかし、動画制作のプロからは、「動画ではそういう情報はいらない。テンポ良く、訪問シーンを次々に入れるほうが見やすい」と、きっぱり言われました。実際、できあがった動画では「今日の予定」はカットになりましたが、そのほうが断然見やすかったのです。制作者側が入れたい情報と、視聴者側が消化できる情報の間には、大きなギャップがあったわけです。

もちろん、情報発信においてはテンポだけでなく、情報量も大切です。例えば、私は最近、AIの最新動向のセミナーを聞きにいきました。登壇者がかなり早口な方でしたが、それでも苦にはなりませんでした。実際にAIを作っている人にしか話せない、知らない世界の面白い話ばかりだったからです。仮にセミナー内容を動画で配信するとしても、テンポのために話の一部をカットして「内容の深さ」を犠牲にすることはしたくありません。そうなってくると、この場合、多くの人にストレスを与えることなく情報を届ける方法は、動画よりもテキストのほうが向いているのかもしれません。

どのような方法で情報を伝えるかによって、適したテンポも情報量も違ってきます。さまざまな情報発信の手段がある今では、相手のことを考えた「情報発信のTPO」がとても大切なのではないか。これが、動画制作をするようになってから特に私が実感していることです。

以上(2025年4月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【かんたん法人税(8)】決算と申告・納付

1 決算と申告・納付の重要なポイント

シリーズ第8回は、決算と申告・納付の手続きに注目します。まずは、決算から税額を納付するまでの一連の流れを把握しましょう。

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決算と申告・納付の重要ポイントは次の通りです。

  • 決算から税額の納付までの作業内容
  • 4つの申告手続き(確定申告、中間申告、修正申告、更正の請求)
  • 申告・納付が遅れた、または間違えた場合の税金

2 決算から税額の納付までの作業内容

1)ステップ1(決算手続き)

決算手続きは「実査手続き」とも呼ばれ、帳簿に記載されている資産の金額や数量と、実際の金額や数量が一致しているかを確認する手続きです。

この手続きを通じて、現金や預金の残高、棚卸資産の数量の他、除却済みの固定資産が帳簿に残っていないかなどを確認し、帳簿上の残高と実際の残高を一致させます。もし不一致があった場合には、その原因を究明した上で、差額を損益計算書に計上します。

2)ステップ2(決算調整)

決算で費用として計上する処理(損金経理処理)をしていなければ、税務上で損金に算入できない項目があります。例えば「固定資産の減価償却費」「繰延資産の償却費」「貸倒引当金繰入」「資産の評価損」などが該当し、このような項目を「決算調整項目」といいます。

決算調整項目についてはこのステップで金額を計算し、費用に計上する処理をします。期中の仕訳(日常行われている取引の仕訳)にこの決算調整を加えることで、会計上の利益を確定させます。

3)ステップ3(申告調整)

会計上の収益・費用と税務上の益金・損金は必ずしも一致しません。そこで、「会計上の利益」をスタートとして、ステップ2で確定した会計上の利益から税務上の所得金額(税務上の利益)を算出する手続きをします。

この手続きを「申告調整手続き」といい、申告調整が必要な項目を「申告調整項目」といいます。主な申告調整項目には「役員賞与」「税務上認められる金額を超えて計上した減価償却費」「受取配当金」「延滞税や加算税などの附帯税」などがあります。この申告調整手続きは、法人税の確定申告書(別表)上で行います。

4)ステップ4(税額計算)

申告調整手続きにより計算された所得金額に、税率を乗じて年間の法人税額を計算します。

法人税の税率は、原則として23.2%です。ただし、中小法人資本金が1億円以下の一定の法人)の場合、所得のうち年800万円までの金額は15%に軽減されます。

なお、所得拡大促進税制などの優遇措置(税額控除)が適用できる場合は、このステップで税額控除額を計算し、法人税額から控除します。そして最後に事業年度中に納付した中間納付額を差し引いて、確定申告により最終的に納付すべき法人税の金額が計算されます。

5)ステップ5-1(確定申告書の提出)

ステップ4において法人税の金額を計算後、その法人税の金額などを記載した確定申告書を所轄税務署に提出します。提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。例えば、3月末決算の法人の場合は、5月31日が提出期限日となります。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは、申告期限を延長することもできます。なお、確定申告書は書面(紙)にて提出する方法の他、電子申告(e-Tax)によって提出する方法もあります。

6)ステップ5-2(法人税の納付)

ステップ5-1により確定申告書を提出するとともに、法人税を納付します。法人税の納付は、納付書を利用して金融機関の窓口で納付する方法や電子納税(インターネットバンキングなどを利用した納税)の他、クレジットカードを利用した納付もできます。

なお、納付期限は確定申告書の提出期限と同様に「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。確定申告書の「提出期限」について延長の承認を受けている場合でも、法人税の「納付期限」については延長されません。誤って確定申告書の提出期限(延長された期限)に納付を行った場合、利子税(利息のようなもの)が課されますので注意しましょう。

3 さまざまな申告手続きの違い

1)確定申告

確定申告とは、各ステップによって計算した各事業年度の所得金額や、法人税額を申告・納税する手続きをいいます。ステップ5-1で解説した通り、提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」となりますが、次のようなケースについては、所定の申請書を提出することにより、申告期限を延長することも可能です。

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2)中間申告

事業年度が6カ月を超える法人(前事業年度の法人税額20万円以下の法人を除く)については、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内(3月末決算法人の場合は、11月30日)に「中間申告書」を提出するとともに、「中間法人税」を納付します。一般的な1年決算法人の場合、中間法人税は基本的に前事業年度の法人税の12分の6相当額を納付します。

なお、確定申告書作成時と同様の手続き(上記ステップ1~4)を行った上で中間申告書を作成し、申告・納付を行う方法も認められており、これを「仮決算による中間申告」といいます。もし「前事業年度の法人税の12分の6相当額」より「仮決算による中間申告」を行うことにより中間納付額が少なくなる場合には、「仮決算による中間申告」を選択すると中間納付に係る納税資金が少額で済みます。ただし、手続きが煩雑となる点に注意しましょう。

3)修正申告

過去に行った法人税の確定申告の内容に誤りがあり、法人税を本来の法人税額より「少なく申告」していた場合は、正しい申告書を所轄の税務署長へ再提出し、不足していた法人税額を追加納付しなければなりません。この手続きを「修正申告」といいます。修正申告を行った場合、不足していた法人税額の他、後述する延滞税などの附帯税を併せて納める必要があります。

4)更正の請求

修正申告とは逆に、法人税を本来の法人税額より「多く申告」していた場合には、過大に納付していた法人税額の還付を所轄の税務署長に請求することができます。これを「更正の請求」といいます。

なお、修正申告については、修正申告書の提出とともに、不足していた法人税額を同時に納付する必要がありますが、「更正の請求」については、過大に納付していた法人税が必ず還付されるとは限りません。更正の請求を行った場合、一般的には申告内容の誤りについて証明するような書類の追加提出などが求められ、税務署内で審議した結果、「申告内容に誤りがある」と認められて初めて還付を受けることができます。なお、更正の請求ができるのは、確定申告書の申告期限から5年間である点に注意しましょう。

4 申告・納付が遅れた、または間違った場合の税金

1)延滞税

延滞税とは、法人税の納付が納期限後になってしまった場合や、修正申告により不足していた法人税を追加納税した場合に課されるものです。税率(2025年の場合)は、「納付が遅れた法人税の金額」や「修正申告により追加納付した法人税額」に対して、年2.4%(納期限の翌日から2カ月を経過した日以降は年8.7%)となります。

2)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、修正申告により追加納税した法人税に対して課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 自ら誤りに気が付いて自主的に修正申告を行った場合:過少申告加算税はかかりません
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の5%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については10%)
  • 税務調査の実施後に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の10%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%) 

2.無申告加算税

無申告加算税とは、確定申告書の提出が申告期限を過ぎてしまった場合に課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 正当な理由があり、法定申告期限から1月以内に確定申告を行った場合:無申告加算税はかかりません。
  • 税務調査の予告がなく、自ら自主的に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の5%
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の10%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%)
  • 税務調査の実施後に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の15%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分は30%)

なお、過去5年以内に無申告加算税または3.の重加算税を課されたことがあるときは、上記の税率に10%がさらに加算されます。

3.重加算税

重加算税とは、仮装や隠蔽など悪質な申告の誤り(申告漏れや脱税行為など)に係る追加納税額に対して、上記の過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される非常に重い加算税です。

税率は、過少申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の35%、無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の40%となります。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追加納付税額の45%(無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の50%)と、さらに重い加算税が課されます。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【新人経理向け】お財布事情をごまかしなく表す「キャッシュフロー計算書」

1 第三の財務諸表「キャッシュフロー計算書」とは

キャッシュフロー計算書は、損益計算書、貸借対照表と並ぶ第三の財務諸表です。キャッシュは現金、フローは流れという意味で、一定期間の企業の現金の流れ、企業の現金収支を表します。

企業会計は、発生主義の原則(収益や費用が発生した時点で財務諸表に計上すること)による損益計算を中心に行われるため、現金の流入を伴わない未収収益や、現金の流出を伴わない未払費用も計上されます。また、建物や機械装置、車両運搬具、土地などの取得に伴う現金支出は費用ではなく資産として計上されます。そのため、会計上の売上や費用を計上するタイミングと、キャッシュの出入りが一致しないことがあります。キャッシュフロー計算書があると、こうした損益計算書と貸借対照表では分からないキャッシュの出入りを明らかにすることができます。

キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは、会計監査が強制される金融商品取引法適用会社(有価証券報告書、有価証券届出書提出会社)だけです。

一方で、キャッシュフロー計算書を作成すると、資金繰りの状況がわかりやすくなりますし、金融機関や取引先からの信頼向上を図る上でも重要な資料となるので、中小企業でも作成することが望ましいといえます。

この記事では、キャッシュフロー計算書について勉強したい新人経理担当者向けに、各項目の概要と、キャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。

2 キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲

キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲は現金及び現金同等物としており、その内容は次の通りです。

1)現金

手元現金及び要求払預金を指します。要求払預金とは、預金者が一定の期間を経ることなく引き出すことができる預金をいい、例えば、普通預金、当座預金、通知預金が含まれます。預入期間の定めがある定期預金は要求払預金には該当しません。

2)現金同等物

容易に換金可能かつ、価値の変動について僅少(きんしょう)なリスクしか負わない短期投資を指します。定期預金は要求払預金には含まれませんが、3カ月以内の期間設定の定期預金であれば、現金同等物に含まれます。容易な換金可能性と僅少な価値変動リスクの要件をいずれも満たす必要があり、市場性のある株式などは換金が容易であっても、価値変動リスクが低いとはいえず、現金同等物には含まれません。

なお、現金同等物として具体的に何を含めるかについては、各企業の資金管理活動により異なることが予想されるため、経営者の判断に委ねることが適当と考えられています。従って、現金及び現金同等物の内容に関しては会計方針として注記する必要があります。

3 キャッシュフロー計算書の概要

1)キャッシュフロー計算書のイメージ

キャッシュフロー計算書では、その源泉によってキャッシュフローを次のように分けています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書(間接法)のイメージは次の通りです。

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2)営業活動によるキャッシュフロー(間接法)

日本に導入されているキャッシュフロー計算書は、米国と同様に直接法と間接法のどちらかを選択できるようになっています。

直接法は、商品の販売や仕入れ、経費の支出など、主要となる取引を個々に合算していく方法です。従来の損益計算とは別で新たに営業活動によるキャッシュフローを計算するための手続きを一から行う必要があり、計算手続きに労力がかかります。

一方で、間接法は損益計算書の税引前当期純利益を基に加減して計算できるため、直接法と比べると労力が少なくすみます。

間接法による営業活動によるキャッシュフローの計算は、税引前当期純利益から開始し、これに、支出を伴わない費用である減価償却費、貸倒引当金の増加額などを加算します。そして損益項目と貸借対照表項目を加減することによって、営業活動によるキャッシュフローを計算します。

1.利息及び配当金の受取額

税引前当期純利益から発生ベースによる受取利息・受取配当金(損益計算書の数値)を減算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる受取利息・受取配当金を加算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

2.利息の支払額

税引前当期純利益に発生ベースによる支払利息(損益計算書の数値)を加算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる支払利息を減算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

3.為替差額(為替レートによる差額)

為替差益は減算し、為替差損は加算することにより、営業活動によるキャッシュフローの算出過程から除きます。為替差額は現金及び現金同等物に係る換算差額の欄で改めて独立表示します。

4.有形固定資産売却損益

有形固定資産の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、有形固定資産の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、有形固定資産の売却による収入として表示します。

5.投資有価証券売却損益

キャッシュフロー計算書(間接法)の様式にはこの項目はありませんが、投資有価証券売却損益についても同様の処理をする必要があります。

投資有価証券の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、投資有価証券の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、投資有価証券の売却による収入として表示します。

6.売上債権(売掛金)の増減額

売上債権の増加額は減算し、逆に売上債権の減少額は加算します。売上債権は将来の現金収入につながるものですが、現金収入に至るまでの経過的な勘定です。

7.たな卸資産(期末たな卸高)の増減額

たな卸資産は売り上げの実現により、将来の現金収入につながる資産ですが、たな卸資産の取得は現金支出により取得されたものです。たな卸資産の増加額は減算し、逆にたな卸資産の減少額は加算します。

8.仕入債務(買掛金)の増減額

仕入債務の増加額は加算し、逆に仕入債務の減少額は減算します。仕入債務は将来の現金支出につながるものですが、現金支出に至るまでの経過的な勘定です。

3)投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローは、固定資産や有価証券の取得・売却、資金の貸付け・回収による資金の収支を計算するものです。

発生主義会計においては固定資産・有価証券の取得は損益計算とは関係せず、貸借対照表に資産として計上されます。また、固定資産・有価証券の売却は、損益計算では営業外損益または特別損益に、売却益または売却損のみが計上され、貸借対照表上に計上されている資産が減少します。このように、固定資産・有価証券を売却した場合、売却額(売却による現金収入の総額)が明確になりませんが、投資活動によるキャッシュフローではそれを把握できる利点があります。

4)財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローは、企業の従来の資金繰りに当たる内容になります。資金の借り入れによる収入、社債発行による収入、株式発行による収入、借入金返済による支出、社債償還による支出、自己株式取得による支出、配当金の支払額などが一覧で把握できます。

5)現金及び現金同等物の計算

営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの合計額に現金及び現金同等物に係る換算差額を加減し、現金及び現金同等物の増減額を計算し、これに現金及び現金同等物の期首残高を加算し、現金及び現金同等物の期末残高を計算します。この現金及び現金同等物の期末残高は、貸借対照表に含まれる現金及び現金同等物の額と一致することになります。

4 キャッシュフロー計算書の作成例

簡単な例を使って、×1年度におけるキャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。税引前当期純利益は1000万円とします。

下表(C/F1)~(C/F25)の記号は、キャッシュフロー計算書上で確認しやすいように付けたものです。金額の右側の(加算)(減算)は、キャッシュフロー計算書における加算と減算を表します。

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以上を基にキャッシュフロー計算書を作成すると次のようになります。

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以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Supatman-Adobe Stock

【かんたん法人税(7)】中小企業に係る税務

1 中小企業に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第7回は、中小企業に係る税務上の取り扱いに注目します。中小企業に対する税務上の優遇措置は多いですが、注意が必要なのは、

一般的に中小企業と呼ばれる会社の全てが、税務上の中小企業に該当するとは限らない

ことです。税務上、中小企業は「中小法人等」または「中小企業者等」と表現され、それぞれ定義は次の通りです。優遇措置には、「中小法人等に適用されるもの」と「中小企業者等に適用されるもの」とがあるため、2つの用語の定義を正確に理解しておく必要があります。

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中小法人等・中小企業者等に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

1.中小法人等に適用される優遇措置

  • 法人税の軽減税率の適用
  • 欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和および繰戻還付制度の適用
  • 交際費の定額控除限度額
  • 特定同族会社に対する留保金課税の適用除外

2.中小企業者等に適用される優遇措置

  • 中小企業投資促進税制
  • 少額減価償却資産の全額損金算入
  • 試験研究費の税額控除の特例(中小企業技術基盤強化税制)
  • 賃上げ促進税制

2 中小法人等に適用される優遇措置

1)法人税の軽減税率の適用

法人税の税率は原則として23.2%ですが、中小法人等の場合、所得のうち年800万円までの金額は15%に軽減されます。

ただし、2025年4月1日以降に開始する事業年度については、所得金額が10億円を超える場合に限り、軽減税率が15%から17%に引き上げられます。

2)欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和および繰戻還付制度の適用

1.欠損金の繰越控除額に対する制限の緩和

前事業年度以前に生じた欠損金は、当事業年度以降に生じた所得金額から控除できます。中小法人等以外の法人は、控除できる金額が「(欠損金控除前の)所得金額の50%まで」に制限されています。

一方、中小法人等については「50%制限」がないため、所得金額以上の欠損金がある場合は、欠損金の全額を所得金額と相殺することができます。そのため、欠損金が所得金額を超える場合には、法人税の納税は発生しません。

2.繰戻還付制度の適用

繰戻還付制度とは、欠損金が生じた場合において、欠損金が生じた事業年度(当事業年度)開始前1年以内に開始した事業年度(一般的には前事業年度)に所得が生じており、納税していた場合には、当事業年度に生じた欠損金の金額を前事業年度に生じた所得に繰り戻して(遡って)相殺し、納税済みの税金の還付を受ける制度です。

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この繰戻還付制度は、現在は取り扱いが停止されていますが、例外として、中小法人等は適用することができます。なお、還付されるのは法人税と地方法人税のみであり、地方税(住民税や事業税)については還付されません。

3)交際費の定額控除限度額

原則として、交際費は全額が損金算入できません。しかし、取引先との接待飲食費(社外飲食費)の50%相当額については、損金算入できます。また、中小法人については、特例として年800万円まで損金算入が認められています(「定額控除限度額」といいます)。

つまり、中小法人は社外飲食費の50%相当額と定額控除限度額とを比較し、いずれか多い方を損金算入限度額として選択することができます。

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4)特定同族会社に対する留保金課税の適用除外

一定の同族会社については、原則として、通常の法人税の他に「留保金課税」という特別の税金が追加で課税されます。しかし、中小法人等については、例外としてこの留保金課税が「適用除外」とされています。留保金課税は、所得に対する法人税の他に追加で負担すべき税金です。中小法人等に該当するか否かで税負担が大きく変わってくるので、判定は慎重かつ正確に行う必要があります。

3 中小企業者等に適用される優遇措置

1)中小企業投資促進税制

中小企業者等が機械装置等に設備投資した場合には、「取得価額の30%の特別償却(通常の減価償却の他、追加で減価償却ができる制度)」が認められています。また、資本金3000万円以下の法人は「取得価額の7%の税額控除(法人税から直接控除する制度)」を選択することもできます。

中小企業者等が行う設備投資に対しては、「中小企業投資促進税制」の他、税務上の優遇措置が多く設けられています。従って、設備投資を行う際には、税務上の優遇措置の有無についても併せて確認することが重要です。

2)少額減価償却資産の全額損金算入

取得価額が10万円以上である減価償却資産を取得した場合は、原則として資産に計上し、耐用年数に応じた減価償却費を計上することで損金算入されます。ただし、中小企業者等については、取得価額が30万円未満の減価償却資産(貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用のように供されるものは対象外)について、その全額を即時に損金算入できる特例があります。

ただし、全額を損金算入できる限度額は年間300万円までです。年間300万円を超える金額を損金算入したことによって税務調査で指摘されるケースも多いため、この制度を適用する上では、少額減価償却資産を計上する勘定科目を新たに設けるなどして、年間300万円の限度額以上に損金処理していないか確認できるようにしておきましょう。

なお、この規定は、グループ通算制度を適用している場合や、常時使用する従業員の数が500人を超える場合には適用できません。

3)試験研究費の税額控除の特例(中小企業技術基盤強化税制)

製品の製造または技術の改良や考案などに必要な試験研究費を支出している会社は、その支出した試験研究費の一定割合を法人税から控除する税額控除制度が設けられています。これは大企業でも適用される制度ですが、中小企業者等に該当する法人については税額控除割合などの面で優遇されています(中小企業者等に適用される税額控除を「中小企業技術基盤強化税制」と呼びます)。

中小企業者等については、大企業に適用される税額控除制度と中小企業技術基盤強化税制の両方を計算し、いずれか有利な方法(金額)で税額控除を適用することができます。

4)賃上げ促進税制

従業員に対して支給する当事業年度の給与額が、前事業年度に支給した給与に対して一定程度増加した場合においては、所定の税額控除を適用することができます。この制度は大企業でも適用できますが、中小企業者等に該当する法人については、その適用要件が優遇されています。中小企業者等の場合の適用要件および税額控除額は次の通りです。

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なお、賃上げをした事業年度が赤字であったり、黒字でも所得が少額であったりすることにより、税額控除のメリットが受けられない(または全額受けられない)場合には、翌事業年度以降5年間は税額控除額を繰り越すことができる繰越税額控除制度があります。

この制度は、上記の算式で計算した税額控除額がそのまま法人税を減らすことにつながるため、前事業年度と比較して高いベースアップを行っている場合などには、本制度を適用できるかどうか必ず確認しましょう。また、適用判定で使用する数値の集計には比較的時間を要するため、申告期限の間際に行うのではなく、時間にゆとりを持って判定作業をするようにしましょう。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【新人経理向け】簿記を使って、会社の取引の全体像をイメージしてみよう

1 経理担当者の基礎は簿記

財務諸表を作成するには、勘定科目とその処理方法を知る必要があります。そのために必要なのが、簿記の知識です。全ての取引を仕訳し、項目ごとに集計したものが財務諸表となるからです。取引を見たとき、会計上、どのように処理されるのかをすぐに判断するためにも、項目ごとの仕訳のパターンをイメージできるようになることが大切です。また、財務諸表の項目から仕訳をイメージすることでも、数値に変化があったときの分析に役立ちます。

この記事では、新人経理担当者向けに

  • 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
  • 貸借対照表の表示区分ごとの各勘定の処理方法

をまとめています。簿記の基本中の基本を押さえていきましょう。

2 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方

簿記(この記事では複式簿記)は、企業の活動を記録するものです。例えば、商品を現金で仕入れれば、商品(資産)が増え、現金(資産)が減ります。また、商品を現金で販売した場合、売上高(収益)が増え、現金(資産)も増えると同時に、商品(資産)が減り、売上原価(費用)が増えます。複式簿記は、こうした

出ていく財貨と入ってくる財貨といった、2つの流れを同時に記録

できます。

勘定は借方(かりかた)と貸方(かしかた)の2つに分けることができます。貸借対照表の左側(資産の部)の科目が借方勘定で、右側(負債の部と純資産の部)の科目が貸方勘定です。また、損益計算書の収益・利益に当たるのが貸方勘定で、費用・損失に当たるのが借方勘定です。

初心者には理解しにくいかもしれませんが、貸借対照表の場合、次のように考えると分かりやすいと思います。貸借対照表の右側は負債の部と純資産の部ですが、これは企業活動に必要な資金の調達方法を表しています。この資金を左側の資産の部にあるさまざまな資産の形で運用します。

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簡単な簿記の仕訳例を見ながら、どのように各勘定に反映されるのかを見てみましょう。

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  • 現金及び預金勘定は10万円の増加(-10万円+20万円)
  • 仕入勘定は25万円の増加(+10万円+15万円)
  • 売上勘定は45万円の増加(+20万円+25万円)
  • 買掛金勘定は15万円の増加
  • 売掛金勘定は25万円の増加

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勘定科目の内容は、貸方と借方に分かれます。各勘定科目の金額の増減は、次のようになります。

  • 貸方勘定の金額の増加は貸方に記帳、減少は借方に記帳
  • 借方勘定の金額の増加は借方に記帳、減少は貸方に記帳

以降では、貸借対照表の表示区分ごとの、主な勘定科目の処理方法を説明していきます。

3 流動資産

1)流動資産に含まれるもの

流動資産に含まれるものは、次の通りです。

現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品及び製品(棚卸資産)、前渡金、前払費用、未収収益、未収入金など

2)売上債権と貸倒引当金

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受取手形と売掛金は売上債権といいますが、これらは必ずしも現金化できるとは限りません。こうした債権には貸し倒れリスクがついて回るからです。例えば、売掛金の期末残高が1000万円あり、このうちの2%程度が貸し倒れになるリスクがあると過去のデータから判断した場合は、20万円(1000万円×2%)の貸倒引当金を設定します。

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3)棚卸資産

商品は、仕入れて保有している段階では資産です。その商品を販売して初めて売上原価(費用)となります。売上原価は次の式で算出されます。

期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価

この期末商品棚卸高が貸借対照表の流動資産の棚卸資産を構成します。また、これが翌期の期首商品棚卸高となり、翌期以降に費用となって売上原価を構成することになります。

例えば、期首商品棚卸高200万円、当期商品仕入高1000万円、期末商品棚卸高100万円の場合、当期の売上原価は次の通りです。

当期の売上原価=200万円+1000万円-100万円=1100万円

期末商品棚卸高100万円が流動資産に表示されます。

4)前渡金、前払費用、未収収益、未収入金

1.前渡金

前渡金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの発注に際し、代金の一部または全部を、物品の受け入れや外注加工の完了前に交付した場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前払金、手付金ともいわれます。前渡金は金銭債権ではなく物品やサービスの給付請求権となるため、貸倒引当金を設定できません。

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2.前払費用

前払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日においてまだ提供されていない役務やサービスに対して事前に支払った対価のことです。未経過の支払利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより、翌期分の費用を翌期に繰り延べることができます。

3.未収収益

未収収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日において既に提供した役務やサービスに対してまだ受領していない対価のことです。未収の受取利息、賃貸料などがこれに当たります。

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これにより、当期分の収入を見越して当期の収益を計上することができます。

4.未収入金

未収入金は、売掛金以外の固定資産、有価証券売却代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスを提供した場合の代価の未収額を処理する勘定です。

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4 固定資産

1)固定資産に含まれるもの

固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が計上されます。それぞれに含まれるものは、次の通りです。

  • 有形固定資産:建物、機械装置、車両運搬具、土地など
  • 無形固定資産:ソフトウエア、のれん、借地権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)など
  • 投資その他の資産:投資有価証券、関係会社株式など

2)有形固定資産の減価償却

減価償却費は、営業費用の一部として損益計算をする上で費用計上されます。減価償却累計額は固定資産勘定を間接的に減額する評価勘定です。減価償却累計額は、土地などの非償却資産を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。

ここでは次の前提条件で「定額法償却」について説明します。

前提条件:期首に機械装置を100万円で購入。耐用年数は10年

定額法による場合、各年度の減価償却費は次の式で算出されます。

  • 各年度の減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
  • 各年度の減価償却費=100万円/0.100(耐用年数10年の場合の償却率)=10万円

また、期首資産価額、減価償却費、期末資産価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算書において営業費用として処理されることになります。

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有形固定資産の貸借対照表での表示は、次の通りです(5年度の期末)。

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3)投資その他の資産

投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社出資金、破産更生債権等、投資不動産などで構成されています。

例えば、取引先の経営状況が悪化して、会社更生法や民事再生法などの適用を受けることになった場合、通常の売掛金と区別するため、次のような会計処理を行い、投資その他の資産の欄に計上されるようになります。

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5 繰延資産

かつての会計規則(旧商法施行規則)では、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

ただ現在の会計規則(会社計算規則)では、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は帳簿価額から償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

6 流動負債

1)流動負債に含まれるもの

負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。

流動負債には、次のようなものが含まれます。

支払手形、買掛金、短期借入金、リース債務、前受金、前受収益、未払金、未払費用など

2)支払手形、買掛金

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3)前受金、前受収益、未払金、未払費用

1.前受金

前受金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの受注に際し、代金の一部または全部を、物品の出荷や外注加工の完了の前に受け取った場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前受金は金銭債務というよりも、物品やサービスの給付債務となります。

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2.前受収益

前受収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日においてまだ提供していない役務やサービスに対して事前に受領した対価のことです。未経過の受取利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の収益を翌期に繰り延べることができます。

3.未払金

未払金は、固定資産、有価証券購入代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスの提供を受けた場合の代価の未払分を処理する勘定です。

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4.未払費用

未払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日において既に提供を受けた役務やサービスに対してまだ支払っていない対価のことで、未払いの支払利息、保険料、賃借料、リース料などです。

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これにより当期分の正しい費用を計上することができます。

4)借入金

借入金は、金銭消費貸借契約により金銭を借り入れた場合に生じる債務です。この借入金は、返済期限までの期間によって次のように分類します。

  • 短期借入金:決算日から1年以内に返済期限の到来するもの
  • 長期借入金:決算日から1年を超えて返済期限の到来するもの

短期借入金の借り入れから返済までの取引の仕訳を見てみましょう。

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また、短期借入金、長期借入金は、もし役員からのもの、親会社からのものがあれば、それぞれ区分して計上しなければなりません。

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7 固定負債

固定負債は、社債、長期借入金、退職給付引当金などで構成されています。ここでは、社債の発行について説明します。

社債は、資金を調達するために社債券という有価証券を発行することによって生じる企業の債務です。

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社債発行費の償却を60カ月(償還までの期間5年)とした場合、社債発行費の償却、社債の額面と簿価の差額は×6年3月31日に解消します。

×6年3月31日に社債を償還した際の仕訳例は次の通りです。

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8 純資産の部

1)純資産の部の表示項目

純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分されます。

さらに、株主資本と評価・換算差額等は次のように分けられます。

  • 株主資本:資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式
  • 評価・換算差額等:その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示項目は次の通りです。

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2)増資の仕訳

株主総会決議に基づく取締役会の決議により、株式1000株を第三者に割当増資することになりました。

発行価額は1株につき7万円、1株当たり2万円を資本金に組み入れないことにし、かつ発行価額と同額の申込証拠金を受け入れることにしました。また、申込期日までに全額が払い込まれました。

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3)利益配当

株主総会において、次の配当を決議しました。

  • 配当金:1000万円
  • 利益準備金:100万円

この場合の仕訳例は次の通りです。

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4)自己株式

自己株式を1000万円で取得しました。

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自己株式1000万円を1100万円で売却しました。

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自己株式処分差益は、純資産の部のその他資本剰余金となります。

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以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【新人経理向け】財務諸表の基本となる「損益計算書」と「貸借対照表」

1 財務諸表の基本となる損益計算書と貸借対照表

一定期間の経営状態や財務状況を示す財務諸表。その中でも、損益計算書と貸借対照表は会社の決算時に、企業規模を問わず全ての会社で作成が求められる重要な書類です。損益計算書は事業の成果を表す一方で、貸借対照表は財務状態を示すという違いがあります。

これらは株主や税務署など、外部への申告書類としてはもちろん、社員が自社の経営状態を把握するためにも欠かせない書類です。そのため、決算業務に携わる担当者はそれぞれの内容をよく理解しておく必要があります。

この記事では、損益計算書と貸借対照表について勉強したい新人経理担当者向けに、それぞれの概要と、仕入れや販売などの財政状態の変化がどのように表れるのかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

1)損益計算書とは

損益計算書は

一定期間の企業の経営成績を表すもの

です。一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっています。

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2)5つの利益の見方

1.売上総利益

「売上高」から「売上原価」を引いた金額が「売上総利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「売上総損失」として表示されます。

2.営業利益

「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」の合計額を引いた金額が「営業利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「営業損失」として表示されます。

3.経常利益

「営業利益」に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を引いた金額が「経常利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「経常損失」として表示されます。

4.税引前当期純利益

「経常利益」に「特別利益」を加算し、「特別損失」を引いた金額が「税引前当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「税引前当期純損失」として表示されます。

5.当期純利益

「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を引いて、さらに「法人税等調整額」を加減した金額が「当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「当期純損失」として表示されます。

3 貸借対照表の概要

1)貸借対照表とは

貸借対照表は

企業の期末日など、一定時点の財政状態を表すもの

です。財政状態とは資金の運用と調達の状況をいい、資産合計と負債・純資産合計は同じ金額となります。

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貸借対照表は、資産の部、負債の部、純資産の部で構成されています。貸借対照表の左側が資産の部、右側には負債の部と純資産の部が配置されています。

左側の資産の部は、資金の運用状況を表しています。右側の負債の部と純資産の部は、資金の調達状況を表しています。分かりやすくいえば、負債の部は借入金などによる資金調達を表しています。また、純資産の部のうち、株主資本は出資者からの出資による資金調達を表しています。

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資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産に分けられます。固定資産はさらに有形固定資産と無形固定資産、投資その他の資産に分けられます。

負債の部は流動負債、固定負債に分けられ、純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に分けられます。

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2)資産の部

資産の各科目は現金及び預金、受取手形、建物その他の資産の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動資産

流動資産は、現金や当座預金、普通預金などの最も流動性の高い資産を筆頭に、売掛金や受取手形など営業に関係する債権、商品などの棚卸資産、1年以内に回収が見込まれる営業外の短期貸付金などの債権も含まれます。

商品などの棚卸資産は、仕入れた段階では費用ではなく資産です。その後、販売された分について、費用として計上します。

売掛金などの債権には回収不能が予想される分を貸倒引当金として計上します。例えば、売掛金が100万円あり、このうち5%程度が回収不能になることが予想される場合、5万円(100万円×5%)を貸倒引当金として流動資産の部にマイナスの金額として計上します。

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2.固定資産

固定資産は、次のように分けられます。

  • 有形固定資産(建物や機械装置、工具器具備品、車両運搬具、土地など)
  • 無形固定資産(ソフトウエア、特許権、借地権、のれんなど)

固定資産は、その取得時に資産に計上しますが、建物にしても機械装置にしても、時の経過とともに劣化(価値が減少)していきます。この劣化分を考慮して、毎期、減価償却費を計上して、劣化する部分を費用計上していきます。

例えば、取得価額100万円の備品を5年かけて定額法で償却する場合、毎期の減価償却費は次の式で計算できます。

減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)

20万円=100万円×0.200(耐用年数5年の場合の償却率)

従って、取得から丸3年が経過した上記の備品は、次のように表示されます。

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減価償却累計額とは、毎年の減価償却費の累計額(60万円=20万円×3年)をいいます。

または、固定資産の備品を次のように表示し、減価償却累計額を貸借対照表の下に注記事項とすることもできます。

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無形固定資産(のれんなど)は、償却額を控除した残額を記載します。

なお、有形固定資産の償却は帳簿価額が1円になった時点で償却(耐用年数の最後の年の減価償却費は「帳簿価額-1円」)を終えますが、無形固定資産は帳簿価額が0円になるまで償却します。

2.投資その他の資産

投資その他の資産は、満期まで1年超の定期預金、長期貸付金、投資有価証券、関係会社株式、破産債権、更生債権などが表示されます。流動資産、有形固定資産、無形固定資産または繰延資産に属さないものを表示します。

3.繰延資産

かつて(旧商法施行規則)は、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

しかし、現在(会社計算規則)は、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

3)負債の部

負債の部は、流動負債、固定負債に区分されます。負債の各科目は、支払手形、買掛金、社債その他の負債の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動負債

買掛金、支払手形その他の営業取引によって生じた金銭債務は、流動負債に記載しなければなりません。

借入金その他の営業取引によって生じた金銭債務以外の金銭債務で、その履行期が決算期後1年以内に到来するもの、または到来すると認められるものは、流動負債に記載しなければなりません。

2.固定負債

流動負債に記載した金銭債務以外の金銭債務は、固定負債に記載します。

4)純資産の部

純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」に区分されます。

さらに、それぞれ次のように区分されます。

1.株主資本

  • 資本金:会社設立時の出資金や増資払込などの金額です
  • 資本剰余金:株主が払い込んだお金のうち、資本金に含まれなかった金額です
  • 利益剰余金:会社の活動によって得た利益のうち、社内に留保している金額です
  • 自己株式:会社が買い取った自社株式の金額です

2.評価・換算差額等

  • その他有価証券評価差額金:売買目的有価証券や満期保有目的債券、子会社および関連会社株式以外の有価証券を期末に時価評価した場合の評価差損益の税効果分を除いた金額です
  • 繰延ヘッジ損益:先物取引やオプション取引について、期末時点での時価評価による差額を翌期以降に繰り延べるときに使います
  • 土地再評価差額金:土地の再評価に関する法律に規定されている、再評価差額金です

3.新株予約権

  • 投資家などに会社が発行する株式の交付を受けることができる権利を発行し、払込を受けた代金です

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示科目は次の通りです。

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4 財政状態の説明

貸借対照表の理解を深めるため、財政状態の変化について、複式簿記の知識がない人でも分かるような簡易な例で説明します。

1)財政状態1(資本金1000万円を現金で保有しているときの財政状態)

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2)財政状態2(200万円を借り入れ、それを現金で保有しているときの財政状態)

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3)財政状態3(商品100万円を現金払いで仕入れたときの財政状態)

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4)財政状態4(土地400万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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5)財政状態5(建物300万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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6)財政状態6(商品200万円を掛けで仕入れたときの財政状態)

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7)期末の財政状態

最後に、商品200万円を400万円で販売し、買掛金100万円、販売費100万円、借入金の利息10万円を支払ったところで決算日を迎えたときの財政状態は次の通りです。なお、建物の減価償却費10万円を計上しています。

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損益計算書の当期純利益が貸借対照表の純資産の部の繰越利益剰余金に加算され、期末における企業の財政状態が示されます。貸借対照表は資産の合計額と負債・純資産の合計額が一致します。

以上(2025年4月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【かんたん法人税(6)】経営者に係る税務

1 経営者に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第6回では、経営者(役員)に係る税務上の取り扱いに注目します。最も注意が必要なのは役員に対する給与や退職金(以下「役員給与等」)です。役員給与等は、

一定のルールに基づかないと損金算入できず、また損金算入できる金額にも限度がある

からです。

また、中小企業のうち、とりわけ同族会社では、

業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される

ことも多いです。私的な費用と判断された場合、その費用は役員給与等として取り扱われ、一定のルールに沿ったものでなければ損金算入できません。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の書類などをそろえておきましょう。

役員に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 損金算入ができる3種類の役員給与
  • 過大役員給与
  • 役員退職金
  • 使用人兼務役員
  • 役員と会社の取引
  • 私的な費用

2 損金算入が認められる3種類の役員給与

1)定期同額給与

定期同額給与とは、「定期的(=毎月)」に「同額で支給される給与」です。一般的に毎月支給される役員給与がこれに当てはまり、事業年度を通じて毎月同額で支給されている場合に限り、損金算入できます。

税務調査では、総勘定元帳などによって毎月の役員給与が同額で計上されているかチェックされるので注意しましょう。なお、どんなことがあっても金額の変更が認められないというわけではなく、次のような場合などに役員給与の金額の変更が認められます。

1.期首から3カ月以内の変更

通常、期首から3カ月以内に定時株主総会が実施されます。この株主総会の決議により役員給与の変更がされたなら、金額の変更が認められます。この場合、税務調査において金額の変更理由を聞かれたときに備え、株主総会の議事録を作成・保管しておくことが重要です。

2.職務の内容に変更があった場合

通常の取締役が代表取締役に就任するなど、事業年度中において職務の内容に変更があった場合は、その職務内容に応じた役員給与の金額の変更が認められます。この場合、職務内容がどのように変わったのかなどについて、税務調査において具体的な説明を求められることが多いため、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

2)事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員に対する給与の「支給金額」や「支給日」などをあらかじめ決めておき、税務署に「届出書」を提出することで損金算入が認められる役員給与です。定期同額給与以外で、例えば夏と冬に賞与の形で役員給与を支払いたい場合などに利用されます。

なお、届出書の提出期限は次の通りです。ただし、その届出書に記載した支給金額と実際の支給金額が異なっていたり、支給日が異なっていたりする場合には、支給金額の全額が損金に算入できなくなる恐れもあるため注意が必要です。

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3)業績連動給与

業績連動給与とは、会社の売上や利益に連動させて支給額が決められる役員給与です。なお、この業績連動給与は、同族会社には原則として適用できないなど、適用要件が主に上場企業を対象としたものになっているため、この記事では詳細な説明を省略します。

3 過大役員給与の取り扱い

役員給与は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当すれば、原則として損金に算入できます。しかし、役員給与の支給を受ける役員の職務内容などに照らし、「役員給与の水準が高額過ぎる」と判断された場合は、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)については損金に算入できません。役員給与の金額が適正額かどうかについては単に金額のみで判断されるのではなく、次の2つの基準に従って総合的に判断されます。

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税務調査では、売上や利益が横ばいにもかかわらず役員給与の金額が増加していたり、従業員の給与を上げていないにもかかわらず、役員給与のみ多額に増加していたりする場合などは、その理由の説明を求められる場合があります。従って、役員給与については、金額の決定過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

4 役員退職金

原則として役員退職金は損金算入されますが、「損金に算入する時期」と「過大役員退職金」に注意しましょう。

役員退職金が損金算入される時期は、原則として「株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度」です。ただし、「会社が退職金を実際に支払った事業年度において損金経理(経理上、費用として処理すること)をした場合」は、その支払った事業年度において損金算入することも認められています。

注意が必要なのは、「支給した役員退職金が高額過ぎる(過大役員退職金)」と判断された場合、その高額とみなされた部分の金額(適正額を超える部分の金額)は損金算入できないことです。役員退職金の金額が適正額かどうかの判断基準は会社の状況によってさまざまですが、一般的に次の基準に従って総合的に判断されます。

  • 会社の業務に従事した期間
  • 退職の事情
  • 類似する会社の役員退職金の支給状況等

役員退職金は金額が大きくなることもあり、税務調査においては、金額の算定根拠についてよく説明を求められます。従って、役員給与と同様に、金額の決定過程について詳細に説明できるよう、議事録や算定根拠資料などを事前に準備しておくことが重要です。

5 使用人兼務役員

使用人兼務役員とは、

「部長」や「課長」など使用人としての地位を有し、かつ、部長職や課長職に日々従事している役員

をいいます。具体的には、「取締役経理部長」などの肩書となります。

使用人兼務役員の給与については、役員として支給された給与に該当する部分と、使用人として支給された部分とで、損金の取り扱いが異なります。

「役員として支給された給与」は、「定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与」(以下「定期同額給与等」)のいずれかに該当する場合に、原則として損金算入できます。また、「使用人として支給された給与」は、通常の使用人給与と同様に、原則として全額が損金算入できます。

ただし、経営者の親族については、「使用人兼務役員」としての肩書であっても、税務上は「役員」として取り扱われる場合があるので注意が必要です。具体的には株式の持株割合によって判断され、次の全てに該当し、会社の経営に従事していると判断された場合、税務上は「役員」とされます。

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従って、使用人兼務役員の「使用人」としての職位に対して支給した賞与でも、税務上は役員に対する賞与とされるため、「事前確定届出給与」の届出書を提出していなければ、支給額の全額が損金に算入できないので注意しましょう。

6 役員と会社の取引

税務上、役員と会社との間の取引は、「第三者(外部)と同等の条件で行うべき」とするのが原則的な考え方です。例えば、会社の所有している不動産を時価よりも低い価額で役員に譲渡(低額譲渡)した場合、不動産の時価と譲渡価額の差額は、役員に対する一定の利益供与とみなされます。その結果、税務上「役員給与」扱いになり、所得税の源泉徴収が必要になるとともに、定期同額給与等にも該当しないため、損金算入もできません。

会社から役員に対して無利息で資金の貸し付けを行った場合も同様に、適正利率相当が役員給与として取り扱われます。役員との取引だからといって、自分たちの都合で安易に価格を決定した場合などには、税務調査において価格の算定方法について指摘され、想定外の納税を伴うことがあります。役員と会社との取引に係る金額の決定過程については税務調査時に詳細に説明できるよう、議事録や契約書などの関係書類を事前に準備しておくことが重要です。

7 私的な費用

本来は経営者個人が自分で支払うべき私的な費用を会社の費用として経理処理した場合、その費用については、税務上「役員給与」として取り扱われます。例えば、経営者1人の飲食代は税務上の交際費や会議費ではなく、役員給与とされます。

また、ゴルフクラブの入会金を法人会員として支払った場合、その入会金は会社の資産として計上しなければなりません。プレー代などは交際費等として一定の限度額の範囲内で損金に算入できますが、ゴルフクラブに入会した事実を経営者以外の従業員などに知らせていなかったため、税務調査において「業務に不要なもの=実質的に経営者が個人で負担すべきもの」と判断され、役員給与として取り扱われたケースもあります。

このように、業務に関連しない私的な費用については役員給与とされ、所得税の源泉徴収を要するとともに、定期同額給与等に該当しない場合には損金にも算入できません。

税務調査では、単に領収証の有無などを確認するだけではなく、「業務に必要なものか」といった視点からも調べられますので、関係書類などを事前に準備しておき、業務上必要な経費であることを説明できるようにしておくことが重要です。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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