2024年4月から始まる! 変わる! 注目制度10選

書いてあること

  • 主な読者:2024年度の法改正について知りたい経営者や実務担当者
  • 課題:法改正の内容が多くてキャッチアップできていない。どれを押さえておけばいい?
  • 解決策:まずは2024年4月施行のものを押さえる(主な法改正は10件)

1 2024年度の法改正を一覧表でチェック!

いわゆる「2024年問題」や「相続登記の義務化」など、2024年度もさまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2024年度の主な法改正を一覧にまとめました。

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以降で、それぞれの法改正の簡単な概要と各省庁のURLを紹介します。まずは2024年4月の法改正を確実に押さえましょう。

2 2024年4月の主な法改正(10件)

1)労働条件通知書、大丈夫? 社員に明示する労働条件が増えます!

労働契約の締結・更新時に、労働条件として明示すべき事項が増えました。具体的には「就業場所・業務の変更範囲」「契約上限の有無とその内容」「無期転換の申込機会と転換後の労働条件」がそうです。これらは原則書面で明示しなければならないので、労働条件通知書などのアップデートが必要です。

■厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

2)社員数40人以上なら障害者雇用は義務です! 顧客などにも配慮して!

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合(障害者雇用率)を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければなりません。この常時雇用する社員数が「43.5人以上」から「40人以上」に引き下げられ、障害者雇用率は「2.3%」から「2.5%」に引き上げられました。また、雇用面だけでなく、障害のある顧客などと接する際にも、障害の特性などに応じた「合理的配慮」をすることが義務化されました(従前は努力義務)。

■厚生労働省「障害者雇用対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html
■内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」■
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html

3)ついに来た、2024年問題! 建設業なども残業規制の対象です!

建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用されました。時間外労働の上限規制は、36協定に記載する時間外労働(残業)の時間数に上限を設けるというルールで、2019年4月1日から始まりました。上記の事業・業務については長らく適用が猶予されていましたが、その猶予措置が終了しました。なお、自動車運転業務の場合、拘束時間や休息時間について定めた「改善基準告示」の改正にも注意が必要です。

■厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
■厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html

4)裁量労働制の濫用防止! 導入などの手続きが厳しくなります!

「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」について、導入・運用の手続きが厳格化されました。専門業務型裁量労働制については、労使協定に記載すべき事項が追加。企画業務型裁量労働制については、労使委員会で決議すべき事項が増えた他、制度の対象となる社員の賃金・評価制度を変更する場合、労使委員会に変更内容を説明することが義務付けられました。

■厚生労働省「裁量労働制の概要」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/sairyo.html

5)化学物質、アスベスト、一側足場……。社員の安全衛生管理は大丈夫?

「リスクアセスメント対象物」に該当する化学物質を扱う場合、化学物質管理者や保護具着用管理責任者の選任や、関連事項についての衛生委員会での調査審議が義務付けられました。この他、石綿(アスベスト)の切断作業をする際に除じん性能のある電動工具の使用などが義務付けられたり、建設現場における一側足場の使用範囲が明確化されたりしています。

■厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
■厚生労働省「労働安全衛生法関係の法令等(石綿)」(令和5年8月29日厚生労働省令第105号を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/index.html
■厚生労働省「安全衛生関係リーフレット等一覧」(「足場からの墜落防止措置が強化されます(令和5年6月)」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/anzen/index.html

6)交際費の5000円ルールが「1万円ルール」に!

社外飲食費(専ら自社の役員や従業員との接待などのために支出する費を除く)に該当する交際費は、金額が一定以下であれば、原則損金に算入できない交際費の範囲から除かれ、会議費などとして損金に算入できます。この額が、2024年4月1日以降の支払いについては1人当たり5千円から「1万円」に引き上げられます。ただ、中小企業(資本金1万円以下)の場合、社外飲食費の50%までの額(飲食費の額を問わない)、もしくは年間800万円までの交際費のどちらかを選択して損金に算入できる特例があるので、そこまで気にする必要はないかもしれません。

■財務省「令和6年度税制改正の大綱の概要」■
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/06taikou_gaiyou.htm

7)相続登記が義務化。放置した場合は罰金も!

相続した不動産を3年以内(相続の開始を知った日から)に登記することが義務化されました。もし、期限内に所有権移転の登記をしない場合には、10万円以下の過料(行政上の罰金)となります。2024年3月31日以前に相続した不動産も、登記義務の対象になるので注意が必要です。

■法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html?_fsi=h8mmuWaB
■法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00590.html

8)中小企業の商機拡大! 商標登録などがしやすくなりました!

知的財産に関する複数の法律が改正されました。商標の登録要件が緩和され、デジタル空間における模倣行為の差止めも認められるようになるなど、リソースの少ない中小企業も知的財産をビジネスに活用しやすくなりました。

■特許庁「不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)」■
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/hokaisei/sangyozaisan/fuseikyousou_2306.html

9)「白タク」が合法に? ライドシェアが一部解禁!

ライドシェアは、配車アプリで乗客とドライバーをマッチングし、乗客がドライバーに対価を支払って目的地まで車で運んでもらうサービスです。従前はいわゆる「白タク」行為として禁止されていましたが、タクシー事業者の運行管理の下で一部認められるようになりました。

■国土交通省「自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000416.html

10)子どもは誰の子? 離婚後に生まれた子の「嫡出推定」に例外規定!

離婚後300日以内に生まれた子を前夫の子とみなす「嫡出推定」について、女性が出産時に再婚していれば「現夫の子」とみなすこととする例外規定が設けられました。嫡出推定見直しに関連し、女性にのみ設けられている「離婚後100日間は再婚できない」との規定も撤廃されます。

■法務省「民法等の一部を改正する法律について」■
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html

3 2024年5月以降の主な法改正(3件)

1)50人超の会社に勤めるパート等は社会保険に加入!(2024年10月1日)

2024年10月1日より、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の適用対象となるパート等の範囲が拡大されます。パート等は本来、社会保険の適用対象外ですが、厚生年金保険の被保険者数が一定数いる会社に勤め、労働時間や賃金などの要件を満たすと社会保険に加入します。この厚生年金保険の被保険者数の要件が「100人超」から「50人超」へと引き下げられます。

■日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」■
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
■厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」■
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

2)フリーランスとの曖昧な契約や支払い遅延はNG!(2024年秋ごろまでに)

2024年秋ごろまでに、下請法とは別に、業務委託で働くフリーランスを保護するための法律「フリーランス保護新法」が施行予定です。給付の内容や報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示、フリーランスから給付を受けた日から60日以内に報酬を支払ったりすることなどが義務付けられます。

■厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

3)不当表示等に関する取り締まりが強化!(2024年秋ごろまでに)

2024年秋ごろまでに、商品・サービスの品質・内容・価格等を実際よりも良く見せる「不当表示」等に関する取り締まりが強化される予定です。悪質な不当表示等を行った会社に対し、行政処分を経ずに直罰(100万円以下の罰金)を科すことができるようになるなどの法改正があります。

■消費者庁「国会提出法案」(「第211回国会(常会)提出法案」を参照)■
https://www.caa.go.jp/law/bills/

以上(2024年4月作成)

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画像:naka-Adobe Stock

お酒は1日何杯飲むと危険? 「飲酒ガイドライン」から学ぶ健康な飲み方

書いてあること

  • 主な読者:飲酒する習慣があるビジネスパーソン
  • 課題:適正な飲酒量が分からず、今のまま飲み続けて将来の健康に影響が出ないか不安。また、飲み過ぎてケガや他人とのトラブルを起こすことは避けたい
  • 解決策:「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を基に、過度な飲酒が及ぼす影響について知った上で、節度のある適度な飲酒を心がける

1 飲み過ぎはNG 酒は「百薬の長」にも「万病のもと」にも

2024年2月、厚生労働省の検討会が新たにとりまとめた「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(以下「飲酒ガイドライン」)が公表されました。「飲酒ガイドライン」では、年齢・性別・体質によってアルコールが及ぼす身体などへの影響は異なるものの、次のような健康面・行動面のリスクが指摘されています。

  • 長期にわたって大量に飲酒をすることによって、アルコール依存症、生活習慣病、肝疾患、がんなどの疾病が発症しやすくなる
  • 過度なアルコール摂取により運動機能や集中力の低下などが生じ、危険を伴う工具類などの使用や高所での作業で事故が発生する
  • 飲酒後に適切ではない行動をとることでケガや他人とのトラブルが発生したり、所持品を紛失したりする

古くは鎌倉時代末期、吉田兼好が記した随筆「徒然草」にも、

百薬の長とは言へど、よろずの病は酒よりこそ起これ

という記述があります。当時からお酒の飲み過ぎは健康に悪いことが認識されていたわけです。

この記事では、「飲酒ガイドライン」や、厚生労働省が提供する、健康づくり支援担当者のための総合情報サイト「e-健康づくりネット」の掲載情報を基に、過度な飲酒が健康に及ぼす悪影響について押さえた上で、節度のある適度な飲酒の心がけについて紹介します。

2 過度な飲酒とは?

1)まずは純アルコール量に着目

「飲酒ガイドライン」では、単にお酒の量(ml)だけでなく、お酒に含まれる純アルコール量(g)について着目することが重要だとしています。お酒に含まれる純アルコール量の算出式は次の通りです。

摂取量(ml) × アルコール濃度(度数/100)× 0.8(アルコールの比重)

例えば、500mlの缶ビール(アルコール濃度5%)であれば、純アルコール量は、

500(ml) × 0.05 × 0.8 = 20(g)

となります。

2)過度って、どれくらい?

がん、高血圧、脳出血、脂質異常症などのリスクは、飲酒量が増えれば増えるほど上昇し、飲酒量が少ないほどよいことがわかっています。また、死亡(すべての死因を含む)、脳梗塞、虚血性心疾患は、純アルコール摂取量が男性の場合は44g/日程度以上、女性の場合は22g/日程度以上になるとリスクが高まることがわかっています。

飲酒の影響は、年齢・体質によっても個人差がありますが、生活習慣病のリスクを高める純アルコール摂取量として、

  • 男性の場合、1日当たり40g以上
  • 女性の場合、1日当たり20g以上

が示されています(厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」)。

詳しい解説は次のウェブサイトに掲載されています。ぜひご確認ください。

■厚生労働省「e-健康づくりネット アルコール(男性編)」■
https://e-kennet.mhlw.go.jp/tools_alcohol-male/
■厚生労働省「e-健康づくりネット アルコール(女性編)」■
https://e-kennet.mhlw.go.jp/tools_alcohol-female/

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3 健康に配慮した飲酒の仕方

「飲酒ガイドライン」では、さまざまな危険を避けるために、例えば、次のような配慮をすることを勧めています。改めて確認してみましょう。

1)自らの飲酒状況等を把握する

医師へ相談したり、AUDIT(オーディット。問題のある飲酒をしている人を把握するために世界保健機関(WHO)が作成したスクリーニングテスト)を参考にしたりすることで、自らの飲酒の習慣を把握することが大切です。

AUDITは、10項目の簡易な質問でアルコール関連問題の重症度の測定を行うもので、次の厚生労働省のウェブサイトに邦訳が掲載されています。一度確認してみてください。

■厚生労働省「e-ヘルスネット AUDIT(オーディット)」■
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.html

2)あらかじめ量を決めて飲酒をする

あらかじめ自ら飲む量を決めておくことで、過度な飲酒を控えるようにするなど、飲酒行動の改善につながります。行事・イベントなどの場で飲酒する場合も、純アルコール量を考慮して飲酒量を調節することが肝要です。

3)すきっ腹で飲酒しない

飲酒前または飲酒中に食事をとることで、血中のアルコール濃度を上がりにくくし、お酒に酔いにくくする効果があると言われています。また、飲酒の合間に水を飲むなど、アルコールをゆっくり分解・吸収できるように工夫することも大切です。

4)一週間のうち、飲酒をしない日を設ける

いわゆる「休肝日」です。毎日飲み続けると、アルコール依存症の発症につながる恐れがあります。

5)避けるべきこと

短時間の多量飲酒は、さまざまな身体疾患の発症や、急性アルコール中毒を引き起こす恐れがあります。

また、他人に無理に飲酒を勧めることはNGです。いわゆる「アルハラ(アルコール・ハラスメント)」に他なりません。

この他、不安や不眠を解消するための飲酒、病気療養中の飲酒、服薬後の飲酒もNGです。また、飲酒運転はもちろん違法ですが、過度ではないからといって飲酒後に危険を伴う行動や不用意な行動をとることは絶対にしてはいけません。

4 参考

■厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」■
https://www.mhlw.go.jp/content/001211944.pdf
■厚生労働省「飲酒ガイドライン作成検討会」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_442921_00002.html

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年4月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
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(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【新人経理向け】保有目的によって決算書に記載する金額が変わる有価証券の決算処理

書いてあること

  • 主な読者:金融商品の会計処理として、有価証券の処理を勉強したい新人経理担当者
  • 課題:一言に有価証券といっても、決算書にはいろいろな項目で記載されている
  • 解決策:まずは有価証券の保有目的を整理し、それぞれの評価方法を覚える

1 金融商品のポイントは時価評価

決算書にはさまざまな資産が計上されていますが、決算時、特に注意が必要なのが金融商品です。金融商品の会計処理は、

他の資産とは別の会計基準などが定められ、期末時点の価額を貸借対照表に反映(時価評価)

しなければなりません。

取得原価のまま決算書に載せてしまうと、その金融資産が含み損(取得時よりも時価が値下がりしていること)を抱えていたとしても、実際にそれを売却するまで含み損があるかどうかは分かりません。時価評価すれば債務超過になる貸借対照表でも、取得原価のままなら健全に見えてしまう場合も考えられます。会社が倒産するまで「多額の不良債権」の存在が外部から把握できないケースもあり得るのです。

金融商品は大きく金融資産と金融負債に大別されます。

  • 金融資産:現金預金、金銭債権(受取手形、売掛金、貸付金など)、有価証券(株式、公社債など)、デリバティブ取引による正味の債権
  • 金融負債:金銭債務(支払手形、買掛金、借入金、社債など)、デリバティブ取引による正味の債務

この記事では、中小企業の経理実務に即した会計ルールである「中小会計要領」(中小企業の会計に関する基本要領)に合わせて、有価証券の評価と会計処理の方法を解説します。

2 異なる有価証券の評価方法

1)有価証券の分類と評価

中小会計要領では、原則として取得原価での会計処理になります。ただし、売買目的有価証券(短期間の価格変動により利益を得る目的で、売買を繰り返す有価証券)は時価での会計処理になります。また、時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合を除き、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として減損処理しなければなりません。

2)売買目的有価証券

時価の変動による利益を得ることを目的に保有する有価証券は、

決算日の時価で貸借対照表に計上し、評価差額は当期の損益

として処理します。「時価の変動による利益を得ることを目的として保有する」とは、

時価の短期的な価格変動により利益を得ることを目的とし、同一銘柄に対して相当程度に繰り返し売買が行われる体制が整っていること

を前提としています。例えば、定款に会社の目的として有価証券売買業が記載されており、有価証券売買のための人材が独立の専門部署で有価証券売買を行っている場合などです。従って、一般の事業会社が余剰資金の運用目的で有価証券を購入しても、その有価証券が売買目的有価証券に分類されないのが原則ですが、売買を頻繁に繰り返していれば、売買目的有価証券に分類することができます。

売買目的有価証券を売却した場合、売却時点で付されている帳簿価額と売却価額との差額を当期の売却損益として処理します。

なお、同一銘柄の有価証券を売買目的有価証券とそれ以外の区分で保有している場合、当該有価証券の一部を売却したときは、これらが社内で、明確に分別管理されていなければ、まず、売買目的有価証券を売却したものと推定します。

3)事例で学ぶ 売買目的有価証券の会計処理

A株式(上場有価証券)を売買目的で保有しており、その有価証券の取引状況は次の通りとします。

×1年度期中においてA株式を1000万円で取得

×1年度期末のA株式の時価は1100万円

×2年度期中にA株式を1500万円で売却

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3 株や債券が大暴落したときの「減損」

1)市場価格のある有価証券の減損処理

取得原価で評価した有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券)のうち市場価格または合理的に算定された価額(時価)のあるものについて時価が著しく下落したとき(回復する見込みがあると認められる場合を除く)は、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として評価損を計上する必要があります。

時価が著しく下落したときとは、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合が当てはまります。

例えば、その他有価証券を1000万円で取得したが、期末時価が400万円に下落し、かつ、将来取得原価まで回復する見込みがはっきりしない場合、評価損を計上する必要があります。

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次年度以降のその他有価証券の取得原価は減損処理後の金額400万円となります。

なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。

2)市場価格のない株式の減損処理

市場価格のない株式は取得原価で貸借対照表に計上しますが、株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく下がったときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として評価損を計上する必要があります。

財政状態の悪化による実質価額が著しく下がったときとは、大幅な債務超過などでほとんど価値がないと判断できる場合などが当てはまります。

なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。

以上(2024年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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がん患者の約7割が働き続ける時代。社員の治療と仕事の両立のために会社ができること

書いてあること

  • 主な読者:がんになった社員の「治療」と「仕事」の両立を支援したい経営者
  • 課題:具体的にどのような支援が必要か分からない
  • 解決策:治療の過程で社員の不安は変わるので、それに応じた支援をする

1 がんになった社員の約7割が、仕事を続けている

2人に1人が「がん」になる時代。誰にとっても無縁の病気ではありません。厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」が中小企業を対象に実施した調査によると、がんになった社員がいると回答した会社は26%に上ります。一方、注目すべきは、

がんになっても69%の社員は、勤務を継続している(休職中を含む)

という点です。

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がんは重い病気ですが、医療技術の進歩により、仕事を続けながら治療することもある程度可能になりました。そこで、この記事では、がんになっても仕事を続けたいと望む社員のために、会社が社員の「治療」と「仕事」を両立できるように支援する方法を紹介します。

2 社員の不安に寄り添うことが大切

1)治療と仕事の両立のために望むこと

東京都の調査によると、治療と仕事の両立に当たって、がんになった社員は職場に次のようなことを求めています。

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2)がんになった社員の不安に寄り添った支援を

がん治療の大まかな流れは、

がん発見 → 通院治療もしくは入院・手術 → 自宅療養(通院治療・経過観察) → 職場復帰(通院治療・経過観察)

となりますが、その過程で、社員の不安と会社が行うべき支援は変わります。図表3は「社員の不安」と「会社の支援」の関係をイメージしたものです。会社は、

社員の不安に寄り添い、その解決に必要な支援を都度検討することが大切

です。

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次章では「会社の支援」について、実務上のポイントを紹介していきます。

3 会社が支援を行う際のポイント

1)病状を確認

社員からがんであるとの申告があった場合、

現在の健康状態、手術の有無を含めた治療スケジュール・治療方針などを確認

します。

がんは進行度合いや治療方法などによって病状が大きく異なります。例えば、抗がん剤の影響で、気分が優れない時間があったり、注意力が散漫になったりする場合もあります。そこで、

  • 従来通りの勤務が可能なのか、通勤に支障がないか、業務上、配慮を要することなど、会社が喫緊に対応すべき事項を確認
  • 手術などによって、休職する可能性があるのかを確認

します。

2)休暇や勤務形態を相談

社員には手術や通院などが必要になります。社員と相談して、休みの見込み日数や、勤務形態などを確認します。

厚生労働省によると、がん(悪性新生物、腫瘍)で入院した患者の平均在院日数は、全体で19.7日となっています。

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通院治療の日数については具体的な数値は示されていませんが、例えば、

  • 化学療法(抗がん剤治療):1~2週間程度の周期で治療を行うことが多い
  • 放射線治療:基本的に毎日(月~金、数週間)照射を受けることが多い

など、治療法や患者の状況に応じて相応の時間を要するようです(厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」)。

社員が休む場合、年次有給休暇も使えますが、治療が長引くと日数が足りなくなるので、「病気休暇」を設けるのもよいでしょう。病気休暇とは、

社員が業務外の私傷病によって就労できない場合に付与する休暇

で、会社が就業規則などで独自に定めます(有給にするか無給にするかは、会社の自由)。長期間働けないなら休職させるのも1つの方法ですが、「仕事をしつつ、定期的に休んで治療を受けたい」という場合、病気休暇のほうが対応しやすいかもしれません。この他、時短勤務やテレワークなどのニーズについても確認するとよいでしょう。

3)金銭的な負担への配慮

図表5は、厚生労働省の調査を基に、がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用を試算したものです。入院する場合、どの部位も治療費が平均6万円を超え、さらに食事・生活療養費が別途発生します。

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がんになった社員は自分の病状もそうですが、こうした金銭的な負担にも不安を抱えています。ただ、治療費の負担を軽減できる支援制度もいくつかあるので、例えば図表6のような情報を社員に提供してあげると、少しは不安が和らぐかもしれません。

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4)周囲の社員への説明

社員の中には、上司や同僚にがんであることを伝えたくないという人もいます。個人情報保護の観点からも、本人の同意なく、他の社員に病名を伝えることは避けなければなりません。

とはいえ、周囲の社員の理解なくして仕事と治療の両立は難しいため、どの程度、病気について説明するかなどを相談しておきます。例えば、病名を明らかにしないものの、

「病気で手術が必要になるため、しばらく休暇を取得する」「手術後は重いものを運ぶのが難しくなる」など、病状の一部や、従来通りの働き方が難しくなること

を伝えます。

4)業務分担の確認

周囲の社員が業務を代替できるような体制にしておきましょう。具体的には、担当している業務を洗い出し、業務マニュアルを作成します。

社内に既存の業務マニュアルのフォーマットがない場合は、業務マニュアル作成ソフトの利用を検討してみましょう。用意されたフォーマットに必要事項を記入したり、スマートフォンで手順を撮影した動画をアップしたりすることができます。

5)復帰後の計画の相談

社員から復帰のめどについて連絡があったら、復帰後の計画を相談します。その際、主治医に意見書を提出してもらうと、復帰の可否や就業上必要な配慮が明らかになります。

守秘義務があるため、会社が本人の同意を得て主治医の意見を聴取するか、本人を通じて主治医に意見書を提出してもらうなどしてもらいます。確認すべき点は、

  • 現在の病状
  • 復帰の可否と配慮や禁止事項
  • 勤務時間・職場環境・病状に影響する作業や通勤方法
  • 今後の見通し
  • 日常で気を付けるべき事項

などです。厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、意見書を求める際の様式例を掲載しているので、参考になります。

■厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

6)復帰後のフォロー

いざ復帰してみると、想定した以上に負担が大きく、予定通りに勤務できなかったり、周囲の社員に遠慮して無理をしてしまったりすることがあります。一方、経過が良好にもかかわらず、周囲がいつまでも過度に気を使って業務の負担を減らそうとすることで、本人が仕事にやりがいを感じられず、不満や悩みを抱いてしまうこともあります。

復帰後1カ月目は週に1回、2カ月目以降は2週に1回など、定期的に面談の時間を設けるなどして、勤務の負担感や安全面での不安など、困り事がないかを確認します。

また、本人だけでなく、支援する周囲の社員とも面談の機会を設けます。特に、直属の上長の不安や負担は大きいものです。周囲の社員の様子とともに、上長の状況なども確認し、必要があれば業務分担の配分を変更し、メンタル面でのフォローを行うようにします。

以上(2024年5月更新)

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【契約書の実務(3)】契約内容の変更・訂正時のルールを確認

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れてない経営者、担当者
  • 課題:印紙を貼るタイミングや、契約書を訂正する際の進め方が分からない
  • 解決策:基本を知っておく必要があるが、大事なのは相手に確認しながら進めること

1 混乱しがち? 郵送による契約締結の手順

1)手順を整理することが大切

契約書を郵送でやり取りする場合、無駄なやり取りがないようにしたいものです。X社とY社が契約書を締結するとして、2社とも印紙に消印する場合の流れは次の通りです。

1.X社の手続き

  • 契約書(A):X社の署名等。契印と割印。印紙にX社の消印
  • 契約書(B):X社の署名等。契印と割印
  • 契約書(A)と(B)を、簡易書留等、Y社が受領した記録が残る方法で郵送

2.Y社の手続き

  • 契約書(A):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、Y社が保管)
  • 契約書(B):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印
  • 契約書(B)を、簡易書留等、X社が受領した記録が残る方法で郵送

3.X社の手続き

  • 契約書(B):印紙、X社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、X社が保管)

2)契約書の保管

締結後の契約書は紛失しないように保管します。保管方法については、「文書管理規程」などの社内規程で定められているときは、それに従います。

一般的には、「契約当事者>契約書の内容>時系列」の順番に整理するとよいでしょう。また、複数のファイルごとに保管しているときは、契約当事者名などを一覧にした目次を作成してファイルにとじておくと、契約書を探しやすくなるので便利です。

3)締結済みの契約書をペーパーレス化したい場合

紙ベースで締結した契約書は、保管場所が必要なことや、テレワークの際などに確認できないため、スキャンし、データとして保管しておきたいと考えるかもしれません。この場合、法的に次のような保存要件が定められています。

  • 真実性の確保:認定タイムスタンプ(日本データ通信協会の認定を受けた事業者が発行するタイムスタンプ)または適切に訂正・削除の履歴が残るか、できなくするためのシステムの利用か、方法を定めた社内規程があること
  • 関係書類の備付:どのように電子化するのかを定めたマニュアルが備え付けられていること
  • 見読性の確保:納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること
  • 検索性の確保:主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること

上記を満たした上で、納税地でデータを7年間(欠損金の繰越控除をする法人は、最長で10年間)保存する義務が定められています。データさえあれば問題ないということではないので、契約書をスキャンして保存する場合は注意が必要です。

2 締結済みの契約書の内容を変更するには?

1)重要な条項の変更や変更箇所の多いとき

締結済みの契約(以下「原契約」)の内容を変更することはよくあります。その際には、次のような方法で行うのが一般的です。

  • 原契約を失効させて、新たな契約の内容を記載した契約書を締結する
  • 原契約は有効としたままで、変更する部分を記載した「覚書」等を締結する

契約書は契約当事者の合意内容を記載した重要な書面です。契約内容の読み間違いや、書面の紛失等があってはならないので、重要な条項の変更や変更箇所が多岐にわたるときは、新たな契約書を締結することが多くなります。

これ以外にも、原契約の内容を変更する方法を決めるときには、次の点を考慮します。

2)変更の回数

何度も契約書を締結すると、書面の数が多くなるので、契約内容の読み間違いや、書面の紛失といったことが起こりやすくなります。こうしたときは、今回の変更箇所だけでなく、過去の変更箇所全てを反映させた新たな契約書を交わしたほうがよいでしょう。

3)契約書の確認に伴う手間

法務の担当者が契約書の内容を確認するときは、新たな契約書であれば、変更しない点も含め全ての条項を確認することになるので、手間がかかることがあります。こうしたときは、変更する条項のみを記載した契約書を交わしたほうがよいでしょう。

4)印紙税の納付

契約を変更して新たに契約書を作成した場合に、その契約書が、印紙税が課税される課税文書であるときは、改めて印紙税を納付しなければなりません。ただし、契約内容の一部を変更した場合、その変更部分のみを記載した契約書を作成すれば課税文書に該当せず、印紙税が不要になることがあります。こうしたときは、税負担を軽減するために、変更した契約内容のみを記載した文書を交わしたほうがよいでしょう。

なお、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」の変更のために作成した文書は課税文書となり、印紙税の納付が必要です。一方、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」を含まない変更のために作成した文書は課税文書に該当せず、印紙税の納付は必要ありません。「重要な事項」は、印紙税法基本通達別表第2「重要な事項の一覧表」において、課税文書の種類ごとに定められています。

3 締結済みの契約書の内容を変更するときの注意点

1)新たな契約書を締結するときのポイント

新たな契約書を締結するときは、新旧の契約が併存し矛盾することのないように、原契約を失効させます。具体的には、原契約が失効する旨を新たな契約書の前文などで定めたり、その旨を定めた「合意解約書」などを別途交わしたりします。実務的には書面作成などの手間を軽減できる前者のほうが多いようです。新たな契約書の前文に定めるときの文例は次の通りです。

本契約の成立により、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」は失効するものとする

また、契約の一部を変更し、変更部分のみを記載した契約書を作成する場合には、「覚書」や「念書」等の標題が用いられることが多いようです。このような文書を締結するときには、どの原契約に対するものなのかを特定する必要があります。具体的には、覚書等の前文に定めることが多いようです。

覚書等の前文に定めるときの文例は次の通りです。

甲と乙とは、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」について、以下の通り、その内容を変更することを目的として覚書を締結する

2)新旧対照表の作成

締結済みの契約書の内容を変更するときには、変更した条項が一目で分かるように「新旧対照表」を作成することがあります。新旧対照表は、新たな契約書や覚書等の別紙とすることもありますが、実務担当者等の参考資料として作成することもあります。

新旧対照表の例は次の通りです 。

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4 契約書の訂正に関する注意点

1)契約書を訂正する方法

訂正印は、一般的には、訂正箇所に二重線を引いて押印することをいいます(訂正の方法は法令で定められているわけではありませんので、他にも方法がありますが今回は省略します)。また、捨印により訂正することもあります。捨印は、書面の内容に訂正が生じることを予見して、あらかじめ文書の欄外に押しておくものです。捨印で修正する場合は、正しい字句に訂正し、訂正箇所を明らかにした上で、余白に「加筆○字」「削除○字」などと記載します。

訂正印の例と捨印の例は次の通りです。

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2)捨印の押印は慎重に

捨印には、契約書に誤りがあったときに、すぐに対応できるというメリットがあるものの、知らないところで、契約書の内容を勝手に書き換えられてしまうという重大な危険性があります。そのため、原則として「捨印」は使用しないようにしましょう。もし、相手方から捨印を求められた場合は、安易に応じずに弁護士などに確認しましょう。

以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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【新人経理向け】決算のメーン作業となる棚卸資産と固定資産の評価の全体像を把握する

書いてあること

  • 主な読者:棚卸資産と固定資産の評価について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:棚卸資産や固定資産の決算作業は、さまざまな集計・計算が絡むため分かりにくい
  • 解決策:売上原価や減価償却の計算方法を知り、決算書にどう反映されるのかを理解する

1 棚卸資産と固定資産の評価は決算のメーン作業

さまざまな集計や計算が行われる決算作業の中でも、金額の大きさなどからメーンとなるのが、棚卸資産と固定資産の評価です。

  • 棚卸資産:売上原価の計算と、期末評価額の算定、減耗損の有無の判断
  • 固定資産:減価償却の計算と減損の有無の判断

この記事では、新人経理担当者に必要な棚卸資産と固定資産の会計処理を解説します。

  • 商品や製品などの棚卸資産の評価
  • 建物や機械装置などの有形固定資産の評価

2 商品や製品などの棚卸資産の評価

1)売上原価と期末商品棚卸高

製造業以外の業種の売上原価は、

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高

で計算できます。

当期に仕入れたものが全て売上原価になるのではなく、販売につながった商品だけが売上原価として損益計算書に記載されることになります。期末商品棚卸高は棚卸資産として貸借対照表に記載されて次期に繰り越され、次期以降の売上原価の一部になります。

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2)製造業の製品製造原価と期末製品棚卸高

製造業は原材料を仕入れて、それを加工し出荷します。そのため製造業の場合、売上原価と期末棚卸高は自社製造製品が対象になります。

製造に必要な費用は、材料費、労務費、製造経費に大きく分けることができます。

  • 材料費:「材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高」で計算
  • 労務費:製造に携わる社員の給与、賞与、退職金、各種社会保険料などを集計
  • 製造経費:工場の光熱費、消耗品費、建物の減価償却費、外注費などを集計

製造業の場合、商品仕入高の代わりに当期製品製造原価を用いて売上原価を計算します。

また、棚卸資産は、材料棚卸高、仕掛品棚卸高(期末時点で製造途中の未完成品)、製品棚卸高により計算されます。その算出フローは次の通りです。

  1. 当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高
  2. 当期総製造費用=当期材料費+当期労務費+当期製造経費
  3. 当期製品製造原価=当期総製造費用+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高
  4. 売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高

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3)棚卸資産の主な評価方法

商品などの棚卸資産は取得原価を基に評価しますが、いつ仕入れたかによって価額が異なる場合が多いです。物価上昇時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は高くなります。一方、物価下落時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は安くなります。

そのため、決算時には次の評価方法の中から選択した方法で売上原価・製造原価の払出原価と期末棚卸資産の価額を評価することになります。

1.個別法

取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。個別法は、一品一品受注生産しているような棚卸資産の評価に適した方法です。

2.先入先出法

最も古く仕入れものから順次払出し、期末棚卸資産は最も新しく仕入れたものからなるとみなして、期末棚卸資産の価額を算定する方法です。

3.平均原価法

仕入れた棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。なお、平均原価は、総平均法(1年間分をまとめて平均原価を計算する方法)または移動平均法(仕入れる都度平均原価を計算する方法)によって算出します。

4.売価還元法

値入率などが同じ棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて期末棚卸資産の価額とする方法です。売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用されます。

売価還元法によると、期末棚卸資産は

期末棚卸資産=期末棚卸資産の通常の販売価額×原価率

の算式で計算されます。

なお、原価率は、

原価率=(期首棚卸資産+当期仕入高)/(当期売上高+期末棚卸資産の通常の販売価額)

の算式で計算されます。

例えば、期首棚卸資産の取得原価が200万円、当期仕入高が1000万円、当期売上高が1400万円、期末棚卸資産の通常の販売価額が200万円の場合、次の通りです。

原価率=(200万円+1000万円)/(1400万円+200万円)=75%

期末棚卸資産=200万円×75%=150万円

4)棚卸資産の減耗損はありますか

本来、商品在庫は、仕入数量から売上数量を引いた数量と一致すべきものですが、さまざまな要因(紛失や盗難など)で数量不足が起きることがあります。本来あるべき数量(帳簿棚卸数量)に比べて実際の数量(実地棚卸数量)が少ないケースです。この数量の減少による損失を減耗損といいます。減耗損の仕訳例は次の通りです。

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減耗損が毎期不可避的に発生するものは売上原価に含めるか、または販売費として扱います。一方、経常的でない異常な減耗損は特別損失(金額的に重要性の乏しい場合は営業外費用)として扱います。

5)棚卸資産の評価損はありますか

販売するために保有する棚卸資産は、取得原価で貸借対照表に計上します。ただし、期末における正味売却価額(期末時点で市場で販売できる価額)が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します。なお、詳細な解説は省略しますが、会計基準上は認められていないものの、税務上は原価法も認められています。

前期に評価損を計上した棚卸資産については、当期首に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用することができます。また、売価の下落要因を、

  • 物理的劣化
  • 経済的劣化
  • 市場の需給変化

の要因ごとに区分できるときは、その区分ごとに洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用できます。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければなりません。

切放し法と洗替え法による仕訳例は次の通りです。なお、税務上、切放し法は認められません。

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3 建物や機械装置などの有形固定資産の評価

1)減価償却とは

建物や機械装置、車両運搬具などは、少額のものを除き有形固定資産として計上します。これらの資産は購入した年度だけ使用するのでなく、翌年度以降も使用されます。そのため、耐用年数(資産の種類や性質ごとに異なります)の期間を通じて、費用処理する方法が取られています。この処理を減価償却といい、毎期一定の金額、または一定の割合で価値が減るという仮定で費用処理します。現在は、パソコンなどで自動計算されるため、計算方法よりも、むしろ貸借対照表にどのように計上されているのかを押さえることが大切です。

2)事例で学ぶ 減価償却の会計処理

減価償却について、次の条件を基に説明します。

機械装置を100万円で購入、耐用年数は10年、定額法

定額法による場合、各期の減価償却費は次式で算出されます。

各年度の減価償却費=取得価額×償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)

各年度の減価償却費=100万円×0.100=10万円

また、期首帳簿価額、減価償却費、期末帳簿価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円まで償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算において営業費用として処理されることになります。

各期の仕訳例は次の通りです。

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貸借対照表では次のように表示されます。原則は間接控除方式ですが、直接控除方式によることもできます。

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以上(2024年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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社長から若手社員へ送るメッセージ「新入社員の良いお手本になってください」

書いてあること

  • 主な読者:新入社員を迎え、初めて先輩になる入社2~3年目の若手社員
  • 課題:ビジネス経験が乏しく、新入社員のお手本になれるか不安
  • 解決策:社会人としての自覚と基本を忘れないようにする。まずは元気な挨拶と笑顔とプラスの発言を心がけ、報告・時間厳守など、基本に忠実に真摯に仕事をする

1 「新入社員」を卒業する皆さんの立場は、大きく変わります

新入社員が入社し、これまで後輩がいなかった若手社員の皆さんは、初めて「先輩」になります。先輩になった皆さんは、新入社員の頃と違って、次のようなことが求められます。

  1. 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている
  2. 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く
  3. 教えられるだけでなく「教える」

皆さんが先輩社員から直接話を聞き、仕事ぶりや発言を見聞きして学んできたのと同じように、新入社員も皆さんのことをよく観察し、皆さんの影響を強く受けます。良い面も悪い面もです。そして、皆さんには、新入社員への「良いお手本」になることが期待されています。

2 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている

1)元気に挨拶し、笑顔を絶やさない

まず皆さんに率先垂範してもらいたいのは、元気に挨拶することです。「何を今さら……」と思うかもしれませんが、皆さんは“常に”実践できていますか? 明るく元気な挨拶は、それだけで周りも明るくします。特にオンラインの場合、画面越しに話をするので、元気な挨拶や分かりやすいリアクションをするのがいいでしょう。

笑顔でいることも、とても大事です。元気な挨拶や笑顔は、社歴、立場、属性などに全く関係なく、心がけ次第で実践できます。どんなにベテランメンバーになっても、どの職種や業種でも使い続けられる、社会人の大きな「武器」と言っていいでしょう。

2)プラスの発言をする

元気な挨拶や笑顔と同じように心がけてほしいのは「プラスの発言をする」ことです。新入社員は、皆さんの発言をよく聞いています。年齢の近い皆さんの発言は、ある意味、新入社員にとって「自分が入ったこの会社がどういう会社か」を大きく印象付けるものです。

ちょっと考えてみてください。新しい環境にワクワクし、「これから頑張ろう!」と期待して入社してきたのに、先輩社員が「仕事が面倒」「顧客の相手が大変」などのマイナス発言を繰り返す、ため息が多い、楽しくなさそう。そんな状態では、新入社員はどう思うでしょうか。

同じ発言でも、「仕事の進め方を効率化したほうが良さそう。工夫のしがいがある!」「顧客の話は、よく聞くと本当のニーズが分かって面白い(^^)」とプラスの発言に言い換えれば印象は全く違います。プラスの発言は伝播しますから、職場のよい雰囲気づくりにもつながります。発言一つでも新入社員に良いお手本になるよう、何より、皆さん自身も新入社員も、ワクワク仕事に向き合えるようにしていきましょう。

3)3S(整理・整頓・清掃)を徹底する

5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の大切さについては、皆さんもよく知っていると思います。特に大事なのは、整理・整頓・清掃の「3S」です。特定の私物を除き、会社は「公の場、公のもの」という感覚を持つことが大切です。

この意識が定着しているかどうかは、床に落ちているゴミを拾えているかどうか、PC内にある資料を誰が見ても分かるように整理・整頓できているかなどを見れば、すぐに分かります。

4)ちゃんと報告をする、コミュニケーションを取る

報告、情報の共有はとても大事です。ピンチやトラブルを防ぐことや、チャンスやアイデアを生み出すことにつながります。皆さんも報連相(報告・連絡・相談)が必要なことは分かっていると思いますので、新入社員のお手本になるよう、報告など、周りとしっかりコミュニケーションを取ることを改めて見直してみましょう。

おそらく、新入社員は、皆さんの真似をします。皆さんが周りとしっかりコミュニケーションを取っている姿を見れば「こういうふうに報告や話をすればいいのだな」と分かります。新入社員の手本となるよう特に心がけてほしいことは2つです。

1つ目は、悪い情報から先に報告することです。トラブルの芽を早い段階で摘み取る必要があるためです。2つ目は、悪い情報でもはっきりと話すことです。「叱られるのではないか……」と小さな声になりがちですが、悪い情報だからこそ正確に伝えなければなりません。また、テレワークの場合は、チーム全体に対してチャットツールやメールで「トラブルです」など、悪い情報であることがすぐに分かるように知らせましょう。

5)時間を意識して仕事に取り組む

ビジネスの世界では、時間を守るのが当たり前です。どのような仕事でも、全くの一人で完結することはほぼないでしょう。遅れれば、誰かの時間をロスさせてしまうかもしれないのです。締め切りを常に意識し、「20日の18時」のように、具体的な日時を設定しましょう。スケジュールを立てたり、人に伝えたりする場合、「今日中」や「早めに」といった曖昧な表現は使わないほうがいいでしょう。

また、「限られた時間で、最も効果的な仕事をする」ことが求められます。計画を立てて、滞りなく進めることを意識してみましょう。経験が足りずに、計画通りにいかないのは仕方のないことです。大切なのは、計画と誤差が生じた理由を明らかにして改善することと、徐々に誤差を小さくしていくことです。

5)仕事を通じて何を実現させたいのかを明確にする

新入社員だったときは、まずは目の前の仕事を覚えるのに精いっぱいだったかもしれません。完全ではないかもしれませんが、仕事についてある程度覚えたこの段階で、改めて、皆さんには、「自分は何のために仕事をしているのか」「自分はこの仕事を通じて何を実現させたいのか」について考えてみてほしいのです。

入社したときに抱いていた「会社に入ってこれがしたいんだ!」という“志”を思い出してみるのもよいでしょう。そうすると、新入社員に、「自分の仕事に対する思い」を「自分の言葉」で話せるようになります。響き方がきっと違うはずです。

3 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く

1)仕事の範囲を広げる

仕事を依頼された場合、皆さんはどこまでを「自分の仕事」として捉えますか? 例えば、ある仕事に1から10までの工程があり、そのうちの2~3の工程を上司に任されたとします。2~3の工程だけしか意識しないと、その仕事を断片的にしか捉えられません。そうではなく、前後の仕事、理想的には全ての仕事を把握しましょう。

仕事の流れを全体的に把握できれば、自分がやっている仕事の意義が分かります。そうなると、「上司に任されたから仕事をする」ではなく、「○○のために仕事をする」という感覚が持てるようになります。

2)継続的に勉強する

自分の知識や能力を高めるための勉強を継続することは、とても大切です。私は全ての社員が自己研さんを積むことを期待しており、特に考え方が柔軟な若手社員のうちにたくさん勉強してもらいたいです。

勉強は仕事に直接関係することだけではなく、趣味なども含まれます。対象を問わず、1つのことをしっかりと学ぶ過程で、自らの考えをブラッシュアップする、情報収集の方法を工夫する、新しい人との出会いがあるなど、さまざまな効果があります。

3)積極的に発言・行動する

上司や先輩の指示・指導を素直に聞くことは大切ですが、上司や先輩が常に正しいことを言っているとは限りません。ただむやみに反抗しろという意味ではなく、常に「それは本当か?」という意識を持っておくのも重要だということです。

例えば、社内で“当たり前”といわれることでも疑ってみましょう。長年携わっている人には気が付かないことでも、フレッシュな視点を持った皆さんなら指摘できることがあるものです。「長年続けてきたようだけど、会社にとって、これは改めたほうがよい」と気付いたことがあれば、遠慮なく発言してください。会社にとって前向きな意見であれば、私は大歓迎です。そしてそうした皆さんの姿は、新入社員にも伝播していきます。

4 教えられるだけでなく「教える」

1)新入社員の相談役になる

皆さんが入社したときのことを思い出してみてください。期待と不安があったはずで、今の新入社員も同じです。テレワークなどでリアルで顔を合わせる機会が少ない場合は、不安のほうが大きいかもしれません。そうした新入社員をフォローできるのは、新入社員の気持ちが分かる、年齢も近い皆さんです。ぜひ、新入社員の良いお手本であると同時に、頼れる相談役となってください。

2)世の中は、与えてもらい、与えることで成り立っている

皆さんはこれまで、上司や先輩社員にさまざまな面でお世話になってきたはずです。おそらく、皆さんが感じている以上に、上司や先輩社員は皆さんのことを気遣い、陰に日向に支えてくれています。

私は、皆さんに「だから今すぐ○○をしろ」と言いたいわけではありません。世の中とはそのように、与えてもらい、与えることで成り立っているということを認識してもらいたいのです。

皆さんは、これからも上司や先輩社員からさまざまなものを与えてもらうはずです。もちろん、何らかの形でお返しすることができれば、素晴らしいことです。ですが、一番の「恩返し」は、自分たちが上司や先輩社員から与えてもらったように、皆さんが持っているものを、惜しみなく新入社員に与える=教える、伝えることです。

皆さんのこれからの活躍に、私は大いに期待しています!

以上(2024年4月更新)

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【新人経理向け】一時的な会計と税務のルールの違いを調整する「税効果会計」

書いてあること

  • 主な読者:税効果会計について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:税効果会計は会計だけでなく、税務の知識も必要なためよく分からない
  • 解決策:会計と税務のずれのうち、一時的に差異が生じる「一時差異」だけを調整する

1 税効果会計が必要なのは大企業のみ?

税効果会計とは、

会計上と税務上の収益・費用(益金・損金という)のズレを調整する決算処理

です。例えば、引当金など会計上は計上できるが、税務上は計上できないといった会計と税務の違いがあります。すなわち、利益を計上するタイミングが会計と税務で異なることから、こうした違いを調整せずに決算書を作成すると、税金費用が会計上の利益と対応しなくなり、適正な期間損益計算が行えなくなります。そこで、会計上の利益に対応する税金費用を計算するための決算処理が必要になるのです。

なお、税効果会計を義務付けられているのは次の会社です。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場会社(1億円以上の発行価額で有価証券の募集を行った場合など)
  • 会計監査人を設置している会社(非上場も含む)

中小企業の税効果会計は任意での適用です。その理由は、

法人税等の額が少額だったり、株主が親族だけだったりする中小企業は、調整をしなくても特段問題が生じない

からです。ただ、税効果会計は基本的な知識ですので、中小企業の経理担当者も押さえておくべき知識です。

2 仕組みから理解する税効果会計の調整と効果

税引前当期純利益と課税所得(税務上の利益)が共に1000万円で、法人税等を300万円とした場合、損益計算書の税引前当期純利益から税引後当期純利益までは次のようになります。

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もし、×1年度において、会計上で500万円を費用処理したものが、税務上で損金とすることができない場合、課税所得は1000万円ではなく1500万円(1000万円+500万円)になります。この場合は次のようになります。

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×2年度において、前年度(×1年度)に費用処理した500万円を税務上、損金とすることができたとします。会計上の税引前当期純利益が前年度と同じく1000万円なら、税務上500万円が損金となるので、課税所得は500万円(1000万円-500万円)となります。

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税引前当期純利益が、×1年度、×2年度共に1000万円なのに、法人税等の額が、

×1年度は450万円

×2年度は150万円

と大きく違ってくるのです。

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税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点が異なることから生じた差異(税引前当期純利益とそれに対応する法人税等が一致しない部分)を、次のように調整します。

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×1年度において、法人税等450万円のうち、税引前当期純利益1000万円に対応する300万円(1000万円×30%)を超える150万円(450万円-300万円)分の法人税等、つまり、税務上損金にできなかった500万円に対する法人税等(500万円×30%=150万円)を減額することで、会計上の利益と対応した税額に調整できます。

また、×2年度において、税引前当期純利益1000万円に対応する税額は300万円なのですが、課税所得計算上は150万円です。これは×1年度の課税所得計算上損金にできなかった500万円が×2年度に損金計上できることになったためです。そこで、×1年度に税額調整した150万円を×2年度の税額に加えて300万円(150万円+150万円)に増額し、会計上の利益と対応した税額に調整します。

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このようにして、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることができるのです。

3 税効果会計の対象は「一時差異」だけ

税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点の差異を、

  • 一時差異:ずれが一時的に限定されるもの。減価償却費、引当金など
  • 永久差異:ずれが永久に解消されないもの。交際費、寄付金、役員報酬など

に大別しています。税効果会計で調整が必要なのは一時差異だけで、永久差異は対象外となります。あくまで、税効果会計は認識時点にずれの生じたものを調整する手続きだからです。

さらに、一時差異は

  • 将来減算一時差異:将来の課税所得を減額させる一時差異
  • 将来加算一時差異:将来の課税所得を増額させる一時差異

に分けられ、それぞれ取り扱いが異なります。具体例を見ながら確認してみましょう。

4 将来減算一時差異と繰延税金資産

次の条件を基に、将来減算一時差異と繰延税金資産について説明します。

  • ×1年度において、棚卸資産が陳腐化したため、500万円の評価減をした。ただ、これは税務上認められないので、税務上、自己否認(決算書において費用として計上した500万円の評価減の金額を税務申告書で自ら否認して、課税所得を算出)した
  • ×2年度において、評価減した棚卸資産を販売したため、×1年度に評価減した500万円が税務上、損金として認容(過去に否認した損金を、損金算入)された
  • ×1年度、×2年度の税引前当期純利益はそれぞれ1000万円で、実効税率は30%

×1年度と×2年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税等の計算から分かるように、棚卸資産の評価減を自己否認した×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得1500万円の間に500万円の差異が生じています。

また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り大きく異なったものとなり、一定率の対応関係にありません。

×1年度:450万円

×2年度:150万円

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(450万円-150万円)

×2年度:300万円(150万円+150万円)

×1年度と×2年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金資産とは、前払税金に相当するもので、将来の期間利益に対応すべき税額ですが、当期に支払うものとして位置付けることができます。

税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年度において課税所得を減額する働きがあります。

5 将来加算一時差異と繰延税金負債

次の条件を基に将来加算一時差異と繰延税金負債について説明します。

  • ×1年度に導入した設備について、税法上500万円の特別償却が認められるため、この特別償却を剰余金処分方式により特別償却準備金として積み立て、税務申告において減額した。この準備金は積み立てた翌期から5年間にわたり均等額を取り崩す

特別償却とは、投資額の一定割合を税務上の損金に計上できる制度です。ただ特別償却は会計上では計上されないため、会計上、特別償却の処理のつじつまを合わせるために、剰余金処分の方法で準備金として積み立てる処理が行われます。積立金の取り崩し期間は税法で定められており、前述の例では5年(設備の法定耐用年数が5年以上10年未満)としています。

×1~×6年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税、住民税及び事業税の計算から分かるように、×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得500万円の間に500万円の差異が生じています。

また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は次の通りです。

×1年度:150万円

×2年度:330万円

×3年度:330万円

×4年度:330万円

×5年度:330万円

×6年度:330万円

×1年度と×2~×6年度の法人税等は異なります。

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税等の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(150万円+150万円)

×2年度:300万円(330万円-30万円)

×3年度:300万円(330万円-30万円)

×4年度:300万円(330万円-30万円)

×5年度:300万円(330万円-30万円)

×6年度:300万円(330万円-30万円)

×1~×6年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金負債とは、未払税金に相当するもので、当期の利益に対応すべき税額ですが、将来に支払うものとして位置付けることができます。

税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年~×6年度において課税所得を加算する働きがあります。

以上(2024年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【契約書の実務(2)】なぜ、印鑑レスでも押印が求められるのか?

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れていない経営者、担当者
  • 課題:「印鑑レス」といわれるが、本当に押印は必要ないのだろうか?
  • 解決策:多くの場合、法的に印鑑は不要だが、相手から求められることが多いので基本的なルールを押さえておく

1 署名と記名の違い

署名と記名は似た言葉ですが、明確な違いがあります。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:署名以外の方法(ゴム印、パソコンの印字など)で自分の名前を記すこと

署名または押印があると、その文書はその当事者の意思に基づいて真正に作成されたものだと推定されます。「『署名』または『記名+押印』」があればよいので、署名があれば押印は不要ですが、実務上は押印することが多いです。一方、記名の場合、押印がなければ署名と同様の効果はありません。

契約当事者が個人の場合、戸籍上の姓名を記載するのが原則です。ただし、個人を明らかに特定できる場合、俗称やペンネームで署名等とすることができます。また、個人事業主の場合、「○○商店」などの商号や屋号で署名等をすることもできます。ただし、契約内容に関わる主体が明らかであることが求められるので、商号や屋号だけで契約をすることはできません。例えば、「○○商店こと□□□□」(「□□□□」は個人事業主名)などと記載する必要があります。

法人の場合、「商号」「代表資格」「代表者の氏名」を記載する必要があり、通常はそれに続いて「登録印(実印)」を押すことになります。ただし、実務的には「登録印(実印)」とは別に「認印(契約印)」を用意している会社が多いでしょう。

なお、一定の要件に該当する場合、契約当事者が代表者ではなく事業部長等でも、法律上有効なことがあります。例えば、事業部長等が会社法で定められた「支配人」に該当し、当該事業に関する包括的な代理権を有している、あるいは個別の契約締結につき法人から代理権が与えられているような場合です。なお、会社法第10条および第11条で、支配人は会社等から選任された商業使用人で、「その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とされています。

2 多くの場合、押印は不要

契約書に押印するのは当たり前と考えられていますが、実は多くのケースで押印が法的に求められているわけでありません。つまり、押印がなくても契約は有効になります(不動産会社が作成する重要事項説明書など、押印が必要な文書もあります)。にもかかわらず押印がされるのは、押印によってその文書が真正であると推定しているからです。

一方、電子契約も浸透しています。電子契約では押印はしませんが、電子署名を利用して契約を締結します。認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも押印と同じ効力が認められます。

このような事情から「印鑑レス」が進んでいるわけですが、契約は相手の意向も大きく関係します。自社が押印不要である旨を説明しても、相手方が希望する場合、それに応じなければ契約が進まないことがあるのも事実です。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関する基本的なルールを紹介します。

3 押印に関する基本的なルール

1)押印に使用する印鑑の種類

通常のビジネスの契約書であれば、登録印(実印)でも認印(契約印)でも、契約書の法的効力は同じです。ただし、重要な契約のときは、「第三者が勝手に押印をした」といったトラブルを避けるため印鑑登録されている印を使用し、併せて印鑑登録証明書を提出することもあります。また、法人の場合、登記簿謄本、個人の場合は運転免許証等の身分証明書を確認することも、トラブル防止の観点からは大切です。

2)押印する位置

署名や記名に掛からないように押印されている場合や、掛かるように押印されている場合がありますが、印影がはっきりしていれば、どちらでも問題ありません。

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3)契印と割印に関する注意点

契印と割印は、どちらも契約書の偽造防止等のためにするものです。

契印は、複数ページの契約書を作成したときに、各ページが1つの書面を構成することを示します。また、勝手に差し替えられたりしないようにもしています。

割印は、複数の部数の契約書を作成したときに、各書面が同一または関連したものであることを示すために、各書面にまたがって押印することをいいます。

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契印や割印がなくても、法的な問題はありません。また、押印する印鑑の種類や押印する者についても決まりはありません。ただし、契印や割印の意味を鑑みて、重要な契約の場合は署名等に使った印鑑を用いて、全ての契約当事者が契印や割印をするのがよいともいえます。

4 収入印紙と消印に関する注意点

1)印紙税とは

印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受領書などに課税される税金です。印紙税の対象となる文書を「課税文書」と呼びます。ビジネス上の契約書の多くは課税文書なので、印紙税の納付が必要になることが多くなります。課税文書は20種類あり、印紙税額が異なります。契約書がどの種類に該当するかは、契約書のタイトルではなく内容で判断します。

2)電子契約の場合の印紙の扱い

電子契約の場合、現時点では印紙税は課税されません。印紙税は課税文書の作成者が納税者となります。ここでいう「作成」とは、紙の書面にて交付することをいいます。つまり、電子契約は紙の書面ではないので課税文書の「作成」に該当せず、現状では印紙税は課税されない扱いです。

3)印紙税の納付の方法

印紙税は契約書に収入印紙を貼り付けることで納付します。貼り付ける場所は契約書上部の余白部分とするのが通常ですが、特に制限はありません。また、収入印紙は、原則として作成した契約書の全てに貼り付けます。

収入印紙を貼り付けたときは、収入印紙と契約書の双方に掛かるように押印します。これを「消印」と呼びます。消印は、収入印紙の再使用を防止するためのものなので、押印する印鑑は何でもよく、ボールペンなどでチェックを付けることでも問題ありません。

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4)印紙税の負担者

契約書は、契約当事者がそれぞれ1通ずつ保管するのが通常ですが、課税文書を2人以上の者が共同して作成した場合は連帯して印紙税を納める義務を負います。そのため、自己が所持している契約書のみに印紙を貼っても、印紙税の納付義務を完全に履行したことにはならず、他の者が所持している契約書にも印紙を貼る必要があります。

ただし、契約当事者間の関係では、各自が負担する割合を自由に決めることが可能であり、特定の契約当事者が全額負担するといった合意も可能であるので、事前に負担方法を相手方に確認しましょう。

5 契約締結日に関する注意点

契約書に記載する契約締結日は、契約内に特段の定めがない限り、原則として契約の効力発生日となり、全ての契約当事者の署名等が完了した日とするのが通常です。例えば、全ての契約当事者が集まって手続きをするときは、その日が契約締結日となります。また、郵送でやり取りするときは、最後の契約当事者が署名等をした日となります。

なお、契約締結日と効力発生日が違う場合は、契約の効力がいつから発生するかが分かるように記載します。

ただし、実務的には契約締結日を違う日にすることもあります。この場合、特に注意が必要なのが、過去の日付に遡って契約を締結する場合です。「過去の実態と乖離(かいり)している」「過去の法律や制度との整合性が取れていない」など、さまざまな問題が発生する恐れがあります。他にも、契約当事者間で争いが生じた場合に、相手方からだまされて契約を結ばされた、などの主張がなされる恐れもありますし、脱税目的で過去の日付に遡らせたのではないかと税務署に疑われる恐れもあります。

このように契約締結日は法律上重要な意味合いを持っています。いずれにしても、契約締結日については、必要に応じて相手方や上司、法務担当者と相談するようにしましょう。

以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【新人経理向け】ごまかしの利かないお財布事情を示す「キャッシュフロー計算書」

書いてあること

  • 主な読者:キャッシュフロー計算書について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:中小企業はキャッシュフロー計算書の作成が義務付けられていないため、キャッシュフロー計算書を作成するメリットが分からない
  • 解決策:キャッシュフロー計算書を作成することで、損益計算書と貸借対照表では見えてこない資金の額と流れが明らかにできる

1 第三の財務諸表「キャッシュフロー計算書」

キャッシュフロー計算書は、貸借対照表および損益計算書と並ぶ第三の財務諸表です。キャッシュは現金、フローは流れという意味で、キャッシュフローとは、企業の現金の流れ、企業の現金収支を表す言葉です。現金収支は現金の流入(収入)と流出(支出)の差を指します。

キャッシュフロー計算書では、その源泉によってキャッシュフローを次のように分けています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

従来の企業会計は、発生主義の原則(収益や費用が発生した時点で財務諸表に計上すること)による損益計算を中心に行われてきました。これは分かりやすい反面、現金の流入を伴わない未収収益、現金の流出を伴わない未払費用が計上されてしまいます。また、建物や機械装置、車両運搬具、土地などの取得に伴う現金支出は費用としてではなく資産として計上されます。発生主義を基に計算する期間損益(一定期間の中で経営した結果獲得した損益)の計算は、現金収支とは乖離(かいり)します。

この問題をキャッシュフロー計算書は解消することができ、損益計算書と貸借対照表では見えてこない資金の額と流れが明らかになります。

ただ、キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは、会計監査が強制されている金融商品取引法適用会社(有価証券報告書、有価証券届出書提出会社)だけです。しかし、キャッシュフローを重視した経営は有用であり、金融機関や取引先からの信頼性の向上を図る上で重要な経営資料となるので、中小企業でも作成することが望ましいといえます。

2 キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲

キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲は現金及び現金同等物としており、その内容は次の通りです。

1)現金

手元現金及び要求払預金を指します。要求払預金とは、預金者が一定の期間を経ることなく引き出すことができる預金をいい、例えば、普通預金、当座預金、通知預金が含まれます。預入期間の定めがある定期預金は要求払預金には該当しません。

2)現金同等物

容易に換金可能かつ、価値の変動について僅少(きんしょう)なリスクしか負わない短期投資を指します。定期預金は要求払預金には含まれませんが、3カ月以内の期間設定の定期預金であれば、現金同等物に含まれます。容易な換金可能性と僅少な価値変動リスクの要件をいずれも満たす必要があり、市場性のある株式などは換金が容易であっても、価値変動リスクが低いとはいえず、現金同等物には含まれません。

なお、現金同等物として具体的に何を含めるかについては、各企業の資金管理活動により異なることが予想されるため、経営者の判断に委ねることが適当と考えられています。従って、現金及び現金同等物の内容に関しては会計方針として注記する必要があります。

3 キャッシュフロー計算書の概要

キャッシュフロー計算書(間接法)のイメージは次の通りです。

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1)営業活動によるキャッシュフロー(間接法)

日本に導入されているキャッシュフロー計算書は、米国と同様に直接法と間接法のどちらかを選択できるようになっています。

直接法は、商品の販売や仕入れ、経費の支出など、主要となる取引を個々に合算していく方法です。従来の損益計算とは別で新たに営業活動によるキャッシュフローを計算するための手続きを一から行う必要があり、計算手続きに労力がかかります。

一方で、間接法は損益計算書の税引前当期純利益を基に加減して計算できるため、直接法と比べると労力が少なくすみます。

間接法による営業活動によるキャッシュフローの計算は、税引前当期純利益から開始し、これに、支出を伴わない費用である減価償却費、貸倒引当金の増加額などを加算します。そして損益項目と貸借対照表項目を加減することによって、営業活動によるキャッシュフローを計算します。

1.利息及び配当金の受取額

税引前当期純利益から発生ベースによる受取利息・受取配当金(損益計算書の数値)を減算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる受取利息・受取配当金を加算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

2.利息の支払額

税引前当期純利益に発生ベースによる支払利息(損益計算書の数値)を加算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる支払利息を減算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

3.為替差額(為替レートによる差額)

為替差益は減算し、為替差損は加算することにより、営業活動によるキャッシュフローの算出過程から除きます。為替差額は現金及び現金同等物に係る換算差額の欄で改めて独立表示します。

4.有形固定資産売却損益

有形固定資産の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、有形固定資産の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、有形固定資産の売却による収入として表示します。

5.投資有価証券売却損益

キャッシュフロー計算書(間接法)の様式にはこの項目はありませんが、投資有価証券売却損益についても同様の処理をする必要があります。

投資有価証券の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、投資有価証券の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、投資有価証券の売却による収入として表示します。

6.売上債権(売掛金)の増減額

売上債権の増加額は減算し、逆に売上債権の減少額は加算します。売上債権は将来の現金収入につながるものですが、現金収入に至るまでの経過的な勘定です。

7.たな卸資産(期末たな卸高)の増減額

たな卸資産は売り上げの実現により、将来の現金収入につながる資産ですが、たな卸資産の取得は現金支出により取得されたものです。たな卸資産の増加額は減算し、逆にたな卸資産の減少額は加算します。

8.仕入債務(買掛金)の増減額

仕入債務の増加額は加算し、逆に仕入債務の減少額は減算します。仕入債務は将来の現金支出につながるものですが、現金支出に至るまでの経過的な勘定です。

2)投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローは、固定資産や有価証券の取得・売却、資金の貸付け・回収による資金の収支を計算するものです。

発生主義会計においては固定資産・有価証券の取得は損益計算とは関係せず、貸借対照表に資産として計上されます。また、固定資産・有価証券の売却は、損益計算では営業外損益または特別損益に、売却益または売却損のみが計上され、貸借対照表上に計上されている資産が減少します。このように、固定資産・有価証券を売却した場合、売却額(売却による現金収入の総額)が明確になりませんが、投資活動によるキャッシュフローではそれを把握できる利点があります。

3)財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローは、企業の従来の資金繰りに当たる内容になります。資金の借り入れによる収入、社債発行による収入、株式発行による収入、借入金返済による支出、社債償還による支出、自己株式取得による支出、配当金の支払額などが一覧で把握できます。

4)現金及び現金同等物の計算

営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの合計額に現金及び現金同等物に係る換算差額を加減し、現金及び現金同等物の増減額を計算し、これに現金及び現金同等物の期首残高を加算し、現金及び現金同等物の期末残高を計算します。この現金及び現金同等物の期末残高は、貸借対照表に含まれる現金及び現金同等物の額と一致することになります。

4 キャッシュフロー計算書の作成例

簡単な例を使って、×1年度におけるキャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。税引前当期純利益は1000万円とします。

下表(C/F1)~(C/F25)の記号は、キャッシュフロー計算書上で確認しやすいように付けたものです。金額の右側の(加算)(減算)は、キャッシュフロー計算書における加算と減算を表します。

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以上を基にキャッシュフロー計算書を作成すると次のようになります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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