【人事部DX】賃金の支払いや社会保険料の納付をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:賃金や社会・労働保険の手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン化可能なのか分からない
  • 解決策:健康保険「被扶養者状況リストの提出」など一部を除いて、オンライン化が可能

1 手続きの多くはオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

賃金や社会・労働保険の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な賃金や社会・労働保険の手続きは、原則オンライン化が可能ですが、図表の赤字部分に注意が必要です。

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【法定書類(算定基礎届など)の提出】

健康保険の「被扶養者状況リスト」は、オンラインで提出できない。

以降では、「賃金の手続き」「社会保険の手続き」「労働保険の手続き」の3段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 賃金の手続き

1)賃金の支払い

給与明細は、社員の同意を得れば、PDFデータで交付したり、クラウド給与計算ソフトなどを用いてウェブ上で公開したりできます。賃金の振込についても、ネットバンキングを活用すれば、個々の社員の口座にオンラインで賃金を振り込めます。その際にお勧めしたいのが

「全銀協規定フォーマット」などを使った一括振込

です。これは全国銀行協会連合会(現:一般社団法人全国銀行協会)が定めた、多くの給与計算ソフトからCSV形式で振込データを出力できるフォーマットです。フォーマットをネットバンキングに読み込ませれば、社員数に関係なく一括振込が可能です。

また、労働基準法上、賃金は通貨で支払うのが原則ですが、労使協定の締結をした上で、賃金のデジタル払いを希望する個々の社員の同意を得れば、一定の要件の下、電子マネーによる「賃金のデジタル払い」(資金移動業者の口座への賃金支払)も可能です。

ただし、デジタル払いが認められるのは、厚生労働省の指定を受けた「資金移動業者」を利用する場合に限定されます。2024年8月9日時点で指定を受けている資金移動業者は「PayPay」の1社のみです。詳細については、下記をご確認ください。

■厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

2)法定書類の保管

次の書類は、社内で保管する義務がありますが、全てデータでの保管が可能です。

  1. 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(法定三帳簿)
  2. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  3. 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
  4. 給与所得者の保険料控除申告書
  5. 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
  6. 源泉徴収簿(作成は任意。年末調整の根拠資料として使用する場合には保管が必要)

1.は、常に会社に備え付けておかなければならない書類です。所轄労働基準監督署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

2.は、扶養親族の有無などを申告する際に、3.、4.、5.は、年末調整時に社員が会社に提出する書類です。いずれの書類についても、社員からデータでの提出を受けることが可能ですが、そのためには、

  • 社員からデータでの提出を受ける具体的な方法(電子メール等で送信する、USBメモリに保存して提供するなど)を定めておくこと
  • 提出されたデータが社員本人のものであると確認できるようにしておくこと(社員のマイナンバーカードなどで電子署名を行い、電子証明書を申告書情報と併せて送信する、申告書データそのものにパスワードを付す、社員に割り当てられた電子メールアドレスから送信するなど)

といった対応が必要です。具体的な方法は、国税庁ウェブサイトでご確認ください。

■国税庁「年末調整手続の電子化に関するパンフレット」(措置の内容については、「よくある質問」の問2-9に記載)■

https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_pamph.htm

また、税務署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、上記と同様に、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

6.は、毎月の源泉所得税の納付や年末調整を正確に行うために会社が任意に作成する書類です。税務署への提出義務はありませんが、年末調整の根拠として利用した場合には、紙またはデータでの保管が必要です。

3 社会保険の手続き

1)社会保険料の納付

社会保険料は、「口座振替」、「金融機関の窓口で納付」、「電子納付(Pay-easy)」のいずれかの方法で納付します。会社が毎月納付する社会保険料の額は、日本年金機構から送られてくる

  • 保険料納入告知額・領収済額通知書(口座振替の場合)
  • 保険料納入告知書(窓口納付、電子納付の場合)

に記載されています。上記各書類は、原則、紙で郵送されてきますが、原本を保管する義務はないため、スキャンをして、電子データで保管しても問題ありません。

また、保険料納入告知額・領収済額通知書については、「オンライン事業所年金情報サービス」を利用すれば、電子データで受け取ることも可能です。

上記の納付方法の中で、最も手間がかからないのは口座振替です。日本年金機構に必要書類(下記URL)を提出すると口座振替が可能になり、毎月末に納付すべき社会保険料が自動で引き落としされますので、会社側に振込の手間はかかりません。

■日本年金機構「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」■

https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/hokenryo.html

口座振替を行わない場合は、ネットバンキングの口座を開設して、Pay-easyで電子納付を行うのがおすすめです。次の3つの手続きだけで、オンラインでの納付が完了します。

  1. ネットバンキングにログインする
  2. 操作画面から「Pay-easyによる支払」のメニューを選択する
  3. 「収納機関番号(00500)」、「納付番号(16桁)」、「確認番号(6桁)」を入力する

2)法定書類の提出

次の書類は、社会保険関連の手続きで定期的に提出が必要です。5.以外はオンラインでの提出が可能です。

  1. 算定基礎届
  2. 月額変更届
  3. 賞与支払届
  4. 被扶養者(異動)届
  5. 被扶養者状況リスト

1.は、毎年7月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)の間に、2.は、2等級以上の社会保険料の等級変更があった場合に、3.は、賞与を支払った場合に、それぞれ日本年金機構に提出する必要がある書類です。なお、これらの各書類は、会社が電子証明書を取得していれば、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」経由での電子申請が可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4.は、「子どもが生まれた」、「配偶者や子どもが就職した」などで被扶養者に変化があった場合に、日本年金機構に提出する必要がある書類です。1.から3.と同じく電子申請が可能ですが、健康保険被保険者証の受取や返却については、郵送での対応になります。

5.は、被扶養者(異動)届の提出漏れにより、被扶養者のままになっている配偶者や子どもがいないかを確認する書類で、健康保険の保険者(協会けんぽなど)から紙で送られてきます。こちらは必要事項を記入して、返信用封筒で保険者に返送することになります。

なお、1.から4.の書類については、提出後に次の通知書が発行されます。

  1. 算定基礎届 → 標準報酬決定通知書
  2. 月額変更届 → 標準報酬改定通知書
  3. 賞与支払届 → 標準賞与額決定通知書
  4. 被扶養者(異動)届 → 健康保険被扶養者(異動)決定通知書

電子申請で手続きしていれば、各通知書はブラウザー上で閲覧できる「XML」という形式で発行されます。データが正式な公文書として扱われますので、データのまま保管して問題ありません。

4 労働保険の手続き

1)労働保険料の申告

労働保険料は、毎年6月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)までの間に1年分をまとめて申告・納付し、翌年度の当初に確定申告の上精算することになっています。1年分の賃金の見込額に基づいて予納し、翌年度に過不足額の精算が行われる仕組みです。

労働保険料を申告する場合、

労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書

を所轄都道府県労働局又は所轄労働基準監督に提出する必要があります。この申告書はe-Gov経由での電子申請による提出が可能です。ただし、e-Govには保険料額を自動計算する機能などがないため、紙で申告する場合と同様、給与計算ソフトやエクセルなどで保険料額を計算する手間は発生します。

2)労働保険料の納付

労働保険料は、電子申請を行っている場合には、e-GovやPay-easyでの電子納付が、口座振替依頼書を金融機関に提出している場合には、口座振替による納付が、それぞれ可能です。

以上(2024年11月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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画像:Stokkete-shutterstock

【賃金データ集】 賃金体系・形態管理と支給額の検討

書いてあること

  • 主な読者:賃金体系や賃金支給額の見直しを考えている経営者
  • 課題:自社の賃金体系や賃金支給額が妥当か分からない。判断基準が欲しい
  • 解決策:統計資料における同規模・同業種の企業のデータなどを参考にする

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「賃金体系・形態管理と支給額の検討」です。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 所定内給与額の推移と賃金マネジメントの重要性

2023年の男性の所定内給与額は35万900円です。一方、2023年の女性の所定内給与額は26万2600円で、男性の所定内給与の74.8%の水準です。同じ計算をすると、1980年の女性の所定内給与は男性の58.9%の水準だったので、約40年間で15.9ポイント上昇したことが分かります。

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2 賃金体系の管理

1)賃金体系の一例

賃金をマネジメントする上で、最初に知っておきたいのが「賃金体系」です。賃金体系とは、賃金の要素である基本給や諸手当の組み合わせのことです。賃金体系を理解することで賃金の全体像が把握できるようになります。

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2)基準内賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」の中心は「基準内賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働に対して支払われる基本給や諸手当のことで、基準外賃金の算定基礎になるもの

なお、諸手当のうち、家族手当、住宅手当、通勤手当などは基準外賃金の計算の基礎から除外できるため、基準内賃金に含めないケースがあります。

また、基準内賃金と似た言葉に「所定内給与(賃金)」があります。基準内賃金と所定内給与はほぼ同義ですが、所定内給与は企業が就業規則などに定めた所定労働時間の労働に対する賃金で、家族手当、住宅手当、通勤手当などが含まれます。

1.属人給、仕事給、総合(決定)給

基準内賃金の中心は「基本給」です。基本給は次のように大別されますが、一般的なのは属人給と仕事給です。

  • 属人給:年齢など労働者の属人的な要素によって決定される賃金
  • 仕事給:業績・成果や保有能力など仕事に関係する要素によって決定される賃金
  • 総合(決定)給:勤続年数と担当職務を評価する賃金

基本給の要素を属人給と仕事給に振り分けることが難しい場合、「本給」などの名目で設定されるのが典型ですが、運用しやすい一方、評価基準が曖昧になりがちという問題があります。

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2.基本給の体系

基本給の体系は、属人給や仕事給などをどのように組み合わせるかによって次のように大別されます。

  • 単一型体系:1つの基本給の要素によって構築された体系
  • 併存型体系:複数の基本給の要素によって構築された体系

単一型体系の場合、「研究職は100%職務給」「営業職は100%成果給」といった運用ができますが、配置転換で職務が変更された場合、労働者がケガなどをした場合などに問題が生じるため、これを導入する企業と対象となる労働者は限られます。このような事情から、多くの企業は併存型体系を導入しており、属人給と仕事給の割合を調整することで賃金制度をマネジメントしています。

3)基準外賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」のもう1つの要素が「基準外賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働以外に対して支払われる賃金で、時間外労働手当(いわゆる「残業手当」)など

基準外賃金は、通常よりも割り増しした金額を支払わなければならず、その割増率は労働基準法で定められています。いわゆる「残業」が慢性化している企業では、基準外賃金が大きな負担になります。特に、2023年4月1日からは、中小企業に対する割増賃金率の猶予措置が廃止され、従業員の残業(時間外労働)が1カ月で60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要になったため、注意が必要です。

また、基準外賃金と似た言葉に「所定外給与(賃金)」がありますが、これは基準外賃金と同じ意味です。

3 賃金形態の管理

1)賃金形態の種類と賃金支払いの5原則

賃金は労働の単位(時間や出来高)に応じて支払うという考え方があり、それを類型化したものが「賃金形態」です。具体的には、次のようなパターンがあります。

  • 時間給、日給、月給など時間によって計算されるパターン
  • 出来高給のように販売個数などによって計算されるパターン

賃金形態を管理することで、雇用形態(正社員やパートなど)、職務の難易度、成果を上げるまでの期間などに応じて賃金をマネジメントしやすくなります。

注意が必要なのは、労働基準法の「賃金支払いの5原則」です。賃金支払いの5原則は次の通りで、一部、例外があるものの、順守しなければなりません。そのため、年俸制を導入した場合でも、年俸を12等分して毎月支払うことになります(賞与を支払う場合はさらに細かく分けて賞与相当分を確保します)。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

2)賃金形態の状況

厚生労働省「平成26年就労条件総合調査」によると、主な賃金形態で最も割合が高いのは「月給」の80.9%です。

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4 賃金支給額を決定する際の視点とこれまでの変遷

1)賃金支給額を決定する際の視点

労働者が労働力を提供し、企業がその対償として賃金を支払うことは労働契約の基本です。賃金支給額はこの点を前提としつつ、次の視点を考慮して決定されます。

1.企業の賃金支給能力(コスト)

労働者の労働力を購入するという「人件費」の視点です。他のコストと賃金(人件費)を全く同様に捉えることはできませんが、賃金が販売費・一般管理費(製造業などでは売上原価)の多くを占めているのは事実であり、これを適正水準に保つ必要があります。

2.労働力の市場価値

賃金には、労働力の需給状況に応じて変化する市場性があります。具体的には、労働者数全体、特定の業界の就業者、特定の技能の習得者などが変化の要因になります。現在のような「売り手市場」だと、一般的に賃金は上昇します。

3.他社の支給額

賃金は企業規模、業種、地域によって支給水準が異なります。この水準を下回ると労働者の不満足につながり、他社に転職してしまうこともあります。企業は、モデル賃金に関する情報を収集し、自社との違いを確認しておく必要があります。

4.雇用を巡るトレンド

景気動向、雇用環境、人事制度の変化などによって賃金のトレンドが生じます。分かりやすいのは、人手不足への対策として賃上げを検討するケースです。

5.労働者の生活保障

賃金は労働者にとって「生活の糧」であり、労働者の年齢、家族構成、居住地域などを考慮する必要があります。

6.労働者の貢献度

企業への貢献度は、労働者の職務遂行能力、担当職務の難易度、具体的に達成した成果(売り上げや研究成果など)などによって変わるため、これを加味して賃金を決定します。

7.利益分配

企業業績に連動し、利益分配の意味合いで支給する賃金です。毎月きまって支給される「業績給」と、臨時的に支払われる「賞与・期末一時金」の場合があります。

2)日本企業における賃金制度の変遷とこれからの動き

賃金支給額は前述した視点を考慮した上で決定され、それを実現するための仕組みが賃金制度として構築されます。これまでの日本企業の賃金制度は、その時々の状況に応じて年功主義から能力主義・成果主義へと変化してきました。主な流れを、基本給の構成要素の変化を中心に確認してみましょう。

1.年功主義(年齢給、勤続給)

戦後の日本の賃金体系に大きな影響を与えたのが、1946年に電力関係企業の労働組合が提案した、いわゆる「電産型賃金体系」です。これには、労働者の年齢、家族構成、勤続年数などに重きを置いた、生活防衛的・安定的な賃金制度であるといった特徴があり、基本給の中心は「年齢給」「勤続給」でした。

電産型賃金体系には、「職能給」などといった能力給も組み込まれてはいるものの、その割合はそれほど高くありませんでした。

2.能力主義(職能給、職務給)

家族構成や勤続年数などによって賃金の大部分が決定される電産型賃金体系への不満が高まり、1950年代後半から1980年代にかけて、基本給に「職能給」「職務給」が取り入れられるようになりました。

中でも職能給は、いわゆる「職能資格制度」として多くの日本企業に定着しました。しかし、職能資格制度が年功的に運用されるようになり、能力主義がほぼ有名無実化し、問題となりました。

3.成果主義(成果給、業績給)

1990年代に入ると、脱年功主義がより鮮明なものとなり、成果主義が注目されるようになりました。ここで基本給の要素として注目されたのが、「成果給」「業績給」です。

成果主義では、従業員が個人(あるいはチーム)で目標を達成するために取ったプロセスとその結果を評価するのが基本です。しかし、1990年代当時は、結果を必要以上に重視する企業が多く、「過酷な目標設定による従業員のストレス過多」「自分の成績につながらない仕事を嫌う従業員の発生」「確実に達成できそうな低い目標を掲げる従業員の発生」などの問題が生じ、多くの企業で成果主義の導入は失敗に終わりました。

もっとも、近年は業務管理ツールの発達に伴い、評価の中心を結果に置きつつ、プロセスについてもある程度評価する、バランスの取れた成果主義を導入している企業もあります。

5 賃金支給額を決定する際の考え方

賃金支給額を検討する際は「適正人件費」に注目します。適正人件費の算出方式はいくつかありますが、例えば、「売上高×付加価値率×労働分配率」によって求めます。付加価値は売上高から原価(製造業は材料費や外注加工費、小売業は売上原価)を差し引いたもので(業種によって異なります)、その割合が付加価値率です。また、労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合です。自社の過去3年分のデータと将来の利益目標を参考に付加価値率などを設定すれば、適正人件費の目安を把握することができます。

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また、世間相場を確認するためには、自社の「適正人件費」だけではなく、他社の賃金支給状況も確認します。世間相場と大きな違いがある場合は、必要に応じて見直しを検討します。

1)売上高労務費比率、売上高人件費比率

中小企業庁「令和4年中小企業実態基本調査(令和3年度決算実績)」によると、合計の売上高労務費比率は6.56%、売上高人件費比率は10.23%です。

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2)賃金支給額

厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模計、産業計の「きまって支給する現金給与額」は34万6700円で、そのうちの31万8300円が所定内給与額です。差額の2万8400円は時間外労働手当などです。また、「年間賞与その他特別給与額」は90万9000円です。

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6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■企業活動基本調査■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/

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■中小企業実態基本調査■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/

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以上(2024年10月更新)

pj17901
画像:ChatGPT

【人事部DX】社員の退職手続きをオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:退職手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン可能なのか分からない
  • 解決策:原則全てオンライン化が可能

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

退職手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な退職手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【社会保険関連、税務関連の書類の取得】

健康保険関連の制度改正がある(2024年12月2日以降、健康保険被保険者証が廃止される。経過措置あり)

【法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出】

税務関連の書類は、電子証明書がないとオンラインで提出できない

以降では「退職前または退職日当日の手続き」と「退職後の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 退職前または退職日当日の手続き

1)退職届の取得

退職届は、雇用保険の資格喪失手続きを行ったり、退職理由をめぐる労使トラブルを防止したりするために必要な書類です。社員本人が自分の意思で退職したことの証拠となるため、通常は直筆で署名捺印のあるものが望ましいとされています。

ただし、「一身上の都合で退職します」と記載されたメールなど、電子的な手段で退職の意思表示があった場合でも、直筆でない、署名捺印がないという理由だけで、退職届としての有効性が否定されることはありません。ポイントは、

社会通念上、本人が作成、送信したものに間違いないと推定できること

です。例えば、発信元のメールアドレスが、社員本人が管理し、他の人がログインできないものであれば、そのメールを退職届と同様に扱っても差し支えないでしょう。逆に、誰が管理しているか特定できないフリーメールなどを使用した場合、退職届として扱うのは難しくなります。

退職届を電子化する手堅い方法は、電子契約書ソフトを利用することです。例えば、

  • 退職する社員本人が管理をしているメールアドレスに会社側で作成した退職届のフォーマットを送って電子署名をしてもらう
  • 「退職合意書」を作成し会社と社員が相互に電子署名を取り交わす

といった形が想定されます。メールアドレスで社員本人を特定していることに加え、電子契約書ソフトによる電子署名が客観的かつ強固な証拠となるので、直筆で署名捺印がされた退職届と同等の証拠能力をオンラインで担保できます。

2)社会保険関連、税務関連の書類の取得

1.健康保険被保険者証(2025年12月2日以降、不要に)

従来は、退職する社員の健康保険被保険者証(本人分と被扶養者分)の現物を回収し、保険者(全国健康保険協会または健康保険組合)に返却しなければなりませんでしたが、

2024年12月2日以降は、健康保険被保険者証とマイナンバーの一体化に伴い、健康保険被保険者証が発行されなくなり(経過措置により、既存の健康保険被保険者証は最長1年間使用できる)、経過措置が終了する2025年12月2日以降、健康保険被保険者証の回収は不要(社員が自分で破棄してよい)

になりました。

2.退職所得の受給に関する申告書

退職金の支給を受ける社員は、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すると、退職所得控除の適用を受けられます。その場合、退職金に対する所得税が非課税または軽減された税額となります。提出しない場合は、支給額に対し一律20.42%が課税されます。

「退職所得の受給に関する申告書」は、オンラインでの提出も認められています。オンラインでの提出方法としては、「社員が押印したものをスキャナー保存してもらって、PDFなどでメール送信してもらう」という方法がありますが、

社員本人から間違いなく提出されたものであると識別できる必要

があります。識別性を持たせるためには、PDFそのものにパスワードを付すことや、当該社員がIDやパスワードを管理しているメールアドレスから送信させることが考えられます。

会社が税務調査などで「退職所得の受給に関する申告書」の提示を求められた際には、本人を識別できる方法で適正にPDFで受領していれば、原本の提示は必要ありません。

3)法定書類(雇用保険被保険者離職証明書)の作成

退職した社員が基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給するためには、会社が所轄ハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出する必要があります。雇用保険被保険者離職証明書は電子申請を前提として、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」上またはその他の業務ソフト上で作成することができます。

手書きの離職証明書では、社員に「記載内容について異議がない」旨の署名捺印をしてもらいますが、電子申請の場合、社員側に異議がないことをどう証明するかが問題となります。解決策としては、例えば「離職証明書の記載内容に関する確認書」という書類を作成して社員に署名捺印をしてもらい、PDFで電子申請データに添付するという方法があります。

なお、e-Govで電子申請を行うには電子証明書が必要ですが、電子証明書を持っていない場合、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)による手続きも可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

3 退職後の手続き

1)退職日までの給与、退職金の支払い

給与明細や退職金支給明細書は、社員の同意があればPDFなどで交付できます。この同意は入社時に得ておけば、途中で社員が撤回しない限り退職時まで有効です。

メールで給与明細を提供する際、最終給与や退職金の支払日は退職日後になることが通常なので、会社から付与されたメールアドレスが既に使用できなくなっていると、退職した社員に給与や退職金の明細を送付できません。そのため、セキュリティーに配慮しつつ、退職後も一定期間、メールアドレスを削除しないなどの対応が求められます。

同様に、クラウド給与計算ソフトなどを用いて、ウェブ上で給与明細などを公開している場合も、一定期間は退職した社員のアカウントを削除しないようにする配慮が必要です。例えば、退職後3カ月はアカウントを有効にしておいて、その間にダウンロードしてもらいます。

2)法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出

1.社会・労働保険関連

次の法定書類を提出する必要があります。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者離職証明書

これらは全て電子申請が可能です。e-Govのインターフェースに直接情報を入力するか、業務ソフトを利用してAPI経由で申請をします。電子申請が受理されると、被保険者資格の喪失に関する通知や離職票の事業主控えがPDFで発行されます。PDFが原本扱いとなるので、データのまま社内のサーバーやクラウドストレージなどに保管しておけば大丈夫です。

なお、これまで現物の返却が必要だった「健康保険被保険者証」については、前述した通り、2024年12月2日以降、返却が不要になりました。

2.税務関連

税務関連では、次の法定書類を提出する必要があります。

  • 給与所得の源泉徴収票
  • 給与支払報告書
  • 特別徴収に係る給与所得者異動届出書
  • 退職所得の源泉徴収票

給与所得の源泉徴収票は、「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」経由で電子申請が可能です。なお、提出のタイミングは社員の退職時ではなく、年末調整時となります。また、退職した年の給与等の支払金額が250万円(役員の場合は50万円)を超える場合のみ、提出が必要です。

給与支払報告書は、「地方税ポータルシステム(eLTAX)」経由で電子申請が可能です。こちらも、提出のタイミングは年末調整時となります。給与の支払金額の多寡にかかわらず、全ての退職者について提出が必要となるので注意しましょう。

特別徴収に係る給与所得者異動届出書は、eLTAX経由で電子申請が可能です。特別徴収を停止して、普通徴収に切り替えるための届出書ですので、提出のタイミングは退職時となります。

退職所得の源泉徴収票もe-Tax経由で所轄税務署にオンライン提出が可能です。ただし、提出義務があるのは受給者が法人の役員である場合のみで、社員が退職した場合は提出不要です。

なお、e-TaxまたはeLTAX経由で電子申請を行う場合、

現状は電子証明書の取得が必須(GビズIDは不可)ですが、e-Taxについては、2026年9月24日以降、GビズIDとの連携が可能になる予定

です。

■国税電子申告・納税システム(e-Tax)■

https://www.e-tax.nta.go.jp/

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

3)社員への書類の送付

退職した社員本人には、次の書類を送付します。

  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 雇用保険被保険者離職票-1
  • 雇用保険被保険者離職票-2
  • 給与所得の源泉徴収票
  • 退職所得の源泉徴収票
  • 退職証明書(社員から請求があった場合)

これらの書類は、全てPDFでの送付が可能です。「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者離職票-1」「雇用保険被保険者離職票-2」は、e-Gov経由で電子申請をした場合、所轄ハローワークからPDFで発行されます。これを原本として扱い、そのまま退職者本人にメールなどで送付できます。

「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」については、社員本人の同意を前提に、PDFで交付できます。ただし、本人から依頼があった場合は書面で交付します。

退職証明書に関しては、法令を解釈する限りでは書面に限るのか、PDFによるオンライン交付も可能なのかは明確になっていません。実務上の対応としては、少なくとも本人の同意がある場合は、PDFで交付をして差し支えないと考えてよいでしょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Stokkete-shutterstock

【朝礼】実は小心者? 藤原道長に学ぶ「勇気の見せどころ」

【ポイント】

  • 藤原道長の日記を読むと、豪胆に見えた彼の意外と小心者な一面が見えてくる
  • 道長は「いざというときに見せる勇気」で、人々を引き付けたのかもしれない
  • 何かにチャレンジする際はあえて言葉にすると、自分を奮い立たせることができる

今日は、平安時代の貴族「藤原道長」について話をします。皆さんもご存じ、自分の娘たちを天皇の后(きさき)にし、生まれてくる皇子の外祖父となって長期政権を築いた人物です。2024年の大河ドラマ「光る君へ」でも活躍が描かれていますね。そんな道長の人柄に関する話です。

世間でよくいわれる道長のイメージは「豪胆」。若い頃に行った肝試しで、兄たちが逃げ出す中で一人だけやり遂げた話や、弓の実力を競う競射の場で、「私の家から天皇や后が立つなら、この矢よ、当たれ!」と言って的の中心を射抜いた話があります。後年、道長の三女が天皇の后になった際、「この世をば 我が世とぞ思ふ(う) 望月の かけたることも なしと思へ(え)ば」という、藤原氏の栄華を喜ぶ歌を詠んだ話も有名です。

一方、道長の日記とされる「御堂関白記(みどうかんぱくき)」からは、彼の意外と「小心者」な一面が垣間見えます。例えば、ある年の正月に朝廷の儀式で手違いがあり、「私は儀式を主宰するのにふさわしくない」と吐露する場面や、天皇から難しい人事の注文を受け、承知してしまった後で「どうしよう……」と悩む場面があります。

本当のところは分かりませんが、私は道長のことを「本来は小心者で、『やるときはやる』タイプのリーダーだった」と考えています。道長は歴史上、特に優れた政策を実施しているわけではないのですが、それでも彼が長期にわたって政治の頂点に君臨できたのは、家柄などとは別に、普段は気が小さくても、ここぞというタイミングで「勇気」を見せる人柄が人々に慕われたからなのかもしれません。

道長の言葉にも注目です。弓の競射のエピソードで、彼が「私の家から天皇や后が立つ」と口にしたのは、「自分が実現したいこと」を明確に言葉にすることで、小心者である自分を奮い立たせるためかもしれません。後年の望月の歌も、見方を変えると、「藤原氏を永く栄えさせていく」という、道長の決意表明にも思えてきます。

普段は謙虚な人間が、いざというときに見せる勇気は人々を引き付けます。あえて言葉に出して、時には大胆なチャレンジをしてみましょう。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

社員がキラキラ働き出す! 事業計画を策定する本当の意義

書いてあること

  • 主な読者:事業計画の重要性は認識しているが、実際には策定していない社長
  • 課題:事業計画の策定には時間がかかるし、社長(経営者)の頭の中にあれば十分では?
  • 解決策:事業計画は社員の成長のきっかけになる。社長と社員が一緒に事業計画を策定する

1 多くの社長が理解していない事業計画の意義

皆さんの会社では事業計画を策定していますか? もし策定していないとしたら、その理由は次のようなものかもしれません。

  • 策定するのに手間と時間がかかる
  • どうせ計画通りには進まないと思っている
  • 全て自分(社長)の頭の中にあるから大丈夫

この理由を見て「大体、そんな感じ」と思った皆さん、少しお付き合いください。今のままで放置していると、会社が次のような停滞ムードが漂う組織になってしまうかもしれません。

  • 経営方針は社長が決めていて、社員は指示に従うだけ
  • 足元の業務に追われ、目線を上げて検討できない
  • 良くも悪くも安定していて刺激がなく、社員に向上心が芽生えない

事業計画がない会社の社員は、

明確な目標と活動のよりどころがなく、目標を達成しようとする推進力もない状態

で働いているところがあり、経営が安定している会社ほど「ゆでガエル」状態に陥る恐れがあります。もちろん、事業計画さえあれば万全というわけではありませんが、

社長の頭の中にある見通しや、今、力を入れている事業の重要さが社員に共有されれば、社員は日々の頑張りが「何のためであるのか」を理解できる

ようになります。積極的な社員は目標達成のために必要な能力を得ようと自発的に勉強しますし、社外とのつながりを広める社員もいるでしょう。こうした社員がいる中小企業は強いです。

このように、事業計画は、

事業を定義し、その進捗を管理するだけでなく、組織を作り、社員の成長を促すもの

です。この記事では、「事業計画(利益計画・販売計画)」の一般的な内容を紹介しますが、

裏ミッションとして「社長にしかできない組織作り」

を意識していただければ幸いです。

2 事業計画で社員は全てを理解する

事業計画とは、

当期の経営目標を達成するための計画

です。事業計画に必ず盛り込まれるのは、

  • 利益計画:目標となる売上高や利益をまとめたもの
  • 販売計画:顧客別や商品別の売上高(販売数量)をまとめたもの

です。詳細な「数字」が記載されているので、金融機関などとコミュニケーションを図る際も役立ちます。この他、例えば人員を増やす場合や新規事業を始める場合は、その計画を詳細にまとめたりします。

いずれにしても、事業計画には会社全体の取り組みがまとめられています。また、「どの程度いけそうなのか?」といった肌感覚も盛り込まれるため、事業計画の策定に社員を巻き込めば、社員は会社の多くを知ることができます。大企業では、

社長→(ここが遠い)→経理本部→本部長→部長→課長→社員

といったコミュニケーションになりがちですが、中小企業では、

社長→全ての社員

といったコミュニケーションも可能です。社員からすれば、

利益計画・販売計画といった具体的な数値について、社長がどのような思いやロジックで考えているかを間近で見ることができる

という、貴重な経験になるわけです。

3 利益計画策定のポイント

1)利益計画は具体的な行動まで落とし込む

ここからは、少し実務的な話をします。

利益計画とは、目標となる売上高や利益をまとめたもので、いわば計画年度の予測損益計算書(予測P/L)です。事業計画の策定は利益計画から検討するのが一般的ですが、それは会社が達成すべきゴールを示すのが利益計画になるからです。

ゴールが決まると現状とのギャップも明らかになりますが、それだけでは社員はそのギャップを埋める具体的な行動を起こしません。ですから、利益計画の数字を達成するための具体的な行動まで落とし込む必要があります。例えば、当期純利益を前年度比20%増に設定する場合、

どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)を、全社的な課題と位置付けた上で、具体的に検討していく

ことになります。

2)フォーマットは損益計算書に合わせる

利益計画の進捗管理をスムーズに行うために、利益計画のフォーマットは損益計算書と同じにするのが基本です。また、実現性・妥当性のある利益計画にするために、科目は細かな単位まで落とし込みます。細分化の基準は、

経理が使用している勘定科目や補助科目

です。さらに、年度の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。

3)当期純利益から逆算するのが基本

損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成になっていますが、利益計画では、

目標利益=達成可能売上高-許容費用

と考えます。言葉を変えると、まず獲得すべき目標利益があり、それを達成可能な売上高の中で実現するために許容できる費用を算出します。会社の状況などによりますが、達成すべき目標登記純利益は、「企業(社長)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。

借入金の返済などを考慮した当期純利益は、次の計算式で算出できます。

目標当期純利益=予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費

目標当期純利益を決定したら、損益計算書を下から上っていくイメージで費用を検討します。

  • 法人税などを加えて税引前当期純利益を算出する
  • 特別損益がある場合はこれを加減して経常利益を算出する
  • 営業外損益を加減して営業利益を算出する
  • 販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出する
  • 最後に売上原価を加えて必要な売上高を算出する

といった具合です。この際、不要な費用は削減していきますが、実現性・妥当性が重要です。無理に費用を削減して、見た目だけ筋肉体質の利益計画としても意味がありません。また、支出額を予測しにくい費用は、前年度実績を目安に計上するとよいでしょう。

4 販売計画策定のポイント

1)「顧客別」と「商品別」に検討する

販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益(粗利益)などを、顧客別・商品別に展開した計画であり、

  • 顧客別販売計画:顧客別に売上高などを検討する
  • 商品別販売計画:商品別に売上高などを検討する

が基本となります。

例えば、小売業など不特定多数、あるいは小口取引が中心の会社は、顧客別販売計画の策定にあまり意味がなく、商品別販売計画がメインとなります。一方、製造・卸売業など大口顧客との継続取引が中心の会社は、顧客別販売計画と商品別販売計画の両方を策定します。

2)実現性・妥当性がある計画を策定する

販売計画でも実現性・妥当性が求められます。社員を巻き込みながら販売計画を策定する場合、「目標利益を達成する!」という強い思いが社員に芽生えるのはよいのですが、実現が難しいチャレンジングな販売計画になってしまうことがあります。

気持ちは大事です。しかし、確たる根拠もないまま希望的観測に基づいて見積もられた販売計画は意味がなく、時間が進むほどに未達成が大きくなってきつくなります。必ず具体的なアクションプランとセットで考えましょう。

3)攻める順番を決める

販売計画の実現性・妥当性を高める戦略の考え方は、確実性の高いところを攻めることです。販売先(既存顧客・新規顧客)と商品(既存商品・新商品)に分けた場合、次のようになります。

  1. 既存顧客への既存商品の販売額
  2. 既存顧客への新商品の販売額
  3. 新規顧客への既存商品の販売額
  4. 新規顧客への新商品の販売額

これは、過去の販売実績や市場のトレンドなどに基づいて優先順位を付ける考え方です。「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確実性が高くなります。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は未知であり、販売計画の精度は落ちます。

ただ、これはあくまでも一例です。新規事業にチャレンジしている場合などは、当然、「4.新規顧客への新商品の販売額」を検討することになります。

5 社長と社員が一緒に事業計画を遂行する

事業計画は策定して終わりではなく、遂行しなければ意味がありません。教科書的に言えば、

月次単位で実績を把握して、事業計画との差異を分析して対策を講じる

ことになるのですが、この説明に具体性はありません。

事業計画の遂行についても、月次で全社ミーティングを行い、全社的に共有するのが望ましいでしょう。メンバーはいずれ絞っていけばよいですが、当初は会社が本気で事業計画を運営していることを周知するため、全社員に参加してもらいます。そうする中で、自社に合った方針が固まっていきます。例えば、計画と実績にプラスマイナス5%の差異が生じた場合、その理由を追及する会社がありますが、ただそれをまねするだけでは現場の実務負担が増すだけです。

中小企業には中小企業のやり方、自社には自社のやり方があります。「プラスマイナス15%になった差異から注目する」など、自社にとって無理のないルールを決めればよいですし、見るべき数字を絞ってもよいでしょう。とにかく、

社長と社員にとって事業計画が常に意識される存在

になれば成功です。

また、会社にはチャレンジしなければならないときがあります。そうしたときこそ、この記事で紹介したように全社一丸となって事業計画を策定し、推進していければ理想的です。それが会社と社員の大きな成長につながります。

以上(2024年10月更新)

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画像:pixabay

「退職一時金と企業年金」「DBと企業型DC」、結局どれを選ぶべき?/人生100年時代の退職金制度を考える(2)

書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性について考えている経営者
  • 課題:「退職一時金と企業年金」「DBと企業型DC」、結局どの制度を選べばいいのか?
  • 解決策:社員の手取りが増え、会社にとっても負担の少ない制度を選択する。税金のルール(退職所得控除、公的年金等控除など)、運用の責任・利回りなどに着目する

1 退職金をいかに魅力的な制度にするか?

大卒の社員が定年退職したときにもらえる退職金は、2012年(約1224万円)から2022年(約1092万円)にかけて、10年間で約132万円減少しています。高専・短大卒、高校卒の場合も傾向は同じで、特に2022年の退職金は両者とも1000万円を下回っています。

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退職金が減っている主な理由は、昔に比べ定年まで働く社員が減り、退職金制度の在り方を見直す会社が増えてきたからだといわれています。そんな状況なので、逆に今、退職金の額を増やそうとしている会社は、社員にとって魅力的に見えるかもしれません。

「ウチの会社の規模ではそんなに退職金を払えない……」という経営者もいるでしょうが、

  • 税金の負担が少なく、控除後の手取りが多くなる退職金制度
  • 会社の負担は一定で、社員が運用に成功すれば手取りを増やせる退職金制度

などもあるので、諦めるのはまだ早いです。

第1回では、「人生100年時代」の中で、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの費用が必要で、いくら退職金があれば生活費を賄えるかをシミュレートしました。85歳までの生活を想定した場合、夫婦2人暮らしでは912万円、独身では744万円の退職金が必要でした。

今回は、「社員の手取りが多くなる退職金制度は何か」に注目し、「退職一時金 vs 企業年金」「DB vs 企業型DC」を比較し、どの制度が退職金の手取りがより多くなるのかをシミュレートします。なお、シミュレーションは、統計データを参考にした一例であり、実際の内容は会社の制度や社員の働き方、運用結果などによって異なります。

2 退職一時金 vs 企業年金

退職金の受け取り方には「退職一時金」「企業年金(退職年金)」の2つがあります。

退職一時金は、退職金を一括で受け取る方法です。退職所得控除(課税計算をする際、退職金の収入額から差し引くことのできる非課税枠)が利用でき、退職金が一定金額以内であれば所得税や住民税はかかりません。

企業年金は、退職金を年金形式で受け取る方法です。退職金を受け取り切るまでは勤めていた会社が運用してくれるので、一時金で受け取るより年金額が多くなることがあります。ただし、退職所得控除は受けられず、代わりに公的年金等控除(課税計算をする際、公的年金と企業年金の合算額から差し引くことのできる非課税枠)が適用されます。

両者のどちらが魅力的かですが、結論、退職金が退職所得控除の範囲内に収まるのであれば「退職一時金」で問題ありません。一見、企業年金のほうがお得に感じますが、なぜでしょうか。その理由を次のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • 退職金額は1000万円
  • 一時金で受け取る場合と、年利1.0%の10年確定年金(年間101万円)で受け取る場合で試算
  • 公的年金は年180万円(月15万円×12カ月)を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • iDeCoや企業型DCは未加入とする
  • 社会保険料は考慮しない

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退職金が退職所得控除の範囲内に収まるのであれば、退職一時金で受け取ったほうが手取りは多くなります。額面上多く見える企業年金を選びたくなりますが、退職一時金で受け取ったほうが支払う税金が少なくなるのです。その理由は、退職所得控除と公的年金等控除の非課税枠の違いにあります。

退職所得控除は、勤続年数が20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で算定します。勤続年数が長いほど、非課税枠を大きく利用できる仕組みです。勤続43年なら、

退職一時金の非課税枠=2410万円(800万円+70万円×(43年-20年))

となります。

一方、公的年金等控除は、社員の年齢と「公的年金+企業年金」の額をベースに算定されます。社員が65歳以上で「年110万円<公的年金+企業年金<年330万円」(その他所得を考慮しない)の場合、公的年金等控除は年110万円です。今回のケースでは「公的年金(年180万円)+企業年金(年101万円)=年281万円」なので、10年間で見ると、

企業年金の非課税枠(10年間)=1100万円(110万円×10年間)

となるのです。額面上は企業年金のほうが多くても、税金の非課税枠を考えると、退職一時金のほうがお得なわけです。

改めて、退職一時金と企業年金のメリット・デメリットを確認してみましょう。

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手取りの観点では、シミュレーションでも紹介した通り、退職一時金に軍配が上がることが多いようです。ただ、一度に大金が手元に入るため、計画性がなかったり浪費癖があったりする社員の場合などは、使い込んでしまうリスクを考えて、企業年金のほうがよいという考え方もできるでしょう。

3 DB vs 企業型DC

DB(確定給付企業年金)は、受け取る年金額があらかじめ決まっている企業年金です。労使間の規約に基づいて運用する「規約型」と、会社とは別法人の基金を設立して行う「基金型」に分けられます。想定通りの運用ができない場合、会社が追加の拠出をするので、社員は決められた年金額を必ず受け取れます。

一方、企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛け金を拠出するものの、運用は社員が自分の責任で行う企業年金です。運用に成功すれば退職金を本来の額よりも増やすことができますが、運用に失敗した場合は、元本割れで退職金が減ることもあります。

結論から言うと、両者のどちらが魅力的かは、ケース・バイ・ケースです。具体的に、次のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 年収400万円で試算
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • DB・企業型DCともに、65歳になったときから10年間、年金形式でもらうと仮定
  • DBは、企業年金連合会の規約型のデータを基に年100万円で試算
  • 企業型DCは、22歳で加入とし、運用失敗(元本割れ)した場合と、運用成功(月2万円を年利2.0%で運用)した場合の両方を想定
  • 公的年金は年180万円を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • 社会保険料は考慮しない

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計算結果を確認すると、手取り合計は、

企業型DC(運用成功)>DB>企業型DC(運用失敗)

となっています。上記のシミュレーションの場合、運用成功した企業型DCの金額は魅力的ですが、運用に失敗した場合のリスクもなかなかです。確実に退職金を用意したい社員にとっては、DBを選択したほうが無難かもしれません。

なお、DBの受け取り方や企業型DCの積立金額・利率によって試算結果は異なるので、実際の額のイメージについては、専門家などに確認してみましょう。また、企業型DCは最大で5.5万円までの掛け金を設定できるため、上記の試算結果よりも多くの退職金を用意できる可能性があります。

改めて、DBと企業型DCのメリット・デメリットを確認してみましょう。

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シミュレーションでも紹介した通り、DBと企業型DCは対照的な制度です。「将来の受給額を確定させたい」という社員にはDBが、「運用次第で元本以上の退職金を受け取りたい」という社員には企業型DCがオススメです。

4 「制度の併用」も視野に入れる

退職金制度は、必ずしも1つに絞る必要はありません。複数の退職金制度を組み合わせる「制度の併用」も可能です。例えば、DBと企業型DCの併用がそうです。

前述した通り、DBは将来の受給額が決まっていて安心な半面、会社にとっては追加拠出のリスクがあり、企業型DCは会社が運用成績について責任を負わない半面、社員にとっては元本割れのリスクがあります。この点、両制度を併用すると、それぞれの制度の長所を活かしつつ、リスクを低減できる可能性があります。

なお、DBと企業型DCを併用する場合、2024年12月からの制度改正についても押さえておきましょう。両制度を併用する場合、

2024年11月までは、企業型DCの掛け金は「月額2.75万円」が上限

となります。つまり、DBの運用に関係なく、企業型DCの掛け金の上限が一律で決まってしまうルールになっているのですが、制度改正により、

2024年12月からは、企業型DCの掛け金は「月額5.5万円-DBの掛け金相当額」が上限

になり、改正前よりも柔軟な制度運用が可能になります。詳細については、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_00041.html

次回は、「退職金制度を見直してみたが、それでも十分な退職金を用意できそうにない……」という経営者向けに、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生と退職金制度を併用して、社員の資産形成をサポートする方法を紹介します。

以上(2024年11月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pek-Adobe Stock

その指導、パワハラかも……? 弁護士が教える、危うい上司4タイプと指導改善のポイント!

書いてあること

  • 主な読者:自分の指導がパワハラになるんじゃないかと不安な上司
  • 課題:自分の指導のどのあたりがパワハラなのか、どう直せばいいのかが分からない
  • 解決策:パワハラ予備軍の上司を「価値観押し付けタイプ」「正論押し付けタイプ」「過干渉タイプ」「丸投げタイプ」に分けた上で、指導の改善のポイントを押さえる

1 上司に悪気がないからこそ厄介なパワハラ

パワハラ(職場におけるパワーハラスメント)とは、

職場の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた(行き過ぎた)言動により、就業環境が害される(仕事に支障を来す)こと

です。「職場の優越的な関係」の典型的なパターンは「上司と部下」で、次の6つが一般的なパワハラの行為類型(通称:パワハラの6類型)とされています。

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部下が上司をパワハラで訴えることは今や珍しくありませんが、実は上司が明確な悪意を持ってパワハラをしたという事案はあまり多くありません。むしろ多いのは、部下に問題(指示したことができない、同じミスを繰り返す、報連相を軽視するなど)があり、

上司は「良かれと思って」指導をするものの、そのやり方に問題があってパワハラになる

というケースです。例えば、指導をしているうちに感情がヒートアップして暴言を吐いてしまう場合などがそうです。

部下の指導は上司の役目であり、そこに臆病になる必要はありません。ただ、その指導が前述した「業務上必要かつ相当な範囲」を超えないよう、自己分析をすることは大切

です。あらかじめ上司の指導の中でパワハラになりそうな要素を押さえ、そういう指導をしないように心掛けていれば、パワハラの問題は防げます。

この記事では、日本ハラスメントカウンセラー協会の顧問として数々の会社のハラスメント対策に向き合ってきた弁護士(筆者)が、「パワハラ予備軍」とでも呼ぶべき上司のタイプを次のように分け、その指導をどう改善していけばよいかを解説します。

  • 部下を精神的に追い込む「価値観押し付けタイプ」
  • 論理的だが話を聞かない「正論押し付けタイプ」
  • 部下にかまいすぎる「過干渉タイプ」
  • 部下に任せきりで指導をしない「丸投げタイプ」

2 部下を精神的に追い込む「価値観押し付けタイプ」

1)どういうタイプ?

「価値観押し付けタイプ」の上司は、

昔の価値観から抜け出せない、「〇〇すべき」「仕事はこういうもの」といった自分の価値観を、部下にも強制してしまうタイプ

です。上司自身も若い頃、自分の上司からその価値観を押し付けられ、時には暴言にさらされるような環境で過ごしてきたため、今の部下に対して同じような態度で接してしまいます。

具体的には、

  • 部下に対する言葉がキツくなり、ヒートアップすると「お前はばかだ」「新入社員以下だ」など暴言を吐いてしまう
  • 部下のことを「常識がない」などと決めつけて、その部下に対して異様に冷たく接してしまう。ミーティングに参加させなかったり、仕事を取り上げたりする

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

暴言は、典型的なパワハラです。上司自身は部下の成長を願って厳しく指導しているつもりでも、「お前はばかだ」「新入社員以下だ」など、

名誉や人格を著しく傷付ける言動を繰り返すと、パワハラの6類型の「精神的な攻撃」

になる恐れがあります。部下が暴言により精神を病み、休職や退職に追い込まれるケースは少なくなく、裁判で高額の損害賠償(自殺事案だと数千万円以上、自殺事案でなくても100万円以上)が認められたパワハラ判決の多くは、このタイプの上司による事案です。

価値観の合わない部下に異様に冷たく接する、ミーティングに参加させないといったように、

個人を疎外する行為は、程度によっては「人間関係からの切り離し」

になる恐れがあります。期待通りの働きができない部下に単純作業だけを命じるなど、

仕事を取り上げる行為は、業務上の合理性を欠くと「過小な要求」

になる恐れがあります。

なお、パワハラ全般に言えることですが、上司の言動がパワハラと認定されるのは、

原則として問題のある言動が「何度も、継続的」に行われた場合です。ただ、頻度や継続性に関係なく、1回の言動でパワハラ(一発アウト)になるケースも存在

します。例えば、他の社員のいる状況で「お前の働きぶりをご両親に報告してやろうか」など、家族に言及しさらし者にする行為は、侮辱的な言動として一発アウトになる可能性が高いです。カッとなってゴミ箱を投げ付けるなどの「身体的な攻撃」も、原則として一発アウトです。

3)指導の改善のポイントは?

次章以降で紹介するタイプにも言えることですが、筆者の経験上、

パワハラの加害者は、職務上の上下関係、男性・女性、勤務成績、年齢、容姿など、人格価値と関連のない属性に基づいて、相手を軽く扱う傾向がある

と感じます。当たり前のことですが、職務上の上下関係はあくまで組織の指揮系統であって、上司だから部下を軽んじていいなんてことは決してありません。ですから、

まず大切なのは、部下を個人として尊重した振る舞いをすること

です。例えば、上司自身よりも上位の役職者や同僚には到底使えないような言葉を部下に使っていないか、社外の人であれば絶対しないような態度で部下に接していないかを確認します。

ジェネレーションギャップへの対応、つまり、

昭和・平成時代は良しとされた(黙認された)価値観や言動が、令和の時代では必ずしも通じないと自覚すること

も大切です。「若い頃に厳しく鍛えられたから今の自分がある」「今さら自分を変えるなんて難しい」という上司もいるでしょうが、社会の変化を感じ取って指導の仕方を修正しないと、パワハラで糾弾されるリスクからは逃れられません。

部下の指導は上司の役目ですから、指摘すべき点は毅然と指摘すべきですが、

指導する際は業務上の問題点に焦点を絞り、人格に踏み込まないこと

が大切です。「〇〇の部分ができていない」と事実ベースで問題点を指摘するなどしましょう。人格に踏み込む発言はパワハラになりやすいだけでなく、部下のほうも「自分を否定された」という印象ばかりが残り、肝心の指導内容が頭に入っていきにくいです。

部下を指導する際、つい感情的になってしまうという人は、

自分の感情を意識しながら指導すること(アンガーマネジメント)を心掛ける

ようにしましょう。例えば、不手際に接してイラッとした場合に、「ああ、自分はいらついているんだな」と、自分の感情を客観的に見つめる癖を付けると、意外と冷静になれるものです。

3 論理的だが話を聞かない「正論押し付けタイプ」

1)どういうタイプ?

「正論押し付けタイプ」の上司は、

感情に左右されず、論理的に指導をするが、その論理から外れた行動をする部下に異常に厳しいタイプ

です。なお、「論理的に指導をしている」というのはあくまで上司自身の認識で、実際は部下の力量や経験、他の業務の状況などを正しく把握できておらず、的外れな指導をしてしまうケースも多いです。自分に自信がある分、意外と周りが見えていないタイプともいえるでしょう。

具体的には、

  • 「私の言うこと、間違っている?」「この通りにやれば成果が出るはずなのに、なぜやらない?」などの言い方で、部下を追い詰めて萎縮させる
  • 「私の言うやり方ならできるはずだ」と、部下の力量や経験、他の業務の状況などを考えず、キャパオーバーの業務を振り、部下が難色を示しても取り合わない

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下のミスに対して、指導する時と場所を選べるにもかかわらず、

周囲に他の社員がいる状況で長時間の叱責をすると、正論であっても「精神的な攻撃」

になる恐れがあります。

キャパオーバーの業務を振り、部下が難色を示しても取り合わないのは、

振った業務が明らかに遂行不可能なものであれば、「過大な要求」

になる恐れがあります。正論を言っているつもりでも、実は部下の状況を正しく把握できていない上司がいるというのは、前述した通りです。部下の言い分を聞いて軌道修正を図るならよいですが、「言い訳する暇があったら先に進もうよ」などと言って、取り合わないのはNGです。

正論押し付けタイプの上司に接すると、部下は逃げ場がなくなってしまい、ストレスの蓄積により精神を病んでしまうことがあります。パワハラによるストレスだけで精神を病んだとはいえなくても、他のストレス(困難な業務による精神的負担や長時間の勤務などによるストレス)が合わさって、メンタルヘルス不調になったと判断されることがあるので注意が必要です。

3)指導の改善のポイントは?

正論押し付けタイプは、部下が相談を持ちかけても、上司側の正論で一刀両断してしまうため、部下にとっては「取り付く島もない」状態になることもあります。上司にとっては「相談するまでもないこと」でも、部下にとってはそうではありません。

まずは上司が部下の話によく耳を傾けること、つまり「傾聴」

が大切です。上司が話を聞いてくれれば、部下は言葉に出しながら自らの問題点や課題を整理でき、解決の糸口を見つけられます。部下の発言が、上司側の正論から外れたものであったとしても、まずは「部下には部下の言い分があるのだろう」と肯定的に受け止めましょう。

また、価値観押し付けタイプの上司にも言えることですが、正論押し付けタイプの上司には、自身の誤りを認めることが得意でない人がいます。部下の納得感を得るためにも、

上司の指示や指導に落ち度があれば、素直に認めること

が大切です。これは「謝るべきは謝り、過大な謝罪要求は毅然とお断りする」という、カスタマーハラスメントなどと同様の対応です。

4 部下にかまいすぎる「過干渉タイプ」

1)どういうタイプ?

「過干渉タイプ」の上司は、

部下がちゃんと働いているかが気になって、過剰に干渉してしまうタイプ

です。業務の進捗を管理するのは上司の役目ですが、その管理が行き過ぎることで、かえって仕事に支障を来してしまうのです。

具体的には、

  • 必要以上に連絡を取ろうとし、ある程度経験がある部下が相手でも、細かく仕事の進め方を決めないと気が済まない
  • 部下が期待通りの働きをしていない場合、「普段の生活態度が仕事に影響してくるんだ」などと、部下の私生活にまで言及してしまう
  • 「部下が大変そうだから」「定時で帰らせたいから」と、任せた仕事を引き取ってしまう

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下の業務の進捗管理については、

休日や深夜などの時間帯にまで連絡を入れて報告を求めると、「過大な要求」

になる恐れがあります。テレワークをしている部下に、勤務時間中はオンライン会議システムのカメラを常にオンにしておくように命じたり、頻繁に点呼を取ったりするのも、場合によっては「過大な要求」になり得ます。

期待通りの働きをしていない部下に、「普段の生活態度が仕事に影響してくるんだ」などと、

私生活にまで言及して叱責するのは、「精神的な攻撃」または「個の侵害」

になる恐れがあります。毎日定時で帰る部下に「そういう甘い考え方だから仕事も中途半端になるんだ。考えを改めよう」と叱責したりするケースなども同様です。一方、

育児や介護をしている部下について、業務量を調節するために家族の事情について質問する場合などは、基本的にパワハラにはならない

と考えられます。とはいえ、根掘り葉掘り質問をして、部下が「個人的なことですから」と、話したくない態度を示したのにしつこく質問すると、「個の侵害」になる恐れがあります。

「部下が大変そうだから」「定時で帰らせたいから」と、

部下に任せた仕事を引き取るのは、行き過ぎると「過小な要求」

になる恐れがあります。業務負担の偏りや納期などの事情に配慮して、部下の仕事を引き取ることは業務上必要なことなので、本来パワハラにはなりませんが、簡単な仕事しか与えない状況が常態化している場合などは話が変わってきます。

3)指導の改善のポイントは?

目の届かない所で仕事をしている部下が心配なのは分かりますが、上司の目の前で仕事をしている社員が成果を上げているとは限りませんし、その逆もしかりです。まずは、

上司として、ある程度部下を信頼して任せる態度を取ること

が大切です。監視・干渉しなくても、業務管理できるシステムの導入などを検討しましょう。

また、上司と部下の間で、

1日の中で業務の定期連絡をするタイミングを決めておき、メールやチャットの場合、上司が勤務時間外に送信しても、部下は勤務時間中の返信可能なときに返信すればよい

という具合に、連絡に関するルールを共有しておくのもよいでしょう。ただ、勤務時間外に繰り返し上司からメールやチャットが送信されるようだと、部下が「自分も早く返信しなければ」と圧を感じることがありますから、勤務時間外の送信は最低限にしておきましょう。

一度部下に任せた仕事を引き取るのは、業務負担の偏りや納期などを考慮して、

どうしても必要な場合だけにとどめ、上司が仕事を引き取る状況を当たり前にしない

ように注意しましょう。「一度仕事を任せた以上は、部下にやらせる」という意識を持たないと、部下はいつまでたっても成長しませんし、上司の負担も増えます。なお、仕事を引き取る際は、上司の意図が部下に正しく伝わらないと、部下は「経験を積みたいのに、自分は嫌われているのだろうか」などと不安に感じますから、引き取る理由を明確に伝えましょう。

5 部下に任せきりで指導をしない「丸投げタイプ」

1)どういうタイプ?

「丸投げタイプ」の上司は、

ハラスメントと言われるのが怖かったり、管理職になりたてで指導に自信がなかったりして、部下とコミュニケーションをあまり取らないタイプ

です。言葉を選ばずに言うと、部下を指導する上司の役目を放棄している人たちです。

具体的には、

  • 指導を嫌がる。部下に「分からないことがあったら聞いて」と言っておきながら、いざ相談されたら「少しは自分で考えろ」と言って突き放す
  • 「プレーヤー」としての自分の仕事以外の「マネジャー」的な仕事をしたがらない

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下が新入社員だったり、異動直後だったりと、

明らかにサポートを必要としている状況にもかかわらず、指導や相談対応をしない場合、部下の負担の大きさによっては「過大な要求」

になる恐れがあります。また、私傷病休職から復帰した直後の部下なども、心身が十分に回復しておらずケアが必要な場合がありますが、こうしたケースで部下に配慮をせず、

休職前と変わらない業務を担当させ、「パフォーマンスが悪い」などと叱責すると、「精神的な攻撃」や「過大な要求」

になる恐れがあります。

3)指導の改善のポイントは?

丸投げタイプの上司の場合、まずは自身がマネジャーであることを意識すること、つまり、

「部下を指導するのは上司の役目」という自覚を持つこと

が大切です。とはいえ、ハラスメントと言われるのが怖い、新任管理職なので指導に自信がないという上司の心情も理解できます。このあたりは、経営者などが「指導そのものはハラスメントにはならない」ということを明確に伝えたり、上司の上位者(部長クラスなど)が、必要に応じて指導の相談に乗ったりすることも大切です。

なお、上司がマネジメント業務を怠ると、

それが上司と部下だけでなく、会社全体の問題に発展してしまうケースがあることも認識

しておきましょう。実際にあったケースで、社内で発生したハラスメント問題(部下が被害者)について、上司が「見て見ぬふり」をしてしまい、ハラスメントがエスカレートしてしまった事案があります。会社は社員に対して「安全配慮義務」(労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務)を負っています。実際の裁判でも、

上司は会社の安全配慮義務の「履行補助者」である

として、上司が部下の安全が害されていると知りながら放置した場合、会社の安全配慮義務違反を認定するケースがありますから、マネジメント業務をおろそかにしてはいけません。

以上(2024年11月作成)

pj00728
画像:ChatGPT

【人事部DX】社員の入社手続きをオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:入社手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン可能なのか分からない
  • 解決策:「雇入時健康診断」以外は、オンライン化が可能

1 手続きの多くはオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

入社手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な入社手続きは、原則オンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【社会・労働保険、税務関連の書類の取得】

マイナンバーを扱うため、社員とオンラインでやり取りをする際は細心の注意が必要

【法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出】

社会保険関連の制度改正がある(2024年12月2日以降、健康保険被保険者証が廃止される。経過措置あり)。税務関連の書類は、電子証明書がないとオンラインで提出できない

以降では「入社前または入社当日の手続き」と「入社後の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 入社前または入社当日の手続き

1)労働条件通知書の交付

会社は社員を雇用した際、賃金や労働時間など主要な労働条件を、書面などで明示しなければなりません。これが「労働条件通知書」です。なお、労働条件通知書は紙で明示するのが基本ですが、社員が同意をした場合、メールやSNSにPDFを添付するなどの電子交付が可能です。

2)社会・労働保険関連、税務関連の書類の取得

社員が入社する際、社会保険や雇用保険の資格取得手続き、賃金支給における所得税の計算、年末調整を行うため、次の書類を本人から提出してもらう必要があります。

1.マイナンバーカード・雇用保険被保険者証のコピー

マイナンバーカード・雇用保険被保険者証のコピーは、会社が年金事務所やハローワークへ提出する書類を作成する際に参照するものなので、提出の方法は会社が自由に決められます。メールやSNSにPDF、写真などを添付してもらうのが簡単です。

ただし、マイナンバー(個人番号)の取り扱いには細心の注意を払わなければなりません。提出を受ける場合、マイナンバー法上、添付ファイルにパスワードをかける、個人番号事務取扱担当者だけが閲覧できるメールアドレスに送信をしてもらうなどの対応が必要です。

この他、クラウド型の人事労務手続きソフトを経由してマイナンバーを受け取る方法もあります。これらのソフトは、事前に管理者として権限が与えられた担当者しか提出された情報を閲覧できませんし、提出された個人番号などの情報も、クラウド上に安全に保存されます。

2.給与所得の源泉徴収票(前職分)

給与所得の源泉徴収票(前職分)は、年の途中での転職者について年末調整を行うために必要な書類です。社内で年末調整事務をする際に参照するものなので、添付ファイルで提出を受ければ問題ありません。

3.給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、紙(所得税法で定められた書式)での提出が原則です。ただし、所轄税務署に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出すれば、添付ファイルで提出を受けたり、人事労務手続きソフトを用いてクラウド上で自動作成されたデータを保存したりできます。

3)その他の書類の取得

行政手続きなどで必要ということではありませんが、社内での労務管理のため、会社が社員に次のような書類の提出を求める場合があります。

  • 住民票記載事項証明書
  • 免許証・資格証明書
  • 給与振込先届出書・通勤経路届
  • 誓約書・身元保証書

これらの書類は、法的に必要な書類ではないので、提出の方法は会社が自由に決められます。メールやSNSを経由して、添付ファイルで提出してもらうとよいでしょう。ただし、誓約書・身元保証書のように、本人や身元保証人に署名を求める書類については、電子契約書ソフトを経由して、電子署名を添えて提出してもらうのが望ましいといえます。

3 入社後の手続き

1)法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出

1.社会・労働保険関連

社員から提出された個人情報に基づき、会社は、社会保険や雇用保険の資格取得、扶養家族の認定に関する書類を作成、提出します。具体的には次の書類が該当します。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
  • 健康保険被扶養者(異動)届(被扶養者がいる場合)
  • 国民年金第3号被保険者関係届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

これらの書類は紙で提出することもできますが、政府は電子申請の利用を推奨しています。

電子申請は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」から行います。インターフェースから該当する手続きを選択した上で、必要情報を入力し、電子証明書を添えて手続きを行います。なお、電子証明書を持っていない場合、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)による手続きも可能です。

申請が受理されると、被保険者資格の取得に関する通知などの「公文書」がメールで送信されてきますので、データで保存しておきましょう。また、雇用保険の場合、公文書の一部として雇用保険被保険者証がPDFで発行されます。PDFが原本扱いとなりますので、データのまま本人に転送する形で問題ありません。なお、社会保険については、

これまで「現物」で発行されていた健康保険被保険者証が、2024年12月2日以降、マイナンバーカードとの一体化により発行されなくなる(経過措置により、既存の健康保険被保険者証は最長1年間使用できる)

ので、「入社の際に、健康保険被保険者証を交付する」という実務はなくなります。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

2.税務関連

社員の住民税の納付を普通徴収から特別徴収に切り替える「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」は、税法上の手続きであるため、e-Govからの電子申請はできません。

電子申請は、「地方税ポータルシステム(eLTAX)」から行います。インターフェースに必要な情報を入力し、電子証明書を添えて提出するという流れは、e-Govの電子申請と同様です。

GビズIDでも申請可能な社会・労働保険関連の書類と違い、

税務関連の書類は電子証明書がなければ、電子申請は不可

です。電子証明書を取得するには、所定の認証局への申請が必要です。認証局は複数の窓口がありますが、通常は所轄登記所に申請します。法務省が提供する専用ソフトウエア「商業登記電子認証ソフト」をダウンロードし、そこから申請書等を作成して、所轄登記所に提出すれば、電子証明書を取得できます。

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

■商業登記電子認証ソフト■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00027.html

3.その他

社員の入社などにより、次の書類の提出が必要になることがあります。

  • 高年齢者雇用状況報告書(提出は全ての会社(集計は社員数が21人以上の会社)が対象)
  • 障害者雇用状況報告書(社員数が40人以上の会社が対象)

これらの書類は、毎年6月1日現在の高年齢者および障害者の雇用状況を毎年7月15日までに申告するもので、e-Gov経由での電子申請が可能です。

2)法定三帳簿の作成

社員を雇用する場合、次の「法定三帳簿」の備え付けが義務付けられます。

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿

法定三帳簿は、PDFなどデータで保存でき、勤怠管理ソフトや給与計算ソフトの中に保存することも可能です。労働基準監督署などの調査があった際に、これらの法定三帳簿を画面上に表示したり、必要に応じてプリントアウトしたりできる状態になっていれば問題ありません。

3)雇入時健康診断

雇入時健康診断は原則、会社が費用を負担し入社後速やかに受診させる必要があります(本人が入社3カ月前までに受診した健康診断書があれば、それで代用することも可)。

国から費用補助が受けられるので、雇入時健康診断を、健康保険の「生活習慣病予防健診」を利用して行うことがあります。国から費用補助を受けると言っても、手続き自体は健診実施機関に直接申し込むだけでよく、また、電話やウェブで予約ができる健診実施機関もあります。

健康診断については、採血や医療器具を用いた検査を行うため、基本的にオンラインでは実施できません。

健康診断結果については、紙またはデータで保存することとされています。なお、健康診断結果の個人票をデータで保存する場合、医師等の電子署名や押印は不要です。

以上(2024年11月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj00453
画像:Stokkete-shutterstock

【賃金データ集】時間外労働手当などのモデル支給額

書いてあること

  • 主な読者:賃金体系や賃金支給額の見直しを考えている経営者
  • 課題:自社の賃金体系や賃金支給額が妥当か分からない。判断基準が欲しい
  • 解決策:統計資料における同規模・同業種の企業のデータなどを参考にする

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「時間外労働手当など」です。

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なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 時間外労働手当などの位置付け

時間外労働手当などとは、労働基準法(以下「労基法」)で定める時間外労働などに対して支給する「割増賃金」のことです。近年は時間外労働の上限規制、割増賃金に関する中小企業の猶予措置の廃止などが定められ、時間外労働手当などのマネジメントが求められています。

2 時間外労働手当などの潮流

企業は、「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」に対して、時間外労働手当などの割増賃金を支給しなければなりません。割増率は、1カ月当たりの時間外労働の時間数や企業規模などによって決定される仕組みです。その概要は図表2.の通りです。

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赤字の部分に注目してください。2023年3月31日までは、時間外労働が月60時間を超えた場合、超えた時間分の割増率が50%以上になるのは大企業だけでした(中小企業は25%を超える努力義務)。しかし、2023年4月1日からこの猶予措置は廃止され、中小企業も月60時間を超える時間外労働について、50%以上の割増率が適用されるようになりました。

なお、例えば、

  • 月60時間以内の時間外労働に対する割増賃金率を25%
  • 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を50%

とした場合、月60時間超の時間外労働に適用される割増賃金率のうち通常(月60時間以内)の割増賃金率に上乗せされた25%(50%-25%)については、割増賃金の代わりに「代替休暇」を与えることも可能です(導入には労使協定の締結が必要)。

3 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

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4 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■毎月勤労統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html

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■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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以上(2024年10月更新)

pj17906
画像:ChatGPT

【中堅社員のスピーチ例】この人にあと何回会える?

【ポイント】

  • 年月を経ると、「いるのが当たり前」だった人と別れなければならないことがある
  • 一回一回の出会いを意味のあるものにする、「一期一会」の精神を大切にする
  • 一期一会を意識すると、人との接し方や仕事への向き合い方が変わってくる

おはようございます。今日は、私の家族のことについて話します。少し前に父が誕生日を迎えたので、お祝いをするため、父と母を浅草に連れていきました。2人が人力車に乗ったことがないというので、人力車に乗せて浅草の町を観光し、そのまま和楽器の生演奏を楽しめる居酒屋へと連れていき、食事と音楽を堪能しました。父と母はたいそう喜んでくれました。

これまでもささやかな誕生日プレゼントなどは時折贈っていましたが、実は両親のためにこうしたイベントを企画するのは、恥ずかしながら生まれて初めてのこと。なぜ、今回急に企画を考えたのかというと、自分が30代、両親が60代を迎える中で、ふと「自分は両親にあと何回会えるのだろう?」という疑問が浮かんできたからです。

両親はまだまだ元気ですが、普段は離れて暮らしていて、直接顔を会わせるのは年に数回です。昔は「両親がいるのが当たり前」と考えていましたが、年月とともに亡くなる親戚も出てくる中で、かつては当たり前だと感じていたことが、次第にそうではなくなってきました。だからこそ、「両親が健在なうちに、少しずつ恩返しをしていきたい」と、今さらながら考えたわけです。

会社員としての日々も同じです。私は毎日皆さんと挨拶を交わし、顧客や取引先と接していますが、時折「この人にあと何回会えるかな?」と考えることがあります。また、毎日のようにデスクに向かい、仕事をしていますが、「この日々はいつまで続くのかな?」と考えることもあります。

茶道には、「一期一会(いちごいちえ)」という言葉があります。茶会で相手と接する際は、それが一生に一度の出会いであると心得て、互いに誠意を尽くすべきという考え方です。茶はいつでも飲めるけれど、「同じ茶」が飲める機会は一度きりしかないから、その一度きりを大切にしようというのです。

「日々、当たり前だと思っていることは、実は当たり前ではないんだ」と考えると、多少馬が合わない人がいたとしても、あるいは日々の仕事にマンネリを感じていても、向き合い方が変わってくるかもしれません。月並みではありますが、今日という日を大切にしていきましょう。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda