ビジネスの現場で、労働者の「人権」を守ろうという動きが活発化しています。政府は、「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020~2025)」を策定するなどして、国際的に認められた「労働者の基本的権利」を尊重するよう、企業に呼びかけています。2024年10月には厚生労働省が、具体例をわかりやすくまとめた「労働におけるビジネスと人権 チェックブック」を作成しました。本稿では、中小企業の現場で起こりやすい、身近な人権侵害の事例を紹介します。
目指せ100億!「中小企業成長加速化補助金」は最大5億の補助
1 設備投資に使える 中小企業成長加速化補助金
現在、中小企業庁では「売上高100億円」を目指す中小企業を応援する「100億企業成長ポータル」を立ち上げています。売上高100億円は、多くの経営者にとって「途方もない額」である一方、「いつの日か達成してみせる!」という野心をかき立てる数字かもしれません。とはいえ、実際に中小企業がこの目標を達成するには大規模な設備投資が不可欠で、「その資金をどう調達するの?」と聞かれると、困ってしまう経営者も多いはずです。
そこで活用したいのが、
設備投資を最大5億円まで補助する「中小企業成長加速化補助金」
です。2024年度補正予算により2025年からスタートした中小企業庁所管の補助金で、これを上手に活用すれば、自己資金の負担を抑えつつ最新設備の導入が可能になり、競争力の強化につながります。以降で、補助金の概要や申請のポイントについて解説しますので、興味のある方はぜひご確認ください。
2 中小企業成長加速化補助金とは?
1)中小企業成長加速化補助金の概要
この補助金は、売上高10億円以上100億円未満の中小企業に対して補助を行うことで、工場の新設・増築や設備の導入を促進するためのものです。書類と面接の審査を経た後、交付決定された企業に対して、実績報告後に補助金が支払われます。


■中小企業庁「中小企業成長加速化補助金」■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/koubo/2025/250314001.html
2)中小企業成長加速化補助金の詳細な要件
1.補助上限額・補助率
補助上限額は5億円で、補助率は1/2となっています。
【計算例】補助対象経費の総額(最大10億円)×補助率1/2=補助金額(最大5億円)
2.補助事業期間・公募スケジュール
補助事業期間は24カ月となります。他の補助金に比べて長めではありますが、交付申請後にしか発注・契約できません。交付申請は採択決定日から2カ月以内が期限となります。
1次公募に申し込む場合、交付決定は早くても2025年9月の上旬以降となる見込みです。
- 2025年4月下旬:公募説明会
- 2025年5月8日(木):申請受付開始
- 2025年6月9日(月)17時:申請受付締切
- 2025年7月上旬:1次審査結果の公表
- 2025年7月下旬~8月下旬ごろ(お盆期間を除く):プレゼン審査
- 2025年9月上旬以降:採択結果の公表
工場の新設や海外から設備を船便にて輸送して設置する場合は、補助事業期間内に工場の新設が完了するか、設備の設置が完了するかを確認してください。
3.補助対象者
売上高100億円を目指す中小企業です。また、売上高10億円以上100億円未満の中小企業であることが要件ですので、全社での売上高がこの幅に入るかをチェックしてください(対象外になる場合、経済産業省から他の補助金が出ていますので、そちらの活用をご検討ください)。
なお、原則として直近決算期の売上高で判断するそうですが、何らかの事情がある場合には、直近3期分の決算に基づくそうです。事前に事務局に相談することをお勧めします。
4.補助事業の要件
要件の1つ目として、「100億宣言」を専用ポータルサイトにて行う必要があります。これは中小企業が自ら「売上高100億円」の実現に向けた取り組みを行っていくことを宣言するもので、
- 企業概要
- 企業理念・経営者の意気込み
- 売上高100億円実現の目標と課題
- 売上高100億円に向けた具体的措置(取り組み)
などを定めます。詳細は、中小企業庁ウェブサイトをご確認ください。
■中小企業庁「100億宣言」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/100oku/index.html
2つ目として、投資額が1億円以上であることが必要です。投資額とは建物費、機械装置費、ソフトウェア費の補助対象経費の合算金額であり、外注費、専門家経費は含みません。
3つ目として、賃上げが求められています。補助事業が完了した日を含む事業年度(基準年度)の「給与支給総額(注)」または「従業員(非常勤含む)及び役員の1人当たり給与支給総額」と比較した、基準年度の3事業年度後(最終年度)の「給与支給総額」または「従業員及び役員の1人当たり給与支給総額」の年平均上昇率(基準率)が、補助事業実施場所の都道府県における直近5年間(2019年度を基準とし、2020年度~2024年度の5年間)の最低賃金の年平均上昇率以上であることが必要です。賃上げ要件を満たさなかった場合は補助金返還を求められます。
(注)給料、役員報酬、賞与、各種手当(残業手当、休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当)等、給与所得として課税対象となる経費を指します。
補助対象経費は建物費、機械装置費、ソフトウェア費、外注費、専門家経費となります。
3 補助金を活用するメリットとデメリット
1)中小企業成長加速化補助金のメリット
中小企業成長加速化補助金のメリットは、次の通りです。
1.資金調達の一環となる
この補助金は、事業計画を実現するために必要な資金を提供します。これにより、中小企業は新しい建物や設備の資金の一部を得ることができ、本来費用としてかかる金額よりも負担を減らすことができます。
2.事業成長を促進する
補助金を受けることで本来、建物や設備に投資するはずであった資金を他の経営資源に回せるようになり、企業の成長が加速し競争力が向上します。また、補助金を活用して新設の工場での増産や、設備投資による革新的な製品の製造が可能にな
ります。
さらにこの補助金には、
補助事業の事業化により収益を得られたと認められる場合でも、収益納付を求められない
という特徴があります(他の補助金では、補助事業の事業化によって収益が出た場合に収益納付を求められることが多いです)。
2)中小企業成長加速化補助金のデメリット
中小企業成長加速化補助金のデメリットは、次の通りです。
1.交付決定まで発注や契約ができない
書類審査とプレゼン審査があり、実際に工場の建設や設備を発注・契約するまでにタイムラグが生じます(予定では早くとも2025年9月上旬以降)。今すぐ事業を開始したい場合、他の補助金を活用することをお勧めします。
2.計画通りに事業が進まない場合に計画変更がしづらい可能性がある
計画通りに事業が進まない場合、補助金を活用して建てた工場や設備を他の用途に使う際は、事前に事務局への相談が必要となります。変更が認められないケースも想定されますので、しっかりとした計画を練ることが大切です。
4 申請のポイント
中小企業成長加速化補助金を申請する際は、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
1)事業計画の明確化
申請書には、革新的な事業計画を詳細に記載する必要があります。計画の目的、具体的な内容、実施方法、期待される成果などを明確に説明しましょう。申請書類の1つに投資計画書(様式1)がありますが、これはパワーポイント形式になっているので、
書類審査後のプレゼン審査は、投資計画書を使用したものになることが想定
されます。書類審査はもちろんのこと、プレゼンしやすい書類の作成も心掛けましょう。
2)申請に必要な書類等の準備
申請は電子申請となりますので、GビズID(1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるサービス)のプライムアカウントを、あらかじめ準備しておきましょう。
■GビズID(gBizID)■
https://gbiz-id.go.jp/top/
申請書類は全申請者にとって必要なものと、該当者のみが必要となるものがあります。金融機関の確認書やリース料軽減計画書など、社外から入手するものは、あらかじめ対象の機関(金融機関やリース事業協会)に相談しておくとスムーズです。
3)申請期限
2025年5月8日(木)から2025年6月9日(月)17時です。最終日は申請が殺到し、システムの動作が重くなる可能性があります。早めの申請完了をお勧めします。
4)2次公募について
時期は明記されていませんが、2次公募が予定されています。1次公募に申請が間に合わない場合は、2次公募の活用をご検討ください。また、1次公募で不採択となった場合も、2次以降の公募に申請することが可能です。
5)その他の注意点
補助対象とする事業の内容が、農作物の生産自体に関するものなど、1次産業を主たる事業としている場合は対象外となります(この場合、農林水産省関連の補助金の活用をご検討ください)。
ただし、1次産業を営む事業者であっても、補助対象とする事業の内容が2次・3次産業に関する事業である場合は、対象となり得るとのことです。
また、医療、介護、売電といった国の他の制度(公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬、固定価格買取制度等)との重複を含む事業、及び同一または類似した内容の事業は対象外となりますのでご注意ください。
要件は多々あるものの、中小企業成長加速化補助金は補助金額が非常に大きく、事業を後押ししてくれる補助金です。該当する場合には活用をご検討されてはいかがでしょうか。
以上(2025年5月作成)
(執筆 川崎朋子)
pj00745
画像:ChatGPT
【労災の落とし穴(製造業)】 腰痛の悪化は労災にならない?
この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「業務により腰痛が悪化した社員について、『もともと腰が悪かったのなら、労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 もともと腰が悪かったので、労災保険を使わせなかった……
社員数5人の機械メンテナンス会社に勤めるDさん。出張先の工場で重い機械の点検作業をしている最中、腰をひねって激痛に襲われました。もともと腰痛持ちのDさんは「持病が悪化しただけかもしれない」と考え、社長には報告せずに病院へ向かいます。
医師からは「椎間板ヘルニアの疑いがあるため、一定期間の休業が必要」と診断され、Dさんは社長に報告しました。
しかし、社長は休業を認めたものの、「もともと腰が悪かったのなら、業務とは関係ない」と労災にはしない方針を示し、Dさんは「自己都合休業」になってしまいました。
2 業務により腰痛が悪化したのなら、労災になり得る
腰痛はビジネスパーソンであれば大抵の人が抱える悩みなので、労災と関係ないように思われがちですが、実は状況次第で労災認定されます。
具体的には業務起因性について、図表のように独自の基準が定められています。「災害性の原因による腰痛」「災害性の原因によらない腰痛」にそれぞれの基準がありますが、今回は業務中に腰をひねったことによる腰痛なので、前者(赤字部分)に注目してください。

このケーススタディーでは、社長が「もともと腰が悪かったのなら、業務とは関係ない」と言っていますが、Dさんは点検作業中に腰をひねり、椎間板ヘルニアを疑われるほど腰を痛めているので、
医師が「業務により症状が著しく悪化した」と明確に結論付けたのなら、業務起因性が認められる可能性が高い
です。業務遂行性については、そもそも業務時間中に発生した事故ということで認められるので、このケースが労災認定される可能性も高いといえるでしょう。
3 腰痛については医師の判断に任せつつ、社内では腰痛予防対策を講じる
腰痛は製造業の現場で起きやすい職業病の1つですから、まずは前述した図表の考え方をしっかり押さえましょう。
「災害性の原因による腰痛」の場合、腰痛の悪化に医学的な根拠があるかどうかを判断するのは医師なので、社員本人や社長が勝手に判断せず、まずはきちんと医師に相談するようにしましょう。
また、毎日不自然な体勢での作業を行っていて腰痛が悪化した場合なども、「災害性の原因によらない腰痛」として労災認定されることがあります。ですから、
- かがんで作業をしなくても済むよう、高さを調節できる作業台や椅子を用意する
- 重量物を運ぶ作業が多い場合、腰への負担を和らげるアシストスーツを着用させる
- 作業前に、社員全員でストレッチを中?とした腰痛予防体操をする
などの腰痛予防対策を講じて、社員が腰を痛めにくい環境をつくることが大切です。腰痛予防対策についてより詳しく知りたい場合、厚生労働省が予防のポイントやチェックリストを公表しているので参考にするとよいでしょう。
■厚生労働省「腰痛予防対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31158.html
以上(2025年5月作成)
pj00750
画像:ChatGPT
【労災の落とし穴(製造業)】 本人のミスなら自己責任?
この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「保護具を着用しなかったせいで負傷した社員について、『本人のミスなので労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 保護メガネを着用しなかったという理由で、労災保険を使わせなかった……
社員数20人で、溶接作業が中心の工場に勤めるCさん。ある日、業務時間中に保護メガネの着用を忘れて作業していた際、目に金属片が入ってしまいました。Cさんは作業を中断し、水で洗い流すなどの応急処置をしましたが、痛みが激しく視界もぼやけた状態です。
社長に報告したところ、「保護メガネを着用せずにけがをしたなら自己責任。会社が補償する必要はない」と言われ、Cさんも「自分のミスだから仕方ない」と思い込んでしまいます。
病院に行くと角膜に傷ができており、医師から「数日間の安静が必要」と診断されました。しかし、社長は「有給休暇を使って休むように」と指示し、労災保険を使うことを拒否。結局、Cさんは健康保険で診療を受けなければならなくなりました。
2 「本人のミスかどうか」は労災認定には関係ない
業務中の事故でけがをした場合、それが労災になるかどうかは、
- 業務遂行性:その事故は、「会社の支配・管理下にある」ときに発生したのか
- 業務起因性:その事故は、「業務と因果関係がある」といえるか
を基準に判断されます。つまり、
事故が「本人のミスによるものかどうか」は労災認定には関係ない
ので、「自己責任だから労災申請しなくていい」という言い分は通用しません。
このケーススタディーでは、Cさんは会社の支配・管理下にある業務時間中に、溶接作業で生じる金属片によってけがをしているので、労災認定される可能性が高いでしょう。
3 社員への「安全衛生教育」を徹底する
社員が「故意に事故を起こした」「私的な用事をしていて事故に遭った」などの特殊なケースでなければ、業務中におきたけがは、基本的に労災になるので労災保険を使うことを徹底しましょう。
また、会社には社員がけがや病気をせずに働けるよう配慮する「安全配慮義務」があるので、
「安全衛生教育」の実施体制に問題があれば、会社は労災発生の責任を問われる
こともあります。現場に「作業中は必ず保護メガネを着用すること!」などの張り紙をした上で、社長や管理職からも口頭で指導する体制を整える必要があるでしょう。
なお、社員にも自身の健康を守り、安全に働けるよう努力する「自己保健義務」があるので、安全管理を徹底させるためにも、社内規程(就業規則本則や安全衛生管理規程)で、
- 社員には作業前に保護具を着用する義務があること
- 着用義務に違反し、注意・指導をしても改善しない場合、懲戒処分の対象とすること
などを定めておくとよいでしょう。
以上(2025年5月作成)
pj00749
画像:ChatGPT
【新人経理向け】保有目的によって決算書に記載する金額が変わる有価証券の決算処理
1 金融商品のポイントは時価評価
決算書にはさまざまな資産が計上されますが、決算時、特に注意が必要なのが金融商品です。金融商品は大きく金融資産と金融負債に分けられ、次のようなものがあります。
- 金融資産:現金預金、金銭債権(受取手形、売掛金、貸付金など)、有価証券(株式、公社債など)、デリバティブ取引による正味の債権
- 金融負債:金銭債務(支払手形、買掛金、借入金、社債など)、デリバティブ取引による正味の債務
金融商品の会計処理は、
取得原価ではなく、時価評価で期末時点の価額を貸借対照表に反映
しなければなりません。
取得原価のまま決算書に載せてしまうと、その金融資産が含み損(取得時よりも時価が値下がりしていること)を抱えていたとしても、実際にそれを売却するまでは含み損があるかどうかは分かりません。また、時価評価すれば債務超過になる貸借対照表でも、取得原価のままなら健全に見えてしまう場合も考えられます。会社が倒産するまで「多額の不良債権」の存在が外部から把握できないケースもあり得るのです。
こうしたリスクをなくすために、この記事では、中小企業の経理実務に即した会計ルールである「中小会計要領」(中小企業の会計に関する基本要領)に合わせて、有価証券の評価と会計処理の方法を解説します。
2 異なる有価証券の評価方法
1)有価証券の分類と評価
中小会計要領では、原則として取得原価での会計処理になります。ただし、売買目的有価証券(短期間の価格変動により利益を得る目的で、売買を繰り返す有価証券)は時価での会計処理になります。また、時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合を除き、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として減損処理しなければなりません。
2)売買目的有価証券
時価の変動による利益を得ることを目的に保有する有価証券は、
決算日の時価で貸借対照表に計上し、評価差額は当期の損益
として処理します。「時価の変動による利益を得ることを目的として保有する」とは、
時価の短期的な価格変動により利益を得ることを目的とし、同一銘柄に対して相当程度に繰り返し売買が行われる体制が整っていること
が前提です。例えば、定款に会社の目的として有価証券売買業が記載されており、有価証券売買のための人材が独立した専門部署で有価証券売買を行っている場合が挙げられます。
そのため、一般の事業会社が余剰資金の運用目的で有価証券を購入しても、その有価証券は売買目的有価証券に分類されないのが原則です。ただし、売買を頻繁に繰り返していると判断できる場合は、売買目的有価証券に分類することができます。売買目的有価証券を売却した場合、売却時点で付されている帳簿価額と売却価額との差額を当期の売却損益として処理します。なお、同一銘柄の有価証券を売買目的有価証券とそれ以外の区分で分けて保有しており、当該有価証券の一部を売却したときは、これらが社内で、明確に分別管理されていなければ、まずは売買目的有価証券を売却したものと推定します。
3)事例で確認 売買目的有価証券の会計処理
A株式(上場有価証券)を売買目的で保有しており、その有価証券の取引状況は次の通りとします。
×1年度期中においてA株式を1000万円で取得
×1年度期末のA株式の時価は1100万円
×2年度期中にA株式を1500万円で売却

3 株や債券が大暴落したときの「減損」
1)市場価格のある有価証券の減損処理
取得原価で評価した有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券)のうち、市場価格または合理的に算定された価額(時価)のあるものについて時価が著しく下落したとき(回復する見込みがあると認められる場合を除く)は、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として評価損を計上する必要があります。
「時価が著しく下落したとき」とは、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合が当てはまります。
例えば、その他有価証券を1000万円で取得したが、期末時価が400万円に下落し、かつ、将来取得原価まで回復する見込みがはっきりしない場合には、評価損を計上する必要があります。

次年度以降のその他有価証券の取得原価は減損処理後の金額400万円となります。なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。
2)市場価格のない株式の減損処理
市場価格のない株式(証券取引所で売買されていない株式や出資金など)は取得原価で貸借対照表に計上します。また、株式の発行会社の財政状態の悪化により、実質価額が著しく下がったときは相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として評価損を計上する必要があります。
「財政状態の悪化による実質価額が著しく下がったとき」とは、大幅な債務超過などでほとんど価値がないと判断できる場合などが当てはまります。
なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。
以上(2025年4月)
(監修 税理士 石田和也)
pj35093
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【株主総会】開催当日の進行、開催後の手続き
1 議事進行シナリオを作成する
2 一括上程方式の場合の議事進行シナリオの例
3 議事録の作成
4 決議通知書などの発送
5 公告の実施
6 書面などの備え置き
7 株主総会議事録の例
8 決議通知書の例
1 議事進行シナリオを作成する
この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、
全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社
のことです。
さて、大きな会社では定時株主総会(以下「株主総会」)をスムーズに進めるために、
株主からの質疑を想定した想定問答集の作成、議事進行のリハーサル
を行います。しかし、特に難しい議案がない限り、株主が少ない中小企業がそこまでの準備をする必要はなく、
議事進行手順などを整理した「議事進行シナリオ」を作成
しておけば十分でしょう。
株主総会の運営方式には、
- 一括上程方式:議案を全て上程した後に質疑応答を行って採決する方式
- 個別上程方式:議案ごとに上程、質疑応答、採決を行う方式
がありますが、一括上程方式のほうがシンプルで、運営もスムーズといえます。
2 一括上程方式の場合の議事進行シナリオの例
1)株主総会の進め方
では、具体的に当日の議事進行についてご紹介します。一括上程方式の場合の議事進行シナリオは次の通りです。中小企業の場合、ここまできっちり行う必要はないでしょうが、一つの例として参考にしていただければと思います。

2)株主総会の議長
通常、株主総会の議事運営をする議長は定款に定められており、一般的には代表取締役が務めます。定款で定められていない場合は株主総会で選任します。
3)決議要件の確認
株主総会の決議には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があり、決められる内容や必要な要件が違います。ここでは、取締役の選任などで求められる普通決議について触れます。普通決議とは、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)による決議
です。定足数については、定款に定めることで変更・排除することができます。ただし、決議要件は変更できません。
4)採決
採決の具体的な方法は法令で定められていません。また、決議の賛否が明らかになれば、賛否の具体的な数を確定する必要もありません。そのため、採決の方法などを定款に定めていないのであれば、議長の合理的な裁量に委ねます。例えば、
異議の有無を出席者全体に尋ねる、挙手、拍手、起立、記名投票など、賛否を判定できる方法であれば問題ない
といえます。
3 議事録の作成
1)記載事項
取締役は、株主総会の議事録を作成しなくてはなりません。議事録に記載する主な事項は次の通りです。
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の議事の経過の要領およびその結果
- 株主総会において述べられた意見または発言があるときはそれらの内容の概要
- 株主総会に出席した取締役等の氏名または名称
- 議長がいるときは議長の氏名
- 議事録作成者の氏名
法令では、議事録に株主総会に出席した取締役等の氏名または名称を記載することが求められています。実際は、議事録が原本であることを判別しやすくするために、出席した取締役等の署名または記名押印をする会社が多いです。
2)作成期限
議事録の作成期限は決まっていませんが、一般的に、
株主総会後、2週間以内に作成
します。これは、商業登記の添付書類として議事録が必要な場合があり、登記事項に変更があった際は2週間以内に変更の登記をしなければならないためです。
4 決議通知書などの発送
多くの場合、株主総会の後、全株主に株主総会での決議結果を知らせるための「決議通知書」や、事業報告書、配当金関係書類などを送付します。ただ、これらの書類の提供は法令で求められてはおらず、株主との良好な関係を維持・構築するための取り組みです。
5 公告の実施
株主総会の後、遅滞なく株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。非大会社の場合、貸借対照表を計算書類として公告します(損益計算書は不要です)。大会社とは「資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社」のことなので、これ以外が非大会社となります。
公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の中から選んで定款に定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告します。公告方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を公告すれば大丈夫です。
なお、公告方法を官報または日刊新聞紙としている場合でも、決算公告のみをインターネットのホームページに掲載して対応することができます。この場合、貸借対照表などが掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります。
6 書面などの備え置き
株主総会に関連する書面などの中には、一定期間、本店や支店に備え置かなければならないものがあります。備え置きが必要となる主な書面などは次の通りです。また、これらの書面などについては、株主などからの請求があれば開示しなければなりません。

7 株主総会議事録の例
【第○回定時株主総会議事録】
○年○月○日 午前○時、住所○○○○○○○ 当社本社○階第○会議室において、第○回定時株主総会を開催した。
出席した取締役:○○○○、○○○○、○○○○
出席した監査役:○○○○
定刻、代表取締役社長○○○○は、定款第〇条の定めに基づき議長席に着き、開会を宣言した。引き続き、議長は出席株主数およびその議決権個数を次の通り報告し、本総会の議案の決議に必要な定足数を充足している旨を告げた。
議決権を有する株主数:○名
総株主の議決権:○個
出席株主数:○名(議決権行使書を含む)
その議決権個数:○個
【議事の進行方法】
議長は、本総会の議事の進め方について、監査報告、報告事項の報告、決議事項の内容の説明の後に、報告事項および決議事項に関する質疑や動議などを一括して受け付け、その後に決議事項について採決に入る旨を説明し、議場に諮ったところ、出席株主の多数の賛成により了承された。
【報告事項】
議長は、第○期事業年度(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告の内容を説明し、報告を行った。
議長は、監査役に対し、事業報告、計算書類、議案の監査結果についての監査報告を求めた。監査役○○○○氏は、監査の結果は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した監査報告書謄本(別添)の通りであり、特に指摘すべき事項はない旨、また、本総会の各議案に関しても法令・定款に違反する事項および不当な事項はない旨を報告した。
【決議事項】
第1号議案:第○期事業年度に係る計算書類承認の件
議長は、決議事項の議案審議に入る旨を述べ、第1号議案を上程した。議長は、第○期事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表)は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した計算書類の通りである旨の説明を行った。
第2号議案:取締役3名選任の件
議長は本議案を上程し、現在の当会社取締役である○○○○氏、○○○○氏、○○○○氏の全員の任期が本総会終結のときをもって満了となるので、取締役3名の選任を行いたい旨、その候補者3名は「第○回定時株主総会招集ご通知」記載の通りである旨を述べた。
【質疑と説明】
議長は株主に質疑を求めたところ、株主からの次の質疑に対して議長が次の説明をした。
- 株主番号○:(質疑内容の要点を記載)
- 議長:(説明内容の要点を記載)
【採決】
以上をもって質疑を終わり、議案の採決に入った。
第1号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。
第2号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。なお、選任された各取締役は、その場で就任を承諾した。
議長は以上をもって本日の議事を終了した旨を告げ、午前○時に閉会を宣した。
上記、議事の経過および結果を明確にするため、本議事録を作成する。
○年○月○日
株式会社○○○
議事録の作成者 代表取締役 ○○○○ 印
8 決議通知書の例
○年○月○日
株主各位
住所:○○○○○○○
社名:株式会社○○○
代表取締役 ○○○○
第○回 定時株主総会 決議ご通知
拝啓 平素は格別のご高配を承り厚く御礼申し上げます。
さて、本日開催の当社第○回定時株主総会において、下記の通り報告並びに決議がなされましたので、ご通知申し上げます。
敬具
記
報告事項
第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告、計算書類および監査役の監査結果報告の件
本件は、上記書類の内容を報告いたしました。
決議事項
第1号議案:第○期事業年度に係る計算書類承認の件
本件は、原案の通り承認可決されました。
第2号議案:取締役3名選任の件
本件は、原案の通り承認可決され、○○○○、○○○○、○○○○が就任いたしました。
以上
以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)
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画像:Mariko Mitsuda
賃上げ、設備投資。2025年度の注目税制を税理士が厳選!
1 税制改正大綱の内容はいつから実行される?
毎年年末に税制改正大綱が公表されますが、その内容は今すぐに実行されるわけではありません。税制改正大綱の内容を実行するための法令は、年明け1~3月に国会で審議されますし、そもそも税制改正大綱には、
その翌年度の改正だけでなく、翌々年度以降の改正
も含まれているのです。
となると、経営者や実務担当者は、税制改正大綱の内容が、いつから実行されるのかを意識しておく必要があります。そういう意味でいえば、直近の税制改正大綱の内容はどうなのでしょうか。皆さんが注目している税制が、実はまだ先のことだったら困りますよね。
そこで、この記事では、近年話題になっている様々な税制の中から、
中小企業が2025年度に使える税制
について紹介していきます。具体的には、
賃上げ、設備投資、寄附
をした、または検討している中小企業の経営者や実務担当者は確認してみてください。
なお、この記事で紹介している賃上げ、設備投資に関する税制は、中小企業者等を対象としています。中小企業者等とは、
資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人(同一の大規模法人から、発行済株式の総数または出資の総額の2分の1以上を所有されている法人などを除く)など
をいいます。
2 【賃上げ】賃上げ促進税制
賃上げ促進税制は、
中小企業が前年度よりも給与などを増やした場合に、その増加額の一部が控除できる制度
です。通常要件に加え、上乗せ措置があり、それぞれの要件を満たすごとに、一定の税額控除率が加算されます(最大の税額控除率45%)。

例えば、給与の合計額を前年度から500万円増やした場合、75万円(=500万円×15%)を法人税額から控除できます(通常要件のみを満たした場合のケースです)。税額控除(法人税を減額するもの)なので、75万円分、納税額が少なくなります。ただ、上限金額が決まっており、税額控除前の法人税額の20%までしか控除できません。
この税制の適用を受けるためには、法人税の申告の際に、確定申告書に、税額控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額と、その金額の計算に関する明細書を添付する必要があります。
なお、賃上げ促進税制は税額控除であるため、
- 法人税が発生しない赤字の会社
- 黒字であっても、納税額が控除額より少ない会社
は要件を満たしても、その年度にメリットの全部または一部を受けられません。そのような会社には、最大5年間、控除しきれなかった額を繰り越して税額控除を受けられる措置があります。
3 【設備投資】中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制・固定資産税の特例
1)中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制は、
生産性の向上を目的に、一定の設備投資やソフトウエアを購入した場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却(通常の減価償却費のかさ増し)のいずれかを選択して適用できる制度
です。ただし、資本金3000万円超の中小企業については特別償却しか適用できません。

例えば、生産性の向上を目的に200万円の機械装置を購入して税額控除を選択した場合、14万円(=200万円×7%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。
なお、購入した設備ごとに購入金額や重量などの下限が決められています。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は対象外なので、自社の業種が指定事業に含まれるか確認しましょう。
この税制は、事前の申請などは必要なく、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類を添付することで適用を受けられます。
1.特別償却の場合
- 中小企業者等が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表
- 適用額明細書
2.税額控除の場合
- 中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書
- 適用額明細書
2)中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制は、
中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて、新たな設備投資をした場合に、税額控除か即時償却のいずれかを選択して適用できる制度
です。要件は4つのタイプに分かれており、それぞれに定められた要件を満たす必要があります。昨年度(2024年度)まで対象であったデジタル化設備(C類型)が除かれ、新たに経営規模拡大設備(B類型の拡充)が加えられています。
また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(別表や適用額明細書)を添付することで、適用を受けられます。

例えば、150万円のシステム投資を行って税額控除を選択した場合、15万円(=150万円×10%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。
なお、中小企業投資促進税制と同様、購入した設備ごとに購入金額の下限が決められているので注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は対象外なので、自社の業種が指定事業に含まれるか確認しましょう。
この税制を受けるためには、事前に経営力向上計画を作成し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ3カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(認定計画の申請書および認定書の写しや別表、適用額明細書)を添付しなければなりません。
3)固定資産税の特例
固定資産税の特例は、
中小企業等経営強化法の認定を受けた認定先端設備等導入計画に基づいて、新たな設備投資をし、かつ一定率以上の賃上げを表明した場合に、固定資産税の一部が3年間または5年間減免される制度
です。

例えば、機械装置200万円を購入した場合、約14万円(≒200万円×1.4%×1/2。一般要件のみを満たした場合の購入初年度ケースです)の固定資産税の減免を受けられます。
この税制を受けるためには、事前に先端設備等導入計画を作成し、市区町村(東京都特別区の場合は東京都)から認定を受けなければなりません。設備投資については、認定後に行うことが必須です。なお、先端設備等導入計画の作成には1カ月程度はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、償却資産の申告の際に、一定の書類(先端設備等導入計画に係る固定資産税の課税標準の特例適用申請書や認定書の写しなど)を添付しなければなりません。
4 【寄附】企業版ふるさと納税
企業版ふるさと納税は、
会社が自治体に寄附すると、税負担を軽減することができる制度
です。軽減効果は、寄附額の最大9割とされており、内訳は、
- 法人住民税と法人税の税額控除が4割
- 法人事業税の税額控除が2割
- 法人税の損金算入で約3割
です。寄附額の下限金額は10万円で、本社が所在する自治体などへの寄附は対象外となっています。寄附を募っている自治体や事業については、内閣府「企業版ふるさと納税ポータルサイト」で確認してみましょう。

なお、企業版ふるさと納税には、個人版と異なり返礼品はありません。そのため、会社の社会貢献活動や自治体とのパートナーシップ構築などを目的に行われています。この税制を受けるためには、確定申告時に、企業版ふるさと納税の適用がある寄附を行ったことを申告するとともに、受領証の写しを提出(法人税の申告にあっては保管)しなければなりません。
以上(2025年5月作成)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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画像:Vanz Studio-Adobe Stock
【労災の落とし穴(製造業)】 労災かくしで労基署の調査が!?
この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「社員と口裏を合わせて労災かくしをしようとした結果、それが労働基準監督署にバレてしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 社員と口裏を合わせたつもりが、本人が医師に真相を打ち明けて大問題に……
社員数10人の金属製造工場に勤めるBさん。機械に部品をセットする際に誤って指を挟み、大量に出血してしまいました。医師からは「少なくとも1週間程度は安静が必要。指の機能回復に時間がかかる」と診断され、10日以上仕事を休むことになりました。
この会社では、過去に似た状況で社員が負傷し、労働基準監督署の調査が入ったことがあります。苦い経験のある社長は、Bさんに「指のけがぐらいなら健康保険で治療してくれる。業務中のけがだってことは黙っていてね」と持ちかけます。Bさんは「社長がそう言うなら……」と、指示に従いました。
しかし、悪いことはできないもので、数カ月後に事態は急変します。Bさんはけがの回復が芳しくなく、医師から手術が必要と宣告されます。会社への不満が募っていたBさんは、とうとう医師に「実は業務中のけがだった」と打ち明けました。この話が病院から労働基準監督署に伝わり、監督官による会社への立ち入り調査が実施されました。
調査の結果、明らかに業務中のけがなのに、労働者死傷病報告が提出されていなかったことが判明。会社側が故意に報告をせず、社員にも口止めしていた点が重く見られ、社長は労働安全衛生法違反で、刑事責任を問われることになりました。
2 口裏を合わせても、いずれはバレる
労災かくしに協力させられた社員の中には、会社への不満だったりつい口を滑らせたりして
医師や労働基準監督署に「実は業務中のけがだった」と報告する人も少なくありません。その結果、労働基準監督署の監督官による立ち入り調査が実施され、経営者が処罰されるケース
もあります。業務中にけがをした場合、診察や治療を受ける際は、原則として労災保険を使わなければなりません。
このケーススタディーは、長期休業が必要なレベルのけがにもかかわらず、健康保険を使わせるという極めて悪質な労災かくしです。「労災であっても、社員と口裏を合わせて報告しなければバレない」という甘い考えが通用するはずもなく、結果として社長が刑事責任を問われることになりました。
3 意図的な労災かくしは言語道断、正しい手続きを!
まずは、「労災が発生したら労災保険で対応する」「労災により休業・死亡が発生した場合、労働者死傷病報告を提出する」という法律のルールを守りましょう。ちなみに、労働者死傷病報告の提出時期は、
- 4日以上の休業(または死亡)の場合:労災発生から遅滞なく
- 4日未満の休業の場合:3カ月ごと(4月末、7月末、10月末、1月末)
となっていて、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。
なお、会社が労災保険で対応しようとしても、社員のほうが「会社に迷惑をかけたくない」と健康保険を使おうとするケースが時折見受けられますが、社員の意思に関係なく、
事故の内容が労災であれば、会社は労働者死傷病報告を提出しなければならない
ので、労災かくしを疑われないためにも、「業務中のけがの場合は労災保険を使うこと」を社員にも徹底させましょう。万が一健康保険で診察や治療を受けてしまった場合でも、所定の手続きを踏めば労災保険に切り替えられる制度があるので、併せて社員に周知するとよいでしょう。
■厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険!」■
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000150202.pdf
以上(2025年5月作成)
pj00748
画像:ChatGPT
【労災の落とし穴(製造業)】 労災に健康保険を使ったら違法?
この記事では、現役社労士が直面した小さな製造業の労災の事例として、「社員が業務により負傷したのに、労災保険でなく健康保険を使うよう指示してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。
1 業務中に膝を打撲した社員に、労災保険でなく健康保険を使うよう指示した……
社員数10人の金属加工工場に勤めるAさん。ある日、プレス機のオペレーション中、足元の部品につまずいて転倒し、膝を打撲してしまいました。膝が赤く腫れていましたが、忙しいこともあり、Aさんは周囲に「このぐらい、大したけがじゃない」と言い、社長も「病院へ行きなさい」とは言わず、そのまま業務に復帰させました。
しかし、その後も膝の痛みが引かなかったので、翌日、Aさんは病院に行きました。診断結果は靭帯損傷、医師からは「念のため1日休業した上で、数週間通院するように」と言われました。
ところが社長に報告すると、社長は「1日の休業で済むレベルなら軽傷だし、労災にしなくてもいいでしょ? 労働基準監督署から監督官が来るかもしれないし、労災保険料が上がるのも困るから、健康保険を使ってくれ」と、Aさんに頼み込みます。Aさんは「社長がそう言うなら……」と、指示に従ってしまいました。
2 業務中のけがで健康保険を使うのは違法!
業務中にけがをした場合、診察や治療を受ける際は、原則として労災保険を使わなければなりません。安易に健康保険を使うと、後に労働基準監督署が実態を確認した際、労災かくしとみなされる恐れがあります。また、社員にとっても、
診察や治療にかかる費用が、労災保険を使えば「自己負担0円」で済むところ、健康保険を使うことで「3割が自己負担」になってしまう
という問題があります。
3 まずは労働者死傷病報告のルールを正しく押さえよう
まずは、「労災が発生したら労災保険で対応する」「労災により休業・死亡が発生した場合、労働者死傷病報告を提出する」という法律のルールを守りましょう。ちなみに、労働者死傷病報告の提出時期は、
- 4日以上の休業(または死亡)の場合:労災発生から遅滞なく
- 4日未満の休業の場合:3カ月ごと(4月末、7月末、10月末、1月末)
となっていて、2025年1月からは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」での提出(電子申請)が義務化されています。
なお、会社が労災保険で対応しようとしても、社員のほうが「会社に迷惑をかけたくない」と健康保険を使おうとするケースが時折見受けられますが、社員の意思に関係なく、
事故の内容が労災であれば、会社は労働者死傷病報告を提出しなければならない
ので、労災かくしを疑われないためにも、「業務中のけがの場合は労災保険を使うこと」を社員にも徹底させましょう。万が一健康保険で診察や治療を受けてしまった場合でも、所定の手続きを踏めば労災保険に切り替えられる制度があるので、併せて社員に周知するとよいでしょう。
■厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険!」■
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000150202.pdf
後は基本的なことですが、「社員がけがをしたら、すぐに病院で診てもらう」「現場を整理整頓された状態に保つ」ようにしましょう。症状が悪化する前に病院を受診すればその分回復が早くなりますし、小さな製造業の場合、清掃や作業時の動線チェックを習慣化するだけでも労災の防止に大きな効果があります。
以上(2025年5月作成)
pj00747
画像:ChatGPT
【新人経理向け】決算のメーン作業となる棚卸資産と固定資産の評価の全体像を把握する
1 棚卸資産と固定資産の評価は決算のメーン作業
さまざまな集計や計算が行われる決算作業の中でも、金額の大きさなどからメーンとなるのが、棚卸資産と固定資産の評価です。
- 棚卸資産:売上原価の計算と、期末評価額の算定、減耗損の有無の判断
- 固定資産:減価償却の計算と減損の有無の判断
この記事では、新人経理担当者に必要な棚卸資産と固定資産の会計処理を解説します。
- 商品や製品などの棚卸資産の評価
- 建物や機械装置などの有形固定資産の評価
2 商品や製品などの棚卸資産の評価
1)売上原価と期末商品棚卸高
製造業以外の業種の売上原価は、
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
で計算できます。
当期に仕入れたものが全て売上原価になるのではなく、販売につながった商品だけが売上原価として損益計算書に記載されることになります。期末商品棚卸高は棚卸資産として貸借対照表に記載されて次期に繰り越され、次期以降の売上原価の一部になります。

2)製造業の製品製造原価と期末製品棚卸高
製造業は原材料を仕入れて、それを加工し出荷します。そのため製造業の場合、売上原価と期末棚卸高は自社製造製品が対象になります。
製造に必要な費用は、材料費、労務費、製造経費に大きく分けることができます。
- 材料費:「材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高」で計算
- 労務費:製造に携わる社員の給与、賞与、退職金、各種社会保険料などを集計
- 製造経費:工場の光熱費、消耗品費、建物の減価償却費、外注費などを集計
製造業の場合、商品仕入高の代わりに当期製品製造原価を用いて売上原価を計算します。
また、棚卸資産は、材料棚卸高、仕掛品棚卸高(期末時点で製造途中の未完成品)、製品棚卸高により計算されます。その算出フローは次の通りです。
- 当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高
- 当期総製造費用=当期材料費+当期労務費+当期製造経費
- 当期製品製造原価=当期総製造費用+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高
- 売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高

3)棚卸資産の主な評価方法
商品などの棚卸資産は取得原価を基に評価しますが、いつ仕入れたかによって価額が異なる場合が多いです。物価上昇時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は高くなります。一方、物価下落時では、先に仕入れた商品より後から仕入れた商品のほうが仕入値は安くなります。
そのため、決算時には次の評価方法の中から選択した方法で売上原価・製造原価の払出原価と期末棚卸資産の価額を評価することになります。
1.個別法
取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。個別法は、一品一品受注生産しているような棚卸資産の評価に適した方法です。
2.先入先
出法最も古く仕入れものから順次払出し、期末棚卸資産は最も新しく仕入れたものからなるとみなして、期末棚卸資産の価額を算定する方法です。
3.平均原価法
仕入れた棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。なお、平均原価は、総平均法(1年間分をまとめて平均原価を計算する方法)または移動平均法(仕入れる都度平均原価を計算する方法)によって算出します。
4.売価還元法
値入率などが同じ棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて期末棚卸資産の価額とする方法です。売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用されます。売価還元法によると、期末棚卸資産は
期末棚卸資産=期末棚卸資産の通常の販売価額×原価率
の算式で計算されます。
なお、原価率は、
原価率=(期首棚卸資産+当期仕入高)/(当期売上高+期末棚卸資産の通常の販売価額)
の算式で計算されます。
例えば、期首棚卸資産の取得原価が200万円、当期仕入高が1000万円、当期売上高が1400万円、期末棚卸資産の通常の販売価額が200万円の場合、次の通りです。
原価率=(200万円+1000万円)/(1400万円+200万円)=75%
期末棚卸資産=200万円×75%=150万円
4)棚卸資産の減耗損はありますか
本来、商品在庫は、仕入数量から売上数量を引いた数量と一致すべきものですが、さまざまな要因(紛失や盗難など)で数量不足が起きることがあります。本来あるべき数量(帳簿棚卸数量)に比べて実際の数量(実地棚卸数量)が少ないケースです。この数量の減少による損失を減耗損といいます。減耗損の仕訳例は次の通りです。

減耗損が毎期不可避的に発生するものは売上原価に含めるか、または販売費として扱います。一方、経常的でない異常な減耗損は特別損失(金額的に重要性の乏しい場合は営業外費用)として扱います。
5)棚卸資産の評価損はありますか
販売するために保有する棚卸資産は、取得原価で貸借対照表に計上します。ただし、期末における正味売却価額(期末時点で市場で販売できる価額)が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します。なお、詳細な解説は省略しますが、会計基準上は認められていないものの、税務上は原価法も認められています。
前期に評価損を計上した棚卸資産については、当期首に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用することができます。また、売価の下落要因を、
- 物理的劣化
- 経済的劣化
- 市場の需給変化
の要因ごとに区分できるときは、その区分ごとに洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用できます。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければなりません。切放し法と洗替え法による仕訳例は次の通りです。なお、税務上、切放し法は認められません。

3 建物や機械装置などの有形固定資産の評価
1)減価償却とは
建物や機械装置、車両運搬具などは、少額のものを除き有形固定資産として計上します。これらの資産は購入した年度だけ使用するのでなく、翌年度以降も使用されます。そのため、耐用年数(資産の種類や性質ごとに異なります)の期間を通じて、費用処理する方法が取られています。この処理を減価償却といい、毎期一定の金額、または一定の割合で価値が減るという仮定で費用処理します。現在は、パソコンなどで自動計算されるため、計算方法よりも、むしろ貸借対照表にどのように計上されているのかを押さえることが大切です。
2)事例で学ぶ 減価償却の会計処理
減価償却について、次の条件を基に説明します。
機械装置を100万円で購入、耐用年数は10年、定額法定額法による場合、各期の減価償却費は次式で算出されます。
各年度の減価償却費=取得価額×償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
各年度の減価償却費=100万円×0.100=10万円
また、期首帳簿価額、減価償却費、期末帳簿価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円まで償却します。

減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算において営業費用として処理されることになります。各期の仕訳例は次の通りです。

貸借対照表では次のように表示されます。原則は間接控除方式ですが、直接控除方式によることもできます。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士 石田和也)
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