物流・運送業の2024年問題とは何ですか?

QUESTION

物流・運送業の2024年問題とは何ですか?

ANSWER

2024年4月1日から、時間外労働の上限規制が自動車運転業務にも適用されるようになりました。

解説

時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含みません)を限度に設定(1か⽉の時間外・休⽇労働時間数、1年の時間外労働時間数)する必要があります。

・⾃動⾞運転の業務に関しては、特別条項付き協定を締結する場合の時間外労働の上限は年960時間(休日労働は含みません)となります。

・時間外労働と休日労働について「月100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されません。

・「時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か⽉まで」の規制は適⽤されません。

さらに、トラックドライバーには、労働時間と休憩時間とを合わせた拘束時間、勤務間のインターバルである休息期間、運転時間などを規制する改善基準告示も適用されます。
【1日の拘束時間】13時間を超えないことを原則とし、最大でも15時間
【1年・1月の拘束時間】年3,300時間以内、月284時間以内
【1日の休息期間】11時間以上を基本とし、9時間を下回らない
【運転時間】2日平均1日9時間以内、2週を平均して1週当たり44時間以内

<改善基準告示違反にならない例・2日平均1日9時間要件>
 10時間運転の日(A)、9時間運転の日(B・基準日)、9時間運転の日(C)の場合
  (A+B)/2=9.5時間
  (B+C)/2=9時間

<改善基準告示違反になる例・2日平均1日9時間要件>
 10時間運転の日(X)、10時間運転の日(Y・基準日)、9時間運転の日(Z)の場合
  (X+Y)/2=10時間
  (Y+Z)/2=9.5時間

<改善基準告示違反にならない例・2週平均1週44時間要件>
 1週目運転時間44時間(A)
 2週目運転時間44時間(B)
  (A+B)/2=44時間

 1週目運転時間40時間(C)
 2週目運転時間46時間(D)
  (C+D)/2=43時間

<改善基準告示違反になる例・2週平均1週44時間要件>
 1週目運転時間50時間(X)
 2週目運転時間44時間(Y)
  (X+Y)/2=47時間

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.93160

画像:Mariko Mitsuda

SNSネイティブ世代のための「電話応対」の手引き(2024年4月号)

テレワークの実施に伴い、連絡手段としてメールやチャット、SNSを社内で活用する企業が増えています。特にチャットやSNSは手軽に素早くやりとりができる利点があります。しかし、若手社員のなかには業務中に電話をかける機会がほとんどなく、電話応対に苦手意識を持っている人もいるでしょう。
ビジネス電話では、特有のマナーやルールが求められるため、電話応対に慣れていない世代にとっては、戸惑うことも多いのではないかと思います。
本紙では、電話応対の基本といえる大切なこと、とっさの対応など、会話に関するマナーやルールと心構えについてわかりやすく解説します。

建設業の2024年問題とは何ですか?

QUESTION

建設業の2024年問題とは何ですか?

ANSWER

2024年4月1日から、時間外労働の上限規制が建設業にも適用されるようになりました。

解説

建設業は、上限規制の適用を、令和6年3月31日まで猶予されていますが、 令和6年4月1日以降は、時間外労働の上限は原則として月45時間・年間360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下の上限を超える時間外労働・休日労働はできなくなります。

・時間外労働 年720時間以内

・時間外労働+休日労働の合計 月100時間未満 (※) 2~6か月平均80時間以内 (※)

・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
◎ 災害の復旧・復興の事業に関しては(※) の部分が適用されません。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.93150

画像:Mariko Mitsuda

労働条件の明示事項が変更になったと聞きましたが、具体的にどう変更されたのでしょうか。

QUESTION

労働条件の明示事項が変更になったと聞きましたが、具体的にどう変更されたのでしょうか。

ANSWER

2024年4月1日以降、労働条件の明示事項が追加されました。

解説

①全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に、就業場所・業務の変更の範囲を明示
②有期労働契約の締結時と更新時に、更新上限( 通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容(併せて、最初の労働契約の締結より後に更新上限を新設・短縮する場合は、その理由を労働者にあらかじめ説明すること)
③無期転換申込権が発生する契約の更新時に、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件を明示

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.91050

画像:Mariko Mitsuda

【健康経営】 目をケアしてカラダも健康に! 「眼精疲労」対策のポイント

書いてあること

  • 主な読者:休息や睡眠を取っても目の疲れが取れない人
  • 課題:眼精疲労を放っておくと緑内障や白内障になる恐れがある
  • 解決策:日ごろから目を酷使しない。また、異常を感じたら迷わず眼科を受診する

1 ただの「目の疲れ」と侮ってはいけない理由

1日中パソコンを見ていると、近くの物が見えにくくなったり、目がショボショボしたりします。そして、休息や睡眠を取っても、こうした異常が回復しないケースを「眼精疲労」と呼びます。眼精疲労は「白内障」「緑内障」などの目の病気、「糖尿病」などのカラダの病気とも関係があり、眼精疲労を放置していると、気が付かないうちにこれらの重い病気が進行してしまうことがあります。逆に言うと、

「目に異常を感じたら、早めに医師に相談する」という癖を付けておけば、重い病気を早期に発見でき、カラダ全体の健康につながる

ということです。

この記事で、眼精疲労に詳しい現職の産業医が眼精疲労の正しい知識と、会社や個人でできる眼精疲労対策のポイントを紹介するので、参考にしてください。

2 眼精疲労の主な症状と原因、治療法

1)眼精疲労の主な症状と原因

眼精疲労の主な症状としては、次のようなものがあります。目に表れる症状と、カラダに表れる症状があるのが特徴です。

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眼精疲労の主な原因は以下の通りです。

1.生活環境やストレス

パソコンやスマホが手放せない現代は目を酷使しやすく、眼精疲労を中心とした異常の総称「VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)症候群」になる人が多いです。この他、過度なストレスから筋肉のこわばりや血流への影響が出て、それらが複合的に重なり合い、眼精疲労につながります。

2.目の病気

まずは「ドライアイ」です。ドライアイになると、目の表面が乾燥して眼球が傷つきやすくなります。「眼精疲労の患者の約6割にドライアイの症状がある」といわれます。マスクを長時間着用していると、マスクの上部から息が漏れ、目の表面が乾き、ドライアイが加速するというデータもあります。

また、網膜に像を結ぶレンズの働きをする水晶体が白く濁る「白内障」も、濁りによる見えづらさや、光が乱反射することによるまぶしさが眼精疲労の原因になります。眼圧が高まり視神経や網膜に支障をきたす「緑内障」や、まぶたが垂れ下がったまま上がりにくくなる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」も、視界が狭まるのに無理にあらがおうとした結果、眼精疲労を引き起こすことがあります。

3.カラダの病気

眼精疲労の原因になるカラダの病気としては、風邪やインフルエンザなどの感染症や、高血圧や糖尿病、副鼻腔炎といった慢性的な病気が挙げられます。また、虫歯や歯周病、更年期障害から起きる頭痛や目の奥の痛みなどが、眼精疲労の原因になることもあります。

4.眼鏡やコンタクトなど矯正器具の不具合

近視や乱視、遠視、老眼などの「屈折異常」を矯正するメガネやコンタクトの度数が合っていないことも、眼精疲労の原因の1つです。左右の視力が大きく異なる場合、眼鏡による矯正で左右の像の大きさが異なることで、眼精疲労の原因になることもあります。

2)眼精疲労の治療法の例

眼精疲労になる原因によって治療方法は違います。ですので、症状に気付いたら、早めに眼科を受診しましょう。目の病気であればそのまま眼科で治療を行えますし、カラダの病気など目以外に原因があることが分かれば、内科などの適切な診療科を紹介してもらえます。

軽度の眼精疲労の場合、眼鏡の度数調整、ビタミン点眼、調節機能を改善する目薬の点眼などで症状を和らげる治療法があります。他にも目の周りを温める温罨法(おんあんぽう)、眼の周りを冷やす冷罨法(れいあんぽう)などで目や周辺の筋肉の血管を刺激し、血流を促すことも効果的です。

なお、眼精疲労対策として市販の目薬を使う人も多いですが、種類が多いので、自分の症状に合った目薬を選ぶのはなかなか難しいです。通常、パッケージの「疲れ目」「ドライアイ」「充血」などの文言を参考にして選びますが、自信がなければ、医師に目薬を処方してもらうようにしましょう。

3 眼精疲労への対策ポイント

1)「VDT健診などの各種検診」「オンライン診療」がおすすめ

眼精疲労は、「症状に気付いたら、早めに医者に相談する」ことが大切です。社員に確実に受診を促したいのであれば、会社が主体となって、

VDT健診をはじめ、視力・視野検査、眼圧測定、顕微鏡検査、眼底検査などを実施

しましょう(ただし、定期健康診断のように受診を義務にする場合、就業規則の変更が必要)。人間ドックのオプションで、こうした目の検査を実施してくれる病院もあります。

また、もう1つおすすめしたいのが「オンライン診療」の活用です。これは、

スマホなどを使って、ドライアイや目の腫れなどについて診察を受けられる

というものです。視力・視野検査などはできませんが、気になる症状について医師に相談できれば、次のアクションの助けになります。忙しくて、なかなか眼科に行く時間が取れないビジネスパーソンでも気軽に利用できます。オフィス環境を整えることも、眼精疲労対策として有効です。具体的には、

  • パソコンなどのVDTの連続作業時間に制限を設ける
  • コントラストや輝度を下げる
  • ディスプレイ位置を工夫する(目からの距離・高さ)
  • 太陽光が画面に入り込まないようにカーテンを引く
  • エアコンの風が直接目に当たらないように風よけをデスクに立てる
  • 目に優しい照明を利用する(100~500ルクス)

などが挙げられます。

この他、目の異常が常態化してくると、本人が「そもそも良好な状態がどんなものだったか」が分からなくなってくるケースがあるので、会社が眼精疲労に役立つ知識を職場内で共有する仕組みを整えることも重要です(外部講師を招いての勉強会など)。

2)セルフケアのポイントは「作業環境」「食生活」「眼鏡」などさまざま

眼精疲労を予防するためには目を酷使しないことが一番です。そのために、「目を大事にするセルフケア」に取り組みましょう。

例えば、日々の業務の作業環境。パソコンのディスプレイの位置が高いと目が疲れるので、ディスプレイ位置は目から40センチ以上離し、少し見下ろす程度の高さに配置するようにします。「1時間ごと」など時間を決めて、パソコンから離れる休憩時間を設けることも必要です。

また、きちんと睡眠時間を取るとともに、ビタミンAやビタミンB1、B6、ビタミンEが豊富なレバーやうなぎ、豚肉など「目にいい」食材を意識して食べましょう。抗酸化作用アントシアニンを含むブルーベリーなども、疲れ目の改善に良いとされています。

コンタクトレンズを常用していてドライアイが気になる人は、思い切って眼鏡に切り替えるというのも1つの選択です。他にも目の潤いを保つために定期的な点眼や室内の加湿、意識的にまばたきを増やす、目の体操、こめかみから頭のマッサージ、顔や首のツボを押すなど、個人でできることはたくさんあります。

以上(2024年3月作成)
(執筆 株式会社フェアワーク 吉田健一)
https://fairwork.jp/

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画像:polkadot-Adobe Stock

【規程・文例集】復職時に使える「時短勤務の労働条件に関する合意書」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:私傷病休職から復職する社員に、時短勤務を適用することを検討している経営者
  • 課題:当面の間、社員の働き方が変わることになるが、何に注意すればよいか分からない
  • 解決策:時短勤務の労働条件(労働時間や賃金など)が曖昧だと社員とトラブルになる。会社と社員との間で合意書を取り交わし、労働条件を明確にしておく

1 デリケートな復職時こそ、労働条件を明確にする

「休職」とは、社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、労働を一定期間免除する制度です。会社が就業規則等で休職期間の上限を定め、社員が休職期間の満了前に働ける状態にまで回復したら「復職」させる、というのが一般的な流れです。

とはいえ、復職は非常にデリケートな問題で、社員が復職直後から休職前と同じように働こうとして再び体調を崩し、そのまま退職してしまうケースなどが少なくありません。私傷病の内容などにもよりますが、

復職後は当面の間、労働時間の短縮(いわゆる「時短勤務」)などによって業務の負担が軽くなるよう配慮し、経過を見ながら徐々に従前の働き方に戻していく

のが無難です。

ただし、休職前と復職後で労働条件が変わる場合、あらかじめその変更内容について会社と社員が合意しておかないと、トラブルになる恐れがあります。特に時短勤務の場合、労働時間や賃金について、次のような点に注意する必要があります。

  • 社員が無理なく働ける労働時間か、始業・終業時刻のルールや時間外労働の有無などを明確にしているか
  • 労働時間を短縮した分だけ賃金の支給額が減る場合、具体的な支給額や計算方法などを明確にしているか

次章では、私傷病休職からの復職時を想定した「時短勤務の労働条件の合意書」のひな型(専門家監修付き)を紹介します。

2 「時短勤務の労働条件に関する合意書」のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【時短勤務の労働条件に関する合意書】

株式会社○○(以下「甲」)と、従業員○○(以下「乙」)は、乙が○年○月○日から開始する時短勤務の労働条件について、下記の通り合意する。

第1条(目的)

本合意書は、乙が私傷病休職(○年○月○日から○年○月○日まで)から復帰後、休職事由の発生以前の通常の業務と、質・量ともに同程度の業務(以下、通常の業務という)を遂行できる状態に回復するまでの間、時短勤務を行うために必要な労働条件を定めることを目的とする。

第2条(適用)

1)変更後の労働条件は、第4条から第7条までの通りとする。本合意書に定めのない労働条件については、原則として従前(当該私傷病休職の開始日の前日である○年○月○日以前、以下同じ)の通りとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が合意の上、労働条件を決定する。

2)本合意書で定める労働条件の適用期間は、○年○月○日から○年○月○日までの3カ月間とする。ただし、甲が必要と判断した場合、その期間を短縮することがある。

第3条(時短勤務の終了)

1)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められる場合は、原則として従前と同一の労働条件で復職するものとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が協議の上、労働条件を決定する。

2)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められない場合は、甲は乙に対し、再度の休職を命じることがある。ただし、甲が必要と認める場合は、時短勤務期間を3カ月間、1回に限り延長することができる。

3)甲は第1項、第2項において、乙が通常の業務を遂行できる状態に回復したかを判断するため、乙に対し、医師の診断書の提出を求めることがある。また、甲が診断書を作成した医師に面談を求めた場合、乙はその実現に協力しなければならない。

4)甲が第2項において、乙に対し、再度の休職を命じる場合の休職期間および休職期間を満了した場合の取り扱いについては、就業規則第○条による。

第4条(労働時間)

1)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、1日8時間、1週40時間の範囲内で、日・週ごとの労働時間を決定し、乙に対し事前に通知する。

2)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、午前8時から午後5時の間で始業・終業時刻を日毎に決定し、乙に対し事前に通知する。

3)乙は、第2項により事前に通知された始業時刻に遅刻し、もしくは終業時刻前に業務を終了する場合、甲に都度報告しなければならない。

4)乙は時短勤務中、甲が特別に認めた場合を除き、時間外労働、休日労働、深夜労働をしてはならない。

第5条(業務内容)

甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、業務内容を決定する。

第6条(休日・休暇)

休日・休暇の扱いは、従前の通りとする。

第7条(賃金)

1)賃金は、日給月給制から時給制に変更する。

2)時給単価は、業務内容、従前の基本給・諸手当の金額等を勘案し、○○円とする。

3)通勤手当は、実費を支給する。

4)割増賃金等(所定労働時間外の労働に対する賃金、法定労働時間外の労働に対する割増賃金、法定休日の労働に対する割増賃金、深夜の労働に対する割増賃金)の扱いは、従前の通りとする。

5)控除項目(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税、持株会拠出金など)の扱いは、従前の通りとする。

上記内容を証するために本合意書2通を作成し、甲、乙、立会人が記名捺印の上、甲乙が各々1通を所持する。

○年○月○日

 

       甲

 

       乙

 

               立会人

以上(2024年4月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【収支シミュレーション】 介護老人保健施設の開業収支モデル

書いてあること

  • 主な読者:介護老人保健施設の開設を検討している人
  • 課題:自社の所有地に介護老人保健施設を新築する
  • 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる

1 介護老人保健施設とは

介護老人保健施設とは

入院治療を必要としない要介護高齢者などを対象に、リハビリテーションや日常的な看護・介護を行うことで心身諸機能の改善や日常生活行動の向上を促し、最終的に家庭に復帰させることを目的とする施設

です。

介護老人保健施設では、入所サービス以外に、通所リハビリや短期入所(ショートステイ)などのサービスも提供しています。

介護老人保健施設を開設するには、

  • 法人格を取得する(介護老人保健施設を開設できるのは、「地方公共団体」「医療法人」「社会福祉法人」「その他厚生労働大臣が定める者」に限られています)
  • 厚生労働省令で定められた事項を都道府県知事に届け出る
  • 厚生労働省が定める「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」を満たす
  • 施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から介護保険法に基づく「介護保健施設」の指定を受ける

必要があります。

なお、市区町村によって基準が異なる場合や、設置を計画していた施設の数を満たしているといった理由で申請を受け付けていない場合があるため、事前に市区町村の担当部署に確認しましょう。

また、市区町村によって施設整備費や設備整備費などに補助金を出していることもあるので、併せて確認するとよいでしょう。

2 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

売上高は、施設定員を70人として年間4億7000万円とします。算出式は次の通りです。

(介護サービス10万800円×12カ月+日常生活費等1万8330円×365日)×定員70人×稼働率85%≒4億7500万円

介護老人保健施設の売上高は、介護サービス費と日常生活費等から成ります。

厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和5年11月審査分)第5表 介護サービス受給者1人当たり費用額,要介護状態区分・サービス種類別」によると、短期入所療養介護(老健)の介護サービス受給者1人当たりの費用額は10万800円となっています。介護保険が適応されるので利用者の負担は1割(一定基準以上の所得がある場合は2割または3割)となります。

日常生活費等は、食材料費、教育娯楽費、日用品代などで、利用者が実費を負担します。

2.原価率

厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(4)その他を参考に売上高の32.0%とします。

3.人件費

厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(1)給与費64.2%を参考に3億180万円(4億7000万円×64.2%)とします。

4. 施設設備整備費

建物(延床面積3000平方メートル。1平方メートル当たり工事単価31万円)は9億3000万円。建物附属設備(電気・給排水・消火設備など)は1億3500万円とします。

その他の諸条件は図表1の通りです。

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2)収支シミュレーション

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3 介護老人保健施設の1施設1カ月当たり収支

厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果」によると、介護老人保健施設の1施設1カ月当たり収支は次の通りです。

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以上(2024年3月更新)

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画像:mapo-Adobe Stock

社会保険の適用拡大でコスト増! シフトで働くパートは新たに社会保険に加入させるべきか?

書いてあること

  • 主な読者:2024年10月1日から「社会保険の適用拡大」の対象になる会社の経営者、人事労務担当者
  • 課題:シフト制パートが被保険者になるのか判断しにくいし、本人の意向もある
  • 解決策:被保険者になるかは、一定期間の労働時間を週単位に換算した上で判断する。それぞれのパートの希望する働き方をヒアリングした上で、シフトを調整する

1 労働時間が読めない「シフト制パート」の社会保険加入

「社会保険の適用拡大」とは、2024年10月1日から、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の被保険者となるパートの範囲が拡大されることです。ここでいう「パート」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

のことです。本来、パートは社会保険の適用対象外ですが、会社が厚生年金の被保険者数について一定の要件を満たし、さらにパートが労働時間や賃金について一定の要件を満たすと、社会保険に強制加入となります。2024年10月1日からは、この会社が満たすべき

厚生年金の被保険者数の要件が、「常時100人超→常時50人超」へと拡大

されます(図表1)。パートを雇用する多くの中小企業が対象になるわけです。

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難しいのは、社会保険の適用拡大の対象となる会社が、

労働日や労働時間が流動的な「シフト制パート」を雇用している場合

です。シフト制パートは、週や月ごとに作成されるシフト表などに基づいて、「1日4~6時間×週2~3日」など流動的に働くので、被保険者になるかが分かりにくくなっています。一方で、社会保険の適用拡大によって、被扶養者であるパートが被保険者になると、

家族の扶養から外れ、これまで負担義務のなかった社会保険料が賃金から天引きされる

ようになります。「社会保険料の負担義務がない」という理由でパート勤務を希望している人もいるでしょうから、トラブルがないようにするには、

  • シフト制パート特有の労働時間のルールを押さえること
  • どのシフト制パートが被保険者になるのかシミュレートすること
  • 2024年10月1日以降の働き方をシフト制パートと協議すること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 シフト制パート特有の労働時間のルールを押さえる

1)被保険者になるか否かは、労働時間を「週単位に換算」して判断する

パートが社会保険に加入する要件の1つは、「週の所定労働時間が20時間以上であること」ですが、シフト制パートは労働時間が流動的なため、日本年金機構では、

一定期間内の労働時間を週単位に換算した場合、20時間以上になるかどうか

で判断するとしています。具体的な計算方法は図表2の通りです。

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1日の所定労働時間は労働日ごとに異なるが、休日などの周期は一定である場合(例:月に10日の休日を確保する場合)は、図表2の1.の計算式を使います。

また、就業規則や個別の労働契約に「所定労働時間は月◯時間(年◯時間)」といった定めがある場合、2.または3.の計算式を使います。なお、2.の計算式については次のように、繁閑期(繁忙期や閑散期)などがある場合に適用される特別ルールがあります。

繁閑期などで特定の月の所定労働時間が「例外的に長く(短く)なる」場合、その特定の月を除く月の所定労働時間を、「月の所定労働時間×12カ月÷52週」で週単位に換算する

2)労働時間は、労働契約ではなく実態で判断する

もう1つ押さえておくべきなのが、

労働契約上の所定労働時間が「週20時間未満」でも、実労働時間が2カ月連続「週20時間以上」で、今後も同じ状況が続くと見込まれる場合、3カ月目から社会保険に加入する

というルールです(日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」)。つまり労働時間は、労働契約ではなく実態(実労働時間)で判断します。

逆に言うと、次のようなケースでは社会保険に加入しないことになります。

  • 所定労働時間は「週20時間以上」だが、実労働時間が毎月「週20時間未満」である場合
  • 実労働時間が2カ月連続で「週20時間以上」になったが、3カ月目は「週20時間未満」で、今後も同じ状況が続くと見込まれる場合

3 どのシフト制パートが被保険者になるのかシミュレートする

1)毎月89時間以上働くなら、確実に労働時間の要件を満たす

基本的なルールが分かったら、自社のどのシフト制パートが被保険者になるのか、シミュレートしてみましょう。まずは労働時間の確認です。

労働時間を週単位に換算する方法は前述した通りですが、それだけだと分かりにくいので、図表3のように、週単位に換算した労働時間が20時間以上となるボーダーラインを出してみます。

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20時間以上かどうかは、前述した通り労働契約ではなく実態で判断します。仮に各月の実労働時間が図表4の通りであれば、1.から3.のボーダーラインを全て超えるので、週単位に換算した労働時間は確実に20時間以上になります。

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分かりにくければ、ざっくり

毎月89時間以上働くなら、確実に労働時間の要件を満たす

と覚えておくとよいでしょう。

2)1カ月当たりの賃金やその他の要件も確認する

次に「1カ月当たりの賃金が8万8000円以上か」を確認します。

仮に時給が1113円(東京都の地域別最低賃金、2023年10月~)のシフト制パートが、前述した図表4と同じ時間だけ働いた場合、1カ月当たりの賃金は図表5のようになります。全ての月で1カ月当たりの賃金が8万8000円以上になるので、賃金の要件も満たします。

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あとは、「継続して2カ月を超えて使用される見込み」「学生でない」という要件を満たせば、そのシフト制パートは社会保険に加入することになります。

なお、ここまで被保険者要件を確実に満たす働き方を紹介してきましたが、実際は

  • 週単位に換算した労働時間が、20時間以上の月もあれば、20時間未満の月もある
  • 1カ月当たりの賃金が、8万8000円以上の月もあれば、8万8000円未満の月もある

など、働き方が一定ではなく、被保険者になるかの判断がつきにくい場合があります。このあたりについては個別・具体的な判断になる可能性があるため、所轄の年金事務所に確認するようにしてください。

4 2024年10月1日以降の働き方をパートと協議する

1)社会保険に加入することのメリットとデメリットを伝える

どのシフト制パートが被保険者になるのかが分かったら、対象となるパートに、2024年10月1日から社会保険に加入する旨を伝えた上で、今後の働き方について協議します。まずは社会保険に加入するメリットとデメリットを伝えましょう。

現状、被扶養者であるシフト制パートが社会保険に加入すると、

家族の扶養から外れ、これまで負担義務のなかった社会保険料が賃金から天引きされるようになり、賃金の手取り額が減る可能性

があります。ただ、その代わり、

  • 傷病手当金や出産手当金などの保険給付を受けられるようになり、保障が手厚くなる
  • 国民年金に加えて厚生年金保険の給付も受けられることになり、将来の年金が増える
  • 今までのように扶養の範囲(労働時間や賃金など)を気にせず、思い切り働ける

といったメリットがあります。加えて、産前・産後休業や育児休業を取得する際、社会保険料が免除されることなども教えてあげるとよいでしょう。

2)社会保険加入前後の労働条件を明らかにする

シフト制パートが一番気にするのは、「社会保険に加入した場合、手取り額がいくら減るのか」でしょう。こうした場合、図表6のように「社会保険加入前」と「社会保険加入後」の労働条件が分かる比較表を作って説明すると、本人も働き方をイメージしやすくなります。なお、基本給(9万8130円)は、前述した図表5における1カ月当たりの賃金の平均額です。

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3)働き方の希望を聞き、必要に応じて労働条件を調整する

労働条件の比較表を渡す際は、併せて図表7のような「社会保険の加入に関する意向確認書」も交付しましょう。これは、2024年10月1日以降、社会保険への加入を希望するかどうかの、本人の希望を確認するための書面です。

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「社会保険に加入したくない」と回答したシフト制パートについては、今後の労働時間など、労働条件の変更について話し合う必要があります。なお、その際は

仮にシフト制パートの労働時間を減らした場合、2024年10月1日以降、業務を回していけるか

に注意しなければなりません。場合によっては、シフト制パートの労働時間を減らした分、「他のパートに仕事を割り当てる」「新たにパートを雇用する」などの対応が必要になる可能性があります。

以上(2024年4月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:takasu-Adobe Stock

うつ病から復職した社員が、再び「休みたい」と言ってきた場合の「愛」ある対応とは?

書いてあること

  • 主な読者:うつ病から復職した社員の症状が再び悪化した場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:再度の休職は可能か? 休職期間が残っていない場合はどうすればいいか?
  • 解決策:休職期間の「通算」のルールを確認する。休職期間が残っていない社員を雇用し続けたい場合、雇用形態の変更など働き方のルールを変える

1 復職した矢先に再び症状が悪化するケースは珍しくない

「休職(私傷病休職)」とは、

社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、一定期間労働義務を免除する制度

です。就業規則で定めた休職期間が満了するまでに社員が働ける状態に回復したら「復職」、そうでなければ「自然退職」となるのが一般的な流れです。

もちろん復職できるのが理想ですが、うつ病のように完治の判断が難しい病気の場合、

社員が復職した矢先に、再び症状が悪化してしまうケース

は珍しくありません。経営者としては、「社員に働く意思があるなら、症状が改善するまで根気強く待ってあげたい」という気持ちもあるでしょう。ただ、他の社員との兼ね合いもあり、ある程度はルールに基づいて対応せざるを得ないのがつらいところです。

そこで、この記事では、「復職した社員の症状が再び悪化しても、雇用を継続できるようにするにはどうすればよいか」を、次の3つに注目して考えていきます。

  1. 休職期間の「通算」の規定を確認する
  2. 雇用形態の変更などによって働き方のルールを変える
  3. 社員の生活保障(傷病手当金や退職金)にも注意する

2 休職期間の「通算」の規定を確認する

休職制度は、法律上の制度ではなく、会社が就業規則で独自にルールを定めて実施します。そして、休職制度がある会社の中には、一定期間内に同じまたは類似の傷病で再び休職したら、休職期間を「通算」する規定を設けているところがあります。具体的には次の通りです。

復職した社員が、その後○カ月以内に、同じまたは類似の傷病により再度欠勤をした場合、もしくは通常の労務提供ができなくなった場合は復職を取り消し直ちに再休職とする。この場合、以後連続または断続する欠勤は、復職前に休職した期間と通算する。

このような「通算」の規定があった場合の流れを確認します。例えば、休職期間が最長6カ月間の会社で、社員がうつ病で2カ月間休職したとします。この場合、復職後すぐにうつ病が再発したら、休職期間は通算され、再休職できる期間は4カ月間(6カ月間-2カ月間)となります。ただし、うつ病以外の病気であれば、それが原因で再休職しても、休職期間は通算されません。

仮に1回目の休職で6カ月間休んだ場合、休職期間の上限に達してしまうので、再休職はできません。その場合、一般的には、休職期間の満了までに復職できなかったとして、自然退職になります(就業規則に定めが必要。なお、うつ病以外の病気による再休職は6カ月間まで可)。

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3 雇用形態の変更などによって働き方のルールを変える

休職期間が残っていない社員をそれでも雇用し続けたいのであれば、「雇用形態の変更や部署移動などによって働き方のルールを変える」ことを検討します。

例えば、「正社員は休職制度の対象だが、パート等は対象外にしている」という会社の場合、

社員の雇用形態を正社員からパート等に変更し、休職制度の対象から外す

という方法で雇用を継続することができます。

また、「パート等にも休職制度を適用する」という会社の場合も、次のように労働日を調整することで、正社員が休んだ場合は「欠勤」扱いとなる日を、「休日」扱いにできる可能性があります(「欠勤」扱いにならなければ、休職制度を適用する必要がない)。

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ただし、雇用形態の変更は会社の一存では行えません。社員との合意が必要です。特に正社員からパート等に転換する場合、一般的には、

  • 業務内容や責任が変わることで、賃金が下がる
  • 所定労働時間が変わることで、年次有給休暇の付与日数が少なくなる

など、従前よりも労働条件が引き下げられるケースが多いです。ですから、書面などで労働条件の変更部分を明確にした上で、合意を得るようにします。

なお、社員と労働条件について相談する際は、

正社員として業務を行える状態に回復した場合、パート等から正社員に戻れるか否かについても明らかにして社員に伝える

ようにしましょう。

4 社員の生活保障(傷病手当金や退職金)にも注意する

最後に、復職した社員が再び働けなくなってしまった場合の生活保障について、「休職期間が残っている場合」と「休職期間が残っていない場合」とに分けて考えてみます。

1)休職期間が残っている場合

社員が一定の要件を満たせば、再休職中に健康保険の「傷病手当金」がもらえます。支給額は「おおむね休職前の賃金の3分の2」です。通常、傷病手当金は、療養のために連続3日以上休んでからでないともらえませんが、

同じ傷病であれば、2回目以降は再び会社を休んだ日(再休職した日など)から支給

されます。ただし、支給期間は、同一の傷病について最初に支給が開始されてから通算1年6カ月間が上限なので、例えば、1回目の休職で傷病手当金を2カ月間もらった場合、再休職での支給期間は1年4カ月間(1年6カ月間-2カ月間)までとなります。

ただし、雇用形態を正社員からパート等に変更した場合、

社員が健康保険の被保険者でなくなり、傷病手当金がもらえなくなる可能性がある

ので注意が必要です。

なお、社員の年次有給休暇(年休)が残っている場合、休職に入る前に取得してもらうことも併せて検討しましょう。一度休職に入ると、労働義務が免除された状態になり、年休が取得できなくなってしまうので注意が必要です。

2)休職期間が残っていない場合

前述した通り、雇用形態が変わると賃金は従前よりも下がるケースが多いので、社員は不安です。こうした場合の対策として、

正社員からパート等に転換した時点で退職金を支給し、当面の生活に充ててもらう

という方法があります。退職金規程などで「雇用形態が正社員からパート等に変更され、かつ社員が雇用形態の変更時に退職金を受け取ることを希望した場合、退職金を支給する」という旨の規定を設けておけば対応可能です。

ただし、その場合、

パート等に転換した社員の症状が改善し、再び正社員に戻った場合の退職金の取り扱い

に注意が必要です。退職金規程などに「社員が退職した場合、退職金を支給する」という定めがあれば、パート等が正社員再転換後に退職する際にも退職金を支給することになりますが、その場合、図表3のように「パート等への転換時に退職金をもらったか否か」によって退職金の算定方法が変わり、支給額に差が出ることがあります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:琢也 栂-Adobe Stock

時代に追いついた「商標・意匠」の法改正。ロゴやデザインを使ったマーケティングがしやすくなった!

書いてあること

  • 主な読者:商標や意匠を登録してビジネスを有利に進めたい経営者
  • 課題:商標や意匠は早い者勝ちのはず。リソース不足で先行する知財の調査などが困難
  • 解決策:現在のマーケティング手法に合わせ、商標登録や意匠登録がしやすくなった

1 登録要件が緩和された商標登録と意匠登録

2023年6月14日に、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(いわゆる「知財一括法」)が公布されました。これにより、不正競争防止法、商標法、意匠法その他の知的財産法が改正され、2024年4月1日までに順次施行されました。

知財の活用は企業規模を問わず重要ですが、今回、商標登録や意匠登録について

登録要件が緩和されたので、リソースが少ない中小企業でも対応しやすくなったこと

が特徴です。この記事では、知的財産権に詳しい弁護士が、法改正のポイントを分かりやすく解説します。

2 商標登録のポイント

1)商標は早い者勝ち?

商標とは、

企業が自社の取り扱う商品・サービスを、他社のものと区別するために使うロゴマークやネーミング、シンボルアイコン

のことで、文字や図形、記号、立体的形状などによって表されます。消費者にとってロゴなどはブランドであり、購入する商品を決める際の重要な要素となります。商標が「もの言わぬセールスマン」と言われるゆえんです。

商標を自社の権利とするには、特許庁に出願し、「商標登録」しなければなりません。商標登録をすると、自社の商標として独占的に使用でき、ブランドイメージの維持につながります。もちろん、他社の商標侵害にも対抗すること(差止請求や損害賠償請求など)ができます。改正前は、商標は早い者勝ちで、他社に先駆けて登録する必要がありました。

2)改正で併願登録が可能に!

今回の改正で、いわゆる「コンセント制度」が導入されました。コンセント制度とは、

既に登録されているロゴと似ていても、相手が同意(コンセント)すれば併存登録できる

というものです。先行する登録商標の権利者の同意があれば、類似する商標を併存して登録できるようになりました。ただし、

併存して登録ができる商標は、それぞれ商標につき出所混同の恐れがない場合に限定

されます。消費者が混同するような「パクリ商標」は、当然、認められないのです。図表1は商標登録の一般的な流れですが、関連するのは1番左の「先行商標の登録調査」とその隣の「商標登録の出願」です。

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もう1つポイントがあるので補足します。改正前は、「商標の中に他人の氏名が含まれる場合、本人の承諾がないと商標登録できない」ことになっていました。しかし、ファッション業界などのように、創業者やデザイナー等(知名度が高いとは限らない)の氏名をブランド名に用いることが多い業界は困ってしまいます。そこで、今回の改正で、

商標に含まれる「他人の氏名」に一定の知名度がなければ、誰にも承諾を得る必要はない(一定の知名度がある場合、知名度のある他人1人にだけ承諾を得ればよい)こと

になりました(ただし、出願商標に含まれる氏名と無関係の者による濫用的な出願は拒絶されます)。これにより、新興ブランドのデザイナーの氏名を含む商標が保護され、ブランド選択の幅、ひいてはビジネスチャンスを広げやすくなります。

3 意匠登録のポイント

1)意匠とは?

意匠とは、

モノや建築物、画像のデザインのこと

です。商標のロゴと同じように、消費者にとってデザインは、購入する商品を決める際の重要な要素となります。意匠を自社の権利とするには、特許庁に出願し、「意匠登録」しなければなりません。登録できた場合のメリットは、商標の場合と同じであると考えてよいです。

2)法改正で事前マーケティングが可能に!

意匠は「新規性」がなければ登録できません。ここでいう新規性とは、「デザインが新しく、まだ世に知られていない」ということです。ですから、たとえデザイナー本人でも、既に公開されているデザインについて意匠登録するには、「出願と同時に例外の適用を受ける旨の書面(例外適用書面)を提出」「出願から30日以内に自ら公開したことを証明する証明書(例外適用証明書)を、自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出」という面倒な実務が必要でした。今回の改正でこの点が見直され、出願前に似たようなデザインが複数公開された場合、

最も早く公開された意匠について「例外適用証明書」を提出すれば、それ以後の公開については証明書が不要

になりました。図表2は意匠登録の一般的な流れですが、関係するのは、左から2番目の「意匠登録の出願」です。

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現在は、

  • 色違いや細部をちょっとだけ変えた複数のデザインを創作する
  • SNSで発売前の製品デザインを断片的に公開する
  • クラウドファンディングでは、先行してデザインを公開して資金調達する

といったマーケティングが当たり前のように行われており、法令がそれに追いついた格好です。

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4 その他のポイント

商標登録・意匠登録以外のポイントとして、不正競争防止法について補足します。不正競争防止法の改正により

デジタル空間における模倣行為の差止めが認められる

ようになりました。これまでは有体物に対してパクリが禁止されていましたが、最近は「メタバース」などのデジタル空間で商品が販売されるケースもあります。こうした状況を踏まえ、デジタル空間上であっても、他人の商品形態を模倣した商品を提供する行為については、不正競争行為として差止めが認められます。

以上(2024年4月作成)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:Kaspars Grinvalds-Adobe Stock