農業法人の設立~会社法人の場合~

目次

1 個人農家が会社法人になることのメリット
2 法人形態を検討するときに考えるべきこと
3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

1 個人農家が会社法人になることのメリット

農業法人は、大別すると、会社法に基づく「会社法人」と、農業共同組合法に基づく「農業組合法人」があり、さらに細かくは次の図表のように分かれています。

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この記事では会社法人について扱います。農業経営の法人化をする上で、会社法人を選択するメリットには次のようなものがあります。

  • 1人でも設立できる
  • 農業以外の事業にも参入できる
  • 農事組合法人と比べて、迅速な意思決定ができる

以降で、設立時に検討すべきことや設立の流れについて詳しく紹介します。なお、法人化そのもののメリットや、農事組合法人のポイントについて知りたい場合、次のコンテンツをご確認ください。

2 法人形態を検討するときに考えるべきこと

会社法人は営利行為が目的であり、事業内容は農業に限りません。また、構成員1人で設立でき、雇用においても制限がありません。経営者に権限を集中させることや、他の農家あるいは農家以外から出資を受けることが可能です。

これらの条件から、会社法人は次のような場合に適しています。

  • 家族経営を法人化したい
  • 農家以外からも人材を確保したい
  • 将来、経営の多角化を考えている

会社法人には5つの区分があります。しかし、有限会社は新たに設立できないため、会社法人を設立する場合、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社から選択することになります。これら4つの法人形態は、それぞれの位置づけを図表2のように表せます。

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合名会社と合資会社は、構成員のうち1名以上もしくは全員が無限責任を負うことになります。つまり、ある農業法人が多額の負債を抱えて破産した場合、その無限責任を負う構成員は、私財を投げ売ってでも負債を弁済しなくてはなりません。

よって、農業法人を設立するときは、おおむね株式会社か合同会社から選択されます。これらの違いは、図表3の通りです。

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なお、農業法人で最も多いのは株式会社です。ただし、株式の全部において譲渡制限のある非公開会社に限られるという点に注意しなければなりません。

3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

会社法人の組織形態を取る場合、会社法の規程にのっとって設立手続きを進める必要があります。ここでは一例として、株式会社を発起により設立するときの流れについて紹介します。なお、実際に会社法人を設立するときは、弁護士や税理士、行政書士、社会保険労務士などの専門家と相談しながら手続きを進めてください。

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ただし、会社法人を設立しただけでは、農地を取得・賃借することはできず、その農地を所轄する農業委員会の許可を得るか、農地中間管理機構(農地バンク)を利用する必要があります。また、所有する場合には、一定の要件を満たした上で、農業委員会に届け出をして審査を受け、「農地所有適格法人」として認可を得なければなりません。これら農地制度や会社法人の設立手順について詳しくは、以下のウェブサイトをご確認ください。

■農林水産省「農地制度」■
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/soudan/index.html
■農林水産省「農業法人について『法人の設立手続』」■
https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/seturitu_tetuzuki.html

以上(2025年4月更新)

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個人経営はもう限界? 農業法人化で未来を切り開く!

目次

1 経営基盤を強化する農業経営の法人化
2 農業経営を法人化するメリット
3 農業経営を法人化する方法
4 農地を取得もしくは借りるときの規制

1 経営基盤を強化する農業経営の法人化

高齢化・引退などによる農業従事者の減少や担い手不足、耕作放棄地の増加……日本の農業を取り巻く環境は年々厳しくなっています。国際情勢の混迷による肥料・ガソリンなどの高騰や、気候変動による大雨・台風・日照りなどの被害を受けるリスクも高まっています。

こうした中、農林水産省は人材確保や農地集積、スマート農業推進などによる安定性・効率性・競争力の向上を図るべく、農業経営の法人化を推進しています。なぜ、個人でなく法人なのかというと、法人化することで次のようなメリットがあるからです。

  • 経営管理能力と対外信用力が向上する
  • 社会保険制度の整備で人材を確保しやすくなる
  • 経営の継承手続きが円滑になる
  • 所得が一定よりも多い場合、税負担を軽減できる
  • 充実した公的支援策を受けられる

以降で、これらのメリットを掘り下げていきます。

  • 農業経営を法人化する方法
  • 農地を取得もしくは借りるときの規制

についても紹介しますので、ポイントを押さえた上で農業経営の法人化を検討しましょう。

2 農業経営を法人化するメリット

1)経営管理能力と対外信用力が向上する

個人農家は、事業資金と生活費の区別が曖昧になっている場合が多くあります。

法人化すると、これらを明確に区別することになるため、経営状況を把握しやすくなります。また、複式簿記による記帳や財務諸表の作成などの事務負担は増えますが、コスト削減を意識するようになるなど、経営責任に対する自覚を持つ機会が得られます。

さらに、財務状況が明らかになることで、取引先や金融機関への対外信用力が向上し、新規の販路開拓や、商品開発などのパートナーの獲得、資金調達の拡大において有利になります。

2)社会保険制度の整備で人材を確保しやすくなる

個人農家の従業員は、各自で国民健康保険と国民年金に加入することになります。また、従業員数が5人未満であれば、原則として事業主が従業員を労災保険と雇用保険に加入させる義務はありません。そのため、これらの社会保険制度が未整備になっている場合が多くあります。

法人化(会社法人または確定給与支払い制の農事組合法人)すると、従業員を健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入させることになります。社会保険料の負担は増えますが、求職者に病気・けが・失業などのリスクに対して備えがあるという安心感を与え、人材を確保しやすくなるという大きなメリットが得られます。なお、従事分量配当制の農事組合法人化の場合は、組合員は事業主と同様に国民健康保険・国民年金に加入することになり雇用保険は適用されませんが、組合員以外の従業員はやはり健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入させなければなりません。

3)経営の継承手続きが円滑になる

個人農家は、取引や契約の締結を個人名義で行うため、代表者の交代時に資産や契約に関する継承手続きが煩雑になります。

法人化すると、取引や契約の締結を法人名義で行うようになるため、代表者が交代しても資産の帰属や体外的な契約関係が継続します。

また、個人農家では、後継者は親族を中心に選びがちで、場合によっては候補者がいないという状況になりかねません。法人化すると、役員や従業員から後継者を選んだり他社と合併したりと、経営継承の選択肢が広がります。

4)所得が一定よりも多い場合、税負担を軽減できる

個人農家は、所得が多いほど税率が高くなる所得税が適用されています。

法人化すると、定率課税の法人税が適用され、所得が一定よりも高い場合、個人農家に比べて所得税の税率は低くなります。ただし、利益がなくても、法人住民税(都道府県民税・市町村民税)の均等割が課税されることに注意しなければなりません。

他にも、役員報酬は一定の要件を満たすことで損金算入できるため、そのぶん税負担が軽くなることや、欠損金の9年間(2018年4月1日以降に開始される事業年度において生じる欠損金は10年間)の繰り越し控除が認められる(個人農家は3年間)などの税制上のメリットがあります。

5)充実した公的支援策を受けられる

法人化すると、次の制度資金の融資限度額が拡大されます。

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それぞれの制度融資の詳細は、以下のウェブサイトをご確認ください。

■日本政策金融公庫「スーパーL資金」■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/a_30.html
■日本政策金融公庫「経営体育成強化資金」■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/keieitaiikusei.html
■農林水産省「農業近代化資金」■
https://www.maff.go.jp/j/g_biki/yusi/06/1_0603.html

3 農業経営を法人化する方法

1)農業法人の区分

農業法人とは、稲作や畑作、施設園芸、畜産などの農業を営む法人の総称です。大別すると、会社法に基づく「会社法人」と、農業共同組合法に基づく「農事組合法人」があり、さらに細かくは次の図表2のようになります。

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農事組合法人は、農業経営を行うか否かで区分されます。

  • 1号法人:共同利用施設の設置や農作業の共同化を行う(農業経営を行わない)
  • 2号法人: 1号法人の事業に加え、農作物の生産や加工品の製造、販売なども行う(農業経営を行う)

2)農業法人の設立手続き

農業法人を株式会社や合同会社などの会社法人として設立する場合、その手続きは一般的な会社と同じです。農業組合法人の設立手続きについては、以下の記事をご確認ください。

4 農地を取得もしくは借りるときの規制

個人農家が法人化するに当たって、所有している農地の権利を農業法人に移行させたいとき、一定の要件を満たした上で許可を得る必要があります。

1)農地の取得や賃借を行うときの要件

農地の取得・賃借などを行う場合、その農地を所轄する農業委員会の許可を得るか、農地中間管理機構(農地バンク)を利用する必要があります。このとき農業法人は、次の要件を満たさなければなりません。

  • 農地のすべてを効率的に利用すること(機械や労働力などを適切に利用するための営農計画を持っているなど)
  • 周辺の農地利用に支障がないこと(水利調整に参加しない、有機農業の取り組みが行われている地域で化学肥料や農薬を使わないなど)

また、農業法人が農地を賃借する場合、次の要件も満たす必要があります。

  • 貸借契約に解除条件(農地を適切に利用しない場合に契約を解除する)が付されていること
  • 地域における適切な役割分担(地域内での話し合いへの参加、農道や水路の維持活動への参画など)のもとに農業を行うこと
  • 業務執行役員または重要な使用人が1人以上、農業(マーケティングなど経営や企画に関するものでも可)に常時従事すること

2)農業法人が農地を取得するための認可「農地所有適格法人」

農業法人が農地を取得する場合、1)の許可とは別に、農地法に定められた要件を満たした上で、その農地を所轄する農業委員会に届け出て審査を受けなければなりません。ここで認可された法人を「農地所有適格法人」といいます。なお、農林水産省によると、2023年1月1日時点の農地所有適格法人は2万1213法人、認可を受けていない一般法人(リース方式)は4121法人となっています。

農地所有適格法人の要件は次の通りです。

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3)農地所有適格法人の要件適合を確保するための規制・制度

農地所有適格法人は、農業委員会に届け出て認められた後も、その要件を満たし続けなければなりません。これを確認するために、次の措置が設けられています。

1. 毎事業年度ごとに農業委員会に報告する義務

農地所有適格法人は、毎事業年度の終了後3カ月以内に、農地所有適格法人報告書を提出し、事業の状況などを農業委員会に報告しなければなりません。報告をしない、もしくは虚偽の報告をした場合、30万円以下の過料が課せられます。なお、農地所有適格法人以外の農業法人でも、農地を借りている場合は、毎事業年度の終了後3カ月以内に農業委員会に報告することが義務付けられています。

2.農業委員会の勧告およびあっせん

農業委員会は、農地所有適格法人が要件を満たさなくなる恐れがあると認められるときは、その農業法人に対して必要な措置を取るべきことを勧告できます。このとき、農業法人から農地の所有権を譲渡したいと申し出があった場合、農業委員会はあっせんに努めます。

4)農地所有適格法人が要件を満たさなくなった場合

農地所有適格法人は、その要件を満たさなくなれば、農地所有適格法人ではなくなります。ただし、要件を満たさない状態が一時的なものであると認められた場合は、農地所有適格法人ではなくなったとは判断されません。

要件を満たすことが難しいと判断された場合、一定の猶予期間を経て、農業法人は所有している農地を譲渡し、貸し付けられている農地は所有者に返還しなければなりません。これを過ぎても所有している農地や貸し付けられている農地などは、最終的に国に買収されることになります。

以上(2025年4月更新)

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今こそ「オール徳島」で渦巻き戦略! 地域商社トップ 横石知二さんに聞いてみた【とくさくnavi単独インタビュー】

2024年11月11日、公益社団法人徳島県物産協会を発展的に改組して、「公益社団法人徳島県産業国際化支援機構」(以下「機構」)を立ち上げ、12月16日から本格稼働を始めました。機構はいわゆる「地域商社」で、会長には、葉っぱビジネスで知られる株式会社いろどりの横石知二さんが就任しています。その他のメンバーも市場の代表、県庁や金融機関からの出向者、モデルなどそうそうたる顔ぶれです。

機構は徳島県庁にオフィスを構え、「オール徳島」を旗印に、県産品を、県外はもちろん、海外にも売り出すための仕掛けづくり、場面づくりを行っています。

今回、「とくぎんサクセスクラブnavi(とくさくnavi)」では、横石さんへの単独インタビューを行い、ワクワクが止まらないこれからの徳島について、お話を伺いました。

後半には、徳島大正銀行から機構に出向している市川諭さんのインタビューも掲載しています。

お二人のインタビューの内容をまとめた動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)



―機構の概要や狙いについてお聞かせください。

これまでの組織は、縦割りになってしまいがちで、一体的・組織的に活動できていないこともありました。縦割りだと連携が難しく、徳島県内の限られた生産品を取り合ってしまうことになります。しかも、これだけ人口が減っている中、このままでは立ちいかなくなってしまいます。

ですから、県外や海外に打って出る必要があるのです。これを個人ごと、あるいは機能ごとに縦割りで進めるのは難しいですから、今回、「地域商社」という枠組みをつくり、県産品の企画やプロモーションを一体的に行うことにしました。

まさに「オール徳島」での取り組みです!

徳島県産業国際化支援機構

―「オール徳島」とはすてきなフレーズですね

全国に地域商社は多数ありますが、私たち機構の特徴は、「民間と行政が一体となったプロモーションを強力に展開する」ことです。バイヤー同士の連携も進めています。

今、北海道などの地域に対しても県産品をアピールしているのですが、そのときに、例えば青果など単品を売り込むだけでなく、鮮魚や肉、加工品なども幅広く売っていくことが必要です。ただ、これまではそうした事例はありませんでした。青果のバイヤー、鮮魚のバイヤーといったように担当が違うので、自分が取り扱っていない商品の販売には積極的ではないのです。そこを改善し、「オール徳島」として、青果、鮮魚、肉、加工品などの垣根なく、紹介し合えるようにしています。うまくいけば、【億単位の売上】も狙えるわけで、こうした動きは既に始まっています。

加えて、機構では文化や観光も巻き込んで、さらに徳島を盛り上げていくことが戦略の柱になっています。官民が一体となって取り組む、“「オール徳島」の渦巻き戦略”です。

―「今こそチャンス」とおっしゃっていますね。

最近、「徳島の県産品が欲しい」という問い合わせが増えていて、「潮目が変わってきた」と感じます。先日も東京の大手スーパーの方が徳島に来て、「徳島に、こんなに魅力的な商品がたくさんあるとは知りませんでした」と言っていました。問い合わせは日本だけではなく海外からも来ており、今、追い風が吹いています。

魅力的な徳島の県産品

徳島には個性的な人が多く、そうした人にはこだわりがあるので、他人とは違う素晴らしいものを作ってくれるのです。ただ、売ることは苦手です。「個性的でまとまりにくいが、ものはいい。だけど売るのは苦手」というのが徳島の特徴です。

このような状況を機構が取りまとめていきます。「オール徳島」として魅力的な県産品を集約、発信していくことで、大いに可能性が広がっていきます。生産の現場に、「いよいよ、あなたの出番が来ましたよ!」と巻き込んでいくことで、活気も出てきています。

ですから、まさに「今こそ、世界に打って(売って)出なければならない」ということなのです。

これまで、徳島は観光が弱く、外の目から見て商品をブラッシュアップする機会がありませんでした。そこで、文化や観光も巻き込んで徳島ブランドをブラッシュアップして、付加価値を高めていきます。これこそが売るための「舞台」になると考えています。

―「オール徳島」をまとめる人材が重要になってきますね

はい、まさに人材が大切です。かつて、いろどりの事業で知り合ったとても有名な料理人が、「商品を作ることよりも、人を磨きなさい」と教えてくれましたが、機構にも通じるところがあります。

今、いろどりでやってきたような、「気を育てる」ことも始めています。気を育てるというのは、メンバーとの間に信頼関係を築き、「やる気を育てる」ということです。相手と接し、「この人ならこういうことができる」と一緒に取り組み、それができたら「もっと、ここまでできる」と、また一緒に取り組む。こうして丁寧に経験を積み重ねながら一緒に成長していくことが、私は好きです。できることが増え、他人から認めてもらえたら誰だってうれしいことです。自分に役割があるということは幸せなのだと思います。

ただ、少し迷っています。

私のこのやり方は時間がかかります。タイミングによっては、各分野のプロフェッショナルを集め、戦略を立てて一気呵成(かせい)に取り組んだほうがスピーディーで良いこともあります。

今は、しっかりと状況を見極めながら、一つ一つ積み上げていくことと、一気に組織をつくってアクセルを踏むことのバランスを取っています。

こうして人が育ち、取り組みが大きくなって盛り上がっていく中で、若者が「面白そうだ! 自分もやってみよう!!」と、当事者になってチャレンジしてくれたらうれしいです。

―具体的な取り組みでは、「動物的なひらめき」を大切にしていると伺いました。

用意周到に段取りをしても、想定通りにはいかないことはよくあります。ですから、私の場合、どちらかというと動物的なひらめきを大切にしています。

横石知二さん

例えば、東京でマルシェに出展した後、徳島に帰る深夜バスの中でもいろいろと考えています。「どれくらいの人数が乗っているのか、どの年代の人が多いのか、そもそもなぜこのバスに乗っているのか?」といったことを考えながら、世の中の動きを捉え、ビジネスのヒントを探しています。

いろどりの始まりも、たまたま立ち寄った大阪・難波の『がんこ寿司』で、あるお客さんがつまもののモミジを大切そうに、きれいなハンカチの上に置いて眺めている姿を見た瞬間でした。「葉っぱが売れる!」とは、まさに動物的なひらめきで、そのアイデアにとても興奮しました。『がんこ寿司』には、1000万人のお客さまが来たそうですが、その中で葉っぱを売ろうと思ったのは私だけかもしれないですから、1000万分の1のひらめきだったわけです。

きちんと戦略を立て、しかも動物的なひらめきは逃さずに、県産品を販売する舞台を整えていきます。

―他の組織と連携する計画はありますか?

そうですね。それぞれの組織には良さがあって、その良さがどのように相乗効果を発揮するかということでしょうね。成功する連携というのは、それぞれの組織が「成長していくぞ!」と上を向いていないとダメで、一方が上を目指して成長していても、もう一方がそれについてこなかったり、マイナスだったりすると、いい連携にはなりません。

どのような組織と連携するかはこれからの課題の1つですが、成長を目指していく中で、お互いにとって良い連携先と巡り合えたらよいと思います。

―機構の目指す姿についてお聞かせください

まず売上をしっかり伸ばすことです。数字が全く上がらないのは問題ですから。

同時に「人」です。想いのある人をどれだけ集められるかということですが、そのためには、機構に関わる仕事を楽しいな、面白いなと思ってもらえるようにしなければなりません。「良かった、楽しかった、面白かった、うれしかった」。こんな言葉が次々と生まれてくるようにしたいですね。

いわゆる大手商社と違って、私たちは地域商社ですから、売上はもちろんですが、やはり徳島県の皆さまや、そこに関わってくださる方の幸せや喜びを追求していく存在でなければならないと思っています。

その結果、売上が5億円、10億円、20億円、100億円となっていけたらよいです。今は、それが実現可能なタイミングだと思います!

——–

横石さん、単独インタビューにご対応いただき、誠にありがとうございました。機構を中心に動き出す徳島の未来がとても楽しみになりました。

さて、このような横石さんを支える、頼れる機構のメンバーの1人が、徳島大正銀行から出向してきた市川さんです。機構の現状について、メンバーの立場からお話をお伺いしました。ここからは、市川さんへのインタビューをご紹介します。

―日々、どのような活動をされているのですか?

機構は2024年12月16日から本格稼働したばかりですが、改組前の徳島県物産協会から引き継いだ案件をこなしつつ、どのように“「オール徳島」の渦巻き戦略”として展開していくかを試行錯誤しています。

市川諭さん

打ち出しやすいのは、ストーリー性がある商品です。例えば、「農薬を使っていない」などのこだわりのある商品は打ち出しやすいです。海外視察で発見した魅力的な商品が、徳島県にあるかを探すというアプローチもします。とにかく、「これは売れるかもしれない」という商品を、日々探しています。

―新しい発見はありましたか?

頻繁に現場を訪れて生産者の話を聞いたり、各市町村の役場に行ったりして情報収集をしていますが、「徳島に住んでいるからこそ気付かないことがある」と感じます。

例えば、「藍(あい)」です。徳島の人から見ると「藍」は身近な工芸品なのですが、移住してきた方は、私たちが気付かない付加価値を付けてくれていて、美術品っぽくしたり、企業ロゴを藍染めで作ったりしています。

この他にも、阿南の竹など可能性のある商材を発見しています。阿南の竹は、住民の高齢化で竹が放置されている状況なので、何とか商品化できないかアイデアを検討しています。

―今後の意気込みをお聞かせください

いわゆる地域商社には、「企画、生産、流通、販売」などの機能がありますが、機構ではこれらを一貫してサポートしていきたいと考えています。そのために、他の機関との連携もしていく必要があると思います。

横石会長はものすごい行動力のある人で、様々な情報が集まってきます。その背中を見て刺激を受け、自分の背中を押してもらいつつ活動しています。

これまでの銀行員として養ってきたノウハウも活かしつつ、「オール徳島」で徳島の魅力を広く伝えていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

横石知二さん・市川諭さん

(聞き手 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)

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【朝礼】腹が立つときこそ気付け。必ず理由(わけ)がある

【ポイント】

  • 仕事は自分の思い通りに進まないのが普通。自分以外の人が関わってくるとなおさら
  • 相手に腹が立つときこそ、こちらにも何かしら反省すべきことがあるはずと考える
  • ビジネスパーソンとしての成長は、謙虚になれるかどうかにかかっている

皆さんは日々仕事をしていて、「何だかうまくいかないなぁ」と思うことはありませんか。ビジネスとは思い通りにはいかないもの、自分以外の色々な人が関わって仕事が進んでいくのですから、それが普通です。ただ、重要なのは、そこで「相手が悪い。自分はちゃんとやっているのに」と文句を言って終わるのか、それとも「どうすれば一緒に、円滑に仕事を進められるか」を考えて行動に移せるのか、です。私自身の経験を1つお話ししましょう。

以前、ある取引先から大きな仕事を頼まれたことがありました。当社にとっては少しハードルの高い仕事でしたが、お得意様ということもあり、相手の要望を上回る内容とスケジュールで仕上げました。ですが、ここで問題が発生します。相手側の都合で、その仕事が一からやり直しになってしまったのです。しかも、相手はこちらに対して悪びれる様子を見せません。「無理をして相手の要望を上回る仕事をしたのに、お詫びの言葉ひとつないのか……」と、正直、最初は腹が立ちました。

しかし、そこで私はハッとしました。「これが、相手の当社に対する正直な評価だ」と気付いたのです。こちらは大切なお客さまだと思っているけれど、相手にとって当社は、残念ながら「いつも頑張ってくれているのに、やり直しになって申し訳ない」と心から思えるような会社ではなかったのです。おそらく「それまでの良くない積み重ね」があり、当社に対する評価が低くなっていたのでしょう。この出来事はむしろ、相手の当社への気持ちを如実に表しているアラートであり、もっと相手に寄り添った対応をしていかなければならないという、重要かつ危険な局面だったのです。

皆さんは今の話をどのように受け止めますか。なぜか相手と歩調が合わない、反応や考えが全く違うというようなときは、きっと理由(わけ)があります。「相手が悪い」と腹が立つこともあるでしょうが、大概こちら側にも何かしら反省すべきことがあるものなのです。

「何だかうまくいかないなぁ」と思うシーンでこそ、皆さんの力量が問われます。そんなときこそ、「なぜうまくいかないのか」「どうすれば一緒に、円滑に仕事を進められるか」を考える癖をつけてください。ビジネスパーソンとしての成長は、仕事がうまくいかないとき、皆さんが謙虚になれるかどうかにかかっています。

以上(2025年4月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【健康経営】会社に義務付けられている社員の健康管理の全て

1 安全配慮義務を果たすことが健康管理の基本

働き方改革やSDGsの観点から、社員の「健康」維持が大きく注目されています。会社には、

安全配慮義務:事業に用いる物的施設・設備、人的組織の管理を十分に行う義務

が課せられていています。また、労働基準法や労働安全衛生法では、会社に対して、社員の健康管理に関する義務を課しております。主に次の4つの取り組みが挙げられますが、これらは法令で定められた健康管理の基本ですので、しっかり押さえていきましょう。

  1. 安全衛生管理体制の構築
  2. 健康診断やストレスチェック制度の実施
  3. 長時間労働の抑制
  4. 社員が病気・けがをした場合の対応

2 安全衛生管理体制の構築

安全衛生管理体制とは、

労働安全衛生法に基づいて会社が整備する、社員の安全と衛生を守るための体制

です。具体的な内容を紹介します。

1)総括安全衛生管理者などの選任

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の担当者を選任する義務があります。「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、厳密には安全衛生管理体制に含まれませんが、他の担当者などと連携して安全衛生管理の職務に当たるので、押さえておきましょう。なお、表内の

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」が義務付けられている危険・有害物質のこと

です。

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2)安全委員会などの設置

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の委員会を設置する義務があります。安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、まとめて「安全衛生委員会」とすることもできます。

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なお、自社が選任すべき担当者や設置すべき委員会、具体的な職務内容などを知りたい場合、次のURLにジャンプし、特定のキーワード(担当者や委員会)をクリックすると便利です。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(「安全衛生キーワード」全用語一覧)■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index04.html

3 健康診断やストレスチェック制度の実施

1)健康診断の実施

会社には、法令で定められた健康診断(法定の健康診断)を実施する義務があります。法定の健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断等」があります。

  • 一般健康診断:定期的な健康診断(5種類)
  • 特殊健康診断等:特定の有害な業務に常時従事する社員または従事したことのある社員に行う健康診断(3種類)

それぞれの内容は次の通りです。

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この他、図表3に含まれない(一般健康診断でも特殊健康診断等でもない)健康診断として、

  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断
  • 濃度基準値設定物質(ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされているリスクアセスメント対象物)に関する健康診断

があります。前者はリスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、関係社員の意見を聴いた上で必要があると認められるときに実施が義務付けられ、後者は社員が濃度基準値を超えて濃度基準値設定物質にばく露した恐れがある場合に実施が義務付けられます。

2)ストレスチェック制度の実施

ストレスチェック制度とは、

  • ストレスチェック:社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握するもので、医師、保健師、必要な研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師が実施する
  • 医師による面接指導:高ストレス者から申し出があった場合に医師が実施する

などの一連の施策です。社員数が常時50人以上の会社は、年1回以上、ストレスチェック制度を実施する義務があります。

社員数が常時50人未満の会社は現状、努力義務ですが、近年のメンタルヘルス不調の増加などを考慮し、これらの会社も義務化の対象に加えることが検討されていますので、今後の動向に注意が必要です。

4 長時間労働の抑制

1)適切な労働時間管理

会社には、次のいずれかの方法で、全社員(管理監督者を含む)の労働時間を把握し、労働時間の記録に関する書類を5年間(当面の間は3年間)保存する義務があります。

  • タイムカードの記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録など客観的な記録を基礎として確認する方法
  • 使用者が自ら現認して確認する方法
  • 自己申告により確認する方法(社員への周知、労働実態の調査などが必要)

労働時間は原則として、

法定労働時間(原則、休憩時間を除き1日8時間、1週40時間)の範囲内

に収まるようにしなければなりません。通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、

時間外労働(法定労働時間を超える労働、いわゆる残業)、休日労働

を社員に命じられますが、労働基準法では、会社は図表4の「時間外労働の上限規制」を遵守しなければならないとされています。なお、2024年4月1日からは、それまで適用が猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも、上限規制が全面適用されています(いわゆる「2024年問題」)。

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2)労働時間などに応じた医師による面接指導の実施

会社は、次の場合には、該当する社員に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。

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5 社員が病気・けがをした場合の対応

1)保険給付を申請するための事業主の証明

ここまで紹介した措置を講じていても、社員が病気・けがをすることはあります。その場合は早急に治療を受けさせ、必要に応じて休業・休業などの措置を取りましょう。その際、社員が一定の要件を満たしていれば、社員は、

  • 労働災害(業務災害または通勤災害)の場合、労災保険の給付
  • 私傷病の場合、健康保険の給付

を請求できます。

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労災保険の給付を請求する場合、社員は所定の請求書に必要事項を記入して、所轄労働基準監督署(直接または医療機関経由)に提出します(傷病(補償)年金については不要)。その際、

会社も社員が申告した労働災害の発生日時や発生状況について間違いがない旨を請求書に記入する必要があります。これを「事業主の証明」

といいます。

一方、健康保険の給付を請求する場合、基本的に会社は手続きに関与しませんが、

傷病手当金を請求する場合には、勤務状況や賃金の支払い状況などについて、事業主の証明が必要

になります。

2)復職の可否の判断

社員が病気・けがのために長期間働けない場合、社員を一定期間休業させ、回復を待つことになります。休業期間は、

  • 私傷病と通勤災害の場合、一般的に就業規則等で定める期間
  • 業務災害の場合、原則として休業が必要なくなるまでの期間

です。

私傷病と通勤災害の場合、就業規則等で定める期間を経過しても復職できないときは、就業規則の定めに従って、社員を解雇や退職扱いとします。ただし、

就業規則等の規定だけを理由に社員を解雇等すると、不当解雇と判断される恐れ

があります。そのため、休業期間中から社員、主治医と連絡を取り合い、復職の可能性等を慎重かつ十分に検討することが大切です。

また、業務災害の場合、原則として社員が休業する期間とその後30日間は解雇ができません。これを「解雇制限」といいます。ただし、療養開始から3年が経過し、次のいずれかに該当すると解雇制限が解除されます。もっとも、解雇制限が解除されても解雇が有効と認められるかは別問題であるため、注意が必要です。

  • 社員の負傷または疾病などが治癒しておらず、会社が平均賃金1200日分の打切補償を行った場合
  • 社員が労災保険の傷病補償年金を受けている(または受けることになった)場合

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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春の全国交通安全運動(2025/4号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

春の全国交通安全運動の季節がやってきました。
春になって気候が良くなり、お花見やハイキングなど屋外での活動の機会も増えます。また、4月は年度初めで、新たな環境で生活を始める人も多くなります。
車を運転する際には、より一層の注意が必要です。こどもを始めとする歩行者が安全に通行できるよう、慎重な運転を心がけましょう。

春の全国交通安全運動

1 春の全国交通安全運動の重点テーマ

今年の推進要綱は以下の通りです。

  • ◆運動期間:令和7年4月6日(日)から15日(火)まで
  • ◆交通事故死ゼロを目指す日:令和7年4月10日(木)
  • ◆重点テーマ(運動重点)

<全国重点>

  • ①こどもを始めとする歩行者が安全に通行できる道路交通環境の確保と正しい横断方法の実践
  • ②歩行者優先意識の徹底とながら運転等の根絶やシートベルト・チャイルドシートの適切な使用の促進
  • ③自転車・特定小型原動機付自転車利用時のヘルメット着用と交通ルールの遵守の徹底

春の全国交通安全運動ポスター

今月号では、<全国重点>①「こどもを始めとする歩行者が安全に通行できる道路交通環境の確保」を中心に、運転者の皆さまに注意していただきたい内容をお伝えします。

今回の運動の詳細は、内閣府「令和7年春の全国交通安全運動推進要綱」をご参照ください。
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r07_haru/youkou.html

2 歩行者が安全に通行できる環境づくり

歩行者が安全に通行できる環境づくりの例として、以下のような道路インフラの整備がなされています。

●歩車分離式信号の積極導入

2025年の1月に警察庁より歩車分離式信号の導入検討条件を緩和するとの通達がなされました。こどもをはじめとする歩行者の巻込み事故の防止に効果があるとされ、通学路付近の交差点等への整備、導入が見込まれます。各都道府県警察の主導で導入の効果や影響を調査・説明の上、地域住民等からの理解も得て導入が進められます。

歩車分離式信号

●ハンプ(凸部)の設置

ハンプは、車の速度を落とすことを目的に、生活道路等に設置されています。路面がなめらかに盛り上がり、 30km/h以上の速度で走る車の運転者に不快感を与える構造になっています。

ハンプ

●ゾーン30プラスの整備

ゾーン30プラスは、車の最高速度を30km/hに規制するゾーン30に、物理的デバイス(狭さく、クランク等)を組み合わせたもので、歩行者優先の安心・安全な空間を作り出しています。

ゾーン30プラス

3 道路利用者が交通環境を安全に保つために

身近なところから法令遵守(コンプライアンス)の意識を高める意味でも、車の運転者等の道路利用者が交通環境を安全に保つため、

  • ①死角を作るような路上駐車(駐車違反)はしない、②通行の妨げとなる不法占有物は置かない

など歩行者を発見しやすくする環境作りに協力・貢献しましょう。

また、歩車分離式信号やハンプ、ゾーン30プラスといった道路インフラが整備されている場所について特に気を付けるだけでなく、

  • ①歩行者優先意識の徹底、②交通ルールの遵守、③相手への思いやり・ゆずり合いの気持ちを持つ

などの点を意識した安全運転を心がけましょう。

以上(2025年4月)

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令和7年度の入行式が開催されました!

令和7年4月1日(火)徳島大正銀行本店にて入行式が行われ、今年度は、59名の新入行員が出席しました。

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【板東頭取による辞令交付と訓示】

板東頭取が辞令を手渡し、「当行は、出る杭は伸ばす人事制度。みなさんの若く豊かな感性を如何なく発揮し、活躍することを心から期待している」と訓示をしました。

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【新入社員のご家族の方々を招待しました】

この取組は、新入行員のご家族の方々に少しでも徳島大正銀行の行風や雰囲気等を感じていただき、身近に思っていただくことを目的として令和6年にスタートしました。

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入行式を終えた新入行員は、3週間から1か月の研修を経て、営業店や本部等に仮配属されます。

今後、新入行員がとくぎんサクセスクラブ会員の皆さまとお会いする機会もあると思います。

会員の皆さまのお役に立てる職員になれるよう、日々邁進してまいります。ぜひ、温かい目で彼らの成長を見守ってくださいますと幸いです。

以上(2025年4月作成)

イベントレポート 「まだ大丈夫」はもう遅い!? 経営支援の最前線in東京 2025/3/10開催

2025年3月10日月曜日。東京都中央区にて、中小企業庁主催のイベント、

「まだ大丈夫」はもう遅い!? 経営支援の最前線 in 東京

が開催されました。このイベントは、自社の事業に不安がある経営者や、将来の事業承継候補として経営を担えるかどうか不安な方を対象に、経営で困ったときの相談先や経営改善・企業成長のヒントをプロから学ぶことができるというものです。

東京会場では現地参加とオンラインでの参加を合わせて150人以上が参加! 借入金や資金繰りなど、

中小企業の様々な悩み解決をサポートする「中小企業活性化協議会」の取り組み

を主軸に、イベントが実施されました。

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開催に先立って、登壇者である神戸大学経済経営研究所・教授の家森信善氏と、東京都中小企業活性化協議会・統括責任者の相澤啓太氏にインタビューを実施し、このイベントで特に伝えたいことを聞きました。

家森教授が特に伝えたいこと


相澤統括が特に伝えたいこと


イベントは次の3部構成で行われました。

第1部:基調講演「中小企業を取り巻く現状と経営者の自己認識」

第2部:パネルディスカッション「中小企業の事業再生に関する誤解と実態」

第3部:具体的支援策の紹介「東京都の現状と協議会による支援策の紹介」

第1部では、家森教授が登壇。「中小企業を取り巻く現状と経営者の自己認識」と題して、基調講演を行いました。家森教授のお話から分かってきたのは、

借入金や資金繰りなど、経営上の悩みを他人に打ち明けられない経営者が意外と多い

ということ。「周囲に迷惑をかけられない……」と独りで悩みを抱え込んだり、「そのうち何とかなるだろう」と状況を楽観視したりしているうちに、経営が悪化してしまうケースが少なくないそうです。

もちろん、会社のことを最もよく分かっているのは経営者ですが、当事者であるがゆえに視野が狭くなりがちなのも事実。家森教授は、

人間の病気も、早めに医者に診てもらえば症状が軽いうちに対処できる。これと同じで、経営上の悩みも「とにかく早めに専門家に相談すること」が肝心

と強調しました。中小企業活性化協議会への相談は無料で、しかも弁護士・公認会計士・税理士などの専門家のアドバイスが受けられるので「とにかく早め、早めの相談を!」とのことでした。

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第2部では、中小企業基盤整備機構中小企業活性化全国本部・統括事業再生プロジェクトマネージャーの松田正義氏、相澤統括、ときわ法律事務所・弁護士の浅沼雅人氏が登壇。家森教授がモデレーターを務め、「中小企業の事業再生に関する誤解と実態」というテーマでパネルディスカッションを行いました。

まずは松田統括から、中小企業にありがちな誤解ということで、

事業再生は「後ろ向き」な取り組みではなく、「前向き」な取り組みである

というお話がありました。事業再生というと、「借入金や資金繰りをどうするか」という財務的な問題にばかり目が行きがちですが、実際は「事業をどう立て直せば、会社が蘇るか」にも焦点を充てていて、“事業と財務の両輪”の取り組みになっているそうです。

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続いて相澤統括からは、事業再生の支援策についてのお話が。中小企業活性化協議会では、「プレ再生支援・再生支援」という、事業再生のための計画を経営者と一緒に策定する取り組みを実施していて、

中小企業活性化協議会がアドバイザーに就くということで、借入先の金融機関も経営改善が見込めるまでの間、リスケ(借入金の返済期限の延長)に応じやすくなる

そうです。

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浅沼弁護士は、「金融機関への返済を止めても、資金繰りがうまくいかないところが多い」という中小企業のリアルを話してくれました。こうしたケースで弁護士に相談があった場合は、

「売却できる資産がないか」「ノンバンクからの借り入れができないか」など、資金繰りの方法を経営者と一緒に模索していく

そうです。ただ、やはり大切なのは「早めの相談」で、金融機関が新規融資や折り返し融資に応じてくれなくなった時点で、すぐに専門家に相談に行くのが理想とのことでした。

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第3部では、引き続き相澤統括が登壇。「東京都の現状と協議会による支援策の紹介」ということで、収益力低下、借入増加のおそれのある段階で利用する「収益力改善支援」、収益力改善支援で対応しきれず、財務内容や資金繰りの悪化等が生じた場合に利用する「プレ再生支援・再生支援」について説明してくれました。

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(出所:中小企業庁「収益力改善支援」「プレ再生支援・再生支援」)

また、実際に支援策を利用して事業を立て直した中小企業の事例として、

  • 「収益力改善支援」を利用し、収益改善計画を立てて過剰債務を脱却した化粧品会社
  • 「プレ再生・再生支援」を利用し、協議会から注力すべき事業・撤退すべき事業についてのアドバイスをもらって、資金繰りの安定化に成功した小売会社

の話などもしてくれました。

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3時間に及んだイベントでしたが、その分、参加者にとっても得るものは大きかったようです。現地でイベントに参加した経営者の方々から、次のようなコメントをいただきました。

  • 中小企業活性化協議会が何をしている組織なのか知らなかったので、勉強になりました。支援策の内容を、自分でも調べてみたいと思います。
  • 「早めの相談」は自社でもできていないので、今後は一人で悩まずに、困ったら相談をしていきたいと思います。
  • 専門家の方から、中小企業の現状や事業再生についてリアルな情報が聞けたので、参加してよかったと思っています。業種ごとの成功事例なども、もっと知りたいです。

最後に、家森教授と相澤統括から、中小企業経営者の皆さまへのメッセージをお届けします。

家森教授から中小企業経営者の皆さまへ


相澤統括から中小企業経営者の皆さまへ


以上(2025年4月4日)

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【かんたん法人税(2)】棚卸資産に係る税務

1 棚卸資産に係る税務上の重要ポイント

シリーズ第2回では、棚卸資産を取り上げます。棚卸資産とは、

商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの資産(不動産会社が販売目的で所有する不動産を含む)

をいいます。一般的に棚卸資産は次の流れで取引されます。

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棚卸資産に係る税務上の取り扱いは、取引の流れの中で「いつ」「いくら」で仕入・売上・売上原価を計上するかなどが明確に決められています。棚卸資産に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

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仕入・売上原価・評価損など損金の過大計上や、売上(益金)の過少計上は、所得を少なくする(=納税額が少なくなる)ことに直接影響するため、税務調査でも詳細にチェックされます。

2 取得価額の計算

購入した棚卸資産の取得価額は、原則として購入代金だけではなく、棚卸資産を購入・販売するために支払った費用(付随費用)も加えるので注意しましょう。

ただし、次の付随費用は、合計額が少額(商品そのものの購入代金のおおむね3%以内の金額)であれば、取得価額に算入せず(棚卸資産に計上せず)、支払手数料などの費用として計上できます。

  • 買入事務、検収、整理、選別、手入れなどに要した費用
  • 販売所から販売所へ棚卸資産を移動させるために要した運賃などの費用
  • 特別な時期に販売するなどの理由から、長期にわたって保管するために要した費用

なお、次に掲げるような費用は棚卸資産を取得するための費用であっても、取得価額に算入しないことができます。

  • 不動産取得税
  • 固定資産税、都市計画税
  • 登録免許税その他の登記・登録費用
  • 借入金の利子

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3 仕入の計上時期

一般的に仕入の計上時期は、

  • 入荷基準:棚卸資産が入荷したときに仕入を計上する基準
  • 検収基準:入荷した棚卸資産を検収したときに仕入を計上する基準

のいずれかが採用されます。注意点は、

  • 仕入の計上時期は仕入代金を仕入先に支払ったときではない
  • 計上基準は、一度選択したら継続して適用しなければならない

ことです。

4 売上の計上時期

売上の計上時期は、

  • 引渡基準:棚卸資産を引渡したときに売上を計上する基準
  • 検収基準:引渡した棚卸資産を相手が検収したときに売上を計上する基準

のいずれかが採用されます。注意点は、

  • 売上の計上時期は売上代金が入金されたときではない
  • 計上基準は、一度選択したら継続して適用しなければならない

ことです。

5 締め後売上の計上

締め後売上とは、

決算月において請求書の発行締め日から決算日までの間に引渡し、または相手が検収(以下「引渡し等」)した場合の売上

をいいます。

前述の通り、売上は棚卸資産の引渡し等をしたときに計上する必要があります。つまり、決算日までに相手先に棚卸資産の引渡し等をしていれば、その引渡し等をした棚卸資産について相手先に請求書を発行していなくても、この売上を決算に含めなければなりません。

例えば、請求書の発行締め日が毎月20日である法人は、決算月の21日から決算月末までに引渡し等をした棚卸資産の売上を集計し、これを売上に計上して決算を行わなければなりません。決算のときに、この締め後売上の計上が漏れやすいため注意が必要です。

6 在庫の計上金額が適正か

1)基本的な考え方

決算を行うために、今期の売上に対応する売上原価を計算しなければなりません。売上原価は次の計算式により計算されます。

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期首在庫の金額は前期の決算で確定しているため、今期中に行った商品の仕入金額と、期末棚卸により把握した期末在庫の金額を上記計算式に当てはめて、売上原価が確定します。

期末在庫の金額が大きくなれば、売上原価(損金)は小さくなり、法人の利益は大きくなります。反対に期末在庫の金額が小さくなれば、売上原価は大きくなり、法人の利益は小さくなります。次の例1と例2で確認してみましょう。

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ミスが起こりやすいのが期末在庫の集計です。適正な在庫金額を計上するためには、次の点に注意する必要があります。

2)除外している棚卸資産はないか

期末在庫は漏れなく集計します。法人税を少なくするために、意図的に期末在庫の金額を小さくすることは不正です。経営者に悪気がなくても、現場担当者が記録不備などの発覚を恐れ、意図的に期末在庫から除外してしまうことも考えられます。経営者自身の意識はもちろん、現場担当者の教育も大切です。

3)棚卸資産の金額が過小ではないか

意図的に期末在庫の金額を小さくするつもりがなくても、期末在庫の金額を過小に計算してしまうケースがあります。例えば、以下のようなケースです。

1.単価を正しく評価できていないケース

棚卸資産の評価方法は原価法と低価法に分けられます。原価法はさらに6つの評価方法(最終仕入原価法、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法)に区分されます。

棚卸資産の評価方法については、税務署に自社が選択した評価方法を記載した届出書を提出します(変更する際には変更届の提出が必要)。ただし、その届出書を提出しなかった場合は、「最終仕入原価法」を採用したと見なされます。このように、

税務署への届出書の提出を必要としない点や、計算が簡便である点から、多くの中小企業が「最終仕入原価法」を採用

しています。ここでは、最終仕入原価法について紹介します。

最終仕入原価法では、期末に最も近い時点で取得したものの単価を1単位当たりの取得価額とする方法で、次のように期末在庫を評価します。

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最終仕入原価法を採用する場合には、図表6でいうところの110円や140円の金額を単価として選ぶなど、初歩的なミスが生じることがあります。チェック体制を整えたり、マニュアル化を徹底したりすることが大切です。

2.期末在庫の金額を算出した表計算ソフトの入力内容に誤りがあるケース

これは初歩的なミスであるものの、在庫を数える人、在庫表を作成する人、期末在庫の金額を会計処理する人がそれぞれ別の担当者であることも多いため、比較的頻発するミスです。期末在庫の合計額が正しく計算されているかをチェックするために、過去のミス事例を担当者に周知するなどの対策を取るようにしましょう。

3.普段使用していない倉庫の保管在庫を加え忘れるケース

保管倉庫を複数使用している会社においては、普段使用していない倉庫の保管在庫を計上し忘れるというケースがあります。税務調査では、所有・賃借している倉庫のそれぞれの使途を確認されることがあります。税務調査時に計上のし忘れがあったと気付くことがないよう、棚卸チェックシートなどは定期的に更新するなど注意が必要です。

4.預け在庫の金額を加え忘れるケース

会社の中には、商品が会社を経由せず、仕入先から直接得意先に納品されるような取引をしていることもあります。その場合、仕入先の倉庫に預けている販売前の商品(預け在庫)の計上漏れがないように注意が必要です。

商品管理の担当者と経理担当者間の意思疎通や、チェック環境を整備するなどの対策を取るようにしましょう。

7 評価損の計上は適正か

棚卸資産について、会計上は評価損を計上することがあります。しかし、税務上、原則として評価損は損金に算入できません。

ただし、次に該当するような事実が生じたことにより、棚卸資産の時価が帳簿価額を下回ることとなった場合に限り、帳簿価額と時価との差額を限度として評価損の損金算入が認められます。

  • 棚卸資産が災害により著しく損傷した場合
  • 棚卸資産が著しく陳腐化した場合

陳腐化とは、棚卸資産そのものに欠陥が生じたわけではないものの、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。具体的には、商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当します。

  • 季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが、これまでの実績から明らかであること
  • その商品と用途の面でおおむね同様のものであるが、形式、性能、品質等が著しく異なる新商品が発表されたことにより、その商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと

このように税務上、評価損に関する取り扱いは詳細に決められています。棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更などの事情によって低下しただけでは、税務上は評価損の損金算入は認められないため注意が必要です。

8 廃棄損の計上は適正か

商品を廃棄した場合、会計上「商品廃棄損」を計上することになりますが、税務調査においては、実際に期末までに商品を廃棄したかどうか確認されることになります。廃棄業者から受領した廃棄完了報告書などから、計上の妥当性を確認されることになります。廃棄完了報告書の発行が受けられない場合などには、廃棄した商品の状態や廃棄したときの写真(日付あり)など、客観的に説明できる資料を残しておきましょう。

以上(2025年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

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「ディベート研修」で論理的に考え、しっかり主張できる社員を育てる

1 「ディベート」を取り入れて人を動かす力を身に付ける

皆さんは本格的なディベートをしたことがありますか?

ディベートで社員の議論・討論技術、論理的思考力などを鍛えることができるので、これを社員教育に取り入れる企業があります。ビジネスでは自身の意見を主張し、「意見を戦わせる」ことも必要ですから、それができる社員を育てましょう!

この記事では、ディベートの進め方や留意点を解説します。ディベートを繰り返すことで得られる論理的思考力や、物事を客観的に把握する能力は、社内外での打ち合わせや商談などでも、良い結果をもたらしてくれるはずです。

2 ディベートの進め方

ディベート活動の普及・促進を目的に活動している日本ディベート協会では、

1つの論題について肯定側・否定側に分かれた上で、第三者であるジャッジに理解してもらえるよう、論理的な議論をすることを「教育ディベート(アカデミックディベート)」

と呼んでいます。そして、この教育ディベートは、大きく2つの形式に分けられます。

  • 論証重視型ディベート(ポリシーディベート):論題が数週間から数カ月など、時間的な余裕を持って与えられ、入念に準備する期間がある
  • 即興性重視型ディベート(パーラメンタリーディベート):論題が数十分前に与えられ、事前に準備する期間があまりない。即興性を重視したディベート

それぞれについて、一般的な進め方は次の通りです。

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ディベートの構成員は、討論者(以下「ディベーター」)・司会・タイムキーパー・点数集計係・ジャッジです。一般的には次の人数構成で行われます。

  • ディベーター(肯定側グループ):2~5人程度
  • ディベーター(否定側グループ):2~5人程度
  • 司会:1人
  • タイムキーパー:1人
  • 点数集計係:1~2人
  • ジャッジ:奇数人数もしくは会場にいる残り全員

3 進行上の留意点

1)論題のタイプ

論題を設定します。ディベートにおける論題には次のようなものがあります。

  • 政策論題:国会で行われているような政策に関する論題。「国防費をGDP比でもっと高めるべき」など。ビジネスでは「わが社は朝礼を導入すべき」など
  • 推定論題:是非や真偽を問う議論。「子どもにスマートフォンは必要か」など。ビジネスでは「わが社は、中途採用よりも新卒採用に注力すべきか」など
  • 価値論題:価値観に関する論題。「地方暮らしのほうが都会暮らしよりも良い」など。ビジネスでは「テレワークと出社、どちらが良いか」など

論証重視型ディベートは、参加者が事前に資料の収集・分析を行う時間があるため、政策論題や推定論題に向いています。一方、即興性重視型ディベートは即興性が求められるため、個人的な価値観を議論する価値論題が取り上げられる傾向にあります。

2)論題の要件

論題は、肯定側と否定側に議論が分かれるテーマでなければなりません。また、既に決まっていることや、自明のことはテーマとして不適切です。

3)資料の収集・分析

ディベートでは肯定側・否定側がランダムに決められるため、論題の内容などを理解した上で、肯定側・否定側、双方の視点から議論を構築できるよう資料の収集・分析をします。

また、論証重視型ディベートと即興性重視型ディベートでは、資料の収集・分析に必要なアプローチが異なります。論証重視型ディベートでは事前に論題が発表されるため、資料の収集・分析の対象を絞ることができます。一方で、即興性重視型ディベートでは論題が直前に発表されるため、さまざまな論題に対応できるように、幅広い分野での資料の収集・分析が必要です。

4)議論の構築

議論の構築の方向性は、政策論題と推定論題、価値論題で異なります。政策論題では「その政策を導入すべきか」という観点であるのに対し、推定論題は「その考えが妥当であるか」という是非や真偽、価値論題では、それぞれの異なる観点から、ジャッジを説得しなければなりません。よって、推定論題、価値論題のほうが、政策論題よりも難易度が高くなります。

1.政策論題における議論の構築方法

政策論題における肯定側・否定側の議論の構築方法は次の通りです。

  • 肯定側:問題を明確にし、論題の政策を採択することで解決されることを立証
  • 否定側:論題の政策を採択しても問題は解決されず、むしろ新たな問題が発生することを立証

2.推定論題における議論の構築方法

「これが正解である」という論拠を示すのが難しいものの、論理的に考えてあり得るのではないか、あり得ないのではないかという仮説を立てて、それを裏付けるものを立証します。

3.価値論題における議論の構築方法

価値論題では、肯定側と否定側の立場を比較しながら、それぞれ自分の立場から見たメリットを示すことが重要です。

5)ディベーターの肯定側・否定側の振り分け

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けは、ディベート直前にじゃんけんやくじ引きなどでランダムに決めます。そのため、ディベーターは資料の収集・分析など準備の段階から、肯定側・否定側双方の立場で考えなければなりません。

6)ディベートの進行ルール

ディベートには、発言時間・順序などのルールがあります。一般的には「立論」や「反論」などのステージがあり、それぞれ順序や時間が定められています。発言時間は任意に決定できますが、

  • 「立論」や「反論」の時間は3~6分程度
  • 「質疑」は2~3分程度
  • それぞれの発言の前に設けられる「準備時間」は1~2分程度

というケースが多いようです。

最後にジャッジが、より説得力のある議論を展開した側に「勝利」の判定の投票をします。ジャッジは、それぞれの側の時間配分・チームワーク・発表態度・議論内容の水準などを採点基準にして勝敗を判断します。ジャッジからその判定をするに至った理由や建設的なアドバイスなどを受けることにより、ディベート能力の向上を図ることができます。

参考として、発言順序の一例を紹介します。ただし、即興性重視型ディベートの場合、立論・質疑・反論が1つのスピーチ内で、各ディベーターによって行われるのが一般的です。なお、図表にある「立論」「反論」の意味は次の通りです。

  • 立論:論点となる議論を新たに示すこと
  • 反論:相手の立論に反論することで、この段階で新たな立論はできない

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4 ディベートで鍛えられる能力

1)論理的思考力

ディベートの目的は、自らの主張をジャッジに納得してもらうことです。そのためには、論理的に主張する必要があるので、自分の意見が成立する理由を論拠や事実に基づいて立証する訓練の中で、論理的思考力が養われます。

また、ディベートでは相手の議論や質疑に対して、限られた時間の中で考えて対応するため、矛盾を見つける力や、素早く考える力も鍛えられます。

2)多角的・客観的視点

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けはランダムに決定されるため、肯定側・否定側双方の立場から考える訓練になります。これにより物事を固定観念や個人的な感情に流されずに、多角的・客観的な視点から見ることができるようになります。ビジネスシーンでの意思決定においても、メリット・デメリットの両面を考える習慣を身に付けることができます。

3)コミュニケーション能力

自らの主張をジャッジに理解してもらい、納得させるには、アイコンタクトやジェスチャー、声のトーンなども重要です。また、ディベートでは質疑や反論を効果的に行うために、相手側の主張を真剣に聞く力も求められます。

4)情報収集力・整理力

ディベートをするには新聞・書籍・インターネットなどから情報を収集し、整理して主張を組み立てる必要があります。このプロセスの中で、情報の収集力と整理力が身に付きます。また、短い時間で効率的かつ的確に意見を主張しなければならないので、思考・表現の整理力も養われるでしょう。

以上(2025年4月更新)

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