円満に退職したはずの社員が豹変する理由は行動経済学で説明できる

1 人間は合理的じゃない。行動経済学で社員の行動を先読み

社員が退職するときは、退職(解雇を含む)の成立や未払い残業代の支払いなどをめぐって、何かとトラブルが起こりやすいものです。会社としては円満に社員と別れたいところですが、残念ながら落としどころが見つからず、トラブルが泥沼化するケースがあります。

落としどころが見つからない理由は、

会社は「合理的」に社員の行動を先読みしようとする一方、社員は「非合理的」に行動することが多いから

です。そこで、この記事では、

行動経済学の見地から、あえて社員の「非合理的」な行動を見据え、退職トラブルの落としどころを見つける方法

をご提案します。ちなみに、行動経済学とは、

経済学をベースにしつつ、「人間は常に合理的な思考をするわけではなく、非合理的な行動をするほうが多い」という前提に立って、人間の行動を分析する学問

です。皆さんのお役に立てると思います。

2 会社に不満がある社員と円満に別れられない

1)問題社員に無事退職してもらえたと思ったら……

ある会社に、成績や勤務態度の著しく悪い社員がいました。何度指導をしても全く改善しないため、会社は社員との面談の席で、会社にとって戦力になっていないこと、このまま退職しないで会社に在籍されても困ることを説明し、自発的に退職するよう求めました。社員は不満に思いつつもこれを承諾し、その後の退職手続きも滞りなく終わりました。

しかし、会社が無事に退職してもらえたと思った矢先、社員がSNSに会社の不満を書き込んでいることが分かりました。その結果、SNSを見た内定者が内定を辞退する、求人の応募がほとんどなくなってしまうなどのトラブルにつながりました。

2)ピークエンドの法則を用いた対応例

ピークエンドの法則とは、

人間の快楽・苦痛の記憶は、ピーク時と終了時の快楽・苦痛の度合いで決まる

というものです。こんな実験があります。

  • A:痛いほど冷たい水に60秒の間手を浸す
  • B:痛いほど冷たい水に計90秒の間手を浸す。初めの60秒の温度はAと変わらないが、次の30秒間は少しだけ温度が上がる

この2つの実験で、被験者に「もう一度同じ実験を受けるなら、どちらを選ぶか(どちらのほうが楽か)」を聞いたところ、80%以上の人が「B」を選択しました。BのほうがAよりも水に手を浸す時間は長いのに、最後に少しだけ温度が上がって苦痛が和らげられるため、「Aよりも楽」と感じた人が多かったのです。

今回の問題社員の事例も、会社が退職する社員の不満を少しでも和らげようとしていれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、

  • 問題点は指摘しつつ、「ウチの会社と合わないだけで、他社では活躍できると思う」「あなたに合う会社はたくさんあると思う」など、相性の問題にすぎないことを強調する
  • 「今まで会社で働いてくれてありがとう」「あなたのおかげで〇○の契約が取れたのは良い思い出だ」など、感謝の気持ちを述べる
  • 送別会を開いて、感謝の気持ちを示す

といった対応が考えられます。「無理やり感謝を伝えたところで、社員のほうも『本心ではない』と気付くのではないか」と思うかもしれませんが、それで構いません。意図はどうあれ、気を使って最後に言葉をかけるという行動が、相手の不満を少なからず和らげます。

3 未払い残業代について会社と社員の主張が食い違う

1)会社としては、きちんと未払い残業代を計算して支払うつもりだったが……

ある会社で、退職した社員が未払い残業代を請求してきました。しかし、会社の計算した額は130万円、社員の請求額は200万円と主張が食い違い、話が進展しません。

会社が社員に「130万円の一括払い」を提案したところ、社員が「そんな少額では話にならない」と怒り出し、訴訟に発展しました。訴訟は1年かかり、最終的に社員の主張が認められ、200万円を支払わざるを得なくなりました。

2)現在志向バイアスを用いた対応例

現在志向バイアスとは、

人間は長期的な利益よりも、目先の利益を優先しやすい

というものです。こんな実験があります。

子どもをマシュマロが1個だけ置いてある部屋に入れて、「私が帰ってくるまでにそのマシュマロを食べなければ、マシュマロを2個あげる」と告げました。その結果、ほとんどの子どもが目の前の利益を優先して、1個のマシュマロを食べてしまうという実験結果が出ました。少しの間我慢してマシュマロを2個もらったほうが得なのに、です。

今回の未払い残業代の事例も、訴訟に発展する前に、会社が未払い残業代について複数の提案をしていれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、会社が和解案として、

  • A:200万円を月20万円の10回払い
  • B:130万円の一括払い

の両方を提示します。金額だけを考えればAのほうが得ですが、多くの人はBを選んでしまいます。本当にもらえるのか不確定な200万円よりも、今確実にもらえる130万円を選ぶのです。AとBのどちらを選択するかは、社員が自分の意思で決定するので、「だまされた」「詐欺だ」などと言われてトラブルになるケースはほとんどありません。

なお、言うまでもないことですが、未払い残業代の金額について会社と社員との間で認識が一致しているのに、会社が実態よりも安い金額を提示することは許されません。

4 パワハラ、未払い残業代…複数の退職トラブルが発生

1)パワハラの問題から解決させようとしたばかりに……

ある会社で、退職した社員が会社に対し、上司のパワハラ(パワーハラスメント)に対する慰謝料と未払い残業代を請求してきました。会社が「当時の上司はパワハラを一切行っていない」として交渉を拒否したため、訴訟になりました。

しかし、訴訟は1年半かかり、最終的に上司のパワハラが一部認められました。しかも、未払い残業代の請求については、社員側の請求がほぼ通った金額で和解することとなりました。

2)テンションリダクション効果を用いた対応例

テンションリダクション効果とは、

何かの決断(購入など)をした後は緊張が緩和され、他の交渉に対する警戒心が弱くなる

というものです。こんな話があります。

靴屋で靴を選んで購入を決めた顧客に対して、「こちらの防水スプレーもいかがでしょうか」と提案をすると、本来購入する予定がないのに一緒に購入してしまうことがあります。ECサイトのカート画面に、商品購入後、最近チェックした商品やおすすめの商品を表示させるのも、購入後の追加購入を促すためです。

今回の複数のトラブルが発生した事例でも、交渉の進め方を少し変えれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、

パワハラよりも先に、未払い残業代の問題を決着させることを優先する

という考え方があります。未払い残業代は労働時間の記録があれば論点が明確で、残業代の計算が正しいか、休憩が取れていたかなど、どこかで落としどころを見つけられるケースがほとんどです。そこで、退職した社員の代理弁護士に、「まずはパワハラの問題を脇に置いて、未払い残業代請求について交渉を先行させましょう」と提案します。弁護士も同時に交渉を進めるのは非効率である場合が多いことを知っているので、この提案に乗ってきます。

ここで大切なのは、

未払い残業代については、多少時間がかかってでも会社の譲れない部分についてははっきり主張し、場合によっては訴訟も辞さないという強気の姿勢を示すこと

です。未払い残業代の交渉のハードルが上がると、それが解決したとき相手の弁護士に少なからず安心感を与えます。そのタイミングで、「パワハラについては客観的な証拠もなく、お互いの言い分が平行線をたどるので、未払い残業代とパワハラを合わせて◯万円で解決するのはいかがでしょうか」と投げかけます。すると、弁護士も人間なのでテンションリダクション効果が働き、自分の依頼者を説得して早く合意をさせようと努力するわけです。

以上(2025年5月更新)
(執筆 杜若経営法律事務所 弁護士 向井蘭)

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画像:BBuilder-Adobe Stock

企業全体で、そして働く一人一人が価値を創造できる人になるための支援をしている高橋さんは、いわば中小企業にとっての「シェルパ(案内人)」。実業の中で一緒に試行錯誤し、面白い新商品を開発して成果を上げたなど事例も多数!/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、高橋輝行さん(KANDO(カンド)株式会社 代表取締役)です。

高橋さんが行っているのは、

企業の「価値創造の伴走支援」や「価値創造を実現する“推進役”の育成」(人材育成)

です。

日ごろの仕事の中では、顧客に対する「価値の提供」を意外と疎かにしている、むしろ忘れてしまっているのが実情かもしれません。現場の従業員が「うちの商品・サービスの価値ってなんだっけ?」となってしまったり、従業員に「うちの顧客は誰?」と尋ねても「誰……? あまり考えたことなかったです。とにかく売り上げは上がってますから」となってしまったり。実はよくあることかもしれません。

高橋さんはそうした状況に警鐘を鳴らします。そして、これからの日本のために「価値を創造する人材」を育てようとしています。

後ほど詳しく説明しますが、“推進役”とは、理想と現実の両方を見ながら、あるべき姿=価値創造を実現すべく、プロジェクトを「推進」していく役割の人です。高橋さんが10年かけて形にしたプロジェクトマネジメントメソッド「Roles®」(ロールズ)の肝ともいえます。

高橋さんは現在、中小企業やスタートアップ企業、そして中小企業などを支援する金融機関(銀行・生命保険など)向けに、「Roles®」を指導・伴走しています。金融機関と一緒に、取引先企業に対して「顧客価値創造プログラム」(塾のようなイメージ)を提供しているケースもあります。プログラムを受けて成果を上げた企業もあり、また、金融機関の中には、自ら「推進役になりたいので勉強したい」という人も出てきているそうです。

今回、高橋さんには、価値創造するための「Roles®」のポイントや、“推進役”の意義、価値創造のプロジェクトを進めるときに企業がつまずきがちな壁などを伺いました。

実際に高橋さんが伴走して成果を挙げた事例なども教えてもらいましたので(第6章)、

「新しいことにチャレンジしたいが従業員がなかなか動いてくれない」

「従業員に自ら考え提案し、行動を起こしてほしいのだが……」

と悩む中小企業経営者の方、そして、金融機関など中小企業を支援する立場の方々には、大いにヒントになるかもしれません。よろしければご一読ください。

1  KANDO(カンド)株式会社の事業内容、そして高橋さんのプロフィール

高橋さんはまず、事業について次のように話してくれました。

「価値を創造できる人材を育てる。そして、そういう人材をこれからの日本に残していかなければ。そうしないと日本に未来はない。そう考えて、我々はこの一点に集中して事業に取り組んでいます」

ひいては、「働くことに感動できる社会」を実現するのが高橋さんたちの経営理念です。

会社概要

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

高橋さんはもともと、大学院までは物理学を学び、そのあと大手広告代理やベンチャー企業で仕事をし、急成長企業でいくつかのターンアラウンドを経験してきました。

その中で、10年かけて「Roles®」(ロールズ)という「価値創造プロジェクトの型」、メソッドを見出し、体系化してきました。

複数社のターンアラウンドなども含め、100社以上の価値創造を推進し、その実績から仮説検証を繰り返して編み出したメソッドなので、説得力が違います。

代表略歴

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

高橋さんは、2025年4月22日に新しく書籍を出版しています。気になる方は、下記からご確認いただけます。

「伝わらない」がなくなる話し方の順番

「伝わらない」がなくなる話し方の順番

2 「Roles®」(ロールズ)の肝は“推進役” 。そして必ず「実体験」で身に付けること

高橋さんの「Roles®」(ロールズ)のキーコンセプトは、

「優れた起業家の脳みそを追体験することができる」

というものです。この追体験を、ロールプレイ型でプロジェクトとして展開できるのが  「Roles®」の仕組みです。

優れた起業家の脳みそには3つのモードがあります。「理想脳」「現実脳」「推進脳」です。それを3つの役割「理想役」「現実役」「推進役」として、自分たちの企業(伴走支援される企業)に落とし込み、それぞれの役割を明確に分担しながらプロジェクトを進めていく。これによって、顧客が感動できる価値を提供できる。そう高橋さんは語ります。

キーコンセプト

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

ここで重要になってくるのが「推進役」です。「理想と現実がぶつかる場面で、両者の解像度を引き上げつつ、価値創造するためにプロジェクトを推進していく」役割だからです。

また、高橋さんたちの行っている人材育成・伴走支援の大きな特徴は、

実業の中で実際に価値を生み出す経験をさせて「価値創造の型」を身に付けてもらう。必ずアウトプットが出る

というところです。

実際にゼロイチで新しい価値を生み出したアウトプット事例も、次のように数々あります(事例の一部は後ほど第6章で紹介します)。「提供サービス」の左端にある通り、「ガチプロジェクト事業を伸ばす/変える」を実践している高橋さんたちです。

大切にしていること

提供サービス

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

やはりポイントとなるのは推進役で、「価値創造を担う推進役の育成は急務」と考えている高橋さんは、「推進役を育てるビジネススクール」を2025年夏から秋に立ち上げる予定とのことです。

3 「Roles®」(ロールズ)の進め方と大事な「自走」

「Roles®」の進め方について、高橋さんからいくつかお話を伺いました。

まず大事なのは、「Roles®」に取り組む目的=「顧客価値の創出」を明確に設定していること。そして大前提として、ドラッカーが言った通り、「顧客は誰か」をちゃんと見る。そこから始まります。

「Roles®」では実際に、次のように進めていきます。この一連のプロセスを「型」として落とし込んでいるのが「Roles®」の核となります。

  • 取り組むテーマと課題を絞り込む
  • 答えを出せるメンバーを集める
  • 役割分担(理想役、現実役、推進役)をする
  • ディスカッションを通してアウトプットを磨き上げていく

全体像

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

高橋さんたちの伴走支援の大きなポイントは

企業が自走できるようにする

ところです。高橋さんは、

「誰が顧客なのか。そしてその人たちをどのように喜ばせるかを、自分たちで考え抜いて実行していく。これを、従業員、組織ができるようにしていくことが最も大事」

といいます。安易に外部の力に頼るのではなく、

「自分たちでやる。だからこそ感動体験につながっていく」

ということなのだと感じます(外部の力を借りるのが悪いというわけではありません。必要であれば、外部の力を借りることも大事です)。

4 新規事業などで企業がつまずきがちな6つのポイント。これを自覚するだけでも勉強になる!

これまで100社以上を伴走支援してきた中で、多くの起業がつまずくポイントは6つに集約される、と高橋さん。この「つまずきポイント6つ」について、高橋さんに解説してもらいましたので、以降でまとめます。思い当たる方も多いのではないでしょうか。

サポート

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

【高橋さん解説:新規事業などでつまずきがちな6つのポイント】

1.取り組むべきテーマの具体化

→経営者は「思い込んでいる」場合が多い

新規事業に取り組もうとする際、経営者の「やりたいこと」や「直感的な危機感」からスタートするケースが多いです。

しかし、「それが本当に今、取り組むべきテーマかどうか」は別問題です。

例えば、経営者に色々と話を聞いていくと、「今は新規事業をやるのではなくて、現業を深掘りした方が早い」となることも少なくありません。そこで、まずは経営者との壁打ちを通じて、企業の本質的な課題やテーマを抽出する必要があります。

 

2.メンバー選定と役割分担

→「使いやすい人」をアサインしてしまう

新規事業のプロジェクトなどの失敗でよくあるのが、「使いやすい人」をアサインしてしまうことです。「誰ならどういうアウトプットができそうか」「誰にどういうアウトプットしてほしいか」ことを考慮して人を選んでいないというケースです。

理想役・現実役・推進役という役割分担に基づき、アウトプットベースで、適性のある人材を割り当てることが重要です。

 

3.オリエンテーションの実施(目線合わせ)

→コミュニケーションが荒っぽい

忙しい中小企業の経営者などはどうしても、「新規事業を思いついたので、進め方をとりあえず考えといて」など、従業員に対して説明不足になりがちです。「とりあえず考えといて」とだけ言われて動ける人はあまりいないでしょう。「どのような背景で、どのような顧客がいる仮説なのか、アウトプットの期待値、そのアウトプットが出せるかどうか」などを、従業員ときちんと共有し、目線を合わせてからスタートするのが望ましいでしょう。

 

4.ディスカッションのファシリテーション

→建設的にディスカッションするのがどういうことか分かっていない

ファシリテーション、これはかなり難しいものです。単に集まってワーワーと話すだけでは話は前に進みません。

段階を経て議論を深めていく設計が必要であり、技術も経験も求められます。

 

5.アウトプットのフィードバック

→「価値を提供する先(顧客)」の視点から価値を見なければ進化はしない

社内視点での「これでいいんじゃないですか」では価値は磨かれません。価値を提供する先は顧客なので、ちゃんと顧客視点で見直してフィードバックをするという文化、習慣が必要です。

 

6.プロジェクトの推進方法

→新しいことをやるときの一つ一つの障害を根気よくつぶしていく

新しいことをやるには障害がつきものです。そこで、一つ一つ整理し、打ち返していくプロセスが必要ですが、途中で面倒になって放り出す、投げ出すことも多いです。

障害を一つ一つつぶして、乗り越えていくことが求められます。

 

この6つはどれもとても重要なことばかりですが、特に技術や経験が求められるのが「ディスカッションのファシリテーション」かもしれません。おそらく、多くの人が「ディスカッションがうまくいかない」体験があると思います。

高橋さんたちは、ファシリテーションのトレーニングを次の2つの方法で提供しているそうです。特に2つ目のトレーニングはなかなか難しそうですが、実践的で身につきやすい方法といえます。

 

【ファシリテーションのトレーニング方法】

1.問題解決のトレーニング

ディスカッションの問題集を解いてもらいます。あるいは、ディスカッションで相手が色々と発言していることを一言で要約してみる、論点をMECEで挙げてみるなど、発言の中にある課題を整理し、表現する訓練を行います。

 

2.実践とフィードバック

実際のディスカッションに入ってもらい、ファシリテーションを行ってもらいます。それを高橋さんたちが横でチェックしながらフィードバックを行います。実践なので、緊張感を持ってディスカッションを行っているようです。

 

【テーマの具体化】

初手となる「テーマの具体化」についてもかなり大事です。最初にしっかりと明確化しておかなければ、スタートラインにも立てません。

例えば、「DXをやりたい」というような漠然とした目的を、

  • 既存事業の変革か?
  • 新たな顧客への価値提供か?

などに分解し、「何のためにやるのか」を明確にする作業を行います。

また、何かを作る、売る、広げる、などのプロセスがありますが、「売れないのは売り方(営業)に課題があるのか、それとも商品そのもの(作り方)に課題があるのか」を明らかにすることも大事です。これを曖昧なまま進めてしまうと、プロジェクトは形骸化します。

だからこそ、最初の「問いの設計」が非常に重要だと高橋さんは語ります。

テーマ設定

課題設定

(出所:KANDO(カンド)株式会社 会社説明資料)

5 推進役に向く人、向かない人。事業承継など目的によって推進役に適する人は変わる

高橋さんは、「推進役には、やはり向き不向きがあり、向いていない人の例としては、自分でガンガン進めたいタイプの人です。推進役には、他人に成果を出させるマネジメント視点が必要だからです」と説明します。

高橋さんたちは、推進役の選定を次のように行っているそうです。

「私たちは、適性診断(チェックリスト)を用いて、役割のフィットを見極めています。本人の希望があれば育成は可能ですが、時間と覚悟が必要です。現場では、多くの企業の場合、現実役・理想役には立候補者がいるものの、推進役は名乗り出にくいという傾向があります。そこで、最初は私たちが役割分担を決めてスタートすることが多いです」

ちなみに、推進役候補の年齢層は主に以下の2パターンだということです。

  • 30~40代(マネジャー):プロジェクト推進を担う中堅層として育成
  • 50~60代(事業部長や経営者など):次の「理想役」(後継者)を支援する役割として事業承継の一環

特にこれからの中小企業にとって必要だと感じたのは、

事業承継の一環として、50~60代の経営者自身や事業本部長などが推進役を学ぶ

という高橋さんのお話です。

経営者の多くは理想役で、一足飛びにやりたいこと・理想の姿を実現しようとする傾向にあります。そうするとプロジェクトがうまく進まないので、推進役が理想の姿をブレイクダウンし、段階を踏んでステップワンから、というふうに進めることになります。

こうした一足飛びに進めがちな理想役である経営者が、理想役のまま、事業承継をして次の世代に継いでもうまくいかないことが多いので、

経営者自身が推進役を学び、「推進役」となって「次の理想役」を支援できるようにする

ことが必要です。これは、今後の中小企業にとても大事な考え方だと感じます。

高橋さんのお話を踏まえると、プロジェクトの推進や事業承継などの目的に応じて、推進役に適した人材像はある意味適材適所、変わってくるといえるでしょう。

6 価値創造の事例。実際に成果が上がっている事例をみてみましょう

最後に、高橋さんたちの伴走支援で価値創造した事例をいくつかご紹介します。面白い確かな成果を上げている数々の事例がありますので、「自社で取り組むとしたら」のご参考になればと思います。

1.井筒八ッ橋本舗(創業220年の京都の超老舗)

井筒八ッ橋本舗

(出所:KANDO(カンド)株式会社 資料)

井筒八ッ橋本舗

(出所:KANDO(カンド)株式会社 ホームページ)

創業220年という超老舗の八ツ橋本舗で、高橋さんがファシリテーターとして入って産学連携で価値創造に取り組み、若手の従業員が中心となって新しくて面白い商品を作り出した、という好事例です。

大阪芸術大学との産学連携で「Yatsuken(ヤツケン)」=「八ッ橋食感研究所」という新ブランドを立ち上げました。

そしてなんと2週間に1回という驚異的なスピードで、商品アイデアを試作・実験するプロジェクトを実施します。

「2週間に1回」は最初、さすがに経営者も従業員も消極的だったようです。しかし、そのうち、特に若手の従業員が積極的になってきます。バレンタイン向け【むにゅっとしょこら】という全く新しい商品を開発・販売します。

このチョコ商品は今までの八ツ橋の概念をガラッと変えるもので、八ツ橋の生地をチョコで包んでいます。今までの八ツ橋の「つつむ」を「つつまれる」に変えた新食感のチョコレートということで人気になり、完売したそうです。

高橋さんにヤツケンの取り組みについて伺ったところ、次のお話をしてくださいました。

「今回、キーになったのは製造部門の若い女性従業員です。その方が『楽しい!』となってスイッチが入り、全体的に変わって行った感があります。その従業員の方は、最初は現業も忙しかったので、『アイデアがあっても商品がつくれないかも』と消極的でした。しかし、みんなで議論して試作品をつくってみたら『楽しい』ということで、どんどん積極的に自発的に動くようになりました」

また、その女性従業員いわく、

「みんなで、どのような顧客にどのように喜んでもらうかなどを議論していて、誰に喜んでもらえるのかを考えたら、とても楽しくてスイッチが入った」

「顧客のために」「自分たちはどういう感動を提供できるか」を問いかけると、従業員の目の色が変わって自発的に考え動くようになる、と高橋さん。そうなると、従業員自身も「楽しい!」と感じて、組織の自走が進むのだと感じます。

 

2.ネイル整形サロン(学生起業)

ネイル整形サロン

(出所:KANDO(カンド)株式会社 資料)

こちらは、KANDOが出資して子会社を設立した事例です。

大阪公立大学の学生が持つ「爪を補整する技術」をビジネス化。議論と仮説検証を重ねて、大阪天王寺に一号店をオープンしました。

この学生の方は、もともと技術を持っていて何かやりたいと思ってはいたものの、不安があって踏み出すことができないでいました。

高橋さんは、「いいもの、面白いものを持っていても世に出てない人、踏み出せない人はたくさんいる。しかし、こうしてガイドしていくとちゃんと形になる」と話してくれました。

高橋さんのやっていることを山登りで例えると、一緒に山に登るシェルパ(登山ガイド、案内人)が思い浮かびます。「あそこの山の登り方を教えます」ではなくて、高橋さんたちは一緒に山に登って案内する。高橋さんの言葉を借りると、次のようなことかもしれません。

「山登りで例えるなら、『荷物が重いのなら、たまには持つよ。危険そうな場所があったら先に行ってみるよ』という感じで、一緒に解像度を上げていくことをやっています」

 

3.まんまるおにぎり(行列ができるおにぎり屋さんに)

まんまるおにぎり

(出所:KANDO(カンド)株式会社 ホームページ)

こちらはまさに新規事業、新業態を立ち上げた事例です。

もともとは工場などの社食を展開しているこの企業、コロナ禍で社食を誰も利用しなくなってしまい、会社の危機に直面します。経営者の方は、「そういうときだからこそ新しいことにチャレンジしよう!」ということで、BtoCにチャレンジしてみることになります。

経営者がご飯大好きなので「最高においしいご飯をつくろう!」ということに。高橋さんと議論を重ね、1年半かけて行列のできる人気のおにぎり屋さんにまでなりました。テレビの取材なども受けています。

「本気で顧客のことを考え続けたら、行列店にまでなれるという事例です」

と高橋さんは教えてくれました。

 

4.大同生命×KANDO「どうだい?顧客価値共創プログラム」(第2回がもうすぐ開催!)

高橋さんたちは大同生命と一緒に、「顧客価値共創プログラム」も実施しています。

これは、大同生命が運営している経営者向けメディア「どうだい?」の特別プログラムとして行っているものです。「どうだい?」による特別価格でKANDOの顧客価値を創造する4カ月間のプログラムを受けられるというもので、いわば「4カ月間の実践的なビジネス塾」です。

受講した経営者の中には、「このプログラムを受けたおかげで2000万円の売り上げがあがりました!」という方もいたそうです!

なお、この「どうだい?顧客価値共創プログラム(第2回)」は、2025年6月4日(水)からプログラムの1回目を開始する予定です。4月25日(金)より「どうだい?」内イベントページにて本プログラムの応募開始をしています(応募〆切5月下旬予定)。

https://dodai.daido-life.co.jp/event/detail/1656

どうだい?顧客価値共創プログラム

高橋さんたちのこれらの事例からも分かる通り、

顧客は誰か、そして、その顧客にどのような感動を提供できるかを問い直し、アウトプットし続ける

ことが、企業や、企業で働く個人を大きく変えるきっかけになるといえます。

高橋さん、とても勉強になる、かつ実践的なお話を有り難うございます!

以上(2025年4月作成)

指導した部下が「それ、パワハラです!」と反論してきたら?

1 部下の指導からは逃げないが、反省すべき点は反省する!

この記事では、日本ハラスメントカウンセラー協会の顧問として、数々の会社のハラスメント対策に向き合ってきた弁護士(筆者)が、

部下から「パワハラだ」と言われた上司の事例を2つ取り上げ、対応のポイントを紹介

します。まず、事例に入る前に、大前提となる「パラハラの定義」を以下に明記しておきます。上司の皆さんは、この定義を確認しつつ、第2章以降の事例で「どう対応するのが望ましいのか」をご確認ください。パワハラ(パワーハラスメント)とは、

職場の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた(行き過ぎた)言動により、就業環境が害される(仕事に支障を来す)こと

です。優越的な関係の最たるものは「上司と部下」で、次の6つが一般的なパワハラの行為類型(通称:パワハラの6類型)とされています。

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パワハラは許されない。これは大前提ですので、

上司は、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えないように部下を指導する(人格を否定しない、プライベートには干渉しないなど)

ようにしなければなりません。一方、

上司が明らかに正当な指導をしているのに、部下が「それ、パワハラです!」と反論してくるケースなどもありますが、そうした場合は毅然とした態度で臨む

ことが必要です。部下の反論を恐れて指導できなくなってしまうのは、本末転倒でしょう。

そして、大切なのはこの2つの指導方針を両立することです。実際のビジネスでは、上司か部下の一方だけが悪いケースより、双方が悪いケースのほうが多いものです。ただ、指導の目的は「上司と部下、どちらが間違っているかを決めること」ではなく、「部下を成長させて、業務を円滑に進めること」ですので、上司は

「指導からは逃げないが、自分に反省すべき点があれば反省する!」

という姿勢を徹底することが大切です。

2 仕事の遅い部下を注意しただけなのに「パワハラだ」と言われた……

1)ケーススタディー

システム開発などの事業を行う会社に勤めるA課長は、「エンジニアの経験がある」ということで中途採用されたBさんを部下に迎えました。

あるとき、A課長は、Bさんが本来なら2日で終わるはずの業務に、1週間以上の時間をかけていることを知りました。A課長は、「いつまで時間をかけているんだ!」とBさんを叱りつつ、状況を確認して改善点を教え、「残りを明日までに終わらせるように」と指示しました。

しかし、Bさんが「無理な要求をしないでください。パワハラです」と反論してきたため、A課長は、カッとなって「パワハラとは何事だ!」と声を荒げてしまいました。ただ、会話の途中で「もし、自分の対応が本当にパワハラだとしたら、処分されるのでは……」と怖くなったA課長は、人事部に通報されては困ると思い、「もういいよ」と言って指導を切り上げました。

2)受け手が「不満に感じた」というだけでは、パワハラにはならない

マスコミなどの影響もあり、最近はハラスメントへの理解が不十分なまま、「叱る=パワハラ」「受け手がパワハラと感じたらパワハラ」などの誤った解釈を盾に、上司に反抗する人が少なくありません。

パワハラの定義は冒頭でお伝えした通りですが、上司の言動がパワハラに該当するかどうかは、「社会通念(平均的な労働者の感じ方)」を基準に判断します。つまり、

受け手の主観(感じ方)は重視しますが、客観的に見て上司が部下を指導する必要性があり、指導の内容も「平均的な労働者からすれば、別におかしくない」といえるレベルなのであれば、部下が不満に感じたとしても、パワハラにはならない

ということです。

ケーススタディーでは、Bさんが「無理な要求をされた=パワハラ」と感じてA課長に反抗しています。確かに、業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けることは、冒頭で紹介したパワハラの6類型の「過大な要求」に当たります。

しかし、Bさんが命じられていた業務は、本来であれば2日で終わるレベルのものですから、それが1週間たっても終わっていないのであれば、注意を受けるのは仕方のないことでしょう。しかも、A課長は、業務の改善点も教えた上で、「明日までに終わらせるように」と指示しているので、Bさんが不満に感じたとしても、パワハラにはならない可能性が高いです。

A課長は、Bさんとの会話の途中で「人事部に通報されては困る」と思い、指導を切り上げてしまいましたが、パワハラでない以上、指導は続けるべきでした。

3)パワハラでなくても、「グレーゾーンの言動」には注意が必要

A課長の言動はパワハラにならない可能性が高いですが、ここで注意したいのが、

パワハラでなければ、何をやってもいいわけではない

ということです。「何が社会通念(平均的な労働者の感じ方)か」を判断するのは簡単ではなく、上司が「パワハラではない」と思っても、裁判では逆の判断になるケースがあるからです。

また、パワハラとまではいえない言動でも、例えば相手を下に見るような不適切な言動は、相手にストレスを与えることがあります。

パワハラとまではいえない不適切な言動を、筆者は「グレーゾーンの言動」

と呼んでいますが、グレーゾーンの言動にさらされ続けた人が、うつ病などになってしまうケースは一定数存在します。会社には社員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があるので、上司は部下がうつ病などにならないよう配慮しなければなりません。そして、

パワハラになる言動だけでなく、グレーゾーンの言動にも安全配慮義務違反のリスク

はあるので、「パワハラでなければOK」などと短絡的に考えるのではなく、不適切な言動があれば改善することが大切です。

ケーススタディーでは、A課長がBさんの態度に声を荒らげていました。どの程度声を荒らげたかなどにもよりますが、もしかしたら不適切な言動だったかもしれません。

4)部下の言い分を聞き、自分の考えを伝える。落ち度があるときは謝罪も忘れずに!

部下から「パワハラだ」と言われたら、まずは冷静に対応することを意識してください。昨今は厚生労働省ウェブサイトでも、

「ハラスメントは、受け流しているだけでは状況は改善されません。『やめてください』『私はイヤです』と、あなたの意思を伝えましょう」

などの啓発の文言が出ていますから、指導に対して部下が反論してくるのも、ある意味無理からぬことです。「そういうものだ」と諦め、次のポイントを押さえて冷静に対処しましょう。

1.まずは部下の言い分を聞く

反論する前に「まず傾聴」という意識を持ちたいところです。これは、筆者が会社のハラスメント相談窓口の担当者にお伝えしていることですが、一般的に、

ハラスメントのような深い問題についての相談は、忍耐強く傾聴し、聞き役に徹する姿勢を持つことが効果的である

といわれています。部下から「パワハラだ」と言われたときも、即座に「違う」と反論するのではなく、まず部下の言い分を聞くのが望ましいです。A課長の場合も声を荒らげるのではなく、冷静に「なぜ、パワハラだと思うの?」などと尋ねるのがよかったかもしれません。

2.自分の考えを伝えつつ、指導をする

自分の指導が業務上の必要性などに照らしてパワハラでないと考えるのであれば、そのことを冷静に部下に説明します。例えば、

「業務上の必要性があるから指導しているのだし、言い方も社会的に許容される限度を超えたものとは思わない」

といった具合です。

その上で、改めて部下を指導しますが、その際には、

行動や内容の問題点に焦点を絞り、乱暴な言い方や、相手を軽く見るような言い方、相手の人格に踏み込むような言い方(「君ってさあ、いつもこうなの?」など)は避ける

べきです。グレーゾーンの言動であっても、言われた人の多くはストレスや不満を感じます。そのときは我慢しても、ストレスを繰り返し受けることで、時間がたってからうつ病などになったと主張する人もいるからです。

3.不適切な言動があったときは謝る

自分の言動に不適切なところがあれば、その点については素直に謝ったほうがよいでしょう。「パワハラだ」と言う部下の主張を認めるのではなく、不快に感じるような言い方があればその点についてのみ謝る、限定的な陳謝をするわけです。

また、前述したように「社会通念(平均的な労働者の感じ方)」の判断は簡単ではないため、

相手が納得しなければ、人事部門などの第三者的な者に判断してもらうことになる

という覚悟は必要です。この覚悟がないと、部下の強引な態度に押し切られてしまう恐れがあります。

3 何度指導しても改善しない部下にキレてしまったら、3年後に「パワハラだ」と言われた……

1)ケーススタディー

ある会社の企画グループで働くC課長とその部下Dさん。Dさんには、「スケジュール管理が甘い」という欠点があります。例えば、Dさんに作成を指示した役員会への提出資料が、当日になっても上がってこなかったことがありました。また、新システムの開発プロジェクトを進めていて、担当者のDさんが納期直前に「間に合わない」と言ってきたこともありました。

C課長はDさんに任せっ放しではなく、細かく進捗を確認するのですが、いつ聞いても、Dさんは「大丈夫です」の一点張り。C課長は毎回、その尻拭いをさせられ、その都度Dさんに、「できないならできないと、早めに言ってくれ!」と厳しい口調で注意するのですが、Dさんは「すみません」と謝りはするものの、一向に改善が見られません。

こうした状況が続き、我慢の限界に達したC課長はとうとうキレてしまい、あるときDさんに「君は新入社員以下だ、もう任せられないよ!」「なんで分からないの、馬鹿じゃないの!」と言ってしまいました。Dさんはいつもの通り「すみません」と謝りましたが、間もなくうつ病と診断されて会社を休職。1カ月後に復職して別部署に異動しましたが、その後もうつ病は回復せず、休職と復職を繰り返すことになりました。

そして、企画グループを離れてから3年後、Dさんはハラスメント相談窓口に「C課長からパワハラを受けてうつ病になった」と通報しました。話を聞いたC課長は、3年も前のこと故に、「いつの指導?」「なぜ、今になって通報したの?」と困惑してしまいました。

2)人格否定などに当たる発言は、1回でもパワハラになると思ったほうがいい

上司の言動がパワハラと認定されるのは、

原則として問題のある言動が「何度も、継続的」に行われた場合です。ただ、頻度や継続性に関係なく、1回の言動でパワハラ(一発アウト)になるケースも存在

します。このケーススタディーのように、「新入社員以下」「馬鹿」など、名誉・人格を著しく傷つける言動をしてしまう場合がそうです。

そもそも、このケーススタディーでは、「新入社員以下」「馬鹿」発言の前に、継続的に厳しい口調での注意が続いていました。これらの言動はパワハラにはならないものだったとしても、Dさんの中では、度重なる失敗に対する焦りや指導のプレッシャーからストレスが蓄積され、「新入社員以下」「馬鹿」発言がとどめとなり、うつ病になってしまった可能性があります。

何度指導しても改善が見られないDさんに対し、C課長が一定程度強く注意すること自体は、業務上必要なことなので問題ありません。ただ、

人格否定などの発言をしてしまった場合については、指導する業務上の必要性が認められるとしても、社会通念上相当な範囲を逸脱した言動としてパワハラになる可能性が高い

です。部下に問題があったとしても、1回でもこうした言動をしてしまえば、「上司の負け」だと思ったほうがよいでしょう。

3)時間が空いたとしても、パワハラは成立する

Dさんは、企画グループを離れてから3年後に、C課長の言動がパワハラだったと訴えています。民法上、パワハラなどの不法行為に対する損害賠償請求は、

被害または加害者を知ってから3年(身体に害を与える不法行為の場合は5年)

まで認められるので、「時間が空いたからパワハラではない」という考えは通用しません。ちなみに、C課長は「なぜ、今になって通報したの?」と困惑していますが、

ハラスメントを受けていた当時は我慢していても、その不満がだんだんと大きくなって、時間を置いて爆発するケース

は珍しくありません。「新入社員以下」「馬鹿」と言われた当時のDさんは、度重なる自分の失敗に負い目を感じていたため、C課長の発言を問題視できなかったのでしょう。ですが、その後もうつ病が回復せず、休職・復職を繰り返す中で、

次第に「私がうつ病になったのは、C課長のパワハラのせいだ」と考えるようになった

可能性があります。

4)段階を踏んだ指導をし、口頭でダメなら書面やメールなどに切り替える

まずは、「人格否定などの発言は一発アウト」ということを認識した上で、冷静な指導を心掛けましょう。基本的なポイントは第2章のケーススタディーと同じ、

  • まずは部下の言い分を聞く
  • 自分の考えを伝えつつ、指導をする
  • 不適切な言動があったときは謝る

です。

また、何度も同じような問題を起こす社員に対して、口頭での注意を繰り返すことは、場合によっては避けたほうがよいでしょう。パワハラになる・ならないの問題以前に、口頭で注意されるだけでは、自分の問題点を明確に認識できない人がいて、かえって逆効果になるケースがあるからです。

このような部下への対応は容易ではありませんが、例えば、「段階を踏んだ指導をする」という対処法があります。

  • 業務中の口頭注意で改善が見られなければ、場を改めて面談する
  • それでも改善が見られなければ、書面やメールなど形に残る方法で指導する

といった具合に、少しずつ強度を高めていけば、多くの人は、こちらの意図を理解して改善してくれます。

このような段階を踏んでも全く改善が見られない場合、上司が自分だけで対応しようとすると、上司自身が疲弊してしまいますし、C課長のようにキレてパワハラ事案に発展する事態にもなりかねません。このような場合は、上司自身の上席に相談するなどして、対応を検討したほうがよいでしょう。

以上(2025年5月作成)
(執筆 東京エクセル法律事務所 弁護士 坂東利国)

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画像:ChatGPT

経営者が知っておきたい 「褒めて伸ばす」技術

1 会社と社員の関係が変わってきた

「褒める」という行為が、改めて注目されています。見直しが進んでいるとはいえ、ほとんどの日本企業では終身雇用が根付き、家族的な雰囲気を醸し出そうとしています。家族的な関係づくりを進めるからこそ、一方では厳しさも容認され、「仕事だから経営者が社員を指導するのは当然。厳しくても、それは社員を思ってのこと」といった感覚が生まれます。

しかし、こうした感覚は通用しなくなりつつあります。厳しすぎる指導は社員を疲弊させ、なかには経営者の意図に関係なく「パワハラだ!」と言ってきたり、「この会社は自分に合わない……」と入社早々に転職を決めてしまったりする社員もいます。また、別の視点からは、不要な「圧」があると、社員は思ったことを口に出せなくなり、多様性が失われていきます。

厳しい経営環境を勝ち抜くためには、社員を萎縮させるのではなく、伸び伸びと働いてもらうことが必要です。そして、そのきっかけとなるのが「褒める」という行為です。それも、

「具体的に、タイミングよく、全力で」褒める!

というのが大切です。以降で、褒めることについて少し掘り下げて考えていきましょう。

2 具体的に褒める

まず、経営者は

社員がいなければ会社は成り立たない

ことを認識し、感謝の気持ちを社員に伝えましょう。「よく頑張っているね」「いつもありがとう」といった声掛けをするのです。会社の規模にもよりますが、社員にとって経営者は遠い存在です。経営者が思っているよりもずっとです。そのような経営者から肯定的な言葉を掛けられれば、うれしくなり、声掛けの内容が漠然としたものであっても、「褒められた、認められた」と感じるはずです。

ここから一歩進んで全力で褒めるために、自社の管理職をお手本にしてみましょう。管理職は現場で部下を指導し、細かなことも把握しています。そして、管理職は部下が自分の教えた通りに、あるいは期待を超える成果を上げたときに褒め、逆の場合は叱ります。つまり、管理職が褒めたり叱ったりすることは、社員の仕事と連動した具体的な内容になっています。

例えば、社員がプロジェクトに成功した場合、

  • 経営者は「よくやった!」と声掛けします。
  • 管理職は「君がお客様から『○○があればいいな』という一言を引き出し、それに真剣に向き合ったからだ。よくやった!」といったように具体的に褒めます。

大切なポイントは、「相手が褒めてほしい、認めてほしい」と思っている部分を的確に捉えていることなのです。

3 基準を明確にし、タイミングよく褒める

社員とのコミュニケーションを深めたとしても、経営者が全社員の仕事を細かく把握することはできません。それに、経営者が社員とのコミュニケーションばかりに時間をかけることもできません。そこで、経営者は褒める基準と叱る基準を明確にしておきましょう。

例えば、

「イエスマンは評価しません。意見や、“異見”を言ってくれる社員を評価します」

と宣言し、実際にそのようにします。こうすることで、経営者の“ご機嫌取り”をして、褒められようとする社員のムダな行動を排除することもできます。

また、褒めるタイミングも大事です。1年前の成功でも褒められればうれしいものですが、成功直後ほどの効果はありません。

仕事に成功した社員を褒めるなら、社員の気分が高揚しているときが一番よい

のです。

4 褒める組織をつくる

社員をよく褒める経営者が率いる会社では、管理職も同じように部下のことをよく褒めるようになります。また、社員は経営者の人柄をよく見ています。いくら経営者が全力で褒めたとしても、そもそも社員に尊敬されていなければ、社員の心の琴線に触れることはできません。

そのため経営者は、仕事はもちろん、公私ともに“全力”で率先垂範し、ちょっとした声掛けであっても、社員が「尊敬する経営者に声を掛けてもらえた!」と思えるほどの存在になれるよう努力しなければなりません。

以上(2025年6月更新)

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画像:kapinon-Adobe Stock

徳島県上勝町。美しい「ごみゼロ」の町は環境変化に適応する達人だった

1 徳島県上勝町に行ってみた!

この記事でご紹介するのは、徳島県上勝町が進めている「ごみゼロ」に向けた取り組みです。人口1500人に満たない小さな町ですが、2003年9月に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」(ごみゼロ宣言)をしました。これをきっかけに世界から大いに注目を集め、移住者も増えたことで、2024年には、いわゆる「消滅可能都市」からも脱却しました。

「ゼロ・ウェイスト宣言」で掲げた目標を達成するための活動の中心地は、「?」の形をした「上勝町ゼロ・ウェイストセンター”WHY”」(以下「センター」)です。実際にセンターを訪れてみると、そこには様々な仕掛けがありました。

思いだけでは成し遂げ難いゼロ・ウェイスト。上勝町が「ゼロ・ウェイスト宣言」をした背景や、町の小学生が考えた循環経済の仕組みなどを、センターで働く徳重 尚(とくしげ ひさし)さんに教えていただきました。企業がESGやSDGsに取り組む際のヒントが満載です。

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2 環境意識が高かったわけではない

「ゼロ・ウェイスト宣言」とは聞き慣れない言葉ですが、次のような意味を持ちます。

ゼロ・ウェイストとは、無駄、浪費、ごみをなくすという意味です。

出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという考え方です。

上勝町役場 企画環境課「ZERO WASTE TOWN Kamikatsu」

上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした町で、現在、なんとごみを43種類に分別しています(2024年4月までは45種類)。こう聞くと、「上勝町は、古くから環境配慮の意識が高い先進的な町なのだな」と感じてしまいますが、この活動は近年、役場職員や住民、ゴミステーションスタッフの試行錯誤によって生まれたものだそうです。

「実はこの場所は1975年前後から1997年までは野焼き場でした。ここで穴を掘ってごみを燃やしていたのです」と教えてくれたのは、センターの徳重さん。

上勝の財源規模では処理設備を整える余裕はなく、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」によって野焼きが禁止されていました。にも関わらず、なかなか野焼きをやめることができずにいたところ、県から「野焼きをやめて適切に処理をしてください!」と注意され、1997年から容器包装リサイクル法施行に伴い分別制度を導入し、1998年に小型焼却炉を2基設置しました。

これで安心と思いきや、2年後の2000年に、「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、せっかく設置した焼却炉の1基が規制の対象になってしまいました。もともと小型で容量が小さいこともあり、そのままではごみを処理することができなくなりました。徳重さんいわく、「やむにやまれずというか、要は町の中ではごみがどんどん出てくるので、その量を減らす方向に進めていくしかなかった」というのが実情のようです。

「上勝町はもともと環境意識が高い町だった!」というわけではなく、環境変化に自らを適応させてきたということです。このあたりは、企業がESGやSDGsに取り組む背景にも似ていると感じます。

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3 「ゼロ・ウェイスト宣言」に至った意外な背景

上勝町が「ゼロ・ウェイスト宣言」をしたのは2003年9月のことですが、この2カ月前に、セントローレンス大学のポール・コネット化学博士が上勝町を訪れています。上勝町の状況について相談をしている中で、「ゼロ・ウェイスト宣言をしたらどうだろう」と博士から提案され、そこからわずかな期間で、下の宣言をするに至りました。

未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2020年までに上勝町のごみをゼロにすることを決意し、上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を宣言します。

  1. 地球を汚さない人づくりに努めます。
  2. ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします。
  3. 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!

平成15年9月19日
徳島県勝浦郡上勝町

上勝町「ゼロ・ウェイスト政策」

徳重さんいわく、「ポール・コネットさんの提案がなかったら、ここまで大きな上勝町の転換はなかったと思います」とのこと。わずかな期間で宣言までこぎ着けるために、上勝町役場では急いで町民にゼロ・ウェイストについて説明をしたり、特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーを立ち上げたりしたそうです。

4 ごみをお金に換える仕組みが必要だ!

上勝町では、「ゼロ・ウェイスト宣言」において、

目標として2020年までにごみをゼロにする

という目標を掲げています。

しかし、現代的な生活をしている限り、ゼロ・ウェイストの達成は非常に難しいということが、2003年からの取り組みで分かりました。そもそも分別の負担もあります。自治体によってごみ分別の種類は違いますが、上勝町は43種類です。分別の種類が一気に増えるタイミングでは、うまく分別することができずにごみがたまってしまう家もあったようです。そのような場合は、ゼロ・ウェイストアカデミーなどが相談に乗りながら、解決していったそうです。

こうした現状にあって、次の展開をどうするかと考えたときに、町外の人とも連携していかなければならないと思い、そのシンボルとしてセンターを立ち上げ、そこから情報を発信していこうということになったのです。

センターを見学して気が付いたのは、ごみの「入」と「出」が円単位で確認できるプレートが設置されていることです。例えば、「紙」ごみは町にとって収入になり、具体的に何円なのかを「入」として示しています(写真は、ライターとその他の布類の例)。逆に、町の支出になるごみもあり、それは「出」として示されています。まさにごみの収支の「見える化」ということですが、これはごみを徹底的に分別して資源を取り出し、それを「入」として示しているからこそできることです。「入」と「出」を示したプレートは、

面倒な分別をしなければならない理由を、町民に分かりやすく伝える役割

を果たしているわけです。金額が手書きで示されているところも、何か身近で温かい印象を受けます。

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分別するための道具として、ハサミやカッターが置いてある作業エリアもありました。紙ごみを縛るときは必ず紙ひもにすることで回収業者の負担を減らし、「入」を大きくする工夫もされています。新聞紙をまとめるなど分別の作業が大変なときは、センターの方がお手伝いしているそうです。

5 牛乳パックを捨てたら何円もらえる?

センターでさらに面白いエリアを見つけました。その名も「ちりつもPoint」。上勝町にはごみ収集車が走っていないので、町民が自らごみを持ち込まなければなりませんし、43分別に取り組まなければなりません。これは大変なことです。そこで、インセンティブとして、「ちりつもPoint」が機能しています。

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ポイントは分別種類の多い紙類や、企業連携によって回収を行っている資源を対象にポイントが付与されています。まず1種類のごみを持ってくるごとに1ポイントがもらえます。

例えば、牛乳パックを1個持ってくると1ポイントが付与されます。10個持ってきても、種類は1つなので、もらえるのは1ポイントです。そうであれば、10回に分けて持ってきたほうが多くのポイント(1種類のごみを10回に分けて持ち込むので10ポイント)をもらえることになります。これが、小まめにごみを持ち込むインセンティブです。他にも、町内事業所でリユースやリデュースに取り組んだ際にもポイントが付与される仕組みになっています。また、貯まったポイントは環境にやさしい日用品や学用品等と交換ができるようになっています。例えば、学校で使える上履きは50ポイントと交換ができます。

気になるポイント単価ですが、これがなかなかお値打ちです。50ポイントなら50円相当というのが多くのポイント制の交換レートですが、センターでは、

なんと1ポイント10円相当のレートになっていて、50ポイントごとに500円相当の商品券と交換することが可能

です。ちなみに、センターにごみを持ち込めるのは町民だけなので、町外の人はごみを持ち込むことはできません。

6 なぜ、ごみ処理センターなのに臭わない?

町民以外の人は、センターに併設されたホテルに宿泊して、ごみの分別を体験することができます。自治体や企業が研修で宿泊するのはもちろん、有名人が宿泊することもあるそうです。

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ここで徳重さんからクイズが!

ごみ処理場(センター)にホテルを併設できるのはなぜだと思いますか?
他のごみステーションとは異なる特徴がそこにはあります。

答えは、センターでは「生ごみ」を引き取っていないので、臭いがないということです。取材当日は風が強かったので気が付きにくかったですが、確かに臭いが一切ありませんでした。これならセンターにホテルを併設できるわけです。

生ごみは、町民がコンポストなどを使って家庭で処理をしています。コンポストなどの購入費用の一部は、上勝町が補助をしているそうです。

7 どうしても燃やさなければいけないごみ

現在、上勝町のごみリサイクル率は80%を超えていますが、100%ではありません。これだけ徹底的に分別し、様々な仕掛けを施して町ぐるみでゼロ・ウェイストを目指していますが、その達成は非常に難しいのです。

これだけ努力しても、焼却ごみ・埋立ごみが排出されます。上勝町では、これを焼却ごみとは呼ばず、

どうしても燃やさなければいけないごみ・どうしても埋め立てなければならないごみ

と言っています。たとえ燃やすとしても、そこに至るまでの多くの人の協力と努力を大切にしている呼び方ですね。

8 くるくるショップでリユースを促進!

次に案内されたのは、「くるくるショップ」というおしゃれな空間です。高い天井からつり下げられた空き瓶のシャンデリア、きれいに陳列された陶器などが印象的でした。

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ショップと書かれていますが、陳列されている物品は無料です。町民がまだ使える陶器や子供服などを持ち込み、ここを訪れた人(町民でない人も含みます)は無料で持ち帰ることができるのですが、このネーミングを地元の小学生が考えたというのですから驚きです。ゼロ・ウェイストの町に暮らしていると、こういったリユースのアイデアが浮かんでくるものなのでしょうか。こうした子供たちが成長していくと、環境に優しい生活スタイルが自然と定着していくのだと感じます。

さて、くるくるショップでは、これまで持ち帰られたリユース品の重さが紹介されているのですが、ここで徳重さんから再びクイズが!

取材日時点で、持ち帰られたリユース品の重さは、下の画像のように「534キログラム」でした。これはどれくらいの期間で到達した重さでしょうか?

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筆者は、直感的に「年単位だろうな」と思ったのですが、答えはなんと1カ月。わずか1カ月で「534キログラム」がリユースされるとは、改めてゼロ・ウェイストの町の底力を感じました。

写真にも写っているのでお気づきかもしれませんが、くるくるショップの建具は規格がバラバラです。これらの建具は町内で公募をして集められたものです。数百の建具が集まったそうで、上勝町の職員もサイズを測りながら採用する建具を決めていったそうです。また、建物の構造材には町内産の杉が使われています。施工業者が決まってからだと、杉は乾燥などに時間がかかるので、施工業者を決める1年くらい前から、上勝町が町内産の杉を調達したそうです。

くるくるショップの仕組み自体も素晴らしいのですが、建物も地産地消、リユースの考え方が取り入れられています。「スタイリッシュ」な空間には、本当にいろいろな工夫が施されていて、手間をかけて丁寧に造られていました。

9 取材後記

ごみゼロの町と聞けば「すごい」と思いますが、正直なところ実感が湧きません。ごみを43種類に分別する経験がないので、想像がつかないのです。

しかし、実際にセンターを訪れ、そこで働く人などの話を聞いてみると、きれい事だけではない町の事情や、世の中の変化に巧みにキャッチアップしてきた歴史がありました。人を集め、情報を発信するためにスタイリッシュに造られた建物にもストーリーがあり、何より町の小学生のアイデアでくるくるショップが生まれたことには驚きました。

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長い時間をかけてジワジワと上勝町になじんできたゼロ・ウェイスト。企業がESGやSDGsに取り組む際のヒントがここにあると思います。外部の要請を受け、トップダウンで一気に進めなければならないタイミングもありますが、それを定着させるには、企業文化として根付かせていく仕掛けが必要だと感じます。

自然と共存して暮らす人々の魅力と、可能性に満ちた上勝町。この町が目指す未来を体感するため、ぜひ再訪したいと思いました。

以上(2025年4月作成)
(取材 日本情報マート 松田泰敏)

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画像:上勝町ゼロ・ウェイストセンター”WHY”
徳島大正銀行 泉 はる香
日本情報マート 松田 泰敏

【朝礼】初めて解剖図を見た杉田玄白の「焦り」

【ポイント】

  • 杉田玄白は初めて西洋の解剖図を見た際、「自分は人体のことを何も知らない」と焦った
  • 焦りが玄白を駆り立て、「解体新書」の完成という大仕事を成し遂げる原動力になった
  • 「自分の無知」を認めるのには勇気がいるが、認めると焦りが成長を後押ししてくれる

私たちのビジネス環境は、ここ数年で劇的に変わりました。特にAI技術の進化はすさまじく、ChatGPTなどの生成AIに文章を作らせてみても、少し前までは機械特有の不自然さがあったのが、ほんの短い期間で作家が書いたような滑らかな文章にレベルアップしている状況です。私たちは、こうしたビジネス環境の変化に頑張ってついていかなければなりませんが、なかには自分の仕事の進め方や常識をアップデートするのが苦手な人がいます。今日はそんな人に向けて、江戸時代中期に活躍した医者・杉田玄白(すぎたげんぱく)の話をします。

杉田玄白は、オランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を翻訳して日本語版の「解体新書」を完成させ、西洋医学の知識を世に広めた人物です。今、さらっと翻訳と言いましたが、当時の翻訳はとても大変な作業でした。現代であれば外国語を即座に日本語に訳してくれるアプリなどもありますが、当時は辞書すらなかったのです。ましてや医学書は専門用語のオンパレードで、作業は困難を極めます。しかし、玄白は4年の歳月をかけて、この大仕事を成し遂げました。

それは、玄白の中に「自分は医者なのに、人体のことを何も知らない」という焦りがあったからです。当時の日本の医者は、患者の体の外側だけを見て治療の方針を決めていたため、玄白を含め、体の内側を見たことがある人はほとんどいなかったのです。あるとき、処刑された囚人の解剖に立ち会った玄白は、ターヘル・アナトミアの解剖図と本物の人体を見比べ、解剖図の精巧さに衝撃を受けます。「人体のことをもっと知らなければ……」という焦りが玄白を翻訳へと駆り立てました。

自分が知らない知識に出会ったとき、「難しそうだからいいや」とそれを遠ざけたり、表面的な情報だけを見て「大したことない」「自分には必要ない」と決めつけてしまったりする人がいます。おそらく「自分の無知を認めたくない」という一種の防衛本能なのでしょうが、それでは今以上の成長はあり得ません。知らない知識に出会ったときこそ、まずは勇気を出して、「自分は無知だ」と認めましょう。私自身も経験がありますが、一度認めてしまえば、あとは物事を知らないことへの焦りが「勉強しよう」という原動力になって、成長を後押ししてくれます。その焦りは、玄白が証明しているように、時に偉業を達成するほどの大きな力を授けてくれるのです。

以上(2025年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

インターンシップ採用! 社長の言葉と泥臭さが学生に受ける?

1 インターンシップは採用チャンス!

かつてはインターンシップを採用選考に組み込む「インターンシップ採用」は御法度でしたが、2025年卒生からは条件付きで緩和されています。ということで、各社ともインターシップ採用を取り入れようとしています。そして、このインターシップ採用、実は中小企業にとってはチャンスです。なぜなら、

中小企業のインターンシップは実践的で、社長が泥臭く語りかけることができる

からです。特に、起業前の就業先を探している学生や、実業に触れたい学生には魅力的ですし、就業体験を経た上での採用なら入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。

この記事では、中小企業がインターンシップ採用に取り組む際のポイントを3つ紹介します。

  • インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ
  • 泥臭く、「現場感」を前面に出す
  • 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

2 インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ

文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」では、学生のキャリア形成支援活動が図表1の通り、4つに類型化されています。いわゆる「インターンシップ」はタイプ3とタイプ4ですが、タイプ4は主に理系大学院生を対象とするので、

多くの企業に関係するのはタイプ3の「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」

です。

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025年卒生から、タイプ3とタイプ4で得た学生の情報を採用活動で利用できるようになっています。具体的には、

インターンシップに参加した学生に求人案内を送る、選考過程を一部免除するなど

といったことができます。ただし、そのためには産学協議会(日本経済団体連合会と大学関係団体等の代表者により構成)基準に準拠した、図表2の5つの要件を満たす必要があります。

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5つの要件を満たすことが理想ですが、これらは法律のような強制力があるものではないので、しゃくし定規に従う必要はないともいえます。それよりも、中小企業は学生に自社の良さをアピールできるプログラムの検討に注力するべきでしょう。

以降では、中小企業がインターンシップを実施する上でのポイントを紹介します。

3 泥臭く、「現場感」を前面に出す

インターンシップの参加者を集めるには、

大学のキャリアセンターや就活サイト、自社ウェブサイトなどで時期や期間、内容などの要項を告知する

といった方法があります。ただ、形式的な内容を出しても学生の興味はひけないので、より現場感のある発信をすべきです。例えば、外構工事業を営むある会社では、自社ウェブサイトで、

  • そもそも外構とは何なのか
  • スタッフの1日の仕事の流れ
  • 職場で達成感や満足感が得られる理由

などを、イラストや写真付きで分かりやすく紹介しています。また、SNSの動画サイトで自社の事業や社員の仕事内容をアニメーションで紹介しており、動画の最後にインターンシップや会社訪問を常時受け付けている旨と受付用の連絡先を記しています。こうした募集は、

業界に興味があるけど、自分が実際に仕事をするイメージが湧かない。もっと“現場感”のある話が聞きたい

という学生の興味をひくはずです。

こうして参加者を集めることができたら、時間がゆるす限り社長も参加者と交流しましょう。中小企業の魅力は社長の魅力でもあります。社長が語る内容は、学生にとってかなりエキサイティングなはずですし、恐らく大学の講義では教えてくれないもののはずです。

なお、最近はオンラインでインターンシップを行うケースも増えています。オンラインにするか対面にするかについては、内容によって次のように使い分けるとよいでしょう。オンラインと対面を交互に行うのもよいでしょう。

  • オンライン:会議や説明、情報収集、個人の作業など
  • 対面:職場の見学、クライアントへの訪問、社員のサポートなど

4 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

インターンシップはやりたいが、本業が忙しくてなかなかリソースを割けないという会社は少なくありません。そんな場合におすすめしたいのが「1dayインターンシップ」です。

1dayインターンシップとは、文字通り、1日限りのプログラムであり、インターンシップにあまり時間を割けない場合に有効です。また、何日もかけてダラダラとインターンシップを行うよりも、充実した1日を過ごしてもらいつつ、自社に興味を持ってくれた学生に個別にアプローチするほうが中小企業にとっても効率的です。

例えば、情報通信業の会社が行う1dayインターンシップのプログラム例としては、

  • 午前:IT業界の現状や将来像に関する説明会
  • 午後:要件確認、設計、プログラム、テスト、完成報告を疑似体験

といったものが考えられます。一方、1dayインターンシップを基本としつつ、意欲のある学生に対しては必要に応じて中長期のインターンシップを実施するという方法もあります。例えば、建設業などを営むある会社では、

  • 工場見学、ものづくり体験:数時間から1日
  • より実践的な業務体験(ポンプの分解点検、レーザー加工など):5日から2週間

といった具合に、インターンシップの実施期間について複数の選択肢を設けています。会社が割くべきリソースは増えますが、選択肢を設けることで、より意欲のある学生を見つけやすくなるメリットがあります。なお、この会社ではインターンシップを実施する際、

会社が事前にあれこれ決めず、学生の希望に合わせてどんな内容にするかを検討していく

という方法を取っています。大企業の場合、参加人数の関係で日程や内容をある程度画一的にせざるを得ませんが、この辺りを柔軟に調整できるのは、中小企業ならではの強みといえます。

5 (参考)インターンシップの日数、学生側の要望など

最後に、「インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター」が2026年卒生に対して実施したアンケート調査(2024年9月実施)から「プログラム期間別の参加状況」「インターンシップ等の期間別プログラム内容」「インターンシップ等に参加して良かった点(参加日数別)」のデータを紹介します。

プログラム期間別の参加状況は図表3の通りです。多くの学生が半日または1日のインターンシップに参加しているようです。

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インターンシップ等の期間別プログラム内容は図表4の通りです。「業種や企業の説明を受ける」はプログラム期間に関わらず、いずれも7割以上となっています。また、ワークやディスカッション、職場見学、業務の一部を経験するといったプログラムの場合は、時間をかけて実施するケースが多いようです。

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インターンシップ等に参加して良かった点(複数回答)は図表5の通りです。参加日数に関係なく、「業種や仕事などについて具体的に知ることができた点」が多くの学生の満足感につながったようです。

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以上(2025年5月更新)

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経営課題の解決に「地方副業」マッチングサイトを使ってみよう

1 地元の正社員採用に限界を感じたら、都市部の副業人材を!

今どきはどの会社も採用活動に苦戦していますが、特に地方企業の経営者の場合、

  • これまで、地元に住んでいる人を正社員として採用してきたけど、それだけでは自社の課題を解決できない
  • 販路拡大や自社PRなど新たな取り組みを始めたいけど、社内に知見のある人がいない。専門的な人材を採用するにも、高額な人件費をかけることができない

といったことにお悩みかもしれません。

そんな地方企業の経営者の方々にお勧めしたいのが

「地方副業」マッチングサイト! 都市部の優秀な人材に、原則オンライン勤務という条件で業務を委託するサイトの活用

です。都市部で働く年収1000万円クラスの優秀な人材も、月額数万円程度でサポートしてくれるオトクな仕組みで、一般的に1件の募集につき15~18人の応募があります。何人と面談しても追加料金がかからず、採用してみて合わないと感じたら契約を打ち切ることもできます。

実際に地方副業のマッチングサイトを運営する4つの会社・団体の担当者に、

  • 地方企業が都市部の優秀な副業人材を募集・迎え入れる際のポイント
  • 副業人材を活用した地方企業の成功事例

などを聞きましたので、以降で紹介します。自社に新しい風を吹き込み、成長を軌道に乗せるための起爆剤としての副業人材の活用を、ぜひ、ご検討ください。なお、お話を伺った会社・団体と、それぞれが運営するマッチングサイトは、次の通りです(「」内がマッチングサイトの名称です)。

■NPO法人ETIC.(エティック)(東京都渋谷区)「YOSOMON!」■
https://yosomon.jp/
■みらいワークス(東京都港区)「Skill Shift」■
https://www.skill-shift.com/
■パーソルキャリア(東京都港区)「HiPro Direct for Local」■
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/for-local/top/
■リクルート(東京都千代田区)「サンカク」■
https://sankak.jp/

2 副業人材の採用は双方にwin-winなシステム

地方副業は、企業側、副業人材側の双方にメリットがあります。地方副業のマッチングサイト運営者に聞いた、企業側、副業人材側のそれぞれがマッチングサイトを利用する理由には、次のようなものがあります。

1)企業側がマッチングサイトを利用する理由

1.正社員よりも低価格、短期間で優秀な副業人材に仕事を依頼できる

副業人材の応募者の平均年齢は30~40代が7割以上で、正社員が6割程度、フリーランスが4割程度といいます。

  • 正社員の人が自身のスキルを試すために副業をはじめ、慣れてきたらフリーランスに転身するケースもあるそうです(Skill Shift)
  • 特に、30代後半が年齢のボリュームゾーンとなっており、現場で働きつつ、マネジメント経験もある人材が中心(サンカク)
  • 本業での年収は600万円超が7割近くを占めており、2割は1000万円超と、本業である程度の実績があり、十分な稼ぎのある人が応募している(Skill Shift、サンカク)

こうした優秀な人材にもかかわらず、副業人材に支払う月額の報酬は、Skill Shiftでは月額5万円と、正社員よりも割安で仕事を依頼することが可能です。

マッチングサイトには、

  • 採用の有無にかかわらず案件の掲載費用が発生するもの
  • 案件の掲載や副業人材との面談までは無償で、副業人材を採用した段階で費用が発生する成果報酬型のもの

などがあります。例えば、サンカクの場合、副業人材とマッチングした場合に費用が発生しますが、案件を募集する文面の作成や応募者との座談会、面談に関しては、無償でサポートを受けることができます。

採用期間も「原則1カ月単位」(YOSOMON!)、「半年以上のプロジェクト」(サンカク)などで、募集した案件の事業が終了したり、マッチング後に事業がうまく進まなかったりした場合、速やかに契約を解除できます。

後述しますが、応募者の多くは、報酬目当てではなく、募集企業への共感や、地方への貢献、自らのスキルアップなど、高い“志”を持っているので、共に成長できる“同志”を見つけられる可能性が高いといえるでしょう。

2.買い手市場となっているため、人材の選択肢が広い

全てのマッチングサイトの担当者が口をそろえて話すのが、「今は買い手市場」ということです。サイトや案件によっても異なりますが、

  • 1件の募集に対して、15~18人程度が応募してくる
  • 応募者は企業の思いに共感して、企業に貢献できる自分のスキルを理解した上で応募するため、「質」が高い

そうです。

どのマッチングサイトでも、自社都合で募集を取り下げるケースなどを除き、ほとんどの場合は副業人材を迎え入れているといいます。

なかには、複数人との副業人材との座談会や面談をした結果、良いアイデアがたくさん出たため人数を絞りきれず、当初の予定よりも多く副業人材を迎え入れたケースもあるそうです。

もし、人選が難しい場合は、募集内容に適した能力や意欲の高い人材を、マッチングサイトの担当者が選んで薦めてくれることもあります。

3.面談だけでも優れた知見やアイデアを得ることができる

一般的に、マッチングサイトは何人の応募者と面談しても追加料金がかからないので、時間さえ都合がつけば、応募者全員とオンラインで面談することが可能です。

  • それぞれの募集案件で、少なくとも5人の副業人材を集めて座談会を開いているケースもある(サンカク)
  • 面談では応募者側が募集内容に応じた提案をしてくれるため、提案を聞くだけでも参考になるとして、「応募者全員と面談をした旅館業者もいる(Skill Shift)。

4.自社が抱えている課題を明確にできる

副業人材の採用活動を通して、自社に潜む本質的な課題が見つかったり、新たな課題を解決するための方法が分かったりすることも少なくないようです。

  • 企業が副業人材を募集しようとする段階では、「『DX化を進めたい、販路を拡大したい』など、思いはあるものの、必要な機能や人材などの明確な要件定義ができていないことが多い(サンカク)

このため、マッチングサイト運営者のサポートや応募者からの提案によって、本質的な課題や、課題解決のために必要な人物像や解決策が導き出されるケースが多いようです。

2)副業人材側がマッチングサイトを利用する理由

1.企業への共感

副業を志望する理由として、報酬も重要な一方で、その企業への共感や、その企業を応援したいという気持ちで応募する人が多いといいます。

  • 副業先の企業が気に入って、そのまま転職したケースもある(Skill Shift)。

2.地域貢献、地方創生

自分の出身地や住んだことがある場所、旅行で訪れて気に入った地域など、思い入れのある地域の企業に、移住・転職を伴わず貢献できることを魅力に感じて応募する人も少なくありません。

  • 将来的に地方への移住や出身地に戻ることを検討しており、その地域を知る足掛かりとして副業を始める人や、地方の人とのつながりを楽しんでいる人もいる(HiPro Direct for local)
  • もともと地方の出身者で、地元とのつながりを持ちたい、都市部で得たスキルや経験を還元したいという思いを持った人もいる(サンカク)

3.キャリアアップ

正社員として勤務している企業では経験できないような、経営企画などの業務を副業として行うことで、自らのキャリアアップにつなげることを目的としている人もいるそうです。

  • 副業人材にとってのメリットは、経営陣と直接仕事のやり取りができ、自分のアイデアで会社が変わっていく様子を目の前で実感できること。マネジメントになった人事部門の部長クラスの人が、現場の感覚を忘れないために応募するケースもある(サンカク)

4.日常では得られない体験

日常の中では得られない体験を求めて、地方副業に応募するケースもあります。

例えば、Skill Shiftでは、現地の視察と絡めた副業体験として、福島県いわき市で2泊3日のクラフトビールの発展に向けた課題解決プログラムと、参加者によるクラフトビール発展のためのアイデアのプレゼン大会を開催しました。

また、スポーツによるまちおこしとして、アメフト社会人リーグ・Xリーグのクラブチームの広報・PRの副業案件もあります。他の副業案件と比較して謝礼が低額となる代わりに、オフィシャルポロシャツの贈呈や練習・試合観戦の特典があり、通常の副業にはない珍しい体験といえます。

他にも、漁業・水産業者向けに特化した地方副業のマッチングサイトである「GYOSOMON!」(ギョソモン!)では、副業人材への報酬は金銭ではなく「魚」となっています。このサイトはYOSOMON!が共同で運営しており、「応募者は、副業の報酬として、ご近所などに配らないといけないほどの大量の魚が送られてくるという、日常ではできない体験に魅力を感じる人が多い」といいます。

3 副業人材を募集・採用する際の勘所

1)自社のファンになってもらう

副業人材に共感してもらうには、自社のファンになってもらえるPRを行うことが重要です。

  • 募集の文面を作る際は、企業が目指している姿や、社内の人が気付いていないような、企業の魅力を掲載するようにしている。副業人材との面談でも、企業の実現したいことや、企業ならではの魅力を話すとよい(HiPro Direct for Local)。

2)募集する業務を絞るよりも課題を示す

副業人材とのマッチングに成功する秘訣は、「経営課題を示す」ことにあるようです。

  • 「業務のアウトソースとは異なる」ことを意識し、「経営課題を一緒に考えてくれるパートナー」というイメージで採用すべき(Skill Shift)。
  • 募集に際しても、「これをしてください」と細かく決めるより、今、企業がどんなことに取り組んでいて、どんな困り事があるのかを掲載して、協力、支援をしてほしいというニュアンスの文面のほうがよい(YOSOMON!)

3)経歴や肩書だけで選ばない

マッチングサイト運営者の多くは、採用に関しては、経歴や肩書にとらわれず、熱意や提案内容を重視すべきといいます。

  • 経歴や条件面よりも、企業や地域への思いがどれだけあるか、企業の課題に対してどんなアイデアで解決できるかという視点で選考をしている企業が、副業人材とうまくマッチする(Skill Shift)
  • 副業人材側も企業の募集案件をきちんと読み込んだ上で応募をしているので、経歴や条件面よりも、面談を通じての相性・フィーリングで採用する人材を判断するほうがマッチする(YOSOMON!)

また、「上から目線」の応募者は避け、“同志”としてふさわしい人材を選んだほうがよいようです。

  • 面談をした応募者の「一緒に汗をかきましょう」という言葉を聞いて採用を決めた企業もある(サンカク)

4)既存の社員を巻き込む

副業人材の働き方としては、経営者のブレーンのような形で相談相手になる場合と、既存の社員と協業する場合があります。

既存の社員と協業する場合、社員が副業人材の存在に反発して、マッチングがうまくいかないケースもあるようです。

副業人材を採用する場合、ノウハウを社員に落とし込むことも大切なので、副業人材との面談は、経営者だけでなく、現場の社員も参加できるとよいでしょう。事前に社員のコンセンサスを得ておき、「社長が思いつきで変なことを始めた」と思われない状態からスタートすべきといえます。

5)副業人材の稼働時間を考慮する

副業人材の場合、本業以外の時間帯で稼働するため、自社の就業時間外や週末にやり取りをすることがあります。オンラインでも円滑にやり取りするために、チャットツールなどの用意は必須になります。副業案件によって異なりますが、週1回~月1回の頻度でオンライン面談を開き、それ以外はチャットツールを活用して、副業人材とやり取りを進めているケースが多いといいます。

課題だけ明示する形であれば、副業人材のほうで必要な作業を、自分でスケジュールを立ててやってくれるようになります。

6)時には顔合わせも必要

副業案件の多くはウェブマーケティング、ECサイトの強化、事業戦略の立案など、リモートワークでも進められるものですが、お互いの理解を深めるためにも顔合わせは必要です。

企業によっては、プロジェクトを始める際に副業人材を企業側の費用負担で現地に招き、顔合わせをして親睦を図ったり、設備や工場を見学してもらったりして、自社への理解を深めてもらう取り組みをしているところがあります。副業人材の側から、現地で顔を合わせることを希望するケースも少なくないようです。

4 副業人材の成功事例

1)副業人材がファシリテーターになって社員のアイデアを募集(HiPro Direct for Local)

来客数増加を課題にしていた、地域に数店舗を展開するスーパーマーケットが契約した副業人材は、既存の社員からのアイデアを募集することを提案しました。副業人材がファシリテーターになって社員を集めた会議を開催したところ、社員からさまざまなアイデアが出され、実際に採用したアイデアも生まれたそうです。

会議を行うことによって、社内コミュニケーションの活性化にもつながったといいます。

2)ECサイトの全面改修などで売り上げが前年度の17倍に(サンカク)

石川県のある和菓子製造販売会社では、ECサイトのテコ入れが課題となっていました。当初、経営者はSNSの活用によるテコ入れを想定して副業人材を募集しましたが、応募者を集めた座談会では、応募者側からサイトの改修などさまざまな提案が出て、応募者同士でも提案のブラッシュアップが行われるなど、盛り上がりを見せたといいます。

そこで経営者は座談会に参加した応募者5人を、それぞれ担当分野を決めた上で採用し、社内の若手社員数人とともにプロジェクトチームを結成。ECサイトの全面的な改修だけでなく、デジタルマーケティング戦略の上流から再設計し、企業のウェブページとECサイトを含めて最適化に取り組んだことで、ECサイトによる売り上げは前年度の17倍に達したそうです。

劇的な成果を目の当たりにして、既存の社員のモチベーション向上や育成にもつながり、新たなスキルを身に付けようと、自ら勉強を始める社員も現れるようになったといいます。

3)能登半島地震被災した和菓子店舗の再建プロジェクトで副業人材が活躍(Skill Shift)

石川県珠洲市にある創業116年の和菓子店「多間栄開堂」は、令和6年能登半島地震の影響で、店舗(工場含む)兼自宅が全壊の認定を受け、更地となってしまいました。周りからの応援もあり、菓子製造店舗の再建を決意し、クラウドファンディングで資金調達をすることを目的に、副業人材を募集しました。

募集の結果、令和2年に熊本県人吉市で豪雨災害があった際に、地域の中小企業で支援するセンター長として30件のクラウドファンディング支援の経験のある方が副業人材としてマッチングし、プロジェクトを推進しています。目標金額を2倍以上も上回る結果となりました。

以上(2025年5月更新)

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甘い組織ではない「心理的安全性」のつくり方

1 「心理的安全性」は決して甘いものではない

経営環境が劇的に変化する中で、組織の意思決定にもバージョンアップが求められています。社長や一部の幹部が過去の経験で「えいやっ!」と決めるスタイルでは、今の延長線でしか進むことができず、新しい発想が生まれてこないからです。

会社は社内外から幅広く意見を募り、それを受け止めて議論できる組織に生まれ変わる必要があり、それを実現するキーワードが「心理的安全性」です。

心理的安全性を確保するとは、社員が「これを言ったら間違えているかもしれない……」などと考えて、意見を言いにくくなってしまう環境を改善すること

でもあります。「それだと、相手に遠慮するだけの甘い組織になってしまうのでは……」と思うかもしれませんが、大きな誤解です。心理的安全性を解説する「恐れのない組織――『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」に次のような一節があります。

  • 心理的に安全な環境で仕事をすることは、感じよくあるために、誰もがいつも相手の意見に賛成することではない。あなたが言いたいと思うあらゆることに対して、明らかな称賛や無条件の支持を得られるわけでもない。むしろ、その正反対だと言ってもいい。心理的安全性は、率直であるということであり、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換し合ったりできるということなのだ。
  • 心理的安全性とは、高い基準も納期も守る必要のない「勝手気ままな」環境のことではない。職場で「気楽に過ごす」という意味では、決してないのだ。このことは肝に銘じておいたほうがいい。(*)

どうでしょう。心理的安全性に対する印象が変わりますよね? 言い換えれば、

心理的安全性とは、社員が組織の一員として自覚を持ち、共通の目標を達成するために、学習を通じて自らを高めていけること

であり、むしろ、見方によっては厳しいことなのです。この心理的安全性の確保を意識しながら議論し、決断できる組織に変革していくためのヒントをご提案していきます。

2 優秀な社長が生み出す集団圧力と集団浅慮のわな

一般的に、組織における意思決定は個人よりも合理的に思えます。しかし実際は、個人ならまず下さないような筋の悪い決断をしていることがあります。いわゆる「集団圧力」の影響です。ピア・プレッシャーや同調圧力ともいわれるもので、要は、

少数意見を持つ人に対し、多数派と同じ意見にするように無言の圧力をかけること

です。客観的に見て少数意見のほうが正しくても、「その他の多数と違うので、間違えているのだろう」と、意見の正当性が否定されてしまいます。「集団浅慮(グループシンク)」という問題もあります。集団浅慮とは、

早く結論を出すことにとらわれ、きちんと検討せずに決めてしまうこと

です。その結果、プランA~Cがあったとして、最もリスクが高いプランCを「何とかなるさ。早くこれに決めて実行しよう!」と決断してしまいます。

これまでの研究から、集団圧力や集団浅慮が生じやすい組織の特徴として、

  • 集団の結び付きが強い
  • 外部から隔離されている
  • 優秀で強いリーダーがいる

などが考えられています。つまり、

長年、社長がコツコツと作り上げ、収益も安定している組織こそ、実は間違えた決断をしてしまうリスクが高い

ことが分かります。今、こうした組織体制を見直すことが求められています。

3 間違えた判断プロセスから脱却するには?

では、どのようにすればよいのでしょうか? その答えが冒頭で紹介した「心理的安全性の確保」です。社員が発言しないのは、「自分自身が無知・無能である」と思われたくないからなので、これを何とかする必要があります。

ただし、「よし!」とばかりに社長が旗を振って声高に推進すると、上層部の結束が強い組織ほど、幹部たちが真っ先に反応します。幹部たちは社長におもねることなく、ただ改善を成功させたいという思いから、いつも以上に大きな声で意見を出すわけです。ただ、この光景を客観的に見ると、一部の人だけが意見を言い、それによって判断されるという【いつものあれ】になっているわけです。

組織を変えたければ若手を巻き込むべきです。「若手でも意見を言える」という事実は、社員に大きなインパクトを与えるからです。これを実行する際のヒントになりそうなことを、宇宙飛行士の野口聡一さんが過去にテレビのインタビューで答えていたので紹介します。あくまで筆者の解釈ですが、内容は次の通りです。

  • 明確な指示:しっかり教え、分かりやすく教えてほしい
  • 承認:自分の意見を認めてほしい
  • 責任:失敗しても、その責任をとってほしい(**)

これを実現することが、若手から意見を吸い上げるための1つのヒントになるでしょう。筆者はここに、

  • 事前確認:会議などの前に発言を求めることを伝える

を付け加えたいと思います。いきなり話を振られた若手が混乱することがないように、事前に「意見を求めますよ」と伝えておくわけです。こうして実際に若手が意見をいったら、ぜひ、試していただきたいのが、いわゆる「おうむ返し」です。若手の発言を、社長や幹部がそのまま繰り返します。若者からすると、

相手は自分の意見をしっかり聞いてくれて、否定もしていない

となります。ここを起点に議論が始まればよいわけです。

4 ノイズは排除する

組織の議論を活発にするために、社長や幹部が果たすべき役割は非常に大きなものです。また、この活動は根気よく続けなければなりません。

これを踏まえた上で最後に補足をすると、出てくる意見の全てを受け入れる必要はありません。同じテーマで議論をした場合、議論の中身やアウトプットの質は「メンバーの本気度×能力×知識」で決まることは間違いありません。そのため、

  • 明らかに見当違い
  • 勉強不足でレベルが低い
  • 自身の保身しか考えていない

などの意見はノイズでしかないので、相手にする必要はありません。逆にいえば、

(経営者)その意見って見当違いなんじゃない。何を根拠に言っているの?

(若手)あ、確かに。私がズレていましたね

などと気兼ねなく言える関係を、心理的安全性が確保された状態というのでしょう。

【参考文献】
(*)「恐れのない組織――『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」(エイミー・C・エドモンドソン(著)、村瀬俊朗(解説)、野津智子(訳)、2021年2月)
(**)「ワールドビジネスサテライト“究極のテレワーカー”野口聡一宇宙飛行士の仕事術(2021年4月19日)」(テレビ東京、2021年4月)

以上(2025年6月更新)

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採用ミスマッチゼロへ! 強いチームを作る「職務記述書」のコツ

1 職務記述書とは

社員を採用する際の方針は、

  • ジョブ型雇用:あらかじめ特定の職務をこなせる社員を採用
  • メンバーシップ型雇用:自社の理念に共感をしている社員を採用

に分けられます。専門職採用や中途採用の場合、一般的にはジョブ型雇用が向いています。そこで使われるのが「職務記述書(ジョブディスクリプション)」という、

職務内容(担当業務の内容、難易度、必要なスキルなど)をまとめた書類

です。募集要項と似ていますが、募集要項は待遇面の説明が中心で、担当業務の内容は簡単に紹介する程度です。

ジョブ型雇用では、職務記述書に記載された職務をこなせるかどうかが、採用の可否や待遇を決定する判断基準になります。ですから、職務記述書をうまく活用すれば、

  • 「採用してみたらスキルなどが期待外れだった」などの採用ミスマッチを解消する
  • 「やる気がある」などの曖昧な基準での人事評価をやめ、賃金や人員配置を適正化する

といったこともできます。この記事では、職務記述書の作成プロセスとサンプルを紹介します。

2 職務記述書の作成プロセス

1)知る:募集ポジションの職務内容や就業環境についてヒアリングする

職務記述書は、募集ポジションの職務について、業務内容やその難易度、必要なスキルなどの詳細を1つずつ洗い出して作成します。経営者も社内の職務内容は把握していますが、もっと細かいレベルまで落とし込む必要があるので、現場の声を聞きます。

まずは、対象の職務を行っている社員やその上司にヒアリングを行い、募集ポジションの職務内容や就業環境について、経営者自身が誤った認識をしていないか確認します。例えば、次のような質問例が考えられます。

【現職の社員への質問例】

  • 定期業務

重要度の高い業務の内容

発生頻度(1カ月にどのくらい行うか、という表現でOK)

  • 人間関係

リポートライン(タスクの遂行や進捗報告などのコミュニケーションのフロー)

意思決定プロセス(意思決定者は誰か、自分の裁量範囲はどのくらいか)

  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 業務で難しいこと・厳しいこと(具体的な内容、乗り越えるための技術やコツ)

【上司への質問例】

  • 責任の範囲(どのくらい裁量があるか)
  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 入社後に苦戦しそうだと予想されること

2)分析する:職務をこなすために必要なスキルなどを掘り下げる

ヒアリングの結果、経営者と現場の認識にズレがなければ、職務をこなすために必要なスキルなど(技能、知識、資格、経験など)を列挙します。会社の求めるスキルなどを全て兼ね備えた求職者にはなかなか出会えないので、次のように優先順位を決めます。

  • スキルなどがない場合、職務を一切行えないのか、一部なら遂行可能なのか
  • 研修で習得させることが可能か、その場合の期間やコストはどの程度か

3 職務記述書のサンプル

次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

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「職務内容」「必要な知識」などは、現職の社員や上司へのヒアリングの結果などを基に、できるだけ詳細に書き出します。「目標(ノルマなど)」も記載すると、求職者に対してより鮮明に仕事のイメージが伝わります(目標設定が複雑になる場合は、別紙などで提示)。「期待される特性」は、会社のミッションやビジョンにも関係する重要な項目ですので、会社として何を大切にしているかが求職者に伝わるよう、メッセージを工夫しましょう。

また、職務記述書を作成する際は、厚生労働省の「職業能力評価基準」も参考になります。

職業能力評価基準とは、仕事をこなすために必要な「知識」「技術・技能」「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもの

です。

■厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04653.html

以上(2025年5月更新)

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