【外国人雇用】留学生を募集できる5つのルートと雇用に関するトラブル防止のポイント

1 初めての外国人雇用、まずは留学生から当たってみよう

「日本人でなくてもいいから、優秀な人材が欲しい」「海外進出したいから、現地の言葉が話せる外国人を雇いたい」などと言いつつ、日本との言語や文化のギャップが不安で、なかなか外国人雇用に踏み切れない……。こうした経営者は少なくないかもしれません。

そんな場合に検討したいのが「留学生の雇用」です。コンビニや飲食店での働きぶりを見ていると気付くかもしれませんが、彼らは日本に来てからある程度の期間が経過しているため、日本語や日本の文化に精通している人も多いです。つまり、

留学生を雇用すると、海外に居住している外国人を日本に呼ぶよりも、会社に早くなじめる可能性がある

というわけです。

一方で、「どこに求人を出せばいいのか分からない」「言語の違いや在留資格などでトラブルにならないか不安」などの理由から、留学生の募集に踏み切れない人もいるでしょう。まずは、

  • 大学への求人情報など、留学生を募集するためのルートを知ること
  • 在留資格など、雇用に関するトラブル防止のポイントを押さえること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 留学生を募集するための5つのルート

1)大学への求人情報の提供

留学生を募集する一番シンプルな方法は、彼らが通っている大学と連絡を取ることです。具体的には、学内のキャリア支援課や留学生支援室に、求人案内を出します。まずは会社のことをよく知ってもらいたいということであれば、インターンシップの募集や学内説明会への参加から始めてみるのもよいでしょう。

ちなみに、日本学生支援機構が運営する日本留学情報サイト「Study in JAPAN」では、留学生の受け入れ・就職支援に力を入れている大学の情報、求人案内やインターンシップの受け付け状況が分かります。

■日本学生支援機構「Study in JAPAN」■
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/

2)留学生を対象とした合同会社説明会や交流イベントへの参加

人材紹介会社や地方自治体、地元の商工会議所などが主催する合同会社説明会や交流イベントに参加すると、一度に多くの留学生と接点をつくることができます。会社が求める人材像やスキルなど具体的な話もしやすいです。

例えば、東京外国人材採用ナビセンターでは、都内の中小企業と外国人のマッチングなどを目的とした合同会社説明会を開催しています。

■東京外国人材採用ナビセンター■
https://tir-navicenter.metro.tokyo.lg.jp/

3)人材紹介会社からのあっせん

1.大手人材紹介会社

大手人材紹介会社では、留学生を紹介するエージェントサービスを提供しています。人材紹介会社ごとに詳細は異なりますが、多数の登録者の中から人材紹介会社がスクリーニングを行い、顧客である会社のニーズに適した人材を紹介するというサービスが一般的です。

例えば、マイナビの「グローバル人材紹介(Global Agent)」では、「理系を専攻している」「特定言語が話せる」といった外国人留学生に対する会社側のニーズに沿って留学生を探すことが可能です。また、サイト内で留学生のための特集ページや留学生を採用する会社の検索機能を設ける取り組みもしています。

■マイナビ「グローバル人材紹介(Global Agent)」■
https://ag.global.mynavi.jp/

2.特定の国や業種に強い人材紹介会社

海外進出する地域が決まっていたり、自社の業種が特殊だったりする場合は、特定の国や分野の留学生の紹介に強みを持つ人材紹介会社を頼るのも一策です。

例えば、ASIA Link(アジアリンク)は、東アジア、ASEAN諸国の留学生の紹介を強みとしています。同社では、経営者と留学生の合同会社面談会だけでなく、会社の採用ニーズに合わせて留学生を1人ずつピンポイントで紹介する個別紹介サービスも手掛けています。

他にも、Funtoco(ファントコ)では、介護・宿泊・外食といったサービス業での外国人人材の紹介に強みがあります。

■ASIA Link(アジアリンク)■
https://www.asialink.jp/
■Funtoco(ファントコ)■
https://funtoco-inc.com/

4)公的機関からのあっせん

厚生労働省管轄の外国人雇用サービスセンターでは、留学生の就職支援、会社向けの情報提供、留学生との面接会、インターンシップなどを行っています。いわば「外国人専門のハローワーク」で、東京、名古屋、大阪、福岡にそれぞれ設置されています。

また、厚生労働省が運営する「外国人雇用管理アドバイザー制度」では、ハローワークを窓口として、外国人の採用や労働条件に関する課題、生活上の悩みなど、外国人雇用に関する幅広い事項について無料で相談を受け付けています。

■厚生労働省「外国人雇用サービスセンター」一覧■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12638.html
■厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー制度」■
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm

5)SNS・アプリを使ったダイレクトリクルーティング

会社がFacebookやLinkedInなどのSNSに自社アカウントで求人情報を投稿すれば、大学や人材紹介会社を介さずに、留学生と直接やり取りができます。いわゆる「ダイレクトリクルーティング」です。求人情報以外にも、実際に社員が働いている様子や社内で開催しているイベントの様子などを投稿すれば、会社の雰囲気をよりリアルに留学生に伝えられるでしょう。

「WORK JAPAN」や「ギフコネ」など、外国人専用の職業仲介アプリを使う方法もあります。アプリであれば、求人票の掲載から面接調整、結果通知がオンラインで完結するので、スピーディーに採用活動を進められます。

3 言語の違いや在留資格などに注意する

1)言語の違いに配慮した募集・選考

留学生が日本での生活に慣れているとはいえ、日本語能力のレベルは人によってまちまちです。「当然、日本語は分かるだろう」という先入観にとらわれると、募集の際、留学生との意思疎通がうまくいかず、トラブルになりかねません。ですから、日本語能力にハンディを抱える留学生にも自社の情報が伝わるよう、募集方法を工夫しましょう。

例えば、採用サイトで情報発信をする場合、日本語版の採用ページにひらがなをつける、英語版の採用情報ページを設けるなどの工夫をします。また、すでに外国人を雇用している会社であれば、採用面接の際にその社員に同席してもらうなどの配慮もあるとよいでしょう。

なお、募集・選考に先立って、留学生にどの程度の日本語能力を期待するかの方針を決めておきましょう。日本語が堪能なのに越したことはないですが、例えば、

  • コンサルティング業務などは、日本人の顧客と接する機会が多い場合、高い日本語能力が求められる
  • 研究開発職などは、英語や技術用語を使うことが多い場合、日常のコミュニケーションが図れる程度の日本語能力があればよい

など、入社後の業務内容によって必要とされるレベルは異なります。

また、雇用の際に交付する「労働条件通知書」にも注意しましょう。会社と留学生との間で、労働条件について認識のギャップがあると、後々トラブルになる恐れがあります。厚生労働省では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など13カ国語に対応した「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を公表しているので、留学生の出身国に合わせて活用するとよいでしょう。

■厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」(下記URL中段)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html

2)在留資格の確認

1.業務内容に応じた在留資格への変更

留学生を卒業後に正社員として雇用する場合、在留資格を「留学」から、業務内容に応じたものに変更しないと、日本で働かせることができません。在留資格と対応する職業は、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 「技術・人文知識・国際業務」:機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私会社の語学教師、マーケティング業務従事者等
  • 「介護」:介護福祉士
  • 「技能」:外国料理の調理師,スポーツ指導者、航空機の操縦者、貴金属等の加工職人等
  • 「特定技能(1号・2号)」:特定産業分野(注)で一定の技能を必要とする業務の従事者

(注)特定技能1号の特定産業分野は、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業の16分野です。特定技能2号の特定産業分野は、この16分野から介護、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業を除いた11分野です。

在留資格の変更は、外国人の住所地を管轄する地方出入国在留管理局(出入国在留管理庁の地方支分部局、以下「入管」)に申請しますが、

申請してから新しい在留資格が許可されるまでは一定の期間があるので、場合によっては入社日の延期などが必要

になります。なお、トラブルにならないよう、求人案内や労働条件通知書には「在留資格が許可されていること」が雇用の条件である旨を明記しておきましょう。

在留資格が許可されると、入管から在留資格と在留期間(満了日)が記載された在留カードが発行されます。在留期間が満了すると国内で働けなくなるので、会社のほうでも在留期間を把握しておき、更新の手続きが滞らないようにしましょう。

この他にも、留学生の採用・雇用については、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)をはじめとした法令上の留意点があるため、詳細については、外国人の雇用に詳しい行政書士や社会保険労務士などの専門家、入管などに確認・相談するようにしましょう。

4 留学生採用の現状

1)日本国内の留学生数の推移

日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査」によると、日本国内の留学生数の推移は次の通りです。

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2023年5月1日時点の留学生数は27万9274人です。コロナ禍の入国制限が解除されたことに伴い、2022年の23万1146人と比べて4万8128人(約20.8%)の増加となりました。また、出身国別の留学生数は、1位が中国(11万5493人)、2位がネパール(3万7878人)、3位がベトナム(3万6339人)となっています。

2)留学生の国籍・地域別に見た採用者数の推移

出入国在留管理庁「留学生の日本企業等への就職状況について」によると、留学生の国籍・地域別に見た採用者数の推移は次の通りです。

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採用者数はアジア諸国が上位5位を占めています。特に、2020年からの3年間では、スリランカからの留学生が増加しています。スリランカでは国内の経済事情から人々が海外に向かう動きが強まっており、特に待遇面や日本の商品・文化に対するイメージの良さなどから、日本での就業を志す人が多いようです。

3)国は留学生の就職を後押し

文部科学省では、関係省庁等と協力し、留学生の就職支援に係るプラットフォームの構築など、留学生の受け入れ環境支援を進めています。また、留学生の採用に不慣れな会社向けに、「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」を公表しています。このハンドブックには、留学生の採用などにおける課題を整理できるチェックリストや、採用・活躍に向けた成功事例などが掲載されています。

■文部科学省「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」■
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/mext_00001.html

参考:採用に当たって利用できる機関・相談先

1)相談

■厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー制度」■
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/

2)情報提供

■出入国在留管理庁「在留支援」■
https://www.moj.go.jp/isa/support/index.html
■厚生労働省「外国人雇用対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/
■文部科学省「外国人留学生の受入れについて」■
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1306886.htm

以上(2025年1月更新)

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画像:pexels

マタハラ回避。育児休業中の社員に仕事を頼む際のルール

1 「育児休業中は、仕事はしない」が原則だけど……

育児・介護休業法の「育児休業」とは、

社員が子を養育するため、原則1歳まで休業できる制度

です。会社による「両立支援」の広がりもあり、育児休業の取得率は、女性が2007年度以降80%以上をキープ、男性が2023年度に初めて30%を超えるなど、好調に推移しています(厚生労働省「雇用均等基本調査」)。そんな状況ですが、一方で注意が必要なのが

育児休業を取得中の社員にしかできない仕事が発生した場合

です。育児休業中の社員に仕事を頼むつもりはなくても、こうしたケースはイレギュラーな対応をせざるを得ません。このような場合、一時的・臨時的に育児休業中の社員に仕事をしてもらうことができますが、その際には次の3つのポイントを押さえることが肝要です。

  • 社員と合意し、あくまでも臨時のものとして指示をする
  • 就業日数や賃金によって雇用保険給付の額が変わる
  • 「出生時育児休業」は扱いが異なる

2 社員と合意し、あくまでも臨時のものとして指示をする

厚生労働省は、育児休業中の社員が就業するための要件として次の3つを示しています。

  • 育児休業中に就業することについて、労使で個別に合意する
  • 子を養育する必要がない期間のみ就業を認める
  • 恒常的・定期的に就業することがないようにする(「1日○時間、週○日勤務」などはNG)

平たく言うと、「育児休業中であっても一時的・臨時的な就業はできますが、会社と社員でよく話し合い、育児の妨げにならないよう必要最小限にしてください」ということです。なお、社員が育児休業中に就業するのを断ったことなどを理由に、人事評価を下げるなどの不利益な取扱いをすることは許されません。

育児休業中の一時的・臨時的な就業が認められるか否かは、次の例をご確認ください。

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例1~5は労使の合意があり、その内容も突発的な事情による一時的なものなので認められます。一方、例6は労使の合意はあるものの、その内容が育児休業をしながら恒常的・定期的に働くというものなので認められません。

仮に例6のケースで社員を就業させたいのであれば、

社員からの申し出によって育児休業を終了させた上で、短時間勤務に切り替える

必要があります。育児休業は2回までの分割取得が認められるので、次のように配偶者の育児休業のタイミングに合わせて育児休業と短時間勤務を使い分けるとよいでしょう。

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ちなみに、育児休業の分割取得は、1回目の休業開始前に申し出なくても問題ありません。仮に社員が育児休業を開始した時点で、配偶者が育児休業を取得することが分かっていなくても、後から分割したい旨を会社に申し出ればよいのです。

3 就業日数や賃金によって雇用保険給付の額が変わる

社員が育児休業を取得する場合、一定の要件を満たすと雇用保険の「育児休業給付金」を受給できます。1カ月当たりの育児休業給付金の額は、原則として、

賃金日額(直近6カ月間の賃金÷180日)×給付日数×67%(休業開始6カ月後以降は50%)

で算定されます。ただし、社員が育児休業中に就業した場合、

就業日数が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えると、育児休業給付金は不支給

になるので注意が必要です。

また、育児休業中に就業した場合には会社から賃金が支払われますが、その場合、賃金月額に対する実際の賃金額の割合によって、育児休業給付金の扱いが次のように変わります。

  • 賃金月額の13%未満 → 満額支給
  • 賃金月額の13%超80%未満 → 減額支給(「賃金月額×80%-会社から支給された賃金額」を支給)
  • 賃金月額の80%以上 → 不支給 

例えば、賃金月額が30万円の場合のイメージは次のようになります。

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なお、育児休業給付金は、次章で紹介する出生時育児休業に対して支給される場合、「出生時育児休業給付金」という名称になります。出生時育児休業給付金は、

賃金日額(直近6カ月間の賃金÷180日)×給付日数×67%(一律)

で算定される点が育児休業給付金と異なりますが、それ以外のルールは基本的に同じです。

ちなみに、2025年4月1日からは、社員が配偶者と同時に14日以上の育児休業(または出生時育児休業産後パパ育休)を取得するなど一定の要件を満たすと、新たに

雇用保険の「出生後休業支援給付金」(賃金の13%相当)

を受けられます。育児休業給付金や出生時育児休業給付金と同時に受給すれば、最大で賃金の80%相当をカバーできます。ただし、育児休業給付金などを補完するための制度なので、

育児休業給付金などが不支給になると、出生後休業支援給付金も不支給になる

という点に注意が必要です。

4 「出生時育児休業」は扱いが異なる

出生時育児休業とは、

生後8週以内の子を養育するため、最大4週間まで休業できる制度で、男性社員だけが対象

となります。基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は出生直後の多忙な時期に男性社員が配偶者をサポートすることを重視しているため、育児休業とルールが異なる点が幾つかあります。休業中の就業ルールもその1つです。出生時育児休業中の社員が就業するためには、

労使協定(過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定)を締結した上で、労使で個別に合意する

必要があります。また、労使で個別に合意する際の手続きは次の順で行うこととされています。

  • 社員は、就業してもよい場合、会社に就業の条件(就業可能な日時など)を申し出る
  • 会社は、社員が申し出た条件の範囲内で日時などを提示する
  • 社員が、同意する
  • 会社は、休業中の就業について正式に通知する

なお、就業可能な日時などについては次の制限があります。

  • 就業可能な時間数の合計は、「当該期間中の所定労働時間÷2」以下
  • 就業可能な日数の合計は、「当該期間中の所定労働日数÷2」以下
  • 休業開始(終了)日に就業する場合、各日の就業可能な時間数は「当該日の所定労働時間」未満

例えば、所定労働時間が1日8時間、所定労働日数が1週5日の会社において、社員が出生時育児休業(2週間)中に一時的に就業するイメージは次のようになります。

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2週間で就業可能な時間数の合計は40時間(1日8時間×5日×2週間÷2)以下、就業可能な日数の合計は5日(1週5日×2週間÷2)以下です。図表4の場合、就業予定時間は28時間、就業予定日数は5日なので問題ありません。また、休業開始(終了)日に就業する場合、各日の就業可能な時間数は「8時間」未満です。図表4の場合、休業開始日は3時間、休業終了日は6時間の就業予定なので問題ありません。

以上(2025年1月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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【業務効率化】分かりやすい「社内文書」を作るために守るべき12のポイント

1 「悪い社内文書」ができるのは経営者のせい?

社内文書を読んでいて、「なんて分かりにくいんだ!」とイラついたことはありませんか? 悪い社内文書にはいろいろと難点がありますが、とにかく、

  • 何を伝えようとしているのか分からない
  • 文字が多すぎて見ただけでげんなりする

といった感じで、迷惑なことこの上ありません。なかには、この悪い社内文書に「悪い慣習」が重なり、「オンライン会議で録画をしているのに、【長い議事録】を作って回覧する」「DXを進めるための会議で、【何十枚もの紙の資料】が配布される」といったケースもあります。

悪い社内文書が作られてしまう理由としては、

  • 社内文書を作る側にとって、長くて専門的な文書のほうが「作った感」がある
  • 経営者がボリュームのある社内文書を評価する、会議でやたらと資料を求める

などが挙げられます。経営者は業務効率化を求めているのに、社員が腕まくりをして悪い社内文書を作るというチグハグな状態では業務効率は下がるばかりです。

まず大切なのは、社内で「良い社内文書」「悪い社内文書」の共通認識を作ること

です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 良い社内文書と悪い社内文書の違い

社内文書には、

  • 状況把握に関係者の協力を求める「報告書」
  • 社内の関係者に特定の事項を周知する「通達」
  • 社内の意思決定権者の承認を得る「稟議(りんぎ)書」
  • 会議などの記録を残す「議事録」

といった種類があります。このうち、1.の報告書に注目すると、良い社内文書と悪い社内文書には次のような違いがあります。

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極端な部分もありますが、良い社内文書と悪い社内文書の違いは一目瞭然でしょう。では、どうすれば良い社内文書が作成できるのか。具体的に確認していきましょう。

3 良い社内文書を作成するためのポイント

1)社内文書のフォーマット

社内文書は、「過去のフォーマット」を踏襲したほうが作成時間を短縮できます。例えば、報告書に回答を求める場合、過去に見たことのあるフォーマットのほうが対応しやすいです。避けたいのは、作成者の気分に応じて意味もなくフォーマットを変更することです。

2)内容のチェック

作成された社内文書は、管理職などが必ずチェックをしましょう。作成者も自分で内容を再確認してみましょう。悪い社内文書の場合、いかに分かりにくいかが実感できるはずです。

3)文章量

社内文書は短いほど良いです。作成者は「長い文書を作ったほうが頑張っている!」と思い込みがちではありますが、ここは経営者が率先して簡潔な文章を推奨すべきです。

4)内容や表現

すぐに理解できる表現にしましょう。また、タイトル、見出しなどをうまく使って、その社内文書の重要度や目的などが一目で分かるように工夫します。

5)表記揺れなどの防止策

表記揺れを防ぐために、「全角/半角」「である調/ですます調」といった基本から、「ES/従業員満足度/社員満足度」といった用語までをルール化できると、より効率化が図れます。

6)フォントの種類とサイズ

フォントの種類と、見出しや本文など部分ごとのサイズをあらかじめ決めるようにしましょう。文字化けなどのリスクも回避できます。この他、エクセルの「表示形式(小数点など)」や「配置(縦横の位置)」も統一します。

7)ファイル名

ファイル名は、一目見ただけで内容が分かるよう、「報告内容_報告部署_報告者_報告年月日」といった具合にルールを決めます。例えば、「テーマ_営業1課_山田_20250101」などです。

8)作成ソフト(ファイル形式)

社内文書のファイル形式は、あらかじめ統一しましょう。特に意味もなく、前回はエクセル、今回はワードといったように、気まぐれで作成ソフトを変更するのは避けるべきです。

9)受領確認

重要な社内文書なら、社内文書の公開後(送信後)、速やかに受領確認をします。社内文書は作ることが目的ではなく、公開(送信)した後が大切であることを忘れてはなりません。

10)変更があった場合の連絡

社内文書の報告期限などを変更した場合、その旨のメールを送って終わりにしてはいけません。相手が見落としている場合もあるので、相手にリアクションを求めるか、メールと併せて電話でも連絡するなどします。

11)回答期限前のリマインド

年度の切り替え時期やキャンペーンなど、繁忙期に報告書の提出を求める場合、回答者が悪気なく失念してしまうことがあります。そのため、期限の3日程度前に再通知をすると丁寧です。

12)提出方法

社内文書の提出方法について、メールや郵送などの手段、提出先の担当者などを明らかにします。メールでの返信を求める場合は、「件名」と「添付するファイル名」などのルールも決めておきます。

以上(2025年1月更新)

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【回答期間終了】令和7年 新年互礼会に関するアンケートご回答のお願い

平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
この度は「とくぎんサクセスクラブ新年互礼会」へご参加いただき、誠にありがとうございました。

この度、ご参加いただいた皆さまに、サクセスクラブの今後のサービス向上のため、アンケートへのご協力をお願いしております。おそれいりますが、以下のリンクよりアンケートにご回答いただけますと幸甚でございます。

アンケートのご回答はこちら!

なお、アンケートの回答は統計的に処理され、他の目的には使用いたしません。
また、個人情報は厳重に管理し、第三者に提供することはございません。

お手数をおかけいたしますがご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

とくぎんサクセスクラブ事務局(徳島大正銀行 法人推進部内)
TEL:088-656-1125
FAX:088-656-8558
Mail:hojineigyo@tokugin.co.jp

印鑑がいらない「電子契約」。便利そうだけど法的に有効なの?

1 「電子署名を行う者」「電子証明書の有無」がカギ

すっかり普及してきた電子契約ですが、法的に有効なのか、トラブルにならないのかといったことを心配する人もいます。結論から言うと、

電子契約は法的には有効ですが、「立会人型」と呼ばれる一部のサービスでは、合意の成立や内容を証明する証拠として十分でないとみなされる恐れがある

ということになります。

電子契約では、「電子署名」が紙の契約書でいう手書きの署名や印鑑の役割を果たします。電子署名とは、電子署名法に基づく一定の要件を満たす電子的な署名のことで、この署名があることで「文書が真正に成立した(本人の意思に基づいて文書が作成された)」とみなされます。

ただ、この電子署名の方式は、

  1. 当事者型:契約の当事者が電子署名を行う(電子証明書あり)
  2. 立会人型:サービス提供会社が電子署名を行う(電子証明書なし)

の2種類があり、2.の立会人型は、サービス提供会社が電子署名を行うのに加え、「電子証明書」(紙の契約書でいう印鑑証明書)が付記されない関係で、証拠力に不安が残ります。

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以降で、方式の違いによる法的な問題点などを整理していきましょう。

2 「当事者型」は証拠力が高く、安心して利用できる

電子署名法上、電子署名が有効と認められるには、次の両方の要件を満たす必要があります。

  • 署名者本人の意思(本人が確かにその文書に署名をしたこと)が確認できる
  • 同一性(その文書が改ざんされていないこと)が確認できる

当事者型の場合、電子署名を行うのは契約の当事者であり、また電子証明書が用いられているため、立会人型よりも本人確認が厳格であるという点で、安心して利用することができます。紙の契約に例えると、「電子署名=押印」「電子証明書=印鑑証明書」ですから、

当事者型は「押印+印鑑証明書」が添付されているイメージ

になります。

仮にトラブルになった場合も、誰が契約を締結したのかに加えて、それが本人の意思に基づく契約であると推定することができます。例えば、代表者の電子証明書や代表者から委任を受けた者の電子証明書を用いた電子契約は、契約権限のある本人(代表者)などが契約を締結したとみなされます。

3 「立会人型」も一定の要件を満たせば、証拠力が備わる

一方、立会人型は、電子署名をするのがサービス提供会社なので、誰が契約を締結したのか、権限のある本人が契約を締結したのかなどを確認するのが難しい場合があります。本人確認のために「メールアドレスにワンタイムパスワードを送る」などの方法が取られているケースがありますが、メールアドレスを代表者の電子証明書のように厳しく管理しているところは少数でしょう。また、電子証明書が用いられていないため、紙の契約に例えると、

立会人型は「押印だけ」がされていて、印鑑証明書がないイメージ

になります。

万が一、契約の相手方に「第三者が勝手に契約を締結した」「一社員が会社の承認を得ずに契約を締結した」などと主張されてトラブルになった場合、自社がそれを覆す証拠を示さなければ、契約自体が無効になる恐れがあります。つまり、当事者型に比べて証拠力が低いということになります。

ただ、2020年に公表された政府見解では、立会人型についても、一定の要件を満たせば、当事者本人が行った電子署名に該当するとされています。要件を簡単にまとめると次のようになります。

  • 利用者本人が署名したことを特定するための認証プロセスについて十分な固有性(注)が満たされていること
  • サービス提供事業者内部のプロセスについて十分な固有性が満たされていること
  • 電子契約サービスの利用者(署名者)の身元確認がなされること
  • (注)暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないような場合に、固有性が満たされていると認められます。

4 トラブルを防ぐためには?

当事者型と立会人型はそれぞれメリット・デメリットがあるので、契約の内容や重要度などに応じて、当事者型と立会人型のサービスを使い分けることを検討してもよいでしょう。具体的には、次のようなことです。

  • 当事者型:代表者印で締結していた契約、金額の大きな売買契約など
  • 立会人型:認印で締結していた契約、定型的な業務委託契約など

立会人型のサービス全般に懸念があるということではなく、電子証明書に代わる本人確認を厳しく行っているサービスなどもあります。例えば、多要素認証などを行っているサービスです。多要素認証とは、知識要素(ID・パスワードなど)、所有要素(スマートフォンのSMS認証など)、生態要素(指紋など)について、2つ以上の要素を組み合わせる認証方式のことです。ID・パスワードとスマートフォンのSMS認証を組み合わせたものなどが該当します。

立会人型のサービスを検討する場合は、サービス提供会社に対して、どのような本人確認を行っているのか、証拠力が問われた場合のリスクの程度などについて、確認しておくとよいでしょう。

以上(2025年1月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

【入社1年目の教科書】立ちはだかる電話応対の壁!でも慣れたら意外と簡単です

書いてあること

  • 主な読者:電話応対に自信がなく、プレッシャーを感じている新入社員
  • 課題:電話応対は面倒なルールが多いし、固定電話のボタンの意味も分からない
  • 解決策:新入社員の電話応対は、ほとんどが誰かに取り次ぐだけ。心配ご無用!

Ri Ri Ri Ri Ri! ゲゲっ、また電話だ。早く出なきゃ。しかしなんで電話ってこんなに緊張するのかな。商品名や取引先の名前を覚えていないからなのか、本当に聞き取りにくい。それに会社の電話ってボタンが多いから、保留にしたり、転送したりするときにめっちゃ緊張する。電話と敬語のコンボも相当手ごわい……。

1 なぜ、電話に出る必要があるのか?

チャットやビデオ通話に慣れている皆さんにとって、電話はなじみがないかもしれません。最初は自社の商品名や相手の会社名などもよく覚えていないので、一つひとつの言葉も聞き取りにくいです。さらに電話を難しくさせるのが「敬語」です。分からないなりに丁寧に話そうとすると、かえって変な日本語になってしまうという、「電話×敬語」の最強コンボが皆さんを悩ませます。

こうした事情から、最近は慣れるまで新入社員に電話応対をさせない会社もあります。ここは会社の教育方針によりますが、電話応対で多くを学べることも事実です。具体的には、

  • 取り次ぎのために自社の商品名や部署、担当者を覚えられる
  • スムーズな受け答えをするため、顧客や取引先の名前を覚えられる
  • リアルなビジネストークを、敬語を交えながら体験できる
  • ビジネスを進めるための「要件」(時間、個数など)をまとめる技術が身に付く

といった、ビジネスの基礎体力が身に付くのです。ですので、ぜひ、電話応対にチャレンジしてみてほしいです。それに、安心してください。新入社員に限らず電話が苦手な人はたくさんいますし、周囲もしっかりサポートしてくれます!

2 ボタンは多いけど覚える機能は3つだけ

スマホに慣れている皆さんにとって、固定電話(ビジネスフォン)は珍しい形状ですよね。そもそも、大量のボタンが何のためにあるのか分かりません。クルクルのコードでつながった受話器さえ新鮮かもしれません。実際、「電話を取り次ごうとして間違えて電話を切ってしまった」なんていう事故も頻発します。ただ、見た目が複雑でも固定電話で覚えておきたい操作は、

  1. 電話をかける、電話に出る
  2. 保留にする
  3. 転送にする

の3つだけです。これだけ覚えておけば電話応対に支障はありません。あと、「短縮ダイヤル」が設定されているはずなので、それも早く覚えてしまいましょう。

3 電話でよく使う8つの基本フレーズ

固定電話の機能を覚えたら、次は電話応対でよく使うフレーズも把握しましょう。よく使う基本フレーズは次の8つです。

  1. ありがとうございます(お待たせしました)、◯◯(会社名)でございます
  2. ○○(取次先=自社内メンバーや部署の名前)でございますね。少々お待ちください
  3. あいにく○○(取次先の名前)は、本日、リモート勤務となっております。折り返し○○からご連絡させていただいてよろしいでしょうか?
  4. 少しお電話が遠いようです(電話の相手の声が聞き取りにくいとき)
  5. もう一度、お名前を教えていただけますか?
  6. 復唱させていただきます(電話の相手の企業名、氏名、連絡先、要件を復唱するとき)
  7. ありがとうございます。◯◯(自分の名前)が承りました
  8. (分かる者に確認して、)折り返しご連絡いたします

最初のうちは自分で処理できる案件は少ないので、基本フレーズの8「(分かる者に確認し、)折り返しご連絡いたします」を多用することになります。焦りから、「分かったふりをしてしまう」ことがありますが、これは一番いけません。分からないことは悪いことではありません。しっかり復習して、次に対応できればよいのです。

また、できれば相手が話していることを、周囲の先輩などにも聞こえるように復唱しましょう。こうして、自分が分かっていないことを周囲に知らせ、「電話をかわります」と先輩に目やしぐさで合図を送るようにしましょう。これがトラブル回避でとても重要なことです。

4 いざ、電話に出る準備!

電話に出たら必ずメモを取ります。焦らないように、デスクの上にメモ帳とペンを用意してください。会社によっては電話応対専用のメモを用意していることもあります。必ずメモを取るのは、

  • 電話を受けた日時
  • 相手の企業名、所属、氏名
  • 電話の要件(聞ける余裕があれば)
  • 次のアクション

です。「次のアクション」は先輩に取り次ぐことが基本ですが、該当の先輩が不在の場合は、次のような相手の要望をきちんと聞き、伝言します。

  • 急ぎの要件なので、すぐに折り返しの電話が欲しい
  • 急ぎではないので、担当者が戻ったら電話が欲しい
  • (相手のほうから)改めて電話をする
  • 伝言だけ伝えてほしい(あるいは電話があったことだけ伝えてほしい)

5 電話応対は簡単! 好感度アップのポイント

好感度の高い電話応対をするためのポイントは2つだけです。

1つ目は、明るく、ハキハキと話すことです。できれば、普段話しているときよりも少し高めの声で話してください。また、自分の答えに自信がないときほどハッキリと発音するように心がけましょう。また、電話を切るときも「ガチャッ!」と勢いよく受話器をおかず、フックを指で押してそっと切るのがマナーです。

2つ目は、相手を待たせないことです。例えば、「かかってきた電話は2コールとか、3コール以内に取る」などと言われますが、ここは会社のルールに従ってください。また、誰かに取り次ぐときも、保留のまま、あまり待たせるのは良くありません。すぐに取り次ぐことができないときは、「折り返しご連絡いたします」と、一度、電話を切るのがマナーです。

6 電話応対は簡単! 電話の出口は3つ

ここまでいろいろと説明してきましたが、電話応対の出口は、

  1. 取り次ぎ:先輩などに取り次ぐ電話
  2. 自己処理:自分で処理する電話
  3. お断り:お断りをする電話

の3つしかありません。新入社員の場合、自己処理できるケースはほとんどないでしょう。また、お断りはいわゆる電話セールスであり、先輩から「不動産の営業は断っていいからね」などと言われるケースです。電話営業かどうかはすぐ分かりますし、そうであれば「何かあれば、こちらからかけ直します」と電話を切ればOKです。

となると、残るは取り次ぎだけです。つまり、新入社員のうちは、

いかにスムーズに取り次ぐか

を考えていれば問題ないわけです。簡単だと思いませんか?

7 貸与されたスマホをプライベートで使わない

会社からスマホを貸与されるケースもあると思います。貸与されたスマホは会社の備品で、通信費も会社が支払うわけですから、プライベートでは使ってはいけません。また、認められていないアプリをインストールするのもNGです。

リモートワークをしている会社の場合、上司や先輩が近くにいないので不安かもしれません。しかし、基本はこれまで紹介してきた通りです。分からないことは、基本フレーズの8「(分かる者に確認し、)折り返しご連絡いたします」で対応しましょう。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【業務効率化】24時間は1440分。社員の成長を促すスケジュール管理

1 24時間は1440分、8時間なら480分

24時間は1440分、8時間なら480分。「そのぐらい、誰でも知っている」と言われてしまいそうですが、こうして数字で表すと「時間は有限である」という実感が湧いてくるのではないでしょうか? しかも、何か予定を入れれば、その間は別のことができなくなるので、常に機会損失が発生しています。

スケジュール管理が苦手な方にとっては耳の痛い話ですが、この記事が、御社の社員に時間の大切さをいま一度、考えていただくきっかけになれば幸いです。

2 脱「他力本願」のやらされリスト

1)他人に決められるのは楽?

スケジュール管理ができない人に共通する特徴は、

働き方に主体性がないこと

です。試しに、社員にこの先1~2週間のスケジュールを登録するように指示してみてください。対応できる社員は全体の1~2割といったところでしょう。

この先の予定が決まっていないのに、なぜ社員は忙しいのでしょうか? 理由は人それぞれでしょうが、おそらく多くの人に当てはまるのは、

“他人が決めたToDoリスト”に振り回されているから

です。つまり、メールやチャットが届いた順にアポイントを入れ、仕事の納期も指定された通りに動いているのです。

しかも、上司の指示が入れば、ほぼ何も考えずにそちらを優先するので、優先順位もぐちゃぐちゃになります。「他人にスケジュールを決められるなんて、たまったものではない」と思いますが、主体性がない社員にとっては、“他人が決めたToDoリスト”に従うほうが楽なのです。

2)ToDoリストとスケジュールの違い

ToDoリストはスケジュールとは似て非なるものです。

ToDoリストは、「文字通りのやることリスト」

で、「(1)〇〇さんにメールを送る、(2)企画書を作る、(3)食事会の調整をする」などの内容が登録されます。長いToDoリストができるということは、それだけやることが多いということかもしれません。ただ、重要なのはその作られ方と中身です。“他人が決めたToDoリスト”が長くなるほど、自主性のない働き方に拘束される時間も長くなるからです。

これに対し、

スケジュールは、「目標を実現するための計画が行動ベースに落とし込まれたもの」

です。やるべきことと、それを実現するための計画が明確であれば、1~2週間先までスケジュールを登録することはたやすいはずです。

ToDoリストとスケジュールの関係は、「スケジュール→ToDoリスト」といった感じです。

スケジュールを細かく分解したものがToDoリスト

であり、ToDoリストの積み重ねがスケジュールになるわけではありません。

3)業務効率化の正しいアプローチ

「時間を大事に使おう!」となると、誰もが「同じ60分をいかに実のあるものにするか」を考えるでしょう。例えば、「順番を変えてみる」「ツールを導入してみる」「やらないことを決めてみる」といったアプローチになります。

やるべきことと向き合っているのなら、それでよいでしょう。しかし、“他人が決めたToDoリスト”をこなすための効率化だと、話は違ってきます。

重要ではないことの効率を上げるよりも先に、そもそも着手しない(断る、精度を落とす)という選択肢を持つべき

です。“他人が決めたToDoリスト”をこなすためにあれこれと苦労すると、かえって生産性の妨げになる、ということを認識しておきましょう。

また、この点は、仕事をこなす本人だけでなく、経営者や管理職も大いに反省する必要があります。社員の時間を無神経に奪ってはいけません。

3 「目標」設定から始めよう

1)「仏作って魂入れず」になる2つの理由

多くの会社では、半期ごとに人事考課面談を行い、中期経営計画に基づいた業務目標を決めているはずです。しかし、それがなかなかスケジュールに反映されません。これには、大きな理由が2つあります。

1つは、

社員が目標の達成に本気で取り組んでいないから

です。多くの社員は、すぐに中期経営計画の内容を忘れてしまいます。また、日々、“他人が決めたToDoリスト”に忙殺され、本当に大事なことを後送りにしています。

もう1つは、

社員はそれなりにやる気があっても、やるべきことを分解し、スケジュールに落とし込むことができていないから

です。目指すべきゴールは分かっているけど、ゴールにたどり着く道筋が分からないわけです。特に、受注的な事務作業が中心の社員の場合、「目標達成のためにやるべきことを分解する」というアプローチが苦手な人が多いかもしれません。

2)本気でなくても取り組む環境をつくる

この状態を打破するために、経営者が社員に「今、自分がやるべきこと」を正しく認識し、それを実行するように働き掛けなければなりません。

有効な手段は、社員に少なくとも1週間先までスケジュールを立てさせること

です。最初は多くの社員が戸惑うでしょうが、強制的にやらせます。

そうすると、“他人が決めたToDoリスト”が入り込む余地がなくなってくるので、社員はスケジュールの取捨選択をせざるを得なくなります。ここで初めて、会社にとって、チームや自分にとって、大切な仕事が何かを考えるようになります。

本気でない社員のマインドを変えるのは難しいことです。しかし、大事な仕事が後送りされない環境をつくることはできます。そして、このスケジュールをこなすことは社員の成長につながっていくのです。

3)経験と考え方の伝授

どうしても、やるべきことを分解して、スケジュールに落とし込めない社員がいたら、考え方を整理する方法を教えます。

経営者や管理職が1on1のミーティングを行い、そこでやるべきことと、それを達成するために最も効果的なことを明確にして、いつから始めるのかまで決めてしまう

のです。

後は、社員がスケジュールを意識しながら実行できる環境をつくります。前述した通り、少なくとも1週間先までスケジュールを立て、不要な仕事が入らないよう時間をブロックします。

4 学習時間をスケジュール化する

新しい仕事をするときはそれなりの準備が必要です。例えば、新しい業界に営業を展開するときは、その業界のことを勉強しなければなりません。こうした学習時間は、きちんとスケジュールに登録し、「2時間の読書、勉強会に参加」といったように記録しておきましょう。

もし、手を動かす業務でないと、「さぼっている」「他にやることがない」と勘違いする人がいるようなら、経営者がきちんと説明しなければなりません。

5 スケジュール管理のテクニック

1)基準時間を設ける

経営者や上司から見ると、「時間がかかり過ぎだ」と感じる社員がいます。しかし、その社員に「何かてこずっているの?」と聞いてみると、「いえ、計画通りです」という意外な答え。どうも釈然としないということはありませんか?

こうしたギャップは、業務の基準時間が決まっておらず、客観的に判断できないために生じます。主な業務については、「ベテランなら60分、新人なら120分」といったように、完了までの時間の目安を設けましょう。

2)基本は20分単位で取り組む

スケジュールは20分単位とします。こうすると、60分の中に3つの業務を組み込めます。また、20分の業務と10分のバッファーで30分の固まりを設定すれば、60分の中に無理なく2つの業務を組み込むことができます。20分以上かかる仕事については、まとめて固まりの時間を確保します。

最近はオンラインでの商談も増えましたが、訪問が必要な場合、アポイントの前後に「移動時間」を必ず登録します。東京都区内の場合、20分あればかなりの距離を移動できます。現地の準備時間を20分取れば40分なので、やはり20分単位だとスケジュールが組みやすくなります。

3)機会損失を意識する

今月のスケジュールを確認してみてください。既にかなり埋まっていることでしょう。では、来月のスケジュールはいかがでしょうか。まだまばらな状況で、比較的余裕があるかもしれません。

しかし、そこで来月はまだ余裕があると考え、簡単に決めてしまってはいけません。決して、今月は忙しく、来月は暇というわけではないのです。来月になれば、今と同じように忙しくなります。この点を意識していないと、

1カ月前に軽い気持ちで登録した、あまり意味のないアポイントと、とても大切なアポイントがバッティングしてしまう

のです。

同じ時間に2つのアポイントは入れられません。1つアポイントを入れた時点で、別の選択肢を排除していることを忘れてはなりません。

4)優先順位は細かな粒度で考える

業務の優先順位は、緊急度と重要度で考えます。ここにA、B、C、Dの業務があり、最も緊急度と重要度が高いのはAだとします。この場合、当然Aから着手します。ところが、正しいはずのこの着手で、なぜか問題が生じます。

それは、緊急度と重要度が2番目に高いBの業務を遂行するために必要な事前準備を、Aの業務よりも前に着手していないからです。そうすると、Aの業務が終わってBの業務を始めようと思ったときに、段取りができていないことに気付くのです。

優先順位が下であっても、全体をスムーズに進めるために先に着手すべきことがある

ということです。

5)後半こそ悲観的に考える

スケジュールが立て込んできて、いよいよギリギリの状況になると、「あれとこれがうまくいったら間に合う」と、楽観的に考える癖はありませんか。いまさらジタバタしても仕方がないと考えるのでしょうが、これは危険です。

後半になるほど関係者が増え、計画通りにいかなかった場合の影響も大きくなるから

です。それに、スケジュールがギリギリの状況になっているということは、それまでがうまくいっていないことの裏返しでもあります。スケジュール管理は、後半ほど悲観的に見積もるのが基本であり、予備日を多く設けておくべきでしょう。

6)パーキンソンの凡俗法則に立ち向かう

「パーキンソンの凡俗法則」とは、大切なことよりも、ささいなことが議論されがちな状況を指摘したものです。

例えば、原子力発電所と駐輪場の建設に関する住民の会合があったとします。原子力発電所の建設は本当に重要ですが、住民にはスケールの大き過ぎる話であり、技術的なことも分からないため議論が深まらず、比較的あっさり決まります。一方、駐輪場は原子力発電所に比べて明らかに重要度が劣るのに、住民にとって身近な問題であるため、ささいな点まで活発に議論され、決定に時間がかかるのです。

パーキンソンの凡俗法則に陥る最大の理由は、メンバーの知識や経験の不足です。

時間をかけて的外れな議論をし、本当に重要な点を見逃してしまうリスク

があります。必要に応じて、コストをかけても外部の知見を利用することを検討しましょう。

7)「ちょっといい?」は原則禁止

経営者や管理職がちょっと疑問に感じた途端、部下のスケジュールを顧みずに招集して臨時の会議を始めたりしていないでしょうか。当初は5分の予定だったのに、気付けば60分かかっていることも珍しくないでしょう。

仕事なので、経営者や管理職の疑問は解消しなければなりません。しかし、社員にスケジュール管理を徹底させている張本人(経営者や管理職)が、そのスケジュールを自ら破壊してはいけません。「ちょっといい?」にも配慮が必要な時代なのです。

【参考文献】

「1440分の使い方―成功者たちの時間管理15の秘訣」(ケビン・クルーズ(著)、木村千里(訳)、パンローリング、2017年8月)

「仕事は『段取りとスケジュール』で9割決まる!」(飯田剛弘、明日香出版社、2018年12月)

以上(2025年1月更新)

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画像:pexels

【規程・文例集】改正育児・介護休業法に対応した「育児休業等に関する規程」のひな型

1 制度の対象となる子の年齢などに注意

育児・介護休業法では、社員の育児をサポートするための制度が多岐にわたるため、育児休業等に関する規程によって整理することが欠かせません。2025年4月1日施行(一部は10月1日施行)の改正育児・介護休業法では、一部の制度について「対象となる子の年齢が引き上げられる」などの改正があるため、忘れずに規程に落とし込んでおきましょう。

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次章で、図表の法改正の内容を反映した「育児休業等に関する規程」のひな型を紹介します。なお、法改正の内容について詳しく知りたい場合、次のコンテンツをご確認ください。

2 育児休業等に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、「短時間勤務が困難な場合の代替措置」「柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月1日施行)」については、会社ごとに運用が異なる場合がありますが、このひな型では

  • (3歳未満の子を養育する社員に対し)短時間勤務が困難な場合の代替措置として、「育児時差出勤(第12条)」「テレワーク(第13条)」を実施する
  • (3歳以上小学校就学前の子を養育する社員に対し)柔軟な働き方を実現するための措置等として、「育児時差出勤(12条)」「テレワーク(13条)」を実施する

という運用にしています。

また、規程の中に出てくる「社内様式(育児休業等申出書など)」については、こちらからエクセル形式でダウンロードできます。必要に応じてご活用ください。

こちらからダウンロード

【育児休業等に関する規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、従業員の育児休業または出生時育児休業(以下「育児休業等」)、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務などに関する取り扱いについて定めるものである。本規程に定めのない事項は、育児・介護休業法その他の関係法令(以下「法令」)による。

第2条(育児休業の対象者など)

1)1歳に満たない子と同居し、養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子の育児のための休業を希望する場合、本規程で定めるところにより育児休業を取得することができる。期間を定めて雇用される従業員(以下「期間契約従業員」)にあっては、申出時点において、次に該当する場合に限り育児休業を取得することができる。

子が1歳6カ月(第5項の申し出にあっては2歳)に達する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。

2)第1項、第3項、第4項、第5項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)で定めた次の従業員の育児休業は認めない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 申出日から1年以内(第4項、第5項の申し出にあっては6カ月以内)に雇用関係が終了することが明らかな従業員。
  3. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)同一の子について、配偶者が従業員と同じ日からまたは従業員より先に育児休業もしくは出生時育児休業を開始している場合、従業員は子が1歳2カ月に達するまでの間、1年を限度として、育児休業を取得することができる。従業員が出生日以後の産前・産後休業を取得した場合は、その期間と育児休業期間および出生時育児休業期間を合わせて1年を限度とする。

4)次の全てに該当する従業員は、子が1歳6カ月に達するまでの間で必要な日数の育児休業を取得することができる。なお、取得開始日は原則として子の1歳到達日の翌日(前項に基づく育児休業の場合は、当該休業終了予定日の翌日)とするが、従業員の配偶者が子の1歳6カ月に達するまでの間に育児休業を取得する場合については、当該育児休業終了予定日の翌日以前の日を開始日とすることができるものとする。

  1. 従業員または配偶者が原則として子が1歳に達する日(子の1歳の誕生日の前日をいう)に育児休業を取得していること。
  2. 次のいずれかの事情があること。

    a.保育所等に入所を希望しているが、入所できない場合。

    b.従業員の配偶者であって育児休業の対象となる子の親であり、1歳以降育児に当たる予定であった者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合。

  3. 当該子の1歳到達日後の期間において、本項における育児休業をしたことがないこと。

5)次の全てに該当する従業員は、子が2歳に達するまでの間で必要な日数の育児休業を取得することができる。なお、取得開始日は原則として子の1歳6カ月到達日の翌日とするが、従業員の配偶者が子の2歳に達するまでの間に育児休業を取得する場合については、当該育児休業終了予定日の翌日以前の日を開始日とすることができるものとする。

  1. 従業員または配偶者が原則として子が1歳6カ月に達する日(子の1歳の誕生日の6カ月後における応当日の前日をいう)に育児休業を取得していること。
  2. 次のいずれかの事情があること。

    a.保育所等に入所を希望しているが、入所できない場合。

    b.従業員の配偶者であって育児休業の対象となる子の親であり、1歳6カ月以降育児に当たる予定であった者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合。

  3. 当該子の1歳6カ月到達日後の期間において、本項における育児休業をしたことがないこと。

6)育児休業(第4項および第5項に基づく育児休業を除く)は、養育する子が1歳に達する日までの期間内に、2回まで分割して取得することができる。

7)育児休業の期間については、基本給および諸手当、その他の月ごとに支払われる賃金は支給しない。

8)賞与の算定対象期間に育児休業をした期間が含まれる場合には、当該期間を算定対象期間から除いて計算する。

9)育児休業の期間中の定期昇給は行わないものとし、復職後の昇給において休業前の勤務実績を加味し調整する。

10)退職金の算定に当たっては、育児休業をした期間を勤務したものとして勤続年数を計算する。

第3条(出生時育児休業の対象者など)

1)産後休業をしておらず、出生日または出産予定日のいずれか遅いほうから8週間以内の子と同居し、養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子の育児のための休業を希望する場合、本規程で定めるところにより出生時育児休業を取得することができる。期間契約従業員にあっては、申出時点において、次に該当する場合に限り出生時育児休業を取得することができる。

子の出産日から起算して8週間を経過する日の翌日(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日)から6カ月を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。

2)第1項、第3項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)で定めた次の従業員の出生時育児休業は認めない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 申出日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員。
  3. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)従業員は子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出生の日から当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日まで、出産予定日後に当該子が出生した場合は当該出産予定日から当該出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで)の間、28日を限度として、出生時育児休業を取得することができる。

4)出生時育児休業は、2回まで分割して取得することができる。

5)第2条第7項から第10項の規定は、出生時育児休業の場合について準用する。

第4条(育児休業等の申し出の手続きなど)

1)育児休業等の取得を希望する従業員は、育児休業等を開始しようとする日(以下「育児休業等開始予定日」)の1カ月前(第2条第4項および第5項に基づく育児休業または出生時育児休業の場合は2週間前)までに、「社内様式1 育児休業等申出書」を総務部に提出しなければならない。なお、期間契約従業員が育児休業等の取得中に労働契約を更新することになり、引き続き育児休業等の取得を希望する場合は、更新された労働契約期間の初日を育児休業等開始予定日として、「社内様式1 育児休業等申出書」を総務部に提出するものとする。

2)育児休業の申し出は、次のいずれかに該当する場合を除き、一子につき1回限り(第2条第1項に基づく育児休業を分割取得する場合は2回まで)とする。

  1. 第2条第1項に基づく育児休業を取得した従業員が第2条第4項および第5項に基づく育児休業の申し出をしようとする場合、または本条第1項後段の申し出をしようとする場合。
  2. 第2条第4項に基づく育児休業を取得した従業員が第2条第5項に基づく育児休業の申し出をしようとする場合、または本条第1項後段の申し出をしようとする場合。
  3. 配偶者の死亡など法令で定める特別の事情がある場合。

3)出生時育児休業に関する申し出は一子につき2回まで分割できる。ただし、2回に分割する場合は2回分まとめて申し出ることとし、まとめて申し出なかった場合は後の申し出を拒むことがある。なお、出生時育児休業を取得した場合であっても要件に該当すれば育児休業を別途取得することができるものとする。

4)会社は、「社内様式1 育児休業等申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)「社内様式1 育児休業等申出書」が提出されたときは、会社は速やかに当該申出書を提出した従業員(以下「育児休業等の申出者」)に対し、「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を交付する。

6)申出日の後に、申し出に関わる子が出生したときは、育児休業等の申出者は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

第5条(育児休業等の申し出の撤回など)

1)育児休業等の申出者は、育児休業等開始予定日の前日までに「社内様式4 育児休業等撤回届」を総務部に提出し、育児休業等の申し出を撤回することができる。

2)「社内様式4 育児休業等撤回届」が提出されたときは、会社は速やかに当該届を提出した従業員に「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を再度交付する。

3)育児休業等の申し出を撤回した従業員は、当該子に対する育児休業等を取得したものとみなす。ただし、第2条1項に基づく育児休業の申し出を撤回した場合については、第2条第4項および第5項に基づく育児休業の申し出をすることができる。また、第2条第4項に基づく育児休業の申し出を撤回した場合についても、第2条第5項に基づく育児休業の申し出をすることができる。

4)第2条第4項および第5項に定める育児休業の延長の申し出を撤回した従業員は、法令で定める特別な事情がない限り、再度申し出をすることができない。

5)育児休業等開始予定日の前日までに、子の死亡などにより育児休業等の申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合、育児休業等の申し出はされなかったものとみなす。この場合において、育児休業等の申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第6条(育児休業等の期間など)

1)育児休業等の期間は、原則として、「社内様式1 育児休業等申出書」に記載された期間とする。

2)前項にかかわらず、会社は、法令の定めるところにより育児休業等開始予定日の指定を行うことができる。

3)従業員は、育児休業等開始予定日の1週間前までに「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」を総務部に提出し、育児休業等開始予定日を繰り上げることができる。また、育児休業等を終了しようとする日(以下「育児休業等終了予定日」)の1カ月前(第2条第4項および第5項に基づく育児休業または出生時育児休業を取得している場合は2週間前)までに「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」を総務部に提出し、育児休業等終了予定日を繰り下げることができる。育児休業等開始予定日の繰り上げ変更および育児休業等終了予定日の繰り下げ変更は、同一の子について原則として1回に限り行うことができるが、第2条第4項および第5項に基づく育児休業の場合には、第2条第1項に基づく育児休業とは別に、子が1歳から1歳6カ月に達するまでの期間内で1回、子が1歳6カ月から2歳に達するまでの期間内で1回、育児休業等終了予定日の繰り下げ変更を行うことができる。

4)「社内様式5 育児休業等期間変更申出書」が提出されたときは、会社は速やかに当該申出書を提出した従業員に「社内様式2 育児休業等取扱通知書」を再度交付する。

5)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児休業等は終了するものとする。

  1. 子の死亡など育児休業等に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 育児休業等の申出者について、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業等が始まった場合

    産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業等の開始日の前日。

  3. 育児休業(第2条第3項に基づく育児休業を除く)において、育児休業に関わる子が1歳に達した場合など

    当該子が1歳に達した日(第2条第4項に基づく育児休業の場合は、当該子が1歳6カ月に達した日。第2条第5項に基づく育児休業の場合は、当該子が2歳に達した日)。

  4. 第2条第3項に基づく育児休業において、出生日以後の産前・産後休業期間と育児休業期間(出生時育児休業期間を含む)との合計が1年に達した場合

    当該1年に達した日。

  5. 出生時育児休業において、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日を経過した場合など

    8週間を経過した日の翌日(出産予定日前に当該子が出生した場合は当該出生の日から当該出産予定日から起算して8週間を経過した日の翌日、出産予定日後に当該子が出生した場合は当該出産予定日から当該出生の日から起算して8週間を経過した日の翌日)。

  6. 出生時育児休業において、出生時育児休業期間が28日に達した場合

    当該28日に達した日。

6)前項各号の事由が生じた場合には、育児休業等の申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第7条(子の看護等休暇)

1)小学3年生修了までの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)は、当該子の看病、予防接種・健康診断、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式・卒園式等の学校行事を理由として、当該子が1人の場合は1年間につき5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として、子の看護等休暇を取得することができる。この場合の1年間とは、4月1日から翌年3月31日までの期間とする。

2)前項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員の子の看護等休暇は認めない。

1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)子の看護等休暇は、1日単位または1時間単位で取得することができる。なお、1時間単位の場合、始業時刻から終業時刻の間で連続または断続して取得することができる。

4)子の看護等休暇を申し出る従業員は、原則として、事前に「社内様式6 子の看護等休暇申出書」を総務部に提出するものとする。

5)会社は、「社内様式6 子の看護等休暇申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

6)子の看護等休暇を取得した時間については賃金を支給しない。

第8条(所定外労働の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、所定労働時間を超えて労働をさせることはない。

2)前項にかかわらず、会社は別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員の所定外労働は制限しない。

  1. 入社1年未満の従業員。
  2. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。

3)所定外労働の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間(以下「制限期間」)について、制限を開始しようとする日(以下「制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を総務部に提出するものとする。この場合において、制限期間は、第9条に定める時間外労働の制限期間と重複しないようにする。

4)会社は、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)所定外労働の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式7 所定外労働制限請求書」を提出した従業員(以下「所定外労働制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより所定外労働制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、所定外労働制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に制限期間は終了するものとする。

  1. 子の死亡など所定外労働の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 所定外労働の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 所定外労働制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、所定外労働制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第9条(時間外労働の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員、入社1年未満の従業員、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員を除く)が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、1カ月について24時間、1年について150時間を超えて時間外労働をさせることはない。

2)時間外労働の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間(以下「時間外労働の制限期間」)について、制限を開始しようとする日(以下「時間外労働の制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、時間外労働の制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を総務部に提出するものとする。この場合において、時間外労働の制限期間は、第8条に定める所定外労働の制限期間と重複しないようにする。

3)会社は、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

4)時間外労働の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式8 時間外労働制限請求書」を提出した従業員(以下「時間外労働の制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

5)時間外労働の制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより時間外労働の制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、時間外労働の制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

6)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に時間外労働の制限は終了するものとする。

  1. 子の死亡など時間外労働の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 時間外労働の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 時間外労働の制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

7)前項各号の事由が生じた場合には、時間外労働の制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

第10条(深夜業の制限)

1)小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員が当該子を養育するために請求した場合には、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、午後10時から午前5時までの間(以下「深夜」)に労働させることはない。

2)前項にかかわらず、会社は次のいずれかに該当する従業員からの深夜業の制限の請求は認めない。

  1. 日々雇われる従業員。
  2. 入社1年未満の従業員。
  3. 深夜業の制限の請求に関わる子の16歳以上の同居の家族が、次の全てに該当する従業員。

    a.深夜において就業していない者(1カ月について深夜における就業が3日以下の者を含む)であること。
    b.負傷、疾病または障害により育児が困難でないこと。
    c.産前・産後でないこと。

  4. 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。
  5. 所定労働時間の全部が深夜にある従業員。

3)深夜業の制限を請求する従業員は、1回につき、1カ月以上6カ月以内の期間について、制限を開始しようとする日(以下「深夜業の制限開始予定日」)および制限を終了しようとする日を明らかにして、原則として、深夜業の制限開始予定日の1カ月前までに、「社内様式9 深夜業制限請求書」を総務部に提出するものとする。

4)会社は、「社内様式9 深夜業制限請求書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)深夜業の制限の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式9 深夜業制限請求書」を提出した従業員(以下「深夜業の制限の請求者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)深夜業の制限開始予定日の前日までに、請求に関わる子の死亡などにより深夜業の制限の請求者が請求に関わる子を養育しないこととなった場合には、請求されなかったものとみなす。この場合において、深夜業の制限の請求者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に深夜業の制限は終了するものとする。

  1. 子の死亡など深夜業の制限に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 深夜業の制限に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 深夜業の制限の請求者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、深夜業の制限の請求者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)深夜業の制限を受ける従業員に対して、会社は必要に応じて昼間勤務ヘ転換させることがある。

第11条(育児短時間勤務)

1)3歳に満たない子を養育する従業員は、申し出ることにより、所定労働時間を午前9時30分から午後4時30分まで(休憩時間は午後0時から午後1時までの1時間)の6時間とすることができる。

2)前項にかかわらず、会社は次のいずれかに該当する従業員からの育児短時間勤務の申し出を拒むことができる。

  1. 日々雇われる従業員。
  2. 1日の所定労働時間が6時間以下である従業員。
  3. 別途協定した「育児・介護休業等に関する労使協定」(省略)によって除外された次の従業員。

    a.入社1年未満の従業員。
    b.1週間の所定労働日数が2日以下の従業員。
    c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員。

3)育児短時間勤務の申し出をしようとする従業員は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間について、育児短時間勤務を開始しようとする日(以下「育児短時間勤務開始予定日」)および育児短時間勤務を終了しようとする日を明らかにして、原則として、育児短時間勤務開始予定日の1カ月前までに、「社内様式10 育児短時間勤務申出書」を総務部に提出しなければならない。「社内様式10 育児短時間勤務申出書」が提出されたときは、会社は速やかに育児短時間勤務の申出者に対し、「社内様式11 育児短時間勤務取扱通知書」を交付する。

4)育児短時間勤務の申出日の後に請求に関わる子が出生したときは、「社内様式10 育児短時間勤務申出書」を提出した従業員は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

5)育児短時間勤務の適用を受ける期間の賃金については、別途定める「賃金規程」(省略)に基づく基本給および諸手当を時間換算した額を基礎とした実労働時間分の基本給および諸手当を支給する。

6)育児短時間勤務の適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第12条(育児時差出勤)

1)次のいずれかに該当する従業員は、申し出ることにより、本条の定めにより育児時差出勤をすることができる。

  1. 3歳に満たない子を養育する従業員で、第11条第2項第3号の「c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員」に該当する者。
  2. 3歳以上で小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)。

2)育児時差出勤における始業および終業の時刻は次のいずれかとする。

  1. 時差出勤A:午前9時始業、午後5時30分終業。
  2. 時差出勤B:午前9時30分始業、午後6時終業。
  3. 時差出勤C:午前10時始業、午後6時30分終業。

3)育児時差出勤の適用を申し出る従業員は、1回につき、1年以内の期間について、制度の適用を開始しようとする日(以下「時差出勤開始予定日」)および終了しようとする日、並びに時差出勤Aから時差出勤Cのいずれに変更するかを明らかにして、原則として時差出勤開始予定日の1カ月前までに、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を総務部に提出しなければならない。

4)会社は、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)育児時差出勤の適用の申出日の後に申し出に関わる子が出生したときは、「社内様式12 育児時差出勤申出書」を提出した従業員(以下「育児時差出勤の申出者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)時差出勤開始予定日の前日までに、申し出に関わる子の死亡などにより育児時差出勤の申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合には、申し出はされなかったものとみなす。この場合において、育児時差出勤の申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児時差出勤は終了するものとする。

  1. 子の死亡など育児時差出勤に関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. 育児時差出勤に関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. 育児時差出勤の申出者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、育児時差出勤の申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)育児時差出勤の適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第13条(テレワーク)

1)次のいずれかに該当する従業員は、申し出ることにより、本条の定めによりテレワークをすることができる。

  1. 3歳に満たない子を養育する従業員で、第11条第2項第3号の「c.業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児短時間勤務の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員」に該当する者。
  2. 3歳以上で小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日々雇われる従業員を除く)。

2)テレワークの就業場所は、原則として従業員の自宅とし、それ以外の就業場所を希望する場合は事前に総務部に相談の上、許可を得なければならない。なお、騒音が著しい場所、テレワークに使用する端末が故障・紛失する恐れのある場所、セキュリティー保持に支障をきたす場所、その他テレワークの実施に支障が生じる恐れのある場所等での就業は禁止する。

3)テレワークの適用を申し出る従業員は、1回につき、1年以内の期間について、制度の適用を開始しようとする日(以下「テレワーク開始予定日」)および終了しようとする日、並びに1日の中でテレワークを行う時間帯を明らかにして、原則としてテレワーク開始予定日の1カ月前までに、「社内様式13 テレワーク申出書」を総務部に提出しなければならない。

4)会社は、「社内様式13 テレワーク申出書」を受け取るに当たり、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

5)育児時差出勤の適用の申出日の後に申し出に関わる子が出生したときは、「社内様式13 テレワーク申出書」を提出した従業員(以下「テレワークの申出者」)は、出生後2週間以内に総務部に「社内様式3 対象児出生届」を提出しなければならない。

6)テレワーク開始予定日の前日までに、申し出に関わる子の死亡などによりテレワークの申出者が申し出に関わる子を養育しないこととなった場合には、申し出はされなかったものとみなす。この場合において、テレワークの申出者は、原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

7)次の各号に掲げるいずれかの事由が生じた場合には、それぞれに定める日に育児時差出勤は終了するものとする。

  1. 子の死亡などテレワークに関わる子を養育しないこととなった場合

    当該事由が生じた日。

  2. テレワークに関わる子が小学校就学の始期に達した場合

    当該子が6歳に達する日の属する年度の3月31日。

  3. テレワークの申出者について、産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業が始まった場合

    産前・産後休業、育児休業、出生時育児休業または介護休業の開始日の前日。

8)前項各号の事由が生じた場合には、テレワークの申出者は原則として当該事由が生じた日に、総務部にその旨を通知しなければならない。

9)テレワークの適用を受ける期間は、通常通り勤務したものとして、賞与、定期昇給、退職金の算定対象期間に加える。

第14条(教育訓練)

会社は、3カ月以上の育児休業を取得する従業員が育児休業期間中に復職準備プログラムの受講を希望する場合、別途定める「復職準備プログラム基本計画」(省略)に沿って、当該従業員に会社の負担で復職準備プログラムを実施する。

第15条(復職後の取り扱い)

育児休業等後の勤務は、原則として、休業直前の部署および職務で行うものとする。ただし、本人の希望がある場合および組織の変更などやむを得ない事情がある場合には、部署および職務を変更することがある。

第16条(ハラスメントの防止および不利益取り扱いの禁止)

1)会社は、従業員が「育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務などの申し出や請求」(以下「育児休業等の利用」)をした従業員の就業環境を害する言動を行ってはならない。

2)第1項の言動を行ったと認められる従業員に対しては、就業規則(省略)第○条に基づき、厳正に対処する。

3)会社は、育児休業等の利用をしたことを理由に、従業員に対して解雇などのいかなる不利益な取り扱いも行わない。

第17条(支援制度に関する説明と制度利用に対する意向の確認)

会社は、従業員から従業員本人または配偶者が妊娠・出産した旨の報告があった場合、速やかに従業員との面談を行い、本規程に掲げる育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務など各支援制度の内容について説明し、制度利用に対する意向を確認しなければならない。また、従業員が制度の利用を希望する場合、その利用が滞りなく進むよう必要な配慮をしなければならない。

第18条(育児休業等相談窓口の設置)

1)会社は、「育児休業等相談窓口」を設置する。「育児休業等相談窓口」は育児休業等、子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児短時間勤務など各支援制度の利用に当たり、従業員本人やその家族からの相談および苦情の受け付けを行う。

2)「育児休業等相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「育児休業等相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。

3)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第19条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

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以上(2025年1月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【改正育児・介護休業法に対応】社員の育児をサポートするための8つの支援制度

1 育児の支援制度は8つ、2025年度から手厚くなる!

子が生まれた社員が、その後も育児をしながら働き続けるためには、会社のサポートが欠かせません。まず押さえておくべきは、育児・介護休業法で定められている支援制度です。

育児休業をはじめとする支援制度には、

  • 対象となる社員から請求があったら必ず実施する(社員が妊娠・出産の申し出をしてきた時点で、支援制度について個別に周知し、利用の意向を確認する義務がある)
  • サポートの方法が「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる

という特徴があり、また、2025年度からは図表1の赤字の通り、内容が手厚くなります。

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以降で、それぞれの制度の詳細を見ていきます。なお、制度の対象者はパート等への適用も含めて最後に一覧でまとめているので、他の支援制度と比較しながらご確認ください。

2 育児休業

1)育児休業とは

育児休業とは、

社員が原則1歳未満の子を養育する場合、原則その子の1歳到達日まで休める制度

です。通称「育休」と呼ばれています。なお、「1歳到達日」というのは、「1歳の誕生日の前日」という意味です(以下同じ)。

男女ともに取得でき、女性社員の場合は通常、産前・産後休業(出産のため産前6週間、産後8週間まで休める制度。労働基準法)の終了とともに育児休業が始まります。なお、

育児休業は2回に分けて取得できるので、配偶者と交代で働きながら育児をする

といった働き方も可能です(図表2)。

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また、育児休業は「子が1歳になるまで(1歳到達日まで)」が原則ですが、一定の要件を満たすと「1歳2カ月」「1歳6カ月」「2歳」までその期間を延長できます(図表3)。

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なお、図表3は育児休業を「延長」するための要件ですが、

1歳6カ月、2歳までの育児休業については、この他に「再取得」というルール

もあります。1歳6カ月、2歳まで育児休業を延長するには、社員が子の1歳到達日、1歳6カ月到達日に育児休業を取得している必要がありますが、仮に社員自身の育児休業が終了していても、

配偶者が育児休業を取得していれば、その終了予定日の翌日以前に限り、「1歳から1歳6カ月まで」か「1歳6カ月から2歳まで」の任意のタイミングで、もう1回育児休業を取得することが可能

です。

2)育児休業の申出

育児休業を取得する社員は原則、図表4の期日までに、育児休業の開始予定日、終了予定日などを申し出る必要があります。

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申出が遅れた場合、会社は図表5の範囲内で開始予定日を指定します。

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3)育児休業の開始・終了予定日の変更

社員は同一の子の育児休業について、休業1回につき1回だけ

  • 開始予定日の繰り上げ(当初の予定よりも早い時期に育児休業を開始する)
  • 終了予定日の繰り下げ(当初の予定よりも遅い時期に育児休業を終了する)

が可能です。

繰り上げは、特別の事情(早産、配偶者の死亡など)がある社員が、繰り上げ希望日の1週間前までに申し出ると認められます。申出が遅れた場合、会社が「繰り上げ希望日」から「実際に申出があった日の翌日から1週間を経過する日」までの間で、開始予定日を指定します。

繰り下げは、育児休業を取得している社員が、終了予定日の1カ月前(1歳6カ月、2歳までの育児休業の場合は2週間前)までに申し出ると認められます。

4)育児休業の終了

育児休業は、社員が申し出た終了予定日に終わります。その他にも次のような場合、社員の意思にかかわらず育児休業は終了します。

  • 子を養育しなくなった
  • 子の1歳(育児休業の延長等をする場合、1歳2カ月、1歳6カ月、2歳)到達日を経過した
  • 育児休業中の社員が、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業を開始した
  • 1歳2カ月までの育児休業については、上記に加えて出生日以後の産前・産後休業と育児休業(出生時育児休業を含む)の期間が合計1年に達した

5)育児休業の申出の撤回

育児休業を申し出た社員は、開始予定日の前日までに申し出ると、その申出を撤回できます。撤回1回につき1回休業したものとみなされるため、2回撤回すると育児休業の申出は原則できなくなります。ただし、特別の事情(配偶者の死亡など)がある場合は認められます。また、育児休業の申出を撤回した場合も、1歳6カ月、2歳までの育児休業の申出は可能です。

6)育児休業期間中の就業

育児休業期間中に社員を就業させることは原則できません。ただし、子を養育する必要がない期間(配偶者も育児休業を取得しているなど)については、社員と会社が話し合うことで、一時的・臨時的に就業が認められます。

7)育児休業期間中の賃金

育児休業期間中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。無給の場合も、社員が一定の要件を満たせば、

雇用保険の「育児休業給付金」(賃金の67%相当、休業開始6カ月後以降は50%相当)

を受けられます。ただし、育児休業中に社員を就業させ、就業が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えた場合、給付は受けられません。

なお、2025年4月1日からは、社員が配偶者と同時に14日以上の育児休業(または出生時育児休業)を取得するなど一定の要件を満たすと、新たに

雇用保険の「出生後休業支援給付金(新設)」(賃金の13%相当)

を受けられ、育児休業給付金と同時に受給すれば、最大で賃金の80%相当をカバーできます。

8)育児休業取得状況の公表

社員数1000人超の会社には、男性社員の育児休業等(出生時育児休業を含む)の取得状況をインターネットなど一般人が閲覧できる方法で公表する義務があります。厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば(下記URL参照)」などでの公表が推奨されています。

なお、2025年4月1日からは、

公表義務の対象が「社員数1000人超の会社」から「社員数300人超の会社」に引き下げ

られます。

■厚生労働省「両立支援のひろば」■

https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

3 出生時育児休業

出生時育児休業とは、

男性社員など(養子縁組をしたなど、一定の要件を満たす女性社員も一部対象となる)が産後8週間以内の子を養育する場合、産後8週間以内に4週間(28日)まで休める制度

で、通称「産後パパ育休」と呼ばれています。

基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は、男性社員が出生直後の配偶者をサポートするための制度なので、育児休業とは少しルールが違います(図表6)。

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「1.休業の申出」については、原則休業開始の2週間前までに申し出ればよく、男性社員は直前まで休業を取得するかどうかを熟考できます。なお、雇用環境の整備などについて一定の要件を満たせば、申出期限を労使協定で締結する日(2週間超1カ月以内)とすることが可能です。

「2.休業期間」については、制度の趣旨が出生直後の配偶者のサポートにある関係で、育児休業よりも短く設定されています。

「3.休業中の就業」については、労使協定を締結した上で休業開始前に男性社員と会社が個別に合意すると、休業中に男性社員を就業させることができます。ただし、休業中の就業に関しては、就労可能な日数・時間の上限があります(あくまで休業することが目的のため)。

「4.休業中の賃金」については、育児休業と同じく賃金の支払い義務はありません。また、男性社員が一定の要件を満たすと、

雇用保険の「出生時育児休業給付金」(賃金の67%相当を支給)を受けられます。こちらも2025年4月1日からは、前述した「出生後休業支援給付金」と同時に受給することが可能

です。

「5.休業の分割取得」については、育児休業と同じく2回までの分割取得が可能です。なお、

出生時育児休業と育児休業は別々に取得できる

ので、男性社員の場合、両者を組み合わせると仕事と育児のスケジューリングがしやすいでしょう。

4 子の看護休暇(子の看護等休暇)

子の看護休暇とは、

社員が小学校就学前の子を看護する場合、1年度に5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)まで休める制度

です。病気になった子の看病の他、予防接種・健康診断を受けさせる場合にも取得できます。

休暇は1日単位だけでなく、1時間単位でも取得可能

です。また、休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。

なお、2025年4月1日からは名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変わり、

子の看護だけでなく、学校行事に参加する場合などにも取得可能になる他、対象となる子の年齢も「小学校就学前」から「小学3年生修了まで」に引き上げ

られます。

5 所定外労働の制限

所定外労働の制限とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、所定外労働を免除される制度

です。所定外労働とは、所定労働時間(法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間の上限)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

なお、2025年4月1日からは、

対象となる子の年齢が「3歳未満」から「小学校就学前」に引き上げ

られます。

6 時間外労働の制限

時間外労働の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される制度

です。時間外労働とは、法定労働時間(労働基準法で定める労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

7 深夜業の制限

深夜業の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、深夜業を免除される制度

です。深夜業とは、原則として午後10時から午前5時までの労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上6カ月以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

8 所定労働時間の短縮措置等

所定労働時間の短縮措置等とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、短時間勤務(例:1日6時間以内)などの措置を受けられる制度

です。業務の都合などで短時間勤務が困難な社員については、

労使協定により短時間勤務の対象から除外した上で、代替策として子を養育しやすくするための措置(フレックスタイム制、時差出勤、保育施設の設置運営など)

を実施しなければなりません。

なお、2025年4月1日からは、

措置の1つにテレワークが追加

されます。また、少々ややこしいですが、同じく2025年4月1日からは、本項目である「所定労働時間の短縮措置等」とは別に、

3歳未満の子を育てる社員に対し、働き方の1つとしてテレワークを選択できるようにすることが努力義務化

されます。

9 柔軟な働き方を実現するための措置等(新設)

柔軟な働き方を実現するための措置等とは、2025年10月1日から新設される、

社員が3歳以上小学校就学前の子を養育する場合、短時間勤務などの措置を受けられる制度

です。前述した所定労働時間の短縮措置等と似ていますが、こちらは図表7の右欄のように、会社が2つ以上の措置を実施し、社員がそのうち1つを選択して利用できるという仕組みになっています。

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なお、会社は社員の子が3歳になるまでの間に、面談等により柔軟な働き方を実現するための措置等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務を負うことになります。

10 子を養育する社員のための支援制度の一覧

ここまで、社員の育児をサポートする支援制度について、2025年度の法改正で新設が予定されている分を含め8つ紹介してきましたが、

一部、雇用継続の見込みや勤続年数、所定労働日数などの関係で、制度を適用しなくてもよいとされている社員

がいます。具体的には、

  • 育児・介護休業法上、対象者にならない社員
  • 労使協定の締結により、対象者から除外できる社員

です。最後に、8つの支援制度の種類と対象者の一覧を紹介します。「●」が付いている社員が、制度を適用しなくてもよい人です。

画像8

今後に向けて特に注意が必要なのが「子の看護休暇(子の看護等休暇)」「所定労働時間の短縮措置等」です。

まず、子の看護休暇(子の看護等休暇)については、2025年4月1日からは

入社6カ月未満の社員を、労使協定の締結により対象から除外することは不可

となります。

次に、所定労働時間の短縮措置等については、前述した通り2025年10月1日から「柔軟な働き方を実現するための措置等」が新設され、国が限定列挙する措置の中から2つ以上を選択することが義務付けられます。選択肢の中には「所定労働時間の短縮措置」も含まれており、それを選択した会社は、対象となる子の年齢を「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」に引き上がることになります。ただ、

子が「3歳未満」か「3歳以上」かによって、社員を対象から除外できるかできないかが変わってくるケース

が出てきますので、運用面においては注意が必要です。

以上(2025年1月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

2025年度税制改正大綱のポイント~「103→123万円の壁」への引き上げと法人税増税の方向性確立~

(要旨)

  • 政府は税制改正大綱を閣議決定。所得税・住民税の控除の改正に加え、法人税増税の方向性が強まっている点が特徴。例年と異なり少数与党のため、国会議論等の中で内容が修正される可能性は相応にある。
  • 所得税では基礎控除+給与所得控除の合計額を「103万円→123万円」へ引き上げる。生活必需品の物価上昇率に合わせた改定になる。ただし、①住民税の基礎控除引き上げ見送り、②給与所得控除は最低限のみの引き上げとなっており、多くの年収帯では減税要因は所得税の基礎控除引き上げ(+10万円)分のみとなる。マクロの減税額は0.6~0.7兆円と規模は小さめであり、目立った消費押上げ効果は期待しにくい。
  • 特定扶養控除の引き上げを通じて、「学生の年収の壁」への対応も実施。親の特定扶養控除が満額受けられるようになるラインが年収103万円から年収150万円へ引き上げられるほか、それ以上の年収となった場合でも控除が段階的に縮減する形になる。学生の就業調整緩和に一定の効果をもたらすとみられるが、年収130万円には健康保険に由来する「社会保障の壁」は残る。
  • 大綱では“従来の法人減税が所与の効果を上げてこなかった”として法人増税の方向性が示された。実際に防衛増税の一環として特別防衛法人税の2026年4月からの開始、中小企業への法人税率の優遇措置の厳格化が明記された。今後も法人税は増税対象として俎上に載りやすいだろう。

政府が25年度税制改正大綱を決定、例年と異なり今後の修正も

24年12月、政府は2025年度の税制改正大綱を決定した。来年度予算における税制改正の内容を定めるものだ。改正は多岐にわたるが、マクロの観点で注目したいのは大きく3点だ。①「103万円の壁」の見直しとして注目を集める所得税の基礎控除・給与所得控除の改正、②「学生の年収の壁」の緩和につながる特定扶養控除の改正、③防衛増税の実施時期決定のほか、今後の法人税増税の方向性が明記されている点である。

例年であればこの内容で2025年度の税制が国会で成立していく流れになる。したがって、通常であれば税制改正大綱の内容は実質的に来年度の税制改正そのものということになるのだが、先の衆院選で与党は過半数を獲得することができなかった。特に、国民民主党と合意に至っていない所得税の控除の見直しについては、今後の議論の中で内容の修正がかけられる可能性が相応に高い情勢にある。

「103→123万円の壁」へ。住民税の基礎控除は維持

耳目を集める「103万円の壁」の引き上げについては「123万円」への引き上げが示された。「103万円」はこれ以上収入が増えると所得税の課税が始まるラインであり、基礎控除と給与所得控除最低額の合計だ。パート・アルバイト労働者が就業調整をする際にこのラインを超えないように意識する線引きの一つでもあることから、就業調整の「壁」として認識されている。

今回、「103万円の壁」の引き上げの必要性が認識されるようになった背景には、インフレの継続がある。税の課税最低限は額面で定まっており、インフレが進む中ではそれに合わせた調整が必要だ。今回の与党案では、所得税の基礎控除を48万円→58万円、給与所得控除の最低額を55万円から65万円へ引き上げ、合計「123万円」とする(資料1)。前回、控除引き上げのあった1995年以降の基礎的支出項目(生活必需品)の上昇率が2割程度であることを踏まえ、控除も同率程度引き上げるものとされた。なお、与党大綱の案では住民税の基礎控除の引き上げは行わない形となっている(給与所得控除の引き上げは所得税・住民税双方に適用される)。地方税の減収となる改正に自治体から反対が相次いだことを受けての措置とみられる。

与党は一連の所得税による税収への影響を0.6~0.7兆円程度(次に説明する特定扶養控除の所得要件見直しも含む)としている。マクロ的には大きい額ではなく、個人消費の押し上げ効果に多くを期待すべきではないだろう。

なお、この改正は「基礎控除や給与所得控除の最低額が定額であることに対して物価調整を行うものであることを踏まえて、特段の財源確保措置を要しないものと整理する」(大綱)とされた。海外でも同様の税制のインフレ調整は増税や歳出削減などを伴わない形で行われるのが通例であり、この点は妥当な対応であろう。一連の改正は2025年から実施する。(2025年12月の年末調整で適用)

資料1.大綱内容での改正前後の基礎控除(所得税)と給与所得控除

大綱内容での改正前後の基礎控除(所得税)と給与所得控除

(注)基礎控除(所得税)の縮減するタイミングは給与所得のみの場合を想定したもの。

(出所)自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。

与党案/国民民主党案の違いと今後の論点

一定の仮定を置きつつ、個々の世帯レベルでみた年間の減税額を試算したものが資料2である。対比するために国民民主党の178万円案(基礎控除+75万円の引き上げ)も掲載した。例えば年収400万円世帯を見ると、国民民主党案では11.3万円/年の減税となる一方、与党案では0.5万円/年の減税にとどまる。国民民主党案と与党案では減税額に相当の乖離が生じているのが現状だ。今後与党と国民民主党の3党協議や国会論戦が行われることになるが、与党案からは何らかの修正が加わることも見込まれる。

2つの案における減税幅の乖離は「123万円」と「178万円」という引き上げ幅の違いに加え、①与党案は住民税の基礎控除引き上げを見送っている、②与党案は引き上げの半分が給与所得控除の最低限の引き上げによって行われており、この減税効果が190万円以下の低年収帯のみに限られている、点で異なっており、これが減税額の違いにもつながっている。①については地方財政への配慮、という視点なのだと考えられるが、インフレの制度調整を行う観点からは与党案の「住民税を引き上げ対象から除く」という道理は薄いだろう。社会保障制度などへの影響が多岐にわたる住民税の非課税限度額を物価に合わせて適切に見直す、という観点でも住民税の基礎控除引き上げは必要な措置だと考える。

資料2.改正による年収別の減税額の試算

改正による年収別の減税額の試算

(注)給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除(年収の15%とした)、額面年収400万円~では配偶者控除を勘案。

(出所)第一生命経済研究所が作成。

また、大綱では「給与所得控除については、給与収入に対する割合に基づき計算される控除であり、物価の上昇とともに賃金が上昇すれば、控除額も増加する。しかしながら、最低保障額が適用される収入である場合、収入が増えても控除額は増加しない構造であるため、物価上昇への対応とともに、就業調整にも対応するとの観点から、最低保障額を現行の55万円から65万円に10万円引き上げる」として、定額で規定されている最低額のみを引き上げる方針が示されている。しかし、現行の給与所得控除は上限も定額 1である。その点で給与所得控除の最低限のみを引き上げる、という対応は「純粋な制度のインフレ調整」というよりは、結果として中・高所得帯で生じる実質増税(ブラケット・クリープ 2)を一定程度容認する形になっているとも捉えられる。今回、上限額の引き上げが見送られた背景には、高所得層の給与所得控除の縮減が図られてきた過去の経緯があるようだ。上限引き上げを見送る、という対応は所得控除の縮小を通じて税制の累進性を回復させようとする近年の税制改正の流れにある種沿ったものではある。

ただし、国民民主党は基礎控除のみでの引き上げを求めており、高所得層の減税幅が大きくなることを特段問題視していないといえる。今後の3党協議などでは引き上げ幅に加え、与党案の①住民税基礎控除を引き上げ対象から除く、②給与所得控除の最低限のみを引き上げる、という「引き上げ方」も議論の対象となりうるポイントだろう。

特定扶養控除の適用ラインを引き上げ:「学生の年収の壁」には一定の効果

次に、もう一つの「103万円の壁」である特定扶養控除の年収要件が見直される。特定扶養控除は主に19~22歳の大学生の年代の子どもを持つ親に適用される控除だ。しかし、既存制度ではその子どもが年収103万円を超えると特定扶養控除の対象ではなくなり、親の税金が急増することになる(おおむね63万円×所得税適用税率+45万円×住民税率10%)。このため、親の手取り急減を避けるために子どもが就業調整を行う、といった状況が生じていた。

この点に2つの改正がかかる。第一に特定扶養控除の年収要件の引き上げ、第二に、特定親族特別控除の創設だ。後者は一定年収を超えた途端に突如控除がゼロになることを防ぐため、収入の増加に合わせて段階的に控除が減るような仕組みだ。配偶者控除では同様の配偶者特別控除の枠組みが既にあるが、それに則ったものである。この結果、学生は年収150万円までは満額の特定扶養控除を受けられるようになり、それを超えた場合でも控除額の縮減は段階的なものになる。年収の壁による就業調整緩和に効果のある改正といえよう。

一方で、年収の壁は社会保障由来のものもある。学生の場合、具体的には健康保険だ。学生の場合には親の健康保険の扶養に入っているケースが多数だとみられるが、扶養要件である年収130万円を超えると自分で国民健康保険などに加入する必要が生じるため、保険料分手取り収入が減ることになる。資料3は今回の制度改正前後の学生の額面収入と手取り収入の関係を示したものである。従来、学生は税の壁と社保の壁の2つの手取り急減ポイントがあったが、一つは解消されていることがわかる。ただし、社保の壁による手取り急減は当然税制の改正のみでは変わらないことになる。

今回の改正でこの「社保の壁」まで働きやすくはなるため、103万円→130万円への就業拡大は生じることが見込まれる。ただ、社保の壁の見直しがないとそれ以上の労働供給は望みにくいだろう。

資料3.制度改正による「学生の年収の壁」の変化:額面収入と手取り収入の関係

制度改正による「学生の年収の壁」の変化:額面収入と手取り収入の関係

(注)縦軸は特定扶養控除の縮減・消失による親の手取り減分を含む。国民健康保険料は東京都世田谷区の制度に倣った。親の所得税の適用税率は10%とした。なお、額面年収150万円のところで一定幅の手取り逆転が生じているが、これは勤労学生控除が消失することによるものである。親の特定扶養控除などに比べて影響は小さいが、学生自身の勤労学生控除については年収150万円を超えると控除額がゼロになることから、改正後も一定の手取り逆転が生じる。

(出所)第一生命経済研究所が試算。

結果として防衛増税は法人税増税路線の第一歩に?

第三のポイントとして、今後も含めて法人税について増税の方向性が明確に示されている点である(資料4)。法人税増税と租税特別措置などのメリハリ付けの流れは前回の大綱でも示されていた点であるが、文言は「法人税率の引上げも視野に入れた“検討が必要である”」とされていた。今回は「法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を“構築していく”」とトーンが強まっている。その方向性が強まる中で、実際に法人税については、防衛増税の一環として特別防衛法人税(法人税額から控除額を除いた額×4%の付加税)を2026年4月から実施していく方針が定められた。また、リーマンショック時から実施されている年800万円以下の部分にかかる中小法人への法人税率軽減措置について、2年延長の一方で一部厳格化(課税所得が10億円超企業は15%→17%)されることとなった。

大綱の中では、法人税増税の根拠として、従来の法人減税が国内投資や賃上げに効果的ではなかった点が強く主張されている。また、投資や賃上げ還元に消極的な企業へのディスインセンティブを強化することでインセンティブ型の政策効果を高める観点でも増税方向の改正の必要性が訴えられている。法人税に対する風当たりは強まっていく見込みであり、将来的にも増税の対象に挙がってくる可能性が高い。

資料4.大綱における「今後の法人税のあり方」に関する記載

(今回大綱)
法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ず、法人税のあり方を転換していかなければならない。これまで現預金を大きく積み上げてきた大企業を中心に企業が国内投資や賃上げに機動的に取り組むよう、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を構築していく。税制のみならず、予算や制度改正等の様々な政策手段を総動員して国内投資を促し、持続的な経済成長に向けた動きを取引先の中小企業も含め広く経済社会全体に波及させていく。

(昨年大綱)
賃上げや投資に消極的な企業に大胆な変革を促し、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要である。

(出所)自由民主党・公明党「税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。下線は筆者。

資料5.2025年度税制改正大綱の概要

「103万円の壁」の引き上げなど個人所得税の改正
  • 所得税の基礎控除を48→58万円へ引き上げ
  • 給与所得控除の最低保証額のみ55→65万円へ引き上げ
  • 住民税の基礎控除はそのまま
  • 満額の特定扶養控除が受けられる子どもの年収要件を103→150万円へ引き上げ
  • 特定扶養控除について配偶者控除と同様に段階的に控除が縮減する仕組みを導入
  • 配偶者控除や扶養控除の被扶養者の年収要件を103→123万円に引き上げ
  • 学生の勤労所得控除の適用要件を年収130万円→150万円以下へ引き上げ
防衛増税、法人税優遇措置のメリハリ
  • 防衛特別法人税を26年4月から開始。(法人税額から500万円を差し引いた額)×4%
  • たばこ税を26年4月・10月(加熱式)、27年4月以降1年ごとに3段階で引き上げ(加熱式・紙巻)
  • 中小企業(資本金1億円以下企業)の法人税優遇措置を2年延長
    ※ただし、所得の金額が年10億円を超える際、年800万円以下の所得に適用される税率を17% (現行:15% )に引き上げ
  • 中小企業経営強化税制の投資対象に建物を追加
  • 事業承継税制の役員就任要件を見直し
  • DX、5Gに関する租税特別措置を今年度末で廃止
iDeCo・NISAの改正
  • iDeCoの掛け金上限、拠出可能期間(65→70歳まで)を引き上げ
  • つみたてNISAのETFの最低取引単位を1000円→1万円に引き上げ
  • NISAの金融機関変更時に口座変更と同時に買い付け可能に
子育て関連
  • 住宅ローン減税措置を1年延長(子育て世帯・若い夫婦を優遇)
  • 結婚、子育て資金にかかる贈与税非課税措置を2年延長
  • 高校生の扶養控除は維持(児童手当増額に伴う引き下げ措置を見送り)
その他
  • 給与と年金の双方に収入がある場合の控除額上限(280万円)を新設。26年度税制改正で法制化。
  • インバウンド免税を空港で還付するリファンド方式へ見直し
  • 企業版ふるさと納税の3年延長

(出所)自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。


1 給与所得控除の上限(定額)は2012年度の税制改正で盛り込まれた。1995年以前に給与所得控除の最低限度額の見直しを通じたインフレ調整が行われているが、1974年以降の給与所得控除は上限がない仕組みであったため、最低限度額の調整でインフレ調整の役割を一定程度達成できた。

2 インフレによる物価上昇で賃金が上がっても、所得税額がそれ以上の比率で上がり、実質所得が目減りしてしまう現象。「103万円の壁」の引き上げの趣旨の一つはこれを防ぐことである。

以上(2025年1月)
(執筆 第一生命経済研究所 経済調査部)

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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。