【法人税対策】決算前に必ず確認したい13の対策

書いてあること

  • 主な読者:自社に合った法人税対策をしたい経営者や担当者
  • 課題:具体的な法人税対策を知りたい。ただし、過度な対策は税務調査で指摘されるため、注意点も知りたい
  • 解決策:自社が利用できる法人税対策の手法を確認し、必要に応じて専門家に相談する

1 2つの性質に分けられる法人税対策

シリーズの「さまざまな法人税対策の考え方をとことん分かりやすく整理する」では、法人税対策を講じる際に知っておきたい考え方を紹介しました。これを知っておかないと、目先の納税額は減っても長期的にはあまり意味がなかったり、無駄な支出をしてしまったりすることがあるからです。

続くこの記事では、具体的な法人税対策について紹介しますので、参考にしてください。

2 決算賞与の支給、あるいは未払計上

翌年度に支給予定の賞与を今年度中に支払うことで、今年度の決算で損金(税務上の費用)にできます。資金繰りなどの都合で決算後でないと支給できない場合は、未払賞与として決算書に計上することで損金にできます。

ただし、未払賞与を計上する場合、

  1. その支給額を従業員ごとにかつ同じ時期に支給を受ける全ての従業員に対して通知すること
  2. 通知をした金額をその通知をした全ての従業員に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払うこと

の2つの要件を満たす必要があります。

仮に就業規則などで賞与の支給対象を「支給日に会社に在職している従業員」に限定している場合、未払賞与の全額を否認される恐れがあるので、就業規則などの変更が必要です。一方、決算賞与について就業規則などに定めておらず、支給日に在職していなくとも支給している実績があれば問題ありません。決算賞与の支給実績を示す資料(通知書やメールなど)があれば理想的です。

なお、役員賞与は、「事前確定届出給与」に該当するものを除き、年度末までに支払いをしても損金にはなりません。

3 消耗品や固定資産を利用した費用の創出

翌年度以降に必要になる消耗品や固定資産があれば、今年度の法人税対策として少し早めの購入を検討してみましょう。

消耗品や固定資産であれば、要件次第では、

その年度に全額経費にできたり、通常の減価償却より大きく計上できたりする

からです。

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使用可能期間(実際の使用状況や補充などのサイクル)が1年未満であるものや、取得価額が10万円未満のものは、全額経費で処理することができます。

一括償却制度は、取得価額が20万円未満の固定資産(一括償却資産という)は、通常の減価償却より短い期間(3年間)で償却でき、

1年当たりの減価償却費を大きく計上する

ことが認められています。

少額減価償却資産(中小特例)は、中小企業者等に限り、取得価額30万円未満の固定資産(少額減価償却資産という)を、

取得価額の全額を1年で損金に

できます。なお、少額減価償却資産として取り扱えるのは、1年度でその取得価額の合計額が300万円以内までです。

4 優遇税制の利用

一定の要件を満たしていたり、特定の目的で取得したりした固定資産は、通常の減価償却費に追加して特別償却することが認められ、より多くの償却費を損金にすることができます。自社で適用できるものがあれば検討してみましょう。

例えば、中小企業者等が自然災害への対策強化を目的として設備を取得した場合に適用されるもの(2025年3月31日までに事業継続力強化計画等の認定が必要)などがあります。

5 未払計上が可能な費用などの確認

決算作業時に、年度末後2カ月以内(2025年3月決算であれば、翌年度2025年4月~5月)に支払う費用の一覧を見てみましょう。じっくり検討すると、今年度中にサービスが完了し、今年度の決算で未払計上できる費用があるかもしれません。

また、貸倒引当金を設定できる(貸倒引当金繰入額として損金にできる)のに設定していない金銭債権(売掛金や受取手形など)があることがあります。貸倒引当金が設定できる金銭債権は、相手先の債務超過が継続している場合や、災害の急変などで損害が生じて、債権の回収見込みが薄くなった場合などに計上することができます。なお、資本金1億円以下の中小法人(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)以外は、一部の業種(銀行、保険会社など)を除いて廃止されています。

6 収益の繰延処理

前受収益(まだ、サービスを提供していないものの、代金を受け取っている際に計上する収益)がある場合、これを処理することで、

本来当年度に計上すべきではない売上を翌年度以降に計上する

ことになります(結果、当年度の所得を下げる)。あまりなじみがないため、会計担当者が前受処理を忘れていたり、処理に手間が掛かるため前受処理をしていないことがあったりするので、前受処理が可能かどうか再検討してみましょう。

その他、圧縮記帳という、

補助金や保険金などを利用して固定資産を取得した場合などに適用できる課税の繰延(後送りにする)制度

があります。詳細な説明は省略しますが、圧縮記帳とは、一定の方法により得た収益と同じ金額を固定資産の取得金額から控除するなどして、課税を繰り延べる制度です。適用するには一定の条件を満たす必要があります。契約時には圧縮記帳の条件を満たしていても、決算時に適正な処理をしていないなど条件の一部を満たさないと、適用することはできません。圧縮記帳のできる可能性のある契約は、稟議が上がってきた際に、会計や税務担当者と協議するようにしましょう。

7 棚卸資産の評価損の計上

原則として、資産の評価損(期末時点の時価で評価した際の損失)の計上は認められません。ただし、一定の場合は例外です。一定の場合とは、「災害による著しい損傷」と「政令で定める」場合です。ここでは「政令で定める」場合で見落としがちな点を検討します(後述する有価証券、固定資産についても同じ)。

棚卸資産の評価損が計上できるのは、

  • 著しく陳腐化している(物質的な欠陥がないにもかかわらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあること)
  • 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などにより、通常の方法によって販売することができないようになったことなど

です。著しく陳腐化しているとは、例えば次のような事象が生じた場合が該当します。

  • いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売できないことが、これまでの実績、その他の事情に照らしても明らかである
  • 当該商品の用途の面ではおおむね同様のものではあるが、型式、性能、品質などが著しく異なる新製品が発表されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができない

8 有価証券の評価損の計上

有価証券の評価損が計上できるのは、

  • 上場有価証券など市場価格のあるものについては、期末時価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合
  • 市場価格のないものについては、期末1株(1口)当たりの純資産価額が当該株式(出資)取得時のそれと比べて、おおむね50%以上下回ることとなったこと(比較する価額には一定の調整あり)、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合。また、当該株式(出資)を取得して相当の期間を経過した後に、当該発行法人について民事再生法の再生手続き開始決定などの事実が生じた場合や、これらに準ずる事実が生じた場合

です。

9 固定資産の評価損の計上

固定資産の評価損が計上できるのは、

  • 1年以上にわたり遊休状態にある場合
  • 本業の用途に使用することができないため、他の用途に使用された場合
  • 資産の所在する場所の状況が著しく変化した場合
  • 災害による著しい損傷および上記に準ずる特別の事実が生じた場合

です。

10 税額控除の利用

税額控除とは、一定以上の賃上げを行ったり、特定の設備や機器などを購入(一部はリースも可)したりした場合、計算された納税額から直接差し引くことができる税制上の優遇制度です。通常は、

追加的な減価償却を認める方法(特別償却)と税額控除の二者択一

です。特別償却を選択した場合は、所得の平準化による節税効果に限られるので、税額控除のほうが節税対策としては有効なことが多いです。例えば、前年度より一定率以上の賃上げを行った場合に適用ができる賃上げ促進税制などがあります。

税額控除は政策的観点から認められているので、適用対象や条件などは頻繁に変更が行われます。自社に適用可能なものがないか、また、税額控除できるのに、特別償却を選択しているものがないかを検討してみましょう。

11 損金不算入制度の回避

損金にできる役員給与として「定期同額給与」や「事前確定届出給与」などがあります。事前確定届出給与では、役員報酬か役員賞与かにかかわらず、税務署に事前確定届出給与の手続きをして適正に処理されれば、損金にできます。

なお、役員退職金も役員報酬と同様に損金にできますが、どちらも不相当に高額な部分は損金にできません。役員報酬の不相当に高額な部分の算出式はありませんが、役員退職金は算出式(功績倍率法など)があります。功績倍率法では、

退職時の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率(一般的に2.0~3.0)

の算式で役員退職金の金額を決定します。

近い将来退任が予定されている役員については、想定される退職金額と見合う役員報酬の額を従前の定時株主総会で議決・支給しておきましょう。なかには役員報酬の額が適正な金額よりも低額となっているケースもあります。その場合、十分な役員退職金が出せないこともあり得ます。

12 特別課税制度の回避

特別課税制度の典型的なものは、同族会社の留保金課税制度です。留保金課税とは、

利益のうち配当しない金額に対して法人税を追加的に徴収する仕組み

です。本来、会社は稼いだ利益を配当しようと、内部留保して設備投資しようと自由ですが、同族会社の場合には、留保金課税により、一定の制限が取られています。なぜなら、同族会社の場合、株主と経営者が同一人物であるため、所得税(配当所得に対して課されるもの)の課税を回避することを目的に、配当せず自身が自由に使える(用途の決定権を持つ)内部留保を選択するといったことが比較的容易にできるからです。

この制度は、後日に配当して、個人所得税が課税されても留保金課税分の法人税を返してくれるわけではないので、完全な二重課税となります。留保金課税を受けないに越したことはありません。

留保金課税を受けない最も簡単な方法は、配当することです。配当することによる所得税と、配当しないことによる留保金課税による税額を比べてはいけません。後日に配当しても、配当による所得税は発生するからです。留保金課税を受けている会社は、なぜ留保金課税を受けているのか、なぜ適用停止の条件を満たさないのか、といった理由を再検討するようにしましょう。

なお、留保金課税制度は、資本金1億円以下の中小会社(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)と、株主グループによる持株保有割合が50%超(特定同族会社)の会社以外は適用されません。同じく特別課税制度として、いわゆる「土地重課」があります。これは、現在適用停止となっているので、気にする必要はありませんが、条文は現在も残っていることを知っておいてください。

その他、「使途秘匿金の支出があった場合」の特別課税制度というものもあります。使途秘匿金とは、会社がした資金支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名などを帳簿書類に記載していないものをいい、

その支出額に対して40%相当の法人税が通常の法人税の他に追加して課税

されてしまいます。

13 欠損金繰越控除の期間制限の有効活用

欠損金(税務上の最終損失)や災害による損失金は、その後10年間に限り繰越すことができます。翌事業年度以降で所得が出た場合、その所得から繰り越した欠損金を控除することができます。なお、2018年4月1日より前に開始する事業年度において生じた欠損金については繰り越せる期間が9年となります。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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異動してきたBさんが新しい取り組みを提案するも失敗、どう声をかけますか?/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(3)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 異動してきたBさんが新しい取り組みを提案するも失敗、どう声をかけますか?

前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてスタートした今シリーズです。

知識やノウハウは分かったけれど、「現場で実践するにはまだハードルが高い」「うまく一歩を踏み出せない」という方のために、毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、どんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

第2回の事例解説はいかがだったでしょうか。今回は課題[事例2]です。以下に再掲しますので、考えた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかったという方もぜひ考えてみてください。解説だけを読んでいても、実行や応用はままなりませんよ。

—————————

Q. Bさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例2]

〇若手社員Bさんが異動してきて3カ月。はりきって新しい業務に取り組んでくれていましたが、ある日のこと、課のミーティングで提案があるというので時間を取ることにしました。内容は部署での従来のやり方を根本から見直す新しいアプローチの提案でした。

〇いきなり聞かされた他のメンバーからは、「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」と後ろ向きな意見が出てきます。上司であるあなたは、新天地でやる気に燃えているBさんからのせっかくの提案だけに、まずは1カ月、一部業務でやってみればいいと受け入れ、他のメンバーにも協力を促しました。しかし、1カ月後に結果は出ませんでした。

〇Bさんはあなたに「メンバーの反対を押し切って受け入れてくれたのに、失敗に終わってすみません」と謝罪。異動したての頃の仕事への意欲をすっかり失っているようです。

—————————

ヒントとしては、[事例1]の解説でお話ししたポイントも思い出しながら、[事例2]の文章を丁寧に読み返してみてください。

2 起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出す

事例を読んで多くの方が真っ先に気付いたのは「1カ月という設定に無理があったんじゃないの?」といった、目標設定についてかもしれませんね。もちろん、その視点は間違っていないのですが、そこが根本的な問題点でしょうか。

前回も申し上げましたが、ここは実際の現場ではありません。相手の表情や行動を直接“観察する”ことはできないといったデメリットがある一方で、文字情報なのでトレーニングとして何度も読み直してじっくり考えることができるメリットがあります。

前回のポイントの1つ目「相手をよく観察する」、2つ目「起きている問題は何かに立ち戻る」も思い出して、起こっている事象を整理し根本的な問題を洗い出してみましょう。状況を冷静に判断することが肝要という点では、リアルも事例も同じです。

今回のテーマは「異動」です。成長ステージや企業文化によっても頻度や人数は異なるでしょうが、社員の異動、新卒・中途を含めた人材の新たな配属は年に1度くらいは定期的にあるでしょう。では、社員の異動は何のために行われているのでしょうか。

今回のポイントの1つ目は「人事異動の目的に立ち返る」です。人事異動の目的は本来、「異動先のセクションと異動した本人を活かす=“活性化する”こと」ではないですか。

人手が足りない部署ならば人材を追加することで“活性化する”、停滞している部署なら異なる経験を持つ人材を投入することで“活性化する”のです。

もし「この人材はうちではいらないから、外に出してしまおう」といった後ろ向きな理由だけで異動が行われている組織があるとすれば、「じゃあ、何のためにその人を採用したのですか?」「『採用ミスでした』で片付けて、本人が辞めると言うまでたらい回しにするつもりなですか?」と聞きたくなります。

配属してみたものの本人も組織もフィットしないことなど、よくあることと考えましょう。それは失敗ではなく、前向きな異動への一歩なのです。

本人の才能や個性を活かす目的で異動を活用できている組織ならば、人は辞めないどころか、一人ひとりを最大限に活かせて成果にもつなげられていることでしょう。

そう考えれば、異動してきたBさんが部署の仕事を覚えて慣れてきたところで「従来のやり方を見直す提案をしてくれた時点で成果である」といえるのではないですか。これがポイントの2つ目です。

私が上司なら課のミーティングで提案があると言ってきた時点で感謝の気持ちを伝えたいです。もしまだ言ってなかったとしたら、今回の事例である「1カ月で結果を出せませんでした、すみません」とBさんが謝罪してきた時点の最初の一言にしてはどうでしょう。

「Bさん、提案してくれてありがとう。異動してきてくれてありがとう」

感謝の言葉ですが、「褒める」「前向き発想」なコミュニケーションに当たります。

3 「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」ではない

今回の3つ目のポイントは、「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である」ということです。

Bさんからの提案は、そのことを改めて気付かせてくれたのではないでしょうか。

人間は同じ組織にいると次第に保守的になっていきます。現状のやり方を否定したり、変えていったりすることは、面倒だしストレスに感じるものです。でも、それでは次々と競合が生まれ、新たな価値とそのスピードが求められる世の中で、変化に対応できず生き残ってはいけません。

「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事」なのです。Bさんが提案してくれた時点でそのことに気付いていれば、上司としては、他のメンバーからの「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」という後ろ向きな意見に対して、言うべきことがあったはずです。

そろそろ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の使いどころも含めて、順に整理していきましょう。Bさんが1カ月後に「結果は出なかった、失敗に終わってすみません」と謝罪してきた時点からです。最初の一言は先ほどの感謝を伝える「褒める」から始めます。

その場はあなたとBさんの1対1でしょうから、一緒にこの1カ月の活動を振り返ることにします。まずは「傾聴」して本人の自己分析をじっくりと聞いてみましょう。くれぐれも

途中で決めつけたり、せかしたり、自分の意見を言ったりしないこと。全ては本人の成長のためです。

「傾聴」が終わり、もし本人が結果を正しく捉えられていなければアドバイスをしましょう。小さな変化の兆しであっても1つの成果です。

次に分析の冒頭で申し上げた「1カ月の目標設定」の妥当性も含めて、Bさん本人が振り返った上でこれからどう取り組んでみたいか聞いてみましょう。もう1カ月、少しやり方を変えて続けてみたいのか。失敗なら失敗で、次からは失敗しない別のやり方を考えて取り組みたいのか。

なるべく本人のアイデアと意思を尊重しながら、上司であるあなたからのアドバイスがあれば、本人の納得いく範囲で取り入れてそれを課のミーティングで共有しましょう。

その際に、メンバーのみんなには最初の提案があった時に伝えるべきだった次のことを「前向き発想」で話しましょう。

「必ずしもこの課の今までのやり方が間違っていたという意味ではなく、もっと良いやり方がないか、全然違うやり方がないかと試行錯誤して新しい価値を生み、生産性を上げていくのがわれわれの仕事です。Bさんだけでなく、課の全員の仕事です。Bさんの提案を応援してほしいし、みんなもどんどん提案してください」

Bさんの提案に対しては、本人に議事を進行させながら他のメンバーからのアドバイスや協力を引き出しましょう。その上で、「私だったら、Bさんとは違うこういう見直しにトライしてみたい」といった新たな提案が出てくればしめたものです。

【今回の3つのポイント】

1 人事異動の目的に立ち返る

2 異動して来た人が現状を変える提案した時点で1つの成果である

3 業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である

最後に、私から上司の方へのお願いです。「人事異動」を経験したことがある人なら分かると思うのですが、異動者本人にとっては経験のない部署、新たな部署の一員となる時点で不安は小さくありません。

上司は最大の歓迎者でありかつ最大の理解者として、しばらくは意識して本人に寄り添ってあげてください。

それは決してひいきなどではなく、人事異動の本来の目的を達成するために必要なことなのです。

4 チーフのCさんから「若手が仕事をしない」とクレーム、どう声をかけますか?

次回に向けた[事例3]を紹介します。

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Q.部下のベテランCさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例3]

〇部下でチーフとして若手2人を任せているベテランのCさんから、悲痛な形相で上司のあなたにクレームのような相談がありました。「若手2人に毎日指示を出して仕事をやらせようとしているんですが、反発や口答えばかりして、ちゃんとやらないんですよ。上司から直接注意してください。私にはもう無理です」。

〇実は最近別のチーフから、Cさんのところの若手2人が会社を辞めたがっているようだとのうわさを聞いたばかりです。若手とはいえ大事な戦力、今後への期待も含めて採用した以上、会社としても課としても辞められては困ります。

—————————

ヒントとしては、事例1,2と同様に最初に起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出してみてください。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。実際の場面では、事例と似たようなシチュエーションであっても全く同じということはないでしょう。今回私がご提示した声かけや注意すべきポイントを参考にしながらも、目の前の状況に合わせてご自身で判断し、実行してみてください。

次回もお楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年9月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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重要な情報(電子データ/書類)をバックアップしよう【中小企業のためのBCP】

書いてあること

  • 主な読者:重要な情報(電子データ/書類)のバックアップ体制が確立されていない会社の経営者、情報システム担当者
  • 課題:重要な情報が消失すると、事業を早期に復旧できなくなる恐れがある
  • 解決策:重要な情報のバックアップの方法を理解して、自社に合った手段を整備する

1 電子データや書類のバックアップが不可欠な理由

突然ですが、今、地震が発生し、会社のパソコンやサーバーが壊れてしまったとしたら、あなたの会社は元通りに業務を再開できるでしょうか?

電子データや書類のバックアップが不可欠なのは、

それが使えなくなると事業の存続に関わる危機的な影響が及ぶ

からです。

会社には、社員や顧客などの様々な情報が、電子データや紙の書類として蓄積されており、これらが滅失したり毀損したりすれば業務に支障を来すでしょう。また、漏洩すれば社会的な信用を失うことにもなりかねません。

では、電子データと書類はどうやってバックアップすればよいでしょうか。また、バックアップ体制を整えるに当たってどのようなことを考え、日ごろからどのような備えをしておくべきでしょうか。具体的に見ていきましょう。

2 電子データをバックアップする3つの方法

電子データのバックアップは、主に3つの方法があります。

  1. 外部記憶媒体を利用する
  2. ネットワークストレージを利用する
  3. オンラインストレージを利用する

1)外部記憶媒体を利用する

外付けハードディスク、DVD、USBフラッシュメモリなどに電子データをバックアップする方法です。電子データの容量に応じて適切な記憶媒体を購入し、基本的には、必要な電子データを都度、手作業でバックアップします。

比較的手軽な方法ですが、定期的にバックアップする必要があります。また、外部記憶媒体の紛失や、ウイルス感染に注意しなければなりません。

2)ネットワークストレージを利用する

いわゆる「NAS(Network Attached Storage)」に電子データをバックアップする方法です。NASは、ネットワークを介して複数のパソコンなどから、同時接続できるハードディスクです。

外部記憶媒体よりも高額ですが、数テラバイト以上の大容量のNASを購入すれば、容量をあまり気にせずにバックアップできます。また、あらかじめ深夜帯や休日に設定しておけば、自動的にバックアップすることも可能です。

3)オンラインストレージを利用する

クラウドサービスを利用し、インターネット上に電子データをバックアップする方法です。電子データを自社とは離れた遠隔地に保存できるため、大地震や火災などによって社内のパソコンやサーバーが損傷しても、電子データは無傷で守られます。

サービスの多くは、保存するデータ容量に応じた料金体系になっています。どのくらいの費用がかかるのかを把握するために、バックアップするデータ容量を事前に算出しておきましょう。安全性、速度、運用のしやすさなども、サービスを選ぶ際のポイントになります。

バックアップ方法はどれか1つを選ぶのではなく、複数を組み合わせることで、大切な情報が失われるリスクを低減できます。参考になるのが、情報処理推進機構(IPA)が理想的なバックアップ方法として勧めている「321ルール」です。これは、

データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、

2種類の異なる媒体でバックアップし、

そのうち1つは異なる場所(オフサイト)で保管する

というルールです。

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図表のように、電子データのコピーを複数作り、保存する媒体を異なるものにするだけでなく、地理的にも離すことで、ウイルス感染に加えて、大地震や火災などにも対応できるようにします。ただし、電子データを社外に持ち出すことにもなるので、漏洩には十分に注意する必要があります。

3 書類をバックアップする2つの方法

紙の書類のバックアップは、主に2つの方法があります。

  1. コピーを取る
  2. スキャナーなどで電子データ化する

これらについては細かく説明するまでもないでしょう。

大切なのは、原本とそのコピー(もしくは電子データを記録した媒体)を離れた場所で保管する「二元管理体制」を整えることです。大地震や火災などで同時に被災してしまうのを避けるために、なるべく遠隔地に保管するのが理想的です。

ただし、原本のコピーを取ることで情報漏洩の危険性が高まります。機密情報や個人情報などの取り扱いは特に細心の注意を払い、慎重に行わなければなりません。

4 バックアップ体制を整えるときに考えておきたいことは?

バックアップ体制を整えるに当たって、バックアップ方法の選択以外に、どのようなことを考えておくべきでしょうか。重要になってくるのが、次の3つのポイントです。

  1. どの情報を優先的に保護するのかを決める
  2. 自社が被災する可能性の高い災害を把握する
  3. 目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

これらは「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)のプロセスでもあります。BCPについて考えてこなかった方も、これを足掛かりに策定を検討してみてください。

1)どの情報を優先的に保護するのかを決める

BCPでは、策定の第一歩として、会社の存続に最も重要な「中核事業」を決めます。

災害発生時は、事業を継続するために必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を、平常時と同じように確保することが難しくなります。中核事業を決めるときは、経営資源が平常時の約30%しか利用できないと仮定し、その範囲で継続すべき事業を考えます。

電子データや書類については、中核事業の継続に必要となる情報は保護の優先度が高くなります。経営者や事業部長、現場の業務責任者などを交えたプロジェクトチームを立ち上げ、優先度を検討するとよいでしょう。

2)自社が被災する可能性の高い災害を把握する

BCPでは、中核事業が影響を受けると思われる災害を把握します。

会社が被災する可能性のある災害は、大地震や火災、水害など様々です。行政機関が公表している地震被害想定や河川氾濫浸水マップ、土砂災害ハザードマップなどをチェックし、自社の周辺で災害が起こると、どの程度の被害となるのかを把握しましょう。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」では、土砂災害や津波などの被害を受けそうな地域を確認できる「重ねるハザードマップ」と、市区町村作成のハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」を参照できます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■

https://disaportal.gsi.go.jp/

3)目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

BCPでは、災害が経営資源に与える影響を考え、中核事業の目標復旧時間を設定します。

中核事業が中断した場合、顧客や市場がいつまで復旧を待ってくれそうか、経営者が日ごろの取引で培った経営感覚で予測を立てます。顧客と意見交換や調整をしながら合意を得ることも重要です。

コンピューターシステムが被災により滅失・毀損してしまった場合、バックアップした電子データから復旧を試みることになります。事前に、目標復旧時間内に回復できるかどうかを検証し、それまではどのような手段で代替するのかを決めておきましょう。

5 日ごろから備えておきたいことは?

1)パソコンやサーバー本体は、停電・水没・転倒・ほこりに注意

電子データを保存しているパソコンやサーバー本体の保管にも注意が必要です。

例えば、

  • 落雷などによる停電に備えて無停電電源装置(UPS)を導入して接続しておく
  • 水害などで水没しないように高い場所に置く(サーバールームは地下に設置しない)
  • 地震などの揺れで転倒しないように、耐震マットや固定器具を使用する
  • トラッキング現象による火災に備え、電源プラグやその周りにほこりがたまらないように定期的に掃除する

などの対策をしましょう。

2)重要書類の原本は、保管場所と取り出し方法をルール化

災害などの緊急時に備え、重要書類の原本の保管場所と取り出し方法を取り決め、責任者や担当者だけでなく、全ての社員にルールを共有しておくことが重要です。

例えば、経理部門や総務部門には、会計帳簿・契約書・社員台帳などの重要書類が集中していますが、

  • 書類の重要度が分かるように分類する
  • 施錠できるキャビネットに整理・保管する

ようにしておくとよいでしょう。

なお、クリアファイルは書類をまとめるのに便利な半面、保管場所の環境によっては書類にカビが生える恐れがあるため、長期保管には向きません。

3)危機管理意識の高い組織を目指す

いざというときに動ける組織であるためには、BCPのような計画やルールの運用に対して、社員と経営者が前向きである必要があります。そのためにも、BCPでは、防災に関する勉強会を開くこと、定期的に訓練を実施することなどが推奨されています。

重要度を問わず、日ごろから書類の整理整頓を行い、コンピューターシステムの「いつもとはちょっと異なる動き」を無視せずに担当者に報告するなどのルールを、社員に徹底することも重要です。

以上(2024年9月更新)

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産業別にみる外国人雇用の特徴と注意するポイント

令和5年10月末現在、厚生労働省より公表された「外国人雇用状況の届出状況のまとめ」によると、我が国における外国人労働者の数は、2,048,675人(前年比225,950人増)と初めて200万人を超えて過去最高を更新し、今後もさらに増加していくことが見込まれています。そのような中でこの度は、予定されている技能実習制度の廃止と新制度の概要を説明した後、主に現場で働く労働者が多い産業別の外国人雇用の特徴や注意するポイントについてご説明いたします。

1 はじめに ~「技能実習制度」の廃止と新しい制度の制定~

(1)「外国人技能実習制度」の廃止

外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として創設されました。

技能、技術等の習得段階によって「技能実習1号」(1年目)、「技能実習2号」(2年目~3年目)、そして「技能実習3号」(4年目~5年目)の区分に分かれて在留資格が存在し、技能実習1号及び2号の期間は原則、技能実習生本人の希望による企業の変更、転籍は認められていません。このことが、昨今の人権に対する世論、関心の高まりにより、諸外国の人権団体などから「強制労働」などと批判されてきました。

また、我が国における生産年齢人口(15歳以上64歳以下の人口)が今後益々減っていく中、また他国との人材獲得競争も激化していく中、現在の制度の実態と「国際協力」を目的としているところに乖離が生じているとの意見も多くあり、昨年11 月まで行われていた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」での最終報告を基礎に国会にて議論され、先の通常国会にて、技能実習制度の「発展的解消」、言い換えれば「廃止」が決定しました。

(2)新しく制定される「育成就労制度」の概要

育成就労制度は、「育成就労産業分野(特定技能制度と原則同一の分野)において、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的とする。」とされており、「人材確保」と「人材育成」を目的とした制度となります。以下、受け入れ企業に影響がでる代表的な箇所についてご説明します。

まずは、育成就労の期間ですが、これまでの技能実習制度では、企業によって「1年」、「3年」あるいは「5年」と異なっていましたが、これが原則「3年」に統一されます。3年かけて「特定技能1号」の水準となるよう育成することが求められます。

特定技能制度とは、深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる制度で、平成31年に創設されました。特に、国内で充分な人材が確保できない分野を「特定産業分野」と位置づけ、特定産業分野に限って外国人が現場作業等で就労できるようになりました。現在は介護業、建設業、宿泊業、農業、飲食料品製造業、外食業など12の業種です(今後、工業製品製造業、自動車運送業、林業、木材産業、鉄道といった業務区分、分野の追加が予定されています。)。

特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」という2種類の在留資格があり、特定技能1号の期間は上限5年間ですが、特定技能2号になると期間の上限なく在留することができるようになり、家族帯同(配偶者と子)も認められることになります。

次に、これまでは「技能実習2号」を良好に修了した場合、特定技能1号に変更するにあたっての「日本語試験」「各業界団体の特定技能試験等」は免除されていましたが、育成就労制度では変更の際に受験が必須になる見込みです。

また、これまでは技能実習制度で前述のとおり、原則3年は本人希望による企業の変更、転籍は認められていませんでしたが、育成就労制度では仕事の内容(分野)によって、早ければ1年、遅くとも2年を超えたら、同一業務区分内において、本人希望による転籍が認められるようになります(当初、有識者会議では全業種1年の転籍制限で検討が進められていましたが、地方への影響等を鑑みて当分の間、このようなかたちとなりました。)。

上記以外にも技能実習制度との相違点はありますが、細かなことはまだ決まっておらず、今後、政省令にて定められることとされており、現在技能実習生を受け入れている企業においては今後も注視していく必要があります。

なお、育成就労制度は「公布日(令和6年6月21日)からから起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」に施行することとされているため、現状では令和9年春頃から開始される見込みとなっております。

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【朝礼】相手によって変わる「配慮」のポイント

おはようございます。今日は「配慮」というテーマで話をします。服装、名刺交換、電話、メール、席次など、私たちは日々、さまざまなマナーを守って仕事をしています。ただ、こうしたマナーは正解がしっかり決まっているようでいて、実は決まっていません。相手が誰かによって、「配慮すべきポイント」が変わり、細かい部分を調整する必要があるからです。

例えば、体などのハンディキャップのことを「しょうがい」と呼ぶことがあります。漢字で書くと「障害」ですが、世間では「害」の部分を平仮名にして「障がい」と表記している書籍やサイトが多く見られます。これは「体などが不自由な人に対し、『害』という文字を当てるのは不適切ではないか」という配慮によるものです。

一方、目が不自由な人が相手の場合、少し事情が変わります。例えば、医療・介護系サービスのサイトなどでは、目が不自由な人への配慮から、あえて漢字のほうの「障害」を使っているところがあります。目が不自由な人は、サイトに書いてある内容を知りたい場合、スクリーンリーダーなどの音声読み上げ機能を使うことがあります。しかし、その際、平仮名のほうの「障がい」を使っていると、その箇所が「さわりがい」と、誤った読み方をされるケースがあるそうです。そのため、「目が不自由な人にも、サイトに書いてある内容を正しく伝えたい」という配慮から、漢字のほうの「障害」を使っているのです。

「障害」「障がい」どちらの表記も、配慮したい相手がいて、その表記をすべき明確な理由があるわけです。他にも配慮の仕方に注意が必要なケースとして、マスクを「着用する」「着用しない」の問題もありますね。2023年にコロナが5類に移行してから、マスクの着用は個人の判断に委ねられるようになりましたが、今も感染者は出ている状況なので、やはり配慮が必要な場合はあります。

例えば、病院にかかる際などは、マスクを着用したほうがよいといわれます。院内の感染防止などのため、病院からマスク着用を求められることもありますし、そうでなくても、「自分が着けてないことで、医師や他の患者が不安にならないか」という視点は持つべきでしょう。

仕事で誰かと面談する際などもそうです。基本的には個人の判断で問題ありませんが、マスク着用に対する考え方は人それぞれなので、相手の様子を見た上で、「マスクを着けていても(外しても)よろしいでしょうか」と一言添えるぐらいの配慮はあってもよいかもしれません。

いずれにせよ、マナーの根底には、常に相手への配慮があります。何も知らない新入社員の頃は、まず「ビジネスマナーはこういうものだ」と教わるところからスタートしますが、冒頭でも言った通り、絶対という正解はありません。しゃくし定規に教わったマナーを守るのではなく、相手によって臨機応変に対応するのが一人前のビジネスパーソンです。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

社員の「安否確認」手段を整備しよう【中小企業のためのBCP】

書いてあること

  • 主な読者:社員の安否確認手段が確立されていない会社の経営者、総務担当者
  • 課題:いざというとき、社員の安否をすぐに確認できるか分からない
  • 解決策:安否確認の目的を明確にして、自社に合った手段を整備する

1 緊急時、社員の安否確認が不可欠な2つの理由

2024年は元日に能登半島地震、8月8日に日向灘地震(宮崎県日向灘を震源とする地震)が発生しました。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくなく、備えはどの会社にとっても必須です。

いざ災害が起こってもスムーズに行動できるよう、事前に決めておきたいのが、安否確認の手段です。緊急時に社員の安否確認が不可欠なのは、

  • 社員と、社員の家族の安全を確保するため
  • 事業継続や再開の判断をするため

です。

社員の安否確認をすることは当然ですが、社員の家族も心配です。また、大規模な自然災害の場合、社員の状況によって事業継続(あるいは再開)の状況は変わってきます。「誰が業務をできるのか?」は大切な情報です。

会社が行うべき安否確認の流れは次の通りです。

  1. 避難して安全を確保してから、集合場所に集まった社員を点呼で確認する
  2. 外出中やリモートワークなどでその場にいない社員と連絡を取り、安否確認をする
  3. 安否情報を集計し、待機や出社などの状況に適した指示を出す

このとき、2.で発生しがちな課題として、いざというときに普段の連絡手段が使えないことがあります。特に電話は、災害発生時に回線の混雑や通信制限で使えない場合があります。

では、どうやって社員の安否確認を行えばよいでしょうか。また、日ごろからどのような備えをしておくべきでしょうか。具体的に見ていきましょう。

2 どのように社員の安否確認を行うか?

1)5つの主な安否確認手段を比較

ここでは、官公庁や各種企業が提供している防災情報を参考に、5つの主な安否確認手段を取り上げ、その特徴と注意点を比較します。

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「社員への使い方の教育」「安否状況の集計作業」「導入費用」「運用費用」などを比較すると、それぞれの手段で一長一短があります。

東京商工会議所「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート(2023年調査)」によると、社員の安否確認に最も多く使われる手段は、「メールやSNS」の56.2%となっています。普段から使い慣れている連絡手段とはいえ、集計作業が煩雑であり、社員数や事業拠点数が多い場合は、安否情報を集めるだけでもかなりの時間が取られてしまいます。

対して、安否確認システム/サービスは、導入や運用に費用がかかるものの、安否状況を自動で集計できる上、安否確認メールの自動送信や、報告がない場合のメール再送信機能を備えているものもあり、混乱した状況でも安否情報をスムーズに整理できます。

また、災害用伝言ダイヤル(171)は無料で利用できますが、データ通信専用SIMカードでは音声通話ができないため、社員が格安SIMを使っている場合には注意が必要です。災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171)について、詳しくは以下の総務省ウェブサイトをご確認ください。

■総務省「災害用伝言サービス」■

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/net_anzen/hijyo/dengon.html

2)安否確認の前提となるインターネット接続環境の確保

安否確認手段はさまざまありますが、災害用伝言ダイヤル(171)を除けば、インターネットに接続できる環境が必要です。

そこで知っておきたいのが、「00000JAPAN」(ファイブゼロジャパン)です。「00000JAPAN」は、災害発生時に携帯電話会社などが無料開放する公衆無線LAN(Wi-Fi)のアクセスポイントで、これを利用してインターネットに接続できます。

ただし、「00000JAPAN」は、被災地で誰でも使えるという利便性を確保するため、通信の暗号化などセキュリティーへの対応は行われていません。「00000JAPAN」を利用するときは、安否確認や災害関連情報の収集にとどめるようにしましょう。

■無線LANビジネス推進連絡会■

https://www.wlan-business.org/00000japan/

3 日ごろから備えておきたいことは?

災害発生時に、安否確認手段が未整備だったら、もう手遅れです。そうならないために早急に決めておくべきなのは、「安否確認で優先的に使う手段」と「安否情報として報告する内容」です。その上で、報告・連絡といった基本的な行動が普段からしっかりできる組織を作っていきましょう。

1)安否確認で優先的に使う手段を1つ決めておく

日常業務で、メール、電話、ビジネスチャットなど複数のツールを用途に応じて使っている会社も多いでしょう。

しかし、緊急時には、連絡手段が複数あることで、かえって混乱を招く場合があります。バックアップ的に複数の安否確認手段を持っておくことは大切ですが、優先的に使う手段は1つに決めておきましょう。

2)安否情報として報告する内容を決めておく

社員が安否情報を登録するときの文言(メッセージ)については、

  • 名前
  • 現在いる場所(自宅・会社・外出先)
  • 状況(例:1人・家族や同僚と一緒)
  • 安否(けがの有無など)
  • 出社の可否
  • 次にメッセージを入れる時刻

など報告する内容を決めておきましょう。

災害用伝言ダイヤル(171)の録音時間は30秒以内、災害用伝言板(web171・各キャリア)の文字数は100文字以内(名前と状況以外)となっており、簡潔に伝える必要があります。災害発生時は、社員がパニックを起こし、うまく情報を伝えられなくなることもあり得ます。安否確認の訓練の実施や、報告すべき情報を記したカードを配布するなどの工夫をしましょう。

なお、災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171・各キャリア)は、体験利用日を設けており、災害発生時以外でも利用できます。詳しい日程は、各サービスのウェブサイトをご確認ください。以下、一例として紹介します。

■NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171s/howto.html

■NTT東日本「災害用伝言板(web171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-east.co.jp/saigai/web171s/howto.html

■NTT西日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-west.co.jp/dengon/taiken/

■NTT西日本「災害用伝言板(web171)体験利用のご案内」■

https://www.ntt-west.co.jp/dengon/web171/taiken.html

3)報告・連絡をしっかりできるようにする

どれだけ事前に安否確認の体制を整備しても、災害発生時には想定外の事態が起こり得ます。

重要なのは、平時でも基本的な報告・連絡を、全員がしっかりとできる組織であることです。例えば、連絡に対して迅速にレスポンスを行う、外出するときに行き先を周知する(周囲のメンバーも確認する)といった基本的な行動です。社員がこうしたことをできているのか、いま一度確認し、できていないようであれば、普段から徹底するように、あらためて注意を促しましょう。

また、避難を要する災害に見舞われた場合、スマートフォンや携帯電話のバッテリーが切れてしまい、継続的な安否確認ができなくなる恐れがあります。外出時の持ち物や避難用品に充電済みのモバイルバッテリーを加えるなどの呼びかけをしておきましょう。

以上(2024年9月更新)

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画像:NOBUHIRO ASADA-shutterstock

60代の就業ニーズ

人手不足に悩む中小企業にとって、60代のシニア層の活用は有効な解決策のひとつとなり得ます。本稿では、公益財団法人産業雇用安定センターが、求職活動中の60代男女を対象に実施した「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」(2023年11月。男女各500人回答)の結果をもとに、働くことに関するシニア層の希望や意識についてお伝えします。

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50代から考える定年後の「働き方&年金」ハンドブック(2024年9月号)

「人生100年」──。これは、ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授が『LIFE SHIFT──100年時代の人生戦略』のなかで提唱した言葉です。同書は、2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到達するとし、長い人生をどうやって生きるかを考える人生設計の必要性を説いています。
改めて、「人生100年」時代を見据え、本冊子は「定年後の人生」が視野に入りつつある50代社員を対象に、定年後の人生設計を考えるための基礎情報を解説します。


社労士が教える「社会保険の適用拡大(2024年10月)」直前対策!

書いてあること

  • 主な読者:パート等を雇用していて、正社員などが51人以上いる企業の経営者、労務担当者
  • 課題:2024年10月から「社会保険の適用拡大」の対象になる。具体的な実務を知りたい
  • 解決策:まずは、社会保険の被保険者になるパート等がいないかを確認(いる場合、資格取得の手続き)。配偶者の扶養から外れたくないパート等への対応なども忘れずに

1 「社会保険の適用拡大」とは?

社会保険の適用拡大とは、

2016年10月から社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するパート等の範囲が、段階的に拡大されること

です。また、「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

です。これまでは「厚生年金保険の被保険者数(正社員など)が101人以上」の企業に勤め、一定の要件を満たすパート等が対象でしたが、2024年10月から「101人以上」の部分が「51人以上」に拡大されます。

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パート等の社会保険加入の手続きを怠ると、健康保険法・厚生年金保険法により「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則の対象になります。

そこで、この記事では、被保険者数が51人以上でパート等を雇用している企業向けに、社会保険加入のヌケモレを防止するためのチェック項目と各実務のポイントを紹介します。

2 社会保険加入の対象者がいるかを確認しよう!

まずは、社会保険加入の対象となるパート等がいるかを確認します。パート等について、図表2のチェック項目を確認し、当てはまる場合は「〇」を付けてみてください。「全ての項目」に〇が付く場合、そのパート等は2024年10月から社会保険に加入します。逆に1つでも満たさなければ、社会保険に加入させる必要はありません。

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1)企業が「特定適用事業所」かを確認

前述した通り、2024年10月からパート等を社会保険に加入させる義務があるのは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。該当する企業を「特定適用事業所」といいます。

「被保険者数が51人以上か」は、パート等(週労働時間がフルタイムの3/4未満)の人数を除外し、図表3のAとBの人数を合計して判断します(支店や営業所が複数ある場合、全事業所の合計で判断)。

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また、人の入れ替わりが激しく、「51人以上」「50人以下」のラインを上下する場合、

直近12カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上あるかで判断

します。この要件を満たす見込みがある企業(2023年10月から2024年7月までの10カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上ある企業)には、

2024年9月上旬に、日本年金機構から「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付

されていますので、そちらが届いているかも併せて確認してください。

2)パート等が「被保険者要件」を満たすかを確認

1)の特定適用事業所に雇用され、次の労働条件の要件を「全て」満たすパート等が、2024年10月から社会保険の被保険者になります。ポイントを見ていきましょう。

1.週の所定労働時間が20時間以上か

所定労働時間とは、就業規則や労働条件通知書で決められている労働時間のことです。注意が必要なのが、労働時間が流動的な「シフト制」のパート等です。シフト制のパート等は

一定期間内の労働時間を週単位に換算した場合、20時間以上になるかどうか

で要件を満たすかを判断するので、シフトの組み方によっては意図せず被保険者になることがあります。

2.所定内賃金が月額8.8万円以上か

所定内賃金とは、週給、日給、時間給を月額に換算したものに諸手当等を含めたもののことです。ただし、次に掲げる賃金は所定内賃金に含めません。

  • 臨時、または1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(結婚手当、賞与など)
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金(つまり残業代)
  • 最低賃金法で算定対象外とされている賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)

3.2カ月を超える雇用の見込みがあるか

2カ月以内の雇用期間で労働契約を締結した場合であっても、2カ月を超える見込みがある場合、被保険者になります。労働条件通知書などの記載内容ではなく、実態で判断します。

4.学生でないか

学生は原則として対象外ですが、卒業証明書をもらっていて「卒業後の雇用継続」が見込まれる学生、休学中の学生、夜間学生などは、例外的に被保険者になります。

3 社会保険加入の手続き前にパート等への説明を!

社会保険加入の手続きをする前に、対象となるパート等に対して社会保険加入後の働き方について、必要な説明をしましょう。また、社会保険加入後の、企業の人件費負担についても併せて確認しておきましょう。

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1)対象となるパート等への説明

社会保険に加入する場合、パート等には次のようなメリット・デメリットがあります。

  • (メリット)傷病手当金や出産手当金の対象になる/厚生年金保険に加入するので年金額が増える/扶養の範囲(労働時間や賃金)を気にせず働ける など
  • (デメリット)パート等が被扶養者の場合、家族の扶養から外れ、社会保険料が賃金から天引きされる(賃金の手取り額が減る可能性がある) など

社会保険料の負担がないという理由でパート等として勤務している人もいるでしょうから、2024年10月から被保険者になる人には、メリット・デメリットの説明資料や、パート等から質問されるであろう点をまとめたFAQなどを準備した上で、面談を実施しましょう。

自社で説明資料などを準備するのが難しい場合、厚生労働省が運営する「社会保険適用拡大特設サイト」を紹介するのもよいでしょう。「パート・アルバイトのみなさま」のページに、傷病手当金などの保険給付や社会保険料についての紹介動画・パンフレットが掲載されています。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「パート・アルバイトのみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/dai1hihokensha/

2)2024年10月以降の働き方についてパート等と協議

1)の説明をした場合、パート等から「扶養から外れたくないので、労働時間を調整したい」「社会保険に加入するのはいいが、手取りが減るので出勤日を増やしたい」といった要望が出る可能性があります。必要に応じて本人と協議し、労働条件の見直しを検討しましょう。

ただし、2024年10月1日時点で被保険者要件(第2章参照)を満たしているパート等は、必ず社会保険に加入させなければならないので、労働条件を見直す場合は早めの対応が必要です。

3)企業の人件費負担の確認

社会保険料は企業と従業員が折半で負担します。ですから、2024年10月から新たに社会保険に加入するパート等が増えれば、企業の人件費負担が増加することは避けられません。経営にも関わる部分なので、具体的な額を事前に把握しておきましょう。

前述した社会保険適用拡大特設サイトの「社会保険料かんたんシミュレーター」を使うと、企業負担分の社会保険料がどの程度変動するのか、簡単に試算できます。また、同サイトでは、人件費負担などの経営相談に対応してくれる専門家や、パート等を正社員化するときのための助成金なども紹介しているので、必要に応じてご活用ください。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「事業主のみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/

4 社会保険加入の手続きと、その後の対応

最後に、2024年10月の制度改正のタイミングで、被保険者となるパート等を社会保険に加入させます。給与システムの変更なども忘れないようにしましょう。

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1)法定書類の提出など

社会保険の加入手続きは、被保険者要件を満たすようになった日(資格取得日)から5日以内に行う必要があります。2024年10月1日時点で被保険者要件を満たしているパート等の場合、

2024年10月6日までに被保険者資格取得届を、日本年金機構の所轄年金事務所(郵送の場合は所轄事務センター)に提出

しなければなりません。

提出後、健康保険被保険者証と資格取得に関する通知が会社に送付されますので、被保険者証は社員に交付、通知は社内で保管します。なお、被保険者証は、マイナンバーカードと一体化される関係で、2024年12月に廃止が予定されています。

2)社内のシステムや各書式の変更

1)の資格取得に関する通知には、パート等の標準報酬月額が記載されているので、給与システムへの反映を忘れずに行いましょう。

賃金が毎月末日締め、翌月払いの場合、11月支給の賃金から社会保険料の天引きを開始

します。

また、社会保険の適用拡大後に、新しいパート等を採用する予定があるのであれば、求人案内や労働条件通知書の「社会保険の適用」についても、必要に応じて記載内容を修正しておきましょう。

以上(2024年9月作成)

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画像:ChatGPT

「年収の壁」は6枚。配偶者特別控除が受けられなくなる年収、社会保険料の負担が発生する年収はいくら?

書いてあること

  • 主な読者:いわゆる「年収の壁」について正しく知りたい人
  • 課題:年収の壁は複数の制度にまたがっており、いくつもあるので全体がつかみにくい
  • 解決策:年収の壁は6枚。税制上の壁の「100万円、103万円、150万円、201万円」と、社会保険上の壁の「106万円、130万円」を覚えよう

1 年収によって生じる6枚の壁

年収の壁とは、

税金や社会保険料の負担が変わる境目の年収

です。具体的には次の6枚の壁があります。

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年収の壁についてざっくりとしたイメージはあったかもしれませんが、このように表にすると、複数の制度にわたっていて複雑であることが分かります。また、近年は、共働き世帯の増加など家庭内の所得構成の変化を背景に、年収の壁に関係した制度改正や支援策導入が活発です。

年収の壁は、

  • 従業員個人にとっては、本人、配偶者、子供の働き方次第で手取りが変わってくる要因
  • 会社にとっては、パート等のシフト調整や勤怠管理をする際に考慮すべき一定の基準

になりますので、きちんと理解をしましょう。この記事を従業員に読んでもらうのも、有益な情報提供になるでしょう。

2 税制上の壁:100万円、103万円、150万円、201万円

1)100万円の壁

100万円の壁は、住民税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が100万円を超えると、住民税が課税されます。住民税は前年の所得を基に計算されるので、実際に納税(給与を受け取っている人は給与から徴収)するのは、100万円を超えた翌年6月以降です。

住民税は、都道府県民税と市町村民税に分かれ、それぞれ「均等割(均等に一定額が課される)」と「所得割(その人の所得を基に課される)」によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。標準税率は、

  • 均等割:都道府県民税が1000円、市区町村民税が3000円の合計4000円(2024年度より森林環境税が1000円課税されます)
  • 所得割:都道府県民税が4%、市町村民税が6%の合計10%

です。標準税率とは、地方税法で定められた税率のことです。各自治体が一定の範囲内で標準税率と異なる税率(制限税率)を定めることができるため、お住まいの自治体によって税率が異なる場合があります。

2)103万円の壁

103万円の壁は、所得税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が103万円を超えると、所得税が課税されます。実際は、月給が8万8000円を超えると、支給される給与から所得税が差し引かれます。もし、年収が103万円以下の年に、たまたま月給が8万8000円を超えた月があるときは、年末調整(年末時点の年収から正確な所得税を計算し、精算する処理)または確定申告をすることで、差し引かれる必要のない所得税を返してもらえます。

所得税の税率は所得額に応じて異なり、所得額(年収から控除額を控除した金額)の区分別に5~45%で、所得額が高くなるにつれて税率が上がります。最小の税率(5%)は、所得1000円~194万9000円までの区分に適用されます。

103万円という金額は給与を支給される人(一定の人を除く)が受けられる控除である、

  • 基礎控除の48万円
  • 給与所得控除の55万円(給与所得が180万円以下の場合受けられる控除の最低額)

の2つの控除の合計額(103万円=48万円+55万円)です。控除額の合計額が103万円以内の年収であれば、所得は0円扱いとなり所得税が掛からないというわけです。

年収 103万円-給与所得控除額 55万円-基礎控除額 48万円=所得額 0円

3)150万円の壁と201万円の壁

150万円の壁は、配偶者特別控除の満額である38万円を受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者特別控除は、一定の所得範囲の配偶者がいる納税者が受けられる控除です。

納税者本人(扶養者)をA、その配偶者をBとします。配偶者Bの年収が150万円を超えると、控除額は段階的に減少し、納税者Aの税負担が増えていきます。また、納税者Aの収入金額によっても控除額が異なり、原則1195万円(所得金額が1000万円)を超えると、配偶者Bの所得に関係なく、配偶者特別控除は受けられません。

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201万円の壁は、配偶者特別控除が受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者Bの収入金額が201万円(正確には201.6万円)を超えると、配偶者特別控除が受けられず、納税者Aの税負担が増えます。

3 社会保険上の壁:106万円、130万円

1)106万円の壁

106万円の壁は、一定の規模以上の会社における社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入義務が発生するか、しないかの境目となる壁です。パート等(パート、アルバイト)は「週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満」であれば社会保険には加入しませんが、次の1.から5.を全て満たす場合については、被保険者(社会保険の加入者)になります。

  1. 会社規模:勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が常時100人超(2024年10月1日以降は50人超)
  2. 給与収入:所定内賃金が月額8万8000円以上(8万8000円×12カ月≒106万円)
  3. 労働時間:週の所定労働時間が20時間以上
  4. 雇用期間:継続して2カ月を超えて使用される見込み
  5. 適用除外:学生でない

これらの要件のうち、2.の給与収入が「106万円の壁」です。

社会保険料は、「標準報酬月額(月の収入を一定幅で区分したもの)×保険料率」で計算します。ここでは、健康保険の保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)である会社の場合を紹介します。協会けんぽでは健康保険料率が都道府県支部ごとに異なりますが、例えば東京支部では

  • 健康保険料率:9.98%(40歳以上の場合、介護保険料分の負担が加わり11.58%)
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となっています(2024年度)。社会保険料は会社と従業員が半分ずつ負担するので、収入の14~15%程度が、従業員の自己負担分として給与から差し引かれます。

2)130万円の壁

130万円の壁は、社会保険の扶養に入れるか、入れないかの境目となる壁です。パート等の年収が130万円を超えると、そのパート等は配偶者らの扶養から外れ、勤務先の社会保険に加入しなければなりません(勤務先で加入しない場合、自分で国民健康保険料や国民年金に加入)。つまり、それまで負担しなくてよかった保険料を、負担しなければならなくなるということです。

106万円の壁には会社規模(従業員数)の要件がありますが、130万円の壁は全ての会社で働く人が対象です。ただし、国の施策により、一時的な増収により年収130万円を超えたと認められる場合、一定期間、配偶者らの扶養にとどまることができる措置が取られています(後述)。

4 政府による年収の壁への支援策

働く人にとって年収の壁は切実です。壁を越えないように働く時間を調整することが多く、これが人材不足に拍車をかけていると指摘されています。そこで、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」と呼ばれる

年収の壁(106万円の壁・130万円の壁)に対する支援策が開始

されています。具体的には、

  • 106万円の壁に対する支援:賃上げや労働時間(週所定労働時間)の延長などを取り組む会社に対して、1人当たり最大50万円(最長3年間)の助成金を支給
  • 130万円の壁に対する支援:繁忙期に残業が増えるなどにより一時的な増収があった場合、連続2年間は扶養にとどまれる措置

です。なお、今のところは2023年10月から2年間だけの期間限定の支援策とされていますが、経済的な効果や反響によっては延長される可能性などもあるため、今後の動きにも注目しておきましょう。

以上(2024年8月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:ChatGPT