「基本給」の賃上げは属人給と仕事給のウエイトに注意!

書いてあること

  • 主な読者:基本給の賃上げを考えている経営者、人事労務担当者
  • 課題:安易に賃上げに踏み切って、後々経営に差し支えないかが不安
  • 解決策:基本給を構成する属人給と仕事給のウエイトに注意する

1 「賃上げ率、何%にしようか?」と考える前に……

毎年、春闘の時期になると「賃上げ」の話題が世間をにぎわせます。直近では日本労働組合総連合会が、2023年春闘で「5%程度」としていた賃上げ目標を、2024年春闘では「5%以上」に改めたことなどが注目を集めています(どちらの賃上げ率も定期昇給相当分を含む)。

賃上げの対象となるのは、主に「基本給」です。一般的に、基本給とは「毎月きまって支給する賃金のうち、諸手当などを除いた基本となる賃金」のことをいい、その内容は

  • 属人給:年齢や勤続年数など、社員の属人的な要素によって決定される賃金
  • 仕事給:能力や職務のグレードなど、仕事に関係する要素によって決定される賃金

に大別されます。

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多くの会社では、図表1のような複数の要素が組み合わさって基本給を構成しているので、

「各要素が基本給に占めるウエイト」を確認した上で、賃上げを検討する

ようにしないと、後々、人件費が経営を圧迫することになりかねません。以降でポイントを紹介します。

2 属人給と仕事給のウエイトで賃金カーブの傾きが変わる

賃上げを行う場合、一般的には

  • 賃金テーブルや人事考課に応じ、毎年1回など定期に賃金を引き上げる「定期昇給」
  • 賃金テーブルを書き換えて賃金水準を一斉に引き上げる「ベースアップ」

のいずれか(または両方)で実施する会社が多いです。

年齢や勤続年数に応じた賃金額の変化を線にしたものを「賃金カーブ」といいますが、基本給に「属人給」が含まれていれば、賃金カーブは図表2のように、定期昇給の度に右肩上がりになり、ベースアップをした場合はカーブ全体が底上げされます。

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一方、基本給に占める「仕事給」のウエイトが大きくなり、「属人給」のウエイトが小さくなると、年齢や勤続年数に応じた変化は小さくなります。仮に基本給のウエイトを「属人給0%、仕事給100%」にしている会社があった場合、もしも社員の能力や職務のグレードが一向に変わらなければ、賃金カーブは図表3のようにベースアップ以外では変化しなくなります。

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図表3はかなり極端な例ですが、要するに

属人給と仕事給のウエイトに応じて、賃金カーブの傾きが変わってくる

ということです。

仕事給のウエイトが大部分を占めると、いわゆる「ジョブ型」の人事制度になり、社員の会社への貢献度に応じて賃金が支払われるので、賃上げをしても人件費が経営を圧迫するリスクは低くなります。一方、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減り、社員の生活や安定した定期昇給を期待する社員のモチベーションに影響が出るリスクが高くなるので、ウエイトについては慎重に判断しなければなりません。

この記事の最後で、基本給の決定要素に関する統計データを紹介しているので、同業・同規模の会社の状況が気になる人は参考にしてください。

3 ウエイトを変えるときは「労働条件の不利益変更」に注意

属人給と仕事給のウエイトを変える場合、「労働条件の不利益変更」に注意が必要です。前述した、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減るケースなどがそうです。

労働条件の不利益変更を行うには、自社の状況に応じて、

「労働協約」「就業規則」「個別の労働契約」等を変更する必要

があります。中小企業の多くは労働組合を持たないので、「就業規則」や「個別の労働契約」を変更することになります。例えば、就業規則の作成義務のない会社(社員数が常時10人未満)では、労働契約を変更するために個別の社員の同意が必須となります。

就業規則については、個別の社員の同意を取らずに変更することも可能ですが(過半数代表者への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出は必須)、その場合、次のような内容に照らして「変更が合理的」といえるものでなければいけません。

  • 社員の不利益が大き過ぎないか
  • 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
  • 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
  • 社員との交渉を行っているか
  • その他、変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか

例えば、「ジョブ型の人事制度にしたいので、仕事給のウエイトを上げ、属人給のウエイトを下げる」という場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません(実際は、個別・具体的に判断される部分ですので、あくまで参考として捉えて下さい)。

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なお、賃金形態の変更は社員の生活やモチベーションに直結する部分ですので、就業規則に関係なく、個別の社員の同意を得てトラブルを回避しようとする会社も多いです。

4 基本給の決定要素に関する統計データ

最後に、基本給の決定要素に関する統計データを紹介します。

図表5と図表6は、管理職と管理職以外の基本給の決定要素です。全体的に「職務・職種など仕事の内容」「職務遂行能力」の割合が高めですが、教育、学習支援業や複合サービス事業は、他の業種に比べ「学歴、年齢・勤続年数など」を重視する傾向が見られます。また、管理職と管理職以外では、管理職以外のほうが「学歴、年齢・勤続年数など」の割合が高くなっています。

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図表7は、会社が基本給で最も重要としている決定要素です(原則として資本金5億円以上、社員数1000人以上の会社のデータ)。調査産業計では「総合判断」の割合が最も高いですが、業種別に見ると鉱業、建設、電力、商事、新聞・放送、情報・サービス、飲食・娯楽では、「職務内容・職務遂行能力等」を最も重要な決定要素に位置付けています。

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以上(2024年3月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ChatGPT

あなたの常識を見直す「NGな褒め方、叱り方」/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(9)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 相手を【どのように】褒めるべきかを、意識できていますか?

今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。

そして、世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

第6回からは、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1の『傾聴』に続いて、その2『褒める』を取り上げています。前回までで【何を】【どのように】褒めればよいかについて、おのおの整理して5項目ずつの活用テクニックを伝授しました。

今回は、引き続き「NGな褒め方」について、また「叱り方」をテーマにお話ししていきたいと思います。

2 NGな褒め方2選

NGな褒め方 ①他人と比較して褒める

例えば「〇〇さんよりすごいね」「〇〇さんはダメだけど、あなたは違うね」といった褒め方です。

上司がしがちなのが、部下の同期や近い世代との比較です。「同期の〇〇さんはできないのに、あなたはすごいね」「職場の若手〇人の中で一番すごいね」など。比較したほうが分かりやすいだろうと思われるかもしれませんが、比較された相手はどう感じるでしょう。

褒める相手と2人きりのときに伝えるから大丈夫と思われるでしょうか。身内の会合で「ここだけの話ですが」と軽口をたたいたはずが、公になって謝罪に追い込まれた政治家を、私たちは何度見たことでしょう。

今の世の中、もう“ここだけの話”などどこにも存在しません。いつかは比較対象にされた本人の耳にも入ってしまうと考えるべきです。

褒められたはずの本人も、素直に喜べないかもしれません。比較された相手が親しい人だとなおさらでしょう。そして「この上司は、陰で自分のことも引き合いに出して悪く言っているかもしれない。褒めてもらっても額面通りに受け取れない」と感じるでしょう。これでは逆効果です。

NGな褒め方 ②「〇〇なのにすごいね」

例えば「若いのにやるね」「女なのに頭が切れるね」「バイトなのに働き者だね」「主婦なのに責任感あるね」といった褒め方です。

同じ「〇〇なのにすごいね」でも、「すごい、1年目とは思えないね」であればOKではないでしょうか。先に挙げた例と何が違うか分かりますか。

前者の4つには「〇〇なのに」の対象に対する「~のくせに」といった少し見下したニュアンスが含まれていませんか。そうしたニュアンスを相手は敏感に感じ取るものです。

ではどうすればよいのでしょうか? そうです。「〇〇なのに」の部分は余計なのです。「すごいね」だけでいいのではないですか? 具体的に何がすごいと思ったのかを添えてあげれば相手はもっと実感できるはずです。

3 褒めてばかりで、叱らなくていいの?

第6回から今回の第9回まで4回にわたって「褒めましょう」と言い続けてきました。若い世代との間に “真逆”といえるほどの価値観のギャップが生まれていて、世界のビジネス上の価値観もそちらにあるのだから、管理職・リーダー側の皆さんが変わらなければならない、だから「褒めましょう」と。

今日までに「早速、褒めてみた」という人はどれくらいいるでしょう。私がとらわれていたような次の3つの誤解は解けたでしょうか。

【誤解①】「褒める」なんて自分には無理と思い込んでいる

【誤解②】他人を「褒める」と、その分自分が損をする

【誤解③】「褒める」と相手が慢心して天狗(てんぐ)になってしまう

【誤解①】については、最初は相手の反応を気にしながらびくびくだったかもしれませんが、気にせず続けていたら相手の反応も好意的に変わってきたのではないでしょうか。

頑張って続けていけば、あなたは「褒め上手で、部下を育てるのが上手な上司」と呼ばれるようになれます。

そうなれば【誤解②】など氷解してしまうでしょう。

いくら部下が優秀で結果を出し続けたとしても、周囲は「〇〇さんが活躍できるのは、上司の〇〇さんが褒めて伸ばしてくれるからだね」と見てくれるはずです。①の反応も含めて、損どころか、お得なことこの上ないのです。

【誤解③】についても、あなたがいくら褒めても相手は思っていたほど天狗にはならないことに気付いたでしょう。しかし中には褒めれば褒めるほどに慢心し増長して、仕事に適当に手を抜く人も出てくるかもしれません。

そこで「褒めてばかりで、時には叱らなくていいの?」という疑問が湧いてきていないでしょうか。

年齢も経験も違うのだから上の者が叱って教えてやらなければいけないんだとおっしゃるでしょうか。

私も大学にまで行かせてもらって社会人40年、いい歳になってそれなりの経験もありますが、とはいえ限られた世界の経験です。

この歳になっても知らなくて恥をかきそうになったことは、何度もあります。理系出身でネットビジネスを立ち上げた経験からパソコンには詳しいほうですが、スマホについては子どもたちに教えてもらってばかりです。また私が学生時代に習ったはずの知識や常識が、その後の発見や理論で覆っていることも多々あります。

上司と部下の関係であろうと、上司の知らないこともいっぱいあるのです。そんな中で年齢や経験は違えど、お互い“大人同士”なのに、大人が大人を「叱る」のはおかしくないですか。

では、試しに叱ってみてください。相手はあなたの話を理解して、素直に受け入れてくれましたか。逆にあなたがさらに上の上司や先輩から叱られたとして、素直に受け入れてすぐに行動を変えられますか?

私は素直に受け入れられる自信がありません。まして叱られた経験の少ない若い世代はどうでしょうか。

「叱る」ことで、あなたが本当に伝えたい意図が相手に伝わるでしょうか。

4 「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいい

実際に叱ってみると分かりますが、相手はあなたの話を理解し素直に受け入れてくれるどころか、むしろ反発してしまうでしょう。従来の関係性すらこじれて尾を引くかもしれません。こうなってからいくら褒めても効果なし、後の祭りです。

「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいいのです。「注意やアドバイス」のし方にもコツがあります。

1)先に良いところを「褒めて」から行う

先に良いところを褒められると、人は認めてもらえたと感じます。その上での注意やアドバイスであれば受け入れやすいものです。

例えば「〇〇さんはいつも一生懸命ですね。でもここだけは直してほしい、みんな困っていますよ」「ここの企画はすごくいいよね。ただこっちについては、お客様はどう思うだろう?(例えばこうしては?)」

ちなみにNGな褒め方①で触れた、他人と比較して「注意やアドバイス」をするのもNGです。例えば「同期の〇〇さんはこんなにできるのに悔しくないの?」。理由は申し上げるまでもありませんね。

2)なるべく前向きな表現で、期待を伝える

これも相手を認めることに通じるのですが、例えば「〇〇さんならできると思う」「〇〇さんならもっとできるよ」「みんな喜ぶよ、私も助かるなあ」。

3)できるだけ相手に考えさせ、自律的に

こちらからあまり具体的な注意やアドバイスをすると、相手は“指示”だと捉えます。人によっては指示には素直に従いたくないと思うかもしれませんし、毎回ただ指示に従うだけでは人は成長しません。

できるだけ相手に自ら考えさせることで、本人の成長も責任感も促せます。

例えば「A社のことは担当のあなたが一番よく知っているのだから、ベストな方法を考えてみて」といったように。

5 部下が上司に褒められたいこと、使ってほしい褒め言葉とは?

話を「褒める」に戻しましょう。調査によれば「部下が上司に褒められたいこと」は1位「努力」、2位「成果」、3位「個性」だそうです。

「成果」が出たときはもちろん褒めてほしいでしょうが、成果はいつも出るとは限りませんし、成果の裏には大抵多くの努力が潜んでいます。そこも見ていてくれて「努力」を褒めてほしがっているのです。

同じく「部下が上司の褒めてほしい言葉」は1位「さすがだね」、2位「がんばったね」、3位「安心して任せられるね」だそうです。

いずれも自分を一人の人間として認めてほしいという気持ちが表れていませんか。部下は何人いようとそれぞれ異なります。上司に求められている役割は、部下一人ひとりを活かして会社の期待に応えることです。

「褒める」にしても、時には「注意やアドバイス」を添えるにしても、部下一人ひとりに目を配り、個々の力を引き出していくことが肝要です。それは手間もかかるし遠回りなように見えて、結局は組織を活かすための近道なのだと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3をテーマにお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年3月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:PureSolution-Adobe Stock

経営者のパフォーマンスを上げる休息のポイントは「睡眠」と「軽めの運動」

書いてあること

  • 主な読者:多忙なため、睡眠時間を削るなどしていて、あまり休めていない経営者
  • 課題:昼夜を問わない不規則な働き方に慣れてしまって、休息のポイントが分からない
  • 解決策:質にこだわった睡眠を取る、アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

1 経営者が取るべき「質の良い休息」とは

元気でハツラツとした経営者は周囲を明るくします。活力ある経営者の姿は社員にとって安心感がありますし、取引先などからは、経営者の活力が「会社の活気」ととらえられ、元気な経営者が経営する会社は一目置かれます。

健康の秘訣はさまざまですが、この記事で取り上げるのは「休息」です。経営者には労働時間という概念がなく、昼夜を問わず不規則に働き、休みの日も何かしら仕事のことを考えているという人が多いでしょう。そんな忙しい経営者だからこそ、

仕事でより良い結果を出すための休息、すなわち「質の良い休息」を取ることが大切

です。この記事では、質の良い休息を取るために大切な2つのポイントを紹介します。

  • 質にこだわった睡眠を取る
  • アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

2 質にこだわった睡眠を取る

1)睡眠不足が招くパフォーマンスの低下

睡眠時間を削って仕事に打ち込む経営者は多いです。しかし、睡眠不足は判断力や思考力に大きな影響を及ぼします。例えば、厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」では、

  • 人間が十分に覚醒して作業を行うことができるのは起床後12~13時間が限界
  • 起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下する

とした研究結果を紹介しています(なお、「睡眠指針2014」は2023年12月に改訂され、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」としてまとめられました)。仕事のパフォーマンスを上げたいなら、睡眠時間を削るのではなく、むしろしっかり眠ることが大切です。

2)時間にこだわるよりも質にこだわる

「睡眠時間は8時間がよい」「睡眠サイクルは90分なので、その倍数で起きるのがよい」といった話を聞くことがあります。ですが、睡眠時間や睡眠サイクルには個人差があるため、必ずしも時間だけにこだわる必要はないでしょう。

睡眠時間が極端に短いのは問題ですが、

  • 大切なのは、自分にとっての最適な睡眠時間や睡眠サイクルを知り、習慣化すること
  • そのための第一歩は、記録を残し、自分の睡眠の特徴をつかむこと

です。

例えば、毎日の就寝時間や起床時間、「スッキリ起きられた」「だるさを感じた」などの寝起きの状態、「集中できた」「午後はずっと眠気を感じていた」などの日中のパフォーマンスなどを、簡単に記録します。睡眠時間や睡眠効率(実際の睡眠時間÷ベッドにいる時間×100)を計測できるウエアラブルデバイスなどもあるので、活用してみるとよいでしょう。

1週間の記録でも、どれくらい睡眠時間を確保すれば、パフォーマンスを発揮できるのかをある程度把握できます。例えば、7時間の睡眠で十分なパフォーマンスを発揮できるのであれば、毎日24時に就寝して翌朝7時に起床するなど、

就寝時間と起床時間をできるだけ一定にすることが肝心

です。

3)「寝だめ」よりも「短い昼寝」

普段は睡眠不足になりがちな場合、時間に余裕がある日に「寝だめ」をしようとする人がいますが、実はあまりお勧めできません。一時的な疲労回復には効果があるという研究もありますが、睡眠不足の日とそうでない日とで睡眠時間の長さに開きがあると、体内のリズムが崩れ、だるさなどを感じるようになるといわれているからです。

睡眠不足を解消したい場合、寝だめよりも効果的といわれているのが、

ごく短時間(15~20分)の昼寝

です。毎日の就寝時間と起床時間を一定にした上での昼寝であれば、体内のリズムも崩れにくいですし、もともと13時~15時前後の時間帯は、昼食を取ったのと相まって、疲労や眠気を強く感じやすいので、判断力や集中力の回復にも効果的です。ただし、昼寝が20分を超えると深い睡眠に入ってしまい、かえって覚醒に時間がかかる場合があるので注意しましょう。

4)体内の温度を下げると眠りやすい

人間は、睡眠時には熱が皮膚の外に放出され、体内の温度が下がります。そのため、就寝前に体内の温度を下げると寝つきやすくなるといわれています。

例えば、就寝前にぬるめのお風呂や足湯につかると、体を温めた後に手足表面からの熱放散が増え、体内の温度が低下しやすくなります。また、睡眠中は電気毛布の加熱を切り暖房の温度を下げるのも効果的です。逆に、睡眠中に電気毛布を利用したり暖房の設定温度を高くしたりすると、体内の温度が上昇して夜中に目覚めやすくなってしまいます。

5)寝酒は控える

就寝前にお酒を飲むいわゆる「寝酒」が習慣となっている人もいるかもしれません。たしかにアルコールには、一時的に寝つきがよくなり睡眠が取りやすいと感じさせる効果があります。

ただし、こうした効果があるのは最初だけです。一定の時間がたつと、アルコールが体から抜けていく反動で眠りが浅くなり途中で目覚めてしまうなど、睡眠の質が悪化します。また、毎日アルコールを飲んでいると寝つきの効果も薄れ、飲酒量を増やす原因にもなります。

3 アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

1)疲労回復のためにあえて体を動かす

疲労回復のためには、「体を休めたほうがよいのでは?」と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、軽めの運動は疲労回復に効果的とされています。

例えば、アスリートの中には、ハードな試合を行った翌日に「アクティブ・レスト(積極的休養・積極的休息)」と呼ばれる軽めの運動をする人が多いです。アクティブ・レストを行うと、血流が良くなって疲労物質の排出が促され、疲労回復の効果が高まります。また、幸せホルモンとして知られる「セロトニン」の分泌が高まり、不安やイライラの解消にもつながります。

2)アクティブ・レストは頑張り過ぎないことが大切

アクティブ・レストでは、

20~30分程度のウオーキングなど頑張り過ぎない程度の運動をするのが基本

です。「1駅分を歩く」「2~3フロアの移動であれば、エレベーターではなく階段を使う」などでも構いません。ウオーキングなどで体が温まった後にストレッチで筋肉をほぐすと、さらに効果的です。逆に激しい(強度の高い)運動をすると、かえって疲労が蓄積される恐れがあるので、長時間や速いペースでのランニングなどは避けましょう。

動画やアニメーションなどで軽めのトレーニングメニューを紹介してくれたり、引き締めたい部位や運動時間を選択するだけでお勧めのトレーニングメニューを提示したりするスマホアプリなどもあるので、活用してみるとよいでしょう。

3)話題のマインドフルネスに挑戦

アクティブ・レストのように積極的に体を動かすわけではありませんが、姿勢や呼吸法などを意識して瞑想する「マインドフルネス」に挑戦してみてもよいでしょう。マインドフルネスに取り組むことは、集中力の向上やストレス軽減の効果があるとされています。

マインドフルネスで、よく知られているのが「呼吸瞑想法」です。10~15分程度を目安に、

  • 背筋を伸ばして椅子に座り、足を肩幅に開いて肩の力を抜く
  • 目を閉じる(または視線を斜め前に落とす)
  • 体全体で自然に呼吸し、呼吸に意識を向ける
  • 「スピーチ原稿を作らなければ」など、雑念が湧いて呼吸に集中できなくなったら、「スピーチ、スピーチ」など、あえて雑念の内容を心の中でつぶやき、それから呼吸に意識を集中させる

といったものです。なお、瞑想をスムーズに行えるようサポートしてくれるスマホアプリなどもあるので、併せて活用してみるとよいでしょう。

以上(2024年3月更新)

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【中堅社員のスピーチ例】一歩を踏み出せば、後は楽しむだけ

おはようございます。今日は、私が昔、祖父に言われた言葉について話します。祖父は遠方に住んでいて、私とは、お盆とお正月の年2回だけ顔を合わせていました。中学1年のお盆に祖父の家に行った際、祖父から「最近、学校はどうなんだ?」と尋ねられた私は、「正直、あまり楽しくないんだよね」と返しました。

当時の私は、学校のクラスになじめず、勉強の成績もあまり良くなくて、鬱屈した日々を過ごしていたのですが、祖父は温厚な態度を崩さず、しかし、私をしっかり見つめてこう言いました。「お前は最近、何か新しいことにチャレンジしたかい? 楽しくないのは、もしかしたら、お前が何もしていないからかもしれないぞ」

このときの祖父の言葉を、私は話半分に聞いていて、あまり気に留めていなかったのですが、最近、仕事の中でふと、このときのやり取りを思い出す出来事がありました。

上司から、「ChatGPTを使って、社内資料に使う図表を作るように」と指示されたときのことです。図表自体はシンプルな作りですが、ChatGPTに作らせるには、指示の出し方に工夫が必要です。しかも、私はChatGPTに不慣れで、何度指示を出しても、思い描く通りの図表ができません。エクセルを使えば楽なのにと思いましたが、上司から「ChatGPTの使い方を身に付ければ、業務が効率化できる。たまには、新しいことにチャレンジしなきゃダメだ」と言われ、ハッとしました。

言われてみれば、私は最近、定例の業務を作業的にこなすだけで、チャレンジというものをしていませんでした。ふと、祖父の言葉を思い出し、「さすがに、このままではダメだ」と腕まくり。

私は、ChatGPTに出した自分の指示と、その指示によって生成された図表を、全て一覧にして見比べてみました。すると、自分の指示と、生成される図表との間にある規則性が、次第に分かってきました。何だか楽しくなってきた私は、その後も失敗を重ねつつ、指示の出し方を修正し、気付けば思い描く通りの図表を完成させていました。今では、ChatGPTへの指示の出し方をさらに工夫し、より複雑な図表も作れるようになっています。

私がやったことは、単に上司の指示を実行しただけで、チャレンジと呼ぶには少しおこがましいかもしれません。ですが、新しい世界に触れる、あがく、形にする、この一連の流れがとても楽しく、図表を完成させたときには、しばらく味わっていなかった、確かな達成感がありました。

自分の知らないことに挑戦するのって、面倒だし、勇気がいりますよね。私も正直、苦手です。しかし、今回の出来事から「苦手と思う気持ちを抑えて、一歩を踏み出せば、後は楽しむだけ」ということを実感しました。もし、皆さんの中に、最近仕事がなんとなく面白くないと思っている人がいたら、改めて祖父の言葉を贈ります。

あなたは、最近、何か新しいことにチャレンジしていますか?

以上(2024年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

情報セキュリティを担保するために

独立行政法人情報処理推進機構から「情報セキュリティ10大脅威2024」が公表されました。このうち「組織」向け脅威を見ると、外部からの攻撃によるもののほか、内部不正や不注意による情報漏えいなど、社内起因の脅威も垣間見られます。本稿では、社内起因の脅威のうち、内部不正にフォーカスを当て、現況と対策をお伝えするとともに、それを担保する規程の例をご紹介いたします。

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遅刻時間と残業時間を相殺することができますか。

QUESTION

遅刻時間と残業時間を相殺することができますか。

ANSWER

原則として相殺は可能です。

解説

1日の実労働時間が8時間を超えた場合に割増賃金の支払いの対象になるため、原則として相殺は可能です。
ただし、就業規則で「終業時刻後の労働時間について割増賃金を支払う」旨の定めがある場合にはこの限りでありません。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.93040

画像:Mariko Mitsuda

事業主には、従業員のメンタルヘルス対策を講じる義務がありますか。

QUESTION

事業主には、従業員のメンタルヘルス対策を講じる義務がありますか。

ANSWER

労働契約法(第5条)や労働安全衛生法、民法(信義則)上の義務を負います。

解説

労働契約法(第5条)や労働安全衛生法(第3条など)、民法(第1条2項など)の規定により、労働者の安全(メンタルを含む)につき、必要な配慮しなければならない義務を負います(安全配慮義務)。
必要な配慮については、平成12年に労働省(当時)が「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表して、使用者に課されるメンタルヘルス上の安全配慮義務の程度を定めています。
この指針によると、メンタルヘルスケアには、1.セルフケア、2.ラインケア、3.スタッフケア、そして4.専門機関によるケアの4つの段階があるとされています。
1.セルフケア
労働者が自ら行うストレスへの気づきと対処。
セルフケアの段階で使用者に求められるのは、労働者自身にセルフケアの重要性を自覚させるために、教育研修や情報提供を行うことです。
ただし、この教育研修や情報提供が、使用者側の安全配慮義務の内容にまでは、まだなっていません。
2.ラインによるケア
管理監督者が行う職場環境等の改善と相談への対応。
管理職による、部下の労働時間、労働状況、健康状況を把握し、初期症状が出てきた場合には作業量を調整することなどです。
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医等による専門的ケア。
4.事業場外資源によるケア
事業場外の専門機関によるケア。
また、平成27年12月1日から、常時使用する労働者に対して毎年1回、心理的な負担を把握するための検査を行うこと(ストレスチェック制度)が義務化されました。
※従業員数50人未満の事業場は制度の施行後、当分の間努力義務
1.ストレスチェックの実施について
 ○ストレスチェックの実施者者は、医師、保健師等となります。
 ○ストレスチェックの調査票は、「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」及び「周囲のサポート」の3領域が含まれています。
2.面接指導の実施
 ○ストレスチェックの結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行うことが事業者の義務になります。
 ○事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じる必要があります。
3.集団分析の努力義務化
 ○職場の一定規模の集団(部、課など)ごとのストレス状況を分析し、その結果を踏まえて職場環境を改善する措置は努力義務になります。
4.労働者に対する不利益取扱いの防止について
 ○ストレスチェックを受けない者、事業者への結果提供に同意しない者、面接指導を申し出ない者に対する不利益取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配転・職位変更等を禁止されています。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.95010

画像:Mariko Mitsuda

成果型賃金制度を導入して賃金が下がる従業員がいてもいいですか。

QUESTION

成果型賃金制度を導入して賃金が下がる従業員がいてもいいですか。

ANSWER

受忍限度内の不利益であり、構いません。

解説

成果型賃金制度を導入すると、成果や能力次第では賃金が上昇する場合と逆に不利益になる場合があります。賃金の不安定性を生ずることそれ自体が不利益変更であるとみて、判例の合理的変更法理が該当すると一般には考えられています。
そのために判例理論上は、賃金についての変更は高度な必要性を求めています。
「全国信用不動産事件」では、倒産の危機に瀕しているという状況にはなかったことを高度の必要性を否定する根拠としています。高度の必要性の要件を厳格にとらえると、就業規則の変更では成果主義型の賃金体系を導入することが困難となります。
一方、「ハクスイテック事件」は、成果主義型賃金体系を導入した給与規程変更の事案について、賃金の不利益変更であると認めたうえで、その変更に合理性があると判断しています。
一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められており、高度の必要性の要件を緩やかに解しています。個別労働者において賃金が下がることがあっても、受忍限度内の不利益であるとしています。
労務の観点からは、変更を必要とした経営事情よりも、変更後の労働条件の内容的合理性を重視して判断すべきです。
成果型賃金制度の合理性を支えるためには、目標管理制度における目標の設定とその方法・手続、仕事の成果の評価とその方法・手続、賃金額決定の方法・手続、苦情処理制度の整備が必要であると考えられます。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.92140

画像:Mariko Mitsuda

労働者から退職願または退職届を撤回する旨の申し出があった場合、会社として撤回に応じる必要はあるのでしょうか。

QUESTION

労働者から退職願または退職届を撤回する旨の申し出があった場合、会社として撤回に応じる必要はあるのでしょうか。

ANSWER

会社が退職の申し入れに対して、これを認めるという正式な意思表示をしていれば、労働者の退職の申し出の撤回に応じる必要はありません。

解説

退職の申し入れを正式に認めることの基準については、社内の規程などに明示しておくべきです。
基準を明確にしておくことで、その基準を満たせば、退職の申し出の撤回に応じる必要はありません。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.96060

画像:Mariko Mitsuda

外国人でも日本国内で就労する限り、労働基準法等の労働法の適用を受けますか。

QUESTION

外国人でも日本国内で就労する限り、労働基準法等の労働法の適用を受けますか。

ANSWER

適用を受けます。

解説

日本国内で就労する限り、日本人、外国人を問わず、原則として労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働関係法令の適用があります。
また、労働基準法第3条は、労働条件面での国籍による差別を禁止しています。外国人労働者についても、法定労働時間の遵守、週休日の確保など適正な労働時間管理を行う必要があります。
外国人を雇い入れた際にも、日本人と同様に労災保険・雇用保険、健康保険・厚生年金保険に加入させなければなりません。
また、外国人労働者と労働契約を締結する際には、労働条件を明記した書面を交付してください。
たとえ不法就労であったとしても、法の扱いは原則として変わりません。

※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
 <監修>
   社会保険労務士法人中企団総研

No.91040

画像:Mariko Mitsuda