取引先との契約で欠かせない 「反社チェック」

1 サプライチェーン全体に求められるコンプライアンス遵守

今や毎日のように耳にする「コンプライアンス」。この言葉には、単に法令を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理に従い、公正・公平に業務を行うという意味が込められています。そして、この言葉が市民権を得るようになった現在では、

自社だけでなく、取引先、取引先の取引先、さらにその先まで、サプライチェーン全体でコンプライアンスを遵守していくことが求められる

ようになりました。その一環として、特に、新規取引先との契約時に行われることが多いのが「反社チェック」です。

全ての都道府県で暴力団排除条例が施行されたのが2011年10月。時を経て、契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」を盛り込むことは、当然のこととなっています。しかし、

本当に取引を開始して問題がないのか、事前にきちんとチェックできているでしょうか?

取引開始後も、取引先の情報や契約情報に変更がないか定期的に確認することが大切です。最近は、効率的かつ誰がやっても同じ結果を導き出せる、

反社チェックに特化したツールやサービスもが登場

しています。こうしたツールなども活用して、業務効率化を図ってみてはいかがでしょうか?

2 反社チェックに便利なツールやサービス

反社チェックには、「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「業界団体への問い合わせ」「警察や暴力追放運動推進センターへの相談」「調査会社や興信所への依頼」など、相当な手間や費用がかかるため、

  • 契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」が盛り込んであるから大丈夫なはずだ
  • 「反社会的勢力でないことに関する表明・確約書」も取りつけているから安心だ

という判断をしている会社も少なくありませんが、これでは十分とは言い切れません。「反社会的勢力の排除に関する条項」がある場合、取引先が反社会的勢力と関係していたことが発覚した際には契約が解除できるものの、あくまで事後対応となるからです。

取引が始まる前にできる限りリスクを排除する意味で、反社チェックをしておくに越したことはありません。

反社チェックに特化したツールやサービスは、簡単に言うと「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「登記情報の確認」を自動化したもので、チェックしたい取引先の会社名や代表者、役員などの氏名を入力すると結果が出てきます。

また、これらのツールでは、反社会的勢力との関係だけではなく、逮捕報道の有無や過去の破産情報、行政処分の有無などが判明することもあり、取引の開始を検討する情報となります。

例えば、次のようなツールやサービスがあります。導入を検討する際は料金(従量課金制、月額定額制の違い)や情報量を確認した上で、自社に合ったツールなどを選ぶとよいでしょう。無料で試すことができるものもあります。

■Sansan「リスクチェック」■
https://jp.sansan.com/function/compliance/
■ソーシャルワイヤー「RISK EYES」■
https://www.riskeyes.jp/
■オープン「RoboRoboコンプライアンスチェック」■
https://roborobo.co.jp/lp/risk-check/
■KYCコンサルティング「Risk Analyze」■
https://riskanalyze.jp/
■エス・ピー・ネットワーク「SP RISK SEARCH®」■
https://info.sp-network.co.jp/service/anti-social/sp-risk-search
■ジー・サーチ「Gチェッカー」■
https://db.g-search.or.jp/compliance/gchecker/
■日本経済新聞社「日経リスク&コンプライアンス」■
https://nkbb.nikkei.co.jp/rc/
■東京商工リサーチ「ネガティブ情報チェックオンラインサービス」■
https://www.tsr-net.co.jp/service/detail/negative-check.html

3 コンプライアンス違反で、最悪の場合、会社の倒産も

例えば、九州地方のある設備工事会社は、社長が付き合いで会食を重ねていた相手が暴力団関係者だったことが発覚。その後、行政処分(排除措置、社名の公表)を受け、それから、わずか2週間足らずで倒産してしまいました。

指名停止で公共工事の受注ができなくなるだけでなく、対外的な信用が失墜し、手形が不渡りとなり、銀行が同社の口座を凍結したという真偽不明の情報が流れるなどしたそうです。また、同社の社員は、突然仕事を失い、再就職しようにも「反社会的勢力と関係のあった会社に所属していた」ということで、辛酸をなめることになったそうです。

その他、経営コンサルタントと称して、会社の資金を吸い上げられ、破綻してしまうといったこともあります。こうした事態に陥らないようにするためにも、反社チェックは重要です。

4 参考

行政機関や業界団体などが会社のネガティブ情報を公表しています(反社会的勢力との関係に限りません)。無料の範囲で反社チェックを行う際に、参考にしてください。

■国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」■
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/
■金融庁「行政処分事例集」■
https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html
■金融庁「課徴金納付命令等一覧」■
https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/05.html
■産業廃棄物処理事業振興財団「産業廃棄物処理業・処理施設 許可取消処分情報」■
https://www2.sanpainet.or.jp/shobun/
■日本貸金業協会「ヤミ金(悪質業者)の実例検索」■
https://www.j-fsa.or.jp/personal/bad_contractor/search/
■安全衛生優良企業マーク推進機構「優ジロウ ホワイト・ブラック企業検索」■
https://shem.or.jp/yujiro_serch

以上(2025年3月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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【朝礼】指輪物語に学べ! 「小さな勇気の声」に耳を傾けよう

【ポイント】

  • 指輪物語の主人公フロドは、小さく非力な種族でありながら、勇気を示した
  • 部下の中にも、経験が少ないなりに何かにチャレンジをしようとしている人がいる
  • 一見頼りなさそうでも、チャレンジする部下の言葉に耳を傾ける管理職であってほしい

今日は、管理職の皆さんに集まっていただきました。私は時折、皆さんから「部下があまり主張をせず、物足りない」という声を聞きます。確かにおとなしい若手は多いですが、一方で、部下が主張をしているのに、皆さんがそれを聞き逃しているというケースもあるかもしれません。今日はそんなテーマで、J.R.R.トールキン氏のファンタジー小説「指輪物語」の話をしたいと思います。

指輪物語は、人間、エルフ、ドワーフなど、さまざまな種族が暮らす「中つ国(なかつくに)」を舞台に、巨悪サウロンの指輪を手にした主人公フロドが、その指輪を破壊するため旅をする物語です。この話には武器や魔法の使い手が多く登場しますが、フロドはホビットという平和を愛する種族で、背丈も人間の子どもぐらいしかありません。しかし、そんな彼が実は誰よりも勇敢なのです。

私が好きなのが、故郷を旅立ったフロドがエルフの暮らす「裂け谷(さけだに)」にたどり着き、指輪の今後を話し合う会議に出席するシーンです。会議にはさまざまな種族が集まり、指輪を「滅びの山」と呼ばれる火山の中に投げ込めば、サウロンを滅ぼせることが明らかになります。しかし、滅びの山はサウロンの軍の本拠地にあり、誰がそこに指輪を持っていくかという話になると、皆が黙ってしまいます。それでも、誰かがやらなければならない。そこで、フロドはこう言うのです。

「わたしが指輪を持って行きます。でも、わたしは道を知りませんが……」(*)

小さく非力なホビットの、自信なさげで頼りない言葉です。しかし、これを聞いたさまざまな種族がフロドの勇気に感銘を受け、彼を含む9人により、指輪を運ぶ「旅の仲間」が結成されるのです。

管理職の皆さん、経験豊富な皆さんからすると、部下の言葉は自信なさげで頼りないものに聞こえるかもしれません。ですが、そんなときこそ、部下の話を聞くようにしてください。もしかしたら、彼らは経験が少ないなりに勇気を出して、何かにチャレンジしようとしているのかもしれません。部下から聞こえてくる「小さな勇気の声」に、注意深く耳を傾けてください。

【参考文献】(*)「新版 指輪物語〈2〉/旅の仲間〈下〉」(J.R.R.トールキン(著)、瀬田貞二(翻訳)、田中明子(翻訳)、評論社、1992年5月)

以上(2025年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「役員退職慰労金規程」のひな型

1 役員退職慰労金とは

役員退職慰労金とは、勇退した役員の在任中の功労に報いることを目的に支給される退職金です。役員退職慰労金を支給するためには、定款に定めるか、株主総会の決議が必要です(会社法第361条の「報酬等」に含まれます)。

ただし、実務上、定款で役員退職慰労金の具体的な金額を明示することはほとんどなく、株主総会において「取締役会に一任する」旨の決議がなされます。その上で、内規や取締役会で承認された「役員退職慰労金規程」に基づいて役員退職慰労金の金額が決められることが一般的です。

2 役員退職慰労金規程のひな型

以下で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員退職慰労金規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、当社の取締役または監査役(以下「役員」という)が退任した場合に、当該役員またはその遺族に対して退職慰労金を支給し、役員在任期間中の功労に報いることを目的とする。

第2条(適用範囲等)

1)本規程は役員の全員に適用する。

2)本規程に定める退任の時期は以下の通りとする。

  1. 任期が満了したとき
  2. 定時または臨時株主総会で解任されたとき
  3. 取締役会で辞任が承認されたとき
  4. 会社法第331条第1項または定款に定める欠格事由に該当し資格を喪失したとき
  5. 死亡したとき

第3条(非常勤役員の取り扱い)

非常勤役員については、その功労実績に基づき本規程以外の取り扱いをすることができる。

第4条(支給算定基準)

退職慰労金の支給算定基準は、退任時の最終報酬月額に役員在任期間(年数)および役位別功績倍率を乗じて得られた額の累計額とする。ただし、この額に1000円未満の端数が生じたときは1000円に切り上げるものとする。

退職慰労金の支給額=退任時の最終報酬月額×役員在任期間(年数)×役位別功績倍率

第5条(在任期間の計算)

1)在任期間は就任の日から起算し、退任の日までとする。

2)在任期間の計算において1年未満は月割り計算とする。

3)在任期間の計算において1カ月未満の端数は1カ月とする。

第6条(役位別功績倍率)

第4条における役位別功績倍率は以下の通りとする。

  • 会長:○
  • 社長:○
  • 副社長:〇
  • 専務取締役:○
  • 常務取締役:○
  • 取締役:○
  • 監査役:○

第7条(特別功労金)

1)在任中、特に功労のあった役員に対しては、退職慰労金の他に、その支給額の○%の範囲において、特別功労金を支給することがある。

2)特別功労金の支給は、取締役会において決定する。

第8条(特別減額・不支給)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金を減額し、または支給しないことができる。

  1. 在任中または退職に当たり、所定の手続きおよび事務処理等をせず、会社の業務運営に重大な支障を来したと取締役会が認めたとき。
  2. 在任中または退職に当たり、会社の社会的信用を傷つけ、または在職中に知り得た機密を漏らして会社に損害を与えたと取締役会が認めたとき。
  3. 定款に基づき、役員を解任されたとき。
  4. その他会社に重大な損害を与える等の事由により、取締役会が減額または不支給が適当と認めたとき。

第9条(使用人兼務役員の取り扱い)

役員が従業員を兼務している場合、この者に対して支給する役員の退職慰労金には、従業員としての退職金は含まないものとする。

第10条(支給時期)

退職慰労金は、役員が業務の引き継ぎを完全に終了させ、かつ、会社に対して返済すべき債務があるときは、その債務を返済した日から○カ月以内に一時金として支給する。

第11条(退職慰労金の支給一時差し止めおよび返納)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金の支給を一時差し止め、および支給した退職慰労金を返納させることができる。

  1. 退職慰労金の支給前に公訴を提起された場合。
  2. 在任期間中の業務に関し禁錮以上の刑に処せられたとき。

第12条(遺族の範囲)

1)役員が死亡したときは、退職慰労金はその遺族に支給する。

2)前項に規定する遺族は、配偶者を第1順位とし、配偶者がいない場合には、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位とする。該当者が複数いる場合は、全員から委任を受けた代表者に対して支給する。

第13条(相談役・顧問)

本規程は、退職した役員を相談役・顧問として任用し、相当額の報酬を支給することを妨げるものではない。

第14条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会決議において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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山形県中小企業まるっとサポート補助金のご案内

山形県では、県産業の持続的発展のため、「中小企業まるっとサポート補助金」により、新技術・新サービスの開発から設備投資、販路開拓まで切れ目なく一貫して支援します。
県内の中小企業・小規模事業者等が経営革新計画などの各種計画に基づいて実施する設備投資や、事業継続力強化計画、またはBCPに基づく防災設備の導入などに対して補助金を交付します。

補助対象事業や申請受付期間などの詳細な内容は、こちらのページからご確認ください。

山形県中小企業まるっとサポート補助金

「転勤制度」続ける? 続けない? 経営者108人アンケート

1 サラリーマンの悲哀「転勤」に見直しの動きが?

「転勤」は嫌だけど、会社の命令だから仕方ない……。昔からあるサラリーマンの悲哀です。マイナビが、2025年3月卒業見込みの大学3年生・大学院1年生(計3万9190人)に実施した調査でも、「行きたくない会社」の上位3項目は、

1位:ノルマのきつそうな会社(38.9%)
2位:転勤の多い会社(30.3%)
3位:暗い雰囲気の会社(24.8%)

となっていて(マイナビ「2025年卒大学生就職意識調査」)、今の若い世代にとっても、転勤は可能な限り避けたいもののようです。

ただ、昨今はこうした世相を意識してか、企業のほうでも社員の負担になる「不本意な転勤」を見直すところが少なくありません。具体的には、

  • 社員が望まない転勤を廃止する
  • 転勤手当を引き上げる
  • 転勤がないことを採用時のアピールポイントにする

などの動きがあります。テレワークの浸透などによって社員が働く場所にとらわれなくなってきたことなども、こうした動きを後押ししているようです。

もちろん、転勤には「さまざまな地域・職場で経験を積むことができる」という良い面がありますし、そもそも現地でないとできない仕事もあるわけですが、このあたりを経営者はどのように考えているのでしょうか。

独自アンケートから見えてきたのは、

転勤を維持する意向の企業は多いが、社員から転勤を拒まれた経験のある企業が過半数であり、今後、何らかの対応が必要になるだろう

という結果でした。詳しくは以下をご確認ください。

2 【経営者アンケート】転勤制度を見直しますか?

ここでは、転勤制度がある企業の経営者108人に対して、転勤制度の見直し予定や、社員から転勤を拒まれたときの対応などについて聞いたアンケートの結果を紹介します(実施期間は2023年12月6日から12月12日まで)。

1)転勤制度の有無について

転勤制度について、「就業規則」などに定めている企業が全体の85.2%と大多数になっています。転勤命令は就業規則に基づくことが通常であり、定めていないのは問題といえます。

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2)転勤制度を維持する企業が約9割

転勤制度の「見直しをする予定はない」企業が68.5%と最も多く、「縮小を検討している」企業と合わせると、95.4%に達します。転勤制度を廃止するところまで踏み込む企業はほとんどいません。

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3)転勤制度を維持する理由について

転勤制度を維持する理由としては、「適材適所な人材配置ができるから」の50.0%、「現地でないとできない業務があるから」の47.3%、「社員が様々な経験を積み、成長につながるから」の44.6%が拮抗しています。1つ目の適材適所と3つ目の社員の成長は人材登用や社員教育に関する企業の方針です。一方、2つ目の現地でないとできない業務については、現地採用などを進めなければ、転勤が避けがたい状況を示しています。

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4)転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由について

対して、転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由としては、「転勤制度で人材採用が不利になっている、あるいは今後不利になる懸念があるから」が64.7%、「育児、介護などの家庭の事情で、転勤が難しい社員が増えているから」が47.1%と多数になっています。これらの問題は、今後ますます深刻化するかもしれません。

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5)単身赴任のある企業が多く、支援の中心は家賃補助など

「単身赴任がある」企業は全体の76.9%と、高い割合を占めています。

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単身赴任者への支援としては、「家賃を補助している」の65.1%、「引っ越し費用や、新たに購入する生活用品の購入代金を補助している」の61.4%が上位となっています。単身赴任は何かと費用がかかるので、金銭的な支援が中心になっているのでしょう。また、一部の企業では今後、単身赴任者への支援を拡充する方針もあるようです。

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6)社員から転勤を拒まれた経験と対策

社員から「転勤を拒まれたことがある」企業が全体の54.6%と、過半数となっています。

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では、社員に転勤を拒まれたときに、どのように対応しているのでしょうか?

最も多いのは「他の候補者を探した」の39.0%、次いで「業務命令なので、そのまま転勤を受け入れてもらった」と「昇給、昇進や手当の支給など社員のメリットになる条件を付けて受け入れてもらった」が同率の30.5%となっています。他の候補者を選べる状況であればよいですが、これができない場合、業務命令として押し切るか、条件面で譲歩する対応が取られているようです。

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3 今後、転勤制度の見直しは必須になる?

いかがでしたでしょうか。就業規則で定めていれば転勤命令は正式な業務命令となり、基本的に社員はそれを拒むことはできません。にもかかわらず、企業が譲歩しなければならないという実態から、転勤制度の難しさが分かります。今回のアンケートでは転勤制度を現状維持するという企業が大半でしたが、今後は何らかの見直しが進むかもしれません。

また、2024年4月からは、

社員が就職する時点で、転勤の有無や、転勤がある場合は異動する可能性のある勤務地を示すことが義務化

されていますので、この点への対応も忘れずに済ませましょう。

以上(2025年3月更新)

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ちゃんと伝えたはずなのに、なぜ入社後に「この賃金、約束と違う!」なんて話が出てくるの?

1 会社に悪意がなくても、労働条件の勘違いは起きる

せっかく入社した社員と、労働条件をめぐってトラブルになることがあります。例えば、

  • 賃金の金額が、募集時に聞いていた条件よりも低い
  • 業務内容に魅力を感じて応募したのに、その業務をほとんどやらせてもらえない
  • 休暇制度自体は充実しているのに、申請しても取得を認めてもらえない

などです。

しかも、こうしたすれ違いは、「会社側の説明不足で、求職者が労働条件を自分に都合よく解釈してしまう」「福利厚生などの情報は正しいが、実際は業務が忙しくてほとんど利用できない」など、会社に悪意がない状況で起きるケースがあります。

この記事では、こうした社員とのすれ違いを防ぐためのポイントとして次の3つを紹介します。

  1. 法律で決められた労働条件は必ず明示する
  2. 労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる
  3. ネガティブな情報も正直に伝える

2 (ポイント1)法律で決められた労働条件は必ず明示する

通常、会社が求職者に労働条件を明示するタイミングは2回、

  1. 社員を募集する際(職業安定法)
  2. 社員として採用する際(労働基準法、パートタイム・有期雇用労働法)

です。それぞれ明示すべき労働条件が決まっており、必ず求職者に伝えなければなりません。

具体的に明示すべき内容をまとめたのが、図表1です。グレー部分が「社員を募集する際と、社員として採用する際とで内容が異なる事項」、赤字部分が「2024年4月1日から明示が義務付けられるようになった事項」です。労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日からは

  • (募集・採用する際)就業場所、業務内容の「変更範囲」
  • (募集・採用する際)契約更新の「更新上限」
  • (採用する際のみ)パート等の「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」

の明示が義務付けられているので注意が必要です。

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もしも募集時から労働条件が変わったら、そのときは速やかに変更内容を求職者に明示しなければなりません。社員として採用する前に書面で新しい労働条件を明示するのが原則ですが、求職者が希望した場合はメールなどでの明示も可能です。

3 (ポイント2)労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる

労働条件の内容が曖昧だと、求職者に誤解を与えてしまいます。例えば、求人票に「基本給は月30万円」と記載していて、求職者が「賃金が高い」と思って応募したら、その中に手当や固定残業代が含まれていた、というのはよくあるケースです。

細かく書きすぎると文字数が増えて逆に伝わりにくくなりますが、「労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる」という意識を持つことは大切です。例えば、「社員を募集する際に明示する労働条件」であれば、次のような点をチェックしてみてください。なお、赤字部分は、前述した労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日から注意が必要になった事項です。

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4 (ポイント3)ネガティブな情報も正直に伝える

条件と実態に乖離(かいり)があるような場合でも、それをしっかり伝えましょう。例えば、

  • 休暇制度が就業規則で定められ、求人情報でも正しく明示されている
  • しかし、実際は業務が忙しく、なかなか休暇を取得できない

といったケースです。

こうしたネガティブな情報は、「嘘はついていないから、まぁいいだろう」と積極的に伝えないケースが多いですが、求職者が入社後に実態を知ったら幻滅して退職してしまうかもしれませんし、「あの会社はブラック企業だ」などとSNSに書き込まれる恐れもあります。

また、入社前に会社のネガティブなことも含めて情報を開示しておくことで、入社後の現実とのギャップを抑えることができ、早期退職の回避や定着率の向上の効果が期待できます。

ですから、ネガティブな情報も正直に求職者に伝えましょう。もしも面接などで求職者から「年次有給休暇の取得状況」について質問されたら、

「今の取得日数は1人当たり平均で年5日だけど、来年度には年7日に引き上げられるよう、計画的付与制度(注)を導入する予定なんだ」

といった具合に、自社の現状と改善に向けた方針を正しく伝え、その上で納得して入社してくれる人を採用するようにするのです。

(注)年次有給休暇の付与日数のうち5日を超える部分について、会社が取得時季を決めて計画的に割り振る制度です(労使協定の締結が必要)。

以上(2025年2月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【入社1年目の教科書】取引はこちらが有利な立場のときほど慎重に進める

書いてあること

  • 主な読者:取引先とのビジネスで注意すべきルールを知りたい新入社員
  • 課題:自社のために、取引先に多少の無理をお願いしてもよいのか分からない
  • 解決策:自社が有利な立場にあるときほど慎重に進め、相手と良い関係を構築する

今日の商談は違和感があったな〜。こちらが発注する側で有利なんだし、金額とか納期とか、もっと良い条件で進められたはずなのに、なんか先輩は妙に低姿勢だったんだよな……。交渉なんだから、有利に進めば会社の利益につながるはず……うん、やっぱり先輩が相手に気を使いすぎなんだ! 次に私が訪問したときは、もっと攻めていくぞ!

1 取引先に無理なお願いをするのは問題です

仕事ですから、皆さんは取引の際に、自分の会社の利益を優先しなければなりません。ただし、だからといって相手の利益を全く考えないようでは、相手と良い関係を築くことはできません。それに、こちらが有利な立場にあるときほど取引内容に注意しないと、「下請法」という法律に違反してしまうことがあります。

例えば、こちらが仕事を発注する側の場合、下請法では、

  • 仕事を発注する側を「親事業者」
  • 仕事を受注する側を「下請事業者」

と定義しています。そして、親事業者が下請事業者に無理を強いることがないように、さまざまな義務や禁止事項が設けています。違反すると、公正取引委員会から勧告を受けることがあります。そうなると、会社名が公表されるので、自社の社会的な信用を傷つけてしまいます。

下請法の対象となる取引は、「親事業者・下請事業者の資本金規模」と「取引内容」によって定義されます。例えば、自社が資本金6000万円の機械メーカーだとします。商品の原材料製造を発注する場合、資本金1000万円以下の企業や個人事業主などとの取引が下請法の対象になります。

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ちなみに仕事を発注する相手が、個人で事業を行う「フリーランス」の場合は、下請法の他に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という法律が適用されることがありますが、この記事では割愛します。

2 守らなければならない義務と禁止事項

親事業者には、次の4つの義務があります。

  • 発注に際して書面を交付する
  • 支払期日を定める(受領日から60日以内)
  • 業務を委託した場合にその内容などを記載した書類を作成・保存する
  • 支払いが遅延した場合は遅延利息を支払う

例えば、「原材料Aについて、来月5日に100個納品してください」と電話のみで発注することは、書面の交付がないので発注に際して書面を交付する義務に反します。また、親事業者には、次の11項目の禁止事項があります。

  • 発注した商品の受領拒否
  • 下請代金の支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 不当返品(下請事業者に責任がないにもかかわらず返品)
  • 買いたたき
  • 親事業者が指定する商品の購入強制・利用強制
  • 報復措置
  • 有償で親事業者が支給する原材料などの早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

例えば、「思ったよりも売れ行きがよくないので、発注時に決めた単価よりも、安く納品してほしい」などは下請代金の減額、「セール時に販売スタッフが足りないので、(無償で)応援に来てください。無理な場合は取引を中止します」などは、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。

3 インボイス制度にもご用心!

「インボイス制度」にもご用心。非常に簡単に説明すると、次のような制度です。

  • 消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税額を計算します。この支払った消費税を差し引くことを仕入税額控除という
  • インボイスに対応していない相手に支払う消費税は仕入税額控除の対象にならない

例えば、預かった消費税が100万円、支払った消費税が90万円であれば、10万円の消費税を納付することになります。

納税額は10万円:100万円−90万円

ところが、支払った消費税90万円のうち、インボイスに対応していない取引先に支払ったものが50万円だとすると、次のようになります。

納税額は60万円:100万円−40万円

相手がインボイスに対応していないと、これまでよりも消費税の負担が大きくなります。こうした仕組みを知っていれば、インボイスに対応していない相手に、

  • 皆さんの会社の負担増になる消費税分の値下げ要請をする
  • インボイスに対応するように強く依頼する

といったことをしたくなりますが、これは下請法などに違反する恐れがある行為です。ビジネスを有利に進めたいのは当然なのですが、いろいろと難しい問題があるので、皆さん、ご注意ください!

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

中途採用者が戦力にならないのは前職とのギャップのせい? 本人流・自社流の仕事の進め方に注目!

1 経験豊富な中途採用者が戦力にならない!

せっかく経験豊富な人材を中途採用できたのに、いざ働かせてみたら戦力にならない……。こうしたミスマッチは採用活動にはつきものです。しかし、仮に

前職と自社の「ギャップ」に戸惑っているだけで実は能力が高いのに、会社が中途採用者を「戦力外」と思い込んでしまっているとしたら、それは両者にとって不幸

です。この前職と自社のギャップというのが何なのか、もう少し掘り下げてみましょう。

例えば、インターネット記事の制作会社が、特定の人に取材をして記事を書く「取材ライター」を募集し、経験豊富な人材を採用できたとします。会社は即戦力だと思って中途採用者に期待しますが、同じ取材ライターでも仕事の進め方は会社や人によってさまざまです。

そして、前職での仕事の進め方(以下「本人流」)と自社での仕事の進め方(以下「自社流」)が違うと、その差に戸惑い能力を発揮できない中途採用者が出てきます。イメージは図表1です。

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こうした場合、多くの経営者は「中途採用者をいかに早く自社に慣れさせるか」を考えるでしょう。もともと即戦力のつもりで採用しており、賃金なども前職の経験を踏まえてそれなりの条件にしているわけですから、早く自社流を身に付けてもらわないと困ります。一方で、

「自社流を身に付けさせることが、本当に会社のためになるのか?」という視点も重要

です。自社流は勝手が分かっていて安心感がありますが、環境がめまぐるしく変化する昨今、今後のビジネスでも通用するとは限りません。中途採用は自社に新しい風を吹かせる良い機会であり、そう考えると、中途採用者の本人流を一概に否定するのはもったいない面もあります。

中途採用者が前職と自社とのギャップに悩んでいる場合、経営者に求められることは1つ、

ギャップの内容を明らかにした上で、「あえて本人流でやらせて会社に新しい風を吹かせるのか」「自社流を身に付けさせて確実な戦力とするのか」を判断すること

です。

2 本人流でやらせるのか、自社流を身に付けさせるのか

中途採用者が仕事で成果を上げられない場合、冒頭の図表1のように、

仕事の進め方をいくつかのカテゴリーに分けて、本人流と自社流を比較する

と、どこにギャップがあるのかが分かります。中途採用者と面談する際などに、実際に本人に書かせてみるとよいでしょう。

問題はギャップの内容が分かった後、本人流でやらせるのか、自社流を身に付けさせるのかですが、これを判断するには

今の自社流の仕事にどのような課題があるのかを整理する必要

があります。取材ライターのケースの場合、イメージは図表2(課題は赤字部分)です。

画像2

図表2の場合、記事の内容のマンネリ化や取材先の熱量の確保などが課題として挙げられます。そして、自社流の課題が抽出できたら、次はその課題を本人流で解決できるかを検討します。イメージは図表3です。

画像3

図表3の場合、独自のネットワークで取材先を確保したり、取材先に自由に話してもらったりするタイプの本人流は、自社流の課題を解決できる可能性があります。こうした場合であれば、

実験のつもりで、あえて本人流で仕事をやらせてみるのも1つの手

です。ただし、会社として不安がある場合、本人流は部分的に認めるにとどめます。

例えば、図表3の「1人で記事を作成し、その後取材先が原稿を確認する」は、中途採用者の実力が分からないうちから全面的に認めるのはリスキーなので、上司がこまめに進捗を確認するなどします。

もし、本人流で自社流の課題を解決するのが難しく、他に本人流を認めるメリットもないようであれば、ひとまずは自社流を身に付けさせます。前職での経験があるので、新卒の社員のように知識や技術を一から教える必要はありませんが、それ以外の部分については、上司や先輩が付くなどして丁寧に教えましょう。ただし、

どの程度の期間で自社流を身に付けさせるのかは、明確に基準を決めておく必要

があります。前述したように、前職の経験を踏まえて中途採用する場合、賃金などについてそれなりのコストがかかってきます。新しい環境に適応するのも仕事のうちであることを中途採用者に伝え、一定の厳しさを持って臨みましょう。

3 既存社員の自社流をブラッシュアップする

中途採用者に本人流で仕事をやらせてみて、それが成果につながるようであれば、その中途採用者には引き続き本人流で仕事をしてもらってもよいでしょう。また、

中途採用者の本人流が、既存社員にも再現可能なものであれば、社内に周知して全社的に仕事の進め方をブラッシュアップしていくことを検討

します。自社流の長所はそのまま活かしつつ、課題となっている部分に中途採用者の本人流を当てはめて良いとこ取りをしていくイメージです。

なお、自社流に慣れている既存社員の中には、何かと理由を付けて仕事の進め方を変えたがらない困った人もいます。こうした社員にも変化を促していくためには、

経営者や管理職が、日ごろから新しい仕事の進め方を模索する姿勢でいる

ことが大切です。

例えば、自社流に改善点がないかを常に考える、前例踏襲でのみ仕事をする「思考停止」の社員には厳しく接するといった具合です。ケース・バイ・ケースですが、「会社がより良い方向に向かうのなら、朝令暮改もやむを得ない」という気構えでいるぐらいがちょうどよいのです。

以上(2025年2月更新)

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画像:ChatGPT

テレワークや外出中の社員を災害から守るためのチェックリスト

1 チェックリストで確認 オフィス外での防災対策

職場の防災対策は、社員がオフィスで働いていることを前提にしたものだけではありません。例えば、社員が外回りの営業をしていたり、テレワークをしていたりと「オフィス外」で働いているときに災害が発生したら、連絡を取り合うのは難しくなります。

この記事では、そうしたケースに備えるための基本的な対処法をご提案します。まずは次のチェックリストを基に、オフィス街で働く社員に対して、どのぐらい防災対策を周知できているかを確認してみましょう。

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2 外出中に災害が発生した際の対処法は?

ここでは、行政機関や企業などが提供している防災情報を参考に、外出中に災害が発生した際の対処法について説明します。いざというときに落ち着いて対応できるように、あらかじめ社員に周知しておきましょう。

1)地震が発生したときは?

1.オフィス街・繁華街・住宅街

その場で立ち止まらずに、速やかに建物や電柱などから離れるようにします。カバンや上着などでガラスや看板などの落下物から身を守りながら、公園などの広い場所に避難します。

広いところに逃げる余裕がない場合は、耐震性の高い鉄筋コンクリートの建物に避難するようにしましょう。

また、住宅街では、門や塀が倒れてくる可能性があるので、近づかないようにしましょう。切れて垂れ下がっている電線は電気が流れている可能性があるので、近づいたり触ったりしないように注意が必要です。

2.地下街

柱や壁のそばで揺れが収まるまで待つようにします。停電した場合でも、非常照明がつくまではむやみに動かないようにしましょう。

また、地下街では60メートルごとに非常口が設置されています。混雑による転倒や将棋倒しなどの事故を避けるために、1つの非常口に殺到せず、落ち着いて地上に出ましょう。

3.電車の中

電車は地震計や緊急地震速報のデータなどを基に、強い揺れを観測した際には緊急停車します。急ブレーキのはずみで転倒しないように、手すりやつり革にしっかりつかまるようにしましょう。座っている場合には、進行方向に近いポールなどにつかまると体勢が安定します。

また、反対側の電車に接触したり、電線で感電したりといった事故を避けるために、勝手に降車せず、乗務員や駅員の指示を待ってから降車するようにしましょう。

4.車の運転中

運転中に地震が発生したときは、追突事故などを避けるために、ハザードランプを点灯して徐々にスピードを落とし、道路の左側に寄せて停車します。慌てて車外に出ると、対向車や後続車に接触したり、落下物に巻き込まれたりする危険があるため、揺れが収まるまではカーラジオやスマートフォンで地震情報や道路交通情報を聞きつつ車内で待機しましょう。

やむを得ず車を置いて避難する場合には、連絡先のメモを残した上で、緊急車両や救援車両の通行の妨げにならないように、道路外の場所、もしくは道路の左側に寄せて駐車しておきましょう。いざというときに移動させられるように、ドアはロックせずに、キーは運転席などの目立つ場所に置くか、差したままにしておきましょう。

5.エレベーターの中

揺れを感じたら、行先階のボタンをすべて押し、最初に止まった階で降りるようにします。もし、閉じ込められてしまったら、非常ボタンを押して管理会社に連絡を取るか、消防や警察に連絡して救助を待ちます。

2)水害が発生したときは?

1.建物の中にいる場合

台風や大雨などによって引き起こされる土砂災害、洪水、浸水といった水害にも注意が必要です。水害が発生した際に、マンションなどのように頑丈であったり、浸水する可能性が低かったりする建物の中にいる場合は外に出ようとせず、2階以上など高い場所に移動して水が引くまで待つようにしましょう。

もし、建物の外に出て避難するときには、次のようなことに注意が必要です。

  • 避難所に行くときは、できる限り複数人で固まって移動する
  • マンホールや段差、側溝の有無を確認しながら移動する(棒があるとよい)
  • 水位が膝のあたりまで上昇している場合は、移動をやめて近くの建物へ避難する

なお、水害は地震とは異なり、発生した際の被害をある程度予測できます。あらかじめ、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」などで、自宅や訪問先の場所が浸水する危険性はないか、最寄りの避難所がどこにあるのかなどを情報収集しておきましょう。ハザードマップポータルサイトは、自治体が作成・公開している「わがまちハザードマップ」以外にも、現在地の情報や地図上からその場所のハザードマップを確認できるため、外出先でも役立ちます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

2.車の運転中

局地的な集中豪雨などが頻繁に発生する昨今では、車の運転中に大雨に遭遇する可能性もあります。冠水した道路で、水深が車の床面を超えると浸水してエンジンが故障したり、水圧でドアが開かなくなったりする危険性があります。

特に、高架下、立体交差などのアンダーパスといった周辺の土地よりも低い場所に入ってしまうと浸水して車が動かなくなり、立ち往生する危険性が高いため、このような場所は避けて移動しましょう。

万が一、車内にまで浸水した場合には、慌てずに車を停めてすぐにエンジンを停止させましょう。その上で、いきなり道路に出るのではなく、片足を出して水深を測りつつ、進んできた方向に歩いて戻るようにしましょう。

ドアが開かない場合、窓ガラスを割って脱出する必要があります。車に脱出用ハンマーを備えておくとよいでしょう。また、脱出用ハンマーがない場合でも、シートからヘッドレストを取り外し、柄の部分を1本、窓ガラスの隙間にねじ込んで力を加えるとテコの原理で窓ガラスを割ることができます。いざというときのために覚えておきましょう。

3 テレワークや外出先でも取り組める防災対策

1)防災備蓄品を自宅や社用車に備える

企業向けに防災備蓄品を提供している企業の中には、テレワークの浸透を受けて、コンパクトにまとまった防災備蓄品を提供しているところもあります。テレワークを行う社員にも最低限の備えをしてもらうために、会社で購入費用を補助したり、防災備蓄品を配布したりできると良いでしょう。

例えば、アスクル(東京都江東区)では、「小スペース防災用品」として棚に収納できるA4サイズのファイルにまとまった防災備蓄品セットを販売しています。また、フェーズフリー用品(災害時のために準備するのではなく、普段使っているものを災害時にも役立てる考え方)として、普段使いができるスリッパやウェアラブルメモなども取り扱っています。

■アスクル「防災用品特集」■
https://www.askul.co.jp/sf/bousai/00/0/

なお、車内に防災備蓄品を備える際には、季節によって防災備蓄品の内容が変わることに注意が必要です。例えば、夏場であれば車内が高温になるので、食料の保管には向きません。また、冬場であれば、毛布や使い捨てカイロなどの寒さ対策が重要になります。

2)安否確認サービスを平常時の連絡手段としても活用する

さまざまな企業が提供している安否確認サービスですが、災害発生時に限らず、連絡網や健康管理ツールとして平常時でも利用できたり、自動で安否確認メールを配信したりするサービスを選ぶと、いざというときにも慌てずに対応できます。

例えば、リロクラブ(東京都新宿区)では、安否確認システムの「Relo安否コネクト」を提供しています。あらかじめ条件を設定しておくことで、地震や気象情報と連動して自動で安否確認メールを配信することもできるため、管理者による手動配信の負担を軽減できます。

また、健康状態の報告や社員向けアンケートのテンプレートなど、災害発生時だけに限らず、平常時の連絡手段として利用できる機能も備えています。

■リロクラブ 安否確認システム「Relo安否コネクト」■
https://www.reloclub.jp/crisis-management/safetycheck/

3)防災訓練をオンラインでも行う

これまでの防災訓練は、社員全員がオフィスに集まって行うのが前提でしたが、テレワークの浸透を受けて、オンライン会議システムなどを利用してリモート環境でも防災訓練ができるサービスがあります。

例えば、レスキューナウ(東京都品川区)ではWeb会議方式で防災訓練ができるサービスを提供しています。アンケートやチャット機能などを活用して防災訓練を行うことができ、録画機能もあるため、当日に防災訓練に参加できなかった社員にも訓練内容を共有できます。

■レスキューナウ「アドバイザリーサービス(リモート防災訓練)」■
https://www.rescuenow.co.jp/riskmanagement/advisory05

以上(2025年3月更新)

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画像:lemono-shutterstock

【入社1年目の教科書】売りたくても御用心。相手を惑わすセールストークは法律違反

書いてあること

  • 主な読者:売りたい気持ちが強くて、ついつい話を盛ってしまいがちな新入社員
  • 課題:相手を困惑させたり、勘違い(誤認)させたりする不当なセールストークは法律違反
  • 解決策:正しい情報を相手に魅力的に伝える力を鍛えるべし!

営業って本当に難しい……先週から一人で外回りをしているけど、なかなか売れないな。そういえば、他の会社に就職した大学時代の友達は成果を上げているようだけど、結構、「話を盛っている」って言っていたな。私は真面目すぎるかな? 嘘はダメだけど、ちょっと話を盛るぐらいなら大丈夫だよね……?

1 「売りたい!」気持ちに要注意

営業を担当することになったら、張り切って自分たちの商品やサービスを売り込みたいですよね。ただし、その「売りたい!」という気持ちに御用心。なぜなら、

相手を勘違いさせるようなセールストークや、実際よりもよく見せかける広告は法律違反

になることがあるからです。皆さんに悪気がなくても、売りたいという気持ちから話を盛ることがあるでしょうが、押さえるべきところは押さえていきましょう。

2 セールストークなどで禁止されていること

相手を困惑させたり、勘違い(誤認)させたりするセールストークなどは、「消費者契約法」という法律で禁止されています。こうした行為があった場合、

  • 相手は一方的に契約を取消すことができる
  • 相手が契約書にサインしていたり、代金を支払っていたりしていても、取消しの申し出があった場合、会社は応じなければならない

などのルールがあります。不当なセールストークなどの例は次の通りです。

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3 広告などで禁止されていること

実際よりもよく見せかける広告や表示は、「景品表示法(略称)」という法律で禁止されています。CM、チラシ、ダイレクトメールだけでなく、商品のパッケージ、料理のメニュー、口頭でのセールストークなども対象になります。こうした行為があった場合、

契約自体が取消されることはありませんが、会社は表示を改める、再発防止策を講じる

といった対応をしなければなりません。

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広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す「ステルスマーケティング(ステマ)」も規制の対象です。インターネット広告なども対象になります。皆さんがこうした仕事を担当されている場合は注意しましょう。

4 正しい情報を魅力的に伝える練習を!

ここまで紹介してきた内容は、要するに「嘘をついてはいけない」ということに尽きますから、皆さんが「売りたい!」と思ったら、

正しい情報を相手に魅力的に伝える練習

をすればよいことになります。そして、そのために必要なのは相手のニーズを捉えることです。この辺りは先輩から徹底的に教わってください。事前準備をして、実際に営業し、課題を見つけて改善していくことで、皆さんの営業力は確実に高まります!

最後に、

「相手に誤解を与えてしまったかもしれない」と思ったら、恐れずにその場で相手に確認し、誤解を解く

ようにしましょう。皆さんは「一度言ったことを覆すようで嫌だ」と思うでしょうが、相手は皆さんのことを「正直で誠実な人」と評価してくれるかもしれません。そして何より、

皆さんが嘘つきにならずに済む

のです。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda