酒酔い歩行者は要警戒!(2025/1号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

年末年始は、忘・新年会などの宴会が多いシーズンです。改めて「飲酒運転」が悪質危険な犯罪行為であることを、ドライバーの皆さんは強く意識する必要があります。一方で、酒に酔った歩行者の想定外の行動にも注意する必要があります。そこで今月号では、酒酔い歩行者を中心に、夜間の歩行者事故防止対策について考えます。

酒酔い歩行者は要警戒!

夜間における歩行中死者数の特徴

警察庁の「令和5年における交通事故の発生状況について」によると、「65歳未満」の歩行中死者数については、「横断中」が最も多く、次いで多いのは「路上横臥※」となっています。特に路上横臥についてはその大半が夜間で、しかも「飲酒あり」が8割を超えています(図1)。

夜間における歩行中死者数の特徴

※出典:警察庁「令和5年における交通事故の発生状況について」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bunseki/nenkan/060307R05nenkan.pdf

※道路上に泥酔、居眠り等で横たわっていた時に事故が発生した類型

最新の統計として警察庁の「令和6年上半期における交通死亡事故の発生状況」をみても、夜間における65歳未満の歩行中死者数で最も多いのは「路上横臥」となっており、そのうちの7割近くは「飲酒あり」でした。次に多い「横断歩道以外横断中」でも「飲酒あり」が5割を超えています(図2)。なお、これら2類型の死者数はともに前年の同時期に比べ増加しています。

夜間における歩行中死者数の特徴

※警察庁「令和6年上半期における交通死亡事故の発生状況」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R6kamihanki_bunseki.pdf

特に路上に横たわっている人は気づきにくく、また気づけても人か物かの区別がつきにくいことがあり、通過の直前で人だとわかっても既に手遅れ、というケースもありえます。

夜間に飲食店などの多い場所やその周辺を走行するときは、歩行者への注意はもちろんですが、「酔って路上に横たわっている人がいるかもしれない」と考えるなど、路上横臥者の存在も意識する必要があります。

夜間における歩行者事故防止の要点

  • 酒に酔った歩行者は、周囲の状況が把握できない、警戒心がない、歩行が不安定で急にふらつく・つまずくなど、予測できない動きをすることがあります。ライトのハイビームとロービームを適切に切り替え、早めの発見に努めましょう。また歩き方が不自然な歩行者を見つけたら、その動きに注意し、そばを通過するときはスピードを落として十分な側方間隔をとりましょう。
  • 夜間は速度超過になりがちといわれています(交通の教則第6章第3節)。こまめにスピードメーターを確認し、繁華街や市街地、生活道路では特に意識してスピードを落としましょう。
  • 暗い夜道、歩行者からは車のライト部分しか見えていないことが多いため、距離感や車速の判断が難しく、車が接近していても横断してしまうことがあります。歩行者をみつけたら「横断してくるかも」と予測しましょう。

夜間における歩行者事故防止の要点

コラム 生活道路における速度規制強化について

令和8年9月1日より、中央線(センターライン)などのない、いわゆる生活道路については、最高速度がすべて時速30キロに制限されます。

従来、生活道路については歩行者や自転車の安全確保のために、標識等で規制速度を設けたり「ゾーン30」の区域を設けるなどのさまざまな対策が講じられてきましたが、全国の道路にそうした対策を講じるよりも、法令により一律に制限をかけるほうが適切と判断され、法令改正に至ったものです。施行までには、まだ期間がありますが、今のうちから生活道路では時速30キロ以下で走行する習慣をつけることをお勧めします。

生活道路における速度規制強化

以上(2025年1月)

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画像:amanaimages

【人事はつらいよ】社員が2週間の無断欠勤……音信不通なのに解雇不可ってどういうこと?

1 2週間以上も無断欠勤しているのに解雇できないの?

A社の社長は悩んでいます。これまで真面目に働いてくれていた社員のBさんが、ここ数日、無断欠勤をしているのです。電話をしても応答がなく、自宅にも行ってみましたが留守でした。遠方に住んでいるBさんの家族にも連絡しましたが、誰も行方を知りません……。

2週間たっても連絡が取れず、限界と判断した社長は、就業規則にのっとってBさんを解雇することに決め、解雇通知書(解雇する旨を社員に通知する書類)を作成しました。ですが、ここで問題が……。Bさんの行方が分からないので解雇通知書を本人に届けられません。そこで、社長はBさんの家族を頼ることにしました。

「申し訳ありませんが、Bさん本人と連絡が取れないため、この解雇通知書をご家族にお預けします。もしもBさんから連絡がありましたら、本人にお渡しください」

Bさんの家族に何とか了承してもらい、これで一段落かと思われましたが、しばらくしてA社に一本の電話が入りました。電話の主は、Bさんの代理人を名乗る弁護士。どうやら家族の前に現れたBさんが、解雇通知書を渡されて憤慨し、弁護士に相談したようです。弁護士が言うには、「Bさんの家族に解雇通知書を預けても、Bさん本人に通知したことにはならない。だから解雇は無効だ」とのこと。社長は釈然としません。

「Bさんと連絡が取れないから家族に頼んだのに、『本人に通知しなければ解雇できない』とはどういうことだ? 本人と連絡が取れるまでずっと待っていないといけないのか?」

2 「客観的合理性」と「社会的相当性」がカギ

労働契約法により、会社が社員を解雇する(労働契約を一方的に解消する)には、

  1. 客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの理由がある(客観的合理性)
  2. 社員の行為に照らして、解雇を選択することが適当であるといえる(社会的相当性)

の2つの要件を満たさなければなりません。過去の裁判例(東京地裁平成12年10月27日判決)では、このルールを無断欠勤に当てはめた上で、

無断欠勤が「2週間以上」続くことが、解雇が有効と認められるための1つの目安である

という判断がされており、多くの会社がこれにならって就業規則などを整備しています。ただ、実際は無断欠勤が2週間以上続いていても、解雇が無効になるケースがあります。

例えば、

解雇予告や解雇予告手当の支払いなど、解雇の手続自体に問題があるケース

がそうです。労働基準法には、社員を解雇する場合、少なくとも解雇する日の30日前に解雇予告をする必要があり、30日を待たずに解雇する場合、短縮する日数分の解雇予告手当を支払わなければならないというルールがあります。

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難しいのは、

解雇予告や解雇予告手当の支払いは、原則として社員本人に通知しなければ、効力を生じない

ことです。無断欠勤の場合、欠勤開始から2週間が経過した後に解雇予告などを行うため、

  • 解雇予告手当を支払わなければ、欠勤開始から44日(2週間+30日)後
  • 解雇予告手当を支払えば、最短で欠勤開始から14日(2週間)後

に解雇が成立することになります。しかし、解雇を成立させるには、社員を解雇するという会社の意思表示を、書面などで社員本人に到達させなければなりません。

冒頭の事例では、A社の社長が、Bさん本人と連絡がつかないという理由で、遠方に住んでいるBさんの家族に解雇通知書を預けています。実は、社員の家族に解雇通知書を預けても、解雇を成立させられるのは、

社員本人が家族と同居していることが明らかなケースなどに限定

されていて、遠方に住んでいる別居の家族に預けた場合は効力を生じません。ですからこの場合、「Bさんへの解雇通知が適正に行われていないので、解雇は無効」ということになります。

3 連絡が取れなければ、公示送達や内容証明郵便を使おう

では、社員本人と連絡が取れるまで解雇は一切認められないのかというと、そうではありません。こうした場合の対策として、

公示送達や内容証明郵便を使って解雇を通知する

という方法があります。

公示送達は、相手の所在が不明で意思表示が到達しない場合、簡易裁判所に意思表示の公示送達の申立てを行って裁判所の掲示板に掲示し、その旨を官報などに掲載すれば、意思表示が相手に到達したとみなされる制度です。社員を解雇する場合の公示送達の流れは次の通りです。

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内容証明郵便は、郵便を出した内容や発送日、相手が受け取った日付などを郵便局が証明するサービスです。無断欠勤が続く社員の自宅に解雇通知書などを内容証明郵便で送れば、社員が受け取った時点で、社員を解雇するという会社の意思表示が到達したとみなされます。なお、過去の判例には、

内容証明郵便が本人不在で届かず、留置期間の経過により戻ってきたとしても、不在配達通知書の記載等から通知の内容が十分推知できたり(内容の推知可能性)、受領しようとすれば内容証明郵便を受領できたり(郵便物の受領可能性)する場合、遅くとも留置期間の満了時点で意思表示が到達したと認められる

としたものがあります(最高裁第一小法廷平成10年6月11日判決)。とはいえ、それなりに条件が厳しいので、状況にもよりますが、自宅訪問、電話、ショートメール、SNS、住民票調査(弁護士に依頼)など、可能な限り連絡を試みるのがよいでしょう。

4 無断欠勤の理由によっては解雇が無効になることもある

社員側に無断欠勤が続いてもやむを得ない正当な理由がある場合、解雇の手続が適正に行われていても無効になることがあります。具体的には、

  • 傷病にかかっている、逮捕されているなどの理由で、欠勤の連絡ができない
  • 社内でハラスメントなどの被害を受けていて、出勤が苦痛になっている

といったケースです。

社員の事情を正確に推し量るのは難しいですが、社員の同僚や上司、家族などに「最近、変わったことがなかったか」をヒアリングするなどして、可能な限り情報を収集するようにしましょう。仮に、社員が上のようなケースに該当する可能性が高い場合、解雇通知を出さずに休職制度を適用するなどして様子を見ます。

また、公示送達などを使って解雇を通知した後で、音信不通になっていた社員と連絡が取れるようになった場合、無断欠勤の理由を確認し、その理由によっては解雇の撤回を検討します。会社が解雇の意思表示を一方的に取り消すことはできませんが、社員が同意した場合については撤回が認められています。

解雇はトラブルが起きやすい分野です。特に無断欠勤の場合、社員とコミュニケーションが取れない関係で一層トラブルのリスクが高まりますが、「会社としてやるべきことはやった」と言えるよう、手続のポイントを押さえておきましょう。

以上(2024年12月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:metamorworks-shutterstock

マイナ保険証に関する企業の対応

令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うルールがスタートしました。これに伴い日本年金機構では、企業が提出する「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」の様式を変更しました。全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業は、これらの届出の際、注意が必要です。本稿では、様式の変更点などを説明します。

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マイナ保険証に関する企業の対応

令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うルールがスタートしました。これに伴い日本年金機構では、企業が提出する「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」の様式を変更しました。全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業は、これらの届出の際、注意が必要です。本稿では、様式の変更点などを説明します。

1 基本的なしくみ

マイナ保険証とは、健康保険証として利用登録をしたマイナンバーカードのことです。令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うことが原則となったことに伴い、企業が行う社会保険の手続きが、少し変わりました。

企業の担当者は、社員が入社した時には「被保険者資格取得届」、従業員に赤ちゃんが生まれるなどして被扶養者が生じた時には「被扶養者(異動)届」を年金事務所に提出します。そうすると、これまでは、協会けんぽに加入している企業に対し健康保険証が送られてきました。しかし、現在、健康保険証は送られてきません。

ただ、マイナンバーカードを持っていない人や、マイナンバーカードを持っていても健康保険証として利用登録していない人に配慮して、協会けんぽが希望者に「資格確認書」を発行しています。資格確認書があれば、マイナンバーカードがなくても、医療機関や薬局を利用できます。

資格確認書は、従来の健康保険証と同じプラスティック製のカードで、色は黄色です。有効期間は、最大で5年となっています。

■資格確認書のイメージ

資格確認書のイメージ

※全国健康保険協会「健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度説明資料(令和6年5月)」より

2 発行要否欄

資格確認書の導入に伴って、「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」に、資格確認書の発行要否欄が設けられました。企業の担当者が、資格確認書の発行が必要かどうかを従業員に聞いて、必要であれば、発行要否欄のチェックボックスにチェックを入れます。そうすると、協会けんぽから企業に資格確認書が送られてくるので、従業員に渡してください。

①被保険者資格取得届

被保険者資格取得届

②被扶養者(異動)届

被扶養者(異動)届

※日本年金機構の様式から抜粋

企業は、原則として、新しい届出書を使って手続きを行うことになりますが、やむをえず旧届出書を使う場合には、備考欄に「資格確認書要」と書いて提出してください。なお、旧届出書は、令和7年2月28日までで受付を終了する予定です。

資格確認書が必要であるにもかかわらず、発行要否欄にチェックを入れ忘れた場合でも、協会けんぽが調査して資格確認書を発行してくれます。ただし、発行まで2カ月程度かかるので、注意してください。

また、すでに被保険者、被扶養者となっている人が資格確認書を必要とする場合には、協会けんぽに直接、資格確認書交付申請書を提出すれば、発行してもらえます。

3 さいごに

現在持っている協会けんぽ発行の健康保険証も、最長で令和7年12月1日まで使うことができます。従業員には、早めに、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録するよう促すとよいでしょう。

※本内容は2024年12月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

【3分で分かる個人情報保護(8)】個人情報の取り扱いについて苦情が来たら、どうすればいいの?

1 個人情報の取り扱いについて苦情が来ても対応できる準備を

個人情報の取り扱いについて苦情が来たときの処理は、法律上あくまで努力義務ですが、消費者などの本人との信頼関係を構築し、事業活動に対する社会の信頼を確保するため、実務上は対応が必須と考えられます。

「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、苦情の適切かつ迅速な処理を行うに当たり、必要な体制の整備として、

  • 苦情処理窓口の設置や苦情処理の手順を定める

ことなどを挙げています。また、

  • いわゆるプライバシーポリシーを策定し、それを公表する(ホームページへの掲載、店舗の見やすい場所への掲示など)ことで、あらかじめ、対外的に分かりやすく説明する
  • 委託の有無、委託する事務の内容を明らかにする等、委託処理の透明化を進める

といったことも重要です。特に、前者のプライバシーポリシーの掲載等は、消費者等との信頼関係を構築するのに役立つでしょう。

なお、個人情報取扱事業者は、保有個人データの取り扱いに関する苦情の申出先について、本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)に置かなければなりません。「本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)」とは、

ホームページへの掲載、パンフレットの配布、本人の求めに応じて遅滞なく回答を行うこと等、本人が知ろうとすれば、知ることができる状態に置くこと

で、常にその時点での正確な内容を本人の知り得る状態に置く必要があります。この対応は努力義務ではなく「義務」です。

苦情の申出先としては、苦情を受け付ける担当窓口名・係名、郵送用住所、受付電話番号その他の苦情申出先(個人情報取扱事業者が認定個人情報保護団体の対象事業者である場合は、その団体の名称および苦情解決の申出先を含む)とされています。

2 (参考)認定個人情報保護団体制度

認定個人情報保護団体は、個人情報保護委員会の認定を受けて、業界・事業分野ごとに個人情報の保護の推進を図るための自主的な取り組みを行っている団体です。

認定個人情報保護団体は、消費者と事業者の間に立ち、対象事業者である個人情報取扱事業者の個人情報の適正な取り扱いの確保を目的として、消費者からの苦情の処理や相談対応を行うこととされています。

対象事業者になると、認定個人情報保護団体から苦情処理の第三者機関としての関与・アドバイスを受けられます。また、個人情報保護法などに関連する最新の情報提供も受けられます。

個人情報保護委員会では、認定個人情報保護団体一覧を公表しています。対象事業者になるための要件は、認定個人情報保護団体ごとに異なります。

■個人情報保護委員会「認定個人情報保護団体一覧」■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/nintei/list/

以上(2024年12月更新)

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画像:Orapun-Adobe Stock

【かんたん所得税(6)】税金の特典が受けられる「青色申告制度」

書いてあること

  • 主な読者:これから個人事業を起業しようとする人や不動産所得、山林所得がある人
  • 課題:確定申告には、青色申告と白色申告とがあるが違いが分からない
  • 解決策:税務署への届出や帳簿の記帳などを義務付ける代わりに、各種特典が与えられる

1 確定申告は色によって違う? 青色と白色の違い

所得税の確定申告には「青色申告」と「白色申告」とがあります。

  • 青色申告:日々の取引を複式簿記で記録する代わりに、さまざまな特典が受けられる
  • 白色申告:簡便な帳簿記録でよい代わりに、青色申告で受けられるような特典がない

近年はクラウド型の会計システムの導入が進み、会計の知識がなくても簡単に青色申告に必要な書類が作れるようになったことから、青色申告の壁はほとんどありません。そこで、この記事では、青色申告制度を受けるための手続きや特典を説明します。

なお、青色申告ができるのは、不動産所得、事業所得または山林所得が生ずる業務を行っていて、納税地の所轄税務署長の承認を受けた人です。個人事業主はもちろんですが、副収入として不動産所得のある給与所得者なども青色申告ができます。

2 青色申告の手続き

青色申告をしたい人(今まで白色申告だった事業者や、1月1~15日の間に開業した事業者)は、青色申告をしたい年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します。例えば、2024年分の所得税を青色申告したいなら、2024年3月15日が提出期限となります。ただし、その年の1月16日以後の新規開業の場合は開業日から2カ月以内に提出すれば大丈夫です。

なお、申請書の提出後に特段の承認通知はなく、申請却下の連絡がなければ受理されたことになります。

3 青色申告者がすること

1)記帳の義務

青色申告をする人は、帳簿書類を備え付け、これに不動産所得、事業所得および山林所得の金額に係る取引を記録し、保存します。この記帳は原則として、複式簿記で行う必要があります。特例として、損益計算書が作成できる程度に簡略された簡易帳簿(現金出納帳や固定資産台帳のみなど)による記帳も認められます。しかし、青色申告の特典の1つである青色申告特別控除額が10万円に減額されます(複式簿記の場合は最高65万円)。なお、山林所得は10万円の控除のみです。

2)添付の義務

青色申告書には、貸借対照表、損益計算書その他不動産所得、事業所得または山林所得の金額の計算に関する明細書を添付しなければなりません。ただし、簡易帳簿による場合は、貸借対照表の添付は必要ありません。

4 青色申告の代表的な特典

1)青色申告特別控除

1.65万円の青色申告特別控除

次の要件を満たす青色申告者は、不動産所得または事業所得の金額の計算上、合計65万円を控除できます。この控除は、不動産所得の金額、事業所得の金額から順次控除します。なお、不動産所得または事業所得の金額が65万円より少ない場合は、原則として、その金額が限度となります。

イ.不動産所得に係る業務を事業的規模で行っていること、または事業所得を生ずべき事業を行っていること

ロ.不動産所得、事業所得に係る一切の取引の内容を詳細に帳簿に記録していること

ハ.期限内に確定申告書を提出し、かつ、貸借対照表、損益計算書その他不動産所得または事業所得の金額の計算に関する明細書を添付していること

ニ.青色申告書と決算書を、提出期限までにe-Taxにより提出していること、または仕訳帳・総勘定元帳を電子帳簿保存(税務署長へ届出が必要)していること

不動産所得を生ずべき業務については、貸付不動産が、アパートやマンションならおおむね10室以上、貸家ならおおむね5棟以上であれば事業的規模とされます。

なお、上記ニ.の要件のみを満たしていない場合の控除額は55万円です。

2.10万円の青色申告特別控除

簡易帳簿で記帳を行うなど、上記1.の要件を満たさない青色申告者は、不動産所得、事業所得または山林所得の金額の計算上、合計10万円を控除できます。この控除は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額から順次控除します。なお、不動産所得、事業所得または山林所得の金額が10万円より少ない場合は、原則として、その金額が限度となります。

2)青色事業専従者給与額の必要経費算入

不動産所得、事業所得または山林所得の金額の計算上、青色事業専従者(事業に携わっている家族など)に支払った給与や賞与を必要経費に算入できます(退職金は算入できません)。給与を必要経費に算入すると所得が減り、納税額も減ります。

3)純損失の繰越控除・繰戻還付

その年の事業所得などが赤字(純損失)となった場合に、翌年以降3年間の繰越控除(翌年以降3年間の黒字と相殺)またはその前年への繰戻還付(前年の黒字のうち、その年の損失分の還付を受けられる)の請求ができます。

5 青色事業専従者給与額の必要経費算入の注意点

1)青色事業専従者とは

青色事業専従者とは、青色申告者と同一の生計で暮らしている15歳以上の親族で、一定期間、専ら青色申告者が営む事業に携わる人です。青色事業専従者は、支給額をその年分の給与所得に係る収入金額とされます。そのため、支給時には所得税の源泉徴収が必要です(支給額が月額8万8000円以上の場合)。

2)必要な手続き

この規定の適用を受ける場合、その年の3月15日まで(その年の1月16日以降に事業を開始した場合、または新たに青色事業専従者を有することとなった場合は、その開始した日あるいはその有することとなった日から2カ月以内)に「青色事業専従者給与に関する届出書」を、税務署に提出します。

また、その給与の金額の基準を変更する場合や新たに青色事業専従者が加わった場合は、変更届出書を遅滞なく提出しなければなりません。

3)専ら従事するかどうかの判定

まず、学生や他に職業のある人は、原則として専従者として認められません。その上で、その事業に専ら従事するかどうかの判定は、その年を通じて事業に従事している期間が6カ月を超えるか否かで行います。しかし、開業や廃業などでその年を通じて事業が営まれなかった場合や、専従者の死亡、長期にわたる病気、婚姻などによりその年を通じてその事業に従事することができなかった場合は、従事可能期間の2分の1を超える期間を従事すれば大丈夫です。

例えば、9月初めに開業した場合の従事可能期間は9~12月の4カ月なので、2カ月超をその事業に従事すればよいことになります。

以上(2024年12月更新)
(監修 エスコート税理士法人 税理士 林孝行)

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画像:unsplash

【人事はつらいよ】社員の問題行動、さんざん我慢してきたのに、いざ懲戒処分にしたら無効?

1 懲戒処分を受け入れたはずの社員がユニオンに……

A社の社長は、社員のBさんのことで悩んでいます。Bさんは、A社の商品の納品担当なのですが、先日、ある取引先から「依頼したものと違う商品が納品された」とクレームが入ったのです。正しい商品を納品し直し、その場は収まりましたが、Bさんはこれまでに何度も同じような納品ミスを繰り返しています。見かねた社長は、ある日、Bさんを呼び出しました。

「Bさん、度重なるクレーム対応や再納品の手配で、会社に損害が出ている。これまでは大目に見てきたが、もう見過ごせない。懲戒処分として、減給にさせてもらうよ」

Bさんは、その場では社長に謝罪し、懲戒処分を受け入れました。しかし、数日後、A社に1本の電話が……。電話の主は、Bさんから相談を受けた外部のユニオン(合同労働組合)の担当者で、「今回のBさんの納品ミスに対して、減給という懲戒処分は重すぎる」と、処分の撤回を求めてきたのです。社長は釈然としません。

「Bさんが反省し、変わってくれると信じて我慢してきたのに、いざ懲戒処分にしたら『処分が重すぎる』って、どういうことだ? 納得いかない……裏切られた気分だ」

2 まずは軽い懲戒処分から、改善が見られなければ重い処分へ

懲戒処分とは、問題行動を起こした社員に対して会社が行う制裁のことで、一般的には次の7種類に分けられます。1.が最も軽く、7.が最も重い懲戒処分です。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金額を下げる
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

就業規則に「懲戒事由」の定めがあり、社員がその懲戒事由に該当した場合、会社は就業規則にのっとって、社員に懲戒処分を課します。冒頭の事例の場合、A社の就業規則に、

「故意または過失により会社に損害を与えたとき」などの懲戒事由の定め

があれば、「理論上」はBさんに懲戒処分を課すことが可能です。

ただ、難しいのは、労働契約法の中に、

社員の問題行動の内容に照らして、重すぎる懲戒処分は無効になる

というルールがあることです。例えば、「1日無断欠勤した社員を、懲戒解雇する」というのは、明らかに重すぎる懲戒処分で、認められません。

「どの程度の懲戒処分が妥当か」は裁判などで個別の事案ごとに判断されるので、一概には言えませんが、おおまかに目安を示すなら次のようなイメージになります。

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「出勤停止、降格」や「諭旨解雇、懲戒解雇」といった懲戒処分は、基本的には犯罪行為やハラスメント、会社に重大な損害を与える情報漏洩などに対して適用されます。従って、これらに該当しない業務上のミスなどについては、

まずは「戒告、けん責」などの軽い懲戒処分を実施し、処分の後も社員に改善が見られなければ、「減給」などの重い処分に切り替えていく

というのが、基本的な考え方になります。

また、実際に懲戒処分を検討する際は、次のような要素を考慮する必要があります。

  • なぜ、問題行動が発生したのか
  • 業務にどのような影響があったか(会社に与えた損害の程度、他の社員への影響など)
  • 社員の勤務歴、過去の処分歴、反省の様子はどうか
  • 会社側に落ち度はなかったか など

冒頭の事例の場合、Bさんは度重なる納品ミスによりA社に損害を与えていますが、過去の納品ミスについて会社が戒告やけん責を行っていなければ、裁判などで減給が「有効」と認められるハードルは高くなります。

また、会社に与えた損害が少額で減給が妥当といえない場合や、「Bさんの業務量が他の社員よりも明らかに多く、その業務をこなすためのフォローを受けられていない」「適切な業務命令がなされていない」など、会社側にも落ち度がある場合、懲戒処分が認められない可能性があります。

この他、懲戒処分自体は妥当であっても、「Bさんに弁明の機会を与えていない」など、手続きに問題がある場合、懲戒処分が無効になることがあるので注意が必要です。

3 減給の場合、控除金額にも注意!

減給の場合、懲戒処分が認められるかという問題の他に、控除金額(賃金額の下げ幅)にも注意しなければなりません。労働基準法の中に、懲戒処分として減給を行う場合、

1回の控除金額が「平均賃金(過去3カ月間の賃金総額を暦日数で除した金額)の1日分の50%以下」、総額が「1回の賃金支払総額の10%以下」になるようにしなければならない

というルールがあるからです。

例えば、月給制(毎月1日から月末までを賃金の支払対象期間とする)の場合、1日から月末までの間に

  1. 社員の問題行動が1回しか発生していないなら、「平均賃金の1日分の50%以下」
  2. 社員の問題行動が複数回発生しているなら、「1回の賃金支払総額の10%以下」

が、1回の賃金支払いで控除できる額の上限になります。1.の場合、仮に社員の平均賃金が1日1万円(月給30万円のイメージ)だとしたら、5000円までしか控除できません。また、1回の問題行動に対しては1回の減給しか認められないので、例えば、

4月分の賃金について減給を行っても、5月分の賃金からは元に戻さなければならない

という問題が出てきます。経営者によっては、「社員に反省を促すための減給なのに、その程度しか認められないの?」と不満に思うかもしれません。

こうした場合、懲戒処分以外の方法で減給を行うという手もあります。例えば、

  • 懲戒処分としてではなく、能力適性の問題から降格を行い、結果として賃金が下がる
  • 人事考課に基づいて、基本給のうち、能力評価に基づく部分の金額だけを下げる

といったケースは、懲戒処分としての減給には当たらないので、前述した控除金額のルールが適用されません。ただし、就業規則(賃金規程など)の範囲を逸脱して減給を行うと、人事権の濫用とみなされることがあるので、その点は注意が必要です。

懲戒処分は、いつの時代も難しい問題です。経営者はかなり温情をかけているつもりでも、社員のほうは「懲戒処分を受けた」という意識ばかりが先行してしまい、その労使の擦れ違いがトラブルに発展することがあります。万が一トラブルになった場合に備え、法令のルールを正しく押さえておくことは大切です。

以上(2024年12月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:metamorworks-shutterstock

【3分で分かる個人情報保護(7)】保有個人データについて問い合わせが来たら、どうすればいいの?

1 保有個人データについて所定の情報は本人の知り得る状態に

会社が保有する個人データのことを「保有個人データ」といいます。正確な定義は、

個人情報取扱事業者(会社)が、開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去、第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有するもの

です。

保有個人データについては、次の1から5までの情報を本人の知り得る状態に置かなければなりません(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)。

  1. 個人情報取扱事業者の氏名または名称および住所(法人にあっては、その代表者名)
  2. 保有個人データの利用目的
  3. 利用目的の通知の求めまたは開示等の請求に応じる手続きおよび手数料の額
  4. 保有個人データの安全管理のために講じた措置
  5. 保有個人データの取扱いに関する苦情の申出先

実務上は、講じた措置の概要や一部をホームページに掲載し、残りを本人の求めに応じて遅滞なく回答を行うといった対応が可能です。とはいえ、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」に沿って安全管理措置を実施しているといった内容の掲載や回答のみでは適切ではないとされており、具体的にどういった措置を講じているのかを掲載したり、回答したりする必要があります。

2 保有個人データの開示等の請求等への対応

本人(または代理人)から

  • 保有個人データの「利用目的の通知」の求め
  • 保有個人データの「開示」「第三者提供記録の開示」「内容の訂正・追加・削除」「利用の停止」「消去」「第三者への提供の停止」の請求

があった場合、原則としてその求めや請求に沿って対応しなければなりません。

これらの開示等の請求を受け付ける方法として次の(1)から(4)までの事項を定めることができる(ガイドライン3-8-7参照)ので、実務的にも、あらかじめ定めておくほうがよいでしょう。

画像1

なお、本人(または代理人)の請求等に対して、確認・調査を行った結果、そもそも当該保有個人データが存在しないことや、第三者提供をしていないこともあり得ます。また、請求された措置をとらない決定をすることもあり得ます。例えば次のような場合です。

画像2

請求された措置をとらない、またはその措置と異なる措置をとる場合は、その旨を遅滞なく本人に通知しなければならないのですが、注意が必要なのは、その理由も説明することが求められるということです。あくまで努力義務ではありますが、実務上、事態をこじらせないために、本人が納得のいくように理由を説明することが大切です。

以上(2024年12月更新)

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【朝礼】仕事納めの日に伝えたい、たった1つのこと

【ポイント】

  • 今あるビジネス基盤「1」を、「0」ベースで見直し、新たなビジネス「2」を生み出す
  • こうしたチャレンジは、社員が経営者に着いてきてくれるからこそできること
  • 社員への感謝を忘れず、そして「1→0→2」のチャレンジを続けていこう

2024年も今日で仕事納めとなります。今年最後の朝礼で、私から皆さんに伝えたいことは1つだけ。「今年も、私のような経営者についてきてくれて本当にありがとう!」です。今年、我が社は大きなピンチに見舞われながらも、それを切り抜けることができました。新しいことにもチャレンジし、将来への布石を打つことができました。ひとえに皆さんの頑張りのおかげです。

今年の我が社の目標は「1→0→2」でした。これは、今あるビジネス基盤「1」を、「0」ベースで見直してダイナミックに改革を推し進め、新たなビジネス「2」を生み出すチャレンジを意味します。現場で働いている皆さんはあまり意識していなかったかもしれませんが、私には、多くの社員が積極的にチャレンジしている姿がはっきりと見えていました。これは、とてもうれしいことです。

一方、私は反省しています。私はこれまでもさまざまな場面で、皆さんとともに「2」を創り上げようという話をしてきたつもりですが、振り返ると私からの一方通行で、皆さんがその時々でどのような状況に置かれていたのか、皆さんの話をしっかり“聞き切る”ことができていませんでした。その反省を踏まえ、そして皆さんへの感謝を込めて、次の「ありがとう」を皆さんに贈ります。

  • あ:私から「あいさつ」をします
  • り:皆さんが夢中になれる「理想」を掲げます
  • が:誰よりも「頑張る」姿勢を貫きます
  • と:「共」に考え、悩み、喜ぶようにします
  • う:「上から目線」を改めます

「1→0→2」の取り組みは、来年も続きます。今年の成果を来年につなげるため、年末年始は家族と団らんする、思い切り趣味を楽しむなどしっかり休息を取ってください。よいお年を!

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

え、うちの社員がギャンブル依存症!? WHOも認める病気に会社としてどのように向き合うか

1 ギャンブル依存症は誰でもなり得る?

大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の口座から巨額の預金を不正送金し、銀行詐欺罪などで訴追された元通訳が、自ら告白したことで注目される「ギャンブル依存症」。

ギャンブル依存症は、ギャンブルにのめり込み、自分ではコントロールができなくなってしまう精神疾患の1つ

で、世界保健機関(WHO)では「病的賭博」、米・精神医学会では「ギャンブル障害」として診断基準が定められています。

日本でも「ギャンブル等依存症対策基本法」により、ギャンブル等(公営競技である競馬・競輪・競艇・オートレース、その他パチンコ・パチスロといった射幸行為)にのめり込むことで、日常生活・社会生活に支障が生じている状態を「ギャンブル等依存症」と定義しています。

健全な娯楽のレベルで楽しむぶんには個人の自由ですが、仕事も手につかなくなるほどギャンブルにのめり込んでしまう社員がいたら、とても困りますよね。ただ、会社として社員の趣味にどこまで口を出してよいのかは悩むところもあります。

そこで、この記事では、

  • ギャンブル依存症について、会社が介入(懲戒処分など)できるケースを押さえること
  • ギャンブル依存症を生まない職場をつくること
  • ギャンブル依存症が疑われるときの参考情報、相談先を知っておくこと

をご提案します。

なお、ギャンブルは、広義には「金銭等を賭けて、より価値あるものを手に入れる行為」を指します。その意味では、FXや商品先物などの金融取引、宝くじやスポーツくじ、ゲームセンターのクレーンゲーム、スマホゲームやソーシャルゲームの「ガチャ」などもギャンブルといえるでしょう。また、違法ですが、海外のオンラインカジノや友人同士の賭け麻雀などの賭博もギャンブルです。この記事では便宜上、違法なものも含めて「ギャンブル」として扱います。

2 ギャンブル依存症の社員を解雇できるのか?

前提として、健全な娯楽として社員が個人的に行っているギャンブルを会社が規制することはできません。プライベートな時間をどう過ごすかは、基本的に労働者(=社員)の自由だからです。

ここでは、会社として判断が求められる次の3つの場合を考えてみましょう。

  1. 社員が行っているギャンブルが違法な賭博だった場合
  2. 合法でも勤務中に社員がギャンブルを行った場合
  3. ギャンブルに起因して社員が借金問題を抱えている場合

なお、判断の基になるのは、就業規則にどのように定めているかです。例えば、

就業規則にギャンブルに関する懲戒事由を定めていなければ、そもそも懲戒処分は不可

です。自社の就業規則が厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月版)」を参考に策定したものであれば、不足がないか確認の上、規定を見直して労働基準監督署に届け出るようにしましょう。

■厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月版)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/

1)社員が行っているギャンブルが違法な賭博だった場合

多くの会社では、

「会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと」

を服務規律の遵守事項として定めています。賭博は、刑法が定める犯罪類型の1つで、単純賭博の場合は50万円以下の罰金または科料、常習賭博の場合は3年以下の懲役が科されます。社員が賭博を行ったことが明るみに出れば、会社の名誉や信用を損なう恐れがあります。つまり、

賭博をすること自体が服務規律違反(懲戒事由)

になるというわけです。

懲戒処分の種類(懲戒解雇、出勤停止、減給など)は、事案の大きさなどに応じて決めることになります。ただし、解雇の判断は慎重に行わなければなりません。たとえ、社員が単純賭博の容疑で現行犯逮捕されたとしても、それをもって直ちに解雇することはNGです。逮捕された時点では、社員が本当に有罪なのかは分からないからです。

また、逮捕された社員の家族や弁護人から「会社に迷惑をかけられない」といった理由で退職の申し入れがあるかもしれませんが、承認するかどうかは、事案の重大さや捜査状況を見ながら検討するべきでしょう。

なお、逮捕された場合、社員は身柄を拘束され働けない状態になります(検察官が起訴・不起訴といった終局処分を決定するまでに、最長23日間(72時間+20日間)身柄を拘束される恐れがあります)。そのフォローをどうするかなどは検討する必要があります。

2)合法でも勤務中に社員がギャンブルを行った場合

同じく服務規律の遵守事項として、

「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」

という定めもよく見受けられます。この定めにのっとると、

社員が勤務中に正当な理由なく店に行ってパチンコを打つのは服務規律違反(懲戒事由)

となります。

とはいえ、勤務場所を離れなくても、スマホがあれば、オンラインで競馬、競輪、競艇、オートレースに賭けることはできてしまいます。こうした行為を防ぐために、服務規律の遵守事項に「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく私用で携帯電話他、通信機器での通話・メール等通信を行わない」旨を定めることも1つの手です。

なお、休憩時間は、労働者(=社員)に自由に利用させなければなりませんが、一定の制限を加えるのは可能です。服務規律の遵守事項に「休憩時間中のギャンブルを禁止する」旨を定めることも検討の余地があります。

このように「ギャンブルを禁止する」旨を定める場合、少なくとも会社のネットワーク環境からは、競馬、競輪、競艇、オートレース関連のウェブサイトに接続できないように設定するなど(Webフィルタリング)、技術的な対応も併せて行い、ルールと実態の整合性を保つように努めるとよいでしょう。

3)ギャンブルに起因して社員が借金問題を抱えている場合

社員がギャンブルに起因する借金問題を抱えていても、

職務遂行に影響を及ぼさない限り、会社が介入する余地はない

というのが原則です。とはいえ、社員が隠そうとしても、消費者金融業者などから督促の電話が会社にかかってきたり、裁判所から給与の差し押さえ命令が会社に送られてきたりすることで、借金問題は露呈します。

社員の借金問題が露呈したときには、本人としっかり話し合い、対応を決める必要があります。例えば、

社員が経理業務やレジ業務の担当の場合、直接お金を扱う職種を避けて配置転換をする

といった対応もあり得るでしょう。

また、現実には、社員が同僚から借金を重ねた挙げ句に、返済が滞りトラブルに発展することも起きています。こうしたトラブルを避けるためには、服務規律の遵守事項に

「社員間の金銭の貸借を禁止する」

といった定めを設けるとよいでしょう。

3 ギャンブル依存症を生まない職場づくりを

1)ギャンブル依存症の人は日本に何人いる?

ギャンブル等依存症対策基本法に基づいて2021年に行われた国立病院機構久里浜医療センターによる調査では、調査対象者の過去1年以内のギャンブル等の経験の評価結果から、「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合を、成人の2.2%と推計しています(松下幸生、新田千枝、遠山朋海「令和2年度 依存症に関する調査研究事業 ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」、2021年)。

単純計算すると、社員数50人規模の会社では、ギャンブル依存症の社員が1人くらいいても不思議ではないということになります。

2)ギャンブル依存のメカニズムを知る

依存症の原因は、脳内の「報酬系」などの機能異常と考えられています。ギャンブルで勝ったときなどに、脳内では快楽物質であるドーパミンが放出され、多幸感や高揚感が得られます。そして、それを繰り返すうちに脳が刺激に慣れてしまい、より強い刺激を求めるようになります。その結果、行動がコントロールできなくなってしまうのがギャンブル依存のメカニズムと考えられています。

3)ギャンブル依存に至る変化を見過ごさない

最初は、興味本位で、友人や知り合いから教えてもらってギャンブルに手を出し、勝ったことに味をしめて、次第にのめり込んでしまうという人が少なからずいます。ギャンブル依存症になると、自らギャンブルをやめたくてもやめられない状態に陥り、泥沼から抜け出せなくなってしまいます。

例えば、職場で「パチスロで〇万円勝った」「週末に万馬券とった」「万舟きた」などと自慢気に吹聴している社員がいたら、度が過ぎていないか、それとなく言動に気をつけておきましょう。勤務中にギャンブルの話ばかりしているようであれば、口頭で注意することも必要です。

再三にわたって注意を聞かず、他の社員から苦情まで出てくるような場合などには、服務規律の遵守事項に照らして、けん責などの処分対象にすることも検討しましょう。

4 ギャンブル依存症が疑われるときの参考情報、相談先

1)ギャンブル等依存症対策推進本部

首相官邸に設けられたギャンブル等依存症対策推進本部では、ギャンブル等依存症を克服した人やその家族などからの体験談を公開しています。また、後述する「ギャンブル依存症問題を考える会」をはじめとする、相談先などを紹介しています。

■ギャンブル等依存症対策推進本部「ギャンブル等依存症を克服された方の体験談」■

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gamble/

2)依存症対策全国センター

国立病院機構久里浜医療センターは、アルコール健康障害、薬物依存症、ギャンブル等依存症、ゲーム依存症の全国拠点機関(依存症対策全国センター)に指定され、依存症の治療や回復支援に携わる専門家の育成、依存症相談事業の拡充、依存に関する情報発信の向上など各種事業を実施しています。

ギャンブル依存症を含む依存症に関する基礎的な知識を紹介しているほか、全国の依存症専門相談窓口と医療機関が検索できます。

■依存症対策全国センター■

https://www.ncasa-japan.jp/

3)ギャンブル依存症問題を考える会

ギャンブル依存症問題を考える会は、ギャンブル依存症当事者・家族の支援に力を入れ、そこから派生する各地域の支援者との連携や啓発活動を行っています。

考える会の代表・田中紀子氏らは、2018年、病的ギャンブラーとギャンブル愛好家を分ける重要4項目を抽出し、その頭文字から「LOST」と名付けた、ギャンブル依存症自己診断ツールを開発しました。

  • Limitless:ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
  • Once again:ギャンブルに勝ったとき「次のギャンブルに使おう」と考える
  • Secret:ギャンブルをしたことを誰かに隠す
  • Take money back:ギャンブルに負けたときすぐに取り返したいと思う

直近1年間のギャンブル経験にあてはめ、上記4項目のうち2つ以上が「はい」という回答の場合、ギャンブル依存症の危険度が高いと考えられます(田中紀子、松本俊彦、森田展彰、木村智和「病的ギャンブラーとギャンブル愛好家とを峻別するものは何か:LINEアプリ・セルフスクリーニングテストを用いた病的ギャンブラーの臨床的特徴に関する研究」日本アルコール・薬物医学会雑誌 53 (6) 264-282、2018年)。

■ギャンブル依存症問題を考える会■

https://www.scga.jp/

以上(2024年12月作成)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:ChatGPT