【かんたん会社法(11)】 企業再編の1つである「事業譲渡」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「事業譲渡」の基本を知りたい人
  • 課題:事業譲渡の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、事業譲渡では買い手が事業を選択し、対価は金銭となる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、事業譲渡であり、基本的に譲渡会社(売り手)の立場で紹介します。

2 事業譲渡とは

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の企業に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。

また、事業譲渡では当該事業に従事する従業員、取引関係なども対象にするのが通常なので、譲受側は新たに従業員教育や営業をせずに事業を開始できます。一方で、従業員との雇用関係や取引先との売買契約などをすべて巻き直す必要があるため、実務が煩雑になる点はデメリットです。

3 事業譲渡の手続き

1)株主総会の特別決議

事業譲渡において、「事業の全部を譲渡する場合」「事業の【重要】な一部を譲渡する場合」などは、譲渡会社において株主総会の特別決議を経ることが必要です。この株主総会の招集の際は、通常、「事業譲渡を行う理由」「契約の内容の概要」「対価の算定の相当性に関する事項の概要」を記載した参考書類を株主に交付します。

なお、ここでいう【重要】とは、例えば、その事業の帳簿価額が会社の総資産の20%(定款の定めで引き下げることが可能)を超える場合などですが、基本的には個別の解釈によって決まります。

2)反対株主の買取請求

さらに、譲渡会社は、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えなければなりません。具体的には、原則として、効力発生日の20日前までに事業譲渡を行う旨を株主に通知します。これを受け、事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう譲渡会社に請求できます。

譲渡会社は、反対株主との間で買取価格の協議が調った場合は、効力発生日から60日以内にその金額を支払います。一方、効力発生日から30日以内に協議が調わなかった場合、譲渡会社または株主はその期間の満了の日後30日以内であれば、裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

3)上記以外の場合の手続き

事業譲渡に関して、上記と異なる場合として、

  • 簡易事業譲渡:「事業の重要な一部」の譲渡をしない事業譲渡
  • 略式事業譲渡:譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である事業譲渡

があります。

簡易事業譲渡は、具体的には、譲渡資産について、その帳簿価額が、当該会社の総資産額の5分の1を超えないような事業譲渡を指します。このような場合は、「事業の重要な一部」の譲渡には該当しないため、株主総会決議は不要になります。

また、譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である場合、略式事業譲渡に該当するため、株主総会決議は不要になります。なお、特別支配会社とは、単独である会社の議決権の90%以上を有する会社、または完全子会社などの保有分と合わせてある会社の議決権の90%以上を有する会社を指します。

4 事業譲渡における注意事項

1)競業禁止義務

事業譲渡の効力が生じたときは、譲渡契約の内容に従って財産の引き渡しなどを行います。合併などと違い、債権・債務や契約上の地位の移転については個別に相手方の同意を得なければなりません。

また、事業譲渡には会社法上、競業禁止義務が定められています。すなわち、譲渡会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一および隣接する市区町村の区域内で、事業譲渡を行った日から20年間、同一の事業を行うことはできません。もっとも、特約によってかかる義務を排除することができるため、実務上、事業譲渡契約においてこれよりも短い期間の競業避止義務の定めを置くことが多いでしょう。

なお、この競業禁止規定に関係なく、そもそも譲渡会社は不正競争の目的をもって同一の事業を行うことはできません。

2)商号の利用

譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。この弁済責任を負わないようにするためには、事業譲渡の後、遅滞なく、

譲受会社は、本店の所在地で譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記するか、譲受会社および譲渡会社から第三者に対してその旨を通知する

必要があります。

また、譲受会社が商号を使用しない場合でも、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告(債務を引き受ける旨の明確な記載がなくても、社会通念上、債権者において、譲受人が譲渡人の事業によって生じた債務を引き受けたものと信じるものと認められる広告であればこれに該当します)を行ったときは、譲渡会社の債権者は、譲受会社に対して弁済の請求をすることができます。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【熱中症対策】 いよいよ夏本番! 改めて確認したい「熱中症」の基礎

書いてあること

  • 主な読者:社員の「熱中症」対策を進めたい経営者
  • 課題:まずは熱中症に関する基本的な情報を知りたい
  • 解決策:熱中症で緊急搬送されている人数、2024年夏の暑さの予報、熱中症の主な症状、熱中症になりやすい人・環境を把握する

1 「熱中症」がいよいよ本格化、対策は必須!

2024年7月22日、今年最多となる41箇所の地域に「熱中症警戒アラート」が発表されました。全国的に気温が著しく上昇し、地域によっては40度に迫るほどの猛暑日が続いています。社員の熱中症対策は必須です。

例年、熱中症で救急搬送される人数は5月ごろから徐々に増え始め、7月~8月にピークを迎えます。総務省消防庁「救急搬送人員及び死亡者数(年別推移)」によると、2023年7月に救急搬送された人数は3万6549人、5月~9月の累計では9万1467人となっています。

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2024年6月時点の気象庁「全国の季節予報」によると、

2024年の7月から9月の東日本・西日本の平均気温は、30%の確率で平年並み、60%の確率で平年より高くなる見込み

です。コロナ禍を経て、日ごろからマスクを着用することもありますし、自宅でテレワークをする社員もいます。自宅はオフィスよりも空調設備が整っていないことが多いので、屋内でも社員が熱中症になるリスクは高まっているといえます。

そこで、熱中症対策の手始めとして、具体的な症状と熱中症になりやすい条件を確認していきましょう!

2 熱中症はどのような状態なのか?

熱中症の定義は次の通りです。

体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)

暑い場所などで作業し続けると、体内で熱が発生して体温が上昇します。通常は体温調節機能が働き、汗をかいて熱を体外に逃がすことで体温が下がります。しかし、体内の水分や塩分のバランスが崩れると体温調節機能が働きません。その結果、体温が下がらず熱中症になることがあります。

熱中症の主な症状は次の通りです。

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熱中症は目まいなどの軽度な症状で済むこともあります。しかし、重症化すると意識障害などを起こし、最悪のケースでは死に至ることもあります。そのため、いち早く症状に気付き、重症化する前に対処しなければなりません。

3 どんな人が熱中症になりやすい?

個人の体質、普段の生活習慣、その日の体調など、さまざまな理由で熱中症になりやすい人がいます。例えば、寝不足や食欲不振などで体調が優れない、下痢や二日酔いなどで脱水症状気味といったときは注意が必要です。また、肥満の人や、運動習慣がなく体力や持久力のない人も熱中症になりやすいとされています。

その他、高齢者や持病のある人、体に障害のある人、(日焼けを防ぐために)暑い中でも厚手の長袖を着ている人なども注意が必要です。

感染症対策や業務上の必要性も含め、マスクを着用する人も注意が必要です。特に高温多湿の状況でマスクを着用していると、皮膚からの熱が逃げにくくなったり、喉が渇いていることに気付かなかったりすることから、体温調節がしづらく熱中症になるリスクが高まります。

4 高温多湿でなくても熱中症になりやすい条件は?

熱中症になりやすい条件は、

  • 風が弱い
  • 日差しが強い
  • 急に暑くなった日
  • 熱帯夜の翌日
  • 照り返しが強い場所
  • 熱波が襲来するとき

などです。オフィスであっても、熱が発生するサーバーや複合機などの業務機器が近くにある場所での作業は注意が必要です。また、テレワークの場合、電話やウェブ会議の音声を聞き取りやすくしたり、仕事に集中したりするためにドアや窓を閉め切ることがあり得ます。また、自室にエアコンがないという人もいます。こうした環境で長時間作業を続けると、熱中症になりやすくなります。

以上(2024年7月更新)

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画像:Lamyai-shutterstock

【財務分析】会社の良し悪しを判断する基本の指標20選

書いてあること

  • 主な読者:会社の状況について立てた仮説を検証したい社員
  • 課題:財務分析の指標は種類が多く、どれを使えばよいのか迷う
  • 解決策:「収益性」「安全性」「生産性」に着目して、仮説検証に必要な指標を使う

1 財務分析は「仮説→検証」の繰り返し

財務分析は、会社の状況について「仮説」を立て、それを検証するために行うものです。例えば、次のようなイメージです。

  • 「老朽化した設備があり、有形固定資産の効率性が落ちている?」と仮説を立てたら、有形固定資産回転率が低くないかを確認してみる
  • 「借入金が増加し、短期安全性が低下している?」と仮説を立てたら、流動比率や当座比率を比較してみる

この記事では、財務分析に使う代表的な20の分析指標を紹介します。ただし、上から順番に計算していく必要はありません。会社の状況で「収益性」「安全性」「生産性」のうち、どの要素を判断したいかによって、必要な指標を使いわけてみてください。

2 収益性に関する指標10選

1)総資本経常利益率

総資本経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本

また、総資本経常利益率の計算式は次のように分解することができ、収益性に影響を与える要因をより詳細に分析できます。

総資本経常利益率

=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)

=売上高経常利益率×総資本回転率

2)売上高総利益率

売上高総利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高

売上総利益は次の式で計算できます。

売上総利益=売上高-売上原価

売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。例えば、小売業であれば販売した商品の仕入代金、製造業であれば製品の製造費用などが該当します。

3)売上高営業利益率

売上高営業利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高

営業利益は次の式で計算できます。

営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

販売費及び一般管理費とは、販売部門や総務・経理といった管理部門などで発生する費用です。人件費・事務用品費・旅費交通費・広告宣伝費・支払家賃・減価償却費などが該当します。

4)売上高経常利益率

売上高経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高

経常利益は次の式で計算できます。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

営業外収益とは、財務活動や投資活動など、本業以外で得た収益です。受取利息・受取配当金・有価証券売却益などが該当します。また、営業外費用とは、本業以外で発生した費用のことです。支払利息・手形売却損・有価証券売却損・社債利息などが該当します。

5)ROE(Return On Equity、自己資本利益率)

ROEの計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

ROE=税引後当期純利益÷自己資本

6)ROA(Return On Assets、総資本利益率)

ROAの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

ROA=税引後当期純利益÷総資本

7)総資本回転率

総資本回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

なお、総資本回転率が悪化する例として、保養所などの売上獲得に直接貢献しない資産を多く所有していることなどが挙げられます。

8)売上債権回転率

売上債権回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権は次の式で計算できます。

売上債権=受取手形+売掛金など

9)棚卸資産回転率

棚卸資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産とは、販売されずに在庫として会社に残っている資産です。商品・製品の他に原材料・仕掛品なども含みます。棚卸資産回転率が低い場合、在庫過多や不良在庫の恐れがあります。

10)有形固定資産回転率

有形固定資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

3 安全性に関する指標7選

1)流動比率

流動比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

流動比率=流動資産÷流動負債

流動資産とは、現金預金・受取手形・売掛金・棚卸資産など1年以内に回収が見込める資産です。また、流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。

流動比率は、短期的な支出を短期的な収入でどの程度補うことができるかが把握できる指標です。1年以内という基準で資産と負債の比率を見るわけですが、「1年以内に回収できるか、また、支払いが可能かどうか」までは考慮されていません。そのため、資産と負債が同一の状態である100%では安全とは言い切れず、200%以上が望まれます。

2)当座比率

当座比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

当座比率=当座資産÷流動負債

当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いた換金性の高い資産です。

当座資産=現金預金+受取手形+売掛金+有価証券など

受取手形・売掛金は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。

当座比率は流動比率よりも資産の回収可能性を考慮した指標であり、100%以上が望まれます。もし当座比率が低い場合、支払原資に対する短期借入金などの比率が大きいことが分かります。また、当座比率についても回収や支払いのタイミングは考慮されていません。流動比率が高いのに当座比率が低い場合、棚卸資産(在庫)が過剰となっている恐れがあります。

3)手元流動性比率

手元流動性比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

手元流動性比率(カ月)=(現金預金+有価証券)÷月商

手元流動性比率は、短期的な安全性を見る際に信頼できる指標です。なぜなら、手元流動性は、現金預金とすぐに現金化できる有価証券だけで安全性を評価するからです。一概にはいえませんが、中小企業の場合は1.7カ月以上が望まれます。

4)固定比率

固定比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定比率=固定資産÷自己資本

固定資産とは、建物や土地など1年超にわたって使用される資産です。固定比率は、短期では回収の難しい固定資産が返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているか、企業の長期的な安全性を見るための指標で、100%以下となることが望まれます。

5)固定長期適合率

固定長期適合率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)

固定負債とは、社債や長期借入金など1年以内に支払う必要がない負債です。固定長期適合率は、長期的な安全性を見るための指標ですが、自己資本に加えて固定負債も考慮していることが特徴です。固定長期適合率は、100%以下となることが望まれます。

6)自己資本比率

自己資本比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

自己資本比率=自己資本÷総資本

自己資本比率は、総資本のうち、返済する必要がない自己資本が占める割合です。安全性の観点から見ると、自己資本比率は高ければ高いほど好ましくなります。ただし、負債で事業投資をして負債コスト以上の利益を上げている場合、自己資本比率が低くても問題はありません。 そのため、収益性の観点から見ると、自己資本比率が高ければ良いというわけでもありません。

7)負債比率

負債比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

負債比率=負債÷自己資本

負債比率は、負債と自己資本を比較する指標です。負債比率は、自己資本比率を補完するものですが、安全性分析としては、自己資本比率もしくは負債比率のどちらか一方を分析すれば良いといえます。

4 生産性に関する指標3選

1)労働生産性

労働生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど従業員1人当たりの生産性は高くなります。

労働生産性(円)=付加価値÷従業員数

労働生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

労働生産性(円)

=(売上高÷従業員数)×(付加価値÷売上高)

=1人当たり売上高×付加価値率

2)設備生産性

設備生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど資産当たりの生産性は高くなります。

設備生産性=付加価値÷有形固定資産

設備生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

設備生産性

=(売上高÷有形固定資産)×(付加価値÷売上高)

=有形固定資産回転率×付加価値率

3)労働分配率

労働分配率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど生産性は高くなります。

労働分配率=人件費÷付加価値

労働分配率が高ければ、労働生産性が低いか、余剰人員を抱えている可能性があります。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pexels

【朝礼】モノレールには200年の歴史がある

おはようございます。今日は乗り物の「モノレール」について話をします。皆さんは、モノレールというと、その空中を走る姿から、2本のレールを走る普通の電車に比べ「新しい」「未来的」といったイメージを抱くかもしれません。ですが、その歴史は意外と古いのです。

辞書でモノレールの定義を調べると、「1本のレールで列車を走らせる鉄道」とあります。そんなモノレールが世界で最初に作られたのは、今から200年前、1824年の英国。ヘンリー・パルマという人物がロンドン埠頭(ふとう)内に敷設したのが最初です。ちなみに世界で初めて蒸気機関車が製作されたのが1825年、実はモノレールは汽車よりも歴史が古いのです。といっても、当時のモノレールは、今のような形ではなく、貨物を運搬するために、木材のレールに車両をまたがらせ、馬で牽引するというものでした。

次にモノレールが歴史の表舞台に出てくるのは、そこから60年以上後、1888年のアイルランド。蒸気機関車で貨物を牽引輸送するモノレールが整備され、約40年運送されたそうです。

モノレールが都市交通機関として使われるようになったのは、1901年のドイツ。ここに来てようやく、人を乗せるモノレールが登場します。

ちなみに、日本でモノレールが本格始動するのは1964年。東京五輪が開催された年で、主に選手の輸送を目的として作られたそうです。その後、自動車の普及によって道路の渋滞問題が発生し、その問題解決の手段としてモノレールの需要が高まり、今の形へとつながっていくわけです。

以上、モノレールの歴史をざっくりお伝えしましたが、私が注目してほしいのは、1824年に初めてモノレールを作ったヘンリー・パルマです。皆さん、彼の気持ちになってみてください。当時のモノレールは、あくまで貨物運搬が目的。それも、建築現場という限られた場所で使われ、人が乗るような代物ではありませんでした。パルマ自身、まさか自分の考案したモノレールが、200年後に今のような形で使われるなんて、想像もしなかったでしょう。

モノレールが次に姿を現すのが、60年以上後というのも面白いです。水面下で実用化のための研究が進められていたのか、何十年もたってからパルマのモノレールに着目する人がいたのかは分かりませんが、いずれにせよ、昔のテクノロジーが時代を経て呼び起こされるのはロマンがありますよね。

私たちは、今自分たちの周りにあるものから、ビジネスの可能性を模索しようとしがちですが、新しいビジネスのアイデアは、意外と昔のテクノロジーの中に眠っているのかもしれません。たまには歴史をひもといて、昔に目を向けてみてはどうでしょうか。私たちが今当たり前に使っているテクノロジーも、何百年か後には全く違う形で使われているかもしれない、そんなことを想像するのも面白いですね。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【財務分析】仕入れや販売をしたときに財務諸表の数値はどう変化する?

書いてあること

  • 主な読者:財務諸表の構造や読むときのポイントを知りたい人
  • 課題:財務諸表は数字や似通った専門用語が多く、どこを見ると良いのかがわからない
  • 解決策:商品の仕入れや販売などの身近な活動に落とし込んで、それらが財務諸表にどのような影響を与えるのかを考えてみる

1 日々の企業活動は財務諸表にどう影響する?

財務諸表(損益計算書、貸借対照表)を慣れるには、

商品の仕入れや販売などの活動が、財務諸表のどのような箇所に影響するか

を実際に確認してみることが大切です。

財務諸表にはさまざまな数字が出てきますし、似通った専門用語も多いため、最初はどこを見ると良いのかがわからないかもしれません。しかし、慣れてくると、ポイントを押さえて読めるようになり、それほど時間をかけずに会社の財務状況を大まかにつかめるようになります。

この記事では、財務諸表の概要を説明した上で、仕入れや販売などの身近な活動が財務諸表の数値にどのように影響するかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

損益計算書は、

会社が一定期間の営業活動によってどれだけの利益を上げられたかを示すもの

です。利益は次の5段階となっており、商品・サービスの売り上げから、売上原価や人件費などを差し引いて計算します。

  1. 売上総利益:自社の商品やサービスに係る売上から売上原価を差し引いた利益
  2. 営業利益:売上総利益から人件費など販管費を差し引いた本業にかかる利益
  3. 経常利益:営業利益から受取・支払利息などの本業以外の収益・費用を反映した利益
  4. 税引前当期純利益:経常利益から臨時的に生じた特別利益・損失を反映した利益
  5. 当期純利益:税引前当期純利益から法人税等の金額を差し引いた最終の利益

どの利益を重視するかは、損益計算書を読む理由や読み手の立場によって異なります。例えば、投資家などは会社の配当原資がどの程度あるのかを見るために、当期純利益に注目します。また、類似商品を扱う競合他社の損益計算書を見る際は、売上原価を差し引いた売上総利益などに注目します。

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3 貸借対照表の概要

貸借対照表は、

決算期末時点における会社の資金調達・運用の状況を示すもの

です。会社は借り入れや株式発行などにより資金調達を行い、調達した資金で商品を仕入れたり、機械装置を購入したりしますが、その資金の状態を示すのが貸借対照表です。貸借対照表を読む際は、次の5つの項目に注目します。

  1. 流動資産:現金預金や売掛金など短期間(1年以内)で現金化できる資産
  2. 固定資産:1年を超えて現金化されず、長期間保有・使用される資産
  3. 流動負債:買掛金や短期借入金など返済期限が短期間(1年以内)の負債
  4. 固定負債:返済期限が1年を超える負債
  5. 純資産:株主からの出資金や事業活動から得た利益の蓄積額など

業種や企業の事業戦略などによって、どの項目が高めなのか、または低めなのかといった特徴が異なります。

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4 仕入れや販売で貸借対照表と損益計算書はどう変化する?

1)事業活動の概要(前提条件)

ここでは、小売業A社の仕入れ、販売などの事業活動が貸借対照表と損益計算書にどのような影響を与えるかを解説します。

小売業A社は、この1年間で次の事業活動を行いました。以降は第1事業年度とします。

a.営業用資金として、金融機関から長期で1000万円を借り入れる。また、自己資金の注入により、株主資本が500万円となる

b.営業店舗として土地を250万円、建物250万円を現金500万円で取得する(建物の減価償却期間は25年、減価償却費は年間10万円とします)

c.商品を1個当たり3000円で2000個、現金で仕入れる

d.仕入れた商品を1個当たり5000円で1000個、現金で販売する

e.減価償却費10万円を販管費に計上し、第1事業年度の税金(税引前当期純利益の30%の57万円)を翌事業年度(第2事業年度)に支払うことになるため未払計上する

上記の事業活動を仕訳(取引を借方と貸方に分けたうえで、取引内容に応じて適切な勘定科目に振り分けること)した結果は次の通りです。

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2)財務諸表の変化

1.小売業A社の貸借対照表

仕訳結果に基づいて、第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化を見てみましょう。

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2.小売業A社の損益計算書

次に、第1事業年度の小売業A社の損益計算書を見てみましょう。

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損益計算書の一番下にある当期純利益は、会社の最終的なもうけを表す項目です。来期の初めの貸借対照表では、当期純利益は純資産に利益剰余金として計上され、会社が更なる成長を遂げるための投資や、自己資本の充実により財務基盤を強化するための原資に充てられます。第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表は次の通りです。

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以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Rawpixel.com-shutterstock

【高齢者雇用】定年退職した社員にフリーランスで手伝ってもらう場合の注意点

書いてあること

  • 主な読者:定年退職した社員と業務委託契約を交わしたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:業務委託契約に不慣れで、実務のポイントが分からない
  • 解決策:フリーランスは社員ではなく外部の人間であることを前提に検討する

1 継続雇用と業務委託のハイブリッド

2021年4月1日以降、いわゆる「70歳までの就業機会確保」により、会社は社員が70歳まで働ける機会を確保する「努力義務」を負っています(改正高年齢者雇用安定法)。

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具体的な方法は、

  • 継続雇用制度などによる「雇用確保措置」
  • 業務委託契約などによる「創業支援等措置」

となりますが、現在、多くの会社は65歳までの継続雇用制度を導入しているので、これを70歳まで延長するのが最も簡単です。ただし、高年齢者の中には、セカンドライフの充実などのために、自由度が高い業務委託契約を希望する人もいるかもしれません。

人材を確保しつつ、こうした高年齢者の希望に沿うためには、

継続雇用制度をベースに、希望者は業務委託契約に切り替える

という設計も検討できます。そこで、この記事では、新たに創設された創業支援等措置の導入のステップや業務委託契約の注意点などを紹介していきます。

2 「創業支援等措置の計画」がカギ

高年齢者と業務委託契約を締結する流れは次の通りです。

  1. 創業支援等措置の計画を策定する
  2. 過半数労働組合等の同意を得る
  3. 創業支援等措置の計画を社内に周知する
  4. 個々の高年齢者と業務委託契約を締結する

「創業支援等措置の計画」(以下「計画」)では、次の12の事項を定めます。

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この計画を過半数労働組合等の同意を得て社内に周知すれば、業務委託契約を締結できるようになります(労働基準監督署などに届け出は不要)。計画を作るのは面倒ですが、高年齢者との業務委託契約の内容は計画をベースに決定されるので、

契約内容への誤解などから、会社と高年齢者がトラブルになるリスクを低減

することができます。

3 創業支援等措置の計画を作成・運用する際のポイント

業務委託契約を交わす高年齢者は社員ではなく外部の人間なので、

  1. 独占禁止法、下請法、フリーランス保護新法(2024年11月1日施行)に違反しないこと
  2. 実質的に「労働者」となるような指示等を行わないこと

に注意しましょう。なお、1.のフリーランス保護新法については、まだなじみが薄いという人もいるでしょうが、簡単に言うと

「下請法に関係なく、会社はフリーランスを保護しなさい」という趣旨の法律

です。フリーランスは、契約する会社が一定の資本金要件を満たす場合、下請法による保護を受けられますが、中小企業はその資本金要件を満たさないケースが多く、フリーランスが保護されにくいという問題があり、これを解決するためにフリーランス保護新法がされました。

厚生労働省によると、

創業支援等措置を新たに設ける場合も、労働基準法の「退職に関する事項」として、業務委託契約を締結する旨や対象者の範囲等を、就業規則等に記載する必要がある

とされていますので、1.と2.を踏まえつつ、計画に記載する12項目の中から厚生労働省のパンフレットで、特に注意が必要とされる6項目のポイントを紹介します。

1)高年齢者が従事する業務の内容

フリーランス(高年齢者)が従事する業務の内容は、本人の知識・経験・能力等を考慮した上で定めます。「元社員だから」ということで会社が一方的に業務を決めてしまいがちですが、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押し付けは独占禁止法、下請法違反になります。

フリーランス(高年齢者)と社員の業務内容が同じでもよいのですが、労働時間、休日、責任の重さなどまで同じになると、「労働者」として労働基準法などの適用を受けます。この場合、稼働時間に応じた割増賃金の支払いなどが必要になることがあります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、業務内容を書面やメールで明示すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「納品物などの受領を拒絶する、返品する」「業務内容を変更させる、やり直させる」といった行為も同法違反

となります。

2)高年齢者に支払う金銭

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭は、「1回の契約(または1活動など)当たり△△円以上」といった具合に定めます。高年齢者が社員だった頃の基準とは切り離し、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量などを考慮して金額を設定しましょう。

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭を理由なく減額したり、支払いを遅らせたりすることは、独占禁止法、下請法違反になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

  • 報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示すること
  • 報酬の支払い期日について、原則として納品などの日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に設定すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「報酬を減額する」行為なども同法違反

となります。

3)契約を締結する頻度

契約を締結する頻度は、「○○に関する業務を1年当たり○回から△回まで」といった具合に定めます。適切な頻度は個々のフリーランス(高年齢者)のスキルや健康状態などによっても変わるので、65歳時点での業務量なども考慮して決めましょう。

4)契約に係る納品の方法

契約に係る納品は、「履行期限は発注後○日から△日とし、個別契約で定める期限までに○○により納品する」といった具合に定めます。成果物が契約で定められた目的を達成していないときは、やり直しを求めることができますが、フリーランス(高年齢者)は自己の責任と判断で委託業務を行うことになり、業務上の指揮命令関係があるわけではないため、社員と同じように指示できるわけではないことに注意が必要です。

また、納品された成果物の「検収(発注内容に沿っているかを検査すること)」も重要な問題です。会社側はちゃんと成果物をチェックしたつもりでも、受託者にそれが伝わらないとトラブルになるので、検収のルールは明確に決めておきましょう。

5)契約の変更

契約の変更は、「委託業務の内容、実施方法など契約条件の変更を行う必要があると判断した場合は、甲乙協議の上、変更することができる」といった具合に定めます。例えば、業務の内容の場合、外部に発注する業務がなくなったときや、フリーランス(高年齢者)の健康状態が悪化したときなどに変更が必要になります。ただし、一方的に契約内容を変更することはできませんので、フリーランス(高年齢者)と合意した上で変更しましょう。

6)安全・衛生

安全・衛生は、「機械器具・原材料による危害を防止するために必要な措置を講じる」など、会社が行う取り組みの内容を定めます。

フリーランス(高年齢者)には労働安全衛生法や労働契約法が適用されないので、会社は安全衛生管理をしなくてもよいと思うかもしれませんが、例えば、納期が極めて短期であり過重労働とならないように、適切な納期を設定することなどが必要になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、ハラスメントの防止や出産・育児・介護への配慮といった「就業環境の整備」を行うこと

が義務付けられます。

7)その他(成果物の権利)

1)から6)までの内容の他、「納品された成果物の権利」も重要です。例えば、フリーランス(高年齢者)の成果物が、本人の思想や感情を創作的に表現する「著作物」に該当する場合、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます。著作権(著作財産権)については著作者以外への譲渡もできますが、著作者人格権については譲渡不可なので、納品後にその内容を公表したり、変更したりするにはフリーランス(高年齢者)の同意が必要になります。

フリーランス(高年齢者)による制作物を、編集したり修正したりすることが想定される場合には、フリーランス(高年齢者)から、制作物に関する「著作権(著作権を含む知的財産権)を譲渡する」ことに加え、「著作者人格権を行使しない」ことについても同意を得た上で、契約書に記載することなどを検討するとよいかもしれません。

以上(2024年8月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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【管理会計】戦略ごとに見る損益分岐点の活かし方

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:もうけるためには、どのような観点に着目すればよいのかが分からない
  • 解決策:もうけるとは限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること

1 質問:ラーメン店はいくらの売り上げが必要か?

突然ですが、友人のAさんが独立して念願の夢であるラーメン店を開業することになりました。自己資金1000万円と銀行借入350万円で開業するとのこと。その他の条件は次の通りです(ここでは借入金の使途は考慮しません)。

  • 年間固定費:600万円(借入金の支払利息を含む)
  • 年間の元本返済額:70万円
  • 限界利益率:30%

Aさんからの質問は、

いくらの売上を上げれば利益がでるか?

ということです。単純に固定費の600万円と返済額の70万円だけに注目し、「670万円(600万円+70万円)を超えれば大丈夫」とアドバイスしたら大問題で、限界利益率(限界利益/売上高)に注目する必要があります。

まず、元本返済額は、キャッシュ・フローとして捉えます。例えば、税引前利益が100万円で法人税等の税率を30%とした場合、税引後利益は70万円(100万円-100万円×30%)となり、元本はこの70万円を含む手元にある資金から返済します。

従って、Aさんが銀行に返済する70万円を確保するには、税引後利益として70万円以上が必要です。そこでAさんに必要な売上高は次の通りです。

Aさんに必要な売上高

={固定費600万円+税引後利益70万円/(1-0.3)}/限界利益率30%

=2334万円

ラーメン店の年間売上高が2334万円以上になれば、Aさんは借入金の元本返済に充てる資金を事業から得ることができます。

この利益を上げるのに必要な売上高を「損益分岐点売上高」といいます。損益分岐点売上高は、損益がトントンの売上高であり、これにとどまっているのでは不十分です。企業としては利益アップを図っていかなければなりません。以降で、基本的な利益アップ戦略や、応用的な事例を用いて管理会計的にどのように考えていけばよいのかを紹介します。

2 利益アップ戦略の管理会計的考え方

1)利益の仕組みから考えられる利益アップ戦略とは

早速ですが、利益(もうけ)とは、

限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること

です。変動費と固定費とは、

  • 変動費:販売数量などに応じて増える材料費など
  • 固定費:販売数量に関係なく生じる人件費など

といったものです。

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利益アップのためには、限界利益アップ、固定費ダウンの2つの戦略が考えられます。限界利益アップ戦略は、さらに売上単価アップ戦略、売上数量アップ戦略、限界利益率アップ戦略の3つに分けられます。

2)限界利益アップ戦略

1.売上単価アップ戦略

Aさんの例で、売上単価アップ戦略について考えます。初年度の売上高は次の通りで、目標売上高には達しませんでした。

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そこで、平均単価を1割アップする売上単価アップ戦略を採用したとします。変動費率(70%)、売上数量(1万9500杯)に変化なしとして、売上高は次の通りとなります。売上単価1割アップにより、利益はマイナス15万円から43万5000円に増えます。

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2.売上数量アップ戦略

次に売上数量アップ戦略を採用して、売上数量が約15%アップの2万2425杯になった場合の売上高は次の通りとなり、借入金の元本が返済可能な利益72万7000円が確保できます。なお、ここでは法人税等を考慮しません。

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3.限界利益率アップ戦略

限界利益率アップ戦略を採用したら、売上高はどのようになるでしょうか。限界利益率アップは変動単価ダウン(低価格の原材料へ変更など)に他なりません。変動単価1割ダウンの場合は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から121万5000円にアップします。

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3)固定費ダウン戦略

固定費ダウン戦略(人件費や減価償却費、賃借料などの削減)を採用して、固定費が1割ダウンした場合、売上高は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から45万円にアップします。

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3 応用事例1:どの商品がもうかるか

B社では、X、Y、Zの3種類の商品を販売しており、前年度の実績は次の通りです。どの商品が最ももうかり、重点を置いて販売したらよいかを考えてみましょう。

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多品種の商品を仕入れ、あるいは製造している会社では、どれが最ももうかる商品であり、重点を置いて販売すべきであるかを決定する場合、それぞれの商品に固定費を何らかの基準で配賦した後の、利益の大きさを基準にしていることが多いようです。

図表を見てみると、利益はX商品が60万円、Y商品がマイナス10万円、Z商品が30万円となり、これらの商品のうち最も利益がある商品はX商品ということになります。

しかし、固定費は期間に対応して発生するもので、商品をどれだけ販売しても変わらないものです。従って、売上高から変動費を差し引いた限界利益の大きいY商品がもうかるということになります。

次に限界利益率に注目して、限界利益が同じならば限界利益率の大きい商品に力を入れます。B社では、X商品にまず重点を置き、次にY商品に力を入れて販売することになります。

4 応用事例2:赤字商品は中止すべきか

C社では、Y、Zの2種類の商品を製造販売しています。Y商品は常に赤字で、今後も現状のように推移すると予想されています。そこでC社の社長は、Y商品の製造を中止すべきか検討中です。中止すべきか否かを考えてみましょう。

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Y商品の製造を中止した場合の採算は次の通りで、利益がマイナス160万円と悪化しています。

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これはY商品が負担していた固定費320万円が、Y商品の製造を中止しても発生するからです。Y商品の製造を中止しても固定費は変わらないのに、Y商品の限界利益300万円がなくなったため、300万円の利益減になります。従って、限界利益がプラスならば、製造を中止すべきではありません。

5 応用事例3:赤字受注をするかどうか

D社は、次の原価資料にある通り、すでにY、Z商品を1台ずつ販売しているとき、新たにZ商品について1台190万円で注文がありました。

Z商品の原価は210万円(変動費175万円+固定費35万円)なので、追加のZ商品のみ精算する場合、赤字となります。しかし、自社の人員・設備に余力があります。これを受注しても値崩れの心配がない場合、受注すべきか否かを考えてみましょう。

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Z商品を1個追加受注しても会社全体の固定費の合計は85万円で同じです。Z商品1個を190万円で追加受注しても、増加する費用は変動費の175万円だけです。そのため、会社全体では利益が15万円増加します。従って、受注したほうが有利となります。

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赤字受注に対する考え方は一様ではありません。赤字受注はその商品単体で製造の継続か中止かを判断するのではなく、会社全体の損益を考慮して決定すべきでしょう。

また、赤字商品でも生産量が増加すれば黒字転換できるものもあります。ただし、見込み通りに受注が伸びない場合には、生産を継続すれば赤字を生むだけなので、生産を中止しなければなりません。大切なのは生産を中止する時期の見極めです。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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【かんたん会社法(10)】株式会社の計算(決算)

書いてあること

  • 主な読者:会社法で作成が義務付けられている計算書類について知りたい人
  • 課題:計算書類などを作成した後、どう扱えば良いのか分からない
  • 解決策:決算の結果は公告などをする必要がある。また、計算書類などは株主総会での説明資料になる

1 決算は株主への説明、計算書類はその資料

1)定量的に示す資料:4種類(計算書類と個別注記表)+1種類(附属明細書)

株式会社(以下「会社」)は、株主などから資金を集めて設立、運営されます。そのため、会社の活動について定期的に株主などに説明しなければなりません。この説明が「決算」であり、その際に示されるものの1つが、いわゆる「計算書類」です。計算書類という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、要は決算書のことであり、会社法ではこれを計算書類と呼びます。会社に作成が義務付けられている計算書類は4種類です。

  1. 貸借対照表:どのように資金を調達し、何に使っているかを示す
  2. 損益計算書:どれだけ売って、どれだけ利益をだしたかを示す
  3. 株主資本等変動計算書:株主の出資の増減を示す
  4. 個別注記表:上記について必要な説明を加える

また、上記4つに説明を加えるものとして計算書類の「附属明細書」の作成も義務付けられています。具体的には、固定資産・引当金・販管費(販売費および一般管理費)の明細などです。

以上の書類は、作成時から10年間保存しなければなりません。なお、書面である必要はなく、電磁的記録であっても大丈夫です。

2)定性的に示す資料:1種類(事業報告)+1種類(附属明細書)

先ほど紹介した資料は定量的な会社の状態を示すものですが、定性的に会社の情報を示す資料として、「事業報告」と事業報告の「附属明細書」の作成も義務付けられています。詳細は割愛しますが、事業の内容やその状況などについて記載します。

以上の書類は、5年間保存しなければなりません(起算は株主総会の1週間前。取締役会設置会社は2週間前)。なお、書面である必要はなく、電磁的記録であっても大丈夫です。

2 計算書類が作成された後の流れ

1)計算書類の監査と承認

作成された計算書類は、監査を受けなければなりません。機関設計によってルールが変わるところがあるので、ここではポイントを紹介します。なお、監査を受けた計算書類は取締役会の承認を受けます(取締役会が設置されていない場合は、取締役の承認)。

1.監査役設置会社

計算書類と事業報告、その附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません。

2.会計監査人設置会社

計算書類および附属明細書について、監査役および会計監査人の監査を受けます。また、事業報告および附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません。

2)定時株主総会における手続き

取締役会設置会社の取締役は、定時株主総会の招集通知の際、株主に取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告、さらに監査報告または会計監査報告(監査を受けた場合)を提供します。そして、定時株主総会において計算書類等について報告し、原則として株主の承認を得ます。

3)公告と備え置き

株主総会の後、遅滞なく株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。非大会社の場合、貸借対照表を計算書類として公告します(損益計算書は不要です)。大会社とは「資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社」のことなので、これ以外が非大会社となります。

公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の中から選んで定款に定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告します。公告方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を公告すれば大丈夫です。

なお、公告方法を官報または日刊新聞紙としている場合でも、決算公告のみをインターネットのホームページに掲載して対応することができます。この場合、貸借対照表などが掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります。

他方、電子公告による場合は、要旨による公告は認められません。また、公告方法を官報または日刊新聞紙と定めている会社であっても、これらの方法での公告に代えて、インターネット上のサイトに貸借対照表等の内容を5年間掲載する措置を取ることもできます。この場合は要旨による公告は認められません。

3 資本金・準備金の概要

1)資本金

資本金とは、設立または株式の発行に際して株主となる者が、当該会社に払い込んだ金銭または給付した現物の額です。ただし、会社法ではこれらの金額の2分の1を超えない額については資本金に計上しないことを認めており、それは資本準備金として計上されます。

2)準備金

準備金とは、何かの事態に備えて会社が準備しておくもので、資本準備金および利益準備金の総称です。前述した通り、資本準備金とは設立または発行の際に払い込んだ金銭または給付した現物のうち、資本金としなかったものです。

利益準備金とは、剰余金(利益)の中から配当時に積立てられる金額です。会社は剰余金の中から配当します。この際、剰余金を原資とする配当額の10%を利益準備金として計上すべきとされています。

3)資本金の減少・増加

1.資本金の減少

資本金の減少については、原則として、株主総会の特別決議が必要です。「減少する資本金の額」「減少する資本金の額の全部または一部を資本準備金とするときはその旨と準備金とする額」「資本金の額の減少がその効力を生じる日」を定めます。

資本金の減少は債権者の利害に影響を及ぼすため、債権者保護手続きが設けられています。具体的には、会社は資本金の減少の内容などを官報に公告し、かつ、把握している債権者には個別に催告しなければなりません。これに対して債権者が異議を述べた場合、会社は、原則として、当該債権者に弁済または相当の担保の提供などをします。

2.資本金の増加

資本金の増加については、株式発行の他、剰余金の額を資本金の額に組み込むことにより行われます。この場合、株主総会の普通決議によって、減少する剰余金の額と資本金の額の増加が効力を生じる日を決定します。この場合、債権者保護手続きは必要ありません。

4)準備金の減少・増加

1.準備金の減少

準備金の減少については、原則として、株主総会の普通決議が必要です。「減少する準備金の額」「準備金の全部または一部を資本金に組み入れるときはその旨と資本金とする額」「準備金の額の減少が効力を生じる日」を定めます。また、資本金額の減少の場合と同様、債権者保護手続きが必要となります。ただし、減少する準備金の全部を資本金に組み入れる場合、債権者の利益を害すことはないので、債権者保護手続きは必要ありません。

2.準備金の増加

準備金の増加については、剰余金を減少させて準備金に組み込むことにより行われます。この場合、株主総会の普通決議によって、減少する剰余金の額と準備金の額の増加が効力を生じる日を決定します。この場合は、債権者保護手続きは必要ありません。

4 剰余金の配当

1)剰余金配当の手続き

剰余金がある場合、つまり利益が上がっている場合、会社は株主に配当することができます。剰余金を配当する際は、原則として、株主総会の普通決議が必要です。株主総会では、「配当財産の種類および帳簿価額の総額」、「株主に対する配当財産の割当に関する事項」「当該剰余金配当がその効力を生じる日」を定めます。なお、配当は金銭に限らず現物配当もできます。

株主総会の決議が必要ない場合もあります。会計監査人設置会社であることなど一定の要件を満たせば、定款の定めにより剰余金の配当を取締役会の決議事項とすることができます。また、取締役会設置会社の場合、定款の定めにより、事業年度で1回だけ取締役会の決議で剰余金配当を行うことができます。

2)分配可能額の制限

配当するといっても、会社法で定められている分配可能額を超える配当はできません。分配可能額は、剰余金の額を基礎に、自己株式の帳簿価額、のれん等調整額など複雑な加減計算をして求めます。違法配当(分配可能額の制限に違反して配当)をした場合、

  • 配当を受けた株主は、配当を会社に返還する責任を負う
  • 配当について、株主総会に提案した取締役、取締役会で決議した取締役等は、注意を怠らなかったことを証明できなければ、株主と連帯して責任を負う

ことになります。

また、法令または定款の規定に違反する違法配当をした取締役らは、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するものと定められています。

以上(2024年7月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:Mariko Mitsuda

【高齢者雇用】定年後の社員を70歳まで継続雇用するときに注意すべきこと

書いてあること

  • 主な読者:「70歳までの就業機会確保」について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:雇用負担が増えるのが不安、社員が70歳まで業務に耐えられるか分からない
  • 解決策:会社と社員の負担が少ない継続雇用制度が人気。自社での雇用が難しい場合は、他社での再就職、業務委託契約の締結などを検討。就業規則の変更を忘れずに

1 努力義務の70歳雇用……自社でもできる?

生涯現役社会。高齢社員の活用はどの会社にとっても重要なテーマです。定年や定年後の働き方に関するルールは高年齢者雇用安定法に定められていて、会社は、

  • 定年を設定する場合は60歳以上とする義務
  • 65歳まで雇用するための措置を講じる義務(65歳までの雇用確保)
  • 70歳まで働ける機会を確保する努力義務(70歳までの就業機会確保)

を負っています。

3.の「70歳までの就業機会確保」は、2021年4月1日から始まったルールで、2.の「65歳までの雇用確保」を拡充したものです。実施は努力義務ですが、中小企業の30.3%はすでに措置を講じています(厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」)。

「会社の雇用負担が増えるのでは?」「70歳まで業務に耐えられない社員もいるのでは?」と不安かもしれませんが、ご安心ください。

会社と社員の負担が少ない継続雇用制度(定年後も社員を引き続き雇用しつつ、1年ごとなどに雇用継続が可能かを判断した上で、契約を更新する)を導入

することなどによって、そのリスクを減らせる可能性があります。では、70歳までの就業機会確保の全体像、継続雇用制度のポイントなどを紹介するので確認していきましょう。

2 70歳までの就業機会確保の全体像

70歳までの就業機会確保には、「3つの雇用確保措置」「2つの創業支援等措置」があります。

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1)「65歳まで」と「70歳まで」とで何が変わる?

「雇用確保措置」は、定年延長など、従来からの65歳までの雇用確保を踏襲したものです。70歳までの就業機会確保では、ここに「創業支援等措置」が新たに追加され、社員がフリーランスとして働くことを支援するなど、自社で雇用しない選択肢が増えます。いずれも努力義務です。

2)措置の内容はどうやって決めればいい?

70歳までの就業機会確保の5つの措置のうち、どれを選択するかは、会社と社員が十分に協議し、社員のニーズに応じて決定するのが望ましいとされています。ちなみに、

複数の措置を導入し、どの措置を適用するかは社員ごとに決定する

こともできます。例えば、原則として雇用確保措置で対応するけど、健康状態などの関係で自社での雇用が難しい社員については創業支援等措置を検討するといった具合です。

3)対象者を限定することはできる?

65歳までの雇用確保については、原則として対象者を限定することができません。唯一、継続雇用制度(65歳まで)については、

労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、一部の社員を対象から除外すること(雇用確保義務に対する経過措置)が認められていますが、その経過措置が2025年3月31日をもって終了となる為、2025年4月1日以降は不可(=定年に達した全社員が対象)

となります。

一方、70歳までの就業機会確保については、

定年廃止と定年延長を除き、対象者を限定する基準を設けることが可能

です。ただし、基準を設ける場合、過半数労働組合等の同意を得るのが望ましいとされています。また、過半数労働組合等との協議の上で設けた基準であっても「上司の推薦がある者に限る」「男性に限る」など、法の趣旨や労働関係法令・公序良俗に反するものは認められません。

4)他に注意点は?

ここまで紹介した内容は、就業規則に定めなければ実施できないので、

就業規則の変更手続き(過半数労働組合等への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出、変更後の就業規則の周知)

を忘れないようにしてください。

ちなみに、すでに70歳までの就業機会確保に取り組んでいる中小企業のうち78.2%は、「70歳までの継続雇用制度の導入」で対応しています(厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」)。そこで、次章では雇用確保措置のうち、継続雇用制度に焦点を当てて、制度の概要や実務の留意点を紹介していきます。

3 継続雇用制度の概要と実務上の留意点

1)継続雇用制度の概要は?

70歳までの継続雇用制度を導入する場合、

定年を60歳などに据え置きつつ、引き続き70歳まで雇用する

ことになります。継続雇用制度は、

  • 勤務延長制度(定年後も雇用契約関係を終了させず、引き続き雇用する)
  • 再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)

の2種類に大別されますが、一般的に浸透しているのは再雇用制度です。

制度のイメージをつかむため、定年延長(定年を70歳まで引き上げる)と再雇用制度の違いを比較してみましょう。

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大きな違いは契約期間です。定年延長では70歳まで契約期間の定めがありません。一方、

再雇用制度では、1年ごとなどに再雇用するか否かを決められるので、会社と社員の状況に応じて更新の可否やさまざまな条件を話し合うことが可能

となります。

また、60歳到達時の賃金額と比べ、一定の割合に賃金が引き下げられた場合など所定の要件に該当した場合、公的給付(雇用保険からの継続雇用給付金)を最長5年間に渡り受給することができるため、人件費の引き下げを目的として、再雇用制度を導入する会社も多いです。

ただ、この雇用保険からの継続雇用給付金(高年齢者雇用継続給付金)については、高年齢者雇用確保措置の進展などを踏まえ、2025年4月に制度の一部改正が予定されています。

2)再雇用制度の場合、契約更新の有無を会社が自由に決められるか?

社員が契約更新を期待する合理的な理由があり、会社が更新の申込みを拒絶する合理的な理由がない場合、会社は原則として契約更新をする必要があるとされています。

再雇用制度では、社員が定年に達した後に嘱託社員(呼び方はさまざま)として有期労働契約を締結し直します。この時点で、会社は社員に対して、契約更新の有無と契約更新の可能性がある場合はその基準を明示します。

なお、2024年4月の労働条件明示のルール改正により、契約更新に上限(通算契約期間や更新回数の上限)がある場合は、その内容の明示が義務

となりました。

契約を更新しない場合、その社員が、

  • 契約が3回以上更新されている
  • 1年以下の契約の更新によって、通算契約期間が1年を超える
  • 1年を超える契約期間の労働契約を締結している

のいずれかに該当するときは、契約期間満了の30日前までにその旨を予告しなければなりません。また、社員が請求したときは契約を更新しない理由を明示する必要があります。

なお、労働契約法には、通算契約期間が5年を超える社員が申し出た場合、無期契約に転換する「無期転換ルール」があります。ただし、定年後に会社に継続雇用される社員については、

会社が適切な雇用管理に関する計画を作成し、所轄都道府県労働局長の認定を受けている場合、定年後に引き続き雇用されている期間については、無期転換申込権が発生しない

という制度(継続雇用の高齢者の特例)があります。

3)継続雇用時に賃金の支給額を下げるのは同一労働同一賃金違反?

パートタイム・有期雇用労働法により、会社は基本給や賞与などについて、非正規社員(嘱託社員など)と正社員との間に不合理な待遇格差をつけることができません(同一労働同一賃金)。継続雇用している嘱託社員と、正社員との待遇差を設ける場合は次の3つに注意してください。

  • 職務内容(業務内容、責任の程度)
  • 職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み・活用等)
  • その他の事情(成果、能力、経験等が該当)

直近では2023年7月に、定年再雇用で嘱託になった職員の基本給を、正職員の頃の60%未満まで引き下げたことでトラブルが起き、最高裁判決までもつれ込んだ事案がありました。その際、

高裁が「60%を下回るのは違法」と判断したのに対し、最高裁が「単純な額の問題ではなく、基本給の性質や支給目的を精査すべき」として、高裁に判決を差し戻した

ことが話題になりました(最高裁第一小法廷令和5年7月20日判決)。

継続雇用の際は、社員の賃金が正社員時より下がるイメージが強いですが、実際は、

  • 仕事内容や役職は定年前から変わるか
  • 労働時間や、社会保険・雇用保険の適用(労働時間に応じる)は変わるか
  • 責任はどうなるか(仕事のノルマはあるか)

などを総合的に判断して金額を決める必要があります。

また、専門性の高い業務に従事するなど優秀な社員の場合、高い賃金を支払ってでも会社にとどまってほしいケースもあるでしょう。こうした場合、基本給などを下げる代わりに、職務内容や技能に応じた手当などを特別に支給したり、賞与などで功績を都度評価したりするというのも1つの方法です。

4)継続雇用した社員にも定期健康診断は実施すべき?

定期健康診断の実施義務があるのは、

無期契約または1年以上雇用される見込みがあり、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上の社員

です。継続雇用によって嘱託社員などに雇用形態が変わっても、この条件に該当する場合は定期健康診断を実施しなければなりません。

ただし、一般的に加齢によって健康状態に不安を感じる社員は増えるので、長期雇用を検討するのであれば、上の条件に該当しない社員も定期健康診断の対象にするとよいでしょう。がんなどのリスクを考慮し、法定外の人間ドックなどを受けさせるのも1つの方法です。

一方、「自分はまだ若い」と考えて、無理な働き方をして体調を崩したり、労働災害に遭ってしまったりする社員もいます。そのため、高齢社員に今の健康状態を正しく把握してもらうために、体力チェックテストなどを実施している会社もあります。

社員の体調面などを考慮してこれらの制度を積極的に取り入れることで、会社の福利厚生の拡充を図り、企業価値の向上に繋げられる可能性があります。

以上(2024年8月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:unsplash

【規程・文例集】70歳までの就業機会確保に対応した「定年後の再雇用規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:「70歳までの就業機会確保」に対応した会社規程のひな型が欲しい経営者
  • 課題:どうやって70歳まで働ける機会を与えるか迷っていて、規程の方向性が定まらない
  • 解決策:自社の「65歳までの雇用確保」の措置をベースに考える。例えば、65歳まで継続雇用する制度があるなら、その対象年齢を70歳に引き上げるだけでもよい

1 70歳までの就業機会確保(努力義務)とは?

70歳までの就業機会確保とは、

70歳まで働くことを希望する社員に、会社がそうした機会を与える努力義務を負う

というもので、具体的には次の5つの措置のいずれかを実施することとされています(複数の措置を導入し、どの措置を適用するかは社員ごとに決定するといった対応も可能)。

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もともと会社は「65歳までの雇用確保」の措置として、「定年廃止」「定年延長(65歳まで)」「継続雇用制度(65歳まで)の導入」のいずれかを実施する義務を負っています。なお、継続雇用制度(65歳まで)については現状、

労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、一部の社員を対象から除外することが認められていますが、2025年4月1日以降は不可(=定年に達した全社員が対象)

となるので注意が必要です。

70歳までの就業機会確保の措置の内容を考える場合、まずは自社が実施している65歳までの雇用確保の措置をベースにするのがよいでしょう。世間一般に浸透しているのは、継続雇用制度の「再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)」です。

そこで、この記事では、

定年後、社員を70歳まで再雇用することを想定した、定年後の再雇用規程のひな型

を紹介します。なお、加齢により社内での就業継続が難しくなる社員などが出てくることが予想されるため、ひな型では定年後の再雇用を原則としつつ、

社員が希望する場合、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する

という選択肢も用意しています(実施に当たっては、創業支援等措置の計画の作成等が必要)。

2 定年後の再雇用規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【定年後の再雇用規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、定年後の再雇用について、対象となる従業員などについて定めるものである。労働条件については労働条件通知書によって個別に定めるものとする。

第2条(定義)

定年後の再雇用とは、就業規則および契約従業員就業規則に定める定年に達した従業員を、最長で満70歳に達するまで継続雇用する制度である。

第3条(対象となる従業員)

1)定年に達した従業員のうち、再雇用を希望し、かつ各規則に定める退職事由および解雇事由に該当しない者は、満65歳に達するまで再雇用の対象とする。

2)前項にかかわらず、65歳に達した後も再雇用されることを希望し、各規則に定める退職事由および解雇事由に該当しない者のうち、会社の定める基準に該当する者については、満70歳まで再度の継続雇用の対象とすることがある。

第4条(再雇用の希望の聴取)

会社は、定年退職日の6カ月前までに、再雇用の希望の有無を聴取する。

第5条(再雇用期間および更新)

1)1回の再雇用期間は原則として1年間とする。ただし、契約の上限は従業員が満70歳に達するまでとし、それ以降の再雇用は行わない。

2)再雇用契約の更新を希望する従業員は、各契約期間満了の1カ月前までに会社に申し出るものとする。

3)会社は、第2項の申し出をした従業員について勤労意欲、就業態度、健康状態、会社の経営状況などを総合的に判断した上で労働条件を通知し、当該従業員がそれに合意した場合に再雇用契約を更新する。なお、更新に際し、労働条件は変更することがある。

4)65歳に達した者で、第2項の申し出をした従業員について、会社は、従業員の勤労意欲、就業態度、健康状態、会社の経営状況などを総合的に考慮し、就業の継続が難しいと判断した場合、再雇用契約の更新をしないことがある。その場合、会社は各契約期間満了の30日前までに、従業員に再雇用契約の更新をしない旨の予告をするものとする。

5)会社は、65歳に達した者で再雇用契約の更新をしない従業員が希望する場合、特定の業務について業務委託契約を締結することがある。

6)第5項の業務委託契約の上限は従業員が満70歳に達するまでとする。また、従業員が従事する業務、金銭の支払い、契約の締結頻度等の内容は、別途定める「創業支援等措置の計画」(省略)を基に決定するものとする。

第6条(賃金、昇給、賞与)

1)賃金は、業務内容および勤務時間数などを総合的に勘案し、個別に設定する。

2)昇給は原則として行わない。

3)賞与は個別に決定する。

第7条(退職金)

定年後の再雇用の従業員が退職した場合、退職金は支給しない。

第8条(年次有給休暇)

定年退職時に保有する年次有給休暇は引き継ぐものとする。また、年次有給休暇の勤続年数は定年退職前の勤続年数と通算する。

第9条(福利厚生)

再雇用者の福利厚生については、原則として、正社員と同一の扱いとする。

第10条(準用)

本規程に定めのない事項については、個別に労働条件通知書で定めたものを除き、「契約従業員用就業規則」(省略)を準用する。

第11条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年8月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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