社長から若手社員へ送るメッセージ「新入社員の良いお手本になってください」

書いてあること

  • 主な読者:新入社員を迎え、初めて先輩になる入社2~3年目の若手社員
  • 課題:ビジネス経験が乏しく、新入社員のお手本になれるか不安
  • 解決策:社会人としての自覚と基本を忘れないようにする。まずは元気な挨拶と笑顔とプラスの発言を心がけ、報告・時間厳守など、基本に忠実に真摯に仕事をする

1 「新入社員」を卒業する皆さんの立場は、大きく変わります

新入社員が入社し、これまで後輩がいなかった若手社員の皆さんは、初めて「先輩」になります。先輩になった皆さんは、新入社員の頃と違って、次のようなことが求められます。

  1. 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている
  2. 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く
  3. 教えられるだけでなく「教える」

皆さんが先輩社員から直接話を聞き、仕事ぶりや発言を見聞きして学んできたのと同じように、新入社員も皆さんのことをよく観察し、皆さんの影響を強く受けます。良い面も悪い面もです。そして、皆さんには、新入社員への「良いお手本」になることが期待されています。

2 「社会人としての自覚と基本」が身に付いている

1)元気に挨拶し、笑顔を絶やさない

まず皆さんに率先垂範してもらいたいのは、元気に挨拶することです。「何を今さら……」と思うかもしれませんが、皆さんは“常に”実践できていますか? 明るく元気な挨拶は、それだけで周りも明るくします。特にオンラインの場合、画面越しに話をするので、元気な挨拶や分かりやすいリアクションをするのがいいでしょう。

笑顔でいることも、とても大事です。元気な挨拶や笑顔は、社歴、立場、属性などに全く関係なく、心がけ次第で実践できます。どんなにベテランメンバーになっても、どの職種や業種でも使い続けられる、社会人の大きな「武器」と言っていいでしょう。

2)プラスの発言をする

元気な挨拶や笑顔と同じように心がけてほしいのは「プラスの発言をする」ことです。新入社員は、皆さんの発言をよく聞いています。年齢の近い皆さんの発言は、ある意味、新入社員にとって「自分が入ったこの会社がどういう会社か」を大きく印象付けるものです。

ちょっと考えてみてください。新しい環境にワクワクし、「これから頑張ろう!」と期待して入社してきたのに、先輩社員が「仕事が面倒」「顧客の相手が大変」などのマイナス発言を繰り返す、ため息が多い、楽しくなさそう。そんな状態では、新入社員はどう思うでしょうか。

同じ発言でも、「仕事の進め方を効率化したほうが良さそう。工夫のしがいがある!」「顧客の話は、よく聞くと本当のニーズが分かって面白い(^^)」とプラスの発言に言い換えれば印象は全く違います。プラスの発言は伝播しますから、職場のよい雰囲気づくりにもつながります。発言一つでも新入社員に良いお手本になるよう、何より、皆さん自身も新入社員も、ワクワク仕事に向き合えるようにしていきましょう。

3)3S(整理・整頓・清掃)を徹底する

5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の大切さについては、皆さんもよく知っていると思います。特に大事なのは、整理・整頓・清掃の「3S」です。特定の私物を除き、会社は「公の場、公のもの」という感覚を持つことが大切です。

この意識が定着しているかどうかは、床に落ちているゴミを拾えているかどうか、PC内にある資料を誰が見ても分かるように整理・整頓できているかなどを見れば、すぐに分かります。

4)ちゃんと報告をする、コミュニケーションを取る

報告、情報の共有はとても大事です。ピンチやトラブルを防ぐことや、チャンスやアイデアを生み出すことにつながります。皆さんも報連相(報告・連絡・相談)が必要なことは分かっていると思いますので、新入社員のお手本になるよう、報告など、周りとしっかりコミュニケーションを取ることを改めて見直してみましょう。

おそらく、新入社員は、皆さんの真似をします。皆さんが周りとしっかりコミュニケーションを取っている姿を見れば「こういうふうに報告や話をすればいいのだな」と分かります。新入社員の手本となるよう特に心がけてほしいことは2つです。

1つ目は、悪い情報から先に報告することです。トラブルの芽を早い段階で摘み取る必要があるためです。2つ目は、悪い情報でもはっきりと話すことです。「叱られるのではないか……」と小さな声になりがちですが、悪い情報だからこそ正確に伝えなければなりません。また、テレワークの場合は、チーム全体に対してチャットツールやメールで「トラブルです」など、悪い情報であることがすぐに分かるように知らせましょう。

5)時間を意識して仕事に取り組む

ビジネスの世界では、時間を守るのが当たり前です。どのような仕事でも、全くの一人で完結することはほぼないでしょう。遅れれば、誰かの時間をロスさせてしまうかもしれないのです。締め切りを常に意識し、「20日の18時」のように、具体的な日時を設定しましょう。スケジュールを立てたり、人に伝えたりする場合、「今日中」や「早めに」といった曖昧な表現は使わないほうがいいでしょう。

また、「限られた時間で、最も効果的な仕事をする」ことが求められます。計画を立てて、滞りなく進めることを意識してみましょう。経験が足りずに、計画通りにいかないのは仕方のないことです。大切なのは、計画と誤差が生じた理由を明らかにして改善することと、徐々に誤差を小さくしていくことです。

5)仕事を通じて何を実現させたいのかを明確にする

新入社員だったときは、まずは目の前の仕事を覚えるのに精いっぱいだったかもしれません。完全ではないかもしれませんが、仕事についてある程度覚えたこの段階で、改めて、皆さんには、「自分は何のために仕事をしているのか」「自分はこの仕事を通じて何を実現させたいのか」について考えてみてほしいのです。

入社したときに抱いていた「会社に入ってこれがしたいんだ!」という“志”を思い出してみるのもよいでしょう。そうすると、新入社員に、「自分の仕事に対する思い」を「自分の言葉」で話せるようになります。響き方がきっと違うはずです。

3 仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え動く

1)仕事の範囲を広げる

仕事を依頼された場合、皆さんはどこまでを「自分の仕事」として捉えますか? 例えば、ある仕事に1から10までの工程があり、そのうちの2~3の工程を上司に任されたとします。2~3の工程だけしか意識しないと、その仕事を断片的にしか捉えられません。そうではなく、前後の仕事、理想的には全ての仕事を把握しましょう。

仕事の流れを全体的に把握できれば、自分がやっている仕事の意義が分かります。そうなると、「上司に任されたから仕事をする」ではなく、「○○のために仕事をする」という感覚が持てるようになります。

2)継続的に勉強する

自分の知識や能力を高めるための勉強を継続することは、とても大切です。私は全ての社員が自己研さんを積むことを期待しており、特に考え方が柔軟な若手社員のうちにたくさん勉強してもらいたいです。

勉強は仕事に直接関係することだけではなく、趣味なども含まれます。対象を問わず、1つのことをしっかりと学ぶ過程で、自らの考えをブラッシュアップする、情報収集の方法を工夫する、新しい人との出会いがあるなど、さまざまな効果があります。

3)積極的に発言・行動する

上司や先輩の指示・指導を素直に聞くことは大切ですが、上司や先輩が常に正しいことを言っているとは限りません。ただむやみに反抗しろという意味ではなく、常に「それは本当か?」という意識を持っておくのも重要だということです。

例えば、社内で“当たり前”といわれることでも疑ってみましょう。長年携わっている人には気が付かないことでも、フレッシュな視点を持った皆さんなら指摘できることがあるものです。「長年続けてきたようだけど、会社にとって、これは改めたほうがよい」と気付いたことがあれば、遠慮なく発言してください。会社にとって前向きな意見であれば、私は大歓迎です。そしてそうした皆さんの姿は、新入社員にも伝播していきます。

4 教えられるだけでなく「教える」

1)新入社員の相談役になる

皆さんが入社したときのことを思い出してみてください。期待と不安があったはずで、今の新入社員も同じです。テレワークなどでリアルで顔を合わせる機会が少ない場合は、不安のほうが大きいかもしれません。そうした新入社員をフォローできるのは、新入社員の気持ちが分かる、年齢も近い皆さんです。ぜひ、新入社員の良いお手本であると同時に、頼れる相談役となってください。

2)世の中は、与えてもらい、与えることで成り立っている

皆さんはこれまで、上司や先輩社員にさまざまな面でお世話になってきたはずです。おそらく、皆さんが感じている以上に、上司や先輩社員は皆さんのことを気遣い、陰に日向に支えてくれています。

私は、皆さんに「だから今すぐ○○をしろ」と言いたいわけではありません。世の中とはそのように、与えてもらい、与えることで成り立っているということを認識してもらいたいのです。

皆さんは、これからも上司や先輩社員からさまざまなものを与えてもらうはずです。もちろん、何らかの形でお返しすることができれば、素晴らしいことです。ですが、一番の「恩返し」は、自分たちが上司や先輩社員から与えてもらったように、皆さんが持っているものを、惜しみなく新入社員に与える=教える、伝えることです。

皆さんのこれからの活躍に、私は大いに期待しています!

以上(2024年4月更新)

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画像:TAKAO-Adobe Stock

【新人経理向け】一時的な会計と税務のルールの違いを調整する「税効果会計」

書いてあること

  • 主な読者:税効果会計について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:税効果会計は会計だけでなく、税務の知識も必要なためよく分からない
  • 解決策:会計と税務のずれのうち、一時的に差異が生じる「一時差異」だけを調整する

1 税効果会計が必要なのは大企業のみ?

税効果会計とは、

会計上と税務上の収益・費用(益金・損金という)のズレを調整する決算処理

です。例えば、引当金など会計上は計上できるが、税務上は計上できないといった会計と税務の違いがあります。すなわち、利益を計上するタイミングが会計と税務で異なることから、こうした違いを調整せずに決算書を作成すると、税金費用が会計上の利益と対応しなくなり、適正な期間損益計算が行えなくなります。そこで、会計上の利益に対応する税金費用を計算するための決算処理が必要になるのです。

なお、税効果会計を義務付けられているのは次の会社です。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場会社(1億円以上の発行価額で有価証券の募集を行った場合など)
  • 会計監査人を設置している会社(非上場も含む)

中小企業の税効果会計は任意での適用です。その理由は、

法人税等の額が少額だったり、株主が親族だけだったりする中小企業は、調整をしなくても特段問題が生じない

からです。ただ、税効果会計は基本的な知識ですので、中小企業の経理担当者も押さえておくべき知識です。

2 仕組みから理解する税効果会計の調整と効果

税引前当期純利益と課税所得(税務上の利益)が共に1000万円で、法人税等を300万円とした場合、損益計算書の税引前当期純利益から税引後当期純利益までは次のようになります。

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もし、×1年度において、会計上で500万円を費用処理したものが、税務上で損金とすることができない場合、課税所得は1000万円ではなく1500万円(1000万円+500万円)になります。この場合は次のようになります。

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×2年度において、前年度(×1年度)に費用処理した500万円を税務上、損金とすることができたとします。会計上の税引前当期純利益が前年度と同じく1000万円なら、税務上500万円が損金となるので、課税所得は500万円(1000万円-500万円)となります。

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税引前当期純利益が、×1年度、×2年度共に1000万円なのに、法人税等の額が、

×1年度は450万円

×2年度は150万円

と大きく違ってくるのです。

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税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点が異なることから生じた差異(税引前当期純利益とそれに対応する法人税等が一致しない部分)を、次のように調整します。

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×1年度において、法人税等450万円のうち、税引前当期純利益1000万円に対応する300万円(1000万円×30%)を超える150万円(450万円-300万円)分の法人税等、つまり、税務上損金にできなかった500万円に対する法人税等(500万円×30%=150万円)を減額することで、会計上の利益と対応した税額に調整できます。

また、×2年度において、税引前当期純利益1000万円に対応する税額は300万円なのですが、課税所得計算上は150万円です。これは×1年度の課税所得計算上損金にできなかった500万円が×2年度に損金計上できることになったためです。そこで、×1年度に税額調整した150万円を×2年度の税額に加えて300万円(150万円+150万円)に増額し、会計上の利益と対応した税額に調整します。

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このようにして、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることができるのです。

3 税効果会計の対象は「一時差異」だけ

税効果会計では、会計上の費用と税務上の損金の認識時点の差異を、

  • 一時差異:ずれが一時的に限定されるもの。減価償却費、引当金など
  • 永久差異:ずれが永久に解消されないもの。交際費、寄付金、役員報酬など

に大別しています。税効果会計で調整が必要なのは一時差異だけで、永久差異は対象外となります。あくまで、税効果会計は認識時点にずれの生じたものを調整する手続きだからです。

さらに、一時差異は

  • 将来減算一時差異:将来の課税所得を減額させる一時差異
  • 将来加算一時差異:将来の課税所得を増額させる一時差異

に分けられ、それぞれ取り扱いが異なります。具体例を見ながら確認してみましょう。

4 将来減算一時差異と繰延税金資産

次の条件を基に、将来減算一時差異と繰延税金資産について説明します。

  • ×1年度において、棚卸資産が陳腐化したため、500万円の評価減をした。ただ、これは税務上認められないので、税務上、自己否認(決算書において費用として計上した500万円の評価減の金額を税務申告書で自ら否認して、課税所得を算出)した
  • ×2年度において、評価減した棚卸資産を販売したため、×1年度に評価減した500万円が税務上、損金として認容(過去に否認した損金を、損金算入)された
  • ×1年度、×2年度の税引前当期純利益はそれぞれ1000万円で、実効税率は30%

×1年度と×2年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税等の計算から分かるように、棚卸資産の評価減を自己否認した×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得1500万円の間に500万円の差異が生じています。

また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り大きく異なったものとなり、一定率の対応関係にありません。

×1年度:450万円

×2年度:150万円

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(450万円-150万円)

×2年度:300万円(150万円+150万円)

×1年度と×2年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金資産とは、前払税金に相当するもので、将来の期間利益に対応すべき税額ですが、当期に支払うものとして位置付けることができます。

税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年度において課税所得を減額する働きがあります。

5 将来加算一時差異と繰延税金負債

次の条件を基に将来加算一時差異と繰延税金負債について説明します。

  • ×1年度に導入した設備について、税法上500万円の特別償却が認められるため、この特別償却を剰余金処分方式により特別償却準備金として積み立て、税務申告において減額した。この準備金は積み立てた翌期から5年間にわたり均等額を取り崩す

特別償却とは、投資額の一定割合を税務上の損金に計上できる制度です。ただ特別償却は会計上では計上されないため、会計上、特別償却の処理のつじつまを合わせるために、剰余金処分の方法で準備金として積み立てる処理が行われます。積立金の取り崩し期間は税法で定められており、前述の例では5年(設備の法定耐用年数が5年以上10年未満)としています。

×1~×6年度の税額計算、税効果会計を適用しない場合の損益計算書、税効果会計を適用した場合の損益計算書を比べると次の通りです。

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法人税、住民税及び事業税の計算から分かるように、×1年度において、税引前当期純利益1000万円と課税所得500万円の間に500万円の差異が生じています。

また、税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税、住民税及び事業税の額は次の通りです。

×1年度:150万円

×2年度:330万円

×3年度:330万円

×4年度:330万円

×5年度:330万円

×6年度:330万円

×1年度と×2~×6年度の法人税等は異なります。

一方、税効果会計を適用した場合、税引前当期純利益1000万円に対する法人税等の額は、次の通り一定率の対応した金額になります。

×1年度:300万円(150万円+150万円)

×2年度:300万円(330万円-30万円)

×3年度:300万円(330万円-30万円)

×4年度:300万円(330万円-30万円)

×5年度:300万円(330万円-30万円)

×6年度:300万円(330万円-30万円)

×1~×6年度の税効果会計を適用した場合の仕訳例を示すと次の通りです。

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この一連の仕訳をフロー図で示すと次の通りです。

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繰延税金負債とは、未払税金に相当するもので、当期の利益に対応すべき税額ですが、将来に支払うものとして位置付けることができます。

税引前当期純利益と課税所得との間に発生した×1年度の差異は、その差異が解消する×2年~×6年度において課税所得を加算する働きがあります。

以上(2024年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:pixabay

【契約書の実務(2)】なぜ、印鑑レスでも押印が求められるのか?

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れていない経営者、担当者
  • 課題:「印鑑レス」といわれるが、本当に押印は必要ないのだろうか?
  • 解決策:多くの場合、法的に印鑑は不要だが、相手から求められることが多いので基本的なルールを押さえておく

1 署名と記名の違い

署名と記名は似た言葉ですが、明確な違いがあります。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:署名以外の方法(ゴム印、パソコンの印字など)で自分の名前を記すこと

署名または押印があると、その文書はその当事者の意思に基づいて真正に作成されたものだと推定されます。「『署名』または『記名+押印』」があればよいので、署名があれば押印は不要ですが、実務上は押印することが多いです。一方、記名の場合、押印がなければ署名と同様の効果はありません。

契約当事者が個人の場合、戸籍上の姓名を記載するのが原則です。ただし、個人を明らかに特定できる場合、俗称やペンネームで署名等とすることができます。また、個人事業主の場合、「○○商店」などの商号や屋号で署名等をすることもできます。ただし、契約内容に関わる主体が明らかであることが求められるので、商号や屋号だけで契約をすることはできません。例えば、「○○商店こと□□□□」(「□□□□」は個人事業主名)などと記載する必要があります。

法人の場合、「商号」「代表資格」「代表者の氏名」を記載する必要があり、通常はそれに続いて「登録印(実印)」を押すことになります。ただし、実務的には「登録印(実印)」とは別に「認印(契約印)」を用意している会社が多いでしょう。

なお、一定の要件に該当する場合、契約当事者が代表者ではなく事業部長等でも、法律上有効なことがあります。例えば、事業部長等が会社法で定められた「支配人」に該当し、当該事業に関する包括的な代理権を有している、あるいは個別の契約締結につき法人から代理権が与えられているような場合です。なお、会社法第10条および第11条で、支配人は会社等から選任された商業使用人で、「その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とされています。

2 多くの場合、押印は不要

契約書に押印するのは当たり前と考えられていますが、実は多くのケースで押印が法的に求められているわけでありません。つまり、押印がなくても契約は有効になります(不動産会社が作成する重要事項説明書など、押印が必要な文書もあります)。にもかかわらず押印がされるのは、押印によってその文書が真正であると推定しているからです。

一方、電子契約も浸透しています。電子契約では押印はしませんが、電子署名を利用して契約を締結します。認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも押印と同じ効力が認められます。

このような事情から「印鑑レス」が進んでいるわけですが、契約は相手の意向も大きく関係します。自社が押印不要である旨を説明しても、相手方が希望する場合、それに応じなければ契約が進まないことがあるのも事実です。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関する基本的なルールを紹介します。

3 押印に関する基本的なルール

1)押印に使用する印鑑の種類

通常のビジネスの契約書であれば、登録印(実印)でも認印(契約印)でも、契約書の法的効力は同じです。ただし、重要な契約のときは、「第三者が勝手に押印をした」といったトラブルを避けるため印鑑登録されている印を使用し、併せて印鑑登録証明書を提出することもあります。また、法人の場合、登記簿謄本、個人の場合は運転免許証等の身分証明書を確認することも、トラブル防止の観点からは大切です。

2)押印する位置

署名や記名に掛からないように押印されている場合や、掛かるように押印されている場合がありますが、印影がはっきりしていれば、どちらでも問題ありません。

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3)契印と割印に関する注意点

契印と割印は、どちらも契約書の偽造防止等のためにするものです。

契印は、複数ページの契約書を作成したときに、各ページが1つの書面を構成することを示します。また、勝手に差し替えられたりしないようにもしています。

割印は、複数の部数の契約書を作成したときに、各書面が同一または関連したものであることを示すために、各書面にまたがって押印することをいいます。

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契印や割印がなくても、法的な問題はありません。また、押印する印鑑の種類や押印する者についても決まりはありません。ただし、契印や割印の意味を鑑みて、重要な契約の場合は署名等に使った印鑑を用いて、全ての契約当事者が契印や割印をするのがよいともいえます。

4 収入印紙と消印に関する注意点

1)印紙税とは

印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受領書などに課税される税金です。印紙税の対象となる文書を「課税文書」と呼びます。ビジネス上の契約書の多くは課税文書なので、印紙税の納付が必要になることが多くなります。課税文書は20種類あり、印紙税額が異なります。契約書がどの種類に該当するかは、契約書のタイトルではなく内容で判断します。

2)電子契約の場合の印紙の扱い

電子契約の場合、現時点では印紙税は課税されません。印紙税は課税文書の作成者が納税者となります。ここでいう「作成」とは、紙の書面にて交付することをいいます。つまり、電子契約は紙の書面ではないので課税文書の「作成」に該当せず、現状では印紙税は課税されない扱いです。

3)印紙税の納付の方法

印紙税は契約書に収入印紙を貼り付けることで納付します。貼り付ける場所は契約書上部の余白部分とするのが通常ですが、特に制限はありません。また、収入印紙は、原則として作成した契約書の全てに貼り付けます。

収入印紙を貼り付けたときは、収入印紙と契約書の双方に掛かるように押印します。これを「消印」と呼びます。消印は、収入印紙の再使用を防止するためのものなので、押印する印鑑は何でもよく、ボールペンなどでチェックを付けることでも問題ありません。

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4)印紙税の負担者

契約書は、契約当事者がそれぞれ1通ずつ保管するのが通常ですが、課税文書を2人以上の者が共同して作成した場合は連帯して印紙税を納める義務を負います。そのため、自己が所持している契約書のみに印紙を貼っても、印紙税の納付義務を完全に履行したことにはならず、他の者が所持している契約書にも印紙を貼る必要があります。

ただし、契約当事者間の関係では、各自が負担する割合を自由に決めることが可能であり、特定の契約当事者が全額負担するといった合意も可能であるので、事前に負担方法を相手方に確認しましょう。

5 契約締結日に関する注意点

契約書に記載する契約締結日は、契約内に特段の定めがない限り、原則として契約の効力発生日となり、全ての契約当事者の署名等が完了した日とするのが通常です。例えば、全ての契約当事者が集まって手続きをするときは、その日が契約締結日となります。また、郵送でやり取りするときは、最後の契約当事者が署名等をした日となります。

なお、契約締結日と効力発生日が違う場合は、契約の効力がいつから発生するかが分かるように記載します。

ただし、実務的には契約締結日を違う日にすることもあります。この場合、特に注意が必要なのが、過去の日付に遡って契約を締結する場合です。「過去の実態と乖離(かいり)している」「過去の法律や制度との整合性が取れていない」など、さまざまな問題が発生する恐れがあります。他にも、契約当事者間で争いが生じた場合に、相手方からだまされて契約を結ばされた、などの主張がなされる恐れもありますし、脱税目的で過去の日付に遡らせたのではないかと税務署に疑われる恐れもあります。

このように契約締結日は法律上重要な意味合いを持っています。いずれにしても、契約締結日については、必要に応じて相手方や上司、法務担当者と相談するようにしましょう。

以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【新人経理向け】ごまかしの利かないお財布事情を示す「キャッシュフロー計算書」

書いてあること

  • 主な読者:キャッシュフロー計算書について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:中小企業はキャッシュフロー計算書の作成が義務付けられていないため、キャッシュフロー計算書を作成するメリットが分からない
  • 解決策:キャッシュフロー計算書を作成することで、損益計算書と貸借対照表では見えてこない資金の額と流れが明らかにできる

1 第三の財務諸表「キャッシュフロー計算書」

キャッシュフロー計算書は、貸借対照表および損益計算書と並ぶ第三の財務諸表です。キャッシュは現金、フローは流れという意味で、キャッシュフローとは、企業の現金の流れ、企業の現金収支を表す言葉です。現金収支は現金の流入(収入)と流出(支出)の差を指します。

キャッシュフロー計算書では、その源泉によってキャッシュフローを次のように分けています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

従来の企業会計は、発生主義の原則(収益や費用が発生した時点で財務諸表に計上すること)による損益計算を中心に行われてきました。これは分かりやすい反面、現金の流入を伴わない未収収益、現金の流出を伴わない未払費用が計上されてしまいます。また、建物や機械装置、車両運搬具、土地などの取得に伴う現金支出は費用としてではなく資産として計上されます。発生主義を基に計算する期間損益(一定期間の中で経営した結果獲得した損益)の計算は、現金収支とは乖離(かいり)します。

この問題をキャッシュフロー計算書は解消することができ、損益計算書と貸借対照表では見えてこない資金の額と流れが明らかになります。

ただ、キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは、会計監査が強制されている金融商品取引法適用会社(有価証券報告書、有価証券届出書提出会社)だけです。しかし、キャッシュフローを重視した経営は有用であり、金融機関や取引先からの信頼性の向上を図る上で重要な経営資料となるので、中小企業でも作成することが望ましいといえます。

2 キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲

キャッシュフロー計算書が対象とする資金の範囲は現金及び現金同等物としており、その内容は次の通りです。

1)現金

手元現金及び要求払預金を指します。要求払預金とは、預金者が一定の期間を経ることなく引き出すことができる預金をいい、例えば、普通預金、当座預金、通知預金が含まれます。預入期間の定めがある定期預金は要求払預金には該当しません。

2)現金同等物

容易に換金可能かつ、価値の変動について僅少(きんしょう)なリスクしか負わない短期投資を指します。定期預金は要求払預金には含まれませんが、3カ月以内の期間設定の定期預金であれば、現金同等物に含まれます。容易な換金可能性と僅少な価値変動リスクの要件をいずれも満たす必要があり、市場性のある株式などは換金が容易であっても、価値変動リスクが低いとはいえず、現金同等物には含まれません。

なお、現金同等物として具体的に何を含めるかについては、各企業の資金管理活動により異なることが予想されるため、経営者の判断に委ねることが適当と考えられています。従って、現金及び現金同等物の内容に関しては会計方針として注記する必要があります。

3 キャッシュフロー計算書の概要

キャッシュフロー計算書(間接法)のイメージは次の通りです。

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1)営業活動によるキャッシュフロー(間接法)

日本に導入されているキャッシュフロー計算書は、米国と同様に直接法と間接法のどちらかを選択できるようになっています。

直接法は、商品の販売や仕入れ、経費の支出など、主要となる取引を個々に合算していく方法です。従来の損益計算とは別で新たに営業活動によるキャッシュフローを計算するための手続きを一から行う必要があり、計算手続きに労力がかかります。

一方で、間接法は損益計算書の税引前当期純利益を基に加減して計算できるため、直接法と比べると労力が少なくすみます。

間接法による営業活動によるキャッシュフローの計算は、税引前当期純利益から開始し、これに、支出を伴わない費用である減価償却費、貸倒引当金の増加額などを加算します。そして損益項目と貸借対照表項目を加減することによって、営業活動によるキャッシュフローを計算します。

1.利息及び配当金の受取額

税引前当期純利益から発生ベースによる受取利息・受取配当金(損益計算書の数値)を減算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる受取利息・受取配当金を加算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

2.利息の支払額

税引前当期純利益に発生ベースによる支払利息(損益計算書の数値)を加算し小計を算出します。小計の後に改めてキャッシュベースによる支払利息を減算し、営業活動によるキャッシュフローを求めます。

3.為替差額(為替レートによる差額)

為替差益は減算し、為替差損は加算することにより、営業活動によるキャッシュフローの算出過程から除きます。為替差額は現金及び現金同等物に係る換算差額の欄で改めて独立表示します。

4.有形固定資産売却損益

有形固定資産の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、有形固定資産の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、有形固定資産の売却による収入として表示します。

5.投資有価証券売却損益

キャッシュフロー計算書(間接法)の様式にはこの項目はありませんが、投資有価証券売却損益についても同様の処理をする必要があります。

投資有価証券の売却益は減算し、逆に売却損は加算します。なお、投資有価証券の売却については、改めて投資活動によるキャッシュフローの計算で、投資有価証券の売却による収入として表示します。

6.売上債権(売掛金)の増減額

売上債権の増加額は減算し、逆に売上債権の減少額は加算します。売上債権は将来の現金収入につながるものですが、現金収入に至るまでの経過的な勘定です。

7.たな卸資産(期末たな卸高)の増減額

たな卸資産は売り上げの実現により、将来の現金収入につながる資産ですが、たな卸資産の取得は現金支出により取得されたものです。たな卸資産の増加額は減算し、逆にたな卸資産の減少額は加算します。

8.仕入債務(買掛金)の増減額

仕入債務の増加額は加算し、逆に仕入債務の減少額は減算します。仕入債務は将来の現金支出につながるものですが、現金支出に至るまでの経過的な勘定です。

2)投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローは、固定資産や有価証券の取得・売却、資金の貸付け・回収による資金の収支を計算するものです。

発生主義会計においては固定資産・有価証券の取得は損益計算とは関係せず、貸借対照表に資産として計上されます。また、固定資産・有価証券の売却は、損益計算では営業外損益または特別損益に、売却益または売却損のみが計上され、貸借対照表上に計上されている資産が減少します。このように、固定資産・有価証券を売却した場合、売却額(売却による現金収入の総額)が明確になりませんが、投資活動によるキャッシュフローではそれを把握できる利点があります。

3)財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローは、企業の従来の資金繰りに当たる内容になります。資金の借り入れによる収入、社債発行による収入、株式発行による収入、借入金返済による支出、社債償還による支出、自己株式取得による支出、配当金の支払額などが一覧で把握できます。

4)現金及び現金同等物の計算

営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの合計額に現金及び現金同等物に係る換算差額を加減し、現金及び現金同等物の増減額を計算し、これに現金及び現金同等物の期首残高を加算し、現金及び現金同等物の期末残高を計算します。この現金及び現金同等物の期末残高は、貸借対照表に含まれる現金及び現金同等物の額と一致することになります。

4 キャッシュフロー計算書の作成例

簡単な例を使って、×1年度におけるキャッシュフロー計算書の作成例を紹介します。税引前当期純利益は1000万円とします。

下表(C/F1)~(C/F25)の記号は、キャッシュフロー計算書上で確認しやすいように付けたものです。金額の右側の(加算)(減算)は、キャッシュフロー計算書における加算と減算を表します。

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以上を基にキャッシュフロー計算書を作成すると次のようになります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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「賃上げ」の参考情報! 助成金、社会保険料、賃金規程などさまざまな観点から一挙紹介!

書いてあること

  • 主な読者:2024年に賃上げをするか否かについて悩んでいる経営者
  • 課題:賃上げの判断が難しく、何を基準にすればいいのかよく分からない
  • 解決策:重要な判断基準は自社の業績。社会保険料や賞与・退職金への影響、賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきかなども考慮する

1 「賃上げ」に悩む全ての経営者の方へ

連日のように話題になっている賃上げ(定期昇給やベースアップ)。ただ、次のようなことが気になって、自社はどうすべきか決めあぐねている経営者も少なくないはずです。

  • そもそも、賃上げって本当に必要なのか?
  • 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?
  • 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?
  • 賃金規程は、今のままで大丈夫か?

以降で、このような悩みや疑問の解決に役立つ記事を多数紹介しますので、御社の賃上げの検討にぜひご活用ください。

2 そもそも、賃上げって本当に必要なのか?

賃上げが必要かを検討する際は、自社の業績はもちろん、物価高など社員の生活、同業他社の状況、春闘の動向など、さまざまな情報に目を通す必要があります。次の記事が参考になります。経営者317人を対象にした、賃上げに関するアンケート結果も紹介しているので、ご確認ください。

2024年「賃上げ」に対する経営者317人の本音。あそこの企業は賃上げするのか?経営者317人に対し、「賃上げを実施するか」「賃上げ率は何%か」「賃金のどこ(基本給、手当など)を上げるか」などを聞いたアンケート結果を紹介します。


「賃上げ」はどこまで必要? 労働分配率や賞与・退職金を基準に考える賃上げを検討する際に知っておきたい、「労働分配率」の考え方、賃上げの影響を回避する「基本給非連動型」の賞与・退職金制度などを紹介します。


3 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?

賃上げは社員にとっては嬉しいことですが、毎月の賃金額が変われば、社会保険料の負担も増えます。また、会社の制度によっては、賃上げの影響範囲が賞与や退職金に及ぶこともあるので注意が必要です。次の記事が参考になります。賃上げの負担を軽減する助成金なども紹介しているので、ご確認ください。

「賃上げ」で使える助成金! 業務改善助成金など5種類を紹介賃上げに関する中小企業向けの助成金等を5つ取り上げます。それぞれ支給額や要件等の情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも紹介します。


最低賃金の改定で会社の賃金負担はどれだけ重くなる?法律によって定められた最低賃金制度の仕組みを紹介し、最低賃金に基づき賃金を見直した場合、人件費負担などにどのような影響があるのかをシミュレートします。


賃上げの影響を受けにくい「基本給非連動型」の賞与・退職金制度注目される「賃金引き上げ」について、適正水準の見つけ方、賞与との関係、社会・労働保険料などへの影響、経営者が検討すべきポイントを紹介します。


2024年10月スタートの「社会保険の適用拡大」で負担が増える会社とは?2024年10月1日からの「社会保険の適用拡大」に際し、労働時間が流動的なシフト制パートがどのような場合に社会保険に加入するのかをシミュレートします。


4 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?

基本給を賃上げする場合、基本給がどのような要素で構成されているか(年齢、勤続年数、能力、職務のグレードなど)によって、賃上げへの影響が変わってきます。また、基本給は、一度上げると「賃下げ」が難しいという理由で、手当や賞与を増やすことを検討する会社もあります。次の記事が参考になります。

「基本給」の賃上げは属人給と仕事給のウエイトに注意!基本給は、年齢、勤続年数、能力、職務のグレードなど複数の要素で構成されます。各要素が基本給に占めるウエイトが、賃上げにどう影響するのかを掘り下げます。


中小企業に賃上げは必要? 会社負担が少ない「手当」を使ったアプローチ賃上げに踏み切れない経営者向けに、「賃金センサス」を使って自社の賃金水準の確認しつつ、会社負担の少ない「手当」で実質的な賃上げを図る方法を紹介します。


賃金の悪平等をなくす「調整給」はどこまで自由に支給できるか?賃金規程通りに支払うのが妥当でない場合に支給する賃金「調整給」。曖昧な運用でトラブルにならないよう、支給するケースや支給期間の考え方を紹介します。


5 賃金規程は、今のままで大丈夫か?

賃上げをする場合、自社の「賃金規程(就業規則)」の賃金テーブルなどを書き換える必要があります。また、その他にも、労働基準法上、必ず賃金規程に定めなければいけない項目などがあるので、まとめて見直しをしておきましょう。次の記事が参考になります。

「賃金規程」のポイントを理解すれば、賃金の基本ルールは大体分かる賃金規程に記載すべき事項を、絶対的必要記載事項(必ず記載すべき事項)と相対的必要記載事項(定めがある場合に記載すべき事項)とに分けて紹介します。


【規程・文例集】最新法令に対応した「賃金規程」のひな型賃金規程は、労働基準法を始めとする労働関係法令の改正状況を踏まえた内容にする必要があります。最新法令に対応した賃金規程のひな型を紹介します。


6 その他、賃金関係で見落としていることはないか?

賃上げ以外にも、「未払いや過払いなどのトラブル防止」「同一労働同一賃金の問題」など、賃金について押さえておくべきポイントがさまざまあります。次の記事が参考になります。

やらかしがちな賃金トラブルにご用心。未払いや過払いなどへの対処法賃金実務のイレギュラーな事態として「遅刻や早退の賃金控除」「未払い賃金の支払い」「過払い賃金の返還」の3つを取り上げ、法令上のルールを紹介します。


「家族手当」は本当にオワコンなのか? 諸手当のバージョンアップ諸手当の見直しのポイントを「1.経営者が方針を決める」「2.法令のルール(不利益変更や同一労働同一賃金)に注意する」の2つに分けて紹介します。


賃上げ時代に重要な「同一労働同一賃金」でビジネス的平等を実現職務の内容とその変更範囲が同じならば待遇も同じにし、異なる場合も違いに応じた待遇を実現する「均等待遇・均衡待遇」の基本的な考え方を紹介します。


「同一労働同一賃金」チェックリスト 御社の対応は本当に大丈夫?パート等が「均等待遇・均衡待遇」の対象になるか、正社員との間に待遇格差はあるかなど、同一労働同一賃金の状況を確認するためのチェックリストを紹介します。


【規程・文例集】賃金引き下げに関する労働協約と個別の同意書のひな型業績の悪化や社員の勤務成績の低下などに応じて賃金引き下げを行う際、労働組合や社員とトラブルにならないための労働協約と個別の同意書のひな型を紹介します。






以上(2024年4月作成)

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【新人経理向け】簿記を使って、会社の取引の全体像をイメージしてみよう

書いてあること

  • 主な読者:簿記の知識を身に付けて会社の取引の全体像を把握してみたい新人経理担当者
  • 課題:財務諸表を理解するためには、勘定科目とその処理の方法を知る必要がある
  • 解決策:貸借対照表の表示区分に従って、各勘定の処理方法を確認してみる

1 経理担当者の基礎は簿記

財務諸表を作成するには、勘定科目とその処理方法を知る必要があります。そのために必要なのが、簿記の知識です。全ての取引を仕訳し、項目ごとに集計したものが財務諸表となるからです。取引を見たとき、会計上、どのように処理されるのかをすぐに判断するためにも、項目ごとの仕訳のパターンをイメージできるようになることが大切です。反対に財務諸表の項目から、仕訳をイメージすることで数値に変動があったときの分析に役立ちます。

この記事では、

  • 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
  • 貸借対照表の表示区分ごとの各勘定の処理方法

をまとめています。簿記の基本中の基本を押さえていきましょう。

2 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方

簿記(この記事では複式簿記)は、企業の活動を記録するものです。例えば、商品を現金で仕入れれば、商品(資産)が増え、現金(資産)が減ります。また、商品を現金で販売した場合、売上高(収益)が増え、現金(資産)も増えると同時に、商品(資産)が減り、売上原価(費用)が増えます。複式簿記は、こうした

出ていく財貨と入ってくる財貨といった、2つの流れを同時に記録

できます。

勘定は借方(かりかた)と貸方(かしかた)の2つに分けることができます。貸借対照表の左側(資産の部)の科目が借方勘定で、右側(負債の部と純資産の部)の科目が貸方勘定です。また、損益計算書の収益・利益に当たるのが貸方勘定で、費用・損失に当たるのが借方勘定です。

初心者には理解しにくいかもしれませんが、貸借対照表の場合、次のように考えると分かりやすいと思います。貸借対照表の右側は負債の部と純資産の部ですが、これは企業活動に必要な資金の調達方法を表しています。この資金を左側の資産の部にあるさまざまな資産の形で運用します。

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簡単な簿記の仕訳例を見ながら、どのように各勘定に反映されるのかを見てみましょう。

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  • 現金及び預金勘定は10万円の増加(-10万円+20万円)
  • 仕入勘定は25万円の増加(+10万円+15万円)
  • 売上勘定は45万円の増加(+20万円+25万円)
  • 買掛金勘定は15万円の増加
  • 売掛金勘定は25万円の増加

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勘定科目の内容は、貸方と借方に分かれます。各勘定科目の金額の増減は、次のようになります。

  • 貸方勘定の金額の増加は貸方に記帳、減少は借方に記帳
  • 借方勘定の金額の増加は借方に記帳、減少は貸方に記帳

以降で、貸借対照表の表示区分ごとの、主な勘定の処理方法について説明していきます。

3 流動資産

1)流動資産に含まれるもの

流動資産に含まれるものは、現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品及び製品(棚卸資産)、前渡金、前払費用、未収収益、未収入金などです。

2)売上債権と貸倒引当金

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受取手形と売掛金は売上債権といいますが、これは必ずしも確実に現金化できるとは限りません。こうした債権には貸し倒れリスクがついて回ります。例えば、売掛金の期末残高が1000万円あり、過去のデータから、このうちの2%程度が貸し倒れになるリスクがあると判断した場合、20万円(1000万円×2%)の貸倒引当金を設定します。

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3)棚卸資産

商品は、仕入れて保有している段階では資産です。その商品を販売すると売上原価(費用)になります。売上原価は次の式で算出されます。

期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価

この期末商品棚卸高が貸借対照表の流動資産の棚卸資産を構成します。また、これが翌期の期首商品棚卸高となり、翌期以降に費用となって売上原価を構成することになります。

例えば、期首商品棚卸高200万円、当期商品仕入高1000万円、期末商品棚卸高100万円の場合、当期の売上原価は次の通りです。

当期の売上原価=200万円+1000万円-100万円=1100万円

期末商品棚卸高100万円が流動資産に表示されます。

4)前渡金、前払費用、未収収益、未収入金

1.前渡金

前渡金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの発注に際し、代金の一部または全部を、物品の受け入れや外注加工の完了前に交付した場合、その金額を一時的に処理する勘定で、前払金、手付金ともいわれます。前渡金は金銭債権ではなく物品やサービスの給付請求権となるため、貸倒引当金を設定できません。

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2.前払費用

前払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日においてまだ提供されていない役務やサービスに対して事前に支払った対価のことです。未経過の支払利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の費用を翌期に繰り延べることができます。

3.未収収益

未収収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日において既に提供した役務やサービスに対してまだ受領していない対価のことで、未収の受取利息、賃貸料などです。

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これにより当期分の収入を見越して当期の収益を計上することができます。

4.未収入金

未収入金は、売掛金以外の固定資産、有価証券売却代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスを提供した場合の代価の未収額を処理する勘定です。

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4 固定資産

1)固定資産に含まれるもの

固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が計上されます。有形固定資産には建物、機械装置、車両運搬具、土地などが含まれます。無形固定資産にはソフトウエア、のれん、借地権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)などが含まれます。投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式などが含まれます。

2)有形固定資産の減価償却

減価償却費は営業費用の一部として損益計算をする上で費用計上されます。減価償却累計額は固定資産勘定を間接的に減額する評価勘定です。減価償却累計額は、土地などの非償却資産を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。

ここでは次の条件を基に「定額法償却」について説明します。

条件:期首に機械装置を100万円で購入、耐用年数:10年

定額法による場合、各年度の減価償却費は次の式で算出されます。

  • 各年度の減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
  • 各年度の減価償却費=100万円/0.100(耐用年数10年の場合の償却率)=10万円

また、期首資産価額、減価償却費、期末資産価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算書において営業費用として処理されることになります。

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有形固定資産の貸借対照表での表示は次の通りです(5年度の期末)。

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3)投資その他の資産

投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社出資金、破産更生債権等、投資不動産などで構成されています。

例えば、取引先の経営状況が悪化して、会社更生法や民事再生法などの適用を受けることになった場合、通常の売掛金と区別するため、次のような会計処理を行い、投資その他の資産の欄に計上されるようになります。

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5 繰延資産

かつての会計規則(旧商法施行規則)では、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

ただ現在の会計規則(会社計算規則)では、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は帳簿価額から償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

6 流動負債

1)流動負債に含まれるもの

負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。流動負債は、支払手形、買掛金、短期借入金、リース債務、前受金、前受収益、未払金、未払費用などで構成されます。

2)支払手形、買掛金

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3)前受金、前受収益、未払金、未払費用

1.前受金

前受金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの受注に際し、代金の一部または全部を、物品の出荷や外注加工の完了の前に受け取った場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前受金は金銭債務というよりも、物品やサービスの給付債務となります。

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2.前受収益

前受収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日においてまだ提供していない役務やサービスに対して事前に受領した対価のことです。未経過の受取利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の収益を翌期に繰り延べることができます。

3.未払金

未払金は、固定資産、有価証券購入代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスの提供を受けた場合の代価の未払分を処理する勘定です。

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4.未払費用

未払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日において既に提供を受けた役務やサービスに対してまだ支払っていない対価のことで、未払いの支払利息、保険料、賃借料、リース料などです。

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これにより当期分の正しい費用を計上することができます。

4)借入金

借入金は、金銭消費貸借契約により金銭を借り入れた場合に生じる債務です。この借入金は、返済期限までの期間によって次のように分類します。

  • 短期借入金:決算日から1年以内に返済期限の到来するもの
  • 長期借入金:決算日から1年を超えて返済期限の到来するもの

短期借入金の借り入れから返済までの取引の仕訳を見てみましょう。

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また、短期借入金、長期借入金は、もし役員からのもの、親会社からのものがあれば、それぞれ区分して計上しなければなりません。

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7 固定負債

固定負債は、社債、長期借入金、退職給付引当金などで構成されています。ここでは、社債の発行について説明します。

社債は、資金を調達するために社債券という有価証券を発行することによって生じる企業の債務です。

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社債発行費の償却を60カ月(償還までの期間5年)とした場合、社債発行費の償却、社債の額面と簿価の差額は×6年3月31日に解消します。

×6年3月31日に社債を償還した際の仕訳例は次の通りです。

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8 純資産の部

1)純資産の部の表示項目

純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分されます。さらに、株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に区分されます。また、評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金に区分されます。

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示項目は次の通りです。

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2)増資の仕訳

株主総会決議に基づく取締役会の決議により、株式1000株を第三者に割当増資することになりました。

発行価額は1株につき7万円、1株当たり2万円を資本金に組み入れないことにし、かつ発行価額と同額の申込証拠金を受け入れることにしました。また、申込期日までに全額が払い込まれました。

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3)利益配当

株主総会において、次の配当を決議しました。

  • 配当金:1000万円
  • 利益準備金:100万円

この場合の仕訳例は次の通りです。

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4)自己株式

自己株式を1000万円で取得しました。

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自己株式1000万円を1100万円で売却しました。

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自己株式処分差益は、純資産の部のその他資本剰余金となります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【新人経理向け】財務諸表の基本となる損益計算書と貸借対照表の概要

書いてあること

  • 主な読者:損益計算書と貸借対照表について勉強したい新人経理担当者
  • 課題:会計を勉強し始めた頃は簿記の仕訳に集中してしまい、決算書を意識できない
  • 解決策:損益計算書と貸借対照表を見る上でのポイントを把握し、お金の動きが決算書にどのように記載されるのかを知る

1 損益計算書の概要

損益計算書は

一定期間の企業の経営成績を表すもの

です。一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっています。

損益計算書のイメージは次の通りです。

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1)売上総利益

「売上高」から「売上原価」を引いた金額が「売上総利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「売上総損失」として表示されます。

2)営業利益

「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」の合計額を引いた金額が「営業利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「営業損失」として表示されます。

3)経常利益

「営業利益」に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を引いた金額が「経常利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「経常損失」として表示されます。

4)税引前当期純利益

「経常利益」に「特別利益」を加算し、「特別損失」を引いた金額が「税引前当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「税引前当期純損失」として表示されます。

5)当期純利益

「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を引いて、さらに「法人税等調整額」を加減した金額が「当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「当期純損失」として表示されます。

2 貸借対照表の概要

1)貸借対照表とは

貸借対照表は

企業の期末日など、一定時点の財政状態を表すもの

です。財政状態とは資金の運用と調達の状況をいい、それぞれが釣り合った状態(資産合計と負債・純資産合計は同じ金額)になっています。

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貸借対照表は、資産の部、負債の部、純資産の部で構成されています。貸借対照表の左側が資産の部、右側には負債の部と純資産の部が配置されています。

左側の資産の部は、資金の運用状況を表しています。右側の負債の部と純資産の部は、資金の調達状況を表しています。分かりやすくいえば、負債の部は借入金などによる資金調達を表しています。また、純資産の部のうち、株主資本は出資者からの出資による資金調達を表しています。

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資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産に分けられます。固定資産はさらに有形固定資産と無形固定資産、投資その他の資産に分けられます。

負債の部は流動負債、固定負債に分けられ、純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に分けられます。

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2)資産の部

資産の各科目は現金及び預金、受取手形、建物その他の資産の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動資産

流動資産は、現金や当座預金、普通預金などの最も流動性の高い資産を筆頭に、売掛金や受取手形など営業に関係する債権、商品などの棚卸資産、1年以内に回収が見込まれる営業外の短期貸付金などの債権も含まれます。

商品などの棚卸資産は、仕入れた段階では費用ではなく資産です。その後、販売された分について、費用として計上します。

売掛金などの債権には回収不能が予想される分を貸倒引当金として計上します。例えば、売掛金が100万円あり、このうち5%程度が回収不能になることが予想される場合、5万円(100万円×5%)を貸倒引当金として流動資産の部にマイナスの金額として計上します。

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2.固定資産

固定資産は、次のように分けられます。

  • 有形固定資産(建物や機械装置、工具器具備品、車両運搬具、土地など)
  • 無形固定資産(ソフトウエア、特許権、借地権、のれんなど)

固定資産は、その取得時に資産に計上しますが、建物にしても機械装置にしても、時の経過とともに劣化(価値が減少)していきます。この劣化分を考慮して、毎期、減価償却費を計上して、劣化する部分を費用計上していきます。

例えば、取得価額100万円の備品を5年かけて定額法で償却する場合、毎期の減価償却費は次の式で計算できます。

減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)

20万円=100万円×0.200(耐用年数5年の場合の償却率)

従って、取得から丸3年が経過した上記の備品は、次のように表示されます。

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減価償却累計額とは、毎年の減価償却費の累計額(60万円=20万円×3年)をいいます。

または、固定資産の備品を次のように表示し、減価償却累計額を貸借対照表の下に注記事項とすることもできます。

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無形固定資産(のれんなど)は、償却額を控除した残額を記載します。

なお、有形固定資産の償却は帳簿価額が1円になった時点で償却(耐用年数の最後の年の減価償却費は「帳簿価額-1円」)を終えますが、無形固定資産は帳簿価額が0円になるまで償却します。

2.投資その他の資産

投資その他の資産は、満期まで1年超の定期預金、長期貸付金、投資有価証券、関係会社株式、破産債権、更生債権などが表示されます。流動資産、有形固定資産、無形固定資産または繰延資産に属さないものを表示します。

3.繰延資産

かつて(旧商法施行規則)は、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

しかし、現在(会社計算規則)は、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

3)負債の部

負債の部は、流動負債、固定負債に区分されます。負債の各科目は、支払手形、買掛金、社債その他の負債の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。

1.流動負債

買掛金、支払手形その他の営業取引によって生じた金銭債務は、流動負債に記載しなければなりません。

借入金その他の営業取引によって生じた金銭債務以外の金銭債務で、その履行期が決算期後1年以内に到来するもの、または到来すると認められるものは、流動負債に記載しなければなりません。

2.固定負債

流動負債に記載した金銭債務以外の金銭債務は、固定負債に記載します。

4)純資産の部

純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」に区分されます。

さらに、それぞれ次のように区分されます。

1.株主資本

  • 資本金:会社設立時の出資金や増資払込などの金額です
  • 資本剰余金:株主が払い込んだお金のうち、資本金に含まれなかった金額です
  • 利益剰余金:会社の活動によって得た利益のうち、社内に留保している金額です
  • 自己株式:会社が買い取った自社株式の金額です

2.評価・換算差額等

  • その他有価証券評価差額金:売買目的有価証券や満期保有目的債券、子会社および関連会社株式以外の有価証券を期末に時価評価した場合の評価差損益の税効果分を除いた金額です
  • 繰延ヘッジ損益:先物取引やオプション取引について、期末時点での時価評価による差額を翌期以降に繰り延べるときに使います
  • 土地再評価差額金:土地の再評価に関する法律に規定されている、再評価差額金です

3.新株予約権

  • 投資家などに会社が発行する株式の交付を受けることができる権利を発行し、払込を受けた代金です

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示科目は次の通りです。

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3 財政状態の説明

貸借対照表の理解を深めるため、財政状態の変化について、複式簿記の知識がない人でも分かるような簡易な例で説明します。

1)財政状態1(資本金1000万円を現金で保有しているときの財政状態)

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2)財政状態2(200万円を借り入れ、それを現金で保有しているときの財政状態)

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3)財政状態3(商品100万円を現金払いで仕入れたときの財政状態)

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4)財政状態4(土地400万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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5)財政状態5(建物300万円を現金払いで取得したときの財政状態)

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6)財政状態6(商品200万円を掛けで仕入れたときの財政状態)

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7)期末の財政状態

最後に、商品200万円を400万円で販売し、買掛金100万円、販売費100万円、借入金の利息10万円を支払ったところで決算日を迎えたときの財政状態は次の通りです。なお、建物の減価償却費10万円を計上しています。

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損益計算書の当期純利益が貸借対照表の純資産の部の繰越利益剰余金に加算され、期末における企業の財政状態が示されます。貸借対照表は資産の合計額と負債・純資産の合計額が一致します。

以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【契約書の実務(1)】「及び、並びに」 紛らわしい用語を解説

書いてあること

  • 主な読者:契約実務に慣れていない経営者、担当者
  • 課題:契約書には紛らわしい用語が頻出するが、正しく理解していない
  • 解決策:契約書を読むための前提として、よく使われる語句の意味を知る

1 契約書、覚書、念書・誓約書の違い

契約とは、

「申し込み」と「承諾」という、相対する意思表示が合致することによって成立する法律行為

です。当事者同士の意思が合致すれば、原則として口約束でも契約は成立しますが、ビジネス上では書面を交わすのが通常です。書面には「契約書」「覚書」「念書・誓約書」などがありますが、そのタイトルだけで法的な効果に違いが生じるわけではありません。ただし、実務上はある程度の使い分けがされています。

1.契約書

これから行う取引の条件を明確にするため、当事者の合意内容を双方の権利義務の形で記載した書面です。

2.覚書

契約書を作成する前段階で当事者の合意事項を書面にしたもの、あるいは既にある契約条項の解釈や前提事実を明確にするためや補足で合意したい事項を定めるために契約書に付随して別途作成される書面です。

3.念書・誓約書

契約の一方当事者が相手方に差し入れる形式で、自分が義務を負うことやその義務を履行することを約する内容の書面です。

2 紛らわしい用語の解説

1)「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の違い

緊急度の高い順に「直ちに>速やかに>遅滞なく」として用いられるのが一般的です。ただし、具体的にどの程度で遅滞と評価できるかを示す基準にはなりにくいといえます。そのため、契約書上にはできる限り「3営業日以内」など、具体的に記載しましょう。

2)「~することができる」「~しなければならない」「~するものとする」の違い

それぞれ次の意味合いがあります。

  • 「~することができる」:するか否かを選択できる
  • 「~しなければならない」:することが義務である
  • 「~するものとする」:することが義務である

「~するものとする」は、「~しなければならない」と程度が異なることはあるものの、法的に義務を意味する用語であることは同じで、その効果も変わらないといえます。

3)「~とみなす」

「~とみなす」は、その事実等を擬制する意味で用いられます。例えば、売買契約書で「納品後5営業日以内に、乙(買い手)が甲(売り手)に対して検査に関する合否の通知を行わないときは、当該検査に合格したものとみなす」という条項がある場合、仮に検査に不合格となるような製品があっても、納品後5営業日以内に合否の通知を行わなければ、検査に合格したものとして扱われることになります。

4)「等」

「等」は、その前に示されているものと同種の他のものがあることを示します。例えば、「製品A」は「製品A」のみを示しますが、「製品A等」は製品A以外に特定できない別の製品があることを示します。

「等」には曖昧さがあります。これを排除するためには具体的な事項を列挙することになります。一方で、あえて「等」を使用して、解釈に幅を持たせることもあります。「等」については、その用語が使われている意図を考えることが大切です。

5)「及び」と「並びに」の違い

複数の用語を結ぶ接続詞です。「及び」と「並びに」はいずれも英語でいう「and」を意味しますが、契約書では使い分けがされています。まず、複数の用語を並列にする場合は、「及び」を使います。基本的な使い方は次の通りです。

  • 2つの用語を並べる場合は「支社1及び支社2」
  • 3つ以上の用語を並べる場合は「支社1、支社2及び支社3」(最後を「及び」でつなぐ)

次に、複数の用語を2つ以上の階層に分けて並べる場合は、最も下位の階層のみ「及び」でつなぎ、その他の上位の階層は全て「並びに」でつなぎます。基本的な使い方は次の通りです。

  • 階層が2つの場合は「(支社1及び支社2)並びに(関連会社)」
  • 階層が3つの場合は「[(支社1及び支社2)並びに(関連会社)]並びに(取引先)」

6)「又は」と「若しくは」の違い

複数の用語を結ぶ接続詞です。「又は」と「若しくは」はいずれも英語でいう「or」を意味する言葉ですが、契約書では使い分けがされています。まず、複数の用語を並列にする場合は「又は」を使います。基本的な使い方は次の通りで、「及び」の場合と同じです。

  • 2つの用語を並べる場合は「支社1又は支社2」
  • 3つ以上の用語を並べる場合は「支社1、支社2又は支社3」(最後を「又は」でつなぐ)

次に、複数の用語を2つ以上の階層に分けて並べる場合は、最も上位の階層のみ「又は」を使い、その他の下位の階層は全て「若しくは」でつなぎます。基本的な使い方は次の通りです。

  • 階層が2つの場合は「(支社1若しくは支社2)又は(関連会社)」
  • 階層が3つの場合は「[(支社1若しくは支社2)若しくは(関連会社)]又は(取引先)」

契約書の内容を確認する際に、押さえておくべきは用語に限りません。以降では、トラブルが発生した場合の規定など、内容確認で押さえておくべきポイントを紹介します。

3 内容確認で押さえておくべき5つのポイント

1)「5W2H」を確認する

契約書の内容をしっかり確認しないで締結してしまうと、後にトラブルになる恐れがあります。法務の知識や実務経験があれば理想的ですが、そうでなくても基本的な事項は確認することができます。まずは「5W2H」です。これはビジネスの基本ですが、契約書でも通用します。

  • Who:契約当事者は誰か
  • Why:契約締結の目的は何か
  • What:締結する契約の内容は何か
  • When:義務の履行日(権利の行使日)はいつか。契約期間はいつまでか
  • Where:義務の履行場所(権利の行使場所)はどこか
  • How:義務はどのように履行されるのか(権利はどのように行使するのか)
  • How much:契約を通じて支払う(受け取る)対価はいくらか

2)権利・義務の発生要件を確認する

権利・義務の発生要件をしっかりチェックしておかないと、トラブルになった際に自社が不利な立場に立たされることがあります。

例えば、製品の売買契約書の返品に関する条項が、「本売買契約に基づき納入された製品に不具合がある場合、乙(買い手)は、甲(売り手)に当該製品を返品することができる」としか定められていないと、「不具合」の基準が不明確です。

場合によっては、製品には問題は全くないが製品が入っているケースに傷がある、といったことでも、相手から返品を主張されかねません。こうした場合は、「不具合」に該当する事由をできる限り具体的に列挙するなど、権利・義務が発生する要件を明確にしておくべきです。

3)トラブルが発生した場合の規定を確認する

契約書の大切な役割の1つは、その契約に関するトラブルから自社の権利を守ることです。全てのトラブルを想定することはできませんが、少なくとも「発生する可能性の高いトラブル」「発生した場合に被害が大きいトラブル」については洗い出し、契約書に定めておきます。

また、トラブルが発生した際に、自社の負う義務が、適切かつ許容できるものであるかということも確認が必要です。契約の相手方が契約書の草案を作成した場合は、特に注意が必要です。草案の作成者側(相手方)にとって有利な条項が盛り込まれていることで、自社にとっては不利になることがあります。

4)関連する契約書についても確認する

基となる契約書(「原契約」や「基本契約」などといいます)には、関連する契約(以下「関連契約」)が覚書などのタイトルで締結されることがあります。このような場合、原契約だけではなく関連契約についても確認が必要です。

例えば、原契約締結時の販売金額は1000万円でも、その後に価格改定が行われ、覚書で1200万円に訂正しているケースがあります。この他にも、原契約と関連契約との間で支払日、納品日、権利・義務などが変更となり違いが生じている場合があるため、注意が必要です。

5)分からない点は、相手方に確認する

契約書を確認していると、「意味が分かりにくい条文」「不要と思われる条文」などが出てきます。こうした場合は、必ず相手方に確認しましょう。ただし、不要と思われる条文で特に意味をなさないことが明らかであれば、契約をスムーズに締結するためにあえてそのままにしておくことも、場合によってはあり得ます。

以上(2024年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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春の全国交通安全運動(2024/4号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

4月から6月にかけては、子どもが絡む交通事故が多い時期です。中でも小学1、2年生は交通事故に遭いやすい傾向があります。このため、運転者は通学路や登下校の時間帯を意識して運転する必要があります。

今年も春の全国交通安全運動が実施されます。この機会に歩行者優先の交通ルールを再確認し、安全運転を心がけましょう。

春の全国交通安全運動

1.春の全国交通安全運動

「春の全国交通安全運動」が次の要領で実施されます。
(内閣府・警察庁等主催)

◆運動期間:令和6年4月6日(土)から15日(月)まで
◆交通事故死ゼロを目指す日:令和6年4月10日(水)
◆重点テーマ(運動重点)

<全国重点>
①こどもが安全に通行できる道路交通環境の確保と 安全な横断方法の実践
②歩行者優先意識の徹底と「思いやり・ゆずり合い」運転の励行
③自転車・電動キックボード等利用時のヘルメット着用と交通ルールの遵守

<地域重点>
都道府県の交通対策協議会等は、全国重点のほか、地域の交通事故実態等に即し、必要に応じて各都道府県の重点項目を定めていますのでご確認ください。

春の全国交通安全運動ポスター

詳しくは、内閣府「令和6年春の全国交通安全運動推進要綱」をご参照ください。
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r06_haru/youkou.html

2.横断歩道付近での交通ルールを再確認

自動車と歩行者の交通死亡事故の約7割は歩行者が横断中の事故であり、横断歩道やその付近での発生が多い状況です。この機会に横断歩道付近での交通ルールを確認し、横断歩道の道路標識等により一層注意を払い、歩行者優先を意識しましょう。

【歩行者優先のポイント】

  • 横断歩道の直前で停止できる速度に減速
  • 横断歩行者等がいる場合は、一時停止
  • 横断歩道手前で停止している車両の側方を通過して前方に出るときは、一時停止
  • 横断歩道手前30m付近では、追越し、追い抜き禁止
  • 横断歩道以外でも歩行者の道路横断を妨げないこと

横断歩道の道路標識

3.道路標識・路面標示にも注意

通学路やゾーン30の道路標識や路面標示などのあるところでは、子どもや高齢者との交通事故を起こすリスクがあります。このような場所では速度を落として走行する必要があります。

子どもは判断力が未熟で、視野が狭く、何かに集中して突然道路へ飛び出すなどの特性があります。高齢者は、加齢により視野が狭くなり、体力や判断力も衰え、無理な横断をする恐れがあります。このため運転者は「自車が見えているはず」と思ってはなりません。子どもや高齢者は車の動きを見ていません。

通学路やゾーン30の道路標識や路面標示をみかけたら、「子どもが飛び出すかもしれない」などと考えて、「思いやり」のある運転を励行しましょう。

通学路の道路標識

以上(2024年4月)

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アルバイトの戦力化のために

4月から多くの新入学生がアルバイトを始めることから、厚生労働省では4月から7月までの間「「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン」を実施しています。

本稿では、キャンペーンの重点項目を記載するとともに、アルバイトの戦力化について一例をご紹介いたします。

1 キャンペーンの重点項目について

厚生労働省では、重点的に呼びかける事項を各種学校や事業主団体等に協力依頼をして周知に努めています。その内容は以下の通りとなります。

(1)労働条件の明示

①契約はいつまでか
②契約期間の定めがある契約を更新する際のきまり
③どこでどんな仕事をするのか
④勤務時間や休みはどうなっているのか
⑤バイト代(賃金)はどのように支払われるのか
⑥辞めるときのきまり
⑦無期転換申込みができる有期労働契約の場合においては、無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件

(2)シフト制労働者の適切な雇用管理

学生は学業が本分であり、学業とアルバイトが適切な形で両立できる環境を整えるよう配慮する必要があります。
使用者が一方的に急なシフト変更を命じることはできません

(3)労働時間の適正な把握

アルバイトも、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要があります。

(4)商品の強制的な購入の抑止とその代金の賃金からの控除の禁止

アルバイトが希望していないのに、 商品を強制的に購入させることはできません。

(5)労働契約の不履行に対してあらかじめ罰金額を定めることや労働基準法に違反する減給制裁の禁止

アルバイトの遅刻や欠勤などによる労働契約の不履行や不法行為に対して、 あらかじめ損害賠償額等を定めることはできません。

(厚生労働省「アルバイトの労働条件を確かめよう!〜キャンペーン実施中〜」より抜粋)

2 アルバイトの戦力化について

前述の記載は基本的に法律に則ったルールですが、法律を守っているだけでは、アルバイトが戦力として機能するわけではありません。特に働いたことのない新入学生が立派に働けるようになるには、それなりに受け入れ側の対応が必要となってきます。以下にいくつか対応手法を記載いたします。

・ウェルカムオリエンテーションの実施

新入学生をアルバイトとして採用した際に、ウェルカムオリエンテーションを実施することも一案です。このオリエンテーションでは、企業文化の紹介、職場のルール、働く上での期待値の共有などを行い、新入学生がスムーズに職場に溶け込めるようサポートします。また、仕事の基本的な流れや、安全に関する重要な指示もこの機会に伝えると良いでしょう。

・メンター制度の導入

新入学生に経験豊富なアルバイトスタッフや正社員をメンターとして割り当て、仕事のコツや職場での振る舞い方など、実務に必要な知識やスキルを伝授します。メンターが、新入学生の不安や疑問に耳を傾け、個々の成長をサポートすることで、新入学生は早期から自信を持って業務に取り組むことができるようになるでしょう。

・成功体験の積極的な提供

新入学生がアルバイトを通じて早期に成功体験を得られるよう、小さな成果でも積極的に評価すると良いでしょう。また、優れたアイデアを提案した新入学生をミーティングで評価するなど、努力と成果を公に認めることも大切です。このような経験は、新入学生の自信を高め、長期的に職場へのコミットメントを促す効果があります。また、他のアルバイトスタッフとの良好な競争と協力を促し、全体のモチベーション向上にも寄与します。

3 さいごに

新入学生がその職場を気に入ったなら、学校の友人をアルバイト先として紹介してくれるかもしれません。そうなれば、採用コストの削減や労働力不足の改善にもつながるでしょう。法定の対応を行うことはもちろん、行っている企業も次のステップを検討して実施してみてはいかがでしょうか?

※本内容は2024年3月14日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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