【人事部DX】人事評価や懲戒処分をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:人事評価・懲戒処分の手続きをオンラインで行いたい人事労務担当者
  • 課題:業務がリスト化されていないし、何がオンライン化できるのか分からない
  • 解決策:人事考課表の作成など、一般的な手続きは全てオンライン化できる

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに

人事評価・懲戒処分の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な人事評価・懲戒処分の手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【トラブルの当事者や関係者への事実確認】

オンライン化は可能だが、相手の雰囲気が読み取りにくい場合などはトラブルになる恐れがあるので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

以降では「人事評価の手続き」「懲戒処分の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 人事評価の手続き

1)人事考課表の作成(目標設定、上長評価)

一般的な人事考課の流れは次の通りです。

  1. 被評価者が所属長と面談を行い、評価対象期間の目標を人事考課表に記入する
  2. 被評価者が評価対象期間終了後に人事考課表に自己評価を記入し、所属長に提出する
  3. 所属長は提出された人事考課表に対して一次評価を行い、次の評価者に提出する
  4. 最終評価者(本部長、経営者など)が各評価者の評価を基に人事考課を確定させる

紙ベースの人事考課表を運用している会社の場合、ワードやエクセルで作成してメールなどでやり取りすれば、オンライン化できます。ただし、オンラインで人事考課表のやり取りをすると、「評価者本人が記入したのか」が分かりにくくなりますし、評価者が操作ミスで内容の上書きや消去をしてしまうリスクもあります。

そこで、

  • 評価者が入力しないセルの編集をロックする
  • 評価が終わったら評価者の印影をJPEG形式などにして添付する
  • ログ情報に履歴が残るクラウド型の人事評価システムを導入する

などの対策が必要です。

2)昇給、人事異動などの実施

人事考課の結果は昇給や人事異動に反映されます。昇給や人事異動の際、紙ベースの辞令を交付している会社がありますが、こちらはPDF形式にしてメールで送信したり、人事異動の場合はイントラネットで公開したりすることが可能です。

また、子会社や他社に社員を「出向」させる場合、出向元と出向先は出向契約を締結しますが、これは電子契約システムで実施できるでしょう。

なお、自社が出向先として社員を受け入れる場合、出向社員と新たに労働契約を締結する必要があります。その際、賃金や労働時間など主要な労働条件を労働条件通知書で明示しますが、こちらは出向社員の同意があれば、PDF形式にしてメールで送付できます。

3 懲戒処分の手続き

1)トラブルの当事者や関係者への事実確認

懲戒事由に該当するようなトラブルが起きたら、まずは当事者や関係者に事実確認を行います。オンラインで行う場合、電話、ウェブ会議システムなどで話を聞きます。ただ、

オンラインでは相手の雰囲気が読み取りにくく、擦れ違いや誤解が生じがちなので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

です。

ヒアリングした内容は、必ず議事録に残します。手書きのメモでもワードなどのデータでも構いませんが、間違いなく当事者や関係者が発言した内容だと証明するため、本人から署名をもらうようにしましょう。手書きのメモやプリントアウトしたワードに署名をしてもらうか、PDF形式にして電子契約システムで電子署名をしてもらいます。

2)処分内容の検討

事実確認が完了したら、就業規則の懲戒事由と照らし合わせて処分内容を検討します。通常は賞罰委員会を開催したり、経営者や人事部長など会社の主要メンバーで協議したりして処分内容を決定します。この話し合いは、テレビ会議システムなどで行っても問題ありません。

懲戒処分を行う際は、処分される本人に必ず弁明の機会を与えなければなりません。テレビ会議システムで賞罰委員会などを開催する場合、本人には弁明の間だけテレビ会議システムにログインしてもらい、弁明が終わった後は必ずログアウトさせるようにします。

処分内容が決定したら、本人に伝えます。オンラインで処分内容を伝える場合、処分内容を通知したことを証拠に残すため、PDF形式にしてメールなどで送信します。また、本人が納得して懲戒処分を受け入れてもらうため、テレビ会議システムを使って処分内容の決定について考慮したことなどを説明するとよいでしょう。

賞罰委員会などの議事録(本人の弁明を含む)や、処分内容を本人に伝えた際のやり取りなどは、PDF形式などにしてデータで残しておきましょう。テレビ会議システムのレコーディングデータなども併せて残しておくと、会社が正当に懲戒処分を行ったという証拠になります。

3)各処分の実施(けん責、減給など)

懲戒処分の内容は各会社の就業規則によって異なりますが、一般的なのは次の6つです。

  1. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  2. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  3. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  4. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  5. 諭旨解雇:期日までに退職願を提出するよう勧告し、提出がない場合は懲戒解雇とする
  6. 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる

「1.けん責」は、ワードなどで作成した始末書をPDF形式にしてメールなどで提出させればオンライン化できます。始末書とそれを提出した際の本人からのメールは、証拠として社内サーバーなどに保管しておきましょう。

「2.減給」「4.降格」は、オフィスワークの場合と特に対応は変わりません。

「3.出勤停止」は、テレワークの社員だと、内容が伝わりにくいかもしれないので、「出勤停止中は自宅で業務を行う必要がなく、賃金も発生しない」旨を明確に本人に伝えましょう。

「5.諭旨解雇」「6.懲戒解雇」は、労働契約を解消する特に重い処分のため、本人に処分内容に関するメールを送ったら、電話やテレビ会議システムで本人とコンタクトを取り、確実に処分内容が伝わったことを確認してください。なお、解雇後に本人から「退職理由証明書」の交付を求められることがありますが、この証明書は、本人の同意があればPDF形式などで送っても大丈夫です。ただし、本人が書面での交付を希望する場合には、それに応じるべきでしょう。

また、通知の確実性に疑義が残る場合もあるので、頻繁に使用した実績のある連絡方法を用いるとともに、返信をもらうなどして本人が確認したことの裏付けを残すとよいでしょう。自動開封確認メールを受領したり、「既読」がついた画面をスクリーンショットで残したりする方法は、やや確実性に欠けますが何もしないよりは良いです。通知方法に疑義が残る場合、事後的でも構わないので、オンラインでの通知と併せて対面での交付・郵送も検討しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Stokkete-shutterstock

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【規程・文例集】カスハラ対策にもなる「苦情対応マニュアル」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:お客様からの苦情に適切に対応していきたい経営者
  • 課題:現場で臨機応変に対応するのもよいが、まずは対応を統一したい
  • 解決策:苦情対応マニュアルを策定し、周知徹底する。マニュアルはカスハラ(カスタマーハラスメント)対策にもなる

1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと

商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものであり、また、いろいろなお客様がいますから対応に絶対の正解はありません。とはいえ、

臨機応変に対応することは大切ですが、その前に、まずは統一された対応を取る

必要があります。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。

また、昨今は暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。苦情はお客様の貴重な意見であり、尊重すべきものですが、一方で

カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す

必要があります。カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる社員にとっても安心材料になります。

2 苦情対応マニュアルのひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【苦情対応マニュアルのひな型】

第1章(はじめに)

第1条(目的)

本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順並びに留意点について定め、苦情への適切な対応、および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。

第2条(用語の定義)

1)苦情とは、当社が提供する商品・サービス、商品・サービスの提供に伴う諸活動、当社の企業姿勢などに対してお客様から寄せられる不満・不快の表明のことをいう。

2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動をいう。

  1. 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、商品・サービスの内容と無関係の要求など)
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)

第3条(苦情対応の基本的な考え方)

1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものである。当社はお客様からの苦情を歓迎するものとし、その旨をお客様に対し表明する。

2)苦情を受領した際には、お客様第一の精神で誠心誠意対応する。

3)苦情を受領した際には、お客様の性別・年齢・人種などにかかわらず公平に対応する。

4)第1項から第3項は、カスタマーハラスメントには適用しない。会社はカスタマーハラスメントを許容せず、事案が発生した場合は従業員の保護を第一に考えて対応するとともに、必要に応じてお客様に対する警告や取引の停止、法的措置などを検討する。

第4条(機密保持)

お客様個人が特定できるような情報は、苦情対応の目的にのみ利用し、お客様がその公開について明確に同意しない限り情報を公開しない。

第2章(苦情対応の手順)

苦情対応は次の手順で行う。

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第3章(従業員の職務)

お客様と接する従業員(以下「対応者」)、苦情対応責任者(以下「責任者」)が行う職務は次の通りとする。

1)苦情の受理

  1. 苦情受理時、対応者はお客様の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の要求の把握に努める。その際、対応者はお客様の話を否定するような発言はしない。
  2. 対応者は、お客様に不愉快な思いをさせたこと、手間を取らせたことについて謝罪する。ただし、問題の発生原因など、責任の所在が不明なことについては不用意に謝罪することは避ける。
  3. 対応者が必要であると判断した場合、別室で話を聞くことができる。その際は、責任者などを交え、必ず複数名で話を聞くこととする。また、必要に応じてお客様との会話を録音する。
  4. 対応者は、苦情の内容を責任者に報告する。
  5. 苦情の申し出が、電子メールや手紙など、直接対話を伴わない手段で行われた場合には、対応者は受理した旨をお客様に通知し、責任者に報告する。
  6. 対応者は、苦情の受理に当たってカスタマーハラスメントやそれに類似する言動があった場合、その旨を速やかに責任者に報告する。

2)苦情内容の評価・調査

  1. 責任者は、受理した苦情について、妥当性、重大性、複雑性、即時処置の必要性などから評価する。
  2. 責任者は、対応者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因およびお客様の状況などの客観的事実の調査を行う。

3)苦情対応方法の検討

  1. 責任者は、対応者などを交え、適切な苦情対応方法の検討を行う。
  2. 上記の検討を行う際には、必ず苦情内容に関連する部門の従業員を交える。
  3. 当社のみで対応することができない場合(カスタマーハラスメントなど)には、関係機関へ苦情内容を報告し、協力を仰ぐこととする。

4)苦情対応の実施

  1. 対応者は、検討された苦情対応方法をお客様に提案する。
  2. 上記対応でお客様の了承を得られれば、当該対応を行う。お客様の了承を得られない場合、再度対応方法の検討を行う。
  3. 検討や確認に時間がかかる場合は、確認後に連絡する旨をお客様に伝える。その際には、お客様の都合を確認した上で、連絡期日も必ず伝える。
  4. 問題の発生原因などに関するお客様への報告は、文書を用いて行う。

5)苦情情報の記録

  1. 対応者は、苦情の内容、対応結果などを別途定める「苦情対応報告書」にまとめ、責任者に提出する。
  2. 責任者は、苦情対応報告書を受領し、保管する。
  3. 責任者は、当該苦情の記録を行い、当社の商品・サービスなどに反映し、再発防止に努める。

6)苦情情報の公表

  1. 苦情内容が重大なものである場合、責任者は、苦情内容をできるだけ早く公表する。
  2. 上記公表は、当社ウェブサイトへの掲載および個別のお客様への通知などの方法を用いる。

第4章(苦情対応の例外)

苦情を受理した際、対応者は、迅速に解決を図るため、以下の範囲で対応を行うことができる。また、対応後は、第3章第5項の「苦情情報の記録」を行う。

販売価格○円以下の商品・サービスの返品・交換・再提供

第5章(マニュアルの見直し)

本マニュアルは、実際の苦情情報を反映させるため、半年ごとに見直しを行う。

■苦情対応報告書■

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以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【管理会計】予算管理とは? 全体の流れや運用のポイントを解説

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を取り入れたい経営者、実務担当者
  • 課題:イメージしにくい予算管理の全体の流れや、円滑に進めるポイントを知りたい
  • 解決策:経理や経営企画が取りまとめ、予算編成方針を策定。報告フォーマットを統一し、余裕のあるスケジュールを組む。目安として、1~2カ月で予算を策定する

1 なぜ、予算管理が必要なのか?

予算計画を策定し、きちんと計数管理(以下「予算管理」)をしている中小企業は少ないものです。その理由は、

決算で実績が把握できているから大丈夫であるということと、単純に手間がかかる

からです。しかし、予算管理ができていないと、経営者が考えているビジネスの方向性と現実のズレに気づくのが遅れますし、改善ポイントも見えにくくなってしまいます。そうならないように、予算管理を実行することをご提案します。

2 予算管理とは?

予算管理とは、

企業の売上目標や利益目標を達成するために行う、「『お金の出入り』の計画的な管理」

のことです。予算管理には、主に次の3つ機能があります。

  1. 計画機能:各部門の予算を取りまとめつつ、企業全体の活動計画を立てる
  2. 調整機能:各部門の計画を調整して矛盾をなくし、全体最適な企業活動を行う
  3. 統制機能:予算と実績の差異を分析しつつ、必要に応じて対策を講じる

予算期間は企業の会計年度と同じですが、半期予算、四半期予算、月次予算まで分解して策定します。また、予算管理の中で決めなければならない「お金の出入り」は多岐にわたりますが、統一のルールに基づいて数字を集め、一元的に管理します。一般的な予算体系のイメージは次の通りです。

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予算体系を見ると、たくさんの予算があってかなり細かい印象ですが、基本となるのは損益予算です。これを達成するために、

資金予算(キャッシュに関する予算)や資本予算(設備投資や研究開発に関する予算)

が必要になります。

3 予算編成方針を立て、実行する

通常、予算を取りまとめるのは経理や経営企画などです。まずは、こうした担当部門(以下「予算担当部門」)が、予算編成方針を策定します。予算編成方針は、各部門が予算を作成する際の基本であり、次のような項目が示されます。

  1. 目標利益額または目標利益率
  2. 販売方針と売上高の目標
  3. 費用に関する基本方針(重点的に削減する費用、積極的に使用する費用など)
  4. 在庫方針、回収・支払い方針
  5. 設備投資計画
  6. 要員計画
  7. その他

各部門は予算編成方針に基づいて予算案を作成します。ここでとても重要になるのがフォーマットの統一です。記載の順序の他、費目(名称や振り分けなど)や単位(千円単位、百万円単位など)などについても統一しなければなりません。

多分野で事業を行う場合、細かなところまでフォーマットを統一するのが難しいこともありますが、予算担当部門が該当部門にヒアリングをして擦り合わせをし、部門独特の費目を全社的に統一したフォーマットのどこに振り分けるのかを決めます。

また、予算担当部門は予算案の提出期日を定めて各部門に通知しますが、これに間に合わない部門が出てくることが珍しくありません。多少の遅れはあらかじめ想定し、それを織り込んだ余裕のあるスケジュールを組みます。

予算担当部門は各部門から提出された予算を確認します。各部門の予算を総合しても企業全体の目標に足りない場合や、各部門の予算が“甘い”(費用が過小、販売計画が消極的など)場合は、該当部門に修正を依頼します。

修正が入る部門とそうでない部門で状況が変わってくるため、各部門の予算を「初回提出」「1次通し」「2次通し」などのように管理します。各部門の修正を繰り返しながら、中小企業であれば1~2カ月程度で予算を策定することになるでしょう。

4 予算と実績の差異分析を行う

1)報告時のルール策定

決定された予算に基づいて活動を開始したら、毎月、各部門から各月の実績と期首からの累計を、予算、実績、前年同期に分けて報告してもらいます。

ただし、各部門に好き勝手に報告させてはいけません。部門担当者は都合の悪い報告をしたくないため、計画比が良い部門は計画比の状況、前年同期比が良い部門は前年同期比の状況を中心に主観的な報告をしてきます。これでは正しく状況を把握できないため、予算担当部門があらかじめ報告フォーマットを作成し、各部門に配布しておくことが大切です。

2)予算差異分析の意義

期中(予算期間の途中)は、予算と実績の差異が必ず発生するものです。予算担当部門は、差異の発生頻度や差異の大きさから、差異が発生する原因を分析し、対策を講じなければなりません。これを「予算差異分析」といいます。

部門予算に関する予算差異分析は部門の予算担当者、企業全体の予算に関する予算差異分析は予算担当部門が行います。その結果に基づき、最終的な方向性(上方修正、現状維持、下方修正など)を決めるのは経営者の役割です。

差異が生じる理由は、期首の予算計画に実現性が乏しかった、予算作成時点では予測できなかった事態が発生したなどさまざまです。予備費の活用、費目の流用、予算外支出などで対応するのが基本ですが、差異が大きい場合は予算を修正します。

3)予算差異分析の方法

予算差異分析の基本は、

大きな差異に着目し、重点的に分析すること

です。

予算規模によって異なるため一概にはいえませんが、数%の差異についてまで各部門に報告を求める企業があります。予算統制という意味ではよいのですが、一方でビジネスは“生き物”であり、多少の差異は必ず生じます。小さな差異まで全て拾っていると、全体の予算担当部門や部門の予算担当者などの実務負担が大きくなってしまいます。

むしろ、しっかり分析すべきなのは、

そのときに生じた差異が予算期間内に解消されるか否か

です。単なる期ズレは看過する一方、予算期間内に解消されない差異についてはしっかり分析をして、対策を講じなければなりません。

4)優先すべきはどの数字?

予算管理では、期首に予算を作成した後、上期着地見込み、通期着地見込み、修正予算などさまざまな数字を管理します。加えて、企業には数字を管理している部門が複数あります。例えば、営業本部が予算担当部門とは異なる独自のフォーマットで、営業関係の予算と実績の報告を求めることがあります。

こうなると、各部門の担当者はどの数字を基準にすればよいのか混乱してしまうことがあります。この点について、予算担当部門が「あくまでも基本は期首の予算である」との方針を明確に示す必要があります。

5 予算管理を円滑に行うポイント

1)弾力性を確保する

予算作成時点では予測できなかった事態が発生して予算に過不足が生じた場合、予算管理を円滑に行うために弾力的な運用を行う必要があります。例えば、「事前に予備費の枠を設定しておく」「費目間の流用を認める」「追加予算を認める」といった対応が考えられます。

予備費の枠については、大き過ぎるのも問題なので、「予算全体の5~10%」などといった目安を決めておきましょう。

2)簡素化する

期中の予算管理をなるべく簡素で分かりやすいものにすることが大切です。1年経過後に期首の予算と期末の実績をきちんと比較するためには、期中のコントロールが不可欠です。そのため、各部門の担当者をはじめ関係者にとって、分かりやすい予算管理の方法を実現しましょう。

費用はかかりますが、予算管理システムの導入を検討してみてもよいでしょう。同じシステムの中でデータを共有したり、各部門の予算管理を行ったりすることができます。

3)適時性を確保する

当然のことですが、新年度から新しい予算に基づいた活動ができるようにしなければなりません。4月から予算年度が始まる企業の場合、1月末から2月にかけて予算を作成するようにします。

また、予算差異分析についても、結果のフィードバックが遅いと、改善が後手に回ります。半期予算、四半期予算、月次予算に対する予算差異分析の結果は、各予算の最終月(月次予算の場合は当月)の翌月にフィードバックします。

同様に、年間予算の予算差異分析の結果は、次年度予算の作成に反映できるように予算の作成時期に合わせてフィードバックします。

以上(2024年11月更新)

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画像:pexels

【受付終了】先着28社限定の「販路拡大」チャンス!~お早めにご確認ください!!

多数のお申し込みをいただき、誠に有難うございました。募集枠が埋まりましたので、今回の受付は終了とさせていただきます。次回のお申し込みをお待ちしております。皆さま、有難うございました。

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本日は、販路拡大や仕入先発掘をご支援するサービスのご案内です!
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多くのお客さまに掲載いただくため、前回発行分(令和6年7月)に掲載いただいた会員さまは、お断りさせていただく場合がある旨ご了承ください。

募集要項

1.名称 TOMONY Business Information
2.目的 とくぎんサクセスクラブ会員さまの販路拡大・仕入先発掘等を目的とします。
3.募集社数 28社で先着順とします。(1会員1枠とします。)
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【申込期限】令和6年11月22日(金)
4.発行部数 6,100部
5.発行日 令和7年1月初旬を予定
6.費用 無料
7.原稿について ①原稿はWebでご提出いただきます。
②原稿に添付できる写真の容量は1枚5MBまでです。それ以上の容量のものは添付できません。
③完成後の原稿は写真・文字全てモノクロ印刷となります。
④入稿期限は、令和6年11月29日(金)です。
⑤本冊子の趣旨にそぐわない内容のものはお断りする場合がございます。

その他ご不明な点は、事務局までご連絡ください。
連絡先:088-623-3111
担当:窪内、泉

事務局一同、皆さまのご応募を心よりお待ちしております!

客が社員に土下座を強要……理不尽なカスハラを退ける4つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:カスハラ(カスタマーハラスメント)の対応について知りたい人
  • 課題:どこまで顧客などの要求を聞くべき?どうすればカスハラを退けられる?
  • 解決策:正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応する。カスハラの類型別に大まかな対応方針を決め、社内の役割分担を明確にする

1 理不尽なカスハラには毅然と対応する

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、

顧客などが、社員に悪質な嫌がらせ(土下座の強要など)をすること

です。「お客様は神様です」などというように、日本企業は総じて顧客を上に見てその要求を受け入れる姿勢があり、それが顧客満足度の向上につながるという意識があります。しかし、「土下座を強要され、それに応じることがサービス向上につながる接客なのか?」という当然の疑問があり、実際にカスハラが社会問題化する中、足元では

  • 2023年12月:旅館業法が改正され、ホテルなどの宿泊拒否事由に「カスハラ」が追加
  • 2024年6月:骨太の方針2024にて、法的措置も含めカスハラ対策を強化する旨が明記

されるなどしています。

大切なのは、

正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応すること

です。

そこで、この記事では、カスハラ対応のポイントとして、次の4つを紹介します。

  1. どのような言動がカスハラになるのかを押さえる
  2. 類型別に大まかな対応方針を決める
  3. 社員は事実を正確に会社に報告する
  4. 上司または経営者が具体的な対応を決める

2 どのような言動がカスハラになるのかを押さえる

厚生労働省によると、

顧客などからのクレームのうち、要求の内容が妥当でない、または要求の実現方法が社会通念上相当でない言動で、就業の妨げになるものがカスハラになり得る

とされています(厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)。

カスハラになる可能性がある言動の例は次の通りです。

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法的には、カスハラは

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

に該当する可能性があります。また、言動の内容によっては、刑法(傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、不退去罪など)や軽犯罪法が適用されることもあります。

逆に図表1のような言動に当たらない(要求の内容・実現方法に問題がない)場合、カスハラではなく正当なクレームということになります。

より詳細なカスハラの具体例を知りたい場合、こちらもご参照ください。

■厚生労働省「第9回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(参考資料1「カスタマーハラスメント事例集」を参照)■

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40906.html

3 類型別に大まかな対応方針を決める

正当なクレームならば誠実に対応を検討する必要がありますが、カスハラの場合、要求には応じず、法的措置なども含めて厳正に対処します。前述した通り、カスハラは幾つかの類型に分類できるので、大まかな対応方針は事前に決めておくことができます。

カスハラの類型に応じた対応方針の例は次の通りです。

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これらは大枠の方針なので、実際にどのように対応すべきかは、

  • カスハラが初めて行われたのか、繰り返し行われているのか(初めての場合、内容によっては注意だけで済ませることも検討)
  • 対応した社員に落ち度はなかったのか(正当なクレームだったのに、社員の対応不十分でカスハラに発展した場合、社員の対応については謝罪が必要)

なども考慮して慎重に判断します。

そのためには、カスハラ対応における社内の役割分担を明確にする必要があります。次章以降で見ていきましょう。

4 社員は事実を正確に会社に報告する

顧客などから電話や対面などで会社に対してクレームがあった場合、まずは窓口の社員が初期対応に当たります。ここで社員に求められるのは、

顧客などを不用意に刺激しないよう注意しつつ、会社が顧客などへの対応を検討するために必要な情報を集めること

です。ポイントは次の2つです。

  1. 限定的な謝罪:不快感を与えたことについてだけ謝罪する
  2. 事実の把握:顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯を正確に把握する

1.では、顧客などに対し、「このたびは不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」など、不快感を与えたことだけを謝ります。正確に状況が把握できていない段階では、不用意に会社の非を認めたり、相手の要求に応じたりするべきではありません。

2.では、顧客などの住所・名前・連絡先などを確認した上で、話を一通り聞き、要求の内容や問題が発生した経緯を確認します。事実を正確に把握するため、必要に応じて会話を録音するなどして証拠に残します。また、現場対応は1人で行わず、可能な限り複数名で対応するのがよいでしょう。

1.と2.が完了したら、社員は顧客などから確認した情報を上司に報告し、今後の対応について相談します。ただし、身体的な攻撃や性的な言動を受けたなど緊急性が高いときは、1.と2.の状況に関係なく、即座に上司に報告します。

5 上司または経営者が具体的な対応を決める

カスハラに関する社内対応の流れは次の通りです。

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上司は社員から、顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯について話を聞き、

カスハラであれば、その内容に基づいて顧客などへの具体的な対応を決定

します。ただし、

  • 顧客などが重要な取引先である
  • 弁護士、警察などに相談すべき案件である(訴訟手続が必要、犯罪行為に当たるなど)

などといった場合は、必要に応じて経営者が判断します。詳細が決まったら、状況に応じて適切な人が対応します。顧客などが取引先(会社)の場合は、社内にハラスメント相談窓口があるでしょうから、必要に応じて窓口担当者とも連携しましょう。

なお、社員がすでにカスハラによって精神的ショックを受けている場合、顧客などから引き離す、医師による面談を実施するといった措置も併せて検討します。

この他、上司または経営者が具体的な対応を決定したり、社員が前述の初期対応を行ったりする上で支障がないよう、定期的に社内で対応ルールの教育・研修を実施するとよいでしょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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