今日の商談は違和感があったな~。こちらが発注する側で有利なんだし、金額とか納期とか、もっと良い条件で進められたはずなのに、なんか先輩は妙に低姿勢だったんだよな……。交渉なんだから、有利に進めば会社の利益につながるはず……うん、やっぱり先輩が相手に気を使いすぎなんだ! 次に私が訪問したときは、もっと攻めていくぞ!
1 取引先に無理なお願いをするのは問題です
仕事ですから、皆さんは取引の際に、自分の会社の利益を優先しなければなりません。ただし、だからといって相手の利益を全く考えないようでは、相手と良い関係を築くことはできません。それに、こちらが有利な立場にあるときほど取引内容に注意しないと、「取適法」という法律に違反してしまうことがあります(ちなみに、以前は「下請法」という法律名でした。こっちの名称のほうが聞いたことのある人は多いでしょうか?)。
例えば、こちらが仕事を発注する側の場合、取適法では、
発注者(委託事業者)が受注者(中小受託事業者)に無理を強いることがないよう、さまざまな義務や禁止事項
が設けてあります。違反すると、公正取引委員会から勧告を受けることがあります。そうなると、会社名が公表されるので、自社の社会的な信用を傷つけてしまいます。
取適法の対象となる取引は、
- 「取引の内容」
- 「資本金基準」(資本金の額か出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)
によって決まっています。例えば、自社が資本金6000万円の機械メーカーだとします。商品の原材料製造を発注する場合、資本金1000万円以下の企業や常時使用する従業員300人以下の企業との取引が取適法の対象になります。

ちなみに仕事を発注する相手が、個人で事業を行う「フリーランス」の場合は、別途「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という法律が適用されることがありますが、この記事では割愛します。
2 守らなければならない義務と禁止事項
発注者には、次の4つの義務が課されています。
- 発注に際して書面を交付する
- 業務を委託した場合にその内容などを記載した書類を作成・保存する
- 支払期日を定める(受領日から60日以内)
- 支払いが遅延した場合は遅延利息を支払う
例えば、「原材料Aについて、来月5日に100個納品してください」と電話のみで発注することは、書面の交付がないので発注に際して書面を交付する義務に反します。
また、発注者には、次の11項目の禁止事項が課されています。
- 発注したモノを受け取らない
- 支払期日までに代金を支払わない、支払手段として手形を使う
- 受注者に落ち度がないのに、発注後に代金を減額する
- 受注者に落ち度がないのに、発注したモノを受領後に返品する
- 通常の対価に比べて、著しく低い代金を不当に定めて買いたたく
- 正当な理由がないのに、発注者が指定するモノやサービスの購入・利用を強制する
- 発注者の違反行為を行政に知らせたという理由で、受注者に対し不利益な取扱いをする
- 発注者が有償で支給する原材料などを、代金の支払日よりも先に受注者に払わせる
- 自分(発注者)のために、受注者にお金やサービスなどを不当に提供させる
- 受注者に落ち度がないのに、発注の取消しや発注内容の変更をしたり、無償でのやり直しや追加作業を要求したりする
- 受注から「価格について協議したい」と求めがあったのに、一方的に代金を決定する(協議に応じない、必要な説明を行わないなど)
例えば、「思ったよりも売れ行きがよくないので、発注時に決めた単価よりも、安く納品してほしい」などは3.に該当しますし、「セール時に販売スタッフが足りないので、(無償で)応援に来てください。無理な場合は取引を中止します」などは9.に該当します。
3 インボイス制度にもご用心!
「インボイス制度」にもご用心。非常に簡単に説明すると、次のような制度です。
- 消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税額を計算します。この支払った消費税を差し引くことを仕入税額控除という
- インボイスに対応していない相手に支払う消費税は仕入税額控除の対象にならない
例えば、預かった消費税が100万円、支払った消費税が90万円であれば、10万円の消費税を納付することになります。
納税額は10万円:100万円-90万円
ところが、支払った消費税90万円のうち、インボイスに対応していない取引先に支払ったものが50万円だとすると、次のようになります。
納税額は60万円:100万円-40万円
相手がインボイスに対応していないと、これまでよりも消費税の負担が大きくなります。こうした仕組みを知っていれば、インボイスに対応していない相手に、
- 皆さんの会社の負担増になる消費税分の値下げ要請をする
- インボイスに対応するように強く依頼する
といったことをしたくなりますが、これは取適法などに違反する恐れがある行為です。ビジネスを有利に進めたいのは当然なのですが、いろいろと難しい問題があるので、皆さん、ご注意ください!
以上(2026年1月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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画像:Mariko Mitsuda





