4月から多くの新入学生がアルバイトを始めることから、厚生労働省では4月から7月までの間「「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン」を実施しています。
本稿では、キャンペーンの重点項目を記載するとともに、アルバイトの戦力化について一例をご紹介いたします。
人間ドックに育児サポート……「人事労務」で100年続く会社へ
書いてあること
- 主な読者:自社の人事労務を見直し、もっと社員を大切にしたい経営者、人事労務担当者
- 課題:人事労務の仕事内容は幅広く、どこから見直せばよいのか分からない
- 解決策:SDGs(持続可能な開発目標)をベースに重要な取り組みを洗い出す
1 【SDGs】人事労務に関係する4つの目標
誤解を恐れずに言えば、かつての中小企業では、社員にかけるお金はコスト(人件費)として捉えられ、さらに慢性的な人手不足も相まって、「人事労務」の仕事が他の業務よりも後回しにされがちでした。
しかし、時代は変わりました。「人的資本経営」という言葉もあるように、今では社員のスキルや能力を「資本」として捉え、そこにかけるお金は「コストでなく投資である」という考え方が浸透しつつあります。社員を大切にしなければ会社は生き残っていけませんから、ある意味、これからの会社の未来は人事労務にかかっているともいえるのです。
ただ、人事労務の仕事内容は幅広く、見直すにもどこからメスを入れればいいか分からないという人も多いでしょう。そこで、この記事では、
SDGs(持続可能な開発目標)をベースに、人事労務の重要な取り組みを洗い出すこと
をご提案します。SDGsでは、「地球の社会課題に向き合い、変化に対応し、持続可能な社会を実現する」という観点から、17の目標が設定されています。次の図表は、そのうち人事労務に関係する4つの目標と具体的な取り組みの例を挙げたものです。以降で、図表の各取り組みのポイントを紹介するので、御社の人事労務の状況を確認する参考情報としてご活用ください。
2 目標3「すべての人に健康と福祉を」
目標3は、年齢に関係なく全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するというものです。「健康経営」という言葉もあるように、社員の健康は、会社が経営を続けていく上で、必ず守らなければならないものです。
1)過重労働の防止
残業(時間外労働)は、月45時間を超えると健康障害のリスクが高まり、月100時間(または2~6カ月平均80時間)を超えると過労死の危険があるとされています。近年は「時間外労働の上限規制」など、過重労働を防ぐための法整備が進んでいますが、例えば、社員が会社に隠れて残業する「サービス残業」の問題には対処できているでしょうか。
まずは、社員の労働時間を正しく管理できているか改めて確認しましょう。例えば、手書きの勤怠管理表などで社員の労働時間を管理している会社では、定期的に自己申告の内容とオフィスの施錠記録やPCのログ情報を照合するなどして、実態を調査する必要があります。
勤怠管理システムを導入している場合も、必要に応じてシステムの見直しを検討しましょう。例えば、オフィス向け入退室管理システム(スマートロック)の中には、記録される入退室のログ情報を勤怠管理の目的で使用できるタイプなどがあり、より正確に労働時間を管理できます。
過重労働の防止については、次の記事などが参考になります。
2)人間ドックなどの実施
会社には年1回以上、定期健康診断を実施する義務があります。ですが、法律で決められた「法定項目」を社員に受診させるだけでは、自覚症状のない病気などを見落とすこともあります。
そこで、法定項目以外の「法定外項目」を含む人間ドックなどを実施することを検討します。人間ドックは受診項目が多いだけでなく、医療機関によっては、例えば、脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん(例:子宮がん)など、分野を絞って集中的に検査できる所もあります。
忙しくてなかなか人間ドックの時間が取れないという場合もあるでしょうが、最近は、約30分で脳ドックの受診が終わる「スマート脳ドック」など、あまり時間のかからない検査も登場しています。
人間ドックなどの実施については、次の記事などが参考になります。
3)“ちょっとした体調不良”の改善
過重労働や病気に注目するあまり、肩こり、腰痛、ストレスといった社員の“ちょっとした体調不良”をおろそかにしていないでしょうか。「たかが肩こり」などと考えて放置すると、社員が仕事に集中できずミスをしたり、体調が悪化したりして、欠勤よりも大きな損失を会社にもたらしかねません。こうした状態を「プレゼンティーイズム」といいます。
定期健康診断の結果を確認するだけでなく、例えば社内アンケートで「あなたの仕事に悪影響を及ぼしている体調不良は?(肩こり、腰痛、ストレス、疲れ目(ドライアイ)、寝不足など)」を聞いたりすると、社員の体調不良の状況を「見える化」できます。
体調不良の改善方法はさまざまです。例えば、ヘルシーな社食サービスを導入したり、「1日の歩数」を計測するアプリを導入したり、昇降式のスタンディングテーブルを導入して立った状態でも仕事ができるようにしたりといった方法があります。
“ちょっとした体調不良”の改善については、次の記事などが参考になります。
3 目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
目標5は、性別に関係なく、誰もが平等に活躍できる社会を実現しようというものです。「女性の権利向上」をイメージするかもしれませんが、「性別に関係なく平等に」が趣旨なので、男性、LGBTQなど性的少数者に対しても同じように配慮が必要です。
1)ハラスメントの防止
都道府県労働局や労働基準監督署への「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、2022年時点で6万9932件に上ります(厚生労働省「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。社員の権利意識の高まりなどの背景もありますが、会社以外の機関にこうした相談が多く寄せられるのは、会社の「ハラスメント防止措置」がちゃんと機能していないからかもしれません。
会社は「ハラスメント相談窓口」を設置し、社員からの相談に応じて、事実確認、行為者の処分や被害者のケア、再発防止策の実施などを適正に行う義務があります。「相談窓口が周知されているか」「経営者が把握していない相談内容がないか」などを、いま一度確認しましょう。
一方で、上司がハラスメントと指摘されるのを恐れて、部下を指導できなくなるなどの事態も避けなければなりません。例えば、セクハラの場合、「容姿」や「女性らしさ」に踏み込まない指導を心掛けるだけでも、ハラスメントと指摘されるリスクを減らせます。弁護士などの専門家に研修を実施してもらうなどして、社員に正しい考え方を身に付けさせるとよいでしょう。
ハラスメントの防止については、次の記事などが参考になります。
2)妊娠・出産や育児のサポート
「育休(育児休業)」などの法整備が進み、妊娠・出産や育児を理由に退職することなく、仕事を続ける人が増えてきました。ただ、これまで育休の取得がなかった会社などは、いざ社員から相談があると、実務に不慣れなゆえに対応を誤ってしまう恐れがあります。
まずは、法制度の内容を正しく押さえましょう。近年は育児・介護休業法の法改正が続いていて、直近では、2022年10月から「育休の分割取得制度(2回まで)」「男性社員が取得できる短期の育休『産後パパ育休(出生時育児休業)』」が始まっています。
妊娠・出産や育児をする本人だけでなく、フォローに回る他の社員への配慮も重要です。例えば、育休中の業務を代替する社員に手当(業務代替手当)を支給する会社などがあります。ちなみに、育休については、2024年1月から、業務代替手当を支給した会社に対し、総額の原則4分の3(上限10万円×最大12カ月)を助成する「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」が始まっています(業務体制の整備や育児休業等に関する情報公表について別途支給あり)。
妊娠・出産や育児のサポートについては、次の記事などが参考になります。
3)LGBTQに配慮した職場環境の整備
LGBTQに関する取り組みは、非常にデリケートな問題です。会社は、社員が性的指向や性自認に関係なく、自分らしく働ける職場にしたいと考えますが、当事者本人は、「LGBTQであることを周囲に知られたくない」とカミングアウトできずにいるケースが少なくないため、対応に苦慮します。
難しいところですが、まず会社がやるべきことは、LGBTQに関する社員教育でしょう。例えば、「他人の性的指向や性自認を侮辱したり、他の社員に暴露(アウティング)したりすることはパワハラに当たる」「セクハラは、異性・同性関係なく成立する」といったことを教育し、こうしたハラスメントがあった場合、会社として厳しく対処する旨を周知します。
加えて、社内の設備も可能な範囲で見直しましょう。例えば、プライバシーが保護され、性別などに関係なく利用できる「独立個室型のトイレ」の設置などがそうです。ただ、こうした見直しについては、前述したカミングアウトの難しさから「意見を言いたくても言えない社員」がいる可能性があるので、匿名のアンケート調査で意見を募るなどして、慎重に行います。
LGBTQに配慮した職場環境の整備については、次の記事などが参考になります。
4 目標8「働きがいも経済成長も」
目標8は、経済成長を持続させつつ、全ての人が働きがいと十分な収入のある仕事に就ける社会を実現しようというものです。働きがいと十分な収入を確保するには、休みや仕事の生産性にも目を向ける必要があります。
1)賃上げの検討
社員の収入を確保する最もシンプルな方法は「賃上げ」です。2023年の春闘では、物価高などの影響を受けて3.58%(加重平均、定期昇給相当を含む)という高水準の賃上げが実施されました(日本労働組合総連合会「2023春季生活闘争第7回(最終)回答集計結果」)。ただ、賃金は一度引き上げると、「労働条件の不利益変更」などの関係で簡単には引き下げられないので、実施は慎重に検討する必要があります。
まずは、今の自社の賃金水準を世間相場と比較し、本当に賃上げの必要があるかを判断することが重要です。世間相場は、厚生労働省「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」などで確認できます。相場を上回っている場合、無理に賃上げに取り組む必要はないかもしれません。
逆に、相場を下回っている場合は賃上げを検討する必要がありますが、基本給を引き上げると後が大変になるかもしれません。その場合、「手当」で実質的な賃上げをするのも1つの手です。手当は就業規則で定める要件を満たす場合に支給するものなので、要件を満たさなくなったら支給を止められます。例えば、物価高が続く間、社員の生活費を補てんするために支給する「インフレ手当」などは、経済情勢が変わってきたら支給を打ち切ることもできます。
賃上げの検討については、次の記事などが参考になります。
2)休暇取得の促進
仕事のパフォーマンスを上げるためには、適度な休みも必要です。ですが、社員の中には「周囲が忙しそうなのに自分だけ休めない」などの理由から、休暇を取得しない人がいます。
休暇取得を促進する方法としては、まず「取得のハードルを下げること」が挙げられます。例えば、年休(年次有給休暇)は、必要な手続きを踏めば、「半日単位」「1時間単位」で与えたり、一定日数まで会社が取得時季を計画的に割り振ったりすること(計画的付与)ができます。
また、会社が独自に定める「特別休暇」の場合、取得時季や目的を明確に設定することで取得しやすくなるケースもあります。例えば、本人の誕生日(または誕生月)に取得できる「誕生日休暇」、子どもの学校行事に参加する場合に取得できる「学校行事休暇」などがあります。
休暇の取得促進については、次の記事などが参考になります。
3)ペーパーレス化の促進
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進行やリモートワークの浸透などを背景に、紙からデータへの動きが本格化しています。印刷などの手間を減らせば業務のスピードアップが図れますし、紙の消費量を減らすことでコスト削減や環境保全にもつながります。
ペーパーレス化の対象となる書類はさまざまですが、人事労務に関して言うと、例えば社員の入社時に交付する労働条件通知書は、社員の同意があればメールなどで交付できますし、就業規則や36協定の届け出も「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使って電子申請で行えます。
書類の保存についても、紙でなくデータで保存できるものがほとんどです。例えば、就業規則は、常に社員が確認できるのであれば、社内イントラネットにPDFをアップすることなどが可能です。紙からデータ保存に切り替えれば、オフィス内の省スペース化も図れるでしょう。
ペーパーレス化の促進については、次の記事などが参考になります。
5 目標10「人や国の不平等をなくそう」
目標10は、国内や国家間の不平等を是正しようというものです。会社の場合、社員が雇用形態、年齢、国籍などによって不利益を被ることがないように注意する必要があります。
1)同一労働同一賃金の実現
同一労働同一賃金は、簡単に言うと「同じ(価値の)仕事をしている社員には、同じ額の賃金を支払わなければならない」という考え方です。正社員とパート等の待遇格差を是正する観点から2020年4月に法制化されましたが、いまだに実現に至っていない会社は少なくありません。
同一労働同一賃金のポイントは、「仕事内容、能力、成果などの違いに基づく待遇格差は違法でない」という点です。例えば、正社員、パート等の役割分担に基づいて基本給や手当の額に差を付けるのは問題ありません。ちなみに会社はパート等から求められた場合、待遇格差の内容や理由を説明する義務があるので、いざというとき合理的な説明ができるよう準備しておきましょう。
なお、パート等の待遇改善は重要ですが、それが逆にパート等に不利益に働くケースもあるので注意が必要です。例えば、厚生年金保険の被保険者数が常時100人超(2024年10月からは常時50人超)の会社に勤めるパート等は、「賃金が月額8万8000円以上」などの要件を満たすと、社会保険に加入し、社会保険料を負担する義務が生じます(家族の扶養に入れなくなる)。
同一労働同一賃金の実現については、次の記事などが参考になります。
2)高齢社員の活用
会社には、社員を65歳まで雇用するための措置を講じる義務、70歳まで働ける機会を確保する努力義務があります。人間は基本的に加齢によって身体機能が変化するので、高齢社員を雇用し続ける場合、その点を考慮する必要があります。
例えば、平衡機能の低下(直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる)や聴力の低下(騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない)はけがにつながる恐れがあるので、定期的に健康診断や体力チェックテストを実施して社員の状態を把握するなど、対策を講じる必要があるでしょう。
なお、高年齢者雇用安定法では、社員が70歳まで働ける機会を確保するための選択肢として、フリーランス化なども認めています。フリーランスは、労働時間という概念がなく自分のペースで働きやすい面もあるので、社員が定年を迎えたら、雇用という選択肢にこだわらず、フリーランスとして力を貸してもらうというのも1つの方法です。
高齢社員の活用については、次の記事などが参考になります。
3)外国人の活用
今や外国人が働いている会社は日本でも珍しくありませんが、初めて外国人を雇用する会社などは、日本人を雇用する場合との違いが分からず、戸惑ってしまうかもしれません。
結論から言うと、日本で働く外国人には労働基準法などの労働関係法令が適用されるので、基本的な扱いは日本人と変わりません。ただ、それぞれの外国人が持つ「在留資格」によって、行える活動や日本で働ける期間に違いがあるので、その点には注意が必要です。
また、就業時間中に礼拝のため席を外したり、食べてはいけない食材の関係で他の社員がお菓子を勧めた際にトラブルになったりすることがあるので、宗教・文化の違いについてはある程度把握しておく必要があります。難しい面もあるかもしれませんが、外国人が働きやすい社内体制や関係性を構築した結果、高い成果を上げている会社も数多くあります。
外国人の活用については、次の記事などが参考になります。
以上(2024年4月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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総務のお仕事 12カ月 一目で分かる「月別実務リスト」
書いてあること
- 主な読者:社内の人事労務、会計・税務、法務などを一手に担う経営者や管理職
- 課題:やるべきことが多すぎて、実務の抜け漏れが生じてしまう
- 解決策:各月の実務をリストアップして手元に置いておく
1 実務の抜け漏れを防止するには?
人事部、経理部、法務部など、バックオフィス専門の部署がないことが多い中小企業では、経営者や管理職も例外なくこうした実務を行います。しかし、不慣れであり、片手間で処理することが多いので、どうしても抜け漏れが生じます。
一方、こうした実務は法令で定められたものが多く、放置しておくと思わぬペナルティを受けることがあります。これを避けるために、この記事では「3月末決算の中小企業」を対象に、
「人事労務」「会計・税務」「法務・その他総務」の主なお仕事を月別にリスト化
しました。
2 総務のお仕事リスト(対象:3月末決算の中小企業)
以降では、4月から順にリストを紹介しつつ、重要な実務(各リストの赤字部分)については別途ポイントを説明します。なお、リストの内容は中小企業における一例です。
1)4月のお仕事
1.入社手続き(4月入社の場合)
社員が入社したら、「労働条件通知書の交付」「社会保険や雇用保険の資格取得手続き」「雇入時健康診断の実施」などの手続きが必要です。手続きの詳細は、こちらのコンテンツをご確認ください。
2.決算書の作成
1年分の取引に関する仕訳に、決算整理仕訳(売上原価の算定、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却の計上など)を加えて集計し、それぞれの勘定科目を決算日時点の数値に確定します。確定した数値を基に、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書(中小企業の場合、作成は義務ではありません)、個別注記表を作成します。
3.3月決算法人の税務申告書の作成
2.で作成した決算書などの数値を基に、法人税(地方法人税を含む)、法人住民税、法人事業税、消費税(地方消費税を含む)の「税務申告書」を作成します。
法人税と消費税の申告書の作成が中心となります。法人税については、決算書の利益から法人税法上の所得を計算するので、さまざまな調整や税額計算が必要です。消費税については、消費税が課税されている売上・仕入かどうかなど、消費税独自の税額計算を行います。
2)5月のお仕事
1.3月決算法人の確定申告
原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日(3月末決算の場合は、5月31日)までに、作成した「確定申告書」を、各提出先に提出します。「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」や「地方税ポータルシステム(eLTAX)」を利用していれば、システム上での電子申告が可能です。
2.確定申告による法人税等および消費税の納付
原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日までに、1.で申告した納税額を、各納税先に納める必要があります。e-TaxやeLTAXを利用していれば、ダイレクト納付(口座振替)やインターネットバンキングなどを利用した電子納税が可能です。
3)6月のお仕事
1.夏季賞与の支給、被保険者賞与支払届の提出
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者に賞与を支給した場合、支給日から5日以内に、「被保険者賞与支払届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。賞与保険料は、通常の給与の社会保険料と併せて翌月末に納付します。賞与を年2回または3回支給している場合、支給のたびに同じ手続きが必要です(年4回以上支給している場合は対象外)。
2.定時株主総会の開催
中小企業の多くは「非公開会社(全株式の譲渡について会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社)」です。非公開会社は、定時株主総会開催の1週間前までに、「招集通知」を株主に送付します。ただし、議決権を行使できる全株主が同意した場合は省略できます。
また、総会後は、「議事録の作成」「決議通知書の発送」「計算書類の公告」などの他、取締役の変更などがあった場合、2週間以内に、所轄の法務局に「変更登記の申請」をします。
4)7月のお仕事
1.算定基礎届の提出
毎年7月10日までに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者の4、5、6月支給給与額を記載した「算定基礎届」を、所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。これにより9月分以降の社会保険料が改定されます(定時決定)。例えば、給与が毎月末日締め、翌月払いの会社は、10月支給給与から社会保険料の控除額を変更します。
なお、定期昇給などで固定給が変わり、標準報酬月額が2等級以上変動した社員がいた場合、その社員については、変動月の3カ月後から社会保険料が改定されます(随時改定)。例えば、給与が毎月末日締め、翌月払いの会社が、4月に定期昇給(昇給後の賃金を支払うのは5月から)を行い、2等級以上の変動があった社員がいた場合、5、6、7月の給与支払い後、速やかに「月額変更届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。この場合、随時改定が定時決定に優先し、社会保険料は8月分(9月支給給与)から改定されます。
2.労働保険年度更新申告書の提出
毎年7月10日までに、「労働保険年度更新申告書」を所轄の労働基準監督署に届け出ます。この申告書には、労働保険(雇用保険・労災保険)の前年度の確定保険料と当該年度の概算保険料を記載します。
また、当該年度の概算保険料も原則7月10日までに納付します(前年度に納付した概算保険料と確定保険料との間に過不足があれば、過不足を調整した額を納付します)。ただし、事前に保険料の口座振替の申し込みをしている場合、9月6日に引き落とされます。なお、労働保険料は「概算保険料が40万円以上」など所定の要件を満たす場合、3回まで分割納付が可能です。
5)8月のお仕事
1.夏季休暇などの取得予定の確認
夏季休暇は法令で定められた休暇ではなく、会社が就業規則等で独自に設定する「特別休暇」の1つです。例えば、「7、8、9月の3カ月間で3日まで取得可」といった具合に定めるのですが、業務が多忙だと、周囲に遠慮して社員がなかなか休暇を取れないケースがあります。そのため、会社のほうから各社員に取得予定を確認するなどの配慮をするとよいでしょう。
2.建物、設備、社有車などの点検
夏季休暇などで休みを取る社員が増える間、建物、設備、社有車などの点検がおろそかにならないよう注意します。特に、建築基準法、電気事業法、道路運送車両法などで定められている「法定点検」については、所定の期限までに必ず実施します。
6)9月のお仕事
1.定期健康診断、ストレスチェックの実施(9月実施の場合)
社員を雇用する全ての会社は、定期健康診断を1年以内に1回以上実施します。社員数が常時50人以上の場合、ストレスチェックの実施義務もあります(こちらも1年以内に1回以上実施)。
なお、社員数が常時50人以上の会社は、定期健康診断実施後に「定期健康診断結果報告書」を、ストレスチェック実施後に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を、すみやかに所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
2.防災訓練の実施、BCPや備蓄の確認など
9月1日の「防災の日」に防災訓練をする会社は多いです。テレワークをしている会社も、災害伝言板やSNSを使った安否確認訓練を実施するなどして、緊急時に備えましょう。また、BCP(事業継続計画)の内容が古くないか、災害用品の備蓄(水・食料、ヘルメット、救急セットなど)に問題がないかなども、併せて確認しましょう。
7)10月のお仕事
1.年次有給休暇の付与(4月入社の場合)
労働基準法により、「入社後6カ月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤した社員」には、年次有給休暇(以下「年休」)を付与します。例えば、4月1日入社の正社員の場合、10月1日付で10日の年休を付与します。以降1年ごとに労働基準法に基づく日数を付与しますが、年休は付与日から2年を経過すると時効により消滅するので、日数の管理に注意しましょう。
2.地域別最低賃金(毎年10月改定)の確認
最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」、特定の産業について定められる「特定最低賃金」があり、このうち地域別最低賃金が毎年10月に改定されます(特定最低賃金は不定期改定)。地域別最低賃金は年々引き上げられていて(2023年10月時点で、全国加重平均で1004円)、社員(特にパート等)がこれを下回らないよう注意します。
8)11月のお仕事
1.長時間労働の実態把握、改善
厚生労働省では毎年11月に「過重労働解消キャンペーン」を実施していて、キャンペーン中は労働基準監督署による長時間労働に対する監督指導が強化されます。長時間労働の改善は本来、継続的にやるべきものですが、特に11月は「勤怠打刻と実際の労働時間が乖離(かいり)していないか」などをしっかり確認しましょう。
2.中間申告による法人税等および消費税の納付
確定申告時の税額が一定額以上である場合などは、期中に複数回の納付が発生します。これを「中間申告・納付」といいます。税金ごとに、制度が異なります。
法人税、法人住民税、法人事業税については、その事業年度が6カ月を超えるとき、原則、その事業年度開始の日から6カ月を経過した日より2カ月以内(例えば、3月末決算法人の場合は11月末まで)に、中間申告・納付をします。
消費税については、確定申告時の消費税額によって中間申告の回数(なし、年1回、3回、11回)が変わってきます。この記事では、年1回のケースをモデルとしているため、11月末に消費税の中間申告・納付が必要です。
9)12月のお仕事
1.年次有給休暇の取得推進
年末年始を休業とする会社は多いですが、仮に本来の予定よりも仕事納めを前倒しできそうであれば、前倒しする日数分、社員に年休の取得を推奨するのもよいでしょう。法律上、年10日以上の年休が付与される社員(主に正社員)については、社員の意見を尊重した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させます。業務が多忙で年休取得が滞っている社員については、この時季にまとまった日数を取得してもらうよう働きかけます。
2.年末調整
年末調整は、社員の源泉所得税の最終調整を行うものです。社員全員に
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)
を提出してもらい、その年分に受けられる所得控除などを社員ごとに集計し、正確な源泉所得税の金額を算定します。すでに源泉徴収している金額と差額がある場合、12月または1月支給給与で精算します。
10)1月のお仕事
1.法定調書の提出
毎年1月31日までに、前年(1~12月)に行った一定の支払いごとの金額や内容を記載した「法定調書」を所轄の税務署に提出します。法定調書は全部で60種類あります。例えば、社員に支払った給与については「給与所得の源泉徴収票」、税理士など特定の人に支払った報酬については「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」などがあります。
2.償却資産の固定資産税の申告
毎年1月31日までに、当該年の1月1日時点で所有している償却資産について記載した「償却資産申告書」を各市区町村に提出します。償却資産とは、土地・建物以外の事業に使用するための資産で、法人税の計算上、減価償却の対象となる資産をいいます。
11)2月のお仕事
1.賃上げに関する情報収集
毎年2月ごろになると春闘が始まり、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に関する話題を耳にする機会が増えます。他社の動向に注視しつつ、自社の人件費負担なども考慮して、最終的にどの程度賃上げに取り組むのかを判断します。
2.新年度の予算編成
新年度の利益目標を定め、売上と費用に計上する金額を決めます。当年度業績の着地見込みや、経営者の意向、担当者からのヒアリングなどを基に具体的な数値に落とし込むとよいでしょう。作成した予算は全社で共有し、毎月の予算管理(目標達成度合いの把握や、予算と実績の差額分析など)を実施していきます。
12)3月のお仕事
1.退職手続き(3月退職の場合)
社員が退職した場合、健康保険法、労働基準法などにより「社会保険や雇用保険の資格喪失手続き」「退職証明書の交付(必要な場合)」といった手続きが必要です。制度がある場合は、退職金の支払いも必要です。手続きの詳細については、こちらのコンテンツをご確認ください。
2.36協定の締結・届け出(4月起算の場合)
会社が社員に時間外労働や休日労働を命じるには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ます。36協定は、1月や4月を起算日として1年間の有効期間を定めるケースが多く、有効期間が切れた状態で社員に時間外労働や休日労働を命じるのは違法です。必ず有効期間が切れる前に内容を更新し、締結・届け出た上で、社員に周知しなければなりません。
3.期末棚卸の実施
期末時点の在庫を確定するため、帳簿記録に基づき調査を行う帳簿棚卸と、現物を実際にカウントする実地棚卸を実施します。期末棚卸をして、在庫を確定することで決算書に計上する売上原価が算定されます。
以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 石田和也)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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【朝礼】「面白い」「楽しい」は自分でつくれる
おはようございます。突然ですが、皆さんは最近、声を上げて笑ったことはありますか? 面白いと思ったこと、楽しいと思ったこと、何でもいいです。もし、あるなら、大いに結構! 一方で「よくよく考えないと出てこない」「もしかしたら無いかもしれない」という人がいるのであれば、ぜひこれから話すことを聞いてください。
今日、私が皆さんに伝えたいのは、
毎日を面白く、楽しくするのは自分次第
ということです。こう言うと、「何を当たり前のことを」「うさんくさい」と思うかもしれませんが、自分の「心持ち」次第で、毎日のちょっとした出来事が、いくらでも面白く、楽しく感じられるのです。
例えば、先週、私がぎっくり腰になったときのことをお話ししましょう。ぎっくり腰になったことのある人は分かると思いますが、とても痛いし、動きも制限されるので、表面的にはマイナスな出来事です。けれど、そんなマイナスの状況でも、自分の心持ち次第で「面白い」「楽しい」と思えるポイントはあるものです。
私が真っ先に面白いと思ったのは、「初めてのぎっくり腰で痛がる私」と「日常的に痛がる患者に接している医師や薬剤師」の温度差です。私は大騒ぎしているのに、医師や看護師はそういう患者に慣れているせいか終始冷静で、まるでテレビのコント番組を見ているかのようなおかしさがありました。
また、楽しかったこともあります。私は普段ジムに通っているのですが、しばらく通えなくなるので、代わりにどのように痛くなく、体がなまらないように体を動かしたらいいかを研究しました。これはとても興味深いテーマでした。
あまり出歩けなくなった分、読みたかった本を片っ端から読む時間も、お世話になっている人たちに手紙を書く時間もつくれました。
繰り返しになりますが、私が毎日を面白く、楽しくできるのは「そうする」と決めているからです。だから、口に出す言葉にはとても気を付けます。「面白い」「楽しい」と言葉を発し、声を出して笑っていると、本当に気持ちもそうなるのです。
これは、仕事も同じです。例えば、お客さまから難しいことを要求されたとき、「面倒くさい」と口に出したり、顔をしかめたり、ため息をついたりしていませんか? 自覚がある人は、今日からやめましょう。代わりにポジティブな言葉を発してみるのです。例えば「これができたら面白いかも!」「どうすれば効率的にできるかを試すチャンスだ!」「私の考えのほうがうまくいきそうだな…よし、交渉にチャレンジしてみよう!」と。
どうですか? 気持ちが前向きになったり、ちょっとワクワクしたりしませんか? 同じ毎日なら、ため息だらけの毎日より、楽しいワクワクの毎日のほうがいいのは間違いありません。あえて、ポジティブな言葉を発し、楽しい毎日をつくってください。
以上(2024年4月作成)
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画像:Mariko Mitsuda
物流・運送業の2024年問題とは何ですか?
QUESTION
物流・運送業の2024年問題とは何ですか?
ANSWER
2024年4月1日から、時間外労働の上限規制が自動車運転業務にも適用されるようになりました。
解説
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含みません)を限度に設定(1か⽉の時間外・休⽇労働時間数、1年の時間外労働時間数)する必要があります。
・⾃動⾞運転の業務に関しては、特別条項付き協定を締結する場合の時間外労働の上限は年960時間(休日労働は含みません)となります。
・時間外労働と休日労働について「月100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されません。
・「時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か⽉まで」の規制は適⽤されません。
さらに、トラックドライバーには、労働時間と休憩時間とを合わせた拘束時間、勤務間のインターバルである休息期間、運転時間などを規制する改善基準告示も適用されます。
【1日の拘束時間】13時間を超えないことを原則とし、最大でも15時間
【1年・1月の拘束時間】年3,300時間以内、月284時間以内
【1日の休息期間】11時間以上を基本とし、9時間を下回らない
【運転時間】2日平均1日9時間以内、2週を平均して1週当たり44時間以内
<改善基準告示違反にならない例・2日平均1日9時間要件>
10時間運転の日(A)、9時間運転の日(B・基準日)、9時間運転の日(C)の場合
(A+B)/2=9.5時間
(B+C)/2=9時間
<改善基準告示違反になる例・2日平均1日9時間要件>
10時間運転の日(X)、10時間運転の日(Y・基準日)、9時間運転の日(Z)の場合
(X+Y)/2=10時間
(Y+Z)/2=9.5時間
<改善基準告示違反にならない例・2週平均1週44時間要件>
1週目運転時間44時間(A)
2週目運転時間44時間(B)
(A+B)/2=44時間
1週目運転時間40時間(C)
2週目運転時間46時間(D)
(C+D)/2=43時間
<改善基準告示違反になる例・2週平均1週44時間要件>
1週目運転時間50時間(X)
2週目運転時間44時間(Y)
(X+Y)/2=47時間
※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
<監修>
社会保険労務士法人中企団総研
No.93160
画像:Mariko Mitsuda
SNSネイティブ世代のための「電話応対」の手引き(2024年4月号)
テレワークの実施に伴い、連絡手段としてメールやチャット、SNSを社内で活用する企業が増えています。特にチャットやSNSは手軽に素早くやりとりができる利点があります。しかし、若手社員のなかには業務中に電話をかける機会がほとんどなく、電話応対に苦手意識を持っている人もいるでしょう。
ビジネス電話では、特有のマナーやルールが求められるため、電話応対に慣れていない世代にとっては、戸惑うことも多いのではないかと思います。
本紙では、電話応対の基本といえる大切なこと、とっさの対応など、会話に関するマナーやルールと心構えについてわかりやすく解説します。
建設業の2024年問題とは何ですか?
QUESTION
建設業の2024年問題とは何ですか?
ANSWER
2024年4月1日から、時間外労働の上限規制が建設業にも適用されるようになりました。
解説
建設業は、上限規制の適用を、令和6年3月31日まで猶予されていますが、 令和6年4月1日以降は、時間外労働の上限は原則として月45時間・年間360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下の上限を超える時間外労働・休日労働はできなくなります。
・時間外労働 年720時間以内
・時間外労働+休日労働の合計 月100時間未満 (※) 2~6か月平均80時間以内 (※)
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
◎ 災害の復旧・復興の事業に関しては(※) の部分が適用されません。
※本内容は2024年2月29日時点での内容です。
<監修>
社会保険労務士法人中企団総研
No.93150
画像:Mariko Mitsuda
【健康経営】 目をケアしてカラダも健康に! 「眼精疲労」対策のポイント
書いてあること
- 主な読者:休息や睡眠を取っても目の疲れが取れない人
- 課題:眼精疲労を放っておくと緑内障や白内障になる恐れがある
- 解決策:日ごろから目を酷使しない。また、異常を感じたら迷わず眼科を受診する
1 ただの「目の疲れ」と侮ってはいけない理由
1日中パソコンを見ていると、近くの物が見えにくくなったり、目がショボショボしたりします。そして、休息や睡眠を取っても、こうした異常が回復しないケースを「眼精疲労」と呼びます。眼精疲労は「白内障」「緑内障」などの目の病気、「糖尿病」などのカラダの病気とも関係があり、眼精疲労を放置していると、気が付かないうちにこれらの重い病気が進行してしまうことがあります。逆に言うと、
「目に異常を感じたら、早めに医師に相談する」という癖を付けておけば、重い病気を早期に発見でき、カラダ全体の健康につながる
ということです。
この記事で、眼精疲労に詳しい現職の産業医が眼精疲労の正しい知識と、会社や個人でできる眼精疲労対策のポイントを紹介するので、参考にしてください。
2 眼精疲労の主な症状と原因、治療法
1)眼精疲労の主な症状と原因
眼精疲労の主な症状としては、次のようなものがあります。目に表れる症状と、カラダに表れる症状があるのが特徴です。
眼精疲労の主な原因は以下の通りです。
1.生活環境やストレス
パソコンやスマホが手放せない現代は目を酷使しやすく、眼精疲労を中心とした異常の総称「VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)症候群」になる人が多いです。この他、過度なストレスから筋肉のこわばりや血流への影響が出て、それらが複合的に重なり合い、眼精疲労につながります。
2.目の病気
まずは「ドライアイ」です。ドライアイになると、目の表面が乾燥して眼球が傷つきやすくなります。「眼精疲労の患者の約6割にドライアイの症状がある」といわれます。マスクを長時間着用していると、マスクの上部から息が漏れ、目の表面が乾き、ドライアイが加速するというデータもあります。
また、網膜に像を結ぶレンズの働きをする水晶体が白く濁る「白内障」も、濁りによる見えづらさや、光が乱反射することによるまぶしさが眼精疲労の原因になります。眼圧が高まり視神経や網膜に支障をきたす「緑内障」や、まぶたが垂れ下がったまま上がりにくくなる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」も、視界が狭まるのに無理にあらがおうとした結果、眼精疲労を引き起こすことがあります。
3.カラダの病気
眼精疲労の原因になるカラダの病気としては、風邪やインフルエンザなどの感染症や、高血圧や糖尿病、副鼻腔炎といった慢性的な病気が挙げられます。また、虫歯や歯周病、更年期障害から起きる頭痛や目の奥の痛みなどが、眼精疲労の原因になることもあります。
4.眼鏡やコンタクトなど矯正器具の不具合
近視や乱視、遠視、老眼などの「屈折異常」を矯正するメガネやコンタクトの度数が合っていないことも、眼精疲労の原因の1つです。左右の視力が大きく異なる場合、眼鏡による矯正で左右の像の大きさが異なることで、眼精疲労の原因になることもあります。
2)眼精疲労の治療法の例
眼精疲労になる原因によって治療方法は違います。ですので、症状に気付いたら、早めに眼科を受診しましょう。目の病気であればそのまま眼科で治療を行えますし、カラダの病気など目以外に原因があることが分かれば、内科などの適切な診療科を紹介してもらえます。
軽度の眼精疲労の場合、眼鏡の度数調整、ビタミン点眼、調節機能を改善する目薬の点眼などで症状を和らげる治療法があります。他にも目の周りを温める温罨法(おんあんぽう)、眼の周りを冷やす冷罨法(れいあんぽう)などで目や周辺の筋肉の血管を刺激し、血流を促すことも効果的です。
なお、眼精疲労対策として市販の目薬を使う人も多いですが、種類が多いので、自分の症状に合った目薬を選ぶのはなかなか難しいです。通常、パッケージの「疲れ目」「ドライアイ」「充血」などの文言を参考にして選びますが、自信がなければ、医師に目薬を処方してもらうようにしましょう。
3 眼精疲労への対策ポイント
1)「VDT健診などの各種検診」「オンライン診療」がおすすめ
眼精疲労は、「症状に気付いたら、早めに医者に相談する」ことが大切です。社員に確実に受診を促したいのであれば、会社が主体となって、
VDT健診をはじめ、視力・視野検査、眼圧測定、顕微鏡検査、眼底検査などを実施
しましょう(ただし、定期健康診断のように受診を義務にする場合、就業規則の変更が必要)。人間ドックのオプションで、こうした目の検査を実施してくれる病院もあります。
また、もう1つおすすめしたいのが「オンライン診療」の活用です。これは、
スマホなどを使って、ドライアイや目の腫れなどについて診察を受けられる
というものです。視力・視野検査などはできませんが、気になる症状について医師に相談できれば、次のアクションの助けになります。忙しくて、なかなか眼科に行く時間が取れないビジネスパーソンでも気軽に利用できます。オフィス環境を整えることも、眼精疲労対策として有効です。具体的には、
- パソコンなどのVDTの連続作業時間に制限を設ける
- コントラストや輝度を下げる
- ディスプレイ位置を工夫する(目からの距離・高さ)
- 太陽光が画面に入り込まないようにカーテンを引く
- エアコンの風が直接目に当たらないように風よけをデスクに立てる
- 目に優しい照明を利用する(100~500ルクス)
などが挙げられます。
この他、目の異常が常態化してくると、本人が「そもそも良好な状態がどんなものだったか」が分からなくなってくるケースがあるので、会社が眼精疲労に役立つ知識を職場内で共有する仕組みを整えることも重要です(外部講師を招いての勉強会など)。
2)セルフケアのポイントは「作業環境」「食生活」「眼鏡」などさまざま
眼精疲労を予防するためには目を酷使しないことが一番です。そのために、「目を大事にするセルフケア」に取り組みましょう。
例えば、日々の業務の作業環境。パソコンのディスプレイの位置が高いと目が疲れるので、ディスプレイ位置は目から40センチ以上離し、少し見下ろす程度の高さに配置するようにします。「1時間ごと」など時間を決めて、パソコンから離れる休憩時間を設けることも必要です。
また、きちんと睡眠時間を取るとともに、ビタミンAやビタミンB1、B6、ビタミンEが豊富なレバーやうなぎ、豚肉など「目にいい」食材を意識して食べましょう。抗酸化作用アントシアニンを含むブルーベリーなども、疲れ目の改善に良いとされています。
コンタクトレンズを常用していてドライアイが気になる人は、思い切って眼鏡に切り替えるというのも1つの選択です。他にも目の潤いを保つために定期的な点眼や室内の加湿、意識的にまばたきを増やす、目の体操、こめかみから頭のマッサージ、顔や首のツボを押すなど、個人でできることはたくさんあります。
以上(2024年3月作成)
(執筆 株式会社フェアワーク 吉田健一)
https://fairwork.jp/
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画像:polkadot-Adobe Stock
【規程・文例集】復職時に使える「時短勤務の労働条件に関する合意書」のひな型
書いてあること
- 主な読者:私傷病休職から復職する社員に、時短勤務を適用することを検討している経営者
- 課題:当面の間、社員の働き方が変わることになるが、何に注意すればよいか分からない
- 解決策:時短勤務の労働条件(労働時間や賃金など)が曖昧だと社員とトラブルになる。会社と社員との間で合意書を取り交わし、労働条件を明確にしておく
1 デリケートな復職時こそ、労働条件を明確にする
「休職」とは、社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、労働を一定期間免除する制度です。会社が就業規則等で休職期間の上限を定め、社員が休職期間の満了前に働ける状態にまで回復したら「復職」させる、というのが一般的な流れです。
とはいえ、復職は非常にデリケートな問題で、社員が復職直後から休職前と同じように働こうとして再び体調を崩し、そのまま退職してしまうケースなどが少なくありません。私傷病の内容などにもよりますが、
復職後は当面の間、労働時間の短縮(いわゆる「時短勤務」)などによって業務の負担が軽くなるよう配慮し、経過を見ながら徐々に従前の働き方に戻していく
のが無難です。
ただし、休職前と復職後で労働条件が変わる場合、あらかじめその変更内容について会社と社員が合意しておかないと、トラブルになる恐れがあります。特に時短勤務の場合、労働時間や賃金について、次のような点に注意する必要があります。
- 社員が無理なく働ける労働時間か、始業・終業時刻のルールや時間外労働の有無などを明確にしているか
- 労働時間を短縮した分だけ賃金の支給額が減る場合、具体的な支給額や計算方法などを明確にしているか
次章では、私傷病休職からの復職時を想定した「時短勤務の労働条件の合意書」のひな型(専門家監修付き)を紹介します。
2 「時短勤務の労働条件に関する合意書」のひな型
以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【時短勤務の労働条件に関する合意書】
株式会社○○(以下「甲」)と、従業員○○(以下「乙」)は、乙が○年○月○日から開始する時短勤務の労働条件について、下記の通り合意する。
第1条(目的)
本合意書は、乙が私傷病休職(○年○月○日から○年○月○日まで)から復帰後、休職事由の発生以前の通常の業務と、質・量ともに同程度の業務(以下、通常の業務という)を遂行できる状態に回復するまでの間、時短勤務を行うために必要な労働条件を定めることを目的とする。
第2条(適用)
1)変更後の労働条件は、第4条から第7条までの通りとする。本合意書に定めのない労働条件については、原則として従前(当該私傷病休職の開始日の前日である○年○月○日以前、以下同じ)の通りとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が合意の上、労働条件を決定する。
2)本合意書で定める労働条件の適用期間は、○年○月○日から○年○月○日までの3カ月間とする。ただし、甲が必要と判断した場合、その期間を短縮することがある。
第3条(時短勤務の終了)
1)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められる場合は、原則として従前と同一の労働条件で復職するものとする。ただし、従前の内容を適用することに支障があるものについては、甲乙が協議の上、労働条件を決定する。
2)時短勤務終了時に、乙が通常の業務を遂行できる状態まで回復していると認められない場合は、甲は乙に対し、再度の休職を命じることがある。ただし、甲が必要と認める場合は、時短勤務期間を3カ月間、1回に限り延長することができる。
3)甲は第1項、第2項において、乙が通常の業務を遂行できる状態に回復したかを判断するため、乙に対し、医師の診断書の提出を求めることがある。また、甲が診断書を作成した医師に面談を求めた場合、乙はその実現に協力しなければならない。
4)甲が第2項において、乙に対し、再度の休職を命じる場合の休職期間および休職期間を満了した場合の取り扱いについては、就業規則第○条による。
第4条(労働時間)
1)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、1日8時間、1週40時間の範囲内で、日・週ごとの労働時間を決定し、乙に対し事前に通知する。
2)甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、午前8時から午後5時の間で始業・終業時刻を日毎に決定し、乙に対し事前に通知する。
3)乙は、第2項により事前に通知された始業時刻に遅刻し、もしくは終業時刻前に業務を終了する場合、甲に都度報告しなければならない。
4)乙は時短勤務中、甲が特別に認めた場合を除き、時間外労働、休日労働、深夜労働をしてはならない。
第5条(業務内容)
甲は、乙の心身の状態と本人の希望を考慮の上、業務内容を決定する。
第6条(休日・休暇)
休日・休暇の扱いは、従前の通りとする。
第7条(賃金)
1)賃金は、日給月給制から時給制に変更する。
2)時給単価は、業務内容、従前の基本給・諸手当の金額等を勘案し、○○円とする。
3)通勤手当は、実費を支給する。
4)割増賃金等(所定労働時間外の労働に対する賃金、法定労働時間外の労働に対する割増賃金、法定休日の労働に対する割増賃金、深夜の労働に対する割増賃金)の扱いは、従前の通りとする。
5)控除項目(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税、持株会拠出金など)の扱いは、従前の通りとする。
上記内容を証するために本合意書2通を作成し、甲、乙、立会人が記名捺印の上、甲乙が各々1通を所持する。
○年○月○日
甲
乙
立会人
以上(2024年4月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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画像:ESB Professional-shutterstock
【収支シミュレーション】 介護老人保健施設の開業収支モデル
書いてあること
- 主な読者:介護老人保健施設の開設を検討している人
- 課題:自社の所有地に介護老人保健施設を新築する
- 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる
1 介護老人保健施設とは
介護老人保健施設とは
入院治療を必要としない要介護高齢者などを対象に、リハビリテーションや日常的な看護・介護を行うことで心身諸機能の改善や日常生活行動の向上を促し、最終的に家庭に復帰させることを目的とする施設
です。
介護老人保健施設では、入所サービス以外に、通所リハビリや短期入所(ショートステイ)などのサービスも提供しています。
介護老人保健施設を開設するには、
- 法人格を取得する(介護老人保健施設を開設できるのは、「地方公共団体」「医療法人」「社会福祉法人」「その他厚生労働大臣が定める者」に限られています)
- 厚生労働省令で定められた事項を都道府県知事に届け出る
- 厚生労働省が定める「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」を満たす
- 施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から介護保険法に基づく「介護保健施設」の指定を受ける
必要があります。
なお、市区町村によって基準が異なる場合や、設置を計画していた施設の数を満たしているといった理由で申請を受け付けていない場合があるため、事前に市区町村の担当部署に確認しましょう。
また、市区町村によって施設整備費や設備整備費などに補助金を出していることもあるので、併せて確認するとよいでしょう。
2 開業収支を考える
1)前提条件
1.売上高
売上高は、施設定員を70人として年間4億7000万円とします。算出式は次の通りです。
(介護サービス10万800円×12カ月+日常生活費等1万8330円×365日)×定員70人×稼働率85%≒4億7500万円
介護老人保健施設の売上高は、介護サービス費と日常生活費等から成ります。
厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和5年11月審査分)第5表 介護サービス受給者1人当たり費用額,要介護状態区分・サービス種類別」によると、短期入所療養介護(老健)の介護サービス受給者1人当たりの費用額は10万800円となっています。介護保険が適応されるので利用者の負担は1割(一定基準以上の所得がある場合は2割または3割)となります。
日常生活費等は、食材料費、教育娯楽費、日用品代などで、利用者が実費を負担します。
2.原価率
厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(4)その他を参考に売上高の32.0%とします。
3.人件費
厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」の介護事業費用(1)給与費64.2%を参考に3億180万円(4億7000万円×64.2%)とします。
4. 施設設備整備費
建物(延床面積3000平方メートル。1平方メートル当たり工事単価31万円)は9億3000万円。建物附属設備(電気・給排水・消火設備など)は1億3500万円とします。
その他の諸条件は図表1の通りです。
2)収支シミュレーション
3 介護老人保健施設の1施設1カ月当たり収支
厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果」によると、介護老人保健施設の1施設1カ月当たり収支は次の通りです。
以上(2024年3月更新)
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画像:mapo-Adobe Stock