健康診断のやりっ放しは禁物! 本当に大切なのは「異常」の所見があった社員への対応

書いてあること

  • 主な読者:健康診断をすることで義務を果たしたと思い、やりっ放しにしている経営者
  • 課題:「異常」の所見があった社員への対応が義務とは知らなかった。何をすればいい?
  • 解決策:医師等の意見を聴取し、配置転換など就業上必要な措置を講じる

1 健康診断は「異常」が発見されてからが本番!

会社は労働安全衛生法などに基づき、法定の健康診断(定期健康診断など)を実施する義務があります。ただ、これで終わりではなく、「異常」の所見があった社員について、

医師等(医師または歯科医師)の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮や配置転換などをしなければならない

ことをご存知でしょうか。この義務には罰則がなく、「健康診断の後は社員の責任」という勘違いもあってか、

  • 健康診断の結果を確認していない
  • 「異常」の所見があった社員に、病院に行くよう忠告するだけで終わっている

など、健康診断がやりっ放しになりがちです。

健康診断は社員の健康を守るために実施するものであり、

「異常」が発見されてからが本番!

といっても過言ではありません。ちなみに、定期健康診断で「異常」の所見があった社員の割合は2022年時点で58.3%に上ります。会社が何もしなければ、6割近い社員の健康が危ぶまれると思って、以降で紹介する「異常」の所見があった社員への対応をご確認ください。

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2 「異常なし」以外は「異常」の所見あり

健康診断結果には、社員の健康状態が「判定区分」として記載されています。判定区分の設定は医療機関ごとに異なりますが、例えば次のようなイメージです。

  1. 異常なし:健康状態に特に問題はない
  2. 軽度異常:数値上は異常を認めるが、日常生活に差し支えない
  3. 経過観察:治療や精密検査は不要だが、生活習慣を改善しつつ経過を見る必要がある
  4. 要治療:病気と考えられるので、治療や保健指導を受ける必要がある
  5. 要精密検査:さらに詳しく検査を行い、病気の有無を確認する必要がある

上の5つの場合、「1.異常なし」以外は「異常」の所見があるものとなります。医療機関がこれ以外の判定区分を設定している場合も、

「所見を認めない」など、明らかに問題ないと判断できるもの以外は、基本的に「異常」の所見があるものと考えて差し支えない

でしょう。

3 医師等の意見聴取はどうやって進める?

「異常」の所見があった社員については、

健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置について医師等の意見を聴取

しなければなりません。意見を聴取する相手は、

  • 会社の産業医(社員数が常時50人以上の場合、選任は義務)
  • 地域産業保健センター(労働者健康安全機構が運営)の健康相談窓口
  • 社員の主治医(社員が主治医の意見を会社に伝える)

などがあります。通常、社員の健康診断結果を医師等に渡した上で意見を聴取します。これは法令で認められた行為ですが、健康診断結果は「要配慮個人情報」なので、その取り扱いには注意しましょう。

さて、厚生労働省の指針では、医師等から主に聴取すべき意見として次の2つが示されています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

  1. 就業区分(通常勤務でよいか、就業制限や休業が必要か)と必要な措置(労働時間の短縮、作業の転換など)に関する意見
  2. 作業環境管理(施設や設備の状況など)や作業管理(作業方法など)に関する意見

意見聴取は、口頭と書面(意見書など)のどちらで行っても構いませんが、

聴取した意見は、健康診断結果の個人票に記載しなければならない

ので注意してください。

4 就業上必要な措置って具体的に何?

就業上必要な措置の内容は、おおまかに次のように区分できます。

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多くの場合は「通常の勤務でよい」ということになりますが、そうでなければ医師等の意見を勘案して措置を実施します。その際、

措置の対象となる社員の意見も聴き、内容について了解を得た上で実施するのが望ましい

とされています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

なお、措置を講じるために社員の上司などの協力を求める場合、社員の病気などに関する情報は提供せず、措置の目的や内容を中心に伝えるのが基本です。健康管理業務に従事しない上司に要配慮個人情報を提供すると、個人情報保護法に違反する恐れがあります。

5 社員に治療や精密検査を受けるよう命令できる?

ここまで会社の義務について紹介してきましたが、社員も自らの健康維持のために努力しなければなりません。例えば、

通常の勤務でよい(就業上必要な措置はない)が、治療や精密検査は必要

というのはよくあるケースですが、社員が治療や精密検査を受けないまま健康状態を悪化させたら、健康診断を実施した意味がありません。

こうした場合、就業規則に、

健康診断で「異常」の所見があるなど、会社が必要と認めた場合、治療や精密検査を受けなければならない

といったことを定めるとよいでしょう。また、命令する以上は、会社による費用負担、就業時間中の受診、受診している間の給与の支払いなどについても検討する必要があるでしょう。

6 「異常」の所見があった場合に役立つ制度はある?

健康診断の結果、次の4つの検査項目全てで「異常」の所見があった社員(例外あり)は、労災保険の「二次健康診断等給付」を受けられます。

  1. 血圧検査
  2. 血中脂質検査
  3. 血糖検査
  4. 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定

二次健康診断等給付の内容は、

  1. 二次健康診断:脳血管と心臓の状態を把握するために必要な検査
  2. 特定保健指導:脳・心臓疾患の発症の予防を図るための保健指導

の2種類で、どちらも無料です(どちらも年度内に1回まで)。実施義務はありませんが、該当する社員がいる場合、積極的に受診を奨めるとよいでしょう。

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以上(2024年3月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Marina Zlochin-Adobe Stock

【規程・文例集】最新法令に対応した 「安全衛生管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生に関する社内ルールを整備したい経営者
  • 課題:一口に安全衛生といっても幅広く、何を定めればよいか分からない
  • 解決策:まずは安全衛生に関する施策を組織的に実施できるよう体制を整えることが大切。会社の安全衛生管理体制に重点を置いて整備する

1 安全衛生管理体制と安全衛生管理規程

会社が社員を雇用し、両者の間で労働契約が結ばれると、

  • 会社は、社員が安全で衛生的に働けるよう配慮する「安全配慮義務」
  • 社員は、業務に支障がないよう自ら健康管理に取り組む「自己保健義務」

を負います。この2つの義務が確実に果たされるようにするには、会社と社員が協力して安全衛生に取り組むための社内ルールが必要になります。それが「安全衛生管理規程」です。

安全衛生管理規程の中心は「安全衛生管理体制」です。安全衛生管理体制とは、

会社が安全衛生に関する施策を実施するための担当者・委員会などの体制のこと

です。会社は、この安全衛生管理体制、各担当者の職務などを明文化することで、安全衛生に関する施策を組織的に実施します。担当者以外の社員も、この規程の内容を理解して会社の実施する措置に協力しなければなりません。なお、法律上の安全衛生管理体制には含まれませんが、

2024年4月1日から、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)では、「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の選任が義務付けられる

ようになります。対象となる会社が限られますが、該当する場合は押さえておきましょう。

以降で、安全衛生管理規程のひな型を紹介します。なお、実際に会社が定めるべき安全衛生管理体制の内容は、社員数や業種によって異なりますので注意が必要です。詳細については、次の記事をご確認ください。

2 安全衛生管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容や選任が必要となる管理者等が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した2024年4月1日から選任が義務付けられる追加される「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」については、第10条と第11条に記載しています。

【安全衛生管理規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、会社における安全衛生管理を実施するために、会社と従業員が取り組む基本的な事項を定めるものである。

第2条(責務)

1)会社は、法令の規定および会社の業務推進体制、従業員の就業の実態に照らして必要な安全衛生管理の体制を確立し、労働災害防止、従業員の健康の保持増進を図るものとする。

2)従業員は法令および本規程その他社内諸規程を誠実に順守し、会社の実施する措置に協力して労働災害防止に努めるとともに、自己の健康の保持増進に努めなければならない。

第3条(安全衛生管理体制等)

会社は、安全衛生管理の推進・維持のため、法令に基づき次の管理者および会議体を置く。

  1. 総括安全衛生管理者。
  2. 安全管理者。
  3. 衛生管理者。
  4. 産業医。
  5. 作業主任者。
  6. 化学物質管理者。
  7. 保護具着用管理責任者。
  8. 安全衛生委員会。

第4条(年間安全衛生管理計画)

会社は、年度(4月1日より翌年3月31日までとする)ごとに安全衛生管理目標およびその目標を達成するために必要な実施計画を立案するものとする。

  1. 作業設備や作業環境の改善。
  2. 工程および作業方法の改善。
  3. 点検表および作業手順などの整備。
  4. 作業事項および管理重点事項などの整備。
  5. 安全衛生意識高揚のための施策の立案。
  6. 検査、健康診断、環境測定、防火訓練など定期的に実施する事項。
  7. 安全週間、衛生週間および一斉点検などの主要行事。
  8. その他の必要事項。

第5条(総括安全衛生管理者の職務)

法令に基づき会社が選任した総括安全衛生管理者は、安全管理者および衛生管理者を指揮するとともに、次の事項を統括管理する。

  1. 従業員の危険または健康障害を防止するための措置に関すること。
  2. 従業員の安全または衛生のための教育の実施に関すること。
  3. 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
  4. 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること。
  5. 安全衛生に関する方針の表明に関すること。
  6. 作業行動などに起因する危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること。
  7. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること。

第6条(安全管理者の職務)

1)法令に基づき会社が選任した安全管理者は、前条に定める統括安全衛生管理者の職務のうち安全に係る技術的事項を管理するものとし、次の事項を行う。

  1. 建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適切な防止の措置。
  2. 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検。
  3. 作業の安全についての教育および訓練。
  4. 発生した災害原因の調査および対策の検討。
  5. 消防および避難の訓練。
  6. 作業の責任者その他安全に関する補助者の監督。
  7. 安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録。

2)安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険の恐れがあるときは、直ちにその危険を防止するための必要な措置を講じる。

第7条(衛生管理者の職務)

1)法令に基づき会社が選任した衛生管理者は、第5条に定める統括安全衛生管理者の職務のうち衛生に係る技術的事項を管理するものとし、次の事項を行う。

  1. 健康に異常のある者の発見および措置。
  2. 作業環境の衛生上の調査。
  3. 作業条件、施設などの衛生上の改善。
  4. 労働衛生保護具、救急用具などの点検および整備。
  5. 衛生教育、健康相談その他従業員の健康保持に必要な事項。
  6. 従業員の負傷、疾病、死亡、欠勤および異動に関する統計の作成。
  7. 衛生日誌の記載等職務上の記録の整備。

2)衛生管理者は、毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法または衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに健康障害を防止するための必要な措置を講じる。

第8条(産業医の職務)

1)法令に基づき会社が選任した産業医は、次の事項を医学的見地から管理する。

  1. 健康診断および面接指導などの実施、並びにこれらの結果に基づく従業員の健康を保持するための措置に関すること。
  2. 作業環境の維持管理に関すること。
  3. 作業の管理に関すること。
  4. 従業員の健康管理に関すること。
  5. 健康教育、健康相談その他従業員の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  6. 衛生教育に関すること。
  7. 従業員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること。

2)産業医は、毎月1回、作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに必要な措置を講じる。

3)会社は、法令に基づき、産業医が前項の職務を遂行するために必要な情報を提供する。

4)産業医は、第1項に定める事項について会社に対する勧告、衛生管理者に対する指導または助言を行う。会社は、産業医が従業員の健康を保持するために必要な勧告をした場合、その内容を安全衛生委員会に報告する。

第9条(作業主任者の職務)

法令に基づき会社が選任した作業主任者は、高圧室内作業その他労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業を行う事業場において、当該業務に従事する従業員の指揮・使用する機械等の点検・その他法令等で定められた職務を行う。

第10条(化学物質管理者の職務)

法令に基づき会社が選任した化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場において、事業場の化学物質を管理するため、次の事項を行う。

  1. ラベル・SDS等の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  4. 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  5. 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  6. ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  7. リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応

第11条(保護具着用管理責任者の職務)

法令に基づき会社が選任した保護具着用管理責任者は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場において、従業員に保護具を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を行う。

第12条(安全衛生委員会)

1)会社は、法令に基づき、会社と従業員が協力して職場の安全衛生問題を調査・解決するなど、安全衛生管理を徹底するために安全衛生委員会(以下「委員会」)を設置する。

2)委員会の組織、運営の詳細は、別途定める「安全衛生委員会規程」(省略)による。

第13条(安全衛生教育の実施)

1)会社は、従業員を採用したとき、配置転換等により作業内容の変更を行ったときに、従業員が担当する業務に必要な安全衛生教育を実施する。

2)危険または有害な業務で、法令で定めるものに従事する従業員には、法令に基づく特別教育を実施する。会社は、特別教育の受講者や科目などの記録を作成し、法令の定める期間、これを保管する。

第14条(安全衛生教育の方法)

前条の安全衛生教育は、社内で実施する他、社外講習・社外研修も併せて行うものとする。

第15条(就業制限)

1)会社は、クレーンの運転など法令で定める特定の危険業務については、当該業務に関わる免許を有する従業員、もしくは技能修了証書を有する従業員でなければ従事させてはならない。

2)前項の就業制限業務に就くことのできる従業員以外は、当該業務を行ってはならない。

第16条(標識の掲示)

会社は、作業場所の見やすい場所に、安全衛生に関する標識を掲示する。

第17条(設備・環境の整備改善)

会社は、法令に基づいて作業設備や作業環境を整備するとともに、さらなる安全を実現するように努めなければならない。

第18条(作業方法の整備改善)

会社は、法令の作業方法を順守しつつ、より安全かつ衛生的な方法の確立に努めるものとする。

第19条(安全衛生点検)

会社は、災害の未然防止を図るため、次の区分による安全衛生点検を行う。会社は点検結果をまとめ、法令の定める期間、これを保管する。

  1. 日常点検
    各作業場所において、就業前後に日々行う安全点検。
  2. 定期点検
    各作業場所において、あらかじめ決められた方法で一定の期日に行う点検。
  3. 巡視点検
    各作業場所において、あらかじめ決められた方法で一定の期日に巡視する点検。

第20条(災害発生時の措置)

1)災害が発生した場合、発見者は関係者とともに直ちに被災者の救護措置を講じ、その生命、身体の保全に万全を期すものとする。

2)災害が発生した場合は、発見者は関係者とともに災害を最小限にとどめるため、非常停止などの応急措置を講じるとともに、その旨を総括安全衛生管理者および所属部署の責任者など関係者に通報しなければならない。

3)会社は、災害または事故の原因を調査し、同種災害の再発防止策を講じるものとする。

第21条(健康診断)

1)会社は、従業員を採用した際の雇入時健康診断、年1回の定期健康診断など、法令で定める健康診断を実施するものとする。

2)健康診断の検査項目は法令に定めるものとする。ただし、会社または産業医もしくは検査を実施した医師が必要と認める検査項目がある場合は、それについても行う。

3)従業員は、会社が行う健康診断を正当な理由なくして拒むことはできない。

4)健康診断の結果、有所見者について、産業医は適切な指導を行う。就業制限・配置転換は医師等の意見を聴取し、会社が決定・指示するものとする。

5)会社および健康診断実施の事務に従事した従業員は、その事務に従事したことによって知り得た従業員の身体の健康上の秘密を守らなくてはならない。

6)会社は、法令の定める期間、健康診断の結果を保管する。

第22条(心理的な負担の程度を把握するための検査)

1)会社は、年に1回、希望者を対象とした「心理的な負担の程度を把握するための検査」(以下「ストレスチェック」)を実施するものとする。

2)ストレスチェックの調査項目は「職業性ストレス簡易調査票」を基本とし、必要に応じて会社が追加したものとする。

3)従業員は、会社が行うストレスチェックを受検するよう努めるものとする。ただし、ストレスチェックの受検を強要するものではない。

4)ストレスチェックの結果、特に高ストレス者について、従業員から申し出があった場合は産業医等のストレスチェックの実施者は適切な指導を行う。就業制限・配置転換は医師等の意見を聴取し、会社が決定・指示するものとする。

5)会社は、当該従業員の同意なくして、ストレスチェックの結果を閲覧することはできない。

6)会社は、法令の定める期間、ストレスチェックの結果を保管する。

7)会社およびストレスチェック・高ストレス者への面接指導の実施の事務に従事した者は、その事務に従事したことによって知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

第23条(面接指導)

1)会社は、1カ月当たりの時間外労働(休日労働を含む)が80時間を超えた従業員から申し出があった場合、医師の面接指導を行うものとする。

2)会社および面接指導実施の事務に従事した従業員は、その事務に従事したことによって知り得た従業員の精神状態等に関する秘密を守らなくてはならない。

3)会社は、法令の定める期間、面接指導の結果を保管する。

第24条(従業員の遵守事項)

1)従業員は労働災害防止のために、次に定める事項を遵守しなければならない。

  1. 営業車両などを運行する場合は、交通安全に努めなければならない。
  2. 会社が定めた作業方法、作業手順を順守しなければならない。
  3. 会社が定めた日常点検、定期点検をしなければならない。
  4. 会社が認めた場所以外では、飲食または喫煙をしてはならない。
  5. 会社が定めた作業場では指定のヘルメットなど安全装備を着用しなければならない。
  6. 整理整頓・清潔を心掛けなければならない。
  7. その他、安全衛生管理の実施に関する事項については、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医の指示に従わなければならない。

2)従業員は、業務遂行時に災害には至らなかったものの災害につながりかねない出来事(ヒヤリとしたり、ハッとしたりしたこと)があった場合は、直ちに総括安全衛生管理者または安全管理者もしくは所属部署の責任者に報告しなければならない。

第25条(罰則)

従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第26条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】最新法令に対応した「安全衛生委員会規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生委員会に関する社内ルールを整備したい経営者
  • 課題:具体的に何を定めるべきなのか分からない
  • 解決策:委員会の構成や調査審議事項などの基本的なルールは労働安全衛生法の定めに準拠しつつ、法令に定めのない委員の任期や決議の方法などについても定める

1 安全衛生委員会と安全衛生委員会規程

労働安全衛生法により、一定の要件を満たす会社は

  • 安全委員会:社員の危険防止などに関する事項を調査審議する委員会
  • 衛生委員会:社員の健康障害防止などに関する事項を調査審議する委員会

を設置しなければなりません。安全委員会と衛生委員会両方の設置義務がある場合、両者をまとめて「安全衛生委員会」とできますが、広範囲にわたる調査審議を円滑に進行するためには、明文化された社内ルールが必要になります。それが「安全衛生委員会規程」です。

安全衛生委員会規程には、

委員会の構成、委員の任期、調査審議事項、決議の方法など

を定めます。委員会の構成や調査審議事項については、労働安全衛生法の定めに準拠しますが、委員の任期や決議の方法など法令に定めがない事項については、会社が独自に定めます。

なお、対象となる会社が限られますが、2024年4月1日からは衛生委員会側の調査審議事項に

  • 「リスクアセスメント対象物」のうち「濃度基準値設定物質」に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関する事項
  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断の結果と、結果に基づく措置に関する事項
  • 濃度基準値設定物質に関する健康診断の結果と、結果に基づき講ずる措置に関する事項

が追加されます。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のことで、2024年4月1日から、リスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、必要に応じて健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じることが義務付けられます。

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のことで、2024年4月1日から、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じることが義務付けられます。

以降で、安全衛生委員会規程のひな型を紹介します。なお、安全衛生委員会(安全委員会、衛生委員会)の基本的な知識については、次の記事をご確認ください。

2 安全衛生委員会規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した2024年4月1日から追加される調査審議事項(リスクアセスメント対象物、濃度基準値設定物質)については、第6条(調査審議事項)第17号(b.からd.)に記載しています。

【安全衛生委員会規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、別途定める「安全衛生管理規程」第○条に基づき、安全衛生委員会(以下「委員会」)の構成、役割などを定めるものである。

第2条(構成)

1)委員会の委員は、次の人員をもって構成する。

  1. 委員長(1名)。
    総括安全衛生管理者またはこれに準ずる者で会社が指名した者。
  2. 副委員長( 名)。
    委員のうちから互選した者。
  3. 安全管理者のうち会社が指名した者( 名)。
  4. 衛生管理者のうち会社が指名した者( 名)。
  5. 産業医のうち会社が指名した者( 名)。
  6. 安全および衛生に関する経験を有する者から会社が指名した者( 名)。

2)会社は当事業場に所属する作業環境測定士を委員として指名することがある。

3)第1項第1号の委員長以外の委員の半数は、当事業場の従業員の過半数を代表する者の推薦した従業員とする。

第3条(役割)

各委員の役割は、次の通りとする。

  1. 委員長
    委員長は、委員会を統括するとともに、会議の議長を務め、委員会の付議事項およびその他必要な事項を処理する。
  2. 副委員長
    副委員長は、委員長を補佐し、委員長の不在時などはこれに代わって委員会を代表する。
  3. 委員
    委員は、委員会に出席し調査審議事項を審議する。また、常に職場環境や安全衛生に関する事項に留意し、安全衛生管理活動に積極的に寄与するものとする。

第4条(任期)

1)委員長および委員の任期は1年とし、毎年4月1日より翌年3月31日までとする。ただし、再任は妨げない。

2)委員に欠員が生じたときは速やかに補充する。

3)補充により委員に指名された者の任期は、前任者の残存期間とする。

第5条(事務局の設置)

1)委員会の事務局は、総務部とし、主として次の事項を行う。

  1. 委員会の招集および付議に関する事項。
  2. 委員会に必要な資料の準備および配布に関する事項。
  3. 委員会の議事録の作成、配布および保管に関する事項。
  4. 委員との連絡およびその活動計画の調整。
  5. その他委員会に関連する事務。

2)委員会の議事録および重要項目の記録は、これを3年間保存するものとする。

3)委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を次に掲げるいずれかの方法により従業員に周知するものとする。

  1. 常時各従業員の見やすい場所に掲示し、または備え付けること。
  2. 書面を従業員に交付すること。
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業場に従業員が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

第6条(調査審議事項)

委員会は、安全衛生管理規程第○条の目的を達成するため、次の事項を調査審議するとともに、必要な場合はその意見を会社に提出するものとする。

  1. 従業員の危険防止および健康障害防止の基本となるべき対策に関する事項。
  2. 従業員の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関する事項。
  3. 労働災害の原因および再発防止対策に関する事項。
  4. 安全衛生に関する規程の作成に関する事項。
  5. 法が定める事業者が実施すべき危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置で安全、衛生に関する事項。
  6. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関する事項。
  7. 安全衛生教育の実施計画の作成に関する事項。
  8. 法が定める事業者が実施すべき危険性または有害性等の調査およびその結果に基づく対策の策定に関する事項。
  9. 新規に採用する機械、器具その他の設備または原材料に関わる危険および健康障害の防止に関する事項。
  10. 法が定める事業者が実施すべき作業環境測定の結果およびその結果の評価に基づく対策の策定に関する事項。
  11. 定期健康診断等の結果およびその結果に基づく対策の策定に関する事項。
  12. 従業員の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画策定に関する事項。
  13. 長時間労働による従業員の健康障害防止を図るための対策の策定に関する事項。
  14. 従業員の精神的健康の保持増進を図るための対策の策定に関する事項。
  15. 「心理的な負担の程度を把握するための検査」(ストレスチェック)の周知方法、実施体制、実施方法、関連情報の取り扱い(保管、廃棄等)に関する事項(「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」における「5 衛生委員会等における調査審議の(2)衛生委員会等において調査審議すべき事項」に基づく)。
  16. 快適な職場環境の形成に向けての対策の策定に関する事項。
  17. リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場においては、次に定める事項。

    a.リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関する事項。

    b.リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質について、従業員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関する事項。

    c.リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関する事項。

    d.リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関する事項。

  18. 労働基準監督署長等から文書により命令、指示、勧告または指導を受けた事項のうち、従業員の危険の防止および健康障害の防止に関すること。
  19. その他安全衛生に必要と認められる重要な事項に関すること。

第7条(開催と招集)

1)委員会は、毎月1回定期的に開催する。ただし、委員長は、緊急性のある調査審議報告が発生したときなど必要と認めるときは、臨時に委員会を招集することができる。

2)委員会の開催場所は、開催の都度委員長が決定し、事務局から各委員に通知する。なお、委員長は各委員の業務状況その他の事情を考慮して必要と認める場合、書面、所定のテレビ会議システムその他対面によらない方法によって、委員会を開催することができる。

第8条(決議の方法)

委員会の決議は過半数の委員が出席し、その出席している委員の過半数の賛成をもって決定する。賛否同数の場合は委員長がこれを決定する。

第9条(委員以外の出席)

委員長が必要と認めたときは、委員以外の役員や従業員などを出席させることができる。

第10条(安全衛生小委員会)

委員会は、必要に応じ専門事項などを調査審議する安全衛生小委員会を設置することができる。

第11条(その他の事項)

法令および本規程に定める事項以外のことで、委員会の運営などに必要なその他の事項については委員会がこれを定める。

第12条(罰則)

役員および従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第13条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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【健康経営】最新法令に対応。会社に義務付けられている社員の健康管理の全て

書いてあること

  • 主な読者:会社が行う健康管理について網羅的に知りたい経営者、労務担当者
  • 課題:働き方が多様化し、会社としてきちんと対応できているか分からない
  • 解決策:「安全衛生管理体制の構築」「健康診断やストレスチェック制度の実施」「長時間労働の抑制」「社員が病気・けがをした場合の対応」を行う

1 安全配慮義務を果たすことが健康管理の基本

働き方改革やSDGsの観点から、社員の「健康」維持が大きく注目されています。会社には、

安全配慮義務:事業に用いる物的施設・設備、人的組織の管理を十分に行う義務

が課せられていています。また、労働基準法や労働安全衛生法では、会社に対して、社員の健康管理に関する義務を課しております。主に次の4つの取り組みが挙げられますが、これらは法令で定められた健康管理の基本で、しかも

2024年4月1日の法令の改正により、ルールが変わる箇所が複数ある

ので、しっかり押さえていきましょう。

  1. 安全衛生管理体制の構築
  2. 健康診断やストレスチェック制度の実施
  3. 長時間労働の抑制
  4. 社員が病気・けがをした場合の対応

2 安全衛生管理体制の構築

安全衛生管理体制とは、

労働安全衛生法に基づいて会社が整備する、社員の安全と衛生を守るための体制

です。具体的な内容を紹介します。

1)総括安全衛生管理者などの選任

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の担当者を選任する義務があります。

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「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、2024年4月1日から選任が義務付けられます。この2つは、厳密に言うと法律上の安全衛生管理体制には含まれないのですが、他の担当者や委員会と連携して安全衛生管理の職務に当たるので、押さえておきましょう。なお、表内の

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」が義務付けられている危険・有害物質のこと

です。

2)安全委員会などの設置

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の委員会を設置する義務があります。安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、まとめて「安全衛生委員会」とすることもできます。

画像2

なお、自社が選任すべき担当者や設置すべき委員会、具体的な職務内容などを知りたい場合、次のURLにジャンプし、特定のキーワード(担当者や委員会)をクリックすると便利です。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(「安全衛生キーワード」全用語一覧)■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index04.html

3 健康診断やストレスチェック制度の実施

1)健康診断の実施

会社には、法令で定められた健康診断(法定の健康診断)を実施する義務があります。法定の健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断等」があります。

  • 一般健康診断:定期的な健康診断(5種類)
  • 特殊健康診断等:特定の有害な業務に常時従事する社員または従事したことのある社員に行う健康診断(3種類)

それぞれの内容は次の通りです。

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なお、この他、図表1に含まれない(一般健康診断でも特殊健康診断等でもない)健康診断として、2024年4月1日から施行される

  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断
  • 濃度基準値設定物質(ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされているリスクアセスメント対象物)に関する健康診断

があります。前者はリスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、関係社員の意見を聴き必要があると認められるときに実施が義務付けられ、後者は社員が濃度基準値を超えて濃度基準値設定物質にばく露した恐れがある場合に実施が義務付けられます。

2)ストレスチェック制度の実施

ストレスチェック制度とは、

  • ストレスチェック:社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握するもので、医師、保健師、必要な研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師が実施する
  • 医師による面接指導:高ストレス者に対して医師が実施する

などの一連の施策です。事業者は、年1回以上、ストレスチェックを実施する義務があります。ただし、社員数が常時50人未満の事業場においては、当分の間、実施は努力義務です。

4 長時間労働の抑制

1)適切な労働時間管理

会社には、次のいずれかの方法で、全社員(管理監督者を含む)の労働時間を把握し、労働時間の記録に関する書類を5年間(当面の間は3年間)保存する義務があります。

  • タイムカードの記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録など客観的な記録を基礎として確認する方法
  • 使用者が自ら現認して確認する方法
  • 自己申告により確認する方法(社員への周知、労働実態の調査などが必要)

労働時間は原則として、

法定労働時間(原則、休憩時間を除き1日8時間、1週40時間)の範囲内

に収まるようにしなければなりません。通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、

時間外労働(法定労働時間を超える労働、いわゆる残業)、休日労働

を社員に命じられますが、労働基準法では、会社は図表4の「時間外労働の上限規制」を遵守しなければならないとされています。なお、2024年4月1日から、これまで適用が猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも、上限規制が全面適用されます。

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2)労働時間などに応じた医師による面接指導の実施

会社は、次の場合には、該当する社員に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。

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5 社員が病気・けがをした場合の対応

1)保険給付を申請するための事業主の証明

ここまで紹介した措置を講じていても、社員が病気・けがをすることはあります。その場合は早急に治療を受けさせ、必要に応じて休業・休業などの措置を取りましょう。その際、社員が一定の要件を満たしていれば、社員は、

  • 労働災害(業務災害または通勤災害)の場合、労災保険の給付
  • 私傷病の場合、健康保険の給付

を請求できます。

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労災保険の給付を請求する場合、社員は所定の請求書に必要事項を記入して、所轄労働基準監督署(直接または医療機関経由)に提出します(傷病(補償)年金については不要)。その際、

会社も社員が申告した労働災害の発生日時や発生状況について間違いがない旨を請求書に記入する必要があります。これを「事業主の証明」

といいます。

一方、健康保険の給付を請求する場合、基本的に会社は手続きに関与しませんが、

傷病手当金を請求する場合には、勤務状況や賃金の支払い状況などについて、事業主の証明が必要

になります。

2)復職の可否の判断

社員が病気・けがのために長期間働けない場合、社員を一定期間休業させ、回復を待つことになります。休業期間は、

  • 私傷病と通勤災害の場合、一般的に就業規則等で定める期間
  • 業務災害の場合、原則として休業が必要なくなるまでの期間

です。

私傷病と通勤災害の場合、就業規則等で定める期間を経過しても復職できないときは、就業規則の定めに従って、社員を解雇や退職扱いとします。ただし、

就業規則等の規定だけを理由に社員を解雇等すると、不当解雇と判断される恐れ

があります。そのため、休業期間中から社員、主治医と連絡を取り合い、復職の可能性等を慎重かつ十分に検討することが大切です。

また、業務災害の場合、原則として社員が休業する期間とその後30日間は解雇ができません。これを「解雇制限」といいます。ただし、療養開始から3年が経過し、次のいずれかに該当すると解雇制限が解除されます。もっとも、解雇制限が解除されても解雇が有効と認められるかは別問題であるため、注意が必要です。

  • 社員の負傷または疾病などが治癒しておらず、会社が平均賃金1200日分の打切補償を行った場合
  • 社員が労災保険の傷病補償年金を受けている(または受けることになった)場合

以上(2024年3月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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常勝将軍ナポレオンに学ぶ「戦うリーダー」の心構えを表す一言とは?

リーダーとは、希望を配る人のことである

ナポレオン・ボナパルトは、18~19世紀に活躍したフランスの軍人です。少年の頃から本来数年かけて卒業する士官学校を11カ月で卒業するなど非凡な才能を持っていたナポレオンは、軍人になった後、1793年にフランス革命に反対する反乱軍を24歳の若さで鎮圧し、英雄としてその名を轟(とどろ)かせます。そして、その後も数々の戦いに勝利し、「常勝将軍」と呼ばれるほど国民の人気を集め、やがてフランス第一帝政の皇帝に即位して強大な軍事政権をつくります。

冒頭の言葉は、そんなナポレオンのリーダー論を表す名言として有名です。ナポレオンは、軍事作戦を練る頭脳も、自分や軍にとっての好機を見極める観察眼も優れていましたが、ここぞというタイミングで味方を鼓舞する才能が特に抜きん出ていました。

例えば、1796年にフランス軍とオーストリア軍がアッダ川という川を挟んで対峙(たいじ)した際は、指揮官であるナポレオンが、自ら軍旗を掲げて敵軍に突撃し、味方の兵を勢い付かせてオーストリア軍を打ち破りました。

また、あの有名な「吾輩(わがはい)の辞書に、不可能の文字はない」という言葉も、1800年にイタリアに侵攻したオーストリア軍の虚を突くため、難所のアルプス越えを敢行したときに発したという説があります。

ナポレオンは、ただ配下に命令を下すのではなく、まず自分が率先して勇気を示すことで味方を動かすタイプの指揮官だったようです。

ナポレオンが皇帝になったのは、1804年のこと。もともと王政への不満からフランス革命を起こした国民が、彼を皇帝として受け入れたのは不思議な気もしますが、それもまた、自ら危険な前線に立って背中を見せ、味方を勝利に導くナポレオンの姿が国民の心を捉えた証しなのでしょう。

ここ一番で周りに勇気を示し、苦境を突破していく力。これは、今の経営者にも求められる資質です。会社が苦しいとき、ただ社員に「苦しいのはみんな同じだから我慢しよう」と言う経営者と、「私が引っ張るから共に苦境を乗り越えよう」と言う経営者、どちらが魅力的かは明らかです。

一方で、リーダーだからといって肩肘を張りすぎないこともまた大切です。何度もフランスを勝利に導いたナポレオンですが、1812年のロシア遠征で大敗を喫すると、とたんに力を失い、皇帝の座を追われます。「無敗の英雄」のイメージが彼の政権の支えになっていたために、それが崩れると支持を失ってしまったのです。

経営者は、常に英雄である必要はありません。いざというとき強いリーダーシップで会社を引っ張る心構えさえあれば、普段は信頼できる部下に任せてゆったり構えているぐらいがちょうどよいのかもしれません。

出典:「新約ナポレオンボナパルト。『吾輩の辞書に、不可能の文字はない』名言で知る皇帝の栄光と失脚。10分で読めるシリーズ」(shogo.p.sato、まんがびと、2014年12月)

以上(2024年2月作成)

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建設業の労災防止! 注文者や事業者それぞれの義務と、建設業特有の安全衛生管理体制をチェック

書いてあること

  • 主な読者:建設現場での安全管理を徹底したい建設業の経営者、労務担当者
  • 課題:多くの事業者が同じ場所で作業をする関係で、労働災害が起きやすい
  • 解決策:建設業特有の「労働災害防止対策」「安全衛生管理体制」のルールを再確認する

1 安全管理が大変だからこそ、ルールが重要な建設業

建設業は、墜落・転落などの労働災害(以下「労災」)が特に起きやすい業種です。危険な作業が多いのもそうですが、もう1つ大きな理由として、多くの事業者が同じ場所で作業をする「重層下請構造」のため、安全管理が難しいということが挙げられます。

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労働安全衛生法(以下「安衛法」)では、こうした建設業特有の事情に合わせた労災防止のルールを定めています。取り急ぎ押さえておくべきルールは、

  1. 注文者や事業者など、立場に応じて変わる労災防止対策の義務
  2. 統括安全衛生責任者など、建設業特有の安全衛生管理体制

です。以降で詳しく紹介しますので、不安がある場合はご一読ください。

2 立場に応じて変わる労災防止対策の義務

1)注文者、事業者、特定元方事業者それぞれの義務を整理

建設業の労災防止対策を考える上で、まず押さえておきたいのが安衛法の「注文者」「事業者」というワードです。簡単に言うと、

  • 注文者:仕事の全部または一部を他者に依頼する者
  • 事業者:自社の雇用する労働者に作業をさせる者

という意味で、それぞれに異なる労災防止対策が義務付けられています。言葉の意味は単純ですが、建設業の場合、前述した重層下請構造の関係で、誰が注文者で、誰が事業者かが分かりにくいので、念のため図で整理してみましょう。図表2の赤囲みの部分が該当者です。

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図表2の場合、注文者は「発注者、元請、一次下請」になります。二次下請は自分たちの仕事の一部を請け負わせる相手がいないため、注文者にはなりません。一方、事業者は「元請、一次下請、二次下請」になります。発注者は自社の雇用する労働者を現場で働かせるわけではないため、事業者(正確には建設現場の労災防止対策を実施すべき事業者)にはなりません。

さて、注文者と事業者には、それぞれ図表3の労災防止対策が義務付けられています。なお、事業者のうち、建設業・造船業の場合については、

発注者から直接建設等の仕事の依頼を受ける元請は、安衛法の「特定元方事業者」

に当たり、通常の事業者の義務に加えて、特定元方事業者の義務も果たさなければなりません。

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どれも大切な義務ですが、図表3の赤字の「健康障害防止措置」については、2023年4月1日に「一人親方等の安全衛生対策」に関する法改正がありましたので、事業者は義務の内容について認識の誤りがないか、いま一度確認しておきましょう。それ以外の各義務の詳細については、次のページなどを参考にしてください。

■厚生労働省「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について」■

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei15/

2)健康障害防止措置は、労働者だけでなく「一人親方等」も対象

健康障害防止措置とは、安衛法第22条で列挙されている「危険有害な作業」に従事する労働者が健康障害になるのを防ぐため、事業者が実施しなければならないとされる措置のことです。具体的には、

  1. 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
  2. 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
  3. 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
  4. 排気、排液または残さい物による健康障害

を防止するための措置を実施する義務があります。

建設業の場合、例えば、ずい道(トンネル)の掘削作業や金属の溶接作業などで、労働者が粉じんにさらされることがありますが、こうした場合は「粉じんを防ぐための保護具を労働者に着用させる」などの措置を実施する必要があります。また、

2023年4月1日からは、労働者に加えて「作業を請け負わせる一人親方等」「同じ場所で作業を行う労働者以外の人」についても、健康障害防止措置が義務付けられる

ようになっています。具体的な法改正の内容は、図表4の通りです。

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一人親方等や労働者以外の人に対して健康障害防止措置を実施する義務を負うのは、「その人たちに仕事を請け負わせる事業者」です。イメージは図表5の通りです。

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なお、元請(特定元方事業者)の場合、自ら仕事を請け負わせる一次下請や一人親方等に対して健康障害防止措置の実施義務を負うだけでなく、

下請(一次下請だけでなく全ての下請)が健康障害防止措置の実施義務に反している場合、その下請に対して必要な指示を行う義務

も負います。

3 建設業特有の安全衛生管理体制

前章で紹介した義務を確実に履行するため、各事業者には安全衛生管理体制の構築が義務付けられています。建設業の場合、図表6の通り、建設業特有の担当者の選任が必要となります。なお、労働者数は同じ場所で作業をする労働者(自社が雇用する者以外も含む)の人数です。

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以降で各担当者の概要、選任に必要な手続きを紹介します。なお、図表6は建設業特有の内容ですが、この他に通常の安全衛生管理体制(建設業以外の業種にも広く適用されるもの)の構築も必要となるため、注意してください。詳細は、次の記事をご確認ください。

1)統括安全衛生責任者

1.主な職務

元方安全衛生管理者などを指揮し、次の6つの事項を統括管理します。

  1. 協議組織の設置・運営
  2. 作業間の連絡・調整
  3. 作業場所の巡視(巡視の頻度については特に定めなし)
  4. 下請(関係請負人)が行う労働者の安全衛生教育に対する指導・援助
  5. 仕事の工程に関する計画、作業場所における機械、設備等の配置計画の作成、当該機械、設備等を使用する作業に関し下請(関係請負人)が安衛法等に基づき講ずべき措置についての指導
  6. その他労働災害防止のために必要な事項

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

建設現場において、事業を実質的に統括管理する者が担当します。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

2)元方安全衛生管理者

1.主な職務

統括安全衛生責任者が統括管理する事項のうち、技術的事項(安全・衛生に関する部分)の管理を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

大学または高等専門学校における理科系統の正規課程修了者で、3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験がある者など一定の資格を有する者でなければなりません。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

3)店社安全衛生管理者

1.主な職務

統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の選任義務がない建設現場にて、主に次の5つの職務を担当します。

  1. 建設現場における、統括安全衛生管理を担当する者(現場代理人等)に対する指導
  2. 作業場所の巡視(毎月1回以上)
  3. 労働者の作業の種類その他作業の実施状況の把握
  4. 協議組織の会議への参加
  5. 仕事の工程に関する計画、作業場所における機械、設備等の配置計画の作成、当該機械、設備等を使用する作業に関し下請(関係請負人)が安衛法等に基づき講ずべき措置が講じられているかの確認

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

大学または高等専門学校の卒業者等で、3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験がある者など一定の資格を有する者でなければなりません。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

4)安全衛生責任者

1.主な職務

建設業特有の安全衛生管理体制の中で、唯一下請(関係請負人)が選任する担当者で、次の6つの職務を担当します。

  1. 統括安全衛生責任者との連絡
  2. 統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡
  3. 2.の事項のうち、下請(関係請負人)に関するものの実施についての管理
  4. 下請(関係請負人)がその労働者の作業の実施に関し計画を作成する場合における当該計画と元請(特定元方事業者)が作成する仕事の工程に関する計画等との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整
  5. 労働者の混在作業に起因する労働災害に関する危険の有無の確認
  6. 下請(関係請負人)がその仕事の一部を他の請負人に請け負わせている場合における、その請負人の安全衛生責任者との作業間の連絡調整

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

担当者になるための要件については特に定めがありませんが、職長が選任されることが多いようです。なお、選任に当たり、現場を管轄する労働基準監督署などへの報告は不要です。ただし、選任した場合はその旨を元請(特定元方事業者)に遅滞なく通報する必要があります。

以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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108人の経営者に聞きました 社員に「転勤」を拒まれたことがある企業が過半数。転勤はオワコンか?

書いてあること

  • 主な読者:転勤制度の見直しを検討している経営者や労務担当者
  • 課題:転勤があると人材採用で不利になるし、社員が離職するきっかけにもなる
  • 解決策:社員が転勤を拒んだときは、転勤者を変更したり、手当を支給したりして対応するケースもある。足元では、労働条件通知書に「転勤の有無」などを記載することも忘れずに

1 サラリーマンの悲哀だった「転勤」も今は昔?

単身赴任は嫌だけど、会社の命令だから仕方ない……。

こんな時代は終わりを告げるかもしれません。なぜなら、社員の負担になる「不本意な転勤」を見直す動きが広まりつつあるからです。実際、

  • 社員が望まない転勤を廃止する
  • 転勤手当を引き上げる
  • 転勤がないことを採用時のアピールポイントにする

などの動きがあります。こうした背景には、リモートワークの浸透などによって社員が働く場所にとらわれなくなってきたことのほか、特に若い世代にある「できる限り転勤を避けたい」という意識の存在があります。

もちろん、転勤には「さまざまな地域・職場で経験を積むことができる」という良い面がありますし、そもそも現地でないとできない仕事もあるわけですが、このあたりを経営者はどのように考えているのでしょうか。

独自アンケートから見えてきたのは、

転勤を維持する意向の企業は多いが、社員から転勤を拒まれた経験のある企業が過半数であり、今後、何らかの対応が必要になるだろう

という結果でした。詳しくは以下をご確認ください。

2 【経営者アンケート】転勤制度を見直しますか?

ここでは、転勤制度がある企業の経営者108人に対して、転勤制度の見直し予定や、社員から転勤を拒まれたときの対応などについて聞いたアンケートの結果を紹介します(実施期間は2023年12月6日から12月12日まで)。

1)転勤制度の有無について

転勤制度について、「就業規則」などに定めている企業が全体の85.2%と大多数になっています。転勤命令は就業規則に基づくことが通常であり、定めていないのは問題といえます。

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2)転勤制度を維持する企業が約9割

転勤制度の「見直しをする予定はない」企業が68.5%と最も多く、「縮小を検討している」企業と合わせると、95.4%に達します。転勤制度を廃止するところまで踏み込む企業はほとんどいません。

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3)転勤制度を維持する理由について

転勤制度を維持する理由としては、「適材適所な人材配置ができるから」の50.0%、「現地でないとできない業務があるから」の47.3%、「社員が様々な経験を積み、成長につながるから」の44.6%が拮抗しています。1つ目の適材適所と3つ目の社員の成長は人材登用や社員教育に関する企業の方針です。一方、2つ目の現地でないとできない業務については、現地採用などを進めなければ、転勤が避けがたい状況を示しています。

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4)転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由について

対して、転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由としては、「転勤制度で人材採用が不利になっている、あるいは今後不利になる懸念があるから」が64.7%、「育児、介護などの家庭の事情で、転勤が難しい社員が増えているから」が47.1%と多数になっています。これらの問題は、今後ますます深刻化するかもしれません。

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5)単身赴任のある企業が多く、支援の中心は家賃補助など

「単身赴任がある」企業は全体の76.9%と、高い割合を占めています。

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単身赴任者への支援としては、「家賃を補助している」の65.1%、「引っ越し費用や、新たに購入する生活用品の購入代金を補助している」の61.4%が上位となっています。単身赴任は何かと費用がかかるので、金銭的な支援が中心になっているのでしょう。また、一部の企業では今後、単身赴任者への支援を拡充する方針もあるようです。

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6)社員から転勤を拒まれた経験と対策

社員から「転勤を拒まれたことがある」企業が全体の54.6%と、過半数となっています。

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では、社員に転勤を拒まれたときに、どのように対応しているのでしょうか?

最も多いのは「他の候補者を探した」の39.0%、次いで「業務命令なので、そのまま転勤を受け入れてもらった」と「昇給、昇進や手当の支給など社員のメリットになる条件を付けて受け入れてもらった」が同率の30.5%となっています。他の候補者を選べる状況であればよいですが、これができない場合、業務命令として押し切るか、条件面で譲歩する対応が取られているようです。

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3 今後、転勤制度の見直しは必須になる?

いかがでしたでしょうか。就業規則で定めていれば転勤命令は正式な業務命令となり、基本的に社員はそれを拒むことはできません。にもかかわらず、企業が譲歩しなければならないという実態から、転勤制度の難しさが分かります。今回のアンケートでは転勤制度を現状維持するという企業が大半でしたが、今後は何らかの見直しが進むかもしれません。

また、2024年4月からは、労働基準法施行規則などの改定に伴い、社員が就職する時点で転勤の有無や、転勤がある場合は異動する可能性のある勤務地を示すことが求められますので、この点への対応も忘れずに済ませましょう。

以上(2024年3月作成)

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【2024年度版】社員に関する法定義務の一覧表

書いてあること

  • 主な読者:社員数が増えたため、人事労務の法定義務を確認したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:法令が多岐にわたり、特定の業種などにだけ適用される義務もあるので分かりにくい
  • 解決策:法定義務を「全企業共通」と「特定の業種など」に分けて確認する

1 まずは全企業共通の法定義務から押さえる

「人」に関するルールは複雑で、10人以上で就業規則の作成義務、50人以上でストレスチェックの実施義務などのように決まっています。抜け漏れなく行うために一覧表で確認しましょう。この記事では各種労働法に基づく人事労務の法定義務の内容を、

  1. 全企業共通のもの
  2. 業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの

に分けて一覧表で紹介します。

2 人事労務の主な法定義務など(2024年4月1日時点)

早速ですが、人事労務の主な法定義務など(2024年4月1日時点)は次の通りです。一覧表は社員数または該当者数の昇順となっており、社員数で見る項目には「●」印を、該当者数で見る項目には「○」印を付けています。また、2024年4月1日施行の項目は「赤字」にしています。

法定義務などの具体的な内容は、( )内の法令を参照してください。また、安衛法(労働安全衛生法)の「安全衛生管理体制」に係る法定義務については、対象業種を一部省略して記載しています。詳しくは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」などをご確認ください。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード)」

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html

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以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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自社に必要な「安全衛生管理体制」が一目で分かる! ホワイトカラーも要チェックの担当者・委員会一覧表

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生管理体制について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:総括安全衛生管理者や安全委員会……名前は聞いたことがあるが、自社では選任・設置しなければならないのか分からない。ホワイトカラーの会社にも必要なの?
  • 解決策:社員数や業種を基準に、自社に必要な担当者・委員会を確認する。一部業種を問わず選任・設置が必要なものがあるので、ホワイトカラーの会社も要チェック

1 あなたの会社に必要な担当者・委員会は?

労働安全衛生法により、会社には安全(事故防止等)と衛生(病気の予防・治療等)に関する施策を効果的に実施するための、「安全衛生管理体制」の構築が義務付けられています。必要な担当者・委員会は次の通りです。なお、社員数は支店など事業場単位で常時雇用する人数です。

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赤字の「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、2024年4月1日から選任が義務付けられます。この2つは、厳密に言うと法律上の安全衛生管理体制には含まれないのですが、他の担当者や委員会と連携して安全衛生管理の職務に当たるので、併せて押さえておきましょう。

以降で、各担当者・委員会の役割、選任・設置に必要な手続きなどを紹介します。なお、建設業については、図表の内容以外に特有の安全衛生管理体制のルールがありますので、次の記事でご確認ください。

2 安全衛生管理体制に関する担当者など

1)総括安全衛生管理者

1.主な職務

安全管理者、衛生管理者などを指揮し、次の7つの事項を統括管理します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
  5. 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  6. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置に関すること
  7. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

工場長や作業所長など、事業を実質的に統括管理する者が担当します。選任が必要な事由が発生(第1章の図表の要件に該当した場合、以下同じ)してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

2)安全管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、安全に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(巡視の頻度については特に定めなし)、設備、作業方法等に問題があるときは、危険を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

法が定める要件に該当する者で安全管理者選任時研修の修了者または労働安全コンサルタントのいずれかが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

3)衛生管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、衛生に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(毎週1回以上)、設備、作業方法、衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許の保有者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなどが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

4)安全衛生推進者(衛生推進者)

1.主な職務

安全管理者・衛生管理者の選任義務がない会社にて、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること

次の業種に該当する会社は「安全衛生推進者」を、該当しない会社は「衛生推進者」を選任します。衛生推進者は、上の1.から4.のうち衛生に関する事項を担当します。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

安全衛生推進者(衛生推進者)養成講習の修了者、大学または高等専門学校卒業後に1年以上安全衛生の実務に従事している者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任しますが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、安全衛生推進者(衛生推進者)の氏名を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

5)産業医

1.主な職務

社員の健康管理等について、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の健康管理(健康診断、面接指導等の実施、その結果に基づく社員の健康保持のための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等)に関すること
  2. 社員の健康の保持増進(健康教育、健康相談等)に関すること
  3. 労働衛生教育に関すること
  4. 社員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること

また、作業場等を巡視し(原則として毎月1回以上(注))、作業方法または衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。この他、会社に対し、社員の健康管理等について必要なことがあれば勧告等を行います。

(注)事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合に限り、2カ月に1回以上実施します。ただし、巡視の頻度を変更する場合は事業者の同意が必要となります。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

医師であって、日本医師会の産業医学基礎研修や産業医科大学等の正規課程の修了者である者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

6)作業主任者

1.主な職務

高圧室内作業など、労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業に従事する社員を指揮等します。作業は31種類あり、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード(作業主任者))」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo34_1.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

対象となる作業ごとに、担当者になるために必要な免許や修了すべき講習などが決まっています。例えば、高圧室内作業の場合、高圧室内作業主任者免許の保有者が担当します。選任の時期については特に定めがなく、所轄労働基準監督署への届け出も不要です。ただし、作業主任者の氏名と職務の内容を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

7)化学物質管理者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、事業場の化学物質の管理を行います。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のこと

で、化学物質管理者はこれを管理するために次の職務を担当します。

  1. ラベル・SDS等の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  4. 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  5. 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  6. ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  7. リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応

なお、リスクアセスメント対象物の一覧は下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(表示・通知対象物質の一覧・検索)」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合、化学物質管理者講習の修了者が担当します。製造を行わない事業場の場合、特に資格要件はありません。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、化学物質管理者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

8)保護具着用管理責任者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、社員に保護具(保護眼鏡、防じんマスク、手袋など)を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者が担当します。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、保護具着用管理責任者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

3 安全衛生管理体制に関する委員会

1)安全委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。

  1. 社員の危険防止のための基本対策に関すること
  2. 労働災害の原因・再発防止対策で、安全に関すること
  3. 安全に関する規程の作成に関すること
  4. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、安全に関すること
  5. 安全衛生に関する計画(安全に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  6. 安全教育の実施計画の作成に関すること
  7. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の危険防止に関すること

委員会は毎月1回以上開催し、開催の都度、委員会における議事の概要を社員に周知します。なお、委員会の開催や社員への通知は、オンラインで実施することも可能です。

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から3.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 安全管理者
  3. 安全に関し経験を有する社員

また、1.以外の委員については会社が選任しますが、そのうち半数については過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の推薦に基づいて選任しなければなりません。なお、委員の選任に当たり、所轄労働基準監督署などへの届け出は不要です。

2)衛生委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。なお、委員会の開催、社員への周知に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。

  1. 社員の健康障害防止のための基本対策に関すること
  2. 社員の健康の保持増進のための基本対策に関すること
  3. 労働災害の原因・再発防止対策で、衛生に関すること
  4. 衛生に関する規程の作成に関すること
  5. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、衛生に関すること
  6. 安全衛生に関する計画(衛生に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  7. 衛生教育の実施計画の作成に関すること
  8. 化学物質の有害性の調査、その結果に対する対策の樹立に関すること
  9. 作業環境測定の結果、その結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
  10. 定期健康診断等の結果、その結果に対する対策の樹立に関すること
  11. 社員の健康の保持増進を図るために必要な措置の実施計画の作成に関すること
  12. 長時間労働による社員の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  13. 社員の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  14. リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関すること
  15. リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること
  16. リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  17. 濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  18. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の健康障害防止に関すること

15.から17.(赤字)が2024年4月から新たに調査審議事項に加わります。対象は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)に限られますが、該当する会社は押さえておきましょう。なお、15.と17.に出てくる

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のこと

です。濃度基準値設定物質の基本的な考え方については、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32871.html

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から4.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。なお、委員の選任に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。また、安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、2つの委員会をまとめて「安全衛生委員会」として設置することも可能です。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 衛生に関し経験を有する社員

以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:boonchok-Adobe Stock

もう食べられなくなってしまう? ふるさとの味「お漬物」がピンチ

書いてあること

  • 主な読者:「漬物」の製造販売を行うためには、HACCPに沿った衛生管理を行い、営業許可を得ることが必要になったことを知らない人
  • 課題:ユネスコ無形文化遺産「和食;日本人の伝統的な食文化」を支えてきた「漬物」をいかに継承していくか
  • 解決策:伝統的な「漬物づくり」を巡る状況、現在に至る背景を押さえる。塩分に気をつけながら、野菜の摂取量を増やす一策として漬物を上手に取り入れる

1 あの「漬物」が二度と食べられなくなる!?

「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に選定されてから10年余り。世界的にも関心を集める和食の基本は「一汁三菜」と呼ばれ、「ご飯」と「汁」「香の物(漬物)」に、いくつかの「菜(おかず)」を添えたものです。そんな日本の食文化を支えてきた「漬物」が、いま危機を迎えているのをご存じでしょうか?

その大きな要因は2018年6月の食品衛生法改正です(施行は2021年6月)。それまで、多くの都道府県では、条例に従って届け出をすれば漬物を販売することができました。しかし、改正法施行後、漬物の製造販売を行うには、加工所などの施設を整備し、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理を行い、営業許可を得なければならなくなりました(経過措置が終わる2024年5月末までに、新たに許可申請が必要)。

野菜漬物製造業は2022年6月時点で全国に931事業所ありますが、うち607事業所(65.2%)が従業者規模20人未満の小規模・零細事業所です(総務省・経済産業省「2022年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」)。また、この統計調査では、個人経営の事業所は対象外です。

収穫した野菜を自宅の台所や作業場で漬物にして、道の駅などの直売所で販売してきたような家族経営の農家も少なくありません。そうしたケースでも、新たにHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められます。漬物づくりの担い手の高齢化、後継者不足もさることながら、加工所などの施設の整備や衛生管理に掛かる費用がネックとなり、世代を超えて受け継がれてきた伝統的な「漬物」が姿を消してしまうかもしれないのです。

2 漬物製造を巡る特徴的な動き

1)秋田名産「いぶりがっこ」の生産者の約3割が事業継続を諦める意向

食品衛生法の改正の影響が大きく報じられたのが、たくあん漬けの一種「いぶりがっこ」の発祥地、秋田県です。いぶりがっこは、大根を干して水分を抜きながら燻煙(くんえん)し、強力な殺菌・抗菌効果のある成分でコーティングした後に漬けるという伝統的な工程を経てつくられます。後述する浅漬とは製造工程からして根本的に異なる食品です。

いぶりがっこ

もともと秋田県内では漬物による食中毒の発生はなく、漬物製造業は許可や届出の対象ではありませんでした。しかし、食品衛生法が改正されたことに伴い、従前から漬物を製造販売している場合でも、経過措置期限である2024年5月末までに、

  • 製品の製造場所や保管場所を仕切りなどで物理的に区画する
  • 手洗い設備は手指が蛇口に触れないセンサー式などの構造にする
  • 原材料の洗浄設備(シンク)と器具等の洗浄設備をそれぞれ有する(計2槽)

などの基準を満たした施設を整備し、営業許可を得る必要が生じました。規模によって異なりますが、こうした施設を整備するには数百万円の費用が掛かります。

2021年7~8月、県内の直売所で漬物を販売する636人を対象に秋田県が行ったアンケートでは、回答者306人のうち175人が営業許可を取得する意向を示した一方で、108人が高齢化や資金不足などを理由に営業許可を取得しないと答えました。この結果を受け、秋田県は2022年度から漬物製造に必要な機械・施設の導入に要する経費を助成する事業を実施しています。

また、県内でも「いぶりがっこ」づくりが盛んな横手市では、県の助成事業に独自の追加補助を行うとともに、2023年度には、よこて農業創生大学校の農業技術研修に、原料となる大根の畑づくりから、いぶりがっこの製造までの過程を2年間で学ぶことができる「いぶりがっこコース」を新設し、就農者を募集しています。

2)クラウドファンディングで漬物加工所の整備資金を調達

クラウドファンディングを活用し、漬物の加工所を地域の生産農家が共同で整備するプロジェクトも見られます。

秋田県北秋田市の大阿仁地域の住民らでつくる「大阿仁ワーキング」が募集した「【消滅の危機?】里山秘伝の漬物を未来に残したい」では、2023年9月25日に募集を開始し、324人の支援により312万9750円の資金を集め、同年10月31日に募集を終了しました。

大阿仁ワーキングでは、食品衛生法の改正が成立した2018年から検討を始め、秋田内陸縦貫鉄道(秋田内陸線)比立内駅の空きスペースを、県や北秋田市の補助を得て加工・販売施設に全面改修。広さ約120平方メートルに食品加工や加工品保管、交流の各スペースを備えた「がっこステーション」として再生させました。改修費の自己負担分や設備費などに充てるため、クラウドファンディングで資金を募り、目標額の300万円を上回る資金調達に成功したといいます。

3)「冬は農業、夏はライフセイバー」で雇用を創出

後継者不足を、地域の特色を活かして解決しようとする動きもあります。

野崎漬物(宮崎県宮崎市)は、地元の「やぐら干し大根」を使った、たくあん漬け「千本漬」を中心に浅漬やキムチなどの製造販売を行っています。宮崎県田野・清武地域に見られる伝統的な「やぐら干し大根」は、「日本一の干し大根と大根やぐら」として2020年度のグッドデザイン賞を受賞、2021年度には日本農業遺産にも認定されました。一方、大根の生産者の高齢化、これを受け継ぐ後継者不足が課題となっています。

やぐら干し大根

同社は、冬場にピークを迎え、夏場には作業がほとんどない農業(干し大根の生産)の現状と、サーフィン愛好家(サーファー)が宮崎県に移住するケースが少なくないことに着目し、うまくマッチングさせることで雇用創出を図ることを構想。海の家やプールの運営会社と提携し、「ファーム&マリン」という働き方を提唱する農業法人野崎ファームを2021年に設立しました。

「ファーム&マリン」は、3年間の有期雇用契約で、9月から4月は農業、5月は漬物製造に従事し、6月から8月はライフセイバーやプールの監視員として勤務するというもので、契約期間終了後は、独立就農/正社員登用/再契約(2期目)が選択できます(独立就農の場合、祝い金60万円を支給)。

サーファーは、もともと土や砂、日焼けを苦にせず、そうした意味で農作業にもあまり抵抗感がないといいます。本社から車で20分ほどの距離にはワールドサーフィンゲームスの会場となった「木崎浜」があるなど、サーフィンができる環境が整っており、契約期間終了時にハワイ旅行がプレゼントされ、憧れのノースショアでサーフィンができる点も魅力となっています。

3 減塩志向が規制強化に影響?

1)保存食のはずの漬物に規制強化のわけ

そもそも、なぜ古くから保存食として受け継がれてきた漬物に対して、規制強化が図られることになったのでしょうか。

そのきっかけは、2012年8月に北海道札幌市などで発生した集団食中毒事件です。この事件は、岩井食品(同年10月廃業)が製造した浅漬(白菜きりづけ)により、高齢者施設の入所者などを中心に169人が腸管出血性大腸菌O157に感染、うち8人が死亡する痛ましいものでした。

厚生労働省は、同様の食中毒の再発防止に向け、同年12月、浅漬の衛生管理強化のために「漬物の衛生規範(通知)」を改正し、一度に大量の野菜を取り扱うような工場や大きな調理施設では、原材料を水で洗うだけでなく、殺菌することが決められました。

その後、食を取り巻く環境変化や国際化等に対応するために食品衛生法の改正が行われ、政府は、

製造工程が長期間になるほど、製造中の食品に含まれる細菌等が繁殖するおそれがあり、食中毒のリスクが高くなること等を踏まえ、許可営業に漬物製造業を追加し、漬物の製造に係る食品衛生の確保を図ることとした

のです。

主に浅漬の製造を念頭に置いた衛生管理のルールであった「漬物の衛生規範(通知)」は廃止され、浅漬も伝統的な漬物も一律に「HACCPに沿った衛生管理」が求められるようになりました。

2)実は漬物による食中毒の発生は「浅漬」か「キムチ」のみ

漬物は製造法の違いによって、「新漬(浅漬)」「調味漬」「発酵漬物」に分けられます。

  • 新漬(浅漬):塩分濃度1~3%で漬けたもの。白菜やキュウリの浅漬など
  • 調味漬:15%前後の食塩で原料野菜を漬け込み、必要なときに脱塩、圧搾し、調味液に漬けて製造するもの。福神漬など
  • 発酵漬物:塩分濃度3~10%で漬け込み、主に乳酸菌による発酵を促したもの。すぐき漬、しば漬、赤かぶ漬、高菜漬など

厚生労働省「食中毒統計資料」では、2000年以降に発生が報告された各都道府県の食中毒事件の発生場所や原因食品などが確認できます。植物性の自然毒による食中毒を除くと、野菜の漬物が原因食品となっているのは「浅漬」か「キムチ」に限られます。

調味漬や発酵漬物は、比較的濃い塩分や乳酸菌等による発酵の関係で腐敗が抑えられ、食中毒は起きにくいようです。一方、「浅漬」や「キムチ」は、非加熱殺菌で低塩であるため、原料野菜の洗浄や保存状態によって大きく影響を受け、短期間のうちに品質低下を招く恐れがあります。

塩分の過剰摂取は高血圧や脳疾患、腎臓疾患などの原因になるとされ、健康を意識した減塩志向により、漬物も、塩分の少ない浅漬が好まれるようになっています。一方、皮肉なことにそれがかえって食中毒の原因となり、ひいては規制強化につながったともいえます。

伝統的な漬物づくりに「HACCPに沿った衛生管理」を求めるのは酷だという意見もありますが、漬物製造の方法は漬物の種類により非常に多岐にわたるため、線引き・切り分けが難しいのが実状です。

4 参考:農林水産省が呼びかける「漬物で野菜を食べよう!」

成人1人1日当たりの野菜摂取量の目標は、カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミン等の適量摂取が期待される量として350グラムとされています(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標値)。しかし、現状は平均280グラム程度と約7割の人が目標量に達していません(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)。

農林水産省は、1日当たりの野菜摂取量を350グラムに近づけるために「野菜を食べようプロジェクト」を推進しています。2023年には、その一環として、「漬物で野菜を食べよう!」という取り組みを進めました。

野菜の摂取量を増やすのに果たして漬物が良いのか、塩分摂取量の増加につながるのではないかという議論もありますが、現在の漬物製造では減塩化が進んでおり、上手に取り入れることが大切と考えられています。

日本高血圧学会の減塩・栄養委員会では、2013年以降「JSH減塩食品リスト」を公表し、食塩含有量の少ない食品の紹介を行っています。同リストには、さまざまな漬物も掲載されています。
なお、ここ数年、漬物の生産量は、コロナ禍の巣ごもり需要などもあり、増加しています。

漬物の生産量の推移

以上(2024年2月)

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